譬え、聖戦であらざるとも
●共感の痛み
神なるものは、神であるがゆえに。
大いなる力を得ているがため、責を負う。
少なくとも、彼はそう考えていた。銅の髪、獅子に似た印象を与える、精悍な顔立ちと体躯。凜々しい眼差しは一点を見つめた儘、動かない。
まるで彫像のように。
だが、その神が、急に目を瞠り息を呑んだ。顔色が急速に青ざめ、瘧に掛かったように震える。
「――スヴァル……」
その唇が紡いだのは、半身の名前。対と生み出された双子の姉。
次の瞬間、彼は吼えた。怒りと痛みに満ちた一喝と、それを振り払い、次の戦いのための仲間達への警句。
「スヴァルが斃され、封印が破られた! ――不死の怪物が出るぞ!」
「――いいや」
その必要はないとそれらは笑う。
ずらり居並ぶは、闇を纏うような、英雄の模造品――その身体は樹木の枝に包まれ、それが紡ぐ翼を背負う。その背より、おもむろに顔を覗かせるは猛禽の嘴。あれは、呪いの言葉を吐いて、啄み肉を剔る、死告げ鳥。
また別の個体は、鉄の楔を背に幾つも穿たれた、闇色の狼。毛皮を背負うようにした男の背で、輝かせる瞳は魔眼。ひと睨みで相手の身体を縛り付ける、忌まわしき獣だ。
そして、それらの向こうには、狂気的な笑みを見せるヴィランがいる――。
あれが糸を引いているのだと、悟った神は。
良かろうと、燃えるような剣を掲げて残された神――グラムは低く告げる。
「貴様が、我が姉の仇であるならば、尚更のこと……『神獣の番人』としての役目――貴様らを屠り、継続せん!」
怒りを放ちながら、地を蹴り躍れば、大地が鳴動するような唸りと共に、他の神々も追随する。
――斯くして、この地に再び死闘が訪れる。
●かく神語りき
「怪獣モノは、俺様のジャンルじゃねぇんだが――」
愚痴を零して、阿夜訶志・サイカ(ひとでなし・f25924)は猟兵たちを見て、ニヤリと笑う。
「おうおう、ダーリン。丁度良いとこに来たな。古ッ臭ェ場所の化石燃料を、燃料に戻しにいってくれ」
少々彼独特の表現があったが、つまりはこういうことだ。
ヒーローズアースに存在する、知られざる文明のひとつ、センターオブジアース――神々が住まう「地球の中心」であり、燃え盛る不死の怪物が繋がれた土地。
ジャスティス・ウォーを経て尚、「神獣の番人」としてこの地を離れず、守っている神々がいる。
彼らが見張るは、神々の時代に討伐した「不死の怪物」――其れを狙って動いた猟書家幹部アズマこそ斃されたが――意思を継いだ別のオブリビオンが、その神を殺し、同じく事件を起こすというのだ。
オブリビオンは、怪物の一部を開放し配下に纏わせ、そうした存在を「スナーク化」と呼ぶことで、神々の間にスナークの名を「恐怖の代名詞」として固定しようとしている。
「概念に概念を重ねやがって」
忌々しそうに吐き捨てると、サイカは猟兵たちにへらりと笑う。
「取りあえず、量産型にくっついた、くだらねえ遺産を引っぺがして、また地の底に叩き落とす。そして、これは任意だが『スナーク』は怖ェもんじゃねえっていう刷り込みをしてこい。要するに、相手の作戦の逆をやれってこった」
お誂え向きに、怪物を封印するべく、神々が共闘することになるだろう――彼らは強く、封じた獣の弱点を知り尽くしている。とても心強い仲間となるだろう。
自己ピーアールにも最適だぜ、とサイカは笑う。
「別にソイツらと俺様に、縁もゆかりも、一ミリもねぇが――あれだ。間接的に、俺様が借りを作れる」
まあ、そんな気がするだけですけどね。
「なんつーか、今回はやっかいな憑きものの所為で、雑魚が強い。雑魚の癖に。でもまァ、ダーリンどもなら大丈夫だ。弱点つかなきゃ太刀打ちできねぇっていうが、幸い助太刀がある。ノルマはひとり一体以上な――それじゃ、行ってこい」
彼岸花の形をした光のオブジェクトの中で、堕落しきった神は説明を終え――猟兵たちを、かの地へと送り込むのであった。
黒塚婁
どうも、黒塚です。
取りあえず応援参戦。
●プレイングボーナス
神々と共に戦うこと、もしくは猟兵組織「秘密結社スナーク」の一員であると名乗ること
●不死の怪物と、その弱点
様々な不死の怪物と融合した『ジャスティストルーパー』 は大変強く、弱点をつかないと倒せません。
弱点については神が知っているので(導入で語ります)共闘の際、それを聞き出すことになります。
2章のボス『ドクター・サイコ』 は融合は行っていませんが、神々と引き続き共闘できます(1章の間に攻撃することはできません)
●プレイングについて
導入公開後でしたら、いつ送っていただいて構いません。
基本1人ずつ、書けるときに書けるだけ。
ですので、全員採用はありません。
システム上、受付が終わった時が締め切りになります。
それでは、皆様の活躍を楽しみにしております!
第1章 集団戦
『ジャスティストルーパー』
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POW : フォールン・ジャスティス
全身を【機械部分から放出されるエネルギー】で覆い、自身の【戦闘を通じて収集した敵のデータ】に比例した戦闘力増強と、最大でレベル×100km/hに達する飛翔能力を得る。
SPD : イミテーション・ラッシュ
【ジャスティス・ワンが得意とした拳の連打】を発動する。超高速連続攻撃が可能だが、回避されても中止できない。
WIZ : マシン・ヴェンジャンス
全身を【機械装甲】で覆い、自身が敵から受けた【物理的な損傷】に比例した戦闘力増強と、生命力吸収能力を得る。
👑11
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●神と、模造の兵
そのモデルは、世界大戦期の偉大なる英雄「ジャスティス・ワン」――それを、地底人が模倣して作り出した機械兵。
人々の憧れを、希望を模したこれらは、実力「理論上」もそれに匹敵した存在であった。
心は。救いたい、というヒーローとしての根源を。それらは持たぬ。
それが劣化か進化か、互いが対峙することはないゆえ、不明だ。
果たして、このジャスティストルーパーは――不死の怪物と融合し、更なる異形かを進めていた。
一歩踏み込んだトルーパーへ、雷撃が迎え撃つ。まともに歩けぬ電圧の壁を、その両腕に絡みつく蛇が食らい尽くす。
「こいつ――やはり!」
忌々しそうに吐き捨てた神へ、応、と別の神が槍を振り上げ、その背を狙う。
ぎょろりと此方を見る目へと鋒を捻じ込んで、よっしゃ、と神は勝ち誇る。
「俺達は此所に封じられてる奴らの弱点は知ってるのさ!」
飛翔し、偵察していた神が滑空しながら、トルーパーへ突風を叩きつけ、纏めて後退させる。
「しかし、気をつけろ、数が多い……」
「何、昔と変わらん――見た限り、クソ鳥と、アホ狼と、ビビり蛇、単細胞な猪ばっかりだぜ」
「結構いるなァ……組まれると面倒だな」
神々がそれぞれに言葉を交わす。
その戦端、誰よりも躍動するは銅の髪のグラム。
元より勇猛な男だが、無謀とも呼べる程、突出している。而して、対峙するトルーパーも『ただのオブビリオン』でもなければ『不死の怪物』でもない。
その二者が融合している――つまり。
グラムの剣を、鋼を受け付けぬ魔猪の毛皮が受け流す。だが、彼は驚かぬ。この怪物の特性は知っているからだ、こいつの弱点は、尾にある――そう思い、剣を滑らせながら、その背に回り込もうとしたとき。
トルーパーが突如、グラムの動きを上回る速度で転回し、撓る腕で殴打した。
凄まじい衝撃に、神は吹き飛ぶ――鈍い痛みが腹部に走る。次々に、トルーパーが仕掛けてくる。その身のこなしは、どれもこれもグラムの剣を読んだかのように無駄がない。
「……く、これがコイツの力か」
グラムが低く呻いた。敗北するとは思えぬが、憎き相手――トルーパー達の背後で薄笑いを浮かべる敵から遠ざかったことへ、悔しさを滲ませるのだった――。
梟別・玲頼
獣なら狩られるべき、だな
貴方達とは神格も理力も相当劣るが、助力せん理由にはならぬ
同じく守護者たる存在となれば尚の事だ
なんて堅苦しい物言いはここらにして
何だよあの悪趣味なヤラレ役感満載のメカ
作った奴と持ち出して魔改造した奴は本人に土下座してきやがれ
グラム神、そして神々に声をかけて援護
猟兵組織スナークの名の元に助太刀するぜ!と
で、どこ狙えば良いんだ?
