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赤と青のバンデ

#ダークセイヴァー

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#ダークセイヴァー


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 ――噂で聞いたんだ。
 大切な人とふたり、あの森の奥の教会で祈りを捧げば救われると。
 だから一緒に手を繋いで、森に入って教会を探し出して。
 俺が青い薔薇を、あの子が赤い薔薇を貰って、言われた通り胸に付けてから。
 どうかこの世界に救いがありますように、ふたりが共に歩めますように……って。
 そう一緒に、祈りを捧げていたはずなのに。
 なのに……なのに、何で。

「青を選んだ貴方は『選択者』です。貴方には、選ぶ権利が与えられます」

 なのに……何で今、眼下に海が広がる断崖絶壁の時計塔の頂上にいるのか。
 いつの間にかきつく縛られて、あの子とふたりで。
「選択の猶予は1分です。赤と青――どちらがここで死に、どちらが生き延びますか? それとも、ふたりとも死にますか?」
 俺もあの子も、背中を軽くトンと押されれば……崖下の海へと真っ逆さまだ。
 ――すなわち、死ぬ。
「……だ、いやだ、死にたくない……」
 あの子は大切だ。昔からの幼馴染み。
 けれど、でも、やっぱり――。
「お、俺の命を助けてくれ。頼む、お願いだ……!!」
「それが『選択者』のこたえ、でよろしいでしょうか?」
「ああ……お、俺は死にたくない!」
「赤は、最後に何かひとこと、ありますか?」
「そ、そんな……ひどいわ……!」
 あの子の、悪魔を見るような目線。
 いや、君のことだって助けたい。助けてあげたいんだけど……。
 なんて、あの子の視線から目を逸らそうとした、瞬間。
 ――え、何で? 何で……!?

「!!」
「……あっ、うわぁぁあああ!!」

 トン、と背中が押されて、一瞬空中で浮くような感覚を覚えて。
 ……やっぱり、この世界に救いなんてなかった。
 最期に映ったのは、大きく驚いたように見開いた、あの子の瞳の青。
 そして俺は――真っ逆さまにただ、おちていった。

●赤か青か
「殺されるか、生かされるか……皆には今回、オブリビオンの理不尽な試練に、敢えて挑んで貰うことになる」
 筧・清史郎(ヤドリガミの剣豪・f00502)は集まった猟兵達に礼を言った後、視えた予知の内容を語り始める。
「ダークセイヴァーのオブリビオンの多くは支配者として君臨しているが、中には、己の正体を隠して潜伏しつつ、好き勝手に振る舞う者もいる。そして今回はそんな潜伏したオブリビオンの正体を突き止める機会が巡ってきた」
 その機会とは、ある奇妙な教会の存在と謎の試練が行なわれると予知されたことだ。

「その噂もきっと、裏に潜むオブリビオンが手を回したのだろうが。ある森の奥に、絆深きふたりで訪れないと辿り着かないという不思議な教会があり、その教会で祈り捧げれば救われると。けれどそれは、何の意図があるかは分からないが……オブリビオンの罠だ」
 そこでまずは森へと入り、噂の教会を探して貰うことになる。
「この森は、以前までは普通の森であったようだが……オブリビオンの影響を受けて、現在は迷宮のようになっている。だが、唯一迷宮化せず森を進める方法がある。それは、ふたり一組で手を繋いで進むこと、だ」
 ふたり一組で手を繋いでいれば、何の事はない、普通の常夜の森。
 手を放してしまえば、ふたりは離され迷子になり、教会にも辿り着かないという。
 けれど手を離さなければ、森の奥に教会が現れるというので。
 その教会の中で、ふたり祈りを捧げて欲しい。
 絆深き、とは言われているが、実際の関係性は特には問わないようだ。
 恋人でも想い人同士でも、家族でも友達でも、単なる仕事仲間や顔見知り程度でも構わない。要は手を繋ぎ森を征き、絆深きふたりだと、そう相手に思わせればいい。
「そして見つけた教会に入る条件だが。二人組であり、そして――どちらが赤い薔薇で、どちらが青い薔薇か。入る前に必ずひとつずつ選び、その胸に付けなければならないと」

 しかもこの教会はまだ、オブリビオンの潜む拠点ではない。
 オブリビオンの拠点をあぶりだす為には、理不尽に与えられる試練を受けなければならないという。
「この薔薇の花粉は、強力な痺れ粉と睡眠粉だ。祈りを捧げている最中に動けなくなり、意識を失う。そして次に目を覚ませば――そこは、断崖絶壁にたつ時計塔の頂上だろう」
 念入りに縛られ、薬の効力で身動きもできない状態。
 そして一歩でも足を踏み外せば、崖の下を海へと真っ逆さま。
 そんな状況下、こう選択させられるのだという。
「青の薔薇を選んだ者が、奴らの言う『選択者』。そして奴らは『選択者』に問う――どちらがここで死に、どちらが生き延びるか、と」
 だが、青の『選択者』がこたえを口にし、赤の者に最後にひとこと訊ねた後。
 実際に突き落とされるのは……『選択者』が選んだ、逆の色の者なのだという。
「青の『選択者』が、己の命を選び命乞いをすれば青の者を。自分はどうなってもいいから相手を助けて欲しいと言えば、相手の赤の者が突き落とされる」
 きっと、その一連の過程においての、各々の反応を見るのが目的であるのだろう。
 それは、単なるオブリビオンの悪趣味な遊びか、ワインを楽しむついでの余興なのか、それとも他の――。
 なので双方がそれらしい大きなリアクションを取れば、怪しまれず事が運ぶだろう。
「そして残ったひとりは、オブリビオンが潜む館まで連れていかれる。普段はみせない尻尾を、相手がようやくみせる瞬間だ」
 選択しなければふたりとも突き落とされ、黒幕が潜伏する館まで辿り着けないので。
 極力怪しまれないよう試練を受け、それらしく演じて欲しい。

 そして残った者が連れていかれた館では、ひとりずつ部屋に入れられ、そこでようやく今回の黒幕が姿をみせる。
 意図は謎であるが、ひとつずつ残された者がいる部屋を黒幕が訪れるのだという。
「なので、その絶好の機会を逃さず、黒幕を退治して欲しいというわけだ」
 断崖絶壁から落ちれば痛いし怪我はするだろうが、猟兵であれば死にはしない。
 黒幕のいる館の警備も、猟兵にとっては厚くはないというので、難なく合流は果たせるだろう。
 だが敵は、幾重にも己の身を隠すために策を講じる慎重な存在。
 此方の作戦を少しでも気取られてしまえば、すぐに逃げられてしまうだろう。
 一番大事なのは、敵に気付かれぬよう信じさせること、だ。

 清史郎は、本当に悪趣味な趣向だが、とそっと赤に青が微か混ざる瞳を細めてから。
「敵の思惑通りに試練を受け、相手が望む反応をするのは癪ではあるが……みせた敵の尻尾を掴むために、よろしく頼む」
 改めて猟兵達に頭を下げ、言ってから。赤と青の選択を突き付けられる常夜の世界へと皆を送り届けるべく、掌に満開桜のグリモアを咲かせる。


志稲愛海
 志稲愛海です。
 よろしくお願いします!

 ※ご連絡※ 第1章の受付は、1/16(土)朝8:31より開始します。
 それ以前に送信のものは流れる可能性があります。
 第1章の断章をOP公開後、追加掲載致します。

 今回は、お二人一組での参加推奨です。
 内容は以下となっております。

 第1章:異端の森(冒険)
 第2章:ひとつの試練(冒険)
 第3章:叡智卿ヴェイン(ボス戦)

 1章2章は、POW/SPD/WIZは参考程度に行動いただいてOKです。

 第1章では、二人組で手を繋いでいないと迷子になる森の探索です。
 手を繋いでいれば、特に何の変哲もない夜の森ですので。
 ランプ片手に、他愛ない会話や作戦会議や、休憩などしつつ。
 夜の森を思い思いに進んで頂ければと。
 暫く歩けば、噂の教会に辿り着きますので。
 まずは、どちらが赤い薔薇を、どちらが青い薔薇を選ぶか。
 【赤】又は【青】を必ずご指定下さい。
 未記入の場合は返金の可能性もあります。
 そして教会に入り、祈り捧げ意識を失う場面までが1章の内容です。
 メインは森の探索で、教会での行動は赤青の指定以外はなくても構いません。

 第2章は、青の方が『選択者』となり、赤青の生死を問われますので。
 気取られぬよう試練を受け反応を示し、敵の目を欺いていただければと。
 詳細は断章にて記載致します、お手数ですが必ずご確認下さい。
 リプレイは心情寄りになるかと思います。

 第3章は戦闘です。
 此方も詳細は断章に記載致します。

 公序良俗に反する事、他の人への迷惑行為、未成年の飲酒は厳禁です。
 締切等はMS個別ページやタグ、Twitterでお知らせします。

●お願い
 二人一組での参加推奨です。

 同行者の【相手の名前(呼称可)と、fからはじまるID】又は【グループ名】のご記入をお忘れなくお願いします。
 おひとりや3人以上でのご参加の採用は、プレイング次第ではありますが。
 今回は依頼内容的に、返金になる可能性が高いです。
 また、赤青が未記入でどちらかわからない場合等、今回はプレイングの内容によっては返金させていただく可能性もあること、ご了承く下さい。
 失効日の関係上、同行者と送信日が離れすぎていたり、ご指定の同行者が参加していない場合も返金となります。

 ですが、上記どうしても採用難しい場合以外は全員書かせて頂きたく思っています。
 どうぞお気軽にご参加下さい!
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第1章 冒険 『異端の森』

POW   :    異常な特性など関係無いと、力業で突っ切る。

SPD   :    異常を避けながら、速やかに森を抜ける。

WIZ   :    森の特性を調べあげ、対策をとった上で森を進む。

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 人間は脆すぎる。
 だが……いや、だからこそ、心や絆というものに縋るのか。
 そしてその感情というものに、やはり関心は覚えるが。
 実験を重ねても、それは未だ謎のまま。
 故に、それをより引き出し可視化するべく、さらなる実験を行おうか。
 ……さぁ、どうか俺に教えてくれ。
 感情という未知なる謎を紐解くには、もっと沢山のサンプルが必要だ。

●異端の森
 きっと、偶然手を繋いで森に入って、件の教会を見つけてしまったのだろう。
 予知で視えた一般人の男女に、此処は人喰いの魔物が出ると伝えれば、思惑通り帰ってくれたから。
 二人のかわりに……森を探索し、教会を探し出して。
 赤か青かの薔薇を選び試練を受け、引き摺り出した黒幕を倒すべく。
 猟兵達は、常夜の世界へとやって来たのだ。
 そして足を踏み入れるのは――異端の森。
 暗躍するオブリビオンの影響か、この森は迷宮化してるのだという。
 けれど、唯一森が迷宮化しない方法。
 それは――共に歩む人と、絆を結んで進むこと。
 すなわち、誰かとふたり手を繋いで進めば、森は何の変哲もない本来の姿へと戻るのだという。
 とはいえ、共に征く人との関係は特に問わない。
 手を繋いで森の奥へと進めば、じきに教会に辿り着くだろう。
 夜の森は暗いが、必要ならばランプが支給されるし、使い慣れた明かりを持参しても構わない。
 事前に用意し持参した食べ物や飲み物を取りつつ、途中で休憩してもいいだろう。
 森には、猟兵にとっては脅威ではない野生動物がいる程度。
 けれどあまり騒ぐと、敵も異変を察知し警戒するかもしれないので。
 相手と手を繋ぎつつ、此方の思惑を気取られぬ程度に。
 足早に森の奥へと向かったり、他愛のない会話を楽しみつつ進んだり、これからの作戦を話しておいたりと。
 思い思いに、予知された教会へと足を運んで欲しい。
 そして――教会に入る必須条件は、ふたつ。
 ひとつは、二人一組であること。
 もうひとつは、赤い薔薇か青い薔薇か、差し出された生花でできた飾りを、どちらかひとつずつ選択して胸につけておくこと。
 必ず、どちらが赤でどちらが青か――ここで選ぶ必要がある。
 それが次の理不尽な試練に、大きくかかわる選択になるのだから。
 それから薔薇のいろを選び終わり、中へと通されれば、あとは静かにふたり並んで祈りを捧げるだけ。
 薔薇の花粉の効力で……そのうち、身体の自由が利かなくなり、意識を失うから。
 敵の罠に敢えて嵌るのは癪だろうが、今はまだ敵に悟られぬよう、逆らわず静かにこなして欲しい。
 慎重な敵が尻尾をみせる、その時まで。

●マスターより
 お二人一組でのご参加推奨です。
 第1章は、迷宮と化した森の奥にある教会へと赴いて頂きます。
 この森は、二人組で手を繋いでいないと迷子になる森ですが。
 誰かと手を繋いで進めば、何の変哲もない森です。
 敵に思惑を気取られぬ程度に、お好きに夜の森をおふたりで進んでください。
 そして手を繋いで進んでいれば、じきに教会に辿り着きますので。 
 入口で、どちらが赤い薔薇を、どちらが青い薔薇を選ぶか。
 【赤】又は【青】を必ずご指定下さい。未記入の場合は返金の可能性もあります。
 そして教会に入り、祈りを捧げ、意識を失う場面までが第1章の内容です。
 下手に小細工などをすると気付かれてしまう可能性が高いですし。
 薔薇の花粉に、後の戦闘に影響するような副作用等はありませんので。
 ここは抗わず行動すれば、うまく事が運ぶかと。
 メインは森の探索で、教会での行動は赤青のご指定以外はなくても構いません。
 その他に関しましては、OPやOP公開時のマスターコメントをご確認ください。
 送信締切等の連絡事項も、MS個別ページやタグ、Twitter等でお知らせ致します。
宮前・紅
【赤】
戎崎·蒼(f04968)と行動

手を繋いだ状態で森の探索をする
それと敵に悟られぬように小声で話すよ
事をスムーズに進める為に手を繋ぐ
俺も蒼くんも出来る事なら繋ぎたくはない方だろうし
俺は、蒼くんの反応が見たいから繋いでも構わないんだけど♪

蒼くん先導宜しく
俺は適当に周囲を見てるから
危なそうなものがあれば指先を噛む
出た血をブローチに垂らして、武器形態に変形したコンツェシュで対処しようか

後は教会を探す
蒼くんは嫌いそうだけど俺はこの『実験』嫌いじゃないよ
まあ此れは服従実験ではないけどね
寧ろカルネアデスの板の事象にも近しいと思うけど

人間"らしい"感情が見えるのはこういう時以外に他ならないしさ、楽しみだよ


戎崎・蒼
【青】
紅(f04970)と行動
さながら選択実験……いや、ある種ミルグラム実験とも相違ないのかもしれないな
真逆、絆や心という名状し難いものを知る為だけにこんな事を考えつくとは……今回のオブリビオンは趣味が悪いらしい
ともあれ解決の糸口を見出す為には、相手の思惑に乗っかってみるしかない

揶揄しつつ手を差し伸べる紅を見て、溜息が出そうなのを堪え手を繋ぐ
先導はするが、取り敢えずは教会を探さないとだろ、紅
支給されたランプを片手に歩く
野生動物が襲って来た時に銃で対応するのは危険だ。…僕の場合ここは魔女の錐で対応する

…僕はオブリビオンという逆らえない権威者がいる、という点において類似していると感じただけだ



 行く先に広がるのは、ただ深い深い闇のいろ。
 辛うじて常夜を照らす星や月さえも、こんもりとした森の木々で遮られている。
 今、足元を照らす光といえば、戎崎・蒼(暗愚の戦場兵器・f04968)が手にしている、ゆうらり揺れるランプの灯火だけ。
「さながら選択実験……いや、ある種ミルグラム実験とも相違ないのかもしれないな」
 今回の予知を聞いて蒼が思い浮かんだのは、服従の心理を研究した際の事象。
 人は権威に命じられると、非人道的な行為にまで手を染めてしまうというものだ。
 自らの命を握られた相手を前に、その心こそ痛めたとしても……結果、人はまるで悪の怪物の如き選択をしてしまうのかもしれない。
 何せ、服従することは――頭を必死に動かし思考することに比べれば、遥かに楽な事なのだから。
 けれど今回の敵の目的は、ただ服従させるだけではない。まさに、実験なのだ。
「真逆、絆や心という名状し難いものを知る為だけにこんな事を考えつくとは……今回のオブリビオンは趣味が悪いらしい」
 ……ともあれ解決の糸口を見出す為には、相手の思惑に乗っかってみるしかない、と。
 蒼の表情が浮かないのは、敵が悪趣味であるからというだけではない。
 事をスムーズに運ぶためとはいえ……繋がった、ふたりの手。
 蒼もそして宮前・紅(三姉妹の人形と罪人・f04970)も、出来る事なら手を繋ぎたくはない方なのだけど。
 絆深き者達――手を繋いだ者たちのみにしか、目的の教会に辿り着けないというのならば仕方がない。
 とはいえ、森の探索をしながらも敵に悟られぬ程度の小声で、紅はすぐ傍を歩く蒼へと向けた瞳を細める。
「俺は、蒼くんの反応が見たいから繋いでも構わないんだけど♪」
 ……蒼くん先導宜しく、俺は適当に周囲を見てるから、と。
 揶揄しつつも紡ぐそんな紅をちらりと見て、思わず溜息が出そうになるが。
 ここはひとつ堪え、手を繋いだまま蒼は返す。
「先導はするが、取り敢えずは教会を探さないとだろ、紅」
 静かな夜の森。けれど闇の向こうから感じる気配や視線。
 森に棲む野生動物であるだろうが、今のところ襲ってくる様子はない。
 きっと所謂、野生の勘というものだろうか。
 ふたりがいつでも即座に、殺傷能力のある魔女の錐や赤垂らせばブローチから変わるコンツェシュを手にできることを察知しているかのように。
 けれど周囲にも気を配りつつも、紅は教会を探しながら口にする。
「蒼くんは嫌いそうだけど俺はこの『実験』嫌いじゃないよ」
 そして再び自分へと向いた漆黒の瞳を見つめ返しつつ、続ける。
「まあ此れは服従実験ではないけどね。寧ろカルネアデスの板の事象にも近しいと思うけど」
 船が沈没し、浮かんでいる板。これにしがみつけば助かるが、しがみつけるのは一人だけ。この時、他の者を押しのけ、払うことは罪なのか。
 いや……己の命がかかっているから仕方がない、という概念。
 今回の『実験』とやらは、それに似ていると紅は思うと同時に。
「人間"らしい"感情が見えるのはこういう時以外に他ならないしさ」
 ――楽しみだよ、って……そうもう一度、自分を映す漆黒に笑んでみせる。
 そんな紅に、蒼は再び溜息をつきたくなりながらも。
「……僕はオブリビオンという逆らえない権威者がいる、という点において類似していると感じただけだ」
 先程よりもさらに声を潜め、紡いでから。
 手を繋いだまま、眼前に現れた教会へと足早に進む。
 そして、互いの名が示す通りの色をそれぞれ手に取って……その胸に、妖しくも美しい薔薇の花を咲かせる。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

日東寺・有頂
夕辺(f00514)と

へへ、燥いでみじょかねえ
しっかりと手ば繋いで、ご機嫌にしゃべる夕辺に目細める
うろ?ほ〜〜う
オイん分からん話ばかりばってん、生き生きとした声が愛おしか
こいつが幼えころ どがんして生きてきたか 
想像して寄り添うてみる 
一つ一つ教えてくれる事に耳傾けて、頷いてな
木立を笑って駆ける、狐耳の女の子を思う

良かっさ もっと聞かして
俺も、お前の時間に在りたいけん

気丈に健気に生きてきた手指と肌は
切ねえくらいすべらかだ
握って黙りこくる
お前の決意も俺の心も、互いに知って抱いているから
目を閉じる

…ああ 分かっとる
いいんだ
お前の為の痛みはすべて、悦びだ
そうするよ 夕辺


佐々・夕辺
有頂【f22060】と
【赤】

わあ、森だ!
私が森で人生の大半を過ごしたのは依然話したわよね
あの時は木のうろをお家にして過ごしたのよ!
大きなうろがあってね、大きくなっても困らなかったの!
あ!あの木の実は食べられるのよ!
あの草は煎じれば熱さましになるの

……あ
ついつい話過ぎてしまったわね……えへへ
いつも街の事を有頂に教えて貰ってばかりだから
ふふ、……あ!あのね、あの木!葉っぱを擦って煮るとね……

繋いだ手を振る
有頂の手は大きくて、とても安心する
私、この手が好きよ
だから、どんな手段を使っても護るの

ねえ、約束よ
貴方に選ばせてしまう事は本当に心苦しいけれど
……私を落としてね



 視線の先は、何処までも続いているのではないかと思うような闇色。
 それをより深く作り上げているのは、ざわざわと風に揺れては葉音を鳴らす森の木々。
 シンと静寂広がる中、息を潜め此方を窺っている気配たち。
 そんな夜の森は、よく知らぬ者からしたら恐怖を感じるのかもしれないが。
「わあ、森だ!」
 人生の大半を森で過ごした佐々・夕辺(凍梅・f00514)にとっては、懐かしさすら感じる空気。
 そして彼――日東寺・有頂(手放し・f22060)には、森と自分のことは依然も話していたのだけれど。
「あの時は木のうろをお家にして過ごしたのよ! 大きなうろがあってね、大きくなっても困らなかったの!」
 実際に見て貰いながら改めて話ができることがまた、嬉しくて。
「うろ? ほ〜〜う」
「あ! あの木の実は食べられるのよ! あの草は煎じれば熱さましになるの」
 ご機嫌に尻尾をゆらゆら揺らしながら喋る夕辺に、有頂は琥珀の瞳を柔く細める。
 ……へへ、燥いでみじょかねえ、って。
 うろも木の実も草も、有頂にとっては分からない話ばかりなのだけれど。
 でも、それでもとても十分、楽しくて嬉しいから。
(「生き生きとした声が愛おしか」)
 ――こいつが幼えころ、どがんして生きてきたか。
 想像して寄り添える今が。
 そして木立を笑って駆ける、狐耳の女の子を思えば……愛しくて、仕方がないから。
 そんな一つ一つ話す事に、耳傾けては頷く彼に。
 夕辺はハッと耳をぴこり、瞳を瞬かせるけれど。
「……あ、ついつい話過ぎてしまったわね……えへへ」
 でもつい喋り過ぎちゃうけれど……やっぱり、とても嬉しいのだ。
「いつも街の事を有頂に教えて貰ってばかりだから」
 今度は自分が、彼に色々なことを教えてあげられることが。
 それに……もっともっと、自分のことを彼に知って貰える今が。
 だから有頂も、彼女にこう返す。
「良かっさ、もっと聞かして」
 ……俺も、お前の時間に在りたいけん、って。
 そんな彼の言葉に、夕辺は一等の笑みを向けて。
「ふふ、……あ! あのね、あの木! 葉っぱを擦って煮るとね……」
 蜜色の髪と声を弾ませ、互いの体温が混ざり合いひとつになったその手を引く。
 しっかりとふたり、繋いだ手と手。
 有頂は小さな彼女の手を握り締めて。
(「気丈に健気に生きてきた手指と肌は、切ねえくらいすべらかだ」)
 黙りこくり、そして目を閉じる。
 ――お前の決意も俺の心も、互いに知って抱いているから、と。
 そして夕辺も彼と繋いだ手を振り、森を征きながらも思う。
(「有頂の手は大きくて、とても安心する」)
 ふわり包み込んでくれる、彼の大きな手。
 その手の温もりはいつだって、優しくてあったかいから。
(「私、この手が好きよ」)
 ――だから、どんな手段を使っても護るの、って。
 夕辺は決して揺らぐことのない決意を胸に、自分をただ見つめる彼へと紡ぐ。
「ねえ、約束よ。貴方に選ばせてしまう事は本当に心苦しいけれど」
 ……私を落としてね、と。
 これから先に待ち受けるのは、試練という名の理不尽な選択肢。
 繋いだこの手と手を、無理矢理引き離すような……。
 けれどたとえ、繋いだ手が離れてしまったとしても――護りたいから。
 有頂は眼前に見える教会を前に、彼女の言の葉に頷く。
「……ああ 分かっとる」
 ――そうするよ、夕辺、って。
 安心させるように優しく……耳元でそう、囁いて。
 辿り着いた教会の入口で、青い薔薇を手に取る。
 ――いいんだ。お前の為の痛みはすべて、悦びだ、と。
 すぐ隣にある藍の瞳を思わせる様な、そのいろを。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

逢坂・宵
ザッフィーロ(f06826)と

かれと手を繋いで森の中を進みましょう
グリモア猟兵から聞いた内容を心の中で反芻しつつ
物憂げなかれの横顔を見ていると、何を考えているか手に取るようにわかるのです
念を押すかれの言葉にはただ笑顔を返し
握った手に力を込めつつ歩いてゆきます

教会の前にたどり着けば、繋いでいた手を名残惜しげに離し
薔薇の花は【青】を選びましょう
きみのあざやかな髪のような色
青いバラは、不可能を可能にした象徴といいます

そうして教会の中へと入り、祭壇の前で祈りを捧げましょう
崖から落ちた僕が再び合流するまで、かれが無事であるように
そして―――ザッフィーロ、僕もきみとまったく同じ気持ちなんですよ?
ってね


ザッフィーロ・アドラツィオーネ
『赤』
宵f02925と

宵と手を繋ぎ反対の手でランタンを持ち森の中を進む
何方かが崖の下に落とされる…か
俺が落ちる事になれば良いのだがとそう瞳を伏せ繋いだ暖かな手を強く握りなおそう
宵…必ず俺が落ちる様にするのだぞ
そう念を押しながらも、教会の前まで来れば確実に己が崖から落ちる様青へと手を伸ばす…も
先に宵に薔薇を取られれば宵…と声を投げつつ宵の紫の瞳から覗く色の一つであるその色を手に取ろう
…祈り等普段はせんのだが
だが…今回は、宵に怪我がない様
無事己が崖から落ちられるよう祈る…も相手の表情を見れば眉を寄せ身を寄せよう
常ならば幸せな事だというに今回ばかりは考えている事が解るというのも、本当に辛いものだ、な



 星の輝きさえ届かないような、こんもり深い夜の森。
 そんな森の中で逸れ、迷子になることは決してない。
 確りとふたり、手と手をぎゅっと繋いでいるから。
 逢坂・宵(天廻アストロラーベ・f02925)は、ゆらり彼の手元で揺れるランタンの灯火を頼りに進みながらも。
 聞いた予知の内容を心の中で反芻しつつ、灯りに照るかれの物憂げなかれの横顔を見つめる。
 すぐ隣に在るかれが何を考えているかが……手に取るように、わかるから。
「何方かが崖の下に落とされる……か」
 ザッフィーロ・アドラツィオーネ(赦しの指輪・f06826)はそうぽつりと呟きを落として。
 銀の瞳をそっと伏せ、繋いだあたたかな手を強く握りなおしながらも、願って止まない。
 ――俺が落ちる事になれば良いのだが、と。
 けれど、心の中だけで留めることなんてできずに。
「宵……必ず俺が落ちる様にするのだぞ」
 そう念を押せば、ただ返るのは美しく柔い笑顔。
 握り合った手に力が込もるのを、互いに感じながら。
 そして並び、歩んでいけば……絆深き者たちのみが導かれるという教会に、難なく辿り着いて。
 入り口で差し出されたふたつのいろの薔薇のうち、ザッフィーロが手を伸ばさんとするのは、青の薔薇の方。
 確実に己が崖から落ちる様に、と。
 ――けれど。
「宵……」
 繋いでいた手を名残惜しげに離し、迷わず先にそのいろを手にしたのは、宵であった。
 それから、何か言いたげに見つめるかれに、宵は笑んでみせる。
「青いバラは、不可能を可能にした象徴といいます」
 ……きみのあざやかな髪のような色、と。
 そして、残ったもうひとつ――彼の紫の瞳から覗く色の一つであるその色を手に取るザッフィーロ。
 それぞれの色が決まれば、教会の扉が静かに開かれて。
 祭壇の前に進んだふたりは、祈りを捧げる。
 いや、祈りなど普段はしないザッフィーロだけれど……でも今回は、祈らずにはいられない。
 ――宵に怪我がない様、無事己が崖から落ちられるよう、と。
 そんなかれの隣で、宵もその心に祈る。
 ――崖から落ちた僕が再び合流するまで、かれが無事であるように、って。
 かれの髪のいろをした薔薇を、その胸に咲かせながら。
 それから星瞬く深宵の瞳をふと向けて、続ける。
(「そして――ザッフィーロ、僕もきみとまったく同じ気持ちなんですよ?」)
 そんな己に向けられた宵の表情を見れば、眉を寄せ身を寄せるザッフィーロ。
 今回ばかりは、心苦しく思ってならないのだ。
(「常ならば幸せな事だというに……本当に辛いものだ、な」)
 相手の考えている事が……互いに、手に取るように解るということが。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

檪・朱希
【黒蝶】
森の中では、はぐれないように手を繋がないと行けないみたいだね。繋いでいい、かな?
手袋は平気だよ。
この依頼、気になって……つい、連絡したのだけど迷惑、だったかな?
知人、いないことは無いけど、私が一緒に行きたいなと思って……協力とか、難しい所は頑張る!
えっと、分かったよ?
セプリオギナの事は、一番信頼しているから。
あ、勿論、他の皆も信頼してない訳じゃないよ?

薔薇は、どっちにしよう?
色だけだと、私は赤より青かな……でも、どちらも嫌だと『音』がする。負担が少ないのはセプリオギナが青で、私は【赤】で、私を助けるって言うこと、かな?
私は飛べるから、落ちても死なない。
だから、信じ……あ、う、うん……?


セプリオギナ・ユーラス
【黒蝶】
いいも悪いもないだろう。…手袋が気にならなければ好きにしろ。
迷惑ということはないが、他にもっとマシな知人はいなかったのか。少なくとも俺は自分が協力に向いているとは思わんが。

…ああ。いや、いい。頑張るな。
俺を一番にする程度しか信用できる知人がいないのは壊滅的だぞ。檪朱希、お前にはもう少しまともな人間関係の構築を推奨する。

……俺に“選ばせる”つもりか?
それでも構わんが、本当に自力でカバーできるんだろうな。仕事を増やされてはかなわん。なら【青】でいい。

分かった、それは信じないでおく。怪我をしたらその時診てやる。だがお前も少しは信じないことを覚えろ。俺がお前を助けるとは限らないとも思っておけ。



 眼前に広がるのは、深い闇に包まれた静寂の森。
 いや、檪・朱希(旋律の歌い手・f23468)の耳には様々な『音』が聞こえていた。
 ざわざわと不安定に揺れる葉音、闇に紛れ息潜める動物達の気配、そして――。
「森の中では、はぐれないように手を繋がないと行けないみたいだね」
 ……繋いでいい、かな?
 そう見上げ訊ねる彼女に、セプリオギナ・ユーラス(賽は投げられた・f25430)はふとひとつ息をついて返す。
「いいも悪いもないだろう。……手袋が気にならなければ好きにしろ」
 この森を征くためには、ふたり手を繋ぐ選択肢以外ないから。 
「手袋は平気だよ」
 朱希はそっと彼の手を取って、共に森の中へと歩み進みながら続ける。
「この依頼、気になって……つい、連絡したのだけど迷惑、だったかな?」
 ひとりではこなせない今回の依頼。
 森の奥にあるという教会に辿り着く為には、絆深き者同士……ふたり手を繋ぐ必要があったから。
 だから、朱希は信頼する彼に声を掛けてみたのだけれど。
「迷惑ということはないが、他にもっとマシな知人はいなかったのか」
 ……少なくとも俺は自分が協力に向いているとは思わんが、と。
 けれどもう一度溜息をついてみせる彼に返る声は、素直で真っ直ぐな音。
「知人、いないことは無いけど、私が一緒に行きたいなと思って……」
 ……協力とか、難しい所は頑張る!
 そう、ぐっと気合いを入れ、大きく頷いてみせる朱希に。
「……ああ。いや、いい。頑張るな」
 ふるりと微か首を横に振り言って聞かせるセプリオギナ。
 そんな彼の言葉に、朱希は赤混ざる黒から覗く、いろの違う円らな双眸を一瞬ぱちりと瞬かせるけれど。
 すぐに再び、素直にこくりと頷いて紡ぐ。
「えっと、分かったよ?」
 セプリオギナの事は、一番信頼しているから、って。
 ……いや、そういうところが心配でならないのだ。
 それに、自分で言うのはなんだが。
「俺を一番にする程度しか信用できる知人がいないのは壊滅的だぞ」
 そう言わずにはいられない、セプリオギナなのだけれど。
「あ、勿論、他の皆も信頼してない訳じゃないよ?」
「……檪朱希、お前にはもう少しまともな人間関係の構築を推奨する」
 やはり心から、そう思わずにはいられないのだった。
 そして手を繋いで歩いていれば……難なく目的の教会に辿り着いたから。
 聞いた予知を思い返しつつも、朱希は彼にそっと訊ねてみる。
「薔薇は、どっちにしよう?」
 教会で差し出される薔薇の花。
 ひとつが赤で、ひとつが青。まず最初の『選択』である。
 そのふたつのいろを、じっと交互に見つめてみれば。
(「色だけだと、私は赤より青かな……でも、どちらも嫌だと『音』がする」)
 朱希に聴こえるのは……美しく咲くふたつの薔薇、そのどちらも拒否する音。
 けれど、どちらかを選ばなければ、教会の中には入れないというから。
「負担が少ないのはセプリオギナが青で、私は赤で、私を助けるって言うこと、かな?」
 そっと小声で、そう予知の内容を思い返しつつ呟けば。
「……俺に“選ばせる”つもりか?」
 ちらりと向けられる彼の視線と続く声。
「それでも構わんが、本当に自力でカバーできるんだろうな」
 ……仕事を増やされてはかなわん。なら、青でいい、と。
 そしてそんなセプリオギナの言葉に、朱希はこくこく頷くけれど。
「私は飛べるから、落ちても死なない。だから、信じ……」
「分かった、それは信じないでおく」
 遮られるように返ってきた彼の声に、思わずきょとり。
 そんな自分を見上げる彼女へと、セプリオギナは再び言って聞かせる様に紡ぐ。
「怪我をしたらその時診てやる。だがお前も少しは信じないことを覚えろ」
 ……俺がお前を助けるとは限らないとも思っておけ、と。
 そして朱希はひとつ、こてんと首を傾げつつも。
「……あ、う、うん……?」
 彼の言葉にそう頷くのだった。
 だって彼が自分へと向けるのは、やっぱり――信頼できる『音』だと、そう思うから。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

西塔・晴汰
【晴ル】
ルーナと一緒に片手は繋いで、もう片手にランプを手に歩く
薄暗いけどオレは夜目が利くし大丈夫

休憩もありってならちぃっと休んでくっすか
持ってきたポットから暖かいお茶を出してルーナにも渡して
ドーナツを貰ってほっと一息
……こうしてるとホントピクニックみたいっすね
もっと楽しい目的なら尚良かったんっすけど

…分かってるっすよ!
って言っても落とされるのは逆の方なわけだから……
オレは思いっきりルーナを助けてくれって言や良いわけっすよね
なーにオレ嘘は好きじゃないけど、仕事で欺くための必要な演技は得意っすからね!
きっちり騙しきって見せるっすよ!

青の薔薇を身につけて
オレの全力で――ルーナを欺く覚悟を決めるっす


ルーナ・オーウェン
【晴ル】
そっと晴汰の手を取って進んでく
夜の森、静かで不思議
夜はお化けの時間、星もきれいだから夜は好き

こんなに静かだと、普通のおでかけみたいだけど
悪趣味な敵も、いたみたいで
うん、せっかくきたんだから
お茶を飲んでほっと息を
ありがとうね、温かいものを飲むと落ち着く
私はお菓子持ってきた
良かったら一個食べてとドーナツを差し出して

大丈夫? 晴汰
私はもう死んでるお化けだから、ちゃんと私を落としてね
落下してるのも、何度もあったから大丈夫
だからちゃんと選んでほしい
演技も、頑張る
表情は大きく変えられないけど、そう作られたけど、ちょっとずつわかってきたから
分かってるなら、いいけれど

私が選ぶのは赤い薔薇
私の瞳と同じ色



 ざわりと風に鳴る葉音を聴きながら進む森の道は、まっくらやみ。
 でもね、そんな夜は好き――だって、お化けの時間だから。
(「夜の森、静かで不思議」)
 ルーナ・オーウェン(Re:Birthday・f28868)は、そっと手を取り進んでゆく。
 西塔・晴汰(白銀の系譜・f18760)の持ってくれているランプの灯りと、繋いだ彼の手を頼りに。
 照らす光のすぐ向こうは、深い闇が広がっているように見えるけれど。
「薄暗いけどオレは夜目が利くし大丈夫」
 晴汰は目や鼻がよく効くし、なんてったって探し物は得意だから。
 しっかりと迷わないように……異端の森に、惑わされないように。
 手と手を繋いだまま、夜の森を並んで歩きながら教会を目指す。
 この森にふたりが足を踏み入れた目的、それは。
(「こんなに静かだと、普通のおでかけみたいだけど。悪趣味な敵も、いたみたいで」)
 そう……非道な実験を試みようとする敵を、誘き出すため。
 けれど、あまり急いてもだから。
「休憩もありってならちぃっと休んでくっすか」
 ふと聞こえた彼の声に……うん、せっかくきたんだから、と頷くルーナ。
 そんな彼女に晴汰が差し出すのは、持ってきたポットから注いだ、あたたかいお茶。
 それをひとくち飲めば、ほっと漏れるひと息。
「ありがとうね、温かいものを飲むと落ち着く」
 ルーナはそう礼を告げた後、がさごそと取り出して、晴汰へと渡したお返しは。
「良かったら一個食べて」
「……こうしてるとホントピクニックみたいっすね」
 やっぱり口に運べばほっとする、優しい甘さのドーナツ。
 でも、ふと晴汰の口から零れるのは、こんな呟き。
 ……もっと楽しい目的なら尚良かったんっすけど、って。
 それを聞いたルーナは、じっと彼を見つめて念を押しておく。
「大丈夫? 晴汰。私はもう死んでるお化けだから、ちゃんと私を落としてね。落下してるのも、何度もあったから大丈夫」
 ――だからちゃんと選んでほしい。演技も、頑張る、と。
「表情は大きく変えられないけど、そう作られたけど、ちょっとずつわかってきたから」
 そう紡ぐ彼女に、晴汰はこくりと頷いて。
「……分かってるっすよ!」
 改めて、聞いた予知を思い返し口にする。
「って言っても落とされるのは逆の方なわけだから……オレは思いっきりルーナを助けてくれって言や良いわけっすよね」
 これから架せられるという試練は、非道な存在による理不尽な罠。
 選択を迫られ、そして……口にした願いと、逆のことが起こるのだという。
 けれど、これ以上の犠牲が出ないように。
 ふたりは任務のため、此処に赴いているのだ。
「なーにオレ嘘は好きじゃないけど、仕事で欺くための必要な演技は得意っすからね!」
 だから自分を見つめるルーナに、晴汰は笑って返してみせる。
 ……きっちり騙しきって見せるっすよ! って。
「分かってるなら、いいけれど」
 そして十分に休憩を取った後、再び手を繋いで夜の森を歩いてゆけば。
 程なく辿り着いた教会の入口で差し出されるのは――赤と青。
 ルーナはふたつのうち、自分の瞳と同じいろの方を手にする。赤のいろを咲かせる薔薇を。
 そして晴汰も、手にした青の薔薇を胸に咲かせながら、その心に思う。
 改めて、きっちり騙しきって見せると。
 オレの全力で――ルーナを欺く覚悟を決めるっす、って。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

四王天・燦
《華恋》

燦が青

これは試練
シホへの啓示の主がアタシ達を試していると受け取った
聖痕痛ませてごめんな

催眠術の前に申し訳なさと優しさを込めた声で一言
『ごめん…それと助けに来るの待ってるぜ』
シホなら意味が分かるよ
にっと笑い、互いに無事帰られるよう指切りげんまん

とある覚悟を決め催眠を受ける
猟兵のこと、清史郎から仕事を受けたこと、選択に隠れた罠を忘却

手をつなぎシホの宿命に勝つべく教会を目指すよ
死の宿命を打ち消したら一緒に暮らして生きよう

教会にて
迷いなく青薔薇を選ぶ…シホに飾ってもらうよ
くるっと回ってお辞儀をひとつ
可愛いのも良いだろ?

アタシもシホの髪に赤薔薇を挿す
宿命に勝てますよう―

手を繋いだまま眠りに落ちる


シホ・エーデルワイス
《華恋》

赤を選択


前日譚

昨年のイヴに燦と恋人関係になったものの
何時も良い所で私の『聖痕』が激しく痛む
まるで二人の想いを阻むかのように…

そして

燦と歩みたければ
二人共猟兵の記憶を封じ
今回の依頼に参加するよう
啓示を受けました

ううん
私こそ私の宿命に巻き込んでごめん

ええ
必ず助けに行きます


現地到着直後

指切りで約束し
【潜霊】に燦を追跡させ
催眠術で猟兵に関する記憶を封じ
宿命の死を迎えない様
救いを求め
燦と手を繋いで行く


詩帆
私が呼ぶまで反応しないでね

燦と一緒なら平凡で貧しくても大丈夫


お互いの髪に花を飾り合う

男勝りな燦はかっこ良いけど
可愛い燦もステキだよ

主のお慈悲を賜れますよう

手を繋いだまま祈りを捧げ
眠っても離さない



 いずれも、幻朧桜がひらり舞い降る中で告げた想い。
 桜ドンして告白したあの夏の日は、桜花弁と戯れるかのように蛍が数多舞っていて。
 結ばれたクリスマスイヴの日は、灯籠に浮かび上がる雪月花の中――想いが通じ合い結ばれ、恋人同士になったのだけれど。
「シホ、聖痕痛ませてごめんな」
「ううん。私こそ私の宿命に巻き込んでごめん」
 四王天・燦(月夜の翼・f04448)の言葉に、ふるりと首を横に振るシホ・エーデルワイス(捧げるもの・f03442)。
 昨年のイヴにふたり、恋人関係になったのだけれど。
 何時も良い所で、シホの『聖痕』が激しく痛むのだ。
 それはまるで――二人の想いを、阻むかのように……。
 そしてシホは、啓示を受けたのだ。
 燦と歩みたければ、今回のこの依頼に参加するようにと。
 二人共、猟兵の記憶を封じて。
 けれど、シホに聖痕を痛ませることは心苦しい……でも。いや、だからこそ。
(「これは試練。シホへの啓示の主がアタシ達を試していると受け取った」)
 燦は、シホへの啓示の主の試練を受け、乗り越えてみせると、その心に決める。
 シホとふたりで、一緒に。
 だって、一緒に宿命を越えたい。一緒に生きたい、ってそう告げた言葉に嘘なんか欠片もないし。
 理由が宿命なら諦めない、その気持ちは変わらないから。
 燦は催眠術を受ける前に、申し訳なさと優しさを込めた声で一言、シホへと紡ぐ。
「ごめん……それと助けに来るの待ってるぜ」
 ――シホなら意味が分かるよ、って。
 にっと笑ってみせて、互いに無事に帰られるよう……指切りげんまん。
「ええ。必ず助けに行きます」
 そう強く頷き、小指を絡ませ合ったふたりは、啓示の通りに猟兵としての記憶を封じる。
 猟兵のこと、この仕事を受けたこと、選択に隠れた敵の罠……その全てを、忘却する。
 燦は、とある覚悟をその心に決めながら。
 そしてシホは『潜霊』を発動させ、燦を追跡させながら。
「詩帆、私が呼ぶまで反応しないでね」
 黒髪おかっぱの電子幽霊にそう伝えておく。勿論、黄身ボーロの約束と共に。
 それからふたり、確りと手を繋いで教会を目指す――シホの宿命に、ふたりで勝つべく。宿命の死を迎えない様に、救いを求めて。
 ……死の宿命を打ち消したら一緒に暮らして生きよう、と。
 記憶を忘れる直前に告げられたその言葉に、シホも頷いて笑み返す。
 ……燦と一緒なら平凡で貧しくても大丈夫、って。
 そして絆深き者達だけが導かれるという教会へと、常夜の森を並んで歩く。
 繋いだその手を、ぎゅっと互いに握りしめて。
 それから程なく教会へと辿り着けば、最初の選択がふたりを待っている。
 赤と青――どちらが、どちらの色を選ぶのか。
 けれど燦が迷いなく選んだのは、青い薔薇。シホの手で、それを髪へと咲かせて貰えば。
「可愛いのも良いだろ?」
 くるっと回ってお辞儀をひとつ。
 そんな仕草に、シホは彼女の髪を飾るいろと似た瞳を細め、頷く。
「男勝りな燦はかっこ良いけど、可愛い燦もステキだよ」
 そんなシホの銀の髪には、燦の手で赤い薔薇が。
 それから中へと通されたふたりは、祈りを馳せる。
 ――宿命に勝てますよう。
 ――主のお慈悲を賜れますよう。
 刹那、ふっと同時に途切れる意識。
 けれど、決して離さない。眠ってもふたり……しっかりと繋いだその手は。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ディアナ・ロドクルーン
ルクセンディア(f24257)さんと行動

お付き合いさせて申し訳ないわね。一人で行くつもりだったけど、今回ばかりは相手がいないと駄目なので…
薄暗い森の中ランタンを持参して共に歩く。大きな手にそっ、と自分の手を繋いで

私は暗い所は慣れているけれども、ルクセンディアさんは大丈夫?
足元に気を付けてね

敵の思うように動かなくちゃいけないのは癪だけど、そうしないと辿り着けないから仕方ないわ
気取られないように頑張りましょうね

ふふ、随分と自信があるのね。でも今回はその通りだわ
超えて、敵をあっと言わせてやりましょ
なんて他愛のない話をしながら

件の教会に付いたら、私は【赤】の薔薇を選ぶ
予知の通り、抗う事なく意識を手放す


ルクセンディア・エールハイム
ディアナ(f01023)と一緒に行動しよう。

君からの誘いであれれば断らないさ。期待は裏切らんよ、任せろ。
こちらも外套とかは纏っていくとしよう。信頼しているし利き手をつなごう。

まぁ夜に行動するほうだ、専門的なのはないが自信はある。
そちらこそ、草や蔦に気をつけてな。足を怪我したらおぶっていくからな?

あえて敵の手の上で踊って、その上で超える。
面白いじゃないか。俺はそういうの好きだぜ?
笑って話に答えつつ、この先の選択についてを考えて。

件のバラは。【青】のバラを選ぼう。
さぁ、見せてみろ。



 訪れた此処は相も変わらず、闇が支配する常夜の世界であるけれど。
 それをさらに深く濃いものにしているのは、瞬く星や淡い月の光さえ届かせない森の木々。
 風が吹くたび、迷子になりたくなければ引き返せと、まるで警告するかのように葉音を鳴らしている。
 だが、ディアナ・ロドクルーン(天満月の訃言師・f01023)は迷子になどならない。
「お付き合いさせて申し訳ないわね。一人で行くつもりだったけど、今回ばかりは相手がいないと駄目なので……」
 薄暗い森の中、手にしたランタンの灯りを頼りに……共に歩く彼の大きな手に、そっ、と。
 自分の手を重ね、繋いでいるのだから。
 そんな彼女の言葉に、今日もルクセンディア・エールハイム(不撓不屈の我様・f24257)は自信に満ちた笑みを返す。
「君からの誘いであれれば断らないさ。期待は裏切らんよ、任せろ。こちらも外套とかは纏っていくとしよう」
 そして繋ぐのは、利き手。それは信頼しているという証。
 そんなふたりが足を踏み入れたのは、侵入者を惑わす異端の森。
 けれど確りと手を繋いでいるから。進む道行きは何の変哲もない、夜の森のもの。
 ふたり会話を交わしながら、絆深き者たちのみが導かれるのだという噂の教会へと向かう。
「私は暗い所は慣れているけれども、ルクセンディアさんは大丈夫?」
 ……足元に気を付けてね、と。
 そう気遣うディアナに、ルクセンディアは赤の瞳を細め、彼女へと返す。
「まぁ夜に行動するほうだ、専門的なのはないが自信はある」
 ……そちらこそ、草や蔦に気をつけてな。足を怪我したらおぶっていくからな? って。
 彼と交わす会話に、ディアナも笑むけれど。
 ふと微かその表情を変えると、溜息と共に呟きを落とす。
「敵の思うように動かなくちゃいけないのは癪だけど、そうしないと辿り着けないから仕方ないわ。気取られないように頑張りましょうね」
 これから架せられるのは、選択。理不尽で、人の心を折る様な、非道なもの。
 敢えてとはいえ、そんな敵の思惑通りに合わせるのは、やはりちょっぴり気に入らないけれど。
 でもそれも……潜んでいる敵が、まんまと尻尾をみせるその時まで。
 ルクセンディアは、耳に届いたディアナの声に笑ってこたえる。
「あえて敵の手の上で踊って、その上で超える。面白いじゃないか」
 ……俺はそういうの好きだぜ? って。
「ふふ、随分と自信があるのね。でも今回はその通りだわ」
 ディアナは根拠はないが揺るがない彼の自信に、大きく同意する様にこくりと頷く。
 ……超えて、敵をあっと言わせてやりましょ、って。
 そして、まさか目論見がお見通しだなんて思いもしていないだろう敵に一泡吹かせるべく。
 この先の選択についてを、ふたりで共に考えてみる。
 最初にふたりにつきつけられる選択は――赤か、青か。
 差し出されたそれへと、ふたりはそれぞれ手を伸ばす。
 ディアナは、美しく花を咲かせる、気高き赤い薔薇を。
 ルクセンディアは、不可能を可能にしたと言われている、青い薔薇を。
 そして予知された通りに、抗う事なくディアナは祈りを捧げる。意識を手放す、その時まで。
 ルクセンディアも、手にした青い薔薇を胸にきちんと抜かりなく咲かせて。
 彼女の傍で、まだ姿現わさぬ黒幕へと、気取られぬ程度に微か笑む。
 ――さぁ、見せてみろ、と。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

佐那・千之助
【青】
クロト(f00472)と

以前は私が赤だったから、此度はそなたが赤のばん
また怪我させるわけにいかぬし
落ちても治せる私が適任じゃしな
納得して頂けたらお手をどうぞ
…いとしいひと。随分優しくなったよう

…実は、この世界(故郷)で手を繋ぐのは少し心配
私に縁ある悪い者らに
大切な人を見咎められ、狙われぬかと…。
だから道ゆく先に浮かせる火も小さく

彼の言葉に火が揺らぐ
望まない、巻き込みたくない
これは私が臨むこと
なまえ…?

その手で運命の糸を紡ぐ“クロト”であるのなら
…そんなこと、言うな…

赤薔薇を彼の胸元へ
青、つけてくれる?

この世界の人々の心の支えである神に
教会で感謝を捧げる
きっと世界を救うから
それまでどうか…


クロト・ラトキエ
【赤】
千之助(f00454)と

納得じゃ無いですけどね!と手を繋ぎ。
…君が傷付かない方がいい。
それだけの我儘。優しいわけじゃ無い。

…実は、この世界には妙に既視感。
自分の様だから?
小さな火に目を細め。

なぁ。いつか言った事、覚えてる?
――俺は、神だって殺してみせる
悪い者だろうと何だろうと、
必ず。
君が、望んでくれるなら。
返り討ち程度、運命を手繰る程度出来ずして、
兵も、“クロト”も名乗れませんし?

それに…
――僕を生かすも殺すも、君次第
とも。

青を彼に。
全ては疾うに、君に。

己は。
救われる必要など無い。
赦しも癒しも不要。
傲慢。独善。それが自分。
故に。
何とも知れぬ誰かに祈るなら、唯一…

誰より君こそ、救われるよう



 この世界はいつも闇に覆われていることが常だけれど。
 進むべき先の道は、星や月の光さえも届かない深い漆黒の森。
 そして森に在るという教会で、選ばなければならないという。赤か、それとも青かを。
 いや、赤か青か、選択を迫られるのは初めてではない。
 ――以前は私が赤だったから、此度はそなたが赤のばん。
「また怪我させるわけにいかぬし、落ちても治せる私が適任じゃしな」
 佐那・千之助(火輪・f00454)は、藍と紅重なる二藍に彼の姿を映して。
 ……納得して頂けたらお手をどうぞ。
 そう、手を差し出せば。
「納得じゃ無いですけどね!」
 ……君が傷付かない方がいい、と。
 クロト・ラトキエ(TTX・f00472)の手が、千之助のものと重なって繋がる。
 そして千之助は、繋がれた手から伝わり混ざり合う体温と彼の落とした声に瞳を細める。
 ……いとしいひと。随分優しくなったよう、って。
 けれどクロトはそれにふるり微か首を振る。
 優しいわけじゃ無い。君が傷つかない方がいい……それだけの我儘なだけだと。
 これから征く深い闇の先は、迷宮と化しているという異端の森。
 けれど、絆深きと相手とこうやって手を繋いで進めば、征く道はただの常夜の森になるのだというが。
 千之助は……実は、少し心配であるのだ。
 この世界でこうやって、彼と手を繋ぐのは。
 今在る常夜の世界は、千之助の故郷。
「私に縁ある悪い者らに、大切な人を見咎められ、狙われぬかと……」
 零れた心の言の葉は自然と密やかに。だから、道ゆく先に浮かせる火も小さいものに。
 そんな千之助の隣を歩きながら。
 クロトは……実は、妙に既視感を覚えていた。
 夜と闇に覆われた、支配されし破滅へと向かうこの世界に。
(「自分の様だから?」)
 そして、小さく灯る火に青の目を細めてから。
「なぁ。いつか言った事、覚えてる?」
 そう問えば、自分へと再び向く視線。
 クロトはそんな彼を見つめ返し、続ける。
「――俺は、神だって殺してみせる。悪い者だろうと何だろうと、必ず」
 ……君が、望んでくれるなら、って。
 刹那、ゆらり揺らぐ灯火。
 いや、揺らいだのは何も、その手に握る小さな火だけではない。
 ――望まない、巻き込みたくない。
 これが、千之助の望むことなのだから。
 けれど小さき火が照らす横顔に、クロトは笑ってみせる。
「返り討ち程度、運命を手繰る程度出来ずして、兵も、“クロト”も名乗れませんし?」
 そして、なまえ……? と落とされた呟きに、こくりと頷く。
「それに……――僕を生かすも殺すも、君次第」
 千之助は自分に向けられる整った笑みと言の葉に、ふっとひとつ小さく息をついて返す。
「その手で運命の糸を紡ぐ“クロト”であるのなら……そんなこと、言うな……」
 これからふたりを待ち受けるのは、試練。
 いや、試練という名の非道な敵の罠である。
 けれど敢えて、敵が尻尾をみせる機会を逃さぬために、ふたりはその試練に身を置くのだ。
 そして程なく辿り着いた教会で、最初の『選択』をする。
 目の前には――赤と青。
 千之助は手に取った赤のいろを、クロトの胸元へと咲かせて。
「青、つけてくれる?」
 己の胸元に、もうひとつのいろをと促せば。
 クロトはその手で聢と、彼を青のいろで飾る。
 ――全ては疾うに、君に、と。
 それから教会の中に入ることが許されれば、ふたり並んで歩みを進めて。
 千之助は感謝を捧げる。この世界の人々の心の支えである神に。
(「きっと世界を救うから、それまでどうか…」)
 そしてクロトも彼の隣で、ふと青の瞳を閉じる。
(「己は。救われる必要など無い。赦しも癒しも不要」)
 己が救われることなど求めてはいない。神に縋る気も。
 ――傲慢。独善。それが自分だから。
 でも……だからこそ、故に。
 何とも知れぬ誰かに祈るなら、唯一……。
 この世界を救うと誓い、神に感謝を捧げる彼の隣で、クロトは祈る。
 ――誰より君こそ、救われるよう、って。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ヘルガ・リープフラウ
❄花狼
ヴォルフと二人、森の中を行く
繋いだ手を決して離さないように

思い出すのは遠い昔、今は亡き故郷
影の支配者たる吸血鬼が、わたくしを娶りたいと言った
わたくしは「家族も領民も『皆で幸せに』暮らしたい」と願った
あの男はその願いを踏み躙り……家族も領民も皆殺しにした

救世の願いが、皆を殺した
そして今、再びわたくしを待ち受ける罠
ヴォルフの無事を願えば、彼を奈落へ突き落としてしまう

逆にヴォルフを見捨てれば、彼だけは助けることが出来る
だけど、たとえ偽りでも彼に向かって手酷い裏切りの呪詛を
本当に吐くことが出来るの……?

そしてわたくしは【青】の薔薇を取る
今度こそ選択を違えぬように

ああ、ヴォルフ
この手を離さないで


ヴォルフガング・エアレーザー
❄花狼

ヘルガと二人、森の中を進む
決して引き裂かれぬようにしっかりと繋いだ彼女の手が
冷たく震えているのが分かる

此度の敵の話を聞いて、忌まわしい過去を思い出しているのか
善意を、願いを踏み躙られ、多くのものを失った悲しみを

ヘルガ、心配するな
お前はお前の信じる道を選べばいい
俺は決してお前を悲しませはしない
たとえこの先にどんな卑劣な罠が待ち受けていても
どんな悪意がお前を苛んでも
必ずお前を守り抜く

たとえどんな選択をしたとしても
お前の愛は決して揺らぐことはないと
俺は固く信じている

恐れるな
惑えば奴らはそこに付け込む
己の選択を、「俺が信じるお前」を信じろ

【赤】の薔薇を胸に

手放すものか
この手に伝う互いの熱を



 ふたり並んで進みゆくのは、深い闇に包まれた漆黒の森。
 この森は、足を踏み入れた者達を惑わし迷わせる異端の森であるという。
 けれど、ヘルガ・リープフラウ(雪割草の聖歌姫・f03378)は決して迷わない。
 だって、ヴォルフガング・エアレーザー(蒼き狼騎士・f05120)と、確り手を繋いでいるから。決して、離さないように。
 この森を進んだ先にあるという教会。
 だが、そこに向かわんとする者達を森は試すのだ。絆深き者同士であるかを。
 ヴォルフガングは、決して引き裂かれぬようにと。
 ヘルガとしっかりと手を繋ぎながらも、伝わってくるのが分かる。
 彼女の華奢なその手が、冷たく震えていることが。
 そんな彼女の脳裏に蘇るのは……遠い昔の、今は亡き故郷。
 そして、過去の記憶。
(「影の支配者たる吸血鬼が、わたくしを娶りたいと言った。わたくしは「家族も領民も『皆で幸せに』暮らしたい」と願った」)
 けれど、それは叶わなかった。いや、叶わなかったどころか。
(「あの男はその願いを踏み躙り……家族も領民も皆殺しにした」)
 ――救世の願いが、皆を殺した。
(「此度の敵の話を聞いて、忌まわしい過去を思い出しているのか」)
 ヴォルフガングは繋いだその手を包み込むように握りながら、隣の妻の美しくも何処か青褪めた横顔を見つめ思う。
 彼女の心に今生じている思いは、きっと。
 善意を、願いを踏み躙られ、多くのものを失った悲しみ。
 それをヘルガに思い出させているのは、これから架せられるのだという試練。いや、それは試練とは名ばかりの。
(「そして今、再びわたくしを待ち受ける罠。ヴォルフの無事を願えば、彼を奈落へ突き落としてしまう」)
 望みを奪う悪意、非道な敵の罠。
 けれどもうこれ以上犠牲が出ないように、敢えてその罠に身を置かんと赴いているのだ。
 それに予知により、敵の目論見は分かってはいる。
 彼の無事を願えば、逆に彼の身が落とされてしまう。
 だから逆に彼を見捨てれば、彼だけは助けることが出来る。
 ……でも。
(「だけど、たとえ偽りでも彼に向かって手酷い裏切りの呪詛を、本当に吐くことが出来るの……?」)
 彼を落として自分を助けて欲しい、だなんて……いくら本心ではないとしても、口にすることなど――。
 けれど、そう思わず俯いてしまった彼女の顔を再び上げさせたのは、ヴォルフガングの声。
「ヘルガ、心配するな。お前はお前の信じる道を選べばいい」
 ……俺は決してお前を悲しませはしない、と
 だって自分達は、生涯寄り添うと誓い合った夫婦なのだから。
「たとえこの先にどんな卑劣な罠が待ち受けていても、どんな悪意がお前を苛んでも。必ずお前を守り抜く」
 大切な人を守る決意は、疾うにヴォルフガングの心にいつだってあるのだ。
 それに、はっきりと言えるから。
「たとえどんな選択をしたとしても、お前の愛は決して揺らぐことはないと。俺は固く信じている」
 ヴォルフガングは、信じ愛する妻を見つめて。
 こう続ける――恐れるな、と。
「惑えば奴らはそこに付け込む。己の選択を、「俺が信じるお前」を信じろ」
 その証をみせるように……辿り着いた教会で、ヴォルフガングがその胸に咲かせるいろは、赤。
 そしてヘルガはもうひとつのいろ、青の薔薇を取る。
 ――今度こそ選択を違えぬように、って。
 それから繋いだ手を握り締め、すぐ傍に在る彼を見上げる。
 ……ああ、ヴォルフ。この手を離さないで、と。
 そんな愛しき妻に、ヴォルフガングはこくりと頷く。
 ……手放すものか、と。
 繋がり、混ざり合ってひとつになった――この手に伝う互いの熱を。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

クロム・エルフェルト
【狐々】
都月くんと手を繋いで森を進む
……手、大きいな
大太刀も軽々扱えそう、羨ましい
ぼんやり思いつつ都月くんの手をにぎにぎ

教会で何のお祈りをしようか
姉弟で救いを求めるような事は何だろう
禁断の恋、でも演じようか

ん、そうだよ……姉さんと都月は、恋仲。
(……何かとんでもない事を口走ってる気がするけど、これはお芝居)
私達が無事に結ばれるよう、お祈りをしに行くの
(……頬が熱い……けど、これはお芝居)
転ばないように、気を付けてね
(そっと手を引く、これはお芝居じゃない)
恥ずかしい、尻尾が揺れてしまう

教会で静かに祈りを捧ぐ
(都月くん、「禁断」の意味分かってないかも……元野生の狐さんだし)

薔薇は、瞳と同じ青を選ぶ


木常野・都月
【狐々】

クロムさんと手を繋いで、森を進みます。

クロムさんの手は、普段刀を握る引き締まった手。
でもやっぱり女の人の手で。
ちっちゃくて、柔らかい。
力を入れすぎないように気をつけたい。
……?(何か手をにぎにぎされてる)

えっと、俺達は姉弟の設定で、好き同士。キンダンの恋。
クロムさんの事は姉さん…覚えました!
(尻尾ぶんぶん)

そうだ、チィ。
これから仕事で、俺はピンチになる。
でも、敵を騙す為の演技だから心配しなくていいぞ。

(好き同士、何か心?心臓?が、むずむずする)

教会についたら、お祈り。
姉さんとのキンダンの恋が叶いますように。
(あと、作戦がうまくいきますように!)

