大祓百鬼夜行⑮〜哀哭スワロウ
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ツバメさん、黄金を持っていっておくれ。
剥がれた黄金の分だけ、僕と合体した骸魂が目を覚ますけれど……。
大祓骸魂に続く「雲の道」は、僕の黄金がなくては作れないんだ。
――うん。持っていくよ。王子様がそう望むなら。でも。
そしてまもなく、たいせつな役目が始まる。
僕は、猟兵達と殺し合わねばならない。
僕達「親分」が全力で戦い、そして倒されれば、大祓骸魂が放つ圧倒的な虞も幾らか和らぐ。それが、大祓骸魂に続く雲の道を作る為の「必須条件」なんだ。
――うん。わかってるよ。王子様の覚悟は、痛いほどに伝わってくるよ。でも。
だからツバメさん、黄金を持っていっておくれ。
もし僕が死んだなら、雲の道を繋ぐ役目は君にお願いしたいんだ。
――うん、わかってる。私の役目はわかってるよ。でもね。
僕の理性が消えてしまって、ただ闇雲に誰かを襲う怪物になってしまっても。
どうかお願いだよ。ツバメさん。
――うん。黄金を運ぶよ。道を作るよ。それが貴方の望みなら。でもね、王子様。
――皆の幸せの為に、二つの世界と妖怪たちの為に、どこまでも優しさを振りまいた貴方が、
――壊れちゃう。心も体も、壊れちゃう。
――……おねがい。だれか。だれか。
王子様を、
たすけて。
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「……助けてあげてくれないか。しあわせな王子さまとツバメを」
真摯に、そして何処か切なげにベニトアイトを揺らめかせ、ディフ・クライン(灰色の雪・f05200)は告げた。
西洋妖怪の大親分『しあわせな王子さま』。
周囲に幸福をもたらす妖怪として、多くの妖怪たちに慕われてきた妖怪だ。
彼は今、骸魂に身を明け渡し、それを抑える為の黄金すら剥がして、今彼は大祓骸魂へと続く雲の道を築こうとしている。だが骸魂を抑えていた黄金が剥がれるごとに彼の理性は骸魂に侵食されていき、遂には崩壊へと至ってしまった。
「今、王子は骸蝕形態と呼ばれる極めて危険な状態に陥っている。今の王子は理性はない。黄金の剥がれた自らの肉体をも崩壊させながら、全力で襲いかかってくるだろう」
黄金が剥がれ落ちた腕を異形と成し、防御を捨てて攻撃に特化させた攻撃は、受けてしまえば猟兵であっても一撃で大怪我に繋がりかねない。崩壊して落ちた破片すら弾丸のように飛ばし、放たれる呪いは対象となった者の皮膚や装甲を剥がしてゆく。
自らの崩壊すら厭わずに行われる暴虐は、まるで嵐だ。
「ただ、王子の放つ膨大な虞が猟兵の本能を刺激しているはずだ。今ならば、窮地でなければ扱えなかった力も扱えるだろう」
即ち、真の姿。
それが解放される程には、この場は既に窮地なのだ。大親分という肩書に相応しい力を存分以上に揮う王子と戦うには、猟兵もまた全力を出し切って戦わねばならない。
「王子と殺し合い、そして倒すことで、大祓骸魂の持つ強大な虞が幾らか和らげることが出来る。そうなることが王子の望みであり、大祓骸魂へと続く道を作る為の必須条件だ。――ただね」
王子の親友であるツバメが泣いていたと、ディフは言う。
大好きな王子の願いを叶える為に、その覚悟を無駄にしない為に、ツバメは黄金を運んで雲の道を作り続けている。
「ずっとずっと泣きながら、黄金を運んでいるんだ。王子を助けてくれと、喉が張り裂けるくらいに叫び続けているんだ。だから……助けてあげてほしい」
自己犠牲の王子が崩壊してしまわぬように。泣いているツバメが、寂しさで凍えて死んでしまわぬように。
誰一人犠牲にしない為に。
「原作の結末をなぞる必要は無いさ。王子もツバメも生きて幸せに暮らすんだ。そうでなくちゃならないよ」
雪華のゲートを開き、ディフは振り返ってそっと笑った。
そんなことだって、貴方たちはきっと出来るだろうからと信じて送り出す。
王子の想いをとツバメの願いを背負い、全身全霊をかけて戦え。イェーガー。
花雪海
閲覧頂きましてありがとうございます。花雪海と申します。
此度は『大祓百鬼夜行』が戦場、西洋親分との戦いへとご案内致します。
●本シナリオについて
このシナリオは1章で完結する戦争シナリオです。
怪我・流血の描写がある予定です。王子やツバメに対する想いと、全力をぶつけて頂けますと幸いです。
●プレイングボーナス
【真の姿を晒して戦う(🔴は不要)】
戦場を覆う膨大な虞の影響により、猟兵は即座に真の姿を開放することができます。
真の姿のイラストなどあれば参考にさせて頂きますが、イラストが複数ある又はイラストがない場合は、プレイング内で言及して頂けますと助かります。
なお、必ずしも真の姿で戦う必要はありません。
●プレイング受付・締め切り・採用について
当シナリオに断章はありません。
プレイング受付期間は【13日8:31~13日23時】を予定しております。受付期間外に頂いたプレイングは、一律採用致しませんのでご注意ください。
また、今回グループ参加は【1グループ2名様まで】でお願い致します。
当シナリオは完結優先で執筆致します。再送はお願いせず、最低限のプレイングでの完結を目指す関係上、全採用のお約束は出来ません。プレイングに問題はなくともお返しする可能性があります。
締め切りまでに書けるだけを書くスタイルで参りますので、その点ご了承願います。
それでは、皆様の熱いプレイングをお待ちしております。
第1章 ボス戦
『西洋親分『しあわせな王子さま』骸蝕形態』
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POW : 骸蝕石怪変
自身の【黄金の剥がれた部位 】を【異形の姿】に変形する。攻撃力・攻撃回数・射程・装甲・移動力のうち、ひとつを5倍、ひとつを半分にする。
SPD : 部位崩壊弾
レベル分の1秒で【切り離した体の部位(遠隔操作可能) 】を発射できる。
WIZ : 崩落の呪い
攻撃が命中した対象に【崩落の呪い 】を付与し、レベルm半径内に対象がいる間、【対象の皮膚や装甲が剥がれ落ちること】による追加攻撃を与え続ける。
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴
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岩永・勘十郎
「猟兵も苦だな。ワシらの為に自己犠牲を果たした者を倒さないといけないとは……でもワシは、それに慣れてる。故に鉛色の王子よ。これ以上鬼にならぬうちに斬ってやろう」
マントをバッと脱ぎ捨てて、ゆっくりと刀を抜く。その目には相手に【恐怖を与える】【殺気】が溢れ出て、青眼に構える虚無の剣は隙が無く。
「さぁ、来い!」
敵の攻撃を素早く【見切り】、【残像】が残る程の速度で回避。【幸運】も勘十郎に味方する。
「燕の意も汲み取り、せめて慈悲で斬ってやろう」
燕の思い。それを口にした瞬間の敵の気が揺らいだ一瞬間を突き、UCを発動した斬撃を叩きこんだ。痛みはない。相手の中に潜む骸魂の魂その物を斬る技なのだから
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「猟兵も苦だな。ワシらの為に自己犠牲を果たした者を倒さないといけないとは……」
忘れられたものたちの終着駅。
雑多で何処か荒廃したようなその場所で、岩永・勘十郎(帝都の浪人剣士・f23816)は小さく息をついた。大祓百鬼夜行を止める為、カクリヨファンタズムの住人たちが取った手段は「自己犠牲」だった。現状その最たるのが西洋妖怪親分「しあわせの王子さま」だろう。
彼は己を覆う黄金を剥がし、それによって大祓骸魂へと続く雲の道を作り続けていた。その身に強大な骸魂を宿し、黄金を剥がすことによって己の理性をどんどん崩壊させていきながら。
それを、斬らねばならぬ。
「でもワシは、それに慣れてる。故に鉛色の王子よ。これ以上鬼にならぬうちに斬ってやろう」
勘十郎はマントをパッと脱ぎ捨てた。
定める目標は、理性も体も崩壊させながら地を蹴った「しあわせの王子さま」。黄金の剥がれた右腕を巨大化させ、防御など考えぬ動きでただ蹂躙しようと咆哮を上げる王子――だったもの。
ゆっくりと刀を抜く。真紅の瞳には鋭い殺気が溢れている。骸魂の放つ虞など、なにするものぞ。正眼に構える虚無の剣に隙は無い。
殺気と虞がぶつかり合って、空気がビリビリと張り詰める。その緊迫の糸が張り詰め、切れる瞬間。
「さぁ、来い!」
『アァァァ
!!!!!!』
王子が振り下ろした異形の腕を素早く見切る。構わず振り下ろした王子には、回避の間に合わなかった勘十郎が一瞬で叩き潰された……かに見えた。
だが。
「後ろだ」
叩き潰したはずの勘十郎の声は、王子のすぐ後ろから響く。王子の腕の先には何もない。卓越した勘十郎の足捌きが王子に残像を見せたのだ。おかげで無防備な背中が、勘十郎の目の前にある。
「燕の意も汲み取り、せめて慈悲で斬ってやろう」
『……ッ』
燕の思いを口にしたことで、王子の気が一瞬だけ揺らいだ。それは王子の理性の残滓か、ただの反応か。どちらにせよ、一瞬の揺らぎは王子が振り返って反撃する動作を遅らせる。その程度の隙があれば、斬ることなど容易い!!
