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食べまくれチキンレース！

作者：平岡祐樹

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　カクリヨファンタズム。
　常に世界の終わりに瀕している、不安定な世界である。
　その原因は様々だが、大体2つくらいに分けることが出来る。何かが「消える」か「異常に増える」かのどちらかである。
「で……本日ですが、大量の鶏が町中に放たれて住民を攻撃したり、食べ物を摘んだり、糞害を起こしたりと大騒ぎになっているそうです」
　ルウ・アイゼルネ（マイペースな仲介役・f11945）はそう、集まった猟兵達を前にして告げる。
　その背後には商店街の大通りを埋め尽くす白い塊達が大量に右往左往する様子が現在進行形で映し出されていた。
「ただ、珍しいことに幽世蝶だったり、悪事を働く骸魂やオブリビオンだったりが確認されていません。本当に、どこからともなく鶏が大量に現れた……といった感じです」
　しかし古のUDCアースから引っ越してきた者達が集うカクリヨファンタズム。
『ゴケッ』
　骸魂の妨害がない故に妖怪達は、防戦一方どころか逆に反撃して首を捻って血抜きをして後で何にして食べようか、とワクワクと舌舐めずりをしているそうだ。
　だが全部を狩り尽くせたとしても住民達は腐る前に食べ切れない可能性が高い。それだけの鶏達がカクリヨファンタズムを埋め尽くしているのだ。
「住民総出でも狩り切れない量の鶏達がまだ彷徨いています。そこで、今回は皆様にも狩猟と調理と消費の手伝いをしに行っていただこうかな、と」
　どの分野でも良いから、とにかく人手が必要なのである。アポカリプスヘルと違い、どれだけ武器や食材、調理器具を持ち込んでもカクリヨファンタズムでは何も起きないため、制約は無いに等しい。
　まさしく「やりたい放題」が許される案件である。
「カタストロフによって呼び込まれただけで、食べることで体に害が起こるわけではないそうですので、遠慮なく召し上がってきてください。それでは、また救いにいきましょうか！」

第1章 日常 『カクリヨファンタズムのクリスマス』

POW   :    カタストロフを力ずくで解決して、妖怪達とクリスマスパーティーを楽しむ SPD   :    カタストロフから妖怪達を救出して、クリスマスパーティーを楽しむ WIZ   :    カタストロフの解決方歩を考えたり、クリスマスパーティーの企画や準備をする 👑5 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

