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青い風を目指して

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●序
 工業都市ブイレスト・ラ・ファンス。ブイレスト市の愛称で親しまれる、リュテス第五民主共和国東部の都市に戦火は押し寄せつつあった。
 首都で発生したテロに便乗する形で電撃的侵攻を開始した聖ガディル王国騎士団は、南部の穀倉地帯に駐留する共和国国防軍南部方面軍の防衛体勢が整う前にこれを迅速かつ徹底的に殲滅。中央の首都を圧倒的物量で陥落せしめると、次いで東部にその矛先を向けた。
 共和国軍の陸軍戦力を北と西に押し込めることに成功した次は、東部沿岸に存在する国防海軍艦隊の撃滅を図ったのである。
 聖王国騎士団主力が共和国海軍の最重要拠点トゥリオン軍港攻略の為結集する中で、本陣の補給路を確保するべく派遣された部隊がブイレストに迫る。
 だがこれを迎え撃つべき国防軍のキャバリア隊は首都救援の志半ばで壊滅し、もはや街を守る戦力は存在しない――ということになっていた。
 そう、共和国国防海軍も聖王国騎士団も、ブイレストの防衛戦力はよくて戦車が十から二十程度という認識であった。
 故に国防海軍は戦略的見地から戦力に乏しいブイレストを見捨てトゥリオン軍港の防衛を固め、聖王国騎士団はブイレスト制圧に最小限の部隊のみを動員した。
 助けは来ず、しかし立ち向かえぬほど巨大な絶望が押し寄せたわけでもない。
 知られざる戦いの始まりは、斯くて若者に銃を取る道を強いたのである。

●ブイレストの火
 襲撃は突然であった。ブイレスト市民にとって不幸であったのは、襲来した聖王国騎士団が殲滅戦に長けた――あるいは好んで殲滅戦を展開する嗜好を持つ――第八騎士団であったことだろう。
 降伏勧告すら行われぬまま開始された攻撃に、陸軍戦車隊の対応は完全に後手に回っていた。
 そんな中で青年は幼馴染の少女の手を掴み、逸れないようにしっかりと彼女を手繰り寄せる。突然の戦闘開始と、まことしやかに囁かれ始めた南部の都市が抵抗虚しく全滅させられた――条約を無視して軍民問わず――という噂によって恐慌状態となった群衆の中で離れ離れになれば、再び巡り合うのは容易ではない。
 故に彼は彼女を絶対に離さない。我先にと都市から脱出するべく東へ向かう人の波を抜け出して、二人は狭い路地へと飛び出した。
 青年の名をクラウス・ウェイガン。少女の名をエミリ・サルバニエリ。二人にとって幸運だったのは、クラウスがこの混乱するブイレスト市から逃れる術に心当たりがあったこと。
「クラウス、どこへ行くの!? そっちは戦争をやってるのよ、危ないわ!」
「逃げるためだ、僕を信じてくれ。エミリも見たろ、道路は渋滞で車はダメだ。走って逃げようにもあの人混みじゃ却って身動きがとれない。だから――」
 彼の視線の先には、海軍に卸す軍艦用の装備を作るフィガロ・ウェスト社のブイレスト工場が聳える。
「あそこなら緊急時に備えたシェルターとか、軍人用の脱出用トンネルがあるって聞いた事がある。嘘か本当かはわからないけど、行ってみる価値はあると思う」
「聞いたことがある、って。そんな眉唾のウワサで……」
「それでもただ逃げるよりは生き残れる気がするんだ! こういう時、僕の勘は当たるってキミも知ってるだろう!」
 二人は軍の防衛線のすぐ後ろ、今まさに戦場にならんとする巨大工場に向かって駆け出した。

●不幸中の幸いとして
「この戦いにはお前たちが参戦する」
 まるで決定事項のようにユーレアが断言すれば、それに否を唱える猟兵は居なかった。
 そのために此処に集まったのだ。オブリビオンマシンの影響からか、一際に凶暴な騎士たちを倒して民間人を守るために、猟兵たちは装備を整え、気合を入れる。
「今回の作戦は単純明快。お前たちを共和国軍の防衛線の真後ろにある工場施設に送る」
 後、前進し防衛線の前面に展開、攻め寄せる敵を迎え撃つ。此処までが第一段階。
「市内に浸透した敵を排除したら、共和国軍が市民を連れて脱出を開始する、はずだ。今回の主目的はそっちの護衛」
 第一波を押し返した後、作戦は第二段階に移行。脱出する避難民を守りながら頑強に抵抗を続ける共和国の東の要衝、トゥリオン軍港を目指す――グリモアの予見した戦況の推移を見るに、それが最も生存確率の高いプランとなるだろう。
「注意事項、二点ある。ひとつ。味方共和国軍の動きが不鮮明」
 ユーレアは首を傾げつつ、留意するべきを猟兵に伝える。共和国軍の戦力は戦車が少々。その筈だが、グリモアの予知はその戦力では説明できない共和国軍の健闘を見せたのだという。
「悪い結果ではない、筈。ただ現地部隊と連携するなら気にかけたほうがいいかもしれない」
 それともう一つ、とユーレアは指を立てる。
「工場にはキャバリア用の武器や弾薬が保管してある。置いてあってもどうせ使える機体はない。敵に渡すくらいなら好きなだけ持っていくと良い、と私は思う」
 説明は以上だ、と話を切り上げ、ユーレアは猟兵たちを戦場に送り込む支度を始める。


紅星ざーりゃ
 おはようございます。
 繁忙期を乗り越えたような、まだ続くような微妙な季節を生きる紅星です。
 今回は脱出支援ミッションです。
 ブイレスト市に侵攻した敵部隊を迎え撃ちつつ、疎開する市民を守り抜いてください。
 敵は積極的に民間人を狙うことはありませんが、非戦闘員への流れ弾などには一切頓着せず攻撃を行う部隊のようです。

 第一章で脱出が完了していない市街地で敵部隊を迎撃しつつ脱出までの時間稼ぎを。
 第二章では追撃を行う敵の指揮官機との交戦となるでしょう。
 第三章の頃にはひとまず安全圏にたどり着いているはずです。
 避難民は全滅しない限り依頼成否に影響を及ぼしませんが、なるべく大勢が生きて逃げ延びられるようなプレイングにはボーナスが付きます。
 どれだけ多くを生かすことが出来るかは猟兵の皆さん次第です。ご武運を。
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第1章 集団戦 『セレナイト』

POW   :    RXサイ・ブレード
【増幅されたサイキックエナジーを纏う長剣】が命中した対象を切断する。
SPD   :    EPサイ・ブースター
自身に【強制的に増幅されたサイキックエナジー】をまとい、高速移動と【斬撃による衝撃波】の放射を可能とする。ただし、戦闘終了まで毎秒寿命を削る。
WIZ   :    EPサイ・リフレクター
対象のユーベルコードを防御すると、それを【盾の纏うサイキックエナジーにより反射し】、1度だけ借用できる。戦闘終了後解除される。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。



「第二小隊三号車大破! コルトー曹長がやられた!」
「もう戦線が維持できんぞ!! "海軍の連中"はまだ引きこもってるのか!?」
 悲鳴と怒号が飛び交い、金属の拉げる音に踏み潰される。
 フィガロ・ウェスト社ブイレスト工場を防衛する国防陸軍の戦車隊は縦横無尽に三次元機動を繰り出す鋼鉄の騎士に蹴飛ばされ、剣を突き立てられて次々に金属とセラミック、血と油のオブジェに変えられていく。
 戦車ではキャバリアに対抗しうる戦力足り得ない。敵を圧倒するほどの数を揃え、あるいはキャバリアや砲兵、歩兵など諸兵科の支援を受ければまだしも、戦車のみ二十に満たぬ小数でキャバリア相手の防衛戦など最初から自殺行為以外の何物でもありはしない。
 それでも彼らはこの街で抵抗することを選んだ。背後にまだ混乱状態の民間人が居るから? 無論軍人なのだ、彼らを守ることも使命であろう。
 だが、多少の戦車が一歩と退かず抵抗を続けていた理由を、防衛線を突破し巨大工場に飛び込んだ聖王国軍の騎士は見た。
 ――青い風が吹く。

 猟兵が工場内に出撃した時、既に防衛線はほとんど壊滅に近い状態だった。
 残存する戦車はわずかに三輌ほど。それも主砲弾を撃ち尽くしていたり、履帯を損傷していたりと万全とは言い難い。
 撃破された車両からどうにか脱出した兵士たちも小火器を手に抵抗しているが、それで止まるキャバリアではない。
 ブイレスト駐留の共和国国防軍は遠からず全滅してしまう――それを阻止するために戦闘に加わろうとした猟兵の鼻先を掠めるように、工場内壁を突き破って二機のキャバリアが転がり出る。
 片方は白騎士、聖王国騎士団主力量産機セレナイト。
 もう片方は識別不明、されど敵味方識別装置は友軍、共和国国防軍機を示す、青い機体。
 白を青が組み敷くような姿勢で現れた二機は、猟兵の眼前で暫し白兵戦――セレナイトが格闘術で抵抗するのに対して、青い機体は戦い慣れていないことが明らかに見て取れる素人丸出しの粗雑な殴打の連発であった――を繰り広げ、体勢とパワーの差で白騎士の四肢を粉砕した青い機体が勝利する。
「――ッ、新手……じゃない?」
 そうしてセレナイトの一機を無力化した機体が振り返り、そこでようやく猟兵に気づいて身構えて。
 敵でないと気づくと、パイロットは安堵したように息を吐く。機体が気を利かせたか、友軍機扱いの猟兵に自動で通信回線を開いたらしい。
 猟兵の誰何にクラウスと名乗ったパイロットは、自分が民間人でこの機体ことミストラルには成行きで乗ることになったために操縦には不慣れなこと、正規のパイロットらしき軍人は目の前であのセレナイトに踏み潰されたこと、幸いにも複座仕様であったミストラルの後席に連れと共に飛び込み、不意打ちで先程のセレナイトを撃破したことを説明した上で猟兵に助けを求める。
 否という者は居なかった。だが、完全に庇護下に置いて面倒を見てやれるかは別問題。
 誰かが最低限の自衛はなんとかしろとキャバリア用のビームライフルを投げ渡せば、クラウスとエミリは息を飲んでそれを握りしめる。
「わかりました。とにかくあの白騎士連中をなんとかすれば脱出出来るんですね? やってみます、やってやりますよ!」
 震える声で闘志を奮い立たせる民間人の青年と少女が駆る青い機体を連れ、猟兵たちは荒れ果てた工場から戦場となった市街地へと進出する。
 もはや戦車隊に市民を守る力はない。脱出を試みる民間人を守ることが出来るのは、事実上猟兵の戦力のみである。
 そのうえミストラルという素人の動かすキャバリアを隊伍に加えれば、無茶をすることはできないだろう。
 それでも、やるのだ。聖王国の暴虐から一人でも多くを助け出すために。
『キャバリア……情報にない部隊だな。機種は混成、猟兵部隊かもしれん。全機警戒を厳にせよ!』
『見慣れない機体もあります。共和国軍の識別だ、連中の新型かもしれない。動きもトロい、ヤツは鹵獲しましょう』
 猟兵の前に白騎士が次々と殺到する。彼らを討ち果たさんと猟兵たちは得物を構える。
シル・ウィンディア
一般人を巻き込んで…
そんなにまで戦争したいのっ!?

空中戦だと抜けられるから…
【推力移動】で建物の影に隠れつつ移動だね
移動時は【残像】も生み出して攪乱しつつ移動だね

陰に隠れて、隙を見せた敵には
ビームランチャーの【スナイパー】モードで狙撃
狙うはメインカメラや武装を持った腕部だね

撃っては移動を繰り返しつつ…
敵が密集しているならツインキャノンでの【範囲攻撃】でまとめて吹き飛ばすよ

近接間合いに入ったら
ビームセイバーでの【切断】で腕部と脚部を狙っていくね

離れた距離にいて、青の機体がピンチなら…
【高速詠唱】での《指定UC》で狙っている敵に向かって瞬間移動

やらせないっ!

すべての攻撃はコックピットを避けて動くね


チル・スケイル
飛翔体勢(https://tw6.jp/gallery/?id=134235)で戦闘

巨躯、巨大武器、念動力の使い手。その集団。
決して油断できない相手。
だからこそ引きません。誰かの故郷を、踏み潰させはしません。

大杖から魔法の氷塊を放ち、敵の付近で炸裂させる
これにより無数の氷塊を敵の武具に当て、連なる氷の鎖に変える
脚の冷気放射杖からのジェットで加速し、勢いよく鎖を引き武器を強奪

そのまま巨大な氷塊を敵の四肢に打ち込み、凍らせて破壊する事で動きを封じます
操縦者を潰すわけにもいかないので

敵を妨害する事を優先
トドメは味方に任せ、時間稼ぎを担当します

アドリブ歓迎




 電源に異常を来したのか、照明が消え薄暗い工場から眩い陽光の下に進出した猟兵らは見た。
 共和国国防軍と聖王国騎士団の交戦によって破壊された町並みを。
 共和国軍の奮闘の甲斐あってか、見える範囲で民間人の死傷者の姿はない。だが、こうも荒廃した――ビルは回避された砲弾によってえぐり取られ、車道にはキャバリアの足跡が深く刻みつけられている。破裂したガス管が火炎を噴出し、あるいは地下で断裂した水道管からは泥水が止めどなく溢れ出ていた――様相では、仮に聖王国をこの地から叩き出したとしても元の暮らしを取り戻せるまでに何ヶ月、何年かかることか。
 シルの手には怒りのあまり、操縦桿を握りしめる指先が真っ白になるほどの力が籠もる。
「一般人を巻き込んで……そんなにまで戦争したいのっ!?」
 義憤に駆られた少女の糾弾の叫びすら、もはや騎士には届かない。
『私達は軍人だ。戦争をすることが使命なんだよッ!』
「くっ……!」
 嘲笑とともにサイキックエナジーを噴出し、物理現象を捻じ曲げながら突進した巨大な騎士が剣を振るう。
 間一髪で回避したブルー・リーゼ。剣先が掠めた機体が揺らいで消えれば、騎士はそれが魔力的な機構によって生じた残像であると瞬時に判断して機体を飛び退かせる。
 直後、ブルー・リーゼのビームランチャーより発された高熱の帯がセレナイトの頭部があった空間を横切った。
『砲戦型か、面倒な……次ィ!』
 回避直後の姿勢を最低限に立て直し、盾を構えれば着弾した氷塊がより硬い金属の盾に砕けてきらきらとダイヤモンドダストを散らす。
『二対一、か。戦車ごときを嬲るのでは今ひとつ乗らんと思っていたところ、渡りに船ということだ!』
 キッと空を睨むセレナイトの視線の先には、白い翼を広げ大型の魔杖を両肩に担ぐ竜人の姿。
「初撃を迎撃されましたか。巨躯、巨大武器、それに念動力の使い手……一体でも厄介な相手、その集団。決して油断できない相手」
 白青のキャバリアとの即席連携で放った奇襲攻撃を難なく受け止めたところを見るに、練度はそれなり以上の部隊。
 目の前の機体が特別優秀な指揮官機というわけでも無いようだから、他の機体もこれに準ずる戦闘力をもつと考えておくべきだろう。
 厄介な敵であると、竜人――チルは思考する。戦車隊がこうまで一方的に叩きのめされたのも、精一杯勇戦した彼らには悪いがそうなるだろうなと納得できる強敵だ。
「だからこそ退きません。誰かの故郷を、踏み潰させはしません」
「その通り、これ以上は……やらせない!」
 空からは魔導の氷塊が、陸からは建物の隙間を貫くビームの閃光が騎士を襲う。
『面倒な……面倒だが、それだけのこと!』
 それを騎士は方や巧みな機体姿勢制御を交えた突進で回避し、方や構えた大盾での防御で受け流して機動する。
 まず狙うは逃げ回るブルー・リーゼではなく、その身を晒して地対空砲撃戦を展開するチル。
 騎士の大跳躍は、そして空中で機体を操り発するであろう念動力を込めた巨剣の一撃は冷気を発する脚部の冷気放射杖では回避できない。――いいや、しないのだ。
 巨大な騎士を相手に、生身の魔導士が接近戦を挑むのは自殺行為。だからこその砲撃戦、それは正解で、故に接近してしまえば勝利と確信した騎士の判断は間違いではない。
 だが、接近戦の距離ともなれば人間にとってキャバリアは的としてあまりにも巨大にすぎるのだ。
 狙わず撃とうとも当たるように、狙って撃てば確実に狙った場所に当たるように。
 チルの放った氷塊は盾で覆いきれぬ機体装甲表面を叩き――砕ける。
『そのような軟弱な攻撃ィ!』
 効かぬ、とばかりに剣を振りかぶった騎士は、その腕に掛かる覚えのない負荷に空中で機体をびくんと震わせる。
 騎士の機体にぶつかり砕けたダイヤモンドダストが、チルの放つ冷気によって急速にカタチを取り戻してゆく――機体の右腕を絡め取った氷の鎖を握りしめたチルが最大出力の冷気噴射で急降下すれば、抵抗しようと試みた騎士との間で生じた反動がその腕から剣を弾き飛ばした。
「妨害優先、無理はしないでおきましょう」
 あくまで生身なのだ。このまま攻め続ければチル一人でも騎士を倒せるかもしれないが、手こずって増援を呼ばれでもしたら、いや、それどころかあれの素手ですら致命傷になりかねないのだ。鎖を手繰って拳を叩き込まれるだけでもタダでは済むまい。
 故に。
「トドメは任せます」
「わかったよ! コックピットは避けて――」
 チルを背に庇うように、セレナイトとの間に出現したブルー・リーゼ。
 まさに瞬間移動としか言い得ぬ御業によって現れた機体は、咄嗟にセレナイトが盾を構えるより早く光の刃を振り抜いた。
 まず盾を持つ左腕が落ち、ついで左脚の腿と右脚の脛が斬り落とされる。
『ぐっ、くおぉぉッ!!』
 こうなればもはや空中姿勢制御ですらままならぬセレナイト。コックピットでかき回される騎士の苦悶を止めるべく突き出された刃は、その右肩を貫いて――
 四肢を喪失した白騎士を抱き寄せ地に下ろし、白青の魔導機兵と竜人は市民を守るべく次なる戦場へと飛翔する。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

赤城・晶
M、アドリブ、連携OK

さて、そこ青い坊やは民間の避難誘導と護衛を任せるぜ。戦争するにはまだ力不足だ。なんかあったらすぐに呼べよ。
共和国の軍人さんよ、あんたらも一緒に避難誘導頼むぜ

さてウィリアム、ミラージュ装甲展開【迷彩】、レーダー【索敵】、【ジャミング】をフルパワー。識別認識を妨害し、幻影を展開。
常に状況を把握、更新してくれ

ブースター【滑空】【ダッシュ】による高速ヒット&アウェイだ。狙うは手足と頭。武器はビームダガー【先制攻撃】とビームライフル。
なるべく道路や建物のダメージは控えるぜ

敵にも強い奴がいるだろうから、常に警戒だな

できる限り迅速に敵を無力化できれば民間人の被害も少なくなるだろう


ルイン・トゥーガン
アドリブ歓迎

市街地での防衛線、しかもド素人の動かすキャバリアのおもりしながら避難中の民間人を護れって、割に合わない仕事さね!
ったく、工場もしくは戦車兵から市街地の地図データを貰うよ、地図もなしに市街戦なんてごめんだからね!

