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Totus tuus

#ダークセイヴァー #お祭り2020 #クリスマス #夕狩こあら #ダークセイヴァーのクリスマス


「打ち捨てられた教会があるんだ」
 枢囹院・帷(麗し白薔薇・f00445)が花脣を開く。
 常闇に覆われ、異端の神々が跋扈するダークセイヴァーでは特段珍しい事では無いが、信仰の途絶えた教会の末路とは寂しいものだ。
 小さな溜息をひとつ零した帷は、暫し間を置いた後に言を足して、
「場所はダークセイヴァーの辺境……鬱蒼とした黒い森を抜けた先、小高い丘にひっそりと佇む教会で、もう長い間、人が訪れていないと見える」
 埃を被った聖壇や、音を忘れたオルガン。
 冷たい床、跪き台は畳まれたままで。
 所々欠けたステンドグラスに差し込む星灯りだけが、孤独を慰めてくれる――。
「……建物としては古くとも美しいのに、人が離れれば侘しいものだな」
 寂寥を帯びて伏せられる睫の間より、そっと流瞥を寄越した帷は、「そこで」と口を開くと、ぽつぽつと集まり始めた猟兵達に身体ごと向き直った。
「――足を運んで貰えないだろうか」
 それだけでいい、と断りを入れる。
 幾許か目を丸くした猟兵に、帳は小さく頷いて、
「神父も途絶えた廃教会とはいえ、聖堂に漂う空気は神聖だし、本来、人を守る為の建物は人の足を待っているように思うんだ」
 勿論、祈りの言葉を知る者は礼拝しても良いし、歌を捧げても良い。
 そこに生きていた人々がしていたように、大切な人と愛を誓い合えば、忘れ去られても慥かに在る神が聞き届けてくれるだろう。
「吸血鬼の支配に染まる夜と闇の世界にも、人が、命が、此処に確かにあるのだと――。その事実が廃教会にとって慰めになると思うんだ」
 帷はそこまで言うと、ぱちんと弾指して光を喚ぶ。
「オブリビオンとの戦いに明け暮れる君達も、聖夜くらいはゆっくり過ごすといい」
 暗闇で戦い続ける心が、一時でも安らぎますように。
 剣を置いて、心穏やかな時間を過ごせますように。

 祈りに満ちた光が、戦士の身体を温かく包んだ。


夕狩こあら
 オープニングをご覧下さり、ありがとうございます。
 はじめまして、または、こんにちは。
 夕狩(ユーカリ)こあらと申します。

 こちらは、ダークセイヴァー世界で聖夜を過ごす、『猟兵達のクリスマス2020』シナリオです。

●シナリオの舞台
 ダークセイヴァーの深い森に隠された小高い丘。
 神父も信者も誰も居ない、打ち捨てられた教会です。
 常闇の空、灰色の雲が流れる合間には星灯りが覗き、ステンドグラスに零れる優しい光が希望を感じさせてくれます。
 景観は、米国ゲーリーのメソジスト教会をイメージして頂ければ幸いです。

●プレイングについて
 POW,SPD,WIZの指定は不要です。
 教会で祈りや歌を捧げたり、愛を誓い合ったり、教会の外で静かに星を眺めたり、ご自由な発想で聖夜をお過ごし下さい。
 導入の文章はありません。
 皆さんが想い描かれた其々の景色を描写いたします。

●リプレイ描写について
 フレンドと一緒に行動する場合、お相手のお名前(ID)や呼び方をお書き下さい。
 お互いの関係(顔見知り程度、友達以上恋人未満など)を添えて頂けると、より間柄に沿った描写がかないます。
 団体様は【グループ名】を冒頭に記載願います。

 また、このシナリオでは、枢囹院・帷(麗し白薔薇・f00445)をお話の聞き手役として指名できます。
 皆様が過ごされる聖夜が素敵になりますよう、お手伝いさせて頂きます。

 ――Totus tuus.(トトゥス・トゥス)
 最古の言葉で「わたしのすべてはあなたのもの」という思いが込められているそうです。
 皆様のご参加をお待ちしております。
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第1章 日常 『ダークセイヴァーのクリスマス』

POW   :    冴え冴えと輝く星空の下で、凍える体を互いに温めたり、温かい飲み物などを飲みます

SPD   :    陰鬱な森や、寂れた廃墟をパーティー会場に作り変えてパーティーを楽しむ

WIZ   :    静かな湖畔や、見捨てられた礼拝堂で祈りを捧げて、クリスマスを静かに過ごす

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​
百鳥・円
【まる】

廃教会ってこう、雰囲気がありますねえ
朽ち果てた建物のなかで美しく残るもの!
そう、ステンドグラスですん!
わたしはとーっても芸術的だと思いますよう
うんうん、やはりキレーですねえ

そーいえばおにーさんは神父さんなんでしたっけ
こーしてちゃあんと見ていると様になっているよーな
んふふ。茶化してはいませんよう
ぜーんぶほんとのことですもの

……にしても、ほーんとキレーですこと
ここが仄暗ーいダクセだと忘れちゃうくらい
すこーしのんびりしていきましょ
そんなクリスマスもステキじゃあないですか

んふふ、意外です?
こー見えても静かなところは好きなんですよう
よいひと時に感謝ですん

メリークリスマスですよう、ゼロのおにーさん


ゼロ・クローフィ
【まる】

廃教会か、まぁ山奥には結構あるが若い奴が面白がって集まるな
ステンドグラス?あぁたしかにガラスは朽ちる事無いな
お前さんが芸術好きとは知らなかったな

…今まで何だと思ってたんだ?
この服装見たらそう思うだろ
はいはい、どうせ
俺は神父に見えないよ
別の性格のアイツと代われば神父に見えるだろうが今は…コイツと居るのは俺だと思いつつ
お前さんがシスターの服を着たらある意味似合うだろうなとくくっと喉を鳴らし
まぁ、ありがとうさん
と円の髪をくしゃりと撫でて

