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ひとひらの祈り

#スペースシップワールド #猟書家の侵攻 #猟書家 #バトラー・サファイア #クリスタリアン #漿船

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#漿船


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●一年の幸運を
 その瞬間は、いつでも暗き夜明けを抜けるように――。
 この船は軌道周回しているわけでもないから、見える景色も差し込む光も、毎年違うのだが、それでも。
 麗しきメルセデス。細やかなカッティングの丸屋根が特徴的な居住区を中心に、円を描くように回廊が巡り、動力部は鋭利な剣のように昊を切り裂き、進む。
 目的もなく、果ても知らぬ道程の――何処までも広がる宇宙にも、新年はやってくる。
 古典で知るところの初日の出とやらは見えないが、年を跨いだ安堵、新たな年を迎える慶び。
 指折り数えたその日を迎えると、
「新年おめでとう、マザー・メルセデス!」
 クリスタリアン達はこぞって少女の船首に挨拶する。
 正確には、船の中にある少女像だ。タンザナイトで出来た彼女は、クルーであり住人のクリスタリアン達と違って喋りもしないし、表情も変えないけれど、喜びの感情を仄かに伝達してくる。
 少女像に挨拶をすることで、漿船『メルセデス』の新年は始まるのだ。新年を言祝ぐ、一ヶ月――本当に、この船は一月お祝いモードを維持し続ける――船内では至る所で酒宴が開かれ、子供達には菓子が配られ、それぞれが伝え聞いた「ごちそう」が昼夜問わず振る舞われている。
 だが、もっとも盛り上がるのは、宝石の船内で、唯一その輝石を剥き出しにした蒼いダンスホールで行われる、一晩限りのイベント。
 目が眩む程の輝きを楽しめる広間、その一切の照明を敢えて落とし。
 白く輝く花びらの映像を投影する。
 輝石の光を受けて揺らめく映像は、何とも不思議な光景を生み出す。眺めているだけでも楽しい、というクリスタリアンは言う。
 その中に、時折――本物の花が落ちてくる。
 これを掴み取れれば、その一年、幸福しか訪れないと――彼らの中では言われている。新年最初の、最大のイベント。
 幸福の花。
 それが、何という名前の花の花弁であるかも、彼らは殆ど知らぬ。
 船の地下で大切に育てられている、数少ない本物の生花――それそのものが本当に珍しいから、掴み取ったものたちは丁寧に永年コーディングして、身を飾っている。
 最高齢のクリスタリアンの胸に咲く色とりどりの花冠コサージュは皆の憧れの的だったりする。
 つまり、この一夜は、メルセデスの船員たちにとって、とてもとても大切なイベントなのだ。そして、メルセデス自身にとっても。

 だが、然し。このメルセデスに――猟書家『バトラー・サファイア』が、転移し、その滅びを宣告することを。
 新年に浮かれるクリスタリアン達は、まだ知らない。

●ともに
「彼らは――宇宙に出でたからこそ。失われてしまったからこそ。かつての文明を大切に守っていこう、という考え方をしているようでございます」
 アム・ニュイロワ(鉄線花の剣・f07827)は静かに告げる。
 新年を喜ぶ心。気の抜けない宇宙の旅で。侵略に怯えてきた過去の中であっても――生き延びた事への労いと、何事も忘れ、幸運だけを祈る一ヶ月があってもいい。
 長らく宇宙を漂ってきた彼らの、細やかな安らぎ。
「それを妨害することはおろか……船内のクリスタリアンを滅ぼそうという猟書家の動きは阻止せねばなりません」
 見てしまったからには、とアムは灰色の瞳で猟兵たちを見つめる。
「まず、簡単に『漿船(クリスタルシップ)』について説明いたしましょう」
 漿船とは、クリスタリアンが太古より使用している旧式の移民船――その全てが宝石でできた、失われた技術で建造された神秘の古代宇宙船である。微弱ながら「意志」を持ち、住人のクリスタリアンとのみテレパシーで意思疎通できるらしい。
 ――そんな、かの世界において、多少珍しくもあるが、なんの変哲もないと思われていたその船に。最長老であるプリンセス・エメラルドだけが知る「転送装置」が仕込まれていたらしい。
「これを利用し、猟書家が襲撃を仕掛けてくるようでございます。皆様には、住民の皆様と交流し、クリスタリアンと共に、その転送位置を突き止め……迎撃していただきたいのでございます」
 そのためにはどうしたらいいか。
「はい、漿船メルセデスで行われる――新年の催しを楽しんでいただきます」
 至って真面目に、アムはいう。
「とても大切な交流です。何より、彼らはとても楽しみにしている催しでございます。猟書家に襲われるからといって、中止にはできません……ええ、わたくしも、おかしな事を申し上げていると思っておりますが、これは、きわめて大切なことでございます」
 共にイベントを楽しむことで、クリスタリアン達から『何故このような伝統があるのか』を聞き出すことができ、それは転送場所のヒントとなるだろう。
 そういう予知なのだ。
「巧くいきましたら、きっと、クリスタリアン達も、船も、皆様の友として。猟書家と戦ってくださるでしょう」
 最後に深々と頭を下げて――アムは、説明を終えるのであった。


黒塚婁
どうも、黒塚です。
新年なのでスペースワールドです。すこしふしぎ。
でも、宇宙っぽさはないです。

●プレイングボーナス
プレイングボーナス(全章共通)……クリスタリアンや漿船の協力を仰ぐ。

●1章
新年のお祝いイベントです。
投影される花びらの中から、本物の花びらを見極めて掴み取る、というイベントになります。
花弁に関しては、数は十分にありますので、飛び入りの猟兵がいただいても困ることはありません。
この船のクリスタリアン達は派手な事が好きなので、攻撃能力の無い幻などを披露されると喜びます。
伝統を聞き出すことができる~という前提ですが、情報収集は特には不要です。
お好きに楽しんでいただければ幸いです。

●2章
猟書家『バトラー・サファイア』との決戦になります。

●プレイングに関して
各章、導入とプレイング受付期間を案内いたします。
受付前に受け取ったプレイングに関しては、内容如何を問わず採用しませんのでご注意ください。
また全員採用はお約束できません。
ご了承の上、ご参加くださいますようお願い申し上げます。

それでは、皆様の活躍を楽しみにしております。
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第1章 日常 『幸せの降る宇宙』

POW   :    映像を見極め、正々堂々と本物のキャッチに挑む

SPD   :    少しずる賢く、道具を使ったりして本物を見極める

WIZ   :    あたりに腰を落ち着かせ、この光景を楽しむ

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●幻影の花と、幸運の花
 居住区の中心に、ダンスホールは存在していた。限りなく青に近い、透けるような青紫の円形天井――ではあるが、余程明るい星の傍を通らねば、内照を落とせば指先すら見えぬ闇の中。
 仄かに甘い匂い花が、空間に広がり。
 スモークを焚いてから照射したような、程よくぼんやりとした光が、天を満たしている。そこから、ひらひらと舞い落ちる、白い花弁。
 思わず手を伸ばしてみるも、その殆どは実態のない映像だ。
 ダンスホール全体をあまねく満たす幻想は、何処から放たれるのか。クリスタリアンの殆どはそんなことは気にしない。日頃は計器の微細なる反応すら細かいものすら、この一ヶ月はそれを忘れて暮らすのがルールだからだ。
 天を仰げど、天井だけだ。昊が透けて見えそうな、宝石細工。そして、花々は同じく天から降り注ぐ。ただその仕組みを正面から明らかにするのを、クリスタリアン達は好まぬだろう。
 ――この催しを素直に楽しむ時間はあるという。
 暫し、彼らとともに。ひとひらの幸運を狙ってみるのが、良いのだろう。

◆○~~~~○◆○~~~~○◆○~~~~○◆
【プレイング募集期間】
 1月11日(月)8:31~14日(木)20:00頃
◆○~~~~○◆○~~~~○◆○~~~~○◆
リオ・フェンブロー
——あぁ本当に美しいですね
闇が明けて見えた白い花弁は、あまりに幻想的で

宇宙で見た、光を思い出す
沈む闇こそ似ていたが
星々の煌めきとも違う、美しい花々

手を伸ばしかけて、けれど触れるのは戸惑ってしまう
私に幸運は過ぎたものですが、せめてお前たちは近くで見て来なさい

黒曜の蝶達を飛ばして、花と踊る姿を眺め
クリスタリアンの皆様には、この地の伝統について聞いてみたいですが

私の居た船では、新年の祝いはこう…外で花火を上げたんです
アームドフォートに無理をして
ですからこんな美しい新年の祝いもあったのかと
この伝統は、どのようにして生まれたのですか?

