●亡者の園
長い舗装道路が突き抜ける、閑寂な森林地帯のゴーストタウン。
かつて、とある聖職者が処刑の後に蘇ったとされ、以来「ここに葬られた『善き者』は二度目の生を受ける」という伝説の残る地。
普段はごく稀に通り過ぎる車があるばかりのその地に、今日は多くの音が鳴り響いていた。
木造の廃館。昼間には盛んだった補修の音も既に止み、今は細々とした荷解きが進んでいる。
その周囲、ひび割れたストリートで、巡回中だろう、武装した兵士たちが一軒の廃屋から姿を現した。
「やれやれ、虫とネズミの住民調査も慣れたもんだ。……やっぱり旧支部とやらに直行した方が良かったんじゃねぇか?」
「おい、気を引き締めろよ。あそこが怪しいからこそ、先に足場を固める。そう聞いたろ?」
「ああ、もちろんな。ただ、手遅れにならなきゃいいと思っただけさ。さあ時間だ、キャンプ会場へ戻ろうぜ」
「……お前の皮肉癖は死んでも直らなさそうだな。警備中は静かにしてろよ」
二人がぽつりぽつりと言葉を交わす間も日は傾き、遂に樹々の向こうへと姿を消した。
夕闇が満ち、あちこちで強烈な照明が灯され、しかし湧き始めた靄がその光さえ鈍らせる。
そして今宵、伝説は現実になろうとしていた――ただ二つの点を除いて。
一つ、蘇ったのは『善き者』だけでは無かった。
それからもう一つ、『善き者』も『善き者』では無くなっていた。
雷のような轟きが、地の底から響く。
崩れた人影が、そこかしこで揺れ動く。
血の気も凍る熱帯夜、亡者の宴の幕開けであった――。
●グリモアベース・一室
「突然お呼びしてすみません、すぐに資料をお渡しします……とにかく、どうぞ中へ」
グリモアベースの会議室。
集まった猟兵達とほぼ同時に駆けこんできたのは、彼らを呼んだ張本人、ラヴェル・ペーシャ(卑怯な蝙蝠・f17019)。
一礼の後、抱えていた地図や資料といった白い紙束が慌ただしく並べられてゆく――が、その中に妙に派手な色合いが交じっていた。
見れば、それは彷徨う屍の絵。どうやら、手近にあったポスターか何かを拝借したらしい。
その場違いなイラストを先に説明しようとしたのか、ラヴェルはこう話を切り出した。
「ああ……これはゾンビと呼ばれる怪物の絵で、UDCアースにおいては古くから語られてきた存在です。もちろん、多くは有り得ないものとして、ですが」
ゾンビ。元はある一地方の伝説であり、特殊な薬物によって作られた動く死体を指す。
しかし現代では凶暴かつ強靭な、人間を喰らう怪物として描かれる事が多い。中には次々に増殖したり、ある程度知性を備えていたり、時には機敏に動く場合もあるようだ。
さておき、そのゾンビが間もなく出現し、暴れ回るという予知が入ったらしい。
そしてその場所は、今まさにUDC組織が展開している地であった。
現場はUDCアースの某北大陸に位置するゴーストタウン。事の発端は、その地で歩き回る死体を見た、というネット上の怪談であった。と言っても、現状それをまともに受け取っているのは余程の物好きか、思い詰めたペットの飼い主くらいのものだ。
にも関わらず、UDC組織は即座に調査を決定した。それもそのはずで、そこにはかつて彼らの一支部があったのである。
その上、そこで研究されていたのは「屍に関する怪異」であり、なおかつ現在も諸々の理由によりいくつかの物品と怪異が残されている、というから、彼らの懸念ももっともだろう。
ラヴェルは白鼠から次の紙片を受け取り、更に続ける。
「当然ながらその後も監視の人員は置かれていたのですが、派遣に先立って臨時報告を求めたところ、ぱったりと連絡が途絶えたそうです。あるいは、何か勘付かれたのかもしれません」
このタイミングでの監視者の失踪。偶然か意図的か、ともあれ隔離されていた何物かが動き出したことは明白だ。
だが、歴史の古いその建物は地下に多くの部屋を持ち、探索は長時間になる上に奇襲や分断の危険も大きい。
かくして旧市庁舎であった建物が本部と定められ、慎重な調査が始まろうとした矢先、今回の予知があったという訳だ。
折悪しく現地では異常な電波が断続的に発生しており、通信は不調。最悪の場合、混乱のうちに全滅もあり得る状況である。
続けて、部隊と拠点の位置が印された地図が広げられ、ラヴェルは鉛筆で次々に矢印を描いていく。
「……このように、『ゾンビらしき敵』は旧支部だけでなく、ほぼ全ての方位から調査本部に迫ってきます。その特徴は鈍重かつ執拗、切り離した手足でさえしばらく動き回るほどの耐久力を備える一方、鋭敏さや知能は皆無と言って差し支えありません」
話を聞く限り、目下の敵はゾンビらしいゾンビ、だ。増殖も再生もせず、単体ならば一般人でも容易に対処できそうな古臭い怪物だが、視界不良の中での大群となれば中々の脅威となるだろう。
そして、それらを退けた後は撤退の支援か、調査の継続か。通信の回復が期待できない以上、それは現地に赴いた猟兵の判断に委ねられる。
――もっとも、いずれを選ぼうと、ゾンビとの交戦は避けられないだろうが。
悪い冗談のような説明の後、猟兵たちは真剣な面持ちで、あるいは半信半疑のままに、恐怖の地へと飛び立つのだった。
ピツ・マウカ
どうも、ピツ・マウカと申します。暑くなってきたもので、夏らしいシナリオを。
今回はB級ホラーをイメージしており、ホラーのお約束を踏襲したり、ガンシューティングのようなプレイングも可能な限りお応えする所存です。
第一章を要約すると、「ゴーストタウンでゾンビを倒しまくれ!」です。現地では武装したUDC職員が展開しており、銃撃で押し寄せるゾンビ達から身を守っています。手助けするもよし、気にせず薙ぎ払うもよし。あくまで冒険パートなので、戦い方には気を配らなくとも大丈夫です。
第二章はUDC職員と協力しつつ、ゾンビがうろつく街を調査したり、拠点で調査を進めてください(キャラの性格によっては撤退を支援する、等もアリです)。
第三章では元凶であるボスとの戦闘です。
それでは、皆様のプレイングをお待ちしております。
第1章 冒険
『亡者の地』
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POW : 亡者たちを力づくで蹴散らす
SPD : 亡者たちを素早さや技巧で翻弄する
WIZ : 亡者たちの弱点を突いたり動きを妨げる
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●UDCアース・L街
転送先は、夜の舗装路。
湿気を含んだ空気は緑と土の香りに満ち、暗闇の先のまばらな灯りが廃墟の入口を照らしていた。
ジリジリ――曇った蛍光灯が一斉に明滅する。
ぬるい微風に乗って、異臭が漂う。
ざわめく草木の音に、うめき声が混じる。
そして、一発の破裂音を皮切りに、無数の銃撃音が街の奥から響き始めた。
下原・知恵(サポート)
「話は聴かせてもらった。つまり……ここは
戦場だな!」
◆口調
・一人称は俺、二人称はお前
・ハードボイルド調
◆癖・性質
・公正と平等を重んじ、己を厳しく律する理想主義者
・自分の現況を何かにつけてジャングルとこじつけたがる
◆行動傾向
・己を顧みず同志の安全と任務遂行を優先する(秩序/中立)
・UDC由来の人工心臓が巨大ゴリラの変身能力をもたらす
・ジャングルでの戦闘経験から過酷な環境を耐え抜く屈強な精神力と意表を突くゲリラ戦術を体得している
・とりあえず筋力で解決を試みる。力こそパワー
・手軽に効率よく栄養補給できるバナナは下原の必需品
・生真面目がたたり、意図せずとぼけた言動や態度をとることがある
「……ほぉ」
聞こえてきた銃声に、葉巻を咥えた唇が僅かに持ち上がる。闇夜でなお外れぬサングラスの下で目が細まる。
湿気と熱気を孕んだ大気、濃い草木の臭い。それらによって、下原・知恵(ゴリラのゲリラ・f35109)の脳裏にはかつての記憶が呼び起こされていく。
直後、彼は森林とゴーストタウンの境界である外縁を駆け抜けていた。
と、早速出現したゾンビの横顔を鷲掴み、掻き分けるように脇へ引きずり倒す。だが勢いを失わぬまま数歩行く間もなく、またいくつもの敵影が靄の中に浮かぶ。
そしてその全てが振り返り、濁った瞳を知恵に向けていたのだ。
「ふっ、差し詰め
戦場の亡霊か」
だが知恵は速度を落とさず、ただ身体を捻り身構える。
瞬間、彼の身体が膨張し、突き出した剛腕がにじり寄ろうとする屍を一掃したのであった。
かくして巨大な類人猿へ変身を遂げた知恵は、一瞬耳を澄ますような様子を見せ、今度は四つ足で猛然と走り出す。
地を揺るがす巨体はしかし、舗装路のカーブには沿わず、一直線に繁茂する樹々の間へと飛び込んだ。
暗闇と靄から突如浮かび上がっては立ちはだかる樹木も、時に幹を、時に枝を足掛かりとし、飛ぶように進んでいく彼の妨げにはならなかったのである。
やがてそれらを抜けた先に、地図と聴覚によって知恵が推測した通り、UDC職員たちが防衛線――直方体の廃建造物の前庭――を必死に維持しようとしている姿があった。
「ひッ……! 何だ、今度はキング・コングか!?」
『安心しな、俺はまだ腐っちゃあいない』
絶望の叫びと共に向けられた銃口から身をかわしつつ、彼らの目と鼻の先まで迫っているゾンビの横列を転がるようにして、振り回した銃の台尻と鉄拳で薙ぎ払っていく。