敵の動きを阻害する様に矢で射る
目的は当てる事じゃねぇ
飛び道具が来ればそれに対する反応は必ず有る筈だ
そいつを読み取り神々と連携
フェイント織り交ぜ、弱点の尾を射貫く
またはこっちで援護で射ながら気を引いてその内に攻撃して貰うか
ノルマの一体以上は仕留めてやるぜ
●鏑矢
ふん、梟別・玲頼(風詠の琥珀・f28577)が忌々しげに、息を吐く。されど、弓を掲げて作る十字は美しく。次の矢をくるりと指で玩んで、弦を弾く。
「獣なら狩られるべき、だな」
狩人らしい囁き。
伝説の獣は、神話の時代に生きた狩人に、悉く狩られてきた――そんな伝説をこの世界に刻んだ神も、此所にはいるだろう。
「貴方達とは神格も理力も相当劣るが、助力せん理由にはならぬ――同じく守護者たる存在となれば尚の事だ」
何処か、自嘲するような響きもあった。守るべき土地を喪い、消えかけた風使いのコタンクルカムイは――守るべき世界を持つ神々を、万感こもごも秘めし琥珀の双眼で見つめる。
「……なんて堅苦しい物言いはここらにして」
敵を観察していた真摯な視線は――不意に、怪訝と、別の形で険しくなった。
すっかり人である玲頼として、年若い青年らしい表情で、眉をひそめた。
「何だよあの悪趣味なヤラレ役感満載のメカ。作った奴と持ち出して魔改造した奴は本人に土下座してきやがれ」
英雄サマを貶める粗雑偶像とは、まったく、ヒーローに焦がれる子供の心を踏みにじる恥知らず。恐れ入る。
はてさて、散々な酷評をいただいたジャスティストルーパーであるが――不死の怪物の特性を備えたそれは、音もなく前に進み出た。屈強なる体躯、それを駆動させるが機械とは思えぬ滑らかな動きで、軽やかに、然し確かな重量を以て神へと躍りかかる。
負けず劣らぬ――否、単純な戦力では、それらを超越する神々は、おのおの武器を携え正面から結び合う。
接触点より、衝撃が波動となり、周囲の土塊を弾き飛ばしていく――。気前よく炎を放ちながら拳を振るう烈火の神が、高笑いをしながら踏み込むと、何もかも飲み込む蛇の腕が炎を食らっていく。
「うぉ、こいつは……!」
「ちょっと待て、今――ッ、こいつ!」
援護に向かおうとする相棒の烈風の神は、魔眼の狼に絡め取られていた。
そう――もし、その実力差を埋めるものがあるとすれば、数だ。
神の膂力を持ってして、オブリビオン自身の力と、不死の特性を融合したそれは、弱点を突かねばならぬ。取り囲まれてしまうと、厄介な事になる。
「ひょっとして、ピンチかッ」
自棄笑いを浮かべた神の傍らを、何かが高速で駆け抜けていった。
ひょう、と。
風を切る一矢が、神々の合間を潜り抜け、トルーパーの胸を貫く――それを超反応で握りしめ、トルーパーはぎちぎちと機械の顎を鳴らした。
だが、その一挙で、魔眼の縛りが消えた神が、ぐるんと上半身を捻ってトルーパーの顎へとアッパーを決めた。
はは、と笑って、玲頼がその一撃を囃すと、次の矢を構え、名乗る。
「猟兵組織スナークの名の元に助太刀するぜ!」
巻き付けたストールに阻害されることなく、滑らかに彼は次々と矢を放つ。トルーパー達が警戒して一歩引くと、難を逃れた神々は声を張った。
「おお、かたじけない――!」
「恩に着るっ」
殴り飛ばし、千切り飛ばしながら、神は豪快に玲頼へと返答した。
玲頼の手元でも、金色を帯びた弓に仕掛けられた鏃の輝きが鋭く、放たれる時を待っていた。だが、無闇に放てばいいというものでもない。
「で、どこ狙えば良いんだ?」
「大概背中だよ! 分かり易い弱点浮き出てるから、狙ってくれ。誘導する!」
烈火で全身を輝かせた神が言うと、相棒と共に駆け出す。
彼らの戦闘スタイルは徒手のようで、トルーパーとがっつり組み合う体勢になる。ああ、と軽いいらえを向けた玲頼は、彼らが巧く動けるように、射貫く。
最初から弱点を狙撃は、彼も狙わぬ。
遠方より仕掛ける事で、トルーパーが如何なる反応をするか。受けるか躱すか。受けるならどちらの腕で防御するか。
次々と矢を放ち、神々の援護をすると同時に、鷹の目ならぬ梟の目で、それらの反応を探る。
ひゅ、とトルーパーの拳が空を切った。恐ろしい風圧が、玲頼にも迫る――尾のように長い茶の髪がふわりと揺らし、彼は後ろへと跳びながら、視線の高さに番えた矢を合わせ、笑った。
「その動きは最早覚えた――次は、其処か」
カムイの詞は、己の羽根を変じた矢に伝播し、並の射撃よりも早く、正確に、トルーパーの目を穿った。
止まれぬ暴走機関と化したトルーパーは、それでも玲頼の影を追って幾度となく乱打を仕掛ける。身体ごと引っ張られそうな怪力――暴力の旋風に向かい、玲頼は敢えて踏みとどまった。
その背を、貫く神の拳。トルーパーの身体が稲光を放って、爆発する。
「やるなぁ、猟兵組織スナーク!」
組織名で褒められた。
そういや個人名は名乗ってなかったな――困ったような笑みを浮かべ、すぐに消す。己のエンジンも暖まってきた感覚。湧き上がる昂揚に応えるように、弓を上げる。
「結局、モデルの所為か、動きが実直なんだよ。しかも相手の事を壊す事しか考えてねえから――」
ひとりごちるは、神と対峙する敵の動き。相手に誘われるように、拳を振るう。何のフェイクもない、力押しの殴打を後押しするのは、蛇の双腕であるわけだが。
その首根を押さえれば、脅威にならぬと知る神によって、押さえ込まれ――狙撃手に、顕わになった蛇の瞳を。
「ノルマの一体以上は仕留めてやるぜ」
不敵に放った言葉通り――ぷつり、と良い音がした。弾力のあるものが爆ぜる、胸のすく音だ。
見事射貫いた――その成果に、玲頼は特別声をあげて喜ぶこともなく。
それはあくまで通過点にすぎぬと言わんばかり、次の的を定め、撃ち放つのであった。
大成功
🔵🔵🔵
琳・瀏亮
——ソウ、お姉様が
番人たる覚悟、神々に敬意を表しましょう
我が名は瀏亮
「秘密結社スナーク」の一人として助太刀に参りました
此度の戦、如何様にもお使いください
挨拶はここマデ
敵の弱点、教えて頂けるかしラ?
