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大祓百鬼夜行⑮〜Oscar

#カクリヨファンタズム #大祓百鬼夜行 #西洋親分『しあわせな王子さま』黄金形態

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#大祓百鬼夜行
#西洋親分『しあわせな王子さま』黄金形態


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 光り輝く体から今、一枚、また一枚とその黄金が啄まれ、剥がされていく。
「大丈夫だよ」
 金箔を咥えた燕へと優しく聲かけるのは、黄金を剥がされているその人。西洋親分『しあわせな王子さま』――忘れ去られた幽世の地では、そう呼ばれている。
「確かに剥がれた黄金の分だけ、僕と合体した骸魂が目を覚ますけれど……。それでも大祓骸魂に続く「雲の道」は、僕の黄金がなくては作れないんだ」
 だから、持って行って。
 黄金だけではない。サファイアの眸も、ルビーの剣飾りも。
 愛すべき世界たちを護り抜く為なら、惜しくなんてない。
 渡せないのは鉛の心臓ただひとつ。僕がみんなの幸せのためにできること、それを知っているこの心臓ひとつだけ。
「僕は……猟兵達と殺し合わねばならない」
『親分』の名を冠す者が全力で戦い、そして斃されれば。大祓骸魂が放つ圧倒的な虞も幾らか和らぐ。目にする事さえも敵わぬ者と対峙するには、それが必須条件だから。
「ツバメさん。もし僕が死んだなら、雲の道を繋ぐ役目は君にお願いしたいんだ」
 ツバメはちいさなちいさな眸で、王子さまを見上げていた。
「僕の大切な友だち。頼んだよ」
 ちいさく、けれど力強く頷いたツバメが、その翼をはためかせて飛んでいった――。


「討伐対象は『西洋親分』しあわせな王子さま。大祓骸魂への道を切り拓くために、敢えて骸魂に身を捧げた者のひとりだ」
 グリモア猟兵、リリー・リャナンシー(ましろ・f20368)が幼い聲で淡々と話し出した。
「彼は骸魂に身を明け渡しつつも、その心までもは支配されていない。だが大祓骸魂の「虞(おそれ)」を克服する儀式として、全力で猟兵を殺しにかかってくるだろう。味方との戦いだからといって油断をすれば、大祓骸魂との邂逅は永遠に叶わぬ事となる」
 猟兵達がすべきは、彼らが潜り抜けてきた今までの戦役と変わらない。
 強敵と全力で剣を交え、斃す。
 極めてシンプルで、純粋な戦闘だ。

「ああ、ただ――彼の膨大な虞の影響によって、猟兵達は窮地に立たされずとも「真の姿」を解放して戦う事が出来る。これを王子からの助けと見るか、それほどまでに彼が強敵と見るかは、まあ人それぞれだろうな」
 頼んだぞ、とリリーは猟兵達に順に目線を遣る。
 そして彼らの視線に浮かぶものを感じ取って、ふうと小さく息を吐いた。
「彼を助ける事は可能か、と? すまないが、それは私の予知が及ぶところではなかった。基本的には骸魂に呑み込まれた妖怪は、基本的には戦って斃す事で解放する事ができるが……『親分』さえも呑み込むほどの骸魂となると、どうだろう、な」
 それでも。
 やらなければ、ならないのだ。


ion
●お世話になっております。ionです。
 純戦闘シナリオですが、綴りたい心情などもあるかと思います。
 戦闘重視でプレイングを書くもよし、王子様や真の姿にまつわる想いをこめるも良し。
 基本的に判定はダイスで行い、下記プレイングボーナスも加味します。戦闘プレイングが短すぎるからボーナスがかからないということはありませんので、ご自由にお書きくださいませ。

=============================
 プレイングボーナス……真の姿を晒して戦う(🔴は不要)。
=============================
 戦場を覆う虞によって、皆様の真の姿が解放されます。
 真の姿についてはイラストなど参考にさせていただきますが、真の姿のイラストが無かったり、反対に複数お持ちの方などは、文章での説明があると迷わず助かります。
 折角の機会ですので、真の姿にまつわるエピソードや想いを込めて頂くのも素敵だと思います。

●プレイングについて
 オープニング公開直後から物理的に閉まるまでは受け付けております。追加オープニングはありません。お好きなタイミングでどうぞ。
 再送なし、書けるだけ書くつもりです。場合によっては不採用となる可能性もありますことをご了承くださいませ。
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第1章 ボス戦 『西洋親分『しあわせな王子さま』黄金形態』

POW   :    あたたかな光
【黄金の光】が命中した部位に【「理性を破壊する程の幸福」】を流し込み、部位を爆破、もしくはレベル秒間操作する(抵抗は可能)。
SPD   :    しあわせな光
【黄金の輝き】を解放し、戦場の敵全員の【「不幸を感じる心」】を奪って不幸を与え、自身に「奪った総量に応じた幸運」を付与する。
WIZ   :    黄金をささげる
自身の装備武器を無数の【黄金】の花びらに変え、自身からレベルm半径内の指定した全ての対象を攻撃する。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠山田・二十五郎です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

ヘルガ・リープフラウ
真の姿:騎士礼装を纏った翼ある男装の王子

王子様、貴方の慈悲、貴方の覚悟、しかと受け止めました
ならばわたくしも……僕も全力で応えよう

黄金の光に照らされ、胸の内に流れ込む幸福
一切の悲しみも不幸も無い平和で穏やかな世界
隣には愛する夫がいる
ああ、このまま溺れてしまいたい……

違う
僕は誓ったはずだ
「本当の幸福」は浸り溺れるものじゃない
自らの手で築き上げるものなのだと
王子様……君もそうだっただろう?
君が我が身を削って与えた黄金は
人々が再び立ち直るための糧と成すものだったはず

多重詠唱で勇気と優しさを共に紡ぎ
歌うは【天上の調べ】
自らを鼓舞し覚悟を決めて
破魔と浄化の祈り込めて歌う

全て救うよ
皆でこの世界に生きるんだ


疎忘・萃請
西洋の。お前の献身のお陰で、アタシたちはここに居る
愛すべきふたつの故郷も、もちろんお前も
必ず救い出す

虞が身体に染み入る
畏れられし、真の鬼にアタシはなる
月割枷が両の腕を鎖し、自然を愛した緑の眸は爛爛と紅く染まる

アタシは鬼
堕落鬼
かつての畏れられし神
破壊を尽くし、呵呵大笑する禍い

姿を変えど、アタシはアタシ
愛すべきヒトの子の為に、アタシは為すべきを為す

拘束がキツくなれど
出来ぬことはない
一本下駄をブンと放り王子に当てよう
身軽になったその足で肉薄
鎖された両手を振り上げ、その爪で抉る

愛すべき優しい王子
お前の心を忘れない
必ず、助ける


シエナ・リーレイ
■アドリブ絡み可
しあわせな王子さまだわ!とシエナは驚きます。

始めての『お友達』が読み聞かせてくれたお伽話の王子様との出会いに興奮するシエナ
隠匿の呪詛が解けてその身から無数の怨念が漏れ出した真の姿を晒している事に気が付く事なく仲良くなる為に遊び始めます

王子さまと楽しく遊ぶシエナは黄金の光を真っ向から受けますが影響はほぼないでしょう
何故なら『お友達』候補とのお遊戯で気分が高揚としたシエナはそに身に宿した無数の怨念に突き動かされ、無意識の凶行に及ぶそもそも理性があるかも怪しい状態だからです

仮に黄金の光が怨念にも及んだとしても直ぐに新たな怨念がシエナの体から滲み出る為に影響は微々たるものでしょう




 忘れられたものたちの終着駅。
 現世と幽世の堺さえもあやふやなこの場所に、ひとつの像が佇んでいた。
 蒼の眸は既にその片方が無く、豪奢な剣に飾られていた赤い宝玉も今は失われている。
 それでも彼は穏やかな微笑みを浮かべたままだった。
 曇天を飛び去るツバメを、友の華々しい門出を見送るかのような眼差しで見つめて。そして。
「……来てくれたんだね。嬉しいよ」
 腕を広げ、歓迎の意志を示しながら猟兵達を迎え入れる。
 片方だけの眸が、しあわせそうにちかりと瞬いた。
「僕はふたつの世界が大好きだよ。だから世界を救おうとしているきみ達の事を、心から歓迎したい」
 彼の全身を覆う金が輝きを増していく。その光のあたたかさは、骸魂に身を差し出しながらも彼の意志が奪われてはいない事を物語っていた。
「――ああ、みんないい目をしているね。何をするべきか、わかっているという目だ。良かったよ。本当に良かった」
 光を受けた猟兵達に拡がるのは『幸福』。しあわせの象徴である黄金がもたらすもの。ただし身に余る幸福は、それそのものが猛毒である。
「もし少しでも覚悟の足りていない人がいたら、僕はその人を全力で叩きのめさなきゃならない。そうしたら二つの世界の人たちも――ぼくも、きみも、しあわせではなくなってしまうから」
 だから、きみたちが来てくれてうれしいよ。王子の言葉から、嘘偽りは感じ取れなかった。


