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永劫

#カクリヨファンタズム

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#カクリヨファンタズム


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「あれ……きみ、僕が見えるの? 人間なのに?」
「おかあさん、おかあさん! 幽世に来れたのね? やっぱり生きててくれたのね!」
「ああ。もう動かぬと思うていたが、また飛ぶことが叶うとは……」
 忘れられた妖は、いつか去ったはずの地球で人間に出会う。
 孤独な幼い狐は、あの日倒れたはずの母狐との再会を喜ぶ。
 老獪の烏天狗は、むかし折れたはずの翼を伸ばし、嘗ての心を思い出す。

 うれしくても涙はこぼれるのだと、愛しいものを抱き締めて、幸せに包まれて。
 あやかしたちが笑う先には虚ろの空。
 朽ちた遊郭楼にも満月は昇り、嬌声の代わりに響くのは破滅の歌。

「――何故、約束を違えたのじゃ」
 白霧嬢子の往く背には、その名の通りに白い霧。
 それはみなの幻となって、やさしい、やさしい夢見せる。
 夜半にかがやく月のよに、何もかもが満ち満ちた夢。
 為れど。妾の月は未だ――否。今となってはもう、永遠に、満ちはせぬ。


 幽世を、「霧」が覆い尽くしている。猟兵に呼び掛けたルーシィ・ウェルトン(瞑目・f20015)の表情は硬い。
「その霧はね。あなたたちにとって、何もかもが満ち足りた、しあわせな夢を見せるのだそうだ」
 ただ視界を曇らせるばかりであるはずの霧、なれど目の前に広がるものは、見るものの心が蕩けるような幸福を思い起こさせる、まぼろし。
 異変のさなかに数多の骸魂が舞い躍り、幻想に見惚れた妖怪たちを喰らいゆく――。
 世界の終わりのような光景は、ほんとうの終わりを生みかねない。だから一刻も早く元凶となった骸魂を斃してほしいのだとルーシィは語る。

「この霧を起こしているのは『白霧嬢子』という名の骸魂。いわゆる雪女というものらしいね、雪風や冷気を操ることを得意としている。何やら嘆き悲しむ己の感情や、時にはことばを使ってあなたたちを惑わすことも辞さないようだから、気を付けて」
 かつては人の世界で遊郭として栄え、この幽世では迷宮と化して聳え立つ豪奢な楼閣の頂に、彼女はいる。
 その楼閣へ向かう砂利道の一途に、くだんの「霧」も広がっていて――しあわせな夢に囚われた妖怪たちも足を止め、魅入られてしまっているらしい。
「あなたたちの強さであれば、夢の中であれど、夢と悟ることは容易いかもしれない。問題はそこから抜け出すことが出来るかどうか」
 本当ならば有り得ないほどに満ち足りているのだから。あたたかなばしょから離れることを厭うヒトの摂理は、ヒトでなしの種にも通ずるのかもしれず――現にあやかしたちは、覚めない夢を享受する。
 辿り着く遊郭楼は現世からこちらに飛来して以来、要塞のように複雑な構造を備えて骸魂を蔓延らせている。
 霧はより色濃く、喰われた妖怪たちを裡に宿して変化した『迦陵頻伽』は翼を翻し、猟兵たちへも眠りの誘いを齎す。
 けれど、惑わしの宮を潜り抜けて頂に至ったなら、黒幕たる『白霧嬢子』も必ずや姿を見せるから。

「どんなに幸せでも夢は夢。どんなにつらくとも、生きるべきは現の世界。……言葉にしてみると酷なようにも聞こえるけれど」
 やさしくてひどいゆめに、破滅の歌に、悲嘆に暮れる雪女に、猟兵たちは何を思うだろう。ルーシィはグリモアを揺らめかせた。
「それでも。……あなたたちであれば、この夢さえも打ち破ることが叶うと。信じているよ」


茶菓野
 茶菓野です。よろしくお願いいたします。

●プレ受付
 章クリア条件達成を満たす人数までは常時募集しております。
 条件に達したら、お預かりしたプレイングの失効前日を募集締切といたします。
 具体的な日時は決定次第、雑記に記載しますので宜しければご覧ください。
 1章プレイングは公開後からいつ送っていただいても大丈夫です。


 夕方~夜頃のカクリヨファンタズムの片隅。
 砂利道(1章)の先に佇む、古いながらも趣を残した遊郭楼(2章・3章)が舞台です。

●1章
 PCさんにとって「有り得ない程に満ち足りた、蕩けるように幸せな夢」を見せる霧が立ち込めています。
 見るものは過去の幸福でも、ありえない願望の具現化でも、どんなものでも大丈夫です。
 どんな手段であれ、この幻覚を打ち破って現実に立ち帰ることが目標となります。
 周りには多くの一般妖怪が同じように夢に囚われています。
(フレーバー的なものなので、それを助ける/助けないが話に影響することは一切ありません)

●2章
 集団戦:『迦陵頻伽』
 体内に弱い妖怪を飲み込んでいる骸魂です。
 要塞化された遊郭に巣食い、回廊に群れで襲ってきます。

●3章
 ボス戦:『白霧嬢子』
 この霧を生み出した黒幕的な存在です。平和を愛し望むも、禁断の恋に落ちた雪女。
 「最愛の男が自分との約束を違えた」と嘆き哀しみ、その理由を探しています。

 ※プレイングボーナス(2章・3章):要塞を攻略したり、逆に有利に活用する。
 迷路のような廊下、入り組んだ階段、開けても無限に先のある襖、みたいなイメージの楼閣です。
(こんなものがあるよ! とプレで言っていただけたら、たぶん大抵はあることになる気がします)
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第1章 冒険 『やさしくてひどいゆめ』

POW   :    自分で自分をぶん殴り、正気に戻る

SPD   :    状況のありえなさを見破り、幻覚を打ち破る

WIZ   :    自身の望みと向き合い、受け入れた上で幻覚と決別する

👑7
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。



 叶うことのない夢を見るのも、うつつの世界に傷付くことにも疲れてしまう。
 それならいっそ、夢叶う夢に包まれて、永遠なる停滞を愛しましょう。

 満月昇り、むらさきに変わりゆく夕空。今その色は、霧に包まれて朧に霞む。
 ささめく妖怪の衆が言葉を交わす相手は傍にいるものではなく、己の見るまぼろし。
 嬉しい、楽しい、愛しい。なんて幸せなのだろう。
 心はいつだって本当の気持ちを映し出す。でも目の前のそれは、まがいもの。
 
 だれも、だれも、気付かない。だれも夢から覚めたがらない。
 だって、しあわせなのだから。
静心・穢
ありえない程の幸福。かつて肩を並べ、未熟な自分を導き、護り、そして散っていった必罰の悪魔達との日々。
そして今、己が年長者として慈しむ若い悪魔達との怪盗としての日々。
どちらも等しく幸福で、どちらも得られるならそれはなんて―――

「なんて酷い『強欲』だろうね! 罰当たりも甚だしい!」

ユーベルコードで自身ごと周辺の霧を吹き飛ばし、ついでに他に『強欲』に浸っている一般妖怪達が目を覚ますように落とし穴やらタライやらの罠も加えよう。

「『貧窮』の罰を司る者として、こんな夢に浸っている暇はないのだよ。甘いのはキャンディだけで十分さ……はぁ、一張羅が随分傷んでしまった。新しいの買わないと……『貧窮』って辛いなぁ」



●渇けど潤さず
 視界を遮る霧はつめたく、けれども見せるは甘い夢。
 まぼろしの世界へと招かれた静心・穢(強欲罰する貧窮の魔・f31405)が翠の双眸を瞬けば『ありえない程の幸福』が映すのは、懐かしい仲間のすがたと、よく馴染んだ仲間のすがただった。
 かつて肩を並べ、未熟な自分を導き、護り、そして散っていった必罰の悪魔達との日々。
 そして今、己が年長者として慈しむ若い悪魔達との怪盗としての日々。
(「どちらも等しく幸福で、どちらも得られるなら、それはなんて―――」)
 胸中に彼女は呟く。そう、己にとっては嘗ても今も幸せの限り。そして遠き過去をふたたび手中に収めることも、この夢の中ならば容易いこと。
 けれど、杖が片手の裡でひとまわり。穢、の名に反して麗しく王子然としたかんばせに、笑みを描く。

「なんて酷い『強欲』だろうね! 罰当たりも甚だしい!」
 霧が絶えず周囲を覆うならば、いっそ自分ごと爆風で吹き飛ばしてしまえばいい。
 杖掲げ、穢が降らせたのは色鮮やかなキャンディ。その見目は可愛らしくも、次に響くのは派手な爆発音。
「『貧窮』の罰を司る者として、こんな夢に浸っている暇はないのだよ。甘いのはキャンディだけで十分さ」
 欲とは誰しも持ち得る感情。己にないものを冀い、手を伸ばしてこそ人は停滞を已めて動きだし――そして罪に堕ちることも、ままある。
 だが穢がそうした欲望と相容れることはない。
 なぜなら彼女は、彼女こそが、まさにその大罪を戒める罰の悪魔なのだから。
「さあ、さあ。お目覚めの時間だね、ケガレちゃんがモーニングコールをしてあげよう!」
「……うわっ! なんでこんなところに落とし穴が――!?」
「痛っ! なんだなんだ、空から何か降ってきた!」
 吹き飛ぶ体はむしろ好都合。惑わされている妖怪たちの上空舞ったそのとき、彼らめがけて落としたキャンディ・ボムが孕むは幾多の罠。
 ある妖怪は足元崩れて穴に落ち、またある妖怪は頭と降ってきた金ダライとがぶつかって叫んで。
 穢が与えた驚きは、彼らの目を覚ますのに効果抜群のはず。突然のことにそれまで見ていた夢を忘れたり、なんだこっちも愉快じゃないかと笑ったり。
 ほら、夢は夢。嬉しくても悲しくても、醒めたらやがては薄れて忘れてゆく。
 手に入ってもまがいもの、それこそ霧のごとき幸福ならば、むしろ『強欲』を張るにすら値しないではないかと、穢は服についた汚れを払いながら。
「……はぁ、一張羅が随分傷んでしまった。新しいの買わないと……『貧窮』って辛いなぁ」
 魔界に流行るワードローブもこれでは形無し。罰を振るい去ったからか晴れやかな心地でも、まずは溜息ひとつ吐いて。
 司る『必罰』が冠す宿命に浮かべた苦笑は、彼女が生きた年月を示すように、うら若い少女のものよりも少しだけ熟れて見え――それが殊更に、穢を美しく思わせた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

袁・鶴
隠ちゃんf31451と

隠ちゃんと霧の砂利道を進むも目の前に小さい少女が立っている事に気づけばさよちゃんと名を呼び駆け寄るよ
幼い頃離れ離れになった大事な大事な幼馴染の女の子
ずっと会いたかったといってくれる彼女に俺もだよと声を絞り出し抱きしめようとするけれど…自分より小さなその体にこれは夢だと引き戻されてしまう
だって…俺とさよちゃんは同い年だから
こんなに小さい侭な訳、ないでしょ?
…ね、泣かないで。ちゃんと現実でも探し出して守って見せるから

夢から覚醒すれば隠ちゃんを助けようと声を
隠ちゃん、おはよ寝ぼけてない?とわざと明るい声音を一つ
ばーか。バディなんだから俺が守ればいいんでしょ?
…ほら、先進も、ね?


