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ピリヲドを綴る

#カクリヨファンタズム

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#カクリヨファンタズム


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●ピリヲドを探して

“むかしむかし、あるところに――”

 とある書店の奥の部屋。窓辺で店主が読むのは、そんな在り来たりな書き出しから始まる一冊の本。年老いた庭師が城の姫君に恋をし、その想いを知った月の女神が、庭師に夜だけ若返る魔法をかけるというストーリー。月の輝く夜、花咲く園でふたりは出会い、ひそやかに言葉を交わす。しかし――

“これは月明かりの元でだけ叶う奇跡。
太陽の元では出会えず、身分も隔たる想いから、庭師はやがて――”

ここで文章は途切れてしまう。本の厚みはまだ中程なのに、そこから先は白紙のページばかり。羽ペンをくるくると回してみるものの、今日も先の話は浮かびそうにない。

「やっぱり僕には、荷が重いんじゃないかなぁ…。」

 この先は貴方が綴って、と未完成の本と羽ペンを贈られてからもう何十年経っただろう。幾度となく構想を練っては崩し、拾っては壊して。それなのにいまだインクにペン先を浸すことすら出来ないでいる。何よりも、筆が乗らない一番の理由は。

「読んでくれるはずの君が、いないんじゃ…ね。」

カクリヨで出会うことは叶わず、かといってこの本を棄てることもできず。資料集めと称して手を出した書籍と書き道具は、もはや売るほどになってしまった。そんな変わらない日々に、進めない今日に、ふう、と吐いた溜息を逃すように窓を開けたら。

そこには、君が居た。

ふわりと浮き上がる、記憶通りの姿の君。未練が見せた白昼夢かと疑うより早く、その白い手がこちらに伸びる。でも、ふれた冷たさが夢じゃないことを、そして元の儘の君が戻ってきたんじゃないことも教えてくれた。戸惑う内に背に回った腕にゆっくりと力が込められて、視界がどんどん暗くなる。でも、どうしても抵抗できなかった。

だって僕が書きたかったのは、君を喜ばせるための物語だったんだ。
だからこうすることで、君が嬉しいというのなら。
――もう終わりなんて、かけなくていい。


●終わりのない物語
「《“時よ止まれ、お前は美しい”――そんな哀しい滅びの詩が、詠まれました。》」
 グリモアベースに集まる猟兵達へ、青い髪の少女が無機質な電子音声で語り掛ける。出どころは手にした薄型のデバイスだろう。彼女の口は動かないまま、指だけが雄弁に画面を滑って文字を紡ぐ。
「《場所は『カクリヨファンタズム』。とある妖怪が骸魂に飲み込まれ、その者が営む本屋ごと周囲が迷宮と化しました。》」
 そのせいか、迷宮内はありとあらゆる本が散乱している。螺子くれた回廊は、向かう先こそ察せるものの視界も道も悪く、時には途切れているらしい。
「《ですがそこは奇妙といいますか、僥倖と言いますか。この迷宮では周囲の書物に書き込んだことが、一時的に具現化する能力があるようですの。》」
 たとえば途切れた道がつながる様に、本の階段を創るとか。猫に変身して細い道をすり抜けるとか、ティーカップを船に水辺を渡るとか。書き込めばそういったことが可能となる。無敵になったりすぐ目的地に、といったことは無理だが、十分な助けにはなるだろう。
「《まるで物語の中に迷い込んで、その登場人物になったような。ちょっと不思議な気分になれそうですわね。》」
 不謹慎かもしれませんが、と付け加える少女の顔にはぬぐい切れない好奇心が浮かんでいる。目的の達成は大事だが、少しくらいはその心地を楽しんでもいいかもしれない。
「《その先で待ち受けるのは、魂の現身。虚ろな人形姿のオブリビオンです。こちらは戦闘による弱体化の他に、人形に取り込まれた妖怪への説得も有効なようです。どちらの手段を取るかは、皆様にお任せします。》」
 そして倒して迷宮化が解けた後、そこは元の本屋へと戻るだろう。そこは一風変わった本屋で、なんでも『結末のない本』しか扱わないという。
「《もとは店主がとある本を書き上げる為に集め出したのが始まりだそうです。ですが今ではさる文豪の未完結作や、誰かが綴るのを期待してわざと〆を書かずにおいて行った本などが集まって、売るほどになったとか。》」
 読むだけでも中々に面白く、買い求めて自ら続きを書くのも一興だ。
「《加えて書くためには道具も大事だと、古今東西からあらゆるインクや筆に紙を集めて、こちらも売り出しているようですわ。中には――》」
 こんな不思議なインクも、と少女が紙に何事かをインクで綴る。そして書き終えた文字をすっとなぞれば――ふわり、と光を纏った蝶たちが舞う。こんな風に魔力を籠めたり、摩訶不思議な花や鉱石を元に作られた書き道具たちは、様々な効力を持つそうだ。読むたびに花の香りがする紙や、きらめく情景が浮かび上がるインク、水にも文字を書ける万年筆などは、きっと贈り物にも喜ばれるだろう。試し書きのスペースもあるので、いろいろと眺めるだけでもきっと楽しい。
「《骸魂から引き上げられた店主は消沈しているでしょうが、長い時間をかけて作り上げた店は、大事にしてきた本と同じくらい宝物のはずです。どうぞ貴方の店はすばらしいものだと、思い出させてあげてくださいませ。》」
 そう締め括ると深く一礼し、少女が白い巻貝のグリモアを招き寄せる。

――これより先は、貴方の手に。物語を締めくくりにいきましょう。


吾妻くるる
こんにちは、そして“初めまして”か“お久しぶり”を。
吾妻くるると申します。
今回はカクリヨの世界で
皆様の手にて締め括る物語をお届けします。

●基本説明
構成:物語の迷宮突破+骸魂との戦闘+終わりのない本と書き道具探し(イベシナ)
戦闘:判定【やや易】
 

●第1章は「本が舞い飛ぶ回廊迷宮の突破」
 あらゆる書籍が散乱し、空間が歪んだ回廊形式の迷宮になっています。時折道が途絶えたり、天井に続いていたりしていますが、周囲の本を手に取って書き込むと、その内容が具現化されて先に進めます。効果の持続は短く、万能無敵といったものは再現できませんが、『向こうに渡る間まで翼を得る』や『宇宙空間に変じて遊泳する』など、ちょっとした変身や一時的な周囲の書き換えは可能です。進んでさえいれば、物語の中に迷い込んだ気分で楽しんでOKです。

●第2章は「虚ろな人形とのボス戦」
 店主を飲み込んだ骸魂「虚ろな人形」との戦闘になります。人形は貉妖怪の店主の姿と、店主と縁の有った飛縁魔の女の姿、ふたつを使い分けて戦います。能力自体に変わりはありません。戦闘による弱体化、体内の店主への説得、どちらも有効打となりますので行動はお好みでどうぞ。説得には『納得のいく物語を書ける自信がない』『読んでくれる人が居ない』点がカギになります。

●第3章は「終わりのない本と、インクや筆を求めて」
 貉妖怪が営んでいたお店での、自由な買い物時間となります。
 基本的には本屋ですが、此処に在る本にはすべて“結末”がありません。冒頭1ページしか書いてないものもあれば、ぎっしり分厚い長編のラスト3行がぽっかり空いていたりと形は様々ですが、総じてピリオドがない状態の本ばかりです。種類も絵本から小説、果ては画集まで。公序良俗に反しなければ、古今東西問わずの自由度です。書き綴るためのインクや筆や紙も扱っており、試し書きコーナーもあります。どれも魔力を籠めたり不思議な材料を使ったもので、様々な効果のものがあります。どうぞお好きな品を心行くまでお探しください。ちなみに一筆頂ければお任せも対応します。この章に限りセラフィム(f12222)も居ますので、お声掛けあれば。
※こちらからの発送は致しませんが、各自でのアイテム化はご自由に。
 
 それでは、皆様のプレイングをお待ちしております。
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第1章 冒険 『迷子の迷子の猟兵さん』

POW   :    全部の道を歩き回ればそれっぽいところが見つかるさ!

SPD   :    大きな通りに案内の地図を発見。それを見てみよう。

WIZ   :    看板や風景に共通するシンボルがある。これを組み合わせたら……?

👑7
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


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プレイングの受付は【1/4 8:30以降】より開始いたします。

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回る、廻る、くるくると。
真っ直ぐ続いていただろう廊下はいまや、人を惑わす迷宮と化してしまった。一歩歩けばバサリと本にぶつかり、歪む足元は歩きにくい。そして――

自らが縮んだのかと思うほど周囲が巨大化していたり。
大量の鼠たちが現れてゆく手を阻んでしまっていたり。
自分の手も見えないほどの真っ暗闇に覆われていたり。

複雑怪奇に変貌する迷宮は、時に少し恐ろしいけれど。

――それなら、世界を書き換えてしまおうか。

大きな廊下を渡るには、“EAT ME”と書かれたクッキーを齧って。
こちらを睨む鼠たちは、思わずつられる笛の音を聞かせてやろう。
真っ暗闇の空間だって、煌めく星を撒いてしまえば夜空に変わる。

必要なのはほんのすこしの想像力だけ。
何でもは出来ないけど、小さな奇跡ならきっと叶う。

本を盾に、ペンを剣に。
貴方だけの筋書きを、書き記そう。
オズ・ケストナー
結末のない本
それもすてきっ
ものがたりはその世界の一部だもの
その先を想像するのはいつものこと

でもそれは、書いた人がそこで終わらせようと思っていたときの話で

本がたくさんだっ
わくわくしながら空の道へ

『大きなおかしがぷかぷか』

マシュマロの足場でジャンプ
ふふ、ふかふかだ
グミはぽよぽよっ

『上と下がぎゃくになっちゃう』

仕込んでいた言葉を忘れて
わわっ
反転した空間に驚きタルトの上に落ちる
おいしいっ

でもここからじゃまだ届かない
『そらとぶひよこにだいへんしん』
あとは、やっぱり花がたくさんあるといいな

ぴよっ
転がるように羽ばたいて

空中に咲く花に綻んで
くちばしで一輪
『空に咲く花がとびらのカギ』
だいぼうけんのはじまりだよっ



  途切れ途切れに浮いた廊下を、トン、トン、トン、と軽いリズムで渡っていく。ともすれば恐ろしく感じる情景も、オズ・ケストナー(Ein Kinderspiel・f01136)
の前では心掻き立てるステージに早変わり。ふわりと飛んできた本を捕まえて捲れば、前半はわくわくするような冒険譚なのに、後半はさっぱり真っ白け。
「お店にあったものなのかな?結末のない本、かぁ。」
 物語を読み終えたらいつだって、エンドマークを飛び越えてその先の世界を想像した。笑顔で別れた彼らは、また出会えるの?悪い魔法使いも、いつかは幸せになれる?夕焼け色の手紙は、無事に届いたのかな?でもそれは全部、書いた人が締め括った話を前にしてのこと。なら素敵な物語に、自分の手で“めでたしめでたし”を贈れるのなら。
「…うん、それもすてきっ。」
キトンブルーの瞳をキラキラと輝かせて、手にした本へ道を拓く魔法を記す。

『――大きなおかしがぷかぷか』

 周囲に甘い香りが漂い、ぽふんっ、と現れたお菓子の足場たち。マシュマロはふわふわ、グミはぽよぽよ、ゼリーはぷるるん。異なる踏み心地にふふ、と笑ったのもつかの間、気が付いたら進んでいたはずの足が空にとられてしまって。

『上と下がぎゃくになっちゃう』

「あ、そうだった…わわっ!」
 つい筆が乗って書き込んでしまった言葉を忘れて、ぽいっと体が放り出される。思わず身を縮めたけれど、落っこちたのは甘い甘いタルトの上。
「これはマジパンの気分だね…おいしいっ。」
 ちゃっかり指で抄ったクリームをぺろりとひと舐め。おかげでちょっぴり元気は出たけど、ここからじゃ空に浮かぶ先の道へ届かない。それなら。

『そらとぶひよこにだいへんしん』

 ぴよっと鳴き真似ひとつで、あっというまに魅惑のもふもふボディへ大変身。転がるように羽ばたけば、そのたびにたくさんの花が舞う。桜にひまわり、秋桜にスノードロップ。本の中では季節だって越えられる。空中に咲く花に綻んで、くちばしで一輪加えればどこかでカチリと開く音がする。

『空に咲く花がとびらのカギ』

この先に、まだまだ道は続いていく。だってここはまだ、オズの物語の序章なのだから。
「さぁ…だいぼうけんのはじまりだよっ。」
 笑顔の花を咲かせて、オズがまたひとつ魔法を書き込んだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

吾條・紗
※アドリブ歓迎

見上げる
唐突に途切れた道の続きは、遙か頭上にあるらしい
飛び移るのは無理がある高さ

…さて、どーすっかね?

のんびり呟き、足元に落ちていた一冊を拾って頁を捲る
ペンを片手に暫し思案し…

よし

親切な鳥に助けて貰おう
俺一人くらい軽々持ち上げられるくらいの大きな鳥
羽根は…そう、瑠璃色とか綺麗かな
優しい声で鳴いて、好物は石や金属って変わった子だ

鳥さんの脚を掴んで、ふわりと浮き上がる
翼を持たない身には不思議な体験

やぁ、こりゃ実に爽快ってやつだ

ご機嫌に上の道まで運んで貰ったら、お礼にラピスラズリの欠片をあげる
罅がいってて使えなくなっちまったもんだけど、ほら、夜空の星みたいに散った金色が綺麗だろ?



 ふらりと歩けば唐突に道は抜け落ち、続きは見上げた遥か先の頭上。どう甘く見積もっても、飛び移るのは無理がある高さ。
「…さて、どーすっかね?」
 言葉ほどは困っていないように、吾條・紗(溢れ仔・f04043)がどこかのんびりと呟く。一先ずアイディアを求めて、足元に落ちていた一冊を拾って頁を捲る。ざっくりと目を通したそれは、鳥に文を託して遣り取りする郵便屋の小説。最後の数枚を残して途絶えた文章と、ペンを片手に暫し思案し、よし、と一言。

――ならこれに倣って、親切な鳥に助けて貰おう。
小説の子じゃあ小さいから、俺一人くらい軽々持ち上げられる大きな鳥を。羽根はそう、瑠璃色とかなら空に映えて綺麗かな。優しい声で鳴いて、好物は石や金属って変わった子だ。

 思いつくまま筆を滑らせ、〆に丸を書いて顔を上げれば、大きな翼に視界を奪われる。例えるなら精悍な鷲に似た、でもどこか和む目つきをした大鳥が、目の前に降り立った。連れて行ってくれる?と手を伸ばすと、心得たように立派な脚が差し出される。落ちないようにしっかり掴み、ピルル、となく声を聞くころには体がふわりと浮き上がっていて。地面は遠く、頬を撫でる空気は柔く、まるで風になったような心地。翼を持たない身には不思議で、なんとも心躍る体験。
「やぁ、こりゃ実に爽快ってやつだ。」
 優秀な運び手の飛行は速く、目的地へはあっという間に辿り着いた。降りるのが惜しいけれど、運んでくれたお礼にと差し出すのは、ラピスラズリの欠片。
「罅がいってて使えなくなっちまったもんだけど、ほら、夜空の星みたいに散った金色が綺麗だろ?」
 よく見える様に翳してやれば、星屑の光が大鳥の円らな瞳に移り込む。きらきら、きらきらと互いの輝きを映し合い、やがて満足そうにぱくりとその欠片を咥えた。大鳥がお礼のつもりか、ピルル、と優しく鳴いて。それを最後に、とぷんと沈む様に消えて行った。少しの名残惜しさを感じて、波紋を残す床に目をやれば、そこには大鳥のものだろう羽根が一枚だけ残っていて。
「…ありがと。また頁を捲れば、どこかで逢えたりするのかな。」
 拾い上げた瑠璃色に、小さな期待を囁いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

音鳴・きみ
あっは、良〜い迷路だねえ!
オレこういうの大好き〜★
さあさどんどん進んじゃおうか

文字だけじゃなくて絵でもいいかな?
縄梯子に大きな脚立、吊り橋とかも掛けちゃう?
キノコのトランポリン、サーカスのブランコ
大砲の弾になって発射されてもい〜けど!レプリカ達もついて来るんだからな〜燃えるなよ〜!
渡って進んで
隙間があるなら猫かな〜ねずみなんかも「おはなし」っぽいよね★
オレもオレのレプリカ達も
描くのや創造するのは得意も得意!
せっかくだから楽しい旅路にしようぜ!

さて、どこにいるかな〜
鬼ごっことか隠れんぼみたいだ
盗みに入った訳でもねえけど
こういう妙〜な「おわり」を盗むってのも、悪くない気分だ
せめてビターに行こうぜ



「あっは、良〜い迷路だねえ!」
 ほの暗く崩れかけた回廊に、ひときわ明るい声がこだまする。壁や本を触りながら、うんうん頷いたのは布の塊…ではなくブギーモンスターの音鳴・きみ(f31389)だ。
「オレこういうの大好き〜★さあさどんどん進んじゃおうか――ね?みんな。」
 口辺りの布を伸ばして作ったニヤリとした笑みを、後ろをくっついてくる大量のレプリカたちに向ける。ぬいぐるみの大行進は、よく見ればそれぞれリボンやネクタイの色が違うものの、ぱっと見では先行するきみと見分けがつかない。もちもち感触のぬいぐるみパレードと取るか、ブギーモンスターの不気味な行進と見るか悩ましい所だ。
「さぁてこれは、文字だけじゃなくて絵でもいいかな?縄梯子に大きな脚立、吊り橋とかも掛けちゃう?」
 物は試しと手近な本にそれらを書き込んでみれば、ポンッと音を立てて忠実に絵が具現化される。
「わぁお便利ぃ~。なら今度は~これ!」
 ちぐはぐに途切れた道に行きあえば毒キノコのトランポリンを生やし、距離のある落とし穴はサーカスのブランコにみんなでぶら下がる。小さな隙間を前にすれば、くぐるなら猫がいいか鼠がいいか、と悩みに悩み。結局各々が好き勝手に変身し、さながら猫と鼠のカートゥーンアニメ状態になったりもした。
「あ、大砲の弾になって発射されるのもい〜よね!」
 これは名案だ!と言わんばかりに思いつけば筆も軽く、あっという間に玩具じみた大砲が現れる。
「レプリカ達もついて来るんだからな〜燃えるなよ〜…それっ!」
 手に握ったスイッチを押すと、炎の代りにキラキラと星を零しながら、きみとレプリカたちが笑い声も高らかに発射される。
「あっは、いいね~楽しいぜ!さて、だいぶ来たけどどこにいるかな〜?」
 テーマパークさながらに道中を楽しみつつも、そこは猟兵故か魔界怪盗故か。目標にはきちんと狙いを定めている。迷宮のあちこちを探し回る様はまるで、鬼ごっことか隠れんぼのよう。盗みに入った訳ではないけれど、こういう奇妙な「おわり」を盗むと考えてみれば、それはそれで悪くない気分だ。
「なら、ここからはせめてビターに行こうぜ。」
 進む先、盗むべきお宝を目指して、きみが布の下でぺろりと唇を舐めた…かもしれない。

大成功 🔵​🔵​🔵​

辰神・明
アドリブ歓迎
妹人格、メイで参加

ぴり、おど……
読んでほしい人に、読んでもらえない、
ふーちゃん、その人は……さみしかったの、かな……?
(抱き締めているぬいぐるみに問い掛けつつ

わっ、道が……っ!?
たいへんです、まいごさんになっちゃう、です
どうしよう、なのです……(あわあわ

手に取った本に
『おべんきょうセット』の鉛筆を使って
少しずつ、文字を書いてみますね

ふーちゃんが、おっきなふーちゃんになって
ぴょーん!って、道を進んでいくの……あれ?
ふーちゃん、ほんとに
おっきなふーちゃんになった、です?(ぽかーん

ふーちゃんの背に乗って
はねる様に、散歩をする様にどんどん進むのー!です!
れっつごーです、ふーちゃん!



「ぴり、おど……読んでほしい人に、読んでもらえない。」
 薄暗い回廊を歩きながら、辰神・明(双星・f00192)がぽつりと言葉を零す。小さな物音ひとつにもびくりと震える様子が見えるのは、今この体を動かしているのが妹の人格たる“メイ”だからだろうか。でも、怯えながらもメイの頭をぐるぐると巡るのは、伝えられた依頼の話。“終わりのない本”と、失った人への未練。考えて、考えて、思い至った答えをぽつりと、連れ立つぬいぐるみ…ふーちゃんに告げる。
「その人は……さみしかったの、かな……?」
 今は推し量るしかない気持ちだけど、大事な人と別れてしまうなんて。思わず自分を当てはめて想像してしまい、涙がこぼれそうになるのを、ふーちゃんをぎゅっと抱きしめてこらえた。そうしてとぼとぼ歩いていると、唐突に足元の廊下が欠けてしまっていて。
「わっ、道が……っ!?たいへんです、まいごさんになっちゃう、です。どうしよう、なのです……!」
 突然のことにあわあわと驚いて周囲を見渡すと、ちょうど目の前を一冊の本が横切った。そういえばここは、書いたことが本当になるんだっだと、不思議な能力を思い出してえい、と本を手に取る。ついで懐からは『おべんきょうセット』の鉛筆を取り出して、空白のページに少しずつ、文字を書きたしていく。
「ここを越えるんだったら、そうだ。“ふーちゃん…が、おっきな…ふーちゃん、に、なって”」

もこっ!

「“ふわふわなしっぽと…いっぱいはしれる、あしで、”」

もこもこっ!

「“ぴょーん!って、道を進んでいく”の……あれ?」

どっどーん!

「ふーちゃん、ほんとにおっきなふーちゃんになった、です?」
 書き終えて気が付けば、隣にいたのはおっきなおっきな黒狐。思わずぽかーんと、見上げるほどおっきくなったふーちゃんに問いかければ、ちょっぴり誇らしげにぴこっと耳を揺らす。その様子がいつもと変わらず可愛いのがおかしくて、初めてメイの顔に笑みが浮かぶ。
「れっつごーです、ふーちゃん!」
 ふーちゃんの背に乗って、はねる様に、散歩をする様に。どんどん進めば初めの憂いもなんのその。大好きな相棒と一緒ならもう怖くない。元気いっぱいに先を目指して、ひとりといっぴきの冒険が進んでいく。

大成功 🔵​🔵​🔵​

榎本・英
周囲の本はどれも変わり映えの無い代物だよ。
これに書き込むと様々な事が具現化するなんて話は
嗚呼。あまりにも現実的ではないね。

しかし簡単には進めないようだ。
周囲の花々に騙されてみるのも良いか。

まずは一冊。
私とナツが進み終えるまでナツが巨大化する。
今は私よりも大きな仔猫の背に乗り先へ進もう。

効力は一時的な物か。
これらを組み合わせて如何にして先に進むか。
却説。
猫の大群が突如現れ、私たちに道を示してくれる。
こんな話は如何かな?

一度読んだ事があるのだよ。
消える猫が言葉を操り様々な事を教えてくれる。
そこには言葉を話す花もいたかな。
お次は言葉を話す花に道案内を任せよう。

狭い道はナツに任せ、続く私も小さくなろう



 ぐるりぐるりと、廊下は捻じれ、切れ切れに。どういうわけだか四方には、乱雑に本が浮かぶ。試しに、と榎本・英(人である・f22898)が手近な一冊を手に取り矯めつ眇めつも、本自体は何の変哲もないし、勿論“人ではない”。今まで読んできたものと変わり映えはしない。しいて言えば尻切れトンボの白紙が少し珍しいが…いや、文豪の身なればそれすらもそうでもない。それでも、これに書き込むと様々な事が具現化するなんて話は、嗚呼。
「あまりにも現実的ではないね。」
 ユーベルコードのような奇跡は知りつつも、普段手にすることの多い只の本が、となるとどうしても訝しんでしまう。しかし道は途絶えて天地も逆さとなれば、簡単には先へ進めない。ならばいっそ、周囲の花々に騙されてみるのも一興だ。ならばまずは、手元の一冊。

“私とナツが進み終えるまでナツが巨大化する。”

 さらりと一文を綴れば、効果はあっという間。普段は片手にも収まる仔猫が、虎もかくやの大変身。今ばかりは英よりも大きなその仔猫の背に乗り、途切れた廊下を先へと進む。ととん、たたん、と調子よく奔ったのは束の間で、ちょうど幾らか歩けそうな道に出たあたりでナツが元の仔猫へと戻っていく。

――効力は一時的な物か。これらを組み合わせて如何にして先に進むか。
却説。さすれば二冊目。

“猫の大群が突如現れ、私たちに道を示してくれる。”
 
 こんな話は如何かな?と、筆を紙から離すや否や、にゃあにゃあにゃあ、と今度は猫の大行進。三毛に黒斑、錆に白。毛模様も様々な案内人を追いかければ、次の一手探しにこの一文を書いたネタを思い返す。それは一度読んだことがある、摩訶不思議な内容の本。消える猫が言葉を操り、様々な事を教えてくれる。時折素っ頓狂な助言もあったが、もしここで出会ったならそれは遠慮願いたいところだ。そういえば、そこには言葉を話す花もいたような。ならばお次は言葉を話す花に道案内を任せよう。狭い道があれば先導はナツに任せ、続く自らも小さくなろう。普段綴る推理小説とは趣は異なるけれど、筆の一つで身を縮めたり、花と話したりするのなら、それは。

――“人でなし”には、ぴったりだろうね。

大成功 🔵​🔵​🔵​

終夜・凛是
硯箱の人(f00502)と

目の前を飛んでた本を捕まえて開いてみれば真っ白だ
物語…
俺がよく知ってる物語は、ひとつ
(それは一方的に語られたものだから、きっと間違っている)
…ここにそれ書けば本当になりそうで、やだな
けど何か書かないと進めないなら『足場ができる』

とんとん、と足場を使って進んだ先で、見覚えのある顔
(名前…せいしろう、だった、かな)
顔知ってるからちょっと頭下げて、そのまま離れるつもりが近づいてくる

…久しぶり
…一緒に? 別に、いいけど…
向けられる視線の居心地が悪い

…こいつちょっとやだ
なんかよくわかんないけど、やだ
(それに…にぃちゃんの気配…いや、きっと、気のせい)
…尻尾、そんな見ないで(隠す


筧・清史郎
凛是(f10319)と

俺は百有余年綴る道具で在り
主の一人は作家で在った
なので、この迷宮には少々興味はあるな

大きな地割れが行く手阻んでいれば
流麗な字で物語を綴ろう
この背に翼を得て天翔ける、と

ふわり地に降り立ち翼消えれば
そこには随分と久し振りな顔が見えて
おお、凛是
その名を紡ぎ、微笑みと共に気さくに誘いの声を
ここで出逢ったのも何かの縁、共に征かないか

凛是は照れ屋さんの様だからな
迷子になっても大変だ、と並び歩む

顔を合わせるのは久しぶりだが
その様に感じないのは何故だろうな
ふふ、気が合うのかもしれない
尻尾ももふもふだな(にこにこ

では参ろうかと筆をはしらせ
具現化させたゆるかわ動物さんの背に乗せて貰おう、凛是



 がらりと崩れた廊下に、思わず足を止める。目の前をつい、と飛び過ぎる本を捕まえて、適当に頁を飛ばしながら開いてみれば。ほんの数枚物語が綴られた以降は、何もかもが真っ白で。
「物語…。」
 ほんの少し、戸惑いがよぎる声音。終夜・凛是(無二・f10319)の燈を灯したような瞳に、紙の真白が色を移す。自らがよく知ってる物語は、たったひとつだけ。それもただ一方的に語られたものだから、きっと何処かが間違っている。恣意や歪みが、知らず混ざっているかもしれない。けれど、物語を具現するこの空間でそれを書いてしまっては、それも含めて本当のことになりそうで。

――それは、やだな。

 物語は書きたくない。けど何かは書かないと、遠く離れた道の先には進めそうにはない。だから単純に、効率的に、手元の本に『足場ができる』と書き込んだ。すると、仕掛けの鍵を回したかのように、壁から幾つもの足場がせり出してくる。一先ず進めるならそれでいいか、と。とん、とん、と足場を使って進んだ先で、ふと感じたのは頬を撫でる風。出口が近いのか、と視線を巡らせれば後方僅か上空に、翼の生えた見覚えのある顔が見えた。
(知ってる。名前…せいしろう、だった、かな)
「おお、その顔は…凛是。」
 緩やかに地面へ着地し、消える翼と入れ替わるように微笑みを浮かべ、筧・清史郎(ヤドリガミの剣豪・f00502)が凛是の名を呼ぶ。
「久しぶりだな、息災か?」
 気さくに尋ねられ、一瞬どうするか悩んだものの、顔見知りとあっては凛是も僅かに会釈を返す。
「…久しぶり。特に、変わりない…。」
「そうか、それはよかった。しかしこの依頼に来ていたとは。俺もこの迷宮には少々興味があってな。」
 そう言いおいて、清史郎が改めて本の舞い飛ぶ空間に目をやる。元は百有余年もの間、綴る道具で在り続けたヤドリガミ。更に主の一人は作家であったのだ。ならば異彩の本が並ぶ空間には、俄然興味もわくというもの。先ほども行く手を阻んだ地割れを越えるべく、本に天翔ける術を記したらたちまち背には翼が生えた。その心地たるや中々に爽快で、そこに偶然見知った顔を見つけたとなれば、先の道もぜひ共にしてみたい。それに久しぶりの再会なのに、不思議と凛是とは隔てた年月を感じない。当人はすぐにも離れるつもりなのか、尻尾を揺らしてどんどんと前へ進んでいくけれど。

――凛是は照れ屋さんの様だからな。迷子になっても大変だ。

 そんなことを思いながらうんうん、と頷いて引き留める言葉を切り出す。
「凛是。ここで出逢ったのも何かの縁、この先は共に征かないか。」
「…一緒に?別に、いいけど…。」
 少し間は空いたものの、断る理由もないし、と凛是が申し出を承諾する。けれど、清史郎から向けられる視線は、どうにも居心地が悪い。

――…こいつちょっとやだ。
なんかよくわかんないけど、やだ。
それに…にぃちゃんの気配…いや、きっと、気のせい。

「…尻尾、そんな見ないで。」
 ふと感じた寂寥を、凝視される尻尾へとすり替えて。あたってほしいような、そうでもないような直感を、尻尾ごとぎゅっと隠す。その様子に清史郎はこれはすまない、と軽やかに謝罪しつつも、尻尾のもふもふ具合が気に入ったのか笑みを浮かべたままに、前へと向き直る。
「では、参ろうか。どうやらこの先は水辺らしい。なら…うむ、これならどうだろうか。」
 見通すように道の先と、ちらりと凛是の何事かを見てから、清史郎がさらさらと筆を走らせる。そうして具現化させたのは、まるっとした輪郭に、もちっと魅惑の感触に、うるっとつぶらな瞳の、まっしろな――
「さて、彼らの背に乗せて貰おう、凛是。」
 にこにこと手招き一つ、颯爽と跨った清史郎の呼び声に。
――心なしか、凛是の瞳が輝いて見えた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

兎乃・零時
心結(f04636)と!
アドリブ歓迎

沢山本があるじゃん…!!
魔術の本!あると良いけど‥未完成でも良いから欲しい!