話を望まれれば我が船の新年でも
始まりは見よう見まねの花火だったのだ、と




 彼は、吐息を零すように、静かに囁いた。
「――あぁ本当に美しいですね」
 リオ・フェンブロー(鈍色の鷹・f14030)は軽く天を仰ぐ。
 吸い込まれそうな程、深き蒼。光を透かせば赤みを帯びた紫となろう天井は、明かりを落とせば深い闇の色を見せる。そこに、ランダムに投影された光の花弁。
(「宇宙で見た、光を思い出す――沈む闇こそ似ていたが、星々の煌めきとも違う、美しい花々」)
 天球に白き星々が浮かぶように。それは常に落下する。風もないのに、ゆらりゆらりと何処かへ向かい揺らめく光。星の狭間を観測してきた射手は、その中から本物を見いだす事も、難しくはないのだが――しかして。
 思わず、手を伸ばしかけて、躊躇う。
「私に幸運は過ぎたものですが、せめてお前たちは近くで見て来なさい」
 軽く差し出した掌は、花びらを受け止めず。代わりに、黒き輝きが羽ばたいていった。
 黒曜石に似た煌めきと色彩を持つ不思議な蝶。
 光と遊び、翅を震わせる優美な存在に、すぐ近くにいた、クリスタリアンの娘がわあ、と声を上げた。
「蝶という昆虫ですね。初めて見ました。綺麗ですね」
 青き双眸を柔らかに細め、リオは素直な感嘆と賞賛を受け止める。
 暫く共に、かりそめの昊で遊ぶ蝶と花を見つめていたが、彼はそれとなく、娘に尋ねる。
「この地の伝統について教えていただきませんか」
 これが、新年の催しであることは知っている。
 しかし、何故こういう催しになったのか、と――。見上げてくる宝石の瞳に、困ったような目配せを向け、囁く。なにせ、私の知る新年の祝い方とは。
「私の居た船では、新年の祝いはこう……外で花火を上げたんです。アームドフォートに無理をして」
 リオが軽く撃ち出す仕草をして、演じてみせる。
 軍属していた男にとって、武装から放つ祝砲の勇ましい新年の迎え方であった。そして、それ以外を知らぬ――となれば。
「――ですからこんな美しい新年の祝いもあったのかと。この伝統は、どのようにして生まれたのですか?」
 無骨な、磊落な、そんな挿話に。
 クリスタリアンの娘はにっこりと微笑んだ。
「この船は目的も持たず、さまよっています。安住の地をさがしているのか、それとも何かお宝を探しているのか。解らないけれど……少なくとも、わたしたちのマザー・メルセデスはお姫様だったのです」
「お姫様」
 鸚鵡返しに、神妙な表情で娘は頷く。
「かわいいもの、きれいなものがお好みなのです。ですから、花を育てることにしたんです。長い旅の慰め……すべてマザーのために。そして、マザーはその御礼に、真っ先に咲いた柔らかな花を、クルーにわけてくださる――と、オババ様から聞きました」
 にこにこと楽しそうに掌で器を作って、光を集める。それは、彼女の手の中に残る事無く、消えていってしまうけれど、楽しそうにしていた。
「あの、よろしければ花火のお話、聞かせていただけませんか!」
 彼女はリオを振り返ると、話の続きをねだる。構わぬと、幻影の昊を見つめながら――彼は語り始めた。
「始まりは見よう見まねの花火だったのです――」

「面白いお話、ありがとうございました」
 リオの話が終わると、終始楽しそうな様子だったクリスタリアンの娘は、御礼です、と、と両手をリオの頭上に伸ばした。背の低い彼女では、つま先立ちになっても、彼の頭の上までは、届かない。
 しかし、構わず――。
 ばっと両手を広げるようにして、軽く跳ねる。
 まるで、摘んだ花弁をばらまく悪戯。光が、ふわりとリオを包んだ。白い花弁がはらはらと、肩に触れながら床まで落ちていく。
 本物ではない、光の幻影。
「ふふ、マザー・メルセデスはこれくらいのサービスをしてくれるんです。ほら、光は、平等ですから」

大成功 🔵​🔵​🔵​

フォーリー・セビキウス
【涙雨】
そう見えるだろうがほら、触ってみろ。映像を映しているだけだから実態がないはずだ。
影と戯れるネムリアを見据えて叶と話しつつ、管狐をあやす。
土がなくとも植物の育成はできるが、花を増殖させる必要性が無いんだろう。あくまで保存用だろうからな。
ついでにお前も遊んでこいと、おもちを呼び出し管狐やネムリア達と遊ばせる

まぁな。偽物は影が出来ないし、落ちる速度も違う。見分けるのは容易い…が、今回は自分で探してみろ。
と言いつつ、もしネムリアが取れなかった時や他の人の分も確保しておく。叶の分は……まぁ良いだろう。どうせ取ってそうだ。
視力と見切りの面目躍如ーー

幸せか……ネムリアに在らん事を。

あぁ、よろしくな。


雲烟・叶
【涙雨】
生花、この世界では相当に貴重なもんでしょうねぇ
何しろ、土なんてないですし

そう簡単には見付かりそうにないですね
積極的に探し回るより近くに落ちて来た花だけに手を翳してみていれば、管狐たちが投影された花をころころと追い掛け回すのに溜息ひとつ
嗚呼もう、元気なのも程々になさいね、お前たち
放っておくとお嬢さんやフォーリーの頭にまで登りそ、……ちょっと手遅れでしたかね

……ネムリアのお嬢さんの蝶にまで戯れ付き始めましたし、この子ら
管狐たちは懐っこく、蝶にも、船の人々にも、するりとやたらと手触りの良い毛並みを擦り寄せて甘えて行く
ま、賑やかしにはなるでしょう