隠・小夜
袁(f31450)と
アドリブ歓迎、目の露出NG

左目は、UDCと融合していなかった
父さんと母さんは生きていて
何の力も無い僕は、今も『彼』に守られている

どうして、前髪を伸ばしていたんだっけ
どうして、ヘッドホンを鬱陶しいと感じないのかな
『彼』は笑って、君は俺が守るからねって言ってくれるけれど
其れだけは――僕自身が許せない、許さない

恐怖とは無縁の平穏
けれど、其処に現実の『彼』は居ない
『彼』が笑える世界の為なら、僕は悪魔だって利用してやる
そう決めたんだ、だから――僕の大事な思い出に触れるな……!
涙は決して流さずに、吼える様に哭く

袁、無事だったんだ
別に寝ぼけてない、言われなくても
……心配掛けたならごめん



●追懐の先へ
「――さよちゃん」
 袁・鶴(東方妖怪の悪霊・f31450)が思わず呼んだのは、相棒の彼と同じ名前だった。
 けれどそれが指すのは、遠い過去に離れ離れになった幼馴染の女の子。彼女が目の前に立っていたから、咄嗟にそうして駆け寄ってしまう。
 ぱっと綻んで「ずっと会いたかった」と言ってくれる、大事な大事な彼女。こちらも応えて破顔して、でもそれが精一杯で、声は震えてどうにか絞りだすように。
「俺もだよ」
 嬉しそうに鶴へ向かって差し出された少女の手は、――自分の掌に包み込んでしまえるくらいに細くて柔い。
 ああ、と鶴は悟る。抱き締めようと伸ばしていた手が、結局、その小さな体を己のもとに寄せることはなかった。
「さよちゃん、ここ、俺の夢なんだね。君はほんとのさよちゃんじゃないんだね」
 意を読めないと言った表情で、なおも愛らしくこちらを見つめる、いとおしくて仕方のないこの子に言うには胸が痛む。でも。だって。
「……俺とさよちゃんは同い年だから」
 零れ落ちるように告げた真実が、流れる静けさには痛いほどだけれど、これは「さよちゃん」が大切だからこそ言わなくてはいけないこと。
「こんなに小さい侭な訳、ないでしょ?」
 鶴の微笑みはぎこちない。冗談みたいに軽く言ったつもりのことばが、思ったよりも重く鈍く自分に刺さるのが可笑しい。可笑しくて、笑えない。
 けれど、言ってしまえば自分より彼女の方が悲しそうにして、ついには頬にあたたかな雫を伝わせた。
「……ね、泣かないで。ちゃんと現実でも探し出して守って見せるから」

 さよちゃん、と、相棒がひとを呼ぶ声も今は霧の彼方。隠・小夜(怪異憑き・f31451)も己の夢の中、しあわせに手を引かれて茫洋と彷徨う。
 何かを隠して伸ばした前髪の奥から見るのは、その「何か」がいなくなった、せかい。
 幼き頃に出遭った事故も悪魔も消え失せて、両親はまだちゃんと生きている。何の力も無い僕は、今も『彼』に守られていて。
 しあわせは大切なひとのかたちをしているのだと、彼らの温度に再び出逢って、自然と思う。
 だが――小夜は前髪の上から自分のまぶたに、それから首元に掛けたヘッドホンに手を触れた。
 自分の中に何かが棲んでいたはずなのに、何も感じないのはなぜだろう。鬱陶しいはずのそれらを今は何とも思わないのはなぜだろう。
 どうしてこんな装いをしているのか、理由が模糊として分からなくなってゆく。苦ではない喪失感、なのに覚えるのは違和感。
 『彼』は無力な小夜に優しく、「君は俺が守るからね」と笑って――。
「ちがう」
 其れは違うと、鮮烈な決意が呼び覚まされた。其れだけは――僕自身が許せない、許さない。
 現実で力を使えば代償は重く、生命力を糧とする怪物に奪われる月日は如何ほどになるだろうと、数えることすら恐ろしくなるようで。
 でも平穏には、帰らない。だって小夜がしあわせになれるせかいに本物の『彼』はおらず、僕は『彼』のためには戦えない。
 左目に宿った悪魔すら利用してでも。『彼』が僕を守るのではなく、僕が『彼』のために在りたい。そう決めたんだ、だから――。
「僕の大事な思い出に触れるな……!」
 涙は決して流さずに、吼える様に小夜は哭く。偽物のしあわせなんかで歪ませたくない、記憶は誰にも渡さない。

「隠ちゃん、おはよ」
 聞き慣れた呼び声にはっと意識を覚醒させて、小夜は一歩後ろに立っていた鶴へと目線を向けた。
「袁、無事だったんだ」
 それが、まるでふつうの夢から醒めたときのように何気ない調子だったから、小夜は内心の安堵を見せぬ声色で答える。
 寝ぼけてない? と明るく向けた声が「わざと」であることに、うっすらと察しが付くけれどそれは口にはしないでおいて。
「別に寝ぼけてない、言われなくても」
 淡々と、ほんの少しだけ突き放して、けれど遠くまで離れることのない距離。
 それがいつものことだから、鶴は何も気にしない。でもひとつだけ言いたいことを、小夜はぽつりと、小さく。
「……心配掛けたならごめん」
「ばーか。バディなんだから俺が守ればいいんでしょ?」
 砂利道のさらに先へと踏み出す鶴の足取りは軽く、されど追い抜いた小夜を置いてゆくことはない。今度はあちらが小夜へと首を傾け振り向く番。
「……ほら、先進も、ね?」
 さよちゃん、と名を呼ぶあの声が今になって蘇る。鶴は大好きな幼馴染の「少女」を見たのだろう。
(「でも君は、僕のところに帰ってきた」)
 この両目を晒すこともない今、つるちゃん、なんて呼ぶこともない今。
 だけど。と鶴に続いて小夜は歩み出す。己の咆哮を、もう一度たしかめたその信念を、忘れない。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

烏森・玄朗
霧が映すのは、嘗ての平穏な生活
小さな魔王家の大きな屋敷、大勢の同僚
私はしがない執事見習いで……いや、見習いから昇格したばかりで
毎日、懸命に働いた
見栄っ張りで愛妻家の旦那様
派手好きだが心優しい奥様
そして、小さな坊ちゃん
当たり前だった生活も、思い返せば全てに幸福の匂いがする

……この夢に身を浸すのも、悪くはないんだろう
夢と現の境目なぞ忘れちまえば、間違いなく幸福だ

けれど、私――いや、俺には
果たすべき役目が、まだある
生き残っちまった俺は、勝手にそれを、旦那様と奥様に託されたんだと思ってるんですよ
だから、まだ……夢は、見れない

それに、世話の焼ける仲間が、腹を空かせて待ってるんでね
帰らないと、叱られるんだ



●継受
 幽世を覆う霧は、誰にもやさしい夢を見せ――烏森・玄朗(Spook・f31408)の嘗てをも映し出す。
 それは小さな魔王家の大きな屋敷。大勢の同僚に紛れて働く自分は、まだ未熟な執事見習い――否、「見習い」からどうにか昇格したばかりの新米執事だった。
 成功も失敗も積み重ねながら腕を磨いて、仕えた彼らのことも忘れるはずがない。
 見栄っ張りで愛妻家の旦那様、派手好きだが心優しい奥様、そして、小さな坊ちゃん。
 こんな夢まぼろしの中でもはっきりと顔が見えるくらいには、彼らについての記憶も鮮やかに。そこで生きているかのように。
 慌ただしく過ぎゆく毎日、当たり前だった生活も、思い返せば全てに幸福の匂いがするのはそれが「当たり前」、「だった」からこそ。
(「……この夢に身を浸すのも、悪くはないんだろう」)
 夢と現の境目なぞ忘れちまえば、間違いなく幸福だ。心の裡に抱くそんな本音を誤魔化すことはしない。
 この幸福はもう過去のものだと知っていて、それでも焦がれてしまうこころ、それそのものは咎められないように思えたから。

「けれど、」
 玄朗は、手招くような彼らの笑顔に向かって歩むことはせず、穏やかに凪いだ紫の瞳でただ見つめるだけ。
(「私――いや、俺には。果たすべき役目が、まだある」)
 あるじの頼みを預かる執事として、彼らの前に立っていたからには――探しものを見つけるまでは帰らない。
 セピア色に霞んでゆくような気がしたまぼろしの光景を前に、それでも後悔はしない表情で彼は言う。
「生き残っちまった俺は、勝手にそれを、旦那様と奥様に託されたんだと思ってるんですよ。だから、まだ……夢は、見れない」
 少なくとも今は、まだ。未来にこの身をどう振るかは、いつか役目を果たした時の自分が考えること。
 玄朗は踵を返す前に、「それに」と続けた。――あともうひとつ、理由があるとするならば。
「世話の焼ける仲間が、腹を空かせて待ってるんでね。帰らないと、叱られるんだ」
 飯を作ってやれなくなるんじゃいけないだろう、と綻んだ顔は、仕える人というより保護者のそれ。
 まるで弟妹のような年下の彼らが自分を先生と呼んで、作った料理に舌鼓を打つその瞬間は、むかしの夢にも等しくしあわせであるように思えた。
 必死に働いた若い日々があるから、仲間を見守りゆく今がある。だから過去に留まるばかりでこちらを疎かにするわけにもいかない。
 だから、まあそこで見ていてくれたら、なんて。平穏なあの頃に背を向けて、玄朗は霧を抜けた現実、未来へと進む。

