●白兎が齎す悪夢
「へ~、壺の中とは思えないぐらい、広くて素敵な場所だね!」
広々とした辺りの景色を見渡して、猟書家レプ・ス・カムはにこやかに笑った。
空は青く優しい陽光が降り注ぎ、爽やかな風が流れ、緑がよく育った豊かな森がある。
「昔から『旅の導き手』と呼ばれるフェアリーの世界。ここを探検すれば『天上界への鍵』がみつかるかもしれない」
そうと決まれば、早速はじめよう。
悪夢に変異させても形を変えず残るものがあれば、それがきっと鍵のはず。
宝探しの冒険に出発だ。
ぴょんと跳ねるような足元から、じくじくと。
黒いインクが染み込むように、世界を侵す毒が広がっていく。
●グリモアベース
「毒の森と化したフェアリーランドを救いに行ってもらえないか」
足を止めた猟兵へ、クック・ルウは語りかける。
猟書家『レプ・ス・カム』の予知を見た者もいるだろう。
彼女は『天上界への鍵』を探すため、フェアリーランドを次々と悪夢の世界に変えている。
今回、彼女の"毒牙"に掛かったのは、薬草の森を育むフェアリーランドだ。
薬師であり冒険者であるフェアリーの少女が保有する小さな世界である。
森の中には様々な薬草が生えていて、人を癒やすための薬を作る材料となっていた。
それが今や、毒に満たされた悪夢の世界になりつつある。
レプ・ス・カムの力によって、ユーベルコードを解除できなくなった彼女は、すでに毒に侵され、森の中で死を待つばかりの状態だという。
「ユーベルコードを強制的に発動し続けさせられれば、使い手は死に至る。毒を治療しても、やがて衰弱死してしまうだろう」
彼女を救うには、元凶たるレプ・ス・カムを倒さなくてはいけない。
しかし。
健やかだった森は刻々とその形を変え、毒の森へと変化し続けている、
毒は幻覚を見せたり、方向感覚を狂わせて、レプ・ス・カムの元へ行く者の邪魔をするだろう。
それでなくても、触れる全てが毒へとなりつつある世界だ。
踏み込むだけで、目眩に吐き気や痺れといった症状に見舞われるかもしれない。
毒への対策があるならば、それを防ぐことはできるだろうけれど。
それでもこの小さな世界から毒を消しさる手段は一つだけだ。
「レプ・ス・カムを倒せば、すべて元通りになる筈だ。……どうか、この小さな世界を頼む」
グリモアが閃き、辺りの景色が美しい森を映し出す。
見る間に暗い色をした毒の森へと変わる景色の中へ、身を投じれば。
そこに、倒れた小さなフェアリーの姿が在るだろう。
鍵森
舞台はアックス&ウィザーズ。
【幹部猟書家】との戦いになります。
●構成
1章:冒険。
フェアリーランドの中にある森の中へ降り立ちます。
毒の森を進み『レプ・ス・カム』を追ってください。
森の中は迷路のようになっていて、毒の作用と共に猟兵を惑わせてくるでしょう。
毒の症状は、幻覚や目眩などの体調不良から、機械の体すら爛れさせる様なものまで多種多様。
対策をしたり、逆に毒に苦しむなどして頂ければと思います。
●✨プレイングボーナス✨●
「フェアリーの少女に楽しいことを考えてもらう」
この世界は持ち主であるフェアリーの精神状態に左右される為、少女を勇気づけたり安心させることで、悪夢を遠ざけ、森に廻る毒の進行を遅らせることが出来ます。
2章:ボス戦。
猟書家『レプ・ス・カム』との戦いになります。
悪夢を齎す彼女は幻術と巧みな話術で惑わせてくるでしょう。
ここまでお目通しありがとうございます。
皆様のご参加お待ちしております。
第1章 冒険
『迷いの森』
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POW : 直感を信じて進む など
SPD : 法則性を導き出して進む など
WIZ : 森の秘術に直接干渉する など
👑7
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●毒は廻り、死の匂いに満ちる
そこは、小さな壺の中にある、小さな世界。
フェアリーの少女が守る、薬草の森。
