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Snowman Adventure!

#アルダワ魔法学園 #猟書家の侵攻 #猟書家 #魔女猫グリマルキン #竜騎士

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●オーロラ色の竜の叫び
 アルダワ魔法学園からは遥か西。
 王国連合の西、商会同盟の北に位置する竜神山脈で、その異変は起きていた。

「我が魔術の力、見せてあげますにゃ」
『ああ……あああ、そんな――』
 天に聳える峰々の狭間。雪深い峡谷の底で、遊色きらめく鱗を持つ竜が苦悶にのたうつ。
『まさか、私が後れをとるなんて……っ』
 顔を覆う仮面から逃れようと、オーロラ色の竜は前足を懸命に掻く。が、真珠色の爪が目的を達することはなく、むしろ長い鬣に覆われた己が首筋に無数の傷を刻むばかり。
「ふっふっふ。蒸気機械を用いる人類に与した報いですにゃ」
 雪上で空しく暴れる優美な竜を見上げてほくそ笑むのは、かつてはケットシーであり、今はオブリビオンと化した魔女猫グリマルキン。
 遠い昔、魔女に仕え魔術の研鑽に生涯を捧げたグリマルキンは蒸気機械を憎悪し、強大な竜の力での文明災魔化を狙う者。
「さぁ、さっさと支配されるのですにゃ!」
 魔女猫が、嗤う。
 大魔王の仮面を被せられたオーロラ色の竜が間もなく屈することを確信して、嗤う。

『    、だ、れ、か!』
 助けを求める叫びは、峡谷に虚しくこだまする――だけではなかった。

●雪だるまの大冒険
「誰か、誰か、誰かドラゴン様を助けてほしいみゃ。お願いしますみゃ。ゆっくりしてる暇はないんですみゃ」
「落ち着いてちょうだいな、可愛らしいケットシーの竜騎士ちゃん」
 勧めた椅子にも座らず、温かな湯気を立ち昇らせるマグカップにも目を呉れず、今にもテーブルに乗り上げそうな勢いの小柄な竜騎士を、ハーモニック・ロマンティカ(職業プリンセス・f30645)はひょいと抱き上げ、うつくしく微笑む。
「というわけで、皆にはちょっと竜神山脈まで行って欲しいのよ」
 はい? とハーモニックが告げた内容に首を傾げる者が現れても、さもありなんだ。
 ハーモニックは事も無げに言ったが、内容はとんだ無茶ぶりである。
 だって竜神山脈は危険地帯。しかも目的地は雪深い峡谷の底であることは既に判明している。
 うっかり足を踏み外せば、雪だるまになってしまうの待ったなし。
 もちろん、雪だるま化しても最後まで安全に転がり切れる保証はない。
「……、だいじょうぶだって。ね?」
 向けられる胡乱な視線に気付いたのか、ことさら愛想よくハーモニックは此処までの凡そをまとめはじめた。

 魔女猫グリマルキンに大魔王の仮面を被せられ、支配されそうになっているオーロラ色の竜がいるのは、竜神山脈のとある雪深い峡谷。
 生憎と予知で正確な居場所を割り出すことは出来なかったが、とある竜騎士に決死の竜言語による叫びが届いた。
 その竜騎士こそ、ハーモニックが抱き上げているケットシーの竜騎士シャルマー。
 少女といって差し支えない年頃の、駆け出し竜騎士であるシャルマーだが、竜言語には長けており、渓谷の底の竜との会話が可能。
 つまりシャルマーを介してオーロラ色の竜に峡谷の詳細情報を聞くことが出来るので、猟兵たちも目的地にたどり着ける。
 ただ未熟なシャルマーは興奮と高揚と焦りに落ち着きを失っているのが困り物。

「ああ、そんな不安そうな顔をしないで。この子だってきっとやれば出来る子よ!」
 保証の欠片もない太鼓判をどんと押し、ハーモニックはシャルマーの三毛の毛並の頭を撫で、「任せたわよ」とその身を猟兵たちへ押しつけ――もとい、託す。
「安心してちょうだい。転送先から目的地はそこまで離れてないと思うし。大変なのは、雪山を如何に下るかってことくらいだから」
 新雪は足を取るわよね、とか、うっかり林や森に入っちゃったら迷子になっちゃうかも、とか、斜面も急だとほぼ直角よね、とか、とんでもないことをつらつら宣ったハーモニックは、だが最後はやっぱりにっこりと言う。
 要は滑り降りればいいんだから、問題ないわ!――と。
「反論は受け付けないわよ。さあさ、転送転送。あ、そうそう。竜騎士さんだったらシャルマーちゃんを介さなくても竜との遠隔会話が可能だからネ!」
 竜騎士ズルい、と言う事なかれ。
 オーロラ色の竜を助けたいという想いは、シャルマーも一緒。同じ志抱く者の言葉なら、きっとシャルマーに届く。

 降り立つ地は、方向感覚も平衡感覚も危うい一面の銀世界。
 待ち受けるのは、進む事さえ躊躇う急斜面。
 されど恐れることなかれ。どんな危険な冒険も、楽しんだ者勝ちなのだ!


七凪臣
 お世話になります、七凪です。
 猟書家・魔女猫グリマルキン戦を、お届けに参上しました。

●シナリオ傾向
 コメディ路線。
 冬を楽しみたい! そんな感じで。

●シナリオの流れ
 【第一章】冒険。
 …雪深い渓谷の踏破。雪だるま待ったなし?
 【第二章】ボス戦。
 …魔女猫グリマルキン戦。詳細は導入部を追記します。
 ※このシナリオは【二章構成】となります。

●プレイングボーナス(全章共通)
 竜騎士の助力を得る/ドラゴンを鼓舞する。

●プレイング受付・シナリオ進行状況について
 第一章は導入部の追記はありません。OP公開と同時にプレイング受付を開始致します。
 プレイング受付締切や第二章に関しては、個別ページの【運営中シナリオ】にてご案内致します。
 システム的にプレイング送信可能であってもプレイング受付は締め切っている可能性がありますので、一度【運営中シナリオ】をご確認頂けると幸いです。

●第一章について
 上記の通り、導入部追記はありません。
 雪深い渓谷を如何に素早く(安全に)踏破できるか――つまり、滑り切れる(転がり切れる)かお楽しみ下さい。
 焦って気が急いている竜騎士(ケットシーのシャルマー)を落ち着かせ情報を得ることが出来たら、ご希望に沿うルート情報をゲットできます。
(最速で向かいたい、だと「めちゃくちゃ急こう配の直線ルート」だとか。なるべく安全で、だと「なだらかめな迂回ルート』など。敢えてチャレンジャーなルートを選択するのも楽しいかもしれません?)

●その他
 採用人数は各章クリアー最小数~6名様くらいまで。
 挑戦者数が6名以内でも、全員採用はお約束しておりません。
 お一人様あたりの文字数は800~1000字程度。
 受付期間外に頂いたプレイングは基本的にお返し致します。

 皆様のご参加、心よりお待ちしております。
 今年も宜しくお願い申し上げます。
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第1章 冒険 『竜神山脈を踏破せよ』

POW   :    火竜の如き力で踏破する/熱意を持って竜騎士に協力を求める

SPD   :    風竜の如き俊敏さで踏破する/巧みな言葉で竜騎士に協力させる

WIZ   :    賢竜の如き智慧で踏破する/竜騎士に協力することの利を説く

👑7
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

榎本・英
寒い場所は得意ではない。
雪が降り積もっているのなら尚更ね。
冬の仲間を服の中に入れておこう。
彼らはとても暖かい。

しかし、猫か。
いや、ケットシーだったね。失礼。
焦っても仕方がないよ。
しっかりと準備を整えて向かわなければ失敗をしてしまう。

私は準備万端だよ。
なるべくなら転げても痛くない場所を通りたいね。
君は知っているかい?