素直に狙わせてくれるものなさそうネ
グラムちゃん、ワタシに陽動をさせてくれル?
妖剣解放で速度を上げ、衝撃波を放ち前に出るワ
単細胞な猪チャンなら、気になるデショ
狭霧の間合いと衝撃波を使い分けてくワ
防がれても構わない
でも全力ヨ
我が寿命は、道士の定めたものであれば
この性能示す時に使わずして何時使う
素早い拳ネ、躱したいケド片腕くらいは覚悟してるワ
拳が来れば至近の証、狙えるなら尾に衝撃波ヲ
狭霧が呪い喰らいなサイ?
●追う、影は
「ソウ、お姉様が……」
痛ましげに柳眉を曇らせ、琳・瀏亮(末の名残・f28517)が囁く。
それでも、彼は苛烈に輝く。戦端を担い、剣戟を打ち鳴らし、戦っている。
「――番人たる覚悟、神々に敬意を表しましょう」
掌と拳を合わせる仕草で、軽く俯く。
ああ、けれど。身を焦がすように哮り、憎き敵を果たんとするような神の戦いは、無謀そのもの。仮に、安易なる死に至ることはなくとも――その想いを察すればこそ、瀏亮は放っておけぬ。
グラムなる神は獅子のごとき銅の髪を振り乱し、己の行く手を阻むものどもを力任せに振り切ろうとした。それがもっとも無駄な事だと、知っていながら。
窮地に、身を躍らせ――しなやかな踏み込みと同時、妖衒なる長刀を振り薙いだ。
ふわりと弧を描いた刃は、グラムへと拳を叩き込もうとしたジャスティストルーパーの腕をざっくりと斬りつけ――常であれば、断ち落とすであろう斬撃を、不死の怪物は受け流して見せる。理屈ではない、当たらぬと言うのだから当たらぬ、という感触に、瀏亮はマァ、と目を丸くした。
だが、ただの感想だ。彼はするりと神と背を合わせるよう、戦陣の中に割り込んで、双眸を細める微笑みと共に告げる。
「我が名は瀏亮――『秘密結社スナーク』の一人として助太刀に参りました。此度の戦、如何様にもお使いください」
畏まった厳かな名乗りに、グラムは「スナーク」と呟いた。
「先程も同じ名乗りをしたものがいたらしいな――感謝する」
「フフ、ワタシは代表ではないけれド、話はこの場を切り抜けてからネ――挨拶はここマデ……敵の弱点、教えて頂けるかしラ?」
婀娜と微笑み、瀏亮は抜き身の妖刀で緩く円を描くようにして構え直すと、じりじり間合いを詰めようとしているトルーパーの首元へ、鋒で狙いをつけた。
「前方を囲んでいる奴らは見ての通り、魔猪のようだな。俺が剣使いだからだろう。これが一番効く」
なるほど、と軽く相槌をうつ。つまり不利な条件は、瀏亮も変わらぬ――。
前を向いて攻撃を双腕で受けていれば――弱点さえ攻撃されなければ、何処までも押さえ込めるということだ。
「素直に狙わせてくれるものなさそうネ。グラムちゃん、ワタシに陽動をさせてくれル?」
「……何」
驚きに、グラムは傍らの青年を――と、神は認識している――見た。かなりの使い手だろうが、特別なものは見て取れぬ。
フフ、と再び軽やかに笑って、瀏亮は「協力することに意味があるノ」と囁いた。彼が構える剣から――ぞっとするような気配が漂い始めた。
裡に秘めた怨念を解き放った妖刀は、魅入られる程に美しく輝いた。
グラムのいらえを待たず、彼は前へと駆った。弾丸の如く飛び出しながら、素早く虚空に斬り込む。
太刀風は言葉通り衝撃波となりて走る。息を呑む音が遙か背後で聞こえた気がする――それもそうだろう、瀏亮の身体能力は、少なくとも速度はかなり上がっていた。
挨拶のように叩きつけた衝撃波にトルーパーの注意を向けさせると、彼らの合間を通り抜けて素早く切り替えし、鋭い角度で刃を落とす。
向こうも的確に反応した――半身を傾げて弱点である背を隠し、万物を受け流す腕で太刀を受け止める。
「単細胞な猪チャンなら、気になるデショ」
薄笑みと共に、深く沈めた姿勢から跳ねて、妖刀を旋回させる。大仰に誇張した剣舞を、感情の揺らぎもない機兵の中央で披露する。笑いも驚きもしない観客の中央で、楽しそうに躍る。
ホラ、もっとこっちをご覧なサイ――言葉も交えて、白刃を薙いだ。
「――我が寿命は、道士の定めたものであれば、この性能示す時に使わずして何時使う」
つと紡いだ言葉は。滑らせた眼差しは、その刃が如く鋭利に響く。
この身体は、道術によって作り上げられた傑作。
外見の美のみでなく――性能でも、最高を誇り続ける。それが、瀏亮の矜持。
旋風のように掴めぬ彼を、トルーパーは力業で制圧せんと定めたようだ。壁のように大柄の体躯が力強く踏み込んで、土埃を立てながら突進してくる。
一見、粗雑な一撃に見えるが、精緻な駆動で拳を繰り出す。
「素早い拳ネ」
言わないが自分も、拳には覚えがある。ゆえに、その間合いと弱点も認識している――加速した世界で、身を斃す。頬を裂く風に不敵な笑みを湛え、反撃の一刀を傾げた。
雄叫びが響く。
トルーパーは叫ばない。堅く引き結んだいかめしい表情を変えることはない。
剛刀が、一体の背を穿った。グラムが水平に埋め込んだ鋒が、瀏亮の機を作る。
「狭霧が呪い、喰らいなサイ?」
楽しむように瀏亮がいい、彼らの足下を潜るようにしながら――刀身を届かせる必要はないのだ。手首を撓らせ、無数の斬撃を仕掛ける。
それらはトルーパーどもの背にある尾を、膾のように裂く。彼の放った衝撃波は、揃えた頭数の背を次々斬りつけ――更に、グラムがとどめの剣を叩き込む。
彼の剣が、荒々しいのは、元の気質ばかりでなく――。
(「役割に滅私するってわけじゃナイ――そうよネ」)
瞼の裏にも浮かばぬ、絶対なる道士の面影を描こうとした時のように。その瞳を、軽く伏せながら、刀を次なる群へと向けた。
大成功
🔵🔵🔵
コノハ・ライゼ
はぁい、秘密結社スナークでーす
名を騙る不届きモノを片付けに来ました~、ナンてネ
数の差埋めるならお誂え向きの手があるの、任せて
状況と動き見切り出来るだけ多くを巻き込むよう範囲攻撃
マヒ攻撃乗せた【虹渡】を広げ痛みのない光の帯で絡め動きを封じていくわ
この隙に誰か弱点どんどん教えてくれるかしら
なあに、実践で示してくれりゃ十分ヨ
反撃は武器とオーラ防御で往なしつつ
カミサマが危なければ庇いに入るねぇ
弱点覚えたら続けて虹渡広げ
2回攻撃で傷口抉るよう攻めていこうか
この手の輩は美味しいとは言い難いケド
頂き方なら負けないと生命力吸収して負傷を凌いでいくわ
