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暴食の波は剣の意のままに

#ダークセイヴァー

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#ダークセイヴァー


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 そこは小さな村だった。
 税は重く、生活は苦しいものの、暖かい家庭と、優しい村民たち。
 決して楽な暮らしではなかったが、幸せと呼べるものが確かにあった。
 あの黒い波が押し寄せてくるまでは。

 最初に異変に気付いたのは、畑の隅で遊んでいた少年だった。
 いつものように、ひとりで珍しい虫を探しては、虫よりも興味惹かれるものを見つけて走り出す。
 畑と家の他には何もない小さな村で、代わり映えしない遊びを繰り返していた時である。
 いつもおひさまが顔を出す山を眺めていると、いつもと違うところがあった。
 薄暗い空の下でもわかるほど、山肌の一部が黒く染まっていたのだ。
 その黒い部分は、陽が落ちて影が伸びるかのように、ざわりざわりと山を降り、丘を下る。
 こちらへ向かってくると気付けば、少年の興味はその黒いもの一点に注がれた。
 あれはなんだろうか。
 じっと見ていた少年が、黒の中に赤く光る無数の点があり、それが生き物の目だと気付いたときには、黒い波がもはや手遅れなまでに迫っていた。

 ――――ねずみだ。
 眼の前に、ねずみの群れが押し寄せていた。
 全身の血を頚部から吸い上げられたかのように震え上がり、少年は声を上げることもできず村に、自分の家へと走り出した。
 畑で仕事をしていた父親の横を走りすぎれば、父親は怪訝そうな顔で首を傾げる。
 ややあって、ちゅ、ちゅう、という音が畑の向こうから聞こえて来た。
 息子は何かを見て逃げてきたのだろうか。
 さほど大きな音ではないが音は数を増やして次第に密度をあげていく。
 幾重にも重なった音が断続的に聞こえるようになる頃に、視界を埋める程のねずみの群れが畑に飛び込んできた。

「ね、ねずみだあぁぁぁっ!!」

 家族に、近くの村人に知らせるため、声を張り上げて叫ぶ。
 次の瞬間には、父親は声に反応したねずみが、一斉にとびかかっていた。
 握りこぶしほどのねずみが、男の皮膚を肉ごと噛みちぎる。
 空腹の獣はそれだけでは止まらない。
 肉を喰み、血を啜り、骨を齧る。
 やせ細った男の肉片を一つ残さず胃袋に収めるまで、5分とかからなかった。

 一方彼らの村では、青い顔をした少年が母の待つ家に飛び込んだところだった。
 小さな赤子を背負い家事をしていた母親も、息子のただならぬ様子に不安を募らせる。
 何があったのかと聞いても震えるばかりで、何も応えなかった。
 そのとき、遠くから父親の鬼気迫る声が聞こえた。
 ねずみ。
 少年がびくりと身体を震わせる。
 息子が何から逃げてきたかを知り、みるみるうちに母親の顔も青くなっていった。
 すぐにねずみが、おそらく、群れが来る。
 そう判断したときには、すでにねずみの群れは村にまでやってきていた。
 足の踏み場もないようなねずみの群れ。
 それが次々に、村人を襲っていた。
 噛みつき、食い破り、痛みに悲鳴をあげればさらに群がる。
 骨の一片まで食べ尽くし、次の家へ。
 日々の生活にも困窮する村に、上等な壁や窓などなく、立て付けの悪い扉はねずみたちによってあっという間に破られてしまった。
 赤子を息子に託して家の隅に。
 母親は、子供たちをかばうように両手を広げた。

「私は、私は食べてもいいから、この子たちは、この子たちだけはっ!」

 ねずみに人の言葉など、わかるはずもない。
 だが、大声をあげた母親に反応してねずみたちは母親に飛びかかる。
 ああ、私を食べて満足すれば、子供たちは助かる。
 そう考え、子供たちに不安を与えないように必死に声を堪えた母親も、ねずみたちはあっという間に平らげてしまった。
 どれほど食べても癒えることのない飢えを、母親が知らなかったわけではない。
 だが、命の危機を前に、話の通じない相手を前に、冷静な判断など誰にもできないのだ。
 眼の前の食料を喰らい尽くしたあと、ねずみたちが向かう先は――。

 黒の捕食者たちは、次なる食料を求めて移動を始める。
 彼らの去ったあとには、畑も村も人も、なにひとつ残っていなかった。


「素敵な、素敵な夢を見たのだわ! まるでオーケストラを特等席で聞いているようだったかしら!」

 黒いグリモアを持った少女、レイラ・ツェレンスカヤが目を輝かせて何かを語るとき、それは決まって血生臭い事件がおきるときだった。

「ねずみの群れがね、小さな村を襲うのだわ。食べても、食べても、次の食べ物を探すまでにまたお腹が空いて。だからなんでも食べてしまうのかしら。木も草も、畑の作物も人も家も全部!」

 金属だって食べてしまうんじゃないかしらと、レイラが楽しそうに笑う。
 話を聞いていた猟兵たちが、まさか、と笑った。

「村に着く前にねずみたちを全て駆除しても良いのだけれど、それでは根本的な解決にならないかもしれないのだわ。ねずみたちは、なにかから逃げてきたみたい。その元凶の排除が、今回のお仕事かしら」

 小さな唇に人差し指を当てて、うーん、と考えながら続ける。

「ねずみたちはそこにあるものを食べながらだけれど、だいたい一直線に移動しているのだわ。ねずみたちがやってきた方向に進めば、きっとねずみたちの大移動の原因がわかるかしら。でも――」

 幼くくりくりとした目を大きく開いたまま口角をあげると、彼女の邪悪な思想が顕になったかのように、小さな牙が顔を出す。

「ねずみが見える距離まで近づけば、きっと匂いを嗅ぎつけてねずみは寄ってくるのだわ。あなたたちの血肉の匂いに誘われて。だって彼らも、お腹が空いて空いて、仕方がないんだもの」

 これから起こるであろう惨劇に思いを馳せて、レイラは瞳を歪ませた。
 しん、と空気が張り詰めて数秒、察したレイラが小さく咳払いをする。

「こほん、最後に一つだけ。ねずみを追いやった”何か”だけど、それが事件の元凶だとは限らないのだわ。もしかしたら、その”何か”も、さらに強いものに住処を追われたのかもしれないかしら。うふふ、楽しんで……いえ、気をつけて行ってらっしゃい」

 レイラが小さく白い手を振ると、猟兵たちは薄暗い丘の上に立っていた。
 これから黒い波に飲まれる山は、すぐそこだ。


るーで
●ご挨拶
 やっと3本目を出せました、るーでです。
 わたしは苦戦すれば苦戦するほど勝ったときかっこいいと感じるタイプです。
 そういうことです。

●概要
 苦戦しながらかっこよく戦うのが好きな人向けです。
 前回のシナリオの反省を活かして「とりあえず怪我はしよう!うん!怪我はするけどどれくらいかを判定で決めよう!」となりました。
 三章通してひたすら傷を負いながら戦ってください。

●プレイング
 負傷時の心情があると書きやすいため採用しやすいかもしれませんが、判定にボーナスはありません。
 真の姿を解放すると傷は癒えるため、各章の間で傷は回復していたものとして扱いますが、もしプレイングで前の章の傷を引き継ぐ旨があれば戦える程度に傷を引き継いだまま描写します。

●負傷
 🔵🔵🔵 軽い切り傷や噛み傷を負います。
 🔵🔵🔴 一時的に動きに支障が出る程度の傷を負います。
 🔵🔴🔴 真の姿になれば癒えるから大丈夫❤安心してください。
 🔴🔴🔴 ☆😨☆

●余談
 シナリオに成功すればねずみは村にたどり着く前に元の住処に帰ります。
 彼らの生活が守られるかどうかは猟兵たち次第です。
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第1章 冒険 『飢えた鼠の群れ』

POW   :    噛み付いてきた鼠達を全身で振り払う

SPD   :    鼠から足の速さを生かして逃げる

WIZ   :    地形や道具、魔法を使って鼠たちの動きを牽制する

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。



 それは、グリモアベースからダークセイヴァーの暗い空の下へ転送されてから、すぐのことである。

「ん……なんか聞こえねえか?」

 猟兵の誰かが、ポツリと呟く。
 未だ陽の登らないダークセイヴァーの丘は暗い。
 目を凝らせば空と山との境界線が薄っすらと見え、そのまま見回せば遠くにぽつぽつと人里の灯りが、浮かび上がるように存在しているだけだ。
 視界が悪くなれば、自然と頼るものは他の感覚になる。
 あたりが不自然なまでに静まり返っていることもあり、どんな小さな音であっても、まるでその世界にはそれしか音がないかのように鼓膜を揺らした。
 ――ちゅ……ちゅう……。
 それが話に聞いていたねずみの鳴き声だと気付くのに、それほど時間は必要なかった。
 戦いに、逃走に、策略に備えて、鳴き声の聞こえる方向へと目を向けたその時である。
 音が、増えた。
 ちゅう、ちゅう。
 次第に音は重なり、隙間を埋めて、そして大合唱があたりを包み込む。

「山だ! 山から来るぞ!」

 元々空と見分けのつかないような薄灰色の山の斜面であったが、それが黒く、黒く、黒く。
 まるで空から墨汁を垂らしたかのように染まっていく。
 誰かのつばを飲む音が、嫌に大きく聞こえた。
御伽・柳
行動:【WIS】
使用UC:【過食癖】
使用アイテム:【閃光手榴弾】

傷は癒える。
生きている限りはどんなに重傷を負っても、猟兵にはその傷を癒す手段がある。
……便利なものですね、本当に。

俺は【激痛耐性】がある程度あるので、限界までネズミたちを引き付けましょう。
これ以上は厳しい……の1歩手前で【だまし討ち】で大量の【閃光手榴弾】を投げます。
それで、UCの発動条件は整うはずだから。

五月蝿い裡の邪神に比べれば、こいつらに齧られる痛みくらい平気……は、強がりですけれど。
1番効果的にUCを発動するためにならば、そして俺にそれが必要ならば、食われる痛みくらい耐えてみせる。




 ねずみの群れが来た方向は、すぐにわかった。
 あの山を越えるように進めば、ねずみの大移動の元凶がいるはずだ。

(……多い、ですね)

 ねずみの行進に対し、律儀に向かう必要もない。
 だが、御伽・柳(灰色の渇望・f12986)はあえて先頭集団の鼻先を掠めるかのように走っていた。
 眼の前の餌を逃すほど、ねずみたちも甘くはなく、風にマフラーをはためかせて走る柳をねずみの群れの一部が追う。
 走りながら視線を後ろに向けて、ねずみたちが追ってきているのを確認すると、柳はさらに走った。
 これでいい。
 まずは、追いつかれるまでこのまま走る。

(ギリギリまで、ギリギリまで)

 ねずみたちの動きは早く、柳の後ろにすぐつくまでには、そう時間はかからなかった。
 大人の拳ほどもあるねずみが、柳に向かって飛び掛かる。
 背中にぶつかれば、まるで殴られたかのようによろめき、柳の脚が止まった。

(まだ、もう少し)

 後ろから迫り来るねずみの群れ。
 それをできる限り引きつけるのが、柳の目的であった。
 振り向いて、次にやってきたねずみを蹴飛ばす。
 走りまわるねずみを脚で蹴るように威嚇し、飛び掛かるねずみは手で叩き落とした。
 しかし時間が経てば経つほど、周囲はねずみに囲まれてゆき、やがて足の踏み場もないほどのねずみが、攻撃のチャンスを伺って柳の周りをぐるぐると回っていた。
 やがて、ねずみの一匹が、柳の脚に鈍い歯を突き立てる。
 鋭さなどかけらも感じない、まるで石ころのようなねずみの前歯。
 足りない分は、顎の力で。
 ねずみが首を大きく振ると、皮膚を肉ごと引きちぎった。

(ッ!)

 ――痛い。
 痛みに耐性がなければ、声を上げて叫んでいたかも知れない。
 だがこれくらい、俺ならまだ耐えられる。
 そう心の中でつぶやいて、脚にしがみついたままのねずみを振り払う。
 あと、どれくらいなら耐えられるだろうか。
 そんなことを考えている間に、次のねずみが柳の脇腹へと噛み付いた。

「くッ!」

 痛みで小さく声が漏れる。
 強引にねずみを叩き落とすと、歯型にえぐれた腹から肉の塊が転がり落ちた。
 一瞬置いて、ぷしゅ、と血が溢れる。
 呼吸に、鼓動に合わせて流れ出る血。
 血肉の匂いで気が立ったのか、様子を見ていたねずみたちの動きが、積極的に変わった。
 腕に飛びつき、肩を食む。
 脚を登り、腰を喰らう。
 痛みは我慢できる。
 だが、身体をぬるりとした温いものが伝っていく感覚が、やけに気持ち悪かった。
 噛み千切られたところからは多くの血が流れ、丘を、ねずみの毛を染めていく。
 それにつれて、柳の身体からも徐々に力が抜けてきた。
 血を流しすぎたのだ。

「――ッ、アアアァァァ!」

 もうこれ以上は、そう考えたところで、柳は短い筒状のものをいくつも放り投げた。
 UDCアースの道具を、ダークセイヴァーの動物が、まして、ねずみたちが知るはずもない。
 閃光手榴弾――。
 それは空中で炸裂し、柳を、ねずみたちを、丘の上を、鋭い光が包み込む。
 薄暗い世界で、さらに暗がりに住んでいたねずみたちには、さぞ強烈な刺激だったであろう。
 柳を囲っていたねずみたちの動きがピタリと止まった。
 突然の光量に対応できず、網膜が焼けてしまったのかしれない。
 少し離れていたものたちでさえも、多くは目を閉じて地面を転がる。
 準備は整った。

「これを、こいつらを、喰、ら、え――!」

 振り上げた腕に、静かな怒りを込めて振り下ろす。
 同時に、周囲の空間から”影”が落ちてきた。
 ぼた、ぼた、と、真下にいたねずみを踏み潰して、質量を持った影が落ちる。
 地面に落ちると同時に、まるで水風船が割れたかのように、影は足元を広がっていった。
 柳の足元を塗りつぶした影から、一本の触手が飛び出てねずみの脳を貫く。
 ギッ、と小さな悲鳴を上げ、それからねずみは小さく震えるばかり。
 それを合図としてか、影の中から触手が次々に飛び出し、ねずみたちの頭を貫いていく。
 まずは近く、閃光を間近で受けて動けなくなったねずみから。
 次は少し離れて閃光に目が眩んだねずみたち。
 そして遠く、突然の明かりに驚いたねずみたちに至るまで。
 柳が引き寄せた分のねずみは、おおよそが沈黙した。

「イテテ……」

 ずれたマフラーを口元が隠れるように直し、特に大きな傷口を手で抑えて、山の向こうを目指して歩く。

「これも癒えるんですか……」

 一度、手についた暖かい血を見て、便利なものですね、と小さく呟いた。

苦戦 🔵​🔴​🔴​

石動・劒

呼ばれて来てみりゃ害獣駆除かい
ああ、特に小動物相手の駆除ってのは嫌なもんだ
誇りも名誉もありゃしねえ
ただそこにあるのは命のやり取りと飢えだけだ
でも、やらなきゃあ守れるもんも守れねえよな

手数重視の華剣終体で迎撃だ
戦闘知識を活かしながら2回攻撃での薙ぎ払い。衝撃波を利用しながらまとめて屠ろう
時間稼ぎぐらいになりゃいいけどな

傷は痛えし血は鬱陶しいしで、ああ、どうしてこんなに傷ってのは俺に気持ちよく戦わせようとしねえんだ
多勢に無勢で絶望した時ってのはこんな気分なのかな
悪かねえ。最後の最後まで足掻いてやるさ
群れに食われるのはさすがに未知でな
これを斬れたら、心臓が飛び出そうなほど楽しいだろうよ!




 振り降ろす。
 突き刺す。
 なぎ払う。
 斬れども斬れども一向に数の減らない害獣を、ひたすらに斬る。
 無数のねずみに囲まれて、石動・劒(剣華上刀・f06408)はただひたすらに斬った。

(たかが害獣駆除と高を括って来てみりゃ、とんだ大仕事さね)

 額を伝う汗を、手で拭う。
 足元を駆け回るねずみを斬り、飛び掛かるねずみを斬り。
 斬って、斬って、斬って。
 手数重視の戦い方は、
 しかし――――。

(いくらなんでも、多すぎだろ……!)

 正面にいるねずみに刃を突き立ててれば、後ろを歩くねずみが劔に寄る。
 ざわり、ざわりとねずみ共の毛の擦れ合う音が気味悪く背筋を撫でた。
 何かが危険だと告げている。
 劔が振り向くのと、背後にいたねずみが積み重なって劔に襲いかかったのは、同時だった。

「――――ッ!」

 一呼吸の間に縦と横、二本の剣戟がねずみの塊の上を走る。
 劔の身体に降り掛かる浅黒い血を、羽織を振って払った。
 重なったねずみが劔に向けて倒れてくる。
 そのうちの、斬り損ねたねずみが劔の肩に爪を立てた。

「痛ッ!」

 爪は歯に比べて幾分か鋭く、器用だ。
 小指の先程の爪が、肌に食い込んで服を朱色に染める。
 ここならば歯が通るとみたのか、ねずみはその肩に服の上から噛み付いた。

「ッ、こいつ!」

 肩に歯を立ててしがみつくねずみを無理矢理引き剥がし、地面に叩きつける。
 剥がすときに肉が少々持っていかれて、羽織がさらに赤く、赤く染まった。
 指先まで滴る血で滑る刀を握り直し、一度刀を振ってねずみ共を下げさせる。

「嫌だねぇ、全く。傷は痛えし、血は滑るし。二度と勘弁だ」

 こんなこと、こんなねずみの群と戦うなんてこと、劔には初めてのことだった。
 ましてや、喰われるなど。
 言葉とは裏腹に、劔の口元は笑っていた。
 未知の経験に、劔の心が躍る。
 そしてこの状況を斬り捨てるときこそ、最も楽しく。

(まずは包囲を抜けること!)

 肩に担ぐようにして刀を構え、腰を落として姿勢は低く、そこから横薙ぎに刀を振るう。
 剣閃が伸びるかのように刃先から衝撃波が放たれて、ねずみ共を弾き飛ばした。
 さらに、正面に立つのは危険と感じたねずみ共が、劔の横に回り込む。
 ねずみで埋め尽くされて見えなくなっていた、丘のやせ細った灰土の道が見えた。
 その先にあるのは、ねずみのやってきた山。

「こりゃ、行くっきゃないさね」

 痛む肩を抑えて、劔が走る。
 左右に刀を振るって牽制しながら、ねずみの道を抜けて行った。

成功 🔵​🔵​🔴​

パーム・アンテルシオ
窮鼠猫を噛む、なんて言葉があるけれど…
そうだね、このねずみ達は…狩られるだけの存在じゃあ、無いみたいだね。
…ピラニアの群れのいる川に飛び込む、なんて状態になるのは…イヤだからね…

●WIZ
たとえ死にそうな空腹でも、同じ死の恐怖、炎の恐怖からは逃れられない、克服できない、はず…!
枯れ木とか、廃屋の木材とか、火を付けられるものを集めて、火をつける。炎の壁を作ろう。これで、移動ルートを制限して…
火炎瓶…そう、通ってくる所に、炎を投げ込む。これなら、きっと…


多数に取り付かれるような事態になると、パニックになって暴れます
怪我が酷くなると、大人ぶった態度が崩れて、子供っぽい素顔が見えます
連携、アドリブ歓迎




 ねずみ、ねずみ、ねずみ。
 大量のねずみを見て、パーム・アンテルシオ(桃色無双・f06758)は少し嫌な予感がした。
 ねずみは確かに小さな動物にすぎない。
 例えば猫にとっては、狩られる存在だ。
 だが小さなねずみもこれだけの数がいれば、自分よりも何倍も大きな相手を狩る側に回るのだ。
 無論、その相手は犬猫や人間、そして猟兵も例外ではない。
 そんなピラニアの群れが泳ぐ川に飛び込むようなことなんて――。

(ゼッタイ、イヤだからね……!)

 まずは、準備を。
 転移した丘には多くの枯木が転がっていた。
 ここなら、乾燥した枝や枯れ草を探すには事足りない。
 燃えそうなものを集めては、それを並べて置き、そしてまた次を取りに行った。
 パームの考えは、炎の壁を作ってねずみの移動ルートを制限し、その間に元凶の元へと、というものだった。
 賢いやり方ではあった。
 だがパームの誤算は、ねずみの動きが想定よりもだいぶ速かったことだろうか。

「なに……これ……!」

 ねずみの大合唱が、もうすぐそこまで迫っている。
 しかし、用意した枯れ木では、炎の壁を用意するにはまだ足りない。
 足を止めてしまったその数秒。
 ねずみたちはその飢えて焦がれた表情が見て取れるほどの距離にまでやってきた。

「ひっ……!」

 群れてもねずみすぎないだなどと、思っていたわけではない。
 しかし大人の握りこぶしほどもあるねずみたちは、まだ身体の小さなパームからは、ねずみとしてはずいぶんと大きく見えた。
 それが数え切れないほどの群れとなって、自分に食欲を向けて、押し寄せているのである。
 聡く賢いパームだからこそ、ことさらに恐怖を感じたのかもしれない。
 火を、火を付けなければ。
 発火用の火炎瓶の布に小さな火を点け、枯れ木に投げるために掲げたそのときだった。
 まるで空に手を振り払われたかのような衝撃。
 火炎瓶は少し離れた土の上を転がる。
 なにか軽いものが地面に落ちた音のあと、キキ、と小さな鳴き声が足元から聞こえた。
 ねずみだ。
 一匹のねずみが、小さな灯りを頼りに飛びかかったのだ。

「あっ……」

 さーっと血の気が引いていくのが、パーム自身にもわかった。
 周囲には赤い目をギラギラと滾らせた飢える無数のねずみたち。
 小さな希望の篝火である火炎瓶は、そのねずみたちの向こうに転がっている。
 これから自分の身に起こることを想像してしまうと、足に力が入らず、すとんとその場に座り込んでしまった。
 空腹を満たすために大移動をしてきたねずみたちが、この好機を逃すはずなど、なかったのだ。

「痛っ! やめてっ、噛まないで!」

 噛む。齧る。喰らう。
 耳を隠すように頭を覆ったパームの身体を、ねずみたちが噛む。
 もふもふの毛並みが自慢の尻尾は、ねずみたちにとっては良いご馳走だろう。
 毛の中に埋もれるように飛びつき、そして肉を喰む。

「私の尻尾!」

 パームの尻尾が赤く赤く。
 何匹ものねずみに取りつかれ、パームの理性は限界だった。
 なによりも、生きたまま肉を齧り取られる激痛がパームの強がる心を一瞬でかき消していく。
 がむしゃらに腕を振ると、その腕にもねずみが噛み付いた。

「やだぁぁぁ! やめてよぉ! 痛いよぉ! 食べないで!」

 痛みからしっぽを逃がすように身体を仰け反らせれば、ねずみにはそれが腹を喰らえとでも見えたのか、その華奢な腹部に数匹のねずみが噛み付く。
 幼い妖狐の肉は、さぞ柔らかいのだろう。
 ねずみが白い肌に鈍い歯を立てれば、簡単に刺さり、そして千切れた。

「――――ッ!!!」

 目をカッと大きく開き、少女は声にならない叫びをあげる。
 溢れる、血が、肉が。
 こうなれば痛みは徐々に消えていき、身体から熱いものがどんどんと流れていくことだけがわかった。
 全身の力が抜けていき、仰向けに倒れ込む。
 その視界のほとんども、重なるように群がるねずみで埋め尽くされて。

(これ、死ぬ……? こんなところで……? 誰か……)

 助けを求めて、見えないものに縋ろうと手を伸ばした。
 ――その時だった。
 ねずみたちが一斉にパームの身体から離れた。
 すっかりねずみに囲まれて見えなくなっていたダークセイヴァーの空は未だ暗いが、やけに赤い。
 ねずみの鳴き声にかき消されていた、パチパチと薪の爆ぜる音。
 転がった火炎瓶はわれずとも周囲の草に火をつけており、それがパームの集めた枯れ木を焼いたのだ。

(いまなら、逃げられる……?)