更に身を翻してゾンビが湧き出している方角の「ジャングル」に突っ込んだ彼は、より身軽さを増して跳ね回り、敵を蹂躙し始めた。
次々の異常事態に恐慌気味であったUDC職員たちも、とにかくそれが援軍であることは理解したのだろう。聞こえる銃撃音に統率が戻っていくのを認め、知恵の口の端がまた持ち上がる。
そして、彼の縦横無尽の奇襲によって数を減らしたゾンビ達に、その防衛線は決して乗り越えられないのであった。
成功
🔵🔵🔴
シェラ・イル
アドリブ歓迎
『』:使い魔ザミエルの台詞
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『ほら、覚えてるか相棒?先週あたりの真夜中に観た映画みたいじゃねえか』
「……ああ、あの──」
最後に全員が死んだやつですか、という言葉は飲み込んで
代わりに近くにいる職員の死角から襲ってきたゾンビを、一瞥もせず拳銃で頭を撃ち抜く
『レビューにはクソだなんだって書いてあったけどなァ、"救いがない"なんて現実と変わらねえじゃねえか。ニンゲンは何が気に入らねえんだ?』
「現実と変わらないからこそ、ではないですか」
物語の中だけでも救われたい、物語の中に夢を見る
フィクションにはそれが許されている
…私にはどうでもよいことだが
「魔弾術式展開。──執行を開始します」
「クソッ! いつになったら通信が回復するんだ!? このままじゃ……」
銃口から放たれる、脳を揺らす破裂音と火花。
腐肉を貫く鈍い弾音と、その度に呻きを漏らしながらも容易に倒れぬゾンビ。
恐怖と怪奇に震える人々の声。
そこに、観測者めいた調子の声が交じる。
『ほら、覚えてるか相棒? 先週あたりの真夜中に観た映画みたいじゃねえか』
少し間を置いて、冷然とした声が応じ。
「……ああ、あの──」
最後に全員が死んだやつですか。と続くはずの言葉は途切れ、ほぼ同時に銃声が響く。
飲み込まれた言葉の代わり、真横にかざされた銃口から吐き出された弾。どこから忍び込んだか、廃屋の戸口から這い出し、UDC職員の首筋にかぶりつかんとするゾンビの眉間を砕き貫いた。
――ああ、映画ならあそこで食われてたところだ。使い魔が茶化すような口ぶりで呟く。
救われた職員はまるで気付かず戦闘を続けている。
けれどシェラ・イル(Dec.・f43722)はそれらに一瞥も与えず、感情の起伏もまた伺うことはできなかった。
旧支部に続くストリートに横陣を敷くUDC組織の兵。通信不調によって状況を知り得ない今、劣勢であろうとも持ち場を守り切ろうと奮戦していた。
しかしそれを横目に、ザミエルは話を続ける。
『レビューにはクソだなんだって書いてあったけどなァ、"救いがない"なんて現実と変わらねえじゃねえか。ニンゲンは何が気に入らねえんだ?』
彼が語る件の映画は、大半の感想が酷評という代物であった。ただそれは演技や予算のためというより、エンターテイメントとしては余りにも単調かつ陰惨に過ぎたためだろう。
軽率に動いた愚か者は当然のように死ぬ。思考を巡らせ光明を求めた者も、それを利用し保身に走った狡猾な者も徒労に終わる。
主人公を含めた老若男女が、みな嫌と言うほど「希望など無い」と悟って死んでいく筋書きだった。
――もちろん、そこの兵士に似た者達も。
けれどザミエルに言わせれば、それは状況こそ特異なものの、ごくありふれた話でしかない。
彼は「ほら、そこにも」とでも言うように、尻尾をふいと揺らす。
それが向いた先にひっそりと並ぶ木塀の奥からは、激しい物音に紛れ、低い打撃の音が響いていた。
「現実と変わらないからこそ、ではないですか」
そしてシェラもまた事も無げに答えつつ、自らの獲物を細い指で撫ぜる。それに沿って光が宿ると同時に、同質の輝点がその周囲に浮かぶ。
(物語の中だけでも救われたい、物語の中に夢を見る。フィクションにはそれが許されている)
朽ちた木塀が崩れ、大量のゾンビがなだれ込む。
(……私にはどうでもよいことだが)
「魔弾術式展開。──執行を開始します」
だが、それを待ち構えたいくつもの輝点、もとい銃口から、銀の弾丸が疾走する。眉間はおろか屍の頭部を消し飛ばしてなお余りある威力を備えた、破壊の光雨として。
即座に襲撃を無力化したシェラは、続いて街路へと向き直った。
未だ数十にのぼる煌めき。
職員達はそれらの妨げにならぬよう、もしくは彼の歩みに道を譲るため、奇妙に沈黙したまま示し合わせたように脇へ退く。
この執行が彼らにとって『救い』であるか、否か。
やはりそれらを一顧だにせぬまま、彼は残余のゾンビに向けて破邪の金属を撃ち込み続けるのであった。
成功
🔵🔵🔴
クロエ・ボーヴォワール(サポート)
「カネならありますわよ~!」
◆口調
・一人称はわたくし、二人称はあなた様。典型的なお嬢様風
◆性質・特技
・好奇心旺盛にして仕事熱心
・実はゲテモノ料理好き
◆行動傾向
・ボーヴォワール社の持て余した圧倒的カネの力にモノを言わせ、万事解決を目指す
・法すらカネで買い取る自由奔放すぎる性格であるが、ノブレスオブリージュの精神に則り他者の為ならば才と財を惜しまない(混沌/善)
・猟兵としての活動は異世界を股にかけたボーヴォワール社の販路開拓と考えており隙あらば自社製品を宣伝し、「実演販売」に抜かりはない
・教養として体得したシンフォニアとしての技術をビジネス話術にも応用する
・細かい仕事は老執事セバスチャンに一任
廃工場と資材置き場が目に付く、ゴーストタウンの一角。
「動く屍……是非とも詳細を確かめたいものですわね!」
そこを行きながら、恐怖よりも好奇に顔を輝かせるのは、クロエ・ボーヴォワール(ボーヴォワール財閥総裁令嬢・f35113)。
と、一瞬その顔をしかめ、豪奢な扇子をぱっと広げて口元を隠す。
その前方では激しい戦闘の銃火がフラッシュのように瞬き、腐肉と悪臭を一帯に撒き散らしている。廃車とタイヤや廃材を盾とし、UDC職員たちが押し寄せるゾンビ達へ銃撃を浴びせていたのである。
だが、それは遠目にもあまり効果的とは言えなかった。倒すよりも現れる数の方が多いのだろう、即席の遮蔽物はまさに乗り越えられようとする寸前だったのだ。
「観察は後回しですわね! まずは……『実演販売』ですわ!」
言うが早いか、クロエは取り出した小型のエンジンを手元の扇子にあてがう。小気味良い音と共に扇子と一体化したエンジンは即座に駆動を開始し、蒸気機関特有のの異音が満ちていく。
それらの音で注目を一挙に集めた彼女は、自信に満ちた声と表情を更に深め。
「急なゾンビにお困りのそこの皆様方! そんな貴方にうってつけの商品がございますわ。これさえあればもう心配御無用、我がボーヴォワール社のスチームエンジン――その圧倒的な性能を、どうぞ御覧くださいませ!」
そのまま職員たちをすり抜け矢面に立った彼女は、蒸気を噴き上げる扇子を振り抜くように扇いでみせた。
するとその瞬間、エンジンの駆動は解き放たれたように急加速し。そこから生み出された超高速振動――もとい衝撃波は、こちら側へなだれ込もうとしていた屍の脆い肉体を容易く後方へ押し戻したのである。
「そぉれ!」
続けてもう一閃。捲れ上がった板材や金属棒、タイヤ、遮蔽物を構成していた物体を伴う破壊的な暴風が追撃を加える。
そして、クロエの口上と共に吹き荒れるその局地的な嵐は、彼女の売り文句通りに綺麗さっぱりと、ゾンビを一体残らず吹き飛ばしていくのであった。
成功
🔵🔵🔴
クウハク・カラヤ
後方での狙撃に徹する。
危なそうな人が居たら狙撃で支援をする。
近距離での戦いは避ける。
他はお任せします
飲食店だったらしい四角い屋上。
そこの錆びた貯水タンクの陰で、微かに動く人影があった。
「……。」
慣れた手付きで狙撃の姿勢を取った男は、遠目には兵士らしい。ただし、他の部隊と連携している様子が無いという一点において、明らかにUDC兵の一員ではなかった。
いや、もう一つ相違点を挙げるとすれば。
少なからず混乱に陥っている前方の路上に対し、クウハク・カラヤ(サイボーグの戦場傭兵・f15833)はひとり、見えない壁を隔てたかのような静けさを保っていた。
―――
「クソ、クソッ! 寄るな、このっ……化け物共!」
乱戦の中、ゾンビの群れに孤立したひとりの職員。藁にも縋るといった様子で鉄のダストボックスに登り、銃を片手に何かの灯りを振り回している。
その時、四方八方から伸びるゾンビの腕が、彼の足に触れた。
だが、そのまま引きずり込まれるかに思われた瞬間。突然、その腐った腕は弾かれたように引きつり、空を切ったのだった。
「……え?」
呆気に取られる彼をよそに、次弾が靄のヴェールを裂いて別の一体の腿を砕く。間を置かず次の一発が走り、今度は屍の腕を落とす。
暗闇と靄、そして混戦。決して狙撃に良好なコンディションではない。
しかし、戦場とは往々にして劣悪な環境にあるものだ。そういう意味で、歴戦のクウハクにしてみればこれも「普通」の範疇であるのかもしれない。
むしろ、敵に狙撃兵の位置を探る知能が無い分、射撃に専念できているようであった。
―――
続けざまにゾンビを這いつくばらせ、職員も態勢の立て直しに成功した頃。
クウハクは突然狙撃を中断し、手早く武器を片付け始めた。
