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骸の月~刃の痕に残るは~

#サムライエンパイア #猟書家の侵攻 #猟書家 #『刀狩』 #妖剣士 #夕凪の旅路

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●サムライエンパイア~娘の思い


――私に風を意味する名と、『しあわせ』な人生をくれたのは村の『みんな』だった。


 捨て子だった私に、幸せな人生を与えてくれた『みんな』。
 村の外から揃ってきて、その内側にいれてくれた『みんな』。
 でも、私は普通とは違っていた。
 容姿も違えば、持つものだって異なっている。
 それは血筋によって、歳を経るに連れて滲み出した力。
 強くあれ。
 美しくあれ。
 異なるということは、異形であり異貌なのだ。
 だからこそ、心の底から私は、私こそを恐れていたし。
 私を受け入れてくれる『みんな』を、『しあわせ』なのだと認識していた。
 触れている限り、話している限り、私は幸せなのだ。
 だから村を守る為にと、封じられていた妖刀を持つ事には恐れもなければ、悔いもなかった。
 それで山賊や怪異を斬り、追い払い、平和な『しあわせ』が保たれるのなら。
 私は笑っている事が出来たのだ。


――そう、『みんな』という『しあわせ』の形が壊れないかぎり。
――つまり、今日というこの日までは。


「はらり、ひらりと」
 詠うのは、祀ろわぬ鬼の姫。
 私のものだった唇でなぞるは絶望の韻。
 それは既に私ではなく、呪いに蝕まれた魂。
 鬼女が操る身体は私のもので、けれど、行った事はみな、私の手でやったこと。
「全ての花が落ちてしまいましたね」
 それが意味することはただひとつ。
 手にした妖刀の一振りで、この村の『幸せ』の形は全て崩れてしまったのだ。
 瞳を通じて、私の意識に流れ込むのは血と屍の転がる、村の姿で。
 耳にはもう、誰かが立てる物音も届かない。

――ああ、『みんな』という『しあわせ』はなくなったのだと。

 何かが壊れる音と共に、私の意識も魂も、手にした妖刀が止め処なく零す呪怨に蝕まれていく。
 私は鬼になるのだ。
 いいや、鬼になってしまった私が、『みんな』という『しあわせ』を。
 皆殺しにして、皆、斬り壊してしまったのだと、記憶が蘇り、溢れて、喉から……流れるは鬼女の聲。
 もはや絶望と思いの断末魔さえ叫べはしない。

「ああ、これで決して戻れはしません。ただ、修羅が道を歩みましょう。『しあわせ』の花の色はうつりにけり」


●『刀狩』の思惑


 己が宿る妖刀の黒々とした刀身を、鬼女は細い指でなぞる。
 狂気を美しさへと変えて。
 ひとと異なる鬼の心もまた異貌。
 元より、村人と異なる娘が、こう成るのは定めだったのか。
 どちらにせよ、数多の妖剣士を『鬼』と堕とし、豊臣の血を引く主君へと捧げる剣として献上しようとした身。
 それが『刀狩』。妖しき武具に憑依し、その念を以て洗脳するもの。

――闇に墜ちて、溶けてしまえばどのような思いも強さも変わらない。

「『刀狩』さま。ええ、ええ、今より世を覆しに参りましょう。鬼剣の娘が、今や今やと、道を歩みて参ります」
 『しあわせ』を血で染め、もはや、残骸とうち捨てて。
 戻る道を喪わせた妖刀が嗤うように、気配を揺らす。
 
――もはや戻れぬ岐路。その手で閉ざした日常の光ならば。
 
 もはや、己が誠の名さえ。
 村人のくれたその大事な名さえ、思い出せないのだろうから。


●グリモアベース


「また読狩家による事件が起きました」
 ふわりと言葉を浮かべるのは秋穂・紗織(木花吐息・f18825)だ。
 起きるのを予知したのではなく、既に起きてしまった。
 それが意味するのは、防ぐことできず、既に被害が出てしまったという事に他ならない。
 多数の世界を侵略しようとする読狩家たちの行い。その全てを防ぐという事は難しいのだ。
 僅かに声色を翳らせて、続ける秋穂。
「今回、動いたのは『刀狩』と呼ばれている妖怪です」
 狙われたのは妖剣士たちだ。
 本来ならば鍛え上げられた精神を持ち、呪われた武器さえ自在に操るのが妖剣士。
 が、その呪われた武器に宿り、使い手の精神を蝕み、洗脳するのが『刀狩』という読狩家。
 そして、その手で愛するものたちを皆殺しにさせ、絶望で精神が弱った所を鬼と化させるのだ。
「……元より、妖剣士のひとり、ひとりが凄まじいまでの使い手。だからこそ、彼らを鬼とし、操る事で自らの配下に加えようとしているのですね」
 心が、魂が、一度闇に墜ちれば容易には戻ってこれない。
 ただ破滅へと駆け抜けるのみであり、跡に残るものは……。
「ましてや、今回狙われた妖剣士の娘は、心の拠り所だった村人を皆殺しにしています。戻る場所や、再び逢いたい人は……既に」
 僅かに声が沈む秋穂。それは、説得は非常に難しいという事に他ならない。
 いってしまえば全てを、自分の手で壊してしまったのだ。
 もはや戻りたいと願う日常などない。
「今や、自分の本来の名さえ覚え出せない状態です」
 説得によって自我を取り戻させるのは非常に難しいだろう。
 何を目指し、何を縁に。
 何もないのであれば、言うまでも無く。
「それでもやるのであれば止めはしません。或いは、彼女の命と心、それだけでも救えれば……結末は違ってくるのでしょうから」
 ひたすらに難しい道ではあるのだと、秋穂は語る。
 そして、戦闘不能にならない限り、鬼女となった娘が『刀狩』の宿る妖刀を手放す事はない。
「妖刀を手放せば、そこでようやく、黒幕である『刀狩』と対峙する事が出来ます」
 これを討たない理由はなく、倒さない限りは、このような残酷な呪いの話が続くばかり。
「何をおいても、この『刀狩』の撃破を。誰かを、何ひとつを救えずとも……このような所業を断ち斬る為に」
 どうぞ、お力をお貸しくださいと。
「かの『刀狩』の所業は、私達と真逆。心を、命を、日常を救おうとする思いを阻むものだからこそ……決して許せないのです。……皆様ならば、まだ、救えるものも残されている筈だと、信じております」


 この『しあわせ』の形が、刃で斬られて。
 『みんな』という色が、喪われた跡に。
 どんなものを、見出すのか。


 それが何なのか。判らないけれどもと。
 秋穂は、見送るようにお辞儀をするのだった。


遙月
 何時もお世話になっております、MSの遥月です。
 この度はサムライエンパアイの読狩家のシナリオとなります。

 戦闘、剣戟、バトル。
 それと同時に心情を織り合わせた物語をお届け出来ればと。
 かっこよく、美しく。戦う姿に思いを更に重ねて。

 出来るだけご参加頂いた皆様の全員を採用したいと考えております。
 ただ、ご参加頂いた人数によっては再送信や、はたまた、上限を設けさせて頂く事があるかもしれません。
 シナリオ運営での手探り、自分のキャパシーやスケジュールと相談しつつとなっている為、何卒ご容赦頂けますと幸いです。
  

 この度のシナリオは二章編成。
 場所は皆殺しの虐殺の起きた村から少し進んだ、ひらけた街道。
 時刻は夕暮れ間近で、戦闘の邪魔となるものや、人々は周囲にいません。


・第一章
 まずは鬼へと墜ちてしまった妖剣士の娘を戦闘不能にし、元凶である『刀狩』の宿る妖刀を手放させてください。
 物理的に落とさせる事は不可能であり、また、説得によるものも不可能です。
 が、どのように戦闘不能にさせたか……説得や呼びかける言葉などで判定にボーナスや、第二章の状況に関わってくると思われます。
 結末を少しでも『しあわせ』に近づけたい場合はとても重要となるパートです。
 いきなりの山場となりますが、どうぞ宜しくお願い致します。


・第二章
 元凶であり、黒幕である妖怪『刀狩』との戦闘になります。
 どれだけ妖剣士の娘に呼びかけられたか、説得出来たかによって影響や差は出ますが、こちらは純粋戦闘の気質が強いです。
 また、妖剣士の娘が正気を取り戻し、また、戦意が残っているならば共に戦う事が出来、その場合はプレイングにボーナスを。
 ただ洗脳し、操り、鬼へと堕とす所業をなすもの。確実に討ち取ってくださいませ。


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※第一章のプレイング受付は、11/28(土曜)の08:31~から11/30(月曜)23:00までとさせて頂きます。
 もしも再送信をお願いする事となりましたら、再度ご連絡致しますので、何卒、どうぞ宜しくお願い致します。
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第1章 ボス戦 『『凶刀』絶姫』

POW   :    遊んであげましょう
【凍てつく炎】【修羅の蒼炎】【呪詛の黒炎】を対象に放ち、命中した対象の攻撃力を減らす。全て命中するとユーベルコードを封じる。
SPD   :    貴方、斬るわ
【殺戮を宣言する】事で【剣鬼として最適化された構造の躰】に変身し、スピードと反応速度が爆発的に増大する。ただし、解除するまで毎秒寿命を削る。
WIZ   :    私は刀、刀は私
【刀、又は徒手での攻撃】が命中した対象を切断する。

イラスト:奈賀月

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠四辻・鏡です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

月白・雪音
…此度の殺戮を『誰がやったのか』。
それを定義するのは貴女の権利です。どう判じようと否定は致しません。
されど彼らの死によって、鬼女に堕ちんとする程の絶望を抱いたと言うのなら。
そこにこそ、貴女の『本当の願い』が在るのでは?


UC発動、野生の勘、見切り、残像にて相手の速度に対応
その速度のまま怪力、グラップルにて腕を振る動作の初動を抑え攻めを封じ、
フェイントにて誘った斬撃をカウンターにて白刃取り、2回攻撃による打撃を叩き込む


…もし、貴女の願いが鬼に堕ちることを望まぬものならば。
辛くとも生きなさい、与えられた『しあわせ』に応えなさい。
強く、美しく。貴女のまま。
――それが、貴女を育んだ命への手向けなれば。



 風に流れて薫るのは血と惨劇。
 滲み出る凶刃の気配を隠すことなく。
 けれど、物静かに娘は歩く。
 何処に。何処まで。
 問うたとしても、きっと応えはないだろう。
 微笑む姿は楚々として美しく、血濡れた侭に恥じることもないのだから。
 いいや、そうなのだろうか。
 姿も有り様も鬼女、剣鬼のそれとなってなお。
 その裡に、在りし日の魂がないとは思えないから。
「……此度の殺戮を『誰がやったのか』」
 鬼女の前へと歩み出る月白・雪音(月輪氷華・f29413)。
 声色と同じく、冷たく張り詰めた気配を纏いながら。
 雪のように白く、清い言葉を投げかける。
「それを定義するのは貴女の権利です。どう判じようと否定は致しません」
 対する鬼女は、緩やかに微笑んでいる。
 それでいい。構わない。
 訴えるべきのは、目の前の鬼ではないのだから。
「されど彼らの死によって、鬼女に堕ちんとする程の絶望を抱いたと言うのなら」
 握り絞める拳。
 腰を落として、臨戦の構えを見せる。
 そのような様を見せれば、鬼女はどう出るかなど云うまでもなくとも。
「そこにこそ、貴女の『本当の願い』が在るのでは?」

――願いとは、殺戮と血濡れの裡に埋もれるべきものではない。

 雪音の鼓動に宿る殺戮衝動。
 決して消えずとも、それを律する願いがある。想いがある。
それは決して、消え去ることのない灯火なのだ。
 夜の帳の上で、白々と輝く月のように。
 不滅なる魂というべきものへと。
「……貴女は、貴女として、今と未来を生きるべきなのですから」
 例え、どのような過去があろうとも。
「あら、寸鉄も帯びぬという珍しい武芸者と思いましたら、言葉もまた珍しいものですね」
 するりと流れる鞘走りの音。
 鬼女が手にするは黒い刀身。孕んだ妖気がざわざわと、周囲に風を巻き起こす程。
 そこに乗せられる、女の剣気。
「でも、出逢ってしまったのです。ならば、斬られて、色を散らして下さいな」
 宣言された殺戮の言葉と同時、踏み出す鬼女。
 剣鬼として、殺人の剣を振るう者として最適化された身体と、尋常ならざる速度。足音さえ置き去りにして、黒い剣閃が雪音へ放たれる。
 だが、届くことはない。
 ふわりと、まるで舞い落ちる粉雪を掴もうとするように。
 雪音の身体に切っ先は届かず、けれど、すぐ傍にあって。
「……あら?」
 翻る斬閃は幾重にも。
 迅速を以て振るわれる凶刃は全て命を狙って放たれている。
 だが、悉くを避ける姿。空を舞う雪を、無粋なる掌で掴む事は出来はしないと、雪のように白い残像を纏って身を翻す雪音。
 切っ先に触れる寸前で後退しながら軸を逸らし、左右へと流れるように足先を滑らせていく。
 鋼の武具を持たず、爪も牙も扱わず。
 あまつさえ、闘気さえ投げ捨てて。
 いいや故にこそ掴んだ、極めた武術の極みと冴え。
 極限まで研ぎ澄まされた武術は鬼女の殺人剣を見切り、避けている。
「何も持たず。何も持ち要らず。それで戦場に立つ、無手の武芸者こそが最も恐ろしい――とは申しますが」
「鬼と語る言葉は持ち合わせません。戦の粋とは、人の思いなればこそ」
 風切る黒刃を十全に振るい、けれど、掠める事も出来ない鬼女。
 それが面白いのか、愉しいのか、くすくすと微笑む姿。――或いは、雪音が凪の如き精神力で律する衝動に近しいのかもしれない。
 故にこそ、ただ打ち倒すだけでは意味などないのだ。
 眠る心と魂にこそ届けと、刃の間合いへと踏み込む。
 ここで怜悧なる冴えを見せるが鬼女の妖刀。今まで見せていなかった刺突、ただでさえ見極め難い点での一撃を繰り出す。
いっそ静かで無音といえる切っ先。
 けれど、それは雪音の白い肌に食い込む直前で止まっている。
 それは雪音の白刃取りによるもの。前へと出る動きで誘い、刀身を捕縛している。
 それは半ば勘によるもの。達人同士が立ち会う際、最も重要とされるそれを、何処までも研ぎ澄ましているのが雪音なのだから。
 そのまま刀身を捻りあげながら更に踏み込み、肘撃、掌底と鬼女の鳩尾に連続して繰り出す雪音。
 衝撃で呼吸がつまり、後方へと飛び退く鬼女。
「……もし、貴女の願いが鬼に堕ちることを望まぬものならば」
 願いによって紡ぎ、磨かれた武をその身体に宿し。
「辛くとも生きなさい、与えられた『しあわせ』に応えなさい}
 赤い眸で現実を見据えて、先へと至ろうとする雪音は言葉にする。
 追撃は不要。何故なら、雪音は信じているから。
「強く、美しく。貴女のまま」
自分がそうであったように。
「――それが、貴女を育んだ命への手向けなれば」
 それは残されたものだけが出来る。
 唯一の手向け。
 自分のまま。強く、美しく。
 育まれた今までという過去を、明日へと運ぶが為に。
「瞼を開き、息を吸い、周囲を聞きなさい。……あなたが目覚めまで、幾らでもお相手は致しましょう」
 緩やかに、空から雪が舞うように。
 構えなおした雪音が、赤い眸で鬼女の裡で眠る娘を見つめる。
如何なる絶望が襲おうとも、願いを抱く魂が朽ち果てる事はないのだと信じて。

大成功 🔵​🔵​🔵​

キョウ・キリノ
哀しい娘だ、悪しきモノの手により鬼とされ修羅に堕ちたとは。
しかし否、立ち会えば分かる、この娘は未だ修羅に非ず、鬼に非ず。
失った刻、命、過去、全て戻る事は無くとも、俺は彼女の未来を斬り拓く。

「修羅とは無、鬼とは虚、我はその領域に在り、お前は未だ人のままだ」
言葉と同時【薙ぎ払い】、返される斬撃を【瞬間思考力】で【見切り】【受け流し】斬り結ぶ。
剣士は剣を交えれば解る、識れる、言葉は交わすのでは無く彼奴の心を取り戻す為に打ち込むもの。
「剣が哭いている、お前の心が泣いている、失った刻に涙を流せるお前は修羅ではない、人だ。
人には未来がある」
そして【抜即斬】の一刀にて【切り込み】、手にする刀を【切断】する。



 くすくすと。
 戦となった場で、鈴が転がるような笑みを漏らす娘。
 いいや、鬼女と成り果てたひとりの少女。もはや帰るべき居場所はなく、名を呼び合う者もいない。
「哀しい娘だ、悪しきモノの手により鬼とされ修羅に堕ちたとは」
 その手に握られる黒き妖刀こそが全ての元凶。
 宿された妖異の力は、人生を狂わせてしまう程。
 いいや、鬼となればもはや元の人格さえなくなるのだ。
 キョウ・キリノ(斬機一刀・f30324)は心さえも射貫くような鋭い漆黒の瞳を少女に向けて。
 その視線がが刃のようだからと、鬼女は応じた。
「ああ、私が可哀想だと――仰るのですね?」
 故に、飛び込むように踏み込み、横薙ぎの斬撃が繰り出される。
 斬機丸と銘討たれた太刀で受け流すや否や、返しの刃を繰り出すキョウ。共に流麗ながら苛烈。一瞬の交差で飛び退き、互いに間合いを計る。
 剣風によって翻る艶やかなキョウの長い黒髪。
「そう思った。しかし否、立ち会えば分かる、この娘は未だ修羅に非ず、鬼に非ず……刃が触れれば、判るものだ」
 刹那のすれ違いで感じたのは、本物の修羅とは異なる気配があるということ。
 あくまで振るう剣は鬼のそれ。
 殺人の為に流れる切っ先は、修羅の道を走るもの。
 だが、それだけではない。深くに沈み込んだ心がある。
 心、命、魂。未だ全てが成り果てたのではなく、鬼が絶望をもって娘の表面を覆い尽くしただけなのだ。
 ならば、と構えを変えるキョウ。
 携える大業物たる太刀、斬機丸を以てすれば、数多の世界であれ斬れぬものなしと歌い上げるが故に。
「失った刻、命、過去、全て戻る事は無くとも、俺は彼女の未来を斬り拓く」
 この娘を包む、絶望の闇、修羅の呪い、鬼の記憶を斬り払うのだと、握り絞める斬機丸に誓う。
 その声色は鋼のように厳格で、刃のように真っ直ぐ。
「本当に素敵な武人さまですね」
 だからこそ、詠うような鬼女の声が異質に思えるのだ。
 斬り結ぶこと、血濡れる事をよしとするような。
 これから何処までも墜ちていく、鬼の道を諳んじているような。
「――だから、斬り殺されて、もっと血に濡れて素敵な色艶を帯びてくださいな」
 これは狂っている、凶を呼び込む歌であり、宣言なのだと、聞くものに直感させる。
 そして疾走する剣鬼としての姿。
 爆発的に増した速度は疾風の様さながらに、キョウへと斬り懸かる。
 黒い剣閃が見えたと思った瞬間、瞬く間に増える連続する剣撃。繰り出される黒刃のひとつ、ひとつが恐ろしいまでの速度と鋭さをもって、命を斬り裂かんと奔るのだ。
 それは守勢、受けに回れば押しきられるとキョウをして感じさせる程。
 事実、全てを受け流す事は叶わず、身体の一部が裂かれて鮮血を散らす。剣戟の中で咲いた赤の色に、更に加速して殺到する鬼の妖刀。
 だが、キョウの表情が揺らぐことはない。
 無傷の勝利という浅い戦に身を置くことの方が希なのだ。多少の劣勢、自らの力があれば覆せると信じている。
 何より、ここまではあくまで調べ。
 鬼女の妖刀と斬り結ぶことで、その裡の真実を知って確信する為のこと。
「修羅とは無、鬼とは虚。我はその領域に在り、お前は未だ人のままだ」
 血の滴を流させて喜ぶのであれば、まだ虚無にあらず。
 嬉々として、剣を振るうのであれば、それは違う。まだ、感じて、変わることのできる心があるということ。
 不感の無と、果たせぬ虚。その中へと未だ墜ちていないのであれば、人へと戻れる。
「云っても判らないだろう。だから、剣がある」
 故にと、繰り出されるキョウの剛剣は空間ごとを薙ぎ払うかのよう。
 噛み合う刀身が悲鳴をあげ、斬り裂かれた風が断末魔として周囲に旋風を巻き起こす。
 一瞬でもキョウの振るう剣威に鬼女が止まれば、続けざまにキョウの斬機丸が唸りをあげて猛威を振るう。
 鬼女の剣は迅、速さを重視するもの。
 だが、キョウは一刀を以て立つ剛の剣。
 ただ一度、真っ正面から捉えれば、何者をも斬り伏せ、斬り砕くのだと。
 だからこそ、神速をもって受け流し、弾く鬼女の妖剣。
 攻守はたった一振りの間にか入れ替わり、キョウが鬼女の太刀筋を、その癖を、剣術の芯を見切っていく。
 いいや、その心眼でみようとするものはもっと深く、大事なもの。
 刀身が互いを削る轟音の最中、聞こうとする鼓動は、剣の奥にこそある。
 剣士は斬り合う最中でこそ判るのだ。
 交わるのは刃という鋼のみなず、互いの心に精神、信念や情の色。ひとつの刃が交わる時に識れる数多は、千の言葉でも届けられぬほど。
 故に、万感を込めて、キョウは斬機丸を振るう。
 誓った通り、鬼女ではなく、彼女の未来を斬り拓くが為に。
「剣が哭いている、お前の心が泣いている」
 刀身が激突し、轟くのは本当の悲鳴。
剣と心は同じもの。これ程の剣を修めた娘が、剣心一如に達せぬ筈はなく。
 ならば、訴えかけるは言葉という上辺にではない。
「失った刻に涙を流せるお前は修羅ではない、人だ」
 キョウが身を転じながら放った熾烈なる剣閃。受け流しそこねた鬼女の娘を、その妖刀ごと後方へと弾き飛ばす。
 だが、この程度では終わらないと、斬機丸に集う剣気。
 跳ね飛ぶように身を起こし、鬼女が身構えるがもう遅い。
「人には未来がある」
 するりと納刀された斬機丸。
 だが、鞘ごしだというのに、それが持つ威の凄まじさが肌に伝わる。
今まで斬り結んだ筈の斬撃は、全力ではなかったのだと。
 そして、それは刹那にて鞘から放たれ、刃に顕れる。
 キョウの姿が掻き消えたのは、視認不能な程に研ぎ澄まされた縮地による神速の歩法。
 駆け抜ける姿は地を這うように。抜き放たれるは天を翔る龍が如く。
 世の全てを斬り砕かんと猛るキョウの斬機丸が、鬼女の持つ妖刀へと繰り出される。
 斬撃の威力に耐えきれず、後方へと吹き飛ばされる鬼女の姿。確かに妖刀へとキョウの一刀は斬り込んでいた。
 だが、世の常を覆す超常と異常こそ、妖異というもの。
「手応えはあったが」
 それこそ鋼と、何かを断つ感触。
 いうなれば憎悪、呪詛、怨念。形なき闇さえ、斬り裂いたと思ったのだが。
「……ひとつどころではない、か」
 ゆらりと立ち上がる鬼女の姿。
 微笑む表情も口調も変わらずに告げる。
「ええ、この刀にあるのはひとつ、ふたつ。などではありませんよ」
 掲げる妖刀の黒々とした刀身には、確かに罅が入れど、そこから何かが溢れ出る。
「元より在りし妖刀としての霊格。斬りて吸った生命と魂。そして、宿りし『刀狩』さまごと斬ろうなど……それこそ、まとめて神の数柱を両断するようなもの」
 くすくすと笑う姿に、キョウはゆっくり頷く。
「なら丁度良い。この世界の『神』とされる霊格、此処で斬らせて貰う」 それは確かに今まで斬り伏せたことのないモノの筈。
 全てを一刀両断するというのであれば、避けて通れず。
「斬れぬものなしと、そう口にしているのだからな」
 構えるは蜻蛉の構え。
 それは不退転の意志。故に、宣言した事を覆すつもりはなく。
 地を蹴るキョウの気勢は、ひたすらに増していく。

大成功 🔵​🔵​🔵​

館野・敬輔
【SPD】
アドリブ連携大歓迎
成功数過多なら却下可

刀狩の所業は人の想いと記憶を踏み躙る
…悪辣にも程がある

村人を殺めた過去は消せないが
これ以上娘の尊厳は踏み躙らせない

言葉ではなく、行動で引き戻す意思を見せる
【魂魄剣舞・超絶速度】発動
纏いし魂の色は白
この魂はオブリビオンへの憎悪と復讐で意を共にする者たちだが
だからこそ、オブリビオンに想いを踏み躙られた者を討つ力になる
…力を借りるぞ

「ダッシュ、残像」で囮となる影を残しながら
「怪力、武器受け」で極力妖刀を弾き逸らすようにして隙を作る
生じた隙を狙い「カウンター、早業、2回攻撃」で黒剣の柄を首筋に叩き込み峰打ち
できるだけ無傷で戦闘不能にし、後に繋げられれば



 その赤い瞳には何が映るのか。
 ただ今、目の前で黒き妖刀を構える鬼女の姿だけではないだろう。
「……悪辣にも程がある」
館野・敬輔(人間の黒騎士・f14505)が苦く、苦く、呟いて黒剣の切っ先を向ける。
 猟書家たる『刀狩』。それは何処までも人の思いを、記憶を、人生を踏み躙る悪行だ。
 大切であれば大切である程。
 それを自らが壊したものへの絶望は、自らへと還っていく。
 ならば今、娘を蝕む痛みは、傷跡は、どれほどの呪いとなっているのか。
 現在を蝕む、過去の残滓たるオブリビオンらしいといえばその通り。
「だからこそ、討たさせて貰うぞ。『刀狩』」
 村人を殺めた記憶も過去も消せはしない。
 一生、それを引き摺って生きていく事になるかもしれない。
 だとしても、これ以上、娘の尊厳を踏み躙らせるなど言語道断なのだ。
「あら。では、どのように? 私は私として、このようにありますが」
「…………」
 そして、この鬼の姿もまた同様。
 討つべき『刀狩』の配下であり、会話を交えるものではないのだ。
 ならばと示すのは言葉ではなく行動と意志。
 人格さえ定かではないというのなら、奥底で眠る娘に見せるしか他にないと敬輔は思うから。
「……力を借りるぞ」
 言葉をきっかけに黒剣から浮かび上がるのは魂からなる白き靄。
 かつて黒剣で喰らった魂と同調する事で、その色彩を靄として纏い、己が速度と反応を爆発的に高めるもの。
 そして、白き魂の意味する所はオブリビオンへの憎悪と復讐で意を共にする者たち。
 だからこそ、共にオブリビオンを討つ力となる。
 ひとり、ふたりではなく、無数の魂と同調することで、敬輔自身の魂へと負荷がかかるが、意に介さない。
 自らの痛みや苦しみにもがいて、何を伝えられる。
 多くの魂を背負って、同調して。死んでもまだ在るのだと伝えられなくて、どうして。

 村人の命は果てても、その意志と想いは果てていないと。
 共に生きた娘が覚えていなければ、全ては過去に流され、なかったことになると。
 伝える事はできないのだろうから。
 
「何か、とても」
 すぅ、と鬼女の眼が細くなる。
 微笑みは変わらず、けれど、殺気が膨らんで。
「あなた『達』を斬りたくなりますね。ええ、貴方『達』、斬るわ」
 瞬間、異常なまでの速度を得た二人の刃が交差する。
 尋常ならざる剣速は、瞬きの間に五つ、六つと斬撃を翻させ、交差する鋼の音を置き去りにしていく。
 風を、世界を刻んでいく切っ先。
 敬輔は横手へと駆け抜けながら、疾走の勢いで残像を作り、狙いを絞らせない。
 互いに超高速を誇る剣士同士なのだ。
 一瞬でも隙が出来れば、次の瞬間には無数の斬撃を相手の身へと滑り込ませるだろう。
 どちらも敵を討つが為の殺人の剣。
 それらが命の届かない筈はなく。
「さあ」
 囁きに似た声色と共に、黒き妖刀が閃く。
 鋭く、迅く。命を奪うが為の切っ先は、けれど、異端の血を啜る呪われた剣にて阻まれる。
 それは一瞬、瞬間の交差。
 火花が散り、消えるよりも早い攻防。
 受け止めるや否や、怪力をもって妖刀を大きく弾いて逸らす敬輔。
 更に鬼女の懐へと飛び込む敬輔。隙というにはまだ小さいそれを、超絶の速度をもって踏破する。
 斬るのではない。
 例え敬輔が復讐者であっても。
 この娘は、犠牲者であり、踏み躙られたものなのだから。
 弾かれた妖刀の切っ先が戻ってくるより早く、黒剣の柄を首筋へと眼に止まらぬ早業で撃ち込む敬輔。
 一度で意識は奪えないだろうと、二度の打撃。殺意の刃ではなく、引き戻す為に。奪うのではなく、取り返すが為に。
「……くぅっ」
 鬼女の苦鳴は、痛みが半分、怒りが半分。
 揺らいだ意識でもなお、敬輔の肩口を斬り裂きながら横手へと飛び退いて距離を取る。
 だが、柄による打撃で意識が朦朧とした事に対してではない。
「……斬りあっていたというのに」
 刃ではなく、柄で。それも、全力と全速で、剣の舞を踊っていたというのに。
 一種の裏切りに思える怒りを感じながら、けれど、鬼女は心の底から憤激に染まることができない。
 それは全てを、血と争いと刃を詠いて喜ぶ剣鬼だからか。
 既に虚ろなる鬼であるからか。
 いいや、違う。斬るといって、斬り合うといって、裏切られたからではなく。

――自らも、刃で斬るのではなく、護るのだと祈っていたと思い出したから。

 盗賊を斬り殺せば簡単で。
 でも追い払うに留めたのは、さあ、どうして。
 この目の前に立つ敬輔のように。
 刃で斬り伏せる以外を良しとしたことを、打ち据えられたせいで揺らいだ精神が思い出して。
 微かに触れた白き魂が、共に本当に討つべき相手を、思い起こさせて。

「次に、繋がったか……」

 けれど、絶望と『刀狩』の呪いが、再び娘を闇へと沈ませる。
 何度やれど。
 いくらやれど。
 鬼へと墜ちた者は、容易に戻れぬ。
 そう、手にしている妖刀から溢れる邪気が嗤う。

大成功 🔵​🔵​🔵​

政木・朱鞠
今回は敵相手でも怪我をさせない方法で捕縛したいね。
だって…このまま咎を重ねて大事な思い出も妖刀に刷り込まれた罪悪感で塗り潰しちゃうなんて勿体ないじゃん。

戦闘【POW】
近接は危険かもしれないけど、足止めのため武器は拷問具『荊野鎖』をチョイスして【鎧砕き】や【鎧無視攻撃】の技能を使って体に鎖を絡めて動きを封じたいね。
効果は未知数だけど、拘束しながら語りかけるよ…。
「キミの大切な人達との思い出をその鈍ら妖刀に消させないために…心に渦巻く憎悪と悔恨を私達に預けてみない?」
説得と合わせて心情的な攻撃だけど『忍法・咎狐落とし』を仕掛けて妖刀の支配と本来の意識を切り離せれば良いんだけどね。