書き込んだ事の望みが叶うっての良いな…!

ん?羽生えた!すげぇ…!

はしゃぎつつ飛びつつ
本もサンキュー!
なら…
持参したペン先に光の魔力を込めながら、魔力を紙に込めつつ魔法陣も描きつつ言葉も書き紡ぐ!

『途絶えた道は再構成され、輝ける道を創り出す!』

一つだけな、魔術も書いてみた!(《光の道》たる魔術を)

ふっふーん!俺様達の道は決して途絶えねぇのさ!
それに周囲の書き換えなんてめったにできねぇ事だ
重ね掛け行くぜ!

『俺様と心結の進む先のゴールを照らせ!』

此れでゴールも見えるはずさ!

おぅ、競争だ―!


音海・心結
零時(f00283)と
アレンジ歓迎

たくさんの本がありますよっ!
ここに魔術の本もあるのでしょうかっ
みゆも欲しい

散乱している本を手に取り

ここに何か書いたら望みが叶うって
試しに書いてみましょうかっ
持参した羽ペンで書き記す

『みゆと零時に羽が生えます』

わぁわぁ!
これで飛べるようになりましたよー!

くーるりくるり
器用に羽を使い舞い飛び
彼にも本を渡して

零時、まさか魔術を使って……?
本と彼が融合するように眩く光る

……ええ
終わりのない本のように
みゆと零時の道は途絶えることはありませんっ!
終わりが見えるのなら、また始まりからスタートしましょうっ

煌めく光の遠い先を見て
あそこがゴール?
先にどちらがつくか競争なのですっ



「沢山本があるじゃん…!!」
 歪に歪んだ回廊の中、何故だかふわふわと浮いている大量の書物。それを前に兎乃・零時(其は断崖を駆けあがるもの・f00283)が歓喜の声を上げる。
「本当、数えきれないほどありますよっ!」
 そして零時の声に負けないくらい、隣立つ音海・心結(瞳に移るは・f04636)もうれし気に辺りを見回した。つい、と泳ぐ本の背表紙を見れば、童話に推理小説、絵本と種類は様々。中には読めない言語の本もあって。
「あれ!あれとかすっごく魔術の本っぽくないか!?」
「ほんとだ、読めないけどこう、分厚くて古そうで…すごくそれっぽい!」
 はしゃぎついでにソレっ!と手を伸ばして開いてみると、残念ながら古い建築についての書のようで。文章と共に塔やら神殿やらの図解が乗っていた。
「違ったか。でも魔術の本やっぱり欲しいな‥未完成でも良いから!」
 普段から魔導書には目がない零時。それ故しょっちゅうニセモノも掴まされてしまうので、本物で在れば例え未完成でも手に入れたいもの。
「お店の方にあるといいのですがっ。みゆも欲しい…!」
 目を輝かせて頷き、手にした建築書を捲っていけば、やがて真っ白なページにたどり着く。
「確かここに何か書いたら望みが叶うって言ってましたね…試しに書いてみましょうかっ。」
 そういって、心結が懐から持参した羽ペンを取り出して、さらさらと文字を書き記す。

『みゆと零時に羽が生えます』

 すると、ペン先を離した途端にポンッ!と二人の背中に真っ白な翼が生えた。
「ん?羽生えた!すげぇ…!」
「わぁわぁ!これで飛べるようになりましたよー!」
 くるっと回って互いの姿を確かめつつ、翼が生えたとなれば向かうは――上へ。せーの!で地を蹴れば、まるで鳥のような滑らかさでふたりが空を舞う。
「書き込んだ事の望みが叶うっての良いな…!」
 ほんの少しの間の、夢の様に儚い幻。だけど願ったことが叶うなら、それは紛れもない奇跡だ。そうして暫く空中遊泳を楽しんだあと、瓦礫を越えた先で着地すれば、翼は現れた時と同じ唐突さで消えて行った。
「楽しかった…!じゃあ次は零時の番ですよ。」
 はいっ、と先ほど自らが書き込んだ本と共に、心結がわくわくした眼差しを零時へ贈る。――期待されてる?なら、応えるまで。
「よぉし、なら…これでどうだっ!」
 持参したペン先に光の魔力を込めながら、そのまま手にした本にも魔力を流し込み。そして魔法陣と共に書き紡ぐ言葉は。

『途絶えた道は再構成され、輝ける道を創り出す!』

 ボロボロに朽ちて先の無かった廊下が、唐突に光を放って歩むべき道を作り出す。それに合わせる様に零時と手にした本も輝きを帯び、宝石の髪が目映く揺れる。
「零時、まさか魔術を使って……?」
 驚き瞬く心結に、ふふんと胸をそらして見せて。
「うん、一つだけな。書いてみた!…ふっふーん!俺様達の道は決して途絶えねぇのさ!」
 それは《光の道》たる魔術。即興で書いた未完成の、だからこそ伸びしろを持った――まるで零時そのもののような魔法。それに周囲の書き換えなんてことは、めったにできるものじゃない。それなら、一回きりなんてもったいない。
「――重ね掛け行くぜ!」

『俺様と心結の進む先のゴールを照らせ!』

 すると、遠い道の先に光が満ちた。どんな暗闇でもきっと見失わない、眩しいけれどあたたかな、ひかり。その希望にあふれたような輝きに、名前を書いてくれたことが、なんだかうれしくて。心結が笑顔でその想いに応える。
「…ええ、ええ!みゆと零時の道は途絶えることはありませんっ!」
 それは終わりのない本のように。そしてもしピリオドを打つ時があっても、また新しく書き始めればいい。何度だって、思い立てばそこがスタートになるのだから。
「ゴールが見えたとあれば、先にどちらがつくか競争なのですっ!」
「おぅ、競争だ―!」
 笑い声と共に、キラキラと輝く道を、眩しく照らされた先へ向かって。
――煌めきを灯したふたりが、真っ直ぐに駆け抜けていく。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

鳥栖・エンデ
囚われてしまっているのが
物語を書く本屋さんだなんて
早く助けなくっちゃいけないねぇ
今まで色んな本を読み漁ったりしたことあるけど
物語みたいな迷路に入ったのは初めてだなぁ
ふふ、進むも迷うのも楽しみだよ〜

先ずは道なりに進んでいって
行き止まりになってしまったら
周囲の本に手を借りて、だっけ?
ここは黄色いレンガ道にでも助けて貰おうかなぁ
ボクも空中浮遊くらいは出来たりするけれど
迷子を導くのは魔法とかの役目だろうし
飛び石のように跳ねたり、穴を塞いで貰ったり
目的地が翠の街とは限らなくっても
とある冒険の一端を経験できたみたいで楽しめたよ

それじゃあ書かれた物語の
終わりを見届けに行くとするかな



 カツ、カツ、と。捻じれた廊下に硬質な音が響く。静かな空間に、鳥栖・エンデ(悪喰・f27131)の蹄だけが音を刻む。
「囚われてしまっているのが、物語を書く本屋さんだなんて。」
カツ、カツ。
「それは早く助けなくっちゃいけないねぇ。」
 今まで目につく書物は色々と読み漁ってきた。けれどこうして目の前に広がる本が舞い飛び、ぐるりと天地がひっくり返る、まるで物語の中のような迷路に迷い込むのは初めてで。
「ふふ、進むも迷うのも楽しみだよ〜。」
 軽快に、楽し気に、琥珀の瞳を細めて笑う。先ずは道なりに、右へ左へと進んでいくと、あっという間に目の前には壁が立ちはだかる。こういうときは――
「周囲の本に手を借りて、だっけ?」
 初めに聞いた説明を思い出しつつ、目の前に浮かぶ本の内の一冊をひょいと捕まえる。パラパラと数頁めくると、綴られた物語はあっというまに白紙に代わる。ならここは黄色いレンガ道にでも助けて貰おうかなぁ、と言葉の儘に書き綴れば、あっというまに目の前に煉瓦の道が組みあがった。エンデ自身も空中浮遊くらいは出来るけれど、迷子を導くのはきっと魔法のほうがいい。それに、此処だけでしか使えないというのなら、一通り試してみたい。獅子の先導で飛び石を跳ねたり、水の溢れる穴を藁を詰めて塞いでみたり、届かない高さへはブリキの階段を登ってみたり。たとえ目的地が翠の街とは限らなくっても、冒険をなぞるようで楽しい心地になれる。けれどそれも、目的地にたどり着けばお終い。親し気な犬の案内人を見送って、目の前に現れた扉の先は、きっと目的地だろうと勘が告げる。なら、ここから先は、未だピリオドのない物語に幕引きを。
「さぁ、終わりを見届けに行くとするかな。」
――見失わず帰れるように、銀の靴を届けに行こう。

大成功 🔵​🔵​🔵​

トリテレイア・ゼロナイン
この世界は幾度か訪れましたが…
妖怪と骸魂、二人に二度目の別離を齎すのは何度立ち会っても心苦しいですね
崩壊を止める為、騎士として為すべきなのですが

本で周囲を改変するは故郷の宇宙
ワイヤーアンカーを射出し●ロープワークで周囲に引っ掛け
無重力を身体のスラスターの●推力移動で三次元機動で自在に移動

確かに、御伽噺の魔法のようですね

ならば、この先の貉妖怪と骸魂となった飛縁魔、二人の過去を映す鏡を作成出来れば…

折角、御伽噺の騎士のように魔法を使えるのに説得材料の●情報収集とは我ながら夢の無い

ですが、彼らの再びの別離を少しでも良きものに出来るなら
試行する価値はあります
グリモアベースで得た情報を元に文面を整えて…



 歴史の影を匂わせる古風な回廊を、異なる世界の騎士が歩いていく。トリテレイア・ゼロナイン(紛い物の機械騎士・f04141)の規律正しい等間隔の歩行は、機械故か、それとも理想たる“騎士”を模してのことだろうか。周囲を警戒しながら胴部の頭脳に巡らせるのは、過去のカクリヨファンタズムでの経験記録。この世界へは幾度か訪れたことがあるが、そのたびに行き会うのは悲しい離別。この幽世の理が、妖怪と骸魂、深く縁ある二人に二度目の別離を齎す。それはたとえ何度立ち会っても、心苦しい光景だ。しかしそれを放っておけば、今度は世界そのものが崩壊してしまう。とあれば、騎士としては為すべきことを為さねばならない。それが例え、どれ程心苦しくとも。知らず胸部の装甲を手で押さえた時、先の廊下が崩壊していることをセンサーが感知した。ならば進むためには、と足元に落ちた一冊の本を拾う。白紙のページに書き綴るのは、故郷の宇宙。ペン先を離すと同時に機体がふわりと浮き上がり、重力の喪失を実感する。同時に素早くワイヤーアンカーを射出し、ロープワークで周囲に引っ掛け、投げ出されないように固定した。あとは無重力の中を身体のスラスターの推力移動で以て、三次元を自在に移動していく。移動自体は慣れた感覚、しかし筆一つでこうも容易く宇宙空間を再現してしまえるとは。
「確かに、御伽噺の魔法のようですね。」
 この空間だけに許された、世界を書き換える短い奇跡。これならば。

――この先の貉妖怪と骸魂となった飛縁魔、二人の過去を映す鏡を作成出来れば…。

 ふとそこへ思い至ると、溜息に似た駆動音が漏れる。折角御伽噺の騎士のように、魔法を使える場所にいるというのに。思いつくのが説得の為の情報収集とは。

――我ながら、夢の無いことだ。

 けれど、この先に待つ彼らの再びの別離を、少しでも良きものに出来るなら。そう思えば試行する価値は十分にある。グリモアベースで語られた情報を先ほどの本の続けて書き、そっと手放すとそれは大きな姿見に変じた。そして――

――なぁあんた、名前はないん?なら、ぽん太はどうや?
――なんだか間抜けな響き。そういう君は?
――あたい?あたいも名無しなんだぁ。あんたがつけてよ。
――なら、えにし、はどう?君の妖怪名からとったから覚えやすいでしょ。
――安直やなァ!

――ぽん太はほんま意気地なしやね。もちょっと自信持ったらええのに。
――うるさいなぁ。いいんだよ本が読めたら僕はそれで。
――ほないつか、あたいがお話書いたるわ。でも半分だけやで。続きは任すから。
――ええ!?む、無理だよそんなの…。
――ほらまたべそかいて!大丈夫、だって…

“ぽん太なら きっと優しいお話つくれるって 知ってるもの”

 その言葉を最後に、鏡がパキリ、と砕けて消えた。いつかの話、遠くの想い出。その断片をしっかりと見届けて。
「お二人の名前、憶えました。きっとこの身が役に立つよう、尽力すると誓いましょう。」
 懊悩する騎士が、今ばかりは迷いなく、先へと突き進む。

大成功 🔵​🔵​🔵​

旭・まどか
梟示(f24788)と

未完で在る事が完結で在る物も存在するだろうに
例えいずれ消える事象だとしても
其処に本来あるべきで無い事を綴るのはどうも抵抗感が勝るな

だから、筆を執るは必要最小限
君に道案内を任せてあげる

誘いに応じて敷くは星々の導線
星の上を踏める機会なんて、早々無いでしょう?

浮遊する足場に踏み出す一歩
惑う心根を見透かしたかの様に其は突如、姿を消す

咄嗟に伸ばした手を確りと取られ
安堵もそこそこに短く礼を

このまま握っていて貰っても構わない?
なんなら負ぶって貰えたらもっと楽なのだけれど

騎乗はお手の物だよ
痩せっぽちの君の背だって乗りこなしてあげる

軽口には同じ軽さで応じ
嗚呼、迷路の出口はもうすぐ其処に


高塔・梟示
まどか(f18469)君と

作者以外が手を加えるのは
失礼な気もして、少し躊躇する

成程、主役は後からやって来る、か
わたしが息切れしたら、よろしく頼むよ
ひらり手を振り、露払いは任せて、と

迷宮に道を設えようか
奈落には花蔦の吊橋を掛け
水の上にも青い千寿菊の道を作ろう
暗闇は月の欠片を撒いて道標に

ほんの一瞬世界を書き換えるだけで
魔法使いにでもなった心地だ
楽しいものだよ、まどか君
君も如何だい?と笑い掛け

おっと、足場が粗雑だったかな
気を付けて、と手を引いて

…負ぶうと文字が書けないな
歩くのが億劫なら、牡鹿になって駆けようか
乗っても良いが、あまり頸を絞めないでくれるかい?
なんて冗談めかし

さあ、出口まで一駆けだ



 ぐるりと螺子くれ途絶えた廊下に、あちらこちら本の舞う不可思議な空間。ちょうど目の前を過ぎった一冊の本を、旭・まどか(MementoMori・f18469)が戯れに手に取る。ぱらぱらと数頁捲れば、書かれていた物語は途切れて白紙が現れる。この先へと進むには、此処に何事かを書き込まねばならないらしい。だが。
「未完で在る事が完結で在る物も存在するだろうに。」
 どれも世界を修復したら元に戻る、暫しのまぼろし。しかし例えいずれ消える事象だとしても、其処に本来あるべきで無い事を綴るのはどうしても抵抗感が勝る。
「確かに、作者以外が手を加えるのは失礼な気もして、少し躊躇するね。」
 同意を返すのは、後ろを歩く高塔・梟示(カラカの街へ・f24788)。行きつく為なら仕方ないと割り切れるが、躊躇う気持ちは理解できる。だから、筆を執るは必要最小限に。
「一先ずここは、君に道案内を任せてあげる。」
 あげる、という言葉の内に真意を秘めてまどかが笑えば、意を察した梟示が苦みを混ぜてつられ笑う。
「成程、主役は後からやって来る、か。わたしが息切れしたら、よろしく頼むよ。」
 返す声にひらり手を振り、露払いは任せて、と前へ踏み出す。壁にぶつかってはねた本を拾い、書き込むのは目の前の奈落をつなぐ花蔦の吊橋。紙に書いて生まれたとは思えない確りとした造りに、鼻腔を擽る甘やかな花の香りに、それでも念を入れて梟示が先に踏み入る。ぎしりと軋む音を立てつつ、ふたりが続いて難なく渡れば、次に目の前に広がるは本屋に似つかわしくない水辺。さぁ今度は何を、とからかうように問う視線には、鮮やかな青い千寿菊の道をかけて見せる。続く暗闇は月の欠片を撒いて道標にし、歩き終えると梟示がそっと本を差し出した。最初は筆を悩ませたけれど、ほんの一瞬世界を書き換えてしまえば、魔法使いにでもなった心地がした。だから、その心弾む奇跡を味わってほしい、と。
「楽しいものだよ、まどか君。」
 君も如何だい?と笑い掛ければ、仕方ないな、とそうは見えない笑みで本を受け取る。そして誘いに応じてまどかが書くのは、底なし闇に敷く星々の導線。夜空のベールをそっとかけたような、幻想的な先行き。
「星の上を踏める機会なんて、早々無いでしょう?」
 そうやって自慢げに繕った声音で、うつくしい道を示して見せる。けれど、浮遊する足場に一歩踏み出したら、惑っていた心根を見透かしたかの様に煌めきが突如、箒星の様に姿を消す。

――ああ、このまま底まで墜ちてしまったら。それは、

 その先を思うより、声にするより早く、咄嗟に伸ばした手に確りと握られる感触を感じる。
「おっと、足場が粗雑だったかな。」
 気を付けて、と梟示が手に力を籠めれば、まどかが足場に引き上げられる。ありがと、と短く礼を述べるものの、つないだ手はそのままに。
「このまま握っていて貰っても構わない?なんなら負ぶって貰えたらもっと楽なのだけれど。」
 怠惰な我儘に、触れた手の安堵を隠して。歩くのが億劫なら牡鹿になろうかと尋ねられれば、騎乗はお手の物だよ、と唇が弧を描く。
「痩せっぽちの君の背だって、乗りこなしてあげる。」
「…乗っても良いが、あまり頸を絞めないでくれるかい?」
 冗談めかした軽口に、最後の魔法を書き込んで。駆ける牡鹿に跨れば、嗚呼、迷路の出口はもうすぐ其処に。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

朱赫七・カムイ
⛩神櫻

本の迷宮―面白いね
サヨ
足元に気をつけて
可愛い巫女の手をにぎり本の路をゆく
ひとの歩みは物語であると思うんだ
嬉しいことも苦しい事も悲しいことも全てが物語になる
転ばぬように支えて笑む
温もりが、嬉しい

真っ暗だ
サヨが書いた、光の物語
打ち上がる花火が
ひかりが私達の行先を照らしてくれる
ひょいと花火の上がる穹をかけるように
行き止まりの壁を超えていく
花火に撃ち落とされないように注意だ

手身近な所にあった本に桜の森を歩むと書けば
美しいきみを彩る桜が咲き誇る
笑うサヨの笑顔が嬉しい
いとしくて握る手に力を込める
綺麗だね
サヨ

私の物語は、きみと共に紡ぎたい
私の隣に在ってほしい
ずっと迷っていたい
なんて
何処の本にも記せない


誘名・櫻宵
🌸神櫻

物語の迷宮だなんて洒落ているわ
迷いながらも紡がれる私達の物語は如何なるものになるのでしょう
カムイの手を握り本の海に溺れぬように気をつけながら進む
私の神の頼もしきこと

危ないって躓いても優しい神が助けてくれる
わざと躓いて腕にしがみついてしまおう
うふふ
良い香り

真っ暗闇ね
なら私は花火の物語を書くわ!
花火が私達を、巡り合わせてくれたのだから
爆ぜては闇に光灯す花火に歓声をあげる
ええ!一緒に超えていこう
どんな行き止まりも
花火に撃ち落とされるのはあなたくらいよ?

埃っぽい路もカムイが桜の森に変えてくれた
薄紅を踊るよう歩く
心が踊るわ
だってあなたが笑ってる

綺麗ね!カムイ

先に進もう
一緒に手を繋いで
ずっとずっと



「本の迷宮―面白いね。」
 ふわりとあちこちを舞う本を興味深げに、けれど決して隣歩く桜には当たらぬように気を配りながら。朱赫七・カムイ(約彩ノ赫・f30062)が先立って、視線を巡らせる。
「ええ、物語の迷宮だなんて洒落ているわ。」
 柔らかな庇護に唇をほころばせながら、誘名・櫻宵(爛漫咲櫻・f02768)が楽し気な声を返す。溺れる様な本の迷い路。捻じれ狂い、昏く澱み、奈落の穴も口を開けているけれど。今は何も怖くはない。だって危ないと分かって躓いても、きっとかみさまが助けてくれる。だからわざと躓いて、驚くように伸ばされる腕に、ぎゅっとしがみついてしまおう。梔子の香りに頬を寄せ、確りと受け止められれば、足元に気をつけて、と握られた手があたたかい。可愛い巫女、頼もしき私の神。互いに呼び合い、重なるぬくもりを導に、ふたり物語の路を行く。

――ひとの歩みは、物語のようだ。嬉しいことも苦しい事も悲しいことも、全てが物語になる。
――なら、迷いながらも紡がれる私達の物語は、如何なるものになるのでしょう。

 新しく歩み始めた、この物語は――その先行きを問う言の葉を読み取ったように。指先も見えぬほどの闇が、ふたりの目の前に立ち込める。
「なら私は――花火の物語を書くわ!」
 薄紅色の本を選び取り、櫻宵が書くのはひかりの物語。千紫万紅輝く空の花。かつて一度は終わりを迎えた、屠る神と桜の龍のお話。けれどそれを越えて今をつなぎとめたのは、空を彩る華火だった。ならふたりの道に灯す篝火は、この花をおいてほかにない。爆ぜては闇に光灯す花火に、それを並び立って眺められるよろこびに、重ねて歓声をあげる。ひかりが私達の行先を照らしてくれるなら、何も怖くはない。巫女を抱えた雛神が穹を越えて、行き止まりの壁すらかるく超えていく。空咲く花を下にして、撃ち落とされないように注意しないと、とカムイが零せば、そんなのあなたくらいよ、と櫻宵がくすりと笑った。次に降り立つ埃っぽい路も、本を滑る神様の筆先一つで、あっという間に桜の森へと変わる。美しい巫女を彩る桜が、路一杯に咲き誇る。風にまかれた桜吹雪が、足元を薄紅に染めていく。何て素敵!と踊るように歩く姿が、きみに贈ろうと見守り綻ぶ笑顔が、どんなにかいとしくて。どちらからともなく、握る手に力がこもる。ああ、なんてしあわせな。だって、きみが、あなたが、笑っている。
「綺麗だね、サヨ。」
「綺麗ね!カムイ。」
 新たに重なる声に、さぁつぎは何を綴ろうか。そう問いかけてふと、カムイの指が止まる。ふわふわと浮かぶ水中散歩?夜の星をぜんぶ集めたきらめく箱庭?楽しいことも、うつくしいものも、きみにはなんだってあげたい。だけど私が本当に、心の底から願うことは。 

――私の物語は、きみと共に紡ぎたい、私の隣に在ってほしい。
――ずっとここで迷っていたい。
――なんて、何処の本にも記せない。

 その筆先の迷いを見透かしたように、カムイの手を櫻宵が包む。大丈夫、と柔らかに溶け合う薄紅の瞳が、ゆっくりと綴るのは。書庫の回廊を越えて届く、先行きの約束。あわい幻に掛ける、消えない誓い。

――先に進もう、一緒に手を繋いで。
――ずっとずっと、どこまでも。
――ふたりで。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ディフ・クライン
本屋が変質した迷宮か
気をつけないとな、本を踏んだりはしたくない
どうせならゆっくり読む時間があればよかったんだけど
それは、無事に終わったあとに

地に開いた大穴は千夜一夜の魔人に抱えてもらおう
激流の川は雪の女王の吐息で凍らせて
いくつにも分かれた分かれ道は妖精の導きを請おう
魔法には慣れ親しんでいるつもりだけど
こういうのもいいね

オレの物語もこうして書き込めたらいいのに
そうしたら、作り主を悲しませることもなかったかな
なんて
そんなことは出来ないし
ずるいことも分かっているけれど

生きることは儘ならない事の連続だね
今回の店主のことを想い
きっと彼もそうだったのだろうなと
ペンで綴った玻璃の階段を駆け抜けた



「本屋が変質した迷宮か。」
 つい、と目の前を過ぎる幾冊もの本。足元にも散らばったそれを丁寧に避けながら、ディフ・クライン(灰色の雪・f05200)が回廊を歩みゆく。例え幻かもしれなくても、本を踏んだりはしたくない。誰かが綴ったであろうものを、先を託された贈り物を、傷つけるようなことは決して。どうせならこんな風に避けて歩くのではなく、ゆっくり読む時間が欲しかったところだが、今はそれも叶いそうにない。無事に終わったあとにはきっと、と期待を寄せて先へと進む。
 足取りを拒む様に開いた大穴を前に、書き込むのは千夜一夜の物語。浮かび出る金色のランプを擦れば、愉快な魔人が一抱えに飛び越えてくれる。踏み入れば身も砕けそうな激流には、涙も凍らす雪の女王の一篇を。ほんの一息でたちまち凍り付き、けれどディフをも氷像にしかねない冷酷な眼差しからは、早々に逃れるべく向こう岸へ渡る。上へ斜めへ、右へ地下へ。いくつにも分かれた暗い分かれ道は、キラキラと輝く妖精の詩を。悪戯好きな彼女たちも、真摯に請えば正しい道へと導いてくれる。自身も術士として、魔法には慣れ親しんでいるつもりだけど。魔人の呵々大笑を聞き、女王の六花舞う吐息を眺め、妖精たちの残す燐光に触れれば。
「こういうのもいいね。」
 思わず零れた言葉に、消える間際の妖精がちりり、と飛び跳ねて見せた。そしてつい、おもうのだ。もしこうして、書くだけで願いが叶うなら。

――オレの物語もこうして書き込めたらいいのに。
――そうしたら、作り主を悲しませることもなかったかな…なんて。

 そんなことは出来ないし、例えできたとしてもずるいことだ。そう分かってはいるけれど、奇跡を目の前にしてはそんな考えがよぎってしまって。そう、生きることはいつだって儘ならない。躓き、惑い、この回廊の様に先を見通すことも難しい。ああ、それならきっと、渦中にいる店主もそうだったのだろうか、と思い至る。ならせめて、辿り着くことで彼を救えるのなら。

――この手で結末を一つ、変えることはできるのかな。

 魔法のランプも、涙の奇跡も、空を舞う鱗粉もこの手にはないけれど。きっと何かが変わることを祈って、ペンで綴った玻璃の階段を駆け抜けた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

城島・冬青
【橙翠】

わー!なんかすごいところですね
あんなところに太陽が浮かんでいたり
壁に硝子の階段が突っ込んでますよ?
とりあえず進んでいきましょう
何方へいきますか?

音符まで浮かんでる!?
乗ったら沈んだりしません?
足を踏み外したらどうなるのかな
いや、試しませんけど
はぐれるといけないので
手を繋ぎましょうか…えへへ

あれ?!崖ですよ
これじゃ渡れませんね
手近な本を手に取りサラリと続きを書き込む

虹の橋がかかり渡れるようになる
渡っている途中でドロップのお天気雨ならぬお天気飴が降ってくる
とてもおいしい
どうだ!

