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ブリンガー/マギステル

#アポカリプスヘル #ヴォーテックス・シティ

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#アポカリプスヘル
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#ヴォーテックス・シティ


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●怠惰な蟻
 欲望と混沌渦巻く罪過の都市――『ヴォ―テックス・シティ』。
 饐えた臭気が硝煙の風と共に運び込まれる中、継ぎ接ぎのように鉄板を纏い着る男は機械式の義眼で周囲を見回していた。
「……遅い。この俺が "上" に何を言われるのか、コイツらは分かってんのか?」
 ストン、と。
 スティールのボディを鈍く光らせた男はサッカーボールか何かの様に、足蹴にしていた頭骨を蹴り上げた。苛立ちを隠しつつ溜息を吐くこの男の名は『アレクサンドル』という。
 手下達が重機や奴隷の運搬作業に精を出している様を眺めながら、アレクサンドルは自身の境遇を嘆いていた。
 これまで、アレクサンドルというレイダー・キングはヴォ―テックスの下で大きな市場を任されていた。しかしそれも僅か数週間前――奪還者の集団に自身が手をつけていた『商品棚』を陥落されたことで、彼は無能の烙印と共にシティの端に追いやられてしまったのだ。
「面倒だ……作業工程を増やせばそれだけこの馬鹿どもは手の動きを止め、安易な指示を出せばやりたい放題する。クソが」
 それまで自分が育て上げた徒党を取り上げられ、末端の使い捨てレイダー達を押し付けられたアレクサンドルは組織としての機能の低さに頭を抱える。
 洗脳。あるいは別口でヴォ―テックスに回された下っ端も下っ端。まさしくそれは『雑魚』と言っていいだろう。そのような人材しかいない時点で、シティを追い出されていないだけ腕は買われているとしても前途を鑑みれば相応の苦労が目に見えていた。
 アレクサンドルは有能だ。個人の質で見れば決して高い戦闘力ではないが、他のレイダー・キング達が育成を投げた人員を上手く運用しているのだから。組織を束ねる者としては稀有な資質を備えたレイダーだろう。

 彼は、当面は手下の練度を上げる事ではなく、自らの下で仕事をするという義務感を植え付けるべきだと考えている。
(暫くは都市の機能整備に回しながら人狩りを並行させる。命令に背いた奴等を片っ端から殺して数減らしと教育を両立させるとするか)
 義体の腕をカリカリと引っ掻く真似をしてから、アレクサンドルは手下達にPHS端末で指令のメールを一斉送信した。この日の行動順と仕事内容が記載されたものだった。
 送信完了の文字が出たのと同時、銃声が曇天に轟いた。
「メールの着信音が聴こえなかった奴は速やかに名乗り出ろ。聴こえた奴等は確認後、次の作業に取り掛かれ……わかったか?」
 低い声が淡々と続く。次いで、その声に男達が雄叫びのように応答する。
 皆既に、仲間がこのアレクサンドルの『仕事前のひと手間』で何人も命を落としているのを知っていた。
 ギシリと軋みを上げる鉄板。ヴォ―テックスの空を見上げたアレクサンドルは息を肺に吸い込んだ。
「……人間狩りだ。とっとと終わらせようじゃねえか、ガキの7、8人を連れてくりゃそれでいいんだ」
 饐えた臭気が鼻腔をくすぐる。
 レイダー・キング。アレクサンドルは、自らの惰性を吐き出しながらヴォ―テックスの壁外格納庫へと向かうのだった。

●赤い悪夢
 ――視える光景に差は無い。
 ただ、赤々と燃える拠点の隅で蠢いている人と。人でないモノの形だけが赤く映し出されている。
 炎が渦巻く度、誰かの悲鳴が聞こえて来る。屑鉄寸前のバイクを走らせたレイダー達が奇声を上げ、銃弾を撒き散らし、放たれた怪物が敵味方関係なく喰らいまくる。
 悪夢だ。
 統率の取れたレイダー達は無駄な行動は取らずにただ暴れ、そして人を攫いその場を去って行く。殆ど戦闘行為を取らず、相手を傷付けて逃走に走る彼等は拠点に駐在していた『奪還者』を自称する者達でも止められない。レイダー側から放たれた奇怪な大型の甲虫が行く手を阻んでいる為だ。
 陽動と遊撃にも思えるこの連携がまさか、ただ各々が許された行為を何も考えずに実行しているだけだなどと。誰が気付くだろうか。

●作戦会議
 シック・モルモット(人狼のバーバリアン・f13567)は会議室の机上に腰を下ろした姿勢のまま、集まった猟兵達に簡単に予知した内容を伝えた。
「ヴォ―テックス、シティ……か。凄い所だな、人の中でも分かり易い悪ってカンジがする。
 さっき言った通りだ。このアレクサンドルとかいう連中のやり口は猟兵が事前に介入しないと被害ゼロを達成するのが難しい相手だと思う。
 潜入して、奴等が荒野に人間狩りに行く前にその『足』をぶっ壊すしかない」
 目を細めたシックは続ける。
 彼女が見た限り、敵の機動力は主にクルマに依存している。惨劇を回避するならばアレクサンドルの徒党が備える車両を破壊し尽くすしかないだろう。
 幸いにも相手は末端組織のようだ。潜入するならば隠密に徹するか、上手く陽動を行い仲間の手を滑り込ませるか、自ら愚者の中に混じり工作するかに寄るだろう。
「……手間はかかるだろうがやり方はいつも通り、あんた達に任せる。
 分かってると思うけど蟲型のオブリビオンには気をつけろよ? ……あれは、シンプルに厄介だ」


やさしいせかい
 初めましてやさしいせかいです、よろしくお願いします。

「シナリオ詳細」

『第一章:冒険』
 下水と硝煙。死肉の臭いが舞い込んで来るようなヴォ―テックス・シティの下位区画に在る、レイダー達の拠点に破壊工作をすべく乗り込んで頂きます。
 潜入先は主に壁外の地下格納庫やシティの路地裏に並ぶ倉庫。これから人狩りに出るであろう動きを見れば大体分かります。
 猟兵のスタイルに合わせて行動して良いでしょう。
 隠密、潜入からの工作に関してはスパイ映画のような物でも、皆様次第で構いません。
 しかし喧嘩など戦闘行為で騒ぎを起こしたり、陽動を行う場合は『ヴォ―テックスシティ』において日常と化した暴力や銃声のひとつやふたつでは効果は薄い可能性があります。
 可能な限り人狩りに用いるマシン達に支給爆薬またはそれに準じた皆様の携行された爆弾等をセットして破壊して下さい。

『第二章:ボス戦』
 破壊工作の中で猟兵はレイダー達が運搬する、大型列車のような箱の存在に気づくでしょう。
 各車両の中には巨大甲虫。巨大な牛の腸にも似たワーム型のオブリビオンが一頭拘束されており、第一章の展開次第で皆様に襲い掛かる事になります。
 これを撃破することでまた惨劇を回避できるでしょう。
 環境に応じて戦闘に工夫を加えると判定に+あったりします。

『第三章:集団戦』
 作戦が成功すれば、あとはシティを脱出するだけです。
 幸いにも今回の作戦はシティの外壁に近く、包囲されるよりも先に逃走を図る事は容易いでしょう。……それが成功するかは皆様次第です。
 足が速く、それでいてマシンに乗った敵が集団で追撃に来ます。これを撒けば皆様の勝利です。
 前章参加済みの方など、希望があればダメージや疲労が蓄積している状態を描写します。(【疲労orダメージ有】などの表記のあるプレイングに対応します)

●当シナリオにおける描写について
 三章全てにおいて描写(リプレイ)中、同行者または連携などのアクションが必要な場合はプレイング中にそういった『同行者:◯◯』や『他者との連携OK』などの一文を添えて頂けると良いかと思います。

 以上。
 皆様のご参加をお待ちしております。
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第1章 冒険 『人狩りマシンに爆弾を』

POW   :    喧嘩騒ぎを起こすなどして注意をそらしている隙に、他の誰かに爆弾を仕掛けてもらう

SPD   :    レイダー達に見つからないように隠密行動を行い、秘密裏に爆弾を仕掛ける

WIZ   :    怪しまれないように他のレイダー達から情報を得て、効率的に爆弾を仕掛ける

👑7
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●臭いモノには――
 ヴォ―テックス・シティのとある下位区画への侵入を手助けした奪還者の男は、猟兵達に向かい腰ほどもある木箱を指差して見せた。
「アンタたちの組織に依頼されて用意したこの爆弾は、レイダーどもの騎乗するバイクやクルマの機関部に設置することで効果を発揮する。
 粘土を捏ねるようにしてパックの吸着素材を起動すれば貼り付けられる。簡単だろう? ……もっとも、大型車両なんかに設置する時は数が必要になる。その辺りは上手くやってくれ」
 奪還者の男は猟兵達を同業者くらいにしか思っていないのか、その眼には不安気な様子が伺える。
 それもその筈だ。
 この都市においてヴォ―テックスに逆らう輩がどうなるか、荒野世界でよく知られている事だ。拷問され手引きした仲間の情報を吐かされたあと磔にされた、腸を引きずり出して首吊りにした、死ぬまでバイクの車体に括り付けられて都市中を引き摺り回される……等々と。その手の話には事欠かない。
 故に、彼と目が合った猟兵はそれとなく。この作戦が無事に成功することを視線で訴えられる事になるだろう。
「……レイダー・キングのアレクサンドルは数ヵ月前に失脚したばかりだ。当然その手下の質も落ちているとは思うが、この街で育成を任された輩の所には数だけは集まるもんだ」
 つまり車両の周辺には相応に人の気配があるということらしい。二、三人を誘導した所で爆弾の設置難度はあまり変わらないようだった。
「連中の練度が低いことは救いであり、同時にそれが恐ろしい。女と見れば見境なく襲って来る可能性もあるしな……男だってわからん、隙を見せるなと言いたい所だが作戦が作戦だ。頼むから上手い事やってくれよ?」
 その場を離れ始めた猟兵達を横目に、奪還者の男は不安気な面持ちで見送りながらそう言ったのだった。
黒木・摩那
レイダー・キング? どこかで聞いた名前ですね。
もしかして、前に子供を攫ってた連中の頭目でしょうか?
せっかくですから、トドメまで刺してあげましょう。

侵入は髪をまとめ、帽子を深くかぶって整備員として潜り込みます。
そして、車の底やバイクの側に近寄って、爆弾を加速ブースターと称して、爆弾を燃料タンクやエンジン近くに設置していきます【言いくるめ】。

潜入がバレたら、【ダッシュ】と【功夫】で急接近からの【重量攻撃】と【衝撃波】による一撃を喰らわせて、黙らせます。
トドメにUC【サイキックブラスト】を追加して、バッテリーに感電したということにして退散します。