そして薔薇の選択。
俺は赤い薔薇を取りたい。



 足を踏み入れた者を迷わせる、異端の森。
 けれど唯一、森の奥にある教会へと難なく辿り着ける方法があるという。
 それは、絆深き者同士だという証をみせること……互いに手と手を繋ぎ、進むこと。
(「……手、大きいな」)
 ……大太刀も軽々扱えそう、羨ましい、と。
 クロム・エルフェルト(縮地灼閃の剣狐・f09031)は、そうぼんやりと思いつつも。
 繋いだ木常野・都月(妖狐の精霊術士・f21384)の大きな手を、にぎにぎ。
 そして都月もまた、繋いだその手の感触に思う。
(「クロムさんの手は、普段刀を握る引き締まった手。でもやっぱり女の人の手で」)
 ……ちっちゃくて、柔らかい、って。
 だから、力を入れすぎないように気をつけたいって、そうそっと握るけれど。
「……?」
 ふと都月は、こてりと首を小さく傾ける。
 ――にぎにぎ。
 何だか、手をにぎにぎされていると。
 そんな彼の手をにぎにぎしながらも、クロムは考える。
「教会で何のお祈りをしようか。姉弟で救いを求めるような事は何だろう」
 森の教会へ赴く目的……それは敵の罠にかかったように思わせて、その尻尾を掴むこと。
 だからそれまでは、怪しまれないように行動する必要があるから。
 姉弟が、教会で祈り馳せる自然な理由――。
 クロムは隣を征く彼を見上げ、思いついたこんな提案をしてみる。
「姉弟で好き同士の……禁断の恋、でも演じようか」
「えっと、俺達は姉弟の設定で、好き同士。キンダンの恋」
 都月はそう、演じる設定を確認するように反復してから。
 ぴこりと耳を立て、こくこくと首を縦に振る。
「クロムさんの事は姉さん……覚えました!」
 ばっちりだと言わんばかりに、尻尾もぶんぶんさせながら。
 そんな彼の声に、頷くクロム。
「ん、そうだよ……姉さんと都月は、恋仲」
 いや……何かとんでもない事を口走っている気がするけれど。
 でもこれは、お芝居なのだ。
「私達が無事に結ばれるよう、お祈りをしに行くの」
 何だか……頬が熱い……気もするけれど。
 これはお芝居だから。
「転ばないように、気を付けてね」
 そっと手を引いて、彼に声を掛けるクロム。
 そう、これはお芝居じゃない。
 姉妹の設定も、好き同士の恋仲も、受けた依頼のための演技。
 演技、なのだけれど。
 恥ずかしい、って……そわりと尻尾が揺れてしまう。
 そんなクロムの隣で、都月は狐の精霊のチィに言って聞かせる都月。
「そうだ、チィ。これから仕事で、俺はピンチになる。でも、敵を騙す為の演技だから心配しなくていいぞ」
 姉妹で恋仲というのは、敵を騙す為の設定。
 ちらりと自分に視線を向け、そうっと揺れるクロムの尻尾にこそ気付かない都月だけれど。
 ふと瞳をぱちくり、数度瞬かせる。
 ふたりは――好き同士。
(「何か心? 心臓? が、むずむずする」)
 感じたことのない、胸の擽ったさに。
 それから予知通り、教会へと辿り着けば。二人並んで祈りを捧げる。
「姉さんとのキンダンの恋が叶いますように」
 ちゃんと設定や演技は、忘れていませんし。
(「あと、作戦がうまくいきますように!」)
 そうそっと心の中で付け加え、祈る都月の胸に飾られているのは――赤い薔薇。
 クロムも、己の瞳と同じ青い薔薇をその胸に咲かせて。
 静かに祈りを捧げつつ、もう一度、隣の彼へと何気に視線を向け、ふと思う。
(「都月くん、「禁断」の意味分かってないかも……」)
 ……元野生の狐さんだし、って。
 まだおさまらない頬の火照りを、密かに感じながら。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

雨絡・環
アルフィードさん(f00525)と
【赤】

道を見失いそな森
有難う存じます
彼の手に己の其を添え
お放しにならないで?なんて

暗闇をランプの灯りがぼうと照らす
風情がありますね
わたくしは大丈夫
昏い場所は親しいの
むしろ此処は生命の気配が濃くて賑やかに感じる位

そう言えばそうでした
あの時は今こうして
二人で夜の森を歩いているだなんて、想像も
わたくし達は教会にご縁があるのかもしれません

アルフィードさんは流石
祈る姿が堂に入っておられます
お手本にわたくしも

信じておりますよ?
神様より余程――と、此処では不謹慎かしら
貴方様は如何?
応えは微笑みのみ

では、赤を

立ち上る赤薔薇の香り
暗転する寸前にあたたかな腕
あらまあ

…お優しいこと


アルフィード・クローフィ
環ちゃん(f28317)と一緒に
【青】

ここは迷いの森だって
離れないように手を繋いでいようね
彼女の手を握ってにっこり笑う
うん!大丈夫!離さないよ!

夜の森にランプの灯りって綺麗だよね!
環ちゃん大丈夫?怖くない?
そうそう、環ちゃんが迷子になってくれて俺の教会に来てくれたんだよね
なんか昨日の事みたい
あっ、この教会かな?
今回も教会で運命を感じるね

この教会も綺麗だねぇ
他の場所で祈るって変な感じだけど、
俺神父だから違和感無いかな?
君は俺を信じますか?なぁーんて
俺も信じているよ
神や悪魔よりも

青薔薇を迷う事なく取り
意識を失いそうになりつつも
彼女が冷たい地面にそのまま倒れない様に自分の身体で受けとめて倒れる



 これから征くべき道は、深い漆黒が静かに支配する真っ暗闇。
 星や月の光さえも届かない、こんもりと木々が多い茂る森の中。
 ……道を見失いそな森、と。
 ぐるり視線巡らせる雨絡・環(からからからり・f28317)に、アルフィード・クローフィ(仮面神父・f00525)はいつもの様に笑みを向ける。
「ここは迷いの森だって。離れないように手を繋いでいようね」
 そう、此処は足を踏み入れた者たちを拒むかのように迷宮と化した異端の森。
 けれども唯一、共に歩む者と手を繋いでいれば……森は、何の変哲もない常夜の森となるのだという。
 環は手を差し出す彼に、有難う存じます、と告げた後。
 大きな掌に彼の手に己の其を添えながら、笑みと共に紡ぐ。
 ――お放しにならないで? なんて。
 そして、重ねられた細くしなやかな彼女の手をぎゅっと優しく握って。
「うん! 大丈夫! 離さないよ!」
 にっこり笑み返すアルフィード。
 深い闇に包まれた森を征く今、頼りになるのは、互いに繋いだ手と暗闇を照らすランプの灯火。
 そんな、ぼうと揺らめく光を見つめて。
「風情がありますね」
「夜の森にランプの灯りって綺麗だよね!」
 その灯火が導くまま歩きながら、アルフィードは環に訊ねてみる。
「環ちゃん大丈夫? 怖くない?」
「わたくしは大丈夫。昏い場所は親しいの」
 静寂広がる夜の世界は、眩き陽が指す刻よりも落ち着くし。
 環はもう一度、銀の視線を夜闇へと巡らせ、瞳を細める。
「むしろ此処は生命の気配が濃くて賑やかに感じる位」
 風に揺れざわめく森の木々に、闇に紛れつつも此方を静かに窺う様な気配たち。
 そんな森に息づく様々なものを感じながらふたり、言葉交わしつつ暫し並んで歩む。
 迷子にならないよう、手を繋いだまま。
 そしてアルフィードはふと、思い出し口にする。 
「そうそう、環ちゃんが迷子になってくれて俺の教会に来てくれたんだよね。なんか昨日の事みたい」
「そう言えばそうでした。あの時は今こうして二人で夜の森を歩いているだなんて、想像も」
 今は、逸れて迷子になってしまったら大変だけれど。
 でも環が迷子になってくれたからこそ、今があって……それは思えば、不思議な縁で。
 アルフィードは刹那、視線の先に見つける。
「あっ、あの教会かな?」
 今回の目的地である、森の奥に佇むその姿を。
 ――今回も教会で運命を感じるね、って。
 そんな彼の言葉に、環もこくりと頷く。
「わたくし達は教会にご縁があるのかもしれません」
 そしてふたりは祈りを捧げるべく、辿り着いた教会の中へ。
 アルフィードは、この教会も綺麗だねぇ、ときょろり周囲を見回してから。
「他の場所で祈るって変な感じだけど、俺神父だから違和感無いかな?」
 ……君は俺を信じますか? なぁーんて、と。
 そう笑んで見せれば、環もくすりと笑み返して。
「アルフィードさんは流石、祈る姿が堂に入っておられます」
 彼に倣って祈りつつも答える。
 ……信じておりますよ? って。
「神様より余程――と、此処では不謹慎かしら」
 それから、今度は彼に問う。貴方様は如何? と。
「俺も信じているよ」
 ……神や悪魔よりも、って。
 そう返ってきた言の葉への応えは、嫋やかに宿した微笑みのみ。
 それから、祈りを捧げていれば……ふわり、胸に飾った赤薔薇が香った瞬間。
 くらりと暗転する環の視界。
 それは迷う事なく青薔薇を取って身に着けたアルフィードも同じで。
 けれど、意識を失いそうになりつつも己の身体で受けとめる。
 倒れんとする彼女の身体を……冷たい地面にそのまま倒れない様にと。
 そんな彼の温もりに、あらまあ、と声を落として。
 ……お優しいこと。
 彼と共に、環の意識はそこで途切れる。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

コノハ・ライゼ
たぬちゃん(f03797)と
親子的関係

絆深き、ねぇ
ま、ソレでアンタの気が済むなら構わないケド
と、さして興味の無さそな素振りながらも手はしっかりと繋いで
縁結びって神社仏閣じゃああるまいし……
とまあ、どれもこれも全部演技なワケだけど、とは心の内で

ランタン片手にお散歩気分てのは悪くないし
ああ、おやつでも持ってくれば良かったかしらねぇナンて本音溢せば
目の前に差し出された煎餅に思わず吹き出す
あらまあ、気が利くコト
常夜の森には賑やかな音立て往く
ほらほら、あんま燥ぐと手ぇ離れるわよ

教会に辿り着いたなら、相方より先に選ぶのは【青】
無邪気に祈るのを隣で聞きながら、呆れた様に溜め息ひとつ
バカね
握る手に今一度力籠め


火狸・さつま
コノf03130と!

コノ、コノちゃん!
おてて差し出し
ん!絆深き!
にっぱ~と自信満々の笑顔向けて
はぐれちゃうと、大変、だから!ね!
しっかりと繋がれた手に御機嫌
いざ!縁結教会探しー!
あ、救われる?だた?

尻尾ふりふり
らんららんら足取り軽く
えっ?お手製おやつない、の?
ちょと、期待、してた……
俺はね、持てきた、よ!
はい!コノちゃんの!
口元へお煎餅ずずぃ

野生動物さん見えれば手を振って
道はむこうかなあっちかななんて動物と話す
おてて、はなさない
きゅっとしっかり繋ぎなおす

じゃ、俺、こっち!
コノと、ずと一緒、いれますよーに!
【赤】を取って祈りを捧げる
意識失う僅かな時間
ふにゃり笑顔向け、もう一度しっかとコノの手を…



 これから足を踏み入れるのは、この常夜の世界の中でも闇のいろが深い森の中。
 侵入者を惑わせんとする、異端の森。
 けれども、森の奥にあるという教会へと辿り着くことを唯一許されるのは。
「コノ、コノちゃん!」
 瞳をキラキラ、おててをいそいそ差し出して。
 尻尾を嬉しそうにぶんぶん振りながら、火狸・さつま(タヌキツネ・f03797)は続ける。
 ――ん! 絆深き! って。
 そう……教会へと導かれるのは、絆深き証を示した、手と手を繋ぎ歩む者達だけ。
「絆深き、ねぇ」
 ……ま、ソレでアンタの気が済むなら構わないケド、と。
 コノハ・ライゼ(空々・f03130)は、さして興味の無さそうな素振りをしながらも。
 にっぱ~と自信満々な笑顔向けるさつまの手を取ってから。
 しっかりと手と手を繋いで、並んで歩き出す。
「はぐれちゃうと、大変、だから! ね!」
 そんなぎゅっと繋がれた手に、さつまはるんるん御機嫌に。
「いざ! 縁結教会探しー!」
「縁結びって神社仏閣じゃああるまいし……」
 いや、まぁ親子みたいな関係ではあるし。
 どれもこれも全部演技なワケだけど、とは心の内で思いながらも。
 呟きを落とすコノハに、さつまは相変わらずうきうきな様子で、こてり首を傾ける。
「あ、救われる? だた?」
 目指すは、森の奥にあるという教会。
 けれど、ゆうらり揺れるランタン片手に、お散歩気分というのは悪くないし。
「ああ、おやつでも持ってくれば良かったかしらねぇ」
 なんて、コノハが本音溢せば。
 尻尾ふりふり、らんららんら足取り軽く歩んでいたさつまの足が一瞬、ぴたりと止まって。
「えっ? お手製おやつない、の?」
 ……ちょと、期待、してた……って。
 ぴこんと一度立ったおみみが、ぺたり。
 けれど、コノハのお手製お菓子こそないけれど。
 気を取り直し、がさごそと。
「俺はね、持てきた、よ!」
 ――はい! コノちゃんの!
 さつまが取り出し、コノハの口元へとずずぃと差し出すのは、お煎餅。
 そんな目の前にえっへん突き出されたおやつに、思わず吹き出しながらも。
「あらまあ、気が利くコト」
 賑やかな音立て、さつまとふたり並んで常夜の森を征くコノハ。
 ……ほらほら、あんま燥ぐと手ぇ離れるわよ、って。
 野生動物さんに手を振って、道はむこうかなあっちかななんてお喋りしていたさつまは、そんな声に再び視線を戻して。
 ――おてて、はなさない。
 きゅっと、しっかり握るその手を繋ぎなおす。
 そんな確り手を繋いでいた甲斐もあり、難なくふたり教会へと辿り着いて。
 赤か青――最初の選択に、先に手を伸ばしたのはコノハであった。
 青の薔薇を、その手に取って。
「じゃ、俺、こっち!」
 さつまも、もう一方の赤い薔薇を取って。
 通された教会で、一生懸命祈りを捧げる。
 ――コノと、ずと一緒、いれますよーに! って。
 そんな無邪気に祈る声を隣で聞きながら、バカね、って。
 呆れた様に溜め息をひとつ落としながらも。
 意識失う僅かな時間でも……ふにゃり笑顔向け、もう一度確りと手を握ってくるさつまの手を、コノハは握り返す。
 今一度、ぎゅっと――力を籠めて。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

黒柳・朔良
我が主(f29142)と

絆深き二人を引き離すこともだが、そのやり方が悪趣味極まりない
我が主、碧唯様も同じことを思っていらっしゃるだろう
……手を繋いで隣を歩くのは畏れ多いことだが、今は致し方ない

危険はないとは思うが、選択UCの影人形を放っておいて周囲の様子を探らせよう
念の為、影人形たちも二人一組で手を繋いで行動させたら迷わないだろうか

薔薇は迷わず【赤】を手にする
主である碧唯様を差し置いて私が選択するなどおこがましいにも程がある
碧唯様には辛い選択をさせるだろうが、いざとなれば碧唯様の中の華織様か夜宵様が選択なされるだろう
あの方々は元々その為に碧唯様が作り出した人格なのだから


神在月・碧唯
我が影(f27206)と
主人格:碧唯

全く持って悪趣味極まりないですわね
しかし、そのおかげで朔良さんとこうやって手を繋いで歩けるのですけれど

朔良さんが影人形を放ってくださいましたが、教会へ辿り着くまでは危険なことはないのでは?
慎重で心配性なところは昔と変わりませんのね
ただ、もう少し自分を大切にしていただきたいですわ

薔薇は赤を手にしようとしたところを朔良さんに先に取られてしまいました(【青】を手にする)
あなたはそうやっていつもわたくしに選ばせるのですね
わたくしとしてはたまにはあなたに選択を委ねたいと思っていますのに
しかしどのような場合でも、あなたはわたくしを生かす道を選ぶのでしょうね



 赴いたこの世界は、夜と闇に覆われた常夜の世界であるけれど。
 静かに煌めく星や月の光さえも遮るように、ざわりと風に揺れる森の木々たち。
 そんな深く濃い闇の中を征きながら。
(「絆深き二人を引き離すこともだが、そのやり方が悪趣味極まりない」)
 ……我が主、碧唯様も同じことを思っていらっしゃるだろう。
 そうすぐ傍に在る主と共に歩むのは、黒柳・朔良(「影の一族」の末裔・f27206)。
 唯一無二である己の主は、大人しくて優しすぎるから。
 そしてそんな朔良の、思った通りに。
「全く持って悪趣味極まりないですわね」
 予知に聞いた敵の非道さにふるりと小さく首を振るのは、神在月・碧唯(その優しさは時に残酷で・f29142)。
 足を踏み入れたこの森も既に、敵の手の中。
 ふたりが目指すのは、森の奥にある教会であるが。
 教会に辿り着けるのは、絆深き者達だけなのだという。
 そして、その絆を示す証は――繋がれた手と手。
(「……手を繋いで隣を歩くのは畏れ多いことだが、今は致し方ない」)
(「しかし、そのおかげで朔良さんとこうやって手を繋いで歩けるのですけれど」)
 手を繋がなければ、ふたり離れ離れになって迷ってしまうのだというから。
 ふたりも、互いに手を繋いで、森の奥へと進んでゆく。
 手を確りと繋いでいれば、何の変哲もない夜の森。
 けれど、危険はないとは思いながらも。
 朔良が深い闇へと放つは、影の支援者――周囲の影から現れる小さな影人形たち。
 影人形たちも念の為、迷わぬよう二人一組で手を繋いで行動させて、異変などないか様子を探らせる。
 そんな朔良の影人形たちが闇に紛れる様を見つめながら、碧唯は微か首を傾けつつも。
「教会へ辿り着くまでは危険なことはないのでは? 慎重で心配性なところは昔と変わりませんのね」
 そう、己の影へと向けた藍色の瞳を細め、続ける碧唯。
 ……ただ、もう少し自分を大切にしていただきたいですわ、って。
 そして確りと手を繋いで歩んでいれば、何事もなく無事に教会へと辿り着いて。
 入り口で差し出されるのは、赤と青――最初の選択。
 碧唯はふたつのうち、赤を咲かせるその花へと手を伸ばそうとしたけれど。
 主がそれを手にするよりも先に、迷わず赤い薔薇を選ぶ朔良。
 聞いた予知によれば……青を選んだ者が『選択者』だというのだから。
(「主である碧唯様を差し置いて私が選択するなどおこがましいにも程がある」)
 あくまで己は、主の影。影が選択をする権利など、分不相応であるから。
 いや、分かってはいるのだ。
 主は優しすぎるから、きっと辛い思いをさせてしまうだろうことも。
 けれど、朔良は知っているから。
(「碧唯様には辛い選択をさせるだろうが、いざとなれば碧唯様の中の華織様か夜宵様が選択なされるだろう」)
 副人格である『華織』や裏人格である『夜宵』が、選ぶべき判断を下してくれることを。
 ……あの方々は元々その為に碧唯様が作り出した人格なのだから、と。
 そんな手にした赤い薔薇を胸に飾る朔良に、碧唯は残った青い薔薇を受け取りつつも紡ぐ。
「あなたはそうやっていつもわたくしに選ばせるのですね。わたくしとしてはたまにはあなたに選択を委ねたいと思っていますのに」
 けれどそう言う碧唯も、分かっているのだ。
 どの様な場合でも、我が影が常に迷わず選ぶことはひとつ。
 ――あなたはわたくしを生かす道を選ぶのでしょうね、と。
 選択する者が纏う青のいろを、その胸に咲かせながら。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

篝・倫太郎
【華禱】
灯りを手に
いつものように手を繋いで森を往く

なぁ、どっちの色を選ぶ?
あんたはどっちでも似合いそうだなぁって思って?

俺もどっちでもいいんだけどな
どっちを選んでもあんただし俺だから……

はは、ありがと
あんたの色だなぁってずっと思ってたけど
似合ってたなら嬉しいや

盗み聞きの可能性も視野に入れ
一応警戒して夜彦に体を寄せて
耳元でそっと告げておく

どっちでもいいけど
決定権を持つ可能性があるのなら
そこは、ちゃんと聞いておきたいから

夜彦、あんたの選ぶ色はどっち?
その後、どっちを選ぶ?

俺、本当にどっちでも構わないんだけど
あぁ、でもやっぱり夜彦には青かな?

あんたの選択をいつだって信じてる
だから、俺は【赤】を選ぼう


月舘・夜彦
【華禱】
倫太郎と手を繋いで森を歩きます
これからオブリビオンとの戦いですが条件が条件ですからね
少し緩い感じにはなってしまいますが仕方ありません

私は青が好きなので青でしょうか
倫太郎も赤が似合いますが、この間の青を入れた服も似合っておりました
貴方も赤だけでなく青も似合うのでしょうね

私も赤は貴方の色と思うと、選びたくもなります
どうしたものでしょうね

体を寄せられ、自然と体を傾ける
はい、何でしょう
……そうですね、そこが本題なのですよね

赤を選び、そして……貴方ならそれを選ぶ理由が分かるでしょうね
きっと私と同じ選択をするのでしょうから
だからこそ、青を選びます

選ぶのは私
戦いに於いても大きな判断は私

【青】を選ぶ



 一緒に赴き降り立ったのは、闇に覆われた常夜の世界。
 ただでさえ、広がる暗闇が延々と何処までも支配しているというのに。
 こんもり生い茂る木々たちが、静かに降る星や月の輝きさえも遮っている。
 ふたりが足を踏み入れたのは、侵入者を惑わし迷わせる異端の森。
 けれど、進み征くその足に迷いなどない。確りといつものように、手を繋いでいるから。
 目指すは、森の奥にある教会。
 互いに手を繋ぎ合った、絆深き者達のみが辿り着けるという場所。
「これからオブリビオンとの戦いですが条件が条件ですからね」
 ……少し緩い感じにはなってしまいますが仕方ありません、と。
 いつものように生真面目に口にする、すぐ隣の月舘・夜彦(宵待ノ簪・f01521)の顔をふと覗き込むように。
「なぁ、どっちの色を選ぶ?」
 篝・倫太郎(災禍狩り・f07291)はそう訊いてみながらも。
 ……あんたはどっちでも似合いそうだなぁって思って? と、彼を見つめる琥珀の瞳を細めて。
「俺もどっちでもいいんだけどな」
 小さく首を傾けた後、続ける。
 ――どっちを選んでもあんただし俺だから……と。
 そんな倫太郎から向けられた問いに、夜彦はこう返す。
「私は青が好きなので青でしょうか」
 そう……ふたりはこれから、選ばなければいけないのだ。
 ――赤か、それとも青か。
 けれど夜彦にとって、青は好きな色ではあるけれど。 
「倫太郎も赤が似合いますが、この間の青を入れた服も似合っておりました」
 ……貴方も赤だけでなく青も似合うのでしょうね、と。
「はは、ありがと。青はあんたの色だなぁってずっと思ってたけど、似合ってたなら嬉しいや」
「私も赤は貴方の色と思うと、選びたくもなります」
 自分を思わせる好きないろもだけど、相手を思わせるいろだって愛しいから。
 ……どうしたものでしょうね、と。
 ふたり手を確りと繋いだまま、顔を見合わせて微か笑みあう。
 とはいえ、どちらかはどのみち選ばないといけないから。
 倫太郎は盗み聞きの可能性も視野に入れ、一応警戒するように。
 体を寄せ、夜彦、と耳元で囁く様に名を呼べば。
 ……はい、何でしょう、と夜彦も密かに彼へと自然と体を傾ける。
 そしてそんな夜彦へと、倫太郎はそっと告げておく。
「どっちでもいいけど、決定権を持つ可能性があるのならそこは、ちゃんと聞いておきたいから」
「……そうですね、そこが本題なのですよね」
 ただ、好きな色を選ぶだけではない。
 これは、最初の選択にすぎない。最初で、そして今後の運命を決める選択肢。
 自分達であれば、どちらでもいいとは思ってはいるけれど。
 でもだからこそ、倫太郎は改めて訊いておく。
「夜彦、あんたの選ぶ色はどっち?」
 ……その後、どっちを選ぶ? って。
 そう改めて問われた声に、夜彦は紡いで返す。
「赤を選び、そして……貴方ならそれを選ぶ理由が分かるでしょうね」
 ……きっと私と同じ選択をするのでしょうから、と。
 そして、それが分かっているから。
「だからこそ、青を選びます」
 夜彦が選ぶと告げたのは、青のいろ。
「俺、本当にどっちでも構わないんだけど」
 倫太郎はそうは言いはするけれど、でも、彼の選択を聞いてこくりと頷く。
 ――あぁ、でもやっぱり夜彦には青かな? って。
 だって、いつだって倫太郎は信じているから。夜彦の選ぶ道を。
 だから、俺は赤を選ぼう、って……そう笑えるのだ。
 そして夜彦も分かっている。
 ――戦いに於いても大きな判断は私。
 選ぶのは、自分であると。
 辿り着いた教会で迷わず手に取るのは、青のいろを咲かせる一輪。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

一一・一一
アスカ(f03928)と行動します
関係は恋人、呼び方はアスカさん、基本敬語でしゃべってます

薔薇の色は赤を選択、お互いのマフラーの色ですね
手をつないでいることに対してちょっと顔を赤くしながら、たわいのない会話をします
こんなところで二人で一緒に昼寝できたら、気持ちよさそうだし、リフレッシュできそうですよね

教会で祈る内容は「アスカさんと一緒に歩けますように」
種族の違いとか、価値観の違いとかありますけど、家族になって一緒に歩いていければ、幸せだろうなって
眠らされたら、決してアスカさんを離さないようにして
アスカさんを抱きしめるように、倒れます
アドリブなど歓迎です


アスカ・ユークレース
一一(f12570)と
関係:恋人、最近同棲し始めた

選択:青

こうしてみると本当にただの森ね……美味しい澄んだ空気に鳥の声、木の葉の擦れる音……つい普通にお散歩デートしてるような錯覚に陥ってしまいそう、実際そうなんだけど……

森林浴を楽しみつつ教会を目指すわ

捧げる祈りは『一一が幸せに過ごせますように』
ところで教会で祈りを捧げるのって結婚式みたいじゃない?
思わぬところで予行演習ができたわね

祈ったならば睡魔に身を任せて眠りましょう
不安だけど二人で指を絡めて寄り添えばきっと大丈夫
最後は彼を安心させようと精一杯微笑んで落ちるわ

アドリブ歓迎



 赴いた此処は、夜の闇に包まれた常夜の世界。
 いまだ明ける事のない漆黒の空には、小さな星が微か瞬いているけれど。
 足を踏み入れた深い森の中には、そんな僅かな光さえも届かない。
 そして広がるのは、ただひたすら夜の静寂。
 いや……一見、進みゆく森の中は静かなように思えるのだけれど。
 アスカ・ユークレース(電子の射手・f03928)は、色合いの異なる宝石の如き双眸をぐるりと巡らせ、聴こえてくる様々な音たちに耳を澄ませる。
「こうしてみると本当にただの森ね……」
 冴え渡り澄んだ美味しい夜の空気に、美しく囀る鳥たちの声、風に揺れ木の葉の擦れる音。
 それはアスカの言うように、何の変哲もない森の様子に思えるのだけれど。
(「……つい普通にお散歩デートしてるような錯覚に陥ってしまいそう、実際そうなんだけど……」)
 この森は、侵入者を惑わせ迷わせるという異端の森。
 けれども、森の奥にある教会に迷わず導かれる方法がひとつだけあるという。
 それは、絆深き者同士が手を繋ぎ赴くこと。
 一一・一一(都市伝説と歩む者・f12570)の顔が仄かに赤く染まっているのも、恋人の柔らかな手の感触や温もりが、繋いだ手から伝わってくるから。
 そんなアスカとふたり、手を繋いでいることは少し照れてしまうけれど。
「こんなところで二人で一緒に昼寝できたら、気持ちよさそうだし、リフレッシュできそうですよね」
 交わすのは、いつも通りの他愛のない会話。
 ふたり手を繋いでいれば、不思議な力が働いているらしいこの森も、ごく普通の常夜の森。
 アスカが思ったように、まさに夜のお散歩デート、と言っても間違いではないだろう。
「空気も澄んでいて、夜風も心地良いですね。アスカさん、寒くないですか?」
「大丈夫、寒くないわ。見て、動物や鳥も沢山いるのね」
 夜に吹く風は微かひやりと頬に感じるけれど。
 でも……繋いだ手から、相手の温もりを感じるし。
 首にはくるりと、互いにマフラーも巻いているから。
 そのマフラーの色は――赤と青。
 森林浴をふたり楽しみながらも、何事もなく辿り着いた教会の入口で。
 それぞれが手に取った薔薇のいろも、マフラーの色と同じもの。
 そして通された教会で、ふたり並んで祈りを馳せる。
 青の薔薇をその胸に咲かせたアスカが捧げる祈りは、隣に在る彼の幸せ。
 ……『一一が幸せに過ごせますように』、って。
 そしてそう祈りながらも、そっと瞳を細め紡ぐ。
「ところで教会で祈りを捧げるのって結婚式みたいじゃない?」
 ……思わぬところで予行演習ができたわね、と。
 聞こえた彼女の言葉に、赤い薔薇を飾った一一もこくりと頷いて返す。
「種族の違いとか、価値観の違いとかありますけど、家族になって一緒に歩いていければ、幸せだろうなって」
 そんな彼が捧げる想いは……『アスカさんと一緒に歩けますように』。
 そして程なく、くらりと互いに世界が回って。
 遠のく意識に抗わず、眠るようにその場に倒れ込む。
 けれど、決して一一は離さない。一緒に歩きたいと願った、彼女のことを。
 敵の罠に嵌ることは、やはり少し不安だけれど。
 ……でも。
(「二人で指を絡めて寄り添えばきっと大丈夫」)
 アスカは守ってくれるような温もりを感じつつ、互いに指絡めた手をきゅっと、改めて強く握り締めながら。
 彼を安心させるべく精一杯微笑みを向け、そして意識を手放す。
 確りと手を繋いだまま、抱きしめてくれた彼の腕の中で、一緒に。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ブーツ・ライル
【DRC】
アドリブ、マスタリング歓迎
矛盾点や解釈お任せ
薔薇は【青】

_

くつりと喉奥で笑い
何を言っている。絆は深いだろう?
あれだけの夜を共に過ごしてきたのだから。

…なんて、全て徹夜仕事の件だが。
軽口を叩きつつ、導こうとする燕の手を取り、俺がエスコートしよう。

アリス以外の手を、俺が?
さあ、どうだろうな。なんて瞳細め
口には出さないが、手を離したくない者は此処にいる。
伝えればきっとお前は離れてしまうだろうから。
だから、少なくとも今だけは。
お前が、──俺が、
迷子にならぬよう。

構わない。お前の命、俺が預かる。
フと微笑み
この手は確りと包み込むように、燕の手を握る。


金白・燕
【DRC】
アドリブ、マスタリングは大歓迎です
薔薇は【赤】

絆深き……
私で良かったんですか?ブーツ。
でもええ、そうですね
貴方以上の濃いお付き合いの方はいないかも知れません

さあ手を貸してください
ここは導いて差し上げますよ
こうしてアリスではなく、
知り合いの手を引くと言うのは……
何だか、不思議な気持ちですね
ヘンゼルとグレーテルでしょうか
ブーツはアリス以外にも誰かの手を引いていた経験がありそうですね

きっと彼は私が手を離したとしても
私の手を離さないでくれるのでしょう
……苦労する性分ですよね、貴方

すみませんね、ブーツ
選択者を貴方に押し付けてしまって。
それでも私は赤い薔薇以外は選べないのです



 眼前に広がるのは、深く濃い夜の闇。
 導かれた常夜の世界の中でも、木々が覆い茂る森のいろは、より静けさを纏う漆黒に沈んでいて。
 足を踏み入れんとするものを惑わせ、迷わせる。
 けれど、絆深き者達であれば、森の奥にある教会に辿り着けるのだという。
 その絆の証……互いに手と手を繋ぎ、森の中をゆけば。
「絆深き……私で良かったんですか? ブーツ」
 そう耳に届いた問う声に、ブーツ・ライル(時間エゴイスト・f19511)はくつりと喉奥で笑って返す。
「何を言っている。絆は深いだろう?」
 ……あれだけの夜を共に過ごしてきたのだから、と。
 そんな彼の言葉に、金白・燕(時間ユーフォリア・f19377)も赤の瞳を細め頷く。
「でもええ、そうですね。貴方以上の濃いお付き合いの方はいないかも知れません」
 そう……共に過ごした夜はこれまで数え切れない。
(「……なんて、全て徹夜仕事の件だが」)
 目にクマを作って日夜、互いに仕事に勤しんでいるのだから。
 そんな軽口を叩きつつも。
「さあ手を貸してください。ここは導いて差し上げますよ」
 そう差し出された燕の手を取る、ブーツだけれど。
 導こうとする彼を逆にエスコートし、共に常夜の森を歩き出す。
 誰かをこうやって案内することは、互いに慣れてはいるのだけれど。
「こうしてアリスではなく、知り合いの手を引くと言うのは……何だか、不思議な気持ちですね」
 その相手がアリスではないということは、妙に新鮮で。
 ……ヘンゼルとグレーテルでしょうか、なんて。
 まるで童話の子らの如く、互いの手を引きながら、暗い森をふたり歩んで。
 そしてふと燕は、自分をエスコートする彼へと改めて視線を向け、紡ぐ。
「ブーツはアリス以外にも誰かの手を引いていた経験がありそうですね」
「アリス以外の手を、俺が?」
 ブーツは燕の言葉に、一瞬だけ微か首を傾けるけれど。
 ――さあ、どうだろうな。
 すぐにそう、相手の姿を映した赤い瞳を細める。
 ……いや、口には出さないけれど。
(「手を離したくない者は此処にいる」)
 けれど、ブーツは分かっているから。
 それを伝えてしまえば。
(「きっとお前は離れてしまうだろうから。だから、少なくとも今だけは」)
 ……お前が、――俺が、迷子にならぬよう。
 ブーツは繋いだその手を、決して離さない。
 そしてそんな姿を見つめながら、燕は思う。
(「きっと彼は私が手を離したとしても、私の手を離さないでくれるのでしょう」)
 それから、いつも人のことばかり気を遣う彼へと、こう口を開く。
「……苦労する性分ですよね、貴方」
 現に……これからだって、そうなのだ。
 辿り着いた教会で迫られる、最初の選択――赤を選ぶか、それとも青か。
 燕は視界の先に見え始めた教会へと歩み止めぬまま、ブーツに告げる。
「すみませんね、ブーツ。選択者を貴方に押し付けてしまって」
 そう申し訳なく思いはするけれど……それでも。
(「私は赤い薔薇以外は選べないのです」)
 汚れた赤に塗れた自分が選ぶいろは、それ以外はないのだと。
 そう告げる燕に、フと微笑んで。
「構わない。お前の命、俺が預かる」
 ブーツはこくりと頷いてみせる。
 いつだってそうなのだ。燕は己を犠牲にして、赤を選ぶ。
 でも、そんな燕を迷子になど、させないから。
 ブーツは繋いだ彼の手を改めてぐっと握る――確りと、包み込むように。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

無間・わだち
モバコ(f24413)
【青】

ひどく悪趣味で、おぞましい遊びだと思う
だって右眼が震えているから
隣の彼女は、あまり気にしてないだろうけど

足元、気をつけて
暗いですから

空いた手で明かりを携え
歩幅をあわせて歩く
とはいえ普段から微妙に浮いてるような彼女が
小石に躓いて転ぶとも思えないが

で、俺が選べばいいんですよね
俺が「助かる」選択肢を

…まぁ、モバコがそうしたいなら
俺はどちらでも

選択権はどっちがもってるんだか
はじめから、こうなる気はしていた

なにより彼女は
俺が嘘をつくのが苦手なことを
よく知っている

桃色珊瑚の髪が
闇の中であわく揺れている

モバコには
赤色が似合いますよ

繋いだ手の体温は
元々、どちらのものも冷えきっていた


海藻場・猶予
わだくん(f24410)と
【赤】

選択をさせた上でそれを反故にする、と
さすれば生物は学習性無気力という状態に陥ります
よくある実験手法だと云えば――右眼の『貴女』は哀しむでしょうか

ええ、ご心配なく
仰る通りわたくしは、常々この世界から浮いておりますので
――塔から落ちる役は此方が適任かと

わたくしが命乞いをしてみせるか
貴方がわたくしを庇って下さるか、です
何方にせよ貴方は嘘を吐かずに済む
さて、薔薇の色はどうしましょう?

……異論ありません
仮令茶番であろうとも
運命を選ぶ側は貴方が似合っている

三文芝居は得意ですよ
こうしてゆっくり歩いているのも、もう少し並んでいたいが為の演技です
なんて云ったら……嘘に聞こえます?



 つい先日も、ふたり並んで描いた星を見たけれど。
 今宵の星は常夜の世界の空にある、作ったものではない光たち。
 けれど眼前のこんもりとした森には、その瞬きさえも届かない。
 深く沈んだ眼前の暗闇は、これから身を投じる試練とやらを思い起こさせるようないろで。
(「選択をさせた上でそれを反故にする、と」)
 海藻場・猶予(衒学恋愛脳のグラン・ギニョル・f24413)は、聞いた予知の内容を思い返す。
 死が目前に迫る極限状態で選択させ、そしてそれとは逆のことを起こす。
 試練とは名ばかりの、理不尽な敵の罠。
 そして、そうされた人間はどうなるか。
(「さすれば生物は学習性無気力という状態に陥ります」)
 猶予はそれからふと、隣に在る彼――無間・わだち(泥犂・f24410)をちらりと見遣る。
 ……よくある実験手法だと云えば――右眼の『貴女』は哀しむでしょうか、って。
 いや正確に言えば……彼女のものであるという、そのおおきな瞳を。
 予知によって前もって自分達は、その内容を知っているけれど。
 もしも何も知らずに、こんな『実験』されてしまえば。
(「ひどく悪趣味で、おぞましい遊びだと思う」)
 わだちはそう思う。だって、彼女のものである右眼が震えているから。
 それから、隣をゆく猶予へと視線を映して。
「足元、気をつけて。暗いですから」
 そう声を掛けつつも、心の中でわだちは呟く。
 ……隣の彼女は、あまり気にしてないだろうけど、って。
 そして空いた手で唯一闇を照らす明かりを携え、歩幅を合わせ歩きながらも。
「ええ、ご心配なく」
「とはいえ普段から微妙に浮いてるようなモバコが、小石に躓いて転ぶとも思えないですけど」
 わだちは返ってきた声にそう言った後、本題に入る。
「で、俺が選べばいいんですよね」
 ――俺が「助かる」選択肢を、と。
 そんな彼の言葉に、こくりとピンクの髪を微か揺らし頷く猶予。
「仰る通りわたくしは、常々この世界から浮いておりますので」
 ――塔から落ちる役は此方が適任かと、と。
 そうなるために取る行動は、ふたつ。
「わたくしが命乞いをしてみせるか、貴方がわたくしを庇って下さるか、です」
 選択したものと逆のことが実行されるのだから。
 そして猶予はわだちへと視線を向け、紡ぐ。
「何方にせよ貴方は嘘を吐かずに済む。さて、薔薇の色はどうしましょう?」
 赤か青か――それがまず、最初の選択。
 彼女は、自分が落ちる選択をするべきだと言っているけれど。
「……まぁ、モバコがそうしたいなら、俺はどちらでも」
 そう言いつつも、わだちはそっと肩を竦める。
(「選択権はどっちがもってるんだか」)
 ……はじめから、こうなる気はしていた、と。
 それに彼女が口にしていたように、何よりも。
(「彼女は、俺が嘘をつくのが苦手なことをよく知っている」)
 だから、わだちが彼女へと返すこたえはこれ。
「モバコには、赤色が似合いますよ」
「……異論ありません。仮令茶番であろうとも、運命を選ぶ側は貴方が似合っている」
 猶予はこくりと頷き、彼に続ける――三文芝居は得意ですよ、と。
 闇の中で、桃色珊瑚の髪をあわく揺らしながら。
 そしてそのいろを見つめるわだちに、もうひとつ、こう付け加える。
「こうしてゆっくり歩いているのも、もう少し並んでいたいが為の演技です」
 ――なんて云ったら……嘘に聞こえます? って。
 足を踏み入れた者たちを惑わさんとする、異端の森をゆきながら。
 迷わずに教会に辿り着けるように……元々、どちらのものも冷えきっているその手を繋いで。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

リンデ・リューゲ
【凛夜】


ヨルの小さな手に
当たり前のように指を預ける

思ったより暗いねぇ
はぐれたら流石のヨルも大変だ
頑張ってね
俺を見つけて貰うの前提な口ぶりはいつものこと
緊張なんて何処吹く風と
ランプを掲げてきみの表情を楽しみ

出発前に散々言い含めてきた姉の真剣な様子を反芻する
姉さんは俺が傷つくことを厭うからなぁ
分かったって返事をする他無かったけれど
演技はね
きっとたぶん俺の方が得意なんだ


これが教会かぁ

わ〜綺麗な薔薇だね
俺も青かなぁ
ヨルの瞳に近い色だもの

いいよ〜本気の勝負だ
じゃーんけーん

やった〜

パーのてのひらでえいえいもぐもぐ
ヨルの手を包み込む
大丈夫だよ
そう伝えるために

さあ、『かみさま』に会いに行こう


ティヨル・フォーサイス
【凛夜】


いくわよ、リンデ
手を差し伸べる
幼い頃に何度も繰り返した動作
楽しい散歩ではないと知っているから少し緊張
リンデに悟らせるわけにはいかないわ
そう、緊張している演技よ

もしかして縛られるかもしれないけれど
それでもいざとなったら飛べるんだから、わかるわね
私にしなさい

そう言い含めてあるけれど
結局、どちらが青を手にするか決めていない
弟分に嫌なことを任せたくはないから
青いバラを手にしたいとは思っているけれど

……あった

青か赤をえらぶの?
初めて知った振り
私は青が好きだわ、リンデは?

(そうなるわよね)

公平にじゃんけんをしましょう
グー

苦い顔をしちゃダメ
隠さなきゃ

なら、私が赤ね!
包まれた拳を突き上げるようにして



 いつだって、もう迷子にさせるわけにはいかないって、そう思っているから。
「いくわよ、リンデ」
 当たり前のようにまた、ティヨル・フォーサイス(森のオラージュ・f14720)は手を差し伸べる。
 それは幼い頃に何度も繰り返した動作で。
 リンデ・リューゲ(يقبرني・f14721)も目の前の小さな、でも頼り甲斐のある手に、当たり前のように指を預ける。
 けれど真っ暗闇の森を歩く目的が、楽しい散歩ではないと知っているから。
 少し緊張してしまうティヨルだけれど。
(「リンデに悟らせるわけにはいかないわ」)
 ……そう、緊張している演技よ、って。
 姉らしく、胸を張ってみせる。
 そんなティヨルと手を繋ぎながら、リンデはきょろりと緑色の視線を巡らせて。
「思ったより暗いねぇ。はぐれたら流石のヨルも大変だ」
 ……頑張ってね、なんて、見つけて貰うこと前提な口ぶりはいつものこと。
 ゆらり掲げたランプ揺らして、緊張なんて何処吹く風。
 灯火に照る彼女の表情を楽しむように見つめながら、歩いてゆく。
 そんなリンデに、ティヨルはしっかりと念を押す。
「もしかして縛られるかもしれないけれど。それでもいざとなったら飛べるんだから、わかるわね」
 ――私にしなさい、と。
 それは出発前からもう、散々言い含められていること。
 そんな姉の真剣な様子をリンデは反芻する。
(「姉さんは俺が傷つくことを厭うからなぁ」)
 だから、こう返事をする他無かったのだ……分かった、って。
 でも――。
 ティヨルはリンデに、何度も言い含めてはあるのだけれど。
 ……赤か、それとも青か。
(「結局、どちらが青を手にするか決めていない」)
 けれどやっぱり、弟分に嫌なことを任せたくはないから。
 手にしたいと思っているのは、青を咲かせる花。
 そうこう思いながら、互いに手を繋いで歩んでいれば。
「……あった」
「これが教会かぁ」
 辿り着いたのは、森の奥に佇む教会。
 そして入口で差し出される、いろの異なる薔薇の花。
「わ〜綺麗な薔薇だね」
「青か赤をえらぶの?」
 首を傾けて見せつつ、初めて知った振りをして。
 ティヨルはリンデへと視線を向け、そして訊ねてみる。
「私は青が好きだわ、リンデは?」
「俺も青かなぁ。ヨルの瞳に近い色だもの」
 その答えに、そうなるわよね、と心の中だけで呟いて。
 ティヨルはこんな解決法を提案する。
「公平にじゃんけんをしましょう」
「いいよ〜本気の勝負だ」
 単純明快、文句なしのじゃんけん勝負。
 ――じゃーんけーん。
 ぽん、と。勝負の手を勢いよく同時に繰り出せば。
「やった〜、俺が青」
「なら、私が赤ね!」
 グーを出したティヨルの拳を、えいえいもぐもぐ。
 リンデはパーのてのひらで包み込む――大丈夫だよって、そう伝えるために。
 そして……さあ、『かみさま』に会いに行こう。
 開かれた教会の扉を、ふたり一緒に潜って、中へ。
 ティヨルは赤い薔薇を揺らしながら、そっと思う。
(「苦い顔をしちゃダメ、隠さなきゃ」)
 本当は青を取りたかったけれど……でも、それを悟られぬようにと。
 そして、そんなすぐ傍にある彼女の表情を見つめ、リンデは改めて思うのだった。
 ――演技はね、きっとたぶん俺の方が得意なんだ、って。
 選択する者のいろ……青い薔薇を、その胸に咲かせながら。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

宵雛花・十雉
【蛇十雉】

返す言葉も無いけど
なつめだってどっか行っちゃいそうだよ
だからオレもちゃんと捕まえておくんだ

ああ、この手の傷のことだね
たまに痛むけど、平気だよ
え?…もう、責任取るだなんて大袈裟だなぁ
傷は男の勲章って言うし、気にしないで
そういうのは可愛い女の子に言ってあげなよ

わぁ、綺麗な薔薇だね
赤も青も違う魅力があるけど…
オレは【赤】にしようかな
眩しい赤が目印になるかと思って
…うん、本当のこと言うと置いてかれるのは嫌だよ
それっきり帰って来ないんじゃないかって思うし
でも、仕方のないことだから
待ってるね

名前も知らない神に祈りを
どうか臆病な自分に
この人を信じる勇気をください


唄夜舞・なつめ
【蛇十雉】
…ん。
(すっと手を差し出し)
お前、捕まえてねーと
すぐどっか行くだろ
手ェ貸せ
ン、おりこーさんっと
さて行くかァ

……この前俺が噛んだ傷…どー?
まだ、痛むか…?
…悪かったなァ…
もし…治りそーになかったら
責任取っから…(ぼそぼそ申し訳なさそうに)

…ンだよ、人がせっかく
心配してんのによォ。

お、これが教会か
んーと、薔薇、薔薇……
お、これか
ときじ、お前どっちがいー?
じゃー俺【青】な
…なァ、俺
お前のこと1回置いてくけど
ぜってー迎えに行くから…
信じて待っててくれっかな

祈る。誓う。
俺はこいつを、
俺のーーーーを守り抜くと。



 導かれた世界は、いつだって常夜の闇に覆われているけれど。
 眼前の暗闇は、風にざわめく森の木々のせいで、余計に深く濃くなっていて。
 足を踏み入れれば、途端に迷子になってしまいそうだけれど。
 いや、此処は実際――自分達を惑わし迷わせんとする、異端の森だから。
 ……ん。
 すっと、宵雛花・十雉(奇々傀々・f23050)の前に差し出されたのは、掌。
 そしてきょとりと自分へと視線を向ける彼に、唄夜舞・なつめ(夏の忘霊・f28619)は続ける。
「お前、捕まえてねーと、すぐどっか行くだろ」
 だから……手ェ貸せ、と。
 そんな彼の声に、返す言葉も無いけれど。
「なつめだってどっか行っちゃいそうだよ」
 そう言いつつも、眼前のその手を取る十雉。
 ――だからオレもちゃんと捕まえておくんだ、って。
 そして重ねられた手に、なつめは瞳を細めてから。
「ン、おりこーさんっと。さて行くかァ」
 森の奥にあるという教会を目指し、十雉と並んで歩き始める。
 決して迷わぬように確りと、手と手を握りながら。
 そんな、繋いでいる手だけれど。
「……この前俺が噛んだ傷……どー? まだ、痛むか…?」
 そう、ちらりと視線を向けつつも訊いてきたなつめに、十雉は答える。
「ああ、この手の傷のことだね。たまに痛むけど、平気だよ」
 そんな十雉に……悪かったなァ……、って。
 改めてなつめは負わせた手の傷のことを謝った後。
 申し訳なさそうに、ぼそぼそ。
「もし……治りそーになかったら、責任取っから……」
 その言葉に、十雉は一瞬、ぱちくりと橙の瞳を瞬かせるけれど。
「え? ……もう、責任取るだなんて大袈裟だなぁ。傷は男の勲章って言うし、気にしないで」
 ……そういうのは可愛い女の子に言ってあげなよ、なんて笑んで返せば。
 もう一度ちらりと十雉を見遣りながら、呟きを落とすなつめ。
「……ンだよ、人がせっかく心配してんのによォ」
 傷に障らないように、何気にそうと手を握りながら。
 此処は、暗くて深い迷いの森。
 けれど、手と手を繋いだ絆深き者達だけが辿り着くのだという。
「お、これが教会か」
 森の奥に佇む、教会に。
 そしてなつめはきょろりと視線巡らせ、探す。
 赤か、それとも青か。
「んーと、薔薇、薔薇……お、これか」
「わぁ、綺麗な薔薇だね」
 それは、架せられる最初の『選択』。
 教会の入口で、赤か青か……差し出される薔薇のどちらかひとつを、それぞれ選ばないといけないというが。
「ときじ、お前どっちがいー?」
「赤も青も違う魅力があるけど……オレは、赤にしようかな」
 ……眩しい赤が目印になるかと思って、と。
 十雉が手に取り、その胸に飾ったのは――鮮やかな赤い薔薇。
「じゃー俺、青な」
 なつめも青の薔薇へと手を伸ばし、そのいろを胸に咲かせてから。
 開かれた扉の向こう、教会の中へと歩みを進めながらも十雉へと告げる。
「……なァ、俺。お前のこと1回置いてくけど、ぜってー迎えに行くから……」
 ――信じて待っててくれっかな、って。
 そんな彼の声に……うん、と。十雉はこくりと頷くけれど。
「本当のこと言うと置いてかれるのは嫌だよ。それっきり帰って来ないんじゃないかって思うし」
 ……でも、仕方のないことだから、と。
 呟きを落とした後、なつめへとこう紡ぐ――待ってるね、って。
 置いて行かれるのは嫌だけれど……それを引き留める勇気も、ないから。
 だから、せめて。
 ――どうか臆病な自分に、この人を信じる勇気をください。
 十雉は祈りを馳せる。名前も知らない神に。
 そんな彼の隣で、なつめも祈りを捧げてみる。
 俺の願いは神に届くことはない……そうは思うのだけれど。
 だからこそ、願うのではなく、誓うのだ。
(「俺はこいつを、」)
 ……俺のーーーーを、守り抜くと。
 青のいろに咲いた薔薇を、その胸に微か揺らしながら。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

栗花落・澪
【狼兎】【赤】

後の為に翼は隠し森を歩く

…うん、大丈夫
僕は飛べるし痛い事にはならないよ
それに…選択は委ねちゃうけど
僕は赤を選ぶつもりだから
紫崎君の色
敵の罠でもあり…僕のお守り

それにしても…慌てる演技もした方がいいのかな
口元に指をあて首を傾げつつ
だって僕も紫崎君も…ねぇ?

(初めから全部覚悟のうえ
もし我儘が言えるなら
残される辛さは知ってほしくないから、僕が後だといいなとか
紫崎君になら殺されても幸せだなとは思うけど
多分きっと、僕も紫崎君も…目の前で相手が死んだって
取り乱す事はないんだろうな
ほんの少し、悲しくなるだけ)

考えていれば返された答えに柔らかく微笑み
ん…そうだね、任せるよ
僕はただ、いつも通りに


紫崎・宗田
【狼兎】【青】

翼を完全に収納して自分の足で歩く分
体力的にも歩幅的にもどうしても遅れがちな澪に合わせ
歩くペースを落としながら小さな手を包み込むように繋いで森を進む
どうせ離れないならランプは俺が持てば充分だろ

本当に、お前が落ちる側でいいんだな
別に俺でも構わねぇんだぞ
これでも元傭兵なんだ、怪我くらい慣れてるが

縛られ方次第では羽出せねぇかもしれないだろ
とは思いつつ、横目で表情を伺えば覚悟はわかるから
口には出さずにそうか、とだけ答え

演技なぁ…
いつも通りでいいんじゃねぇの、お前は
必要だと思うなら演技でもなんでもすりゃいい
強気に出るとしても疑われないようフォローくらいしてやる
だから自分の心配だけしとけ



 ふたり並んで征くのは、深く濃い闇で満ちた常夜の森。
 一見、何の変哲もない森に見えるが……此処は、敵の力の影響が及んでいるという異端の森。
 だから後の為に、背中の翼は隠して歩く栗花落・澪(泡沫の花・f03165)だけれど。
 体力的にも歩幅的にも、どうしても遅れがちになってしまう。
 そんな澪に合わせ、歩くペースを落としながら共に進むのは、紫崎・宗田(孤高の獣・f03527)。
 小さな澪の手を包み込むように、確りと繋いで。
「どうせ離れないならランプは俺が持てば充分だろ」
 暗闇の中、ゆらり揺れる灯火の持ち手を担う。
 この森は、足を踏み入れた者を惑わせるというけれど……ひとつだけ、迷わずに森の奥にある教会に辿り着ける方法があるという。
 それは、絆深き相手と森を征くこと……ふたり手と手を繋いで、森を歩くこと。
 まずは敵の尻尾を掴むべく、森の教会を目指しているふたりであるけれど。
 宗田は足元を灯火で照らしつつ、改めて澪に訊く。
「本当に、お前が落ちる側でいいんだな」
 揺れる灯りに照らされた横顔へと、視線向けながら。
「別に俺でも構わねぇんだぞ。これでも元傭兵なんだ、怪我くらい慣れてるが」
「……うん、大丈夫。僕は飛べるし痛い事にはならないよ」
 宗田の声にそうこくりと頷いてから。
 澪は隣を征く彼を見上げ、続ける。
「それに……選択は委ねちゃうけど、僕は赤を選ぶつもりだから」
 ……紫崎君の色、って。
 聞いた予知によれば、辿り着いた教会の入口で最初の選択を迫られるという。
 赤か、それとも青か。
 それが後に、試練という名の理不尽な実験に大きく影響してくるのだというが。
(「敵の罠でもあり……僕のお守り」)
 澪は、赤を選ぶと……そして落とされるのは自分だと、そう改めて彼に告げる。
 そんな澪へとちらりと視線を返してから。
(「縛られ方次第では羽出せねぇかもしれないだろ」)
 宗田はそう思いはするのだけれど。
 でも……横目で表情を伺えば、覚悟はわかるから。
 返すのは、そうか、と一言だけ。抱く思いの丈は口には出さずに。
「それにしても……慌てる演技もした方がいいのかな」
 敵が尻尾をみせるまでは、猟兵として赴いた目的を気取られるわけにはいかない。
 澪は口元に指をあて、こてりと首を傾げつつも、呟きを落とす。
 ……だって僕も紫崎君も……ねぇ? って。
 それからふと、心の内で思う。
(「初めから全部覚悟のうえ。もし我儘が言えるなら……残される辛さは知ってほしくないから、僕が後だといいなとか。紫崎君になら殺されても幸せだなとは思うけど」)
 でも同時に、澪はこうも思うのだ。
(「多分きっと、僕も紫崎君も……目の前で相手が死んだって、取り乱す事はないんだろうな」)
 ――ほんの少し、悲しくなるだけ、って。
 もしも相手が目の前で死んだとしても、それを受け入れるだろう。
 きっと、涙を流すなんてこともなく。
 ……そんなことを、考えていれば。
「演技なぁ……いつも通りでいいんじゃねぇの、お前は」
 返ってきた彼の声に、再びその顔を上げて。
「必要だと思うなら演技でもなんでもすりゃいい。強気に出るとしても疑われないようフォローくらいしてやる」
 ……だから自分の心配だけしとけ、と。
 向けられた眼差しと言の葉に、澪は柔らかく微笑んで頷く。
「ん……そうだね、任せるよ」
 そして宗田の大きな手を、改めてそっと握りながら。
 仄かに照る明かりと繋いだ彼の手を頼りに、森の奥へと進んでゆく。
 ――僕はただ、いつも通りに、って。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

葬・祝
【彼岸花】

んふふ、カフカと手を繋いで歩くなんて何時振りでしょうね?
本当、君はすくすく大きくなりましたよねぇ

カフカと手を繋いで、傍らには淡い光を零す朱蛺蝶を共に森を進みましょう
朱蛺蝶のお陰でそれなりに見えますし大丈夫ですよ

話し歩きながら、カフカの手と指を絡めて、手の甲を指先で擽って、ちょっとした悪戯
だって、君の反応が面白くて
……ほら、ね?

