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大祓百鬼夜行⑯〜戯れに落命

#カクリヨファンタズム #大祓百鬼夜行


 蝶の羽は、影においても美しかった。
 千切れた四つのそれが、羽ばたくように揺れるのは湿った風のせいだろうか。ゆらゆらと色鮮やかな蝶の羽が、吹き飛ばされない程度に揺れていた。
 まだ肌寒さも残っているのに、生き物の吐息のような風は冬に比べて生暖かい。タタン、タタン、と電車が規則正しく通り過ぎる音だけが響く高架下は薄暗かった。けれど、降り止まぬ雨から一時でも身を守れるのは有り難くもあっただろう。

 ――あはは。

 高い笑い声が聞こえると同時だった。小さな足が、ぐしゃりとその蝶の残骸を踏み潰していく。
 視線を上げれば、背丈の低い人影が駆けて行く後ろ姿が見えた。蝶々、蜥蜴、鼠に小鳥。残骸が散らばるアスファルトの地面に、足音がてんてんてんと濡れて刻まれゆく。
 命の終わりの、導のようだった。

 ――あはは。

 笑い声が聞こえる。小さな背は、とっくに柱の影へと消えてしまっていた。姿はもう見えない。
 薄暗い中で、幼い声と共に影が揺れたような気がした。

「 あ そ ぼ 」

 影は、手招く。

 ――そしてぶつんと映像が切れる音がして。

●深夜番組ホラー枠
「お疲れ様です! 次の新しい戦場はなんと、テレビ出演です!」
 今回はわくわくした戦いが多いですね! と、キディ・ナシュ(未知・f00998)は元気に告げる。
 妖の世から人の世へと続く百鬼夜行。姿見えぬ大祓骸魂を倒すためにと猟兵達が進むは雲の道。長く伸びたその先に、UDCのゴミ置き場がある。
「捨てられちゃったテレビの中で、存在しない筈の番組……妖怪さんたちの作ったテレビ作品が放送されちゃうんだそうです」
 それだけなら何の害もない。だが今回は厄介な点が一つある。
 放っておくとテレビ番組にUDCが侵食され、現実に置き換わってしまうのだ。これも今回の戦いの影響なのでしょうか? と、人形の少女は首をかしげる。
「でも大丈夫です! 番組の企画に皆さまが全力でのっかれば、ばばーんとやっつけることが出来るそうなんですよ!」
 果たしてそれは制作サイドの満足心を満たすからなのか、それとも熱演に心を打たれるということなのか。分からない。全く分からないが、通常の方法で殴り倒すよりも確実なのだとキディは言う。
「今回皆さまに行って頂きたいのは深夜向けさぶかるほらー枠です……怪談話であれば現実にちょっとはみ出しても、普段とあまり変わりがない気も致しますね?」
 原因が邪神に妖怪騒ぎが追加されるだけである。
 とはいえ、放っておいて良いかと言われれば別だ。そもそも現実には恐ろしいものなんて、無い方がいい。

 物語は、事故で死んでしまった子供が、そうと分からぬままに遊ぼうと呼びかけてくる形で始まる。声にどう応じようとも、彼らは手加減などしない。幼いままに喪われた命を、彼らは重いなんて思えないまま。好奇心が赴くままに他者の命を蹂躙する。
 幼き子供の救う手立てがあるのか、無いのか。それすら明かされないままに終わってしまう。
 誰かが救った? それとも、ただ飽きただけ?
 過ぎ去った真実を知る者はいない。否。知りえた筈の命は、すべて失われた後なのだから。

「番組コンセプトは『子供幽霊の無邪気さが引き起こす惨事』だそうです。わたしには良く分かりませんが、とてもこわい演目だそうです。ですので、皆さまには是非とも怪異に巻き込まれて恐怖の中で沢山死んで頂けたらなと!」
 無慈悲かつ残酷な提案が飛んだが、実際に死ぬわけではない。ようは、迫真の演技を求めているという事だ。お芝居なんて初めてかも……という人だって大丈夫。深夜枠のドラマは基本新人ばかりが多いのだから、真剣さがあれば通じるものはある筈だ。
 子供のお化けに追いかけられる、幻聴や幻覚囚われて気が狂う。こちらを一切顧みない、会話も通じぬ暴力に対して諦めて蹂躙されるも良し。抵抗に抵抗を重ねた上で無念の死をむかえてもいい。
「派手な怪我や死に方をしたい、という方も大丈夫です。妖怪さん達のSCGなる技術でどうにかこうにか、ご指示さえ出していただければ、本放送は加工が出来るそうです」
 スペシャルコンピューターグラフィック? いええ、スペクターグラフィックですとも。
 深夜向け低予算感を出すために舞台だけは雨の降る、人気のない高架下に限定されている。だからこそ個々の演技の腕の見せ所でもあるかもしれない。
「元々妖怪さんたちは驚かせるのがお好きですからね。きっと皆様の反応を楽しみにしていますよ!」

「それでは皆さま、行きましょう――迫真の演技を成す為に」


砂上
 はじめまして、こんにちは。
 砂上(さじょう)です。

 今回の舞台はカクリヨファンタズム。大祓百鬼夜行での一幕。
 一章のみで完結するシナリオとなります。

 深夜帯にやっている、B級Jサブカルホラーっぽい感じのドラマ番組のようです。
 皆様には怪異にびっくりさせられたり殺されたりする役をお願いしたいと思います。

●プレイングボーナス…… 番組の企画に全力で乗っかる(戦わずともダメージを与えられます)。
 心底怯えたり、殺されたりの演技をしていただければと思います。
 実際のジョブは違うけど、ドラマの中では除霊師になる! なども大歓迎です。お好きにどうぞ。

●受付等
 OP公開直後から受け付けております。基本的に空いている間はいつでも投げてくださって構いません。先着順ではありませんが、できるだけ早めに終わらせることを目標に執筆したいと思いますので、採用数は少なめかもしれません。

●それでは素敵なプレイングをお待ちしています。
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第1章 ボス戦 『無邪気』

POW   :    あ そ ぶ
レベル×1tまでの対象の【身体や建造物など】を掴んで持ち上げる。振り回しや周囲の地面への叩きつけも可能。
SPD   :    ど こ か な
【生物を見つけること】により、レベルの二乗mまでの視認している対象を、【恐怖を与え動きを封じる視線】で攻撃する。
WIZ   :    あ れ が い い
攻撃が命中した対象に【強い興味】を付与し、レベルm半径内に対象がいる間、【自身から発生した複数体の分身】による追加攻撃を与え続ける。
👑11
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コッペリウス・ソムヌス
アドリブ歓迎

B級さぶかるほらー…なんてのが在るんだ?
ふふ、面白そうだねぇ
事実は小説より奇なり、なんて言ったりもするし
真面目に派手に死んでみせようか
(以下演技)

雨降る高架下にいる
聴こえてくるのは、
耳に残るのは
忘れられもしないあの子の声
あの日に僕が帰ってしまったから
雨に濡れたくなかったから
何も言わずに逃げ出した僕を
今も雨の中で待っている……
知らないしらない
僕の所為じゃない…!
逃げてもにげても追ってくる笑い声
……本当は、見ていたんだよ
足を滑らせて落ちていくところ
ほぅら、目の前には
踏み潰そうとする君の靴が見え

(僕が踏み躙ったこと気づかれていたのかな)



●ON AIR!

 耳奥で繰り返される声は、雨音が響く中でもいやにはっきりと聞こえていた。
 その声から逃れんと、青年がかぶりを振る。砂色の髪が、薄暗い高架下ではたはたと弱く揺れていた。
(知らない)
 いや、お前は知っているはずだ。
 あの子の声を、最後を。事実は消える事もなければ、ただの雨で流される事もない。そう突きつけてくるかのように、追い払おうとすればするほど纏わり付いて離れなかった。よろりと崩れそうになる身体を柱の一つにもたれ掛けさせて、きつく瞳を閉じる。
(しらない)
 耳を強く塞ぐ。
 やめてくれ、消えてくれ。そう思うほどにあの時の光景が瞼の裏へと甦った。
 置き去りにしたあの子の背中。今にも泣き出しそうな空模様に、濡れたくなんて無いからなんて言い訳を重ねて。ただ、あの場所に居たくなかっただけなのに。

 そうして、あの子を放って帰った。
 だから、あの子は待っている。

「僕の所為じゃない……!」
 暗い雨の中で、ただ一人。迎えに来てと待っている。
 弱くて逃げ出しただけの、ちっぽけな自分を、いつまでも。いつまでも。
 ぬかるんだ地面。足場の悪い山道。細い獣道は、あの子が居なくなってしまうまでは、よく足を運んでいたのに。
 もうずっと、訪れていない場所を今だってはっきりと覚えている。忘れようとばかりしているのに、どれだけ経っても薄れやしない。

 あ そ ぼ う

 遊びに誘う声。叫んで逃げ出したところで、追いかけ続ける笑い声。
 ――逃げられやしないよ。
 そう嘲笑っているかのようですらあった。

 そうとも、逃げ場なんて、どこにも。

 ――ああ。
 いつの間にか、青年は小さく蹲っていた。甲高い笑い声は、あの子にも似て、けれどどこか違っているようにも聞こえる。けれど、確かめることなんて出来ようもなかった。する気もなかった。
 もう事実を確かめようとする気持ちなど、残されてはいなかった。
 はは、は。
 青年の喉から、聞こえる声に合わせるように、笑い声が漏れた。面白い? 面白くない? 分からない。ただ自分の周りをスキップする、小さな足音が聞こえる。
 視線を持ち上げる。タタン、と頭上から電車が過ぎゆく音がする。暗い高架下、アスファルトの地面、そこかしこに転がっているのは生き物達の残骸だ。さらに視線を上げる。跪き、祈るような姿勢で見上げた先。
 幼い足が見える。形は子供のそれなのに――何故だろう。それは自分を踏み潰すほど大きなものだった。
 異形の足が振り上げられて、降ろされる。
 骨と肉がひしゃげる音が自分から聞こえる。痛みを知るよりも先に、内臓が押し潰されて肺が鳴る。だから悲鳴は何一つ音を紡がずに、小さな虫でも踏み殺すかのように彼はその命を喪った。