一人一体……ナンてケチな事言わず
ガンガンいっちゃいましょ
●戦場を躙る虹
ガァ、と血を吐いた。
重いボディブローが入って、生身の神は呻く。然れど屈せず、身を盾として立ち塞がる屈強な男の脇を、蝶のように軽やかな女が跳ねた。
「こ、のッ!」
ジャスティストルーパーの、むき出しの機械部分を掌底で叩く。頤から吹き飛んだ機兵へ、女は更に鉄の鎖を叩きつけた。
「姐さんの仇ィ!」
しゃんと撓った鎖は、刀よりも鋭くトルーパーの首を打つ――その時、その肩口で、鶻が甲高く鳴いた。忌むべき呪いのことば。
だが、彼らの姿を見た瞬間に、忌み語への対策はとっている。それでも一瞬怯んでしまうのは、不死の怪物を侮らぬから。
盾役の神が女の肩を引いて引き戻そうとする――が、その背にトルーパーの気配を感じて、身を強ばらせた。遅れをとるつもりはないが、一撃で屠ることは難しい。そういう相手だ。盾と剣、一点を突破していくならば、問題は無いが、こんなに敵が多いと――。
「おのれ、スナークどもめ……」
男が、低く呟いた時。
薄暗く窒息しそうな戦場のさなかを、鮮やかな色彩が、横切った。
すいすいと戦場を軽い足取りで分け入り現れた男は――神々を捉えると、薄氷の瞳を細めて微笑む。
「はぁい、秘密結社スナークでーす――名を騙る不届きモノを片付けに来ました~、ナンてネ」
コノハ・ライゼ(空々・f03130)が片手をあげて挨拶した。当然、その手には鋭き得物が握られている。きらりと光を帯びて、よく目立った。
「エット、あんた……」
女がジト目でコノハを見つめた。敵か味方か探るような眼差しに、ふふ、と更なる笑みを重ねると、コノハの双眸は愉快そうでありながら、隙のない光を宿した。
敵意は、奇っ怪なキメラと化したトルーパーどもへ。美味しそうか、不味そうか、という概念でいけば、不味そうだ。生身でない以上に、こいつらには生気がない。魂と呼ぶべきモノが収まらぬ、木偶だ。
「手数が足りなくて困ってるんデショ」
けれど、食いではありそうだ――ならば、コノハに目下の不満はない。
「数の差埋めるならお誂え向きの手があるの、任せて」
軽く片目を瞑って、合図を送る。
「――じゃあネ。」
そう言って、彼が身じろぐと。
天が、明るく赫いた。
淡く広がる虹の帯が無数と広がり――放射状に広がり、帯は地上へ腕を伸ばす。
まさに天変地異が如き現象であるが、神は驚かぬ。
そして、トルーパーも動じなかった。帯に絡め取られ――身動きがとれなくなろうと、『不死の怪物』たる己の有利を疑わぬように。
然りとて麻痺の呪を乗せた虹のそれがガチリと縛り上げれば、十分なのだ。
高らかに、コノハは手を叩く。
「この隙に誰か弱点どんどん教えてくれるかしら――なあに、実践で示してくれりゃ十分ヨ」
「そりゃ、いいわ!」
乗ったのは女の神だった。先程の鬱憤を晴らすかのように、鶻の首に鎖を巻き付けて引き千切る。
「このクソ鳥は、首根っこ引っこ抜けばお終い――次!」
威勢の良い神に引っ張られるように、今まで盾と立ち回っていた神は、屈強な肉体を尋常ならざる鉱物へと変貌させながら、狼の背に浮かぶ紋章を拳で貫いた。
「この狗の弱点は……毛並みに隠しているが、淡く発光している――此所だ」
「成る程、ネ」
論より証拠、百聞は一見にしかず。目の前で神たちが屠っていく様子を眺め、コノハは緩く頷いた。
紫雲に染めた髪がふと揺れる――暫し、見物して、ひとしきりの弱点を識った彼は、身を低くするなり前へと走った。
虹の帯の操作も変わらぬ。光の如く駆ける帯は、今度は唯の拘束では済まさない。脚を搦めたと思えば、素早く背に回り込んで、貫く。
仮にコノハが手を下さずとも――進路を立ち塞がるトルーパーをそこらへ引き倒しておけば、神たちが片付けるだろう。
「ぐ」
呻いたのは神だ。
弱点を、機械装甲で覆い尽くしたトルーパーが加速しながら突っ込んできた。全身を武器と踊る重い巨躯に、盾の神も押され気味だ。
考えたじゃナイ、嘯き笑って、コノハが滑り込む。
帯に挟撃させながら、両手に対の牙を閃かせ、十字に斬り込む。既に亀裂を走らせたトルーパーの身体は、機械の装甲の下で裂けて――火花を散らしながら、崩れ落ちた。
ぶん、と力任せの気流がコノハの髪を浚った。
身を傾けながら、横へと跳んで――、別から待ち受ける拳が、肩口を掠める。
飄然とそれを受け止めながら、じんと響く衝撃に、魔狼の視界が追撃を重ねて、コノハを縛ろうとする。
が、それを虹の帯が遮った。
ふ、と吐息だけで笑った彼は、膝を撓ませ、垂直に飛んだ。くるりと空をしなやかに躍って返すと、牙をその背に突き立てた。
「この手の輩は美味しいとは言い難いケド……頂き方なら負けない」
骨まで残さず、綺麗にいただく。
囁き通り、彼の一刀は機兵をぐずりと屑に変え、流れるべき血潮は砂塵となった。
ヒュゥ、囃すような口笛を吹いたのは女の神。鎖を振り回しながら、やるな、というかの如く親指を突き立ててくる。岩のような男の神は、厳かに頷き、拳を構えた。
「一人一体……ナンてケチな事言わず、ガンガンいっちゃいましょ」
実際、既に何体斃したんだか――まぁ、獲物はいくらでもいる。戦意を煽るように、コノハは告げると、虹を繰りて、次の敵影へと向かって駆った――。
大成功
🔵🔵🔵
セツ・イサリビ
ここに最後に来たのはいつだったか
今更「やあ、久しぶり。元気だったかい?」なんて
記憶にない旧交を温める暇はなさそうだ
武器になりそうなものを拾って、上空の神たちのもとへ飛んでみよう
『飛ぶ』なんて人間離れも久しぶりだ
相棒の猫は預けてきて正解だった
やあ、久しぶり。君らはずっとここで? それは仕事熱心なことだ
丹念にこしらえた世界だ、思い入れはあるさ
ああ、でも心から向いていないんだよ、
こういう真面目な戦いっていうものは
弱点とやらを教えてもらえるかい?
拾ったものを武器に変え、【神罰】をのせて狙いをつけて撃ちだそう
罪悪感なんてものを彼らは持ち得ないだろう
でも内側は意外と脆いものさ
ほら、隙ができるよ
●原初の罪
地表の下でぐらぐら揺れる、生命の炉。そこにくべられ煮詰められ――不死の怪物どもの怨嗟は届かぬ。少なくとも、今の世界がきっちり完成した後、とんと聴いた試しはない。
聴く気があったか?