 曇天の下。ヴォ―テックス・シティの下位区画に喧騒が広がっていく。
 レイダーの中でもとりわけ下っ端に位置する者達が慌しく動いているのは、これから人狩りに向かう一団の準備行動のためだった。
 そんな下位区画の片隅にある整備場に鈍い音が鳴り響く。
「おまッ……!? え、っ……ごほッ…………」
 ツバ付き整備帽がくるくると舞い落ちる。
 同時に錐揉みしている男の手からレンチが落とされ、コンクリート面の足下に転がっていった。甲高い金属音と共に二人の男がレンチの横に崩れ落ちる、それを見下ろしている黒木・摩那(冥界の迷い子・f06233)は周囲の気配を察して即座に呻いている男達へ掌を向け、高圧電流を叩きつける。
 複数の足音。
「オイオイオイ、なんだってんだ?」
 声のする方へ摩那が振り向いた時には、彼女の長い艶やかな髪は整備帽の内に綺麗に収まっていた。
 サイキックを用いて自身の変装を整えつつ辺りに工具をばら撒いておいた摩那は、作業員の男達に「なんでもない」と告げる。
「この馬鹿どもがバッテリーで遊んでいただけだ」
「バッテリー?」
 チラ、と。視線が整備士に扮した摩那から作業台に乗せられた一台のバイクに移る。
 そのバイクは言うまでもなくジャンク品を改造しただけの粗雑な単車だ。ヴォ―テックス・シティでは多く目にする一般車である。
 そんな車体には幾つかの追加武装に、外付けのバッテリーが搭載されていた。使われている物が物である、感電の危険は幾らでもあるだろう。
「…………まったく。ボスにどやされんぞ、馬鹿め」
 作業員の男は首を振り、他の仲間達に「こいつらを裏に連れてけ」とだけ指示を出した。

 ――隙を見て場を脱した摩那は、人目をそれとなく避けながら工具バッグを揺らす。
(まさか仲間なのに私が女性と見て襲いに来るとは……予想はしていましたが想像を越える低劣さね)
 摩那は誰とも知れぬうちに溜息を吐き、襲いかかってきた二人組の事を思い出す。
 あの場にあったバイクやクルマといったマシンにはそれぞれ爆弾を設置してあった。それを見破られる事は無かったが、よもや整備士に襲い掛かるなどとは。統率はされていても本質はレイダーだということなのだろう。
 しかし騒ぎを利用して人の気配が薄くなった整備場をこうして闊歩できているのだから、まずは良しと彼女は思う事にした。
「さて、と」
 人狩りに用いられるマシンはいずれも性能は低い。だが数を揃えれば騎馬に代わる軍団にもなる、破壊しなければならない。
 修理中のマシンの燃料パックに爆弾を手早く括り付け、ローラーコースター上に安置されたバイクへ近寄り摩那は次々に武装の隙間やエンジン部に追加武装と偽った爆弾パックを設置して行った。
「ん……? おい、なんだそれ」
「ボスからの指示で加速ブースターを搭載しています」
「エンジンに近いが、大丈夫なのかぁ?」
 騒ぎから戻って来た別の作業員が摩那を見つけると近づいて来る。しかしそこに疑心はなく、どちらかといえば余計な手出しをされて後で文句を言われる羽目になる事を恐れている様子だった。
 摩那は心配ないと付け加えて頷く。
「ボスの指示ですから」
「下っ端が吹っ飛んでも気にしねえってか……おっそろしいレイダー・キングだな、アレクサンドルは」
 作業員は整備帽を深く被り直してからそう呟くと、一人で完結してその場を離れて行った。
 摩那も手近なマシンへの爆弾設置を終えると速やかに整備場を後にする。

(……レイダー・キング、アレクサンドル? どこかで聞いた名前ですね。
 もしかして、前に子供を攫ってた連中の頭目でしょうか? ――せっかくですから、トドメまで刺してあげましょう)
 聞き覚えのある名。どういった経緯と背景があるかは知らないが、知る必要もない。この作戦は遠からずレイダー・キングの首に一刀を振るう事になる筈だったからだ。
 確かな成果を期待し。摩那はそのまま何事もなく渡された分の爆弾を設置し終えるのだった。

成功 🔵​🔵​🔴​

木霊・ウタ
心情
人間狩りって
いかにもアポカリプスヘルっぽいけど
未来は命の重みだ
その命を蔑ろにする奴らを
のさばらせておけないぜ
マシンを破壊するぜ

行動
あんまこっそりってのは
得意じゃないけど
小汚い格好をしてたら
潜り込めそうだな
旅の歌い手かなんとかで

影を放ち
状況や周囲を確認しながら格納庫を目指す

出来るだけ誰かに出会わないようにするけど
見つかって怪しまれてるっぽいなら
手を挙げてる隙に影に転ばせたり
影に物音を立てさせて注意が逸れたりした隙に
当身や炎で気絶
瞬間的に酸欠にさせるカンジで

影と手分けをしてマシンに爆弾を設置
時限装置かわりに地獄の炎も仕込んでおくかな




 じりじりと、焼けた空気がその場に吹きつける。
「人間狩りっていかにもアポカリプスヘルっぽいけど……未来は命の重みだ。その命を蔑ろにする奴らをのさばらせておけないぜ」
 襤褸の外套を上から着込んだ木霊・ウタ(地獄が歌うは希望・f03893)は炎の残滓を髪の毛先から漂わせ、今回の作戦を支援してくれている奪還者の男の前で一瞬。赤々と燃える炎を発すると共に背後に自身の影を落として見せた。
 ――その影は本来、追跡に用いる影の化身だ。
 ウタと寸分違わぬ身の丈で人間らしさを疑う事の無い動き。大剣の影だけ霧散させたそれは、ウタの前で同じ襤褸を羽織って見せた。
「……面白いな。一人で二人分の働きができるってわけか?」
「俺にできることはやってくれるぜ」
 なるほど、とウタの応えに感心した男は。言われる前に【影の追跡者】へと爆弾を手渡して、同じ分だけウタにも差し出した。
「武運を祈ってるぜ」
「これでも運は良い方だよ」
 別れ際にそんな事を言い合いながら、ウタはヴォ―テックス・シティの饐えた臭気の中へと入って行く。
 その足は――忙し気に銃器を運んでいる荒くれた男達の一党の後ろへとウタの影が向かい、ウタ自身もまた周囲に気を張りながらマシンの格納された場所を目指して行った。

 ――荒んだ世界の中でも一際その内情は荒み切っている。
 都市の中を見回しているウタは自身の影と五感を共有し、男達の集団を追う中でそう感じていた。
 人の気配はそもそも多い。
 まともな『拠点』では暮らせなくなったり、あるいはレイダーへとその身を落とした輩が集まっているのか。ウタに視線が集中する前に隠れたり、襤褸の中に顔を隠して旅人を装ったりしていても絡まれそうになっていた。
(あんまこっそりってのは得意じゃないんだよな……このまま行くとそのうちに怪しまれそうだ)
 ウタは武装した集団をやり過ごしながら一考する。
 自分にできる最も違和感のない変装。あるいは怪しまれずに奥まで入り込めるような姿を演じるには、何が良いか。
「おい、なんだお前」
 肩を掴まれそうになりウタの体が伸ばされた手を反射的に避ける。
 声を掛けて来たレイダーらしき大柄な男は眉間にしわを寄せ、今にも殴りかかって来そうな剣幕で「あ?」と声を漏らしている。ウタはそれに小さく舌打ちするが……不意に、下位区画の何処かから流れて来たノイズ混じりの音楽が彼の中で反響した。
 文字通りの閃き。
 ウタは自身の愛用するギターを外套の下から抜く。流れてきた音調に合わせたタイミングが良かったのか。その瞬間、場に強烈なピッチで跳ね上がるハンマリングオンから始まる速弾きが響き渡る。
「な……なんだぁおめえ?!」
「俺は旅の歌い手ってやつだよ。これから仕事に向かうんだ」
「ヒュウ! イイ腕してやがるぜ! 人狩りの随伴か? お前みてーのがいるから楽しいんだ、掻き鳴らして来いよー!」
 突然のウタの豹変ぶりに面食らっていた大男の後ろから、他のレイダー達の歓声が上がる。どうやら人狩りにはよくこうした楽手はいるらしい。
(いるんだ……)
 上手く誤魔化せたのには間違いない。すぐさまその場を脱しながら、ウタは自身の影を追う様にレイダー達の間を潜り抜けて行くのだった。


 辿り着いた先に在ったのは、下位区画の中でも外壁寄りの格納庫だった。
(継ぎ接ぎだらけだな)
 しかしその様相は格納庫というよりも崩落寸前の納屋を繋ぎ合わせたようで、いっそ建物に爆弾を仕掛けた方がいいのではないかとウタは首を傾げた。
 そうしない理由は解っている。それで掘り出されればまたマシンを使われてしまうのだろう。
 ウタは物陰から様子を伺いながら格納庫へと忍び込む。
 彼の『影』はいま、レイダー達の作業内容を僅かながら盗み聞きつつ。その集団から離れてウタと共にマシンの場所を目指していた。
 ジャンク品となった銃器などが押し込まれたコンテナが並ぶ中、その奥には整備場も兼ねた倉庫に続いている。レイダー達以外にも何人もの奴隷が監視に見下ろされながらバイクやクルマの整備を行っているようだった。
「隣の格納庫では整備士が二人事故ってるみてーだしよぉ……ノルマに間に合いそうにねーぞ!? レイダー・キングの怒りを買いたくないぞ俺は! てめぇら! 休憩の時間は無しだ!! 俺が戻ってくるまでにそこのマシンをピッカピカにしとけよォッ!?」
 どうやら監視役がいなくなるようだ。ウタは影を通して見聞きした状況から、爆弾を仕掛けるなら今かと考える。
(……今回の目的は違うけど、どうせなら)
 レイダー達の気配は遠い。外套の中で掴んだ爆弾を見下ろしながらウタは自身の影にそれらを取りに来させ、自分は素早くマシンの整備にあたっている奴隷の人々に近付いて行った。

「アンタたちは捕まってここに?」
 突然忍び寄ってきたウタの姿に一瞬驚いた様子を見せた奴隷達だったが、彼がレイダーではなく奪還者であると知るや否や、口々に自分達の状況を教えてくれた。
 今は助けられないが、少なくとも逃げ出す機会はある。そう言うウタに半信半疑ながらも奴隷たちは頷くと、彼等は爆弾をウタの影が設置する様子を見守る事にした。
 爆弾の起爆タイミングは伝えた。その時が来る前に退避すれば彼等に被害は行かないだろう。
(そうなると、俺達猟兵が街を出るときになるべくこの人達に追手がいかない様にしなきゃな……)
 ウタ以外にも猟兵はいる。そう考えれば彼等にも希望はあるだろう。
 しかしそれだけでは足りないかもしれない――そこでウタは爆弾の代わりに、自身の操る地獄の炎を火種のように小さくしてマシンの中に入れた。
 小さく光る『ソレ』は彼の意思に呼応して爆炎を噴き出すだろう。燃料タンクやバッテリーを包んだそれはさぞ派手に爆発してくれるはずだ。
 そうして暫く、ウタの影とウタ自身が爆弾を設置して回っていると格納庫に男達の笑い声が響いて来た。
「……ありゃぁブラッドルビー様のとこの医者じゃねえか? やたら俺達の扱いに慣れてたぜ!」
「ヴォ―テックス一族お抱えの医者がこんなとこに来る訳ねーだろ」
「しっかし可愛かったよなぁ!」
「ガキに手ぇ出すとか考えられねぇ」
 どこかから戻ってきたレイダー達の談笑を聞きながら、しかしそれが想像以上に人数が多い事にウタは途中で気付く。
 奴隷の男が一人、ウタに小声で注意を促した。
「いけない! レイダー・キングの元配下たちです……! 時々、こうしてここへ足を運ぶのですが……」
(元……? レイダーの事情なんか知らないけど、今ここで見つかったらまずいな)
 不幸中の幸いだろう、マシンへの爆弾設置は充分だった。
 ウタは奴隷となっている男達に短く礼を言うと同時に自身の影を走らせた。格納庫は狭くはないが広くもないのだ、退路を作っておかねばどこかで捕まる可能性もある。
 レイダー如きに負けるつもりはないが、不要な騒ぎは避けたい意思があった。