凄い!
本当に書いた内容の通りになった
はい、アヤネさん
お天気飴ですよ
私のはメロン味です
いやぁ折角なので試そうかなって


アヤネ・ラグランジェ
【橙翠】

悪夢に入り込んだ感じだネ
そう言いつつも行く先が楽しみ
ソヨゴもワクワクしているし
少しは遊んでも良さそうネ

本に囲まれていると落ち着く
両親から受け継いだ書斎の中にいるようで
多少変なことが起きても大丈夫

土星の輪をレコードに書き換えて
針を落とせば溢れ出る音符
じゃあこっちに行こうソヨゴ
音符に飛び乗りながら手を差し出す

流れ星に音符を繋げて先に進もう
おっと早すぎかしら?
危ないから道らしいところに飛び降りよう

二人手を繋いで進めば心配はないネ

虹の橋を渡りながらクスリと笑う
ソヨゴはこんな場所でもお菓子に目がないのネ
じゃあ僕もいただこう
こっちはソーダかな
シュワっと甘い



「わー!なんかすごいところですね!」
 捻じれた回廊の先、唐突に表れた宇宙のような空間に、城島・冬青(六百六十九番目の宿木・f00669)がわくわくとした様子を隠さず声を上げる。見上げれば煌々と太陽が浮かんでいたり、かとおもえば壁に硝子の階段が突っ込んでいたり。
「悪夢に入り込んだ感じだネ。」
 そんな例えを口にしながら、連れ立つアヤネ・ラグランジェ(十二の結び目を解き放つ者・f00432)もどこか楽し気に周囲を見渡した。ここへ来たのは依頼あってのこと、しかしこんな荒唐無稽で奇天烈な――面白そうな場所も中々ない。ならば。
「ま、少しは遊んでも良さそうよネ。」
「ですよね!じゃあとりあえず進んでいきましょう、何方へいきますか?」
 問いかけにはんー、あっち、と適当に進めそうな方を指さして。隕石の欠片を飛び石代わりに、目的地へつながる道を目指す。宇宙空間にもあちこちに本は浮かんでいて、それを目にしたアヤネが僅かに表情を和ませる。背表紙が並ぶ光景は、両親から受け継いだ書斎の中にいる時のようで。多少変なことが起きてもなんだか大丈夫に思えてくる。そうしてとんとん、と調子よく歩くのもつかの間、目の前を塞ぐように現れたのは本物さながらの土星とその輪っか。歩こうにも触れられない輪っかを、アヤネが捕まえた本に一筆書き加えて、あっという間にレコード盤へと変えてしまう。筆を針代わりに滑らせれば、カラフルな音符がポンポンと飛び出てくる。
「音符が浮かんでる!?…乗ったら沈んだりしません?」
 冬青が訝し気につついてみても、割れたり沈んだりする様子はない。
「大丈夫そうネ、じゃあこっちに行こうソヨゴ。」
 そう言って差し出される手に、思わずえへへ、と笑みを浮かべて。
「はぐれるといけないですしね。」
 ふたりがぎゅっと、離れないように手をつなぐ。書き足した流れ星に音符を引っかけて、駆け抜ける様なスピードで奔っても、伝わる温もりがあればちっとも怖くない。向こう路を見つけて飛び降りたのもつかの間、次に立ちはだかったのは切り立った崖だ。
「あれ?!これじゃ渡れませんね。…なら今度は私の番です!」
 待ってましたと冬青が手近な本を手に取って、白紙にサラリと続きを書き込む。すると、目の前にかかるのは虹の橋。足を置いても通り抜けないのは、不思議空間ならではか。幻想的な雰囲気に包まれて足取り軽く渡れば、真ん中あたりでコツン、と何かが頭の上を跳ねた。

パラ、パラ、コツン。

そこら中を跳ねる甘い香りのするそれは、雨のようで“アメ”ではなくて。
「凄い!本当に書いた内容の通りになった。」
「…ねぇソヨゴ、なんて書いたの?」
 不思議に思って聞けば得意げに、先ほど綴った箇所を広げて見せて。

“虹の橋がかかり渡れるようになる
 渡っている途中でドロップのお天気雨ならぬお天気飴が降ってくる
 とてもおいしい”

 あまりにらしい最後の一文に、アヤネが思わずクスリと笑う。
「ソヨゴはこんな場所でもお菓子に目がないのネ。」
「いやぁ折角なので試そうかなって。はい、アヤネさんの分のお天気飴ですよ。」
 私のはメロン味です、と自分の口にも一つ放り込みながら。冬青がアヤネへ捕まえた雨、ならぬ飴を差し出す。受け取ったそれはほんのり透き通って青く、口に入れたらシュワっとはじけた。
「こっちはソーダかな。うん、甘い。」
 口で転がし微笑むアヤネに、書いてよかったでしょう?と冬青が胸を張る。その姿に思わず、飴玉で膨らんだ頬をつついた。

 残す虹の橋はあと少し。だけどふたりの虹の道行きは、きっとこの先も続いていく。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

宵雛花・十雉
【蛇十雉】

書いたことが本当になるのか
なんだか夢があるね

何書こうかなぁ…
って、ちょっとなにこれ!?
もう、先に進まなきゃならないんだよ?
真面目にやって
…けど、とりあえず仕返しだけしとこ
『なつめに狐の耳と尻尾が生える』
悪戯ばっかりしてるなつめにはお似合いじゃない?

花で出来た橋を渡れるなんて、お伽噺の中だけかと思ってたよ
感動だなぁ
呑気に渡ってたら急に手を引っ張られて
気付いた時には龍に変わったなつめの背にしがみついていた

な、何かって
急にそんなこと言われても…!
手近な本を一冊引き寄せて書き込んでいく
『本を食べる真っ白なクジラが現れる』
どう? 見た目も綺麗だし、なかなかいいアイディアでしょ


唄夜舞・なつめ
【蛇十雉】

書いたことが
具現化される…ねェ。

『ときじに
猫耳と猫尻尾が生える』っと。

おー!ほんとに生えた!
すげー!
クク、わりーわりー!
って俺にも!?

…。(みみぴこぴこ。毛むくじゃらになった竜の尾をふりふり)

どー?
へへ、ときじも似合ってるぜ。

そんじゃ
お遊びはこの辺にして
そろそろいくかァ!
っと。早速道がねぇなァ…
そんじゃあ…
『向こう岸に渡るための花で出来た掛橋が現れる』

我ながら天才的発想……って
もう手前の方消えかかってる!?
行くぞ!(手を引いて走る)
ダメだ!間に合わねぇ…!
ときじ、飛ぶ!掴まれ!

『終焉らせてやる』

唱えて大きな白龍へ

っ、こンの飛んでる本邪魔ァ!
ときじ!その本になんか書いて
どうにかしろォ!



「書いたことが具現化される…ねェ。」
「なんだか夢があるね。」
 くるり狂う回廊に、あちこち浮かぶ本の山。この何の変哲もなさそうな本に何事か書けば、それが暫し叶うと説明は受けたものの。唄夜舞・なつめ(夏の忘霊・f28619)は訝し気に首を傾げ、並ぶ宵雛花・十雉(奇々傀々・f23050)はどこか楽し気に目の前の本を手に取った。ぱらぱらとめくればよくある私小説の一編が並び、最後の数頁が白紙で止められていた。さて、ここに何を書くべきか…と思案していると、どうにも頭と背中の下の方がむずかゆい。一体何が、と手を伸ばすとそこにはふにっとしてふわっとしたもふもふと柔らかい――。
「って、ちょっとなにこれ!?」
 突然生えた猫耳と猫尻尾に、十雉が驚嘆の声を上げる。振り返るといつの間にか本とペンを手にしたなつめの、きらきらとした悪戯っぽい視線とぶつかる。覗き込めば案の定、本には大きく『ときじに猫耳と猫尻尾が生える』と書き込まれていた。
「おー!ほんとに生えた!すげー!」
「もう、先に進まなきゃならないんだよ?真面目にやって。」
「クク、わりーわりー!…って俺にも!?」
 反省を促しつつ、十雉もやられてばっかりではない。そそくさと仕返しに『なつめに狐の耳と尻尾が生える』と書き込めば、龍の鱗がたちまち柔らかな毛並みへと変わる。感覚が不思議なのか毛むくじゃらになった竜の尾をふりふり、みみをぴこぴこしつつも、浮かべるのは嬉しそうな笑顔。どー?と尋ねる様には、仕返しにならなかったかなと苦笑しつつ。
「悪戯ばっかりしてるなつめにはお似合いじゃない?」
「そ?へへ、ときじも似合ってるぜ。」
 一通り互いの姿を見治めると、変わったときと同じ唐突さでポンっ、と元の姿へ戻る。少し名残惜し気に鱗に戻った龍尾をなでてから、なつめが切り替える様に手を打った。
「そんじゃお遊びはこの辺にして、そろそろいくかァ!」
「そうだね、いつまでもこうしてちゃ時間が足りないよ。」
 違いねぇ、と頷いてから、さて目の前には到底渡れそうにない崩れた廊下。どうしようかとペンをくるり回して、思いついた一文を書き記す。
 
『向こう岸に渡るための花で出来た掛橋が現れる』

 筆を離した途端に、まず気づいたのは鼻腔を擽る華やかな香り。ついでふわりと舞う暁空に染まった花びら。蔦の手摺は藤の花、踏みしめるは百花繚乱。まさに夢の淵に見るような、花の渡り橋が目の前に掛けられた
「どうよ?我ながら天才的発想……!」
「確かにこれは…花で出来た橋を渡れるなんて、お伽噺の中だけかと思ってたよ。」
 さくさくと落ちず潰れずの花々を踏みしめながら、感動だなぁ、と十雉がのんびり感想をつぶやく。するとなつめが急に行くぞ!と手を取り走りだした。せっかくの花がもったいない、もう少しゆっくり…と言いかけて、かくんと取られた脚に驚き振り返る。そこにはすでに花はなく、奈落のような闇がぽっかり空いていて。
「ダメだ!間に合わねぇ…!ときじ、飛ぶ!掴まれ!――『終焉らせてやる』!」
 あわや飲み込まれるその瞬間、気付いた時には龍に変わったなつめの背にしがみついていた。思ったより早い橋の崩壊に、それでも一先ず落ちずに済んだ、と十雉がほっとしたのもつかの間。今度は体のあちこちに浮かんだ本がぶつかってくる。大きな白龍の姿では、そこら中に散らばる本は避け難い。体に傷こそつけないものの、正直ぶつかってくるのは鬱陶しい。
「っ、こンの飛んでる本邪魔ァ!ときじ!その本になんか書いてどうにかしろォ!」
「な、何かって急にそんなこと言われても…!」
 苦情と共に投げ寄越される本を受け取り、十雉が悩みながらも慌てて浮かんだアイディアを書き込んでいく。

『本を食べる真っ白なクジラが現れる』

 するとなつめの巨躯にも劣らぬ大きなクジラが闇からぬるりと抜け出して、その大口へ本を吸い込んでいく。
「これならどう? 見た目も綺麗だし、なかなかいいアイディアでしょ。」
 自慢げな声を尻目に、きれいさっぱり食い尽くし、満足げに鳴くクジラを眺め。
――悪くねぇな!と、真白い龍が負けじと鳴き声を上げた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

永廻・春和
【花天】
さて、仕事の最中では御座いますが――これは確かに、好奇心を覚えるなという方が難しい程、不思議な感覚になりますね
(真暗闇の中、軽やかな足取りで光る足跡を残して導く猫を創造して)

迷子?いえご心配なく――ですが、そうですね
はぐれそうになれば囀り報せてくれる小鳥さんも、仲間に加えて進みましょうか
万一の際は、鼻の利く犬のお巡りさんを呼んで、探して頂く事に致しましょう
(軽い言葉は軽くあしらいつつも、更に想像広げて楽しげに微笑み)

(茨の道には不思議な種蒔き、優しい花畑に作り替え――時に険しい道も、楽しく彩り乗り越えて)
ふふ――いえ、貴方様も根は可愛らしい想像をされるのだなと、微笑ましくて、つい


呉羽・伊織
【花天】
ああ、こりゃ中々得難い冒険譚になりそーだな
ヒトの心や其が生み出すモノってのは、本当に興味深くて面白い
(不意に途切れた道は大きな渡鳥の群れの背を借り飛び越えて、凍える道ではもふもふとした獣達の温もりに助けられて)

ところで春、迷子になるとマズイから此処は手を繋――デスヨネー(脈ナシな上、二人きりどころか益々大所帯の道行になってきた様相に肩竦めて笑い)

(腹を空かせた猛獣すらも、美味しいおやつをたんまり恵んで仲良くなって――どんな道も、皆で助け合って乗り越えてこう)
…ところで何笑ってんの?
こら、その顔は俺を子供扱いしてるな!
(でも偶にはこーして無邪気に想像広げるのも楽しくて、同じく笑顔で先へ)



「――さて、仕事の最中では御座いますが。」
 ぐるりと捻じれる薄暗い回廊。そして不思議とふわふわ浮かぶ本の数々。丁度目の前を過ぎった一冊を手に取り、永廻・春和(春和景明・f22608)が前置きを口にする。捲った白紙に筆を滑らせ、呼び寄せるのは真暗闇の案内猫。導いてくれるように足取りは軽く、見失わないよう足跡は光る跡を残して。ただの文字に過ぎないそれが、書き終えて筆を離せば、その通りに目の前に現れにゃあと鳴く。これは確かに、好奇心を覚えるなという方が難しい程、不思議な感覚で。隣に控えていた呉羽・伊織(翳・f03578)も、心得たように先導する尻尾を追いながら、その足取りは同じように軽い。
「ああ、こりゃ中々得難い冒険譚になりそーだな。」
 無事に暗闇を潜り抜け、どうだと胸を張る猫の喉元を擽り撫でて。にゃあ、と鳴き真似一つにへらりと笑う。ああ、本当に。

――ヒトの心や其が生み出すモノってのは、興味深くて面白い。

 人の身に見えて、生まれを異にするヤドリガミだからだろうか。こうして心の生み出す不思議に触れれば、自然と惹かれてしまう。春和から書きますか?と本を譲られれば、伊織が喜々として手を伸ばす。書き記すのは大きな渡り鳥の群れと、もふもふとした獣たち。不意に途切れた道は背を借りて飛び越えて、凍える道ではぴったりとくっついてその温もりに助けられる。
「ところで春、迷子になるとマズイから此処は手を繋――」
「迷子?いえご心配なく。」
「デスヨネー。」
「――ですが、そうですね。」
 それならば、と春和が再び筆を走らせる。はぐれそうになれば囀り報せてくれる小鳥さんに、万一の時の為に鼻の利く犬のお巡りさん。軽い言葉は同じように軽くあしらいつつも、更に想像を広げて楽しげに微笑む。これでもう問題ありませんと頷けば、いよいよ大所帯になりつつある動物たちを前に、伊織がちょっぴり残念そうにソウダネー、とかえした。
 その先も、茨の道がみえれば春和が不思議な種を蒔き、ふわりと優しい香りの花畑に作り替えて。通せんぼをする腹を空かせた猛獣も、美味しいおやつをたんまり書いて恵んでやれば、あっという間に仲良くなって。時に険しい道も、楽しく彩り、皆で助け合って乗り越えていく。
「…ところで何笑ってんの?」
「ふふ――いえ、貴方様も根は可愛らしい想像をされるのだなと、微笑ましくて、つい。」
 伊織から先ほど書いたおやつの残りを手渡され、春和が思わずと言ったように笑う。それはこのひよこっぽい形のドーナツのせいか、亀の甲羅っぽいメロンパンに描かれたどこか和む顔のせいか。
「これはなんかイメージがわいて…ってこら、その顔は俺を子供扱いしてるな!」
 もー!とそれこそ子供っぽく怒って見せれば、笑い声がますます大きくなって。ああでも、偶にはこうして無邪気に想像広げるのも楽しいものだ。願わくば、もう少しだけ長く――

――そうしてふたりが笑顔を浮かべ、先へ先へと進んでいく。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 ボス戦 『虚ろな人形』

POW   :    おれは誰?
【真紅の瞳】に覚醒して【過去に飲み込んだ妖怪】に変身し、戦闘能力が爆発的に増大する。ただし、戦闘終了まで毎秒寿命を削る。
SPD   :    わたしは誰?
自身の身体部位ひとつを【過去に飲み込んだ妖怪】の頭部に変形し、噛みつき攻撃で対象の生命力を奪い、自身を治療する。
WIZ   :    ぼくは誰?
対象の攻撃を軽減する【過去に飲み込んだ妖怪】に変身しつつ、【攻撃力を上昇させた武器】で攻撃する。ただし、解除するまで毎秒寿命を削る。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は桜雨・カイです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 捻じれた回廊を抜けて、辿り着いたのは薄暗い部屋。周囲は建物数階分にも及ぶ高さの書架がぐるりと覆い囲んで、図書館じみた様相をしていた。だがそんな静謐であるべき場所に、その広く寒々しい空間の真ん中から、繰り返し声が響く。

――わたしは、誰?

その声に、屈んでいた影がくるりと身を翻し――飛縁魔の女が、着物の裾を払う。

――ぼくは、誰?

そう問うて、ゆらりと影が顔を覆えば――貉の妖怪が、気弱そうな泣き顔を見せる。

――おれは、誰?

落ちた涙をぬぐって、影が顔を上げれば――真紅の瞳が、虚ろにこちらを見つめる。


 呑み込んで混ざり合い、最早どれが自分だったかもわからない。いや、そもそも、吾に“自己”なんてあったのかどうか。強く握ればパキリと音を立てそうな、硬質で脆い人形の体。そう、確か己は、誰かの御霊の依り代となるべく――いやそうやない、彼を追いかけてカクリヨに渡ろおもて、でもいかれへんで、それで――違う、違う、僕は、本屋の店主で、何かを書こうと――

ああ、ああ、ぼくは、わたしは、おれは――いったい、誰?

壊れたレコォドの様に繰り返し、問うては悩み、迷って歪んで。けれど、その懐に大事そうに抱え込まれた一冊の本が、僅かな糸を手繰り寄せる。未だ人形の内で、抗う魂があるのだと。だから、どうか。

――ぼくを、わたしを、おれを、たすけて。

ギシ、と軋んだ音を立てて。人形がゆらりと歩き出す。
=================================

プレイングの受付は【1/11(月) 8:31以降】より開始いたします。

=================================
オズ・ケストナー
きみ”たち”は――
たくさんの顔
くるしそうでかなしそうで

本を見て頷く
うん、だいじょうぶ
たすけるよ

きみは本を書き上げたかったんだよね
どうして書こうと思ったの?

読む人みんなに、すばらしいって言ってほしかった?
これ以上の名作はないって思ってほしかった?
そんな話が書けたらもちろんすてきだけど
きっと、ちがうよね

わたしもね、ここにくるまでにものがたりを書いたよっ
おかしが出たりひよこにへんしんしたり
とってもたのしかった

こんな景色を見たいとか
物語に出てくる人たちに、こんな時間をすごしてほしいとか
こんな言葉をかけてほしいとか

そういう、いいながたくさんあつまって
きみがたのしく書けたなら
ぜったい、すてきなお話になるよ



 ギシリ、ギシリ。動くたびに歪な音を立てて、人形が苦悩する。“わたし”が絹を裂く声で喚き、“おれ”が罅割れる体を抱きしめ、そして――“ぼく”が、さめざめと泣く。その姿に、オズ・ケストナー(Ein Kinderspiel・f01136)は悲し気な顔を浮かべる。ああ、きみ”たち”は――

――たくさんの顔をしているけど。
そのどれもが、くるしそうでかなしそうで。

 どうして、と思っても。それはもう“かれら”にすらわからない。想い出は彼方に消えて、自らを失って、それでも溶け残った残滓が未だに人形を軋ませる。だけど時折、ほんの少し色を残した瞳でじっと見つめるのは、一冊の本。身をよじっても、それだけは傷つけないように懐にぎゅう、と抱きよせるその姿に。

――うん、だいじょうぶ。
“きみ”はまだ、そこにいる。なら。

「たすけるよ。」
 決意を口にして、迷いなくオズが手を伸ばした。怯えさせないよう、ゆっくりと一歩ずつ人形へと歩み寄ると、貉の姿を取った人形がふるりと身を震わせる。
「すこしだけ、聞いたよ。きみのお話。だいじにしてたその本のこと。」
 貉からの返事は、ない。ただ目線を合わせず、またぎゅうと本を抱きしめる。
「きみは、その本を書き上げたかったんだよね。どうして書こうと思ったの?」
 貉からの返事は、ない。ただ頭上の耳が、聞えてる証左にぴくりと動く。
「読む人みんなに、すばらしいって言ってほしかった?これ以上の名作はないって思ってほしかった?」
 貉からの返事は、ない。ただ少し揺れた首が、“ちがう”と答えた気がした。そんな話が書けるのなら、それはそれでとても素敵なことだろう。だけど貉が求めていたことは、そして贈り主が望んだことは。
「うん。きっと、ちがうよね。」
 僅かに返された想いを拾い上げ、オズが頷く。そして自らも懐から一冊の本を取り出した。それは、回廊で拾った本。そしてオズの冒険譚が詰まった、続きの本。
「わたしもね、ここにくるまでにものがたりを書いたよっ。」
 ほら、と自ら綴った箇所を開いて、オズがわくわくとした様子を見せる。指でなぞる頁には、おかしの名前が並んでいたり、ひよこに変身したくだりが書いてあったり。
「とってもたのしかった。」
 そういって、廊下での出来事を思い返しながら、オズがとびきりの笑顔を見せる。

――こんな景色を見たいとか
物語に出てくる人たちに、こんな時間をすごしてほしいとか
こんな言葉をかけてほしいとか
そういう、いいながたくさんあつまって
きみがたのしく書けたなら

「ぜったい、すてきなお話になるよ。」
 きっと、ではなく。たぶん、でもなく。ぜったい、と言い切ってオズが微笑みそっと貉の手を握る。今まで俯いていた顔が、その瞬間僅かに上がった。見つめ返す瞳は赤く、未だ魂が混ざり合ってほどけないことを強く印象付ける。けれど、その瞳から流れた大粒の涙は“人形”のものでは無く。貉自身のものだと思えるほどに――とても、温かかった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

吾條・紗
※アドリブ歓迎

誰かと繋がるって強烈な薬みたいだよな
得ればこの上ない幸福
失えば身体に穴が空いたみたいになる

自分のものとしては知らない感情だが、そういう人を見たことがある

俺はそういうのは怖いけど…

確りと腕に抱えられた本が、子供の時分に毎日抱いて眠ったボロボロの鼠の縫い包みを思い出させた
腕の中の感触は、断崖に掛けた手に似ている
離せば落ちてしまう
そういう感覚

俺のは棄てられて転がり込んだだけだったけど…
それは「あんたに」と託されたもんだろ
贈り主の心が触れてる

佩憐で【楽器演奏】
音色は柔らかく伸びやかに
大切な記憶の端っこだけでも掴んでくれたら

どんなだって良いんだ
誰が綴るかに意味がある
その願い、叶えてやりなよ



 本に囲まれた、昏く静謐な空間に虚ろな人形がぽつりと立つ。その嘆く声は絹のように細い女の。身を捩る姿は、人形の。そして涙し、途方に暮れた顔は、気弱な貉のもの。その苦しみが滲む姿に、吾條・紗(溢れ仔・f04043)が眉を僅かに下げた。もしこうなると分かっていたら、貉は伸ばされた白い腕を跳ねのけただろうか。いや、なんとなく、例え知っていても、もう二度と会えないと思っていた相手の姿を前には抗えなかったような気がする。だって。

――誰かと繋がる心地は、まるで強烈な薬のようだから。

 もし得ることができたのなら幸福だ。手にしてしまえば、それはもう忘れることなどできない甘美な心地。けれどそれだけに失えば、身体に穴が空いたように感じるだろう。自分のものとしては知らない感情だが、そういう人を目にしたことはある。今の紗には怖いと感じてしまうその境地に、貉の姿はどうにも重なって見える。それに未だ確りと本を抱えて俯く貉の――失うまいと必死に、しがみつく様に抱きしめる姿は、紗にひとつの過去を思い起こさせる。昔、子供の時分に毎日抱いて眠った、ボロボロの鼠の縫い包み。今なら直してやれるのに、と僅かな後悔を浮かべたのはいつだったか。今はもう手元にないけれど、未だありありと覚えている。腕の中の感触は、断崖に掛けた手に似ていたことを。離せば落ちてしまうような、追い詰められた感覚を。でも、比べるには決定的に違うことがある。自らの手に縫い包みが来たのは、棄てられて転がり込んだ、ただの偶然だった。けれど貉が手にしている本は、違う。
「それは「あんたに」と、託されたもんだろ。」
 他の誰でもない、貉にと手渡されたはずの本。贈り主の心が触れてる、一縷の希望。きっとまだ、骸魂の内の貉とこの本は、細い糸でつながっている。今ならまだ、引き戻すことができるはず。その願いを手繰る様に、紗が佩憐に指を掛ける。柔らかく伸びやかに、怯えや苦しみをほんの少しでも遠ざけられるように。大切な記憶の端っこだけでも掴んでくれるようにと祈って、息を吹き込む。その音色に、貉が僅かに顔を上げる。

――どんなだって良いんだ。
拙くても、間違えてても。
それよりも、“誰が綴るか”に意味がある。
“あなたに”と、願った心がそこにはある。だから。

「…その願い、叶えてやりなよ。」

 佩憐から唇を離し、視線を合わせ、静かに後押す言葉を口にする。それに、こたえる様に。

――そうだね、と。震える貉の声がちいさく響いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

鳥栖・エンデ
物語に続きを描けるのは
始めた作者だけだろうから
騎士槍を振るいつつ貉妖怪の店主へと声掛けよう

ボクは何時だって読み手側でねぇ
物語を知るのが好きなんだよ
産み出す苦しみも、書き始めるに至った感情も
綴られたものから推し量るしかなく
誰かの為の物語に対しては、余所者でしかないが

人生とは物語、なんてよく言ったもの
終わり方は始めたものにしか描けず、
納得は……後から着いてくることも
あるんじゃないかなぁ、なんて
書きたい想いがあるなら書いたら良い
出しきったと思うなら其処で止めても良い
読者も勝手に想像してしまう生きものだからねぇ

それでもキミが大切に想い、
綴って捧げる相手と物語があったこと
其れだけは確かに受け止めよう



 女の声で嘆きを撒き、貉の顔で涙を零し、虚ろな人形がふらりと歩き回る。自らの苦しみばかりにとらわれているのか、鳥栖・エンデ(悪喰・f27131)を前にしても、その姿は目に入らないかのようだ。けれど、煩悶しながらもその懐には取りこぼすまいと、一冊の本が抱え込まれている。未だ結末のない本を大事そうにしながらも、その持ち主たる貉は人形の内に囚われたままだ。
「なら、まずは引っ張り出さなきゃだよねぇ。」
 本を無事に取り返すだけでも、貉を唯引きはがすだけでも駄目だ。物語に続きを書けるのは、やると決めて始めた作者だけ。なら今必要なのは、長く筆の入れられなかった白紙に、新しい文章が綴られるような“終わり”。その幕引きを担うべく、かつての面影を残す騎士槍を振るいながら、エンデが貉の姿を取る人形へと声をかける。
「ボクは何時だって読み手側でねぇ、物語を知るのが好きなんだよ。」
 蹄の音も軽く間合いを詰め、抱きしめた本には当たらないよう、くるりと槍を回す。人形が瞳を真紅に輝かせ、その素早い斬撃を躱そうとするものの、戦慣れしていない身では避け損ねて肩を掠めてしまう。ダメージは少ないが、“当たった”のならこっちのもの。追撃は槍から身を転じた真白い竜が、逃げる足取りを絡めるようにブレスを放つ。その衝撃に耐えられず、人形が大きく転んだ。けれどそんな危険の迫る状況でも、庇うのは己ではなく、本の方。ぶつかって体に罅を作りながらも、先ほどよりぎゅう、と本を抱く姿は、貉の魂が表立ってきたからだろうか。その、いっそけなげな姿に思うのは。

――人生とは物語、なんてよく言ったもの。

 産み出す苦しみも、書き始めるに至った感情も、全ては著者が持っているのだ。受け取るものは、いつだって綴られたものから推し量るしかない。それ故誰かの為に綴った物語なら、読み手は一層余所者にしかなれないだろう。だからこそ、終わり方は、始めたものにしか描くことはできない。託され、綴ると決めた以上、それは貉だけが成しえることだ。
「納得は……後から着いてくることも、あるんじゃないかなぁ。」
 なんて、と付け加えながら、転んだ貉姿の人形に歩み寄り、エンデが懐の本を指さす。――書きたい想いがあるなら書いたら良い、出しきったと思うなら其処で止めても良い。拙さも、躊躇いも、書き手が抱いたものなら綴る価値がある。それに。
「案外読者も勝手だよ。ピリオドの先をつい想像してしまう生きものだからねぇ。」
 だから出来ないと嘆くよりも、上手くいかないと諦めるよりも。自分が思うように書いて、あとは委ねてしまえばいい。苦しんで延々と抱え込むよりも、上手く行かなかったことを誰かと笑い合えばいい。例え、想った人に届けることが叶わなくても。
「キミが大切に想い、綴って捧げたい物語が、相手があったこと。其れだけは確かに、受け止めるから。」
 ボクがおぼえているよ、と言い添えられたエンデの言葉に、瞳の深紅の色を失わせながら。――貉がちいさく、頷いて返した。

大成功 🔵​🔵​🔵​

終夜・凛是
硯箱の人(f00502)と

自分がだれか、わかんなくなってる、のか
でも
たすけて、というなら
たすけることができるなら、そうしたい

主、って持ち主だった人か
物を書く人の傍に居たから、わかることもあるんだろうな

俺にできるのは、拳振るう事
骸魂だけ撃ち抜けばいい?
できるかな…
(きっとにぃちゃんなら、上手くやるんだろな。俺もそうできるように、なりたい)

攻撃はかわすつもりで動く
助けられたなら…礼は言う
でも、次は必要ないからって、言う
上手くやるから

綴りたい物語?
それは……
……、ない
(あっても、まだ顔くらいしかわかんない相手に言うのはやだ)