大成功 🔵​🔵​🔵​

セロ・アルコイリス
うれしい、楽しい、いとしい
おれのそんな夢はなんでしょう

マフラー泳がせ辿り着いたのは

師匠がしんでない世界
おれが人形じゃない世界
おれの感情がちゃんとある世界
違和感もなく、ちゃあんとうれしい、って、
おこったり、かなしんだり、できる世界

そしたら師匠、あんたのくるしい、を知れたなら、病からだって護ることができたかな
おれが人間なら一緒に冒険できたかな

犯罪都市で、盗人ふたり
空腹にも気付かなかった人形と
人間だった師匠

……
なんだろう
しあわせ、なはずなのに
なんかすげー、胸が圧される気がします

だっておれが人形じゃなかったら
師匠とも会ってねー
なにをしても、師匠は戻らない
いつ、この、……さみしい、を識ったって

ばいばい、



●眩幕
 霧の海をマフラーが泳いで、セロ・アルコイリス(花盗人・f06061)が歩めば彼の夢も幕開ける。
 うれしい、楽しい、いとしい。少しずつ、でもたしかに識ってゆくココロの欠片を、集めてぎゅっとしたような「しあわせ」。
 おれのそんな夢ってなんでしょう、セロ自身にも想像がつかなかった。
 だから辿り着いたまぼろしの舞台に、懐かしい姿があったことに僅かに瞠目する。
「……師匠」
 ふわりと心が軽くなるような感覚がして、これは、うれしいってやつだ、と気付く。
 自然と湧いた感情にはなんの違和感もない。だって今、おれは師匠と同じ人間なんだ。失敗作じゃねー、ホントのココロを持ったひとになったんだ。
 これは、師匠がしんでない世界。おれが人形じゃない世界。おれの感情がちゃんとある世界。
 「ちゃあんと」、うれしい、って、おこったり、かなしんだり、できる世界。
 けれど途端に、開花したセロのココロにはぎゅぅっと締め付けられるような気持ちが押し寄せた。じゃあ今度のこれは、何?

「そしたら師匠、あんたのくるしい、を知れたなら、病からだって護ることができたかな」
 ――おれが人間なら、一緒に冒険できたかな。人間なら。おれが失敗作の機械人形じゃなかったら。
 それが、自分の底に眠っていた願いなのだろうか。
「これが、しあわせ」
 確かめるように口にしてみたけれど、言葉はこの景色に馴染まない。
 ここに広がる夢は、おれが識らなかった、おれの願いじゃねーんですか。
 霧が見せるまぼろしは、蕩けそうなくらいのしあわせをくれるって言ってた。だからこれが、しあわせ――?
 そのはずなのに、セロの胸は圧されるように苦しい。これが「しあわせ」に添う衝動でないことは、まだ知らないことばかりの幼いココロでもよくわかった。
 人間のおれが師匠にはじめて出逢ったそのとき、人形のおれがあんたに出逢ったよりも『うれしかった』か?
 違うでしょう、きっと。思わず零れる。
「だっておれが人形じゃなかったら、師匠とも会ってねー」
 それにもう、なにをしても、師匠は戻らない。だってあのひとは人間だから。
(「いつ、この、……さみしい、を識ったって」)
 涙の流し方も分からないことに、どんな気持ちを抱けばいい? 途方もない幸福だけを司る幻影は、そんなことを教えてはくれない。
 ひらいた両手のてのひらには、夜を朝へと導く眩いひかり。七色の彩は、有り得なかった過去の景色に沁み込んでその時を止める。
 師匠がセロに『うれしかった』をくれたことは、霧が知らずともセロ自身が知っている。
 直接伝えることなんてもうできないけれど、人形のままでココロを識ったからこそ、初めて気持ちを得た瞬間が鮮烈に焼き付いて。
 「人形のおれ」の、うれしいも。さみしいも。こんなところじゃ、識れるはずのなかったこと。
「ばいばい、」
 ――夢の最期に、彼が向けた表情は。

大成功 🔵​🔵​🔵​

冬薔薇・彬泰
ふふ、レディならば如何様な夢を見るのでしょう
話をはぐらかすな?
…はて、何の事やら

何せ、この首が落とされる前の記憶は曖昧なのです
例えば…霧の先に見える、幽けき影
凛々とした黒髪の女性
直ぐに名前が出てこない、曖昧な御方
然し僕の名を呼ぶ声は蕩ける甘露
きっと、身体に流れる血潮は
その瞳と同様に赤く温かいのでしょう
触れたい、抱き寄せたい
その首を狩りたい――あの時の様に
…あの時の様に?

無意識に抜き放った刃が首を、霧を斬る
胸の内で燻る感情は、困惑?
…レディ?
心配して下さったのですか?
それは、有難うございます
首元を撫でては、歩を進める
さあ、早く皆さんの目を覚ましてさしあげねば
この霧は優しいですが…少々、心に毒です



●紅に想ふ
「ふふ、レディならば如何様な夢を見るのでしょう」
 天上に咲く華にも劣らぬ端正な面貌、その奥にふたつ瞬く紅には隠せぬ興味の色が覗く。
 冬薔薇・彬泰(鬼の残滓・f30360)は貴き黒猫の淑女へと、撫でるが如き声で問うた。彼にのみ聴こえて返る答えはやはり素っ気なく、そこがまた可愛らしいと笑っては。
「話をはぐらかすな? ……はて、何の事やら」
 何せ、と吐息交えて落とすのは、一度死して蘇ったその身の上のこと。――この首が落とされる前の記憶は曖昧なのです。
 例えば……霧の先に見える、幽けき影。朧にかすむその輪郭、けれど凛々とした黒髪の女性であることはこの目に捉えられた。あるいは、この身が、こころが覚えていたのか。
 恐らく自分の知己であるはずの、だが直ぐに名前が出てこない、曖昧な御方。
「然し僕の名を呼ぶ声は蕩ける甘露のようで」
 記憶を辿る足並みに揃えて、一歩、二歩と幻影へ距離を詰めた。その声は、幾たび呼ばれて聴くほどに、思い焦がれるような甘やかさであったことも知っている。
 きっと、身体に流れる血潮は、その瞳と同様に赤く温かいのでしょう。――己のそれが硝子越しに、彼女の瞳のあるばしょを視た。
 此方も彼方も花の如き色合いにて、されど彬泰の眼差しは彼女のものよりも、鋭い。
 触れたい、抱き寄せたい。己のつめたい躰のなかで、生き絶えたはずの血がふつふつと沸くような不思議な感覚が駆け巡る。
 そして。その首を狩りたい――あの時の様に。
(「……あの時の様に?」)

 傍人が見ればその刃を視認することは叶わぬほどの速さで、高く一閃、していたことに、振るった刀の重みが手に届いて初めて気が付く。
 斬ったのは首ではなく、首を――彼女のまぼろしを生み出していた霧。刃の太刀筋を残した靄の狭間が次第に広がって、彬泰はもう、夢から醒めていた。
 ――「あの時」とは、何時のことだ。自分は彼女に、何をした?
 胸中に燻る疑問に答えが浮かぶことはなく。困惑らしき感情がじわり滲むうちに、足元で愛しの姫君の鳴き声が聞こえた。坊、と囁く喉は夜帳の奥。
 白く揺らめく霧よりもその色がずっと心落ち着くように思えて、彬泰は長躯を屈め、彼女に手を伸ばす。
「……レディ? 心配して下さったのですか?」
 艶めいて滑らかな毛並みを撫で、首元で喉が小さくなるのを指に感じて、今度は心に掛かっていた霧が仄かに晴れゆくような心地がして。
 そうだ。と此処へ来た目的を今一度、しっかりと思い出すのはやはり御人好しの性か。
「さあ、早く皆さんの目を覚ましてさしあげねば。この霧は優しいですが……少々、心に毒です」
 謎は一度、奥底へ仕舞っておいて。今、心を割くべきは未だ霧中に迷っている彼らを救うこと。
 同意するように瞬いた猫の貴婦人と共に、彼女に添うてゆったりとした足取りで、彬泰は惑わしの幻を斬って往く。

大成功 🔵​🔵​🔵​

豊水・晶
あり得ないほど満ち足りるというのは、どのような感覚なのでしょうね。
怖いですが興味の方が勝ってしまいました。はてさてどんな夢を見せてくれるのか。
あら?
おかしい。昔の村関係だと思っていたのに、これはなに?背中に感じる暖かさ、包み込むように回されているのは腕?胸が、心の臓が痛い。痛いのに心地良い?分からない。初めて?の感覚。離さないで、まだこのままで居たい。離れないで、置いていかないで。
あともう少し。と、自分の知らなかったものに困惑し、抵抗せずに呑まれようとした時強い衝撃があり、何事かと見ると、式神の藍が体当たりで目を覚まさせてくれたのでした。
アドリブや絡みなどは自由にしていただいて大丈夫です。