 行動は早かった。
 ウタの【影の追跡者】は素早く移動し、工具の並んだ棚や宙吊りにしていたクルマの鎖を落として物音を一斉に立てていた。
 その騒ぎによってレイダー達の動きを誘導したウタは、手近な外部への扉に続くルートを駆けて行く。
「……は? ッん、ぐぉオッ!?」
 コンテナ群を抜けた先。物陰で煙草を吸っていたレイダーの顎を蹴り上げたウタが続く当身によって男の意識を瞬時に奪う。
 視界の端に映る『影』の見る景色の中にレイダー達が映る。ウタは即座に影を霧散させ灰に帰して痕跡を消すと同時、格納庫の横扉を蹴破るように開けてその場から退散するのだった。

成功 🔵​🔵​🔴​

レパイア・グラスボトル
正面から。
猟兵の仕事が絡まないとヴォーテックス・シティもお得意様。
職業・医者兼略奪者のため。

毎度お馴染みのお医者様だ。
診てほしいヤツはいるか?
死にかけは全員持ってこい。
どんなでも生きていりゃ元気にしてやるさ。

【WIZ】
【医療】子供達と自身が衆目を集め情報収集&子供達の教材
【略奪】子供故の体格差にて大人達を振り回しつつ爆薬をしかける。
子供に手を出す奴には死んだ方がマシな痛い治療をする。危険な時はホームに強制送還。
己に手を出される事には思う所はない。
ただし、医者をしている間の邪魔は別。軽口程度には付き合う。

治療は真摯。治療費はもらう。

ガキ共に乗り物見せてやってくれるだけでもいいさ。

アドアレ絡み歓迎




 ヴォ―テックス・シティの下位区画へと歩を進める一団。
「アンタたちはワタシから離れるなよ、こっちは面倒なのが多いんだ」
「ヤー!」
 薄汚れた白衣をたなびかせた金髪碧眼の女が周囲に視線を向けながら答える。
 その視線は一瞬ながら、辺りを往く者達を一望しつつもどこか警戒心と呆れを滲ませたものだった。
(救えないねえ)
 饐えた臭気の出処は、粗雑な科学薬品を組み合わせたケミカルドラッグだろう。ヴォ―テックス・シティの下位区画とは、言ってしまえば糞蟲の集まった本物の糞溜まりだ。
 レパイア・グラスボトル(勝利期限切れアリス・f25718)は自らが今回の仕事の要として呼び出した【レイダーズ・チルドレン】たちに不必要に周囲を刺激する振る舞いを止めるように咎めてある。
 彼等が普段から仕事相手としている客とは、言ってしまえば支払い能力のある奴かたまたま彼女たちの目に止まった怪我人かのどちらかだ。元よりレパイア達一党は略奪者としての面もある、ヴォ―テックス・シティには『そういった伝手』の意味合いも含めて少なくない回数足を運んでいた。
 しかしそんな彼女達も好んで入り込まない領域が存在する。
「レイダー・キングの威光が無きゃゾンビ同然に見境なく暴走する輩が大勢いる所だよ。飢えを満たすために際限なく群がって来るんだ、ワタシはともかくアンタ達は嫌だろ?」
 細めた目で見下ろされ、傍にいた【子供世代のレイダー】は首に提げた小銃を抱きながらコクコクと頷いて見せる。

 今回そんな場所に足を踏み入れたのは他でもない。猟兵としてである。
 仕事も兼ねた子供達の"教育"――場に合わせ対応出来るようになるのもレイダーだ。
(そう考えれば適当にやらせるのもいいか)
 思案を頭の片隅に置きながら。レパイアは下位区画の大通りを往きつつ周囲に目立たぬ程度の視線を巡らせていた。
 そうして暫し歩き進む事、小一時間。
 場の空気に子供達を慣れさせた所で彼女は小声で指示を出し始める。
「アンタ達。さっき通ったジャンク屋の裏手に回りな、ワタシと何人かはこれから少し動くよ」
「無線は?」
「まだ電源オフにしてあんなら帰った時オシオキだよ!」
 お叱りを受けた子供世代のレイダーがひいひい言いながら腰の無線機に手を伸ばす。
 レパイアが指示を出したのは、つい先ほどから目に見えていた周辺の人の動きに因るものだ。
 これだけの雑踏の中、ならず者やドラッグに手を染めた頭のおかしい連中の内を掻き分けて歩き回っていたレパイア達一党の姿は下位区画に棲む者達からすればさぞ目立っていた事だろう。何より、彼女達の装備品は下位区画では明らかに質が違う。レイダーとしての能力もさることながら"レパイア達の仕えている存在"を想像した者はいずれも好奇の目で彼女達をじっくり観察していたのだ。
 その上で誰も手を出してこなかったのは運が良いのだろう。だがレパイアはそこに、忙しく動きながら自身達に目もくれずにいる者達がいるのを見つけていた。

 子供世代のレイダー達がそれぞれ集団行動のもとにレパイアに言われた路地裏へ入っていく。
 同時に彼女と数人は、だらんと作業服の男を二人載せたバイクを押しているレイダーに近付いて行った。
「おい」
「あぁん?」
 不機嫌そうな男の声。しかしレパイアは臆することなく白い肌の上にいつもの、暗い笑みを作って見せた。
「毎度お馴染みのお医者様だ――診てほしいヤツはいるか?」
 その言葉は、丁度バイクを押して怪我人を運んでいたレイダーにとって望んでもないセリフだった。


「そいつら、大丈夫なのかぁ? 感電ってやべーって聞くが」
「闇市で大量に捌かれてるバッテリーパック如きでそんな大層な電圧流れると思うか?」
 声がよく響く。
 声をかけた相手は、幸運にもクルマの整備場で働く者達だったようだ。気絶した作業員を医療所まで連れて行こうとしていたらしいが、レパイアはそれを良しとせず。その場で診てから彼等の作業場まで案内させ治療する事にした。
 男二人の容態を診ながら彼女は適当な返事をしつつ、軽く舌打ちをしていた。
(感電じゃないな。勁への打撃……この手際は他の猟兵か)
 死んでいないのは好都合、ならばレパイアは治療が出来る。だが既に他の猟兵が手をつけた整備場では爆弾を仕掛けようにも無駄撃ちに終わりかねない。
「他に怪我人がいるなら診るが」
「治療費の額によるな」
「払って貰うがワタシのとこのガキどもと遊んでくれるだけでもいいぜ?」
 レパイアが後ろ手に指差した先では、いつの間に集まってきたのか数人のまだ若いレイダー達が整備場の人間にそこかしこで絡んでいた。
 露骨にイヤそうな顔を浮かべる整備場の監視役レイダーに、レパイアはニンマリと笑って見せた。
「そんな顔をすんなって。ガキ共に乗り物見せてやってくれるだけでもいいさ」
 
 ……かくして。
 レパイアの目論見通り、見事なまでに彼女達は別の整備場へと案内された。
「流石姐御!!」
「黙りな。聴こえんだろうが」
 ぴしゃりと叱りつつ、無線機を彼女は手に取った。
「お前達。これから座標をそっちに送るよ、しっかり確認してすぐにこっちに来な」
 僅かな雑音の後に了解の言葉が返って来る。
 危うくドラッグの取引現場を引っ掻き回す所だったという子供世代のレイダー達からの報告に、レパイアは眉間にしわを寄せつつも何か起きる前に呼びつけられた事に安堵した。
 運が良い。こういう日は彼女の手元がウズウズしてくるものだった。
「あ! おいてめえらここで何してやがんだ!」
「ちょいとガキどもに見学させてるよ、向こうの整備場の奴等の治療代さね」
「あー? ……お前、名は?」
 しばらくレパイアの顔をじろじろ見て来ていたレイダーが急にそんな事を訊ねて来る。
 子供世代のレイダー達がそれぞれ自然と注目を集める者と爆薬を仕掛ける者とに分かれている頃に、レパイアはそれとなく目を回してからレイダーに向き直った。
「ワタシは医者だよ」
 クック、と小さく笑って答えた彼女に。レイダーは訝し気に頷いてからその場を離れていくのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第2章 ボス戦 『アカメ』

POW   :    【のたうつ災厄(The Berserk)
【怒りに任せ、体内の血流】を一時的に増強し、全ての能力を6倍にする。ただし、レベル秒後に1分間の昏睡状態に陥る。
SPD   :    拠点喰らい(Base Eater)
【地表付近の地中を潜行し、地中からの強襲】が命中した対象にダメージを与えるが、外れても地形【を破壊し、地盤沈下を引き起こす事で】、その上に立つ自身の戦闘力を高める。
WIZ   :    アカメ(Fake Oblivion Storm)
戦場で死亡あるいは気絶中の対象を【砂塵で確実に殺害し、赤い目のオブリビオン】に変えて操る。戦闘力は落ちる。24時間後解除される。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠ユウキ・スズキです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●赤い眼――
 ヴォ―テックスシティの空を暗雲が覆う。
 彼の街には幾つもの旧文明から残るプラントが存在する、だがそれを動かす者達はロクな計算も整備も行わず。ゆえに巨大工場から流れ続ける科学薬品がその揮発性から強烈な汚染された雨を降らすのだ。……ただでさえ、この荒野には悍ましい放射能の雨が降り注いでいる時もあるというのに、である。
 これから雨が降る。
 まさに都市の中が慌しくなろうとしていた時、燻り続けていた火種は最良の期を狙って炎を上げた。
 ヴォ―テックスシティの下位区画。壁外にまで伸びる下部組織の人狩り用マシンや格納貯蔵庫が軒並み吹き飛んだのだ。
 否。ただ吹き飛んだだけならば、まだどうにか出来たかもしれない。
 問題なのはマシンを集中的に破壊された事だ。連鎖的に起きた小規模の爆発は大量の負傷者を出し、同時に近隣への被害が少なかったが為に周囲にこの異常事態が察知されなかったのである。
 すべては奪還者組織が、ひいては猟兵達の望んだ展開だった。
 囚われた者達が逃げ出す隙には充分。そして、猟兵達が逃走する時間も十二分にあった。
「……何だ、コリャァ」
 ――もしこの作戦に難所があるとするなら、それはレイダー・キングの存在だろう。
 キング・アレクサンドルは爆風の熱波を浴びながらも、猛る炎の中で何が起きているのかをハッキリと視認した上で理解する。侵入者は既に仕掛けを終え、この場から距離を取ったばかり。即ち今、この場で追撃と捕縛を遂行できなければ彼はこのヴォ―テックスシティからいよいよ追放されかねない事態が起きていた。