嗚呼。この雪の中を滑れば良いのだろう。
大丈夫さ。こう見えて雪には慣れてい――

踏み外してしまった。
新雪は何があるか分からないね。

嗚呼。寒い。
ふわもこのおかげで身は暖かいが
雪だるまにでもなった気分だ。

妙な心地に笑いが漏れてしまうよ。

私は雪だるま、私は雪だるま。
嗚呼。楽しいね。



●⛄である
 真実は白日の下に晒される――とは、小説(ものがたり)の中に出て来がちなフレーズだ。
 つまり推理小説家である榎本・英(人である・f22898)にとって、白日とは縁深いもの。だが、白は白でも雪白の世界は頂けない。
「――、ね」
 寒い場所が得手ではない――なかでも雪が降り積もるような場所は尚更に――英は、ここぞとばかりに連れて来たふわふわでもこもこの愉快な仲間達(通称、冬の仲間)を忍ばせた懐のうちから伸べかけた手を引っ込める。
「あわわ、あわわ。ドラゴン様、ドラゴン様っ」
 つい『猫』と呼びそうになってしまったが、見渡す限り一面の銀世界で丸くもならず挙動不審にうろついているのはケットシーの少女だ。
 右往左往している当人の耳には届いていないだろうが、「失礼」と咳払いで調子を整え直した英は、防寒具の釦を襟元まできっちりと留め、シャルマーへ歩み寄る。
「焦っても仕方がないよ」
「みゃう!?」
 新雪に足音が吸い込まれたからか、頭上からかかった声に小さな竜騎士が大きく跳ねた。
 知らぬ間に背後に胡瓜を置かれた猫のような反応に、英はよく共に居る三毛猫のことを思い出して口元を弛める。
「驚かせてしまって申し訳ない。しかししっかりと準備を整えて向かわなければ失敗してしまう。焦っていても仕方がないよ」
 まずはそっと両肩を捉えた。それから膝をついて、先ほどと同じ句を英は繰り返す。
 嚙んで含めるように言い聞かされた経験則に、琥珀色の瞳が大きく見開き、ピンク色の鼻先からふしゅりと大きな息が白く漏れる。
「そ、そうみゃうね」
「良い子だ」
 褒められて、シャルマーの頬に薄紅が差す。悪くない傾向だと観て取った英は、すかさず尋ねた。
「私はなるべくなら転げても痛くない場所を通りたいのだけれど、君は知っているかい?」
「え、あ、ちょっと待ってみゃ。今、ドラゴン様に聞いてみるみゃ……」
 落ち着きない子供は、方向性さえ示すことが出来たら、意外に流れに乗ってくれるもの。筋書通りの展開に、英は何やらぶつぶつ唱えるシャルマーを暫し見守る――と。
『 ** 、**、●◇△*』
「ドラゴン様っ! あっと、えと、西へ西へと向かいながら進めば、岩場や森はないってことみゃ!」
 不意に聞こえた不可思議な風の音に英が首を傾げるのと、シャルマーが顏を輝かせたのがほぼ同時。どうやら件の音色がオーロラ色の竜の応えだったらしい。
「なるほど、西へ西へね。ありがとう」
「大丈夫みゃか? こわくないみゃ??」
 さっそく出立しようとする英を、シャルマーが不安そうに見上げる。ドラゴン様は助けたいが、英のことも心配なようだ。
 ますます懐いた猫を思わすシャルマーの仕草に英は、今度は目元を緩める。
「嗚呼。この雪の中を滑れば良いのだろう?」
 大丈夫さ、と英は口角を上げた。
「こう見えても雪には慣れて――」
「みゃあああああみゅううううみゃああああ!?」
 口角を上げたまま踏み出し、転げ出した。
 新雪は何があるか分からないのをうっかり失念していた英、始めこそ不規則な駆け足で耐えたが、ほんの数歩先からは文字通りごろんごろん。見送るシャルマーが慌てふためく様も、あっという間に遠退いていく。
「嗚呼。寒い」
 ごろごろ転がりながら、英は「これだから」と内心で独り言ちる。まとわりついてくる雪は冷たいし、凍った風に晒された頬は今にも切れてしまいそう。
 でも『大丈夫さ』と請け負ったのに嘘はない。懐の中のふわもこ達は暖かく、英が凍えてしまわないよう温めてくれる。
 とくれば、後は思い切りよく峡谷を転がり尽くすだけ!
「――ふふ」
 まとわりつく雪が徐々に大きくなっていく様に、自身が雪だるまになってしまう心地を英は味わい、口の端からは笑いが漏れる。
 妙な心地だが、悪くない。
 冷たいけれど、爽快ささえある。
「私は雪だるま」
 転がりながら口にすると、ますます楽しくなってきた。
 ごろんごろん。
 本当に目の前まで真っ白だ。
 ごろんごろん。
「私は雪だるま」
 谷底目指して英は転がる。なだらかな斜面を、時折ぽふんと小さく跳ね乍ら転がり往く。
 ごろんごろん。
 踏み荒らされていない雪は、羽毛布団と肩を並べる柔らかさ!
 ごろんごろん。
 ――嗚呼。
 英は笑う。寒い場所は得手ではないけれど、雪が降り積もる中は尚更だけど。
 ――楽しい。

 榎本・英は人である。
 人ではあるが、今日は雪だるまでもある。
 平らな大地に辿り着くまで、英は面白おかしく笑っていた⛄

大成功 🔵​🔵​🔵​

尭海・有珠
仮面は己が心を隠すもの、と知己に聞いたが
それを他人に勝手に被せられるのもな
他者にいい様にされるのを放っておくわけにもいくまい

呼吸を整えれば自ずと多少は落ち着くというもの
シャルマー、まずは息を吐いて。はい。吸って
と合図で数度深呼吸させてから、道を訊こう

急ぎなのだろう? どれだけ危なくとも最短ルートで良い
木製の板でスノーボードにして滑走・踏破してやろう
前面には魔法障壁を張りつついけば、途中で転ぼうがぶつかろうが問題あるまい
ボードを紛失したら剥片の戯を大きめに使ってミニスキー替わりに。
落下は魔法で浮けば防げようし、途中で転べば雪だるまになることもあろうが
たどり着いたもの勝ちではあるしな
…くしゅん!



●🏂征く(ボードを失くしても無問題)
 深々と雪が降っている。
(仮面は己が心を隠すもの、と知己に聞いたが――それを他人に勝手に被せられるのもな)
 ふと差し出した掌に美しく咲いた六花を捉え、尭海・有珠(殲蒼・f06286)はまだ見ぬオーロラ色の竜を雪のスクリーンに思い描く。
 彼の竜は、大魔王の仮面をつけられたと聞いた。
 仮面とは己が心を隠すもの。その認識は正しく、オーロラ色の竜は自己を失い、望まぬ麾下にくだりかけている。
「他者にいい様にされるのを放っておくわけにもいくまい」
「ああああ、どうしましょうどうしまみゃう。ドラゴン様も大変みゃけど、さっきの人みょ――」
 ふうと白い息を長く吐き、導き手である幼い竜騎士へ目を遣った。
 未熟な少女は先ほどから落ち着きなく騒いでいる。
「シャルマー」
「何か良い方法をご存知ですみゃか!?」
 名を呼ばれた途端ぱっと飛びついてきたケットシーと、有珠は視線の高さを合わせるべく膝を折った。
「シャルマー、まずは息を吐いて」
「みゅううう?」
 呼吸を整えれば、自ずと落ち着くというもの。ちなみに状況的には先行した一人目が転がっていったばかり。故に一般的には、平然としている有珠の方が肝が太い扱いになるのだが、百戦錬磨の猟兵がこれくらいで狼狽えるはずがない。有珠が一人目のことを諦めているからではない、断じて。
「え、え、え?」
「吐くの、そう。上手」
 攫われそうな眠気に――ここで眠ったら流石に危険――細めた目を柔らかく和らげ、有珠はシャルマーの焦りと気持ちを掬い上げる。
「今度は――はい、吸って」
「すうううう……はあああああ……すうううう、はああああ――……」
 深呼吸を繰り返す度、単純――もとい、筋の良いシャルマーは徐々に落ち着きを取り戻していく。
 やがて琥珀色の大きな目がしっかり瞬いたのを見止めたなら、有珠は尋ねるのだ。目的地までの最短ルートを。