ねぇ、それよりさ
俺、あんたの事なんて呼べばいい?
…せーさまはなんか、やだ


筧・清史郎
凛是(f10319)と

店主に声掛け、骸魂のみ狙う

俺の主も作家だが、書いている時とても楽しそうだったな
それに、完成させないと作品ではない、と

この先は貴方に綴って欲しいと、そう託されたのだろう?
物語の続きを綴り、それを『作品』にしないか
読んで貰う為にもな
だが焦らず気負わず
納得できる物語の終わりを、楽しむように探せば良いかと

ああ、討つべきは骸魂だな
凛是が攻撃しやすいよう立ち回ろう
確り敵の予備動作等見切り、残像駆使し翻弄
凛是への攻撃も叩き落とす
礼言われ続く言葉には、敵斬りつつ笑み返す

凛是には綴りたい己の話などあるか?
…そうか
俺は今が楽しければそれでいいな

清史郎でもせーさまでも、好きに呼んでくれ(微笑み



 くるりと着物の裾を翻し、飛縁魔が嘆き叫ぶ。ぐるんと頭を振れば、人形の虚ろな深紅の瞳が揺れる。そして最後にゆらりと立ち上がれば、貉がほとほと涙を零す。時折何事かを口にするが、その言葉は定まらず、判然としないものばかり。
「自分がだれか、わかんなくなってる、のか。」
 終夜・凛是(無二・f10319)が、形を変えて苦しむ人形の姿に、思わず尻尾を落とす。その様子を見て、筧・清史郎(ヤドリガミの剣豪・f00502)が気を変えようと思ったのか、自らの過去を他愛無い様子で話し始めた。
「俺の主は作家だが、書いている時とても楽しそうだったな。」
「…主、って持ち主だった人か。」
「ああ。それに、完成させないと作品ではない、とも言っていた。」
 僅かに懐かしむ色を乗せた清史郎の声に、凛是がどこか納得したように頷く。きっと物を書く人の傍に居たからこそ、わかることもあるのだろう。
「ところで、凛是には綴りたい己の話などあるか?」
「綴りたい物語?それは……、……、ない。」
 唐突な問いに迷うそぶりを見せたものの、ない、と言い切り凛是が視線を逸らす。掴み切れなかったのもあるが、たとえ明確にあったとしても、まだ顔くらいしかわからない相手に言うのは憚られた。その胸中を知ってか知らずか、深くは問わずそうか、とだけ返して。
「俺は今が楽しければそれでいいな。」
 涼やかに言いきり、笑って見せた。そうして会話を重ねるうちに、尻尾が元の様子を取り戻したのを見て、清史郎が半身を引いて向き直る。
「さて、貉よ。その本は、貴方に綴って欲しいと、そう託されたものなのだろう?」
 続く言葉は、貉の姿を取る人形に向けて放たれた。びくりと身を震わせ、けれど言葉に反応するように頭を振る姿は、徐々に貉の魂が表へと出てきたからだろうか。
「なら諦めず、物語の続きを綴り、それを『作品』にしないか。」
 今はまだ未完の本。名前もなく、終わりもなく、『作品』に届かない一冊。読んでもらうには、まだ悩み迷い、時間がかかるのかもしれない。それでも。
「焦らず、気負わず、納得できる物語の終わりを、楽しむように探せば良いかと。」
 どうだろうか、と清史郎が真摯に問いかければ、木霊するような声が響いた。

わからない、そうしたい、そのはずだった、だけど、ぬけだせない
こわい かえりたい さみしい だから…“    ”

 虚ろな人形の声音は高く低く、罅割れ小さく、混ざったようで聞き取りにくい。だけどひとつだけ確かに、その言葉は凛是の耳に届いた。

――“たすけて”と、いうなら。
たすけることができるなら、そうしたい。
なら、俺にできることは。
あの躰から魂を引きはがすために、拳振るう事。

「骸魂だけ撃ち抜けば、いい?できるかな…。」
「ああ、討つべきは骸魂だからな。それに凛是ならば出来るだろう。」
 どこからその自信が、と問いたくなる言葉に一瞬凛是が疑わし気に目を細めたが、清史郎にもその源はよくわからない。けれどどこか、大丈夫だ、という気持ちを肌になじんだ気配が告げる。そしてそれを体現するように、気負いなく刀を構えて並び立つ。臨戦態勢に、貉姿の人形もずるりと身を引き、慣れないながらに迎え撃とうと構える。緊張の走る空気の中、初めに踏み込んだのは、凛是。構えた拳を引いて、颯の様に迫ること数舜。驚きでたらめに振るった人形の手は当たることなく、赤が懐に入り込む。まずは一撃を抉り込み、もう一撃と構えた所で、体を強く抱きしめられた。それは虚ろな人形が、他者を取り込むときの行動。縁はなく妖怪でもない凛是を取り込むことはできないが、羽交い絞めに近い拘束で動きは鈍った。――近すぎた、離れないと。だが強化された腕は思いのほか引き剥がしにくく、更に力が加わろうとした瞬間、キィンと硬質な音と共に放るように解放された。見上げる視線の先に立つのは、青。振るう刀で腕を叩き落とし、追い縋る手が首に届くか否やのところで、清史郎が桜の花びらと散った。――残像。動きを予測し、見切り、翻弄するその動きは美しくすらあった。助けられたことにはありがとう、と凛是が素直に礼を返すも、続く声は強く。
「でも、次は必要ないから。」

――きっとにぃちゃんなら、上手くやるんだろな。
俺もそうできるように、なりたい。だから次は、上手くやる。

 強く意志を込めて敵を見据える様に、後押しするべく清史郎の刀が笑みと共に添えられた。

―――……、

「ねぇ、そういえばさ。俺、あんたの事なんて呼べばいい?」
「ん?そうだな、清史郎でもせーさまでも、好きに呼んでくれ。」
「…せーさまはなんか、やだ。」
「なら親しみを込めて、せーちゃん、ではどうかな。」
「………もっとやだ。」

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ディフ・クライン
貴方は本屋の主の貉だ、そうだろう
未完の本とペンを贈られて、喜んでもらうために続きを模索し続けた一途な貴方だ
気付いているんだろう、その彼女が彼女じゃなかったことを
例え読んで欲しい人がもう居なくなってしまっても
貴方は彼女に何を願われた
その願いまで、今まで執筆を諦めなかった願いまで、なかったことにしていいのかい
貴方にだけかけられた願いだったろうに
オレは…オレにかけられた願いを果たしたい
「あの人」が居ない今も、もう意味がないと言われても
貴方はどうだい

――王よ
喚ぶは漆黒の騎士王
彼を助けよう、力を貸して欲しい
あの骸魂を斬ろう

騎馬に共に跨りこの身を護りつつ
オレの魔力を王へと献上し

王の剣に斬れぬものなどないさ



 絹を裂くような嘆きは、女の姿で。投げ寄越される深紅は、人形の瞳で。そして気弱気に涙を見せるのは、貉の顔で。入れ替わるたびに軋んだ音を立て、おれは、ぼくは、わたしは、と違う声で問う。その歪に交じり合った姿を見て、なお。
「貴方は本屋の主の貉だ、そうだろう。」
 向かい合うように前へ立ち、ディフ・クライン(灰色の雪・f05200)は凛とした声でそう断じた。貉姿の人形の肩がぴくりと震え、視線は床を向いたまま。けれどその動作こそが、無意識の貉の心の表れのように感じられる。未完の本とペンを贈られて、喜んでもらうために続きを模索し続けた一途な店主。ならばきっと、あの時も。
「気付いていたんだろう、その彼女が彼女じゃなかったことを。」
 ぐらぐらと、貉の視線が揺れる。懐かしい姿に、焦がれた再会に、例え嘘だと気づいても抗えなかった気持ちは理解できる。だけど、ずっとそれに甘えているわけにはいかないことも、きっと貉自身も分かっていると信じたい。例え――読んで欲しい人が、幻と消えてしまったとしても。
「貴方は彼女に何を願われた?それは、貴方にだけかけられた願いだったろうに。」
 続きを、と先を託された。いつか、と未来を想われた。そしてどちらも失った。けれどどれ程寂しくても、苦しくても、今まで執筆を諦めなかったその願いまで、なかったことにしていいはずがない。そう切なる想いに、ディフは自らも重ねて告げる。
「オレは…オレにかけられた願いを果たしたい。」

――「あの人」は、今はもう居ない。
でも、例え意味がないと言われても。
願ってくれた想いは未だこの胸の内に在る。
だから、人の傍で生きていくと決めた。
だから、今ここにこうして、立っている。

「貴方は、どうだい?」
 貉の魂への、問いかけ。返される声は未だ交じり合い、言葉も口調も定まらない。だけどたった一言。懐の本を見つめながら――書きたい、と言った。それだけははっきり聞き取れて。
「――王よ。」
 その言葉に応える様に、厳かに喚ぶのは漆黒の騎士王。髑髏兜に王冠を掲げ、緋色の瞳はディフを静かに見据える。
「彼を助けよう、力を貸して欲しい。あの骸魂を斬ろう。」
 言葉はない。だが伸ばされる腕を手繰って共に騎馬へ跨れば、意が伝わったことが分かる。魔力を王へと献上し、駆ける先は虚ろなる人形のもと。不安げな顔を浮かべて構えるその姿に、向ける視線はやさしくて。

――安心すると良いよ。
王の剣に斬れぬものなどないさ。
だから、必ず。

「君をそこから、救ってみせるよ。」

大成功 🔵​🔵​🔵​

高塔・梟示
まどか(f18469)君と

幸福のうちに滅びを招く者は目にしたが
これは哀れなものだな
誰も望んだ結末じゃない、なら須らく壊すまで

店主を引戻す鍵でもある
本を傷めることはしたくない
…まどか君、いい手はあるかい?
なら後ろは頼んだよ

攻撃はドロップテーブル
絞縄で吊上げ、マヒすれば御の字だ
燃やすよりマシと苦笑して、流星を追い
鎧砕く怪力を載せた標識で一撃を加えよう

敵攻撃は残像でいなし
背後を狙うようなら吹き飛ばし戻す

懐の本…いや、まだ本ですらない
それ、望む結末を書くのは駄目なのかい?
世に出れば何時か辿り着くかも知れない
読んで欲しい人へのメッセージとして

これは独り言だが
君には君の物語があると思うよ、彼の本と同じでね


旭・まどか
梟示(f24788)と

良いよ。壊してあげる
それが君の望みなんでしょう?

繕った容れ物を沢山寄せ集めても
虚ろな偽物は本物には成れないよ
――僕が、そうであるように

なるたけ書物には被害が及ばない様
僕も一点集中で狙うとするかな

機会を見極めるべくは瞬きの刹那
締縄で吊し上げるなんて随分と手荒だこと
君が生んだ隙に重ねる様流星の一撃を

相殺せんとするならば星々を重ねるだけの事

未完の本ばかりを集め始めたきっかけは、なぁに?
結末の無い物語が不憫だから?
読者の数だけある世界を知りたかったから?

彼女が君へ託した想い
君が終わっていない物語ばかりを集め始めた理由
其を思い出して

零される言葉に返事はしない
だってただの独り言だもの



 徐々に身は壊され、魂の輪郭は綻んでいく。貉の淡い覚醒は積み重っていくものの、執着が、妄執が染みついているからなのか、未だ完全な開放には至らない。瞬き一つでその身は嘆きを叫ぶ飛縁魔に、気弱げに涙を零す貉に、そして深紅の瞳が揺らぐ虚ろな人形にと切り替わる。――永い生の中で、幸福のうちに滅びを招く者は目にした。だが。
「これは哀れなものだな。」
 そう言って、高塔・梟示(カラカの街へ・f24788)が苦く表情を曇らせる。食い喰われ、己と他者の境を失ってなお彷徨い続けるのは、一体どんな心地だろうか。想像に余る有り様に言葉をつなげないでいると、今度は旭・まどか(MementoMori・f18469)が静かに言い放つ。
「繕った容れ物を沢山寄せ集めても、虚ろな偽物は本物には成れないよ。」
 僕が、そうであるように。と、続ける言葉は飲み込んだ。黄昏に、舞う蝶に、“きみ”の姿を何度も辿った。その度に“ぼく”は“きみ”ではないと、思い知る。いらなかったのは、――そこまで手繰りそうになって、頭を振った。今は人形にをなんとかしなくては。引き戻された思考が、本を傷めることはしたくないね、と零す梟示の言葉を拾う。未だ大事そうに抱えられた本は、貉の魂を引戻す鍵であるのは恐らく間違いないだろう。
「…まどか君、いい手はあるかい?」
「じゃあなるたけ書物には被害が及ばない様、一点集中で狙うとするかな。」
「成程、なら後ろは頼んだよ。」
 短くすり合わせ立ち位置を変えれば、戦意を察したのか人形がゆらりと身構える。――おれを、わたしを、ぼくを、たすけて、――こわして、おわらせて。そんな悲鳴を、歌いながら。
「良いよ。“壊して”あげる。それが君の望みなんでしょう?」
「ああ、これは誰も望んだ結末じゃない。なら須らく壊すまで。」
 目指す先を同じと定め、標識を、視線を、虚ろなる人形へと向けた。ギシギシと軋んだ音を立てる人形に、梟示が先手を下す。
「――『影踏むばかり粛々と』。」
 厳かに呟かれる言の葉を編んだように、虚空から絞縄が垂れる。伸びて届く先は人形の頸。逃げようと身を捩ったころにはもう遅く、さながら首吊りの如く足が浮く。随分と手荒だこと、と呟きながら生まれた隙は逃さずに。自由に動けぬ身へ重ねる様に、まどかが流星の一撃を放つ。肩へ足へと視線は移しても、決して本だけは見つめないように、空から降る星の軌道を見定める。配慮はあっても容赦のない攻撃に、燃やすよりマシかと苦笑して。縄から逃れ走り寄ろうとする人形を、梟示がその痩身からは想像も付かない怪力で標識を振るい、薙ぐ。渾身の一撃を、強化を施したとはいえただの片腕で防ごうとして、人形が体勢を大きく崩す。それでももう片方の腕で懐の本を、いや、まだ本とは呼べない一冊を庇いながら。
「それ、望む結末を書くのは駄目なのかい?」
 その様子を見て、牽制しながら梟示が問う。
「世に出れば何時か辿り着くかも知れない。読んで欲しかった人へのメッセージとして。」
 唯一人と願った人に、読んでもらえることはないかもしれない。けれどそう願った思いは、読んだ誰しもに届くかもしれない。そしたら、あるいは。語られる希望を前に、貉の顔からわずかに人形の、瞳の深紅が薄らいでいく。 
「未完の本ばかりを集め始めたきっかけは、なぁに?」
「結末の無い物語が不憫だから?」
「読者の数だけある世界を知りたかったから?」
 ひとつ星の落ちるたび、まどかもまたひとつひとつと問いを重ねる。違うでしょう?と口にしないまでも、星に身を砕かれながらも、抱きしめた本を離さない姿がそれを肯定する。飛縁魔が貉へ託した想い、終わっていない物語ばかりを集め始めた理由。それがまだ、胸の内にあることを。
「其を、思い出して。」
 降り続く流星に、標識の追撃に、ばきり、と片足が罅割れる。歩くもままならず地に臥す人形に、重ねられた幾つもの言葉が届いたのか。

――うん、いつか贈ってあげたいと。そう思って、いたよ。

 気弱そうで、でもどこか優しい声が、確かに響いた。

「これは独り言だが…“君”には君の物語があると思うよ、彼の本と同じでね。」
 伏せる人形を見据えながら、梟示がぽつりとつぶやいた。零される言葉に返事はない。だってただの独り言でしょう、と目を伏せて――まどかがそっぽを向いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

音鳴・きみ
その人形を見た時
妙にこころがざわついた

こころ、と言っていいのかどうか
オレはこの布で理性を得た、どこの何とも知れぬもの
悪戯と絵が大好きな怪盗─なんて
布を剥いだら多分、何処にもいない

ねえねえ聞いてよ人形さん
オレさあ
昔、悪魔だったんだ
多分ね
もう覚えてないけどさ
もう戻れやしないしさ

今のオレは何でもない「おとなりさん」だ
あんたとちょっと似てるかも
こんな風に、なりたいかい?
他の奴らも
ねえ店主さん
まだ起きてるだろ

あんたの終わり、こんな処でいいのかい?
昔の何かの残り滓なんかになりたくて
店に座ってたわけじゃねえだろ

そんな終わりは塗り潰してやるよ
あんたの好きな色でさ
絵筆にたっぷりの絵具纏って
叩き付けて

─おいでよ。



 徐々に壊れていく人形の体。貉の魂は目覚めつつあるものの、たすけて、と乞いながらもまたその姿を変えていく。くるりと回っては、飛縁魔の。膝を付いては、人形の。そして涙を零しては、貉の。そうやって混ざり合う姿を見ながら音鳴・きみ(close to you・f31389)が、布ごと胸辺りをぎゅう、と掴んだ。うつろう人形を見た時――妙にこころがざわついた気がして。いいや、こころ、と言っていいのかどうかはわからない。確かに背筋を這うような、胸を締め付ける様な、そんな心地は感じた。だけど、じゃあ、自分にとっての“こころ”は何、と聞かれたら、きっと答えられない自信がある。

――だってオレは、この布で理性を得た、どこの何とも知れぬもの。
悪戯と絵が大好きな怪盗!今宵もレプリカとお宝頂きに繰り出そう!
なんて明るい“オレ”は。布を剥いだら多分、何処にもいない。
ゴメーン、今のはナシ!ぜーんぶないない!そう、オレすらも!

「ねえねえ聞いてよ人形さん。オレさあ昔、悪魔だったんだ。」
 多分ね、と軽く付け加えてひらりと布が躍る。自分のことなのに断定できないのは、もう覚えてやしないから。それにもう、戻れもしないけど。
「今のオレは何でもない「おとなりさん」だ。あんたとちょっと似てるかも。」
 人形の罅だらけの体と、きみのひらひらとした布っきれ。それを剥いでしまえばどっちもきっと、何にも見えないし、聞えないし、喋れないし、残らない。たった一枚の薄皮で、かろうじでここにつなぎ留められてるだけ。“きみ”が隣にいてくれなければ、何もかもがわからない。
「こんな風に、なりたいかい?――ねえ店主さん、まだ起きてるだろ。」
 骸魂は救えなくても、きっとまだ、内にいる貉はそうならなくて済む。なら、その方がいい。そうに決まってる。
「あんたの終わり、こんな処でいいのかい?」
 一歩近づく。着物を翻して、人形が貉の姿を取る。
「昔の何かの残り滓なんかになりたくて、店に座ってたわけじゃねえだろ。」
 二歩近づく。貉が顔を上げて、何かを言いたげに口を開いて、何も言わずに閉じる。
「そんな終わりは塗り潰してやるよ。あんたの好きな色でさ。あ、でもオレ店主さんの好きな色、知らないや。」
 だからさ、と手にした絵筆にたっぷりと絵具を纏う。赤も、青も、黄もぜんぶ。まぜこぜにして、地面に叩き付ける。
「おいでよ。それでオレにさ、好きな色を教えてくれない?そしたら、」

――その泣き顔を、盗んでやるよ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

辰神・明
アドリブ歓迎
妹人格、メイで参加

はじめ、まして、なのです
メイは……メイって言うの、ですよ
メイには、お二人のおなまえ、わからないの……ごめん、なさい

でも、でも、わかることもあります……です
読んでほしい人が、いなくなっちゃって
さみしくて、かなしくて……
それは、とっても、とっても苦しいです、よね

それでも……
そのおはなしはきっと、おにいさんにしか書けない
ううん、おにいさんだからこそ
書けるおはなし、そんな風に思うから
助けてってお願い、メイがかなえるの、です……!

UC:桃花遊覧
【祈り】を込めた【全力魔法】
店主さんも、そのおともだちさんも
優しい気持ちになれますように



 度重なる戦闘で、人形は徐々に力を弱めていた。それでも崩れ落ちつつある体で、未だ苦悶の声を上げて床を這いずる姿は、辰神・明(双星・f00192)――妹の人格たるメイには、恐ろしく映る。けれどそれ以上に、助けたいという気持ちが、小さな体を突き動かした。
「はじめ、まして、なのです。メイは……メイって言うの、ですよ。」
 ぎゅう、とふーちゃんを抱きしめながら、必死に虚ろな人形へと話しかける。
「メイには、お二人のおなまえ、わからないの……ごめん、なさい。」
 出来ることなら呼んであげたかった。仕方ないとはいえ、知らないことが歯がゆくて、服の裾を握る。だけどちゃんとわかることもある。――読んでほしい人が、いなくなってしまう。再会を誓った人と、逢えず仕舞いになる。どれ程悲しく、寂しい心地だろうか。それは――
「とっても、とっても苦しいです、よね。」
 項垂れた様に見える人形を見て想うのは、世界を見せてくれた大切な兄のこと。ピンチになればいつも“入れ替わって”助けてくれる、姉の『アキラ』のこと。もし二度と会えなくなったら、と想像するだけで胸のつぶれる思いがする。それでも、こうして眠り続けることを選べば、魂はやがて消えてしまう。そうすれば残るのは、未完結の一冊の本だけ。そのおはなしはきっと、貉にしか書けない。いいや、続きを託された貉だからこそ書けるおはなしがあると、そんな風に思うから。
「戻ってきましょう?メイもいつか、おはなし読んでみたいの、です……!」
 精一杯のおもいを込めて、少女が叫ぶ。人形は、未だ俯いたまま。けれど――

『ぽん太…僕はぽん太、だよ。彼女は、えにし。僕が彼女に、彼女が僕に、名を贈り合ったんだ。』

 歪だった声が、僅かに明瞭さを取り戻し――はっきりと、名前を告げた。

「素敵なお名前なの、です……!ぽん太さん、えにしさん。」
 応えてくれた。そのことに笑みを浮かべて、メイが何度も名前を呼ぶ。そして抱きしめていた人形を、やわらかな薄紅の花びらに変えていった。いつもそばにいてくれるお友達、ふーちゃんなら。彼らをきっと、一緒に助けてくれると思うから。
「助けてってお願い、メイがかなえるの、です……!」
 そしてどうかふたりが、優しい気持ちになれますように。そう祈るように手を組んで、メイがそっと――花舞う風を、解き放った。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

音海・心結
零時(f00283)と
アドリブ歓迎

助けて欲しいと願うなら助けましょう
みゆたちはその願いを無視する程
意地悪じゃありませんよ

貴方は誰か
急いで答えを出す必要なんてありません
店主だって思うなら否定はしません

……物語を書いてたのですよね、きっと
終わりがうまく書けなかったんじゃないですか?

みゆは終わりが嫌いです
その物語が終わりに近づけば近づく程
悲しい寂しい気持ちになります
心にぽっかり穴が開いたような気分

でも、生きている限り終わりはないって気付きました
感動を与えてくれた物語は、本は
喩え終わってしまっても
ここで――みゆの心の中で生きてるって

だから
そんなに後ろを向いちゃダメですよ
みゆたちが照らしてあげるのです


兎乃・零時
心結(f04636)と!
アドリブ歓迎

此処は…そうか、お前が…
助けて欲しいなら助けてやるさ!俺様たちなりの手で!

…お前が誰か、だと?
…そうだな、その本の動きで理解した
お前は店主だ、骸魂に飲み込まれ…それでも抗う、貉のお前だ

納得のいく物語を書ける自信はないか?
いや、お前が諦めなければ必ずやれる
俺様が保証する

何故って?決まってる
不可能なんてこの世にないからだ!

あのキネマを見てた頃から、俺様は変わらず夢を貫き、此処まで来たからだ!

UC起動

   パイオニア・グリッター
空間術式〖輝光戦場〗
  Pave the way・Glitter

味方も敵もすべて、光で包む

だからお前もやれる!さぁ!お前はどうしたい!



 魔法の旅路の果てにたどり着いたのは、膨大な書架に囲まれた場所だった。ともすれば図書館に似た雰囲気だが、妙に遠近感の狂うスケールと、広い空間の真ん中で崩れ落ちる虚ろな人形が異様さを醸している。
「此処は…そうか、お前が…。」
 兎乃・零時(其は断崖を駆けあがるもの・f00283)が辺りを見回し、人形の姿を見つけると切なそうに顔を曇らせた。何とか形は保っているがあちこちが罅割れ、崩れかけた姿は酷く痛ましい。音海・心結(瞳に移るは・f04636)もまた、それでも魂を離すまいと足掻いて姿をくるくると替える様に、悲し気な視線を送る。だが、その折々に聞こえる声は。

『――おれは、わたしは、……ううん違う、ぼくは、ぼく。ほんがすきで、あつめて、店主を、してたはず、で…?』

 今まで重ねられた言葉が、魂を救おうと放たれた攻撃が、徐々に貉の意識を覚醒させていた。
「貴方は誰か。店主だって思うなら、みゆは否定しません。」
「ああ、お前は店主だ。骸魂に飲み込まれ…それでも抗う、貉のお前だ。」
 優しく肯定するみゆの言葉に言い添えて、零時が内なる魂に呼びかける。その言葉を確かめる様に懐の本を眺め、また大事そうに抱え、人形は貉のまま姿を変えずにいる。
「……物語を書いてたのですよね。でも、終わりがうまく書けなかったんじゃないですか?」
 その様子にみうがそっと歩み寄り、目線を合わせようとしながら語り掛ける。
「みゆは、“終わり”が嫌いでした。」
 そこに近づけば近づく程、いつも悲しくて寂しい気持ちになった。導いてくれた妖精も、にゃあと鳴くかわいい猫さんも、大好きな主人公も、ピリオドを打てばもう出会えない。いつも心にぽっかり穴が開いたような心地がした。
「でも、生きている限り終わりはないって気付きました。」
 そういって微笑む顔に悲しみは滲まず、ただただ楽しげな色に染まっていた。感動を与えてくれた物語は、本は、喩え終わってしまっても、心の中で生きてると気づいた。レンガの道を駆け抜けて、不思議な花を愛でて、伝説のお宝を探して。そうして旅した文字の記憶が、思い出せばいつだって輝いていると分かったから。
「だから、怖がらずに書いてみましょう?店主さんならきっといつか、誰かに届くお話が書けると思うのですよ。」
『…わからない、できないよ。だってずっと書けなかったのに、書けるわけないよ。』
「…納得のいく物語を書ける自信がないか?」
 気弱げな貉の声に、今度は零時が歩み寄り、出来ないと言った言葉を否定するように首を振る。
「いや、お前が諦めなければ必ずやれる。それは俺様が保証する。」
『どうして、きみが?…なんにもしらないのに。なぜ?』
 それにもまた、首を振ってみせる。いいや、知っている――何度も無理だと言われた。無駄だと呆れられた。過去の自分からすら、無謀となじられた。だけどそれを全部背負って引きずって“今”、零時は此処にいる。あのキネマを見てた頃から変わらず夢を貫き、淡いアクアマリンを手に、今もなにひとつあきらめずにいる。なら、告げる答えはひとつ。
「何故って?決まってる…不可能なんてこの世にないからだ!」
 その迷いない言葉に、貉の目からもゆっくりと迷いが消えて行く。
『ほんとうに?そう、いってくれるのなら、かえりたい――たすかり、たい。』
「ああ、助けて欲しいなら助けてやるさ!俺様たちなりの手で!」
「そうです!みゆたちはその願いを無視する程、意地悪じゃありませんよ。」
 高らかに言い切って、互いに視線を合わせれば、この悪夢を晴らすべくとっておきの“魔法”を呼び出す。

空間術式〖輝光戦場〗――パイオニア・グリッター。

 様々な属性を指定できる魔術に、みゆと零時、並び立つ2人が示すのは、光。まばゆく目が眩むほどの輝きは、それ故に見失うことなどなくて。
「そんなに後ろを向いちゃダメですよ。みゆたちが照らしてあげるのです。」
「ああ、だからお前もやれる!さぁ!お前はどうしたい!」
 真っ直ぐに向けられた言葉に、俯くばかりだった貉が顔を上げて。

――かえりたい、書きたい!と、ひときわ大きな声で叫んだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

トリテレイア・ゼロナイン
(戦闘は自衛程度に留め、説得を主体に。
UCで身振りや音声を調整し聞き取り、受け入れやすくする程度で十分
…此度の邂逅の答えは、既にお二人の中にあるのですから)

不躾ながら、お二人の記憶を拝見いたしました

優しきぽん太様、自信に溢れたえにし様
お互いに名を贈る程、深き間柄だったのですよ

ぽん太様、何故えにし様が半分だけの本を託したか、まだ覚えておいででしょうか

貴方の背を押す為に
物語を綴ることを通じ、勇気づける為の贈り物だったのですよ

さあ、名前と同じように、次は貴方が物語を贈る番です

読めずとも
その内容が満足に足るものなのはご存知ですね、えにし様?

