羅針盤戦争~その御手は黄金なりて
●グリードオーシャン・二の王笏島
オブリビオン・フォーミュラの本拠地の一つ、二の王笏島。その島の大地が真鍮製の蒸気機械で覆われていく。
その機械で覆われた内部、迷宮と化した島の中央で、『二の王笏』カルロス・グリードは小さく笑っていた。
「ふふふ……これで、迷宮の構築は完了だ」
出来上がった迷宮の一室、部屋の壁に手を触れながら、カルロスが満足そうに頷いた。
これだけの短時間で、これだけの規模の迷宮を作り上げることが出来た。トラップも多数仕掛けられた、難攻不落の迷宮を。
「さすがは魔法装置『ダンジョンメーカー』。一層だけの迷宮でも、これほどまで複雑な迷宮を作り上げることが叶うとは」
アルダワ世界にて存在が確認されている、迷宮を作り出す魔法装置「ダンジョンメーカー」。それがカルロスの手元にはあった。その力を以て彼はこうして、巨大な迷宮を作り上げたのだ。
満面の笑みを浮かべながら、カルロスが両腕を広げて天井を見上げる。
「高温の乗騎を噴き出す穴。槍の往復する通路。割れて開く落とし穴。これだけの罠を仕掛けておけば、猟兵どももすぐには我のもとに辿り着けまい」
勝利を確信したかのような面持ちで、カルロスは笑う。高らかに笑う。
「ふふふ……はーっはっはっは……!」
真鍮製のパイプの内部に反響したカルロスの笑い声が、迷宮の内部に広がっていった。
●グリモアベース
「『二の王笏』の本拠地が見つかった。そのことはもう、先輩たちは知っているな」
イミ・ラーティカイネン(夢知らせのユーモレスク・f20847)は腰に手を当てながら、猟兵たちに向かってそう告げた。
先日発見された、オブリビオン・フォーミュラ、カルロス・グリードの本拠地の一つ。『二の王笏』の本拠地は、アルダワ世界から落ちてきたと思しき蒸気機械に溢れた島だ。
その島が、今は広大な迷宮に覆われているらしい。イミがガジェットから投影した映像を見せながら言う。
「今見せたのが、俺がさっき見た『夢』だ。どうやら『二の王笏』は、島全体を蒸気迷宮と化して先輩たちを待ち構えているらしい」
その迷宮はまさしく、魔法学園の地下にあるそれだ。複雑に入り組んだ通路、塞がれた天井、内部は明るいが蒸気の通されたパイプと、トラップで満ちている。
「迷宮の内部は魔法学園の地下迷宮よろしく、蒸気機械によるトラップが多数仕掛けられている。落とし穴、せり出す壁、突き出す槍に柱。それを攻略しなくては、『二の王笏』のところへは辿り着けない」
そう話しながら、イミは小さく舌を打った。まさか「ダンジョンメーカー」を相手が持ち出してくるとは、彼自身思わなかったのだろう。
真剣な表情になる猟兵たちに、イミが鋭い目を向けて言う。
「迷宮を攻略したからと言って安心してはいけないぞ、先輩たち。『二の王笏』は当然のように強敵だ。背部の魔導砲による攻撃、機械じかけの黄金獅子の召喚、罠と連動する蒸気魔導装置。それらが先輩たちより先んじて牙を剥く」
強力なオブリビオンの例に漏れず、このカルロスも猟兵たちに先制攻撃を仕掛けてくるのだ。しかも今回は迷宮に仕掛けられた罠に対処する必要もある。きっとカルロスは、自分のいる大部屋にも多数の罠を仕掛けて待っていることだろう。
猟兵たちの顔を見やりながら、イミがガジェットを回転させた。内部に収められたグリモアが光り、鉄甲船へのポータルが開かれる。
「準備はいいか、先輩たち? いよいよ戦争も中盤戦だ。ここで勝って、オブリビオン・フォーミュラを討ち滅ぼしに行くぞ」
屋守保英
こんにちは、屋守保英です。
オブリビオン・フォーミュラの新しい本拠地が発見されました。
戦争を勝利に導くために、ここで勝利をもぎ取りに行きましょう。
●目標
・七大海嘯『二の王笏』カルロス・グリードの撃破。
●特記事項
このシナリオは戦争シナリオです。
一章のみで構成された特別なシナリオです。
敵は必ず先制攻撃を仕掛けてきます。そのユーベルコードに適切に対処することができれば戦闘を有利に進めることができます。