「万有を返す!」
仙力を込め鋭さを高めた太刀が、王子の背を袈裟懸けに斬った。
だが不思議と、王子の躰が崩れることも真っ二つになることはない。
――途端、耳障りな絶叫が王子の内から響いた。
それは王子ではなく、王子の中に潜む骸魂の絶叫。苦痛に藻掻くのは王子ではなく骸魂だ。
六道・龕灯返しの太刀。
それは肉体を傷つけず、事象や概念を斬る勘十郎の大技である。
燕の想いを汲む。
その意味を理性の崩壊した王子はきっと気づいていない。ただ闇雲に振り回して攻撃する王子の腕を避け、勘十郎は間断なく剣を構えた。
大成功
🔵🔵🔵
レスティア・ヴァーユ
真
外見:イラスト無し、羽根が三対六翼に
(内面:情はあるが、ステシより割り切り早く冷徹/プレ準拠)
(この姿になったのは覚醒した時の一度きりだが
今までの現実が何かの夢であったかのように
思考が冴え心が澄み渡る気がする)
「…それ以上、泣くものではない。ツバメ
王子を助けたときに、その声が枯れていては
最初に親友に声を掛ける者がいなくなる」
シンフォニックソードを構え、歌を紡ぐ
歌を力に、剣へと乗せる波動に変えて
王子を正面から見据えよう
自己犠牲の末のその尊き姿を
胸に受けた僅かな哀しみと共に天に謳い
敵の存在を屠る力を天に乞い【神罰】
同時に敵UCによる微細な変化も見逃さず
襲い来るならば引きつけ距離を詰め
設定UC発動
●
忘れられたものたちの終着駅に開く翼、三対六翼。
豊かに実った稲穂のように揺らめく金の髪から覗く蒼は、常よりも澄み渡る。
戦場に満ちる虞が、猟兵の本能を刺激していた。
此処は危険だと本能が叫ぶ。
今は窮地であると直感が叫ぶ。
だがそれよりも、泣き声が聞こえてやまないのだ。
それ故、レスティア・ヴァーユ(約束に瞑目する歌声・f16853)は己が真の姿を開放する。まるで大天使のように。
(「この姿になったのは覚醒した時の一度きりだが」)
不思議と今までの現実が、何かの夢であったかのように思えた。これまでにない程にレスティアの思考は冴え、心が澄み渡っているような気がする。
だからこそ気づいた。ツバメが上空で旋回しながら泣いている。レスティアはふわりと舞い上がると、そっとツバメに寄った。
「……それ以上、泣くものではない。ツバメ。王子を助けたときにその声が枯れていては、最初に親友に声を掛ける者がいなくなる」
冷静に、けれど優しく温かく。レスティアは指先でツバメの小さな涙を拭う。その身体はしっとりと濡れていた。そんな風になるまで、泣いていたのだろう。
少し掠れた声で鳴いたツバメに頷いて、レスティアは空を切った。
構えたシンフォニックソードと高速で振り抜かれた異形の腕とがぶつかり合う。爪の切っ先がレスティアの頬を切った。飛び散る赤をそのままに負けじと押し返せば、異形の腕の主――しあわせの王子さまが吹っ飛んで壁に激突する。
いやに重い攻撃だった。あれがツバメに当たったりしたならば、小さなツバメはひとたまりもなかろう。理性無き王子には、もうツバメの姿すら見えていないのかもしれない。
「……」
故にこそ、レスティアは僅かなこの隙に、シンフォニックソードを構えた。
そして王子を正面から見据えて歌う。紡ぐ。
自己犠牲の末のその尊き姿を。
胸に受けた僅かな哀しみを、共に天に朗々と歌い上げる。
蒼く透き通った剣はレスティアの歌声を増幅し、歌を力にする。そしてその力を剣へと乗せる波動に変えれば、蒼の刀身が淡く輝きはじめた。
『ウ、アァ、ァァァァ
……!!!』
王子が再び筆を振り上げて突っ込んでくる。勢いよく地を蹴れば、黄金の剥がれた足から欠片が零れ落ちた。
その様を強く見据えながら、祝福の歌声で天に希うは敵の存在を屠る力――。
レスティアも三対の翼を羽搏かせて駆ける。
その身を捧げて歌い、紡ぎ、レスティアが手にしたのは御主のチカラ!!
「代理執行・神罰!!」
王子の異形の腕がレスティアに届くよりも早く、青の閃光が王子を貫いた。
だが肉体的な崩壊は起きない。その神罰は肉体を傷つけるものではないからだ。
全力で戦い果てることが王子の望みならば、その覚悟にレスティアも応えねばならない。そしてその上で、ツバメの願いを叶える為に。
「斬るべきはお前だけだ、骸魂」
成功
🔵🔵🔴
辰神・明
妹人格:メイで参加
アドリブ歓迎
たすけてって、声が……聞こえたの
メイね、わがままになっちゃったみたい
UC発動と同時、真の姿を解放
背中の『傷痕』から血が、赤色の魔力が溢れ出る
骨で作られた様な形の翼が生えて
尾の様な紅の鎖が生まれて、その先には虎の頭部が
いたくて、くるしい
アキラおねえちゃん、みたいに
うまくできない、です……けれど、やります
友達の、ツバメさんの、おねがいを……かなえたい、から……!
骸玉の影響が強そうな部分を
虎さんの口で、ガブッとかみ付いて【部位破壊】【生命力吸収】
攻撃を受けそうなら【激痛耐性】で、ガマン、するです
ぜったい、ぜったい!
王子さまもツバメさんも、たすけるの、です……!【覚悟】
●
「たすけてって、声が……聞こえたの」
幼い少女が、一歩前に出る。
掠れた声で鳴くツバメを薄桃の瞳に映し、やがて正面の王子を決意を持って見据える。
「メイね、わがままになっちゃったみたい」
辰神・明(双星・f00192)はそっと笑った。
王子の気持ちはメイにだって理解が出来た。『メイが頑張ることで皆が嬉しくなるのなら』と、自分の身を犠牲にしてきたことも多々ある少女だ。そういった気持ちは理解がしやすい。だが、その目は自分だけでなく周囲の友を見ることも出来るようになったのだ。
そうやって自分を犠牲にしてきた時の、友達の顔。心配する声。『姉』から伝わる不安気な心境。それに気付けたから、メイは少しだけ我儘になったのだ。
その我儘を叶える為、メイは躊躇いなく真の姿を開放することを選んだ。
メイの背中には傷跡がある。癒えぬ傷跡は恐ろしい実験があったことを示す証。その傷跡から血が、赤色の魔力が溢れ出る。
魔力は骨格だけの血の翼を形作り、尾のような紅の鎖が生まれ、その先には虎の獰猛な頭部が現れる。
「う、うぅ……」
いたくて、くるしい。自分の血がごっそりと抜けてしまうような感覚を覚えて、思わず呻き声が零れてしまう。虎の頭が動き、メイの意思とは別にそっと寄り添った。その感触に、メイは一生懸命頷く。
「アキラおねえちゃん、みたいに。うまくできない、です……けれど、やります」
やらなければならない、ではなく。
やりたいのだ。
「友達の、ツバメさんの、おねがいを……かなえたい、から……!」
それがメイの願いだから。
そしてツバメの涙を止めたいのなら、王子を生きて救わねばならない――!!
『ォォォォァァァァァァ
!!!!!』
黄金の剥がれた腕を巨大化させ、王子が周囲を薙ぎ払う。血骨の翼で必死に避けて、弾き飛ばされた瓦礫の激突を腕で耐える。
「……つッ」
(「メイ
……!」)
「だい、じょうぶ、ガマン、するです……!」
揺らめいていてはすぐに追撃が来る。ズキズキと痛む腕を抑えながら、メイは涙を堪えて王子へと立ち向かう。
骸魂の影響が最も強い部分は、黄金もほとんどなく、異形化を遂げたその腕だ。最も攻撃に使われるその場所が、最も防御が薄い箇所!!
「ぜったい、ぜったい! 王子さまもツバメさんも、たすけるの、です……!」
吼え猛る虎の口が王子の腕に喰らい付いた。
その異形、骸魂の強大な虞を噛み裂いて、王子とツバメの幸福な未来を手にするために。
成功
🔵🔵🔴
エンティ・シェア
助けてくれと請われるなら、助けぬわけにはいくまいよ
私が行こう
黒髪和装の羅刹の姿で
君に、花を捧げに行こうじゃないか
華焔にて周囲に魔力の花吹雪を展開
花そのものは盾にも刃にもならぬがね。美しかろう?