(本当は、)
 ……本当は全部見ていた。足を滑らせて、落ちていく後ろ姿を全部。そして助けてと乞う声を、自分は。

 あの子はどうしようもなく賢かった。
 だから、あの日の真実だってとっくに知っていたのだろう。
(僕が踏み躙ったこと気づかれていたのかな)
 そっか。だったらこの結末もきっと、当然の事なのかもしれないね。
 薄れゆく景色の中で最期に辿った真実への道筋は、けれど何処にも辿り着けないまま、暗闇の中へと消えていった。

●Backstage
 面白そうだねぇ。
 B級サブカルホラー。初めて聞く単語について、コッペリウス・ソムヌス(Sandmann・f30787)が初めに抱いたのはそんな感想だった。
 なにせ、彼の半分は好奇心旺盛なのだ。作られた神様が未知のものへと、それはもう銀の瞳をきらきらと輝かせたのは、仕方のない事だっただろう。
 事実は小説よりも奇なりなんて、常から嘘か本当か分からぬゆらりとした夢物語を語ってみせるのが彼である。ならばその言葉通りに、派手に死んでみせよう――なんて意気込みも十分。そうして大真面目に、きっちりと殺される役をやってのけたのだった。
「本当に今回初めて知ったの?」
「うん。色んなものがあるんだねぇ」
「それでこれかぁ。すごいね。あんた才能あるよ!」
 撮影スタッフの一反木綿から、服についた埃をばしばしと叩かれてコッペリウスもほっとしたように笑みを返す。
「まずストーリーがいいよね。なんか書いてる人?」
「さてどうだろう。運ぶ夢見が、物語に近いといえばそうかもしれないけどねぇ」
「おっ! ミステリアス〜。いいね、そういうの嫌いじゃないよ」
 いやあ良い絵が撮れた、ありがとうね! またよければ手伝って! と妖怪達が楽しげに走っていく様を、コッペリウスは手を振り見送った。
 ――悪い夢は、手放しで良いとは言えないかもしれないけれど。楽しそうに作っている彼らを見ていると、たまには良いのかもしれないなんて考えも過るのだ。

 最初に感じた直感は、あながち間違いじゃなかったかも。
 そうして彼は小さく肩を揺らしたのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

シキ・ジルモント
役者のような魅せる為の演技ではないが、多少は覚えがある
仕事を進める上で身分を騙ったり、演じる必要がある状況は何度も経験しているからな

物語の中では、そうだな…子供のお化けに追いかけられて高架下へ身を隠す為に駆け込むような場面ではどうだろう
ここまで追いかけてこないと安心して、直後に更に多くのお化けに囲まれて「あそび」の延長で殺される

恐怖を表現するなら、怯えて声も出せずに動けなくなるようにな演技がいいだろう
無邪気な害意が迫っても動けず、抵抗もままならない様子で「殺されて」みる
叫ぶのも派手で喜ばれそうだが、そこまで上手く演じられる自信がないからな
番組の企画だろうがなんだろうが、やるからには完璧を目指す



●ON AIR
 溺れた人間が陸に上がるように、雨音の中から引き攣れた息を吐いて男は高架下へと飛び込んだ。
 柱の影へと身を潜めた彼の、青ざめた顔に余裕の文字はない。荒い呼吸の音を片手で抑え、忙しなく周囲を見渡す。昼間だというのに薄暗いばかりのそこに、生き物の影はどこにも無かった。けれど見開かれた瞳の青が震えるようにぶれていたのなら、打ち捨てられた廃材の輪郭から見えるは内心を映す“おそろしいもの”だった。
 銀の髪を伝うのは雨雫か、それとも汗か。ぽたり。アスファルトに小さなまあるい染みが増えていく。
 ひとつ、ふたつ、みっつ。落ちて、繋がって。塗れて黒く、ぽかりと大穴のようにも見えるほど広がって。そうして早鐘のように鳴り続けていた心臓の音が落ち着き出す頃に、ようやく男は一際大きく息を吐き出したのだった。
 ——どうやら、逃げおおせたらしい。
 まだほんの少し、震える右手。なだめるように左手で抑えこむ。先ほどまで執拗に追いかけていた小さな人影、あれが何だったのかは分からない。だが、銃弾がきかぬ時点で男が取れる手段は残されてなど居なかった。こちらを捕えようと笑いながら蠢く影をなんとか躱し、どれほど走ったのかすら分からない。
 今は頭上から響く電車の音だけが、人の気配と現実を男に伝えてささやかな安堵感をもたらしていた。
 早くどこか、もっと落ち着いて休める場所に移動しよう。春先の、冷たい雨が体温ばかりを奪っていた。温かな飲み物でも飲める場所でもあればいい。
 そう思って、男が立ち上がった時だった。

「 み ぃ つ け た 」

 下っ足らずの子供の声を、無理やり継ぎ接ぎしたようだった。
 暑くもないのに汗が吹き出る。ぎ、と油が切れた機械のように、男の首がゆっくりと横を向く。そこには、子供の形をした、影がいくつも。いくつも。
「 か くれ ん ぼ  た のし い ねぇ 」
 ぐん、と腕を引かれる。体制を立て直す暇など無かった。きゃははと甲高い笑い声と共に、宙へと高く放り投げられる。地面へとぶつかる前に、今度は別の影に掴まれて投げられる。
「 お にぃ ち ゃん 」
 掴んで、投げて、掴んで、投げて。
 幼子が気に入りのおもちゃで遊ぶように男を放る。腕が曲がろうと、足がもげようと、一向にお構いなしの蹂躙は続いていく。
「 も っ と あそ ぼ ?」
 声など出す暇もない。いや、喉振るわせるほどの余裕もないのだろう。痛みと恐怖に顔を歪めど、そんなこと、彼らが遊びをやめる理由には足りはしない。
「 あ そ んで 」
 地面に強く叩きつけられて、男の体が大きく跳ねて、転がって。

 いくつもの笑い声が響く中映し出された顔は、既に命の消えた色をしていた。

●Backstage
 役者の経験は無い。
 だが仕事において演じるという行為は、シキ・ジルモント(人狼のガンナー・f09107)にとって馴染み深いものでもあった。
 潜入の為に身分を偽る、敵の隙を作る為に嘘をつく。そうしたものは幾度となく彼の命を助けてきたものだった。
 そして、例えどんなものであっても仕事というならば手を抜かない。
 それが彼自身の流儀だ。

 はいカット! の掛け声で、シキは地面から身を起こす。当然のように五体満足だ。両手を握って開いてを数度繰り返しても、さして痛むところはない。
「お疲れ様です!」
 タオルを手にした一つ目小僧——スタッフだろう——がシキへと駆け寄ってくる。
「最後、悲鳴を上げた方が良かっただろうか。上手くできる自信はあまり無いので省いたが」
「いや、大丈夫っすよ。無くてもめっちゃ良かったっす! ビジュアルの派手さの追加は加工でやるんで!」
「そうか、何よりだ」
 タブレット片手にチェックしますよぉ、と監督役の一反木綿が声をかければ、わらわらと他の妖怪達も姿を現していく。
 そこにシキも一緒になって覗き込んだ。完璧を目指すというならば、チェックも欠かしてはいけない。次が……あるのかは不明だが、もし類似のケースに巻き込まれた際には有効だろう。多分。
「最期のシーン。ここで思いっきり身体ごとバウンドしてるのほぼご本人の力技だからね」
「プロレスで見るやつじゃん」
「鍛えてる人の動きだ……素人さんにしとくのもったいねぇな……」
「おにいさん、ちょっとうちでスタントマンやらない?」
 給料はずむからさぁ、と期待に満ちた目がいくつもシキへと向けられた。
 きらきら、きらきら。
 だがそれに動じた様子もなく、男は真面目な顔のまま軽く肩をすくめるに終わる。
「残念だが、俺は戦場の方が合っている」
「えぇー、残念」
 でも気が変わったらいつでも連絡してねと最後に名刺を押し付けられたとか、無かったとか。

大成功 🔵​🔵​🔵​

エドガー・ブライトマン
これは大変な戦いになるね
なんといっても私は…驚くのがとてもヘタだ
妖怪とかお化けとか全然怖くない

とはいえ、これも世界平和のためだ
私の超迫真の演技を――お見せしよう!
人気のない高架下を歩く

――……ウワー!!!子供だ!!!!!(棒)

しまった。普通こういうのって声をかけられてから驚くものだ
もう後に引けないな。全部に驚いていこう

ウワー!話しかけられた!!
助けて!!遊びに誘われる!!しかもなんか笑ってる!!
笑いながら小動物いじめてる!それはやめたまえ!!
えっ私もこうなるの?嫌だー!!死にたくない!!

グシャ!(音声加工)
ドン!!(派手に血を流した私の死体映像)(加工よろしく!)