また、蒸気迷宮の罠に適切に対処することでも、戦闘を有利にすすめることができます。
●戦場・場面
(第1章)
『二の王笏』カルロス・グリードの本拠地の島です。他の島よりも大きく、アルダワから落ちてきた島のように見えます。
魔法装置「ダンジョンメーカー」によって、島全体が「罠だらけの蒸気迷宮」と化しています。島に張り巡らされた罠の数々を攻略し、カルロスを倒す必要があります。
それでは、皆様の力の籠もったプレイングをお待ちしております。
第1章 ボス戦
『『二の王笏』カルロス・グリード』
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POW : 黄金なる王者
【背部に装着された魔導砲】が命中した対象に対し、高威力高命中の【連鎖するダンジョントラップ】を放つ。初撃を外すと次も当たらない。
SPD : ゴールデンレオ
いま戦っている対象に有効な【武装を生やした、機械仕掛けの黄金獅子】(形状は毎回変わる)が召喚される。使い方を理解できれば強い。
WIZ : スチームエンチャント
自身の装備武器に【罠と連動して威力を増す蒸気魔導装置】を搭載し、破壊力を増加する。
👑11
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大豪傑・麗刃
わたしは曲がりなりにも武人なので、解決方法はひとつ。
斬ればよい。
右手サムライブレイド、左手脇差(バスタードソード)の二刀流を構えながら全方位に集中、道中は常に聞き耳をたて、トラップを見切りあるいは聞き切り、壁だろうと槍だろうと飛んで来るのを察知したらカウンターの要領で斬る。高温の乗騎とやらも斬る。落とし穴は……斬る(え?壁に刀刺して落ちるのを防ぐ感じ?)
斬り切れなければ全身を覆うオーラでオーラ防御で対応。
カルロス・グリード(以下ボス)との戦闘も一緒。
魔弾砲とやらが飛んで来たら見切ってカウンターの要領で斬る。ダンジョントラップが飛んできても斬る。で、あとは敵のふところに飛び込み本体を斬る流れで。
リーヴァルディ・カーライル
…これが異世界アルダワの蒸気迷宮
確かに機械罠の踏破は不慣れだけど、
太陽の光を遮ったのは失策だったわね?
…お陰で何の憂いも無く、全力が出せるというもの
"写し身の呪詛"を乱れ撃ち無数の存在感のある残像を囮に、
迷宮の罠や敵UCの攻撃を受け流して闇に紛れ、
罠の配置や敵の攻撃を戦闘知識に加える
…本当に手を変え品を変え、良くこれだけの罠を用意したものね
…だけど、大凡の配置は既に見切った
逃げ回るのはこれで終わり。今度は此方の番よ
事前に暗視した罠等を避けつつ高速の早業で切り込み、
数多の魂を降霊して強化した大鎌を乱れ撃ち、
同時に限界突破した血の魔力を溜めたUCを放ち、
罠ごと敵をなぎ払う闇属性の2回攻撃を行う
エル・クーゴー
●SPD
躯体番号L-95
当機はアルダワ系迷宮の解析に高い適性を発揮します
●対先制
・黄金獅子相手に、飛行用バーニアを用いた空中機動で回避主体の防戦(推力移動+空中戦)
・周辺風景を取り込み生成した電子迷彩を体表に塗布(撮影+情報収集+迷彩)、回避率増を期す
・アームドフォートから繰り出す砲爆撃での牽制(砲撃+爆撃+威嚇射撃)、ブラスターから放つレーザーでの足場切断による黄金獅子の機動阻害(レーザー射撃+切断)も展開する
●反撃
・コード発動、迷宮自体を強力に【ハッキング】
・罠の配置を網羅し、黄金獅子とカルロス相手に発動させつつ、【索敵】したカルロスの位置へホーミング弾を送り込む(スナイパー+誘導弾)
朱鷺透・小枝子
…罠というのは、基本的に何かが作動して発動するもの。
オーラ防御、蒸気や槍を防ぐシールドを展開、スラスターを起動し、推力移動。
空中浮遊で周囲の物に触れず、動体視力で障害物を視認し避けながら高速で迷宮内を移動、突破!そのまま騎兵刀で切りかかる!