「ボス……ッ!! 俺達のシマにあったマシンが……」
「おせーよ無能どもめ。壁外の格納庫は元々オレの所有物だった、これを探り当てられたってのはお前達下っ端どもの隙に付け入られたんだよ」
 配下のレイダーが息を飲む。アレクサンドルは冷静さを失っていないが、しかし怒りの頂点にあるだろうことは察せられた。
「頭を使うんじゃねえ、いちいちビビッてる暇があんなら消火を急がせろ。怪我人は無視しろ、どうせ換えは利くんだからな」
「了解!」
「ああ、待て。そっちの奴に指揮させろ」
 アレクサンドルが別の配下に行かせると、報告に来ていた配下のレイダーは内心首を傾げた。
「俺に何か……?」
「悪いなァ」
 銃声。
 大の男が地面に薙ぎ倒された後に数瞬遅れて飛び散る血潮を見下ろし、アレクサンドルは懐から端末を取り出して素早く操作していく。
 デジタル画面上に映し出されているのは、何かの昆虫の幼体にも見える画像だった。
「……システムダウンされてるか。制御装置無しじゃァどっちみち人狩りは当面無理だな」
 舌打ちをすること数回。
 レイダー・キングのアレクサンドルは継ぎ接ぎの鉄板に覆われた肌から焼けた肉の臭気を漂わせ、端末を暫く操作してから天を仰ぎ見る。ここが分水嶺だと、半ば確信しながら。

「てっきり俺は、いつかこのクソッタレの世界で誰かに撃ち殺されるんじゃねえかと思ってたんだがな……分からねえもんだ」
 死ぬものか。
 訳も分からず、自らの不手際以外の要素でただの天災に遭うかの様な最期を迎えるわけには行かなかった。
 アレクサンドルは――蟲共が侵入者達のいずれかを喰ってくれることに期待しながらその場を後にするのだった。
黒木・摩那
整備場の爆破はうまくいきました。
あとはシティから脱出するだけですね。

しかし、またすごい追手がやってきたものです。
それだけ怒っているんですかね、やっぱり。

このまま逃げ切るのも手ですが、あの巨体がのたうつと被害も馬鹿にはなりません。
ここで叩いておきましょう。

ヨーヨー『エクリプス』で戦います。
UC【偃月招雷】でヨーヨーを帯電。それをアカメにぶつけます。
取り巻きは【なぎ払い】で片付けます。

地下から攻撃してくる敵なので、ビルなどの建物の上に陣取りながら戦います。
建物間は【ジャンプ】やヨーヨーを使って移動します。




 かくして、猟兵達の作戦は半ば成功した。
 レイダー達含め、人狩りマシンに携わっていた要員の過半数に打撃を与えた。これで後は稼いだ時間分だけ安全に都市からの脱出を図るだけだった。
「……あとはシティから脱出するだけですね」
 しかし、何事も上手くいくばかりではないと黒木・摩那(冥界の迷い子・f06233)は察する。
 彼女は他の猟兵と同様、事前にあった情報を頼りに怪しい格納庫や整備場を爆破しておいたのだ。それも念入りに、件の『大型車両』に収められているであろう"中身"にも衝撃が入るように設置したのである。
 だが。
「――しかし、またすごい追手がやってきたものです。それだけ怒っているんですかね、やっぱり」
 ヴォ―テックス・シティの下位区画を抜け出そうとしたのも束の間。摩那の背後から鉄板が唸りを上げて転がり飛んで来たのだ。
 瞬時に掌中へと超可変ヨーヨー【エクリプス】を引き寄せ、摩那のステップと同時に鋭角に幾何学模様を描きワイヤーを伸ばして鉄板――焼け焦げた鉄扉を絡め取って宙に縫い止める。
 彼女は鉄扉を捉えた後方に、暴れ狂う巨大ワームの姿を見つけた。
(このまま逃げ切るのも手ですが、あの巨体がのたうつと被害も馬鹿にはなりません)
 指先が動く。同時に彼女の意思が揺れる。
 連動して、宙に縫い止められていた鉄扉が跳ね上がり、弩の如く分厚い鉄扉が熱を持ったまま射出された。
 投げ返された鉄扉は銅鑼のような音を奏でて鮮血と共に突き立つ。

――【ギ、ュィイイイイッッッ!!!!】
 炎を上げる大型車両から這い出て、のたうつ、赤い眼から蒸気を滾らせる巨大甲虫。
 それは牛の腸に似た巨大なワーム型のオブリビオンだ。恐るべき巨体はその質量さながらの破壊と、悪意の塊ともいえる異能を宿していた。

 格納庫の近辺にいた事で爆発に巻き込まれたレイダー達の中で、【アカメ】の傍に転がっていた者達を赤い瘴気が包む。
 摩那の牽制によって怒り狂っていたワームは、その牙を"伸ばす"べく。意識の無いレイダー達を体内から噴き出した赤い砂塵によって命を奪い、彼等を自らのしもべとなるオブリビオンに造り変えてしまう。
 恐ろしい咆哮を上げ、のたうち、僅か二分も経っていない時。
 摩那の眼前で屍人のようにレイダー達が立ち上がり、殺意を奔らせた。
「なるほど」
 ――たった一言。
 小さく口の中で呟いたその言葉と同時に摩那の操るエクリプスが駆け抜け、ワイヤーが一直線に伸びて動く屍と化したレイダーたちの間を通り抜けて行く。
 空中で急制動が掛かりアクセルが跳ね返る。
 屍人を捉えたエクリプスを紅雷が伝い走り、次の瞬間。摩那の繰り手に応じてワイヤーが電流の爆ぜる音と共に屍人たちを薙ぎ払ってみせたのだ。
 取り巻きを瞬時に無力化と同時に遠ざけた彼女は更なるサイキックエナジーを励起させ、エクリプスの破壊力を増幅させる。
(『あれら』は以前に相対したモノに近い存在でしょう。幸いにも生物としての機構はそれほど変わっていない様子……特別、警戒すべきはあの巨虫ですね)
 パン、と掌に返るアクセルを握り。念動力も併せた脚力でその場から摩那は飛び退く。
 ほんの数瞬後に地響きが起きたかと思えば、土砂が十数メートルも撒き上がった。
 摩那が立っていた地面を吹っ飛ばして顔を見せたのは、やはりアカメなる巨大ワーム。彼女が取り巻きの屍人を薙ぎ払った一瞬の隙を衝いて地中に潜っていたのだ。
(地中に潜っている本体の熱源反応から考えられるに……車両に収まっていた時よりも大型化しているようですね。甲虫の幼体と同じく体を折り畳んでいたのでしょうか?)
 冷静に分析と考察を続けながら、摩那は近くのビルの壁面を駆け上がって屋上へと跳躍する。その際に身を捻ってエクリプスを放った彼女は既に眼下にアカメが迫って来ているのを確認していた。
 紅雷が伸び、サイキックによる回転エネルギーを保ったエクリプスが巨大ワームの赤い眼の一つを抉って見せた。
 三度目の咆哮。
 しかし今度は悲痛な、突然のカウンターに驚いたかのような鳴き声だ。

 ――膨張する、ワームの巨体。
 摩那はその様子を見て奇襲の気配を感じ取ると、即座にビルの屋上から別の家屋の屋根に向かって跳ぶ。
 アカメの巨躯が15mを越えるものだと分かったのは、摩那が飛び退いた後のビルに突如立ち上がったワームが突っ込んだ時だった。
 衝撃からの濛々と立ち昇る粉塵の奥で再度アカメの気配を見通した摩那は、周辺被害を抑えるべく自らの立ち回りを限定する。
(この下位区画にいるのは、レイダーばかりとも限りませんからね)
 仲間の猟兵が囚われた人々に接触したと聞いているのもあり、摩那は今暫くこの場に留まることを決めていた。
 華奢な体躯が宙を水平に滑る。
 紅雷が糸を引く毎にその体は空中で加速、跳躍する。着地の隙は見せず、摩那の繰り手から弾かれたエクリプスは正確無比に地上を蹂躙するアカメを打ちのめして行った。
 ドン、という鈍い音。
 それは摩那の【偃月招雷】により帯電したエクリプスが赤い眼を、肉を爆ぜ飛ばした音だ。
 高速で飛び回り、時にはワイヤーを伸ばし空中で軌道を変えて翻弄する彼女をアカメは捉えられない。
 次々に潰されて行く赤い眼。それらが地中で更に挽き潰され、激痛と自らの血液で訳も分からずさらに制御を失ったアカメは、やがてその動きを止める事となる。

 数分の時が経った頃。
 レイダー・キングの追手がその場に殺到したが、そこに残されていたのは瓦礫と――焼け焦げて転がっていた巨大ワームの死骸だけだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

木霊・ウタ
心情
こいつが人喰らいの蟲野郎か

命を
未来を喰らう奴をここで還してやる

攻撃
獄炎纏う焔摩天で薙ぎ払う

振る瞬間
刃からの爆炎で剣速を加速

甲ごと肉を砕くつもりだけど
狙いは飛び散る火の粉や延焼する炎だ

砕いた甲から
或いは蟲の穴から
獄炎を蟲内部に広げる

血液を蒸発させて力を削ぎながら
中からこんがり焼いてやるぜ

地中に逃げても
燃え上がる炎で
居場所は丸わかりだぜ

のたうち回る蟲へ紅刃一閃
灰に帰す

防御
地中からの攻撃を振動で察知

巨大剣で受け流したり
爆炎の反動で回避

砂塵を剣風で相殺
人を出来るだけ庇う

虜囚なら勿論
下衆なレイダーだって
オブリビオンになることはないからな

事後
鎮魂曲を奏でる
あんたもストームの犠牲者だよな
安らかに




 赤々と燃える炎の中。
 そこで動いているモノを目の当たりにしながら、木霊・ウタ(地獄が歌うは希望・f03893)は【大焔摩天】を手にしたまま外套を脱ぎ捨てた。
「……こいつが人喰らいの蟲野郎か」
 話には聞いていた。グリモア猟兵が視たという、人狩りの際に大勢を喰ったという怪物。
 巨大な牛の腸に似た、巨大ワーム型のオブリビオン……【アカメ】。
 ウタは元より、この怪物が爆発から生き延びるような事があれば必ず成すと決めていた事があった。
「命を――未来を喰らう奴を、ここで還してやる」
 きっと、ここで見逃せば時間をかけてでも巨虫は人を喰うだろう。彼はそれだけは絶対にここで阻止すると決めていたのだ。
 バチバチと爆ぜる火花。
 大型車両には何らかの機材でも積まれていたのだろうか、爆弾によって破壊されたそれは何度か火花を散らしたあとアカメの体躯に潰されて完全に沈黙した。
 その、一瞬の震動からの沈黙は合図だった。
 ウタの手から広がるように伸びた焔は光刃と化した焔摩天を覆い、彼の意思に応じて更なる質量と丈を増して熱を放つ。対峙する巨虫が頭部とも尾とも定まらぬ赤い眼を閉じた先端を地中へ突き立てた瞬間、紅の一閃が濛々と立ち昇る黒煙と火災をまとめて薙ぎ払った。
 切り裂かれた大型車両の残骸が赤く燃えて両断される。しかしそこに巨虫の骸は無く、僅かに散った火花から掠り傷しか負わせていない事をウタは悟る。
「ッ……!」
 爆ぜる。
 自身の足下が揺れたと思った直後、ウタは振り被っていた大剣から獄炎を噴出させた反動で数メートルの距離を滑る。同時に突き立つ巨虫――アカメの姿を再度捉えた彼は身を捻り、反動を活かした遠心力そのままに剣を振るって炎を走らせた。
 爆炎が駆け抜け、土砂を焦がしながら巨虫の分厚い甲殻を砕く。
 耳を塞ぎたくなる様な鳴き声が木霊する。だがウタの大剣は、己が身から湧く焔は止まらず、熱い意志のままに踏み締める足に次いでアカメのもとへ殺到した。