ふう、かなり良い手応えはあった



●ON AIR!
 高架下で、電車の音をかき消すほどの絶叫が響いた。
 ぶれる視線は恐怖のせいか、それとも別の何かか。けれど青年が見据えるその先で、子供の姿をした何かがけたたましい笑い声をあげる。黒い影を集めたようなそれは、手にした小さな生き物を、容赦なく地面へと叩きつける。
 何度も。何度も。血が飛び散って、飛び出た目玉も潰れてその形を失って。青年の静止の声すら無視した残虐な行為は、幼児にとってはただの遊びに他ならない。
 やがて柔らかで小さなおもちゃがダメになってしまったのなら、その矛先はその場にある別の命――青年へと伸ばされる。

 きゃはは

 耳につく笑い声に、青い瞳が見開かれる。長く伸びた異形の腕は確かに彼へ巻きついて――

 グシャ

 大きく、耳障りな音が鳴る。
 その後に映し出されたのは、美しい金の髪も白い衣装も全てが真っ赤に染まった、物言わぬ亡骸だけだった。

●Backstage
 世の中には二種類の人間がいる。
 お化けが怖い者と、そうでない者だ。
 エドガー・ブライトマン(“運命“・f21503)は完全に後者だった。そして、そういったフリをするのが苦手でもある。
 高架下は通りすがるというには不自然な場所ではあったが、深く息を吸い込んで吐き出した。瞬きはきっちり二つ。それから、大事な故郷の名前を胸中でつぶやく。
 大丈夫、出来るとも。ぐにゃりと現れた子供の形をした怪異を青が見据える。
 世界平和のためなら演技の一つや二つ――ばっちりとご覧入れよう!

「——……ウワー!!! 子供だ!!!!!」

 エドガーの力強い迫真の演技は、しかして驚くほどに棒読みだった。
 台詞を言おうと思っていたお化け役の妖怪よりも先に口を開いたものだから、互いに暫し見つめ合う事にもなった。
(しまった)
 そう思った彼の微かな動揺も辺りに伝わってしまったのだろう。誰かがごくりと息をのむ音が、静まり返った撮影現場で響いた気がする。
 ――このままでは撮影が失敗してしまうかもしれない。
 広がる不安が、降り止まぬ雨空よりも曇って辺りに重く漂った。
 失敗という経験は苦い。そのせいで、こんなにも人目を引く容姿と清潔感あふれる、もとい画面映えする人物の役者生命をここで途切れさせてしまっていいのだろうか。

 否。断じて否だ。

 そもそも深夜枠とは若手の登竜門。彼らを育てるのもまた制作サイドの大切な仕事。いつか、一流のスターになった姿を夢見て送り出すのが自分たちの役目だ。
 妖怪達の心に火がついた。燃え上がる熱量が、エドガーは役者ではないという認識すら焼いた。

 ガタガタガタガタッ

 撮影係の一つ目小僧がカメラを大きく揺らす。恐怖の効果として振動を入れてしまえという発想だ。一秒にも満たぬ間に下されたリカバリー、それをエドガーもお化け役もきちんと受け取った。
 仕事は堅実に、妖怪達の義を重んじて。撮影という名の状態異常に強く王子は立ち向かう。
 後にはもう、引けやしない。
「 お に い ちゃ ん 」
「ウワー! 話しかけられた!!」
 最初に思い切り叫んでしまった以上、そのラインを下げるわけにはいかない。故に全てに驚いていかねばと素早く切り替えたエドガーが、再び大きく声を出す。
 ガタガタガタとカメラの揺れも当然収まらない。
「 い っ し ょ に  あ そ ぼ 」
「助けて!! 遊びに誘われる!! しかもなんか笑ってる!!」
 演技は投げ捨てられ、恐怖が全部言葉で説明された。
 きゃははは、と妖怪も負けじと無邪気に声をあげ、子猫(に大変良く似せた玩具だ)を地面に叩きつけて破壊する。
「笑いながら小動物いじめてる! それはやめたまえ!!」
 後半はちょっと本気で思っているのかもしれない雰囲気だ。
「 じ ゃあ  お にい ち ゃ ん で  あ そぶ 」
「えっ私もこうなるの?」
 ちなみに役者の生の反応を知りたいが故に、この撮影に台本は存在しない。小さく首を傾げたエドガーに、対峙するお化け役は微かに頷いた。
 なるほど。
「嫌だー!! 死にたくない!!」
 理解と同時に大きく叫べば撮影もクライマックス!
 影がその身体を引き摺るようにエドガーへとにじり寄って、何本もの腕を笑いながら広げ伸ばされる。

 一際大きく、カメラが揺れた。

 ばたん。と、彼が倒れ込んだ所を数秒きっちりカメラに収めたなら、カットです! の言葉が高らかに宣言される。
 誰もが緊張の糸を途切れさせて、大きく息を吐き出した。
「……ふう」
 エドガーも勿論その一人。けれどやり遂げた、という晴々とした感情をその端正な顔に浮かべて身を起こした。
 そしてそのまま、どこかワクワクとした、少年のように純粋な青い瞳で妖怪達をぐるりと見回し。
「かなりいい手応えはあったけど、どうかな」

 ――こいつ、大物になるぞ……!

 事実エドガーは王族なのだから、大物には違いは無いだろうけれど。役者スタッフ含め全ての妖怪達が彼に対して尊敬の眼差しを向けたのは仕方がないことだろう。

 けれど「勿論バッチリですよ!」の言葉は、きちんと最後まで演じた彼へ、心からの拍手とともに贈られたのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

蘭・七結
【春嵐】

さぶかるほらー、をご存知?
テレビというものも、あまり知らないの

あなたは恐ろしいものが苦手だったかしら
そうと左の手を差し出して
指さき結わいで進みましょう

幼いゆえの残虐さ
その矛先に掠められてしまう前に
……あら、ふふ
遊ぼうと誘う声が聞こえるかしら

吊り上がる口許を袖口で覆い隠し
隣のあなたへと、視線を向けましょう
だいじょうぶ
怖くない、こわくないわ

此処で殺められるのもよいけれど
血の飛沫よりも
花の――わたしのあかにて染めましょうか

無邪気な凶器に穿たれたように
地へと、引き寄せられる

微笑を溢すことは出来ないけれど
わたしは、今。とても愉しいわ

あなたは震えていないかしら
結わいだままの指さきを、きゅうと握る


榎本・英
【春嵐】

三毛猫のナナが先導するように歩く。
隣の君の指を強く握り、頼もしい二人と行こう。

サブカルホラーは知っているとも。
好んで見ようとは思わないがね。
嗚呼。二人共なぜそんなにかろやかに歩くのだ――…。

い、今、子の声が聞こえた気がしたが。したね?

否、今、声がしたではないか……!
あああああ、遊ぼうと云っている!!!
なゆ!!!ナナ!!!

私はまだ死にたくない死にたくない死にたくない!!!
幽霊に殺されるなどたまったものではない……!!!

嗚呼。なゆ、こっちに!!!
悪霊退散悪霊退散悪霊退散悪霊退散。
著書を振り回し反撃をしようではないか。

結んだゆびを強く強く握りしめ
私はその場に倒れるかもしれない。



●ON AIR!
 雨の湿気が気になるのか、時折立ち止まっては顔を洗う三毛猫を先導と続くは一組の男女。
 少し固い表情の男に、ふわりと微笑む女。彼らの繋がれた指先はまるで、初々しい逢瀬のように見えた。降り続く雨、薄暗い高架下。だが何処であろうと、彼らにとっては些事なのかもしれない。
 タタン、タタン、と雨音と共に列車が行く。二人と猫の、どこまでも静かな午後の散歩。
 突然、ふと男が足を止めて辺りを見回した。どうしたの、と問いかけるように女が首を傾げば、子供の声が聞こえたと男が呟く。

 そんなもの、しただろうか。

 つられて女も周囲を見渡す。人影はない。
 気のせいじゃないかしら。そう声をかけようとした、その時だった。彼女が、男の異変に気付いたのは。
 眼鏡の奥、赤い瞳が見開かれて一点を見つめている。引き攣ったその視線を、紫色も追って、辿った先には。

 奇妙な、影があった。

 背丈はちょうど子供ぐらい。ただその顔はよく見えない。まるで影が滲むかのように、黒々としたものが蠢いている。
 ぼこぼこと湧く異形の何かは、しかして笑っているのだということだけはハッキリと分かった。
 先に悲鳴を上げたのは男の方だった。女は息を呑むように、空いた手で覆う。気付かれまいと、したのかもしれない。
 猫が毛を逆立ててフシャアと威嚇の声を上げる。小さな生き物にも分かるのだ、あれが悍しい何かだということが。

 ――お に いち ゃ ん  おね え ち ゃ ん  あ そ ぼ

 舌ったらずな、高くひび割れた声と共に影は這いずってくる。ぺたり。進む足が地面に黒く濡れたシミを作る。ぺたり。影の腕が伸ばされる。
 男は青ざめ、それでも愛するものを庇うように背にやった。震える手が取り出した本が、今彼にとっての唯一の武器だったのだろう。威嚇するように声をあげて、何度も何度も怪異へと振り下ろした。
 だがそれも呆気なく打ち払われてしまう。

 ――た た い て あそ ぶ の ね、 わ か っ た ぁ

 ニタァと口元だけで笑った子供の影が、ひしゃげた標識を道の側から引きずり寄せる。アスファルトと金属が擦れる耳障りな音が響いて、振り上げられた。
 今度は男を、女が庇うように抱きしめる。無駄な抵抗かもしれない。けれど、彼女も咄嗟に体が動いたのだ。

 そうして二人揃って貫かれれば、噴き出すいのちはあかいいろ。
 ひらひらと、花弁のように舞って落ちていく。鈍い音が二人分、地面へと倒れ込んでいく。
 けれどもなお、二人の指先は強く結ばれたまま。
 死に分かたれることもないままに、彼らの命は奪われていった。