 激痛苛む身体に鞭をうち、這うように移動する。
 腹から赤黒いものが落ちそうになるのを手で抑えながら、小さな炎の壁までパームは避難した。
 ねずみたちがこの壁に寄ってくる気配はない。
 ここなら大丈夫。
 目立つし、誰かが来てくれる。
 そう考えたら、パームのまぶたが次第に重くなっていった。

失敗 🔴​🔴​🔴​

ブランシュ・シコ
夢を見たんだ。よくある夢だよね。
人が死ぬのもよくあること。ねずみより遅かったから仕方ないよ。
ブランシュくらい早く走れたらよかったのにね。

じゃ、たのしんでいってきます。

ねずみの群れに向かって……ねずみの群れの奥の”何か”に向けてだけど。
一直線に『ダッシュ』してねずみの群れの中を走りぬけるよ。

ねずみがすごい勢いでブランシュを食べにくるとおもうけど、
『フライング』してブランシュがねずみに食べられない未来を予知できるまでね
予知をやりなおしし続けるよ。
頭がいたくなったり、血をはくかもしれないけど食べられたらもっと痛いからね。

走りぬけたら”何か”のいる方にねずみは来ないとおもう。
たぶんだけどね。




 すれ違うように走る。
 ねずみより早く走る。
 だめ。
 元から前にいるねずみに食べられる。
 死。

 もっと大きく回り込んで走る。
 元からねずみのいないところから行く。
 だめ。
 ねずみたちは想像以上に横に広い。
 死。

 あえてねずみたちの中を走る。
 ねずみを避けながら進む。
 途中までいけた。
 でも死。

 ブランシュは、幾度となく死んだ。
 正確には、走り抜けようとするも抜けきれず、死ぬ予知を何度も見た。
 その中で一番進めたのが、ねずみの中を走るという選択肢だった。
 決めてからのブランシュの行動は早い。
 速ければ速いほど、事はよいのだと知っているから。
 だから走った。
 あとのことは、その場で”見れば”良い。
 密集した地点では、ねずみ同士もぶつかりあって自由に動けない。
 だが走ることに特化したブランシュには、それが可能だった。
 動き回るねずみたちの隙間を縫うように、空いた地面を裸足で蹴る。
 ときには、みっちりと詰まって動けないねずみの身体を踏みつけて。
 走る、走る、走る。
 ブランシュ目掛けて前から飛び掛かるねずみを、姿勢を低くして躱す。
 ここでねずみが飛んで来ることは、もう分かっていた。
 そして次は屈んだブランシュに向けて、ねずみの波が倒れ込んでくる。
 だから速度をあげて、倒れる前に通り抜けた。
 先ほどまでブランシュがいたところでギギ、とねずみの悔しそうな声が聞こえる。

(さっきフライングして見たのは、ここまで。あとはやり直しながら……)

 そう考えている間に、ブランシュの足の指を一匹のねずみが噛んでいた。
 踏ん張りが効かず、まるで突然足を引っ張られたかのように、ブランシュはつんのめる。
 ブランシュの走りは、ここで終わる――――。

 ――――という”予知”を見た。
 だからブランシュは戸惑わなかった。
 足元のねずみを蹴飛ばし、一度跳ねる。
 蹴飛ばされたねずみを避けるために、ねずみたちが場所を開けていたのだ。
 そこに着地し、またすぐ走る。

(……あたまがいたい)

 口の中が鉄の味で満たされる。
 予知を使いすぎたのか、ブランシュの身体には大きな負担がかかっていた。
 だが、それでも走るのは止めないし、力を使うことも辞めなかった。
 だって、一番速く走れるから。
 ほどなくして、襲い来る黒い波は終わりを迎えた。
 ねずみたちの間を、走り抜けたのだ。
 少し硬い地面の上を、スピードを上げて走る。
 長いマフラーが、風に乗って揺れた。

「ブランシュよりは、はやくなかったね。でもちょっとだけ、たのしかったよ」

 もうねずみは、数十メートルは後ろ。
 口の端から垂れた血をハンカチで拭いて、少女を追いかけることをやめて別の獲物を探し始めたねずみたちを視界の端に収める。
 それからすぐに、”何か”のいるであろう方角へと向かった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

赫・絲


飢えてるって言ったって人まで喰らうって飢えすぎでしょ
早いトコ元凶を探さないとね

とりあえず鼠を探して山の方へ
すぐに見つからないようなら手首付近を小さく裂いて血を零す
この方がよく匂うでしょ、『エサ』の匂いが

見つけたらネズミの群れが来た方をしっかり確認した上で村へ向っていかないように、
襲い来るものは鋼糸で纏めて捕らえて縛り上げ、
【属性攻撃】で糸に纏わせた雷を【全力魔法】増幅させ、その一撃で一気に撃ち焦がす

喰われても喰われても、流れる血が多かろうとこの程度で膝をつきはしない
傷よりもずっと怖いコトがあるから、身に追う傷など怖くない
呪われた『生きたがり』を舐めないで




 赫・絲(赤い糸・f00433)の視線の先には、ねずみたちの群れ。
 どの方角からやってきたかは、すぐにわかった。
 目的のひとつである元凶のいる方角を探ることは、すぐに達成した。
 けれど、問題は――――。

(放って置くわけにはいかないし……)

 彼らをギリギリまで避けていけば、時間はかかっても元凶までたどり着くことはできるだろう。
 しかし、それだけの時間をかけてしまえば、きっとねずみたちは小さいとは言い難い悲劇を起こすことになる。
 手首に小さな傷を付けて、払うように振った。
 手首から指先へ。
 ぽたり、ぽたりと滴った赤い雫が地面に染み込んでいく。

「さあおいで。これで良くわかるでしょ、『エサ』がどこにいるか」

 飢えたねずみたちにとって、血の匂いはご馳走の匂いだ。
 なんせ、必ずエサとなる人間がいる。
 はたして、絲の狙い通りにねずみたちの一部が絲の方へと進路をずらした。

(これでいい……)

 ねずみたちはすぐに絲の元へとやってきた。
 赤い瞳を揺らし、飢えた口元はだらしなく涎を垂らす。

(さて、どれくらい引きつけるのがいいかな)

 グローブをはめて、ねずみたちに対峙する。
 一匹、二匹、絲に向けて飛び掛かる。
 それを、グローブから射出した鋼糸で遮り、縛り上げた。
 仲間が拘束されたところを見ていなかったのか、はたまたそれでも行けると踏んだのか。
 また数匹のねずみが絲に向けて飛び掛かる。
 それを再び鋼糸で絡め取った。

(そろそろ……!)

 ぱちり、と指を鳴らすと、丘を包む閃光と放電音。
 少しして、肉の焼ける匂いと脂の爆ぜる音があたりに充満した。
 いく匹かのねずみを絡め取った鋼の糸に、電流を流したのだ。
 絲の正面にいたねずみたちが、その光景に一歩下がる。
 同時に、絲の背中に小さな衝撃。

「ッ、きゃあっ!?」

 散発的に攻めていたように見えたねずみたち。
 その実、一部は絲の後ろに回っていたのだ。
 その一匹が絲の背中に飛びつき、その爪を立てていた。
 少し置いて、焼けるような痛み。
 絲の華奢な背中に赤い線が走った。
 意識が後ろに回る。
 その瞬間を逃すほど、野生の小動物は甘くなかった。
 全方位にいたねずみが、一斉に絲へ向けて走り出す。
 飛び掛かるねずみを避けて、鋼糸を張った。
 足元に来たねずみを蹴って、鋼糸を飛ばした。
 いかに猟兵といえど、無数の攻撃を避け続けることはできない。
 ねずみの一匹が、絲の細く白い脚に歯を立てた。

「飢えてるって言っても、人を食べるのは飢えすぎでしょ!」

 深く刺さる前の歯から逃れるため、脚を振り払う。
 傷口から血が流れて、ショートブーツの中に血が溜まるのがすこし気持ち悪かった。

「そんなにほしいなら、びりびりをあげるわ! 好きなだけね!」

 ねずみに囲まれた時点で放っておいた鋼糸。
 それはすでに絲を囲ったねずみたちを、さらに囲うように。
 蜘蛛の巣のように張り巡らされた鋼糸に、全力の魔力を込めた電流が走る。
 範囲内のねずみを焼いて余りあるそれは、まるで地面を跳ね回るかのように雷を撒き散らした。
 轟く音と、炎よりも強い光。
 それが止む頃には、絲のまわりに動くねずみはいなくなっていた。
 脚の怪我をちらりと見てそれから周囲の状況を確認する。
 ねずみたちの来た方角が、薄くなっている。
 あとは残ったねずみを蹴散らして進むだけだ。
 この程度では死なない、殺されない。

「呪われた『生きたがり』を舐めないで」

 淡紫の瞳に宿った強い光が、まるでその意志を表すようだった。

成功 🔵​🔵​🔴​

シキ・ジルモント

◆SPD
ネズミもこの数なら確かに脅威か
…本当に金属まで食い尽くしそうな勢いだな

群を遡り奴らが来た方向へ向かおう
立ち止まらず走り『逃げ足』を活かして逃げ切りたい
こちらに向かってくるネズミは銃で牽制、観察して進路を『見切り』回避を試みる

囲まれたらユーベルコードも発動し包囲を離脱する
周囲に木でもあれば『地形を利用』して改良型フック付きワイヤーを枝に飛ばして引っ掛けて登り、
とにかく群の中からの脱出を考える

負傷して動きに支障が出る場合もユーベルコードでカバー
痛みで思考が鈍っても気力で堪えて足だけは止めない
立ち止まったら最後、追いつかれてネズミの餌だろうからな
…あんなモノに食い殺されるなんて冗談じゃない


ゾシエ・バシュカ
当初は鼠くらいとバカにしていますが、実際に見ると群れの圧が思っていたよりすさまじいので焦ります
「え、うそ、あれ?」

樹に登って鼠を避け(地形の利用)、下に落ちた影から影の剣を生やしてちまちま潰していきます
どうせ登ってくるんでしょうけど……!?
「あ、これはまずい。まずいです」
近づかれたら蛇の剣(フランベルジュ状の黒剣)で、追い詰められたら直接踏みつぶすなどして対応
激痛耐性と生命力吸収で負傷はある程度耐えますが、
最初は騒がしかったのが、やがて不機嫌に黙り込んで作業的に潰すようになります
《使い魔の召喚》の梟がなにかを探し当ててくれればよいのですが、特になければ攻撃に転用します

連携・アドリブ歓迎です




「いやいや、ねずみでしょ?」

 ゾシエ・バシュカ(蛇の魔女・f07825)が、小さくため息を吐く。
 少なくとも彼女の知識の中では、たしかにねずみは感染症の媒体や畑の害獣となるという話はあっても、すべてを喰らい尽くすだなんてことはなかった。
 たかがねずみ。
 たかが小動物。
 そう考えていたのだ。
 丘を埋め尽くさんばかりに群がるねずみたちを見るまでは。

「え、うそ、あれ?」

 ゾシエの顔から、一気に余裕が消えた。
 群れと言っても、もう少し少なく、それに身体も一回り小さいものを想像していた。
 だが、目の前に現れたのは数え切れない数で、ねずみというよりはうさぎかと思うほどの大きさ。
 そしてそのねずみたちは、あっという間に目の前に。
 ゾシエの行動は早かった。

🔴
「ネズミもこの数なら、確かに驚異か」

 丘の上に立っていたシキ・ジルモント(人狼のガンナー・f09107)が、ねずみの大群を見て眉間にシワを寄せる。
 ねずみがこちらに近寄れば近寄るほど、きっと向かう方向が線ではなく点になる。
 走るなら今だと考え、シキは走った。
 目標はねずみの群れが来た方向。
 流れに逆らい、群れを遡って元凶を探す。
 そのためには走る。
 立ち止まらずに、一心不乱に走る。
 幸いにも、逃げるのは苦手ではない。
 正面から向かってくるねずみに、鉛玉をプレゼントしてさらに走った。

(こりゃ、止まるわけにはいかんな)

 少し脚を止めれば、すべての方向からねずみに襲われることになる。
 それはおそらく自身の対処できる範囲を超えていると、狼としての直感が告げていた。
 だが――――。

「くそ、多いな!」

 ねずみが、とにかく多い。
 走ろうにも足の踏み場がなく、ねずみを踏みつけて進んで転びそうになったことも、何度かあった。
 せめて少し落ち着いたところで、状況を確認したい。
 そう考えてふと顔をあげると、少し進んだところに樹があった。
 痩せた土地にしては珍しく、幹のしっかりとした広葉樹。
 どうやら先客がいるようで、その樹の根元にもねずみが殺到していた。

「えい、えい」

 樹の上から地面に落ちた少女の影。
 そこから黒い剣が飛び出てねずみを両断しては、また消える。
 樹を登ろうとするねずみたちを、ちまちまと駆除していたゾシエだ。
 その樹に向けてフック付きワイヤーを投げ、それを伝ってシキも樹の上に。

「手伝おう。こちら側は任せてくれ」
「あ、どうも……おねがいします」

 樹の上から、シキが拳銃で下を走り回るねずみを撃つ。
 ゾシエが蛇の剣で登ってきたねずみを斬る。
 このまま耐えるだけなら、いくらでもできそうな気がした。
 だからこそ、次は突破を考えなければならない。
 シキが周囲の状況を確認するために、樹の上から見渡す。
 そのとき、ゾシエが小さな声で呟いた。

「あ、これはまずい。まずいです」

 登ってくるねずみの数が、とにかく多い。
 そしてねずみの食料は人だけではない。
 ありとあらゆる動植物を食べてきたねずみたちにとって、シキとゾシエが登ったこの樹すら、食料の範疇にあった。
 みしり、みしりと木が軋む。

「お、おお、おおお!」

 根元付近を大きく齧り取られた大樹は、シキの驚く声と共にねずみの海へ倒れていった。

「痛っ!」

 ねずみに囲まれ、脚を噛まれたゾシエが声を上げる。
 痛みに耐性があるといっても、噛まれれば血は出るし、痛くないわけではない。
 小さく流れた血を取り戻すべく、蛇の剣でそのねずみを斬った。

「無事か!」

 自分の周囲を取り囲むねずみを牽制しながら、シキがゾシエに声を掛ける。
 樹が倒れたときにねずみに噛みつかれたのか、肩から流れた血が指先まで赤く染めていた。

「まあ、いまのところは……」

 ゾシエも、自身の周りを走り回るねずみを蹴って寄せない。
 そうして膠着したまま時が流れる。
 シキが残弾数と出血からの疲労が気になりはじめたころ、ゾシエはねずみを直接踏みつぶして排除していた。
 その口数は、元より話すのがあまり得意ではない普段のゾシエよりも、さらに少ない。
 ねずみに噛まれて血を失い、ねずみを殺して生命力を奪う。
 ただ痛くて、いつ終わるかわからない作業の繰り返しに、徐々にフラストレーションが溜まってきたのだ。
 不機嫌に、蹴り、潰し、殺す。

「そこ、今なら行けそうだ」

 ねずみたちの様子を見ながら戦っていたシキが、明らかに不機嫌になっていたゾシエに声を掛ける。
 ねずみたちの大部分は猟兵たちの横を通過し、あと少しを退けて進む程度なら、さほど苦でもない。
 だから、目的地の方向へ抜けてしまおうというのだ。 

「……わかりました」

 ゾシエが使い魔の梟を放ち、ねずみたちを牽制する。
 それに合わせてシキが銃弾を縦に放てば、避けようとするねずみたちによって道が開けた。

「こんな仕事、次からは御免被りたいな」

 シキのため息混じりの愚痴に、ゾシエは静かに頷いた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

ジョン・ブラウン

「あー……やだやだ、きれい好きなんだよ僕は」
心底嫌そうな顔で腕に付けた機械を弄りぼやく

「鼠なんて部屋で見かけた日には飛び上がっちゃうね……っと」
各種耐性プラグインを挿入

「でもね、親子が出てくる悲劇はもっと嫌いなんだ」
迫りくる鼠の群れを見ながら機械から伸びるケーブルを自身に刺す

「……僕そんなに匂う?これでも気使ってるんだけど」
「痛みと毒への耐性プログラム、もうちょいしっかり組んどきゃよかった」

鼠に全身を食われながらひたすらにユーベルコードで自己回復を行う
血を撒き散らし減らぬ肉がここに在るぞと示し鼠を誘導

「あ”あ”あ”あ”あ”くっそ、馬鹿やったなぁ!」
「でもムカつくんだから仕方ないよな痛え!?」


月山・カムイ
蝗の群れではなく、鼠の群れですか
喰らい尽くす程の飢えと、何かから逃げて来た可能性……オブリビオンの策謀ですかね?
まずは村へ押し寄せる一群を刈り取りましょう、詮索はその後です

囮となってる猟兵に群がる鼠を片っ端から無響剣舞・絶影にて真っ二つに斬り裂いていく
自分の間合いは死線、村へは通させませんよ
囮となってるジョン君が埋まって回復しきれなくなる前に、鼠だけを切り刻み救出する、等苦戦してる猟兵への援護も積極的に行う

切れ味が落ちて肩甲で油脂を拭ってる間に狙われたらカウンターで叩き落とす
自分の傷には構わず戦う

無傷でどうにかなる、とは思っていませんが……この数は難儀ですね、流石に
……終わりが、見えないです




「あー……やだやだ、きれい好きなんだよ僕は」
 心底嫌そうな顔で、ジョン・ブラウン(ワンダーギーク・f00430)が腕に取り付けた機械を弄る。
 それこそ、ねずみなんて部屋で見つけた日には飛び上がってしまうほどに。
 きっと、その日はねずみが住む気などなくなるまで家中くまなく掃除し続けるだろう。

「どう思いますか、解説のカムイさん」
「いや急ですね」

 隣に立っていた月山・カムイ(絶影・f01363)が笑って答える。

「蝗の群れではなく、鼠の群れですか。すべてを喰らい尽くす程の飢えと、何かから逃げて来た可能性……オブリビオンの策謀ですかね?」

 顎に手を当てて、あらゆる可能性を考える。
 ダークセイヴァーで起こった事件。
 ヴァンパイアの眷属。
 危険生物。
 様々な可能性を検討し、それでもやはり、オブリビオンの仕業だということは、外し難い選択肢だった。

「あ、いや、家でねずみが出たときどうしてる?」
「ああ、そういう」

 丘の麓までやってきたねずみを前にして、機械いじりをしていたジョンが立ち上がる。

「でもね、親子が出てくる悲劇はもっと嫌いなんだ」

 薄暗い空の下、ジョンの真剣な眼差しが、やけにカムイの記憶に残った。
 だから。

「それには私も同意しますね」

 武器を取って、戦う。
 ねずみを村には行かせず、ここで悲劇を”なかったこと”にする。
 そのために、彼らはここに来た。

「んじゃ、いこうか」

 薄暗い空の下でもねずみがくっついて見えないような距離まで来たところで、ジョンが機械から伸びるケーブルを、自身に刺した。


 皮膚が、肉が、ねずみの歯によって食いちぎられていく。

「痛ッ、痛え! これ痛えよ! ふっざけんなぁ!」

 ジョンの痩せた身体を、ねずみが喰む。
 彼は、囮だ。
 痛みと、病気に備えて毒に耐性をつけて、ひたすらねずみに食べられる。
 それだけの役割だ。
 簡単なような仕事だが”死ぬほど痛いことが予想できるのにそれを受けて囮をする”というのは、並の覚悟ではできない。
 それほどまでに、この悲劇の結末にジョンは憤っていた。

『がんばるむー。ちゃんと回復できてるむー』

 白いヒレのついたぬいぐるみも、バッグの中からジョンを応援する。
 耐性プラグインと共にインストールした治療プログラム。
 それによって、ジョンの身体は喰われた先から回復する、無限の食料庫となっていた。

「あ”あ”あ”あ”あ”くっそ、馬鹿やったなぁ!」

 回復するといっても、耐性があるといっても、限度がある。
 それを迎える前に、ねずみをあらかた切り捨てるのが、カムイの役割だ。
 ジョンに群がるねずみを、片っ端から切り捨てる。
 だが、ジョンを避けて全方位からくるねずみだけを斬るというのは容易なことではない。
 事実、カムイと逆側からジョンに近づいたねずみは、空腹を少しばかり満たして離れるのだ。
 ねずみを村に通さないという目的はこれでかなり達成が近づいただろう。
 だが、ジョンの体力が心配だ。
 とにかく、数が多い。
 斬って、斬って、また斬って。
 どれほど斬っても、終りが見えない。
 刀を振ることだって、簡単なことではない。
 ジョンの背中についたねずみを斬り捨てて一息吐く。
 ねずみを斬り続けた刀の切れ味が落ちてきたため、肩甲で油脂を拭った。
 そのとき、周囲のねずみが少なくなってきていることに気付いた。