俺の教会ならいつか来てみるか?
そうだな、お前さんとこうやって過ごすのも良いかもな
というか普段はお前さんが大人しくないんだぞ?と笑って

あぁ、メリークリスマス。円



 所々床板の剥がれた石床に、こつん、こつん、と靴音が響く――。
 孤独と寂寥が染む廃教会に、輕やかな跫音を置くは、百鳥・円(華回帰・f10932)――繊手に提げた硝燈に幽々と影を搖らした麗人が、目下、金絲雀の聲を澄み渡らせた。
「……廃教会って、こう、雰囲気がありますねえ」
 くるりと振り返る彼女が照らすは、もう一つの影。
 すらりと伸びる黒影は、麗顔を暴かれるや落ち着いたテノール・バリトンを降らせる。
「――まぁ、山奥には結構あるが、若い奴が面白がって集まるな」
 一種の肝試しか、と継ぎ足される言は眞白の息を連れ立って。
 円が揺らす光の閃爍(きらめ)きに導かれる儘、その肝試しからも忘れ去られた教会を訪れたゼロ・クローフィ(黒狼ノ影・f03934)は、きれい、と零れる感嘆に翡翠の烱瞳を結んだ。
「朽ち果てた建物のなかで美しく残るもの! ――そう、ステンドグラスですん!」
「あぁ、慥かにガラスは朽ちる事無いな」
 長い睫は二人揃って上へ、上へ――薔薇と十字を模した格子の明層窓(あかりまど)に瀲灔と煌く、彩色硝子(ステンドグラス)を仰ぎ見る。
 靉靆と棚引く雲間より、折に玲瓏を降り注ぐ星燈りが今の靜謐を際立たせよう。
「小さな星の光を集めて、沢山の彩をちりばめる……うんうん、やはりキレーですねえ。わたしはとーっても芸術的だと思いますよう」
「へぇ、お前さんが芸術好きとは知らなかったな」
 聲を張らずとも鼓膜を震わせる距離、小さな嘆美さえ高い天井に反響して。
 宛如(まるで)久々の人の気配に、教会が吃々と竊笑しているような――不思議な感覚を受け取った円は、傍らでブロンズの肌膚を淸かに燿わせるゼロを見遣る。
「そーいえば、おにーさんは神父さんなんでしたっけ」
 沈默の美を表す黒のキャソックとペルグリーナ(肩掛け)。
 慎み深い紫紺のファシア(帯)は吹き抜ける風に搖れて。
 既に廃れた教会とはいえ、「正装」で来た処に彼の真摯や篤実が伺えよう、
「こーしてちゃあんと見ていると様になっているよーな」
「――……今まで何だと思ってたんだ? この服装見たらそう思うだろ」
「んふふ。茶化してはいませんよう」
 片眉を吊り上げるゼロに、莞爾と頬笑む円。
 幾許か訝し気に、翠玉の双眸が星燈りを集めて流盻を注げば、青蓮紫と銀星海棠の輝きを湛えるオッドアイも小気味佳い流瞥(ながしめ)を返す。
 そうして目尻の際で視線を結び合って幾許、ゼロは交睫ひとつ置いて溜息すると、翩翻(ヒラリ)と手を翻して視線を遮るや、その手で粗雑(ぞんざい)に頭を掻いた。
「……はいはい、どうせ俺は神父に見えないよ」
 然う、“俺”は。
 若しか優艶の微咲(えみ)を湛える“私”――別の性格の“アイツ”と代わったなら、幾分にも神父に見えたろう。
 ――だが今は。
 今、コイツと居るのは“俺”だ。
 硬質の指の間より見る凄艶は、白磁も翳るほど滑らかな白肌を星燈りに輝かせており、彼女が修道女の服を着たら、或る意味よく似合うだろう――と、くくっと喉を鳴らす。
 奥歯に噛み締めた嗤笑は知るまいか、變わらず麗瞳に光彩を揺蕩わせる円は、丹花の脣にこうろりソプラノを轉がして、
「ぜーんぶほんとのことですもの」
 彩色硝子が美しい事も。
 その精彩を浴びたゼロが見事に映えている事も。
 ぜんぶ、ぜんぶ、ほんとうのこと――と、今ここに隣する人格を受け容れて呉れるようで。
 知らず佳脣を引き結んでいたゼロは、知らず口角を持ち上げて、
「――まぁ、ありがとうさん」
 と、ミルクティーと匂える髪をくしゃりと撫でる事にした。

  †

「……にしても、ほーんとキレーですこと。よいひと時に感謝ですん」
 流れる時間も、此処が常闇に覆われた世界である事も忘れそうなほど――繊美しい。
 崩れた天蓋より覗く星空を眺めた円は、硝燈を置いて長椅子に座り、
「すこーしのんびりしていきましょ。こんなクリスマスもステキじゃあないですか」
「そうだな、偶にはお前さんとこうやって過ごすのも良いかもしれない」
 ぽんぽん、と繊手に促せば、ゼロも靜かに隣に腰掛ける。
 少うし身を屈めて同じ目線になってくれる彼の優しさは胸に秘め、円は稀有(めずら)しそうに己を見る翠の烱眼に佳瞳を緩めた。
「んふふ、意外です? こー見えても靜かなところは好きなんですよう」
「――というか、普段はお前さんが大人しくないんだぞ?」
 幾許か呆れつつ、靜かな場所が好きなら、いつか俺の教会に来てみるか? と、きっと大切に違いない場所を許してくれるゼロに感謝の気持ちが横溢(あふ)れる。
 だから、円は世界中で唱えられる聖夜の祝福を告げて、
「メリークリスマスですよう、ゼロのおにーさん」
「あぁ、メリークリスマス。――円」
 而して返る福音に、きゅ、と嫣然を湛えるのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

リル・ルリ
🐟櫻沫

つめたい静謐な空気が、教会に満ちている
僕の故郷――今は水底に沈んだ黒曜の都市の教会…僕の育ったその教会はグランギニョールの舞台だった
ステンドグラスからさしこむ微かな光を見上げては、そこを思い出すんだ

肩にあたたかな手が触れて、柔らかな春櫻が馨る
櫻宵―大丈夫だよ
教会にくるのは久しぶりだからさ
櫻が一緒ならどんな場所も特別だけれど
やっぱり教会は―僕にとってはトクベツであるらしい
優しい櫻の頬を撫でる
いつも傍で咲いていてくれる
僕の愛しい龍

黒薔薇を一輪、手に持ち手渡す
僕の故郷では黒薔薇は大好きな大切な人に捧ぐ花
大好きを君に
贈りあおう

受け取った黒薔薇に口付ける
嗚呼、歌おう
聖夜の果まで届くよう

愛のうたを


誘名・櫻宵
🌸櫻沫

打捨てられた教会……雰囲気があるわ
厳かな教会に人魚と二人
あなたの故郷で過ごす聖夜のひとときを楽しむの

リル、大丈夫?
きっと生まれた黒曜の街を思っているのだろうと想像がつくわ
教会にて催されていた、グランギニョールの歌姫―それがあなた
白い肩に手を乗せてつめたい身体を暖めるよう抱きしめる
頬をなどる手のか細くて力強いこと
リルはとっても強い子

一緒にいる一時はいつだって特別なの
ひとつ歳を重ねて、またひとつ美しくなった愛しの人魚へ
手にした黒薔薇をリルに差し出す
大好きに捧ぐ花なのでしょう?
私の黒薔薇をあなたへ