「王子様、貴方の慈悲、貴方の覚悟、しかと受け止めました」
 ヘルガ・リープフラウ(雪割草の聖歌姫・f03378)が静かに告げ、その姿を変えていく。白鳥を思わせる純白の翼はそのままに、騎士礼装を纏った王子様のような姿へと。
「ならばわたくしも……僕も全力で応えよう」
 彼女を象徴する聲までもが、聖歌を響かせる鶯舌から戦場で響く張りのあるそれに変化したかのようだった。
「しあわせな王子さまだわ! とシエナは驚きます」
 シエナ・リーレイ(取り扱い注意の年代物呪殺人形・f04107)が目を丸くする。まさか彼が本当にいたなんて! とはしゃぐシエナは、まるでちいさなちいさな少女のようだった。
「ぼくを知っているの?」
「ええ。ええ。はじめての『お友達』が御本を読んでくれたのよ。もう読んでくれる事はなくなっちゃったけれど、とシエナは思い出します」
「そうか。それは寂しいね」
「寂しくなんてないわ」
 だって、と。笑うシエナの身体のあちこちから、かつての本質である呪詛が漏れ出していく。それに気づかぬまま、シエナは愛くるしい少女の貌で微笑むのだった。
「シエナとお友達はひとつになったの。もっともっとお友達を探す為に」
 ――ねえ、王子さまも、お友達になってくれる?
「西洋の。お前の献身のお陰で、アタシたちはここに居る」
 疎忘・萃請(忘れ鬼・f24649)もまた、童女のような姿の存在だった。災害や疫病を恐れる人々からそれらの象徴とされ、時に疎まれ、そして時に敬われてきた鬼。
 やがて化学を味方につけた人々がそれを迷信だと云い、彼らに忘れ去られても尚、鬼は消える事はなかった。忘れ去られたかの世界で、それでも人々を想いながら在り続けていた。
「愛すべきふたつの故郷を救いたい。その想いはアタシも同じ。そして」
 虞が。身体に染み入っていく。元より幽世の妖怪たちに近い性質を持つ萃請の身体は、その影響を色濃く受けるように姿を変えていく。
 月割枷が両の腕を鎖し。自然を愛した緑の眸は爛爛と紅く輝いて。
 ――鬼だ。人々の恐れが形となった、禍々しい姿の。


 だが破壊と禍の象徴たる鬼を、王子は慈愛の眼差しで見上げるだけだった。
「忘れないで。『敵』に情けをかける者は足元を掬われるよ」
「敵? 情け? ……違う」
 すべてを亡ぼすかのように爛々と目を光らせる鬼は、萃請のままの理性でそう告げた。
「アタシもお前と同じ。愛すべきヒトの子の為に、アタシは為すべきを為す。それだけ」
 光が迫る。萃請の身体を束縛し、心をも破壊しかねないほどの光が。
 それはぎりぎりと萃請を締め上げ、苛んでいく。
「王子様、わたしとも一緒に遊びましょう! とシエナはお友達候補との交流を始めます」
 一方、シエナもまた、王子の放つ光を真っ向から受け止めていた。少女の亡骸から作り出された可憐な器で。光と虞を浴びるたび、その身体からは無数の呪詛が溢れだしてごぼごぼと王子に纏わりついていく。
「王子様はどんな遊びが好き? お医者さんごっこ? シエナは素敵な薬をたくさん持っているのよ。それともシエナのお友達たちとも遊んでくれる? とシエナはあれこれ質問をします」
 頬を紅潮させ、次々と溢れ出る言葉は友達を見つけてはしゃぐ少女そのものだった。だって本当に新しいお友達になってくれるかもしれないんだもの。それもあの子との思い出である絵本の王子様が!
 けれど本来所有者を呪い殺し続けてきた人形の『お薬』は一瞬でオブリビオンをも安楽死させるものであり、人形たちもまたその亡骸から作られたものだ。
 その中心で少女はころころと笑い続ける。楽しくて仕方が無いというように。
 それは王子が齎した幸福によるものだろうか。それとも彼女の真の姿としての性質だろうか。突き動かされるシエナにそれを判別する理性など残ってはいない。光の束縛を無理やり振りほどき、人形の身体が軋んでも意にも介さなかった。
 彼女を突き動かすものはただひとつ。
 ――王子様がお友達になってくれたら、わたしに名前をくれたあの子はきっと、うんと喜んでくれるから。


 光がヘルガの裡にまで届き、満たしていく。
 海のように満ちる金いろの中、ヘルガは幸福に包まれていた。
 争いのない平和な世界。
 ヘルガの隣には愛する人がいて、彼もまた幸せそうに笑いかけてくれる。
 何て優しい世界なんだろう。一切の悲しみも不幸も無い。誰も悲しまなくて済む世界――。

「違う。僕は誓ったはずだ」
 聲に出して云う。それが幻覚ではなく、真実己の口から放たれた言葉であることを知覚した時、ヘルガの意識は現実に引き戻される。
「「本当の幸福」は浸り溺れるものじゃない。自らの手で築き上げるものなのだと」
 そして向き直る。術を行使した王子は、目を丸くしてヘルガを見つめていた。
「王子様……君もそうだっただろう? 君が我が身を削って与えた黄金は、人々が再び立ち直るための糧と成すものだったはず」
「現にそうだっただろう? きみは立ち直ってくれた」
 呆れるほどにまっすぐに、王子は云うのだった。
「ぼくはこうして分け与える事しかできない。受け取ってくれた人がどう動くかは――いてっ」
 突然、王子が素っ頓狂な声をあげる。頭をさする王子の足元、からん、と一本下駄が涼やかな音を立てた。
「きみも、ぼくの光から逃れていたんだね」
 嬉しいよ、と王子は目を細める。人の子を怖がらせぬためにと足を通していた下駄を脱ぎ捨て、身軽になった鬼が王子へと肉薄する。
「きみ達になら託せる。ぼくの金が繋ぐ道を」
「違う。お前も助かるんだ」
 きっぱりと萃請が告げた。
「そうだ。その為に僕たちは来た」
 穢れを知らない魂の犠牲が世界を安寧に導く。そんなありふれた悲劇をなぞりに来たのではない。
 ヘルガが紡ぐのは破魔と浄化の歌声。解放した力と、その覚悟の全てを込めて。
「現世の者が忘れても、アタシ達がお前の心を忘れない」
 愛すべき愛しい王子。必ず助けると想いを込めて。
 鬼は鎖された両手を振り上げ、その鋭い爪で黄金の身体を抉るのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

汪・皓湛
歩いたそこから草花が芽吹く
髪は毛先が黒に染まり
瞳は濃く鮮やかな花緑青へ

お初にお目にかかります
しあわせな王子さま

万禍を抜きながら前へ
親分を冠する方との殺し合いだ
今持てる全てで挑もう

黄金光に対し何もせぬよりは良い筈
瓦礫を複数纏めて薙ぎ払い
己には衝撃が花弁となるオーラを纏って親分へと駆けよう
決して足を止めず、親分を捉えたそこでUCを

黄金光で現れるのはきっと
失くしてきた幸福達

私を死んだ御子息と信じた梁夫人
親切にして下さった梁家の方々
どちらも呪いに灼き殺され
そして

…宵栄

生きていて欲しかった
共に居たかった

だが叶わぬ幸福に溺れていられない

友と世界
そして貴方も生きてしあわせになる未来を
私は、諦めたくないのです


鬼桐・相馬
●POW
己の紺青が白金へと変わるのを感じる
天へ忠誠を誓う白い真の姿へ

善悪の境界を隔てる門の番をする俺には二つの力がある
元からの冥府の加護と裁きを司る機関――天獄の加護
後者は絶大な力を持つが「己」を蝕む
力の比率が変わった今、其れを制御する装備品は殆どあってないようなものとなる筈だ

自ら犠牲となり次代へ未来を託す行為
自我の大部分を失い天獄の手駒と化した俺には何も響かないだろう
唯目前の脅威を排除するだけだ

俺自身の幸福など存在しない
全ての理が天の意志に叛くことなく動いていればいい
其れが俺の、世界の幸福

ツバメの翼を見て一瞬何かが頭を過ぎるが構わずUC発動

世界の為に其の身を捧げる行為
天はきっと評価するだろう


蒼・霓虹
西洋の親分が幸運の使い手とは
わたし達も幸運の使い手でしたが

姿に違和感が?わたしは元々竜神では
ありませんでしたけど

真の姿には霓の虹龍の影響が
表に強くでてるのかも

こんな時でなければ
貴方の事色々聞きたかったんですが

今は貴方達の意思に応えるのが先ですね

[POW]
幸運比べと参りましょうか

【オーラ防御&激痛耐性】備え〈彩虹(戦車龍)〉【操縦】【悪路走破&推力移動】駆けつつ【高速詠唱&属性攻撃(幸運)&オーラ防御】込めた〈レインボークローバー〉の【弾幕】撒き【第六感&見切り】王子様の攻撃【盾受け&受け流し&ジャストガード】回避

機を伺い【高速詠唱&属性攻撃(幸運)&全力魔法】UC

[アドリブ絡み掛け合い大歓迎]