●Backstage
 先行く三毛猫、ナナからにゃあと声がする。
 急かされているような気もするが、榎本・英(優誉・f22898)の足取りは重いままだった。じっとりと暗い、雨の高架下。打ち捨てられた廃材、その影に隠れるように生き物の残骸(に似せた小道具)が転がっている。
 これは確かに、まごう事なきホラーの現場だろう。だがここまでする必要はあるのだろうか。撮影だ、作り物だと思っていても正直ちょっと怖い。
 いうなればお化け屋敷に足を踏み入れた感覚。そんな彼の固い表情を見て、隣に並び歩く蘭・七結(まなくれなゐ・f00421)は瞬きを数度。
 こわいものが苦手だったのだろうか。そうっと左手を差し出せば、指先握る力から伝わる緊張感。
 けれどなんだか、それがとても。
(かわいい。なんて、言ったら怒るかしら)
 そもそもお芝居の最中だ。だから口に出す代わりに、きゅっと七結からも握り返して。結いだ指先を引くように進んでいく。
 ふわふわと揺れる彼女の髪。ゆらゆら揺れるナナの尻尾。
 どちらの足取りも常と変わらぬ軽やかさで頼もしい。それと同時に少しだけ、どうしてそんなふうに歩めるのだろうと英は思ってしまう。
 電車が頭上を通り過ぎていく音にもびくりと肩をすくめて、けれどそうだと分かればほっと息を吐く。
 早く終わりたい、出来れば平和のまま終わってほしい。なんて思考が頭に過ったか否か。けれど強く吹いた風が、空気を鳴らしていく。

 ――……ぼ…

「い、今、子の声が聞こえた気がしたが。したね?」
 かすかに聞こえた何かに、英がぴたりと足を止めた。青ざめた彼の顔を七結とナナが不思議そうに見つめて、次に互いの一人と一匹で顔を合わせて首を傾げた。
 したかしら?
 したっけ?
「否、今、声がしたではないか……!」
 私にはちゃんと聞こえたとも! キョロキョロと辺りを忙しなく見渡す英が、あ、と呟いて動きを止めた。
 その、視線の先。つられるように一人と一匹が追えば、泥のような影のような何かがぼこりと湧いた。

 ――あそ ぼ

「あああああ、遊ぼうと云っている!!!」
 発狂する男。その声にびっくりする猫が毛を逆立てる。
 女も驚いたように袖口で口元を覆うが――実は状況を楽しむようにちょっと笑ってしまっていたのを隠したからである。
(……あら、ふふ)
「なゆ!!! ナナ!!!」
 いつもは落ち着いている彼の声が今日はとっても感情的で新鮮だった。
 宥めるように紫の視線を英へと向け、七結は繋いだ指先を小さく揺らす。
 だいじょうぶ。
 怖くない、こわくないわ。
 そう伝えたつもりだった。
 確かにそれは受け取られようとして、しかして動き出した子供のお化けによって妨害される。

 ――お に いち ゃ ん  おね え ち ゃ ん  あ そ ぼ

 ニタニタ笑う異形の影。ぺた、ぺた、と足音を響かせてにじり寄る姿。
 声にならない、よく分からない音が英の口から漏れた。恐怖が限界突破したのだろう。薄暗い高架下でも分かる真っ青な顔が引き攣って、はくと一度開閉した。
 そして息を吸い込み。
「私はまだ死にたくない死にたくない死にたくない!!!」
 よくよく響き渡る声。腕を伸ばす子供の影の動きも一瞬たじろいだ。
 そんな大声を出せたのかと、三毛猫が驚きの表情で見上げてくるのも気付かないまま、彼は震えた声で叫ぶ。
「幽霊に殺されるなどたまったものではない……!!!」
 混乱している男。芝居であるという感覚がすっぽ抜けたのかもしれない。
「なゆ、こっちに!!!」
 ぐい、と繋いだ左手を引き寄せて七結を自らの背に庇う。
 大切な彼女だけは守らねば。恐怖に塗れてもそれだけは確かな想い。
 取り出した著書――和綴なのでちょっと頼りなさがある――を影に向かって振り回す。
 悪霊退散悪霊退散悪霊退散悪霊退散!
 ばっさばっさと紙の鳴る音が辺りに響く。本を乱暴に扱うのは宜しくはない。けれど彼女と己の命には代えれやしないのだ。例えそれがささやかな抵抗に過ぎないとしても、ただ大人しく殺されていいなんてことは決して無いのだから。
 その動きを、煩わしいというように影の手が打ち払った。
 紙が千切れて飛んで行く。子供のお化けがお返しとばかりに、道路脇に転がっていたひしゃげた標識を笑い声と共に振りかざして、英へ突き立てんと振り下ろす。
 それを庇うように、今度は七結が彼を抱き込んだ。
 そう。だって同じなのだ。互いに互いを想うその気持ちは。
 無邪気で無慈悲な凶器が二人を貫く。正確には、貫いたように見せる為にカメラの反対側の真横を、凄いスピードで突いた。
 そのタイミングに合わせて咲くのは、あかい牡丹一華の花嵐。それが二人の胸元から鮮血のように噴き出した。
 七結が操るいのちのあかが、ひらりと地面を染めていく。
 甲高い子供の笑い声が響く中で、ゆっくりと地面に転がる二人。
 強く、強く、結いだ指先が握られて、小さな震えが伝わってくる。七結は思わず緩みそうになる頬に力を入れて、表情を消すようにと努める。
 最期のシーンだから、微笑むことは出来ぬけれど。
(わたしは、今。とても愉しいわ)
 だいじょうぶ、と応える代わりに。きゅうと強く、指先を握り返したのだった。


「いやぁ、花を血飛沫の代わりに使う発想は無かったっすね!」
 ちょっと勿体無いなぁ、なんて言いながら撮影スタッフの妖怪達が真っ赤な花弁を拾い集めている。少しぐらいなら、次のシーンに向けて残っていても映えるかな、どうかなぁ。そんな言葉が和やかに交わされるのは、撮影が無事に終わった証拠でもあるだろう。
 手伝った方がいいかしら。
 七結がそう思えど、今は動けそうにもない。膝の上の赤茶の髪を、空いた右手で優しく梳いた。癖のあるその毛先を、指先でちょいちょいと戯れに弾いて、ふふ、と小さく彼女は笑みをこぼす。
 絶賛、英は目を回したままである。
 まぁまぁ怖がりな人にはよくある事ですよ、すぐに目を覚ますんじゃないですかね。兄さん、良い驚きっぷりだったっす。ここ最近で一番の感情だったですよねぇ。いやあ、オレらも頑張った甲斐があった。倒れた時に眼鏡割れなくって良かったっすね。
 妖怪達の心からの賛辞はともかくとして、固いアスファルトの上に転がしておくわけにもいかない。何もないよりはきっとマシだろうと七結の膝が今、彼の枕である。
 そんな英の腹の上には、三毛猫がちゃっかり座り込んでいた。元気出せよと慰めているつもりなのか、それともアスファルトよりも居心地が良いと思ったのか。何を考えているのかは分からないけれど、くわぁと大きな欠伸と共に一仕事を終えた役者の顔をしている。
「ナナ、おつかれさま」
「……なゆ、君もお疲れ様だったね」
 聞こえた声に、ぱっと視線を戻せば赤色とかち合った。
 どうやら目が覚めたらしい。
「だいじょうぶ?」
「嗚呼……少し疲れたが大丈夫だとも」
 終わっていまえばなんて事もないのだ。慌ただしく駆け回る撮影スタッフの妖怪達も賑やかで、先程までの恐ろしい光景も作り物だったと実感できる。自分だって、人が死ぬ類の話を書いているだろうとは思うけれども、種類が違うと言いたい。ミステリーにはタネも仕掛けもあって、お化けは出ないのだから。
 未だ握ったままの左手の温もりが、やはり頼もしいままだった。長く長く息を吐き出せば、心のうちに残ったままの恐怖も確りと追い出せた気もする。
 そういえば、と七結がまだ少し青ざめたままの英を顔を覗き込んで、こてりと小さく首を傾げた。
「さぶかるほらー、をご存知?」
 結局意味が分からなかったようだ。そもそも彼女が、その単語が使われるようなテレビから疎いなんてことも勿論英は知っている。
 けれど今浮かべている、演技の間は見られなかった微笑みの理由はきっと、今回のお芝居が楽しかったのだろう。
「知っているとも……好んで見ようとは思わないがね」
 だからお化けが本当に苦手であっても、笑う彼女がいるなら、まぁ良いかとも思うのだ。
 ――お前もそう思うだろう、ナナ。
 三毛猫の柔らかな毛並みを指先で梳いてやれば、にゃあと返事代わりの鳴き声一つが零された。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

境・花世
わたしに逢いに来てくれるはずだった
大切で、大好きな彼
突然姿を消してしまった のは
ねえ、どうして?

手がかりを求めて道筋を辿る
じわりと濡れて生ぬるい足元
誰もいない しずかな 高架下

湿り気を帯びた空気に混ざるのは
奇妙にあどけない 笑い声

……きみ、近所の子?
碧の眸をした、きれいなお兄さんを見なかった?

手招きする影にふらふらと近寄れば
ずしんと重くなる躰 ケタケタと頭に響く声
黒く塗りつぶされた顔は そんなにも嬉しげに

ああ、そこに、彼も、いるんだね

微笑んだ視界の隅に散らばる、
色とりどりに罅割れたビー玉は
まるで虹のようにも見えて

止まない雨の底で 誰かが嗤う
これからはいっしょ だね
もう さみしくない


都槻・綾
f11024/花世

互いに忙しい日々の中
漸く彼女と会える喜びに
約束の場所へ向かう足取りは
何処か朗らか

だから
こんな雨の日に
傘を持たぬ子供が
独りでぽつんと佇んでいることがただ憐れで
歩を止めた

遅い時間だよ
迎えを待っているの?