ちい、敵兵器か!
シールドを展開している以上、それを貫通する武装を持った機械が相手だろう。だが、アルダワの兵器ならば相手は蒸気機械!
神器拳銃を手にとり、天候操作。蒸気の熱を取り除き熱を奪い機能不全に陥らせる!
『3番目の加速機』獅子に加速機を生やし、操縦。
敵はあいつだ!機械仕掛けの獅子よ、敵を穿て、壊せ!!
瞬間思考力で獅子と連携し、隙をついて貫通攻撃を叩き込む!
イコル・アダマンティウム
「ダンジョン……アトラクション?」
ちょっと、楽しそう
格闘特化の愛機、キャバリアに搭乗して出撃する、ね
【迷宮攻略(暴力)】
・高温蒸気
「わ、びっくり」
機体の装甲で耐える
・落とし穴
「おー……」
穴の側面を蹴って跳ぶ、ね
これで、通路に復帰する
<ジャンプ>
・せり出す壁
「え、と……急いでる、から」
<ダッシュ>で通過
・突き出す槍、柱
「ん……これで、いい」
掴んで折りながら進む
あ……柱は、持ってくね
<グラップル>
他にも罠があれば
殴って解決する、よ
【カルロス戦】
魔導砲が撃たれたら
迷宮で拾った柱を投げて防ぐ、ね
<見切り><武器受け><地形の利用?>
投げるのと同時に距離を詰め
殴る
「砕く」
「真鍮は……黄金じゃない、よ?」
トリテレイア・ゼロナイン
此度はアルダワ迷宮の力…
かの王は己が財と呼ぶでしょうが、一体どれ程の力を蓄えているのか
センサーでの●情報収集で周囲の地形の振動などから装置の稼働を●見切り、脚部スラスターの●推力移動で罠から退避しつつカルロスへ接近
ここまで辿り着いた以上、拝謁をお許しして頂ければ幸いです
二の王笏、騎士として折らせて頂きます
アルダワ迷宮ならある筈の周囲の蒸気パイプを格納銃器の●スナイパー射撃で撃ち抜き破壊工作、蒸気の●目潰しで魔導砲の狙いを反らし回避
蒸気に紛れUCを使用
マルチセンサーの動体センサーで敵位置を確認しつつ
機械妖精を密かに●操縦し魔導砲に取り付かせ爆弾を設置し起爆
すかさず接近し大盾で殴打
ナイ・デス
【念動力】で浮遊して、光を噴いて【推力移動】
落とし穴や接触起動の罠はこれでスルー
【第六感】で罠を【見切り】避けたり
【覚悟激痛耐性継戦能力】避けられないで蒸気に火傷や槍が刺さったりした状態で、何とかという状態装って敵のところへ
油断しました……けれど、まだ、戦えます……!
先制攻撃にぐえーとやられ
【だまし討ち】私は、死なない。私は、死ねない
『いつか壊れるその日まで』再生し、不意打ちを
全身から光を放つ【範囲攻撃】
【生命力吸収】する「聖なる光」光速のそれで奪力させたところへ一気に近付いて
「ダイウルゴス」の彫像、一部召喚し腕と変形合体させて【重量攻撃吹き飛ばし】殴り飛ばして、罠へ!