「そろそろのようですよ、ジョンさん」

 ふたたびねずみに囲まれて喰われ続けるジョンに声を掛けると同時に、ねずみたちを斬り裂く。
 周囲には、もはや散り散りになったねずみしかいないことを確認すると、ジョンは地面に倒れ込んだ。
 カムイがそれに駆け寄り、起こす。

「これで、ムカつくことが一個減ったんだったらいいな」

 ジョンはカムイの肩を借りて起き上がって、村のあるであろう方を見て呟いた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

玄崎・供露
数で来る相手にゃ数で対応する。薄汚い鼠相手なら尚更だ。

ユーベルコード発動。エレクトロレギオン。駆除の時間だたらふく喰らえ。……なァにおんなじことをやり返すだけだ、酷くなんかねェやな

まァ、まァ、なんだ。抜けが有るようなら体張るのはやぶさかじゃ無い。もちろんそうならないようにすんのが一番……だがな、溝鼠。グールドライバーの血肉を喰らって只で済むなんて思って無いよな?こちとら刻印持ちなんでな、血液操作はお手の物なんだよ。手前らの腹ン中だろうと
――最後の晩餐だ、精々汚く弾けて死ね


※アドリブや連携など大歓迎です。




「ンだかなァ。動物相手ってのはあんまり気が乗らねェ」

 黒いマスクをつけたまま、玄崎・供露(テクノマンサー・f05850)が呟いた。
 セーラー服の上から羽織ったパーカーのポケットに手を突っ込み、丘の上を歩く。
 眼前には数百数千のねずみの群れ。

「数で来る相手にゃ数で対応する。それが基本だろ?」

 まして、薄汚いねずみが相手とくりゃなおさらだ。
 丘の上に、小型の戦闘用マシンを並べていく。
 ここが供露の防衛ライン。
 村へいくねずみを少しでも減らし、遅らせるために。

「手前らもそんだけ並んで来てるんだ。卑怯だとか、ずるいだとか、言わねェだろ?」

 供露がマスクの下でにやりと笑うと、小さな戦車が、火を吹いた。
 小型の自走砲がねずみの群に向けて砲撃をし、飛行機械が機銃で掃討する。
 軽い銃声と爆発音が何度も響き、まるでそこは戦場のようだった。
 かたや、身体が丈夫で数は多いが攻撃手段が近接に限られるねずみ。
 かたや、飛び道具が豊富で攻撃力も高いが数に限りがあり構造も丈夫とは言い難い機械兵器。
 初めは機械兵器同士もお互いに取り付いたねずみを攻撃することで有利に戦っていた。

(まァ、そう簡単には行かないか……)

 それが次第に、ねずみの数に押され始める。
 砲撃と銃撃によって減るよりもはやく、ねずみが進行していった。
 気付けば、飛行機械が供露のまわりに近寄れず、ねずみのまわりをぐるぐると回っていた。

「いいぜ、喰ってみろよ溝鼠」

 両手を拡げて、挑発するかのように嗤う。
 供露の身体にねずみが飛びつき、その身体に喰らいついた。
 肉を喰らい、血を啜る。
 華奢な腹の皮がねずみの歯で食い千切られて、赤々とした肉を晒した。

(こちとら刻印持ちなんでな、血流操作はお手の物なんだよ)

 供露に群がるねずみが増える。
 次は脚に、肩に、次々噛み付いては、その血で喉を潤していく。
 それ故に、供露の攻撃は不可避となった。

「手前らの腹ン中だろうとなァ!」

 倒れたままの供露がぐっと手を握る。
 供露に群がるねずみたちが、体内から身体を貫かれて倒れた。

「ったく、肉なんて喰って美味いのかね」

 えぐれた傷口を押さえながら立ち上がる。
 未だねずみたちに攻撃を続けていた機械兵器たちを呼び戻し、次の戦場へ向かった。

苦戦 🔵​🔴​🔴​

ヴァーリャ・スネシュコヴァ
汚いネズミ共!
腹が空いているなら、俺の血肉を存分に食えばいい!
だが、そう簡単には食えないし……食えば凍るぞ!

あえて敵の前に現れ、手のひらを切り血の匂いで誘う。
誘い込んだ瞬間、ネズミたちを自分の血を媒介に氷の【属性攻撃】で凍らせる。
そのままネズミに噛み付かれながら、流れる血でネズミを凍らせつつ、『雪娘の靴』の力を最大限に生かせるよう地面を凍らせ……十分に凍ったところで、【2回攻撃】+『雪娘の靴』でネズミ達の群れを手数で一掃する!

気が遠くなるほどの痛みでも……それでも俺は必死に耐える。俺は屈しないし弱音も吐かない。
俺は打ち倒すべき敵がいるのなら、絶対に背中を向いたりしない!

(アドリブなど大歓迎)




 ねずみひしめく、丘の上。
 両手を腰に当ててねずみを見やる。
 すべてを喰らうねずみの群れ。
 放置しておけば必ず悲劇が起こるが、その流れを遮ろうとすれば自分が傷を負うのが、まるで未来を見てきたかのようにわかる。
 だから、ヴァーリャ・スネシュコヴァ(一片氷心・f01757)がそのままここにいれば、きっとねずみの奔流が彼女を喰らうだろう。

(俺にはそれを受ける、勇気がある!)

 ねずみたちの前に立ち、手のひらを小さく傷を付ける。
 ぽたぽたと落ちた血の匂いに釣られて、ねずみたちがヴァーリャに寄ってきた。

「うひゃあ! すごい数!」

 ねずみの群れを実際に目の当たりにして、ヴァーリャが驚きの声を上げる。
 だが、それはヴァーリャの覚悟を曲げるには至らない。
 足元に近づいてきたねずみに向けて、傷付いた手のひらを向けた。

「さあ、始めるぞ!」

 元より薄暗く、どこか肌寒いダークセイヴァーの未明であったがさらにその気温が落ちていく。
 ヴァーリャの血を媒介として、冷気を発生させていた。
 地面が凍り、ねずみたちを凍えさせていく。
 ぴょんと跳ねて、ブーツの裏に手を触れると、氷のブレードが靴裏に精製された。
 両足分のブレードを作り出すと、地面を滑り始めた。

「ほらほら、こっちだぞ!」

 血によってさらに地面を凍らせて、スケートでの移動範囲を拡げていく。
 氷の上で動きをとめたねずみがいれば、ブレードによる蹴りを放った。 ブレードがねずみを踏み斬り、血を流す。
 これはきっと、あの村が流すはずだった血。
 そう考えて、己を奮い立たせる。
 ねずみを蹴って、踏んで。
 流れるような二連撃で、トドメまで刺す。

(いける……!)

 余裕を感じたそのときだった。何匹か固まったねずみに、蹴りを放つ。
 積み重ねた塔のような小動物を崩すなんて経験など、はじめてのことだった。
だから、すぐに振り払うことができなかった。
 一匹がヴァーリャの脚にしがみつき、噛み付いたのだ。

「――っ!」

 思わず、叫んでしまいそうな痛み。
 だがヴァーリャは堪えた。
 なぜなら、打ち倒すべき敵がいるから。
 敵がいる限り、ヴァーリャは絶対に背を向けることなどはないのだ。
 だから、氷のブレードで凍りついた地面を滑る。
 先ほどの脚から流れた血液がも、きっと地面を凍らせているだろう。
 さらにヴァーリャの活動範囲は広がり、順調に敵を蹴り砕いていく。
 あたりを一通り凍らせたところで、近くにいたねずみはいなくなった。

「俺の敵は、どこだ!」

 ねずみの血を媒介に氷面を増やしながら、つぎの戦場を求めていった。

成功 🔵​🔵​🔴​

フェム・ポー
うふふ。あなた達はぁ、フェムを食べたいのぉ? ……うふふ。『フェムの身体は美味しいらしい』わぁ? フェムはそうは思わなかったけどぉ。
たーんとおあがりなさぁい?
(祝福された聖者の肉体誰をも『誘惑』し魅了する。どれだけ貪られようと自らの生まれながらの光によって瞬く間に回復していく。拷問であったが、歪んだ聖者の残骸は痛みを神の恩寵と感じ、それに悦びを見出す)
アハッ。そんなにっ、飢えて、相争ってぇ、かわいそぅ、かわいそうねぇ。
でも、大丈夫よぉ?
(UCで呼び出された黒い光を纏い浮遊する巨大な異形の胎児が、魅了された鼠達を同化吸収の触手により貪り尽くし)
……フェムがみんなみぃんな救ってあげるからぁ。




 ダークセイヴァー世界、未明の丘。
 今ここには、体長20センチほどのねずみたちが、食料を求めてひしめき合っている。
 空腹で、喉が渇いて、それでも歩いてここまで来たのだ。
 その飢えるねずみたちに慈悲を与えるのは、フェム・ポー(聖者の残骸・f12138)だった。
 小さな身体でねずみたちの上を飛び、ねずみたちを集める。

「うふふ、あなた達はぁ、フェムを食べたいのぉ?」

 歯をむき出しにして鳴き、重なるようにフェムを目指すねずみたちに、慈愛の笑みを向ける。
 肉付きの良い下半身はその見た目だけで柔らかさがよくわかり、薄ら暗い空の元、誰かの掲げる灯りが暗褐色の肌はその柔らかな質感を強調していた。

「たぁんとおあがりなさぁい?」

 被虐の聖者は飛ぶことをやめて、ねずみの海へと自らの肉体を墜とした。


 ミチ、ブチ、バキ。
 肉が千切れ、骨の砕ける音が、フェムの耳に届く。

「――――アァァァ!!!」

 イタイ、イタイ、痛い痛い!
 肘下から先を無くしたフェムが痛みに大きく仰け反る
。 小さな身体のフェムにとって、ねずみの一口はあまりに大きく、力強かった。
 千切れた直後に一度血が吹き出して、その後はまるで締め忘れた蛇口のように、血が溢れる。
 だが次の瞬間、フェムの身体が光に包まれ、その腕は最初から失われてすらいなかったかのようにそこにあった。

「う、ふふ。美味しい、かしらぁ」

 痛みに顔を歪めながら、自らの肉を食べたねずみを慈しみ、愛おしむ。
 続いて別のねずみが、フェムの柔らかな腹に歯を立てた。 脇腹からへそほどにかけるまで、皮が、肉が、内臓が、ねずみによって食い千切られる。
 赤々とした塊が地面を染めていく。

「ギ、イァ―――ッ!!!」

 数瞬遅れて、フェムの脳を激しい痛みが焼いた。
 生きたまま肉を喰われ、骨を喰まれる。
 脳は、精神は、心は、これに耐えられるようにできているのだろうか。
 だがフェムにとって、この痛みこそが心の寄辺。
 痛みと苦しみが、フェムに神の存在を教えてくれた。

(――――気持ちイイ……!)

 喰われ、癒えて、そしてまた喰われる。
 幾度となく繰り返される拷問のような苦痛。
 それはフェムに枯れることのない悦びを与えてくれる。
 これが恩恵。
 これが恩寵。
 脳が、痛みと悦びで埋め尽くされていく。
 尽きることのない極上の食料を、ねずみたちも飽くことなく貪り続けた。
 美味しい、美味しい。
 もっと、もっと。
 そんな声が聞こえるような気がして。

「アハッ。そんなにっ、飢えて、相争ってぇ、かわいそぅ、かわいそうねぇ」

 ――――でも、大丈夫よぉ?
 フェムが微笑うと同時に現れたのは、巨大な異形。
 それはまるで胎児のようで、黒く光を帯びていた。
 その身体から、幾本もの触手が飛び出していく。
 ねずみの身体を突き刺し、締め上げ、打ち払う。
 だが、触手の攻撃はねずみを傷つけてなどいなかった。
 接触した部分が、同化していたのである。
 離れるどころか、振り払うこともできず、そして痛みもない。
 身体が触手と繋がったねずみたちが、何が起きたのかわからないといったように、騒ぎ始める。

「……フェムがみんなみぃんな、救ってあげるからぁ」

 触手の群れがねずみの群れを飲み込み、薄暗い丘は徐々に未明の静けさを取り戻していった。

成功 🔵​🔵​🔴​

星蝕・焉夜
【POW】

「人を喰らうねずみ退治か……
窮鼠猫を噛むと言うが、
こいつらは軍隊アリに近いのかもな……
まあやる事はいつも通りにこなすだけだ……」

右腕に鮮血を纏わせて
大槌の形状へと変化させつつ
第六感や地形を利用して叩き潰す

「出番だ、『笑顔』……」
『あはははっ!
全部潰せばいいんだね!!』

愉しそうな声を上げて別の人格『笑顔』が浮上して

『全部、ぜーんぶ僕の糧!
叩いて潰して食べてあげるっ!!』

右腕に鮮血を纏わせ巨大な槌で
純粋に、乱暴に、ただただ壊れるまで叩き潰す
(ブラッド・ガイスト)

身体中噛まれて鮮血が流れ落ちる度に
武器が禍々しく凶悪になっていく

アドリブなど歓迎でお任せします




 未明の空を照らす、炎や雷の光。
 山を飛び越えて伝わる、苦痛と怒号の声。
 そして不愉快に暖かい、血と臓物の匂い。
 無数のねずみの襲来によって、丘の上は地獄と化した。

「窮鼠猫を噛むというが、こいつらは軍隊アリ近いのかもな……」

 ねずみたちが猟兵に群がり、貪り、そして駆逐される様子を見て星蝕・焉夜(終焉よりランタンを燃やす者・f00030)が呟く。
 行列を作り、数に物を言わせて自分よりも大きな相手を喰らう。
 それが群れる肉食小動物に許された唯一にして最大の戦い方だ。
 群れる動物は油断できない。
 だからこそ、やるときは徹底的に。
 焉夜の右腕が赤が塗りつぶされていく。
 丘を包み込んでいた鉄の匂いが、より一層強くなった。
 血だ。
 真っ赤な血が、焉夜の右腕に集まっていく。
 大きく、さらに大きく。
 血の匂いに興奮したねずみが焉夜によって来る頃には、その右腕には血でできた大槌が形成されていた。

「出番だ、『笑顔』……」

 己が中の人格の一つに話しかける。
 そしてそれは、人格変更の合図。
 クールで落ち着いた印象だった焉夜の顔が、子供じみた笑顔に変わっていく。

『あはははっ! 全部潰せばいいんだね!!』

 明るい笑い声が、あたりに響く。
 それと同時に、右手の大槌で目の前にいたねずみの身体を潰した。
 ずん、という音と共に、槌の下『全部、ぜーんぶ僕の糧!
叩いて潰して食べてあげるっ!!』から血飛沫が丘を赤く染める。

『全部、ぜーんぶ僕の糧! 叩いて潰して食べてあげるっ!!』

 一撃の元に小さなねずみを屠った『笑顔』が、次のねずみを叩き潰す。
 その一撃一撃で、確実に、素早く、そして丁寧にねずみを屠る。
 肉が潰れ、骨が砕け、血が飛び散る。
 ここは地獄の入り口であると言わんばかりに、死体の山を築いていった。

『あははっ! すごい、すごーい! 食べ放題だねっ!』

 殺しても殺しても、ねずみは次から次へと湧いて出る。
 数十のねずみを潰した頃には、数百のねずみに囲まれていた。
 焉夜の足元を駆けるねずみが飛びかかり、焉夜の肩に噛みつく。
 すぐに振り払うが、その肩肉が抉られ、血が大きく噴き出した。

『痛い痛いっ! あははははっ! 痛いなーっ!』

 まるで飼い犬にじゃれつかれたかのように、楽しそうに笑う。
 血が出ることも、痛みすらも、楽しむかのように。
 噛まれて、噛まれて、噛まれて。
 身体に傷が増えていく。
 一度出た血は、焉夜の右腕から離れない。
 動くたびに抉られた肩から血が出るが、そのたびに右腕の大槌が大きく、強く、そして禍々しくなっていく。
 初めから大きな槌であったが、刺々しくなり、今ではまるで悪魔が作ったかのように冒涜的なデザインになっていた。
 その槌で、叩いて、叩いて、叩きまくる。
 周囲のねずみをひたすらに叩く。
 ピクニックを楽しむ子供のように、無邪気に、残酷に。
 あらかた動くものがなくなった頃には、満足したような『笑顔』になっていた。

成功 🔵​🔵​🔴​




第2章 集団戦 『暗闇の獣』

POW   :    魔獣の一撃
単純で重い【血塗られた爪】の一撃を叩きつける。直撃地点の周辺地形は破壊される。
SPD   :    暗闇の咆哮
【血に餓えた叫び】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
WIZ   :    見えざる狩猟者
自身と自身の装備、【自身と接触している】対象1体が透明になる。ただし解除するまで毎秒疲労する。物音や体温は消せない。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。



 暴食の波をかき分けて、猟兵たちは丘を下り山を越えた。
 ねずみたちがやってきた方角へ進むと、森が広がっていた。
 青紫色の葉が茂り、ぬめる菌糸のついた木の根から刺激臭が放たれる。
 おおよそ人の入るべきところとは思えない、魔が潜む森だ。

「ヲオォォォォォォ‪───‬‪───‬!!!」

 森の中から、鼓膜を破らんばかりの雄叫びが響き渡る。
 それから、大きな打撃音のあとに、みしみしと木の軋む音。
 ゴウ、という風切り音が先に聞こえて、森の中から猟兵たちに向けてなにかが飛び出してきた。
 木だ。
 強い力で強引に折られた木が、投げられたのだ。
 その投擲を避けて森を見ると、二つの目が猟兵たちは睨みつけていた。
 大きな角と、丸太よりも太い手足。
 身体は何かの動物の血で赤く染まり、歯を剥き出しにして猟兵たちを威嚇する。
 間違いない。
 あの魔獣がねずみの大移動の原因だと、猟兵の誰かが言う。

 数秒の睨み合いのあと、魔獣は森の中に消えた。
 まるで最初からそこにいなかったかのように、森は静かになった。
 だが、間違いなく奴はこの森の中にいる。
 猟兵たちを誘っているのだ。
 戦うのなら、森に入れと。
 足場も悪く、視界も嗅覚も狂わされる魔の森に。
 投げられて転がっている木に空いたウロが、猟兵たちを嗤っているかのように見えた。
星蝕・焉夜
【POW】
「ネズミ退治の次は魔獣か……
面倒ではあるがここで仕留めておかないと被害が大きくなるな……」

森に入りながら第六感、地形を利用しつつ再び右腕に鮮血を纏わせ大型の片刃剣「Mimicry」を飲み込みながら魔獣と対峙する
(ブラッド・ガイスト)

「『笑顔』は当分出てこない……
なら今回は『ミミック』、出番だ……」
『ーーーーーっ!!!』

戦闘衝動に駆られる人格へ変化し本能のまま武器化した右腕で斬りかかる
死角から攻撃したり目や鼻、耳を斬り裂いたり脆そうな関節部分や細い部位を狙って攻撃する

『ミミック』自体は喋れず叫ぶぐらいのバーサーカー

アドリブなど歓迎です




 猟兵たちの足音だけが支配する、不気味なほど静まり返った森の中を進む。

(ネズミ退治の次は魔獣か……)

 面倒さを感じる反面、ここで仕留めておかなければという思いが、星蝕・焉夜(終焉よりランタンを燃やす者・f00030)を森の奥深くへ進ませた。


(『笑顔』は当分出てこない……)

 なら今回は――――!

「『ミミック』、出番だ……」

 心の中に潜むソレに、身体を委ねた。
 中性的で大人しい焉夜の顔が、険しいものになっていく。

『――――ッ!!!』

 まるで獣のように吼えると、右手に纏った鮮血が大型の片刃剣を飲み込む。
 戦う準備は、整った。
 それから魔獣が現れたのは、すぐのことだった。
 魔獣が見つからず、目の前の樹を斬りつけた焉夜。
 木屑が舞い散り、ぱらぱらと地面を転がる。
 その奥から、丸太のように太い腕が飛び込んできた。
 魔獣の攻撃だと、焉夜の第六感が告げる。
 武装化した右腕を盾にして魔獣の一撃を防いだ。

(――――!?)

 焉夜の身体が、魔獣の膂力によって浮き上がる。
 魔獣の腕による強烈は一撃は、衝撃を殺せぬまま焉夜の右腕に食らいつき、そしてその身体を弾き飛ばした。
 焉夜が弾丸のように森を飛び、草葉を超えて、枝をへし折り、幹にぶつかったところで、やっと止まる。
 背中を襲う強い衝撃に、肺の酸素を全て吐き出した。
 手応えを感じた魔獣が口角を吊り上げる。
 のそり、のそりと森の中を歩き、焉夜の死に様を確認しようと、近づいた。
 倒れた焉夜の頭を掴み、持ち上げる。
 グルル、と低く唸ってから口を大きく開けて、焉夜の首に噛み付いてとどめを刺そうとしたときだった。
 焉夜が目を開き、その右腕で魔獣の腕を斬り上げる。

「――――ッ!!!」

 その腕は魔獣の体を離れ、力なく森の大地へと落ちた。
 腕を失った魔獣は、血の噴き出る傷口を抑え、その痛みに悲鳴をあげる。
 だが魔獣の目は、絶望よりも、怒りに満ちていた。
 残った腕を振りかぶり、焉夜を叩き潰さんとする。
 それより早く、焉夜は武器を振るった。
 刃が、魔獣の身体を切り刻む。
 袈裟懸けに振り下ろし、横一線に斬り裂いて、そして上段からまっすぐに振り下ろす。
 魔獣はその腕を振り下ろす前に、力なく膝をつき、そして地に伏した。
 残ったのは、身体を魔獣の返り血で彩った焉夜のみ。
 口の中に溜まった血を吐き出し、次の獲物を探して再び森の奥へと消えていった。

成功 🔵​🔵​🔴​

アロンソ・ピノ
弱肉強食は世の常だが、暴飲暴食はやはりこいつも逃げて来たのか、いかれちまったのか。
とりあえず会話も出来ねえんじゃずんばらりんと斬って落とすしかねえべな。
POW判定でいく。
戦法の主体は抜刀術…居合の構えだが、刀を抜くたびに刃の形が変わる太刀が武器だ。あ、鞘に収まらない大きさに変形したら指で一々折ってるぞ。
今回は威力重視、なぎ払いで森の木ごと巻き込んで地形の有利を取られないようにする。すんでのとこは見切りと残像で回避…出来りゃ良いがな
ダメージ食らう場合は嗚咽と悪態はつくが泣きはしない。さすがにプライドもあるしな。ただ訛りが全開になる。語尾は〜んだ、〜だべ、のオンパレードに

春夏秋冬流、参る。




 周囲の様子を伺いながら、アロンソ・ピノ(一花咲かせに・f07826)が森の中を進む。

(弱肉強食は世の常だが、暴飲暴食はやはりこいつも逃げて来たのか、いかれちまったのか)

 先ほど顔を見せた魔獣の姿を思い出して、獣の特性を考える。
 獣は勝てない相手には挑まない。
 だからねずみはこの魔獣から逃れて食料を求めた。
 そして魔獣は、猟兵たちを敵わない相手だとは思っていない。
 獣は自らのテリトリーでは最も力を発揮できる。
 だから魔獣は一度顔を見せたあと森に戻った。
 そしてここで戦うことは、最も危険である。

(そのまま戦うのは良くねえな)

 右足を大きく下げて、身体を斜めに。
 腰を落として、左手を腰の刀にかける。
 一度大きく息を吐いて、目の前で怪しく葉を揺らす木々へ刃を走らせた。
 ド、という刀を使ったとは思えない鈍い音。
 それから、強い衝撃と共にその剣閃の走る木々が折れていく。
 その切っ先は刃ではなく、巨大な鉄球だった。
 斬撃ではなく、高い質量による打撃。
 轟音と共に、アロンソの周囲の木々が破壊された。

「…………派手にやりすぎちまったか」

 土煙が落ち着く頃に、刀を鞘に戻しながらアロンソが頭を掻いて周囲を見渡す。
 辺りに、魔獣の姿はない。
 次の瞬間、折れた幹を足場にしていたアロンソの身体が宙を舞った。

「いッ!!!」

 ぱきり、という音と共に右肩に激しい痛み。
 まるで自身が行った地形への攻撃を、そのまま返されたかのような、破壊を目的とした一撃だった。
 アロンソの細い腕は肩のすぐ下に関節が増えたかのように曲がり、裂傷から血が流れる。

(――――どこからっ!?)