敵はどうやら素人の機体に興味津々のようだね。なら、悪いが囮にさせてもらうよ
放置車両と工場で得た爆薬で簡易トラップを作って、囮を利用してルートを絞って設置さね
道路で放置された車が爆発する、一種の地雷さね。これで敵は足元の車に嫌でも注意しなきゃいけないわけさ
機体を死角になりやすいビルの陰にしゃがみ込ませて隠れて、待ち伏せして隙を見せた奴か迂闊に近づいた馬鹿を奇襲して撃破するよ




「市街地での防衛戦、しかもド素人のお守りしながら民間人も守れって、割に合わない仕事さね!」
 任務を成功させた暁には共和国政府からいくらふんだくってやろうかと彼女なりの適正な報酬額を思索しながら、ルインの駆る海兵隊仕様のアマランサスが市内に躍り出る。
 見たところ敵部隊はあの青いキャバリア、名をミストラルといったか――護衛対象のあれに興味津々らしい。
 共和国軍が死命を賭して防衛した工場から現れた新型機だ。ルインがもしブイレストを攻める側だったとすれば、可能な限りあれの鹵獲を狙う思考は理解できる。
「それだけ価値のある機体ってことなら囮になるさね。悪いがアタシはあんたらを利用させてもらうよ」
 その分敵は減らしてやるさ、と通信回線を閉じた状態ではクラウス達には聞こえまいが、アマランサスは主戦場を迂回するように市内に後退してゆく。
 戦車兵の生き残りから都市構造についての情報はある程度得た。
 幸いにも工場内にはキャバリアを撃破するだけの強力な武器弾薬が山程積んである。
 あとはうまい具合に事が運べば、敵に痛打を与えられるだろう。
 直接囮をやれといえば民間人同然のふたりは、いや下手をすれば猟兵すら反感を覚えるだろうから、ミストラルにその旨を指示することはできないが――果たして状況は、彼女の思惑に沿うように動き出す。

「青い坊や、民間の避難誘導と護衛に回ってくれ。お前じゃ戦争するにはまだ力不足だ」
 歯に衣着せぬ晶の物言いに、クラウスは悔しげな、しかしその言葉の正しさを理解した声音で頷く。
「はい、でも誘導ったってどうやればいいんですか。あの混乱じゃ下手に口出ししても聞いちゃくれませんよ」
 なるほど、クラウスの言も然りである。統制が取れないだけならまだいいが、ロールアウト直前でまだ識別番号どころか国籍マークすら描かれていない機体では、最悪聖王国軍機と誤認されてパニックを拡大させかねない。
「あー、共和国の軍人さんよ、あんたらも一緒に行ってくれ。こっちは俺達だけで十分だ」
 戦車を破壊され、軽火器でキャバリア相手に抵抗戦を始めようとしていた共和国軍人達も、そちらのほうが目があると判断したのか敬礼を投げかけてミストラルを先導するように後退を開始する。
 戦闘能力を維持した少数の戦車は踏みとどまるようだが、歩兵が居なくなっただけでも随分と動きやすくなった。
「さて――ウィリアム、ミラージュ装甲展開。レーダー、ECMフルパワー。敵のIFFを狂わせてやれ、幻影もありったけ投入するぞ」
 了解の意を返す支援AIが、ヴェルデフッドの機体を不可視の光で覆い隠す。
 見えざる存在になった機体を中心に出現した精巧な虚像がそれに代わって防衛ラインを構築するように戦車と並べば、一見しただけではこれが偽物とはわかるまい。そこに偽装した識別信号まで被せたのだ。一撃入れて実体がないことを確認するまでは敵にこの幻影をそれと見破ることは不可能に近かろう。
「とはいえ安心できないのが戦場の常、ってな。状況はリアルタイム更新、ECCMや思念系の探知手段にも臨機応変に対応してくれよ」
 敵に阿呆であることを期待するのは真の阿呆のすること。ここまで入念な偽装工作でさえ見破られる前提で対抗手段をAIに命じ、晶は幻影の防衛ラインを迂回するようにミストラルを追撃する機体に静かに忍び寄る。

『逃がすものかよ、共和国の新型!』
 アスファルトに罅を入れながら疾駆するセレナイト。視線の先にはゆっくりと後退してゆく青いキャバリア。足元の歩兵を庇うために跳躍することもできず、もたもたと覚束ない足取りで銃をこちらに向けたまま後ろ歩きする機体を捉えて、騎士は獰猛に舌なめずりをする。
 避難民が乗り捨てていったのだろう車両の残骸は道への戦車の侵入を阻み、青いキャバリアまでの道程を邪魔するものはなにもない。
『新型を鹵獲したとなれば、大功は間違いない。俺の勲章になってもら――』
 抵抗する敵機からのビーム射撃をシールドで弾き返して肉薄するセレナイトの足元で、乗り捨てられた乗用車が連鎖して爆発する。
『ぐおっ、誤射……誘爆か!? いや、威力が強すぎる……!』
 はじめはミストラルのビームライフルが掠めたことで、燃料タンクが加熱され誘爆したのかと判断した騎士だが、それにしては爆炎の勢いが強い。
 それもその筈、車両にはキャバリア用バズーカの砲弾が括り付けてあったのだ。即席の自動車爆弾、それが遠隔操作で爆破されたのである。
「お前たちはあの青いのに大層ご執心みたいだからね。逃げてくれれば追ってくると思ってたよ」
 その仕掛け人たるルインが嘲笑する。ダメージこそ軽微なものだが、自動車爆弾を認識した騎士は路面に転がる放置車両のどれが次に爆発するかわからぬ以上そのすべてを警戒せねばなるまい。直撃すれば脚の一本も吹き飛ぶ爆発なのだ、無視するわけにはいかぬ。
 そのために格段に動きの悪くなった機体がのそりのそりと盾でビームを受け止め、剣で車を薙ぎ払いながら進むそこへ不可視の隠れ蓑を脱ぎ捨てたヴェルデフッドが襲いかかった。
「坊や、コイツは無視してさっさと行け!」
 後方からのブーストダッシュ。地表すれすれを滑走する機体がビームライフルを放てば、背中からの攻撃に対応するべく――驚いたことにパイロットは完全なる奇襲にも対応しようとしてのけた――旋回するセレナイトが姿勢を崩す。
 そこへヴェルデフッドの投擲したビームダガーが突き刺さった。急制動、反転離脱。すれすれをセレナイトの剣が掠めて火花が散る。
「あの状況で対応すんのか、マジでエース級部隊かよ……!」
『伏兵、貴様が小癪な罠を仕掛けたか……ッ!』
 ダメージチェック。ヴェルデフッドはミラージュ装甲の一部がダメージを負い、セレナイトは肩口にビームダガーが突き刺さったことで盾持つ左腕が機能不全。
 痛み分け――ではない。爆弾魔は晶ではなく、そして彼女は騎士の警戒が完全に他方に向くこの瞬間をこそ待っていたのだ。
「誰だかわからんが居るんだろ、ご同輩! お膳立てはしてやったんだ、後は任せたぜ!」
「でかい声で伏兵に話しかけんじゃないよ! ……キャバリアが一機で打ち止め、って油断したね。そういう詰めの甘さは腐っても騎士様ってことかい?」
 晶の呼びかけに呼応してビルの陰から飛び出した紅い機体がサブマシンガンの銃口をセレナイトの背中に押し当てる。
『アマランサスタイプ……コイツが本命か……ッ 糞が――』
 連続した銃声が廃墟の街に響く。
「はんっ、傭兵ってのは……アタシはどんな手だって使うのさ。覚えていきな」
 それが罠を仕掛け味方すらも囮にし、卑怯の誹りを受けようとも。
 そうすることで味方と自身が生き残れるならば、いくらでも泥を被ってみせよう。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

ルージュ・リュミエール
完全な素人が操縦するキャバリアか
なんというか、あいつを思い出すな。過去アタシらと共に戦った、最初は偶然選ばれただけの民間人だったのに、何時の間にかアタシらのリーダーになってたアイツを

と、過去を懐かしんでる場合はねぇな
出ろ!ソルフレアァァァ!!
招喚器インクルシオンを構えてソルフレアを招喚するぜ!剣から炎が吹き上がって召喚&搭乗シーン挟んで炎のソルフレア参上だ!

ミストラルを気にかけつつ、突出してる敵から倒していくぜ!
突出してるってことは市街地に突っ込んでるってことだからな、民間人の避難の為にもそっちから片付ける!
時間もかけられねぇから最初から全力だ!
必殺ぅ!バーニングエンド・スラッシャァァァァ!!


イザベラ・ラブレス
共和国軍の支援が望み薄ってことは私たちが実質レスキュー部隊って事みたいね。
それにミストラルの搭乗員、中々根性のある子じゃないの。
こっちもできる限り護ってやらないとね。

戦闘:囮となって市民から敵を遠ざける。

こういうのは誰かがやらないとダメよね。
接敵したら機首の30mm機銃を一斉射撃、撃破は目的とせず挑発に留め敵を開けた場所まで誘導。
敵の様子は指定UCで召喚したヘリ部隊に情報収集を指示し、敵が集団を形成したらヘリ部隊と一緒に反撃に出る。

・敵がミストラルに群がる場合
ヘリ部隊の一部に掩護射撃を指示、搭乗員がパニックになっているようであれば通信越しに落ち着かせ、戦闘知識として射撃のコツを伝えるわ。




 工場を中心に展開された猟兵と共和国軍残存部隊による防衛ラインは、概ねその機能を発揮し避難を図る民間人との間に壁を構築することに成功した。
 とはいえ、だ。敵も少数部隊での攻勢とはいえ、数的不利は如何ともし難く、また防衛側として戦場を選べない友軍に対し聖王国側は縦横無尽に戦線を迂回し突破浸透、然る後の挟撃を図る自由を掌握していたのである。
 よって、防衛線に釘付けとなった共和国戦車隊残存戦力による援護はそれを試み移動した瞬間に各個撃破の憂き目を見るであろうから望むべくもなく、ましてこの状況のブイレストにトゥリオン軍港方面からの来援もありえない。
「というわけで実質の救援部隊は私達で打ち止めってことになるみたいね」
 巨砲の鰐頭、マイティ・バリーを防衛線の外れに孤立するように展開し、戦線突破した敵に敢えて各個撃破の的となるよう振る舞うことで脱出支援を図るイザベラは、この危険なポジションにわざわざ同行した物好きな僚友に現状を説く。
「望むところだ。この状況といい、あの青いキャバリアといい……あいつを思い出すな。尚更負けられねぇ」
 マイティ・バリーの足元に立つ赤髪の女戦士、ルージュは過去を懐かしむように目を細める。
 彼女がかつて挑んだ長い戦いの始まり。彼女たちの中心人物だったひともはじめは軍人でもなんでも無い民間人だった。
 それがいつの間にか仲間たちの支えになって、欠かすことのできないリーダー、英雄になっていったのだ。
 クラウスとエミリにその素養があるかはルージュにもわからない。軍の庇護下に逃げ延びればそこで機体を降りるのかもしれないし、そうでなくともただの一兵卒として戦いを終えるかもしれない。あるいは志半ばで命を落とすこともあるかもしれない。
 だが、ルージュにはどうにも彼らにあの人の面影が見えるのだ。
「だったら今度はアタシが手助けしてやらなきゃな。あいつに引っ張ってもらった礼ってわけじゃないが――」
 避難民と同じ位にミストラルをも守らねばならぬ。決意を新たにしたところに響く振動。
 防衛線を突破し、孤立するマイティ・バリーを獲物と定めた聖王国軍のセレナイトが盾を構えて猛然と突き進む。
「過去を懐かしんでいる場合じゃねぇな。――出ろ! ソルフレアァァァッ!」
 紅蓮の刃を掲げれば、刀身から湧き上がる炎が瞬く間に勢いを増し巨大な火柱が上がる。
 その炎を突き破るように現れた銀の装甲。かつての大戦で戦果を挙げた、古のサイキックキャバリア"炎の"ソルフレアが顕現する。
 突如出現した二機目にセレナイトはわずかに動揺を見せるが、信仰心薄く軍人の性質が強い第八騎士団所属とはいえ宗教国家の騎士たるもの奇跡の類への耐性はある。そういうものと理解すれば、直ちにソルフレアも敵と断じて身構える。
 そこへマイティ・バリーからの30mm砲弾の掃射が襲いかかった。生半可な装甲など濡れた薄紙のように引きちぎる大口径機関砲の暴威がセレナイトの構える大盾に吸い込まれるように着弾し――派手な火花を散らし町並みを抉る跳弾は次第にその角度を収束させマイティ・バリーへと撃ち返される。
「何度見てもズルい装備ね! 時代遅れの白兵偏重でやっていける理由がよく分かるわ!」
『チッ、サイキックキャバリアと規格外の砲戦機……逸れたマヌケと思ったが虎の尾を踏んじまったか……?』
 マイティ・バリーは反射シールドを破れぬ以上は砲撃を控え、セレナイトはマイティ・バリーを守るように控えるソルフレアを警戒して距離を詰めきれぬ。
 膠着状態は当事者にとって長いようで、しかし実際には数十秒で破られた。
 イザベラの召喚した戦闘ヘリによる超低空からの航空支援。
 ビルの合間を縫うような飛行で肉薄したヘリから放たれた無数の焼夷ロケットに対処するべく盾を掲げたセレナイトは、直撃弾を見事に反射してヘリを撃ち落とす。
 だが、対処できたのは直撃弾までだ。狙いを外し、周囲に撒き散らされた粘着性の燃焼剤までは弾き返せない。そうして炎がセレナイトを取り囲む。
『下手くそが! この程度の火でセレナイトが焼けるものかよ!』
「あらそう、それじゃあもっと強烈な炎をみせてやって頂戴」
 イザベラに促されるより前に、ソルフレアは力強く踏み込んでいた。マイティ・バリーの支援砲撃によって逃れるを許されぬセレナイトへと、古の騎士が猛然と肉薄し――
「お前程度に時間を掛けちゃいられねぇ! だから最初から全力だッ!」
 剣を振りかざす。紅の刃が吸い上げるように、巻き上げるように、焼夷弾が散らした炎をその身に纏う。
 炎の勢いが増してゆく。際限なく熱量が増大し、小さく熱く凝縮された火焔は剣のカタチと等しく押し留められた。
「必殺ぅ! バーニングエンドッ! スラッシャァァァァァ!!!!」
 剣閃一撃、無敵の盾諸共に、あるいは反撃を企図した剣すらも巻き込んで、セレナイトを滑らかに一刀両断。
『盾ごとだと……? あり得ない……この、化け』
 最後まで言葉を許すことなく、ずるり。太刀筋に沿ってセレナイトが二つにずれた。
 切断面から噴出する炎は、インクルシオンが撚り集め圧縮したそれが解き放たれたもの。
 火柱に呑まれ消えていく白騎士の躯に背を向けて、ソルフレアは剣を振り払う。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

ティー・アラベリア
なるほど、阻止戦闘でございますね。
承知いたしました、お任せくださいませ☆
今回は敵の出血を最大化する方針で参りましょう。
事前に魔導波探信儀で敵の位置情報から侵攻路を特定し、92式の砲撃と95式の誘導弾を派手に投射いたします。
攻撃に紛れ込ませる形で自爆妖精を浸透させ、敵が突撃を指向した頃合いを見て敵の機体内部で自爆させ、突撃の衝撃力を霧散させちゃいます☆
砲撃と自爆妖精によるハラスメントを並行して実施しながら、周囲に存在する放棄された戦車や擱座した敵キャバリアに同化妖精を凝着させて再戦力化し、戦闘正面に投入いたします♪
敵に出血を与えながら我の戦力を増強し、じわじわ前線を押し上げてしまいましょう。


鮫島・桐生
……親父も難儀な事を言う。
この『闘争』を止めてくれだと。随分と見飽きたがな。
まぁ、いいさ。ソレが『契約』だって言うならな。

さて、市民を無事に帰せってか。
……遵守はするがノロマを待ってやる義理は無いぜ?(UC発動)

高速移動と斬撃+衝撃波なら、向こうから勝手に突っ込んでくる。
無理に向こうの速度に付いていく必要性はハナからねぇのさ。
辿り着く前に【早業】で撃ち抜いて、
最小限で機動と獲物を潰してやればいい。

――そう、足元の奴らがノロマだって言いたいんじゃねぇよ。
無理矢理足した『速さ』だけで勝とうとするのがノロマってんだよ。
『契約』だからな、命は取らねぇが、機体は潰させて貰うぜ?
※アドリブ可




 戦争がそこにある。
 猟兵の展開したキャバリアの幻像を盾に、わずかに三輌生き残り抵抗を続けていた戦車は、だが挺身報われることなく白騎士の刃の前に骸を晒す。
 戦車から這い出し、短機関銃で巨人に立ち向かおうとした兵士を踏み潰し、白い鎧に赤を彩って騎士は突き進む。
 防衛線は瓦解した。ブイレスト駐留の共和国陸軍戦力は死力を尽くして抵抗し、しかしその基幹戦力たる戦車機甲部隊は抵抗能力を完全に喪失したのだ。
 残る戦力は歩兵がいくらかと重機関銃や短距離ミサイルを据え付けた四輪駆動の非装甲車両が一握り。それらとてキャバリアが相手となれば捨て身で数秒を稼げれば御の字であろう。
 そしてそれら戦力は避難民の護衛のために既に後退を開始している。
 戦場は今、聖王国騎士団が掌握しつつあった。そしてそれに刃向かえるものは、もはや猟兵を除いて他に存在しない。
「なるほど、なるほど。阻止戦闘でございますね」
 防衛線が消滅した以上、邪魔者の消えた騎士団が避難民に襲いかかるのは時間の問題。状況は最悪だ。いくら猟兵が一騎当千の強者揃いとはいえ、孤立無援でいつまでも民間人を守り続けられるか。
 犠牲を受け入れる時が来た。さもなければ自らの命と引換えに多くを守り死せる英雄となるか。
 ああ、なんと心の浮き立つ戦場なのだろう。血反吐のこびり付いた戦場廃墟に不釣り合いな、しかしそれ故に他の誰よりも"馴染む"姿の可憐な少年人形は楽しげに笑う。
「もちろん承知いたしました。ここから先はボクにお任せくださいませ☆」
 礼儀正しく腰を折った相手は、大破した戦車の中で事切れていた戦車兵。
 もちろん彼が少年に何かを命じることも、語りかけることもない。
 それでも少年は国防軍兵士達の遺志を慮って己の仕事を遂行する。
「敵の皆様にはこの辺りで最大限血を流していただきましょう。進む足取りが重たくなる程度の流血が望ましいですね☆」
 しゃらりと魔杖を振るえば溢れ出すように射出された魔導弾が地を埋め尽くす。
 敵の後詰部隊の進路を遮るように魔導砲撃が降り注ぎ、その暴威を盾で受け止め生き延びた機体には続く魔導誘導弾が喰らいつく。
 しかし、砲撃は所詮砲撃である。銃砲の支配するこの世界で、剣と盾を担いで独立を保ってきた聖王国でも武闘派の第八騎士団は末端の騎士であろうと生半な砲撃では撃ち落とせぬ。
 強固なシールドでの防御と聖剣による迎撃。魔導誘導弾を斬り伏せ、騎士たちはわずかにその突撃の勢いを削がれつつも損傷は軽微のまま進撃を――
『なんだ? ガキが飛んで――』
 奇妙な通信と共に一機がコックピットブロックのみを爆破されて墜落する。
「――これより始まりますは」
 一機、二機。喰われておかしいと気づけば直ちに防御姿勢に入り、それ以上の被害を抑え込むのは流石だが、そこまでだった。
「無情悲惨の傀儡劇。騎士たちの活躍に祝福あれ☆」
 踊れ踊れ非情の騎士よ。砲撃の間隙を縫うように飛翔した自爆妖精が防御の隙に鋭い一突きを加え、そうしてパイロットを殺された機体は――いいやそれだけではない。大破し転がる戦車すらも蘇り、生あるものを道連れにせんと襲いかかる。
 地獄がそこにある。
「えげつねぇ。……この『闘争』を止めてくれだと、親父も難儀なことを言う」
 見飽きた戦場とはまるで異なる阿鼻叫喚に桐生は唾を飲む。
 クロムキャバリアに闘争はつきものだが、死人が生き返って生者を襲うなんていうのは趣味の悪い映画のそれだ。
「まあ、いいさ。民間人を逃して戦いを止めるのが契約だって言うならそうするまでだ」
 避難状況は芳しくない。護衛が仕事であるならばそうするまでだが、彼らが遅々とした足取りで逃げ出すのをのんびりと待つ必要はないだろう。
「ノロマを待ってやる義理もないしな」
 地獄に足を踏み入れた黒い悪魔。背には避難民が脱出を進めるメインストリートに至る道。
 騎士たちが鹵獲を試みた青い新型もそこにいる。
 ならば敵は此処に来る。そう、魔弾の悪魔の狩場に自ら足を踏み入れるだろう。
『――砲撃の中に気味の悪い子供が紛れているぞ! 取り付かれれば自爆してくる! 全機最大出力でこの戦域を強行突破せよ!』
 ティーの仕掛けた殺し間から飛び出した騎士の一隊が尋常ならざる加速で黒のキャバリアに迫る。
 数の上で聖王国が有利。練度でも騎士たちが圧倒しよう。そして盾を構え猛然と進撃する騎士たちは、眼前に立ちふさがる邪魔な機体を斬り倒して強行突破を試みる。
 誰が見ても桐生の機体が切り刻まれる未来はもはや確定したのだと諦めただろう。
 だが彼の早業は運命すらも追い越した。ライフルを構え、トリガーを引き、次のターゲットをロックしてトリガー。自動制御よりも高速の手動照準、手動発射による早撃ちはセレナイトの四肢を穿って叩き落とす。
『馬鹿な――ッ』
 黒い機体を避けるように散り散りに墜落する騎士たちの残骸を振り返って悪魔は笑う。
「無理やり足した速さだけで俺に勝とうってのがノロマなんだよ」
「おやおや、取りこぼしがこちらに逃げたと思いましたが……もしかして後始末をさせてしまったのでしょうか」
 自分に出来る最善を尽くし生き延びようとする避難民よりよほど鈍い。そう吐き捨てる桐生の機体の肩に降り立った少年人形が恭しく一礼。
 二人の悪魔の手によって、共和国戦車部隊を殲滅した騎士団の後詰戦力は此処に完全に壊滅した。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ダビング・レコーズ
あの機体が予知結果にあった不可解な友軍戦力と推定
ブイレスト方面に展開中の残存戦力はほぼあの機体だけか
ミストラルへ
単機での突出は危険です
友軍との合流を

敵はやはり動きの鈍いミストラルを狙うか
該当機を護衛しつつ突破する
ベルリオーズとイグゼクターを交互に撃ち絶え間ない弾幕を展開
接近の阻止が目的であるため盾による無力化は想定内とする
その間にリフレクションビットをリリース
敵から死角となり当機との射線が確保される後方斜め上にポジションをセット
敵部隊の注意を正面に引き付けたままの状態を維持しルナライトのプラズマキャノンをビットに発射
跳弾させ盾の守りを有さない後方より攻撃を行う


トリテレイア・ゼロナイン
※ロシナンテⅣ搭乗

自前の装備である機械妖精を戦場に放ち●情報収集
●瞬間思考力
民間人の捜索や妖精による誘導、索敵等と同時並行で戦闘

背部コンテナ収納の手榴弾を壁や建物越しに●投擲
妖精観測情報頼りに煙幕による●目潰し騙し討ち剣盾振るう近接戦闘で一気に制圧

あの青い機体は件の…

ミストラルの搭乗者、聞こえますか?
私はトリテレイアと申します
民間人保護の為、ご協力して頂きたきことが
搭乗席へ妖精を入れて頂けますか?