「西洋の親分が幸運の使い手とは。わたし達も幸運の使い手でしたが――」
 思わぬ偶然に呟いた蒼・霓虹(彩虹駆る日陰者の虹龍・f29441)は、ふと自分の姿を見下ろして目を丸くする。
「姿に違和感が? わたしは元々竜神ではありませんでしたけど……」
 此度の邂逅で解き放たれるのは『真の姿』だと聞いていた。ところどころ虹のようにきらめく羽毛に包まれた竜人のような姿は、言葉通りの真実の姿――つまり『彼女本来』の在り方とは少し違うものだったけれど。
「真の姿には霓の虹龍の影響が表に強くでてるのかもしれませんね」
 力が、生き様が変われば、その根幹も変化を遂げる。そのようなものなのかもしれない。
「お初にお目にかかります、しあわせな王子さま」
 たおやかに会釈する花神、汪・皓湛(花游・f28072)の長髪は、毛先が黒に染まっていく。
 眸の花緑青はより濃く鮮やかに移り変わり、どこからか花の馨が漂い始める。
「お手柔らかに、って云いたいところだけど、ぼくも遠慮ができないんだ」
 ごめんね、と笑う王子は、花のように柔らかく笑むこのひとに宿る鋭さに気づいていたのだろう。現に皓湛は王子に歩み寄りながら、ゆっくりと無二の友である神剣・万禍を引き抜いたところだった。
 皓湛が歩を進め、大地を踏むたびにそこから緑が伸び、ちいさな花々が顔を出す。
(「力が、流転する。白金が――溢れる」)
 己から排出される冥府の炎がその色を失い、白く染まっていくのを鬼桐・相馬(一角鬼・f23529)は静かに見届けていた。
 善悪の境界門の番人である相馬には、そのふたつの加護が同時に宿っている。元から持つ冥府の加護と、裁きを司る天獄の加護。
 どのみち一個人の身には負荷の大きいものであるには違いないが、冥府の力が強く作用しているうちは制御が容易だ。差し出すものは己の嗜虐性、あとの少しは相馬にとって気にする程でもない。けれど――。
「そうも云ってはいられなくなる、か」
 ゆっくりと。相馬は目を閉じた。天の力が全身を浸して行くのを感じながら。
 そして再び開かれた眸に、いつもの鋭い意志はなく。
 ただ静かに、討つべきものを見据えていた。


「こんな時でなければ、貴方の事色々聞きたかったんですが」
「ぼくもだよ、幸運の竜神さん」
 似た力を持つ者同士。きっと良い話し相手になれただろう。けれど。
「今は貴方達の意志に応えるのが先ですね――幸運比べと参りましょうか」
 霓虹が身体を預けるのは、虹色の装甲持つ戦車竜の彩虹。光の中を疾駆しながら、放つのは幸運宿したレインボークローバーの弾幕だ。
「皆さんに幸運の加護がありますように」
 敵には不運を。味方には幸運と治癒をもたらす日暈がきらめいた。
 その光の中を、目映いまでの白き獄炎を纏った相馬が駈ける。天が脅威と見做したものを、裁きの傀儡は決して見逃さない。
「わ……っ」
 金砕棒が唸り、王子へと叩きつけられる。後ろに跳んで避けようとした王子の靴は瓦礫にあたり、体勢を崩したところに重い一撃がクリーンヒットした。
 舞い散る破片は王子の身体だったものと、金砕棒の風圧が周囲の壁にまで刻みつけた罅と。
 そして、黄金光から身を護るために皓湛が薙ぎ払ったものも含まれていた。肉薄する皓湛が地を蹴り跳躍し、草花の道が途絶えた直後。
 万禍の一閃、王子の身体に走る亀裂のもっとも脆くなった部分を斬りつけ、切断する。
「――!!」
 衝撃と共に花弁が舞い散る。再び地に足を降ろした皓湛の周囲に新たな息吹が宿るころ、
「まだだよ」
 吹き飛ばされる王子の身体が、より一層強く光り輝いた。視界が遮断されるほどの強い光に、三人の猟兵は目を眇める。

 ――もし病気の母に薬を買ってやれずに困っている娘の元に、一生遊んで暮らせるほどの金塊が運ばれて来たら?
 王子は少しずつ金箔を分け与えていったが、金も幸福も、過ぎたものは毒となる。理性を蝕み、人格を破壊し、何もかもを奪ってしまう――。
 疵を庇い、肩で息をしながら、王子は猟兵達が光に包まれるのをじっと見届けていた。
「きみ達がぼくの幸福に負けてしまうようなら、大祓骸魂の元へはたどり着けない。その時は……」


 霓虹の目には、かつて所属していた組織の人々が映っていた。
 皆、最後に逢った時よりも少し年をとっていた。経過した年数の分だけ。つまりこれは、彼らの現在の姿なのだろう。
 だが彼らは、昔のように霓虹を迎え入れてくれた。
「みんな……わたしの夢は異端だって、組織にいちゃいけないって、言ってたのに……?」
「そんなひどいことを言うやつがいたのか?」
「どこのどいつだ? 大切な仲間にそんな事をいう奴は俺がこらしめてやるよ」
 なあ、と男性が言う。他の人々もそうだそうだと頷いていた。
 あたたかくて、優しい。大好きだった日常の延長。閉ざされた筈の未来が、そこにはあった。
 けれど霓虹は知ってしまっている。彼らは変貌してしまった。
 霓虹を罵る彼らの貌が、罵声が、脳裏に焼き付いて離れない。
「……こんなまやかしでは、あの時の悲しみは消せません」
 皮肉にも胸を引き裂かれるほどの痛みが、霓虹を現実に立ち返らせるのだった。


 永きを生きる神にとって、別れとは必然である。
 人々の命は花のように短く、だからこそ美しい。
 それでも起こしてはならなかった別れは、皓湛の心をいつまでも縛り続ける。
(「私を死んだ御子息と信じた梁夫人。親切にして下さった梁家の方々――」)
 もうずいぶんと昔の事なのに、彼らの笑顔は今でも思い出せる。
 それは彼らが呪いに灼き殺され、苦しみながら死んでいったからこそ、より鮮明に皓湛の裡に焼き付いてしまったのかもしれない。
 そして。
「……宵栄」
 生きていて欲しかった。
 共に居たかった。
 傍に――この術が解けるまでは、傍にいられるだろうか。
「……いいえ。叶わぬ幸福に、溺れてはいられませんね」
 手招きする人々にそっと別れを告げ、皓湛は歩みだす。
 黄金の光が差さぬ、闇の方へ。


「……きみは」
 猟兵達を見守っていた王子が目を見張る。花神と竜神が光に囚われる中、ひとり歩みを止めなかった者がいた。
「光が一瞬で打ち破られた? ……ううん、効いていないのかな?」
 光を浴びても相馬は王子へと距離を詰め、金砕棒を振るう。
「俺自身の幸福など存在しない。あるべきは世界の幸福だけだ」
「世界の?」
「全ての理が天の意志に叛くことなく動いていればいい。つまり、理に背く者が排除されることが、俺の幸福」
 金砕棒を王子の肩目掛けて振り下ろす刹那、そこに止まっていたツバメの幻影が相馬の目に飛び込んできた。
 ほんの一瞬、手が緩んだ。翼は、自分にとって何か重要なものである気がした。
(「薄汚れた翼……いや、真白の翼に、鎖が……」)
 だが、すぐに金砕棒を握り直して力強く叩きつけた。幻影が砕け、白き獄炎が舞い散るのを見て、相馬は納得する。
 天と翼は親和性の高いものだ。天獄の使いたる者が翼に興味を抱くのは不自然ではないのだろう、と。
「世界の為に其の身を捧げる行為、天はきっと評価するだろう」
 安心して後を託せばいい、と金砕棒が振るわれる。
「ええ。王子さまの気持ち、無駄にはさせません!」
 凛と響く聲に眼を向ければ、霓虹と皓湛の姿がそこにはあった。
「きみ達も、ぼくの『しあわせ』から抜け出してくれたんだね」
「ええ。本当のしあわせを、諦めたくはありませんから」
 柔らかく。けれど強い意志を持つ双眸が細められる。
 砲門と刃を順に見、王子も微笑んだ。
「本当のしあわせ?」
「友と世界。そして貴方も生きてしあわせになる未来です」
「生きて帰って。そして、貴方の事を聞かせてください」
 そのためにも、今は。
 虹の力と花の剣舞が舞い、王子を蝕む骸魂を傷付けていった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

アルミィ・キングフィッシャー
…なんだ、お宝があるって聞いてきたら見窄らしい像が一つあるだけじゃないか。
こんな半端に金やら宝石なんざ外れてたら価値なんてありゃしない。
っ、なんの光だ。

ああ、今何かしたのか。
あいにくアタシには縁のなさそうなものを取られた感じがしたけどね、盗賊だからスリの手が懐に入ったことくらいは分かるのさ。

ふうん、まあでもアタシ以外は厳しそうだ、でも盗賊から盗むとかその度胸に免じて面白いものを見せてやるよ。
『平等神の賽子』
どこかの負けの込んだ博徒にお人好しの神様が渡したって賽子だ。この賽子は一方的に勝たせない、運の偏りを平たくする道具だ。

賭けるのは無くしても良いものだけさ、まあ後はアタシ達に任せると良い。


仇死原・アンナ
アドリブ歓迎

初めまして王子様…私はアンナ…処刑人が娘…
二つの世界救う為…貴方を討ち倒す為にここに来た…
貴方の覚悟を無駄にしない為にも…さぁ行こう…私は処刑人…!