 吹き飛ばされながら元いた場所に目をやれば、折り重なった木々の下に隠れていた魔獣が片腕だけを出しており、危険はなくなったと言わんばかりに悠々と出てきていた。
 桃色の髪をふわりと揺らして、アロンソが着地する。
 場所さえわかれば、斬れない相手ではない。

「春夏秋冬流、参る」

 刀に手をかけ、一足で魔獣へ肉薄する。
 切り開かれた空の下に、白刃が煌めけば、魔獣の身体に赤い傷が走った。
 傷は深い。
 だが、奪命には至らない。

「ヲオオオォォォォ!」

 力強い咆哮と共に、魔獣は血で赤く染まった爪を振り下ろす。
 砕かれる地面。
 魔獣は首を傾げた。
 狙ったのは、桃色髪の優男だったはず。
 視界がくるりと反転し、魔獣の命は森へと還った。

「イデデ、とんでもねえ力だったべ……」

 刃についた血を払い、鞘に収めようと刃を見る。
 鞘に入っている間は直刀であったはずのそれは、3本に枝分かれし、先端が鎌のように曲がっていた。
 刃を折って鞘に納めると、折れた腕に手を添えて森の奥へと再び進んでいった。

成功 🔵​🔵​🔴​

シキ・ジルモント

◆SPD
くそ、酷い臭いだ…
嗅覚も視覚も頼りにならないなら『聞き耳』を立てる
聴覚で敵の位置を探ると共に不意打ちを警戒する

足場の悪さを考慮し走り回るのは諦め、立ち止まって聴覚での索敵に集中
音で探した敵の位置をピンポイントで狙い(『スナイパー』)銃の射程を活かし距離を取って攻撃する

とはいえ敵は多数、上手く行かず囲まれたらダメージ覚悟で敵の一体に接近
致命傷だけは避けられるよう敵の攻撃軌道を『見切り』
咆哮阻止を兼ねて攻撃を回避されにくい『零距離射撃』の距離でユーベルコードをぶち込み怯ませ、そのまま包囲の突破を試みる

傷を受けても声は上げず噛み殺し、すぐ体勢を立て直す
弱みは見せたくない。敵にも、味方にもな




(くそ、酷い臭いだ……)

 木々は青紫に生い茂り、光をあまり通さない。
 数メートル先は靄がかかったかのように何も見えず、少し離れただけで魔獣は見えなくなってしまう。
 地面や木の根には粘菌が張り、やけに滑る。
 走り回って魔獣を探すのは、あまり得策とは言えない。
 そして森全体を包み込む、咽るような血肉の匂い。
 魔獣の匂いなど、この森の中では嗅ぎ分けることなど不可能に等しい。
 それ故に、シキは聴覚を頼ることにした。
 足を止めて、その場に屈む。
 目を閉じて余計な情報を排除し、耳に集中した。
 かさり、かさりと、かすかながら草を踏みしめる音。
 それはシキのすぐ近く、すぐ後ろから聞こえて――――。

「――――チィッ!!!」

 振り向くと同時に、手足と頭があるであろう場所に、5発の弾丸を放った。
 弾は魔獣の関節を穿つが、頭へ向けた弾丸は直撃せず、魔獣はシキとの間に距離を取る。

(なんのつもりだ……)

 獣と人。
 その大きな違いは道具を使うことであり、とりわけ人の飛び道具は、獣を一方的に攻撃することができて危険だ。
 魔獣とて、それを理解していなかったわけではない。
 これくらい離れていた方が、都合がよかったのだ。
 シキがすぐに追撃してこないのを見ると、大きく息を吸い込み、叫んだ。

「ヲオオオオオォォォォ――ッ!!!」

 空気が、震える。
 いや、震えるなどという小さなものではない。
 空気が、空間が、大きく揺さぶられた。
 魔獣の口から発せられた音波によって光が曲がり、まるで水紋が広がるかのように音波が広がることが目に見えてわかった。
 その衝撃が、音速350メートルでシキを襲う。

「…………っ!」

 真っ向から飛び込んできた音波。
 まず訪れたのは、耳への強烈な痛み。
 大きすぎる揺れは空気を伝い、音に集中していたシキの耳を叩いた。
 どろりと熱いものが耳の中を流れる。
 続いて、世界が前後した。
 中心から広がる揺れに、頭が揺さぶられたのだ。
 視界が定まらず、足に力が入らない。
 そして最後にやってきた、音波による衝撃。
 魔獣を中心に、存在するもの全てが押し出されたかのように、周囲の木々と一緒にシキの身体が弾かれた。
 音の力は、大きい。
 少しして咆哮が落ち着くと、魔獣を中心として破壊空間が産まれていた。
 魔獣が満足気に鼻を鳴らす。
 その頭を、吹き飛ばされながら体勢を整えていたシキが穿った。
 司令塔を失い、崩れ落ちる魔獣の身体。
 その眉間には、小さな穴が一つだけ。
 シキは周囲に仲間がいないことを確認すると、魔獣の死体を放って森の奥へ歩いていった。

成功 🔵​🔵​🔴​

御伽・柳
行動:【SPD】
使用UC:【早気】

経験してみて痛感しました、血を流しすぎるとやばいと
それと、こうも簡単に傷が癒えてしまうことも

恐らく相手にはかなりの力がある、モロに当たるとまずいでしょうね
そうとは分かっていても俺個人でどうにかする方法はない……他の猟兵があれを傷付けてくだされば血の匂いで接近を察知するくらいのことは出来そうですが

単純な一撃は【見切り】ができる、無差別な攻撃は……多分避けるのは無理でしょうね、できる限りは退避しますが【激痛耐性】で受け止めます

片腕があればいい、【早気】で折られた木や枝を弾にして撃ち込みます

ねずみたちに齧られて、自分の限界は見極めました
動けなくなる前に離脱します




 森の何処かで、誰かの戦う音が聞こえる。
 御伽・柳(灰色の渇望・f12986)は自分の身体の調子を確認するかのように手を握っては開き、それから先ほどまで大きな噛み傷のあった腹を撫でる。

(こうも簡単に傷が癒えてしまうとは……)

 真の姿を解放した猟兵の治癒能力に、驚きと若干の戸惑い。
 便利さを感じる一方で、ひどくそれが異質なものにも感じた。

(血を流し過ぎると動けなくなることもわかった。だからその限界を見極めて……)

 そんなことを考えながら歩いていると、鼻の奥を刺すような菌の匂いに混じって、薄っすらと血の匂いを感じた。
 魔獣はすぐ近くにいたのだ。
 正面の木々の間。
 身体は血に塗れて、呼吸も荒い。
 おそらく誰かと戦い、そして逃げてきた魔獣だ。
 未だ柳に気付いた様子はない。

(ひとまずアレで攻撃の見極めをしよう)

 魔獣に攻撃を仕掛けるため、近くにあった枝に手をかざす。

(これを『たま』に……)

 柳が『たま』と認識したその枝がふわりと浮くと、魔獣に向けて飛んでいく。
 次々に飛ばした枝が魔獣の身体に刺さり、打ち、そして抉る。
 柳の攻撃を受けた魔獣は身体から赤黒い血を流して倒れる。
 この調子なら行けそうだと安心したそのときだった。
 すぐ横で、大きく息を吸い込む音が聞こえた。

「いっ――――!?」

 直後に、横から車に轢かれたかのような衝撃。
 痛みを感じるよりもまえに、身体が空を振られる感覚と、ぐるりと廻る世界があった。
 
(もう一匹……!?)

 跳ね飛ばされて、地面を転がり、木にぶつかる。
 かは、と息を吐いて、柳の動きは止まった。
 すぐに起き上がろうとするが、脚に力が入らず、手で身体を支えることもできない。
 耳からも熱いものが流れ出て、音がおかしい。
 鼓膜が破れていることはすぐにわかった。

(超えてきた……一撃で……!)

 ずしり、ずしりと魔獣の足音が近づいてくる。
 身体を起こそうと手に力を入れるが、肘を伸ばして身体を起こすこともできない。
 動こうと藻掻く柳に、魔獣が爪を振り下ろした。
 地面を砕くほどの威力をもつそれの衝撃は、柳の身体の中央にある骨を折り、口から内蔵が全て出てしまうのではないかと思うほどだった。

「がっ、あぁぁっ!」

 腹部に魔獣の爪が刺さる。
 その衝撃は柳の身体を貫き、その下の地面に至るまでを砕いた。
 森の地面が、割れる。
 木によって侵食され尽くした地面は下に穴が空いていることも多く、まさにこの穴がその穴なのだろう。
 魔獣は跳ねて下がり、割れる地面から離れる。
 柳は、その地面の割け目の中に落ちていった。 
 地面の落下により、魔獣は柳を見失った。
 ここにいれば、見つからないだろうと目を閉じる。
 柳の能力が足りないわけでもなく、戦い方が悪かったわけでもない。 ただ今回は、柳が攻撃を始めた場所が偶然、無傷の魔獣のすぐそばだった。
 つまり、運がなかったのだ。
 自らの不運を呪いながら、魔獣がその場から居なくなるのを、声を殺して待った。

失敗 🔴​🔴​🔴​

ブランシュ・シコ
……ねずみを追いやった原因の原因じゃない。
あれだけねずみがいたら、魔獣もがんばればたおせるから。
(いっぱいしぬけどね)
じゃあどうしよう。かけっこしよっか。

前が見えなくても、鼻がきかなくても、魔獣が奥で待ってても。
『ランナー』のブランシュの方がずっとずっと早いから。
まーでも、足場がわるいから4本の足で走ろうかな。

もっとはやく走る為に出た血をめがけて
ブランシュを襲いに来るなら、さがす必要もないね。
がんばって避けなくても、『ダッシュ』で攻撃の外いく。

でも、『暗闇の咆哮』は、どうかな。魔獣がおおきく息をすいこんだら
音より早く走ってみるの、ためしてみる。




 魔獣は、確かに強力だ。
 耳を劈く咆哮と、怪力。
 それに、森へ誘い込む狡猾さ。
 だが……。

(……あれは、ねずみを追いやった原因の原因じゃない)

 森の中を走りながら、ブランシュは考える。
 この魔獣だけなら、きっとねずみの群れは戦っただろう。
 猟兵にすら怯まない獣が、魔獣ごときに。
 他に原因があるかもしれない。
 けれど、その他が何であるかは、わからなかった。
 だから走った。
 走ることしかできないから、走った。
 きっと走り抜けた先に、答えがある。
 滑る地面や木々は足場にするには心許ない。
 手を使い、四足で森の中を走る。
 速く、速く、速く。
 時々咳き込みながら加速を続けるブランシュの口の端からは、血が垂れていた。

(見つけた)

 正面の木陰に、魔獣。
 血の匂いで気付いたのか、ブランシュの方を見て、戦いの準備はすでにできているようだった。
 魔獣が大きく息を吸い込む。
 おそらく、咆哮だ。
 そう予見したブランシュは、再び走った。
 攻撃の範囲外に逃げるために、走った。

「オオオォォォ―――――!!!」

 魔獣を中心に、音の波が広がる。
 背中が毛羽立つような感覚。
 木々をなぎ倒しながら、衝撃が伝わっていく。
 音から逃げるように走るブランシュの背を追いかけて、音が迫った。

「もっとはやく、もっとはやく……いきます」

 音から逃げるブランシュが走りながら一度咳き込むと、その姿は魔獣の視界から消えた。
 咆哮を終え、周囲に立っているもののなくなった魔獣が、嘲笑う。
 小さな獲物は、消し飛んでしまった。
 そう、確信したかのように。
 次の瞬間には、その魔獣の頭は身体に別れを告げて、地面を転がっていた。
 魔獣の身体を通り過ぎ、地面を滑ってブレーキをかける白い影。
 一拍遅れて、衝撃波がその身体をバラバラにして吹き飛ばした。
 ブランシュは走っていた。
 音から逃れるため、ひたすらに、音の速さを超えて。
 魔獣の咆哮によってなぎ倒された木々は円形に広がっていたが、まるでプロミネンスのように飛び出て再び円形に戻った跡が残っていた。
 ブランシュの音速を越える走りによって生じたソニックブームが、その軌跡のとおりに木々をなぎ倒していたのだ。
 そうして咆哮の範囲から逃げ、戻ってきたブランシュの、音速を越える蹴りによって、魔獣の首は一撃で身体を離れたということだ。
 本人が首と身体に分かれたことに気付く間もなく、一瞬で。

「ブランシュがいちばん。音はにばん。きみはさんばんだね」

 そう魔獣の首に告げると口の端から垂れた血を腕で拭い、次の魔獣を探して森の中を走り始めた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

パーム・アンテルシオ


幸い、廃墟の中に転がってたものを使って、応急処置はできた
体は痛むけど…真の姿にはなるのは怖いから…
…死にたくはないから、もしかしたら…もしかすると、あの姿になってしまうかもしれないけど
出来る事なら、ヒトのままで、この依頼を終えたいな…

あの獣が、今回の元凶…?
…怖い…さっきみたいな事になったら、って
…今度こそ、ラッキーは無いんじゃないか、って
でも、頬を叩いて気合を入れる
心までヒトで居たいなら
私は人を守らなきゃいけないんだ

あの速さ、知恵を感じる動き、見るからに力強い体
無策で戦っても、勝ち目は薄い…
…ユーベルコード、山茶花
チャンスは、あの獣が近づいてきた時
ギリギリまで、手の内を見せちゃいけない…!




 魔の森の中で青紫色の葉が、風に揺れて小さな音を立てる。
 先ほどの戦いで全身に傷を負ったパーム・アンテルシオ(写し世・f06758)はその小さな身体を震わせて木々の隙間に隠れた。
 応急処置で血は止め傷は塞いだが、まだ身体は痛み、先ほどの自分を捕食の対象として見ている生き物に群がられる恐怖が蘇る。
 森の魔獣はねずみのように数を押してくることはないだろう。
 だが、力、速さ、知恵、全てが高い水準を持っているように感じた。

(……さっきみたいなことになったら)

 ……今度こそ、助からないかもしれない。
 血で汚れたままの柔らかな尻尾を、ぎゅっと抱きしめた。

(だけど……!)

 眼の前のできごとに集中するため、小さな手で自らの頬を叩く。
 ヒリヒリとした痛みで、恐怖を打ち払った。
 それから静かに森の中を歩いて数分。
 小さな唸り声と草を踏みしめる音が、パームの耳に入った。
 近くに、魔獣がいる。
 身体を樹に隠したまま、顔を出してその方角を見た。
 ギラギラと滾る目。
 涎の垂れる口元。
 パームの身体よりも太い手足。

(大きい――――!)

 改めて、心臓が飛び跳ねるように恐怖心がパームを襲う。
 だが、パームには傷を負うことよりも、怖いものがあった。

(心までヒトでいたいなら、私は人を守らなきゃいけないんだ……!)

 だからここで引くわけにはいかない。
 小さな身体に、大人よりも大きな勇気を燃やして、パームは魔獣に向かって飛び出した。
 匂いか、音か。
 魔獣はパームにすぐに気付いた。
 その野蛮な目を向けて、低く唸る。
 前足で地面を掴み、後ろ足をバネのように縮める。
 足場が悪くないことを確認したパームと、叩く準備を整えた魔獣が対峙する。
 次の瞬間には、魔獣が地面を蹴ってパームへと突き進んだ。
 同時に、パームも手を前に掲げる。
 
「陽の下、火の下」

 唱えるのは、魔を討ち滅ぼす力。
 パームの背後に、九尾狐の陣が描かれる。
 逃げない、引かない。
 ギリギリまで引き付けてから、放つのだ。
 魔獣の手がパームに届くまで、あと5歩。
 まだ、まだ打てない。
 この距離では避けられてしまうかもしれないから。
 魔獣とて愚かではない。
 だからパームが何かをしようとしていることはわかった。
 ゆえに、あと3歩。
 魔獣はパームに肉薄し切る前に、地面にその腕を叩きつけた。
 衝撃で、地が割れる。
 土煙があがり、石や枝が飛び、パームの身体にぶつかった。
 ダストの弾丸がパームの柔らかい身体に食い込む。

(この程度、生きたままねずみに食べられることに比べれば――!)

 パームは怯まずに、魔獣を見据え続けた。
 だから、最高のタイミングを逃さなかった。

「炎の運命を動かそう――――!」

 パームの眼前まで迫った魔獣。
 その胸に、大きな穴が開く。
 突然の出来事に、魔獣はなにが起きたのかわからなかった。
 だが、身体が前に進まない。
 そして胸から、まるで力が流れ出るかのように、血が溢れていく。
 そこで魔獣は、自らの身体が何かで貫かれていることがわかった。
 続いて、胸元が急激に熱くなる。
 燃えるように熱い、いや、実際に燃えているのだ。
 魔獣の胸を貫いている不可視のそれが、魔獣の身体を焼いているのだ。

「グ、ガアアァァァ!!!」

 その炎は全身の毛に燃え広がり、魔獣を包み込んだ。
 魔獣はパームのことなど忘れたかのように地面をのたうち回り、最後には誰かに助けを求めるように、手を空に向けて伸ばして、力尽きた。

「はぁ……はぁ……」

 胸に大きな穴を開け、全身を黒く炭にした魔獣が息絶えたのを確認し、パームが息を整える。
 大丈夫、今度はうまくいった。
 小さな手を胸の前でぐっと握り、パームは次の魔獣を探しにいった。

成功 🔵​🔵​🔴​

玄崎・供露
やーれやれ、あれが元凶か、透明化ってのは厄介極まりない、が……獣相手に遠慮容赦は必要無し。

ユーベルコード発動。コール・ヴェルザンディ。こいつは電磁パルス照射用なんだが…脳を揺らして疲労や吐き気を増大させるようなマイクロウェーブも出せる、状態異常特化型なんでね。暗闇の獣とかああいうケダモノ特有の敏感な感覚にだけ引っ掛かるように、微弱なのを飛ばし続ける。正直獣の種としちゃお前さんは上等だよ。だからこそ刺さるんだが

透明化に体力使うってのは割れてンだ。この状況下でどんだけお前らしく動けるか試してみろよ、ケダモノ野郎が




 不気味に静まりかえっていた森も、猟兵と魔獣の戦いによって、そこかしこから大きな衝撃音や魔獣の咆哮、それに悲鳴が聞こえてくるようになった。
 プリーツスカートを翻し、玄崎・供露(テクノマンサー・f05850)も森の中を歩く。
 魔獣がどこにいるか、供露には全くわからない。
 ただ一つわかるのは――。

「ヴェルザンディ……いけ」

 小さなドローンが、森の中に浮かんだ。
 モーター音こそするものの、森の中はすでに余計な音で満ちている。
 きっと魔獣も、この音を頼りにこちらを見つけることはできないだろう。
 問題は、こちらがどうやって魔獣を見つけるかだ。
 魔獣は不可視化の能力を持つ。
 隠れられてしまうと、供露には見つけ出すようなセンサーもなく、また、炙り出すような火力もなかった。
 唯一希望があるとすれば、透明化は長く続ければ体力を消耗するということがわかっているだけだ。

(さて、どーすっかなァ……)

 カッターナイフを手元でクルクルと回しながら、魔獣を探す。
 獲物はすぐ後ろまで迫っていたというのに。
 猟兵としての第六感か。
 腕を顔の横に立てて守りの姿勢を取っていた。
 直後、強い衝撃。
 不可視の魔獣の横薙ぎに振られた腕が、供露の腕を捉える。
 ぱきりと硬いものが折れる音。

「イっ‪───‬っ!?」

 それから、直撃こそ免れたものの、踏ん張りが利かず、供露の身体は地面を何度か転がって止まった。
 起き上がろうと上半身を起こした供露の目に映ったのは、飛び上がった魔獣。
 供露に向かって、ぐんぐんと迫る。
 そして供露の上まで達した時、魔獣は腕力に重量を加えて、両手でスタンプを押すように、供露に向けて突き出した。

「が、はぁっ!」

 肺の中の酸素だけでなく、肺そのものまで口から出てしまうかと感じるほどの衝撃が、供露の身体を襲う。
 肋は間違いなく折れているし、身体の中でなにかが破裂したように感じた。
 折れた肋がどこかに刺さったのかもしれない。

「ゲホッ、ェホッ!」

 喉からこみ上げるものを吐き出す。
 血が、咳をするたびに何度でも溢れ出た。
 痛みを堪えて離れようとするが、その手足を、魔獣が踏みつけて押さえる。
 手足の骨が軋むのが自分でわかった。

(こいつァ、ちょっとまずいか……?)