アドリブ連帯歓迎



 そう、出来ることならば。
 それは一縷の望みに、願いをかける事だとしても。
 決して悪でも罪でもない。理想を夢見て、追い求める事は。
 結果としてどんな困難な道を往く事になっても。
諦めずに望むなら、それは『しあわせ』への道に他ならない筈だから。
「敵といっても、怪我させない方法で捕縛したいね」
 その身に刃の痕が残ったら、女の子として悲しいでしょう。
 これほどに惨い事があったというのなら、これからは少しだけでも、ひとつりだけでも。
 そう思うのは 政木・朱鞠(狐龍の姫忍・f00521)だ。
 これから先を過去に囚われ、自由を奪われるなんて絶対に嫌なのだから。
 少しでも楽しさが残るように。
 だって、このまま咎を重ねて、大事な思い出を。
 妖刀にすり込まれた罪悪感で塗り潰して、すり潰し、自分の鎖にしてしまうなんて勿体ない。
 全てが悲しい思い出になってしまうなんて、嫌だから。
「ちょっと近接は危険かもしれないけれどね」
 それでもと朱鞠が選んだ武器は拷問具『荊野鎖』。
 蔓薔薇の様に配置された棘が、咎人へと絡みつき、その血を奪う拷問の道具。
 だが、あくまで狙いは足止めと拘束。
 その身に刃が突き立てられないよう、幾人もが注意を払い、隙を広げていったその先で。
「そこ!」
 じゃらり、と唸りをあげて空を走る荊野鎖。
 手繰る指の動きに合わせて、二重に変化する軌道は、まさに獲物を狙う毒蛇の鋭さ。鬼女の脚に絡み付き、その動きを拘束してみせる。
 無論、それだけならば即座に抜け出すのが凶剣の鬼女。事実、三種の焔を従え、朱鞠を見据えている。
 隙あらばそれらと共に刃を閃かせるのだろう。
 あくまで絶望に墜ちた鬼。今はそうなっている身なのだから、元の人格がどうかは、関係ない。
 そう、今までただ戦うだけではなく、語りかけ、示す者がいなければ。
 僅かに綻んだ『刀狩』の呪いの隙間へと、朱鞠は語りかける。
「キミの大切な人達との思い出をその鈍ら妖刀に消させないために……」
 赤い瞳で、しっかりと鬼女と、その奥に眠る娘を見据えるように。
決して、その中は綺麗なだけではないと、知っているから。
「心に渦巻く憎悪と悔恨を私達に預けてみない?」
 妖刀が脈動させる憎悪の狂奔。
 尽きせぬ悔恨は、それだけ大事だったから。
 空いた穴に、『刀狩』という妖しが掬っているのだ。
「ふふ、何を仰っているのでしょう。私に憎悪? 悔恨? そのようなものから産まれたのが、私という鬼ですよ」
 つまりは娘の人格ではなく、鬼が人格。
 いうなれば妖刀の呪詛に飲み込まれた姿とでもいうべきだろう。
「そう。だとしたら、ちょっと痛くても我慢できるわよね?」
 容赦は不要。そして、操るのが『刀狩』だけではなく、今、表にある人格だというのならそれでもいいのだ。
「けれど、キミの奥に、いるのはよく判ったから……諦めはしないよ」
 拘束具たる鎖に宿るは浄化の炎。
 それは肉体の一切を傷付けず、血の一滴も流させはしない。
 けれど――咎人の魂を焼き払う術法なのだ。
「……なっ、にが……!」
 どのような妖念、邪妖の守りがあろうと、本来の意識と切り離して、一瞬でも表へと浮かび上がらせる為に。
 巨大な妖異たる『刀狩』に縛られる変わり、加護も受けている筈の鬼女が激痛で嘆く。
 身は一切の傷がないというのに、鎖が絡まった部分から焼け付くような激痛が走る。それは徐々に燃え広がるように全身へと巡り。
「憎悪と悔恨から、この鬼が産まれた。それなら……キミのその憎悪と悔恨の塊である鬼を、私達が消してあげる」
 それらから鬼女が産まれたというのなら、娘の裡に憎悪と悔恨があるというのもまた必然。
「決して晴らせないかもしれないね」
 妖刀が振るわれ、三種の炎のうち、修羅の蒼炎が朱鞠に直撃する。
 互いに互いを焼き、その力を削り合う最中、説得の言葉を諦めない朱鞠。
「過去に縛られて、昔の人にご免なさいって言い続けるのも違うけれど、もっとダメなのがあるよ」
 縛りあげる荊野鎖を手繰り寄せ、より拘束を強める朱鞠。
「忘れてしまうこと。キミが、キミ自身を許せなくても……キミ自身をなくしてはダメ」
 それは大切にしてくれた人々の思いを、自ら手放すということ。
 どれだけ踏み躙られても。
 それで憎悪が渦巻き、尽きせぬ悔恨に飲み込まれたとしても。
「触れてくれた、みんなの優しさを、手放してはダメ」
 それを浄化の炎をもって伝えようと、朱鞠は自らも修羅の炎で焼かれながら、視線を向けて離さない。
 それに、と痛みで引きつりそうになった唇で、朱鞠が声を紡ぐ。
 何処までも穏やかに。
 大丈夫だと言い聞かせるように。
「『しあわせ』に決まった形なんて、ない。また、新しいものにだって、触れられるよ」
 だから諦めないで。
 娘を導く灯火として、この咎を焼き払う炎を灯し続けるから。
「キミに罪があったとしても、それを償う、何かは、きっとこの世界にあると信じている」
 そんな世界である為に、朱鞠たちは戦うのだから。
 過去の残滓に蝕まれ、支配され、囚われて。
 それを払すが為に、より一層、浄化の炎は輝きを増す。
 鬼となった憎悪と悔恨を焼いて。
 元凶たる『刀狩』が嗤う気配をも、消しさせるべく。

大成功 🔵​🔵​🔵​

鏡島・嵐
自分の手で壊した幸せ、か。
それがどんだけ苦しいか、おれには想像すら出来ねえけど。
それでも。どんなに罪に塗れても。
救いたい奴を救うってのが、おれのやりてえことだから。

他の味方の動きに合わせ〈援護射撃〉を撃ち、攻撃を支援。
向こうの攻撃には〈目潰し〉〈武器落とし〉〈マヒ攻撃〉を合わせて阻害し、被害を減らす。
間合いを詰められたり、味方が攻撃を封じられたら、おれのユーベルコードの出番だ。
攻撃力が下がっても問題無ぇし、味方の治療も出来る。

おれの声が聞こえるか!
アンタはまだ生きてる。犯した罪に苦しみ、のたうちながら、それでも生きようって足掻いてる。
それは……苦しいけど、正しいことなんだ。だから……!



 自らの手は血濡れている。
 それは決して消える事のない意味の色。
 しあわせを壊した事実と過去は、決して覆る事はないのだ。
 けれど。
 自分より大事な日常を、自らの手で壊したとしても。
「それがどんだけ苦しいか、おれには想像すら出来ねえけど」
 琥珀色の瞳で、ただ真っ直ぐに鬼女を見つめるのは鏡島・嵐(星読みの渡り鳥・f03812)。
 透き通るような声は、果たして鬼の中で眠る娘に届くのか。
もう何処にもいけない訳じゃない。
 世界は広く、未だ見たいもの全てを見れている訳じゃない。
「どんなに罪に塗れても」
 決して拒絶し、居場所がなくなるなんてないのだ。
 明日を求め、歩き続ける限り、そこには光があるから。
「救いたい奴を救うってのが、おれのやりてえことだから」
 それが我が儘で、より、苦しめる事になったとしても。
 鏡島の願いは消えず、此処にある。・
 例え、どれ程の時間が過ぎたとしても。
 決して変わらず、色褪せずに。
かつて両親の見た美しく、優しい世界の景色と共に。
「あらら。とても我の強いひと」
 鏡島の声に信念の光があるからこそ、長髪を翻して鬼女は駆ける。
 恐らく完全な鬼と成り果てた訳ではない。
 娘が絶望の裡で溺れているだけなのだ。
 人の光を、希望を、願いを。
 再び、その瞳で映し、耳で捉える事が出来たのなら。
 きっとではなく、まだ、娘の生きる旅路は終わっていないのだと、鏡島は信じている。
 スリングショットで打ち出すのは鉛のものではない。 
 何かに当たれば弾けて、音と煙を撒き散らす癇癪玉。傷付ける事を望まない鏡島だから選び、使い続けている武器。
 だが、多数の猟兵たちと斬り結ぶ最中に撃ち込まれれば、鬼女とてタダではすまない。
 援護として撃ち込まれる癇癪玉の炸裂は鬼女の剣を鈍らせ、間合いを計る眼を苦しめる。
 ましてや、鏡島の何処までも、心の底まで通るような声に、何かか揺さぶれから。
「おれの声が聞こえるか!」
 向き直り、鏡島へと疾走する鬼女。
 携える黒い妖刀に僅かな恐れも抱かず、鏡島は語りかけるのだ。
「アンタはまだ生きてる。まだ生きて、苦しんで、それでも生きて進む事が出来るんだ!」
「余りにも囀る鳥ならば、焼いてしまいましょうか」
 今まで詠うようだった鬼女の口調が、僅かな苛立ちを帯びる。
 泳ぐ切っ先が紡ぐのは三種の炎。凍てつく絶望、修羅たろうとする悔恨、尽きせぬ悔恨の呪詛。
 それぞれが切っ先より迸り、鏡島の腕を焼く。
 だが、そこに切り込ませないのが他の猟兵たち。今まで受けた援護を返そうと、妖刀を弾き、或いは受け止め、鏡島の元へと辿り着く事を許さない。
 彼ら、彼女らもまた同じ思い。
 娘の心を、救いたいのだと。
「この炎に焼かれているのはオレだけじゃない、アンタもだ」
 力を大幅に削られた鏡島。
 だが、だからこそ効果があると取り出すのは長年、使い続けられたが故に思いの染みこんだ一本の針。
 突き刺せば、自らの肉体の一切を傷付けることなく、鏡島の身体を焼き、力を減少させていた黒い炎を消し去る。
「呪詛に、凍てつくような苦しみに、痛い、苦しい、助けてって。そうアンタは叫んでいるんだよ!」
 そう、闇も絶望も、払いて消し去るもの。
 苦しみも、罪も、何れは己で払えるのだ。
 次の光のために。
 明けない夜はないように。
「犯した罪に苦しみ、のたうちながら、それでも生きようって足掻いてる」
 そんなひとを救いたいと思ったから。
 救いたいと思ったひとを、絶対に救おうと鏡島は決めているから。
 やりたい事を貫く我が儘で結構。
 鬼や『刀狩』が嗤っていても、関係ない。
「それは……苦しいけど、正しいことなんだ。だから……!」
 再びスリングに装着する癇癪玉。
 剣戟の中で踊る鬼女に狙いを定めて、その裡で生きようとしている筈の娘へと届けと。
 流れるは一筋の光。
 きらりと、涙のように美しいもの。
「おれは何があっても、アンタを助ける。だから、声を出してくれ。言葉にしてくれよ。手を出してくれたら、なあ、おれはそれを握り絞めるから……!」
 ただの癇癪玉だと、当たるに任せた鬼女。
 だが、輝いたのは涙なんかじゃない。
 それは玉に縫い止められた、一つの針。
 先ほど、呪詛の黒炎を消し去ったそれだ。
 肉体、精神を問わずあらゆる異常を消し去り、世界にとっての異物であるオブリビオンに激痛をもたらす、魔を退ける霊刀の如きもの。
「……っ」
 その存在ごとを消し去ろうとする、鬼をも泣かす針の痛み。
 たかが一筋。けれど、それは確かに娘の心へと届くもので。
「――わた……しは」
 それは鬼女のものではなく。
 孤独と絶望に震える。娘の声。
「何処に、いけば、いいの……?」
 幸せと居場所を喪い、目指すべき明日もないから。
 泣くように、震えるように、か細い声が続く。
「大丈夫。それは、おれが教えてやる」
 巡り続ける星の下にある世界は、広くて優しい。
 どんな罪に苛まれても。
 苦しみ続けたとししても。
 生きて、いずれ笑える場所に辿り着ける筈なのだと。
 渡り鳥たる鏡島は信じて、恐怖を押しのける為に笑いかける。
 娘がまた、泣き崩れてしまわないように。
 一筋の光を見続けて欲しいのだと。

大成功 🔵​🔵​🔵​

フォルター・ユングフラウ
【古城】

【WIZ】

悲劇である事は認めよう
同情も、理解出来る
…しかし、無理と言ってもあ奴は首を振るまい
あれの相手を任せ、村に来てみたが…

さて、死霊術士らしく死者の力を借りてみるとしよう
降霊と、UCを活かしてな

聞け、散り落ちた命たちよ
あの娘は、汝等を愛するが故に禁忌を手に取った
与えられた幸せに報いる為に、その幸せを守り続ける為に
他意は無く、それを外道に利用されただけの事─己の大事な名すら、忘却させられる程に
可能ならば、我に続け
汝等の想いを、そしてあの娘の名を…届けて欲しい

遅くなったな
時には言葉が剣よりも強力な武器となる、それを示そう
○○よ─悪鬼はここで潰え、残るは穏やかな風のみだ


トリテレイア・ゼロナイン
【古城】

虚ろのままにその妖刀を握った状態でお通しする訳には参りません
騎士として悲劇を断つ為に、立ち塞がらせて頂きます

(遠隔●操縦で機械馬を操作しつつ)
『娘を助けたいのだろう? 良案があるので馬を貸せ』などと…
借りは高くつきそうです

脚部スラスタの●推力移動とすり足交えた歩法で惑わせ誘い攻撃誘導
炎を●見切って躱し怪力でなぎ払う盾で打ち払い

呪詛は破魔の義護剣で切り裂き近接戦闘

ダンピールは神殺しの力を宿す…でしたか

フォルター様!
それがあの方の名なのですね!

…剣といい、そのお力といい
戦機の私にとっては焦がれるばかりですよ

~様
その名を与えた方は皆、誰も悪鬼の道を歩むことを望んではおりません!

剣の腹で一閃







 まずは現実を認めよう。
 眼を閉じ、耳を塞いだ娘の代わりに。
 結果として自分を捨ててた、愚かなる娘の代わりに。
「そう。悲劇である事は認めよう」
 冷徹に、そして揺るがぬ現実であるが故の無慈悲な言葉。
 赤い眸を揺らし、この場で起きた惨劇を見るのはフォルター・ユングフラウ(嗜虐の女帝・f07891)。
 傲岸不遜、冷徹無慈悲。
 そんな魔女だからこそ、覆ることのない悲劇が何を呼ぶのかをよく知っている。
 過去は覆らない。それによって起こされる因果は深く、そして、残酷だ。救済の光をと願っても、それは断罪でしかない時とてある。
「同情も、理解出来る」
 ましてや、自らの領地を、自らの手で滅ぼしたフォルターならばこそ。
 深き悔恨や、罪悪感の欠片もなくとも。
 この様を見れば、判るものがあるのだ。
 此処は皆殺しのあった村。
 娘にとっての『しあわせ』が、娘によって壊された場所。
 血はまだ渇きっておらず、残る思念が燻りて渦巻いて見える程。
「……しかし、無理と言ってもあ奴は首を振るまい。故に、我が直接出向いたものだが」
 堅物にして、律儀なる御伽の騎士よ。
 血濡れと惨劇は、この魔女に任せるがいい。

「なあ。納得出来ぬからこそ、霊魂となって今をも彷徨うのだろう」

 死霊術士であるフォルターの言葉に。
 血がまるで霧となるように、周囲に立ちこめる。
 死せる魂の想念は混濁していても、なお。
「聞け、散り落ちた魂よ」
 この作られた悲劇を覆すべく、ただ純然たる力と声を以て、フォルターは呼びかける。
 






『娘を助けたいのだろう?』
 それに異はなく、むしろ願いだった。
『良案があるので馬を貸せ』
 果たして今、この場で跨がる機械馬を貸しただけで済むのか。
 魔女との契約は深く、深く絡み付くもの。
 どれ程の対価を、何時、払うのかなど判らなくとも。

『娘を助けたいのだろう?』

 重ねられた言葉に、自分の願いと同じ重さがあると感じたから。
 今ここに、この場があって。
 そして、次なる声が紡がれるのだ。




 虚ろなる刃は、血に濡れて赤く染まる。
 それを望んだ筈はなく、けれど、鬼女はくすりと微笑むばかり。
 魂と呼べる欠片を感じさせぬこの姿。
 もしも誰かと出逢えば、新たなる凶事が巻き起こる事は必然なのだろう。
 一度、血に濡れれば、幾らでもそれを求めてしまう。
 或いは、冷酷なる魔女がその有様を血の色彩でするのはその為か。
 戦機の騎士と名乗れど、戦の中で絶えず血を浴びる己は、どうなのか。

――記憶になくとも創造主たる誰かの呪怨がこの白き身にもあるのではないのかと。

 迷いは幾らでも心を揺らす。
 けれど、それでは誰も救えないと判るからこそ、
「……その妖刀を握った状態でお通しする訳には参りません」 
真っ正面から立ち塞がるのはトリテレイア・ゼロナイン(紛い物の機械騎士・f04141)。
 大盾を前に押し出すように構え、決して先には通さないとその姿で示すして。
「騎士として悲劇を断つ為に、立ち塞がらせて頂きます」
 言葉と共に引き抜くは義護剣ブリッジェシー。

――汝、心の儘に振る舞え

 そう刻まれた言葉が、破魔の力を帯びさせる白銀の騎士剣。
 薄紫の装飾は、トリテレイア本人よりなお、その在り方を描いて浮かび上がらせるよう。
「まあ、清冽にして、勇敢なる騎士さま。絡繰りなどと、笑いはしませんよ」
「どうも、皮肉がお得意のようで」
「鬼ですからね。何処までも、心を侵し続けるその有様を貫く事こそ――呪いの真髄なれば」
 心を蝕み、魂を穢す事こそ、この鬼の歌。
 ならば、振るう黒き妖刀は全てを奪うが為に。
 ぼう、ぼう、と泳ぐ切っ先に従い、宙を踊る修羅の炎。
 凍てつく炎は地を這い、呪詛の黒炎はその刀身に纏われる。
「呪いて、斬らねば、貴方が繰り糸の人形か、気高き騎士かは、判りませんからね」
 瞬間、膨れ上がる鬼女の殺意。
 地を這い、空を舞い、剣に宿る呪怨の炎がトリテレイアを灼き斬らんと迸る。
 だが、トリテレイアとて騎士を名乗る者。
 その武が半端である筈はなく、潜り抜けて来た戦の経験が技を産む。
 摺り足の歩法のまま、脚部スラスタの推進力を乗せて突き進むトリテレイア。
 まるで氷の上を滑るように、けれど土煙を巻き上げて高速で滑るように走る姿。機械の身体が故の速度と動きは、剣術が相手として仮定する範疇の外。
 迫る修羅の蒼炎を見切って躱し、地を這って追い縋る凍てつく炎は大盾を地面ごと打ち抜き、弾き飛ばす。
 早く、そして、恐ろしい程の怪力。
「まずはその妖刀。手放して頂きましょうか……!」
「あら、とても大切だというのに」
 言葉と共に振るわれる白銀の騎士剣と、黒き妖刀。
 呪詛の焔が破魔の力で斬り裂かれて霧散し、直撃すれば岩をも砕く戦機の剣が受け流されて虚空を滑る。
 表面だけみれば互いに無傷。だが、僅かに眉を潜める鬼女の顔。
「ダンピールは神殺しの力を宿す……でしたか」
 善であれ、悪であれ。妖異が霊格を積み上げれば、それは神格へと至る。
 そして、眼前にあるのは鬼女という祟り神にさえ近しいももの。かの魔女か作り上げた白銀の騎士剣は、刃で斬らずともその霊魂に直接、威を伝えている。
「ならば」
「ええ、ならば」
 擦れ違うや否や、再び土煙と土砂を巻き上げ、トリテレイアが鬼女へと斬り懸かる。
 三種の炎に頼らず、妖刀を持って迎撃へと集中する鬼女。
 だが、それは果たして、自ら望んでそうなったのか。
 斬殺という虚ろな望みがあるのに、受ける側へと戦法が傾くのは何故なのか。
 その真実は超常の域へと達したトリテレイアの演算からなる予測と、戦闘技術の粋を込めた体捌きによる誘導。
 駆け抜けるのであれば、後の先をとって斬れば良いと。そのように導かれ、踊らされているのは人形劇のようで。
 けれど、踊る間は気づかないからこその劇なのだ。
 時間稼ぎといえばそれまで。機械故の精密なる攻撃を捌かれながら、その身に刃を受ける事なく、時間を稼いぐトリテレイア。
 それは、魔女を信じているから。
 救いたいのだろうと、囁いたその心に、善きものがあるのだと。
 血濡れの中から、抜け出す為のものがあるのだと。
 それは娘も、魔女も。
 悪しき夢の底にも、光は刺すのだと。





 冷たいフォルターの聲は、けれど、死霊たちに思い出せる。
 それは優しい思い出。
 斬られ、殺され、穢された末路ではなく。
 過ごした日常の、『みんな』という『しあわせ』。
「あの娘は、汝等を愛するが故に禁忌を手に取った」
 それを愛するが為に、己が身を犠牲にする。
 ああ、判らなくはない。
 理解するし同情すると云った通り。
 かつてのフォルターならば、そのような事を僅かたりとも気にかけなかっただろう。
 それは変化か。
 それとも、元に戻ろうとしているのか。
 判らないから面白い。葡萄酒で酔い始めたような心地で、自らではなく、戦機の騎士の願いの為に言葉を紡ぐ。
 そう。
 己が為ではなく、誰が為に。
 それは今のフォルターと、あの娘の同じ所。
「与えられた幸せに報いる為に、その幸せを守り続ける為に」
 違いはある。そも、他人の為に身を捨てるような事は、フォルターには断じてない。
 魂の底から血を求めている。
 どうしてそうなのか。理由がない程、純粋にそういうものなのだ。
「他意は無く、それを外道に利用されただけの事―─己の大事な名すら、忘却させられる程に」
 だからこそ、そうではない娘と騎士の為にと。
 赤い眸を揺らし、顕れた霊魂たちへと呼びかけ続ける。
 憎悪はあるだろう。どのような経緯があれ、殺されて、奪われた明日に恨みがない訳がない。
 それでも、それでもと。
「共に生き、共に笑い、そして、幸せを共にしたのだろう?」
 フォルターが経験できなかった過去であり、今、ようやく、染み渡り始めたもの。
 他と生きる。それを幸せと呼ぶ。
 その事自体が、幸福というものなのだと。
「可能ならば、我に続け」
 血を吸って咲き誇った花こそフォルター。
 その色を、艶を、今更変えることはできず、誰かを従えるという事も出来ない。
 けれど、このような悲劇の場でこそ。
 惨劇の裡で、微かな光を見出すのも、また血を吸って夜闇に咲く花の美しさなのだ。
 決して、惨劇から眼を逸らさない。
 綺麗ごとで飾り立てもしない。
 それは冷徹で無慈悲だからでもあり、自らの所業を贖うつもりもないということ。
 ただ、現実を見つめよう。
 これは悲劇なのだと。 
 これ以上は続けてはならない、残酷なる物語なのだ。
「汝等の想いを、そしてあの娘の名を……届けて欲しい」
 故に、最後に託すは霊魂たち各々の思い。
 自らで選択して欲しい。その元での行動でこそ、この妖異の絶望は覆せるのだから。
 だから。

『あの子を』

 霊魂が響かせる、その名は。

『あの子を、『夕凪』を、私達が助けられるのですか……?」

 憎悪ではなく、祈りの言葉として、霊魂たちが紡いだのだ。





 


『遅くなったな』
トリテレイアの脳裏に響くのは、フォルターの声。
 場所を越えて伝える思念の言葉。
『何、死霊だからこその葛藤がある。苦悩がある』
 フォルターだからこそなのか、それとも、ただの言葉遊びか。
 判断することは出来なくとも。
『それは汝の懊悩が我に判らぬように。それを咎めてくれるなよ』
ただ、その娘の『名』を、幾人もの村人が呼びかけている。
 それを直に伝えられない事を、悲しく、苦しく思えど。
「フォルター様!」
 それは本来なら叶わぬこと。
 生と死で分けられた、その境界を跨ぐなど。
「それがあの方の名なのですね!」
 感じる気配は、冷たくも艶を帯びた笑み。
 これぐらいは出来て当然なのだ。何を喜んでいる。
 それでは、不安に思われていたようで、我としては不満だと。
 遥か遠くから、肩を竦めるのを感じるトリテレイア。
 けれど、この剣といい、その力と技といい。
 戦機たる身として憧れるばかりのものなのだ。
「戦い、打ち倒し、壊した後でも、残るものがあるならば――それは希望ではありませんか」
 故に、神殺しの祝福を受けた白銀の騎士剣はその力を増す。
 清いが故に焦がれ、憧れるが故により純粋に。
 想いが形作るものこそ、魂なれば。
 どのような悲劇の連鎖をも断ち切る刃となるのだ。

『何を言う』

 刹那に流れたフォルターの思念。

『時には言葉が剣よりも強力な武器となる、それを示そう』
 
――いいや、示してみせてくれよ。私の祝福した剣よりなお、輝くものがあるのだと――


「『夕凪』様」
 声に出そう。言葉にして紡いで届けよう。
 決して、娘の名と、今までと。
 大切なしてきた『みんな』の『しあわせ』は消えていないと。
「その名を、『夕凪』との名前を与えた方は皆、誰も悪鬼の道を歩むことを望んではおりません!」
「っ!?」
 それは、悪鬼の裡で眠る娘の魂を震わせる衝撃となるのだ。
 忘却の裡にあった自らの名を呼ばれ、それを名付けてくれた人々の顔を思い出して――鬼女の瞳の色が、赤から青に。
 『夕凪』と呼ばれた娘のそれに、刹那に変わったからこそ。
「そう、目を覚ましてください。『夕凪』さま!」
 白銀の光を軌跡と残し、剣の腹で鬼女を打ち据える御伽の騎士。
 直接に撃ち込まれた衝撃と破魔の力で、その身体が震えて、膝を付く。それでも手離さない妖刀から、黒々とした妖気がその身体へと溢れ出て、再び闇へと誘おうとするけれど。
最早、その青い瞳が血の色に染まりきることはない。
 夕凪。その名を、自分を思い出した娘の全てを、奪うことなど出来はしない。

『夕凪よ―─悪鬼はここで潰え、残るは穏やかな風のみだ』

 そう、例え風が形をなくしたとしても。
 決して途絶えたのではない。
 穏やかなるものが、そこにある。
 自らの名を忘れても、静かに、想いはあるのだ。
 今はただ、残る悪鬼を討つべく。
 全てを操る『刀狩』の身と魂をこそ、討ち滅ぼすべく。

『村人もそう願っている。残された思いを、無碍にするなよ』 
  
 悪鬼を打ち払う、魔女と騎士。
 それは優しさ。それは正しさ。
 風たる少女の救いを求める、戦の中で凪ぎが顕れた瞬間。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

御堂・茜
難しい事は抜きです
間違えたら謝ればよいのです!
道理を踏み外すならば貴女を悪として処断します

しかし…嫌です!
ここは剣士らしく決闘です!
行くあてが無ければ御堂の国に来なさい
共に生きるのです!

覚悟勇気元気情熱そして気合い!
自暴自棄の刃に破れはしません
気合いのオーラ防御で敵の炎を遮り
狙うは妖刀唯一本のみ

悪いのは全てその刀狩とやらではないですか!
なにゆえ罪なき民が犠牲となり
貴女が悲しまねばならぬのですか!?
わたくし怒り心頭ですわ
早く奴の首を差し出しなさい!!

悪とみなしたものは全て斬って参りました
躊躇っていては正義は成せませぬ
UC【完全懲悪】…!
我が正義の刃が斬るのは悪のみ!
刀から刀狩だけを切断しますッ!



 桜色に似た、柔らかな色彩の眸。
 けれど、そこに秘めた正義と覚悟は何処までも真っ直ぐ。
 間違う事を恐れない。
 躊躇う事など、何もない。
 胸の奥、鼓動と共に在る志が確かにあるのならば。
 御堂・茜(ジャスティスモンスター・f05315)は何事も諦めず、その先へと進み続ける。
「難しい事は抜きです」
 異論を挟ませる事を許さない、何処までも純粋で、清冽なる声。
 さらりと大太刀を抜き放ちつつも、殺意とは全く異なる剣気を周囲に滲ませる。
「間違えたら謝ればよいのです!」
 謝る相手がこの世にいなくとも、届かないとは限らない。
 心の底から願えば。いいや、自分の心の奥深くにこそ、ずっと大切な人は息づいているのだから。
 それでも、あくまで悪鬼としての路を往くならば。
「道理を踏み外すならば貴女を悪として処断します」
 それは刃のように鋭い茜の声。
 自らを律し、義に生きて、信念の元にただ真っ直ぐに生きること。
 それを善しとするが正義であり、武士の姿だ。
 武門を束ねる者として、過ぎる程の高潔さを持つものこそ、侍なればこそ。自らの腹に刃を立てても、過ちと罪は糺されねばならない。
 だが、涼やかな音色を立てて振るわれる茜の大太刀は、彼女の想いをツ繋げるのだ。
「しかし……嫌です!」
 それはあくまで、武士の領域。
 村人であった娘にまで強いるものではない。
 そも、規範としてかくあるべしとあれど、人に強制するなど悪法だ。
「ここは剣士らしく決闘です!」
 故にと真っ直ぐに大太刀の切っ先を鬼女へと向ける。
「行くあてが無ければ御堂の国に来なさい。共に生きるのです!」
「なんとも、また……我が儘な姫君ですね」
 清冽だからこそ、鬼女をして言葉を挟む事が出来なかった。
 いいや、生きる場所を喪った娘――夕凪に、自らと生きよと正面から声を掛けたその姿を止める事が出来ないのだ。
 それを求めていたのか。
 そも、終わる事を求めていたのだろうか。
「――ああ、そうですね。難しい事は抜きにしましょう」
 考えれば考える程、鬼女の邪気が薄らぐ。
 詠うような口調も何処か、苦しげで、吐息をひとつ零すほど。
 茜の裏を掻き、思いを乱すなど無理難題。それならば剣の鬼として、斬り合うには嫌は無く。
「私が勝てば、その首を頂くというので間違いありませんね?」
 ちらりと、切っ先から滲んで刀身を包むのは呪詛の黒炎。
 虚空に浮かぶは凍てつく炎と、修羅の蒼炎。
 凶刃と共に振るわれる、命を奪うが為のもの。
「ええ、自暴自棄の刃に、決して破れはしません。だって、貴女は、何も求めていない、何も望んでいない」
「血を、死を、斬り合う事を望んでおりますが」
「いいえ」
 決して、嘘偽りなど認めない。
 互いの刃に身を晒すのだ。心を偽って、どうするというのか。
「貴女は、ただ、どうしようもなく、どうすればいいか判らず――ただ、怯えて逃げているだけです!」
 だから、本物の覚悟を見せてあげましょう。
 かつては貴女も抱いただろう、弱き者の為の刃を。
 そう信じる茜の踏み込みは俊足。
 裂帛の気合は、そのまま剣気となって鬼を斬るべく繰り出される。
 上段より振り下ろされる大太刀は、岩をも斬り伏せる威を宿して鬼女へと振るわれた。
 ごう、と唸るは剣風。
 余韻のように周囲に旋風が巻き起こる。
 茜の斬撃は受けるのは不利。ならばと身を翻し、懐へと飛び込む鬼娘。
「だから、こうして斬り結ぶ事さえ逃げてしまうのでしょう」
 それを迎え撃ったのは、茜の持つ大太刀の柄。短い跳躍を乗せ、まるで槌の如く叩き込む先は黒き妖刀の刀身。
 狙うはただひとつ。
 元より呪われた刃、そこに『刀狩』という猟書家を宿した呪怨の器。
「悪いのは全て、その刀狩とやらではないですか!」
勢いと大太刀の重さを活かして、妖刀を弾き飛ばし、続けて叫ぶ茜。
 冷たい炎が腕に触れ、一部を凍てつかせるが気に留めない。修羅の蒼炎などと、剣気と気迫をもって抗いながら。
 身体ごと翻して振るう裂帛の一閃。一振り、一振りに込められた気が違うのだ。
「なにゆえ罪なき民が犠牲となり、貴女が悲しまねばならぬのですか!?」
 故に繰り出される茜の斬撃は、悉くが稲妻の如き威を誇る。
 如何に妖刀、『刀狩』を宿すといえど、真っ向から斬り結ぶなど容易ではない。
 よって必然、守りへと剣を寄せる鬼女。
 操る三種の炎は、当たれば威を減じさせるのだ。ならば、この剛剣が鈍るまで、浮葉の如くでも立ち回ればよいと。
 そう思うからこそ、凍てつく炎を恐れることなく真っ向から切り込み、妖刀へと剣閃を届かせる茜に驚愕するのだ。
 岩や鋼、生半可な刀ならばその時点で砕けているだろう。
 妖刀を持つ指と腕が痺れ、刀身にも僅かながら罅が走る。
「わたくし怒り心頭ですわ、早く奴の首を差し出しなさい!!」
「あら、私と斬り合っているのではないのでしょうか。無視されるのは、ええ、頂けませんね」
 鍔迫り合いながら、言葉を交わす両者。
 真っ正面から斬り伏せる茜の姿は確かに凜々しく、そして、武と覚悟に満ちている。
 一方で剣鬼として、相手の命を奪う為の凶刃を持つのが鬼女。
 二種の炎を受けてその剣気も、気迫も減じた茜の今を狙うのはある種の必然。真っ向から立ち向かう故に、出来てしまった隙とさえ云えるだろう。
 互いに刀身を弾き合うや否や、鋭く踏み込む鬼女。
 それも狙うは、炎を受けて腕が凍てついたが故に挙動の鈍った側面。
 流れる妖刀はいっそ、美しく。
 御堂の脇腹を咲いて散らす赤。呪詛の黒炎が茜の裡に。
 なれど、その程度で止まらないからこそ正義なのだ。
 如何なる痛みがあろうとも、喪うものがあろうとも。
「悪とみなしたものは全て斬って参りました」
 すべからく、斬り伏せて進むのみ。
 出来るか否かではない。出来ると信じて振るえば、成せぬ者はなしと。
 踵を視点に反転し、茜は大太刀を肩に担ぐように構える。
 力を溜め、剣気と覚悟を宿し、例え、鬼女に後の先を狙らわれていると知っていても。
「我が正義の刃が斬るのは悪のみ!」
 妖刀を斬り壊す。狙いなどとうの昔に判られていて。
 けれど、だから何だという。
 相手に告げて、自らに誓い、成してこその正義の刃。
「その妖刀から、刀狩だけを斬り伏せますッ!」
 疾走する斬刃は何処までも清く、けれど、稲津のような威と速度を秘めて。
 熱き正義の刃に触れた妖刀が、焼けるようにその黒い色彩を散らして。
 ただ刀身を斬るのみならず、龍の鱗を斬り裂き、半ばまで至るような手応えを茜に伝えるのだ。
「ぐっ……」
 後の先にと奔ろうとした黒き剣閃が、宙を泳ぐ。
 凶刃では茜の信念を斬る事など出来ないのだと。
己が信念の元に振るった剣で示した茜。
「そうでしたわね。わたくしの相手は『刀狩』」
 凍えた腕を庇おうとも、隠そうともせず、
 諸手で覚悟を剣気として纏う大太刀を構えて。
「さあ、出て参りなさい、『刀狩』よ。わたくしの怒りとを義の刃と受けて、露と散りなさい……!」
 携える夢、それが他を巻き込む悪なれば。
 必ずや斬ると、茜の大太刀が煌めく。
この背に、正しき娘の人生の路が続くように。

大成功 🔵​🔵​🔵​

篝・倫太郎
【華禱】
確かに、喪った命は戻らない
それでも……
戻れないからと忘れるのは、忘れたままなのは違う

往こうぜ、夜彦

業返し使用
吹き飛ばしと生命力吸収を乗せた華焔刀で先制攻撃
以降はフェイントを混ぜつつ2回攻撃で傷口を抉る形で攻撃

敵の攻撃は見切りと残像で回避
回避不能時は武器受けで対処
直後から写した技を発動

時間切れ後はフェイントを混ぜる形の戦術に戻し
敵の攻撃を華焔刀で受けたら再度発動

夜彦の攻撃で大きな負傷部位があるなら
部位破壊も乗せてく

嘆くなと、言える筈もない
でもな……
あんたが弔わなきゃ
あんたが覚えてなきゃだめだろう!
貰ったしあわせに目を背けちゃだめだろう!