ねぇ、歌って
私の歌姫
この教会を彩る、美しい人魚の愛のうたがききたいわ
あなたは泡になどならないもの



 信仰が途絶え、人々は去り。
 孤独と寂寞の染む教会は、然し變わらず淸らかだ。
「所々崩れて、朽ち果ててはいるけれど……此処には凛とした気配があるわ」
 星空を覗かせる天蓋を仰ぎ、眞白の吐息を零す。
 小さな星燈りを集めて七彩を映す、薔薇と十字を模した格子の明層窓(あかりまど)を眺め見た誘名・櫻宵(爛漫咲櫻・f02768)は、交睫ひとつ置いて櫻霞の麗瞳を戻すと、隣する人魚の弓張月と燿く横顔を瞶めた。
 美し人魚は。
 リル・ルリ(『櫻沫の匣舟』・f10762)は、長い睫を上に、上に――瀲灔と煌く彩色硝子(ステンドグラス)に薄花櫻の佳瞳を結んだ儘、白い息と共に金絲雀の聲を滑らせる。
「――僕の故郷を、今は水底に沈んだ黒曜の都市の教会を……思い出すんだ」
 ほつ、ほつ、と泡沫を溢すように囁く。
 廃教会に満つ淸冽の空気が連れる記憶は、深い、深い、海底(みなぞこ)に沈んだ故郷――リルの育ったその教会はグランギニョールの舞台だった。
 ステンドグラスから差し込む微かな星の瞬きが、瓶詰め人魚だった頃を、己が生まれた黒曜の街を思い出させているのだろうとは、心の機微に敏い櫻宵こそ察そうか、
「――リル、大丈夫?」
 古くも嚴かな教会で二人、聖夜を過ごしたいと云った。
 あなたの故郷で、靜謐のひとときを楽しみたいと云った。
 而してあなたは、あなたの過去に凍えて仕舞わないかと、櫻宵はリルの花車な白い肩に繊手を添え、夜風に晒される身体を暖めるよう抱き締める。
 噫、嗚呼。
 聖堂を吹き抜ける風は、彼の瑠璃に染まる秘色の髪をこんなに冷たくして――。
「リル……」
「櫻宵――大丈夫だよ」
 時に、繊麗の臂に包んだ人魚が、柔らかく嫋やかな佳聲を返す。
 己を抱く優しい温もりを確めるように瞼を落とし、次いでふうわと馨る匂やかな春櫻を肺腑いっぱいに満たしたリルは、大好きな櫻宵の指先も冷えぬようにと雪白の手を添え、「大丈夫」と微咲(えみ)を置く。
 一語一音を丁寧に紡いでは、玻璃(ガラス)のように震える聲が美しかろう。
「――ほら。教会にくるのは久しぶりだからさ」
「リル」
「櫻が一緒ならどんな場所も特別だけれど。やっぱり教会は、僕にとってはトクベツで」
 特別と、トクベツ。
 両者を聲に出して反芻した人魚は、星燈りに白銀の閃爍(きらめ)きを彈く睫をそっと瞬くと、指先を櫻宵の柔らかな頬へ――慈しむように撫でた。
 鴇色に艶帯びる佳脣は、感謝と、敬慕と、そして愛情を籠めて囁(つつや)く。
「いつも傍で咲いていてくれる……僕の愛しい龍」
 而して誰より透徹の聲に色を見る櫻宵である。
 優艶の龍は鼓膜を震わせる心地好い響きに長い睫を落すと、我が頬をなどる手のか細さと力強さに、より一層のこと胸を切なくした。
「教会にて催されていた、グランギニョールの歌姫――それがあなた」
 そして、と繊指を握る手は、きゅ、とリルを絆して。
「リル、あなたはとっても強い子」
 美しく、麗しく、儚くて、強い――。
 己もまた玲瓏の人魚と一緒にいる一時は、いつだって特別なのだと耳元で囁いた彼は、今宵、ひとつ歳を重ねて、またひとつ美しくなった愛しの人魚へ贈り物を捧げる。
「大好きに捧ぐ花なのでしょう?」
 艶麗に語尾を持ち上げ、手にするは黒薔薇。
 気高く、慎み深く、びろうどの光沢を纏うその花は、リルの故郷では大好きな大切な人に捧ぐ花とされている。
 而してリルもまた黒薔薇を一輪、捧げ、贈り合い。
「僕も、大好きを君に」
 櫻宵の黒薔薇はリルへ。
 リルの黒薔薇は櫻宵へ。
 互いに手にした黒薔薇に口付けを落せば、芳しい花馨が艶然を連れよう。
 ふうわと塊麗の微笑を溢した櫻宵は、ここに銀細工の歌聲を希求(のぞ)んで、
「ねぇ、歌って。私の歌姫。この教会を彩る、美しい人魚の愛のうたがききたいわ」
「嗚呼、歌おう。聖夜の涯まで届くよう、愛のうたを――」
 其はリルも希求んでいたこと。
 スウ――と凛冽の空気を肺に迎えた歌姫は、刻下、【水想の歌】(アイヲアナタヘ)を七色と煌めく旋律に乗せた。

 揺蕩う水葬、忘却の都。
 月抱き彷徨う黒燿を―導く果てはあいの漄。
 指先綴るうたに聲を重ね
 リルルリ、リルルリルルリ――あいしてる。

 想いの横溢(あふ)れる儘、愛と戀を歌い上げる聲音の美しさに麗瞳を細めた櫻宵は、
「ええ、ええ。あなたは泡になどならないもの」
 と、我が歌姫を強く、強く、抱き締めるのだった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

アウグスト・アルトナー
普段は、肌身離さず持ち歩くためにあえて首にかけているロザリオですが
今日は、正しい使い方をしましょうか

まず聖壇の前に立ち、右手で十字を切り、両手を合わせて無言で祈ります
万人に幸せが訪れますように、と

それから、手にしたロザリオの珠を一つずつ指でくりながら、祈りの言葉を唱えていきます
ダークセイヴァーのぼくの村の教会で、母さんがしていたように

「我らの罪を許し給え」
「我らを地獄の火より護り給え」
「全ての魂を天に導き給え」

祈りを全て終えたら、帷さんに声を掛けましょう
「ぼくにとっては、『神』と『家族』は同じようなものなのかもしれません」
「どちらも、天から見守ってくださっていて、それがぼくの力になるんです」



 或る聖人は手首に通し、日々祈りを捧げていたというが、常にオブリビオンとの戰いに備える猟兵はそうもいかない。
「――今日は、正しい使い方をしましょうか」
 今日は、聖夜は。
 吸血鬼も魔物の気配もしない今宵は、嘗ての持ち主が使っていたように使いたいと――首にかけたロザリオを手に取ったアウグスト・アルトナー(永久凍土・f23918)は、床板の剥がれた石床に跫音を置き、靜かに聖壇の前に立つ。
 黄金色の睫に縁取られた黒の麗瞳が見るは、朽ち果てた十字架。
 辛うじて形を保つだけの組木に、平和の挨拶を――黙礼をした麗人は、右の繊指に十字を切り、両手を合わせて無言で祈る。
 不覚えず跪拝(ひざまず)くのは、幼い頃に染み付いた動作だからだろう。
(「――万人に幸せが訪れますように」)
 同じダークセイヴァーの、己の故郷にも教会があった。
 神の家に集まった者達は、常闇の世界にも無心に祈りを捧げていたものだ。
 その一人、このロザリオを形見に現世を去った母さんも、最期まで神を信じ続けた信仰の篤い女性(ひと)だった。
(「……母さん」)
 肌身離さず持ち歩く「薔薇の冠」に母の面影が浮かぶ。
 ロザリオの珠を一つずつ指でくりながら、祈りの言葉を唱えるたび――家族の死と生に搖らぐ心を宥める。
「我らの罪を許し給え」
「我らを地獄の火より護り給え」
「全ての魂を天に導き給え」
 繰り返せば花の冠になると教えてくれたのは、神父だったか、母だったか――。
 祈りの言葉を唱え終えたアウグストは、主廊を挟んだ向こうの長椅子に腰掛ける帷に、屋根を同じくする兄弟姉妹に気付き、聲を掛ける。これも嘗ての習慣だろう。
「それは……どなたかから譲られたものかな」
 女性用と思しきロザリオに、多くを語らずとも汲み取った帷は、彼の言葉を聽いて、
「ぼくにとっては、『神』と『家族』は同じようなものなのかもしれません」
 端整の脣より滑り出る、穩やかなテノール・バリトン。
 薔薇を模した格子の明層窓(あかりまど)に瀲灔と煌く、彩色硝子(ステンドグラス)を仰ぎ見たアウグストは、星燈りに燿く七彩に瞳を細める。
「どちらも、天から見守ってくださっていて、それがぼくの力になるんです」
 だから、明日を迎えられる、と――。
 聖堂を吹き抜けて夜空へと向かう風に、靜謐の言を運ばせるのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

旭・まどか
訪れる事が目的であるならば
ひとりよりふたりの方が良いでしょう?