黒玻璃・ミコ
※美少女形態
◆行動
何処となく黄金の魔王のアレに似てますね
でも暗黒の勇者たる私を止められますか?
魔導砲は確かに厄介です
五感と第六感を過剰分泌した脳内麻薬により研ぎ澄ませ
痛覚を麻痺させて限界を超えた動きでようやく防げるかどうか
ですがブラックタールである私にとって人の姿とは仮初めのもの
重要な臓器は位置をずらした上で心理分析し
敢えて急所に見える部位へと攻撃を誘導しましょう
本命は【黒竜の逆襲】によるカウンター
先程この場所に血肉と共に散ったのは皮膚が爛れる猛毒
しかしその本質は別世界ではロケット燃料として使われるヒドラジン
辺りの蒸気魔導装置が吸い込むとどうなるでしょうかね?
※他猟兵との連携、アドリブ歓迎
マリア・フォルトゥナーテ
「ふむ!罠は色んな種類があるようですが、いずれにせよ発生の際には必ず何かしらの前兆があるものです。歯車の回る音、ピンが外れる音、蒸気の押し寄せる音。それらは、壁や地面につけた手足から、私の聴勁により、事前に察知することができるでしょう!」
そして、今回の敵は強い道具に頼るばかりで、本人の強さはそこまでではないのではないかと思います。
ならば、鍛え上げた中国拳法で対処が叶うはず。そこまで鋭くない突きを繰り出し続けて相手の油断を誘い、敵の胸元に触れた瞬間、踏み込んだ震脚によって地から返ってきたエネルギーを足、腰、腹筋、肩、掌へと通し、相手の心臓を止めるべく、最大の衝撃を送り込みます。
●黄金郷
陽の光が届かない迷宮の中。魔法の灯りが照らす入り口の大部屋で、リーヴァルディ・カーライル(ダンピールの黒騎士・f01841)は深く息を吐きだした。
「……これが異世界アルダワの蒸気迷宮」
「ダンジョン……アトラクション? ちょっと、楽しそう」
リーヴァルディの言葉に頷いて、キャバリアのコクピットから真鍮製の壁を興味深そうに見ながら、イコル・アダマンティウム(ノーバレッツ・f30109)は赤い瞳を密かに輝かせる。確かにアトラクションらしいと言えば、そうとも言えそうだ。一歩間違えれば命を落とす危険なアトラクションだが。
「此度はアルダワ迷宮の力……かの王は己が財と呼ぶでしょうが、一体どれ程の力を蓄えているのか」
トリテレイア・ゼロナイン(紛い物の機械騎士・f04141)は迷宮の最奥部にいるカルロス・グリードの力に思いを馳せる。これだけの迷宮を作り出す力だ、いったいどこまで強大になっているのか。
黒玻璃・ミコ(屠竜の魔女・f00148)も普段のスライムらしい姿ではなく、人間の少女らしい体になりながら迷宮の壁を撫でた。
「見れば見るほど魔法学園地下の迷宮ですね。罠もいっぱい仕掛けられているのでしょう」
そう、アルダワ魔法学園の地下に存在する迷宮に、この迷宮はよく似ている。きっと多数の罠が猟兵たちを待ち構えていることだろう。
ミコの言葉を聞いたマリア・フォルトゥナーテ(何かを包んだ聖躯・f18077)が、しっかと拳を胸の前で合わせた。
「ふむ! 罠は色んな種類があるようですが、いずれにせよ発生の際には必ず何かしらの前兆があるものです」
「そうだな……罠というのは、基本的に何かが作動して発動するもの」
朱鷺透・小枝子(亡国の戦塵・f29924)もマリアの言葉に頷きながら、大部屋の床を蹴って宙に浮かぶ。罠というのは彼女の言う通り、何かきっかけとなる作動があって発動するものだ。常に作動するギミックも然り。
そのトラップやギミックをどう乗り越えていくか、何人かの猟兵の答えは単純だった。
「ふむ。わたしは曲がりなりにも武人なので、解決方法はひとつ。斬ればよい」