ゆっくりと振り向いた顔立ちが
何故だかぼんやり曖昧に見えるのは
高架下の暗がりの所為だろうか

――そう、待っていたの

差し出された小さな掌に乗るのは
随分と古びたお弾きやビー玉
けれど其れはまるで
雨後に架かる橋のような彩りだったから
思わず微笑んで手を差し返す

ずっと待っていたの
あそんでくれるひとを

無邪気な声が嗤う

頭を過るのは
嘗てこの場所で通り魔が出たとも
子供が神隠しにあったとも聞く
逢魔が時の噂話



●ON AIR!
 急ぐ足音は、けれども何処か楽しそうな響きだった。
 人気のない高架下は、昼間であっても薄暗い。夕暮れならば尚更だ。普段ならば避けて通るはずの道だったが、今日ばかりはそこを選ばぬという考えが男にはなかった。
 ――彼女に、会える。
 ここ暫くは互いに多忙で、すれ違いばかりが続いていた。メッセージアプリや電話で話しはしていたが、それでもやはり会えぬ寂しさは募るばかり。
 姿を見たい。
 声が聞きたい。
 ささやかな願いは両者共に同じくして。どうにかスケジュールを縫い合わせるようにして、調整に調整を重ねた今日。
 これから、会えるのだ。
 喜びに早る気持ちが、男の背を押した。ざあざあと降り続く雨の格子に挟まれて、近道である線路の下を足早に進んでいく。
 男がぽつんと佇んだ小さな人影と出会うまでに、さしたる時間はかからなかった。小さな背丈、細い手足。俯いた顔は、よく見えない。

「遅い時間だよ……迎えを待っているの?」

 もう日が沈むという頃合いだ。そんな中で独りぽつんと佇む子供。寂しそうだと思ったら、声を掛けずにはいられなかった。無視して通り過ぎるという選択肢もあったかもしれないが、そんな事をすれば彼女に合わせる顔が無いだろう。少しの遅刻になったとしても、きちんと理由を話せば分かってくれる人だ。
 少しばかり浮かれていた、というのが。きっと、正しかったのだろう。
 こんな時間に子供がこんな場所で待ち合わせをしているなんて事を、不自然だと思えなかったのは。
 男の声に反応して、その小さな影がゆっくりと振り返る。
「うん」
 暗がりのせいだろうか。頷いたその子がどういった表情を浮かべているのか、男にはよく見えなかった。
「——そう、待っていたの」
 傘を貸した方がいいだろうかと思ったが、必要はなさそうだ。けれど、こんな場所に小さな子を残して行くのも躊躇われた。せめて明るい場所で待ち合わせをするように言った方がいいかもしれない。
 ほんの少し、男が迷っていれば差し出される小さな掌。何だろうと屈んで視線をやれば、暗がりの中でもきらりと光る硝子達。
 色とりどりの、お弾きにビー玉。どこかに傷でもあるのか、少し転がれば小さく光が明滅するかのようにも見えた。
 随分とまぁ、懐かしい。
 古びてはいたが、まるで雨後に架かる橋のような色彩。美しいそれに、思わずと微笑んで手を伸ばしたときだった。

 ひとつ、ふたつ、みっつ。
 あか、だいだい、き。

「 ず っと 」
 甲高くひび割れたような声を小さな影が発した。
 え? と彩りから視線が上がる。
 やはり顔は見えない。けれど、笑った口元だけが、いやにはっきりと見えた。

 よっつ、いつつ、むっつ。
 みどり、あお、あい。

「 ま っ てい た の 」
 理解を、するよりも早く。
 途中で止まった男の腕を子供が掴んだ。
 硬い地面に硝子が落ちる、澄んだ音が響く。

 ななつ。
 むらさき。

「 あ そん で く れる ひ と を 」

 あははははははははははははははははははははははは。

 意識が闇に飲み込まれていく。
 痛みはなかった。ただ、ひどく寒い。掴まれた手首からじわじわと凍てつくようだった。
 ――嗚呼。
 そして男は漸く思い出す。この場で嘗て、子供が神隠しにあったという噂話を。
 通り魔のせいだとも言われていたが、真偽は不明のままであった筈。そしてきっと、己自身も今。居なくなった誰かと同じように、不可思議な話の一部になってしまうのだろう。
 碧の瞳がゆっくりと閉じられていく。
 音にならぬ唇が最期に呟いたのは。
 最愛の人の、


 ざぁざぁと、雨は一際強くなった。


 誰も居ない高架下で、一人の女が彷徨っていた。
 痛ましげに臥せられた薄紅の瞳が揺れる。どうして、と色の喪った唇が言葉を紡ぐ。
 久々に、逢えるのだと思っていた大切な人。何よりも大事で、大好きな彼が突然姿を消してしまってからもう三週間になる。
 最初は何か急用が入ったのだと思った。寂しくなかったといえば嘘にはなるけれど、多忙な彼のことを一番知っていたから、その日を諦める事もできた。
 ただ、連絡の一つも無いことは、優しいあの人らしく無いなと、妙な違和感を女の胸に滲ませた。
 本格的におかしいと思ったのは次の日になってからだ。お疲れ様と、何かあったのかと問いかけた言葉に、返事どころか既読がつくことがない。今まではどれほど忙しくとも、そんな事はなかった筈だった。
 滲んだ違和感は、不安を伴ってじわじわと広がっていく。
 それ以降もメッセージを送っても音沙汰はなく、電話の呼び出し音は虚しく留守番電話サービスの声へと変わるだけ。共通の知人に尋ねたところで、お前の方が詳しいんじゃ無いのかと逆に聞き返される始末だった。
 そして程なくして警察へと連絡がなされたが、やはり、彼は見つからなかった。

「ねえ、どうして?」

 何度も繰り返された問いかけは、暗闇へ虚しく響いた。
 けれども女は諦めてなどいなかった。あの日、彼が辿った道筋を探して、調べて。そして漸く、この高架下が彼の消えた場所なのではと確信に近い結論へと至ったのだ。
 激しく降る雨の中を通ってきたせいか、濡れた足元が気持ち悪い。じわりと生ぬるい、その感触を彼も味わったのだろうか。逢えたら、聞いてみよう。
 ――日暮れに、女性がこんな所を一人で歩いてはいけませんよ。
 きっと、こんなふうに怒られてしまうな。そう、自嘲的な笑みを女が浮かべた時だった。
「おねえちゃん」
 誰もいないと思っていた静かな高架下で、幼い声が彼女を呼び止めた。
 驚いたように、ぱっと振り返った先。小さな人影が、此方をじっと見つめている。
「……きみ、近所の子?」
「うん」
 ふふふ、と笑い声をあげて子供が頷く。薄暗い中で顔はよく見えなかったけれど、笑っているのだということだけは何故かハッキリと分かった。
 目線を合わせるように屈んで、女は笑みを浮かべる。
「碧の眸をした、きれいなお兄さんを見なかった?」
 この辺りの子だというのなら、ひょっとしたら彼の姿を目撃していたかもしれない。淡い期待が、薄紅の眼差しに含まれていた。
 子供は、少し首を傾げてからこっちと手招きする。膨らんだ希望が、ぱっと暗い中で花開く。
 何かが奇妙だと、女の頭の中で警告は鳴っていた。だが何がおかしいのかは、分からなかった。日々の疲れが、判断を鈍らせてしまったのかも知れない。

 だから女は、判断を誤った。

 呼ばれるままに足を進める。一歩、二歩――三歩目で、躰が急にずしりと重くなる。過労か何かかと思ったが、違う。足先から急速に冷えていく感覚から感じる、これは。
「 い っ し ょ に  あ そ ぼ う 」
 頭の中で、甲高い笑い声が響いて途切れない。視線の先で笑う子供の顔は、真っ黒で何も見えないのに、何処までも嬉しそうだった。
 ああ、そこに。
(彼も、いるんだね)
 だが死への恐怖よりも、再会への喜びが女の顔に微笑みを形作る。視界の端で、落ちてひび割れた硝子玉が、転がって七色に光っていた。
 止まない雨の底に架かる偽りの虹。けれどもそれは、愛するもの達を再び巡り合わせたのだろう。
 嗤っているのは、誰だろうか。
 女の意識はもう、それを確かめる余力すら残っていなかった。

「……これからはいっしょ だね」

 もう、さみしくなんて、ない


●Backstage
 お疲れ様です、と告げた撮影スタッフ――一反木綿の声は震えていた。
 否、他のスタッフ達も震えていた。全員の心は一つになって、同じ思いを抱いていた事だろう。

 ――プロだ。プロが来た。

 すらりと伸びた手足。指の先まで美しい挙動。台詞がなくとも伝わる、感情豊かな表情はどこを切り取っても完璧だった。
 ――さては名のある役者なのでは。
 ――何故そんな人達が、うちみたいなニッチな所に。
 戦々恐々、盛大な勘違いと共に妖怪達は都槻・綾(絲遊・f01786)と境・花世(はなひとや・f11024)の二人を見る。
「生きて出逢えぬまま、というのは少し寂しいですね」
「そうだね。でも、小さな子を放って置けないやさしい所は、綾らしくて良かったよ」
「やぁ、ありがとうございます」
 何よりも、その場にいるだけで空気すら華やぐ圧倒的存在感。
 なんだろう。変わらず暗い高架下なのに、あの二人の周りだけ明るく見える。なんならキラキラとしたエフェクトが見えそうだった、眩しい。あの人達はレッドカーペットなる場所の方が似合う気もする。
 こんな暗い、資金不足が丸分かりの場所ですみません。どんどんと申し訳なくなって縮こまる妖怪達の様子に、綾も花世も若干不思議そうに首を傾げたものの、原因には思い至らない。当の本人達は現状自然体であるのだし、ついでに役者のプロでもなんでも無い。彼らの正体は客商売をする気が不明の手紙屋の主と、薄給UDCエージェントの娘である。
 知れば夢が壊れてしまうかも知れない。だが尋ねられなければ別に答えるようなものでもない。
 よって、勘違いは少しの憧憬混じりの視線を彼らに注ぐに終わった。