結末を綴り、お二人の名を表紙に刻んで…約束を果たしましょう



 書架の広間を虚ろい歩く、壊れかけの人形。その姿を感知してトリテレイア・ゼロナイン(紛い物の機械騎士・f04141)がゆっくりと駆動音を抑えていく。武器を向け戦えば、恐らく勝つことは可能だろう。だがトリテレイアにそのつもりはなく、胸部の頭脳から下されるコマンドは自衛/説得、ただそれだけだ。発動させたユーベルコードも向ける先は人形では無く己自身。身振りや音声を調整し、聞き取り、受け入れやすくするために使う。言葉は要るとしても、武力を用いる必要はない。此度の邂逅の答えはもう、既に二人の中にあるのだと確信しているから。そして音声の最適化、恐怖軽減の効果が展開されたことを確認してから、貉の姿をした人形へと言葉を向ける。
「初めまして、ぽん太様、えにし様。」
『…なまえ、そう、それは、ぼくの、あたいの…。』
「ええ、それがお互いに贈りあった名ということも、それほど深き間柄だったことも、知っています。」
『…!どうして、名前を、由来を、知ってるの?/知ってはるん?』
「不躾ながら、お二人の記憶を拝見いたしました。ぽん太様の優しき心ばえ、えにし様の自信溢れるお姿、その一端を。」
 涼やかな女の声と、気弱げだが柔らかな声。ふたつが混ざって返されたのは、まだ僅かに意識の有る骸魂と、貉の魂の何方もが反応したからだろうか。これならば問いかけも説得も十分に有効だろうと、トリテレイアが言葉をつづける。
「ぽん太様、何故えにし様が半分だけの本を託したか、まだ覚えておいででしょうか。」
『それ、は…ぼくが、気が弱いからって、からかって。』
「いいえ、それは違います。それは、貴方の背を押す為に贈られたのです。」
 それは物語を綴ることを通じ、勇気づける為の贈り物だった。あなたはなんだってできると伝える為の、遠回りながら想う心に溢れた、世界に唯一つの本。
「えにし様は、ぽん太様なら絶対に出来ると信じて、それを手渡されたのですよ。」
『ああ…えにしは、いつも口が達者で、でも、ずっと…ぼく、を。』
 信じてくれてたね、そう小さく零して、貉がかすかな笑みを浮かべる。 
「さあ、名前と同じように、次は貴方が物語を贈る番です。」
 書き上げたとて、贈り主に手渡すことは叶わないだろう。だが例え会えなくても、この物語が大丈夫だと“知っている”。
「読めずとも、その内容が満足に足るものなのはご存知ですね。」
 ――えにし様?と声を掛ければくるりと身を翻し、人形が初めてトリテレイアの前で飛縁魔の姿を取った。初めに浮かべたのは、苦笑。だけどゆっくりと苦みは拭い去られ、最後には――どこか自慢げに、微笑んで見せる。それだけで、彼女の自我の残り香、その胸中をはかるには十分だった。
「結末を綴り、お二人の名を表紙に刻んで…約束を果たしましょう。」
 未だ確りと抱きしめたままの本を見つめて、白銀の騎士が手を伸ばせば。
――貉が涙ながらに深くふかく頷いて、そっと手を伸ばした。

大成功 🔵​🔵​🔵​

朱赫七・カムイ
⛩神櫻

楽しかった幻想の道行も終いを迎えて
名残惜しさもあるけれど、隣に在るきみの存在こそがすべて

ギシリ軋み虚ろう人形からサヨを庇うように立つ

人形―ヒトガタ
誰かの代わりで在ろうとして、己を呑まれてしまったようにも見えるね
未だ抵抗する御魂がある
サヨ
厄に約され絡まった其の御魂を解放しよう

過去を呑み込み過ぎたのだ
祓うようになぎ払い、早業で駆け切り込み切断する
魂にまとわりつく邪なるもの
約す厄を裁ち切るように

―再約ノ縁結

私の巫女を傷つけさせはしない
隣並びたち刀振るう喜びに自然笑みが浮かぶ


そなた自身の物語を記すことを思い出して
解く鍵はもう手にしているのだから

かえっておいで
そなた自身の紡ぐ其の物語を私も読みたい


誘名・櫻宵
🌸神櫻

旅の終わりは少しだけ切なくて、次なる旅立ちに胸が踊るよう
終わりのない輪舞をあなたと
なんて、うふふ
繋いだ手の暖かさがあなたの存在を教えてくれる

庇われるだけでこんなに嬉しくなるなんて
自分で自分がおかしいわ

人形―カムイは人形遣いだものね
わかる事もあるのかしら
沢山が重なり、ひとつが雁字搦めになっていると感じるわ
もちろん!
己自身の物語を取り戻させるのね
思い出して
あなたが誰なのか

私は巡る物語を駆け抜けて
私は私だとはっきりと名乗れるようになったのよ
カムイの太刀筋に這わせ重ねる抉るようになぎ払い
邪を祓うよう破魔を込めた斬撃で浄化するわ
『浄華』
桜化の神罰巡らせて

あなたの物語をみせて
美しい桜で彩ってあげる



 楽しかった幻想の道行も、やがて終わりを迎える時が来た。回廊を抜けてその先、書架立ち並ぶ広々とした空間に、描いた筆の奇跡は届かない。旅の終わりは少しだけ名残惜しくて切ないけれど、お互いが隣にいれば憂いも短く、あっという間に次の旅路への楽しみに変わる。終わりのない輪舞を共に行こうと、手を取り合い前へ進む。――その満ちたる先を羨むようにか、阻むようにか。広く寒々しい空間にギシリと軋み、虚ろう人形が立ちはだかった。朱赫七・カムイ(約彩ノ赫・f30062)が姿を見るや庇うように先立ち、その背を見る誘名・櫻宵(爛漫咲櫻・f02768)が敵前とあってもその顔に花咲く如き笑みを浮かべた。

――庇われるだけでこんなに嬉しくなるなんて。
自分で自分がおかしいわ。

 巡り巡った呪いと離別、そして桜と再会の縁。ほんの僅かに何かが狂えば、恐らく二度とは逢えなかった。そんな愛しき人たちが繋いでくれた軌跡を、今隣り合える奇跡を想えば、浮かべる微笑も無理からぬこと。そして今は叶うなら、この喜びを齎す側になりたい。護龍として、言祝ぎ浄める巫女として。その櫻宵の胸の内の願いを、まるで既に聞き届けたかのように、カムイも穏やかな笑みを返し、眼前の人形へと向き直った。
 人形―ヒトガタ。人を、誰かを真似て作られたもの。
 人形遣いとしてもあるカムイならばわかることもあるかと、探るように見つめる姿を櫻宵が見守る。
「誰かの代わりで在ろうとして、己を呑まれてしまったように見えるね。」
「ええ。沢山が重なり、ひとつが雁字搦めになっているとも感じるわ。」
 誰かになりたくて、己にすら戻れずに、移ろい彷徨う憐れな人形。だが、未だ抵抗する御魂がカムイの瞳には見えた。それはきっと、囚われた貉の店主のもの。ならば――サヨ、と。優しく名を紡いで。
「厄に約され絡まった其の御魂を、解放しよう。」
「もちろん!己自身の物語を取り戻させるのね。」
 呼ばれた喜びに、救おうとする優しき心に、再度顔をほころばせ櫻宵が並び立つ。神とその巫女が、払いの儀式を執り行おうと背合わせる。
「そなたは過去を呑み込み過ぎたのだ――今、それを祓おう。」
 連綿と続く呪いを祓うように、ゆらりと向かい来る人形へとカムイが早駆ける。風の如き速さで構える刀にてなぎ払い、魂にまとわりつく邪なるもの、約す厄を裁ち切るように振り下ろす。貉の姿を取った人形が強化を施した腕でそれを受け止めるが、競り合い押し留めても、今度は横腹に斬撃が見舞われる。櫻宵の放つ破魔の桜嵐、存在を喰らい断つ一撃。その苦痛に崩れ落ちながら、追い縋る様に手を伸ばしたところで、それが届くことはない。――巫女を傷つけさせはしない。その意志を以てカムイが一太刀振るい、人形の腕を砕く。

――ああ、こうして隣に並びたてることの、なんと幸せなことか。
共に刀を振るい立ち向かうことの、なんと喜ばしいことか。

 戦いの最中であっても止まぬ想いが、自然と笑みを浮かばせる。
「思い出して、あなたが誰なのか。」
 その想いに重ねる様に、カムイの太刀筋に這わせ、櫻宵が抉るように屠桜でなぎ払う。邪を祓う破魔を込めた斬撃は、浄化の力をもって人形の歪を解いていく。

――私は巡る物語を駆け抜けて。
私は私だと、はっきりと名乗れるようになったのよ。

 だからきっと、廻りの最中に在る貉も、戻れれば新たに歩むことができる。そう信じて、澱みを祓い清めていく。そして――

『…ぼくはまだ、書くことができるかな。』

 罅割れた顔から、どこか気弱げな声が覗く。小さくかすれながらも、他の誰も混ざらない、貉そのものの声が。その問いに、力強くふたりが頷く。
「そなた自身の物語を記すことを思い出して。解く鍵はもう、手にしているのだから。」
 ――かえっておいで、と再約の神が結う。未だ定まらずとも、今この時だけは再生と約束の権能を持つと信じて。かつて自らが贈られた言葉を、憐れな人形へ捧ぐ。
「そなた自身の紡ぐ其の物語を私も読みたい。」
「私もよ。そしてきっと、美しい桜で彩ってあげる。」
 共に、と約された先を、貉姿の人形が眩し気に目を細め――そっと微笑んだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

アヤネ・ラグランジェ
【橙翠】
なんだかめんどくさい状況だネ
壊して解してやるのが手っ取り早そうだけど

放って置けないとソヨゴが言うから
武器を出そうとした手を止める
ソヨゴの頭を撫でて微笑みかけ
心配しないで
僕はソヨゴが望むように動くとも
まずは言葉で引っ張り出せるか試そうか

自分は誰と問われれば
ついと本を指差し
その本に書いてあるネ
読めばきっと思い出す
書きかけの物語を君は作り上げなきゃいけないのさ
そんなところで絡まってていいのかい?

ま言ってダメなら
切り離してやるしかない
腕で弧を描き
袖口からずるりとScytheofOuroborosを引き摺り出す
本に傷をつけないように注意しつつ攻撃開始
用があるのは店主だけ
余計な奴らは消え失せろ!


城島・冬青
【橙翠】

あれが取り込まれた店主さん…かな?
もしもーし
大丈夫ですかー?店主さーん
返事は期待してない…けど
勿論放ってはおけませんよ
そうでしょ?アヤネさん(うるうる)

店主さん!
忘却してる場合じゃないですよ!
あなたはここの本屋の店主さんで
大事なお話を書こうとしていたんじゃないんですか?
その抱えた本は大切なものなのでしょう?
大丈夫、助けます!
あと…もしよければ店主さんが書いたお話を読んでみたいです
抗う彼の魂を鼓舞するように伝える
先ずはそのお人形を引っ剥がさなきゃですね
さぁアヤネさん行きましょう

抜刀しダッシュで接敵
本は決して傷つけないよう
人形へと攻撃する
あなた達はお呼びじゃないです!
店主さんを返して下さい



 虹の橋を降りて暫く後、口の中の飴もちょうど消えたころに、ふたりが辿り着いたのは膨大な書の並ぶ図書館じみた部屋だった。そしてその広い空間の真ん中に鎮座するのが。
「あれが取り込まれた店主さん…かな?」
「そうみたいだけど…なんだかめんどくさい状況だネ。」
 城島・冬青(六百六十九番目の宿木・f00669)が遠巻きに人形を眺めていると、アヤネ・ラグランジェ(十二の結び目を解き放つ者・f00432)が同意しながらふぅ、と息を吐いた。虚ろな人形はギシギシと耳障りな音を立てて、時折その身を女の姿や貉の姿に変えながらも、すぐに動きそうな様子はない。あの中に、店主が囚われているというのなら。
「勿論放ってはおけませんよ。そうでしょ?アヤネさん。」
 うるうると瞳を潤ませながら振り返られ、アヤネが既に武器にかけていた手をそっと下した。正直、壊して解してやるのが手っ取り早いとは思う。けれど冬青が望むのであれば話は別だ。わざとらしい涙目に微笑みながら、頭を撫でて頷いて見せる。
「心配しないで。僕はソヨゴが望むように動くとも。なら、まずは言葉で引っ張り出せるか試そうか。」
「さっすがアヤネさん!」
 そうこなくっちゃ、と冬青が嬉しそうに笑みを浮かべた後、人形へにじりにじりと歩み寄りながら慎重に声をかける。
「もしもーし、大丈夫ですかー?店主さーん…?」
『…きみ、は…?』
「まぁ返事は期待してな……しゃべった!?」
「うーん、そこそこダメージ入ってるみたいだから、少し魂が前に出てきてるのかもネ。」
 よく見れば人形の体のあちこちにひび割れが見て取れる。返事があったのも恐らく、既に踏み込んだ猟兵たちによる戦闘や説得の成果なのだろう。だがまだ声は弱く、ふとした瞬間に意識が遠のくのか、ぼんやりした様子もうかがえた。
『ぼく、は…ええと…、どうしていたんだっけ…。』
「店主さん!忘却してる場合じゃないですよ!」
 失いかけた自己を取り戻させようと、冬青が慌てて声を張って呼びかける。かろうじで貉の姿はとったままだが、今にも他の妖怪に代わりそうな雰囲気だ。
「あなたはここの本屋の店主さんで、大事なお話を書こうとしていたんじゃないんですか?」
『本…そう、だったっけ…。』
「その抱えた本ですよね?大切なものなのでしょう?」
 そういって冬青が指さすのは、貉姿の人形の懐。そんな姿になっても離すまいと抱えているのだから、それがきっと託された本なのだろう。
「その本に書いてあるネ、読めばきっと思い出す。」
『ああ…そうだ…これは、彼女がくれた、もの…で。』
 アヤネの後押しにも僅かに頷いて、パラパラとめくれば次第に貉の瞳から虚ろさが消えて行く。その様子に冬青が、やりました!と言わんばかりのドヤ顔をアヤネに向けて、ハイハイと再び撫でて戻された。
「あと無事に戻れた時…もしよければ、店主さんが書いたお話を読んでみたいです。」
「そうだネ、ソヨゴの為にも素敵な物語を書いてもらわなくっちゃ。そんなところで人形に絡まってていいのかい?」
『そうだね…かえって、書かいてみたい。でもまだぼくのちからだけじゃ、人形からでれそうになくて。』
「なるほど。ま、言葉だけじゃダメなら切り離してやるしかない。」
「そういうことなら先ずはそのお人形を引っ剥がさなきゃですね。さぁアヤネさん行きましょう!」
 解決策が分かれば切り替えも早いもの。アヤネが腕で弧を描き、袖口からずるりと大鎌を引き摺り出す。そして呼び出すUDCの触手に人形を絡めとれば、花髑髏を抜き放ちながら冬青が駆け寄る。互いに決して本を傷つけないように、と言葉にせずとも通じ合いながら。
「あなた達はお呼びじゃないです!」
「用があるのは店主だけ。余計な奴らは消え失せろ!」
 貉を助けるべく叫ぶ2人の声が重なって――人形の体を大きく切り伏せた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

宵雛花・十雉
【蛇十雉】

あの人形の中に2人がいるの?
夢見た再会がこんな形になるなんて…
こんなのって、ないよ

うん、書き手の気持ちも読み手の気持ちも考えちゃうし…
何より、会いたい人に会えないのは悲しいことだと思うんだ

【霊縛符】で動きを止めて、自分たちや他の猟兵の声が届きやすいようにするよ

納得のいく物語が書けなくてもいいじゃない
貴方の書いた物語なら
どんな物語だって、きっとその人は喜んでくれるよ
だって彼女に読んで欲しいと願って綴る物語は
他の誰でもない、彼女のための物語なんだから

取り込まれた2人も、浮かばれない人形も
オレは救いたい

なつめも、一緒に手伝ってくれるよね?
ありがとう
頼りにしてるよ、相棒


唄夜舞・なつめ
【蛇十雉】
…つらそーだな。
アイツ。
だったらすぐに
終焉らせてーーーときじ?

そうか、お前
そーいや本好きだったなァ
好きだからこそ
書き手に対する思いもあるってか
わかった。言ってやんなァ
お前の思いってやつをよ。

…相手のために、
精一杯書いたんなら
そりゃ相手にとっちゃあ
すげー嬉しいもんだと、
俺は思う。
自分のために
時間をさいてくれたって
思うとうれしーだろ?
そんな感じ。
お前は充分すげーよ
人のためにそこまで出来んだから

あァ、勿論。
…その言葉に弱ェーんだよ
ったく。仕方ねェな
全力の子守唄を歌ってやるよ

ゆっくり休みなァ。

ーーー『終焉らない輪舞曲を』



 ギシリと軋んで、人形が唯広い空間に佇んでいる。回廊を抜けて辿り着いた唄夜舞・なつめ(夏の忘霊・f28619)が、その姿を見つけて憂うように呟いた。
「…つらそーだな。アイツ。」
 数多を呑み込みながらそのどれもになり切れない人形が、飛縁魔の、貉の姿を、壊れかけの体で必死に真似る――その有り様を見て、並び立つ宵雛花・十雉(奇々傀々・f23050)も苦し気に顔を歪ませた。

――あの人形の中に2人がいるの?
お互いに、綴る結末を楽しみにしてただろうに。
いつかと夢見た再会が、こんな形になるなんて。

「こんなのって、ないよ。」
「…ときじ?」
歯噛みしそうに悔しげな顔で俯く十雉に、気遣わし気になつめが名を呼ぶ。その表情に思い当たるのは、楽し気にページを捲るいつかの姿。
「そうか、お前…そーいや本好きだったなァ。」
「うん、書き手の気持ちも読み手の気持ちも考えちゃう…。」
 例えば幸せに終わる童話は、子供たちへの祝福を込めたのだろうか、とか。悲しい恋物語を読めば、誰かが恋しくなる心地がするだろうか、とか。並ぶ背表紙が増えるたび、いつもそんなことが頭をよぎった。それに何より、会いたい人に会えないのはそれほど悲しいことか。考えるとどうしても心が曇る。そんな十雉になつめがぽん、と肩を叩き、歯を見せ笑いかけた。
「わかった。ならアイツに言ってやんなァ、お前の思いってやつをよ。」
「…うん!」
 悩む背を押してもらえたことに喜び、十雉が霊縛符を構えながら人形へと歩み寄る。対する人形の動きは鈍く、にじり寄れば容易に手の届く範囲までは来れた。けれど、いつ逃げるともわからない。出来れば声を届けるまでは此処にいて欲しい、と思いを込めて、手にした符を額へと張り付ける。すると、そのまま人形の抵抗はなくなり、代りに気弱げな声が響いた。
『…ぼくは、なんでここに…。』
「これはもしかして、貉の魂…なのかな?」
「らしいなァ。今なら話、届くんじゃないか?」
 かもしれない、と期待を込めて目線を合わせれば、うつろいながらも視線が返される。未だ人形の深紅は混ざるものの、そこには確かな理性も見て取れた。
『ぼくは、…たしか話を、かこうと。でも…どうしても、思った通りに、かけなくて……。』
「…納得のいく物語が書けなくてもいいじゃない、貴方の書いた物語なら。どんな物語だって、きっとその人は喜んでくれるよ。」
『どうして…わかるの…?』
「わかるよ。だって彼女に読んで欲しいと願って綴る物語は、他の誰でもない、彼女のための物語なんだから。」
 相手を想い、悩み考え綴る本は、間違いなく世界でただ一冊だけの、何にも代え難い本になるだろう。そこに必要なのは出来の良し悪しではなく、筆を取る貉のこころひとつ。
「…相手のために精一杯書いたんなら、そりゃ相手にとっちゃあすげー嬉しいもんだと、俺は思う。」
 十雉の問いかけに、なつめも自らの思うところを語り掛ける。
『ほん、とうに…?』
「そりゃあ自分のために時間をさいてくれたって思うと、うれしーだろ?お前だって、その本受け取ったときうれしくなかったか?」
『…、…そう…だね。きっと、そうだった…もう、ずいぶんまえのことだから…わすれてた。』
 そういって僅かに微笑む姿は、最早人形には見えない。貉が浮かべただろう、本来の姿。これならきっと戻れるだろうと、祈る様に手を伸ばす。
「じゃあ、一緒に帰ろう。続きを綴るためにも。」
『…かえ、りたい。でもそうしたら、この、人形は…かのじょ、は、どうなるの…?』
 その問いに、はっとした。貉の魂は、説得と人形の破壊により覚醒しつつある。このまま骸魂を破壊すれば、恐らく無事に助かるだろう。そうなれば人形は、貉と所縁ある飛縁魔の骸魂は、もはや消えてなくなるしかない。誰かになりたくてなれなかった人形も、大事な人に逢いたくてここまで来た飛縁魔も、悪意があったわけではない。ただ巡り合わせが、過去を歪ませる悪因があっただけ。そんな2人を単に滅する気には、十雉はどうしてもなれなかった。
「…オレは、取り込まれた2人も、浮かばれない人形も救いたい。なつめ、一緒に手伝ってくれるよね?」
「…あァ、勿論。」
 尋ねる言葉には、一も二もなく同意が返される。
「ありがとう。頼りにしてるよ、相棒。」
 そのことが嬉しくて、信頼を乗せて微笑む十雉に、甘く苦い笑みを寄せ――いつだって、その言葉に弱ェーんだよ、と。そう胸の内だけに零し、なつめが目を伏せ歌を紡ぐ。乗せるのはあたたかくてやさしい、子守唄。
「貉は返してもらう。けどまァ…アンタたちも、ゆっくり休みなァ。」
 その、手向けの言葉を聞いて。
――虚ろに揺れていた人形の瞳が、微睡むように穏やかに閉じられた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

永廻・春和
【花天】言葉を第一に

自分が誰かも解らない、ですか
(一時の穏やかな道行から一転、物悲しい声の元に行き着けば、つられて切なくなりかけるも――表情を引き締め)
そうして一緒になれたとて、此迄に自分達が重ねてきた想い出――紡いできた物語を失ってしまっては、其こそ誰も喜べぬというもの

貴方は、貴方達は、大切に想い合った者同士――其が互いの存在を歪め壊し合う結末に至っては、あまりにも――
お二方共、哀しい道筋を辿るのは、お止めください

貉様
その本は貴方様を悩み苦しませる為に贈られた物ではない筈
本当に必要なものは屹度、自信より何より、貴方様の御心一つ――どうか此処で取り戻し、彼女に餞の結末を、紡いでくださいませんか


呉羽・伊織
【花天】武器でなく言葉で以て

――楽しいばかりでない物語も多々あれど、此は一等複雑な心地になる、な
(軽い上面は鳴りを潜め、同じく真摯に相手を見遣り)
ああ――此処に至る迄の二人が編んできた物語を、こんな形で真っ白にしておしまい、なんて、何もかもが浮かばれない

(大事な本へと目を向けて)
アンタは飛縁魔を喜ばせたい一心で心を尽くし続けた存在で
アンタは貉の物語を楽しみに待った存在で
二人共、苦しめ合う為に本と約束を交わした訳じゃないだろ

…今なら手向けに、飛縁魔に届けられるかもしれない
自信の有無より、込めた想いこそが何より響くんじゃないか

願わくは――悲劇の終焉を覆して、新たな頁を、前に進む道筋を、紡いでくれ



「自分が誰かも解らない、ですか。」
 長く暗い回廊を抜けた先で辿り着いた図書館じみた広間で、永廻・春和(春和景明・f22608)が静かに呟いた。その視線の先にいるのは、最早あちこちが罅割れ、今にも壊れそうな人形だ。
「楽しいばかりでない物語も多々あれど、此は一等複雑な心地になる、な。」
 動いてはポロポロと何処かが欠け、それでもまだ誰かに、何かに変わろうと声を絞る様に、並び立つ呉羽・伊織(翳・f03578)も顔を曇らせた。此処にたどり着くまでの穏やかな道行からは一転した、物悲しい声に思わずつられて切ない気持ちが過ぎる。けれど、成すべきを成すと決めて、互いに表情を引き締めた。
「お二方共、哀しい道筋を辿るのは、お止めください。」
 歩み寄り、先に声をかけたのは春和。ぐるりと貉の姿を取った人形は既に歩くこともままならず、向けられた視線にゆっくりと自らも視線を返すだけ。
「そうして一緒になれたとて、此迄に自分達が重ねてきた想い出――紡いできた物語を失ってしまっては、其こそ誰も喜べぬというもの。」
 貉ばかりでなく、捉え込んだ飛縁魔の骸魂にも語り掛ける。人形の檻を破るだけならば、言葉を掛けるのは貉だけで十分かもしれない。だが望まぬ形での再会を哀しんでいるのはきっと、飛縁魔も同じはずだ。ならば隔てることなく2人に想いを、声を届けたいと春和が重ねる。
「アンタは飛縁魔を喜ばせたい一心で心を尽くし続けた存在で、アンタは貉の物語を楽しみに待った存在で…二人共、苦しめ合う為に本と約束を交わした訳じゃないだろ。」
 伊織もまた気持ちを同じくして、言葉を尽くす。――もし2人がカクリヨの世界で無事に再会できていたなら、どれ程よかっただろうか。互いに変わらぬ日々を過ごし、寄り添って、もしかしたらとっくに本も書きあがってたのかもしれない。けれど、それは叶わなかった“もしも”の話だ。ただ、それでも、今だって飛縁魔が願ったことは消えたわけではない。失ってなお貉が求め続けてきたことも、無駄になったわけでは決して、ない。たった一つ残った約束を、今ここで、苦しみから希望へと転じさせよう。
「…今なら手向けに、飛縁魔に届けられるかもしれない。」
 その言葉に、貉姿の人形の顔がパッ、と跳ね上がる。その瞬間見えた懐に抱えられた本へと目を向けて、伊織が緩やかに微笑んで見せる。
「届けたいのなら自信の有無より、込めた想いこそが何より響くんじゃないか。」
「ええ、本当に必要なものは屹度、自信より何より、貴方様の御心一つ。どうか此処で取り戻し、彼女に餞の結末を、紡いでくださいませんか。」
『…ほんとうに、届くかな、彼女に。まだ、まにあうのかな。』
 耳に届いたのは、気弱だが確かな貉の声。その確かめる様な言葉に、勿論、と春和が強く頷いて見せる。その二人の様子を見て伊織が――最後の言葉を、告げた。

「願わくは――悲劇の終焉を覆して、新たな頁を、前に進む道筋を、紡いでくれ。」
 
――数多贈られる言葉を引き金に、ついに人形はひび割れからばりん、と音を立てて砕けていった。そして腹に開いたから吐き出された魂が貉の姿を取ると、本格的に自壊を始めて崩れ去る。だがその中に僅かに残った淡い光が、ゆらりと形を変えて――飛縁魔の姿を取った。どこか憐れむ様に、人形の核であったろう輝石を抱え込んでから、貉へと向き直る。
「…えにし、そこにいたんだね。」
 貉が、どこか懐かしそうに目を細めて、その骸魂の名を呼ぶ。
「ごめんね、僕はまだ、結末をかけそうにはないよ。」
 揺蕩う骸魂に、表情はない。ただふわりと浮かび、揺らぐだけ。
「けど、書いてみたいなってものは、いっぱい増えたんだ。桜が舞う園から、水辺を渡って、翼を借りて、虹を越えて、騎士に逢い、友を得て、精霊に導かれ、獣と共に、宝を盗んで、光を探して、花をまいて、龍に乗って、路を築いて、星を跨いで……ああ、こんなのきっと、大冒険になっちゃうね。一冊じゃたりないよ。」
 揺蕩う骸魂の、応えはない。ただふわりと浮かび、揺らぐだけ。
「だからまだまだ、時間はかかると思う。だけどもう、あの本を白いままではいさせないから――だから。」
 いつか、読んでくれる?と尋ねた声は、涙で滲んでいた。その一粒を白い指がそっとすくって。

――千年先でも、待ったるわ。

 それだけ呟いて、飛縁魔の女――えにしが微笑んで、静かに消えて行った。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 日常 『想いを馳せる地にて』

POW   :    迷い躊躇うことはなく、そのままの想いを馳せる

SPD   :    自らに言い訳や偽りの言葉を聞かせつつ想いを馳せる

WIZ   :    複雑な感情を抑え込もうとしながら想いを馳せる

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 かくして集った猟兵たちの活躍により、虚ろな人形は骸の海へと還された。引き込まれていた貉の店主も、無事に助けることができた。迷宮化もすっかり解かれ、店にも被害らしい被害はない。――これにてめでたしめでたし、と仕切るのもいいだろう。

「うん、でもほら、せっかく助けてもらったみたいだからね。僕のお店でよければ、みていかないかい?」

 〆に待ったをかけたのは、当の貉の店主――名をぽん太、という。少しばかり疲れた様子もうかがえるが、たくさんの言葉を贈られたこと、そして叶わなかった別れの挨拶ができたおかげか、顔つきは寧ろ吹っ切れた様に穏やかだ。さぁこっちへ、と案内されるままに扉をくぐれば、そこは和風モダンな造りの本屋だった。

 巨人でも優に立てる大きな店内は、ぐるりとロの字型をしていて、その壁面全てに本が収められていた。大きさや装丁はまちまちで、内容も童話、絵本、小説、はたまた画集に建築集とバラエティに富んでいる。探せばきっと興味を惹かれるものが見つかるだろう。そして引き取る本を決めたら、必ず一緒に贈られるものがある。白いプレートに金の箔押しで“That`s at your deiscretion.”――あなたの手に委ねます、と綴られた栞だ。此処に在る本は全て例外なく結末がない。連載半ばで死した悲劇の文豪の作品、とある万能の天才が文筆業にも手を出したが飽いて放られたもの、そもそも誰かに続きを期待して余白を残した本…理由自体は様々だ。しかしそのどれもが、もし次の人の手に渡ったとき、その続きを書いてもらってもいいと、その許可を得たモノしか並べていないそうだ。――因みに書いちゃ駄目なものは店主の秘蔵コレクションとして大事にしまわれているとか。ともあれ、読んで毎回違う結末を想像するもよし、自ら書いて楽しむもよし、の一風変わった“本選び”が味わえるだろう。

