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想い繋ぐは万年筆~君の色彩、貴方への戀文

#サクラミラージュ

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#サクラミラージュ


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●戀文、影踏み
 ――今日も、貴方は来ない。

 貴方に憧れて手にした初めての万年筆で。
 貴方が美しいと言っていたインクで。
 私が貴方に届けたい想いの言葉。
 溢れ出した言葉は、舞い散る幻朧桜みたいにキリが無くて。書いても書いても、言葉足らずで。
 沢山の下書きを重ねて、完成させたこの手紙。
 本当は直接声に出して伝えたいけど、きっと上手く話せないから。
 だから、頑張って書いたの。
 でも……それももう、握り締めているうちに、いつの間にかくしゃくしゃになってしまった。

 貴方は来ない。
 分かっているのに。
 そうね。あの年の冬は、とても寒かったわね。先生。
 私は床に伏せってしまったし、何より貴方も……。
 ええ。あの時は持ち直してくれるって。私も元気になれるって。淡い期待なんか、抱いたりして。

 でも貴方は、先生は……呆気なく。
 貴方の訃報を目にし、貴方の身体を見送り、やっとの思いで訪れたお墓の前で手を合わせてもなお、私は信じられないの。
 貴方はもう、この世には居ない。
 それは分かっているけど。

 ね、先生。今年もまた冬が来たわね。
 冬が明けたら、楽しみにしていた文具の博覧会が開かれるわね。
 一緒に行こうって、そう言っていたの、憶えてる?
 いつの間にかインクは出なくなってしまったし、手紙も色が分からないほどぐしゃぐしゃになってしまったの。
 二人で一緒にいけたら、また改めて書き直して……渡すから。
 ね、まだきっと時効じゃないって。そう言ってくださったら――。

●想いを繋ぐは、
「突然ですが……『万年筆』と聞くと、皆様はどのような印象を抱くでしょうか」
 海を掬い上げて閉じ込めたかのような青色。夕焼け空をそのまま落とし込んだかのような橙。桜が溶け込んでいるような、薄桃色に至るまで。
 コンコンと三つほど並べられた、香水瓶のような洒落た小瓶に詰められているのは――どれも、万年筆のインクだった。
 視線はインクに釘付けになったまま。そう言葉を切り出したのは曙・聖(言ノ葉綴り・f02659)だ。
 インクの傍らには、目の詰まった真っ白な紙と、キャップが閉じたままの黒い万年筆が置かれている。
「猟兵の皆さんの中でも、愛用している方はいらっしゃると思いますが……。一般的なイメージとしては、『高級そう』とか、『敷居が高い』といったイメージが多いでしょうか」
 呼びかけに集った猟兵たちの反応を伺いながら、聖はゆったりと話を進め始める。
「『高級そうで、敷居が高い』というイメージが根強いのも事実ですが、実はそれほど身構えるものでもなかったりします」
 しかし、それも今では昔のこと。今ではUDCアース換算で千円程度あれば普段使い用が買えてしまうくらいだ。大きな百円ショップで探せば――普通に売られていることすらある。
「高いというイメージは、ペン先に金が使われているからでしょうね。一説によれば、価格の半分近くがペン先の料金という話もありますから」
 インクは酸性を示す。腐食に強い金属――となると、金という結論に至る訳で。
 最近では金の代わりに、比較的腐食に強いステンレスが使われた安価な物も多く存在している。
「『敷居が高い』のは……。まあ、定期的に洗浄しないとインクが詰まりますからね。
 あと、ペン先は繊細ですから、落とす等の強い衝撃を加えることはご法度です。あ、インクが詰まったからと言って、ボールペン感覚で捨てないでくださいよ?」
 専用の洗浄液を使ってインクを溶かせば、再び書けるようになる。
 それに万一強い衝撃を加えてしまっても、ペン先の修理や調整を行ってくれる職人さんがいるのだから。
「さて、万年筆の解説は一先ずここまでにしておいて――本題の、私が予知した事件の解説に移りましょうか。サクラミラージュにある百貨店で、毎年この時期に『世界の文具博覧会』が開かれるのは、ご存知でしょうか」
 万年筆やインクを始めとする高級筆記具を中心に、ハイカラな学生さん向けの最新商品や貴重なヴィンテージ品、珍しい舶来品に至るまで。
 世界中から様々な文具が集うこの催し物は、文具を愛する者たちの間では割と有名なイベントであるそうな。
「ええ。もうお分かりになられると思いますが、この『世界の文具博覧会』の会場に――影朧の出現が予知されました」
 帝都では、人々を脅かす影朧の存在は即座に斬ってしまうのが常だ。しかし、今回は少しばかり話が違うと聖は続ける。
 とても弱々しい影朧は、生前果たせなかった執着を叶える為に、文具博覧会に姿を現したのだと。
「その影朧――名前を『美弥子(みやこ)』さんという、女学生さんですね。予知で見たところ、どうやら……想い人である『先生』と、文具博覧会に行くという約束を交わしていたようで」
 『先生』については、美弥子の想い人であるということ、文学と万年筆を愛していたこと。それ以上の情報は得られなかった。
 しかし、美弥子に二人きりのお出かけ――デヱトに誘うくらいだ。端から見れば、春に芽吹く萌え木の様に初々しい関係であったのだろう。
 だが、その年の冬は例年稀に見るほど、厳しい寒さと厚い雪に支配された冬だったと云う。普段なら快復するはずの症状すら……慈悲なき寒さは死へと結びつけてしまった。
 冷酷な冬の支配者は、萌え木を枯らし、花を散らし、時間を散らし。そして――最後は、二人の命までも散らして過ぎ去った。
「恐らく、デヱトの最後に美弥子さんは先生に、自身の想いを伝えるつもりだったのでしょう。……色褪せてボロボロになった手紙を、今でも大事そうに握り締めていますから」
 貴方に出会ってから、少し広がった世界。
 貴方を追いかけ、大好きな貴方と同じ世界が見たくて。
 そうして貴方が愛用する万年筆を手にしたところ、予想以上に私も虜になってしまったのだから。
「個人的に……美弥子さんと先生が万年筆に夢中になる理由は、よく理解できまして。
 インクの種類は数えきれないほど豊富にありますし、文字に現れるインクの濃淡は万年筆ならではの特徴でしょうか。『書く』というよりは『滑る』なので、筆圧がかかりませんし――丁寧に使えば半永久的に保つのですよ」
 付け加えると、使用者の筆記角度や筆記時の癖に合わせてペン先が徐々に削れていくので、書けば書く程自分の手に馴染み、唯一無二のものになるという魅力もある。
「これは同じく文具を愛する愛好家としての、個人的なお願いです。筆記具は確かに文字を書くための道具ですが――それ以上に、声に出来ない想いを文字にして伝えるという、人と人を繋ぐための道具でもあります」
 個人の胸の内に秘めておきたい想いも、届かない想いも、届けたい想いも。その全てを纏め、昇華し、再び歩き出すための大切な道具でもあるのだから。
「ですから……どうか、彼女に」
 もう一度が叶うのならば、幸せな結末を。
 貴方に手紙を渡し、想いを告げること。
 貴方と一緒に、文具の博覧会に行くこと。
 永い眠りについたままの貴方、甦ってしまった私。
 約束が訪れる前に逝ってしまった貴方と、博覧会の開始を知りながらも、病床から動けなかった私。
 どちらも叶わなかったけれど、どうか、今からでも取り戻せるのならば。
 より良い結末に導いて欲しいと、聖は猟兵たちを送り出した。


夜行薫
●挨拶
 お世話になっております。夜行薫です。バイカラーニブが好きです。
 皆様は万年筆と聞いてどんな印象を抱くでしょうか。

●シナリオについて
 百貨店で開催中の「世界の文具博覧会」が舞台となります。
 毎章、断章を投稿します。受付と締切はタグとMSページで。全章通して、再送をお願いする可能性があります。
 キーワードは『想い出』と『インク』と『万年筆』。
 そこに恋やら手紙やら諸々を少々。
 心情寄りです。
 筆記具に関する細かい(マニアックとも)描写をしても良いよって方は、冒頭に◎を入れてくだされば。

●女学生「美弥子(みやこ)」
 女子大学に通う、裕福な両親の元に生まれたお嬢様でした。
 先生の死から少し後に、結核で亡くなっています。

●先生
 文学と万年筆を愛していました。
 美弥子の憧れの人であり、それなりに深い間柄であったようです。
 それ以上のことは、分かりません。
 家庭教師や作家、ひょっとしたら大学の教員だったのかもしれません。

●第1章:『血まみれ女学生』
 限定品含めた沢山のインクが販売されているインクブースにて。想い出とインク選びの一幕。
 貴方の「大切な色」と「それに纏わる思い出」を教えてください。ただ好きとか、この色が気になったとかでも大丈夫です。
 美弥子の場合は、「■■色」と「先生との思い出」となります。
 先生が似合うと言ってくれたものの……肝心の色が思い出せず、美弥子はかなり動揺しています。皆様に刺激されて、思い出すかもしれません。
 戦闘プレはあっさりで構いませんが、動揺から不意に放たれる美弥子の攻撃から、どのように商品や客、店員を守るかに重きを置くと書きやすいかもしません。

●第2章:『はかない影朧、町を歩く』
 筆記具(主に万年筆)ブースにて、筆記具選びの一幕。
 珍しい舶来品や、ビンテージものまで。万年筆以外にも、ガラスペン等筆記具なら殆ど何でもあります。
 美弥子は、先生が愛用していた舶来品の万年筆を探して回っています。声をかけても、かけなくても。
 博覧会の人々は、怯えながらも協力してくれます。
 気になる筆記具があったら、是非お手に取ってみて下さい。お任せも歓迎です。

●第3章:『交換日記をあなたと』
 手紙を書き直した美弥子を見送った後で。
 手紙を書いたり、日記を書いたり。選んだ色と筆記具を手に取り試し書きコーナーへ。
 3章から参加される方は、色と筆記具を指定くだされば。
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第1章 ボス戦 『血まみれ女学生』

POW   :    乙女ノ血爪
【異様なまでに鋭く長く伸びた指の爪】が命中した対象を切断する。
SPD   :    血濡ラレタ哀哭
【悲しみの感情に満ちた叫び】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
WIZ   :    応報ノ涙
全身を【目から溢れ出す黒い血の涙】で覆い、自身が敵から受けた【肉体的・精神的を問わない痛み】に比例した戦闘力増強と、生命力吸収能力を得る。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠山田・二十五郎です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●あなたのいろ、わたしのいろ
 明るい春の陽光返すは黒染めの胴体。軸に花舞う螺鈿細工が施されていて、光を受ける度に青緑色や紫色が見え隠れしていたっけ。
 スルスルと紙面の上に降り立って紡がれていく文字の色は、星一つない夜空のようなブルーブラック。始めは薄く、時間が経つごとに深く暗く、染まっていく。
 そうして書かれた文字の並びは、水に浸かっても長い年月が経ても、決して色褪せない、と。貴方は微笑みながら教えてくれた。
 何もかもを平等に優しく包み込んでしまう夜空の色。それが、貴女の色だった。
 ――でも、私の色は?
 
 握り締めている手紙の文字は、文字の色も、何が書いてあったのかも、もう分からない。
 持っている万年筆も泥や砂に塗れてしまって、傷だらけで――元の色は、何だったのかしら。
 思い出せないの。貴女が私に良く似合うと笑って教えてくれた。あの色が、
 定番のブラックやブルーブラックを筆頭に、彩り豊かなカラーインク。果物や花々の香りの付いたもの、どうやって使うのか無色透明なものまで。
 インクブースには沢山のインク瓶が並んで販売されていて。これだけ色彩があったら。無い色を探す方が、難しいくらいだったら。もしかしたら。
『あるはずだから、きっと、この中に……』
 美弥子は探し物に夢中になるあまり、博覧会に突然現れた影朧に対する周りの悲鳴や混乱の声も聞いていない。
 彼女の中にあるのはただ一つ――思い出せそうで思い出せない、もどかしい感情だけ。
 貴方が教えてくれた色も、愛しい貴方への感情も。このまま忘れ去ってしまったら、私はどうなってしまうのだろう。
 きっと私が私では無くなってしまう。そのことだけは確かだから。
『ねぇ、あなた方……あなたのいろを、教えてくださる?』
 美弥子は現場へと駆け付けた猟兵たちの方を向くと、不安交じりの泣きそうな表情でそう問いかける。
 もしかしたら、思い出せるかもしれないから。だから教えて。無理のない範囲で、構わないから。
 ここに並ぶインクたちを見て、直感的にこの色が気になったとか。ただこの色が好きだからとか。そんな理由でも、大丈夫だから。
 私はどの色を見ても――何も、感じられないのだから。
 だから、どうか。あなたがあなたで在るための色を。
 美弥子の感情の昂りに呼応するようにして、ぴしり、と――近くにあったインク瓶に、ヒビが走った。
西條・東
伝えられなかったのは悲しいな…思い出す手伝いしないとな!

俺の大切な色は「赤橙色」だ!紅葉みたいに綺麗な色なんだぜ!
理由は「お父さんとお母さんとで初めて遠出した場所が紅葉並木だったから」なんだ!
迷子にならないように笑顔の二人の手を握って、高い紅葉の木を頑張って見上げて…そしたら綺麗な紅葉が夕焼け空みたいに広がってたんだ!
笑顔と紅葉が大切な思い出だ!

今のお姉さんはすこし慌ててど忘れしてるだけだぜ
大事な色は完全には忘れられないんだ!(ニコッと)

UCで『お姉さんの大事な色は何?』って質問する
WIZの攻撃が来たら水の【属性攻撃】で動きを封じるに変更だ

商品やお客さんに攻撃が来たら陽の【オーラ防御】で守るぜ



●山燃えの紅葉
 まるで、世界中からありとあらゆる色をかき集めて瓶に詰め、この場にずらりと並べたよう。
 それほどまでに色彩もインク瓶の様相も実に様々で。しかし、賑やかなインク囲む博覧会の一角に、悲しげに俯く寄る辺なき影朧が独り。
 少しだけ振り返って、視線は斜め下を向けたまま。猟兵たちへと問いを投げたままの格好で、その場にじぃっと佇んでいる。
「伝えられなかったのは悲しいな……思い出す手伝いしないとな!」
 少しくらい、力になれるかもしれない。そんな思いを抱き、真っ直ぐに美弥子へと向かっていったのは、西條・東(生まれながらの災厄・f25402)だった。
 自分へと近づいてくる東に気付いたのか、美弥子はゆっくりとその顔を上げる。
「俺の大切な色は『赤橙色』だ! 紅葉みたいに綺麗な色なんだぜ!」
 ほら、と。東が指差す先に在るのは、黒のシンプルなガラス瓶に、中央に貼られた橙色のラベルが一際目を引く赤橙のインクだった。
 格子模様に、数字に文字、アルファベット。色見本として様々な文字や図形が引かれた中でも、一番目を引くのは――赤から橙色への、見事なまでの色の移り変わりだ。
「理由は『お父さんとお母さんとで初めて遠出した場所が紅葉並木だったから』なんだ!」
 紅葉が山頂から麓に下るにつれて、その色が薄まっていくように。東の記憶の中に鮮明に残っている、三人で眺めた紅葉並木がそっくりそのまま目の前に現れたかのように。
 グラデーションは一等濃い鮮やかな緋色から始まり、右へとインクを伸ばすごとに薄く――最後は優しい夕焼け空のような、柑子色へと至る。
「迷子にならないように笑顔の二人の手を握って、高い紅葉の木を頑張って見上げて……そしたら綺麗な紅葉が夕焼け空みたいに広がってたんだ! 笑顔と紅葉が大切な思い出だ!」
 見事な一色に染まった、あの高い紅葉の木。太陽さえも抱き込むように上へと広く伸ばされた枝葉の先は、高くなるにつれて空の青色と混ざり合う様に薄くなっていたのだ。
 見上げた先、陽光と共に紅葉の色落ちる両親の頬は、血色の良い茜色に染まっていて。東へと二人が笑いかければ、一層頬の茜が濃く染まっていた。
 記憶の中に在る紅葉よりも薄い柑子色は、繋がれた両の手。しかし、何よりも暖かく東の手の先を包み込んでいた。
「今のお姉さんはすこし慌ててど忘れしてるだけだぜ。大事な色は完全には忘れられないんだ!」
 安心させようと、起き出した朝陽のように明るい笑顔を美弥子に向ける東。そのまま、「お姉さんの大事な色は何?」と問いかけてみれば。
『わたしの、いろ……?』
 そう。少しだけ、浮かんできたような。
 目の前の彼が想い描く赤橙みたいに、見る者の目を奪う色では、無いのだけど。
 彼のように。忘れられないほど、鮮やかな色では、ないのだけど。
 嗚呼、それでも思い出せないと涙に墨色が滲めば、澄んだ清流が美弥子の身体を封じ込めて。
 周囲に飛び散った黒き雫は、東が広げた陽のオーラが遮り、商品に傷がつくことはなかった。
『茜はささない……。それだけは、憶えているの』
 仮に茜させども、君が居ない。
 教えてくれてありがとう、と。ふわりと小さな微笑みを、美弥子は東に向けるのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

灰神楽・綾
【不死蝶/2人】◆◎
出来れば気の済むまで
インクを探させてあげたいけど…
今の状態じゃちょっと難しそうだね

俺の色、迷いなく赤と答える
特に、ガーネットのように
黒みがかった深い赤色がいいね

だってそれは俺の大好きな血と同じ色
自分のものなのか相手のものなのか
分からないほど沢山の血が流れるような
戦いを望んできた俺だから
まぁ梓と旅をするようになってからは
だいぶ真っ当なの人間に近付いてきたけど
今でも興奮しちゃうのは変わらない

ごめんね、ちょっと大人しくしてもらうよ
Phantomを影朧の足元へ向けて放ちUC発動
蝶たちが地面に触れれば、鎖へと変化
地面に突き刺さった鎖を
念動力で影朧の身体に巻きつけ捕縛
あとは宜しくね、梓


乱獅子・梓
【不死蝶】◆◎
今の状態ではいつ周りに手を出しても
おかしくないほど不安定に見えるしな
誰も傷付けることなく想いを果たせてやりたい

俺にとっての色は…
綾と被ってしまうが、赤だろうか
綾みたいに血が好きとかじゃないけどな
俺がイメージするのは相棒竜、焔の赤
焔の放つ灼熱の炎のような明るい赤だ
これまで何度も目にし、何度も助けられてきたからな

肩に乗る可愛い焔を撫でる
…反対側に居る零が何だか
恨めしげにこっちを見ている気がする
もちろんお前の青も大好きだぞ

ここで焔の炎で攻撃すると
一般人や商品を巻き込む危険があるし
何よりあまり影朧を傷付けたくはない
綾に影朧の動きを抑えてもらっている間に
UC発動、零の歌声で大人しくさせる



●SEPIA-Blood Moon&Color of DRAGON-Flame
 安定したかと思うと揺れ動き、不安定になったかと思うと、不意に静まって。往ったり来たりを繰り返す美弥子の感情は、まるで壊れてしまったメトロノームのよう。
 何かの拍子で感情が制御できなくなれば、あっという間に被害は広がってしまう。
「出来れば気の済むまでインクを探させてあげたいけど……今の状態じゃちょっと難しそうだね」
 とてもじゃないが、悠長にインク探しをしている場合ではない。灰神楽・綾(廃戦場の揚羽・f02235)は、不安定そうな美弥子の姿を前にそう零した。
 美弥子は必死に動揺しまいと力を尽くしているようだが、いつまた攻撃を繰り出してしまうか分からない。
「そうだな。今の状態ではいつ周りに手を出しても、おかしくないほど不安定に見えるしな」
 誰も傷付けることなく想いを果たせてやりたい。ならば今は、抑える時だろう。
 客と美弥子の間に盾になるように身体を滑り込ませた乱獅子・梓(白き焔は誰が為に・f25851)もまた、綾の見解と同様の意見であった。
『傷付けたくない、けど……。思い出せない、の。だから……』
 お二方のいろを教えて、と。小鳥が囁くような声で乞われ、二人で顔を見合わせて。それぞれが思い描く色のガラス瓶を、手に取りに行く。
「俺は赤かな。特に、ガーネットのように黒みがかった深い赤色がいいね」
 人差し指と親指で挟める程の小さなインク瓶を摘まみながら、迷いなく「赤」と答えたのは綾だった。だって、赤色は自分が大好きな血と同じ色なのだから。
 綾が手にしたそれはインク瓶にしては小さく、恐らくそれなりに値の張る部類のものなのだろう。瓶に貼られたラベルデザインも、歴史を感じるものがある。
 インク自体にはそれなりの粘度があるようで、瓶をゆっくりと左右に傾ければ、瓶の動きに合わせてインクもぬったりと揺れ動いた――まるで、小さな針を通って小瓶に集められた、鮮血のように。
「自分のものなのか相手のものなのか。分からないほど沢山の血が流れるような、戦いを望んできた俺だから」
 まるで、血液が段々と乾いて黒みかかるように。示された色見本は年毎に分かれていて、時を経るごとに赤から赤褐色、赤褐色から黒ずんだ赤へと、次第に酸化し黒変していくようであった。
 店員に一声かけてインクを人差し指につけ、親指と擦り合わせれば――ぬるりとした感触と共に、手の中で赤が伸びていく。
「まぁ梓と旅をするようになってからは、だいぶ真っ当なの人間に近付いてきたけど。今でも興奮しちゃうのは変わらない」
 店員曰く、伝統的な方法で製造されているこの赤は、使用後にしっかりと洗浄しなければ、何れ腐食に強い金さえも蝕んでしまうと云う。時間をかけて、ゆっくりと。しかし、着実に。
 色だけではなく、感覚や変化の仕方も血によく似たこのインク。そのせいか、「普通の人」に近づきつつある今でさえ、疼きを覚えるのは気のせいだろうか。
「俺にとっての色は……綾と被ってしまうが、赤だろうか。綾みたいに血が好きとかじゃないけどな」
 魅入られたようにじっくりと小瓶を眺める綾から少し離れたところで、梓はこれ、と一つ示してみせる。
 綾の物とは反対に、揺らせば半透明な橙混ざりの赤色がちゃぷりと波打った。こちらのインクに粘り気はさほどなく、サラサラとしているらしい。
 興味の赴くままに天井の灯りに翳して見れば、覗き込む世界の全てが赤に染まって見えた。
「俺がイメージするのは相棒竜、焔の赤。焔の放つ灼熱の炎のような明るい赤だ。これまで何度も目にし、何度も助けられてきたからな」
 それは、梓にとっても見慣れた赤色だった。柔らかく、何もかもを包み込むような陽光の色。思うままに試し書きの紙にペンを滑らせば、赤に橙、山吹と。文字列にゆらりと焔のような濃淡が生み出される。
 片手で肩に乗る焔を撫でながら、さらりと鉛筆とあまり変わらぬ書き心地を感じつつ、ペンを動かし焔の赤を遊ばせていると、もう片方の方から「ガウ」と抗議するような鳴き声が聞こえてきた。
「もちろんお前の青も大好きだぞ」
 恨めしげに梓を見つめる氷竜の零に、慌ててそう返す梓。
 恨めしげな零の視線は、梓の方を通り過ぎて――梓が手にした焔のような赤いインクとは色違いの、澄んだ青色をじっと見ていた。
「そっちも気になるが、それはこっちが終わってからにしような」
「来るよ――ごめんね、ちょっと大人しくしてもらうよ」
 何処か狂気を覚えるような濃い赤も、灼熱の明るい赤も。どちらもとっても、素敵だった。
 でも、私のいろじゃない。それでもソレは、赤に近いいろであったような。
 わたしは、わたしのいろは――?
 嗚呼。貴方はもう居ないのね。思い出そうと、貴方との記憶を振り返る度。制御が出来なくなっていく。
 顔を覆った美弥子の足元へ舞い踊るのは、綾が放った赤く光る蝶の群れ。赤い蝶は瞬く間に鎖へと変化すると、そのまま美弥子の身体を絡めとった。
「あとは宜しくね、梓」
「任せられたな――歌え、氷晶の歌姫よ」
 ここで焔の炎で攻撃すると、一般人や商品を巻き込む危険がある。
 それに何より、あまり影朧を傷付けたくは無いから。
 綾に影朧の動きを抑えてもらっている間を狙い、梓が合図を送れば、零の神秘的な咆哮が博覧会の会場に木霊する。
 がしゃりと鋭く長く伸びた爪が鎖に絡む音が響いていたが――咆哮に込められていた強烈な眠気に誘われるまま、美弥子は微睡みの海へと漕ぎ出して。
 ふっとその身体から力が抜けると共に、爪も元の長さへと戻っていった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

花澤・まゆ

あたしの好きな色は赤
万年筆のインクじゃ比較的ありきたりな色
赤はね、あたしの好きな人のイメージカラーなの
彼はバイクやジャケットも赤い色
あたしにとって「赤」はヒーローカラーなんだ

だからね、美弥子さんも自分の持ち物から連想してみたらどうかな
案外似合う色の物を持ってたりするしね

話しかけながら、符を美弥子さんとあたしの周囲へと貼って
【結界術】であたしたちを包んでおくよ
この結界から外へは攻撃が飛ばないように
どうしても一撃が必要なら、UCを
思い出して、どうしてこの場所に来たのかを

大丈夫、あたしたちがついている
貴女の思い出を守りに来たよ

アドリブ歓迎です



●Hero`s Bright Red
 原色に近い、鮮やかな赤色。パッと視界にその赤が差せば、俯いた顔も思わず反射的に上げてしまう。そんな不思議な魅力も持っている。
 そして多くの物語で英雄を象徴し、主人公たちが身に纏うことも多い色で。花澤・まゆ(千紫万紅・f27638)も、そんな赤色が好きだった。
 赤色といえば、万年筆のインクでは比較的メジャーで、この博覧会にも国を問わず数多くのメーカーやブランドが、微妙に色の異なる赤いインクを出している。
 赤が押し寄せるインクブースの一角で、まゆは迷わず一つのガラス瓶を手に取っていた。直線的な装飾の施された気取った亜米利加のガラス瓶に、閉じ込められているのは紫かかる鮮やかな赤色。
「赤はね、あたしの好きな人のイメージカラーなの。彼はバイクやジャケットも赤い色。あたしにとって『赤』はヒーローカラーなんだ」
 まゆにとって、彼は英雄に等しい存在で。そんな好きな人が纏う色と似ているような、少し違うような。異国情緒漂うこの赤は、まさしく海の向こうの大陸生まれだ。
 目の前の影朧に笑顔は引き攣らせつつも、どうにか職務を全うしようとする店員に勧められるまま、試し書き用の紙にスポイトでえいやと赤を散らせば。盛り上がった赤色の大きな染みが点々と生まれて、紙面の上に居座ったままでいる。
 どうやらこれは、インクが乾き辛い紙であるらしい。
「ヒーローの色だからかな。沢山の赤の中でも、これが気になったんだ」
 手に取ったインクの名前はまゆの言葉通り――『英雄の赤』を意味していた。紙面を興味深そうに眺める美弥子に話しかけながら、それでも符を自分たちに周囲に貼ることも忘れずに。
 まゆが周囲一帯に符を貼り終えた頃に、紙面はようやくインクを吸収し終えたようで。
 元々鮮やかであった赤色は、乾くことによって更にその鮮やかさを増していた。決して薄くはならず、どれだけ伸びても元の色の濃さを失わぬまま、紙面の上に花咲いている。
「あれ。ここ、バイクのボディみたいに光っているね」
 まるで、青空の下で太陽光を反射させる彼のバイクみたいに。紙を覗き込む角度を変えたのなら、キラリとメタリックな黄や緑の輝きが見え隠れした。
 インクの濃い箇所ほど金属のような光沢は強くなり、インクの端々がギラギラと輝いて見える。
「そうだ、美弥子さんも自分の持ち物から連想してみたらどうかな。案外似合う色の物を持ってたりするしね」
 眩しく輝く紙面の赤から視線をずらし、そうっと身体をまさぐる美弥子の様子を見守れば。程なくして、美弥子は一本の万年筆を差し出した。
 色褪せ傷付き、灰に染まった万年筆の胴体。元の色は恐らく、薄い色だったのだろう。
『そう、だわ。貴女の赤色みたいに、輝くような赤ではなかったから……』
 薄い色と言っても、沢山存在していて。此処から一つを辿るなんて、そんなこと。
「思い出して、どうしてこの場所に来たのかを」
 やっぱり無理なのかしら、と諦めかけた美弥子に、そっとまゆは微笑み寄り添う。瞳を覗き込んで、大丈夫と伝えるように。
 短く乱れていた息は、少しずつ落ち着きを取り戻し。締めに彼女に未練がましく纏わりついていた黒い邪心を断ち切れば、ほら、もう大丈夫。
「大丈夫、あたしたちがついている。貴女の思い出を守りに来たよ」
 涙滲む視界に輝いて見える、まゆの姿。美弥子にとって、それはまさしく英雄の姿そのものだったのだから。

大成功 🔵​🔵​🔵​

フィリーネ・リア
🔥🎨
◆◎
(くゆりと居るときは普段と違う喋り方)

インク集めが好き
浮き立つ足音だって心躍る音
くゆちゃんと手を繋いでインクを見に
罅割れたインク瓶は横目に映して

聲を掛けられて、こてり
質問内容には、ふわり
フィーの大切な色は焔の赤よ
くゆちゃんが初めて魅せてくれた色だから
フィーにとって世界一きれいな色

くゆちゃんの好きな色はフィーの眸?
うれしい、また見せてね
そしたらくゆちゃんの好きな色も見れるから
――約束ね
フィーはくゆちゃんとなら
同じ意味でも指切りより指結びがしたいな

あなたの色は見つかりそう?
うふふ、あなたは黒を流すの
色探す彼女に咲うも
でもダメ
くゆちゃんも、この子たちも傷つけてはダメよ
絵筆を手に魔女は咲う


炎獄・くゆり
🔥🎨
◆◎

インクといえばフィーちゃんですねェ
嬉しそうな彼女の様子に満足げ

アラ、辛そうなオンナノコ
瓶のヒビ割れる音も聞き逃さず
相手に悟られぬよう警戒

あの焔はキレイでしたねェ
二人の始まりの色
そんなに大事にしてくれてるなんて
光栄!

単純に好きな色はピンクとか赤ですけどぉ~~
思い入れのある色は
燃えるような夕焼けの色
揺らめく焔を見つめる娘の茜色
ユラユラきらきらキレイだったなァ
フィーちゃんの瞳の話ですよぉ~~
あたしの好きな色も?
またステキな約束デキちゃいましたねぇ
指切りでもします~?
フフ、じゃ結んじゃお~

アレ、なんかちょっとピリピリ?
暴れるのはイイですケド
このコと、このコの為のインク達は傷付けさせませんよ



●マゼンダ×イエロー=ふたりのいろ
「くゆちゃん、ふしぎね。絵具みたいに混ぜられるインクなんて」
 混ぜられるだなんて、まるで魔法みたい。インク集めが好きなフィリーネ・リア(パンドラの色彩・f31906)の足取りは軽く、インクブースへと辿り着いた。
 浮き立つ足音だって心躍る音。今なら空だって飛べてしまいそう。サクラミラージュでは真新しい、混色可能なインクを前に、フィリーネはキラキラとその瞳を零れ落ちそうなほどに輝かせている。
 一般的に、万年筆のインクの混色はご法度とされている。pHや成分、濃度が異なるインク同士を混ぜることで、色素が分離したり、インクが固まってしまったりする可能性があるからだ。
 どうしても挑戦したいのなら、自己責任で。混色による詰まり等が原因でペン先が修復不可能なダメージを負ったとしても――メーカーは一切保証しない。
 しかし、ごく一部とはいえ混色不可説は過去のものとなりつつあるのもまた事実。時代の一歩以上先を往くハイカラな学生さんたちで人気だというのは、最近発売されたばかりの――同シリーズ内の色同士に限るが、その中では自由に混色が可能なインクだった。
「インクといえばフィーちゃんですねェ」
 フィリーネの手を繋いだ先に居るのは、炎獄・くゆり(不良品・f30662)だった。物珍しいインクを前に、嬉しそうな様子のフィリーネを見、くゆりは満足そうである。
「アラ、辛そうなオンナノコ」
 インク集めが好きなフィリーネにとって何より不吉なその音も、くゆりは聞き逃すことはなく。ぴしりと瓶に罅走る小さな音の発生源は、美弥子の方からだった。
 愛しいフェリーネに向ける笑顔そのままに、くゆりの両目に宿る金は美弥子へと移ろっていく。内心では警戒をしつつも、それを気取られぬように親しみのある色を滲ませて。
『ねぇ。可愛らしいお二方。あなた方は、どんな色を、作るのかしら……』
 聲を掛けられて、こてりと首を傾げるフィリーネ。
 それから質問内容には、ふわりと花咲いながら微笑んで。
 体験用として手渡された二十色近くある混色可能インクの中から選んだのは二色――マゼンダとイエローをそっと白い陶器に注いで、くるりと混ぜながら。
「フィーの大切な色は焔の赤よ。くゆちゃんが初めて魅せてくれた色だから」
 マゼンダを多めに、イエローは少し。二つを注いでゆっくりと混ぜたのなら。
 二つの境界が溶け合って消えて、ほら、混ざり合って生まれたのはフィーにとって世界一きれいな色。人に寄り添う焚火のように静かに柔らかく、しかしその中に激しい情動を隠して揺れる。油断を見せたら、丸呑みにしてしまうぞ、って。
「あの焔はキレイでしたねェ。二人の始まりの色、そんなに大事にしてくれてるなんて光栄!」
 闇すらも焦がす焔の赤。フィリーネが示した陶器の中には、くゆりも見覚えがある焔の色が生み出されていた。
 とてもキレイだった焔の色。それを迷うことなく始まりの色を選び出したフィリーネに、くゆりのテンションも高くなる一方だ。
「単純に好きな色はピンクとか赤ですけどぉ~~」
 言葉交じりにフィリーネから陶器とガラス棒を受け取ったくゆりが、焔の色にマゼンダを加えていけば。ふわりと二人の始まりの色が、くゆりが単純に好きだというピンクに早変わり。
 黄を帯びたピンク色で止めずにマゼンダを加え続ければ、やだて橙を帯びた赤色へと変化していく。
「でも、思い入れのある色は燃えるような夕焼けの色。ユラユラきらきらキレイだったなァ」
 白き陶器に浮かび上がるのは、くゆりの好きな赤い色。そこに少しだけイエローを加えれば、夕焼けのようなオレンジ色を指し示す。
 少しだけ陶器を揺すってみれば、ユラユラとくゆりを映し出して。自分を見つめるフィリーネの瞳と、そっくりな色と成る。
「なんのお話?」
「フィーちゃんの瞳の話ですよぉ~~」
「くゆちゃんの好きな色はフィーの眸? うれしい、また見せてね」
 そっと陶器を覗き込むフィリーネは、自身の瞳と同じ色に微笑んだ。
 くゆちゃんの好きな色はフィーの色。
 マゼンダとイエロー。混ぜる比率を変えたのなら、フィーの好きな色も、くゆちゃんの好きな色も全部生み出すことが出来る。それが嬉しかったから。
「そしたらくゆちゃんの好きな色も見れるから――約束ね」
「あたしの好きな色も? またステキな約束デキちゃいましたねぇ」
 ユラユラ揺れる焔と、それを映し出すフィリーネの瞳。好きな色が世界に生まれれば、呼ばれるようにしてもう一つの色も咲いてくる。
フィリーネの色とくゆりの色は、一つで二つ。
「指切りでもします~? 」
「フィーはくゆちゃんとなら、同じ意味でも指切りより指結びがしたいな」
「フフ、そうですねェ。じゃ結んじゃお~」
 またあの色が見られるように。
 小指と小指を絡め合って、指結び。
『色んな、色……。作れるのなら、わたしのいろ、も……?』
「アレ、なんかちょっとピリピリ?」
 ほんわか和んでいた二人、それを静かに眺めていた美弥子の纏う雰囲気が変わったような。
「あなたの色は見つかりそう? うふふ、あなたは黒を流すの」
 無ければ生み出すことだってできる。でも、何を混ぜたら良いのか分からない。
 ひたり、と。床に落ちたのは、黒い涙。ガタガタと美弥子の近くのインク瓶が嫌な音を立て始めて。
「暴れるのはイイですケド。このコと、このコの為のインク達は傷付けさせませんよ」
「でもダメ。くゆちゃんも、この子たちも傷つけてはダメよ」
 殆ど同時に形どったのは、お互いを傷付けてはいけないという言の葉で。
 傷付ける前に止めようと、くゆりの放った右腕のガトリングガンによる殴打が美弥子の爪を砕いていって。
 フィリーネの生み出す鮮やかな色彩が、美弥子の黒を隠すように塗られていく。
「あなたのいろ、ゆっくり探せば良いの」
 ゆっくり混ぜて、思う色を作り出して。やがて落ち着きを取り戻した美弥子にフィリーネが咲いかける。
 その様子を、くゆりはそっと見守っていた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

琴平・琴子
◆■


私の色、と問われれば浮かぶのは若葉の新緑色…
だけど思い出と問われたらラメ入りの金色、でしょうか
それは王子様と、お姫様の髪の毛の色
太陽に透かしてキラキラ輝いていた色
暖かいお日様みたいでな色
だけど何度も手を伸ばしては届かず
あんな風になれたら、とかつて憧れていたのにね

ああ美弥子さん、落ち着いて
何かを思い出されたのね
美弥子さんの爪が誰かに、何かに触れない様に腕を広げて庇う

ねえ、先生はどんなところが好きだったの?
憧れだったんですか?
ふふ、私と一緒ですね
私のそれには恋は入っていませんでしたけどね

貴女の大切な色と、思い出
思い出せると良いですね



●陽光の軌跡 ―芽吹きの若葉・太陽の輝き―
「私の色、と問われれば浮かぶのは若葉の新緑色……。だけど思い出と問われたらラメ入りの金色、でしょうか」
 今年しか発売されない限定品ばかりが並べられた博覧会の一角で。琴平・琴子(まえむきのあし・f27172)の緑の瞳は、二つのインクの間を行ったり来たり。
 さるメーカーの今年のテーマは「太陽」であるらしく、陽光に向かってその葉を伸ばす新緑や、太陽の輝きそのものを表した金色、真っ赤な夕焼け空と言った「太陽」に纏わるインクたちが並べられている。
 まず琴子の目に付いたのは、瓶の上澄みに行くにつれて色が薄くなる――透き通った美しい若葉色だった。
 しかし、琴子にとっての「思い出の色」はその隣。
 陽光に手を伸ばす若葉の隣に並べられていたのは、橙交じりの陽光の金。向こう側が透けて見えて、角度によっては陽光に溶け込んだ細やかなラメがきらりと輝いて見えた。
「あんな風になれたら、とかつて憧れていたのにね」
 隣に並ぶ若葉へと手を差し伸べるように。底の方へと降りているラメをかき混ぜるために、優しく数回振って蓋を開ければ。優しい金の色が、琴子に向かって微笑みかけた。
 太陽に愛されたかのような、明るい金を抱く王子様とお姫様の髪の毛の色。
 月夜のような自分の髪色とは正反対の、太陽に透かしてキラキラ輝いていた色。
 全てを平等に包み込む、暖かいお日様みたいな色。
「どうしたら王子様のようになれるのでしょう」
 ガラスペンで試し書きをすれば、王子様の色がすぐ近くで広がった。
 濃淡によって太陽の色のようにも、王子様の髪の色のようにも見えてしまう、不思議な金の魅力。
 きらりと金に散る細かな銀色のラメは、甘さと共に琴子を見つめていて。
 だけど何度も手を伸ばしても、王子様には届かない。王子様がこんなにも近くに在る、今でさえ。
 それでも若葉は数多もの可能性を秘めた成長の色。失敗を繰り返すうちに自分でも知らぬ間に背を伸ばし、何れ太陽すらもその手に抱いてしまうのかもしれない。
 気が付いたら憧れの王子様が、逆に自分のことを悔しそうに見上げていることに気付く日が来るのかもしれない。
「ああ美弥子さん、落ち着いて。何かを思い出されたのね」
 若葉と言えば、春。陽が笑って芽吹く季節に、
 そうだわ。桜よりも前、若葉と共に春を告げる色が、あったはず――。
 金を紡ぐ琴子の手元を覗き込んでいた美弥子が、不意に苦しそうな声を上げた。
「ねえ、先生はどんなところが好きだったの? 憧れだったんですか?」
『あの人の全てが好きだった。憧れていたから』
 美弥子の爪が誰かに、何かに触れない様に腕を広げて庇いながら。琴子は美弥子に語り掛けていく。
「ふふ、私と一緒です。私のそれには恋は入っていませんでしたけどね」
 美弥子の答えを聞けば、琴子はにこりとその頬を緩めた。
 同じ憧れを纏った色に、少しの親近感を感じながら。
「貴女の大切な色と、思い出。思い出せると良いですね」
『……ありがとう。あなたもどうか、憧れの色を纏えるように』
 望む色が近いことを、お互いに願い合って。

大成功 🔵​🔵​🔵​

アリスティア・クラティス

「奇遇ね。私も、色を探しているの」
相手の姿は『愛する者がいない』僅かな親近感すら感じる。差し出したのは一冊の本。
(【とある製作者の日記】この人形が完成し、起動するまでの間に命を懸け、瞳を開けた人形と視線を合わせたのが最後の瞬間となった研究製作者の日記)
「読んでみたの。そこには、きちんと整った文体で書かれた『暗くて青く、そして僅かに緑がかった色』の海が広がっていた。内容は実験の苦悩と後悔と、それ以上に『逢いたい』という切望で埋まっていたわ。
けれど、今既に彼はいない。その想いに答えようもない。私は、せめて彼の使っていたインクの色を知りたいの」

攻撃にはUCを使用、被害を出さない完全防戦で周囲守護を



●Deep Blue Black~久遠に青に染まる
 ブルーブラック。それは、万年筆のインクの中で最も定番とされる色合い。
 書き始めは青く、時間が経つにつれて黒く染まっていく。酸化作用を利用しているため、水に落ちず、耐光性も強い。
 どのようなメーカーやブランドであっても、一色は必ずブルーブラックを出しているほど、メジャーな色だった。
「奇遇ね。私も、色を探しているの」
 普通の青に、殆ど黒に近い物。それから緑かかった深い青。一口にブルーブラックと言っても、メーカーによってその色合いはかなり異なってくるもの。
 食い入るようにブルーブラックの色見本を見比べていたのはアリスティア・クラティス(歪な舞台で希望を謳う踊り子・f27405)だった。
 美弥子と同じく、アリスティアもまた、この場に色を探しに来たのだから。
 今は無き、アリスティアを造った製作者。彼が使っていたインクの色が知りたい。その一心で。
 此処へと辿り着いた影朧の美弥子もまた――『愛する者がいない』
 自分と似たような境遇に僅かな親近感すら感じながら、アリスティアは美弥子へと一冊の本を差し出す。
「読んでみたの。そこには、きちんと整った文体で書かれた『暗くて青く、そして僅かに緑がかった色』の海が広がっていた。内容は実験の苦悩と後悔と、それ以上に『逢いたい』という切望で埋まっていたわ」
 実験には苦悩と後悔と葛藤がつき纏った。それでも、君に遭うことが目的だったから。
 研究者の命を削りながらも続けられた、とある人形――アリスティアの研究。そうして彼の命が尽きるその直前に、彼女は動いた。
 交わった瞳と瞳。その直後に、視た先の双眸は光を喪っていって。倒れ伏す、鈍い音が響いた。
「けれど、今既に彼はいない。その想いに答えようもない。私は、せめて彼の使っていたインクの色を知りたいの」
『……その色なのかは、分からないけど。近い色を、知っているわ』
 あなたは緑かかった、暗い青。私は夜空のような、黒い青。
 どちらの色の名前も、ブルーブラック。
 日記から顔を上げた美弥子の視線の先には、一つの色見本があった。文字の端に緑を纏う、青く暗い色が広がっている。
 ――永遠に青に染まる覚悟があるのなら。共に何処までも往こう。
 そんな謳い文句と共に、幾つもの『衣類等に付着すると決して落ちません。ご注意を!』と大きな注意書きが張り付けられている。
 とあるインクメーカーの開発者が、海が好きな亡き恋人を想い全てを注いで完成させたのが、このインクで。
 ある種の凶悪さと共に有名な色でもあった。
 肌に付いたのなら、数日は落ちない。床に零そうものなら、板を張り替える羽目になり、酒精や漂白剤の類も白旗を掲げてしまうと云う。そして少し手入れを怠ったが最後、知らぬ間に万年筆の内部やガラスペンの先すらも青に染めてしまうという凶悪性。
 一度瓶から取り出したら。決して消えない、緑を纏いし青と成る。
 君に逢い、君の死を哀い、そして君への愛の色だ。
『不思議、ね。好きな人のいろは覚えているのに……』
「ブルーブラックね。確かに記憶したから、後はあなたを止めるだけよ」
 アリスティアの声と共に、生み出されるのは水晶の壁。
 貴方がくれたそのいろが思い出せないと。博覧会に舞う美弥子の爪を受けても傷つかず、消える気配も見せない水晶の壁。それは、美弥子の嵐が過ぎ去るまで決して動じずにそこに在り続けた。
 例えあなたが居なくても、あなたが命を賭して綴ったこの色と共に。いつか来る奇跡を信じて。

成功 🔵​🔵​🔴​

月居・蒼汰
◎◆
ラナさん(f06644)と

ラナさんをイメージするなら赤や桜色
でも、文字を綴るものとして考えるなら
このラメが入った星空のようなインクがいいかな
ラナさんは、どうですか?
…うん、ラナさんが海の色を選ぶなら
やっぱり俺は星空ですね
どちらにも、二人で紡いだたくさんの想い出が詰まっているから
これからもたくさん、想い出を重ねていきましょうね
そうしてきっと、色が増えていく

俺には美弥子さんの色はわからないけど
誰かを大切に想う気持ちはわかります
攻撃は翠の暁星で
美弥子さんを縛る影を祓って
彼女がずっと抱き続けてきた想いが
穢されてしまうことがないように
少しでも、彼女の魂がより良い方向に向かうための
お手伝いができたらと


ラナ・スピラエア
◎◆
蒼汰さん(f16730)と

好きな色は暖色系
けれど…
大切な色となると全く別で

キラキラ輝く夜空色を眩しそうに眺めて
そうですね…
ちらりと蒼汰さんを見て、手に取るのは海の色
星空も思い出がいっぱいありますけど
なんとなく、この色と目が合っちゃったので
海や水族館
蒼汰さんと出掛けた、新しい世界の色だからかな