とりあえず、青薔薇は君にお任せしますよ
はい、付けてくださいね
私は赤薔薇を付けておくので

絆深きふたりじゃないと辿り着けないそうですよ、着いちゃいましたねぇ教会
……祈る、なんて変な気分ですけど、ま、やりましょうかね
ふふ、歩く厄災が何ぞに祈るだなんて面白いですよねぇ


神狩・カフカ
【彼岸花】

ガキの頃以来だろうなァ
下手すると数百年単位だぜ
なんつーか…改めて繋ぐとむず痒ィもンだが…
お前さんは大きくなったり小さくなったり不定形だもンな

ほう、おれがやった蝶が役に立つたァな
ちょいちょいと指で突っついて
先導は任せたぜ

――!
…っ……お、おい…お前…その触り方…
ったく、緊張感のないやつ
暗闇に赤い顔を隠すようにふいっ

おれが青なのか…
まあ、いいけどよ
(どうせするのは演技だろうし、死ぬわけはないし
…けれど)

あっさり辿り着いちまったな
(わかっちゃいたけど、こいつと改めて絆が深いと判定されると複雑なものがあるのも事実で)
はあーぁ…
ま、なるようになるだろ
隣で祈りを捧げる
(神が何に祈るってンだか)



 足を踏み入れた森は、深く沈むような闇がひたすら広がっていて。
 侵入した者を惑わせ迷わせんと、虎視眈々と静かに狙っているけれど。
 でも、絆深き者ならば、森の奥の教会に迷わず辿り着けるのだという。
 ふたり、確りと手と手を繋いでいれば。
「んふふ、カフカと手を繋いで歩くなんて何時振りでしょうね?」
 そうまるで宵闇の散歩を楽しむかの如く笑み零すのは、葬・祝(   ・f27942)。
 そして、それが一体何時だったかと思い返してみれば。
「ガキの頃以来だろうなァ。下手すると数百年単位だぜ」
 それはそれは随分と、昔々のことで。
 森で迷わぬ為とはいえ、神狩・カフカ(朱鴉・f22830)は落ち着かない様子で、何処かそわり。
「なんつーか……改めて繋ぐとむず痒ィもンだが……」
「本当、君はすくすく大きくなりましたよねぇ」
 そう色付いた唇で薄らとわらい、見上げる祝に。
「お前さんは大きくなったり小さくなったり不定形だもンな」
 カフカもちらり、視線を落とした後。
 ひらり、ふいに目の前で舞った秋色を、金の視線で追う。
 それは暗闇の中、淡い光を零す山神の眷属。
「朱蛺蝶のお陰でそれなりに見えますし大丈夫ですよ」
「ほう、おれがやった蝶が役に立つたァな」
 カフカは伸ばした指で、ちょいちょいと舞う朱を突っついて。
 先導は任せたぜ――そう、灯るそのいろを祝と共に追いかける。
 握る手と手は勿論、繋いだまま。
 手を繋いでさえいれば、この森はただの常夜の森だというから。
 共に話し歩きながらも、祝は不意に、彼の手と指を絡めて。
 手の甲を指先で、こしょこしょ。
 ちょっとした悪戯を仕掛けてみれば。
「――! ……っ……お、おい……お前……その触り方……」
 一瞬大きく瞳を見開いた後、祝へと視線を向けながらも口にするカフカ。
 そんな様子に、思わず祝はわらって。
「だって、君の反応が面白くて」
「ったく、緊張感のないやつ」
 紅き蝶に照らされてるからか、いやきっと、それだけではなく――。
 カフカは赤い顔を暗闇に隠すように、ふいっ。
 祝は、顔をそむけた彼に向けた銀の瞳を、より愉快気に細め紡ぐ。
 ……ほら、ね? って。
 そうこうしているうちに、現れたのは――森に佇む教会。
 そして入口で、赤い薔薇と青い薔薇、咲くふたつのいろが差し出されれば。
「とりあえず、青薔薇は君にお任せしますよ」
 ――はい、付けてくださいね、って。
「私は赤薔薇を付けておくので」
 祝が手にした薔薇のいろは、赤。
「おれが青なのか……まあ、いいけどよ」
 そしてカフカは、残った青の薔薇を手に伸ばしながらも密かに思う。
(「どうせするのは演技だろうし、死ぬわけはないし……」)
 ――けれど、と。
 そうそっと呟きを落としつつも、青のいろを胸に咲かせれば。 
「絆深きふたりじゃないと辿り着けないそうですよ、着いちゃいましたねぇ教会」
「あっさり辿り着いちまったな」
 楽し気に言った祝に、複雑な思いを抱いてしまうカフカ。
 いや、わかってはいたし、実際の絆云々はさして重要ではないとは聞いてはいたけれど。
 でもそれでも……。
(「わかっちゃいたけど、こいつと改めて絆が深いと判定されると複雑なものがあるのも事実で」)
 そう思いつつも、これも猟兵の仕事。
「……祈る、なんて変な気分ですけど、ま、やりましょうかね」
 ……ふふ、歩く厄災が何ぞに祈るだなんて面白いですよねぇ、なんて。
 開かれた教会の扉の先を進み、祈ってみる祝。
 そんな彼の隣で、大きく溜息をつきながらも。
「はあーぁ……ま、なるようになるだろ」
 カフカも祝と一緒に、意識を失うまでの間。
 ――神が何に祈るってンだか。
 それっぽく、祈りを捧げてみるのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

月待・楪
氷月(f16824)と
アドリブ等歓迎/薔薇【赤】

ん、ひづ
さっさと繋いで行くぞ

ランタン代わりにスマホのライトでいいだろ
…おー、それもいいな

夜の森っつーからもっとホラーテイストかと思ってたが
案外悪くないかもな、木の間から星もたまに見えるし
それに……お前とこうして、手ェ繋いで歩けるし
うっせェ、バァカ!!
今のはナシだ!!

ったく…作戦決めんぞ
俺は演技とかめんどくせーから
ひづに任せる

あと決めとかねーといけないのは
どっちが落ちるか、か
落ちても最低限は念動力で…
お前の念動力のコントロール考えたら、余計なケガが増えるか
後のこと考えるなら、俺が落ちる方が楽だな

ん、じゃあ俺が落ちる、と…すぐ追い付くから待ってろよ?


氷月・望
楪(f16731)と
アドリブ歓迎、薔薇は【青】

わかってるって
ゆーくんと夜の森デートとか
マジでバイブス上がるわー、ってね?

普通の森じゃなさそうだし……
折角二人きりだから、コレも使っちゃう?
灯り代わりに、UC:煌花を

こういうのもロマンティックだよね……って
ゆーくん、今のもう一回
もう一回だけ!お願い聞かせて!(嬉しかった模様?

【演技】【言いくるめ】お任せあれ
断崖絶壁らしいから
マトモに落ちると結構痛いかもね
あはは……まあ、戦闘のコト考えたらそっちの方がいいかも
それじゃ、そういう方針でいこっか!

(本当は俺が落ちる気満々だケド、ナイショ)
(……そっちの方が楪へのドッキリになるし、楽しそうじゃん?)



 眼前に広がる静寂の森は、足を踏み入れたら迷子になってしまいそうだけれど。
 でも……絆深き者であれば、迷う事はないという。
「ん、ひづ。さっさと繋いで行くぞ」
 そう差し出された月待・楪(Villan・Twilight・f16731)の手を、わかってるって、と取って。
「ゆーくんと夜の森デートとか、マジでバイブス上がるわー、ってね?」
「ランタン代わりにスマホのライトでいいだろ」
「普通の森じゃなさそうだし……折角二人きりだから、コレも使っちゃう?」
 ――ほら、綺麗だろ? って。
 氷月・望(Villain Carminus・f16824)が灯り代わりにと咲かせたのは、ぱちりと弾けるあたたかい彩。
「おー、それもいいな」
 そんな望が生み出した煌花を映し、楪は瞳細めてから。
 不意に、ぐるりと視線を巡らせつつも紡ぐ。
「夜の森っつーからもっとホラーテイストかと思ってたが。案外悪くないかもな、木の間から星もたまに見えるし」
 ――それに……お前とこうして、手ェ繋いで歩けるし、って。
「こういうのもロマンティックだよね……って」
 望は届いた彼の声に、瞳をぱちくりとさせてから。
 ぱあっと笑み咲かせ、繋いだ手を嬉し気にぶんぶん。
「ゆーくん、今のもう一回。もう一回だけ! お願い聞かせて!」
「うっせェ、バァカ!! 今のはナシだ!!」
 楪はそう、嬉しそうにねだる望に、ぷいっと視線を逸らすけれど。
 ちらりと、視線を戻してから続ける。
「ったく……作戦決めんぞ。俺は演技とかめんどくせーから、ひづに任せる」
「演技、言いくるめ、お任せあれ」
 そして得意気に言った望に、頷きながら。
「あと決めとかねーといけないのは、どっちが落ちるか、か」
「断崖絶壁らしいから、マトモに落ちると結構痛いかもね」
「落ちても最低限は念動力で……お前の念動力のコントロール考えたら、余計なケガが増えるか。後のこと考えるなら、俺が落ちる方が楽だな」
 そう一緒に、最良の選択を考える作戦会議を。
「あはは……まあ、戦闘のコト考えたらそっちの方がいいかも」
 望も素直に、こくこくと首を縦に振って同意する。
 ――それじゃ、そういう方針でいこっか! って。
 そして話しながら歩いていれば、いつの間にか目的の教会が見えてきたから。
「ん、じゃあ俺が落ちる、と……すぐ追い付くから待ってろよ?」
 そう言った楪に、望はもう一度頷いて笑んでみせる。
 教会の入口で差し出されたふたつの薔薇のうち、青のいろを取りながら。
 ……演技、言いくるめ、お任せあれ。
 赤い薔薇を胸に咲かせる楪を見つめ、そっと細める。
 彼を飾るそのいろと、同じ色の瞳を。
(「本当は俺が落ちる気満々だケド、ナイショ」)
 だって、望は思うから。
 そっちの方がきっと――楪へのドッキリになるし、楽しそうじゃん? って。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ライラック・エアルオウルズ
【花結】

先の選択を知ればこそ
凪ぐ心で森を往ける
然し、それを選び取る君は
きっと胸の騒ぐ想いだろう

森を探る爪先だけでなく
君の心が惑わぬようにと
絡めた指を、繋ぎ直して
照らす顔に、笑み湛えて

ねえ、僕は大丈夫
君の元に戻らない選択は
僕の裡の何処にもないから
選ぶのは君だけではなくて
僕もね、共に選び取るから

自らでは君を置いていけず
失うことも出来ない僕のため
君に選択肢を与えたこと
申し訳無くも思うけれど
君の決めた優しい選択に
傷付くことは、ありはしない

祈り捧げど叶わないなら
代わりに誓い立てようか
神ではなくて、添う君だけに
往く先も必ず共にあろうと

――僕も、愛しているよ

【赤】薔薇を、花詞を胸に
君にだけ届くよう、誓いを


ティル・レーヴェ
【花結】

手を繋ぎゆく森の中
あなたと繋ぐ手はいつも通りなのに
少し緊張してしまうのは
この先に待つものを知っているから

選択に迷いは無いのに
選ぶ先を受け入れると
そう語った言葉に偽りはないのに
起こることを想像すれば
心は波立ちそうで

繋ぎ直される手に
届く言葉に眸向けて
あゝあなたはいつも
そうして添い護ってくれるのね

紡ぐ一言一言が
どれほど妾を救っているか
あなたはご存知?

きぅ、と繋ぐ手に力を込めて
潤ける眸であなたを映す
繋ぐまま想いを籠めて
涙隠すよに抱きついても
愛するふたりの抱擁と
眺むる相手には映るかしら

――ねぇ、あいしてる

囁く詞に全てを籠めて

あなたの赤き誓いを裡に刻み
どうか無事でと声なく祈り
選び飾るは【青】き薔薇



 共に赴いたこの世界の夜は、まだ明けぬことを知らないけれど。
 そんな闇のいろがより深く濃く沈みゆく、静寂の森の中。
 歩むライラック・エアルオウルズ(机上の友人・f01246)の心は凪いでいた。
 それは、先の選択を知ればこそ。
 けれど、いや、だからこそ……同時に思わずにはいられない。
(「然し、それを選び取る君は、きっと胸の騒ぐ想いだろう」)
 掲げた小さき灯火に照る隣の横顔を、そうと見つめてみれば。
 迷いこそ見えないけれど、でも、どこか緊張したようないろ。
 それは彼だけでなく、ティル・レーヴェ(福音の蕾・f07995)自身にも分かっていた。
(「あなたと繋ぐ手はいつも通りなのに」)
 ……少し緊張してしまうのは、この先に待つものを知っているから、って。
(「選択に迷いは無いのに。選ぶ先を受け入れると……そう語った言葉に、偽りはないのに」)
 けれどやはり、その心は波立ちそうになる。起こることを、想像すれば。
 ふたりが往くのは、侵入者を惑わすという異端の森。
 でも森を探る爪先だけでなく、君の心が惑わぬようにと。絡めた指を繋ぎ直せば。
 ……ねえ、僕は大丈夫、と。
 ふと己を見上げた円らな藤の眸に、ライラックは紡ぐ想いと湛えた笑みを返してみせる。
「君の元に戻らない選択は、僕の裡の何処にもないから。選ぶのは君だけではなくて」
 ――僕もね、共に選び取るから、って。
 どちらかが選ぶのではない、選ばせるのではない。一緒に、と。
 ティルはそんな彼の声に、繋ぎ直される手に、また救われる。 
 ……あゝあなたはいつも、そうして添い護ってくれるのね、って。
 けれどそれは、彼も同じで。
 いや、むしろ――申し訳無く思うのだ。
(「自らでは君を置いていけず、失うことも出来ない僕のため、君に選択肢を与えたこと」)
 でも決して……自分が傷付くことは、ありはしない。
 君の決めた選択は、優しいのだからと。
 それを決めた君は、心配なくらいに……優しすぎて、そして強いのだと。
 そしてティルも、彼の横顔に問う……あなたはご存知? と。
 だって自分がそう在れるのは、誰でもない貴方がいるから。
 ――紡ぐ一言一言が、どれほど妾を救っているか、って。
 共に征くと決めたからには、祈り捧げど叶わぬことも承知の上。
 けれど……ならばと。
 ライラックは、代わりに誓いを立てる。
 ――神ではなくて、添う君だけに。往く先も必ず共にあろうと。
 きぅ、と繋ぐ手に、想いと力を込めて。
 涙隠すように、そんな彼にティルが抱きついても……きっと、相手にはこう映るだろう。
 それは、愛するふたりの抱擁だと。
 だからティルは、そうと想いを口にする。
 ――ねぇ、あいしてる、って。
 囁く詞に、全てを籠めて。
 彼の胸に咲く赤き誓いを裡に刻みながら……どうか無事で、と。
 内緒の祈りを、青のいろ咲かせた胸の内に秘めながら。
 そして、ライラックも笑んで返す。
 ――僕も、愛しているよ、と。
 赤に咲く薔薇を、その花詞を胸に……彼女にだけ届くよう、誓いを。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ルーファス・グレンヴィル
マコ(f13813)と
薔薇の色は【赤】

ほら、と手を差し出した
迷子になったら大変だろ?
揶揄するように笑って

しかし本当に静かだな
お前の息遣いまで聞こえそうな気が
…──ふは、真に受けんなよ
冗談だって、悪い悪い
繋いだ手でマコを引き寄せて
髪をわしゃわしゃ掻き乱す

他愛もなくじゃれあうのは
きっと、この後の選択が
彼を苦しめることを知っているから
オレが目の前で死んだら
きっとコイツは壊れる
それだけは絶対にさせねえ
どんな選択をしようと
何があっても、オレが守るよ
──なんて言わねえけどな

森を抜け奥深くの教会へ
扉の前に示された薔薇が二輪
彼が選んだ青を見て目を細めて
じゃあオレが赤か
似合ってるだろ、と
薔薇をドヤ顔で胸に付けた


明日知・理
ルーファス(f06629)と
アドリブ、マスタリング歓迎
薔薇の色は【青】

_

…ルーファスを迷子になんてさせねえよ。
こんな状況でなければ、貴方と手を繋げることにもっと楽しかったが。
これから待ち受ける選択、展開に対し表情も声も無意識に固く

──ルーファスが突き落とされなす術もなく見送るなんて、絶対に出来ない。させない。
例えフリだとしても…俺の手の届かぬところで傷付くなんて御免だ。
ルーファスを、護る。何があっても。
そう決意新たにしつつ、彼の冗談を真に受け髪を掻き乱され
驚いて目を丸くして笑い

教会にて、迷いなく選ぶのは青薔薇。
赤薔薇を身につけた彼にフと微笑み
赤薔薇の花言葉を思い出しながら
「…よく似合ってる」



 常夜の世界に静かに広がるのは、深い闇を抱く異端の森。
 その暗く沈む漆黒は、足を踏み入れた者たちを迷わせる。
 けれど絆深き証を示す者達であれば、迷わずに森の奥の教会に辿り着けるのだという。
 だから……ほら、と。
 手を差し出したのは、ルーファス・グレンヴィル(常夜・f06629)。
「迷子になったら大変だろ?」
 そう揶揄するように、明日知・理(月影・f13813)に笑って。
「しかし本当に静かだな。お前の息遣いまで聞こえそうな気が」
 重ねられた手を取り歩みながら、ぐるりと視線を巡らせるけれど。
「……ルーファスを迷子になんてさせねえよ」
 ……こんな状況でなければ、貴方と手を繋げることにもっと楽しかったが、と。
 理の表情も声も、無意識に固くなる。これから待ち受ける選択や展開を思えば。
(「――ルーファスが突き落とされなす術もなく見送るなんて、絶対に出来ない。させない」)
 だって、自分の手の届かぬところで彼が傷付くなんて御免だから。
 それが例え、フリだとしても。
 ――ルーファスを、護る。何があっても。
 そう決意を新たに固める理の横顔を、ちらりと見てから。
「……――ふは、真に受けんなよ」
 ルーファスは繋いだ手をぐっと引き寄せて、わしゃわしゃ。
 理の髪をじゃれるように掻き乱す……冗談だって、悪い悪い、って。
 理はそんな彼の手の感触に驚いて一瞬、目を丸くするけれど。
 わしゃわしゃされながらも、笑って。
 共に並んで森の中を征きながら、ルーファスは思う。
 こうやって他愛もなくじゃれあうのは……きっと、この後の選択が彼を苦しめることを知っているからだと。
(「オレが目の前で死んだら、きっとコイツは壊れる。それだけは絶対にさせねえ」)
 だから決して死ねないし、死ぬつもりもない。
 どんな選択をしようと……何があっても、オレが守るよ、って。
 繋いだ手から感じる温もりとすぐ傍にある横顔に、ルーファスは紅蓮の瞳を細める。
(「――なんて言わねえけどな」)
 そして迷うことなく導かれた、森の奥に佇む教会の扉の前で。
 示されたのは、薔薇が二輪。
 咲き誇るいろは、ふたつ……赤と青。
 そして迷いなく先に手を伸ばしたのは、理であった。
 彼が選んだのは、青のいろを咲かせた薔薇の花。
「じゃあオレが赤か」
 ルーファスは残った花と同じいろの瞳をもう一度細めてから。
 己の胸に赤を咲かせる――似合ってるだろ、とドヤ顔で。
 理はそんな彼にフと微笑んで返して。
 青い薔薇を同じ様に胸に付けつつも、紡ぐ。
「……よく似合ってる」
 彼を飾る赤い薔薇の花言葉を、思い出しながら。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

橙樹・千織
千鶴(f00683)さんと

迷わぬよう、手を繋いでくれますか?
夜目は利く方ですが…
言いかければ差し出された手
ふわり笑んでそっと結ぶ

最近
このあたたかな手に引いてもらうことが増えた気がする
そんなことを思い
蝶の灯りに照らされる彼を見やる

んん…難しいですねぇ
千鶴さんは?

花は何かしら
人の心に残していくのですねぇ

ふふ、それは嬉しいですねぇ
その隣に千鶴さんがいてくれたらもっといいですねぇ
なんて

入口で選ぶは【赤】
選択を委ねるのは彼への信頼ゆえ
この後何があろうとも
彼を護るという意志は揺るがないから

あら、そうなのですか?
千鶴さんの…どんな夢かしら

ええ…もちろん
薄れる意識の中
貴方の手を求め握り返し
小指を絡めて約束を


宵鍔・千鶴
千織(f02428)と

……千織、勿論だよ
御手をどうぞ?
俺の手を離しては駄目だよと
彼女の温もりを確りと
靜かなる常世の森へ

導には淡い紫纏う
幽世蝶をそうと飛ばして
灯火を

ざわめく木々のおとの中
ねえ、千織
きみは赤と青の薔薇なら
どちらがお好み?
何でもない世間話めいた調子

俺はどちらも好き
赤も青も綺麗に咲いて
誰かの心に残る同じ華だ

千織は薔薇も似合うだろうけど
穏やかな山吹の香りと
やっぱり櫻の下で咲ってるきみが一番、かな

辿り着いた教会で
選ぶ【青】
青薔薇はね、夢が叶うって
意味も在るんだって
俺の願いは今はきみの隣にと
何があろうと守るよ

信じて、と
願うように繋いだ手を
ぎゅうと握って
そっと絡めた小指は約束の証



 これから進みゆく道を見れば、其処は深い漆黒に覆われた真っ暗闇。
 足を踏み入れる者を惑わせ、迷わせんとする異端の森。
 けれど、迷子になんて、きっとならない。
「迷わぬよう、手を繋いでくれますか?」
 夜目は利く方ですが……と。
 そう橙樹・千織(藍櫻を舞唄う面影草・f02428)が言いかければ。
「……千織、勿論だよ。御手をどうぞ?」
 宵鍔・千鶴(nyx・f00683)が彼女のご所望通り、すかさずその手を差し出したから。
 ……俺の手を離しては駄目だよ、って。
 そんな彼にふわり笑んで、千織がその手を重ねて。
 ふたりで確り結べば、じわりと伝わる相手の温もり。
 そして手と手を繋ぎ、並んで歩み出す。靜かなる常世の森へと。
 ざわりと揺れる木々たちが、森を覆う闇を一層濃くするけれど。
 暗闇の中、ふたりを導くのは、そうと千鶴が飛ばした淡き灯火。
 ひらり紫のいろ纏う、華宵の翅。
 そんな蝶を追いかけながら、淡紫の灯りに照らされる彼を見遣り、千織は思う。
 ――最近、このあたたかな手に引いてもらうことが増えた気がする、って。
 そう心に巡らせていれば。
「ねえ、千織」
 風に鳴る葉音の中、名を呼ばれて。
 橙の視線向ければ、何でもない世間話めいた調子でこう問われる。
「きみは赤と青の薔薇なら、どちらがお好み?」
 けれど千鶴の声に、千織は首を傾けて。
「んん……難しいですねぇ。千鶴さんは?」
 逆にそう訊ね返せば、すぐに返ってくるこたえ。
「俺はどちらも好き。赤も青も綺麗に咲いて、誰かの心に残る同じ華だ」
「花は何かしら、人の心に残していくのですねぇ」
 そうほわりと笑む千織に、千鶴はこくりと頷きながらも瞳細めて。
「千織は薔薇も似合うだろうけど」
 ――穏やかな山吹の香りと、やっぱり櫻の下で咲ってるきみが一番、かな。
 紡ぐのは、眼前で笑うきみを思わせる花のいろ。
「ふふ、それは嬉しいですねぇ」
 千織はそう、微笑みを咲かせながらも。
 もっとその花が咲き誇る方法を彼へと紡ぐ。
 ……その隣に千鶴さんがいてくれたらもっといいですねぇ、なんて。
 そして辿り着いた教会の入口で、最初の選択が提示される。
 赤と青、美しく咲く二輪の薔薇の花が。
 千織が手に取るのは、赤のいろを咲かせた薔薇。
(「この後何があろうとも、彼を護るという意志は揺るがないから」)
 それは彼への信頼ゆえに胸に飾る、選択を委ねるいろ。
 千鶴も青い薔薇をその手に取って、胸に咲かせながら紡ぐ。
「青薔薇はね、夢が叶うって意味も在るんだって」
「あら、そうなのですか? 千鶴さんの……どんな夢かしら」
 そう首を微か傾けた千織に、千鶴は告げる。
「俺の願いは今はきみの隣にと。何があろうと守るよ」
 願うように繋いだ手を、ぎゅうと握りながら――信じて、と。
 千織も、そんな彼に笑んで返す。ええ……もちろん、と。
 くらりと薄れる意識の中……その手を求め、握り返しながら。
 そっと小指と小指を絡めて、ふたり――約束、って。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

館野・敬輔
【青】
陽太(f23693)と

理不尽な選択を強いた上で心を折りにかかるか
悪趣味極まりないオブリビオンめ
この手で徹底的に斬り刻んでやる

ひとまず手を繋いで進むか
まあ、陽太となら気にしない
念のため、作戦会議は小声だ

俺としては、赤を選んで俺が落ちるつもり
俺より陽太の方が演技は上手いから
残ってもらうなら俺より陽太だ

だが陽太に指摘され呻く
まあ、それも一理ある
登るだけで一苦労だろう

って陽太、何を言う!?
驚くが口が動けばいいと聞いて納得
…確かに悪魔を召喚できれば早く戻れるだろう

わかった、演技はどうにかする
…何とか、なると思いたいが

青薔薇選び祈りを捧げて意識を失う
祈る最中、オブリビオンへの憎悪を静かに滾らせながら


森宮・陽太
【赤】
敬輔(f14505)と

ったく、また悪趣味なオブリビオンの娯楽かよ
選択を強いた挙句、それを踏み躙りやがって

ひとまず仲良く手を繋いで進むか
そうしねえと先にすら進めねえからな

歩きながら作戦会議
念のため小声で

敬輔
てめえ、命乞いして自分が突き落とされるつもりだろ
俺が突き落とされるよりましだ、ってな

だが、落とされた後、どうやって登ってくるつもりだ
崖でもよじ登るか、ん?

いい考えがある
選択の場で俺を生き残らせると言え
そうすりゃ落ちるのは俺だ

なあに、口さえ動けば俺はどうにかなる
だから、絶望するような演技、忘れるな?
…信頼してるからよ

赤の薔薇を選んで祈りを捧げ意識を失う
一応、花粉の効力に抵抗するフリはする



 この世界を支配する輩は、やはり悪趣味が過ぎると。
 常夜の地に降り立ち、聞いた予知を思い返しながらも、ふたり感じるのは憤り。
「ったく、また悪趣味なオブリビオンの娯楽かよ」
 ……選択を強いた挙句、それを踏み躙りやがって。
 そう吐き捨てる様に言った森宮・陽太(人間のアリスナイト・f23693)に、館野・敬輔(人間の黒騎士・f14505)も頷く。
「理不尽な選択を強いた上で心を折りにかかるか。悪趣味極まりないオブリビオンめ」
 ……この手で徹底的に斬り刻んでやる、と。
 けれどそのためにはまず、敵のみせる尻尾を掴まないといけない。
 敵の拠点を突き止めるべくまず進むのは、暗闇が広がる異端の森。
 しかもこの森は、迷宮化しているというが。
 目的地である森の奥の教会へと、難なく辿り着ける方法がある。
 ……それは。
「ひとまず仲良く手を繋いで進むか。そうしねえと先にすら進めねえからな」
 絆深き者だと示す為、共に進む相手と、手と手を繋いで歩むこと。
 ……まあ、陽太となら気にしない、と。
 差し出された彼オン手に、敬輔も己のものを重ねて。
 念のため小声で交わすのは、作戦会議。
 けれど敬輔は、前もって決めている。
(「俺より陽太の方が演技は上手いから、残ってもらうなら俺より陽太だ」)
 ……俺としては、赤を選んで俺が落ちるつもり、と。
 でもその思考は、お見通し。
「敬輔、てめえ、命乞いして自分が突き落とされるつもりだろ。俺が突き落とされるよりましだ、ってな」
 そして陽太はすかさず指摘する。
「だが、落とされた後、どうやって登ってくるつもりだ」
 ……崖でもよじ登るか、ん? と。
 そんな彼の言葉に、思わず頷いてしまう敬輔。
「まあ、それも一理ある。登るだけで一苦労だろう」
 だから陽太は、いい考えがある、と……こう提案する。
「選択の場で俺を生き残らせると言え。そうすりゃ落ちるのは俺だ」
「って陽太、何を言う!?」
「なあに、口さえ動けば俺はどうにかなる」
 思わず陽太の言葉に驚きの声を上げる敬輔だけれど。
 口が動けばいいと聞いて納得する。
 ……確かに悪魔を召喚できれば早く戻れるだろう、と。
 そんな敬輔に、陽太は笑ってみせる。
「だから、絶望するような演技、忘れるな?」
 ……信頼してるからよ、って。
 それから辿り着いた教会を目前に、敬輔はこくりと頷く。
「わかった、演技はどうにかする」
 ……何とか、なると思いたいが、と心の中で紡ぎつつ。
 教会の入口で、作戦会議通り、青い薔薇を手に取る。
 そして残った赤い薔薇を手にして。
 教会の中で祈りを捧げていた陽太は、抜かりなく花粉の効力に抵抗するフリをして。
 祈る最中、オブリビオンへの憎悪を静かに滾らせる敬輔と共に、意識を手放すのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

鬼桐・相馬
ハルア(f23517)と

及び腰のハルアにひとつ溜息をつきしっかり手を繋ぐ
ほら行くぞ、しゃんとしろ

森の途中に開けた場所があれば小休憩を
静かな夜の空を見上げたいな
故郷は極寒の地、空気が澄んで綺麗な空だった

彼女との距離を縮め二人しか聞こえない声量で言う
俺が青い薔薇を選ぶ
青は俺の方が合うだろ
そう言い紺青の炎を手に纏わせるよ

例え演技だとしても嘘が下手な彼女では表情や態度に出てしまう
そして自らの選択によって落ち逝く体の俺を見て己を責めるだろう
そんな思いはさせたくない

教会では【青い薔薇】を受け取って祈りを捧げる
獄卒が神に祈るなんて滑稽だが

ハルアが倒れる際、床に身体を打ち付けないよう庇う位ならできるだろうか


ハルア・ガーラント
相馬(f23529)と

夜の森は怖いです
変な鳴き声がしたり突然何かが飛び出したりするもの
繋がれた相馬の大きな手が強固な枷のようにも、思え……

〈星灯りのランプ〉に手近な花をかざし灯を燈して進みます
小休憩では〈白い腰かばん〉から水筒を取り出し相馬と温かいお茶を飲みつつ夜空を見上げます
温かいお茶と相馬がすぐ隣にいる事実に恐怖が和らぎそう
最近こうやって空を見上げる事、なかったなあ

薔薇の選択
解ってる、青色が似合うのは彼だなんて建前
本当はわたしに自分のせいだって思わせない為でしょう?
泣きそうだけど堪えて頷き【赤い薔薇】を受け取ること、了承します

教会では静かに祈りを捧げますね

神様、どうかわたし達猟兵に祝福を



 訪れた常夜の世界の中でも其処に広がるのは、深い深い闇。
 眼前の森の木々たちが星や月の光さえも遮り、より濃くなった夜のいろ。
 ……夜の森は怖いです、と。
 暗闇広がる視線の先を恐る恐る見遣るのは、ハルア・ガーラント(宵啼鳥・f23517)。
(「変な鳴き声がしたり突然何かが飛び出したりするもの」)
 きょろり新緑の瞳を巡らせるハルアの腰は、完全に引けている。
 そんな及び腰にひとつ溜息をつきつつも、しっかりと手を繋いで。
「ほら行くぞ、しゃんとしろ」
 鬼桐・相馬(一角鬼・f23529)は彼女のその手を引くけれど。
 ハルアは密かにこうも考えてしまう。
 ……繋がれた彼の大きな手が強固な枷のようにも、思え……と。
 しかも予知に聞いた話では、此処は侵入者を惑わせ迷わせる異端の森なのだという。
 でも同時に、迷わず森の教会へと辿り着く方法も、ふたりは知っているから。
 手と手を繋いで森をゆけばいい、と。
 手さえ繋いでいれば、広がる風景は何の変哲のない森。
 ざわりと大きな音を木々が立てれば、やっぱりハルアは怖くなってしまうけれど。
 手近な花をかざし灯を燈す。集めた星の光を灯しだすという、星灯りのランプに。
 それから暫しふたり、並んであるけば。
 夜の森を進む途中、開けた場所で小休憩を。
 そしてハルアが白い腰かばんから取り出した水筒の温かいお茶を、ふたり飲みつつも。
 ……静かな夜の空を見上げたいな、って。
(「故郷は極寒の地、空気が澄んで綺麗な空だった」)
 ふと、相馬が夜空を仰いでみれば。
「最近こうやって空を見上げる事、なかったなあ」
 ハルアも彼の視線を追って、ほうっとひとつ息をつく。
 温かいお茶と彼がすぐ隣にいる事実に恐怖が和らぎそう……なんて、思いながら。
 そんな、先程より怖い気持ちが薄れている様子の彼女と距離を詰めて。
 相馬は内緒話をするかのように、二人しか聞こえない声でハルアへと告げる。
「俺が青い薔薇を選ぶ」
 ……青は俺の方が合うだろ、って。
 刹那その手に纏わせるのは、冥府の炎――紺青のいろ。
 いや、彼には解っているから。
(「例え演技だとしても嘘が下手な彼女では表情や態度に出てしまう。そして自らの選択によって落ち逝く体の俺を見て己を責めるだろう」)
 だから、そんな思いはさせたくない……と。
 そしてハルアも、解っているのだ。
(「青色が似合うのは彼だなんて建前。本当はわたしに自分のせいだって思わせない為でしょう?」)
 そう思えば、泣きそうになってしまうけれど。
 こくりと、彼女は泣くのを堪えながら頷き了承する。赤い薔薇を受け取ることを。
 それから再び手を繋いで夜をゆけば……姿をみせるのは、森の奥に佇む教会。
 相馬はハルアに言った通り、青い薔薇を手にし胸に飾って。
(「獄卒が神に祈るなんて滑稽だが」)
 開かれた教会の扉の向こうへと、彼女と共に歩み進め、祈ってみる。
 そんな彼の隣で、ハルアも静かに祈りを捧げる。
 ――神様、どうかわたし達猟兵に祝福を、と。
 そして……その身体が、ふらりと大きく揺れれば。
 同じく意識を失いかけながらも、相馬は咄嗟に腕を伸ばして彼女を受け止める。
 床に身体を打ち付けないよう、庇う様に。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

鎹・たから
【❄🌸】

【赤】

こんな所業、許せません

どれほどの人々が犠牲になったのか
想像しただけで怒りがわく

…ですが
大切な人の命より、自分の命を選ぶ時
どんな気持ちなのでしょう

死にたくないという想いを
悪だとは思わない、けれど

あたたかい手
男の人にしては細い指が
やわらかく握り返してくれた

冬毛でふあふあの尻尾が
体に触れる度に不安が融けた

彼はいつだって
春みたいにたからを愛おしんでくれるのです

大丈夫ですよ、なびき
猟兵ならちょっと痛い程度で済むでしょうし
たからはジャンプと着地が得意ですからね

今回は演技も必要になりますが
精一杯がんばります(ふんす

なびきには、少し悲しい思いをさせてしまいますが
二人で必ず悪をほろぼしましょう


揺歌語・なびき
【❄🌸】

【青】

うわーまっくら
全然見えないねぇ

ランプが心許ない気がして
なるべく彼女の足元を照らす
満月じゃないのは助かるが

義憤に駆られる顔が
少し俯いたのはすぐわかった

そうだね
きっと、すごく苦しいだろうね

たからちゃんは雪みたいにまっしろで
心が清すぎるから、痛むのだ

ちいさく幼い掌はひんやり冷たい
おれの体温で火傷しやしないだろうかといつも思う

この子は
絡めた指が本当はどんなモノかなんて
なんにも知らないんだよなぁ

その思考を裏に溜息混じり
彼女が落ちるのを謝る

はぁ…適材適所だもんねぇ
ちゃんと受け身とるんだよ?

うん
二人で倒そう

(なんて、嘘ついた
きみは演技ができないから
慣れてるおれが嘘をつく

落ちるのは、おれだよ)



 訪れたこの世界が、いつだって夜の闇に覆われていることは知っているけれど。
「うわーまっくら。全然見えないねぇ」
 足を踏み入れた森の中は、深く濃い漆黒のいろが広がる真っ暗闇。
 けれど、揺歌語・なびき(春怨・f02050)にとっては、むしろ助かるくらいだ。
 どうしても恐れを抱いてしまう、満月じゃないだけでも。
 でも、手元で揺れるランプの灯火では心許ない気がして。
 なるべく彼女の足元を照らし、歩く。
 そんななびきが揺らす灯火を頼りに、森を進みながら。
「こんな所業、許せません」
 ……どれほどの人々が犠牲になったのか、と。
 想像しただけで怒りがわきあがる、鎹・たから(雪氣硝・f01148)だけれど。
 予知に聞いたことを思い返しながら……ですが、と。
 ふと、言の葉を落とす。
「大切な人の命より、自分の命を選ぶ時、どんな気持ちなのでしょう」
 ――死にたくないという想いを悪だとは思わない、けれど……って。
 なびきは桜の瞳でそっと、小さな灯火に照るその横顔を見つめながらも。
 すぐに、わかったのだった。
 義憤に駆られる彼女の顔が少し俯いたことは。
 そして、心が清すぎるから、痛むのだと。
「そうだね。きっと、すごく苦しいだろうね」
 ……たからちゃんは雪みたいにまっしろだから、と。
 繋いでいるちいさく幼い掌は、今日もひんやり冷たくて。
 いつもなびきは思うのだ。
 ……おれの体温で火傷しやしないだろうか、って。
 けれど今、たからがその手に感じているのは、じわり染みる様に伝わる彼の体温。
(「……あたたかい手」)
 この手をやわらかく握り返してくれるのは、男の人にしては細い指。
 それに、冬毛でふあふあの尻尾が体に触れる度に、不安も融けてゆくから。
 そう……彼はいつだって、雪解けの温もりをくれる。
 ――春みたいにたからを愛おしんでくれるのです、って。
 けれど彼はむしろ、純白の冬を愛しむ。
(「この子は絡めた指が本当はどんなモノかなんて、なんにも知らないんだよなぁ」)
 そしてその思考を裏に、溜息混じりに謝る……彼女が落ちることを。
 そんな彼の謝罪に、たからはふるりと首を振って。
「大丈夫ですよ、なびき。猟兵ならちょっと痛い程度で済むでしょうし。たからはジャンプと着地が得意ですからね」
 ぴょこりと、その場で飛んでみせる。
「はぁ……適材適所だもんねぇ。ちゃんと受け身とるんだよ?」
「今回は演技も必要になりますが、精一杯がんばります」
 そしてそう、ふんすと気合いを入れながらも。
 彼を見つめ、こう続けるたから。
「なびきには、少し悲しい思いをさせてしまいますが。二人で必ず悪をほろぼしましょう」
「うん、二人で倒そう」
 そんな彼女の声に、なびきはこくりと頷きながらも。
 だって……やっぱり、雪みたいに君はまっしろだから。
(「きみは演技ができないから、慣れてるおれが嘘をつく」)
 清すぎる彼女のかわりに、彼は嘘をつく。
 真実を紡ぐのは、その心の中だけ――落ちるのは、おれだよ、って。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 冒険 『ひとつの試練』

POW   :    タフな精神でこなす

SPD   :    躊躇わず素早くこなす

WIZ   :    頭を使い慎重にこなす

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●赤と青の試練
 途切れた意識を引き戻したのは、頬を撫でる風の冷たさであった。
 まだ少し重い頭では、思考するまでに数秒の時間を要したが。
 ようやく視点が定まれば――此処がどこか、理解する。
 ……そうだ、赤と青。
 ひとつずつ薔薇を選んで、教会で祈りを捧げて……意識を失って。
 今、眼下に広がっているのは、打ち寄せる白い波飛沫と青い海。
 此処は、断崖絶壁にたつ時計塔の頂上であった。
 それからふと、共に教会へと赴いた相手は何処だろうと、視線を巡らせれば。
 縛られているから手を伸ばすことはできないけれど……互いの表情が十分に分かり、声も容易く届くような距離にいる。
 これから始まるのは、赤と青に課される試練。
 いや、試練というのは名ばかりの、敵の罠。
 けれどその罠に敢えてかかり、普段は見せない敵の尻尾を掴むのが目的だ。
 だから――選択しなければならない。  
 赤か、それとも青かを。

「青を選んだ貴方は『選択者』です。貴方には、選ぶ権利が与えられます」

 背後で、自分に結ばれたロープを握る人物が無機質な声で訊ねる。
 恐らく、黒幕に仕える配下であるだろう。
 もしかしたら、前の実験で生き残り、配下にくだった人間なのかもしれない。
 とりあえず今は逆らわず、演技をこなして信用させるしかない。
 どちらか残った方が、敵の拠点へと連れていかれるのだから。
 黒幕がこの試練という非道な罠で見たいもの、それは人間の感情や絆。
 言う通りに従うことは気に喰わないけれど……でも、逆に敵の虚をついて討ち、この様な非道な『実験』を終わらせるためにも。
 どちらか、さぁ――選択の刻。

「選択の猶予は1分。赤と青――どちらがここで死に、どちらが生き延びますか?」


●マスターより
 第2章は、赤と青、どちらかが崖下に突き落とされる試練を受けていただきます。
 ご自身の色が赤か青かは、第1章のご参加者様は改めて書く必要はありません。
 この章からご参加の方は、赤か青か、ご自身が選択する色を記して下さい。
 第2章は、断崖絶壁にたつ時計塔の頂上で目覚めたところからになります。
 皆様は確りと縛られ、薬の効力で身体はまだ思う様にはあまり動けませんが。
 視覚や思考や喋ることは普段通りできるまでには回復しています。
 より大きなリアクションを取ったり、それらしい言葉を口にすれば欺けるので。
 口にする言葉や心情や反応をプレイングでそれぞれ記して頂ければと。

 第1章で【青】の薔薇を選んだ方は『選択者』です。
 選択者は、以下どちらかの選択を迫られます。

・自分を助けて欲しい、相手を落としてくれと乞い、己が崖下に突き落とされる。
・相手を助けて欲しい、自分を落としてくれと乞い、相手が崖下に突き落とされる。

 つまり、助けて欲しいと選んだ方が、崖下へと突き落とされます。
 そしてそうなることを、皆様は知らないことになっています。

 第1章で【赤】を選んだ方は、【青】の方が選択した後、訊ねられます。
 相手の選択を聞いて、何かひとことないかと。
 何の反応や言葉が無くても一定時間経てば、試練は実行されます。
 どう考え何を言葉にするか等、心情や反応等をプレイングで記して頂ければと。

 また、【青】の方の選択を【赤】の方が知らない。
 もしくは、事前に話し合っていたり聞いていた選択と実際に選ぶ色が異なる場合。
 PCだけがそのことを知らない、という場合は大丈夫ですが。
 赤のPL様も実はどちらか知らない場合は、赤の方は、両方の場合の心情や反応や台詞の記載をお願い致します。
 赤の方の心情や行動がうまくリプレイに反映できないことになりかねませんので。
 青の方が、PCもPL様もどちらも欺くことはプレイングが噛み合わなくなるため、今回はおすすめできません。
 PC同士で、相談と逆を告げる等の行動は、全く問題ありません。
 どちらが落ちるかをPL様同士が把握している、もしくは赤の方がどちらの場合の反応も記す場合は、プレイングの中身はリプレイ公開までお互いに内緒、などでも全く構いません。

 そしてこの世界には翼を持つ種族もいますので。
 翼を持つ方も容易には翼が出せないような縛り方をされています。
 それに時計塔の上からの見晴らしは良いので、下手に翼を広げたりその他不自然な動きをみせれば。
 きちんと死んでいないことを、敵に気取られてしまう可能性があります。
 とはいえ、生死までは確認されませんので。
 そのまま落ちても死ぬことはありませんが、気取られぬ程度に何か試みることは可能です。
 どうしても無理があると判断した行動は、マスタリングや返金の対象となります。
 
 その他に関しましては、OPやOP公開時のマスターコメントをご確認下さい。
 送信締切等の連絡事項も、MS個別ページやタグ、Twitterでお知らせ致します。
.
※追記※
 第3章で真の姿ご希望の方は、プレイング冒頭に「☆」と記していただければと。
 その際は、ご同行の方も仕様上、同じ判定となりますことご了承ください。
檪・朱希
【黒蝶】
薬の影響か、頭が重い……でも、ここから気を付けないと行けない。
落ちるのは私だけど、悟られないように……
セプリオギナを見る。何も言わないけど、選択は、どっちだろう?と。

告げられた言葉に、耳を疑う。私を選ぶはずだったのに。
「待って……待って、なんで……!」
なんで、セプリオギナが落ちるの……!
私が落ちるはずだったのに!
そこまでは言えないけれど、蝶の傷跡は痛む。
手を伸ばしたいけれど、伸ばせられない。
心『音』は嘘を言ってない。寧ろ、私を案じるような『音』で……

心の底からいやだと叫んでいた。
助けたいのに、駆け寄りたいのに駆け寄れない。
せめて、とUCを発動。
大切な人を喪う恐怖が、私の中に蘇っていた。


セプリオギナ・ユーラス
【黒蝶】

意識は? 大丈夫、通常通り、思考速度を保てている
(想定より監視が厳しそうだ)
(落下するのを見届けるつもりだろうか?)
(だとすると檪の「飛べる」心算はむしろ当人を危険に晒しかねん)

どちらかが死に、どちらかが生き残るのならば──
より安全なほうへ、彼女を。
“この先”についても、多少なりと事前情報がある
「生き延びるべきは医師である俺だ」
告げる。これで落下するのは俺になるはずだ。

言葉自体に嘘は吐いていない“音”がするだろう
事前の打ち合わせと違う言葉に意図があることも伝わるかもしれない
伝わらなかったとしても──少しは学ぶべきだ

根拠のない過度な期待や信頼は身を滅ぼす。
信じ“ない”こともときには必要だ



 意識を取り戻したばかりの視点は、暫くの間ぼんやりと霞んでいて。
 耳に聞こえてくるのは――打ち寄せる波の音と、時計の針がカチリと動く音。
 吹く風の冷たさを頬で感じながら、檪・朱希(旋律の歌い手・f23468)は自分が置かれている状況を把握して。
 ようやく定まってきた視点に映る眼下の景色を見遣りながらも、そっと思う。
(「薬の影響か、頭が重い……でも、ここから気を付けないといけない」)
 胸で揺れる赤い薔薇。意識を刈り取られ、身体の自由を奪われて。
 腕や手は勿論、背中まで確りと縛られている。すぐには翼が出せない程、念入りに。
 これから起こる、試練という罠の真の目論見は、既に予知されて把握済だ。
 だから彼にはこう、口にして貰う手筈で話をしている。
(「落ちるのは私だけど、悟られないように……」)
 自分が海へと落ちる様に、その反対の願いを口にして貰えばいい。
 そうそっと、近くにいるセプリオギナ・ユーラス(賽は投げられた・f25430)へと視線を向けて。
 ふと敵に悟られぬ程度に、朱希は首を傾ける。
 ――何も言わないけど、選択は、どっちだろう? と。
 そんなセプリオギナは軽く頭を振り、そして確認する。
 ……意識は?
(「大丈夫、通常通り、思考速度を保てている」)
 それから次に、周囲の状況把握に努めるけれど。
(「想定より監視が厳しそうだ。落下するのを見届けるつもりだろうか?」)
 今いる時計塔の頂上からの見晴らしは良く、見張りの様な者達の姿も数人見受けられる。
 崖の真下の海面までは流石に見えないし、生死を確認することまではしないだろうが。
 だが、セプリオギナは懸念する。
(「だとすると檪の「飛べる」心算はむしろ当人を危険に晒しかねん」)
 ――私は飛べるから、落ちても死なない。
 だから自分が落ちると、そう言っていた彼女であるが。
 確りと縛られている上に、翼を出せても敵の目に入って気付かれてしまえば、逆に危険に陥る可能性がある。
 そう考えを巡らせていた刹那――背後から聞こえてくるのは、声。
「青を選んだ貴方は『選択者』です。貴方には、選ぶ権利が与えられます」
 セプリオギナの胸に咲くのは青い薔薇……そう、選択権は自分にあるのだから。
 彼は思考し、そして判断を下す。
(「どちらかが死に、どちらかが生き残るのならば――より安全なほうへ、彼女を」)
 現状を鑑みても、そして“この先”についても多少なりと事前情報があるのだから。
「選択の猶予は1分。赤と青――どちらがここで死に、どちらが生き延びますか?」
 その問いに、彼は選択し、告げる。
「生き延びるべきは医師である俺だ」
 ……これで落下するのは俺になるはずだ、と。
「青が生き残り、赤が死ぬ。それが『選択者』のこたえですね?」
 再度確認され、ああ、と頷くセプリオギナ。
「……え!?」
 その言葉に、思わず耳を疑う朱希。
 だって……私を選ぶはずだったのに、と。
 なのに彼が選んだのは――彼が落ちる選択。
「赤は、最後に何かひとこと、ありますか?」
「待って……待って、なんで……!」
 ――なんで、セプリオギナが落ちるの……!
 ――私が落ちるはずだったのに!
 それは流石に口にはできないけれど……でも、心の中でいっぱいに叫んで。
 ずきりと痛む、蝶の傷跡。
 手を伸ばしたいけれど、でも伸ばすことはできなくて。
 そして、その心『音』は嘘を言ってないのだ。
 寧ろそれは、自分を案じるような『音』で……。
(「言葉自体に嘘は吐いていない“音”がするだろう」)
 セプリオギナは、動揺を隠せない様子の彼女へと視線を向けて。
(「事前の打ち合わせと違う言葉に意図があることも伝わるかもしれない」)
 伝わらなかったとしても――少しは学ぶべきだ、と。
 刹那……トン、と押される背中。
 瞬間、浮遊感を覚えると同時に自分へと向けられるのは、大きく見開かれるいろの違う瞳と取り乱すような声。
 そんな朱希を振り返り、そして。
(「根拠のない過度な期待や信頼は身を滅ぼす」)
 ――信じ“ない”こともときには必要だ、と。
 セプリオギナは落ちてゆく。白波が立つ海へと、真っ逆さまに。
 ……助けたいのに、駆け寄りたいのに駆け寄れない。
 ……手を伸ばして、その手を掴むことも出来ない。
 心の底から朱希は叫んでいた――いやだ、と。
 そして、せめて、と。傷跡から空へと舞わせるのは、黒き蝶。
 その羽ばたきに想いを託しながらも、朱希はぎゅっと拳を握りしめることしかできなくて。
 落ちて見えなくなった彼の姿に、ふるりと震えてしまう。
 蘇るのは、そう……恐怖。
 彼女の中に蘇っていたのは、大切な人を喪う恐怖であった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

シホ・エーデルワイス
《華恋》


状況に絶望し…悟る

ああ…
これはきっと…主が与えた罰…
大勢の人を救う為に与えられたこの命で
私は幸せを望んでしまった
前世で許されぬ罪を犯したのに
科せられた宿命に抗おうとした…
だから主は怒ったのね…

お願い
燦が生きて
きっとこれは最後のチャンス
燦は私の宿命と無関係だから
今なら死が定められている私独りの犠牲で燦は許される
それに
燦が助かるなら
私は喜んでこの身を捧げます

燦の剣幕に驚く


ダメ!私のせいで燦が死ぬなんて絶対ダメ!

え!?

…ああ…主よ
燦を助けてくれた事に感謝します


落ちる中
燦の喚き散らす姿が目に入り
罪悪感に涙が溢れる

海に落ち【贖罪】が自動発動
同時に猟兵の記憶が戻り
念動力で拘束を解き高速泳法で離れる


四王天・燦
《華恋》

催眠術でアタシ達は生命の埒内と認識

死ぬときは一緒―これは覚悟を越えた『願い』
当然両者生還が先決!

受身を取り沈むまでに縄を抜けられるのは盗賊であるアタシだ
何よりシホを落とすなんて言えない
何が宿命だ、罪だ、犠牲だ
『愛しい』をナメるな!

アタシ(青)が死ぬ

うそ…?
シホの転落を見て喚き散らし、やがて糸が切れたように心神喪失に

シホの所に逝きたい
だがその前に復讐を為し凶事に終止符を―首謀者を殺す
瞳に覚悟の炎を灯す

アタシ達の生きた証を、絆(Bande)の足跡を残すんだ
シホ、三途の川の前で待ってて

催眠前、こうなると分かってた
海に落とす罪悪感は負う覚悟
シホは自責に駆られるよね『ごめん』な
深層心理下で謝るよ



 ――これは、ふたりに課せられた試練。
 けれど、試練は試練でも、黒幕が企てたものではない。
 シホ・エーデルワイス(捧げるもの・f03442)への啓示の主がふたりを試しているのだと。
 だから四王天・燦(月夜の翼・f04448)は記憶を封じ、宿命に打ち勝たんと今回の案件に臨む。
 そして記憶を消しているのは、シホも同じであるのだけれど。
 目を覚ませば、断崖絶壁の上の時計塔……身動きできないように縛られていて。
 軽く背中を押されれば、崖下の海に真っ逆さま。
 そんな状況に絶望し……そして、悟る。
 ――ああ……これはきっと……主が与えた罰……。
(「大勢の人を救う為に与えられたこの命で、私は幸せを望んでしまった。前世で許されぬ罪を犯したのに、科せられた宿命に抗おうとした……」)
 だから主は怒ったのね……と。
 そしてふと聞こえたのは、自分ではなく、燦へと向けられる声。
「青を選んだ貴方は『選択者』です。貴方には、選ぶ権利が与えられます」
 赤と青――どちらがここで死に、どちらが生き延びますか? と。
 けれど燦のこたえは、そのどちらでもないから。
(「死ぬときは一緒――これは覚悟を越えた『願い』。当然両者生還が先決!」)
 燦はそれを叶えるべく考えを巡らせ、そして思う。
(「受身を取り沈むまでに縄を抜けられるのは盗賊であるアタシだ」)
 ……何よりシホを落とすなんて言えない、って。
 でも、燦がそう思っていることが、シホにはわかるから。
 燦へと紡ぐ――お願い、燦が生きて、と。
「きっとこれは最後のチャンス。燦は私の宿命と無関係だから、今なら死が定められている私独りの犠牲で燦は許される」
 ……それに、燦が助かるなら。私は喜んでこの身を捧げます、って。
 けれど燦は、それには決して頷かずに。
 逆にはっきりと声を上げ、告げる。
「何が宿命だ、罪だ、犠牲だ。『愛しい』をナメるな!」
 だから、愛している人の手で髪に青の薔薇を飾って貰った燦は、選択する。
 ――アタシが、青が死ぬ、と。
 そんな燦の剣幕に驚きながらも。
「赤は、最後に何かひとこと、ありますか?」
「ダメ! 私のせいで燦が死ぬなんて絶対ダメ!」
 シホがふるりと大きく首を横に振り、言った――瞬間だった。
「え!?」
 トン、と押されたのは……死を選ぶと口にした燦ではなく、シホの背中であった。
 そう、記憶を失っているふたりは知らないから。
 選んだ逆の者が、突き落とされることを。
 けれど一瞬、青い瞳を大きく見開いたけれど。
 銀の髪をまるで翼の如く空へと躍らせ、エーデルワイスの花を舞わせながら。
(「……ああ……主よ、燦を助けてくれた事に感謝します」)
 シホの表情は、安堵のいろで満ちていた。
 逆に、天使かの如く空に舞い、そして無情にも落ちゆく愛しい人の姿を目にして。
「うそ……?」
 そうぽつりと呟いた後。
「シホ!? 何で……アタシが、青が死ぬ、と言ったんだ!! なのに、何でシホが……!!」
 声を上げ、喚き散らす燦だけれど。
 シホの姿が海に吸い込まれるかのように見えなくなれば、糸が切れたように心神喪失の状態に陥る。
 そして落ちてゆく中――シホの青い瞳に最後に映ったのは、自分のために喚き散らし暴れる燦の姿。
 その罪悪感に涙が溢れるけれど……でも、やっぱり心から思うから。
 ――燦が助かって……よかった、って。
 それから暫く、シホの所に逝きたい、って。
 ただ呆然とそう思うことしかできなかった燦であったが。
 何処かへと連れていかれながらも、金の瞳に灯すのは――覚悟の炎。
(「シホの所に逝きたい、だがその前に復讐を為し凶事に終止符を――首謀者を殺す」)
 ――アタシ達の生きた証を、絆の……バンデの足跡を残すんだ、って。
(「シホ、三途の川の前で待ってて」)
 彼女が落ちた崖下の海をそう、一度だけ振り返りながら。
 けれど……海に落ちた瞬間、シホが自動発動させたのは『贖罪』。
 同時に猟兵の記憶が戻り、念動力で拘束を解いた後。
 出血も痛みもほぼない身体で、海を泳いでゆくシホ。
 ……いや、燦も催眠前、こうなることは分かってはいたのだ。
 海に落とす罪悪感は、負う覚悟。
 けれど、やっぱり燦は深層心理下で謝るのだった。
 ……シホは自責に駆られるよね――『ごめん』な、って。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

アスカ・ユークレース
一一(f12570)と行動

(ばれないように最小限の動きのモールス信号で「後で 会おう」と送りながら)
私が落ちるわ。一一を犠牲に私が生き残るなんて出来るわけないもの。隙間女、そこにいるのよね?メリーさん達にも伝えて、一一をよろしく頼むわ。

反応
……!お願い、間に合って、彼の友達……!と祈りつつ「話が違うじゃない…許さない、じわじわとなぶり殺してやる、苦しみ抜いて死ねばいい……!」と配下を睨み付ける演技(8割本気)

アドリブOK


一一・一一
アスカ(f03928)と行動します

アスカさんの言葉をきいて、モールス信号をうけとりならがも
「落とすなら僕を落としてください」とわりと本気でいいます

だから、落とされたら逆に安堵して
おちながら【隙間より覗き込む女】で隙間女をアスカさんのマフラーに網目の隙間に移動させます
そのまま落ちて海の中入ると同時に【怪異ノ身体】で海の都市伝説のニンゲンに身体を変えて海の中へ身体を隠します

アドリブなど歓迎



 先程までは、ふたり一緒に教会で祈っていたはずなのに。
 冷たい風が頬をさわりと撫でる感覚に気付き、閉じていた瞳をうっすらと開けば。
 眼下に広がるのは、断崖絶壁の下に広がる海。
 今ふたりがいるのは時計台の頂上であった。
 しかも、確りと身体を縛られていて。
 意識ははっきりとしてきたが、いまだ思う様に動けない。
 少しでも背中を押されれば……崖下へと、真っ逆さま。
 けれど普通ならば、絶望と恐怖に襲われてしまう状況であるのだけれど。
 こうなることは……想定内、あらかじめ分かっていたことだから。
 背後にいる敵の配下にばれないように、そっと。
 アスカ・ユークレース(電子の射手・f03928)は、最小限の動きのモールス信号を送る。
 傍で同じ様に縛られている、一一・一一(都市伝説と歩む者・f12570)に……「後で 会おう」って。
 それを確りと、一一も受け取ってから。
「青を選んだ貴方は『選択者』です。貴方には、選ぶ権利が与えられます」
 赤と青――どちらがここで死に、どちらが生き延びますか? と。
 青い薔薇をつけたアスカへと問われた声に、かわりに答える。
「落とすなら僕を落としてください」
 これは演技ではあるのだけれど……でも。
 告げたその言葉は嘘ではなく、わりと本気でそう思うから。
 けれどそう言った一一の胸に咲くのは、赤の薔薇。
 彼に、選択の権利はないのだ。
 『選択者』は青い薔薇を選んだ者。アスカにしか、選ぶことはできないから。
 彼女はこう、選択を告げる。
「私が落ちるわ。一一を犠牲に私が生き残るなんて出来るわけないもの」
 アスカが教会で神様に祈ったのは、隣に在る彼の幸せ。
 だから自分がと……そう、口にするけれど。
 でもふたりは、この試練という名の罠の、真の企みや起こる事を知っているから。
「……!」
 刹那、背中を押されたのは……自分を落としてと、そう言ったアスカではなく一一であった。
 ひらりと青い空に揺れるのは、選んだ薔薇と同じいろをした彼のマフラー。
 いや、分かってはいたことではあるけれど……一緒に歩きたいと、そう願ったばかりだけれど。
 むしろ一一は自分がちゃんと落とされたことに、逆に安堵してから。
 アスカの首に巻かれた青いマフラーの編み目の隙間にそっと、喚んだ隙間女を移動させる。
 そしてアスカは、一一が潜らせた彼女にそっと訊ね、続ける。
(「隙間女、そこにいるのよね?」)
 ……メリーさん達にも伝えて、一一をよろしく頼むわ、って。
 それから同時に、必死に祈って止まない。
(「お願い、間に合って、彼の友達……!」)
 猟兵だから簡単に死なないって、そう分かっていても、やっぱり。
 落ちてゆく彼を目にすれば……伸ばせない手を伸ばしたくて、心配で胸がぎゅっと締め付けられるから。
 そして背後を振り返ったアスカは声を上げ、敵を詰る。
「話が違うじゃない……許さない、じわじわとなぶり殺してやる、苦しみ抜いて死ねばいい……!」
 自分を何処かへと連れて行こうとする配下を、キッと鋭く睨み付けながら。
 これは演技なのだけど……でも、8割は本気で。
 けれどその頃、海に落ちた一一は、その身を変えていた。
 身体を変異させた、都市伝説のニンゲンへと……再び彼女と一緒に、歩むために。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

戎崎・蒼
紅(f04970)と
(グッと少し力を入れてみて)…成程、身動きは取れないようになっている訳か。随分と余念が無い
まだ身体は重いが、思考も少しずつ戻ってきた
…そうだ、僕は『青』を選んだ
選択者は僕だ

きっとどちらを選んでも紅は喜ぶだけだろう
…今なお揶揄うような言葉を掛け、且つこの状況を楽しんでいるのだから
そんな悪辣な言葉を無視し、頭をもたげて僕は願う
「僕を助けて欲しい、落とすのは其奴にしてくれ」と
真実など知らないフリをして

僕が落ちた方が幾分マシだろう
何より猪口才な甘言を聞かなくて済む

ともあれ皮肉の言葉でも贈ろうか
目は口ほどに物を言うらしいが、それなら僕は補聴器が必要だな
…聞こえた事なんてないからね


宮前・紅
戎崎·蒼(f04968)と
ふぅん、此処が"分岐点"かぁ
彼がどっちを選ぶか楽しみだなぁ──嗚呼、駄目駄目
相手に勘繰られては困る……ちゃんと演じなきゃ、ね
俺が選んだのは『赤』俺は選択を待つ者
さぁ、彼が選ぶのは何方──?