「急ぎなのだろう?」
「みゃあああああまたみゃああああああ」
「大丈夫だ、気にするなあああああああ」
 シャルマーの叫びと同じくらいの長さの語尾を余韻に残し、有珠は適当に見繕った木の板をスノーボード代わりに急斜面を滑り降りる。
 事は急を要するのだ。我が身の安全確保より、最速こそ有珠の択ぶ道。半ばバンジージャンプくらいの勢いで有珠を視界から失ったシャルマーは混乱の極致だろうが、それはまぁ、残りの面子がどうにかしてくれるだろう。多分。
 そんな感じで、見目麗しの美女である有珠は、実にオトコマエに雪上を逝く――違った、往く。そうだ、逝くのは今じゃない。
 豊かな漆黒の髪が、ほぼほぼ直上になびく。視界の邪魔にならないのは僥倖だ。行先を白く隠すのは、念のためにと展開した魔法障壁にぶつかる雪だけで良い。
 ――と、くれば。ただの木片なんて、過度な荷重に木っ端みじん待ったなし。
 ぼふん。
 寄る辺を失くした足元からバランスを盛大に崩し有珠、派手な雪の妖精をこさえるが、それでも存外豪気な女は表情を変えずに起き上がると、今度は魔法で薄刃を二枚生み出し、今度はそれらをミニスキーよろしく足に装着する。
「たどり着いたもの勝ちではあるしな」
 有珠、黙々と往く。淡々と往く。強引にでも、颯爽と往く。雪煙というか、雪崩を従えずんずんびゅんびゅん往く。何度転んでも、都度立ち上がって往く。少しずつフォルムを雪だるまに近付けながら往く――逝かないのが不思議なくらいの勢いで、征く。

「……くしゅん!」
 谷底に無事に到着した有珠が小さなくしゃみをしたのは、纏った分厚い雪衣の冷たさゆえか、何処かで彼女の雄姿を『伝説のスノーボーダー』として噂していたからかは謎である🏂⛄

大成功 🔵​🔵​🔵​

祓戸・多喜

雪山ね!スノボとかするにはすっごく楽しそうだけど今はそれどころじゃなさそうね!
シャルマーさんって言うのね。ドラゴン様助けたいその気持ち、アタシも手伝うわ!
皆で力を合わせれば何とかなる!とまず落ち着かせるわね。
こう見えても寒い所自体はそこまで苦手じゃないのよー。さあ大船に乗ったつもりで来て頂戴!

多少遠回りでもいいから割と固めな雪の場所の多いルート、とかあるかしら。
あんまり新雪がふわっとしてると一歩踏み出すだけで沈んでうっとおしいし。
固かったら滑る?大丈夫!思いっきり踏み込めばいけるいける!と道を定めて猪突猛進。
もし転んで巨大雪だるま…最後に内側から砕いて出られれば大丈夫!

※アドリブ等お任せ🐘



●雪山に🐘さん至りて
「雪山ね!」
 数多の人で賑わう街とは真逆の景色を前に、祓戸・多喜(白象の射手・f21878)の心は軽やかに弾む。
「スノボとかするにはすっごく楽しそう」
 ヒーローとヴィランの戦いに巻き込まれて何かと忙しい毎日を過ごしているが、多喜は立派なJKだ。タピオカドリンクもバナナジュースも、SNS映え間違いなしのデカ盛りもないけれど、ここには乙女心をときめかせる非日常がある――でも。
「今はそれどころじゃなさそうね!」
 半歩分だけ右足を引き、多喜はくるりと振り返る。
 ――ずぅん。
 それからトトトっと「どうしみゃしょう、あわわわ、どうしみゃしょう」と顔を赤くしたり白くしたり青くしたりしているケットシーへ駆け寄った。
 ――ずぅん、ずぅん、ずぅん。
 ――ず、ず、ず、ず、ず。
「みゃ!?」
「シャルマーさんと言うのね。アタシは多喜。ドラゴン様を助けたいその気持ち、アタシもよく分かる! だから、アタシも手伝わせて!」
「みゃあああ……」
 一瞬前まで右往左往していたシャルマーの口が、今はぽかんと開いている。慌ただしく彷徨っていた琥珀色の瞳も、何かに呆気にとられたみたいに上向けられたまま動かない。
「大丈夫、皆で力を合わせればなんとかなる! ……って、あれ?」
 まずはシャルマーを落ち着かせなければと思っていた多喜、そこでシャルマーが随分大人しくなっている事に気付く。
(凄い偶然! でも話が早くて助かるかも!)
 ――いや、偶然じゃない。
「多少遠回りでもいいから、割と固めな雪の場所が多いルートとか、あるかしら」
(あんまり新雪がふわっとしてると、一歩踏み出すだけで沈んで鬱陶しいのよね)
 ――鬱陶しい、を通り越したレベルで沈む気がしないでないが、多喜ならばラッセル車よろしく進める気がしないでもない。
「みゃーう……みゃ、固めな雪みゃね?」
「そう! こう見えても寒い場所自体はそこまで苦手じゃないのよー。だから大船に乗ったつもりで任せて頂戴!」
「……大船、みゃ……納得みゅ……」
 多喜と会話――と定義してよいか若干迷うくらい、シャルマーが唖然としているのもさもありなん。だって多喜は象獣人っぽいバイオモンスター。心は軽やかだけど、シャルマーからすれば外見は超弩級。序でに超重――いや、乙女に対してこの表現は不適切だから控えることにして。ちょっとした移動にもほんのり地響きっちゃうし、地均しだって出来ちゃう。
 とにもかくにも、見事シャルマーのハートを射抜いた多喜がお求めのルート情報をゲットした結果は――。

「これくらい、へっちゃらよ!」
 ――ばりん、ばりん、ばりん、ばりん、ばりばりばりばりばりばり。
 常人ならばつるつる滑るばかりだろう凍てついた川の上を、多喜は難なく踏み抜き、ずんずん進む。
 表面に雪が積もっていないわけではないが、どうやらそそり立つ岩場が屋根になってくれているらしく、多喜の足が取られるほどではない。
 となれば、後は猪突猛進あるのみだ(猪じゃなくて象だけれど)。
 斯くして雪煙を巻き上げ多喜は進む。踝くらいまで積もった雪(※多喜にとっての踝丈。標準的ヒューマンサイズなら膝上まで沈む可能性あり)も、その下の氷の大地もものともせずにずんずん進む。
 もし今の多喜を見る者がいたならば、「彼女は雪上のジェットコースターのようでした」と例えるかもしれないが、生憎(幸い)ここに余人の目はない。
 それに勢いあまって辿り着いた谷底にダイヴしても大丈夫。身を丸めて転がれば、沈むより早く転がれるし。結果超巨大雪だるまが出来上がっても、多喜ならば内側から砕いての脱出が可能!
 流行を先取りするJKの前に道はない。彼女が通った後に道が出来るのだ❄🐘🛣✨✨

大成功 🔵​🔵​🔵​

稿・綴子
※アレンジお任せです!

ふーはははは!吾輩は危険が大好きである!
髪の毛はお団子、がっつり雪駄装備
この耳当てをすれば…(ガッ あ、お団子が邪魔であるな
ばっさと解き、全体重をかけて踏みしめ歩く

シャルマーよ
吾輩が駆けつけたからには絶対安心であるぞ
…理由であるか?
此をご覧あれ(背後に原稿用紙散らし「命を賭して助ける」とかずらずら)
更に吾輩の秘密を明かそうではないか
「この躰が壊れ果ててもすぐに替えが効くのである!」
ヤドリガミは本体さえ無事ならなんでもあり
本体は雪の水分でダメにならぬようジッ●ロックした後風呂敷包みでガード