どちらも、の言葉に頷いて
はい、これからもっともっと重ねていきましょう
全ての色が、大切な思い出になるくらい

大切な人と出逢って、世界が広がる
それは苦しい程に分かるから
私は、美弥子さんを応援したいです
大切な色を思い出すお手伝いをしたいから
傷付けることは不本意でしょう
春咲ノ花片で攻撃の手を塞ぐように攻撃を



●遥かなる航路 ―星望・新海―
 目指すは新しい世界へ、大陸へ。
 どちらか好きな色でも構わないけれど、折角ならば空も海も。
 大航海時代の、漕ぎ出した海から臨む星空と夜海をモチーフに作られ、同時発売された二つのインクは、是非セットで揃えたいとの声が多く寄せられたとか。
 星空のラベルには船の前部分が。夜海の部分には船の後部分が。
 隣り合わせに瓶を置けば、一つのガレオン船が現れる。
 甲板から眺める夜空を独り占めに、未だ見ぬ新たな海への期待に胸を躍らせて。
 そして二つセットのこのインクは、今、博覧会を訪れた二人の手に取られるその瞬間を今か今かと待ち侘びていた。
(「好きな色は暖色系。けれど……」)
 ピンクに赤色に、黄色に。暖色系ばかりのインクを集めた一角にラナ・スピラエア(苺色の魔法・f06644)の視線が吸い寄せられる。
 髪と瞳に春の色を纏うラナは、見た目と同じく暖色系が好きな色。だけれど、大切な色となると全く別だったから。
 ラナと共に博覧会を訪れていた月居・蒼汰(泡沫メランコリー・f16730)の瞳の先もまた、暖色系のインクを映していた。
(「ラナさんをイメージするなら赤や桜色。でも、文字を綴るものとして考えるなら」)
 暖色系のインクは気になるけれど、想い出のある色となれば話は違ってきて。
 それぞれの想いを抱きつつ、二人の歩みは暖色系のインクが並べられた一角から、青系のインクが並べられたブースの方へと。
「このラメが入った星空のようなインクがいいかな。ラナさんは、どうですか?」
「そうですね……」
 そうして蒼汰が手に取ったのは、二つセットの星空の方のインクだ。
 蒼汰が手にしたキラキラ輝く夜空色を眩しそうに眺め、それからちらりと蒼汰を見て。
 何色だろうかと蒼汰に尋ねられたラナが手にしたのは、星空の隣に並んでいた夜海の色だった。
「星空も思い出がいっぱいありますけど、なんとなく、この色と目が合っちゃったので」
「……うん、ラナさんが海の色を選ぶなら、やっぱり俺は星空ですね」
 二人で一緒に見上げた満点の星空をそっくりそのまま瓶に詰め込んだような、深い藍色を眺めながら蒼汰はふわりと微笑んだ。
 少しだけ瓶を傾けて見れば、ゆらりと星のような金のラメが瓶の中で舞い上がる。
「海や水族館。蒼汰さんと出掛けた、新しい世界の色だからかな」
 蒼汰に微笑みかけられて、ラナもまた笑みを零して手元の小さな海へと目線を落とす。
 猟兵になって初めて見た、外の世界。同じ海でも、明るかったり、暗かったり。海によって微妙な違いがあって、それがまた面白かったから。
 掌に広がる碧色の世界を見、その中に星空と同じ金のラメが隠れていたことを見つけるのだ。
「折角ですし、少し書いてみませんか」
 蒼汰の言葉に二人一緒に試し書きの紙にガラスペンを走らせれば、星空と夜海の違いがはっきりと現れた。
 夜が更けていくように、星空はインクが乾くにつれて、その藍色を深まらせて。乾ききった紙面に生まれたのは落ち着いた真夜中の夜空で、深い藍色を背景に、散らばった金の星が静かに輝いている。そして角度をずらして少し下から夜空を覗き込めば、所々に流星のような赤い光が見られるのだ。
「あ、こちらは段々と薄くなってきました」
 星空の方とは反対に、夜海の方は、星空を目指してゆっくり海面へと浮上していくように。始めは暗い碧色だったインクは、乾いてしまえば翠かかった薄い碧色へとなっていた。
 そして星空と同じように、水面に映った金色の星々が海となった碧色に揺らめいている。蒼汰と同じように角度をずらして少し下から夜空を覗き込めば、所々に珊瑚のような淡い桃色の光が煌めいた。
「どちらにも、二人で紡いだたくさんの想い出が詰まっているから。これからもたくさん、想い出を重ねていきましょうね」
「はい、これからもっともっと重ねていきましょう。全ての色が、大切な思い出になるくらい」
 二人で眺めた星空や海のようで。だから、この二つで一セットのインクは、二人に更に特別な色。
 どちらも、の言葉に頷きながら、ラナはそっと夜海の瓶を蒼汰の星空の瓶に近づけて。
 隣に並ばせたのなら、浮かび上がるのは一つのガレオン船。
 この船のように、これからも二人一緒に新しい場所や世界を目指していって。そうしてきっと、色が増えていく。
『きれい、ね。ふたつでひとつ。私は星空も海、も……違うみたい、なのだけど』
 けれど。二人のように、想い出の景色を色に落とし込んでいた気がするの。
 暖かくて、待ち遠しかった――。でも、その色も、景色でさえ。
「俺には美弥子さんの色はわからないけど、誰かを大切に想う気持ちはわかります」
「大切な人と出逢って、世界が広がる――それは苦しい程に分かるから。私は、美弥子さんを応援したいです」
 誰かを大切に思う気持ちは、痛いほど分かる。大切な人と出遭って広がる世界もある。
 思い出したいのにと、伸び出す両手の爪に、滴り落ちる黒い涙。それを目にした蒼汰とラナは、それぞれの色を纏い出す。
 どうせ思い出せないさ、と。美弥子へ囁きかけるのは黒い影。牙を剥き呑み込まんとするそれだけを的確に穿ったのは、蒼汰の放った拳による一撃だった。
 美弥子を縛る影は四方に散るように祓われ、長く鋭く伸びていた爪も、するすると元の長さにもどっていく。
(「彼女がずっと抱き続けてきた想いが、穢されてしまうことがないように」)
 少しでも、彼女の魂がより良い方向に向かうためのお手伝いができたら、と。
 蒼汰によって影が祓われたところに、ふわりと杖を花に変えて。
「傷付けることは不本意でしょう」
 穏やかな春色の花嵐は壁と成り。ラナが放つ甘く香る春色の花びらが、攻撃の手ごと美弥子の身体をそっと包み込んだ。
 美弥子が落ち着いた頃合いに、ラナはそっと花びらを元の杖へと戻し――何か思い出すことがあったのか、美弥子はじっと去って行った春色を眺めていた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

落浜・語

いつか、いつか、って想いは確かになかなか伝えられないもんな。


手伝いになるなら、だけれど、俺の大切な色は、常盤。俺の事を大切にしてくれた人の色。
大切にしてくれたからこそ、俺はこうして姿をもってこの場にいる。だから、ずっと大切にしたい色だ。
俺を大切にしてくれたもう一人の色、若紫も大切な色だし、大切な人の色である藍色と白も大切な色に入ったな。

できる限り、動揺させたりしないようにゆっくり落ち着いて話をする。
攻撃が飛んでくるなら【オーラ防御】で周囲を守りつつ、UC『口上触』を使用。うまく相殺できたなら、彼女を落ち着かせるための言葉を紡ごう。
大丈夫。本当に大切な記憶は忘れないものだから。思い出せるよ



●忘れじの常盤
 明日言おう。来週伝えよう。次会った時こそは。
 そうして悶々と日々を過ごしているうちに、気付けば相手が手の届かぬ先へ。
 それはきっと、口に出さないだけで多くの人が経験しているだろうこと。
「いつか、いつか、って想いは確かになかなか伝えられないもんな」
 ゆっくりとインクブースを見て回りながら、浜・語(ヤドリガミの天狗連・f03558)は自分の後ろとちょこちょこと歩く美弥子に優しく語り掛けていた。
「俺の大切な色は、常盤。俺の事を大切にしてくれた人の色」
 手伝いになるなら、だけれど。
 見て回っていた先に、語の見慣れた常盤色がひっそりと静かに佇んでいて。語は導かれるように、その深い緑へと右手を伸ばしていた。
「大切にしてくれたからこそ、俺はこうして姿をもってこの場にいる。だから、ずっと大切にしたい色だ」
 インク瓶を優しく手に取って滑らかな瓶の表面を撫ぜれば、ひんやりとしたガラスの冷たさが伝わってくる。
 ヤドリガミである自分。かつて名人といわれた噺家――語の持ち主であるその人が、自分のことを大切に扱ってくれたから。自分は今、肉体を持ちこの場に居るのだと。
 語の瞳に映るのは、手にしたインクの色見本。何処まで書いても色は濃くも淡くもならず、一定で。どれほどの刻を経ても、褪せぬ松の葉の色。
 試しにと店員に勧められてペンを手に取れば、インクはちょうど良いくらいの粘度を持っていて、紙面に触れればぽとりとすぐに紙の上へと溢れ出した。
 文字を書き出せば、それはまさしく「滑る」と表現できるほどで――一切の突っかかりや淀みを見せないまま、スーッと常しえの緑は下へ下へと進んでいく。
 忘れられない常盤の色。しかし、語にとって特別な色はその一色だけではなく。
「俺を大切にしてくれたもう一人の色、若紫も大切な色だし、大切な人の色である藍色と白も大切な色に入ったな」
 常盤の次に、若紫と、藍と薄灰交じりの白――次々に手に取れば、両手では持てきれずに瓶が手から溢れ出した。
 誰かと関わる度に増えていく、大切な色。これからもきっと、語の色は増えていくのだろう。
『一つじゃないのね。きっと、それだけ愛して、愛された……』
 でも、私は忘れたくないのに、忘れてしまった。
 どうしてと、自責の念と共に叫びかけた美弥子は――しかし、穏やかな口調で紡がれていく語の語りに寸の所で落ち着きを取り戻した。美弥子の視界に、何があっても決して褪せない深い常盤が映りこむ。
「大丈夫。本当に大切な記憶は忘れないものだから。思い出せるよ」
 ゆっくり深呼吸をして、と。言葉と呼吸を繰り返せば、蘇る記憶が一つ。
語の常盤とは違って、一瞬で散ってしまう定めの色。
 あっという間に褪せてしまうけど、その一瞬が美しいのだと。瞼の裏に思い浮かぶ貴方は確かに笑っていたから。
『そう、ね。記憶は、忘れない、わ……』
 美弥子の言葉に、ゆっくりと語は頷いた。
 例え、常盤の色が褪せることがあったとしても。記憶は絶対に褪せないと、言いきることができるのだから。

大成功 🔵​🔵​🔵​

真宮・響
【真宮家】で参加:◆

実際恋して子供を産んだ身としては他人事とは思えなくてね。何とかしてやりたい。

もう色んな人が接触してるだろうから興奮させないように気軽に話しかける。

お気に入りの色かい?赤だね。アタシの心の情熱の色であり、ここにいる子供達を包む愛の色でもあるね。それにアタシの亡くなった夫はアタシは赤が一番似合うと言っていたからね。

アタシも分かる、想い人がいってくれた思い出の色を思い出したい気持ち。思い返してみな、想い人の思い出と共にね。

暴れ出したらしょうがない、優しく肩を抱いて、拳で浄火の一撃を一発。これで暗い心を取り除いてやろうかね。


真宮・奏
【真宮家】で参加:◆

同じ年頃の美弥子さんが困ってますっ。はい、想い人がいるのは私も同様ですから、ぜひ力になってあげたいです。

同じ年代の女子として親しみを持って話しかけます。

好きな色ですが?青ですね。澄んだ空の青。皆さんを安心させる安らぎの色でもありますよね。私もそういう人でありたいです。

年頃の方ですから興奮して思わず・・・という事もありますよね。トリニティエンハンスと【拠点防御】で周りにいる一般の人達と展覧物を護って。【手をつなぐ】で美弥子さんを安心させてあげます。影朧とか関係なくいきなり沢山の知らない人に話しかけられたら誰だって戸惑います。驚かせてごめんなさいね。


神城・瞬
【真宮家】で参加:◆

お嬢さん、探し物のようで。確かにこれだけの色があると迷いますよね、私達家族で力になれれば。

好きな色ですか。銀色・・・白銀色ですね。僕は月が好きでして。家族と一緒に夜空を眺めていた時に輝いていた綺麗な月の色でもありますね。貴方も楽しい思い出から考えてみたらどうでしょう?

奏もそうなんですが、こういう純粋な方は感じやすいもの。驚いて攻撃をするようなら【結界術】で一般の人と展覧物を護り、銀のフルートで清光のベネディクトゥスを奏でます。美弥子さん、大丈夫。貴方の思いは間違ってない。せめて想いが果たされる道のりでありますように。



●Lovers Ruby、初恋のそら、かぐやの月
 段々と色は絞られて、想い出も断片的にだけど、浮かんできていて。
 嗚呼。それでも思い出せない、私の、いろ。
 そもそも、この中から一つを探し出すなんて、そんなこと。
 インクが宿す美しい色彩に惑う美弥子。そんな彼女に優しく話しかけたのは神城・瞬(清光の月・f06558)だった。
「お嬢さん、探し物のようで。確かにこれだけの色があると迷いますよね、私達家族で力になれれば」
 丁寧な言葉と共に、ちらりと瞬が後ろを振り向けば。
「はい、想い人がいるのは私も同様ですから、ぜひ力になってあげたいです」
 恋も友情も、そして何かと多感な時期だ。美弥子と同年代である真宮・奏(絢爛の星・f03210)は、共感するところもあったのだろう。
 美弥子に向かって親しげに手を振りながら、明るい声でそう告げた。
「実際恋して子供を産んだ身としては他人事とは思えなくてね」
 何とかしてやりたい、と。奏での隣で腕まくりしていたのは、真宮・響(赫灼の炎・f00434)で。
 響もまた、奏や瞬と同じく手伝うのなら、最後までとことん力を貸すつもりだった。
 今では肝っ玉母さん的なポジションを保っている響だったが、彼女にもまた、奏や美弥子のような甘酸っぱくほろ苦い青春時代があったもの。
 夫と恋をして、そして奏を授かって。夫と共に歩んできた道のりが、全てが順風満帆だったという訳ではない。時にはすれ違うこともあって。
 恋や愛を実際に経験してきた響だからこそ、恋に惑う初々しさを見せる美弥子の様子は他人事ではなかったのだ。
『ありがとう、ございます。仲の良い、ご家族様ですね』
 娘と美弥子の姿に在りし日の自分を重ねつつ、気さくな様子で響が美弥子に話しかければ、安心したかのようにクスリと笑みが零れ落ちた。
「それで、お気に入りの色かい? 赤だね」
 美弥子の問いに真っ先に答えたのは、響だった。これしかないと、一直線に示す先。情熱的なルビーレッドのインクが佇んでいる。
「アタシの心の情熱の色であり、ここにいる子供達を包む愛の色でもあるね」
 響の視線に、心なしかインク瓶が放つ輝きそのものが強くなったような。がっしりとした作りのインク瓶は、先ほどよりも存在感を増してそこに在った。
 あの瓶に詰められたルビーレッドの色は、何があっても消えぬ情熱の炎に、子どもたちへと注ぐ無償の愛を象徴する色でもあって。
「それにアタシの亡くなった夫はアタシは赤が一番似合うと言っていたからね」
「父さん、母さんにそんなことを言っていたんですね」
 それに何より、と。亡くなった響の夫が、一番似合う色だと言ってくれたから。
 思わぬ両親の想い出話にほう、と息を漏らしながら――奏はちらりと、義兄である瞬を見る。瞬もまた、一瞬だけ奏を見た、そんな気がした。
 どんな色が似合うと言ってくれるのだろう。一瞬でもそう思ってしまったのは、奏と瞬の秘密にして。母さんと父さんにも、二人きりの想い出話があったように。
 愛する子ども二人のやりとりに気付かなかった響では無かったが、此処は溢れ出す笑いをグッと笑い殺して、見守ることに徹していた。
 時には夫を偲ぶこともあるけれど、想い出さえも力に変えて、響は明日に向かって突き進んでいく。
 響にとって、この燃え盛る焔のような赤色は、紛うことなき特別なインクなのだ。
「母さんとは反対になりますが、私は青ですね」
 青というよりも、水色に近い淡い空色。母さんの赤色のような確固とした存在感はないけれど、確かにそこに在って、寄り添ってくれる色。空の上から優しく人々を見守る、穏やかな存在。
 何時だったか、義兄への想いを自覚したその瞬間も――大丈夫だよって、空が優しく奏のことを見守ってくれたいた気がしたから。
「澄んだ空の青。皆さんを安心させる安らぎの色でもありますよね」
 私もそういう人でありたいです。
 皆や母さん、それに瞬兄さんにとっても。
 安心させられるようになりたい。それが奏の目標で、目を細めてそう言えば――。
「奏ならきっとそうなれますよ」
「アタシの子どもに出来ないことはない!! ってね」
 二人からの暖かいエールが送られた。奏はもしかしたら、もう皆を安心させる人になれているのかもしれない。
「銀色……白銀色ですね。僕は月が好きでして」
 どんな色なのだろう、と。ワクワクと瞳を輝かせつつ自分を見つめる女子三人に囲まれながら、瞬はゆくりと会場に並べられた一つの色に手を伸ばした。
 柔らかい月光のような、仄かに光る白銀色。かぐや姫が地球から月を眺め、思いを馳せた故郷の色。
 太陽のように明るくはないけれど、その分優しく照らすことができる。見本として幾つかの文字が綴られた黒い紙の上で、柔らかな月明かりは静かに瞬を見つめ返していた。
「家族と一緒に夜空を眺めていた時に輝いていた綺麗な月の色でもありますね」
 家族と一緒に眺めた夜空で、ぼんやりと照らしていた綺麗な月の色。瞬たちへと優しく降り注いだその光は、見上げているだけで穏やかな気持ちになることが出来て。
 瞬にとっては楽しい思い出で。では、同じように月を見上げたかぐや姫はどんな気持ちになっていたのだろうか。
 そんなことを考えながら、瞬はインク瓶にそっと指を滑らせる。
「貴方も楽しい思い出から考えてみたらどうでしょう?」
「そうさね。アタシも分かる、想い人がいってくれた思い出の色を思い出したい気持ち。思い返してみな、想い人の思い出と共にね」
『私、も? 楽しい、思い出から……』
 肩に手を置いて大丈夫と笑う響に頷き返し、そうっと微笑みかけた瞬を見上げ。美弥子は2、3度瞼を瞬かせる。
 降り注ぐ赤を薄めた色。上には美しい空色が広がっていて、西の空に白い月が眠りにつくところだった。
髪に落ちる淡い桃色に、それを掬い上げる大きな手のひら――そうだわ。
 『私、は……』
 どうして今まで忘れていたのだろう。こんなにも、こんなにも忘れたくない思い出があったのに。
 長く鋭く、伸びた十の爪。周囲の一般人や商品へと、藻掻くように振り下ろされかけたそれは――しかし、間に割って入った奏の活躍で、空を切ったのみ。その瞬間を逃さずに、奏が緩く美弥子の右手を絡めとる。
「いきなり沢山の知らない人に話しかけられたり、急に記憶が蘇ったりしたら誰だって戸惑います。驚かせてごめんなさいね」
 多感な頃合いだから、興奮して思わず……ということも、十分にある。
 だから心配しなくても良いよ、って。伝えるように。
 奏の語りに、伸びる一方だった美弥子の爪が緩やかにその成長を止めていく。
 そして、その瞬間を響は逃さずに。
「さて、これで暗い心を取り除いてやろうかね。一瞬だから、じっとしてな」
優しく美弥子の左肩を抱くと、響は拳で浄火の一撃を一発。
 どうせ願いは叶わない、と。美弥子の心を蝕む黒い思いは、宇宙の彼方まで吹き飛ばして。
「少しは気が楽になったかい?」
 邪念よ、もう二度と戻ってくるんじゃないよと両手をはらった後、響はグッと美弥子の首に腕を絡ませた。
「美弥子さん、大丈夫。貴方の思いは間違ってない。せめて想いが果たされる道のりでありますように」
 少し荒治療とも思えなくもない響の一発に、瞬はそれとなくフォローに入る。
奏と何処か似たような雰囲気を纏う美弥子。こういう純粋な方は感じやすいものだから。
 取り出したのは、銀のフルートだ。奏でる曲は――清光のベネディクトゥス。
 いつか家族で見上げた月のように。何処か寂しげな音色を孕みながらも、優しく静かな音色は博覧会の隅から隅まで波紋のように広がっていく。
 やがて曲が終わり、パチパチと小さく拍手を贈る美弥子の表情は――穏やかなものになっていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

フロランス・リスレ
◎◆
私の大切な色は黄色かしら
この髪のミモザの花の色 母が可愛いとよく言ってくれたの
黄色はインクとしては濃いものから淡いものまで様々あるけれど
鮮やかな黄色は目に痛いからかしら、あまり見ないわね

美弥子さんもお好きな色があったのでしょう?
そうね…私みたいに髪や目の色も関係するかもしれないわ

そっと美弥子さんの周りに【オーラ防御】を張って
逆に攻撃が表に出ないようにしながら
もし、暴発してしまったらUCを使って即座につぶしていくわ
大丈夫、美弥子さんは怖がらなくてもいいのよ

私も、万年筆も書くことも大好きなの
だから、協力できるはずだわ
一緒に頑張りましょうね



●ミモザの花束
「私の大切な色は黄色かしら」
 猟兵たちの協力で、少しずつ浮かんできたわたしのいろ。
 美弥子の記憶は、春に纏わるもの。恐らく、それは確かなことで。
 それでも一歩が踏み出せず、春に纏わるインクが集められたブースの前をウロウロと行ったり来たりしていて、見るに見かねたから。
美弥子と共に春の咲く一角に足を踏み入れたフロランス・リスレ(小さな翼・f01009)を出迎えたのは、透明感のある、柔らかい春の黄色だ。
 黄色の可愛らしいレヱスのリボンが結いつけられた、丸いガラス瓶。
「せっかくなら、試してみませんか」と。影朧にもどうにか慣れてきた店員に勧められるままクルクルと蓋を開ければ、ふわりとミモザの香りがフロランスの身体を包み込む。
 手渡されたペンをゆっくりと春の海に浸すこと一瞬、それだけでたっぷりの春を吸い込んだペン先が紙面の上をさらさらと流れていく。
「この髪のミモザの花の色。母が可愛いとよく言ってくれたの」
 一足早く訪れた、春の色。自分の髪に咲くミモザの花を指さして、フロランスは美弥子に向かって微笑みかけた。
 鉛筆のような感覚で、しかし、羽が生えたように軽く、力も要らずに。
 そのまま悪戯にミモザの花を幾つか描けば、ふわりと黄色が綻んで。このインクは文字や絵の端々が滲みやすいけれど、そこがまた、ふわふわとしたミモザの花にそっくりだった。
「黄色はインクとしては濃いものから淡いものまで様々あるけれど、鮮やかな黄色は目に痛いからかしら、あまり見ないわね」
 紙に咲いた透明感のある穏やかな黄色から顔を上げると、目に飛び込んでくるのは、周囲に並べられた微妙に色合いの異なる黄色のインクたち。
 濃いものは文字や日記に。淡いものはイラストや、少し洒落た手紙に。
 それでも、鮮やかな黄色は目に痛く見にくいせいか、片手で数えられるほどしか置いていない。
「マーカーとしては使えそうなのだけど」
 蛍光イエローのような鮮やかな黄色は文字を強調させる為に使われることが殆どで、それでも、一部のハイカラな女学生を中心に、「可愛いから」と手紙用に買い込む人もいるんだとか。
「美弥子さんもお好きな色があったのでしょう? そうね……私みたいに髪や目の色も関係するかもしれないわ」
『そう、ね。先生が、私の髪に映えると言ってくれた……』
 栗毛の髪に落ちる春の色。
 そこまでは思い出せたのに。淡雪色かしら、桜色だったのかしら、それとも彼女みたいなミモザ色?
 もう少しで思い出せそうなのに。忘れては、いけなかったのに。
 啜り泣きを伴って吹き荒れるのは春の嵐。ミモザも、桜も、蒲公英も。思い出せないのなら、全て散らしてしまえと影が嗤う。
「大丈夫、美弥子さんは怖がらなくてもいいのよ」
 春色のインク瓶を一つ残らず粉々に破壊するはずだった爪の乱舞は――フロランスが展開したオーラ防御によって防がれた。
「私も、万年筆も書くことも大好きなの。だから、協力できるはずだわ」
 一緒に頑張りましょうね。
 ふわりと。美弥子を包み込むのは、ミモザの香り。
 つられるようにして、顔を上げて――見上げた先には、嵐の去った後の青空ように晴れ渡る、フロランスの青い瞳が広がっていた。

成功 🔵​🔵​🔴​

玉響・みけ
◆◎

ぼくのいろ
ぼくのいろって、なんだろう

生まれ育ちがこの世界だから
万年筆には馴染みがある
けど、書くより話す方が得意
そういう風に生きてきたから

綺麗なものは好きだから
とりどりのインクは見ていて楽しい
この機会にお気に入りを
見つけてもいいかも、なんて

好きな色くらいはあるよ
あか
椿が好きだから
昔、窓枠から見えていた椿
赤にも色々あって迷うけど
落ち着いた、こっくりと深い赤がいいな
血文字みたいになっちゃうかな
自分で気に入ったなら気にならないかもだけど

恋、ね
恋も愛も、真似事なら得意だよ
約束なんてしなければ良かったのに
期待なんて、しなければ
哀れでかわいいね
でも、いいよ
少し幸運を分けてあげる
幾つかには絞れるんじゃない



●散らずの玉椿
 普通のひとは、成長の過程でごく自然に、自分の「いろ」を見つけていくものなのだろうか。
 表の世界はこれほど色に溢れているというのに、迷う素振りすら見せないで。
 一人、また一人と自分の色彩を指し示す猟兵たち。そんな同業者の姿を、玉響・みけ(玉鬘・f25583)は少し離れたところからずっと眺めていた。
(「ぼくのいろ。ぼくのいろって、なんだろう」)
 籠の鳥に、いろは必要ない。もしも自分のいろを持っていたのなら、それだけで厄介なのだから。
 ただ、飼い主の望むがままに染まるだけ。そんなみけの境遇は――彼の傍らにひっそりと並べられている、無色透明なインクに似ているのかもしれない。
 このインクで文字を綴っても、何にも浮かび上がって来やしない。ただ、何も書かれぬ紙面が見えるだけ。
 それでも一度、紫外線で紙を照らしたのなら、書かれた文字が仄かな青い光と共に浮かび上がる。
 ひと昔前なら、暗号に秘密の命令書に、引く手数多の存在だったのだろう。
 それでもその技術が公になった今では、それも不可能なこと。精々、稚児の秘密の文通にしか使えぬような――中途半端な存在。実用性には欠けていた。
「きみを買う人は、どんな人なんだろうね」
 開発者の意図なんて、分からないのだけれど。みけは無色透明なインクに向かって語り掛ける。
 生まれ育ちがこの世界だから、万年筆には馴染みがある。
 けど、書くより話す方が得意。そういう風に生きてきたから。
「この機会にお気に入りを見つけてもいいかも、なんて」
 綺麗なものは好きだから。見ていて飽きやしないから。
 とりどりのインクは見ていて楽しい。傍の無色透明な子に、蛍光色のド派手な子。
 個性もいろも、全く違う。お気に入りを探そうかなと、見渡した先に、哀れな一人の女の子。
「ふぅん、君がそうなんだ。僕にだって、好きな色くらいはあるよ」
 あか、と。紅い唇が短く告げる。
「椿が好きだから」
 昔、窓枠から見えていた椿。手を伸ばしたけれど、届かなかった外の存在。
 そして今。そうっと手を伸ばした先に、ピンク交じりの深い赤。
 全てを悟った花魁のように、こっくりと落ち着いていて。みけを待つ。
「血文字みたいになっちゃうかな。自分で気に入ったなら気にならないかもだけど」
 試しに文字を綴れば、血文字みたいにはならなかった。
 紅く紅く輝いて、それからゆっくり沈んでいく。白を彩る濃い赤は、華やかさの中に、刹那的な美しさも併せ持っていた。
「恋、ね。恋も愛も、真似事なら得意だよ」
 約束なんてしなければ良かったのに。真似事ならば、真に傷付くことも無かったのに。
 期待なんて、しなければ。青年期特有の、憧れなのだと割り切っていれば。
「哀れでかわいいね――でも、いいよ。少し幸運を分けてあげる」
 約束したのに来なかった。闇夜で佇む、女の独り姿。裏の世界ではよくある話。
 それに少しばかりの慈悲を渡すならば。
「幾つかには絞れるんじゃない」
 示されたソレに、哀れな女の子は思わず悲鳴すらも呑み込んだ。
「さ、君のいろはどれなのかな」
 絞れても、その先が大変だ。惑わす物は、決して少なくはない。
 ピンクと分かっても、此処にはたくさん在るのだから。

成功 🔵​🔵​🔴​

アオイ・フジミヤ

シン(f04752)と

美弥子さん、手にしたお手紙になんて書こうとしたの
愛しい人を想って綴った想いを思い出そう
紐づいた色は心の奥に眠っているだけ
忘れるなんて悲しいよね

私なら
愛する人が選んでくれた”私だけの色”を使って
想いを伝えたいと思うから

好きな色は「金色」
シンの、愛する人の髪の色
それから初めて出逢った夜に共に見た金色の月の刻が
今でも何にも代えがたい思い出

密やかにUCを発動させ博覧会に花を彩る
ブルーのインクにブルースターを
紅のインクに赤のアネモネを
でも貴女はきっと楽しめないでしょうから

悲しんでいいよ
貴女の攻撃は私が受けとめるよ

シンがいてくれるから怖くない
彼の選んだ色と記憶に心から救われたから


シン・バントライン

アオイ(f04633)と

色は記憶と結び付く。
美弥子が先生と共に過ごした記憶の中にきっとその色はある。
夜桜の中二人で歩いたなら、仄かな灯りに揺れる桜の色が彼女に似合うと先生は言っただろう。
雨に濡れる紫陽花ならその青や紫を、雪に映える椿なら一際目を引く紅色を。

自分なら何だろう。
暮れたばかりの藍色の空。陽光に輝く透き通った海の青。どれも隣に居る彼女に結び付く。
「…でもこれやな」
珈琲の色をした芳ばしい薫りの焦茶色。
ヴァンパイアの幼馴染から受けた子供の頃の悪戯の所為で長い間飲めなかった珈琲。
少し飲める様になったのはつい先日の事だ。
アオイの淹れてくれた芳しい薫りの液体。

攻撃は花弁を集め盾の様にして受ける



●月の雫、薫りのひととき『珈琲』
 戀文、影踏み。貴方への軌跡。
 ふと振り返ってみれば――かつて綴った思いの丈が、自分の足跡と成り後ろに続いて居たことに気付いた。
「美弥子さん、手にしたお手紙になんて書こうとしたの」
 春に囲まれ、惑う少女。あっちを見ても、こっちを見ても春の色で。
 でも、どれだったのかしら。
 アオイ・フジミヤ(青碧海の欠片・f04633)は、そんな美弥子に語り掛けていた。
 あれだけ失敗を重ねて完成させた、貴方への戀文。その全てを忘れているなんて、そんなこと無いだろうから。
 愛しい人を想って綴った想いを思い出そう。幸せだったあの時を思い起こそう。
 紐づいた色は心の奥に眠っているだけ。ただ少しお寝坊さんで、今もゆっくり眠っているだけ。
 そう信じているから。
「忘れるなんて悲しいよね」
『そう、ね。忘れたなんて、なかったのに……』
 昔なら透明な雫が頬を伝うはずなのに。溢れ出すのは、黒い雫。それがまた、悲しかったから。
「私なら愛する人が選んでくれた”私だけの色”を使って、想いを伝えたいと思うから」
『私も同じ。くれた色で、書きたかったから……』
 これが私の好きな色、と。アオイの手のひらの上で輝くのは、小さなガラス瓶。曲線的なデザインが、何とも愛くるしくて。
 月が零した雫を少しずつ、少しずつ瓶に落として閉じ込めたかのように。
 小瓶の中をゆったりと漂うシャンパンゴールドの色彩。光を受けると仄かに白く、輝いて見えた。
「好きな色は『金色』――シンの、愛する人の髪の色なの」
 ――それから初めて出逢った夜に共に見た金色の月の刻が、今でも何にも代えがたい思い出。
 勧められるまま、ペンを手に取り月の雫をその先を浸す。書く音は無く、ゆっくりと――文字が紡がれていった。
 文字が乾けば真珠のような、不思議な虹色の光沢が生まれて落ちる。文字の表面を優しく撫ぜれば、つるりとした感触が伝わってきた。
「色は記憶と結び付くからなぁ」
 アオイが文字を書いている。何気ないそれだけの動作も、彼女にかかれば映画のワンシーンに様変わりしてしまう。
 アオイの様子を傍でうっとりと見守っていたシン・バントライン(逆光の愛・f04752)が、不意に口を開いた。
「記憶を辿れば、色もきっと見つかるはずや」
 美弥子が先生と共に過ごした記憶の中に、きっとその色はある。今も見つけて貰えるその時を、じっと待ち侘びている。
 夜桜の中二人で歩いたなら、仄かな灯りに揺れる桜の色が彼女に似合うと先生は言っただろう。
 雨に濡れる紫陽花ならその青や紫を、雪に映える椿なら一際目を引く紅色を。
 シンがアオイと共に過ごした情景の中に、彼女に似合う色を見つけ出しているように。先生も、また。
「自分なら何やろな」
 暮れたばかりの藍色の空。風遊ぶ藍の髪に、その髪に咲く勿忘草の水色。
 二人見上げた夏空に、陽光に輝く透き通った海の青。星落ちる濃紺に、雪明かりの仄かな青白い輝き。
 シンが思い浮かべるその色彩は――思い出と共に、どれも隣に居る彼女に結び付く。
「……でもこれやな」
 これ、と。数多在る記憶のアルバムの中からシンが選び出したのは、珈琲の色をした芳ばしい薫りの焦茶色だった。
 色見本に顔を近づければ、それだけで仄かな珈琲の香りが鼻を擽っていく。それでも、薫りはアオイが淹れた珈琲の方が良い薫りがすると、そんなことを思いながら。
 ヴァンパイアの幼馴染から受けた子供の頃の悪戯の所為で、苦手意識が宿ってしまった幼少期。それから、長い間珈琲を飲むことができず。
 少し飲める様になったのは、つい先日の事だった。
「……まんま珈琲とちゃうか、コレ」
 珈琲をそのままインクにしたかのような。インクを散らせば、濃いセピアが広がった。
 濃淡が出やすいインクなようで、無糖のブラックも、甘いカフェオレ一歩手前も思いのまま。
 さらりとすぐに乾いて、そうなれば珈琲の薫りがより一層強いものへと変化する。
 シンがしげしげと顔を近づけ、珈琲のガラス瓶を眺めているときだった――瓶に、チョコレートコスモスの花が綻んだのは。
「でも貴女はきっと楽しめないでしょうから」
 彼のインクから始まり、ブルーのインクにブルースターを。紅のインクに赤のアネモネを。
 アオイが密かに放った力によって、インクに寄り添うそう様にして、花が咲いていく。
 影朧の存在に緊張感が走っていた博覧会の会場も、咲き乱れ始めた花々に、少しだけ雰囲気が和らいだ気がした。
 それでも、美弥子は寂しそうな微笑みを浮かべたままでいる。
「悲しんでいいよ。貴女の攻撃は私が受けとめるよ」
 そうだわ。貴方の記憶は花だった。それでも、花の名前が。
 哀しいのと、美弥子の悲痛な叫び声。
 商品や人々を庇う様に、アオイは美弥子へと手を広げて――。
(「シンがいてくれるから怖くない。彼の選んだ色と記憶に心から救われたから」)
 美弥子が叫び声をあげたら最後、会場のインク瓶や無差別に降りかかるだろう。痛いだろうか。それでも、愛する記憶を喪った美弥子の痛みの方が、何倍も痛いはずだ。
 しかし、アオイの身にいつまで経っても痛みが訪れることは無く。
(「どう、したのかしら」)
 ゆっくりと、瞼を開く。
 すると、そこには。
「誰が、目の前で愛する存在を傷付けさせるんやろうな」
 アオイの前に割って入った、シンの姿が在った。
 赤い牡丹の花弁を集め、盾の様にして受けて。黒い涙雨も、ガラスの破片も降り注ぐことは無く。
 割れてしまったガラス瓶も在ったが――誰も傷つくこと無く、嵐は去った。
『ありがとう。そして、ごめんなさい……』
 二人へと、深く首を垂れて――お礼と謝罪を声に出して。
 アオイとシン。「顔を上げて」とどちらからともなく、かけられた声に。
 ゆっくりと顔を上げた先。美弥子の瞳に、確かに映っていたのだ。
 床に散った、淡いピンク色のインクに咲く――梅の花が。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

明日川・駒知

リオくん(f29616)と
アドリブ、マスタリング歓迎
NG:味方を攻撃

_

…大切な色、ですか
傍のリオを見上げ
「リオくんは、気になったものはありましたか?」

私にとっての大切な色は、何だろう
ふと目に留まったのは鮮やかな赤色
私が拒んで止まない、けれどどうしても本能を揺さぶる、血の色
…自身に流れるこの血も、種族ゆえのこの顔も、好きじゃない


赤色が散る。
誰の色でもない、私の色。
「──だめよ」
後ろ手に客たる子どもを庇って、美弥子を真っ直ぐ見つめる
「貴方のその手は、声は、傷付けるためのものではないでしょう」
大丈夫よ。
死霊たるヴァレンタインを喚び、あまり傷付けずに抑え込むようお願いして
「……一緒に探しましょう」


尾宮・リオ

駒知さん(f29614)と



君とふたり
インクブースを眺めていれば
不意の質問に瞬きひとつ
答える前に駒知さんの視線を追って
目を奪われている色に気付く
僕は赤が好きですよ、と
鮮やかな、その色を見て微笑んだ

赤は義兄の瞳の色
眼鏡のフレームにしているのは
今は彼とは会えないから
思い出は語り尽くせないくらい
沢山あるけれど言葉にはせず
そっと、笑顔に、すべて秘めた

子どもを庇う彼女と共に
美弥子を見詰めて双眸を細める
商品も店員も背にして全てを庇う

汚させませんよ
君の手も、この場所も
ちゃんと守ってみせますから
ひとりで捜すのが辛いなら
僕たちも、お手伝いしますよ



●宵咲きの相思華
 サクラミラージュに住む人々にとって、幻朧桜ほど身近に存在する花はない。
 しかし、曼珠沙華や梅、百合と言った花々も幻朧桜程ではないにせよ、身近にあるもので――人々に馴染みある花はそれだけモチーフにされやすい。だから。
 貴方との思い出に纏わるものが梅の花だった、と。そう思い出してもなお――梅の名を冠するインクの数が多くて、見つからない。見つけられない。
(「……大切な色、ですか」)
 美弥子の問い。それを、心の中で繰り返す。
 大切な色。それが、暖かい思い出ばかりであるとは限らない。自分では望んでは居ないのに、本能的にそれを求めてしまうことだって。
 探さなくても目についてしまう。自然と顔を向ける先に、その色がある。明日川・駒知(Colorless・f29614)は、少しだけ複雑そうな表情で件の色を見つめていた。
 「リオくんは、気になったものはありましたか?」
 その色を見つめること、僅か数秒。それから、駒知は共にインクブースに眺めに来ていた尾宮・リオ(凍て蝶・f29616)に視線を移して。問いかける。
 のんびりとインクを眺めていたところ、自分に投げかけられた不意の質問。駒知へと急いで視線を向けたリオは、瞬きをゆっくりと返した。
 口を開いて。それから、質問に答える前に――駒知が数秒だけ視界に捉えていた色を、理緒は一瞬だけそのオレンジ色の瞳に宿して。
「僕は赤が好きですよ」
 偶然か、必然か。
 鮮やかな赤色が、と。リオが示した色は、駒知が先ほど少しだけ眺めて、それから、残酷な現実から顔を背けるように視界の外に弾き出した色で。
 彼女の想いを知ってか知らずか、リオはにこにこと微笑みを浮かべるだけだった。
(「赤は義兄さんの瞳の色、だから」)
 紅の夕空。烏が鳴いて、家に帰る。夕日に照らされ、晩夏に咲き乱れる曼珠沙華のように、この胸を覆いつくす感情の群れ。それを言葉にする術を、リオは持たない。
 烏が鳴くから、家に帰る。だけど僕の帰る先は、もう、
 義兄さんの瞳の色。それを眼鏡のフレームにしているのは、今は義兄さんとは会えないから。
 思い出は語り尽くせないくらい。本当に言葉が足りないくらい。
 後から後から、咲いては散る。散ってはまた心の奥底から咲いてきて。思い出したらキリがないくらい。それほど沢山あるけれど、一つたりとも言葉にはせず。
 そっと、笑顔に、すべて秘めて。
 ただ、笑っているばかり。リオが一人、居るばかり。
(「……私に流れるこの血も、種族ゆえのこの顔も、好きじゃない」)
 リオの笑顔をどのように捉えたか。それは、駒知にしか分からぬこと。
 それでも、目の前の鮮紅の色を前に、彼のような表情を浮かべることは出来ないのではないかと、何となくそんなことを思っていた。
 私にとっての大切な色は、何だろう。
 そう考えた時、ふと目に留まったのは鮮やかな赤色。目を逸らしても、駒知を捉えて離さない魔性の色。
 私が拒んで止まない、けれどどうしても本能を揺さぶる、血の色。ヴァンパイアの血が混じる以上、仕方がないことなのかもしれない。
 だけれど、この血を、この顔を、どうしても好きになることができなかった。
「……本当に、血の色みたいですね」
 「よろしければ」と店員に手渡されたのは、二つのガラスペン。
 防腐剤の匂いが仄かに香る瓶の中を覗き込めば、鮮血のような鮮紅が二人を出迎えた。
 ペン先を浸して紙の上に描き出せば、文字の後にインクよりも鮮やかな赤橙のラメが咲き誇っていく。
 刻が止まってしまったかのように、当時の鮮やかさを保ったままで。完全に乾いても、紙の上の鮮紅はその鮮やかな色合いを保ったまま、そこにじっと佇んでいる。
「綺麗な色ですね」
 リオが顔を上げると、美弥子が紙面をじっと見つめていることに気付いた。
 問いかけから先ほどまでの二人のやり取りに、何かを思い出せそうで、思い出せないような――溢れ出す衝動を堪えるように、唇を嚙み締めて。
『私の色は……胸に秘める程のものでも、複雑な感情で見つめるものでも、無いけど……』
 二人のように、心を覆いつくすような色ではなくて。
 ただ、心の片隅に、ひっそりと寄り添うように在った。それだけの、こと。
 忘れてしまうことが、普通なのかもしれない。何気ない、日々の記憶。
 でも、その色でないと、私は。
「──だめよ」
 ガラスの割れる、悲鳴のような甲高い音が上がる。宙に散ったのは、鮮やかな赤色だった。
 血か、インクか。そのどちらでもあったのかもしれないし、どちらでも無かったのかもしれない。
 それでも――誰の色でもない、私の色。空に駒知の色が咲いたことだけは、事実だったから。
「貴方のその手は、声は、傷付けるためのものではないでしょう」
 無垢さは時に仇と成る。親の手を離れ、床に散る赤が美しいからと、何も知らずに近づいて来た幼子。駒知は後ろ手に幼い少女を庇い、泣き叫ぶ美弥子を真っ直ぐ見つめる。大丈夫よ、と。そう言い聞かせるように。
 駒知が少女を庇ったのと同刻に、美弥子へと飛び出した影が一つ。黒霧を纏い、形成す漆黒の凶犬。
 彼女が呼び出した、死霊たるヴァレンタインだ。黒犬は美弥子へと飛び掛かる。
 黒霧を纏う見た目はおどろおどろしく在れど、あまり傷付けずに抑え込むように、という指示はしっかりと守ってみせていた。
「ええ、汚させませんよ。君の手も、この場所も、ちゃんと守ってみせますから」
 少女を庇う駒知と共に、リオもまた妖刀を構え、オレンジの双眸を細めて――美弥子を見詰めていた。商品も店員も、全てを背にして。その全てを庇ってみせる、と。
 リオの発する殺気に怯んだのか、美弥子の悲鳴が短く途切れていった。
「ひとりで捜すのが辛いなら……僕たちも、お手伝いしますよ」
「……一緒に探しましょう」
 泣き止んだ彼女は、こくりと頷いて。
 もう大丈夫と、少女を母親の元へと帰し。それから二人は、美弥子と共に彼女の色を探し出す。
「思い出した記憶を聞く限りでは、こんなに濃いピンク色ではない気がしますね」
「そうなら、この辺りは全て外れでしょう」
『そう、ね。この色はぜんぶ、違う気がする、から……』
 思い出した記憶を繋ぎ、彼女の色まで辿り着くまであと少し。もう一押し。
 様々なピンクのインクを前に、リオと駒知はそんな予感を抱いていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ライラック・エアルオウルズ
優樹(f00028)さんと

とりどり並ぶ洋墨は美しく
どれもこれも魅力的だね
ひとつと定めれば容易くも
定まらなければ悩むだろう

僕たちが選ぶ洋墨のいろ
気に入るかは解らないが
少し、傍らで見ていてね

選ぶ洋墨は紫色
面映ゆくも、彼女と同じ
好きなひとの眸色でね
僕に向けて喜怒哀楽と
まるで調色板のように
色を移すものでもある
揃いの、特別ないろさ

貴方の言葉には心穏やかに
きっと、優樹さんのこころは
そんないろをしていると思う

僕たちのように、その先生も
美弥子さんの眸を好いていたかも
その身に、答えを探してみたら?

動揺する様子を見たなら
動きの抑えは貴方に任せて
必要あらば、身で庇いつつ
早々詠唱し鏡で弾くよう
ああ、傷付けはさせないさ


萌庭・優樹
ライラックさん(f01246)と

…未練のあまりに復活とか
わかんないとは言いませんが
案外しかたのない影朧もいますねえ!