説得にならねぇのは承知の上
ただ、小さな罅になればいい


月舘・夜彦
【華禱】
何ひとつ救えない……?
まだ、彼女が居るではありませんか

全てを失おうとも、彼等に幸せを与えられた者が此処に
名さえ忘れてしまおうとも……存在しているのです
必ずや解放しましょう、倫太郎

刃には破魔の力を付与、幾重刃にて攻撃
視力から動き、情報収集からより確実に相手の癖を読む
2回攻撃で更に手数を増してより威力を高め
殺戮を宣言する声を合図に攻撃に対抗
武器受けにて攻撃を防いだ後、武器落としと衝撃波を込めたカウンター

負傷は激痛耐性、継戦能力にて戦闘を維持

罪は罪、過去には戻れず、過ちも消せず
それでも受けた恩は、人の願いは消えるはずも無し
貴女がこの世に生きている限り、恩義を忘れぬ限り
それも、消えはしない



 確かに、喪った命は戻らない。
 散った花が再び戻る事はなく、過ぎ去った時が巻き戻る事も。
 全ては無常。
 世は儚く、脆く、そして悲しさを帯びるもの。
「それでも……」
 呟くのは篝・倫太郎(災禍狩り・f07291)。
 禍狩として、琥珀の眸で凶刃を振るう鬼女を見つめる。
「戻れないからと忘れるのは、忘れたままなのは違う」
 例え戻れないとしても。
 その幸せを、美しさを、大切だと思った心をなかった事になんか出来ない。
 それはこの世にあった真実。
 例え形や色を失い、もう抱きしめられなくとも、胸の奥にあり続けるもの。
 その傍らで、翠の眸に切なる思いを浮かべるのは月舘・夜彦(宵待ノ簪・f01521)。
 隣に立つ倫太郎と同じく、諦めるつもりはないのだと。
「何ひとつ救えない……?」
 いいや、そんな事はないと、首を振るえば揺れる夜空の如き藍色の長髪。
 何処までも実直なる侍として、ゆるりと一歩を踏み出す。
「まだ、彼女が居るではありませんか」
 全てを失ない、鬼女として狂剣に舞う姿となっても。
 彼等に幸せを与えられた娘は、その裡に眠っているだけ。
 名を忘れて、我を失ってもなお、与えられた思いと、幸せはそこに。
 魂として、鼓動の裡で息づいている筈だから。
「必ずや解放しましょう、倫太郎」
 願いを込められた産まれた身だからこそ、未だ生きる想いを感じる夜彦と。
「往こうぜ、夜彦」
 禍狩として、晴らすべく立ちこめる『刀狩』の呪詛を睨む倫太郎。
 二人として並べば、臆すことも、叶わぬ事もないと切っ先を並べるのみ。
「あら、素敵な殿方がふたり。ええ、並べて、その首を刃で散らしましょう」
 故にと応える鬼女の殺意の宣言。
 これが闇なる者ならば、光を宿す者を絶対に許せないから。
 尋常ならざる速度で駆ける鬼女。
 振るう妖刀は黒き剣閃と化して、倫太郎へと襲いかかる。
「なあ、その顔の奥では――泣いているのかよ」
 微笑むばかりの鬼女。
 けれど、それはまるで仮面のように感じるかにこそ。
 命を奪わんとする凶刃を見切り、華焔刀 [ 凪 ]で受け止める倫太郎。
「ああ、よく判ったよ。俺たちが伝えたいのは、お前じゃないって事は」
 故に吹き荒れよ、業返しの風。
 朱線踊る柄が燐光を帯び、刀身が炎のように揺らめけば。
 そこに起こるのは、斬り結んだ相手の技と業を映して返す禍狩の術。
よって、鬼女と同じ迅速を得る倫太郎。
 鬼女の影を払い、その奥にある娘の心に届けるべく、
 焔風の如く振るわれる薙刀の烈閃。瞬く光が、絶望に埋もれた娘の心を照らし出せと。
「嘆くなと、言える筈もなねぇよ」
 その悲しみを、全部判ってやれるなんて傲慢に過ぎる。
 それでも。どうしても。
「絶望で顔を伏せて、瞼を閉じて耳を塞いじゃいけねぇんだ!」
「だから、こうして、鬼が唄うのでしょう? 子守歌として。もう娘の人生は終わったのだと」
 言葉を交わしながら、無数の剣戟の火花が周囲に舞い散る。
 響き渡る剣戟の音は澄んだ鋼の音であり、鬼の禍を払う鈴のようでもある。
 残像を纏い、周囲に揺らして、妖刀の切っ先を逃れる倫太郎。
 押されていると理解するからこそ、立ち回りはより一層に重要。自分自身を知るから、断ち斬るは刃たる身へと任せるのだ。
「罪は罪、過去には戻れず、過ちも消せず」
 微かな声に続くのは、玲瓏たる蒼銀の斬閃。
 見切れる筈もない神速。竜胆の武芸者たる技の冴えを、刹那に咲かせる夜彦の霞瑞刀 [ 嵐 ]。
「それでも受けた恩は、人の願いは消えるはずも無し」
 居合として放たれたそれは、流れる侭に鬼女の身を斬り裂いた。
 いいや、それはただ血肉を斬ったのではない。
 刃に纏う破魔の剣気が、鬼の呪怨を斬り晴らしている。血飛沫があがれど、それ以上の災禍の闇が露と消え果てる。
 が、夜彦のそれは一閃のみならず。
 幾度も、幾重にもと重ねて放たれる連続剣閃。
 瞬く度に鬼女を捉え、その攻撃の癖と呪詛の濃さを覚えて、より鋭く、より迅くと繰り出され続ける。
 煌めく夜彦の切っ先は夕焼けの色彩を幾つも斬り裂いて、鬼女の身体と至る。
「逃がしはしねぇよ」
 爆発的に速度、反射神経を増加させた鬼女ならば夜彦の間合いから逃れる事も出来ただろう。
 だが、それをさせない倫太郎の薙刀による援護。
 自らが鬼女と同じ速度を持ったとしても、剣技にて劣るのならば、夜彦が十全に刃を振るえるようにと、その動きを誘導し、逃げ道を塞ぎ、反撃の刃を受け止める。
 一度でも鬼女が傷を負えば、重ねてその傷口を抉るように。
 けれど、娘の肉体ではなく、鬼の心へと禍狩の力を走らせる。
「判りますか、娘よ。鬼女を追い詰めているのは、ただの強さ。ただの剣ではありません」
 静かに。けれど、何処までも深く。
 倫太郎が先んじて斬り結んだが故に、鬼女の体捌きや技を視力で見切って覚えた夜彦が告げる。
「相手を信じること。繋がりということ。……それは、貴女が生きる限り、喪われる事ではないのです。決して、消えはしない」
「黙りなさい……!」
 二人を相手にするからこそ、その繋がりと誓いを断ち斬れぬ鬼女。
 剣鬼として最適化された身体でも、心の深き所での繋がりには立ち向かえないのだ。
 悲鳴のような、或いは、鬼女ではなく、娘から零れた絶叫を乗せた刃。
 夜彦は真っ向から霞瑞刀で受け止めるや否や、更に力を乗せて妖刀を地面へと弾くように斬り落とす。
 剣気を集めた衝撃波を鬼女へと当て、動きを止めれば、傍らの倫太郎を見る。
 云いたい事は沢山あるのだ。
 伝えたい事は、自分達でも多く、全ては無理なほどに。
「でもな……村のみんなは俺たち以上に、もっと沢山、あんたにに思いを向けてくれていただろう!」
 叫びは届くだろうか。
 説得になどならないのは百も承知。
 それだけで救えるほど、絶望の闇は浅くない。
 けれど、小さな罅となればいい。
 重なれば、『刀狩』をも打ち砕く希望となる筈なのだから。
「そんな村の『みんな』を、あんたが弔わなきゃ、あんたが覚えてなきゃだめだろう!」
 名を忘れて、喪ったのはこの娘だけではない。
 殺戮の起きた村に墓を建てるならば、その墓標のひとつひとつに、名を刻むのは……生き残った娘のみができること。
 そして。
「貰った『しあわせ』に目を背けちゃだめだろう!」
 今を生きている。
 そして、娘は明日へと生きることができる。
 形は違えど、『しあわせ』は世界の何処にでも満ちあふれている。
 それを与えて、貰って、教えてくれた村人に、不幸と残酷なる噺に呑まれた姿を見せるなんて。
 そんな背を向ける姿だなんて。
「……ぁ」
 零れた、嘆きの声に。
 夜彦は静かに、静かに告げるのだ。
「貴女がこの世に生きている限り、恩義を忘れぬ限り」
 その夜天の如き藍色の長髪にある、竜胆の簪のように。
「貰った幸せも、抱いた願いも、受けた恩とそれに繋がる思い……それら、消えはしない」
 生きている限り。
 娘が感じた『しあわせ』の記憶を抱く限り。
 村人から貰った優しさは、潰えず、また誰かの『しあわせ』の形になるのだと。
「だから諦めず、生きてください。いずれ、愛しき人と出逢い、帰る場所が出来ると、私は身を以て知っているのだから」
「もしも、抗えない程に鬼が叫んでいるなら、幾らでも付き合ってやるからよ」
 霞瑞刀に重ねられる、華焔刀の刃。
 美しく、そして、優しい色をもって。
「……諦めんな。嘆いて、苦しんで、叫んでやれ。自分の心は、ここにあると」
 妖刀に嗤わせるのではなく。
 鬼女に唄わせるのも止めさせて。
 泣き叫ぶように、ただ、ただその妖刀を今は振るえ。
 どうしようもない過去を、その悔恨の暗闇が尽きるまで。
 斬り結び、散らして、その心に光りを灯してやると、倫太郎は琥珀色の眸で訴える。
 耐えきれぬ悲哀に震えるように、妖刀を掴む娘の手が震える。
 かたかた、かたかたと。
 或いはそこに宿る『刀狩』に、抗うように
 災禍は狩りて、残る人の心をこそ護らんと。
 風が止んで、僅かに凪いだ夕焼けの空の下で。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

鷲生・嵯泉
残骸共の腐れた性根、相変わらずに不快に過ぎる
狩られるのはお前達外道と、確と教えてくれる

己が幸せを其の手で壊した絶望、理解する事は元より図る事とて出来はしない
唯……懐く空虚は地獄の責苦より苦しくなろう
――烈戒怒涛、縛を解く
視線や向き、気の流れに僅かな動きを見極め
戦闘知識にて計り第六感で以って起点を先読み見切り、なぎ払いの先手で潰す
隙が生じるまで連撃重ね、瞬きに足りぬ機とて逃さん
命は奪わん――只其の操り糸、断ち斬ってくれる

望まぬ罪を犯した事を憐れとは云うまい
そんな罪であろうと償わぬ訳には行かぬものだ
ならばこそ、お前自身が其の咎と向き合わねばならん
己の犯した罪を雪げるのは己だけだと心得ろ



 骸の海とは、腐乱した汚泥のようなものなのか。
 そこに墜ちて、戻るものは、皆、穢された姿なのか。
 ならば納得も出来よう。黄泉のモノを口にすれば、それは黄泉のモノへと変わるように。
 醜く、醜悪になり果てるというのならば。
「変わらず、見るにも耐えん」
 だが、結局の所は鷲生・嵯泉(烈志・f05845)にとってはそう。
 赤い隻眼は、鬼女の構える妖刀へと強烈な敵意の刃と化した視線を注ぐのだ。
「残骸共の腐れた性根、相変わらずに不快に過ぎる」
 故、一刻も迅くこの場より朽ちろ。
 その為にこの刀は振るわれるのだと、鞘より抜かれるは秋水。
 露を掃う鋭利さをもって災禍を断ち斬る為だけにある刀。それと知り、斬られて終われと、剣呑な光が赤い眸と白刃に宿る。
「狩られるのはお前達外道と、確と教えてくれる」
「あら、ならば外道に踏まれる骸は貴方?」
「笑う気にもならん。鬼の唄は惑わしだ。ましてや残滓のさえずりなど、心を傾ける気さえ起きん」
「本当に、刃のようで。そして、愚直に無粋な人ですね」
 それでも唄うが鬼女。
 手にした黒い妖刀をするりと泳がせ、構えを変える。
 凶と殺意からなる気の流れは鋭く、冷たく。だが故に、鷲生には容易に読み取れるもの。
「その刃が砕け散る様を見たいから――斬り殺されてくださいな」
 告げられる殺戮宣言。
 剣鬼として最適化される身体は、恐らく見た目は人であれ、臓腑や血管、骨の関節に至るまで人斬りの元へと変じさせているだろう。
 だが、だから何だという。
「己が幸せを其の手で壊した絶望、理解する事は元より図る事とて出来はしない」
 赤い隻眼を僅かに細めて、口にする鷲生。
 殺気を刃のように身へと突き立てる鬼女を無視して語りかけるは、その奥にいるだろう娘へ。
 無念であり、悔恨尽きぬだろう。
 怨嗟は自らを削り、憎悪は己が臓腑を灼き続ける。
 それすら想像であり、理解も押して図る事も出来ぬもの。
 自分であれば。
 言葉に尽くせぬ苛みであろうが故に。
「唯……懐く空虚は地獄の責苦より苦しくなろう」
 鬼女に取り憑かれ、操られるは地獄の羅刹の暴虐の如く。
 けれど、それさえ生温いから、目覚める事もないがないのだ。
ならば、再び開いたその眼に。
 光と優しく、暖かいものを届ける為に。
 此処は地獄ではない。生きて、生き抜いて、幸せとなる為の場所なのだと。

「――烈戒怒涛、縛を解く」

 あらゆる残滓の災禍、断ち斬るのだと鷲生もまた告げる。
 封印より解放した剣精は、纏いしものに対価に応じた高速化と攻めの技を授ける。
 此処まで過去の残滓を嫌悪する鷲生が求める技とは。
「是を以って約を成せ」
 現実にと形を結ぶ為、一息で間合いを詰める鷲生の姿。
 それは鬼女が自らも踏み込み、妖刀を下段から振るおうとした刹那のこと。起点となる瞬間を読み解き、見切り、気を読んで先んじて撃ち込まれるは手刀によるなぎ払いだ。
 打ち据えるは刀を握り絞める手首。
 そのまま崩れそうになる膝を掠めるは烈風の如き斬閃。
 続ける足払いは姿勢を崩させ、翻った秋水の切っ先が鬼女の肩口を斬り裂く。
 技の起こり。先を潰して、そのまま怒濤の攻勢へと持ち込む鷲生には一切の容赦などありはしない。
 鬼の凶刃、一度たりとも振るわせぬと呼吸さえ捨てて重ねられる烈しき連撃。放たれる打は肉と骨を軋ませ、流れる斬は意志と動きを断つ。
 瞬きの間も許さず、一度、斬り撃ちて綻んだ隙は見逃さない。
「命は奪わん――只其の操り糸、断ち斬ってくれる」
 絶える事のない鷲生の攻め。が、その全てが急所を外して撃ち込まれている事実。
 身体の動きの自由を奪い、そのまま崩れ落ちろと鬼女へと振るわせる苛烈な武威。
 胸へと掌底を撃ち込むや否や、そのまま着物を掴んで背負いて地面へと投げ打つ。どうしても手放さないというのならばと、妖刀を握る左手の手首を踏みつけて。
「望まぬ罪を犯した事を憐れとは云うまい」
 それでもまだ動くのは剣鬼の身体。人体が動く為の場所を徹底して潰したというのに、それでも跳ね上がった鬼女の蹴撃が鷲生の腹部に撃ち込まれ、僅かに退いた所で妖刀の切っ先が追い縋る。
 流れるは凶刃と鮮血。
 胸板を僅かに削られ、けれど、微動だにしない鷲生の表情。
 痛み。戦意。不快。
 複雑な感情を持ちつつも、凪いだ湖面の如く静かな赤い隻眼。
「こうして刃を振るい、血を流させる事も望まぬのだろう」
 だが、と再び撃ち込まれる肘撃。続けた斬撃で鬼女と鍔迫り、至近距離で視線を交える。
 成る程、剣鬼として最適化されたが為に、人体のまともな急所。ここを打てば動けなくなるというものが潰えているのかと、思案しながら。
「そんな罪であろうと償わぬ訳には行かぬものだ」
 一方で紡ぐ声にも、偽りはない。
 鬼女の黒い瞳の奥、眠る娘へと呼びかける。
 それが滑稽だと笑う鬼女と『刀狩』。ああ、だから貴様らは醜悪で、見るに耐えんのだと一瞥も暮れずに。
 今、言葉を向けるのはただひとつの魂へ。
「ならばこそ、お前自身が其の咎と向き合わねばならん」
 これ以上血塗られれば戻れぬぞ。
 いいや、どんな苦しみがあれど、それを感じて生きることこそ。
――それが愛しく、大切だという事だから。
「己の犯した罪を雪げるのは己だけだと心得ろ……誰かが雪いでくれはしない。このままでは罪を罪と、残すだけだ」
 ぎぃん、と弾き合う秋水と妖刀。
 露の変わり、鬼の呪詛を周囲に掃い散らせ。
「それではその残滓どもと変わらん。いずれ喪った事と者達を、それでも忘れられぬと心が叫ぶまで、償い続けろ」
 それでも。
 地獄の責め苦の中でも、抱きしめ続けた、大切なる記憶こそが。
「お前という者に注がれた、名以上の重く、尊きものなのだ」
 振るわれる秋水は、災禍のみを断ち切る為だけにある。
 故に、娘に訪れるこれからに、決して災禍の糸が残らぬように。
 振るわれる鷲生の苛烈な一撃、一撃が、迷妄を晴らすのだ。

――嘗ての痛みを覚える心か、魂たるものの存在を証明するのだから。
 それを嗤う残滓にこそ、鷲生の剣はその威を向ける――

大成功 🔵​🔵​🔵​

アネット・レインフォール
▼静
これは悲劇だ

仮に救って猟兵が刀狩を倒したならば
復讐に身を窶す事すら出来ない
新たな道を進む事も難しいだろう

…手が無い訳ではない。

可能性は極小
問題は前提条件

だが彼女が堕ちるなら村人も真に死者となる

例え道化を演じようと
無かった事になどさせないさ

▼動
先ずは村へ
家の表札や形見分けの品を呼びかけ用に
全員分を渡す事が出来ればいいが…

予め葬剣はコートにし防御用途

炎は空中回避
又は念動力で刀剣を高速回転させ盾とし
最悪、突っ切る

霽刀で斬結び、被弾時は剣に戻し一閃。
串刺になろうが傷口に力を入れ抜けぬようにし
頭を掴み地面に叩き付ける

▽試
――実は絶姫は井の中の蛙である

技も無い者に不覚を取る事で
感情を未熟と恥で上書する





 これは悲劇だ。
 それ以上に語る言葉を持たず。
 幾ら飾ろうとも、その本質を霞ませるだけ。
 痛く、苦しく、悲しい独りの少女。
 例え仮に救えたとしても、猟兵が刀狩を倒したのならば、もはや復讐に身を窶す事さえ出来ない。
 では新たな道は。それを示せるというのか。
 過去の血だまり、呪われた過去を背負って。
 瞼を閉じて思案するアネット・レインフォール(剣の異邦人・f01254)は、巡る思考に頬を歪ませる。
 そう、その通り。
 この物語は、何処までいってても、僅かな希望しかないのだ。
 人生をこそ狂わせるが猟書家『刀狩』。
 仮に失敗しても、例え己が倒れても、その所業は記録として残り、骸の海へと送られていくのだろう。
 それでも。
「……手が無い訳ではない」
 可能性は針の先ほどの極小。
 問題は前提条件。つまりは思いの話。
 それでも何もしない訳にはいかないのだ。

 彼女が真に鬼へと墜ちるのならば、村人もまた真に死者となる。

「例え道化を演じようと」
 葬剣をコートにして、守りの為に羽織りながら。
「無かった事になどさせないさ」
 そうやって赴いた先は、殺戮のあった村の中。
 噎せ返るような血の匂いは、極めつけの戦の凄惨さを思わせて。
 それでもと集めるのは形見となるような品。家の表札。全員分など無理だろうと判っていても、集めるアネットの姿は、一縷の希望を宿す針を、藁の中から探すかのようで。
「――全てを灼いて、斬って。終わりになどさせないさ」
 鬼を斬り殺して終わらせる。
 そんな救いのない話、認めないのだと、黒い瞳が決意を顕していた。



 

 村に立ち寄ったが故に、アネットが遅れた戦場では既に乱戦。
 斬り結ぶ鬼女は微笑みて唄い、けれど、途中で苦しく、悲しく、声を漏らす。
 それは既に本当の名を呼ばれたからか。
 そうでなくとも呼びかけられ続けた声が起こしたものか。
 打ち据え、斬り合いながらも、光たるものを見せられたせいか。
 現実は判らない。真実は果たしてどうなのか。
 それを知る為にも。
「いざ、押して参る……!」
 新たなる武人の登場と、名乗りを挙げて踏み込むアネット。
「幾らでも出るのは、まるで花。ならば、花吹雪と散って頂ければよいのに」
 声に反応して鬼女が放つは三種の炎。
 空を飛ぼうとも執拗に追い縋るが修羅であり、呪詛だ。
 そこに狙った命があるのなら、奪う光があるのならばと殺到する炎の群れ。
 念動力で操る刀剣を高速回転させて盾として受け止めるが、かたかたと刀剣たちが震えて落下していく。
 刀剣を従える念動力自体が二種の炎の影響で一気に減少し、その動きを止めたのだ。再び手に取り、力を込めれば或いはかもしれないが、そんな余裕を鬼女は与えてくれない。
「まるで猪武者。ならば猪鹿蝶と、ひとつ、ふたつ、みっつと変わり変わりに飛んでくださいな」
 ひらり、ゆらり、くるり。
 飛翔する三つの炎たちは尽きる事なく、アネットを追いかける。
 それこそ猪のように突き進むのではなく、鹿のように跳ねて動いて。
 蝶のように美しく、今、斬り結ぶ皆がするように瞬いて。
 そうあれという負の祈り。呪怨となった炎がアネットを襲い続ける。
 ひとつ、ひとつと冷静に対処すればアネットなら出来ただろう。
 だがあくまで直進し、突き進んで、己が刀の如く切り込む。
 いや、そんなに鋭利な動きか。技は、技術は何処にという動きに、瞬間、鬼女が困惑で動きを鈍らせた。
 ならばいい。それでいい。
 凍てつく炎と、修羅の炎に蝕まれる痛みに堪え、なお駆け抜けるアネット。
 霽刀【月祈滄溟】を鞘から抜き放ち、何の策も構えもなしに鬼女の眼前へと躍り出る。
 困惑。そして、故の絡み合う鋼の音。
 無粋な鈍い音は、両者、そこに技の冴えがない事を示している。
 互いに身体を弾き合い、旋転しながら放たれる鬼女の黒き斬閃。
 腹から胸までを逆袈裟に裂かれ、更には刀身に帯びさせていた呪詛の黒炎が身に移る。
「さあ、御技は封じましたよ」
 その通り。攻撃力というものを悉く減少され、ユーベルコードさえ封じられたアネット。
 ならばと翻る鬼女の妖刀に成す術はなく、このまま命が散ると思われた瞬間。
 ちりんっ、と鈴の如き静かなる音を立てるは霽刀。
 青の漣を帯びた滄溟晶が刻まれた刀身は、元の鞘へと戻されていて。
「……っ!?」
「どうした、何を恐れているんだ」
 逆に何を考えていると。
 無防備、徒手空拳の上に無術を晒したアネット。
 猪武者と思えば、このような意味不明。困惑が即座に侮辱されているのだと怒りに燃え、妖刀が最速の殺技たる刺突として放たれる。
 狙いは心臓。が、微かに身を動かして、いいや前へと傾けて即死をずらすや否や、更に間合いを詰めるアネット。
 串刺しにされ、さらに深くその胸に妖刀を飲み込むように。
 けれどその掌は、鬼女の顔を確かに掴み。
「手荒で、技もない。ああ、どちらが無様か」
 そのまま力任せに地面へと叩き付けるアネット。
 力の大半を喪い、深手を負えどなお躊躇いなく。僅かでも動きに誤りがあれば、或いは、鬼女が首を狙っていればそこで終わっていたが。
「どうだ、絶姫。お前はそれでも遊び、唄い、殺すというのか。何の技も術もない男に、ただ打ち倒れれて」
 そう、最初からアネットはユーベルコードを使っていない。
 それどころかスタイルとしても念動力を扱ったぐらいのもので、歴戦で磨かれた技術を見せていない。
「お前は、井の中の蛙だ」
 技も力も捨てた者に、こうして不覚をとっている。
 それで殺人剣というのならば、なんという笑える話。大海を知らないだけだ。
「お前は世界を知らない。俺のような者が生きて、戦い抜いていることも」
 感情も、覚悟も未熟。
 世界が広いという事も知らず、だから、絶望に落ちる。
 いいや、抗い、贖う方法を知らないだけだと。
「黙りなさい」
 告げるアネットへと、冷たい吐息がかけられる。
 心臓をあえて避けて抜かれた妖刀。ぼたぼたと零れる血の滴を、振り払って構え直す鬼女。
「――ええ、ええ。未熟というのなら、私の剣であなたを、叩きのめし、、跪かせてあげましょう」
 恥に怒り、全力のアネットを打ち破ると告げる鬼女。
 だが、爆発的な速度の上昇はない。
 何故なら、それは殺戮の宣言ではないから。
 だって、今この時、爆ぜる感情は娘のそれで。
 決して修羅の路を往き、全てを斬り殺すと決めたものの剣と言葉ではないのだから。
 殺すのではなく、倒して跪かせるといったる
 そんな鬼がどこにいる。
 中途半端で、生半可。未だ鬼に墜ちていない証であり。
「そんなに『剣』に、誇りを抱くのか。鬼が」
 村人を護ろうと、娘は手にした妖刀。アネットはその時の光を、怒りに燃える鬼女の瞳に微かに見た気がしたから。
 だったらまだ。
 誰かを護ろう。幸せでありたいと願う気持ちも。
 ある筈だろう。
 逆流した血で喉が塞がれて言葉を紡げずとも、黒い瞳で見つめるのだ。
 鬼ならば伝わらない。
 それは虚ろな影だから。人の心で幾ら押せど、響かぬもの。
 だからこそ、伝わるこの相手は、未だひとであるのだと。
 確信して、アネットは信じている。

大成功 🔵​🔵​🔵​

真宮・響
【真宮家】で参加

ダンピールの瞬がいる身としては放って置けなくてね。・・・まずは娘さんから妖刀を引き離さないと。少々痛い愛の鞭になるが、我慢してくれ。

娘さんが優れた使い手だと言う事は見ただけで分かる。奏と瞬には負担かける事になるが、【目立たない】【忍び足】で敵の背後を取る。

背後を取ったら【オーラ防御】【残像】【見切り】で敵の攻撃を回避。奥の手で敵を拘束すると共に背中から抱きしめる。娘さんの悲しみをすべて抱え込むかのように。辛いだろう、やり切れないだろう。でもアンタは生きなければいけないんだ。アンタを愛した、人々の分まで。最後に背中に向かって拳を軽くいれて発破をかける。


真宮・奏
【真宮家】で参加

何て酷い事を・・・心優しい方のはずの娘さんに家族同然の方々を手に掛けさせるとは。

まずは娘さんにその妖刀を手放してもらわないと。手練れの方故、手間はかかるでしょうが、娘さんの心を護る為なら。

まずトリニティエンハンスで防御力を上げ、【オーラ防御】【武器受け】【盾受け】【武器受け】【拠点防御】【火炎耐性】で娘さんの攻撃を引き受けます。UCの効果が無くなっても、娘さんの心の痛みに比べれば、その痛みはささいなものです。自らの手で大切なものを失わされた、とても辛いと思います。でも貴方はここで倒れるべきではない。ここで生きた人達の生き様をしるのは貴女だけです。さあ、前を向いて下さい!!