花や草、木々の葉には、人を癒やす為のあらゆる効能が宿り。
少女は森の糧を得て、日がな薬を作るのだ。
けれど、嗚呼。
森は毒の悪夢に侵されてしまった。
澄んでいた空気には肺臓を蝕む毒混じり、木々の葉に触れれば肌は焼き爛れる。
柔らかだった草は毒の棘を持ち、花は毒香を漂わせる。
森に住む生き物たちさえも、その姿を変容させられ毒を持つ身体となって。
恐るべき速さで様変わりしていく森の中でフェアリーの少女は悲鳴を上げる。
「ゲホッ、ああ……! うそでしょう、なにが起こっているの……?」
この世界の持ち主たる彼女ですら止められず、フェアリーランドは意思に反して発動を続ける。
毒を吸い込んだ身体は、もはや上手く動かすことも出来ない。
「だれか……たすけて……」
小さな声が、涙と共に落とされて。
森の中で一人、やがて命尽き果てるだけのフェアリーの前に。
絶望の未来を変える力を持つ猟兵達は現れる。
救いに来たのだと伝えてあげるだけでもいい。
希望を見出したフェアリーの心が、この世界から少しだけ毒を遠ざけるだろう。
刻々と迫る小さな世界の終末を止めるため。
猟兵よ。
毒が満ちる迷いの森に立ち向かい、白い兎を追いかけて進んでほしい。
ロッテ・ブラウ
コレは…大丈夫?じゃないよね…
とりあえずコレ舐めて
ボクら妖精に喧嘩売るとか、マジいい根性してるよ
後は…ボクに任せといてゆっくりしてなよ
あのウサギ叩きのめしてくるからさ!!
(自分も口に含んで舐めているUCヒュギエイアの杯で作成した。完全無敵の甘くて美味しい解毒ドロップをフェアリーの少女に与えて、指切りを交わして安心させる笑顔を向けます)
ふざけやがってマジで許さない
ボクの古巣で好き勝手なんかさせないぞ!!
毒なんか解毒すれば怖くなんかない!!なんせコレは妖精の秘薬なんだからね!!
舐めんなよ!!!
「コレは……」
光景に、ロッテ・ブラウ(夢幻・f29078)は眼を見張る。
きっとつい先程まで、ここは美しい森だったのにちがいない。
そう思わせる名残があるのが、むしろ痛ましい。
小さく咳き込む声を耳に拾い、素早く降り立てば、草の上に倒れた少女が弱々しく震えていた。
その様子を見たロッテの顔に一瞬、悲壮な表情が過る。
「大丈夫? じゃないよね……」
「……あなた、は……?」
「とりあえずコレ舐めて」
緊急だ。質問に答える時間も惜しい、とその身体をそっと抱き起こして。
魔法薬の飴を口に含ませてやり、蒼白だった顔色に血の気が戻ってくるのを見届ける。
ヒュギエイア――女神の名を冠し、古の知識から創造される神秘の薬。
ロッテの信じる心が生み出す、甘くて美味しい完全無敵の飴玉だ。
口の中に広がる優しい甘さに毒の痛みが和らぐと、フェアリーの少女は助けが来たことを悟ったようだ。
「ボクら妖精に喧嘩売るとか、マジいい根性してるよ」
幻術をもちいて外見を偽る事も多いロッテには、他者から軽視される悔しさがよく解る。
小さいからと、力が弱いからと、そんな風に思っている者の仕業ならば思い知らせてやろう。
「後は……ボクに任せといてゆっくりしてなよ」
指と指を絡める。約束の証だと、力強く握って。
ロッテは相手を安心させるように頼もしい笑みを浮かべてみせた。
けれどその心は憤っている。痛めつけられた彼女の分まで。
だから。
「あのウサギ叩きのめしてくるからさ!!」
激情の熱がこもった声で、確かな誓いを立てる。
自分の分まで怒ってくれる人なのだ。その事が、心の芯まで彼女に伝わって。
ありがとう。未だか細い息の下、震える唇が言葉を紡いだ。
頷いて、ロッテは飛び上がると放たれた矢のようになって飛んでいく。
「ふざけやがってマジで許さない。ボクの古巣で好き勝手なんかさせないぞ!!」
森の中を突っ切るように飛んでゆけば。
触れた毒葉が頬を焼き、吹き付ける逆風は身体にしびれを走らせた。
けれどロッテは怯まない、傷つくことを恐れるよりも、前に進むことを選び続ける。
(毒なんか解毒すれば怖くなんかない!! なんせコレは妖精の秘薬なんだからね!!)