君は望んで良い。求めて良い
君を愛する者の為にも手を伸ばすべきだ
足掻いてでも生き延びるべきだ
しあわせの王子様なら
傍らの子を、泣かせるべきではないよ
なんて、説教できた身分でもないがね
それぐらい生き汚くなってほしいものだ
魔力の花束を手に飛び込もう
私が傷つくのは構わない。耐えるのには慣れている
耐えた分、触れた花が君を炎の渦に誘ってくれるはずだ
黄金の剥がれた王子様
君の、醜悪な虞だけを、燃やし熔かしてしまおうか
●
「助けてくれと請われるなら、助けぬわけにはいくまいよ」
だから、私が行こう。
そう言ったエンティ・シェア(欠片・f00526)の足元から、突如花弁と共に風が舞い上がった。
豊かな黒髪が広がる。花嵐の中から一歩歩み出たのは、目元を仮面で隠した和装の羅刹。燃えるような赤は息を潜め、女性にも見えるその姿が、エンティの真の姿。きっと、そのひとつ。
「君に、花を捧げに行こうじゃないか」
そう言って、華の君は笑った。
ふわり。華焔の花弁が広がった。
エンティを包み込むように舞う花吹雪は、まさに百花繚乱の様相だ。だが、それを見据える王子にはもう、花を慈しむような理性はない。
「美しかろう?」
花そのものは盾にも刃にもならぬがねと、着物の袖で嫋やかに唇を隠して笑う。
理性無き王子。否、そんなことは関係がない。彼はまだそこに居るのだ。しあわせの王子様という存在は未だそこに居るのだ。
助けたいと願うから、エンティは「王子様」に手を伸ばす。
「君は望んで良い。求めて良い。君を愛する者の為にも手を伸ばすべきだ。足掻いてでも生き延びるべきだ」
語り掛ける相手は骸魂ではない。
取り込まれてしまったが故に奥底へと追いやられた、助けられると信じている王子へだ。だって、彼は人々の幸せを願った心優しき王子なのだろう。
「しあわせの王子様なら傍らの子を、泣かせるべきではないよ」
なんて、説教できた身分でもないのだがと、エンティは内心独り言ちる。だが、それぐらい生き汚くなってほしいものだとも思うのだ。
誰もの幸せを願うのなら、ずっと傍らに居た友の幸せも願うべきだ。その友が、王子に死んでほしくないと泣いているのなら、己が命を賭してでも生へと手を伸ばしてこそだろう。
だから。
エンティは魔力で編んだ花束を手に飛び込んだ。その姿を迎え撃つのは王子の異形と化した腕。
舞い散る花は刃ではない。盾でもない。だから王子の拳が容赦なくエンティの身体を殴打しようと、その手を切り裂くこともなく。その爪が美しき白の着物を赤で汚しても、
王子の攻撃からエンティを守ることはない。
けれど、エンティは己が傷つく分には構わない。耐えるのには慣れている。
そして花は焔。
エンティが耐えた分だけ花は王子に纏わりつき、華焔の渦へと王子を誘う。巻きこまれる炎は、遠い遠い記憶の焼却炉に似るだろうか。あの時は鉛の心臓ばかりが残ったけれど。
「黄金の剥がれた王子様」
華の焔は王子の躰を溶かしはしない。
「君の、醜悪な虞だけを燃やし溶かしてしまおうか」
華焔の君が差し出した花束は、王子の虞を火焔の華嵐へと呑み込んだ。
成功
🔵🔵🔴
オズ・ケストナー
ツバメに頷いてみせる
たすける
おうじさまを、たすけたい
だっておうじさま
おうじさまがしあわせになってほしい「みんな」の中に
ツバメさんだっているんでしょう?
だいじな、ともだちなんだよね
泣いてるのは
泣かせてしまうのは、つらいよね
ツバメさんも、おうじさまも笑ってほしい
物語はめでたしめでたしでなくっちゃ
真の姿
10歳に満たない子供の姿
髪は床につく程長く無垢で少女的
色、球体関節変わらず
生まれたてのよう
いつも一緒の少女人形を抱いて
たっと駆け出す
回避、あるいは少女人形にはじいてもらい
魔鍵を構えて接近
UC
やさしいおうじさまにも、ツバメさんにも
よあけがくるように
もちろん、「みんな」にはね
おうじさまだって入ってるんだよ
●
――だれか。だれか。
――王子様を、助けて。
ツバメが泣いている。黒の羽毛をしとどに濡らし。
ツバメが叫んでいる。喉が張り裂けんばかりに。
「たすける」
そんな必死の助けを乞う声を受け取って、オズ・ケストナー(Ein Kinderspiel・f01136)はツバメに確りと頷いてみせた。
「おうじさまを、たすけたい」
二つの世界と妖怪たちの為に、自らを犠牲にする『しあわせの王子さま』。
王子がみんなの幸せを願うのなら。
「だっておうじさま。おうじさまがしあわせになってほしい『みんな』の中に、ツバメさんだっているんでしょう?」
一番の親友が仲間外れなんてことは、絶対に無いはずだ。ツバメの幸せだって王子は願っていたはずだ。そしてそんな王子の幸せを、ツバメは願っていたはずだ。この状況では役目を全うする為に、そして己を満たした骸魂の虞によって忘れてしまったかもしれないけれど。
「だいじな、ともだちなんだよね。泣いてるのは、泣かせてしまうのは、つらいよね」
そう言って、オズはそっと目を閉じた。
ゆっくりと変じた10歳にも満たぬ子どもの姿で、オズは静かに笑う。いつも一緒の少女人形を抱いて。生まれたてのよに美しい無垢のミレナリィドールは、王子に優しく温かく笑いかけるのだ。
だって、ツバメにも王子にも笑ってほしい。
多くの幸せを願った王子様が、壊されて焼却炉に行くような結末は悲しすぎる。泣きぬれる優しきツバメが、寂しさに凍えて死んでしまうような結末は切なすぎる。
「物語はめでたしめでたしでなくっちゃ」
未来を変えられる現実だからこそ、悲しき結末に決別を。
床につく程に長い金の髪を靡かせて、オズはたっと駆けだした。
獣のような雄叫びをあげる王子が、宝石を抜き取られて暗く窪んだ眼窩から呪いを放つ。黒い光線のような呪いを子鹿のような軽やかさで回避して、避け切れぬものは少女人形に弾いてもらう。
オズの手には魔鍵がある。麗しき春の名を冠する鍵は、何も傷つけずに生命力のみを奪える特別製の鍵。
「やさしいおうじさまにも、ツバメさんにも、よあけがくるように」
(――みんなに。お前はそう願うだろうから)
少女人形が弾いた呪いの軌跡を縫って、オズは王子へと接近する。最も異形と化した黄金のない腕へと「春麗」を向け、放つは鍵穴の封印。
怖ろしい夜は必ず終わりを告げるものだ。そして迎える朝は、どうか独りではありませんように。
「もちろん、『みんな』にはね。おうじさまだって入ってるんだよ」
少女にも似た無垢な笑みを咲かせて、オズは春暁の印を放つ。
王子とツバメが、揃って笑い、迎える夜明けを希って。
大成功
🔵🔵🔵
尾守・夜野
「…王子も燕も助ける
必ず」
その覚悟の証として燕に身代わりの宝珠を預けよう
二人揃って返しに来てくれる事を願って
まだ運び続けているなら往復してる…近くにも来てるだろうから危険もあるだろうしな
戦いってもそれぞれに戦場はある
俺の戦場はここで燕は異なる
それだけだ
王子の覚悟に報いる為にも両方を助けないといけない
真の姿は晒してる
崩れた所を埋め立てたぐちゃぐちゃな姿を
きっと隠すだけの余力もないから
それでも童話の結末何て迎えさせない!
異形な姿での攻撃といっても生身の筈
攻撃は可能な限り黒纏で受け接触での回復や強化、カウンターを狙っていく
…避けられる相手ではないというのもある
追加でUC:強化式【累】で一撃を狙う
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ツバメが泣いている。
忘れられたものの終着駅の天井近く。王子に願われた黄金を運びながらも、その戦いの行く末を不安そうに見つめている。
「……王子も燕も助ける。必ず」
その声に、その姿に尾守・夜野(墓守・f05352)は決意を抱く。決意とは覚悟だ。夜野がついと伸ばした指先は、気づけば異形の腕と変わっていた。長く伸びた髪、宵闇に浮かぶ血の月の瞳。崩れたところを埋め立てただけのぐちゃぐちゃの姿を、隠すだけの余裕はこの場にはない。
それでも、指を伸ばした意図を感じ取ったツバメが赤い爪の上に舞い降りる。恐れずに此処に来てくれたことが、少しだけ夜野の心を凪がせてくれた。
巨大化していない方の腕で、夜野は小さな指輪をツバメに差し出す。
「燕。これは身代わりの宝珠。持ち主の傷を引き受けてくれるものだ。これを預ける」
ツバメが首を傾げる。
なぜ? 私に、こんな大切そうなものを。
「まだ運び続けてるんだろ。こんな近くに来ていたら危ないけど、でも、見届けたいんだろ」
少しの間の沈黙。
それでも、ツバメは頷いた。夜野もまたそのいらえに頷く。
「戦いってもそれぞれに戦場はある。俺の戦場はここで、燕はここじゃない。それだけだ」
未だ夜野の想いを汲み切れず、ツバメは指輪を受け取れないでいた。
今の王子と戦うのならば、貴方こそこれを持っていなければならないのでは、と。
「王子の覚悟に報いる為にも、お前も王子も両方を助けないといけない。だから、」
けれど夜野は首を横に振った。
視線を理性の崩壊した王子に向ける。今の王子は暴虐の嵐だ。かの暴力は凄まじく、攻撃は広範囲に及ぶ。たとえ猟兵が王子を救うことに成功したとしても、万が一、王子の異形の腕が、崩壊した欠片の弾丸が、放たれる呪いがツバメに当たってしまったなら。
たとえ救われても、王子の傍に親友は居ない――。
「あとで二人揃って返しに来てくれ」
穏やかに笑ってツバメの頭をそっと撫で、夜野はツバメを再び空に放った。ツバメの足には身代わりの宝珠がしっかりと握られている。それを満足そうにに見届けて、夜野は次の瞬間には地を蹴った。
あの宝珠は、ツバメとの約束でもあり、夜野の誓いと決意でもある。あの宝珠にかけて、夜野は負けるわけにはいかず、そして必ず王子もツバメも救わねばならい。
今、そう約束した――!!