 それは一陣の粉塵、生者を亡者へと変える悪意の霧。
 ウタの一撃によって悶えながらアカメは巨躯から夥しい量の赤い粉を振り撒いていたのだ。
「させるか! 蟲野郎!」
 二撃。袈裟斬りからの逆袈裟に放った一閃が巻き起こす剣風によって掻き消される粉塵。
 近辺の虜囚やレイダーの身をも案じたウタはアカメの凶行から庇い、それを無効化して見せたのだ。
 しかしそれさえも時間稼ぎに利用される。ウタの剣風が粉塵を散らしている間隙を狙い、アカメは地中へと姿を消していた。
 恐るべき潜行能力だが、ウタは大焔摩天を脇に構えたまま意識を集中させてアカメの姿が消えた地中付近を睨んでいた。
 ――揺らぐ白煙。地中から僅かに香る獄炎の"気"。
(ここだ……!)
 ウタの瞳が一瞬、燃える焔の如く揺れたのと同時。突如アカメが爆炎と共に地中から飛び上がって来た。
 眼前を覆う赤い影。それは赤き粉塵をアカメが出しているのではなく、ウタが先に放った一撃を通して甲殻と肉の間へと滑り込ませていた地獄の炎が巨躯を覆うほどに拡散させていた為だ。既に白みを帯びていたアカメの甲殻は黒々と変色しており、あまりの熱量に焼け焦げた肉質の下を流れる血液さえ蒸発させられていたようだった。
 のたうつ巨虫の姿は見るに堪えないものを感じさせるが、ゆえにこそウタは一切の加減なく刃を奮っていく。
「わかってるつもりだ」
 紅蓮の光刃と化した焔摩天が空を切り裂き、その重量ゆえにウタの体躯が遠心力によって宙を滑るように駆ける。
「あんたもストームの犠牲者だよな」
 のたうつ巨体から繰り出された……否、偶々振り抜かれた尾の一撃をウタは地面に突き立てた光刃を使って受け流し。切り上げの動作によって浮いた自身を背部から金色の獄炎を噴くことで重心を落として縫いつける。
 返す刃で焔摩天から奔る劫火を伴った斬撃が巨虫の焦げた甲殻を吹き飛ばす。
 ついに耐え切れずそのまま連鎖的に甲殻が爆裂したアカメが悲鳴を上げた刹那、ウタの焔摩天が音を置き去りにして駆け抜けた。
 真一文字に走る紅蓮。
 次いで。それまで響き渡っていた苦鳴が金切り声に近い、断末魔のそれと変わった直後。一瞬だけ金色の獄炎がアカメを包み込んでから、その場に灰の雨を降らせるのだった。

 眠れ、と青年は静かに降りしきる灰に向けて告げる。
「――安らかに」
 あんな化け物でも、かつてはこの世界を生きる自然の一つだったのだろう。
 アカメの消滅を見届けてからウタが去り際に奏でた鎮魂曲は……そんな『彼等』への手向けだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

アレクシア・アークライト
あれがシックの言っていた蟲型のオブリビオンね
確かにあんな奴らが幾つも飼われていたんじゃ、私達猟兵でもなければそう簡単にちょっかいを出すわけにはいかないわね

本当なら群れをなして襲ってくるんでしょうけど、今はバラバラ、本能のままに動いているみたい
ってことは、戦況を分析してあいつらを指揮するような奴はいないと見ていいかしらね
敵が指揮系統を取り戻す前に退治させてもらうわ

・敵の攻撃を回避するために念動力で空中へと移動
・周囲に展開した力場で周囲の状況の把握と防御を行いつつ、光珠で攻撃
・敵の動きが鈍ったならば、力場で防御しつつ接近。UCを叩き込む

アカメ――
貴方みたいな怪物にその名前はもったいないわ




 ヴォ―テックスシティの壁外。
 ほぼ荒野に等しい、幾つかのマシンやレイダーの徒党が屯しているその場所で轟音が鳴り響いた。
 マシンの故障や事故によるものではない。それは明確な悪意と敵意を以て行われた破壊工作だった。
「逃げろー! 【アカメ】が格納庫から出て来やがった!」
「ボス……ボスに連絡を!」
「勝手にやってろ、俺は逃げるぞォッ!!」
 炎と煙に巻かれて次々に逃げ出すレイダー達。しかし彼等の後ろにある地下へ続く階段から、この世のモノとは思えない奇声が上がってくる。
 『アレクサンドル』の徒党が管理していた人狩り用のマシンを格納していたそこには、大型車両型の運搬格納庫が存在していた。巨大ワーム型のオブリビオンだ。人狩りにあたって効率よく敵対組織の戦闘員を喰らう事を目的とした、いわば生体兵器である。
 幾つかの車両に拘束されていたアカメは爆発や炎によって死に絶えたものの、それでも都市内部にて管理されていた個体や一部の爆発のダメージが軽度だったものが車両に搭載されていた制御装置を破壊された状態で野放しになってしまっていた。
 逃げ去ったレイダー達を追う様に現れる巨虫が鳴き叫ぶ。
 蟲の巨体に開いた穴々から漏れ出る赤い噴霧はそれそのものが猛毒よりも悍ましい能力を有している。加えてその巨体がもたらす質量は甲殻の硬度含め恐ろしい破壊力を身に纏っていた。
「あれがグリモア猟兵の言っていた蟲型のオブリビオンね。
 確かにあんな奴らが幾つも飼われていたんじゃ、私達猟兵でもなければそう簡単にちょっかいを出すわけにはいかないわね」
 土砂を撒き散らし、地下格納庫の火災から生じた黒煙と共に這い出て来た体長15メートルにも及ぶ巨躯をアレクシア・アークライト(UDCエージェント・f11308)は見据える。
 足下で呻いているレイダーを無視して、アレクシアは周囲を薄い【力場】の膜を張り巡らせた。それは不測の事態を防ぐ為であり、彼女が戦闘に入る前の下準備だ。
 気絶しているレイダー達を踏み越えて。赤い髪を湿った風に揺らして歩みを進める。
 アカメは負った火傷のダメージに怒り狂い、暴れている。オブリビオンながらにその様を遠巻きに見たアレクシアは焼かれる虫が悶える姿と重ねたが、あれは怒りによるものとは別だったかと何となしに思う。
 湿った空気に混ざる醜悪な香り。
 暴れる狂うアカメから溢れ出た赤い霧は今も広がり続けているのだ。アレクシアは自らの力場を使い、その霧が戦域から都市へ流れ出ないように不可視のカーテンを一帯に展開した。
 都市の内部からだろうか。遠方からアレクシアの眼前で鳴き叫んでいるアカメと同じく、不快な金切り声が響き渡って来る。
 アレクシアの羽織るコートの中で猟兵達に持たされた端末が震える。懐から念動力で取り出したアレクシアが端末に送られて来た情報に目を通して、それから再び端末を仕舞いながら彼女は足を一歩前に進めた。
「本当なら群れをなして襲ってくるんでしょうけど、今はバラバラ、本能のままに動いているみたい……ってことは、戦況を分析してあいつらを指揮するような奴はいないと見ていいかしらね」
 大地を揺るがすアカメの巨躯はオブリビオンの中でも相当に厄介なタイプだ。その巨体ゆえに統率が取れれば相応の脅威となっていたに違いない。
 だが、それは叶わない。少なくともこの場においては。

 アレクシアが踏み出したその足は地を踏むことなく、空中に置かれた力場を用いて宙へと身を躍らせる。
 そんな彼女の視界の中央で土砂が柱となって撒き上がる。
 猟兵であるアレクシアの気配に気付いたのだろう。アカメは地中に潜り、その巨体を躍りくねらせ猛烈な勢いで彼女の立っていた位置まで一気に突っ込んで来た。
(……? へぇ、思っていたより賢いのね)
 半身を逸らす。
 直後、アカメを拘束していた物と思われる鋼鉄製の歪んだリングがアレクシアの傍を通り抜けて行った。
 まさか狙ったとは思えないが、しかし展開させていた力場を巡る反応を感じ取ったアレクシアは敵の知性を裏付けるものとして肯定した。
 眼下の地中から勢いよく飛び出したアカメが、土砂に紛れて単車サイズの岩石を弾き飛ばして来たのだ。
 アレクシアの体を覆っていた力場が収束する。次いで彼女の周囲を囲むように展開された【光珠】が回転して、飛来した岩石や土石を絡め取るようにして軌道を逸らしてみせる。
 雨雲の奥で雷鳴が唸りを挙げる。
 軌道を逸らした岩石をアレクシアの光珠によって導き、幾度か回転させた後に強力な遠心力を纏ってアカメに投げ返した。
 吹き荒れる暴風に次ぐ爆撃めいた衝撃波が連続し、叩きつけられた岩石によってアカメの巨躯が地中に戻される。
 悲鳴か怒声か、アカメが叫ぶ。その点々とさせた赤い眼から噴霧を垂れ流し、アレクシアに向かって地中から跳び掛かった。
「あの程度の爆弾で傷を負っていたわりに硬いわね。その状態、長くないんでしょう」
 中空で対面する巨虫。その姿は、最初に見た時よりも明らかにその巨大な体を一回り大きく太く、膨張させていた。
 血流操作、或いは生物としての位階を自ら底上げする能力だろう。アレクシアの揮った手から放たれた念動力の奔流がアカメの突撃を払いのけ、後から続いた土砂の柱を引き裂いた。
 湿った空気の中を轟く叫び声。
 弾き返されて大地に叩きつけられたアカメの全身から赤い噴霧が奔る。
 岩と岩がぶつかり合うような衝撃音が鳴り響き、地団駄踏むように暴れるアカメは再度その巨躯を地中に潜らせる。
 アレクシアの張った力場のカーテンがそれら挙動を掌握する。念動力で地中の巨体を圧殺できやしないかと試みたが、まるで効かない。物理的な衝撃ではビクともしないのだろうと彼女は目を細める。
 宙を舞う光珠がアレクシアの周囲でその配置を変える。