口に含んだ魔法薬の飴が毒を打ち消していく。
けれどすぐに治せるとはいえ痛みや苦しみがない訳ではないのだ。
――余程の覚悟と意志の強さがなければ、飛び続けることはできまい。
敵の気配が近づくに連れ、毒の効き目は酷くなる。
それでも彼は止まらない、むしろ飛行スピードは増していく。
約束を果たす為に。
その胸に納まりきれない程の怒りをぶつけてやるまで、止まることはない。
「舐めんなよ!!!」
腹の底から張り上げた声が、大気を震わせるように響き渡る。
白兎の耳にも、宣戦布告は確かに届いただろう。
大成功
🔵🔵🔵
黒城・魅夜
「悪夢の滴」たる私の前で悪夢を弄ぶ愚かな兎
その増上慢をすぐに思い知ることになるでしょう
グツグツ煮えた兎鍋にしてあげますから待っていなさい
さてまずは毒の森ですか
私は「毒耐性」「呪詛耐性」「環境耐性」を持ちますから
すぐに侵食はされないでしょうが
ある程度の時間稼ぎにしかならないでしょうね
ふふ、ですが、私には「ある程度の時間」さえ稼げればそれで十分
妖精さんには「オーラ防御」を掛けて毒のめぐりを喰い止めつつ
私自身は時の流れを操り停滞・遅延させ、毒の効果が遅くなったところを
一気に森を踏破します
妖精さん、誰かを癒したいと願う優しいあなただからこそ
あなた自身も毒に負けてはなりません
あと少しだけ頑張ってください
飲み込まれていくようだ。
塗り替えられていくようだ。
日が落ちて夜が来るような速さで、森が毒に満ちていく。
己の世界が望まぬ姿に変えられていくのは、おぞましいことだろう。
黒城・魅夜(悪夢の滴・f03522)は、草の上に寝かされた少女の姿を認めて近寄った。
苦しげな息遣いは、毒のせいばかりでもないのだろう。
強制的にユーベルコードを使わされている限り、彼女の生命は削られていく。
その姿を見た魅夜は痛ましげに眉をひそめた。しかし、すぐに表情を柔げて相手を不安にさせないよう務めながら声を掛ける。
「妖精さん、誰かを癒したいと願う優しいあなただからこそ」
そっと屈んで、小さな彼女へと掌をかざせば。
輝くオーラが白く細い指先から広がって、フェアリーの体を覆っていく。
毒のめぐりを喰い止める生命を繋ぎ止める、その為の加護ともいうべき力だ。
「あなた自身も毒に負けてはなりません。あと少しだけ頑張ってください」
微かに頷いてみせたフェアリーの少女へ、魅夜はやさしく微笑みかける。
その言葉と笑みは、死を待つばかりだった彼女に希望を与えた。
「兎は向こうにいるようですね」
森の奥へと足を進めた魅夜を淀んだ風が迎える。
毒の融けた空気が、唇に触れて。
呼吸に混じって内側へ潜り込もうとする死の気配。
手を軽く握っては開くのを繰り返し、身体への影響を確かめた。
「すぐに侵食はされないでしょうが、ある程度の時間稼ぎにしかならないでしょうね」
さすがは幹部を名乗るだけのことはある、という事だろうか。
自分の力をもってしても完全には防げないだろうと、魅夜は冷静な判断を下した。
しかし、口元には笑みを浮かべてみせる。
「ふふ」
この世界を悪夢に変えた兎に、教えてあげなくてはなるまい。
悪夢にまさる希望がここにあることを。
「私には『ある程度の時間』さえ稼げればそれで十分」
その間に終わらせてあげると、ゆらぎのない意志を瞳に宿らせて。
「妖精さんの悪夢を、長引かせたくもありませんからね」
小さく口を開いてかじりつくように閉じられた。
白い牙が、啜る。目には見えない血があるかのように。
「『時よ脈打つ血を流せ、汝は無敵無傷にあらぬもの』」
時へ、命じる。
支配下に置いた下僕へと絶対的な君主がそうするように威厳を持ってして。
身体に取り込まれた毒の巡りを遅らせよと。
「これでいい――さあ、一気に森を踏破しましょう」