仮面を被り真の姿の[封印]を解こう
我が姿は死を齎す大鴉…貴方の幸せを齎す燕とは正反対だね…

黄金の輝きと多幸感に心奪われぬように
[オーラ防御による呪詛耐性]纏い妖剣抜き振るい
敵の元へと近づこう

【剣樹地獄の刑】を発動し
[呪詛と殺気]纏わせた妖剣で何度も滅多刺し斬り尽くし
その身と心の臓を[切断し串刺し傷口をえぐり]
しっかりと息の根を止めてあげよう…

貴方と出会えて幸運だった…
ありがとう王子様…心安らかに…今はただ…お休みなさい…




 ――ぴきり、と音を立てて、王子の身体からまたひとつ、金箔が剥がれ落ちる。
「これは除けておこうか。必要なものだからね」
 王子は微笑んで、小さく何かを呟いた。直後、王子の足元に落ちていた金箔たちが消失する。
「心配しないで。保管場所はツバメさんに伝えてある。「雲の道」を作るための黄金を、今ここで無駄にするわけにはいかないからね」
 でも、と王子は顔を上げる。
「僕の身体の黄金すべてを託すわけには、まだいかない。ぼくはきみ達を全力で迎え撃たなくちゃいけないから」
 満ちるのはしあわせな光。黄金の輝きは幸運を齎す。幸運は得てして不幸を呼ぶものであるが、光は不幸を不幸と感じる心さえも奪っていく。
 それは最も優しい力であると同時、最も恐ろしいものであるのかもしれない。


「……なんだ、お宝があるって聞いてきたら見窄らしい像が一つあるだけじゃないか」
 無駄足だったかね、とアルミィ・キングフィッシャー(「ネフライト」・f02059)は鼻を鳴らす。
「こんな半端に金やら宝石なんざ外れてたら価値なんてありゃしない……、っ?」
 ちかり、瞬いた光にアルミィは咄嗟に眼を腕で庇う。そしてぱちぱちとまばたきをした。
「ああ、今何かしたのか」
「おや。きみには効かないのかな」
「あいにくアタシには縁のなさそうなものを取られた感じがしたけどね、盗賊だからスリの手が懐に入ったことくらいは分かるのさ」
「ふうん。縁のないもの、か」
 王子が不思議そうにつぶやいた。この光が奪うのは『不幸を不幸と感じる心』だ。それを無縁と断ずるこの女性は、底抜けに明るい性質なのだろうか。それとも、王子の知る不幸では動じないほどに、それを潜り抜けてきたのだろうか。
「参ったな。本気できみ達を倒さなきゃいけないのに、力が通用しないなんて。いきなりお手上げみたいだ」
「でもアタシ以外は厳しそうってのは何となくわかるよ。何だかさっきから胸の辺りが落ち着かない感じがするしね」
 それに、とアルミィは続ける。
「盗賊から盗むとか、やるじゃないか。その度胸に免じて面白いものを見せてやるよ」
 盗賊の七つ道具。そのひとつ。『平等神の賽子』。
「どこかの負けの込んだ博徒にお人好しの神様が渡したって賽子だ。この賽子は一方的に勝たせない、運の偏りを平たくする道具だ」
「……まずいね。本当にお手上げじゃないか」
 おどけた様子で王子は両手を上げるが、その手には飾りを失った剣が握られたままだ。
「降参するかい?」
「まさか。簡単に道を明け渡すようじゃ、命を賭けてここにいる意味がなくなってしまうよ」
 行く手を阻むように立ちはだかる王子に、仕方ないねとアルミィも肩を竦めながら短剣を手にする。
「命か。賭けるのは無くしても良いものだけさ」
 それが判らないうちはまだまだ青いね、とアルミィは笑う。
「まあ後はアタシ達に任せると良い」
 無駄足どころか実入りのない戦闘をするハメになるなんてね、と付け加えながらも、その眸に迷いはなかった。


「初めまして王子様……私はアンナ……処刑人が娘……二つの世界救う為……貴方を討ち倒す為にここに来た……」
 仇死原・アンナ(炎獄の執行人あるいは焔の魔女・f09978)の髪が焔色に染まっていく。本質を象徴するかのような髪色とは対照的に、その白い膚は鴉のような仮面に覆われていた。
「格好いい姿だね」
 呪われし一族の姿を見ても尚、王子は臆する事もなく、ただ純粋な称賛を込めて云うのだった。
「我が姿は死を齎す大鴉……貴方の幸せを齎す燕とは正反対だね……」
「死を齎す、か。いいよ。その力、ぼくに届かせて」
「貴方の覚悟、無駄にしない……!」
 輝きが満ちる。一方は王子の身体から放出される黄金の輝きであり、もう一方はアンナの携えた妖刀が恨みと殺意を纏い放つ光だ。
 幸福にも不幸にも足元を掬われぬよう、呪詛への耐性を全身に張り巡らせながらアンナは妖刀を抜き振るう。
 迫る光が、鴉の仮面で唯一覆い隠していないアンナの双眸を灼く。目を見張る彼女は何を見ただろうか。
 けれど。その程度でアンナは。炎獄の執行人は脚を止める事はない。
「!」
 眼前に迫るアンナに、今度は王子が目を見開く番だった。
 妖刀が突き立てられる。幸福にさえ揺れ動かぬほどの呪詛と殺気が、王子の身体に。何度も、何度も。
「必ず……終わらせてあげるから……!」
 身を抉る妖剣が左胸に突き立てられそうになった瞬間、王子が笑みを消した。
「……駄目だよ」
 その切っ先を、王子の手が掴んでいた。傷つき、金が剥がれ落ちるのさえ厭わずに。
「ぼくの身体も。命さえも惜しくない。けれど、これだけは、誰にもあげられない。きみ達にもね」
 宝石と金箔で彩られた輝かしい肉体の奥の奥。みすぼらしい鉛の心臓を、王子は必死で庇っていた。
「…………」
 アンナは何かを思案するように、暫し王子を見下ろしていた。
「一思いに心臓を串刺しにされた方が……良かったと思うかもよ……」
「構わないよ」
「……わかった」
 心臓を突かぬ代わりに。
 先程までよりも鋭さも重さも研ぎ澄まされた刃の雨が、王子の全身を何度も何度も斬り刻み続けるのだった。

 やがて動かなくなった王子へと、アンナは仮面を外して呟く。
「貴方と出逢えて幸運だった……ありがとう、王子様……」
 今はただ――心安らかに、おやすみなさい、と。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

霞末・遵
【幽蜻蛉】
おじさん悪霊みたいな姿になるのあんまり好きじゃないな……
悪霊だけどもだよ。死体晒したってつまんないでしょ
恥ずかしいからあんまり見ないでよね

さてどうしようかな。見てると呪いたい気持ちもなんだか薄れてくるし
腕があるのは嬉しいけど……
また絡繰屋再開できるかなあ。作りかけのもの多かったんだよなあ

再開しても世界がなくちゃ意味ないな
幸福は興味あるけどもっと平和な形でお願いするよ
惟継さんの影に入れば光は届かないね。おっきくて助かるー
無差別攻撃は思い切って無視。いいんだよもう死んでるから
蝶を至近距離から一斉に爆破すればヒビくらい入るかな
悪いひとじゃないのはわかるんだけど……これが最善ってなんだかなあ


鈴久名・惟継
【幽蜻蛉】
己が身を削り仕舞いには骸魂すら身を明け渡すか
なんと偉大か、慈悲深いことか
ならば、その想いに応えよう

此処に生きる者として力を失った竜神の一人として
全力を以て戦い、解放してみせよう

遵殿、気にするな
大きくなればお前さんをいつもみたく見れておらんよ

姿は本来の竜神の姿へ
技能は鎧砕き、雷獣ノ腕にて弓を作り出して仕掛ける
光による攻撃を警戒し、雷で形成した矢を放つ
回避されるなら武器を槍に変えて貫通攻撃

光は遵殿に当たらないよう体で防ぐ
流し込まれるは嘗ての幸福
竜神の信仰が失われておらず人と竜神が共に在った過去の幸福な記憶

……否
此処で戦いを止めれば、あの世界さえ消える
生き残った者として守らねばならぬのだ




 全身に猟兵の刃を浴び、動くことをやめた筈の身体が黄金に光り輝く。
「まだだよ。まだ道を拓くには足りない」
 ぼろぼろだった全身が、猟兵と対峙するための力を行使するのに支障ないほどに修復されていく。けれどその幸福の象徴たる金箔や宝玉は戻らず、与えたぶんだけ、零れたぶんだけその姿はみすぼらしくなってゆく。
「どうしたの? ぼくを憐れんでいるのなら、それは間違いだよ。この身体が愛する世界のために役立てられる。頼もしいツバメさんときみ達が、それを担ってくれる。ぼくはこう呼ばれているんだよ。『しあわせな王子さま』って、ね」
 だから、と王子は輝きを失った剣を掲げ、黄金の力を放ち続ける。
「きみ達の誰かが喪われるような悲しいことは、あってはならない。全力でかかってきてね」