ええ、今年も宜しくお願いしますね、ふたりとも


ネムリア・ティーズ
【涙雨】
みてみて叶、フォーリー花びらがたくさんだ
とうえい、って言ってたけど…ぜんぶ本物にみえるね

叶のかわいい子、キミも花びらがすき?
頭に管狐を乗せたまま、その場でくるりとまわって

ふたりは本物みつけられそう?
すごい、フォーリーは簡単に見分けられるんだ
じゃあ…これかな?ふふ、また透けちゃった

そういえば、船の子は派手なのがすきなんだっけ
だれも眠らせないように【胡蝶廼彩色】
耀く蝶が舞う姿をお礼にできたらいいな

こうして手を出していたら、降ってきてくれないかな
しあわせをつかめたなら
だいすきなひとたちと分け合いっこするんだ
もちろん、ふたりともだよ

…あ、だいじなことを忘れてたの
叶、フォーリー、今年もよろしくね




 光の中心で、娘が手を広げた。宵闇に似た柔らかな暗がりの中で、注ぐ光に照らされて、仄かに白い肌が輝いて見えた。
「みてみて叶、フォーリー花びらがたくさんだ」
 何処にも、花は咲いていないのに――。
 はらはらと舞い落ちる花の帷越し、ネムリア・ティーズ(余光・f01004)が二人を呼ぶ。
「とうえい、って言ってたけど……ぜんぶ本物にみえるね」
「そう見えるだろうがほら、触ってみろ。映像を映しているだけだから実態がないはずだ」
 フォーリー・セビキウス(過日に哭く・f02471)の声音は落ち着いている。
 ともすれば、醒めたように響くが、ネムリアはその指摘に、目を瞬かせるだけだ。掌を天に向け、触れてみるが、光は熱も持たず、細い指先をすり抜けて落ちていく。
 ほんとうだ、と零す彼女の言葉に、小さく笑いながら、
「生花、この世界では相当に貴重なもんでしょうねぇ――何しろ、土なんてないですし」
 しみじみと、雲烟・叶(呪物・f07442)が周囲を見つめた。
 硬質な床――すべて宝石で出来た漿船の内部には、有機的な装飾は殆ど無かった。食べ物こそ馴染みのある香りをたてていたが、このダンスホールでは見受けられぬ。
 作られた花の香りは――生花から精製されたもののように感じられるが。
 叶の何気ない感想に、軽く首肯したフォーリーは頬に笑みを湛えた。
「土がなくとも植物の育成はできるが、花を増殖させる必要性が無いんだろう。あくまで保存用だろうからな」
 周りでは、様々な色彩に彩られたクリスタリアン達が、賑やかに光を追いかけている。子供もいれば、大人もいて――数はそれなりに降ってくるという話だが、歓声が殆ど聞こえぬ事。まあ、あっさり獲得――とはいかぬようだ。
「そう簡単には見付かりそうにないですね」
 言いながら、叶は煙管を手にしていない方の指を伸ばす。黒革の手袋に包まれた指先が白い花弁に触れ――花弁は指を通過していった。
 なにも感じぬという奇妙な感覚に、叶が何かを告げるよりも先に。
 その肩口を、腕を。するりと何かが駆け抜けたかと思うと、光を目掛けて跳ねた。
 叶が使役する管狐は、光を追いかけ、ころりころりと彼の肩や、頭の上、時に空を、縦横無尽に跳ね回る。
「嗚呼もう、元気なのも程々になさいね、お前たち」
 主は呆れて嘆息するも、言うことを聴く気は無いらしい。強く咎める気もなかったけれど――。
「放っておくとお嬢さんやフォーリーの頭にまで登りそ、……ちょっと手遅れでしたかね」
 ひょいと跳ねた一匹が、ネムリアの頭の上に飛び移る。輝く銀髪の上で花びらを眺めようと身を起こした管狐へと、彼女は優しく声をかけた。
「叶のかわいい子、キミも花びらがすき?」
 頭に管狐を乗せたまま、くるりと回れば、そこから見えた光景を気に入ったのか、叶が手を伸ばしても戻ってこない。
 何ともいえない表情を浮かべた彼を見、おかしそうにフォーリーは双眸を細めると、
「ついでにお前も遊んでこい」
 おもち、とその名を呼べば――桜色の猫又が、何処からともなく姿を現す。ふたつある尾を優雅に振って、しなやかに空を蹴ると、ネムリアと管狐の輪に加わった。
 柔らかな毛並みを撫でてやれば、もっと撫でろと言うように身を寄せた桜色の毛並みが頬を掠め、くすぐったいと微かな笑い声を零し。
 そのまま光と戯れていたネムリアは、ふと思いついたように祈るように手を合わせた。
「あざやかな夢を、キミに」
 ネムリアが月の魔力を編んで――虚空に、白銀に耀く無数の蝶がはばたいていく。
 素敵な新年のお祝い、その細やかな御礼に、と。
 彼女が解き放った蝶たちはダンスホール中を柔らかに舞い踊る。
 仄かな光を躱し、ふわふわと舞う蝶に、クリスタリアン達は「きれい」「すごい」と声をあげて喜び、花びらも忘れて追いかけ始めた。
 ――そして、それは、船員たちだけではなく。
「……ネムリアのお嬢さんの蝶にまで戯れ付き始めましたし、この子ら」
 吐息と共に、叶がぼやく。
 光にはしゃいだ管狐たちは、皆すっかり叶の元から離れ――連れの二人はおろか、知らぬクリスタリアン達の元にも潜り込んで、滑らかな毛並みをこすりつけながら遊んでいる。
 その柔らかな手触りを気に入ったらしい船員たちが、花びらを獲得したかのような歓声をあげているのを見遣り――これはこれでいいか、と笑う。
「ま、賑やかしにはなるでしょう」
 煙管を唇に当てて、囁く。煙管をすり抜ける花弁の光を、茫洋と眺めていたとき。
「ふたりは本物みつけられそう?」
 もこもこに埋まりながら振り返ったネムリアが、問いかけてきた。
 フォーリーは軽く天を仰ぐ。光は、強すぎず、吹けば消えるような儚い動きで舞っているが――。
「まぁな。偽物は影が出来ないし、落ちる速度も違う。見分けるのは容易い……が、今回は自分で探してみろ」
 彼の指摘通りに床を見つめるが、真っ暗ではないが、深い闇が落ちているそこでは、花弁の影は淡すぎて見えなかった。
 こうすれば見えるだろうと。掌を眼前に差し出す仕草は、先程からのネムリアと変わらない。
「すごい、フォーリーは簡単に見分けられるんだ――じゃあ……これかな? ふふ、また透けちゃった」
 真似て、ネムリアの天に伸ばした手が包んだのは、やはり映像で。閉じこめたはずの花弁は、ネムリアの両腕を通り抜けて、管狐の頭に降って消えていく。
 その紫の瞳の輝きを見れば、そこに失望はない――見分ける気などなかっただろう、などと無粋な指摘は彼もしない。保護者のような感覚で、彼女たちが戯れるのを見守りながら。
 それでも、密かに。フォーリーは鋭く、周囲を観察していた。花びらがあろうとなかろうと、ネムリアや叶がこの時を楽しんでいれば、別に構わないのだが。
 どうせなら。
 己の視界の端、小さな影が過っていくのを彼は見逃さぬ。
「視力と見切りの面目躍如――」
 そっと嘯き、掌を走らせる。その結果を、はてさて誰が見届けただろうか。怪しい香りを纏う男が、横顔でうっすら笑っていた。
(「叶の分は……まぁ良いだろう。どうせ取ってそうだ」)
 半身振り返ったフォーリーは、その視線に気づかぬふりで、背を向けておく。
 さて助言を貰ったネムリアであるが、彼らとは別を向き、水を掬うように手で器を作り――落ちてくる光を、ひとつずつ追いかけていた。
 その仕草を神妙に覗き込む猫又が、尾を揺らす。管狐が、こっちだよと言わんばかりに光を突き破って跳躍する。
 賑やかな光景を背に、天へと手を差し出したまま――。
「こうして手を出していたら、降ってきてくれないかな……しあわせをつかめたなら――だいすきなひとたちと分け合いっこするんだ」
 光の花弁が、彼女に降り注ぐ。その様を、フォーリーも叶も静かに見つめていた。
「もちろん、ふたりともだよ」
 くるりと振り返り、二人に向けて両手を差し出した。
 幸せを、わかちあうために。
「そうだな」
 声だけで笑ったフォーリーは。何も持たぬ掌に、摘まみとった花びらをひとつ、はらりと載せる。
「幸せが……ネムリアに在らん事を」
「え、フォーリー、いつ見つけたの?」
 わあ、と小さな歓声をあげた彼女は、管狐たちにも白く儚い花びらを披露しながら、髪を揺らして、目を細めた。
「あ、だいじなことを忘れてたの……叶、フォーリー、今年もよろしくね」
「ええ、今年も宜しくお願いしますね、ふたりとも」
 透き通るような、ネムリアの微笑みにも。胡乱げとも思う、叶の笑みにも。小さな息を吐いて、フォーリーは優しい眼差しを返した。
「――あぁ、よろしくな」

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

都槻・綾
f11024/花世

青い闇の底
天を仰いで佇めば
降り来る白は雪片のよう

けれど
ちっとも寒くないのは
漂う花の幻想が
楽し気に踊っているみたいに思えるのと、
共に昊を見上げている花世の瞳も
きらきら
光を映しているからに違いなく

――綺麗ですねぇ、

感嘆の吐息で告げるのは
白き幻のことは勿論、
彼女の其の純粋でうつくしい横顔のことも

ね、
どちらが先に生花を掴まえられるかしら

悪戯っぽく笑んで
くるり
裾を翻し
ホールを舞うように駆ける

透ける光さえも瑞々しい花弁へ
手を差し伸べて
はっしと掴んだのは――花世の繊指

思わず目を瞬いてのち
ふたり同時に笑い合う

花ではないけれど
確かに「花」を掴まえた

朗らかに咲く声に招かれて
きっと福も来るでしょう


境・花世
綾(f01786)と

降り頻る祝福の花は幻のひかり
爛漫に游いで、さやかに揺れて、
凍える闇に夜明けを連れてくるんだね

こんな風にきれいなものに、
濁りなくただ幸せなものに、ふれることが出来たなら

ひとつきりの眸で花びらを追えば、
柔らかでなめらかな天鵞絨の声がする
子どもみたいにきみが駆けていくから
遥かな幻にだって手を伸ばしてみたくなるんだ

――わたしも、つかまえる!