「へー、こんなことも有るんだぁ」
　甘露島・てこの（豊饒の使徒・甘・f24503）が訪れた瞬間に足元を埋め尽くす鶏の群れに驚く一方で、艶守・娃羽（豊饒の使徒・娃・f22781）は若干引いていた。
　なぜならお嬢様育ちの彼女に鶏小屋に入った経験などあるわけがなく、ひっきりなしに足を突かれたり飛びかかられたりすることもこれまでの人生で一度も経験しなかったからだ。
「……初めて来ましたけど、凄い世界ですわね」
「でも或る意味では、とても有難い状況ですねぇ」
　夢ヶ枝・るこる（豊饒の使徒・夢・f10980）が鶏を踏んづけないように気をつけながらも娃羽の隣に着く。
　動く度に揺れる胸と、るこるとその他同行者達の普段の食生活を思い返した娃羽は苦々しい表情を浮かべつつも頷き、後ろを振り返った。
「まあ、有難いのはその通りですかしら？」
　娃羽の予想通り、視線の先にいた鞠丘・麻陽（豊饒の使徒・陽・f13598）と鞠丘・月麻（豊饒の使徒・月・f13599）はニッコニコの笑顔を浮かべていた。
「鶏料理、良いですよね」
「沢山の鶏、美味しそうなんだよ。楽しみなんだよ」
「鶏肉、楽しみだねぇ」
「楽しみです」
　鞠丘姉妹の期待に同調し、てこのも頷く。そんな中で最後に歩み寄ってきた豊雛院・叶葉（豊饒の使徒・叶・f05905）は手を合わせるとるこるに視線を向けた。
「ではるこる様、今回の流れの説明を」
「はい。流れとしては『お腹を空かせる意味も兼ねて捕縛の手伝い』から『お料理をいただく』で良さそうですかねぇ？」
「うん、了解なんだよ」
「了解しました」
「了解したよぉ」
「了解しましたわ」
「了解に御座います。まずは捕獲に御座いますね」
「まずは頑張って捕まえればいいんだねぇ？」
　そう言っててこのは手始めに足元にいる鶏を捕まえようとする。しかし掴まれた鶏は腕の中で大暴れすると、てこのの胸を蹴って逃げ出してしまった。
「うう……痛いし服も汚れちゃったよぉ……」
　てこのが捕まえに来たことで警戒したのか、鶏達が一斉に6人の周りから離れていく。だがそれを逃さぬべく、叶葉は僕に祈った。
「しろみつさん、しろあんさん。お願いいたします」
「任された」
　どこからともなく現れた翼の生えたシロイルカと乳白色の鴉が先回りし、逃げ出そうとする鶏達の行方を阻む。そしてまるで牧羊犬のように声をあげて威圧し、鶏達を追い立てた。
　そうして戻ってきた鶏達に向けてるこるは収束レーザーを搭載させたFRSを展開する。
「頭部を破壊していくことで確実に仕留めて参りましょう。……鶏さん、お覚悟を」
　FRSから放たれたレーザーが射線に入った鶏の頭を分解・消失させていく。しかし鶏は倒れることなく平然と歩き続けていた。
「え、ええ……。ひょっとしてカクリヨファンタズムの鶏さんは頭が無くても生きていられるのでしょうか……」
　ちなみにるこるの産まれた世界でも血抜きが上手くいかなかったからか、頭無しで平然と何ヶ月も生きていた鶏がいたそうな。だがそんな鶏がいたとは知らないるこるは不気味なその姿に動揺した。
「やはりそう簡単には捕まえられないようですね」
「なら、これで一網打尽だよ」
　苦労する同志の姿に月麻が唇を真一文字にしていると、麻陽がまるでカウボーイのように銀色の網を回し、躊躇なく投じた。
　空中で開いた網が何十羽の鶏を飲み込むと麻陽は一気に引き寄せていった。
「『大いなる豊饒の女神の使徒の名の元に、聖殿に仕える侍女達よ、その片割れを携えて此処に集いなさい』！ 捕獲した鶏の運搬と下処理をお願いしますわ！」
　娃羽の号令を受け、後ろに控えていたメイド達のうちの1人が巨大な檻を乗せたリフトを運転して来る。
「じゃあ、ちょっと渡しにいってくるんだよ」
「いってらっしゃい」
　その音と質量に驚いた鶏達が散っていく中、麻陽は中で鶏達が暴れ回る網の中身を入れるべく引きずりながら近寄っていった。だが無事だった鶏達も一気に捕まえられたことに恐怖を抱いたのか、別々の方向に逃げ出し始めた。
　その動きを止めるべく月麻は純白の絹布を取り出し、宙に広げる。そして手に持つ緑の勾玉に合わせて動く布はゆったりとした動きで鶏達の周りを取り囲んだ。
「はい！」
　そして力を込めると同時にその範囲が一気に狭まっていく。一部の鶏達は脅威のジャンプ力を発揮して逃げ出したが、それよりもはるか多くの鶏がぎゅうぎゅう詰めにされた。
　そんな次々と大量に確保していく鞠丘姉妹の姿にてこののハートに火がついた。
「私も負けられないねぇ……変わった事は出来ないけど、一応格闘技の心得は有るから、それを生かして追い込もうかぁ」
　音もなく殺気を殺しながら頭のある鶏に後ろから近づいたてこのはそのまま胴体を掴むと流れるように首を掴む。
　そして【フードファイト・ワイルドモード】を発動させることでさらに鶏達を追い込むべく、子供の悲鳴のような声を上げる鶏を羽を毟らずに一息に飲み込もうとした。だが娃羽の悲鳴がそれを押し留めた。
「ちょっ……てこのさん！？ あなた死ぬ気ですの！？」
「ふえ？」
　鶏の体内に生息する菌は下痢や腹痛、発熱などの症状を伴う食中毒を引き起こし、重篤化すれば死に至るケースもあることを懇切丁寧に娃羽が説明するとてこのは顔を真っ青にしながら震え上がった。
「ひええ……そんな怖いんだぁ……」
「鶏肉を生食される地域もありますが、フグとかと一緒で色々と設けられたガイドラインに沿って調理することで安全に食べられているのですわ。……踊り食いなんてもっての外ですわよ」