「単純明快ですね。それに、床にある罠や、触って起動する罠は、浮いて回避すれば、いいと思います」
大豪傑・麗刃(変態武人・f01156)が至極あっさりとそう言い放てば、ナイ・デス(本体不明のヤドリガミ・f05727)も頷いて言葉を継ぐ。
彼らの言うとおりだ。大掛かりなトラップを構成する柱や槍は斬ったり折ったりで効果をなくせばいい。地面や床、天井のトラップのスイッチに触れないよう、空中を浮遊して超えればいい。その回答に、他の猟兵たちも苦笑しながら同意する。
さらには、エル・クーゴー(躯体番号L-95・f04770)やトリテレイアのように探知能力に優れた猟兵もいるのだ。
「躯体番号L-95。当機はアルダワ系迷宮の解析に高い適性を発揮します」
これだけ手数が揃っていれば、迷宮自体の踏破は容易というものだ。
事実、トリテレイアとエルが先頭に立って迷宮内をサーチし、その後ろにつく麗刃、イコルがギミックやトラップを破壊、さらにはナイや小枝子が空中浮遊しながら先行して、トラップを安全にスルーしながら先へと進むことで、至極安全に迷宮内を進むことが出来ていた。
今もまたトリテレイアの瞳が光り、新たなギミックを察知する。
「ふむ、この先に定期的に作動するギミックを感知いたしました。エル様の方では?」
「同様のギミックを感知しております。慎重な行動を推奨いたします」
エルに問いかければ、彼女も頷いて。小枝子がエルへと視線を向ける。
「定期的に作動する……柱や槍などが突き出る形だな?」
「そのように推察します」
その問いかけにエルは頷いた。事実、少し先に進めば、確かに柱が突き出すギミックの駆動音が聞こえてきた。
「なら、麗刃ちゃんの出番だな」
「僕も、いる、よー」
そう言いながら前に出たのは麗刃とイコルのキャバリアだ。柱が最大まで突き出たタイミングを見極めて。
「ぬんっ」
「えいっ」
刃を振るい、柱を掴む。根本から切断され、あるいは折られた柱。それをすべての柱に対して行えば、この区画は丸い穴が等間隔で空いているだけの床だ。
「これで問題ないだろう」
「あ、斬った柱、ちょうだい……持っていくから……」
刃を収めた麗刃にイコルが声をかけた。どうやらこの柱を持っていき、戦闘に活用するつもりらしい。
その力任せだが確実な方法に、リーヴァルディが肩をすくめた。
「強引だけれど、人数が多いからこの方が確実ね」
「おかげで力を温存して進むことができそうです」
ミコもリーヴァルディに頷きながら、猟兵たちの後についていく。と、進んでいるうちにナイが声を上げた。
「はっ……その先で、落とし穴が開きそうです」
「なるほど、確かに扉が開くような音がしました。皆さん、落ちないように気をつけて!」
ナイの言葉に同意したマリアも耳を澄ませた。なるほど、言われてみれば蒸気の噴き出す音に加えて板が滑るような音がする。スイッチによって作動するものだけではなく、定期的に開いたり閉じたりする落とし穴もあるようだ。
その落とし穴をタイミングよく越えて、トラップを無効化してどんどん進めば迷宮の最深部近くまで到達する猟兵たちだ。
「むむっ、そろそろ迷宮の最深部でしょうか」
「確かに、この先に広い部屋が見える。そこが最深部だろう」
マリアが言葉を零せば、麗刃も頷いた。慎重に歩を進めれば、確かに広い部屋が現れた。その部屋の中心で、『二の王笏』カルロス・グリードがこちらを睨めつけている。
「むっ、よもやここまでたどり着いたか、猟兵! だがここまで来たのが貴様らの運の尽き、我が力を持ってこの迷宮を貴様らの墓標としてやる!」