魂を入れた容れ物は今はいきもののかたちをして
僕の横を四つ足で進む

懐かしさは感じる?
お前が暮らしていた森は、この森と近しいかい?

聞こえる筈の無い返答は低く下げられた鼻先が語る様で
腰掛けた長椅子の足元で丸まるお前の背をゆるく撫でる

――静かな夜は、好い
雑音が無い分余計な事を考えなくて済むから

ただ、時が流れる侭に
揺れるステンドグラスのひかりを眺めているだけで
此処に在る事が正解であるかの様に錯覚してしまう

――そんな筈、無いのにね

自嘲の笑みに何事かと此方へと向けられた八重色には首を振り
もうそろそろ行こうか

僕らは未だ、足を止める訳にはいかないから



 所々床板の剥がれた石床に、コツ、コツ、と硬質な靴音が響く。
 孤独と寂寥が染む廃教会に朦朧(ぼんやり)と影を搖らすは旭・まどか(MementoMori・f18469)――繊手に硝燈を提げた麗しき少年が、目下、靜かに語尾を持ち上げた。
「――訪れる事が目的であるならば、ひとりよりふたりの方が良いでしょう?」
 ひとりより、ふたり。
 瑠璃灯(ランプ)の光に幽々と照る丹花の脣が、美しテノールを囀る――となり。
 魂を入れた容れ物は、今はいきもののかたちをして、少年の横を四つ足で進む。
 然う、宛如(まるで)ほんとうに獣のように。
 而して影を揃えたまどかは、冷たい石床を掠めるような跫音に聲を降らせて、
「懐かしさは感じる? お前が暮らしていた森は、この森と近しいかい?」
 鬱蒼と生い茂る黒い森を抜けて来た。
 常闇に更に翳を差す漆黒の森だと言を足すが、こたえが返る筈も無く――。
 唯だ、低く下げられた鼻先が何かを語る様で、
「――……うん、そう」
 まどかは小さな相槌を眞白の吐息に變えると、冷え切った長椅子にゆっくりと腰掛け、己が足元で丸まる背を、靜かに、ゆるく、撫でた。
 蓋し少女と見紛うばかりの白磁の繊指も随分と冷えていよう。
 まどかは悴む指先に乙女色の麗瞳を落とし、小さく囁(つつや)く。
「――静かな夜は、好い」
 雑音が無い分、余計な事を考えなくて済むから。
 色白の頬に触れる空気の凛冽も、鼓膜に迫る沈默も心地好いと、聖堂を吹き抜ける凍風に失われぬ神聖を感じた少年は、星燈に金の閃爍(きらめ)きを彈く睫をそっと瞬くと、視線を上に――七彩を煌きを仰いだ。
(「――噫」)
 唯だ、時が流れる侭に。
 薔薇を模した格子の明層窓(あかりまど)に瀲灔と煌く、彩色硝子(ステンドグラス)のひかりを眺める、それだけで。
 此処に在る事が正解であるかの様に錯覚してしまう――。
「――そんな筈、無いのにね」
 吃々と零れる竊笑。
 須臾に白い息と變わる自嘲の笑みに、何事かと此方へと向けられた八重色に首を振ったまどかは、夜空より零れる光に白金を彈いて立ち上がる。
「もうそろそろ行こうか」
 僕らは未だ、足を止める訳にはいかないから――。
 ことりと硝燈の光を搖らせば、足許に丸まっていた影が再び、少年に寄り添った。

大成功 🔵​🔵​🔵​

乱獅子・梓
【不死蝶/2人】
この世界はクリスマス感なんて無いよなぁ…
まぁクリスマスだけはヴァンパイア達も見逃してくれる
だなんてそんなうまい話はあるはずも無く

寂れた教会内でこれといった目的もなく
綾と他愛もない会話をするだけの穏やかな時間

手を組み、目を閉じ、星灯りに照らされる
綾の横顔に思わず見惚れてしまう
いつものおちゃらけた綾でも
強敵との戦いに胸を躍らせる綾でもなく
何だかとても儚い存在に思える
神様そっちのけでそんなことを考える俺は罰当たりだろうか

…今は、まだいい
この世界が本当に平和になったら会いに行こうと思う
その時は綾、お前も一緒に来るんだぞ

…もう少し上手に誘えれば良いのに
自分の言葉選びの下手さが情けない


灰神楽・綾
【不死蝶】
まぁ下手にどんちゃん騒ぎすると
ヴァンパイア達に目を付けられるかもしれないからね
相変わらず平和や平穏とは程遠い世界
それでも俺たちの大事な故郷

廃墟って、寂しいけど何だか不思議な魅力があるよね
ここがヴァンパイア達によって
跡形も無く破壊し尽くされず済んだのは
不幸中の幸いかもしれない

俺は祈りの力なんて特に信じていないけど
朽ちてなお荘厳なこの聖堂の中では
思わず俺も手を組んでしまう
早くこの世界に光が取り戻せることを祈ろう
いや、これは祈りというより誓いかな