王子の異形の腕の攻撃を、出来るうる限り黒纏と名付けられた服の上で受ける。接触者の血と生命力を啜る服で己を回復し、防御力を強化することを選んだのは、高速で移動する王子の攻撃は避けられぬと踏んだからだ。
それを判って受けていてもなお、叩きつけられる腕の衝撃は激しく夜野を打ち据える。
真の姿をとっていても、体が軋む。
崩れたところを埋め立てたぐちゃぐちゃな姿を隠すだけの余裕も余力もない。
それでも!!
「童話の結末なんて迎えさせない!」
避けられぬならば耐えるまで。
耐えながら狙うのは、起死回生のカウンター。
そして訪れた機会。
発動するユーベルコードは、倒行逆【肢】。
戦うことを望む者を、夜野が受けたダメージの代償に比例して強化し、譲れぬものの為に戦う力。
ここで戦うのはツバメではない。もっと傍にいる。虞の中で骸魂と戦っている者。
「手段なら用意してやる! てめぇの道はてめぇで開け! サポートならしてやる! 思う存分暴れな! 俺も暴れてやらぁ!」
なぁ、王子――!!
ドクンと。
虞に捕らわれた王子の裡。鉛の心臓が脈打ち始める。
大成功
🔵🔵🔵
ミュー・ティフィア
光の精霊の力に満たされた真の姿に変身です。(後ろの魔女は不参加)
私、自己犠牲って嫌いなんです。
本人も辛くて悲しくて、未来は閉ざされて、遺された人もやっぱり悲しくて、皆が不幸になるから。
アドリビトゥムの盾受けとオーラ防御で相手のユーベルコードを防ぎます!
そして因果を超える【歌姫】の力を込めた全力魔法でしあわせな王子様を救出します!
ツバメが泣いていたらしいですよ。貴方に生きていて欲しいって叫びながら。
だからもうこんな事は終わりにしてツバメを迎えに行きましょう。
もう泣かなくても良いんだよって安心させてあげましょう?
優しい貴方も、優しいツバメもどちらも幸せにならないとダメなんです。
●
理性と体を崩壊させる王子が、初めて揺らぎを見せた。
それは今迄戦った猟兵たちが少しずつ、けれど確実に、王子の中の骸魂だけを削り、声をかけ続けたからに他ならない。崩壊していたと思われた王子の理性が骸魂を削り取った隙間を見つけ、オブリビオンとなった身の最奥から足掻いているかのようで。
それは好機に他ならない。それは猟兵たちの想いの強さに他ならない。
ならば今は、畳み掛ける時。
真の姿を開放すると、ミュー・ティフィア(絆の歌姫・f07712)は己が内から光が溢れるように感じた。光の精霊の力に満たされて、宵に沈みゆく忘れられたものたちの終着駅にも灯りが燈るかのようだ。
「私、自己犠牲って嫌いなんです」
翼の装飾がされたアドリビトゥムの盾が宙を舞う。
体を崩壊させながら暴れる王子からは、ぽろぽろと破片が零れている。
「本人も辛くて悲しくて、未来は閉ざされて、遺された人もやっぱり悲しくて、皆が不幸になるから」
そんな姿に未来などない。痛くて苦しいに決まっているし、見ている人々を悲しくさせてしまう。王子の犠牲は確かに猟兵にとって有用だ。それぞれの戦場を繋ぐ雲の道も、強大すぎる大祓骸魂の虞の弱体化も、この大祓百鬼夜行を攻略していくに当たって重要な意味を持つ。
だが、その為に西洋妖怪の大親分であるしあわせの王子が自らを犠牲にすることは、誰にとっての幸せなのだろう。多くの妖怪に慕われた彼の犠牲の上に成り立った勝利を、果たして救われた妖怪たちは心から祝えるだろうか。まして、王子の親友であったツバメならば――。
「ツバメが泣いていたらしいですよ。貴方に生きていて欲しいって叫びながら」
『……ウゥ、う、アァァァァァァァ
!!!」』
ツバメの名前が出た瞬間、王子は明らかに動揺した。
自らが零した破片を弾丸にして、マシンガンのようにミューを狙う。
だがそれは届かない。アドリビトゥムの大盾が自立稼働にて宙を飛び回り、その一切の攻撃を防ぐからだ。翼の盾に守られながら、ミューは歌う。
「だからもうこんな事は終わりにしてツバメを迎えに行きましょう」
盾に弾かれた破片すらも弾丸にして、今度はもっと細かい礫でミューを撃ち抜こうと放つ。けれど、決してミューには届きはしない。ミューの紡ぐ歌が、因果を超えて。
「もう泣かなくても良いんだよって安心させてあげましょう?」
歩み出る。
正常な体感時間などとうに失って久しいが、更にその概念を己から奪い――。
「優しい貴方も、優しいツバメもどちらも幸せにならないんとダメなんです」
引き寄せるは、王子とツバメが笑って幸せになるハッピーエンド。
王子の身の乗っ取る骸魂の存在が大きく揺らいだ。
成功
🔵🔵🔴
城野・いばら
*真の姿へ交代後は泰然自若な性格
それで?
己だけめでたし、めでたし。で芽出度く締め括ろうと
…わたくしの眠りを邪魔しておいて良い度胸
嗚呼、不愉快
望む様にはさせてあげない
だって私は魔女ですもの
速さや間合いで劣ろうが関係ないわ
狙うのは貴方が触れた瞬間
茨を繁茂らせた挿し木で武器受け、機を待つ
蔓を腕を伐られようと替りは如何様にも
魔力注ぎ茨を芽吹かせ継戦能力を維持
燕が泣いていたわ
あのままでは衰弱するでしょう
それが貴方の贈る幸福?
言の葉も降らせば隙を突けるかしら
蔓絡ませ鋭利な茨で串刺して捕縛を
生命力吸収で力を奪う
私も貴方に贈りましょう
金の剥がれた所へUC発動
咲かすは白薔薇
此れは祝福で呪い
貴方の往く先に幸運あれ
●
「それで?」
溜息と共に吐き出された言葉は緩慢に、そして呆れ果てて。
「己だけめでたし、めでたし。で、芽出度く締め括ろうと」
常の穏やかで楽し気な様子は、今は鳴りを潜め。棘の上で真の姿を開放した城野・いばら(茨姫・f20406)は気だるげに髪をかきあげる。
「……わたくしの眠りを邪魔しておいて良い度胸」
嗚呼、不愉快と、棘に抱かれたレディは泰然自若に息を吐く。
自己犠牲を好いものとは思わない。それがどれほど大きな結果を引き寄せようとも、その結果に満足するのは犠牲になった本人と、それとは遠い者たちだけ。近しい者たちは果たして幸せだろうか。犠牲になった者の友は、その結果を心から喜べるだろうか。
「望む様にはさせてあげない。だって私は魔女ですもの」
不機嫌さを隠しもせずに、いばらは身を預ける茨に魔力を注ぐ。途端、茨が活性化した。
『あ、ア、ォオアァァァァ!!!』
言葉すら失くして、王子が異形と化した腕を振り上げる。窓に叩きつける無遠慮な豪雨のような攻撃を、いばらは茨を繁殖らせた薔薇の挿し木で受け続ける。
速さや間合いで劣ろうが、いばらにとっては関係がない。狙うは王子が触れたその瞬間だけ。
蔓が弾け飛んだ。挿し木を持つ細い腕が、王子の力に押し負け伐られて飛んでいく。だがそのどちらも関係がない。替わりなど、如何様にも。
いばらは魔力を注ぎ茨を芽吹かせ続け、じっと機を待つ。
「燕が泣いていたわ」
更に茨は言の葉を降らせる。
猟兵たちが削り取った虞や骸魂の力は、奥底に押しやられた王子が藻掻く隙間を作っているはずだ。ツバメの話を出すだけで攻撃に揺らぎが見えるのがその証拠。
「あのままでは衰弱するでしょう。それが貴方の贈る幸福?」
『……つ、バ……メ……!』
「そう。貴方の親友なんでしょう」
カクン、と。
王子の動きが止まった。サファイアの瞳にほんの一瞬光が戻る。その瞬間、蔓を絡ませた鋭利な茨が王子の異形となった腕を刺し貫いた。
茨はまるで水を吸い上げるかのように、黄金の剥がれた体に宿る骸魂の生命力を吸収する。
「私も貴方に贈りましょう」
薔薇の挿し木は成長を続け、蕾を膨らませ、
「芽吹き、花咲かせ――命よ巡れ」
そして咲かすは、白い薔薇。
ピシリ。
美しき白い薔薇が異形に根を張り、黒き虞にヒビが走る。
「此れは祝福で呪い。貴方の往く先に幸運あれ」
薔薇の魔女が、ついと嫋やかに指先を振った。
その瞬間、骸魂によって形作られた王子の異形が弾け飛んだ。
大成功
🔵🔵🔵
栗花落・澪
年齢より幼い容姿
銀と赤の目
足に天竺葵の枷
表情に乏しく、ネガティブかつ冷淡
澪が僕を思い出すのがこんなに早いとはね
僕はノア
自由の名を冠し鳥籠に囚われた
飛べない金糸雀だよ
枷で歩けず【空中戦】
【聞き耳】で微かな音も聞き取り回避特化
★杖で直接攻撃を防ぎつつ
足場に【破魔】の★花園を広げ徐々に戦場に破魔の【浄化】を満たし
敵の呪い軽減
万一皮膚が剥がされても無感情
痛みはあるけど、もう慣れた
救ってあげる
それが澪の望みだから
【指定UC】発動
香りの【誘惑】で惑わし蔦で捕らえ