そしてそれと同時に、階下へ続く鉄扉を何者かが叩く。
一度、二度、三度。
射撃音に引き寄せられたか、偶然か。いずれにせよ、少なくとも人ではない。
カウントダウンを思わせる不気味な響きの中、クウハクは逡巡も焦りもなく支度を整えると、素早く階下に目を走らせてから隣の屋根に飛び移る。そこには予めロープが垂らされており、彼はそれを伝って地上へと降りていった。
鉄扉の奥にいる者を恐れた訳ではない。ただ、自らの安全とでは秤に掛けるまでも無いということだったのだろう。
それでも彼の戦果は、既に報酬に値するものであることは誰の目にも明らかであった。
成功
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佐藤・和鏡子
先日購入してから中々使う機会のなかったグレネードマシンガン(連射のユーベルコード)で援護します。
こういった多数の相手の面制圧には打って付けですから。
(範囲攻撃と制圧射撃と爆撃でカバーします)
連射機能を生かすためにできるだけ陣地の中から足を止めて撃つようにします。
もし、UDC職員に負傷者がいた場合は医術や救助活動で積極的に治療します。
私は看護用モデルのミレナリィドールなので、本来はこちらが本業ですから。
街の中心を貫く川。そこに架けられた鉄橋の両端、複数の道が合流してやや開けた空間。
UDC職員はその片側に陣形を組み、対岸から聞こえる唸り声目掛けて銃撃を仕掛けている。
だが、靄の目隠しと、時折不意を突いて他方から現れるゾンビに苦戦を強いられ、既に幾体ものゾンビに接近を許していた。
そしてそれらに応戦する度、防衛ラインはじりじりと距離を詰められていたのである。
疲労する職員たちに対し、敵は疲れを知らず、数が衰えることも無い。追い詰められていく恐怖が更に狙いを狂わせる。
しかし、その絶望も、陰鬱な靄も闇も、そして対岸のゾンビも。突如として開いた鮮烈な炎が、すべてを吹き飛ばした。
「……先日購入してから中々使う機会がありませんでしたが、今回には打って付けですね」
佐藤・和鏡子(リトルナース・f12005)のグレネードマシンガンが爆炎を立て続けに巻き起こし、今宵初めて対岸の全容を明らかにする。
そこでは、目が眩んだかはたまた爆風の為か、ゾンビの鈍足がなお一層鈍る様が、おぼろげにではあるが確かに見て取れた。
「正面はできるだけ抑えます。皆さんは撃ち漏らしへの対応と、周囲の警戒をお願いできますか?」
和鏡子はそう言って、周囲の職員達に呼び掛ける。
突然現れた少女の姿と怒涛の爆撃に戸惑いを隠せない様子の彼らも、彼女の異質な力にある程度は察したのだろう。
光の戻った眼差しで、力強く了解の意を示したのであった。
正確な位置が掴めなくとも、数が多かろうとも、広範囲の至る所で巻き起こる爆発の前には何の障害にもならない。
ただひとつ、絶え間なく続く弾雨は枯渇への懸念を抱かせるものの、弾倉にあたる部分に組み込まれた淡い色合いの箱はまさしく無限に次弾を生み出し、尽きぬ援護は味方を勇気付けている。
の、だが。
「……! すみません、少しの間だけ援護をお願いします」
何かに気付いた彼女はふと銃を下ろすと、一人の職員に駆け寄っていく。
よくよく見れば、彼の首筋には削られたような傷跡が刻まれていた。どうやらゾンビの爪か骨かによって負傷していたらしく、まだ血が溢れ出している。
「あ、ありがとうございます。だけど……」
「いいえ、いけません。さあ、傷を見せてください」
和鏡子はつい今まで弾倉であった救急箱から品々を取り出すと、すぐさま処置を施し始める。
気付けば前線は対岸の遥か後方に押し上げられ、かなりの余裕が生まれていた。
「これ……映画だったら俺もゾンビになるんでしょうね」
「安心してください、ゾンビ化はしないはずです。ですがきちんと処置しなければ、感染症の危険は十分にありますよ。――他に痛む箇所はありませんか?」
「ええ。驚きました、治療までして貰えるとは」
「本来はこちらが本業ですから。それでは、何かあったら隠さず言ってくださいね」
そして、和鏡子は対岸への銃撃を再開する。
けれどやはり、彼女はなおも治療が必要な者の存在を決して見逃さず、救いの手を差し伸べ続けるのであった。
成功
🔵🔵🔴
ネッド・アロナックス(サポート)
めずらしい そざいはある?
なければ じょうほうを しいれて かえろうかな!
(※セリフはひらがな+カタカナ+空白で話します)
探し物や調べ物は楽しくて得意だよ
"くらげほうき"や"ゆきソリ"で空を飛んだり泳いだりしてヒトや物も運ぶよ
戦闘はサポートに回ることが多いかな
手強い敵は基本隠れながら隙を作って逃げる!
"クリーピングコイン"で物をひっかけて飛ばしたり
"しろくじら"の歌で余所見をさせたりね
ユーベルコードは指定した物をどれでも使用し多少の怪我は厭わず積極的に行動します
他の猟兵に迷惑をかける行為はしません
また例え依頼の成功のためでも公序良俗に反する行動はしません
あとはおまかせ
よろしくおねがいします!
「……ったく、腐っても歯が抜けてねぇなんて、歯科医師会表彰モンだ」
UDC組織の兵が、腕についた傷にひとり呟く。彼の目の前には、たった今こじ開けた戸口を隠すように横倒しにされた古い家具と、扉の割れ目から覗く屍の腕があった。
このゴーストタウンを同時多発的に襲った、獰猛なゾンビの群れ。
調査本部を囲う警戒網の中には、彼が配備されたグループのように、運悪く分断を強いられた箇所も当然生まれていた。
「くそっ、俺一人でやるしかねぇか」
未だノイズを吐き続ける無線機を諦め、兵士はバリケードを背中で押さえに掛かる。
目についた階段上の窓には、靄に濁った闇夜がどこまでも陰鬱に広がっていた。
だが、ふとそこに、光が差し込んだ。
「やあ」
ランタンを翳し、笠を被った人の姿がこちらを覗き込む。
「そこはあぶないよ なかまのところに つれていってあげるから あがっておいで」
ネッド・アロナックス(ガムゴム人の冒険商人・f41694)の呼び掛けに、UDC兵はややためらう素振りを見せていたものの、やがて覚悟を決めたように階段へと駆け出した。
途端に鈍い衝撃音と共にバリケードが揺れ、扉が徐々に開き始める。しかしそれが完全に開くより早く、彼は二階の破れた大窓に辿り着いた。
それを出迎えたのは、宙に浮くソリと『しろくじら』。
そしてソリの前端に座るネッドは、手を差し伸べて促してみせる。
「さあ のって!」
「……ああ、どうせ後には引けねぇんだ。あの世でもどこでも連れて行ってくれ!」
背後を脅かす響きによって一も二も無く彼が乗り込んだのを見届けると、ネッドはしろくじらの背に軽く合図を出す。
するとソリはぐんと動き出し、夜の空を滑り昇っていくのだった。
「す……すげぇ。ガキの頃に観た映画みてぇだ」
空を駆ける心地に、UDC兵が先の危機も忘れて惚けていると、間も無く盛んな銃声が近付いてきた。
ネッドがランタンを掲げて合図を出すと、地表からも照明の返事が返ってくる。
やがて地面に降り立ってみれば、そこにはUDC兵達の新たな陣地が築かれており、迫り来るゾンビに応戦している所だった。
「ああ ちょっと まって」
驚きつつも礼を述べてソリを降りようとする彼に、ネッドはバッグから一本のボトルを差し出した。
「よく あらっておくこと いいね?」
それから自分の腕を――彼の傷と同じ場所を指す。
重ねて頭を下げるUDC兵達に軽く手を振って、ネッドは再び夜の空に滑り出すのであった。
―――
かくしてはぐれた者を全員送り届けた彼はしかし、まだ帰った訳では無かった。
「さあ おれたちも てつだおうか」
頭上からしろくじらの歌が響き渡り、ネッドが撒いたコインが地表すれすれで自在に渦を巻く。
盲目的なゾンビの群れはそれらの陽動に足を止め、銃火の的となって倒れ伏す。
そして、UDC兵達の陣は、もう二度と崩れることは無いのであった。
成功
🔵🔵🔴
●轟音、あるいは死者への号令
戦いによる混乱が収まりつつあった頃。くぐもった轟きが、いずこかから響く。
と、それを境に、無尽蔵とも思われたゾンビ達の出現が止んだ。そればかりか、見えない範囲では後退りするような気配さえ感じられたのだ。
その急変に、「号砲」という言葉が想起される。
事実、これは日が昇ってから分かることだが、倒れているゾンビの数は昨夜よりも確実にその数を減らしていたという。文字通り、這ってでも退却したとしか考えられない。
ああも無感覚にこちらを目指していた所にこの豹変ぶり。何者かに操られていると考えるのが自然だろう。
空が白んでもまだ完全には晴れぬ靄。それはこの地の秘密を象徴しているかのように、纏わりついて離れない。
過ぎ去ってしまえば一夜の悪夢にも思えるようなこの騒動も、まだ序章に過ぎないという確かな予感と共に。
第2章 冒険
『アンダーグラウンド・ディフェンス・コープ』
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POW : UDC組織の兵士と協力。現地の経験と物量で謎を解き明かす!
SPD : UDC組織のエージェントと協力。潜入や探索で謎を解き明かす!
WIZ : UDC組織の研究者と協力。頭脳や実験で謎を解き明かす!