背中の魔導砲から蒸気を吐き出しながら、力強く宣言するカルロス。彼に相対しながら、猟兵たちも気炎を吐いた。
「ここまで辿り着いた以上、拝謁をお許しして頂ければ幸いです。二の王笏、騎士として折らせて頂きます」
「確かに機械罠の踏破は不慣れだけど、太陽の光を遮ったのは失策だったわね? お陰で何の憂いも無く、全力が出せるというもの」
「何処となく黄金の魔王のアレに似てますね。でも暗黒の勇者たる私を止められますか?」
トリテレイアが、リーヴァルディが、ミコが、不敵に笑い、あるいは敬意を持って対峙して。
「私は、死にません。墓標を立てられるのは、貴方です」
「全部殴って解決する、よ」
ナイが、イコルが、淡々と言葉を吐きながら拳を握りしめ。
「その蒸気機械ごと、全て破壊して差し上げます」
マリアが構えを取りながら宣言する。ここに、戦いの火蓋が切って落とされた。
●黄金比
カルロスの手に握られた王笏が、唐突に真っ白な蒸気を噴き出した。
「よかろう、我が蒸気魔導装置の力をその目に焼き付けてくれる。まずは――貴様だ!」
「っ……!」
蒸気魔導装置の取り付けられた王笏が振り上げられる。そのままカルロスが矛先を向けるのは、ナイだ。
腕をクロスさせて防御態勢を取るナイに、王笏が振り下ろされた。その凄まじい威力の一撃に、ナイの身体が宙を舞い、床に落ち、そこに設置されていた巨大なトラバサミに身体が挟まれた。
「ナイ様!」
全身から血を噴き出すナイに、小枝子が悲痛な声を飛ばす。だが、ナイはまだ生きていた。力任せにトラバサミをこじ開け、全身から光を放ちながら床に降り立つ。
「油断しました……けれど、まだ、戦えます……!」
「何っ!?」
彼が両足で床を踏む姿に、カルロスが目を見開く。確かに一撃は入れたはずだ。ああして負傷もしている。しかしナイの身体は、みるみるうちに傷が塞がっていっていた。
「私は、死なない。私は、死ねない――!!」
まばゆい光を全身から放ちながらナイが突撃した。生命力を吸収する聖なる光を発し、ダイウルゴスの彫像の腕を召喚。腕と変形合体させれば彼の腕が竜のそれに変わる。
「ぐっ……!」
振るわれた重量級の一撃に、カルロスの身体が僅かに押し込まれた。その拍子に彼の足が床のスイッチを踏み、高温の蒸気がそこから噴き出した。
「好機と判断します」
蒸気に怯んだカルロスに、エルが射撃を開始した。だが。
「舐めるなっ!」
蒸気の罠から抜け出したカルロスが王笏を振る。虚空から巨大な、機械じかけの黄金獅子が姿を現した。小枝子が軽く舌を打つ。
「ちい、敵兵器か!」
「黄金獅子の召喚を確認。迎撃します」
黄金獅子が攻撃対象に定めたのは、小枝子とエルの二人だ。二人のところに牙を剥きながら一直線に向かってくる黄金獅子。その牙から逃れるように、エルと小枝子は空中へと退避する。
「おのれ、この迷宮内でも空に逃げるとは!」
その行動にカルロスは歯噛みした。飛びかかるにしても、空中にいる相手に食らいつくには獅子では分が悪い。ガトリング砲も搭載されているが、あの速度で飛び回る相手だ。
黄金獅子が背中からガトリング砲を撃ち、その弾丸から飛んで逃れながら、小枝子が神器拳銃を握る。
「アルダワの兵器ならば相手は蒸気機械! ならばこれで!」
拳銃の引き金を引けば、室内だと言うのに雲が立ち込め、雨が降り出す。みるみるうちに黄金獅子が動きを鈍らせた。
「対象の沈静化を確認しました」
「おのれ、気温を下げて来たか!」