 続けて少し奥に現れる、ステンドグラスの嵌った両開きの扉を開ければ、そこはインクと紙と筆の為の部屋。半分にはずらりと書き道具が並び、もう半分には試し書き用スペースとして、レトロなライティングビューローが何台も置かれている。試しにひとつ、手に取った紫色のインクで“菫の花束”と書き込めば、周囲にふわりと甘い花の香りが広がった。もひとつ試しに、半透明の紙を一枚光に透かせば、ゆらゆらと揺れ続ける水面の影が目に映る。最後にこれを、と何の変哲もなさそうな黒い万年筆で星のマークを書けば、周囲に流れ星の幻影が現れた。こんな風に、此処に在るものは本と同じく一風変わった書き味が約束されている。これぞというものをとことん追求するのもいいし、迷ったら貉の店主や、送り出した青い髪のグリモア猟兵に相談すると、ちょっとしたオススメを聞けるかもしれない。

「僕から出来るお礼はこれくらいだけど、せめてゆっくり楽しんで行ってね。」

 そう言って、店主がそっと扉に――“猟兵様 貸し切り”の札を掛けた。
ディフ・クライン
ああ、彼は彼女に挨拶が出来たのか
良かった
店主のすっきりした様子に目を細め

折角だ
お店にもお邪魔させてもらうね

まずは先に筆記具を見ようかな
不思議で気になるものばかりだ
水面の影が映る紙は便箋にしたら送った相手は驚くかな
ああ、お勧めも聞いてみたいな
こんにちは、はじめまして、セラフィム
ディフというよ
今回は案内をありがとうね
それで、ペンを探しているんだ
貴女のお勧めを聞かせて欲しいのだけど、いいかな?
選んで貰った物を有難く手に収め

最後に本を
人形と人形師の本を見つけて、けれど二人が別れてからが白紙で
――いつか
いつか、人形の行く末を綴れたらいいと
祈るように手に取った
いつか書けたら
「貴女」は、読んでくれるかな



 扉を潜り抜けた先、あらゆる壁という壁に本が納められた風景に、ディフ・クライン(灰色の雪・f05200)が見上げながら感嘆の声を漏らす。積み上げられた想いに、織り上げられた物語に、人の果ての無さを見るようで、見つめる瞳はどこか眩しげに細められた。そしてふと本棚の影を過ぎった尻尾に目を向けると、ちょうど他の客人と話す店主の姿がみえた。少し疲れた風はあるが、向ける笑顔は柔らかくどこか吹っ切れたように明るい。その姿に、ああ、と頷いて。
(彼は、彼女に挨拶が出来たのか)
 未練があったろう別れに形がつけられたのなら良かった、と店主のすっきりとした様子にディフが目を細めて微笑む。そして無事の確認もできたのだから、折角だし店にもお邪魔させてもらおう、と奥の部屋へと足を向ける。ステンドグラスの嵌った扉を越えたら、そこは書き道具たちの為の部屋。飴色に磨かれた棚に、見やすくも痛まないよう配慮された配置は、店主の心遣いが見て取れる。そして垣間見えるどれもが不思議で気になるものばかり。水面の影が映る紙は便箋にしたら、送った相手は驚くだろうか。文字が鳥に化けて飛んで行ってしまうペンなんて、友達を面白がらせるにはいいかもしれない。そして青い髪の少女の姿を見つければ――そう、お勧めというのもぜひ聞いてみたい。
「こんにちは、はじめましてセラフィム。ディフというよ」
「《初めましてディフさま、この度はお受け頂いてありがとうございました。店でお会いできるなんてうれしいですわ。》」
 声を掛けられ振りむく姿は、依頼の説明をしていた時より柔く、恐らくこれが普段の姿なんだろうと察せられた。
「今回は案内をありがとう。それで今は、ペンを探しているんだ。よかったら貴女のお勧めを聞かせて欲しいのだけど、いいかな?」
「《そういうご依頼でしたら、よろこんで。》」
 抑揚の変わらない電子音声の筈が、どこかちょっと弾んだように聞こえるのはセラフィムのわくわくした様子のせいだろうか。早速棚に向き直り、手にとっては握りを確かめ、書いてみては飛び出す幻影と遊び、幾つも見比べてからこれを、と差し出されたのは六花のチャームが飾られた深い藍色の万年筆。
「《書けば夜空に雪降る幻影が楽しめる万年筆だそうです。貴方に似合う気がいたしましたので。》」
「…ありがとう。大事にするよ。」
 託すように渡されたそれを手に収め、ディフがそっと目を伏せた。
 
 万年筆を手に入れたら、最後に本を、とひとつ前の部屋に足を戻す。本棚に並ぶ本は本当にとりどりで、一抱えもある画集に、開けば立体的に飛び出す絵本、そして最後に目が留まったのは――人形と、人形師の物語を書いた一冊。パラパラと読みふけり、ふたりの足取りをたどるけれど、別れてしまってからが白紙になっていた。この先を、と誰かが託していった本。そこにどこか、重なるものがある気がして。
(いつか――いつか、人形の行く末を綴れたらいいな)
描く先を思い浮かべる様に、本の表紙を優しく撫でる。もしいつか、ふたりの足取りを書くことができたなら。
(「貴女」は、読んでくれるかな。)
それはまるで、祈りのように――ディフが目を伏せて、願った。

大成功 🔵​🔵​🔵​

終夜・凛是
清史郎(f00502)と

色んな本がある…
そうっと目に付いた本を手に取ろうとしつつ、ためらって取れず
(俺が続きを書けるとは思えないから、もっとちゃんと出会う人のとこに行ってほしい)

…あんたは、どんな本選ぶの?
動物さん…それは、ちょっと面白そう

本は手に取る気になれなくてふらっと違う部屋に
紙とインク?
万年筆使ったこと無い
筆ばかりだったから

手紙とか、書くことない…
(でも、この匂いとかは嫌いじゃない)
分かんないからセラに聞いてみよ

どんなふうに使うの?
俺も、なんか書いてみたい
どれがおすすめ?
清史郎も、かく?
すごい、桜だ…

丸く…(耳をぴこりと立てて、寝かせて)でもすぐ消える
それは寂しいから、ちょっとかけない


筧・清史郎
凛是(f10319)と

ほう、眺めるだけでも心躍るな
凛是は気になる本があるか?
俺は、この動物さん達の大冒険な一冊が気になるな(微笑み

続き別室へ
ああ、セラ、久しいな
この部屋は?
ふむ成程

そうだな、試してみよう
桜色のインクの万年筆でさらり達筆に
『桜』と綴れば、咲き誇る満開桜
おお、これは面白い
凛是も綴ってみないか?
たとえば、先程背に乗った、丸く愛らしいあの…

二人と万年筆走らせ楽しみつつも、ふと思う
俺は近いうちにきっと、あの人の遺志を継ぎ、かわりに綴るべき物語がある
彼が終わらせられなかった最後の作品を
俺にしか書けない結末を
動物さん達の冒険の続きは、桜の君に囚われた作家の物語を完結させてからのお楽しみ、だな



 ぐるりとロの字型に、囲うように建てられた貉妖怪・ぽん太の店。高さもそこそこあり、天窓からわずかに差し込む光は遠く、あちこちに光る鉱石を使ったランプが置かれていた。火を光源としないあたりが本屋らしく、壁という壁全てに本が仕舞われている様子は中々に圧巻だ。
「色んな本がある…」
 そんな店内を一通り見渡してから、終夜・凛是(無二・f10319)が手近な本棚へと歩み寄る。
「ほう、眺めるだけでも心躍るな」
 筧・清史郎(ヤドリガミの剣豪・f00502)も同じ一角へと足を進め、いくつかの背表紙を撫でる。文字を書くための道具から生れた故なのか、本に触れる様子はとても楽し気に見えた。
「凛是は気になる本があるか?」
 ふと気になって問うと、ちょうど目に留まった一冊を手に取ろうとしたところで、凛是の手がぴたりと止まった。
(俺が続きを書けるとは思えないから、もっとちゃんと出会う人のとこに行ってほしい)
 本が気にならないわけではないが、もし他に綴ってくれる人が居るなら、その手に渡る方がきっといい。そう思うと、此処に在るどれもに触れ難く、きゅっと手を握ってひっこめた。
「…俺は本は、いい。…あんたは、どんな本選ぶの?」
「俺はそうだな、この動物さん達の大冒険な一冊が気になるな」
 いくつか手に取りパラパラとめくっていたが、清史郎の気を一番引いたのは『どうぶつひっこし大冒険』とかかれた一冊だった。一見児童書のようなネーミングながら本自体は確りとした革製で、厚みも中々のもの。中身は白クマに森オオカミ、砂漠キツネに雨ウサギと、棲む所も食べる物もバラバラな動物たちが、一緒に暮らせる地を探しに冒険へ、という出だしだった。進路を決めようとしたあたりで白紙になり、どんな道行きになるかはお任せ、ということらしい。
「…それは、ちょっと面白そう」
 動物さんというところに惹かれたのか、そわそわと尻尾を揺らす凛是を見て、これは買いだな、と清史郎が笑みを浮かべ店主へと歩み寄った。
 次に向かうのは書き道具の為の部屋。ステンドグラスの両開き扉を押して入れば、突然室内だというのに“サァァァ…”と雨の音が聞こえてきた。驚いて手を翳すものの濡れた感触はなく、音も程なくしてすっと消えて行った。
「《凛是さま、清史郎さま。お二人もおいでになられたんですね》」
 名を呼ぶ電子音声の方を向けば、ペンを片手に笑みを浮かべて振り向くセラフィムの姿があった。
「ああ、セラ、久しいな。今のはもしかして…」
「《ええ、私も少し試し書きを》」
 そう言って2人に見える様に差し出したのは、透明な液体で満たされたインク瓶。ラベルには『雨音』と書いてあり、名の通りこれで文字や絵を書くと周囲に雨の音が聞こえるそうだ。
「《他にも沢山ございますから、試していかれませんか?》」
「成程。そうだな、試してみよう」
 そう言って清史郎が棚のインクをいくつか眺め、選んだのは桜色が美しいインク瓶。ライティングビューローの万年筆と試し紙を手に取り、そのインクで達筆に『桜』と綴れば――周囲が満開の桜に覆われた。
「おお、これは面白い」
「《美しいですわね…!》」
「すごい、桜だ…」
 ひらひらと落ちる花びらを手に取り、セラと凛是が感嘆の声を上げる。当の清史郎も効果に満足げに頷いて、共に暫しの桜見物を楽しんだ。
「凛是も綴ってみないか?たとえば、先程背に乗った、丸く愛らしいあの…」
「丸い…、…でもすぐ消える。それは寂しいから、ちょっとかけない」
 示された動物を脳裏に思い描き、一瞬耳がぴこぴこと動いたが、すぐにそこへ思い至り、しょげた様にぺたんと寝てしまう。
「《なら、こちらならいかがでしょう?》」
 そういってセラが一度棚へ戻り、手にしたのは一見何の変哲もなさそうなごく普通の黒いインク。果たしてどんな効果が、と問う前に髪を結っていたリボンを解き、手にしたインクで白くて丸くてつるもちな動物の名前を書く。すると…
“キュー!!キュッキュッ!”
「……!この声、聞いたことある。同じだ」
「《声を再現するインク、だそうですわ。文字を指でなぞればまた同じ声がするそうなので、そちらに結わえたら如何かと思いまして。》」
 ――これなら消えないでしょう?と、そういって凛是が下げているストラップを見つめながら、セラがリボンを手渡した。
「いいの?…ありがと。あと俺も、なんか書いてみたい。これとか、どんなふうに使うの?」 
「《これでしたら、あちらの紙と一緒に…》」
「おお、それはまた面白そうだな。俺もこっちのものを…」
 ――そうして暫く3人で、あちこちから引き出したインクと紙と筆の実験タイムに勤しんだ。

 たっぷり時間をかけて各自買う物も決まり、商品の包装を待っている間、凛是がふと清史郎に問いかけた。
「…帰ったら早速、さっきの本の続き、かくのか」
「ん?ああ…いや、それはもうしばらく先になるだろうな」
「…なにか、あるの?」
 ほんの軽い質問のつもりが、返される清史郎の声はどこか決意をにじませたような真剣さがあって、思わず聞き返す。
「俺にはある人の遺志を継ぎ、かわりに綴るべき物語がある」
 そっと目を伏せて、思い出すように紡がれる清史郎の言葉に、凛是が静かに頷く。
(近いうちにきっと、彼が終わらせられなかった最後の作品に
――俺にしか書けない結末を、書こう)
「…だから動物さん達の冒険の続きは、桜の君に囚われた作家の物語を完結させてからのお楽しみ、だな」
 そう言って静かに微笑む清史郎に、凛是が小さく――待ってる、と返した。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

吾條・紗
※アレンジ歓迎

ライティングビューローの一つに陣取り
せっせと動かす手元には、親切な鳥の置き土産
ナイフと鑢で丁寧に削って…

よっし、上出来じゃん

瑠璃色の羽ペンをくるくる、満足の仕上がり
視界の端に海の色の髪をした顔見知りの少女を捉え、其方へ首を巡らせる

あ、セラちゃん

お疲れ様、とゆるり笑って羽ペンを振って見せ

これで使うインクって、どんなのが良いと思う?

仕事道具以外は然程頓着しないタチだから、彼女の見立てにお任せしよう

店主さんにも、手の空いた隙を見て有り難うを

何もかもを捨てて旅に出た、独りぼっちの少年の物語
続きは多分書かないと思うけど、真っ白の頁はどんな道でも選べるんだって解釈もできそうな気がしたから



 あっちでは本棚から引き抜いた一冊に夢中な人が一人。こっちにはインクの試し書きが楽しくてあれもこれもと話弾む人が二人。そんな中、吾條・紗(溢れ仔・f04043)はライティングビューローの一角を見つけるや否や、これと言った商品も持ち込まずにひとつ席を陣取った。懐から使い慣れたであろうナイフと鑢と、ひときわ大事そうに一枚の羽根を取り出して並べ、作業へと取り掛かる。先端をナイフでカットし、インクを吸わせる縦の切れ目を入れ、書きやすいようにある程度尖らせたら丁寧に鑢を掛けて…。
「よっし、上出来じゃん」
 出来上がったそれは、瑠璃色が美しい羽ペンだった。迷宮の親切な案内鳥が残していった置き土産は、バランスが取れた満足のいく仕上がりになった。そしてちょうどくるりと回した夜空に似た色の羽越しに、海に似た髪色の少女がみえた。
「あ、セラちゃん」
 呼び止められて振り返れば、セラフィムが音をのせず口だけで紗さま、と微笑む。依頼お疲れ様、の声にはそちらこそ、と今度は電子音声で返し、手にした羽ペンに視線を移した。
「これ?今回の戦利品、ってところかな」
「《美しい羽ですわね。もしかしてこれ、ご自分で加工を?》」
「まぁね。そうだ、これに合うインクを探してるんだけど、よかったら見立ててもらってもいい?」
「《それでしたら、喜んで》」
 ふん、と気合十分頷いて、一度確りと羽ペンを眺めてから棚へと移動していく。取り出しては戻し、取り出しては戻しを3回ほど繰り返してからセラフィムがインク瓶を手に戻ってくる。全体的に爽やかな空色をしたインクは、不思議なことに揺らさないままでも混ざった白色がゆらゆらと流れているように見える。そして試し書き用のメモ紙にさらさらと文字を綴ると――雲が流れる空の幻影と、一瞬頬を撫でる柔らかな風を感じた。
「《空を飛ぶ心地を味わえたら、と思って選びました。いかがです?》」
「はは、いいねぴったりだ。これにするよ。ありがとう」
 羽の主との出会いの瞬間を思い返しながら、紗が瓶を受け取って笑みを浮かべた。

 次いで引き返した本の間では、丁度通りがかった貉の店主に手を振って礼を述べると、そんなの僕の方こそ、とあたふたとお辞儀を返された。
「ところで、何か気になる本はみつかったかい?」
「えっと、これにしようかなと思って。」
 手にした一冊は、何もかもを捨てて旅に出た、独りぼっちの少年の物語。故郷も、家族も、大事な宝物も捨てて飛び出した、寂しいけれど自由な少年が、さぁこれからどこへ、というところで途切れたストーリー。
「きっと続きは書かないと思うけど、その分どんな道でも選べるんだって解釈もできそうな気がしたから」
 そういって白紙のページを開いて目を伏せる紗に、貉が――良い旅を、と微笑んで栞を手渡した。

大成功 🔵​🔵​🔵​

辰神・明
カリュおねえちゃん(f09196)と
アドリブ歓迎
妹人格、メイで参加

カリュおねえちゃん!
えっと……こっち、こっちー!ですー!

書き道具が、たくさんさん
色んな道具があるです、ですね……!
お花に、お星様に、きれいなみなも……
ふーちゃんも、一緒に見ようね、ですよ(ぬいぐるみぎゅう

ぽん太さん
お名前、教えてくれて……ありがとうございました、です
おすすめ、聞いてみたいな、なのですよ
カリュおねえちゃんは、その……何が好き、です?
わあ……っ!光るの、すごい!すごーい!です!

新しい筆は、魔法のお筆
とっても綺麗、です、ね
おべんきょうさん、ふーちゃんのにがおえ……
かきたいも、たくさんで、迷っちゃいますね(へにゃり


カルディア・アミュレット
メイ(f00192)と
アドリブ歓迎

メイ…
ええ、ええ…いまいくわ…

わたしの名まえを少しかみながら呼ぶメイが愛らしい…
きゅん…となるとは、このこと…かしら?

こんなに不思議な道具がある、のね…
ぽん太…、わたしも…おすすめを聞いてみたいわ…
えっと……わたしが好きなのは…
炎に透かすと…光るインク…とかもあるのかしら…?
わたし…、こういう灯りをつくる仕事をしているの…
自分のランタンを見せながら

…ふふ……、綺麗…ね
メイはお筆にする…の?何を描くのかしら…?

メイが無邪気に笑うから
つられて表情綻んだ
そっと嬉しそうにしている彼女の頭を撫でながら
一緒に書く道具、たくさん見るの…



「カリュおねえちゃん!えっと……こっち、こっちー!ですー!」
「メイ…ええ、ええ…いまいくわ…」
 ステンドグラスの嵌った扉の前で、辰神・明(双星・f00192)――の、妹人格たるメイが、ぴょこぴょことはねながら手招きをする。その様子に微笑みを浮かべ、同行者のカルディア・アミュレット(命の灯神・f09196)がゆっくりと歩み寄る。少し噛みながらも、懸命に名前を呼ぶメイの愛らしさに思わず――きゅん…となるとは、このこと…かしら?――なんて愛しい気持ちを目覚めさせながら。
 そして2人でせーの、と扉をくぐった先は、書き道具を所狭しと並べたアンティークモダンな造りの部屋。棚の一つ一つに美しく並べられたインク瓶、懐紙を挟んで痛みを防ぎつつサンプルが置かれた紙、試し用に置かれながらも痛みや汚れの少ない筆や万年筆。どれもが丁寧に扱われ、そして求める人の元へきちんと渡る様に、との心遣いが見て取れた。売るものは違えど、店を営むカルディアにはそれが心地よく、目元を和ませる様子を見て、メイも嬉しそうに笑った。
「書き道具が、たくさんさん。色んな道具があるです、ですね……!」
 歩み寄った手近な棚には、きらきらと光を返す硝子瓶に、色とりどりのインクが満たされている。気になった金色のものを揺らせば、瓶の中で星が溢れて瞬き、隣の薄紅色の紙をそっと透かせば、中で延々と桜吹雪が舞っている。
「こんなに不思議な道具がある、のね…」
「素敵なのですっ…!あ、ふーちゃんも、一緒に見ようね、ですよ」
 と、ぎゅうっとぬいぐるみを抱きしめてから見えやすいようめいっぱい高い位置へ掲げる姿に、転ばないようにとカルディアがそっと後ろへと回る。そんな2人の姿に掛けられるのは、椅子がいるかい?と笑う貉の店主の声だ。
「あ、ぽん太さん!あの時はお名前、教えてくれて……ありがとうございました、です」
 姿を見てくるりと向き直り、お礼を述べるメイにぽん太がわたわたと手を振る。
「えと、お礼を言うならこっちだよぅ。助けてくれたみたいでありがとう。全部を覚えてるわけじゃあないんだけど、君に名乗ったのは覚えているよ。ええと…メイさん、であってる?」
「はい、メイはメイなの、です!…それとこちらが、一緒に来てくれた、」
「カルディア、よ…お邪魔してるわ…」
「いらっしゃい、来てくれてうれしいよ。何か気に入るものがあるといいんだけど。」
 丁度在庫の管理をしていたのか、一覧に目を通しながらぴこんと頭上の耳が動く。
「じゃあメイ、おすすめ、聞いてみたいな、なのですよ」
「ぽん太…、わたしも…おすすめを聞いてみたいわ…」
「そ、そうかい?なら、ええと…ふたりは好きなものとかあるかなぁ?」
 素直に尋ねられれば嬉しさと照れを足して2で割ったような笑みを作り、首をかしげてぽん太が問い返す。
「好きなもの、ええと…カリュおねえちゃんは、その……何が好き、です?」
「えっと……わたしが好きなのは…」
 振られた質問に思わず何かしら、と目を伏せた時に、目に入ったのは自らが下げていたランタンの明かりだった。
「そうね、炎に透かすと…光るインク…とかもあるのかしら…?わたし…、こういう灯りをつくる仕事をしているの…」
 そういってランタンを見えやすいように掲げると、ゆらりゆらりと灯りがゆれて、メイとぽん太の瞳に柔らかな光を燈す。
「わぁ…素敵なランタンだね。なんだか落ち着くよぅ。これに合うインクなら…そうだ、これなんかきっと…。」
 犬の様にぶんぶんと太ましい尻尾を振って、上の方の棚から降ろしたのは、白に金を溶かしたような色合いのインクだ。手慣れた様子で万年筆にそのインクを補充して、紙に“メイさん、カルディアさん”と名前を綴ると。
「妖精の羽根の粉を分けてもらったインクなんだ…ほら、翳してみて」
 傾けられたランタンに透ける様に紙を寄せれば、まるでその燈が移ったかのように文字が淡く輝きだす。更によく見れば、紙の落とした影には妖精たちの踊っている姿も見えた。
「わあ……っ!光って、ようせいさんがおどって……すごい!すごーい!です!」
「…ふふ……、素敵…綺麗…ね」
「気に入ってもらえたならよかった。メイさんはどうする?」
「メイは、ええと、さっき見てたのも気になる、し…、魔法みたいなのはどれも素敵なの…です…!」
 絞り切れずにうーんと唸る様子を見て、ぽん太が微笑ましそうにしながら棚をいくつか物色し、あっ、と声を上げると花のチャームが付いた万年筆を持ってきた。
「これなんかどうかなぁ、一度書いてごらん?」
「ええと、こう、です…?…!うわぁ、うわぁ、お花さんがいっぱい…浮かび上がってきた、です……!」
 一文字書いてはひまわりの、もう一文字書いてはマーガレットの。書くたびに色鮮やかな花の幻影がぽんっ、と浮かんでは消えて行く。
「書き終わったら普通の文字や絵だし、乾いた所をなぞったら、またお花が浮かんでくるよ。これならお絵かきにもお勉強にも使えるんじゃないかな?」
「魔法のお筆…とっても綺麗、です、ね。おべんきょうさん、ふーちゃんのにがおえ……かきたいも、たくさんで、迷っちゃいますね!」
 そういってメイがへにゃり、と無邪気な笑みを浮かべた。その愛らしさにつられてカルディアも表情をほころばせ、そっと頭を撫でる。

――今日はまだまだ続くから、たくさんの素敵をどうか、一緒に。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

音鳴・きみ
供のレプリカは掌サイズの一体
邪魔にならないように好きなインク選んでもらお

お邪魔しまーす!
店長さん…ぽん太ちゃん
あんま無理しちゃダメだぜー
でもお話できるのは嬉しいかな!

ねえねえぽん太ちゃん、好きな色教えて?
あとさ
えにしちゃんの好きな色知ってる?
ほうほう。じゃあこれとかかな〜
試し書きの紙に、其々の好きな色で描いたふたりの似顔絵
そんで、あんたにあげる
ふしぎなふしぎなインクだからさ、もしかしたら
あのこの夢とか見れちゃうかもよ
なぁんて。
あんたの書くお話の続き、楽しみにしてるぜ

このふたつのインクと、レプリカが選んだのをもらうよ
本は…また今度遊びに来る時、選ぶの手伝って?
文字でつづき、書けるようになるから



 右へふらふら、左へひらひら。ビビットな配色の紙を見つければ透かして目を輝かせ、良い香りのするインクを手に取ればスンスンと嗅いで悩まし気に。書き道具の置かれた一角を、音鳴・きみ(close to you・f31389)が存分に堪能していた。呼べばそれこそお店を満員にしちゃうお供のレプリカたちは、今は掌サイズの一体だけ。邪魔にならないように、と念を押してから棚へ放ち、気に入ったインクを選んでもらう。さてそれなら自分のお土産はどうしようか、と頭辺りの布をキュッとひねったところで、棚の隙間から覗く狸尻尾に気が付いた。
「お邪魔してまーす!店長さん…ぽん太ちゃん!」
「やぁいらっしゃい。来てくれたんだねぇ。」
「うん!あ、でもあんま無理しちゃダメだぜー。なんてったってぱっくり食べられてたんだからさ。でもお話できるのは嬉しいかな!」
「ふふ、ありがとう。お店の中なら大丈夫そうだよぅ。インクを探してるの?」
「そ、何がいいかなって思って…あ、そだ」
 話す間にもいくつか手にとっては戻し、翳しては返し、と忙しなかったが、突然何かを思いついたのか、ぐるんとぽん太に向き直る。
「ねえねえぽん太ちゃん、好きな色教えて?」
「ぼくの?ええっと…緑かなぁ。落ち着くような深い色の。」
「ふむふむオッケー、あとさ、えにしちゃんの好きな色知ってる?」
「えにしの?そうだなぁ、そういえばよく山吹色の着物を着てたかな」
「ほうほう。じゃあこれとかかな〜?」
 棚とにらめっこしながら、今しがた聞いた特徴によく似た色のインク瓶を手に取る。そして手近なライティングビューローにあった試し書きの紙を手に取ると、シャカシャカと慣れた手つきで絵を描きだした。そしてあっという間に描きあがったそれは、其々の好きな色で描いたふたりの似顔絵で。
「そんで…はい!あんたにあげる」
「えっ、わぁすごい、どっちもそっくりだ。絵が上手いんだねぇ」
「へっへー、まあね!それにさ、これはオレが魔法をかけたふしぎなふしぎなインクだからさ、もしかしたらあのこの夢とか見れちゃうかもよ?」
 ――なぁんて、と続けるきみの顔は伺い知れないけれど、その心遣いが嬉しくて。零れそうになった涙をぬぐいつつ、ありがとう、とぽん太が大事そうに懐へしまった。
「じゃ、このふたつのインクと、レプリカが選んだインクをもらうよ」
「うん、お買い上げ有難う。本のほうはよかったかい?」
「んー…」
 きみがツツツ、と本棚にならんだ背表紙を布で撫でながら、そのどれもを手に取ることはなくくるりと向き直る。
「本は…また今度遊びに来る時、選ぶの手伝って?文字でつづき、書けるようになるから」
 その時はよろしくね、と念押しされれば、ぽん太がいつでも待ってるよ、と嬉しそうに笑った。

大成功 🔵​🔵​🔵​

都槻・綾
f01136/オズさん

文具達は
色彩も姿も豊かに様々

やぁ
どれもこれも魅力的

応える双眸は耀きを湛え
自然と零れた吐息は何処か夢見心地
店内をくるくる游ぎ回る姿はきっと魚のよう

逸る呼び聲を耳に
瞳を瞬けば
ふよふよ漂う愛らしき魚影が寄り添うものだから
水を得た魚か
仲間を得た魚か
ささめき笑って
幻の友へ「良い夜ですねぇ」とご挨拶

追いかけっこを楽しむみたいに揺れる鰭を
ふくふく笑んで見守りつつ
オズさんの奮闘ぶりへ
やんや拍手

紙上を泳ぐ姿もまた
心地良さそう

えぇ、えぇ
私も是非遊びたい

手にしたのは
黄と秘色、二色を詰めた洋墨の小瓶
濁ることなく調和していて
銀紛がきらきら舞っているから

ね、いつかの夜空
あなたと旅した星の海みたいねぇ


オズ・ケストナー
f01786/綾

一緒にわくわく

これもふしぎな筆なのかな?
空に絵がかける筆?

試しに青磁色の魚を描くと
ちゃぷんと宙を泳ぎだして
わ、わ
アヤ、そっちにいったよっ

つかまえるのに網をかけばいいかな
けれど描いた絵には触れず
あれ、だったらおさかなさんにもさわれない?

えーいっ
泳ぐ魚に試し書きの紙を被せると

…紙の中にはいっちゃった

動かない魚を見せて
あっ、さいしょから紙にかくとどうなるのかな?
アヤもかいてみようよっ

アヤの小瓶を覗き
わあ、きれいっ
二色をじっと見れば銀が煌めいて
星みたいっ

思い出す、花火咲く空を跳ねて飛んだ夜
でも夜空の色には明るいと少し考え

花火のいろっ?