 身体にはまだ力が入る。
 だが、自分の上にはマウントを取ったままの魔獣。
 このまま一方的に嬲られては、そう長くは持たないことは誰にでもわかった。
 だがすぐに状況が変わった。
 魔獣が頭を抑え、首を振り、苦しみ始めたのだ。

「チィ、やぁっと聞いてきたか、ケダモノ野郎が」

 マスクの下で、見えない供露の口元が歪む。
 ただ一つわかるのは、魔獣のように敏感な感覚を持つ生き物は、それを少し弄られただけで、立つことすら困難になるということだ。
 戦場にずっと浮かんでいたドローンが、供露の側まで降りてくる。

「こいつは電磁パルス照射用なんだが……脳を揺らして疲労や吐き気を増大させるようなマイクロウェーブも出せる、状態異常特化型なんでね」

 魔獣は目を見開き、視点が定まらず、口から泡を吹き始めた。
 生きるために常に活性化している感覚の麻痺は、生物にとって死活問題だ。
 それは単純に使用不可能になることだけでなく、脳の混乱を起こす。
 魔獣が身体を痙攣させながら仰向けに倒れると、供露は魔獣の下から這い出た。

「暗闇の獣とかああいうケダモノ特有の敏感な感覚にだけ引っ掛かるように、微弱なのを飛ばし続ける。正直獣の種としちゃお前さんは上等だよ」

 ‪‪──だからこそ、こいつがぶっ刺さるんだが。
 そう言って、魔獣の首にボウイナイフを突き立てた。

苦戦 🔵​🔴​🔴​

ジョン・ブラウン

「あ”ー、無理なダイエットはするもんじゃないね」
「でも次は流石に食われてやる訳にはいかないなぁ、肉どころか骨まで食いそうだ」

「隠れんぼのお誘い?僕インドア派なんだよね、カードにしようよ、ダメ?」
「探す目が一個で足りないなら……増やすしかないよねぇ」

『でばんだむー?』『人手がいるむー』『どれくらいいるむー?』『たくさんだむー』
リュックサックから湧き出る大量のぬいぐるみを森に放つ
「よーしお前ら、頼んだぞ」

「……うっぷ、五感の共有ってのも良い事だけじゃないね」
刺激臭が鼻を突く

「暗くて周りが見えないのなら、隣の奴だけ見てればいいさ」
「ぶつかって消えたらそこにいるんだろ?」
発見した場所を仲間に教えるよ


月山・カムイ
なるほど、あれが森から鼠が逃げてきた元凶と言う奴ですか
姿が見えない敵を相手取る為に森の中へ誘い込まれる……思うツボに嵌まるしか無いのは、少々恐ろしいですね

等という言葉とは裏腹に、ニヤリと嘲笑ってみせる
怪物との戦いはこうでなくてはいけない
相手がなんであろうと、群体相手よりはやりやすい……等と油断する訳にも行かないですか
アレ程の鼠を追い立てたのならば、それはそれなりの手段を持っているのでしょうから

真っ向勝負と参りましょう
姿が見えぬなら気配を探ればいい、動く音と踏み荒らされる下草から位置を特定
その重い一撃を紙一重で掻い潜り、腕を足を断ち切りましょう
逃げ出す事を許さぬように、戦う意思を削ぐように




「あ”ー、無理なダイエットはするもんじゃないね」

 散々ねずみに囓られた身体を擦りながら、ジョン・ブラウン(ワンダーギーク・f00430)が森の中を歩く。
 鬱蒼とした魔の森には深い霧が立ち込めて、さらに猟兵たちの気分を盛り下げていた。

「ねずみ式はどうやらお気に召さなかったようで。魔獣式はいかがです?」

 周囲の様子を伺いながら、月山・カムイ(絶影・f01363)が軽口を叩く。

「無理無理。さっきの魔獣みたよね。肉どころか骨までいくよ、あれは」
 眉間にしわを寄せたジョンが首を横に振り、カムイが笑った。
 それから、顎に手を当ててつぶやく。

「さて……どうしたものですか。何かあります?」
「探す目が足りないなら……増やすしかないよねぇ。よーしお前ら、頼んだぞ」

 ジョンがリュックサックに話しかけた。
 中から湧き出たのは、白いぬいぐるみ。

『でばんだむー?』『人手がいるむー』『どれくらいいるむー?』『たくさんだむー』

 湧き出る。
 湧き出る。
 ぬいぐるみが湧き出る。
 リュックサックの容積よりも明らかに多い量のぬいぐるみが足元を埋め尽くす。

「これはこれは……多くありません? というかどこに入っていたんですか」
「さぁ? こいつら、僕にもよくわかんないんだよね」

 白いぬいぐるみたちが、整列して森の中を歩き始めた。
 カムイが腕を組んでそれを見る。

「なるほど、数で探しますか……。これ、どうやって伝えてくれるんです?」
「感覚を共有してるんだよ。……うっぷ」

 森の中は、とても臭い。
 不思議な植物や血肉の腐臭。
 鼻の奥に突き刺さる臭いを無数のぬいぐるみから何重にも共有し、ジョンは顔を歪めた。


「あ、あっち。来たっぽい」

 ジョンがある方向を差す。
 ジョンの送り出した白いぬいぐるみたちは、ジョンと五感を共有している。
 霧の深い森の中でも、行列を作るぬいぐるみたちはお互いの位置が見える距離を歩いていた。
 その中のひとつが消えることで、ジョンには敵襲がすぐにわかったのだ。

「しかし……見えませんね」

 魔獣のおおよその位置はわかった。
 だがその姿はふたりの目には映らない。
 魔獣が白いぬいぐるみを排除したのは確かだが、魔獣は姿を隠したままだ。
 ――――透明化。
 それが魔獣の力の一つだ。
 カムイが人差し指を立てて、ジョンにアイコンタクトする。
 動きを止めたぬいぐるみたちとジョン。
 風で葉の揺れる音が辺りを包む。
 かさり、かさり。
 その中に、草を踏みしめる小さな音。
 一歩、二歩。
 その音が近づいてくる。
 カムイは目を閉じ、その腰の刀に手をかけた。
 三歩、四歩。
 足音だけでなく、小さな息遣いがすぐそこに。
 五歩目と同時に振り返り、一閃。
 何もない空間に赤い線が走り、カムイの手に確かな手応えを感じた。

「ガ、アアァァァ!!!」

 魔獣の悲鳴が、森の静寂を打ち破った。
 透明化が解け、魔獣がその姿を表す。
 魔獣の胸には横一文字の斬り傷。
 一撃で死に至らしめるほどの深手ではないが、決して軽いものでもない。
 だが血走った目と剥き出しの歯は、闘争心を失っていないことを示していた。
 魔獣は低く唸りながらカムイから目を離さない。
 その様子を見てカムイがニヤリと嘲笑う。

「さあ、真っ向勝負と参りましょう」

 先に動いたのは、魔獣だった。
 相手は距離を詰める必要もない目の前。
 まっすぐに腕を振り上げ、振り下ろす。
 単純で単調な攻撃ではあるが、極めたシンプルな攻撃は、非常に対処が難しい。
 純粋に早く、純粋に重いのだ。
 身体全体が回避するには、時間が足りない。
 いまのカムイ取ることのできる選択肢はふたつ。
 受けるには、おそらく腕力が足りない。
 ならば。

「――――ッ!!」

 刀を斜めに構え、魔獣の叩き潰しを受ける。
 ただし、その方向は斜めに流すように。
 単純な力比べでは魔獣に敵わないかもしれない。
 だが、技があれば話は別なのだ。
 力には逆らわず、その向きだけを地面へと。
 魔獣の爪は地面を叩き割り、足元に亀裂を生じさせた。
 もし避けることを選択して間に合わなかったら、もし受けることを選択して力が足りなかったら。
 地面を割るほどの魔獣の力に、カムイは慄いた。
 カムイの頬を、汗が垂れる。
 魔獣との戦いは、強敵との戦いは――――。

(‪‬――――やはり、こうでないと……!)

 再び魔獣に目を向けたカムイの口角があがった。
 続いて、カムイが攻める。
 刃を返して真横に振り下ろされたばかりの腕を斬りつけた。
 赤い刃はするりと通り、魔獣の腕に深い傷を残す。
 痛みに叫ぶ魔獣が、逆の腕を振り回した。
 カムイは姿勢を低くしてそれを避けると、そのまま大きく踏み込む。
 股下を潜るようにしながら刀を横に振れば、魔獣の両足から血が流れた。

「これで逃げられませんね」

 力でも速さでも、きっと優っているのに。
 魔獣がなぜと言いたげな目をカムイに向けた。
 膝をついたまま魔獣の首を、素早く落とす。

「大した力ですが、技がまだまだ足りませんね」
「あ、終わった?」

 太い木の陰から、ジョンがひょこっと顔を出す。
 カムイが戦っている間、ジョンは周囲の警戒をしていた。
 敵がどれだけの数いるかわからない上に、ほかに苦戦している猟兵がいるかもしれなかったからだ。

「ええ、まあ。群体相手よりはやりやすかったですね」

 カムイが赤い刃についた血を拭い、鞘に収めた。

「あっちにもう一匹いるみたい。そっちもいける?」
「ええ、行きましょう」

 魔獣の森は深い。
 一匹を倒したところで、まだ安心はできないのだ。
 ジョンが反対側を指差し、カムイがそちらに走っていった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

祷・敬夢

フハハハハハ!大物じゃないか!
今日の俺様はいつものカッコよくて強いだけじゃなく、クリーチャーハンター・祷・敬夢であるぞ!剥ぎ取られる恐怖に怯えろッ!

大物ボスにはデバフが基本!
最強の俺様が使う最高のコンボで敵の攻撃力をDOWN、あわよくばユーベルコードを封印だッ!
パッシブスキル:時間稼ぎ、マヒ攻撃やらが効果あればなお素晴らしいな!
近くに猟兵がいるのなら、協力も良かろう!仲間と協力して勝つ俺様はカッコよさの極みだからな!

――⚡――
フッ、やるではないか!
しかし、負傷した俺は更に強くなるぞ!なぜなら、劣勢の姿はカッコイイからだ!
カッコよくなればなるほど気分が高揚する!これほど楽しいことはないッ!




「フハハハハハ! 大物じゃないか!」

 霧の立ち込める魔の森の中で、大きな笑い声が響く。
 祷・敬夢(プレイ・ゲーム・f03234)が大股で歩きながら辺りの様子を伺うが、魔獣の現れる気配はない。

「ンンン~? 俺にビビっているのか? 仕方あるまい!」

 髪をかき上げ、手で整える。

「今日の俺様はいつものカッコよくて強いだけじゃなく、クリーチャーハンター・祷・敬夢であるぞ! 剥ぎ取られる恐怖に怯えろッ! フッフッ……フフフフ、フハハハハハッ!」

 両腕を左右に伸ばし、手のひらを上にして笑う。
 これは油断ではない。
 敬夢にとっては、余裕なのだ。
 故に、すぐに気付くことができた。
 魔獣がすでに、敬夢のすぐ後ろに迫っていることに。

「来たかッ!」

 振り返りながら拳を握り、構えを取る。
 身体を斜めにし、前になった手を顎の前、後ろになった方の手を顔の横。
 癖の少ないスタンダードなスタイルだ。
 硬く鋭い爪と丸太のように太い手足を持つ魔獣に対して、格闘の構えを取る敬夢。
 肉弾戦が始まるかのように見えた。
 だが魔獣は胸が膨れるほど大きく息を吸い込んだ。
 次の瞬間、バウッ、と空気が揺れる。
 一拍置いて、魔獣の周囲を空間ごと弾き飛ばしたかのように、衝撃波が発生した。
 どんな声で叫んでいるのかはわからない。
 ただ一つわかるのは、その咆哮によって敬夢の身体が弾き飛ばされたということだけだ。

「お、おおおおッ!? ――――カハッ!」

 耳を抑えたまま弾き飛ばされた敬夢が、幹の太い樹にぶつかって止まる。
 背中を強く打ち、肺の中の空気が一気に押し出された。
 枝で浅く切ったのか、赤い雫が頬を伝う。
 その血を腕で拭い、魔獣を見やる。

「フッ、やるではないか! しかし、負傷した俺は更に強くなるぞ! なぜなら――――」

 敬夢にとって、至極当然にして単純明快な答え。

「――――劣勢の姿はカッコイイからだ!」

 そう言い放つと、魔獣に向けて駆け出した。
 走りながら、右手を掲げる。
 その手のひらから放たれるのは、電撃波だ。
 閃光と共に紫電が走り、魔獣の身体を貫く。

「グガァッ!?」

 魔獣の身体が急速に強張り、動きを止める。
 隙きを作るこの攻撃の間に、敬夢は足元へ滑り込んだ。
 そのまま脚へ蹴りを放ち、自身より大きな魔獣をよろめかせる。
 頭が下がった今こそ、攻撃のチャンス。

「ッシャア!!!」

 低い姿勢から、バネが伸びるようなアッパーパンチを、魔獣の顎に食らわせた。
 ようやく身体の自由が戻った魔獣が、倒れないように地に手を着く。

「その顎ではご自慢の大声も、さっきほどまでの威力は出せまいッ!」

 倒れ込む魔獣自身の体重と、伸び上がる敬夢の拳によって、魔獣の顎は完全に破壊されていた。
 歯を食いしばって唸ることもできず、魔獣は目だけで怒りを示す。
 その誰かもわからぬ血に塗れた腕を振り上げ、敬夢に向けて叩きつけた。

「そうだ、打ち込んで見ろ! この俺が倒れるまで!」

 敬夢はそれを、あえて避けずに腕で受ける。
 魔獣が殴る。
 殴る。
 ひたすらに敬夢を殴る。
 両手を頭の高さまであげ、腕で頭をガードして、怒れる魔獣の攻撃をただ受け続けた。
 猛烈な勢いを誇っていた魔獣だが、次第に力が弱まっていき、ついには子供一人も倒せないほど、弱々しく動くことしかできなくなってしまった。 

「フッ、フフハハハハ! どうやら、最初に入れた麻痺が効いてきたようだな! 大物相手にはデバフを入れて長期戦が定石だ!」

 何度か拳で空を切り、腕の調子を確かめる。

「攻撃を受け続けたことでゲージは充分! 貴様は動けん! さあ仕上げの時間だ!」

 敬夢が右腕を大きく振りかぶった。
 魔獣の頬に強烈な右ストレート。
 それを左アッパーですくい上げ、右足で蹴り飛ばす。
 転がる魔獣に追いつくように飛び蹴りを放ち、当たった反動で宙返り。
 最後は腕を二度回して、全力で振った拳で魔獣の身体を貫いた。
 完全にKOされた魔獣が背中から地面に倒れる。

「やはり俺様は……最高にカッコイイな!」

 敬夢の高笑いが、森の中に木霊した。

成功 🔵​🔵​🔴​

ヴィクティム・ウィンターミュート

ネズミ駆除の次は魔獣駆除ってか…ったく、前時代のワークだな。こちとら工作員だぜ?そういうのは荒事屋がやってくれねーかな…ま、人手足りねーんだろうからしょうがねえけどさ。

やるこたぁ簡単だ。森に入ってサーチ&デストロイ。【先制攻撃】で奴らのニューロンをぶっ壊してやる。とにかく機動力を維持するために常に【ダッシュ】で移動する。めんどくせーステルスには、ユーベルコードの電子の花弁を周囲の滞空せることで対策としてみるか…。空気の揺らぎを【見切り】で察知とか、できるといいんだが

クソクソクソッ!!上位者気取りで俺を傷つけやがって!!俺を弱者と侮る奴らは獣だろうと許さねェ!スペードのエース引くのはテメエだ!




(ネズミ駆除の次は魔獣駆除ってか……)

 ヴィクティム・ウィンターミュート(impulse of Arsene・f01172)は森の中を走りながら、小さく舌打ちする。

(ったく、前時代のワークだな。こちとら工作員だぜ?)

 彼の本業は戦闘ではない。
 スピードを活かした活動と、工作や支援。
 それこそが彼の真骨頂だ。

(まあ、破壊すんのには変わんねーさ。防壁も、爆弾も、怪物も)

 樹を蹴り、枝を手すりにして、森の中を止まらずに走り続ける。
 魔獣は姿を隠している。
 もし魔獣が素早く移動すれば、大きな音により透明化は意味を成さない。
 ゆえに、魔獣が走り続けるヴィクティムを追いかけてきて、複数の魔獣に囲まれることはないだろう。
 ならばヴィクティムがすべきことはひとつ。
 ひたすらに走りながら、魔獣の痕跡を見つけることだ。
 走りながら、ゴーグル越しに森の中を見渡す。
 戦闘は本領でなくとも、小さな差異動作を見逃さないことこそ、ヴィクティムの得意とするところ。
 それ故に、ヴィクティムの眼は捉えた。
 地面に落ちた枝が不自然に動くところを。

「見えてんぜぇスクィッシー!」

 近くの樹を足場にして跳躍。
 ここまで走ってきた運動エネルギーをそのままに、なにもない空間に蹴りを放つ。

「ゴア、アアアァァァッ!」

 魔獣の悲鳴と確かな手応えを感じ、そのまま蹴り抜いた。
 空気のゆらぎが大きくなると、ぽたり、ぽたりと何かの垂れる音。
 そこに口の端から血を垂らした魔獣が姿を現した。
 頬に打撲痕をつけ、血走った眼でヴィクティムを睨みつける。

「怒んなよ色男。チルフェイスが台無しだぜ」

 人差し指で魔獣を差して、それからクイクイと指を上に曲げる。
 それに対して、魔獣の対応は冷静だった。
 魔獣はひゅ、ひゅと短く息を吐くと、呼吸を整える。
 挑発するヴィクティムをよそに、魔獣の姿が再び透明になっていく。

「あ、テメェ!」

 魔獣が一歩後ろに下がったことはわかったが、それからは足音も、不審な物の動きも、さっぱり消えてしまった。
 静かな時間が、森の中を支配する。

「へっ、脳筋野郎かと思ったら大したフェリーマンじゃねェか」

 軽口を叩いて余裕を見せるが、実際のところヴィクティムは焦っていた。
 野生の獣は、賢い。
 生きることに命の掛かる彼らは、同じミスを二度することはない。
 最初の一撃を当てて魔獣が冷静さを失っていたあの一瞬、そのまま決めてしまうべきだったのだ。
 ゆっくり、ゆっくり、後ろに下がる。
 ふたつしか無い眼で三六〇度全方位を警戒するのは無理だ。
 方向を絞るなら、何かを背にするしかない。
 ゆえに、背後にある大樹の側まで、警戒しながら下がることにしたのだ。
 そのヴィクティムの手を、何かが掴む。

(――――ヤベッ!?)

 慌てて振り向こうとするが、逆の腕も掴まれ、向きを変えることができない。
 辛うじて顔を横に向けることで見えたヴィクティムの背中側には、口を大きく開けた魔獣が立っていた。

「ぐ、あああぁぁぁああああああっ!」

 鋭い牙が、ヴィクティムの肩に食い込む。
 金属の表皮を突き破り、人工筋肉を千切り、強化骨格に傷を付ける。
 肉を想定していたのか、魔獣は少し怪訝な顔をしてから、ヴィクティムを地面に向けて投げ捨てた。

「いってえええ!」

 地面に衝突した勢いで、傷口から金属片が飛ぶ。
 転がるヴィクティムを見て、魔獣はククと小さく笑うと、再び姿を消した。

「クソ、クソクソクソッ!」

 歯を食いしばり、地面に拳を突き立てる。

(あいつ、上位者気取りで俺を傷付けやがった! 俺を弱者だと嘲笑いやがった!)

 ヴィクティムはその人生において、主役になるつもりはない。
 むしろ率先して脇役を引き受けるつもりすらある。
 だが、脇役とは弱者のことではない。
 魔獣の行動は、身体よりもなによりも、ヴィクティムのプライドを傷付けたのだ。
 怒りは目を曇らせるともいうが、同時に強い意志を持たせて集中力をあげることもある。
 ヴィクティムの目には、いつも以上の情報が溢れかえっていた。

「見えてんだよォ! 空気の揺らぎがな!」

 なにもない空間に、ヴィクティムが右手を伸ばす。
 腕のデバイスから小さな光が飛び出した。
 数メートル登ったところで大きな光となり、辺りを照らす。
 光の中から何かがゆっくりと落ちてくる。
 それはゆらり、ゆらりと舞い落ちる花びら。
 ヴィクティムから見ることのできないはずの魔獣は、その光景に困惑した。
 何が起きたのか。
 何をされたのか。
 花びらから目を離すことができない。
 だが、見ていると頭のなかに何かが流れ込んでくるのだ。
 魔獣の繊細な感覚を司る脳に、膨大な情報が。
 それは次第に膨れ上がり、そして魔獣の処理能力を超えた。

「俺を弱者と侮る奴らは獣だろうと許さねェ! スペードのエースを引くのはテメェだ!」

 ぱつん、という音と共に、魔獣の口や鼻から血が流れる。
 脳を破壊された魔獣は力なく膝を付き、その生命を散らした。

成功 🔵​🔵​🔴​

赫・絲
明らかに危ないですよーって言われてる感じだけど
やっぱり帰ろっか、ってワケにいかないしね

周囲に目を凝らし、敵の出現を見落とさないように
発見したらまた森に紛れられる前に【先制攻撃】

ほんと鬱陶しい
この森ごと燃やしたくなるけど、他の猟兵が危なくなってもいけないから
糸には雷を纏わせ【属性攻撃】を

敵の攻撃はできるだけ【見切り】ながら、時間差で鋼糸を放ち絡め取る
傷を受けようと退かない
血が流れたら、流れた端からその血を雷に転じさせ糸に
鋼糸と合わせて放ち、敵を糸の檻に捕らえる

逃げられると思う?
やってご覧よ、そう簡単に離しはしない

【全力魔法】で糸に纏わせた雷の威力を上げ、捕らえた敵を葬討する

此度の縁は、これにて




(うっわ、サイアク……もうちょっと長いの履いてくれば良かったかなぁ)

 どう見ても森を歩くには不向きなショートブーツで、赫・絲(赤い糸・f00433)は霧の立ち込める森の中を進む。
 道なき道を進む絲の足元には背の高い草が生い茂り、葉が脚を撫でる。
 まだここを歩かなければならないと思うと、うんざりとした。
 見えない相手を探すとなれば、なおのこと。

(森ごと焼いちゃダメなのかなー……ダメかぁ)

 ため息を吐いて、再び森の中を見回す。
 やけに静かだ。
 遠くで微かに、猟兵と魔獣の戦う音が聞こえるが、この霧が音を吸い込んでしまうのか、まるで自分とは関係のない場所で行われる出来事のようだ。
 自身の足音や、草の揺れる音すら他人事のように感じた。
 きっとここはすでに、魔獣のテリトリー。
 魔獣の透明化の能力を、最大限に活かせるフィールドなのだ。
 絲には、この森をまっすぐ歩けているのかも定かではない。
 その苛立ちを消したのは、小さな葉音。
 他人事のように感じたその音の中に、僅かな違和感を覚えたのだ。

(ひとつ、多かった……)

 魔獣は賢く、その身体能力や観察力も高い。
 絲の歩きに合わせて、後ろをついてきているのだ。
 気取られないように、視界の端で後ろの様子を見るが、そこに魔獣の姿はない。
 だからあえて、気付かないふりをしてそのまま歩いた。
 二本の木の間を抜け、ひらけた場所に出る。
 絲のグローブから出た糸が、何かに引かれる。
 その糸は、先ほど通り抜けた木の間を通しておいたものだ。
 つまり今、そこで何かが引っかかった――――。

「かくれんぼはここまで! もう出ておいで!」

 手を握り、糸を強く引く。
 空中で何かを括ったかのように輪になった糸が、赤く染まる。

「グ、ルルルルゥ……」

 魔獣の小さな唸り声。
 透明化を解いた魔獣が、その木の間で身体に食い込む糸を握っていた。
 姿を現した、そう感じた絲の行動は早かった。
 一歩、二歩。
 魔獣めがけて走り、跳んだ。
 まずは先制攻撃を。
 白い膝を魔獣の顎めがけて放つ。
 そのまま蹴り上げて、自身も魔獣の上を通り、反対側へ移動した。
 こちらは森の木が密集しているため、魔獣が透明化をして隠れるならば、こちらに逃げる可能性が高い。
 また森に紛れられてしまっては厄介だ。
 逃げ道を塞がれた魔獣が、戦いを決めたのか、葉をむき出しにして唸りをあげる。

「ルルルァァアアアアアッ!!!」

 魔獣が腕を上げ、力を込める。
 毛皮の上からでも膨れ上がった筋肉がわかる。
 その全力を以て、単純に、まっすぐに、絲に向けて振り下ろした。

(――早い!)