エルの言葉に、カルロスが目を見開いた。蒸気で動作する機械は低温に弱い。蒸気の熱が奪われてしまうからだ。これでは適切な行動が出来ない。
動きを止めた黄金獅子に、小枝子が飛び乗る。その背中に手を当てながら、彼女はエルに呼びかけた。
「これで行ける! エル様、合わせろ! 機械仕掛けの獅子よ、敵を穿て、壊せ!!」
「承知しました、コード発動」
「なんっ!?」
直後、カルロスは驚きに目を見張った。黄金獅子の背中にスラスターが生え、低温で動きを止めていたはずの獅子が動き出したのだ。敵の方ではなく、自分の方に目を向けて歯を剥き出しながら。
同時にエルの瞳が輝く。その光が部屋全体に広がり、カルロスの姿も捉えた。そちらへの対処を考える間もなく、小枝子に操られた黄金獅子が飛びかかってくる。
「トラップ位置捕捉、索敵対象ロックオン。ホーミング弾、発射します」
「よし、これなら! カルロス、覚悟!」
「ぐ
……!!」
黄金獅子に噛みつかれ、エルのはなったホーミング弾に足元から貫かれ、カルロスは口から血の混じったつばを吐き出した。
●黄金律
猟兵有利の状況で戦闘が進んでいく中、カルロスが憎らし気な瞳を向けてくる。その背中の魔導砲が、勢いよく蒸気を吸い込み始めた。
「舐めるな、貴様ら!!」
放たれる、魔導砲からの砲弾。蒸気と魔法の力を以て多数放たれる砲弾が、猟兵たちへと襲いかかった。
「っく……!」
「わわっ!?」
ミコとマリアが弾を避けきれずに攻撃を受け、同時に天井に仕込まれた蒸気マシンガンからの銃弾に穿たれた。二人の血が床に飛び散る。
その中、トリテレイアがそのマシンガンに蒸気を送り込んでいるパイプを見た。そこめがけて、彼は肩に仕込まれた銃火器を向ける。
「そこですっ!」
「何っ!?」
狙いを付けられた場所にカルロスが目を見張った。今まさに大量の蒸気をやり取りしているパイプ。そこに銃弾を受けたら。
果たして、穿たれたパイプから大量の蒸気が噴き出す。噴き出した蒸気が猟兵の、果てはカルロスの姿を覆い隠していった。
そんな中でも、麗刃とイコルは的確に砲弾の位置を見切り、己の手に持つ刃で、道中で確保した真鍮製の柱で、砲弾を受け止め、切り裂いた。
「ふっ!」
「むんっ!」
的確に攻撃を捌き切った二人。と、イコルが手に握った柱を思い切り振りかぶった。
「えーい」
「な……くっ!」
砲弾の飛んできた方、カルロスがいるところに向かって柱を投げる。予想外の物が飛んできたことに驚いたカルロスが、何とかそれを避ける、が。
その時には既に、イコルのキャバリア「Last One」がカルロスの眼前に迫っていた。
「砕く」
「っぐ
……!!」
強力な、強大な拳での一撃。カルロスの身体が大きく吹き飛ばされた。
「追い討ちです」
「ぐはっ……っ、なんだと!?」
ついで、後方に回り込んでいた麗刃が刀を振るう。背中を切られたカルロスが再び前方に身体を振るが、同時に彼の背中、魔導砲が爆発を起こした。
憎々しげに、煙を上げる背中の魔導砲を見やるカルロスだ。
「おのれ、我の魔導砲を狙ってくるとは!」
「さて、なんのことやら。妖精の悪戯やもしれませんね?」
「ぐ……!」
そんな中耳に聞こえるトリテレイアの声、そしてモーター音。巨大な盾が迫ってきたかと思えば、それによるシールドバッシュでカルロスの身体が吹き飛ばされた。
「そこです、せぇいっ!」
「ぐわっ!?」
迎え撃つのはマリアだ。カルロスが飛んでくるのに合わせて床を踏み込み、その反動を拳にまで伝えて勁を送り込む。
衝撃によってカルロスの身体がまたも飛んだ。なんとか着地したカルロスが、衝撃に頭を振る。
「く、く……」
「おっと、触れましたね」