前買った揃いの星の万年筆
綴られる世界が楽しみで
笑って



 棚に行儀よく並ぶ文具達は、色彩も姿も豊かに様々で。きっと喋れたのなら、こっちへどうぞ、わたしはいかが?と色以上に賑やかなのかもしれない。その聞こえない声に返すよう、やぁ、と都槻・綾(糸遊・f01786)が声を掛ければ、どれもこれも魅力的だと、跳ねるように指を遊ばせる。連れ合うオズ・ケストナー(Ein Kinderspiel・f01136)も楽しそうに顔ほころばせ、書き道具たちの呼び声にあっち、こっちと呼ばれていく。赤に青にと目まぐるしく色を変えるインクや、触れると一瞬で桜吹雪になってはまたひらひらと集って一枚に戻る便箋。その心躍る魔法を前に、言葉にならずオズが振り返れば、応える綾の双眸は耀きを湛えて見つめ返す。波のさざめき零すインクを手にし、自然と零れた吐息は何処か夢見心地に聞こえた。そんな摩訶不思議に目移りする中、オズの指が止まったのはシンプルなガラスペン。
「これもふしぎな筆なのかな?えっと、“空に絵がかける筆”?」
 掛札に書かれた文字を読み上げ、空に似た色の瞳を一層キラキラさせてペンを手に取る。試しに描くのは、青磁色の魚。不思議な書き心地を味わいながら描き上げればチャプン、と見えない水の音を立てて、インクの魚が宙を泳ぐ。
「わ、わ、アヤ、そっちにいったよっ」
 触れようと伸ばした指をすり抜けていくものだから、慌てて名を呼べば、呼ばれた綾がぱちりと瞳を瞬く。ふよふよ漂う愛らしき魚が寄り添うさまは、水を得た魚か、仲間を得た魚か。きっと店内をくるくる游ぎ回る姿は、似て映ったのだろう。己の髄を思わす色味がまた心やすく映って。
「良い夜ですねぇ」
 そう幻の友へとささめき笑うと、何かを返したのか、こぽりと水泡をこぼして魚がゆらめく。
「うーん、つかまえるのに網をかけばいいかな?」
 あちらこちらと泳ぐ姿を手招こうとオズが策を巡らせ、これならと魚網を書いてみたのに、持ち手に掛けようとした指はするすると空を掴むばかり。
「あれ、だったらおさかなさんにもさわれない?」
 はたと思い至り、それなら本来のインクの居場所はどうかと、ビューローの試し紙を一枚拝借。大捕り物の準備を前に綾はふくふく笑んで見守りつつ、やんやと拍手を送る。追いかけっこを楽しむみたいに揺れる鰭に、忍び足で歩み寄り、えーいっ、と勢いよく紙をかぶせようとしたら――先ほどの気ままな遊泳はどこへやら、からかうように自らするりと入り、だんまりを決め込んでしまう。
「……紙の中にはいっちゃった」
 ぽかんとした顔でだまし絵を見る様に泳がなくなった魚の絵を透かす。その様子に気紛れだねぇ、と綾が紙越しに視線合わせてわらった。紙上を泳ぐ姿もまた心地良さそうで、遊び心がにくいところ。
「あっ、さいしょから紙にかくとどうなるのかな?アヤもかいてみようよっ」
「えぇ、えぇ、私も是非遊びたい」
 今度はどんな魔法を、と棚に視線を這わせれば、水面の揺れる紙に妖精の影が躍るインクと、どれもが素敵で迷いが尽きない。これはきっと時間がかかる――そう覚悟したとき、ちりり、と目の端を星が掠めた。その光に惹かれて手にしたのは黄と秘色、二色を詰めた洋墨の小瓶。ゆすっても濁ることなく調和して、かわりにきらきらと銀粉が舞う。
「わあ、きれいっ。星みたいっ」
 星をまいた夜をとろかしたように見えて、ほんの少し色合いは明るい。だけど、どこか知っている色のような気がして、舞い落ちるひかりをじっと見つめてたら――ちかちか、脳裏に火花が散った。
「これ…花火のいろっ?」
 ふいに思い出すのは、夏の夜の星空旅行。花火を真下に飛び越えて、流星のひとかけらになって、星の海を透明なまぁるい船で渡った、あの夜のこと。
「ね、いつかの夜空。あなたと旅した星の海みたいねぇ」
 同じ景色を思い描いたのだと、向けられた微笑みでわかる。何が浮かぶか楽しみだね、と笑い合って、今ひとたび漕ぎ出すのは紙とインクの海。思い出をぎゅうっと詰めたようなそのインクから、一体どんなきらめきが生まれるのか。でも――ぜったいにまた楽しい冒険になるって、それだけはわかってる。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

旭・まどか
梟示(f24788)と

憑き物が取れたかの様だね
再び前を向けたのであれば、何より

僕は特に無いよ
元々目的の無い買い物はしない方だから
……買いもしない物を宛もなく見ていて楽しいものなの?

へぇ、やっぱり此処にある文房具は元から“そう”なんだね
文字が具現化する様を見遣り書架迷宮の再現の様だ、と
此れなら少し、興味があるよ

君が触れる度巻き起こる魔法の数々を眺め
同じ様にと徐に真っ白な洋紙へと手を伸ばす
一面鮮やかな色彩で溢れた花畑に
ねぇ見て、こっちの紙も綺麗

君の手の中にある夜空も良いね
まるで小さな世界を描くかの様

僕への薦めには相槌ひとつ
じゃあそれとさっきの黒い紙を頂戴
お代は勿論、出してくれるでしょう?


高塔・梟示
まどか(f18469)君と

店主殿の本の続きも気にはなるが
仕事も終えたことだ
此処からはプライベートといこう

本も文房具も、どれも興味深い
まどか君は何か気になるものは?
ああ、楽しいとも
どれもわたしには到底作り出せないものだからね

文房具を見てみようか
雪の結晶を降らせるインクに
書いた文字から枝葉が伸び花が咲く万年筆も悪くない
…おや、この黒い紙を見てご覧
触れた場所が星のように瞬く
書くのも読むのも楽しませてくれそうだ

ああ本当に。さっきの魔法のようだね
彼の手元の花畑を見て微笑み
時間を忘れる前に、付合ってくれた君へのオススメを
青い髪のお嬢さんに聞いてみようか
勿論さ、わたしも春の咲く紙をいただいていこうかな



「…憑き物が取れたかの様だね」
 淡く光が落ちる、本棚の店の中。人形に籠められて戦い、思い悩んでいた姿とは打って変わって、疲れはあっても楽し気にしている店主の姿に、旭・まどか(MementoMori・f18469)が静かに呟く。もう二度と思う人には会えなくても、再び前を向けたのであればそれは何よりだろう。
「そのようだね。さて、店主殿の本の続きも気にはなるが。」
 同じように視線を向けていた高塔・梟示(カラカの街へ・f24788)も、店主の無事な姿を確認すると、くるりと奥へと踵を返す。そして、
「無事に仕事も終えたことだ。此処からは――」
 ――プライベートといこう。そう言って扉を開けて奥へと促す仕草に、しょうがないな、とすました顔でまどかが前を横切った。

「本も文房具も、どれも興味深い。まどか君は何か気になるものは?」
「僕は特に無いよ、元々目的の無い買い物はしない方だから」
 これと決めてからものを手にするのが“買い物”だと思うまどかには、そうかい?と、言いながらもあれこれと棚の商品を見比べる梟示の姿は不思議に映った。
「……買いもしない物を宛もなく見ていて楽しいものなの?」
「ああ、楽しいとも。どれもわたしには到底作り出せないものだからね」
 そう衒いなく肯定され、文房具の棚へとまた視線を移すので、手持無沙汰に手近なガラスペンをくるりと回すと――ふわ、とやわらかな風が舞って花の香りがした。
「へぇ、やっぱり此処にある文房具は元から“そう”なんだね」
 書いたことがほんの少しの間実現する迷宮。あの回廊がああいった性質だったのは、きっとここの道具たちが影響したのだろう。魔法と呼ばれれば頷けそうな、ちいさな奇跡の詰まった道具たちを前にすれば、ほんの少し気が変わって。
「此れなら少し、興味があるよ」
「そうかい?ならいくつか見てみようか」
 そういって棚の掛札を見ながら、“六花”と書かれたインクを試し紙に書きとれば、ふわりと雪の結晶が肩に降り積もる。隣の中華風の絵花が描かれた繊細な万年筆は、書いた文字から枝葉が伸び真白い花が咲き乱れた。梟示が触れる度巻き起こる魔法の数々を眺め、同じ様にとまどかがふと目の端に捉えた真っ白な洋紙へと手を伸ばす。すると触れた瞬間、一面に鮮やかな色彩を纏った花畑が溢れた。
「ねぇ見て、こっちの紙も綺麗」
「ああ本当に。さっきの魔法のようだね」
 まどかに呼ばれて振り向くと、手から零れそうな花々を見つめる姿に、つられるように梟示の顔がほころんだ。そして紙も良いな、と同じ棚の列へ目を移す。
「…おや、この黒い紙を見てご覧」
 目に留まったのは、一見しただけではただ黒いばかりの紙。だが指が触れた途端に、その場所が星のようにきらきらと瞬き、黒は緩やかに色を揺らし、まるで夜空からそっと剥がしたような一枚に変じた。
「これは書くのも読むのも楽しませてくれそうだ」
 きっと筆を躍らせるたび、読み返そうと指でなぞるたび、夜を深めてひかりを零すのだろう。インクと筆と紙と、たったそれだけで――まるで小さな世界を描くかのように思えた。
 そして最後にせっかくだからと、ちょうど通りすがった案内役の青髪の少女に、オススメは何かと訪ねてみた。すると嬉し気に頷き、手にしていた紙を見比べてから棚へと歩み寄る。数分後その手にしていたのは筆とインクを一つずつ。花咲く紙にはこちらを、と書けば野原をウサギや小鳥の幻が遊ぶ若草色の筆を合わせ、夜空の紙にはその星々のひかりを集めたかのように、時折流れ星のように文字が踊るインクを添えた。薦めには相槌ひとつでまどかが受け取り、選び取った夜空色の紙と共にそれをぽん、と涼やかな笑みを添えて梟示の手に渡す。
「お代は勿論、出してくれるでしょう?」
「勿論さ、わたしも春の咲く紙をいただいていこうかな」
 おねだりには一も二もなく頷いて、気に入った一式を纏めてレジへと足を向けた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

トリテレイア・ゼロナイン
(作業を通じ自身のルーツの再確認という意味合いもあるが世界各地の騎士の御伽噺を私物の本に蒐集する趣味アリ)

(『優しき騎士と竜』という児童書の頁を大きな手で器用に捲りペンを中空に惑わせ)

…結末が見当もつきません
一触即発の状態からどう題名に結びつくのか…
伏線や因果関係は見落としていない以上、『デウス・エクス・マキナ』の手法を使ったどんでん返しだとは推論出来るのですが

種族柄、模倣は類型化は得手、これまで集めた物語から類似する結末を当て嵌めて…そうではありませんね
この本の内容に相応しい結末がある筈なのですが…

(店主に『結末は探すのではなく創るもの』と諭され)

…創作とは、やはり難しいですね
(苦笑の音声)



 ステンドグラスの嵌った扉の向こう、ライティングビューローの並ぶ一角に、白い機械で構成された一角がある――いや、それはよく見れば人型をしており、駆動音を響かせながら何事かに悩むトリテレイア・ゼロナイン(紛い物の機械騎士・f04141)の姿だった。古い木製の机と椅子に掛けるのは気が引けたのか、直立不動に壁側へと寄り、手にした児童書らしき一冊の頁を、大きな手で器用に捲りながらペンを中空に惑わせている。タイトルは『優しき騎士と竜』。自身のルーツの再確認という意味合いもあるのだろうか、今までも立ち寄った世界各地で騎士の御伽噺を見つけては、私物として蒐集する趣味があった。今回もまた本棚に赴けば、自然と『騎士』と銘打たれた本に手が伸び、一通り読み込んでからペンを手にしては見たのだが。
「…結末が見当もつきません」
 プシュウ、と小さく吐き出された空気音は、迷う様子と相まって周囲には溜息と取れただろう。実際、トリテレイアの気分としてそれは正しいと言える。本のあらすじは心優しき少年が騎士を志し、研鑽の果てにその夢をかなえたが、故郷の街を破壊した竜の討伐を命じられ、現場に赴き当の竜と相対した――ところで続きが白紙となっている。こんな一触即発、次の場面には喰うか喰われるかでもおかしくない展開で、果たしてどうタイトルと表紙に描かれた仲睦まじいふたりの様子につながるのか。

――伏線や因果関係は見落としていない以上、『デウス・エクス・マキナ』の手法を使ったどんでん返しだと推論は出来る。種族柄、模倣や類型化は得手とするところ。ならばこれまで集めた物語から類似する結末を当て嵌めていけば――いや、

「…そうではありませんね」
 更なるデータ化と検索を始めかけたコアユニットを止めて、否定の言葉を音声化する。ただ合理性が述べる“何が違うのか”という問いに明確な答えが出せず、感情面が吐き出すエラーに胸に手を当て固まっていたら、気さくな声がかけられた。
「やぁ騎士さん、悩んでるみたいだねぇ。」
「これはぽん太様。お体に変調はありませんか?」
「お陰様でね。さすがにちょっと疲れはしたけど、気分はスッキリして前より楽なくらいだよ。それで…」
「ええ、こちらの本に続きを綴ろうかと思ったのです。きっと相応しい結末が何処かにある筈なので、検索しているのですが…」
 と言ってまたコアがサーチを始めかけた所で、ぽん太がふふ、と笑みを浮かべて語り掛けた。
「騎士さん、結末は過去のお話に探しちゃあ駄目だよ。僕もこんなお店を作っておいてなんなんだけどさ。誰かの結末を切って貼ったんじゃ、きっとこの栞の言葉も報われないからね」
 そう言って懐から取り出すのは、白い栞。“あなたに委ねます”と書かれた、最初の書き手からのバトン。
「色んなおはなしの知識は大事だけど、筆を取るなら君が新しく創ったものでないと。」
 そう言って栞を手渡されれば、トリテレイアの視覚情報が何度も文字を追っては、苦笑を思わせる音声で告げた。
「…創作とは、やはり難しいですね」
「本当にねぇ。でもせっかく手を伸ばしたんだったら、僕と一緒に悩んでみるかい?」
「それは…ええ、心強いですね。」
 ぜひお願いします、と光明を得た思いで力強く音声を発し――暫しの間、検索機能は全てオフにした。

大成功 🔵​🔵​🔵​

灰神楽・綾
【不死蝶/2人】
こういうのが欲しい、と特に決めずに
あっちへふらふら、こっちへふらふら
そして目に留まったのは
表紙に一羽の大きな蝶が描かれた分厚い本
へぇ、この世界の蝶々大全かぁ

アゲハ、モルフォ、オオムラサキ
赤、青、紫、橙、黒…
その綺麗な翅はまるで宝石箱を眺めているかのよう
最後の頁には
自分のオリジナルの蝶を描けってことかな?
なら蝶を表現するのに相応しいインクが必要だね

インクコーナーへ
蝶の輪郭を描いたあと
赤と青のインクで塗り潰し
境界は色が混ざり合って紫に
最後に白のインクで星空のような模様を描く

きらきら輝く鱗粉を落としながら
ひらひら舞い飛ぶ蝶の幻影

ほら、梓も何か描いてみなよ
君の絵心でもきっと大丈夫だよ


乱獅子・梓
【不死蝶】
結末の無い本か…
普通の小説や映画でも、敢えて伏線を回収せずに
読者に判断を委ねて終わるものがあるな
俺としては答えが分からないのはモヤモヤするんだが…
なんて考えながらあれこれ軽く立ち読み

綾は何を買ったんだ?
蝶々の図鑑?昆虫図鑑とかじゃなくて?
随分とニッチなものを選んだんだな…
綾にくっついて横から覗き込み

おい、俺の絵心でもってどういう意味だ
促されるままインクとペンを手に取り
大事な相棒竜、焔と零を一生懸命描く

描いたものだけでなく、まるで
俺の心の中を投影しているかのように
いきいきと動き回る焔と零の幻影
…おぉ、すごいなこれ…!

不思議な文房具や画材の魅力に取り憑かれ
子供のように次々と描き続ける



 あちこちに鉱石の明かりが燈され、周囲を本棚に囲まれながらもふわりと明るい店内。その中をあえて当てを決めず、あっちへふらふら、こっちへふらふらと、灰神楽・綾(廃戦場の揚羽・f02235)が蜜に誘われる蝶の如くに歩いていた。その様子に、共に店へと赴いていた乱獅子・梓(白き焔は誰が為に・f25851)が、あれはしばらく時間がかかりそうだ、と見当をつけて自らも適当に本を眺めることにした。一冊手に取れば『ねこねこだいぼうけん!』とのタイトルで、三毛ブチ灰色と様々な猫が仲間になっていざぼうけんへ!…というところで白紙に行き当たり、『ワーカホリックはペンギンの夢を見る』と書かれた理不尽小説は、夢と現実が逆転した男が南極ペンギンの無理難題に振り回されて自暴自棄になったところで、やはり続きは書かれていなかった。
「結末の無い本か…」
 普通の小説や映画でも、敢えて伏線を回収せずに読者に判断を委ねて終わるものはある。そう言ったものを好む層が居るのも分かるが、梓としては答えが分からないのはどうにもモヤモヤとした気持ちが勝った。これは文房具の方に買い物を絞ろうか、と見切りが付いたところで、本棚から連れの姿を探す方へ向ける足を切り替えた。
 ――その探し人たる綾のほうは、本棚で目に留まった一冊をちょうど手にしたところだった。それは表紙に一羽の大きな蝶が描かれた分厚い本。
「へぇ、この世界の蝶々大全かぁ」
 その名も『カクリヨ蝶々大全』と銘打たれた一冊は、捲れば名に違わず様々な蝶が色鮮やかに描き納められていた。アゲハ、モルフォ、オオムラサキ。赤、青、紫、橙、黒…。その綺麗な翅が並ぶ様は、まるで宝石箱を眺めているかのようだ。そして他の本のご多分に漏れず、最後の頁には白紙が待ち受けている。図鑑に続きを、というと新しい蝶を見つけろということなのか、とも思ったが、よく見ると下に小さく“あなたの思う翅を此処に”と書かれていた。
「自分のオリジナルの蝶を描けってことかな?…なら蝶を表現するのに相応しいインクが必要だね」
「お、丁度決まったみたいだな。何にしたんだ?」
 姿を見つけて後ろからぴと、っと肩に顎を乗せひっつく梓に、綾が見えやすいように本を傾けてやれば、不思議そうに首をかしげるのが分かった。
「…蝶々の図鑑?昆虫図鑑とかじゃなくて?随分とニッチなものを選んだんだな…」
「退屈しなくていいでしょ?さ、次はこれを描き上げるためのインクを探しに行くよ」
「はいはい、仰せの儘に」
 そんな軽口をやり合いながら、今度はステンドグラスの嵌った奥の扉をくぐっていく。飴色に磨かれた棚に、所狭しと並ぶインクたち。さっき目にした蝶の翅にも劣らない色取り取りの中から、悩みながらも綾が選ぶのは赤と青、そして光沢の入った白いインク。ライティングビューローの一つを借りて、早速蝶の翅の輪郭を描いていく。内側を赤と青のインクで塗り潰していけば、境界の色が混ざり合って紫に変じていく。移ろう色へ最後に白のインクを加えて、星空のような模様を描く。最後の一つ星を記して筆を離すと、完成を察したように絵がふわりと浮き上がったように見えた。きらきら輝く鱗粉を落としながら、ひらり舞い飛ぶ蝶の幻影。二人の周囲を満足げにゆったりと飛んでからまた絵の位置に戻って翅を休める姿に、梓がヒュウ、と口笛一つ。
「ほら、梓も何か描いてみなよ。君の絵心でもきっと大丈夫だよ」
「おい、俺の絵心でもってどういう意味だ」
 噛み付いた言葉はさらりと笑顔で流され、綾に手渡されるがままにペンを握る。暫し悩んでモチーフに選んだのは大事な相棒竜、焔と零。慣れないまでも、線がガタつかないようゆっくりと、幾度も見比べながら、一生懸命に描いていく。そして出来上がった竜の絵は、ちょっぴり愛嬌のある仕上がりにはなったものの、生き生きとした様子がしっかり描きこまれていた。そしてすぐにそれを体現するように、ふわりと浮かび上がった焔と零の幻影が、今にも「キュー!」「ガウ!」と鳴き声も聞こえてきそうなほどの躍動感で動き回る。
「…おぉ、すごいなこれ…!」
 自らの手で書いたものが具現化する喜びに、梓が感動して拳を握る。綾も飛び回る竜の幻をつつきながら、興味深げに頷いて。
「他にもいっぱいあるみたいだし、まだまだ面白いもの見つかるかもね。」
「よし、ならもっと色々試して見るか。そうとなればどっちが寄り面白いもん見つけられるか勝負するか?」
 そういって挑発的に吹っ掛ける梓に、綾も楽し気に笑って応えて見せた。 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

呉羽・伊織
【花天】
ああ、本の虫には堪らない空間だ
一冊毎に色んな想いが籠っていると思えば、本当に――尚の事な
(目映いものを見る様に目を細めて書架眺め)

よし、さっきは子供扱いされた分、此処は改めて知的で大人な一面をご覧に入れ…何ソレ、ホントオレを何だと!
(然しぱらぱらと絵本の中を見てみれば、あまりの愛くるしさに戻すに戻せなくなり)
…仕方ない
現実も物語も、ちゃんと幸いな続きを紡ぐ努力をしよう…!
コラ、頼りないは余計!

あ、そしたら春はコレ――桜の下で繰り広げられる、平和な日常と不思議な輪廻の物語、とか如何?

ん、賛成!
俺は、獣の足跡を書いたらぺたぺたひとりでに動き出すインク…とか?
ってまた何その微笑ましげな目~!


永廻・春和
【花天】
はい
結末は本の数より更に数多――手に取る人の心に応じ無限に広がり行くと思うと、一層壮観で

(軽口は聞き流しつつ書架眺めれば、絵本が目に留まり)
『かめとひよこのだいぼうけん』
呉羽様――貴方様のお供さん達にそっくりでは?
それに先の道程の様に賑やかな動物さん達の冒険譚で、少々頼りなくも陽気な鴉さんが仲間になったところで途切れていて――ふふ、ぴったりかと

あら、其方も素敵ですね
輪廻の度に紡がれる関係と歴史が趣深く――色んな結末が浮かんで来そうです

後は物語の先を彩る筆とインクも頂きたいですね
私はやはり桜の香や花弁が漂う品と――他に貉様のお薦めもあれば、二人分是非にと
(また微笑ましい事を、と笑いつつ)



「――ああ、本の虫には堪らない空間だ」
 周囲をぐるりと囲う本棚。見上げるほどの高さのそれに、びっしりと本が収められた風景に、呉羽・伊織(翳・f03578)が感嘆の溜息を吐く。
「はい、これは確かにすごいですね」
 永廻・春和(春和景明・f22608)も棚を見上げながら、確りと頷いて同意を返す。
「一冊毎に色んな想いが籠っていると思えば、本当に――尚の事な」
 此処に在る本はその全てに未だピリオドがない。万人が想像すれば、結末は本の数より更に数多い――手に取る人の心に応じ無限に広がって行くのかと思うと、一層壮観さが増して映る。
「よし、さっきは子供扱いされた分、此処は改めて俺の知的で大人な一面をご覧に入れ…」
「ええ、そのような面があるといいですね。」
「何ソレ、ホントオレを何だと!」
 批難する伊織の軽口はさっくりと聞き流しつつ、手近くの書架を眺めれば春和の目に一冊の絵本が留まる。
『かめとひよこのだいぼうけん』
 タイトルも絵柄も可愛らしいのは勿論のこと、特に気になったのは扱われている動物の名前。
「呉羽様――貴方様のお供さん達にそっくりでは?」
「お、どれどれ?」
 ひょいと伊織が覗き込むと、確かに連れのひよことカメになんだか似ている気がする。それに先の迷宮での道程の様に、賑やかな動物さん達と一緒の冒険譚も中々に心つかまれるものがあった。
「ほらここ、少々頼りなくも陽気な鴉さんが仲間になったところで途切れていていますね――ふふ、ぴったりかと」
「コラ、頼りないは余計!」
 明らかに鴉に見立てて笑う春和の様子に、伊織がぷんすか怒って見せる。然し受け取った絵本をぱらぱらと見てみれば、魅惑のひよこフォルム、愛嬌あるカメの顔、そしてモフモフの嵐…と、そのあまりの愛くるしさに戻すに戻せなくなってしまい。
「…仕方ない。現実も物語も、ちゃんと幸いな続きを紡ぐ努力をしよう…!」
 ぱたん、と閉じて大事に抱え込み、決意を新たに顔を引き締めた。そして次は俺の番、とでもいうように伊織が先行して幾つか棚を巡ると、ひらりと桜の花びらが頬を掠めた。こんな室内に、と不思議に思って抓もうとしたら掴めず、やがて地面に触れる前にふわりと消える。出どころを手繰ると、其処に在ったのは表紙に桜の大樹が構える一冊の本。噂の此処のインクで描かれているのだろうか、絵だというのに絶えず桜がひらひらと舞い、時折幻として飛び出してくる。
「春はコレ――『さくら巡り』ってタイトルみたいだけど。これはどう?」
「あら、其方も素敵ですね」
 開いてみれば、中はとある桜の樹の下で繰り広げられる、平和な日常と不思議な輪廻の物語だった。いつどこの世界か、いつかまた逢う約束をしたふたりが、目印に植えた一本の桜の樹。しかし当世で再び出会うことは叶わず、ただ桜はその枝葉を伸ばすのみ。然し時代が廻るたび、よく似たふたりが同じ桜の樹の元で同じ約束を交わし、また離れていく――その繰り返しの物語。
「輪廻の度に紡がれる関係と歴史が趣深い――色んな結末が浮かんで来そうです」
 ぱらぱらと捲りながらも気に入ったようで、春和が白紙まで辿り着いたところでこれにします、と頷いた。
「後は物語の先を彩る筆とインクも頂きたいですね」
「ん、賛成!」
「私はやはり桜の香や花弁が漂う品と――他に貉様のお薦めもあれば、二人分是非に」
「いいね!俺は、獣の足跡を書いたらぺたぺたひとりでに動き出すインク…とか?」
 子供扱いを嫌がる割には、またそうやって微笑ましい事を言い出すので、つい春和が目元を和ませて視線を送ってしまう。
「ってまた何その微笑ましげな目~!」
 そのことに伊織が再度不服そうに唇をへの字に曲げるが、それもまた微笑ましさが増すばかりで、最後にはふふ、と笑い声が溢れてしまった。

 因みにその後、貉の店主に尋ねて手に入れたそれぞれのオススメは、春和には桜に因んだ品に合うよう、綴れば柔らかな春風を運ぶ萌黄色のガラスペンを。そして伊織には、動物の本に足跡のインクなら次はこれでしょう、と書いた動物の名前をなぞるとその鳴き声が聞こえる万年筆が勧められて――またも春和の笑い声と伊織の非難がこもった悲鳴が聞こえたとかなんとか。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ライラック・エアルオウルズ
締切間際、洋墨の詰まるときとか
逃避すべく、僕も献本したくあるが

それでも、惜しく思ってしまうな
綴り手にとって、物語の終わりとは
いっとう、美味な御馳走であるのに

――本当に頂いても良いの、先生?
遠慮がちに問えど栞は是非と紡ぐよう
であれば、絵本ひとつ頂くとしようか

貴方の物語を愛する読者にと
終わりを委ねたくあったのなら
相手が作家では、不服やもだし
せめて、素敵な洋墨を選ばねば

黄金の白日、井戸の蜂蜜
きらきら煌めくおほしさま
試しと綴れば、魔法めいて

ああ、然して、頁捲れば
矢張り、僕には荷が重い
栞に倣うよに、ひとつ綴る
辿るたびに広がるように

『I'll leave it to your imagination.』



 ――1、2、靴紐結び、3、4、ドアをノック。
 本で埋め尽くされた店内で、ライラック・エアルオウルズ(机上の友人・f01246)が数え歌を口すさぶ。ひとつひとつ背表紙を目でなぞりながら、箔押しされたタイトルの秀逸さに、小さく書き込まれた花の愛らしさに、柔らかな笑みを贈る。しかし、そのどれもに未だ結末がないのかと思うと、如何にもふわふわとした妙な気分がぬぐえない。ライラックとて筆を取り物語を綴る身。懐中時計が告げる締切間際だとか、旅路の路銀が尽きてつい洋墨の詰まるときとか。それら全てから逃避すべく、“ただの長い尻尾だ!”と言い訳して献本したくなるときは、ままある。その心地を知っていて、それでも、空白の頁を見ると惜しく思ってしまうのだ。至るまでの道のりが苦しくとも、綴り手にとって物語の終わりとは――いっとう美味な、御馳走であるのに。
(本当に頂いても良いの、先生?)
 本棚に尋ねても、帰ってくる返事は無い。然して手にした栞ばかりは雄弁に、“That`s at your discretion.”と語り掛ける。であればここはひとつ、道に導かれるのも一興かと、目に留まった絵本を手に取りぱらりと捲った。

――夜を失くして誰もが眠れなくなった国で、たった一人眠り続ける少女。
やがて彼女の夢が溢れ出したかのか、国では奇妙な出来事が起こり始める。
綿菓子の雲、虹色の橋、降りしきる飴、増え続ける羊。
やがて国王様は、少女の眠りを覚まそうと――ここで、物語は白紙を迎える。

 描かれた人々はみな優しげで、楽しくも悲しくも綴れそうな物語の切り口。もしこの終わりを物語を愛する読者に委ねたくあったのなら、同業たる作家の筆では不服かもしれない。ならばせめて、素敵な洋墨を選んでとりなそう。そう思い立てば、足が自然とステンドグラスの扉の奥へと向かう。部屋の半分を埋める飴色の棚には、所狭しとインク瓶が並ぶ。女王の赤に薔薇の白、紅茶のオレンジ。どれにも指は誘われるけれど、ライラックが手にしたのはひときわ輝く金の瓶。それはまるで黄金の白日、井戸の蜂蜜、それとも――きらきら煌めくおほしさま?試しに綴れば魔法めいて、蕩けたバターの色をした文字がパタパタと羽搏きだす。これならきっと喜ばれるだろうと、常の万年筆を浸すものの、ああ、然して、頁を捲れば手が動かない。
(矢張り、僕には荷が重い)
 少女に目覚めを、夜の国に朝を、それとも――皆にしあわせな醒めない眠りを?そのどれもが選べない。だから、視線がとらえた栞に倣うように、ライラックが綴る言葉はひとつだけ。辿るたびに広がるように、何度でも夢と遊べるように、願いを込めて。