選ぶ洋墨は緑色
昔から馴染みのある森の色で
おれの、すきな人の目の色です!
どっちも護りたい自分の心が、こんな色だったらいいなって

あなたが選んだ紫色には頬が緩んで
ライラックさんが、その人のおめめを
あったかい気持ちで、ようく見てるってわかります

美弥子
おまえも恋をして
せんせのことを見てたんだろ
目に焼き付いた色はどれか
記憶もいいけど、心に聞いてみろよ

ショータイムで生むガジェットは
くるりと回れば
敵にのみ作用する、麻痺の霧生む渾天儀
それでも攻撃抑え逃したら
お願いします、ライラックさんッ



●華降り『リラの侯』、咲う木漏れ日
 赤に緑、黒に黄色に……。此処に訪れる人を惑わせるかのように、沢山のインクが出迎える。
 まるでインクの迷路に迷い込んでしまったかのような、鏡に問うても解が出るとは限らないような。
「……未練のあまりに復活とか、わかんないとは言いませんが。案外しかたのない影朧もいますねえ!」
 人間である以上、誰にとっても大小の大きさや形は違えど、後悔や未練が存在するもの。それでも実際に復活してしまうあたり、萌庭・優樹(はるごころ・f00028)は仕方がないとインクの中心でため息をついていた。
 復活するのは分からなくもないが、復活してしまった分、未練をしっかり果たして転生してもらいたいところだ。
「どれもこれも魅力的だね」
 傍らに立つ優樹を優しく見守りながら、ライラック・エアルオウルズ(机上の友人・f01246)の瞳は色彩の海を漂っている。
 見渡す限りの色の大波。見慣れた友人のような色もあれば、始めましての真新しいインクの姿もあった。
「ひとつと定めれば容易くも、定まらなければ悩むだろう」
 自身を自身と定めたる色彩を見つけだせなければ、永遠に色の大海を漂うことになるのだろう。猟兵たちの協力により、色の候補もかなり少なっていた。
 しかし、美弥子は記憶を徐々に思い出しつつあるも、「この一つ」と定めるには決定打に欠けていて。記憶を構成する、残り僅かな数ピース。何よりも大切なその数ピースが、未だに朧げなままで在ったから。
「僕たちが選ぶ洋墨のいろ、気に入るかは解らないが少し、傍らで見ていてね」
 ライラックが諭すように語り掛ければ、色彩の海を眩しそうに眺める美弥子はこくりと頷いた。
 そして優樹へとライラックが目配せすれば、既に自分の色を定めていた彼女は美弥子の前へと躍り出る。
「おれは緑ですね。昔から馴染みのある森の色で、おれの、すきな人の目の色です!」
 快活に話してみせる優樹の腕に在ったのは、深いオリーブ色のインク。この色しかないと、このインクに微笑まれた瞬間、光の速さで決めてみせた自分の色。
 優樹にとって生まれたその瞬間から身近にあった森の色で、好きな人の瞳を思わせるような深い緑の色でもあったから。
 枝葉の間から零れ落ちる木漏れ日がキラキラと乱反射するように、彼の瞳が柔らかい光を宿して自分を見つめているかのように。深いオリーブ色に染まった透明な瓶をくるくると優しく混ぜてみれば、銀色のラメがふわりと舞い上がった。
「どっちも護りたい自分の心が、こんな色だったらいいなって」
 故郷の森は恋しくなることもあるけれど、立派に成長するまで少しの我慢のお時間で。彼には子どもにしか思われていないだろうけど、それでもいつかは。
 自分の目指す色に至るまで、優樹は何度転んでも立ち上がって進んでいく。
「きっと、優樹さんのこころはそんないろをしていると思う」
 優樹の言葉に心穏やかに、ライラックは微笑みを零していた。彼女が選んだ色と同じく、彼女自身の心もまた、緑のような素敵な色を映しているのだろうと。
「面映ゆくも、彼女と同じ好きなひとの眸色でね」
 そして後ろ手に隠すようにインク瓶を手に持ち、優樹との思わぬ偶然に、気恥ずかしそうにはにかんで。
 淡い紫色に染まるインク瓶。半透明で穏やかな初夏を彩るその花色が、柔らかくこちらを見詰めて微睡んでいる。
 少し顔を寄せるだけで分かる微かなリラの香り、それが瓶の外側まで漂っていた。
「僕に向けて喜怒哀楽と、まるで調色板のように色を移すものでもある」
 花咲く笑みに、憂いも胸割く哀しみさえも。色々な色彩に染まるあの瞳。リラの瞳がライラックに向けられる度、そこに映りこむ色は一つとして同じ色は無くて。
「揃いの、特別ないろさ」
 決して忘れぬ、瞳の色。
 その一言に全てを秘め、口元を緩く弧を描かせて。
 これ以上、一滴たりとも零さぬように。手元の小さなインク瓶へと、想いの全てを閉じ込めるように。
「ライラックさんが、その人のおめめをあったかい気持ちで、ようく見てるってわかります」
 それは、自身も恋に恋する春の年頃であるからか。ライラックの語りに思わず頬が緩み、優樹はにかっと春のような明るい笑顔を浮かべていた。その微笑みに、少しだけ揶揄いの色を宿して。
「僕たちのように、その先生も美弥子さんの眸を好いていたかも」
 ――その身に、答えを探してみたら?
 揶揄いの視線を向ける優樹へは、こらと視線だけで窘めて。
 それからライラックは、美弥子の方を見、柔く問いかける。
 問いに、美弥子は一瞬だけ息を吐いて。
『私の身、に……。瞳に宿るの、貴方の色は……』
 柔らかく細められる夜空の色。その瞳に差すのは、淡い……色彩で。
 ぽつりぽつりと綻ぶ春の色。そうだわ、散歩にと一緒に眺めたその先で。
 私に似合うと言っていた。
「お願いします、ライラックさんッ」
「ああ、傷付けはさせないさ」
 どうして今まで忘れていたの。忘れる自分が赦せない、と。
 動揺する様子を見せた美弥子に、ライラックは素早くその身を動かしていた。
 美弥子の前へと飛び出す優樹に牽制は任せて、自身は黒き涙の豪雨を反射させるための鏡を呼び出した。
「美弥子。おまえも恋をして、せんせのことを見てたんだろ」
 晴れのち雨で、最後は嵐。泣き叫ぶ声と、降り注ぐ雨の足音。それを反射させ、人々を守る鏡の音を後ろに聞きながら。
 くるりと手元に生み出された、敵にのみ作用する、麻痺の霧生む渾天儀。
 身体が痺れ、膝をついた影朧。優樹は相対する美弥子へと、喝を入れる。
「目に焼き付いた色はどれか記憶もいいけど、心に聞いてみろよ」
 記憶を追いかける前に、己が本心に問いかけてみろと。
 その言葉に思い出す記憶が一つ。自分だけ生きるくらいならば、貴方との全てを忘れたいと願い――でも、本心は違っていたから。
 本心と願い。どちらも中途半端に叶って蘇った結果が、今の姿。それでも、取り戻してみせろと。
『私のいろは……梅の花、だわ』
 満開のそれではなくて、咲き初めの。
 そうして口に出せば、恋い焦がれた色は触れられるほど近くに。
 候補となる残りの色は――片手で数えられる程。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

四・さゆり
◆◎
ジェラルディーノ(f21988)と

文字を書くのは、あまり得意ではないわね
…これから上手になるのよ
だから、あまり明るくはないわ

けれど、そう
インクは好きよ

月明かりに照らしてあげると、瞬くから
あんたと初めてあった夜が溶けたみたい、ね

可愛い下僕の願いなら叶えてあげる

わたしは月を贈りましょう
銀色の月がぽたりと溶けて、瓶に詰めたような色
あの夜に靡いた、あんたの髪に似てる色

これで揃うの
わたしたちの夜が

きれいでしょう?
泣く女にも見せてあげる
さて、あなたの胸は踊るかしら

他の女と踊る下僕を睨んでから、わたしは傘を握る

思い出せないのは、苦しい
それは痛いほどわかるから
ほら、殴ってあげる

取り戻してみせなさい


ジェラルディーノ・マゼラーティ
◆◎
お嬢ちゃん(f00775)と

万年筆、イイよねェ
僕もよく使ってるよ
お嬢ちゃんは?

去年の誕生日にプレゼントしたのは
夜空を映した様な藍色のインクだったね
ラメが入ってて、
それが丁度星屑みたいに瞬いてさ
ああいうのは僕も好きだし、
君にも似合うと思ったのさ

前回は勝手に送りつけてしまったけど
今回は好みが聞けるねェなんて
彼女の話に相槌を打ったり
僕?
僕は迷ってしまうなァ
どの色も素敵で絞りきれないよ
幾つあっても構わないし
お嬢ちゃんが見繕っておくれ

影朧に対しては
デヱトに胸に秘めた想いか
イイねぇ青春だねェなんて
向かう手を取りくるっとターン
ほら、一度落ち着いてみるといい
心から楽しんでみたら、
自然と指先が向かうかもよ?



●月光プレリュード
 その手に取るのが、ペンか鉛筆か筆なのか。それともはたまた、銃や剣なのか――。
 それは、己が生まれによって自ずと定まってくるもので。それ故、手に取る相棒を選ぶことが出来る方が珍しいのかもしれない。
「万年筆、イイよねェ。僕もよく使ってるよ」
 鮮やかなインクを前にジェラルディーノ・マゼラーティ(穿つ黒・f21988)は、呑気に笑ってみせていた。普段から万年筆やインクに慣れ親しんだ彼にとって、目の前に並ぶ瓶の数々は全て等しく旧友のような存在で。
 一つ集めれば、自然と二つ、三つと集めたくなってしまう。それは、万年筆やインクに触れる者ならば、必ずと言って通り過ぎる道で。
 それでも、一人でこれだけ集めるのはかなり大変なことだろう。数多の業者や個人が協力し合ってこと実現した博覧会なのだと、圧巻の光景を見詰めながら、ジェラルディーノは傍の少女へと問いかける。
「お嬢ちゃんは?」
「文字を書くのは、あまり得意ではないわね。……これから上手になるのよ」
 だから、あまり明るくはないわ、と。
 雨雲のように重い黒髪から覗くのは、曇り空のような一つの瞳。四・さゆり(夜探し・f00775)は言葉少なくジェラルディーノの問いに返事を返す。
 そして次いでに、「じゃあ、下手くそなのかい」と言いたそうな男の視線に、面倒臭そうに言葉を付け加えて。
「けれど、そうインクは好きよ」
 けれど、とさゆりは言葉を区切る。
「月明かりに照らしてあげると、瞬くから。あんたと初めてあった夜が溶けたみたい、ね」
 文字を書くのはあまり得意ではないけれど、色とりどりの宝石のようなそれは、見ていて飽きやしないから。月明かりに照らすと、光を受けて輝くから。
 色鮮やかなものも気になるけれど、目を引かれるのは青や藍といった夜の色彩だった。静かに夜色のインクを見つめるさゆりの姿に、そういえばとジェラルディーノは去年の贈り物の存在を思い出す。
「去年の誕生日にプレゼントしたのは、夜空を映した様な藍色のインクだったね」
 黒のような藍のような、静かな闇を宿すその色彩。闇に溶けそうなその色の中で、ただ、星屑を混ぜ込んだ細かいラメが星のように輝いていて。
 夜空をそのまま瓶詰にして、お嬢ちゃんへと贈りつけたのだった。
「ラメが入ってて、それが丁度星屑みたいに瞬いてさ。ああいうのは僕も好きだし、君にも似合うと思ったのさ」
 キラリと仄かな光を反射させる、夜の色。きっと、僕にも似合うし、君にも似合うだろうから。
 それでも、二人の夜空とするには月が足りないのだけれども。
「ラメ入りはあんまりペンの文字の太さが細いと詰まってしまうけれど、そうはなっていないよね?」
「分かっているのなら、手間のかからないものを贈りなさいよ」
「けれど、なかなかに良い色だったろう?」
「分かっていることを、わざわざ聞くんじゃないの」
 夜を臨み、月明かりが輝き。前回は勝手に送りつけてしまったけど、今回は好みが聞けるねェ――なんて。 
 ジェラルディーノがさゆりの話に相槌を打っていたところ、仕返しとばかりに不意の問いが投げつけられる。
「私ばかり話しているけれど、そういうあんたはどうなのよ」
「僕? 僕は迷ってしまうなァ。どの色も素敵で絞りきれないよ。幾つあっても構わないし、お嬢ちゃんが見繕っておくれ」
 急な問いに面食らいながらも、お嬢ちゃんが選んでおくれ、と。
「可愛い下僕の願いなら叶えてあげる――わたしは月を贈りましょう」
 さゆりが手繰り寄せたのは、色を纏わぬガラス瓶。
 いつかの夜、男が掴むように手を伸ばした先には星と月。少しばかりの時を経て、それがさゆりの手の中で無音の輝きを放っている。
 銀色の月がぽたりと溶けて、瓶に詰めたような色。少しだけとろりとしていて、仄かに青く輝いていた。あの夜に靡いた、あんたの髪に似てる色。
 紙面に銀月を綴れば、透明に近い銀はゆっくりと白へと溶け込んで。それからゆっくりと、青銀色が浮かび上がる。確かに、輝きを放ってそこに在る。
「これで揃うの、わたしたちの夜が」
 贈られた星空と、贈る銀月と。星と月は、二つで一つ。
 これで揃うのだ、あの日見上げた二人の夜空が。
「きれいでしょう?」
 手の中の銀月を広げて、すすり泣く美弥子にも見せてあげる。
 さて、あなたの胸は踊るかしら――と、美弥子が見上げる先に、浮かぶ銀月。
『共に在るの、ね。羨ましい、わ……』
 後少しなのに、手を伸ばせば届きそうなのに。それでも、と。
 悲嘆と共に伸びた手を、横からゆるりと絡めとったのはジェラルディーノだった。長く鋭く伸びた爪。首筋すら掻き切ってしまいそうに鋭利なそれは、しかし、全くジェラルディーノを傷付けず。
「デヱトに胸に秘めた想いか、イイねぇ青春だねェ」
 向かう手を取りくるっとターンさせて、美弥子の手を取って踊り出す。
 君の臨む色は、夜の果てに綻ぶ色だろうと。夜明けを告げて、春の色へと道を示す。
「ほら、一度落ち着いてみるといい。心から楽しんでみたら、自然と指先が向かうかもよ?」
 少女には少し早いかもしれない、背伸びした大人のステップを踏み出して。時には休息も必要だからと、少しの楽しみを。
 案内人が少女の背を押して示す先に、微妙に色彩の異なる梅のインク。
 私の色は、どれかしら。自然と向かった指先は、しかし途中でその手を止めた。
「ほら、殴ってあげる」
 間違うのが怖いから。途中で手を止めた美弥子に向かうのは、さゆりが構えた赤い傘。
 私だけの下僕。しかし、他の女の手を取った。そんな男を一睨みして、容赦なく傘を振り下ろす。
 思い出せないのは、苦しい。
 それは痛いほどわかるから。
 負け犬になりたいのなら、そのまま諦めてしまいなさい。もう一度はきっとないでしょうけれど。
 野良犬になりたいのなら、醜く這い蹲って縋り付きなさい。でもそんな勇気も無いのでしょう。
 どちらも嫌と哭くのなら、
「取り戻してみせなさい」
 谷底へと蹴り落すように、容赦なく美弥子の背へと放たれた一撃。
 蹴りだされた先に在った、一つの色を胸に引き寄せて――美弥子は床へと、倒れ込んだ

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

宵雛花・十雉
【双月】◎

「世界の文具博覧会」かぁ
色んな文具が揃ってるんだね
楽しみだな
もちろんちゃんとここに来た目的も忘れてないよ

うん、貴女にとっては大切な色だろうに
よかったらオレたちにも手伝わせてよ

あ、懐かしいね
あの時見た桜の花、綺麗だったなぁ
帝都の桜とは雰囲気がまた違っててさ

オレの思い出の色は何だろう…
そうだ、あれかな
淡い黄色
なんていう名前の色かは分からないけど
ユェーと行った温泉で見た、お月様の色
夜空にぽっかり浮かぶ月が印象的で
ユェーの瞳の色にもちょっと似てるよね

美弥子さんの動揺を感じ取れば
咄嗟に【結界術】で周囲の人や商品を守るよ
落ち着いて、美弥子さん
大丈夫だよ
そう声をかけながら


朧・ユェー
【双月】◎

思い出せないのは悲しいね
君の色が思い出が思い出せるお手伝い出来ると良いけど
ねぇ、十雉くん

僕の思い出の色
そうですねぇ、桜色でしょうか?
色鮮やかな濃いいピンク
十雉くんと初めてみた桜の色
またこれからも桜を探そうと約束した思い出の色
十雉くんは何色でしょうか?

あの日のお月様ですか
そうですね、あの日あの時
沢山貴方の話を聴いて僕の話をした
僕にとっても忘れられない日でしたね
僕の瞳と?それは嬉しいですねぇ
嬉しそうに笑って少し照れる

美喰
君の内なる心、君の記憶を喰べようか
思い出せる様に答える様に
君の思い出は……色だと

十雉くんの優しさに温かく見つめて



● 雪月風華 ―櫻華爛漫・吉月―
 博覧会とは、名前だけに留まらず。古今東西、津々浦々。見知ったものも、初めて見るものも。
 見渡す限り――ここは文具の宴の真っ最中。
「『世界の文具博覧会』かぁ。色んな文具が揃ってるんだね、楽しみだな」
 百貨店のワンフロアを丸っと貸し切りにしているだけはあるようだ。端が見えないほどに広いこの会場をぐるりと見渡して、宵雛花・十雉(奇々傀々・f23050)は思わず感嘆を漏らす。
 様々な文具が並ぶ光景は不思議な魅力があって、圧巻の一言に尽きた。文具の宴に目を奪われども、此処に来た当初の目的も忘れてはいない。
『でも、本当に……これが、私の……』
 胸にしっかりと一つのインク瓶を握り締めて、それでも何処か不安そうに手の中のそれを見詰めている美弥子。
 思い出した記憶は、何処か他人の物のようで。だから、いまいち自信が無かったのだ。
 自分でその色を選び抜いてもなお、美弥子は自分の記憶を信じきれないままで居る。
「思い出せないのは悲しいね。君の色が、思い出が、思い出せるお手伝い出来ると良いけど――ねぇ、十雉くん」
「うん、貴女にとっては大切な色だろうに。よかったらオレたちにも手伝わせてよ」
 朧・ユェー(零月ノ鬼・f06712)が十雉へと視線を流せば、確かな頷きが返ってくる。
 色は取り戻した。後はもう少し、彼女の記憶が集まれば。その時に、真の意味で彼女は彼女の色を取り戻せるのだろうと。
 交わした視線は一瞬。それだけで全てを伝え合ったユェーと十雉は美弥子に話しかける。
「そうですねぇ、僕の思い出の色は桜色でしょうか? 君よりも、もっと濃いピンク色ですが」
 ユェーが手にしたのは、色鮮やかな濃いいピンク。
 美弥子が抱く淡いピンク色よりもはっきりとした色彩を纏い、ユェーの手の中で咲き誇っていた。
 ラベルには咲き誇る満開の桜が描かれていて。それと寸分違わぬ色を纏った液体が、四角い瓶の中で揺らめいている。
 少しばかりの橙を抱いたピンク色をペン先に吸い込ませて、白い紙へと文字を描き出せば。あの島で十雉と見た、どこか温かかな雰囲気を抱く桜色が、「久しぶり」と二人のことを見上げていた。
 長く綴れば綴るほど、遠くから眺めるように。段々と淡くなっていく桜の色合い。しかし、この色が抱く温かな雰囲気は決して薄くならずに。
 十雉くんと初めてみた桜の色。彼の探す桜はあの島の桜では無かったけれど、またこれからも桜を探そうと約束した思い出の色。
 そうして今年もまた、そろそろ咲き出すであろうピンクの色。
「あ、懐かしいね。あの時見た桜の花、綺麗だったなぁ。帝都の桜とは雰囲気がまた違っててさ」
 ユェーの綴った文字を眺めて、十雉もその瞳を細めていた。
 厳かで神秘的な雰囲気を抱く帝都の桜とはまた異なった魅力を持つ、島の人々に寄り添うあの桜の色。それは今でも鮮明に思い出すことが出来るから。
「十雉くんは何色でしょうか?」
「オレの思い出の色は何だろう……そうだ、あれかな。淡い黄色」
 ユェーの言葉に、首を捻ること数秒。十雉が選んだ色は、ぼんやりと優しく周囲を照らす満月のような淡い黄色だ。
 薄くて読めないということはないけれど、それほど濃くも無く。ユェーが選んだ桜色と同じく、少しだけ橙色を抱く淡い黄色は、程よい濃さで紙の上へと広がっていった。
 ぼんやりと夜空に輝く望月のように、文字の端々が仄かに白い光を返していて。
 なんていう名前の色かは分からないけど、ユェーと行った温泉で見た、お月様の色。沢山の言葉を交わして、二人にとっても忘れられない色となった。
 あの時の夜空にぽっかり浮かぶ月が印象的で、彼の瞳にもその色の面影を感じ取ることが出来るのだ。
「あの日のお月様ですか。そうですね、あの日あの時。沢山貴方の話を聴いて僕の話をした――僕にとっても忘れられない日でしたね」
「ユェーの瞳の色にもちょっと似てるよね」
「僕の瞳と? それは嬉しいですねぇ」
 これ以上ない十雉からの誉め言葉に、ユェーは嬉しそうに笑って少し照れていた。
 桜色に、月の色。次に二人で見る景色は、どんな色彩に溢れているのだろうか。それが少し、楽しみでもあるのだから。
『褪せない想い出、二人きりの……。私にとっては、とても眩いの、よ……』
 私にも二人と同じ、褪せない記憶があったはず。
 それでも、微妙に思い出せなくて。幸せだったはずなのに。
 色は手の中にあるのに、記憶が伴わなくて。
「落ち着いて、美弥子さん。大丈夫だよ」
 美弥子さんの動揺を感じ取った十雉が、周囲に結界を張り巡らせる。
 色を抱きしめながらすすり泣く彼女を落ち着かせるために、そう声をかけながら。
「君の内なる心、君の記憶を喰べようか」
 結界の中に反響する、美弥子の泣き声。ポタリポタリと滴る涙は黒く染まり、手元のインク瓶を黒く濡らしていく。
 蹲ったままの美弥子に、ゆっくりとユェーは近づいた。
 十雉の与える優しさを温かく見つめながら。
 思い出せる様に答える様に。
 目の前の解に自信を持てぬ少女に、答え合わせを施すように。
「君の思い出は、」
 春も間近に近づいた、冬の終わりのことだった。少し散歩に行こうと、彼が言った。
 冬だと云うのに幻朧桜が纏う櫻色は変わらず視界の端に散っていて、空には眠りかけた月が静かに瞬いていた。
 淡い空色のが広がる下で、民家の軒先に咲いていた数輪の梅の花。それを見た彼が、不意に私に似合う色だと笑って言った。
 梅纏う万年筆とインクを贈られたのは、それから少しした時分のことだ。大人の仲間入りをするのだから、本格的なものを、と。
 梅の花、揃いのインクと万年筆、恥ずかしそうに彼の頬に差す色。その名前は、
「――紅梅色だと」
 ユェーが言葉に出せば、その色が美弥子の心の中にとんと落ち着いて、ゆっくりと広がっていく。
 胸奥から引きずり出された記憶は――ほら、確かに思い出せたから。
 顔を上げた美弥子は、十雉とユェーを見上げて。やがて、にっこりと微笑んだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

呉羽・伊織
【花天】◆◎
ああ
オレの故郷じゃ墨と筆が基本だったから、色味も書き味もホント一味違って趣深い
あ、なんなら春も恋文とか書いて…ハーイ、ワカッテルヨ
助けになれると良いな
(軽い言動と裏腹に本心は同じく――故に、表情改め美弥子の元へ急ぎ)

ああ、焦らなくて良いから――話ながら一緒に記憶と色を探し出そーか、美弥子サン

いざとなれば身を挺し周囲を庇う覚悟で彼女の様子を見守りつつ話を(決して攻撃はせず受け止めるに徹し、余計涙せず済むように)

俺は紅、かな
昔はこの目の色、血みたいで不吉だって疎まれて――でも、綺麗だと笑って受け入れてくれる人に、救われてさ

春のも本当、そう聞くと一層優しい色に写るな
美弥子サンもきっと――


永廻・春和
【花天】◆◎
色とりどりのインク達は、幾度見ても心踊りますね
ご冗談も程々に、さぁお仕事へ――人々を守りに、そして悲しむ彼女を助けに、参りましょう(軽口は軽くあしらうも、表情引き締めた後は足並み揃え)

美弥子様
我らはそのご不安と涙を拭う為に参りました
どうか悲哀の色、黒き涙に染まるのではなく、共に本来の貴女様の色を、探し出しましょう

緊急時は声掛けつつ霊符で結界張り、最悪一瞬UCで鎮静を

私はやはり桜の色ですね
陽光受けて晴れやかに咲く、母たる幻朧桜――今も昔も優しく寄り添い見守ってくれる存在を、思い起こす彩

呉羽様も、ええ――深みある、綺麗な色と思います
美弥子様も、素敵な色でした筈
今一度、見渡してみましょう



●紅夕空、桜息吹
 貴方がくれた色と、貴方との記憶を。思い出した。
 それでも、一件落着――という訳には行かなくて。
 感情の揺らぎは少なくなってきているけれど、まだ油断は許されない。哀しみが深かった分、喜びも大きいはずだ。
 何かの弾みで春嵐が再び訪れぬようにと、少しだけ早足で美弥子の元へと向かう足音が二つ。急ぎ足で、それでも道を彩るインクにその目を奪われながら。
「色とりどりのインク達は、幾度見ても心踊りますね」
 色とりどりのインクたち。それは不思議と、何度見ても見慣れぬことはなくて。
 いつ見ても新鮮な気持ちになれるインクの森に、永廻・春和(春和景明・f22608)は、少しだけ目を細めた。今は緊急事態ではあるけれど、此処に並ぶインクたちに罪は無いのだから。
「ああ。オレの故郷じゃ墨と筆が基本だったから、色味も書き味もホント一味違って趣深い」
 彩が殆ど一色の墨に、万年筆とは異なった柔らかい書き心地を持つ筆。故郷ではそれで文字を綴るのが日常風景だったのだから、色味も書き味も物珍しく、赴深いと。
 春和の後ろを駆け足で追いかける呉羽・伊織(翳・f03578)もまた、並ぶインクの彩をその紅の瞳に落とし込んでいた。
「あ、なんなら春も恋文とか書いて「ご冗談も程々に、さぁお仕事へ」……ハーイ、ワカッテルヨ」
 伊織が少しでも場を和ませようと発した冗談は、先を進む春和によって一秒と経たず一刀両断され――何なら、春和はこちらをちらりとすら見なかった。
 冗談が言い終わらぬうちにバッサリと強制終了させられたことに、少しだけしょんぼりしながらも、伊織は気持ちを引き締めて。
「助けになれると良いな」
「――はい。人々を守りに、そして悲しむ彼女を助けに、参りましょう」
 表情を引き締め、揃う足並みは二つ。目指す目的地は、紅梅色のインクを抱えて佇んでいる、美弥子の元へ。
「美弥子様、我らはそのご不安と涙を拭う為に参りました」
 どうして忘れていたのだろう。こんなにも、愛おしい思い出だったのに。
 自責の念に駆られる美弥子。音もなくはらりと彼女の頬を、黒い雫が伝っていた。
 優しくかけられた声に顔を上げれば、桜色を抱く春和の瞳と目が合った。そのまま安心させようと、春和は美弥子へと手を差し伸べる。
「どうか悲哀の色、黒き涙に染まるのではなく、共に本来の貴女様の色を、探し出しましょう」
 思い出したって、どうせすぐに忘れるさ。
 今すぐ手放して、全てを消し去ったら楽になれる。
 それに、本当にこの色で合っているのかい? ――と。
 記憶を取り度してもなお、諦めの悪い黒き邪念は、未だに美弥子に齧りついている。最後のそれを祓うのが、二人の役目なのだろうから。
「ああ、焦らなくて良いから――話ながら一緒に記憶と色を探し出そーか、美弥子サン」
 想い出せて嬉しいのか、悲しいのか。それすらもごちゃ混ぜになって分からない。
 しゃくり声をあげる美弥子に、伊織はゆっくりと話しかけた。
 彼女が落ち着くまでもう少し時間がかかるのだろう。それまでは、気を抜くことができない。
 気晴らしに、と。それぞれの色を手に取り、伊織と春和は色への想いを語り始める。
「私はやはり桜の色ですね」
 春和が愛おしそうに撫ぜるのは、柔らかな桜色のリボンが結ばれたインク瓶。
 陽光受けて晴れやかに咲く、母たる幻朧桜――今も昔も優しく寄り添い見守ってくれる存在を、思い起こす彩だった。
 青紫交じりの桜色は、濃淡が出やすい性質を孕んでいるようで――店員から手渡された試し書き用の紙へと桜を咲かせれば、白く霞んだり、明るく綻んだりと。気まぐれに紙面を、桜の色に染めていく。
 速乾性はかなりのものらしい。書く速度に乾く速度が追い付いてしまうほど。
 紙の少しの凹凸に引っかかってしまったり、滑らかにするりと滑ったり。ペン先の感触がそのまま手元まで伝わってくるのも、このインク特有の色なのだろう。
「俺は紅、かな」
 伊織が選んだのは、自身の瞳のような深い紅の彩だった。
 ペン先が紙面に触れるか触れないか。その瞬間から、早くもどんどんと溢れ出す紅の色彩。途切れることは決してなく、次から次へと溢れてくる。
 黒交じる深い紅を紙の上に解き放てば、ゆっくりゆっくりと乾いていって。乾ききった文字の一等濃いところには、金がきらりと交じっていた。
「昔はこの目の色、血みたいで不吉だって疎まれて――でも、綺麗だと笑って受け入れてくれる人に、救われてさ」
 その昔疎まれた彩も、伊織にとって、今では誇らしい彩で。紅玉のように、深く美しい手元の彩に口元を緩ませながら、春和と美弥子に向かって微笑みかけた。
「春のも本当、そう聞くと一層優しい色に写るな」
「呉羽様も、ええ――深みある、綺麗な色と思います」
 それぞれの想いを聞けば、お互いの彩が一層素敵な色に見えて。
 記憶と共に色は輝く。それはきっと、美弥子の色も同じはずだから。
「美弥子サンもきっと――」
「ええ。美弥子様も、素敵な色でした筈。今一度、見渡してみましょう」
 胸に抱く、淡い紅梅の色。
 伊織、春和と共に、ぐるりと見渡したけれども、この色以上に惹きつけられる色はなくて。
「――この彩で、間違いはございませんね?」
「美弥子サンが自分で選んだんだから、今さら間違うはずもないだろうけどな」
 「いいや、この色とは違うだろう?」と耳元で囁く邪念を振り切って。黒い涙を流しながらも、美弥子がしっかりと頷いた――それが、合図と成った。
『皆様……本当に、ありがとう、ございました……』
 思い出せたことが、とても嬉しかったのだろう。インクが再び不気味な音を立て始め、風が舞う。
 前は哀しみ、今は喜び。不安定な状況に在る美弥子にとって、歓喜も過ぎれば望まぬ攻撃となってしまう。
 霊符を張り巡らせる春和と、受け止めに徹する伊織。
 長いようで、その実短い一瞬であった。最後の春嵐が過ぎ去ったそこには――恐らく、生前とそう変わらぬであろう格好で佇む美弥子の姿が在った。
 いつの間にか頬を伝う雫は黒から透明へと変わり。美弥子は胸にしっかりと、自分の色を抱き留めて、猟兵たちへと深くお辞儀を返すのだった。

●春告の紅梅
 未だ雪残る風景に、そっと咲き綻んだ数輪の梅。
 大人になる私へと、貴方が贈ったインクと万年筆の色。
 少し不器用な笑みで、私を見てはにかむ、貴方の頬に宿る色。
 そして、貴方を慕う私の――恋の色。
 淡い色彩を纏う、薄い紅梅色。
 貴方がくれた、私の色。
 もう決して手放さないと、胸に抱いて。

 貴方の愛用していた万年筆も、私が綴った戀文も。そういえば、棺にすら入れられぬままだった。
 これ以上、帝都の人々に結核が感染るといけないから、と。指一本触れることすら許されず、愛用の品を添えることすらも許可が下りず。
 必要最低限の装いで、追い出されるようにして、焔に包まれた貴方の身体。既に病魔に侵されていた私や、貴方の友人は――最期の別れだから、と。式に参列することは許されたけれど、近づくことはできなかった。
 ただひっそりと、遠目から貴方を送り、貴方が還っていくのを眺めていただけ。
 貴方が持っていくことの出来なかった大切な品と、私が貴方に贈りたかった言葉を包んだら。私も――貴方の元へ参ろう。
 そうしたら、やっと貴方に触れられるのだから。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 冒険 『はかない影朧、町を歩く』

POW   :    何か事件があった場合は、壁になって影朧を守る

SPD   :    先回りして町の人々に協力を要請するなど、移動が円滑に行えるように工夫する

WIZ   :    影朧と楽しい会話をするなどして、影朧に生きる希望を持ち続けさせる

👑7
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●あなたのとくべつ、わたしのとくべつ
 貴方のくれた色を思い出したから。
 猟兵たちの協力により、記憶を取り戻した美弥子は――今、とても幸せそうな表情で、舶来品の万年筆を眺めていた。
 不意の感情の起伏や動揺で商品や人々を傷付けてしまう危険性も、もう無いだろう。
 しかし、無害な存在と化したとはいえ、彼女は影朧だ。影朧を見つめる店員や客たちの表情は少し固く――しかし、「超弩級戦力」である猟兵たちの存在に、人々はちょっぴりぎこちないながらも、程なくして普段通りの博覧会が再開された。
 この博覧会の目玉でもある筆記具ブースでは万年筆を中心に、様々な筆記具が展示・販売されている。
 帝都の人々にとっては見慣れたブランドの万年筆や、海の向こうからやってきた珍しい舶来品まで。発売されたばかりのハイカラな若者向けの最先端モデルに、唯一無二の貴重なヴィンテージ品の姿もあった。
 学生さん向けの入門用から――思わず桁を二度見してしまうような高級品も。
 お伽話の世界からそのまま飛び出してきたようなファンタジックな外見を持つガラスペンは、一見すると海の向こうの生まれだと勘違いしてしまいそうになるが、その出自は紛うことなき日本なんだとか。
 芸術品と見間違えてしまうほどに美しく繊細なものや、シンプルな実用性重視なもの。最近では、持ち運びしやすいデザインのガラスペンも発売されている。
 他にも羽ペンやつけペンの各種に――販売されている品々を挙げだしたら、キリが無いだろう。
『ひ、ふ、み……みぃ……!?』
 貴方が愛用していた、黒染めの軸に花舞う螺鈿細工の万年筆。
 東洋の技術と西洋の技術が惜しみなく使われた舶来品。
 それでも、美弥子はそれが一月分のお給料の半分近くが軽く吹き飛ぶほどとは思っていなかったようで。
 先生が愛用していたものが「一生使える本格的な一本」を通り越して「親子代々受け継がれていく高級品」だったことに驚きつつも、ショウウィンドウにへばりついている顔は幸せそのものだった。
『これが、貴方の……』
 これは、美弥子が落ち着きを取り戻してから、分かった事。
 財布に、手紙に、それから万年筆と手紙――彼方の世界で、困ることが無いように、と。美弥子の両親は、愛娘に沢山の想いを手渡して送り出したらしい。恐らく、結核に感染する危険性を承知の上で、愛娘に触れて。
 美弥子の両親が今、どうしているのか。それは想像するしかないけれど。しかし、両親の想いのおかげで美弥子が博覧会の買い物で困ることはないようだ。そっとしておいても、問題は無いだろう。
『……ぁ、こっちに最新デザインもあるの、ね……』
 先生へのお土産は、勿論、彼が愛用していたものと同じモデルに――あ、浮気した。
 ショウウィンドウと睨めっこする美弥子から視線を戻して、目の前の筆記具たちを見渡したのなら――万年筆にガラスペン、羽ペンにつけペンetc.と、様々な筆記具が猟兵たちを出迎えてくれる。
『それに、自分用、も……。そうだわ、三本とも……!』
 さあ、何処へ行こうか。
 そして見渡した先に気になる筆記具があったのなら――是非手に取ってみて欲しい。此処に並べられた筆記具たちは皆、選ばれるその瞬間を今かと待ち侘びているのだから。
 そして、無理に一本に絞る必要も無いだろう。
 焦る必要はない。時間はたっぷりとあるのだから。
 悩む必要もない。「サアビスチケット」があるのだから。
【追記】
 申し訳ございません。断章ですが、一部大切な修飾語がごっそり抜けておりました……。
 「手紙~」→正しくは、「財布に、両親の思いが綴られた手紙に、それから万年筆と貴方への戀文――」となります。
灰神楽・綾
【不死蝶】◆◎
ふふ、のびのびと博覧会を楽しめるように
なって良かったね、美弥子さん
さぁて、俺も探すぞー

まず手に取ったのは羽ペン
何だかゲーム世界のアイテムにありそう
羽部分が染料でお洒落にデザインされているものも
あって見ていて飽きない
持って空中に文字を描くようなポーズをしてみたり

でも俺の一番のお気に入りはガラスペン
実は以前にも見たり触ったりした事があるんだけど
いつ見てもこの美しさはクセになるね
ここまで綺麗だとペンとして使わずに
インテリアとして部屋に飾るか
ずっと大事にしまっておきたくなるくらい

よし、俺これにしよっと
ねじりデザインの赤色のガラスペン
ペン先に向かってより深い赤に
変わるグラデーションが美しい


乱獅子・梓
【不死蝶】◆◎
まだ店員や客たちは緊張しているようだが…
それでも美弥子を追い出すこと無く
博覧会を続行してくれた
きっと猟兵を信じてくれているからだろう
一般人を安心させる為にも今はしっかり楽しむとしよう

…なんて改めて気張らなくても
こいつはすっかり博覧会に馴染んでいるな
筆記具を手に取っては俺に見せてくる綾に相槌を打ち
子供を見つめる親みたいな気分

なら俺もガラスペンを買おうか
しかしガラスペンひとつ取っても
色々なデザインがあって悩むな…
綾のとお揃い…は気恥ずかしい
ここは店員におすすめを聞いてみるか
(※ペン詳細お任せ

サアビスチケットはあるが一応値段を確認
うっ…!?
万年筆ほどではないがなかなかの金額…!



●紅蓮と竜の雫
 何処ことなくぎこちないながらも、再会された文具の博覧会。
 人々は緊張しながらも、各々の目的を果たすために会場のあちこちへと散っていった。
(「まだ店員や客たちは緊張しているようだが……それでも美弥子を追い出すこと無く、博覧会を続行してくれた」)
 きっと猟兵を信じてくれているからだろう。美弥子がもし再び取り乱すことがあったとしても、超弩級戦力である彼らなら止めてくれると。絶大な信頼を寄せられているからだろう。
 一般人を安心させる為にも今はしっかり楽しむとしよう。俺たちがお手本にならなければ、一般人も緊張したままだろうから。
 意気込みも新たに会場を眺める乱獅子・梓の横では、
「ふふ、のびのびと博覧会を楽しめるようになって良かったね、美弥子さん」
 梓の意気込みなどどこ吹く風か、すっかり仕事終わりの打ち上げモードと言っても過言ではない様子の灰神楽・綾が軽い調子でひらひらと美弥子に手を振っていた。
「さぁて、俺も探すぞー」
 美弥子と軽く挨拶を交わして別れた綾が最初に向かたのは、お伽話の世界から抜け出してきたかのようなファンタジックな羽ペンの並ぶ一角だった。
(「……なんて改めて気張らなくても、こいつはすっかり博覧会に馴染んでいるな」)
 ズルズルと引きずられるように、綾と一緒に羽ペンを眺めることになった梓。
 気分はアレだ。夏休みの自由研究を前に、当人を差し置いて張り切る親を眺める子のようなそれであった。
「何だかゲーム世界のアイテムにありそう」
 寧ろ、ゲームの世界から飛び出てきたと言った方がしっくり来るような。
 赤に緑、青に黄と。羽部分が染料でお洒落にデザインされているものもあったり、くすんだ銀を纏うアンティークのものもあったりと見ていて飽きることはない。
「魔法が発動したりしてなー?」
 はしゃいだテンションのまま、綾は一際ファンタジックな羽ペンを手に持って梓に向き合うと、空中に文字を描くようなポーズをして見せた。
「例えばこう、とかか?」
 綾が文字を書き終える瞬間に合わせて左右の肩に乗る焔と零に頼んでみれば、空中に小さな氷と炎が生み出され、本当に魔法が発動したように見える。
「お、カーニバルにありそう」
「それはさすがに返してきなさい」
 もはや、悪趣味の領域に片足を突っ込んでいるだろう。原色を纏った無駄に大きな七色の羽ペンを持ってきた時には、反射的にそう言い返していた。
 様々な筆記具を手に取っては自分に見せてくる綾に相槌を打ち、気分は子供を見つめる親のよう。
 少年のようにはしゃぐ綾を前に、梓はすっかり保護者と化すのだった。
「実は以前にも見たり触ったりした事があるんだけど、いつ見てもこの美しさはクセになるね」
 様々な筆記具を楽しんでいた綾だが、一番のお気に入りはガラスペンだった。
 職人の手によって生み出された繊細なガラスペンは、筆記具としては勿論のこと、インテリアの一部としても十分に映える。
 大事にしまっておいて、特別な手紙を書くときに取り出すのも良いかもしれない。
 ペンとして使うには勿体ないくらいだ。
「よし、俺これにしよっと」
 と、幾つかのガラスペンを見比べた後、綾が手に取ったのはねじりデザインの赤色のガラスペンだった。
 綾が選んだインクと似たような深い赤色を抱くガラスペンが、手の中でキラキラと光を生み出している。
 ガラスペンの胴体に等間隔でクルクルと刻まれた螺旋の模様は、見事の一言に尽きる職人芸で。
 ペン先に向かって、深く潜っていくかのように。より深い赤を宿すグラデーションが美しかった。
 翅を広げた蝶の形をしたペンレストとは、セットで売られているのだと云う。
「なら、俺もガラスペンを買おうか」
 綾が深い赤色のガラスペンを手に取る姿を見た梓も、折角ならば、とガラスペンを探し始めた。
「しかしガラスペンひとつ取っても、色々なデザインがあって悩むな……」
「梓、これとかはどう?」
「却下」
 直線のシンプルなものに、一体何処を持って文字を書くんだと製作者に尋ねたくなるような、ゴテゴテとしたものまで。
 持ち運び可能な、万年筆のようなデザインをしたものに、ペン先を取り換えることのできるもの。
 ガラスペンと一口に括られても、そのデザインは実に様々だ。
 綾が遊び半分で持ってきた、蝶だ花だ、葉だ蔓だが纏わりついた装飾過多のビビットなガラスペンは論外として。
 綾のとお揃い――は気恥ずかしく、しかし、これと目を引かれるようなペンも見つからず。
「ここは店員におすすめを聞いてみるか」
 先ほど選んだインクと共におすすめを聞いてみたところ、零が自己主張していたことも関係していたのだろうか――透き通る青が美しいガラスペンを勧められた。
 綾とは反対にペン先は透明で、上に行くにつれて徐々に青が深くなっていくグラデーションになっており、竜の鱗や雫を連想させる丸い模様が刻まれていた。
 書き心地もサラリとしており、ガラスで書いているとは思えないほど。ペン先をインクに少し浸すだけではがき一枚分は文字が書けるのだというから、何とも不思議だった。
 この細かく掘られた溝の何処に、それだけのインクを吸収するスペースがあるのだろうと思いつつ、梓は雫と雪の結晶をモチーフにしたペンレストに青いガラスペンを置いた。
 サアビスチケットはあるが、買い物をする以上、値段も気になるところ。
 一応値段を確認した梓は――そのまま固まった。
「うっ……!? 万年筆ほどではないがなかなかの金額……!」
「ガラスペンだからね。一本一本手作りだからね」
 驚きのあまりゼロの数を数え直した梓と反対に、綾は平常運転だ。
 ガラスペンに触れたことのある綾の中では、想定範囲内の値段であったらしい。
「さっきの可愛らしいガラスペンの方が高いよっと」
「……持ってこなくて良いぞ」
「こっちはすっごく安いみたいだね」
「子どもの小遣いでも買えるな。……逆に訳アリか怖くなるんだが」
 ああでもない、こうでもないと。
 綾と梓、それぞれが選んだガラスペンを傍らに、二人賑やかに筆記具を眺めて語らう一時は、ゆるりと過ぎていく――。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

西條・東
WIZ

『なぁなぁ美弥子姉ちゃん!いっぱい綺麗な用具があるな。』
美弥子お姉さんと値段に驚いたり綺麗なペンに見とれたりしながら移動するぜ
もちろんお店出してる人に元気に挨拶しながら!
『なっ!一本だけじゃ足りないよな!』
『へへっ、これが友達を繋げる手紙や他の人を楽しませる本になる手伝いをするって思うとワクワクするぜ!』


俺は赤橙と黒と黄色のインク…
あっ…この白の万年筆。黒の金魚が彫られてる…
『双黒みてぇ…これにする!』

美弥子姉ちゃんは何に決めたのかな?いっぱい話をして、たくさん楽しい思い出を残してもらうんだ!