蒼くんが僕を助けてくれと願ったのを見て
「俺を助けてよ、おかしいだろ一方しか選択の権限が無いなんて!」
必死に暴れる愚者を演じるよ

彼が突き落とされたのを見て
表面上は驚き目を見開いたまま固まる

あは、やっぱり蒼くんが選んだのは俺を助ける方なんだね
やっぱり人間臭くてそれ以上に──"優しい"ねぇ
どんなに最低最悪の人間であろうと
罪人でない限り彼は手を下す事を良しとしない

俺はそれを知ってるから



 開かれた黒い瞳は、まだ霞んで視点がよく定まらないけれど。
 現在居る此処が、先程までいた森の教会ではないことは、容易にわかる。
 そして意識と共に次第にはっきりと見え始めた景色は――断崖絶壁の下に広がる海であった。
 まだ、身体の痺れや重さは若干感じるけれど。
(「……成程、身動きは取れないようになっている訳か。随分と余念が無い」)
 グッと試しに少し力を入れてみつつ、戎崎・蒼(暗愚の戦場兵器・f04968)は、かなり確りと腕や体が縛られていることを確認してから。
 少しずつ戻ってきた思考を巡らせ、状況を把握していたけれど。
 ふと蒼へと向けられたのは、背後から響く声。
「青を選んだ貴方は『選択者』です。貴方には、選ぶ権利が与えられます」
 その抑揚のない言の葉に、蒼は己の胸で咲くいろを思い出す。
(「……そうだ、僕は『青』を選んだ」)
 ――選択者は僕だ、と。
 そんな蒼へと視線を向けながら。
(「ふぅん、此処が"分岐点"かぁ」)
 宮前・紅(三姉妹の人形と罪人・f04970)は思わず笑み零しそうになる。
 だって、彼がどっちを選ぶか楽しみだから。
 でもすぐに、灰色の瞳を細めるだけに留める。
 ――嗚呼、駄目駄目。相手に勘繰られては困る……ちゃんと演じなきゃ、ねと。
 紅が選んだのは、名前と同じいろをした赤。
 そのいろには選択する権利はない。赤を選んだ彼は、選択を待つ者なのだから。
 けれどやはり、楽しみには違いないから。わくわくと紅はこたえを待ちながらも口にする。
「……さぁ、彼が選ぶのは何方――?」
 そしてそう言った紅を、ちらりと蒼は見遣りつつも思う。
(「きっとどちらを選んでも紅は喜ぶだけだろう……今なお揶揄うような言葉を掛け、且つこの状況を楽しんでいるのだから」)
 それから背後の声が、『選択者』である自分に問う。
「赤と青――どちらがここで死に、どちらが生き延びますか?」
 蒼はそんな悪辣な言葉を無視し、頭をもたげて。
「僕を助けて欲しい、落とすのは其奴にしてくれ」
 そう、願いを口にする。
 勿論……真実など、知らないフリをして。
 それを聞いて微か気付かれぬ程度に、口元に笑み宿しながら。
「俺を助けてよ、おかしいだろ一方しか選択の権限が無いなんて!」
 必死に暴れて喚く紅。いや、そんな愚者をそれらしく演じる。
「それが『選択者』のこたえ、でよろしいでしょうか?」
「ああ。落とすなら、僕ではなく其奴に」
「赤は、最後に何かひとこと、ありますか?」
「何でだよ、こんなの納得いくわけないだろ!」
 蒼はそう喚いてみせる紅にちらりと視線を向け、そっとひとつ息をつく。
(「僕が落ちた方が幾分マシだろう。何より猪口才な甘言を聞かなくて済む」)
 そして、刹那――トン、と軽く背中が押されれば。
 ふわり一瞬の浮遊感の後、蒼は最後にこう口を開く……ともあれ皮肉の言葉でも贈ろうか、と。
「目は口ほどに物を言うらしいが、それなら僕は補聴器が必要だな」
 ――聞こえた事なんてないからね、って。
 一気に、崖下へと落ちてゆきながら。
 そして突き落とされた彼を見て、驚き目を見開いたまま固まる紅。
 ……いや、勿論それも、あくまで表面上であるのだが。
 ぐいっと拘束された身を引かれる力に抗わず、何処かへと連れていかれながらも。
(「あは、やっぱり蒼くんが選んだのは俺を助ける方なんだね」)
 紅は予想していた通りの彼の選択に、もう一度その瞳を細める。
 ……やっぱり人間臭くてそれ以上に――"優しい"ねぇ、って。
 だって、紅は知っているから。
(「どんなに最低最悪の人間であろうと、罪人でない限り彼は手を下す事を良しとしない」)
 だから蒼の『選択』はとても、彼らしくて。
 紅はその優しさに、そっと小さく呟きを落とす。
 ――ほらね、やっぱりそうだと思ったんだ……なんて。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

佐那・千之助
クロト(f00472)は唯一人
私の大切なひと

幸せなことを沢山教えてあげたい
今は私しかそれをできないから
私達は一緒でなくては駄目
どうか見逃してほしい

拒まれ、無慈悲な運命に打ち拉がれ…一分
…赤、を
震える声は演技ではなく
彼を落とすと言うのは、嘘でもあまりに…

愛するひと。決して喪いたくない
でも…クロトを独りで残せない
その生まれたての脆い心では
哀しみに堪えられず、壊れてしまうから

…え?
傾き、事態を悟り
死の間際に見た彼は…命の尊さに輝いて見えて
ひとりでに『クロトが、生きて』と最期の愛が零れる

私を呼ぶ彼の声
判ってる
仕事中の演技でも、私への思いはいつも本当をくれること

背面を炎のオーラ防御で守り
負傷はUCで治療


クロト・ラトキエ
千之助(f00454)…
ねぇ。
演技か本気か、君は判るかなぁ?

怯えたフリで海へ向ける顔。
彼の選択に、言葉に、俯いたまま震え
…けれど。
上げた顔は、泣き笑い。

…うん。それで、いい。
君は…生きて。どうか…救われて。

同じ様に声が震えるのは。
喩え死なぬと思っても、
落ちる姿が目に焼き付く…
その方が傷付くよりずっと、

痛いと、解っていたから。

声を失い、
目の奥が痛くて、
頭が真っ白で…
空白は一瞬。
何度も何度も声の限り君の名を叫ぶ。
何で…
嫌だ…

壊れそうな狂乱から、
拒絶と絶望の無へ。

千之助…

かけがえの無いひとの名を、唯…


…さぁ。
僕らのバンデ、満足頂けたか?
彼に傷の一つも残ったら
――吸血鬼
手前には、希死の感情を教えて遣る



 うっすらと瞳を開けば、霞む視線の先にあるのは海。
 吹く風の冷たさが次第に意識をはっきりとしたものに引き戻して。
 隣をふと見れば……同じ様に自分の姿を映した二藍の双眸。
 そんな佐那・千之助(火輪・f00454)の瞳のいろに、己の青もそっと重ねながら。
 クロト・ラトキエ(TTX・f00472)は心の中で笑んでみせる。
 ――千之助……ねぇ。
(「演技か本気か、君は判るかなぁ?」)
 そして、クロトの手で飾った青薔薇を胸元に咲かせた千之助へと、背後からの声が問う。
「青を選んだ貴方は『選択者』です。貴方には、選ぶ権利が与えられます」
 ……赤と青――どちらがここで死に、どちらが生き延びますか? と。
 与えられた時間は、一分。
「クロトは唯一人、私の大切なひと」
 千之助は言の葉を紡ぎ、乞う。
「幸せなことを沢山教えてあげたい。今は私しかそれをできないから、私達は一緒でなくては駄目」
 だから……どうか見逃してほしい、と。
 けれど、その願いは聞き入れられない。
 これは試練。青は選択しなければいけない……赤か青かを。
 そんな乞うた言葉も無言という手段にて拒まれ、無慈悲な運命に打ち拉がれて……選択の刻。
 震える声で、千之助は告げる。
「……赤、を」
 これは演技であるのだけれど、でも、この震えは本当で。
 だって、嘘でもあまりにも……彼を落とすと言うのは。
 そして怯えたように海へと向けていた顔を、選択を聞いたクロトは彼へと向けて。
 耳に届いた言葉に、俯いたまま震える。
 怯えているのは、演技。
 ……けれど。上げた顔は、泣き笑い。
 クロトは知っているから。
 彼が告げた『選択』によって、これから何が起こるのかを。
 そして千之助は続ける。
「愛するひと。決して喪いたくない。でも……クロトを独りで残せない」
 ……その生まれたての脆い心では哀しみに堪えられず、壊れてしまうから、って。
 背後の声は次に、今度はクロトへと訊ねる。
「赤は、最後に何かひとこと、ありますか?」
「……うん。それで、いい。君は……生きて。どうか……救われて」
 彼に付けて貰った赤い薔薇。赤は、選択を受け入れる者のいろ。
 そして同じ様に、紡ぐクロトの声が震えるのは。
「……!」
 刹那――トン、と。
 背中を押されて宙へと投げ出されたのは、千之助の身体。
 そう……喩え死なぬと思っても。でも、落ちる姿が目に焼き付く……。
(「その方が傷付くよりずっと、」)
 ――痛いと、解っていたから。
「……え?」
 空へと投げ出され傾き、事態を悟ったように瞳を見開いてみせる千之助。
 そして、死の間際に見た愛しき彼は……命の尊さに輝いて見えて。
 ひとりでに開いた口から最期の愛が零れる――『クロトが、生きて』、と。
 青い空に、陽光に似たその髪は残酷なほど美しく鮮やかで。
 ……声を失い、目の奥が痛くて、頭が真っ白で……空白は一瞬。
「千之助! 何で……嫌だ……千之助!」
 何度も何度も、クロトは声の限り呼び続ける。落ちてゆく、君の名を。
 壊れそうな狂乱。そしてそれは、拒絶と絶望の無へと変わって。
「千之助……」
 かけがえの無いひとの名を、唯……クロトは口にする。
 聞こえる。彼の声が、自分の名を呼んでいると。
 けれどそれも、遠くなっていって。
 優しい光と熱を宿した炎の蝶を伴いながら、千之助は小さく見えなくなってゆく彼に笑んでみせる。
 ――判ってる、って。
(「仕事中の演技でも、私への思いはいつも本当をくれること」)
 そして彼の姿が崖下の海に消え、何処かへと連れていかれながら。
 ――……さぁ。僕らのバンデ、満足頂けたか?
 クロトの瞳にただ静かに燃える青のいろ。
(「彼に傷の一つも残ったら――吸血鬼」)
 ……手前には、希死の感情を教えて遣る、と。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

火狸・さつま
コノf03130と

しっかり繋いでたはず、なのに…
目覚めれば離れ離れ
コノ…
その寂しさから、こぼれた声は
不安気に聞こえたかもしれない

コノの迫真さに思わず素直にうるり涙滲ませるも
即座の撤回に目を見開く
こ、コノ、な、んで…?
(…そう…コノが、助かる、べき…なのに、これじゃ…)
もう覆せない、と、分かるから
ぐっと唇咬み下を向く
大好きなコノが大丈夫なら…異論なんか、あるわけが、ない
生きて、無事で、いて…
本音が、ほんとが、何であれ…俺が、幸せだた事に、かわりない!

あ!こ、コノ…!
知ってても
ぶわり毛が逆立ち
お、まえ…!
ギッと睨み付け
炎で攻撃したい衝動堪えきり
よくも……!コノは、俺の大切な、おかーさん!なのに!!


コノハ・ライゼ
たぬちゃん(f03797)と

選択者……?
訝しげに繰り返し隣を見る

(まあ演技ってンならオレのが断然得意だし
ココは素で驚いてもらった方が都合イイのよね

そんなの……決まってる
アイツが助かるなら、オレを……!
絞るような声で言って、一拍
予想通りのあのコの表情見てから嘲笑と共に前言撤回するわ
なぁんて、言うとでも?
冗談じゃない、生き残るのはこのオレ
コイツへの優しさや言葉も全部、自分の価値を高める手段
或いは只の玩具でしかナイの
いい加減鬱陶しくなってきたし、良い頃合いだわ
オレの為に、ねぇ死んで頂戴

(そう、この位の方が真実味あって面白いデショ?

着水ギリギリ狙い自身に纏うよう【翔影】
飛翔能力で被害を極力減らすわ



 ふたり一緒に、森の教会にいたはずなのに。
 うっすらと瞳を開けば……聞こえるのは荒波と時計の針の音。鼻を擽る海の匂い。
 けれどそれより、何よりも。
「しっかり繋いでたはず、なのに……」
 火狸・さつま(タヌキツネ・f03797)の耳がぺたり、尻尾もしょんぼりとしてしまうのは。
 手を繋いでいたはずのコノハ・ライゼ(空々・f03130)と、目覚めれば離れ離れになっていたから。
「コノ……」
 見回せばその姿は傍にはあるのだけれど。
 でも、近くても遠くて……寂しくて、思わず零れる声。
 それは不安気なものに聞こえたかもしれない。
 けれど背後からした声は、青の薔薇を飾ったコノハへと向いていた。
「青を選んだ貴方は『選択者』です。貴方には、選ぶ権利が与えられます」
「選択者……?」
 訝しげに繰り返し隣を見れば、自分を必死に見つめる青い瞳。
 それに己の薄氷のいろを重ね、細めてみせて。
(「まあ演技ってンならオレのが断然得意だし」)
 コノハは気取られぬ程度に、密かにそっと笑み落とす。
 ……ココは素で驚いてもらった方が都合イイのよね、って。
 そして背後の執行者は、青の『選択者』に問う。
「赤と青――どちらがここで死に、どちらが生き延びますか?」
「そんなの……決まってる。アイツが助かるなら、オレを……!」
「コノ……!」
 絞るような声で、でもそう即答したコノハの迫真さに。
 さつまは思わず素直に涙滲ませ、うるりとするけれど。
 紡いだ言の葉から、一拍。
「なぁんて、言うとでも?」
 予想通りなさつまの表情見てから、嘲笑と共に前言撤回。
「冗談じゃない、生き残るのはこのオレ」
 コノハはくすりとそう笑んで。
 さつまを見遣りながら、饒舌に続ける。
「コイツへの優しさや言葉も全部、自分の価値を高める手段。或いは只の玩具でしかナイの。いい加減鬱陶しくなってきたし、良い頃合いだわ」
 ――オレの為に、ねぇ死んで頂戴、って。
 そんな即座の撤回に、目を見開くさつま。
「こ、コノ、な、んで……?」
 だって、知っているから。
 コノハが口にした『選択』により、これから何が起こるのかを。
(「……そう……コノが、助かる、べき……なのに、これじゃ……」)
 けれど――もう、覆せない。
 それも、分かるから。ぐっと唇咬み下を向くしか、できない。
「それが『選択者』のこたえ、ですね。赤は、最後に何かひとこと、ありますか?」
「大好きなコノが大丈夫なら……異論なんか、あるわけが、ない」
 さつまはコノハへとただ、視線を向けて。
 泣きそうになるのを堪えながらも、必死に想いを口にする。
「生きて、無事で、いて……本音が、ほんとが、何であれ……俺が、幸せだた事に、かわりない!」
 そして――トン、と。
 刹那、背中を押され空へと舞ったのは、コノハの身体。
「あ! こ、コノ……!」
 そう声を上げ、大きく瞳を見開くさつまの表情を見ながら、コノハは口元に笑みを宿す。
 ――そう、この位の方が真実味あって面白いデショ? って。
 ふわりと紫雲のいろが、青空に溶ける様に揺れて。
「コノ……ッ!!」
 真っ逆さまに、落ちてゆく。
 ……いや、きっと纏うように発動させた翔影の、黒影の管狐の飛翔能力が、極力彼の受ける被害を減らすだろうと。
 そう、知ってるのだけれど……でも。
 ぶわり毛が逆立ち、ギッと睨み付けるさつまの瞳に宿るのは、燃え盛る炎。
「お、まえ……!」
 今すぐにでも、炎で燃やしてやりたいのだけれど。
 でも、そうしてしまったら。
 自分のかわりに落ちたコノハの行動が無駄になってしまうから。
「よくも……! コノは、俺の大切な、おかーさん! なのに!!」
 攻撃したい衝動堪えきり、声を上げるさつま。
 許せない怒りの気持ちと……そしてやっぱり、離れ離れはすごく寂しいから。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

リンデ・リューゲ
【凛夜】

――分かってるわね
そんな姉の声が聴こえるみたいだ

崖下へ吸い込まれていくヨルを想像してみる
それは酷く不快な光景で
喉がひりつく感覚に顔が強張る

そうだね、分かってる
でも実は俺、反抗期なんだよね
心の中であっかんべ

「俺を、助けてよ」

どうしたのその顔
姉さんは俺が傷付くのは嫌なんでしょ?
それなら『俺の為に』我慢してくれるよね

出来るだけ傲慢に
我儘な弟ぶって

う〜ん
「ぶって」じゃないな
これはきっと我儘
姉さんに知ってほしい俺の駄々

ねぇヨル
俺だって本当はずっと
きみが俺を庇って傷つく度に
こころが傷んでたんだよ

ぇ、わ、
呆気ない浮遊感
耳を掠める遠い声
ごめんねヨル
喜んじゃいけないね

後でちゃんと叱られに行くから
待ってて


ティヨル・フォーサイス
【凛夜】

落ち着かないのはどうして
縛られてしまうことも想定内だし
しっかりリンデにも言い含めてある

私が青バラを取れなかったことがどうしても引っかかって

聞えてきた声に時が止まったよう
え?
なんていったの

理解が追い付いた途端血の気が引く

リンデ!
叱る声で身を捩る
早く撤回しなさい
やめて、落とさないで

(あなたを)

すぐにでもリュイを呼びだしたい
でもそんなことをしたらすべてが台無し
目を背けたい
そんなことをして何になるの
自分を叱咤しながら

落ちるのを、見る

――ッ
バカ、バカっ!

もっと言ってやりたいことがあるのに
口から出るのは子供みたいな言葉

泣くものか、泣くものか
私はお姉ちゃんなんだから

弟の選択に覚悟を決めるしかないのよ



 意識を取り戻したばかりで、視界もぼんやりしているし、身体の自由も効かない。
 けれど……それ以上に。
 ――落ち着かないのはどうして。
 ティヨル・フォーサイス(森のオラージュ・f14720)が感じているのは、ざわりとした胸騒ぎ。
 ……いや、こうやって縛られてしまうことも想定内だし。
 それに……しっかり、ちゃんとリンデにも言い含めてあるのだ。
 けれど、でもやっぱり。
 ティヨルの心にどうしても引っかかるのは、弟の胸で揺れるいろ。
 『選択者』となれる青い薔薇を、取れなかったことが。
 リンデ・リューゲ(يقبرني・f14721)は、そう何か言いたげに自分を見ている紫の瞳を見つめ返しつつも、そっと肩を竦める。
 ――分かってるわね、って。
 そんな姉の声が聴こえるみたいだと。
 それから、時計塔の頂上から崖下へと視線を映して……想像してみる。
 ティヨルが、海へと吸い込まれていく姿を。
 けれどそれは、酷く不快な光景で。思わず顔が強張ってしまう……喉がひりつく感覚に。
 そして、ふと背後から聞こえる声に問われる。
「青を選んだ貴方は『選択者』です。貴方には、選ぶ権利が与えられます」
 赤と青――どちらがここで死に、どちらが生き延びますか? と。
 リンデはそんな問いを耳にしながらも、自分を見つめるティヨルへと再び目を向けて、小さく笑んでみせる。
(「そうだね、分かってる」)
 私にしなさいと、そう訴えるその瞳に。
 けれどいつもは、喜ぶかなって、弟ぶっているんだけれど。
 ――でも実は俺、反抗期なんだよね。
 悪戯っこの弟は、心の中であっかんべ。
 自分の決めた『選択』を口にする。
「俺を、助けてよ」
「……え? なんていったの」
 聞こえてきた『選択』の声に、時が止まったような感覚を一瞬覚えた後。
 ティヨルはリンデの顔を見つめたまま、信じられない表情を浮かべる。
 今、なんて……だって、そうこたえたら……。
「リンデ!」
 理解が追い付いた途端、サアッと一気に引く血の気。
 だって、だってこのままだったら――。
「どうしたのその顔。姉さんは俺が傷付くのは嫌なんでしょ?」
 ……それなら『俺の為に』我慢してくれるよね、って。
「何を言ってるの、早く撤回しなさい!」
 一見すればきっとそれは、自分が助かりたいという、姉弟喧嘩に見えるだろう。
 けれど知っているから。このままであれば、どちらが落ちるのかを。
 リンデは叱る声を上げ、身を捩る姉の姿を見つめながらも。
 出来るだけ傲慢に、我儘な弟ぶってみるけれど。
(「う〜ん、「ぶって」じゃないな。これはきっと我儘」)
 そう思い直し、姉の姿を映す瞳を細める。
 これは……姉さんに知ってほしい俺の駄々、って。
 けれど、撤回しなさいと……撤回して欲しいと、そんな思いを非情に断ち切るように。
「それが『選択者』のこたえ、でよろしいでしょうか? 赤は、最後に何かひとこと、ありますか?」
 もう覆えない『選択』。
 ティヨルはふるり、首を横に振って紡ぐ。
「やめて、落とさないで」
 ……あなたを、と。その心の内で。
 すぐにでもリュイを呼びだしたい。落ちて欲しくない。
 でも、ティヨルにだってわかっているのだ。
 そんなことをしたらすべてが台無し、と。
 それに、これから起こることから目を背けたいけれど。
(「そんなことをして何になるの」)
 自分を叱咤しながらも、ぐっと唇を噛むしかできない。
 そんな姉に、リンデは視線で語りかける――ねぇヨル、って。
(「俺だって本当はずっと、きみが俺を庇って傷つく度にこころが傷んでたんだよ」)
 それを少しだけ、分かってくれたかな? って。
 青褪めている姉を見てまた、心を傷めながら。
 刹那――トン、と押される背中。
「ぇ、わ、」
「――ッ、バカ、バカっ!」
 大きく見開いたティヨルの瞳に映るのは、落とされるリンデの姿。
 ……バカ、バカっ! って、口から出るのはそんな子供みたいな言葉ばかりで。
 もっと、言ってやりたいことがあるのに――。
 呆気ない浮遊感の後、一気に落ちてゆく感覚。同時に、耳を掠める遠い声。
「ごめんねヨル」
 けれどそう謝りながらも、悪戯っこの弟は呟く……喜んじゃいけないね、って。
 成功した悪戯につい、笑んでしまったから。
 悪戯がうまくいって、そして姉のかわりに自分が落ちたことに。
 きっと、怒っているだろうな、なんて思うから。
 リンデは崖下の海に真っ逆さまにおちてゆきながらも、その手をそっと伸ばす。
 ――後でちゃんと叱られに行くから、待ってて、って。
 そして落ちてゆく弟の姿が、見えなくなって。
 何処かへと連れていかれながら、ティヨルは必死に堪える。
(「私はお姉ちゃんなんだから」)
 ……泣くものか、泣くものか、って。
 私が守ってあげなくちゃ、って……いつだって、そう思っているのに。
 けれど、ぐっと唇を噛みしめながら、ティヨルは思う。
 ――弟の選択に覚悟を決めるしかないのよ、と。
 そして、後でいっぱい、悪戯っこの弟を叱れるように。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

揺歌語・なびき
【❄🌸】

不安で引き攣った表情を
上手に浮かべ
隣で無表情の彼女を見る

ほらやっぱり
きみは嘘がつけない

おれがこの子のいのちを握るなんて
おこがましいにもほどがある

さて
はじめよっか
震える声で、乾いた笑いも含む

頼む、おれを
おれを助けてくれ
こんなところで死にたくない!

綺麗な雪の瞳が見開いた
そりゃそうだ
予定と違うんだから
かわいいなぁ

こんな小娘より
自分のほうが大事に決まってるだろ
頼む、助けてくれ
おれにはまだやりたいことが山ほどある

すらすら嘘を並べ立てる度
わかってたくせに内臓が抉れる気分
ほんとにおれは早く死ねばいいのになぁ

ああでも
死んだらたからちゃんが泣いちゃう
突き飛ばされた今だって

ごめんね
あとでなんでもするよ


鎹・たから
【❄🌸】

普通の人間なら足が竦む場所で
命の選択をさせる黒幕が許しがたい
ですが怒りを隠して
なるべく不安そうな顔を
…できている気がします(無表情

たからはできる子ですからね
あとはなびきの言葉を待つだけ
着地はユーベルコードを使って



なんで

待ってください
そんな、どうして
違う、いや

混乱する頭でもれた言葉も
なんとか真実だけは飲み込んだ

乾いた笑いを浮かべて
わかりきった嘘をつく彼が
信じられなかった

たからのことをそんな風に言えば
傷つくのはなびきなのに

涙が零れてしまうのは
このような場で
なびきに嘘をつかれたのが
ショックだった?

突き落とされた瞬間の
彼の唇が
「ごめんね」と動いたから

あとでめいっぱい
叱らなくてはいけませんね



 意識を取り戻したその場所は、断崖絶壁にたつ時計塔の頂上。
 冷たい風が頬を掠め、一歩足を踏み外せば……海へと、真っ逆さま。
(「普通の人間なら足が竦む場所で、命の選択をさせる黒幕が許しがたい」)
 鎹・たから(雪氣硝・f01148)はそう、非道な『試練』を課す敵に憤りを感じてならないけれど。
 でも、そんな怒りを隠して、なるべく不安そうな顔を……。
(「……できている気がします」)
(「ほらやっぱり、きみは嘘がつけない」)
 不安で引き攣ったような表情を、揺歌語・なびき(春怨・f02050)は上手に浮かべながら。
 ちらりと見遣った隣の無表情な彼女に、そうそっと瞳を細めて。
(「たからはできる子ですからね。あとはなびきの言葉を待つだけ」)
 着地はユーベルコードを使って……なんて思っているのが分かる、素直すぎるたからの様子を見つめていれば。
 刹那、背後から、青の薔薇を選んだ自分へと向けられるこんな問い。
「青を選んだ貴方は『選択者』です。貴方には、選ぶ権利が与えられます」
 ……赤と青――どちらがここで死に、どちらが生き延びますか? と。
 それを聞きながら、なびきはやっぱり思う。
 おこがましいにもほどがある、と――おれがこの子のいのちを握るなんて、って。
 だから……さて、はじめよっか、なんて。
 乾いた笑いも一緒に含む、震える声で。
 上手に、『選択』してみせる。
「頼む、おれを……おれを助けてくれ。こんなところで死にたくない!」
 そんな彼の必死な声に、大きく瞳を見開くたから。
 だって、違うから。
「え、なんで、待ってください」
 ……そんな、どうして、って。
「違う、いや――」
 けれど、混乱する頭で思わず言葉が漏れてしまうけれど。
 でも、ぐっと、たからは飲み込む。なんとか真実だけは、って。
 自分の声に見開いた、綺麗な雪の瞳。
(「そりゃそうだ、予定と違うんだから」)
 そしてなびきは明らかに動揺する彼女の姿に、桜の瞳を細める。
 ――かわいいなぁ、って。
 だからもっと、なびきは嘘をつく。
「こんな小娘より、自分のほうが大事に決まってるだろ。頼む、助けてくれ。おれにはまだやりたいことが山ほどある」
 すらすらと、乾いた笑いを浮かべて並べたてる嘘たち。
 でもたからは、信じられなかった。わかりきった嘘をつく彼が。
 だって――たからは、知っているから。
(「ほんとにおれは早く死ねばいいのになぁ」)
 嘘をつくことは慣れてるけれど。
 でも……わかってたくせに、嘘を吐く度に、なびきの内臓は抉れるようで。
 ――たからのことをそんな風に言えば、傷つくのはなびきなのに、って。
 たからもそれが、わかっているから。
 でも……早く死ねばいいのにって、そう思うんだけど。
 ああでも、と、なびきは思い直す。
 ――死んだらたからちゃんが泣いちゃう、って。
 トン、と……背中を突き飛ばされた、今だって。
 まるでいつかの雪の日のように、色硝子の彩から零れ落ちる煌めき。
 たからは、ぽろぽろと大きな瞳から涙を零しながらも思う。
(「涙が零れてしまうのは……このような場で、なびきに嘘をつかれたのがショックだった?」)
 でも、そんな純白の雪が融けてしまうくらいなら……それが侵されてしまうなら。
 春なんて、来なくていいから。
 なびきは落ちてゆきながらも、桜の瞳に映る彼女へと、その唇をそっと開く。
 ――ごめんね、って。
(「あとでなんでもするよ」)
 そしてたからも、その唇が告げる言の葉が分かったから。
 ――あとでめいっぱい、叱らなくてはいけませんね、って。
 真っ逆さまに落ちてゆく彼へと、そう心に紡ぐ。
 でもやっぱり……雪の様な瞳から、涙を零しながら。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

日東寺・有頂
夕辺(f00514)と

『俺を喰うて』
『あんたを俺の墓にするんだ』

思えば俺は、夕辺
お前に告げてきたっさな
俺の決意を 俺の欲望を
互いの欲で同じだけ引き合うとる
俺たちは似合いだ お前じゃなきゃだめなんや
そがん言うて突きつけてきたな
お前が受け止めると知っていた、俺の願いを

だから俺は 今こそ
『ほんとうに大事にすることをするんだ』
俺が受け止めると知っている、お前の願いを
今こそ

青を落とせ 固く絞った声で背後に告げる
真実、吐き出す声で引き裂かれそうになる
五体も 心も

青を落とせ 『失わせるな お前を』
青を落とせ 『怖いわ、守ってくれる?』

『はてまで生きるわ はてまであなたを連れていく』
『約束よ』

俺を、落として


佐々・夕辺
有頂【f22060】と

気が付けば時計台のてっぺん
ああ、選べという声がする
青を落とせと有頂が答える
赤の私が落ちるまであと少し

ごめんなさい、有頂
貴方に選ばせてしまう事
きっと頷いてくれると思って提案したのを許してね
『いつだってあんたは俺を傷付けない』
違うのよ
貴方が優しいから
傷だと思わず受け入れてくれるから
貴方が欲をぶつけるように、私もいつだって欲をぶつけてきた
私はずるくて残酷な女よ

私の願いを辛くても聞いてくれる貴方が好き
私の願いを大事にしてくれる貴方が好き
そんな貴方を私も大事にしたい
これが私なりの“大事”なの
判ってね

「ありがとう、大事にしてくれて」

涙で見えないけど
貴方はどんな顔をしたのかしら



 うっすらと開いた瞳に映るのは、気を失いそうなくらいに澄んだ空と海の青。
 そう、気が付けば、断崖絶壁にたつ時計塔の頂上。
 そんな空に近い場所で、無機質な声が問う。
「青を選んだ貴方は『選択者』です。貴方には、選ぶ権利が与えられます」
 赤と青―――どちらがここで死に、どちらが生き延びますか? と。
 けれどその問いが向けられたのは、佐々・夕辺(凍梅・f00514)にではない。
 でも夕辺には分かっているから。
 その問いに答える権利があるのは『選択者』である隣の彼――日東寺・有頂(手放し・f22060)なのだと。
 そして彼は答える、青を落とせと。
(「赤の私が落ちるまであと少し」)
 それは誰でもない、夕辺自身が提案したことだから。
 そしてそれを、有頂は受け入れた。
 琥珀色の瞳を向ければ、愛しい彼女の姿。
(「思えば俺は、夕辺。お前に告げてきたっさな」)
 ――『俺を喰うて』
 ――『あんたを俺の墓にするんだ』
 それは有頂の決意であり、そして欲望であって。
 そして有頂は、突きつけてきたのだ。
(「互いの欲で同じだけ引き合うとる。俺たちは似合いだ、お前じゃなきゃだめなんや、って」)
 だって、知っていたから。
 お前が受け止めると知っていた、俺の願いを……突きつけてきたな、って。
 そして夕辺も、知っていたから。
(「ごめんなさい、有頂。貴方に選ばせてしまう事」)
 ……きっと頷いてくれると思って提案したのを許してね、って。
 夕辺は隣に在る彼へと視線を向け、そしてふるりと小さく首を振る。
 いつも彼が自分に言ってくれる言葉……『いつだってあんたは俺を傷付けない』、って。
 けれど、でもね。
(「違うのよ、貴方が優しいから。傷だと思わず受け入れてくれるから……貴方が欲をぶつけるように、私もいつだって欲をぶつけてきた」)
 彼が言う様な、優しい女なんかじゃないと――私はずるくて残酷な女よ、って。
 でも夕辺は、好きで堪らないのだ。
 ――私の願いを辛くても聞いてくれる貴方が好き。
 ――私の願いを大事にしてくれる貴方が好き。
 だからこそ、こう思わずにはいられない。
(「そんな貴方を私も大事にしたい」)
 それが我儘であっても、ずるくても、それでも――これが私なりの“大事”なの、って。
 ……判ってね、そう笑む彼女に、有頂は頷く。
 己の決意を、欲望を、願いを、彼女は受け止めてくれるから。
(「だから俺は、今こそ」)
 ――『ほんとうに大事にすることをするんだ』、と。
(「俺が受け止めると知っている、お前の願いを――今こそ」)
 そして有頂は、『選択者』である己に問う背後に告げる。
「……青を落とせ」
 吐き出すような己の声に、真実、引き裂かれそうになる。
 五体も、心も……ズタズタに。
 けれど有頂は向けられる問いにこたえる。
 ――青を落とせ。
『失わせるな お前を』
 ――青を落とせ。
『怖いわ、守ってくれる?』
「それが『選択者』のこたえ、でよろしいでしょうか?」
 再度問われる声に、有頂はぐっと一瞬、その唇を噛みしめるけれど。
『はてまで生きるわ はてまであなたを連れていく』
『約束よ』
 こたえを、絞り出すように告げる。
「俺を、落として」
「赤は、最後に何かひとこと、ありますか?」
 そして今度は、夕辺に向けられる問い。
 もう、涙でみえないけれど。
「ありがとう、大事にしてくれて」
 刹那――トン、と。
 背中を押されれば、感じるのは一瞬の浮遊感。
 蜂蜜色の髪がまるで翼の様に、ふわりと青に広がって――そして、落ちてゆく。
 その瞬間、彼へと視線を向けた夕辺だったけれど。
 でもやっぱり、もうすっかり滲んでしまっていたから。
 分からないまま、夕辺は落ちてゆく……貴方はどんな顔をしたのかしら、って。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

海藻場・猶予
わだくん(f24410)と

……ふむ
(予想通り。嘘は吐けないし、吐いていない)
(しかして正直すぎる言葉に『真実味』が在るかは別の問題)
(幾許か、演出を交えなければ)

『怖くない』?
全く以て理由の体を為していない
何故そうするのか、と訊いている
わたくしが生き存えてお前に何の益が在る?
此処が果てだろう
結論は既に出ているだろう
判らん
お前の云う『助ける』の定義は何だ?

(『救われた』時と一字一句違わぬ問いだ)
(一字一句違わず答えれば良い)

こんなものでしょうかね

(さて、わたくしが堕ちれば右眼は嘆いて下さるでしょう)
(左眼は――おや、見逃しました)

それではどうかご武運を
わたくしはもう少し、うつくしい夢を見ていたい


無間・わだち
モバコ(f24413)

決めていたこと
悩むことなく
正直な言葉を投げる

彼女を助けてください
俺はどうなろうと構いません
死ぬくらいは、怖くもなんともないですから

右眼が震える
泣きだしそうなんだろうか
きっと彼女が突き落とされるのが
嫌なんだろうな

唐突な問いかけ
歯車仕掛けの鼓動が跳ねた
演技の消えた物言いは
随分と懐かしい気がする

(あの時と同じ
だからきっと
俺も同じでいいんだろう)

利益なんてどこにもありませんよ
ただ、俺がそうしたかっただけで

しいて言えば
あなたがうつくしければいいと思う
うつくしいかもしれないものが
こわれないでいてほしい

『助ける』なんて
全部、俺の自己満足だ

(一字一句、それで全部)

左眼が、少しだけわななく



 森の教会にいたはずなのに……気が付けば、眼下に広がるのは断崖絶壁と青い海。
 そして時計塔の頂上で、背後の執行者は問う。
 青い薔薇を選んだ『選択者』、無間・わだち(泥犂・f24410)へと。
「青を選んだ貴方は『選択者』です。貴方には、選ぶ権利が与えられます」
 ……赤と青、どちらがここで死に、どちらが生き延びますか? と。
 けれど、わだちが悩むことはない。
 それは事前に決めていたことだから。
 正直な言葉を背後へと投げ、こたえる。
「彼女を助けてください。俺はどうなろうと構いません。死ぬくらいは、怖くもなんともないですから」
 悩むことだってなくて、嘘のない言の葉だけど。
 でも、わだちは思う……泣きだしそうなんだろうか、と。
 だって、右眼が震えているから。
 けれどその理由が、わだちには分かっていた。
 ――きっと彼女が突き落とされるのが、嫌なんだろうな、って。
 そんな耳に届いた彼の言葉に……ふむ、と。
 海藻場・猶予(衒学恋愛脳のグラン・ギニョル・f24413)はそうひとつ声を漏らした後、心の中で巡らせる。
(「予想通り。嘘は吐けないし、吐いていない」)
 けれど、猶予は懸念する。
(「しかして正直すぎる言葉に『真実味』が在るかは別の問題」)
 だから疑われぬよう、その『真実味』持たせるように。
 幾許か、演出を交えなければ――そう考えた彼女は、彼へとこう紡ぐ。
 ……『怖くない』? と。
「全く以て理由の体を為していない。何故そうするのか、と訊いている」
 ――わたくしが生き存えてお前に何の益が在る?
 そう、問いを重ねて。
「此処が果てだろう。結論は既に出ているだろう」
 そして猶予は、ふるりと首を横に振る。判らん、と。
「お前の云う『助ける』の定義は何だ?」
 そんな唐突な問いかけに、思わず跳ねる。わだちの歯車仕掛けの鼓動が。
 同時に、演技の消えた物言いに感じるのは、懐かしさ。
 そう――だって、これは。
(「『救われた』時と一字一句違わぬ問いだ」)
 だから猶予は赤い瞳を細めてみせる。
 ……一字一句違わず答えれば良い、と。
 そして、わだちもその意図を理解する。
(「あの時と同じ。だからきっと」)
 ――俺も同じでいいんだろう、って。
「利益なんてどこにもありませんよ。ただ、俺がそうしたかっただけで」
 だから、わだちは紡ぐ。
「しいて言えば、あなたがうつくしければいいと思う。うつくしいかもしれないものが、こわれないでいてほしい」
 あの時と、同じように。
「『助ける』なんて全部、俺の自己満足だ」
 一字一句……それで全部。
 だってそれは、実際に交わされたまんまの言葉だから。
 ……こんなものでしょうかね、って。猶予はこくりとひとつ頷く。
 それは『救われた』時と一字一句違わぬものなのだから、『真実味』だってあるに決まっている。
 そしてふと、わだちへと視線を向けて。
(「さて、わたくしが堕ちれば右眼は嘆いて下さるでしょう」)
「赤は、最後に何かひとこと、ありますか?」
「それではどうかご武運を」
 猶予は右眼だけでなく、左眼も見ようと思ったのだけれど。
 ……左眼は――おや、見逃しました、って。
 見る前に……トン、と。その背中を押されたから。
 桃色珊瑚の髪を空の青に躍らせながら、彼女は吸い込まれるように落ちてゆく。
 ――わたくしはもう少し、うつくしい夢を見ていたい、って。
 わだちが似合うと言っていた赤い薔薇を、その胸に咲かせたまま。
 そして、そんな猶予が見逃した彼の左眼は――少しだけ、わなないていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

金白・燕
【DRC】
アドリブ、マスタリング歓迎です

先んじてブーツに「私を落とすように」と命令しましたが
納得していませんでしたからね

彼の願いを聞けば
彼の想いが手に取る様に分かる
一言をと尋ねられれば
「貴方はそういうと思ってましたよ」としか言えない
もどかしい
もどかしい
腕に爪を立てて耐える

ただ、落ちる彼と一瞬見えた満足そうな表情を見れば叫ばずにはいられない
「ブーツ!!!」
枷を外せ!と叫んで血塗れになってでも乱暴に暴れてみます
一息吸って、吐いて。
(貴方は、こんなとこで、死ぬ、タマではない)
何度も自分に言い聞かせて
感情を殺して

ああ
貴方を失うが
こんなに怖くて仕方ないとは思わなかった

後で帰ってきたら
一発は殴りますからね


ブーツ・ライル
【DRC】
アドリブ、マスタリング歓迎
NGワード:「死んでくれ」
_

隣の燕を見て、特に目立った外傷がないことに密かに安堵する。
……燕は死なせない。あの昏く冷たい海の底に落とさせなど、絶対にさせない。
彼は俺が護る。どんな手を使っても。

「──なあ、俺を助けてはくれないか」
背後の人物も見上げず、乞う。
「死ぬのは怖いんだ。だから、なあ──」

トン、と背を押される。
表情を隠していた帽子が空へ、この身は落ちゆくなか、燕の持つ薔薇の赤より緋い瞳で彼を見て

「──燕、」

死ぬのは怖い、
──『お前が』、死ぬのは。
怖いんだ。

_

(この昏く冷たい海の底に、『燕』はやはり似合わない。
鳥は──空の下を、飛んでいなきゃな。)



 意識が戻ったその場所は、ふたり手を繋ぎ訪れた森の教会ではなくて。
 眼下に広がるのは真っ青な海、そして今いるのは、高い時計塔の上であった。
 確りと縛られて……断崖絶壁にたつその頂上に。
 そんな中、ふと金白・燕(時間ユーフォリア・f19377)は視線を向ける。
 隣に在るブーツ・ライル(時間エゴイスト・f19511)へと。
(「先んじてブーツに「私を落とすように」と命令しましたが、納得していませんでしたからね」)
 これから受けなければならないのは、試練という名の罠。
 赤と青のどちらかが、此処から落とされるというが。
 それを決めるのは――青い薔薇を選んだ『選択者』。
 ブーツは、赤の薔薇をその胸に咲かせる燕へと視線を返して。
 彼に特に目立った外傷がないことに密かに安堵しながらも、思う。
(「……燕は死なせない。あの昏く冷たい海の底に落とさせなど、絶対にさせない」)
 ――彼は俺が護る。どんな手を使っても、と。
 だって、森でブーツは燕へと告げたから……お前の命、俺が預かる、って。
 ――だから。
「青を選んだ貴方は『選択者』です。貴方には、選ぶ権利が与えられます」
 ……赤と青――どちらがここで死に、どちらが生き延びますか?
 そう背後から問われれば、青薔薇を飾った『選択者』として、こたえを口にする。
「――なあ、俺を助けてはくれないか」
 ブーツはそう乞う。背後の人物も見上げずに。
「死ぬのは怖いんだ。だから、なあ――」
 それが、彼の願い。
 いや……燕には、手に取る様に分かるのだ。彼の想いが。
 命令しても納得していなかったし、選択権を彼に託したのは自分で。
「それが『選択者』のこたえ、ですね。赤は、最後に何かひとこと、ありますか?」
「貴方はそういうと思ってましたよ」
 問われた声には、ただそうとしか燕は言えない。
 ――もどかしい。
 ――もどかしい。
 行き場のない、ぐるぐると巡る思い。
 それを燕は、己の腕に爪を立てて耐えるしか、できなくて。
 己の言の葉が紡ぎ終われば、執行される。
 刹那……トン、と押されるブーツの背中。
 空へその身が投げ出されれば、表情を隠していた帽子が風に攫われ舞い上がって。
 それとは逆に、ブーツの身体は落ちてゆく。崖下の海へと、真っ逆さまに。
 そんな、ただ、落ちる彼の姿に。
 一瞬見えた満足そうな表情に――燕は、叫ばずにはいられない。
「ブーツ!!!!」
「――燕、」
 そしてブーツは、遠くなってゆく燕の姿に紡ぐ。
「怖いんだ」
 ……死ぬのは怖い、と。
 そう――『お前が』、死ぬのは。
 彼の胸で咲く薔薇の赤よりも緋い瞳で、その姿を見つめながら。
(「この昏く冷たい海の底に、『燕』はやはり似合わない」)
 鳥は――空の下を、飛んでいなきゃな、って。
 空から海へと、落ちてゆく。
 そして、枷を外せ! と叫びながら、燕は血塗れになるほど乱暴に暴れてみた後。
 一息吸って、吐いて。何度も何度も、自分に言い聞かせる。
(「貴方は、こんなとこで、死ぬ、タマではない」)
 感情を、殺して。
 けれど燕は堪らず、ふるりと首を横に振る。
 だって、思わなかったから。
(「ああ、貴方を失うことが、こんなに怖くて仕方ないとは」)
 でも、燕はよく知っている。
 彼は自分が手を離したとしても、きっとこの手を離さないでくれることを。
 そんな、苦労する性分だということを。
 そして――荊の道さえ踏み砕く『ブーツ』だということを。
 だから燕は青空の下、何処かへ連れて行かれながらも、彼が再び鳴らす足音を待つ。
 ――後で帰ってきたら、一発は殴りますからね、って。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

西塔・晴汰
【晴ル】
事前の打ち合わせ通りルーナを落とせば…
ルーナは落とされるのも慣れてるかもしれない
…だけど

オレは、オレは死にたくない
オレには尊敬できる両親がいて、目指したい未来があって!
オレは死にたくない…生きたいッ!
どうしても何も、死ぬのはどっちかでいいんっすよね?
だったら…オレを助けてくれっすよぉ!

…できるだけ小者っぽくみっともなく命乞いしてみるっすけど
きちんと騙せてるっすかね
このいけ好かない執行者を

オレだって何も無策で落ちるわけじゃない
指一本動かなくたってオレにはメメント・モリ
意図した場所に展開できる【月の紋章】の盾がある
落とされ激突する一瞬の背後に展開
後はぐったりして動かなくなったフリしとくっす


ルーナ・オーウェン
【晴ル】
綺麗な、海……こんな状況でなければ
後は打ち合わせ通り私を残すよう言ってもらって
落ちればいい
落下も慣れてる、幽霊だから直前で浮かべる
問題ない、何も――

晴汰?
晴汰、待って
(打ち合わせと違う、なんてこの場で言うことはできず)
どうして、晴汰
どうしてそんなことをいうの?
ねぇ、晴汰、それは、それはいけないから

さすがに無策ってことはないはず
対策と勝算はあってやってるはず
分かってる、けど
分かってるけど、どうしてがいっぱいで
最後の言葉を聞かれれば晴汰のほうへ
……怒るから、絶対忘れないから
(後で会ったときちゃんと言わなくちゃ)

連れていかれるときは大人しく、怪しまれないように
こんなこと、やめさせなくちゃ



 つい先程までは、森の中の教会にいたはずなのに。
(「綺麗な、海……」)
 こんな状況でなければ、眼下に煌めく海を眺めるのもまた良かったかもしれない。
 けれど……身動きができないよう、確りと縛られていて。
 ほんの少しの力が加わりさえすれば、この身は断崖絶壁の真下に落ちてしまうだろう。
 これは、赤か青か、どちらかが突き落とされる『試練』という名の罠。
 とはいえ、ルーナ・オーウェン(Re:Birthday・f28868)にとっては、何も問題はない。
(「後は打ち合わせ通り私を残すよう言ってもらって、落ちればいい。落下も慣れてる、幽霊だから直前で浮かべる」)
 だから事前に話し合っていた通り、落ちるのは自分であるべきだと。
 ルーナは思うし、そう提案もしたのだから。
 そして赤と青、どちらが落ちるか。
 その選択権は、『選択者』である西塔・晴汰(白銀の系譜・f18760)の手の中にある。
(「ルーナは落とされるのも慣れてるかもしれない」)
 事前の打ち合わせ通りルーナを落とせば……。
 けれど、晴汰はひとつ、呟きを零す。
 ……だけど、と。
 そして、青薔薇を胸に咲かせた彼へと問う声。
「青を選んだ貴方は『選択者』です。赤と青――どちらがここで死に、どちらが生き延びますか?」
 ……問題ない、何も――。
 そう思っていた、ルーナであったのだけれど。
「オレは、オレは死にたくない」
「晴汰? 晴汰、待って」
 聞こえた彼の『選択』に、思わず大きく鮮やかな赤い瞳を見開いてしまう。
 だって……違うから。
「オレには尊敬できる両親がいて、目指したい未来があって! オレは死にたくない……生きたいッ!」
「どうして、晴汰。どうしてそんなことをいうの?」
 打ち合わせと違う、彼のこたえ。
 でも、それをこの場で言うことはできなくて。
「ねぇ、晴汰、それは、それはいけないから」
 そう今言える精一杯の言葉をルーナは、彼に投げるけれど。
「それが『選択者』のこたえ、でよろしいでしょうか?」
 縋る様に頷き、晴汰は続ける。
「どうしても何も、死ぬのはどっちかでいいんっすよね? だったら……オレを助けてくれっすよぉ!」
 その姿は、彼女を見捨てて情けなく命乞いをする少年の姿……に、見えるだろう。
(「……できるだけ小者っぽくみっともなく命乞いしてみるっすけど、きちんと騙せてるっすかね」)
 オレはまだ死にたくないっすよぉ! なんて引き続き声を上げながらも。
 晴汰は自分達の背後にいる輩たちを見遣る――このいけ好かない執行者を、って。
 そんな彼の名演技に疑うこともなく、執行者は今度は、ルーナへと訊ねる。
「赤は、最後に何かひとこと、ありますか?」
 ……いや、ルーナにも分かっているのだ。
(「さすがに無策ってことはないはず。対策と勝算はあってやってるはず」)
 それは分かってる、のだけど。
 頭の中は、どうしてがいっぱいで。
 最後の言葉を聞かれたルーナは、晴汰のほうへ向いて告げる。
「……怒るから、絶対忘れないから」
 ……後で会ったときちゃんと言わなくちゃ、って。
 そして刹那――トン、と。
 背中を押されれば、ふわりと感じる浮遊感は、ほんの一瞬だけ。
 瞬間、晴汰の身体は真っ逆さまに落ちてゆく。
 けれど――全力で騙す覚悟だって、決めていたし。
(「オレだって何も無策で落ちるわけじゃない」)
 指一本動かなくたって、晴汰にはあるのだから。
 メメント・モリ――意図した場所に展開できる、月の紋章の盾が。
 けれど敵に気取られぬよう、海面に激突する一瞬だけ、背後に展開して。
 最後まで晴汰は騙し通すのだった。後はぐったり、動かなくなったフリをして。
 そんな崖下に落ちてゆき、見えなくなった晴汰の姿を思い返しつつ、ルーナはふるり首を横に振る。
 怪しまれないように、何処かへと大人しく連れていかれながらも。
 ――こんなこと、やめさせなくちゃ、って。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ヘルガ・リープフラウ
❄花狼


気が付けば手足も翼も頑丈に縛られて
傍にいるヴォルフに心配をかけぬよう
大丈夫、痛くはないわ

だけど肝心の「選択」は……

ああ、あなたがそんな風に微笑むから
ほんとうの望みが口をついて出てしまう

……わたくしはどうなっても構いません
どうか彼だけは助けて……!

鈍い衝撃音と共に落ちてゆく彼の姿
この程度で死ぬ彼ではないと信じていても
目の前で愛する人の姿が消え失せる動揺に
心痛まぬわけがない

ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい……
わたくしはまたあなたに苦しい思いをさせてしまった……

懺悔の涙を零し俯いた心の奥底で
影で嘲笑う黒幕への怒りが疼く
信じる心を裏切り絆を弄ぶその所業
もう二度と……絶対に許さない


ヴォルフガング・エアレーザー
❄花狼


翼までもきつく縛められたヘルガの痛ましい姿
だがこの後彼女には辛い選択が待っている

彼女を不安がらせぬよう精いっぱい微笑んで
大丈夫だ、俺のことなら心配いらない
俺を…そしてお前自身を信じろ
声に出さずとも、そう視線で訴えて

選択を聞いた瞬間、叫び声を上げて

駄目だ、ヘルガ!お前が死ぬ必要なんてない!
殺すなら俺を殺せ……!

そして落ちてゆく瞬間、安らかな笑みを浮かべ
生きろ、ヘルガ……

ああ、これでいい
彼女が嘘をつけないことは俺自身がよく知っている
あそこで無理して俺を見捨てれば、きっと敵に悟られていただろう

【無敵城塞】があれば無傷で済むだろう
あとは敵が油断するまでやり過ごす

待っていろ
俺は必ずお前を救い出す



 薄っすらと瞳を開けば、まだぼんやりと視界は霞むけれど。
 傍に在ると、互いの姿はすぐにわかったから。
 自分が縛られているよりも何よりも、ヴォルフガング・エアレーザー(蒼き狼騎士・f05120)は小さく首を横に振る。
 翼までもきつく縛められた、ヘルガ・リープフラウ(雪割草の聖歌姫・f03378)の痛ましい姿に。
 そんなヴォルフガングの心配するような視線に、ヘルガは小さく笑み返し告げる。
「大丈夫、痛くはないわ」
 彼に、心配をかけぬようにと。
 けれどヴォルフガングの心はやはり痛むのだ。
 この後――彼女には辛い選択が待っていることを、知っているから。
 縛られた身体や翼は、痛くはないのだけれど。
(「だけど肝心の「選択」は……」)
 そうヘルガが、彼へと視線を向ければ。
 返るのは、自分を不安がらせぬようにと宿る、精いっぱいの彼の微笑みと。
 ――大丈夫だ、俺のことなら心配いらない。俺を……そしてお前自身を信じろ。
 声に出さずとも、そう訴えるヴォルフガングの真っ直ぐな視線。
(「ああ、あなたがそんな風に微笑むから」)
「青を選んだ貴方は『選択者』です。赤と青――どちらがここで死に、どちらが生き延びますか?」
 背後から聞こえた、青の薔薇を選んだ己へと問う声に。
 口をついて出てしまうのだ……ほんとうの望みが。
「……わたくしはどうなっても構いません。どうか彼だけは助けて……!」
「それが『選択者』のこたえ、ですね。赤は、最後に何かひとこと、ありますか?」
 そう乞う彼女の声に、今度は己に問われる言葉に。叫び声を上げるヴォルフガング。
「駄目だ、ヘルガ! お前が死ぬ必要なんてない!」
 ――殺すなら俺を殺せ……! と。
 けれどそういくら言っても、赤い薔薇を選んだ彼に選択権はない……はずなのに。
 刹那……トン、と背中を押されて。
 空へと投げ出されたのは――ヴォルフガングの方であった。
 ……いや、それは事前に分かっていたことで。
 ヴォルフガングが、臨んでいたことだから。
「生きろ、ヘルガ……」
 一瞬の浮遊感の後、落ちゆく瞬間……浮かべるのは、安らかな笑み。
 彼女が無事であれば、それで――。
 そんな彼の手を掴みたくて。でも、伸ばすことは叶わなくて。
 鈍い衝撃音と共に落ちてゆく彼の姿を、ただ見ていることしかできない。
 いや、ヘルガは勿論、信じているのだ。この程度で死ぬ彼ではないと。
 けれど――心痛まぬわけがない。
 目の前で、愛する人の姿が消え失せるこの動揺に。
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい……」
 ヘルガは締め付けられるような胸の痛みを感じ、彼へと謝罪の言の葉を何度も口にしながらも、呟きを落とす。
 ――わたくしはまたあなたに苦しい思いをさせてしまった……って。
 けれど次第に遠くなってゆく彼女に、ヴォルフガングは優しく微笑みを向け続ける。
 ――ああ、これでいい、って。
(「彼女が嘘をつけないことは俺自身がよく知っている。あそこで無理して俺を見捨てれば、きっと敵に悟られていただろう」)
 彼女も助かって、嘘をつくこともなく、敵にも気取られない。
 その心を思えば苦しくはなるけれど……でも、ヴォルフガングにとっては望んだ通りの結果だから。
(「あとは敵が油断するまでやり過ごす」)
 無敵城塞を発動させ、受ける衝撃を殺しながらも。
 改めてヴォルフガングは、その胸に誓いを立てる。
 ――待っていろ、俺は必ずお前を救い出す、と。
 そして懺悔の涙を零し俯いたヘルガの、その心の奥底で疼く感情。
 それは、影で嘲笑う黒幕への怒り。
 信じる心を裏切り絆を弄ぶその所業に、彼を信じ待ちながらもヘルガは改めて思うのだった。
 ――もう二度と……絶対に許さない、と。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

明日知・理
ルーファス(f06629)と
アドリブ、マスタリング歓迎

_

俺は、『選択者』だ。
自分で決めた。自分で選んだ。

答えはもう、決まっていたから。


「──俺を、助けてくれ」
拳を血が滲みそうな程握りしめる
「助けてくれ…!生かしてくれよッ!」
隣の紅蓮の瞳と視線が重なって
然しそれも刹那。縋るように背後の人物を見上げ、必死に叫ぶ

それでいい、と彼は言った
…ああ、そうだ。これでいい

死ぬのは、俺でいい。


──身体が宙に浮く
目を見開く彼の姿にそっと微笑み返す。
…左手を伸ばそうとして
……ああ、くそ。縄が邪魔で、

別れも言えやしない。


_
(助けてくれよ。
"彼を"生かしてくれよ。
この人がいない世界で、俺はもう──生きていけないんだ。)


ルーファス・グレンヴィル
マコ(f13813)と

身動きが取れない
目の前には共に来た彼

「どっちかを選ぶならお前が生きろよ、マコ」

アイツが死ぬ姿は見たくない
きっと彼は迷うことなく選択する
その前に声を掛けたのは最後の足掻き

「──そう、それで良い、オレを殺せ」

穏やかに笑ってみせれば
眼前から消える彼の姿

嗚呼、やっぱり
何もかも、知っていた
こうなる事は分かってた

だって情報通りだったら
きっとお前は自分を犠牲にする
お前にはオレを殺せない

それが分かってるから
せめてマコに生きて欲しい、と
それだけ確かに伝えたかった

けれど、
覚悟はしていても
身体は勝手に動いた

「マコッ!!!」

伸ばした腕は届かない
この声も、きっと届かない

嗚呼、…───独りで逝くなよ



 森の中の教会にいたはずなのに、気が付けば、目の前には海が広がっていて。
 ……身動きが取れない。
 試しに縛られた身体に力を入れてみても、薬の痺れもまだ残っている影響もあってか、びくともしない。
 そして、そんなルーファス・グレンヴィル(常夜・f06629)の目の前には、共にこの世界に赴いた明日知・理(月影・f13813)の姿が。
 そんなふたりに……いや、正確に言えば、青い薔薇を身に着けた理へと、背後から問う声。
「青を選んだ貴方は『選択者』です。赤と青――どちらがここで死に、どちらが生き延びますか?」
「どっちかを選ぶならお前が生きろよ、マコ」
 そう自分へと言葉を投げるルーファスへと、視線を返した後。
 ――俺は、『選択者』だ。
(「自分で決めた。自分で選んだ」)
 理は、己の『選択』を口にする。答えはもう、決まっていたから。
「――俺を、助けてくれ」
 いや、ルーファスには分かっていたのだ。
 ……アイツが死ぬ姿は見たくない、けれどきっと彼は迷うことなく選択する、と。
 そんな『選択』の前に声を掛けたのは、ルーファスの最後の足掻き。
 理は血が滲みそうな程、ぐっと強く拳を握りしめて。
 声を振り絞り、続ける。
「助けてくれ……! 生かしてくれよッ!」
 隣で己を見つめる紅蓮の瞳。そのいろと、視線が重なって。
 まるで彼の身を飾るその花の如く、紫の瞳に赤が咲く。
 けれど理は、縋るように背後の人物を見上げ、必死に叫ぶ。
 ……助けてくれ、生かしてくれと。
 その心の中で……彼を、助けてくれと。
「それが『選択者』のこたえ、ですね。赤は、最後に何かひとこと、ありますか?」
 そして問われた声に、ルーファスは穏やかに笑ってみせる。
「――そう、それで良い、オレを殺せ」
 だから、理も頷けるのだ。
 ……ああ、そうだ。これでいい、と。
 それでいい、と彼が言ったから。
 だから――死ぬのは、俺でいい、って。
 刹那……トン、と背中を押され、宙に投げ出される理の身体。
(「嗚呼、やっぱり。何もかも、知っていた。こうなる事は分かってた」)
 ……だって情報通りだったら、きっとお前は自分を犠牲にする。
 ……お前にはオレを殺せない。
 ルーファスにはそれが、分かっていたのだけれど。
 先程まで、すぐ隣に在ったのに。
 もう、その姿は――残酷な空と海のいろに落ちて、攫われてしまって。
 けれどそれでも、ルーファスは確かに伝えたかったのだ。
 いや、それが分かっているからこそ……せめてマコに生きて欲しい、と。
 でも――覚悟はしていても。
「マコッ!!!!」
 勝手に動く身体、彼の名を呼ぶ声。
 ――身体が宙に浮く。
 そうふと見上げれば、理の瞳に映るのは、目を見開く彼の姿。
 そんなルーファスにそっと微笑み返して……左手を、伸ばそうとしたけれど。
(「……ああ、くそ。縄が邪魔で、」)
 ――別れも言えやしない。
 理はそう苦笑しながらも、落ちてゆく。
 紅蓮のいろを見つめながら――助けてくれよ、と。
 助けてくれ、生かしてくれ……"彼を"生かしてくれよ、って。
 そう、理は願う。
 だって、生きていけないから。
(「この人がいない世界で、俺はもう――生きていけないんだ」)
 彼が居ない世界でなんて、もう、生きていけないから。
 けれど、そんな理にはもう届かない。
 伸ばした腕も、この声も、きっと。
 ルーファスはただ落ちてゆく彼に――嗚呼、と声を漏らし、そして紡ぐ。
 ……――独りで逝くなよ、って。
 だって――何があってもオレが守るよって、そう内緒で誓ったのだから。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

朱赫七・カムイ
⛩神櫻
赤☆

きみを守るよ、サヨ
私の愛し子
可愛い巫女
さいあいのきみ
…私はサヨの為に在る神

私が青の薔薇を掴んだはずだった
カラスと協力して青の薔薇をとった
なのに私の手にあるのは赤

ご丁寧にカラスまで縛られている
…サヨ、わかっているね
私を救うと言うんだ
私はきみの神だ
巫女が神を救うのは当たり前だろう?
私を救いなさい

―そうすればきみは助かる
例え芝居でもサヨが傷つくのは嫌だ
…耐えられない
考えたくもない
きみがいない世界に意味はない

櫻宵!言うことをきいてくれ!
カグラと一緒にきみが笑う
やめて
いかないで
離したくない
もう待てない

―私はもう
きみを喪いたくない!