「己が身を削り仕舞いには骸魂にすら身を明け渡すか」
 瑠璃紺の眸持つ竜神、鈴久名・惟継(天ノ雨竜・f27933)が深く頷いた。
「なんと偉大か、慈悲深いことか。ならば、その想いに応えよう」
 同じ幽世を生きる者として。力を失った竜神の一人として。
「全力を以て戦い、解放してみせよう」
「うん。遠慮は無しだよ」
 最大限の敬意を含んだ惟継の言葉に、王子も嬉しそうに笑い返す。
「そうしたいのは山々だけどね」
 一方、霞末・遵(二分と半分・f28427)は浮かない貌だ。王子の覚悟にも、惟継の矜持にも、異を唱える気など微塵もないのだけれど。それにしても。
「おじさん悪霊みたいな姿になるのあんまり好きじゃないな……」
 問答無用で本質の姿が解放されるというのが、どうにも受け入れがたいのだ。
「いや、悪霊だけどもだよ。死体晒したってつまんないでしょ。王子さまみたいにきらきら綺麗でも、惟継君みたいに格好いいわけでもないし」
「そしたら、今の姿のままで戦う? 手加減はできないけど」
「いいや。やるよ」
 これから命を奪い合う相手を心から心配している様子の王子に遵は嘆息する。まるで子供のような純粋さだ。真っ直ぐで、恐れを知らない。だからこそこの窮地にすぐさま己を差し出したのだろうけれども――少し身を引いてしまいそうになる。子供にはいい思い出が無い。
「恥ずかしいからあんまり見ないでよね、二人とも」
「遵殿、気にするな。大きくなればお前さんをいつもみたく見れておらんよ」
 そう笑いかけて、惟継が解き放つのは竜神としての真の姿。嘗て現世の邪神をも封じた荘厳なる青竜が天に向けて咆哮すれば、叢雲裂くように雷光が轟き、雷の弓矢を形成する。
 なるほど確かに、とあきらめたように息吐く遵の周囲にも、失ったはずの腕が漂い始めていた。ひとつ、ふたつ、……むっつ。かつての姿に近くて遠い、蜘蛛の悪霊としての姿だ。
 王子の身体から光が迸る。その黄金が竜と悪霊の目を灼くよりも速く、惟継が動いた。
 雷の矢が放たれ、より強い光がそれを打ち消して行く。
「やるね。流石」
 こちらも矢をあっさりと避け、王子が微笑んだ。
「ほう。躱すか」
 ならば、と惟継の手の中で雷光が姿を変える。槍を模ったそれが唸り、今度は王子の身体へと届いた。
「――!」
 代わりに惟継は打ち消しきれない至近距離から、王子の光を浴びる事になる。咄嗟に光が遵まで届かぬようにと腕を伸ばす惟継に流れ込んでくるのは戦意さえも奪うほどのあたたかさと、嘗ての光景だった。
 竜と人が共にあった時代。惟継たち竜神を現世の人々が信仰し、竜神もまた、人知を超えた脅威から彼らを守り続けてきた。
 やがて文明が発展するにつれ人々は神や妖怪を忘れ、忘れられた者達は地球に存在する事叶わず、骸の海との狭間でひっそりと生きていく事になった。
 だが二つの世界が隔たれても、惟継は人を愛していた。グリモアを介して世界が繋がった時も、再び人のために戦えるのだと喜んだものだ。
 けれど。それでも、あのしあわせな時代はあまりにも遠い。
 もう二度と味わえなかった筈の幸福が、ここに在る――。
「……否」
 足元を掬われそうな幸福に抗うよう、惟継は強くつよく槍を握りしめた。
「此処で戦いを止めれば、あの世界さえ消える。生き残った者として守らねばならぬのだ」
「うん」
 その覚悟を受け止めるように、王子が頷く。


 一方、光の奔流から免れていた遵は。
「さてどうしようかな。見てると呪いたい気持ちもなんだか薄れてくるし。腕があるのは嬉しいけど……」
 指一本まで問題なく動くのを確かめながら、幸せかあと呟いた。
「また絡繰屋再開できるかなあ。作りかけのもの多かったんだよなあ」
 随分と不本意なかたちで断たれた道だった。義肢を手に入れた今は専ら自分が楽しむかたちでガジェットを弄る日々だったが、また店を構えるのも悪くはないかもしれない。
「……再開しても世界がなくちゃ意味ないな」
 幸福とやらに興味はあるけど、もっと平和なかたちでお願いするよ。
 飄々と告げる遵に、返事代わりの黄金が届く。幸福を齎す光ではなく、自らの黄金を花びらに変えて敵対者を刻むものとして。
 対する遵が放つのは無数の蝶の群れ。花びらの舞を防ぐためと見せかけて、一目散に王子の元へと飛んでいく。
 爆ぜて爆ぜて、その身体に深い罅を刻み込む。そこへ更に惟継が槍で追い打ちをかけ、罅を広げていった。
 対する遵は花びらを避ける事もせず、王子以上に傷を負っていた。
「随分無茶をするね」
「いいんだよもう死んでるから」
 竜と悪霊の力を目の当たりにしても、王子は一歩も退くことなく、黄金の嵐を行使し続けるのだった。
(「悪いひとじゃないのはわかるんだけど……これが最善ってなんだかなあ」)
 あやういほどに真っ直ぐな隻眼に、遵は胸の裡が零れないようにそっと息を吐いた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

曲輪・流生
真の姿:真白き東洋龍
この姿をとったことの方が少ないので心配だったのですがなんとかなりそうですね。

貴方はあの童話の王子様と同じようにとても献身的なのですね。世界の為に僕らの為に金を、宝石を、捧げてくれる。そしてツバメさんも。

だからこそ、貴方の心に応えなければ
貴方の願うように雲の道を作りましょう
そして蝕む骸魂を祓いましょう
僕は「願い」叶える竜神。
必ずや貴方の願いを叶えます。

UC【真白き炎】
どうか僕に金を使ったりなんかしないで。
その金は雲の道を作るためにあるのだから。
【祈り】【浄化】を込めて真白き炎を放つ。


琴平・琴子
真の姿:ベレー帽に学生服、今より少しだけ幼い姿

それで貴方は本当にしあわせ?
――そう
貴方みたいな人を私は知ってる
その人は、私の王子様だった
でも王子様というにはどこか抜けてて頼りなくて
だけど優しくて、暖かった
この姿の私を助けてくれた
あの人は――王子様じゃない、なんて言ってたけれど
私にはそういう風に見えた

貴方は、本当に王子様?
私にはそう見えないけど

戦いなんて本当は怖い
けれどあの人が良く持っていて花は綺麗で好き
これなら、きっと戦える
革命剣を花弁に変えて黄金の花弁を叩き落として
王子様を埋もれさせる

白はあの人の、あの人達の色
優しい色
――真白は、絶対に穢れさせないわ


スミス・ガランティア
(腰を越すほど髪が伸び、氷片は王冠となり頭へ。付近の温度は下がり、雪の幻影がちらつく)

……全力を出しすぎるのはどうかと常々考えている我だが……今ならそれは許される時、だろうな。

その決死の覚悟……答え、無駄にしない為にも我の持ちうる全力で、お前を打ち倒そう(ガチなので口調も素のそれ

【極寒の天変地異】で【天候操作】し、氷の属性纏う嵐を呼ぶぞ。飛んでくる花びらを風で【なぎ払】うためだ。それでも飛ばし損ねたものがあれば氷の結界を張り防御する(【結界術】使用

そして結界越しに【全力魔法】で練り上げた巨大な氷の礫を叩き込む!


城野・いばら
今のいばらにはアリスの願いに応える力はない
だから、茨の魔女…ロサ、力を貸してね
*真の姿に交代後は泰然な性格に

――何故こうも厄介事に手を出すのかしら…困った子
わたくしは、白のわたくしのように甘くはなくてよ

薔薇の挿し木を茨で繁茂らせ武器受けて、
金の花弁の範囲攻撃に対抗を
千切られど魔力注げば、替えの茨はいくらでも(継戦能力)
そうね、お返しに黒薔薇を贈りましょう
芳しい香でしょう
もっと触れてと花弁でお誘いし睡魔で抵抗を奪い
茨で体を捕えたら
更に生命力吸収で体力を削り摂る

呪いと祝福は紙一重
己の美徳を貫くのは結構だけれど
貴方を慕う子達は見捨てるの?

…これ以上の面倒事は御免よ
役目を終えたのなら
さっさと起きなさい


氷雫森・レイン
(※真の姿はイラスト通りで大丈夫です、アイコン無くてすみません)
こんなの人質戦だわ
滅ぼしてしまったら、人質ごと敵を殺すのと変わらない
でも、…でも、
「出来ることは…本体だけは生き残ってくれることを祈るだけなのね…」
ぱん、と水が弾ける音
翅は蜻蛉似から蝶似に
ブレスレットやアンクレットまで(雨水の)魔力に変わって光の弓矢(平時より大きい)とリボンに
「…全力で殺しに来てほしい、それが貴方の願いなら」
UC発動
「御伽噺の民の誼ですもの、叶えて差し上げましょう」
既に金箔が剥がれている所を狙って高速での移動と回避を繰り返しながらひたすらに魔法の矢を撃ち続ける
何度でも
心優しい王子様…貴方に憑いた骸魂が息絶えるまで


小雉子・吉備
キビも親分衆と合うのは始めてだけど、まだ見ぬ親分衆も山本親分も、王子ちゃんも……ヒーローと言っても差し支えない位だよね

助ける為に全力でやれるだけの事は

[WlZ]
UC【高速詠唱】で真の姿

雉鶏精の獣人姿に九頭雉鶏精テクター(ヒーローズアース製)纏った姿になり【オーラ防御&激痛耐性】で備え

【空中戦&推力移動】で駆けながら【第六感&見切り】【残像】で回避しながら【浄化】込めた〈触れた敵の体を徐々に退化させる霊力の光翼〉で黄金花弁払いつつ

王子ちゃんの骸魂に【貫通攻撃】骸魂だけを弱らせ

〈偽護神刀・吉備男〉に王子ちゃんの得意な【属性攻撃(幸運)】込め【怪力&切り込み】で切り結ぶ

[アドリブ絡み掛け合い大歓迎]


ヴィクティム・ウィンターミュート
この先の為に、俺達も敵も全力でやらなきゃならねえ
だから俺も、セーブしてた力を開放することを躊躇わない
プロフェッショナルとして、手ェ抜くのはナンセンスさ
派手にやろうよ、お互いにな