(妖精ハッキングを介した●操縦補助で機体スナイパー射撃の精度向上)

私が敵陣に突入する際、狙撃による援護を願います
ご心配無く
機体と妖精の導きが御座いますので

(密かに妖精でミストラル解析試行)

…この機体…




「あの機体が例の……」
「ミストラル、でしたか」
 ダビングとトリテレイア、二人の機械人は避難民の車列を背に庇って立つ青い機体の姿を認めた。
 どうやら仲間たちは迂回浸透しようとする敵の先鋒と共和国軍を撃破し正面から突破を図る後続部隊の両方を撃破したようだが、引き換えに共和国戦車隊の信号はすべて消失してしまった。
 そして先鋒を囮に進路を分化した敵部隊はまだその活動を停止していないのだ。
「ブイレスト方面に展開中の残存戦力はこれで名実ともにあの機体だけか」
 歩兵や軽車両をキャバリアの跋扈する戦場で戦力に数えるのは酷だろう。もはやミストラルだけが共和国軍の戦力である、となれば本来ならあれを中心に戦線を引き直すのが正道。
 だが。
「パイロットは民間人、動かすことは出来るようですが」
 トリテレイアの言う通り、クラウスとエミリは素人なのだ。熟練兵揃いの聖王国第八騎士団を相手に戦闘機動を行えるレベルではない。ダビングはミストラルを下げることを提案し、トリテレイアもそれに同意するように首肯した。
「ミストラルへ。単騎突出は危険です。我々がエスコートするので合流を」
「りょ、了解。エミリ、レーダーを見ていてくれ」
「わかった。貴方たちは……共和国軍の人じゃありませんよね?」
 少女からの問いにトリテレイアが是と応える。
「私はトリテレイア、こちらはレコーズ様。我々は猟兵、貴方がたの支援の為に来たのです」
「トゥリオン港方面に海軍が残存戦力を集中していると聞いています。そちらに向かい友軍との合流を」
 ダビングが東部方面軍の動向を伝えれば、エミリが表情を明るくした。
「それなら父さんもトゥリオンに居るかも……!」
「お父上と逸れたのですか? 大丈夫、きっと会えますよ」
 トリテレイアの励ましに対して、ダビングはどこか引っかかるものを感じていた。首都メルヴィンからの撤退戦に参戦した兄妹機からの情報に、なにかあったような――しかし彼女に共有されたデータベースにアクセスするより先に、ダビング/トリテレイア/エミリはレーダーに輝く敵性の光点を認めた。
「トリテレイア様、歓談は後です。戦闘開始、当機が牽制を」
「承知しました。クラウス様、エミリ様。お二人にも援護射撃を頼みます」
 しかし素人に誤射を避けながら援護射撃は酷であろう。クラウスは眉間に皺を寄せ、悔しげに首を横に振る。
「大丈夫です。ミストラルのコックピットに私の妖精を入れていただけますか? それが射撃の補正をいたしますから」
「大丈夫なのか……? いや、皆を守るためにはやらなくっちゃいけないんだよな。わかった、入れてくれ」
 わずかにコックピットを開いたミストラルの胸に、妖精を模した機械人形が飛び込んだ。
「では皆様、前衛は私が。中衛をレコーズ様、後衛をミストラルのお二方で参りましょう――!」
『見つけたぞ、共和国の新型! 鹵獲できぬなら残骸のひとつも手土産にもらっていく!』
 ビル群の陰から姿を表した白騎士へ、間髪入れずにダビング機の二丁ライフルの弾幕が降り注いだ。
 盾が構えられ、防御陣形が組まれる。火花と弾丸の破片が飛び散り、猛攻は弾かれた。
「想定内だ」
 盾を構えている間は機体の機動性や攻撃能力が著しく制限される。弾薬の残量と引き換えに敵を釘付けに出来るのだからそれでいい。
 迂闊に動き出そうとすればミストラルからの狙撃が出鼻を挫き、セレナイト隊は完全に身動きを封じられた形となる。
「リフレクションビット射出。反射角調整、照準誤差修正――トリテレイア様」
「心得ております!」
 ダビングの放ったビット兵器を迎撃されぬよう、スモークグレネードを投擲。同じく戦場に展開した機械妖精からの観測情報を各機に共有してロシナンテⅣが視界など無きに等しい煙の中を突き破って駆け抜ける。
 剣を振り払う。手応え――否、盾を構えたまま剣を振るったセレナイトがこれを受け止めている。
 しかし両腕を封じたのだ。ミストラルのビームを盾で受け止め、ロシナンテの剣と剣で打ち合う。ならば生じた無防備に、放たれたビットが弾いたアークレイズの魔弾が弾けて、弾けて、幾度も軌跡を折り曲げて飛来する。
 背中からの跳弾狙撃。人外の技で装甲を破砕されたセレナイトがよろめけば、剣を弾いたロシナンテが騎士を真っ向から叩き切る。
 あるいは無数の弾丸が騎士を撃ち抜いた。あるいはビーム狙撃が頭部や腕部を見事に貫いた。
 即席ながら見事に機能した三機の連携はミストラルを守り抜き、聖王国の追撃部隊を打ち倒す。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

四季乃・瑠璃
緋瑪「一般人も関係なし…絶対に許さない!」
瑠璃「これ以上やらせない。おまえ達は全て殲滅してあげる」

UCで分身

ジェミニオン二機(外観はイラスト参照)で工場から使用可能なミサイルポッドやライフル、ガトリング等の【弾幕】を形成可能な武装を搭載可能なだけ装備して一斉射撃。
使い切ったら使い切った武装と既に破壊された周囲の戦車等を【クリエイト】で変換→再構成(ついでに戦闘不能になりかけてた味方の三両の戦車も新品に再構成)を行い、再変換を繰り返す事で無限の火力で敵戦線を押し込む様に圧倒。
破壊された戦車の一部を対キャバリア用のオートタレット等に変換して戦車やミストラルの支援を行わせ、こちらはセレナイトの撃破




「全車移動開始! 車列から敵を引き剥がせ!」
 上官が次々に戦死し、たった数時間で繰り上がりを重ねてブイレスト駐留軍の指揮官になった少尉が車上で叫ぶ。
 士官教育を受けたとはいえ経験があるわけではない。それでも彼はブイレスト脱出を試みる避難民たちを無事に逃がすために、部下を鼓舞して非装甲の軍用四輪駆動車を走らせた。
 戦車と違って身を守る装甲などありはしない。瓦礫の散らばる市街地を走るための不整地走破性能もない。万に一つもキャバリアを撃墜しうる強力な火砲も積んでは居ない。
 死ににいくようなものだ。だが、自分たち軍人が死ぬことで市民が一人でも生き延びられるならば。それを果たすことこそ死んでいった上官や戦友たちに報いることなのだと恐怖に竦む心を鼓舞して、陽動作戦を展開する少尉の車列。
 後席に立ち乗りするガンナーが12.7ミリの重機関銃を撃ちまくれば、白銀の巨人は煩わしそうにギロリと軍用車両の一団をにらみつける。
 敵とすら思われていない、鬱陶しい羽虫を手で払うときの視線だ。キャバリアの無機質なセンサーアイからそれを感じ取った少尉は直ちに散開を命じるが、わずかに遅れた車両が二台まとめて蹴飛ばされた。
 宙を舞う自動車の残骸。乗っていた兵士たちはビルほどの高さまで巻き上げられて、それから墜ちた。
 戦闘の轟音のなかで、水気を含んだぐしゃりという音が少尉の精神を削り取る。
「だが釣り出せた、避難民のところには行かせない……!」
 僚車が対戦車用の短距離ミサイルを斉射する。白い尾を曳いて飛翔したミサイルを巨人はサイドステップで躱し、脅威度が高いと判断したミサイル車両を続けざまの跳躍で踏み潰した。
 薄っぺらな鉄板になってしまった運転席と助手席を見て、少尉はあそこに座っていた部下たちの最期に顔を顰めた。
「くっ……怯むな、撃ち続け――」
 勇敢な軍人たちの戦いは、無情な一撃で終わりを迎えた。
 たった一機でも絶望を齎したセレナイトが更に二機現れ、盾を構えた突進で車列を蹴散らしたのである。
 ――共和国軍の車両が文字通りに蹴散らされ、兵士たちが空中高くで座席から投げ出されてゆく。
 この一撃で抵抗戦力は皆無となったに等しい。それでも騎士らは止まらない。
 盾を構えたまま、ただ急減速で機体に負荷を掛けるのを嫌ったというだけの理由でセレナイト隊が避難民の列に突っ込み、民間人をも巻き込んでいく。

 四季乃瑠璃/緋瑪の二人は、それぞれのジェミニオンにフィガロ・ウェスト製の多種多様な火器を満載して出撃した。
 第八騎士団の技量は個々がエース級である。ならば如何にふたりが対人戦に特化した"殺し屋"であっても敵の最も得意とする近接白兵戦では分が悪い。
 かといって生半可な火力では、セレナイトが誇る無敵の盾を貫くことも出来ない。
 で、あるならば。盾で守りきれぬ程の圧倒的大火力によるシンプルな制圧こそ最も迅速かつ確実に敵を殲滅しうる方策なのではないか、と二人は考えたのである。
 その理論は正しい。その戦術は確かにセレナイト部隊を撃滅せしむるだろう。そうでなければ四季乃の殺人姫たちであっても、血に酔った騎士たちに手痛い反撃を受けていたはずだ。
 けれど、二人はその判断を悔いた。火砲の保管されたコンテナを開封し、装備を吟味し、機体に積み込むその間に騎士たちは暴虐を働いたのだ。
 二人が遅かったわけではない。もしかしたら追加装備など選ばずにすぐさま出撃しても間に合わなかったかもしれない。これはそんな、言ってしまえば運命の噛み合わせが悪かった、そういう話だ。
 けれど、二人の眼前で
 セレナイトが逃げ惑う一般人の群れに突っ込み、大勢を蹴飛ばし踏み潰したのを、彼女らは見てしまった。
「っ……一般人も関係なし……絶対に許さない!」
「これ以上はやらせない。おまえ達はすべて殲滅してあげる」
 緋瑪も瑠璃も、激情のままにセレナイトを撃つ。
 攻撃は盾で弾かれるが、三体の騎士たちは新たな敵の出現に避難民の列から抜け出して武器を構える。
『共和国軍のカスを掃除するのに随分と損害を出してしまったからな。豚狩りもいいが、猟兵の首級を挙げて正騎士長にこの失態の埋め合わせをせねばならん』
『はっ、隊長……新型の方は如何しますか?』
『できれば鹵獲したかったところだが、欲張ってすべてを取り逃すわけにもいくまいよ。目の前の二機を倒して満足するとしよう』
 自分たちを倒したつもりで好き勝手に言い放つ騎士たちに、二人は同時に全火器兵装のトリガーを引いた。
 ミサイルが/ガトリングが/ライフルが/バズーカが
 徹甲弾が/榴弾が/ビームが/レーザーが
 ありとあらゆるキャバリア用火器が一気にその殺意を解き放ち、三体の騎士に降り注ぐ。
『リフレクター構え! 突破前進!』
 部隊長の命令を受け、冷静に盾を構えた騎士がゆっくりと歩みを進め、距離をじわりと詰め始めた。
「瑠璃、右側のヤツが鈍い。あれをまずやるよ」
「わかった、緋瑪。火線を集中させよう」
 だが敵が動き始めたことで、二人は三機のうち一機が他に比べて機動に精細を欠くことに気づいた。
 最後の抵抗を試みた少尉たちと交戦した最初の機体だ。あの無意味に思われた抵抗も、騎士を多少なりと消耗させることは出来ていたのだ。
 その綻びを突いたジェミニオンの集中砲火を受け、ついにパイロットの精神力が底を突いた。集中が乱れ、無敵の盾から聖性が喪われる。
『しま――ッ』
 まずは一機。撃ち尽くした追加兵装をすべてパージし元の身軽さを取り戻したジェミニオンがユーベルコードの輝きを放つ。
 弾倉に銃弾が補充される。射耗したミサイルが何処からともなく再装填される。焼け焦げたビームライフルの銃身が急速に冷却され、自身の熱量で罅割れ砕けたレーザーキャノンの照射レンズが元の輝きを取り戻す。
 それだけではない。擱座した戦車が、あるいは無謀な抵抗の中で果てた軽車両が排除された武器を取り込み、その在り方を騎士を屠るものに変えて蘇る。
「おまえ達がやったこと、全部そのまま返してあげる」
「殺した分だけ殺される覚悟、当然持ってるんだよね?」
「「さぁ、殺戮ショーを始めよう」」
 共和国軍の怨念が、殺人姫によって呼び起こされて騎士を襲った。
 絶え間ない大火力の投射。訓練された騎士であろうと、数分、いいや十分以上に渡って一秒たりとも集中を途切れさせることを許されないような制圧攻撃を受け続ければ耐えられるものではない。
 一機が砲火に呑まれ、最後まで抵抗した隊長機も軽車両を素体にしたタレットを斬り伏せ、しかし次の瞬間にはそれが再びカタチを取り戻したことに諦めとも称賛ともつかぬ吐息を残して炎に消えた。
 喪われたものは多く、それはもう戻らない。
 だが、ブイレストを襲撃した聖王国軍第八騎士団の分遣隊は猟兵の手で壊滅した。それだけは確たる成果と言えよう。
 あとは、身を守る力を持つ共和国東部最後の砦トゥリオン軍港までこの凄惨な戦いの生存者を送り届けるのみ――

大成功 🔵​🔵​🔵​




第2章 ボス戦 『アークレイズ・ディナ』

POW   :    孔壊処刑
【ドリルソードランス】が命中した対象に対し、高威力高命中の【防御を無視或いは破壊する掘削攻撃】を放つ。初撃を外すと次も当たらない。
SPD   :    ガンホリック
レベル×100km/hで飛翔しながら、自身の【デュアルアサルトライフルとテールアンカー】から【実体弾の速射とプラズマキャノン】を放つ。
WIZ   :    パワーオブザ・シール
命中した【テールアンカー又は両肩部のアンカークロー】の【刃】が【生命力やエネルギーを吸収し続けるスパイク】に変形し、対象に突き刺さって抜けなくなる。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠リジューム・レコーズです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。



 "元"リュテス第五民主共和国東部の都市、ガレルモン。聖王国第八騎士団によって徹底的な殲滅戦が展開された結果、人口が三分の一以下にまで減少しもはや廃都の如き様相を晒すこの都市に、この有様を齎した侵略者は共和国軍攻略の本拠を置いていた。
 急拵えの野営地は銃や剣で武装した従士――キャバリアパイロットではない諸兵科の人員を聖王国ではそう呼ぶ――が厳重に警備し、一見して友軍の姿をしていようとも幾重ものチェックをパスしなければその陣地を歩き回ることすら許されない。
 残虐とまで称される鏖の戦を得手とする第八騎士団なのだ。買った恨みは数しれず、仇討ちがために命を捨てて陣地に忍び込み銃なり爆弾なりで一矢報いようとした者たちが過去に掃いて捨てるほどに居た。
 その悉くを返り討ちにしてきた偏執的な警備体制を、その女はいとも簡単にすり抜ける。
 的確に従士たちの死角だけを音もなく歩み、闇から闇へ、時に投光器の眩い光にその姿を溶かして進む彼女は、機械じかけのセンサーすらもそんなものありはしないかの如く通過してみせた。
 そうしてたどり着いたのは第八騎士団総司令官、将軍位に等しい正騎士長の階級を戴く"燎原"フェリペ・サンドーサの機体の足元だ。
 休息すらも殆どの時間を愛機のコックピットで過ごす、常在戦場を絵に描いたような、あるいは戦場に魅入られ狂いきった男の名を呼べば、襤褸布の覆面で口元を覆い、偏光ゴーグルで視線を隠した件の騎士団長が忌々しそうに機体から這い出し女と同じ地面に立つ。
『東部の鎮圧は我々第八騎士団の管轄だったと記憶しているが』
『状況が変わりました。経済連合がトゥリオンの共和国残党に興味を示しています』
 覆面の男が異常な相貌であるならば、女もまた異様であった。
 まるで宇宙服めいた無機質なフルフェイスヘルメットで顔面を隠し、襟元から散らばる美しい銀の長髪や丸みを帯びて膨らんだ胸元に腰回りから女であることは分かるがそれ以外の身体的特徴を見いだせない――四肢のすべてが金属の義肢と交換された姿。
『ならばハルバリの艦隊に言えばいいだろうが。経済連合への牽制はヤツが買って出た仕事だろう』
 そんな女の異様な姿に嫌悪を隠そうともせず、フェリペが此処には居ない同僚――更に東の海の上で、金に飽かせた傭兵大艦隊を率い共和国海軍と彼らを支援する外国勢力に睨みを効かせている筈の異国から来た海賊提督の名を引き合いに出せば、女はつるりと硬質の頭を横に振った。
『ドゥルセ・ハルバリ閣下の艦隊を前にしても経済連合軍は介入を止めないでしょう。利益のために血を恐れない商人ども、彼らは本気です』
 なので、と女は苛立ちを纏うフェリペに本題を切り出す。この狂った男には一から十まで話して納得を得る必要はない。むしろ他の正騎士長――第二騎士団の"重盾"や第三騎士団の"大総督"でもなければこの狂人に真の意味で諒解の頷きをさせることなど出来まい。
『ですから私が経済連合軍の"目的"を破壊しに来たのです、第八騎士団長"燎原"フェリペ・サンドーサ閣下』
『気に入らんな。他人の管轄でコソコソと。……だが、いいだろう。我らもトゥリオン攻略の準備と不穏分子の掃討で忙しい。迷惑にならん程度なら見逃してやる』
 感謝します、と現れた時の逆回しのように女が音もなく消えれば、紫玉の異形が陣地の真上を飛び去ってゆく。
『……諜報統括、第五騎士団長"バルトアンデルス"……薄気味の悪い人形が。陰謀女など使える味方でなければ真っ先に首を火に焚べてやるものを』
 狂った騎士のつぶやきは、飛翔するキャバリアの駆動音に掻き消されて誰の耳にも届くことはない。