神城・瞬
【真宮家】で参加

僕もダンピールですからね。異なる存在である自身を受けいれてくれる場所は貴重です・・・その居場所を自分の手で壊してしまったとなれば。

娘さん、貴女はまだ戻れます。自分の手で滅ぼしてしまった、心の痛みがのこっているならば。本当の修羅ならば、その心さえ残らないはず。

少々無理をしますかね。一応【オーラ防御】して、【マヒ攻撃】【武器落とし】を仕込んだ【結界術】を敵に向かって展開。更に【高速詠唱】で氷結の結界で更に動きを縛ります。・・・痛くして申し訳ありません。娘さん、貴女のお名前は?名前は貴女が生きている証です。ええ、貴女が再び立てるように。幾らでもお手伝い致します。さあ、お手をどうぞ。



 その身体を濡らす血は、己か、それとも誰のか。
 剣風が渦巻き、剣戟の火花が舞い散る戦場。
 妖気が漂い、それを斬り裂かんと刃が、そして言葉が走る。
 それはただ独り、残され、生き残った娘を救う為。
 異なるが故に生き残った、娘が為に。
「異なる存在である自身を受けいれてくれる場所は貴重です……」
 噛み締めるように、ゆっくりと言葉を紡ぐのは神城・瞬(清光の月・f06558)。
 オッドアイの瞳で見据えるのは、数多の猟兵と立ち替わり斬り結ぶ鬼女の姿。
 けれど、もはやその鬼たる虚影は消えかけて、嘆きの声とて零れている。
 痛くて、苦しいだろう。
 悲しすぎて、心がどうして消えないのかと叫んでいるだろう。
 瞬もまたダンピール。人と違うという事が、どれほどの拒絶を生じさせるのか。
 身に染みて判る。その上で受け入れてくれる、優しさと温もりもまた。
「……その居場所を自分の手で壊してしまったとなれば」
 けれど、それを壊してしまったのなら、どうすればいい。
 夕焼けに傾く景色と光の中、流れる剣光がまるで涙のように思えるのは瞬の感傷だろうか。
 それとも、本当にそうなのかもしれない。
 真実は、妖刃を振るう間は判らないからこそ。
「何て酷い事を……」
 呟いて、水の精霊の力が宿る剣の切っ先を下ろしてしまう真宮・奏(絢爛の星・f03210)。
 奏の心は、元より誰かを傷付ける事を好まない。
 護る事にその意志が、力が向けられているのは、感情よりも魂としての性質なのかもれなくて。
 真っ直ぐに進む姿は、清らかな星のようでもあるから。
「心優しい方のはずの娘さんに家族同然の方々を手に掛けさせるとは……」
 残酷なる悲劇。
 それを操った存在に敵意を表すよりも、犠牲となった娘に悲しみと憐れみを見せるのだ。
「なら、行こうか。多少痛くなるだろうけれど、愛の鞭ってね」
 悲しげな雰囲気に落ち込みかける二人を引き上げるのは、母たる真宮・響(赫灼の炎・f00434)。
 豪胆にして、その気質は灼炎。
 家族を護る為ならばどのような事も恐れないし、繋がりし情を何より大切に思うのだ。
 例えそれが血の繋がりがなかったとしても。
「ダンピールの瞬がいる身としては放って置けないよ。さ、みんな、いこうか」
 それが決して、絆として薄い訳ではないのだと響は信じている。
 振る舞っているし、愛しているし、護りたいと思うのだ。
 今は全てを喪ってしまった、あの娘だって。
「あの娘さん、相当な使い手だっていうのは見ただけで判るしね」
 少し無理をさせるよと、その場から目立たないよう、忍び足で隠れる響。
 逆に正面から気配を露わに、ゆっくりと近づくのは響と瞬だ。
「ええ、手練れの方故、手間はかかるでしょうが、娘さんの心を護る為なら」
 三種の魔力で防御力を増す響。
 そのやや後ろに立つ瞬は、次々と氷の矢を紡いでいく。
「本当に、次から次へと」
 鬼女の嘆息が帯びるは……微かな悲しみの色。
 夕焼けと血の色に溶けてしまような、儚いもので。
「いいわ、遊んであげる。私は刀だもの、凶を呼び寄せ、天下を振るわす一振りなれば」
 即座に唄うように響く声と共に、鬼女が地を跳ねるように迫り来る。
 その身には三種の炎を従え、妖刀どころかそれを携える手にも凄まじい剣気。触れればタダでは済まない凶刃の化身として、奏へとその刃を振るう。
 受け止めるのは水の精霊の力を込められた剣。
 だが、その祝福が断たれて掻き消させるのは、凶刃と焔のせいか。
 受け止めた筈が、そのままするりと滑って肩と首の間をを斬り裂く妖刀の切っ先。
 それに応じるが故に、三つの炎が響へと直撃し、発動していたユーベルコードを封じる。
 走る激痛は刃と炎、更には凍傷と呪詛。多種多様なものが、心と精神を蝕むものとなって奏を蝕む。
「けれど……!」
 退かない。避けない。
 後方にいる、義兄である瞬へと一撃も通さない。
 自らは盾であるというかのように立ち回り、真っ向から妖剣を迎え撃ち、炎に灼かれる姿。
 けれど、この程度。
 娘の受けた心の痛みに比べれば些細なものだと。
「退きません、貴方が前を向いてくれるまでは!」
 故に、攻撃力、殺傷性の悉くを喪っても、護る剣として鬼女と斬り結ぶ奏。
「無茶をしますか、と思えば、どうやら僕だけが無茶をしている訳ではない」
 鬼女の妖刀が異常なまでの鋭さと威力を持っているのは、瞬のユーベルコードに対応して、炎だけではなく凶刃としての性質も露わにしているからだ。
 言わば二人に向ける、二人分への力。それを一身に受け止める奏の負担は言うまでも無く。
「ならば、この程度。……ええ、二人とも無茶をしますから」
 家族の中で誰よりも冷静だからこそ、瞬は己の役割を忘れない。
 紡いだ氷の矢、決して外さないと奏が鍔迫りに持ち込んだ瞬間に放つ。
 だが、それもまた攻撃の為のものではないのだ。
 鬼女の脚へと突き刺さる瞬の氷の矢。それは楔であり、封じるが為のもの。
「動きを縛らせて貰います!! 凍り付け!!」
 それは氷結による結界術。
 ただ現象と凍てつかせるのではない。
 力と、その流れ自体を凍結させ、動きを捕縛し、扱うユーベルコードを封じるもの。
「……あら。このような技に頼らねばなりませんか」
 身体にマヒが回ってるように鈍い筈の身体で、奏となお切り結ぶ鬼女。
 炎は掻き消え、凶刃の禍々しさは喪われている。
 だというのに、元の力からして異常なのだ。
 自らに刺さった氷矢が元凶と見るや、それを引き抜こうとするが、それをさせないと盾を持って当て身を繰り出す奏。
「明らかにジリ貧だというのに」
 鬼女の云うことも最も。だが、そこに憂うような声色を感じたからこそ。
「娘さん、貴女はまだ戻れます」
 己が寿命を削り、格上のユーベルコードを封じて動きを鈍らせる瞬が告げる。
 もしも、意志や集中力が削られれば、即座に消えてしまいそうなものでも。
「自分の手で滅ぼしてしまった、心の痛みがのこっているならば……本当の修羅ならば、その心さえ残らないはず」
「痛み? 私に痛みがあるとでも……そう痛み、など」
 僅かに笑い、微かに泣くような。
 鬼か娘か、判別出来ない有り様。
 どちらに転ぶかなんて判らなくて。
「痛みがない訳ないじゃないですか。痛くない、痛みなんてない。そんな我慢を、自分が壊れて鬼になるような事をしないでください。生きている、貴女だけは生きているんですから!」
 肉体の傷の痛みなどと、奏もまた叫び、剣を振るうからこそ。
 鬼女の瞳が揺らぐ。黒い色彩が、何処か青いそれに変わって。
 もしや色だけではないのか。
 姿形さえ、何か変わっているのではないのかと。
 異なるの意味を、うっすらと瞬が理解しかけたその時に。
「うちの家族の言葉は、全部聞いただろう?」
 背後へと回り込んでいた響が、強く、強く言葉を投げかけるのだ。
 振り向き様に繰り出される妖刀の一閃を、紙一重で避けながら。
「相当の使い手だね。動揺して、迷って、それでも避けるのはやっと……こんなのはね、誰かの為の剣なんだよ」
 家族を、村人を護る為の強さ。
 だから鬼女は戸惑う。家族としての絆を見せる、真宮の一家に。
 響が放った奥の手。三つの絡め取る拘束具の束縛を、避けることすら出来ずに。
 そして、娘の悲しみを包み込むように、響はその身体を後ろから抱き留めるのだ。
「辛いだろう、やり切れないだろう」
 ああ、そうだ。
 どうしてこんな思いをしなければいけないのだろう。
 どうして、人を傷付けて回っているのだろう。
 黒々とした何かが、娘の胸には渦巻いていて。
「でもアンタは生きなければいけないんだ。アンタを愛した、人々の分まで」
「あい……した……?」
 そのようなと笑って流す、鬼女の声はなく。
 変わり、その背へと拳を打ち付ける響の、母なる強さと優しさに。
 瞳が黒より青に。艶やかな黒い髪が、雪を思わせる白さに。
 それが鬼ではなく、娘の誠の姿だと示すよう、一瞬、揺らぐけれど。


――愛を斬ってこその、妖しき刀だろう?


 その言葉は空より打ち付けるかのような重さ。
 鋭さは刃物のそれ。黒々とした念は、そう、娘が手にする妖刀のそれで。
「――ああ、愛も斬って散らしたのでしたね」
 黒く、黒く、その姿と刀身が呪詛で染まる。
 家族の愛。血脈などなくとも、確かに結ばれる絆。
 それを斬ったのだと、泣き叫ぶように、娘から鬼女に引き戻される。
「方はここで倒れるべきではない」
 手を伸ばすのは、奏と瞬。
「ここで生きた人達の生き様をしるのは貴女だけです、彼らの名を、生き方を、愛したものを知るのは貴女だけで」
 だから手を取って欲しい。
「名前は貴女が生きている証です。ええ、貴女が再び立てるように。幾らでもお手伝い致します」
 だから、だから。
 その名と、手を差し伸べてくれたら。
 幾らでも力になると、家族の絆を見せて。

「ならば、共々、屍と転がるが宜しいかと」

 鬼女の凶剣、嵐と化す。
 もはや技に冴えはなく、妖刀に滲む呪詛も掠れている。
 だが、無茶をした真宮の家族、三名を斬り飛ばすには十分。
「古来、妖刀というものこそ、何を斬ったかでその名が、銘が、格が決まる」
 ならば、己の魂を斬った刀は如何なるものか。
 自らを助け、生きさせた者たちを皆殺しにした刀にどのようなものがあるか。

「ああ――『どうやら、この娘に、また家族殺しをさせねばならいようだ』」

 その声は猟書家たる『刀狩』が響かせるもの。
苛立ちながら嗤い、邪気を走らせるは妖異のそれ。
 人の災いこそ、己――妖刀だと誇るように。

「でも、それはさ。あんた、よほど追い詰められているって事だろう?」
 血飛沫を上げて斬り飛ばされた響が立ち上がり、鬼神のような怒りを込めて言葉を叩き付ける。
「あんたが直接出てきて、直接、支配しなければいけない程」
 追い詰められ、娘はその名と本性を取り戻したということなれば。
「この娘さんは、今も、家族を愛している」
「…………」
 だから痛み、悲しみ、そして絶望しているのだと。
「それを救ってみせるのが、母ってものだよ」
 そして、その背を見て続くべく。
 奏が、瞬が、負傷をおして立ち上がる。
 不撓不屈の思いは、誰かがためにと、そう教わったから。
「もういない、その娘さんの母に変わり、私たちがもう一度救ってみせる!」
 地を蹴り、狙うはただひとつ。
 『刀狩』を宿せしその一振り。手放せない呪いがあるというのなら、それごと砕いてみせると。
 家族を思う情は、凶刃の前で止まりはしない。
 そして、決して斬り散らされる事も、ありはしないのだ。
 今も真宮の三人を繋ぎ。
 娘が真の鬼へと墜ちぬよう、繋ぎ止めているのだから。
 そしてあと僅かで鬼は娘へと戻りて、返るのだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

紫・藍
歌うのでっす。ただただただただ歌うのでっす。
祈りを込めて歌うのでっす。
心を込めて歌うのでっす。
優しい歌を。悲しい歌を。穏やかな歌を。鎮魂の歌を。
絶望と思いの断末魔さえ叫べはしない?
いいえ、いいえ!
絶望を叫ぶべきなのでっす、思いを謳うべきだったのでっす!
その悲しみが、遺されたものなのでっす。
しあわせがあった証なのでっす。
それにたとえその結末が絶望だったとしても
しあわせな思い出までも悲劇にしてしまわないで欲しいのでっす!
炎は避けたりオーラで遮断したり、祈りを込めた歌で呪詛を打ち消したいところでっすが!
万一UCを封じられたとしても藍ちゃんくんは歌い続けるのでっす!
“風”に乗せて歌い続けるのでっす!



ただ、ただ歌おう。
 歌い、歌い、歌い続けて先に何があっとしても。
 今、紫・藍(変革を歌い、終焉に笑え、愚か姫・f01052)が誇りて、世界を振るわすのはその歌声だけなのだから。
 祈りを込めて。
 心を宿して。
 優しく、悲しく、穏やかなる風のような歌を。
 少年のものとは思えない、まるで少女じみた清らかな歌声で。
「あら、歌い呆けるのかしら」
 いいや、違う。
 紫が紡ぐのは鎮魂の歌。
 鬼が奏でる残酷で、悲しい剣戟のそれとは違うもの。
 だからこそ鬼女の眉が潜められる。
 無視されたのではない。ただ、紫の歌が心に刺さるのだ。
 絶望と思いの断末魔をあげられない?
 いいや、それでも歌うべきなのだ。それを導く為に、さあ、歌い続けよう。
 思いこそを謳いあげるが為に。
 理屈も常識も超越した歌が、鬼女を包み、苛む。
 それは悲しみと恐怖から産まれたのが鬼女だから。大元である娘が、触れた光と優しさに、示された心に、本当は泣き叫びたいから。
 紫の歌は鬼を払う調べとなる。
「ああ、煩いわね」
 だが、だからこそと三種の炎が走る。
 刃で斬るのではなく、何故、炎に任せたのか。
 それは、そう。振るえば涙が零れそうだったから。
 決して鬼女が認めない真実を灼き尽くし、修羅の炎が紫に直撃する。
 オーラでの遮断や、祈りを込めた歌だとしても、炎の全ては打ち消せない。
 呪詛の黒炎にとってはまさに天敵なのだろう。
 憎み、呪い、怨む。純粋なる心は、それに蝕まれる事がないのだから。
 凍てつく炎が祈り歌の持つ力と拮抗し、次第に押し込まれるが、紫はただ歌い続ける。痛み、苦しみ、そんなものは決して表に出さずに。
 その悲しみこそが、遺されたものなのだから。
 それこそが、『しあわせ』のあった証なのだから。
 悲痛なる調べこそ、今はその喉から。
 例え結末が絶望と惨劇だったとしても、貴女は生きている。
 耳朶ではなく胸と心にこそ響く紫の歌。
 それに反応するのは、炎より刃と判っているのに。
 もう鬼女は上手く動けない。
先ほど触れた優しさが余りにも、酷くて。
「全く、身勝手な歌い手さんですね?」
胸に残る『しあわせ』な記憶までも、悲劇にして欲しくないだなんて。
 それこそ、『しあわせ』な記憶があるから悲劇なのだ。
 余りにも悲しく、苦しくて、叫ぶ事ができないから鬼女がいるのだ。
 道理や理屈を無視している。
 まず話は筋に乗せて。相手に伝わるように順番を。

――そんなものに、歌は囚われない

 ただ、ただ紫の喉から奏でられる歌。
 驚異ではなく、後で斬り殺せばいいと、ついに歌による障壁を突き破った凍てつく炎がその胸部に命中すれど。
 息が苦しく、冷たくなっても。
 未だ続く。続き続ける。
 効果は薄らぎ、けれど、歌とはそもそも何かを成す為にあるのではない。
 伝えるが為に、響かせるのだから。
 例え全ての炎に身を焼かれてもなお、意味がないと嗤われても、紫は歌い続けるだろう。
 だって、歌いたいのだから。
 泣き叫びたい筈の娘の為に、この歌を。
 ただその願いを込めて、夕暮れ間近に流れるそれは。
 風に乗り、何処までも終わることなく。
鬼が果てるまで、紡がれる。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ヴォルフガング・ディーツェ
クロウ(f04599)と
いやあ、君と共に戦えるなんて光栄至極だなぁ
え?俺はいっつもマジメちゃんだから、そんな顔は見飽きてるでしょ?…わー、ちょー冷たい眼差しィ!(けらり笑って)

…抗えぬ不幸が償えぬ罪となるのなら、いっそ完膚なきまでに狂えた方が幸福だ
なんて俺は思っちゃうけど…君ならそう言うだろうね、クロウ

ならば紡ごうか、哀れな魂達の旅路を

【指定UC】を起動し、クロウと俺を強化しよう
此なるは電脳魔術と生体魔術の融合、空想の世界樹よりもたらされる祝福だ。花には樹木も付き物だろう?
彼女の抵抗は「呪殺弾」「精神攻撃」を上乗せした銃撃で封じよう

苦しいかい?だがクロウの華は全てを弔うだろうさ
痛みも、悼みもね


杜鬼・クロウ
ヴォルフガング◆f09192
アドリブ◎

お前と真面目な依頼にサシで行くのは初めてだなァ
前は任せ…(ジト目

自分が何者かも分からねェ儘、鬼へ完全に堕ちるのはあまりに酷
総て救えぬならば
せめて戦いの中で光の標を
倖せの欠片集め彼女に温かい還り途を

悪ィ、ヴォルフガング
…俺は、諦めたくねェッ
まだ、染まってないから(最後まで足掻く
きっと

”鬼”は…違いはあれど俺にとって因縁の一つ
必ず断つ、が

呪いに侵されようと
壊されようと
お前の倖せはお前だけのもの
思い出を
名を
忘れないでくれ

手向けの【金蝶華】で三種の炎と相殺
UCの力借りず自らの剣(ちから)で一突き
彼女に伝えるのは負けない心と折れない意志
何か感情の変化や揺れ動けば良し



 金色の鏡と幻界の花は、風のいろを映すのか。
 今はもう、忘却されたそのいろの名を。
 誰も判らず、けれど迷う事なく時は過ぎて。
 ああ、もうすぐ空は夕焼け。眸に似る色艶を空は帯びると、快活なる声が微笑む。
「いやあ、君と共に戦えるなんて光栄至極だなぁ」
それは懐に抱いた者に向ける優しさる
 自分の側にいるからこそ愛でて、慈しむがヴォルフガング・ディーツェ(花葬ラメント・f09192)ならばこそ。
 僅かなからかいは、親愛の証と受け取り、頷くオッドアイの青年。
「ああ、お前と真面目な依頼にサシで行くのは初めてだなァ」
 声は真っ直ぐ。胸にありし仁義のにただ、進むべく杜鬼・クロウ(風雲児・f04599)が応えた。
 夕赤と青浅葱による金銀妖瞳で、これから挑む鬼女をただ真っ直ぐ見据えながら。
 決して途切れさせず、諦めずに光の標を求めて。
「前は任せ……」
 クロウが夕赤の眸の視線を流すが、そこでは何処か遊ぶようなヴォルフガングの顔がある。
 ジトりと睨めば、やはり返ってくるのは楽しげな笑い声。
「え?俺はいっつもマジメちゃんだから、そんな顔は見飽きてるでしょ?」
「此処で浮かべる表情じゃないだろうよ」
「……わー、ちょー冷たい眼差しィ!」
 幾ら言葉で刺せど、暖簾に力押し。
 けらり、けらりと笑うヴォルフガングの在り方を変える事は出来はしない。
 永久に枯れぬが、その心と魂ならば。
 妖しき赤花のような眸を、するりと揺らすのみ。
 だたそれだけで、裡に秘めた老獪なる姿と声へと変わる。
「……抗えぬ不幸が償えぬ罪となるのなら、いっそ完膚なきまでに狂えた方が幸福だ」
 それは永遠に不幸であるということ。
 過去が変わらない以上、惨劇を起こしたその手は赤黒いまま。
 ならば終わらせてやった方が『しあわせ』なのでは。
 枯れぬ幸せがあるのならば、枯れ果てぬ罪とてあるのだ。
 目の前にほら、そんな者がいるだろうと。
 そうクロウに問いかけるが、彼はただ真っ直ぐに否定する。
「自分が何者かも分からねェ儘、鬼へ完全に堕ちるのはあまりに酷」
 射干玉の黒髪をさらりと揺らし、望みはあるのだと云うのだ。
 少なくともこんな間々に、娘としての人生を終わらせるなど。
 何も続かず、結ばず、受け継がれず。
 何一つ残らないなんて、クロウには認められない。
「たったひとつ、ひとかけらでいいだろうよ」
 総て救えぬならば。
 せめて戦いの中で光の標を。
 かつての倖せの欠片集め、彼女に温かい還り途を。
 魂が『しあわせ』を喪えど、幸いこそあれと。
「だから、悪ィ、ヴォルフガング」
 付き合わせる事になると、引き抜かれる漆黒の大魔剣。
 流転して燦めくは伍の色彩。世と力の流れを顕すそれを構えて。
「……俺は、諦めたくねェッ」
 軋むように、滾る義心をもって声に顕すクロウ。
 最後まで足掻こう。いいや、あの娘だって足掻いている。
 誰も彼もが、残酷なる世界の美しき悲劇の中で足掻き続けているのだから。
「まだ、染まってねぇ筈だから。きっと、きっとだ!」
「……君ならそう言うだろうね、クロウ」
 どちらが幸福かを論じて、狂気を思うのはあくまでヴォルフガング。
 だが、自らと違う答えを出すクロウを、否定する訳ではない。
 むしろ憂いて愛でる。この真っ直ぐな男が、何処に行き着き、何を手にするのか。
 輪廻を手繰り、世界を巡れど。
 そこに生きるのは、あくまで人の心。
「ならば紡ごうか、哀れな魂達の旅路を」
 だからこそ、この先を作り上げよう。
 絶望という断崖絶壁、無明の闇の果てを作ろうと。
 顕れるのは、ヴォルフガングの小領域。
 法則を書き換え、己こそが法であると強制的に支配するもの。
 いいや、世界を調律してその奏でる音色を変じさせる電脳魔術と生体魔術の融合による顕然か。
 心が描いた空想の世界樹を領域の裡に作り上げ、己とクロウへと祝福を注がせる。
 ひらり、くるりと舞い散るは花。
 永久の罪の色を抱いて、麗しき花を咲き誇らせ続けながら。
「花には樹木も付き物だろう?」
 鋭い視線を投げかける先で、鬼女もまた応じるのだ。
「ならば、美しき草花には呪いも憑きものでしょう?」
 三種の焔は、展開されたヴォルフガングの領域を焼き払うべく虚空を舞う。
 花びらを焼いて、樹木へと至り、その全てをなかった事にしようと……。
「――けれど、俺の友人はなかった、なくなったと、諦めたくないとの事でね」
 瀟洒な双腕輪が口笛ひとつで変じるは魔銃。
 その鬼の精神に這い寄りて、穿つべく、呪殺を帯びた弾丸が焔を撃ち抜く。
 だが、炎だけが鬼女の技ではない。
 むしろ手にした凶刃こそが、鬼女の代名詞。
 駆け抜ける姿はまさに黒い風。
 だが、斬殺などさせぬとその前に躍り出るはクロウだ。
「”鬼”は…違いはあれど俺にとって因縁の一つ」
 本来ならば前衛型魔術師であるヴォルフガングが前へと出るのだろう。
 だが、今は。
 目的を、宿願を知っているからこそ、この好機を作ってくれたのだと。
「必ず断つ――が」
 切り結び、奏でられる鋼の音色。
 舞踏の如く連続して繰り出される黒の妖刀と、漆黒の大魔剣。
 必ず断つと決めた以上、その刃を前に怯んではならない。
 ましてヴォルフガングの作った世界の中で、妖刀に支配された鬼に劣るなど。
 いいや、自らの思いを伝える為にこそ、命の触れ合う距離で言葉を響かせるのだ。
「呪いに侵されようと、どんなに『しあわせ』が壊されようと」
 それはお前のせいじゃない。
 きっと、自責の念は地獄の炎のように、その心を焼いているだろう。
 それが漏れ出したのがこの三種の炎なのか。ならば、振るう凶刃は相手ではなく、己に向けているのか。

――今や泣いているようにも、思えるから。

「お前の倖せはお前だけのもの」
 強引に鬼女へと斬撃を繰り出し、後方へと弾き飛ばすクロウ。
 流転する伍の彩は、戻るべき路を、喪ってはならないものを示すように光を増していく。
「思い出を、名を」
 くれた人々を。
 その時に笑った、自分自身を
「忘れないでくれ。刃と炎で、赤黒く染まり、墜ちないでくれ」
 仄かに薫るは花の香。
 言葉と共に、吸い込んだその匂いに、鬼女が動揺して瞳を揺らす。
 優しく、穏やかに、けれど火の強さを感じさせる。
 立ちこめさせるはクロウの手にある黒地に金蓮花柄の着火具。灯れば蝶を象る火の粉が漂い、それが次第に確かなるモノへと変じていく。
 それは祈り。それは願い。
「手向けの火と蝶。お前の悔恨を終わらせる為に」
 故に、魂を導けよ、燃え盛る蝶の群れ。
 羽ばたく音色は余りにも静かに、けれど、美麗なる舞いを見せて空へと飛ぶ。
 翅のひとつ、ひとつから薫る花の香。
 繊細なる姿に触れれば、修羅も呪詛も、凍てつく悔恨をも焼き払う。
「花には樹木がつきもの。そして、花と樹木があれば、蝶と香りも漂うものさ」
 相殺されていく三種の炎の下を駆け抜けるはヴォルフガング。
 元より前衛。ならば、クロウの言葉で動揺している鬼女に一瞬の隙を作る事などと容易と、踏み込むは花喰ふ狼たる姿を見せる。
 魔銃から魔爪へ。瞬間で変形したそれを振るい、妖刀を絡め取る。
 妖気、邪念。それごとを削り取り、鬼の姿を奪うかのように。
 元より鬼となったのであれば、その呪詛の源泉するがこの妖刀なのだから。
「苦しいかい? だがクロウの華は全てを弔うだろうさ」
痛みも、悼みも。
 その果てに、人の心があるのならば。
 それを救うのもまた、クロウの華だろう。
 故に鬼女へと放たれるは金炎の蝶にあらず。流転する伍の燦めきを軌跡と残して、振るわれる剣の一閃。
「その名を映し、浮かべて、聲にしてくれよ!」
 技も術も宿さず。
 屠るでも、殺すでも、倒す為にでもない。
「俺たちが、その名を呼ぶから」
 ただ、ただ。
 純粋なる心を込めた切っ先が、鬼女の胸へと届く。
 突き刺すのではない。
 斬り裂いたのでもない。

 それは、言葉の通り――胸を打つ響きだった。

 唯我独尊。ただ我が道を往くがクロウ。
 故にこそ、偽りという翳りのない切っ先が、鬼たる闇を晴らす最後の光となるのだ。
「……ぁ……」
 鬼女の瞳は青く、髪は雪のように白く。
 それは確かに、この国では異なる姿。
 美しくも、異なる貌。
 それでも、確かに幸せをくれたのだと。
 泣きように引きつる喉が、言葉を漏らす。
「私……は、ゆう……なぎ」
 ああ、痛いだろう。
 狂う程の悲しみ、苦しみ、嘆きをまた身に受けて。
 だが、それがクロウの望んだことだと、ヴォルフガングは赤い眸で見つめる。
 この先にこそ、彼が望んだことがあるならば。
 調律されしこの世界樹の下、咲き誇る永久の罪のいろの一つに、娘のそれを加えようと。
 もう、連れて行く必要はない。
 ただ、泣き叫べばいい。
 全ては、弔われるのだから。
「私は、『夕凪』……!」
 その名を呼んでと、叫ぶように。
 再び生まれ落ちたかのように、赤子の如く泣き叫んで。

 黒き妖刀がからんと、その手から零れ落ちる。

 その名の通り。
 夕刻に風は止んで、ただ穏やかなる時だけが流れる。
 このような形なき『しあわせ』を。
 その名には願われていたのだろうから。
 クロウも、ヴォルフガングもその真実を知らない。
 ただ娘だけが覚えている。
 もう、忘れたりしない。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 ボス戦 『刀狩』

POW   :    刀龍変性
真の姿を更に強化する。真の姿が、🔴の取得数に比例した大きさの【己が喰らい続けた武具が変じた鱗 】で覆われる。
SPD   :    妖刀転生
自身の【体の一部 】を【独りでに動く妖刀の群れ】に変形する。攻撃力・攻撃回数・射程・装甲・移動力のうち、ひとつを5倍、ひとつを半分にする。
WIZ   :    修羅道堕とし
自身の【背の刃の羽 】から【見た者を幻惑する妖刀】を放出し、戦場内全ての【遠距離攻撃】を無力化する。ただし1日にレベル秒以上使用すると死ぬ。

イラスト:小日向 マキナ

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠ヴァーリ・マニャーキンです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


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※第二章のプレイングは、導入の断章をお待ち頂けると幸いです。
(現在、スケジュール等の調整中。受付などが決まりましたら、導入の追加とさせて頂きます)
そして、導入の断章で、皆様が触れて、救おうとして頂いた今の娘の在り方も少し触れさせて頂ければと。
●断章・凪ぎたる先を求めて



 ああ、なんて痛いのだろう。
「そう、私の名は夕凪」
 身体も心も。
 絶望の闇を乗り越えても、未だに蝕む激痛たち。
 鬼から解き放たれた今、私を縛るものは何もなく。
 ただ示された光に向けて、青い眸を向けるのだ。
「彼ら、彼女らに示された通り。私は生きる。そして、『刀狩』、お前を討ちましょう」
 少なくとも一矢報いよう。
 まずそれが出来なければ、目指す明日へは辿り着けないから。
 強大なる妖異が抜け出した、妖刀を拾い上げて。
 その切っ先を相手へと向けて。
「私はこれから、生きる場所をみつけます。これから出逢う沢山の人との、『しあわせ』を噛み締めて生きる」
 罪は消えないけれど。
 だからと、村のみんなが不幸に生きてくれと云っている筈がなくて。
 贖いはするけれど、それはこれから先の笑顔でと教えてくれたのだ。
 生きていく場所は、たったひとつじゃない。
「村の『みんな』を覚えて、ひとつずつの墓に祈って、ひとりずつの記憶を抱いて……共に生きる」
 抱き締めるというには、酷い罪咎。
 残酷なまでに広く、美しいこの世界の中で。
「私は、これまでと、これからの為に、生きて、生き抜いて、幸せになってみせます。私が生きる限り、みんなは生きている。そして、私がなしたこと、感じたことが、村のみんなに伝わるだろうから。……私が『しあわせ』になれば、『みんな』もきっと」
 過去に囚われるなんて、誰も望んでいないのだから。
 ただこの痛みを覚えておこう。
 それがせめての。
「『刀狩』。お前を討ち滅ぼして、その先の幸いを掴む事が――村の『みんな』への手向けと信じています。これより挑むは、私だけの刃ではないと知りなさい」
 だからお願い。
 少しだけ力を貸してと。
 死んでしまった『みんな』と、目を覚ましてくれた『みんな』へと祈りを捧げる。
 さあ、願いを叶えよう。


●光で錆びし、妖刀の龍


 ああ、どうして絶望の名を拒むのか。
 世を裂く名刀になれただろう。鬼の刀として、泰平の世を覆せたのに。
 刀から滲み出て、その姿を現す龍は身を震わせる。
 身は総じて鋼にして刃。角や爪はいうまでもなく、鱗までもが刀剣とその欠片で編まれている。
 ただその身に幾らかの罅や、色艶を喪っているのは、娘を洗脳しようと最後まで抗ったせい。
 つまりは猟兵たちの言葉のせいか。
 身体の妖刀の幾本かは、確かに酷い痛みがあって。
 けれど、その威容は圧倒の一言。弱まっているとはいえ、これもまた猟書家なのだ。
 見下ろす瞳は不遜にして傲慢。
 荒ぶる龍神、災禍の魂として空を震わす。
 目の前で、自らの僕であった娘――夕凪がその名と真実を取り戻した事に、怒りを隠す事なく。
「下らん。情にほだされ、何も斬れぬ刀なぞ、なまくら」
 家族を、絆を、魂を。
 斬り裂いて、斬り捨てて。
 刃とは如何なるものを断ち斬ってこそ意味がある。
 それは大きさではない。深度としての問題。
 深奥に座す神格さえ斬り伏せるような。そういうものをこそ求めるが為に。
「望まず、求めず、願わずあれよ、刀たち」
 身を震わせば、それは剣戟のような音色を立てる龍の総体。
 巻き起こすは妖刃による武の嵐に他ならず。
「罪を注ぐ? 何を馬鹿らしい事。 未熟たること? ああ、たたかが他人の言葉に揺れる感情など、まさにそれ」
 手を差しのばされたからと。
 戻るなど、ああ、芯の甘さが知れよう。
 鬼になり切れればよかったものを。
「仕方あるまい。ならば、我が糧となれ。私も千を超える妖刀から成る身であれば」
 その妖念、悔恨、憎悪のひとひらに。
 果てろと、妖刃たる龍――『刀狩』は吼えるのだ。




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※説得の効果により、このシナリオにおいて、以下のボーナスや影響が出ております。

・ブレイングボーナス……「正気に返った妖剣士と共に戰う」
 妖剣士の「夕凪」。
 猟兵ほどではありませんが、戦闘として十分です。
 戦意に体力は十分。
 あえて猟兵たちが護ろうとせずとも生き残るだけの力はあり、また、生き残る事を優先するので護衛はなくとも大丈夫。
 逆に妖刀もひどい破損はない為、立ち回りなども劣る事はなく、攻防に支援、どちらも動ける状態です。

 この場を生き残りつつ、明日へと繋ぐ為に、『刀狩』へと一撃を入れる事を狙っている状態です。
 それが罪を注ぎ、村人への手向けとなり、自らの過去との決別になるならばと。


・『刀狩』の弱体化。
 全体的に発動させるUCの効果が弱まっています。
 また、身の鱗や、角や爪。無数の妖刀からなる身も、よく見る事が出来れば、場所場所に罅や、脆くなっている部分が発生しております。

 『●妖刀転生』に関しては、猟兵たちの説得や示した者、その妖刀のみを狙うなどの結果、『装甲と移動力』が五倍となることはありません。
(上昇する可能性があるのは、攻撃力、攻撃回数、射程です。逆に半分に低下するのは装甲と移動力、のどちらかだとお考え下さい)


 『●刀龍変性』での戦闘力上昇は🔴の取得数が五つと前提で。前章での習得、この第二章での進行が進んでも、更に🔴の取得数が増えて強化される事はありません。
(こちらも説得による効果です)



※プレイングの受付

12/06(日曜)の08:31~からの受付開始とさせて頂き。
12/08(火曜)の23:59分までを目安として受付させて頂きます。

ただ、今回は第一章時点で大人数でご参加頂いている為、一度、プレイングをお返しする事となりましたら、申し訳御座いません。
その際には再送信のお願いとお知らせをする事になるかと。
月舘・夜彦
【華禱】
はい、倫太郎
そして……夕凪殿
貴女の意志に私達も応えましょう

明けぬ夜がないように
絶望に打ち拉がれようと歩みを止めぬ人の強さ

祷誓使用
刀狩の肉体に、放つ刃に対抗して刃に鎧砕き・鎧無視を付与
2回攻撃となぎ払いにて肉体を斬り裂く
敵の攻撃は攻撃で相殺できるならば武器落としにて払い落し
対処が困難であれば残像にて回避、または武器受けにて防御

倫太郎が防ぐ場合は防御には回らず
防ぎ終えた後、駆け出して接近し、カウンター

情の何が悪いのでしょう
失った記憶を戻したのは家族との繋がり得た絆
折れかけた刃は、立ち向かう刃と成った

貴方には出来ないでしょう、作れぬ刃でしょう
刃の美しさにすら気付けぬ「なまくら」よ


篝・倫太郎
【華禱】
夜彦、夕凪……往こうぜ
矜持の元に、想いの元に振るわれる刀が
どれだけのものか教えてやんねぇと、だろ?