●天空泳ぎの黒錦
 もしかしたら、この中には古今東西の文豪たちが愛用していたブランドや、同じ型のヴィンテージ品もあるかもしれない。
「なぁなぁ美弥子姉ちゃん! いっぱい綺麗な用具があるな」
『あなた、は……さっき、の』
 憧れの文豪が使っていた筆記具と同じモデルもあるかも……!
 そう考えるだけでワクワクが止まらない西條・東は、近くのショウウィンドウに張り付いていた美弥子に声をかける。
 一人でゆっくりと楽しむのも良いけれど、二人で見た方が楽しいだろうから。東は美弥子に誘いかけると、彼女は小さく微笑んで首を縦に振ってくれた。
「俺は東だ! よろしくな!」
『東くん、ね……。ええ、少しの間、だけど……楽しみたいわ、ね』
 ニコリ微笑み合ったことが、冒険の始まりを告げた。
 美弥子の少し前を歩きながら、東は等間隔に並べられた高級感の溢れるガラスケヱスの間を足早に歩いて行く――勿論、店員さんたちに「こんにちは!」と元気よく挨拶することも忘れていなかった。
 美弥子姉ちゃんは確かに影朧だけど、怯える程の存在じゃない。そう伝えるために。
 美弥子の存在を遠目から伺っていた人々の表情は固かったけれど、東と共に期待に満ちた表情で筆記具を眺める姿を目にした人々は、次第にその表情を和らげていった。
「これ、あの文豪が生前に愛用していた実物の……って、すっごく高いな!?」
 美弥子と共に色々な筆記具を眺めていた東だったが、一際高級なケヱスに自然と視線が吸い寄せられた。
 それは帝都でも有名なある文豪が生前に愛用していた万年筆で――東にとっても大金だということが一目瞭然な金額で販売されているから、驚きだ。
「俺も、いつかは有名に……」
 誤字脱字も多く、思うように物語が綴れない。今は手が届かないけれど、いつかは。ガラス越しに万年筆に手を合わせ、新たな誓いを立てる東を、美弥子は穏やかに微笑んで見つめていた。
「へへっ、これが友達を繋げる手紙や他の人を楽しませる本になる手伝いをするって思うとワクワクするぜ!」
 高級品ばかり揃えられた一角から、二人は馴染みやすい品の集められた一角へ。
 この万年筆と共に、手紙や本を綴っていくと考えただけで、胸は高鳴るのだから。
 手紙を書く、本を書く。何気ない日常風景が、不思議と少しだけ特別なものに変わる。
『何本か、欲しくなっちゃうわね……』
「なっ! 一本だけじゃ足りないよな!」
 性能が高い割に値段が良心的な分、学生であっても手が出しやすい。
 つい、思うままに買い集めてしまいそうで。気分に合わせて、新しいインクを買うついでに――と、集め出したらキリがない。
 赤橙と黒と、黄色。
 東が選んだインクと共に、文字を紡ぐ一本はどんなものになるのだろう。
 そうしてぐるりと見渡した先に、東が見つけたものは。
「双黒みてぇ……これにする!」
 黄色が薄っすらと掛かった白い胴軸に、散りばめられた金粉が美しい。描かれた金の流線を掻き分けるようにして、黒い出目金が泳いでいた。
 緻密で美しい金魚に、自然と吸い寄せられてしまう。製作者に命を吹き込まれたような黒い出目金は、今にも泳ぎ始めてしまいそうで。金色に輝く大きな瞳で、東のことをじっと見上げていた。
 東の相棒的な存在である、双黒にそっくりな万年筆の上の金魚。だから、迷うことなくこの一本に即決したのだ。
「美弥子姉ちゃんは何に決めたのかな?」
『私はこれ、と……後は、悩み中、だわ……』
 それぞれが選んだ特別な一本を見せ合って。名残り惜しいけれど、楽しい時間はあっという間に過ぎ去ってしまう。
「いつか俺が立派な文豪になったら、美弥子姉ちゃんにも読んでもらうな!」
『ありが、とう。東くんと話せて、良かったわ……。楽しみに、してるわね』
 烏が鳴くから、今は帰るだけ。
 約束を交わし、またねで別れて。笑ってまた――また、逢う日まで。

大成功 🔵​🔵​🔵​

フィーネ・ファルセシア
美弥子さんも、普通の恋する女性であられますね
もう有事に構えることもなさそうですし、私も少し見てまいりたいものが…
遠目からブースに陳列されている筆記具を一望して。並ぶと、こんなにきらきらして見えるものだとは私初めて知りました
…これは心惹かれるなという方が無理なのではないでしょうか

ついついうっとりしてしまいながら、展示品を見てしまいますけれども、本当は探しているものは決まっているのです
…実は、美しいガラスペンを探しているのです
とある方にお手紙を渡したくて…白い羽根をイメージしたような、美しい造形のガラスペン
お手紙を書く以上、ほんの少し実用性もあればとても嬉しいのですが…そんなペンはあるでしょうか?



●天使の祝福『青空』
 貴方が愛した万年筆と、同じものを。
 ショウウィンドウを見て回り、愛する人の面影を追う姿は、例え影朧であったとしても恋する一人の女学生そのもので。
「美弥子さんも、普通の恋する女性であられますね」
 その姿を少し離れたところからそうっと見守っていたフィーネ・ファルセシア(精霊郷の取り替え娘・f32108)は、微笑ましそうに顔を破顔させた。
 生前と変わらぬ恋する乙女に戻った彼女は、もう人々や商品を傷付けることも無いだろうから。
(「私も少し見てまいりたいものが……」)
 フィーネもまた、美弥子同様に自らの求める一本と出会うべく、様々な筆記具が展示されているケヱスの方へと足を踏み入れていく。
「並ぶと、こんなにきらきらして見えるものだとは……。私、初めて知りました」
 最も美しいとされる角度で。最も美しく魅せられる展示方法で。
 柔らかな照明の光をキラキラと乱反射させているガラスペン、書斎のように飾り付けられたディスプレイで一際目を引くアンティークな羽根ペンに。様々な筆記具が芸術品の如く並べられた姿は、圧巻の一言に尽きた。
「……これは心惹かれるなという方が無理なのではないでしょうか」
 目の前の静かなショウを見て、目を奪われ、心惹かれるなという方が無理なもの。
 美しい筆記具たちを見れば心躍るし、歩みが自然と早くなってしまうのも仕方がないことだから。
 ふらりふらりと、様々な筆記具に手招きされるまま。
 繊細な彫刻が施されたスターリングシルバーの万年筆を見ては息を飲み、本物の花々が芽吹いたかのようなガラスペンにはその瞳を輝かせて。
 ついついうっとりと展示品を見てしまって、なかなか目的地まで辿り着かないのだけれど、フィーネにはここに来る前から欲しいと思っていたデザインの筆記具があった。
「……実は、美しいガラスペンを探しているのです」
 出口が分かっているのに、いつまで立っても出られない。そんな不思議な迷路と化した筆記具のショウから漸く抜け出せたのは、フィーネが店員に尋ねかけた時だった。
「とある方にお手紙を渡したくて……白い羽根をイメージしたような、美しい造形のガラスペンを」
 瞼の裏に思い描くは、あの人のこと。
 あの人の姿を、手にそうっと包み込んで。想い人を連想させるような、美しいガラスペンが欲しかったから。
「お手紙を書く以上、ほんの少し実用性もあればとても嬉しいのですが……そんなペンはあるでしょうか?」
 恐る恐る尋ねたフィーネ。だから「勿論です」と明るい返事が返ってきた瞬間に、ほっと胸を撫でおろしたのだ。
 店員がそっと差し出した青い箱をゆっくりと開けてみると、そこにはフィーネが探し求めていた美しいガラスペンの姿が在った。
 細かな流線が彫られたペン先に宿るのは、青空のように澄み渡った半透明の空色で。ガラスに溶け込んだ青空は、上へ上へと昇るにつれてその色が透明になっていっている。
 翼のような曲線的で繊細な装飾が施された胴体には、空から光が零れ落ちるように、金粉が練り込まれていて。フィーネの手元の青空の中で、静かに舞い踊っていた。
 ガラスペンとセットだと云うペンレストは一対の白い翼を模した形をしていて。ガラスペンを置いてみれば、まるでガラスペンに翼が生えた様に見えた。
 実用性もしっかりと併せ持っているようで、緩く握れば不思議とフィーネの手にしっかりと馴染むのだった。
「とても素敵……これにしますね」
 お手紙を綴るガラスペンとして。
 フィーネは天使のようなガラスペンを、選んだのだった。
 あの人に、手紙を送る為に。実際にガラスペンを手にして手紙を綴るその時が、ワクワクして、少し緊張もして――とても胸が高鳴ったから。

成功 🔵​🔵​🔴​

アリスティア・クラティス
美弥子もこれで大丈夫ね
良かったわ…でもせっかくのお買い物だもの。もう少し雰囲気は和やかな方がよいわよね
美弥子が幸せそうに眺める進行方向のブースは…まあ気が気ではないでしょうけれども。美弥子に気付かれないように先回りしてブース販売員さんに「『笑わなくてもいいから、美弥子が選びやすいよう【とにかく穏やかな雰囲気出して】彼女はもう無害だけれども、何かあれば危害が及ぶ前に必ず助けるから』と無茶振りしておくわっ。

私も少し見て回るわっ
私を作った制作者のテーブルに残されていた万年筆
…おそらく日記を綴ったものと同じもの、少し神経質で硬く細めの文字
万年筆の初心者でも、同じような文字が書けるペンってあるかしら…?



●Your Story
(「美弥子もこれで大丈夫ね」)
 少しだけ早い春を告げるように。
 筆記具を前に静かに微笑む美弥子の姿を見つめ、アリスティア・クラティスはほっと息を吐き出した。
「良かったわ……。でも、せっかくのお買い物だもの。もう少し雰囲気は和やかな方がよいわよね」
 もう少し賑やかな話し声やはしゃぎ声に満ちているのがこの博覧会の常だと云うのに、影朧である美弥子を多少なりとも意識しているせいか、普段と比べて上がるはしゃぎ声は控えめなものだった。
 どうせなら和やかな雰囲気の中、買い物を楽しんで欲しいからと。
 アリスティアはゆっくりと筆記具を見て回る美弥子の進行方向にそっと先回りすると、ブースの販売員さんににっこりと満面の笑みで話しかけた。
「笑わなくてもいいから、美弥子が選びやすいよう――『とにかく穏やかな雰囲気出して』。彼女はもう無害だけれども、何かあれば危害が及ぶ前に必ず助けるから」
 いっそのこと、憎らしいほどに清々しいアリスティアの笑顔。それでも、不思議な威圧感を感じ取った販売員は静かにその首を何度も縦に振っている。
「じゃあ、試しに穏やかな雰囲気を出してみて。……ダメね、それだと不自然よ」
 ぎこちない。目が怖い。
 能面もかくやの笑顔を浮かべる店員に、容赦なくダメ出しを入れていく。
 アリスティアの無茶ぶりのお陰か、実際に美弥子を前にした店員は、自然な笑顔で彼女のことを迎えていたのだった。
「雰囲気はクリアしたみたいね。よし、私も少し見て回るわっ」
 遠くからサムズアップを送ったアリスティアに苦笑いを浮かべながらも、会釈を返した販売員。
 もう大丈夫だろうと、アリスティアもまた、自分の筆記具を選ぶべく筆記具の大海を漂い始めるのだった。
(「私を作った制作者のテーブルに残されていた万年筆。……おそらく日記を綴ったものと同じもので、少し神経質で硬く細めの文字が書ける万年筆ね」)
 まるで、見えない誰かが導いているかのようだった。
 いつの間にか入門用だが本格的なものばかりが並べられている一角に辿り着いたアリスティアは、その場にいた販売員に声をかける。
「万年筆の初心者でも、硬めで細い文字が書けるペンってあるかしら……?」
 「こちらになります」と案内される先に、それは在った。
 装飾は細かく、しかし必要最低限に――機能美と云うものだろうか。高級感のある品々は、丁寧に使えば一生愛用できるものになるだろう。
 つるりとした胴軸には傷も見られず、曇り一つない。ペン先やクリップ部分の柔らかな金色が、アリスティアの顔を映し出している。
 他の万年筆と比べて大ぶりなペン先には、絡まり合う蔦の彫刻と共に「F」と彫られていた。
「万年筆では、Fが細字になるのね?」
 力を込めずに滑るかのように文字を綴れるのが万年筆の特徴なのだが、このペンは入門用としてペン先が硬めに作られているため、力が入ってしまっても問題は無いと云う。
 アリスティアも試してみると、鉛筆で文字を書くのと同じような感覚で、サラサラと書くことが出来た。
 鉛筆よりは力がいらず、しかし少し硬い感覚がペン先から伝わってくる不思議な書き心地で。
 この感覚を嘗て、アリスティアの製作者である彼も感じていたのかと思うと――それだけで、胸が締め付けられるような思いがした。
(「これが、彼の……」)
 鉛筆のように万年筆を立てて書けば、少し細めの文字が。寝かせ気味の角度で書けば、万年筆本来の太さの文字が。
 微妙に角度を変えて文字を綴っていたところ、文字が日記で見た太さや似たようなインクの擦れ具合になっているのを発見して。
 きっとアリスティアの製作者である彼は、これくらいの角度で万年筆を走らせていたのだ。
 彼の癖や筆記角度を真似るように。暫くの間、アリスティアは無言で文字を綴っていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

花澤・まゆ
◎◆
美弥子さん、一緒に回っていいかな?
あたし、万年筆本体のことはよくわからなくって
硝子ペンだと乾くのを待たずに色々なインクを使えるって聞いたけど
やっぱり万年筆のほうが高級感があっていいよねえ

先生の万年筆はそれ?
でも、美弥子さんの欲しいのも買っちゃえ買っちゃえ
(悪魔の囁き)

あたしはどうしようかな…あまり高いのを買っても使えなさそうで
かといって初心者モデルも寂しいし…
この、桜色の中級者モデルにしようかな
これなら、記念にもなるし

あ、でも美弥子さんのそれ、とても綺麗
紅梅色にもよく似合うよ
いいね、こうして悩んでる時間も楽しいや

店員さんには【コミュ力】で協力をお願いするね



●桜月夜
 万年筆やガラスペン、羽ペンと言った筆記具とインクを愛するものにとって、この博覧会はまさしく天国なのだろう。
 貴重な限定品や珍しい舶来品まで取り揃えられているのだから。
 美弥子にとっても例外なく、ここは天国のようで――気になるままショウウィンドウを行き来していた彼女に、花澤・まゆは誘いをかけた。
「美弥子さん、一緒に回っていいかな?」
『勿論、よ……』
 まゆのお誘いに嬉しそうに顔を綻ばせて、美弥子は頷いた。
「あたし、万年筆本体のことはよくわからなくって」
『だいじょう、ぶ……。使っているうちに、覚えていく、から……』
 越える前は妙に高く感じてしまう敷居も、一度万年筆を手に取って体験してみれば、案外あまり高くないと思えるもの。
 使っていくうちに万年筆のことは覚えていくからと、美弥子はまゆに語っていた。
 妙に力説しているのは、先生の影響を受けて万年筆を手に取った美弥子自身がそうで在ったからだろうか。
「硝子ペンだと乾くのを待たずに色々なインクを使えるって聞いたけど、やっぱり万年筆のほうが高級感があっていいよねえ」
『そう、ね。インクで遊びたいのなら……やっぱり、ガラスペン、ね。万年筆は、雰囲気が素敵で……』
 どちらとも、捨てがたい魅力を持っていて。ファンタジーな雰囲気が漂い色々なインクを使えるガラスペンと、高級感があって持ち運びの出来る万年筆と。
 似たような存在があるからこそ、どちらもより魅力的に思えてしまうのだろう。
 ガラスペンと万年筆を見比べていたまゆの耳元で、
『……どっちも揃えれば、問題ない、わ』
 と、直ぐ傍から悪魔の羽を生やした美弥子の囁きが聞こえたのは、気のせいだったのだろうか。
「先生の万年筆はそれ? でも、美弥子さんの欲しいのも買っちゃえ買っちゃえ」
 ガラスペンブースから、二人は再び万年筆のブースへと戻ってきていた。
 やっぱり先生の万年筆も気になるけど……と、ショウウィンドウを見つめる美弥子に、まゆは先ほどのお返しとばかりに、美弥子の耳元で囁いて。
 まゆの背中で悪魔の尻尾がゆらゆらと揺れていたのは、美弥子の見間違いだったのだろうか。
 揺れ動いている最中を狙って伝えられる、後押しの一言には弱いもの。美弥子はどちらも買うことに決めたようだった。
「あたしはどうしようかな……あまり高いのを買っても使えなさそうで、かといって初心者モデルも寂しいし……」
 シンプルな初心者向けは何処か寂しく……しかし、高いものはその分重量も重く、手が疲れてしまうそうで。
 まゆは悩んだ上、間を取ることに決めたようだった。
「この、桜色の中級者モデルにしようかな。これなら、記念にもなるし」
 じっくりと選んで――まゆが手に取ったのは、桜色が美しい万年筆だった。
 クリップ部分には数輪の桜が咲いていて、一足早い春の訪れを告げている。
 ペン自体も丸みを帯びた繭型が可愛らしく、微妙な濃淡を抱く桜色に染まった胴軸には白い桜の花が舞っている。
 ペン先のデザインも凝られているようで、ハート穴の形は少し角ばった桜の花びらの形をしていて、仄かな桜色を抱いたピンクゴールドのペン体には桜の花の刻印が施されていた。
「あ、でも美弥子さんのそれ、とても綺麗。紅梅色にもよく似合うよ」
『ありが、とう。まゆさんのも、とても素敵、ね。あなたによく、似合ってるわ』
 万年筆を会話のお供に、賑やかな花を咲かせる少女がふたり。
 明るい調子で話を進めるまゆのお陰か、店員も美弥子に怯えることなく、二人のことを見守っていた。
「この万年筆も気になる……。いいね、こうして悩んでる時間も楽しいや」
 そう。どれにしようかと悩む時間も、また楽しいものだから。

大成功 🔵​🔵​🔵​

真宮・響
【真宮家】で参加:◎◆

美弥子は思い出の色を見つけられたようだね。良かった。奏は美弥子に声を掛けたい?そうだね、同年代の女の子同士の買い物、奏にとっては貴重な時間だね。行っておいで。瞬と一緒に回る事になるね。

瞬は良く書き物をする子だから何を選ぶか楽しみだね。スターリングシルバーの万年筆とガラスペン?瞬らしいセレクトだね。いいよ、買おうか。アタシは木製の万年筆がいいねえ。使うなら手に馴染むものがいい。あ、鉛筆。そうだね、常時使いにいいだろう。これも買おうか。いつも冷静な瞬の満面の笑顔が見れるのは珍しい。こういう文房具には目がないからねえ。息子とのこういう時間もいいものだ。


真宮・奏
【真宮家】で参加;◆◎

美弥子さんの楽しそうな姿にほっとします。美弥子さんも恋する年頃の乙女ですし、物凄く親近感が。こういう同じ年頃の方と品を見て回るなんて滅多にないことですし、美弥子さんに話しかけますね。

美弥子さんの隣に立ったショウウィンドウを睨めっこ。ふむ、これが件の万年筆。美弥子さん、宜しければお揃いの万年筆買いませんか?予算は大丈夫です(響が苦笑しながら渡してくれた)宜しければ文房具に詳しい美弥子さんの知恵をお借りしても?あ、このペン良さそうですよ(躊躇いなく美弥子さんの手を取り楽しそうに買い物)


神城・瞬
【真宮家】で参加:◆◎

美弥子さん、思い出の色、思い出した様で。良かった。あ、奏は美弥子さんと回りたい?奏にとって同年代の方と買い物は貴重でしょうしね。僕は母さんと回る事になりますか。

僕の欲しいのは(手に取り)このスターリングシルバーの万年筆とガラスペン。少し高いですが、いいですか?母さんは木製の万年筆ですか。母さんが使いやすいものとなると・・・(丁寧に選ぶ)、あ、母さん。普段使いの鉛筆も欲しいです。ええ、凄く楽しいですよ。この素晴らしい文房具を目にすると凄く心が躍ります。母さんとこういう日々を過ごすことはとてもかけがえのないものです。あ、荷物持ちますよ。



●博覧会の片隅で
 自分の色を思い出した美弥子の顔には、恐らく生前と変わらぬ柔らかい笑顔が舞い戻ってきていて。
 嬉しそうに筆記具を眺める美弥子の姿を見た真宮・奏は、ほっと胸を撫でおろしていた。
(「美弥子さんも恋する年頃の乙女ですし、物凄く親近感が湧きますから」)
 恋する年頃の乙女として、同年代の同性として。
 奏は美弥子のことが、気になって仕方がなかったから。だから良かったと、楽しそうな美弥子の様子を見て心の底から安堵したのだ。
「美弥子さん、思い出の色、思い出した様で。良かった。あ、奏は美弥子さんと回りたい?」
「そうだね、同年代の女の子同士の買い物、奏にとっては貴重な時間だね」
 さすが家族というべきだろうか。奏が何か云言うよりも早く、奏の様子から美弥子と一緒に回りたいことを感じ取った神城・瞬と真宮・響は笑顔で奏を送り出す。
「奏にとって同年代の方と買い物は貴重でしょうしね。僕は母さんと回る事になりますか」
「行っておいで。瞬と一緒に回る事になるね」
「はい、行ってきますね」
 美弥子の眺めるショウウィンドウへと奏が駆け足で近づいて行ったのを見送り、瞬と響もまた、それぞれの買い物をするべく筆記具ブースへと足を踏み入れるのだった。

●空遊びの小鳥たち
「ふむ、これが件の万年筆。美弥子さん、宜しければお揃いの万年筆買いませんか?」
 早速美弥子へと誘いかけた奏は、二人で万年筆を見て回っていた。
 あちこち見て回っていたけれど、やっぱり美弥子は先生が愛用していたモデルが気になるようで。先ほどから食い入るように眺めている美弥子の隣で、奏も一緒にショウウィンドウを睨めっこ。
 よくよく見て見れば、確かに帝都の技術と海の向こうの技術が惜しみなく注ぎ込まれていて、とても美しいデザインに仕上がっていると感じられるのだ。
 美弥子はもう先生の使っていた万年筆を購入していたらしいけど、何本目かは定かではないが――自分用に模様違いのものが気になるらしい。
『でも、奏さん……予算の方、は』
「予算は大丈夫です。母さんが渡してくれましたから」
 遡ること、少し前。「どうせ色々と買うんだろう?」と苦笑しながら、響が奏にそれなりの金額を渡していた。思い返してみれば、娘が色々と買い込むことを見越して用意していたようで。
 母の思いに感謝しながらも、奏は楽しい一時を過ごすのだと決めたのだから。
「宜しければ、文房具に詳しい美弥子さんの知恵をお借りしても?」
『勿論、よ……』
「あ、このペン良さそうですよ。小鳥が飛んでいるみたいな模様ですね」
『そう、ね。螺鈿細工が綺麗……』
 躊躇いなく美弥子さんの手を取って、ガラスへと手を重ねた先には先生が愛用していた万年筆と、模様違いの一本が。
 花吹雪を背景に、数羽の小鳥が仲良く大空へと飛び立っている。真珠のような光沢を放つ螺鈿細工は、見る度にその色を変えて。繊細で美しいこの一本は、永きに渡って使い続けられるだろうから。
 美しい万年筆も、お揃いならきっと、楽しみも思い出も二倍以上に膨らんで。
「これ、最新のデザインなんですね」
『こちらもどう、かしら……?』
 水晶のように透き通った透明なボディが美しい一本は、海の向こうからやってきたらしい。
 カラーインクを入れたのなら、ボディから透けて見えて、きっととても綺麗に映えるのだろう。
 キャップの部分にだけ色がついていて、折角ならと、奏は美弥子と色違いのものを揃えるのだった。
 万年筆の並べられた一角で、楽しそうな年頃の少女がふたり。
 賑やかな時間は、まだまだ終わりそうにない。

●silver knight925、月虹の唄、久遠
 奏と美弥子がワイワイと万年筆を選んでいるその頃。
 響と瞬は、ゆっくりと自分に合う筆記具を探して、博覧会を見て回っていた。
 キラキラと宝石のような煌めきを放つガラスペンに、高級感の漂う万年筆。学生も手ごろに手を伸ばせる入門用の筆記用具に。
 良く書き物をする瞬がこの中から何を選ぶのか、響は楽しみでもあったから。
「瞬は良く書き物をする子だから、何を選ぶか楽しみだね」
「僕の欲しいのは……このスターリングシルバーの万年筆とガラスペン。少し高いですが、いいですか?」
 瞬が手に取ってみせたのは、スターリングシルバーの万年筆だった。
 一見すると装飾の少ないシンプルなデザインの万年筆だが、目を凝らすと雪の結晶が連なったような細かな模様が刻まれていることに気付く。
 少し明るい銀色と、落ち着いた大人っぽい銀色と。それが交互にぐるりと胴軸を一周して、瞬の手元で柔らかな光を宿していた。
 純銀製の万年筆だけれど重すぎるということもなく、程よい重量を保ったまま、ペンの重みだけで滑るように文字を書くことができるのだ。
 ペン先まで六華の模様が施され、シンプルな造形に花を添えている。
「スターリングシルバーの万年筆とガラスペン? 瞬らしいセレクトだね。いいよ、買おうか」
 ガラスペンの方も透明なボディに薄い空色が差し込んでいて、角度を変える度にチラリと優しい虹色が顔を覗かせた。
 月と宙をモチーフにデザインされているらしく、ガラスペンと揃いのペンレストは三日月の形をしていて、ガラスペン自体にも月明かりを彷彿される銀のラメが交ざっている。
 スターリングシルバーとガラスペン。どちらも安いものではないが、息子は書き物を良くするし、「サアビスチケット」もあるからと。
 二つ返事で息子の筆記具の購入を決めた響は、自分の万年筆を探し始める。
「アタシは木製の万年筆がいいねえ。使うなら手に馴染むものがいい」
「母さんは木製の万年筆ですか。母さんが使いやすいものとなると……」
 母である響の言葉を受け、瞬は響に似合う木製の万年筆を丁寧に選び始める。
 女性でも持ちやすいもので、手に馴染むものを、と。
 そうして瞬が選んだのは、少し小さい繭型の万年筆だった。
 檜が材料としして使われているらしく、同軸に現れた等間隔の木目が美しい。手に持ってみれば、ほんのりとした檜の香り鼻まで漂ってきた。
 試しに握ってみると手に馴染み、木とは思えないほど、滑らかな肌触りをしている。
 月日を経るごとに経年変化で木目の色合いも変化していくらしく、今から風合いの移り変わりが楽しみだった。
「良いね。とても手に馴染むし、使いやすそうだよ」
「母さんの手に合ったようで、良かったです。後は……。そうだ、母さん。普段使いの鉛筆も欲しいです」
「あ、鉛筆。そうだね、常時使いにいいだろう。これも買おうか」
 常時使いに、と。数ある鉛筆の中から、目的に合った一つを選んでいく瞬の横顔は、嬉しそうに微笑みを浮かべていて。
(「万年筆とガラスペンを持ってきた時といい……いつも冷静な瞬の満面の笑顔が見れるのは珍しい。こういう文房具には目がないからねえ」)
 息子とのこういう時間もいいものだ。
 熱心に鉛筆を選ぶ瞬を暖かい眼差しで見守りながら、響はそんなことを思うのだった。
「やっぱり、楽しいのかい?」
「ええ、凄く楽しいですよ。この素晴らしい文房具を目にすると凄く心が躍ります」
 とても良い買い物が出来たと楽しげに笑う瞬に、響も明るい笑顔を返した。
「母さんとこういう日々を過ごすことはとてもかけがえのないものです――あ、荷物持ちますよ」
 いつの間にか、響の手には沢山の筆記具が。
 瞬の有難い申し出に幾つかの商品も手渡すも、まだまだ息子の筆記具選びは終わらない様で。
 次の筆記具へと視線が攫われた瞬に苦笑いを零しながら、響は息子の後を歩いていくのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

琴平・琴子
◆■
◎(万年筆、お任せ)

先日、ある人に万年筆を贈る際に色んな万年筆を見てたのですが
色んな種類があって、万年書けると言うのなら、
自分も…なんて思ったりしたのですが
何かおススメなどあるでしょうか

試し書き…(ぬるっとした書き味にびっくり
…買えない額ではございませんが良い物はやはりお値段も良いものですね
ですが万年書ける事を考えれば安いのかも?

手にした万年筆で何をしようかと考えて
思い浮かぶは
手紙に書いた言葉が送った誰かにずうっと残ってほしいということ

記憶が無くなっても、身体が朽ちても
その想いはずっと残っていて
私がいたという証拠がずうっと残っていますように
…寂しがり屋の万年筆でなければいいのだけれども



●『雨上がりのもえぎ』
 身近な人が使っていたから、気になったから、触れる機会があったから等々……万年筆に触れる機会は、人によって様々で。
 学生向けや入門用の万年筆ばかりが取り揃えられた一角で、何やら神妙な表情で店員に問いかけている少女がひとり。
「先日、ある人に万年筆を贈る際に色んな万年筆を見てたのですが」
 万年筆を贈る際に選んでいて、気になったから、と。
 それがきっと琴平・琴子と万年筆の出会いで、自分も――と思ったその瞬間が機会だと思ったから。
「色んな種類があって、万年書けると言うのなら、自分も……なんて思ったりしたのですが、何かおススメなどあるでしょうか」
 入門用も、本格的な一本も。どれも等しく。
 万年筆の名前の通り、丁寧に扱えば、万年に渡って書き続けることができる。
 それに刻を経るごとにペン先が自分の書き癖や筆記角度に合わせてすり減って、ますます自分に合う様になると云うのだから、何とも不思議だった。
 明るく「それなら」と店員が頷いて琴子へと差し出したのは、手頃な学生向けが幾つか。
 帝都で作られた木製のもの、学生向けの握りやすいデザインでグリップが付いたもの、舶来品だという同軸が透明でカラーインクを入れるとお洒落だというもの、そしてラメの交じった半透明なもの。
 そのどれもが少し小ぶりで、成長期真っ只中の琴子でも持ちやすいものだった。
「試し書き……」
 どれにしようかと悩みつつも、とりあえず気になった一本を手に取って試し書きしてみれば、ぬるっとした書き味にびっくりと目を見開いた。
 殆ど力も入れずに、滑るように勝手にペンが動いていく。
 力も要らずに、ごく自然な流れで。文字のトメやハネ、ハライもしっかりと表現出来ていて――そうして書かれた文字は少しだけ、上手く書けたようにも見えた。
「……買えない額ではございませんが、良い物はやはりお値段も良いものですね」
 恐らく初等部向けだろう万年筆は、鉛筆の感覚に近かった。それが少し大人な学生向けになった途端、デザインもお洒落に、書き心地も滑るようなものに早変わりするのだから。
 安価なものもそれなりの書き心地だったけれど、やはり、良い物は値段も書き心地もその数段上を行っていた。
 高価なものが書きやすいとは限らないけれど、それでもある程度値段と書き心地が比例してしまうのも事実で。
「ですが万年書ける事を考えれば安いのかも?」
 これからずっと付き合ってくことを考えると、安いのかもしれない。
 そんなことを思いながら、琴子は手元の万年筆を眺めていた。
 それに一見すると、万年筆同様高いように思えてしまうインク代。しかし、日常的に書き続けても無くなるようで無くならないのが、インクという存在で。
 ボールペンや鉛筆に比べて見れば、ランニングコストが安いという点もあった。
「この万年筆で書くとしたら……」
 幾つかの中から琴子が選んだのは、半透明のミントグリーンが美しい万一本だった。
 キャップ部分の天冠には、ペリドットのような優しい緑の宝石が埋め込まれている。
 柔らかなミントグリーンには銀粉が交ざっていて、光を受ける度にキラキラと輝いて見えた。
 中に入れたインクの色が分かるくらいの絶妙な透明さを保った色合いは、カラーインクを入れると綺麗に透けて一層美しく見えるだろう。
 どんなインクを入れようか。どんな感じに透けて見えるだろうか。考える度に、ワクワクしそうだった。
 そして――手にした万年筆で何をしようかと考えて思い浮かぶのは、手紙に書いた言葉が送った誰かにずうっと残ってほしいということ。
「私がいたという証拠がずうっと残っていますように。……寂しがり屋の万年筆でなければいいのだけれども」
 記憶が無くなっても、身体が朽ちても。その想いはずっと残っていて、ずっと受け継がれて。
 自分が此処に居たという、永劫の証拠を記そうと。そして次の世代へ、託していこうと。
 そしてどうか、私の次は。自分の大切な人達と一緒に歩むことができる子でありますようにと。
 そっと、願いを添えて。

成功 🔵​🔵​🔴​

ロカジ・ミナイ
◆◎
みけ(f25583)

おやおや、みけじゃないの
僕かい?
この世界で使うのに丁度いい筆を探しててね
そしたらこの通り、概ね迷子よ

運よくありついたおデヱトの相手に連れられる格好で
着物を選ぶみたいに興味に導かれるまま
手に取っては置いて、また手に取ってを繰り返す

僕の色は、…そうだね、僕は青がいいかな
ちょうどそこのお空がするみたいな色さ
なんて言って上を指差して
こっちを見てる子に伝え

椿色の似合ってる黒色を探しながら
お花は好きよ
椿なんてぽってりしててとっても好き
みけは椿のどんなとこが好き?
ふぅん、見上げる窓を想像してみる

あっ、待って待ってー

万年筆っての?ポッケに入れられてすぐ使えるやつがいい
って、店員に伝え


玉響・みけ
◆◎
ロカジ(f04128)と

どうしてここに?なんて訊きつつ
次にはならおデヱトしましょ、と

物珍しげにふらふらするも
インクよりも難しい
ねえ、どれにする?
背の高い彼を見上げ

好きな色で決めるのは?
彼の色を問うてみる
僕はね、あか
椿が好きなの、と
手の中のあかを揺らして

椿はね
冬のさなかに咲いたりして
とても綺麗でしょう?
深い緑との対比も素敵
昔、部屋の中ばかりにいた頃があって
見上げた窓枠から見えてたから
馴染みがあるし
憧れでもあるの

それに…

あ、あの人に訊いてみよう
態とか否か、続きはお預け

万年筆
大きくはない手でも持ちやすくて
ペン先に彫刻がされてて
和風か大正みたいなのがいいかな
色は…ひとまず黒?
でも、似合うのがあれば



●紅の羽衣、ヒヒイロカネ
 奇々も怪々。運命の悪戯か、はたまたただの偶然か。
 求める品が同じであるのならば、探した先でバッタリ顔見知りに会うこともきっと、神様の気まぐれによってはあり得るのかもしれない。そんな話で、それだけの話で。
「おやおや、みけじゃないの」
 筆記具の海を揺蕩っていたロカジ・ミナイ(薬処路橈・f04128)は、ふと隣に居た、知り合いに似ている客が、知り合いそのものであることに気付いて。殆ど反射的に筆記具から顔を上げ、その一瞬後には玉響・みけへと話しかけていた。
 突然話しかけられたことにみけも声の持ち主の方へと振り返り、此処に居るはずのない知り合いの登場に、その瞳をぱちくりと瞬かせている。
「ロカジ、どうしてここに?」
「僕かい? この世界で使うのに丁度いい筆を探しててね。そしたらこの通り、概ね迷子よ」
 さも困ったと云うように、聊か大げさに肩をすくめてみせたロカジ。
 入り組み似たようなディスプレイの並ぶ博覧会では、迷ってしまうのも仕方が無いのかもしれない。
 目の前や遠くの筆記具に惹かれるあまり、あっちへこっちへふらふらと蜜を求める蝶のように渡り歩いたのなら。ふと我に返った時には、ここが広い博覧会会場の、いったい何処に当たるのやら。
「そう、ならおデヱトしましょ」
 これもきっと何かの縁なのだから。
 みけのお誘いに、ロカジも二つ返事で肯定を返して。
 運よくありついたおデヱトの相手であるみけに連れられる格好で、ロカジは興味の赴くままに筆記具を見て歩いて行く。
 着物を選ぶかのように、気になる物を取っては戻し。戻しては取って。でも、これとしっくりくるものはなかなか見当たらなかった。
 ロカジの近くで似たように筆記具を選んでいるみけも、難しい表情で小さく唸り声を上げる。
 種類も形も、その数は恐らくインクよりも多い。この中から一本を選ぶのは、インクを選ぶよりも、ずぅっと難しいのだから。
「ねえ、どれにする?」
「そうだね、どうしようかな」
 みけが自分よりも背の高いロカジを仰ぎ見れば、釈然としない表情のまま、そんな返事が返ってきた。
「好きな色で決めるのは?」
 ふらふらと亡者のように彷徨ってしまうのは、選ぶ指針が何も存在しないからで。何か選ぶ基準があれば決まるかもしれないと思ったみけは、インク選びと同じ方法でロカジへと問うてみる。
「僕の色は、……そうだね、僕は青がいいかな。ちょうどそこのお空がするみたいな色さ」
 少しだけ考えるような素振りを見せて、それからロカジは天井の上を指さしながら、青が良いと答えを述べた。
 空のような、深い青。高くなるにつれて濃さを増していく果てなき青天井が良いのだ。
「僕はね、あか。椿が好きなの」
 ロカジの解を聞いたみけは、自身の解を述べていく。椿の色をそのまま落とし込んだような、手の中のあかをちゃぷりと揺らしながら。
「お花は好きよ。みけの云う椿なんて、ぽってりしててとっても好き。みけは椿のどんなとこが好き?」
 花は好き。その中でも特に好きな花――ロカジにとっての特別の一つに、椿の花の名前もある。丸く鮮やかで、豊かさを称えるようなあの花が。
「椿はね。冬のさなかに咲いたりして、とても綺麗でしょう?」
 語りと共にみけが思い起こすのは、小さな窓から見上げた先の外の景色。
 こんこんと雪が音もなく降り積もった朝、深い緑と共にただ、静かに白を被っていた赤い花のこと。
「深い緑との対比も素敵。昔、部屋の中ばかりにいた頃があって、見上げた窓枠から見えてたから。馴染みがあるし、憧れでもあるの」
 格子状に区切られた窓の枠。手が届きそうで、届かない先に咲く椿の花。
 何があっても変わらずに花を咲かせる椿の姿は、みけの憧れでもあったから。
 ふぅん、とみけの話に相槌を打ちつつも。見上げる窓を想像してみるのは、ロカジだった。
 届かぬ先に咲く赤い花。きっとそれは、残酷なほどに美しいに違いない。
「それに――……。あ、あの人に訊いてみよう」
 と、そこまで語ったところでふと我に返る。みけの視線の先に、店員さんの姿が在った。
 態とか否か、続きはまた次の機会に。
「あっ、待って待ってー」
 店員の姿を見るなり駆けだしたみけの背を、慌ててロカジも追いかける。
 きっと筆記具に詳しいこの人たちなら、最適な解を持ち合わせているだろうから。
「万年筆――大きくはない手でも持ちやすくて、ペン先に彫刻がされてて。和風か大正みたいなのがいいかな」
 みけの希望を元に、少しずつ候補が絞られていく。
「色は……ひとまず黒? でも、似合うのがあれば」
 他の色でも、と話すみけに、そっと渡されたのは漆塗りの黒い万年筆。
 ペン先には、はらり舞い散る葉のような紋様が刻み込まれていて。
 特別大きくも無いサイズは、みけの手でも持ちやすくて。握ればしっかり手に馴染む感覚がした。ゆったりと寝かせ気味で文字を綴れば、きっと美しい言葉が紡がれるのだろう。
 深い黒の胴軸には、とっぷりと濃い赤色の椿の蒔絵が描かれている。
 ひとひらずつ、綺麗に命を吹き込むように、手作業で描かれた椿たち。
 きっと使い込めば使い込むほど、漆塗りの椿はその濃さを増していくだろうから。
「万年筆っての? ポッケに入れられてすぐ使えるやつがいい」
 細かく店員に希望を伝えたみけとは反対に、ロカジはざっくりと指定してみせた。
 ポケットに入れられて、多少乱雑に扱っても壊れないような。
 繊細な筆記具である万年筆。そのようなものが存在するのかと思えば――普通に在った。
 忙しい医師やスポーツ選手、現場技術者をターゲットに作られた、多少雑に扱ったり、落してしまったりしても無傷で耐え抜くへっちゃらな子が。
 鈍色に光る角ばったボディは強く逞しく、勝手に転がり迷子になってしまうこともなく。そして、他の万年筆と比べて重く感じられる。
 胴体からペン先に至るまで、造りは全体的にがっしりとしているようだった。そして使うほどに鈍色は色を変え、色の変化も楽しめるところだと云う。
「落としても大丈夫? ふしぎな万年筆も、あるんだね」
「発想の数、人の数だけありそうね」
 それぞれの万年筆を手に取って。
 世界は広いと、どちらからともなく呟くのだった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

叶・景雪
◎◆
【花雪】
難しい漢字は平仮名使用。名前以外カタカナはNG

きょうは影朧のおねーさんを守ればいいんだよね?
つまり、今日のぼくたちは一日探ていけんごえいだねっ(二人で顔みあわせしぃ~とした後、かでるおねーさんの手を引き)
影朧おねーさんの後を「忍び足」でつけつつ何かあれば「かばう」ね!
あ、みてみて、あそこにすてきながらすぺんがあるよ?
ぼくは刀の形をしたがらすぺん(詳細はお任せ)が気になるかなぁ?
ちょっとぼくの本体にちょっとにてるなって!
かでるおねーさんはどんなのが気になるの?(一緒にじぃ~)
(きょろきょろ)おねーさんにないしょでおそろいの筆置きも買うね。海みたいな色か白い貝殻みたいなのがあるといいな


瀬名・カデル
【花雪】◆◎
景雪と一緒に美弥子をそっと見守るんだよ!

探偵さん?護衛さん?もしかしたら番犬さん?
周りの人たちが怖がらない様に、独りじゃなくて誰かがいるようにみせて美弥子は怖くないんだよーって伝わったらいいね!

いっぱいの文房具でとっても楽しいよね、ボクも何か一つ欲しいなぁ、ガラスペンがいいかなぁ(きょろきょろ)
壊れにくいようにキャップ付きのやつで、旅に持っていけるものかなぁ…
あ、キラキラ綺麗なのがいいかな!
(詳細はお任せ)

景雪は何か見つかった?
刀の形ってとっても素敵でかっこいいね!

欲しいのが見つかったらお買い物。
景雪は他にも探してるみたい
あとで使う時に教えてくれるかな?
使うのがとっても楽しみだね!



●小さな冒険譚
 影朧の女学生は、あちこち見て歩いているとは思っていた。
 それでも自社が出店するブースにまで現れるとは思ってもいなかったのだろう。
「おま……!?」
 影朧の存在に、思わず声を荒げそうになった壮年の男性がひとり。
 しかし、口を開けば顔を覗かせるはずの口汚い罵詈雑言の類は、不格好に不発のまま空気に溶けて消えて――だって女学生の後ろには、しぃーっと人差し指を唇に当てて、そぅっと微笑む二人の少年少女の姿が在ったのだから。
 流石に年端もいかない(ように見える)少年少女の前で、取り乱すほど子供でも無く。
 高級筆記具を扱う社員の態度として、それはどうなのかと問いかければ……まあ、ギリギリ及第点だろうと評価できる態度で、壮年の男性は美弥子が去るまでの間、彼女のことを何も言わずに眺めていたのだった。
 何故、少年少女が美弥子の後ろをつけていたのか。話は少し前まで遡る――。

●作戦会議
「きょうは影朧のおねーさんを守ればいいんだよね? つまり、今日のぼくたちは一日探ていけんごえいだねっ」
「そうだね。探偵さん? 護衛さん? もしかしたら番犬さん?」
 ひそひそと、二人仲良く顔を寄せて。
 叶・景雪(氷刃の・f03754)が瀬名・カデル(無垢なる聖者・f14401)に微笑みかければ、カデルもまた、景雪に向かってにぱっと小さな笑顔を浮かべてみせた。
 今日は一日、二人で護衛ごっこ。美弥子のお姉さんが、傷付かないように。遠くからそうっと見守って。
「周りの人たちが怖がらない様に、独りじゃなくて誰かがいるようにみせて美弥子は怖くないんだよーって伝わったらいいね!」
「そうだね。みんななかよく、楽しみたいもんね!」
 二人でしぃ~っと囁き合ったあと、景雪はカデルの手を引いて。
 いざ、作戦開始! 小さな二人の騎士は、美弥子の後をそうっとつけていく。

●すてきな出会い―刻むコトノハ・星華の道しるべ―
「あ、みてみて、あそこにすてきながらすぺんがあるよ?」
 幸い、影朧のおねーさんを叱ろうとした、大きなおにーさん以外に影朧のおねーさんを傷付けようとした人はいなくて。
 それどころか、隠れん坊でもしているのかな、と。前を歩くひとりと、追いかけるふたりを微笑ましそうに見守る人が殆どで。
 美弥子を追いかけていた景雪とカデルだったけれど、美弥子は心惹かれる筆記具とばったり出会ってしまったのか、その場から暫く動かなかった。
 ひまだし何かないかなと、景雪が見渡した先に――ピカピカと輝く、ガラスペンの姿が!
 景雪の声にカデルも振り返ると、色とりどりの色彩を放つ素敵なペンたちと目があって。
「いっぱいの文房具でとっても楽しいよね、ボクも何か一つ欲しいなぁ、ガラスペンがいいかなぁ」
「ぼくは刀の形をしたがらすぺんが気になるかなぁ?」
 景雪が一目見てこれ! と気になったのは、刀をモチーフに取り入れたガラスペンだった。
 透き通った鉄色の胴体が、まるで刃のように光り輝いている。
 刀のように少しだけ沿った胴体は、沿っていても握りやすいように工夫も施されているみたいだった。
 ペン先は手紙や日記に……と、用途に合わせて付け替えができるようで、結いつけられた青色の組紐が、手の動きに合わせて揺ら揺らと揺れるようになっていた。
「ちょっとぼくの本体にちょっとにてるなって!」
 シンプルかつ直線的な装飾に、音もなく、けれど鋭く輝く刀身――ヤドリガミである自分の本体を思い浮かばせながら。
 景雪は運命的な出会いをしたガラスペンを、大切そうに胸に抱き込んだ。
「かでるおねーさんはどんなのが気になるの?」
「壊れにくいようにキャップ付きのやつで、旅に持っていけるものかなぁ……。あ、キラキラ綺麗なのがいいかな!」
 色違いの瞳を輝かせて、カデルがアーシェと共に眺める先。そこには、持ち運び可能なガラスペンばかりが並べられていた。
 卓上で使うものと比べると少し小ぶりで、万年筆のようなデザインで。けれど、光を透かし輝く胴体は間違いなくガラスペンの特徴で。
 キラキラと花の綻ぶキャップを開いたら、銀の星々が宿ったペン先がその姿を現わした。
 従来通りインクにペン先を浸して使う他、万年筆のようにインクを吸い上げて持ち運びすることもできるらしい。旅先でのインク問題に頭を悩ませることも、少なくなりそうだった。
「景雪は何か見つかった? 刀の形ってとっても素敵でかっこいいね!」
「かでるおねーさんのも、きらきらしてて、ほうせきみたい!」
 それぞれ選んだガラスペンを見せ合って、それからにこっと笑い合ったふたり。
 これで買い物を終えても良かったのだけれど、景雪にはもう一つ、買いたいものがあったみたいで。
(「海みたいな色か白い貝殻みたいなのがあるといいな」)
 おねーさんにないしょで、おそろいの筆置きも。
 そうして悩んで景雪が手を伸ばしたのは、海の色をその身に抱いた貝の形のペンレスト。
 青に交じる白が涼やかで、眺めていると海に行きたくなってしまうほどだった。
(「あとで使う時に教えてくれるかな?」)
 こっそりとガラスペンの他に何かを買った景雪をそっと見守っていたのは、カデル。
 きっと後で教えてくれるだろうから、深くは聞かずに。後でのお楽しみに。
「使うのがとっても楽しみだね!」
「うん、早くつかいたいね!」
 丁寧に箱に仕舞われたお気に入りを大切に抱きしめて、笑い合えば。
 影朧のおねーさんも、こっちを微笑ましそうに眺めていることに気が付いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

月居・蒼汰
◎◆
ラナさん(f06644)と

幸せそうな美弥子さんの様子を
遠くから見てほっと一息

素敵なインクも見つけたことだし
ペンも欲しくて彷徨う視線
並ぶペンはどれもキラキラしているけれど
ぱっと目を引いたのは綺麗なガラスペン
でも、折角だから万年筆も見てみようかな
店員さんにおすすめを聞きつつ
ふとラナさんがどんなのを見てるのか
ちょっぴり(内心はすごく)気にしていたら
えっ、お揃いですか…?
それは、はい、…喜んで
それなら、この空色と桜色がグラデーションに
なっているペンはどうでしょう?
これならラナさんが持っても俺が持っても
おかしくはない…はず
勿論、俺も大切にします

それにしてもサアビスチケットは本当に便利だ…(しみじみ)


ラナ・スピラエア
◎◆
蒼汰さん(f16730)と

普段使っているのは羽ペン
書き慣れた新しい物を探すのも良いけれど…
視線はつい、綺麗なガラスペンへ

悩んでいる蒼汰さんをちらりと見て
…あの
もしも、良かったらですね
折角インクが、ふたつでひとつの物なので
ペンも…お揃いにしませんか?
ドキドキしながら尋ねる

頷いて貰えれば微笑んで
透き通る桜色も
夜空のようなガラスも素敵で
どれが良いでしょう?