――一笑に付すべき、愚問である。
「ここに最後に来たのはいつだったか」
独白は淡く空気に溶けた。
この地に、油断ならぬ戦いの熱気が広がったのは一体いつぶりか――まあ、割と近しい頃にあった気もするが、それとて過ぎ去って久しい。
セツ・イサリビ(Chat noir・f16632)にとって過ぎゆく日々を数えることなど、何の意味もないことだ。
「今更『やあ、久しぶり。元気だったかい?』なんて――記憶にない旧交を温める暇はなさそうだ」
神、などと一言で括れば尊く響こうが、残念ながら稀少とはいえぬ――この地には曾て神と怪物しかいなかったのだから、驚くほどに数が多く――互いに認識すらせぬ、擦れ違った縁者すら、此所にはおるまい。
解って嘯いた紫髪の神は、彼方で奮起する同胞を見た。
――それは、風を繰り、相手に叩きつけ、身を宙に躍らせる。彼が優位なのは、空を飛べるからだ。囲まれても空中に逃れることができる。だが囲むジャスティストルーパーどもは淡々と、不死の怪物の力を励起させてユーベルコードを放つ。
インプットされたジャスティス・ワンに匹敵する、豪腕が唸って、神々を打つ。さすれば、ずっとこの地を守ってきた彼らも足場を譲ってしまう。
世界が滅ぶかどうかの、前哨戦。
そんな言葉すら思いながら、セツの纏う空気はついぞ変わらぬ。ただ、ぽん、と。肩口の、そこにはいない何かを一撫でするような仕草をとって、彼は地を蹴った。その前に、その指は地に転がっていた、踏みにじられた枝木を拾い。
跳躍で描いた弧は、大きく緩やかに――落ちぬ。飛翔の力は、緩やかだが、彼の身を重力から解き放った。
「『飛ぶ』なんて人間離れも久しぶりだ……『猫』は預けてきて正解だった」
相棒の名――ポウ、とその名を口にした瞬間だけ、レンズの向こう、双眸を緩やかに細め――あとは、いつもの掴み所のない表情に戻った。
「ああ、クソ……」
一休止とばかり、宙に逃れた神は忌々しそうに戦場を睥睨している――結界を作って防波堤をしている仲間を如何に支援すべきか、考えあぐねているのだろう。
そこに、セツが、やあ、と声をかけたのだから、風纏う神はまあまあ驚いた。
「久しぶり。君らはずっとここで?」
多くを語らなくとも、セツの身の上を察したらしい神は、ああ――と場に合わぬ感慨に満ちた眼差しを大地に向けた。
「そうだ。ずっーとだ。今日が最期の日になったら笑えねえくらい、長いぜ」
「それは仕事熱心なことだ」
勿論、多少は揶揄である。『神獣の番人』が頑張ろうとサボろうと、不死の怪物は勝手に出てはこない。だが、この地を離れた神も少なからずいる――己のように。
それは自然なことで。ゆえに、今更何をと相手から恨み言すら出てはこない。
そう、離れたけれど。
「丹念にこしらえた世界だ、思い入れはあるさ」
「おう」
セツの言葉に、解ってる、というようないらえがあって。少し、苦笑してしまう。そういう同意を求めたわけではないのだけれど。
「……ああ、でも心から向いていないんだよ、こういう真面目な戦いっていうものは――弱点とやらを教えてもらえるかい?」
「おーよ、そういうもんだ。俺だって繊手の乙女に剣を握れたぁいわねえぜ。けど、アンタはやることはできる紳士だよな」
風の神はニヤリと笑う。
地上では、蓄積した傷を機械装甲で覆い尽くし、弱点すら隠して、一見無敵となったトルーパーどもが神へと押し寄せている。無骨な機械腕が甲高い音を立てて、結界を削り取ろうとぶつかっていく。更によく見れば、その身体から浮き上がった蛇がかじりつき、無力化を試みて――半透明の防壁が、少しずつ、割れていくのが見える。
「背中っつうか、頸椎の下だな――目があるはずだ」
神が囁く。
セツは、ただ頷くと、手にした枝木を投じた。
「其れは誰もが等しく背負う傷」
ひゅっとそれは風を切り、ただの枝は槍の如く。勇ましく、トルーパーの背を打って――ひしゃげて、落ちた。
一見、何の成果も残さなかった。けれど、セツはこれで良いと唇に弧を描いた。
「罪悪感なんてものを彼らは持ち得ないだろう……でも内側は意外と脆いものさ――ほら、隙ができるよ」
彼の予言通り――違和感すら覚えず、無視して前へと歩を進めんとする機兵が、不意に、動きを止めた。
十字に輝く深い傷が、枝が叩いた場所に刻み込まれ――。
機械で出来た木偶の――感情も持たぬそれが、身動きすらとれぬほどの苦痛に苛まれていた。
風を繰る神の動きは、早かった。その身を鋭い矢に変えて、彼が指摘した弱点を貫く。砕け散ったトルーパーの残骸を潜るころには、周囲のトルーパー達に次々と十字の刻印が刻みつけられていた。
「誰もが持ちうる……」
虚空でひとり詠い、枝を撃ち出す――セツの手には、まだまだその即興の武器は残っている。
罪を撃ちだし、罰を食らわせ。破片が躍る。地に還ることもなく、骸の海へと沈むものどもを、特に情もなく見下ろして。
神の裁きなど、常であれば、面映ゆい傲慢と思わぬ事もないのだが――この結末は、魂なき彼らには相応しい。
大成功
🔵🔵🔵
第2章 ボス戦
『ドクター・サイコ』
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POW : マッドネス・フュージョン
無機物と合体し、自身の身長の2倍のロボに変形する。特に【自分の発明した犯罪機械】と合体した時に最大の効果を発揮する。
SPD : サイコ・ギロチン
【自動で対象を追う13個の空飛ぶギロチン刃】を発動する。超高速連続攻撃が可能だが、回避されても中止できない。
WIZ : クリミナル・エクスペリエンス
自身からレベルm半径内の無機物を【犯罪用の発明品】に変換し、操作する。解除すると無機物は元に戻る。
👑11
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●ドクター・サイコ
「ハラショーハラショー! エクセレンテ、ブラーヴォ!」
いい加減な言葉で囃し、ドクター・サイコは拍手で猟兵と神を迎えた。
「スナーク化した傀儡どもを蹴散らして、とうとう来ちまったか!」
ヒャハハハ、とそれは嗤った。
ひっくり返った笑い声は、誰の癪にも障る音色だった。
「だがだが、まだだ! 己が神殺しを続行すればイイ! クゥゥール、な考え方だ、そうだろ?」
ヒヒ、と引きつった様に嗤う。嗤う。
戯けた仕草は――その神の神経を、大いに逆撫でした。
雄々しき獅子がたまらず吼える。
「貴様――我が半身、姉スヴァルの仇……!」
グラムは剣を広げて、手首を返す。頭に血が上っても、身についた、練達した技は鈍らない。『神獣の番人』としての自負。それを殺した神罰を、それへ。
「おっかねぇ神をブッ殺すため、おっそろしい『スナーク』を、もっともっと増やさなきゃなァ、なァ、でも己はそれより強いぞ――」
まあ、あの女は不意打ちでブッ殺したんだけどな――狂ったように、ケタケタ嗤い。
ドクター・サイコは更に神々を煽った。
ああ、然し。
この男の、道化に扮した姿を、侮るなかれ――人々の悲嘆を求め、非業を欲し、緻密なる犯罪計画を幾つも成功させてきた怪人のなれの果て。
悪夢の具現、最悪の存在とも呼ばれたもの。
その証左――狂気に似せた表情の、ぎらり輝くような、ただ二つの瞳は――極めて冷静に戦場を見ている。
神を怒らせ、統率を失わせるべく。或いは下らぬ時間稼ぎで、置き去りにされたトルーパーが再び此方に戻ってくるまで、時間を稼ごうと目論んでいるのか。
まあ、いずれにせよ――決着をつける。ただそれだけである。
梟別・玲頼
あーいう出鱈目発言聞いてると逆さづりにしてやりたくなる
このふざけた野郎に殺された神様には同情するしかねぇな…
太刀抜いて構え、奴よりデカい声張り上げて
スナークは恐れの心より生ず
恐れぬ者の心の前に怪物は生まれない!