櫻が散り堕ちるのと
心の底
何かの縛めが千切れるのは
きっと同時だった


誘名・櫻宵
🌸神櫻


カムイ
私の神様
ずっとあなたを待っていた
私の前世からの親友―私の師匠
魂より慕うあなた
あなたを守るわ

共に縛られたカグラが笑えば薔薇にかけた偽りの結界がとける
私の手には青薔薇が
カムイ
あなたにはやっぱり赤が良く似合う

うふふ
嫌よ
私はね、私が良ければいい
だから救われるのは私だけでいいの
私の神様だもの
私のためにしんでくれるでしょう?
かぁいい私の、私達の神様
慈しむように、カグラと共に笑みを向ける

―もう、偽りでも何でも
私はあなたがしぬところなんて見たくないのよ
神は死なぬ身だなんて関係ないの

堕ちるのは一瞬

最後にきこえた、悲痛な叫びが
―いっそ愛おしい

桜と身を変えて散る寸前
カグラと視線を交わらせ密かに笑う



 巫女と神、そして愛しいひと。
 だって、ずっとあなたを待っていたのだから。
 私の前世からの親友――私の師匠、と。
 誘名・櫻宵(爛漫咲櫻・f02768)は彼の名を呼ぶ。
 カムイ……私の神様、って。
 そして桜の如く美しい笑み咲かせ、告げる。
「魂より慕うあなた。あなたを守るわ」
「きみを守るよ、サヨ」
 私の愛し子、可愛い巫女……さいあいのきみ。
「……私はサヨの為に在る神」
 そう、朱赫七・カムイ(約倖ノ赫・f30062)は、眼前に咲く櫻宵の為に在る神なのだから。
 だから、選ぶ花のいろは迷わず青。
 カラスと協力して手にした薔薇は、青……だった、はずなのに。
「カムイ、あなたにはやっぱり赤が良く似合う」
 ふふ、と悪戯っこの様に、櫻宵とカグラが顔を見合わせ笑えば。
 彼の手に在る薔薇が、本当のいろに染まる。
 薔薇にかけた偽りの結界がとければ……カムイの手に咲くのは、赤のいろ。
 櫻宵やカムイだけでなく、ご丁寧にカグラやカラスまで縛られている現状。
 そして――青を手にした『選択者』櫻宵へと、背後の声が問う。
「青を選んだ貴方は『選択者』です。赤と青――どちらがここで死に、どちらが生き延びますか?」
「……サヨ、わかっているね。私を救うと言うんだ」
 カムイは必死に櫻宵へと言って聞かせる。
 赤を持つ己に、選択権はないのだから。
「私を救うと言うんだ。私はきみの神だ、巫女が神を救うのは当たり前だろう?」
 ――私を救いなさい、と。
 だって、櫻宵がそう言ってくれれば。そう言ってさえくれれば。
(「――そうすればきみは助かる」)
 カムイはそして、ふるりと首を横に振る。
 ……耐えられない。
 ……考えたくもない。
(「例え芝居でもサヨが傷つくのは嫌だ」)
 何より嫌だと、心からそう思うから。
 ――きみがいない世界に意味はない、って。
 けれど、櫻宵は春咲く桜霞の瞳を細めて笑う。
 ……うふふ、嫌よ、って。
「私はね、私が良ければいい。だから救われるのは私だけでいいの。私の神様だもの。私のためにしんでくれるでしょう?」
 ――かぁいい私の、私達の神様。
 櫻宵はそうカグラと共に、自分達の神様へと笑みを向ける。
 慈しむようないろを、艶やかに咲かせながら。
 そんな巫女の言葉に、大きく見開かれる朱砂の彩。
「櫻宵! 言うことをきいてくれ!」
 それでも、カグラと一緒にきみは笑っていて。
「それが『選択者』のこたえ、でよろしいでしょうか?」
 訊ねられた言の葉に、ええ、と頷いてみせる。
 だって――嫌だから。
(「――もう、偽りでも何でも、私はあなたがしぬところなんて見たくないのよ」)
 神は死なぬ身?
 そんなことなんて、関係ないの。
 ただ、見たくないの。もう二度と……偽りであっても、何であっても。
 あなたが、しぬところなんて。
 ――だから。
「赤は、最後に何かひとこと、ありますか?」
「やめて、いかないで、離したくない――もう待てない」
 守るために、巫女は空に舞う。
 私の神様をしなせないために……自分がしぬのを迷わず選ぶのだ。
 刹那――トン、と背中を押されれば。
 堕ちるのは、ほんの一瞬。
 艶やかな花灯の桜鼠が、まるで桜を咲かせるように、常夜の空へとふわり広がって。
 そして昏い底へと、真っ逆さまに落ちてゆく。
「――私はもう、きみを喪いたくない!」
 最後にきこえた、そんな悲痛な叫び。
 けれど、それがまた――いっそ、愛おしい。
 ――さくら、さくら 花ざかり。
 カグラと視線を交わらせ、密かに笑い合えば。
 瞬間、桜華絢爛――ぱっと満開に咲き誇って。
 はらり、ひらりと……美しくも儚く散りゆく、宵を誘う桜花弁。
 そしてきっと――そんな櫻が散り堕ちるのと、同時だった。
 カムイの心の底で……何かの縛めが、千切れたのは。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

黒柳・朔良
我が主(f29142)と
薔薇の色:赤

雰囲気で察せられる
今は碧唯様ではなく、華織様なのだろう
華織様が選択なされるのならば間違いは……

っ、華織様、待ってください!
生き残るのは私ではいけません
それに呪縛などとは私は決して思っていない
私が私であるのはあなた方の影であるが故なのですから!

いや、理解している
これは必要なことだと、ちゃんと解っている
それでも、その拒絶を聞きたくはなかったと思うのは当然じゃないか

暗い崖の下に落とされる中で自分が落とされたことに安堵する
それと同時に冷静さを取り戻し、選択UCで作り出した影人形に碧唯様、もとい華織様を追わせよう
あのような言葉を華織様に言わせたその罪を償わせてやる


神在月・碧唯
我が影(f27206)と
副人格:華織
薔薇の色:青

やはり碧唯に選択させるのは酷というもの
状況は私も中で見ていたから存じているつもりだ
故に、ここは私(華織)が選択をするよ

選択するのに1分という時間はあまりにも長く、そして短い
……「私達」は朔良を生かすことを選ぶよ
朔良を私達という呪縛から解き放ってあげたいからね

はは、朔良がいつになく必死だ
取り繕うことも出来ないほどに動揺しているようだね
でもね朔良、これは必要なことなんだ
その意味、君なら理解してくれるね?

ゆっくりと目を閉じて落とされる時を今か今かと待とう
衝撃はいくらたっても訪れないことは解っている
……結局、朔良を呪縛から解き放ってあげられそうにないな



 目覚めたのは、森の中の教会ではなくて。
 断崖絶壁にたつ、時計塔の頂上。
 そして黒柳・朔良(「影の一族」の末裔・f27206)の隣に在るのは、主である神在月・碧唯(その優しさは時に残酷で・f29142)……いや、主は主でも、今は違う。
(「やはり碧唯に選択させるのは酷というもの」)
 だって、彼女は優しすぎるから。
 状況は中で見ていて分かっているつもりだから――故に、ここは私が選択をするよ、って。
 そう藍色の瞳を細めるのは、碧唯の副人格である華織。
 そして今の主が華織であることを、朔良もその雰囲気で察していた。
(「今は碧唯様ではなく、華織様なのだろう」)
 そんな華織の胸に咲くのは、碧唯が手にした青い薔薇。
 正確に言えば、先に赤い薔薇を朔良に取られてしまったから……もうひとつのいろ。
 けれど青を手にした者に、『試練』の執行者は問う。
「青を選んだ貴方は『選択者』です。選択の猶予は1分」
 赤と青――どちらがここで死に、どちらが生き延びますか? と。
 だが、朔良は確信している。
(「華織様が選択なされるのならば間違いは……」)
 そして……選択するのに1分という時間はあまりにも長く、そして短い、と。
 華織は小さく髪を揺らし、首を傾けてみせてから。
 青の『選択』を告げる。
「……「私達」は朔良を生かすことを選ぶよ」
 ――朔良を私達という呪縛から解き放ってあげたいからね、って。
「それが『選択者』のこたえ、ですね。赤は、最後に何かひとこと、ありますか?」
 そんな主の言葉と、今度は自分に向いた問いを耳にしながら、朔良は声を上げる。
「っ、華織様、待ってください! 生き残るのは私ではいけません」
 そして大きく首を横に振り、全力で否定する。
「それに呪縛などとは私は決して思っていない」
 ――私が私であるのはあなた方の影であるが故なのですから! と。
 主の影であることこそが、自分の存在意義。生きる意味なのだから。
 だがもしも、そうでなくなってしまえば――。
「はは、朔良がいつになく必死だ」
 そんな朔良の必死な様子に華織は笑みながらも。
 その心に、そっと思う。
(「取り繕うことも出来ないほどに動揺しているようだね」)
 これは演技なのだ、敵を欺くための。
 だから華織は、己の影に言って聞かせる。
「でもね朔良、これは必要なことなんだ」
 ――その意味、君なら理解してくれるね? って。
 ……いや、理解しているのだ。
 朔良だって、ちゃんと解っている。
 主の言うように、これは必要なことであるのだと。
 ……けれど、それでも。
 朔良はもう一度、ふるりと思わず首を横に振る。
 ――その拒絶を聞きたくはなかったと思うのは当然じゃないか、って。
 だって自分はやっぱり、主の影であるからこその自分なのだから。
 その拒絶の言の葉が、たとえ演技だとしても……どうしても、心がざわついてしまうのだ。
 そしてゆっくりと、静かに目を閉じる華織。
 落とされるその時を、今か今かと待つかのように。
 けれど、解っている。落ちゆく衝撃がいくらたっても訪れないことは。
 かわりに……トン、と押されるのは、朔良の背中。
 そして一瞬の浮遊感の後、真っ逆さまに落ちてゆきながらも。
 朔良は心から安堵する。暗い崖の下に突き落とされたのが、自分であったことに。
 それと同時に冷静さを取り戻し、影として成すべきことを遂行する。
 発動させた『影の追跡者』によって作り出した影人形に、碧唯を……もとい華織を追わせて。
 落ちてゆきながら、その胸の内に思うのだった。
 ――あのような言葉を華織様に言わせたその罪を償わせてやる、って。
 そして華織は、落ちる瞬間の朔良の安堵した表情を思い返しながらも。
 そっと、己の影が落ちていった常夜の空へと呟きを落とすのだった。
 ……結局、朔良を呪縛から解き放ってあげられそうにないな、って。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ティル・レーヴェ
【花結】
意識戻れば縛られし身
焦りを作り見廻す視線
捉えた彼の姿にきぅとなる胸は
偽りも無く

――これは、どうして?
震え紡ぐ声に向けられし選択へ
紡ぐ言葉に偽りは無い
きっと…結末を知らなくても
なんて其れは
悟られぬよに裡へ秘めて

選ぶ、権利
それが妾にあるというの?
ならば迷いなど
妾の命など差し上げるから
どうか彼を奪わないで
妾に彼の命を奪わせないで
そんな選択は…死よりもつらい

溢れる涙は儘に流れて
あなたの言葉も胸に沁みる
だからこそ
妾は笑ってあなたを見るの
安心させるよに
落ちる身の最期の笑みとしても見えるよに

あゝけれど希くば
あなたが落ちる瞬間の
妾の顔だけは見ないでいて

信じていても其の瞬間は
胸の痛みで
絶望に似て歪むから


ライラック・エアルオウルズ
【花結】

結ぶ視点で、真先に
隣とある君を見やる
混乱や恐怖は偽りでも
君想う心は、真として

頼む、彼女を離してくれ
権利が無いと知りながら
救えないかと身動いで
短い猶予で、君が、僕が
それを確と選び取れば
澄んだ声で裡を儘に紡ぐ

嫌だ、君が居なくては
僕は生きてはいられない
生きゆく年月の内を思うなら
たった、ひとときであろうけど
僕にはそれが――君が全てなんだ

故に、奪われはしない
背押され空落ちる間際
笑みに、端に捉えたものに
心締め付けられるようで
これでいいと呟く裡に
謝罪の詞を浮かべた

身の痛みなら耐えられる
然し直ぐ駆けられるよう
落下時の衝撃は防ぎ抑え

嘘で泪零せる君ではないから
伸ばせぬ手がもどかしいんだ
どうか、待っていて



 ゆらり漂う意識を引き戻したのは、海の香がする頬を掠める冷たい風であった。
 薄らと瞳を開けば、身動きが出来ぬ事に気が付くけれど。
 縛られた己の事よりも、巡らせた藤の彩りが捉えた彼の姿に、ティル・レーヴェ(福音の蕾・f07995)の胸はきぅと締め付けられる。
 それは、何の偽りもない本当の想い。
 ライラック・エアルオウルズ(机上の友人・f01246)も、定まってきた視点で真先に探すのは彼女の姿。
 すぐ隣にそれが在ると知れば、紫丁香花が柔く細まるのは気取られるよう一瞬。
 偽りの混乱と恐怖のいろを纏ってみせるけれど、その心に咲かせる君への想いはいつだって真なるいろ。
 けれど、そんなふたりへと……いや、青き薔薇を飾った彼女へと、無機質な声が向けられる。
「青を選んだ貴方は『選択者』です。貴方には、選ぶ権利が与えられます」
「――これは、どうして?」
 震え紡ぎティルは問い返すけれど、こたえはなく。
 逆に、非情なる選択が突き付けられる。
「選択の猶予は1分です。赤と青――どちらがここで死に、どちらが生き延びますか?」
 向かうと決めた時から、分かっている。傷つけてしまうことは。
 けれど、それが彼の裡であるか身であるかは、選択するまでもなく。
「選ぶ、権利。それが妾にあるというの?」
 そう首を傾げてみせながらも、ティルは彼の為でもあり、己の為に紡ぐつもりだ。
 ふたりで決めた、選択を。
 紡がんとするその言葉に偽りは無い。
 きっと……己が言の葉を以って『選択』した後の、結末を知らなくても。
 なんて其れは、裡へ秘める。悟られぬように、大切に。
 けれど執行者の問いに声を先にあげたのは、ライラックであった。
「頼む、彼女を離してくれ」
 しかし、胸に揺れる薔薇が赤である彼に選択権はない。
 勿論それを知りながらも、ライラックは身動ぐ……救えないかと。
 青に与えられし猶予は短い刻。動く時計の針は待ってはくれない。
 けれどその短し間に、それを確と選び取る――君が、僕が、と。
 だから上げた彼の声は澄んでいるのだ。
 裡を儘に言の葉にして、紡いでいるのだから。
 選ぶ権利があるのは、青き『選択者』の自分。
 ならば迷いなど、と――ティルは『選択』を告げる。ふたりで決めた運命を。
「妾の命など差し上げるから、どうか彼を奪わないで。妾に彼の命を奪わせないで」
 ――そんな選択は……死よりもつらい、と。
 ちりと痛む心。その言葉に嘘はない決して。
 けれど……そう紡いだことによって何が起こるのかを、知ってしまっているから。
「それが『選択者』のこたえ、ですね。赤は、最後に何かひとこと、ありますか?」
「嫌だ、君が居なくては。僕は生きてはいられない」
 ふるりと、大きく首を横に振るライラック。
「生きゆく年月の内を思うなら。たった、ひとときであろうけど。僕にはそれが――」
 ――君が全てなんだ。
 届く言の葉に、儘に流れ溢れる涙。
 ……あなたの言葉も胸に沁みる。
 だからこそ、ティルは笑ってみせる。
 落ちる身の最期の笑みとしても見えるように。
 何より、見つめるあなたを安心させるように。
 けれど……あゝけれど希くばと。ひとつだけ、ティルは思うのだ。
 刹那――トン、と。
 背中押す手が、彼の身を、常夜の空へと舞わせる。
 ……故に、奪われはしない。
 空落ちる間際、笑みに、端に捉えたものに、心締め付けられるようで。
 ライラックが落ちゆきながらも浮かべたのは、謝罪の詞。
 これでいいと呟く裡に。
 そんな彼に、ティルはひとつだけその心に願いを紡ぐ。
(「あなたが落ちる瞬間の、妾の顔だけは見ないでいて」)
 だって、きっと絶望に似て歪むから。
 この胸の痛みで……信じていても、其の瞬間は。
 己でこの身を落とすことも、嘘を紡ぐこともできぬ自分のかわりに、彼女が『選択』してくれた。
 けれど身の痛みなら耐えられる、だからせめてと。
 直ぐ駆けられるよう、落下時の衝撃を防ぎ抑えるべく備え落ちてゆきながらも。
 ライラックは最後に見た君の顔を思い、空へと綴る。
(「嘘で泪零せる君ではないから」)
 ……伸ばせぬ手がもどかしいんだ、と。
 けれど、小さくなりゆく愛しあなたへと告げる想いは、唯ひとつ。
 ――どうか、待っていて、って。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

栗花落・澪
【狼兎】
えっ、な、なにこれ、えっ!?

縛られている事に慌てた【演技】をしつつ
ちらりと横目で状況把握
…なるほど、難しそうだね
海中真っ逆さまか…途中でぶつかったら痛そうだけど
思考はいつでも冷静に

なにその質問、悪趣味
聞かなくていいよ紫崎君!

中々答えない彼の分まで演じつつ
覚悟を伝えるように目配せ

――大丈夫だから

けれど…でも
そんな言葉が聞けるなんて思わないじゃない
そんなに、考えてくれてたなんて
零れそうになった涙は噛みしめて

紫崎君が…救った命だから
僕は…従うよ
生きろって言うなら…僕は、一人でも…

震える声は、演技だと思ってもらえたかな
水中に落ちたら深く沈んでから【指定UC】で呼吸だけ確保
暫く海中に潜んでおくよ


紫崎・宗田
【狼兎】
澪の様子に極めて小さな溜息を
だから言わんこっちゃねぇ
脳裏を過るのはそんな一言

翼が出せない事は本人が一番わかっている筈
そのうえでもし僅かでも怯えを見せるなら
本人には無断で選択を変えるつもりだったが

思い悩むように猶予ギリギリまで選択を粘り
ほんの一瞬交わした目配せで覚悟を決める

…俺を殺せ
元々戦場で生きていた身だ
死ぬのは別に怖くねぇ
だが…そいつは別だ
自由を知らずに生きてきて
ようやく自分の足で歩けるようになったばかりで
まだ死ぬには早ェ
だから、頼む
俺にしてくれ

決して嘘は言ってねぇ
本人にすら告げてない俺の本心だ

澪が落とされたら
テメェッ…!
と焦りを滲ませた反抗的な態度を
いつか後悔しても知らねぇぞ



 先程までは確かに、森の教会で祈りを捧げていたはずなのに。
「えっ、な、なにこれ、えっ!?」
 気が付けば、海を臨む断崖絶壁にたつ、時計塔の頂上。
 しかもその身が確りと縛られていれば、栗花落・澪(泡沫の花・f03165)が慌てるのも無理はない。
 いや……それは、慌てたような演技で。
(「……なるほど、難しそうだね」)
 澪の思考は至って冷静であった。
 少しそっと力を入れてみても、解けそうになく翼も出せそうにない。
 だから、此処から突き落とされれば。
(「海中真っ逆さまか……途中でぶつかったら痛そうだけど」)
 そっと怯える演技をしながら下を覗き込んでみても、さすがに完全に地形は把握できそうにない。
 そんな澪の様子に極めて小さな溜息をつきながらも。
 紫崎・宗田(孤高の獣・f03527)の脳裏を過るのはこの一言に尽きる。
 ――だから言わんこっちゃねぇ、と。
 けれど、一方的に与えられる理不尽な『試練』は、待ってはくれない。
 宗田へと不意に向けられる、背後からの声。
「青を選んだ貴方は『選択者』です、貴方には選ぶ権利が与えられます。赤と青――どちらがここで死に、どちらが生き延びますか?」
「なにその質問、悪趣味」
 ……聞かなくていいよ紫崎君!
 そうぶんぶんと大きく首を横に振ってみせる澪の姿を、宗田は見遣る。
 問いの答えはまだ、口にしないまま。
 だって、宗田はその心に密かに決めていたから。
(「翼が出せない事は本人が一番わかっている筈。そのうえでもし僅かでも怯えを見せるなら」)
 ――本人には無断で選択を変えるつもりだ、と。
 そして思い悩むように、猶予ギリギリまで選択を粘ってみるけれど。
 でも、そんな彼が覚悟を決めたのは……視線重なった一瞬。
 中々答えない自分の分まで演じつつ、澪が目配せで伝えてきた覚悟。
 ――大丈夫だから、って。
 だから、ひとつ息を吸って。宗田も澪の覚悟に、覚悟でこたえる。
「……俺を殺せ」
 紡がれた『選択』は、猶予の刻を超えんとした直前。
 そしてさらに、宗田は続ける。
「元々戦場で生きていた身だ。死ぬのは別に怖くねぇ。だが……そいつは別だ」
 再び交わる視線。自分を見つめる円らな琥珀のいろ。
 宗田は選択者として、執行者へと乞う。
「自由を知らずに生きてきて、ようやく自分の足で歩けるようになったばかりで。まだ死ぬには早ェ」
 ――だから、頼む。俺にしてくれ、と。
 決して嘘は言っていない、己の本心を儘に。
 本人にすら告げていないその想いを。
 覚悟は決めているし、宗田が告げた『選択』は予定通りのものではあるけれど。
 けれど……でも。
(「そんな言葉が聞けるなんて思わないじゃない」)
 宗田の紡ぐ言の葉が嘘ではないことは、見ていてわかるから。
 ……そんなに、考えてくれてたなんて、って。
 澪が噛みしめるのは、零れそうになった涙。
 だからその想いにこたえるように、澪は最後まで演じてみせる。
「それが『選択者』のこたえですね、赤は最後に何かひとこと、ありますか?」
「紫崎君が……救った命だから。僕は……従うよ」
 ――生きろって言うなら……僕は、一人でも……。
 そう震える声で言い終わった、瞬間。
 澪が感じるのは……トン、と。
 背中を押された感触と、一瞬の浮遊感。
 そして宙に投げ出されたその身は落ちてゆく。真っ逆さまに、下へと。
「テメェッ……!」
 澪が落とされたのを見て、焦りを滲ませ声を荒げてみせる宗田。
 ……大丈夫だとは、分かっているけれど。
 そして時計塔から見えなくなった澪の身は、深く深く落ちた海へと沈んでゆく。
 水の精霊の力を借りて……ちゃんと呼吸だけ確保して。
 それから何処かへ……恐らく敵の拠点へと、連行されながらも。
 反抗的な態度を取りつつ、宗田は背後の執行者達へと言葉を投げる。
 ――いつか後悔しても知らねぇぞ、と。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

逢坂・宵
ザッフィーロ(f06826)と

目が覚め、慌ててかれの姿を探せば
縛られた彼の姿に目を瞠ってから 身動きの取れない自分に気づき

いつもは穏やかで天然の気のあるかれが痛ましいほどの必死の形相で叫ぶかれには微笑んでみせて
これは迷いません――僕を、落とし、かれを助けてください
迷わずそう答えたのち、最後の一秒までもかれの姿を見ていたくて眺めていたけれど――

僅かな動作の後、かれのロープを持つ人物の手が離されれば戦慄が身体に走り
ちょっ……!?
ザッフィーロ、ザッフィーロ……!
満足げにも見えるかれの表情に
次第に遠くなってゆくかれの姿に
頭が真っ白になってしまう
どうして……
落ちるのは、僕のはずではなかったのですか……?


ザッフィーロ・アドラツィオーネ
宵f02925と

ロープで縛られた己の姿を知覚すれば思わず宵へと視線を向ける
選択権のある薔薇を選んだ宵ならばきっと俺ではなく自身が落ちる様な選択をしようとするのだろう
幾ら本体が無事なら死なぬとはいえ激しい痛みは感じるだろうからな
宵が苦痛を覚える事は避けねばと、必死な形相で宵、俺を落とせとそう説得をしよう
だが、宵の笑みと声を捉えれば絶望に思わず血の気が引いてしまうやもしれん
宵…お前は、本当に…っ
敵からの問いには、俺を落とせとそう、言って居るだろう。その手を離せとロープを握る相手へ己を落とす様声を
浮遊感を感じれば安堵するような笑みと共に宵へ視線を
そのような顔をするなと…。…だが、本当に俺で良かった



 手を繋いで辿り着いたのは、森の奥の教会で。
 ふたり並んで、共に祈りを捧げていたはずなのに。
 ふと揺蕩っていた意識を取り戻し、銀の瞳を開いたザッフィーロ・アドラツィオーネ(赦しの指輪・f06826)は知覚する。
 確りと縛られて動けぬ、己の様に。
 けれど瞬間探すのは、隣に在ったはずの逢坂・宵(天廻アストロラーベ・f02925)の姿。
 いや……今も宵がザッフィーロの隣にいることに、変わりはなかったのだけれど。
 冷たい風を感じて目が覚めた宵も、慌ててかれの姿を探せば、思わず深宵の瞳を瞠ってしまう。
 縛られた彼の姿に……そして、身動きの取れない自分に気づいて。
 そしてそんな宵へと投げられるのは、背後から紡がれた問い。
「青を選んだ貴方は『選択者』、選ぶ権利が与えられます。赤と青――どちらがここで死に、どちらが生き延びますか?」
 宵の胸に飾られた薔薇のいろは、青。そう、選択権は彼にあるのだ。
 ザッフィーロはそんな宵を見つめながらも思う。
(「選択権のある薔薇を選んだ宵ならば、きっと俺ではなく自身が落ちる様な選択をしようとするのだろう」)
 幾らヤドリガミである彼にとって、本体が無事なら死なぬとはいえ。
 でも、やはり耐えられないから。
(「激しい痛みは感じるだろうからな。宵が苦痛を覚える事は避けねば」)
 隣の彼が、痛い思いをするようなことは。
「宵、俺を落とせ。必ず俺が落ちる様にするのだぞ……!」
 いつもは穏やかで、天然の気のあるかれ。
 けれどそんなザッフィーロが、痛ましいほどの必死の形相で、説得するように紡ぐ言の葉。
 宵はそう自分に訴えるかれに、微笑んでみせて。
 これは迷いません――そう、青の『選択』を口にする。
「――僕を、落とし、かれを助けてください」
 自分へと向けられた宵の笑みと、告げられたその声を捉えれば。
 絶望に、思わず引いてしまう血の気。
「宵……お前は、本当に……っ」
 ザッフィーロはふるりと首を横に大きく振りながらも、背後の執行者へと声を向ける。
「俺を落とせとそう、言って居るだろう。その手を離せ!」
 けれど彼が見に纏う薔薇のいろは赤。赤は、選択を待つ者なのだ。
 そして迷わず答えた後、宵はそんな必死な彼の姿だけを星纏うその瞳に映す。
 最後の一秒までもかれの姿を見ていたくて。
 その姿を、眺めていたのだけれど――。
「ちょっ……!?」
 刹那、宵の身体に走る戦慄。
 僅かな動作の後、かれのロープを持つ人物の手が離されたのだから。
「ザッフィーロ、ザッフィーロ……!」
 背中を押され、宙に投げ出されたのは、かれ――ザッフィーロの方であったから。
 そして一瞬の浮遊感を感じれば、ザッフィーロは安堵するように笑んで。
 落ちゆくその一瞬――柔く細めた銀のいろを、微笑みと共に宵へと向ける。
 ――そのような顔をするなと……。
(「……だが、本当に俺で良かった」)
 瞬間、ザッフィーロは常夜の空を落ちてゆく。荒波たつ海へと真っ逆さまに。
 そんな最後に己に向けられた、かれの表情に。
 次第に遠くなってゆくかれの姿に。
「どうして……」
 頭が真っ白になってしまって。
 残された宵は、絶望のいろを纏う呟きをただ、零すことしかできなかった。
 ――落ちるのは、僕のはずではなかったのですか……? と。
 昏い闇に攫われたように見えなくなった彼の姿を、いつまでもその深宵の瞳で探しながら。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

氷月・望


楪(f16731)と
アドリブ歓迎

さて、と
俺が選択者ってコトで……【演技】しますか
選択の猶予が1分なら
30秒くらいは目を閉じて悩むフリ
その後、正気を喪った様に笑いながら高らかに叫ぶよ

はっ、ふざけんなっての
俺はまだ死にたくない、ゆーくんを落としてよ
ゆーくん、聞こえなかった?
俺が生き延びるって言ってんの
ははっ、ゆーくんってばアホ面晒してやんの

えー、だって俺は俺の命が大事だし?
ヴィランらしく、騙し討ちさせてもらおうと思ってさ
じゃあね、ゆーくん(にこやかに手をふりふり

この笑みがまさか
『ドッキリ大成功』の笑みなんて
敵サンは多分、気付かないんだろうなー
……ところで結構高くね?あっはは、やっちまったZE☆


月待・楪

氷月(f16824)と
アドリブ歓迎

作戦通り
俺だったら適当に落ちながら
念動力でやばそうな所を避けりゃいいし
派手にやるとバレるっつーなら、こっそりやりやすい方が話もはえーだろ

あー…一言な、それ全く考えてなかったんだ、が……は?
(氷月のセリフに呆然として驚く)

このッ…ふざけんな、クソ望!

相談したのと真逆を選ぶ氷月に腹が立つしイラつくし
一発蹴りてーくらいに悔しい
何より…死なないとわかってても
俺以外の手で、俺を残して
一人で落ちる姿が、嫌だ

落ちる姿を追いかけるように覗き込んで
ひづの表情を見て…殴らせろっつー気分になりつつ

落ちることを選んだなら何か対策でも練ってると思ったんだが
あいつ、もしかして
無計画か?



 ふたりで足を踏み入れたのは、深い森の中であったはずのに。
 今、眼下に広がるのは、常夜の空と真っ青な海。
 けれど、それは――聞いていた、想定内のこと。
 月待・楪(Villan・Twilight・f16731)は縛られた身でありながらも特に気にすることなく、予め立てている手筈を振り返る。
(「俺だったら適当に落ちながら、念動力でやばそうな所を避けりゃいいし。派手にやるとバレるっつーなら、こっそりやりやすい方が話もはえーだろ」)
 そんな楪が身に着けている薔薇のいろは、赤。
 青を選んで『選択者』とやらになって演技をするのも面倒臭いし。
 そういう演技だの言いくるめたりだのは、共に在る氷月・望(Villain Carminus・f16824)の方がきっと得意そうであるし。
 どちらかが突き落とされるのならば、それは自分の方が後々好都合であるから。
 何の懸念も不安もなく、むしろ作戦通りである。
 そして楪の隣で、同じ様に念入りに縛られながらも。
 望は、背後から聞こえてきた問いを聞きながらも思う。
「青を選んだ貴方は『選択者』です。貴方には選ぶ権利が与えられます。選択の猶予は1分です。赤と青――どちらがここで死に、どちらが生き延びますか?」
 自分の選んだ薔薇のいろは、青だから。
(「さて、と。俺が選択者ってコトで……演技しますか」)
 赤か青か……選択権は、望にある。
 選択の猶予は、1分。そのうちの30秒程度、目を閉じて悩むフリをする望。
 そんな望の演技をちらりと横目で見ながらも、楪はふと思い出す。
 赤の自分は、青の彼が選択を終えたら、最後のひとことを問われることを。
(「あー……そういや一言な、それ全く考えてなかったんだ、が」)
 ――けれど。
 瞬間、望は正気を喪った様に笑いながら、高らかにこう叫ぶ。
「はっ、ふざけんなっての。俺はまだ死にたくない、ゆーくんを落としてよ」
「……は?」
 最後のひとことを考えていた楪は、そんなことも一瞬で忘れた様に。
 望の言葉に、呆然として驚く。
 だって、聞こえてきた彼の『選択』は、立てた作戦と反対のものであったから。
 そんな驚きを隠せない楪の表情に、望は愉快そうに笑って。
「ゆーくん、聞こえなかった? 俺が生き延びるって言ってんの」
「それが『選択者』のこたえですね。赤は、最後に何かひとこと、ありますか?」
 そこで楪は、ようやく把握する。
 これから何が起こるのかを……最初から望が、そのつもりだったことを。
「このッ……ふざけんな、クソ望!」
「ははっ、ゆーくんってばアホ面晒してやんの」
 相談していた『選択』と真逆を選ぶ望に腹が立つし、イラつくし。
 一発蹴りてーくらいに悔しい……そう楪は頭にくるけれど。
 でも――それだけでなく、何よりも。
「えー、だって俺は俺の命が大事だし? ヴィランらしく、騙し討ちさせてもらおうと思ってさ」
 ――じゃあね、ゆーくん。
 にこやかにそう、望が手をふりふりした……瞬間であった。
「……!」
 背中をトンと押され――常夜の空へと突き落とされたのは、望の身体。
 作戦通りに選ばなかったこともムカつくけれど。
 でも……死なないと、そうは分かっていても。
「あァ、クソッ!!」
 楪は何よりも、イラついて仕方がないのだ。
(「俺以外の手で、俺を残して」)
 ……一人で落ちる姿が、嫌だ、と。
 それに、落ちゆく姿を追いかけるように覗き込めば。
 瞳に映るのは……まるでしてやったりというような望の表情。
 そんな顔を見れば、楪に生じるのは、殴らせろっつー気分。
(「この笑みがまさか『ドッキリ大成功』の笑みなんて、敵サンは多分、気付かないんだろうなー」)
 望は成功したドッキリと驚いた楪の顔を思い返し、悪戯っぽく笑んでから。
 一気に落ちてゆく感覚をおぼえつつも、ふとこう気付くのだった。
「……ところで結構高くね?」
 けれどすぐ、やっぱり楽しそうに笑う――あっはは、やっちまったZE☆ って。
 そして、落ちゆくその様を見ていた楪も気が付くのだった。
(「落ちることを選んだなら何か対策でも練ってると思ったんだが」)
 ――あいつ、もしかして……無計画か? って。
 そして、文句のひとつでも言って蹴ってやろうと、そう思うから。
 だから……早く、俺のところに戻ってこいと。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

木常野・都月
【狐々】

ここは…
(例の崖上の時計塔か)
(打ち合わせ通り。俺頑張ります!)

あんた誰だ!
姉さんに手を出してみろ。
タダじゃすまないぞ!

!?
姉さん、ダメだ!
ずっと…ずっと一緒にいるって言ったじゃないか!
頼むから独りにしないで!
姉さん!!

落ちだしたら、着水までに、こっそり風の精霊様に頼んで空気の確保を。
後はそのまま海の中にドボーンしよう。

海に潜ったら、ロープを切って、海の精霊様に陸地に運んでもらおう。

上手くいったかな。
クロムさんは…きっと大丈夫。
俺の尊敬する先輩妖狐だ。きっと大丈夫。

濡れた体から水の精霊様に離れて貰えば準備万端。

狐の姿になって、運ばれるクロムさんを遠くから追跡しよう。


クロム・エルフェルト
【狐々】
緞帳は上がっている、[演技]を続けよう

ここ、は。……都月は、何処?
隣を見やり、一先ず生きている事に安堵する
選、択。いったい、何の為に……?
誰にも言わない、から、私達を、見逃して。
恐怖と困惑の色を目に浮かべ、選択を迫る声の主に問う

問答の震える声に、[騙し討ち]でバレないよう微弱に
"今迄見て来た光景の再現。落ちた者の死を見る"
そんな錯覚を起こす[催眠術]を乗せる
声を触媒とする以上、私にも掛かってしまうけど……

都月、ごめんね。どうかお姉ちゃんの分まで、生きて――
私を落として欲しいと願い出る

都月?!……どうして……いや、……嫌ぁぁぁぁぁ!!!
落ちる弟の姿に、初めて出すような絶叫を上げ項垂れる



 ふたりで足を踏み入れた森のものとは違う、海の香りがする冷たい風。
 頬を掠めるその冷やかさに、狐耳をぴくりとさせてから。
 木常野・都月(妖狐の精霊術士・f21384)は、薄っすらとその瞳を開く。
「ここは……」
 先程までいた森とは、全く違った眼前の景色。
 そこは荒波寄せる海が真下に広がった断崖絶壁にたつ、時計塔の頂上であった。
 けれど、都月は心の中で思う。
 ……例の崖上の時計塔か、と。
 その身は動けぬほど念入りに縛られているけれど、でもこうなることは予知で聞いていたから。
 背後から感じる気配の主に悟られぬ程度に、こくりとひとつ頷く。
(「打ち合わせ通り。俺頑張ります!」)
 そう……今の自分達は、互いにキンダンの恋を抱いている姉弟。
 都月はそんな恋仲である姉――クロム・エルフェルト(縮地灼閃の剣狐・f09031)へと、そっと視線を向ければ。
「ここ、は。……都月は、何処?」
 同じタイミングで、クロムから発せられたのは不安気な声。
 いや……勿論、これも。
 ――緞帳は上がっている、演技を続けよう。
 そう、敵を欺くための作戦。
 慌てた様に巡らせた藍色の視線で弟の姿を捉えれば、一先ず生きている事に安堵してみせる。
 そんなふたりへと不意に投げられたのは、背後にいる者の声。
「青を選んだ貴方は『選択者』です。貴方には、選ぶ権利が与えられます」
 いや、その声は『選択者』――青い薔薇を選んだ、クロムへと向いている。
 そして執行者は、選択者に問う。
「赤と青――どちらがここで死に、どちらが生き延びますか?」
「選、択。いったい、何の為に……?」
「あんた誰だ! 姉さんに手を出してみろ。タダじゃすまないぞ!」
 不安気に尻尾揺らすクロムと、そんな姉を守ろうと威嚇するように言い放つ都月。
 そしてまたクロムも弟を守る様に、こう選択を迫る声の主へと乞う。
「誰にも言わない、から、私達を、見逃して」
 恐怖と困惑の色を目に浮かべ、震える声で。
 けれど……またそれも、策の一つ。
 発するその声に、気付かれないよう微弱にクロムは仕込む。
 "今迄見て来た光景の再現。落ちた者の死を見る"と――錯覚を起こす、催眠術を。
 何て言ったって、狐は騙すのが上手だから。
(「声を触媒とする以上、私にも掛かってしまうけど……」)
 だがむしろ、その方が好都合かもしれない。
 より、迫真の演技になるだろうから。
 ふたりを見逃して欲しいという願いは、やはり叶えては貰えないようだから。
 クロムはこう、『選択』を口にする。
「都月、ごめんね。どうかお姉ちゃんの分まで、生きて――」
 ……私を落として欲しい。
 そう、願い出る。
 そんな彼女の言葉に、都月は大きく瞳を見開いて。
「!? 姉さん、ダメだ! ずっと……ずっと一緒にいるって言ったじゃないか!」
「それが『選択者』のこたえ、でよろしいでしょうか? 赤は、最後に何かひとこと、ありますか?」
「頼むから独りにしないで! 姉さん!!」
 必死にそう、都月が声をあげた――瞬間だった。
「……!」
「都月!?」
 トン、と……背中を押されたのは、都月の方であった。
 そして宙に投げ出された弟の姿に、クロムは絶望のいろを一瞬にして宿して。
「……どうして……いや、……嫌ぁぁぁぁぁ!!!!」
 常夜の闇に吸い込まれるかのように真っ逆さまに落ちてゆく弟尾の姿を、その円らな瞳に映しながら。
 初めて出すような絶叫を上げて、受けた衝撃の大きさに項垂れる。
 そして――昏い海面へと落ちてゆく、その只中で。
 こっそり風の精霊様に頼んで空気の確保をしてから、そのまま海中にドボーン、と。
 都月は海に潜り、拘束を解いて、海の精霊様に陸地へと運んで貰いながらも思う。
(「上手くいったかな。クロムさんは……きっと大丈夫」)
 ――俺の尊敬する先輩妖狐だ。きっと大丈夫。
 そう何度も自分に言って聞かせる様に思いを巡らせながらも、彼女を信じて。
 濡れた体から水の精霊様に離れて貰えば、準備万端。
 見張りらしき敵達の間をするりと抜け、都月はゆらり尻尾を揺らしながら駆ける。
 まさか一匹の狐が、項垂れながらも連行されるクロムを遠くから追跡しているなんて、誰も気付かずに。
 だって化かして騙すことは、狐の専売特許だから。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

雨絡・環
アルフィードさん(f00525)と

風が冷たいこと
ええ、アルフィードさん
大丈夫とは言えないようですが、一先ずは?
此方の主は随分と良いご趣味をお持ちねえ

彼のお顔を見つめ
何か思案なさっているご様子
そして続くお言葉に
なるほど
そういう事でしたら合わせましょう

アルフィードさん
嗚呼、そんな
殺生に御座います
か弱い女の身で斯様な崖から落ちたら!
教会で互いをお祈り申し上げたばかりですのに
わたくしに死ねと仰るの
ひどいひと

ひと筋ふた筋と
涙も流してみせましょう
顔を伏せ
乱した髪が面を隠す
彼にだけ見える角度で
紅の唇が弧を描く

呆然とした表情を模り
彼が落ちた所を見遣って

お待ちしております
けれどどうか
退屈する前にお戻り下さいまし


アルフィード・クローフィ
環ちゃんと(f28317)一緒

冷たい風が
縛られて動けないね
環ちゃん大丈夫?
一応大丈夫なら良かった

青の選択
俺が落ちるのはいいんだけど
こいつらが素直な言葉にそのまま従うだろうか?
捻くれた奴は死ぬほど見て来た
こういう奴程、快楽主義者…だとしたら?
彼女が落ちる事になっても大丈夫、そんな自信もあって

環ちゃん、ごめんね
俺高いとこ苦手なの
環ちゃん高いとか大丈夫そうだから
俺の為に落ちてくれる?
悲しげな顔で彼女に訴える
涙を流す彼女にあっけらかん
だって死ぬの怖いもんと言いのけて

落ちる瞬間、笑う彼女の耳元で
君を助けに行くね、待っててね

わぁーーん!酷いよー!!騙されたー!!!と言いながら落ちていく
口元はニヤリと笑って



 さらりと金の髪を揺らすのは、森の木々の葉音を鳴らしていたものとは違って。
(「……冷たい風が」)
 意識を呼び戻すほどにひやりと冷えた、海の風。
 そしてアルフィード・クローフィ(仮面神父・f00525)は気が付く。
 確りと縛られていて、身動きが取れないことを。
 それからふと、すぐ隣で同じ様に縛られている雨絡・環(からからからり・f28317)へと声を掛ける。
「環ちゃん大丈夫?」
「ええ、アルフィードさん。大丈夫とは言えないようですが、一先ずは?」
 冷たい風に気が付けば、そこは森の教会ではなくて。
 海を臨む断崖絶壁にたつ、時計塔の頂上。
 その状況は大丈夫と言ってもいいものかとは思うが、特に怪我等もない様だから。
「一応大丈夫なら良かった」
 アルフィードはそう彼女へと笑みを向ける。
 けれど……背後から問われ突き付けられるのは、非情なる選択肢。
「青を選んだ貴方は『選択者』、貴方には選ぶ権利が与えられます。選択の猶予は1分です」
 ……赤と青――どちらがここで死に、どちらが生き延びますか? と。
「此方の主は随分と良いご趣味をお持ちねえ」
 環は、赤の薔薇を選んだ自分にではないそんな問いに、そう首を傾けてみせて。
 青い薔薇を選んだ『選択者』、アルフィードはふと思考を巡らせる。
(「青の選択。俺が落ちるのはいいんだけど……こいつらが素直な言葉にそのまま従うだろうか?」)
 ……こういう奴程、快楽主義者……だとしたら? と。
 だって、これまで死ぬほど見て来たから――捻くれた奴は。
 けれど同時に、こうも思うのだ。
 ……彼女が落ちる事になっても大丈夫、って。
 そんな自信もあるから、アルフィードは迷わずに『選択』する。
 悲し気ないろを宿した顔を、ふと向けて。
「環ちゃん、ごめんね。俺高いとこ苦手なの。環ちゃん高いとか大丈夫そうだから、俺の為に落ちてくれる?」
 そう、彼女に訴えるアルフィード。
 そんな彼の顔を、何か思案なさっているご様子、と暫くじぃと見つめていた環であったが。
(「なるほど。そういう事でしたら合わせましょう」)
 彼の乞う声を聞いてそう察し、口を開く。
「アルフィードさん……嗚呼、そんな殺生に御座います。か弱い女の身で斯様な崖から落ちたら!」
 そして、ふるりと大きく首を横に振って、続ける。
「教会で互いをお祈り申し上げたばかりですのに、わたくしに死ねと仰るの」
 ――ひどいひと、と。
 はらりぽろり……ひと筋ふた筋と、涙も流してみせながら。
 そんなはらはらと袖を濡らす環に、あっけらかんと言いのけるアルフィード。
「それが『選択者』のこたえ、でよろしいでしょうか?」
「うん、だって死ぬの怖いもん」
 そして、最後に何かひとことあるかと問われても。
 環は、ひどいひと、と顔を伏し泣くばかりで。
 乱した漆黒の髪が面を隠せば……ふっと弧を描く紅の唇。彼にだけ見える角度で。
 刹那……トン、と背中を押されて。
 宙に投げ出された一瞬、アルフィードは、笑う彼女の耳元で囁く。
 ――君を助けに行くね、待っててね、って。
 そして……真っ逆さま、一気に落ちてゆく。
「わぁーーん! 酷いよー!! 騙されたー!!!!」
 彼女と同じ様に……その口元にニヤリ、密かに笑み宿しながら。
 環は呆然とした表情を模り、彼が落ちた所を見遣りつつ。
 そっと銀の瞳を細め、その心に紡ぐ……お待ちしております、と。
 それから何処かへと連れ行かれながらも、こう続けるのだった。
 けれどどうか――退屈する前にお戻り下さいまし、って。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

篝・倫太郎
【華禱】
……え?なんで縛られてんの?
夜彦?

疑問を口にして
一緒に居た夜彦の名を呼んで
無事な姿に安堵する

どちらを選ぶかなんて判り切ってる
自分が落ちる為に、赤を、俺を、選ぶだろう

選択を聞いて身体を強張らせる
どうして、なんで、そう言いたいのに言えない
そんな様子に見えるだろうか
俺は、泣き出しそうな顔をしてるだろうか

いつだって、この人は自己犠牲を良しとする
それが酷く痛い
それ故の表情だと、判るだろうか
夜彦には、判るんだろうな……
敵には判らなくても――

あんたの選択がそうなら……
なんて言うか、馬鹿!
許さないからな!覚えてろよ!夜彦!

自己犠牲への憤り
墜ちる夜彦と残された俺
判ってたって自然と零れる言葉

どうして……?


月舘・夜彦

【華禱】
倫太郎、私は大丈夫です
ですが、薬か何かの効果で拘束を解くことは出来ません

選択を与えられれば、迷わず答えは決められる

私は此処で死ぬ訳にはいかないのです
……彼を、落としてください

その答えが何を意味するのか
倫太郎も私のことですから分かっているでしょう

それでも……嗚呼、やはり悲しませてしまった
その表情が敵にとって裏切られた衝撃や悲しみだと思わせられればいい
……そんなことはないのに

私の行動や考えを肯定してくれる貴方だから甘えてしまう
ですが、私が物だから仮の肉体だからではなく
貴方を喪うくらいなら、私は死んでも構わない

……でも、貴方も同じなのですよね
その顔を見れば分かります

倫太郎……ごめんなさい



 共にふたり、すぐ隣に並んでいることは、変わらないのに。
 繋いでいたその手は離れ、冷たく吹く海風が、感じていた温もりも奪ってゆく。
 薄っすらと瞳開けばそこは、森の教会の風景ではなく……海が広がる断崖絶壁にたつ、時計塔の頂上。
 いや、その場所もであるのだが。
「……え? なんで縛られてんの?」
 篝・倫太郎(災禍狩り・f07291)はそう、己の身に起こった疑問を口にして。
 ――夜彦?
 一緒に居た彼の名を呼んでみれば。
「倫太郎、私は大丈夫です」
 返る声と無事な姿に、安堵する。
 けれど月舘・夜彦(宵待ノ簪・f01521)も、倫太郎と同じ様に縛られていて。
「ですが、薬か何かの効果で拘束を解くことは出来ません」
 そうふるりと、首を横に振ってみせる。
 そんな夜彦へ……青い薔薇を手にした『選択者』へと、背後から降る声が問う。
「青を選んだ貴方は『選択者』です。貴方には、選ぶ権利が与えられます」
 ……赤と青――どちらがここで死に、どちらが生き延びますか? と。
 選択権は、夜彦にある。
 けれどそれは、彼によく似合ういろだから。
 与えられた権利に、夜彦は迷わず答えを決められる。
 それに、赤のいろを咲かせた倫太郎だって、わかっているのだ。
 夜彦がどちらを選ぶかなんて……判り切ってる。
「私は此処で死ぬ訳にはいかないのです。……彼を、落としてください」
 自分が落ちる為に――赤を、俺を、選ぶだろう、って。
 その答えが何を意味するのか。
(「倫太郎も私のことですから分かっているでしょう」)
 自分の考えを彼が分かっていることを、夜彦も知っているから。
 ――でも、それでも。
 青の、夜彦の『選択』を聞いて、身体を強張らせる倫太郎。
 ……どうして、なんで、って。
 そう言いたいのに言えない、そんな様子に見えるだろうか。
 そして倫太郎は、彼を映す琥珀の瞳を細める。
 ――俺は、泣き出しそうな顔をしてるだろうか、って。
 酷く、痛いのだ。
 それ故の表情だと、判るだろうか。
(「いつだって、この人は自己犠牲を良しとする、それが」)
 けれどきっと、自分が落とされる絶望だと。
 背後の執行者はそう思うのだろうし。
(「敵には判らなくても――判るんだろうな……」)
 夜彦には……自分がこんな顔をしてしまっている、その意味が。
 己が口にした、口にするべきだと思った『選択』。
 それに決して、揺るぎや迷いはないのだけれど。
 でも――そんな倫太郎の表情に宿るいろをみれば。
 ……嗚呼、やはり悲しませてしまった。
 夜彦の胸も、ちりりと痛むのだ。
(「その表情が敵にとって裏切られた衝撃や悲しみだと思わせられればいい」)
 ……そんなことはないのに、と。
 彼の想いが、判っているから。
 そして抑揚のない声で、執行者は今度は倫太郎に問う。
「赤は、最後に何かひとこと、ありますか?」
 あんたの選択がそうなら……倫太郎はそう呟いた後。
 自分へと真っ直ぐに視線向ける夜彦を見つめ返し、続ける。
「……なんて言うか、馬鹿! 許さないからな! 覚えてろよ! 夜彦!」
 そんな自己犠牲への憤りを乗せた彼の言葉に、夜彦はそっと笑みを宿す。
(「私の行動や考えを肯定してくれる貴方だから甘えてしまう」)
 でもそれは自分が物だから、仮の肉体だからではなくて。
 こう、強く想って止まないから。
 ――貴方を喪うくらいなら、私は死んでも構わない、って。
 だから、口にした『選択』に迷いはないのだ。
 ……でも。
(「貴方も同じなのですよね。その顔を見れば分かります」)
 夜彦は最後に、彼へと紡ぐ。
 トン、と背中を押され……常夜の空にその身を躍らせ、藍色の髪を靡かせながら。
 ――倫太郎……ごめんなさい、と。
 そして一瞬向けられた柔い翡翠のいろを、琥珀を湛えるその瞳に焼き付けて。
 墜ちてゆく夜彦と残された自分。
 判ってたって、倫太郎の口から自然と零れてしまうのだ。
 ――どうして……? って。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

鬼桐・相馬
ハルア(f23517)と

ハルア、俺は生きたい――やり残したことがあるんだ
それが終わったら必ず後から行く
だから……悪い、お前はここで

UCを発動し淡々と話す
狙いは俺自身が自らのことばに同意する事
冥府の加護でちらつく炎は
生死に関わる内容に感情が昂り、自然と自身から滲んだ体で先に炎をちらつかせることで誤魔化したい
ロープに延焼しないよう注意

海に落ちた衝撃はUC効果で無効にし
海中で身体から炎を強く立ち昇らせ拘束具の類を焼き切る
その後絶壁に密着した状態で浮上
元々黒づくめの格好と黒髪なのに加え、相当覗き込まない限りは俺の姿を確認できない筈

最後に見たハルアの姿
いつか来る本当の別離の時には、あんな顔させたくないな


ハルア・ガーラント
相馬(f23529)と

翼にロープが食い込んだ痛みで目が覚めそうです
翼折れちゃう……!

普段飛べる分今の状況はとんでもなく怖い
オラトリオに覚醒した時のことを思い出しそう
あの時も崩壊した廃神殿から落ちたんだ

相馬のことばに勝手に涙が溢れます
しゃくりあげながら最期に伝えたいのは

嫌だ、おいてかないって約束したもの

皆が消えた研究施設でひとり目覚めた相馬
そんな思いを二度とさせたくない
だからわたしは彼を置いて逝かないって約束した

演技だって解っていても涙と恐怖が止まりません
勝手に発動するであろうUC
白鷲達には相馬を唯追わせ、間に合わなかった体でそのまま消えて貰いましょう
視界の妨げになれば

大丈夫、ちゃんとやれる



 揺蕩う意識を引き戻したのは、食い込む様な背中の痛み。
 いや、それは背中というよりも。
(「翼折れちゃう……!」)
 強引に縛られた、背中の白翼。
 ハルア・ガーラント(宵啼鳥・f23517)の背にある大型の翼は収納ができない。
 その上、翼があるとなれば……これからの『試練』の内容を考えれば、より念入りに縛られててしまうのも当然のことであるが。
 食い込むロープの痛みに身を動かそうとしても、ハルアにはそれもできないでいた。
 薄っすらと開いた新緑の瞳に刹那宿るのは、恐怖のいろ。
 普段飛べるから、余計に思うのだ。今の状況はとんでもなく怖い、と。
 少しでも押されれば、真っ逆さまに落ちてしまう。
 物理的には少々危険は伴うが、猟兵である身では死ぬことはないだろう。
 けれど、ハルアはどうしても思い出してしまうのだ。
(「あの時も崩壊した廃神殿から落ちたんだ」)
 オラトリオに覚醒した、あの時のことを。
「……ハルア」
 そんな恐怖に青褪めた彼女へと声を掛けるのは、鬼桐・相馬(一角鬼・f23529)。
 大きな翼ごと確り縛られたその姿は痛ましく、真っ青な顔を見れば恐怖を感じているのが見てわかる。
 けれど、そんな彼女に今、手を伸ばすことはできない。
 ならば、相馬が取る行動は決まっている。
「青を選んだ貴方は『選択者』です。貴方には、選ぶ権利が与えられます」
 背後から聞こえる声。
 そして執行者は、無慈悲に青の『選択者』である相馬へと問う。
「赤と青――どちらがここで死に、どちらが生き延びますか?」
 自分を見つめる潤んだ緑の瞳。
 相馬はそのいろを見つめながら、己の『選択』を紡ぐ。
「ハルア、俺は生きたい――やり残したことがあるんだ」
 告げるその声は、淡々と。
 そして同時に……心の中で彼が紡ぐのは、冥府の昏い加護を得る為の言の葉。
(「標のない昏き冥府、それが己を灼く炎であっても縋りたいだろう。――その渇望を、俺に」)
 刹那その身に滲むのは、選んだそのいろと同じ、紺青の炎。
 きっと、背後にいる執行者にはこう見えることだろう。
「それが終わったら必ず後から行く。だから……悪い、お前はここで」
 生死に関わる内容に感情が昂り、ちらついているものであると。
 けれど相馬は青のいろを纏いながら、自らのことばに同意する。
 哭燈火による冥府の加護をその身に受けるために。
「それが『選択者』のこたえ、ですね。赤は、最後に何かひとことありますか?」
 そう訊ねられるも、耳に届いたことばに、ぽろぽろと溢れてしまう涙。
 そんなハルアの姿をみて、泣くなと、そう手を伸ばしたいけれど。
 やはり、嘘が下手な彼女では表情や態度に出てしまっていただろうと改めて相馬は思いつつも。
 しゃくりあげながらも彼女が口にする、最期の言葉を聞く。
 伝えたいと、紡がれるその言の葉を。
「……嫌だ、おいてかないって約束したもの」
 ふるりと灰桜色の髪を揺らし、首を横に振るハルア。
 だって、約束したのだから――わたしは彼を置いて逝かないって。
(「皆が消えた研究施設でひとり目覚めた相馬」)
 そんな思いを、もう二度とさせたくないから。
 それに演技だって解っていても、涙と恐怖が止まらなくて。
 でも、次の瞬間――トンと、背中は押されて。
「……!」
 空へと投げ出されたのは、相馬の身体。
 同時に、大きく見開かれる新緑の瞳。
 そんなハルアから解き放たれるのは、淡く仄かに光る白鷲。
 それは落ちゆく彼を追う様に常夜の空を翔ぶけれど。
 間に合わず、漆黒の空にそのまま消えてゆく。
 ……いや、その狙いは、敵の視界の妨げ。
(「相当覗き込まない限りは俺の姿を確認できない筈」)
 元々黒づくめな格好と己の黒髪は常夜の風景に自然と溶け込むであろうし。
 拘束を焼き切るべく強く立ち昇らせた炎も、淡く光る白鷲が目晦ましになって見えてはいないだろう。
 落ちた衝撃も冥府の加護にて無効になっているため、難なく絶壁に密着した状態で浮上しながらも。
 相馬は、ふと思い返す……最後に見たハルアの姿を。
 そして改めて思うのだった。
(「いつか来る本当の別離の時には、あんな顔させたくないな」)
 ……さっきまででは、すごく怖くて翼も痛かったのに。
 勝手に零れるこの涙の理由は、落ちていった彼のことを思ってしまうから。
 でも……何処かへと連れていかれながらも、ハルアは密かにその心に思う。
 ――大丈夫、ちゃんとやれる、って。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

葬・祝
【彼岸花】

死者にも薬って効くんですねぇ、言いませんけど

所詮は人真似ですからねぇ、私
恐怖や怯えって良く分からないんですよ
感情を伴うなら、カフカの方が良い
選択に一言必要なんでしたっけ

待ってください!
君、それじゃ翼だって出せないでしょう!
私が落ちます、カフカ!