"悪夢の滴"たる私の前で悪夢を弄ぶ愚かな兎。
その増上慢をすぐに思い知ることになるでしょう。
グツグツ煮えた兎鍋にしてあげますから待っていなさい。
森を駆け抜ける魅夜から鎖が鳴る。
しゃりぃん。と震えるような妙に澄んだ音だ。
大成功
🔵🔵🔵
氷雫森・レイン
【星雨】
フェアリーランドが
同族の命と心が(顔面蒼白)
環境・毒耐性があって尚呼吸の度に命を蝕む毒より、敵への恐怖や怒り、今まさに苦しい筈の同族への想いでどうかしそうで
(薬草と紅茶の)弟子の言葉でやっと我に返ったくらい
未だ体は震えるけれど
「そうね、早く…早く助けないと」
気が逸るのを何とか堪えて進む
同族の矮躯を暗い中探すのは大変だから精霊も呼んで
「ごめんなさいラル、お願い…!」
「ねぇ貴女、しっかりして!」
見つけたら抱き起こして結界術で彼女を覆う
長く保たないのは覚悟の上
それでも結界の中に浄化の力を満たし毒の中和を試みる
「レインよ。遅くなってごめんなさい…助けに来たわ」
アレクと2人なら少しは楽に出来る筈
アレクシス・ミラ
【星雨】
アドリブ◎
一刻も早く敵も探さねばならないが…先ずはフェアリーの子の保護を
毒と環境への耐性、己に浄化のオーラを巡らせて尚
蝕む毒に苦しさを感じる…それでも、足は止めない覚悟だ
もっと苦しいのは…この森の主であるフェアリーの子と彼女を想うレインさん…レディだから
―レディ
焦らないでと、苦しさを少しでも和らげるようにと
友であり師でもある彼女に手を伸ばし【生まれながらの光】を
君の同族も、この森も死なせはしない
一緒に助けよう
…僕が、ついています。レイン『先生』
フェアリーの子を見つけられたら
彼女達と結界を支え、励ますように【生まれながらの光】
―大丈夫
必ず、僕達が君と森を助けるよ
もう少しだけ…頑張れるかい
蒼い雨雫の如く、森の中へとポツリと降り立って。
氷雫森・レイン(雨垂れ雫の氷王冠・f10073)は、伏せた顔を上げて森を見た。
みるみると瞳が見開かれていく。
光景に、胸を抉られたような心地がした。
「……そんな」
森が死んでいく。ほんの少し前まで美しく平和だった森が。
草や木が禍々しいような姿となって、人を殺す毒を生み出していく。
本来の性質とまったく逆の作用をするのは、この森の持ち主が悪夢と思うほどに恐れているからなのだろうか。
「フェアリーランドが……同族の命と心が」
顔面蒼白となったレインは呆然と呟いた。
きれいな絵にインクを垂らしてぐしゃぐしゃに汚して踏みつけにしているような。
残酷な悪意からなされるおぞましさ。どうしてこのような事が出来るのだろう。
空気に含まれた毒素が、痺れるような痛みをもたらしてくる。けれど、恐れや怒りよりも頭の中を占めるのは、この森の何処かで死に瀕している同族への想い。
「レインさん」
一歩離れたところへと降り立ったアレクシス・ミラ(赤暁の盾・f14882)は、レインの様子に動揺を感じ取りながらそっと声を掛けた。
「行きましょう、この森の主が助けを待っています」
相手を思いやる気持ちの籠もったその声に、レインは我に返る。
いまだに震える身体を抑え込むように、背中の翅を広げ。
「そうね、早く……早く助けないと」
ふわりと飛び上がったレインと共に、アレクシスも駆け出した。
森の毒は容赦なく侵入者へと襲いかかった。
浄化のオーラによって毒を防いでいても、息苦しさを感じ、皮膚には時折痛みが起こる。
留まり続ければ、生命も危ないだろう。
それでも、退くことなく進み続ける。足を止めない勇敢なる覚悟をアレクシスは持っていた。
「ごめんなさいラル、お願い……!」
レインの細い声が、精霊を喚ぶ。
暗がりの森で一人のフェアリーを探すことは困難であったけれど、精霊の助けを借りたことによって二人はすぐに少女を見つけることが出来た。