「さァ!吾輩に抱腹絶倒絶体絶命なる雪路を教えるのである!」
※とても楽しそうに転がります



●よいこはまねをしてはいけません
「ふーはははは!」
「んみゃう!?」
 大雪崩を召喚しそうな哄笑が雪原に響き渡った時、シャルマーのライフは既にゼロに等しかった。
 ドラゴン様を助けたい一心で、シャルマーは猟兵に救いを求めた――はずだったのだが。その猟兵たちのとんでもぶりにちいちゃな心臓は既に破裂寸前なのだ。
「りょうへいさん、こわいみゃ……」
 ぷるぷる。己を掻き抱き、シャルマーは震える。ちらちら。その視線は、恍惚と身悶えている黒髪の少女へ向けられ――何も見ていないとでもいうように、ぱっと逸らされる。
「吾輩は危険が大好きである!」
「みゃうんっ」
 またしても聞えた歓喜の大音声に、シャルマーの背筋がぴぃんと伸びた。
(だいすき? だいすき?? 危険がだいすきみゃ??)
 混乱の極致に叩き込まれながら、シャルマーは少女を再びチラ見する。あまり馴染みのない服装だ。確か、着物というのだったか。靴もヘンテコだ。つま先部分しか覆いのない木製のそれは随分と寒そうに見える。でも底に生えている二本の長い歯は、雪対策として適切そうだ。
「みゃ?」
 シャルマーに様子を窺われているとは知らず――或いは気にもかけず――、少女が長い黒髪をくるくる器用にお団子にまとめ上げる。耳が出て寒そうだが、動き易そう――と思ったら、懐から耳当てを取り出した。なるほどこれで防寒もばっちり……と、思いきやお団子が邪魔になったらしい。
「みゅ……みゅうううう!?」
 せっかく綺麗に出来たお団子を躊躇いなくばっさり解かれたのをシャルマーが残念に思ったのも束の間。唐突にシャルマーを見た少女が、金の双眸をぎらぎら輝かせて歩み寄ってくるではないか!
 ずん、ずん、ずん。
「みゅううううう」
 全体重をかけて雪を踏み締め歩く――転ばないよう対策なのだが――少女の迫力に、シャルマーは再び震えあがる。
「シャルマーよ」
「みゃいっ!」
 名前を呼ばれ、シャルマーの声がひっくり返った。気分は蛇🐍に睨まれたカエル🐸だ――しかし。
「吾輩が駆け付けたからには、絶対安心であるぞ。理由? そのようなもの一目瞭然!!」
 シャルマーのびくびくぷるぷるぶりを他所に、少女はどうしたことか足元に雪で文机を作り上げると、原稿用紙を広げに広げ『命を賭けて助ける』だの『約したからには絶対に成し遂げる』だの誓いの文言をつらつら書き連ね始めたではないか。
「……(シャルマー呆然)」
「ふふふ、更に吾輩の秘蜜を明かしておこう! 何と、驚くことなかれ! 吾輩の躰は壊れ果ててもすぐに替えが効くものなのである!!!」
 ――どやああああああ。
「………………………そうみゃのみぇ」
 シャルマー、120%置き去り状態ながら健気に相槌を打つ。よくわかんない。わかんないけど、本人申告だからきっとそうなのだろう。一枚の白紙の原稿用紙を、如何にも防水効果がありそうなぴかっぴかでぺらっぺらの薄絹っぽいもの(とどのつまりがラップフィルム)で丁寧にラッピング(?)した上に、ぴっちり口が閉じる水の侵入を寄せ付けなさそうな袋(フリーザーバッグ的な以下略)に仕舞い、正方形の布で幾重にも包んだのも、理由があってのことに違いない。
(そうみゃ、そうに違いないったら違いないみょみゃ)
「さァ、これで準備は万端である! 遠慮なく吾輩に捧腹絶倒絶体絶命なる雪路を教えるのである!」
「…………………わかったみゃ」
 この時、シャルマーは思考することを完全に放棄していたのは言うまでもない。

「いいいいやあああほおううううでああああああるううううう」
 追いかけてきた雪獣を、巨大雪だるまと化した少女は迫り出した岩場をジャンプ台にして振り切ると、上空から襲い来る猛禽類の翼に高く笑う。
 見た事もない大きさの鳥だ。常の己なら、一突きで昇天したかもしれない。されど今は分厚い雪の鎧を纏う身(ただし自由な脱着は不可)。
 キエエ、だか、クワア、だかの鳴き声と共に、パカリと雪だるまが割れ、少女は地面めがけてまっしぐら。
 どうせそこも新雪三昧だ。衝撃で雪崩が発生するかもしれないが、先に立ち塞がる林にぶちあたりさえすれば、止まることは出来るだろう。
 そんな、かんじで。
 崖だらけ、魔獣だらけの危険地帯を少女は喜々と往く。
 彼女の名は稿・綴子(奇譚蒐集・f13141)。『此れだけは死守!』と雪からも魔獣からも、その他諸々からも庇っている原稿用紙のヤドリガミ。
 ただし全てのヤドリガミが綴子と同じ無茶が出来るとは限らない――っていうか、やっちゃダメ☆彡

大成功 🔵​🔵​🔵​

ジャハル・アルムリフ
透明なほど真っ白な雪原は
どことも知れぬ心の底を疼かせるようで
…最初に、足跡を…否、そうではない

猫騎士よ、助太刀を願う
大丈夫だ、俺も何処となく竜族である故
根拠よりも意気込みだと師も言っていた

悩むことなく急勾配へ
短ければ早く着くに違いあるまい
猫よ、声が一番よく聞こえる方向を指してくれ

目指すも竜なれば用いるも竜
喚んだ餓竜は俯せ・翼を帆に、滑空姿勢
波乗りも雪乗りも大差ない筈
両方よく知らぬが
いざ参らん

餓竜を足場に一気に滑降
蹴散らす雪の美しさに
描かれる跡に目を瞠る
過ぎるは幼少の無茶な橇遊び
体重移動で立木を避け
跳ねれば暴れ馬を宥めるように

待っていろ遊色の竜、此の手はすぐに届く
なにせ止まり方が分からぬゆえな



●だって🐉だもの
(……………………)
 胸中の感嘆を音にするなら多分「ふおおおおお」。
 そんな感じで、ジャハル・アルムリフ(凶星・f00995)は眸に宿る七彩を「これでもかっ」と煌めかせながら雪に覆われた峡谷に見入っていた。
 白い。他に色のない一面の白は、いっそ透明なのではというほどに眩く白い。
 己とは真逆の色彩に、知らずジャハルはほろりと丸い息を吐いた。
 どことも知れぬ心の底が、疼くような気がする――。
「……最初に……」
 稚い輪郭に誘われたように、ジャハルの足が勝手に浮き上がった。
「……足跡を――」
 しかし幼子のように無垢な雪原を駆け出す前に、大人なジャハルは柴ドリルのように首を振って我に返る。
「否、そうではない」
 そう、違う。今は童心に返っている場合ではない。この谷底で竜が助けを待っているのだ。
 気持ちを新たに、ジャハルはいつの間にか(いつの間にか)握っていた雪玉を(尻尾の先が雪に塗れていた。無意識に尻尾で雪を掬い上げてしまっていたようだ)地面に放ると、立ち竦んでいるシャルマーへ歩み寄った。
「猫騎士よ、助太刀を願う」
「みゃ!?」
 どうやら放心していたっぽい――彼女にも此処まで紆余曲折があったのです。お察し下さい――シャルマーは見上げる体躯の男に鼻白んだが、悲しいかな、小さい子にビクつかれるのに慣れたジャハルは、怯えを解く声音でゆるりと語り掛ける。
「大丈夫だ、俺も何処となく竜族である故」
「みゃ?」
 むんず。ジャハルはシャルマーの首根っこを掴むと、尻尾をスパイク代わりに使用してスタスタと雪上をよどみなく歩む。
「根拠より意気込みだと師も言っていた」
「みゅ?」
 そうして辿り着いたのは、踏み出すだけで谷底まで一直線な急こう配の際。
「猫よ、助けを求めるドラゴンの声が一番よく聞える方向を指してくれ」
「みょおおおおおおううううう!!」
 この時のシャルマーの心理はこうだ。
 ――猟兵、常軌を逸してる。
 ――猟兵、ガチすぎ。
 ――猟兵、こわい。
 ――猟兵、脳筋!!!!
 あながち間違っちゃいない。とは言え、ジャハルにはシャルマーがこの境地に至る迄の理由を知る術はなく、だからこそドラゴンの事を思って猫をつつ――もとい、急かす。
「頼む、教えてくれ。おそらくそれが最短ルートゆえ」
「もうどうなってもしらみゃいからみゃああああああ」
 斯くしてシャルマーは谷底から吹き上がる風にぶらぶら揺さぶられながら、望まれるままのルートをジャハルへ差し出すのであった。