👑11
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●五里霧中の屍街
しばし経ち、事態の整理が一段落ついた頃。
今回の部隊長であるという男が改めて丁重な礼を述べ、現状の報告と提案をしたいと申し出てきた。
負傷者、行方不明者、未だノイズの多い通信状態、望めない増援。
それらもさることながら、彼の顔色を悪くさせている最大の要因は、いつまたゾンビが押し寄せて来るかも知れないという点にある。
「既にお聞きかもしれませんが、我々は予めこの地の哨戒を行っていたのです。にもかかわらず、ゾンビはあちこちから一斉に出没した。隠れていたにせよ、街にはあれほどの数が収まる場所は無かった筈なのですが」
彼の言葉を信じるならば、この街には知られざる侵入経路、地下通路のようなものがあるとしか考えられない。裏を返せば手掛かりとも言えるが、当然内部の調査は危険も伴う。
また、それらの他に怪しいと目されているのが廃墓地だという。黄泉帰り伝説の聖地とも噂されており、謂れ、広さ共に、ゾンビが隠れ潜むには相応しいだろう。――いささか話が出来過ぎの感は否めないが。
ともあれ、このような状況を踏まえ、UDC職員たちは館外で探索する者と館内に留まる者で、いくつかの班に分かれての調査継続を進言している。
どこかへ向かうか、街の各所に生まれているであろう地下通路の入口を探るか、はたまたこの本部で調査を進めるか。
彼らをどう扱い、そして元凶の居場所をどう掴むかは、猟兵たちの手に委ねられている。
※上記の行動は一例であり、撤退やその他の行動ももちろん可能です。利用できるUDC職員の技能・装備などはマスターページにも例示いたします。
シェラ・イル
アドリブ歓迎
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「…負傷している職員や兵士の方々は休んでいてください」
私はゾンビの出所の調査と、同時にはぐれ、または隠れているゾンビらの制圧へ
それから行方不明者の捜索も兼ねましょう
この土地をよく知る職員または兵士を一人、同行願います
「貴方の身は私が護りますので」
常のように淡白に告げて
業務に関する以外の会話はしない
都度ゾンビを掃討し
その度に固まる同行者を視線で促しながら
他の猟兵が探索していない場所へ出向き
ひとつひとつ潰して行きましょう
行方不明者の手がかりや姿も零さぬよう気をつけて
…足場が悪い
同行者がこのような状況に不慣れの場合
「お手をどうぞ」
当たり前のように手を差し出して
「……負傷している職員や兵士の方々は休んでいてください」
護衛を申し出てきた幾人かの兵士をそう留め、シェラ・イル(Dec.・f43722)は門の傍へほんの微かな目礼を送る。
そこで待ち構えていた職員は、兵士というよりは事務官らしい出で立ちで。護衛はおろか、ただの道連れとしても力不足は目に見えていた。
何故なら、シェラが同行を求めたその唯一の職員は、このゴーストタウンを直に見、地理を把握している者。即ち案内役であったからだ。
それでも自身の力量に不安を感じている様子ではあったが、それもすぐに霧散することとなった。
出発前の確認のさなか、不意にシェラの細身の杖先がゆらりと横へ向く。同時に光の筋が幾重にも走り、その先で蠢いていた屍を――半身を砕かれ、なお本部に這い寄りつつあった一体が音も無く消し飛ばされた。
「貴方の身は私が護りますので」
それは気遣いというよりも単なる事実を述べるような調子であり、しかしそれは決して覆らないだろうと予感させるだけの静かな迫力を備えていたのであった。
―――
「……ひっ!」
部屋を潜った瞬間、何かがバネ仕掛けのように反応し、そして魔弾によって崩れ落ちる。それから反射的に身を竦めた案内人を視線で促す。このやり取りも何度目になるだろうか。
激戦を物語る死肉に覆われた道路を行き、乱暴に壊された戸口を訪ね、はぐれたとも隠れていたとも知れぬ屍を滅ぼし。
彼らのそうした寡黙な道行は、呼称すら持たない廃屋を巡りつつ、次第に「何も無い」方へと向かっていた。
「次に怪しいのは……あちらでしょうか。あの道はほとんど森と言っても良い小径に続いています。先には粗末な小屋しかありませんが、パニックになってその周囲に迷い込んだ者がいるかもしれません」
案内人がそう提言した通り、道はすぐに葉に覆われ、いつの間にか舗装も剥がれていった。
そして、それと同時に。シェラの足取りにも、何らかの――恐らくは葉の散乱具合に――確信に近いものが感じられる気がした。
「お手をどうぞ」
悪路に案内人の足が鈍ると、そうして当然のように手を差し出し。
シェラはかつての市外と呼べる地まで、緑濃き道を行くのだった。
―――
「一体、なぜあんな所に隠れていたのですか? イル氏がいなければ気付かないところでしたよ」
やがてシェラは、果たして一人の負傷者を見つけ出した。ただし、それらしい小屋ではなく、その傍の川岸の窪みの中に。
彼を引き上げ、自身で施したらしい応急処置の痕へ案内人が改めて手当を施す間、彼が語ったのは驚くべき示唆を含んだ証言であった。
昨夜、彼が衆寡敵せずゾンビに取り囲まれ、過度の恐慌と猛烈な圧迫と出血に意識を失った後。
再び意識を取り戻した彼は、ゾンビによって乱暴に引きずられていく自分を見出した。周囲の物音から川の傍を通っていることを知り、渾身の力で身を捻ってそのせせらぎに転げ落ちたのだ、と。
「とすると、ゾンビの目的は……生け捕りだと?」
「いや、
生死は問わず――いや違うな、そもそも生死など最初から眼中に無いように思われた。動く人間がいる限りは攻撃し、誰も動かなくなれば運ぶ、そんな感じだ」
生死は眼中に無い。それは
関係なくなるからではないか。そんな想像が、二人のUDC職員の間に流れる。
「しかし、どこへ運ぼうと――」
「恐らくは」
その時、シェラが川岸の一点を指し示す。その先には、崩れた岩に紛れ極めて見分け難いものの、確かにアーチ型の横穴が口を開けていたのだ。
それは明らかに隠されていた入口が浸食の類によって露わになったものであり、なおかつ相当な広さを誇る地下通路の入口のひとつと思われた。
陸へ降りたシェラはゆっくりとその傍へ近寄り、何かを確かめるような仕草を見せる。
がすぐに向き直ると、杖をゆるりと振るい、魔法陣が宙に開く。
瞬間、迸った光が横穴を染め。あたかも守衛の如く待ち受けていた敵群を、その姿さえ見ぬままに葬り去った。
そして。
「それでは、負傷者の方を連れて戻りましょう」
そう振り返ったシェラの顔色は、まだ何事もなかったように涼しげなのであった。
大成功
🔵🔵🔵
九頭龍・達也
基さん(f01075)と職員さんと一緒にゾンビの発生源調査だね。
職員さんには地理情報を期待したいところ。
とりあえず、ゾンビが数多く発生しているところを
掃除して行って怪しい場所を探って行けば大元に辿り着くんじゃないかな?
ジャンプスケアかあ。まあ映画とかゲームのは怖がらせるプロの業だからねえ。
あれは俺もコワイ。
現実だと……出て来る前に分かるけど。(『気配感知』で察知して出現と同時にザクッ)
戦闘においては『勇者の聖域』を発動。
自身、基さん、職員さんが負傷した場合は即座に回復。
ゾンビは足止めして『勇者の剣』で首を刎ねて対処しよう。
ゾンビってだいたい頭を潰せば止まるよね?
木鳩・基
達也くん(f39481)と
一旦ゾンビは退治されたわけだけど、また波が来るかもしれないのかぁ……
え、外の探索?
まぁまぁ嫌な予感するけど……うん、行こうか
職員さんも連れて発生源調査
戦闘は達也くんに一任で
私は【情報収集】に徹するよ
急に飛び出してくるのとかありそうだし……
ホラー映画は好きだけどジャンプスケアは苦手なんだよね
ゾンビを仕留められたらUCを使用
ゾンビの服装や傷から発生源やゾンビ化した要因の手がかりを掴むよ
もし地域性のある情報なら職員さんに確認を取りたいな
とりあえず一仕事できたら私も来た意味あったってことでいいよね?