 ――【ギ、ュィイイイイッッッ!!!!】

 アカメの咆哮と重なって、アレクシアの周囲から三対の光珠が放たれた。
 超高温にして超高密度のエネルギーであるアレクシアの光珠は念動力による誘導も手伝い、高速にして変則的な動きでアカメを翻弄する。
 硬い甲殻をスプーンで掬うかの如く抉り、削る。しかしその内部の肉まで深く食い込まず、空中を飛び回るアレクシアを捉えようと跳躍を繰り返して荒野の固い大地を耕して荒らしまくっていた。
 ヴォ―テックスシティの傍で破壊が撒き散らされる。
 しかし、それもアレクシアが予見していた通り。長くは持たなかった。
「時間ね」
 地中に飛び込むように落ちて行ったアカメの変化をアレクシアは見逃さない。ほんの一瞬、それまで好戦的だったアカメが初めてアレクシアから逃げるように距離を取る動きを見せたのだ。
 刹那。曇天の下で眩い閃光が弾けて広がる。

「――アカメ―― 貴方みたいな怪物にその名前はもったいないわ」

 アレクシアの背中で配置を変えていた光珠が彼女の言葉と共に前面に来る。
 急速回転する光珠の中央で歪む空間。生み出された閃光は収束、虚空から突如溢れ出した光の奔流と化して地に潜ったアカメを飲み込んだ。
 刹那にアレクシアの赤い瞳が瞬く。
 ほんの一瞬だけ彼女が放った"分解"の術法……【ディスインテグレート】が輝きを増した直後、何の前触れもなく光が消えた。
 粉塵すら起こらず。アレクシアの分解を受けた大地とアカメは光の奔流が通った場所だけが切り取られたかのように消滅していた。
 アレクシアは、自らの分解で開いた力場の穴を即座に再構築してから戦闘が終わった事を確認した。

「さて、と。まだやることはあるわね?」
 空中で踵を返した先、ヴォ―テックスシティの鉛色の壁が視界に広がる。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ノエル・フィッシャー(サポート)
『例え全ては救えずとも、誰一人として見捨てはしない』

・雑な扱いでもいいのでどんどん採用してくれると嬉しいな。
・【コミュ力】を有効活用出来そうな状況ならばそれを使うよ。なくても目的達成のために最善を尽くすよ。
・ユーベルコードは所持してるものからいい感じのを使うよ。
・他の猟兵との絡みも歓迎だよ。共闘するのなら、ボクは補助に回っても構わないよ。
・もし男なのか女なのか問われたら「見ての通り」と答えるよ。モニターの前のキミにも、ね。
・他の猟兵に迷惑をかける行為、公序良俗に反する行動はしないよ。

あとはお任せ。好きに使ってね。




 ――ヴォ―テックスシティの中を幾重もの影が飛翔する。
「やあ、ちょっと騒がしくしてるけど気にしないでいいよ」
 白亜の分身体がボロボロの街灯を伝い駆け抜ける。そのすぐ後ろを行くは、本体であり『本物』だと称されるべき騎士然とした"王子様"だ。
 吹き荒れる風にプラチナパープルの髪を揺らし、ノエル・フィッシャー(イケメン王子様・f19578)は微笑と共に傍らに蹲っていたレイダーの男女に人差し指を立てて見せた。
 そんな、ノエルの背後で一台のトラックがひしゃげて転がり飛んで行く。
 そこへテテテッ! と何処からともなく集まり、膝下ほどの身の丈をした小さなノエルが横転したトラックを弾き返した。ノエルのユーベルコードが生んだ光の分身体である。

――【ギ、ュィイイイイッッッ!!!!】

 騒然とするヴォ―テックスシティの下位区画が大通りに、けたたましく鳴き叫ぶ巨蟲。濛々と上がる土砂や瓦礫に混ざって吹き飛ぶ、白亜の分身体が次々に消えて行くのが垣間見える。
 ノエルは一度。マントを翻した後に自らが愛用する無銘の剣を一振りして構えた。
 猟兵達の脱出は既に始まっている。どこかでは大勢のレイダーやミュータントに追われながらチェイスを繰り広げている者もいる様だった。
 急がねばと思わずにはいられない状況だが、しかしノエルは一片も焦りを見せずに自身の置かれた状況と次なる一手を考える。
「どうしようかな。討ち洩らしがあったのを見つけたのは良いけど、最終的にボクも巻き込まれては堪らないよね」
 粉塵の奥からうねり、唸りを挙げて跳躍する巨影。
 流麗な動作からノエルが繰り出す一閃。一直線に伸びた刺突が全長15メートルはあろう巨躯をくの字に反らして吹き飛ばした。
 眩い閃光がノエルの剣先から霧散し、次に全身から光が満ち溢れたかと思うとたちまちにその足元に無数の分身体を召喚した。
 それがまさか光に当てられた事で生じたノエルの影とは誰も思うまい。まして、その数や百を越えているのだから。
「ここは……短期で仕留めようか」
 見せる必要はなく。魅せる程の相手とも思わない。
 鋭い視線を巨大甲虫【アカメ】に向けたノエルは再び白光を纏った剣を後ろに構え、分身体たちと共に突き進んで行った。
 ビルの側面に叩きつけられていたアカメが自らの躰から赤い霧を噴出させる。
 それが猛毒に類した物であると察したノエルの分身体たちが周辺の非戦闘員やレイダーの身柄を保護し、遠ざける。同時、次々に巨虫へと殺到していった白亜の分身体たちが小さな刃を硬い甲殻に打ち付けて行く。
 飛び散る火花。
 連続して響き渡る剣戟の音に次いで弾ける轟音。
 アカメが自らの巨躯を奮い立たせて暴れ狂うことでノエルの分身体を消し飛ばし、更には赤い霧を噴きながら瓦礫を周囲に撒き散らしていた。
 破壊の波があちこちを襲うが、既にノエルの采配はそれらが二次被害を生む可能性を全て摘んでいた。
「行くよ!」
 ぷにっとした分身体たちが共に飛び掛かって行くのに合わせ、ノエルが剣を薙ぎ払う。白き剣閃がアカメの甲殻を打ち砕き、僅か数メートル浮かせた直後。上空から突如飛来した光り輝く剣の幻影がアカメを降り注いで貫き、地に叩き落とした。
 降り注ぐ怒濤の雨。
 戦域を光剣が埋め尽くし、衝撃波とアカメの体液が飛沫を上げて辺りを赤い光に染め上げていく。ノエルはその中を駆け、分身体が消えた直後に自ら剣を振り被って跳躍した。
 次の瞬間――白き一閃が粉塵と赤い霧を切り裂いた。
 乱れ飛ぶ赤い光の中心部。のたうち回る巨躯の気配へノエルが一気に剣を振り下ろし、首を垂れるが如く光剣に刺し穿たれ地に縫いつけられていたアカメの頭を一刀両断したのだ。

 断末魔さえ響く事無く、巨虫の体躯が激しくうねり暴れた後。
 眩い閃光の一切が消えてからノエルが踵を返した。
「さてと、ボクも行かなきゃね」
 長居していい場所でも無い。そう口溢してからノエルはその場から去って行くのだった。

成功 🔵​🔵​🔴​




第3章 集団戦 『ワイルドにゃんこ』

POW   :    にゃんこ爆砕拳
単純で重い【肉球】の一撃を叩きつける。直撃地点の周辺地形は破壊される。
SPD   :    にゃうザンドアーツ
自身の【瞳】が輝く間、【にゃんこ真拳】の攻撃回数が9倍になる。ただし、味方を1回も攻撃しないと寿命が減る。
WIZ   :    ワイルドハント
【敵の真の姿を模したビハインド】が現れ、協力してくれる。それは、自身からレベルの二乗m半径の範囲を移動できる。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●追走――

 レイダー・キング。アレクサンドルは囲まれていた。
 手足、胴体、頭部。
 眉間だけではなく全身至る所に銃口と火炎放射器といった武装の数々を向けられ、鉄板フルフェイスの男は拘束されようとしていた。
 アレクサンドルはそれを溜息交じりに受け入れるかどうか迷い、そして眉間に銃口を押し当てて来ている者に目を向けた。
「……誰の差し金だ」
「言ってどうなる? だがまぁ、アンタの首でルーレットを回してぇとよ」
「ヴォ―テックスか……!」
 忠義など消え失せたのだろう一言を漏らしてアレクサンドルは目の前の――同じくレイダー・キングでもある大男に掴み掛ろうとした。
 しかしその手は鉄板ごとビルの屋上から撃たれた光線銃によって千切れ飛び、眼前の男に触れる事も叶わなかった。
 大男は哀れな物を見る目で首を振った。
「アンタも災難だったな。聞けばつい最近回された区画を狙われたって? そりゃあ、格好の餌食だろう」
「……! 今まで、このオレがどれだけ都市に貢献したと思ってやがる!」
「知るかよ、俺達はみーんな同じだ。ここで生きるならその結末はロクなもんにはならねぇよ……冥土の土産に教えてやるがな、近々ヴォ―テックス一族は何やら今回のアンタがそうだったように『俺達の邪魔をする輩』の排除に動き出すらしいぜ? 戦争規模になんじゃねえかって噂だ」
 曇天の下に雫が落ちる。
 大男が放った言葉に顔を上げたアレクサンドルは「なんの慰めになんだよ」と怒りを露わにしていた。
 雨が降り始める。
「ヴォ―テックス一族が一人でも本気を出すんだ、きっとアンタをそこまで落ちぶれさせた連中も一網打尽だろうさ。ま、弔いにはなるんじゃないのかねぇ」
「くたばりやがれ、どいつもこいつも……!」
「ククッ、アンタの願いはまずアンタが先に地獄に行ってから精査されるだろうぜ」

 大男はそれだけ言うと指を鳴らした。
 夥しい銃声が鳴り響き、返すように雄叫びと小さな銃声が鳴ってその場に血の雨が降る。
 暫しそれが繰り返されて数分経つと、辺りには数人の死体と……アレクサンドルの首が転がっていた。
「抵抗しやがって……まあいい、そのきたねえボールを運んでおけ。それから都市内部から例の破壊工作なんて真似しやがった連中を追撃するチーム送っとけ、足の速くて使い勝手いいやつにしとけよ?」
 降りしきる雨の中で背丈ほどもあるショットガンを背中に仕舞いこんだ大男は指示を出し、シティの奥へと歩き去って行く。
 男は傷だらけの無精な面をした顔を上げ、曇天を仰いで首を鳴らした。

「ヴォ―テックス一族が負けるわきゃねぇだろ……ククッ」

 破壊工作に勤しんでいたネズミを一人くらい捕まえられたなら、どんな事を聞き出してやろうか――残虐な想像に笑みを溢して男は汚れた街並みに姿を消していく。
 入れ替わりに、ヴォ―テックスシティから逃れようとする者を追うべく現れた追跡者たちが駆け抜けて行くのだった。
黒木・摩那
あ、もふもふ。また出ましたね。

前にあったときは救出者連れだったので、苦戦しましたが、今はもう逃げるだけ。
放っておくといつまでも追いかけてきますし、レイダーの手下としてこれからも非道を繰り返すことでしょう。
ここで叩いて、シティの戦力を少しでも減らしておきましょう。