ひかりの描く偽物の花たちのなか
爪先立ちで懸命に背伸びして、
ふれた虚空はなぜかあたたかい

掴まれた指先をきょとんと見て、
それからきみと一緒に笑い出す
あは、確かにこれは、幻ではないみたい

期待にお応えして花と咲う
きみに、幸福ばかりの一年になあれ




 偽の昊。偽の花。身を囲う深淵は、深し蒼。
 然し、寂寥はない。
 天を仰げば、落ちてくる光。真下から眺めれば、吸い込まれそうな宵の色。
(「降り来る白は雪片のよう――」)
 都槻・綾(糸遊・f01786)は、そっと息を逃がす。
(「けれど、ちっとも寒くないのは――」)
 隣で、楽しげに小さく笑う気配と共に、揺れ、馴染みの花の香が漂った。
「爛漫に游いで、さやかに揺れて、凍える闇に夜明けを連れてくるんだね」
 綾の傍ら、境・花世(はなひとや・f11024)が彼と同じように、天を見上げている。花を咲かせた娘の――片の瞳が、光を映して輝いていた。
 ひらひら、ゆらゆら。
 光は己が好き好きに、揺らめき落ちてくる。時に交差し、近づいてかと思えば思い切り離れ――その様が、気儘な舞踏に似て。
 花々の楽しげな踊りに、頬を緩め。
「――綺麗ですねぇ、」
 熱を逃がすような嘆息と共に、零した綾の言葉に、花世は微笑で仰いだまま、うん、と頷く。
(「――こんな風にきれいなものに、濁りなくただ幸せなものに、ふれることが出来たなら」)
 忘我、とまではゆくまいが。じぃっと見上げた彼女は、すっかり、眼前の幻影に魅入られていた。
 ゆえに彼女は知るまい。綾が感嘆したのは――視界に広がるすべて。
 彼らに降り注ぐ白き幻と。
 それに負けぬほどに輝いて見える、麗しき稜線。純粋な、彼女の横顔。
 望と真っ直ぐな眼差しを視界に捉えていると――胸の奥で、くすぐったいような感覚と共に、忽然と湧く衝動があった。
「ね、どちらが先に生花を掴まえられるかしら」
 綾は青磁色の瞳を、悪戯っぽく笑ませて、駆け出す。
 花世の耳朶を打った声音は、柔らかでなめらかな天鵞絨――彼女の印象、そのままに。
 その世界へと、彼は衣を翻し、軽やかに躍る。そしてくるりと踵を返して、彼女を誘うのだ。
 ――まるで子供のようだ。
 そう、子供のように、無邪気に追い求めて良いのだと。
 綾の誘いに、花世が抗う理由はない。
「――わたしも、つかまえる!」
 輝くような笑みを湛え、しなやかにダンスホールの中央に飛び込んでいく。
 身体をすり抜けていく光。偽の花の香りに惑わされぬよう、手を伸ばす。触れる光に熱はなく。さりとて、冷たいということもない。何もない。しかし、ある。
 綾が視線を巡らせれば、鮮やかな花世の髪が揺れて、彼女の動きに合わせて跳ねた。それを見て双眸を――表情を綻ばせる綾に、花世も無邪気に頬を緩めた。
 空を掻き交ぜるような戯れが面白くて、自然と笑い声がこぼれる。
 ただ、童心に返って。
 二人、競うように爪先立ちになって、昊へと手を伸ばす。
 不意に綾の視界を――確かな質量をもつような、細い影が、過ったような気がして。その指で、はっしと、それを掴む。
 刹那。
 あれ、と花世が声をあげた。
 あたたかい。
 一瞬の困惑は、対面する綾も同様に。
 ――誓って、間違いなく。これだ、というひとひらを、彼は掴んだつもりだったのだ。白く浮き上がる、美しい……花の幻影の中にあった――だが、実際に彼の手の中にあるのは、花世の繊細なる指先であった。
 意図することではなかったから、互いの顔を見合わせ、目を瞬かせた。
 そして、堪えきれない吐息がどちからともなく零れ。
 同時に――笑う。
「あは、確かにこれは、幻ではないみたい」
「花ではないけれど、確かに『花』を掴まえた」
 そんなにも、没頭していたのかしらと。可笑しくて、二人で笑った。光は、ひらひらと二人に降り続ける。
 指を繋いだまま、新年の言祝ぎを。
「朗らかに咲く声に招かれて、きっと福も来るでしょう」
 期待にお応えして――、零れんばかりの笑みに、花世の右目に咲く花が、揺れる。
「きみに、幸福ばかりの一年になあれ」

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

鎹・たから
新年のお祝いは、どの世界でも素敵なものですね
そんな楽しい時間にお邪魔させてもらえるなんて
なんだか嬉しくなってしまいます

ダンスホールは宝石と花びらで満ちていて
それが実体でなくとも、きらめきにみとれてしまう

甘い香りは花のにおいでしょうか
なんだかお腹がすきそうですね

花弁にもうひとつ彩を
雪結晶と共に出現すれば、喜んでもらえるでしょうか(ぴょんこぴょんこと

折角です
たからもキャッチにチャレンジしましょう
映像と本物の違いをよく見て確かめて
おもいきって両手を出してそっと掴みます

もし運よく手に入ったら
家に持ち帰って、同居人と猫達のお土産にしましょう

けれどその前に
この素敵な船を、すくってみせます




 新しい年は、昨日と地続きなのに。何故か、特別な感覚がある。
 見渡す限りのクリスタリアン達は、浮かれて、にこにこと笑っている。幸福な空気というものは伝播するもので。ダンスホールを包む――否、船中に漂う空気は、ふわふわと柔らかかった。
「新年のお祝いは、どの世界でも素敵なものですね」
 鎹・たから(雪氣硝・f01148)は辺りを見渡し、雪を映したような瞳を瞬かせた。
「そんな楽しい時間にお邪魔させてもらえるなんて、なんだか嬉しくなってしまいます」
 かく呟く彼女の貌に、にこにこと笑みが浮かぶ事は無い。
 だが、穏やかにクリスタリアン達の祝いを見守る眼差しは、優しかった。
 大きな瞳が、じぃっと見つめるのは、幻の花びら。
 光がゆらりとそよげば、透けるように深い蒼、紫を宿した暁の光が何処かを照らす。きらきらと、地上の、太陽光の下では見られぬ耀きが、そこにあった。
 ただひとつとして、同じ動きをしない花びらの揺らぎに、ほう、と吐息を零す。嗅覚を刺激する甘い香りは、知っているような、知らないような。
 ただ、『花の香り』であることは確か――そういう匂いだった。
「なんだかお腹がすきそうですね」
 言いながら、ダンスホールの中央を見る。色とりどりのクリスタリアン達が楽しそうに花びらを追いかけている。
 むくむくと、悪戯心――というよりは、好奇心が湧いてくる。
「花弁にもうひとつ彩を――」
 そう、例えば。 雪結晶と共に出現すれば、喜んでもらえるでしょうか、と。
 思う心の儘、その華奢な身体が、きらめく雪結晶の群れを纏ったかと思うと――。
 きらきらと、空気を凍らせた、白い耀きと共に。
 たからは、ダンスホールの中央にぴょんと跳ねていた。
「わあ、つめたい!」
「光ってる? 光じゃないの――」
「こんにちは、たからと申します」
 雪結晶に歓声をあげたクリスタリアン達の真ん中で、彼女が名乗ると。
「ようこそ! ふしぎな宝石を操るお嬢さん」
 歓迎いたしますよ、と、彼女を囲っていた皆がきらきらとした笑顔を向けた。
 宝石ではないのだけれど――そうか、とたからは気づく。彼らは、雪を知らないのだ。否、現象として知っているものはあるかもしれない。けれど、こうして雪結晶を見たことは、ないのだろう。
 この幻影の花々は、まるで雪かのように降り注いでいるのに。
「こっち、こっちが沢山ふってくるよ、お姉さん」
 そんなたからの袖を引く、小さなクリスタリアンがいる。
「マザーがいうの。こっちに降ってくるよ~って! はやく、はやく!」
 どうやら、幸福の花を求めていると思われたらしい。
 けれど、子供達に腕を引かれて、誘われたならば。いや、此所に飛び込んだ時から、既に。
「折角です。たからもキャッチにチャレンジしましょう」
 眠そうな印象を与える眸を、幾度かぱちぱち瞬かせ、天を仰ぐ。
 彼女はじっと光を見据える。淡く、透けるような花々の中で――彼女の白い貌に、薄い影を落とす質量が、さらりと過った。
 たからとて、一角の武人である。
 ほんの一瞬、眼差しが鋭く。氷のように冴え――無意識だった。そこに向けて、ただ両腕を伸ばす。
 そっと包むようにそれを手にする仕草は、とても優しかった。
「わあ、すごい! 本当にお花、掴んだんだ」
「おめでとう!!」
「よい一年を!」
 幸福を手にしたたからへと、子供達は次々に祝福の言葉を贈ってくれる。
 暖かい言葉に包まれながら、そっと掌を寄せて、中を覗けば。
 ひとひらの花弁が、彼女の吐息にそよいだ。
「同居人と猫達のお土産にしましょう」
 手の中の小さな花びらに、語りかけるように。
「――けれどその前に。この素敵な船を、すくってみせます」