けれど、ぐったりとしたその姿は衰弱して意識を失っているようである。
手当を受けたとはいえ、毒以外にもユーベルコードを強制的に発動し続けさせられている負担が生命を削っているのだ。
「ねぇ貴女、しっかりして!」
急いで宙から舞い降りたレインは、少女を抱き起こして声を掛ける。
けれど触れた体は冷たくて、命の灯が消えていこうとするのを感じるようだった。
悪夢にうなされたまま死んでいくことの恐ろしさはどれほどだろう。
いや。いや。とレインは思わず首を横に振る。
「――レディ」
アレクシスは、つとめて穏やかに言葉を紡いだ。
こんなにも動揺したレインの姿にも、死の迫る少女の姿にも胸が苦しくなるけれど。
「焦らないで」
己の動揺は全て優しい表情の下へ隠して、大丈夫だと涙を拭うように声をかける。
「アレク……」
「君の同族も、この森も死なせはしない」
その手から溢れるように光が灯る。
アレクシスに生まれながらに備わっていた、聖なる光。
「一緒に助けよう……僕が、ついています。レイン『先生』」
フェアリーの少女へと注がれた光が毒を治療し、身体を治療する。
腕の中で少女の呼吸が楽になっていくのを感じ取り、レインは一度瞼を伏せた。
「ありがとう、アレク」
そう、彼女は先生だから。
生徒の前では、弱いところばかり見せられないと心は奮い立つ。
レインは結界術を少女に施し、毒を浄化しはじめた。
長くは保たないことは覚悟の上だ。
しかし、その僅かな時間が命運を別けただろう。
二人の行動によって少女は救われ、命を永らえることが出来たのだ。
やがて少女の意識が戻り、ゆっくりと瞳を開いた。
「だ、れ……?」
「私はレインよ。遅くなってごめんなさい……助けに来たわ」
そう言って微笑んだレインの瞳は、すこし潤んでいる。
「もりが……」と、少女が不安げに呟いた。
言葉の続きは吐息に消えて、朦朧となにかを訴えるように唇がわななく。
「大丈夫」
アレクシスが応えた。なにも言わずとも気持ちは伝わっていると。
「必ず、僕達が君と森を助けるよ」
レインも深く頷いて、少女の手を握る。
「もう少しだけ……頑張れるかい」
アレクシスの言葉に、少女はゆるやかに笑みを浮かべた。
それは紛れもなく安堵の表情で。
信頼を寄せた眼差しで、二人を見詰めていたのだった。
大成功
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灰神楽・綾
【不死蝶】
まるで魔物でも出てきそうな酷い森だね
毒に侵されていない、本来の美しい森の姿も見てみたいな
その為にも悪い兎さんを早く退治しないとね
…やぁ、小さなお嬢さん
普段の笑顔と優しい声色を心掛け
助けに来たことを伝える
少女への励ましと毒対策は梓に任せて
俺はこの迷路の森を少しでも効率良く進む方法を考えよう
分かれ道があったらUCの紅い蝶を一羽待機させて目印に
離れていても蝶の位置は分かるから
これで同じ場所を何度もグルグルするのを防げるはず
でも、気付かぬ内に毒による幻覚で
見当違いの道へ案内されたら厄介だ
定期的にナイフで自分の手を斬りつけて
その痛みで無理やり己を覚醒させる
俺にとってはこれが一番の目覚ましさ
乱獅子・梓
【不死蝶】
へぇ、これがフェアリーランドの内部…
小さな壺の中こんな広大な森を作り出せるだなんて
よく分からないが凄いユーベルコードだな
今は感心している場合じゃないが
少しでもこの少女を元気付けるには…
焔と零を呼び、少女にじゃれつかせる
小さな仔竜もフェアリーと並ぶと
そこそこ大きいドラゴンに見えるな
焔の背中に乗ってみろと促す
少女を乗せてくるくると楽しげに飛び回る焔
どうだ?フェアリーは自分で飛べるだろうが
ドラゴンの背に乗って飛ぶなんて経験そう無いだろう?