蒼汰さんの見つけたペンを見て
わあ、すごく綺麗ですね…
蒼汰さんが大丈夫なら、これが良いです
桜の咲く中をお散歩しているような温かな色
ふふ、一足先に春が訪れたみたい
手元にも
そして心にも

2人で同じ色を手に出来たことが嬉しくて
…大切にしますねと微笑んで



●そらとさくらのシンフォニア
 ふわりと梅の蕾が綻ぶかのように。
 薄紅色にその頬を染め、嬉しそうな様子の美弥子を遠くからそっと眺めていた月居・蒼汰はほっと短く息を吐き出した。
 どうなるかと思ったが、誰も傷つくこと無く終息を迎えて本当に良かったと。
 素敵なインクも見つけたことだし、インクが決まれば、自然とペンも欲しくなってしまう。
 素敵なペンに出会うべく、蒼汰の視線はゆらゆらと博覧会会場のなかを彷徨い始めていた。
 キラキラとした様々な筆記具をその瞳に映す蒼汰の隣で、これ、とガラスペンを穴が空きそうなほどじっと見つめていたのはラナ・スピラエア。
(「書き慣れた新しい物を探すのも良いけれど……」)
 アックス&ウィザーズでは、羽ペンやつけペンが主流で。その世界出身のラナも例に漏れず、普段使っているのは羽ペンだった。
 新しい羽ペンを探すのも良いけれど、折角ならば「初めまして」も楽しみたい。それに、芸術品のような、宝石の様な美しい色彩にその目を奪われてしまったから。
 ラナの視線はつい、綺麗なガラスペンへ。
 言葉を交わさずとも、それは隣の蒼汰も同じだったみたいで。
 並ぶ筆記具はどれもキラキラしているけれど。蒼汰の目をぱっと引いたのもまた、綺麗なガラスペンだった。
「でも、折角だから万年筆も見てみようかな。ラナさんは、どんなものが気になるのかな?」
 店員さんにおすすめを聞きつつ……さり気ない流れで尋ねて。
 ラナがどんなものを見ているのか。それがすっごく気になっていたから。
 自分と同じものなら勿論嬉しくて。自分と違うものでも、彼女の新しい一面を知ることが出来たようで新鮮な気持ちになる。
 心の中の気持ちは表情には出さずに、ごく自然な振りを装いながらも、蒼汰はラナへと問いかけた。
「……あの。もしも、良かったらですね」
 どうやって切り出そうかな、なんて。悩む蒼汰をちらりと見つつ、様子を伺っていたのはラナ。
 渡りに船とばかりに絶妙なタイミングでやってきた質問に、今しかない、とドキドキしながらも蒼汰に尋ねかけた。
「折角インクが、ふたつでひとつの物なので。ペンも……お揃いにしませんか?」
「えっ、お揃いですか……? それは、はい、……喜んで」
 ラナからの思ってもいない提案に、少しだけ言葉を詰まらせて。それでも蒼汰はしっかりと、力強く頷いてみせた。
 彼女とのお揃いなら、拒む理由なんて何処にも存在しないのだから。
「では、どれが良いでしょう?」
 満開の桜にもきっと、負けないくらい。頷いて貰えたと分かった途端、ラナは薄桃色にその頬を染めて、ふんわりと微笑んでみせた。
 そうと決まれば、どのガラスペンをお揃いにしようかな、なんて。
 透き通る桜色も、夜空のようなガラスも素敵で。二人一緒の物を、と考えるだけで心が躍って。
「それなら、この空色と桜色がグラデーションになっているペンはどうでしょう?」
 数多在るガラスペンの中から、蒼汰が選んだのは、空色から桜色へと移り変わるグラデーションが美しいガラスペンだった。
 クルクルと二重螺旋を描くガラスペンの造形は芸術品と呼べるほどで、ガラスの中には桜吹雪の代わりに、銀のラメがふわりと舞い散っている。
 ペン先の方は、春空のような柔らかい空色を宿し。そこから上に昇るにつれて、淡い桜色がちらつくようになっている。ペン先から一番離れたところでは、満開の桜色が綻んでいた。
 空色と桜色が混ざり合う中央部分は、優しい紫色に染まっていて。
 これなら、透き通る桜色も、夜空のようなガラスの色彩も、優しい空色も。ぜんぶを楽しむことが出来るだろうから。
「これならラナさんが持っても俺が持っても、おかしくはない……はず」
「わあ、すごく綺麗ですね……。蒼汰さんが大丈夫なら、これが良いです」
「はい。そうと決まれば、これにしましょうか」
 蒼汰が見つけたガラスペンを見たラナは、その色彩に一目で心を奪われた。
 ひんやりとした冷たいガラスの感触とは反対に、ガラスの中に閉じ込められているのは、桜の咲く中をお散歩しているような温かな色ばかりで。
「ふふ、一足先に春が訪れたみたい」
 手元にも、そして心にも。
 これから訪れる春に思いを馳せながら、きっと二人で見上げる今年の春は、普段よりも特別な色に染まるだろうから。
「……大切にしますね」
「勿論、俺も大切にします」
 二人で同じ色を手に出来たことが嬉しくて、素敵な出会いが楽しくて。
 にこりと微笑んだラナにつられるように、蒼汰もまたふわりと笑顔を溢れ出した。
「それにしてもサアビスチケットは本当に便利だ……」
 そうっと値段へと視線を落せば――一本でもそれなりに値を張る金額が示された値札が、にこりと蒼汰に微笑みかけていた。
 安くはない買い物に、サアビスチケットは便利だとしみじみしながら。
 それでも、ラナとふたり。これからずっと使っていくもので、彼女の笑顔を見られたのなら――案外、安い物なのかもしれないな、と。そんなことを想いながら。
 空と桜の交響曲を二本抱えて。今度は面白いものは無いかなと、二人は再びガラスペンの海へと泳ぎ出していく。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

リラ・ラッテ
◆◎

まあ、まあ
こんなにたくさん、素敵な筆記具があるなんて

キラキラと眸輝かせ、ひとつひとつ眺める

目に飛び込んできたのは、
ガラスがペンの形を模したモノ

ガラスペンというの?
とても素敵だわ
羽ペンや万年筆は知っていたけれど

まじまじと物珍しげに見つめて

……これにしようかしら
透明で、インクの彩に染まりゆく様子もきっと美しい
文字を書くことが楽しくなりそう

自分の分を決めたなら、影朧の彼女の方へ

お土産探し、かしら
いいものは見つかった?

返事はどうあれ、幸せそうな表情の美弥子さんを見て
つられて、ゆうるり笑みがこぼれ

あなたが幸せそうに選んでくれた物なら
きっと、相手の方も喜んでくれると、そう思うわ



●クリスタルのお姫様
「まあ、まあ。こんなにたくさん、素敵な筆記具があるなんて」
 右を向けば、素材も造形も同じものは二つとしてない万年筆が。
 左を向けば、煌めきを纏う氷のように繊細なガラスペンが。
 驚きのあまりふわふわと辺りを見渡したリラ・ラッテ(ingénue・f31678)を、筆記具は暖かく歓迎してくれていた。
 キラキラと眸輝かせ、ひとつひとつを眺めてゆっくりと歩んでいくリラ。
 見覚えのある王道の羽ペンや、つけペンに。
 真鍮やアルミといった、思ってもいなかった素材を用いて作られたペンたちは物珍しく、そして新鮮で。
 眸に好奇心を宿して、星よりも瞳を輝かせながら筆記具たちを見て回っていたリラの目に飛び込んできたのは、ガラスがペンの形を模したモノ。
 透き通った氷のような、クリスタルような。不思議な見た目をしていて、触れれば体温で溶けてしまいそうなほど、繊細で。
 それでも、そっと陶磁器のようなその手で触れてもなお、輝きを保ったままそこに在る。
「ガラスペンというの? とても素敵だわ」
 羽ペンや万年筆は知っていたけれど。
 ガラスでペンを作ろうとしてしまう発想も美しければ、それを実現させてしまった技術にも感服だった。まじまじと物珍しげに見つめて、それから、そっとガラスペンに寄り添うように、決断を一つ。
「……これにしようかしら」
 リアが手に取ったのは氷のような、クリスタルのような。不思議な色彩のガラスペンだった。
 無色透明なガラスの色彩は、ただ、自然のままの姿を保っていて。気泡が交じることもなく、作り上げられた素敵な芸術品だった。
 細やかで複雑なレヱスのような装飾をその身に纏い、リラの手元で涼しげな音を立てている。
 透明で、インクの彩に染まりゆく様子もきっと美しい。手元のクリスタルのお姫様は、インクの彩をそっくりそのまま、吸い上げてみせるだろう。
 思い思いの色に染め上げて、そのペン先を紙につけたのなら。文字を書くことが楽しくなりそう。
 誰に宛てようかしら。何を書こうかしら。それを考えていくだけで、とても幸せになれるのだから。
「お土産探し、かしら。いいものは見つかった?」
『はい。あなた、も……?』
 自分の分を決めたリラは、次は影朧の彼女の方へ。
 そうっと寄り添うように美弥子の傍に立ったのなら、良い出会いはあったのかしらと微笑みかける。
 はい、と。迷うことなく答えてみせた美弥子の表情は、とても幸せそうで。
 リラもまた、つられて、ゆうるり笑みがこぼれて咲いていく。
 柔らかく見下ろすのは手元のガラスペン、素敵な出会いに恵まれたことは確かだったのだから。
「あなたが幸せそうに選んでくれた物ならきっと、相手の方も喜んでくれると、そう思うわ」
『ありが、とう。喜ぶ顔が見たい、から……』
 だから、頑張って選んだの、と。
 答えてみせる美弥子の表情に、この様子なら大丈夫ね、と思ったことは、リラだけの秘密に。
『あなたも、良い出会いがあった、のね……』
 お互いに素敵な出会いを喜び合えば、二人の手元に抱かれた彩が誇らしそうに、その身を揺らしたような気がした。
 永きパートナーと共に、ガラスペンと万年筆は、これからどんな彩を紡いでいくのだろう。
 今からその先が、楽しみだったから。

大成功 🔵​🔵​🔵​

萌庭・優樹

ライラックさん(f01246)と

欲しいのはやはり念願の万年筆!
ゼロが幾つも並ぶ代物には、ひえっと声あげ
…お高いものって、上には上があるんですねえ

どれも綺麗で悩んじゃうけれど
ニブに模様や字が刻まれたものは一際目を惹いて
おれ、こういうのがいいなぁ…
それから、おれも桜都製のものでと
小さなところでお揃いに!

ライラックさんのは、お花柄?
あなたが言葉を綴れば、綴るほど
その花たちも美しく咲くような気がして
うんっ、すごくステキなチョイスです!

へへ…なんだか胸を張りたいキモチかも!
この万年筆に似合うような
立派なおとなになりたいなぁって
気が引き締まります

初めてを重ねに重ねてゆく幸せ
この喜びをどんな風に書こうかな


ライラック・エアルオウルズ

優樹さん(f00028)と

万年筆は、意匠が多用で
彼方此方と目移りするなあ
一度は手にしたいけれども
手が届かないね、高級品は

だから僕は、背伸びせず
花彩を手繰り寄せたのだし
花を描く万年筆にしようか
芽吹きめいて筆が進むかも
舶来は馴染み深いから
折角だ、桜都製がいい

初めてを手にする貴方は
あれこれと悩むだろうか
素敵なもの、見つけた?
覗き込めば揃いに笑って
ささやかと飾るものを選ぶ
貴方は矢張り御洒落だね
洋墨浸すも、心躍りそう

デビューした気分は如何かな?
初めてを手に大人を志す貴方に
微笑ましい心地になりながらも
手紙は畏まらないでね、なんて
元気満ちた文字列を浮かべた

互いに見つけた素敵なひとつ
さて、試しと何を綴ろうか



●lucky lilac、彩りの花冠
 ガラスペンに羽ペンに、つけペンまで。
 それに鉛筆や筆もあるけれど――欲しいのはやはり念願の万年筆!
 萌庭・優樹が意気揚々と足を踏み入れた先は、待ち焦がれていた万年筆のブース。
 ……所で話は変わるけれど、各ブースの入り口は一番人目を引く特性がある。それに合わせて、万年筆ブースの入り口にも、各社が太鼓判を押しておススメできる品々が展示されているわけで。
 足を踏み入れて、僅か数秒。堂々と聳え立つ目の前のショウウィンドウを見上げ、優樹はひえっと素っ頓狂な声を上げていた。
「……お高いものって、上には上があるんですねえ」
 ゼロが幾つ並んでいるかなんて、途中で何度数え直したことか。
 とりあえず、世間一般の九割の人々に縁のない万年筆であることは確かだった。
 手に収まるくらいとペン自体は小さいはずなのに、とても大きな存在感を醸し出している。
「一度は手にしたいけれども手が届かないね、高級品は」
 じっと触れることすら憚られそうな万年筆に足を止め、驚いたように見上げていた優樹にクスリと笑み一つ零したのは、ライラック・エアルオウルズだった。
 急がなくても万年筆は逃げないと、ゆったりとした足取りで歩いて来たライラック。
 優樹の後ろで彼女と同じように高級品を見上げたライラックは、苦笑交じりにそう呟いて。
 一体、この世に存在する人々の中で、このような高級品を手に取って使う人は何人いるのだろうか。
 恐らく、このような超高級品は誰かの手に渡っても、重厚なガラスケヱスに展示されてお終いだろうから。それでペンが幸せなのかは分からないけれど――と、万年筆としての幸不幸に思考を少し巡らせた後、二人は今度こそ足を踏み入れたのだった。
「万年筆は、意匠が多用で彼方此方と目移りするなあ」
 使い手と作り手のだけ、その数は存在すると云っても過言ではない。
 多種多様な万年筆を前に、二人はゆったりとした動作でペン選びに勤しんでいた。
「だから僕は、背伸びせず。花彩を手繰り寄せたのだし、花を描く万年筆にしようか」
 高いものが良いとは限らない。背伸びをせずに、自分に似合う一本を、と。
 舶来品はなじみ深い。偶には桜帝都産も趣があって良いだろう。
 ライラックが手に取ったのは、彼が選んだリラのインクとお揃いの、花を抱いた金属製の万年筆だ。
 この帝都で生まれたというこのペンは、精巧な装飾のリラの花束が胴軸に刻み込まれている。
 胴軸の何処かに必ず一つ以上はあるという、五枚花弁のリラの花を探す時間もまた、楽しい物だった。
 やがてライラックが見つけたのは――軸の中央で寄り添うように咲き綻ぶ、二つの幸運の証。五枚花弁の、二つのリラの花。
「おれ、こういうのがいいなぁ……」
 初めてはきっと、一等特別なものになるだろうから。
 どれも綺麗で悩んじゃうけれど、ニブに模様や字が刻まれたものは一際目を惹いて。
 ライラックが桜都産の物を選べば、彼に倣うようにして優樹もまた、桜都製の中から選ぶことに決めたのだ。
「おれも桜都製のもので」
 小さなところでお揃いに!
 そうして優樹が手を伸ばしたのは、ニブに絡み合う蔦と花が刻まれた、学生向けの一本だった。
 ライラックと同じく金属製のものだったけれど、金属で作られているとは思えないくらい軽い。長時間手に持って書いても、疲れることは無いだろう。
 若葉に蔦に、それから季節の花に。花々が一斉に咲き綻んだかのように、植物の模様が刻まれた胴軸は華やかで賑やかなものだった。
 賑やかで、けれど不思議と調和して一つの自然を小さな軸のなかで創り出している。
「素敵なもの、見つけた?」
「はい! ライラックさんのは、お花柄?」
 優樹はすぅっと瞳を細めて、ライラックの手元で綻ぶ花を見る。
 あなたが言葉を綴れば、綴るほど。その花たちも美しく咲くような気がして。
 あなたがどんな物語を描くのか、それが楽しみだったから。
「うんっ、すごくステキなチョイスです!」
「貴方は矢張り御洒落だね」
 洋墨浸すも、心躍りそう。
 その紡ぎが、特別になっていくから。
「デビューした気分は如何かな?」
「へへ……なんだか胸を張りたいキモチかも!」
 万年筆の先輩としてライラックが今日歩み出したばかりの後輩に問うてみれば。
 気恥ずかしいやら、嬉しいやら。色々な色彩に頬を染め、元気の良い返事が返ってきた。
「この万年筆に似合うような立派なおとなになりたいなぁって。気が引き締まります」
「そうかい。手紙は畏まらないでね」
 蛹から蝶へ至るように。初めてを手に大人の階段を歩んでいく、優樹に微笑ましい心地になりながらも。
 貴方との仲なのだから、そう畏まらないで欲しいと述べれば、はい! と威勢の良い頷きが返ってきた。
 初めてと共に紡がれるのは、きっと元気満ちた文字列で。
 自分の元へ手紙が届く日が、今から楽しみだった。
「さて、試しと何を綴ろうか」
「そうですねぇ。この喜びをどんな風に書こうかな」
 初めてを重ねに重ねてゆく幸せ。その先に綻ぶのは、満開の楽しみと嬉しさで。
 互いに見つけた素敵を手元に、何を書こうか、なんて。
 それも考え出したら、きっとキリがない。
 書きたい事ばかりで。書きたい言葉ばかりで。二人悩む時間は、ゆるりと流れていく。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

アオイ・フジミヤ
シン(f04752)と
◎◆

インクから拾い上げた梅の花を美弥子さんに
大事な人の眼に
あなたはこんなに可憐に映っていたのね

万年筆はtutu(祖母)が花屋の仕事で使っていたの
花に優しい言葉を添えるとき
常連客に季節の挨拶に

何気なく日々に添う万年筆がいいな
シンと私の日々に添う言葉を綴るもの

手に取るのはシンプルな黒地にゴールドの縁取りの万年筆
ヴィンテージの大事に使われてきたであろうもの
これがいいな
この万年筆はこの月に良く似合う
使うたびにシンを想える

隣の店でふと、銀の流水の漆細工が施された筆を見つけた
反射的にそれも買う
墨一色の世界で生きてきた彼は今がカラフルだと笑った
そんなシンの描いた字が見てみたいから


シン・バントライン
◎◆
アオイ(f04633)と

恋の色は様々だ。
色を見ればその時の風景も香りと共に思い出す気がする。

祖国での主な筆記具は筆だった。墨を磨る音も香りも懐かしい。初めて万年筆を見た時は魔法よりも魔法めいていて驚いた記憶がある。
「万年筆はアオイに貰ったやつがあるけど…珈琲のインク専用に一本買おうかな」
雰囲気に合う様に木軸の万年筆を。
珈琲好きな彼女にこれで手紙を書けば喜んでくれるだろうか。

彼女が手に取った筆を見るとなんだか嬉しくて。
彼女が鮮やかな毎日をくれるなら、自分は闇の中で見つけるささやかな楽しみを教えてあげたい。
「まずは墨の磨り方からやな」
僅かな光に胸を穿たれ感覚が研ぎ澄まされる、月の裏側の世界を。



●再会の約束
 はらり、と数輪。
 零れ落ちたのは、紅梅の花だった。少し前にインクから咲き、そして床へと零れ落ちた梅の花を拾い上げ、アオイ・フジミヤはそっと美弥子へと差し出した。
「大事な人の眼に、あなたはこんなに可憐に映っていたのね」
『ありがとう。そう、みたいね……』
 深い雪も耐え忍び、ただ春を待つ。梅の花。
 先生の瞳にはこんなにも可憐に映っていたのだと、美弥子は懐かしそうに瞳を細め、梅の花弁を愛おしげに撫ぜる。
 貴方がくれた私の色も。あなたがくれた梅の花も、次への想い出として。共にいこうと、そう思ったから。
「どうか、良い旅路を」
『ええ。あなた方、も。また、何処かで……』
 いつかを願い、笑って別れを告げよう。
 また会うその日まで。
「絆の数だけ、色も……か」
 恋の色は様々だ。
 色を見ればその時の風景も香りと共に思い出す気がする。
 美弥子と少しの間言葉を交わすアオイの様子を、シン・バントラインは傍でそっと見守っていた。
 今は思い出せなくても、きっと。その奥底で眠っているだけで。
 いつかまた、ひょっこりと出会うかもしれない。それを信じて。
 ふたりとひとりは、それぞれの道を歩みだす。

●君の風、小夜月、流水
 個性溢れる万年筆を前に、シンが思い起こすのは、今は亡き祖国での日々のこと。
 祖国での主な筆記具は筆だった。墨を磨る音も香りも、懐かしい。
 柔らかな文字に、薄い紙、黒一色の色合いも。脳裏に焼き付いて離れない。
 だから初めて万年筆を見た時は、魔法よりも魔法めいていて驚いた記憶がある。
 様々な素材で作られて、インクも色とりどりで。筆と比べても嵩張らず、持ち運びも容易にできて。そんな、魔法のような筆記具だと。
「万年筆はアオイに貰ったやつがあるけど……珈琲のインク専用に一本買おうかな」
 珈琲色には、似たような茶色がきっと似合う。インクの雰囲気に合う様に、シンが選んだのは木軸の万年筆だった。
 楓の木を原料に作り出されたのは、珈琲を彷彿とさせる柔らかな赤色を抱く、深い木色の万年筆。
 ペン先は勿論、金属なのだけれど。違和感がないほど、楓の木と一体化していて。木と金属の調和が素晴らしい。
 丸いフォルムのこの一本は、何とも暖かみの溢れる雰囲気を抱いている。使い込めば使い込むほど、その赤交じりの色彩はより鮮やかなものになっていくことだろう。
 珈琲好きな彼女にこれで手紙を書けば喜んでくれるだろうか。手紙には、何と書こうか。
 一つを決めたシンの横で、アオイもまた、気になる一本を手に取っていた。
「万年筆はtutuが花屋の仕事で使っていたの」
 アオイの記憶と共に、今も優しく微笑んでいるのは、花屋で働く祖母の姿。
 花に優しい言葉を添えるとき。常連客に季節の挨拶に。
 インクを変えて、心を宿して。
 手先の細かな仕草や心の繊細な移り変わりも敏感に感じ取るペン先だから、言葉を贈るときにはピッタリの筆記具なのだと。
「何気なく日々に添う万年筆がいいな」
 シンと私の日々に添う言葉を綴るもの。
 嘗ての祖母のように、何気ない日常に彩を添え、日々を豊かにするための一本を。
 アオイは望んでいるのだから。
「これがいいな」
 アオイが手にしたのは、シンプルな黒地にゴールドの縁取りが映える万年筆。
 柔らかな金色のキャップリングが、月の環のように静かに輝きを放っている。
 状態も良好そのもので、製造から長き月日を経てもなお、そのペン先はまだまだ沢山の文字を紡いでいけるよう。
 ヴィンテージ品であるこれは、この世に唯一無二の貴重な品だ。
 その身に走る細かな傷跡も、数々の持ち主と共に歩んできた、長い歴史の現れなのだろう。
 そしてこれからは、アオイと共に、シンとの日常を刻んでいく。
 月を抱くインクに良く似合う。使うたびにシンを想えるのだから。
「これは――」
「ん。どうかしたん?」
 それぞれ万年筆を購入して、折角ならと覗き込んだ隣のお店。
 そこでふと、アオイは銀の流水の漆細工が施された筆を見つけた。
 細かく悩む前に、気付けば購入を終えていて。
 墨一色の世界で生きてきたシンは、万年筆が隣にある今がカラフルだと笑っていた。
 そんなシンの描いた字が見てみたいから。だから、彼に贈る為に。
「まずは墨の磨り方からやな」
 アオイがはにかみながら見せたソレに、シンは思わず釘付けになった。
 漆黒の漆細工に浮かび上がるは、澄み流れる銀の水。
 懐かしい、祖国で手にした筆の姿で。何故、彼女がそれを手にしているのかと問えば。
「シンの文字が見て見たかったから」
 そう、満更でもないような表情で応えられた。
「上手く書けるとは限らんけど、アオイの頼みやったら仕方ないな」
 だから、まずは墨の磨り方から始めよう。幼い頃、墨を手にした家族の背を思い浮かべて。不格好でも、不器用でも構わないから。また此処から始めようと。
 アオイが示した僅かな光に胸を穿たれ、感覚が研ぎ澄まされる。月の裏側の世界を。
 彼女との新たに綴る白紙の頁を、彩りを添える日々のことを。この目で見てみたいから。
 そしていつか、振り返る為に。記録に残していこう。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

尾宮・リオ

駒知さん(f29614)と



視界に捉えた美弥子の姿
ふたりで穏やかに笑って見送り

色は決まりましたが
どれにしようか悩みますね
ガラスペンに万年筆……
駒知さんは決めましたか?

僕は、そうですね
君とお揃いにするか、
店員さんのおすすめでも頂くか、

迷っている間に
差し出された赤の万年筆
ぱちくりと瞬きを繰り返して
有難う御座います、と受け取った
心の底から嬉しそうに微笑み

でも、僕にもお礼はさせてくださいね
君と一緒に来れて楽しんでるのは
僕も同じ気持ちですから

店員さんに同じものを包んでもらう
そして受け取ったそれを、そのまま君へ
お揃いも捨てがたいので
──拒否は受け付けませんよ

これを見て僕のこと
ちゃんと思い出してくださいね


明日川・駒知

リオくん(f29616)と
アドリブ、マスタリングお任せ

_

美弥子の姿にそっと息を吐き、安堵に瞳細め
リオくんの言葉にも穏やかに相槌を打ち
…やはり私は、万年筆が気になっていた。
お揃いもとても心惹かれるけれど、私が手にする一本はもう決めていて
指し示したのは、美しい赤色の万年筆。
貴方が好きだといった、その色。
「…今日は、私に付き合ってもらったので」
店員さんに差し出して、その万年筆を包んでもらう。
そうして受け取ったそれを、貴方へ。
「お礼、です。…受け取ってくれませんか?」

貴方が好きだと言ったその彩を、私はまだ受け入れられないけれど
でもこれからは、きっとその色を見るたび──どこかで貴方を思い出す。



●一等二連のアンタレス
 視界に収めた美弥子の姿。
 そっと吐き出される息がふたつ、ふわりと百貨店の白くて高い天井に吸い込まれて消えていく。
 すっと細められる瞳はよっつ、安堵の色に染まっていて。
 そうしてふたり穏やかに並んで美弥子のことを見送れば、次は自分たちの番なのだから。
 ガラスペンに万年筆、鉛筆に羽ペンに――。無数に広がる未来の如く、この場に集う多種多様な筆記具たち。
 さあ、君の臨む色彩は? 君が望む想いのカタチは?
 正解なんて、きっと無い。だからこそ、そのどれもに心惹かれて。その全てに心躍るのだろう。
 一つに決めても良いし、この中から全部を選んでも構わない。君の形は、君にしか決められないのだから。
「色は決まりましたが、どれにしようか悩みますね」
 ふらふらと移ろい行くのは、オレンジの瞳。尾宮・リオの視線の先は、一向に定まりそうにない。
 どの蜜も美味しいと知っている蝶が、その中から一つを選べぬように。どの筆記具も美しく、惹かれるものばかりだったから。
「ガラスペンに万年筆……。駒知さんは決めましたか?」
「……やっぱり、私は万年筆が気になります」
 参考までにリオが明日川・駒知に意見を尋ねれば、彼女はこっそりしっかり筆記具をどれにするか決めていたようで。
 やはり気になるのは万年筆、と。彼女の瞳の向こうには、万年筆の存在がはっきりと像と成って映し出されている。
「僕は、そうですね」
 駒知とお揃いにするか、店員さんのおすすめでも頂くか。
 それとも、偶然の出会いを求めて他のブースも見てみるべきか。
 食わず嫌いを避けて、これは無いと思えるような筆記具を手に取って見るべきか。
 進める道は目の前に沢山広がっていて、万年筆に止まりかけたオレンジ色の蝶は、ふわりと別の花を求めて再び空へと飛び立った。
 リオが一つを選ぶのは、もう少し先の話になりそうだった。
(「……これが良い、かな」)
 オレンジ色の蝶のすぐ隣で、静かに止まるべき花を選んでいたのは黒揚羽。
 リオと示し合って選ぶお揃いにも、とても心惹かれるけれど。
 駒知が手にする一本はもう決めていて。それが瞳に映りこんだ瞬間から、これしかないと思えていて。
 駒知が指し示したのは、輝く赤色が美しい万年筆。
 メタリックな胴軸に宿る眩い赤光は、蠍座に輝く一等星のようで。
 キャップからペン先に至るまで。万年筆はその身全体に蠍座の一等星の輝きを抱き込んでいて、ニブには蠍座の星座が刻み込まれていた。
 金属製となれば、不意にできてしまう掠り傷が気になるところだった。けれどこの万年筆は、特殊な加工のお陰か、少しのことでは傷が付かないらしい。
 静かに、しかし、確かにこの場に輝く赤色は。他でもない貴方が好きだと言っていた色で。
「……今日は、私に付き合ってもらったので」
 駒知の行動は早かった。リオが迷っている少しの間に、店員に頼んで会計を済ませ、綺麗にラッピングしてもらっていたのだから。
「お礼、です。……受け取ってくれませんか?」
 迷っている間に、視界の真ん中に流れ込み、一瞬のうちに瞬いた赤い一等星。
 自分へと差し出された赤の万年筆を前に、リオはきょとんと瞳を丸くさせたまま、ぱちくりと瞬きを繰り返した。
 義兄の色を宿した万年筆を、目の前の駒知が差し出していて。
 そこまで考えて、ようやくその万年筆が自分に贈られたものだと結論に至る。
「有難う御座います」
 恐る恐る、手を伸ばした先。
 指先で触れられそうな距離で、不意に消えてしまいそうな気がしたその光は――リオが触れてもなお、消えることは無く。
 万年筆を受け取ったリオは、心の底から嬉しそうな微笑みを浮かべて、駒知に向き直った。
 こんな素敵なサプライズをしてもらったのだ。だから、彼女へとお返しを。
「でも、僕にもお礼はさせてくださいね。君と一緒に来れて楽しんでるのは、僕も同じ気持ちですから」
に こりと意味ありげに瞳を細めたリオは、そのまま駒知が自分に贈った万年筆と同じものを手に取ると、彼女の是非を聞く前に店員へと手渡した。
 色違いのラッピングを施してもらったそれを、そのまま駒知へ。
 半ば押し付けるように、差し出して。
「お揃いも捨てがたいので──拒否は受け付けませんよ」
「──ありがとう」
 驚いたように微かに目を見開いた駒知は、しかし、次の瞬間には仄かに頬を染めて微笑んで。
 リオが差し出したお揃いの赤い万年筆を、しっかりと受け取っていた。
「これを見て僕のこと、ちゃんと思い出してくださいね」
「……リオくんの方こそ」
 貴方が好きだと言ったその彩を、自分に流れるこの色を、私はまだ受け入れられないけれど。
 義兄の瞳の色は、今でもこれからも、ずっと自分と共に在るのだろうけれど。
 でもこれからは、きっとその色を見るたび──どこかで貴方を思い出す。
 この万年筆を手に取り、言の葉を綴るたび──今日のこのことを思い出す。
 この赤い光はきっと、やがてお互いの中で、自分本来の色と混ざり合って。新たな色を創り出していくのだろう。
 今日選んだこの色彩を完全に受け入れることは、未だ出来ないだろうけれど。それぞれの消えない一等星と成る、その日まで。
 そっと、胸に抱いて。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

フィリーネ・リア
🔥🎨
◆◎

マゼンダとイエローは魔法の色
ふたりの好きな彩――何方にもなる色
くゆちゃんが色を作ってくれるの?
それは素敵な絵になるね
ううん、フィーがする

一本はくゆちゃんとお揃いにしたいの
ガラスペンとかはどう?
中が硝子越しに見えるから使う時も素敵な彩よ

うふふ、色々覗いてこ?
フィー達の運命の子が居るかもしれないから
くゆちゃんみたいな子いるかな
探して映るは桃色から赤に移ろう羽根ペン
何処へでも飛び回るくゆちゃんみたい
ね、その子はフィーから贈らせて?
くゆちゃんの運命の子

聲の先を覗けば紅葉の羽根
あなたのかわいいがフィーを可愛くするの
くゆちゃんが選んだその子がきっとフィーの運命の子
ありがとう、くゆちゃん
だいすき


炎獄・くゆり
🔥🎨
◆◎

ウフフ、あたし達の色ですって
インクまぜまぜするの楽しかったからまたやりたぁい
あたしが作った色でフィーちゃんに絵描いてほしいなぁ
とびきり素敵な一枚にしましょ!

お揃いイイですねェ
そのガラスペンにします~?

あたしみたいな?
こんなのあるんですねぇ、メッチャピンクでアガる~~
アハ、フィーちゃんに運命を決められるのも悪くないかも!

それじゃお返しにぃ…
コレなんてどーです?
紅葉のような彩の羽根
彼女の髪に宛がってみて
ほらほら世界一カワイイ~~
これはあたしからフィーちゃんにプレゼント!
このコがフィーちゃんの運命の子に違いないですよ
なんたってあたしが選んだんですから
ウフフ、あたし達ってやっぱラブラブ~!



●Kaleidoscope of Roses、彩羽 ―ガルーダ・不死鳥―
 混色可能な数十あるインクのうち――マゼンダとイエローは、魔法の色彩。
 ふたり為にあるような、そんな不思議なインクだった。
 二つのインクの混ぜ合う比率を変えたのなら、それだけで二人の色が創り出せるのだから。
「ウフフ、あたし達の色ですって。インクまぜまぜするの楽しかったからまたやりたぁい」
「くゆちゃんが色を作ってくれるの? それは素敵な絵になるね」
 今度は二色だけじゃなく、他の色も使ってみようとニコニコ笑顔の炎獄・くゆりに、フィリーネ・リアもクスリと微笑んで楽しそうと頷いてみせる。
 二人で作った色を使って描く絵は、きっと他の誰にも負けない絵になるだろう。
「あたしが作った色でフィーちゃんに絵描いてほしいなぁ」
「ううん、フィーがする」
「じゃ、二人で混ぜて描いて、とびきり素敵な一枚にしましょ!」
「うん。約束、だよ。フィーとくゆちゃんと、ふたりで作るの」
 小指を緩く絡めて、指結び。フィリーネとくゆりだけの、大切なないしょ話。
 色彩の約束にお絵描きの約束――二人で過ごす楽しい予定が、次々に増えていく。
 絡める先を指から手へと変えたなら、仲良く手を繋いで筆記具のブースへ。
 思い思いの色彩を抱いた筆記具たちが、二人を明るく迎え入れてくれていた。
「一本はくゆちゃんとお揃いにしたいの。ガラスペンとかはどう?」
「お揃いイイですねェ。そのガラスペンにします~?」
 フィリーネにとっては何とも微妙な高さのカウンターの上に、お目当てのガラスペンが展示されている。よいしょっと少しつま先立ちで背伸びして、ガラスペンの箱を手繰り寄せた。
「うふふ、キレイ。赤にもピンクにも見えるの」
「そうですねェ~。どっちの色にも見えるんですって!」
 そっと箱を開けてみれば、ピンクとも赤とも表現できる絶妙な色彩を抱いたガラスペンが、ふわふわした箱の中から二人のことを見上げていた。
 波打つようにひらひらと流線を描くガラスペンのシルエットがお洒落で、透明な胴体に彩差すピンクや赤色、オレンジ色が鮮やかで。
 永遠の美しさを保ったまま、ガラスの棺に閉じ込められたように。ペンの所々に花咲くのは、ピンクや赤といったバラの花々だ。
 一番美しい頃合いのままガラスの中に浮かぶバラの花は、未来永劫枯れることはないのだろう。
「中が硝子越しに見えるから使う時も素敵な彩よ」
「どんな彩を吸わせましょうかねェ~。アハ、今から楽しみ!」
 バラを閉じ込めた万華鏡のガラス細工を抱いて、二人は羽ペンのブースへ。
 お揃いの次は、お互いの色彩を纏った一本が欲しかったのだから。
「うふふ、色々覗いてこ? フィー達の運命の子が居るかもしれないから。くゆちゃんみたいな子いるかな」
「あたしみたいな?」
 ふわりと新緑から淡い紅葉に染まる髪をたなびかせて、フィリーネは一つの羽ペンを探して回る。
 何処にいるかな。くゆちゃんみたいな、素敵な彩を抱いた子は。
 くゆちゃんにぴったりな、とびきり元気で何処へでも飛んでいける、とても自由な羽の子は。
 かくれんぼをして探した先、フィリーネが見つけてきたのは、桃色から赤に移ろう羽根ペンで。
 もふっとしていてふわふわ愛らしい見た目とは反対に、長距離を飛んでもへっちゃらな鳥の羽から作られた羽ペンであるらしい。
 ピンクゴールドのペン先は嘴のように鋭い明かりを宿していて、直ぐに天空へと飛び立ってしまいそう。何処へでも飛び回るくゆちゃんに、そっくりな羽根ペンだった。
「ね、その子はフィーから贈らせて? くゆちゃんの運命の子」
「こんなのあるんですねぇ、メッチャピンクでアガる~~」
 フィリーネの選んだ羽ペンをひらひらと携えて、くゆりのテンションは大上がり!
「アハ、フィーちゃんに運命を決められるのも悪くないかも!」
 小さな色彩の魔女が示す先に進路を定め、飛んでいくのも偶には悪くないだろうから。
「それじゃお返しにぃ……。コレなんてどーです?」
 素敵な運命を示したお礼に、くゆりがフィリーネに選んだのは、燃え上がる紅葉の彩に染まった羽ペンだった。
 羽の根元から段々と、焔が激しくなるように。一際鮮やかになっていく彩に、強風にだって負けない大きな羽。
 焔に当てられて煤けたかのようにくすんだ金古美のペン先も、フィリーネを彩る色彩に早変わりするのだから。
 くゆりは大きな羽ペンを手に持つと、フィリーネの髪に宛がってみて、
「ほらほら世界一カワイイ~~。これはあたしからフィーちゃんにプレゼント!」
 新緑の中に、一つだけ燃え上がる焔の色彩。羽と似たそうな彩を宿す二つの瞳が、きょとんとくゆりと見上げているのもまた可愛い。
 紅葉のような羽ペンは差し彩となって、フィリーネの可愛らしさを引き立てていた。
「このコがフィーちゃんの運命の子に違いないですよ。なんたってあたしが選んだんですから」
「うん、くゆちゃんが選んだその子がきっとフィーの運命の子」
 もはや運命と言っても可笑しくはないほどに、フィリーネに似合う紅葉の色彩。
 くゆりへと贈られた桃色から赤へと移ろう色彩も、彼女にぴったりで。
「ウフフ、あたし達ってやっぱラブラブ~!」
「ありがとう、くゆちゃん。だいすき」
 筆記具が沢山あるとはいえ、自分たちにぴったり合う筆記具を見つけられることは、そう簡単なことでは無いのだけれど。
 お互いに笑い合って、贈り合った色彩を髪に当て、ポーズをとってみるくゆりとフィリーネ。
 運命と運命が重なり合って、とびきり素敵な出逢いになった。
 お揃いと運命とを手に持って、これからどんな彩を紡いでいくのだろう。今からとても楽しみだった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

月詠・黎
🌕望月
◆◎

永き時を生きる我と
連れ添ってくれる仔がおると佳いのじゃが

おや、万年筆はあちらか
――では…是々ユエや、筆記具は逃げぬ
引かれた裾に眼を細めて咲う
無邪気な仔へ聲ひとつとゆるり進める歩みと

探すは月と蝶の柄
月は勿論、満月を探すじゃろう
軸の色はうむ、夜の色に近い黒を
思った以上に沢山或るのう
どれがいっとうと謂われると迷ってしまう程

ふふ、店員に協力を仰ぐか
賢い仔よの、友達の言の葉に機嫌良くしながら
怯えた様子に考慮し、手伝って貰えれば嬉しいと
柔く花のかんばせを綻ばせようか

ユエが持ち寄ったのは理想の彩
ふふ、見る目は流石じゃ
差し出された万年筆は、正しく我らが探し求めた色
手にすればふわりと馴染む揃いの一品


月守・ユエ
🌕望月
◆◎

わぁ、色んな筆記具があるね♪
万年筆は…あっちにあるみたい!行ってみようっ

好奇心に逸る様に心が弾む
彼の和服の袖を緩く引いて歩みだす
無邪気な幼子のように輝く瞳で

僕達が探しているのは
月と蝶がデザインされた万年筆
軸は夜色に近い黒があればいいなぁ
…沢山あって迷っちゃうね!

あの!店員さんのおすすめはありますか?
友達とお揃いのデザインで万年筆を探しに来たの!
ほわりと店員さんに笑いかけ

あ!黎さん
このお色とか…どうかな?
店員さんのおすすめ中に目に留まる物を見つけ
彼に差し出してみる
手におさめれば
まるで蝶が留まってる印象さえ覚えて目が惹かれる

黎さんもこの万年筆気に入った?
それじゃあ
これに決めちゃおっか♪



●宵月飛蝶
 骸の海に浮かぶ三十六の世界。
 全ての世界が異なった歴史を織り、それぞれの価値観を築き上げている。
 そして三十六の世界で生を紡ぐ人々の種族もまた、同じものは一つとしてなく。
 神とは、久遠に近し――もしかしたら、久遠よりも永き刻を生きるかもしれない、そんな存在であった。
「永き時を生きる我と、連れ添ってくれる仔がおると佳いのじゃが」
 生は、万年。筆もまた、万年。永き時と共に歩める仔が居れば佳いと、月詠・黎(月華宵奇譚・f30331)は滔々と呟いた。
 万年筆に足が生えて全力で逃げ出すような珍妙な事態さえ起きなければ、数秒も数分もそう変わらぬ事。ゆったりと筆記具を眺める黎の袖を引き、今にも駆けだしそうな程にはしゃいでいたのは月守・ユエ(皓月・f05601)だった。
 ユエにとっては、数分も数秒すらも惜しかった。こうしてまったりとしている間にも、運命的な出逢いを先に越されてしまったら!
 出逢いの数には限りがある。販売されている本数に限りがある以上、基本は早い物勝ちである。
 万年筆に辿り着く前に目当てのものが全てパートナーと共に旅立ってしまっては敵わないと、向かう足取りは自然と早くなっていた。
「わぁ、色んな筆記具があるね♪ 万年筆は……あっちにあるみたい! 行ってみようっ」
「おや、万年筆はあちらか。――では……是々ユエや、筆記具は逃げぬ」
 無邪気な童のように裾を引き道を示すユエに黎は眼を細め、口元が静かに弧を描いた。
 瞳をキラキラと輝かせるユエに手招きされるままに、黎がゆるりと足を踏み出せば、自然と歩みは万年筆の方へ。
「軸は夜色に近い黒があればいいなぁ。……沢山あって迷っちゃうね!」
「思った以上に沢山或るのう」
 元気な道案内と共に、辿り着いた先。二人が揃って探すのは、蝶と月を宿した万年筆。
 三日月、新月、半月と描かれる月も様々だけれど――此処は、望月一択だった。
 そして軸の色は、夜に近い黒を。
 月と蝶の宿る万年筆とは言ってみても、些細な違いを含めれば、その数は数十にも及ぶ。
 夜明けに近い色に染まる万年筆に、真夜中に飛び去る蝶の群れが幻想的な万年筆。
 その全てが等しく美しく、どれがいっとうと謂われると迷ってしまう程。
「あの! 店員さんのおすすめはありますか? 友達とお揃いのデザインで万年筆を探しに来たの!」
 時間をかけて迷っているよりも、此処は第三者に意見を求めることも有効だと、ユエは思いつくなりほわりと店員に微笑みかけた。
「ふふ、店員に協力を仰ぐか。賢い仔よの」
 友である聡明なユエの言の葉に機嫌良くしながらも、それでも店員の目に黎の姿は近寄りがたく映るものであるらしい。
 店員が怯えた様子であることをちらとだけ伺うと――手伝って貰えれば嬉しいと、黎はそのかんばせを柔く花開くように綻ばせた。
「あ! 黎さん。このお色とか……どうかな?」
 黎の微笑を見、漸く動けるようになった店員は、ぎこちない動作はそのままに、それでもお勧めを幾つかケヱスの中から取り出して並べ、ユエに示してみせた。
 取り出された中の一つから、ユエは惹かれる一本を見つけ出して……。
 意匠も装飾も、主張が特別激しい訳ではない。
 漆黒に近い夜の色をその身に纏い、金染めの望月がとっぷりと浮かんでいる。
 漆細工の軸のなかで、一際目を惹くのは宙を舞う数匹の蝶の群れだ。
 白から紫へと移り往く、可憐な二対の蝶の翅。小さく静かに、けれど、命あるかのように描かれて。蛍光灯の明かりを受けて、その翅が仄かに煌めいていた。
 高貴で何物に靡くこともなく、ただそこに在る。それだけで、それほどのこと。
「ふふ、見る目は流石じゃ」
 ユエがそれを黎へと差し出せば、理想の彩に柔くその瞳を細めた。
 手の中へと緩く握れば、元から其処が居場所であったかのように、ふわりと違和感も無く馴染んだ。
 ユエも黎に倣ってその彩を手に収めれば、まるで蝶が手元に留まっているような、手の中で舞っているような。そんな感覚さえ覚えて。
「黎さんもこの万年筆気に入った? それじゃあ、これに決めちゃおっか♪」
 ゆっくりとキャップを捻ってペン先を解き放てば、ニブにも望月を模した紋様が刻まれていることに気が付いた。
 ユエと黎にとって、月は特別な存在で。
 金が惜しみなく用いられたこの万年筆は、大切に使えばその名に違わず――万年の刻を共に歩めるだろうから。
 最初の一筆は何を認めようかと互いに顔を見合わせれば、手元の望月がきらりと明かりを放ったような気がして。
 白紙の頁に何を刻むか、考える時間もまた、愉しいものだ。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

マナン・ベルフォール
【SPD】
少々出遅れてしまいましたが、お嬢さんは無事、己を取り戻せたようで
何よりです

探し物は見つかりましたか?