●しらない、ぬくもり
(「あり得ないほど満ち足りるというのは、どのような感覚なのでしょうね」)
 月と花を飾った衣に身を包む豊水・晶(流れ揺蕩う水晶・f31057)は、霧の中でも彼女だけが透き通って見えるほどにうつくしく。
 双眸の色は柔和ながらも好奇心を宿していた。恐怖はあるけれど、それよりも心に満ちているのは――はてさてどんな夢を見せてくれるのか、なんて興味深い気持ち。
 だからこそ、いざ霧に纏われ幻燈が彼女をやさしく襲ったとき、晶は予想外だという風に、二、三瞬いて。
「あら?」
 訝しむように声をあげた。――おかしい。
 自分が見るであろう夢に、薄らと想像は付いていたつもりだった。それは、かつて己が神として、豊泉晶場水分神の名を慕い信ずる民たちのもとで過ごしていた日々のこと。
 守るべき彼らのために、戦い尽くしたがゆえに荒れ果ててしまった、あの郷。すなわち守り切れなかった過去。
 でも、もしあの平穏な暮らしが続いていたなら……自分が村を追われることもなく、ずっとあの地を守っていけたなら。
 それはきっとしあわせだったであろうと理解していたから、その夢が迫るはずだと思って構えていたのに。
 村の景色も香りも、声も、あの愛おしい何もかも、いつまで経っても姿を見せないのだ。

 その代わりに、現れた――これは、なに?
 背中に感じたのは知らない誰かの暖かさ。自分の体を包み込むように回されているのは、腕?
 互い違いの色した瞳が揺れる。誰? 分からないのに、胸が、心の臓が痛い。痛いのに――心地良い?
 こんなことは初めて――知らない感覚に、呼吸すらも忘れてしまう。
 何も考えられないほどの戸惑いの中で、唯一浮かぶことばは、きっと晶の心の底からの願望。
 離さないで、まだこのままで居たい。離れないで、置いていかないで。
「あと、もう少し――」
 この得体の知れない夢に呑まれたって構わないと思っている自分に、驚く余裕すらもないその顔は、かみさまではなく、ひとのよう。
 このままあなたと。抗う意志を持たない両手が思わず、自分を抱き締めるその腕に縋ろうとした、そのとき。
 どんっ、と強い衝撃が身体を揺るがす。けれどその重みを感じたところに触れるとふわりと柔らかな感触があった。 
「藍、」
 見れば。聖獣からの預かりもの、いつも晶が抱き締めている式神の子がこちらを覗いていた。
 今のはこの子の体当たりで、自分の目を覚まさせてくれるためだったのだと、今の主君たる彼女もすぐに察する。
「……藍。ありがとうございます」
 晶は助けてくれた愛らしい使い魔をぎゅっと抱き寄せて、優しく撫でる。こうして引き止めてくれていなければ、私は――。
 助かったと微笑むなかに、少しの切なさを滲ませて。けれど、後ろ髪引かれるような思いを振り切るようにして、晶は夢の外へと歩み出した。

大成功 🔵​🔵​🔵​

丸越・梓
アドリブ、マスタリング歓迎
解釈お任せ

_

梓、と呼ばれて瞼を開ける
背の窓から夕暮れが部屋を
そして

──四人の部下の顔を照らしていた

その中のとある一人の男は、困ったように笑んで俺を見る

大丈夫か、梓。

…問う彼の言葉に、大丈夫だと俺は返す

上司と部下だが、歳が近いこともあって俺たちは友だった
故に彼は俺の無理をよく見抜き
今もそうだとばかりに溜息を吐く

彼はその深いあいの瞳を細めて、友として俺を呼ぶ

「ほら、帰るぞ」

_

「……」
彼の言葉に導かれる様夢から覚める

もういない俺の部下達
夢だとしても再び会えた嬉しさと
もう現では会えない苦しさに

けれど足を止めることは赦されないから


(「──優しくて、酷い夢だ」)



●夕は夜へ
「梓、」
 名を呼ばれて瞼をひらく。丸越・梓(月焔・f31127)の宵色に映る世界は眩しい橙を帯びていた。
 背に感じる仄かな熱は、窓から射し込む夕陽がもたらすものだろう。
 どことなく懐かしさを覚えるその温度、そして何より聴こえた声に、梓は夢へと染まってゆく。
 夕暮れのひかりが照らすのは部屋ばかりではなく。今でも鮮明に思い出すことの出来る、四人の部下の顔も、そこにあった。
「大丈夫か、梓」
 まるで今の今までずっと一緒にいたかのように――実際、この夢の中では「そういうこと」になっているのかも知れない――自分を心配する彼の、困ったような笑顔もよく覚えていた。
 役割としては上司と部下の関係性でも、自分たちは歳近いこともあって気の置けぬ仲で、それは友と呼ぶに相応しかったと思う。
 距離の近い年齢で仲も良く、それでいて所属が同じく共に過ごす時間も多い。故に彼は、梓がしばしば梓自身に無理を課してまで働いていることを知っていた。
 大丈夫だと返す声が、今、どう聞こえていたか。
 訊ねられてはそう返す、慣れたやりとりをいつものようにこなせていたかはわからない。
 この会話をするのは実に久し振りだったから。なぜなら彼らはもう、現実の世界ではすでに――。
 「大丈夫」が、本当に大丈夫なとき以外にも紡がれることだって見通されてしまっているらしい。だから同僚がひとつ溜息を吐くのを見ては、済まないなと内心で謝って。
 深いあいの瞳を細めて、友として自分を呼ぶときの目をして、彼はもう一度自分を呼ぶ。
 梓。その声で彩る三つの音の心地好さから、逃れられなくなりそうな気さえした。
「ほら、帰るぞ」

 瞬く。言葉に導かれるようにして、自然と、夢から醒めた。
 あの夕陽のあたたかさも友の姿も声も、消え失せて。夢の中にはあった、「帰る」先もここにはない。
 夕から夜へ変わりゆく幽世は霧のつめたさを纏って冷たく、梓が見たまぼろしの欠片ひとつも見当たらなかった。
 まぼろしの中にいてはならないと、意識の奥底で自分を衝き動かしたのは自分自身だろうか。それとも、記憶に残るあの友人たちなのだろうか。
 彼らはもう、いない。そのはずなのに再び会えたのは嬉しくて、だがそれが、現では二度と会うことのできない寂寥を加速させた。
 あの場に留まっていられたら。一緒に帰れたら、きっとしあわせだった。
 けれど、足を止めることは赦されないから。
 このしあわせを裂いてでも、前へと進まなければならない。己のために、誰かのために。ここで留まり続けるもののためにも。
 黒い革靴が砂利を踏む音に躊躇はなく、だがこれから夢より目覚めるあやかしたちのことを思えば、おのずと憂う瞳を一度、伏せて。
(「──優しくて、酷い夢だ」)

大成功 🔵​🔵​🔵​




第2章 集団戦 『迦陵頻伽』

POW   :    極楽飛翔
【美しい翼を広げた姿】に変身し、レベル×100km/hで飛翔しながら、戦場の敵全てに弱い【誘眠音波】を放ち続ける。
SPD   :    クレイジーマスカレイド
【美しく舞いながらの格闘攻撃】を発動する。超高速連続攻撃が可能だが、回避されても中止できない。
WIZ   :    迦陵頻伽の調べ
【破滅をもたらす美声】を披露した指定の全対象に【迦陵頻伽に従いたいという】感情を与える。対象の心を強く震わせる程、効果時間は伸びる。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。



 霧を抜け、辿り着いた遊郭楼の扉を開けば、朗々と晴れやかな笛の音が響き渡った。
 階段は長く長くどこまでも続き、華やかな灯りは心惑わすように咲いて、幾つもの襖が閉じては道を迷わせる。
 『迦陵頻伽』が纏う薄紅の花弁は天井より注いで、極彩色の人鳥はやがて猟兵たちのもとへと舞い降りるだろう。
 奏でる音楽は聴くものを惹き付ける美しさで、歌う声はひとを堕とすに至らしめる狂おしさで。

 甘美で妖しいこの楼閣を登り詰めた先に、黒幕はいる。
 要塞と化した花の宮、頂への道を阻む破滅の歌へ、どう立ち向かうか。
豊水・晶
おやおや、霧の夢が終わったと思ったらいきなり遊郭ぽくなりましたねぇ。
美しいものには棘があったり毒があったりしますけど、こちらの鳥さんはとびきりのものを持ってそうですねぇ。
歌や音色は環境耐性で何とかして、攻撃は手数でいってみましょうか。数もそこそこいるようですし。
という訳で、指定UC発動 二回攻撃 斬撃波 軽業 地形の利用で建物内を跳びまわりながら攻撃します。
普段なら遊郭という華を愛でる場所で、こんな血生臭いこと御法度なんですけどね。やっちゃいけないことをヤるときって少しわくわくしませんか?
アドリブや絡みなどは自由にしていただいて大丈夫です。



●玻璃の波
「おやおや、霧の夢が終わったと思ったらいきなり遊郭ぽくなりましたねぇ」
 和装の裾がゆらり揺れる。遊郭楼に踏み入った豊水・晶(流れ揺蕩う水晶・f31057)は、慣れた木板の床をとつとつと爪先で確かめるように叩いて。
 ――美しいものには棘があったり毒があったりしますけど、こちらの鳥さんはとびきりのものを持ってそうですねぇ。
 音よりも速く飛び回り、なれど歌音に添いて遊郭に咲く極彩色のあやかしを、なるほど美しいと見遣った。
 迦陵頻伽はこの幽世に破滅を願い、彼女を堕落へ導くべく舞い――だがその金銀の瞳に、此度は惑いの色は見られない。
 晶の身に宿る耐性が、それらの蠱惑を彼女の清流の中に呑み下して御していた。水ならば墨一滴で濁るけれど、水の流れは疾く鋭く、慈悲深く、鳥の歌を掬って攫う。
 音速の格闘の業も受け流し、双眸が改めて鳥の群れを見据えたなら、今度は晶がこの華の宮を翔ける番。
 迫り来る脅威を躱すだけならば難はない。だが流石にこの数を相手取るならば、手数が必要になる。そう見越して目醒めさせた神業は、群竜を呼ぶにひとしき秘剣の嵐。
 数多の竜が空を渡るが如く、刹那の間に幾閃と――水晶の如く透き通る角から削り出された二振りの瑞玻璃剣が、迦陵頻伽を切り裂いた。その衝撃は水面に走る波のようにさざめいて、かれらの身に怒濤を叩き込む。
 本来がすでに夥しい手数の剣撃である筈のそれに、彼女の俊敏さが加速してさらなる攻撃が乗せられたなら、迦陵頻伽にもはや手も脚も出す術はない。