オレが証明してやるぜ、そいつをな
UC発動、風を身に纏い斬り込む
我が名はレラ――風であり守護のカムイの誇りにかけ、この地を護ろう
って、いや何その合体ロボ
粗悪クローン作ったの絶対テメェだろ!?
やっぱ処す、徹底的に処す
その道化じみた言葉、二度と吐けない様にしてやるぜ
飛翔し接近して攻撃
向こうの攻撃はかいくぐり、視界を叩き潰すのは隙作るの狙い
グラム神、アンタの姉さんの仇だ――思い切りやっちまえ!
●正しき、義
辿り着いた男は、忌々しげに眉をひそめた。
「あーいう出鱈目発言聞いてると逆さづりにしてやりたくなる。このふざけた野郎に殺された神様には同情するしかねぇな……」
低く、梟別・玲頼は吐き捨てる。脳裏に浮かんだいけ好かない顔も、ついでに逆さづりにしておいて――太刀を抜く。
周囲の空気すら変えるような冴え冴えとした白刃。
――ああ、嫌な空気だ。
ねっとりとした熱気とも――しつこく纏わりつくようなドクター・サイコの悪意と、神々が堪えきれぬ殺意が混ざり合った、猟兵たちを置き去りに、この場を焼け焦がすような、何か。
ゆえに、断つ。
「スナークは恐れの心より生ず――恐れぬ者の心の前に怪物は生まれない!」
空間を支配する殺気を、玲頼の声が凜然と裂く。
はたと、神々は表情を改め、彼を振り返った。反応を待たず、玲頼は地を蹴る。
「オレが証明してやるぜ、そいつをな」
息を吐きながら、駆って、手首で太刀を返す。
刀身を身に沿うように構え、ストールを翻し走る姿は飛翔中の梟が如く。
「我が名はレラ――風であり守護のカムイの誇りにかけ、この地を護ろう」
ぎらりと反射した輝きは、獲物を前にした、猛禽の爪を思わせる――琥珀の双眸は鋭い光を宿し、栗色の髪がふわり浮き立つ。
暴風の結界を纏った玲頼は、突如と加速し、一気にその距離を詰めた。
「おやおやー、冷静かよ、騙り野郎が」
ドクター・サイコは、ヒヒッと解りやすく笑った。
天に向かって手にする銃を適当に発砲するや――巨大化した。
「は?」
声を上げたのは、玲頼だったか。他の神々だったか。
周囲に散らばった、ジャスティストルーパーどもの残骸がたちまちドクター・サイコの元へ集約したかと思うと、巨大で歪なトルーパーが彼らを見下ろしていた。
「って、いや何その合体ロボ! 粗悪クローン作ったの絶対テメェだろ!?」
思わず脚を止めた玲頼が怒鳴った。
ビッグトルーパーは高らかに笑う。
『フハハハッ、貴君のイマジネーションにお任せする!!』
「やっぱ処す、徹底的に処す――その道化じみた言葉、二度と吐けない様にしてやるぜ」
冒涜だ、と思ったのだ。英雄を、その力のみを――抽出し、悪事に使おうという愚かな存在を。
玲頼の身を守り、高めるのは――護る者としての矜持。この土地は、この世界は、彼の守ってきたところではないけれど。
「ああ、こんなものが広がった世界なんて反吐が出る――」
小さく吐き出し、再度、彼は駆け出す――先程とは打って変わり、トルーパーによる適当な殴打で、地は揺れ轟く。神々も、それを躱しつつ、玲頼と動きを合わせて、敵へと向かう。
赤い髪を靡かせ続くグラムをちらりと一瞥すると、玲頼はトルーパーの拳が己へと誘う。それを軽やかな跳躍と、風の力を借りた飛翔で躱す。頬を、飛散した小石が浅く裂いて、血が滲んだが、そんなものがどうだというのだ。
一足で、その顔面まで至ると、その肩口を蹴って切り返し、大きく身体を撓らせた。
途方もない強風が、そこで逆巻いた。トルーパーの巨躯すら巻き込むように、玲頼へと引き摺り込みながら、全ての力を叩きつける一閃を放つ。
その結果を見届ける前に、彼は叫んでいた。
「グラム神、アンタの姉さんの仇だ――思い切りやっちまえ!」
「応――!」
神の鋭き一刀が続き、滑らかに腰から斜めに斬り下ろす。
顔面を真っ二つにされ、脚を失ったトルーパーは大げさに仰け反り、卒倒したのだった――。
大成功
🔵🔵🔵
琳・瀏亮
悪いオトコも吝かでは無かったケド…
アナタも、スナークも幕引きの時間ヨ
前に出るワ。グラムちゃんに無茶をさせられないもノ
共に戦わせてネ
相手の動きは警戒して、フェイントを含めつつ距離を詰めるワ
ワタシ、頑丈だもノ
傷は構わず、大胆に踏み込んで行きまショ。
バス停を盾にも使って致命傷を躱すワ
剣よりも打撃で言ったらこっちなのヨネ
巨大ロボと戦うのって正義の味方っぽいワ
UCを発動、この戦場にて戦場の誓いを紡ぎましょウ
強化はグラムちゃん達にも
ワタシは上げた力で関節を狙ってバス停を投擲
倒れなくても体勢を崩したら、ワタシの舞台ヨ
グラムちゃんに合わせて狭霧を抜き振るいましょウ
この戦い、我が道士と、神たる方々の矜持のために
●矜持
「悪いオトコも吝かでは無かったケド……」
琳・瀏亮は、はぁ、と小さく悩ましげな息をついた。大分、趣味とは違う――そもそも、のっぴきならない敵同士であり、何処にも進まぬ間柄ではあるが。
「アナタも、スナークも幕引きの時間ヨ」
「イッヒ、ショーはまだ佳境すら迎えていないぜ!」
ビッグトルーパーの残骸から這い出てきたドクター・サイコは戯けて言う。状況としては全く締まらないが、至って気にしていない様子で、
「材料はまだまだあるんだ、行くぜ、セカンド!」
などと妙に勇ましく言い放ち、指を鳴らせば、ジャスティストルーパーを二倍の大きさに拡大したようなロボが再構築され――更に、先程の敗北からの教訓を生かしたのか、腕の数を増やした、まさしく『魔改造』が施されていた。
まァ、と瀏亮は嘆息する。
微かに瞠った目が、ゆっくりと瞬くが、その実、目の前に現れたビッグトルーパーに怯むような色は一切なかった。
既知である神々も同じく、驚かぬ。
つまんねー、というドクター・サイコの声が上から降ってくるが同時、トルーパーが動き出した。
動きは解っているものの、巨大な敵の、強烈な動作の余波だけは如何とも――神々はそれぞれに展開して狙いを逸らしながら、駆け出す。
さて、瀏亮はといえば、何処から持ってきたのか解らぬバス停を肩に担ぎ、飄々と前へと、トルーパーの懐目掛け、跳ぶように駆る。
あっという間に先陣をゆくグラム神に追いつくと、片目をぱちりと瞑って見せた。
「グラムちゃんに無茶をさせられないもノ――共に戦わせてネ」
高笑いを響かせながら、先程より数の増えたトルーパーの拳が、四方八方の大地を撃つ。小規模な地震と、衝撃波が地をゆくもの達の自由を阻む。