仕事の時間だぞ、じゃじゃ馬
Void Link Start
虚無の蜃気楼を展開、肉体とサイバネの変質を確認
──黄金の花びらが来る
今の状態なら致命傷にはならねえ そのまま受けてやる

こいつはな、過去に干渉する力を持つんだ
別世界の戦争で貰っちまってね…厄介なもんさ 色々な意味でね
さて、今の攻撃……記憶したぜ
再現開始、増幅を実行
さっきの技──100発以上食らって、お前は立ってられるか?
試してみようぜ!一点集中、全弾フルバーストだ




「本当に強いね。きみ達は」
 ぼろぼろの身体で王子が笑う。王子が剣をひと振りすれば、その身に刻まれた傷は癒える。
 けれど与えてしまった宝玉は、零れてしまった黄金は、戻らない。
「道を切り拓くために、手を抜くわけにはいかない。けれど黄金を使いすぎてしまうと、雲の道を繋ぐための分が足りなくなってしまうかもしれない。それ以前に、ぼくが自我を保てるかもわからない」
 難しいところなんだよね、と微かに表情を曇らせた。
「だからきみ達が強くて助かるよ。本気のぼくが、黄金を使いすぎてしまう前に斃される。それが一番理想なんだ」
 手にした剣をまじまじと眺める。在りし日はその刀身にも金箔がびっしりと張られ、陽の光を受けて輝いていたのだろう。けれど今では、柄の部分にその面影を残すのみだった。
 それが、まるで糸でも解くように輪郭を失っていく。はらはらと崩れ、無数の花びらのようになって猟兵に襲い掛かる。
「この術には、幸福もしあわせもない。ただ純粋に、相手を攻撃するための技だ。でもきみ達がこれを潜り抜けて、ぼくという骸魂を斃してくれたら――それは、しあわせへの道筋になるんだよ」


「それで、」
 と琴平・琴子(まえむきのあし・f27172)が問いかける。学生服に、頭にはベレー帽をちょこんと乗せて。普段よりも少しだけ幼い姿の彼女が、普段通り凛とした口調で。
「それで貴方は本当にしあわせ?」
 王子はきょとんと眼を瞬かせ、そして微笑んだ。
「きみ達が来てくれたから、今のぼくは世界一しあわせだよ」
「――そう」
 ふわりとたなびく鬣に、真白の鱗。自分の姿を見下ろして、竜は安心したように息を吐く。
「この姿をとったことの方が少ないので心配だったのですがなんとかなりそうですね」
 曲輪・流生(廓の竜・f30714)だ。角や紫水晶の眸にどこか少年の面影を残す竜も、王子へと言葉をかける。
「貴方はあの童話の王子様と同じようにとても献身的なのですね。世界の為に僕らの為に金を、宝石を、捧げてくれる。そしてツバメさんも」
「彼にはひどい事をお願いしてしまったね。友だちなのに」
 眉尻を下げる王子だが、その視線に迷いはない。
「今のいばらにはアリスの願いに応える力はない。だから、」
 城野・いばら(茨姫・f20406)が呼びかけるのは己の裡。
「茨の魔女……ロサ、力を貸してね」
 力が溢れる。乳白色の髪は茨のようにしゅるしゅると伸び、艶やかに黒く染まる。同時に溢れ出た茨は玉座のように絡み合い、ロサと呼ばれた魔女をそっと受け止める。
 魔女を彩る大きな白薔薇だけが、彼女といばらの繋がりを示していた。
「――何故こうも厄介事に手を出すのかしら……困った子」
 ロサは泰然たる態度で云い放つ。
「わたくしは、白のわたくしのように甘くはなくてよ」
 スミス・ガランティア(春望む氷雪のおうさま・f17217)の変化は、彼が司る氷と虚像を色濃く反映したかのようだった。金の髪は腰を越すほどに伸び、頭の周りを漂う氷片は王冠となってその髪を彩る。常に携えている六花の大杖からは絶えず冷気が溢れ、彼がそこに在るだけで雪の幻影がはらはらと舞う。
「……全力を出しすぎるのはどうかと常々考えている我だが……今ならそれは許される時、だろうな」
 彼が聲を発するたびに、空気が凍り付くかのようだった。かつて強大な力を悪用されていた神は、悲劇を繰り返さないために、そして人々との軋轢を起こさないためにも力を抑え、親しみやすい振る舞いを心掛けているのだが。
「その決死の覚悟……答え、無駄にしない為にも我の持ちうる全力で、お前を打ち倒そう」
「うん。頼んだよ」
 氷の神にも似た蒼玉の眸が細められる。
(「こんなの、人質戦だわ」)
 一方、躊躇いを捨てきれないのは氷雫森・レイン(雨垂れ雫の氷王冠・f10073)だ。自由気ままに見えて人間が好き。フェアリーらしい性分と世話焼きの性格を併せ持つ彼女は、ぎゅっと強く手を握りしめる。
(「滅ぼしてしまったら、人質ごと敵を殺すのと変わらない。でも、でも……!」)
 見上げれば、王子の片方だけの眸がレインに微笑みかけていた。促すように。
「出来ることは……本体だけは生き残ってくれることを祈るだけなのね……」
 ぱん、と水が弾ける音と共に、その姿が変わっていく。
 蜻蛉のような羽が広がり、透き通った蝶のような姿に。弾ける音は彼女の纏う装飾品の数々からだった。雫型の宝石たちが雨水の魔力となり、宙を漂っては彼女をより美しく彩っている。
 手には平時よりも大きい光の弓矢。リボンがふわりとたなびいて。
「この先の為に、俺達も敵も全力でやらなきゃならねえ。だから俺も、セーブしてた力を開放することを躊躇わない」
 元より掴める最大限の結果を――完璧の勝利を得るためなら、生命も人間性も惜しまないのがヴィクティム・ウィンターミュート(Winter is Reborn・f01172)という男だ。それを象徴するかのように、彼の身体が漆黒に包まれていく。漆黒は炎のように――否、蜃気楼のようにゆらめいて。
「仕事の時間だぞ、じゃじゃ馬。……Void Link Start」
 全身を覆い尽くしたヴィクティムは、まるで彼自身が怪物に変貌を遂げたかのようだった。
「プロフェッショナルとして、手ェ抜くのはナンセンスさ。……派手にやろうよ、お互いにな」
「うん。悔いだけは残さないようにしようね」
 こちらも手を抜くつもりは微塵もないと、王子は微笑むのだった。
(「どうして、あんな風に笑えるんだろう」)
 小雉子・吉備(名も無き雉鶏精・f28322)は、そんな王子の表情に思案する。命を賭けなければならない状況だというのに、それさえもしあわせだというように朗らかに笑っているのだった。
「キビも親分衆と合うのは始めてだけど、まだ見ぬ親分衆も山本親分も、王子ちゃんも……ヒーローと言っても差し支えない位だよね」
 世界の危機をいち早く察知し、行動に移した彼ら。王子も山本親分も、命など惜しくはないと云っていた。けれど同じ妖怪である吉備は知っている。忘れられてしまったら、自分たちは存在できない。死んでしまったら――きっといつか、忘れられてしまう。
「助ける為に、全力でやれるだけの事はするよ」
 雉鶏精の獣人姿となった吉備が纏うのは、ヒーローズアース製の九頭雉鶏精プロテクター。愛する世界のために命を賭けるヒーロー達に応えるには、この武装が一番相応しいと思えたから。
「本当に……頼もしい人達ばかりだ。お願いだよ、誰一人欠ける事無くぼくを乗り越えてね」
 王子が満足そうに頷いて、黄金の花嵐を巻き起こした。