 魔獣のハンドスタンプが、地を砕く。
 絲は身体を斜めにし、最小限の動きで回避した。
 だが、魔獣の攻撃の余波で、足元が揺れる。
 そこへすかさず、魔獣は反対の手ですくい上げるように爪で斬り裂く。
 それを跳んで避け、木の幹を足場にして魔獣を見やった。
 少し遅れて、腹部に痛みが走る。

「ッ!」

 爪がかすっていたのであろう。
 シャツが破け、赤く染まっていた。
 硬く鈍い爪で強引に抉られた傷は、じわり、じわりと痛みを増していく。
 傷口から血がぼたりと落ちる。

「やるじゃないの……!」

 絲を見上げる魔獣と、目が合った。
 即座に手を振り上げた魔獣に対し、絲はあえて足場を蹴って前に出る。
 その腕が振り下ろされるよりも早く、魔獣の懐へ。
 大振りな攻撃は大した威力を持つが、案外近くには当たらないものだ。
 魔獣の腕を掻い潜り、反対側へ抜ける。

「つーかまーえた」

 魔獣が振り向いたときには、絲との間に鋼糸が張り巡らされていた。
 鋼糸を回り込もうと横を見ても、後ろを見ても、辺りを走るように張られた鋼糸。
 いわば、鋼糸の檻だ。
 その檻を破らんと、魔獣が鋼糸に爪をかける。

「逃げられると思う? やってご覧よ。そう簡単に、離しはしないッ!」

 魔獣の腕力は凄まじいものがあるが、それは力を存分に活かせるスペースが合ってこそだ。
 狭い檻の中では、腕を振るうにも限度がある。 
 抵抗する魔獣をよそに絲は檻を徐々に狭めて、やがて糸は魔獣の身体に食い込んでいく。

「これだけ絡めば、充分でしょ!」

 糸による束縛だけで倒せるほど、魔獣は甘くはない。
 だから絲が用意したもう一つの攻撃手段。
 ぱちり、という音と共に、糸から近くの葉に雷が走る。
 これまで流した血を、魔力を、全て雷に変換し、糸に纏わせたのだ。
 そしてその雷の流れる先は――――。

「グ、ギャ、アアアァァァ!」

 激しい雷光と共に、喉の張り裂けそうな魔獣の悲鳴が辺りを包み込む。
 高温に焼かれながら、電気刺激によって魔獣の身体が強張ったまま震えた。
 辺りに漂う、肉の焦げた臭い。
 絲が魔力を出し切り、悲鳴が聞こえなくなったところで、ほとんど炭になった魔獣を開放する。

「――此度の縁は、これにて」

 片手を胸に置き、仰々しくお辞儀をすると踵を返し、絲は森の散策を続けた。

成功 🔵​🔵​🔴​

朧・紅

表人格のお嬢様が《紅》
裏人格の殺人鬼が《朧》
武器はロープと刃だけのギロチン刃

お誘いにはのるものなのです♪
相手を感知できないなら自ら囮になるです
躊躇せず森へ足を踏み入れ攻撃を喰らうとその痛みに僕は悲鳴を上げる

…のもつかの間
別人格の殺人鬼、朧の凶悪な笑みに変貌
致命傷は避ける
同時に俺ノ血の通ったロープで自身と魔獣をふん縛る
どっか行かれちゃ迷惑なンでな
噛まれた場所が腕、足ならその口一緒に縛り上げる
腕や足の一本どぉってことねぇ千切れる前に殺りゃいい

ロープの先にあるギロチン刃が蛇のように攻撃開始

っははぁイテェいてぇ!テメェもいてぇかぁ!?
笑顔で痛みを楽しむその瞳から涙が零れる
これは朧ではなく紅の涙か…




 綺麗な赤髪を揺らし、少女が森を歩く。

「魔獣さん、魔獣さん、どこですかー?」

 ここは魔の森。
 魔獣の住む森。
 朧・紅(朧と紅・f01176)は、楽しげに森を歩く。

「ふふ、お誘いには乗るものなのです」

 まるでピクニックに来たかのように。
 まるでお茶会に誘われたかのように。
 透明化能力を持ち、並外れた知性と腕力を持つ魔獣に対して天真爛漫の少女が取った策は、自身を囮にすること。
 あまりにも無謀に思えるその作戦に、しかして魔獣はかかっていた。
 すでに不可視の魔獣の大口は、無防備な紅の首筋に狙いを定めている。
 魔獣の牙が、少女の柔らかな肌を貫いた。

「いっ、きゃああああああっ!」

 突如として現れた魔獣によって、鮮やかな血が森で舞い散る。
 肩肉の一部は食い千切られ、鼓動に合わせて血が溢れた。
 少女の小さな身体で受けるには、あまりに大きな痛み。
 だがそれがきっかけとなったのだろうか。
 紅の中で――――。

「――――はン」

 朧が、目を覚ました。
 激痛に泣き喚いていたはずの少女が、不敵な笑みを浮かべる。
 朧は赤く染まったロープで、魔獣と自身の身体を括り付けた。
 突然の動きに、魔獣が口を離す。
 逃げられる心配がなくなると、朧は肩の傷口を抑えた。

「っははぁイテェいてぇ! 食い殺したと思っただろ? 囮だよ、紅はな」

 眼の前で困惑する魔獣に対して、朧はにぃ、と歯を見せて嗤う。

「これで、もう逃げらンねえな」

 そこからは、血で血を洗う死闘となった。
 逃げる気もなく、ひたすらに刃を振るう朧。
 魔獣は持ち前の頑丈さで耐えるが、その大きな体は密着した状態では活かし切ることができない。
 朧の小さな背中に爪をたてるのがやっとだ。
 だが朧は怯まない。
 その間に、朧は刺して、斬って、貫いて。
 魔獣の身体はみるみるうちに赤く染まり、そしてやがて、力なく膝をついた。

「なかなか楽しかったぜぇ」

 笑顔で動かなくなった魔獣を足蹴にする朧。
 その頬を、温かいものが伝う。

「あン?」

 滴り落ちる涙は、誰のものだったのか――――。

成功 🔵​🔵​🔴​

ジード・フラミア
ジード「来た時には既に血みどろだったんだけど……大丈夫かなぁ……」
メリア『( ´∀`)ハハハ マア、大丈夫じゃないデショウ 少なくとも腕の1本2本は覚悟した方がいいデスカネェ…』

オルタナティブ・ダブルを使って協力しながら戦います。メリアは壊れた時用に予備の人形を準備しておきます。

後、一応、メリアはジード本体を庇うように動きます。 





完全には庇えないでしょうが……




「不気味な森……」
 ジード・フラミア(人形遣いで人間遣いなスクラップビルダー・f09933)が、周囲の様子を伺いながら森の中を進む。
 その傍らには、黒いドレスの大きな人形。

「ハハハ、絶対にあの魔獣がいるのはわかっていますカラネ。大丈夫じゃないデショウ」

 無機質な顎が滑らかに動くと、人形人格であるメリアは明るく笑った。
 その言葉に、ジードが改めて周囲の様子を伺う。
 だがジードの目に魔獣は映らない。

「脅かさないでよメリア……」

 目を閉じて、ほっと一息。
 次の瞬間、後ろから聞こえた低い唸り声で、ジードの心臓が跳ね上がった。

「ジード! 来マシタネ!」

 すぐにジードがスクラップを構える。
 だが、魔獣は近寄ってこない。
 ジードたちと一定の距離を開けたまま、様子を見るように回っている。
 猟兵が2人でいるように見えたのだろう。
 ジードとメリアも、魔獣に武器を向けたままだ。
 それから半周ほど睨み合ったあとのこと。
 動き出したのは魔獣だった。
 ひゅお、と息を吸い込む音。
 魔獣の肺が空気でいっぱいになり、張った胸が膨らんでいくのがよくわかった。
 次の瞬間には、耳を劈く咆哮が森を支配していた。
 音が空気の振動であるということが、よく分かる。
 空気なんていう軽いものでも、大きすぎる揺れが起こされれば周囲のものに干渉するのだ。
 魔獣を中心に、森の中を衝撃波が広がる。
 石を飛ばし、枝を飛ばし、石を飛ばす。

「ジード!」

 両手で耳を塞ぐジードの前に、メリアが立ち塞がった。



 咆哮が止むと、辺りは静かになった。
 魔獣はのそり、のそりとジードとメリアたちの居た方へと歩く。
 死体を確認するためか、それとも食べるためか。
 瓦礫を退かし、ジードとメリアの居た場所を探す。
 そして魔獣は見つけた。
 倒れ込んだ金髪と黒いドレス。
 人形であるメリアはジードを失えば動くことはないだろうし、魔獣が生身でないメリア食べることはない。
 その人形を掴み、持ち上げる。
 きっとこの下に、ジードの死体が――。
 その瞬間、人形の下から飛び出したスクラップの刃が、魔獣の上顎を貫いていた。

「この……!」

 身体にたくさんの擦り傷と打撲痕を作ったジードが、両手でその刃を突き上げ、ねじる。

「ゴ、ガゴアァァッ!」

 刃が、魔獣の脳へと到達する。
 血を吐き、倒れないように手足に力を入れようとするが、弱々しく震えるばかり。
 その巨体は、地に伏した。

 咆哮の衝撃波は、周囲の枝や木、石を吹き飛ばし、ジードたちはその礫によって怪我を負っていた。
 だがその大半をメリアが庇うことにより、ジードは戦うだけの余力を残すことができたのだ。

「ああ、メリア、メリア……!」

 肌が割れ、壊れかけた人形を抱き上げる。

「無事デスカ、ジード」

 メリアが愛おしげに、ジードを見る。
 壊れた腕でその頬を撫でれば、肩から外れ落ちてしまった。

「メリア、ありがとう……。すぐに予備の人形を出すからね」

 それから少しして、ボロボロの少年と、ピカピカの人形。
 ふたりは仲良く、再び森の中へ。

成功 🔵​🔵​🔴​

フェム・ポー

うふふっ。鼠ちゃん達の次はアナタたちかしらぁ?
アナタ達も救って欲しいのかしらぁ?
そうよねぇ? 安寧の場所にいたのにこんな現世(苦界)に迷い出てきてしまったんだものねぇ? みんな、みぃんなフェムが救ってあげるからぁ、安心していいのよぉ。

透明の姿になれるのでしょぉ? こんな暗い森の中じゃぁ、どこにいるかもわからないわねぇ? 突然あの顎に齧りつかれてしまったりしたらぁ……うふふっ、どんなに痛いのかしらぁ?
でも、そうなったら場所もわかるわよねぇ? そうしたらぁ、フェムが救ってあげられるわぁ? UCの鎖で縛り上げてぇ、痛みも苦しみも悲しみも全部フェムが貰ってぇ、安寧の世界に還してあげるわねぇ?




 鬱蒼とした森。
 霧が立ち込めて視界は悪く、不思議な植物の香りに嗅覚も狂わされる。
 そんな場所で、透明化の能力を持つ魔獣と戦おうというのだ。
 優れた索敵能力を持たなければ、対価を払わなければならないと考えるのは、至極当然であろう。
 
「うふふふっ、救ってほしい子はどこかしらぁ」

 だからフェム・ポー(聖者の残骸・f12138)はその身を捧げた。
 ここは魔獣の森の中心。
 きっとこの近くにも、透明になった魔獣がいるはず。
 だからフェムは、ここで隙きを晒して待った。
 そしてその時はすぐに訪れる。
 張り詰めた空気が伝わってくる。
 きっとすぐそばに、魔獣がいるのだわ。
 小さく草を踏みしめる音。
 それは徐々に近づいて――。

「――あはっ」

 突如として現れた大口が、淫靡なる聖職者の身体を半分ほど咥え込んだ。
 鋭い牙が、柔らかな身体に突き刺さる。

「きぃゃあぁぁぁぁぁっ!!!」

 人よりも何倍も大きな魔獣と、人の六分の一程度しかないフェアリーの体格差は、あまりに大きい。
 一口に飲まれなかったのは誰にとっての僥倖で、誰にとっての悪夢か。
 フェムの身体に噛み付いたまま魔獣が頭を振ると、食い込んだ牙が肉だけでなく内蔵までずたずたに引き裂いていく。
 六分の一の身体に、六倍の痛み。
 神経が焼け、脳が痺れるほどの痛覚がフェムを襲う。

「う、うふ、うふふっ……」

 だがその痛みが、苦しみが、フェムにとってなにものにも勝る快楽。
 恍惚とした表情で、痛みを享受する。
 思う存分に傷付けられたところで、その手は魔獣の鼻先を撫でた。

「さあ、フェムが救ってあげるわぁ」

 魔獣は姿を現し、そして自分に食いついている限り逃げられることもない。
 フェムの周囲に、闇色に光る魔法陣が浮かぶ。
 そこからいくつもの鎖が放たれ、魔獣を縛り上げた。
 小さな存在は己の口の中。
 勝利を確信していた魔獣に困惑の色が現れる。
 今すぐこのフェアリーを噛み千切って殺さなけれな、大変なことになる。
 魔獣の野生の勘がそう告げていた。
 だが、時すでに遅しとはこのことだ。 

「痛みも苦しみも悲しみも、全部、全部全部フェムが貰ってぇ、安寧後に還してあげるわねぇ?」

 魔獣の身体から力が、命が、流れ出ていく。
 どう力を入れても止めることのできないそれは、まるで壊れた蛇口のようで――――。
 褐色のフェアリーの飛び去ったあと、そこに残されたのは、全ての生命力を吸い上げられて干乾び、骨と皮の姿になった魔獣だけだった。

成功 🔵​🔵​🔴​




第3章 ボス戦 『異端の騎士』

POW   :    ブラッドサッカー
【自らが他者に流させた血液】を代償に自身の装備武器の封印を解いて【殺戮喰血態】に変化させ、殺傷力を増す。
SPD   :    ブラックキャバリア
自身の身長の2倍の【漆黒の軍馬】を召喚し騎乗する。互いの戦闘力を強化し、生命力を共有する。
WIZ   :    フォーリングローゼス
自身の装備武器を無数の【血の色をした薔薇】の花びらに変え、自身からレベルm半径内の指定した全ての対象を攻撃する。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠山田・二十五郎です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。



「魔獣共の様子がおかしいと来てみれば、これはいかなることか」

 魔獣たちを退け、森を抜けた猟兵たちの前に現れたのは、一人の騎士だった。
 漆黒の鎧に身を包み、闇を放つ剣を持つその騎士が、魔に魅入られた者であることは、誰の目にも明らかだった。

「魔獣を使って人食いねずみの群れを人里に送ってみたのだが、どうやらこの趣向は気に召されなかった者がいたようだな」

 騎士とは、民を守るものではないのか。
 誰かがそう呟いたが、異端の騎士はそれを鼻で笑う。

「この世界の人間など、我々の余興のために存在しているにすぎん。邪魔立てするならば、貴様たちから排除するとしよう」

 そう言い放つと、騎士は己の身の丈ほどもある剣を抜き、正眼に構えた。
ブランシュ・シコ


やっぱり、いたね。ブランシュが1番先にみつけたね。
べつに猟兵は騎士のこと嫌いとかだから来た訳じゃないよ。
こういうこと、オーケストラを特等席とか……グリモアの人も楽しそうに言ってたし。

でもね。
『ブラックキャバリア』で馬を出したらブランシュとかけっこしなきゃ。
ちょっとだけ速いんでしょ?

『漆黒の軍馬』を見たら『アンカー』のつもりで『ダッシュ』するよ。
抜くだけならかんたんすぎるから、馬の目の前を走ったり
騎士の剣をスピードだけでよけてみせて誰が1番早いかわからせるよ。

飽きたらそうだね。
『アンカー』で時間縮めたけどもうちょっと縮めて、ふきとばしでぐるぐるぐるぐるどかーん!
体無理になったらここ離れたいね。




 騎士が剣を抜くと同時、その眼前にまで迫る白い影。

「やっぱり、いたね。原因の原因」

 赤いマフラーを揺らして、ブランシュ・シコ(白い人狼・f12074)が騎士に肉薄した。
 騎士が剣を引き、剣より早く振れる裏拳で牽制する。
 ブランシュはそれを宙返りするように避けて、一度騎士から離れた。

「速いな。この二本の脚で対応するのは、些か苦しい」

 騎士が剣を地面に突き立てると、騎士を中心に闇色の魔法陣が展開される。

「さて、私の愛馬とどちらが速いだろうか……」

 まるで影が浮かび上がるかのように、騎士の足元から現れたのは、漆黒の軍馬。
 騎士が軍馬の背に跨ると、軍馬の嘶きが周囲に響いた。

「ひとつ、試してみるとしよう」
「かけっこするの? いいよ」

 騎士は剣で、枯れ木の生えた丘を指す。
 頂点には、一本だけ葉の茂る大樹。
 一度、冷たい風が吹く。
 その風が止むと同時に、黒と白が駆けだした。
 蹄を鳴らし四足で走る騎士の軍馬と、地面を蹴って風のように走るブランンシュ。
 幼いブランシュの数倍はあろうかという騎士の軍馬は、ストライドの大きさで単純に有利だ。
 まずは首差分、軍馬が前に出る。
 並んだ騎士が、ブランシュを見て笑うように口元を揺らした。

(だめ。もっと、もっとはやく)

 命を削れば削るほど速く、速く。
 ブランシュが、加速する。
 軍馬に並び、わずかばかりの安堵。
 だが、まだ足りない。
 ブランシュは、一番速くなければならないのだ。

(しんぞうがいたい)

 これまで削った命の分だけ生き急いで。
 また削って、もっと速く。
 ブランシュの速さが、軍馬に勝る。
 さらに加速を続け、ついには軍馬の前に出た。
 スピードに乗ったブランシュが、軍馬の鼻先を左右に揺れる。

「小賢しい真似を!」

 眼の前で左右に動くブランシュを見て軍馬の気が逸れたのか、騎士の手綱が強く引かれた。
 騎士がそれを力づくで制すると、速度を合わせたブランシュは並走しながら、その様子をじっと見ている。
 煽るような行動に対して、騎士は軍馬を走らせたまま、剣を抜く。

「卑怯とは言うまいな」

 ブランシュに向けて、その剣を突き出した。
 馬をも勝る速さで走るブランシュへの攻撃。
 剣に振れるまでもなく、脚を縺れさせでもすれば、大きな怪我に繋がるだろう。

「いわないよ」

 ――――だが、ブランシュは傷付かなかった。
 騎士の突き出した剣の先端に、乗るかのように足を乗せ、ブランシュは剣を足場にして騎士の反対側へと跳んだ。 

「だってブランシュの方がずっとずっと、はやいから」

 空中を移動する間も、騎士から目を離さない。
 ようやく騎士にも理解ができた。
 速さにおいて、あまりに大きな差があることが。

「む……!」

 丘の頂点まで着くまでもなく騎士は軍馬を止めると、同じく足を止めたブランシュを見る。
 速いことはわかった。
 だが、この小さな身体では充分な攻撃手段は持っていないだろう。
 興が乗ったため速さを比べてみたが、本来は相手の得意分野で戦う必要など無いのだ。
 それ故に、剣に力を込めた。
 だが。

「かけっこはおわり? なら、そろそろみんなのところに戻らないと」

 ブランシュが騎士に向けて空を蹴る。
 騎士は何が起こるのかと身構えたが、それは騎士の想像を越える事態だった。
 ブランシュから伝わる、空気の揺れ。
 圧縮された空気が、衝撃波となって伝わる。
 まずはびりびりと小さく揺れる波で、鎧が音を立てた。
 だが次の瞬間には、まるで自身が蹴り飛ばされたかのような衝撃波。
 削りに削ったブランシュの命。
 それはブランシュに、圧倒的な加速力と、攻撃に転用できる衝撃波を与えた。
 騎士はその身体を軍馬から投げ出されて、周囲に生えた不安定な枯れ木ごと、根こそぎ吹き飛ばされる。

「ぬぅっ!!!」

 踏ん張ることもできず、騎士の身体が浮き上がると、軍馬と共にそのまま弾き飛ばされた。
 騎士の転がった先は、さきほどの森のそば。

(あそこなら、猟兵がたくさんいる……)

 騎士は巧みな体捌きで上手く転がると、跳ねるように起き上がり、剣を構える。
 ブランシュの胸の痛みが、じわりと登ってくる。
 きっとそれは、削った命の分。
 泣きはらした後のように喉の奥が痛くなると、口の中が鉄の味で満たされる。 

「あとは、任せようかな」

 口の中に溜まった赤いものを地面に吐き捨て、腕で口元を拭うと、白い疾風は戦場をあとにした。

成功 🔵​🔵​🔴​

アロンソ・ピノ
ああ、そうかい。じゃあオレの功名の為にでも死んでくれ。
ってくらいだな。騎士に対しての気持ちは。
とりあえずPOWで行く。主体は居合の構えから刀身を飛ばして遠距離から攻撃する秋の型だ。
右腕さっき潰れちまったから鍔迫り合いでは不利だしな。武器改造、投擲、先制攻撃に鎧砕きに鎧無視攻撃でとにかく遠距離から攻める。
攻撃に対しては使えない右腕を盾にしてでも闘うが…前回同様攻撃食らっても泣きはしない 嗚咽と血反吐は出るかもだが
劣勢状態で全体の勝ちの目が薄れてしまうなら真の姿の使用を考える。
真の姿は……一言で言うなら半裸の筋肉ダルマだ。今の姿から筋肉量だけ増えている。刀は口に咥えている。

―春夏秋冬流、参る。




 騎士が馬から降りている。
 体勢を崩した直後、狙うなら今だ。
 そう考えたアロンソ・ピノ(一花咲かせに・f07826)が、刀に手をかける。

「オレの功名の為にでも死んでくれ!」

 魔獣との戦いで折れたアロンソの右腕は、力を入れると未だ鋭い痛みが走る。
 力で押し切るには、些か不利であることは自明であった。
 それ故に、アロンソが取った手段は――――。

「――――春夏秋冬流、参る」

 キン、と小さな音と共に、抜かれた刃が煌めく。
 騎士との間合いを詰めることもせず、引き抜かれた刀。
 どうやって鞘に収まっていたのだろうか。
 刃から刃が生え、まるで枝のように分かれた刀身。
 それが無数に伸び、生えて、分かれて、騎士へと飛来する。

「まるで剣の嵐だな」

 両刃の剣を正面に構えた騎士が、まずは飛来する刃を、剣を振り下ろして叩き落とした。
 斬り上げて一本、くるりと回り両手で振り下ろして二本、そこから横薙ぎに三本、四本。
 騎士は自身に当たる刃だけを、的確に弾きながら進む。
 腐っていても騎士は騎士ということだろうか。

(……やるじゃねーべか)

 その技量に心の中で舌打ちし、次の一手を考える。

(近付かれるのは不味い。それにあの鎧に刃を通すには……)
「考え事か? 悠長なことだ」

 気付けば、騎士はすぐ目の前だった。
 騎士が大きく踏み込み、上段からアロンソの身の丈ほどもある剣を振り下ろす。
 抜刀して受け止めるか。
 否、力負けすることは目に見えている。
 身体を捻って躱すか。
 しかし、剣は最早眼前、避けたとしても次にはおそらく横薙ぎ。
 二撃目は避けられない。

(やべっ、これは……!)