 ブイレストを脱出した難民たちは、軍のトラックやあるいは個人所有の大型車両、路線バスなどに分乗して出来る限り自動車の速度で、そして渋滞を作らぬよう車両の数は極限まで絞った上で真っ直ぐにトゥリオン軍港を目指していた。
 軍と共にトゥリオンに疎開した地元のラジオ局が、膠着状態に陥った戦局報道や義勇軍への志願を求めるプロパガンダ放送の合間に、ここならば共和国国防海軍の庇護を受けられるのだと陸軍の庇護を失いつつある東部一帯の住民たちに疎開を促している。
 ブイレスト駐留陸軍の戦力らしい戦力がほぼ壊滅した今、いかに懐かしく愛おしい郷土であろうと無防備な街に留まることを選ぶものは殆ど居なかった。
 まして攻め寄せたのが悪名高き鏖の第八騎士団なのだ。留まればそれだけで不穏分子の疑いを掛けられて処刑されかねないとなれば、よほど頑固で故郷で死ぬ覚悟を決めた者たち以外は皆逃避行に身を委ねていた。
 護衛戦力は猟兵と、ミストラルという新兵未満の二人のパイロットが操る新型複座キャバリア、そしてライフルやサブマシンガン、ピストルで武装した歩兵が数十名――キャバリアの襲撃を受ければ、実質的にマトモな戦力として数える事ができるのは猟兵だけになるだろう。
 それでも彼らは歩み続ける。守らねばならない存在の数に対して、守る側の数がどれほどに足りていなくても。
 襲い来るだろうモノの圧倒的な力に対して、守る側がどれだけ非力であろうとも、彼らの誇りはまだ折れていない。ならば、猟兵たちが勇敢な彼らに率先して矢面に立ち彼らの胸中に燃える炎を絶やさぬような戦いを見せるべきだろう。
 ――そうして小休止を挟みつつも、殆ど止まらずの行進を一昼夜。
 間もなくトゥリオン軍港の防空圏――彼らが戦力を一極集中して軍港を要塞化し、立て籠もる以前の話になるが――に近づいた時、それは現れた。
 明け方の空を切り裂く紫玉。巨槍を携えた姿は騎士のようで、数多の尾をなびかせ鴉のような羽を広げる姿は悪魔の如く。
 IFF応答、敵性。聖王国騎士団所属を現す赤色の光点としてレーダーに現れたそれは、プラズマキャノンを横薙ぎに放射して一行の進路を遮った。
『情報に無い機体が複数。私が情報を取り違えた? いや……首都での攪乱作戦時にも猟兵の関与という不確定要素があった。であればターゲット以外は猟兵か。敵性機体の脅威度を上方に修正しなければ』
 肩に描かれた『Ⅴ』の数字は、機体番号か、あるいは部隊章の類だろうか。聖王国の国籍マークすら持たないその機体は、猟兵達の機体を一通り睨みつけた後に後方にて難民護衛に徹するミストラルに狙いを定めたようであった。
『あれが例の新型機。破壊してしまえば経済連合介入支持派の大義名分は喪われ、第四騎士団による海上作戦行動の成功確度が上昇する……そのためにもあの機体はここで排除せねば』
『猟兵の戦闘力評価も並行して実施、あれらが共和国に与し、我々の脅威となり得る戦力ならば対共和国戦略の修正が必要になるでしょう』
 仮面の女は誰に聞かれるでもない独り言を呟き、操縦桿を握る十指に――文字通り、片手にそれぞれ十ずつの機械の指先だ――力を込めて機体を戦闘体勢に移行させる。
『記録開始。記録者、第五騎士団長"バルトアンデルス"――潜在的高脅威度目標の破壊作戦、ならびに猟兵の戦力評価を実施します』
ティー・アラベリア
おやおや、随分と禍々しい機体でございますね♪
どうやら優先目標はあの可愛らしい動きをするキャバリア、ミストラルであるご様子
量産型を召喚し、半数をボクの直掩、もう半数はミストラルの直掩として後方の護衛に充てましょう
ボクは敵の大物の相手に集中致しますので、後方に回した人形はどうぞご随意に盾としてお使いくださいませ☆

さて、敵の機体ですがあのアンカーは厄介ですね
ボクと量産機の92式と95式で敵の動きを制圧しつつ、迫ってくるアンカーは偃月杖で処理していきましょう
アンカーをある程度削った後、敵機に量産型を取りつかせ動きを止め、量産型には零距離で、ボクは量産型諸共吹き飛ばす出力で90式を斉射いたします☆


ルージュ・リュミエール
機体は送還したぜ
咄嗟の対応が難しくなるが機数欺けるしな

ブイレスト市脱出の際に工場からミストラルのマニュアルをパクってこれたら二人に渡しておくぜ
無理でも移動しながら機外にしがみ付いてハッチから覗き込んでアドバイスするぜ、もう少しマトモに動かせりゃ安全度が違うからな
まぁ敵が使ってたセレナイトならまだしも、今のキャバリアはよくわからんが

敵がミストラルに迫ったら、ソルフレアを招喚して立ち塞がるっ!
こいつらが狙いなんだろうが、そうはさせはしねぇよ!アタシを、この炎のソルフレアを倒してから進むんだな!
さぁ、お前の槍とアタシの剣、どちらが勝つか勝負だ!いくぞ!
必殺ぅ!バーニングエンド・スラッシャァァァァ!!


チル・スケイル
敵キャバリアを視認。直ちに交戦します
吉報をお待ち下さい

両脚には冷気放射杖、手には狙撃杖カシュパフィロを携え出撃
【氷術・翔竜】で魔力を引き出す
更に真の姿を併用!ここで力を出し切る!
この氷の体なら被弾は問題ない、ひび割れても氷の魔法で塞げる

避難民に対して並行になるように低空飛行し、敵と私、どちらの弾も避難民に向かわないようにする

狙撃杖なら、飛びながらでも狙い撃てる
とにかく両肩、撃って凍らせてワイヤー攻撃を妨害する
尾の攻撃は…シンプルに避ける
尾での攻撃は冒険者稼業でそれなりに見慣れているので
後は腰に当たる部分を狙うのみ
魔力をつぎ込めば、効くはず

何が来ようと殺戮などさせない
それが依頼…そうでなくとも!




 単騎で難民を追撃せしめた敵機体は如何にも高機動型という容貌であった。
 背部には四方に大きく広がる翼のような大型スラスター。これが齎す大推力でもって、それは瞬く間にレーダーの識別圏外から猟兵らの眼前に飛来したのだからその速力たるや尋常のものではないだろう。
 そして、その機体は文字通り"飛来"したのだ。殲禍炎剣によって事実上空を封鎖されたこの世界で、かの宇宙の魔剣の裁きを躱して、あるいはその目を掻い潜って。
 機体の速力だけではない。それを御するパイロットの超人的な技量と精神力、そして肉体的な強度。いずれも並々ならぬ強敵であると見えた。
 それが猟兵を二の次と、この場で唯一あの紫玉のキャバリアに対抗しうる戦力を無視してでもミストラルを狙っているということは、猟兵の目からも明らかであった。
 パイロットの二人は民間人だ。何かしらの機密を握っているような、敵国軍のエース級に狙われるような存在ではないように思える。
 で、あるならばやはり機体が特別なのか。兎にも角にも、みすみす目の前でミストラルを落とされるわけにはいかない。
「マニュアルにはとりあえず目を通したな? アタシらがお前らを守るつもりだが、最低限自分の身は自分で守んな。出来るよな?」
 ミストラルの背に乗り、解放されたコックピットハッチから覗き込んでいたルージュが身を翻して肩に上がる。
 ブイレストを脱出しての一昼夜、速成にも程がある臨時の教練を施した二人の教え子が頷き、ハッチが閉じられた。
 此処から先は戦闘機動で目まぐるしく状況が変化していく。危険も行軍の比ではない。コックピットを開けっ放しで親鳥の教えを求めるのが愚行であることを理解する程度には、クラウス達もキャバリア戦というものを理解し始めたようであった。
「マニュアルが拾えたのは僥倖ってやつだったな。最新型は電子制御だなんだってややこしくてよくわからん」
 自分たちの全盛期にも運用されていた旧式機――セレナイトくらいであればもっとしっかりと操縦を指導できただろうが、共和国の最新鋭機ともなればルージュの指導できる部分は戦場での判断基準だとか、心構えのようなものが殆どだ。機体制御やシステム面はマニュアルを読ませ、多少の専門用語を分かりやすく噛み砕いてやるくらいしかできなかった。
 心残りといえば心残りだ。未熟な教え子を戦場に放り出さねばならない。けれど、ルージュには彼らが無事に生き残るという予感があった。
「だから、下手でもいい。生き延びろよ」
 ――親心めいた優しい声音の呟きは、戦闘モードに移行したミストラルの喧しい駆動音に溶けてゆく。

「おやおや、随分と禍々しい機体でございますね♪ "聖"王国の機体にはとても見えません」
 ミストラルを狙う敵機に対し、四体の分身――人形である彼の自己認識に則るならば、量産型という表現が正しいか――を差し向けたティー。
 展開できた八体のうち半数をミストラル直掩に回し、残る半数で遅滞戦闘を展開する彼の少年人形は、確かに敵の進撃を食い止めることに成功した。
 一体一体が自己とほぼ同等の戦闘力を持つ、ともすれば戦闘行為に享楽を見出す己と異なり、淡々と任務に従事する分単純な戦闘能力だけならばわずかに優秀ですらあるかもしれない"兄弟"は、相互に魔導レーダーを連携させ超高機動で防空圏を突破せんとする敵機を捕捉し、魔導誘導弾の統制された連続射撃で追い込んでいた。
『高度の脅威と断定。ただし単体での戦闘性能は正騎士級の人員と専用機であれば対処可能、複製体の展開前に叩くことを推奨……』
 対する"バルトアンデルス"は操縦桿に絡む左右二十の鉄の指をさざめかせ、コンマ秒以下の繊細な操作で誘導弾の網をすり抜けるような機動を描く。
「まるで人間業ではありませんねぇ。パイロットはどちらかというとボクらの同類でしょうか? それはそれは、そうだったならとっても楽しくなりそうです♪」
 クスクスと笑って執拗に射撃する人形の群れ。
 派手に輝く魔導誘導弾は、もちろんそれ自体が必殺の攻撃であるが同時に目くらましでもあった。わかりやすい脅威を演出することで、避難民が退避するまで敵の攻撃を封じ、そして次の一手を覆い隠すための。
「エース機だろうと、何が来ようと殺戮などさせない。それが依頼……」
 魔弾の光に紛れるように飛び散るダイヤモンドダスト。両の脚に帯びた杖から極低温の靄を噴き出し飛翔する白竜は、魔弾に紛れて敵機に肉薄するなりその凍気を爆発させた。
「そうでなくとも、彼らは私が守ります!」
 背後にぴたりと張り付き飛来する魔弾を小刻みな旋回で躱した敵機の眼前、突如として現れた蒼氷の巨竜。誰もが息を呑むその姿を、"バルトアンデルス"だけは冷めた目でちらと睥睨するなりその正体を看破する。
 なんのことはない、エネルギー総量こそ多けれど幻影の類、飛び込んできた白竜――チルの宿した膨大な魔力が竜のカタチを取った、あるいはその逆、竜のカタチの魔力をチルがその身に取り込んでいる、というだけ。物理的に脅威となるはたった一体のちっぽけな竜人に過ぎぬ。
『人と変わらない身の丈でそれほどの出力、確かに脅威ではありますが』
 無数に蠢くワイヤーアンカーが一斉に放たれた。後方、追撃する少年人形の群れに飛翔したそれらは、四体の複製のうち三つを貫くと魔力を強引にエネルギーへと転換して吸い上げる。
 まさしく糸の切れた人形のように力を失い墜ちる量産型。一方で偶々本体の側に展開していた一体は、ティーの振るう偃月杖の一振りで弾き返され無事に生き延びる。が、ティーの誇る圧倒的な弾幕はもはや先程の二割にまで損なわれたと言っていい。
「あら、厄介なアンカーですね☆」
 その殺傷圏内から飛び退り、同胞が打倒されたことを意にも介さないように笑う少年。一方のチルもまた、その凶暴な錨に襲われていた。
 流石にまずいとミストラルの護衛待機からすかさず前衛の援護に入ったティーの量産型が初手でほぼ全滅するなり、彼らの犠牲でもってアンカーの機動特性を予測したチルの応射する氷の弾丸がいくつものアンカーを撃ち落とし、基部を凍りつかせて展開速度を鈍らせる。だが人外の精鋭騎士はすぐさまその不調に最適化して機体を立て直し、猛然とチルを攻め立てるのだ。
 ティーやその量産型は攻撃力こそ過剰だが耐久性や回避性能はさほどではない。であるならば進路を塞ぐ厄介な敵であるチルからまずは仕留める。そういう思考が透けて見える。
 さしものチルもエースパイロットの駆る強力な機体が全力を傾けてくるのであれば、無傷とはいかない。白い肌をアンカーが掠め、竜鱗に鎧われた肉が"砕けた"。
 砕けた――チルの肉体は既に肉ではない。芯まで凍てつき、置き換わった氷の身体であった。そして氷であるならば、
「多少の被弾は問題ない。この程度ならば……塞げる!」
 しゅうしゅうと冷気を帯び、空気中の水分が新たな氷となって傷を塞いでいく。頭や胴体をやられなければ再生能力が追いつく限りはダメージを受けず、突き刺さる前にたやすく砕ける氷だからこそアンカーに魔力を吸われることもない。
 それを二、三度の交差で理解した敵機は、数による刺突から質による打撃へと切り替え攻める。
 大型のテールアンカーの薙ぎ払い。なるほど無限に再生する氷であるならば、たった一度の衝撃で砕いてしまえばいい。
 理に適っていて、しかしチルにとって柔軟に撓る竜尾など見慣れ、見飽きたもの。
「これならば見切れる。なら、ここで全力を出し切る……ッ!」
 多少奇抜な動きをしようと、それが一本ならば十全に対処できる。
 振り抜かれたテールアンカーを紙一重でくるりと躱して狙撃杖からの氷弾。可視化するほどの強大な魔力を注ぎ込まれたそれが、厄介なアンカーの基部を完全に凍結させる。
 全魔力と引き換えに得た、敵の大きな隙。近づくを許さぬ強烈な殺し間が停止し、そこへ満を持してかつての英雄が飛び込んだ。
 ミストラルが避難民と逆方向に機動し、猟兵の主力とともに迎撃体勢を取ろうとする間、その僅かな時間を稼ぐためにルージュもまた、戦場に身を投じたのだ。
「おかげであの鬱陶しい触手も黙ったみたいだな。ありがたい」
 凍結したアンカーの基部が、がちんがちんと歯を噛み鳴らすように震える。が、その殺意は紫玉の機体に戒められたまま放たれることはない。
「この先に行きたきゃアタシを、この炎のソルフレアを倒して進むんだな!」
 焔の剣が揺らめき、対する敵機は巨槍を担ぐ。
 火花を散らして転回する鋭利な杭が突き刺されば、如何に古の英雄が誇る伝説の機体とて無事では済むまい。
「おもしれぇ。お前の槍とアタシの剣、どちらが勝つか勝負だ! ――いくぞ!」
『ライブラリ該当、サイキックキャバリア"ソルフレア"……旧式機ですか、記録上の戦果こそ優秀であれ――』
 剣と槍がぶつかり合い、幾合もの激突を重ねて両者一歩も退かず。
 ルージュは英雄としての経験と技量で。
 "バルトアンデルス"は人外の技巧と機体性能で。
 双方の力量は拮抗し、故にその均衡が崩れるのは横合いからの一撃であった。
「ああっ、いけませんいけません♪ 戦場で殺しきれていない相手から目を離すだなんて、それはとても危険でございます☆」
 ティーの笑顔が、敵機の眼前に飛び込んだ。否、これは"量産型"だ。
 暴発寸前の魔力を湛えた魔杖を抱え、敵機を包容する最後の一体となった量産型。
 その魔力をマーカーに、本来であれば友軍誤射を鑑みありえないほどの遠距離から本体の爆撃が放たれる。
 自己の分身をすら犠牲とする超アウトレンジ爆撃が、そしてタイミングを合わせた量産型ティーの自爆めいたゼロレンジ砲撃が"バルトアンデルス"の視界を真っ白に灼き機体を激しく揺さぶった。
「どうせお前はすぐに持ち直すんだろうが、それだけあれば十分だ」
 まだ爆破の余波が消えきらぬ爆心地に、ソルフレアが力強く踏み込む。
「必殺ぅ――! バーニングエンド! スラッシャァァァァ!!」
 劫火が薙ぎ、紫玉のキャバリアを焔が包む。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

四季乃・瑠璃
緋瑪「油断できない相手だね、瑠璃」
瑠璃「でもこれ以上は許さない。全力で仕留めるよ」

UCでジェミニオンを空戦形態へ換装し、二機で連携攻撃。
緋瑪機が装備したミサイルポッドとライフルの一斉斉射。
敵がそれを回避または迎撃で対処行動を行う隙を突き、瑠璃がフェザービットを展開し、緋瑪の攻撃を囮に全周囲から敵機のスラスターやウイング、アンカー基部やライフルを攻撃して機動力と攻撃力を奪い敵機へダメージ。

更に敵がビットの対処を行うところで緋瑪が超音速で吶喊。
機動力を奪った敵機を大鎌で掬いあげる様に跳ね上げ、瑠璃がライフルの連射で狙撃。
空中の敵機を瑠璃機と緋瑪機で交互または同時に連続で攻撃を仕掛け、仕留めるよ!


ダビング・レコーズ
ディナを確認
ミストラルを狙っている?ブイレスト方面の王国軍の戦略目標はミストラルだったのか?あの機体に何がある?