 狂ったように暴れ回る黄金が、猟兵の膚を裂く。あちこちで血飛沫があがり、それでも足を止める者はいなかった。
(「彼と敵対せねばならぬ状況でなかったら、きっとさぞ美しい光景だったのだろうな」)
 清き心が振るう、黄金の雨。スミスが思い起こしたのはかの物語だ。街の象徴であった、幸福な王子像。
 街の人々は貧しく、そんな彼らの為に王子は文字通り身を削っていった。
 逆説的にいえば、王子が自らを犠牲にするその時まで、黄金と宝石で彩られた像が盗まれもせずそこにあったのだ。貧しくも正しく生きてきた人々がいたからこそ、王子は自らを省みずに行動したのだろう。
(「彼を失えばツバメも、カクリヨの者達も悲しむだろうな。……我はもう、誰の涙も見たくない」)
 冷たくなった誰かを見て、泣いている誰かがいた。自我を得たスミスは己の手の冷たさを知り、そして起こったことを悟った。
「この力。今度こそ正しく振るおう。誰かの救いとなる為に」
 杖が低く唸り、周囲から熱を奪っていく。大気が凍りつき、嵐が氷の破片を巻き込んで吹き荒れる。
 仲間達に下がれと声をかける事はしなかった。今のスミスならば暴走しやすいこの力でも抑え込むことが出来るだろうし――各々の力を解放した彼らなら、きっと問題ですらないだろうから。
 現に雨水纏うレインは透き通る蝶の羽をはためかせ、黄金と氷の猛吹雪の中を軽やかに飛び回って被害を免れていた。いくら魔力や身体能力が強化されていようと、小さな体に黄金の礫が直撃すれば無事では済まない。懸命にその軌道を読み続け、少しでも攻撃の手が緩めばすぐさま魔法の弓を引き絞っていた。
「……全力で殺しに来てほしい、それが貴方の願いなら」
 飛雨縫い。雨妖精の小さな身体は縫うように宙を駆ける。選ぶべき道筋が見えているかのように。
 そしてそれは放たれる矢も同じ事。見えない線をなぞるかのように、決して避けられる事のない軌道に乗って王子の身体に突き刺さる。
「御伽噺の民の誼ですもの、叶えて差し上げましょう」
「!」
 狙いは金箔が剥がれ、鉛が露出している箇所。雲の道を切り拓く為に黄金が不可欠と云っていた王子のために。あるいは彼の自我が喪われぬうちに決着をつけるために。
 王子の貌が苦痛に歪む。すぐさま取り繕い、穏やかな笑みを浮かべるが、レインはそれを見逃さなかった。
 そして、だからと云って引き下がれない事も、承知していた。
「心優しい王子様……貴方に憑いた骸魂が息絶えるまで」
 何度でも何度でも。この矢を撃ち続ける。
「っ――、まだだよ!」
 王子の聲に合わせ、花吹雪はより一層激しく舞い乱れる。絶対零度の嵐さえも打ち破り、縫い留められたはずの矢さえも弾き飛ばして。
 視界一面が染まるような金のなかを、漆黒が駈けていた。避けることもせず、ヴィクティムが王子へと距離を詰める。
「効かないのかな? ……いや」
 虚無の蜃気楼から露出したヴィクティムの貌から零れる血。その傷が決して浅くはない事を王子は悟る。
「随分と無茶をするね」
「何も考え無しの無鉄砲ってわけじゃない。今の攻撃……記憶したぜ」
 ヴィクティムを包む蜃気楼が、まるで意思を持つかのように唸り、轟く。その瞬間、漆黒の怪物が反撃を開始する。放出されたのは、黄金の嵐だった。
「!」
「こいつはな、過去に干渉する力を持つんだ」
 縁は別世界での戦争からだった。どうにも厄介事とは縁が切れねえもんだと自嘲気味に笑う。戦い続ければ命は燃やされ人間性は奪われ、その上こいつだ。いちいち悲観するような繊細さは持ち合わせちゃいないが。
「何にせよ、得たからには有効に使うのがモットーでね。……増幅を実行」
 漆黒の蜃気楼さえ見えなくなるほどの、光の奔流だった。ヴィクティムの命を糧に、受けた技を何倍にも何倍にも増幅し、跳ね返す。
「百倍以上ってとこだな。さすがのお前でも立っていられるか――試してみようぜ!」
 黄金の嵐が狙うは一点。一切の遠慮も躊躇もないフルバーストが、王子に叩きつけられた。


 ―――。
「……まだ、立ち上がるのね」
 琴子が静かに見つめる先、王子がゆらりとその身を起こす。
 腹部に大きな穴があいて、そこから全身に亀裂が走っていた。王子が念を込めれば傷は塞がっていく――塞がり切らない。
「そろそろ限界が近いのかもね」
 王子は笑った。他人事のように。
 命を賭ける覚悟などとうに済んでいるからこその遠さだった。
「……貴方みたいな人を、私は知ってる」
 私の王子様だった、と琴子は呟く。王子様というにはどこか抜けてて頼りなくて――けれど優しくて、暖かかった。
「大切な人なんだね」
「ええ。この姿の私を助けてくれたの」
 だから琴子がその力を解放する時、この姿となるのかもしれない。たいせつなたいせつな思い出だから。
「あの人は――王子様じゃない、なんて言ってたけど、私にはそういう風に見えた」
 いつもより更に小さな手が、革命剣を握りしめる。
「貴方は、本当に王子様? 私にはそう見えないけど」
「みんながそう呼んでくれるってだけだよ。ぼくは王子を模して造られたけど、王家の血を引いているわけでもないし、きみの王子様みたいな立派な心も持っていない」
 でもね、と王子は黄金を巻き起こす。
「これがぼくに出来る精一杯なんだ」
 腕試しではない。死合いだ。黄金の花びらがその切っ先を琴子に向けて迫りくる。
(「……怖い」)
 戦いなんて、本当は怖い。でもここに来たのは、これがあるから。
 携えた剣が白い薔薇の花びらとなって黄金を迎え撃つ。花は、好きだ。あの人がよく持っているから。
 だから――きっと戦える。
「同じ力か。いいね。どちらが強いかな」
「――真白は、絶対に穢れさせないわ」
 勢いを増す黄金の中を、白が吹き荒れる。叩き落して、王子の身体を包んでいった。
 暫し、嵐が止んだ。真白に包まれた王子が黄金を放出できずにもがく。
「白はあの人の、あの人達の色だから」
 優しい色。今も琴子を護ってくれた、大切な花だから。


 光が溢れだす。
 包み込む優しい白をも撥ね退けて、王子は再度黄金を繰り出した。
「きみたちの思いが伝わって来るよ。この役目を担えてよかったと本当に思う」
 既に全身に走る疵は修復が追い付かず、繊細に模られた装飾品の数々は崩れ、鉛の露出する箇所も目立っている。
「願わくば最後までぼくのまま、きみ達が乗り越えるところを見ていたいね」
 黄金が剥がれ落ちるたびに骸魂の制御は崩れ、王子の自我が失われていく。
「怖いわけじゃないけれど、最期まで君たちを見ていられないのは少し寂しいな」
「最期だなんて、言わないでください」
 流生が真白き炎を放つ。魔や邪を払う竜神の炎。忘れかけられた神は、その全ての力を賭すと決めた。
「僕は『願い』叶える竜神。必ず、貴方の願いを叶えます」
 貴方の望むように、雲の道を作りましょう。そして蝕む骸魂も祓いましょう。
「そして――貴方の生還を願う人たちがいます。貴方が愛している世界の人々もまた、貴方を愛しています。その願いも、僕は叶えたい。……叶えなくちゃ、いけないんです」
「キビもね、二つの世界が大好きだよ。ヒーローの物語が溢れる現世も、キビ達妖怪が暮らせる幽世も」
 だから同じ幽世の民として、ひたむきに成すべきことをしている王子を誇らしく想う。――けれど。
「現世では、ふしぎな生き物たちは過去のものになっちゃった。それでも幽世で生きていく事が出来た。……王子ちゃんが幽世でも過去になっちゃうのは、寂しいよ」
 空を駆けながら、吉備はその光翼を輝かせる。白き炎が黄金の花弁を焼き払い、光翼がそれを吹き飛ばした。ふたつの浄化の力が混ざり合って王子に届き、その骸魂の影響を弱らせていく。
「優しいんだね、きみ達は」
 王子が心臓の辺りに手を添える。そのあたたかさを感じながらも、王子は黄金の花弁を繰り出し続けた。
「その優しさに足元を掬われてしまうのか――それともその優しさが、よりきみ達を強くしているのか」
 命を燃やすように放たれた黄金の奔流は、包み込むように伸びた茨によって阻まれる。
 集中砲火を受けた茨が千切れども、薔薇の挿し木からいくらでも伸びるそれが黄金を受け止めていった。
「白のわたくしなら、この子たちと同じようなことを云ったかも知れないわね」
 無垢がひとの姿を得たような彼女のことだ。王子が救えなかったとしたら――ああ、とロサは小さく息を吐いた。随分と面倒なものが回ってきたことだ。
「あなたは花がお好きなの? そうね、お返しに黒薔薇を贈りましょう」
 一面に伸びる茨から、咲き乱れる黒い花。甘い馨に王子が目を細めた。
 茨が動くたび、薔薇の花弁もふわりとなびく。まるで触ってごらんと誘うかのように。
 思わず手を伸ばした王子へと、茨が巻き付いていく。あ、とちいさく聲を上げた王子の身体はあっという間に囚われ、瞼を重そうにとろんとさせる。
 抗えない眠気は薔薇の香りが誘う睡魔だろうか。それとも生命力を奪われているから?
 戦場じゅうを吹き荒れていた黄金の花弁たちが、映像を巻き戻すかのように王子の手に舞い戻ってきた。元の剣の姿となり、そして力を失った王子の手からすっぽ抜け、地面に落ちて乾いた音を立てる。
「まずいな、このままじゃ……」
「まだやる気? あなたは全力を出し尽くした。もう十分なのではないかしら?」
「これ以上、僕たちのために金を使ったりしないで。その金は雲の道を作るためにあるのだから」
 剣を取り落とした王子の手を、竜神の手がそっと握った。
「貴方の強さは、僕たちがこの目で見届けて、しっかりと憶えました。また、戻ってこられるように」
「忘れられていない人がいなくなっちゃ、駄目だよ」
 王子はいかにも眠たそうな目を向けて――そして、ゆっくりと目を閉じた。
「戻って……来られるかな」
「己の美徳を貫くのは結構だけれど」とロサ。
「貴方を慕う子達は見棄てるの?」
「…………」
 ロサはお伽話の結末を知っている。身を窶したみすぼらしい鉛像は用済みとして打ち棄てられた。清らかな魂を神に尊ばれたとして何だというのだろう。美徳など、その程度のことだ。
 だがこの王子は物語の登場人物ではない。ツバメ以外にも、彼を慕う者がいるのだ。
「……これ以上の面倒事は御免よ。役目を終えたのなら、さっさと起きなさい」
「……ぼくを」
 ちいさく、王子が呟いた。
「ぼくを、斃してくれるかい……? ぼくを包む骸魂は、まだ消滅していない。斃さなければ、道は拓かれない」
 頷きあった吉備と流生が、共に攻撃を繰り出す。
「王子ちゃんと同じ力、受け取って!」
「誰も欠けないで欲しいって云ってましたよね。それは、貴方もですよ」
 幸運宿した偽護神刀の一撃が。願叶える竜神の炎が。
「……さよならじゃないことを祈っているわ」
 琴子の白が咲き乱れる。
「我はもう、誰かの涙は見たくない」
 スミスの氷の礫が、鉛の身体へと叩きつけられる。
「ええ。あなたが護った世界、あなたが見届けなくちゃ」
 レインの矢が雨のように降り注ぐ。
「ったく丈夫な王子様だ。折角なら最後まで生き残れよ?」
 ヴィクティムが己の命を惜しむ事無く黄金を逆流させる。
 力を使い果たしていない猟兵がその全てを注ぎ、世界が明滅する――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