自身も囚われた鳥籠の隙間からそっと手を伸ばし
優しくするのは、今回だけだよ
彼等に安らかな幸福を
【優しい祈り】を込めて
破魔を乗せた光魔法の【属性攻撃】
●
「澪が僕を思い出すのがこんなに早いとはね」
常よりも幼き姿でそう呟いた栗花落・澪(泡沫の花・f03165)の瞳は、銀と赤。
快活な様子は今はなく、そのか細い足は天竺葵の枷に捉えられたまま。
二彩の瞳がゆっくりと、『しあわせな王子さま』を映す。
黄金の剥がれた王子様。サファイアの瞳を失くし、ルビーの柄飾りを失くし。遂にはその理性すら崩壊させ、魂を鉛の心臓の奥底に押し込められた崩壊の王子。
「はじめまして、しあわせな王子さま。僕はノア。自由の名を冠し鳥籠に囚われた、飛べない金糸雀だよ」
自己紹介を告げる澪――ノアの声は冷淡で抑揚が無かった。表情も無い。ただその目に浮かぶのは、否定的で消極的な意思と諦観。
「救ってあげる。それが澪の望みだから」
そう言って、ノアは翼をはためかせた。枷は歩くことを許さず、故に空を舞うしかノアには移動の手段がない。
だが微かな音すら聞き逃さない耳は、襲い来る王子の攻撃を的確に判断して回避を容易にしてくれる。
王子の異形と化した腕は、猟兵たちの活躍によって一度弾け飛んでいた。もともと王子の腕に虞と骸魂の鎧を被せたような構造だったのだろう。王子の元々の腕は無事だ。黄金の剥がれた箇所から再び溢れ出た虞がもう一度王子の腕を異形に変えても、猟兵たちによって削られた骸魂の力は以前よりも不安定なものとなっている。
そう判断したノアは杖で異形の腕の攻撃を防ぎながら、足場に破魔の花園を広げていく。そうして徐々に戦場に浄化を満たしていくと、王子は苦し気によろめいた。
否、王子ではない。それは王子を乗っ取った骸魂の苦しみだ。
呪いの波動も攻撃が当たらぬことには王子は放てない。それに、万が一皮膚が剥がされてもノアにはどうということはない。痛みはある。だが痛いことにはもう慣れてしまっているのだ。少なくともそれに関して動く感情が無くなるほどに――。
ふと、ノアの足を絡めとっていた天竺葵が、徐々にノアを包み込む檻になるように成長していく。それと同時に、咲き誇る天竺葵の香りが王子を惑わす。
くらり。くらり。香りが王子の視界を揺らす、その隙に。
天竺葵の蔦が王子を捕らえていた。まるで双子の植物の檻が二つ。ノアと王子を捉えて離さない。
檻の中で足掻き暴れる王子に、ノアはそっと鳥籠の隙間から手を伸ばす。その指先が、王子の瞳に触れた、その瞬間。
「優しくするのは、今回だけだよ」
次に会う時ツバメを泣かせていたら、容赦しないかも。
だから、彼等に安らかな幸福を。
優しい祈りを込めてノアが放った光は王子の宝石のない眼窩に突き刺さり、鉛の心臓に押し込められた王子へと手を伸ばす――。
大成功
🔵🔵🔵
シャルファ・ルイエ
たすけてって、呼んでくれてありがとう。
ちゃんとあなたのところに王子様を連れて帰ってきますから、もう泣かないで。
それはそれとしてツバメさんを泣かせてる王子様にはちょっと怒ってます。
それだけの覚悟と友人への信頼からの行動だっていう事も、分かってはいますけど。
でもどうか、あなたを諦めてしまわないでください。
だって世界が救われても、あなたが居なかったらツバメさんはしあわせにはなれないでしょう?
可能な限り攻撃は回避して、全力で【燈花】を。
自分の傷を癒すのは戦えなくなるぎりぎりまで待ちます。
「助けてくれるから大丈夫」だって、思わせてみせますから!
無事に帰ってあの子にありがとうって、言ってあげてください。
●
ツバメは、その戦いを忘れられたものの終着駅の片隅で見ていた。
本当は王子の黄金を運ばなければならなかったけれど、その戦いから目を離せない、離してはいけないと思ったから。
「たすけてって、呼んでくれてありがとう」
だって、こんな風に。
猟兵たちが声を聞き届けてくれた。こんなに掠れてしまった小さな声でも、聞いてくれて。
「ちゃんとあなたのところに王子様を連れて帰ってきますから、もう泣かないで」
優しく微笑んで、ツバメの涙を拭い、王子を助けてくれると言ってくれたから。
シャルファ・ルイエ(謳う小鳥・f04245)の言葉にツバメはこくりと頷いた。シャルファの指に伝わるのは、涙でしっとりと濡れた羽毛の感触だ。こんなにも濡れてしまうまでツバメは泣いて助けを乞いながら、王子の願いを運び続けていた。
だから、シャルファは少々怒っているのだ。親友のツバメを泣かせている王子に。それだけの覚悟と友人への信頼からの行動だという事は、もちろんシャルファも分かってはいる。
それでも――。
「でもどうか、あなたを諦めてしまわないでください」
祈るように告げる。
シャルファはそっと振り返って、自分の後ろで心配そうに此方を見つめているツバメに笑みかけた。友が居る幸福を、友を失う悲しみを、王子が忘れてしまっているというのなら、もう一度教えてあげよう。
「だって世界が救われても、あなたが居なかったらツバメさんはしあわせにはなれないでしょう?」
燈の花がふわり、舞い始める。
王子の呪いの波動は攻撃の着弾が起点だ。ならばとシャルファは全力で終着駅を駆け抜けて王子の攻撃を回避し続ける。骸魂の影響が薄れてきた異形の腕を滅茶苦茶に振り回す王子の攻撃は、どこかチグハグだ。何処か――骸魂に乗っ取られた王子の中で、何かが抵抗しているような印象。
それを感じ取ったシャルファは、強く地を踏みしめた。ふわりと舞う淡い光の花弁を手繰り、突き出される異形を光で包み込む。
光が異形の勢いを殺しきれなくたって構わない。光の花が触れた分だけ、骸魂は少しずつ骸の海へと還る。鋭い爪がシャルファを掠める。けれども怯みはしない。たとえ怪我を負ったって、自分を癒すのは戦えなくなるギリギリまで待つつもりだ。そのギリギリまで、シャルファは全力で燈花を手繰り続ける。
「『助けてくれるから大丈夫』だって、思わせてみせますから! 無事に帰ってあの子にありがとうって、言ってあげてください……!」
その為にこそ、シャルファたちは此処に来たのだから。
大成功
🔵🔵🔵
鷲生・嵯泉
戦場に在って命を賭す事は珍しくも無い
だが、唯犠牲と為るなぞ見過ごせん
我が刃は護る為に――必ずや成して見せよう
……身を挺しての目的を果たさせぬ訳にも行くまい
なればこそ此方も全力を以って――終葬烈実、箍よ砕けろ
五感にて得られる全ての情報に第六感を重ね
戦闘知識で図っての先読みにて攻撃は見切り躱し
致命と行動阻害へと至るものは武器受けにて弾く
些少の傷ならば構わん、激痛耐性と覚悟で捻じ伏せ前へ出る
なぎ払いでのフェイントにて隙を抉じ開け
一刀、其の“虞”を叩き斬る
自己犠牲を無駄とは云わん
しかし其れで成し得たとしても、遺されるものの心が救われない
――遺されるものなぞ生み出さない事こそが、真の勝利と云うものだ
●
戦場に在って、命を賭すことは珍しくも無い事だ。
譲れぬ矜持や願いがあって、それを叶える為にこそ己が身を賭ける覚悟は、戦いの場でこそ煌く閃光のようでもある。
「だが、唯犠牲と為るなぞ見過ごせん」
紅の隻眼に宿る一本の芯。それは鷲生・嵯泉(烈志・f05845)にとって約束であり覚悟であり願いである。
すらりと抜いた刃が、青白い光を反射して。
「我が刃は護る為に――必ずや成してみせよう」
親友を助けて欲しいと希うツバメの願い、しかと受け取って。
嵯泉は王子と真正面から相対した。
王子の願いは、骸魂と融合した自分と全力で戦い、そして最期には撃破されること。そうすることで強大な大祓骸魂の虞を和らげることが出来るという。身命を賭した一計だ、そこに疑う余地はない。
「……身を挺しての目的を果たさせぬ訳にも行くまい」
ただ王子を助けるだけではいけない。王子の思惑を成功させた上での救出が、嵯泉にとっての絶対条件となる。
「なればこそ此方も全力を以て――終葬烈実、箍よ砕けろ」
箍など要らぬ。擁するのは打ち砕く力のみ。
武芸、際涯なく。
解き放つは己の心、そして身体の限界を戒める束縛。
王子が己の身を崩壊させながら戦うのならば、嵯泉とて限界以上の力を以て応じるのみ――!!
箍を取り払ったことで拡張された五感が、嵯泉にあらゆる情報を伝えてくる。僅かな空気の揺らぎ、王子の放つ虞の揺らぎ。隆起する異形の音。いっそ体感時間が緩慢に思える程の情報量に第六感を重ね合わせて――嵯泉は力強く一歩踏み出した。
ガギィィ……ン!!!