頭潰したら止まるけど、まぁ人間って頭潰したらだいたい止まるからね……
「……え、外の探索?」
「そ。とりあえず、ゾンビが数多く発生しているところを
掃除して行って、怪しい場所を探って行けば大元に辿り着くんじゃないかな? と思ってさ」
九頭龍・達也(
大宇宙帰りの勇者・f39481)の提案を受け、木鳩・基(完成途上・f01075)はちらりと窓の外を眺めやった。
白みがかった大気に、樹々の緑が、剥げかけた家屋の塗装が、ぼんやりと滲んでいる。
そこに潜む亡者の存在がそう思わせるのか、それらは酷く不穏に見えた。
けれど、基はすぐに帽子を被り直し、達也に応じるのだった。
「まぁまぁ嫌な予感するけど……うん、行こうか」
―――
「着きました。各地点の交戦報告をまとめると、やはりここが怪しいかと」
「おぉ~……結構立派な建物だね」
職員の案内に従い、次第に草木が勢いを増す道を進んでいく。と、突然『そこ』は現れた。
最も疑わしい場所――UDC組織の旧支部。これまで見送ってきた廃屋とは明らかに異なる、アーチ型の窓と塔のような棟を備えた装飾的な建物。
放棄されてから十年を優に超えているはずだが、組織の手入れが入っているためだろう、劣化はあまり見られない。
ただどうしてか、当時の姿を留める廃墟という存在は、死してなお動き続ける屍達と不穏な調和を醸しているようにも思われた。
「正面階段と、その隣には廊下。さっそく分かれ道かあ」
「……んー、ここは右かな」
「とすると、地下でしょうか。少し分かりにくい位置ですから、ご案内します」
曇った窓のせいか薄暗い館内を、達也が先頭、基と職員がそのやや後方という陣形で探索を始めた一行。
埃の積もり具合や、机や椅子の荒れ方、そして職員の知識をもとに、基が疑わしい箇所を絞り込みながら効率良く進んでいく。
「……なんか、急に飛び出してくるのとかありそうだなぁ。ホラー映画は好きだけどジャンプスケアは苦手なんだよね」
「ジャンプスケアかあ。まあ映画とかゲームのは怖がらせるプロの業だからねえ」
やや眉をひそめた基に、あれは俺もコワイと苦笑する達也。だが突然表情を改めると二人を身振りで制止し、単身、地階への入口へ忍び寄る。
「現実だと……」
そして突入と同時に振り抜かれた剣先は、死角に潜むゾンビの頭部を一瞬で切り離した。
「――出て来る前に分かるけど」
更に倒れ掛かるようにして向かってくるいくつもの影。しかしそれに先んじて剣から眩い光が溢れ、その動きを封じ込める。
続け様に舞った剣によって、正確にゾンビの首が落ちていく。
そして、僅かな痙攣はあるものの、それらは皆動かない死体に還ったのだった。
「だいたいそうだから……と思ったけど、やっぱりゾンビって頭を潰せば止まるんだね」
「頭潰したら止まるけど、まぁ人間って頭潰したらだいたい止まるからね……」
未だに光を宿す剣。それは敵に対してだけではなく、治癒の神秘も湛えている。
それ故か、そんな会話を交わせる程に、彼らの探索は狂気とは無縁であった。
―――
「じゃあ、ちょっと調べてみよっか」
続いて基が屍の傍らにしゃがみこんで、手帳を片手に観察を始める。
「男性――目立った外傷なし……首以外は。――腐敗は軽微……いや、これ途中で止まってる? 治療痕は……」
ぱらぱらと紙を捲る音と微かな呟きが、一頻り地下のホールに響いた後。
彼女は、その遺体の襟元――錆びつき、黒ずんだ衣類に紛れて容易には見出せない印章らしきものを指す。そしてそれがこの街で工場を運営していた会社の社章らしいと告げ、少なくともその当時にゾンビを生み出す者がいたという推測を口にした。
「……それで、職員さんに確認したいんだけど。この工場のことで、何か知ってることはない?」
その問いに彼はハッと思い当たったような表情を浮かべ、それから一瞬逡巡の様子を見せる。が、すぐに自分の知りうる限りを話すと宣言した上で、こう語り始めた。
「確かその工場は、度々失踪事件が起こるということで、我々の監視対象とされていた筈です。もっとも潜入調査が行われたところ、犯人は外部犯と、……その……あろうことか当時の支部に所属していたUDC下位職員のひとりではないか、と」
彼が述べたところによれば、件の職員はこの地域の歴史に明るく、特に私的な研究テーマとして、この地の黄泉帰り伝説を追っていたそうだ。
その影響か、不死にまつわる術に極めて強い関心を持っており、かつ何らかの邪悪な魔術に触れたらしいことが発覚し、誘拐と人体実験の容疑を掛けられたのである。
だが、その疑いを持たれるよりも早く、彼は自殺的な実験を無断で行った。
当時この支部に保管されていた、『炭化して崩れるまで死なず、止まらない電気椅子』に自ら座り。
だが、その炭化は何ゆえか、永遠に訪れなかった。
強烈な電撃に苛まれた彼はあらゆる外部干渉を受け付けなくなり、ただ手足の拘束によって身動きも取れぬまま、移送も排除も不可能な狂気存在として数十年在り続けた。
そして、この無人の支部に残された物品のひとつとなったのだという。
「……なるほど」
その男は確かに疑わしい。
ただ、その職員ひとりがやったにしては、昨夜目撃されたというゾンビの数は多すぎないか。密かに侵入経路を作るなど、大掛かり過ぎはしないだろうか。
未だ疑問は残るものの、ひとまず今分かるのはこのくらいだろう。
(とりあえず一仕事できたら私も来た意味あったってことでいいよね?)
それから基は、改めて気配を探っていた達也の方へ振り向き、片手でマルを作ってみせるのだった。
―――
やがて彼らがその狂気存在の部屋に辿り着いた時、果たして三人が半ば予期した通り、そこはもぬけの殻であった。
代わりに、石敷きの床が一部剥がされており、その奥には酷く稚拙に掘られた穴が伸びていた。また、その穴は底の方で別の空間と通じているらしかった。
部屋の床に焼け焦げた何かが残り、ここから何者かの手を借りて降りて行ったこと、そしてその運搬がかなりの苦難を伴ったことを伺わせる。
――即ち、元凶と思われる者は、ここからそう遠くない地点にいるだろう。
そう、彼らは顔を見合わせて頷くのであった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
摩津崎・灰闢
どの世界にも狂人は居るのですね。
ささやかながら助力したいと思います。
とはいえ、推理じみた事に頭を使うのは不得手ではあるのですが…
施設内で、UDC職員が何か閃くのを助けます。
他調査で得た情報などを纏め、地図を見ながら職員に問いかけ。
「気になる場所があれば行きますよ」
しかし通信手段が使えないのならば、
私もどなたかに同行して頂きましょうか。
ええ、守って差し上げますのでご安心下さい
赴いた先で死体を発見したら、
情報収集狙いで【死体の一時蘇生】を試してみたり
ゾンビ1体程度なら職員を守りつつ速やかに排除、
多数ならUC発動で身を潜めてやり過ごし。
そう不安げな顔をしないで下さい
間違いなく解決に向かっていますよ。
各種の報告が本部に届いた頃。
館内に留まっていた非戦闘要員達も慌ただしさを増す中で、彼らと共に情報整理をこなす恭しい人物の姿があった。
(……どの世界にも狂人は居るのですね)
そう、摩津崎・灰闢(済度無相・f43898)は意味深に目を細めた。
―――
「……やはり、単独犯にしては不必要に大規模ですね」
これまで発見された入口から、地下通路の予測図を作成していた一人の職員。彼女を手伝っていた灰闢は、ふと問いを投げ掛ける。
「そういえば、見つかった入口は掘り方に差があったとか。やはり作成者が異なるのでしょうか?」
その言葉に、職員が何かに思い当たったように顔を上げる。
「地下通路を作り得るような怪異的存在……まさか、『黄泉帰り』の聖職者が?」
その意を汲んで、灰闢が地図に筆を走らせる。それは奇怪にも、教会と墓地と、小屋近辺の入口を頂点に据えた、正三角の形を為した。
「なるほど……本拠地と、死体の収集場と、ひとつは避難所? しかし何故正三角形を――安定のシンボル、占星術なら
大三角、あるいは正と死と、第三世界の統合――? それならこっちの分岐は内接した別の図形? 確か伝説当時の星辰は……」
にわかに目の色の変わった職員がぶつぶつと呟きつつ、書籍を片手に地図上に落書きのような図形と線を描き込んでは消していく。
やがて彼女は、元々の道が読み取れない程に汚れた地図の、その一点を丸で囲んだ。この地点の分岐を調べれば、少なくとも元凶が潜んでいる範囲の予測図はかなり正確になる、と。
が、すぐにそれが困難であることを自ら悟ったようであった。
「ですが前提に推測をいくつも挟んでいるので、このような不確かな予想で人手を割くというのは……そもそもここに入口があるかどうかも分かりませんし……」
「気になる場所があれば行きますよ。ただ、通信が不調なのですよね。良ければ、あなたも同行して頂けますか?」
――もちろん、守って差し上げますのでご安心下さい。
灰闢の柔和な笑顔とその言葉は、非戦闘員とはいえUDC職員の覚悟を決めさせるには充分であった。
―――
灰闢が職員を連れて向かった先は、食品を扱う加工場とその倉庫であった。外周を探ってみたものの地下への入口は無く、彼らは破れたシャッターを潜りがらんどうの内部へ踏み込んでいく。
もちろん食品などとっくに鳥獣や虫に食われている――かと思いきや、ミイラ化した乾燥肉が所々で目隠しのようにぶら下がっていた。
と、突如その陰から、ゾンビが躍り掛かる。しかしそうと認識する間も無く灰闢は職員の身体を引き寄せながら刀を抜き放ち、その大開きになった顎を貫いた。
そのまま周囲の気配を探り、追撃が無いことを知ると、たった今仕留めた屍に掌を当てる。
すると彼の手から質量のある影のようなものが溢れ出し、死体の全身に根を張るが如く絡みついていく。
そしてゾンビだったものの喉奥から、紛れもなく生者の声がこみ上げてきたのだ。
「……オ、れハ……?」
「時間が惜しいもので、不躾ながら単刀直入に。あなたの身に何が起こったのか、お教え頂けますか?」
僅かに首を持ち上げながら、困惑するように灰闢の顔を見詰めること数秒。彼の微笑にかあるいは他の理由からか、その「生ける屍」は不明瞭な答えを紡ぎ始めた。
――気が付くと、どこかの拘束台に乗せられていたこと。
そして傍らには妙な椅子に座った男がおり、細長い器具で、器用に注射針や電極を掴んでいたこと。