盾誓使用
詠唱と同時に視力でダメージの蓄積された場所を確認
その場所に鎧砕きと鎧無視攻撃を乗せた華焔刀で先制攻撃
刃先返して2回攻撃の部位破壊

敵の攻撃は見切りと残像で回避
但し、回避する事で夜彦と夕凪に攻撃が及ぶ場合は回避せず
オーラ防御で防ぎ武器受けで受けて咄嗟の一撃でカウンターを仕掛ける
負傷時は以降の攻撃に生命力吸収を乗せてく

俺は盾だからな
矜持の元に振るわれる刃を通す、その為の盾

何も斬れないんじゃない
何を斬るべきかを知っている
それすら判らないお前の方こそ
なまくらだろう……、刀狩

往け、夕凪……!



 落ちる夕日。
 赤く染まり、過ぎ去る刻。
 形ある全ては流れて消え行くものなれば。
そこにあった想いこそ、不変にして不滅なるものなのだろう。
「夜彦、夕凪……往こうぜ」
 言葉にしながら、華焔刀 [ 凪 ]を構えるのは篝・倫太郎(災禍狩り・f07291)。
 眼前で威容を顕す『刀狩』へと琥珀の瞳で睨み付け。
 語る言葉は、祈りのように。
 それでいて、何処までも真っ直ぐなのは、傍らの刃たる存在の影響か。
「矜持の元に、想いの元に振るわれる刀が」
 それは数多を見たもの。
 美しく、鋭く。何より、輝かんばかりに大切なるもの。
 情が不要という。誇りがなんだと嗤う。
 それは誠の刃を知らない者だからこそだと。
「どれだけのものか教えてやんねぇと、だろ?」
 今、この場でその身に刻んでみせると告げるのだ。
 誇りの元に進む者の盾であるという誓いは、倫太郎を真の姿に変貌させるからこそ。
「はい、倫太郎」
 蒼銀の刀身を緩く捧げ持つは、月舘・夜彦(宵待ノ簪・f01521)。
 隣で佇むその姿もまた、真の姿へと移ろいゆく。
 血のように染まる夕焼けを斬り拓き、その先の静かなる宵に進もうと。
 夜空の美しき藍色の裡へ、そして、その先へと往く無辜の命、そして求める幸せを護る姿と化すのだ。
 星明かりの元で、さあ、進もう。
 出逢いは何処かで。物語は、きっと先で幸せの場所を見つけるから。
「そして……夕凪殿」
倫太郎の語った矜持の強さ。
 その身で顕すのだと、真の姿へと変じる夜彦。
「貴女の意志に私達も応えましょう」
 此処に矜持と守護。対となる刃と盾のふたりが顕れる。
 片割れがいなければ成立しない。ひとりでは、決して成れない姿。
 情と絆を嗤う妖異には、決して理解できない誓いとなって。
「明けぬ夜がないように、絶望に打ち拉がれようと歩みを止めぬ人の強さ」
 そり在り方を、この先の路を護ろう。
 人生という旅路を塞ぐ、『刀狩』を斬滅すべく。
「夕凪殿が忘れない限り、私達は決して負けません」
 故に、風は揺れ、ざわりと妖気が揺れる。
 それはあらゆる刀剣を喰らいし龍の怒り。
「人が真に清く、正しければ、我も産まれぬ」
 ただ斬る事が刃の本懐。
 いいや、護ることこそ刃の成す事。
 決して相容れぬ不倶戴天の存在を前に、龍の瞳が瞬く。
「だとしたら、俺がお前という禍を狩ってやるよ」
 妖刀の龍という禍を狩り滅ぼすべく、先制したのは倫太郎。
 振るう華焔刀の美麗なる刃紋に宿るは、鎧であれ鋼であれ無視して断つ
術式。
 旋風の如く放たれた鋭い斬撃は、黒ずんだ鱗を捉えて斬り裂き、返す刃でその部位を斬り砕く。
 それは烈風が渦巻くが如く。
 邪気を払い、斬りて払われる欠片は、まるで砕かれる鏡のよう。
羅刹の腕が成す荒神の鎮めにして、災禍狩りの斬閃。
 倫太郎の背に浮かび上がる一族の紋章は、これのみで終わらないと揺れる炎のように色合を変えるのだ。
 再度、斬り付け、砕いてみせる。

 我は盾、汝は盾――祈るように、その焔華刀を振るったからこそ。

「お見事です、倫太郎」
 間髪をいれず、身を滑らせて、同じく霞瑞刀 [ 嵐 ]を振るう夜彦の姿がそこにある。
 倫太郎が視力で脆くなっていた部位を見つけ、そこに刃で切り込んだのならば。

 我は刃、汝は盾――成された誓いに、ただ誠をもって応えるのみ。

 夜彦の流麗なる刃の瞬きは二度。
 身ごと翻した斬り裂く蒼銀の切っ先は、倫太郎が先に斬り砕いた部位を、更に深く斬り裂いている。
 荒ぶる龍の命には届かずとも、その存在を削り取る程に。
「対となるもの、また、これも絆。情。下らぬもので、この身を傷付けたな」
 故により静かに、けれど怒りを滾らせる龍たる『刀狩』。
 龍の身は妖刀で紡がれているからこそ、夕凪を介して伝わった想いが、その身体に脆い部分を作っているのだ。
「だが、この程度で朽ちるならば、太閤殿の血筋に仕える者にあらず」
 けれど、『刀狩』もまた強大な存在。
 渦巻くように身を翻して、繰り出すのは斬風の嵐。
 牙や角はいうまでもなく、鱗のひとつ、ひとつが刃。故に高速で身を震わすだけで、衝撃波の刃が周囲へと撒き散らさせる。
 夜彦も倫太郎も残像を後に残しながら避けようとするが、巨体が放つ範囲の広さと、刃風の多さ故に回避が間に合わない。
 加え、振るわれる爪と尾。少しでも隙を見せれば、斬り裂かれて鮮血と共に後方へと吹き飛ばされるだろう。
 だからといって、回避と防御に任せていれば手数で押しきられるのは明白。
 ならばと、華焔刀を構えなおす倫太郎に躊躇いはない。
「何時ものようにいくぜ、夜彦」
 応じる声も待たず、そしてその必要もない程に信を寄せて。
 見切るは一瞬の隙。その爪を振り翳して力を乗せるその寸前、倫太郎は『刀狩』の前へと躍り出る。
 巻き起こされる刃の旋風を潜り抜け、オーラを纏わせた華焔刀でその爪の一撃を受け止める。
 それは災禍の龍の爪と、災禍狩りの羅刹が爪が切り結ぶ瞬間。
 起こるは凄まじい衝撃。大気が爆ぜて、地面に亀裂が走るほど。
 それはだたの力の激突ではないのだ。妖気と、それを狩る者の破邪の戦気が鬩ぎ合い、周囲の風が揺らぐ。
 ああ、負けたくは無い。
 倫太郎が、この胸に宿す想いは、決して譲らない。
 高鳴る鼓動は、そのまま言葉として零れる。
「俺は盾だからな」
 力では劣るだろう。
 誰かを傷付け、打ち倒す事には確かに負ける。
 今も現に、『刀狩』に力で押し負けているが、それを倫太郎は恥などとは思わない。
 自らがどう在りたいか。ただ、その矜持を貫くだけなのだ。
 故に、爪と鬩ぎ合う華焔刀の刀身は、『刀狩』の生命力を奪いつつ。
 生命吸収の術ごと押しきるか。それとも退くかと、『刀狩』が迷った瞬間を倫太郎は見逃さない。
「矜持の元に振るわれる刃を通す、その為の盾」
 言葉と共に華焔刀の柄を手繰る指を滑らせる倫太郎。
 僅かに力の流れを狂わせて『刀狩』の爪を弾き、地を這うように旋回させた華焔刀をカウンターとして叩き込む。
 誓いの元に成された正義がそのまま強さとなるならばこそ。
 それは、災いを狩り取る爪のようで。
 猛火の如く荒々しくも、正しい想いを護りて導く義の篝火でもあった。
 響き渡るのは済んだ鋼の音色。夕焼けの光を浴びて鮮やかなる赤を帯びる華焔刀の刀身。
 決して、断ち斬る事は出来ずとも。
 あらゆる禍を、決して赦すことはないのだ。
「何も斬れないんじゃない。何を斬るべきか知っている、その刃の鋭さを俺は知っているんだよ」
 姿勢を崩した刹那を見逃さず、『刀狩』へと飛び込む夜彦が姿。
 必ずや倫太郎ならば成すと信じていたが為に、それは必然として阿吽の呼吸の如く。
 正しき義の誓いによって深まる強さは、夜彦も同じ。
 駆け抜け様に、その腹へと流れる蒼銀の斬閃。
 その身が刃であれ、鋼であれ、妖念であれ。
 美しくも鋭利なる霊刀に抗う事できず、斬り裂かれていく。
 残るは一条の軌跡。流れた星の如く。
「情の何が悪いのでしょう」
 その身を打ち据えるべく、刀狩の尾が頭上から叩きつけられるが、捉えたのはあくまで残像のみ。
 跳躍して避けた夜彦は、天から翔るが如く、その切っ先を瞬かせる。
「失った記憶を戻したのは、家族との繋がり、得た絆」
 それは静かに、けれど、確かなるものを得た声と刃。重ねて十字にと『刀狩』へと斬撃を刻む。
 盾たる倫太郎が隙を作れば、必ずや夜彦は繋げる。
 繋がると知っているからこそ、倫太郎は全力をもって我が身を盾とし、誇れるのだ。
 情や絆。家族が下らぬといいながら、それに深く傷付けられている『刀狩』。言葉が正しいのはどちらかなど、戦場では斬りて生き残ったものが示すというのならば。
「折れかけた刃は、立ち向かう刃と成った。彼女こそが証でしょう」
 さあ見よ。
 繋がり、絆となり、纏う今の彼女の刀は荒ぶる龍をも斬り祓う。
その二人の姿を見るが故に、ふわりと、その名が示すように踏み込む夕凪の歩。かつて、昨日の夕凪よりも鋭利な切っ先を振るうのだ。
「貴方には出来ないでしょう、作れぬ刃でしょう」
 その言葉を受け継ぐように、夕凪を迎え撃とうとした『刀狩』へ、烈火の如き勢いをもって薙刀が繰り出される。
 振るうは倫太郎。如何なる攻めも許さぬと、後の先を取って繰り出される華焔刀。
 災禍たる龍を決して許さないのだと。
「それすら判らないお前の方こそもなまくらだろう……『刀狩』」
 進もうとする夕凪の姿を照らし、祝福して背を押すように。
「往け、夕凪……!」
 ただひとり、生き残り。
 それでもその先で、唯一無二と受け入れてくれる居場所を掴んだ倫太郎だからこそ。
 目の前の「なまくら」は斬り捨て、その先の居場所を掴んでくれと、溢れる願いを一言に叫んだのだ。
 ひとひらの言ノ葉を受け、加速する夕凪の刃が『刀狩』を深く捉える。

 流れる黒き剣閃――それは、夜色のように静謐に。
 ひとつの手向け。過去を贖いて、明日へと続ける為に。

 悲しく、けれど一途に願うその刃。
 決して妖しのそれなどではないと言える、美しさ。
「刃の美しさにすら気付けぬ『なまくら』よ」
 見よ、妖刀であったそれは今や。
 ひとつの魂と共鳴する、志の剣となっていると夜彦が告げる。
 これから如何なる剣となるのか。
 或いは、災禍狩る霊刀、夜天の曇りなき護るが為の義刃。
 その姿を目指し、辿り着こうとするかもしれない。
 ただ、今、『刀狩』という「なまくら」を斬ったのは、確かなる事実。
 傍らにいる唯一無二の為に、何より美しき存在として、二人の男がいたのもまた事実。
 誇らしい程に、輝く想いを以て。
「彼らのように胸を張って告げられる、美しき想いを、誇りを持っていない、宿していないのは確か」
 けれど、と、振り返る夕凪は告げる。
「ええ、ええ。……何も紡げない、「なまくら」の龍と、私は違うと示しましょう。彼等の宿してくれた光と想いを、この切っ先に込めて」
 それこそ美しき刃であると、夕焼けが歌うように、涙のように優しい光で世界を濡らす。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

政木・朱鞠
これは人の受け売りだけど…『本当に良い刀はちゃんと鞘に収まっているモノ』…それに比べて…今の貴方は刃毀れだらけ抜き身の赤鰯って所だね…。
夕凪ちゃんの心を操り…情を蔑ろにする不粋な殺生を行なった咎はキッチリ償ってから骸の海に帰ってもらうよ。

戦闘【WIZ】
ちょっと命のリスクが有るけど…こちらの遠距離攻撃を封じられるのは、ちょっと厳しいからね『忍法・鋳薔薇姫』でほんの数秒だけど相手の動きを封じて隙を作りたいね…。
得物は【貫通攻撃】を狙って刑場槍『葬栴檀』をチョイスして【鎧砕き】や【鎧無視攻撃】の技能を使いつつ【傷口をえぐる】【生命力吸収】の合わせで間を置かないダメージを与えたいね。

アドリブ連帯歓迎



 夕暮れの光の中、影は長く、濃く。
 最後の呪いとして、その姿を現すは『刀狩』。
 これが夕凪を操り、惨劇を引き起こした妖異にして、荒ぶる神としての霊格を持つ龍だというのは一目でわかる。
 告げる言葉は傲慢。
 何故なら、これは常に怒り、憎み、狂っているから。
 元よりまともな性根を持つのならば、このような事はしないのだろうと。
 政木・朱鞠(狐龍の姫忍・f00521)は首を振るって、艶やかな指を滑らせる。
 選んで掴むのは長槍たる刑場槍『葬栴檀』。
 咎人の身体を必ずや貫く為の、長く鋭いそれは、罪咎と呪詛を刀剣として身に宿す『刀狩』を穿つに相応しい。
「これは人の受け売りだけど…『本当に良い刀はちゃんと鞘に収まっているモノ』」
 決して、心の底には届きはしないのだろうと理解しつつも。
 朱鞠が言葉を向ける理由は単純かつ明快。
 許せない。抑えようとしても、僅かな怒りが燻り、火種となって胸の奥にある。
「それに比べて……今の貴方は刃毀れだらけ抜き身の赤鰯って所だね………」
 対する龍たる『刀狩』の吐息は短い。
「つまらぬ物言いだな。ならば、錆びた刀に斬られるお前は、何となる」
「さあ、どうだろう。興味ないし、そんな事には決してならないだろうからね」
 間合いを計る両者。
 ともに怒りを向け、認めないと視線を交差させる。
「夕凪ちゃんの心を操り……情を蔑ろにする不粋な殺生を行なった咎はキッチリ償ってから骸の海に帰ってもらうよ」
「その咎こそ、妖しき刀を至高に至らせると理解できん、哀れな娘か」
「言うね。けれど、それが遺言であったら、なんて悲しい」
 憤りは決して表にせず。
 けれど、命を削るリスクを理解してなお、鋭く飛び込む朱鞠の姿。
 長く魅力的な脚で地を蹴り、その爪先で踏むのは刀狩の影。
 同時、『刀狩』の背の羽から妖刀が射出されている。
 瞬間、巻き起こるのは、さながら尾を喰らう二匹の蛇。
「ぬ」
「……あら?」
 見た者を幻惑する妖刀の刀身が飛翔し、朱鞠の踏む影からは金属鎖状の触手が放出される。
 それは双方、似た系列にある力だった。
 触手は『刀狩』の攻撃的行動を無力化し、けれど、妖刀は幻惑をもってその触手の放出という遠距離攻撃を無効化する。
 つまりは、互いを打ち消し合う鬩ぎ合い。
「これは予想外、かしらね」
 数秒を稼げればいいと思っていた朱鞠だが、それがいきなり鍔迫りに似た状況に陥るとは予想外だろう。
「いいや、我としては本望。このまま、押しきられてせて貰おう。刃毀ればかりの、赤鰯だったか?」
 一瞬でも朱鞠がユーベルコードを消せば、そのまま背より射出する妖刀で串刺しにしようとする『刀狩』。
 単純な力量、力の容量としてで負け筈がないからこそ、そのまま押し潰す。
 もしも朱鞠の発動条件が影を踏むという事に気づかれれば。
 影を踏まれないように立ち回られれば。
 それこそ一気に不利。互いの拮抗している今だからこそ、夕凪が切り込む隙も作れているが、それも一分半も持ちはしない。
「考えるだけ無駄、ね」
 そして、そんな余裕はないと地を駆ける朱鞠。
 長く、鋭く。戦うのではなく、貫く事のみにその性能を求めた『葬栴檀』が、その勢いを乗せて振るわれる。
 疾風の如き刺突は、刀で出来た鱗の中でも、刃毀れし、錆びた箇所を狙って放たれる。
「何しろ、相手は赤鰯だもの。攻めて、攻めて」
 少なくとも、朱鞠の忍術が効力を持っている間、『刀狩』は攻撃に移れない。
 それは他の猟兵たちが攻め立てる好機でもあり、時間制限を考えなければ最適とも言える。
 故に疾風怒号。閃く穂先は、十を越え、二十を通り過ぎ、『刀狩』の身体を貫き、穿ち抜く。
「ぬ……」
 無論、ただ刺すのではなく傷口を抉っていくのも忘れない。
 決して間を挟まずに繰り出す連撃は、少しずつ『刀狩』の命を蝕み、削り取り。
 元より黒ずみ、脆くなっていた箇所はその部分と損傷を広げ、生命力を奪いながら大きな傷跡となっていく。
 ただ早く、命の危機に迫るまで。
 相手の魂、『刀狩』の咎を狩るに迫る為に。
「夕凪ちゃん、少しいける?」
 呼びかけるのは正気を取り戻し、一矢報いると定めた娘へ。
「心に渦巻く憎悪も悔恨も――既に尽きたのなら。今、あるのが、大切な人との思い出なら」
 預けてみないと言った手前、半端な終わり方では朱鞠も気がすまない。
 それらの罪咎を、その意識だけでも此処に、この『刀狩』と共に狩り尽くすべく。
「――預けてみないと語ったのは貴女でしょう」
 応じる夕凪は、それこそ穏やかに。
 けれど、駆け抜ける速度はやはり疾風のよう。
「であれば、今の私の応えはこうです。僅かでも憎悪も悔恨も、受け止めて預かってくれたというのなら、その恩に、私はこの刃で報いましょう」
 故に翻る夕凪の黒き斬閃は、かつての邪気など一切なく。
 朱鞠が穿った傷口へと、幾度も切り込み、斬り崩し、その鋼の身を曝け出させる。
「やるね。有り難う」
「いいえ、もう一度、光を見させてくれたことに、感謝しますから」
 故にその奥。
 朱鞠が本当に貫くべき、咎宿す魂へと。
 諸手で構えた『葬栴檀』で、龍の身の奥へと穿つのだ。

「それは、何処か。新しい場所でね」

 経過した時間は一分丁度。
 これ以上は誤差や何かあった時の為に発動は危険だと、忍法を解除し、飛び退く朱鞠と夕凪。
 ただ、『刀狩』と対峙し、切り結んでいた相手はこの二人だけではないからこそ。
 その一分という時は、余りにも貴重で、戦況を傾かせるものとなる。

大成功 🔵​🔵​🔵​

真宮・響
【真宮家】で参加

へえ、他人の力を悪用しなければ何も出来ない奴がなにほざいてんだが。

真の強者とは自分の信念のままに全てを護れるものをいう。夕凪のようにね。この娘さん、凄く強いよ。アンタはただ殺戮を振りまく暴力に過ぎない。

夕凪、行くよ。共に挑ませてくれ。

護りを貫くのは奏と瞬に任せる。アタシは夕凪と共に【残像】【見切り】で攻撃を回避しながら【オーラ防御】でダメージを軽減。【戦闘知識】で敵の動きを見て、夕凪にもアドバイス。敵の護りが崩れたら、【ダッシュ】で接近。【体勢を崩す】【怪力】【グラップル】で敵に強烈な拳を入れる。一撃入れるのは今だよ!!夕凪。アタシも飛竜閃で追撃させて貰うよ。


真宮・奏
【真宮家】で参加

夕凪さんの心を深く傷つけたのに言いたい放題いいますね。人の感情にゆれてこそ人、人の為に戦うと決めた夕凪さんこそ真実。私から見ても眩しい程夕凪さんは意志の力に溢れています。

その意志に、沿わせて頂けませんか、夕凪さん。

まず【オーラ防御】【盾受け】【武器受け】【ジャストガード】【拠点防御】で攻撃に耐えながら、敵の身体を観察。【衝撃波】を撃って効果のある弱い部位を探します。実際に攻撃するのは瞬兄さんの攻撃が護りを貫いてから。一気に攻撃に転じ、弱い部位に向かって【怪力】【グラップル】で拳の一撃を入れ、信念の一撃を!!さあ、夕凪さん、更なる追撃を!!


神城・瞬
【真宮家】で参加

好きなだけ吠えていてください、外道。夕凪さんの全てを奪って置いての開き直りともいえる言葉、許せるものではありません。夕凪さんの生き方は夕凪さん自身が決める。お手伝いしますよ。貴女のこれからの為に。

まず【オーラ防御】を展開。【高速詠唱】で【マヒ攻撃】【目潰し】を仕込んだ【結界術】を展開、【誘導弾】に【鎧無視攻撃】【部位破壊】を併せて放ち、弱い部位を特定。その部位に月白の棘を撃ち込みます。刀狩、これが貴方の恐れた家族の絆の力です。人の思いの力を侮っている存在にはさぞや効くでしょうね?さあ、夕凪さん、今こそ貴女の想いを込めた一撃を!!



 龍が吼え、空が震える。
 爪は大地を抉り、尾が木々を薙ぎ倒す。
 千を超える刀剣からなる『刀狩』。その威容と暴力が、止まる事なく奔り続けている。
 確かに強力な妖怪にして、世界を渡り骸の月を産み出す猟書家。
 だが、だから何だというのだろう。
 情は不要。絆は要らぬ。
 ただ、それらを斬ったことのみに意味があるなど。
「へえ、他人の力を悪用しなければ何も出来ない奴がなにほざいてんだが」
 告げるのは真宮・響(赫灼の炎・f00434)。
 紫色の瞳の先、妖刃かななる龍に僅かに臆す事もなく。
 むしろ悪戯に力を見せつけ、他者をねじ伏せる姿など、それこそ愚劣と恥の姿なのだと。
 どんなに強い力と名を持っていたとしても。
 そこに意志と信念は持ち合わせていないのだろうから。
「好きなだけ吠えていてください、外道」
 続ける神城・瞬(清光の月・f06558)は、冷たく静かに。
 隠すことのない侮蔑は、今の状況を正しく理解しているから。
 清き月の光の如く、ただ真実を明らかにする。
「夕凪さんの全てを奪って置いての開き直りともいえる言葉、許せるものではありません」
 事実、失敗した。
 何も出来ず、何も斬る事が出来ないのは『刀狩』の方。
 失われることなく、確かに引き戻された絆が今、ここにある。
 だから言葉を刃として突き立てるのは真宮・奏(絢爛の星・f03210)。
 母と同じ紫の色彩の瞳を、星のように。家族の繋がりは、確かに光となっているのだ。
「夕凪さんの心を深く傷つけたのに言いたい放題いいますね」
 独りではないから。
 無数の刀剣を喰らいてなって龍と違って。
 そこにいる、心の数だけ強くなれる。
 それは炎。それは星。それは月。
「人の感情にゆれてこそ人」
 赫灼たる意志を標として。
 絢爛たる信念を歩む道と決め。
 清光たる月として、周囲を照らすと己を定めた。
 独りでは。
 決して、こうはなれなかった。
「人の為に戦うと決めた夕凪さんこそ真実」
 それを頑なに認めないモノこそ、弱さなのだと。
 三人の言葉を受けて静かに、けれど、隠す事のない殺意を表す『刀狩』。
「貴様らこそ、よく囀る。所詮、独りでは立って生きる事のできない者が」
「独りで立って、生きて、突き進むのがそんなに素晴らしいのかい?」
 反ずる響には確たる証があるのだ。
 視線を逸らせば、そこに立つ夕凪という存在が。
「真の強者とは自分の信念のままに全てを護れるものをいう。夕凪のようにね。独りぼっち、何も護らず、打ち捨て、斬り捨て、修羅の路を往く。言葉だけはカッコイイけどね。ただの判らず屋さ」
 だから失敗した。その事実に怒り狂ってる。
 それが醜悪でなんという。
 美麗なる刀剣を喰らい続けた成れ果てでしかない。
「私から見ても眩しい程夕凪さんは意志の力に溢れています」
 だからこそ、奏はこれに一矢報いると定めた夕凪の意志を尊重する。
 決して逃げない。
 自分より強くても、背負った想いが大事だから。
 その意志に寄り添わせて欲しい。叶う瞬間を見せて欲しい。
 奏の願いは優しく、風のように柔らかで。
「夕凪さんの生き方は夕凪さん自身が決める」
 そんな奏の隣に立つ瞬もまた、静かに声を滑らせる。
 守りは任せて欲しい。あれの真に刃を突き立てるのは、夕凪が成してこそなのだと。
「お手伝いしますよ。貴女のこれからの為に」 
 並び立つ瞬と奏。決して独りきりではいからこそ。
 龍の咆哮を正面から浴びてなお、怯みなどしないのだ。
 瞬によって張り巡らされる結界はオーラの守りを。
 そして、触れた者の動きを鈍らせる冷気を編み込んで。
 展開された結界は薄青の膜。だが、『刀狩』の爪ははそれを斬り裂いていく。
 これも数多の名刀、妖剣にて編まれたものな。
 喰らい続けた歴史と力、名と時間。それらの桁が違うのだ。
「どうした。小僧の力はこの程度か」
 そして鱗から生じる武具。全身をもって蹂躙せんと、『刀狩』はその身を躍らせる。
「させません!」
 ただ結界で阻む事が出来ないのならばと、駆けだして一撃を繰り出すのは奏だ。
 疾走の勢いをそのままに、『刀狩』の爪を精霊の力宿る盾で受け止め、弾き飛ばす。
 単独では出来なかっただろう。だが、此処は瞬の紡いだ結界の中。
 その中ならば、『刀狩』の攻勢にも対抗出来るのだと、続く刃の鱗を受け止めていく。
 それでも削り、削られ続けるのは明白。
 結界を維持し、斬り裂かれた場所を作り直すので瞬も手一杯。
 奏もまた、盾でしかりと受け止めきれなければ、流れた無数の刃で身を斬り刻む。
 だとしても、それは奏が『刀狩』を身をもって知るということ。
 観察し、見逃さない。攻撃に使う鱗、刀剣、武具は言い換えればそれだけ強度に自負があるものということ。
 脆く、朽ちたものもあるのならば。
 自分達の言葉が、この妖異の力を衰えさせているというのならば。
 その箇所、その瞬間を見逃さない。
「瞬義兄さん、左腕の付け根です!」
「ああ。決して逃しはしない」
 義妹の見つけた隙を必ず穿つと、高速で紡がれるのは月光のような清らかなる白の魔力。
 奏の言葉と視線に導かれ、瞬の魔力弾が脆くなっていた鱗の部分へと着弾する。
 弾けるのは清らかなる光と、無数の刀剣の破片。
 ガラスが砕け散るような光景の中、『刀狩』が異変に声を漏らす。
「ぬぅ……?」
刀剣となった鱗が砕かれたのは構わない。
 が、そこに変形して突き刺さった侭の棘がある。決して抜けず、新たに刀剣を体表に出して覆うとしても、決して叶わない瞬の誘導弾が変じたもの。
 此処が弱点。そう印され、刻まれ、痕を遺されたのだ。
 瞬間の戸惑い。それを奏は見逃さず、跳躍する。
「一撃では倒せずとも、重ねる手があれば……!」
 繋いだ手のように。
 攻勢を連続させ、決して途切れさせなければ。
 そこにある想いさえ、宇死ななければ必ずや。
 如何なるものを打ち倒す筈だと、信念を込めた奏の拳が、瞬の棘によって出来た『刀狩』の弱点へと突き刺さる。
 何より、そう。
 手とは繋ぐもの。
 繋がったものを示す為に、自らの手で、この龍を撃つのだ。
 想いと絆を握り絞めた、この手で。
「夕凪、行くよ。共に挑ませてくれ」
 今まで、護りを瞬と奏の二人に任せて力を温存していた響が駆け抜ける。
 護りが薄れた今こそ好機と、鱗より顕れた刀剣たちが衝撃波を発生させる中を突き進む。
 鮮血が流れようとも、後続の夕凪にこれ以上の痛みは走らないように。
 自らが見切り、残像で避ける道を示しながら。
 どうにもならないものはオーラを纏った武器と身で受けて。
「結局、小僧呼ばわりしたうちの子供の結界も敗れなかったわけだね!」
 打ち据えるは奏と同じく拳の一撃。
 刀剣の身にそんな事をすればどうなるかは一目瞭然で、赤く染まった手の負傷は決して軽いものではない。
 だが、それだけの衝撃を伝え、姿勢を崩して好機を紡ぐ。
 怪力をもって組み討つのならば、その四肢でこそだけではない。母としての拳としての矜持もあるのだ。
 正すのは母の役割。その先を作るのも、やはり母たる響の。
 それを真似るような響がどうなるかは、今はまだ判らずとも。
「一撃入れるのは今だよ、夕凪!!」
 響も灼光の剣を構え、その傍らでは信念の証たる長剣を構える奏もいて。
「さあ、夕凪さん、更なる追撃を!!」
 待ってくれている人がいる。
 その幸福を噛み締め、夕凪は黒い刀を諸手に身を翻す。
「さあ、夕凪さん、今こそ貴女の想いを込めた一撃を!!」
 こうも待ってくれる人がいるという場所。
 また、辿り着けるだろうか。後で、この三人に、家族というものを聞いてみたい。
 その光を信じて。
 
――三刃一閃、同時に三者の切っ先が瞬いて『刀狩』を斬り裂く。

 黒き斬閃と飛竜の撃、信念の刃。
 素早く、そして、何をも断つと。
 明日を手に入れる為に震われる刃が、妖異たる『刀狩』の魂と邪気の一部を、深く深く、斬り払って霧散させる。
「刀狩、これが貴方の恐れた家族の絆の力です」
 決して軽い負傷ではない。
 後方へと飛翔して距離を取る『刀狩』の低い呻き声は、地に響いていて。
「人の思いの力を侮っている存在にはさぞや効くでしょうね?」
 瞬の言葉が、その存在を認めないのだと追撃のように刺さる。
 嗤うこと、もはや出来ずに。
 怒りて憎む瞳が、空から四人を見下ろす。
ぱらぱらと、斬り砕かれた刀剣の欠片が、『刀狩』の怨嗟から逃れられたかのように。
 軽やかな音を立て、空から落ちて、消えていく。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

鏡島・嵐
なんとか救い上げられたみてえだな。……よかった。
うん。正直戦うんはすげえ怖ぇから、力を貸してくれると嬉しい。おれも、出来る限り援けるからさ。

確かに心は揺れたんかもしれねえ。未熟なんかもしれねえ。
でも、アイツは――夕凪は、最後には心を定めた。何をするかを、どうしたいかを、自分の意思で選んだ。それで十分だ。
ならおれは、それを見守るだけだ――!