いずれにせよ難民から引き離さなければ
ミストラルも難民集団から離れ友軍との連携を
ガンホリック起動
ベルリオーズとイグゼクターで牽制射撃を行う
注意を引いたと同時にソリッドステート形態で急速後退
難民集団より十分な距離を確保してからキャバリア形態となり本格攻勢開始
この時点でメテオリーテを全弾放出しスレイプニルをパージ
ミサイルの飽和攻撃で瞬間火力を集中させる
相対距離はドリルランスの射程に入らない中距離以上を維持
高速回避運動とEMフィールドによる損傷減衰で最終的に射撃戦の応酬での勝利を目的とする




 その身を焦がす炎を振り払うように加速して、黒く煤けたそれは第一の防衛線を突破する。
 生き残った国防軍の誘導で難民がトゥリオン方面に逃げるならば、ミストラルはそれに追随するべきではない。
 敵の狙いがミストラルであるならば、彼らを難民とともに行かせれば要らぬ犠牲者が出てしまうだろうから。
 ダビングの冷静な、だからこそ冷酷な判断に対して、クラウスは緊張の面持ちで頷き、後席のエミリも不安を隠せぬまま是と答えた。
 民間人だ。彼らとて、難民と何も変わらない。ただ生き延びたい一心でキャバリアに乗り込んだ民間人なのだ。不運にもそのキャバリアこそが敵の狙いであったのが、彼らの運命を決定したのだろう。
「あのディナ、やはり明確にミストラルを狙っている……?」
 避難する難民は、それに付き沿う国防軍はもはや戦力として壊滅状態。敢えてそれを殲滅する意味は薄い。だから敵がそちらを追撃しないという判断は理解できるし、戦術的にも妥当である。
 が、猟兵の迎撃を強行突破してまで単騎で戦闘継続を試みるのは明らかに異常行動である。確かに強力なエースであることは疑いようもない事実だが、その機動の端々から感じ取れる冷静さは彼我の戦力差を見失い、質で同等、数で不利な集団に単騎突撃を掛けることを良しとする類には見えぬ。
 何よりブイレストを襲撃したセレナイトタイプはミストラルに対し、獣じみた判断で防衛線の穴と見て突き崩すような、見慣れぬ新型をあわよくば鹵獲してやろうというような戦闘レベルの判断に基づく執着を見せていたようだが、このアークレイズ・ディナ――ダビングの乗機と姉妹機の関係にある機体のそれは、もっとはっきりと、理性と知性に基づく戦術、戦略的判断によってミストラルへの執着を持っているように見えた。
「ブイレスト方面の王国軍の戦略目標がミストラルだった……と断定するには状況が不自然だ。あの機体に何かがあるのか?」
 例えば、共和国国防軍の起死回生に繋がる新兵器だとか。
 いや、そんなモノを積んでいれば追撃がディナ一機というのはありえない。確かにディナは並ぶことのない快速機だが、敵も軍集団である以上あれと連携を取りうる機体を保有し、配備しているはずだ。それが動いていないということは――
 そこまで思考したダビングはアークレイズを真横に大きく跳躍させる。
 敵機左腕のデュアルライフル、二つの銃身が交互に火を噴き徹甲弾をばら撒いたのだ。
 薙ぎ払うように飛来した砲弾を容易く回避したアークレイズに対し、ミストラルはブイレスト撤退の折に誰かが拝借してきたキャバリア用のシールドを構えての回避機動。
 未熟な練度では全弾回避は困難だが、頑強なシールドが致命的な箇所への被弾だけは防いでくれる。
「そのまま防御と回避に集中を。攻撃は我々に任せて無理な攻めは行わないよう」
「り、了解っ! エミリ、レーダーから目を離さないでくれ! あいつ、目で追いきれない……!」
「わかった――右、回り込まれる! 盾構えて!」
 同型のデュアルライフルとリニアライフル、両腕の二丁銃で応射しながらダビングが告げれば、聞き分けのいい新米パイロットたちは守りを固めつつ敵機から付かず離れずの距離を維持して囮役に徹してくれる――囮としての認識を彼ら自身が持ち合わせているかはさておき。
『敵機識別、アークレイズ・ディナの同型機……? いや、あれが"オリジナル"ですか。ならば出来る限り情報を持ち帰らせてもらいます』
 あくまで狙いはミストラルだが、興味のいくらかを惹けたという手応え。ミストラルが重要な戦術目標であることは変わらずとも、脅威にはならぬという判断からそちらへは逃げを封じる牽制程度まで圧力が減じたのを見てとったダビングは、アークレイズを戦闘機形態に変形させ一気に距離を取る。
 超低空の飛翔によって彼我の距離を開き、わずかに一瞬生じた双方のライフルが届かぬ間合いへ逃れる。さらに変形、人型を取り戻したアークレイズがミサイルを斉射。
 先の交戦から、そして自身が持つ同型姉妹機のスペック情報から牽制以上のものにならぬと承知の上でのそれは、どちらかといえば強力な敵機とのドッグファイトを見越し、有効打たりえないデッドウェイトを切り離す意味合いが強い。パージされたミサイルコンテナが地に沈み、白い尾を曳いて無数の誘導弾がディナを追う。
『機動砲撃戦に特化した武装構成ですね。中距離以遠を維持されれば流石に厳しい相手ですか。或いはこちらも正騎士級のパイロットと砲撃戦重視の機体であれば対抗出来たでしょうが』
「ディナが相手であれば、ドリルランスの届かない中距離以上での射撃戦で圧倒できる――ならば近寄らせないことを第一とすればいい」
 飛来するミサイルをデュアルライフルの掃射で迎え撃ち、殲禍炎剣の傘の下を巧みに舞い逃れるディナ。彼女の機動はダビングの予想通りミサイル攻撃を無力化せしめたが、同時にこのエリア一帯における殲禍炎剣の感知能力を浮き彫りにする。
 つまり制限高度も速度の限界も暴かれ、空が拓かれた。
「あれだけのミサイルを全部無力化しちゃった。油断できない相手だね、瑠璃」
「でもこれ以上は許さない。逃げられないように全力で仕留めるよ、緋瑪」
 アークレイズの放った第一波ミサイル攻撃が描いた爆発の渦、それを突き抜け第二波が飛来する。放ったのは青と赤、二機のキャバリア。
 鏡写しのようにシンクロする動きでディナの、"バルトアンデルス"の拓いた安全な空を駆ける一対のジェミニオンが射出したミサイルは、正逆の方向から同時に襲いかかることでディナの迎撃能力に負荷を強いる。
 機体を旋回させながらの掃射で被弾をこそ逃れるが、そのために脚を止めたならばそれは半ば的である。
 緋瑪と瑠璃は互いの顔を見ることもなく同時に頷き合い、緋瑪の機体がそのまま近接砲撃戦を敢行すれば、離脱した瑠璃機に代わって白のアークレイズが連携に加わった。
「流石にそちらのパートナーほど上手く連携は出来ないでしょうが」
「ううん、手数があって困ることはないしね。互いに利用し合えばいいじゃない?」
 赤と白の閃光が、紫を囲むように飛翔して銃撃を浴びせかける。
 連携と言うには些か荒っぽい、緋瑪の強攻をダビングが補助するような攻撃だが、それも"バルトアンデルス"操るアークレイズ・ディナにダメージを徹すにはちょうどよい。
 完全な連携を見せれば、却ってそれを読んで対処してくるのがこのパイロットの恐ろしさだと、そんな予感を猟兵たちが抱くには十分なほどこの第五騎士団の長は卓越した機体制御、回避能力を見せたのだから。
 いびつな連携攻撃は彼女の予想外からの一撃を齎し、それに対処するため仮面の女騎士が思考のリソースを二機のために割く。そうだ、それこそが殺人姫たちの狙いだ。
「瑠璃!」
「わかってるよ、緋瑪」
 一足先に離脱したはずの青のジェミニオンが放ったビット兵器が、"バルトアンデルス"の意識の外から飽和攻撃を仕掛けたのだ。
『三機目、ここで仕掛けてきますか』
 すべてを躱すことができないと見るや、"バルトアンデルス"は極めて冷静に機体を捻り失っても良い部分を切り捨てるかのごとくレーザーの照射を受け入れる。
 装甲が赤熱し、膨張した機構が破裂する。沸騰した循環液が弾け、小規模な爆発とともに姿勢を崩したアークレイズ・ディナが墜ち――ダビングは気づく。その先、ミストラルとディナの間に致死の射線が開いてしまうと。
「まさか…………!」
 ミストラル一機のためにそこまでするとは思えないが、墜落覚悟で致命の一射を放つ為に敢えて墜ちゆく可能性を捨てきれるほど素直な敵ではない。
 アークレイズを急降下させ、射線に割り込んだダビングが感じる衝撃。防御用のエネルギーフィールドを貫徹した砲弾がアークレイズの装甲を抉って弾き飛ばしたのだ。
 やはり、という思いとともに、今の一撃を無理矢理に防いだ負荷でアークレイズはすぐさまの反撃を行うことが出来ない。
「ダビングさん!?」
「退避を! ――こちらは構わず退避を!!」
 狼狽えるミストラルに逃げるよう強く言い含め、来るかもしれぬ追撃に可能な限りの防御姿勢を取るアークレイズ。
 だが、むざむざと同胞僚友を襲う追撃を殺人姫たちが許そうはずもない。
「あの状況で反撃するなんて、単純に強くて厄介な的だね、瑠璃」
「そうだね、だから生かして逃がすわけにはいかないよ、緋瑪」
 墜落寸前で生きたスラスターを最大噴射、姿勢を強引に立て直しデュアルライフルをダビング機に向ける敵機の懐に、赤のジェミニオンが飛び込んだ。
 そのまま大鎌で掬い上げるような一撃。胸部装甲を大きく削り、凹ませ、火花と同時にディナを弾き飛ばす。
 そうして空に送り返されたディナ。姿勢制御を試みるが、それすら許すまいと瑠璃のジェミニオンからの射撃が追い打ちを掛ける。
『……強力ですね。所詮は有力な個人戦力の集まり、軍集団としては第一騎士団以下の烏合と思っていましたが』
 あちこちの装甲を穿たれたディナが仕切り直しを求めるように後退する。
『――猟兵、想定以上に厄介な戦力だと認識を改める必要がありそうです』

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

イザベラ・ラブレス
どうやら追手はミストラル目当てらしいわね。そして私達猟兵は二の次、と。随分嘗められたものね。
『主よ、あれからは強者の臭いがする。それも特上だ』
強者故の驕りって事?益々気に入らないわ。
兎に角、難民護衛中のミストラルに近づかれる前に無力化しないとね。
ジョージ、力を借りるわよ。

まずは挨拶代わりの弾幕戦、170mm砲と30mm機関砲の一斉発射で注意を引く。
敵のアンカーが射出されたら敢えて受けて指定UCを発動しマイティー・バリーごと魔獣で覆い、怪力で密着するまで引き寄せる。

さらに機体に牙を食い込ませて生命力吸収の相殺を図り、30mm機関砲の零距離射撃で戦闘力を削ぐためにアンカーごと部位破壊を狙うわ!


赤城・晶
M、アドリブ、連携OK

青い坊や!戦列から離れて回避行動だ!回避に専念しろ!
軍人!できる限り全速で難民と一緒にここから離れろ!
巻き添えをくうぞ!

ウィリアム、ミラージュ装甲展開【迷彩】、レーダー【索敵】、【ジャミング】をフルパワー。識別認識を妨害し、幻影を展開。幻影は青い坊やの機体、今までのデータから青い坊やがしそうな行動パターンで動かせ。
効いてない可能性が高いがな。
予想外の行動、攻撃がこようが常に集中しろ。あれはそんな奴だ

ハガラズで【弾幕】をはりつつ様子見。相手の行動パターンを理解し、ビームライフルで予測攻撃。
腕1本でダメージ与えれる時があるなら喜んでくれてやるさ。後はご同輩に任せるぜ




 損傷した敵機が再び猟兵と相見える頃には、装甲が砕け推進機のいくらかが停止したことで著しく損なわれたバランスに最適化された操縦を"バルトアンデルス"はやってのけた。
 一時離脱から再度の交戦までわずかに数十秒。たったそれだけで、ダメージが齎す後遺症を最小限に抑えてのけたのがこの仮面のパイロットなのだ。
 そうして構えられたデュアルライフルが交互にマズルフラッシュを瞬かせれば、ミストラルが構えたシールドがとうとう限界を迎えて歪み、砲弾に引きずられるように引き千切られる。盾として補強、整形されていようがただの金属板。セレナイトのリフレクターのような異能の護りも無ければ、角度を付けて砲弾を弾くようなパイロットの技量も望むべくもない。であればむしろ長く保った方か。
「坊や、盾に拘るな! そいつは捨てて回避に専念しろ!」
 晶の指示で弾かれるように盾を放り出し、多少は"見れるようになった"動きで左右に機体を振って銃撃から逃れるミストラル。
 パイロットがキャバリアという兵器に多少慣れてきたこと、あとはブイレスト脱出からの一日で操縦の指導を受けたおかげで新型機という看板に偽りなしの軽快な機動性を発揮したそれは、辛うじてではあるが敵機からの攻撃を回避できている。
 ――いや、回避させているのだろう。ミストラルの限界を探るような、手加減めいた思惑を感じることに不快を示しながら、傭兵は長らく連れあった相棒にいつもどおりの戦術を告げる。
「ウィリアム、ミラージュ装甲展開。――あれの動き、どうにもキナくさい。ECM、ECCM全開。ありったけのジャミングで幻影を見せてやれ。見破ってきそうな気もするが、やらないよりマシだろ」
 諒解の意を示すAIが機体のステルス装備を応用し、電子、光学あらゆる観測手段に対して欺瞞情報を叩き込む。
 すなわちミストラルの鏡像の複数展開だ。それも個々がAIの学習したクラウス/エミリの操縦のクセを模倣して同時に別個の回避機動を取る、極めて強力なデコイである。
 先んじて告げた回避専念の指示は、不用意な反撃で本物を見抜かれるリスクを減じるため――とはいえ、敵の目的が情報収集であるという読みが正解ならばあの機体もそれなりに強力な電子戦能力を持つ可能性が高い。こちらの偽装が何秒保つか、或いはそもそも通用するのかは賭けに等しい。
「私達は二の次、と。……随分嘗められたものね」
 だからこそ、横合いからの圧倒的弾幕が稼いだ追加の数秒は大きい。
 マイティ・バリー。イザベラ操る重砲戦キャバリアが放った腕部の巨砲の斉射は、そして胸部大型機関砲の掃射はディナをして回避に徹するを強いるほどの密度でもって空を覆い隠す。
『カスタムタイプの砲戦型……原型は民生用機ですか。作業機械にこうも武装を施して破綻しないとは』
 優秀な技師が改装したのだろう。尤も所詮は民間機、火力と装甲以外に見るべきところはなく、つまりは面倒なだけで脅威たる相手ではないとつまらなそうにイザベラを無視する"バルトアンデルス"へと、今度はヴェルデフッドの攻撃が襲いかかった。
「援護する、奴の回避パターンを見極めるまで足止め頼めるか?」
「お安い御用よ。嘗めた態度のツケは払ってもらいましょう」
 奇しくも両者ガトリングガンを用いての防空戦。"バルトアンデルス"操るアークレイズ・ディナ一機を撃ち落とすべく、マイティ・バリーとヴェルデフッド、二機のキャバリアからの猛烈な弾幕が空を曳光弾の色で塗りつぶす。
『どちらも強力な敵機ですね。第八騎士団の分遣隊が壊滅したのも、これならば納得できます。が――』
 凄まじい機動である。猟兵たる二人をしてそう言わざるを得ない、人外の魔技であった。
 晶が展開したミストラルの幻影のように実体が存在しないわけではない。その筈なのに、圧倒的質量を以て圧殺せんとする弾幕をすり抜けるように飛翔する紫玉のクロムキャバリア。
『対空砲陣地に毛が生えた程度。私とこの機体には通用しません』
 そうして回避機動の合間に放たれた銃撃が幻影のミストラルを一機ずつ貫き、損傷を与えず透過した砲弾がその実体をあぶり出す。
「やっぱ効かねえか……! バケモンみたいな動きをしやがって! ウィリアム、奴の行動を予測できると思うな! 動き始めてから対応できるよう常に集中しろ、あれは"そういう奴"だ!」
 傭兵として転戦していればそういう怪物と遭遇することもままある。予想や予測といった事前の準備を嘲笑うかのように、技量だけでこちらを圧倒する怪物。
 それに対応するならば、やはり怪物をぶつける他にないのだ。
 そして、晶は怪物ではなく狩人に過ぎない。獣を狩ることは出来ても、人外のバケモノを屠るモノに至るにはあまりにも人間すぎるのだ。
 故に。
「ジョージ! 力を貸しなさい!」
 一歩一歩が沈み込むような重い機体を跳ねるように前進させた彼女、その思惑を通す為に青年も覚悟を決める。
「――構わんが、主よ。あれからは強者の臭いがする。それも特上だ」
 己の力でも勝利の確約は出来ぬ。コックピットに滲み出た黒い狼頭がせせら笑う。それをだからどうした、知ったことかと押しのけてイザベラはフットペダルを蹴飛ばし操縦桿を押し込んだ。
「頭の上で超然ぶって奢っているやつに思いっきり噛み付いてやるのよ。あなたもそういうの好きでしょう?」
 ガトリングの残弾が尽き、赤熱した砲身がからからと空転する。胸部の機関砲はもう走行しながら仰角を取れぬ距離まで近づいている。
 そこからの思いっきりの跳躍。逆関節が悲鳴をあげて、いくぶんか軽くなったとはいえ超重量の機体を跳ね上げる。
 デュアルライフルの迎撃は装甲で弾き返す。弾き返せる。センサーのいくらかが不運な直撃弾で潰れ、視界の何割かが閉ざされるが構わない。ライフルで止まらぬと判断したアークレイズ・ディナが肩部のアンカーワイヤーを連続射出し、マイティ・バリーを貫き地に落とす――これこそがイザベラの、彼女に憑く魔獣ジョージの狙い。
 コックピットの狼頭が機体に沈み、鋼鉄の鰐が黒い毛皮に塗りつぶされてゆく。
 突き刺さったアンカーを、口ならぬ箇所に生えた牙ががちりと噛み締めた。
「そうら、これでもう逃げられまいよ!」
 アンカーで戒められたのはイザベラだが、しかし有線で結ばれている以上"バルトアンデルス"もまた自由を失った。
 それを嗤い、魔獣はアークレイズ・ディナを手繰り寄せる。互いに必殺の間合い。魔獣は腕の先端に生やした顎門で殴りつけるように敵機の肩部へ喰らいつき、魔人は鋭くのたうつ尾で獣の頭蓋を串刺しにせんとする。
「……させるかよ!」
 その殺気を読み取って、後の先だけは譲らぬと放たれた閃光。晶の、ヴェルデフッドのライフルが放ったビームがテールアンカーを反らしてマイティ・バリーの窮地を救う。
 反撃のデュアルライフル掃射を受けてヴェルデフッドのライフルとマニピュレーターが弾け飛ぶ。噛み合いで殺しきれぬと判断した魔獣が噛み付いた肩を引きちぎり、ざわめくように地金を晒した胸部機銃から弾丸をこれでもかと浴びせれば、突き刺さったアンカーは基部ごと機体から切り離され、致命傷を負う前にアークレイズ・ディナは空へと退避した。
 ダメージは与えた。だが、痛み分けだ。
 ヴェルデフッドは武器を扱う五指を失い、マイティ・バリーは残弾残りわずか。展開した幻影は時間こそ稼げども、既に見破られたと認識するべきだ。――それでも。
「後は任せるぜ、ご同輩!」
 猟兵達には、まだ戦う力を残した仲間が居るのだ。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

鮫島・桐生
……どうも、別の思惑の気配がするもんだな。

物量と速度でなんとかしてこようものなら、
こっちにも手があるさ。
【オーバーブースト・マキシマイザー】、条件を同じにしようか。

【クイックドロウ】と【早業】での速射はまぁ同じだが、
俺はあくまで丁寧に『破滅』させるだけだ。……悪魔だからな。

まず、【威嚇射撃】で挨拶はさせて貰う。
『俺達』を放置する程の馬鹿じゃないだろうしな。
そして相手を少しずつ【体勢を崩す】ように、
要所要所を【スナイパー】で無駄弾なくきっちり仕留めてやる。

……何、そっちがこちらの土俵に来てくれたから
俺なりに敬意を払ったまでさ。
ただ狂気に浮かされて撃つような弾道は、契約しがいも無いが。

※アドリブ可


ルイン・トゥーガン
アドリブ歓迎

チッ、難民の護衛なんて七面倒臭いことをやらにゃいかんとはねぇ
なんだってアタシは貧乏籤ばかり引くんだい!
……こんな敗戦濃厚な末期だと、古巣だったら市民の避難を許さず、都市部で生物兵器使用して疫病潜伏させた上で占拠させたし、それをまたやらされるよりはマシか

1機だけ?
この感じ、騎士というより同類に近いねぇ
敵の狙いはド素人かい、あの二人余程運がないね
くっ、難民が邪魔だ!こう護衛対象への射線遮る為に機動を制限されちゃマリーネの性能を活かせないねぇ!?
直撃寸前に機体をずらしてアンカーをリアクティブアーマーで受けて被害を最小にしつつ左手でアンカー掴んで逃がさいようにして一斉射をお見舞いするよ!