――『I'll leave it to your imagination.』

大成功 🔵​🔵​🔵​

鳥栖・エンデ
貉の店主さんが無事で良かったなぁ
色々思うところはあるだろうけれど
物語の締め方はこうでなくっちゃ

ドラゴンランスのニールと開放された店内を回る
内装も中々素敵な本屋さんのようだね
未だ結末のない物語を眺めるのも良いけれど…
今回は珍しい体験もさせて貰った事だし
ステンドグラスの扉の先へ

道中の魔法みたいな冒険が結構楽しかったんだ
ニールに試し書きの光景を幾つか見せつつ
店主さんを見かけたら、
ひとつオススメのものを聞かせて貰おう
夜とか星とかが割と好きでねぇ
貴方の見せてくれた物語と一緒に、
この思い出も綴っておこうかと



「店主さんが無事で良かったなぁ」
 ゆらゆらと尻尾を揺らしながら、店の中を歩き回る貉妖怪の姿を見て、鳥栖・エンデ(悪喰・f27131)がぽつりと零す。結局あの戦いを経ても、想う人がよみがえったわけではなく、本の結末もまだ書かれてはいない。きっとこれからも色々と思うところはあるだろう。けれどやはり、“店主も本もお店も、みんな無事に助けることができました”、と――物語の締め方はこうでなくっちゃ。そう微笑んで、エンデが店へと足を進める。
 戦いには槍の姿で同行していたニールも、今は小さなドラゴンの姿を取ってエンデに寄り添い、解放された店内を共に回っていた。鉱石のランプに、大きさの異なる本を見やすく配置した圧巻の本棚、そして奥に見えるステンドグラスと内装も中々に美しく、ふらりと歩くだけでも楽しめた。
「未だ結末のない物語を眺めるのも良いけれど…今回は珍しい体験もさせて貰った事だし」
 いくつか本棚を覗き込みはしたけれど、先ほどの回廊での奇跡がまだ目に焼き付いているのか、やはり気になるのは書き道具の方で。良い人に会えるといいね、と言葉を贈って自らはステンドグラスの扉の奥へと踏み入った。
 飴色に磨かれた棚の中、所狭しと並ぶインクたちはきらきらと賑やかで、ひとつ試しに手を取ると。
「道中の魔法みたいな冒険が結構楽しかったんだ。…こんなふうに」
 さらりと書くはちみつ色のインク文字は、まるで蜜蜂になったかのように軽やかに宙を舞って甘い香りを漂わせる。つい追いかけたニールがそのうちの一文字をぱくりと頬張るものの、幻とあっては味もなく腹にもたまらず、きょとんとするものだからついエンデがふふ、と声を漏らして笑った。すると重なって笑い声が聞こえたので振り向くと、ちょうど本棚のスペースからこちらへと移動してきた店主の姿があった。丁度いい、何かオススメを、と尋ねるとまかせてよ、と頷かれる。
「何か好きなものとかはあるかい?」
「そう、夜とか星とかが割と好きでねぇ」
「夜と星かぁ…それならこんな組み合わせはどうかな?」
 そういって慣れた様子で棚から取り出してきたのは、黒い紙と藍色の万年筆。見ててね、と言ってその紙に文字を書いていくのだが、あいにくとインクも黒いらしく何を書いてるかさっぱりわからない。不思議に思って尋ねようとしたら、店主がにこりと笑って淡く光る星型の石のついた万年筆の先端をつい、と振った。――すると、突然天井が夜空の様に暗くなり、そこから星屑のような光がきらきらと零れだした。それに合わせる様に真っ黒だった文字も光を帯びて、“ありがとう”と書かれた言葉が読めた。
「素敵だねぇ。」
「気に入ってくれた?」
「うん、せっかくだから貴方の見せてくれた物語と一緒に、この思い出も綴っておこうかと」
「それは、光栄だなぁ。書けたら見せてくれるかい?」
「いいよ。でもそうだね、君の物語の結末と交換になるかな」
 そう言ってエンデがくすりと笑ってみせれば、店主がそりゃあ頑張らなきゃ、と耳をピコピコ震わせた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

朱赫七・カムイ
⛩神櫻

サヨ
向こうで綺麗なインクをみつけたよ
桜縁色―桜色から赤い絲の紅に変わる―サヨ?
その本は?

途中で途絶えた物語
未完成の其れは自由だ
どんな未来でも描ける自由
そして―忘却こそが死ともいえる神と似ていると感じた

世界に遺る
未完成のよすがに如何なる路を綴ろうか

巫女が語る物語
ひとりきりの神の、其れは―『私』?
思わず手に取る本の、桜模様に紛れるように
掠れた文字で記された作者は

『イザナイカグラ』

君が―『私』を遺していてくれたのか

御魂から溢れるような
この想いをなんと記せばよいのだろう

サヨ
この物語に結びはない
ひとつ結んで
新たな路が解かれた

笑っているよ
この神は最愛を得て倖を咲かせて
今もずっと

共に綴ろう
私達の物語を


誘名・櫻宵
🌸神櫻

新たな路を結ぶに相応しい素敵なインク
咲き誇る桜模様に咲み

本の名前は『桜の社へ』
桜表紙の本を手に取りみせる
作者名もない
いつの間にかそこにあるかの様な

昔々あるところにひとりぼっちの神様がいました…から始まる
災いを齎す、誰からも見向きもされないひとりぼっちの神様
人を慈しむ心を識る誰よりも優しい神様の物語
意図的に完結させられてないよう

…明言されて居なくとも重なる私の神様の
たったひとりの師の姿

目の前にいる、彼

カムイ
あなたは如何なる物語を結ぶ?

そうね
この物語に結びはない
きっと神様は孤独ではなくなって
今も笑ってくれている

一体
誰が書き遺したのかしら

カムイ
一緒に―続きを綴っていきましょう
之は私達の物語よ



「サヨ、向こうで綺麗なインクをみつけたよ」
 ステンドグラスの扉の向こうから、一枚の紙を手に朱赫七・カムイ(約倖ノ赫・f30062)が笑みを浮かべて歩み寄ってくる。その様子があんまりにも嬉しそうなもので、本棚を前に待っている誘名・櫻宵(爛漫咲櫻・f02768)も思わず顔がほころんでしまう。どんなものかしらと尋ねれば、差し出された紙の中では絶えず桜吹雪が舞っていた。桜縁色――桜色から赤い絲の紅へと廻り変わりながら。
「新たな路を結ぶに相応しい、素敵なインクね。」
 常春の世と咲き続ける桜模様に、向ける笑みもまた咲み誇るようだった。またひとつ巫女の顔に笑みを燈せたと喜ぶ神が、ふとその手に抱えられた一冊に気が付く。
「…サヨ?その本は?」
 問われてそっと、桜表紙の美しい本を傾けて見せた。作者名もない、ただいつの間にかそこにあるかの様な佇まいに、思わず手に取ってしまった一冊。本の名前は――『桜の社へ』。その表題に、どこか胸の掴まれる思いがした。ここにあるのは途中で途絶えた物語ばかり。未完成の其れはある意味自由だといえる。空を飛び海を渡り世界を越えていく、どんな未来でも描ける自由。そして――忘却こそが死ともいえる神とも似ていると感じた。
「世界に遺る未完成のよすがに、如何なる路を綴ろうか」
「そうね、まずは――この物語のはじまりを、紐解いてみましょう」
 カムイの笑みに僅かに混じった寂寥を晴らすかのように、櫻宵がそう言ってはらりと最初の頁を捲り、朗々と言の葉を読み上げる。

――昔々あるところにひとりぼっちの神様がいました
災いを齎す、誰からも見向きもされないひとりぼっちの神様
だけど人を慈しみ、心を識る、誰よりも優しい神様
いつかその神様のもとに、愛する誰かが訪れる日は――

 …そこでぱたりと途絶えた筆跡は、意図的に完結させられてないようだった。ひとりぼっちの神様、誰よりも優しい神様。明言されて居なくとも重なるのは櫻宵にとっての神様であり、たったひとりの師であり――目の前にいる、彼の姿。
「一体、誰が書き遺したのかしら」
 読み終えゆるりと頁を閉じるのを見て、カムイが思わず本を手に取り、何事かを探す。そして見つけた、桜模様に紛れるように掠れた文字で記された、作者の名は。

『イザナイカグラ』

――それは、かつての竜神であり、今や千の時を越えて世を見守る桜となった、友の名。今世で櫻宵と出会う軌跡を歩ませてくれた、懐かしくも愛おしい名。
(君が――『私』を遺していてくれたのか)
 御魂から溢れるような、この想いをなんと記せばよいのだろう。和歌を手に人に想いを馳せた日々は、桜の女神との祝言を見守ったあの日は、もう遥かに遠い。それでも時を越えて、縁を越えて、こうして――『私』を、待っていてくれた。いつか届く日が来ると信じて、標してくれていた。
「カムイ、あなたは如何なる物語を結ぶ?」
 溢れそうになる涙を押し留め、巫女に問われた神が告げる。
「サヨ、この物語に結びはない。ひとつ結んで、新たな路が解かれた」
「そうね、この物語に結びはない。きっと神様は孤独ではなくなって、今も笑ってくれている」
 だって、そうでしょう?と、迎え入れる様に腕を伸ばし、カムイの顔を櫻宵の白い手が包み込む。その温かさに思わず流れた涙を受け止めながら、浮かぶ満面の笑みを言祝ぐように。
「笑っているよ。この神は最愛を得て倖を咲かせて、今もずっと」
 額を寄せて、目を閉じる。触れて伝わる熱が、こんなにもしあわせで、いとおしい。感謝を、幸せを、幾ら伝え願っても足りないくらいに。けれどきっと、焦らずとも良いのだろう。なぜなら。
「カムイ、一緒に続きを綴っていきましょう。之は私達の物語よ」
「ああ、共に綴ろう、私達の物語を」
 桜の縁に導かれ、重ね巡りて出会った今世は――この物語は、きっと永く続いていくのだから。


――くれなゐの 初花染めの 色深く 思いし心 我忘れめや。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

音海・心結
零時(f00283)と
アドリブ歓迎

きっと、みんなの聲が響いたんですねっ
無事でよかったのです

やはり魔術関係
出来れば魔法戦士の本とかアイテムとか気になりますねぇ
とはいえ、どんな物かは検討もつきませんが……
それより、零時は?

零時の宝石を一つ手に取り、辺りをぐるりと見渡して

……んむ
あそこ見てください
零時の宝石が一際強く輝いた気がします
魔術書がありそうな予感

高く聳え立つ本棚の上の上
しかも、その奥に
分厚い本が見えた気がした

みゆの分も買ってくれるのですか?
魔術習得はしてみたいですが、
今のところ魔力は未知数ですからねぇ
零時のお目のかかったものなら、きっとすごいはずっ
……できれば、かわゆいのでお願いしますよっ


兎乃・零時
心結(f04636)と!
アドリブ歓迎

いやー、無事助けれてよかった!

この本屋で色々見れるのか…何が有るかな
心結は何か気になったのとか有る?

俺様はやっぱ魔導書が欲しいな!
あるかな?あるならあるだけ全部欲しいんだが…書きかけでも良いんだぞ!
本物がありそうな予感がするし…お金はあるぞ!(宝石をどさっと用意(取引))
水や光は有るからそれ以外の属性の魔導書を…!

其れに本…ペン、魔導書に描きこむようのペンとかも欲しいな、専用の、なんかないか?

心結の魔術習得に役立たせるってんなら……こう、魔力をチャージさせて魔力をインクみたくして描ける筆とかペンも欲しいしな…
折角なら心結に渡したいんだけど…可愛いのとか有る?



「いやー、無事助けれてよかった!」
「きっと、みんなの聲が響いたんですねっ。無事でよかったのです」
 冒険もひと段落、大きな損傷もなく美しい店内と、ぴこぴこ尻尾を揺らして接客にいそしむ貉妖怪の姿を見て、兎乃・零時(其は断崖を駆けあがるもの・f00283)と音海・心結(瞳に移るは・f04636)が笑い合う。一時はどうなるかと思ったけれど、無事“めでたしめでたし”を迎えられたとあって、どこか誇らしい気持ちになる。さて、冒険が済んだとなれば今度はお店の方を楽しみたいところ。くるっと軽く店内を確認してから、零時が問いかける。
「心結は何か気になったのとか有る?」
「うーんここはやはり魔術関係、出来れば魔法戦士の本とかアイテムとか気になりますねぇ。とはいえ、どんな物かは検討もつきませんが……それより、零時は?」
「俺様はやっぱ魔導書が欲しいな!」
 当然、と言わんばかりの返答にですよね!と微笑んで心結が頷けば、ちょうど近くを通りかかった店主を零時が捕まえて。
「なぁ店主さん、魔導書ってあるかな?あるならあるだけ全部欲しいんだが…書きかけでも良いんだぞ!ここなら本物がありそうな予感がするし…お金はあるぞ!」
 真剣を通り越して必死さすら感じる質問と、袋に詰められた宝石をドッサァ!と広げられて店主がわたわたと泡を食った。
「あ、わわ、魔導書なら確か何年か前にとある魔女から譲り受けたシリーズが何冊かはあったはずだけど…おお、お代はそんなにいらないよぅ!?」
「あるんだな!しかもシリーズだって…!?どこに!何冊くらい!?」
「ええ、まままって今思い出すから…!」
 そんな興奮気味の零時と慌てて思考の儘ならない店主の間をひょいと縫って、心結が袋の中から宝石を一つ手に取る。辺りをぐるりと見渡して、あちらこちらへと向けていると、高く聳え立つ本棚の上の上、しかもさらにその奥に、分厚い本が見えた気がした。それに合わせる様に石を向けると、先ほどよりひときわきらめきが増した。
「……んむ、あそこ見てください。零時の宝石が一際強く輝いた気がします」
「本当か!?」
 今にもダダダ!と駆け出しそうな勢いだったが、一応本屋ということでなんとか競歩レベルに留め、その宝石が反応したという場所に向かう。
「『エルスタル・ヴォベの魔術書』…ああこれだねぇ。」
「あったー!!」
「ふふ、よかったですねぇ零時」
「ああ!水や光は有るからそれ以外の属性の魔導書を…!」
「うーん…僕はあんまり魔術に詳しくないんだけど、表紙から推察するに…この辺かな?」
 取り出したのは触れるとざらざらとした岩肌まで模された、大きく隆起した岩が描かれたものと、大樹からひらひらと葉が落ちる幻の施されたもの、その二冊だ。多少禍々しい気がしないでもないが、魔力らしきものは確かに感じられる。
「よし…これは本物っぽいぞ…どっちも買わせてもらうな!それとせっかくだから、魔導書に描きこむようのペンとかも欲しいな、専用の、なんかないか?」
「ヴォべの本なら確か開くと立派な梟の羽ペンが現れるはずだよ。」
「えっ…うわっホントだ!」
 言われた通り表紙を開くと、ポンッと音を立てて大きな羽ペンが現れた。一枚羽根ではなく、まるで翼そのものを模したような造りのペンは、握ると驚くほどよく手になじんだ。
「よーしそれじゃあ今度は心結のぶんだな。魔導書もだけど、魔術習得に役立たせる……こう、魔力をチャージさせて魔力をインクみたくして描ける筆とかペンが欲しいな…」
「みゆの分も買ってくれるのですか?」
「もっちろん!興味はあるんだろ?」
「魔術習得はしてみたいですが、今のところ魔力は未知数ですからねぇ。でも零時のお目に叶ったものなら、きっとすごいはずっ。」
 それなら是非とも欲しい、と目を輝かせる心結にまかせろと言わんばかりに胸を張って、張り切って零時が切り返す。
「店主さん、どうかな?ありそう?」
「えっと、“書く人によって色が変わるインクの要らない羽ペン”ならあったはずなんだけど、もしかしたらそれが君の欲しいものかもしれないね。」
「よし、じゃあそれから見てみよう!」
「……できれば、かわゆいのでお願いしますよっ」
「確か白い羽ペンだったはずだから、好きな色に染めてみるのもいいかもよ?」
「なるほど、それは面白そうですっ」
 そうして暫くわいわいと話してから新たな出会いを求め、ステンドグラスの扉をふたりが楽し気にくぐっていった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

城島・冬青
【橙翠】

本の続きが書けるんですね
さっき虹の橋とお天気飴を出したみたいな感じかな

アヤネさんの描くお話はロマンティックだなぁ
…そうですね
だからこそ人は理想の結末を夢見て物語を綴るんでしょう
まぁ悲劇とか惨劇をあえて書く人もいますけど
…私の父とか

棚から絵本を手に取る
森で迷子になった兄妹のお話だ
狼に襲われそうになったり
彷徨う騎士の亡霊に遭遇したり
でも途中で終わってる
よしよし、私がお家に帰してあげますね
檜の香りがする緑のインクを手に取り
白の羽ペンでサラッと

森の王である巨大フクロウが現れ
兄妹を乗せて大空を舞う
2人は笑顔で帰路へ

うん
いい感じですね
フクロウもふわふわもふもふですよ
このまま空の旅を堪能しましょう


アヤネ・ラグランジェ
【橙翠】
続きを綴るのか
悲しみを希望に変える話にしたい

黒の国の王子と白の国の王女の恋物語
悲恋に終わりそうな話に書き加える
二国の間にある湖の孤島に灰色の城を造り
二人はそこで夫婦になりましためでたしめでたし
文章だけでは物足りないので
良い具合に映像を描ける文具を探そう

白と黒が溶け合うように

亡くなった父母を思い出しながら
現実の悲しい結末も書き換えられればいいのにネ
なんて湿っぽい事を言って笑って誤魔化す

理想なのかな
(僕はまだあきらめていないけど)
口には出さないでおこう

ソヨゴの書く話はファンタジーだネ
とても楽しそうで
兄妹の仲が良いあたりがソヨゴらしい
と微笑み
そのフクロウもふもふしていていい香りまでする



「本の続きが書けるんですね、ここ」
 ぐるりと周囲を取り囲むような本棚の中、城島・冬青(六百六十九番目の宿木・f00669)が手近な本を取ってはぱらり、白紙まで捲っては戻しを繰り返す。
「さっき虹の橋とお天気飴を出したみたいな感じかな」
「そうだといいネ。僕は続きを綴るのなら、悲しみを希望に変える話にしたい」
 一緒に店内を巡るアヤネ・ラグランジェ(十二の結び目を解き放つ者・f00432)も、気になったものを端から眺めては戻し、4回目でようやくこれという一冊を見つけた。『黒白の国物語』と銘打たれたそれを手に取って冬青に見せると、こっちも丁度見つけました、と『かえりみちを探して』と書かれた一冊の絵本を同じように向けられた。お互いに本が見つかったのなら、次は書くための道具を探しに、ステンドグラスの扉の方へと向かう。
 書き道具部屋の、並んだインク瓶がキラキラと輝く様子は美しく、好奇心を刺激された冬青は早速と棚の方へと誘われていく。その背中を見送りつつ、アヤネが先に向かったのはライティングビューロー。まずは話の流れを決めようと、本を開いて改めて物語を確認する。書かれていたそれは、黒の国の王子と白の国の王女の恋物語。国の諍いに阻まれて悲恋に終わりそうな話に、筆を以て幸せなピリオドを書き加える。

“二国の間にある湖の孤島に灰色の城を造り、二人はそこで夫婦になりました”

「めでたしめでたし…と」
 物語の方向は決まったが、文章だけでは物足りないのであとで良い具合に映像を描ける文具を探そう、と一先ず作業に区切りをつけた所で、肩口からひょっこり冬青の顔が覗き込んだ。
「アヤネさんの描くお話はロマンティックだなぁ」
「そうかな?まぁ、現実の悲しい結末もこうやって書き換えられればいいのにネ」
 なんて、と言いながらもその言葉に混ざる僅かな寂しさは、亡くなった父母を思い出したからだろうか。あはは、と笑って誤魔化すアヤネの様子に、冬青が苦笑を浮かべた。
「…そうですね。だからこそ人は理想の結末を夢見て物語を綴るんでしょう。まぁ悲劇とか惨劇をあえて書く人もいますけど…私の父とか」
 何を思い出したのか、ふ、と一瞬遠い目をした冬青の頭を笑って撫でつつ、理想なのかなと首を傾げたアヤネは。
(――僕はまだ、あきらめていないけど)
 そう思いながらも、口には出さずに飲み込んだ。
 一方冬青が選んだ絵本は、森で迷子になった兄妹のお話だった。狼に襲われそうになったり、彷徨う騎士の亡霊に遭遇したり。何かと不運に見舞われて、無事に帰りつけるのか不安を残したところで終わっている。――それなら。
「よしよし、私がお家に帰してあげますね」
 この物語に似合うのは、と冬青が棚から探し出してきたのは檜の香りがする緑のインク。そして幻をちょっとの間だけ具現化できる白の羽ペンでサラッと続きを書き込んだ。

“迷うふたりの目の前に 森の王である巨大なフクロウが現れました
 その大きな翼に兄妹を乗せて 王はゆったりと大空を舞います
 そしてふたりは笑顔で家路へと着くのでした”

「うん、いい感じですね」
「ソヨゴの書く話はファンタジーだネ。とても楽しそう」
 特に兄妹の仲が良いあたりがソヨゴらしい、と読みながらアヤネが微笑みを浮かべる。
「えへへ、照れますね。あ、それと…ほら」
 と、声をかけた所で丁度“フクロウ”の文字が膨らんで――ぽふんっ、と柔らかそうな文字通りの梟が現れた。絵本とあってか実物よりかなり大きく、さらにちょっぴり可愛くデフォルメされているが、その分やわらかそうな見た目をしている。
「フクロウもふわふわもふもふですよ」
「本当、もふもふしていていい香りまでする」
 撫でると満更でもなさそうにクルクル鳴いて撫でられるのがあいらしく、インクのおかげか檜の香りも心地よい。そしてひとしきり撫でられてからくるりと背を向けて翼を広げるので、意を察した冬青が周囲の人影が少ないのを確認して――。
「…このままちょっと、空の旅を堪能しましょうか」
 ね?と悪戯っぽくニッと笑って手を伸ばす。その様子があんまりにも楽しそうなもので、アヤネもつられるように笑って――その手をしっかりとつかんでいた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

唄夜舞・なつめ
【蛇十雉】

これまた
ひれー店だなァ…
お、店長さんよ!さっきより
いい顔つきになったじゃねェの!
クク、そっちのほーが男前だぜ

ン、なんだよときじ
お互いに本と筆記用具を…?
おー、いいぜ!
ぴったりの、探してきてやるよ!

…ン、決めた。この本とォ…
花が好きって言ってたなァ
それじゃ、コレかな。

『ジキルとハイドの一生』
と書かれた本と
花柄の幻想現る万年筆を持って
ときじの元へ

選んできたぞォ…って
まだ悩んでンのか?
…いーよ、ゆっくりで
俺のために時間
さいて選んでくれンだろ?
だったら幾らでも待っててやるよ
クク、俺が驚く本…?
そりゃあ楽しみだァ
(ケラケラ笑いながら後ろを向き)

おー、そうだな
約束だァ。


宵雛花・十雉
【蛇十雉】

店内の壁面に収められた本たちに
思わずぽかんと口を開けて魅入って
ぽん太さんの視線に気が付けば慌てて口を閉じるよ
あんなことがあったから落ち込んでるんじゃないかって心配だったけど
思ったより元気そうでよかった

せっかくだからさ
お互いに本とペンを選ぼうよ
それじゃあまた後で集合ね

なつめ、あんまり本読まないって言ってたっけ
最初は文字が少なくて読みやすいのがいいかな?
小説より絵本がいいかなぁ
…え、もう決まったの!?
ちょっと待って、もう少しだから
ビックリさせたいから向こう見てて

うん、決めた
『ダカーポのぼうけん』
男の子と白い竜の絵本と
ほんのり甘い香りのする苺色の万年筆

結末を書いたらまた見せ合おうね
約束だよ



「これまたひれー店だなァ…」
 先の迷宮程とはいかないまでも、十分に広さとゆとりを持った店内。その高さをはかる様に、唄夜舞・なつめ(夏の忘霊・f28619)が目上に手を当てつつぐるりと見まわす。天井は見えるものの、ビルに例えるなら優に3階以上はありそうな壁面全てに収められた本。読書好きには圧巻ともいえる風景に、宵雛花・十雉(奇々傀々・f23050)も思わずぽかんと口を開けて魅入っていた。そこにかけられるのは、聞き覚えのある気弱げだが優しそうな声。
「いらっしゃい、お店は気にいってくれたかなぁ?」
「お、店長さんよ!さっきよりいい顔つきになったじゃねェの!」
 なつめの声で貉の店主――ぽん太の存在に気が付いて、十雉が慌てて口を閉じる。改めて顔を見れば疲労の色は少し浮かんでいるけれど、表情自体は晴れやかで。あんなことがあった後では落ち込んでるんじゃないか、と心配していたけれど、どうにも杞憂で済んだようだ。
「思ったより元気そうでよかった」
「おかげさまでねぇ。思うことが無いじゃないけど、でもきっと、これでよかったんだって思うよ、今は」
「クク、そっちのほーが男前だぜ」
 褒める言葉には照れるなぁ、とぴこぴこ耳を動かして応えた。そしてゆっくり楽しんでね、と手を振ってぽん太がまた別のお客の元へ去っていく。その背を見送ってから、ふと思い立ったような顔をして連れに呼びかける。
「ねぇなつめ?」
「ン、なんだよときじ」
「せっかくだからさ、お互いに本とペンを選ぼうよ」
「お互いに……?おー、いいぜ!ぴったりの、探してきてやるよ!」
「それじゃあまた後で、ここに集合ね」
 大体の時間と場所を決めて、お互いに顔を見合わせれば、そこに浮かぶのはどちらも好奇と――とっておきを見つけてやろう、という気概。焦りは見せず、けどちょっぴり足早に、思い思いの場所へと向かっていった。
 なつめが先に手を付けたのは書き道具の部屋。ステンドグラスの扉の奥へと踏み入り、インク瓶や羽ペンを手に取っては試していく。猫の足跡がひとりでに歩きだしたり、きらきらと星明りが零れたりと、どれも面白いが決め手には欠ける。
「そういや花が好きって言ってたなァ。それじゃ、コレかな」
 思い出した好みを指針に、最後に手を取ったのは桜色の万年筆。さらりと綴れば、真っ白な紙があっという間に花畑の様に変わった。このペンならきっと気に入るだろうと、手元に残して次は本へ。この冊数から探すのは中々気合が居るな、と取り掛かったが、目に留まるものは意外とすぐに見つかった。
「『ジキルとハイドの一生』ね……よし、コレにすっか」
 名前自体は二重人格の人間を書いた聞き覚えのある小説だが、著者が違うので恐らくオリジナルの要素も入っているのだろう。ひとまずどちらも決め終わってから、書架を二つほど超えた所で渡す相手の姿がみえた。当の見つけられた十雉のほうは、まだまだ品定めが進まず、本の山を前にぐるぐると考え事の最中で。
(――なつめ、あんまり本読まないって言ってたっけ。)
「ときじ、選んできたぞォ」
(最初は文字が少なくて読みやすいのがいいかな?小説より絵本がいいかなぁ)
「……って、まだ悩んでンのか?おーい?」
「……えっ、なつめいつの間に…というかもう決まったの!?ちょっと待って、こっちももう少しだから」
「…いーよ、ゆっくりで。俺のために時間さいて選んでくれンだろ?だったら幾らでも待っててやるよ」
「うん、ありがと…あ、でもビックリさせたいから向こう見てて」
「クク、俺が驚く本…?そりゃあ楽しみだァ」
 ケラケラ笑いながら後ろを向く姿に、絶対に驚かせてやろうと十雉がきゅっと唇を結ぶ。そして絞っていた候補の中から、ひらひらと横で揺れる白い尻尾を見て――
「うん、決めた」
 手に取ったのは『ダカーポのぼうけん』と書かれた一冊の絵本。水彩の優しい絵柄で男の子と白い竜の出会いと冒険が描かれたそれは、読みやすくてなつめにも似合うだろうと思えた。そこに添えるペンは、ほんのり甘い香りのする苺色の万年筆。きっとこの前贈ったカバーにも似合いだと、尻尾と一緒に揺れる苺色のポンポンに微笑みながら、なつめの肩を叩く。
「おまたせ、決めたよ」
「おー、それじゃ会計済ませたら、お互いお披露目といくかァ」
「そうだね。それと結末を書いたら、その時もまた見せ合おうね」
 約束だよ、と微笑んで、十雉が小指を差し出す。
「おー、そうだな。約束だァ。」
 なつめもまた返すように笑みを浮かべ――楽しみにしてる、と言葉を重ねて、指切りをした。

========================


それぞれがさまざまに、想い馳せる書架の一日。
店を後にする皆の道行きこそが、未だピリヲドなき物語の最中。

いつかまた、綴った話を聞かせてくれる日を夢に見て。

「またのご来店を、お待ちしてますよぅ。」

――【closed】

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2021年01月29日
宿敵 『虚ろな人形』 を撃破!


挿絵イラスト