「普段なら遊郭という華を愛でる場所で、こんな血生臭いこと御法度なんですけどね」
 でも、と一羽を上から覗いた晶が描く笑みは、あくまで嫋やかに、だが悪戯をする子のような色を滲ませて。
 白い人肌の胸部を貫く剣は、それでいてなおも澄み切った煌めきを放つ。
「やっちゃいけないことをヤるときって少しわくわくしませんか?」
 重力を知らぬかのように軽々、ふわりと遊郭の階段を渡る晶に神気は満ちて、旧き花園が再び彩られるようだった。

成功 🔵​🔵​🔴​

セロ・アルコイリス
あぁ、
夢から醒めて、ほんの少しのさみしさをおぼえたことが、
さみしくて、
うれしくて、
胸は圧されるままだけど

響く歌声に顔を上げる
……確かに綺麗ですね
でも

アイツに従いてーかと言えば、そんなことはねー
おれにとっちゃ、歌と言えばかわいい弟分なんですよ
ねぇ藍ちゃんくん!【虹因藍果】

残念なことに
誰かに従いてーと思ったことはただの一度もねーんですよ、おれ
その時点で人形としちゃ、完全に失敗作なんでしょうね
でも失敗作の人形だからこそ、
師匠とも、弟分とも逢えた
おれのこと人間だって言ってくれるヤツにも逢えた

改めて思う
おれは人間になりてーけど、人形でしかなくて
でも、それがおれだって

ねぇ、あんたはなんのために歌うんです?



●縁とゆかりとアイと歌
 成りかけのココロに春の冷たい風が吹くようで、マフラーを少しだけ手繰り寄せ。セロ・アルコイリス(花盗人・f06061)もまた、夢を越えて遊郭へと辿り着く。
 舞い踊る迦陵頻伽は楼閣を象る木々の隙にまで歌響かせて、それはセロの耳にもようく届いた。見上げるその姿は、確かに美しいと呼べる極彩色。
(「――あぁ、」)
 夢から醒めて、ほんの少しのさみしさをおぼえたことが、さみしくて、うれしくて、胸は圧されるままだけど。
「アイツに従いてーかと言えば、そんなことはねー」
 その破滅よりも遥かに愉快でココロ躍る旋律を知っているから、セロがかれらの導きに惑わされることはない。
「おれにとっちゃ、歌と言えばかわいい弟分なんですよ――ねぇ藍ちゃんくん!」
「はーい、藍ちゃんくんですよー!」
 呼びかければまばゆく瞬いたステージライトは、セロの弟分のような愛らしき彼、のそのまたミニマム版な分身たちを照らし出す。
 ぱーん、と弾けるように鳴り出した音楽が大感謝祭のプロローグ。虹と流星の注ぐステージで、「大好き」を歌う友につられて笑みが深まる。
「残念なことに、誰かに従いてーと思ったことはただの一度もねーんですよ、おれ」
 人形としては完全に失敗作なんでしょうね。言葉としては自嘲のようで、けれど続ける言葉は――でも失敗作の人形だからこそ、師匠とも、弟分とも逢えた。
 おれのこと人間だって言ってくれるヤツにも逢えた。
(「おれは人間になりてーけど、人形でしかなくて。でも、それがおれだって」)
 そうとまで理解することができたのも、きっと自分が人形だったから、かもしれない。
「……ねぇ、あんたはなんのために歌うんです?」
 地に堕ち果てる華美な鳥へと、ひそやかに問うて答えは返らず。戦場は、藍色のメロディーの支配下へと転じた。

「ありがとですよ、藍ちゃんくん」
「どういたしましてなのでっす!」
 ギザギザの歯を見せて笑って、去り際まで愛らしく、ライトが消えて紙吹雪が止んだらライブはおしまい。
 でも。大好き、なんてココロを向けてくれる、親愛なる彼にまた会いたいと望んだら、足取りは少し軽くなる。
 あんたが呼んだらおれもいつだって――と抱く心は青い鳥に似て。

大成功 🔵​🔵​🔵​

隠・小夜
袁(f31450)と
アドリブ歓迎、目の露出NG

へぇ、これが遊郭なんだ
初めて見たけれど、綺麗な場所だよね
別に知的好奇心を満たす以上の興味はないけど?
……あんまり似つかわしくない輩も居るみたいだね

袁、ちょっと……!
前に出ようとした途端、横切る影に思わず叫んだ
袁の実力は理解しているけれど
其れでも、最悪の可能性が脳裏を過ぎってしまう

何で、そんなに信じられるのさ
一人じゃないって、そんなの……バディだから……
ああ、もう、考え事が出来ないじゃないか
破滅をもたらす美声?
僕だけの破滅くらいなら、幾らでも受け入れてやる……でもね

UC:拒む意思
僕は、お前には従わない
これは僕の意思だ、邪魔をするな……!


袁・鶴
隠ちゃんf31451と

霧を抜けた先の遊郭を見れば小さな息を吐きつつ中へ
…もう惑わされる心配がないと安堵してしまった事は癪だけど…って
隠ちゃん、もしかしてこういう所興味あるの?
そう隠ちゃんの声に肩から力を抜きつつ揶揄うような言の葉を投げてみるよ
ま、今は考えてる暇はないか
隠ちゃん、じゃ行こっか?

戦闘時と同時に手にナイフを構えながら【鴆の翼】にて生やした翼にて飛翔
間合いを詰めナイフでの近接攻撃を試みるよ
舞いながらの格闘攻撃…ね?
でも、それだと遠くの敵に注意払えないんじゃない?
俺達、一人じゃないんだし?
俺たちバディだもんね?ね、隠ちゃん?
そう笑いながら隠ちゃんの攻撃に合わせて攻撃を続けるよ



●相棒
 木の床に革靴の堅い足音。相棒の歩幅に合わせて歩く袁・鶴(東方妖怪の悪霊・f31450)は、ひとつ小さく息を吐く。
 視界は鮮明に明けて、今ではあの霧の気配はもう扉の外に見えなくなった。
(「……癪だけど」)
 じわりと心に滲んで広がってゆくのは、もう惑わされる心配がないという安堵の情。
 蒼い視線は、「綺麗な場所だよね」と遊郭の中を見渡す隠・小夜(怪異憑き・f31451)へ向けたなら、その表情を覆って柔らかな色へと変わる。
「隠ちゃん、もしかしてこういう所興味あるの?」
「別に。知的好奇心を満たす以上の興味はないけど?」
 肩の力の抜けた、揶揄うような口調を相手に、旧い建物だからどこか懐かしさを覚えるような――とまでは逐一説明せず。
 小夜はそれだけ答え、天井高くに歌声が降ればその方を見上げた。綺麗な場所、というだけであれば良かったものを。
「……あんまり似つかわしくない輩も居るみたいだね」
「楽しいならゆっくり見学でも、なーんて思ったところだけど。ま、今は考えてる暇はないか」
 僅かに低く落ちた小夜の声にも応じるように、笑んだ鶴の手の内で、鋭いナイフが煌いた。

「隠ちゃん、じゃ行こっか?」
「! 袁、ちょっと……!」
 言うなり率先して前に進み出た鶴の背が、前髪で覆われた視界に入る。小夜は一拍遅れて声を上げた。
 彼の実力がこの程度の影朧に敵わぬ筈がないことは解っている。それでも――しあわせな夢の反動のように、最悪の可能性は過るもので。
 広がる大きな翼は毒を持つ鴆の薄緑。されど鶴の色をも宿し羽搏いて、駆け出した足は地を離れ。間合いを詰めて迦陵頻伽の懐にまで肉薄し、手に馴染むサバイバルナイフで切り裂いた。
(「舞いながらの格闘攻撃…ね?」)
 空中戦は影朧にとってもお手の物、咲き乱れるような格闘は鶴へ降り注ぐ。だが彼は怯むことなく応戦し、その間にも冷静な分析は忘れずに。
「でも、それだと遠くの敵に注意払えないんじゃない? 俺達、一人じゃないんだし?」
 ね。と一瞥くれた鶴の碧眼に小夜は息を呑む。
 そんな風に、無鉄砲なまでに前に突き進むことができるのはどうしてか――伝わる感情はあまりに透き通っていて、眩しい。
 何で、そんなに信じられるのさ。疑問に答えるかのように、背を向けて戦うままの鶴は問う。
「俺たちバディだもんね? ね、隠ちゃん?」
 互い違いの鮮やかな瞳が歪んでも、前髪の下では誰にも見えないけれど。
 小夜が、楼閣に棲む影朧たちなど拒むと決した意思を世界に顕せば――彼の影からあらわれるのは、バロックメイカーたる小夜に宿った悪魔の輪郭。
 ああ、もう、考え事が出来ないじゃないか。相棒への苛立ちは熱を帯びて、でもふしぎと不快ではなくて。
「破滅をもたらす美声? 僕だけの破滅くらいなら、幾らでも受け入れてやる……でもね」
 その代わりに。今はこの楼に蔓延る邪魔者を消し去りたいと敵意を奮い立たせたなら、雄山羊の群れが啼く。忌々しいバロックレギオンの昏い影たちが獲物を追って駆け出した。
「僕は、お前には従わない。これは僕の意思だ、邪魔をするな……!」
 空で鶴の刃に追われ、堪えきれず降り立った迦陵頻伽たちを獰猛に蹴散らし踏みつける影は心のあらわれ。
 バロックレギオンの蹂躙が鳥を襲うのに合わせて振るうナイフは、絢爛な照明にも閃いた。
 バディだから。――それ以上の言葉が無くとも充分、ふたりの息が合えばもう敵は無し。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

丸越・梓
アドリブ、マスタリング歓迎

_

入り組んだ階段にて迎え討つ。

歌う声に心揺らぐことなく
…それは、俺が『ひと』ではない、『怪物』であり『悪魔』である証左だろうかと内心自嘲しては胸の内は冷え切るばかり。

…ああ、けれど。奏でられる音楽は、確かに美しい。
相手の動きを読みながら都度階下に身を隠し、一瞬の隙も見逃すことなく──まるで音楽に舞う様に、ユーベルコードを叩き込む。
いかなる存在と言えど、苦しみを与えるのは本意ではない。
放つ斬撃に一拍遅れて花も空へ踊る。