遠距離攻撃を防がれるんはキツイから、こっちのユーベルコードで打ち消しを試みる。
上手く打ち消すことが出来たんなら、夕凪や他の猟兵仲間を〈援護射撃〉で支援したり、向こうの攻撃を〈武器落とし〉や〈目潰し〉〈マヒ攻撃〉で妨害したりして、皆が有利に戦えるように援ける。



 戦いの中で、恐れて震える声を必死で抑えて。
 迎えた今は、確かに望んだもの。
 揺れる声色は仕方ないのだ。
 それは恐怖に抗い、戦って、救い上げた安堵の声なのだから。
「なんとか救い上げられたみてえだな。……よかった」
 鏡島・嵐(星読みの渡り鳥・f03812)の優しい声に、戦場を駆け回っていた夕凪が振り返る。
 ぎこちない微笑みは、決して、割り切れない記憶のせいか。
 それでも視線が揺れることないのは、その想いのせいか。
 だとしたら、何も隠す事はない。
「うん。正直戦うんはすげえ怖ぇから、力を貸してくれると嬉しい」
 夕凪とて、怖さを抱えているだろうから。
 その手に取っている黒い刀は、元は『刀狩』を宿していたものだからこそ。
 ああ、二度と迷わせない。
 旅立ちに戸惑いは不要と、歌い上げるように告げてみせよう。
「おれも、出来る限り援けるからさ」
 笑ってみせる鏡島に他意はなく、優しく、明るいから。
 まるで村人のかつての表情に似ているから。
 一瞬だけ瞳を潤ませ、けれど、夕凪は静かに応えるのだ。
「ええ。助けてください。苦しい事が正しくとも、苦しいのも、また確かだから。あの暗闇の中で聞こえた、貴方の声をもう一度」

――犯した罪に、足掻きながらも、これからを生きる為に。
 
 囁きは、夕焼けの風に攫われて、他の誰も届かずとも。
 それでいい。夕凪の背を指さして、嘲笑う者など誰もいない未来の為に。
「ああ、確かに」
 確かに心は揺れたかもしれない。
 今もなお、奥底では揺れているし、未熟というのなら確かにそうだ。
 でも夕凪は、最後には心を定めたのだ。
 何をするかを、どうしたいかを、自分の意思で選んだ。
 それならもう、背を押す必要だってないかもしれない。
「それで十分だ」
 世界は広く、美しいと、その瞳で見て欲しい。
「ならおれは、アイツ……夕凪を見守るだけだ――!」
 これ以上は自分の心で選び取って欲しい。
 自由も幸せも。
 そして、生きて巡るその場所も。
 今はただ、怨敵たる『刀狩』へとその黒き刀を振るえど、そこに渦巻く怨念はない。ただ、斬りて晴らすべく。
 まるで自分の罪と向き合うかのように、夕凪は果敢に挑んでいる。
 だからこそ、『刀狩』の瞳は怒りに燃えるのだ。
「そんなに、他人を従えたいのかよ」
 自分の意のままに。
 鬼と成り果てさせて、修羅の道へ堕とそうと。
 それは心を無為と斬り捨てる事に他ならないのだから。
「見下ろしているんじゃ、ねぇよ!」
 恐怖を抑え、傲慢なる龍の眼へとスリングショットを撃ち込む鏡島。
 炸裂する癇癪玉。対した痛みはなくとも、視界を奪い、瞬間の隙を産み出す為の援護射撃。
「小僧、貴様……」
 夕凪へと視線を向けていた『刀狩』が、鏡島を睨み付ける。
 小さな援護とはいえ、重ねれば隙が出来、その隙へと切り込む猟兵たちの数は多い。
 ならば決して無視出来ない存在として、『刀狩』はその殺意を鏡島へと向ける。
「そんなに、冥府の先を見たいようだな」
「生憎、そこに旅する気はないんだよ」
 吼える『刀狩』の背の羽より放たれるは、妖刀の連続射出。
 見る者の心を惑わす、美しきも呪われた刀身の輝き。ただ、それを見たというだけで、精神が惑わされ、現実感を浸食される。
 距離の彼我。間合い。いいや、自己と他者。
 ああ、これが夕凪を操り、村人を惨殺させた術なのかと、鏡島は感じるから。
「ふざ……けるなよ」
 心を弄び、罪に塗れさせ。
 あげくは下らぬ情と嗤うその姿。恐怖はあっても、より強い怒りを感じるから。
 決して認めてならないと、紡ぐは魔鏡を呼ぶ言霊。
「鏡の彼方の庭園、白と赤の王国、映る容はもう一つの世界」
 懸命に恐怖に抗うからこそ、震える声は美しい。
 戦場ではなおさらだ。矜持に胸を張り、舞台のように進むのは美麗であれど。
 生きて、戦うのは儚い人なのだから。
 その心の在り方そのままにある鏡島は、例え、震えていても。
 臆病ではない。強く、気高く、優しい心。
「方と此方は触れ合うこと能わず」
 だからこそ完成した逆転結界。
 呼び出された魔鏡は、鏡に映る妖刀の姿を確かに、正反対の技を放つ。
 鏡面より呼び出されたのは純白の日本刀。
 初見、かつ、幻惑された後では完全なる相殺は出来ない。
 性質上、後手に回るのもまた不利な所だ。
 だが、あらゆる心を清め、争いを鎮める為の浄化の刃が、見る者を幻惑する妖刀と衝突する寸前。
「貴方の思いで紡ぐものは、このようなモノを相手にするべきではないんですよ」
 黒い斬閃が、妖刀を斬り払う。
 幻惑から解き放たれた夕凪が疾走し、妖刀を斬り砕いたのだ。
「『刀狩』って龍だから、怖ぇんだけどね」
 だからと鏡島が立ち止まる訳はない。
 一度見た技ならば、二度目は更に完成度が高まるのが魔鏡幻像。
 ならば相殺させるべく狙うのは、妖刀という末端ではない。
 鏡が映すのは、その妖刀の大元たる刃の羽。
 決して先のように後ではなく、同時に映して反射する。
「けれど、絶対……アンタが眼を逸らさない限り、おれも逃げたりしない」
 鏡面より溢れるのは、羽ばたく光鳥の翼。
 妖異の龍の翼を砕き、新たなる旅へ世界と導くべく。
 光の翼が一筋の流星となって瞬き、龍の羽へと罅を入れ、修羅道の妖刀を光の中へと掻き消していく。
 この先にこそ、幸いと祝福あれと。
 光の羽根が風に乗り、ゆっくりと周囲に降り注いで、淡く消えていく。

大成功 🔵​🔵​🔵​

キョウ・キリノ
夕凪…良い名だ。
お前は鬼ではない、しかして罪を知り修羅の領域へ一度は踏み込んだ。
ゆえに剣聖へと…夕凪ならばなれるだろう、罪を超え、絶望を超え、過去の為に明日を求めるお前ならば。
その為の露払い、この斬機一刀が引き受けた。

観察…刀狩の太刀筋、機動、特性、その全てを【瞬間思考力】により【見切り】刀を蜻蛉に構えて【切り込む】

「貴様が神であれ何であれ、俺にとっては変わらない…剣聖に至る器は無く、しかしそれ故に修羅の剣鬼として神さえ断つ、それだけだ」
全ての迎撃を【受け流し】て間合いに入る、そして全力の【蜻蛉】で本体も妖刀の群れも一纏めに【薙ぎ払い】【切断】して夕凪が一太刀入れる刹那を斬り拓く。

アドリブ歓迎



 戦場の風が流れゆく。
 削られた鋼の粉塵が流れ、それを越える戦意が熱を持って揺れる。
 誰一人、臆して戸惑うものなどいないから。
 己に打ち克つ者こそ、剣を振るう者だからこそ。
「夕凪……良い名だ」
 決して狂乱の鬼にならぬと。
 戦場の凪ぎの瞬間に、キョウ・キリノ(斬機一刀・f30324)は語りかける。
 艶やかな黒い長髪を靡かせながら、ゆっくりと。
 けれど確実に、想いを伝える為に。
「お前は鬼ではない」
 キョウの漆黒の瞳から、真意を推し量る事は出来ずとも。
「しかして罪を知り修羅の領域へ一度は踏み込んだ」
 その言葉の重さをもって、伝えようと。
 剣を以て切り結び、識った間。
 ならばその先はどうなるか。どう選ぶか。
 ただ示す事は出来る筈なのだと、射貫くような鋭い眼光で夕凪を見つめる。
 見ているがいい。
 この一刀を以て、求める道のひとつを示してみせよう。
「ゆえに剣聖へと…夕凪ならばなれるだろう」
 選ぶのは夕凪次第。
 けれど、どの道をと選択という希望を持つのは、本人なのだから。
「罪を超え、絶望を超え、過去の為に明日を求めるお前ならば」
 娘だから剣の先に幸せはない。
 そんな有り触れた言い分に興味はなく、ただ、キョウは磨き上げられた剣術の美しさを誇り、讃えるから。
 見るがいい。
一刀をもって、全てを斬りて越える存在を。
 続く者がいる限り、そこで剣の道という果てなき旅路は終わらない。
 例え剣を選ばずとも。
 心に携える義刃の在り方として。
「その為の露払い、この斬機一刀が引き受けた」
愛刀たる斬機丸にて蜻蛉の構えを取る。
 防御を捨てて、何より早く、相手より迅く、切り込むというがその概念。
 後ろに戻る事のない蜻蛉の飛翔のように、ただ真っ直ぐ。
 その理念を叶える為、視線で捉えるのは『刀狩』の軌道、特性、攻め筋の流れ。
 一度切り込めば後はないからこそ。
 ちゃきりと鍔を鳴らし、『刀狩』へと告げるキョウ。
 不本意に、相手を斬りて終われば、ただ虚しき。
 正面より斬り伏せてこそ、意味がある。仮に、もしも。そんな疑惑など決して起きぬように。
 自らの力で、それを斬り捨てたのだ。万が一もありはしないのだと、白人の元に謳い上げるのだ。
「貴様が神であれ何であれ、俺にとっては変わらない」
 如何なる者であれ、刃たる身にとってはふたつにひとつ。
 斬れるものか。
 斬れぬものなのか。
 判らないからこそ、斬りて進み、己を示す。
霊格、威厳、存在。それらは悉く剣の成す斬威の前では皆平等。
 そんな修羅の思想であるキョウだからこそ。
「……剣聖に至る器は無く、しかしそれ故に修羅の剣鬼として神さえ断つ、それだけだ」
「ならば、大人しく鬼として、世を覆す剣となれ。太閤殿の血筋は、今や月さえ蝕む」
「ああ、だというのなら、なんとよい事を聞いたか」
 ざわりと。
 鳴いたのは、如何なる刀剣か。
 妖剣、妖具。その類いが起こすものではない。
 ただ、ただ、狂奔する魂の音。

「この道往けば――俺の剣は、月をも蝕む某かも斬る機会を得るか」

 キョウの貌には顕れずとも判る、修羅の笑み。 
 それを前にして、荒ぶる龍である『刀狩』が、忠臣としての有り様を示す。己が主君をもいずれ斬るという輩、決して捨ててはおけぬと。
「ならば、月に届く前に果てよ。生きる剣鬼よ」
 研ぎ澄まされる妖刃の群れ。蠢き、形成すは禍々しき龍の爪だ。
 自らの移動力を犠牲に、跳ね上がる斬撃の威力。
 一撃でも届けばキョウの命が危うい。
 だというのに、だた、ただ、一歩。
 真っ直ぐに地を蹴り、駆ける剣鬼たるキョウの姿。
「チェェェストォォォォ!」
 これが剣鬼の聲か。
 言葉にならぬ裂帛の気合い。
 一ノ太刀を疑わず、故に二ノ太刀は不要。
 迎撃に走る『刀狩』の爪撃を斬り捨てるように受け流し、一気にその懐へ。掠めた妖刀の群れが脇腹を深く抉るが、全く意に介さずさらに前へ。
 不要なるものは全て捨て置く。
 ただ、必要なのはこの剣と、それを振るう技なればこそ。
 己が命を燃やすが如く、烈火の如き一閃が放たれる。
 それはあらゆる防御を斬り破る剛の斬閃。薙ぎ払う刃に触れたもの、皆、刃の斬威に斬り伏せられる。
 全て一纏め。
 無差別で、理不尽なまでの熾烈なる一刀両断。
 斬機丸の間合いにあるもの、全てが断たれて、崩れ落ちる。
 龍の爪となった妖刀の群れも、その鱗となっていた刃もまた。
 無常なり。無為なり。
 斬られて散り、露と消えるが定め。
 ただ刃の風吹けば、全ての名残りは消え去るもの。
「恐ろしい剣ですね」
 敵には示し、味方である夕凪には後に続く道を切り開くキョウの剛剣。
「――それを目指すか。越えるかは、私次第ですが」
 黒き刀にはもはや、かつての呪怨は残らず。
 迅く、鋭く、かつての過去を斬り払うような夕凪ぎの黒き斬撃が、『刀狩』の身の芯へと放たれる。
 斬られて、断たれて。
 何が残るかも判らぬ中。
「ただ、この『刀狩』は必ず滅ぼすと決めましたから」
「ああ、ひとつ。ひとつ。全てを斬りて進むが、剣の道なれば」
 刀光剣影の裡で息づく剣鬼の姿。
 その先に在りし剣聖。
 キョウが辿り着けぬと見上げる頂き。
 そこへと足を向けるかは、また夕凪次第。

 ただ、全てを縛り、鬼と従えようとしていた『刀狩』が、その身の欠片を散らす。
 最早、時は過ぎ去り、その身も朽ちよと。

――お前が神であれ、なかれ。
 刀剣の身でありながら、その頂きに達せられぬのもまた事実――

 夕暮れの風は、ただ冷たく吹き抜ける。

大成功 🔵​🔵​🔵​

月白・雪音
…身体を効率的に破壊する技術など小手先の業に過ぎません。
武の道とはそれを修め使う者の精神、そして在り様こそが神髄。
積み上げたものを否定し、絶望の内にただ衝動のみに身を浸し、
情も乗らぬ刃に斬れるものがどれほど在りましょうか。


UCを発動、残像、野生の勘、見切り、怪力、カウンターにて全ての攻撃に反撃を返しつつ刃を破壊し、
アイテム『氷柱芯』を飛ばし敵の身体を縛り怪力、グラップルにて拘束


…落とすべき首はここに。

この仇討ちを為した後も、戻るものは在りません。
されど夕凪様、それでも貴女が揺らぐことなく刃を取ると云うのならば。
――拳と剣の違いはあれど、同じ武の道を進む貴方のその在り様を、
心より言祝ぎましょう。



 白い長髪をさらりと流し。
 翻りて、流れるように構えを取るは月白・雪音(月輪氷華・f29413)。
 それはまるで廻雪の調べ。
 雪の降り積もる様を舞踊と顕せば、きっとこのような。
 それでいて、詰められた武威は確かなるものと感じさせる美しさ。
 それは、雪音の精神と心の有り様故に。
「……身体を効率的に破壊する技術など小手先の業に過ぎません」
 対するのが荒ぶる龍にして、猟書家たる『刀狩』であっても変わらない。
 静かに、冷静に。
「武の道とはそれを修め使う者の精神、そして在り様こそが神髄」
 自らが顕すそれこそ、雪音の辿り着いた武の深奥。
 人それぞれ違うものに辿り着けど。
 衝動を、魂を律して。
 凍てついた白き月のようにあること。
 それが雪音の辿り着いた先。修めた武を如何に振るうかという術。
 身を壊すなど容易い。
 命を奪うなんて軽い。
 そこにどれだけの想と信念を積み上げられるかこそ、武芸なのだ。
「積み上げたものを否定し、絶望の内にただ衝動のみに身を浸し……」
 他人に見せて、誇れるか。
 これが己なのだと、笑ってみせられるか。
 鬼となって自棄に嗤うのとは違うなのだと、言葉にして突きつける。
「……情も乗らぬ刃に斬れるものがどれほど在りましょうか」
 それこそ流転のように、揺らぎ、舞いて。
 するりと、既に『刀狩』の間合いに踏み込んでいた雪音が告げる。
 人なる戦。純粋武術を、あるがままに晒して。
「ええ。卑怯にも不意打ち、心乱させるなど、私はしません」
 それをするのは貴様のようなものだと、赤い眸を流して向けて。
「――成る程」
 天から地を揺るがすように、振り下ろされる『刀狩』の尾の重撃。
 いいや、群れて動く妖刀の群れを伴うそれは、ただの一撃ではない。連なり、連鎖する妖しき刃が血を求めて空間を泳ぐ。
 残像を纏い、揺れ動く雪のように動く雪音だが、その身には幾つもの裂傷。手数を五倍と増やされれば、幾ら見切れど、速度を跳ね上げる術のない雪音では総ては避けられない。
 元世の高速で動く技術はないのだ。残像を纏うのは体術の流れであり、技の冴え。技術は極まっているが、突出した異能もまた持たない。
 だが――それでもなお、猟書家たる『刀狩』の連撃に抗う雪音。
 雪が舞うように流れて跳ね、鮮血が飛び散り、けれど止まる事はない。
 致命傷や、動きに関わる部位への負傷を避け、なお目的の為に動きを留めない。
 何故倒れず、死なない。
 尾を揺らし、五十を超える妖刃を群がらせる『刀狩』の瞳には疑惑の色。
「言ったでしょう。身体を効率的に破壊する技術など、小手先だと」
 ならば殺すもまた同様。
 ただ殺戮を目指して動く妖刀の群れなど、見切りと残像の技に頼らずとも避けられる。

――命に触れようとするものへの勘。

 第六感とはまた違う。
 死線でこそもっとも頼りになる、野生で生きる術のそれを用いて雪音は拳武に舞う。
 生命を奪おうとする牙であるからこそ、雪音にとっては捌くも容易い。 それらを律したのが己でもあるのだから。
 こうすれば殺せるという短絡的な妖念では、雪音の命は奪えない。
 けれど傷を増やしているのは確か。このままでは劣勢のまま押しきられる。けれど、雪音の表情は変わらない。
 何故なら。
「打ち倒すだけならば容易でも、その先を見据えるからの武術」
 雪音が指先で手繰るのはワイヤーアンカーである氷柱芯。
 移動用のそれを、攻め立てる『刀狩』の身体に緩く巻き付け、全身を縛るまで待ち続けたのだる
 攻めず、捌き、避け続け。
 拳打蹴撃による反撃で相手を抑えることより、巻き取る事を優先した結果、きりりっ、と冷たい音を鳴ら散らして巻き上げられるワイヤー。
 巨体たる『刀狩』を縛り上げ、怪力をもって動きを止める。
「小癪な。龍であり、刀剣たる我と力比べか?」
「いいえ。あなた程に傲慢で不遜ではありませんので」
 確かに雪音の力と技をもってしても、『刀狩』の動きは留められない。ずるり、と引き摺られる雪音の小さく、細い身体。
 加えて龍の鱗は刃だ。ワイヤが掠れる度に削られ、斬り飛ばされるのも時間の問題。
 だが、縛している状態ではあるのだ。
 今、隙を晒しているという事に、ただ虚影たる鬼と妖刀を従えるばかりの『刀狩』は気づず、誰も助けに来ない。
「夕凪様………落とすべき首はここに」
 一瞬、ほんの一瞬が、その命を散らす。
 それが達人同士であればあるほど、刃の上を歩くような危うさを持つから。
「ええ、貴女の有り様。武の真髄。見させて頂きました」
 故に応えるべく、黒き刀を持って走る夕凪。
 向きを変え、『刀狩』も夕凪を迎え撃とうとするがもう遅い。捕縛するワイヤーを断ち切れず、それを手にする雪音を振り解けないのだから。
 雪のように白い拳武が紡ぎし、首の隙へと。
 己が龍と云う者の逆鱗を斬り捨てる、黒き飛燕の刃。
 どちらも静かに、けれど、確かに想いと意志を込めて。
 決して揺らがず、戻らない。己の殺意も、衝動も、罪咎も認めて生きていくのだと。
 激痛に狂乱の声を上げる『刀狩』より距離を取り、言葉を交わす二人。
「この仇討ちを為した後も、戻るものは在りません」
 ワイヤーは半ばまで切れ、戻って修繕しなければ使えないだろう。
 だが、それ以上に深く、無防備な首へと突き立てられた夕凪の切っ先。深手に違いない。
「されど夕凪様、それでも貴女が揺らぐことなく刃を取ると云うのならば」
 それこそ――雪のように白い、雪音と夕凪の髪。
 瞳こそ赤と青と違いはあれど、異なる者として見られていただろう姿。
 そして、その身に罪を抱え、明日へと進むのならば。
 決して消えないものを、この鼓動に包みながらならば。
「――拳と剣の違いはあれど、同じ武の道を進む貴方のその在り様を」
 一つ息を吸う雪音。
 それは傷の痛みの為ではなく。
 冷たく、静かなる情動の声では、伝わらないと思ったから。
 言葉は変わらず。けれど、ほんの少し。
 僅かでも柔らかく。
「……心より言祝ぎましょう」
 感情を表すのがとても苦手だけれど。
 この夕凪の姿は、同じ道を辿り、違う幸せへと辿り着く事を。
 ただ願う。
 降りしきる雪のように静かに、音も無く。
 鼓動と呼吸の音さえ、吸い込むような、凪いだ時の中で。

――その為に、あの首を確実に斬り落とさねばと。

 赤い眸が、『刀狩』という龍を見つめる。
 残るは恨み、苦しみではなく。
 静かなる悲しみと、新たなる旅立ちを祝いと成す為に。
 全ての呪いと憎しみを、此処で撃ち払おう。

大成功 🔵​🔵​🔵​

アネット・レインフォール
▼静
想いは取り戻せたようだな

これから沢山の幸せや世界が待つのだろうが…
村をどうするか聞いておくか
弔うなら手を貸そう
案外、猟兵とか向いているのかもな

…しかし随分な言われようだな?
刀狩よ、一つ誤りを正そう

それは――

▼動
仇討ち支援を優先

会話中など罅や脆い所に目星をつけ
高速連撃で分散して狙いダメージ蓄積を
彼女が狙われたら貫通攻撃で注意を引く

…今頃、先の傷口が開いたか…

夕凪には追撃を頼んでおく
霽刀を前傾で居合に構え【零斬】で破壊を試みる
少しは武人らしい所も見せないとな


――鈍らの何が悪い?

鈍らに過ぎぬ者が、持ちうる知力・胆力を駆使し
努力や練磨を重ねた末に本物と並び立ったなら…

それは名刀より遥かに価値がある



 止まる事のない黒の斬閃。
 翻り、流れ、そして瞬いて。
 消える事なく、『刀狩』の身を斬り裂く刃に宿るは情と想い。
 一撃で命を至らせる事を狙うのではない。
 ただ、尽きせぬ悔恨を、それでも晴らそうというように。
 村人の為と振るう切っ先に憎悪など決して宿しはしない。
「想いは取り戻せたようだな」
 傍らに夕凪が駆けて来たからこそ、声をかけるアネット・レインフォール(剣の異邦人・f01254)。
 見れば息が上がり、体力の消費も著しい。
 猟兵でもない夕凪が此処まで精神と信念で戦っているに等しいのだろう。
 もっとも、心臓の近くを刺されたアネットとて、人の事を言えないのだが。
「村をどうするか聞いておくか」
 問いかけは、僅かな休息を取らせる為にも。
 数多の世界と戦場を巡ったアネット聞いておきたいのだ。
これから沢山の幸せや世界が待つのだろうからこそ、その先をどう見据えているのか。
「本来ならまずは、幾ら理由があれど、刺してしまった貴方の手当をせねばなりませんが」
 忘れてはいないのかと、アネットと夕凪が共に苦笑する。
 ただ、敵は『刀狩』。罪の場所、罰は如何なるものか。そのようなもの、話と論の外。
「村を弔い、墓を建て……ええ、その後は色んな場所を巡りましょう」
 優しい夕焼けの風を受けて。
 穏やかなる空気を、求めるように。
「この剣で、優しい幸せを守れるように。何かを理不尽に奪われ、失うものを救えるように。……世界を守る、など広くは言えませんが」
 つまりは理不尽なる惨劇と、悲劇を留める剣となること。
 血濡れである事を表に出す必要はなく、留まる場所は、それこそ自分の幸せを感じられる場所でいい。
 一つの所に留まらず、巡る世界が、新しい『しあわせ』の形だというのなら。
 そこに訪れる平和なり凪の息吹となれたなら。
「弔うなら手を貸そう、遺品は集めている」
 アネットが遅れたのはその為。激戦の中で遺品をひとつずつ見せるという事は出来なかったが。
 それでも意味はあったのだと、今は噛み締めている。
「案外、猟兵とか向いているのかもな」
 包帯代わりに結んだ布をキツく縛り上げながら言葉にするアネット。
 くすりと微笑む気配が夕凪から零れるが、それに付いての応えはない。
 今、応えて形にする必要はないのだ。いずれ、流れて旅した結果となれば、それでいいだろう。
「……しかし随分な言われようだな?」
 だが、この会話の最中、アネットと夕凪は視線を交わしていない。
 見るのは怨敵たる『刀狩』のみ。
 これを討たねば新しい人生の路往きは始まらない。
 惨劇たる舞台の幕引きともならないのだから。
「刀狩よ、一つ誤りを正そう」
 故に、手当し、休息し、会話しながらも見続けたのは『刀狩』の姿。
 そしてその弱点。立ち回り、攻め筋、軌道は元より、身を包む刀身や鱗にある罅や脆い場所。
 攻撃を受けて、更に広がったその部位。
 弱点があるならば徹底してそこを攻める。戦いの鉄則であり、それが卑怯というのは戦場の厳しさを知らぬ者だけだ。
 極論、刀には刀の。槍には槍の。銃にも魔術にも弱点はあるのだから。
「それは――」
 故に、言葉を投げかける最中、一気に踏み込むアネット。
 会話もまた詐術。真に受け、油断するならばそれまで。むしろ、相手の呼吸を読み取り、隙を伺う為にあるものだ。
 踏み込み、振るうアネットの剣は高速斬撃。
 迅をもって成り、鋭となって敵の身へと奔る。
 正確無比なる剣技。迅雷の如く駆け抜け、『刀狩』の弱点を精密に捉えて、鋼の身を斬り砕く。
 ただ微かに空に残るのは青い光だ。
 それは残像。刀身に施された滄溟晶の色彩。
 妖異の龍たる『刀狩』を斬り裂きながら、白刃よりも誇るべきものとしてその彩を輝かせるのだ。
 無粋なる猪武者などではなく、武芸を研ぎ澄ました武人であると。
 幾人もの仲間に認められ、信を寄せられ、今も刃を振るう者であるのだと。
「――鈍らの何が悪い?」
 高速で動き、霽刀を振るうが故に傷口が開くアネット。
 血が零れる熱さを肉の奥、鼓動の近くで感じながら、なお踏み込み、差放つは刺突の一閃。
 青き軌跡は、夕焼けの赤光さえ塗り替えるように。
 深く『刀狩』の身を穿ち、刀身の背に掌を当て、そのまま上へと斬り上げる。
「ほう、鈍くらが善いと云うか」
 応える『刀狩』の意識は今やアネットへと集中している。
 追撃を頼んでいる夕凪もまた驚異だが、先んじて切り込むアネットを封じれば、止まった所で二人諸共を貫けるとみているのだ。
 今まで喰らい続けて来た武具。妖刀はいうに及ばず、薙刀、槍、大太刀を次々と鱗から出現させていく『刀狩』。
 己は龍として爪を振るい、受け損ねたアネットの肩を斬り裂くが、決して異邦より来たる武人は止まらない。
 黒き瞳にあるのは、ただ一人の決意ではないのだから。
 様々な者を、色々な世界を見て来た。
 故に、強さの質もまた。
「鈍らに過ぎぬ者が、持ちうる知力・胆力を駆使し」
――才なきが故に、嘆くよりも遙かなる鍛錬を詰みし者の強靱さ。
 それを知るが為、こうして妖刀からなる『刀狩』の身を斬り裂くに至るアネット。
 ガラスが砕けるように砕け散る『刀狩』の身には、如何なるモノが宿っているというのか。
 ただ美しく、多才なる芸に彩られているだけでは、足りないのだ。
「努力や練磨を重ねた末に本物と並び立ったなら……」
 それを知っている。己ではないが、凡夫が英雄を越える瞬間を。
 だから自らも、それに続けると思うのだ。飛翔する翼は皆、平等に与えられている。
 その魂に。
 形こそ違えど。
 必ずや、輝く何かを持っているのだと。
「それは名刀より遥かに価値がある」
 鞘に納めるは霽刀【月祈滄溟】。
 これほどの斬鉄を成して、なお震えず曲がれぬ刀身は、振るうアネットの技にこそ芯があり。
 そこらの鈍くら、数打ちとて『それ』が持てば名刀へと変える剣術と、それを支える信念。
「ああ、お前には判らないだろう」
 前傾し、力を蓄えるアネットが告げる。
 構えは居合。神速による抜刀と見て、『刀狩』が迎え撃つ。
「我は狂念こそ、全てを断つ刃と信じるが故に」
 成る程。ならば悲しいと。
 僅かに湧き上がった想いを振り切るが如く、闘気を纏ったその姿が神速となって駆け抜ける。
 迫る妖槍の群れを一気に踏破するアネット。
 音の壁をその身で破り、瞬きも呼吸も付かぬ間に擦れ違った瞬間、鞘走る一閃が屠龍の刃を成す。
 刃は音も風も起こさない。全てを越え、斬り伏せているから。
 ただ滄溟の煌めきが、刀身が散らした残光としてあるのみ。
 見えぬ。故に判らぬ。
 ただ振るわれた斬閃が、真一文に『刀狩』の身を斬り伏せたという事実だけがあるだけ。
「肆式・零斬」
 翻る霽刀の切っ先が、再び、鞘へとするりと収まる。
 何事もなし。ただ、剣で斬られた者は儚く、無常に散るのみと。
 或いは遺りて燦めく青の斬光こそ、アネットの辿った武人の道と、想いそのものなのかもしれない。
「――そうであれば、余り悲しいだろう?」
 絆を斬り、情を断ち、でなければ鈍くらである。
 想いなど不要と、自ら捨てていく様は、錆び往く銘刀の末路のようで。
「お前が記憶を、大切に思うモノを踏み躙る理由も、また判ったよ」
 斬られた事に気づき、驚愕で止まった身へと、夕凪の黒刀がそのアネットの斬痕を辿り、傷口を抉るように刀身の身を砕いていく。
「記憶の、感情の強さを。それが名刀を越えるものに至らせると、知らないのだな」
 或いは、骸の海での遙かな時の中で。
 忘れ果ててしまったものなのか。
 解りはしない。ただ、討つべき相手へと、夕凪はその刃を滑らせ。
 僅かな憎しみも悔いも残さずに。
 過去を断ち切り、新たなる風へとなろうとしていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

鷲生・嵯泉
こそこそと隠れ動く様は腐った残滓には相応しいが
竜を自称するなぞ嗤えもしない
此れ以上お前如きに何をもさせん

身を刀が覆うとあれば解り易い
反射光のブレ、触れ鳴る音の不協、刀が持つ元より弱い点
知識と勘を集中させて見極め見切り
機をずらし重ねた衝撃波となぎ払いの連撃加えて隙を抉じ開け
――漂簒禍解、宿れ獄炎
鎧う鱗を突き通してくれる
内を流れるものが何であろうが「流れている」ならば悉く灼き尽き『止まれ』
……後は折れぬ祈りの刃が片を付けて呉れよう

罪を雪ぐとは咎を消す事では無い
身に確と刻み、戒めと忘れぬ為に成す事
其の重さを識ればこそ、護るべきものの重さも、斬るべきが何かも
生きる為の途行きも――見る事が叶おう