大成功 🔵​🔵​🔵​

小結・飛花
燐く空間は矢張り眩いのです。
この世界のうつくしさは重々承知をしておりますが
あたくしには不釣り合いで御座いましょう。

隅へ、隅へと。

眺めているだけでもとは、まさにその通りでございます。
あたくしも、こうして眺めているだけで
胸の裡がすくような、晴れやかな気持ちです。

あゝ。花弁。
この花の名は何と云ふのでしょう……?
此方の御方は派手な事が好きなのでしょう。

それならば、あたくしもわずかながら助力致しましょう。
藤に杜鵑。
藤の花をそらへと授けましょう。

手を伸ばせど逃げゆく花のかなしきことよ。
だからこそ、花は花なのでしょうね。

幸運は等しく

あゝ。やはりうつくしき景色。




 あゝ、と。
 あえかに息をこぼし、小結・飛花(はなあわせ・f31029)は目を細めた。
「燐く空間は矢張り眩いのです」
 囁きは、誰に向けたものでもなく。
(「この世界のうつくしさは重々承知をしておりますが――あたくしには不釣り合いで御座いましょう」)
 燦々と煌めくような強いものではない。けれど、この世界の闇は、陰なるものではなく。
 居心地が悪いのではなく、ただただ気が引けて――飛花は、隅へと身を寄せた。
 熱気に躍る空間であれど――壁際は、ひやりと冷たかった。鉱石の感触そのままの壁に背を預ければ、飛花に、馴染むような安堵をもたらした。
 ぬくもりをもっているかのような、柔らかな冷たさだ。石の壁であるのは、間違いないというのに。
 そこから見つめる世界は、やはり煌めいていた。天を仰げば、無数の放射状の淡い光が、暁から蒼を覗かせ。そこからホール中に広がる光の先から、花弁が生まれ、ひらひらと舞い踊るのだ。
 花が生まれ、散華して。下で待つクリスタリアン達が腕を伸ばす。
 彼らもまた――飛花には、強い耀きをもつ生き物に見える。光を吸い込み、輝く。或いは闇の中でも強く光をはなつ、鉱物の愛し子たち。
 よくよく見れば、こうして壁際に寄り添って、彼らを見守るようにしているクリスタリアン達も多く見かけた。
 その光景は微笑ましく。そして、作り物のように美しかった。
(「眺めているだけでもとは、まさにその通りでございます。あたくしも、こうして眺めているだけで――胸の裡がすくような、晴れやかな気持ちです」)
 儚く、赤き双眸を綻ばせる。
 そんな彼女の眼前にも、白いひとひらが、落ちてきた。
 ダンスホールの何処にあろうと、逃さぬように花弁を落とすのだ――そこに、幸運が混じる事もあろう。
 掌を差し出して。触れたと思えば、すり抜け、落ちていく光に、飛花はほう、と細い息を吐く。
「あゝ。花弁。この花の名は何と云ふのでしょう……?」
 常盤薺、山査子、加密爾列、白雪芥子――。
 角度や大きさ、投影されている光が結ぶ像はどうやら、一定ではないらしい。
 繚乱とそそぐ光の中で、そういえば、と彼女はひとつ思い出す。
 此方の御方は派手な事が好きだという――。
 猟兵たちが、その異能を解き放っても。宴に花を添えてくれるのならば、彼らはきっと喜ぶだろう、と――。
「それならば、あたくしもわずかながら助力致しましょう――おいでなさい」
 繊手が、花札をひとつ、翻した。
 描かれているのは卯月、――藤に杜鵑。
 その、藤だけを。虚空に放つ。切り裂くべき敵はいないから、刹那に羽ばたかせ、消えゆく――紫色の、小さな花々。
 それらはホールの中央まで広がって、思いも寄らぬ色彩の花弁に、クリスタリアン達は高い声で笑って、はしゃぐ。
 彼らは、この藤の彩りを、此所にいる飛花が施したとは知らぬ儘。
 新しい花へと両手を伸ばす。
 幻ゆえに、届く間もなく、消え去ってしまう。風に掻き消されてしまうように。
「手を伸ばせど逃げゆく花のかなしきことよ。だからこそ、花は花なのでしょうね」
 そっと、飛花はひとりごちる。
 貌は、遠くを見つめるように。光に照らされた、美しき彫像のようでもあった。この身が持つ業に、思いを馳せていたやもしれぬ。
 幸運は等しく――手から逃げ去り。然れど、時に誰かの手におさまり。
 藤を追いかけたらしい、小さな手が。白い光を掴んで、その中に閉じこめていた。きっと、あれは光ではない、幸運であったのだろう――。
 ――あたくしは、それを見届けられただけで。
「あゝ。やはりうつくしき景色」
 ――口元が湛えたのは。

大成功 🔵​🔵​🔵​

コノハ・ライゼ
ナンて幻想的
そのままでも見惚れる程なのに、宝探しまで出来ちゃうナンて大盤振る舞いだコト
祝宴だというのなら、乗らない手は無いわねぇ

お邪魔でないなら、少しばかり賑やかしに【虹渡】の帯を広げましょうか
淡く淡く、花弁の色を損なわないように
微かなオーロラに見立てたらめでたい雰囲気もアップするかしら
もし本物の花弁を手にしたヒトがいたら、そのヒトへも虹の祝福を

幻影の合間をゆっくり歩けば、花弁の中を泳ぐよう
触れられ無いのは分かってるケド、つい口を開いてしまうのはやはりその味が気になるから
こうしてたらホンモノも口の中に落ちてこないかしら……ナンて過ったけど
うっかり食べてしまったらちょっと勿体ない気もするわねぇ