「はい、気をつけますぅ」
　何かやらかしそうだという嫌な予感が的中してしまったことに娃羽が嘆息する裏では、そんな痛ましい事故を起こさぬべくトリニクフルコースの準備が着々と進められていた。
『自在自由に天界地界人界を治め給う豊乳女神なるを 尊み敬いて眞の六根一筋に御仕え申すことの由を』
　大動脈を切った瞬間にまるで噴水の如く血が噴き出し、叶葉の作業服を濡らす。
　しかし一撃で確実に致命傷を与えられたためか、最初こそ手の中で暴れていた鶏の動きは急激に鈍くなっていった。
　そうして動きも血も止まったところであらかじめ80℃～90℃程度に沸かしたお湯に浸けて一気に羽を毟っていく。そうすれば見慣れた鶏肉の姿がお目見えとなった。
「皆様かなりお召し上がりになられますからね。出した側から無くなることを覚悟でお願いいたします」
　叶葉の忠告にメイド達は真顔で頷く。言われずとも覚悟はしていたのだろう。
　作られた鶏肉が解体され、調理されていく間にも檻に入れられた鶏達が大量に入荷されていく。担当分けしながら、調理担当組は状況を怒鳴り合いながら着々と工程を進めていった。
　その様子を横目で見ていたるこるは頭を吹き飛ばしても倒せなかった自分とあっさりと仕留めた叶葉の違いを考察していた。
「私は頭だけを撃ち抜いたせいで血が抜ける量が少なかったのでしょうか……。ならば頭だけでなく首までを撃てば……」
　FRSの出力を調整し、再び五体無事な鶏に狙いを絞る。そうして首ごと吹き飛んだ鶏達は血の雨を降らしながらふらつき、地面に崩れ落ちた。
　るこるが小さくガッツポーズをする一方で、月麻と入れ替わりに全ての鶏を預け終えて戻ってきた麻陽の第二投が放たれた。
　そうして周辺に鶏の姿が無くなったところでるこる達が戻って来ると、設置されたテーブルの上には基本を和食で固めた多国籍な料理が大量に並んでいた。
　焼けば照り焼きに塩麴漬け、クリスマスにピッタリのローストチキン。シンプルに串に刺した焼鳥は食べ易く、揚げればフライドチキンに唐揚げ、チキンカツ、茹でればチキンフリカッセに棒々鶏。
　メインは同じ食材でも部位ごとに適した料理法が存在し、元が淡白な故に大きく味を変えられ、お腹に余裕さえあれば飽きることなく色々と食べることが出来る。
『大いなる豊饒の女神、《楽園の地》の豊かなる恵みと力をお貸しくださいませ。』
『大いなる豊饒の女神、《楽園の地》より紅鏡へと、その御力をお貸し下さい。』
『大いなる豊饒の女神、《楽園の地》より水鏡へと、その御力をお貸し下さい。』
　それぞれに食事前の祈りを捧げ、出来立ての料理を食べ始める。
　その姿は「暴飲暴食」という言葉が似合うような汚い物では無く極めて行儀の良い物であったが、その手が止まる気配はなく山盛りの料理はあっという間に消えていく。
　そうして空になった料理の皿と入れ替わりにメイドが新しい皿を置けば、即座に誰かの手が伸ばされる状態だった。
「大食いのコツは皆程は解らないけど、元々沢山食べられるから問題無し、だねぇ」
「ふふふ、コツなんてありませんよぉ。そんなことは気にせずしっかり堪能しましょう？」
「そだねぇー」
　塩の鶏皮を口に含みつつてこのが頷く横で、るこるはチキンカツに味噌をかけていただく。それ以外にもウスターソースにタルタルソースと様々な調味料が料理の横に添えられていた。
「チキンステーキや油淋鶏なら、美味しい上にソースで色々と味も違ってくるから、飽きないようにするのも簡単だよ」
「ですね。飽きないようにして色々いただきましょう」
　元々かなり食べる方だが動き回ったからか女神の加護が入ったからか、和気藹々と話す鞠丘姉妹の手の進むスピードはいつもより早い。その様子を横目に娃羽はナイフとフォークを使いつつ、上品かつマイペースに食べていた。
「保存処理してテイクアウト……の必要は無さそうですわね。あなた方もそろそろ休憩して一緒にいかがです？」
「大丈夫でございます。解体作業は終わったので、そろそろ交代で食事が出来ますわ」
　話しかけられたメイドの代わりに答えた叶葉はタンドリーチキンと海南鶏飯をテーブルの中央に置くと自身も手を合わせてから食事を始めた。
　叶葉と娃羽は常に食べ盛りな4人よりも食べられないため、或る程度種類を絞って量より質・定番より珍しい物を選んで食べていっていた。
「満腹となっても皆様はまだお召し上がりでしょうし、交代でまたお料理の手伝いを致しますね」
「流石ですわね」
「いえいえ、後継者として様々な教育を受けております娃羽様と比べれば私などまだまだ……」
　本気で思って言っているのだろうな、と娃羽は口角を上げるだけに留める。これもまた礼儀作法の指導の成果であろう。
　そうこうしているうちに、山のような料理を気持ちいいくらいのスピードで平らげていく豊饒の使徒達を魅力的に思った現地妖怪の方々がお裾分け及び交換会をするべくお手製の料理を手にテーブルを訪れる。
　鶏ガラスープのラーメンなど作るのに1日2日かかる新たな逸品に4人が目を輝かせる様子を叶葉は柔和な微笑みを浮かべながら眺めていた。
「くりすます、に御座いますか。楽しめるのは有難いことに御座いますね」

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

最終結果：成功 完成日:2020年12月28日