ああ、そういえば
せっかく仕事以外でこの世界に来たんだから
父さん(君の、そして俺の育ての)に会いに行かないの?
そっかぁ…ふふ、もちろんそのつもりだよ



 薫香芳しい七面鳥も無ければ、甘いケーキも無い。
 燈火と言えば、左手に提げた瑠璃灯(ランプ)が石床の冷たい主廊を照らすのみで――片腕を落した燭台が足元に轉がっているのが朦然(ぼんやり)と判然るくらい。
「……この世界はクリスマス感なんて無いよなぁ」
 コツリと跫音を響かせる聖堂に、艶帯びたハイ・バリトンが染む。
 聲の主は乱獅子・梓(白き焔は誰が為に・f25851)――主廊に横臥わる燭台をそうっと避けた彈みで角燈が搖れ、持ち主の麗顔に幽光が過る。
 端整の脣は寂寥を滑らせて、
「人は聖夜に何事も起こらぬよう靜かに過ごすのが精々で――」
「下手にどんちゃん騒ぎすると、吸血鬼達に目を付けられるかもしれないからね」
 流麗に言を継ぐは、灰神楽・綾(廃戦場の揚羽・f02235)。
 仄暗い燈明に嚮導(みちび)かれるように主廊を歩いた麗人は、先行く梓が足を止めて天蓋を見遣るに合わせ、細頤を持ち上げる。
 二人は崩れ落ちた天蓋から覗く星空を仰いだ儘、聲を交して、
「聖夜だけはヴァンパイア達も見逃してくれる――だなんて、この世界にそんなうまい話がある筈も無し」
「相變わらず平和や平穏には程遠くて、染み付いた血と絶望が拭い去られる事のない――それが、俺たちの生まれた世界」
 それでも大事な故郷だとは、三千世界を渡りながら尚も聖夜には此処に戻って来る足が示そうと、二人、自嘲めいた嗤笑が零れる。
 ――畢竟、彼等には七面鳥もケーキも要らない。
 これといった目的を有するでもなく、二人で他愛ない会話をするだけの穩やかな時間が愛(お)しいのだと、言わずとも知れた感情が二人を絆していた。
 靉靆と棚引く雲間に覗く星燈りが、薔薇と十字を模した格子の明層窓(あかりまど)に聢と光を届けるのを見た梓は、瀲灔たる彩色硝子(ステンドグラス)を仰いで、
「ああ、そうか……玻璃(ガラス)は朽ちないか」
「廃墟って、寂しいけど何だか不思議な魅力があるよね」
 人が離れても人を惹き付ける力がある、と滑る科白を眞白の息に變える綾。
 紅月の如き彩を秘める烱瞳を周囲に巡らせた彼は、辛うじて祈ることの出来る長椅子に目を留めると、そうっと腰を落として言を足した。
「――ここがヴァンパイア達によって跡形も無く破壊し尽くされず済んだのは、不幸中の幸いかもしれない」
「不幸中の幸い、か……」
 不圖(ふと)、琴線に触れた言葉を口にする梓。
 彼は綾の隣に腰掛けると、畳まれた儘の跪き台を足で引き倒し、そこに膝を折り曲げて跪拝(ひざまず)いた。
「……不幸中にも幸いが沢山あれば佳いんだけどな」
 絶望の世界に多くの希望があるように。
 常闇の世界に多くの光明が差すように。
 而して硬質の手を組み、そっと瞳を閉じた梓が、星燈りの下で祈る――。
 神父が途絶え、信仰が朽ちて猶も荘厳なこの教会の聖堂では、自ずと敬意を示そうか、綾も梓に添うように跪拝し、手を組み合わせる。
(「祈りの力なんて特に信じてないけど、早くこの世界に光が取り戻せるように――」)
 其は祈りであったか。
 いや、祈りというより誓いであったろう。
 吸血鬼に鹵掠(うば)われた光を取り戻して見せる、と誓願を立てる綾の横顔は弓張月の如く美しく――いつものおちゃらけた綾でも、強敵との戰いに胸を躍らせる綾でもない凛冽の表情は、何だかとても儚い存在に思えて、不覚えず見惚れてしまう。
 半ば伏せた長い睫の間から綾の麗姿を眺めた梓は、幾許か時を止めて、
(「……神様そっちのけでそんなことを考える俺は、罰当たりだろうか」)
 と、胸の裡に告解を隠すのだった。

  †

「――ああ、そういえば」
 祈り終わった後に続く長い沈默を破ったのは、綾の飄然たるテノール・バリトン。
「せっかく仕事以外でこの世界に来たんだから、父さんに会いに行かないの?」
 父さん――。
 彼がそう呼ぶのは、梓の実父で、自身の育て親。
 共通の面影を思い起こした梓は、暫し靜默の後、緩く首を振って答えた。
「……今は、まだいい」
 彼に拾われる以前の記憶が無い綾に対し、幼い頃に実家を飛び出した梓には父に対する感情が色々とあるのだが、今はまだ――その全てを解決するには光が足りない。
「この世界が本当に平和になったら会いに行こうと思う」
「そっかぁ……」
「その時は、綾、お前も一緒に来るんだぞ」
「――ふふ、もちろんそのつもりだよ」
 莞爾と頬笑む綾に対し、もう少し上手に誘えれば良いのにと後悔が過る。
 自分の言葉選びの拙さが情けないが、其も許して呉れるような綾の艶笑が眩しく――、梓はこの世界に光が取り戻された時には、必ずや綾を無事に家に帰して遣ろうと、紫紺の夜穹に閃爍(きらめ)く星々を仰ぐのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ニルズヘッグ・ニヴルヘイム
ステンドグラスだとか教会だとかは好きだけど
呪詛だの悪魔だのを引き連れて、聖域に入るのは少し気が引ける
近くで星を眺めることにしよう

――寂しいだとか、苦しいだとか
そういうのをなるべく感じないようにしてた
人の営みは私とは遠いところにある、あの星みたいなもんだって思って来たはずなんだけど
今は……何でか、手が届かないってのが凄く、寂しい

私は世界の味方で
世界のためなら何だって犠牲に出来るはずで
でも最近は、そう出来ちまうことが悲しいと思う
……だから今は
今だけは、少し世界の味方をやめて
いつか世界の犠牲にしちまうかも知れない、大事なものたちのしあわせのためだけに
信じてもない神に祈っても――許されりゃ良いと思う



 玻璃を鏤めて薔薇や十字を模る彩色硝子(ステンドグラス)はとても綺麗だと思うし、どれだけ朽ち果てようと、吹き抜ける風を浄い淸める教会は美しいと思う。
 ――だけど。
 ――だから。
 呪詛だの悪魔だのを引き連れて、聖域に入るのは少し気が引ける、と遠目に件の教会を眺めたニルズヘッグ・ニヴルヘイム(竜吼・f01811)は、森を抜けた處で足を止めた。
「……ここなら」
 噫、此処で十分だ。
 鬱蒼の森を抜けた今は、小高い丘に佇む教会も見えるし、厚い曇雲が流れる合間に覗く夜空には、燦爛(キラキラ)、瀲灔(チラチラ)と煌く星燈が伺えよう。
 目に留まる倒木に腰を落し、瑠璃灯(ランプ)を脇に置いた竜の仔は、常闇に覆われる世界にも紫紺の天蓋があって、玲瓏の光を湛えているのだと――ひとつ、白い息を吐く。
 ふうわと夜穹に解ける吐息に、何をか重ねよう。
 彼は黒手袋を嵌めた手を宵闇の円蓋(ドーム)に掲げ、小さく囁(つつや)いた。
「――寂しいだとか、苦しいだとか。そういうのをなるべく感じないようにしてた」
 冷たい佳脣を擦り抜ける、靜謐のテノール・バリトン。
 ほつ、ほつ、と佳脣を擦り抜ける科白を、眞白の息に變えたニルズヘッグは、胸奥から零れ出る想いを一語一音、耳に聽いて反芻した。
 掲げた掌手は、目下、星斗闌干たる夜天に翳を差して、
「人の営みは私とは遠いところにある――そう、譬えばあの星みたいなもんだって思って来たはずなんだけど。今は……何でか、手が届かないってのが凄く、寂しい」
 云って、何をも摑まぬ掌を握り込める。
 凍風に佳聲の悴む儘、心の底にうねる寂寥(さびし)さを吐露した竜の仔は、もう一度開いた拳を落とすと、今度は己も項垂れた。
「……噫」
 私は世界の味方で。
 世界のためなら何だって犠牲に出来るはずで。
 でも最近は、そう出来ちまうことが悲しいと思う――。
 冷え切った前髪の奥、美し金の虹彩に映る大切なものの影をなどったニルズヘッグは、銀灰色の睫を持ち上げると、不覚えず硬質の指を組み合わせていた。
「――今は、今だけは、少し世界の味方をやめる」
 吐息は震えるように擦り抜け、
「いつか世界の犠牲にしちまうかも知れない、大事なものたちのしあわせのためだけに、神に祈っても――許されりゃ良いって」
 信じてはいない神に、己を浄って欲しいと思う――。
 いつの間にか深く頭を垂れていた竜の仔は、組み合わせた両手に額を擦り付けるようにして、独り、名も知らぬ神を呼び求めるのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