 はらり、はらりと花が降る。
 腕を振り払っても、それは身体をすり抜けて、落ちていく。それは光の紡ぐ幻影であるからだ。だが、そのひとつひとつ、すべてが違う動きをする。
 ――マザー・メルセデスがくれる祝福なのだ、とクリスタリアン達は口を揃えて言う。
 その中に、稀少なる本物の花びらが、紛れて落ちてくる。
「ナンて幻想的――そのままでも見惚れる程なのに、宝探しまで出来ちゃうナンて大盤振る舞いだコト」
 祝宴だというのなら、乗らない手は無いわねぇ、コノハ・ライゼ(空々・f03130)は微笑む。
 見上げた空間は、宵に似ている。だが、深く美しい蒼は、耀きを孕むと暁を見せる。
 これも、ソラだというのなら――。
「憧れ、ナンかしら。憧憬――ト、いうより……憶えといて欲しい、みたいな?」
 すべては想像にすぎないが。コノハは殆ど解らぬような、微笑みを浮かべる。こうして宇宙を漂うだけでは、経験できぬらしい様々な天体ショーの――そのひとつを、彼は披露できる。
 ゆっくりとダンスホールの中央までやってくる。無邪気なクリスタリアン達は、昊へ手を伸ばし、はしゃいでいる。
 紫雲に染めた髪を透くように、光が落ちてくる。羽のように柔らかな、質量を持たぬ幻。
「お邪魔でないなら、少しばかり賑やかしに」
 軽く、指を鳴らせば。
 淡く広がる虹の帯が、空間を鮮やかに彩った――眩く様な光ではなく。闇に滲むようにグラデーションする光虹を見上げたクルー達は、ぽかんと口を開いていた。
「わあ、きれい!」
「これって虹ね、虹は知ってるわ!」
 きゃっきゃとはしゃぐ娘たちが口々に歓声をあげた。
「え、オーロラじゃないの?」
 ご明察――コノハは笑う。あまり強く輝かせぬよう、帯を広げたのは、そういう意図があった。
「お気に召していただけたら、何より」
 何処か、得意げに、彼は昊を見上げた。複雑に、しかし規則正しいカッティングの丸屋根が、虹越しに少しずつ色を変えて輝いている。
 花々の投影は、その光にも負けず、ゆるりと落ちてきた。それでも、虹を通過するときに、本物と偽物の差は、わかった。
 ゆえに、それはコノハの視力でなくとも――見極められたことだろう。
「あ、花びらがよくみえる!」
 幸運の花を掴もうと跳ねたのは、少年だった。
 はっしと掴み。コロコロとダンスホールを転がっていった。ガガンッ、と。ちょっと痛そうでは済まぬような衝撃音が響いたのは、双方が鉱石だからだろう。
 しかし少年は、泣き言は漏らさず――いっそ、誇らしげに、片腕を天へ突き上げた。
「オメデト」
 手を叩き、讃え――コノハは彼の頭上に虹を描いた。
「ありがとっ!」
 本当に嬉しそうないらえに、こういうのも悪くないか、と――寂しい腹は感じなかった。
 コノハは再び、天を仰ぐ。
 白い花びらは、数を増やし。雪だか、雨だかのように彼へと注いだ。まるで、何かの意思を持つかのように――。
 その中を、ゆっくりと歩いてみる。
「……まるで、花弁の中を泳ぐよう」
 軽く口を開く。舌先に触れるものには、甘みも苦みも――何もない。触れられない、幻だから。
 触れられないと解っていても、つい、その味を知りたくなってしまうのだ。
 花の香りと、視覚を賑わす幻と。幸福に酔うような、この船の人々の心。
 どんな味がするのだろう。
(「こうしてたらホンモノも口の中に落ちてこないかしら……ナンて」)
 己の考えに、唇が弧を描く。
「うっかり食べてしまったらちょっと勿体ない気もするわねぇ」
 囁いた、その唇を――何かが、掠めた。
 甘い香りと、確かな質感。
 幸福の花と呼ばれるものの味を、彼が確かめたかどうかは――さて。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第2章 ボス戦 『バトラー・サファイア』

POW   :    ナイブスストーム
【サファイアでできた無数の暗器】を放ち、自身からレベルm半径内の指定した全ての対象を攻撃する。
SPD   :    アカンプリッシュメント・オブ・アサシン
レベル分の1秒で【麻酔針】を発射できる。
WIZ   :    サファイア・フラッシュ
【サファイアの肌】から【蒼く眩い閃光】を放ち、【目を眩ませること】により対象の動きを一時的に封じる。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠エリル・メアリアルです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●転送装置
「久しぶりね」
 その女は漿船に現れるなり、冷徹な声音でそう告げた。
「覚えていますか――私と、私の主、プリンセス・エメラルドのことを。あなたは主の所有物。その在り方は皆、主の意志に従わねばならぬということを」
 突然現れた猟書家『バトラー・サファイア』の存在に、メルセデスは驚き、戸惑った。
 微かにある意識は、過去の思い出や、彼女の告げる「転送装置」のことよりも――自分の愛おしい船員たちに向かっていた。
「私達は漿船の力を必要としています。故に、あなたの中の異物を、これから全て排除します――そう、気づいているわね。あなたがこれまで育んだ、愛しきクリスタリアン達を、一人残らず」
 バトラー・サファイアはその思考のゆらぎを読んで、冷笑を浮かべる。
 愚かだと、言葉にせずとも、その冷たい横顔は雄弁に語っていた。
 それが自分に逆らう事をさすのか。或いは、その思考をさすのかまでは、わからぬが。
「……抵抗するのね? 別に構いませんよ。でも、その時間を別れの挨拶に使った方が有意義だと、私は思いますけどね」

●祭りのあとに
 猟兵達の加わった今年は、大いに盛り上がったと。
 クリスタリアン達が満面の笑みで集うものたちに礼を告げてくる。そして、未だ光の花びらの降るダンスホール内で、彼らは天を仰ぐ。
 この喜びと、感謝の言葉を、皆で唱和するのが習わしだからだ。
 ――然し。
「マザー・メルセデス……マザー?」
 誰かが不安そうな声をあげた。
 猟兵たちは知るよしもないが――バトラー・サファイアの襲撃と同時、クリスタリアン達には、いつもと違う意思が伝達されていた。
 メルセデスの不安と、悲しみ――そして、『新年早々から、おまえ達に試練を与えねばならない』という、申し訳なさ。
「緊急事態! そうなのですね!」
「戦います! 戦いますとも!」
 誰一人、諦めてはいなかった。驚異の程を知っていたわけではない。
 だか、生まれてからずっと己達を育んでくれた、大切な船。
「転送装置――そこですね……って、そこ何処ですか! そんな装置、初めて知りました! え、マザーも?」
 青年クリスタリアンが困惑した様子で言い。
 猟兵達を振り返る。
「お客陣もお連れして? ――はい、わかりました。ええっと、猟兵の皆さん、こちらです! 足下にお気をつけて!」
 慌ただしく誰かが何かを操作すると。ダンスホールの床が、ぽっかりと抜けた。

 ――落下する。
 真っ暗闇を、ひとしきり落下すれば、ふわりと受け止めるように重力装置が働いて、身体が浮く。
 空間には柔らかな光がいくつも浮かび、春の木漏れ日のようなぬくもりを照射している。
 そこは、花の香りが強く漂う花園であった。
「まったく、くだらないことに機能を割いて」
 その中央で、隙無く構えたバトラー・サファイアが佇み、呆れ声を放つ。
 駆けつけた猟兵、そして幾人かのクリスタリアンの兵士達の気配を察し――ゆっくりと振り返る。
「そちらからお越しいただき、手間が省けました――これより、全船員の排除を行います。逃げるなら、今のうちですよ」
 冷たい宣告を受け止めるものたちの心は、ただひとつ。
 ――させてなるものか、であった。

◆○~~~~○◆○~~~~○◆○~~~~○◆
【プレイング募集期間】
 1月19日(火)8:31~22日(金)22:00頃

クリスタリアン達も協力して戦ってくれます。
船の機能も猟兵の手助けをしてくれます。
が、特にプレイングで指定は不要です。お好きに戦ってください。
船や船員への心遣いがあれば、ボーナスとさせていただきます。
◆○~~~~○◆○~~~~○◆○~~~~○◆
リオ・フェンブロー
逃げるなら…ですか
貴方はこれからこの船を害そうとしているのに
立ち去れと?