その男が言葉を話さずとも、自分はその命令を感じ、そしてその通りに動かざるを得なかったこと。
「それでは、この近くに地下への出入口はありませんか?」
灰闢の問いに、別棟の方角を指し示す。
地下室に。そう呟くと、彼は再び物言わぬ屍に戻った。
「……では、向かいましょうか」
いつの間にか黒い影を収めていた灰闢は、硬直している職員を促して地下へと進むのであった。
―――
そこは一見すると、予備の貯蔵庫のような雰囲気であった。
が、あたかも行き止まりのような一角を調べてみると、そこから更に地下へと延びる緩い傾斜の穴が続いていた。
人力で掘られたらしいそこを降りていくと、灰闢と職員は奇怪な地下の小ホールの一隅に突き当たったのであった。
だが、そこに合流する他の道の幅と角度を職員がまとめるよりも早く、不気味な呻きがそこら中から反響を持って響いてくる。
しかし灰闢は灯りを最下限まで絞ると、「心配はいらない」と目で語り掛ける。同時に呻き声――否、あらゆる物音が消失し、それは職員が暗視ゴーグルを通してゾンビの姿を捉えても変わらなかった。
そして奇妙にもゾンビはこちらに気付く素振りもないまま、彼らが戻っていくまでの間、その目と鼻の先でただ呆然と立ち尽くしているのであった。
成功
🔵🔵🔴
佐藤・和鏡子
機医で医療ロボットを呼び出して地下通路を探させます。
私だけで探すと時間がかかりますが、147体の数の力で探せば直ぐに見つかりますから。
特に地下鉄の駅や線路、下水道などゾンビが潜めるだけの広さと街中に広範囲に広がっている所を重点的に探します。
大量のゾンビが突如湧いたということは、それまで人間に気付かれずに潜めるだけのスペースと移動できる道があるはずですから。
「……」
一方、UDCの部隊長から説明を受けた直後の別の場所。佐藤・和鏡子(リトルナース・f12005)は鉄の蓋で塞がれていた穴の一つに降り立っていた。
暗い穴の底の湿った泥に、流水の名残が見て取れる。
傍らでは医療ロボットの仄かなライトが無数に浮かび、微かな駆動音を立てながらプロペラを回している。
やがて彼女が歩みだすと同時に、それらのロボットは暗渠の奥へと飛び込んでいくのだった。
―――
同時多発的に出現したゾンビ。だが、いくら命令を下せる者がいたとして、ここまで広範囲に侵入経路を築くことなど可能なのだろうか。
ましてや、監視者が失踪したのはつい先日のことなのだ。
となれば、何か既存の空間が、ゾンビの潜伏場所、移動経路となったのではないだろうか。
そして今、和鏡子はそれに相応しい街の水路を探っているのであった。
UDC職員から提供された地図を基に、飛翔するロボット計147体が斥候となり、眼となり、いくつもの分岐を一挙に調べ上げていく。
この水路は浅い。移動経路としては適当だが、潜伏場所としては危険が大きかった。故にもしこの水路へ繋がる空間があったなら、それこそがゾンビの潜伏場所――ひいては元凶の居場所に通ずる可能性が高いという予想が立つ。
そうして和鏡子とロボットの群れは壁面と床をつぶさに、しかし迅速に見回りながら、瞬く間に調査範囲を狭めていくのであった。
―――
やがて、地上で言えばUDC旧支部の近辺に差し掛かった頃。
横壁を覆うコンクリートが剥がれ落ち、そこから斜め下方へ続く大穴が口を開けていた。
断面の苔を見る限り、これが開通したのはごく最近のことらしい。
更にその手掘りの穴にはゾンビの腕らしきものも転がっており、過酷な工事だったらしいことを窺わせる。
ざっと入口近辺の観察を済ませた後、和鏡子はその歪な傾斜を慎重に降りていく。
突き当たった先は、これまでの水路とは明らかに異なる雰囲気の、石敷きの小ホール。
彼女が今潜り抜けたものと同じような粗雑な穴と、それらとは比較にならない程の精緻なアーチ状通路が二か所。
元凶に近いと悟った和鏡子は、周囲のロボットの一部を背後の警戒に当たらせ、残りすべてを通路の探索へと差し向けた。
すると間も無く、激しい戦闘音が地下空間に満ちる。飛翔するアームとメスが哨戒するゾンビを切り裂く姿が、乱舞するライトの中に浮かんでは消える。
それらは情報共有の為に和鏡子が撤退してもなお、止むことは無く。
そして無数のロボットと、彼女自身が直に見た地下空間の構造は、元凶が潜むと思われる空間を炙り出す為の最後のピースとなったのであった。
大成功
🔵🔵🔵
●地の底で蠢くもの――あるいはその遺骸
敵をただ待ち受けるだけの時間は終わった。
最も手近かつゾンビが減らされているであろう位置から潜入し、一行は湿気と臭気の染み渡った地下を進む。
携行照明によって導かれるその道中は、正に奇怪の一言であった。
直線の坑道と、稀にそこから分岐した隘路、小部屋、上り階段。
その各所には古めかしい秤や壺、紙の端切れがあり、更に一度通り抜けた小ホールには朽ちた衣類、ひび割れた拘束具が、苔や黴に覆われて眠っていた。
そして最も不穏かつ最も多く見られた物品は、木のチェストであった。その形状と大きさはちょうど棺を思わせるものであり、しかもその蓋が尽くこじ開けられていたからだ。
無論、それらの物品や死角から、なおもゾンビの不意打ちがあったことは言うまでもない。
変わり映えのしない風景と断続的な襲撃によって時間と方向の感覚が麻痺し、何も知らずに踏み込んでいれば無限に続くとさえ錯覚したかもしれない。
だが、猟兵達の歩みを妨げるものは、最早この回廊のどこにも見当たらなかった。
天井が開け、長大な空間が姿を見せる。
その大空間の奥に、寝台に囲まれた電光が見えた。
第3章 ボス戦
『ディークラス職員・189086』
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POW : オールドスパーキー
【武装した、死んだはずのDクラス職員達】が現れ、協力してくれる。それは、自身からレベルの二乗m半径の範囲を移動できる。
SPD : イエローママ
非戦闘行為に没頭している間、自身の【電気椅子からの放電】が【非戦闘行為の対象も束縛して自由を奪い】、外部からの攻撃を遮断し、生命維持も不要になる。
WIZ : グルーサムガーティー
全身を【電気椅子からの電撃】で覆い、自身が敵から受けた【負傷や屈辱、あるいは敵への憎悪】に比例した戦闘力増強と、生命力吸収能力を得る。
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴
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●
チェインド・デッド・アンド・アンデッド
暗い空間を染めてフラッシュする光。
それは、部屋の奥に座った男――参照番号189086から放たれていた。両側には使用人の如くゾンビが控えており、半ば焼け爛れた彼らの姿は、片隅の異形の像に劣らず不気味であった。
「よぉ……計画を台無しにしたクソッタレ共」
非常識にも電気に「慣れ」たとでもいうのか、あるいは人間とは異なる
悍ましい高位存在に近付いているのか、処刑器具に座っているとは思えない調子で男は声を掛けてきた。
「まぁ、落ち着けよ。まずはコイツらの話をしよう」
猟兵達の機先を制するように、椅子に固定された長い器具が寝台の方を向く。
その上には、UDC組織の装備を纏った人々が拘束具の下で悶えていた。生死はおろか、素顔も判然としない――が、少なくとも寝かされている人数は行方不明者のそれと一致した。
「安心しろ、意外だったがまだ死んじゃあいない。ま、コイツら『は』――今のうちは、だけどな」
意味深に笑って器具の先で注射を摘まむと、得体の知れない液体を誇るように翳す。
――ゾンビ。元はある一地方の伝説であり、特殊な薬物によって作られた動く死体を指す――どこかで聞いたそんな注釈が脳裏に蘇る。
「俺は今からコイツらを手術する。どうなるかは……もう知ってるか?」
そして、もう一つ。
男がにやりと笑うと、突如、耳を劈く雷鳴と閃光が聴覚と視覚を激震させる。
「今、残りのデク人形に指令を出した。オレを何十年も閉じ込めやがったクソ共を嬲り殺しにしてこいってな」
さあ、どうする。どっちを助ける? せせら笑いと問いが飛ぶ。
だが、ここから調査本部までそう近くはない。奇襲の危険もまだ残されている。撤退の姿勢を見せれば挑発の為に人質へ危害を加える可能性さえある。
――それから、本部に残った職員もまた、訓練と覚悟を備えた者達だということを忘れてはならない。
何より最も根本的な解決策は、今目の前で示された。
即ち、この指揮者を滅ぼすことである。
「……チッ。だったらたっぷりと時間を掛けてやるとするか。焦りが絶望に変わるまでなぁ!」
敵の髪が逆立ち、苛立ちを表すようにバチバチと音が弾け始めた。
※本部に留まり、ボスの妨害を防ぐというプレイングも可能です。ただしその場合も通常のルール通り、敵のユーベルコードは発動したとして成功の判定を行います。
なお、本フラグメントでは、特に記載が無い限り「UDC職員は同行していない」として執筆いたします。
佐藤・和鏡子
本体であるあなたへの対処を終わらせてから残ったゾンビを片付けるのが一番確実そうですね。
人間型の相手に相性が良い轢殺のユーベルコードで対抗します。
具体的にはフルスピードの救急車で突っ込んで轢きます。
Dクラス職員の攻撃などは運転で躱したりついでに轢いたりして対処します。
電気エネルギーには耐性が付いたようですが、運動エネルギーには耐性があるかこれから試してあげますね。
敵の全身から幾多の稲妻が走っては弾け、閃き、空気を打ち鳴らす。
常人には近寄りすらできぬ電撃網の中心で、さながら蜘蛛の如くに捕らえた獲物へ細い腕が伸ばされ――。
そして間もなく、別種の音と光の出現によって中断された。
――電気エネルギーには耐性が付いたようですが、運動エネルギーには耐性があるかこれから試してあげますね。
変わらぬ穏やかな呟き。
その外側で唸りを上げる無骨な車体。猛進してくるサイレンとヘッドライトの輝き。
佐藤・和鏡子(リトルナース・f12005)の操る古い救急車は全力の加速を続け、屍共の頭脳に迫っていた。
より正確に言えば、フルスピードでの『
轢殺』を狙って。
「……おいおい、そんなブツどうやって運び込んだァ? まぁいい――塞げ、奴隷共!」
だが、それよりも速く生まれたスパークが一種不穏な響きを生む。すると和鏡子と敵との間に、何者かの一群が飛び出してきた。
その正体は、やはりゾンビだったのだろう。