声を張るのって、あまり得意じゃないんですけど
……でもまぁ、意外と
あの子が落ちるより、私が落ちた方が良いのは本音なんですよねぇ
死者はこれ以上は死にませんし
とはいえ、どうせ本気で心が引きずられてしまうんでしょうけどね、君は

私を心配して蒼褪めるなんて、相変わらず変な子
落ちて行く
無抵抗に瞳を閉じる

濡れた重い、けれど大人のそれより遥かに軽い音がしただろう


神狩・カフカ
【彼岸花】

へェ、随分といい眺めだこって
ミステリー小説の追い詰められた犯人みてェな気分だ
なんて軽口を叩くのは心を落ち着けるためで

…答えなんてとっくに決まってらァ
ここから落ちるのはおれサ
こいつを殺すなんておれには…出来ねェよ

――ッ!おい!約束が違うじゃねェか!
なんで…どうして…
噫、おれはまたはふりを死なせちまった
今度は、自分の手で…

(死んでいないのはわかっている
それ以前にあいつはすでに霊体で
一度目の死は立ち会うことすらできなかった
そして此度は――
頭ではわかっているのに
まざまざと見せつけられる死に際に
心は追いつかず
動揺で息が荒くなるばかり)

いっそ…おれも一緒に落としとくれよ

(これは…本当に演技か?)



 手を繋いで見つけた教会があった森は、ざわりと葉音を鳴らす木々に覆われていたけれど。
「へェ、随分といい眺めだこって」
 ……ミステリー小説の追い詰められた犯人みてェな気分だ、なんて。
 そう口にする神狩・カフカ(朱鴉・f22830)の眼下に今広がるのは、常夜の空と昏い海。
 カフカはそんな軽口を叩いてみせるけれど……でもそれは、白波が立つ海のようにざわめく心を落ち着けるため。
 これから起こる事が、分かっているから。
(「死者にも薬って効くんですねぇ」)
 葬・祝(   ・f27942)はそんなことを思いながらも、その幼き見目とは違和感があるほど落ち着いた眼差しで、いつもと変わらぬように薄らとわらう。
 ひとの感情を露わにするための『試練』。
(「所詮は人真似ですからねぇ、私。恐怖や怯えって良く分からないんですよ」)
 我ながら、これほど相応しくない実験体はいないだろうと。
 ……けれど。
 ちらりと銀の瞳で見遣る彼は、違う。
(「感情を伴うなら、カフカの方が良い」)
 同時に、背後から降る声がカフカへと問う。
「青を選んだ貴方は『選択者』です。貴方には、選ぶ権利が与えられます。選択の猶予は1分――赤と青、どちらがここで死に、どちらが生き延びますか?」
 青い薔薇を選んだ、彼へと。
 そしてカフカは、赤か青か……運命の『選択』を口にする。
「……答えなんてとっくに決まってらァ。ここから落ちるのはおれサ」
 ――こいつを殺すなんておれには……出来ねェよ、って。
 そんな彼の声を聞きながら、祝はふと思い出す。
(「選択に一言必要なんでしたっけ」)
「赤は、最後に何かひとこと、ありますか?」
 そう今度は自分にそう問われれば、ふるふると首を振ってみせてから。
 カフカへと視線を向け、声を上げる祝。
「待ってください! 君、それじゃ翼だって出せないでしょう! 私が落ちます、カフカ!」
 そう、上手に人真似してみせるように。
 ……いや、声を張るのはあまり得意ではないのだけれど。
(「……でもまぁ、意外と。あの子が落ちるより、私が落ちた方が良いのは本音なんですよねぇ」)
 ……死者はこれ以上は死にませんし、と密かに心で紡ぎつつも。
 眼前の彼の表情を見つめながら、祝は思う。
 トン、と――その背中を押され、空へと身を投げ出されながら。
「――ッ! おい! 約束が違うじゃねェか! なんで……どうして……」
(「とはいえ、どうせ本気で心が引きずられてしまうんでしょうけどね、君は」)
 その銀の瞳を細め、やっぱり祝はわらうのだ。
 ――私を心配して蒼褪めるなんて、相変わらず変な子、と。
 そして無抵抗に瞳を閉じ、真っ逆さまに落ちてゆく彼の姿を、ただ見つめながら。
 カフカは彼を攫った昏い空へと、ぽつりと言の葉を落とす。
「噫、おれはまたはふりを死なせちまった」
 ――今度は、自分の手で……と。
 空に投げ出され、重く濡れて海へと落ちる祝の身体。
 けれど小さきその身が鳴らしたその音はきっと、大人のそれより遥かに軽い音がしただろう。
 いや……カフカにだって、わかっている。
 祝が死んでいないことは。それ以前に、彼はすでに霊体であるのだから。
 ……けれど、でも。
(「一度目の死は立ち会うことすらできなかった。そして此度は――」)
 頭ではわかっている。わかっているはずなのに。
 なのに……吐く息は動揺で荒くなるばかりで。心が、追いつかない。
 まざまざと見せつけられる、二度目の彼の死に際に。
 死んでいないって分かっているから、これは演技なのだけれど。
 ……演技である、はずなのだけれど。
 カフカは、ぐっと青い薔薇を飾った胸を押さえながらも。
(「これは……本当に演技か?」)
 絞り出すような声で、呟きを落とす。
 ――いっそ……おれも一緒に落としとくれよ、って。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

橙樹・千織
千鶴(f00683)さんと

波の音と髪を攫う風
状況を把握し顔をしかめる
…もう少し天気良ければねぇ

千鶴さんの声と姿に安堵し
彼の選択を待つ

…!
縛られた手を握り締め
…それこそ愚問ね
千鶴さんが助かるなら私はそれでいい
勿論、私は貴方を護る

謝らないで
私は千鶴さんを…

彼の紫を追い、唇を読み解けば
少しだけ表情を緩める

彼を助けるにはどうしたらいい
ロープは簡単に解けそうにない
この身がどうなろうと彼だけは

失いたく…ない
小さく、小さく呟いた
音にならぬ言の葉は
風の精霊猫の加護を彼にもたらす

うそ、嘘…ちづる!!
彼を信じていると言えど
落ちてゆく彼に血の気が引く

ひとりに、しないで…
無意識に零れた言の葉は風が攫ってゆく


宵鍔・千鶴
千織(f02428)と

縛られた躰が軋んで
目覚めれば、
…絶景だね、って皮肉交じり

千織の姿を視認出来れば少しだけ
安堵する束の間迫る選択肢

愚問だよ、……助かりたい
…ねえ、千織
俺を守ってくれる?
此処では未だ死ぬわけにはいかない

ごめん、千織
(ごめん、勝手なことをして)

真っ直ぐな眼差しで彼女の方へ
自身の青薔薇を一瞥してから
「信じて」と唇だけを動かし
緩む千織と
凪いだ風の加護がひどく優しい

此れは賭けだ
命乞いをしたところで
素直に助けてはくれないだろう
仮に彼女が落とされても俺も共に落ちるだけ

きみが助かるならば
喩え嫌われても恨まれても

自分の身が落ちゆくときは
彼女にそっと笑顔を見せて

大丈夫、そばに居るよと
手を伸ばし



 ぴくりと震わせた耳に聞こえるのは、ふたりで足を踏み入れた森のものとは明らかに違う波の音。
 木々の葉音を鳴らしていたはずの風は今、黒から金色へと移ろう長い髪を攫っている。
 そして薄っすら瞳を開き、眼下に広がる光景を見遣れば。
「……絶景だね」
 隣から聞こえたのは、宵鍔・千鶴(nyx・f00683)の皮肉交じりな声。
 そんな彼の声と姿に安堵しつつも、橙樹・千織(藍櫻を舞唄う面影草・f02428)は顔をしかめる。
「……もう少し天気良ければねぇ」
 今、自分達が置かれている状況を把握して。
 縛られた躰が軋んで、引き戻された意識。
 そしてすぐに千織の姿を探せば、すぐ隣に在ると分かって。
 少しだけ、千鶴は安堵するけれど。
「青を選んだ貴方は『選択者』です。貴方には、選ぶ権利が与えられます」
 それも束の間……己へと向けられる声は、選択を迫る。
「選択の猶予は1分です。赤と青――どちらがここで死に、どちらが生き延びますか?」
 青の薔薇を手にした『選択者』であるという自分に。
 そして選択を待つ者、赤い薔薇を飾った千織へと目を遣って。
 千鶴は『選択』を口にする。
「愚問だよ、……助かりたい」
 それから縋る様に、こう続ける。
「……ねえ、千織。俺を守ってくれる?」
 ――此処では未だ死ぬわけにはいかない、って。
「……!」
 その言の葉を聞いて、千織は縛られたその手を握り締める。
 きっとそれは傍から見れば、彼の言葉に、衝撃や驚きを受けてのものだと見えるだろう。
 ――けれど。
「それが『選択者』のこたえ、ですね。赤は最後に何かひとこと、ありますか?」
 千織は、今度は自分に向いた問いに答える。
「……それこそ愚問ね。千鶴さんが助かるなら私はそれでいい」
 ――勿論、私は貴方を護る、って。
 これは確かに演技なのだけれど……紡ぐその言の葉に、何一つ偽りはない。
 そして千鶴も、彼女へと紡ぐ。
「ごめん、千織」
 心から零れる声を。
 ごめん――ごめん、勝手なことをして、って。
 そんな彼に、ふるりと首を小さく振る千織。
「謝らないで。私は千鶴さんを……」
 そしてふと彼の湛える紫を追った先、その胸に咲くのは青のいろ。
 それから真っ直ぐに眼差し向けられ、微か開くその唇を読み解けば。
 少しだけ、千織は表情を緩める。
 ――「信じて」、と。
 それに、彼が一瞥した青薔薇は――夢が叶うって、そういわれているのだから。
 それから千織は思考を巡らせる。
(「彼を助けるにはどうしたらいい。ロープは簡単に解けそうにない」)
 ……この身がどうなろうと彼だけは、って。
「失いたく……ない」
 零れ落ちるのは、小さく、小さく呟いた音にならぬ想い。
 それは、風の精霊猫の加護を彼にもたらす言の葉。
 そして、そんな緩む千織とひどく優しい凪いだ風の加護に微笑みながら。
「うそ、嘘……ちづる!!」
 トンと背中を押されて――常夜の空へと、千鶴はその身を躍らせる。
 此れは賭けだった。命乞いをしたところで、素直に助けてはくれないだろう。
 それに……仮に彼女が落とされても、俺も共に落ちるだけ、と。
 けれど昏い空に投げ出されたのは、ちゃんと己の身であったから。
 浮遊感を覚えた一瞬、千鶴は彼女にそっと笑顔を見せて。
 真っ逆さまに、落ちてゆく。
 その唇が紡いだように、信じている。彼を、信じているのだけど。
 でも、それでも……その身が落ちゆくのを見れば、血の気が引いて。
 ――ひとりに、しないで……。
 無意識に零れた千織の言の葉を、風が攫ってゆく。
 そして闇の底へと落ちてゆきながら、千鶴も風に想いを乗せる。
 小さくなってゆくその姿に、手を伸ばして――大丈夫、そばに居るよ、と。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ルクセンディア・エールハイム
ディアナ(f01023)と

さて、彼女は私でいい…と言っていたか。
それが読まれている可能性を考えるなら…裏、を掻くか。
手の上は癪だが、だからこそ、それを裏切って見せる。

さぁ、意識を手放せ。考えるはその先の勝利だ。

あぁ高い。まるで高い崖からのダイビングを行うような。
感じるのは恐怖か、いや、スリルに対する興味か。

さあ、彼女を落とすがいい。
俺は生きて先を見たいからな。だから俺を残すがいい。

なぁに、ちょっとばかしの肝試しだ。
君は怖いだろう? 大丈夫さ、堕ちる経験が無いわけではない。

さぁ、クライマックスへの切符は託したぞ。
だから……そんなに泣かないでくれると助かる、な。


ディアナ・ロドクルーン
ルクセンディア(f24257)さんと

森に入る前に打ち合わせをしていた
「落とされるのは、私で良い」と―。

髪が揺れる。風が当たっている
嗚呼、そうだ。祈りをささげて意識を失って―

ルクセンディア…さん…

原初の恐怖
足がすくむほどの高さ、そして―、海だ
黒く渦巻き波立つ海に背中を泡立たせ不安げに彼を見て

海は苦手だ。これは演技でもなく本当の事
沈むことを考えたら否応なく青ざめるものだった

ねえ、どうして?
(話が違うじゃない)

何故、貴方が落ちていくの?ねえ、なんで―
ルク…ルクスっ!いや―っ、何で!

落ちていく姿に悲壮な声を上げ、大きく開いた瞳から涙を零す。

嗚呼…(俯き固く唇を噛み締めた)



 森の木々の葉音を鳴らしていたはずの風は今、海の香りを纏っていて。
 時計塔の頂上に在るその身を掠め、常夜の空のものに似た彼女の紫色の髪を揺らしている。
 そのひやりとした冷たさに引き戻される、ディアナ・ロドクルーン(天満月の訃言師・f01023)の意識。
 そして少しだけ霞む視界の中、ディアナは思い返す。
(「嗚呼、そうだ。祈りをささげて意識を失って――」)
 森に入る前にこう、打ち合わせをしていたことも。
 ――「落とされるのは、私で良い」、と。
 そんな彼女の隣で、同じ様に意識を取り戻して。
 ルクセンディア・エールハイム(不撓不屈の我様・f24257)は思考を巡らせる。
(「さて、彼女は私でいい……と言っていたか」)
 けれど、それが読まれている可能性を考えるのならば。
 ……裏、を掻くか、と。
(「敵の手の上は癪だが、だからこそ、それを裏切って見せる」)
 森を征きながら彼女とも、こう交わしたから。
 あえて敵の手の上で踊って、その上で超える、と。
 超えてそして、敵をあっと言わせてやると。
 ――さぁ、意識を手放せ。考えるはその先の勝利だ。
 そうルクセンディアは、その心に自信と勝利を描きながらも。
 眼下に広がる昏い空と海を見遣る。
(「あぁ高い。まるで高い崖からのダイビングを行うような」)
 刹那、心に立つさざなみの様な感覚。
 ……感じるのは恐怖か、いや、スリルに対する興味か。
「ルクセンディア……さん……」
 そんな隣に在る彼の名を呼ぶディアナ。向ける瞳に宿るのは、不安げないろ。
 原初の恐怖と、足がすくむほどの高さ。
 そして――海。
 これは敵を欺くための演技。けれど、これは本当のこと。
 ――海は苦手だ。
 ただでさえ黒く渦巻き波立つ海に背中を泡立たせてしまうのに、そこに落ちて沈むことを考えたら。
 否応なく、青ざめてしまう。
 そしてふいに背後から降るのは、『選択』を迫る声。
「青を選んだ貴方は『選択者』です。赤と青――どちらがここで死に、どちらが生き延びますか?」
 赤い薔薇を選んだ自分にではなく、青い薔薇を手にした彼へと。
 その問いに、ルクセンディアは『選択』を告げる。
「さあ、彼女を落とすがいい。俺は生きて先を見たいからな。だから俺を残すがいい」
 刹那、耳に届いた彼のそんな『選択』に。
 ディアナは思わず、大きく瞳を見開いてしまう。
 だって、それは――。
「それが『選択者』のこたえですね。赤は、最後に何かひとこと、ありますか?」
「……ねえ、どうして?」
 ディアナは信じられないような表情でルクセンディアを見る。
 ――ねえ、どうして? ……話が違うじゃない、って。
 声には出せない想いを滲ませながら。
 そんなディアナに、ルクセンディアは笑ってみせる。
「なぁに、ちょっとばかしの肝試しだ」
(「君は怖いだろう? 大丈夫さ、堕ちる経験が無いわけではない」)
 そして――トン、と。
 背中を押されたその身が、常夜の空へと投げ出されて。
 ……何故、貴方が落ちていくの? ねえ、なんで――。
「ルク……ルクスっ! いや―っ、何で!!」
 一瞬視線が重なった後、落ちてゆく彼の姿に悲壮な声を上げて。
 嗚呼……と、俯き固く唇を噛み締めるディアナ。
 大きく開いたその瞳から、涙を零しながら。
 そして小さくなってゆく彼女の姿を目にしつつ、ルクセンディアは思うのだった。
(「さぁ、クライマックスへの切符は託したぞ」)
 ――だから……そんなに泣かないでくれると助かる、な……って。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

館野・敬輔

【青】
陽太(f23693)と
※特記ない限り全て演技

ここ、は…
陽太、大丈夫か!

選択を強いられ(事前打合せ通り)選ぶ
…陽太を、助けてやってくれ

妹のことか?
…もう、いいさ
今は陽太を生き残らせる方が優先だ
迂闊に敵の罠にかかってしまった以上、仕方ないだろ

だから陽太、あんたが生きろ
俺は、両親の元へいく
…俺のような復讐者に、なるな

しかし落とされるのは陽太
嘘、だろ…!?

目の前で落とされる陽太の驚く顔を見て
助けることもできず
ただ…確り目に焼き付けるだけ

陽太を落とされ完全に絶望
目から光を失い脱力した状態で
為す術なく連れていかれる

…ここまで全部演技とは思ってないだろうな
オブリビオンめ、斬り刻まれるのを待っていろ


森宮・陽太
【赤】
敬輔(f14505)と

敬輔、無事なようだな
しかしこれはまあ、また念入りに

身動きが取れねえ上、俺に選択権はない
敬輔が選択するのを待つだけだ
打合せ通り、うまくやれよ、敬輔…!

…助かるのは敬輔じゃなく俺?
敬輔、見つかってない妹のことはいいのか
このままてめえが落ちればもう探せねえぞ?

だが、落とされるのは俺だ
なっ、てめえ、何故だ…!

てめえら、覚えていろよ…!
落ちつつ時計台が見えなくなるまで黒幕を罵り続ける

時計台が見えなくなったら小声で「高速詠唱」
波しぶきに紛れつつ【悪魔召喚「ナベリウス」】発動し防御
傍目には神に無駄な祈りを捧げたように見えるだろうよ

さて、ここからが逆襲だ
敬輔、しばらく頼んだぜ…!



 森の木々を揺らしていたものとは違う、ひやり冷たい海風。
 そんな冷たさに意識を引き戻された館野・敬輔(人間の黒騎士・f14505)は、薄っすらと瞳を開いてから。
「ここ、は……陽太、大丈夫か!」
 隣にいる森宮・陽太(人間のアリスナイト・f23693)へと声を掛ける。
 そんな彼の言葉に頷いてみせて。
「敬輔、無事なようだな。しかしこれはまあ、また念入りに」
 確り縛られ身動きが取れない現状に、そう呟く陽太。
 いや、動けないだけではない。
「青を選んだ貴方は『選択者』です。貴方には、選ぶ権利が与えられます」
 自分が手に取った薔薇のいろは、赤。
 選択権は、青い薔薇を手にした敬輔にあるから。
「赤と青――どちらがここで死に、どちらが生き延びますか?」
 己はただ、選択を待つしか許されぬ身だけれど。
(「打合せ通り、うまくやれよ、敬輔……!」)
 だがこれも全て、事前に打合せした通り。
 そして敬輔は『選択』する。
「……陽太を、助けてやってくれ」
 陽太と立てた作戦通りに。
 けれど、自分たちの目論見を気取られるわけにはいかないから。
「それが『選択者』のこたえですね。赤は最後に何かひとこと、ありますか?」
「……助かるのは敬輔じゃなく俺?」
 陽太は、これから己の身に起こる事など知らぬふりをし、演じ続ける。
「敬輔、見つかってない妹のことはいいのか。このままてめえが落ちればもう探せねえぞ?」
「妹のことか? ……もう、いいさ。今は陽太を生き残らせる方が優先だ。迂闊に敵の罠にかかってしまった以上、仕方ないだろ」
 勿論、敬輔も同じ様に、諦めの表情を宿しつつも合わせて返して。
 陽太へと視線を向け、続ける。
「だから陽太、あんたが生きろ。俺は、両親の元へいく」
 ……俺のような復讐者に、なるな、って。
 ――けれど。
(「だが、落とされるのは俺だ」)
 刹那、トン、と……背中を押される感覚。
「なっ、てめえ、何故だ……!」
「嘘、だろ……!?」
 同時に上がる、ふたりの驚愕の声。
 宙へと投げ出されたのは、陽太の身体であったからだ。
 そんな目の前で落とされる陽太の驚く顔を見て、助けることもできずに。
「てめえら、覚えていろよ……! くっ、このままで済むと思うなよ! 悪趣味な事しやがって!」
 そう落ちてゆきながらも、黒幕を罵り続ける彼の声を聞きながら。
 敬輔はただ……みえなくなるまで、確りとその姿を目に焼き付けるだけ。
 これは全て、打ち合わせ通りだから。
 そして、時計台が見えなくなった瞬間。
 ――魔力に満ちた三つ首の悪魔ナベリウスよ、その魔力を以て、我に絶対的な護りの力を与えよ!
 陽太がそう、小声で高速詠唱すれば。
(「傍目には神に無駄な祈りを捧げたように見えるだろうよ」)
 波しぶきに紛れつつ発動するは、悪魔召喚「ナベリウス」。
 それから海へと落ちる衝撃を防ぎ、敵に気取られぬよう浮かび上がりながらも。
「さて、ここからが逆襲だ」
 陽太は見えなくなった時計塔の頂上にいる彼へと紡ぐ。
 ――敬輔、しばらく頼んだぜ……! って。
 そして残された敬輔は、陽太を落とされ完全に絶望したような表情を浮かべて。
 目から光を失い脱力した状態で、為す術なく連れていかれる。
(「……ここまで全部演技とは思ってないだろうな」)
 そう密かに心に思いながらも……敵の拠点へと、歩みを進めつつ。
 ――オブリビオンめ、斬り刻まれるのを待っていろ、と。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

宵雛花・十雉
【蛇十雉】

目が覚めると時計塔の頂上に縛り付けられていて
演技するまでもなく嫌な汗が流れる

どっちかが落ちるなんて…嫌だよ、そんなの
2人一緒に生きるんだ
そうでしょ、なつめ

ど、どうして…
油断させるための演技と分かっていても、自分を相棒と呼んでくれた彼が裏切るという状況に胸を刺された

一言求められれば、沈んだ声で言う
ひどいよ、なつめ…信じてたのに
大嫌い

涙が自然と溢れる
それは彼を恨んでの涙ではなく
これから崖下に落とされるだろう彼を想っての涙
落下していく彼の姿が見えなくなるまで見下ろして

(1人で置いていかれるなんて嫌だ
もう二度と、あんな思いはしたくない
でもなつめは約束してくれたから
…信じるんだ)


唄夜舞・なつめ
【蛇十雉】

…!ときっ…!
…?ンだこりゃあ…

(…なるほど、これが例の。
こりゃ迫真の演技をしてやンねェとな…。)

こ、これは一体……は?
オイオイ冗談だろ?
どちらかがここから落ちる…?
…いっ、嫌だ。嫌だ嫌だ嫌だ!

(…本当はこんなこと
言いたくねェけど)
落とすなら…
アイツにしてくれ……ッ。

手放したくなくて、
大切で、愛する相棒。
俺がここで死んで
いつか誰かの手に染まるぐらいなら
ーー俺が殺してやる
最期までお前を
俺の手で染めあげてやる
さぁ……死んでくーーーれ?

(瞬間、身体が宙へ投げ出される)

(…あぁ、そんな顔すんな。
大丈夫。すぐ迎えに行くからよォ。)

(俺はーーー死ねない。)



 薄っすらと開いた瞳に映るいろは、眼前に広がる昏い空と海のもの。
 目が覚めればそこは、先程までいた教会ではなく、断崖絶壁にたつ時計塔の頂上。
 しかも、身動きがとれないほど確りと縛り付けられていて。
 ひやり冷たい風が頬を掠め、嫌な汗が流れる。演技するまでもなく。
 そんな宵雛花・十雉(奇々傀々・f23050)の隣で。
「……! ときっ……! ……? ンだこりゃあ……」
 同じ様に意識を取り戻し、身を起こそうとした唄夜舞・なつめ(夏の忘霊・f28619)は、思う様に動けぬ現状にそう声を上げるけれど。
(「……なるほど、これが例の。こりゃ迫真の演技をしてやンねェとな……」)
 これは予め、話に聞いていた通りのこと。
 ならば……敵を欺くために、これから一芝居打つだけ。
 そして青い薔薇を身に着けたなつめへと、背後から問う声が向けられる。
「青を選んだ貴方は『選択者』です。貴方には、選ぶ権利が与えられます」
「こ、これは一体……は?」
「赤と青――どちらがここで死に、どちらが生き延びますか?」
「オイオイ冗談だろ? どちらかがここから落ちる……?」
 まるで初めて聞いたかのように、大きく瞳を見開いて。
「……いっ、嫌だ。嫌だ嫌だ嫌だ!」
 動けぬ身で、じたばたともがいてみせる。
 そんな彼に、こくりと頷いて。
「どっちかが落ちるなんて……嫌だよ、そんなの」
 なつめを見つめながら、十雉は続ける。
「ふたり一緒に生きるんだ。そうでしょ、なつめ」
 そう自分の姿を映す橙の瞳へと、なつめは視線を返しながらも。
 ふるりと大きく、首を振ってみせて。
(「……本当はこんなこと、言いたくねェけど」)
 ふっとひとつ息を吐いた後、『選択』を口にする。
「落とすなら……アイツにしてくれ……ッ」
「ど、どうして……」
 いや、十雉にだってわかっているのだ。
 これは油断させるための演技だと。
 でも……それでも、ちくりと胸を刺されてしまう。
 自分を相棒と呼んでくれた彼が裏切るという状況に。
 それに――。
「それが『選択者』のこたえですね。赤は最後に何かひとこと、ありますか?」
「ひどいよ、なつめ……信じてたのに」
 沈んだ声で十雉は紡ぐ――大嫌い、って。
 ぽろりと、自然に涙を零しながら。
 演技であると知っていても、彼の裏切りの言葉を聞けば胸は痛むけれど。
 でも……それ以上に。
 この涙は、彼を恨んでのものではなくて――これから崖下に落とされるだろう、彼を想っての涙。
 そんな十雉を見つめ、なつめは続ける。
「手放したくなくて、大切で、愛する相棒。俺がここで死んで、いつか誰かの手に染まるぐらいなら」
 ――俺が殺してやる、って。
 そして訪れる、運命の刻。
「最期までお前を俺の手で染めあげてやる。さぁ……死んでく――れ?」
 刹那……トン、と。
 宙へと投げ出される、なつめの身体。
 一瞬の浮遊感と共に、大きく見開いた橙の瞳と、視線があって。
(「……あぁ、そんな顔すんな」)
 なつめは、真っ逆さまにおちてゆく。
 自分を見下ろし小さくなってゆく彼に――大丈夫。すぐ迎えに行くからよォ、って。
 そう、紡ぎながら。
「なつめ……ひどいよ」
 十雉は落下していくそんな彼の姿が見えなくなるまで見下ろして。
(「ひとりで置いていかれるなんて嫌だ。もう二度と、あんな思いはしたくない」)
 そう思えば、また涙が溢れてしまいそうになるけれど。
(「でもなつめは約束してくれたから……信じるんだ」)
 ――ぜってー迎えに行くから……信じて待っててくれっかな、って。
 そう、言ってくれたから。
 だから見えなくなった彼へと、こくりと頷く十雉。
 そして昏い底へと落ちてゆきながら。
 なつめも瞳を細め、見上げる空へと呟く。
 ……俺は――死ねない、と。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『叡智卿ヴェイン』

POW   :    ご機嫌いかがかな、諸君
対象への質問と共に、【自身の影】から【嘗て被験体にされた亡者たち】を召喚する。満足な答えを得るまで、嘗て被験体にされた亡者たちは対象を【怨嗟の声や呪詛】で攻撃する。
SPD   :    耐えられぬなら泣き叫べ
レベルm半径内の敵全てを、幾何学模様を描き複雑に飛翔する、レベル×10本の【スカルペル】で包囲攻撃する。
WIZ   :    もっと、よく見せてくれ
【敵を掴んで観察する為の拳】【手脚を縫い付ける為の縫合絲】【身体を切り刻む為のスカルペル】を対象に放ち、命中した対象の攻撃力を減らす。全て命中するとユーベルコードを封じる。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠神埜・常盤です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●アレキシサイミアの冀求
 此処に連れてこられた者は、次のうちのどちらかだ。
 絆深き相手だと思っていた者に裏切られ、死ねと言われた『赤』か。
 絆深き相手を助けんとして、己の選択で突き落とし殺してしまった『青』か、だ。
 人の心や絆、それはとても興味深い。
 故に、より『感情』を可視化する為、このような『実験』を数度行なってきて。
 紡がれる言の葉や表情、動き等……様々な『感情』による有様を見てきたのだが。
 けれどやはり、満足するには到底至らず、未だ実験は成らずだ。
 だから直接、絆を裏切られた者、相手を死なせてしまった者を『観察』しようと。
「ご機嫌いかがかな、諸君。どうか、俺に教えてくれ」
 館へと招いた者達へと、ひとりずつ、俺自ら問うてみるのだけれど。
「絆深き者に裏切られ死ねと言われた、もしくは己の手で絆結んだ者を殺した今、何を思うのかを」
 これまでは、烈火の如く怒りの感情を剥き出しにして飛び掛かってくる者。
 ただひたすら泣き喚く者、絶望に打ちひしがれる者、必死に命乞いをする者。
 俺の興味を満たす結果を教えてくれる者などおらず。
 そんな被験体をスカルペルで刻んでやっても、愉しみすら見出せず……只その残骸が満たすのは、俺の腹だけ。
 けれど、まだまだサンプルが必要だ。
 人の心や絆への俺の興味は、募る一方だから。

●マスターより
 第3章は『叡智卿ヴェイン』との戦闘になります。
 ご自身の色が赤か青かは、これまでご参加されている場合は不要です。
 この章からご参加の方は、赤か青か、ご自身が選択する色を記して下さい。

 第2章で落下しなかった方は、敵の拠点である館に連れて行かれています。
 ひとりずつ部屋に入れられ、その部屋ひとつひとつにボスが回ってきます。
 そして、皆様の様子を『観察』しつつ『質問』をしてきます。
 今の感情はどうかだとか、相手が落ちた瞬間どう思ったかなどと。
 それに答えてもいいですし、答えなくても構いません。

 第2章で落ちた方は、すでにそっと館に潜入しています。
 ボスが来る前に合流してお相手さんとやり取りをしても良いですし。
 戦闘に入ったところで、待たせたな! と登場しても構いません。
 お相手さんのピンチに駆けつけるなどでも勿論OKです。
 おふたりが合流し、ボスと戦闘に臨んでいただければご自由に!
 怪我の度合いなどもご自由に設定されて構いません。

 おひとりではかなりボスの撃退は厳しいですが。
 おふたりの『絆』があれば、何とかなるかと思いますので。
 頂いたプレイングによりますが、心情多めのリプレイになりそうです。
 限られた文字数内ではありますが、想いの丈を沢山書いて頂ければです。

 リプレイは落下しなかった方が部屋に入れられてボスが訪れるのを待つシーンからとなります。
 連行中のことや追跡や潜入のシーンは、戦闘フラグメントのため描写はそれほどできないかと。
 その他に関しましては、OPやOP公開時のマスターコメントをご確認下さい。
 送信締切等の連絡事項も、MS個別ページやタグ、Twitterでお知らせ致します。
戎崎・蒼
紅(f04970)と
盗み聞きみたいになってしまうかもしれないが、紅がヴェイン卿と話すのを聞き、戦闘が終わるまで隠れつつ待機していよう
……まあ何と思っていようと勝手だけれど、ヴェイン卿には残念な事だ。其奴は哀しむような奴じゃない
要するに絆、というよりかは───お互いを利用しているというだけなのだから、哀しむ必要がないだけだ

しかし簡単に死なれては僕が困る
暗がりに潜みつつ狙撃を狙ってサポートを
もし此方が気付かれたのなら、紅の死角をカバーしつつ隣に立って戦う
スカルペルは撃ち落とし、UCで相手に攻撃を加えてみよう
寿命が減ろうが減るまいが、僕の勝手だ

…さて、エゴイストである僕等に最期までお付き合い頂こうか


宮前・紅
蒼くん(f04968)と

「今の感情?最高に気分が良いね
落ちた彼──蒼くんはつまんない奴じゃ無かったって事が分かっただけでも、この遊戯に付き合う意味はあった」
彼が選んだ答えを俺は"人間臭い"と思う
それが愉快で愉快で堪らない
俺を擬似的とは言えど殺せない彼はどうしようもなく"人間"だった
──と戯言は終わりにしようか

くるくるとアンプル剤を回していた手を止め敵へ投げる
敵の手に渡る瞬間を狙ってアンプルを破壊

「俺の実験も手伝ってよ──

幻覚作用のある薬を敵にかけ認知を歪める
その隙にUCを発動
敵の攻撃は捌いて躱す

──恐怖と幻覚ってどんな風に作用するんだろうね?」

死するまで俺のエゴに付き合って貰うよ
あははははっ!



 目の前にいる者は、相手に裏切られ生き残った『赤』なのだというけれど。
 その表情は、怒りでも絶望でも虚無でもなさそうだ。
 それとも気でも触れたか――或るひとつの部屋を訪れた『叡智卿ヴェイン』は観察する。
 憤るわけでも泣くわけでもなく……何故か笑っている、宮前・紅(三姉妹の人形と罪人・f04970)の姿を。
 そしてこう、紅へと問う。
『さて、俺に教えてはくれないか。相手に死んでくれと言われ……自分だけ生き残った今、何を思うのか』
 紅はそんな声に、笑み隠せぬ様子で返す。
「今の感情? 最高に気分が良いね」
『気分が良い?』
 今までの『実験』では、あまり返ってきたことがない答え。
 ヴェインが興味を示したような視線を向ければ。
 紅は続ける。最高に気分が良さそうな顔で。
 落ちた彼――蒼くんはつまんない奴じゃ無かったって事が分かっただけでも、この遊戯に付き合う意味はあった、と。
「彼が選んだ答えを俺は"人間臭い"と思う。それが愉快で愉快で堪らない」
 その気になれば相手を落とせる、『青』の『選択者』であったのに。
 蒼は自分を落とさなかったから。彼の『選択』は、己が落ちるというもの。
 それから紅は灰の瞳を細め、またご機嫌に笑って紡ぐ。
「俺を擬似的とは言えど殺せない彼はどうしようもなく"人間"だった」
『……"人間"? どういう事か理解できないな』
 紅の言の葉の意味する事が分からずに、ヴェインは大きく首を傾ける。
 ……それもそのはず、だって紅には分かっているのだから。
 試練が選択と反対の者が落とされる仕組みだということも、落とされた彼が生きていることも。
 それを自分が知っているとも思わずに首を傾げる叡智卿の姿だって、ちょっと愉快だ。
 けれど、それを教えてやるつもりなどないから。
 ――と戯言は終わりにしようか、と。
 くるくる宙に遊ばせていた硝子製のアンプル剤握る、その手を止めて。
『!』
 紅は刹那、ヴェインへと投げつけて破壊する。
「俺の実験も手伝ってよ――」
 幻覚作用を齎す紫色の液体が入った、それを。
 そして認知を歪める間に侵食するのは、黒に塗り潰された暗闇。
 ――怖がらずに楽しもうよ?
 対象を欺く、光なき暗闇へと引き摺り込む黒い月。
 そんな恐怖のいろで支配しながらも、漆黒に閃くは無限増殖したコンツェシュ。
(「……まあ何と思っていようと勝手だけれど、ヴェイン卿には残念な事だ」)
 そして中の様子を窺い、隠れて待機しつつも思う戎崎・蒼(暗愚の戦場兵器・f04968)。
 ――其奴は哀しむような奴じゃない、と。
 盗み聞きみたいになってしまってはいるが、聞こえる紅の声から彼がどんな顔をしてるのかは想像に易いし。
 それに、自分達は違うから。
(「要するに絆、というよりかは――お互いを利用しているというだけなのだから、哀しむ必要がないだけだ」)
 けれど、始まった戦闘の状況を探りながらも、暗がりに潜んで。
 ぐっと構え狙いすましたマスケット銃の引き金を蒼は引く。
 ……しかし簡単に死なれては僕が困る、と。
 それから自分の存在を知覚した敵の様子を見遣り、紅の死角をカバーつつ隣に立って。
 ――紅き燐光、蒼呪の金剛より創世力を得る。
 其れは、天碧魔石の呪願。蒼き襟飾『Cravatta』の金剛石が輝いて前装式歩兵銃と化せば。
『……!』
「寿命が減ろうが減るまいが、僕の勝手だ」
 敵が繰り出すスカルペルを撃ち落とし、ヴェインだけを狙い撃ちながらも紡ぐ蒼。
 そんな様子に、紅は再び楽し気に笑む。
 ほら……そんなところだよ、って。彼の"人間臭さ"に。
 だが、紅とは逆に。
『……生きていたのか』
 一気に興が削がれたように呟きを落としたヴェインに、紅は改めて声を投げる。
 ――恐怖と幻覚ってどんな風に作用するんだろうね?
「死するまで俺のエゴに付き合って貰うよ」
 ……あははははっ! って、そう高笑って。
 そして、そんな紅の顔をちらりと見た後。
 自分たちにあるのは絆というよりも、利害関係という方がお似合いだけれど。
 蒼も、ヴェインへと銃口を向ける。
 ――……さて、エゴイストである僕等に最期までお付き合い頂こうか、と。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

檪・朱希
【黒蝶】
WIZ
セプリオギナ……無事、だよね?
『あいつぜってー許さねぇ! なぁ、雪!』
『ショックを受けるようなことを、何故行ったのか……』
燿と、雪が蝶の姿で怒っている。

この人が、ヴェイン。
苦しい、辛い、悲しい、そんな思いが痛みになるように、蝶の傷跡が痛む。
……私はあなたが望む答えを持ってない。今でも、なんでとしか思えないから。
でも、人の心を弄ぶのは、許さない。

セプリオギナ! うん、大丈夫。出来るよ。
『おいてめぇ、霧で見えねぇだろーが!』『燿、集中しろ』
UC発動。「聞き耳」による「情報収集」で、皆の位置を把握。
雪の刀で「なぎ払い」、燿の銃で「制圧射撃」。
セプリオギナと連携して【暁】の一撃を!


セプリオギナ・ユーラス
【黒蝶】
「──無事か」

短く声をかける
落下からの復帰に思ったより手間取って遅くなったが、説明する時間も惜しい
苦情は後で聞いてやる
まずはこの医者もどきを黙らせるところからだ

「短期決戦だ、いけるな」
お前なら何も見えずとも戦えるだろう。
黒い霧で周囲を覆い、すべてを包み隠す

ちっ(明確な舌打ち)
「貴様らが無駄な音を立ててどうする、状況は主とやらから聞け阿呆」
・時間いっぱいまではUC維持、足りなくなったら物理で彼女らの攻撃のサポートを



 視界いっぱいに広がっていた海の景色から一変。
「セプリオギナ……無事、だよね?」
 今度は実験体を閉じ込める檻かのような、閉鎖的な館の部屋に入れられているのは、檪・朱希(旋律の歌い手・f23468)。
 そして心配気に紡がれた彼女の言葉に、怒りの音を乗せた声が答える。
『あいつぜってー許さねぇ! なぁ、雪!』
『ショックを受けるようなことを、何故言ったのか……』
 そんな、蝶の姿を取る守護霊たちをちらりと見てから。
(「燿と、雪が怒っている」)
 そう瞳をぱちり瞬かせる。
 明るく陽気な燿も冷静沈着な雪も、どちらも怒っている原因は、きっと彼の『選択』のこと。
 それからぷんすかしている燿と雪にきょとりとしながらも。
 新たな『音』に、朱希は顔を上げる。
『ご機嫌いかがかな、お嬢さん』
 開いた扉と発せられる声。
『絆深き者に裏切られ生き残った、今の気分はどうだ? 絶望? 悔しい? それとも、俺の事が憎いか。さあ、教えてくれ』
 刹那、ずきりと痛むのは、蝶の傷跡。
 ……苦しい、辛い、悲しい、そんな思いが突き刺さるかのように。
 朱希は現れた『叡智卿ヴェイン』を見上げて。ふるりと、首を横に振って口を開く。
「……私はあなたが望む答えを持ってない。今でも、なんでとしか思えないから」
 なんで、どうして。頭の中は、それでいっぱいで。
 けれど朱希は、こうも強く思うから。
 ――でも、人の心を弄ぶのは、許さない、って。
 それからふと、部屋の扉へと視線向ければ。
「――無事か」
 短くそれだけ声をかける、セプリオギナ・ユーラス(賽は投げられた・f25430)の姿が。
(「落下からの復帰に思ったより手間取って遅くなったが、説明する時間も惜しい」)
『! どうやって此処に』
「セプリオギナ!」
 同時に朱希とヴェインの声が上がる中、セプリオギナは彼女へと言葉を向ける。
「苦情は後で聞いてやる。まずはこの医者もどきを黙らせるところからだ」 
 刹那、戦場を覆いつくすのは――何も見通せぬほど全てを包み隠す、深い漆黒の霧。
「短期決戦だ、いけるな」
 ……お前なら何も見えずとも戦えるだろう。
 聞こえる彼の声に、朱希はこくりと頷くけれど。
「うん、大丈夫。出来るよ」
『おいてめぇ、霧で見えねぇだろーが!』
『燿、集中しろ』
 そう、ぶーぶー文句を言う燿と、続いた雪の声に。
 セプリオギナは、ちっ、と明確な舌打ちをする。
「貴様らが無駄な音を立ててどうする、状況は主とやらから聞け阿呆」
『目晦ましか……いや、もっと、よく見せてくれ』
 刹那、ヴェインの拳や縫合絲、スカルペルが放たれるけれど。
 ――蝶を導く者達よ、見えぬ鎖を断ち切る術を……ここに!
『足を引っ張るなよ、燿』
『そーいう雪だって、邪魔すんなよな!』
 雪の刀『月花』の刃や燿の拳銃『鴉』の見えぬ鎖纏う得物が、暗闇の中でも問題なくそれらを薙ぎ撃ち落として。
 燿の加護で一撃の威力が増した暁の引き金をぐっと引く朱希と連携し、セプリオギナも攻撃を繰り出して彼女達を支援する。
『……ッ!』
 深い深い闇のいろで戦場を満たしつつ――彼女の耳を信頼し、頼りにしながら。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

一一・一一
アスカ(f03928)と行動します

前回仕込んだ隙間女経由で合図を送って、アスカさんが挑発しているタイミングで『変形型キャバリア『デュラハン』』のバイク形態に乗って窓を突き破って登場します
そのまま相手を轢くつもりで突撃しながら、バイクから飛び降りてアスカさんのそばに降ります

「遅くなり申し訳ありません、ちょっと道に迷いました」

とおどけながらいい、『イーグレット』と『ライトニング』を構えます
相手の動きに合わせて、バイクから『スパイダー』を射出
「ロープワーク」で相手を「捕縛」し、動きを阻害します
あとはアスカさんの攻撃と同じタイミングでQ・T・Sを起動、二人で同じ個所を「スナイパー」します
アドリブ歓迎


アスカ・ユークレース
一一(f12570)と

あら!きっと貴方誰にも愛されなかったのね、可哀想に…それとその質問には答えられないわ

だってあの程度で彼が死ぬわけないもの
このとおりね?と突き破って来た彼を見ながら

全く彼女を待たせるなんて酷いわと返しつつ合流した彼と背中合わせで武器を構える
無事で良かったとこぼしながら

捕縛された相手を確実に狙い誘導弾で攻撃
一一と私への攻撃は視力をこらして得た情報を元に瞬間思考、予測して全部打ち返す
傷一つ付けさせやしないわ

一一とタイミングを合わせてUC
スナイパーによる援護射撃で同じ箇所を狙う

さっきはあんなこと言ったけどやっぱりごめんだわ
置いてかれる方の辛さを味わせたくはないもの

アドリブ可



 連行され入れられたのは、殺風景な館の部屋。
 そしてこの部屋を訪れた『叡智卿ヴェイン』は、アスカ・ユークレース(電子の射手・f03928)に訊ねる。
『己の『選択』で絆深き者を突き落とし殺した、今の気分はどうだ? 俺に聞かせてくれ』
 そんな問いに、アスカは挑発するように青い瞳を細めてみせてから。
「あら! きっと貴方誰にも愛されなかったのね、可哀想に……それとその質問には答えられないわ」
 絆深き者を突き落とし殺した気分と言われても。
 どう頑張ったって、それには答えられない。
 ――だってあの程度で彼が死ぬわけないもの、って。
 そして仕込んだ隙間女経由で合図が送られてきた、次の瞬間。
『……!?』
 ガシャンッと派手な音を鳴らし、豪快に吹き飛んで煌めくガラスの破片。
 バイク形態の『デュラハン』に跨り、窓を突き破って颯爽と登場したのは、一一・一一(都市伝説と歩む者・f12570)。
 相手を轢くつもりで突撃しながら、バイクから飛び降りた一一がアスカのそばへと降り立てば。
 ――このとおりね? って。
 アスカもそう、敵に胸を張る様に笑んでみせる。
 だって、分かっていたから。彼は死んでもいないし、こうやってすぐに駆けつけてくれるって。
 そんな自分へと向けられたアスカの視線に。
「遅くなり申し訳ありません、ちょっと道に迷いました」
 おどけたように一一はそう返しながらも。
 狙撃強化型Sライフル『イーグレット』と軽量型Sライフル『ライトニング』、射程距離が長いものと弾が速く多少の連射性もあるものの、二丁を構えて。
「全く彼女を待たせるなんて酷いわ」
 アスカもすかさず得物を手に、―一と背中合わせに位置取りながらも。
 背中越しに彼の熱を感じつつ、安堵のいろを乗せた言の葉を零す。
 ――無事で良かった、って。
 そんなふたりの様子に、興が削がれた様子のヴェイン。
『……生きていては、思う様な『実験』の結果は得られない』
 相手が生きていては、絶望も悲しみも、対して生じないだろうから。
 アスカと一一は、顔を見合せ頷きあってから。
 刹那放たれるのは、その名の通り蜘蛛の巣かの如く張り巡らされる『スパイダー』のワイヤー。
 そして彼がヴェインの動きを封じた瞬間を確実に狙い、アスカは誘導弾をお見舞いする。
 だが、ヴェインはすっかり『実験』への興味を失ってはいるものの、強敵には間違いない。
「……!」
 瞬間、数多のスカルペルが、ぐるりとふたりを包囲し閃くけれど。
「決して傷付けさせはしません」
「傷一つ付けさせやしないわ」
 ふたりは視力を駆使し得た情報を元に瞬間思考し、その動きを予測して打ち返す。
 お互い、大切な相手を傷つけさせなどしないと。
 それから声や視線を最早合わせずとも、自然とふたりは同時に動く。
 ――lock on! 逃がしませんよ?
 ――かくし芸にもならないっすけどね……僕の狙撃の技術、見せてあげるっす。
『……! ぐっ!』
 絶妙に呼吸の合った連携で、同じ敵の急所を撃ち抜いて。
 そして背中越しに頼もしい彼の存在を改めて感じながらも。
 アスカはふるりとひとつ首を横に振って、こう紡ぎ直す。
「さっきはあんなこと言ったけどやっぱりごめんだわ」
 ――置いてかれる方の辛さを味わせたくはないもの、と。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

木常野・都月
【狐々】
クロムさんの匂いはこの部屋から…
すでに交戦中か?
敵がまだ気がついていないなら、不意打ちを狙えるかも。

部屋に侵入する前に予め風の精霊様を集めておこう。
[野性の勘、第六感]を高めて、突入後に備えておけば安心だ。

突入したら、敵を発見次第、UC【精霊の瞬き】を、集めておいた風の精霊様の助力で撃ちたい。

クロムさんを見つけたら、駆け寄ろう。
姉さん!
(抱きしめられて、ホッと一安心。大きな怪我はなさそう。)
あ、その…大丈夫デスカ?
俺は、はい、ダイジョブです…。
(なんだろ…急に恥ずかしくなった)

おおお落ち着け俺!?
今は敵を倒さないと!
敵の攻撃は[カウンター、範囲攻撃]で対処したい。


クロム・エルフェルト
【狐々】
都月……都月。御免ね、ごめん
何をされても小さくうわ言の様に彼の名前を呼び続ける
気分を問われて曇った目で見、再び床へ視線を落とす
お芝居なのに、重い塊が心の底にあるみたい
犠牲になった人達の無念もきっと……

壊れた、と見せて油断を誘い
隙を見せた所でUCを発動
纏う焔で縄を焼くと同時
闘志を眼に灯し、最大威力で足元から火災旋風を熾す

都月くんに自分からも駆け寄り、思わず抱きしめようと
都月も、怪我は無い?……良かった。
えと、うん、大丈夫。
……信じてた。よ。
(何だか、照れる……)

気を引締めて
刀身に劫火纏わせ[カウンター]
飛翔する刃を鋳潰すつもりで叩き落す
天下人すら灰燼に帰した焔
下手人如きを焦す程度は易い筈



 無情にも離れ離れになってしまった姉弟。
 いや、ただ離れてしまっただけではない。
 己の『選択』のせいで……弟は崖下へと突き落とされてしまったのだ。
「都月……都月。御免ね、ごめん」
 ひたすら弟の名を小さくうわ言の様に呼び続けるのは、クロム・エルフェルト(縮地灼閃の剣狐・f09031)。
 そんなクロムを観察するように見遣りながら、事の元凶『叡智卿ヴェイン』は呟く。
『ショックで茫然自失、と言ったところか。よくある反応だな』
 それからヴェインはもう一度クロムへと訊ねる――今の気分を教えてくれ、と。
 でもやはり、曇った目で彼を見上げただけで。再び床へと視線を落とすクロム。
 ……いや、これは敵を欺く演技。それは分かっているのだけれど。
(「お芝居なのに、重い塊が心の底にあるみたい。犠牲になった人達の無念もきっと……」)
 ずしりと重く圧しかかるような感覚を覚える心。
 けれど、いやだからこそ……これ以上、こんな思いをする人が出ないように。
 ――十面埋伏。埋め火の恐ろしさ、身を以て知れ。
『……!』
 壊れた、と思わせ油断を誘い展開するは、深い火傷を刻み付ける憑紅摸の焔。
 刹那、炎に焼かれた縄が灰と化し、足元から巻き起こるは火災旋風の放射。
 そしてクロムの円らな藍色の瞳にも灯る。燃え上がる様な闘志の炎が。
 そんな突如生じた衝撃音に、耳をピクリと震わせて。
(「クロムさんの匂いはこの部屋から……すでに交戦中か?」)
 木常野・都月(妖狐の精霊術士・f21384)は見つけた部屋へと突入する前に集めておく。
(「敵がまだ気がついていないなら、不意打ちを狙えるかも」)
 力を貸してくれる、風の精霊様を。
 そして野性の勘や第六感を高め研ぎ澄ませながら、突入の機を慎重に窺って。
 ――精霊様、最速で!
『な……くっ!』
 部屋の扉を勢いよく開き、突入して。
 すかさず集めておいた風の精霊様の助力で都月が撃ち出すのは、狙いすました精霊の矢。
 それから敵が一瞬、後退った隙を見て。
「姉さん!」
「都月も、怪我は無い? ……良かった」
 ふたり咄嗟に駆け寄り、ぎゅっと都月の身体を抱きしめるクロム。
(「よかった、クロムさんに大きな怪我はなさそう」)
 都月はそうホッと一安心しつつも。
「俺は、はい、ダイジョブです……」
 どうしてだか、ゆらり落ち着きなく尻尾が揺れてしまって。
「あ、その……大丈夫デスカ?」
「えと、うん、大丈夫」
 クロムも頷きながらもそっと、尻尾と耳がそわり。
 それからふと彼を見上げ、続ける。
 ――……信じてた。よ、って。
 そんな向けられた声と視線に、都月は思わず耳をぴこりと一瞬立たせて。
 瞳を瞬かせながらも、心に感じたことのない感覚を覚えれば。
(「なんだろ……急に恥ずかしくなった」)
(「何だか、照れる……」)
 お互い一緒に、尻尾をゆらゆらそわそわ。
 けれど、ハッとやっぱり同時に顔を上げて。
(「おおお落ち着け俺!? 今は敵を倒さないと!」)
(「相手は強敵、気を引締めないと」)
 ぐるりと周囲を包囲する数多のスカルペルにも怯まずに。
 クロムは都月の成す風の加護に炎を乗せ、飛翔する刃を鋳潰すつもりで叩き落す。
 ――天下人すら灰燼に帰した焔、下手人如きを焦す程度は易い筈、って。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

逢坂・宵
ザッフィーロ(f06826)と

崖下へと落ちていったかれの、あの穏やかな面差しが脳裏から離れず
ああ、自分はなんてことをしてしまったのだろうか
愛するひとを、この意志によって突き落としてしまった

いつの間にか部屋へと入ってきたオブリビオンの声も聞こえない
愛おしいあの青とは、あの金剛石の瞳には
もう二度と会えないのだろうか―――

ふいに己の影がふくらみ、そこから現れたかれに目を見開き
……ああ、本当にきみは無茶をして……!
泣き笑いのような、安堵の表情が浮かぶ
かれの怪我は「応急手当」で措置をして
これまでのお返しとばかりに「高速詠唱」「全力魔法」「属性攻撃」をのせた【天響アストロノミカル】にて敵を攻撃しましょう


ザッフィーロ・アドラツィオーネ
宵f02925と

落ちた時左で受け身を取ったせいだろう
強打した肉から伝わる痛みのせいか左下腕部から突き出た骨の為かは解らぬがどうも左半身が常よりも動かし辛い…が
…危険な場所に宵を一人にさせる訳に行かんからな
疾く宵の元へ向かわんと『激痛耐性』を使い影へ手をつけば影を伝い宵の元へ【影渡り】を試る

だが、影から生じた瞬間呆然としている宵と敵の姿を認めれば痛みを忘れ間に入る様『かば』いながら『武器受け』にて宵を護ろうと思う
…俺が宵を残し死ぬわけなかろうに
そう安心させる様に笑みを向けつつ手にしたメイスに『怪力』を乗せ敵へと振るって行こう
多少動き辛いが敵をお前に近づけさせん位は出来るからな
…攻撃は頼んだぞ、宵



 この程度では死なぬ身。だがそれと、無傷であるということは別問題だ。
 それでも……その心は、彼ではなく己が落ちた事による安堵感で一瞬満たされたけれど。
(「どうも左半身が常よりも動かし辛い……」)
 時計塔から海へと落ちた際に、左で受け身を取ったせいだろう。
 高所から落下し強打した衝撃の大きさは、肉から伝わる痛みや左下腕部から突き出た骨から把握できるし。その為かは解らないが、左半身の動きが鈍い感覚を覚える。
 けれど、そんな己の肉の痛みよりも……やはり、暗い水底から地へと這い上がったザッフィーロ・アドラツィオーネ(赦しの指輪・f06826)の心に生じる気持ちはひとつ。
(「だが……危険な場所に宵を一人にさせる訳に行かんからな」)
 敵の拠点へと連れて行かれた、逢坂・宵(天廻アストロラーベ・f02925)への想い。
 だから一刻も疾く、あの美しい顔を瞳に映し共に在ると感じたいから。
 激痛を耐性でやり過ごしつつ、ザッフィーロは魔力の影を纏って昏い地へとその手を伸ばす。
 掌で触れた影を伝い、宵の元へ向かう為に。
 ――同じ頃、墨を流したような夜色の髪を微か揺らしながら。
(「ああ、自分はなんてことをしてしまったのだろうか」)
 ふるりと、首を横に振る宵。
 脳裏から離れないのは、崖下へと落ちていったかれの、あの穏やかな面差し。
 そして、どうしても苛まれてしまうのだ――愛するひとを、この意志によって突き落としてしまった、という自責の念に。
 そんな宵に降るのは、実験と観察の為に投げられる問いの声。
『絆深き者を己の『選択』で失った、今のその心を俺は知りたい。教えてくれないか』
 けれど、声の主『叡智卿ヴェイン』がいつ部屋に入ってきたのかも。
『あまりの絶望に、俺の声も最早聞こえていないのか。特に真新しい反応ではないが』
 己へと向けられるその声すら、宵の耳には聞こえてはおらず。
 ただひたすらその心に在るのは、かれのことだけ。
 ……愛おしいあの青とは、あの金剛石の瞳には、もう二度と会えないのだろうか――。
 そう星瞬く深宵の瞳をそっと伏せんとした……その時だった。
『!?』
「……!」
 ふいに膨らむのは、宵の影。
 そして見開かれた瞳に映るのは、現れたかれの姿。
 そんな影から生じた瞬間、呆然として己を見つめる宵とすでに傍に在る敵の姿を認めれば。
 肉の痛みなど忘れ、割って間に入る様に身を挺するザッフィーロ。
 そしてかばう様に前に立ち、得物を構える。宵を護る為に。
「……ああ、本当にきみは無茶をして……!」
 刹那、宵の瞳に再び灯るのは、星の如き光。浮かぶのは、泣き笑いのような安堵の表情。
 それから左下腕部から突き出た骨に気付き、応急手当で措置をする宵。
 そんなへと、安心させる様に笑みを向けつつ。
「……俺が宵を残し死ぬわけなかろうに」
『死に損ないに何ができる……、!』
 手にしたメイスに怪力を乗せ、眼前の敵へと振るうザッフィーロ。
 手負いでもあり、ひとりでは恐らく、強敵相手に防戦一方になるだろうけれど。
「多少動き辛いが敵をお前に近づけさせん位は出来るからな」
 でも今は、頼もしくも愛しいひとが一緒であるから。
 ……攻撃は頼んだぞ、宵。
 そう声を向けられれば、天へと高速で編み出されるのは全力を込めた星の魔力。
 そしてこれまでのお返しとばかりに、宵は視線向けた敵へとお見舞いする。
『! ぐ……っ!』
 ――流星群を、この空に。
 天を響かせるかの如く流れ堕ちる数多の隕石を。
 護ってくれるかれを、護る為に。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

月舘・夜彦
【華禱】
落下した時の怪我は戦えない程のものではないが痛みが無い訳ではない
それでも……それ以上に彼を悲しませてしまった事が私の体を動かす

聞き耳から人の声や戦闘音から位置を探る
姿は真の姿へ、より彼を感じられるように
戦いで足手まといにならぬように

月絲にて紡いだ魔力の糸を増強して先制攻撃で糸を放つ
糸には破魔と浄化、邪悪な者が触れれば熱線の如く溶かす
糸を張り巡らせて範囲攻撃、敵の利き手や得物を狙った部位破壊
同じ動きから別のを繰り出す

敵からの攻撃はオーラ防御のみ
あとは……彼の仕事ですから

真の姿となった彼と視線が交われば言葉は交わさず
互いに何を話さなければならないか分かっているからこそ
今は不要ということです


篝・倫太郎
【華禱】
俯いていても視線の鬱陶しさは判る
問いには答えない

この痛みは喪失からじゃない
自己犠牲が先にくる、あの人の有り様が痛い

でも、それは俺達が知っていればいい
だから沈黙を通す

観察の為に敵が手を伸ばしたら
真の姿を開放し戦闘開始

華焔刀に鎧砕きとなぎ払いを乗せて先制攻撃
攻撃が命中したら暁戒縛鎖を展開
絲もスカルペルも
刃先を返した華焔刀に衝撃波と吹き飛ばしを乗せて対応
以降は見切りと残像で回避