「もしも、さ」
 服についた汚れを、渡されたタオルでぱっぱっと拭き取りながら、ふいに花世がぽつりと言葉を落とした。
「綾が突然何処かへいなくなったりしたら。きっとわたしも、ああして探し続けてしまうんだろうな」
 大事な宝物は、淡い春の下へともう埋めてしまった。
 だから今、花世の中に残っているのはひどく透明な、湧き水のような純粋に相手を大切に思うだけの親愛の情。芝居の中の女のように、焦がれる想いに突き動かされる事も無いかもしれない。
 それが何処か、ぽっかり空いた穴のようで寂しい気もする。けれど、ひどく自由であるような気持ちもあった。心配だと、大切だと、告げる言葉はどちらもを縛りつけはしないのだから。
 片翼を失った鳥の、羽ばたきを邪魔しはしない。
 無垢な言葉に、綾も思わずと笑みを溢す。幼子のようなましろ。雨降りの、少し肌寒い世界の中で裡から温かくなるような心地さえあった。
「それは、私もですよ」
 あなたと一緒にする夜遊び、楽しいんです。
 片目を閉じて、茶目っ気たっぷりに告げられる綾の言葉。嘘も偽りもそこには無い。
 彼女を残酷な方へと繋ぎ止めた、あの日の言葉だって忘れてはいなかった。誰にも摘まれぬまま、凛と咲く美しい大輪の花。幸福ではない方へと留まった彼女との日々も、また綾にとっても大切な刻。

 何にも覆われてない、女の薄紅の左目が驚いたように少し見開かれて――花が綻ぶように、ふわふわと笑ったのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

レイニィ・レッド
坊ちゃん/f14904

怯えたりとかは性に合わないですし
演技は得意じゃねェですからね
殺されに回りましょ

どうせ死ぬなら常軌を逸した奴を頼みます
それを求めているようですし
演出は坊っちゃんにお任せ

さて坊ちゃん
高架下で"普通の人間"として
雨宿りでもしましょうか

坊ちゃん知ってます?
此処で子どもの声が聞こえるって奴
雨の中の空耳だと思いますけどね
暗闇だとかが怖い奴の思い込みでしょう

大体二人も居るんですし
変な目には遭わないでしょ
……なァんて
ふと隣を見たらもう、なんてね

背後に気配を感じたら
雨にとけて何も残さず死にましょ
そして「誰もいなくなった」ってね


矢来・夕立
赤ずきんさん/f17910

ちょっとした作戦を考えてきたんです。

テレビの仕事ってなーんだ。求められている画を提供すること。
つまりどう事切れるか。どれだけ惨たらしく死ぬか。
理屈の通らない死に方であればあるほど良いと思うワケですよ。
…なんで、ちょっと常軌を逸した感じの死体を作っておこうかなと。

赤ずきんさんの言うことにテキトーに相槌を打って急に黙ります。
《闇に紛れて》作った死体と入れ替わる。題材は「お医者さんごっこ失敗」で。
――失敗しちゃったんで、次のお人形さんが要りますね。
一人二役。残ったほうの背後に立つ影の係をやります。

あとは暗転でもなんでも。何も残さずに終わらせてください。
アンタ雨でしょう。



●ON AIR!

「坊ちゃん知ってます?」

 男が二人、雨宿りをしていた。
 薄暗い高架下でもはっきりと目につく赤いレインコート。その横には、街中であればどこにでも紛れ込めそうな学生服。酷くちぐはぐな取り合わせの二人は、けれど互いにそんな事を気にした風もなく。適当に積み上げられていた廃材の上に腰を下ろし、手にしたスマートフォンに指を滑らせながら無意味な時間をだらだらと消費する。
 SNSもニュースも、どこを眺めてもくだらない話ばかり。無機質な光がこの場における少ない灯火のようでいて、二人の顔を青白く照らすだけ。
 まだ一向に止みそうにない雨音だけが静かに響いていた。
 それを先に破ったのは、レインコートの青年の方。視線はやはり画面に向けたまま、口調は暇つぶしであるということ以外の温度はない。
「何をですか」
 だから学生服の方も一瞬視線を隣へやっただけで、すぐに手元の方へと戻した。興味があって返事をしたというよりは、他にすることがないからだ。
 眼鏡に反射したスマートフォンの画面に踊る文字は、昨今の事象を取り扱ったものばかり。そこに当てはまる何かか。それとも別の話だろうか。情報ばかりが溢れた社会では、様々な話が急流のように過ぎ去っていくのが常だった。
「此処で子どもの声が聞こえるって奴」
 レンズの奥で赤い色をした、学生服の青年の目が怪訝そうに再び隣の赤を見た。被ったフードから、白い髪がはみ出している。こちらを向かぬ顔は見えない。ただ、視線を受けて小さく肩をすくめた動きは暗い中でも見てとれた。
「雨の中の空耳だと思いますけどね」
「オレもそう思いますよ。ここ、電車の音も結構うるさいですし」
 タタン、と電車が過ぎゆく音が降ってくる。見上げたところで、分厚いコンクリートに阻まれて音の正体は見えやしない。
 大きな音が近づいて、通り過ぎていく。
 そして再び雨が地面を打ちつける音だけが残るまで、ほんの数十秒の出来事だ。当然、子供の声なんて何処にも聞こえない。
 蹴った小石が何かにぶつかるぐらい、よくある怪談話だ。半年後ぐらいにはすっかり忘れ去られているようなレベルの、くだらない噂話。
 話を振ったレインコートもそう思っていたのだろう。スマホを軽く振って、小さく鼻で笑う。
「暗闇だとかが怖い奴の思い込みでしょう」
 人の集まるところ、居ないところ。明るいところの色濃い陰に、薄暗いままよく見えない場所。ありとあらゆる所に人は恐れを見出す。
 危機を覚えるのは生物として悪いことじゃない。だが気にしてばかりいては、何処にもいけやしないだろうに。
「そういった根も葉もないオカルトが好きな人もいますからね」
 だからといって自ら首を突っ込むような心境もよく分からないのも本音だ。怖い怖いと言いながら正体を見たくなるのは安心したいからか、それとも異形への憧れでもあるからか。
 さっぱり理解はできないが、こうして数分程度の暇つぶしの話題に出来る程度ならば悪くはないのかもしれない。
「大体二人も居るんですし、変な目には遭わないでしょ」
 ああいうのは、単独行動をした人間から狙われるのが定石だ。
 こんな風に、二人並んでいるような時には――
「……坊っちゃん?」
 どうでもいいような話だった。だから別に返事など、期待していた訳でもない。
 だが先ほどまで返ってきていた相槌が急に途切れてしまえば、違和感しか残らない。
 何か面白い記事でも見つけたか、それとも話題に飽きたのか。そのどちらかだろうと勝手に立てた予測は、視線の先の光景を瞳に写した瞬間に崩れ去る。

 これは一体、なんだ。

 人の形によく似ていた。頭が一つ、腕と足が二本ずつ。そのどれもが力なくだらりと地面へ投げ出されている。手にした端末は、変わらず静かに文字列を表示していた。
 けれど盛大に切り開かれた腹部。うぞりと、なにか赤黒いものがはみ出して、散らばっている。黒い染みがじわじわと地面に広がって、鼻に届く生温い臭いが、それの正体を嫌でも分からせてくる。
 これは人だ。これが人であってなるものか。いや、人以外のなんだというんだ。
 惨たらしい死に様は、見た者が正しい理解を下そうとするのを拒もうとする。受け入れたくない。受け入れなければ。死んでいる、まだ助けられる? いや無理だ。

「 しっ ぱ い  し ち ゃ っ た ぁ 」

 けたけたと、甲高い子供の笑い声がする。
 ――おいしゃさんごっこ、しよう。あはは、きゃははははは、ははははははは。
 ずるりと、高架下の向こう。雨の中に顔のよく見えない、けれども笑った口元だけがはっきりと見える小さな人影が見えた。
 随分と楽しそうに、笑っている。

「 あそ ぼ 」

 子供の声。
 くだらない、噂話の、はずだった。
 怪異なんてない、無いはずだ。だからこれは、きっとおかしな夢か何かだ。
 目を見開き、人影を見つめるレインコートの青年は動かない、動けない。その背後に誰かの足が、映り込む。
 ――しっぱいしちゃったから、つぎのおにんぎょうさんが、いるの。
 正面見つめる青年は、後ろの誰かに気付かない。ゆっくりと、両手は彼へと伸ばされていく。
 首に、手がかかった刹那。