都槻・綾
今と言う時間は
何気ない日常は
連綿と続く歴史の
誰かの
尽力や犠牲のもとにあるの
其れを愛と呼ぶのなら
世界は愛で出来ているのでしょう

身を挺したあなたと同じく
献身で寄り添う朋は今
深い嘆きを秘したまま飛び続けている
果たして幸せなのかしら

唇寄せる篠笛
祈るように
詠うように
朗と奏で
風を招く

ざわりと
衣翻し
身に眠る草花の芽吹きを誘い
目覚める翼

かたわの鳥は
永くは空を翔けれぬけれど
神遊ぶ風の道が標すままに
君がもとへと羽搏こう

多重に紡ぐ詠唱も
決して機を外さぬと研ぎ澄ました第六感も
此の一瞬の、破魔の為

災厄の大祓え
月冴えの一閃

あなたが世界を愛するように
燕さんや沢山の方々が
あなたの幸せを願っています

だから
どうか、

生きてください


パウル・ブラフマン
玉座の代わりに
自身の巨大な触手に凭れて伸びを一つ。
囚人服を纏いながらも
王子さまと対面すれば、胸に手を置き恭しく礼を。

黄金が剥がれ落ちてしまった彼は
歴戦の王のようで、いっそ神々しく想える。
オレは結構スキだよ、カッケェじゃん☆

花びらが舞い出すタイミングを【見切り】
UC発動ー往こう、ジャスパー!
三千世界のどの鬼火より雄々しく麗しい焔の中から
燦然と現れた愛しい彼の力を借り
猛【ダッシュ】で、王子さまの死角へと回り込もう。


【リミッター解除】をした触手で狙い貫くのは心臓。
けれど決して奪いはしない。
オレの頭上の王冠を外して
可能であれば、そっと王子様の頭に乗せてあげたいな。

コレは、オレよりキミの方が相応しいよ。




 ――指先に意識を遣る。ぴくり、と動いた。
 次は指全体に。手に。腕に。意識を徐々に外から内へ、小から大へ向けていけば、身体を起き上がらせて立ち上がることが出来た。
「……しぶといね。ぼくも、骸魂も」
 まだこの身は、大祓骸魂の配下、百鬼夜行の一員としてみなされているらしい。
 そして、自らを呑み込んだ骸魂=オブリビオンの特性として、彼は悟る。新たなる『猟兵』の接近を。


 現れたのは、ふたり。
 香炉のヤドリガミ――彼の本体に蒐集されてきた「うつくしきいろ」がそのままひとの姿をも彩っているような壮麗たる男性、都槻・綾(絲遊・f01786)と。
 かつて名もなき囚人であり、栄光の象徴であるMCネームを冠していた頃を彷彿とさせる姿に、太く艶やかな触手を揺らすキマイラ、パウル・ブラフマン(Devilfish・f04694)。
 玉座のように絡み合った自らの触手に凭れるパウルの頭には金ぴかの王冠が輝いていた。久しぶりの姿に馴染むように伸びを一つしたパウルは、王子と対面すると胸に手を当て、着崩した囚人服に似合わぬ洗練された動作で恭しく礼をする。その直後にはにぱっと人懐こい笑みを向けた。
「王子様、お逢いできて良かった。綺麗で優しげな王子様を想像してたらめちゃくちゃカッケェ人でびっくりしちゃったよ」
「恥ずかしいな。もうぼろぼろだもの」
「ううん、歴戦の王って感じで神々しささえ感じるっていうか――オレは今の姿も好きだな」
「今という時間は――……」
 綾がただ言葉を紡ぐだけで、人の心を優しく掻き立てる詩のような響きが生まれる。対する綾自身は、ゆるやかな波のような柔和な笑みをたたえたままだった。
「何気ない日常は連綿と続く歴史の、誰かの尽力や犠牲のもとにあるの。其れを愛と呼ぶのなら、世界は愛で出来ているのでしょう」
 人とは異なる命で、人々の営みを見続けてきた。玲瓏たる香炉の言葉に何かを感じ取ったのか、王子もじっと耳を傾ける。
「身を挺したあなたと同じく、献身で寄り添う朋は今、深い嘆きを秘したまま飛び続けている。……果たして幸せなのかしら」
「他の人にも言われたよ。ツバメくんだけでなく、ぼくを慕ってくれる人のことは見棄てるのか、って」
 肩を竦めながらも、王子の手には取り落とした剣が再び握られていた。
「皆のために身体を張ったって自己満足で、ぼくだけ幸せになるなんてのは格好悪すぎるよね。だから命を棄てる覚悟なんてことは、もう言わないよ。だけど」
 黄金の光が、花弁が、王子から吹き荒れる。その中心で笑う王子は、どこか憑き物が落ちたかのような表情をしていた。
「本気で向かって来る『骸魂』を、『猟兵』が打ち倒す。それが雲の道を繋ぐ手段なんだ。だからぼくはこの手を止めないよ」
 優しく、そして強いきみたちなら、きっとこの頑固な男を救ってくれるって――そう、信じられたから。


「UC発動――往こう、ジャスパー!」
 パウルの傍に寄り添うのは蝙蝠羽持つ一人の男。三千世界のどの鬼火より雄々しく麗しいとパウルが形容する焔が、あらゆる災厄を寄せ付けまいと囂々燃える。
 広げた翼が囚人の背を悪魔のように彩る中、パウルはタコ生で一番長い付き合いとなる相棒の鉄馬ではなく、自らの足で王子の死角へと迫る。
 黄金と悪魔の焔が猛然と舞う戦場に、篠笛の澄んだ音が響き渡る。祈るように、詠うように――朗と奏でる笛が風を呼び、風が綾を包んでいく。
 衣翻すその姿が変わっていく。元より花のように美しい全身から、大小さまざまな草木が芽吹き。鳥を思わせる脚に沿うように、片方だけの翼が背から伸びる。
 迦陵頻伽のような囀り齎す美しい草花たちは、その実綾を侵食し命を蝕むものたちだ。それでも花と翼の中心にある彼は、いつも通り青磁色の双眸で笑むのだった。
 片方だけの翼は夢の痕。あの大空を自由に駈けることも叶わず、だというのに今も綾の背にひっそりと宿っている。
「それでも――出来る事があるのですよ」
 かたわの鳥。自ら自在に飛び回る事は出来ずとも、風が導く標を辿る事はできる。
 風が繋ぐ先はしあわせな王子さま、その人。脚を止めようと迫る光も花弁も、風が吹き飛ばし。綾はただ、ただ一瞬のために詠唱を重ねていた。
 破魔の力が練り上げられていく。あまりの目映さに王子が目を眇めた頃、死角から迫ったパウルの触手が伸びる。
「! しまっ……」
 普段細くしなやかで、武器を括り付ける腕として使用されている触手は今は力自慢の剛腕のよう。変わらぬ鋭さをもったそれが、王子の心臓へと伸ばされる。
「だめ……!」
「大丈夫。これはキミだけのもの、でしょう? 骸魂から取り返すだけだよ」
 信じて、と笑う隻眼の男の貌さえも、目映い光が掻き消していった。
「王子様。もっかい逢う前に、これを受け取って欲しいんだ」
 真っ白に染まっていく視界の中で、王子は確かに見た。パウルがその王冠を外し、王子の頭にそっと乗せたのを。
「コレは、オレよりキミの方が相応しいよ」
 金ぴかの王冠は、まるで王子のためにあつらえたように、燦々と輝いていた。
「今の儘でもお素敵ですが、」と綾の聲。その姿はもう王子には映らなかったが、優しい聲がその表情を物語っている。
「あなたを慕う人々にも、真実の幸せが訪れる時――きっとそれは、より美しく輝き、人々を見守ってくれることでしょうね」
 極限まで高めた力が、一気に放出される。災厄の大祓え。月冴えの一閃。
「忘れないでください。あなたが世界を愛するように、燕さんや沢山の方々が、あなたの幸せを願っています」
 だから、どうか――。

 生きてください。

 その言葉が、王子の心に深くふかくしみ込んでいく。


 光と静寂の最中で、チュイチュイ、と澄んだ鳴き声が届いた。
「……ツバメさん?」
 王子の身を案ずるように友は囀り、その手に頬を摺り寄せた。
「ああ、やっぱり、ぼくは――……」
 しあわせだね、と彼は笑って。


 いろを取り戻した世界に在ったのは、物言わぬ黄金像。
 けれど傷ひとつついていない鉛の心臓が、彼のいのちがまだ続いている事を物語っていた。
 力を使い果たし静かに眠る像の魂が、再び目を醒ます時もそう遠くはないだろう。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2021年05月15日


挿絵イラスト