魔法剣『緋月絢爛』で戦います。
【ダッシュ】でネコの懐に飛び込び、相手の攻撃を【受け流し】つつ、【功夫】【重量攻撃】で急所攻撃して【気絶攻撃】します。

相手が気を失ったら、ネコを【敵を盾にする】して、ネコたちを引きつけます。
敵が集まったところでUC【風舞雷花】を発動。一網打尽にします。




 雨脚が強まって来た頃、いよいよ猟兵達が都市外へと脱しようとする背中を追う者が現れる。
 下位区画の奥。既に足を踏み入れた事のある者もいるだろう、ヴォ―テックスシティの中枢から送り込まれた粛清と追撃を兼ねた一隊が路地を駆け抜けていた。
 それらは一様に簡素な装備で整えられている。
 膂力に優れた彼等はミュータントであり、オブリビオンでもある。無駄口を叩かない性格、大きな体躯を覆う体毛の濃さから一定の人気があった。
 なによりヴォ―テックスシティの中枢がその正体を知ることはないが、彼等ワイルドキャットと呼称された【ネコ】たちオブリビオンの特性――すなわち猟兵の存在を感知すると鋭い野性的勘と嗅覚で追跡者へと変貌する様から『妙に使い勝手の良い連中』程度の評価を得ていた。
「あ、もふもふ。また出ましたね」
 そのネコ達を眼下に捉えたのは黒木・摩那(冥界の迷い子・f06233)だ。
 常人ならば為す術もない強力な群体であるワイルドキャットだが、摩那はこれと過去に救出者を背にして交戦した事があった。
 彼女の掛けているスマートグラスにもデータ残っていたらしく、路地裏を駆けるその姿と完全一致している内容の表記が出ていた。まさか例の地下施設で警備役に回されていた者達とこんな形で再会するとは、摩那も意外そうな表情で眉を少し上げる。
 以前は状況が敵となり、苦戦を強いられていたものの。現状は交戦せずとも逃げるだけで済む話である。
(放っておくといつまでも追いかけてきますし、レイダーの手下としてこれからも非道を繰り返すことでしょう。
 ――ここで叩いて、シティの戦力を少しでも減らしておきましょう)
 あの地下施設での戦いの発端がワイルドキャットによる誘拐や拉致に因るものだったことからしても、摩那の判断は確かだった。
 猟兵達の中にも移動手段に優れている者もいればそうでない者もいる。元より此処は異世界の地、いつだって猟兵は相手の土俵に上がらねばならないのだ。
 ならば、間引きは必要だ。

 下位区画の空の下。半壊したビルの屋上から身を投じた摩那がそのまま真っ直ぐにワイルドキャットたちの駆ける路地裏へと着地する。
 ともすれば、虎のような獰猛さとガタイの良さを持つネコたちよりも摩那は猫らしく。しなやかで、軽やかに――音も無く疾走する。
 彼女の接近にいち早く気付いたネコが初撃を受ける事となった。
 摩那は、虚空から抜き放った【緋月絢爛】を逆手に。一直線に肉薄したネコのもふっとした背中へ柄頭を打ち下ろした。それが刺突でないのは、それが最も効率よく『流せる』からだった。
 ワイルドキャットはその躰の大きさから生半なダメージだと反撃を許しかねない。ゆえに、彼女が初撃として放ったのは自らの愛刀を通した"浸透勁"である。その一撃は、波打つ衝撃が念動力を交えて増幅しネコの体内を突き抜けて爆ぜるように内から広がる。分かり易い大技に比べれば気付き難い急所攻撃だ。
 脊髄を破壊されたネコがガクンと揺れ墜ちる最中、摩那は油断なく周囲に視線を走らせる。
(広い都市内を動き回れるように教育されているようですね)
 彼女のスマートグラスが敵の接近を報せる。
 追跡網とでも言うべきなのか、ワイルドキャットはそれぞれ下位区画のルートマップを頭に入れているらしく。ある程度の陣形を維持し、その中で反応があった場所へ向け付近のネコが殺到する仕組みになっていた。
 これを狭い地下施設に張り巡らされていた時は、摩那でも複数の子供を連れてのスマートな脱出は不可能だと判断したものだった。
 閑話休題。
 崩れ落ちようとする仲間を飛び越え、壁面を足場に跳び込んで来たネコの鋭い爪による振り下ろしを摩那が受け流す。万華鏡めいた輝きを揺らす彼女の緋月絢爛とネコとの間で小さな火花が散り、次いで横殴りの拳がコンクリート壁を打って吹き飛ばす下を掻い潜った摩那が瞬時に三度の掌底を胸部に叩き込んで後退させた。
 数瞬遅れて。ネコの背中から赤い華が咲いた。
 重く、しかしただならぬ『通し』によって上乗せされた功夫が屈強でもふもふなネコの体を容易く破壊していたのだ。
「ニャーッ!!」
 瞬く間に二体倒されても止まる事無く、ネコの懐に未だ留まっている摩那を囲んだネコたちが一斉に乱舞する。
 同士討ちの可能性を完全に無視した、爪と爆砕めいた威力を有した『肉球』の嵐である。
 摩那は、初撃で打ち倒したネコを背にするように二撃目で倒したネコと体勢を入れ替える。風を切り裂き、肉を打ち破る重い音が前後で鳴り響き、左右からの攻撃を姿勢を低くさせながら緋月絢爛で受け流してやり過ごした。
(励起。昇圧、帯電を確認)
 ワイルドキャットの一撃を受け流した彼女の細剣が輝きを増す。
「識別不要――散開」
 刀身に刻まれたルーン文字が淡く。直後に一転して眩く瞬くと、凄まじい高電圧を纏った七色の花弁へと昇華して辺り一帯を覆い込んだ。
 渦潮が如く拡がった円の内に引き摺り込まれたワイルドキャット達は視界を埋め尽くす色彩を前に肉球を振り上げる事も出来ず、刹那に花弁と花弁の間を連鎖するかのように高電圧エネルギーが弾けて紅や蒼のプラズマ稲妻が周囲の建物ごと焼き焦がして爆散させたのだ。
 余波の爆風と広範囲に渡って急激な酸素燃焼が生じた事による真空波。加えて、自らのユーベルコードに摩那自身の念動力を調整して上乗せした電磁波が、下位区画を飛び交うネットワークを遮断させていた。
 稲妻の雷球が消えた時には下位区画の一画が停電状態となり、ネオン光の消えた街並みに小さな喧噪が巻き起こる。

「殲滅完了、とは言い切れませんか」
 数が多いのは承知の上だったものの、摩那は自らのユーベルコードの範囲の外から集まって来る敵反応を目で追って小さく肩を竦めた。
 一網打尽にするには好都合。そこに僅かな懸念を覚えるとすれば、集まり過ぎれば近くにいる他の猟兵が狙われかねないという点か。
「……ではこうしましょうか」
 壁面を三角飛びで駆け上がった摩那がビルの屋上から屋根上を飛び移って行くように移動を始める。
 何処かでマシンが駆け抜ける音が遠ざかって行く。それを追っていたワイルドキャット達が、摩那の視界で拡張表示されていたマップ上で彼女を追っていた別グループと合流して数を増す。
 数人は十数人に。その数が三倍にも膨れ上がった頃には下位区画の頭上を大勢のネコ達が飛び交い、摩那を取り囲もうとしていた。
 強烈な数の暴力だが、雨粒に肌を濡らした摩那は微笑を携えて宙を舞い。緋月絢爛を振るい薙いでいる。
 いずれ、此の街は消える。
 それを知る者は未だ――いない。
「励起。昇圧、帯電を確認。敵味方識別良し……散開!」
 摩那を中心に七色の花弁が吹き荒れるドームが形成され、二度目の大破壊が巻き起こる。これだけでは終わらない。引き際は心得ているのだ、そして今回は『前回』と違い身軽な彼女にとって都合の良い再戦の機だった。
 彼女の積み重ねは、確実にヴォ―テックスシティの力を削いでいるのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

紫洲川・珠璃(サポート)
キャラの雰囲気は落ち着いたお姉さんの感じです
口数はどちらかというと少なく物静か

戦闘は果敢に攻め入り、
速度を生かした撹乱を主として手数重視の攻撃で戦います。
足は止めず常に動き回り、奇策より正攻法を好みます。
武器は主に一振りの刀(虚鐵)を両手持ちで使い、まれに脇差として所持している二本目を抜きます。
弓は事前に必要性がわかっていれば持ち込みますが、持っていないことも多く歯噛みすることも

ユーベルコードは基本は以下の順で制御しやすいので利用しますが
状況に応じて適切なものを利用します。

【使いやすい】⇔【使いづらい】
炎狐=妖剣解放<黒狐召喚<神狐召喚


ブラッディキング・アロ(サポート)
『何事も暴力で解決するのが一番だ!』
鮮血を操る悪魔、 性格は気が強く、肉弾戦を好む。 血液で構成された騎士を召喚することができます、 戦闘状態で背後からさらに2本の腕を出すことができる。 普段長手袋で赤い腕を隠す。 【大人モード】と【ロリモード】の2形態がある。 普段は「ロリモード」で行動する、 本人曰く「省エネモード」。 料理と美味しいものが好き、 人の噂を聞くのが好きだ、 あまり考えないタイプのようだが、戦闘時には意外と頭を使う。


クネウス・ウィギンシティ(サポート)
※アドリブ&絡み歓迎

●特徴
サイボーグ(四肢機械化済み)の技術者&狙撃手。SSW出身の鎧装騎兵。
民間人互助や義侠心に厚い。
口調 通常(私、あなた、~さん、です、ます、でしょう、ですか?)
メイン武器 アームドフォート、マシンガン、パイルバンカー

●台詞例
『敵影捕捉、これより戦闘行動に入ります』
『索敵完了、狙撃開始』
『掃討戦ならばこの武器の出番ですね』
『これで一掃します』

●行動
狙撃手としての『狙撃・援護射撃』や技術者として『(技術)支援』がメイン。
遠距離狙撃や砲撃メインで援護に徹します。

主な技能:スナイパー・メカニック・武器改造・情報収集


阿紫花・スミコ(サポート)
アルダワ魔法学園の生徒。暗い過去を持ちつつも性格は明るい。自信家で挑発的な一面がある。力があれば何をしてもいいというようなダークセイバーの領主達を心底嫌っている。機械系に強く様々な世界の機械知識を広く持ち自作ガジェットの研究・開発を行っている。

からくり人形「ダグザ」:巨大な棍棒で敵を粉砕する。
精霊銃「アヴェンジングフレイム」:黄金に輝くリボルバー。弾丸には炎が宿る。
ワイヤーギア:射出したワイヤーを引っかけ、巻き取りと、蒸気噴出で推進力を得る。

「力があれば何をしてもいいって思ってるんだろう?…お前が奪われる立場でも同じことが言えるかな!」

(エロやグロに巻き込まれなければどんな展開でも大丈夫です)