『秋水』と名付けられた嵯泉の刀と、王子の異形の腕がぶつかり合う。力任せに振り抜かれた剛腕を、研ぎ澄まされた感覚と戦闘経験によって得られる先読みで見切り、攻撃を受けぬギリギリで躱して嵯泉は刀を振り上げる。
王子の砕けた欠片が弾丸となって嵯泉の上半身を穿たんと飛ぶ。その全てを振り下ろした一刀のもとに叩ききり、返す刃で突き出された腕の軌道を逸らした。勢いと遠心力をそのままに嵯泉が猛然と足を跳ね上げれば、強烈な踵が王子を壁へと叩きつけた。
轟音と共に王子が激突した面から蜘蛛の巣状に大きなヒビが走る。
西洋妖怪親分の肩書に相応しい、或いは骸魂によってそれ以上に強化された王子を、嵯泉は児戯のように圧倒する。だが、それほどまでに強化した身体に代償がないとは言えない。無茶な動きに筋繊維がいくつか既に断裂している。限界以上の力を出る為に増大させた血流に耐え切れず、血管が切れている部分もある。
だが、だからどうした。
そんなものは些少の傷だ。こんなものは構わない。痛みへの耐性と覚悟で全てをねじ伏せ、嵯泉は威風堂々と立つ。
「自己犠牲を無駄とは云わん。しかし其れで成し得たとしても、遺されるものの心が救われない」
瓦礫の中で、しあわせの王子はすぐには立てないでいた。彼の纏う虞が揺らめき、時折薄れている。顔を上げた王子のサファイアの瞳に、一瞬だけ光が明滅する。
「――遺されるものなぞ生み出さない事こそが、真の勝利と云うものだ」
そうだろう?
皆に幸せと優しさを振りまく為に、最も身近な者を泣かせていては意味がないのだから。
大成功
🔵🔵🔵
ルーシー・ブルーベル
※真の姿はイラスト通り
眼帯を取り払い
二色の瞳を晒す
王子さま、ありがとう
みんなの為に身を削って下さって
ありがとう
ルーシーたちを助けて下さって
でもね、すぐ傍を見てよ
ツバメさんが泣いてるわ
距離をとる方が弾に囲まれてしまうだけね
多少の被弾は覚悟の上で
王子さまに近づくわ
ようく弾道を見切り
背後からの攻撃には耳をすませ避けていく
肉薄する程に近づけたなら
蒼の瞳を花型UDCに変化
起きなさい、ブルーベル
血啜りの青花
食事の時間よ
金鉛色の身体に牙たて喰らえ
穿たれ傷ついても放さず
啜る命で傷を側面塞いで
なんて醜悪
必ずあなたを助ける
だから、戻ってきたら
ツバメさんにありがとうって
心配かけてごめんなさいって、言ってあげて
絶対よ
●
はらり。
眼帯を外すと現れた瞳は、金色だった。しあわせの王子に負けぬ程に眩い、黄金の瞳だった。
「王子さま、ありがとう。みんなの為に身を削って下さって」
ふわり。
ルーシー・ブルーベル(ミオソティス・f11656)がぬいぐるみを抱いて瓦礫の中で起き上がろうとする王子に歩み寄る。温度のない表情の中で、黄金だけが温度を宿しているかのようだ。
「ありがとう、ルーシーたちを助けて下さって」
『しあわせの王子さま』という物語は、自己犠牲の物語と位置付けられている。王子は街の人々の為に宝石や黄金を分け与え、不幸な人々を救いたいと願う。優しい優しい王子。
だけれど、一番近くのものが見えていない。
「でもね、すぐ傍を見てよ。ツバメさんが泣いているわ」
ルーシーは少し怒っているのだ。
誰よりも近くに居たはずの親友の声を、涙を知らぬままだなんて、あんまりじゃないか。
このままでは物語が悲しいままに終わってしまう。『しあわせの王子さま』の物語の結末が今、猟兵たちの手に委ねられているのなら。
原作のままの結末など、なぞらせはしない。
『………ア゛ァ゛ァ゛ァ゛
!!!!』
頭を抑えながら立ち上がった王子は、自身の背から零れた欠片を弾丸のように放つ。半ば自棄のような攻撃ではあるが、その速度は未だ衰えてはいない。崩壊した部位をルーシーに向けて放ち、足りなければさらに己から欠片を零れさせて王子は走るルーシーを追う。
(「距離をとる方が弾に囲まれてしまうだけね」)
骸蝕形態の王子はただの狂暴化した理性無き獣ではない。理性は崩壊していても骸魂の知性はある。今は避けられていても、誘導されていつのまにか弾に囲まれていたという事態にもなりかねない。
ならば、弾丸が狙いにくい場所まで近づくのみ。
多少の被弾は覚悟の上だ。礫の弾丸がルーシーの髪を一房散らしても、愛らしいスカートの裾を引き裂いても、ルーシーは接近する。ようく弾丸を見切り、背後からの攻撃には耳を澄ませて躱していく。
そして顔が肉薄する程に近づけた時、蒼の瞳に妖精花が咲いた。
「起きなさい、ブルーベル。血啜りの青花。食事の時間よ」
左目に花開く青花のUDC. ブルーベル。
金鉛色の身体に牙たて喰らえ。
その花が欠片の弾丸に穿たれて傷ついても、花は牙を離しはしない。啜る命が花が濡れる。穿たれた穴が即座に塞がり、再び穿たれ、それをも塞ぎ。
ルーシーに咲いたブルーベルは貪欲に牙を離さない。
「必ずあなたを助ける。だから、戻ってきたらツバメさんにありがとうって。心配かけてごめんなさいって、言ってあげて」
それがどれほど醜悪でも。
この姿をどれほど、見られたくなくても。
「絶対よ」
約束したのだから。
成功
🔵🔵🔴
ナターシャ・フォーサイス
戦うしかないのですか。
そうする他ないのですか。
救いは、ないのですか。
否、それは使徒として許容できぬもの。
必ずや、全てを救うのです。
それこそが使徒の責。
とは言え、力量は相当なもの。
此方も二つの切り札を使いましょう。
ひとつ、真の姿を解放します。
ふたつ、結界を張り、天使達を呼んで盾とします。
その呪いは封じますが、封じ切れぬのは元より承知。
【オーラ防御】【呪詛耐性】で防ぎます。
呪いを反射しては救い足りえませんから、攻撃のみ弾きます。
そうして隙ができたなら…天使達と共に、【高速詠唱】【全力魔法】の聖なる光で、骸魂のみを祓います。
私は楽園の使徒。
幸福を祈る事こそその本質。
誰一人、犠牲にしてはならぬのです。
●
「戦うしかないのですか。そうする他ないのですか」
――戦うしかない。そうする他にない。これは絶対条件だ。私達はそのために骸魂を受け入れることを選んだんだ。
「救いは、ないのですか」
――救いは、あるよ。君達が進む為の道を作る事が出来る。私はそれで本望だ。
「……否、それは使徒として許容できぬもの」
ナターシャ・フォーサイス(楽園への導き手・f03983)は静かに瞳を開く。澄んだ藍色は金鉛色の王子を映し、その姿に何故か微笑む王子の顔が重なって見えた。
猟兵たちによって、王子を乗っ取った骸魂は少しずつ力を失いつつあった。サファイアの瞳には本当に時折、光が明滅するようになっている。だが、それでも体のコントロールを取り戻すには足らない。
そも、ただ救うだけでは王子の望みは叶えられない。全力で戦い、これを撃破しなければ大祓骸魂の強大な虞を弱体化出来ないのだ。
だが救うことを諦めるのならば、ナターシャは初めから楽園の使徒という役目を続けはしなかった。
「必ずや、全てを救うのです。それこそが使徒の責。全ての魂を楽園へ誘うのです。それは――貴方も」
自ら選んだ道に胸を張る為に。自ら信じた生き方に嘘をつかない為に。
ナターシャは機械の翼を広げた。
王子との力量差を埋めるため、ナターシャは切り札を二つを開放した。
一つは真の姿。即ち、サイボーグとしての己を隠さぬ姿。楽園へと導く機械天使の姿だ。
「楽園の一端を、此処に。我らが同胞を、しあわせの王子とツバメを救うため、光を以て導きましょう」
二つ目は楽園の祝福という名の結界。
戦場となった忘れられたものたちの終着駅に、楽園の概念を上書きしていく。その力が王子自身の放つ虞とぶつかり合い、せめぎ合う。普段であれば戦場すべてを楽園の概念に書き換えられるのに、そうは易々とさせぬ虞。改めてその力量差を見たナターシャの顔が、自然厳しくなる。
だが、それでも。
王子が崩壊の呪いを放つ。それを召喚した天使達を盾として受ければ、天使達の皮膚が、機械の装甲が剥がれて落ちていく。それだけで飽き足らずにナターシャを襲う呪いを、身に纏うオーラと呪いへの耐性で受けた。剥がれ落ちる装甲を最小限に抑えながら、ナターシャは戦場を舞う。
王子の攻撃を避け続け、受け続けて飛んだ先、ようやく見つけた一瞬の隙に、ナターシャは天使達を呼んで全力で破魔の光魔法を放った。
「私は楽園の使徒。幸福を祈る事こそその本質」
人々の幸福を祈る気持ちなら、ナターシャだって王子に負けてはいない。
だからこそ、今の王子の姿はナターシャへの戒めでもある。自己犠牲の先にあるのは、一番近くに居る人が見えない悲しみだと。
それでは「全ての人」を楽園に導くことなど出来ぬのだと。
だから祈る。
ナターシャは祈る。全ての人の幸福を、間違えずに祈り続ける。