拳の軌道を見据え、低くバス停構え、沈み込む――その隙を狙い振り下ろされる一撃に合わせて、前に跳ぶ。周囲の大地が大きくえぐれ、土塊に紛れた石が弾丸のように飛散する。
バス停で頭部を守りつつ瀏亮とて、全ては凌ぎ切れぬ。脹ら脛や、二の腕を打つ衝撃は感じるも、
「ワタシ、頑丈だもノ」
嘯き――否、キョンシー、即ち死者の身体を持つ瀏亮は、花が綻んだような笑みを浮かべる。自分を作った道士への、信頼と愛情。
敵を見上げ、婀娜と、双眸を細める。
「巨大ロボと戦うのって正義の味方っぽいワ――すべて、生と死が交錯する今のために」
彼が念じたと同時、神々は己の身体が妙に頑強に、そして加速するのを感じた。軽くなるわけではなく、早く、重くなる。迸る雷はより青白く。炎は猛々しく。
「……これは」
己の剣戟が、トルーパーの拳を受け止めた事に、グラムが驚き呟きを漏らすと、いよいよ彼を抜き去った瀏亮が片手を振った。
この死地を共に駆ける神々が織りなす、様々な攻撃が、まるで花火のように艶やかに、彼のゆく道を彩ってくれているかのようで。
最後の踏み込み地点、彼は半身を強く捻ると、乾坤一擲――握るバス停を、思い切り投じた。
「倒れなくても体勢を崩したら、ワタシの舞台ヨ――」
楽しそうに告げる。実際、ただただ、楽しんでいた。
轟音が眼前のトルーパーから響いたのは、直後。
腰を穿たれた、機械は――上と下に分かれながら、崩れ落ちていく。神々の追撃が、ままならぬ機械の身体に次々と刺さったのは、語るまでもない。
掌に拳を当てて、瀏亮はひとたび礼で仕切る――。
「この戦い、我が道士と、神たる方々の矜持のために」
大成功
🔵🔵🔵
クロード・クロワール
スナーク、か
まだ例の続きをやっているとはな
飽きないのか、そもそも成功する気など無いのか…まぁいい
三連展開、紙鳥よ囀れ
牽制で奴の反応位置を見るさ
僕は前衛向きじゃないからな
グラムには前を頼みたい
僕が言う事でもないだろうが—無茶までになされよ
それ以外なら、僕がぼろ雑巾になるまで戦ってやる
発明品か。想像力が豊かなのは良いことだがな
使えなければ意味も無いだろう
還伝術式を発動
この符は僕の願いを叶える
発明品を抑え込め蝕み殴れ
使わせるか解除させられれば良い
死霊は壁にも全て使う
—こんなもの、僕の罪には程遠い
僕の傷も構わん。この血の一滴まで、使ってやるさ
奴が解除すれば、簪星で斬り込む
——向かわれよ、神獣の番人
●符に願い奉るは
「スナーク、か」
この地に降り立ったクロード・クロワール(朱絽・f19419)は、そっとひとりごちた。
「まだ例の続きをやっているとはな――飽きないのか、そもそも成功する気など無いのか……まぁいい」
異世界での戦い、猟書家達の目論見を思い出し――解るようで、遠い。ただ、スナークという言葉は、一作家として見過ごせぬ。
「三連展開、紙鳥よ囀れ」
クロードの手より紙鳥がふわりと浮き上がる。それがひとつ羽ばたきすると、ドクター・サイコを探るように戦場に散らばった。
あちこちに、ロボであったものの残骸が広がって、小山を作っている。その中のひとつが、がたりと動いた――。
「イヒヒッ、ひ、ヒヒ」
引き攣った笑い声で喉を鳴らし、ドクター・サイコが勢いよく立ち上がった。元の形も解らぬ瓦礫の山を無造作に踏みつけ、あーあ、と肩を竦めた。
「おっと、クマちゃんは何処にいっちまったんだか……」
ぼやくと、紙鳥をじろりと睨めつけ――仕方ねぇな、と男は、その辺の瓦礫を適当に手で選り分けた。
「奴め、……次はなんだ」
一柱の神が、怪訝そうに呟く。
「ハハハッ、手品の時間といくか!」
高笑いと共に、周囲の廃材が固まって、獣の形の機兵が組み上がる。素材のある限り――人間ほどの大きさの大型犬がドクター・サイコを守るように囲んでいる。
どいつもこいつも奇妙な重火器を備えており、犬というよりは動く機関銃のような姿であった。
獰猛に牙を剥くそれらに、神々が低く身構える。
そこへ、クロードは低く落ち着いた声音で言葉をかける。
「僕が言う事でもないだろうが――無茶までになされよ。それ以外なら、僕がぼろ雑巾になるまで戦ってやる」
「しかし、ひとの子よ……」
本来ならば、不老不死たる神なるものが、恐らくは人間――だと思う――存在に庇われる状況は、道理が異なると思ったのだろう。
布で瞳を隠したクロードの視線は、神々にも解らぬ。だが、返答代わりと、軽く振り返った彼が――笑みを刻んでいる口元は、言葉ほどの悲壮感を持っておらぬ。
「僕は前衛向きじゃないからな、前を頼む」
短く言うなり、彼は袖を探ると、一枚の符を取り出した。
「発明品か。想像力が豊かなのは良いことだがな。使えなければ意味も無いだろう――魂は陽に属して天に帰し、魄は陰に属して地に還す。——本来であれば」
滔滔と呪を紡げば、指で挟んだ勅令符が自立するかのように力を持ち、輝いた。
「この符は僕の願いを叶える……発明品を抑え込め蝕み殴れ」
数には、数を。
兵には、兵を。
斯くて召喚された死霊の軍勢――形があるようで、掴めぬ亡霊どもは、ドクター・サイコの組み立てた機兵に向かい、一斉に躍りかかった。
犬どもの頭部に備わる機関銃がけたたましく唸る。
霊体たれど、弾け、消えていく――だが、徒手のものが無造作に掴みかかれば、機械の首を引き千切り、曲刀を振り回すものは、機械の身体を艶やかに両断した。
槍を振り回すものが銃弾を弾き飛ばし、その隙に、無数の死霊は進撃する。
「――向かわれよ、神獣の番人」
クロードの言葉に、神々は応と威勢良く攻め込んだ。
彼らを庇うように盾となり――銃弾で穿たれようが覆い被さる死霊らの姿を、隠した双眸で見つめながら――深い胸の内が、疼くのを感じる。
今更、この符に命じ、願う己の浅ましさに、自嘲する。
「――こんなもの、僕の罪には程遠い。僕の傷も構わん。この血の一滴まで、使ってやるさ」
その理由さえ、実は曖昧なのだが――。その曖昧な感傷を、現実の痛みが吹き飛ばした。頬を掠めた銃弾が、彼の頬にひとすじの朱を伝わせた。
「ふ、こんなもの。締め切り三日過ぎに軒先に立つ編集の殺気に比べたら……!」
流れ弾にも怯まず――クロードもまた銀のナイフを手に、緩やかにドクター・サイコに向けて駆け出した――。
大成功
🔵🔵🔵