しかし彼らは、決して今までに見たような愚鈍な亡者では無かった。武装に身を包み、訓練された動作で銃を構えるその姿は、まさしく今しがたまで共同作戦を行っていたUDC職員達の僚友であったのだ。
よく見れば頭数は人質を除いても行方不明者より多く、かつ装備もそれぞれ差異がある。寄せ集め――別件の犠牲者か、ことによっては旧支部時代の者も含まれているかもしれない。
先の「デク人形」という語句も、このしもべ達と対比してのことだったのだろうか。
さておき、それらDクラス職員だった者達は一切の躊躇なく引き金を引き、銃弾を浴びせ掛けてきたのである。
和鏡子が応じ、ハンドルを勢いよく回す。
タイヤが嘶きにも似た甲高い音を立て、一直線だった軌道が途端に蛇行する。ドリフト気味の車体が傾き、片側が宙に浮く。
ただし、そのバランスは決して崩れず、一列の高速の車輪は、弾丸が火の粉を立てる床の間隙を狙い通りに走り抜けたのだ。
完全に敵を避けるのは困難と判断し、浮いたままの車体で一体を吹き飛ばしながら突破する救急車。
それでも両側の兵士は無反応に銃撃を続ける。が、この重量物の軽業はなおも的を絞らせない。
着地の反動で逆側に傾いた車体は、今度こそ電気椅子の男に向かって突進する。
無数の稲妻が車体に吸い寄せられ、運転席からの視界を白黒に染め火花を散らし、けれど金属の殻の内側を侵すことは叶わないままに通り過ぎてゆく。
そうして電撃の網を裂いた救急車は寝台をすり抜け、地面の凹凸によってまさしく躍り掛かるように、最高速度を以て敵に激突したのだった。
成功
🔵🔵🔴
摩津崎・灰闢
あちらは大丈夫でしょう、優秀な方々ですから
敵UCが発動しても影業は使えるよう
予め電撃耐性の力を込めた護符を使用
影業で注射器や関連器具を逐一破壊し、敵の手術行為を阻害
他ゾンビからの攻撃があれば、鏖殺の気での牽制やWOKシールド最大出力で防御しますが、敵阻害を最優先
嫌がらせは楽しいですからね
この身が傷付こうとも止められません
一瞬でも敵UCが途切れたら即座にUC発動
どうぞ思う存分研究に耽って下さい
更に笑顔で煽る
敵が攻撃行動を取ったら即座に反撃
影業で攻撃しつつ間合いを詰め
鏖殺の気の認識阻害で隙を誘い、刀で急所攻撃
身を退くようなら影業で拘束し、追撃
『善き者』が蘇る伝説ならば
貴方が再現出来ないのも納得です
落雷に等しい衝撃。
それが晴れた後、叩き潰されていてしかるべき敵は意外にも直撃地点――床の陥没や亀裂からそう遠くない位置に踏みとどまっていた。恐らくは、瞬間的な放電で衝突のエネルギーを緩和したのだろう。
が、それも鉄壁とは程遠かった。
「猟兵か……話に聞いちゃいたが、本当に何でもアリだな。畜生が」
敵の損傷した肢体から、ショートした時のような放電が起こる。
「それならこっちも出し惜しみはヤメだ、じっくり見物――いや、折角なら体験していきな!」
すると、派手に散乱しつつあった寝台の人質が、まるで実際の鎖で繋がっているかのように同一の電光に包まれた。
組織の記録にも残るその帯電こそ、水一滴の補給も無く、数十年もの時を生き永らえたという怪異性の片鱗に違いなかった。
「ヒヒヒ、痛いか? 安心しろ、このお注射ですぐ治っちまうからよぉ。……その前に、てめぇらには『奴隷』用の下拵えをしてやんなきゃなァ……」
打って変わってこちらに関心を失った様子の敵は、激しい痙攣を見せる人質に対し、加虐的な表情を剥き出しにする。
だが、その細長い器具が足元に伸びようとした時。それよりも速く、黒い影が陶製の容器を突き破った。
「おやおや、零れてしまいましたね」
あわよくば、と投げられた電気の鎖を退けた者。
摩津崎・灰闢(済度無相・f43898)が、その影の切っ先を向けたまま、余裕ある笑みを投げ掛けた。
だが、敵は強いてこちらを向かぬまま、地面に溢れた異臭を放つ液体を器具の先端に掬う。
「……片付けてこい」
努めて淡泊な指示によって、控えていた爛れ肌のゾンビ共がこちらへ向かってくる。時間稼ぎの捨て駒であることは明白だったが、灰闢はそれにさえ眼もくれず、今度は手術器具の乗った棚を横倒しにする。
更に反応の機先を制し、鉈のように変化させた影で散らばった器具を次々と裁断していく。続いて積まれた電極の籠を串刺しにして投げ捨てる。
迫る屍を黒い殺気と薄紫の盾にて紙一重で防ぎながら、冷静に、楽しげに。
いつまでも続くかに思われたその攻防の最中、突然、敵の手が止まる。
瞬間、全身を包んでいた電光が僅かに途切れた。その機を逃さず、その両脚に蛇のように纏わりつく黒い殺気。
苛立たし気な眼差しに、灰闢の視線がぶつかり。ゆっくりと、かつはっきりと示された「挑発」の笑顔によって、敵の思考回路は憤怒に塗り潰された。
「どうしました? どうぞ思う存分研究に耽って下さい」
癇癪にも似た絶叫と共に、寝台に伸びていた電撃が失せ、代わりに灰闢に向かおうとした――のだろう。
しかしまたしても、一瞬早く影が飛ぶ。肩口に走る痛みによって僅かに遅れた雷撃を待たず、間合いを詰めると同時に黒靄を広げて闇に溶ける。
続いて走った闇雲な稲妻は、妨害に紛れて巧みに配置されていた金属製の器具や棚を弾きながら床や天井に吸い込まれていく。
更に閃光とほぼ同時、早くも寸前まで迫っていた灰闢の刃が襲い掛かる。
再び巻き起こった衝撃。それに乗じて距離を取ろうとした敵の身体に、もう一度影が纏わりつく。
そして強引に引き戻された男の胸部へ、深々と灰闢の刀が突き刺さったのであった。
大成功
🔵🔵🔵
シェラ・イル
アドリブ歓迎
_
人道だとか倫理観だとか
存在はすれど、踏み外し唾を吐き捨てる、
そんな社会で生きてきた
故に彼の行動や言動に、嫌悪も憐憫も興味も抱かず
拘束されている職員に対しては
ゾンビ化されると手間が増えるので、それを防ぐ方向性にて行動する
殺せと言うなら殺す
生かせと言うなら生かしましょう
それもまた仕事の一つだ
──…けれど
こんな育ちでも、こんな自分でも
礼儀は、尽くしましょう
己を飼う教団の神にさえ、私自身の信仰は朧で遠く
世界に、運命に、全てに辟易しているけれど
それでも願いましょう
彼らが骸の海にて眠るとき
穏やかな安息が訪れるように
もう、
彼らに、つらいことなんて、ないように
既に常人ならば数度は死を迎えている筈の電気椅子の男。
しかし、敵はなおも意識を保っていた。それどころか、肉眼でも認識できる程の速度で復元を始めているようである。
ゾンビの首魁に恥じない『アンデッド』ぶりではあるが、それも完璧なものでは無いのだろう。
何故ならその表情には、憤怒だけではなく焦りも、そして恐れも混じっていたから。
そしてそれは、男が怪異に堕ちながらも、未だヒトの範疇から抜け出してはいない証拠のようにも思われた。
一方で、シェラ・イル(Dec.・f43722)の精神にはまだ、何らの情動も起きてはいなかった。嫌悪、憐憫、興味さえも。
男がかつて及んだ行為、人造の
生ける屍。それが犯した倫理。守られるべきであった人の道。
いずれも、シェラには――彼を育てた社会においては、空虚な概念、のみならず喜んで唾棄される類の絵空事であった。
そんな彼が、敢えて怪異に立ち向かう理由は単純である。
(殺せと言うなら殺す、生かせと言うなら生かしましょう。……それもまた仕事の一つだ)
敵が回復せぬ内に放たれた魔弾。
苦し紛れの放電の鎧を貫いて、正確に関節を穿ち身動きを制する。続けて飛来した一撃が敵を大きく吹き飛ばした。
更にそれが命中した瞬間、シェラの脚が尋常ならざる速度で地を蹴り、ほんの数足で敵の元に迫る。
同時に人質達の拘束具を次々と射抜き、破壊しつつ残弾を創造した、その瞬間。
あの、意思を伝達する不気味な放電が響く。
再び出現したDクラス職員の成れの果てが隊列を組む。
ただし今度は昨夜と反対に、シェラへと銃口を向けて。
「殺れ!」
直後、乱れ飛ぶ銃弾。
ところが、シェラは全身がぼやけたかと思う程の速度で反応を見せた。掌が弾丸の雨を余すことなく受け止め、掴み、あまつさえその度に陣を開き、数十倍もの魔力の散弾を返していく。
時間にしてほんの一秒程の後、屍の兵隊は粉砕され、消滅していた。
(ただの仕事だ。──…けれど、こんな育ちでも、こんな自分でも。礼儀は、尽くしましょう)
瞬間、閃いた雷撃。
けれどそれすら受け止めた細腕が、同様に淀みなく魔弾を放ちつつ、力を蓄える。
数々の負傷によって薄らいだ電流、隙を晒した敵の驚愕がはっきりと捉えられ、狙うべき箇所を冷徹に絞り込み――それとは別の領域で、シェラは思考していた。
否、祈っていた。
(己を飼う教団の神にさえ、私自身の信仰は朧で遠く。世界に、運命に、全てに辟易しているけれど。それでも願いましょう)
欲望のままに禁忌を犯し、身勝手な復讐心を抱き、そしてこの瞬間恐怖している敵。
数十年の隔絶の果て、とうに消え去っているべき「今」にしがみつく男。
いや、『骸の海に沈みゆく者』への、葬礼を。
(彼らが骸の海にて眠るとき、穏やかな安息が訪れるように)
――もう、彼らに、つらいことなんて、ないように。
決して外には現れないその祈りと共に、シェラの舞うような連撃が敵の全身を激しく軋ませ、そして壁面に叩き付けたのであった。
成功
🔵🔵🔴
九頭龍・達也
基さん(f01075)と
「わお、典型的な三流悪役って感じでイイネ! 良心の呵責なくボコボコに出来る」
(嘘である。別に今更殊勝な態度をとっても躊躇なくボコボコにする男である)
ツッコミを入れてくれる基さんには「アハハ、よく分かってらっしゃる」と。どっちも助けるという彼女の考えには「ひゅーカッコいい。それじゃ急いで倒さなきゃね」という感じ。
基さんが盾役をやってくれるので俺は攻撃専念。
まずは連携して敵POWUCで現れた武装したDクラス職員たちを『闘気』を活性化させてゴッドハンドの体術でボコボコにして消し去ろう。
そして残った189086に対して――「お待たせ」と【連撃】を叩き込むよ。
木鳩・基
達也くん(f39481)と
……敵の事情とか聞いても容赦しないタイプでしょ、元々
(達也をチラ見)
たしかに全力出せる相手ではあるよね
で、二者択一みたいな質問されたら私、答え決めてるんだ
「どっちも助ける」、さっさと倒せば無理な話じゃない
部屋の廃材からピースを生成、UCで両腕に盾を装着
射程を犠牲にした装甲5倍の防御力で接近して職員を押さえ込むよ
感染しないなら大胆に立ち回っていいはず!