 待つのが竜で、自分も竜なら、やっぱり用いるのも竜に限る🐉🐉🐉。
 喚んだ半人の餓竜の背に立ったジャハルは、直角に近い斜面を颯爽と滑空する。
 俯せた竜の肢体はボードを思わせ、広げた翼は帆の役目を果たす。
「波乗りも雪乗りも大差ない、筈!」
 ――まぁ、その両方をジャハルはあまり知らないのだけれどというのは、この際だから棚に上げることにする。滑れてるんだから問題ない。問題ないったら問題ない。鋼の鱗を持つとはいえ、道具にされた餓竜が若干可哀想な気がしないでもないが(眼球の無い瞳が潤んでいるように見えるのは気のせいだ、多分)。
「……!!」
 蹴散らす雪の美しさに、ジャハルは息を呑む。見惚れて定まった視点は瞬く間に後方(上方)へと流れ、自分たちが描き上げたシュプールにジャハルは目を瞠る。
 いつかも、こんな景色を見た。
 あれは雪玉と戯れるのが似合いだった幼い時分。無茶なソリ遊びに興じた日のこと。
「ははっ」
 声を上げて笑っていたのは、無意識だ。だが何時かの童の瞳は、獲物を見つけた狩人の眸に変わる。
 少し前を、巨大な雪玉が転がっていた。あれを踏み台に跳んだなら、幾らも距離が稼げるに違いない。
「待っていろ、遊色の竜!」
 重心を前に傾け、ジャハルは更に加速した。僅かな体重移動でボード――ではなく餓竜はジャハルの意のままに奔る。
「此の手はすぐに届く」
 迫る雪玉に餓竜の頭が乗ったら、後は思い切りよく蹴り出すだけ。
「なにせ止まり方が分らぬゆえな!」

 ジャハル、跳んだ。
 跳んで、華麗に着地して、ずんずんずんずん滑って往く。
 谷底に到着した彼が新雪に突き刺さるのか、はたまた対面の絶壁に激突するのか、それとも餓竜が身を呈して主を庇うのか。結論が出るのは、ほんの数十秒後。未来は待ったなし!
 まぁ、餓竜もジャハルも大丈夫でしょう。竜みたいなものだもの🐉🐉🐉

 余談。ジャハルがジャンプ台にした雪玉は、ジャハルが最初に握っていた雪玉が転がりながら大きくなったものでした。奇遇だネ⛄

大成功 🔵​🔵​🔵​

菱川・彌三八
飛んで行くも千鳥で道を造るのも好いだろうが、俺の勘がこちらにしろと云うんでね
柏手二つで出て来たのは板…と、UDCの着物
ふふん、慣れたモンよ
此奴は雪にうってつけなんだろう
俺ァ頭の方はからっきしだが、体を動かす事にゃあ覚えがあるゼ
いよし嬢ちゃん、此奴がいっち使えそうな道を教えつくんな

猫ってなァ大概ェ懐に入れたら大人しくなるだろう
…何でェ、俺の処に居る奴等ァ皆入って来るぜ
飯は定石だろうが…すんなら顎の下、眉間の辺りでも撫でてやろうか

したが眼鏡良し、着物良し、板良し、行き先良し
後ァ任せな

跳べ・軌跡を描けと云う本能の侭に圧倒的玄人の滑りを披露
ちいと面白くなってきた、が…
何しに来たんだっけか…



●懐に湯たんぽ⛷🐱
 各々の手段で滑り降りて行く者、転がり落ちて行く者、ずしんずしん行軍して行く者。
 先んじた猟兵たちの其々を傍目に眺めていた菱川・彌三八(彌栄・f12195)は、ふと空を振り仰ぐ。
 聳え立つ峰々に切り取られたそこは、気流が複雑に渦巻いているのが一目瞭然だ。
 それを千鳥の翼で翔るのも中々に愉快そうではあるが――。
(俺の勘がこちらにしろと云うんでね)
 悪童のように彌三八は笑い、神頼みでもするかの如く柏手を二度、景気よく打つ。
 途端、彼の頭上から現れ雪上に落っこちたのは、長さに対して細い板切れ二枚と、杖に似たものが二本、それからやけにごつい眼鏡と蛍光色が目を引く装いの上下一揃い。
「ヘェ、こいつァ確かUDCの……」
 すきーうぇあとか言うんだっけか、と口慣れぬ音を舌に乗せ、まずは着物の裾を割って下衣を履くと、あとは勢いで上衣に袖を通した。
「おぉう、おおう」
 ガジェットであるせいか、着衣感にはごわつきがあるが、防寒性の高さに彌三八は目を丸め、ごつい眼鏡をひとまず衣嚢に仕舞い、残りの板切れもどきと杖もどきにも手を伸ばす。
「ふふん、慣れたモンよ」
 何れも彌三八の通常生活圏にはないものだ。しかし使い勝手は不思議と分かる。本能みてぇなもんさ、と彌三八は嘯きながら、ガジェット製のスキー板を足に装着し、同じくガジェット製のストックを握った。
「成程、此奴は雪にうってつけだ」
 頭の方はからっきしを自認する彌三八だが、その分、身体を動かすことには覚えがある。つまり『何事も、為せば成る』だ。
「いよし嬢ちゃん、此奴がいっち使えそうな道を教えつくんな」
「みゅううう……」
 さっそく得物を使いこなして彌三八が滑り寄ると、肝心のシャルマーは慌てているというより腑抜けの体。
 どうやらこれまでの猟兵たちの無理無茶無謀(本人たちにとっては通常営業)を目の当たりにし、驚き疲れてしまったらしい。
「仕方ねぇナ――ほらよ」
 このままでは埒が明かないと、彌三八はシャルマーの首根っこを摘まむと、寛げたウェアの懐へ放り入れた。
「みゃあああ!?」
 当然、突然の出来事にシャルマーの口からは驚嘆が上がるが、彌三八は気にも留めない。
「何でェ、猫ってなァ大概ェ懐に入れたら大人しくなるだろう?」
「わわわわわたしはケットシーで猫じゃないみゃっ、っていうか年頃の乙女みゃっ」
「んん? 細けェこたぁ、気にすんナ。俺の処に居る奴等ァ皆入って来るぜ」
「みゃ? そうみゃみょ??」
 チョロい――もとい、常識の齟齬凄い。彌三八は猫の扱いについて語っただけだが、猟兵ってそんなものなのかなとシャルマーは思い込んだ。で、少し大人しくなったところで、彌三八はシャルマーの顎の下や眉間をくしくしと擽ってやる。
「うみゃあ、そ、そこは……みゃあああ」
 すると琥珀色の目がとろりと溶けた。やっぱりチョロい――じゃなくて。
 定石の鰹節か煮干しは手持ちになくとも、猫を手懐ける手技なら何時でも何処でも幾らだって繰り出せるのだ。猫だケットシーだと細かいことは、スルーに限る。結果オーライ、万々歳🐱

 着物良し、板良し。
 視界を覆う眼鏡――つまりはゴーグル――をかければ準備は万端。
「ま、まずは西に下るみゃ。そして急斜面に差し掛かる前に東みゃ」
「応よ、後ァ任せな」
 行先良し、と頷いて、彌三八は勢いつけて雪上を谷底目指して滑り出す。
 そこから先は、息吐く間もない爽快感の連続だ。
 小さな隆起は跳躍台に。突き出す岩は、華麗なターンでひらりと躱し。
(跳べ――描け)
 身体を衝き動かすのは絵師の矜持か、彌三八は鮮やかなシュプールを竜神山脈の峡谷に描き上げて往く。
 風切る寒さは厳しいが、ウェアと、何より懐のシャルマーの温もりが、彌三八を凍えからも遠ざける。
 そうして残るのは、純然たる面白さのみ。
 何をしに此処に至ったんだかをうっかり失念するのもご愛敬。
 谷底へ辿り着けば、目的は否応なしに思い出されるのだから!