さて、念の為警戒はしつつ、販売側(主催側)へ彼女の事情や興味を持ちそうであったり探していそうなものについて事前に周知など円滑に双方安全に楽しめるように根回しを

その後私ものんびりと散策をさせて頂きましょう
万年筆自体は愛用している事もあり多少は取り扱いや種類について知識はありますので助言くらいは

今回は愛用品もだいぶ長い付き合いになってしまったので、新たに良き出会いがあれば、と

例えば、手帳と共に懐に入れられる短めの万年筆などあれば探してみたいものですね

装飾などがあるのもよいですが、華美すぎず



●清龍
 色を取り戻した美弥子の表情に、再び影が差すことは無く。
 見知った庭園を散歩するかのように、気ままに博覧会を散策している彼女へ、マナン・ベルフォール(晴嵐・f28455)は穏やかな声音で話しかけた。
「探し物は見つかりましたか?」
『ええ。皆様の、お陰で……』
 柔らかな表情で迷いなく答える美弥子に、「それは良かった」と返事を返して。
「この万年筆に興味があるのですね」
『そう、ね。似たものと比べて……どれかに絞る予定、よ……』
 それから2、3の言葉を交わして――ついでに、彼女の興味のある筆記具についてもそれとなく聞き出して、美弥子と別れたマナンだったが、念のため用心しておくことに越したことはない。
 無力になったとはいえ、彼女は立派な影朧だ。その存在を良く思わない者も、この場に存在しているだろうから。
「はい。漆細工の品に興味があるようなので、このお店に来るかもしれませんが、その時は――」
「畏まりました。影朧とはいえ、お客様であることに変わりはありませんから」
 彼女が興味のある筆記具を取り扱っている店には軽く事情を説明し、円滑に安全に楽しめるための根回しを施していったマナン。
 彼の活躍のお陰か、事前に説明をした店に美弥子が突然訪れても店員たちは慌てることが無く。普段と何も変わらぬかのように、穏やかなまま博覧会の刻は過ぎていった。
「新たに良き出会いがあれば、良いですね」
 美弥子がトラブルに巻き込まれることもなく、筆記具を探し回る後ろ姿を見送ってから。
 マナンもまた、博覧会会場をのんびりと散策し始める。
 普段から万年筆を愛用していることもあり、一般人よりも取り扱いや種類について詳しい彼は、悩んでいる客へと時折助言をしつつ――自自身の求める筆記具を探すことも忘れていなかった。
「手帳と共に懐に入れられる短めの万年筆などあれば、探してみたいものですが」
 そうして万年筆のブースを覗いていたところ、まさに持ち運びに向いた、手帳サイズの万年筆が目に留まって。
 使わぬ際は手帳と同じサイズだが、筆記時にキャップを尻軸へと差し込めば、一般的な万年筆と殆ど変わらぬ大きさとして使えるから便利だった。
 懐やポケットに入れても平気なように、多少丈夫に作られているらしい。
 布や糸のほつれに引っ掛からぬようにと装飾は控えめだったが、その分、目を惹かれるような緻密な装飾が施されていた。
 紺の胴軸に銀色が映える――クリップや天冠、キャップリングには天に昇る龍をモチーフにした装飾が刻まれている。
「これなら、さっと取り出して使えそうですね」
 いざという時も慌てることなく、メモを取ることが出来るだろう。
 新たな良き出会いに感謝をしつつ、マナンは他の万年筆も、と。ゆっくりと見て回るのだった。
 大きな問題も起こることなく静かに時の流れる博覧会に、こっそりと顔を綻ばせながら。

大成功 🔵​🔵​🔵​

落浜・語
◎◆■
落ち着くことができて良かった。役に立ててれば何よりだ。
せっかくだし、俺も色々見てこよっと

美弥子さんに少し質問いい?
万年筆を女性に贈りたいと思っててさ、こういうのだと使いやすいって、あるかな?
きっと、何を贈っても喜んでくれるけれど、やっぱり使いやすい物を渡したいからさ。
それを参考に一人売り場をうろうろ。あ、これよさそうかな…

あとは、さっきのインクを使うのに、自分用にも万年筆が欲しいんだよなぁ。でも、いろんな色をつかうなら、ガラスペンとかつけペン?のほうが良いのか…?でも万年筆欲しい…。
シンプルなデザインの万年筆やガラスペン、付けペンを色々手に取ってみて。
…三種類、一本づつ買ってこ
(お任せ)



●大樹の物語、あさつゆ、Ritter
(「落ち着くことができて良かった。役に立ててれば何よりだ」)
 再開された博覧会に、今のところ大きなトラブルが起きることも無く。
 美弥子もまた、一般の人々に紛れて万年筆を見て回っているようだ――猟兵たちも代わる代わる彼女に話しかけ、美弥子と共に色々な筆記具を手に取っていた。
 楽しそうな様子は何よりだが……美弥子が万年筆を何本買っているのかは、尋ねない方が良さそうだ。
「せっかくだし、俺も色々見てこよっと」
 万年筆の沼は深いらしい。
 小さくはない金額。それでも迷うことなく購入を即決していく一般客や美弥子の様子に驚きながらも、落浜・語は美弥子へと話しかけた。
 語が贈り物を贈りたい相手は女性なのだから、同性である彼女の意見は参考になるだろうと思いながら。
「美弥子さんに少し質問いい?」
『私で、良ければ……何、かしら……?』
「万年筆を女性に贈りたいと思っててさ、こういうのだと使いやすいって、あるかな? きっと、何を贈っても喜んでくれるけれど、やっぱり使いやすい物を渡したいからさ」
『そう、なのね……! なら、小さくて持ちやすいものが良い、かも……。デザインは大切、だけれど、重さには注意、よ……』
 やはり、恋する乙女であるのだろうか。
 キラキラとその瞳を瞬かせながら、多すぎないもの、重すぎないもの、デザインも重要、用途に合わせて……と、美弥子に幾つかのアドバイスを貰った語。
 美弥子にお礼を告げた語は、それを参考に一人万年筆ブースをうろうろと彷徨い始める。
 少しの間女性向けの品を見て回った後、良さそうな万年筆を見つけることができた。
「あ、これよさそうかな……」
 語が手に取ったのは、ホワイトの胴軸が可愛らしい万年筆。
 ピンクゴールドのペン先やキャップリングがお洒落で、プライベートでもオフィシャルな場面でも、幅広く使えそうなデザインだ。
 手に持ってみたが、軽く重さも感じさせない。長時間書き続けても疲れることは無いだろう。
 プレゼント用にラッピングしてもらった白い万年筆をカバンへとしまい、語が次に探すのは自分用の筆記具だった。
「あとは、さっきのインクを使うのに、自分用にも万年筆が欲しいんだよなぁ」
 先のインクを使うための、万年筆。しかし、色々なインクを使いたいという気持ちもあって。
「でも、いろんな色をつかうなら、ガラスペンとかつけペン? のほうが良いのか……? でも万年筆欲しい……」
 心の向くままに、シンプルなデザインの万年筆やガラスペン、つけペンを色々手に取ってみて。
 手に馴染む万年筆に、美しいガラスペンに、雰囲気のあるつけペンに。
 一つに絞れなかった語が下した決断は、
「……三種類、一本づつ買ってこ」
 全部買いであった。
 ハッキリと軸に現れた木目が綺麗な万年筆は、普段使いにしたい一本だった。語が選んだインクとも、色が合うだろう。
 梢から零れ落ちた雫がモチーフだというガラスペンは宝石のようで、新緑からクリスタルに移り変わるデザインが、シンプルながらも人目を捉えて離さない。
 軸に彫られた繊細な西欧の紋様が美しいスターリングシルバーのつけペンは、手にするだけで特別な気分になることが出来た。
 予定よりも買い込むことになってしまったが、良い出会いに恵まれたのもまた事実なのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

永廻・春和
【花天】◆◎
そっと可憐に咲き初む梅と戀の彩――本当に美弥子様らしい、とても素敵な色に御座いますね
(彼女の幸せそうな様子に心の底からほっと微笑み)
それでは、私達も暫し幸いなる博覧会巡りに浸りましょうか
(自らも品々に向き直れば、直様心踊る品々に目を奪われ――軽い言葉はまたも聞き流し)

両親や恩師への大切な文を綴るもの、日々の記録や勉学の友として彩を添えてくれるものも欲しくて――ああ、如何しましょう
(澄んだ煌めきを魅せる硝子ペン、深く落ち着いた雰囲気纏う万年筆――目に写る全てが魅力的で)
あ、美弥子様
宜しければ私達にもお品を選んで頂けませんか?(数も品もお任せ)
大切な、暖かな想いを綴り行く為のものを――


呉羽・伊織
【花天】◆◎
流石、大切に慕い想い合った相手が選んだだけの事はある――この上なく彼女に似合って、良く映える色だったな
(同じく安堵の色浮かべ、微笑ましげに目を細め)
ああ、そんじゃ心置きなく楽しもーか
宝探しみたいでわくわくするな
あ、ところでやっぱ春チャンもさ~、美弥子サンみたいにオレに手紙くれても――待って置いてかないで!(眼中にない様子に肩竦め)

オレも折角だし、日常使い特別用ってのもアリだな
気分で使い分け、なんてのも楽しそーだ
(桁を二度見しチケットに心底感謝しつつ――個性的な品々を興味津々に見つめ)
オレも悩ましくて絞れないんで、美弥子サン是非!(数・品お任せ)
日々の想いが一際色鮮やかになりそーだな



●いつかのように、いつものように
 戀を秘め、想いを秘め。長き冬を耐え忍び、春を待つ紅梅の花。
「そっと可憐に咲き初む梅と戀の彩――本当に様らしい、とても素敵な色に御座いますね」美弥子
「流石、大切に慕い想い合った相手が選んだだけの事はある――この上なく彼女に似合って、良く映える色だったな」
 心底幸せそうな表情を浮かべる美弥子の様子に、永廻・春和はふっと肩の力を抜いた。もう、不安そうな様子は感じられない。自分の色を取り戻した彼女は、大丈夫そうだったから。
 呉羽・伊織もまた、安堵の息をそうっと零しつつ、瞳を細めて微笑ましそうに美弥子を見守っていた。先生は美弥子のことをよく見ていたのだろう。美弥子によく似合う色だと、そんなことを思いながら。
「それでは、私達も暫し幸いなる博覧会巡りに浸りましょうか」
「ああ、そんじゃ心置きなく楽しもーか。宝探しみたいでわくわくするな」
 幸せそうな美弥子から筆記具たちへと視線を移ろわせば、春和と伊織を出迎えるのは、種類も装飾も唯一無二の個性溢れる筆記具たち。
 どの筆記具も魅力的で、眺めているだけで心躍るようで――魅力的な筆記具を選ぶ一時は、とても楽しいものだろうから。
 二人並んでゆっくり博覧会を回ろうと、一歩を踏み出したところで、ふと伊織が口を開く。
「あ、ところでやっぱ春チャンもさ~、美弥子サンみたいにオレに手紙くれても、」
「……」
「――待って、置いてかないで!」
 今回は言葉すら投げつけられず、完全スルーも良いところで。
 「私の同伴者ではありません」なオーラを全身に纏って伊織を放置し、足早に去っていく春和。
 先ほどまでの、「なんか物事が良い感じに纏まっていた」雰囲気を盛大に破壊しつつ、置いていかないで! と、伊織は肩をすくめ、慌てて春和の後を追いかけるのだった。
 
●桜浮雲、冬夜、星銀河、宵烏
「両親や恩師への大切な文を綴るもの、日々の記録や勉学の友として彩を添えてくれるものも欲しくて――ああ、如何しましょう」
 手招きされるままにふらりと筆記具の森へと足を踏み入れれば、あちこちから誘いの声が聞こえてくる。
 大切な文を綴るのなら、と飛び出してくる重厚な黒塗りの万年筆。勉学の友として、持ち運び可能な洒落たガラスペンが手を挙げていて。日記なら、と羽ペンとつけペンが競って主張しあっている。
 澄んだ煌めきを魅せる硝子ペン、深く落ち着いた雰囲気纏う万年筆、お伽話のような羽ペン――春和にとって、目に写る全てが魅力的だった。
「オレも折角だし、日常使い特別用ってのもアリだな。気分で使い分け、なんてのも楽しそーだ」
 日々の相棒として、特別な時の為のとっておきとして。思い入れのある筆記具で文字を綴れば、それだけで少し気分も引き締まり、日常生活に彩りが差すだろうから。
 伊織もまた、時に記された金額の桁を二度見しつつ……個性的な品々を、興味深々といった様子で眺めていた。思わず二度見どころか三度見してしまう金額も紛れていて、サアビスチケットに心底感謝したのはここだけの話。
「あ、美弥子様。宜しければ私達にもお品を選んで頂けませんか? 大切な、暖かな想いを綴り行く為のものを――」
「オレも悩ましくて絞れないんで、美弥子サン是非!」
『春和さん、に……伊織、さん。私でよろしけれ、ば……ご協力、を』
 丁度通りかかった美弥子へと軽く手を振り、助力を願えば快く引き受けてくれた。
 春和と伊織は、美弥子と雑談を交えつつ――筆記具たちを見て回る。
 珍しいデザインの筆記具に驚いたり、最新の舶来品にその目を輝かせたり。筆記具と一括りにするには、あまりにも個性豊かだった。
「ガラスペンの良さを引き出しつつ、持ち運び可能にするとは……何とも不思議な技術ですね」
 ぐるりと筆記具のブースを一回りして、春和が手に取ったのは、ガラスペンと万年筆だ。
 ガラスペンの方は万年筆のように持ち運びが可能となっていて、雲と桜の舞う金属製のキャップを開けば、桜色を孕んだガラスのペン先がその顔を覗かせる。
 万年筆は桜降る春とは反対に、冬の装いにその身を包んでいた。
 微妙に濃淡の異なる白一色で、雪一面の見た目に天冠やクリップのゴールドが映えていた。セルロイド製の胴軸はどこか懐かしいような、アンティークな雰囲気を醸し出している。
「ガラスといえば透明なイメージがあるけど、黒いヤツもあるだな」
 伊織に勧められたのは、ガラスペンと羽ペンだった。
 ガラスペンの中で唯一光を抱くのは透明なペン先のみで、ペン先を離れるにつれて、夜が更けるように、ガラスが宿す黒色が段々と深くなっている。
 黒い硝子の中を漂う大小無数の銀粉のおかげで、手元に生まれた小さな宇宙を眺めているかのような気分になれた。
 羽ペンの方は、紫のような、青のような。そんな微妙な色彩を抱いた、大きな黒い羽が用いられている。銀製のペン先も大ぶりで、堂々とした文字が紡げそうだった。
「大切な文を綴る際も、勉学の友としても――日々を共に歩んでいけそうです。美弥子様、ありがとうございました」
「ありがとーな、美弥子サン。日々の想いが一際色鮮やかになりそーだな」
 変わらぬ日常も、特別な一時も。全てを等しく、愛おしい物に。
 春和と伊織は、筆記具と共にどんな想いを紡いでいくのだろうか。それはこれから、分かるであろうこと――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ジェラルディーノ・マゼラーティ
◆◎
ヴラディラウスくん(f13849)と

影朧のお嬢ちゃんは無事、
自分の色を思い出せて良かったねぇ
気付いたら居なくなってた
こっちのお嬢ちゃんは迷子みたいだけど
大丈夫かな…ま、多分大丈夫ダヨネ
後できちんと捜すつもり

次はいよいよ万年筆か
…っと、丁度良いところに顔見知り
ご一緒しましょ
どういうのがお好み?

僕は折角ならスタンダードより
変わってたり珍しかったりするのが良い
或いはデザインが凝ってるだとか
此処でしか見つけられないようなやつ

プロにおすすめを尋ねたりして
お嬢ちゃん向けのもお土産に
次は一緒に来れたら良いと思いつつ
今居る君とのショッピングも楽しみつつ

複数のおすすめもふむふむと歓迎
一本に絞る必要ないよねェ


ヴラディラウス・アルデバラン
◆◎
ジェラルド(f21988)と

何やら連れとはぐれたらしい彼に呆れつつ
道行きを共に

万年筆や羽ペンは常日頃から使っている為、
馴染みはあれど、この光景は流石に見慣れぬ
見事な催しに興味深く眺めつつも
表には然程変わらずに、
気になるものを手に取っては
肌馴染みを確認する

店員のおすすめとやらも訊いておこう
プロの意見は貴重なものだ
折角ならと
希少だったり凝っていたりするものに
惹かれるのは彼と同様

種類は、そうだな…
最も使い慣れているのは羽ペンだが
万年筆でも構わぬ
たとえ見目が繊細でも丈夫な物が良い
ペン先の色は金か銀なら
銀の方が好みだな

一本と定めるも悪くないが
確かに絞る必要もない
私ももし絞りきれぬなら
複数迎える心算だ



●創生、白銀華
「影朧のお嬢ちゃんは無事、自分の色を思い出せて良かったねぇ」
 自分の色。決して手放したくない、大切なもの。
 インクを肌身離さず持ち歩きながら、嬉しそうに筆記具を眺めている美弥子をこっそりと見守りながら――ジェラルディーノ・マゼラーティは、ポツリと呟きを零した。
 そんなジェラルディーノの姿をよくよく観察してみれば、何か違和感があるような。具体的には、そう、彼は今一人でこの場に居た。
「気付いたら居なくなってたこっちのお嬢ちゃんは、迷子みたいだけど。大丈夫かな……ま、多分大丈夫ダヨネ」
 あっちのお嬢ちゃんの問題が解決したと思ったら、今度はこっちのお嬢ちゃんだ。
 やれやれと肩をすくめつつ、一瞬だけ迷子の館内放送を頼もうかと思わなくもなかったが――百貨店店員による実際のアナウンスを想像した辺りで、その後が怖くなったので、やめておくことにした。
「後できちんと捜すつもり。ま、そのうち合流できるでしょ」
 見て回っていたら、そのうちひょっこりと再会できるかもしれない。軽く緩く捉えつつ、ジェラルディーノは筆記具の並ぶ森の中へと入っていった。
「次はいよいよ万年筆か……っと、丁度良いところにヴラディラウスくん。やあ、奇遇だね」
「おや、ジェラルドか。こんなところで出会うとはな」
 ガラスペンや羽ペンを見て回って、次はいよいよ博覧会のメインでもある万年筆の一角だ。
 こっちのお嬢ちゃんと再会できていないが、筆記具以外の、インクや周辺器具を見ているのだろう。たぶん。
 お嬢ちゃんとの再会は叶わなかったが、偶然にも顔見知りであるヴラディラウス・アルデバラン(冬来たる・f13849)と出会うことが出来た。
「実は、一緒に来てたお嬢ちゃんと逸れちゃってね」
「それは……ジェラルドが迷子になっているのではないか?」
「わお、僕が迷子のパターンかい。そっちは考えてなかったな。そのうち放送で呼び出されるかも? まあいいや、ご一緒しましょ」
 連れとはぐれたというジェラルディーノに呆れつつも、ヴラディラウスは提案を断ることは無く。二人は連れたって歩き始める。
「ヴラディラウスくんは、どういうのがお好み?」
「そうだな……。最も使い慣れているのは羽ペンだが、万年筆でも構わぬ」
 楽しげな様子でふわふわと視線を彷徨わせるジェラルディーノとは反対に、ヴラディラウスは冷静に一つ一つを吟味していた。
 手に持って重心を確かめたり、少し握って感覚を体験したり。
 万年筆や羽ペンは常日頃から使っている手前、馴染みはあったが――流石に全世界から筆記具が集うような光景は、見慣れていなかった。
 興味深く眺めつつも表情には出さずに、ヴラディラウスは筆記具の肌馴染みを確認していく。
「プロの意見は貴重なものだ。店員のおすすめとやらも訊いておこうか」
「そうだねぇ。僕は折角ならスタンダードより、変わってたり珍しかったりするのが良い。或いはデザインが凝ってるだとか、此処でしか見つけられないようなやつ」
「そうだな。折角なら、希少だったり凝っていたりするものが気になるな」
 希望する筆記具の特徴と共に筆記具のプロフェッショナルである店員に、お勧めを聞き出したのなら――二人の本格的な筆記具探しの始まりだ。
「何これ、『創生』だって」
「ジェラルドは――使うのか?」
「ほら、面白そうだし?」
 ジェラルディーノが興味半分で手に取っていたのは、混沌とした見た目の万年筆だった。唯一シンプルなのは、ニブの部分くらいだ。
 金に銀、それから銅による装飾が惜しみなく施され、どうやって握るのが正解なのか。
 胴軸の中央に填め込まれているのは地球を模した蒼玉で、その周りを細かく彫られた星々、月やら太陽やら――数えるのも億劫になるほど、宇宙に纏わる品々が数多くあしらわれている。
 「ぼくのかんがえたさいきょーのまんねんひつ」をそのまま商品化させたような見た目だが、混沌としつつもある種の調和を保てていることに、驚くべきか、呆れるべきか。
「ペン先の色は金か銀なら、銀の方が好みだな」
「どっちかじゃなくて、どっちもにすれば良いじゃん」
 ヴラディラウスが手にしていた万年筆は、見目は繊細だが丈夫そうな代物だった。
 華奢な銀製の軸は鍛金加工されており、サラサラと光が乱反射して光り輝いているように見える。
 胴軸自体も美しいが、何よりも目を惹くのは、万年筆の中でも大きめのペン先だろう。ペン先は銀の周りを縁取るようにして金があしらわれている、バイカラーニブだ。
「お嬢ちゃん向けのお土産は、これとかどうかな」
 他にも、ジェラルディーノは赤と黒の花が笑い、金箔の交じるセルロイド軸の万年筆を手にとってみたり。
「一本と定めるも悪くないが、確かに絞る必要もないな」
 汚れ一つない純白の羽が目を惹く羽ペンは、不思議と前から持っていたかのようにヴラディラウスの手に馴染んだ。
「そうそう、一本に絞る必要ないよねェ」
 貴重な品として勧められたヴィンテージ品は、一見すると高級な黒い万年筆なのだが――とっくの昔に無くなったメーカーの品物であり、現存しているのはごく僅かだという話だ。
 ヴィンテージ品を含めると、変わったものも、珍しい物も数えきれないほど存在していて。
 選んだ万年筆と羽ペンを傍らに、ジェラルディーノとヴラディラウスの筆記具探しは、まだ暫くの間続きそうな雰囲気であった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​




第3章 日常 『交換日記をあなたと』

POW   :    今日あったことを短く書く

SPD   :    今日あったことを事細かに書く

WIZ   :    今日あったことを絵で書く

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●――今日は。貴方が、
『……ありがとう。皆様のお陰で、とても。とても、楽しいひと時を過ごせたわ』
 一緒に見て回ったり、お話したり。あまりにも楽しかったから。
 予定よりも色々と買い過ぎてしまったのだけれど、きっと、誤差の範囲ね。
『……約束した、から。そろそろ、いかないといけない、わね』
 買い込んだ万年筆を大切そうに抱えて、美弥子が向かったのは博覧会の片隅に――けれど、比較的大きく設けられた試し書き用のスペース。
 日記に手紙に原稿用紙に、様々な種類の紙が並べられている。「体験」から、あわよくばお得意様を作り出そうという、メーカーやブランドのサアビスの一種だろう。
 そこでインクと万年筆を広げ、熱心に手紙を認めていた美弥子は――暫くした後、やっと顔を上げた。
 しっかり折りたたんで、丁寧に封を閉じて。それから、猟兵たちへと深く、お辞儀を一つ。
『本当に、お世話に、なりました。……あんまり遅いと、困らせて、しまうから』
 誰を、とは言わなかった。
 何処に、とも言わなかった。
『皆様、どうか……お元気で。……また、何処かで』
 美弥子の身体が手足の先から透け始め、白い光に包まれていく。
『……――久しぶり』
 そして、目が眩むほどの光が一瞬、博覧会会場を覆い尽くして。
 光が晴れた後――先ほどまで、美弥子が居たはずの場所には。
 誰もいなかった。
 何も残されていなかった。

●想いを繋ぐ、心を綴る
 インクも無ければ、万年筆も無い。
 全て、持っていったのだろうか。
 美弥子は花笑うように頬を染め、還っていった。
 猟兵たちの尽力により、恐らくは最高の結末を迎えることが出来たのだろう。
 自分の色を思い出し、博覧会の一時を楽しみ――最後は。
 春が来たかのような、明るい笑み。美弥子が先生と再会できたことを、祈って。
 言葉にせずとも伝わる想いもあるだろうし、言葉にしなくては伝わらない想いもある。
 猟兵たちの目の前に並べられているのは、手紙や日記、和紙に羊皮紙といった、実に様々な種類の紙だった。
 何を文に認め、どんな思いを綴るかは――全て、自由なのだから。
 どれほど大切に思っていても。どれほど熱い想いを抱いていても。
 全て言葉にして伝えなければ、全て存在すらしなかったことになってしまうのだから。
 どうか。その想いが、無に還ることが無いように。
 今日と云う日に、書き留めよう。
フィーネ・ファルセシア

見立てていただいたガラスペンと、透き通る青空のような水色のインクを共に

素敵な紙がたくさん…便箋もありますね。買おうか迷っていたのですが、これだけ種類があるのでしたら、是非こちらから選ばせていただいた方が良さそうですね。
本当にあの方に向け誂えられたようなペンを手に、思わず微笑みが零れます。美しくて、すこしうっとりしてしまうところも……こほん

さて…何を綴りましょう
教会に来ておられた姿をお見掛けして一目で恋に落ちました…紙を丁寧に折り書き損じに
…これは、性急すぎでしょうか。本当に、お見掛けしただけ、それだけなので

『今度お会いできましたら、少しお時間をいただいてもよろしいでしょうか』
これでしたら…!



●恋への一歩
「素敵な紙がたくさん……便箋もありますね」
 真白い、それでも高級品だと手触りで分かる紙に、空を抱いたもの、春の訪れを告げるものまで。
 他にも、花びらが織り込まれた和紙の便箋、細かな文様が美しい洋紙も。
 自身の近くに存在する紙を手繰り寄せただけで、フィーネ・ファルセシアの元にはこれほどの紙が集うのだ。試し書きと表現するには、本格的過ぎると思うけれど、それだけきっと情熱や力が注がれているのだろう。
「買おうか迷っていたのですが、これだけ種類があるのでしたら、是非こちらから選ばせていただいた方が良さそうですね」
 折角なのだから、数えきれないほどの紙が降り積もるこの中から。
 深い青を抱くブラックの便箋は何とも高貴な印象を受けるし、光舞う風景を描いた便箋は神々しい。
 あの方に似合う便箋はどれか、なんて。そんなことを想いながら、数々の便箋を手繰り寄せる一時もまた、愛おしいものだった。
「本当にあの方に向け誂えられたようなペンのよう。……こほん」
 じっくり考えて、最終的にフィーネは紋様化されたユリの意匠が並ぶ、シンプルだが何処か洗練されたデザインの便箋を手繰り寄せた。
 ユリの便箋をすぐ傍に置いて、ガラスペンを箱から丁寧に取り出せば――思わず、本当にあの方に向けて誂えられたようなペンに、思わず頬が綻んでしまう。
 うっとりして、様々な角度からまじまじとガラスペンを見つめていた――ところで、此処が博覧会という公共の場所で在ることを思い出し、周囲の人々から不審な視線で見られていないか、キョロキョロと辺りを見回した。
 慌てて咳払いを一つしつつ、透き通るような青空を抱く水色のインクにガラスペンを浸して。フィーネは早速手紙を書き始める。
「さて……何を綴りましょう」
 短いのも寂しいけれど、あんまり長文過ぎると引かれてしまうだろう。
 あの方の好きな所を上げ始めたら、きっと数枚だけでは終わらない。それこそ、このユリの便箋を買ったとしても、全て使い切ってしまうだろうから。
『教会に来ておられた姿をお見掛けして一目で恋に落ちました……』
 つるりと便箋の上を滑り、紡ぎ出されるのは恋の言葉。薄くなったり、濃くなったり。フィーネの書く文字に合わせて、青空もまた見せる色を変えていく。
 ユリの便箋の上部分に広がった青空を、フィーネは暫しの間じっくりと見つめて。やがて、そのまま無言で紙を丁寧に折り、迷うことなく書き損じに。
「……これは、性急すぎでしょうか。本当に、お見掛けしただけ、それだけなので」
 文字通り「お見掛けしただけ」なのだから、手紙の主は一体何処の誰なのだろうと思われてしまうかも。
 そして、一文目から恋に落ちました、と切り出してしまうのも、何だか早いような気がしたから。
 積まれた紙の中から、再びユリの便箋に手を伸ばして。いざ、二回目へ。
『今度お会いできましたら、少しお時間をいただいてもよろしいでしょうか』
 滲むことも無く、綺麗に紡がれた青空の文字。文字の下に行くにつれて濃くなる青空に、ガラスペンで書いたとは思えないくらい柔らかな筆跡。
 最後に一層丁寧な文字で自分の名前を記せば、完成だ。
「これでしたら……!」
 丁寧に折り畳んで、封をして。
 ユリを抱く白い便箋の上に広がる、雲一つない青空に託した、恋心。
 大切に胸元に抱き留めれば、あの方に渡す日が――今から待ち遠しいような、緊張してしまうような。
 フィーネはそんな気持ちになるのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

アリスティア・クラティス

最初に美弥子に教えていただいたインクと、先程見立ててもらったペンを持って

試し書きというには、物凄く力が籠もっているわね……商魂…というよりは『自分の商品への自信』、かしら
文具については、他の商品よりも特にその傾向が高いように感じられるわね…でも、実際にそうなのだもの。気持ちは分かるところだわ
邪魔にならずに紙の並べていないスペースに、ずっと持ち歩いていた製作者の日記を置いて

想いを、手紙で綴れたら、どんなに幸せであっただろう
読まれる期待があればどれだけ幸福であっただろう

たくさん綴られた、私か完成した日から消えた白紙の日々
日記の最後のページを開き
一言、私の筆跡でしたためる。

『骸の海で逢いましょう』



●やがて、貴方へと至る頁
「試し書きというには、物凄く力が籠もっているわね……」
 試し書きブースを見……そのまま滑るようにアリスティア・クラティスの口から零れ落ちたのは、呆れたような、驚いたような複雑な感情を宿した呟きだった。
 どれほどの紙が揃えられているのだろう。数えるだけで、きっと夜が明けてしまうに違いにない。
「商魂……というよりは『自分の商品への自信』、かしら」
 試し書きとは名ばかりで、メーカーやブランドの新作のお披露目会も兼ねているようだ。
 何処か一番、世間から指示を得られるか。利益を確保できるか。他社を牽制し、自社の商品に注目を集めるには。
 猟兵たちさえ預かり知れぬ水面下で、熾烈な争いが繰り広げられているのだろう。
「文具については、他の商品よりも特にその傾向が高いように感じられるわね……でも、実際にそうなのだもの。気持ちは分かるところだわ」
ある種の「うちの子が一番可愛い」を感じつつ、それでも、並べられた紙たちの素晴らしさを体験するのはまたの機会に仕舞っておいて――空いているスペースに、アリスティアは製作者の日記を置いた。
 あの日から、ずっと持ち歩いていた。製作者の遺した、唯一の品なのだから。
 想いを、手紙で綴れたら、どんなに幸せであっただろう。
 読まれる期待があればどれだけ幸福であっただろう。
 手渡す瞬間の緊張と期待を感じることが出来たのなら、どれほど。
 目の前で想いを読まれる時の何とも表現し難いあの空気を。読み終わった手紙を丁寧に折り、自分を見つめる彼の表情を、この目で見ることができたのなら。
 そして刻が過ぎ去っても、ふと手紙を渡した瞬間を思い出して、一人で身悶える――この胸を焼く甘い情動を、感じることができたのなら。
 どれほど、幸せであったのだろうか。
(「全ては取り戻せない。それでも……」)
 等間隔に並んだ、几帳面な文字の列。
 所々擦れた走り書きの筆跡に、ゆったりと丁寧に紡がれた文字に。文字は微妙にその色と形を変え、同じようなものは一つとしてなく。
 その日、その時に感じたであろう、彼の感情まで伝わってくる。

 ――だがそれも、私が完成するまでのこと。

 私が完成した日から消えた白紙の日々。
 捲っても捲っても何も記されていない白紙が続くばかりで、本来ならば、此処には私と過ごす彼の日々が綴られる予定だったのだろう。
 日記の最後のページを開き、一言、アリスティアは自分の筆跡で認める。

『骸の海で逢いましょう』

 ペン先を置いてから文字を書き出すまで、少しの躊躇いが生まれた。
 その間にもインクを吸う紙にジワリとブルーブラックが滲み、その分文字の色が青よりも黒に近くなる。
 しかし、丁寧に紡がれた文字が、擦れることは無く。
 彼よりも丁寧に、ゆっくりと紡いだ文字は、深い夜を抱いていた。
(「いつか……過去が集う場所で、逢えたら良いわ」)
 この胸を覆う空白を、最後の日付から日記の終わりまで延々と続く白紙を。
 その間を埋めることはもう、アリスティアにしか出来ぬこと。
 やがて全てを埋めきった時、彼はどんな表情で私を出迎えるのだろうか。
 手紙を手渡す代わりに、この日記を差し出そう。
 これから私が見、聞き、感じるであろう物事の全てを。彼に伝えるために。
 彼へと捧ぐ、私だけの物語だ。
 全てを読みきった時、彼は私に、どんな表情を見せるのだろう。

大成功 🔵​🔵​🔵​

花澤・まゆ
◆◎

…美弥子さん、よかった

さて、あたしも手紙を書こうかな
でも、片思いの人には色々話した後だし、書く相手がいないや

ううん、美弥子さんに宛てて書こう
さっき購入した万年筆に、ブルーブラックのインクを入れて
縦書きの用紙がいい
インクの滑りがいい、少しクリームがかった紙を選んで

『美弥子さん』
ああ、どうしよう、あの幸せそうな笑顔を見ると涙が出そう
『よかったね
これからはずっと先生と一緒にね
ずっと、笑っていてね
あたしも、貴女と選んだ万年筆、大事にするから』

封筒に手紙を入れて封をして
その手紙はその場に置いて帰ります
いつか、美弥子さんが読んでくれることを祈って

『幸せになってね』



●親愛なる貴女へ
 そして美弥子が去った後。
 人一人分だけ空いたスペースが美弥子の居た場所で、その場に遺された書き損じの手紙が美弥子の存在した証で。
 行き交う人々が巻き起こす風に揺られて、その場に少し残っていた梅の花びらがふわりと舞い上がる。
(「……美弥子さん、よかった」)
 花澤・まゆは暫くの間、美弥子の居た場所を静かに眺めていた。
 無事に転生の道を歩むことが出来て、本当に良かった。
「さて、あたしも手紙を書こうかな」
 美弥子の幸せを願いながらも、まゆもまた、手紙を書こうと便箋に手を伸ばして。
 そこでふと、気付くことが一つ。
(「――でも、片思いの人には色々話した後だし、書く相手がいないや」)
 片思いのあの人には、色々と話した後だった。どれだけ話しても話し足りなくなることは無いけれど、折角ならば、直接声に出して気持ちや想いを伝えたかったから。
 それに、二人で他愛ない話をして過ごすあの時間は、何とも心地良いものだから。
(「ううん、美弥子さんに宛てて書こう」)
 折角なら、短い間だけど楽しい時間を共にした、彼女に。
 先ほど購入したばかりの、桜色が美しい万年筆。そこに、ブルーブラックのインクを入れて。
 すぐじゃなくても良い。いつか、美弥子さんに届いたら。その時まで、文字がしっかりと残っているように。
 まゆが選んだ便箋は、縦書きのつるりとしたクリームがかった紙だった。
 便箋の端に咲いた桜や梅、蒲公英といった春の花々が可愛らしくもある。

『美弥子さん』

 少し震えた手で書き出した、他でもない彼女の名前。
 滲んでしまわぬように、どうにかして手を動かして。
 トメ、ハネ、ハライ。文字の端々まで、綺麗に。丁寧に、一文字一文字を綴っていく。
(「ああ、どうしよう、あの幸せそうな笑顔を見ると涙が出そう」)
 薄紅色に頬を染めた、彼女の姿。
 何を書こうかなんて、考えるまでもなかった。勝手に手が動いて、万年筆が紙面の上を独りでに滑っていく。
 想いを込めて、しっかりと。力を抜こうとしても、自然と指先に集ってしまう。そのことに何度、万年筆を緩く握り直したことだろう。
 ブルーブラックを、クリーム色に刻み込んでいくように。

『よかったね
 これからはずっと先生と一緒にね
 ずっと、笑っていてね
 あたしも、貴女と選んだ万年筆、大事にするから』

 クリーム色の紙に刻まれた、今は青い文字の列。
 これから時を経るごとに黒に近くなっていく文字の色。美弥子さんが読むのはどのタイミングか、分からないのだけど。
 褪せぬ思い出を、彼女に。

『幸せになってね』

 そして最後に、自分の名前を記して。
 封筒に手紙を入れて、封をして。手紙を机の上に置いたまま、まゆはその場を後にした。
(「いつか、美弥子さんが読んでくれることを祈って」)
 美弥子さんに届く日まで。また出会える、その日まで。
 それまで、彼女に負けないように、話についていけるように。
 万年筆やインクにも、詳しくならなくちゃなんて、そんなことを思いながら。
 足元を流れる紅梅の花弁。まだ残っていたなんて。
 そんなことを思って――ふと振り返ったら、机に置いた手紙が消えていた、なんて。
 気のせいではない。そう思いたい。

大成功 🔵​🔵​🔵​

灰神楽・綾
【不死蝶】◆◎
美弥子さん、どんな手紙を書いたんだろう
ちゃんと先生に渡せるといいね
そして…先生と一緒に転生出来るといいよね

赤いインク、赤いガラスペンを持って試し書きへ
「試し書き」だなんておまけコーナーみたいだけど
ここも立派なひとつのブースみたい
そのくらい種類が豊富で
書くのも忘れてついつい魅入っちゃう

レトロな装丁の日記帳を手に取り
俺も日記始めてみようかなぁ
このインクとペンがあれば毎日楽しく書けそう
えー、そんなこと無いし
なんだか子供扱いされたような?

ああ、そうだ
俺と梓で、交換日記始めてみるのはどう?
目にした光景は同じでも
感じ方は同じとは限らないでしょ?
ふふ、じゃああとでお気に入りの一冊を買わなきゃ


乱獅子・梓
【不死蝶】◆◎
他の影朧たちも、皆あんな風に
優しい結末を迎えられたらいいのにな

どの紙にしようか悩んでいる綾の横で
俺もガラスペンの使い心地を試してみようかと
シンプルな和紙の便箋に書き出してみる
すぐに割れそうで最初は恐る恐る…
この滑らかな書き心地、結構癖になるな

いや、お前の場合きっと三日坊主で終わるって
まぁ、無理に日記として使わなくても
メモ帳やお絵かき帳として使うのもありじゃないか?