【フェイント】や【だまし討ち】も盛り込んで、相手の攻撃に穴を開けよう
……できれば死体はあんま傷つけたくないけどね
189086からの攻撃は盾で真っ先に遮断
廃材にゴム製品があったら表面に覆って威力を弱めたい
じゃ、最後は任せた!
「わお、典型的な三流悪役って感じでイイネ! 良心の呵責なくボコボコに出来る」
九頭龍・達也(
大宇宙帰りの勇者・f39481)がぱしりと拳を合わせるも、木鳩・基(完成途上・f01075)が横目で静かな指摘を入れる。
「……敵の事情とか聞いても容赦しないタイプでしょ、元々」
「アハハ、よく分かってらっしゃる」
あっさりと認めて笑う達也に肩を竦めつつ、それでも改めて今回の事件の首謀者を見やれば。
「ああ……もう
余興も奴隷の材料も、俺の身体も、どーでも良い。……テメェ等全員、黒焦げのボロ炭にしてやる!」
男は全身の傷口から電流が漏出し爛れていくにも構わず、再度の戦闘態勢に移ろうとしていた。なおも、下卑た敵意を剥き出しにしながら。
潔さも矜持も品性も無いその姿に、思わず頷く。
「……ま、たしかに全力出せる相手ではあるよね」
そして会話を交わす二人もまた、その間に万端の態勢を整えていた。
「で、二者択一みたいな質問されたら私、答え決めてるんだ」
――「どっちも助ける」、さっさと倒せば無理な話じゃない。
基の両腕から広がった二枚の大盾。見ればそれらはいくつものピースから組み上がっており、なおかつその根本は彼女の腕そのものと噛み合っているらしかった。
「ひゅーカッコいい。それじゃ急いで倒さなきゃね」
ずいと進み出て矢面に立った基に、達也も軽く姿勢を改める。
彼女の重厚な防具とは対照的な徒手。しかしそこに宿る闘気は、盾の陰に隠れてなお威圧的な存在感を放つのだった。
「起きろ、役立たず共!」
敵を再度覆った電光からまたしても奇怪なスパークが走る。ただし今度のそれは単なる指令ではなく、悪辣な主人が家畜や奴隷にそうするように、倒れた
ゾンビを鞭打ったのだ。
しかし、あるいはその特殊な電気刺激に秘密があるのか、これまでであればもう動かなかったろうその損傷した屍体達は、ややぎこちなくも再び――もしくは三たび、次々と起き上がったのだ。
そこに新たな兵も合流し、一個の軍隊とも言える数で築かれた陣形が二人を取り囲む。
そして堰を切ったように押し寄せる銃火。だが基の盾は動じることなく、火花を散らしながらそれらを跳ね返す。
と突然、彼女の体勢が低くなる。
そのまま一気に一点突破を狙う――かに思われたそのステップは途中で止まり、代わりに蹴り上げるような動きに変化した。
気付けば、石畳はこれまでの戦闘により無数の砕片が生まれている。基はフェイントで僅かに揺らいだ敵群へ目掛け、その一つを放ったのだ。
さほど威力は無くとも、その礫は銃口を跳ね上げるには十分であった。
その不意打ちと彼女自身の遮蔽によって格段に狭まった弾幕を縫って、襲い掛かる闘気。
一瞬の内に大気を震わせる殴打と蹴撃が幾重にも起こり、達也が周囲に存在していたゾンビを残らず消し飛ばした。
その間も基の盾が別方面のゾンビを壁に押し潰し、弾幕を更に乱し。
乱射された単独の機銃を掻い潜り、身体を蹴り飛ばし、その着地よりも速い追撃がそこの一群を打ち破る。
だが陣形が崩壊し、制圧も目前と見えた時、一際強いフラッシュが二、三度瞬いた。
すると次の瞬間、横に落ちる落雷、としか形容できない強烈な放電が起こる。
――空間そのものが炸裂したかのような凄まじい衝撃。
しかし、それすらも寸前で割り込んだ基の盾を、よく見れば
絶縁体特有の質感を持つ壁を貫くことは無いのだった。
「じゃ、最後は任せた!」
基が振り向かぬままに声を掛ける。
それが言い終わらぬ内に、その背後から突風のような影が飛び出した。
「お待たせ」
まるで待ち合わせのような調子で、達也が一気に間合いを詰める。
放電の余波らしき電光が失せるのも待たず、勢いを乗せた拳が易々とそれを打ち破って敵の顔面を捉え。
苦悶がそこに現れるより速く、続け様に傷が刻まれた胴にめり込む。
「ゴぁ……、ク、ソ――」
そして、吹き飛ぼうとするそれへ翳した掌から闘気の塊が迸り、絶望に染まった敵を灼いたのであった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
●来たるべき崩壊、遅すぎた報い
床に倒れ伏した男と電気椅子の残骸。
すると、途絶え掛けていた筈の電光が不自然にも急激に強まっていく。
しかしそれは、自壊の合図であった。
鼻の曲がるような焼ける臭いと薬品臭の混合物が、すぐに炭化の臭いに取って代わる。
常人ならば、数十年前に起こるべきだった現象。
それは、怪異として在れなかった代償なのかもしれない。
責任感からか、人質であった職員が僅かでも情報を得ようと慌てて問いを叫ぶ。
だが、激しく上下する顎は、その焦りを嘲笑うようにこう吐き捨てた。
――
くたばれ、クソッタレ
と、どこか遠い所で爆発したような音が聞こえ、続いて奇妙な地響きが起こる。
その独特の反響音に、地下水路や川が合流しているだろう水源の存在が脳裏に浮かぶ。
止むを得ず人質達を連れて撤退する間際、もう一度振り返った時、そこにあったのはボロボロの消し炭だけであった。
●
ジ・エンド・オブ・ザ・チェインズ
残った唯一の懸念は本部の防衛だったが、昨夜と違いパニックの余地が無かったこと、ゾンビとの戦闘に慣れていたこと、そして何よりもこれまで大幅に敵の数を減らしていたことが功を奏した。
猟兵達が戻った時、本部は全くの健在であったのだ。
屍体達は、途絶えた指令を永遠に待ち続ける人形と化していた。
降り注ぐ銃弾が、従順にも後退らぬ彼らを撃ち抜いていく。
それらの向こうで、職員がこちらに手を振って呼び掛ける。
――無事です。こちらは無事です。
白んだ空。しかし、あれほど執拗だった靄はいつの間にか晴れ渡り、静かな大空は曇りなき快晴を待っていた。
―――
送迎の車両で、久々の安全な空間に寛いだ雰囲気の中。
職員のひとりが、思い出したように口を開いた。
「そういえば、旧支部に配置されていた監視者はどこに行ったのでしょうか」
簡単に考えれば、死んだか、さもなくばその者が協力者だったのだろう。
だが、彼の権限レベルではおいそれとオブジェクトには接触できなかった筈だ。となれば、セキュリティを突破したか、地下通路の構造を把握した上で隔離室からの抜け穴を作り出したことになる。
いずれにせよ、無名の職員には似付かわしくない技能だ。
そもそも、組織が察知できない程に隠匿されていた怪しげな聖職者の禁術を、何故一介のDクラス職員だったあの男が探り当て模倣できたのだろうか。
かつてその際に行われたという人体実験も、場所や材料を単独で揃えたとは考え辛い。
当時にも協力者――いや、提供者がいたのなら、その違和感も解消するのだが。
その時ひとつ、嫌な想像が頭を掠める。
もしその人物ないし組織が、あれ以上の術法を身に着けていたとしたら?
あの地下広間で呼び出された武装ゾンビ並の出来なら、街角や駅に紛れていてもさほど不自然ではない。
次に同様の事件が起こる時、その舞台はごく身近な場所であるのかも知れない。
しかし、少なくとも今回の任務は終わった。
正気を削るような想像は、もう少し休息を取ってからでも遅くはないだろう。
身を預けたシートは心地よく、久々の清潔さを感じさせるのであった。
――THE END
◆後日談:UDCアース、某新聞社の一室での会話
――ね、良く撮れてるでしょう!? ゴーストタウンに展開した謎の軍隊とゾンビの死闘、そして異能集団!
――あのねぇ、このCG……いやドキュメンタリーだっけ? 確かに出来は良いけど、今時リアルなゾンビなんて流行んないんだよねぇ。大体、ちょっとカメラが遠すぎるよ。
――ですから、貴社で予算を用意していただければ、もっと芯を食った取材をしてくるって言ってるじゃないですか!
――よしなさいって。最近あの辺で陥没もあったっていうしさ。もっと別のネタにしたら?
――まさか! もう構想はできてるんですよ、ちょうどいい黄泉返り伝説を見つけたんです。例えば、その蘇生のメカニズムを知った何者かが実験を……いや、いっそ伝説にある「聖職者」が犯人って展開の方がウケますかね? ほら、「時代を超えて暗躍する不死者」って都市伝説は他にもありますし!
――どーだろうねぇ。えーと、ここを回して、っと……。
――そうだ! 処刑と死者の蘇生ってネタなら、かの『復活』と『終末』も使えそうですね! 悪魔崇拝者が我々の奇跡を冒涜しようとしているのだ! みたいな……って、聞いてます?
――聞いてる聞いてる。じゃあ
記憶消去銃、見てくれる?
―――
「ええ、たった今回収しましたよ。それじゃ、そちらもご無事で」
電話を切ったUDCエージェントの男性は一息をついて、すり替えたデバイスをポケットにしまう。
それから少し考えた後、彼はまた電話を取り上げた。
「……まぁ、『電気椅子の奴』も年を取ってなかったみたいだし、案外イイ線行ってるかもね」
―――
各部署からの報告や連絡が詰まった、UDC組織のファイル。
『追跡調査・第二次報告――水没した地下坑道の崩壊状況、およびそれを受けての旧支部所蔵品(参照番号別記)の状況について』。
『薬品実験・経過――マウスの蘇生および再生、本件鹵獲品との相違点(外部刺激への欠落)について』。
そこにもう一つ追加された報告書のタイトルは、『想定ケースE-6――追加条件:”黄泉返りの聖職者”の生存』。
それらがどのような真実に結びつくのか、それはまだ、誰も知らない。