 ばちゃんと、大きな水音が暗い中に響き渡る。

 残されたのは真っ赤な水溜りが一つだけ。
 甲高い笑い声が、けれどもやってきた電車の音で掻き消されてしまったのなら。

 雨音だけが残された高架下に、最早誰もいなくなった。

●Backstage
 人間に驚いてもらうことが、妖怪達にとっての美味しいご飯。

「「「ウワーッ!?」」」

 だが今回声を上げたのは撮影スタッフたる妖怪達の方であった。
 早業のような入れ替わりからの凄惨な死体、雨に溶けるレインコートの男。カメラが回っている間はぎりぎり我慢出来ていた。
 けれども、カット! の声で水溜りから元に戻ってみせたレイニィ・レッド(Rainy red・f17810)に関しては、流石に油断をしていたらしい。そもそも、撮影中に闇の中へと溶けるように姿を消した矢来・夕立(影・f14904)を先に見ていたせいで、それもそういった入れ替わりの類だと思っていたのもあったのかもしれない。
 ひぇ、と腰を抜かした一つ目小僧に、大丈夫ですかと驚かした当の本人――そんなつもりはなかった――が声をかけている。普通の人間のふりで挑んだものだから、彼等はすっかり騙されたらしい。
 理屈の通らない死に方であればあるほど良い。裏を返せば、理屈の通らない復活も当然ながら大変吃驚する。
 夕立の考えてきた『ちょっとした作戦』の理論は撮影後まできっちりと機能した。
 勿論、本番でも確りと成功したことが何よりだったろう。理不尽で惨たらしい死。ホラーとして求められる画は完璧で、SCGで加工などする必要もなさそうだ。いや、手を加えた方が臨場感が薄れてしまう。やらぬ方が賢明だ。
 完璧な仕事ぶりであった。理論も、演出も。そして用意された小道具も。
 どこまでも夕立本人そっくりな惨殺死体は本当によく出来ていた。おそるおそると近づいた妖怪達も、感心したように眺めている。
「救急搬送された先でようやく死体じゃないって判定されそう」
「自分そっくりの人形にここまで出来るのちょっとこわい」
「ってか入れ替わり、スロー再生してもよく見えねぇレベルなんだけど……」
「兄さん、何か手品でもなさってんのかい」
「いえ、オレはただの学生です」
 嘘である。
 表情は一切変えないままに夕立は淡々と続ける。
「昨今こういった手品は、UDCにおける義務教育なので」
「ほ、ほんとなのか?」
「ええ」
 勿論大嘘である。
 レイニィから、坊っちゃんまたやってンですかという視線が突き刺さるが、それもどこ吹く風と受け流した。
 けれど騙された妖怪達は気づかない。代わりに、はたして自分達の腕前が外に通用するのかと心配の声を上げ出した。近しい所にある世界とはいえ、別は別。細やかな情報は入ってこない上に、平然とした顔で嘘を貫かれてしまえば、どうしようもないのだ。
「兄さん、その手品とやら教えてもらえたりするかい?」
「いいですよ。タダとはいきませんが」
 受講料はこのぐらいで。ううん、もうちょっとまけてくんねぇかい。仕方ないですね。後一声。これ以上はダメです。
 悪質な詐欺現場のようではあったが、指摘する人間が何処にもいないので摘発もされないだろう。ついでに後一歩、という所で予算的にダメですと一反木綿からのお叱りが飛んだ。
 惜しかった。また今度。
「でも絵になるっていったらお兄さんもすげぇね」
「真っ赤なレインコート! 雨にチョー映えんじゃん」
「ちょっと怪談話っぽくて、見てる側もちょっとこの人犯人じゃね? ってなるよな」
「被害者が予想外みたいな感じ」
「ああ、ありそう。雨の赤ずきん、とかって。返り血浴びちゃった色ですー、とか」
 わいわいと盛り上がる妖怪達の話に、混じる正解。
 今回は演技が苦手と殺され側に回ったが、本来レイニィはそういった存在だ。
 正直な話。子供の影に対しても怯えたフリをしたというよりは、よく見えなかったので凝視してしまったというのが真実だったりもする。人気のない、怪異が出そうな雨の中。縁のありすぎる舞台設定だが、なるほど雨足が強い中、遠くから見ると本当にただただ視界が悪い。背後から来ると聞いたのに前から来たのかと思ってしまったのだ。
 だから直後首に感じた手の気配は、早く溶けて消えろアンタ雨でしょ、という夕立からの無言のメッセージが強く感じ取れた。
 あとちょっとでも遅れたら絶対首を本気で締められていた気がする。いや、締められていた。坊っちゃんならする。
 とはいえ今回は演出の全てを任せて成功したので不問としよう。

「って、坊っちゃん何ギャラ交渉で一人だけ値段上げてンすか」
「心外ですね。演出料金を追加で頂くだけですよ」
「ズルくないですかそれ」
 今回は、どちらも死ぬ役柄ではあったけれど。
 物騒な技術を磨いて、忍び寄る影のように噂話になって。そうして誰かの命を奪うのが彼らの生き方だ。
 どれだけ雨が降ったところで、こびり付いた血の匂が綺麗さっぱり洗い流される事なんてないだろう。

 けれども、ぎゃあぎゃあと言い合う賑やかさは――やはり年相応の姿だった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

冴島・類
ほらー耐性より
演技力の方が心配だが
…真剣なら大丈夫、大丈夫…

霊感が強く、ひとと霊の識別が曖昧になってしまってるていで
子らの声が聞こえれば、こんな雨の中人気ない場で遊んでたら
危ないよ、と探しに
遊ぶ?それで満足するなら一度だけだよ
だから出ておいで…
返事をしたが最後

次々、先程までは一つだった声
影が、腕が、目が増えていく

ははは…こいつは、参った
お兄さん、体は一つだから
皆の相手を一気には、できないなぁ
喉の奥も乾いて、冷や汗ばかり流れてく
刺激しないよに口元だけは笑って

始まるのは、逃げ場のほぼない鬼ごっこ
わかった、なら捕まえてご覧!
捕まるまでは全力で

捕まったら、諦観ひとつ
体を任せ最後に一つ

楽しかった、かい?



●ON AIR!

 嘘つき! そう叫んだのは誰の声だっただろうか。

「危ないよ」
 雨降りの夕暮れ。人気のない高架下は常よりもずっと薄暗かった。
 そんな場所で小さな子供の笑い声が響いていたものだから、白髪の若い男は思わずと声をかけてしまった。
 物影に隠れているのだろうか。彼の緑の瞳が見渡せど、きゃらきゃらとはしゃぐ声が聞こえてくるだけだった。
「 あそ ぼ 」
 ああ、やっぱりそうだ。何かに反響しているかのように、幼い声はひび割れて聞こえていた。それが等間隔で並ぶ柱にも反響して、居場所がどこかやはり分からない。
 怖がらせないようにと、男はゆっくり足を進める。
 少しだけ悩んだが、それで満足して家路についてくれるなら、きっとその方がいい。
「一度だけだよ。だから出てお――」
  しょうがないな。柔らかな笑みを浮かべ、その声に頷いたのと同じか、それより一呼吸ほど早かったか。
 脳を揺さぶるほどの笑い声が、高架下の暗い中で響き渡った。

 ――あはははあそぼあははははきゃははおにいちゃんあははははあそぼうねぇきゃははははは

 広がる影が蠢く。地面に、柱に、天井に。ぎょろぎょろと動き回りながら見開いて、じぃっと男を視線で突き刺す。
 三日月のように裂けた口からはずうっと笑い声がひっきりなしだ。果たして、何人いるだろうか。分かりようもない程の、声。声。声。
「ははは……こいつは、参った」
 どうやらまた、間違えたらしい。
 昔からそうだった。死者と生者の区別がつかずに声をかけてしまっていた。
 誰もいないのに、気味が悪い。そんな奴は何処にもいない。
 何度もそう言われて、けれどやはり区別なんてつかないままだった。いつか立ち寄った占いで、その霊感の強さは身を滅ぼすよと言われたことを薄らと思い出す。
「お兄さん、体は一つだから、皆の相手を一気には、できないなぁ」
 あの時、ちゃんと話を聞いておけば良かった。
 喉の奥がからからに乾いて、けれども言葉を紡げたことを安堵する。ひくりと、引き攣ったようではあったが、なんとか笑みも浮かべてみせた。じりじりと後ずされば、靴裏がアスファルトと擦れて耳障りな音を立てる。怯えている事を見せてはいけない、態度はあくまでなるべく平時を保つように。
 彼らのようなものを刺激したらどうなるかなんて――考えたくは、ない。

 ――あそ、ぼ う?

 蠢いた影から伸びた、幾つもの小さな腕が男へと伸びた。そう、あくまで彼らは遊ぶつもりなのだ。
 ただし手加減なんてものは、微塵も期待は出来ないだろう。
「わかった、なら――捕まえてご覧!」
 覚悟を決めて、彼は地を蹴った。顔も分からぬ影の子供が伸ばす指先から、白い髪がひらりと逃げる。ならばと地を蹴るその足をと狙われたとて、掴まれる前に彼は跳ぶ。アスファルトの地面から、時には柱を駆け上がるようにして、最後の一歩で横へと大きく跳躍した。
 鬼ごっこだ、と誰かが呟く。漣のように、その声が薄暗い中に広がっていく。鬼ごっこ。久しぶり。たのしいねぇ。にげないで。あそぼう。おにいちゃん。
 手の鳴る方へ、なんて言ってる余裕は何処にもない。なにせ鬼が複数に、逃げる方が一人なのだから。身を屈めた頭上を、大振りの一撃が通り過ぎたなら、足元からわっと生えた数本の腕を飛び上がって回避する。
 けれど体力だって、いつかは尽きる。男がよろめいた隙を、彼らは見逃さなかった。

 ――つ か ま え た !

 伸びた腕の一つが、彼の腕を捉えた。しまったと思った時にもう手遅れ。黒い影はあっという間に彼を飲み込んでいく。
(終わりなんて、案外あっけないものなんだな)
 抵抗など、するだけ無駄かと身体の力を抜く。
 そうだ。もう頑張ったから、いいじゃないか。
 上がった息で、酸素の回らぬ頭が導き出した諦念。好き勝手に引っ張られた骨が軋む音を、どこか他人事のように聞いていた。痛みで朦朧とする意識の中、緑の視線と見知らぬ子供のぎょろついた目がかち合う。
「楽しかった、かい?」
 何故そんなことを聞いたのかは、自分でも分からなかった。

 ――うん、 あ りが と う

 けれど頷いた舌ったらずな声は、幼さゆえの無邪気さで。そこに嘘は何一つなく。
(なら良かったかも、しれないね)
 男は消えゆく己の命と共に、微かに笑みを浮かべる。

●Backstage

 ――はいカット!