 石榴のような赤い隻眼は、ただ、その存在を見つめている。
 妖剣に宿っていた猟書家にして、巨大なる妖異。
 だが、影にてこそりと隠れて回るがその姿の真実。
 光を当てられば、生きては往けぬ残滓に他ならない。
 だが、よりなもよって。
「竜を自称するなぞ嗤えもしない」
 吐き捨てるように口にするは鷲生・嵯泉(烈志・f05845)。
 苛立ちからか、煙草を取り出すや否や、火をつけて吸い込む。
 薫る紫煙の匂いこそ、竜たるものを思い出させるから。
 何より、誇り高き存在こそを龍と呼ぶのだから。
 灰に溜め込んだ紫煙を空へと吐き出し、唇に加えて刃のように告げる。
「貴様なぞ蛇に過ぎん。ああ、影に隠れて動くなどまさにそれだ」
 怒りで曇るような鷲生の心ではない。
 だが、思う真実を述べる姿は、手にした名刀、秋水の如く鋭い。
「嘗て、天下泰平の為と戦を起こさぬ為に行われた刀狩り。だが、その本質を見失い、辿り着いたがこのような果てとはな」
 農民たちから狩り取られた刀は、大仏殿や神仏の鎹、釘として扱われた筈だ。
 ならば斯様な妖怪と変じる筈がなく。
 過去より浮かび上がった残滓。怨念あり、悔恨あり、尽きぬ昏き情動こそが本質さえも歪めているのだろう。
 ならばこそ。
「此れ以上お前如きに何をもさせん」
「好きに囀る。だが、果たして我を斬れるか?」
 全身の鱗は刀剣を始めとする武具で覆われ、更に爪や背、尾にも刃。攻守一体の姿であり、まさに刀剣の集まった妖怪。
 そこには銘刀、妖剣、呪具に至るまであると感じるからこそ。
「云っただろう。――嗤えもしない」
 故に構える鷲生。烈士の剣豪たる身、その眼、その技、その心を以て『刀狩』の姿を捉える。
 それはあくまで、無数の刀剣の集まりに過ぎないのだ。
 身を刀で覆うとあれば解り易い。
 夕焼けの光を反射するブレは、刀身の錆びと刃毀れの有無を。
 触れ掠れる音の不協和音は、朽ちて脆くなった箇所を。
 そして、元より刀という武具の持つ、脆く、弱い点。
 自分が振るうからこそ、より解る。今まで手に取り、握って振るった刀だからこそ知らされるのだ。
 刀を持って戦いに挑み、成すという事は。
 相手の刀を斬り崩し、その先へと至るという事。
 極限まで集中する神経。
 それほどの深さで今までの知識、経験、そして剣士としての勘。掻き集め、重ねて、見極め、隙を見切る。
 浅いものならば幾らでもある。
 だが、鷲生が求めるのは、深く、その存在に根付くモノまで至る一点。
 何もさせんと云った。
 ならば、この身に傷ひとつも受けてはやらぬ。
 戦場の負傷は誉れなどというが、残滓に受けたそれなど恥ならば。
 
――ぽとりと、崩れて落ちたのは鷲生の煙草の灰。

 それを皮切りに、するりと流れて滑るように。
 けれど、駆け抜けるは迅雷の勢いで踏み込む鷲生。
 瞬間で振るう剣閃は幾重にも。切っ先が紡ぐ衝撃波は、僅かに機と向きを逸らして『刀狩』へと襲いかかる。
 爪や鱗の刃で受けて弾こうが構わない。なお鋭く踏み込み、身を翻してなぎ払うは烈火の如き烈しき連閃。
 揺らめく斬光は烈しく。触れる物の一切を灼き焦がす熱を持って。
 幾重も寄せる焔渦の如き斬閃。
 熾烈なる斬撃は、擦れ違う刃から火粉を巻き起こす程。
 それが呼び起こすはただひとつ。
 たった一点へと斬撃の衝撃を収束させ、『刀狩』が纏う刃の鱗、その綻びを斬り穿つこと。
 鋭く強靱でありながら、脆く儚き刀の有り様。
 無理を重ねれば必然として砕け散り、そうならぬ為に剣士は刀を己の身体の一部とする。
 知らぬのだろう。解らぬのだろう。
 それこそが死したる残滓である証であると、秋水の切っ先を以て脆くなっていた刃の鱗を根元から斬り砕いた鷲生が告げる。
 
「――漂簒禍解、宿れ獄炎」

 一度砕けば元には戻らない。
 壊れた物。失われた物は同様に。
「この刀の鱗。元より、砕け懸かっていたぞ。いや、嘗てここを砕かれて消えたのだろうよ」
 ああ――何度でも、失われても、喪っても、戻れてしまう残滓は、故に解らず、穢れた想いで幾度をも来るのだ。
 ならばその魂を灼き尽くさんと鱗を貫き、『刀狩』の深き芯にまで切り込んだ鷲生の一刀に篭められる獄炎。
 身の深くに食い込んだ刃の齎す灼熱が、更に肉体を傷付ける事はなくとも。
 体内に流れる気を、力を、妖力を焼き払っていく。
「内を流れるものが何であろうが関係なく、興味もない。だが、『流れている』ならば悉く灼き尽き、『止まれ』」
 それはさながら地獄の業火による責め苦。
 内部から灼かれて堪えられるものはいない。
 それこそ生きるものは皆、流れる。動物の血液、樹木の水分は云うに及ばず、鉱物にとて気はあり、妖異にもまた流れる怨念がある。
 極論、星とて龍脈という流れが走るから生きているのだ。それを灼いて止まらせるという事は、死滅させる事に他ならない。
 ただ最早、鷲生は片手で獄焔を篭めた刀を握り。
 もう片方の指先で、煙草を摘まみ、煙を吐息から零すのみ。
「……後は折れぬ祈りの刃が、片を付けて呉れよう」
 そう、止まりさえすれば。
 祈り、願い、想いを掲げた夜色の刃が、『刀狩』の眼前へと躍り出る。
「その瞳で捉える最後の姿と景色、心得なさい」
 奔る黒の斬撃。動きの止まった刀狩の片方の瞳を夕凪が斬り裂き、更に身ごと刀を翻す。
 口にも一閃。舌を狩り取らぬのは、閻魔が役目と心得ているからか。
「罪を雪ぐとは咎を消す事では無い」
 ぽつりと、鷲生は言葉を零す。
 これは選別。旅路を行く夕凪へと、迷わぬようにと先達として示すべく。
 総てを喪った――ああ、でも今がある。護るものがある。
 ならば努、忘れてはならぬ事なのだ。
「身に確と刻み、戒めと忘れぬ為に成す事」
それが如何なる痛みをもたらすものであれ。
「其の重さを識ればこそ、護るべきものの重さも、斬るべきが何かも」
 決して忘れない。大事なものを。尊ぶべきものを。
 愛しき、夢の名残りを。
「生きる為の途行きも――見る事が叶おう」
 それは点滅するような、揺らぐ炎のような。
 幾度となく繰り返す痛み。愛しき、哀しき。けれど、決して唇に乗せぬもの。
 黙して、秘して、顔にも出さず。
 瞳を曇らせる事なく、途行きの先を見据えるのだと。
 鷲生の刃のように鋭い声に夕凪はただ頷くのだった。
 振り返ることなかれ。
 ただ黙した瞼の裏に、罪となった過去を浮かべ。
 己の過去を消さず、明日へと背負い往き続けろと。
 天下泰平の理。
 刀を狩るが変わり、民の平穏を約束した成れ果ては。
 その大切なる過去と罪を喪ったから、斯く在るのだから。
 こうならぬと、決めるのだ。
 過去の残滓に、溺れるなどあってはならぬが故に。
 それを抱き締めていよう。
 斜陽の赤い世界の中、石榴の隻眼が映すのは、果たして。

 夕凪という娘の先か。
 己の進みし途か。
 
 どちらも終わらぬが故に、始まりから悲劇、そして悲劇から今へと繋がるもの。
 折れぬ祈りの刃は、一振りにあらず。
 これから先、幾らでも明日へと向かう刀たる心が産まれるのだろう。

大成功 🔵​🔵​🔵​

御堂・茜
夕凪様!
いえ、何でもございませんわ!
素敵なお名前でしたもので
名に籠められた想いも呼ぶ者あればこそ実るもの
そのお役目、御堂達が確かに引き継ぎました
仲間として共に戦いましょう!

お手並みは我が身で体験致しましたゆえ
確かな信を置きわたくしは端役に徹します
脇腹に受けた傷も気合いで耐え
脆くなった鱗を怪力と暴力で剥いでいきます
我が眼には悪しき氣の綻びが視えるでしょう
この刀が鈍らでない事今一度確かめなさい!

赦さぬ事を
心なき暴力を悪と呼ぶのです
お前の事ですよ、刀狩!
何も斬らずにすむ人の世は
凪いだ海は美しいではありませぬか
千本も刀を集めそれが判らぬとは…愚かです!

UC【大一大万大吉】
御堂の正義、夕凪様へ託します!



 その名を呼ぶからこそ。
 継承される志と義は、熱く燃える。
 貴方に託した。貴方に渡された。
 だからこそ、決して穢す事なく、尊びてよりよき光を。
 命と共に、名は連綿と受け継がれ、想いを運ぶのだ。
 だからこそ。
 その名を呼ぼう。
「夕凪様!」
 明るい笑みと共に、呼びかけるのは御堂・茜(ジャスティスモンスター・f05315)。
 花の綻ぶような笑顔は嬉しさに濡れて優しい光を宿す。
 ただ正義が為に刃を振るうのではない。そこに娘らしい心も持ち合わせているのが茜。
 何かと夕凪が問いかければ、笑みの間々に首を振るう。
「いえ、何でもございませんわ!」
 そう何でも無い、当たり前のこと。
 名前を知れば、それで呼ぶのは当然なのだ。
「素敵なお名前でしたもので、つい、自然と」
 傷口を布で覆い、縛り上げて、痛みなどないと笑う茜の桜色の眸。
 悪を挫く義の刃。だが、それを携える茜はひとりの姫でもあるのだ。
「名に籠められた想いも呼ぶ者あればこそ実るもの」
 歌うように続けられる声と、踏み出す一歩。
 どんな想いを篭めて、夕凪と村人は名付けたのだろう。
 血筋は関係なく。だからこそ、誰も彼もからその名を大切にされた筈だから。
 きっと、そこに意味がある。
 呼び続ける事に、少しずつ意味と大切さが積み重なる。
 その全てが、一度、壊れてしまったとしても。

――そのお役目、御堂達が確かに引き継ぎました

 夕凪という名に結ばれた想い。
 導き続けて、必ずや実らせるのだと茜は心に決め。
「さあ、仲間として共に戦いましょう!」
 大太刀を振るい、周囲に清々しい風を巻き起こす茜の勇士。
 繊細なる姫の有り様も、戦う烈士の姿も、どちも茜の本質。
「ええ、共に戦い、共に討ち、共に明日へと進みましょう」
 夕焼けは世界を赤く染めるが、それもまた優しい色合い。
 決して血を連想させるのではなく、何処か、涙が滲んだように柔らかな光景の先で。
 千を超える刀剣を身に纏う『刀狩』が、その瞳を怒りに染めて睨み付けている。
 眼前にある全てを斬り裂かんと狂うは荒神の様。
 だが、所詮は持ち主なき、信義なき刀だと茜は断ずるからこそ。
「赦さぬ事を、心なき暴力を悪と呼ぶのです」
 一陣の風となり、数多の武具を鱗から出現させる『刀狩』へと切り込む茜。
 覚悟と気合いは裂帛の斬撃となって鋼の鱗を斬り裂く。
 ただ一刀に留まらず、連続して振るう茜の大太刀は嵐の如く。
 斬り裂き、弾き飛ばし、なお止まらず螺旋を描く切っ先の鋭さ。何の信念もなく、いいや、『刀狩』という名さえ仮のものだろう。
 何も持たず、何も宿さぬ刃をどうして恐れる。どうして断てぬと思うのか。
 茜は激烈なる斬閃を繰り出しながら、刀狩へと言葉を向ける。
「お前の事ですよ、刀狩!」
「ええ、その身に宿す妖刀も、数多の悲劇と惨劇を踏み台にして作っただけ」
 苛烈なる茜の剣撃の嵐で斬り払われた『刀狩』の刃を潜り抜け、その懐へと飛び込むや否や、黒刀を瞬かせる夕凪。
 鋼の斬り裂かれる音色が澄んでいるのは、刃を振るう者の心の洗われか。
「決して、お前は何も抱いていない。何も受け継がず、何も感じず、大義と掲げるものもありはしないのでしょう」
 頭上から降り注ぐ妖刃を、くるりと身を翻して避ける夕凪。
 追い縋ろうとしたそれを剛の一閃で斬り砕くは茜。
 噛み合った呼吸は、ただ意志の一致に非ず。
 正義に燃える熱き魂たちを一つに束ね、皆の力を高めるのが茜が発動させている技。
 魂など解らない刀狩には、決して解らず、見切れぬ技。
 故に、如何して避けられるのか。如何して、こうも易々と己が妖刀たちを斬り砕かれるのかも、理解に至らない。
 一人は万民の為。万民は一人の為。
 掲げる理想の輝きは、ふたりの切っ先に宿りただ妖しき刃を朽ち果てさせていく。
「お手並みは我が身で体験致しましたゆえ、確かな信をおき、わたくしは端役に徹します」
 言葉は控え目に。けれど、切り込む姿は激烈なる気合いをもって。
 心の有り様こそ、真に携える刀だと示すように。
「端役だと、数多の刀剣を斬り砕かれる身で」
 微笑みに似た、信頼に満ちた声が。
「――茜様。……ああ、確かに、名を呼ぶ事のなんと素敵な事でしょう」
 自らの名を呼ばれた事に、喜び、よりその剣気を滾らせるのだ。
 ただそれだけ。
 ただそれだけで、こんなにも喜べる魂こそ、人の強さ。
 それを宿す刀が鈍らではない事、確かめてみせよと。
茜の眼に映るは悪しき気の流れ。
 けれど、『刀狩』の身の所々で滞留して淀み、綻びがある。
 正義の量を調べるだけではなく、その眼は悪しき者を捉える為に。
 妖気通わず、脆くなっている鱗を剥ぎ取るように斬り抜いて、気迫をもって抉り飛ばす。
 幾度も、何カ所も、脆弱となっている部位を攻められた『刀狩』。
 元を云えば、名を喪い鬼となっていた夕凪へと呼びかけられた声がもたらした、薄らぎし呪いと影。
 更に猟兵の刃が突き立て、夕凪が黒い疾風のように刀を振るう。
「何も斬らずにすむ人の世は」
 全身と全力をもって、突撃するような刺突一閃。
 大太刀によるそれは鱗を穿ち砕き、諸手を添える茜は更に身を翻す。
 釣瓶の地より跳ね上がる切っ先が描くのは、まるでふたつの下弦の月。
 冴え冴えと瞬く刃。
 けれど、確かなる剣光を以て世に示す、茜の正義の太刀筋。
「凪いだ海は美しいではありませぬか……!」
 だが、何も斬らぬ事の方がよい。
 全ての刀は鞘に納まったまま、日々を過ごすべきなのだ。
 信念をもって芯を持ち、想いにて研ぎ澄まされ。
 なお、抜かれぬ刃こそ至高と断ずるから。
 断ち斬るということは、受け継がれた志さえも斬り散らしてしまうではありませんかと。
「千本も刀を集めそれが判らぬとは……愚かです!」
 それこそ、千の心を集めた者ならば誠の龍であろう。
 武勇は天を舞い、決してこのように斬れる相手ではなかっただろう。
 だが、現実は愚かに眼を閉じた妖怪がいるだけ。
 地擦りから跳ね上げられた大太刀が、今度は反動を利用して大上段から烈火の如く『刀狩』の身へと振り下ろされる。
 ごうっ、という音は刃が立てたのか。
 それとも、茜たちの燃える魂こそが奏でたのか。
 ただ、今はひとつ。
 言葉と共に、夕凪ぎへと。
「御堂の正義、夕凪様へ託します!」
「承りました」
 流転する月の如く。
 くるりと身を翻して舞いて。
 掛け抜けて過ぎ去る勢いを乗せ、流麗なる黒き斬閃を描く夕凪。
 それは茜の言葉の通り。
 凪いだ海を表すように、美しく、静かなる斬刃。
 呪いも、悔いも、憎しみも。
 何事にも魂を囚われず、穏やかなる侭に。
 茜が正義を受け取り、己が志として、夕凪はその新しき一歩と共に、刀を振るっていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

紫・藍
未熟でっすかー。
他人の言葉に揺れるなどと、未熟でっすかー。
ええ、ええ、ええ、ええ。
そこまで言うのでっしたら見事、揺らして差し上げるのでっす!
藍ちゃんくんとファンの皆々様方の言の葉で!
――物理的に!

歌もファンコールも楽器演奏も音波でっすので―。
怒涛の音声が全身の刃を揺らし振動させ、お身体にさわるのではー?
いくら鱗で覆った所で、音波は弱まってる部分にも伝導してるでしょうからねー。
その上弱った身体を強化するというのは、負担も大きいのでは―?
ではでは金属疲労させつつも、音波で割れ目も検出しちゃいまっしょうかー!
そこなのでっす、夕凪のおねーさん!

UCは藍ちゃんくんを摘んで動かしな回避補助にも使用!



 他人の声に、言葉に揺れるなど未熟。
 それは鬼ならばの話。
 確かに悪鬼が人の情けに、悲しさに涙するなどそうかもしれない。
 けれど、目の前にいるのは人。
 揺れて、揺らめいて。その形と有り様を変えたのは、人の心。
「未熟でっすかー」
 だから、それは違うのだと藍は声に込めて。
「他人の言葉に揺れるなどと、未熟でっすかー」
 ええ、ええ。
 ならば構わない。云った言葉を反するようの者ではあるまいと。
 頷いてあげよう。そして、届けさせてあげよう。
 この歌を。この声を。
「ええ、ええ。そこまで言うのでっしたら見事、揺らして差し上げるのでっす!」
 何を以てと云われれば、ただひとつ。
「藍ちゃんくんとファンの皆々様方の言の葉で!」
 吸い込む息は深く、何処までも強く。
 秘めたる想いを表すべく瞼を閉じるのは、歌唱の花形。
 ぱんっ、と手を叩けば、そこには居ない筈のファンたちの姿。
 幻にして、霊魂たる確かなるもの。
 その想いが形を結ぶ、藍の優しさと祈りに憧憬を向ける存在。

「――物理的に!」

 藍を慕うスピリチュアルなファン達が奏でるのは、熱狂的なコール。
 藍の歌を乗せ、楽器の狂騒も共に、指向性のある音の津波として『刀狩』へと殺到させる。
 歌もファンコールも、楽器演奏も全ては音波。
 怒濤の響きは『刀狩』の全身の刃を揺らし、自らの刀剣をもって、三塚からの鱗を傷付ける。
「お身体にさわるのではー?」
 歌の合間に、くるりとステップを踏んで告げる藍。
 幾ら鱗で覆った所で、音波は弱まり脆くなった場所にも伝導しいてるのだ。僅かに、けれど確かに瞳に苦しみの色を乗せる『刀狩』。
「その上弱った身体を強化するというのは、負担も大きいのでは―?」
 本当はどうかは不明。
 代償のないユーベルコードであれ、長所があれば短所もあるのも事実。
 世に絶対は有り得ないのだから。
 そのひとつ、ひとつを歌で、言葉で揺らして見せる藍。
「では、ではっ。金属疲労させつつも、音波で割れ目も検出しちゃいまっしょうかー!」
 僅かでも割れ目があれば、それを逃しはしない。
 反響する音を捉え、弱まったその部位を決して見逃さず。
「煩く囀るモノだ」
 薙ぎ払われる『刀狩』の尾の一撃。けれど、ファンの放つコールが藍の身体を抱き締め、紙一重で空へと避難させている。
 何より、攻撃の為に動いたからこそ、隠していた弱点を晒す事になった『刀狩』へと。
「そこなのでっす、夕凪のおねーさん!」
 駆けつけるや否や、疾走の勢いを乗せて一閃を繰り出す夕凪。
 ばらばらと崩れる刃の鱗。その奥の身体、芯にまで響く刃と、反響音。
「揺れてますねー。未熟ですねー。自分の言葉が、そのままそっくりー。返ってきてしまいましたねー!」
 ひらり、くるりと空中でパフォーマンスを取りながら、歌い続ける藍の姿。
「千もの刃を喰らって、なお未熟なっらばー」
 ギザギザの歯を見せて、笑う藍。
「何をすっれば、あなたは真打ちの姿になっれるのでしょーかー?」
 挑発めいた藍の歌声は、『刀狩』の身体を揺らし、その心と精神を削っていく。
 決して、お前は何にも成れないのだと。
 自分が誇れる姿を何も示せず、ただ、相手を貶すだけの存在など。
 この歌から、逃れる事は出来る筈がない。

大成功 🔵​🔵​🔵​

館野・敬輔
【SPD】
アドリブ連携大歓迎

…夕凪、か
いい名だな

ああ、君はそれでいい
復讐に染まり…その果てに絶望に堕とされた俺のようにはなるな
幸せを、生きる希望を、その手で掴め!

もし刀狩を己が手で討つなら
俺は君の盾になる
…復讐者を超えてその先の幸せを見出せ
幸せを歪め、闇に、絶望に、鬼に堕とす奴を討て!!

刀狩、貴様は人の感情を甘く見過ぎている
刃は斬るためだけのものではない
…未来を切り開くためにもある!
夕凪の手を汚した罪、その身で贖え!

指定UC発動
基本は「カウンター」狙い
夕凪を、俺を狙う刀を「戦闘知識、視力、第六感」で予測し把握
「武器受け」で受け止めたら即コピーし反撃
容赦ない刀の雨でその身体を斬り刻む

止めは夕凪に



「……夕凪、か」
 この戦いの最中、何度その名を呼ばれただろう。
 一度は喪い、けれど、取り戻した大切なもの。
 いいや、取り戻させたくれたもの。
 それが有る限り、夕凪は復讐者へと墜ちる事はないのだろう。
「いい名だな」
 館野・敬輔(人間の黒騎士・f14505)の声に、応じるように振り返る夕凪の姿。
 先ほどの鬼となっていた時とは打って変わり、白髪に青い瞳。
 それは恐らく異邦の存在。村人にとって、一目で解る異なるものだっただろう。けれど、受け入れたのだ。
 優しく触れて、、この名をくれて。
「ええ。だからこそ……名に恥じないように、生き抜くつもりです。穏やかなる、凪いだ世界に佇むべく」
 応える夕凪は激戦を潜り抜け続けて、肩で息をする程に疲弊している。
 消耗しているのは『刀狩』も同じくだが、猟兵ではなく、本物の戦場を経験している訳でもない夕凪の疲労も著しい。
 だからこそと、前に進み出る。
「ああ、君はそれでいい」
 黒剣を構え、正面から『刀狩』へと挑もうとする敬輔。
 憎きオブリビオン。ましてや、人の心を弄ぶ者など、決して赦せはしない。
 だが、だからといって。
「復讐に染まり……その果てに絶望に堕とされた俺のようにはなるな」
 それは復讐の闇に染まった敬輔だから言える事。
 光を失えば、それを取り戻せるとは限らない。
 それこそ、夕凪が己を取り戻し、その足で立っていられるのは、手繰り寄せた奇跡でもあるのだから。
「幸せを、生きる希望を、その手で掴め!」
 そうである以上、幸福と希望の中を進んで欲しい。
 復讐者とて祈る事は許されるだろう。
闇に堕ちた中とて、願いを託す事は認められるだろう。
 そう示すべく、夕凪の前に立ち、黒剣の切っ先を『刀狩』へと向ける敬輔。
 もしもとは、云う必要もないだろう。
 刀狩を夕凪の手で討つというのならば。
「俺は君の盾になる」
 蠢いて、迫ろうとする妖刀の群れに、真っ向から切り込もうとする敬輔。
 赤い瞳は、今、この時だけは誰かが為にと、情を見せぬ黒き復讐の騎士のものではなく。
「……復讐者を超えてその先の幸せを見出せ」
 尽きせぬ悔恨。終わらぬ憎悪。
 その中より解き放たれる事を望む、騎士の姿となるのだ。
「幸せを歪め、闇に、絶望に、鬼に堕とす奴を討て!!」
 幸福をこそ求め、他人の笑顔の為に剣を振るう者こそ誇らしいのだと。
 その想いは、決して闇の底から湧き上がったものではないと解るからこそ。
「ええ。ただ、ただ、真っ直ぐに。過去は変えられずとも、明日をどう生きるかは決められる。今、この瞬間にどの道を選ぶかも」
 だからと夕凪は敬輔の後ろへと立つ。
 切り込み、道を作り、復讐の汚泥から抜け出す道を拓いてくれるというのなら。
 続こう。そして、自分達のような者を決して新たに生み出さないように。
 この命と、刃を持って。
「刀狩、貴様は人の感情を甘く見過ぎている」
 言葉と共に疾走する敬輔。迷いも戸惑いもなく、妖気を集めて斬威を研ぎ澄ました『刀狩』と、己が身を盾に。
 その心を、剣として。
「刃は斬るためだけのものではない」
 風切る刃の音は余りにも強烈。鋭い視力で捉え、第六感で察知した妖刀の連続攻撃を黒剣で受け止めるが、体勢ごと弾き飛ばされる。
 一撃、一撃ならば受けてもいいだろう。だが、これは妖刀の群れなのだ。雪崩れの如く攻め掛かり、相手が血煙を上げて斬り裂かれるまで続く。
 けれど、それがどうした。
 続く妖刃に肩を、脇を、太股を斬り裂かれながらも、堪えて飛び起きるように姿勢を戻す敬輔。
 赤い瞳は、決して『刀狩』から逸らさない。
 流れて迫る妖刀の群れ。一本たりとも、夕凪の元へと辿り着かせはしない。
 その為に、魂を纏った黒剣が『刀狩』より受けた技を模倣するのだ。
 瞬間、敬輔の持つ魂纏剣が跳ね上がるのはその斬撃の数。
 漆黒の剣閃を、五月雨の如く絶え間なく浴びせ、妖剣の群れを斬り払う。
 これこそが魂の剣。求める理想の為、『刀狩』の技をコピーし、その技を模倣するのだ。
 故に、妖刀の群れを斬り裂くのは今や一本にあらず。
 無数の黒剣が、妖刀を斬り裂かんと荒れ狂い、鋼の刃たちが互いを喰らい潰す凄惨なる音を撒き散らす。
「……未来を切り開くためにもある!」
「ほう、千を超える剣を真っ向から斬り伏せると吼えるか」
 故に、収束していく妖刀の刃。
 独りでに動くそれらを敬輔の元へと掻き集め、真似出来るならばしてみせろと傲慢なる龍がその瞳で睨み付ける。
 吹き上がる鮮血。斬り飛ばされた血肉。誰かを庇いながら進むには、なんと困難な道か。
 だが、その全てを斬り払って。
 敬輔が潜り抜けてきた戦いと、憎悪と呪詛の傷に比べれば、軽いのだと。
 一歩、一歩。確実に、そして加速して先へと進むのだ。
 荒れ狂う剣戟を掻い潜り、『刀狩』の懐へと躍り出る。
 狙うは元よりカウンター。負傷して結構。敬輔の言葉に誘われて攻勢に出た『刀狩』の守りは薄い。
 そう、誰かが為にと、戦で真っ正面から切り結んだ経験など『刀狩』にはないだろう。
 だから解らない。真っ向から斬り払われた後、そこに待つ刃の恐ろしさを。
 必ず自分は討ち勝つのだと、隠れて心を操り、騙し討ちに徹する者は自らの喉笛に迫る刃の危機にも感づけない。
 気づいた時にはもう遅く、魂纏う黒剣を諸手で振るう敬輔の姿が、すぐ傍に。
「夕凪の手を汚した罪、その身で贖え!」
 漆黒の剣閃、驟雨の如く。
 防御を半減とする代償を払っていた『刀狩』の身を無惨に斬り刻む。
 刃の鱗であれ、同じ鋼が打ち合うならば刃毀れし、罅割れ、砕けていこう。ならば、そのまま壊れるまで斬撃の雨が止むことはなく。
「確かに、道を示して頂きました」
 刃の雨の中、くるりと踊る夕凪の姿。
 放たれる黒き刃は、切り拓かれた未来の先へと進むべく。
 夕暮れの迫る中、悪龍の魂を断つべく振り抜かれた。
 そう、その先へ。幸せと希望のある所へと。
 これから来る月は、その白い光をもって、道を照らすのだろうから。

大成功 🔵​🔵​🔵​

フォルター・ユングフラウ
【古城】

【WIZ】

因縁は己の手で終わらせる、か
ふん、面白い…手を貸してやる
生きる意味を見つけたのならば、二度と手放すな

流石は蜥蜴、頭の中身も相応だな
ここには、貴様の求める業物なぞ存在せぬ
貴様を討ち倒して生きていこうとする娘がいるだけだ

…問答の時間も無駄であろうな
UCを使い、戦闘に移ろう
さぁ、我が威容に平伏せ
貴様如きの攻撃、この巨体を揺るがす事は叶わぬ
今のうちに我の上を往け、トリテレイアに夕凪よ
騎士の一撃が奴の羽を粉砕すれば、我が腐毒で御自慢の鱗を朽ち果てさせてやる

元来刀とは、刀匠が心血を注いで鍛え上げるもの
絆を取り戻した夕凪こそが刀であり、貴様如きは、我に潰されるだけのなまくら以下の存在よ


トリテレイア・ゼロナイン
【古城】
為すべきを見出されたようで安堵いたしました
その道を切り拓く一助として
助太刀いたします、夕凪様

…あの方は圧倒せねば気が済まぬ質ですので

時間は掛けられません
有事の際はこの蛇体を駆け九頭を斬り落とすこと期待されている以上、移動は慣れたもの
敵の元へ先導いたします

(センサー情報収集+見切り+地形の利用)

攪乱…照準干渉?
私の護り(電子防御)を抜かせはしません
(放出妖刀を格納銃器と剣盾で叩き落し)

情無き器物こそ機能に優れる…
その主張は戦機として認めましょう
ですが…
(推力移動と限界突破怪力の大盾殴打で背の羽を粉砕
地に叩きつけ大蛇に繋げ)

その所業は悪にして、人の世はそれを阻む情で成り立つ物
さあ、一刀を!