「新兵の護衛をしながら手負いのエース機の相手だなんて七面倒臭いことをやらにゃいかんとはねぇ!」
 なんだってアタシばかり貧乏籤を引くのか、という悪態を吐き捨てて、しかし状況はいくらかマシだとルインは思い直す。
 新型機の正パイロットは早々におっ死に、駐留軍は残り滓のような戦力で都市防衛に奮戦して殆ど壊滅。素人同然のパイロットでどうにか歩かせることが出来た新型を囮に、正規軍が防衛線を維持できているらしい軍港まで撤退戦。考えれば考えるほどに状況は最悪だが、しかしこれはドン底ではない。
 彼女の知る最悪は、軍が軍としての誇りを捨て"戦う力を持ったヒトの集団"にまで堕ちた時に始まる。
 ここまで悪い状況でそうなっていないのならば、共和国軍人たちは思った以上に理性的なのか、あるいは平和ボケしきった無能かのどちらかだ。
「願わくば前者であってほしいものだねェ……!」
 地表を滑るように駆ける海兵仕様のアマランサス。その銃口が、射撃用センサーがアークレイズ・ディナを捉える度に強力なジャミングと気味の悪い瞬間的高機動でそれはロックを解除してくる。とてもじゃないが腰を据えて狙撃などやっていられる相手ではなかった。
「また逃げやがる! この感じ、騎士というより同類に近いね……ッ!」
 終わりの見えないドッグファイト。あの狂犬じみた第八騎士団ですら一応の騎士らしさ、逃げるを良しとしない精神性を持っていた筈だがこの機体は平然と逃げ、隙を伺い、それを見出したならば冷酷に突き崩してくる手合いだとルインは理解していた。
 同族だから、だろう。あのアークレイズ・ディナを駆るパイロットは、特殊部隊かそれに類する集団の所属――もしくはそういう教練を受けた人間だ。加えて種族的な意味でも、純正の人間ではありえないだろう。反応速度といい、それを機体制御に反映する速度といい、熟練や天才という人間の範疇での優秀さとは一線を画している。アンサーヒューマンか、レプリカントか、あるいは祖先に異世界から流れ着いたウォーマシンなりの血族が居るか、自身がそれそのものか。兎にも角にも純正の人間ではない特殊部隊経験者がこうも厄介であることを、ルインは自身の身をもって証明し理解している。
 それが素人に毛が生えた程度の二人を狙っているのだ。
「アタシも相当だけど、あの二人も余程運がないね……!」
 複座機というのが負担をうまい具合に分散しているのだろう。幼馴染だという二人の連携も悪くない。回避に専念し、多少の被弾はありながらも撃破されずにミストラルが逃げおおせているのは良いことだが、エース相手でそれがいつまで保つか。 
「いい加減こっちを向きな……!」
 苛立ち混じりの射撃を振り返ることすらせずに回避。敵機は紛れもなく怪物であるとルインは確信する。だからどうした、討つべき敵であることに変わりはない。
「……うまい具合に追い込んでくれたな」
「あん?」
 連射。ルインではない銃声。シールドを構え、ライフルを掲げ、正確無比な射撃を繰り出しながらルインのアマランサスと協調する黒いキャバリア。
 魔弾の悪魔たる桐生の放った弾丸は、やはり回避されたものの執拗なミストラルへの攻撃を中断させるには十分。
「どうも、ブイレストを襲った連中とは別の思惑の気配がするもんだな」
 その直感は正しい。数字が違えば指揮官の個性に合わせて構成員の毛色どころか担う任務の性質までガラリと変わる聖王国騎士団の、彼が先に交戦したのは殲滅戦特化の第八騎士団。対して今相対するのは諜報・工作特化の第五騎士団、その長なのだ。
 陰謀のために暗躍する騎士ならぬ騎士団のトップを相手にその存在を示した悪魔は、続けざまに射撃を叩き込む。
 ルインの一撃を回避しようとすれば、先んじてそのルートを封じる一射を。
 魔弾の悪魔の権能を用いたそれすらも数発に一発が通用すれば良いと感じられるほど回避されるが、全く通じていないわけではないことに桐生は手応えを感じて微かに唇の端を持ち上げる。
「それに『俺たち』を放置するような馬鹿じゃない。倒してからでないと安心してあいつらを狩れないってことくらいは理解しているよな」
 降り注ぐ応射をシールドで防ぎ、一瞬の隙を伺って反撃。射撃戦の間合いでやりあってくれるならば、悪魔にとって勝ちは遠くとも負けはない。
「ただ狂気に浮かされて撃つような弾道なら、契約しがいもないが」
 アマランサスが放ったビームを回避したディナへ、銃口がぴたりと添えられる。
「理性に拠って同じ土俵に上がってくれたなら俺なりに敬意は払うさ」
 発砲。弾丸がディナのスラスターを穿つ。回避機動に乱れ。そこへルインが飛び込んだ。
「負け戦っていやぁ負け戦だけどね、市民諸共玉砕しろなんて狂っちゃいないこの国はまだマシなんだ」
 それを――
「そいつらの希望なんだろう、あのド素人達の機体はさ! だったらやらせやしないよ!」
 迎え撃つように射出されたテールアンカーがアマランサスを叩き、爆発が機体を包む――否。抉られたのは自ら爆発し、撓る尾を弾き返した反応装甲だけだ。
 そうして勢いを失った尾をむんずと掴み、地に堕とすべくアマランサスが力いっぱい引き倒す。高出力型同士の競り合いは腕部に異常な負荷を強い、アラートが鳴り響く。腕が使い物にならなくなる――知ったことか!
 彼我の距離が近づく。連射で過熱気味の、そして銃身が長く近接戦に不向きなビームアサルトライフルを投げ捨てる。代わりにウェポンマウントから引き抜いたサブマシンガンが、猛然と徹甲弾を吐き出した。
 火花が散り、硝煙が立ち込め……そうして、装甲のいくらかと尾を犠牲に戦闘続行を選んだ異形の騎士は、致命的に損傷した、あるいは捕縛された部位を強制パージ、躊躇いなく切り捨ててアマランサスに蹴りを叩き込む。
 衝撃。ダメージは大したこともないが、大きく弾かれたアマランサスが後退する。続いて彼女が落としたライフルをアンカーで串刺し、桐生の駆るクローム・ヴァレットに放り投げるとデュアルライフルでそれを打ち抜き、銃に残っていた粒子パックを暴発させる。
 センサーと視野を灼き焦がす閃光。
 それが晴れた頃には、既に魔人の姿はそこになかった。

苦戦 🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​

トリテレイア・ゼロナイン
※ Ⅳ搭乗 損傷M

この機種との相対も三度目ですか…

(機動性能を避難民よりミストラルに向けてくれるのは不幸中の幸いか…)
…騎士とは、その両者を護ってこそでしたね(小声)
クラウス様、エミリ様、ご無事ですか!
先の戦闘での狙撃データもご活用を

盾を犠牲に味方機かばいつつサブアームの銃器で牽制

御用があれば、私を退けてからにして頂きましょう
(瞬間思考力で作戦データ作成、ミストラルへ送信)

再攻撃に対し突撃
自機●ハッキング直結●操縦で追従性限界突破
Ⅳの格闘運動性活かし『接敵直前で宙返り』…虚を突く自殺行為敢行
この隙をミストラルの狙撃で狙い撃ち

対処する敵へ自機を捻っての踵落としで追撃
地に●踏みつけ剣突き刺し


ヴィクター・ホリディ
アドリブ連携歓迎・S

何とか間に合ったかな…
まぁ、いつも通りに状況は最悪か

■方針
「鏖の第八が民間人を追撃するのに他部隊のエース機を出す…狙いは何だ?」
【情報収集/戦闘知識】で敵の狙いが新型機な事を考え、ミストラルに通信

「あれの狙いはその機体だ。
 カバーはこっちでする、死なない程度に逃げ回れ!」

【援護/戦闘知識/弾幕】でミストラルの動きをカバー
周囲の動きを見極め、距離を詰め、狙うのは敵機が自機の頭上に迫るその瞬間

「陸戦機じゃ空戦機相手に分が悪い? そりゃそうだ」

UCを発動し【推力移動/限界突破】で真上に飛翔

「だが、真上だったら話は別だ。全弾持っていけ!」

接敵し全武装の【重量/貫通攻撃】を叩き込む




「鏖の第八が追撃戦で他所のエースを出す……狙いは何だ?」
 あちらも残弾は僅かなのだろう、浴びせるような銃撃に代わって正確無比に叩き込まれる狙撃をギリギリで回避しつつ、空に向けて散弾をばら撒くプレケス。
 そのコックピットでヴィクターは隻眼を細め、聖王国軍の不気味な動きに得も言われぬ不安を覚える。
 第八騎士団の苛烈さは悪名として国内外に轟くほど。都市を焼き払い、住民を虐殺し、残るのは燃え盛る燎原のみ。そんな部隊だからこそ、自らの面子を汚した――分遣隊が壊滅させられた――相手となれば、尋常ならざる戦力を投じて徹底的に殺し尽くすはずだ。まして相手が戦車十数輌と少数のキャバリアからなる烏合と知ればトゥリオン軍港攻略を遅らせてでもブイレストの避難民の首を取りに来る、第八騎士団の長はそういう男だと風に聞く噂でヴィクターはそう認識している。
 それが現状はこれだ。少なくとも第八騎士団長フェリペ・サンドーサ正騎士長と同格か、それ以上の格を持つ存在があの機体による、追撃というよりは強行偵察に近いものを感じる動きを捩じ込んだに違いない。
「何にせよろくでもないヤツに目を付けられたことは間違いないか。いつも通り状況は最悪だな」
「ですが不幸中の幸いもあります」
 弾倉内の散弾を撃ち尽くしたプレケスを庇うように、大型の盾を掲げて割り入ったロシナンテⅣが背部のサブアームで保持したライフルを乱射して上空のアークレイズ・ディナを抑え込む。
 トリテレイアの言もまた然り。死守すべき民間人に敵機が興味を示さなかったことで、彼らは逃げ延びる事が出来るだろう。そして、トリテレイアが過去に二度同型機との交戦経験があるのも大きなアドバンテージと言っていいだろう。
 パイロットの技量や個性によて多少のブレはあるだろうが、ハードウェア的な限界値はある程度目星がつく。
「加えてミストラルを主目標に据えているおかげでこちらへの圧はさほどでもない……」
 ミストラルが、クラウスとエミリが限界を迎えるまでは多少有利に戦える――その発想をトリテレイアは恥と共に封じ込めた。
 騎士たるものが誰かを盾に、囮にして勝利するなどと。両者を護って勝利してこその騎士。聖王国の軍事階級たる"騎士"ではない。絵物語に描かれるような、勇者たる騎士としてトリテレイアは声を張り上げる。
「クラウス様、エミリ様! あと今暫くのご助力を! 以前お渡しした妖精はまだそちらに居ますね? それを上手く使ってください。ヴィクター様、前衛は私が。我々であの機体を止めましょう!」
「おう、カバーはこっちで適宜判断する。トリテレイア、お前も死なない程度に気張ってくれよ」
 地を疾走するプレケス。空へ跳び上がるロシナンテⅣ。黒と白、熟練兵と騎士が魔人の操る怪物へと挑む。
『今は亡き同盟のT-55にパラティヌスの改装型、面白い機体が出てきましたね……』
 願わくばそれらの実戦データも欲しかったところですが、と平坦な声音で口調だけは残念そうに呟き、"バルトアンデルス"は自身の肉体から四肢を強制排除する。もはや"自身"がこの情報を生きて持ち帰ることは至難であろう。猟兵の脅威は戦前の聖王国指導部が、そしてその耳目として対共和国戦の準備に暗躍した自身の想定を遥かに上回っていた。
 認めがたいが、事実である。戦闘に特化した第一騎士団長や第二騎士団長、あるいはあの戦争狂たる第八騎士団長であればここから生還、ともすれば猟兵を撃滅しての凱旋も出来たであろうが。
『読み違えた贖いは遂げましょう。それが"バルトアンデルス"の任なれば』
 仮面に覆われた後頭部から背骨に沿って尾骨のあたりまで、機体の肩にあったものを縮小したような杭付きのケーブルが突き刺さる。
 かくて肉体より機械を切り捨てた第五騎士団長は、新たに巨人たる機械の身体を得る――機体と人格の完全合一。オブリビオンマシンの狂気に自我を飲まれながら、"バルトアンデルス"だった女は最後まで戦い続け情報を得て、それを本国へ届けることを選ぶ。
 ――機体の挙動が変わった。二人は明確にそれを認識できた。今まで以上に損傷を恐れぬ大胆な機動。それでいて捨て身の自決覚悟とは違う、生存本能のようなもの……ひどく原始的な、獣じみたそれを感じる動きは、これまでの"バルトアンデルス"の機動を元に連携を組み上げた二人を大きく揺さぶった。
 ライフル弾が撃ち下ろされ、プレケスの装甲を弾いて砕く。さらなる追撃――急降下、地表スレスレを滑翔し散弾に翼を砕かれながらも肉薄、デュアルライフルを構え――
「そちらの御仁に御用があれば、まず私を退けてからにして頂きましょう!」
 横合いからのシールドバッシュ。それを煩わしい虫を払うように槍を叩きつけて迎え撃つディナ。
 弾かれた――よろめき、しかし機体を引きずるウェイトと化した盾を弾かれるままに投げ捨てスラスターを大きく噴かして姿勢を立て直す。
 そこへプレケスが飛びかかる。ロシナンテを弾き返した姿勢のまま視線も向けずにデュアルライフルを掃射し、バックブーストを掛けて上昇を試みる――逃がすか。すべてのスラスターを地に向けるようにして、プレケスの重い機体が舞い上がる。
「陸戦機じゃ空戦機相手の分が悪い? そりゃそうだ、知ってるよ」
 自在な空中機動など最初から考慮されていないのだ。ヴィクターは自ら回避不能の死地に飛び込んだも同然である。故に至極当たり前のようにデュアルライフルの砲弾がプレケスを引き裂くが、しかし致命傷を負う前に彼我の距離はゼロに。
「だが、近寄ってくれたんなら話は別だ。全弾持っていけ!!」
 紫玉のキャバリアに組み付いた黒い機体は、厄介なライフルをマウントした左腕、その付け根をめがけて全火力を集中投射する。
 火花が散る。轟音がコックピットを揺らす。一撃ごとに姿勢が乱れ、絡み合った二機は錐揉みしながら墜ちてゆく。
「トリテレイア、クラウス! 後の始末は任せたぜ……!」
 振りほどかれ横転するプレケスは、魔人の駆る機体から片腕をもぎ取ることに成功した。
 で、あるならば。
「――承知しました。エミリ様、照準は」
「大丈夫、クラウス!」
「ああ、撃ちますよ、トリテレイアさん!」
 二機の連携攻撃で稼いだ時間。その間に妖精モドキを通じてトリテレイアがリアルタイムに修正を施した観測情報を、エミリが火器管制システムに補正情報として入力し終えていた。
 "バルトアンデルス"がそうであったように、猟兵たちも彼女との交戦を経て彼女の機体の情報を十分に得た。それが今、ミストラルのビームライフルを支え導く力となる。
 ――閃光。ディナの頭部を熱量の渦が焼き切り、小規模な爆発とともに魔物の首が消し飛んだ。
 制御システムの多くを内蔵していたであろう頭部ユニットが失われ、ディナが膝を付く――
「やった……?」
『――いいえ。私の任務はまだ終了していません』
 クラウスの歓声。だが、トリテレイアは膝を付いた筈のディナが動くのを見た。ドリルランスを静かに持ち上げ、無理矢理の投擲姿勢――
 間に合わない。もはや手元に盾はなく、トリテレイアの正確な演算能力は自身を身代わりにしたところでロシナンテを容易く貫通してミストラルを害するだろうことを理解してしまう。
 せめてと擱座したディナに機体の踵を叩きつけ、蹴り倒してコックピットに剣を捩じ込むが一瞬を先んじて既に槍は宙にある。
「クラウス様、回避を!!!!」
 駄目だ――ミストラルは、もう。トリテレイアも、ヴィクターも、戦場の誰もが最悪を予感する。
 ――閃光。衝撃、遅れて轟音。
 投げられた槍はミストラルを貫き――否。
 投げられた槍"が"横合いから貫かれ、捻れて砕けて吹き飛んだ。
 轟音の出どころを辿るように向けた視線の先、そこには待ち望んだ筈の救援があった。
 遥か彼方、トゥリオン軍港より"定期パトロール"のため出撃したリュテス共和国防海軍シャーレイ級陸戦型巡航艦一番艦シャーレイ。
 "不幸なトラブル"により海軍司令部がトゥリオン防衛のために定めたパトロールのコースを外れ、"幸運にも"移動中のブイレスト避難民に出会い、彼らを収容して囮を買って出た猟兵と新型機を救うべく来援した船。
 そのキャバリア用デッキに白煙を噴出する身の丈よりも長大な砲身を担いだ機体があるのをトリテレイアは捉えた。
 あれの狙撃がディナの死に際の足掻きを撃ち落としたのだ。
「味方……か。てことは、トゥリオンの防衛圏に入れた、ってことかね」
 胸を撫で下ろすヴィクター。敵の狙いには不可解なところも多く残るが、ひとまずは。
「ええ、共和国海軍の艦のようです。救われましたね、彼らに。これで私達の撤退戦もひとまずは完了、と言っていいでしょう」
 猟兵たちは守るべきものを守り抜き、安息の地に辿り着いたのだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 日常 『鉄血青春日記』

POW   :    若者たちと交流する

SPD   :    若者たちを指導する

WIZ   :    若者たちの青春を見守る

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。



「――リュテツィア自由国民放送、本日の戦局報道のお時間です」
「――まずは喜ばしいニュースから。サント=アル・レアン森林に展開した西部方面軍が聖王国軍を撃退しました! サント=アル・レアン森林は西部戦線の要として、両軍が激しく奪い合っていた地域ですが、共和国軍の防衛が成功したことで西部戦線はより一層安定することでしょう。この戦いではあのクリスティアン・ド・アプローズ・ラ・ベルディエ大尉率いる第38機械化胸甲騎兵中隊の活躍が大きかったそうですよ。革命の英雄、市井の貴族の末裔が今再び私達の自由のために戦ってくれている、そう思うと聖王国の王権主義に我々は負けないのだと勇気づけられるニュースです」
「――続いて北部戦線では、国民義勇軍の編成が進んでいます。我が軍の練度、装備、質量いずれも聖王国軍に劣るものではありませんが、首都メルヴィン奪還、ひいては侵略者の駆逐を一日でも早く成し遂げるには市民一人一人の協力こそが重要であると、国防軍シュヴィク中将は会見で訴えました」
「――一方で東部戦線は芳しくない状況が続いています。本日未明、ブイレスト・ラ・ファンス市が陥落したとの情報が入りました。同市は共和国防海軍の兵器廠として重要な役割を果たしており、今後の海軍の反攻作戦への影響が懸念されます。なお、住民の安否は不明ですが一部がトゥリオン市に向け脱出したとの未確認情報があります。なお、現在民間の通信回線は軍の通信確保のため帯域を制限されています。私も古くからの友人がブイレストに住んでいるので心配なお気持ちは分かりますが、電話やSNSなどを用いた安否確認はお控えください。後日トゥリオン海軍司令部より安否情報の公開が予定されています」
「――続いてのニュースは国外情勢です。我らが盟友、経済連合のフロッシュ・シーラインズ・ロジスティクスCEOが聖王国に対し共和国領内からの即時撤退を求めた件の続報です。東方同盟戦線のシュミット首相、十約信仰同盟のスレイマン師もこの声明に賛同し、一週間以内に国境線までの撤退が確認できなければ経済連合、東方同盟戦線および十約信仰同盟からなる多国籍軍の派遣を検討していると述べました。この声明に対し、聖王国の動向は――」
 ラジオが告げる戦局報道に耳を傾けていた海軍の上級将校用の軍服を纏う初老の紳士は、――艦長を務めるカニンガム大佐――猟兵らの収容が完了したという通信士の報告に頷き彼らを歓迎するようクルーたちに通達する。
 かくて、共和国海軍が誇る水陸両用の移動拠点、陸戦型巡航艦シャーレイへと猟兵たちは足を踏み入れた。