 終了告げる声に、目を閉じて倒れ込んでいた冴島・類(公孫樹・f13398)は大きく息を吐き出した。
 本物の幽霊に対峙するよりも、演技をしなくてはいけないという緊張感の方が恐ろしかった。
 真面目にやれば大丈夫だと自分に何度も言い聞かせて挑んだものの、経験が少ないものに自信をもって動くというのは難しい。どうしたって緊張感が動きを硬くしてしまった気がする。
 どうだっただろうか、と悩みながらもゆっくりと身を起こせば、お疲れ様でしたぁ! と元気に撮影スタッフの妖怪達がやってくる。
「お兄さんめちゃくちゃ運動神経いいっすね」
「優しげな配役とのギャップ、これは良い視聴率が取れる……!」
「アクション物も撮ってみたくなったよねぇ」
「いやあ、若い子がこれだけ動けるんだからすげえよな」
 問題はなさそうだ。賑やかな賛辞に、ようやくホッと類も胸を撫で下ろす。
「お役に立てたなら良かったです。若い、というほどの年齢でもないですけれど」
「えっ、そうなの?」
「はい。今年でもう三十数年、という感じで、」
「「「えっ!?」」」
 どうなってえるんだと、妖怪達が更に彼へと近づいて興味深げに覗き込む。
 美肌のコツは何だとか、あれこれと捲し立てられて。最終的に、別枠の美魔男番組に出る気がない!? とまで詰め寄られてしまったけれど――そこだけはなんとか丁重に、類は断りの言葉を述べたのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

コノハ・ライゼ
ふ、演じるのはお手のものヨ
驚かし返せないのはちょっと残念ダケド、じゃんじゃん殺しに来るとイイわ!

……などと内心ワクワクしつつ
子供好きの優しいおにーさんを演じましょうか
掛けられた声を悪戯程度に思い、けれど寂しさ故かと一緒に遊ぼうとするの
相手の要望には出来るだけ応えて、自分も童心に帰って燥いだり
物理な身の危険は偶然、運が良かった的な感じで躱していくわねぇ
その方が見てる側はハラハラするでしょ?

次第に要求がエスカレートして、やがて……って感じでミステリアスに死にたいトコロ
逃げたくても逃げられない、説得も通じなくて追い詰められ……
あ、ケド出来れば顔への攻撃は遠慮したいわぁ
顔は女優の命だもの!



●ON AIR!
 遅くなってしまった。
 荷物を抱えて帰路へ急ぐ男が、普段は使わぬ暗い高架下を足早に通り過ぎようとしていた。
 突然降り出した雨に、傘をささずに済むルートを選んだ結果に選んだ道。ひどく暗くて、二度は使わないかなと心の何処かでそう思った時。

「あそ ぼ」

 不意に、声をかけられた。舌ったらずな、幼い子供の声。振り返れば、小さな影がひとつ。
 レンズ越しに薄氷の瞳を細めたとて、この場所は暗くてよく見えない。が、おそらく知らない子だ。
 何かの悪戯だろうか。
 近所の子供達も、物影に隠れて驚かせて来ることが偶にある。けれどそういう時は決まって、何か寂しさを抱えた時だったように思う。
「ええ、いいわよ」
 だから返事はにこやかに。多少の遅れが、がっつり遅れたところでそう変わりもないだろう。きっと。
 何して遊びたい? そう尋ねればおにごっこ、と嬉しそうな声が上がった。

 そうして最初は、楽しく遊んでいた。鬼ごっこではわざと大きな声で追いかけて笑いあったり、かくれんぼなら昔大人にしてもらったように、わざと見つけるのをゆっくり遅らせたりだとか。
 時折何か強い風が吹いて、男の紫雲に染まる髪を強く揺らし、電車の通り過ぎる音がやけに大きく響きはしたものの――平和だった、はずだ。
 おかしくなったのは、男が「そろそろ帰らなきゃ」と呟いた時だった。
 だって、もう日が沈みかけている。この子だって、夜になる前に帰るべきだろう。そう思って、軽い気持ちで口に出したのだ。

 なんで?

 子供が呟いた言葉は、しかして凍てついたものだった。
 いやだ。ずっといっしょにいてよ。どこにもいかないで。おにいさん。もっとあそぼう。
 何を言っても、聞く耳を持たぬその人影がぶくりと泡立つように膨れ上がって――漸く、それが人では無かったのと気づいた。
 だがその時にはもう、全てが手遅れだった。
 小さな腕の一体どこにそんな力があったのか、男を壁へと強かに打ち付けられれば、もう逃げる事など出来やしなかった。

「 ず っ と  い っ し ょ だ よ 」

 ぐちゃり。
 何かが潰れる音が、空気を振るわせる。
 男の瞳が一度見開かれて、震えた口が音を出さぬまま一度開閉して。
 壁にもたれたまま、彼の体が崩れ落ちていく。潰された腹部が映し出され、壁にまで赤い染みを残していった。

 そして。
 男が動くことはもう、二度と無かった。

●Backstage
 芝居において大切なことの一つは、違和感を感じさせないという事である。
 ああ、今この人は演技をしているのだな。なんて、思われてしまってはいけない。画面の中で確かにその役が生きているのだと、そう思わせる事が重要だろう。
 コノハ・ライゼ(空々・f03130)にとって、それは常とさしたる違いが無い。
 ふらりふらりと、流れる雲のように掴みどころが無く。本物がどれかなんてナイショの毎日だと嘯いて、気儘で自由に。気分で口調もがらりと使い分ける。
 だからこその慣れ。下手な役者よりも熟練者とも言えようか。
 よって、彼がこういった仕事で出来る事の幅は大層広い。
「何が凄いって、途中の攻撃を全部紙一重で避け続けてるんだよな……」
「撮ってる側のオレらも、先が読めなくてハラハラしたもん」
「スタントマン要らずじゃん」
「ふ、慣れよ。慣れ」
 チェックの動画を見ながら、妖怪達も思わずと唸った。その感嘆の声が上がるたびに、誇らしげにコノハは胸を張る。
 画面の中では彼へと向かって振りかぶられた凶器が、視線の一つさえやらずに見事に紙一重で回避した所だった。
 躓いたと本当に思えるほど、自然な動作で重心を一歩前へとずらす。解けた靴紐を結ぶために身を屈める。その度に通り過ぎていく廃材が、轟音を立てて背景へと転がっていく。
 一歩間違えば本当の惨劇が起こってしまうそれに、怯む様子は微塵もない。猟兵には怪我には慣れている者も多いだろうが、戦場でないのにこの胆力。恐れ入る。
 撮影前は、妖怪達へ脅かし返せないことを内心残念がっていたコノハだが、全力演技が一周回って確りと驚きを届けられたらしい。

「あと顔への攻撃は最後まで微塵も当たってない」
「おかげでアップが映えるよねぇ」
「だって顔は女優の命だもの、怪我なんてご遠慮したいじゃナイ?」
「えっ!?」
「兄さんじゃなくて姉さんだったんすか!?」
 ちょっとした混乱が生まれた。
 どよめく妖怪達に、さぁ何方デショウ? と面白がるように笑み向ければ、ミステリアスも持ち味なんて流石名俳優! なんて尊敬の眼差しがきらきらと注がれた。
「褒めたって何も出ないわヨ。と、この後はもう撮影なかったのカシラ?」
「あっはい、ええと、お兄さ、お姉……さ……?」
「呼びやすい方でいいわヨ」
「じゃあ、先生で……そっすね。先生で最後です。ああ、ちょうどタイミング良く雨も上がりましたねぇ」
 気がつけば、雨音もすっかり止んだ高架下。遠くに見える空はいつの間にやら分厚い雲が途切れ初めて、薄らと橙色が見えている。
 お疲れ様でした、の声で見送られるコノハが最後に大きく手を振った。
「楽しかったわ——じゃあネ」
 ウィンク一つと別れの挨拶。
 それから撮影終えた彼らへと、ちょっとした置き土産。

 雨上がりの夕暮れ空に、さぁっと淡く光る虹が見事に架かった。

 最後までバッチリと決めてみせる名俳優に、わぁ! と妖怪達の歓声が見事に上がった。

大成功 🔵​🔵​🔵​


●Wrap up!

 良いものが撮れた。
 カメラを回していた者も、演出を担っていた者も、お化け役も。皆が心地良い達成感に包まれていた。
 自分達だけでは、きっとこうはいかなかっただろう。協力してくれた猟兵達が真剣に取り組んでくれたからこそ、成し得た事。
 淀みのようなものが、綺麗に洗い流された気分。さっぱりとした清々しさだけが、今妖怪達に残されていた。
 もうこれは深夜枠には勿体ない。いっそ、ゴールデンタイムを狙ってみたって良い。エンドロールに流れるゲストの名前を拍手で見送る、ゴミ捨て場での封切りの馬鹿騒ぎ。みんな演技上手かったなぁ。モノローグとか、BGM入れるのも楽しかったもん。SCGもいつもより気合い入れて作っちゃったぁ。誰もが語りたくなる程に、ぎゅっと色々を詰め込んだ。だったら次回作も考えようと、気の早い誰かの声まで上がる始末。

「 ま た ね 」

 古びたテレビの中で、子供の影が手を振って。ぶつん、と電源が切れたのなら。
 もうその番組が、現実へと滲み出す事はないのだろう。

最終結果:成功

完成日:2021年05月10日


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#大祓百鬼夜行


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種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は霞末・遵です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


挿絵イラスト