大成功 🔵​🔵​🔵​




第2章 ボス戦 『魔女猫グリマルキン』

POW   :    不完全なる終焉視
【疑似的な『魔女』の予知能力により】対象の攻撃を予想し、回避する。
SPD   :    遺失魔術『フライハイ』
レベル×100km/hで飛翔しながら、自身の【魔女より賜った大切な杖】から【無数の魔力の矢】を放つ。
WIZ   :    魚霊群の回遊
【空を舞う無数の鬼火纏う魚】の霊を召喚する。これは【鬼火の勢いを増した突撃】や【鬼火の延焼による精神汚染】で攻撃する能力を持つ。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠クーナ・セラフィンです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●君も雪だるま⛄
「ドラゴン様ああああああ、みゃんてお姿みゅいいいいい」
「っふ、一足遅かったようにゃ」
 未熟な竜騎士シャルマーが驚愕を啼き、魔女猫グリマルキンが余裕たっぷりに含み笑う。
 相反する二人のケットシーの間には、オーロラ色の竜が力なく横たわっていた。
 それでも懸命にオーロラ色の竜が頭をもたげる。
『来て、くれたの、ですね……』
 風が涼やかに謳う。猟兵たちには聞き分けられない音色だが、それでも救援にかけつけてくれたことへの礼だとは分かった。
 しかしだからこそ顕わらになったドラゴンの異容に、雪深い谷底に其々の手段で到着した(突き刺さったり激突してても、到着は到着)猟兵たちも息を呑む。
「ふふふ、このドラゴンも最早ただの雪だるまにゃ!」
 ――そうなのだ。
 大魔王の仮面の支配に抗い身悶えたせいか、麗しのドラゴンの頭部はすっかり雪だるま状態になってしまっていたのだ!
 これでは大魔王の仮面ではなく、雪だるま仮面である。
「……ひどみゃ、ひどいみゃ、こんなのあんまりみゃ!」
 首から下の優美さが変わらないからこそ際立つアンバランスさに、シャルマーが怒りに震えた。
 このままでは気高きドラゴンの心は折れてしまうに違いない。
 そうなってしまえば辛うじて保たれる意識は失われ、ドラゴンは完全に魔女猫グリマルキンの軍門に下ってしまう。
 それを防ぐ唯一の手段は、ドラゴンを励ましながら魔女猫グリマルキンを撃退すること!
 ドラゴンの尊厳は何ら失われていないと慰めるも良し――場合によっては逆効果になるかもしれないが――、同じく雪だるまと化してなお存分に戦えるという雄姿を見せるも良し。
「お前達はどうするにゃ?」
 迎え撃つ魔女猫グリマルキンは不敵にわらう。

 猟兵たちよ、恥じる事なかれ!
 ここはノリと勢いで勝利を強奪するのだ!
 我に帰ったら負け、そう思って!! ください、頼みますっ⛄
榎本・英
嗚呼。雪だるまだね。
君の事ではないよ。私の事だとも。

私は君の事を言ったわけではないよ。
当たり前ではないか。

能ある鷹は爪を隠すと云うだろう。
私は言葉の通り、爪を隠しているのさ。

君もそうだ。
雪だるまの仮面を剥いでしまうと
君の力量が相手に分かってしまう

それならば今はこうして頭を隠しているべきではないかな?
油断をさせてしまうのも作戦のうちだよ。

君だってこの雪だるまの中には人がいるとは思わないだろう。
そうやって油断をさせて、ふわもこたち。任せたよ。

ほら、このように。

私ではない子がやってくれる。
真に美しい者は、顔を隠さないと美しさにやられた者が癇癪をおこすらしい。

君はとても美しい
その仮面をしていてもね


菱川・彌三八
エエ…ト
夫れで?
…おい、谷底に降りりゃあすべき事が分かるつったなァ何処のどいつでェ

如何する…たってよ
…えぇ、鼓舞しろって?
そうさなァ…

あー…何だ、お前ェ此の侭負けちまったらよ、それこそ其の姿の侭だぜ
手前の意思でもなく
其の姿を善しとし
こんねェな猫の僕
なんてなァ…ちいとばかし竜の沽券に関わるんじゃねェかい
そら、嫌ならもちいと気張りやがれ
其れに、そねェに些末な事でこう、なんだ、美しさってェのは削がれっちまうのかい?
いよし、綺麗な面が拝めた暁にゃ、俺が確と描いてやらあ

どんな画かは、今見せちやるよ

さあさ御覧じろ
宙舞う魚ァ無数の千鳥がみいんな食い尽くすゼ
丹に黄に藍も全部使ってやらあ
自棄?
そうとも云う


尭海・有珠
ドラゴンは苦手なんだがおくびにも出すまい
幸い顔は今見えないしな!
何なら私も表情が見えないよう顔に雪だるまでも作っておけば
…それでは何も見えんか、よし、却下

仮面とは己を隠すものだが
本来の性質は隠しきれずに滲み出る事も侭ある
今の貴方が!そう!(力強く押し切る
首から下の優美さからも、仮面の下に隠された貴方のお顔の美しさは察せよう
隠されている方がよりそそる、とも聞く
それにその仮面とて季節を感じさせるものだ、自然により親しみを持つように
仮面の造りにも親近感を覚えたりはしないだろうか?
私は雪だるまは好きだ

とはいえ無理に被せ意志迄奪うのは勿論宜しくない
魔女猫には≪暁の流星≫で迎え撃ち、ドラゴンを解放させよう


祓戸・多喜
なんて酷い…!
綺麗な竜をこんなにさせるなんて悪い魔女ね!
皆でドラゴン様を最速で助け出すわよ!

基本は遠距離からの支援射撃。UC発動し狙撃態勢に。
見切られてる気がするけどこっちの狙いはアタシに注意を惹きつけシャルマーさん達から注意を逸らし隙を作る事!
向こうが攻撃で体勢崩したらそこに強烈な一矢を当ててやるわよ!

その間にもドラゴン様を大声で励ましを。
…先に雪だるま部分を叩き壊したいけど、やりすぎちゃうのが怖いからそれは魔女猫倒してからね!
冬の後に春が来て自然は姿を大きく変えるように今の姿がどんなでも本当の姿には関係ナシ!
悪に抗う姿はカッコいいわよ。
それに雪は融けるものだし!

※アドリブ絡み等お任せ🐘



●雪だるまが云うには
 言うなれば、白だ。菱川・彌三八(彌栄・f12195)の頭の中は真っ白だ。きっちり綺麗に剃り上げた月代のピカピカ具合よりも真っ白だ。
「エエ……ト」
 いつもの江戸っ子らしい気風の良さは何処へやら。己が心象風景とそっくりな景色を前に、彌三八は珍しく二の句に迷う。
 救いを求めて右を見る、聳え立つ峰は真っ白だ。左を見た、やっぱり白い。後ろを振り返る、描いてきたシュプールはやはりなかなかのもので、得心を頷く――が、そうじゃなくて。
「……おい」
 躊躇いがちに正面へ視線を遣って、「夫れで?」とツッコミを吐露した彌三八は、ぐっと拳を握り締めた。
(谷底に降りりゃあすべき事が分かるつったなァ何処のどいつでェ)
 固めた拳の振り下ろす先は、見つからない。だって相手は自分自身か運命を司る神だ――そんなもんがホントにいるかどうかはさておいて。
 ふぅ、とこれみよがしな溜め息を吐き、彌三八は型枠だけ残される胸元の空洞へ目線を落とす。
 つい先ほどまでそこに収まっていた猫――シャルマーは、現在喧々諤々の言い争いを谷底に居た猫――魔女猫グリマルキンと繰り広げている最中だ。
 ん、で。彼女らの間に横たわっているのが――。
「如何する……たってよ」
 懸命に逸らし続けた目を仕方なく『其れ』へ向け、彌三八は鼻の頭を掻こうとして、かけたままのゴーグルの存在を思い出す。
 もしかしたらアレはこのガジェットが見せている幻かも? という一縷の望みは、当然の如く打ち砕かれる。ゴーグルを外したところで、居るものは其処に居た。
「……えぇ……鼓舞しろって?」
 細い眼を、更に細めて彌三八は視る。そうすれば、虚構の全てが打ち払うことが出来るとでも信じるように。
 しかし繰り返しになるが、居るものは居る。被写体としては申し分のない肢体を持ちながら、頭部は雪だるまと化したドラゴンが。
 あまりのアンバランスさに、絵描きとして磨き上げられた彌三八の目はぐるりと回ってしまいそうだ。
 叶うなら、見なかったことにして諸悪の根源である猫をとっととぶん殴って終わりにしてしまいたい。でも、状況的にそれは許されない。
「、そうさなァ……」
 ほとほととオーロラ色のドラゴンへ歩み寄りつつ、彌三八は考える。こういう時はきっとアレだ、女人を口説く風にやればいいのだ。思い付きはするが、そこから先がまた難儀。だって彌三八は江戸っ子。軽々に女人を口説けるわけがない。
 ――というわけで。
「あー……何だ、お前ェ此の侭負けちまったらよ、それこそ其の姿の侭だぜ」
 オーロラ色の鱗に手が届く距離に彌三八は立ち尽くす。
「手前の意思でもなく、其の姿を善しとし、こんねェな猫の僕――なんてなァ……ちいとばかし竜の沽券に関わるんじゃねェかい?」
 間近で見ても、美しい鱗だ。おそらく肩口付近だと当たりをつけ、彌三八は煌めく遊色に指先で触れた。
「そら、嫌ならもちいと気張りやがれ。其れに、そねェに些末な事でこう、なんだ、美しさってェのは削がれっちまうのかい?」