 傲慢なる瞳が、空と地で衝突する。
 赤く、赤く。
 地上のそれは、妖しき血花の色艶を帯びて。
「蜥蜴風情ではないか。まあ、よい。あれより興味をそそられるのはだ」
 囁くはフォルター・ユングフラウ(嗜虐の女帝・f07891)。冷血なる赤と黒の魔女。
 ゆるり、と流れれば傲岸不遜なる瞳が映すのは、夕凪という娘。
 黒き刀を携え、息を切らしながらもなお戦い、いいや、生き抜こうとしている。
 その姿に、僅かな微笑を漏らして。
「因縁は己が手で終わらせる、か」
 愛でるような声色。
 それでいて、冷酷なる気配に反して温もりがある気がして。
「ふん、面白い……手を貸してやる」
 黒の衣装を翻し、機械馬から飛び降りるフォルター。
 気紛れか。それとも、何処かに情が沸いたのか。
 多くを語らないからこそ、フォルターの真実は掴めない。或いは、本人にとってどうでも良いことなのかもしれない。
 優しさなど意味がない。
 穏やかであってなんとする。
 だが、だか。先に『夕凪』の名を見つけて、告げた時の言葉が真実ならば。
 血濡れの瞳の先に、災い以外の者を捉えたという事なのかもしれない。
 そのような真実、フォルター自身がどうでもよいと笑う事であっても。
「興が乗った。ああ、何も対価などはいらぬよ。実に良いモノを見て、巡り会えた」
 今は空で踊る龍、『刀狩』を睨むだけ。
 その傍で仕える騎士のように、その白い戦機の身体で佇むはトリテレイア・ゼロナイン(紛い物の機械騎士・f04141)。
「為すべきを見出されたようで安堵いたしました」
 まるで正反対。優しさと正しさ、穏やかなる騎士の声色を、機械の声で語るトリテレイア。
 だが、酷い矛盾だというのに違和感を抱けないのは何故なのか。
 夕凪には、この二人が判らない。自らの名を拾い上げて、それこそ魂を汲んで抱き締めてくれたような二人なのに。
 いいや、だからこそ。
 判らないからこそ、進むのだ。
「ええ。何が待つのか。私と、別の何方かは別の『しあわせ』を求めるでしょう」
 見出したのは様々な色彩の想い。
 鮮やかなる信念は輝く星達のようで、何が正しい、だなんて夕凪には決められない。
「だからこそ、自分の足で進みます。村の『みんな』を背負って。生きて、生き抜いて。……間違っていると思うならば、それを糺す剣であろうと」
 殺すのではなく。
 自分がそうしてくれたように、導く事が出来たのなら。
 それこそ禅問答。活人剣とは何かというようなものだから、一生悩む事にするのだと夕凪は微笑んだ。
「その道を切り拓く一助として」
 そこに未だ、刃の鋭さが残るとトリテレイアは見るからこそ。
 想いというものが、自分に理解出来ているかは怪しくとも。
「助太刀いたします、夕凪様」
 全てを晴らすべく、ここに力を尽くそう。
 想いは消えない。ならば憎悪も悔恨も。だが、迷妄の闇は晴らせる筈だと、信じ抜く事がまず第一歩。
 きっとそうだと。
 そうでなければならないと、トリテレイアはフォルターを見つめる。
 細身からは想像も付かない程の殺気を漏らし始めた彼女に、夕凪が僅かに目を細める。
「……あの方は圧倒せねば気が済まぬ質ですので」
「そのような方もおりますものね。ええ、刀狩には、私も圧倒せねば気がすみません」
 ある意味、緩やかにも思える夕凪の言葉使いも、その『圧倒』の理由があるのかもしれない。
 お前には決して、これ以上、何も奪わせず、削られせないのだと。
 だが、此処で真に怒りを露わにするのはフォルターなのだ。
「流石は蜥蜴、頭の中身も相応だな」
 怒気と殺意を隠す事なく『刀狩』へと向け、告げる魔女の宣言。
 侮辱に『刀狩』の瞳が爛々と輝くが、まるで意にも留めずに語り続けるフォルター。
 圧倒せねば気がすまないとトリテレイアが云った通り。
 その存在を踏み躙り、蹂躙して、壊し抜かなければ気がすまないのだ。
「ここには、貴様の求める業物なぞ存在せぬ。ああ、眼も錆び付いて判らぬか。耳も朽ちて、聞こえぬか」
 渦巻く声と気配は魔力となり、フォルターの影の形を変えていく。
 この程度も判らぬのかと。
 それで龍を名乗るなど、恥を知れ。
「貴様を討ち倒して生きていこうとする娘がいるだけだ。その命に、想いに、愛いとも感じられぬ思わぬ蜥蜴の頭と心よ」
 脳と同様、その心臓もさぞ小さかろうと。
 尊ぶべきものを知らぬ、輝きを判らぬ愚劣さにこそ、怒りを露わにするフォルター。
「ああ……問答の時間も無駄であろうな」
 故に速やかに。
 もうこれ以上、何も穢させぬ為に。
 ただねじ伏せてやると、腐爛の血毒が脈動する。
 それは異貌への変身。血液が沸騰するような色彩と煙を立ち上らせながら、その奥から顕れるは巨大なる姿。
 九つの首持つ黒きヒュドラ。フォルターの真の姿へ変わるひとつ手前の通過点。だが、だからと劣る訳ではない。
 止め処ない暴虐の塊として、この姿を取っているのだ。
「光栄に思え─―この威容を目に焼き付けて逝ける事を」
 眼から、口から、止め処なく零れるは血のように赤黒い猛毒。
 存在するだけで周囲を腐爛させる血の邪龍が、この場に顕然したのだ。
「ほう、腐食の毒か。成る程」
 身構える『刀狩』は、その相性の悪さを感じたが故に。
 その場から一気に上空高くまで飛翔し、高度を保つ。
 だが、瞳は怒りに狂い、故に戦いを止めはしない。
 身体を侵食し、錆びどころか腐敗させるのならば、鋼の身による護りの意味はなくなる。
 だが、決して退かぬ傲慢さは、龍たる者の性なのか。
「龍を屠りし刀も、また、素晴らしい業物へと至る」
「蜥蜴の下郎が。貴様如きの攻撃、この巨体を揺るがす事は叶わぬ」






 僅かな言葉の応酬の間、フォルターの頭上へと駆け抜けるのはトリテレイアと夕凪だ。
「時間は掛けられません。敵の元へと先導致します」
 九頭龍となったフォルター程ではないとはいえ、『刀狩』もまた龍という巨体に加えて、飛翔している。
 致命傷、ないし痛打を負わせるならば、高所を取らねば始まらない。
 そして、最も警戒すべきモノを、『刀狩』の羽は秘めているのだ。
「有事の際はこの蛇体を駆け九頭を斬り落とすこと期待されている以上、移動は慣れたもの」
 鱗のひとつひとつが地形のようなもの。駆けるトレテイレアはセンサーで捉え、最短を駆け抜ける。
 その後方で、僅かに眼を細めるのは夕凪だ。
「それは、つまり――刎頸の交わりと」
「……いえ」
 どうなのだ。フォルターがもしもの場合は容赦なく首討つ事を決めている。誓っている。
 だが、その際に返り討ちにされて、果たしてフォルターもトリテレイアも納得するのか。悔いはないか。
 いいや、違う。夕凪が云っているのはそうではないと理解するから。
 もしも――トリテレイアが何かあり、フォルターが討たねばならくなったら。
 それこそ、万が一。
 それでも、誓う以上は対等なのだから。
「あなたは、彼女に殺される事を良しとするのですか?」
 穏やかなる声は、騎士の懊悩を増すからこそ。
 妖しき幻惑は、その刹那に滑り込むのだ。

「あなたは、彼女をひとり残すことを、よしとするのですか?」

 或いは、貴方がただ独り、残ることを。
 その神殺しの剣と共に。







「ならば」
 もはや容赦も出し惜しみもないと、広げられる羽より射出される妖刀の群れ。
 十や二十では聞かぬ数が、幻惑の輝きを帯びてフォルターの身体を射貫いて斬り裂くべく飛翔する。
 何れも妖念を帯びた刃。フォルターの鱗を斬り裂き、その身の深くまで突き刺さって抉る刃。巨体ならば身体の内部から抉り斬るという算段。
 だが。
「どうした。その程度か」
 激痛はあれど、嗜虐の笑みを龍頭にて浮かべるフォルター。
 その身は骨をも腐らせる毒を持つのだ。身体を斬り裂き、中に入り込んで抉るなど、それこそ自滅。
 時を待たずして、妖刀は朽ち果てよう。
 だが、僅かな焦りはある。
 妖刀が放つ幻惑の光を見て、距離感が狂う。間合いが判らない。
 時間の感覚が妙で、そも、どうしてこの身に?
 凪を洗脳して操ったものこそこの技であり、ならば、対処は無論しているのが騎士と魔女。
 ならば、フォルターが影響されているのは、自分の失敗か。
 いいや、違うと。僅かに霞む思考の中で、白と紫の色彩を思い浮かべる。

――信じているぞ、トリテレイアよ。






「くっ……フォルター、様!」
 自らの出力・演算リミットを解除する事を代償に。
 得るのは護衛機として本来の力。常に敵を捉え、電子干渉を無視し、敵の超常の力をねじ伏せる領域まで己を高める。
 トリテレイアの守りの本質であり、戦機にとっての感情でもある回路を灼き斬りながら、露わにしているその力。 
 だが、幻惑の力を全て消し去れる訳ではない。
 猟書家たる『刀狩』が代償としているのは命そのもの。元々の力の大きさと、代償の重さが釣り合わず、トリテレイアの技は機能不全。
 そも、幻惑の力は電子干渉ではなく、呪いなのだ。
 超常の力も、ユーベルコードではなく、何らかの魔術や術具ならばねじ伏せられたとしても。
「ですが、今、出来る事を……!」
 例え完全ではなくとも、幻惑の力で操られる事は阻止出来ている。
 空回る格納銃機は、遠距離攻撃の無効化は完全に成されているという事。
 ならば、出来るのはただひとつ。
「フォルター様、突き進んでください!」
 それはある種の歪つな信頼。
 何故、どうして。それを問い返させる事なく、危険へと踏み込ませる。
 いいや、相手が更にその先に踏み込むと、瀬戸際へと自らを送り込む懇願にして命令。
 幻惑の力は減衰させつつ、銃器の行使は不可能。ならばと盾と剣を振るい、飛翔してくる妖刀を夕凪と共に迎え撃つトリテレイア。
「すみません、夕凪様。フォルター様をお願い致します」
 聞き返す事なく突貫の姿を取るフォルターに合わせ、トリテレイアも盾を構える。
 勢いに抗いながら、けれど、捉えた敵の一部は必ずや。
 自らが討ち壊すべくと、大盾を破城槌の如く構える姿。
 眼前に迫るのは巨大なる刀剣の龍。自ら、その無数の刃へと飛び込もうとして。
「攪乱……照準干渉?」
 何を狙うのか。照準どころか、狙う目的さえも蝕むが呪いの禍々しさ。
 だが。此処で退かない。
 退く訳はなく、ただ前に進むのみ。
 何故ならば。
「私の護りを抜かせはしません」
 その護りは、かの魔女が為に。
 御伽の騎士がその身を投げ打つ。






 刺されて、抉られ。
 斬られて、掻き回されて腐食の血が空を舞う。
 全力で『刀狩』へと突貫した九頭龍となったフォルター。
 自らの喰らい続けた武具を鱗とする『刀狩』に対しての体当たりは、自ら槍衾へと全力で突き進んだに等しい。
「幻惑の先、血迷ったか」
 腐食の毒を血液として浴びつつも、動く事によってフォルターの身を斬り裂き続ける『刀狩』。
「いや、我の身を傷付けたのだ。その褒美をくれてやろうとな」
 錆び付き、腐って土となる『刀狩』の鱗。刀剣の一部。
 確かにフォルターの身にも深く刺さっているが、元より負傷を軽減する効果もあるこの術。騎士が突撃しろというのなら、ただするまで。
 それが、真っ向から圧倒し、ねじ伏せる結果になるという事に、迷いも疑いもない。
「どうした。我の血を、毒を、蝕むモノをもっと受け取れ。錆びて腐り、なまくらどころか、屑鉄にって、我に跪けて頭をたれよ」
 身体に刺さる『刀狩』の刃。
 更に、飛翔し続けて全身を斬り刻む妖刀の射出も止まっていない。
 いないが。
「――何故、この程度で我等が不利だと思う? 我には、かの御伽の騎士がいるのだ」
 その宣言が、空を揺るがす一撃を呼ぶ。






 激突するふたつの龍の衝撃で宙を飛び。
 けれど、その狙いを外さない。スラスタで調整し、確実に一撃を与える為に。
 自らの怪力に、巨体となったフォルターの突進。リミッターの解除も合わせて、此処まであれば十分に過ぎる。
 ただ、そう。
 夕凪に云われて、感情が動かなければ、迷い、懊悩するこの癖さえなければ。
 もっと上手くやれたのではと思うけれど。
 それをよいと笑う魔女の顔も、何故だからはっきりと浮かぶから。
「情無き器物こそ機能に優れる……」
 限界を突破した出力で、各種部位が焼き切れるアラートが鳴り響くが気にしない。これこそ機械のよい所。我が身など構わず突き走れる。
 その通りで、情無き器物こそ、自壊を厭わず、他者に構わず全力以上を振り絞れるのだから、否定はしない。
「その主張は戦機として認めましょう」
 自らの有り様がそのままだから。
 自分を否定して、何となれる。その先へと進む必要があるのだ。
「ですが……」
 振り上げる大盾。諸手で構えるそれが砕けても、自らの腕が壊れても構わないと。
 推力を吹き上げ、戦機が故の怪力を持って、大盾を槌として振り下ろす。
「その所業は悪にして、人の世はそれを阻む情で成り立つ物!」
 響き渡る轟音。鋼同士が激突し、互いを粉砕しあう鉱物の共食い。
 原型など残る筈もない剛撃は、まるで天より星が墜ちるが如き衝撃を空間に響き渡らせている。
 打ち付けた大盾は完全に粉砕され、トリテレイアの右腕の関節部分も潰れてしまった。
 だが、それでも『刀狩』を飛ばす背の羽。
 その片側を根元から砕け散らせて。
トリテレイアと『刀狩』を地上へと墜落させるのだ。
 まるで硝子の月を、その身を以て打ち砕き、墜としてみせたかのように。
 或いは、月だけでは足りぬ魔女の為と、舞い落ちる欠片は月の傍にあった星屑であるかのように。
「さあ!」
 全ては繋ぐ為。
 信じているが故に、道を過てば討つ事を躊躇わぬと誓った魔女よ。
 その魂が続き、繋がる先があると信じているから。
「フォルター様、今こそ全力で圧倒を!」
 戦機の騎士は、こうして道を作り、示したのだと、鋼鉄の壊れる音色を以て告げるのだ。
 道を過たぬ限り、貴女を護ろう。
 戦機の身にあるか判らぬ、魂という曖昧なるものを。
それは決して、護衛の機械というこの身の造りだからではなく……。






「かくして、御伽の騎士の誓いは果たされる」
 地上へと落下する『刀狩』を見つめる、九頭龍の赤い瞳。
 赤々と、爛々と。
 怒りに燃え、嗜虐に悦び、腐毒の血液滴る口を開く邪龍。
 必ずや成すと信じ抜いたが為、それに応えた御伽の騎士に祝いの言葉を胸の奥で呟き。
 続き、繋ぎ、その先へと進ませるべく、羽の半分を砕かれ、フォルターの言葉通りに蜥蜴と地を這う『刀狩』へと毒と言葉をしたらせる。
「ようやく、跪き、頭を垂れたな? よいぞ。受け取れ」
 妖刀の幻惑から成る遠距離封じ。それを解かれた今、フォルターの九つの顎から放たれるは、血液よりなお腐爛性の高い腐毒のブレス。
 赤黒い血にした瘴気をまき散らし、長年に渡り、蓄え続けて来た武具を、刃の鱗を黒ずませ、朽ち果てさせていく。
「どうした。ご自慢の鱗がより、呪いらしい色になったな。もう一度くれてやろう」
 一度では足りず、二度目のブレス。
 必ず、圧倒して屈服させるのがフォルターの質。
 味方ならばその残虐性は揺るがぬ戦意として頼もしく、敵ならば恐ろしさを駆り立てるもの。
 だが、フォルターはただ暴虐の塊ではない。
 理性あり、知性あり。想いあって、約束がある。
 手を貸そう。そう云った事に、偽りなどなく。
 むしろ、冷酷なままに、契約には何処までも忠実。
 想いが侭に、振る舞うからこそ、決して偽りの想いなどないのだ。
「元来刀とは、刀匠が心血を注いで鍛え上げるもの」
 辛うじて残った刀剣の欠片をも噛み砕いて、『刀狩』の身体から引き離し。
 鱗も武具も朽ち果てさせ、呪いの上に腐敗をもたらす。
 だが、そのような事――されて当然。
 お前のした所業とはそのようなものだと、フォルターの赤い瞳が睨み付ける。
「絆を取り戻した夕凪こそが刀であり、貴様如きは、我に潰されるだけのなまくら以下の存在よ」
 故に、赤く錆びたその姿こそが似合い。
 百を超える想いを受けて、たった一つを作り上げる。
 それこそが刀であり、また、ひとなのだ。
 想いと信念を宿した今の夕凪こそ名刀。朽ちず、砕けぬ願いがその刃となっている。
 ならば何故、フォルターにも此れほどの事が判って、なお嗜虐と暴虐に酔いしれるのか。
 解らない。
 どうして。疑問にさえ思えない。
 だが、もしも。もしも。
 そこに光という鋭利な切っ先を刺し入れてくれる人がいたのなら。
 瞬間、その時に真実の色彩と有り様をフォルターは見つけられるかもしれなくて。
けれど、それは今ではないのだ。

「さあ、夕凪」
「さあ、一刀を!」

 今はただ、情と絆という光で、闇より立ち上がった娘が、その刀を振るう。
 夜の如き漆黒の斬刃は、『刀狩』の朽ち果てた鱗を斬り裂き、その身を、その魂へと、深く切っ先を届けるのだ。 



 

 振り返れば、赤い瞳が揺れている。
「そうだ、それでいい。生き抜こうとする姿こそ、足掻こうとする姿こそ」
 お前は愛されていたのだ。
 死霊を操るものとして、その真実を知るから。
「明日へと進む歩みに他ならない。悪鬼と妖しの龍は消え、凪たる時が過ぎれば」
 その時こそ。
 真実、その時こそ。
「夕凪。大切なるその名を、次なる時と場へと持ち込むのだ」
 ならばと。
 僅かに迷いを見せる夕凪の青い瞳。
 けれど、それは決して口にしない。
 騎士と魔女の誓い。双方向にして、歪なる信頼からなるそれ。
 それは、どの方向を向き、どんな明日と『しあわせ』を求めているのだろう。
「生きて旅をすれば、それは判りますか?」
 それが何を指す言葉なのか。
 主語も何もない、滅茶苦茶なものだとしても。
無言こそが、何よりの肯定。

――『しあわせの欠片』を、拾い集めるように、皆必死で生きているのだから。
 
 惨劇と悲劇は此処にて終わり。
 祈りと旅路が、此処から始まる。 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ヴォルフガング・ディーツェ
クロウ◆(f04599)
アドリブ歓迎

…それで良い、夕凪
不幸への耽溺は己を腐らす毒でしかないのだから
…強いな、君は

再び【指定UC】で世界を書き換えクロウと夕凪の援護を
思う存分戦っておいで、背中は守るよ
併せて俺は技能を用い氷のルーンを多重展開
氷刃として刀狩りに降り注がせ、特に脆くなった鱗や角爪を狙い破砕
精神を蝕む呪殺も乗せ、その精神を犯し行動抑制を狙う
しかし嗤わせてくれるな、刀狩の小僧?
貴様の殺人剣は2人の活人剣の足元にも及ばない、それは明白だろうに

全てが終わったら2人の頭をぐりりと撫で
…村人達のお墓、作りに行こうか
大丈夫、俺達は世界を渡れるグリモア猟兵
此れから幾らでも君に付き合うよ、ね、クロウ?


杜鬼・クロウ
ヴォルフガング◆f09192
アドリブ◎

あァ、何度でも呼んでヤるよ
夕凪
もう零すなよ
お前は独りじゃねェ
俺達もいる
お前の倖せの為に、夕凪のこれからの未来の為に
力を揮うわ

(ハ、振り返る必要はねェってか
頼もしいこって)

ヴォルフガングへ目配せ後に笑う
前だけ見据え

心あればこそ
言霊には更に力が宿る
夕凪には俺達の想いが通じたが、
テメェにはきっと一生分からねェだろうなァ!

手袋代償に【無彩録の奔流】使用
ヴォルフガングと息合わせ
敵の妖刀に黒焔の螺旋剣で疵を重ね
激しい剣戟
柔い鱗など鋭く貫き体力削る
心の像を穿つ

頭撫でられ思わず瞬き(普段は撫でる側
少し口尖らせ(照れ隠し

…俺の台詞取るなよな
無論だ
夕凪の今の姿、見せに行こうや



 そう、何度でも。
 もうそれは失われたものではなく。
 取り戻され、抱き締められたものだから。
「あァ、何度でも呼んでヤるよ、夕凪」
 大切で大事な名を呼ぶ杜鬼・クロウ(風雲児・f04599)に、振り返った夕凪は緩やかに微笑んでみせる。
 影がないなんていえはしない。
 悲しみが色褪せるなんて、ありえない。
 だとしても微笑んでみせる貌は美しく、青い眸は光を宿しているから。
「もう零すなよ、お前は独りじゃねェ」
 左右で異なる色彩を持つクロウの眸も、強く、優しい艶を帯びるのだ。
 闇より引き戻したそのふたりと共に。
 新たなる一歩を始めよう。
「俺達もいる。お前の倖せの為に、夕凪のこれからの未来の為に、力を揮うわ」
「ええ、ええ。……あくまで、これからの倖せの為に」
 もう零さない。失わない。
 抱き締めて、生き抜いて、足掻き抜いてでも倖せになってみせる。
 そう想いを決めた貌は、ヴォルフガング・ディーツェ(花葬ラメント・f09192)の赤い眸から見ても、確かに輝いているから。
「……それで良い、夕凪」
 花喰ふ狼たるヴォルフガングの声も静かに、慈しみを滲ませて。
 狂う事こそ倖せかもしれない。
 だが、そうではなかったのだと、紡いだ魂達の旅路を見つめる。
 これからなのだ。
 ここで、新たなる始まりなのだから。
 不幸への耽溺は、己の心を腐らす毒でしかないのだから。
 そこに新たなる風が吹き、草花たる感情を揺らすというのなら。
「……強いな、君は」
「それは、貴方たちこそ」
 褒められて、僅かに嬉しそうに頬を緩める夕凪。
 ヴォルフガングとクロウの二人を、眩いと思う程に尊敬するから。
 絶望から救ってくれた青年に、どうして憧憬の念を抱かずにいられるだろうか。
 なら、枯れぬ罪は今は奥深くに仕舞い込み。
 仁義を通す腕と背こそを見せよう。
 並び立つからこそ、三人の吐息はより深く、思いと共に重なっていく。
 そう。今、成すべき事はただひとつ。
 ヴォルフガングの指先が虚空をなぞれば、周囲に放たれるのは電脳魔術によるナノマシン。
 世界の法則をこそ調律し、機巧の樹國を小さな、けれど確かなるひとつの領域として展開する。
 ひらり、はらりと散る花びら。
 永久に、永遠に、枯れる事もなければ、尽きる事もない。
 ただ、今はクロウと夕凪の背を押し、祝福するように降り注ぐのみ。
 そしてその花びらの色と形は、まるで杜若。
 クロウの好むその花が持つ言葉は。

――幸せは必ず来る。

「思う存分戦っておいで、背中は守るよ」
前衛魔術師であるヴォルフガング。
 けれど、此処はクロウに全幅の信頼を寄せて任せるのみ。
 その祝福と先触れに押されて、クロウも微かに微笑むのだ。
(ハ、振り返る必要はねェってか)
 手袋を脱ぎながら、ヴォルフガングへと目配せするクロウ。
(頼もしいこって)
 ならばこそ前を向こう。ただ、真っ直ぐに。
 討ち果たすべ『刀狩』。その片方の羽は砕け散り、鱗は朽ちて砕かれ、眼球も片方を斬り裂かれている。
 それでも怒りを滲ませ、身を震わせて奏でる刀剣の怨嗟の声。
 荒ぶる龍の魂は、尽きるまで惨劇を撒き散らそうとしているのだ。
「心あればこそ、言霊には更に力が宿る」
 だが、お前はどうだ。
 千を超える刀剣を喰らい、龍と至ったとしても。
 そこに宿っていた筈の思い、信念、願いは何処に。
 ただ怒り狂うだけでは、獣と変わらない。
「夕凪には俺達の想いが通じたが、テメェにはきっと一生分からねェだろうなァ!」
 神に等しい霊格。
 だからどうしたのだと手袋を代償に、紡ぐのは漆黒の剣。
 玄冬に集う呪いに秘められし力を礎とし、刃が螺旋を描く黒魔剣をその手に。
 必ずや、その芯を穿ち抜いて見せると、クロウが地を蹴ると同時、左右から挟み込むように夕凪もまた駆け抜ける。
 刀剣の龍に挑む二人の剣士を護り、慈しむ為に。
 敵たる『刀狩』へと投げかけられるヴォルフガングの声は老獪なる牙として。
「しかし嗤わせてくれるな、刀狩の小僧?」
 浮かび上がる氷のルーンは幾つもの氷刃を発生させ、『刀狩』の脆くなった鱗や角に爪へと突き立てられる。
 今まで戦い、そして、光を浴びたが故に晴らされた邪気。
 氷刃の怜悧なる刃に苦鳴をあげるが、それさえヴォルガングは許さず、喉へと新たなる氷閃を奔らせる。
 ただの氷ではない。精神を蝕む呪殺が込められ、動きを鈍らせるもの。
 例え『刀狩』が本物の龍であれ、その心身を穿つ氷の楔となるものだ。
 いいや、こんなものがなくとも。
「貴様の殺人剣は二人の活人剣の足元にも及ばない、それは明白だろうに」
 紫の花びら舞う中、踊る刃が龍の鱗を斬り裂く。
 僅かでも隙があれば、クロウと夕凪が手にした剣と刀を持って斬り懸かり、無理に動けばヴォルフガングがそれを制するように氷刃を降り注がせる。
 だが、それでも隻眼を以て睨みつけようとする『刀狩』。その眼前へと、クロウは自ら飛び出るや否や、漆黒の斬撃をもって切り込む。
「どうした。長く生きすぎて、ただ錆びるに任せちまったかァ?」
 ひらりと掌を翻して誘う挑発。
 もう独りにしない。お前の倖せの為に。
 そう口にした以上、『刀狩』の振るう妖刀の全て、クロウが捌き切って見せる。
 そうすれば、夕凪が――魂の芯を捉える一刀を振るうと信じるから。
 今の彼女ならば出来る。
 なら今、クロウが成すべき事はただひとつ。
「こい、『刀狩』。てめぇの妖刀、悉くを貫いてやるぜ」
「抜かすな、小僧。我の全て、止められると思うな!」
 怒りに満ち溢れた咆哮は空間を震わし、空を漂う花びらをかき混ぜる。
 瞬間、連続して放たれるのは『刀狩』の集め、喰らい続けた妖刀の群れだ。鱗から射出するものもあれば、牙や爪の如く身体ごと震うものもある。
 文字通りの千刃の乱舞。
 いいや、その修羅場を斬り抜けてこそ男だと、クロウのオッドアイに戦意が満ち、螺旋剣に黒焔が纏われる。
 叫び合うのは刃金の矜持。
 黒魔剣と妖刀の違いはあれど、眼前の敵を斬り伏せる為にあるのは同じ事。火花散らし、鮮血を風に含ませ、なお加速していく剣戟の舞踏。
 重なる刃同士の斬風で黒焔が千切れ、けれど、螺旋の刃が妖刀を罅を刻み、穿ち砕いていく。
 舞い散る刃の欠片は、それこそ燦めく雪のように。
 命を奪う鋭利さ、危うさと、その美しさを同居させている。
 吹雪く続けるその中を、一歩、また一歩とクロウは進み続ける。
 狙うはただ一点。そこを穿ち抜く事こそ、妖刀を砕け散らせる事だと思うから。
 夕凪もまた、決して『刀狩』が退く事出来ぬよう、牽制に刃を翻し続ける。
「まったく、無理をするよね、クロウは」
 そこに重なるヴォルフガングの氷刃の群れ。今まで孤軍奮闘と戦い続けたクロウへの直接の加勢は、行く手を阻んでいた妖刀の群れを一瞬で半減させる。
 残るは半分。
 ならば、一気に踏み込み、突き進むのみ。
 刃が身を裂き、血飛沫を上げるがクロウは意に介さない。
 柔らかい鱗は螺旋の切っ先で疵付け、砕け散らせて、まだ前へと。
 痛みなど意味を持たず、その双眸が見据えるのはただひとつ。
 義心は尽きぬ。義憤はここに。想いの意味は、全て切っ先に託している。
「てめぇには、直接届けなければ、何も響かねェんだろうよ!」
 身を捻り、黒焔渦巻かせ、全身と全霊を込めるクロウの一太刀。
 分からず、通じず、ただの『妖刀』であるというのなら。
「心の臓にして、芯の像。穿ち抜かせて貰うぜぇ!」
 放たれる螺旋の刺突一閃。
 漆黒の八重椿を描くが如く、黒焔を纏い、散らせ、そして刃の鱗と龍の身を貫いていく。
 抵抗は無意味。ただ、一心を以て進む義刃を止める事など不可能。
 自らより早く、クロウの鼓動を斬り裂き止めれば、或いはであっても。
「ほら、二人の活人剣の足下に及ばない」
 ただ独りであるのではない。クロウにはヴォルフガングがいる。
 彼を活かして動かし、共に戦うからこその活人剣。
 ただ無惨に花散らすだけの殺人剣に、ヴォルフガングはその祝福を与えないから。
 クロウを取り巻くルーンと氷刃たち。一気に迫り、クロウを斬り裂こうとしていた刀剣たちを阻み、蝕む氷壁と化す。
 その刹那、確かに。
 龍たる『刀狩』の心の臓に、魂宿るその場所へと、クロウの螺旋剣が切っ先を届けさせる。
 刃が鼓動を射貫き、黒焔が臓腑と魂を灼き尽くしていく、その最中。
 響く人の心を、ついぞ理解できず、死を迎える龍の声。
「……馬鹿な」
 隻眼で驚愕を露わにする『刀狩』。
 自らは狩るものであり、決して敗れる事はないという自負が、文字通り中心から貫かれたのだ。
「だから言っただろう。一生分からねェだろうってよ」
 どうして。何故。
 そんな問いに答える筈もなく、螺旋を描くままに抉りて、心の臓をズタズタに斬り裂くクロウ。
 押し込み、傷を押し拓き、そしてずるりと引き抜く螺旋の黒魔剣。
 それで届くのならまだ救いがあるだろう。
 だが、解らないのだ。どうしても、何もかも。外道といえばそれまで。ただ、それさえ僅かな光を見せたくとも。
 ただ骸の海へと、帰るのみ。敗北の理由すら、解らぬまま。
 そして。
「本当のトドメが、何のかさえ。てめェに終わりを告げたのが、何のかさえ」
 決して伝わらない。
 思いの刃は、何処までも鋭く、強く、闇を払うという事を。
 ひたりと。
 歩く夕凪の姿はゆっくりと、その気配も薄く。
 ひたり、ひとりと。
歩む動きは剣を振るうのではなく、まるで夢見るよう。
 いいや、全ては夢想。現の全てを忘れ去り、ただ凪いだ心の間々に黒き刀を構える。
 無想の中にこそ、魂と思いの刃はあるから。
 悔いも、憎悪も、悔恨も。
 悲しみさえ、今はなく。
 震われる黒刀は現実にある全てを斬り裂くように、龍の首をさらりと斬り伏せる。
 それは、介錯のよう。
 死に往く『刀狩』にだからこそ成せた技。
 防御も反撃も出来ぬ、隙だらけの身にこそ、放てた凪の息吹たる一閃。
 苦しみ、悩み、決して心の解らぬ龍に、ただ眠れと告げたようでもあって。
「ああ」
 杜若の紫が舞う中で。
 ぼろりと、ひとつ、涙がこぼれ落ちる。
 たった一筋。たった一滴。
 それ以上はダメだと思ったから。
 今は救ってくれた、この人達の為に。


「有り難う」
 

 ただ笑みをもって、応じるべきなのだと。
 滂沱と泣くのは。
 倖せを見つけた後でいい。
 まだやるべき事があるのだから、恥じぬよう、誇れるよう。
 これからをこの笑顔で生きていくのだと、みんなに教えよう。
 私は夕凪。
 名の通りの時間は過ぎて、夕闇が訪れても。
 決して、決して。その名と記憶は消えたりしない。
 この心も、また等しく。





 悲しみを吹くんだ空気を払うように。
 ヴォルフガングの腕が、ふたりの頭へと乗せられる。
「湿っぽいのはなしさ。なにせ、俺は真面目だからね」  
 ぐりぐりと、二人の頭を撫で回すヴォルフガング。
 何時もは撫で回す側のクロウは瞬くや否や、驚きを隠すように口を尖らせる。
 夕凪は、僅かに情緒を整えるように、すん、と息を吸い込んで。
 それを優しく待った後に、ヴォルフガングは告げるのだ。
「……村人達のお墓、作りに行こうか」
「……俺の台詞取るなよな。ああ、けど、無論だ」
 撫で回された分、撫で返してやると痛む腕を押して、ヴォルフガングと夕凪を撫で回すクロウ。
 巻き込まれた側の夕凪としては、ただひたすらふたりに頭を撫で回されただけで、僅かに異議を示そうとしたけれど。
 これが二人の日常なのだと。
 初めて遭遇した時の、遊ぶような軽やかな空気を感じたから。
「夕凪の今の姿、見せに行こうや」
 射干玉の黒髪に、夕赤と青浅葱の眸のクロウ。
「大丈夫、俺達は世界を渡れるグリモア猟兵」
 曼珠沙華に似た赤い眸に、黒と白金の髪のヴォルフガング。
 二つをひとつの身に宿す、その色彩と有り様。
 決して忘れないその姿として、青い眸と記憶に移し込む夕凪。
「此れから幾らでも君に付き合うよ、ね、クロウ?」
 一日で罪を贖い、雪ぐ事はできない。
 旅路は長く、遠く、何処までいくのか解らなくとも。
 きっとひとりではないのだ。
 もうここに、『みんな』という『かたちのないしあわせ』があるから。
 ここを起点に、夕凪の道は始まっていく。
 顕れた冬の月は白く。美しく。
 冷たくとも、その玲瓏たる光で、道を照らしている。
 拾い集めた倖せは。
 きっと何処かへと続く掛け橋となるのだから。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2020年12月09日
宿敵 『刀狩』 を撃破!


挿絵イラスト