それはまるで、手向けが如く。



●心の所在
 命までも懸けて救おうとしたものは数多ある。そうすることで救われる、自分の心もあったように思う。
 けれどその音色に心が揺らぐことはなく、この魂を捧げようとも思わない。
 丸越・梓(月焔・f31127)は、楼閣の縦横に架けられて複雑にも入り組む階段にて、迦陵頻伽の歌声を聞いていた。
 ……それは、俺が『ひと』ではない、『怪物』であり『悪魔』である証左だろうか。
 姿かたちは人間のそれに近く、されど常人の域を超えたうつくしさを秘めて――あるいは彼がこれまで歩んだ道が、何と呼ばれているかにつけても。梓は己の逸脱を、理解していた。
 そのかんばせは自嘲の情でわずかに歪む。音楽に興が乗る筈もなく、胸の内は冷え切ってゆくばかりだ。
(「……ああ、けれど」)
 奏でられる音楽は、確かに美しい。惹かれるものがいるという事実には納得もゆく。
 長躯を隠していた階段下は迦陵頻伽からは目の届かぬ死角。気付かれぬ間に仕掛けたなら、一拍怯んでから身構えたかれらの舞踊も跳躍も人並みならぬ目には遅く映る。
 躱すのは容易いこと。拳による乱打の隙を縫って低く構え、梓は腰の刀に手を掛けた。
 『ひと』でなくとも、心はある。今、こうしてあの歌に揺らがぬものがあると自覚できるのだから、そうらしい。
 では、自分が怪物ならば、悪魔ならば。いかなる存在と言えど、苦しみを与えるのは本意ではない、――この心はなんだろう。

「――今はどうでも良いことか」
 湧いた疑問に見切りをつけて、刀を振り切った。笛の音は高らかにまだ天井で響いている。寄り添い共に往くことは出来ないけれど、せめてその旋律にも弔いを。
 瞬くよりも速い斬撃に一拍遅れて、迦陵頻伽の舞わせた花も空へ踊る。けれど、それすらも梓の宵色の瞳を染めるには足りない。
 妖刀は身に血を映し、桜いろの鈍いひかりを放つ。ここを彩る花よりも、その輝きの方が、ずっと。 言わずとも、柄を握れば愛刀の子へ思いが伝わるようだった。
 破滅によって堕ちた先に、かれらの齎す救いがあるのだとしても。
 そこに己が救うべきものはいないならば、それは自分にとっての救いではないような気がした。
 救えないなら救われない、ならばその極楽よりもこの地獄を往きたい。せめてもの餞に舞うその花はまるで、手向けが如く。

成功 🔵​🔵​🔴​

冬薔薇・彬泰
心を揺さぶる音色、か
…良い音楽は眠気を誘うと云うけれども
今ばかりは、御遠慮願いたいね

音波は、呪詛耐性で軽減出来るかな?
継戦能力で眠気に耐えつつ
灯りの死角等、闇に紛れて行動
落ち着いて敵の動きを観察
…ふふ、レディ
そんなに尾で頬を叩かないでください
大丈夫、起きていますよ

敵が素早い分、瞬間的な思考が重要になる
突っ込んでくればカウンターも良し
仕掛けてこなければ、脇差辺りで不意打ちでも仕掛けてみようか
少しでも動きを止めた時点で【散華】を
音波が邪魔ならば、それを出せない身にしてしまえば良い
――さて
如何程の恐怖を与えたら、君は壊れてくれるかな?

…レディ?
『焦ってはなりません』?
はて、…そう見えましたでしょうか



●刹那
「……良い音楽は眠気を誘うと云うけれども」
 今ばかりは、御遠慮願いたいね。冬薔薇・彬泰(鬼の残滓・f30360)が肩をすくめると、それには同意すると言ったように黒猫の彼女も一声鳴いた。
 常人なら頭をくらつかせるような催眠電波も、常人ならぬ者に響くことはなく。堕ちたところに待つのは破滅、ある種の呪詛ともいうべきそれは、耐性宿した彬泰の眉の根ひとつ動かすこともない。
「……ふふ、レディ。そんなに尾で頬を叩かないでください」
 継戦の志は彼の胸に確かに根差しているから、ここで眠りに就くなど以ての外で。
 ちゃんと起きていますよと告げれば、鞭のように、けれど柔らかく頬に触れていたそれは已んだ。
 しかし彼女の目がじとりとこちらを注視し続けていることにも気付いて、彬泰はまた眦を緩める。大丈夫、貴女より他の声に心を奪われたりなど。
 灯りは暗い楼閣を照らすためにある。つまるところは、そもそもが仄暗い此処、鳥たちの目を欺くのもそう難くはないこと。闇に紛れ、階段の影に隠れて隙を窺って。
 歌に身を委ねる鳥たちへと不意打ちの刃が襲い、かれらが何事かと事態を掴む前に彬泰の方が速く動いた。
 素早い敵に相対したとき、瞬間的思考は重要になる。したがって打つ手と言えば、――音波が邪魔ならば、それを出せない身にしてしまえば良い。相手に時を与えず、反撃を許さないための騙し討ちは覿面に効果を発していた。
「――さて。如何程の恐怖を与えたら、君は壊れてくれるかな?」
 空へ逃げよう、などと不用心にも翼を広げた迦陵頻伽に銀雪の打刀が斬りつけ、月の輪宿した脇差はふたたび閃き――散華の名のもとに、鳥の舞わせた花ももう散るばかり。
 戦場に躍る雪月花は、そこにひとが在らば、破滅の歌なぞよりもずっとその心を惹いたやも知れない。

「……レディ?」
 飛ぶ鳥も最期には地に降りる。横たわるそれらを横目に階段昇っていれば、黒猫夫人の呼び声にふと気付く。
 愛しい貴女に合わせて身を屈めたなら彼の耳に届くのは、迦陵頻伽の歌に比べてずっと甘く聴こえる鳴き声。
 彬泰にだけ解る使い魔の囁きは、その傷付きの頸をかくりと傾けさせた。
「『焦ってはなりません』? はて、……そう見えましたでしょうか」
 貴女にしか見えぬ己があるのですねと、姫を愛でて応えつつ。
 ――そうだとすれば。何が故に、誰が為に、己は焦ったのだろう。水に墨一滴落とすような謎は、頭の片隅に残った。

成功 🔵​🔵​🔴​




第3章 ボス戦 『白霧嬢子』

POW   :    寒冷ニ、凍エ脅エ
【生命活動を維持出来ぬ程の冷気】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
SPD   :    悲嘆ニ、暮レ征ク
攻撃が命中した対象に【哭き已む事の出来ぬ悲哀の情】を付与し、レベルm半径内に対象がいる間、【精神を蝕む絶望感】による追加攻撃を与え続ける。
WIZ   :    ゆきめぐりても、あはむとぞ
【今一度、お前様と出逢いたい】という願いを【対峙する猟兵たち】に呼びかけ、「賛同人数÷願いの荒唐無稽さ」の度合いに応じた範囲で実現する。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主はメルヒェン・クンストです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。



 登り詰めた遊郭の頂、開け放たれた障子の先には幽世の昏い空を満たす月がまみえた。
 しんと冷えた夜に、春ながら雪の気配。
「御前様?」
 愛しいひとを呼ぶ鈴の音のような声は、しかし、きっとそのひとではないと分かり切った色をしていた。
 振り返った白霧嬢子は結わえた髪揺らし、顔隠す面布纏って猟兵たちに対峙する。

「嗚呼、嗚呼、しあわせなゆめの誘いを振り解いてまで――此処へいらしたと言うのじゃな」
 すなわち、霧を齎した彼女と、霧を抜けてこの場所へ辿り着いた猟兵とは相容れぬということ。
 されど白霧嬢子のさまは、ゆめに溺れるようにも見えず。
 ならば今はただ、ただ。この悲哀を分かち合えばよいのだと解き放つ力で、世界は絶対零度に包まれた。
セロ・アルコイリス
あんたにも逢いてーひとがいるんですか?
いいですよ、おれはもう逢わせてもらったし、賛同する
逢えるといいですね
荒唐無稽なもんか、おれだってココロのどっかでやっぱ想ってる
だから霧ん中で逢えたんでしょうし

あの霧を再現はできねーですが
白く、白く、視界を染め上げたなら
あんたの大事なひとの面影のひとつでも
あんたに見せらんねーかな

かなしい、は、
おれにはまだ判んねー
でもさみしい、は判ります
でも、
でもね、
ぜんぶ畢ればみんなひとつんなるから
さみしがんなくていいんだって、
おれの友達が言ってました

あんたも"ちゃんと"畢れば
大事なひとにもいちど逢えるかもしんねーですよ
お手伝いします
ひとのために人形は在るんですから、ね



●氷花の幻
「あんたにも逢いてーひとがいるんですか?」
 いいですよ。セロ・アルコイリス(花盗人・f06061)は淡い桃色の瞳をゆっくりと細め、白霧嬢子の願いに肯いた。
 彼の武器の数々から、ひらり、剥がれて宙を舞う風花はそれひとつ取って見れば美しい花弁。
 されどそれは次第に掴むことも出来ぬ吹雪となって、白霧嬢子の視界を染める。
 あの、ゆめを見せたような霧を、そのままに再現することは出来ないけれど。それでも――荒唐無稽なもんか。
(「おれだってココロのどっかでやっぱ想ってる」)
 だから自分の幸福を映しだす霧の中で、大切なあのヒトにまた逢えた。
 夢の中でも、有り得ないイフの世界でも。そうであることに苦しくなったって、あれが幸福であったには違いない。だから。
「あんたの大事なひとの面影のひとつでも、あんたに見せらんねーかな」
 死したヒトにふたたび逢いたい。その思いは、自分が持っていたそれにも少し似ている。
 どんな理由があってとか、深いことは識らなくて――底のない知識欲はその謎にも惹かれるけれど、この際はいっそ識らなくたって構わない。
 何より大事なのは「逢いたい」と願うそのココロ。それが激しい哀しみを伴っていたって、だからこそ、そのヒトがどんなに大切だったかって伝わってくる。
「かなしい、は、おれにはまだ判んねー……でもさみしい、は判ります」
 でも、でもね、……声を重ねていくほどに、より鮮明に思い出される言葉があった。
 いつかの橙の空の下で、遠い遠い未来の、おれたちが迎える「最後」の――それと我儘なココロの話をした。
「ぜんぶ畢ればみんなひとつんなるからさみしがんなくていいんだって、」
 おれの友達が言ってました。セロの声色は柔らかく――神サマみたいなあのヒトの、花の香が脳裏に過る。