サンディ・ノックス
ここに惹かれた理由が実際来てわかった
俺はこんな場所を知っている

ヴェル(f05027)、昔話してもいいかな
俺が聖者だった頃、故郷での居場所もこんなところだった
微笑んで光って時々歌ってた

親友に向ける笑顔に苦いものが混ざっている自覚はない

それが当たり前だった
…それって心が籠ってなかったってことだよ
そんな笑顔や歌で皆は本当に救われてたのかな

皆も俺が俺であるだけで支えられてた…
そうだったらいいな
信じる事で温かい想いを創り出した、か
うん、わかった
そう信じてみる

ねえ
俺はまた光れるようになると思う?
ありがとう
たくさんの想いは心強いな

ああそうだ、故郷での歌を歌おう
「光が見えないほど苦しくても光はきっと傍にある」


ヴェル・ラルフ
もちろん、とサンディ(f03274)に微笑んで
故郷の話
相変わらず少し自嘲めいた笑みに気づく
自分の存在の意味を疑問視してるのかな
君に僕の想いが伝わるように穏やかに微笑んで

それで、充分だったんじゃないかな
サンディがいることが、僕には道標になるのだもの
きっと他のヒトも
そういう気持ちだったんじゃないかな

ひとときでも自分に向かって微笑んでくれたこと
それを、支えにもすることが出来るヒトがいる
自分を信じてるヒトがいる
こんな温かな想い
サンディはみんなと創り出したんだよ
すごいと思わない?

ね、と笑って

きっと、キミはまた光れるようになる
皆の想いに、僕の想いを足すよ
なんてね

君の歌声
きっと夜に融けて
また僕の道標になるよ



 聖堂を吹き抜ける風の研ぎ澄まされた凛冽を肌膚に掠めつつ、薔薇と十字を模した格子の明層窓(あかりまど)に瀲灔と煌く彩色硝子(ステンドグラス)を仰ぎ見る。
「――俺はこんな場所を知っている」
 ここに惹かれた理由が実際来てわかった、と寂寥に染むテノール。
 聲の主はサンディ・ノックス(調和する白と黒・f03274)。
 手に提げた角燈(ランタン)に、床板の剥がれた石床を照らしつつ主廊を進んだ彼は、聖壇の前で立ち止まると、己の跫音に続く影に振り返った。
「ヴェル、昔話してもいいかな」
「もちろん」
 優婉の微咲(えみ)に答えるは、ヴェル・ラルフ(茜に染まる・f05027)。
 鴇色を帯びる脣に穩やかに是を紡いだ麗人は、琥珀色の佳瞳に玲瓏の彩を湛えながら、次に語られる言を靜かに待った。
 而してサンディは、崩れ落ちた天蓋から覗く星空を瞶めて、
「……俺が聖者だった頃、故郷での居場所もこんなところだった。俺は其処で、微笑んで光って――時々、歌ってた」
 それが当たり前だった、と――。
 胸奥から掬い上げられるようにして零れ出る科白は、丹花の脣を擦り抜けるや間もなく白い息となって、紫闇の夜に解けていく。
 交睫ひとつして視線を戻したサンディは、無二の親友ヴェルに柔かく咲んで見せるが、其処に苦いものが混じっている自覚は無かろう。
 寧ろこれには、心の機微に敏いヴェルが気付いて、
(「サンディ……またそんな風に笑って……」)
 相變わらずの自嘲めいた微笑に、蘇芳に染まる長い睫を半ば伏せる。
 沈默の裡に見る彼は、切ない微咲を浮かべた儘、自問するように語尾を持ち上げ、
「……それって心が籠ってなかったってことだよ。そんな偽りの笑顔や歌で、皆は本当に――救われてたのかな」
 噫、悴むような聲に胸が締められる。
 自分の存在の意味を疑問視しているのか――昔話を聽き終えたヴェルは、先と變わらぬ微笑を注ぎつつ、耀くような眞白の息を吐いた。
「――それで、充分だったんじゃないかな」
 君に僕の想いが伝わりますようにと、祈りを籠めた言が真摯に紡がれる。
「サンディがいることが――そう、サンディがいるだけで、僕には道標になるのだもの。きっと他のヒトも、そういう気持ちだったんじゃないかな」
 淸澄の聲は、サンディの胸にスッと染み入って――。
「ねぇ、サンディ」
 ひとときでも自分に向かって微笑んでくれたこと。
 それを支えに生きることが出来るヒトがいる。
 何より、自分を信じてるヒトがいる。
「……こんな温かな想い、サンディはみんなと創り出したんだよ。すごいと思わない?」
 ね、と零れる塊麗の微笑。
 さやかな星燈りを浴びるヴェルの白皙の麗しさも、閃爍(きらめ)きを集めて燿う佳瞳の美しさも、宛如(まるで)凍風に冷え切ったサンディを温めるよう。
「皆も、俺が俺であるだけで支えられてた……そうだったらいいな」
 そうだ、我が友は言を繕わぬ。虚欺(うそ)を吐かぬ。
 だからこそ彼の言に力強い光を見たサンディは、凛乎と口を開いて、
「信じる事で温かい想いを創り出した、か――うん、わかった。そう信じてみる」
 我が胸に慈雨の如く沁みた科白を、一語一音、丁寧に反芻して飲み下した。
 それから彩色硝子より降り注ぐ玲瓏を辿ったサンディは、徐に囁(つつや)いて、
「ねえ、俺はまた光れるようになると思う?」
「きっと、キミはまた光れるようになる。――皆の想いに、僕の想いを足すよ」
 なんてね、とあえかに竊笑を零すヴェルが、今は随分と頼もしく見えよう。
 サンディは今度こそ柔かく笑んで、
「ありがとう。たくさんの想いは心強いな」
 と、一縷と偽らぬ艶笑(えみ)に、親友を咲ませるのだった。

  †

 それからどれだけの時間を経たか。
 二人は冷たい長椅子に腰掛け、常闇の世界にも慥かにある星の煌めきを仰いでいたが、不圖(ふと)、サンディが寂寞の聖堂に聲を置く。
「ああそうだ、故郷での歌を歌おう」
「――君の故郷の?」
 ヴェルの佳聲にこっくりと首肯いた彼は、凛冽の空気を肺腑に満たすや、七色を帯びる旋律を透徹(すみわた)らせた。

 ――光が見えないほど苦しくても、光はきっと傍にある。

 既に朽ち果てた聖堂を慰めるように広がる歌聲は、ヴェルの心を震わせて、
「君の歌声が、きっと夜に融けて……」
 ――また僕の道標になるよ、と。
 胸に満ちて溢れる温もりに、そうっと繊手を押し当てて聞き入るのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

フリージア・プロトタイプ
【魔雪】
初対面

人気のない深夜の時間を選び、教会を訪れる

欠けたステンドグラスを見上げ
かつてここで祈った者達に…迷った者達に、神は答えを与えたのだろうか
…神ならば、私が1つの命として生きる道を…示してくれるのだろうか

…アナタは?