俺と、お前で、交換日記…!?
いやいやいや、何だそれ恥ずかしい
いつの時代のアオハルカップルだ
それに、しょっちゅう一緒に居るんだから
今更日記で伝えることも特に無いだろう
…まぁ、お前がどうしてもというなら
考えてやらんこともない



●青き春よ、もう一度
 書き損じた数枚の手紙に、美弥子の居たスペースが、一人分だけ空白となって空いていて。
 彼女の残り香を感じながら、灰神楽・綾は彼女の幸せを願っていた。
「美弥子さん、どんな手紙を書いたんだろう。ちゃんと先生に渡せるといいね」
 彼女の想いは、彼女だけのものに。他の人に読まれるなんて、美弥子にとっても心外だろうから。
 綾は美弥子が置いていった書き損じの手紙を丁寧に破り、書き損じ入れへ。紙吹雪と化した手紙が、花のようにはらりと箱の奥へと積もっていく。
「そして……先生と一緒に転生出来るといいよね」
 どうか、二度目は幸せな結末を。
「他の影朧たちも、皆あんな風に優しい結末を迎えられたらいいのにな」
 言葉にせずとも想いは同じく。他の影朧たちも優しく幸せな結末を迎えられたら良いのに、なんて。
 乱獅子・梓の声に、綾も何度か首を縦に振って同意を示していた。
 影朧たちの結末を祈りつつ、二人は仲良く試し書きのブースへ。
「『試し書き』だなんておまけコーナーみたいだけど、ここも立派なひとつのブースみたいな」
 和紙に洋紙、便箋に原稿用紙。多種多様な紙が並べられていて、そのどれもが綾に向かって手招きしているものだから。
 書くことも、選ぶことも明後日の方向に投げ捨てて、紙の宴につい魅入ってしまっていた。
「お、この滑らかな書き心地、結構癖になるな」
 綾の隣で、梓はガラスペンの使い心地を試している最中だった。
 縦書きのシンプルな和紙の便箋を数枚手に取って、焔そっくりの赤いインクの蓋を開けて。
 ペン先がインク瓶の底に触れて傷つかないようにゆっくりと浸して、赤を吸ったガラスペンを慎重に取り出していく。
 繊細で小さなガラスペンの先。何かの拍子にすぐに割れそうで、最初は恐る恐る……。
 カタツムリよりも遅いかもしれない速度で真横に引いた一線を皮切りに、少しずつ和紙の上を駆け抜けるガラスペンの速度は上がっていった。
「つるつるかけて、逆に怖くなるぞ」
 細かな凹凸の存在する和紙の表面であっても、抵抗なくさらさらとガラスペンは滑っていく。
 文字に生じるインクの濃淡に、和紙にじんわりと滲むインク跡――ガラスペンで書いているという雰囲気に浸りながら、梓とガラスペンによる和紙の道の散歩はもう少しの間続きそうだった。
「俺も日記始めてみようかなぁ。このインクとペンがあれば毎日楽しく書けそう」
「いや、お前の場合きっと三日坊主で終わるって」
 ガラスペンの雰囲気に浸っていた梓を現実に引き戻したのは、隣でレトロな装丁の日記帳を手に取ってパラパラとページを捲っていた綾の声だった。
 少し日に焼けたような加工をされた表紙に、捲る白紙のページもレトロな感じに茶色がかっていて。これなら飽きずに続けられそうかも、と綾が思った矢先の梓の一声。
 視線の先はガラスペンに落とされたままなのが、何だか妙に悔しい気もする。
「えー、そんなこと無いし」
「まぁ、無理に日記として使わなくても、メモ帳やお絵かき帳として使うのもありじゃないか?」
「なんだか子供扱いされたような?」
「……気のせいじゃないか?」
 このレトロな装丁の日記帳を、メモ帳やお絵描き帳に。
 梓の言葉を脳内で反芻させつつ、綾は再び茶色がかったページをペラペラを捲り始める。
 少々の荒さを感じる紙は、よく見て見れば高級そうなものだ。メモ帳として使うのは、聊か惜しい。
 ページの端に絡み合うバラや蔦の模様が濃い茶色で描かれていて、お絵描き帳という雰囲気でもないだろう。やっぱり、日記として使うのが一番だと思った。
 そうだ。一人でしようとするから、途中で飽きる訳で。複数人なら、と綾が顔を上げた先には梓の姿が。
「ああ、そうだ。俺と梓で、交換日記始めてみるのはどう?」
「俺と、お前で、交換日記……!? いやいやいや、何だそれ恥ずかしい。いつの時代のアオハルカップルだ」
 我ながら良い提案だと思った綾とは反対に、梓はそうでは無かったらしい。
 無い無いと大げさな素振りで手をブンブンと振っている。
「それに、しょっちゅう一緒に居るんだから、今更日記で伝えることも特に無いだろう」
「でも、目にした光景は同じでも、感じ方は同じとは限らないでしょ?」
 追撃を重ねて何とか諦めさせようとした梓に、返ってきたのは真っ当な綾の反撃。
 同じ光景を見たとはいえ、感じ方は違って当たり前だ。いざ声にして伝えようとしても、違いを表現するのは難しい気がする。
 それでもゆっくりと言葉を考えられる日記帳なら、違いを伝えられるかもしれない。それで、思ってもいなかった相手の一面を知ることができるのなら――交換日記という手段も、それほど悪くないと思えた。
「……まぁ、お前がどうしてもというなら、考えてやらんこともない」
「ふふ、じゃああとでお気に入りの一冊を買わなきゃ」
 提案を受け入れてもらえた綾は上機嫌で試し書きブース置かれている日記帳を端から捲り、お気に入りの一冊を見つけようとしている。
 綾の策とメーカーの購買戦略にまんまと引っ掛かったような気がした梓だったが、偶にはこんな日があっても良いだろう。
 やれやれと肩を竦めつつもガラスペンを片付けると、綾の日記帳探しを手伝うべく、梓もまた手近なところに置かれていた一冊を手に取るのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

月詠・黎
🌕望月
◆◎

理想の仔を手に
ふむ、試し書きと謂うならば
インクブースで選んだ、黒に星色のラメが煌く色にて
何時もの礼を目の前の友に綴ろうか

『本日の誘い、誠に感謝しておるぞ
 此れからも佳き文を綴る友で居てお呉れ』

夜に星灯す色を望月で綴り彩れば
短くとも互いに忘れへぬ記憶にも成ろうか

のうユエや
インクを交換し同じ紙に
言の葉の代わり文字を綴り合うのは如何じゃ?
其の夜宿す藍色も気になっての
ひとつ我儘に返るは以心伝心と嬉しき音

綴るのは他愛ない事
一言、二言から始めて
駆けるのは程々にと
少し戯れも交えて

問の綴りに、勿論と
嬉しき綴りに、我もと

揃いの望月が綴り之く言の葉
馴染ませる様にペン先を滑らす姿は
屹度、樂しげに映ろうな


月守・ユエ
🌕望月
◆◎

いよいよ、試し書き!
僕が選んだインクは夜を思わせる藍の色
揃いの万年筆を大事に持ち
綴る言葉はやはり君へ

”今日は一緒に来れて嬉しいかったよ
これからはこの万年筆で沢山言葉を綴り合おうね”

細やかな思い出や
戯れる様な他愛もない一言も
黎さんが過ごす永い年月を彩る言の葉を紡ぎたい

インクを交換して文字を?
もちろん、喜んでっ
僕も黎さんが選んだ色を使ってみたかったの
我儘じゃないよ?
これは以心伝心ですっ

戯れる彼の言葉の綴りに笑みを一つ
黎さん
これからも楽しい想い出一緒に作くれるかな?
僕も黎さんと出逢えて
本当に嬉しい

取り留めもない言葉を綴り合い
ふと彼が楽しそうにしている姿を見て
嬉しくて自然と再び心が弾むんだ



●夜色に染まる
 胸に秘めた想いも、伝えたい感情も。行き場を喪った感傷も。
 その全てを等しく紡ぎ出すのが筆記具と云う存在で、その全てを等しく受け止めるのが紙と云う存在だ。
(「ふむ、試し書きと謂うならば、何時もの礼を目の前の友に綴ろうか」)
 インクには、インクブースで選んだ黒に星色のラメが煌く色を傍らに携えて。紙には、明けの明星が後ろに煌めくクリームがかった和紙の便箋を。
 全て揃えて机に向かった月詠・黎は、早速、蝶舞う望月のペン先をインク瓶に浸して星色を吸入させているところであった。
 黎の隣で月守・ユエもまた、自分が選んだインクを広げていて。
「いよいよ、試し書き!」
 ユエが選んだインクは、夜を思わせる藍の色。黒を抱いた藍の空は、穢れない白に一番よく映えるだろうから。
 真っ白な紙に、黒揚羽が躍る手紙を手繰り寄せ、揃いの万年筆を大事に持ち。
 黎の言の葉がユエへと向けられるように。ユエが綴る言葉も、やはり黎へ。

『本日の誘い、誠に感謝しておるぞ
 此れからも佳き文を綴る友で居てお呉れ』

 夜に星灯す色が、明けの空にゆるりと広がっていく。望月で綴り彩られ、夜明け前の一等美しい星空と成った。
 星を抱く黒は、明けの光に照らされて、少しだけその彩が柔くなったような。黒色自体の濃さは一定の深さを保ったままなのだから、恐らくは明けの光によるものだろう。
 それでも、星色は惑うことなく黒の上で静かに煌めいているのだから、まるで手元の紙に星空が生まれたかのように思えてしまう。
 夜明け前、去り往く夜に輝く星々。そっと封をして隣の友へと送ったのなら、短くとも互いに忘れへぬ記憶にも成ろうから。

『今日は一緒に来れて嬉しいかったよ
 これからはこの万年筆で沢山言葉を綴り合おうね』

 真白によく映える、藍を抱いた夜の色。
 黒揚羽と共に手紙を彩るユエの藍言葉は、美しく白に刻まれていった。
 でもこの文は、二人にとって始まりでしかない。
 細やかな思い出や、戯れる様な他愛もない一言も。お互いの近状や、嬉しかったことも。
 黎さんが過ごす永い年月を彩る言の葉を紡ぎたい。自分の見たものを、黎さんに伝えていきたい。
 光が宿るペン先を眺めながら、今度はどんな言葉が生まれるのだろう、なんて。ユエはそう思っていた。
「のうユエや。インクを交換し同じ紙に、言の葉の代わり文字を綴り合うのは如何じゃ?」
「インクを交換して文字を? もちろん、喜んでっ」
 想いは同じく、お互いのインクが気になっていた。
 黎の誘いにパッと顔を上げたユエは、そのままにこりと顔を破顔させる。
 黎にとっては我儘でも、ユエにとっては以心伝心と映っていた。
「僕も黎さんが選んだ色を使ってみたかったの、我儘じゃないよ? これは以心伝心ですっ」
「其の夜宿す藍色も気になっての。以心伝心とは嬉しき音じゃ」
 常ならば時間の掛かる万年筆の洗浄と乾燥も、猟兵としての力を少し用いれば二人の思うがままに。
 想いは同じく、せぇので交換すれば。
 黎の手元に夜を抱く藍が、ユエの手元に星抱く黒が零れ落ちた。

『藍もまた、好い色をしておるな』
 
 夜明けの空に、藍が乗る。
 背景の色の分だけクリーム掛かった藍の空は、何とも優しい雰囲気を抱いて黎の瞳に映っていた。
 少しだけ文字を柔らかくして綴れば、星とはまた異なった書き心地にほうと吐息一つ。
 黎が綴るのは他愛ない事。一言、二言から始めて。少し戯れも交えて。

『黎さんが選んだ彩も星空が美しいね』

 戯れる彼の言葉の綴りに笑みを一つ浮かべ、一文認めたその後ろに、ユエもまた戯れを返していく。
 戯れ交えつつも、本心も織り交ぜて。二人で彩り紡いでいくのは、夜の色。
 星空が美しく煌めて、贈る言葉が更に素敵に変わっていく。

『黎さん
 これからも楽しい想い出一緒に作くれるかな?
 僕も黎さんと出逢えて
 本当に嬉しい』

 戯れの問の綴りに、黎もまた飾らぬままの想いをユエへと向けて。
 藍の夜が、紡がれた言葉に揺らりと揺れて乾いていく。

『勿論
 我もユエと同じ想いを抱いておるぞ』

 取り留めもない言葉を綴り合い、二人の時間は流れていく。
 声に出せば、形無いまま一瞬で姿を消してしまうそれ。
 でも、文字として綴れば、未来永劫残っていくから。
(「黎さん、楽しそうだね」)
 ユエがふと黎の横顔を見つめれば、仄かに弧を描いた口元が飛び込んできた。
 黎が楽しそうにしている姿を見て、ユエの心も再び嬉しさと共に弾んでいく。
(「馴染ませる様にペン先を滑らす姿は屹度、樂しげに映ろうな」)
 端から見れば、仲睦まじい友として捉えられるだろうと。自然と緩くなる表情に、止まりを見せることのない黎が綴っていく言葉の数々。
 揃いの望月が綴り之く言の葉。広がる一方で終わりを見せない、夜の色。
 これは始まりに過ぎず、これからもまた、お互いに沢山の言葉を紡いでくのだろうから。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

瀬名・カデル
◎◆
【花雪】
美弥子は先生に会えたかな?
お土産いっぱい渡して、二人とも楽しいひと時を過ごせますように祈るんだよ。

ねぇ、ボク達もペンに沢山の紙があるからお手紙を書いてみようか。
ボクは景雪にお手紙を書いたらいいんだね!
ええと~…雪もいいけど、この桜の紙にしよう!
グレーのインクを浸して…っと
『景雪へ
ボクちゃんとお名前かけてるかな?まちがっていない?
かんじや文字ってむずかしいけど、お名前はいっぱい練習したんだ!
今回のいらいもとってもたいへんだったけどたのしかったね。
またいっしょに行こうね!』
文字を書くのは実はまだちょっと苦手なんだけど、景雪の国の文字、ちゃんと書けているかな?

わ、景雪のお手紙と一緒に…!


叶・景雪
◎◆
【花雪】
難しい漢字は平仮名使用
名前以外カタカナはNG

美弥子おねーさん、すてきなお手紙かけたみたいでよかったね!
ぼくも気もちこめてお手紙かけるかなぁ?
(アクアリウム風の可愛らしい縦書きの一筆箋に一目惚れしたガラスペンを手に取ると達筆で)
『かでるお姉さんへ
いつも素敵なお誘いをありがとう。
これからも、もっともっと楽しいことやわくわくどきどきする景色をたくさん見に行こうね!
景雪』
言葉に記すとちょっと気はずかしいけど…
たくさんの大好きが伝わったかなぁ?
がらすぺんといっしょに買ったすてきなぺんれすとに、
同じ色の文字でつづったお手紙をそえておくるね
わっ、カデルおねーさんのお手紙、やさしい字だね(ほわわ)



●冒険譚は続いていく
 目の前に沢山並べられているのは、色も種類も取り取りな紙たち。
 美弥子の居た場所を見ながら、瀬名・カデルは還っていった彼女に向かって少しの間祈りを捧げた。
「美弥子は先生に会えたかな? お土産いっぱい渡して、二人とも楽しいひと時を過ごせますように、って」
「うん、美弥子おねーさん、すてきなお手紙かけたみたいでよかったね!」
 叶・景雪の言葉にカデルも笑顔を浮かべたのなら、次は自分たちの番!
 色々な紙が二人を出迎えてくれている。この中から紙を選んで、文字を綴る一時もガラスペン探しと同じように、とても楽しいだろうから。
「ねぇ、ボク達もペンに沢山の紙があるからお手紙を書いてみようか」
「そうだね! ぼくも気もちこめてお手紙かけるかなぁ?」
 仲良く試し書きのスペースへと足早に向かえば、いよいよお手紙の時間だ。
 カデルと景雪は、お互いに隣に居る大切な友人に向けて、どんなお手紙を書こうかと一生懸命悩み始める。
 例え文字は上手く書けなくとも、込められた気持ちはしっかりと相手に伝わるだろうから。
「お魚がたくさんおよいでいるみたい。これにしよっと!」
 景雪が沢山ある紙の中から選んだのは、色鮮やかな熱帯魚が泳ぐ薄い青色の可愛らしい一筆箋。
 一目惚れした刀を模したガラスペンを手に、青いインクに付けると――そのまま、さらりと流れるような動作で文字を紡いでいく。
 ガラスペンを少しずつ回転させながら、力を籠めずに滑らせるように。
 ガラスペンで書いたとは思えないほど柔らかく達筆な文字は、アクアリウムの上でゆっくりとその色をしみこませていった。
 乾ききり、一層青が鮮やかになった一筆箋に「上手くかけたかな?」と景雪は人差し指を頬に当てる。

『かでるお姉さんへ
 いつも素敵なお誘いをありがとう。
 これからも、もっともっと楽しいことやわくわくどきどきする景色をたくさん見に行こうね!
 景雪』

 今日一日も楽しかったから、次はどんなところへ行こうかなって。
 そう考えただけで、ワクワクドキドキしてしまう。
 楽しい気持ちを一杯込めたお手紙が、どうかカデルおねーさんに伝わりますように。
「言葉に記すとちょっと気はずかしいけど……たくさんの大好きが伝わったかなぁ?」
 普段思っていることを改めて言葉にして伝えることは気恥ずかしいけれど、沢山の大好きを閉じ込めたから、きっと伝わるはず。
「ボクは景雪にお手紙を書いたらいいんだね! ええと~……雪もいいけど、この桜の紙にしよう!」
 そしてカデルもまた、景雪へと送る手紙を選んでいるところだった。
 景雪の名前が入っている雪も馴染みがあって良いかもしれないけれど、折角桜が綺麗な世界に来たからと、カデルは白に舞い散る桜吹雪が綺麗な手紙をチョイス!
「グレーのインクを浸して……っと」
 景雪の本体である刀身を思わせる銀を纏ったグレーのインクにガラスペンを浸して、カデルが綴っていくのは景雪の国の文字でもある、東方の言葉。
 漢字にカタカナ、ひらがなと種類は沢山あるけれど、勉強した今なら、間違えることなく書けるはず。
 一画一画ゆっくりと、時々力を抜きながら、カデルはゆっくりと言葉を桜に託していく。

『景雪へ
 ボクちゃんとお名前かけてるかな?まちがっていない?
 かんじや文字ってむずかしいけど、お名前はいっぱい練習したんだ!
 今回のいらいもとってもたいへんだったけどたのしかったね。
 またいっしょに行こうね!』

 儚く、それでもしっかりと綴られた文字の列。
 桜に抱かれたグレーは、これから迎える春にぴったりの雰囲気だった。
「文字を書くのは実はまだちょっと苦手なんだけど、景雪の国の文字、ちゃんと書けているかな?」
 間違いがないように何度か確認したら、同じ桜を抱く封筒に手紙を入れて。
「かでるおねーさん、いつもありがとう!」
「こちらこそ! 今日は楽しかったね。景雪と一緒に、色んな所に行けたら良いね」
 景雪が海色の貝のペンレストと共にアクアリウム風の一筆箋を差し出せば、カデルは驚いたようにその瞳を丸くさせた。
 それから、にっこりと嬉しそうに顔を綻ばせて、そっと貝のペンレストを撫でるのだった。
「わ、景雪のお手紙と一緒に……! ペンレストだね。大切にするね」
「わっ、カデルおねーさんのお手紙、やさしい字だね」
 カデルから受け取った手紙をすぐに読んだ景雪もまた、ふわりと微笑みを浮かべて。
 お互いに贈り合った手紙と沢山の大好きに、ほわほわと心が温かくなる。
 次は何処へ冒険に行こうかって、手紙と共にお喋りする時間もまた、楽しいものだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

真宮・響
【真宮家】で参加:◎◆

美弥子は無事未練を果たせたようだね。自ら選んだインクと万年筆で手紙を書いて・・・先生の所に届けにいったんだろう。そう信じたい。

美弥子は想い人の所にいったが、アタシはまだ死んだ夫の居る所に行けない。せめて夫への想いを、似合うと言ってくれたルビーレッドのインクと瞬の愛情の証である万年筆で綴るよ。・・・あなた、アンタが残してくれた奏は元気にやってる。瞬もいるからこれからも上手くやっていけそうだ。まあ、アンタの元へ行くのはまだまだ先になりそうだ。天から見守っててくれ・・永遠に、愛してるよ。


真宮・奏
【真宮家】で参加:◎◆

美弥子さんは、無事旅立たれたようですね。したためた手紙を先生に渡せたと信じたい。万年筆、私とお揃いのも持って行ってくれたのかなあ。そうだったら、嬉しい。

青のインクと美弥子さんのお揃いの万年筆で綴るのは瞬兄さんへの想い。ずっと抱き続けてきた恋する想い。困難な恋だけど、この恋心を捨てる気はない。せめて、瞬兄さんの傍にいたい。その優しい笑顔をいつまでも見ていたいから。精一杯の想いを込めて、文にします。


神城・瞬
【真宮家】で参加:◎◆

美弥子さん、綺麗な笑顔でしたね。待っていた方の元へ行かれたのでしょう。尽力が報われるのは、嬉しいですし、こちらも幸せになります。

銀色のインクに揃いのスターリングシルバーの万年筆。綴るのは奏への想い。僕を慕っていてくれるのは嬉しいぐらいですが、奏の全てを受け止める器ではなく。未熟な男でごめんなさい。でも、いつか一人前の男になったら、必ず想いを受けいれますから、待っててください。約束は必ず護りますから。奏の可愛い笑顔を思い浮かべなから、したため、そっと封をします。この手紙は、僕だけの秘密で。



●それぞれの想い
 優しい表情で美弥子を見送った先に、ふわりと漂う紅梅の花。
 それをそっと拾い上げれば、もう春が近いことに気付いたから。
「美弥子は無事未練を果たせたようだね。自ら選んだインクと万年筆で手紙を書いて……先生の所に届けにいったんだろう。そう信じたい」
 指先に一足先に綻んだ春色を眺めながら、真宮・響は願いを重ねる。
 きっと、先生のところに辿り着けたのだと。そう信じたい。自らもまた、恋した乙女であったから、響には痛いほど美弥子の気持ちが理解できた。
 あれほど恋い焦がれていたというのに、一人で転生の道を進むのは、あまりにも寂しすぎる話なのだから。
「ええ。美弥子さんは、無事旅立たれたようですね。したためた手紙を先生に渡せたと信じたい。万年筆、私とお揃いのも持って行ってくれたのかなあ。そうだったら、嬉しい」
 響が拾い上げた紅梅の花弁を真宮・奏もまた、眺めながら。奏が想い馳せるのは、楽しかったあの一時のこと。
 美弥子が大切に抱いていた万年筆が入った箱たちも、一つ残らず消え去っている。奏とお揃いの万年筆もしっかりと握りしめて、持って行ったのだろう。
「美弥子さん、綺麗な笑顔でしたね。待っていた方の元へ行かれたのでしょう。
尽力が報われるのは、嬉しいですし、こちらも幸せになります」
 神城・瞬もまた、響と奏の言葉に相槌を返した。
 笑顔は多い方が良い。幸せな結末を迎えただろう美弥子を見ていると、こちらまで幸せになってくるのだから。
「さて、アタシたちも手紙を書くとしようか」
「そうですね、母さん。私は……」
「奏、どうかしましたか?」
 響の言葉に、チラリと奏は瞬の方を見て。それから慌てて「何でもないです」と頭を振った。
 話の直後に瞬兄さんの方を見てしまうなんて、彼に宛てて書くと公言してしまうようなものだから。
(「美弥子は想い人の所にいったが、アタシはまだ死んだ夫の居る所に行けない。だから、せめて夫への想いを」)
 美弥子は先生の元にいったが、響はまだ最愛の夫の元へ行くことはできない。それにそもそも、まだ行く気も無かった。
 夫の分まで愛しい子どもたちの成長を見守っていくのも楽しみであるし、まだまだやり残したことが沢山あるのだから。
 だからせめて、言葉を手紙に落とし込んで。どうか届けと、祈りながら。
 嘗て、夫が似合うと言ってくれたルビーレッドのインクと瞬の愛情の証である万年筆で、夫への愛の言葉の数々を。
 白に赤い線が紡がれている便箋の上に、綴っていくのはインクよりも情熱的な言葉の数々だ。
 少し太めのペン先から描き出される言葉は、きっと空の上からでもよく見えることだろう。

『――あなた、アンタが残してくれた奏は元気にやってる。
 瞬もいるからこれからも上手くやっていけそうだ。
 まあ、アンタの元へ行くのはまだまだ先になりそうだ。天から見守っててくれ……永遠に、愛してるよ』

 出会って恋に落ち、今までからこれからも変わらぬ想いをそっと封にして。
 これは響だけの秘密なのだから。そしていつか夫の元へと行った時に、手渡すつもりで。
 だから、その時まで。
「奏も瞬も、熱心に書いているみたいだね」
 そっと愛しい子どもたちを見つめれば、二人とも静かに手に持った万年筆を走らせていた。
(「いつか、瞬兄さんに想いを手渡せたら……」)
 晴れ空が美しい青のインクと、美弥子さんと一緒に選んだお揃いの万年筆で綴るのは、瞬兄さんへの淡い想い。
 ずっと抱き続けて、そっと胸にしまっておいた恋心。困難な恋だけど、奏はこの恋心を捨てる気はない。
 少し大げさな話だけど、家族以外の、世界の全ての人々がこの恋を反対しても、この想いを捨てることなんてできやしないから。
(「せめて、瞬兄さんの傍にいたい。その優しい笑顔をいつまでも見ていたいから」)
 精一杯の想いを込めて、文に綴っていく。
 淡い桜色が綺麗な便箋に浮かぶのは、恥ずかしくて少し濃くなってしまった空の色。
 最初は書き損じにしてしまおうかと思ったけれど、この方が想いが籠っている気がしたから、奏はそのまま続きを書き続けた。
 背伸びしないまま、ありのままの自分の想いを。お揃いの万年筆で紡ぎ、空色に託して。

『瞬兄さんへ
 今はこうして手紙で想いを綴るしかできませんが、いつか直接言葉にして伝られることがあったのなら――……』

「我ながら、上手くかけたような気がしますね」
 出来上がった恋文を改めて見返して見れば、それほど悪い出来でも無いように思えた。
 濃く薄く、移り変わる空を思わせる青色に、見慣れた自分の文字が躍っている。
 桜舞う春空のように、いつか、この想いが実る日が来ることを祈って。
 渡そうか、渡すまいか。それを決断するのは、じっくり考えた後からでも遅くはない。
(「今はまだ。ですが、一人前になったら――」)
 奏が瞬への想いを綴っていた横で、瞬もまた、奏への想いを紙へと落とし込んでいた。
 銀色のインクに、インクとお揃いのスターリングシルバーの万年筆を取り出して。
 星のような銀色がよく映える、クラシックな黒い便箋を手繰り寄せた。
 夜空に星が浮かぶように。黒の手紙に綴るのは、奏への想い。
 義妹の想いには気づいてはいるが、今はまだ、その時ではないと。知らない振りをしているから。

『奏へ
 僕を慕っていてくれるのは嬉しいぐらいですが、奏の全てを受け止める器ではなく。
 未熟な男でごめんなさい。
 でも、いつか一人前の男になったら、必ず想いを受けいれますから、待っててください。
 約束は必ず護りますから――……』

 夜空に揺れる、白銀の調べ。
 星々は黒の上を揺蕩いながら、瞬の想いを形ある言葉として紡いでいく。
 奏の可愛い笑顔を、自分へと呼びかける、弾むようなあの声を。それらを思い浮かべなから、手紙を認めて。
 そして――丁寧に折ると、そっと封をした。
 この手紙は、瞬だけの秘密なのだから。
 この想いを直接伝える時は、果たしていつになるのだろう。あまり遅くならないことを願いながら、瞬は星宿る夜空をそっとしまい込んだのだ。
「奏も瞬も、書き終えたみたいだね」
「その様子ですと、母さんも終わったのですね。何を書いたのか――なんて、聞くのは野暮ですから」
「それぞれの秘密に。それで良いでしょう」
「ああ。そうさね。さて、そろそろ帰ろうか」
 三者三様。手紙に託したそれぞれの想いは、そっと封をして、いつか来るその日まで大切に仕舞いこんで。
 仲良く帰路につく家族の姿は、きっと、誰の目から見ても仲睦まじい様子に映っていたに違いない。
 抱く想いはそれぞれ異なれど、願うはただ一つ――どうか、大切な人が明日も笑顔で笑えますように、と。
 それだけなのだから。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

炎獄・くゆり
🔥🎨
◆◎

互いの「運命の子」を仲良く並べてニヤリ
お揃いの薔薇硝子をくるり回して
ふむふむ?
たまには紙に何か書くのも楽しそうかも?

何書きますぅ?
お互いの好きなトコロとか~?
フィーちゃんの好きなトコロはァ
全部~~~
絞ったほうがイイなら顔~~~
笑顔が世界一キュート!

作る色は勿論マゼンタ
コレでフィーちゃんの似顔絵書いちゃお
いつも見てるんで余裕ですよぉ
……
全然似なくてウケる

フィーちゃんは~~?
アッハ、似すぎでしょ!
鏡見てるのかと思いました
さっすがフィーちゃん、超天才!

そろそろお手々繋いで帰りましょっか
あたし達のおうちに!
ウフフ、コチラこそ
フィーちゃんとこのコたちのお陰で今日も素敵な日になっちゃいましたァ


フィリーネ・リア
🔥🎨
◆◎

互いの「運命の子」を仲良く並べてふわり
お揃いの薔薇硝子のペンを手に
うふふ、素敵な子なのと聲弾ませて

好きな所ならフィーも全部になっちゃうよ?
笑顔と云われたらつい頬もゆるんじゃうひとつを選ぶならフィーを可愛くしてくれるくゆちゃんの手がすき

好きな色は同じインクで作れるから
ふたりのインクを混ぜて
フィーはあなたの炎に似た色で

うふふ、くゆちゃんの描くフィーもかわいいよ
お返しにフィーも頑張って描くね?
焔を吸わせたペン先を滑らせて
線が彩り描くはだいすきなあなた
鏡なんて誉めすぎなの

ん、たくさん堪能したし手繋いで帰ろっか
運命の子達をフィー達のおうちにお迎えしなきゃ
くゆちゃん
今日は一緒してくれてありがと



●今日を彩るあなたの絵
 手元を彩る羽根のペン。お互いに贈り合った「運命の子」。
 燃ゆる紅葉のような赤色に、ピンクから赤へと映ろう情熱の色。
 机に仲良く並べて眺めてみれば、フィーちゃんとくゆちゃんがちょこんとそこに居るみたいで。思わず口角もあがってしまう一方だった。
 高くなるテンションのまま、薔薇硝子を器用にくるりと指先で回してみせたのは炎獄・くゆり。
 重心が取りにくいガラスペンであっても、不思議と危なさを感じさせずにくるりとペンを回す姿は、サーカスの曲芸師のよう。
 薔薇宿る硝子を様々な角度から眺めたのなら、フィーちゃんとお揃いという実感が遅れて込み上げてきて、再び笑みも深くなる。
「ふむふむ? たまには紙に何か書くのも楽しそうかも?」
「うふふ、素敵な子なの。そうね。一緒に書くのも楽しそう」
 お揃いの薔薇硝子のペンを手に、フィリーネ・リアまた聲を弾ませて。
 くゆちゃんとお揃いだから、手元の彩も一層好きになれる。
「何書きますぅ? お互いの好きなトコロとか~? フィーちゃんの好きなトコロはァ全部~~~!」
「好きな所ならフィーも全部になっちゃうよ?」
お互いの何処が好きかなんて、口に出さなくても分かっていた。
 それでも改めて声に出してみれば、やっぱり全部が愛おしくて。
 二人並んで綴り出したら恐らく、紙の十枚や二十枚、あっという間にお互いの色に染まってしまうのだろう。
「絞ったほうがイイなら顔~~~! 笑顔が世界一キュート!」
「ひとつを選ぶなら、フィーを可愛くしてくれるくゆちゃんの手がすき」
 大好きなくゆちゃんに笑顔と言われたら、つい頬もゆるんじゃう。
 にっこりと頬をくゆちゃんの色に染めながら、フィリーネはふわりと笑顔浮かべて。
 くゆちゃんの顔も好きだけど、フィーを可愛くしてくれるくゆちゃんの手はもっと好きだった。
「コレでフィーちゃんの似顔絵書いちゃお。いつも見てるんで余裕ですよぉ」
 お互いの好きな所を言い合って、二人描くところを決めたのなら、後は二人の色を創っていくだけだった。
 これしかないと、くゆりは迷うことなく鮮やかなマゼンダを作っていく。
 フィリーネの顔はいつも見ているし、何ならずっと見ていられるから、描くのも余裕のハズで――……。
「……全然似なくてウケる」
 正面のフィリーネが可愛いのは勿論、横顔も、少し下から見ても。何処から見ても可愛いのがフィーちゃんの魅力。
 いつも見ている割に、くゆりが描き出したマゼンダ色の少女の顔はフィリーネに似ていないような。
 寧ろ、あっちこっちに視点がバラけて、継ぎ接ぎのフランケンシュタインのように、なっているような……。
 少女を描いたって分かる人の方が、少ないような?
「くゆちゃんは、きゅびずむ? あちこちからフィーのこと描いてくれたの」
「アハ、キュビズム! そーゆーのもアリですねェ!」
「うふふ、くゆちゃんの描くフィーもかわいいよ。お返しにフィーも頑張って描くね?」
 本末転倒なのだろうか。なんちゃってキュビズムでフィリーネが喜んでいるのなら、それでヨシ! と深く考えないことにしたくゆり。
 一方のフィリーネもまた、イエローとマゼンダを混ぜ合わせて、くゆりの色である橙のような赤のような、揺れる焔の色を作り出していた。
 薔薇硝子に焔の色彩を吸わせて。滑るペン先で描き出すのは、だいすきなあなた。
 いつものお礼に、さっきの絵のお礼に。鏡合わせのくゆちゃんを、紙の上に。
 髪の跳ねる角度も、可愛い笑顔も。全部、憶えているから。
「フィーちゃんは~~? アッハ、似すぎでしょ!」
 トンとひっくり返して完成した自分の絵を見ると、鏡でも覗き込んでいるかのような出来栄えに、くゆり本人も大盛り上がり。
「鏡見てるのかと思いました。さっすがフィーちゃん、超天才!」
「鏡なんて誉めすぎなの」
 さすがフィーちゃん、何でもできる!
 少々親バカになりつつも、フィリーネの才能は確かなものなのだから。
 描き合った絵を話題にひとしきり笑い合ったのなら、時計が丁度良い時刻を差していることに気付いて。
 名残惜しいけれど、そろそろ帰る時間だから。
「そろそろお手々繋いで帰りましょっか。あたし達のおうちに!」
「ん、たくさん堪能したし手繋いで帰ろっか。運命の子達をフィー達のおうちにお迎えしなきゃ。くゆちゃん、今日は一緒してくれてありがと」
「ウフフ、コチラこそ。フィーちゃんとこのコたちのお陰で今日も素敵な日になっちゃいましたァ」
 行きは二人で。帰りは、運命の子達と一緒に。
 みんなで仲良く帰ったのなら、楽しみになるのは、次の約束のこと。
 明日も素敵な日になりますようにと祈りながら、仲良く手を繋いで。くゆりとフィリーネは、帰路に就く。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

琴平・琴子
新しく手にした万年筆に、注いだのは若葉のインク

初めまして
こんにちは

貴方はどんな子か聞いてみたくて記した二つの言葉
心地良く書き記してくれたお返事に思わず微笑んで綴るのは…

これからよろしくね

貴方と共に言葉を紡いで行けたのなら
きっとどんな言葉も綺麗に見えるというもの
私これでも筆まめらしく
想いを綴るお手伝いを一緒にしてほしいの

これから私と付き合っていく貴方、どうか傍に居てね
万年は使えないかもしれないけれど、百年は傍にいるつもり

私の新しいおともだち
どうか飽きずに耳を傾けて
どうか私の気持ちを綴って、記してね
貴方が寂しくならない様に、思い返せるように
私がいたという証をずっと残してね



●「「初めまして、」」
 何にでも成れる。輝く白い箱には、制作陣のそんなメッセージが込められているらしい。
 緩く結わえられているリボンを解いて蓋を上に開けたのなら、顔を覗かせるのは、先ほど自分が選んだ半透明のミントグリーンが美しい万年筆だった。
 琴平・琴子に「おはよう」を告げる万年筆を箱の中からそっと起こしたのなら、次に手に取るのは、万年筆よりも前に選んだ若葉色のインク。
 若葉のインクを日差し煌めくエメラルドグリーンに注いだのなら、半透明の胴軸からひょっこりと少し色が薄くなった緑が顔を覗かせていて。
 美しい調和を見せるエメラルドグリーンと若葉に微笑みながら、空色の紙に綴るは初めましての挨拶だった。

『初めまして
 こんにちは』

(「寂しがり? 頑張り屋さん、それとも、人懐こい子なのかしら」)
 貴方はどんな子か聞いてみたくて、琴子が記した二つの言葉。
 ふわりと鮮やかに芽吹く、明るい若葉の緑色。
 どんな子かなんて、すぐに分からなくて良いから。これから時を一緒に歩むうちに、少しずつ寄り添っていけたら。
 まるで意思を持っているかのように、独りでに滑りだすペン先。心地良く書き記してくれたお返事に、思わず微笑みながら、続きを綴っていく。

『これからよろしくね』

 晴れの日も、曇りの日も、雨の日だって。虹の日も勿論。
 遠くに出かけた時も、見知った近くを散歩した時も。
 変化のある毎日。貴方と共に言葉を紡いで行けたのなら、きっとどんな言葉も綺麗に見えるというもの。
 どんな言葉を書いても輝けるから、だから。
(「私これでも筆まめらしく、想いを綴るお手伝いを一緒にしてほしいの」)
 その日あったことを、忘れないように。貴方と共に、書き留めて。
 時には一緒に振り返るのだって、新しい発見があるかもしれない。
 時が経つにつれて変わっていくだろう文章の構成や文字の形に、こんなこともあったねと語り合えたのなら。

『これから私と付き合っていく貴方、どうか傍に居てね
 万年は使えないかもしれないけれど、百年は傍にいるつもり』

 流れるように文字を綴れば、少しだけこの子の癖が分かって来たような。
 描き出される若葉の文字も、生き生きと輝き始めたようにも見える。
 もっと文字を綴っていけば、完全に琴子の手に馴染む日もそう遠くないように思えたから。
 成長して、大人になって、その後も。
 そして次の百年を、私の大切な人達と一緒に紡いでいくことが出来たのなら――それ以上に、幸せなことはないのだから。
「私の新しいおともだち。どうか飽きずに耳を傾けて、どうか私の気持ちを綴って、記してね」
 貴方が寂しくならない様に、思い返せるように。
 私も沢山の出来事や想いを、貴方と共に書き残していくから。
(「――私がいたという証をずっと残してね」)
 だから。

『これから、素敵な日々を一緒に送っていきましょうね
 約束よ』

 形になってきた万年筆の持ち方でそう続ければ、手の中のこの子が、ふわりと微笑んだ気がした。

大成功 🔵​🔵​🔵​

西條・東
SPD
美弥子姉ちゃんを見送ったら
今日買った新しい万年筆で、美弥子姉ちゃんと買い物したこと、色を思い出せた事とか、今日起こったことを原稿用紙に書くぞ!
長くても飽きにくくて、分かりやすくて、思い出しやすい…自分の大切な色を忘れても思い出せるような文章で!
『よしっ、これなら父さんと母さんにも今日の事を伝えられるな!』
今は一緒には住んでないけど、会える時にはこの話もしよう!

『美弥子姉ちゃんも先生に会えてると良いな』
どうなるか分かんない…いやっ、会えてるな!俺はそう思うことにするぜ!

アドリブ歓迎



●『俺と姉ちゃんの物語』
「美弥子姉ちゃん、先生と仲良くな!」
 さよならは言わない。
 また会える日まで、手を振って笑って見送るから。
「美弥子姉ちゃんだけじゃなくて、先生も褒めるような物語を見せるからな!」
 決意を改めて、再会の約束を新しく。結って解けないようにしっかりと結べば、次は自分の番だから。
 黒い出目金が泳ぐ万年筆を取り出したのなら、西條・東が手に取るのは等間隔で線の引かれた原稿用紙。
 紅葉舞うインクと共に、原稿用紙に綴っていくのは、筆記具を買いに博覧会に行ったこと、そこで美弥子姉ちゃんと出会ったこと、美弥子姉ちゃんと買い物したこと、色を思い出せた事――全て、今日有ったことだ。
(「長くても飽きにくくて、分かりやすくて、思い出しやすい……自分の大切な色を忘れても思い出せるような文章で!」)
 晩夏から晩秋にかけて、橙から真紅へと美しい変化をみせる紅葉のように。
 原稿用紙の上に生まれる言ノ葉たちも、ゆらゆらと揺れ、舞いながらその葉に抱く色彩を変化させていく。
 紅葉はいつか散ってしまうけれど、冬が来て、再び春を眺めるように。決して朽ちない言ノ葉を、原稿用紙の上に咲かせよう。
 この色彩を使ったのなら、自分の色が赤橙だってすぐに分かるはずだから。
「『双黒にそっくりの万年筆と出会った。その金の瞳を真っ直ぐに向け、こちらを見上げていた』――と。あと、『あの文豪の万年筆も展示されていた。有名な文豪への憧れと共に見上げるそれは、主人を喪って何処となく寂しそうにも思えた』これは外せないな」
 父さんと母さんに逢える時と。
 自分の全てを受け入れて、これこそが自分だって胸を張って言える日と。
 どっちが早いのだろう。でも、どっちも来ると良いから。
「よしっ、これなら父さんと母さんにも今日の事を伝えられるな!」
 今は一緒には住んでないけど、会える時にはこの話もしよう!
 この話だけじゃない。他にも、俺が今まで体験したことの話を。
 手元の原稿用紙は十にも満たないくらいだけど、全てを書き終えた時、その原稿用紙の山はどれほど高くなるのだろう。
 数を数えるのが恐ろしくなるようで、それでいて完成が少しだけ楽しみなような。
「……後から読み返した時に、誤字脱字が見つからないと良いな」
 父さんと母さんに意気揚々と見せて、誤字脱字が酷かったら……あまり考えたくはなかった。
 著名な文豪に憧れる手前、自分自身の手で紡ぎ出す物語も大切だけど。
 忘れてはいけない、物語がもう一つ。人生という名の、自分自身に纏わる大作だ。
 美弥子姉ちゃんが、姉ちゃんにしか綴れない物語に、幸せな幕を下ろしたように。
 俺も、と。
 「美弥子姉ちゃんも先生に会えてると良いな」
 幸せな場面で区切ればその物語は、喜劇に終わり。不幸せな場面で区切れば、その物語は悲劇で終わる。
 本を閉じたその後の物語は、読者が想像するしか無いのだから。
 「お終い」に続くその先は、喜劇にも悲劇にも、どちらにも転ぶ可能性を秘めているのだから。
(「どうなるか分かんない……いやっ、会えてるな! 俺はそう思うことにするぜ!」)
 だからこそ、東は美弥子姉ちゃんの幸せな結末――否、幸せな始まりを祈るのだ。
 永い冬が終わり、再び春が芽吹くように。物語は終わり、そしてまた始まる。
 東自身の物語もまた、まだまだこれからなのだから――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

尾宮・リオ
◎駒知さん(f29614)と



花笑うように還っていった
美弥子さんを穏やかに見送って
向かう先は試し書きコーナー

駒知さんから頂いた万年筆
きらりと光る揃いの蠍座
もう、書くことは決まっていた

選ぶのは星が輝く便箋
君は、やさしい人だから
誰宛てかなんて聞きませんよね
それに甘えて込めるのは
日々募るあたたかな気持ち

駒知さんより少し早く書き終えて
宵色封筒へと感謝を閉じ込めた
書き上がりましたか?

はい、どうぞ、と君に向けたと同時
同じように手渡される手紙
思わず、ぱちくり瞬いた

同じこと考えてたんですね
くすりと楽しげに笑い

読むのはおひとりで
家に帰ってからお願いしますね
僕も、そうさせて頂きます

手紙の内容は
ふたりだけの秘密です


明日川・駒知

リオくん(f29616)と
アドリブ、マスタリングお任せ

_

──…またいつか逢いましょう。
彼女を微笑って見送る。


_

貴方と揃いの蠍座を手に取る。
書くは、手紙。

隣の彼も手紙を書くそうで
けれど貴方が誰に宛てるかは勿論訊きません
けれど、その思いが貴方の大事な人へ届くといいと
ただそれだけを


私が綴るは日々の感謝。
私は言葉が多くない方だからありったけの思いを。

彼より少し遅く書き終えて、この心が一欠片だって溢れてしまわないよう封をして
「ええ、お待たせしました。──はい、」
差し出すは、揃いのアンタレス持つ貴方へ。
けれど貴方の宛先は私、で
目を丸くしてそれから瞳細め
…私のも、家に帰ってから読んでくださいね。


『拝啓、』



●出立
「──……またいつか逢いましょう」
「――……うん、またね」
 交わす言葉は少なく、抱く想いは多く。
 互いに伝えたいことは多く在っても、時間がそれを許さなかったから。
 最も伝えたい言葉を送り、花笑うように還っていく美弥子のことを見送った。
 笑顔を浮かべて、告げる言葉はただ一つ――また何処かで逢いましょう。

●『拝啓 隣で咲うあなたへ』
 美弥子を見送った後で、尾宮・リオと明日川・駒知が足を運ぶはただ一つ。
 原稿用紙に手紙、日記帳。様々な紙が並べられた、試し書きのブースへと。
 自然と揃う足並みに、高級感の溢れるタイルに響く足音が四つ。どちらからともなく、足がそこに向かっていた。
 リオが駒知に。駒知がリオに。
 二人の手元できらりと光り輝くのは、揃いの蠍座の一等星。
 距離さえも追い越してしまうほど明るく輝くそれは、すぐ傍で――隣り合って輝いていると、錯覚してしまいそうなほどで。
 それでも、二人の間に横たわる実際の距離は、近くて遠い。人二人分だけ空いたスペースを保ったまま、それぞれが静かに紙を選び始めた。
(「君は、やさしい人だから、誰宛てかなんて聞きませんよね」)
 数ある便箋の中から迷うことなくリオが選んだのは、星が瞬く美しい便箋だった。
 数多の光を放っていれど、けっして並ぶ文字列を押しのけて自らが目立とうという感情は何処にも存在せず。唯、言葉として想いが託されるその瞬間を待ち望むだけの、静かな星空。
 もう、書くことは決まっていた。
 指先のアンタレスと瞬く星空に託して。
 誰宛てかなんて、最も気になるだろう質問で。
 でも敢えてそれを訊かない駒知に甘えて込めるのは、日々募るあたたかな気持ち。
 いつも隣にいる君だからこそ、伝えておきたい想いの数々だった。
 他の誰でもない、今も隣にいる君の為に。リオはペンを走らせていく。
(「リオくんも手紙を書くみたいですが……」)
 少しだけちらりとその横顔を伺ったのなら。
 駒知の瞳に映るのは、真剣な表情で想いを形にしているリオの横顔で。
 リオからの手紙を受け取るその人のことは気にならないことも無いけど、リオが誰に宛てるかなんて、勿論訊かなかった。
(「その思いが貴方の大事な人へ届くといいと、ただそれだけを」)
 どうか、貴方の大事な人がその手紙を読んで、笑顔になってくれますように。
 それだけを祈って、駒知もまた、便箋を手に取った。
 選ぶのは、淡い空色の広がる便箋。
 永い夜の終わりを告げるかのように広がる空に、綴るのは日々の感謝。
 私は言葉が多くない方だから、ありったけの思いを。
 手紙の中だからこそ伝えられる、飾らない本心を。
 今だからこそ告げられる、感謝や想いを。蠍座に託して、花束にして。
 空に広がる、美しい蠍座の軌跡。赤い光は、宿る空を選ぶこと無く。青空の元であっても、輝きを失くことはなかった。
 この全てを綴り終えたのなら、一欠片も零さぬように封をして。貴方に送ろう。
「――書き上がりましたか?」
「ううん。あと少し」
 駒知より少しだけ早く手紙を書き終えたリオが、顔を上げた。
 一瞬だけ駒知の様子をちらと見れば、まだ机の上の手紙を眺めている最中のようで。
 僕の方が少し早かったかなんて思いながら、リオは宵色封筒へと感謝の星空を閉じ込めた。この星空を見るのは、僕と君だけで良いのだから。
 星明かりの一つも漏らさぬように丁寧に封をしたのなら、隣の君へ。
「はい、どうぞ」
「ええ、お待たせしました。──はい、」
 リオより少し遅く書き終えた駒知もまた、この心が一欠片だって溢れてしまわないよう封をして。
 気恥ずかしさを押し殺して勢いのまま差し出すは、揃いのアンタレス持つ隣の貴方へ。
 はい、と差し出したは良かったけれど、何故だか返事が聞こえずに。不思議に思って顔を上げたら――貴方の宛先は私、で。
「同じこと考えてたんですね」
「そうだったみたい……ですね」
 殆ど同時に相手へと差し出した手紙。まさか、お互いがお互いに書いていたとは露知らず。
 灯台下暗しの手本例になりそうなそれに、目を丸くして、それからふふっと2人で瞳細めて笑いあった。
「読むのはおひとりで、家に帰ってからお願いしますね。僕も、そうさせて頂きます」
「ええ。……私のも、家に帰ってから読んでくださいね」
 秘密に秘密を重ねてクスクスと微笑み合えば、家に帰る瞬間が待ち遠しくて。
 受け取った想いの結晶を手にしているだけでも、心臓が高鳴るというのに、この封をそっと開ける瞬間はどれほど緊張して――どれほど、嬉しいのだろう。

『拝啓、』

 博覧会に纏わる二人の今日の物語は、これでお終い。
 その先に続く星空も、赤星の光の軌跡も。手紙に託したそれぞれの想いも。
 きっと、二人しか知らない。
 リオと駒知にしか、分からない。二人だけの秘密に。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

アオイ・フジミヤ
シン(f04752)と
◎◆

彼女は何処へ還って行ったんだろう
私が最後瞼を閉じるとき
あんな風にあなたのもとへ還れると信じさせて

深い深い藍色の夜のような便箋を選ぶ
手紙を書く、よ
見ちゃだめー(便箋を隠す)

『シン・バントラインさま

シャンパンゴールドの月のかけらを流星にして
未来のあなたに言葉を紡ぐ

この手紙があなたの眼に触れるとき
私は隣にいるかな
あなたは今も”今が一番楽しい”と笑ってくれるかな

どうか願ってね
「今日よりも幸せな明日が欲しい」と

そうしてあなたが安らいで目を閉じられるように手を繋いで眠ろう
明日も、明後日も、この先ずっと

ずっとあなたのものでありたいな』

この夜空を渡す刻は運命次第


シン・バントライン
◎◆
アオイ(f04633)と

同じ場所に居るようになってから手紙は書かなくなった。
予定が計画になる様に、些細な言葉も紙面に記すと現実味を帯びて届く気がする。
このインクで彼女に手紙を書こう。

「幼馴染の苦い悪戯の所為ですっかり珈琲嫌いになった俺は、未だに珈琲があまり好きではありません。
でもアオイが毎朝淹れる珈琲の薫りは嫌いじゃない。
目が覚めてあの薫りがするのはアオイが近くに居る証明のようでとても安心するから。
アオイと居ると不思議です。
あんなに嫌いだった珈琲がすっかり幸せの薫りになってしまった。
アオイが居るだけで世界は違ったものに見える。


幸せは変わっていくと知りました
たとえば君の淹れる珈琲

シンより」



●幾度も巡り逢えたのなら
 存在していた証を一つすら零れ落とさずに、待ち人の所へと還っていた美弥子。
 微かに残っていた紅梅の花弁も、風に吹かれて何処かへと飛んで行ってしまったようで。
 彼女の記憶は――唯、博覧会に居た人々の記憶に在り続けるだけで。
(「彼女は何処へ還って行ったんだろう」)
 アオイ・フジミヤの瞳は、先ほどまで居た美弥子の場所をしっかりと捉えていた。
 具体的な場所は分からないのだけど、きっと暖かくて幸せな場所へ行けたのだと。そう思いたいから。
 そして、私が最後瞼を閉じるとき、あんな風にあなたのもとへ還れると信じさせて。
 そして何度生まれ変わっても、あなたの隣を歩けると信じたいから。
 幾度のお終いと始まりをあなたと共に歩めたら、それ以上に幸せなことはないだろうから。
「俺たちも書こうか」
 シン・バントラインが差し出した手を取ったのなら、二人で向かうは紙が出迎える賑やかな一角だった。
 美弥子がこの中から、想い人への唯一を選んで綴ったように。シンとアオイもまた、それぞれの唯一を選び出して。
 想い人への唯一を選び、想いを綴る一時は想像するまでも無い。きっと、とても甘美な一時になるのだろう。
(「俺は――何を書こうかな」)
 同じ場所に居るようになってから、手紙は書かなくなった。
 アオイと仲が深まり距離が縮まるにつれて、言葉にせずとも想いが伝わっているような気がしたから。
 それでも、声にして、文字にして。形にして初めて伝わる想いもあるだろうから。
 思っているだけでは伝わらないこともあるけれど、予定が計画になる様に、些細な言葉も紙面に記すと現実味を帯びて届く気がする。
 思い出深い珈琲色のこのインクで、彼女に手紙を書こう。君に届ける、その為に。
 シンが選んだのは、何処となく珈琲の色を纏うセピア色の便箋だった。
 やがてインクが色褪せても、褪せない想いを彼女に。
「見ちゃだめー。完成してからのお楽しみ、ね?」
 セピアを抱いたシンの隣で、アオイが選んだのは夜のような、海底のような。深い深い藍色の便箋だった。
 深い藍色の狭間に、寄せて返すさざ波のような星明かりが見え隠れしていて美しい。
 これにしようと便箋を手に取ったところでふと視線を感じて、隣を見れば。
 そっとこちらを見ているシンと目が合ってしまったから。
 そうっと便箋を背中に回し、しぃーっと唇に当ててアオイは微笑んだ。
 手紙を送るのは、この想いを書ききってからなのだから。
 そしてそっとアオイが藍の上に広げるのは、シャンパンゴールドの月明かり。
 ゆったりと太く紡がれる言葉の調べは、降り注ぐ流星となって貴方の元へ。

『シン・バントラインさま

 シャンパンゴールドの月のかけらを流星にして
 未来のあなたに言葉を紡ぐ

 この手紙があなたの眼に触れるとき
 私は隣にいるかな
 あなたは今も”今が一番楽しい”と笑ってくれるかな

 どうか願ってね
 「今日よりも幸せな明日が欲しい」と

 そうしてあなたが安らいで目を閉じられるように手を繋いで眠ろう
 明日も、明後日も、この先ずっと

 ずっとあなたのものでありたいな』

 月明かりが静かに輝く封筒に想いを閉じ込めたのなら、封筒にそうっと口付けを落して。
 明日も明後日も、ずっとずっと。大好きなあなたと二人、笑って過ごせますように。
 そんな祈りを最後に込めて、アオイの手紙は完成を迎えるのだ。
 そして、この先をずっと共にという願いは、隣で手紙を書き終えたシンも同じだったようで。

『幼馴染の苦い悪戯の所為ですっかり珈琲嫌いになった俺は、未だに珈琲があまり好きではありません。
 でもアオイが毎朝淹れる珈琲の薫りは嫌いじゃない。
 目が覚めてあの薫りがするのはアオイが近くに居る証明のようでとても安心するから。
 アオイと居ると不思議です。
 あんなに嫌いだった珈琲がすっかり幸せの薫りになってしまった。
 アオイが居るだけで世界は違ったものに見える。


 幸せは変わっていくと知りました
 たとえば君の淹れる珈琲

 シンより』

 思い返すは幼き頃。幼馴染みの悪戯を苦笑と共に思い出して、それから、アオイが塗り替えてくれた珈琲の薫りを思い出した。
 見慣れた自分の文字を彩る、珈琲の色。苦味を兼ね備えた濃い茶色にも、甘い薄い茶色も見せてくれている。
 未だに珈琲への苦手意識は消えないけれど、彼女の淹れたものなら。
 自分へと微笑みかける彼女と共に一日の始まりを告げるあの薫りはもう、シンの日常に溶け込んでいて。無くてはならない、大切な存在になっている。
 これからも少しずつ、刻の流れと共に、アオイと過ごす世界は移り変わっていくのだろうけど。変化の過程も、全てを彼女の隣で経験していきたいから。
「アオイも、書き終えたんかな」
「ええ。シンも終わったのね」
 微笑み合いながらも、心の中ではこの手紙をいつ手渡そうか、なんて。
 そんなことを考えながら。
 夜空と珈琲が交わる刻。その全ては、星の導きのままに。二人の想うがままに。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

朧・ユェー
【双月】

彼女とても幸せそうでしたねぇ
先生に逢えたら良いですね

十雉くん、手紙か交換日記でもどうですか?
綺麗な紙に桜色のインク、透明なガラスペンを持ち
彼に想いを綴る

***

十雉くんへ

桜や月の事
君と出逢えて僕は色々変わった
変わった気がする
沢山な幸せと沢山の気持ち
僕と一緒に居てくれてありがとうねぇ
君と出逢えた事を感謝して
これからも…

***

どんなの書きました?
とちらりと彼のを覗き込もうと

恥ずかしそうに隠す彼にいとおしく感じてふふっと微笑み
では帰ってからの楽しみで
お返事書きますね、また交換日記してくれますか?