良く知った魔力の匂いと気配
微かに紛れる鉄錆の臭い
放たれる絲

感動の再会も傷の心配も
すべて終わってから
交わす視線は一瞬

それでも口元に笑みが浮かぶ
俺の刃が此処にある事に
俺は唯一無二の……刃たる彼の盾

易々と知れると思うなよ――



 深く昏い海から地へと上がり、常夜の闇の中を全力で駆ける。
 負った怪我は戦えぬ程のものではない。だが、かなりの高所から落下した衝撃が大きかったことは、走る痛みで分かりはするけれど。
 でも、それでも、月舘・夜彦(宵待ノ簪・f01521)の足は決して止まりはしない。
 彼の体を今動かすのは、心に生じるただひとつのこと。
 軋むこの身の痛みよりもずっと……それ以上に、彼を悲しませてしまった事に対する想いが。
 彼が連行された場所は判明している。ようやく掴んだ、敵の……事の元凶がいる拠点。
『絆深き者に裏切られ、生き延びてしまった、その心に今生じている感情とは一体どの様なものなのだろうか。俺に聞かせてくれないか』
 そう問われる声にも、篝・倫太郎(災禍狩り・f07291)は無言を貫く。
 それどころか目も合わさず俯くけれど、だが好奇のいろを宿し向けられる視線は鬱陶しさを感じるほどで。
 ぐっと、自然と唇を噛みしめてしまう。
 ……感じるこの痛みは、喪失からじゃない。
(「自己犠牲が先にくる、あの人の有り様が痛い」)
 けれど、それは自分達だけが知っていればいい。
 だから倫太郎は貫き通すのだ。己に降る問う声にも、沈黙を。
『何も答えないのは、俺に対する憤りか? それとも絶望か、はたまた恐怖だろうか』
 ひとの感情を知らぬ眼前の存在。
 いや、どうやっても決してわかりはしないだろう。教えてやる義理もない。
 ふと観察の為に被験体である己に伸ばされる、『叡智卿ヴェイン』の手。
 刹那、倫太郎は解放する。己の真の姿を。
『……!』
 そして燃え盛り舞い踊るは、護りを砕き薙ぐ朱。
 手にした華焔刀の美しき刃紋が閃いた刹那、追従し放たれるは金の鎖。
 ヴェイン卿のその身を縛り締め付けんと、じゃらりと鳴る音。
 だがヴェインが成すのは、手脚を縫い付ける縫合絲や被験体の身を切り刻むスカルペル。
 それをすかさず倫太郎は、刃先返した華焔刀から放つ衝撃波で吹き飛ばして。
『実験結果が得られない被験体に用はない』
 互いに一旦、距離を取る。
 そしてつまらぬと興の削がれた表情で、再びヴェインが動き出そうとした、刹那。
 倫太郎は感じていた。良く知った魔力の匂いと気配を。
 同時に敵目掛け放たれるのは、魔力の絲。
 己の贈った円環が成した絲に、微かに紛れる鉄錆の臭い。そして流れる様な竜胆のいろ。
 耳を聳て人の声や戦闘音から倫太郎のいる部屋を探り、駆け付けたのは夜彦。
 その姿を真の姿へとかえて。戦いで足手まといにならぬように、より彼を感じられるように。
『……くっ』
 夜に謳う月の如く、紡いだ魔力の糸。
 破魔と浄化、邪悪な者が触れれば熱線の如く溶かすそれは敵の利き手へと狙って放たれて。
 同じ動きから別の閃きが繰り出される。
 そして交わされる視線。だがそれは、一瞬だけのもの。
(「感動の再会も傷の心配も、すべて終わってから」)
 果敢に踏み込むその呼吸を感じながら、それでも倫太郎の口元に浮かぶのは笑み。己の刃が此処にある事に。
 夜彦が自身で施す護りは、纏う気だけ。
 だって、よく知っているから。
(「あとは……彼の仕事ですから」)
(「俺は唯一無二の……刃たる彼の盾」)
 互いが、自身がなすべき事を。己の役割を……相手にとっての、己の存在意義が。
 真の姿となった相手と視線交わらせても、今は言葉は交わさない。
 それは、不要であるから――互いに何を話さなければならないか、分かっているからこそ。
 倫太郎は己の刃が鋭く疾く閃けるよう、再び成した金のいろで敵を絡め取る。
 己の刃と、愛しき花簪と共に在るこの想いを。
 ……易々と知れると思うなよ――と。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ディアナ・ロドクルーン
ルクセンディア(f24257)さんと

あの後、どうやってここまで連れてこられたのか正直覚えていない
ずっと、彼が落ちていく光景が消えないの

御機嫌よう、ヴェイン卿
貴方の実験は最悪な気分にさせるのがお上手ね

私も貴方の望む答えは持っていない
反応は今までの人と一緒じゃないかしら?
(そう言うと真の姿を開放すると殺気を向けて)

ルクセンディアさん…!言いたい事は山ほどあるけど…
今は先にこいつを倒さなくちゃ

Halos Lilaを手に、UCでスカルペルを薙ぎ払い
ルクセンディアさんと連携を組みながら【部位破壊】、【マヒ攻撃】をしていく

上手くいったから良いものの…ばかっ!!悪い!
本当に…心配させないでよ…


ルクセンディア・エールハイム
ディアナ(f01023)と

…さすがにこの時期の海は寒いな。
肝も少し冷えたが、なぁに、いいスリルだったさ。
ちょっと悲しませたのが胸に痛いところだが…仕方ない、これで裏をかいたからな。フィナーレは近い。

不意を打つように乱入しよう。
さっきぶりだな。さぁ、湿っぽい雰囲気も終わりだ。
俺たちふたりが組めば、行けるだろ? ディアナ。

俺が前を張る。隙を作って見せるし、君を守ってみせる。
君の涙を見てしまったやつには制裁を加えなきゃな。
さぁ、その首を刈り取れ。

……悪かったな。ディアナを騙す真似をしてな。
だが、うまくいったろう? 責めはあとで、いくらでも受けるさ。



 容赦なく吹き抜ける風はただでさえ冷たいというのに。
「……さすがにこの時期の海は寒いな」
 ぽたり金の髪から雫を滴らせ、思わず口にするのは、ルクセンディア・エールハイム(不撓不屈の我様・f24257)。
 死にはしないししなかったけれど、でも寒いものは寒いのだ。
 けれどそれでも、ざっと濡れた髪をかきあげた彼からは決して消えてなどいない。
「肝も少し冷えたが、なぁに、いいスリルだったさ」
 自信に溢れたいろを宿す表情は。
 そして、勝負師な選択も彼らしくはあったのだが。
 ひとつだけ……やはり脳裏に浮かぶのは、己が落ちた時の彼女の姿。
(「ちょっと悲しませたのが胸に痛いところだが……仕方ない、これで裏をかいたからな」)
 裏を掻くためとはいえ、泣かせてしまったから。
 けれど海を臨み青褪めていた表情を思えば、やはり選択は間違っていなかったとも思うから。
 ルクセンディアはいざ、躊躇う事なく向かう。彼女が連れ去られた、ようやく掴んだ敵の拠点へ。
 ――フィナーレは近い、と。
 そして連行された館の一室で、ディアナ・ロドクルーン(天満月の訃言師・f01023)は夜の如き紫の髪をふるりと揺らし、首を横に振る。
(「あの後、どうやってここまで連れてこられたのか正直覚えていない」)
 彼女の脳裏からどうしても消えないのは、まるで昏い海に吸い込まれていくようなルクセンディアの姿。
 向けられた表情はいつも通りで、笑みさえ向けていて。
 ――ずっと、彼が落ちていく光景が消えないの。
 自分が落ちるはずであったのに……何故、貴方が? と。今のディアナは問い続けるばかりしかできない。
 けれど……ふいに感じた音と気配に、ぴこりと微か反応を示す耳。
 そして顔を上げれば、涙を零した瞳に刹那映った姿は、ルクセンディアではない男のもの。
『ご機嫌いかがかな、お嬢さん』
 現れた『叡智卿ヴェイン』の自分を観察するような視線に、ディアナは臆することなどなく返す。
「御機嫌よう、ヴェイン卿。貴方の実験は最悪な気分にさせるのがお上手ね」
『最悪な気分か。それがどのようなものか、詳しく聞かせてはくれないか。ひとの感情や絆は興味深いが……これまで、満足いく実験結果は得られなくてね』
「私も貴方の望む答えは持っていない」
 ――反応は今までの人と一緒じゃないかしら?
 そうふと瞬間ディアナが向けたのは、鋭き牙の如き殺気のいろに満ちた視線。
 眼前の敵を八つ裂きにするべく真の姿を解放した、その時であった。
『……!』
 ヴェインとディアナが同時に向いたのは、急に開いた部屋の扉。
「さっきぶりだな。さぁ、湿っぽい雰囲気も終わりだ」
 耳に届く声と飛び込んできた、その姿は勿論。
「ルクセンディアさん……!」
 そして瞳見開き自分を見つめる彼女へと、ルクセンディアは声を掛ける。
「俺たちふたりが組めば、行けるだろ? ディアナ」
「言いたい事は山ほどあるけど……今は先にこいつを倒さなくちゃ」
 そう――今こそ、ひっくり返す時。どちらが騙されていたかを。
『……生きていては、実験の意味がない』
 ぼそりと呟き、実験の失敗を悟ったヴェインは大きく首を横に振って。
 そんな悪趣味な叡智卿の前に、ふたりは並び立つ。その好奇心にフィナーレを与えるべく。
 そしてもう興味はないと言わんばかりにふたりを包囲し放たれたのは、スカルペル。
 けれどそれを切り裂くかのように。
 刻印が輝きを放つ中、高鳴る鼓動に身を任せ、ディアナは足音高く戦場を舞い踊る。
 迫る刃を薙ぎ払い落としてゆくのは、一閃一閃また一閃――クリスタルオパールに咲く月見草の彩たち。
 そしてすかさず前へと出るのは、ルクセンディア。
「俺が前を張る。隙を作って見せるし、君を守ってみせる。君の涙を見てしまったやつには制裁を加えなきゃな」
『結局、欲しいこたえはまた見つからないのか? ……!』
 刹那、そう興の削がれた様子のヴェインへとルクセンディアが放つのは、繰り出される凶器の威力を削ぐ拷問具。
 そしてルクセンディアは、彼女を映した赤の瞳を細め言い放つ。
 ――さぁ、その首を刈り取れ。
『! ……ぐっ』
 同時に、数多の閃きが敵の身を容赦なく切り裂く。
 夜の夢を示す刃が、この理不尽な『実験』を終わらせるために。
 それからディアナは、くるりと振り返って。
「……悪かったな。ディアナを騙す真似をしてな」
 ――だが、うまくいったろう? なんて。
 してやったりな様子さえあるルクセンディアへと投げる。
「上手くいったから良いものの……ばかっ!! 悪い!」
 ――本当に……心配させないでよ……、って。
 安堵のいろを秘めた声と言葉を。
 そんな彼女へと、やはり彼は笑って返すのだった。
 ……責めはあとで、いくらでも受けるさ、って。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ブーツ・ライル
【DRC】
アドリブ、マスタリング歓迎
NG:味方を攻撃する
_

──…『私を落とすように』、なんて
随分と残酷なことを言う。そしてこの俺にそんなことを命令する思考に笑いさえ込み上げてくる。

ヤキでも回ったか、燕。
俺がそれを呑むと思ったか?
諦めろ、燕。
お前がその赤薔薇を選んだときから──否、俺を選んだときから。

お前は独りでなんて逝けない。──逝かせない。




燕に向かう攻撃を、彼と敵の意識外からいなす
燕の肩を抱き、愛を告げる様耳元で囁き
「──待たせたな、燕」
纏う黒の衣装に一切のほつれも無く
帽子のつばから覗く真紅の瞳は不敵に敵を捉えて離さない。


我らの"赤"で以て──かの"白"《叡智卿》を、染め上げてしんぜよう。


金白・燕
【DRC】
アドリブ、マスタリング歓迎ですよ

今の気分は、と?
彼ならそう言うと思っていましたから
ただそうですね、ちょっとだけ…
恐らく私は苛立っています、ええ

彼が落ちた瞬間どんな思いを感じたか?
ははは、貴方には感じたことが無い感情でしょうねえ
ーーーああもう、腹が立って、腹が立って、仕方がないんですよね
もう、良いでしょう?ブーツ

彼が駆けつければ
ブーツをとりあえず一発殴りつけて
やってくれましたね、貴方
後で覚えておけ、この野郎

ねえ、貴方がさっき考えていた事、
貴方の拳でこの方に教えてあげてください?

そう、全てを赤く染めましょう



 分かっていたことではある。けれど、分かっていても。
『ご機嫌いかがかな、今の気分はどうかね?』
 観察する様な視線を向け、訊ねてくる事の元凶――『叡智卿ヴェイン』へと。
 金白・燕(時間ユーフォリア・f19377)はふっとひとつ息をついて、こたえる。
「今の気分は、と? 彼ならそう言うと思っていましたから」
 青の『選択者』となったブーツ・ライル(時間エゴイスト・f19511)がする『選択』は、分かっていた。
 けれど……それと心に生じる感情は、また別だから。
「ただそうですね、ちょっとだけ……」
 燕は自分を興味深そうに眺めるヴェインへと、こう続ける。
 ――恐らく私は苛立っています、ええ、と。
 そんなようやく掴んだ敵の拠点へ……いや、燕の元へと全力で駆けながら。
 ――……『私を落とすように』、なんて。
(「随分と残酷なことを言う」)
 ブーツはそう、彼の声を思い返し思うけれど。
 でも告げられたその言葉に、笑いさえ込み上げてくる――この俺にそんなことを命令する思考に、と。
(「ヤキでも回ったか、燕。俺がそれを呑むと思ったか?」)
 そしてブーツから漏れる言の葉にはっきりと宿るのは、揺るがぬ想い。
 ――諦めろ、燕、と。
(「お前がその赤薔薇を選んだときから――否、俺を選んだときから」)
 例え、彼本人がそうしろと言ったところで、ブーツの『選択』が変わる事など有り得ないのだ。
 彼が自分を『選択』した、その時から。
 だからブーツは燕に対し、何度でも紡ぐのだ。
「お前は独りでなんて逝けない。――逝かせない」
 いや、燕だって分かっている。
 ブーツが自分を置いて逝くなんてことが、ないのを。
『ほう、苛立ちか。では、絆深き相手が落ちた際、どのように感じた?』
 再度向けられたそんな問いに、燕は思わず笑ってしまう。
「ははは、貴方には感じたことが無い感情でしょうねえ」
 そして知りたがっているヴェイン卿に……いや。
 ――ああもう、腹が立って、腹が立って、仕方がないんですよね、と。
「もう、良いでしょう? ブーツ」
 既に其処に在る彼に、今の己に生じる感情を聞かせる燕。
『! 何故生きている……それでは、実験はできない』
 刹那、その影から嘗て被験体にされた亡者たちが湧き出て。
 燕へと放たれるのは、怨嗟の声や呪詛。
 けれど、すかさず部屋へと踏み込んだブーツが、彼と敵の意識外からそれらをいなして。
 その姿を瞳に映し、傍へと彼が駆けつければ。
 燕はぐっと握りしめた拳で、とりあえず一発、その横っ面を殴りつける。
「やってくれましたね、貴方」
 ――後で覚えておけ、この野郎、って。
 そんな拳と言葉を見舞ってきた燕の肩を、ブーツは伸ばしたその手で引き寄せ、抱いて。
「――待たせたな、燕」
 彼の耳元を擽るかの如く囁く。まるで愛を告げる様に。
 纏い靡かせる黒の衣装に一切のほつれも無く。
 そして、不敵に敵を捉えて離さない。
 ……我らの"赤"で以て――かの"白"《叡智卿》を、染め上げてしんぜよう、と。
 帽子のつばから覗く、真紅のいろが。
 そんなやはり揺るぎない彼の姿に瞳を細めてから。
 燕も、彼へと言の葉を紡ぎ返す。
 だって、燕は分かっているから。
「ねえ、貴方がさっき考えていた事、貴方の拳でこの方に教えてあげてください?」
 赤き宝石輝き、神速の脚撃が唸る中。その身を毒茨の刺青で覆いながら。
 ――そう、全てを赤く染めましょう、って。
 彼が考えていることは、よく分かるから。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

リンデ・リューゲ
【凛夜】

きみばかり怪我するのが嫌だった
俺もきみを守ってみたかった
子どもっぽいエゴと引き換えに傷付けた心
望んだ選択

ここに来るまで考えてた
ヨルが泣いてたら、とか
そういう心配
――は、全然必要無かったなぁ

中から聞こえる元気な声
うちの姉さん逞しすぎない?
体の痛みも忘れて笑っちゃう
だってその怒りはきっと心配の裏返し

聞いてたよ
そうだね
でも、それでもきみを

心中で応え
タイミング見て中へ

豪快に絵筆振るい
焼け付く赤をその白衣へ
選択者は俺たち
今度は君が地に伏す番
隙を生じさせる意図も持って

例え俺が無力化されても
ヨルが居る

…うん
へにゃり笑い

叱られるのが待ち遠しい
なんてバレたらもっと怒るかな
ありったけのごめんねはその時に


ティヨル・フォーサイス
【凛夜】

睨みつけ答える
ご機嫌がよろしいように見える?

本当に、大した裏切りだわ
もうね、とことん愚痴りたい気分なのよ
あなたのことだって趣味が悪すぎて腹が立つけれど
耳があるなら聞いて行きなさい!

よくもまあこんなどっちに転んでも最悪な選択させたものね
私を落としなさいって言ったのに全然聞いてないのよ
羽の有無だけじゃない
重い方が怪我しやすいに決まってるじゃない
合理的な話でもある、そうでしょ!

腹が立ちすぎて開き直ったわ
絶対生きてるって思うから腹も立つのだけれど

っ、リンデ
来たわね

今よリュイ!

亡者の声
もっと早ければ、あなたたちを助けることもできたのかしら
もう安らかにと祈るしかできない

リンデはあとで覚えてなさいよ



 ようやく尻尾を掴んだ、敵の拠点。
 リンデ・リューゲ(يقبرني・f14721)は、此処に駆けつけるまで考えていた。
 姉は自分を落とす様にと、いつもの様に言ってきたけれど。
 でも選択権は、青を手にした自分にあって。だからリンデは選んだのだ。
(「きみばかり怪我するのが嫌だった。俺もきみを守ってみたかった」)
 自分で決めた、望んだ選択を。
 そして、望んだ選択をしたそのかわりに……子どもっぽいエゴと引き換えに、傷付けた心。
 だから、少し心配していたのだ。
 ……ヨルが泣いてたら、とか。
 けれど。
『ご機嫌いかがかな、お嬢さん』
「ご機嫌がよろしいように見える?」
 声を掛けてきた『叡智卿ヴェイン』に怯むどころか、真っ直ぐ睨みつけて。
 言い放つようにそう答える、ティヨル・フォーサイス(森のオラージュ・f14720)。
 そして大きく溜息をつき、ふるふる首を横に振って続ける。
「本当に、大した裏切りだわ。もうね、とことん愚痴りたい気分なのよ」
『ほう、愚痴りたい気分』
 そう興味のいろを宿すヴェインの声に、ティヨルはびしっと声を投げる。
「あなたのことだって趣味が悪すぎて腹が立つけれど。耳があるなら聞いて行きなさい!」
 ぷんすか紡がれるティヨルの言葉に宿る感情は怒り。
 いや……きっと心が分からぬヴェイン卿は、それだけだと、そう思っただろう。
「よくもまあこんなどっちに転んでも最悪な選択させたものね。私を落としなさいって言ったのに全然聞いてないのよ。羽の有無だけじゃない、重い方が怪我しやすいに決まってるじゃない」
 自称反抗期の弟が仕掛けた悪戯。
 けれどそんな弟のヤンチャは、姉としてやっぱり納得できなくて。
 ――合理的な話でもある、そうでしょ!
 開き直って湧き出る愚痴をここぞとばかり言いまくるティヨル。腹が立ちすぎて。
 抱く感情は確かに……悪戯っ子の弟に、そうさせたヴェイン卿に対しての、腹立たしい気持ちなのだけれど。
 でもそれは――絶対生きてるって、そう思うから。
 だから、ぷんすかとティヨルは怒れるのだ。
 そして……は、全然必要無かったなぁ、って。
 部屋の中から聞こえる元気な声に、思わずリンデは笑ってしまう。
 泣いているかもしれない、なんて思ったのに。
「うちの姉さん逞しすぎない?」
 体の痛みも忘れるくらい、敵の拠点でも強気なその様子が可笑しくて。
 それに、リンデにはちゃんと分かっているから。
(「だってその怒りはきっと心配の裏返し」)
 そして聞こえてくる言葉ひとつひとつに、応えて返す。
 ……聞いてたよ、そうだね、って。
 心の中だけで――でも、それでもきみを、と。
 それからひととおり、ぷんすか姉が愚痴を吐き出したタイミングを見計らって。
「っ、リンデ。来たわね」
 自分に向けられる瞳に、笑って返してみせて。
『な……また死んでいない、だと? ……!』
 己へと投げられるもうひとつの視線の主――悪趣味な元凶へと豪快に振るうは、鮮やかに描き出し彩るための絵筆。
 けれど今日描くのは、スケッチブックの中で踊るたったひとりの妖精の彩ではない。
 纏う白へと、焼け付くような赤のいろを。
「選択者は俺たち。今度は君が地に伏す番」
 隙を生じさせる意図も持って、紡ぎ描く声。
『そこのお嬢さんの話は興味深かったが、一気に失望した。結果が得られないならば、用はない』
 刹那、ヴェイン卿が放つは、観察するべく掴むの拳や手脚を縫い付ける縫合絲、身体を切り刻むスカルペル。
「……!」
 けれど、でも……リンデはちゃんと知っている。
(「例え俺が無力化されても、ヨルが居る」)
「今よリュイ!」
 そう思ったと同時に敵へと鋭い牙を剥くのは、真の姿となった緑眼の白い竜。
 そしてティヨルは、ヴェインの影から生じる亡者たちの声を聞きながらも、思う。
(「もっと早ければ、あなたたちを助けることもできたのかしら」)
 彼らは、嘗て被験体にされた人たちだから。
 でも瞳を伏せるのは、一瞬だけ。
 ……もう安らかにと祈るしかできない、と。己にそっと言い聞かせて。
 それからティヨルは弟へと、視線と言の葉を投げる。
「リンデはあとで覚えてなさいよ」
「……うん」
 そんな自分をじっと見つめる姉に、へにゃり笑うリンデ。
 むうとその表情は納得していないし、やっぱりぷんすかしているみたいだけれど。
 でも……心配と安堵のいろを隠せない姉を見ながら、そっと思うのだった。
(「バレたらもっと怒るかな」)
 ――叱られるのが待ち遠しい、なんて。
 そしてやっぱり弟らしく悪戯っぽく、姉へと笑むリンデ。
 ……ありったけのごめんねはその時に、って。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

アルフィード・クローフィ
環ちゃん(f28317)と一緒

うぅ、環ちゃん。カッコ良いよ!
環ちゃん男前に惚れそう!
と実はこっそり隠れて環ちゃん達を見てた!
ふふっ、だだいまー!待ってた?

怪我はしてないよ!
クッションくんが居るからねー!
あっ、その子は今度紹介するね

それよりも、質問ばかりでウザーい!そんなんじゃ女の子に嫌われるよ?
真実の刄
さぁて今度はこちらが質問だよ!君って本当に絆を信じられないの?
嘘だぁ、本当は羨ましいくせに、ね
君も絆が欲しいでしょ?
嘘ついた子にはお仕置きだー
神の裁きの劔が君の心臓を貫くよ!

環ちゃん終わったら帰ろうね
俺達の家に
ん?違った?でも俺の家に迷ったから家族みたいなものだよ!うん!


雨絡・環
アルフィードさん(f00525)と

初めまして、卿
今の機嫌?ええ、大変結構です
如何思ったか、など

…ほ、ほほ!
なあんにも?
だあってこの程度
わたくし如きが何した所で
あの方が止まる筈が御座いませんでしょ

あら、覗き見なんて
もう少しで待ち草臥れてしまう所でした
お怪我は御座いません?
そう、良かった事

くっしょんくん?
まあ、後のお楽しみですね
先ずは此方を終えねばね

【勝虫】
アルフィードさんの質問の間に背後に回り
彼の劔と共に絲を繰る

人の心のふしぎなる事
詳らかにと望む事
解らぬでも御座いませんが
興を満たしたいのならば
外から覗かずに愛憎に塗れなさいませ
大変刺激的ですよ

あら
わたくしの、でも宜しくて?
…ふふ
では、そういう事に



 裏切られ、失った今……心に生じる『感情』とは一体何なのだろうか。
 それがどうしても理解できず、想像もできないから。
『ご機嫌いかがかな、今のご機嫌を俺に聞かせてはくれないか』
 実験の結果を知るべく、『叡智卿ヴェイン』は雨絡・環(からからからり・f28317)へと問う。
 そんな彼の声に彼女は返答する。
「初めまして、卿。今の機嫌? ええ、大変結構です」
 それから……如何思ったか、など、と。
 そっと呟きを落とす様に、ヴェイン卿を見つめる銀の瞳を細めてから。
「……ほ、ほほ! なあんにも?」
 高らかに上げるのは、笑い声。
 そして思わぬ反応に瞳瞬かせるヴェインへとこう紡ぐ。
「だあってこの程度。わたくし如きが何した所で、あの方が止まる筈が御座いませんでしょ」
 そんな環の様子を、実はこっそり隠れて見ていたアルフィード・クローフィ(仮面神父・f00525)は。
「うぅ、環ちゃん。カッコ良いよ! 環ちゃん男前に惚れそう!」
 そしてバンッと扉を開き、ふたりの間に割って入る。
「ふふっ、だだいまー! 待ってた?」
「あら、覗き見なんて。もう少しで待ち草臥れてしまう所でした」
 環ちゃんカッコ良かった! って笑うアルフィードに、環も笑んで返してから。
「お怪我は御座いません?」
「怪我はしてないよ!」
「そう、良かった事」
「クッションくんが居るからねー!」
 ……あっ、その子は今度紹介するね、と。
 続けた彼の言の葉に、ふと首を傾ける。
「くっしょんくん? まあ、後のお楽しみですね」
 そう、彼の言う謎のくっしょんくんとやらを紹介して貰うためには。
 ……先ずは此方を終えねばね、と。
 視線を再び、自分たちのやり取りを観察する様に眺めるヴェイン卿へと戻す環。
『感情や絆、やはり理解できないな。どういうことなのか、教えてくれないか?』
「それよりも、質問ばかりでウザーい!そんなんじゃ女の子に嫌われるよ?」
 アルフィードは整った顔に笑みを宿し、ヴェインにそう教えてあげつつも。
「さぁて今度はこちらが質問だよ! 君って本当に絆を信じられないの?」
 ――はーい! 俺の質問に答えてね!応えてくれないとお仕置きしちゃうぞ!
 逆に彼へと問う。神の裁き、神の劔を、放ちながら。
『解らないものを、信じられると思うか?』
「嘘だぁ、本当は羨ましいくせに、ね」
 ――君も絆が欲しいでしょ?
 そうアルフィードは返ってきた声にくすりと笑んでから。
『……!』
「嘘ついた子にはお仕置きだー」
 刹那、心臓を貫くべく繰り出されるお仕置きは、神の裁きの劔。
 さらに 纏った雨霞が環の姿を消して。
 ――参りましょう。
 彼の劔と共に、敵の背後から張り巡らされるのは、触れるものを切断する蜘蛛の絲――『勝虫』。
『! ……ぐっ』
「人の心のふしぎなる事、詳らかにと望む事、解らぬでも御座いませんが。興を満たしたいのならば、外から覗かずに愛憎に塗れなさいませ」
 そして環は、ふふっと笑みと共に紡ぐ……大変刺激的ですよ、って。
 そんな環に、にぱっと笑みを向けるアルフィード。
「環ちゃん終わったら帰ろうね。俺達の家に」
「あら。わたくしの、でも宜しくて?」
「ん? 違った?」
 ふたりはそう互いに見つめ合い、きょとりとするけれど。
「でも俺の家に迷ったから家族みたいなものだよ! うん!」
「……ふふ。では、そういう事に」
 同時にまたそう、笑みを零し合う。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

黒柳・朔良
我が主(f29142)と

碧唯様、もとい華織様の居場所は掴んでいる
その気配を追って華織様の部屋に忍び込んで、そのまま暗がりに潜んでいよう
華織様と叡智卿ヴェインの会話に耳を傾けつつ、適当なタイミングで姿を現す
それと同時に選択UCを発動、「実験の結果、解ったことはあるか」と聞いてやろう
その答えに理解はするだろうが納得はしない、すなわち私が満足することはない

ああ、華織様も怒っていらっしゃる
その怒りは正当なものだと、この吸血鬼はわからないだろう
私と主の絆だけでなく、他の者達の絆をも利用し試すような者には
『実験』を繰り返しても理解することは出来ないはず
その結果に絶望しながら、我が影に呑まれて消え去るがいい


神在月・碧唯
我が影(f27206)と
副人格:華織

朔良が落ちた時にどう思ったか、だって?
それを私に聞くのかい?
そうだね、あの子のことだ、私達のうちの誰かが死ねといえば喜んで命を差し出すだろう
だが私はそうしなかった
その意味が、君にはわかるかな?

そう、私達の影はあれくらいでは死なない
選択UCで相手が疑問の感情を持ったら触手で拘束する
私の謎を喰らう触手と朔良の影の触手、二種類の触手を振りほどくことは出来るかな?

私はね、怒っているんだよ
優しい碧唯にあんな酷な選択を迫っただけでなく、私達の影を愚弄した
知識に対する欲求は私も研究者だから理解できる
だがその求め方を君は間違えた
それを今証明してみせよう



 部屋を訪れた眼前の男の抱く、その好奇心や研究心は分からなくもないと。
 そうは、神在月・碧唯(その優しさは時に残酷で・f29142)……いや、碧唯ではなく『華織』は思うけれど。
 その対象は全く己とは異なる、決してわかりあえぬもの。
『助けたかった絆深き者を突き落とした際、どのような感情が生じたか。俺に教えて欲しい』
「朔良が落ちた時にどう思ったか、だって?」
 ……それを私に聞くのかい?
 華織はそう向けた藍色の瞳を細めるけれど。
「そうだね、あの子のことだ、私達のうちの誰かが死ねといえば喜んで命を差し出すだろう。だが私はそうしなかった」
 そして逆に、自分へと興味の視線を投げる彼へと問うてみせる。
 ――その意味が、君にはわかるかな? って。
 それから、きっとわからないだろうヴェイン卿へと、華織は教えてあげる。
「そう、私達の影はあれくらいでは死なない」
 そんな主の気配を追い、華織様の入れられた部屋へと忍び込んで。
 そのまま暗がりに潜んでいた黒柳・朔良(「影の一族」の末裔・f27206)は、その言葉と同時に、満を持して姿を現す。
 碧唯の……もとい華織の居場所はとっくに掴んでいたから。
 主を守る、影として。
 そしてやはり理解できぬ様子で、己の紡いだ言葉に疑問の感情を持ったヴェインの声を受けて。
『……っ!』
 華織が喚んだのは、絡みつく紫の触手のかたまり―――謎を喰らう触手。
 さらに今度は朔良が、彼へと逆に問う。
「実験の結果、解ったことはあるか」
『やはり感情や絆というものは理解できない。何のためにあるものかわからない、ということが解ったな』
 主とのやり取りやその反応を見ても、彼が返したその答えに、理解はする朔良であるけれど。
(「だが納得はしない、すなわち私が満足することはない」)
 刹那、朔良が成すのは、影法死――引きずり込まんと纏わりつく無数の触手。
 知りたいという彼の好奇に対し、その身をもって教えてやる。
『っ、鬱陶しい……!』
「私の謎を喰らう触手と朔良の影の触手、二種類の触手を振りほどくことは出来るかな?」
 そして――私はね、怒っているんだよ、と。
 そう放たれた主の言の葉と声色に、朔良は思うのだった。
 ――ああ、華織様も怒っていらっしゃる、と。
 けれど、自分はそれがよく解るけれど。
(「その怒りは正当なものだと、この吸血鬼はわからないだろう」)
 だから朔良は、ヴェインへと言い捨てる。
「私と主の絆だけでなく、他の者達の絆をも利用し試すような者には、『実験』を繰り返しても理解することは出来ないはず」
 ――その結果に絶望しながら、我が影に呑まれて消え去るがいい、と。
 どのみち何を言っても、何も見ても、いくら実験をしようとも、彼には解りなどしないから。
 そして華織も、愚かなる研究者へと告げる。
「優しい碧唯にあんな酷な選択を迫っただけでなく、私達の影を愚弄した。知識に対する欲求は私も研究者だから理解できる。だがその求め方を君は間違えた」
 私と我が影が――それを今、君に証明してみせよう、と。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

栗花落・澪
【狼兎】

息を潜め部屋の外、死角から【聞き耳】をたて
紫崎君の「後悔しても知らねぇっつったろ」
から一連の言葉を合図に敵の背後から【指定UC】
悶えてる隙に紫崎君の元へ駆け寄り

大丈夫だよ、まっすぐ海に落ちたから
心配しないで
そう伝えても後で見せろと言われれば
心配性ーと苦笑い

お互いがお互いに向くUCに対策を
呪詛には【呪詛耐性】の【オーラ防御】で庇いつつ
亡霊達には【破魔】を宿した★花園を足元一面に広げながら
【浄化の祈り】を込めた光魔法の【属性攻撃】で
まとめて祓ってあげる
ついでに敵にも当たれば目眩しも兼ねて丁度いいかな

実験はもう終わり
今度は貴方が被害者達の元に謝りに行く番だよ
死んでも許されるとは思えないけどね


紫崎・宗田
【狼兎】
何を問われても言葉も返さず
睨む事もせず態度悪く黙ったまま

あまりにも無反応で相手の意識が逸れそうになるならば
その瞬間だけ目線も合わせず返答を

後悔しても知らねぇっつったろ
俺からの答えはそれだけだ
言葉と同時に溢すのは挑発的な笑み

おい、怪我は
お前が毎度隠さなきゃ余計な心配しなくて済むんだがな
後でちゃんと見せろよ

澪に向く攻撃は炎の【属性攻撃】を宿した武器で払い落とし
俺に向く攻撃は澪に任せる
呪詛やら亡者やらの対処はあいつの十八番だ
相性が悪過ぎたな
ザマァ見ろ

俺はただ、目の前の仕事を片付けるために
【指定UC】で炎を纏いながら敵に噛みつき
燃焼による【継続ダメージ】と皮膚を裂く牙、食い込む爪で攻撃



 じっと観察するように見つめてくる、不快な視線。
 けれど睨む事すらせずに、態度悪くただひたすら無言を貫く紫崎・宗田(孤高の獣・f03527)に。
『貴様のその『何も答えない』事も、ひとつの実験結果だ。それは『感情』からくる行動であるのだろう?』
 あまりにも無反応で、相手の意識が逸れることもあるかと思ったけれど。
 むしろ、興味深そうに眺めてくる『ヴェイン』の煽る様な言葉に乗る事もなく。
 ただヴェインに対し、無視を決め込む宗田。動き出すべく、その『機』がくるまでは。
 そしてその瞬間は、ちらりと気付かれぬ程度に宗田が扉の向こうへと意識を向けて。
 これまで見向きもなかった敵へと、こう口を開いた時であった。
「後悔しても知らねぇっつったろ」
 ……俺からの答えはそれだけだ、と。
 そんな言葉と同時に零すのは、ニッと挑発的ないろを宿した笑み。
 刹那、部屋の扉が開け放たれれば。
 ――香り高く舞い遊べ。
『……!?』
 ヴェインの背後から向けられるのは、栗花落・澪(泡沫の花・f03165)の魔力を紡ぐ声と指先。
 瞬間、咲き誇るのは、白きアサガオの花嵐。
 その花が咲かせる言の葉は――固い絆。
 そして白きその花は、依存や執着を彩るという。
 赤と青の固い絆をもって、そして満たされることなき興味に執着する叡智卿へと逆巻く花嵐。
 ……後悔しても知らねぇっつったろ、と。そう紡がれた一連の言葉が合図。
 死角から聞き耳をたて、息を潜め部屋の外で待機していた澪の奇襲に、ヴェインが気を取られている隙に。
「おい、怪我は」
「大丈夫だよ、まっすぐ海に落ちたから」
 ……心配しないで。
 駆け寄り、そういつもの様に返してみせる澪に、息をひとつ吐く宗田。
 いつだってそうだから。大丈夫、心配しないで、って。
 だから、ちらりと視線を向け、宗田は澪へと告げるのだ。
「お前が毎度隠さなきゃ余計な心配しなくて済むんだがな」
 ……後でちゃんと見せろよ、と。
 そう返ってきた言葉に、澪は思わず苦笑いを。心配性ーって
『……相手が生きていたら、実験のサンプルとしては弱い。では、目の前でどちらかを殺せばいいか?』
 ヴェインがそう紡ぎ、澪へと瞬間放つのは、相手を掴み観察する拳や手脚を縫い付ける絲、身体を切り刻むスカルペル。
 だがそれをすかさず焼き尽くす様に払い落とすのは、宗田がぶん回す赤き狼猛る炎纏いし漆黒の巨大斧。
『相手が落とされた時、どう思った? どのような『感情』が渦巻いた?』
 そして今度は自分に向いた、ヴェインの影から現れし被験体であった亡者たちの怨嗟の声や呪詛に、宗田は再び笑み宿す。
「呪詛やら亡者やらの対処はあいつの十八番だ、相性が悪過ぎたな」
 ――ザマァ見ろ、と。
 その言の葉通り、呪詛に耐性のある澪の守りの気が彼を庇う様に展開されて。
 刹那足元に広がるは、破魔の力が咲き誇る花園。
 そして澪は祈る。光の魔力を放つ浄化の衝撃を。
 ――まとめて祓ってあげる。
(「ついでに敵にも当たれば目眩しも兼ねて丁度いいかな」)
 目を覆うほどの、輝きを迸らせて。
 恐らく一人では苦戦は必至であるだろうけれど。
 でも、今はひとりではないから。互いが互いに向く攻撃に有効な対策を取って。
 そして確りと護りあえば、今度は勿論、攻めに転じる。
 ――本物の肉食系ってやつ、見せてやろうか。
『……!』
 ヴェインへと鋭い牙を剥き噛みつくのは、炎纏う黒狼。
 宗田は炎をもって敵を焼き尽くし噛みちぎるだけ。ただ目の前の仕事を片付けるために。
 そして澪は光咲かせながら、知りたがりの叡智卿へと教えてあげる。
「実験はもう終わり。今度は貴方が被害者達の元に謝りに行く番だよ」
 ――死んでも許されるとは思えないけどね、って。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

コノハ・ライゼ
たぬちゃん(f03797)と

負傷は激痛耐性で知らぬ振り
館には密かに潜伏、回答と同時誰がおかーさんか!と
相方へ……が外れた体で敵へ回し蹴り、そして舌打ち

生憎サンプルになるつもりなんか1ミリもねぇケド
別に先刻の言葉は嘘じゃあナイ
アタシか他かなら、アタシの為に死んでもらうわ
ただ死ぬよりこの腹を満たしてくれたら尚イイ……だから、さあ
『オレの為に死んで頂戴』
先刻と同じ台詞で相方の襟首鷲掴み
怪力に物言わせ敵へと投げつける

敵の気が逸れた隙つき床蹴り、相方と挟み撃ちするよう空中戦
流した血を「氷泪」へ与え【紅牙】発動
牙と化した紫電で喰らいつき傷口抉って生命力をいただくわ

ソイツ喰らうンじゃ腹に入れても煩そうだもの


火狸・さつま
コノf03130と

怪我してないかな、まだ来ないな、と
そわそわ部屋で待ち惚け
コノ来た?と思えば黒幕…
毛並み逆立て威嚇!

コノ、落とした。落とさせた…赦さない
ぷんすこ!しっぽびたんびたん!
見捨てられた?死んで言われた?
良いの!だて!コノは、俺の、大事な、おかーさんだから!

Σひゃっ?!
突然の乱入に驚き尻尾がぶわりするも
コノ!かっくいー!
再会喜びわぁいわぁい!
舌打ちには首傾げておめめぱちくり

これ、は…誰よりオレを選んでって、事?!なぁんて勘違い大喜び
うんうん、コノの為に!倒……ふぇ?
投げられる勢い利用し【粉砕】
あれ?その台詞、さっきも聞いた?
ね、俺に言ったんじゃ、ない、よね?
なんて声掛けつつ彩霞をふるう



 尻尾をゆらゆら、そわそわと落ち着きなく。
 ――怪我してないかな、まだ来ないな、なんて。
 連れて来られた館の一室で、待ち惚けを喰らっているのは、火狸・さつま(タヌキツネ・f03797)。
 そして瞬間、ピンッとお耳が立てば。
(「コノ来た?」)
 わくわくキラキラ、開いた扉へと向けるけれど。
『ご機嫌いかがかな、今の気分はどうだろうか?』
 それが期待した待ち人ではなく、黒幕『叡智卿ヴェイン』であると知れば。
 ――フシャアッ。
 毛並み逆立て威嚇!
 そんな逆立つ毛色を見て、ヴェインは首を傾ける。
『今回の被験体は狸か』
 いや、狐なのに狸だと、間違えられたのもだけれど。
 それよりも何よりも……ぷんすこ! しっぽびたんびたん!
 さつまがそう怒っている一番の理由は勿論。
「コノ、落とした。落とさせた……赦さない」
 眼前の敵こそ、コノハ・ライゼ(空々・f03130)を落とした元凶だから。
 そんな、ぷんすこふしゃー! なさつまへと、ヴェインは反応を見るかの様に言葉を紡ぐ。
『相手が、貴様に死ねと言ったのを聞いただろう? そう、見捨てられたんだ』
「見捨てられた? 死んで言われた?」
 ……さつまにとってコノハは、とても大事な大事なひと。
 だから、尻尾をぶんぶんびたんとさせながら。
 さつまはヴェインへと、教えてあげるように言い放つ。
「良いの! だて! コノは、俺の、大事な、おかーさんだから!」
「誰がおかーさんか!」
 そんなツッコミの声と同時に開いた扉から現れたのは、おかーさん……いや、密かに館へと潜伏し様子を窺っていたコノハ。
 刹那コノハが乱入と同時に放つのは、おかーさん呼ばわりした相方への強烈な回し蹴り――。
「ひゃっ!?」
『!』
 ……が外れた体で、その衝撃はヴェインへと唸りを上げて。
「コノ! かっくいー!」
 わぁいわぁい! と尻尾をぱたぱた、再会に大喜びするさつまを後目に。
 コノハの口からひとつ漏れるのは、舌打ち。
 そんなチッと聞こえた舌打ちに、こてりと首を傾け、おめめをぱちくりさせるさつまだけれど。
 コノハはまずは、ヴェインへと視線を向けて口を開く。
「生憎サンプルになるつもりなんか1ミリもねぇケド。別に先刻の言葉は嘘じゃあナイ」
 ――アタシか他かなら、アタシの為に死んでもらうわ、って。
 それからちらりと、自分をひたすら見つめている相方へと薄氷の色を向けてから。
「ただ死ぬよりこの腹を満たしてくれたら尚イイ……だから、さあ」
 コノハは再び先程と同じ言の葉を紡ぐ――『オレの為に死んで頂戴』って。
 そんな届いた声に、さつまはおめめを大きく見開いてから。
(「これ、は……誰よりオレを選んでって、事!?」)
 ぱあぁっと瞳キラキラ、勘違いの大喜び……!?
 そして、つかつか歩み寄るコノハへと、こくこく頷けば。
「うんうん、コノの為に! 倒……ふぇ?」
 瞬間――がしっと、襟首を鷲掴みされて。
「!?」
『……!?』
 ふっと口元に笑み宿った瞬間、怪力に物言わせコノハはぶん投げる。
 相方を――さつまを、敵へと。
 そして敵の気が逸れた隙をついて、一気に距離を詰めて。
 ――砕け散れ。
 投げられる勢い利用し重い一撃を叩きつける相方に合わせ、挟み撃ちするように空中戦へと持ち込んで。
 コノハと同時に攻撃を仕掛けながらも、ふとさつまは首を傾ける。
「あれ? その台詞、さっきも聞いた?」
 ……ね、俺に言ったんじゃ、ない、よね? って。
 そう声掛けつつ、握る彩霞を敵へとふるうさつまだけれど。
 そんな相方へと一瞬だけ向けた、うすいうすいアオのいろに。コノハが与えるのは、流したアカ。
 己の血を与えれば、深く刻まれたシルシは紅き牙を成し、さらなる赤を欲する。
 ――イタダキマス。
『! ぐ……っ!?』
 刹那、牙と化した紫電で敵へと喰らいつき、その傷口を容赦なく抉るけれど。
 でも……ヴェインからいただくのは、あくまで生命力。
 ぺろりと小さく舌なめずりし、相方と敵を狩りながらも、コノハはわらう。
 ――ソイツ喰らうンじゃ腹に入れても煩そうだもの、って。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

クロト・ラトキエ
千之助(f00454)が来る迄に

問いに、冷めた、甘い笑みで
嗚呼。貴方、失感情ってトコですか

夥しい戦場で、これでもかと視てきた
憎悪。絶望。痛苦
死を…無を

決めて来た
手前には、死にたいと思わせて遣ると

さぁ、
楽しい愉しい
――責め苦の時間だ

メスの軌道の法則性、速度、密集…
見切り。躱し、外套で払い
…否。己の傷など些事

視て得た、知識…
痛点の集中箇所
急所ならざる大量失血点
徐々に神経蝕む毒
刃でじわじわと

楽しい?
苦しい?
満たされる?
視覚で触覚で痛覚で
恐怖を『思い出せ』ばいい

俺だけのひとを落としてくれやがったんだ
命の自由なぞ期待するなよ

終始微笑
…これが、本来の俺
彼の姿、傷を見れば、更に――

これはもう、手心も不要だな


佐那・千之助
クロト(f00472)の無事を祈る一心で
必要最低限に治療を施した身の痛みも忘れて館を駆け
話し声を捕えたら急ぎ扉を開く

ひとりでも戦いそうと危ぶんでいたが間に合って良かった
彼の無事に安堵し、焔の華で敵の速度を削ぎ
援護をしながら…戸惑う
彼の声も、表情も
そんな風にわらうの初めて見た
私の無事な姿が映っているだろうか

戦場に生きた彼が殺意を識ったのは最近のことで
それは多分…私のことで感情が沸き立つときだけ
私が彼に植え付けたものは…
…濡れ鼠でよかった
再び濡れた頬がどうか見つからぬよう

私の心を傷付けまいと、青を譲ってくれた優しい彼
想いを翻せばこんなにも烈しい熱
吸血鬼に伝わったろうか
苦しみが長引かぬよう貫きながら



 クロト・ラトキエ(TTX・f00472)は、わらっていた。
 ひどく冷めた、けれど甘い笑みで。
『ご機嫌いかがかな、今の『感情』を俺に教えてくれ』
 そう問われた声に。
 そしてクロトは冷え切った青い瞳を彼――『叡智卿ヴェイン』へと向ける。
「嗚呼。貴方、失感情ってトコですか」
 ……だって、決めて来たのだから。
(「夥しい戦場で、これでもかと視てきた――憎悪。絶望。痛苦。死を……無を」)
「手前には、死にたいと思わせて遣ると」
 だから、これからクロトは始めるのだ。
 さぁ、楽しい愉しい――責め苦の時間だ、って。
『成程、俺が憎いか? 殺したいほどに。ならば……良いだろう、耐えられぬなら泣き叫べ』
 刹那、周囲をぐるり囲むように閃くのは鋭利なスカルペル。
 けれど今のクロトを突き動かすのは決して、ヴェインが思っている類の『感情』ではない。
 殺したい、ではないのだ。
 瞬間、クロトへと一斉に迫る鋭利な刃たち。
 その軌道の法則性、速度、密集……それをあくまで冷静に見切り、躱し、外套で払い落とす。
 いや、いくつもの刃がクロトの身から赤を飛沫かせるけれど。
 クロトは冷めた瞳でただ、決めて来たことをするべく動くだけ。
 だから……己の傷など些事。
 そして――そんなクロトの元へと。
 佐那・千之助(火輪・f00454)は急ぎ、駆ける。
 必要最低限に治療を施した、その身の痛みも忘れて。
 千之助は危ぶんでいたから。ひとりでも戦いそうだと。
 そう逸る気持ちのまま辿り着いた館の中、聞こえる話し声を頼りに扉を開けば。
「……間に合って良かった」
『! チッ、新手か』
 ――闇にこそ咲きまされ。
 彼の無事に安堵した千之助が咲かせるのは、敵の速度を削ぐ焔の華。
 瞬間、生じた一瞬の隙を見逃さず、クロトは甘くわらう。
 ……視て得た、知識。痛点の集中箇所、急所ならざる大量失血点――そして。
『!!』
 侵掠。それは徐々に神経蝕む毒。刃でじわじわと――。
 高純度の神経毒が仕込まれた刃で敵の身を斬りながら、クロトは冷めた甘いいろでわらうのだ。
「――楽しい? 苦しい? 満たされる?」
 そう……視覚で触覚で痛覚で。
「恐怖を『思い出せ』ばいい」
 そんなクロトの声に、表情に。援護をしながら、千之助は……戸惑う。
 ――そんな風にわらうの初めて見た、って。
 そして、己の知らぬいろを宿す彼を見つめ思う。
「俺だけのひとを落としてくれやがったんだ。命の自由なぞ期待するなよ」
 ……私の無事な姿が映っているだろうか、と。
 クロトは決して絶やさない。終始微笑を浮かべて。
(「……これが、本来の俺」)
 それからふと、クロトは己の青に、自分を見つめる彼の姿を映して。
 冬の海で冷え切った肌、滴る雫、最低限の治療のみしか施されていない生々しい傷――。
 それを見れば、更に口角が上がる。
「これはもう、手心も不要だな」
 千之助はそんな彼の声を聞きながら、思わずふるりと微か、陽光に似た長い髪を揺らし首を横に振る。
 だって、千之助には分かっているから。
 戦場に生きた彼が殺意を識ったのは最近のことで。
(「それは多分……私のことで感情が沸き立つときだけ」)
 ――私が彼に植え付けたものは……。
 そう一瞬天を仰ぎながら、千之助は密かに思う。
 ……濡れ鼠でよかった、と。
 そして願わずにはいられない。
 彼に、どうか見つからぬように、と――再び濡れたこの頬が。
(「私の心を傷付けまいと、青を譲ってくれた優しい彼」)
 千之助はそれから、きっとどんなに『実験』しても満たされぬだろうヴェインへ卿と視線を向けて。
 苦しみが長引かぬよう貫きながらも思う。
(「吸血鬼に伝わったろうか」)
 それはまるで、そう……赤と青。
 優しくて、そして――想いを翻せばこんなにも烈しいその熱に、と。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

シホ・エーデルワイス
《華恋》


『詩帆』の導きで急行
燦の変わり様に愕然

私の死で燦はこうも狂ってしまうの!?

裏社会を生き抜いてきた盗賊のイメージとかけ離れていた

けど
思えば…

私は前世で守った人々に処刑され死を喜ばれたから
私の死を嘆く人の気持ちに疎くなっていると気付く


ごめん…
燦がこんなに苦しむなんて想像できなかった

主は
死別しても後悔しない覚悟を試していると思ったけど…
もう生きている内に別れても苦しむのは避けられないのね


燦を優しく抱擁し口づけしながら『聖印』に触れさせ心を癒しつつ
催眠術を解く


私は燦の弱さも含めて好きですよ


叡智卿に感謝
お陰で
真の絆の重みを感じ
死ですら二人の心を分かつ事はできないと知りました


【華霞】で燦の援護射撃


四王天・燦
《華恋》

命使いて殺す
復讐鬼の形相で待つ
シホは後追いを望まない…分かっても感情が理性に追いつかない

シホを幽霊と錯覚し縋る思いで対話

酷い顔だろ?
この弱さがアタシだ
愛に後悔はなかった、死別の悲嘆も大好きの結果だから拒めなかった
ごめんな…生きるよ、生きてこの想いを忘れない

キスに目を見開き催眠を払う
なんて温かい口づけだろう―
ああ、生きてる!

助けに来てくれた
ごめんな…困らせると頭が回ってなくて
ありがとう、こんなに想ってくれて

吸血鬼に死別の悲嘆を話すよ
嘆きさえシホに繋がる絆の証―大切にしたいってどう思う?

玖式で銃―七ノ型『炎弾拳銃』を作り華霞と共に炎の銃弾を浴びせる
吸血鬼よ、お前も絆を見つければ答えに至るよ



 突き付けられた、愛する人の死。
 生きるときも、そして死ぬときも共にと。
 宿命だの罪だの、犠牲なんて――たとえ容易ではなくとも、『愛しい』というこの気持ちがあれば、跳ね返せると。
 そう、四王天・燦(月夜の翼・f04448)は心に抱いていたはずなのに。
 するりと伸ばした手をいとも容易くすり抜けるように、失って。
 茫然自失、絶望に打ちひしがれた、その後。
 命使いて殺す――燦は待つ。復讐鬼の形相で元凶を。
 けれどそんな中でも、想うは勿論、シホ・エーデルワイス(捧げるもの・f03442)のこと。
(「シホは後追いを望まない……」)
 それは分かっている。分かっているのだけれど。
 ……分かっても感情が理性に追いつかない。
 そんな燦は知らない。己が自らに催眠をかけていることを。
 『詩帆』の導きで、此処へとシホが急行していることを。
 その証拠に、開け放たれた扉の向こうにシホの姿を見つけても。
「……燦!」
「シホ……? いや……この際、幽霊だっていい」
 シホは死んだと。駆けつけた彼女を幽霊と錯覚し、縋る思いで対話せんとする燦。
 ……酷い顔だろ? って。
「この弱さがアタシだ。愛に後悔はなかった、死別の悲嘆も大好きの結果だから拒めなかった」
 だから燦は、彼女へと告げる。
 ――ごめんな……生きるよ、生きてこの想いを忘れない。
 そうすれば、シホは、死なない。自分が生きれば、この心にずっと生き続けるのだから――。
 そんな眼前の燦の変わり様にシホは愕然とする。
(「私の死で燦はこうも狂ってしまうの!?」)
 裏社会を生き抜いてきた盗賊のイメージとかけ離れている、その姿に。
 けれど、ふとシホは気付くのだった。
(「思えば……私は前世で守った人々に処刑され死を喜ばれたから」)
 ――私の死を嘆く人の気持ちに疎くなっている、と。
 でも、その気持ちをシホは今、痛いほどに感じる。
 だって目の前に、こんなに自分の死に嘆いて、苦しんで、変わってしまった、燦がいるから。
 だからシホは、そっと伸ばした手で、彼女に触れて。
「ごめん……燦がこんなに苦しむなんて想像できなかった」
 これは試練、主から受けた啓示。
 それを受けると覚悟を決め、真面目に催眠にまでかかってくれた燦。
 けれど、シホはよく分かったのだった。
(「主は、死別しても後悔しない覚悟を試していると思ったけど……」)
 ――もう生きている内に別れても苦しむのは避けられないのね、って。
 だから、シホは広げた両手で、優しく燦を抱きしめて。
 彼女に掛けた催眠術を解く。
 羽のようにふわりと、燦の唇に落とし重ねた――柔らかな、口づけの熱で。
 そして唇を重ねながらも『聖印』に触れさせて、その心を溶かす様に癒す。
 燃え盛っていた復讐の炎を、元のように、熱い愛しさと優しさの炎へと変えて。
 そんな与えられた柔らかな感触と熱に、燦は金の瞳を見開く。
(「なんて温かい口づけだろう――」)
 それから数度瞬きをした後、全身で実感する――ああ、生きてる! って。
 だって幽霊が、こんなに柔らかくてあたたかいわけ、ないから。
 そして燦は改めて気付く。シホが助けに来てくれた、と。
 それから催眠の解けた今、彼女へと紡ぐ。
「ごめんな……困らせると頭が回ってなくて」
 ――ありがとう、こんなに想ってくれて、って。
 そんな燦に、笑んで返すシホ。
「私は燦の弱さも含めて好きですよ」
「シホ……!」
 そしてその身をもう一度抱きしめようとした……その時だった。
『……何故ふたりいる? まぁいいだろう、『感情』についての『実験』結果が得られればな』
 やってきたのは、事の元凶――『叡智卿ヴェイン』。
 そんな彼に、燦は教えてあげる。己が痛いほど感じた死別の悲嘆を。
 そして、ヴェインへと訊ねてみる。
「嘆きさえシホに繋がる絆の証――大切にしたいってどう思う?」
 けれどヴェインは大きく首を傾げつつも答える。
『理解できないことに、何かを思うと?』
 そんな叡智卿に、シホは感謝の言葉を紡ぐ。
「お陰で、真の絆の重みを感じ、そして私たちは知りました」
 ――死ですら二人の心を分かつ事はできないと、と。
 けれどやはり、それは彼には理解が及ばぬこと。
『嘆き、絆、心……理解不能だ。ならば死別すれば、もっと『感情』が剥き出しになるのではないか?』
 刹那、幾何学模様を描き複雑に飛翔するのは、鋭利なスカルペル。
 だが、赤と青のバンデはそれを凌駕する。
「咲き誇って! 私のエーデルワイス!」
「御狐・燦の狐火をもって炎の武具を成す。七ノ型『炎弾拳銃』!」
『……! ぐっ!?』
 銀色に輝くエーデルワイスと狐火から成された炎の銃弾が、敵の身を撃ち貫く。
 これからも恐らく、色々な困難や苦難が待ち構えているだろう。
 ぶつかりながらも、ふたりでそれらを乗り越えていかないといけないだろう。
 けれど……こうやって共に生き、そして結ばれているものが自分達にはあるから。
 だから燦は、知りたがっている彼に、最後に教えてあげる。
 ――吸血鬼よ、お前も絆を見つければ答えに至るよ、って。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

月待・楪
氷月(f16824)と
真の姿(少女のような少年のヒーロー、ありえたかもしれない可能性の姿)/アドリブ歓迎

今の感情?
ハッ、ンなもん一つに決まってる
あのバカを一発ぶん殴りてェくらいにイラついてる
氷月望って存在の何もかも、命の一筋まで
全部俺のモンだってわからせてたはずなのに
俺の手から抜け落ちようとした
…捕まえた獲物が、目の前で逃げる感覚

テメェなんざにわかるわけねーよなァ
だからさっさとくたばっちまえ
真の姿を解放して【P. granatum】発動
ウインクしてる氷月を見つけたら
ダッシュして勢いつけたマジの蹴りを入れる
お前もくたばるか?ァア゛??