「誰一人、犠牲にしてはならぬのです」
それは、自らを犠牲にする幸福の王子の死の上に、ツバメの幸福はやってこない。
ツバメの涙を止める為、王子の幸福を叶える為、今骸魂を祓う。
成功
🔵🔵🔴
アリス・ランザデッド
自らを犠牲にし、しあわせをツバメに運んでもらう
それは、どうしてか自分と重なった
血で薄汚れた自分がどうしてとアリスは戸惑う
王子を助けて
そう泣き叫ぶツバメを思うと、またちくりと胸が痛む
あなたまで、わたしみたいになる必要、ないよ
呪いは敢えて受け、《激痛耐性》《継戦能力》でしっかりと地に足を付けて、受けた傷は【裂き、流れ、溢れ出る命を】使い、攻撃へ転じる
わからない
この胸の痛みが何なのか
わからないけれど
アリスの瞳には、知らず涙が
必ず、助けるから
アリスも知らぬ真の姿
いつもの服と同じ
けれど、色は輝くような白と鮮やかな青のワンピース
頭のリボンはおともだちからのプレゼントを身に着けて
瞳に宿る決意の光が敵を射抜く
●
自らを犠牲にして、しあわせをツバメに運んでもらう。
それがどうしてか、自分と重なった。
しあわせの王子を見て唐突に浮かんだ思いに、アリス・ランザデッド(死者の国のアリス・f27443)は戸惑った。
王子と自分は似てもにつかないはずだ。王子は二つの世界とそこに住む住人たちを守るため、そしてその為に戦う猟兵たちの道を繋ぐ為に、自らを犠牲にしている。
黄金が剥がれた姿をみすぼらしいと、原作の心無き者たちは言った。だがアリスにとってはそうは見えない。王子のあの姿は守るべきものの為に戦った証の姿だ。
たとえ誰よりも近くに居たツバメの泣き声が聞こえなかったとしても、それでも王子の姿は黄金などなくなった美しく見える。
対してアリス自身はどうだ。ボロボロの服。包帯の下の決して癒えぬ傷。血で薄汚れたナイフと手。こんな自分とは、似ても似つかないはず――なのに。
守るべきものを守るため、そして生きるために殺す術を身に付けたいつかの少女が、どうしても王子にダブって見えた。
――たすけて。王子さまを、たすけて。
そう泣き叫ぶツバメを想うと、またちくりとアリスの胸が痛んだ。
まるで、あの子たちの声みたいで。
「……あなたまで、わたしみたいになる必要、ないよ」
そう言ったアリスを包み込むように、一陣の風が駆け抜けた。
風が行ってしまった頃、アリスは新にして真。そして美しき姿へと変わっていた。
服装はいつもと何も変わらない。けれども真っ黒だったエプロンは輝くような白へと変わり、ボロボロのワンピースは青空のように鮮やかな青に染まっている。友人から貰ったリボンが頭の上でふわりと結ばれて、アリスは自らも知らぬ本当の姿へと変わっていたのだ。
はらはらと包帯を解く。
美しき姿には痛々しすぎる傷跡が露わになるにつれ、痛みがアリスを襲うけれど。
それでもいい。我慢なら慣れている。
王子が崩壊の呪いを放った。それを避けもせずに、アリスは受ける。皮膚が剥がされる痛みに耐え、それでも戦う力を残し、しっかりと地に足をつけて。
受けた傷から溢れ出した血液でダガーを作り、今度は強く踏み出して王子へと肉薄する。
わからない。
この胸の痛みが何なのか。
わからないけれど。
このままではいけないとアリスの心が叫ぶ。
助けなければといつかのアリスが叫ぶ。
その為にこそ、この力を身に付けたはずだろう――!!
アリスの瞳には、知らず知らずのうちに涙が浮かんでいた。
それは徐々に溜まり続け、やがてはらりと零れていく。顎の先を伝った雫が、宙を透明に舞う。
「必ず、助けるから」
真紅の瞳に宿る決意の光が、ダガーナイフと共に王子を覆う骸魂を射抜いた。
成功
🔵🔵🔴
冴島・類
黒羽(f10471)と
助けるための標となる、彼の決意には
…敬意を
けど、燕君が泣いてる
彼らも生きてこそ、だろう
姿見られることへの躊躇は、目的の為には無く
行こう黒羽、と
引きつけるから、縫っていけるかい?
彼の真の姿を初めて見ても
常と変わらず、黒羽の背にぽんと手を
君は君だと告げ
己も姿を変え
駆け、呪いの一撃の狙いをずらす為
滲む炎と残像用い、己が姿を散らし誘いをかける
捌ききれず当たったとて呪いも、崩落も
この姿なら、なりかけみたいなものだ
だが、見切りで可能な限り避け、舞で軽減
守る幸せの中に、君の分を勘定にいれないと
泣く子がいるだろう
※真の姿
髪は黒、肌は色白に
左胸起点に全身罅のような傷が広がり
そこから火が溢れ
華折・黒羽
類さん/f13398
…嗚呼、解った
少しだけ休んでいるといい
泣き続ける燕に語りかけ
巻き込まれぬ場所へと
類さんの呼び掛けに振り返り頷く
本当なら、曝したくない姿
けれど闇に抗う命が在るならば
泣き乞う聲を聴いたなら
背を向けられようはずもない
(…類さんに、嫌われなければ良いが…)
呼吸吐き
ぐつり己の身を侵食する影の力を解放
持っていかれそうになる意識を必死に繋ぎ止め、咆哮
作られた道を四足で駆け
黄金の剥がれた異形部位にのみ牙を、爪を向けて
─あナ、タ、が犠牲ノ幸福ヲ…、…彼ハ、望まない
※真の姿
青い右目を残し侵食影に覆われた
獅子の姿真似た黒翼生やす四足の化物
獣の成底ない
人の成底ない
朱に染まった左目は涙を流し続ける
●
助けるための標となる、王子の決意には――敬意を。
「けど、燕君が泣いてる」
一番身近な者の幸せが見えていない王子。このままでは、辿るのは原作と同じ悲哀の結末だ。けれど今、彼らの幸福な行く末が、まだ猟兵たちの手の届くところにあるならば。
「彼らも生きてこそ、だろう」
そう、冴島・類(公孫樹・f13398)は思うから。
だからこそ、己が真の姿を見られることへの躊躇はなかった。目的の為に必要ならば、そうするだけ。
柔らかな白だった髪は黒に。日を弾く浅黒い肌は白く。左胸を起点にした罅のような傷は全身に広がり、そしてそこから火が溢れている。
この身は神霊体。あの日の焔から生まれた命のかたち。
「行こう、黒羽」
けれども何も変わらぬ穏やかな口調。それを向けた先で、華折・黒羽(掬折・f10471)が濡羽色の屠の侵食影で覆われた。
――たすけて。たすけて。だれか、王子さまをたすけて。
――王子さまが壊れてしまうのは、やだよ。
「……嗚呼、解った。少しだけ休んでいるといい」
戦場である忘れられたものたちの終着駅の片隅で、未だ泣き続ける燕に黒羽はそっと語り掛ける。巻き込まれぬ場所へとツバメを誘えば、己の名を呼ぶ類の声。振り返って頷いて――黒羽もまた、覚悟を決めた。
本当なら、誰にも曝したくなかった。
黒羽は己の真の姿を知っている。知っているからこそ、その姿を見られて返されるであろう反応が怖かった。
けれど闇に抗う命が在るならば。
泣き乞う聲を聴いたなら。
背を向けられようはずもない。それが、華折黒羽という自分だから。
濡羽色の浸蝕影が、青い右目を残して全身を覆っていく。その姿はヒトから獣へと形状を変え、豊かな鬣は獅子に似る。だかその背に生えた黒翼が、獅子の紛いであることを物語る。
それは獣の成り損ない、
それは人の成り損ない。
己とは獅子にも人にも成れぬ、朱に染まった左目で涙を流し続ける四足の化け物である。
(……類さんに、嫌われなければ良いが……)
覚悟は決めても不安は拭えない。知らず目線が下がって、類と合わせられないでいる。
けれどもそんな不安を払拭するように、類は躊躇いなく黒羽の背を叩いた。
「君は君だ」
類がどんなに痛々しい姿であっても類であるように。
ヒトにも獣にも成れない姿でだって、黒羽は黒羽だと。
常と何も変わらぬ笑みで言われたらもう、黒羽は目線を下げるのをやめた。ただ、背に触れたその手の温かさを信じた。その言葉がどれほど黒羽の心を救ったか、きっと類は知らない。
『ウゥ、ぁ、ァァ……ワタし、ハ……つば、メ……さ……』
終着はそう遠くないように思えた。
猟兵たちは王子に巣食う骸魂を祓い、削り、その力を大きく弱体化させている。鉛の心臓に押し込められていた王子の理性は少しずつその領域を取り戻し、唇が王子の言葉を紡ぐ。
だが、一度骸魂に浸蝕されて骸蝕形態へと陥った王子は、そう簡単に理性を取り戻せるものではない。未だ体の自由を取り戻すことは出来ず、ほんの少しの骸魂の揺らぎでまた鉛の心臓の奥底へと閉じ込めてしまうかもしれない。
だが好機であることにはかわりない。故に、先陣を切ったのは類だった。
駆け、呪いの一撃の狙いをずらす為。黒羽の駆け抜ける道を作る為。類は滲む炎と残像を用いて、己が姿を散らし誘いをかける。
『う、ガアアアアァァァ
!!!!』
無理矢理に体の主導権を王子から奪い、骸魂はサファイアのない昏い眼窩から呪いを放ち続ける。そうせねば、己が退治されると知っているかのようだ。