 刀は抜いた。
 だが、刃をそのまま垂直に当てたのでは、間違いなく力負けする。
 だから刀身を斜めに構え、痛む右腕を添えた。
 騎士の振り下ろしを、刃で滑らせて斜めに逸らす。

「いっ―――――!」

 力の全てに対抗する必要はないが、それでも降りかかる力はまるで隕石。
 ボロボロだった右腕が、さらに軋む。
 痛みに耐えて、すぐに右腕を盾にするように後ろに跳んだ。
 右の二の腕に、焼けるような一閃。
 腕から血が流れていることが、すぐにわかった。

「一撃目で、その剣ごと両断するつもりであったが、上手く流したな」

 想像の通りすぐに横薙ぎに払った剣を戻しつつ、騎士がアロンソを見下ろす。

「へっ、あんたみたいなやつだとしても、騎士様に褒められりゃ嬉しいもんだな」

 アロンソは刀を鞘に納めると、再び抜刀の構え。
 対して騎士も、再び正眼に構える。

「次は無いぞ」

 騎士の剣についたアロンソの血が、まるで飲まれているかのように刃に溶け込んでいく。
 鋭く、大きく、禍々しく。
 騎士の持つ剣が、殺戮捕食形態に変化した。

「それはこっちのセリフだッ!」

 アロンソが刃を抜く。
 先程よりも速く、鋭く。
 抜刀と同時に、無数の刀身が再び騎士へ向けて放たれた。

「同じ手を――!」

 騎士が、剣を振り上げる。
 あの動体視力では、再び切り払われてしまうかもしれない。
 だからアロンソが狙ったのは――。

「むっ……!」

 騎士の振り上げた剣に、強い衝撃が走る。
 ――ひとつめは、剣。
 ほぼ真上に掲げた状態から力を入れることは難しい、
 その状態であの大きさ、あの重量の武器を弾かれれば、すぐに戻すことはできない。

(剣を弾いたら……次は!)

 アロンソの刃が、無防備になった騎士を襲う。
 騎士の肩目掛けて、刃が集中した。
 ――ふたつめは、鎧の継ぎ目。
 アロンソの放った刃が、正確に鎧の継ぎ目、肩当ての支えを斬り裂いた。
 鎧の上から叩き切るほどの力はない。
 それゆえの鎧破壊。
 後続の猟兵たちの、助けにもなる。
 騎士の右の肩当てが、がらんと音を立てて落ちる。

「これなら、あの姿になる必要はなさそうだな」

 再び刃を収めたアロンソが、アシンメトリになった騎士を睨みつけた。

成功 🔵​🔵​🔴​

御伽・柳
行動:【SPD】
使用UC:【早気】
使用アイテム:【閃光手榴弾】

……ああ、今回の黒幕は貴方ですか
お陰様で色々と良い経験ができました
これはそのお礼です、たっぷり味わえ

出し惜しみはしません、味方を巻き込まないように警告は促しますが
使ったものは後で補填すればいい、命でなければそれができるから

騎士とその馬の【目潰し】のための【だまし討ち】、戦況を整えるための【時間稼ぎ】
持てるだけの【閃光手榴弾】と『たま』にできそうな物はなんでも【早気】で使ってしまいましょうか

今回は痛い目に遭ってばかりでこれ以上は避けたいのですが……やはり必要ならば【激痛耐性】と【見切り】で耐えるしかないですね、俺にはこれしかない




 鎧の一部を破壊された騎士は、帰ってきた軍馬に飛び乗った。

「剣技で圧倒できるかと思ったが、少し嘗めていたようだ。無礼を詫びよう」

 仕切り直したかのように、改めて軍馬の上で剣を構える騎士。
 剣を槍のように脇に構え、さながら騎馬突撃兵のように――。
 次の瞬間には、猟兵たちを蹴散らさんと、軍馬は最高速で駆け出した。
 騎士の剣の鋒が風を切り、甲高い音を立てる。
 突撃のその先に居たのは、御伽・柳(灰色の渇望・f12986)だった。

(速っ――――!?)

 騎兵の速度というのは、人間が想像するよりもずっと速い。
 ましてやそれが、常識外れな存在であればなおのこと。
 そこから繰り出される突きは、まさに型破りな程だった。
 それでも致命傷を避けることができたのは、柳の見切りが充分に発揮されていたからだ。
 寸のところで、柳は後ろに跳んだ。
 もし動けずにいれば、騎士の平突きは柳の背骨を上下に分けていただろう。
 だが、騎士の剣は柳の脇腹を貫くに留まった。

(ッ――――!!!)

 充分な重さと速度を伴った突きで、柳の身体は浮き上がった。
 騎士はそのまま馬を進め、柳がその鋒に刺されたまま、走り続ける。

(だけどこれは)

 通常ならば失神していてもおかしくないほどの激痛。
 しかし、痛みに対する耐性が、柳の思考力を保っていた。

「魔獣の爪で、貫かれるほどじゃない……!」

 騎士は剣を振り、貫いた柳を捨てようとした。
 だが、柳は剣から離れなかった。
 自らを貫いた刃を掴み、騎士から離れまいとしていたのだ。
 それは、柳の持つモノを騎士より前に投げなければ意味がないから。
 軍馬と同じ速度で進む柳は、慣性力により少しの力で投げるだけで、軍馬よりも前に投げることができる。

「フラッシュバン、いきます!」

 周りにいる猟兵に向かって、叫ぶ。
 軍馬の鼻先に放り投げたのは、いくつもの閃光手榴弾だった。

「何を――ッ!」

 鋭い閃光が騎士と軍馬の目に刺さり、軍馬はその場で嘶いて足を止めた。
 騎士も視界を奪われ、その目を手で覆う。
 柳は騎士が突然止まった勢いで剣が抜けて放り出されたが、目潰しには成功した。
 剣が抜けると血が吹き出すが、今はそれどころではない。
 急激な出血で霞む頭に鞭を打ち、地を転がりながら周囲を見渡す。
 だったら次は―――。

「お陰様で色々と良い経験ができました」

 柳の得意とする技のひとつ。
 それは、柳が『たま』だと認識さえできれば、なんでも放つことができる。
 その場で最も有効だと感じた『たま』は――。

「これはお礼です、たっぷり味わえ」

 ――先程衝撃波で転がってきた、岩や枯れ木!
 0.05秒にも満たない一瞬で、それは礫となって騎士を襲う。
 持ち上げるには数人が必要になりそうな柳の身体よりも大きな岩が、充分に質量と太さを持った数メートルにもなる木が、騎士の胸を打った。

「ぐオォ……!」

 視力の未だ戻らない騎士が、純粋な質量弾によってよろめく。
 衝撃が身体にまで伝わったのだろう、騎士の脚に、力が入りきっていないのが見て取れた。
 同時に、攻撃が終わって緊張が緩んだことで、腹部の傷が熱を持ったように痛む。
 血は一通り出たのか、鼓動に合わせて垂れるばかり。

(でも、相手は致命傷には至らないか。もう少し威力のあるものが近くにあれば……)

 まだ、戦いは終わらない。
 腹部の傷を手で抑えながら、柳は再び立ち上がった。

苦戦 🔵​🔴​🔴​

ジョン・ブラウン


「僕はさ、騎士道物語って好きなんだよ」
「弱きを助け悪を挫く……勧善懲悪、まさにヒーローだ」
「騎士道の示す意味が人によって違えど、僕が憧れた騎士達はみんな守るために戦ってた」
「帝国の黒騎士と戦ってムカついてたせいかな……気がついたら覚えてたんだ、見ていきなよ」


「さぁ Chivalric Romance を 始めよう。獣を追い立て自らも獣心へ飲まれた憐れな騎士に騎士道とは何たるかを見せつけよう」

剣と盾を持った長身の騎士はジョンの前へと立ち、降り注ぐ花びらの全てを防ぐ

大剣を持った騎士は闇を纏い異端の騎士へと斬りかかる
騎士の攻撃全てを自身へ向けさせ他の猟犬へ向かわせない

チッチッチ「愛が足りないぜ?」


月山・カムイ
余興とはまた、愉快な事をおっしゃいますね
正直申し上げますと……詰まらない趣向でしたよ、落第点です

ブラッドガイストで殺戮捕食態となった絶影を構え、最前線で戦う
相手のブラッドサッカーの効果を考えると、もうこれは喰らい合いをする意外にないでしょうね
普段はUDC以外を喰らうつもりはありませんが、お前は別だ
ここで喰らい尽くしてやろう

こちらの血を啜る剣を振るう相手と、相手の存在を喰らう小太刀
最前線に踏み止まり剣戟の応酬、極限までの殺し合いを始めましょう
どちらかが倒れるまで、ね

まぁ、こちらは背中を任せられる猟兵達が居ますからね
貴方とは違って、独りではない
独りで勝てると思い上がった、それが敗因ですよ




「あれを余興とは、ずいぶんと愉快なことをおっしゃいますね」

 再び剣を構え直した騎士を前に立ち、月山・カムイ(絶影・f01363)がポツリと呟く。
 そのとなりでは、ジョン・ブラウン(ワンダーギーク・f00430)が腕につけたデバイスを弄っていた。

「僕はさ、騎士道物語って好きなんだよ」
「と、いいますと?」

 誰もが幼き日に一度は夢見て、憧れるものだ。

「弱きを助け悪を挫く……勧善懲悪、まさにヒーローだ。騎士道の示す意味が人によって違えど、僕が憧れた騎士達はみんな守るために戦ってた」

 だから――――。
 ジョンの青い瞳が、異端の騎士を睨みつける。

「――――お前は僕も信じる騎士じゃない」
「同感ですね」

 隣に立つカムイが頷く。
 対峙する異端の騎士が、右手に血の色をした薔薇の花びらを掲げた。
 それは渦を巻き、数を増して、徐々に大きくなっていく。

「勝手だな。私の姿こそが騎士であるというのに」


「良き騎士は民と友のために戦い、死より冥き闇を纏う騎士は愛のために戦う」

 ダークセイヴァーの地にはもはや、人のために戦う騎士など居ない。
 かつて人類を裏切り、ヴァンパイアに従って戦った異端の騎士はまさに、その真逆を行く。
 だからジョンにはその異端の騎士が、気に食わなかった。

「それが僕の好きな騎士道なんだ!」

 ジョンの前に現れたのは、ふたりの騎士。
 一人は剣と盾を持った長身の騎士。
 盾を構え、ジョンの前に立つ。
 もうひとりは、大剣を持った騎士。
 大剣を霞に構えて、騎士と対峙した。

「抜かせ。騎士とて所詮は狗に過ぎぬ。どれほど偉大な挟持抱こうと、それがまかり通るのは夢物語よ」

 異端の騎士が右手を前に突き出す。
 その手に掲げていた薔薇の花びらが、ジョンとカムイに向けて放たれた。
 竜巻のように回りながら飛び交う花びらが、全てを破壊していく。
 血の旋風はふたりと騎士の間にある全てをなぎ払いながら、その距離を詰めていった。

「僕はその夢物語を守るんだ!」

 ジョンの前にいた長身の騎士が前にでて、盾を構える。
 飛び交う赤は、ただの花びらではない。
 そのひとつひとつが、触れるものを破壊する権能を持つ。
 それ故に、長身の騎士が持つ黒い盾は、花びらがひとつ当たるたびに強く弾かれる。
 だが、長身の騎士はその盾を離さない。
 後ろにいるジョンとカムイのために、長身の騎士はこの場を守り続ける。
 盾で覆いきれなかった分は、身体で受けて。
 花びらの乱舞が終わると、長身の騎士は後ろを振り向いてニッと歯を見せて笑い、膝を着いた。

「次はこちらの番ですよ!」

 長身の騎士の背からカムイが飛び出し、異端の騎士に刃を振り下ろす。
 異端の騎士はそれを剣で受け、払う。
 返す刃で斜めに斬り上げると、カムイはそれを後ろに跳んで躱した。

「掠めただけか」

 カムイの胸元に、一閃の傷が走る。

「いやしかし、これで準備は整った」

 異端の騎士の剣が、禍々しく変形する。
 カムイの血を代償に、殺戮捕食形態へと変貌を遂げたのだ。

「こちらも、これで整いましたから」

 対するカムイの小太刀もぎちぎちと刃を鳴らす。
 両者、同様のユーベルコードの使い手であり、ここからの戦いは死闘だった。
 カムイの刃が異端の騎士の鎧を傷付け、異端の騎士の刃がカムイの身体を貫く。
 互角の技の応酬は、お互いの精神を極限状態にさせた。
 何度目かの打ち合い。
 カムイが斬りかかると、それを異端の騎士は流すようにして躱す。
 ここまで、攻撃は力で受け止め、弾いていた騎士の突然の動きに、カムイがつんのめる。

「これで終わりだ」

 小太刀を握る手を前に出し、伸び切った状態のカムイ。
 上段に構え、その時を待つばかりの異端の騎士。
 異端の騎士がカムイの背に向けて、その刃を振り下ろした。

「まだ終わらない!」

 ジョンが叫ぶと、カムイのその背を、大剣の騎士が庇う。
 異端の騎士の剣を、その大剣で弾いた。

「厄介だな」

 異端の騎士が一度剣を引き、ふたりと距離を取る。

「こちらには、背中を任せられる猟兵が居ますからね」

 カムイが異端の騎士に小太刀を向けると、大剣を持つ騎士がそれに並び立った。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

パーム・アンテルシオ
そう…あなたが元凶なんだね。
…良かったよ。あなたが…素直に倒したいと思える相手で。

ちょっと、ね。どこにぶつけたらいいのかな、って…思ってた感情があるんだ。
ふふ、どんな感情かは…あなたには、教えてあげない。
ユーベルコード…極楽鳥火。
その嘴で。鉄をも溶かす爪で。命と共に燃やし尽くす炎で。喰らい尽くせ。
あなたにも味わってほしいんだ。食われる者の気持ちを。
この子たちに食われるか。私たち、猟兵に食われるか。さぁ。

ここまでに負った傷は…いや、ここで傷を負っても。弱みは、見せない。
痛くても、やせ我慢でも、歯を食いしばって。
だって…そうじゃないと。私は…
こんなやつを喜ばせるために、ここまで来たわけじゃない…!




「そう……あなたが元凶なんだね」

 騎士の前に立つパームの心には、ふつふつと湧き上がるものがあった。
 その身体からは未だ血が流れており、全身の痛みは消えない。
 生きたままねずみに喰われた苦しみは、忘れない。

「ちょっと、ね。どこにぶつけたらいいのかな、って……思ってた感情があるんだ」

 屈強な騎士に比べて、パームの身体はあまりに小さい。
 だが、そのパームから溢れる気迫は、騎士にも負けていないどころか、勝っているとすら思えた。

「ふふ、どんな感情かは……あなたには、教えてあげない」

 パームの中で静かに燃えるもの。
 それは騎士を前にして、さらに燃え広がった。

「ここで死ぬ者の感情など、興味無いな」

 騎士はその手に、赤い薔薇を浮かべる。
 それを握るようにして花びらを浮かべると、パームに向けて放った。
 対して、パームの背に浮かぶのは赤き魔法陣。
 九の円と尻尾が、力を与えてくれる。

「その嘴で。鉄をも溶かす爪で。命と共に燃やし尽くす炎で、喰らい尽くせ!」

 パームが前に手を掲げると、炎の鳥が召喚され、騎士へ向かって飛び交った。
 薔薇の花びらと火の鳥が、衝突する。
 血の花びらは、尽きることなく騎士の手から放たれる。
 しかし、その花びらひとつひとつを、極楽鳥火が焼き尽くす。
 百を越える火の鳥は徐々に花びらの本流を押していった。

「く、貴様……!」

 騎士が更に力を込めるが、血の薔薇は火の鳥に阻まれて前に進むことができない。

「あなたなんかを喜ばせるために、ここまで来たわけじゃない……!」

 赤い瞳に、さらなる力が込められる。
 パームの術は、ついには異端の騎士の花びらを圧倒した。

「く、ぐ、うあああああ!」

 じゅ、という短い音。
 灼熱の嘴が、騎士の鎧の腹部を貫き、溶かし、その身体まで焼いていく。
 燃える、焼ける。
 生きたまま喰われる痛みと、焼かれる痛み。
 果たしてどちらが苦しいのだろうか。
 地獄とも思えるその苦悶に、騎士は膝を着いた。

「……良かったよ。あなたが……素直に倒したいと思える相手で」

大成功 🔵​🔵​🔵​

赫・絲


お前の趣味趣向なんてこれっぽっちも理解したくないけど、
これが余興だというのなら、派手なフィナーレのひとつでも欲しくない?
勿論、最後を飾るのはお前の死。せいぜい上手に踊ってよ。

嗤って緩く閉じた瞳は、再び開けば緋に、真の色に灯る

血が流れることは厭わないけれど、
無用な傷は増やさないよう、攻撃はしっかり捌いて避ける

それでも流れた血は、全て糸に
鋼の糸と合わせて敵へと放って拘束
傷が増えれば増えた分だけ、糸を増やして拘束を深める
その糸全てが続く一撃を確実に当てるための指針

茜、お出で。力を貸して。
喚ぶは雷の精霊の字、生成するは【全力魔法】で増幅させた雷の氷柱
巨大なそれを、糸を辿るように勢いよく敵へと撃ち込む




「貴様たちを侮っていたようだな」

 膝を着いた騎士が、小さくつぶやく。
 立ち上がり、その身体にさらに多くの薔薇の花びらを纏った。

「その技は綺麗なのに、もったいないね」

 騎士の前に立った赫・絲(赤い糸・f00433)が、強く手を握る。

「お前の趣味趣向なんてこれっぽっちも理解したくないけど、これが余興だというのなら、派手なフィナーレのひとつでも欲しくない?」

 嗤って緩く眼を閉じる。

「勿論、最後を飾るのはお前の死。せいぜい上手に踊ってよ」

 次に開いたとき、絲の瞳は緋色に変わっていた。

「好きにしろ」

 騎士は大きく踏み込み、一歩で絲に肉薄する。
 拳を振り上げ、絲の顔へと振り下ろしていた。

(速い――――!?)