落ちるならせめて対策くらいは考えてろバカ
…さっさと倒して帰るぞ


氷月・望
楪(f16731)と
アドリブ歓迎

館に侵入したら
『Invader』で【索敵】【情報収集】
ゆーくんが囚われている場所に少しでも早く向かうよ
いやー、思ったより高かったケド
意外と生きてるものだね、猟兵万歳なんて

あ、折角だから
敵とゆーくんの会話を盗み聞きしようかな
……なんか、熱烈な惚気聞いてる気分(口元抑え

戦闘に入った所で、ゆーくんにウインク
ドッキリ大成功☆とかなんとか言ってみ……
って!?ゆーくん、痛い痛いマジで痛いからね!?
真の姿で、本気の蹴りはやーめーてー!?
あ、攻撃は『UC:紅雨』を【鎧砕き】を乗せて使うよ

ただ落ちるだけなら
燃やされるより何とかなるかなーって思ったケド
……ごめんね、度が過ぎたかな



 ようやく掴んだ敵の拠点は、いくつも部屋のある広い館であったけれど。
 索敵する『Invader』が収集した情報を辿りながら、少しでも早くと。
 囚われている月待・楪(Villan・Twilight・f16731)の元へと向かうのは、氷月・望(Villain Carminus・f16824)。
 楪にドッキリを仕掛けることしか、正直考えていなかったのだが。
「いやー、思ったより高かったケド、意外と生きてるものだね」
 まぁところどころ打ったりして涙目にはちょっとなったけれど。
 ……猟兵万歳、なんて望は思いながら。
(「あ、折角だから、敵とゆーくんの会話を盗み聞きしようかな」)
 ようやく見つけた、楪がいるだろう部屋の前へと辿り着けば……そっと、中の声に聞き耳を立てる。
『裏切られた気分はどうだった? 今の『感情』は? 俺に聞かせてくれ』
「今の感情?」
 そう自分を観察するように眺め問う『叡智卿ヴェイン』に、楪は答える。
「ハッ、ンなもん一つに決まってる。あのバカを一発ぶん殴りてェくらいにイラついてる」
『成程、裏切られた故のイラつきか』
 そんなヴェインの声に、楪は首を横に振る。
 裏切られたというか、相談と逆の『選択』をした望は確かにイラつく。
 けれど――そうだけど、そうではない。
「氷月望って存在の何もかも、命の一筋まで。全部俺のモンだってわからせてたはずなのに」
 なのに……あんなに、いとも容易くするりと。
「俺の手から抜け落ちようとした」
 それは捕まえた獲物が、自分のものだと思っていた存在が――目の前で、逃げる感覚。
 そんなどうしようもないほどの、苛立ちなのだ。
 そして楪の言葉を聞いていた望は、思わず口元抑えてしまう。
 ……なんか、熱烈な惚気聞いてる気分、って。
『絆深き者に死ねと言われた、裏切りに対しての『感情』ではないのか?』
 楪は、そう首を傾げるヴェインへとちらり視線を投げ、続ける。
「テメェなんざにわかるわけねーよなァ」
 ――だからさっさとくたばっちまえ、と。
 長い黒髪を靡かせた、少女のような少年のヒーロー……ありえたかもしれない可能性の姿と成る。
 実は望が自分の言葉を聞いているなんて、思いもよらずに。
 そして……弾けろ、と。
 刹那発動するのは『P. granatum』――念動力で操る燃え盛る炎の弾丸。
『……!』
 それを咄嗟にヴェインは躱すけれど、生命力を奪う炎は地を覆い、消える事なく燃え上がって。
 高まった戦闘力でもう一発、敵へとぶちかまそうとした――その時だった。
「ドッキリ大成功☆」
 ――ぱちんっ☆
 戦闘に入った刹那、部屋へと踏み込んだ望は、楪にウインク!
 そして。
「とかなんとか言ってみ……って!?」
 ――げしいっ!
「お前もくたばるか?ァア゛??」
「ゆーくん、痛い痛いマジで痛いからね!? 真の姿で、本気の蹴りはやーめーてー!?」
 ウインクする望目掛けダッシュして、勢いをつけたマジの蹴りを入れる楪。
 そして、思いっきり一通り蹴られてから。
『裏切者への制裁か?』
「俺の視界に入ってくんじゃねぇよ」
 ――墜ちろ。
 空間の真上から放たれるは、雨の如く降る紅と奔る雷……痺れる様な紅雷の槍。
 そして、楪はふいと視線を逸らしてから、望へと口を開く。
「落ちるならせめて対策くらいは考えてろバカ」
 ……さっさと倒して帰るぞ、って。
 ホッとしているその顔を、望には見られないように。
 そんな楪に、望はへらりと笑んだ後。
「ただ落ちるだけなら、燃やされるより何とかなるかなーって思ったケド」
 夕焼けのような赤の瞳をそっと細め、続ける。
 ……ごめんね、度が過ぎたかな、って。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ヘルガ・リープフラウ
❄花狼

何故、嘘をついた
わたくしは「彼を助けて」と願ったのに
何故、約束を違えた

この男の思惑も、ヴォルフが無事であろうことも
頭の中では解っている
それでも、人の願いを聞きながらそれを欺き嘲笑う所業
決して許せるものか

世の幸せを願う聖者の心に
お前のような人を人とも思わぬ悪への怒りが芽吹く
黒く、鋭く、冷たい棘が胸を刺す
どう、これで満足?

わたくしはもう泣き寝入りはしない
自分の中にも昏く冷たい怒りがあることを知ったから
この癒えぬ傷痕と共に生きてゆく覚悟を決めたから
これまでにお前たちに踏み躙られた人々のため
こんなわたくしを支えてくれるヴォルフに報いるために

歌え、レクイエム【怒りの日】
神罰の光輝で悪を焼き尽くせ


ヴォルフガング・エアレーザー
❄花狼

ヘルガの声が震えている
願いを裏切られた悲しみに
人の心を踏み躙る悪への怒りに

ヘルガ、俺の思いもお前と同じだ
人を人とも思わぬその所業
最早一片の慈悲もかける価値はない

抑えていた獣性を解き放ち【怒れる狼王】となって
愛するヘルガと、これまでの犠牲者たちの無念と嘆きも乗せて
この外道を引き裂き焼き尽くしてくれよう

いいんだ、ヘルガ
この世界には、慈悲も正論も通用しない歪んだ悪が多すぎる
その怒り無くして、一体誰が無辜の人々のために戦い
明日を守ることができる

辛い思いもするだろう
惑う時もあるだろう
それでも俺は、お前のまっすぐな心を、人々の願いを守るため
常にお前の傍にある
どんな時も、俺はお前を守り支え続けよう



 それはひどく、冷たいいろを帯びていた。
『ご機嫌いかがかな。今、貴女のその心に渦巻く『感情』を、俺に聞かせてくれ』
「……何故、嘘をついた」
 囚われた部屋に現れた男――『叡智卿ヴェイン』へと向けられた、ヘルガ・リープフラウ(雪割草の聖歌姫・f03378)の問いは。
「わたくしは「彼を助けて」と願ったのに。何故、約束を違えた」
 いや、ヘルガも解ってはいるのだ。
 この男の思惑も、ヴォルフガング・エアレーザー(蒼き狼騎士・f05120)が無事であろうことも。
 頭の中では解っている。
 でも、それでも――決して許せるものか、と。
 ヘルガの心に生じた『感情』は消えることなく、静かに燃え盛る。
 人の願いを聞きながらも、それを欺き嘲笑う所業に。
 そして、世の幸せを願う聖者の心に芽吹く、それが何かを。
 知りたがるヴェインへと、ヘルガは教えてやるのだ。
「お前のような人を人とも思わぬ悪への怒りが」
 ――黒く、鋭く、冷たい棘が胸を刺す、と。
 そしてうたうように紡いだ後、聖者は綺麗に笑ってみせる。
「どう、これで満足?」
 刹那、部屋へと飛び込んできたヴォルフガングは、耳に届いたそんな声に宿るものを痛いほど感じる。
(「ヘルガの声が震えている」)
 ……願いを裏切られた悲しみに。
 ……人の心を踏み躙る悪への怒りに。
 けれど、眼前の吸血鬼はそれが解らぬのだ。
『怒り……もう少し詳しく聞かせてくれないか。己の言葉の所為で、絆深き者が落とされた時の気持ちとかな』
 再び告げられたそんな声に、ヘルガはふるりと思わず首を横に振る。
 感情解らぬ非道の、心抉る様な悪意の言葉に。
 そしてきゅっと唇を結ぶ彼女の前に立ち、ヴォルフガングは声を届ける。
「ヘルガ、俺の思いもお前と同じだ。人を人とも思わぬその所業、最早一片の慈悲もかける価値はない」
 抑えていた獣性を解き放ち、怒れる狼王となって。
 そんないつだって自分を守ってくれる、彼の大きな背中を見つめながら。
 ヘルガは己の心に在るものを認め、そして改めて紡ぐ。
「わたくしはもう泣き寝入りはしない。自分の中にも昏く冷たい怒りがあることを知ったから」
 ――この癒えぬ傷痕と共に生きてゆく覚悟を決めたから、と。
「これまでにお前たちに踏み躙られた人々のため。こんなわたくしを支えてくれるヴォルフに報いるために」
 そんな愛するヘルガと、これまでの犠牲者たちの無念と嘆きも乗せて。
 ヴォルフガングは彼女へと誓う――この外道を引き裂き焼き尽くしてくれよう、と。
 それから……いいんだ、ヘルガ、と。
 彼女の心に渦巻くものを、ヴォルフガングは肯定する。
「この世界には、慈悲も正論も通用しない歪んだ悪が多すぎる。その怒り無くして、一体誰が無辜の人々のために戦い、明日を守ることができる」
 そして自分を見つめる美しい瞳へと、真っ直ぐな視線と言の葉を返す。
「辛い思いもするだろう、惑う時もあるだろう。それでも俺は、お前のまっすぐな心を、人々の願いを守るため、常にお前の傍にある」
 いかなる時も共にあることを、ふたりで誓い合ったから。
 いや、ヴォルフガングは何度でも、愛する妻に誓うのだ。決して揺るがぬバンデを。
 その身を護る様に、強く優しく、抱きしめて。
 ――どんな時も、俺はお前を守り支え続けよう、って

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

西塔・晴汰
【晴ル】
ルーナに限って遅れを取ってるなんて事ァないとは思うっすけど…
オブリビオン相手に油断はできない
急いで追っつく!

後で怒られんのは覚悟してっすけど
今はこいつを止めんのが最優先っす!
後はオレに任せ、……なぁんてかっこいいことは言えねえっすね。
一緒にやるっすよルーナ。こいつは、ここで止めるッ!

ルーナと一緒に並び大槍をメインにした立ち回り
刃物の包囲は厄介だけど、ルーナがある程度撃ち落としてくれてるし
切り込む隙があれば不意打ち気味に槍を投擲して
本命の剣、狼牙閃光刃を抜く

敵を欺き、大事な友だちも欺いたオレには、こいつに対する回答はない
ただのオレなりの最善を尽くす為に
全力で叩き切ってやる


ルーナ・オーウェン
【晴ル】
閉じ込められたのは予定通り
ここに私がいるのは予想外
晴汰、大丈夫かな

外に足音
どんな気分かと言われれば
どうして、って気持ち
私は死んでるから、私が落ちるべきだったのに、私が残っちゃったから
だから、どうして
変かな、不思議?
うん、今までの人とは違うと思う
だって、ここで止めに来たんだから

使うのは分身、物陰に潜ませた私“たち”からの同時攻撃
飛んでくるスカルペルを短機関銃を打ち落として追い詰めよう
潜伏性能は自信あるけど
やっぱり一人で戦うのはつらい

……晴汰
どうしてあんなことしたの
怒るよ、怒るけど
アイツを、倒してからにする
……無事でよかった

サポートは、任せて
槍の投擲に合わせて分身の一斉攻撃を
晴汰、今だよ



 常夜の闇の中を、急ぎ駆ける影がひとつ。
「ルーナに限って遅れを取ってるなんて事ァないとは思うっすけど……」
 西塔・晴汰(白銀の系譜・f18760)は、そうは思うのだけれど。
 しかし、相手はオブリビオン。油断はできないから。
 ――急いで追っつく!
 駆ける速度をぐんと上げ、敵の拠点である館へと侵入する。
 失せ物を探すのは得意だから……彼女が囚われた部屋を探すべく。
 ――閉じ込められたのは予定通り。
 けれど。
(「ここに私がいるのは予想外」)
 だって、落ちるはずだったのだ。晴汰ではなく、幽霊な自分が。
 それで何も問題なかったはずなのに。
 ルーナ・オーウェン(Re:Birthday・f28868)はそっと窓の外へと視線を向け、呟きを落とす。
「晴汰、大丈夫かな」
 それと同時に外に足音が響き、開く部屋の扉。
 現れたのは晴汰ではなく――事の元凶『叡智卿ヴェイン』。
『さて、聞かせてはくれないか。絆深き相手に裏切られた、今の気分を』
 そう観察する様に問うヴェインに、ルーナは答える。
「どうして、って気持ち。私は死んでるから、私が落ちるべきだったのに、私が残っちゃったから。だから、どうして」
『裏切者は死に、貴女は残った。それのどこが、どうしてとなるんだ』
 不思議そうに、でも興味深そうに言うヴェイン。
 そんな物珍し気な視線に、ルーナはこてんと首を傾ける。
「変かな、不思議?」
『そのような結果はこれまで殆どなかったからな』
 そしてヴェインの声に、こくりと頷くルーナ。
「うん、今までの人とは違うと思う」
 ――だって、ここで止めに来たんだから、って。
『……!』
 刹那、同時に攻撃を仕掛けるのは、物陰に潜ませたルーナ“たち”。
 けれどすかさず反応を示したヴェインが繰り出すのは、彼女を包囲する数多のスカルペル。
 ルーナはそんな飛んでくる閃きを短機関銃をもって打ち落とし、追い詰めんとするけれど。
(「潜伏性能は自信あるけど、やっぱり一人で戦うのはつらい」)
 朧月影の分身たちと、刃剥く攻撃を防ぐことで手一杯だ。
 どもそれは――ひとりであったら、の話。
 ふとルーナが扉の方へと視線を向けたと同時に。中へと入ってくるのは晴汰。
『! 新手か?』
 そう言う敵にも構わずに、ルーナは晴汰へと声を投げる。
「……晴汰。どうしてあんなことしたの」
 そんな向けられた言葉に、晴汰は笑って返してみせる。
「後で怒られんのは覚悟してっすけど、今はこいつを止めんのが最優先っす!」
「怒るよ、怒るけど。アイツを、倒してからにする」
 晴汰はこくりとその言の葉に頷いて。
「後はオレに任せ、……なぁんてかっこいいことは言えねえっすね」
 ちょっとだけ、格好付けたいところだったけれど。
「一緒にやるっすよルーナ。こいつは、ここで止めるッ!」
 そうルーナと一緒に並び、得物の大槍を握りしめる晴汰だけれど。
 ほんの一瞬だけ……くいっと。
 袖をふいに引かれ、視線を向ければ……表情こそ、そんなに変わらないけれど。
「……無事でよかった」
 ぽつりとルーナから紡がれたのは、安堵のいろを宿す声。
 そしてさっきは、厄介な飛び交うスカルペルを撃ち落とすので精一杯だったけれど。
『さぁ、『感情』を見せてくれ。耐えられぬなら泣き叫べ』
「サポートは、任せて」
 ルーナは再び閃いた鋭利なメスたちを撃ち落としてゆく。
 そして生じた隙を見逃さず、晴汰が槍を投擲すれば。
 同時に一斉攻撃を仕掛けるのは、ルーナたち。
 そんな呼吸の合った連携攻撃に、敵が数歩、後退った瞬間。
「晴汰、今だよ」
 ルーナの声を背に、晴汰は一気に距離を詰めながら。
(「敵を欺き、大事な友だちも欺いたオレには、こいつに対する回答はない」)
 ……こういう手だってあるっすよ――斬り裂くッ!
『――!!』
 手刀を伸ばすように生成する、黄金の気の刃を――本命の剣、狼牙閃光刃を抜き放つ。
(「ただのオレなりの最善を尽くす為に」)
 ――全力で叩き切ってやる、って。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

葬・祝
【彼岸花】

全くもう、ずぶ濡れです
……霊体が多少散ったなんて知られたら、怒られそうな気がしますが、ええ
相変わらず元気に死んでますから良いってことにしてくださいな

霊体が散るは怪我や流血と同義でそれなりに痛いし疲れるけれど
見た目は怪我ひとつないから良しとして

ま、それはそれとして
あの子、放っておくと思考があれな方向に流れて行きそうなので
お迎えに行きましょう

ふふ、おばかさんでしょう、この子
厄災を本気で心配して、顔色を変えて、置いて逝くなって縛り付けるんですもの
我儘で無垢で傲慢で愛らしいこれを、人の子は絆や愛と呼ぶんでしょう?
なら、この厄災も、この子のためだけの絆を、愛を騙りましょう

「私のものに触るな」


神狩・カフカ
【彼岸花】

緋幟が
まだこの身に咲いている
確認なんざしなくたってわかる
だからはふりは死んじゃいねェ
わかっちゃいるンだが…
あいつが落ちた瞬間が何度も、何度も
走馬灯のように頭を過る
ああ!くそ!
こいつァ想像以上だ…

――やっとこさ黒幕のお出ましか
これが機嫌いいように見えるか?
ハッ、馬鹿馬鹿しい
なんで、ンなことお前に教えてやらにゃなンねェんだ
死んでも教えてやンねェよ

はふr…
ふん、なンだ遅ェじゃねェか
焦らしやがってよ
恥ずかしいことべらべら喋りやがって
触れるなって言うなら…手放すなよ…

ったく…愛なんざ語ったところでこいつにはわからねェよ
誰かを本気で愛したことねェやつにはな
煙管を吹かしたなら眷属を呼んで
そうだろ?



 ――ひらり、ひらりと。
 まだこの身に、緋幟が咲いているから。
 いや、そうでなくたって……神狩・カフカ(朱鴉・f22830)には今更なのだ。
(「確認なんざしなくたってわかる。だからはふりは死んじゃいねェ」)
 ……けれど、でも。
「わかっちゃいるンだが……」
 ぽつりと響く、零れ落ちる声。
 分かってる、死んでなんていないって。
 でも――何度も、何度も。
 走馬灯のようにカフカの頭を過るのだ。
(「あいつが落ちた瞬間が」)
 そしてハッと、いつの間にか俯いていたその顔を上げて。
「ああ! くそ!」
 行きどころのない感情を吐き捨てた後、苦笑しながらもそっと頭を抱える。
 ――こいつァ想像以上だ……って。
 けれど扉が開く気配がすれば、金の視線をすかさず投げて。
「――やっとこさ黒幕のお出ましか」
『ご機嫌いかがかな?』
「これが機嫌いいように見えるか?」
 そう眉を顰め大きく溜息をついてみせるカフカを、興味深く『叡智卿ヴェイン』は観察するように眺めつつも。
『聞かせてくれないか? 絆深き者を己の言の葉で落とした時の気分を』
 そう聞けば、再びちらつく。落ちゆくあの姿が。
 けれどそれを振り払うように、ふるりと微かに首を横に振ってから。
「ハッ、馬鹿馬鹿しい。なんで、ンなことお前に教えてやらにゃなンねェんだ」
 カフカは、知りたがるヴェインへとこう返してやる。
 ――死んでも教えてやンねェよ、って。
 そんな館へと、ひらり。
「全くもう、ずぶ濡れです」
 そう冷たい海水を払いながらも、向かうのは葬・祝(   ・f27942)。
 やはり死んでいない。死んでは、いないのだけれど。
「……霊体が多少散ったなんて知られたら、怒られそうな気がしますが、ええ」
 祝は肩を竦め、誰かさんの顔を思い浮かべながらわらう。
 ――相変わらず元気に死んでますから良いってことにしてくださいな、って。
 まぁ霊体が散るのは、怪我や流血と同じくそれなりに痛いし疲れるのだけれど。
「見た目は怪我ひとつないから良しとして」
 ……ま、それはそれとして、と。
 呟きを落とした祝は、こう続ける。
 ――お迎えに行きましょう、って。
 だって、大体想像がついてしまうから。
「あの子、放っておくと思考があれな方向に流れて行きそうなので」
 だからあの子が……カフカが連れ去れ去られた館へと足を運んで。
 敵は分かってはいないかもだけれど。
 聞こえてくる、黒幕へと強がっているその声にわらってから祝は扉を開く……彼を、迎えに。
 そんな姿をみせた祝を、金の瞳に映せば。
「はふ……」
 思わずその名を呼んで、ぱっと安堵のいろを咲かせてしまうけれど。
 すぐにふいっと顔を逸らし、カフカは口にする。
「ふん、なンだ遅ェじゃねェか。焦らしやがってよ」
 ホッとした表情を、何となく彼に見られないように。
 そんなカフカの様子に、祝は楽し気に瞳を細める。
「ふふ、おばかさんでしょう、この子。厄災を本気で心配して、顔色を変えて、置いて逝くなって縛り付けるんですもの」
「恥ずかしいことべらべら喋りやがって」
 そうちらりと自分を見る彼にわらった後、祝は逆にヴェインへと問うて。
 ――我儘で無垢で傲慢で愛らしいこれを、人の子は絆や愛と呼ぶんでしょう? って。
「なら、この厄災も、この子のためだけの絆を、愛を騙りましょう」
『絆や愛か。そうだな、理解できぬ未知のものを識りたい』
 そう興味を示し言ったヴェインに、もう一度溜息をついてみせて。
「ったく……愛なんざ語ったところでこいつにはわからねェよ」
 カフカが煙管をぷかりと吹かしたなら、数多羽ばたくのは夕日に染まったいろ。
 そして――そうだろ? なんて、再び見遣るけれど。
 祝はそんな彼にわらってから、花落とすように、上手に騙ってみせる。
「私のものに触るな」
 人が語る、愛というものを。
 それを聞いて、カフカは瞳を瞬かせてから。
 無数の鴉たちを敵へと差し向けつつも、ぼそりと呟きを落とすのだった。
 ――触れるなって言うなら……手放すなよ……、って。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ルーファス・グレンヴィル
マコ(f13813)と

案内された部屋
でも隣に君は居ない
黒龍が頭に乗って舌打ちをひとつ
べちん、と尻尾で叩かれても動じない

やがて、開いた扉
今の感情? どう思ったか?
はッと呆れたように鼻で笑い飛ばす

アイツはなあ、

タイミング良く扉が開く

──オレを置いて死んだりしねえよ

穏やかに細められた視線の先には
共に此処へ来たマコの姿
怪我はあるか、元気か
聞きたい事は山程あった

けれど、
交わった紫に安堵し

遅えんだよ、ハニー

意地悪く不敵な笑みを返し
黒龍が変じた槍を構える
マコとボスを挟み撃ちにして

ちゃんと生きてる
オレも、お前も、此処に居る
──全部終わったら覚悟しとけよ
理の傍を離れたりしねえから
なんて思いは猛る黒き炎に乗せた


明日知・理
ルーファス(f06629)と
アドリブ、マスタリング歓迎

_

──駆ける。
早く、早く、貴方に会いたい。
貴方を置いて逝かないと決めた。
貴方を独りで逝かせないと決めた。
濡れて重い衣服や髪に一切構うことなく唯走る。

……声が聴こえる
聴き間違える筈もない、その愛しい声を。
迷うことなく扉を蹴破り、

「──ルーファス!」

瞬間、吹き荒ぶ剣閃。かち合う紅蓮の瞳。
不敵に上がる口角。

「……待たせたな、ダーリン」


真っ直ぐ敵を見据え、向ける刃。
……お前がルーファスに触れることは許さない。
彼に触れていいのは、俺だけだ。


_
(大丈夫。
ちゃんと、俺は此処にいるよ。
お前の傍は、隣は、
誰にも譲る気は、ない。)



 常夜の闇を――駆ける。
(「早く、早く、貴方に会いたい」)
 だって、明日知・理(月影・f13813)は決めたのだから。
 ……貴方を置いて逝かないと。
 ……貴方を独りで逝かせないと。
 そう、決めたから。
 理は、唯走る。彼の元へと。
 濡れて重い衣服や髪に一切構うことなく、ただひたすらに。
 そして館に囚われたルーファス・グレンヴィル(常夜・f06629)はふるりと首を横に振る。
 だって、居ないから――隣に、君が。
 そんなルーファスの頭の上で聞こえるのは、黒龍の舌打ちひとつ。
 べちん、とゆらり揺れる尻尾で叩かれても動じない。
 それから開いた扉の向こうに在るその姿は、待ち焦がれた彼のものではなくて。
『絆深き者に裏切られ、そして生き残った……君の、今の感情を聞かせてくれ』
 観察する様に自分を見つめ問う、『叡智卿ヴェイン』。
 そんな不躾に投げられた質問に。
「今の感情? どう思ったか?」
 ルーファスは声を上げ、呆れたように鼻で笑い飛ばす。
 そしてその声は、聴こえているから。
 聴き間違える筈もない、その愛しい声を――扉の向こうに辿り着いた理にも。
 だからルーファスは、ヴェインに教えてやる。
「アイツはなあ、」
 刹那、迷うことなく蹴破られた扉。
 そして同時に紡がれる。
「――ルーファス!」
「――オレを置いて死んだりしねえよ」
 君の名を。彼が決めた思いを。
 そして穏やかに細められた紅蓮の先には、紫のいろ。
 ……怪我はあるか、元気か。
 そう聞きたい事は山程あったはずなのに。
 交わった紫に安堵して。そして今は聞かなくても、それだけでルーファスには十分に分かったから。
 それは、理にとっても同じ。
 瞬間、吹き荒ぶ剣閃。かち合う紅蓮の瞳……そして、不敵に上がる口角。
「遅えんだよ、ハニー」
 そして向けられた声と意地悪く不敵な笑みに、理はこう返してやる。
「……待たせたな、ダーリン」
 刹那、ルーファスが構えるのは黒龍が変じた槍。
 それから理と共に、敵を挟み撃ちにしながらも。
 ルーファスは改めて実感するように、呟きを落とす……ちゃんと生きてる、って。
「オレも、お前も、此処に居る」
 そしてすぐ隣に在る彼にまた、笑むのだ。
 ――全部終わったら覚悟しとけよ。
(「理の傍を離れたりしねえから」)
 その想いを、猛る黒き炎へと乗せて。
『それが、絆? 感情? やはり理解できないな』
 ヴェインはそう首を傾けながら……もっと、よく見せてくれ、と。
 拳や縫合絲、鋭利なスカルペルを放つけれど。
 理は真っ直ぐ敵を見据え、向けるは刃と言の葉。
「……お前がルーファスに触れることは許さない」
 ――彼に触れていいのは、俺だけだ、と。
 そして先程確かに耳に届いた声に、そっと心で紡ぎ返す。
(「大丈夫。ちゃんと、俺は此処にいるよ」)
 君の、すぐ隣に。
 だって、此処に在るべきなのは自分だけなのだから。
 ――お前の傍は、隣は、誰にも譲る気は、ない、と。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

唄夜舞・なつめ
【蛇十雉】

くそ、くそ、想像以上に時間食った……!
無事でいてくれよときじ……!

思い切り扉を開ければ身体も、
きっと『こころ』も
ボロボロにされたであろう
ときじの姿

頭に血が昇る

テメェときじに何した
許さねェ、
許さねェ許さねェ許さねェ!!!
グルルと人間のものと
思えぬ鳴き声が喉から発せられる

『終焉らせてやる』

敵を追い払えば
竜の姿のままでときじを
覆うようにとぐろを巻く。
ごめん、ごめん。
しんじてくれてたのに
護ってやるって言ったのに
竜に見合った大粒の涙が溢れる

ン……ホントか……?
どこも辛いとこ無い……?
俺は平気…。
お前をこんな目に
合わせたこと以外は……何も。
ごめん、ありがとう…。
(ぐり、と頭を十雉に押し付けた)


宵雛花・十雉
【蛇十雉】

気分は最悪だよ
当然でしょう、大事な相棒が自分のせいで落ちていったんだから
落ちた瞬間だってそう
もうあんな光景二度と見たくない

悪趣味なやつ
こんなこと聞いてどうするつもり?
これからもこんなこと続けるつもりなの?
そんなの許さない

薙刀を手に戦うけど
1人じゃ敵わなくて
ふとなつめの顔が過ぎる
遅いな、なつめ…
いや、弱気になっちゃ駄目だ
信じないと

なつめ…!
ちゃんと来てくれた
これでもう大丈夫、戦えるよ
手の甲で涙を拭って
【八つ咲き】で恨みの感情を霊力の大鎌に変えて
切り裂いてやる

オレは平気だよ
だってこうして約束守ってくれたでしょ
それよりなつめは大丈夫?
怪我はない?
そう、よかった…本当に



 深い夜の闇に響くのは、吐き捨てられるような声。
 死にはやはりしなかったけれど。
 でも思った以上に、連れ去られた彼に追いつくのは難儀で。
「くそ、くそ、想像以上に時間食った……!」
 唄夜舞・なつめ(夏の忘霊・f28619)は祈るの様に常夜の空の下を駆ける。
 ――無事でいてくれよときじ……! って。
 けれど……無情にも、宵雛花・十雉(奇々傀々・f23050)が囚われた部屋の扉が開いて。
『やあ、ご機嫌いかがかな? 絆深き者に裏切られ、生き残った今の気分はどうだ?』
 そう興味深げな瞳を向け、問う男――『叡智卿ヴェイン』に、十雉は橙の視線をちらり向けて答える。
「気分は最悪だよ」
 そして悲し気な瞳で、ヴェインを見上げ続ける。
「当然でしょう、大事な相棒が自分のせいで落ちていったんだから」
 ……落ちた瞬間だってそう、と。
 俯いて、ふるりと首を横に振る――もうあんな光景二度と見たくない、って。
 でも、だからこそ、十雉はもう一度ヴェインへと視線を向けてから。
 身勝手な『実験』をする彼へと問い、そして言い放つ。
「悪趣味なやつ。こんなこと聞いてどうするつもり? これからもこんなこと続けるつもりなの?」
 ――そんなの許さない、と。
 だがヴェインはそんな十雉の言葉に、首を傾けてみせて。
『貴様に俺が、許される必要があるのか?』
 刹那、掴んで観察する拳や手脚を縫い付ける縫合絲、その身体を切り刻む為のスカルペルを十雉目掛け繰り出す。
「……っ、!」
 咄嗟に歌舞き凛と咲く薙刀を手に、応戦するけれど。
 拳を薙ぎ払ったものの、手脚を絲で縫い付けられ、鋭きスカルペルがその身を刻む。
 ……ひとりじゃ、敵わない。
 そんな十雉の脳裏にふと過ぎるのは、相棒の顔。
「遅いな、なつめ……」
 そう思わず零してしまうけれど。
 振り払うようにもう一度首を振り、十雉は長柄の得物を握りなおす。
「……!」
 容赦なく繰り出される敵の攻撃を、懸命に薙ぎ払いながら。
 ――いや、弱気になっちゃ駄目だ……信じないと、って。
『どれだけ耐えられるか? もっと、よく見せてくれ』
 ヴェインはそう残忍な瞳を細めて。再び鋭き刃を十雉へと向けようとした――その時だった。
「……!」
『!?』
 バンッと、思い切り蹴破られる扉。
 そして部屋へと踏み込んだなつめは、大きくその瞳を見開く。
 目に飛び込んできた、身体も『こころ』もボロボロにされた、相棒の姿に。
 刹那、カアッと頭に血が昇って。
「テメェときじに何した」
 ……許さねェ、許さねェ許さねェ許さねェ!!!!
 なつめの喉から発せられるのは、グルルと唸るような、人間のものとは思えぬ鳴き声。
 そして、なつめは告げる――『終焉らせてやる』と。
 竜神の怒りを。夏雨と共に、激しい雷や稲光を……十雉を痛めつけた、敵へと放ち続ける。
『……ぐぅっ!』
「なつめ……!」
 十雉は、そう彼の名を呼んで。橙の双眸を細める……ちゃんと来てくれた、って。
 だから、ぐいっと手の甲で涙を拭って。
「これでもう大丈夫、戦えるよ」
 ――切り裂いてやる。
 十雉はなつめの怒りに触れた敵を八つ咲きにするべく手にする。
 恨みの感情で成した、霊力の大鎌を。
『……く、ちぃっ!』
 そして敵が退いたのを確認すれば、なつめはぐるぐると……竜の姿のままで、とぐろを巻いて十雉の身体をそっと覆う。
 ――ごめん、ごめん、って。
「しんじてくれてたのに、護ってやるって言ったのに」
 ぽろぽろと、竜に見合った大粒の涙を零しながら。
 けれど、十雉はふるりと、なつめの言葉に首を横に振って。
「オレは平気だよ。だってこうして約束守ってくれたでしょ」
 ……だから泣かないで、って。
 いつもはされる方だけど。そう自分を覆う彼の身体を、今日はよしよししてあげて。
「ン……ホントか……? どこも辛いとこ無い……?」
「うん。それよりなつめは大丈夫? 怪我はない?」
「俺は平気……」
 返ってきた声に、十雉はホッと笑みを宿す。
 ――そう、よかった……本当に、って。
 でも、平気ではないことが、たったひとつだけ。
 なつめは十雉を見つめ、続ける。
 ――お前をこんな目に合わせたこと以外は……何も、と。
 そして、ぐり、と頭を十雉に押し付ける――ごめん、ありがとう……って。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

揺歌語・なびき
【❄🌸】

彼女と敵のやりとりを見る
タイミングはおれが合わせる
【追跡、目立たない

怒られて当然だ
それだけのことをした

なのに彼女の言葉は
思った通りやさしい

きみのさぁ
そういう清さが苦しくて、泣きたいんだ
出来ることなら
戦いなんてしてほしくない

だけど
正義の味方を辞めさせるのは
きみを殺すこと

うん、愛してるよ

同時攻撃に
負傷した体で、くれて遣る血は十分
【呪詛、捕食、鎧無視攻撃

ごめんね
信じてないわけじゃなかったんだけど
ほら、適材適所だからさ

(人狼は短命だ、泥酔時しかきみの前で泣けない)
…うん
ありがと、うれしい

血にまみれた体で
あまり彼女を汚したくないけど

今は頭を撫でてあげるのが
きっとただしい

(弱い大人で、ごめんね


鎹・たから
【❄🌸】

たからは
裏切られたのですね

そう、文字通り
敵の意図とは違うけど
だけど

こうやって
あなたはたくさんの人を傷つけたのですね
身体と心を
めちゃくちゃにしたのですね

人の絆をはかることなど
誰にも出来ませんよ

なびきはたからの大切な家族です
彼はたからを愛してくれています

どれだけ嘘をつかれても
それはきっと、たからを想ってのことです

そうでしょう?
なびき

畳みかける一撃で同時攻撃を
タイミングはなびきが合わせてくれます
【暗殺、早業、2回攻撃、衝撃波

さっきは、とてもショックでした

たからはやればできる子ですよ
演技だってがんばれます

たからはもっと長く
なびきと一緒に生きたいです

ちゃんとたからに甘えてください
泣いてください



 館に囚われた彼女は、やはり真っ直ぐで。
 それは敵である、『叡智卿ヴェイン』にさえもそうだ。
『ご機嫌いかがかな、お嬢さん。よかったら聞かせてくれないか? 絆深き者に死ねと言われ、生き残った今の『感情』を』
「たからは、裏切られたのですね」
 そして、こくりと興味深そうに観察し頷くヴェインに。
(「そう、文字通り、敵の意図とは違うけど。だけど」)
 鎹・たから(雪氣硝・f01148)は逆に、非道な『実験』を重ねてきた叡智卿へと真っ直ぐに紡ぐ。
「こうやって、あなたはたくさんの人を傷つけたのですね。身体と心を、めちゃくちゃにしたのですね」
 彼が知りたいとサンプルを集め続けるのは、好奇心から。絆や心という、人の感情に対しての。
 けれど彼はそれが解らないから。
 たからは、教えてあげる。
「人の絆をはかることなど、誰にも出来ませんよ」
 確かに、裏切られたのかもしれない。
 けれどたからは、ちゃんと分かっているから。
「なびきはたからの大切な家族です。彼はたからを愛してくれています」
 絆で繋がっている揺歌語・なびき(春怨・f02050)がなんであんな『選択』をしたのか。
 だから、たからは何の疑いもなく、はっきりと言い放つ。
「どれだけ嘘をつかれても、それはきっと、たからを想ってのことです」
 ――そうでしょう? なびき、って。
 そんな彼女と敵のやりとりを見つつ、タイミングを見計らって部屋へと踏み込んだなびき。
 たからは彼へと、いつかの雪の日と色硝子の彩を湛える円らな瞳を向けて紡ぐ。
「さっきは、とてもショックでした」
(「怒られて当然だ。それだけのことをした」)
 なびきはそう、たからの姿を桜のいろに閉じ込めるけれど。
 でも、それなのにやっぱり、彼女は。
「たからはやればできる子ですよ。演技だってがんばれます」
 自分を責める事などしないのだ。
 ショックだったのは、裏切られたからではない。裏切られたと思っていない。
 やればできる子なのに、打ち合わせ通り演技をがんばれなかったから。
 いや、それだけではない。
 怒られても当然なのに。怒ったって、いいのに。
「たからはもっと長く、なびきと一緒に生きたいです」
 なのに彼女の言葉は――思った通り、やさしい。
 それが、なびきには余計に心に突き刺さるのだ。
(「きみのさぁ、そういう清さが苦しくて、泣きたいんだ」)
 ――出来ることなら、戦いなんてしてほしくない。
 でも、こうもわかっているから。
 たからに戦いをさせなかったら、それが何を意味するかを。
(「だけど、正義の味方を辞めさせるのは」)
 ――きみを殺すこと、と。
 だからなびきはこれだけ、彼女に告げるのだ。
「うん、愛してるよ」
 そんなやり取りを観察していたヴェインは、やはり大きく首を傾ける。
『愛? 裏切って、裏切られて……それでも、愛などと口にするのか?』
 けれど彼へと向けられるのは、彼が求めている解ではない。
 ――砕け散りなさい。
 煌めき振るわれるは、たからぱんち。氷を纏い冷凍化された冰雪の拳。
 そして同時にはらり散りゆく様に舞うのは、桜の花弁。
 負傷した体は、くれて遣る血は十分――なびきが咲かせるのは、命を削る春のいろ。
『……!!』
 そんな同時攻撃に、思わず揺らぐヴェインを後目に。
 なびきはたからへと、笑ってみせる。
「ごめんね、信じてないわけじゃなかったんだけど。ほら、適材適所だからさ」
 けれど、たからはやっぱり、やさしいのだ。
「ちゃんとたからに甘えてください」
 ――泣いてください、って。
 人狼は短命で……そして、泥酔時しか泣けないから。きみの前で、おれは。
 だけど、でも。
「……うん。ありがと、うれしい」
 真っ白な雪のようなきみへと。
(「血にまみれた体で、あまり彼女を汚したくないけど」)
 なびきはそうっと、手を伸ばす。
 ……弱い大人で、ごめんね、って。
 苦しさに泣きたいその心だけで、紡ぎつつも。
 きっとたぶん、ただしいから――今は、彼女の頭をこうやって、撫でてあげるのが。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

朱赫七・カムイ
⛩神櫻
🔴真の姿

心は穏やかだ
サヨ、さよ、櫻宵――どうして?
どうしてどうして私を?
私はきみの神なのに
君を守るため
きみを救うため
きみが望んでくれたからここに在る

愛しいきみ
私の巫女が
私を選んでくれたという歓喜と
守れなかったという絶望が
厄災となる

私に其れを問うのか
そなたには分からぬ事だよ
愛をしらぬ、そなたには
わかりはしないことだ

教えてあげようか
その身に厄災を刻んであげる
永遠を約して
永遠に殺し続けてやろう

荒れ狂う厄災の嵐は枯死の神罰
呪に沈めて苦痛を約し
切り刻んでもまだ足らない

さ、よ?
触れる熱に涙が零れる
微笑む櫻をかき抱く
何処にもいかないで
ずっと、

(あいしてる)

サヨ
きみの桜を与えるなんて勿体無い
共に斬ろう


誘名・櫻宵
🌸神櫻

カグラ
そろそろ頃合かしら?
桜花弁から元の姿に戻り
カムイったらあんなにかぁいい事を

必死な顔も
言葉も
全部心に甘く響いて堪らない

なら離さないで
私を過去にしないで
ずっと私だけの神様でいて

薄く笑えばカグラが諌める
…何を考えているのかって
何の事と誤魔化し

カムイは驚くかな
部屋を覗けばそこには

怒り狂う厄災の姿
キ、キレてる

カムイ!!
近寄れないほどの禍々しい厄災の嵐を切り裂き進み
荒れ狂う厄災に抱きつく

頬を伝う涙に
私は彼を傷つけたのだとしる
ごめんね
涙浮かぶ瞳に口付ける
もうおいていかないわ

よいデータはとれた?
でも残念
もう終わりよ

なぎ払い斬り裂いて
私はあなたの命の味が知りたいわ
根こそぎ、生命喰らい咲かせてあげる



 荒れ狂う常夜の冬の海とはまるで逆で。
 其処に在る彼――朱赫七・カムイ(約倖ノ赫・f30062)の心は、穏やかに薙いでいた。
 けれど、その心を巡るは、己の巫女へ問う言の葉ばかり。
(「サヨ、さよ、櫻宵――どうして? どうしてどうして私を?」)
 ……私はきみの神なのに、って。
 だって、自分がここに在るのは、きみのためだから。
 ――君を守るため。
 ――きみを救うため。
 ――きみが望んでくれたから。
 だから自分は、ここに在るというのに、と。
 けれど……守れなかったという絶望と同時に、喜びも感じるのだ。
(「愛しいきみ。私の巫女が、私を選んでくれた」)
 そんな歓喜と絶望が、彼を変えたのだ。災厄へと。
『教えてくれ、絆や愛……理解できぬそれらへの納得できる解を。今の『感情』を教えてくれないか』
 部屋へとやって来て、そう問う『叡智卿ヴェイン』に、カムイは漆黒を靡かせ、朱き彩りを細める。
「私に其れを問うのか。そなたには分からぬ事だよ」
 わかりはしないことだ――愛をしらぬ、そなたには、と。
 けれどカムイは、かわりに教えてあげる。
「その身に厄災を刻んであげる――永遠を約して、永遠に殺し続けてやろう」
 そんな部屋の外から、そうっと。
「カグラ、そろそろ頃合かしら?」
 桜花弁から元の姿に戻り、誘名・櫻宵(爛漫咲櫻・f02768)は花笑む。
 だって、思い返せば笑み零れてしまうから。
「カムイったらあんなにかぁいい事を」
 全部心に甘く響いて堪らない。必死な顔も、言葉も――。
 だから櫻宵は、焦がれるのだ。
(「なら離さないで。私を過去にしないで」)
 ――ずっと私だけの神様でいて、って。
 そしてそう薄く笑えば、諌めるカグラ……何を考えているのか、と。
 その問いに、櫻宵はふふっと笑んで誤魔化す――何の事、と。
 それから、中からする声に微笑みながら、悪戯っ子のように櫻宵は紡ぐ。
「カムイは驚くかな」
 でも……ふと部屋を覗けば、そこには。
 ……荒れ狂う厄災の嵐は枯死の神罰。
「呪に沈めて苦痛を約し、切り刻んでもまだ足らない」
 櫻宵は思わず、大きく春咲く瞳を見開く。
 ――キ、キレてる、って。
 怒り狂う厄災の姿に。
 けれど、近寄れないほどの禍々しい厄災の嵐を切り裂き、必死に進んで。
「カムイ!!」
 荒れ狂う厄災に、ぎゅうっと抱きつく。
 そんな触れる熱に、ぱちくりと。
「さ、よ?」
 映った櫻宵の姿を見つめれば――ぽろりと零れる涙。
 そんな頬を伝う彼の涙に櫻宵はしるのだ。
 ……私は彼を傷つけたのだと、と。
 だから、涙浮かぶその瞳に口付ける。
 ごめんね――もうおいていかないわ、って。
 そう己に微笑む櫻を、カムイはかき抱いて。
「何処にもいかないで。ずっと、」

(「あいしてる」)

 そう、この『感情』は分かりっこない。
『……やはり、理解不能だ』
 そう呟き首傾ける、叡智卿になど。
 そんな哀れな彼に、櫻宵はわらって。
「よいデータはとれた? でも残念、もう終わりよ」
「サヨ。きみの桜を与えるなんて勿体無い」
 カムイの言葉に桜霞の瞳を細め、破魔の桜嵐を巻き起こす。
 誘七の七つ神楽、四――浄華。
 咲き誇る桜は祝福の証、神降りる桜は祝。
 存在を喰らい断つ桜の斬撃で、なぎ払い斬り裂いて。
「私はあなたの命の味が知りたいわ」
 櫻宵はヴェイン卿に、美しくも鋭き刃の牙を剥く。
 ――根こそぎ、生命喰らい咲かせてあげる、って。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

橙樹・千織
千鶴(f00683)さんと

千鶴を信じてる
風の加護もあった
彼は
生きてる

けれど

ソレとコレとは別問題
入ってきた敵を睨め付ける

機嫌?
良いわけが無いだろう
瞳は冷え切った金を灯し
羅刹紋が浸食を始める

今すぐお前の首を掻き斬り、八つ裂きにしてやりたい
喉奥から響く低い音
自分でも聞いたことの無い音
全力魔法の風で斬り裂いて
麻痺の呪詛を紡ぎ
鎧を砕くがごとく薙刀を振り下ろす

ちづ…る?
あぁ、良かった…
その姿を見て
声を聞いて漸く少し落ち着いて
その後は彼と合わせて刃を振るう

ほんとに…無事で良かった
ん、ちゃんと生きてる…
そっと握った手のぬくもりに安堵の笑みを

己の興味を満たすため
人の心を、絆を弄ぶような輩を
光の届かぬ海底へ


宵鍔・千鶴
千織(f02428)と

落ちた衝撃は多少有れど
彼女と約束を果たすため
信じて欲しいという言葉は
きっと、伝わっているのだと
捕われた千織の元へ

きみの表情、眸が冴え光り
正に今敵を眼前に低く這う言の葉
千織にそんな顔をさせてしまいたくは無かった
大丈夫、俺は、此処に居る
己の刃も鈍く耀き不意を付くよう敵へと
刺し貫かんと
胸糞悪い其の悪手で千織に触るな

安堵したような彼女の表情に
そっと微笑み
ごめんね、待たせた
俺ちゃんと生きてるよ
温もりに、千織の手をそっと握り返し
彼女が待っていてくれたことが嬉しくて

今度こそ、一緒にと
千織と敵を討ち滅ぼすために
お前が識りたがっていた絆を
教えてあげるよ
噫、きっと理解らないのだろうけれど



 彼のことはよく知っているし、風の加護もあった。
 そして何より、信じているのだ。
(「彼は、生きてる」)
 橙樹・千織(藍櫻を舞唄う面影草・f02428)はそう信じているし、分かっているのだけれど。
 ……でも。
『やあ。ご機嫌いかがかな』
 千織は入ってきた敵――『叡智卿ヴェイン』を睨め付ける。
 だって、別だから。ソレとコレとは別問題なのだ。
 そして落ちた衝撃は多少こそあれど。
 宵鍔・千鶴(nyx・f00683)は常夜の空の下、全力で駆ける。
 彼女との約束を果たすために。
 きっと、伝わっているのだと確信しているから。
 信じて欲しい、って……そう彼女へと紡いだ言葉は。
 だから千鶴は決して止めない。捕われた千織の元へと向かう、その足を。
 そして――自分を興味深そうに観察する輩の問いに、千織は言い放つ。
「機嫌? 良いわけが無いだろう」
 向ける瞳が灯すは冷え切った金。浸食を始める羅刹紋。
 刹那、喉奥から響く低い音が告げる。
「今すぐお前の首を掻き斬り、八つ裂きにしてやりたい」
 自分でも聞いたことの無い音が。
『それはどんな『感情』なのかな。怒り? 絶望? 悲しみ? ……!』
 全力魔法の風で斬り裂いて、紡ぐは痺れるような麻痺の呪詛。
 千織は握る薙刀を振り下ろす。眼前の敵の鎧を砕くが如き刃を。
 そして駆けつけた千鶴は、それを目に、耳にする。
 眸が冴え光る表情と、正に今敵を眼前に低く這う言の葉を。
(「千織にそんな顔をさせてしまいたくは無かった」)
 けれど、だからこそ千鶴は刃を抜き放つ。
「大丈夫、俺は、此処に居る」
 そう彼女へと、己の声を投げながら。
 鈍く耀き不意を付くよう敵へ、その身を刺し貫かんと。
『……! くっ、新手か?』
「胸糞悪い其の悪手で千織に触るな」
 その声に、姿に――千織の口から零れ落ちる。
「ちづ……る?」
 眼前に在る、彼の名が。
 そして柔く咲くのは、安堵のいろ。
「あぁ、良かった……」
 その姿を見て、声を聞けば、漸く少し落ち着いて。
「ほんとに……無事で良かった」
 安堵したような彼女の表情に、千鶴はそっと微笑んで返して。
「ごめんね、待たせた。俺ちゃんと生きてるよ」
「ん、ちゃんと生きてる……」
 重ね握り合う互いの手の温もりが、なによりの証拠。
 そして温もり混ざるその手を千鶴はそっと握り返す。
 彼女が待っていてくれたことが、嬉しくて。
 それから――今度こそ、一緒にと。
 ふたりは共に、刃を向ける。敵を討ち滅ぼすために。
「お前が識りたがっていた絆を教えてあげるよ」
 赤と青のバンデを、その身をもって教えてあげるために。
 けれど千鶴はふるりと、首を横に振る。
 ――噫、きっと理解らないのだろうけれど、って。
 だって、その身をもっていくら教えてあげたところで、無駄だろうから。
 だから己の興味を満たすため、人の心を、絆を弄ぶような輩を。
 ふたりは振るう刃で還すだけ――光届かぬ、昏い躯の海底へと。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ハルア・ガーラント
相馬(f23529)と

相馬、無事だよね
外の様子が見える場所はないか探さずにはいられない

扉前に数枚落とした羽根
わざと暴れて落とした目印

今の気持ちを尋ねられても
色んな感情がごちゃ混ぜで上手く言えない
相手が落ちた瞬間どう思ったか?
そんなの、悲しくて辛くて狂いそうだった!

強く言い〈咎人の鎖〉を操作、敵の[捕縛]を試みます
3種の攻撃の内どれか一つ封じ込めたいのだけど
非力な自分が悔しい
もっと力が欲しい
やだな、また泣いてしまう

相馬の姿に再び緩む涙腺
雑に拭って歌うのは祝福の歌
ひとりじゃ駄目でもふたりなら!

相馬の胸元におでこをくっつけお互いの無事を実感します、やっと安心して笑えそう
ふふ、相馬――海のにおいがする


鬼桐・相馬
ハルア(f23517)と

極力気配を殺し移動
ハルアは何処にいるんだろうか

ある扉の前に散った数枚の羽根
漏れ聞こえる諍いの片方は良く知る声
扉を開け部屋に踏み入ろう

お前、まだ泣いているのか
二人の間に割り込み〈冥府の槍〉を構える

こいつは大人しく見せかけて突っついたり大きく囀るから手間のかかる鳥だぞ
加えて無闇に飛ぼうとする
こんな小さな鳥籠じゃ飼うのは無理だ

ハルアの歌で己の戦闘力が上昇するのを感じたら床を蹴り瞬時に敵の懐へ飛び込んでUC発動
敵が放つ亡者たちの怨嗟の声や呪詛も槍に全て吸収させ[焼却]してしまおう

怖い思いをさせてしまった負い目もある
その後はハルアの好きにさせようか
笑う彼女の姿を見て漸く安堵するよ



 そわそわと落ち着きのない様子で、巡らせる新緑の瞳。
 だって、ハルア・ガーラント(宵啼鳥・f23517)は探さずにはいられないから。
(「相馬、無事だよね」)
 外の様子が見える場所はないかを。
 そしてふいに扉を開いたのは、鬼桐・相馬(一角鬼・f23529)ではなく。
『ご機嫌いかがかな? 絆深き者が落ちた時、君は何を思った? 俺に聞かせてくれ』
 姿をみせるやいなや、不躾な問いを投げる『叡智卿ヴェイン』。
 それから彼が数歩中へと歩みよれば……ふわりと床に揺れる大きな数枚の羽根。
 そんな己の落とした羽根をそっと見遣った後。
「今の気持ちを尋ねられても、色んな感情がごちゃ混ぜで上手く言えない」
 ハルアは、ぐっと拳を握りしめてから。
 ……相手が落ちた瞬間どう思ったか?
 そう訊ねた相手の問いを復唱し、そして強く言い放つ。
「そんなの、悲しくて辛くて狂いそうだった!」
『……!』
 刹那、咎人の鎖がじゃらりと鳴り、彼の身を捕縛せんとする。
 これまでの『実験』の結果を知るべく、囚われた者の部屋を訪れて。
 その身に、仲間の猟兵達が見舞ってきた衝撃。
 相手は強敵であれど、『叡智卿ヴェイン』の上体も大きく揺らいでいて。
 でもそれでも、彼は止めない。絆や心へと抱く、好奇心を満たすための『実験』を。
 そしてヴェインが強引に振り払った鎖を見遣り、ハルアは思う。
 ――非力な自分が悔しい。
 ――もっと力が欲しい。
(「やだな、また泣いてしまう」)
 そんな彼女が囚われている館に、相馬も潜入を果たして。
(「ハルアは何処にいるんだろうか」)
 極力気配を殺し移動しつつ、視線巡らせるけれど。
 ふと、ある扉の前で見つけるのだった。
 それは、わざと暴れて落としたハルアの目印。
 散った数枚の大きな羽根であった。
 そして耳を澄ませば――聞こえるのは、ふたつの声。
 今にも泣きそうだけれど、頑張って強く言い放った諍いの片方は良く知る声で。
 相馬は迷うことなく踏み入る。ハルアのいる、その部屋の中へと。
『なっ!?』
「……!」
 新緑の瞳が映すのは、待っていた彼の姿。
 そんな相馬の姿に再び涙腺が緩んでしまうけれど。
「お前、まだ泣いているのか」
 ハルアは護る様に間に割り込み、冥府の槍を構える彼へとふるふる首を横に振ってみせて。
 ぐっと瞳に溜まった涙を拭って、彼へと笑む。
「ひとりじゃ駄目でもふたりなら!」
 そんな様子に、相馬はそっと瞳を細めてから。
 自分達を『観察』している叡智卿ヴェインへと教えてやる。
「こいつは大人しく見せかけて突っついたり大きく囀るから手間のかかる鳥だぞ。加えて無闇に飛ぼうとする」
 ――こんな小さな鳥籠じゃ飼うのは無理だ、って。
 刹那、そんな小さな鳥籠を満たすのは、天使の言の葉による祝福の歌。
 そんなハルアの歌で力宿るのを感じれば、すかさず床を蹴って。
 相馬は瞬時に敵の懐へと飛び込んでお見舞いしてやる。
 ――よく燃えそうだ。
 敵が放つ亡者たちの怨嗟の声や呪詛も、全て。
『何……ぐっ!!』
 冥府の炎として、握る槍へと吸収させて……紺青に燃え盛る炎で、焼き尽くす。
 それから、大きくその身を揺らし退く敵を見送った後。
 ハルアは彼の大きな胸元に、こつんとおでこをくっつけて。
「ふふ、相馬――海のにおいがする」
 互いの無事を実感し、紡ぐ――やっと安心して笑えそう、って。
 そして……怖い思いをさせてしまった負い目もあるから、と。
 相馬はハルアの好きにさせながらも、漸く安堵するのだった。
 自分のすぐ傍で笑う彼女の姿を、柔く見つめながら。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ライラック・エアルオウルズ
【花結】

凍えれど、海水飲めど
重傷を負うこともなく
唯々君の元へ至って

その泪を拭えること
その傍に居れること
その幸いを噛み締める
共とあると誓い立てたひと
それが叶うことが嬉しくて

――ただいま
謝罪は音にしないまま
愛おしげに君を見やり

君の事を犠牲とするのも
君の為と犠牲になるのも
選べないほど僕は弱くて
それを君は選んでくれた

不可避の痛みも受け容れ
泪溢れども僕を信じて
どれほど、苦しくとも
正しい選択と選んだこと
それは逃げではないから
ね、君は強くて優しいよ

そんな彼女の想いを
彼に教える必要はない
人の心がないのなら
解せるわけもないから

あたたかな春のなかで
身も心も癒えたならば
もう、終わりにしよう
意志の十字剣を降り注いで


ティル・レーヴェ
【花結】
あなたは約束違わぬと
ふたりの選択も正しいと
そう信じるも
ひとり待つ間は凍えるようで
あなたが傍に居ぬだけで
こんなに小さく弱くなる

あゝ
あなたが眸に映るだけで
あなたの温度知るだけで
冷える心は溶けるよに
頬の涙も温もり帯びて

滲む姿へ紡ぐ
おかえりなさい

冷やす冬海忘れる程に
離れし隙間埋めるよに
妾からの春をあなたへ

ねぇ
妾は決して強くない
他の痛みを避けただけ
此れしか取れなかっただけ

けれどもそれを受け止めて
強くも優しくも見てくれる
包み許し共に選んでくれる
そんなあなただから
共にの誓いを
信じさせてくれるあなただから
妾は選べたのよ

卿よこれ以上見せるものは何もない
その手も刃も絲すらも
彼を害す前に花で弾いてみせるから



 彼は自分のことをこう言ってくれた。貴女は優しくて強い人だと。
 けれど、ティル・レーヴェ(福音の蕾・f07995)はどうしても思い出してしまう。
 あの時の様に――今の自分は、籠に囚われ飼われるままの雛鳥のようだと。
(「あなたが傍に居ぬだけで、こんなに小さく弱くなる」)
 彼が約束を違わぬという事も、ふたりで決めた『選択』も正しいと――そう信じているけれど。
 ひとり待つ間は、凍えるようで。
 彼が堕ちていった冬の海の昏いいろを思えば、離れゆくその姿を思えば。
 その寒さに、震えることしかできない。
 だが、彼――ライラック・エアルオウルズ(机上の友人・f01246)は、唯々駆けていた。
 身を沈めた冬の海は生命を脅かすほどに冷たく、有無を言わせず飲まされる海水は呼吸を奪わんとしたけれど。
 凍えれど、海水飲めど、でも唯々……至るのは、君の元へ。
 そしてライラックは鳥籠の扉を開け解き放つ。凍えるような昏い冬から、共に花笑む春へと。
 そんな彼の姿を瞳に映せば、ぽろりと大きな藤のから零れ落ちるのは、雪解けを告げる熱。
 ……あゝ、あなたが眸に映るだけで、あなたの温度知るだけで。
 凍えるくらいに冷える心がじわりと溶けゆくように。
 頬伝う雫は温もりを帯びていて。
 少し遠慮気味に、けれど、さらにその頬に熱を与えるように。
 伸ばされたライラックの指が、零れ落ちるそれを拭ってあげて。
 彼女の熱を掬うと同時に噛みしめるのは、幸い。
 ……その泪を拭えること、その傍に居れること。
 そして。
(「共とあると誓い立てたひと」)
 それが叶うことが、嬉しくて。
 だから真っ先に、ライラックが紡ぐのはこの言葉。
 ――ただいま。
 ただ見遣るは愛しき君。謝罪は音にしないまま。
 けれど彼が口にしたのは、これだけでは意味を成さない。
 そしてそれを、ティルは知っているから。早く伝えたいと、願っていたから。
 ――おかえりなさい。
 ティルは目一杯の想いを込めて紡ぐ。溢れる熱で滲む姿へと。
 けれど、雪解けの春を迎えるのならば、勿論そのときは一緒。
 ……歌いて護ろう。この身は共に――。
 己の心に熱を招いてくれた彼へと、彼だけのために、雛鳥は春を歌う。
 触れた指先から伝わるその冷たさに胸痛めながらも、冷やす冬海を忘れる程に。
 互いに決めた『選択』であったけれど……離れし隙間を埋めるように。
 そんな花笑む春を全身で感じながらも、ライラックは告げる。
「君の事を犠牲とするのも、君の為と犠牲になるのも、選べないほど僕は弱くて」
 ――それを君は選んでくれた、と。
 ティルはそう声を届けてくれる彼を、ねぇ、と見上げてから。
「妾は決して強くない。他の痛みを避けただけ。此れしか取れなかっただけ」
 自分の弱さを、彼に告げて。
 ふっと藤の双眸を細め、笑みとともにこう続けて返す。
「けれどもそれを受け止めて、強くも優しくも見てくれる。包み許し共に選んでくれる」
 ――そんなあなただから、共にの誓いを。
「信じさせてくれるあなただから、妾は選べたのよ」
 彼の言うように自分が強く在れているのならば、それは。
「不可避の痛みも受け容れ、泪溢れども僕を信じて。どれほど、苦しくとも、正しい選択と選んだこと。それは逃げではないから」
 ――ね、君は強くて優しいよ。
 そう言って優しく笑ってくれる誰でもない貴方が、すぐ傍に居てくれるから。
 だから、自分は強く在れるのだ。
 それからティルは改めて思う。再び逢ったその時は、笑って迎えようと思ったのに。
 なのに、涙が溢れて止まらないのだ。
 ごめんなさい、よかった、ありがとう、だいすき――胸の奥、裡までも何もかも綯交ぜになる心。声にはできない感情のままに。
 そしてライラックは、それを護りたいから。
『……何故涙を流す? その感情を、俺に、教えてくれないか』
(「そんな彼女の想いを、彼に教える必要はない」)
 他の仲間達から傷を負わされても尚、その好奇心に抗えず姿を現した『叡智卿ヴェイン』から。
 ――人の心がないのなら、解せるわけもないから。
「卿よこれ以上見せるものは何もない」
『く……やはり誰も、俺を満足させる結果を示しては、くれないのか』
 ティルが突き付けたこたえに、ヴェインは満たされぬ虚しさのまま、被験体を掴む拳や縫い付ける絲、切り刻むのスカルペルを繰り出すけれど。
 ティルは咲かせ、ヴェインへと最期にみせてあげる。
 ――その手も刃も絲すらも、彼を害す前に花で弾いてみせるから。
 結ぶべく花を……共に春を迎える自分達の、赤と青のバンデを。
 そんなあたたかな春のなかで、身も心も癒えたから。
 ――もう、終わりにしよう。
『……ッ、あ……俺は、!』
 愚かで悲しき卿の物語は、もう――『おしまい』。
 刹那降り注ぐのは、吸血卿のおしまいに相応しい、意志の十字剣。
 冷たく凍える冬のおはなしは、これでエンド・マーク。
 またふたりで綴りゆくのは、あたたかに咲く春のものがたり。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2021年02月11日


挿絵イラスト