「御前様……?」
 まるで自分が齎した霧の中に浸るようで。吹雪の彼方に見えたのは朧ながら、絶対に見紛うことのない『御前様』の影。
 白霧嬢子は僅かに声を震わせ、その幻影から目を逸らせなくなる。
 彼女自身すら、あの人との再会を心の底から信じてはいなかった。なぜならこの業は、おのれの願望を肯定しうる存在がなければ叶うはずのないものだから。
 けれど。荒唐無稽なんかじゃないと、このココロを知ったセロの言の葉が告げた。
 魔法の風花に交わる、鋭い氷ひとひらが白霧嬢子の肌を裂く。丈の豊かな着物の袖が硬く凍り付いてゆく。
「あんたも "ちゃんと" 畢れば、大事なひとにもいちど逢えるかもしんねーですよ」
 永遠なんてどこにもなくて、それでも別れを越えて生き続けるのは、きっと、その「畢り」を迎えるため。
 そうして、その先にまだあるかもしれない未来のため、とセロは微笑んだ。本当のしあわせがあるようにと、青い鳥の翼は靡く。
「お手伝いします。ひとのために人形は在るんですから、ね」

大成功 🔵​🔵​🔵​

隠・小夜
袁(f31450)と
アドリブ歓迎、目の露出NG

問題ないよ、袁
多分、奴を倒せば任務完了だよ
今度は僕が前に出――って、人の話を最後まで聞きなよ……!
溜息を吐き出しながら
『ただの狙撃銃』で【スナイパー】【呪殺弾】による援護射撃

永劫、満ちる事の無い月
どうしても会いたい、出会えるならば
……その気持ちを理解出来ない訳じゃないよ

UC:怪異
君の願いも、袁への攻撃も
僕の願望成就の為に、悪魔が奪い尽くすだけ
……好きに嗤えばいいよ、悪魔
ちゃんと骸の海に還してくれれば、それでいい

大切な人だからこそ
遠くで静かに、幸せに暮らしてほしいって思う人だっているのにね


袁・鶴
隠ちゃんf31451と

隠ちゃん、怪我はない?
そう視線を向けつつじゃあ、また背は任せるねと声を投げつつ地を蹴るよ
はは、早いもの勝ちだよ?
それに隠ちゃん、絶対無茶するでしょ?

戦闘時は『滑空』しつつナイフで斬りつけ『呪詛』を乗せた【連鎖する呪い】を発動
不幸を呼びながら『傷口を抉らんと』追撃の攻撃を試みるよ

敵の攻撃には賛同ではなく確りとした拒絶を
会いたい人は俺にも居るけど…けど、本物じゃなきゃ意味がないからね
だから、幸せな夢なんかいらないよ。君も、わかってるんでしょ?

あと隠ちゃんの攻撃を見れば敵の右手に『部位破壊』を試みた後隠ちゃんの元へ
…後衛でも目が離せないとか…俺バディを死なせる気ないからね?



●呪いと怪異
「隠ちゃん、怪我はない?」
「問題ないよ、袁」
 恐らくあれがこの騒ぎの黒幕、斃してしまえばこの任務もようやく終わり。
 白霧嬢子のすがたを見定めた隠・小夜(怪異憑き・f31451)の返事通りに、彼が無事であることを確かめればすぐに眼差しは笑んで。袁・鶴(東方妖怪の悪霊・f31450)は、翼をふたたび広く伸ばす。
「今度は僕が前に出――」
「じゃあ、また背は任せるね」
 小夜が踏み出すよりも先に地を蹴る素早さのまま、鶴は天井高くへと翔けた。滑空の末に昇りつめた空へはもう誰も追いつけず――サバイバルナイフを握り直せば、重力に任せて急降下を。
「って、人の話を最後まで聞きなよ……!」
「はは、早いもの勝ちだよ? それに隠ちゃん、絶対無茶するでしょ?」
 相棒ならばそれを遮ってでも守るのが役目だからと、笑う声は焦った表情の彼へも届いただろうか。
 肉薄した刹那に白霧嬢子を斬りつけたナイフ、その刃に乗せられたのは、不幸喚ぶ呪いに重ねたさらなる呪詛。
 さらには後衛から小夜が籠めた呪殺の弾丸までもが迫り、音となって頭の中に響き渡るような痛みが、白霧嬢子を蝕んでゆく。
 ――例えふしあわせに遭ったとしても、あのひとさえ居れば生きてゆけた。
 だから。だから、と譫言の熱っぽさで紡ぐ願いは「今一度」、彼女の愛しかった男を呼ばうもの。
「会いたい人は俺にも居るけど……けど、本物じゃなきゃ意味がないからね」
 癒えない傷口を、さらにナイフが抉る。蒼い瞳は、彼女の願いをはっきりと拒む色で見据えていた。
「だから、幸せな夢なんかいらないよ。君も、わかってるんでしょ?」
 女が知力尽くして生み出すそのユーベルコードは、願いを肯定する者あってこそ揮われる奇跡。対峙する猟兵の賛同なしには、愛しいものの影すら呼ぶことはできない。
 無力を知った彼女は、せめてもの足掻きに鶴の首を直接絞めようとして――着物の袖に隠れた細い手が、迫るけれど。
「……その気持ちを、理解出来ない訳じゃないよ」
 その咄嗟の一手までも掬い上げる小夜の呟きは、ほんの少し切なげに揺らいでいた。
 鶴へと伸ばした手が、彼に届くことなくだらりと垂れさがったのは、小夜の前髪の奥で目覚めた悪魔の仕業。
 言うなれば切っても切り離せぬ腐れ縁のそれは、小夜の願望成就を嘲り嗤う。人間ならざるものに人間は理解できぬのだとまた知らしめられたとしても。
(「……好きに嗤えばいいよ、悪魔」)
 ちゃんと骸の海に還してくれれば、それでいい。生命力を代償として奪われてなおも小夜の表情は凪いでいた。
 人間だから、願ってしまう彼女の衝動も解して受け止められる。でもそれを聞き届けることはできない。相棒たる彼に手を出すことも許せない。
 だから悪魔の手を借りて、すべて、すべてを己の願いのために、無に帰すのだ。
「……ッ!!」
 海に溺れるかのごとく、思うように動かせなくなる体に動揺隠せず。前髪に隠れて見えない、小夜の左目のあるはずのそのばしょから視線を逸らせなくなって。
 嬢子が見せた混乱の隙に、鶴が振るったナイフによって青染めの袖ごと肌が裂かれると、彼女は怯んで右手を押さえた。
 ――後衛でも目が離せないとか。鶴は小夜が顕現させた骸の海を一望し、それから彼の傍へと羽搏いて寄る。
「俺バディを死なせる気ないからね?」
「心配されなくても攻撃が来たら避けるし、ちゃんと戦ってるから。袁も集中して」
「そういうことじゃないんだけどなあ」
 言いたいのは、小夜自身の強さの心配ではなくて、宿すその力が彼に強請る対価のこと。きっと、本当は何を言われているのかも分かっていて、そう返したのだろうと鶴は察する。
「……大切な人だからこそ、遠くで静かに、幸せに暮らしてほしいって思う人だっているのにね」
 彼女に寄り添うことはできないと決する声を聞けば、鶴も、怪異については今は言葉を次がず翼を翻す。
 願いを、破滅を、終わらせよう。視線向ける先は、ふたり同じく。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

豊水・晶
自分は春に溺れてはならないのに、相手には溺れて貰わなければならない。お遊びで終われれば良かったのに、本気になってしまった。
遊女とは儘ならない職ですよね。

遊郭の一部屋、限られた時間しか会えないというのは焼き付くような熱い時間だったでしょう。貴女の想い、理解も共感もできます。普通の恋した乙女の切実な想いです。叶えてあげたいくらいに。しかし、オブリビオンとして甦り世界崩壊の危機にあるために、私は貴女を倒さないといけない。貴女が次へ進めますように。
UC発動
普通に、踊るように攻撃します。
アドリブや絡みなど自由にしていただいて大丈夫です。