…問いかけ
そうだな…私は、自分がわからない
私の機械と肉体の入り混じる
兵器のようなこの身体を、歪に感じるんだ
…私は、生命として生きているのか…兵器なのかと

神ならば答えを教えてくれるか…と思ったが
どうやら教えてはくれないらしい

…私が、アナタよりも人間臭い…
…私を、生命として見てくれる人もいるのか

温かみのないこの両腕に触れれば
人間だと…実感はできないが

自分で、証明を見つけ出せ…か


トキワ・ホワード
【魔雪】
初対面

廃教会を訪れてほしいとの依頼だったが
俺が来なくとも、敬虔な者が訪れているじゃないか

立ち去ろうとするが聞こえた声に足を止め
思い悩む、迷い子のようなその声が
死別した弟子達の姿を想起させた

…神へ祈りを捧げる信者かと思ったが
随分と難しい問いかけをしているな

神が問いかけに答えないのは当然だろう
人の悩みなど、人にしか答えは示せん
ましてや自分の存在定義なんてな

実に愚かで、くだらん悩みだ
俺にはお前が1つの生命として生きているようにしか見えん
悩み、苦しんでいる様は俺よりもよっぽど人間臭い
お前はお前の思う以上に人間だ

お前の苦悩は神に縋る物ではない
考え抜け
お前自身で、お前の生命としての証明を見つけ出せ



 手に提げる角燈(ランタン)に我が魔力を焚べ、紫闇に佇む廃教会を訪れる。
 ただ足を運ぶだけで良いと言われたものの、朽ち果てた十字の組木を起こすくらいはと聖堂に至ったトキワ・ホワード(旅する魔術師・f30747)は、冷たい長椅子に座る人影に気付き、爪先を止めた。
(「――俺が来なくとも、敬虔な者が訪れているじゃないか」)
 ならば佳しと踵を返した彼は、然し、悴むような聲を聽いて立ち止まる。
 思い悩む、迷い子のようなその声音は、死別した弟子達の姿を想起させ――二人の子に與えた名を冠する老成の魔術師は、背を向けた儘、肩越しに流盻を注いだ。

「嘗て此処で祈った者達に……迷った者達に、神は答えを与えたのだろうか」
 美しくも、何処か寂寥の染むコントラルト。
 佳聲の主はフリージア・プロトタイプ(冷たい両手・f30326)
 人気のない深夜の時間に教会を訪れた彼女は、所々を欠けて落とす彩色硝子(ステンドグラス)を見上げ、嘗ては薔薇を模ったであろう瀲灔の彩を瞶めている。
 あわく開いた花脣は、靜謐の中で神に問い掛け、
「……神ならば、私が一つの命として生きる道を……示してくれるのだろうか」
 而して零れた科白は、眞白の息と變わって、解ける――。

「……神へ祈りを捧げる信者かと思ったが、随分と難しい問いかけをしているな」
 時に須臾。
 口を突いた言が、精悍の躯を正対させた。
「……アナタは?」
 聖堂に響き渡るテノール・バリトンに彈かれるようにフリージアが振り向けば、瑠璃灯(ランプ)の灯に浮かび上がる男が、金の麗瞳に炯々と光を湛えている。
 続く言を待つ彼に、フリージアは徐に口を開いて、
「……問いかけ……そうだな……私は、自分がわからない」
 云って、星燈りにシルエットを暴く己の姿を顧みる。
「私は、機械と肉体の入り混じる、兵器のようなこの身体を、歪に感じるんだ……果して生命として生きているのか……兵器なのかと」
 無機質な兵器と有機体を嵌合したレプリカント(人型機械)。
 繊麗の躯には圧倒的殺傷力を誇る兵装が仕込まれており、唯一、首に掛かるプレートに刻まれた文字だけが、己に「名」のある人格を感じさせて呉れる――。
 フリージアは鋼の繊指にプレートの刻印を捺擦(なぞ)ると、それから小さく言ちた。
「神ならば答えを教えてくれるか……と思ったが、どうやら教えてはくれないらしい」
 丹花の脣を引き結べば、再び音訪(おとず)れる――静謐。
 鼓膜に迫る沈默に、答え無き答えを受け取った彼女は、物悲しげに空を仰いだ。
「若しか合わせる手も機械だから、届かないのか――」
「神が答えないのは当然だろう」
 時に、凛乎たる言が寂寥を遮る。
 フリージアの溜息に被せるように言った魔術師は、トキワは、凍風の吹き抜ける聖堂に科白が攫われぬよう、凛とした口調で話し始めた。
「人の悩みなど、人にしか答えは示せん。ましてや自分の存在定義なんてな」
「人の……悩み……」
 銀灰色の佳瞳がぱちくりと睫を瞬(しばた)く中、彼は澱みなく言を足して、
「実に愚かで、くだらん悩みだ。俺にはお前が一つの生命として生きているようにしか見えん。悩み、苦しんでいる様は、俺よりもよっぽど人間臭い」
「、っ」
「お前はお前の思う以上に人間だ」
 端整の脣を滑り出る言は澱みない。
 故に虚飾も嘘言も感じない。
 一縷と繕わぬトキワの聲は直截的に胸に刺さり、心の襞に痛みを広げていくが、花車の躯にじんわりと広がっていく痛みこそ、己を人間と思わせて呉れる。
「……私が、アナタよりも人間臭い……」
 彼の言を鸚鵡返しして、一語一音、丁寧に反芻する。
 体中を駆け抜ける電気的な痛みが、高揚――即ち命の悦びとは、これまで得た事の無い彼女には判然らないが、目の前の男が鏡となって己に生命を見せて呉れる。
「……私を、生命として見てくれる人もいるのか……」
 幾許か喫驚した表情で、我が両腕を抱く。
 凍風に冷えるばかりの鋼鐵の繊臂に触れたなら、矢張り人間だとは実感できないが――この男はそんな所感さえ些末なものと断ち切りそうな気がする。
 フリージアが宛如(まるで)雷に打たれた様に立ち尽くす間、つかつかと主廊を歩いて長椅子に近付いたトキワは、己が携えた角燈を彼女の足元に置いて言った。
「お前の苦悩は神に縋る物ではない。考え抜け。考えて、考えて――お前自身で、お前の生命としての証明を見つけ出せ」
 果してトキワは気付いたろうか。
 孤児を拾い、我が弟子として面倒を見た時分の口調で諭した彼は、芯も無く燃え続ける魔法の灯を其処に置くと、今度こそ踵を返してその場を去る。
 而して温かな光と共に居残りをさせられたフリージアは、交睫をひとつ、
「自分で、証明を見つけ出せ……か」
 曇り無き瞳を煌々と、崩れた天蓋から覗く星燈りを眺めるのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

仇死原・アンナ
……静かだ

相変わらず…私が生まれ落ちたこの常闇の世界は暗い…
様々な世界を見たが…この世界を覆う闇は重く冷たい…

教会…
嘗て…ここに信仰があり…身を寄せ合い必死に神に願う者がいたのだ
だが…彼らはもういない…何があったか知らないが…
ただ朽ちた教会だけが残った…

ならば…いなくなった彼らの代わりに[祈り]を捧げよう

淀み朽ちた空気を[浄化]させますようにと願い
[破魔]の霊剣を抜き振るい空を切ろう
そして霊剣を地に突き刺し闇に葬られた者達の魂を[慰める]ように
静かに目を瞑り祈りを籠めよう…