 上体を大きく反って、拳を寸のところで避ける。
 しかしその拳に纏っていた花びらが、絲の頬に触れた。
 見た目はただの赤い花びらであるが、その実態は異端の騎士の持つ破壊の権能である。
 撫でるように触れただけのそれは、見た目に沿わぬ効果を発揮した。
 まるで破裂したかのように、絲が弾かれる。

「いったぁ!」

 地を転がり、くるりと回って地に手をついた絲の頬から、血が流れた。

「直撃は躱したか」

 拳を引いた騎士が再び肉弾戦の構えを取る。
 絲との距離はおよそ3歩。

「女の子の顔を狙うのは無くない?」
「戦いの場に出てきて、男だ女だなどと」
「上等ッ!」

 頬から流れる血を指で拭い、絲は騎士に向かって駆け出した。
 両手を握り相対する騎士の突き出した右手を避ける。
 振り上げた左手を躱す。
 騎士のリーチは拳よりもやや広い。
 それを、少し余裕を持って回避していく。
 その都度、絲の両手のグローブから糸が放たれていく。

「避けるばかりか? いずれは疲弊してよけられなくなるだろうが」
「さぁ? シビれるような体験ができるかもしれないよ?」

 絲の糸が騎士の鎧に絡まるが、それで行動が制御されるほどではない。
 それ故に騎士は、そのまま攻撃を続けた。
 殴る。
 蹴る。
 突く。
 花びらを纏ったそれは、単純な力だけではなく、周囲のものを破壊する。
 絲は拳は回避をすることができたが、花びらが徐々に絲の肌を傷つけていった。
 流れる血が、絲の服を赤く染めていく。

「やはり疲弊しているようだが?」
「あなた、デリカシーないって言われない?」

 騎士が大きくため息を吐いた。 

「不要なものだ」

 そこで騎士は気付いた。
 騎士の身体に絡む無数の糸。
 身体の動きを阻害するほどではないが、それは絲のグローブにつながっている。

「これは……」

 その糸を払おうとする騎士に対して、絲が不敵に微笑む。

「プレゼント、かな。茜、お出て。力を貸して!」

 喚び出されたのは雷の精霊。
 ばちり、と絲の両手から地面に向けて白雷が走る。
 それから両手に溜められた魔力が、全てを糸を辿った。

「む……!?」

 騎士の身体に、その全てが流れ込む。
 増幅した雷の氷柱は、騎士の身体を貫いた。
 その熱量で身体が焼かれ、騎士が片膝を着く。

「ほら、シビれたでしょ?」

 雷撃を放った糸を切り離し、騎士を見下ろした。

成功 🔵​🔵​🔴​

ジード・フラミア
ジード?「イヤー、人形直した後、ジード眠ってしまいマシタヨ。ボク自身も疲れてあまり機敏には動けないカラ、人形使いらしく人形で戦いマスカネェ……」

オペラツィオン・マカブルを使用

ジード自身はメリアを直したことでホッとして、眠ってしまったので、もう1つの人格がジードを動かして戦います。
予備の人形を使用してます。
攻撃はジードの身体ではなく、できるだけ人形に当たるようにしてます。


それでもジードに当たる時はやむなし。好きにしてください。




 猟兵と騎士の戦いが続く。
 騎士の剣戟と、軍馬の蹄音、それに破壊の薔薇が、戦いのワルツを奏でる。
 その様子を見るジード・フラミア(人形遣いで人間遣いなスクラップビルダー・f09933)はいつもとは違った様子だった。

「イヤー、人形直した後、ジード眠ってしまいマシタヨ」

 身体の動きは、控えめないつもより活動的と言えるかも知れない。
 だが、その口調はカタコトのようで、まるでジードとは違っていた。

「このまま見てるわけにもいきマセンカ」

 腕を抱き、身体を擦る。
 大切なものを守るために戦うなら、時にはその大切なものを危険にさらさねばならないときもあるのだ。
 今が、そのときだ。

「ボク自身も疲れてあまり機敏には動けないカラ、人形使いらしく人形で戦いマスカネェ……」

 人格のひとつが人形に宿り、意志を持っているかのように見えるジードの人形だが、本来ならば人形遣いは人形を操って戦う。
 人形とは別にスクラップを使って戦っていたジードとて、それは例外ではないのだ。
 予備の人形を取り出し、戦いに備える。

「サァ、ボクの相手もしてクダサイネぇ!」

 サラサラの銀髪を揺らしながら、騎士に向けて走り出した。
 眼前で軍馬に跨がり剣を振る騎士が、迫るジードの姿に気付く。

「貴様も斬り捨ててくれる!」

 軍馬の鼻先をジードに向けて、駆け出した。
 人形の手刀と、騎士の剣。
 それぞれの攻撃が、互いの身体を掠める。
 肩に傷の入ったジードの人形と、僅かに傷付く騎士の鎧。

「硬いデスネ……。アタッチメントが欲しくナリマス」

 交差した騎士とジードが、振り向いて再び対峙した。

「人形に戦わせるとは器用なものだな。だが、次はその生身にこの刃を通してみせよう」

 騎士が次の攻撃のために、軍馬を走らせる。

「させマセンヨ」

 対してジードも人形を前に出して、馬上からの攻撃に備えて、両腕を交差させて構える。

(馬の上からナラ、剣は振り下ろすカ、斬り上げるデスカ)

 蹄鉄の音を響かせ、地を揺らしながら迫る騎士。
 剣を握った右手を引いて、脇腹に構えた。

(どちらでも、ナイ!?)

 攻撃範囲に入った騎士が、まっすぐに剣を突き出す。
 それは人形の腕を避けて、すり抜けるようにジードの脇腹へと刺さった。

「――アァ!?」

 ジードの腹部が、赤く染まる。
 それから、じわりと熱が広がった。
 騎士は通り過ぎながら剣を払い、傷を広げる。
 軍馬を振り向かせ、次の攻撃のために剣を構えた騎士が、兜の下で笑っているのがわかった。

「次は人形を破壊してみるとするか」

 ジードの身体が、わなわなと震える。
 眼の前の敵を倒そうと息を巻く騎士に対して、ジードは逃げることも、避けることもしなかった。

「ヨクモ、ヨクモ、ジードの身体に傷ヲ!」

 その人形を両断せんと間近に迫る騎士の剣。
 だらりと両手を下ろした人形に、それは重なる。
 ――――ゴ、という鈍い音。

「む、手応えが……」

 騎士の剣で斬られたはずの人形は、僅かに後ろに押されただけ。
 さほど硬くも、重くもないはずの人形に対して、まるで砂の詰まった袋を殴ったかのような手応えが、騎士にはあった。
 次の瞬間には、人形の拳が騎士の胸に吸い込まれるように打ち込まれた。

「クッ……!」

 騎士の鎧が、大きく凹む。
 騎士の斬撃に込められた力を、そのまま人形の攻撃に転化したのだ。

「これ以上ジードの身体を、傷付けさせはシマセン」

 ジードの中のメリアが、瞳に強い意志を宿らせて言った。

成功 🔵​🔵​🔴​

朧・紅

テメェの趣向に興味は無ェ
さぁ殺ろうぜぇ

紅は眠ったまま
朧は目がかすみ攻撃を数度受けると避けきれなくなる

さすがに、血ぃ流しすぎたか

意識を失えば…その危機に体は白く輝きすべてを白く染め第三人格「月」が目覚める
真の姿、それは月下美人のように美しく紅を愛す月

私の紅を傷つけるとは…万死に値…いえそれ以上ですね

「月下美人」の白きオーラを纏い【殺気】を放ち断罪を開始
高速移動で気づけば傍に、遠くに、愚鈍ですね?
白き月光のような衝撃破を敵に【傷口をえぐる】ように叩き込み
【生命力吸収】で紅の身体を癒す

紅の痛みがこの程度だったとでも?もっと苦しみなさい
貴様の血で贖いなさい
紅があなたの死をご所望です




 空が白み出したダークセイヴァーの地を、騎馬が駆ける。
 その先で朧・紅(朧と紅・f01176)は、

「セエェェヤッ!」

 騎士が通り際に、すくい上げるように剣を振るい、朧がそれをギロチンの刃で受ける。
 その衝撃に朧の身体はふわりと浮き上がるが、軽い身のこなしでくるりと回り、難なく着地して見せた。

「おらァ!」

 お返しとばかりに馬上の騎士に向けて、朧がギロチンの刃のついたロープを振るう。
 まるで蛇のようにしなり、しかし、力の籠らないギロチンとロープ。
 それを、騎士は冷静に切り払った。

「どうした、動きにキレが無いな」

 馬上の騎士が嗤う。
 その程度かと、言わんばかりに。

「へっ、手加減してやってンだっての。さぁ続きを殺ろうぜェ!」

 朧は強がるが、額の汗や、血色の悪くなりはじめた肌を誤魔化すことはできず、限界が近いのは誰の目から見ても明らかだった。
 魔獣との戦いで負った傷が、失った血が、朧の体を苛む。
 指先には力が入らず、腕をあげるのも億劫になってきた。
 朧の身体は痛みよりも、冷えと無気力感に包まれている。

(クソ、紅は目覚めねぇ。それにさっきから目が霞みやがる……)

 それでも、倒れるわけにはいかないから。
 朧は再びギロチン刃を振るう。
 しかしそれも、騎士は難なく弾いてみせた。
 幾度仕掛けても、騎士は切り払い、躱し、弾き落とす。
 傷口から血を流し続ける朧が、消耗していくばかりだ。

(さすがに、血ぃ流しすぎたか)

 もう、脚にも力が入らない。
 そしてついには、朧が膝をついた。

「終わりか。その傷ではな」

 ゆっくりと馬を歩かせて近く騎士が嗤う。
 その蹄の音はまるでカウントダウンのように聞こえた。
 かちゃりと、剣を握り直す音。
 朧にはもはや、それを見上げる力すら無い。
 朧に向けて剣を振り下される。
 騎士の剣が風を切る音が聞こえて、朧は目を閉じた。

(わりぃ、紅……)

 ――――だが。
 騎士の剣がその首に触れる直前、朧の身体が輝く。
 指先から髪に至るまで、白く、白く。
 その間も、朧の姿が白く染まっていく。
 それは、満月のもとにただ一輪咲く、月下美人の花の如く。
 そして『月』は、ゆっくりと目を開いた。

「私の紅を傷つけるとは……」

 放たれる、強烈な殺気。
 凶暴さを持つ朧とは違い、冷たく研ぎ澄まされたそれは、騎士の背筋を凍らせるには十分なものだった。
 騎士がその輝きに怯み、一度下がる。

「万死に値……いえそれ以上ですね」

 だが、次の瞬間には月はもう騎士のすぐ隣に立っていた。
 速すぎる月の動きが、騎士の目には捉えられなかったのだ。

「き、貴様……ッ!」

 驚愕と共に剣を振るう。
 だがその剣が月に届くよりも早く、月は騎士の肩を、鎧の隙間を縫って貫いた。
 その速さはまるで光のようで――――。

「く、アァァっ! 貴様、貴様!」

 騎士の肩から、赤黒い血が流れ出る。

「紅の痛みがこの程度だったとでも? もっと苦しみなさい」

 音よりも速く繰り出された突きに、追いつくように発生した衝撃波。
 その衝撃波でさらに傷口を抉ると、刃を抜いて、今度は別の場所を突く。
 まるで刃という根から命を吸い上げるかのように、騎士を傷付けた数だけ、月の身体の傷が癒えていった。

「貴様の血で贖いなさい。紅が、あなたの死をご所望です」

 月が、冷めた瞳の奥に燃えるような怒りを込めて、騎士を睨む。
 月下美人の花言葉は艶やかな美人と、儚い美。
 それに加えて、秘めた情熱と、強い意志。
 月の白刃が、その意志に呼応するかのように煌めいた。

成功 🔵​🔵​🔴​

ヴィクティム・ウィンターミュート
──気に食わねえ。上位者気取ったテメェが気に食わねえ。弱者は嬲っていいと、当然のように思ってるテメェの思考が気に食わねえ。上から見下ろしてんじゃねーぞ!負傷なんざかなぐり捨てて、潰してやる。

メインはご自慢の武器を破壊してやること、あわよくば本体ダメージも与えたい。奴が装備を花びらに変えて範囲攻撃した後、"装備が元に戻る瞬間"を狙ってUCのナノマシンを【早業】で紛れ込ませる。入り込んだナノマシンは増殖し、【毒】のように装備を溶解。放置すればそれを伝い本体に広がろうとするって寸法よ。奴の攻撃自体がこの為の【罠】だ。

嗚呼、痛ェ。腕が痛ェ。全身が痛ェ。死にたくねェ。
──だけど、負けるより100倍マシだ




(――気に食わねえ)

 猟兵たちの攻撃によりそれなりの傷は負えど、異端の騎士は未だ健在である。
 馬上で剣を振るう騎士に、ヴィクティム・ウィンターミュート(impulse of Arsene・f01172)は憤りを感じていた。

(上位者気取ったテメェが気に食わねえ)

 この世界、ダークセイヴァーはヴァンパイアに支配されている。
 かつて人類を裏切ってヴァンパイアに従い、滅ぼされた後に蘇ったこの騎士は、今や世界を支配する層のひとりだ。
 人間から希望を奪い、虐げ、そして殺す。
 それが自分の義務にして権利であると、そう思っているのだ。

(弱者は嬲っていいと、当然のように思ってるテメェの思考が気に食わねえ)

 無論、騎士の見下す対象には、猟兵であるヴィクティムも含まれていた。
 個々の力を見れば、騎士は猟兵を上回る力を持っているのだから当然だ。
 だがそれが、ヴィクティムの導火線に火を点けたのだ。
 他の猟兵の攻撃を退け、状況を伺う騎士までの距離はおよそ40ヤード。
 ヴィクティムの脚なら、4秒も必要ない。
 心のギアはもう最大だ。
 最初からトップスピードで、ヴィクティムは地を蹴った。

「――上から見下ろしてんじゃねーぞ! クソが!」

 充分な加速に人工筋肉が唸りをあげる。
 数歩手前で飛び、馬上の異端の騎士に向けて蹴りを放った。

「次は貴様か!」

 高速で迫るヴィクティムに対して、騎士は剣を盾にしてその蹴りを防ぐ。
 続いて、弾かれて宙に浮くヴィクティムに、剣を振り下ろした。

(ッ! 危ねえ!)

 ヴィクティムは空中を蹴るように強引に身体を回す。
 空中では回避不能とみて振られた追撃の刃は、腹部を掠めるように通り過ぎた。
 数歩離れたところに着地し、後ろに跳んで距離をとったヴィクティムが見たのは、薔薇の花びらと化していく騎士の剣。

「私の間合いから逃れたつもりか?」

 全ての剣が薔薇の花びらになるころには、騎士の手の上には赤い竜巻ができていた。
 それを、ヴィクティムに向ける。
 赤い奔流はその大きさを増し、ヴィクティムに向けて放たれた。

「う、うおおおぉぉぉッ!」

 薔薇が舞う。
 血の色が視界を埋め尽くしていく。
 飛び交うのはただの花びらではなく、騎士の持つ剣を変換して作られたため破壊の権能を持つ。
 そのひとつひとつが、重く、鋭く、そして速い。
 無数の花びらを避けることができないのは、考えるまでもなく明らかだった。
 ヴィクティムが両腕で頭を庇うように、防御姿勢を取る。
 赤い嵐が、ヴィクティムを飲み込んだ。

(嗚呼、痛ェ)

 腕の装甲が剝げる。
 脇腹が抉られる。
 膝が重くなる。
 花びらが通り過ぎただけだというのに、どうしてこうも傷付くというのか。
 ほんの数秒にすぎない騎士の攻撃は、ヴィクティムには数分にも、数十分にも感じられた。

(腕が痛ェ。全身が痛ェ。死にたくねェ)

 身体から熱が抜けていく。
 命が溢れていく。
 急速に冷えた頭で、異端の騎士の強さを実感した。

「貴様と私では、私のほうが強い。そして強い方が生きて、弱い方が死ぬ。それだけだ」

 騎士が、それが真実で、唯一つの事実だと言い切るかのように述べる。
 このまま攻撃を受け続ければ、きっとそうなるだろうと、ヴィクティムにだって分かっていた。
 だがそれは、ヴィクティムの心を折るには至らなかった。

(だけど――――)

 身体を庇うように前に出した腕の隙間から、自分に手を向ける騎士を見る。
 未だ馬上で嗤うその姿が、なによりもヴィクティムには許せなかった。
 再びその心の灯火が、激しく燃える。

(――――負けるより100倍マシだ!)

 仕掛けたのは、小さな小さな罠。
 ヴィクティムの身体を通り過ぎ、大きく回って騎士の元へ戻っていく花びら。
 それは騎士の手の上で、剣の形に戻っていく。
 全貌が現れると騎士が剣を掴み、構え直す。

「む、これは……!」

 何かが焼けるような、溶けるような音。
 騎士の握る剣が、凄まじい勢いで溶解していた。
 先程、ヴィクティムを襲った花びら。
 その中に、ナノマシンを紛れ込ませたのだ。
 それは、騎士の剣の中で広がり、その全てを溶かさんと強酸を生み出す。
 騎士が剣を手放すと、またたく間にその全ては腐食してダークセイヴァーの地に消えた。
 身体は傷だらけ。
 しかし、心は一向に曲げる気配のないヴィクティムが、顔をあげる。

「0と1だけで測れねえモンもあるんだぜ! ざまあみろ!」

 武器を失った騎士に向けて、中指を立てて吼えた。

成功 🔵​🔵​🔴​

フェム・ポー
アナタがぁ、あの可哀そうなネズミちゃん達やぁ、可哀そうなケダモノちゃん達をぉ、駆り立てていた悪い子ちゃんなのかしらぁ?
こんな苦界(現世)に迷い出てまで悪行を重ねてしまうなんてぇ……とっても可哀そうな子なのねぇ?
……でもぉ、ちゃんとぉ、ちゃあんとフェムが『救って』あげるからぁ、大丈夫、大丈夫よぉ?
うふふ。こんな小さいフェムでは不安かしらぁ? それじゃあ、アナタの全部を受け止めてあげるためにぃ、UCを使って変化するわねぇ?
……この姿になればぁ、フェムの『救い』の光もとても強くなるからぁ、ちゃんとアナタも『救って』あげられるわぁ。(技能:生命力吸収)
もう悪い夢は終わりにしてぇ、お休みなさぁい?




「やれやれ、やってくれるな、猟兵」

 剣を失った騎士が、軍馬を降りる。
 武器のない今、徒歩で戦ったほうが良いと判断したのだろう。
 鎧はところどころ剥がれ、鞘だけを握り、騎士というにはあまりに無様な姿ではあった。
 しかしそれでも、異端の騎士は充分に戦えるという凄みがあった。
 その騎士の前に、小さな妖精が舞い降りる。

「アナタがぁ、あの可哀そうなネズミちゃん達やぁ、可哀そうなケダモノちゃん達をぉ、駆り立てていた悪い子ちゃんなのかしらぁ?」

 フェム・ポー(聖者の残骸・f12138)は両手を広げて、騎士に向けて語りかけた。

「答えるまでもあるまい」

 騎士は手にした鞘を、フェムに向ける。
 異端であったとはいえ、騎士は騎士だ。
 武器を失った状態でも、戦う手段は持っているだろう。
 フェムの問に対して騎士の答えは曖昧ではあったが、それは疑問に意味がないという言葉を含んでいた。

「まぁ。こんな苦界にに迷い出てまで悪行を重ねてしまうなんてぇ……とっても可哀そうな子なのねぇ?」

 フェムが、頬に手を添えて肘を抱き、小さくため息を吐く。
 それはあぐねるというわけでもなく、あきれるということもなく。
 ただ、自分の役割を認識するためのものだった。

「……でもぉ、ちゃんとぉ、ちゃあんとフェムが『救って』あげるからぁ、大丈夫、大丈夫よぉ?」

 フェムは、聖者だ。
 全てを救うことこそ、フェムの使命にして、望み。
 如何なる行いをしようと、異端の騎士さえその対象なのだ。
 騎士を救いたいという、ただ一心でここにいる。
 最も、その救いがどのような形であるかは――――。

「ふふ、その小さな身体で何ができるというのだ」

 騎士が嗤う。
 これは油断や慢心ではなく、強者ゆえの余裕だ。
 生き物であれば、肉体の大きさの差は力の差。
 おそらく、騎士が一歩踏み出ると共にその鞘を振るえば、ただの一瞬で小さなフェムは全身を砕かれ、地に落ちる。
 惨めな死骸を晒すことになるのは、火を見るよりも明らかだ。

「うふふ。こんな小さいフェムでは不安かしらぁ?」

 哀れな子供をすぐにでも抱きしめられるように両手を広げたフェムの身体が、闇の光を帯びていく。
 それと同時に、人間の6分の1ほどの大きさしかないフェアリーであるフェムが、大きく、そう、まるで人間のような大きさに変わった。

「……この姿になればぁ、ちゃんとアナタも『救って』あげられるわぁ」

 確かに、片手で握りつぶせそうな大きさだったフェムが、人の大きさになることでそれは不可能にはなった。
 だが、それでも大きさが変わった程度では、大勢は変わらない。

「笑止!」

 騎士が、手にした鞘を薔薇の花びらへと変えてフェムに向けて放った。
 それは軽やかな見た目に反し、当たれば鈍く、重い。
 巻き起こる赤い奔流に、フェムは包まれた。
 褐色の肌に薔薇の花びらが触れれば、まるで殴られたかのように衝撃が走る。
 腕を、脚を、胸を。
 花びらが打ち付けていく。
 赤い奔流を作り出す風の音に紛れて、ぱきり、と軽い音。
 花びらがぶつかるたびに、みしり、みしりと音を立てていた肋が、折れた音だ。
 大きく露出した腹は内出血で黒ずみ、徐々にその範囲を広げていく。
 だが、その中をフェムは、騎士に向けて歩いていった。

「んあっ! ……いたぁい、いたぁい。う、うふふ、とっても痛いわぁ」

 一歩、また一歩。
 フェムは前へ進んでいく。
 折れた骨が内蔵を傷付け、血が口まで登ってきても、救うべき騎士の元へと歩く。
 その表情は、苦悶と疼痛に、少しの恍惚を含んで――――。

「正気ではないな」

 呆れたように騎士が言い放つ。

「可哀そうなアナタを、う、『救える』ならぁ……正気なんていくらでもぉ、んっ、捨ててあげるわぁ」

 鞘を変換して作り出した花びらを打ち出し終えた頃には、フェムは騎士のすぐ前に。
 その身体は身体中から血を流し、骨は折れ、内蔵も負傷しているのではないかというのが、見て取れた。
 そのボロボロのフェムが、鎧の上から騎士の身体に抱きつく。

「何を――」

 慈愛に満ちた表情で、心で包み込むように。
 ジクリ、ジクリと、闇が騎士の身体に広がる。
 それは存在を損なう闇の光。
 フェムに触れられた騎士の身体が、闇の中に消えていく。
 対照的に、騎士の身体を消せば消すだけ、フェムの傷は癒えていった。

「もう悪い夢は終わりにしてぇ、お休みなさぁい?」

 フェムの心からの微笑みは、まさに聖母のようだった。
 怒りもなく、悲しみもない。
 ただただ、慈しみだけが騎士に向けられている。

「ク、オオォォォォ! 馬鹿な、消える、私が!?」

 騎士はその存在自体を失い、この世界から居なくなった。
 終わったか、と、猟兵の一人が声を上げる。
 空が白みはじめた。
 ねずみの群れに襲われて消滅するはずだった村は救われた。
 森に潜む魔獣を狩り、元凶である異端の騎士を倒したことで、この付近ではしばらく人間が虐げられることはないだろう。
 猟兵たちは、各々の世界に帰っていく。
 いつかこの空のように、ダークセイヴァー全体に夜明けがやってくる日が来ることを祈って。

成功 🔵​🔵​🔴​



最終結果:成功

完成日:2019年02月27日


挿絵イラスト