コノハ・ライゼ
あーぁ煩いったらナイ、テンション駄々下がりぃ~
でしょ?神サマのおねーさんおにーさん
ワザとらしく片耳塞いで空気ぶち壊してやるわ
さ、邪魔なのは引き受けるからさっさと片しましょ
その代わりちょっと丸腰になるから後ヨロシクねぇ、ナンてにこやかに手を振って
【天片】で暁色の花弁生み、敵の視界を覆うように舞わせ襲い反撃誘うわ
2回攻撃で発明品に対し、花弁に腐食の呪詛乗せ攻撃、その機能を封じマショ
センス悪いオモチャは花で塗り替えちゃいましょ
封じきれない反撃はオーラ防御展開、神サマらに当たらないよう庇いに入るねぇ
こう見えて頑丈なのが自慢なの
じゃあ神サマ今の内にドーゾ
大丈夫、更にその隙に花弁届かせ生命を頂戴しとくから
●暁の花
幾度目か、無数に踏み砕かれた機械ども――。
「ひゃ、ヒャッ、ヒャ!」
壊れた残骸の中心でドクター・サイコは笑ってみせた。猟兵と神々の攻撃によって、次々と負傷した男は全身を血を染めながらも、態度は変わらぬ。
一見、概ね発明品が犠牲になったような戦況だが、ロボに乗り込んで二度撃破され、神々の渾身の一撃を次々食らい、それを発明品の盾で何とか凌ぎ――今に至る。
当然ながら、その姿は満身創痍となっていた。
ひょこひょこと歩くと、その辺の屑の中から、ティディベア型の爆弾を拾い上げ「おー、よちよち」と撫でて、猟兵と神々を振り返る。
「派手に壊してくれやがってェ、可哀想だろうがよ」
狂言じみた動きへ、一切の心のこもらぬ言葉に、冷ややかな一瞥をくれ――コノハ・ライゼは頭を振る。
「あーぁ煩いったらナイ、テンション駄々下がりぃ~」
大げさに、片耳塞ぎ、げんなりとした様子を隠さず振り返れば。
「でしょ? 神サマのおねーさんおにーさん」
幾度となくこの男を追い詰めてきた神々も、敵のしぶとさとふてぶてしさ渋面を向けていた。
「クドイのは嫌われるってね」
コノハの言葉による追撃に、肩を竦めてたドクター・サイコは口の端を引き攣らせるように笑った。その目が笑っていない事で、ああ、と彼は吐息を零し、軽く身を翻る。
来る、鼻を利かせるまでもなく、その瞬間の殺気には慣れていた。
ドクター・サイコの周囲に散らばる残骸が、不意に宙へ浮かんだ。
「ふはは、ショウターイム!」
散々蹴散らされ、ロボに組み上げられ、果てには奇っ怪な色とりどりの爆弾に変じた。どれも彼が手にするクマ型である。
それが動き出す前に、神々を待たず、コノハは先んじて駆け出す。
「さ、邪魔なのは引き受けるからさっさと片しましょ――その代わりちょっと丸腰になるから後ヨロシクねぇ」
彩りを、と――コノハが囁けば、彼が握るナイフはふわりと形を失い、消えていく。
代わりに、彼の周囲には無数の花々が舞う。
暁色の風蝶草は彼の意に従い――ドクター・サイコへと襲いかかる。否、花と共に、コノハは爆弾に向けて、叩き込む。
「センス悪いオモチャは花で塗り替えちゃいましょ」
コノハを中心とした花の旋風が、戦場を塗り替える――。
次々と爆発が起こり、花は灼け、焦げた匂いが連鎖していく。だが、安全地帯と変わったその地を、力を溜めた神々が駆け抜けていく。
思い思いに雄叫びを上げながら、爆弾源を彼らは――コノハを信じ、真っ直ぐに突き抜けた。
「ヤッハー! なら、こんなのはどうだ!?」
愉快げに声を上げ、ドクター・サイコは腕をぐいと回す。彼の傍らに残っていた爆弾がいくつか、大きく弧を描くと、頭上高く散らばった。
急ぎ、コノハは花々を中天へと向けるが、全てを覆い尽くす事は出来ぬ。
垂直に落下してきた爆弾の元へと、どうしても防ぎきれなかったものへ、コノハは駆けつける。
グラム神は、脚を止めてその爆弾を斬ろうとしたが――その傍らに滑り込んだコノハは、オーラを広げながら、拳を直接、爆弾へと叩き込んだ。
ふざけたカラフルな爆風が、二人の身体を強く揺さぶる――。
「そなた、」
案ずる声音に、薄氷の瞳を片方瞑り、コノハは無傷をアピールする。
「こう見えて頑丈なのが自慢なの」
正確には、無傷ではない――だが、やられっぱなしを許すような聖者でもない。残る花々を集結させて、剣のように尖らせた。
暁が訪れたように地表を染め上げながら、コノハは微笑む。
「じゃあ神サマ今の内にドーゾ」
「ああ――一刀で、決める。残りは任せた」
そう告げると、神は地を蹴った。
雷鳴が轟き、火炎が走る。邪魔な爆弾を叩き落とす鎖があって、盾だか戦車のような神が爆風で散る瓦礫を、受け止める壁となる。
追い風が吹き付け、ドクター・サイコの自由を奪えば、無骨な剣を振り上げた姿勢で、グラムが斬り下ろす。
首元へ、深く噛む――血走ったドクター・サイコの目が、笑いながらも全てを睨んでいる。そんな程度で、と言わんとする男へ、花弁が張り付く。
鋼が、その喉を掻き裂いて、熱い血を迸らせる。
「ギャh、……」
刹那――それを啜り、傷を被せるように、クレオメの花々が、男の身を覆い尽くす。
なんとも愛らしい花々に包まれてしまったドクター・サイコは、声も出せず――花で描かれた輪郭は、急速に小さく縮んでいく。
口から喉まで詰まった花々で、下らぬ断末魔すら封じられながら、ぎゅっと枯れ果て、絶命した。
その惨めな最期を見届けて――グラムは、一度、堅く双眸を伏せると、
「姉の仇……無念――そして、使命を……我らは果たせり」
剣を掲げ、厳かに鬨の声を上げたのだった。
戦場に――波状に、歓喜の気配が広がっていく。
神々は、暫し、その感慨に耽った後、この地で共に戦った猟兵たちへと振り返る。
「すべては、そなた達の助力があってこそ。感謝しよう、秘密結社スナークよ」
あとは、我々の仕事だ――心から安堵したような、穏やかな微笑みを向けた。
「仇といいつつ、本当は。姉上は解放されたのかもしれぬ。神獣の番人という役割は、あの不死の怪物どもが存在する限り、続くのだからな」
グラムが剣を下げて、言う。
「そなたらの戦いも続くのであろう――以後も、共に。斯く思えば、私の心も慰められる。どうか、ご武運を――」
願いをこの地に於いて、存在する限り、見守らんと。
神々は猟兵たちへ、その意思を確りと告げて――この戦いの結末を、記憶し続けると誓いを以て約束してくれたのだった――。
大成功
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