『  ***、――』

 峡谷に響いた悲し気な旋律に、一体の雪だるまがもぞと動いた。
「嗚呼。雪だるまだね」
『 △△△■……』
 すぐ耳元――雪だるまの仮面で覆われているが――で聞こえた声に、オーロラ色のドラゴンが哀切を啼く。魔女猫グリマルキンと舌戦を繰り広げるシャルマーに余裕があったなら『やはり私は醜い雪だるまなのですね……』と通訳してくれたことだろう。
 が、言葉は通じずとも伝わる機微はある。
「君の事ではないよ。私の事だとも」
 慌てることなく、雪だるまは誤解を解く科白をドラゴンの耳朶に落とす。
「信じておくれ、私は君の事を言ったわけではないよ。当たり前ではないか」
 きっぱりと断言する雪だるまの口振りに、苦痛に震えていたドラゴンが息を呑む(雪だるまがどうやって音を伝えてるのかとか、雪だるまなのにどうやって息を呑んだのかだとか、そういう細かい部分は指摘したらいけない。雰囲気大事)。
『 +§*?』
「ああ、そうだとも」
 ――当たり前?
 そう尋ねられたと確信し、雪だるまは全身を使って是を頷く。前傾した勢いで転がりそうになったところへ、ドラゴンの尾が伸びてきて、ストッパーになってくれたのは正直ありがたかった。
「雪だるまとは私の事だよ。それに、この雪だるまも悪くない。能ある鷹は爪を隠すと云うだろう」
 ――私は言葉の通り、爪を隠しているのさ。
 まるで魔女猫グリマルキンには絶対聞かせたくない密談だとでも言うように、雪だるまが潜めに潜めた囁きに、ドラゴンの鱗が一斉に逆立つ。
「君もそうだ。雪だるまの仮面を剥いでしまうと、君の力量が相手に分かってしまう」
 落ち着いた男の声だ。年齢は二十代半ばくらいだろうか。響きからして理知的な面立ち――そう、眼鏡がよく似合う男を連想させる声だ。もしかしたら文筆業で生計をたてているかもしれない。
 とまぁ、大魔王の仮面に今にも意識を奪われそうなドラゴンがそこまで想像を膨らませられたかは定かではないが、雪だるま仲間の言葉にドラゴン本来の意識が浮上したのは間違いない。
 そしてその事を察した雪だるまは、「だから、ね」と意味深に含み置くと、ドラゴンの尾に懐いてしまっていた身体を振り子の要領で起こして自立する。
 ――油断をさせてしまうのも作戦のうちだよ。
 離れ際に告げられた秘策の余韻に、ドラゴンの逆立っていた鱗が戦慄いた。
 オーロラ色のドラゴンは理解したのだ。この姿でいることが、今は本来の力を隠す良い隠れ蓑になっていることを!
 とはいえ、だ。
 優美なドラゴンが、いまいちな状態なのは事実。そこをドラゴンが思い出す前に、雪だるまはすかさず畳みかける。
「君だってこの雪だるまの中には人がいるとは思わないだろう――」
 ふわもこたち、任せたよ。
 雪だるまが発した小さな小さな声は、おそらく誰の元へも届かなかったろう。されど次の瞬間、雪だるまの内側(内側?)から解き放たれたふわもこたちに事態は急転する。
「にゃ!? これは何にゃ!?」
 完全な想定外に、魔女猫グリマルキンがやみくもに杖を振り回す。状況に少しでも懐疑的であれたなら、きっと事態を予測し、対抗手段を講じ得ただろうに。
 タンポポの綿毛みたいなふわふわ達は、一見すればただの毛糸玉だ。にも関わらず、実体は愉快な仲間たちであるふわもこ達の突撃は、相応に痛い。ビジュアル的には和やかファンタジーなのに!
「油断大敵――ほら、このように私ではない子がやってくれる」
 言外に、君もそうすれば良いのだと雪だるまはドラゴンに智慧と自尊心を息吹かせる。
「それに、ほら。真に美しい者は、顔を隠さないと美しさにやられた者が癇癪をおこすらしい」
 ――君は、美しい。
 ――とても、とても美しい。
「その仮面をしていても、ね」

「なァる、そういう!」
 歌舞伎の二枚目役者もかくやという雪だるまのイケ男ぶりを具に観察し、彌三八は開眼する。
「安心しろ。こねェな些末な事で、こう、なんだ、おめェの美しさが削がれちまうことはねェよ」
 ……開眼したが、捨てきれたわけではない照れとか戸惑いとかが端々に滲んでしまうのは仕方ない。が、それでも彌三八は振り切った。
「いよし、綺麗な面が拝めた暁にぁ、俺が一世一代の美人画を確と描いてやらあ」
『 ◎*、§!』
 嬉し気に聞こえた風鳴りをこそばゆく感じながら、彌三八は持てる筆を駆使し、数多の千鳥を真白き世界に放つ。
 墨だけでなく、丹に黄に藍といった持参している全ての彩りを余すことなく用いた千鳥は、さながら峡谷にかかる美しい虹。
 近い未来に描いでもらえるであろう美人画の美しさを予想させる千鳥の群れに、ドラゴンも苦しみを忘れて胸を高鳴らせる。

「ちょっ、なっ、これっ、邪魔にゃ!!」
 ひっぺがしてもひっぺがしても次々湧いて出てくるふわもこに魔女猫グリマルキンは翻弄される。
 そこに加わった千鳥に啄まれれば、立派な尻尾も瞬く間に痩せ細っていく。
 一応、鬼火纏う魚たちを目立って動く彌三八へ差し向けはしたが、悟りを開いた彌三八にとっては些事だ(慣れないことして自棄になっているとも言う)。
 ちなみに徹頭徹尾風景に馴染んじゃってた雪だるまの中身は榎本・英(人である・f22898)であったことを記しておく。
 榎本・英は雪だるまではない、(一応)人である。

●ならば奥の手だ
 峡谷の底にも届く光に、遊色が優雅にきらめく。
 先ほどまでと比べて明らかに気勢が増した様子なドラゴンに、魔女猫グリマルキンは「にゃう」と唸った。
 これでは作戦が台無しになってしまう――ならば。
「こうにゃったら奥の手にゃ」
 ぐるにゃあと魔女猫は鳴き、手にした杖を掲げて中空に図形を描き始める。
 まずは大きな回転を二回。それから二等辺三角形を一回。それから「へ」の字。仕上げは、ぐるぐるの渦。
 猟兵からの攻撃に無防備になってまで、いったい魔女猫は何をやっているのか。
 その答えは、すぐに分かった。
「これで、どうにゃあ」
 物凄いどや顏で魔女猫グリマルキンがドラゴンの雪だるま顏へ猟兵たちの視線を誘う。
 そして猟兵たちは見た。さっきまではただの雪だるま(せいぜい雪の凹凸で表情があるくらい)に過ぎなかったドラゴンの頭部に、滑稽な『貌』が描きあげられていることに。
 やけに円らなまるい眼に、絵本に出てくる魔女を思わす尖った鼻。引き結ばれた口許は不機嫌そうなのに、ぐるぐる渦巻く前髪がなんともアンバランスで以下略!
「みゅ、っ」
 堪らずシャルマーが吹き出した――吹き出してしまった。
『……そ、そんな酷い顏なのでしょうか』
「そ、そんみゃことはないみゃっ、ない……みゅっ」
『酷い顏なのですねっ』
 シャルマーが胡麻化しきれなかった語尾の笑いに、またしてもドラゴンは深く凹む。
 いいえ、いいえ。
 見てくれだけが全てではないのだと。能ある鷹は爪を隠すのだと。美しさとは心にあるのだと――そこまでは言われてない気がするが――励ましてもらい、立ち直りかけていたけど、でも、やっぱり、そんな、そんな、そんな、そんな――……!