…誰だ?
…気のせいかな
誰かいたような気がするが…オブリビオン…じゃあないな…
彼らの魂かな…それとも…

……ここは寒いね



 ぼんやりと炎を焚く角燈(ランタン)を手に、紫闇に佇む廃教会を訪れる。
 こつ、こつ、と冷え切った石床に跫音を置いた仇死原・アンナ(炎獄の執行人あるいは焔の魔女・f09978)は、鴇色に艶帯びる佳脣に美しコントラルトを紡いだ。
「…………静かだ」
 小さな囁(つつや)きさえ眞白の息と變えて消える――寂寞。
 不圖(ふと)、爪先を照らす光を辿って視線を上げれば、天蓋の大きく崩れた部分から仄暗い星空が見えよう。
 厚い曇雲に覆われた夜天が星を覗かせる事は稀有(めずら)しく、アンナは雲間に見る玲瓏を射干玉の黒瞳に映すと、そっと言ちた。
「相變わらず……私が生まれ落ちたこの常闇の世界は暗い……」
 異端の神と吸血鬼に支配されたダークセイヴァーは、もう百年ほど光を見ていない。
 ここ数年の猟兵の活躍で、ヴァンパイア勢力は盤石の支配構造を取り崩しつつあるが、その闇は濃く深く、戰いに明け暮れるアンナでさえ、その底を見ていないのだ。
 彼女は所々欠けた彩色硝子(ステンドグラス)の、嘗ては薔薇を模ったであろう瀲灔の彩を瞶め、
「猟兵として、様々な世界を見たが……この世界を覆う闇は、重く、冷たい……」
 ――然う。
 どの世界にもある自由の光が、希望の星が、此処ではあまりに遠い。
 幾度と闇を払っても、この國に染み付いた絶望は拭いきれず――この廃教会にも嘗ては信仰があり、身を寄せ合って必死に神に救いを願う者が居た筈だ、と聖堂を見渡す。
「……彼らはもういない……何があったか知らないが……朽ちた教会だけが残った……」
 この世界ではよくある話だ。
 美しくも醜くもない、無数に轉がっている物語――。
 然しその一つを訪れたからには、廃墟と埋もれる前に祈りを捧げたいと思う。
 嘗て此処に居た者の代わりに聖夜の務めを果たそうと、退魔破邪の霊剣『芙蘭舞珠』の揺らめく炎のような刃紋を顕かにしたアンナは、刃鳴一閃、淀み朽ちた気を浄うと同時、その鋩を地に突き立て、闇に葬られた者達の魂を鎮めた。
「静謐の裡に、眠れ……」
 而して目を瞑り、祈りを籠める。
 その時だった。
「――……誰だ?」
 刹那、凍風に冷やされる肌膚を熱が掠めたような――魔力を帯びた何者かが居たような気がするのだが、オブリビオンのような邪悪な気配を持たぬは、霊魂か――それとも。
「……気のせいかな、触れられたような気がしたけど……」
 振り返っても影は無し。熱も光も感じられぬ。
 聖堂を吹き抜ける凍風に翡翠の髪状(かんざし)を梳られたアンナは、小さく囁いて、
「……ここは寒いね」
 ――と、独り、両腕を抱くのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

クロト・ラトキエ
足を運ぶ――
それだけで良いのなら。

打ち捨てられて尚消えぬ厳かさ。
足を踏み入れた途端に変わる空気感。
独善に過ぎる己には、何もかもが不似合いで…
居心地に困る。外から眺める方針で!

崩れても、割れても、美しい聖堂…だとは、思う。
夜の様に、冬の様に、無味乾燥で動かぬ心。

…それが。
此処は、いつかの誰かの故郷で、
大切であったろう場所。

――たった一年。
そんな事を思う程度には変わった己に、苦笑一つ。
祈りの言葉なんて覚えもしなかった。
願い方なんていつしか忘れた
…のに。
今や確かに、燈る思いがひとつ。

きみがしあわせであるように。

僕を変えた、ひかり。
僕の全ては、君が為。

これを願いと呼ぶのなら…
この場には唯一、似合いかな



 足を運ぶ――。
 それだけで良いのなら、と件の廃教会を訪れたクロト・ラトキエ(TTX・f00472)は、信仰が途絶えて久しくも消えぬ嚴粛に、朽ち果てて尚も抱ける壮美に息を呑んだ。
「これは……森嚴(おごそか)な」
 冷え切った石床に跫を置いた途端、空気が變わるのが瞭然(わか)る。
 繊手に携えた瑠璃灯(ランプ)が照り出す聖堂は、薔薇を模した格子の明層窓(あかりまど)に彩色硝子(ステンドグラス)を鏤め、搖れる燈火に瀲灔を零す――幽玄。
 伊達眼鏡の奥、青藍の麗瞳に其の玲瓏を映したクロトは、意を決して踵を返し、
「――外から眺める方針で!」
 噫、独善に過ぎる己には、何もかもが不似合い。
 居心地に困る、と連なる長椅子に腰も落とさず退堂した麗人は、廃教会から少し離れた跡地から外観を眺める事にした。

  †

「――此処なら」
 此処で十分、とクロトが腰を下ろしたのは崩れた井戸の縁。
 辺りに轉がる煉瓦に焼け跡は無し、信者らは何らかの脅威から逃れる為に離れたかと、つい推察してしまうのは職業病か――足許を滑った視線は自ずと上を向く。
「崩れても、割れても、美しい聖堂……だとは、確かに」
 クロトは美も信仰も理解らぬ男では無い。
 然し透徹の瞳はこれまで如何な閃爍を映しても、彼の心は夜のように、冬のように――無味乾燥で動かなかった。
 ……それが。
「此処は、いつかの誰かの故郷で、必定(きっと)大切であったろう場所で――」
 己が佳脣を擦り抜ける科白に、己こそ喫驚を覚える。
 ――たった一年。
 そんな事を思う程度には變わった己に、自嘲めいた苦笑が零れる。
 祈りの言葉なんて覚えもしなかったし、願い方もいつしか忘れた身が、今やひとつ――確かに燈る“思い”に、手を組み合わせようとしているのだから分からない。
 時にクロトは、優艶のテノール・バリトンを紡いで、
「――きみが」

 きみがしあわせであるように。

 僕を變えた、ひかり。
 僕の全ては、君が為。

 而して佳脣を擦り抜けた言の葉が眞白の吐息と解けて消えれば、幾許か星燈りの煌めく夜空を仰いだクロトは、その光を愛(お)しんで、
「これを願いと呼ぶのなら……この場には唯一、似合いかな」
 と、皮肉めいた竊笑を咽喉に押し込めるのだった。

 ――Totus tuus.(トトゥス・トゥス)
 其は最古の言葉で「わたしのすべてはあなたのもの」という意味。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2020年12月30日


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#ダークセイヴァー
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#夕狩こあら
#ダークセイヴァーのクリスマス


30




種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


挿絵イラスト