 巨大なホバークラフトと水上艦の間の子のような形状のシャーレイ級陸戦型巡航艦は、入ってみれば意外なほど広々として感じられた。
 格納庫には二個小隊八機の海軍式キャバリアが駐機しているが、その上猟兵たちの機体を搬入してもまだいくらかの余剰スペースがある。
 さておき、ようやく安全圏である。海軍の整備スタッフたちが――猟兵たちの機体は流石に勝手には触れぬと、あるいは触ったところで手に負えぬと後回しにされ――ミストラルを固定し、大掛かりな整備のためバタバタと走り回る。あの機体は終始敵に狙われ続け、被弾も相応にあったのだ。むしろ撃破されなかったのが幸運だった。
 そんな幸運の持ち主であるクラウス青年と、彼の幼馴染にしてレーダー手、火器管制担当として奮闘した少女、エミリがぐったりと疲れ切った様子でミストラルのコックピットから這い出せば、猟兵たちを前に背筋を伸ばして深く頭を下げる。
「生きて帰れた……んですよね、僕たち。皆さんのおかげで」
「あのっ、助けてくれてありがとうございました!」
 年の頃はハイスクール生くらいだろうか。焦げ茶色の髪に青い瞳のクラウス青年は、如何にも平均的な共和国の若者像といった雰囲気だ。特徴がないといえば聞こえが悪いが、誰からも受け入れられやすい容貌と言えばそうだろう。
 対してエミリはクラウスよりいくつか年下に見える。派手ではないが仕立ての良い、慎ましやかな中に高級さを感じる服に身を包み、ほのかに赤みを帯びたローズブロンドの髪はゆったりと波打つ――誰が見ても家柄の良い令嬢だと応えるそれ。
 そんな二人の感謝に猟兵が応じていると、長砲身の大型狙撃砲――形状からレールガンの類だろうか――を抱えたキャバリアを飛び降りたパイロットが、遠巻きに見守っていた海軍のクルーたちを割って歩み出てくる。
「ようこそシャーレイへ。艦載キャバリアA小隊隊長のアリア・クーベル中尉と言います。艦長に代わって皆さんを歓迎いたします。この艦に居る限りは皆さんの安全は私達が守るから、安心して過ごしてね」
 柔和な雰囲気のクーベル中尉は微笑みながら、艦内の案内をする、と一行を格納庫から連れ出してゆく。
「この艦は陸戦型巡航艦、なんて珍しい種類でしょう。だから機密も多くて、艦長の許可なしに入れない場所もあるから気をつけて」
 そういう場所にはちゃんと注意書きがあるからね、とまさに立ち入り禁止区域を分かつステッカーを指差し、導かれた先は談話室であった。
「ここと、そっちのドアの向こうの個室は自由に使っていいそうよ。トゥリオンに帰港するまで息抜きしてもいいし、寝ててもいいわ。食堂はあっちのドアを出て左に行ったところ。普段は食事時間って決まっているのだけど、皆さんがいる間は深夜と早朝以外は営業するらしいから、お腹が空いたらいつでも行っていいって」
 その他に困ったことや相談があれば、クーベル中尉に言えば必要なところに連絡をつないでくれる、という。
 無論なんでも許可が降りるとは限らないが、大体のことは出来るはずだ、と。
 そんなシャーレイの艦内での暫しの時間。猟兵たちはあの激戦を共に生き延びたクラウスやエミリと交流をするでも、艦のクルーと何かを話すでも、黙々と自分の時間を過ごすでもいい。ひとときの平穏を手に入れたのである。
赤城・晶
アドリブ可

(クラウス達に)馬鹿野郎!最後の最後で油断すんな!死んだらなんもならんだろうが!
だが、初陣にしてはましな動きだったな。運もある。
よく頑張ったな。

■助言
指導は山ほどあるが時間がねぇし、指導ならご同輩がうまいだろうな。
だから、俺からは助言だ。
シンプルだ、何がなんでも生きろ、どんな絶望な状況でも生きるのを諦めるな!ってな。

どうすればここから生きて帰れるか、思考をとめるな。
死ねばそこで終わりだ。

何より…、お前は一人じゃねぇだろ?
大切なやつがいる、そういうことだ。

それだけだ。
じゃあな、青い坊や達。
次に会えたら名前で呼んでやるぜ。

■兵士に
よ、お疲れさん。大変だったな!
生きて帰れて何よりだぜ。


ルージュ・リュミエール
ソルフレアは送還したよ
幾ら余裕があるってつっても余計な艦載は避けた方がいいだろ
この場合、アタシの剣。つまり招喚器インクルシオンは預けた方がいいのか?
いや、出来るだけ手放したくはないんだけどな。特に未来で甦ってからは

さて、あの二人。クラウスやエミリに会いに行くか
よく生き延びたもんだって褒めてやらねぇとな。正直、ちゃんと護り切ってやれなかったのは忸怩たる思いがあるが
それにこれからの相談に乗ってやらないとな。それが先達の役割だし、ほんの少しだが教えてやったアタシのやるべきことでやりたいことだからな
だからまぁ、あいつらがどんな選択を選んでも尊重するし、もしまだ戦う道を選ぶなら教えてやりたいこともある


ティー・アラベリア
ひとまずの危機は去ったようですね
ミストラルのお二人も含め、避難民の方々が無事でなりよりでございます
流石にキャバリアを小隊単位で運用可能なだけあって、大きな艦でございますね
よろしければ、食堂と食材をお借りしてもよろしいでしょうか?
猟兵は兎も角として、避難民の方々には過酷な経験であったでしょうから、時間を問わず食事をとれる環境があれば、それにこした事はないかと存じまして
人と戦うのも本業ですが、人に奉仕するのも本業でございますから、どうぞお気遣いなく
ボクには休息も睡眠も不要でございますので、他にも雑務がありましたら何なりとお申し付けくださいませ




「流石に大きな艦だけあって、よりどりみどりでございますね」
 うきうきと楽しげに厨房を行き来するティー。
 彼が操る鍋やフライパンからは、どれも強行軍のち戦闘で疲労したパイロットたちの空腹を刺激する匂いが漂っている。
 艦長らの厚意によって開放された食堂では、主計科の兵がいつでもパイロットの腹を満たせるよう待機していた。
 そこにやってきたこの少年は、手際よく艦の上級士官との連絡役であるクーベル中尉を通じて食堂での裁量権を掌握すると、シャーレイが保護した避難民の分までと大量の料理を作り始めたのだ。
 料理当番の兵も最初は手伝おうとしたのだが、ティーによって厨房から出されてしまった。彼の曰くに、
「特別に開放した、ということは普段この時間、皆様は此処にいらっしゃらないのでございましょう。だったらいつもどおりに過ごしてくださいませ。ボクはこういう作業こそ本業でございますから」
 猟兵に配慮せよ、と上官が命じたのであれば、どうか配慮して厨房をお貸しください、と。少女にも見紛う見目麗しい少年人形にそう言って見つめられれば、厨房に於いて厳格な鬼の下士官で鳴らした料理長も首を縦に振らぬわけにはいかなかった。
「故郷を失い、戦火に晒され、親しい方を失った方々も多いと聞いています。過酷な経験の直後ですから、すぐには食べられなくとも食欲が湧いた時に身体を満たすものがあれば、それに越したことはないかと存じまして」
 温めなおせばすぐに食べられるように、食べ物が喉を通らずとも栄養を取れるようにと相手に配慮して、大鍋に手際よく作られていくスープ。
 戦闘慣れした猟兵やパイロットたちは腹を減らしているだろう、と肉を中心にしっかり空腹を満たすメニューを。
 無論、こちらは温め直せば硬くなってしまうだろうから、そもそも調理に時間がかかる煮込みやロースト以外は下処理まで施して冷蔵庫に寝かせておく。
「なるほど、そいつを儂らが仕上げて食わせてやればいいわけだ」
「いいえ? ボクには休息も睡眠も不要でございますので、帰港するまでは此処に居るつもりでございますよ? もちろん他にお手伝い出来る雑務がありましたら、皆様に厨房はお返しいたしますけれど」
 得心した、と手を打った料理長に困ったように微笑み返し、別の仕事がない限り食堂を離れるつもりはない、とティー。
 料理長は仕事をすっかり奪われてしまい、老け込んだ様子で水を呷るのだった。

 そんな食堂から漏れ出した、食欲を誘う匂いに釣られてパイロットたちがやってくる。
「剣を預けろ、って言われなかったのは御の字だな。アタシらは部外者だってのに武装したまま入れちまうのは不安だけど、まあ話のわかる艦長みたいでよかった」
 直接対面したわけではないが、クーベル中尉を通じてのやり取りで艦長はかなり猟兵に好意的であろう事が察して取れた。
 その一例として、キャバリアの召喚器にして見た目通りの殺傷力を持つ招喚器インクルシオンを武装として保安部に預けるべきか、と問うたルージュは、その問いこそ信頼に値するとして帯剣したまま艦内の行動を許されていた。
 そしてルージュに悪意がなくとも、艦のクルーがおかしな真似をするようであれば武器を使って対処出来る。逆説的にシャーレイの総員は猟兵に対して敵対する意志はない、という証拠であろう。
 預けろ、というなら従ったが、ここ最近はインクルシオンを長いこと手元から離すと今ひとつ調子がよろしくない気がするルージュはその判断に安堵したものだ。
 そういうわけで武装したままの彼女は、ティーから三人前と少しの
料理を受け取ってテーブルに向かう。
 セッティングを終えた辺りでやってきた人影に、彼女は手を振って相席するよう示すのだった。
「お疲れさん。よく生き延びたもんだよ、お前たち」
 対面に座るクラウスと、その隣に収まったエミリに取ってきた料理を食べるよう促して、ルージュはまずそう切り出した。
「でも僕らはルージュさんたちのおかげで生きて逃げ延びたようなものですよ。そんなふうに言われるなんて」
「ちゃんと訓練を受けた兵士だって、初陣で生き残れるかは賭けなんだ」
 かつての戦争でも、そうやってたくさんの命が帰って来なかったのを彼女は知っている。だから、たとえ逃げ回っていただけでも、敵を打倒したのが猟兵であっても、生き延びたことをまず称賛するのだ。
 そうやって説けば、クラウスもエミリもホッとしたように肩の力を抜いて、ありがとうございますと頭を下げる。
「気にしなくったっていいさ。正直、もっとちゃんと護ってやりたかったんだが……こればっかりはな」
 相手が悪かった。言い訳でしかないが、敵国の将軍級であろうトップエースと会敵したのだ。その余裕が持てず、放り出すように戦場に置き去りにしたことには忸怩たる思いがある。
「その罪滅ぼしってわけじゃないが、これからお前たちが困ったとき、アタシが側にいるなら相談にのってやるよ。こう見えて長生きしてる先達なんだ、そういう役割くらいは果たせると思う。それに――」
 少しの間だけとはいえ、お前たちはアタシの教え子なんだからな、とルージュは笑って。
「それで、お前たちは……というか、クラウス。お前はこれからどうするんだ? 避難民と一緒にトゥリオンで降りるのか、それとも――」
 聞いた話だと共和国軍は、特に東部軍のキャバリア戦力は緒戦で壊滅的な打撃を受け、いくらかの海軍キャバリア隊を陸戦隊に再編して戦線を維持している有様だという。そこに最新鋭機で実戦経験を積んだパイロットだ。殆どルーキー未満とは言え、志願すれば断られはすまい。
 そして彼の中にパイロットとして光るものを見た彼女は、ミストラルの専属として軍に残る方がきっと彼の未来を切り開くのだという予感がある。
「正直迷ってます。この状況でエミリを守ってやるには戦う力があったほうがいい。でも、自分から戦場に飛び込んでいくのは……」
「そうか、うん、アタシはお前の選択を尊重するよ。だがもしまた戦うと決めたなら、教え損ねたことを今度こそ教えてやるからな」

「話は終わったかい、えーと、ルージュ、だったか。それと青い坊や達」
 会話が一段落したところで割り込んだ晶が、クラウスの頭をがっしりと筋肉質の腕でロックして立ち上がらせる。
「嬢ちゃん、ボーイフレンドちょっと借りていくぜ」
 そして目を白黒させるエミリを他所に、そのままクラウスを引きずっていく。
 そうして食堂の外、通路に青年を引き込んだ晶はヘッドロックから彼を解き放つなり真剣な目で睨みつける。
「馬鹿野郎! 最後の最後で油断したろ、お前! 海軍連中の割り込みが間に合ったから良いようなものを、あそこで死んだら何もならんだろうが!」
 晶は気づいていた。最後の一瞬、あの敵機が死に際の苦し紛れで投擲したランス。あれは本来回避できたものだと。狙撃成功と、それによる敵機のダメージが故に勝利を確信したクラウスの油断が招いた危機であったと晶は容赦も労りもなく指摘する。
「一歩間違えればお前だけじゃなくあの嬢ちゃんまで死んでたんだ。戦場では終わったと思っても油断すんじゃねえぞ。――だが、初陣にしてはマシな動きだった。運もある。…………よく頑張ったな」
「晶さん……はい、ありがとうございます」
 叱責を受けて強張っていたクラウスの表情が、最後の労いで氷解するようであった。
「で、だ。仮にお前が戦場に残る方を選ぶんなら、指導しなきゃならんことは山ほどある……が、今は時間もねぇしそういうのはルージュみたいなベテランが上手いだろう。だから俺からはお前がこの先あの嬢ちゃんを守っていくうえでの助言だ」
 両肩に手を置き、真摯に目を見つめて告げられる歴戦の傭兵の言葉。
 それはひどく単純で、簡素で、だが重い。
「何が何でも生きろ。どんなに絶望的な状況でも、生きるのを諦めるな。いいな?」
「……はい! 絶対に、忘れません……!」
「良い返事だ。どんなときだってどうすれば生きて帰れるか思考し続けろ。死んだらそこで終わりだからな」
 そうしてクラウスの頭を掴むと、一緒に隠れるように食堂を覗き込む。
「お前にゃ大切なやつが居る。お前はひとりじゃないし、あの子を一人にするわけにもいかん……だろ?」
 いたずらっぽくニヤリと笑う晶に、頬を赤らめて目をそらすクラウス。
「いや、僕とエミリはそんな。彼女の親父さんだって僕のことはまだ……」
「なんだよ、まだってことはやっぱ気があるんじゃねぇか。ま、俺からの話はそれだけだ。じゃあな青い坊や。次に会えたら名前で呼んでやるよ」
 嬢ちゃんが待ってるぜ、とクラウスの背を叩いて食堂に押し込め、晶は背を向け去っていった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

ルイン・トゥーガン
ふん、なんというか随分と狙ったようなタイミングでの救援だったねぇ?
アタシとしちゃ、機体に細工されちゃ堪んないでコクピットか格納庫にいたいが、まぁ流石に許可されるとは思っちゃいないよ
信用できない奴をキャバリアに乗せたままとか艦の安全保障上ありえないからねぇ、格納庫も機密的に居座れるとは思えないしね
猟兵の信用?ハッ、アタシの素性が分かる奴がいれば、そんなん吹っ飛ぶさね
アマランサスでもノーマルとラピートはコピー機が出回ってるが、マリーネはそうじゃない。つまり元ズィガ帝国の機体だね
ズィガでマリーネを運用した海兵隊と特務隊の悪評と戦犯指定は割と有名な話さね
戦勝国の傀儡のズィガ共和国が声高に広めてるしねぇ




 機体が心配だ、と格納庫に滞在することを申し出たルイン。クーベル中尉の返答は、彼女の予想に反して是であった。
 通常であれば自軍の、あるいは譲って同盟国の正規軍の機体でもなければ、収容した機体とパイロットは分けるはずだ。
 それこそ乗り込んだものが工作員の類で、機体を使って暴れ出さないという保証を得られるほど入念なチェックが行われたとは言い難いのだから、彼らは自分たち猟兵を警戒してしすぎるということはない。
 ルインは自身が捻くれている自覚があるが、それでもこればかりは自分の方が国際常識的に正しいことを言っているはずだと思う。
 だというのに。
「誓って猟兵の皆さんの機体に変な真似はしてませんし、させませんよ。なんて私が言っても信用できないのも分かります。ちょうど私もレールガンの整備報告を聞かなきゃいけませんし、一緒に行きましょうか」
 なんて言いながらクーベル中尉自身がルインと並んで歩くこの状況は一体どういう冗談か。
「ふん。……そういや、随分と狙ったようなタイミングでの救援だったじゃないさ」
 だから嫌味の一つも吐いてみる。ブイレスト他東部各都市を見捨てて籠城する海軍が、嫌に的確なタイミングで助けに来た。
 襲撃を知っていたんじゃないか。あるいは、あの追撃機とお前たちはグルなんじゃないか。
 そんな色を潜めた言葉に、クーベル中尉は人のいい笑みで頷く。
「ええ、本当に。友軍艦が偶然巡回コース上で座礁して、それでコースを変えてみたらブイレストから避難してきた市民の皆さんが居たんです」
 それで彼らに猟兵とミストラルの存在を聞き、急行した。
 本当に幸運でした、と感じ入るようにつぶやくクーベル中尉は嘘を吐いているようには見えないが、特殊部隊員である自分すら欺く女優という可能性も捨てきれない……何にせよ、リュテス共和国軍も心底信頼するべき相手とは限らない、という認識は捨てずにおくべきだとルインは再確認する。
 ともあれ格納庫だ。忙しそうに整備兵が行き来する中で、ルインのアマランサスは果たして言い付けどおりに手つかずであった。
 受けた損傷もそのまま放置されていることに、安堵をひとつ。
「M型、珍しい機体ですね」
 ルインはぎょっとして目を見開いた。クーベル中尉が隣で言葉通り珍しいものを見る目でアマランサスを見上げている。
「全体的にはR型に近いですけど、肩部の増加装甲兼スラスターにサブアーム懸架式の機関砲、確か帝国式の海兵仕様ですよね、M型の」
「……お、前……っ、知って!?」
 アマランサス自体はその生産性や拡張性からくる汎用性故に、多くの国で採用されている傑作機だ。
 だがM型となれば話が違う。アマランサス発祥の国たるズィガ――今は共和国だ――が、戦犯の象徴たる機体として正規のバリエーションから消そうとしている機体――もう消えたかもしれないが――なのだから。
「アタシの素性を知っててこんなところにまでホイホイ入れちまうのかね。アンタとんでもない阿呆か、それとも何か企んでるのかい?」
 海兵仕様アマランサスはつまり今は亡きズィガ帝国海兵隊の証。イコールで戦犯、最悪の戦争犯罪者の証明でもある。それを簡単に自由行動させるなど。
「ええ、問題ありません。リュテス共和国はズィガ帝国ともズィガ共和国とも、彼らと争った国とも殆ど国交はありませんから。彼らの国の戦犯でも、私達の味方になってくれないという理屈はないでしょうし。それに――」
 クーベル中尉は柔和な笑みのまま、細められた目でじぃっとルインを捉える。
「貴女の目を見て、こう……戦争犯罪楽しい! みたいな人じゃないっていうのは分かりますから。小隊選抜狙撃手の目は確かなのですよ」
「…………そうかい、せいぜい寝てるところを吹っ飛ばされないように気を付けてなよ」
 もはや反論する気力も失せて、空のコンテナに腰掛けアマランサスを見張るルイン。
 なるほど、とクーベル中尉が報告を受けに行った機体の担ぐ長物、レールガンと言ったか――を見て、ルインは納得する。
 超長距離から高速で投擲されたランスを狙撃する腕前。確かに常人としてはトップクラスの実力だろう。その実力者の眼ならば、或いは……
「馬鹿馬鹿しい。そんなわけないってのは分かりきってるさね。お互い信用ならない敵の敵、くらいが丁度いいんだよアタシらは」
 ルインの呟きは、整備の喧騒に掻き消されて彼女自身の耳にも届かない。

成功 🔵​🔵​🔴​

四季乃・瑠璃
緋瑪「クラウスもエミリもよく頑張ったねー」
瑠璃「敵がミストラルを狙って来た理由が謎だけど…」

UC分身

瑠璃は格納庫でアリアさんと会話して【情報収集】。敵がミストラルを狙っていた事を告げ、現在の聖王国の侵攻状況や敵の狙い、ミストレルについて等を質問。今後のクラウス達の処遇についても確認するよ
後は良ければミストラルの機体内部のデータ解析(狙われた理由が無いか等)をさせて貰えないかお願いするかな。

緋瑪は食堂に寄ってドリンクとスイーツ等を注文し、受け取ってからクラウス達のところへ。二人に差し入れして労いつつ、今後の事を確認。
何かあった時の為に予備のK100を二人に護身用として渡し、連絡先交換【コミュ力】