本当の想いはまだ君には伝えられないけど
この幸せな時間が続きますように


宵雛花・十雉
【双月】

きっと大丈夫だよ
光の中の彼女は見違えるようだったから

いいね、それじゃあ交換日記にしよ
言って鍵付きの日記帳を選ぶ
ユェーが書き終えるのを待って
今度はオレが同じペンを走らせた

***

お月さまへ

オレは自分に何ができるのかなってずっと思ってた。
いや、たぶん今でも思ってるんだと思う。

そんな中で、少しでもユェーのお手伝いができた。
そのことはオレにとっても幸せなことなんだよ。

弱いオレと一緒にいてくれてありがとう。
見守ってくれてありがとう。
ユェーはお父さんみたいに温かい人だね。

***

覗いちゃ駄目…!
鍵かけておくから、帰ってから読んで
言って日記帳を相手に押し付けて

うん、返事待ってるから



●二人を照らすは、欠けずの月
 思い出せたのなら、前を向いて。
 振り返らずに、後は進むだけ。その先にきっと、道は開けるから。
 そして――光差す、その先へ。
「彼女とても幸せそうでしたねぇ。先生に逢えたら良いですね」
 美弥子の去った後でも、彼女の話題はすぐには去らずに。
 進んだ先で逢えていたら良いと思いながら、朧・ユェーは去り往く美弥子のことを思い起こしていた。
「きっと大丈夫だよ。光の中の彼女は見違えるようだったから」
 ユェーの横で柔らかく微笑んだのは、宵雛花・十雉だ。
 不安そうに俯き、博覧会を彷徨っていた彼女も、最後は。顔を上げて、自分の足で歩き出したのだから。
 光の先できっと先生に逢えたと、そう信じて。
 さあ、自分たちも前に進もうと手招きする紙の歓迎を受けたのなら。
 手紙に日記、原稿用紙に――二人の想いを形にする紙は、数多存在している。ユェーと十雉に最も似合う形で、最も相応しい色彩で。
「十雉くん、手紙か交換日記でもどうですか?」
「いいね、それじゃあ交換日記にしよ」
 ユェーの誘いに十雉が二つ返事で頷けば、後は交換日記に最適な日記帳を探すだけだった。
 桜を抱く和綴じの日記に、堅牢な鍵穴を併せ持ったアンティーク調の重厚な洋本。
 どれも美しいけれど、やはり一等惹かれるのはお月様の光で。
 黒から白へと移り変わる夜空に、静かに瞬く月と星。中央部分に備えられた鍵穴は、二人だけの秘密の楽園へと繋がっている。
 月と星を象った小さな鍵を差し込んだら、真っ白なページが広がった。
「では、まずは僕から書きますね」
 ユェーが記念すべき一ページ目を開いたのなら、透明なガラスペンに桜色を抱かせて。
 隣で微笑む彼に宛てて、ユェーは想いを綴る。
 月に桜に、今日のことに。幸せだったことも、大変だったことも。共に経験した思い出の全てを、形にして残していくように。
 美しくも何処か物寂しい白空に桜が咲くにつれて、彼との想い出が沢山蘇ってきた。
 ふと振り返ってみれば、もう随分と遠くに来た気がする。
 十雉と共に歩んできた道のり。君と出会えて、自分も変わった気がするから。
 その先に続く道のりも、共に歩めたのなら。

***

 十雉くんへ

 桜や月の事
 君と出逢えて僕は色々変わった
 変わった気がする
 沢山な幸せと沢山の気持ち
 僕と一緒に居てくれてありがとうねぇ
 君と出逢えた事を感謝して
 これからも……

***

「書き終えましたよ。次は十雉くんの番ですね」
 いっぱいの感謝をいつか二人で見た暖かい桜色に託して、ページを閉じたのなら。
 それをそのまま、十雉へと差し出した。
「お、もうオレの順番? 今から書くからちょっと待ってて」
 目の前で読まれるのも恥ずかしければ、同じくらいに目の前で読むのも恥ずかしいけれど。
 ユェーがくれた想いに対する返事は、忘れぬうちに。今ここで書き留めておきたいから。
 ひたり、と。白いページを照らし出していく、優しい月明かり。
 決して鮮やかな色ではないけれど、いつもすぐ傍にあった。
 そしてこの言葉の数々は、無二の温かいお月さまのような人へと。

***

 お月さまへ

 オレは自分に何ができるのかなってずっと思ってた。
 いや、たぶん今でも思ってるんだと思う。

 そんな中で、少しでもユェーのお手伝いができた。
 そのことはオレにとっても幸せなことなんだよ。

 弱いオレと一緒にいてくれてありがとう。
 見守ってくれてありがとう。
 ユェーはお父さんみたいに温かい人だね。

***

 お揃いの透明なガラスペンに淡い月明かりの黄色を瞬かせて、新たな白紙のページに続きを書こうとしたところで――にっこり笑顔を浮かべたまま、さり気なく気配を殺したユェーが、十雉の手元を覗き込んでいることに気付くのだ。
「どんなの書きました?」
「どんなのって、覗いちゃ駄目……!」
 勢いのままにパタン! と閉じられる月明かり。
 それでもまだ止まらずに、十雉は日記帳を背中の方へと回して隠して。
 恥ずかしそうに隠す十雉に、悪戯を仕掛けた張本人でもあるユェーは、そんな十雉を愛おしく感じてふふっと微笑みを零した。
「鍵かけておくから、帰ってから読んで」
「では、帰ってからの楽しみで」
 手早く鍵をかけたのなら、十雉はそのままぐぐっとユェーに日記帳を押し付けた。
 返事はお預け。それも、いきなり覗き込もうとするユェーが悪いのだから。
 月明かりを拝むのは、家に帰ってからのお楽しみになった。
「お返事書きますね、また交換日記してくれますか?」
「うん、返事待ってるから」
 悪びれもせずに、飄々とした態度で答えるユェー。
 本当の想いはまだ君には伝えられないけど、この幸せな時間が続きますように。月の輝く日記に、願いを重ねて。
 これから、この交換日記が二人の新しい日常になっていくのだ。
 返事を待ち、返事を考えて。そうして、日々の彩りがまた一つ増えていく。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ラナ・スピラエア
◎◆
蒼汰さん(f16730)と

普段は羽ペンに羊皮紙
けれど今日は、先程買ったガラスペンに桜散る紙
海のインクを走らせて…何を、書こうかな

紡ぐのは、蒼汰さんへの想い
初めて会った日のことは、あんまり覚えていないけれど
気付けば隣に居るのが当たり前で
戦いの負傷で、失うことの恐ろしさを理解して
…そして、私の世界の大戦で
彼への思いに気付いた
ずっとずっと夢見ていた恋心
貴方に落ちることは、今思い返せば必然だったと思う

あの、蒼汰さん
このお手紙…貰って頂けますか?
貴方の為に綴った言葉
誰でもない、貴方に読んで欲しいから
蒼汰さんからのお手紙を頂ければ勿論嬉しくて
…はい、私も大切にします
新たな貴方を知ることが
こんなにも幸せ


月居・蒼汰
◎◆
ラナさん(f06644)と

ちゃんとした手紙なんてきちんと書くのはいつぶりだろう
そもそもラブレターとか書いたことないし
ガラスペンで文字を書くのも初めてで
つい緊張で力が入ってしまうのを押さえつつ
使い心地を確かめてから
星や月のラインが綺麗な便箋に、ラナさんへの想いを

俺は多分、初めて逢った時から貴女に惹かれてて
一緒に過ごす内に、その気持ちはどんどん大きくなって
でも、嫌われてしまうのが怖くてずっと踏み出せなかった
だから貴女も同じ気持ちでいてくれたことが
すごく嬉しかった…と

拙いながらもありのままの想いを綴ったそれを差し出し
代わりにラナさんのお手紙を受け取って
…大切にします
それは勿論、手紙だけじゃなくて



●いつも傍に居るあなたへ
 形にせずとも、抱いていた想いは同じく。
 それでも、折角ならその想いを長方形の紙に閉じ込めて――隣のあなたに、伝えたいから。
 普段とは少し違った筆記具で。少し異なった色彩で。
(「……何を、書こうかな」)
 羽ペンに羊皮紙がいつものスタイルのラナ・スピラエアも、今日ばかりは違っていた。
 羽ペンの代わりに、空と桜の共演が美しいガラスペンに、薄桜色に染まった背景と舞い散る桜吹雪が綺麗な便箋を手に取って。
 桜色に寄せて返す海色が優しく灯って――二つで一つの海のインクを走らせながら、考えるのは他でもない隣の貴方のこと。
 出会ってからこれまでのことと、そして、これからのこと。
 もうすぐ芽吹く満開の桜と春空も。ラナにとって、新しい世界の象徴である海の色も。その全てを貴方と共に見ていきたいから。
(「初めて会った日のことは、あんまり覚えていないけれど。気付けば隣に居るのが当たり前で」)
 気付けば誰よりも近くで、いつも傍で笑ってくれていた貴方。
 彼と過ごす日々がずっと続いていくと思ってけれど、戦いの負傷で大切な誰かと永遠に離れ離れになることの恐ろしさを痛感して。

『蒼汰さんへ
 ――気が付けば、貴方が隣にいることが当たり前になっていました。
 命の終わりは誰にでも必ず訪れるというけれど、あの頃の私はその意識が薄くて。
 私の世界の大戦で、貴方を喪うと考えたとき、私はとても苦しくて――……』

(「……そして、私の世界の大戦で彼への思いに気付いた」)
 ずっとずっと夢見ていた恋心。
 気が付けば傍に在った、その感情。

『貴方に落ちることは、今思い返せば必然だったと思うから』

 誰にでも終わりは等しく訪れるから。だから、せめて後悔の無いように。
 桜色に紡がれていく、翠かかった薄い碧色の言葉たち。
 碧色に揺蕩う金のラメが、気持ちを綴るラナに向かって、キラリと微笑みかけた気がした。
(「ちゃんとした手紙なんてきちんと書くのはいつぶりだろう」)
 ラナの隣で月居・蒼汰もまた、机の上の便箋と睨めっこをしている最中だった。
 誰かに自分の気持ちをぎゅっと閉じ込めたラブレターを書くのも初めてであれば、ガラスペンで文字を書くのも初めてで。
 緊張でついつい指先に力が入ってしまうけれど、それでは繊細なガラスペンの先を破損させてしまう可能性があるから。
 時々力を抜きながら、少し寝かせ気味の角度で使い心地を確かめたら――紙面にパッと星空が広がった。
 星々と月が躍るように並んでいるラインが綺麗な白い便箋を手元へと招き寄せたのなら、星空に委ねるのはラナさんへの想い。
 無意識のうちに籠ってしまう指先の力を逃しながら、星と月が見上げる便箋の上に蒼汰は記念すべき一文字目を書き出すのだ。

『ラナさんへ
 俺は多分、初めて逢った時から貴女に惹かれてて
 一緒に過ごす内に、その気持ちはどんどん大きくなって
 でも、嫌われてしまうのが怖くてずっと踏み出せなかった』

 嘘偽りも無く、背伸びをしないままの、等身大の自分の気持ち。
 ヒンヤリとしていたガラスペンも、想いを織っていくにつれて、いつの間にか仄かな温かみを抱いていて。
 便箋に広がっていく夜空の色は、蒼汰の想いを抱いて更にその輝きが増したようにも見えた。
 当時は思ってもいなかったけれど、心の何処かではラナとの出会いを運命的なものだと感じていたのかもしれない。

『だから貴女も同じ気持ちでいてくれたことが、すごく嬉しかった』

 二人同じ想いで在れたこと。それがとても嬉しくて。
 彼女と心が通じ合ったあの日のことを思い出し、気恥ずかしさと嬉しさに思わずガラスペンに力が籠って――蒼汰は慌てて、ガラスペンを緩く持ち直すのだった。
「ラナさん、手紙読んでくれますか?」
 星々と月を藍色の封筒にそっとしまい込んだのなら、拙いながらもありのままの想いを綴った手紙を蒼汰はラナへと差し出して。
 ありのままの想いを、彼女に伝えたかったから。
「勿論です。あの、蒼汰さん。このお手紙……貰って頂けますか?」
 ラナもまた、春を纏う封筒をそっと蒼汰へと差し出した。
 貴方の為に綴った言葉。
 誰でもない、貴方に読んで欲しいから。
 お互いの手紙を受け取ったのなら、ふわりと花開くように微笑み合って。
「……大切にします」
「……はい、私も大切にします」
 隣で笑う大切な貴方の新しい一面を知ることが、こんなにも幸せで。
 手紙も、彼女からの想いも、想い出も。全て大切にしたくて。
 封を開いて想いを受け取る瞬間は、きっと胸がとても高鳴るだろうから。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

呉羽・伊織
【花】◆◎
彼女にとっても、俺達にとっても、良い土産や結末を得られて本当に良かったな
(春綻ぶ色や表情思い返しつつ
選んでもらった品にそっと目を細め)
それじゃ春も今度こそ、素直に文――くっ、この流れる様なスルー…!全く筆の如く滑らかなコトでー!

(気を取り直し姿勢正して)
ん、俺も日記にするかなー
(珍しく晴れやかな色――曙色の日記帳に、今日は早速羽ペンを手にして
先程迄の軽口と裏腹に――筆に乗る想いは存外真剣に、良い意味で羽ばたく様に軽やかに)

(インクに筆に、人の心が織り成す、色鮮やかな世界――またひとつ、良いものに触れられた幸いを綺麗に綴り上げ)

えー、内緒!(顔に書いてある?仕方ないだろ、今ばかりは!)


永廻・春和
【花】◆◎
(綻ぶ梅に癒しの桜
温かな陽光の様な声に表情
見送った光景に優しく笑んで)
良き旅立ちとなり、何よりでした
今度こそ二人末永く、幸いな道をと祈りつつ、選んで頂いた品を大切に懐いて)
はい、では私も早速――この温かな想いを、日記にさせて頂こうかと(さらりと流して先へ進み)

紙もまた、悩ましい程に沢山御座いますね
(少し考えて、淡い春色に小花の彩が添えられた日記と――今日は先程のガラスペンを手にして、同じく軽やかに滑らせて)

(温かな光景、優しく愛らしい気持ち――其等に触れて、自身の心もまた、今は花咲く様な幸いに満ちて――そんな心をとめどなく)

呉羽様は、何をお書きに?
ふふ、いえ、顔に書いてありましたね



●この良き日に
 綻んだ梅に、癒しと祈りの桜が舞う。
 一足先に早く春が訪れたかのような。笑み抱く温かな陽光の様な声に表情。
 悔いも憂いも冬と共に過ぎ去って、笑って還っていった美弥子の姿。
 今度こそ二人末永く、幸いな道を、どうか良き旅路にならんことを、と。願いを重ねて見送った光景に、永廻・春和は優しく笑んだ。
 美弥子に選んでもらった品を大切に懐いて。
「良き旅立ちとなり、何よりでした」
「ああ。彼女にとっても、俺達にとっても、良い土産や結末を得られて本当に良かったな」
 春綻ぶ色や表情を思い返しつつ、呉羽・伊織が触れるのは美弥子に選んでもらったガラスペンと羽ペンだ。
 美弥子と共に選んだ品に瞳をスッと細めつつ、良い結末に安堵の息を吐いた。
「それじゃ春も今度こそ、素直に文――「はい、では私も早速――この温かな想いを、日記にさせて頂こうかと」くっ、この流れる様なスルー……! 全く筆の如く滑らかなコトでー!」
 祈りもそこそこに、今日有ったことを日記帳に認めようと歩みを踏み出せば。本日何度目かの伊織の軽口が、春和に纏わりついていった。
 しかし――纏わりついて来た言葉をそっと躱し、サラリと何事も無かったかのような振る舞いで、伊織の傍を通り過ぎていく春和。
 スルーどころか、発言さえ無かったこと扱いされる有様だ。
 周囲の人々も皆、なんだと一瞬チラリと伊織の様子を伺うだけで、直後に何事も無かったかのように通り過ぎていく。
 後には唯……爽やかな笑顔を浮かべつつ、中途半端な体勢で固まった伊織だけが残された。
「ん、俺も日記にするかなー」
 しかし、こんなことで今更気を落す伊織ではない。
 その一瞬後には気を取り直し、早足で春和の後を追いかけ。姿勢正して日記帳を選び始めるのだから。
「日記は――これにしようか」
 伊織が選んだのは、曙色の日記だった。ピンクを纏った淡い橙が夜明けを告げる朝焼けのように、優しく伊織を照らし出している。和綴じの頁を捲れば、中は表紙よりも淡い夜明けの色に染まっていた。
 普段は濃紫や黒、赤といった落ち着いた色を纏う伊織にしては珍しく、手に取ったのは晴れやかな色彩で。
 早速、黒い彩が美しい羽ペンを手にすると、伊織は文字を認め始める。
 先程迄の軽口とは裏腹に――銀製のペン先に乗せて運ぶ想いは存外真剣に、良い意味で羽ばたく様に軽やかに。流れるように、夜明けの空の向こうへと、伊織の操る黒い翼は何処までも羽ばたいていく。
 インクに筆に、人の心が織り成す、色鮮やかな世界――またひとつ、良いものに触れられた幸いを。新たな発見が出来た記憶を。伊織は綺麗に綴り上げるのだ。
「紙もまた、悩ましい程に沢山御座いますね」
 手招きするのは、春夏秋冬に朝に夜に。様々な色を宿した、紙たちだった。
 少し考えて、春和は淡い春色の移り変わりが美しい表紙に、小花の彩が添えられた日記を手に取った。
 頁の端には春に綻ぶ花が織り込まれているようで、桜は勿論、蒲公英に梅に――と、一つ捲る度、違った彩が頁の端を彩っている。
 そして今日春和が手にするのは、桜色を抱くガラスペン。
 伊織と同じく軽やかに、今日有ったことを忘れぬうちに。一片たりとも、取りこぼさぬように。桜色を滑らせて、形に言葉に残していく。
 鮮やかな色彩に、温かな光景、優しく愛らしい気持ち――其等に触れて、春和の心もまた、今は花咲く様な幸いに満ちて。
 一足先に訪れた春と、素敵な出逢いの数々――そんな心をとめどなく。
「呉羽様は、何をお書きに?」
 溢れ出る心を一通り書いた春和は、隣で羽ペンを握る伊織へと問いかけた。
「えー、内緒!」
 勿体ぶりつつ、大げさな仕草で曙色を隠しながら明るい笑顔で内緒! と答える伊織だったけれど――。
「ふふ、いえ、顔に書いてありましたね」
 伊織が認めた日記の内容は、春和には手に取るように伝わってきた。
 いつの間に、黒い羽ペンは日記を飛び出して、伊織の顔にまで文字を書き込んでしまったのだろう。そう思えてしまうほど――だって、全てその表情に書かれていたのだから。
 インクや筆に心惹かれたこと、人の心の温かさに、春の想い出に――そんな事が、全て。
 曙色に秘めておいた想いが、殆ど春和にだだ漏れである。 
(「顔に書いてある? 仕方ないだろ、今ばかりは!」)
 心の中だけで叫びつつ、伊織は春和に向かって大袈裟な動作で頭を振ってみせる。
 今日ばかりは仕方ない、本当に! だってこんなにも良き日になったのだから。
 今日という日を日記に書き留めたのなら、次は、明日に向かって。
 互いに茶化し合う二人の様子を、曙色と春色が静かに見守っていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ライラック・エアルオウルズ
優樹さん(f00028)と

壜に満ちた眸のいろに
永遠叶えの花がふたつ

選んだものを眺めてると
恋に浮かれているようで
妙に面映ゆくあるものだ
何方も足が地に着かないから
然程変わるまい、と笑い答え

然して、ふたりの乙女に
勇気づけられたみたい
心の裡に耳傾けて
貴方に倣うよに、真直ぐ
好きを伝えられたなら
想い綴れたならと思うんだ

鈴蘭咲く和紙を選んで
想うままに恋文を綴る
不慣れで、拙くあれど
添削を――と頼みはせず
互いに想い秘めておこう
貴方が初めに綴る詞は何か
野暮に覘きはしないよう

共に楽しく選んだからか
特別な書き心地がするね
優しい緑が花編むようにして
連ねる詞はとびきり素敵だろう

想い出は、心に綴って
幾度も目蓋に描き出そうか


萌庭・優樹
ライラックさん(f01246)と

恋に「溺れる」のと「浮かれる」のって
どっちがいいンでしょーね…?
うまく泳げない前提な質問なんかしつつ
ペン先をオリーブ色に浸し

選ぶのは桜の絵付き便箋
ありきたりな言葉しか浮かばないけど
とにかく気持ちだけは込めて

ライラックさんがどんな愛を紡ぐのか
とっても気になりますが…
そんじゃ中身はおれもヒミツにっ
最初に見せるのは想いびと、その方へ
それが一番良いよな気がして

初めての万年筆は軽い書き心地
ドキドキしつつ楽しく筆が進むのは
お友達が一緒だから!
リラ色に染まるあなたの心は
きっともう、届いてるんだろうな

言葉にするのも、心に留めるのも大切なコト
ステキな想い出はずっとずっと心の中に!



●愛しき想いの春心
 誰かを想うと云うこと。
 それは恐らく、とても美しいこと。
 胸を焼く甘い痛みを感じながらも、同時に何とも表現し難い幸福感が身体中を支配して。
 想い人の聲を聴き、その姿を眸に映すたび。
 特別な瞬間を過ごすことも、何気ない日常を積み重ねていくことも。そのどれもが愛おしく。
 甘い毒の雨に穿たれ、甘美な感情の海に浸ったのなら。きっと、上手く泳げないことが大前提だ。
「恋に『溺れる』のと『浮かれる』のって、どっちがいいンでしょーね……?」
 恋に溺れ、愛に酔い。上手く泳げないことが前提の質問を飛ばしつつ、萌庭・優樹はペン先をオリーブ色へと浸していた。
 一目惚れをした彼の彩を感じながら、上手く泳げる人が居んでしょーか、と。そんな疑問を抱きながら。
 それでも目の前のライラックさんなら! と優樹がキラキラ瞳を向ければ、ライラック・エアルオウルズは少し困ったようにはにかんだ。
 気が付けば、時間を忘れて魅入っていた永遠叶えの花がふたつ。
 胴軸に刻まれた永遠の花は、こうして手元に抱いて眺めているだけで、妙に面映ゆいようで。
 恋に浮かれ、歩けど歩けど一向に地を踏みしめる確かな感覚が消え去ってしまったような――実際に、恋は地に足が着かないようなものだろうけれど。
「何方も足が地に着かないから然程変わるまい」
 優樹の質問に、ライラックは笑い答えた。
 愛だ恋だを前にすれば、きっと、誰しも上手く泳げないのだから。
「ライラックさんがどんな愛を紡ぐのか、とっても気になりますが……」
 隣の友の文は、物語を綴るように繊細でとても美しいものに違いない。
 愛の形は気になるけれど、隣の友の形を真似し、それで自分本来の彩が消えてしまっては不本意だから。
 優樹が選んだのは、桜の絵付き便箋だった。
 八重に山桜に、枝垂桜に。種類異なる春が綻ぶその光景は、御伽噺のように幻想的で。
 そういえば、あの人と出会ったのも春だった。いつかの夜のような気温も天候も大騒ぎの春嵐の季節を乗り越えたのなら、もう、春本番は指先に迫っている。
 そんなことを思いながら、オリーブ色に想いを託して、紡いでいく。
 ありきたりでも良い。飾らないままの想いを実らせ、時には上手く表現できない感情に悩みながら。それがきっと、もっとも優樹らしい。
 春を飛び越えて、かなり早く初夏が訪れたかのよう。これ以上恋に溺れてしまわぬように、桜を想いの土台に、陽光に向かってその背を伸ばす萌え木のように。初めての万年筆は軽い書き心地でスラリと想いを紡いでいって。
 一文字紡げば更に高鳴る鼓動と共に、優樹が綴るオリーブの文字たちは何処までも、高く大きく伸びていく。
 迷いなくペン先が進むのも、きっとお友達が一緒だから!
「想いの丈は……互いに想い秘めておこうか」
 綻ぶ梅と、背を伸ばす萌え木。
 偶には飾らぬ姿で、ありのままを。二人の乙女に勇気づけられたライラックは、心の裡に耳傾けて。
 優樹に倣うように、真っ直ぐに。好きを伝えられたなら、想い綴れたなら。
 感じるままに、ペン先に想いを。リラの色へと、気持ちを託して。
 ライラックが選んだのは、鈴蘭の咲く和紙。
 空に憧るる小さき釣り鐘が連なる和紙に、愛しき彼女の後ろ姿が見え隠れ。
 恋文を渡すその瞬間に想い人が振り返ったのなら、彼女のリラ色の瞳と視線が混ざり合うだろうから。
 着飾るような装飾は必要ない。唯、想うままに恋文を。
 不慣れで、拙くあれど。添削は頼まず。だってその全てに、自分の想いや感情の揺らぎが宿っているのだから。
 最も尊い恋文に、他者の存在は不要だった。書き手と、送り手と。その二人さえ、居れば良い。
 覗き合うなんて無粋なことはせず、お互いの想いはそれぞれの胸の内に。
「共に楽しく選んだからか、特別な書き心地がするね」
「はいっ! 何だか少し、大人になった気分です」
 優しい緑が花編むようにして連ねる詞が素敵なら。
 二連の永遠叶えの花が紡ぐ恋文も、また美しい。
(「リラ色に染まるあなたの心はきっともう、届いてるんだろうな」)
 そして花編んだおれの心は、これから心に描く人の元に。
 これまでも、これからも。きっとどちらも劣ることなく、輝いて見えるから。
 想い人と心通じ合うのが、昨日であっても、明日であっても。唯一を想う心に、違いはない。
(「想い出は、心に綴って幾度も目蓋に描き出そうか」)
 恐らく、何度だって思い返す今日のことを。
(「言葉にするのも、心に留めるのも大切なコト。ステキな想い出はずっとずっと心の中に!」)
 新たな出発点となった始まりの日のことを。
 胸に秘め、記憶に託し、想いを綴ったのなら。もう、忘れることは無い。
 書き終えた手紙を手に、共に微笑み合えば――恋や愛に溺れるのも、不思議と悪くないように思えるのだから。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ロカジ・ミナイ
◆◎
みけ(f25583)

インクはやさしい黒
時折透けて下が見える

万年筆の使い方を確かめる間
何を書こうかなんて思案してたら
あらあら可愛い提案だ
約束の日に逢えたら秘密を書いた手紙を交換こ

黒みつも蜂みつもひみつも
甘いのは好きよ、僕は甘党だからね
上手くも下手でもなく只管に読みやすい文字で
約束の紙に秘密を連ねていく
開封されるまで守れるようなちょいとこそばゆい秘密…さて、

そいじゃそのデヱトはいつにしようか?
こんな稼業じゃ先のことはわからねぇ
だからこそ、約束通りに会えたらきっと嬉しいね

それにそれに、みけ
何でもしてくれるなんて言われちゃ、忘れようにも難しい
忘れたら怒るって言わない君に、思わず眉毛が下がっちまった


玉響・みけ
◆◎
ロカジ(f04128)と

迎えた子に手を添えて
しとりしとりと椿をつづる

きみと交わす文のいろは
春と呼ぶには初でなく
桃と呼ぶには淡くなく
されど血汐と呼ぶには
あまりに脆く、儚すぎた

ただ戯れる蝶が如く
やわく連ねて花と馨る
ねえ、
きっとかならず、やくそくよ、って

紡ぐのは、未来のきみへと宛てた手紙
いつかのデヱトの待ち合わせ
約束の日を決め場所も決め
逢えたら渡す
儚い約束

日記って秘密の塊だよね
そうだ、約束を覚えてたら
ご褒美に秘密を――
そんな戯れ

封に閉じ籠められた秘密は
きっと蜜の様に甘くなるよ

期待はしない主義だからこそ
ふふ、覚えてたら何でもしてあげる
あ、メモはしちゃ駄目だよ

怒ると口にしたとして
戯れの音にしかならず



●そして、約束の日に
 ちらりちらりと黒の暗幕のその先へ。
 茶色に透けて薄まった向こう側、紙本来の色彩がこちらの様子を伺うかのように顔を覗かせている。
 墨のようで、それでも墨よりも幾許か優しげな茶色を抱いた黒の彩。
 ロカジ・ミナイが己が旅路に選んだのは、優しい黒だった。見るもの全てを平等に抱き込むように、溶けるように紙の上へと広がっている。
「――ねえ、きっとかならず、やくそくよ」
 万年筆の使い心地を確かめつつ、紙面に刻むは葉にも実にもならないような、取り留めのないこと。
 何を書こうか、なんて。そんな思案をしつつ文字を弄んでいたら、不意に玉響・みけから聲をかけられた。
 ふわりと隣の散らずの椿を眺めれば、優しき夜の夢も醒めてしまう。
 ロカジの視線も気に留めず、文紡ぐみけは言葉を織り続けているのだけれど。
 迎えた子に手を添えて、満開の椿を咲かせましょう。
 きみへと交わして、宛名にきみの名前と抱かせど。
 きみと交わす文のいろは――春と呼ぶには初でなく、桃と呼ぶには淡くなく。一夜と呼ぶには、確かで。
 されど血汐と呼ぶには。あまりに脆く、儚すぎた。
 蝶が舞うように、花が馨るかのように。今は紅染まる姿が美しき椿の花。ポタリと落ちるのか、それとも永劫咲き続けるのか。
 運命の先は分からないけれど、みけは想いを綴っていく――あて先は、未来のきみへと。
 いつかのデヱトの待ち合わせ、逢えたらこの秘密を。逢えなかった、この秘密は。
そんな、儚い約束。
「あらあら可愛い提案だ。じゃあ、約束の日に逢えたら秘密を書いた手紙を交換こ。ね?」
「そうだね。約束の日、きみと逢えたら」
「約束の日を楽しみに。黒みつも蜂みつもひみつも甘いのは好きよ、僕は甘党だからね」
 隣の彼が認める内容が決まっているのなら、進路が定まらないまま白紙の上を彷徨っていたロカジの万年筆が紡ぐべき内容も自ずと決まってきた。
 上手くも下手でもなく只管に読みやすい文字で。時折チラリと柔らかな光が覗く、黒に秘密を委ねて。
 約束の紙に、優しい黒の色彩で、秘密を連ねていく。
 開封されるまで守れるような、ちょいとこそばゆい秘密。
 この黒と秘密に夜明けが訪れるのか、それは二人にも預かり知れぬことだけれど。
「……さて、そいじゃそのデヱトはいつにしようか?」
「僕はいつでも、ロカジの思う侭に」
「それじゃ、この日はどうかい?」
 突然、目の前の道に穴が空いたり。また突然、想定外の事態に翻弄されてしまったり。
 そんな先の見えない稼業でも、成る丈逢えるかもしれない日付を複数指折り候補に挙げれば。
 そのうちの一つが、みけとの約束の日へと成っていく。
「こんな稼業じゃ先のことはわからねぇ。だからこそ、約束通りに会えたらきっと嬉しいね」
「そうだね。そうだ、約束を覚えてたら、ご褒美に秘密を――」
 そういえばで思い出す、細やかな話。日記って秘密の塊だよね。
 約束を覚えていたら、ご褒美に秘密を。きっとその秘密は甘党のきみでも気に入るくらい、一等甘いものだから――そんな戯れ。そんな、言葉遊び。
 嘘となるか誠となるか、全てはきみの導き次第。きみの、行動次第なのだから。
「封に閉じ籠められた秘密は、きっと蜜の様に甘くなるよ」
「それは楽しみなことだね」
 約束の日さえ、忘れなければ。
 きっと蜜よりも甘い秘密に、ありつけるのだから。
「ふふ、覚えてたら何でもしてあげる。あ、メモはしちゃ駄目だよ」
 期待はしない主義だからこそ。もとより、約束など在ってないような存在だからこそ。
 破っても痛くも痒くもない。唯、蜜が永遠に変わるだけ。いつでも破られるような、そんな儚い存在だからこそ。
 己の記憶に刻み込んで、その通りに逢えたのなら。
  みけは覚えていたら何でもと、そう答えるのだ。
「それにそれに、みけ。何でもしてくれるなんて言われちゃ、忘れようにも難しい」
 お陰で、約束が叶っても、その後も忘れられないかもしれなくなってしまう。
 戯れに漏らした言葉のせいで、一瞬が永遠に変わってしまうかもしれない。短いながらも、数多もの可能性を秘めた言葉。
 そして、指切りの約束の定番の言葉――忘れたら怒るから。
 定番の言葉すら言わないみけに、ロカジの眉毛も思わず下がってしまう。
 それでもきっと、みけが怒ると口にしたとして、本心のことなどいざ知らず、戯れの音にしかならないのだから。
 果たして、二人の約束が叶えられたのか。逢えたのかは――きっと、優しい黒ととこしえの椿だけが知っている。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ジェラルディーノ・マゼラーティ
◆◎
ヴラディラウスくん(f13849)と

誰に宛てて書こうかなァと
ペンをくるくる回してる
落とすようなヘマはしないさ
ボクってば案外器用だからね

あ、交換日記でもする?
冗談だよ

やっぱり今回はあの子へと
選ぶ便箋は映える色
銀の月を夜に浸して
するするさらさら描いてゆく

届く日付は折角だもの、
この子たちと縁のある日――
夜を贈った日に合わせる
一年越しに出逢うよう、
またしても勝手に送りつけてしまおう

運命のヒトは僕じゃないけど
揶揄も粋も何かに絡めるのが好きな質
だから無駄にロマンチックに
七夕みたい、なんて笑う
連想したなら更に絡めて
願いが叶っていますようにと

あ、この便箋かわいいな
あれもそれも魅力的
ついでに買っちゃおうっと


ヴラディラウス・アルデバラン
◆◎
ジェラルド(f21988)と

純白の羽の美しきペンを
傍らのインクに軽く浸す
既に在る純白のと
色合い等は似ているものの
故にこそ並べれば美しく
細部の違いを楽しめよう

彼の吐く戯言は
見遣るだけで受け流す

紡ぐ彩は凍てつく白銀
然れど普段使いならば、
他の彩が良かったやも
白き紙では目立たぬ故
それ以外で試し書き

手紙を出す用事も無い
選んだ紙にはメモを綴る
便箋や羊皮紙は扱う為
余った時間は紙選びへ

夜色のインクを持っているから
それに合う紙を探すか
それともまた新たなインクを
迎えに行くも悪くない

七夕?などと言っている
彼は放置で良いかもしれない
博愛主義は誰ぞに宛てて
文字を連ねているらしいが
恋や愛と遠い点は
博愛もある意味同類か



●思い思いの一時を
「誰に宛てて書こうかなァ」
 ペンをくるくる回している。ついでにジェラルディーノ・マゼラーティの思考回路も、先ほどからくるくるくると同じところを回っているような気がする。
 一向に出口が見えないし、何時の間に妖精の悪戯を受けたんだろうねぇなんて笑いながら、それでも宛名が埋まらなければ、下に続く文も永遠に埋まらないまま。
 これじゃあ、ペン回しもずっと続けないといけないかもしれない。
「……落としても知らんぞ」
「落とすようなヘマはしないさ。ボクってば案外器用だからね」
 観客席から放り込まれる冷たい声音。誰の、なんて問うまでも無く。声の主がヴラディラウス・アルデバランであることは、尋ねるまでも無く明白なことだったから。
 肩をすくめつつもペンをくるりと一回転させてみれば、拍手の代わりに返ってきたのは溜息だけ。
 イマイチ盛り上がりに欠けるサアカスを盛り上げようと、戯言を流せば、
「あ、交換日記でもする?」
「……」
「――冗談だよ」
 ヴラディラウスは見遣うだけで、一瞬後には終わった話に早変わり。
 ジェラルディーノの戯言にだけ、ヴラディラウスは狙ったようにシャッターを下ろす。
 博覧会の雰囲気が台無しだ。それに何より、こっちまでバカになった気分にもなる。
 いつの間にか観客も帰路に着き、一人だけ舞台に取り残されたサアカスのスタアはまだ何やら騒いでいたが、全て受け流して純白が美しい羽ペンをインクに軽く浸していく。
 もとより持っていた純白と色合い等は似ているものの――しかしだからこそ並べば美しく、細部の装飾や色合いの違いを楽しめるだろうから。
 紡ぐ彩は、永遠の氷雪を思わせる凍てつく白銀。思いも文字も、全て凍らせてしまおうかと広がり、囁きかける。
 普段使いならば、他の彩が良かったかもしれないが、手紙も出す予定も無い。
 感じるままに手に取った、黒き永久の紙面に試し書き。
 ヴラディラウスがペンを走らせるたび、黒き闇夜に広がるのは星空か、猛吹雪か。キラリきらりと、白銀に隠れた星が見え隠れ。
「やっぱり今回はあの子へと、かなァ?」
 ジェラルディーノが選ぶのは、銀の月が映える便箋だった。
 星も月も無い夜空を思わせる、銀交じりの藍の紙。
 銀の月を夜に浸したのなら、するするさらさら書き綴っていく――月無き夜を、生れ落ちた月明かりが照らしていく。
「この子たちと縁のある日――一年越しに出逢うよう、またしても勝手に送りつけてしまおうかな」
 あの子へと手紙を認めたのなら、届く日付は折角だもの、夜を贈った日に合わせよう。
 一年越しに出逢う月。忘れてしまいそうな瞬間に届くのが、丁度良い。
 日付を決めたのなら、月灯すペン先も少しばかり軽やかになったような。
 舞姫もかくやのステップで、月無き夜に月明かりを。
「また新たなインクを迎えに行くも悪くないか」
 手紙を出す予定も、用事もない。
 黒に幾つかの覚書を書き留めたのなら、ヴラディラウスは残りの時間を紙選びへ。
 新しいインクを迎えるか、夜空のインクに合う紙を探すか。
 決めかねた末にどちらもと、まずは夜空に似合う紙を探していく。
 足跡一つない新雪のような真白に、夜空は一等映えるだろう。調和を選ぶのなら、夜空の色彩よりも淡い、暮れている宵の空を。美しいが現物は猛毒となるエメラルドグリーンと夜空の共演も外せない。
 目ぼしいものを幾つか選び抜いたのなら、次は新たなインク探しの旅へ。
「運命のヒトは僕じゃないけど」
 ジェラルディーノは、揶揄も粋も何かに絡めるのが好きな質。絡めた先の解釈は、どうぞご自由に。
 悲劇も喜劇も、捉え方一つで思いのまま。
 放置されつつあるのも気に留めず。だから無駄にロマンチックに、一年後に出逢う約束を。
「なんだか七夕みたいだね。ああ、でも天の川が見えないか」
 なんて笑いながら、月を織って行く。
 連想したなら更に絡めて。願いが叶っていますように、と。願いを一片込めれば、夜を抱き込んだ手紙の完成だ。
「あ、この便箋かわいいな。この便箋も、ついでに買っちゃおうっと」
 手紙も書き終えてほっと一息するその隙を突いてジェラルディーノへと誘いの手を伸ばす存在が。
 星の煌めく便箋に、冬空の星座が眩しい絵葉書。
 どれもこれも魅力的で、折角だから買ってしまおうとジェラルディーノは誘われるまま差し出される手を取った。
 ねえ、本当にかわいいだろう――と、隣にいたはずの存在に同意を求めたことで、ふと隣にいたはずの存在が掻き消えていることに気付く。
「って、ヴラディラウスくーん?」
 気が付けば、姿が忽然と消えていた知人の名前を呼びながら、ジェラルディーノもまたインクが美しい一角へと。
 ジェラルディーノの声が聞こえていなかった訳ではないヴラディラウスだが、色々と面倒だったので放置を決め込んだ。
 誰ぞに宛てて文字を連ねていた博愛主義。
 恋や愛と遠い点は、博愛もある意味同類か、などと。そんなことを思いながら。
「何処行っちゃったのかなァ?」
 酸いも甘いも存在しないが、図らずしもインクの迷路で追いかけっことなった今この瞬間。
 鬼に見つからぬように、しかし、惹かれたインクを追いかけっこを共にする共犯者とすることも忘れずに。
 ヴラディラウスは、インクの森の更に奥へと足を踏み入れていくのであった。

●――今日を、貴方と
 恋に惑い、色に迷い。迷子と化した彼女も――きっと、転生のその先で愛し人と出会えたと信じて。
 筆記具に惹かれ、貴方に惹かれ続ける限り。新たな始まりに触れた二人が、この場を訪れるのも、そう遠くないであろう話だと、そう思って。
 猟兵たちによって平安を守られ、賑やかな一時と化した博覧会も、期間限定である以上、春の訪れと共に、去る運命。
 でもそれは、来年への始まりにしか過ぎないから。
 今年の色彩は今年のものを。来年の色彩は、来年の色彩を交えて。

『また来年、この場所で。この博覧会で、逢いましょう』

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2021年02月22日


挿絵イラスト