 ――降りしきる雨の下、ヴォ―テックスシティの街中を二台の装甲トラックが駆け抜ける。
 鈍色の街並みを走行するトラックはどちらも最高速度を示すメーターが幾度と振り切れては衝撃と同時に戻るを繰り返している。横転していないのは運転席でハンドルを握る者がいずれも、奪還者として名を馳せる人物達だったからだ。
「追い付かれてるな……」
 荒野を生き残ってきた熟練の男達はどちらも同じ様に額に油汗を浮かべ、歯噛みしていた。それは経験則によるものだ。ヴォ―テックスシティの保有する戦力や【嵐】から出て来た怪物がどれだけ居るのかなど想像もつかない事だ――しかし、過去に報告されて来た出来事と照らし合わせればよく分かる。
 ハンドルを切る。積み荷だった爆薬が既に運び出された後であるトラックは身軽ではあるものの、しかし物量を一度に運搬する事を重視したがゆえに逃走の段階になって車体の大きさが仇となっていた。小回りの利かない装甲トラックなど、ただでさえヴォ―テックスの下位区画では目立つのだ。追手がことごとく猟兵達によって撃退されて行く中、迅速な退避が可能だった者達に比べれば彼等は格好の囮になってしまっていた。
「まずいぞ……どんどん集まってやがる。味方はどうした、やられたのか!?」
「逆だッ……どいつも捕まえられねえから俺達だけでも捕えようと躍起になってんのさ!」
「救援の通信は随分前にしたんだぞ? 見捨てられたのか俺達ぁ!」
「騒ぐんじゃねぇ、手元が狂っちまうだろうが……ぐぉおッ!!」
 仲間達は車両の中で言い争いをしている最中、運転席でハンドルを切った男が叫び声を上げた。ドラム缶を跳ね飛ばし、無理矢理に走行していたトラックの前に突如レイダーの男が飛び出して来たのだ。
 腹部に巻き付けられている爆弾らしき物を視界に入れた瞬間、奪還者としての反応速度から即座に彼は回避行動を取った。
 急カーブさせた車体は濡れた路面を勢いよく滑り、特攻して来たレイダーの男に装甲板を貼り付けている車体側面で体当たりを見舞いした。
 直後。紅蓮の爆風が辺りを照らして衝撃波がトラックを横転させ、次いで起きた二次災害めいた地割れに車体が飲まれてしまう。
 地下にあるのは、ヴォ―テックスシティの下位区画を巡る運搬用の道路だった。
「……嘘だろう!?」
 それを、後続のトラックは地下トンネルに入るまいとしてブレーキを踏みながらハンドルを操作し地割れを避けようとした。
 しかし時は既に遅く、彼等も前者と同じ運命を辿ってしまった。
 スリップした装甲トラックは辛うじて速度を落としていた事が効いたのか、僅かな浮遊感を経て地下トンネルに横転する事なく着地したのだ。とはいえこれを不幸中の幸いだなどと喜べるはずもなく、仲間を回収できる猶予もない。
 アクセルを踏み込み、車両が急発進する彼等の後方では続々と地上から追手である獣人型のミュータント達が押し寄せていた。
(此処はシティ建設時の運搬通路か? この地下トンネルのデータなんて無かったぞ! エンジンのエネルギーも何処までもつか……もうダメなのか!?)
 これから始まる逃走劇の果てに待ち受ける運命を考え絶望しかけた奪還者達。
 そんな彼等の頭上をドン、という鈍い衝撃が走る。敵かと身構え、車内の仲間達が互いの顔を見合わせながら銃器を抱き始めた時――彼等の予想を裏切る答えが返って来る事になる。

「ボクたちは味方だ! 後ろは護る、ハッチを開けて!」
「――御友軍の方々の身柄を確保しているわ。この後に控えている戦闘に巻き込めないの、車内に保護して貰える?」
 味方という言葉。何より、車体に張り付いたこの状況で騙し討ちを狙う意図も薄いと見た運転手が車体後部扉のハッチを開閉操作させた。
 車両に放り込まれる複数人の男達。本当だったと喜ぶ彼等だったが、車内へ投げ入れた人物たちの方へ視線を向けた瞬間にそれらは悲鳴に代わる。阿紫花・スミコ(ガジェットガール・f02237)が操るからくり人形【ダグザ】がネコ型のミュータントを棍棒で粉砕している場面だったのだ。
 走行するトラックが大きく跳ね。跳んだ後に続く路面に赤い染みとクレーターが残される。
 装甲トラックの後部扉が再び閉ざされるのを確認したスミコはグローブから伸びる自身の糸を操り、彼女の意思に呼応するかのように動き出したダグザが振った棍棒の側面を爪先で蹴って車両先頭部へと跳躍する。
 入れ替わり、奔る一閃。
 スミコが後退したのと同時に銀光と共に神速の居合を放った紫洲川・珠璃(夜を追う者・f00262)が装いの着物を揺らす。
「ニャッ……!?」
「墜ちて」
 それはただの薙ぎ払い。
 だがしかし地下トンネルの壁面を駆け上がってきたオブリビオン達はそれによって阻まれ、一体、また一体と地を転がりトラックから引き離されていった。
「外部の猟兵からのデータをリンク。地上までのルートを誘導しながら敵を迎撃するため、まずはルートマップを運転手のPDAに送信する間の護衛をよろしくお願いします」
「アタシに任せな! 頼まれた分くらい働いてやるよ!」
 ゴウ、と吹きつける風に次いでトラックの先頭部や側面装甲板に張り付いたのはクネウス・ウィギンシティ(鋼鉄のエンジニア・f02209)とブラッディキング・アロ(血の悪魔の魔王・f35689)の二人である。
 快活な声を上げ、吹き付ける強風に煽られる事なく軽やかに装甲板から身を躍動させて飛んだアロが車体の上に立つ。不敵に笑みを見せる彼女が八重歯をひとつ見せれば、トンネルの内部に巡らされた柱の一つから飛び出してきた寸胴なネコのオブリビオンをカウンターに振り抜いた拳で殴り飛ばした。
 次いで、ザワリと奮い立つ少女の赤髪の下で揺らいだ影が車体の下から突然現れた獣人を叩き、錐揉みさせて路面へと送り還す。その迎撃態勢の上をスミコが放ったワイヤーギアが駆け抜け、車両後部から飛び乗ろうとした敵にフックが突き刺さる。直後にワイヤーを巻き戻す機構が音を上げ、宙を水平に滑るように飛んだスミコがワイヤーフックを引き抜くと同時に蹴りつけ、繰り手の操作によって横殴りの一撃をダグザが放って敵が他の敵もろとも巻き込んで吹き飛んで行った。
 その鮮やかにして痛快な攻防を垣間見た運転席の男は上機嫌な口笛を吹いた。
「やるな、あんたら」
「私も戦闘に加われば間違いありません。それとブレーキには触れないように願います、我々の戦闘中に反射的に速度を落とされては困りますので」
「了解……データマップ、ダウンロード終わったぜ。なんだこりゃ、まるで迷路だ!」
「こちらのOSで最適化した簡易マップを上書きします」
 電脳ゴーグル越しにクネウスが告げると、今度は彼が張り付いている運転席を狙って獣人達が影から群がって来る。後部や先頭部を駆け回って迎撃に当たっているアロやスミコ、珠璃は勿論ほかの敵を撃退中であり、そこに抜け目は無い。
 なら何故、クネウスの所へ敵が向かうのを一時良しとしたのかといえば。それは運転席に座す男からは見えない、クネウスの肩口から走った駆動音が全てを物語っていた。
「オイオイ、来てるぜ……!?」
「……お気になさらず」
 一瞥もせずにクネウスがそう応えた瞬間、彼の頭上を通り抜けた鉄塊が獣人の繰り出す拳を正面から叩き割り。いつの間にか薙いでいたクネウスの掌が放った方向へワイルドキャットの体躯が吹っ飛ぶ。
 ジジジ、と揺れるクネウスの周囲には奪還者の男が見慣れぬレベルの高性能な武装が揺れていた。その接続先を覗き、男は驚愕に目を見開く。
「あんた……義体者か?!」
「走行、頼みましたよ」
 運転席上部に突き立てていた踵を引き抜いてからクネウスが車体上へと戻って行く。
 否。彼は背部から伸びるブースターユニットで一瞬だけトラックを追い越し、眼下の運転手へと声を掛けた。
「トラックのオプションアーマーをパージして下さい」
 背部からの推進力で一度追い越したクネウスはそう一言告げると再びトラックの上に戻り、それを目で追いかける間もなく奪還者の男は言われた通りに車体側面と前面、後部ハッチにも取り付けられていた装甲板をレバー操作によって一斉に外した。

 ガン、と金属板が火花を散らして後方へ流れてく一方。車体の上で舞うように飛んだ珠璃がスミコの操るからくり人形、ダグザの回転する棍棒を足場にして跳躍する。
「【我、此処に求むるは、火軍の尖兵。我が喚び声に応えて赤熱の森より姿現せ、焔纏いし――我が眷属!】」
 刹那に高速で紡がれる祝詞。
 宙を反転する九尾の因子宿した戦巫女は、自らの大気に落とした影から幾重にも連なった炎の狐を辺り一帯に雪崩れ込ませた。青白くも赤熱を宿した妖狐が秘術。それらは彼女の視界と、音で捉えた中で敵の悉くを必滅していった。
 数瞬の後を追って。珠璃が車体に着地した隣をアロが駆けて横合いから飛び上がってきた獣人の横っ腹を蹴りつけて薙ぎ倒し、路面でぶつかって跳ね上がった装甲板に叩きのめされながら転がり過ぎて行く。
「私のユーベルコードで派手な弾幕を張りますが、誤射は無いので安心して下さい」
「ん? 特に考える必要が無いなら、そうさせて貰うよ!」
 勢いよく車体を滑り込んで来たアロの肩に機械腕が添えられた事で少女の体躯が少しだけ慣性にぶら下がり。その場に停められた彼女はクネウスからの声に快活な返事をした。
 トラックが緩やかな坂を上り始める。それだけでも並みの人間なら転がり落ちかねない運動エネルギーが車体の上に立つ全員に掛かるのだが、誰一人として転がる事無く視線を進行方向へと持ち上げる。
 横合いを通り過ぎて行く円柱。その中に浮かんでいた電光掲示板には途切れたメッセージが表示されており、同じものがトラックの走る通路の天井部から下がった鉄板に刻まれていた。
 あるいはかつて一方通行だったのだろう。そこには『この先、シティ外周建設地』と書かれていた、つまり出口が近い事を指していた。
「――【CODE:DELIBERATE ATTACK】」
 出口に近付いて来た事にトラックの車内で湧き立つ声が上がってすぐ、クネウスがユーベルコードを起動させた。
 突き出した掌から奔る眩い緑光が射し込んだ先にあったのは、先ほどパージされた装甲板だった。光の射さったそれらは瞬く間に金属板からあらゆる構成を変化させ、彼の望む砲台群と化して。シティから追いかけて来ていた大勢のオブリビオンを凄まじい弾幕で撃ち抜き、壁や天井を破壊して蹂躙しながら地下トンネルを崩落させていった。
 トラックが長い長い坂を駆け上がった末、ついに彼等は再び雨天の下に出た。
 そこはヴォ―テックスシティの下位区画から少し離れた郊外だ。殆ど荒野であり、外に脱出出来たのである。


「……すげえ」
 地下から濛々と吹き荒ぶ粉塵を背にして駆けるトラック。
 そこに乗っていた奪還者の彼等は、後に起きる戦争の立役者たちに自分達が出会っている事を予感するのだった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​



最終結果:成功

完成日:2021年11月27日
宿敵 『アカメ』 を撃破!


挿絵イラスト