「あ、アリアさん。今少しいいですか?」
 愛機の、というよりはその機体に増設された長砲身の大型砲の整備クルーとの会話が一段落したであろうタイミングで、瑠璃はクーベル中尉に声を掛けた。
 猟兵とシャーレイの窓口役である中尉は、にこりと微笑んで構いませんよ、と書類を脇に抱えて瑠璃の下へと歩んで来る。
「それで、どうしました? 何か必要なものがあるのかしら」
 この中尉の協力的な姿勢が、瑠璃にとってはありがたい。聖王国の、特に最後に出現したあのエース機の動きには誰もが疑念を抱いている。その解明の足がかりになるだろう存在は、クラウスとエミリが素人である以上必然的に共和国軍の人間となる。そして、瑠璃たちにとってコネクションのある共和国軍人でもっとも協力してくれる可能性が高いのがクーベル中尉なのだ。
「ううん、何か欲しいとかじゃなくて。少し気になることがあるんだ」
 続くミストラルのことで、という瑠璃の言葉に、クーベル中尉は特段違和感のある動きは見せなかった。ならば、と瑠璃は踏み込む。
「敵がミストラルを狙ってたんだよね。理由は謎だけど……アリアさんはあの機体が狙われる理由に心当たりは?」
「同じような報告は受けていますけれど、あの機体まだフィガロ・ウェストから正式に卸されたわけじゃないみたいなの。だから次期主力機の候補、ってくらいしか分からないわ。ごめんなさい」
 気になるならフィガロ・ウェストのトゥリオン支社に照会は掛けてみるけれど、なにぶん機密もあるだろうから多くは明かせないと思う、と困ったように詫びる中尉に気にしないで、と瑠璃は次の質問をぶつけた。
 ――対聖王国戦の戦況はどうか。もちろん談話室のラジオは戦局報道を垂れ流しているが、民放はプロパガンダ色が濃くて正確な情報かというと必ずしも信用できるものではない。
 戦場を知るものはやはり軍人である。クーベル中尉の知る限りの戦況を教えてくれ、という問いに、彼女は頷き整備クルーたちが休憩するために用意されたベンチに瑠璃を誘う。
「まず、今の共和国が展開している戦線はここ東部、そして主力が籠城する北部、あとは辺境部隊が守る西部の三つね」
 うち東部は知っての通り、陸軍が緒戦で敵の戦術級大型機動兵器の超長距離攻撃で壊滅したため海軍が主体となり、彼の兵器の射程外でかつ最大規模の軍港設備を備えるトゥリオンに全軍を集結させ、強固な防衛線を構築している。
 軍艦を転用した浮き砲台に、キャバリア母艦から下ろされた陸戦隊。シャーレイ級の陸戦艦も――つい先日座礁し行動不能となった一隻を除いて――シャーレイ以下三隻が活動しているという。
 対して敵第八騎士団は攻勢限界に達しつつあり、トゥリオンの海軍と睨み合いながら補給を待つ状態らしい。あくまで偵察の結果を元にした予測であり、無条件に信じるのは危険ではあるが。
「攻勢限界が真でも偽でも、しばらくの時間があるのは確かですね。だからその間に多国籍軍を招き入れて、海上封鎖を試みる敵の艦隊を撃退してしまうのが目下の目標かしら」
 第四騎士団――聖王国唯一の艦隊戦力を撃退してしまえば、トゥリオンを拠点に東海岸全域に上陸作戦を展開できる。
 北部へ増援を送るも、南部を襲撃して敵の補給線を断つも自在ということだ。だからその作戦を実行するときはぜひ手伝ってほしい、という言葉に瑠璃は頷く。
「北部の状況は良くも悪くもないみたいですね。陸軍のシュヴィク中将閣下が指揮を執っているらしいのだけど、あの方は守勢が得意な将軍だから。敵の第三騎士団もどちらかというと防戦向きの軍団らしいから膠着状態かな。でも遠からず敵の増援が着いたら、一気に動くと思うの」
 東部の膠着が共和国側にアドバンテージのあるものだとすれば、北部は聖王国が主導権を握った膠着というところだろう。どちらも共和国劣勢であることは、戦況を語る中尉の表情から薄らと読み取れる。
「西部はよくわかりません。遠くて情報が来ないの。報道だとベルディエ大尉……名門ベルディエ家の当主率いる精鋭部隊が連戦連勝らしいけど」
 いくらなんでもプロパガンダだって私にも分かりますもの、という苦笑に瑠璃は曖昧に笑い返した。
「そっか。ありがとうアリアさん。そういえばクラウスたちはこれから?」
「艦長が協力要請の交渉に呼ぶみたいですね。でも無理に戦わせたりはしないと思います。私達国防軍は市民軍ですから、市民の市民による市民のための軍隊が同胞を無理に戦わせたりはしません」
 そっか、と瑠璃は立ち上がる。
 戦況に関してはラジオ放送よりは悪く、しかし想像よりはマシ。
 ミストラルについては依然謎のまま。
 クラウスたちの処遇は、クーベル中尉レベルでは判断できないだろう。彼女はああ言ってはいるが――

「ミストラルがなにかの鍵になるんなら、共和国軍もあれを動かした二人を簡単に解放しないかもしれないね」
 瑠璃から伝わる情報をもとに、緋瑪は談笑しながら一緒に食事を摂るふうに装いクラウスに囁いた。
「聖王国はもちろんだけど、共和国も二人を無理に戦わせようとしたり、ミストラルの秘密を守るために口封じをしようとするかもしれない。だからクラウス、エミリもどんな選択をするにしても自分と相手の身を守ることを優先して」
緋瑪がテーブルの下で拳銃を差し出し、クラウスとエミリがそれぞれしっかりと頷き緊張の面持ちでそれを懐に仕舞う。
「もー、二人とも固まりすぎだよ! とりあえず今はわたし達も居るんだからリラックスリラックス。あ、念の為に連絡先も交換しておこうか。こっちに居る時ならいつでも連絡していいよ!」
 銃の受け渡しがあったなどとおくびにも出さない緋瑪は、テーブルに据え付けられた紙ナプキンにペンで自身の――つまり瑠璃のものもだ――連絡先を書き記して渡す。
 代わりにクラウスとエミリも自分の携帯の連絡先を書いて緋瑪に渡せば、あとは物騒な会話などなかったかのように穏やかな食事風景がそこに残された。

成功 🔵​🔵​🔴​

ヴィクター・ホリディ
アドリブ連携歓迎

(出所不明の新型、正体不明のエースの追撃、狙ったような救援。
 ただの偶然か、それとも…)
 
■方針
たまには本業をやらんと忘れてしまうな
適当な椅子やらを借りて甲板で簡単な医療所を作って
【医術/情報収集/鼓舞】で負傷した避難民の治療を行う
無論男には優しくしてやる道理もないね

強行軍な上、追撃まで受けたんだ
避難民にも怪我人や病人は出てるだろうさ

途中でクラウス達が居れば捕まえて簡単な検査しつつ話そうか

「何て顔してるんだお前ら。
 顔を上げて周りを見ろ、ここにいる連中を見ろ。
 これはお前らが護った人々だ。
 だから、今ぐらいは胸をはっときな」

元気がでたなら手伝わせる
働き手を逃がす話もないだろ?




「出所不明の新型、正体不明のエースの追撃、おまけに狙ったように救援が来た、か……」
 ただの偶然であればよい。が、そうだと言い切るにはあまりにも歯車が噛み合いすぎる。あのミストラルという機体を中心に、全貌の見えない巨大な機械が唸りを上げているような違和感に、ヴィクターは眼帯で覆われていない右目の目頭を親指で揉み込んだ。
 考えることが多すぎる。外様ながらこの国の戦争に関わると決めたからには、ただ戦況に流されるばかりでは駄目だ。思えば開戦から普通でなかったのだ。多くの血が流れる川の底で蠢くものを見定めなければ、自身もこの戦争の歯車として知らず組み込まれてしまうのではないか。
 そんな想像を妄想と割り切ることが出来ない。故にヴィクターは堂々巡りして見えざる陰謀を創り出そうとする思考をリセットするべく手を動かす。
 格納庫の余剰スペースに設置された臨時の診療所は、看護師の資格を持つ避難民が数人手伝いに入りなんとかそれらしい形で回っていた。
 艦の医務室と軍医達は重傷者の対応に追われているのだ。後回しにされた軽傷者はこちらで診る、と言えばむしろお願いしたい、と頭を下げられたほど。
「怪我人につける薬はあっても、選んでつけてやる医者が足りんとは嫌になるねぇ、ったく」
 何をするにも人手不足。それだけ共和国軍の損耗は激しいのだろう。打撲に湿布を処方し、擦り傷は消毒して医療パッドを貼り付け、簡単なカウンセリングの真似事すらもしていれば、その間は嫌な想像に頭を支配されずに済む。そうして避難民たちの手当てに没頭していると、クラウスとエミリが格納庫に入ってきたのが見えた。
 どうにも様子がおかしいので手招きをすれば、険しい表情で俯くエミリの肩を支えるようにクラウスが寄り添っている。
「どうしたんだ、まさか怪我でもしたのか?」
「いえ……その」
 端切れの悪いクラウスの返答。エミリは黙ったまま、ふっと視線をミストラルに、そして回収され検分に回されたアークレイズ・ディナの残骸に向ける。
 ――その眼に宿る光を、ヴィクターは知っている。良くない色をした炎だ。
 ――憎悪。
 クラウスはそんなエミリになんと声を掛けていいか、決めあぐねているようであった。
「おいおいお前ら、なんて顔してるんだ。敵ばっか睨みつけるもんじゃないぞ。周りを見てみろ、あの人らはお前らが護った人々だぞ」
 だからヴィクターは、幼馴染の青年の手を掴んだまま殺し殺される道に墜ちかけている少女に顔を上げるよう促す。
 彼女らが戦ったことで救われた命も多い。だから前を向いて、何を護ったか、これから何を護っていくのかを見ろ、と。
 さもなくば修羅に堕ちる。そうなった兵をヴィクターは見てきたのだから。
 が、少女の呟きはヴィクターにさらなる言葉を許さない。
「……お父さんが居ないんじゃ、何の意味もないわ」
 唇を強く噛み締めた少女の言葉。クラウスも悲痛な顔で視線を伏せる。
「そいつぁ…………なぁ、クラウス。お前ちょっとあっちの手伝いに行ってろ。人手が足りん、怪我はしてないんだろ」
 古参兵の勘が、隊長として若者たちを率いた経験が、医師としての使命感が、今このままこの二人を寄り添わせてはいけないと警鐘を鳴らす。
 いや、とエミリを心配する青年に有無を言わさず、怪我人の治療に飛び回る看護師を手伝うよう言いつけ、ヴィクターは診療所を区切るパーテーションを動かし空間を区切るとエミリに向き合った。
「亡くなった、のか」
「殺されたわ……あいつらに。お父さん、あいつらに攻められてたメルヴィンを助けに行ったんだって」
 ――軍人、だったのか。戦時下だ。よくある悲劇と言ってしまえばそれまで。エミリと同じ苦しみを背負った人間はごまんといる。
 だが、目の前でその苦しみに喘ぐ人がいるならば、見捨てられるものか。
「艦長さんに教えてもらったの……お父さんのキャバリア隊は一人も帰ってこなかった、って。東部軍のキャバリア隊は苦戦して撤退したなんて嘘で、あいつらの攻撃で全滅した……って」
「よせ」
「だから言ったわ。あのキャバリアに乗せてって。キャバリアが足りないなら、"私たち"が」
「よせ、エミリ! お前クラウスまで巻き込むのか! 友達だろう!」
 ヴィクターの静止も他所に、エミリは決壊したように涙を流して報復の決意を固めたことを吐き出した。
「……わかったよ、わかった。戦うのをやめろとは言わん。だが復讐心だけで戦場に出れば早死するぜ。クラウスまで巻き込んで心中させるわけにはいかん。戦うからにはしっかり訓練を受けて上官の命令に従う兵隊になってもらう必要がある」
 幸いにもここには猟兵がいて、彼らが引き上げた後もクーベル中尉の面倒見であれば教官役を引き受けてくれるだろう。
 そこでの教練で、復讐心に突き動かされる素人の殺し屋をどうにか軍人に仕上げねばならない。
「…………ったく、どうして戦争ってのはどこもクソったれになっちまうのかね……」
 本来であれば学校に通い、お洒落や遊びに精を出し、もしかしたら恋愛に一喜一憂するような。そんな年頃の若者たちを引きずり込んでいく戦争に、ヴィクターはため息を吐く。
「……お前と艦長殿を一発ずつぶん殴ってやりたいよ」
 その呟きに、青い鉄巨人が応えることはない。

成功 🔵​🔵​🔴​

トリテレイア・ゼロナイン
為すべきだったとしても、やはりこの結果は忸怩たるものがありますね…

戦闘終了後、四肢を落とし回収したディナの残骸をハッキング情報収集
新型機への固執理由に作戦目的…データ修復及びサルベージ

データは駄目元でも、搭乗者の身元程度は…
遺体の一部でも本国へ還らせる為に

…第八騎士団の蛮行もそうですが
オブリビオンマシンの狂気と人の狂気
猟兵が相対すべき存在の境界は何処にあるのか…

『過去』となる前から居住可能惑星を残らず吹き飛ばす銀河帝国
それに生み出され反旗翻した私
狂気という意味では口を出す権利はありませんか

…あの二人への便宜をクーベル中尉に依頼しましょう
戦の狂気から人を遠ざけるのも騎士道の…騎士の役目ですからね




「為すべきことでした。ですが、だとしてもやはりこの結果は忸怩たるものがありますね……」
 討たねば止まらなかっただろう。あの死に際のランスを阻止できたとしても、彼女は死の瞬間までミストラルを破壊すべく足掻いたはずだ。だが。
「戦争とはいえ、死なせてしまったのは私の背負うべき後悔です」
 トリテレイアが見つめる先、大破したアークレイズ・ディナの残骸は四肢を断たれて彼と同じくらいの大きさにまでなっていた。
 あれほどまでに脅威であった紫玉の怪鳥も、今となれば小さく見えてしまう。だが、その見かけの大きさとは裏腹に大きな悔悟がトリテレイアを押しつぶそうとしていた。
「せめて搭乗者の遺体、遺品の一部だけでも国に還して差し上げたい。第三国を通じればあるいは――」
 コックピットハッチに手を掛け、ゆっくりと押し開いていくトリテレイア。
 キャバリア用の実体剣で破壊されたその内側には、凄惨な光景が――否、それは確かに凄惨ではあったがトリテレイアの予想とは些かに異なっていた。
 血と肉の残骸ではなく、シートに縫い留められるようにして朽ちていたのは女の形をした機械であった。
「ウォーマシン……いえ、レプリカント、でしょうか……」
 撃墜時の損傷でヒビ割れた仮面の隙間から覗く顔は人のようだが、しかし彼女は紛れもなく人よりトリテレイアのような存在に近いモノだ。
 僥倖だ――という思いと、しかしそれは冒涜ではないか、という思い。
 こうまで大破したディナからサルベージできる情報は大したものにならないだろう。だが、彼女の遺骸からならばあるいは。
 それが死者を貶める行いだとわかっているからこそ、トリテレイアは苦悩する。聖王国の作戦目的を正確に把握すれば、この先の戦争での犠牲を抑えられる可能性はある。
 だが、これから先の命のために目の前の死を冒涜することが許されるのか。そも犠牲を抑えるためという言い訳自体が自分勝手な物言いに過ぎるのではないか。
「第八騎士団の蛮行に、彼女の妄執……オブリビオンマシンの狂気と人の狂気……」
 思わず口を突くのは、この世界を狂わせるオブリビオンの妄念への想い。
「猟兵が相対するべき存在の境界は何処にあるのか……いいえ、私達すらこの戦争に狂っていないと言い切れるのか」
 戦争に勝つために、味方の犠牲を減らすためにと死者の尊厳を踏み躙れば、それはいつか狂気にたどり着くのではないだろうか。
 そうなってしまえば狂気と狂気が滅ぼし合う世界に変わってしまう。星を消し去り、文明規模で殺し合った故郷の過去と同じような未来が待っているのではないか。
「彼らの狂気に生み出され、それに反旗を翻した私。生まれ故に聖王国の狂気に口を出す権利はありません。が――」
 自身がそれに飲まれることなく、そしてかつて銀河帝国に対してそうであったように狂気を止めるため戦うことは出来るだろう。
 そうだ。騎士なのだ、彼は。たとえおとぎ話のそれを模した、滑稽なブリキ人形のようだと揶揄されようと。騎士道精神などこのクロムキャバリア世界における戦争で足枷にこそなれ役に立つことなどないと嗤われようと、そうあれかしと自らに定めた騎士の生き方を曲げることなどありえない。
 トリテレイアは首を横に振り、"バルトアンデルス"の亡骸を丁重に抱き上げキャバリアの骸から運び出す。
「クーベル中尉、遺体を入れる袋を手配していただけますか。それと、司令部に着いてからで構いません。戦没者の遺体を聖王国に返還できるよう、中立の第三国に仲介していただくよう交渉したいのです。それが可能な人物にアポイントメントを取れますでしょうか」
「死体袋の用意はすぐに。中立国への繋ぎは、流石に私では判断できないからそういう要望があったことは艦長に上げておきます」
 その先まではどうにもお力になれそうにありません、と頭を下げる中尉に気にしないでください、無理を言い過ぎましたとトリテレイアも侘びて、手配された袋に"バルトアンデルス"の遺体を静かに納める。
「――さて、それでは残された機体から聖王国軍の情報、それが無理でも彼女の身元の手がかりが得られることを願いましょう」
 死したエースを敬礼で送り、トリテレイアの電子の頭脳がアークレイズ・ディナに残る彼女の名残をなぞってゆく。



『――共和国新型機の破壊作戦は失敗です』
 聖王国の信仰の中枢たるサン・マルティン大聖堂。豪奢な金細工に彩られたヴェールの向こう、すべての教徒の代表であり神の巫であるとされる聖王のおわす玉座に向かって、跪いた仮面の女は淡々と"自身の失態"を報告した。
 第五騎士団長"バルトアンデルス"。聖王国の諜報統括にして、扇動からテロまであらゆる工作を一手に担う"群体"の――ネットワークに共有された記憶を核として、多数のレプリカントが"個人"を演じる――騎士は、フルフェイスの仮面に覆われた頭を深く垂れる。
 聖王の言葉はなく、そして代わりに側に控える法衣の老人が彼女を叱責した。
『所詮は信仰を解さぬ機械人形だのう。せめて壊れるならば役目を果たしてからにしてほしいところじゃ』
『申し訳ありません、大司教猊下。聖王陛下の御心に添えなかったのはひとえに"私"の――』
 "バルトアンデルス"の仮面が強かに打ち付けられ、彼女の鋼鉄の身体ががしゃりと吹き飛ばされる。
『形式ばかり騎士を叙された故に勘違いしたのであるな、"バルトアンデルス"。貴殿らレプリカントは聖王陛下の道具であって臣下にあらず。弁明は許可されておらぬのである』
 重々しい甲冑に身を包んだ騎士が、一言の区切りごとに鞘に収めた剣で女騎士の仮面を打ち据える。
『かの機体は我が聖王国騎士の信仰が齎す奇跡を侵す魔性じゃ。経済連合の薄汚い商人の手に渡る前に壊してしまいたかったところじゃが……失敗したのならば次の手を考えねばなるまいのう……』
 第八騎士団への兵力増派が簡単だが、兵站を担う第六騎士団長とあれの騎士団長の相性は最悪だ。ならば海上の第四騎士団を動かすか。しかしその行動で諸外国を更に刺激するやもしれぬ。
 老獪な司教は、頭の中で絵図を描く。最も聖王国が――彼らが得をする絵図を。
『次は西、じゃな。どう動かすにせよ諸国の目を逸らさねばならぬじゃろうて。マゴーニ卿もいくさに備えてもらわねばならぬ時が来たようじゃのう』
 大司教の呟きに、それまで殴られ続けすっかり動かなくなった"バルトアンデルス"を広間の隅に蹴り転がした甲冑の騎士が跪く。
『聖王陛下の代理人たる大司教猊下が下された使命、しかと果たして見せるのであるな。聞けば西部攻めの軍は苦戦しておる様子、我が第七騎士団がこれを速やかに覆してご覧にいれるのである』
 信仰の千年王国成就のために。まずはかの国を滅ぼさねばと、甲冑の騎士が出陣する。
 ――――――戦争は底なしの狂気に沈んでゆく。だが、あるいはその以前から人は狂気の底に溺れていたのかもしれない。

成功 🔵​🔵​🔴​



最終結果:成功

完成日:2021年05月16日


挿絵イラスト