滅茶苦茶に放たれる呪いを見切り、避け切れぬものは風の舞で軽減して。それでも尚守りを貫通した呪いを受けてしまえば、罅からぽろぽろと体の崩落がはじまってゆく。
けれど――。
(「この姿なら、なりかけみたいなものだ」)
本体を壊されなければ、どんな怪我だってこの身には関係がない。それでも可能な限り避けて、短刀を振るい衝撃波を放ちながら。
「守る幸せの中に、君の分を勘定に入れないと。泣く子がいるだろう?」
今も、すぐ傍に。
この戦いの行く末を心配そうに見守る、小さな王子の親友が。
そう告げた類を、王子が見上げる。
そこに――黒羽の為の道が開いた。
呼吸を吐いて、ぐつり身を侵食する影の力を開放して黒羽が駆けだした。
持っていかれそうになる意識を必死に繋ぎとめ、破壊に傾きそうになる心を必死で制御し、咆哮する。
空気をビリビリと震わせながら、黒羽は類が紡いだ道を四足で駆けて王子に肉薄する。
異形と化した王子の腕が、真っ直ぐに近づいてくる黒羽を殴打する。けれども黒羽は止まらない。再び黒羽を殴りつけようと構えた腕が振り抜かれる前に、王子に辿り着いた黒羽が牙を剥く。
─あナ、タ、が犠牲ノ幸福ヲ…、…彼ハ、望まない
爪も牙も、向けるのは黄金が剥がれて異形と化した部位にだけ。
類の風が、黒羽の爪が、遂に王子の異形を祓い砕いた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
リオネル・エコーズ
物語の結末は色々で
それが幸せか悲劇かは登場人物毎に違う
貴方の覚悟に迷いはないから
世界が救われたら貴方は幸せなのかな
それでも俺は
貴方とツバメが再会する結末が見たいよ
翼で常に全速飛行
飛んできた破片は軌道変更や空中回転で回避
躱せないなら星屑のオーラや魔鍵で払うなりして衝撃和らげたいな
欲言うと呪いの範囲外にいたいけど…
王子様許してくれなさそう
呪いの痛みは我慢
世界の命運かかった戦いだしこういう事もあるよね
なんて堪えて笑って
俺が見たい結末は我慢したその先にあるから
止まってなんかいられない
王子様を捉えた瞬間、UCを
さあおいで
君達の光で結末を書き換えていこう
>真
花と翼の金色が仄かに光り
周りに星々が浮遊
都槻・綾
そうね、
生きてこそ
幸せとまみえることが叶うの
遺されたいのちの方は
胸の痛みに苦しむことにもなってしまう
だから
幸福を願う者自身が
王子――あなたが
生き抜いて
幸せでなくては、ね
悲痛な燕の鳴き声へ
大丈夫と伝えるように
謡い添える笛の音
清澄な調べが
優しきふたりに届くと良い
合わせて、ふわり
巻き起こる風
身を苗床に蔓延る草花
広げた羽根は
永くは天に留まれぬ片翼なれど
ただ一振り
此の一閃
真っ直ぐに心を添えて
王子の禍を祓ういっときだけは
昊を統べる鳥になろう
見据える先は骸蝕の君
研ぎ澄ました第六感は
どんな気配も機微も逃さない
其れは
あなたに齎す為の
細いけれど確かに在ると信じている、幸いへの道筋
閃く白刃で
きっと拓いて見せましょう
●
王子と王子の身体を乗っ取った骸魂は満身創痍だった。
骸魂にとって、この戦いはこんなはずではなかった。しあわせの王子さまという、皆に慕われる強い体を手に入れた骸魂は、王子に攻撃出来ぬ者も攻撃を加える者も等しく虞に飲み込んで、全て全て殺し尽してやろうと思っていたのに。
だがそんな夢は終ぞ訪れぬまま、このままでは己が王子ごと撃破されてしまうという焦りだけが浮かんでいる。
そしてそれこそが、王子の望みなのだ。
けれど、それを否と言った者たちが居た。
「物語の結末は色々で、それが幸せか悲劇かは登場人物毎に違う」
花と紺青から移り変わる淡い金を仄かに光っている。それはまるで、夜明けの地平線から太陽が顔を覗かせるようで。
「貴方の覚悟に迷いはないから、世界が救われたら貴方は幸せなのかな」
周囲を浮遊する星々は、夜を引き連れていくのだと。
「それでも俺は、貴方とツバメが再会する結末が見たいよ」
暁天の色彩を纏ったリオネル・エコーズ(燦歌・f04185)は、柔く柔く目を細めて笑った。
誰も悲しまないエンディングへと。
世界が救われたって、王子と再会出来ないツバメはきっと、涙を止められはしないから。
だからリオネルは翼を広げるのだ。
そんなリオネルの言葉を、凪いだ波のように拾う聲、ひとつ。
「そうね、生きてこそ、幸せとまみえることが叶うの」
幽明の篠笛を手にすれば、静謐も瀟灑も有るが儘寄り添うようで。
「遺されたいのちの方は、胸の痛みに苦しむことにもなってしまう」
都槻・綾(絲遊・f01786)がついと視線を向けた先に、泣き濡れたツバメがいる。
「だから、幸福を願う者自身が」
そうして視線を戻せば、軋む体を引き摺って、未だ闘志を燃やした眼窩で睨みつける王子が居て。
「王子――あなたが生き抜いて、幸せでなくては、ね」
けれども綾の青磁に似た双眸は、昏き眼窩の奥に居る本物の王子だけを見ている。
掠れた声でツバメが鳴いた。
ずっと泣き続けた声は悲痛に響く。
心の痛みを音にしたような声に「大丈夫」と伝えるように、綾は笛の音をそっと謡い添える。
忘れられたものたちの終着駅に響き渡る清澄の調べ。それは涼やかな風の音に似て、優しきふたりの心に寄り添った。
――大丈夫。か細き希望の糸だとしても、きっと掴んでみせるから――
己を砕かせはせぬと、骸蝕形態が半ば崩れかけた王子が最後の反撃を試みる。
あちこちに砕けて散った王子の破片を弾丸のように飛ばし、まるでアサルトライフルでも撃っているかのような勢いで、全速で飛ぶリオネルを追う。
嫌になる程正確な弾丸の軌道は、流石西洋妖怪を束ねる親分というべきだろう。急な軌道変更や空中回転を交えて回避を試みてはいるものの、躱しきれずに星屑のオーラや魔鍵で払い除けることも少なくはない。
「欲言うと呪いの範囲外にいたいけど……王子様許してくれなさそう」
なんて言っている間に、弾丸がリオネルの肩を抉った。その瞬間を待っていたかのように、強烈な呪いの波動がリオネルを襲う。
「……っ!!」
崩落の呪いがリオネルの肩を直撃した。
「……世界の命運かかった戦いだし、こういう事もあるよね」
なんて、リオネルは皮膚の剥がれる痛みを堪えて笑う。
かなりの激痛だ。それでも全速で飛ぶことをやめなかったのは、誰か褒めてくれたっていいと思う。
リオネル自身が見たい結末は、我慢したその先に在る。
未来を掴み取りたいのなら、此処で止まってなどいられないのだ。
呪いを命中させたリオネルを撃ち落さんと、骸魂は再び王子の腕を異形化させる。剣を取り込み、鋭く尖り、槍のような形状となってリオネルを追う。
それが放たれる直前――。
笛の音が、ふわりと風を呼んだ。
風は綾の足元に巻き起こり、舞い上がってその姿にいのちを芽吹かせていく。
綾の身を苗床に蔓延る草花。背に広げた羽根は、永くは天に届かぬ片翼。
其は片翼の迦陵頻伽。玲瓏の香炉が真の姿。
揮うはただ一振り。此の一閃。
添えるのは真っすぐな心、ただ一つ。
見据える先は骸蝕の君。
研ぎ澄ました第六感はどんな気配の機微も逃さず。故にこそ感じ取れる、骸魂の動揺と焦り。
其れは王子に齎す為の、細いけれど確かに在ると信じている、幸いへの道筋。
王子の禍を祓ういっときだけ、綾は昊を統べる鳥になって。
「きっと拓いて見せましょう」
――白刃一閃。
浄土で鳴く迦陵の美しき声が、王子の腕の異形を消し飛ばし。
「さあおいで。君達の光で結末を書き換えていこう」
夜明けを呼ぶ為、極光の星を従えたリオネルが流星を放った。
七彩の尾を引く流星は、今彗星となる。
そして、鮮やかな光が王子に巣食った骸魂ごと虞を打ち払った。
●
全てが終わったあと、しあわせな王子は終着駅の床に横たわっていた。
猟兵たちの攻撃のほとんどが骸魂へと向かったため、王子の身体はほとんど無傷に近い姿でいる。
やがて、王子のただ一つ残ったサファイアの瞳に光が戻ってきた。
数度瞬いた後、王子はゆっくりと体を起こす。
猟兵たちの聲は全て王子に届いている。助けようと必死だった声も、ツバメの悲しみに気づけなかった愚かさを叱る声も、大丈夫だと寄り添う声も。
そして。
「……ツバメさん」
ツバメが王子の肩に留まった。幾度も幾度も頭を摺り寄せて、掠れた声で王子を呼ぶ。
そんなツバメに嬉しそうに、そして申し訳なさそうに目を細めて。
王子はそっと黄金の指で、親友の背を撫ぜて、ツバメの大好きな優しい笑顔を浮かべて。
「……ありがとう、ツバメさん。それから、ごめんね」
サファイアの瞳から一筋、涙が伝っていった。
長かった夜が、明ける。
大成功
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