暗器使いですか
動きに対応するよりは、面にて穿ちます

アームドフォートを召喚、一斉発射を
近接に来るようであれば、アンサラーを操作し、受け止めましょう

クリスタリアンの皆様には、援護を

レディ、花火とは行きませんが…私の船であった戦い方をご覧入れましょう

麻酔針には
クリスタリアンの皆様か、メルセデスに重力装置の起動を
針の軌道が多少なりともズレればそれで良い

回応を展開
速度を上げ、針をできるだけ避け—一撃を
痛みで意識を保てるなら黒蝶に喰らわせ

この一撃、届けば構わない

出力最大。リミッター解除
——穿て、アンサラー

これ以上何一つ奪わせはしません



●矜持
「逃げるなら……ですか」
 花の香り満ちる空間で、冷ややかで硬質な声音が響き――バトラー・サファイアの宣告を、リオ・フェンブローは囁くように繰り返した。
「貴方はこれからこの船を害そうとしているのに――立ち去れと?」
 静かな問いかけに、サファイアもまた静かに、蒼玉の睫をひとたび、動かした。
「抵抗したければ、どうぞ」
 女の声が空気を震わせるや、否や。
 かさりと鳴るは、布擦れの音――双方が構えた。
 突如と現れた漆黒のアームドフォートが、けたたましく咆哮をあげる。相手の出方を見る試射のようであり――サファイアを狙い済ました一斉射撃であった。
 複数ある砲口から放たれた砲弾を、女は臆さなかった。
 前へと駆りながら、指に挟んだ針――サファイアで作られた繊細なそれを放つ。砲撃を掻い潜るような、細身の刃を、砲台を動かし叩き落とす。
 ちらりと青い瞳が彼らの無事を見届けながら、リオは距離を測りつつ、後方で銃を構えるクリスタリアン達を守るようにアームドフォートを広げる。
 はたして、サファイアも安易には前に出てこなかった。
 握った針を扇のように広げると、射手を相手に、距離を維持した戦いで応じるつもりのようだ――油断は、ならないが。
 静かに戦況を読む二人の間には、暫し、沈黙が落ちる。
 それを崩したのは――くすりと小さく笑んだ、リオの囁き。
「レディ、花火とは行きませんが……私の船であった戦い方をご覧入れましょう」
 砲口を下げ、攻撃を誘い――。
 大技の気配を感じ取ったサファイアが、先に打って出る。
 軽く尖った踵が、床を打つ。
 大きく振るった彼女の腕が、細い煌めきを無数と放つ。
「重力装置の起動を、お願いしても?」
「マザー!」
 リオの要請に、すかさずクリスタリアンが呼びかけた。元々、砲撃が花々に届かぬよう、少しだけコントロールされていたらしい。
 ぐんと重くなった空間を、サファイアの放った針は床を叩く。
「――こんな小細工で、防げるとでも?」
 嘲弄するように、女は吐き捨てる。再度彼女が投げつけた針は、過負荷にも耐えてリオの元へ至る――。
 クリスタリアン達の銃が、それを迎撃し、撃ち落とす。だが、すべてではない。
 リオとて、そのすべてを回避できるとは考えていない。
(「針の軌道が多少なりともズレればそれで良い」)
 刹那に、漆黒の兵器、その真価を――力の覚醒を、促す。
「アレフ、ギメル、ヴァヴ、ザイン——……今こそその名を示せ、アンサラー」
 起動させるが同時、リオは地を蹴った。編んだ銀髪がふわりと波打った。銀の尾が如く軌跡を描きながら、彼はサファイアとの距離を詰めた。
 瞬きする暇すら、ない速度。
 それにも反応できたのは、バトラー・サファイアとしての実力か。咄嗟に振り上げた腕から、逃れようもない麻酔針がほとばしり、リオの四肢を削った。だが、もう遅い。
 穏やかに、然し微塵の躊躇もなく。彼はすべての砲口を解放する。
「出力最大。リミッター解除――穿て、アンサラー」
 収束した光が、無数の帯となり。
 迫る針ごと、サファイアを飲み干した――。
「これ以上何一つ奪わせはしません」

大成功 🔵​🔵​🔵​

鎹・たから
あまくあたたかい春のにおい
よぎるのは家で待つ彼の顔

この船は、彼らの家であり家族なのでしょうね
一緒に戦いましょう
みんなでこの困難を、乗り越えてみせます
【鼓舞、勇気

多少大袈裟に動くことで囮役
船員達に被害が及ばぬよう
万一の際オーラの膜でかばいます
【ダッシュ、残像

たとえ麻酔針を避けきれずとも
たからの眼はあなたを捉え続けます
【念動力、貫通攻撃

氷柱がバトラーを縫い留めれば
皆さんの攻撃も彼女に届くはず

麻痺しても片脚と片腕が動けば十分
動く脚で地を蹴って、武器による斬撃を
【2回攻撃

愛と希望に満ちた船を
あなたに奪われるつもりはありません

この船で生きる人々が諦めない限り
たからは彼らのために、あなたをほろぼします



●家
 ――あまくあたたかい春のにおい。
 鎹・たからは深く息を吸う。脳裏を過るは、家で待っている彼の顔。
 守りたいと思い集うクリスタリアン達と、彼らを守ろうとするメルセデス。
「この船は、彼らの家であり家族なのでしょうね……」
 そっと零した言葉は、たからの心を押す。
 守らねば。
 あの、幸せに満ちた人々の顔を思い出し――それを侮辱した、バトラー・サファイアを毅然と見つめる。
 彼女は、砲撃によって、負傷した身体を軽く払っていた。
 傷の程度は深い。だが、玉石の身体は、血を流さず、輝くような断面を見せている。手負いだからといって――否、手負いだからこそ。
 たからは静かに息を吐いて、ゆっくりと瞳を瞬かせた。
「一緒に戦いましょう。みんなでこの困難を、乗り越えてみせます」
 背後の皆へと告げるや、身を低く倒し――突進するように跳ね、空間を駆る。
「無駄だと、言ったでしょう?」
 サファイアがなじったのは、たから、ではなく――恐らく、重力を制御して、女の動きを阻もうとしたメルセデスだ。
 而して、たからは自在に駆けることが出来た。
 後陣のクリスタリアン達へ、攻撃を及ばせぬよう、わざと大袈裟な動きで注意を引きつけ、距離のある間から、むつの結晶をかたどった鋭い刃を放つ。
 針を手にしたサファイアは、空を割いて迫る手裏剣を払い落とすように腕を振るう。
 すかさず、女は背を丸めるようにして両腕を交差させた。
 その指に挟んだ無数の針を、全身を撥条にして、たからへと放った。
 宝石で出来た針の耀きは、まるで細氷のようであった。
 余すところなく視界の限りに迫る針へ――たからは、己や周囲を自然と守っているオーラの膜を、意識して強めた。決して、後ろまで通さぬように。
 そしてそのまま、受け止める。
 細い四肢を掠めゆく、小さな痛み。堪えるような苦痛ではない。ただ、焼けるように熱い熱が、少しだけ、白い腕や足を傷つけていった。
 変調は、刹那に。
 先まで、軽やかに駆けていた自分の身体が――比べるまでもなく、重く、鈍く感じられる。一時的な麻痺の原因は、針に仕込まれた毒だ。
「たからの眼はあなたを捉え続けます」
 雪の日を映したような、瞳。
 瞬きせずに見つめることで――鋭い氷柱の群れが、サファイアを包み込む。
 そんな生易しいものではなかったか。鉱石の躰すら貫く、氷柱は無残と女の全身を刺し貫き、その場に縫い止めた。
「皆さん、今です」
 告げる声音は、いっそ穏やかに。たからは動く脚で床を強く蹴り、空に躍る。
 それを合図とするかのように――開いた射線、クリスタリアン達の射撃が次々にサファイアを襲う。
「……く」
 両腕で、上半身や顔を庇うことしか、選択肢は残されていなかった。
 その、背後へ。
「愛と希望に満ちた船を、あなたに奪われるつもりはありません」
 淡々とした――然し、強い意志の籠もった言葉が投げかけられた。
「この船で生きる人々が諦めない限り――たからは彼らのために、あなたをほろぼします」
 最後の一閃は、透明無垢な硝子のつるぎを、ほのかな緋色に染めて――何も出来ぬ執事の背を、斜めに裂いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

蓮条・凪紗
綺麗な花畑やな、とも思わんのな?
お船はん、アンタの中でちょい暴れる事は堪忍な
排除されるべき異物はお前やド阿呆

暗器使い、か。なら飛び道具も得意って所やろか
秘符札投げて牽制しつつ向こうの出方を待ち
UC使うとなればそれらしい挙動はあるやろ
クリスタリアン連中で気付いたら声あげてくれんかな
閃光の瞬間は腕で目を覆いながら瞼閉じ
瞬間、隙を突かれてもしゃあないし負傷は厭わん

その技、覚えた
蒼玉より強い輝き、見せたるわ
術籠めて放る符石はタンザナイト
石言葉は誇り高き人――気高き漿船、堕ちた主には従う道理はあらへんよ
放たれる蒼光が向こうの蒼い目を眩ませたとこで、一気に近づいて翡翠の爪で斬り裂く
硬度差は…気合いで何とか