●斯くしてドラゴンは口説きに救われる
「なんて、なんて、なんて酷いことをするの……!」
 ――ぶるぶるぶる。
 小刻みに身を震わす祓戸・多喜(白象の射手・f21878)に合わせ、一体の空気もびびびとわななく。大きなお耳が熱を放出する為にわっさわっさとしているせいなだけだが、雰囲気も迫力も満点だ。
 つまり、多喜は体温上昇するくらいに怒りに燃えている。
 綺麗な竜を、こんな(こんな)姿にさせるなんて――さり気なく心を抉ってくる部分を強調してみた――、許せるわけがない。
「皆でドラゴン様を最速で助け出すわよ!」
 優しい緑の瞳に確固たる闘志を漲らせ、多喜は左足を軸に半回転すると、右足を強く踏み込んだ。
 ずぅん、と雪原が轟く。斜面の表層に積もったばかりの雪がざわめくが、多喜は気にも留めない。
 大事なことは。為さねばならないことは。
「邪魔者は全て跳ね飛ばしてやるんだから!」
 場所によっては神の使いとも言われる白い象の真価を発揮するかの如く、多喜の体躯が変容を遂げる。
 今の多喜はただのJKではない。障害を退ける神の力を行使するJKだ。

「これでも喰らいなさいよ!」
 物凄い勢いで多喜が矢を連射している。もし此処がゲーム画面の中で、外にプレイヤーがいたならば。その手に握られたコントローラーには自動連射機能が備わっているか、ボタンの上で指を素早くスライドさせているかのどちらかだろう。
 ――なんて益体も無いことを尭海・有珠(殲蒼・f06286)は考えつつ、表情筋を引き締める。
 幸か不幸か、極寒に晒されたあとなおかげで、そう容易く表情は変らない。けれど気を付けていないと、目線とか、口元とかに苦手意識が滲み出てしまう可能性もなくはない。
 そういった意味では、ドラゴンのお顔が面白事案になっているのは有珠にとって僥倖だった。
 だって有珠、実はドラゴンが苦手。
 当然、この状況下でそのことをおくびにも出すわけにはいかない。うっかり「苦手」の「に」の字だけでも悟られてしまえば、繊細なドラゴンは顔面雪だるまであること以上に凹んでしまうの待ったなし。
(ということは、だ。私も表情が見えないように顔を雪だるまで……)
 有珠、材料だけはふんだんにある足元に視線を落とす。
 でもって、一掬いしてみた。つめたい。ちょっとだけ頬に擦り付けてみる。やっぱりつめたい――いや、そうじゃなくて。
(うん。それでは何も見えんな。よし、却下)
 一人ボケ一人ツッコミを無事に終えた有珠、そろりと息を吐いてオーロラ色のドラゴンを見上げた。
 どこからどう見てもドラゴンだ。けれど、愉快フェイスのお陰で苦手意識もちょっぴり弱まっている気がする。よし、今がチャンス。
 すたたたた、と有珠は乱れ飛ぶ矢を掻い潜り、ドラゴンの傍らへ走り寄った。そして掌をオーロラ色の鱗に押し付ける。
「仮面とは己を隠すものだが。本来の性質は隠しきれずに滲み出る事も侭ある、今の貴方が! まさに! そう!」
 怯む前に、力技の勢いで有珠は科白を押し切った。
『 **ΔΛ』
 触れられたのに気付いたドラゴンが、ゆると有珠へ首を巡らす。
(――う)
 間近に迫ったファニーフェイス(物は言いよう)に有珠は表情筋に全神経を集中させる。
「首から下の優美さからも、仮面の下に隠された貴方のお顔の美しさは察せよう」
『!?』
 首から下、というのはもしかすると禁句だったかもしれないと、分かりやすい露骨な反応に――だってつまり首から上はお察しってことなので――有珠は内心で舌を打ちかけるが、後悔は先に発たずというか役立たずだから、弁を加速させることを選択した。
 そうしないと、雪だるま顏に吹き出さずに済んだ――或いは尻込みせずに済んだ――のが水の泡になってしまう。
「隠されている方がよりそそる、とも聞く」
『!!!』
 敢えて低めた声に、ドラゴンの首筋に鮮やかな朱が射した。まるで初心な乙女のような反応に、有珠は手ごたえを感じて胸中で笑む。
「それにその仮面とて季節を感じさせるものだ、自然により親しみを持つように、仮面の造りにも親近感を覚えたりはしないだろうか?」
 ドラゴンの美的センスにそぐわないのだろう雪だるま仮面を、有珠は敢えて持ち上げる。持ち上げて、期待を抱かせる。
「私は、雪だるまは好きだ」
『****!!』
 ――はい、落ちた。
 ドラゴンだって分かってるよ? 『好きだ』の『好き』が恋慕の『好き』じゃないってことくらい。しかし、それでも、嬉しいじゃない。好きって言ってもらえるのって。肯定してもらえるのって。嫌なものも、ちょっとくらいは悪くないかもって思えるじゃない。
 尭海・有珠、破壊と殺戮に傾けた魔法を得手とする者。されど口説き話術もなかなかのものを持つ者……かもしれない。

「あとちょっとだけ待っててね!」
 ずびしずびしと多喜は矢を射かけ続ける。これでもかこれでもかと射かけ続ける。
「くっ、ちょ、ちょっと数が多すぎにゃい!?」
 雨霰と降る矢は、先読みする魔女猫グリマルキンを以てしても避け難い。しかも矢の嵐に紛れて有珠が来る魔力誘導弾が、彌三八の千鳥が、英のふわもこが飛んでくるのだ。
「ホントは先にその雪だるま部分を叩き壊してあげたいんだけど、やり過ぎちゃうのが怖いから、それは魔女猫を倒してからね!」
『■■□●**🌸』
「ドラゴン様、気にしなくていいっておっしゃってますみゃ!」
『それは良かった!』
 その実、自分の怪力っぷりを一番理解しているのかもしれない多喜。シャルマーが通訳してくれたドラゴンの言葉に朗らかに笑む。
 神々しい姿に転じた多喜を、ドラゴンがどのように見ているかは分からない。もしかしたら、とJKらしく周りを気にし過ぎてみたくもなる。
 でも、ドラゴン様は顔を上げてくれた。
 そして猟兵の奮戦を喜ぶように、尻尾を弾ませてくれている。
 ずしんずしん。多喜の歩よりも重厚な地鳴りが峡谷中に響く。オーロラ色のドラゴンはこの地に住むドラゴンだ、雪崩などを起こそうはずはないし、むしろおかげで多喜たちの足元は盤石になる。
『私は、私』
「うん、そうだよね」
 直接聞き分けることが出来る筈のないドラゴンの言葉が聞えた気がして、多喜は巨躯の隅々まで力を行き渡らせた。
「くう、負けないにゃ!」
「冬の後に春が来て自然は姿を大きく変えるように今の姿がどんなでも本当の姿には関係ナシ!」
「蒸気機械の下僕たちに屈するもにょか! 魔術こそ最強にゃ!!」
「――あんた、残念だな」
 ほんの刹那の間。魔女猫に冴えた一瞥を呉れる多喜の横顔に、あらぶる野生が滲む。けれどすぐにJKの貌に戻った少女は、その場で大きく跳ねた。
「悪に抗う姿はカッコいいわよ」
 白い象の姿が、白銀の世界に溶ける。
「、え」
 普通に考えたなら見失うはずのない多喜の巨躯を魔女猫が見失ったのは、奇跡であり、花開いた努力の結晶でもあり。
「それに、雪はいずれ融けるものだし!」
『そうね――そう。私は、囚われない!』
 多喜の軽やかな声に、ドラゴンの涼やかな声。
 二つの風が重なった時、多喜が番えた矢にオーロラ色の光が宿る。
「そんにゃ、まさか――」
 稀有なる光に引き寄せられた魔女猫グリマルキンが身構えてももう遅い。
 春告の薫風を思わす余韻を棚引かせ翔けた矢は、ドラゴンを支配下におこうとする目論見ごと猟書家の生のひとつを貫き砕いた。

「よかったみゃ」
 全てが美しいオーロラ色のドラゴンに寄り添いシャルマーは歓喜を満面に浮かべる。
 猟兵さんたちのあれこれ(あれこれ)には度肝を抜かれまくりはしたが、結果オーライ万々歳だ。
 それに小さなケットシーに心には、愛敬のある雪だるまもなかなか悪くないなという楽しい思い出が刻まれていたのだった。めでたしめでたし!

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2021年01月29日
宿敵 『魔女猫グリマルキン』 を撃破!


挿絵イラスト