●流星が如く
「自分は春に溺れてはならないのに、相手には溺れて貰わなければならない。――お遊びで終われれば良かったのに、本気になってしまった」
 遊女とは儘ならない職ですよね、と豊水・晶(流れ揺蕩う水晶・f31057)はもの憂げに呟いた。
 今では骸魂となってしまった彼女を春と捉えるならば、傷を負ってその美しい面影も失いつつある白霧嬢子を見据え。凍える寒さも忘れる怜悧な瞳で、晶は言葉を継ぐ。
「貴女の想い、理解も共感もできますよ」
 ――叶えてあげたいくらいに。凪いだ晶の声は、まるで友人と恋の話をするかのよう。
 愛しい人との時間は焼き付くような熱いものだったろうと、容易に想像がつくから彼女の境遇に寄り添った。
 例え人でない雪女だとしても、彼女だってひとりの普通の乙女だった。だから恋することだって至極当たり前のこと。晶自身も、嘗ては神として崇められながら今はひとの姿をとって生きる竜神で――そう、あの霧の中で見た夢も、恋焦がれる心によく似ていた、ような。
「此の思いを、汲んで呉れるのなら――」
 白霧嬢子は晶に縋るように、彼女の業を発動させようと試みる。愛したひとを今ふたたび己のもとへ喚ぶには、猟兵の賛同が必要だった。
 けれど晶は首をゆるりと横に振る。艶やかな銀髪が、穏やかな波のように緩く揺れた。
 それでも貴女は、オブリビオンとして、骸魂として蘇ってしまったのだから。願いに賛同することは、できない。
 霧が見せる夢は、白霧嬢子自身が見ていたかったしあわせだろうか。紛い物でも、あのしあわせを目の前にすることで、他の誰かの心も満たしてあげられるものと思ったのだろうか。
「もう誰も、過去を振り返って哀しまないように。もしかしたら、私が知る以上に貴女は優しいのかも知れませんが」
 でも、私は貴女を倒さないといけない。……貴女が、次へ進めますように。
 翳した護符は白霧嬢子の面布の前にひらりと降り下りて。触れたその途端に、紙上に刻まれた七つ星の紋様が目覚めてひかり輝く。
「――猟兵。そなたは、強いのじゃな」
 過去より出でし骸魂は、己がとらわれたその日、そのひとに縋り続けるからこそ、未来に思いを馳せることはない。
 けれど晶の言葉は、この果て損ないの命にも、終わりを越えて先があるかのように聴こえたから。だからふと、白霧嬢子は思った。
 ヒトに恋したおのれを嗤えど、愛したことが間違っていたなどとは――それこそ、死んでも、思わぬと。
「妾は、傍に……あのひとの、傍にゆきたい」
「ええ、そのために」
 緊縛は彼女に纏わりついてその身を離さず、けれど女が、晶のユーベルコードに抗うことはしなかった。
 今生を終えてその先へ。竜神はその寿命を削りながら、白霧嬢子の善き最期を希う。

大成功 🔵​🔵​🔵​

丸越・梓
アドリブ、マスタリング歓迎
解釈・ユーベルコード演出お任せ
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「……そのひとは、」

貴女を置いて、何処に行ってしまったんだ

…己の事のように苦しくて、知らず自身の手を強く握りしめる
何があったのか何も知らない
けれど彼女の背中がひどく小さく見えて、胸の内が掻き毟られるようで
此処にいても逢えないのなら、いっそ
彼女を外へ連れ出して、共に探したい
…けれど
彼女は骸魂で
野放しにしておけば関係のない妖たちまで巻き込んでしまう
猟兵として警察官として
何より彼女にそんなことをさせたくなくて
…俺の酷いエゴだと自覚している

それでも刃を向けない
向けたくない
せめて今だけでもこの華奢な背中を護りたいと
彼女の肩に、そっとコートを掛けた



●心の音
「……そのひとは、」
 貴女を置いて、何処に行ってしまったんだ。
 そう言葉に零してはじめて、丸越・梓(月焔・f31127)は自身の手を強く握り締めていたことに気付く。
 何があったのか何も知らない。想像することしかできない。けれど、彼女の背中がひどく小さく見えて、胸の内が掻き毟られるようで。
 彼女のかなしみが自分のことのように苦しいのは、きっと彼女が吹き散らす悲哀の冷気の所為だけでなく。
(「……此処にいても逢えないのなら、いっそ」)
 彼女を外へ連れ出して、共に探したいとまで思う。白霧嬢子の思いが満たされるまで、どこまでも。
 誰かを救うためならばいつでもいつまでも駆けられるのが梓の性だから。
 だが彼女は、あの霧を齎してあやかしたちにゆめを見せ――梓の心へも過去の夕景を注ぎ、未来への道を断とうとした骸魂。
 自分はまだしも、他のあやかしたちを惑わす恐れがあるならば野放しにすることはできない。
 猟兵として、警察官として。何より彼女にそんなことをさせたくなくて。夢を見せたのも悪意からではないと冴えた直感が悟るから。
 それでも――酷いエゴだと自覚していても、彼女を攻撃することはできなかった。
 腰に携えた刀ならばこの颶風をも薙いで斬りかかることが出来るだろうと、梓の力量を見て察していた女は、しかし彼がその柄にも手を掛けぬことに、首を傾げた。そうして。
「……そなたはやさしい」
 先ほどの呟きを思い出す。屠るべき敵をまで思うのかと、称えずにはいられなくなるほどに。
 けれど。あの問いに答える前に正すべきことがひとつだけあった。
「置いて行ったのは妾の方じゃ。男と、その間に為した子を置いて家を去った」
「……なぜ?」
 僅かに目を瞠る梓に、嬢子は続ける。
 怪異として男の前に顕れた白霧嬢子は恋に落ち、「自分を見たことを誰にも言わぬのなら」と殺さず見逃して――今度は雪女ではなくヒトとして彼に逢いにゆき、生涯を共にしようと誓った。
「誰かに明かせば殺すと言ったのに、あの男はヒトのふりをした妾の前で、いつかの雪女の話をした。だから今度こそ命を奪うつもりで――」
 だが彼女は、愛してしまった男をついぞ殺すことはできず。けれどもそれ以上、一緒にいることはかなわないと、代わりに己がその家を去ることにした。

 短く語り終えた白霧嬢子の肌を包むように、黒い外套が肩へと掛けられる。
 せめて今だけでもこの華奢な背中を護りたい、――思いが願いとなって梓のユーベルコードに響き渡ったから。
「……ずっと、ずっと、傍にいたかった」
 零れた声は、囚われていた原初の絶望すら拭い去られたかのように、弱く細い。
 慈悲に洗われて思い出すのは、いちばん初めの恋心で。愛しいひとを待つように咲く、君影の花がやさしく香った。

大成功 🔵​🔵​🔵​

冬薔薇・彬泰
貴女が皆に、優しい夢を見せるのは
貴女が誠に優しい証なのでしょう
会いたい、然し会えない
それが――かなしい

凍える冷気がこの身を襲えど、立ち止まる理由にならない
吹きつける風を外套で凌ぐ
我慢比べは、これでも得意な方でね
凍傷を起こそうと激痛に耐えつつ
怯まず落ち着いて行動
もはや使えぬ手でも使い道はある
【デッドマンズ・スパーク】――多少痛いけれど
齎す光が、熱量が、この霧を晴らせば良い

幸せに永劫はない
溺れる事こそ『幸せ』と呼ぶならば
僕は否定しなければならない
貴女とその御仁が共に居た『一瞬』
確かに幸せだった、尊きひととき
…誰しもが、苦しみと悲しみを背負って生きなければならない
故にこそ『愛』は素晴らしいのですから



●さよならを告げて
 ずっと。ずっと一緒にいたかった。傍にいたかった。傍に、いてほしかった。
 けれどあのひとは約束を違えた。共にゆきたかった道を、分かつしかない日が来てしまった。
「だから、同じく哀しい思いをする者のために、あの霧を生んだ?」
 愛するもの、望ましいものと再び過ごすことが出来たなら、それがまがいもので、永劫の停滞であれど幸福なのだと。
 ほんとうに心からそう思いますか。絶対零度を喚ぶ彼女の業をその身でもって知ってなお、冬薔薇・彬泰(鬼の残滓・f30360)は静かに紡ぐ。
「貴女が皆に、優しい夢を見せるのは。貴女が誠に優しい証なのでしょう」
 会いたい、然し会えない。それが――かなしい。
 その感情を具現化して天に委ねたなら、こんな風となって吹き荒れるのだろうと思う、まさにそのままの凍てつく冷気が彬泰を襲う。
 寒さは肌を蝕み、間もなく凍傷にすら至るけれど――レエン・コオトの幽霊か或いはと思わせる、地獄を識った外套がそれでも彼を守っていた。
 硬い片腕に籠めた電流は激しく弾け、夥しい熱量と光で世界を照らす。遠く彼方にいるかのようだった白霧嬢子も、その熱で霧が晴れてしまえば姿は近くに。
 「多少痛い」――常人であればそれどころでは済まされぬ痛みだった。今は使い道が無くとも、普段は刀を揮って猛威と駆ける御手ならば、代償としては大きなもの。
 どちらも失うことで得る苦痛。だが人に去られるという悲哀は此れよりも痛いと思うのだろうか。
 比べることは出来ぬけれど。孰れにせよ、これで話が出来ますと、彬泰は事も無げに微笑んでいた。

「幸せに永劫はない。溺れる事こそ『幸せ』と呼ぶならば、僕は否定しなければならない」
 貴女とその御仁が共に居た『一瞬』。確かに幸せだった、尊きひととき。
 其れこそが貴女にとって美しく甘い、至福だったのではないですか。
 彬泰が囁くことばに、もはや抵抗を諦めた白霧嬢子の、息を呑む音が幽かにきこえる。
 人間と雪女の恋などはじめから永遠であるはずがなかった。解っていて恋に落ちてしまった。
 だからあの須臾のしあわせを、時の流れに取り零さないよう大切に抱えると決めた。
「そう……妾は、そうして今まで――其れなのに、……いつの間にか思い違えていた」
 約束はどうして破られたかわからなくても。いま自分がどこへあるべきかは解せたと、彼女は瞬く。過去に満たされて永遠を過ごすより、未来を想って海へ還ろう。
 それが、背負って往く先の道ならば。ヒトの体温に似た柔らかい涙を、ひとしずく頬に流して面布の下で笑う。
 一滴が地に落ちたとき、白霧嬢子のからだは彼女が生んだ霧のごとく輪郭を失いはじめた。
「……誰しもが、苦しみと悲しみを背負って生きなければならない――故にこそ『愛』は素晴らしいのですから」
「どうしてそんなにも、揺るぎない理を得られたのじゃろう、そなたは」
 悔いるにはもう遅く、けれど、生きるならばそなたのようでありたかった。
 衝動の限り命を繋ぎ留める死者の瞳は、彼岸に咲く花のように紅い。
 聞き届けたその言葉への、彼の感情は読めず。骸の海の岸へ逝く女を見届けて、彬泰は瞬く。

 幽世の空はいまふたたび澄み渡り、満月は煌々とせかいを照らす。
 満たされぬ思いも失った過去もすべて抱えて明日へ進む。これからの夜も明るいと、信じてゆけば夢もやさしく微笑むはず。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2021年04月30日


挿絵イラスト