●言葉
 ゆっくりと、ぎこちなく、女は身を起こす。
 何かが砕けるような音が背で起きても、バトラー・サファイアの表情は変わらない。衣服の埃を払い、武器を――己と同じ、蒼玉で出来た細身のナイフを手を軽く打ち合わせるなり、作り出す。
「まったく――忌々しい」
 彼女は小さく零し、ふわふわと芳香を放つ花々を、言葉通りの感情を乗せた視線で射貫く。
「綺麗な花畑やな、とも思わんのな?」
 投げかけられた蓮条・凪紗(魂喰の翡翠・f12887)の問い掛けに――女は、彼を同じ表情で一瞥した。
「花は美しい。けれど、此所には不要です。無意味なこと――余計なものを、掃除するのが執事の務めというものでしょう」
 何処までも冷徹に。そして無情に切り捨てる声音。
 はぁ、態とらしく――それでいて、どうしようもなく出てしまった、腹の底からの嘆息を、凪紗は吐くと。
「お船はん、アンタの中でちょい暴れる事は堪忍な――排除されるべき異物はお前やド阿呆」
 今度は、凪紗の声音が凍る。
 それを相変わらずの涼しい表情で、サファイアはこちらの出方を見ていた。荒々しく罵ろうとも――冷静さをもって、凪紗も彼女を観察した。
(「暗器使い、か。なら飛び道具も得意って所やろか」)
 相手も此方の手を探っているようだ――ならば。
 凪紗は、クリスタリアン達へ、視線で合図を送り。
 忽然と袖口から取り出した金属製の絵札を、投げつけるが同時、弧を描くように疾駆した。
 素早く、投げつけられた秘符札を投げナイフで裂くと、流れで投擲する。滑らかなフォームは迷いもなく、なおかつ正確であった。
「支援します!」
 クリスタリアンが意気揚々と、それを銃で狙い撃つ。空でぶつかり合ったそれらは火花を散らし、凪紗まで届かず落ちていく。
 それ見たことかと笑ったクリスタリアンに、サファイアは冷ややかな視線を向けた。
「そんな程度で、得意になってもらっては」
(「……来るか!?」)
 凪紗は、安易に距離は詰めなかったが――その兆しを、悟る。サファイアの膚が、蒼く眩い閃光を放った。
 咄嗟に、彼は目を瞑る。腕を上げて、視界を庇い――ふ、と笑う気配が、先から届いた。刹那、太腿に鋭い痛みが走る。
「閃光を避けたところで、盲目に変わり無いでしょう」
「せやな――やけど。その技、覚えた」
 腕を下ろした男は、金色の前髪の狭間で、焦茶色の瞳を獲物を捉えた猫のように、笑ませ。
「月読命の力を以て、汝の業を読み解き放つ」
 朗と唱えたる、男の手には灰簾石。掌の深き蒼は、彼の呪力を吸い上げ、煌めき出す。
「――蒼玉より強い輝き、見せたるわ」
 ゆえに、ふと。
 自分が籠めた力よりも。共鳴するように強く、宝石が光っているように、思えた。
 漿船メルセデスが、己と同じタンザナイトへと力を与え――後押ししてくれているかのようだった。
 サファイアは、はっと目を瞠った。その技は。石が放つ、鋭利といってもいい耀きは――己の技と、同じものだと。
「石言葉は誇り高き人――気高き漿船、堕ちた主には従う道理はあらへんよ」
 その言葉は、サファイアに向けたものでもあり。メルセデスに向けたものでもあった。
 ふわりと軽やかに、凪紗は最後の距離を詰めると、長く伸ばした翡翠の爪を女へと振り下ろす。
 ぶつかりあう、翡翠と蒼玉――硬度でいけば、蒼玉の圧勝であるが――猟兵たちの刻みつけた傷は。翡翠を欠く事無く。
 ただ、青き石を――その肩を、砕いたのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

コノハ・ライゼ
そっくりそのままお返しするわ、その台詞

とはいえこの綺麗な場所は汚したくないねぇ
それに守る為とはいえ気負いすぎちゃよくない

【天片】で虹色の花弁生み
範囲攻撃でオーラ防御纏わせ広げるわ
飛び道具は厄介だもの
敵の光を見切り花弁の壁で迎え撃ち
船や花、船員達を守る盾とし庇うねぇ
幸せを約束されたコ達を、傷付けるワケにゃいかねぇのヨ

でもって2回攻撃でカウンター狙いもう一度
既に誰かが付けた傷があれば傷口抉り
今度は花弁に生命力奪う呪詛を籠め敵を包み込み
生命を頂戴してくねぇ(生命力吸収)

アンタの言うくだらないことの良さ
分からないようじゃあこの美しさも勿体ないわネ
逃げるなら今のうちヨ
もっとも、逃がしゃしないケド



●幸福の花
 美しく整えられた躰が――三分の一は、砕かれたであろうか。
 追い詰められたバトラー・サファイアは、それでも表情を変えることは無かった。喩え、一時の命が此所で尽きるとしても。
 仕事を果たす。そんな冷厳さが、首元から伸びた微かな亀裂が走る貌に浮かんでいた。
 ――排除する、ね。
 コノハ・ライゼは暖かな光に目を細めて、サファイアを見据えた。
「そっくりそのままお返しするわ、その台詞」
 微笑みに似た表情は、薄氷の瞳に、蒼玉よりも冷たい光を宿し――しかし、彼は。彼女のように、破壊するのではなく、守るための戦いを脳裏に描く。
「……とはいえこの綺麗な場所は汚したくないねぇ」
 春の陽気のような人工の光に守られた、柔らかな花々。
 きっと、失っても絶望することはないだろう。この船を失うことに比べれば――。だが、そうなれば、自分達の敗北であるように思えた。
(「――それに守る為とはいえ気負いすぎちゃよくない」)
 手負いのサファイアは、もう此方へと余計な口をきくつもりもないようだ。
 ひりりと双方を繋ぐ緊張感を――コノハは気にしない、が。
 背後で、固唾を呑んで見守るクリスタリアン達が、居る。
「彩りを、」
 コノハがゆっくりと、手を広げると、虚空に花が舞った。
「あっ!」
 クリスタリアン達が目を丸くする。それは、彼らにとっては先刻までの幸せなひとときを思い出すような光景。
 見たこともない花――風蝶草は、鮮やかな虹色をしていた。
 細い花弁で、はばたくように。クレオメが空を躍る。皆を包み込み、守るように――。
 自分の仕事を見届けた彼は、口の端を軽く上げて。
 コノハが誘うように指をくいと動かせば、サファイアも仕掛ける。攻撃的な動きを持って、己に向かう花弁を、投げナイフを握り、裂いていく。
 全身を穿たれ、攻撃の起点となりそうな背も砕かれ、何より、ほぼ片腕しか動かぬのに、俊敏で無駄のない動きを以て、花嵐を潜り抜ける。
「……く」
 だが、虹の奔流を凌ぎきる事は難しい。
 先程の事を警戒しているのだろう。サファイアは、コノハまで一足で斬りかかれる距離まで粘ってから、全身を淡く発光させた。
「――来ます!」
「ええ」
 既にその技を見ているクリスタリアンが叫んだ。解っている、とコノハは頷いた。
 花弁が彼女を包むように収束し――厚い壁となる。
「幸せを約束されたコ達を、傷付けるワケにゃいかねぇのヨ」
 サファイアが、最後の力を振り絞るかのように、無数のナイフを解き放ち――刹那、空へと高く花弁が舞った。
 それにひときわ興奮するのは、クリスタリアン達で――。
 戦場の中にありながら、暢気な歓声にコノハも思わず、微笑んでしまいそうになる。
 サービスとばかり、花びらを、適当にぐるりと遊ばせ――蹲り、猛攻に耐えていたサファイアへと、告げる。
「アンタの言うくだらないことの良さ。分からないようじゃあこの美しさも勿体ないわネ」
 哀れみを嘯いて、コノハは軽く首を傾げた。
「――逃げるなら今のうちヨ……もっとも、逃がしゃしないケド」
 笑みと共に、眼差しで花を操る。
 付け入る疵口は、無数にあった。むしろ、疵口を晒すような姿勢の女へ、コノハは容赦なく、風蝶草を集めて包み込んだ。
 生命力が食い散らかされる感覚に耐えきれず、サファイアや愈々、膝を突く。花に包まれた女の輪郭は、次第に、崩れていく。
「あぁ……プリンセス……申し訳……」
 喘ぐように主に詫びて彼女は崩れていき――。
 コノハは虹色の花弁を解き放つ。サファイアの居た場所には、蒼玉の粉塵が僅かに残るばかりで――それも、須臾に消える。
 見届けた彼は、花々を再度、軽く浮かび上がらせて、消すまでの僅かな時間。クリスタリアン達をはしゃがせたのだった。

「やったあ!」
「マザー! 勝ちました」
 のんびりとした勝ち鬨に、猟兵たちは笑う。漿船メルセデスも同じように喜んでいるようで――暖かな光が、ふわりと周囲に漂う。
「祝宴しましょう」
「延長だー!」
 わいわいと騒がしいクリスタリアン達は皆笑顔で浮かれていた。彼らと、メルセデスの間にどんな感情のやりとりがあったかを、猟兵は知ることはできないが。

 ふわり――、と。
 本物の質量を持つ、感謝の花びらが、猟兵たちの周囲に降り注いだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2021年01月24日


挿絵イラスト