と、そこで響くのはミコの声だ。見ればカルロスの足元、毒々しい色をした液体が見える。そして同時に感じるのは強烈な刺激臭だ。
「先程その場所に、私の血肉と共に散ったのは皮膚が爛れる猛毒……ほら、もうすぐ」
ミコが図ったように言えば、カルロスの右足の下で爆発が起こった。同時に足が吹き飛ばされ、強烈な痛みが彼を襲う。
「がっ!?」
いや、その場所だけではない。この部屋のあちこち、天井でも床でも。あらゆる所で爆発音が起こっていた。
「な、なんですか!?」
「この室内の複数箇所で小規模な爆発が多数発生。スキャン開始……」
ナイが戸惑いの声を上げれば、エルが部屋の内部の状況を精査していく。そして、彼女の口が開かれた。
「蒸気によって動作するトラップが、全て動作不良を起こしています」
「な
……!?」
その言葉に、驚愕の声を漏らしたのはカルロスだけではない。
まさか、部屋の中のトラップ、その全てが、動作不良を起こすだなど。
と、そこで声を上げたのはリーヴァルディだった。黒い大鎌を手に持ちながら、悠然と進む。
「なるほど、この鼻をつく匂いは気化性の毒なのね。それを吸い込んだ蒸気機械が、内部の水分と反応して爆発、無力化……予期せぬ形で無効化出来たようね」
「なん、だと
……!?」
彼女の告げた言葉に、カルロスが大きく目を見開いた。まさか、そんな形でトラップを、あらゆるトラップを無力化されたなどと。
信じられないと言いたげな彼に、リーヴァルディは静かに告げた。
「本当に手を変え品を変え、良くこれだけの罠を用意したものね。だけど、逃げ回るのはこれで終わり。今度は此方の番よ」
刹那、彼女の姿がかき消える。瞬時にカルロスの眼前に現れた彼女が大鎌を高速で振り回した。みるみるうちに、カルロスの身体が切り刻まれていく。
「ぐ、がっ、ぐ――!!」
「今よ、合わせて!」
最早障害となるものは一切ない。猟兵たちは一斉に、カルロスを滅するべく武器を、拳を振るった。
「行きますよ、はぁぁっ!」
「黒き混沌より目覚めなさい、第捌の竜よ!」
「もう一撃、加えます!」
「うぉぉぉっ!!」
「もう一度、砕く……!」
「さらに、斬る!」
「これで仕舞いだ、せやぁぁっ!」
「破壊を遂行します」
全方位から立て続けに攻撃を受け、最早カルロスの身体は満身創痍。力なく床に倒れ込んだカルロスの身体を、リーヴァルディの脚が踏んだ。
「ぐ、は――」
「ここで貴方はおしまいよ……眠りなさい」
振り下ろされた大鎌の刃によって、カルロスの首が胴と切り離された。それに伴い、塵となって消滅していく彼の身体。
蒸気も晴れ、毒による刺激臭もすっかり消え、静寂を取り戻した迷宮の中で、リーヴァルディが深くため息をついた。
「ふう……さて、またあの迷宮を引き返さないといけないのかしら」
「いえ、見て下さい。カルロスが倒れたからか……」
彼女の言葉を継ぐように、マリアが天井を指差した。そこには、天井から漏れる光がある。ひび割れたように、天井が割れて、だんだんと迷宮が崩れていっていた。
「迷宮が……崩れていく?」
「これなら、帰還は容易ですね」
ナイが呆気に取られるように空を見上げ、トリテレイアが安堵の息を吐いた。この場にはキャバリア持ちも、ウォーマシンもいる。迷宮の残骸を越えて船まで戻ることも容易に出来るだろう。
猟兵たちが帰還の準備をする中で、イコルがふと、目を細めて言った。
「真鍮は……黄金じゃない、よ?」
大成功
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