更に毒対策にUC発動し、風属性のドラゴンを複数召喚
自分たちを囲むように配置
毒を含んだ空気を羽ばたきで外側へ吹き飛ばし
出来る限りもろに毒を浴びないようにする
へぇ。と感心したように乱獅子・梓(白き焔は誰が為に・f25851)は森を眺めた。
「これがフェアリーランドの内部……」
空にも森にも果ては見えず、ここが小さな壺の中だということに驚かされる。
「こんな広大な森を作り出せるだなんて、よく分からないが凄いユーベルコードだな」
その横で、灰神楽・綾(廃戦場の揚羽・f02235)も森の景色に目元を細めた。
自分たちの立っている足元からも、地面から腐っていくような感覚がある。
生き物に毒をもたらす森は姿を変えて、色も形も匂いも元の姿から遠ざかっていっているのだろう。
鬱蒼と暗い影の落ちる死の気配に満ちたこの場所が、ほんの少し前まで普通の森であったという。
「まるで魔物でも出てきそうな酷い森だね」
ほんの僅かにのこされた面影から、本来の森の景色へ思いを馳せて。
「毒に侵されていない、本来の美しい森の姿も見てみたいな」
「ああ、そうだな」
「その為にも悪い兎さんを早く退治しないとね」
そして少しも歩かぬ内に。
小さな人影を見つけて、二人は足を止めた。
「……やぁ、小さなお嬢さん。助けに来たよ」
綾が優しく穏やかにそう声を掛ければ、フェアリーの少女は微笑んだ。
他の猟兵からの手当を受けて少しずつ体調は回復していっているようだ。
それでもユーベルコードの発動を止めない限りは、衰弱することを止めることは出来ない。けれど精神を強く保つことで、その進行を遅らせることが出来るのならば。
「焔、零。……元気づけてやってくれ」
梓の呼びかけに、二匹の仔竜がフェアリーの少女の傍へと近寄る。
「キュー」「ガウ」
柔らかな声で鳴きながら、二匹は鼻先をそっと寄せて気遣うように少女に触れた。
小さな竜も、フェアリーと並ぶと大きく見える。
「……やさしい子達ね、とても可愛い」
「そうだろう?」
少女は手を伸ばして二匹を撫でている。
「背中に乗ってみな」と梓は促して、焔の上に乗せてやる。
「キュー」
人懐こい焔がそのまま楽しげに飛び上がる。ゆっくりと、まるで子供をあやすような優しい速度で梓の周りを回って頭の上まで行った。
「どうだ、ドラゴンの背中に乗って飛ぶ気分は?」
きっと初めての体験だっただろう。焔の首の後ろを抱きしめるようにして掴まりながら、少女は楽しげに笑っていた。
「焔は、あったかいね」
「キュ!」得意げに焔が胸を張ってみせる。
そのまま梓と綾の目の高さに合わせて旋回すれば、その背中から少女は声を上げた。
「ありがとう、助けに来てくれて」そう礼を伝える声は一段と明るくなっていて。
「すぐ終わらせるから、もう少しだけ待っててね」
綾の投げかけた言葉にも、しっかりとした頷きを返してみせた。
その姿を見届けて、二人は森の奥へと向かう。
一歩踏み込むごとに、立ち籠める毒が強くなっていくのが肌でわかるようだった。
「なるべく毒を浴びないようにしないとな」
「対策は任せてもいい?」
「わかった。風のドラゴン達を喚ぶから、あまり俺から離れるなよ」
ヒュウル……。風を切るような音がして。
ユーベルコードの発動により、梓の周りに風の力を持つドラゴンたちが現れる。
大きな翼を羽ばたいて風を起こすと、毒混じりの空気を吹き飛ばしていく。
「これで少しはマシになるだろ」
「それじゃあ、俺は」
と、綾は一羽の紅い蝶を飛ばした。感覚を共有する、サイレント・スカーレット。
分かれ道に蝶を止まらせれば、間違った道へ進んでも元の場所へと戻ることが出来る。
この対策がなければ、森を抜ける時間は倍になっていただろう。
そして、もう一つの対抗策。
ドラゴンの風の護りがあるとはいえど、知らず知らずの内に毒に意識を蝕まれぬように。綾は一定の間隔で自身の手にナイフの刃を当てた。
ナイフで切りつけた痛みでもって、正気を保つ。それはたしかに有用な手段だ。効率的で、即効性もある。
けれど、自分を痛めつける行為であることには変わりない。なんども続ければ気づかれるのも時間の問題だったろう。
「おい、綾……」
「ぼうっとしたら危ないかね」
なんてことのないように答える。
梓が何か言いたげな顔をしているのを、見ないふりをして。
「俺にとってはこれが一番の目覚ましさ」
そう、呟いた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
未不二・蛟羽
もともと薬も苦手だし、毒なんて特に苦手
耐性なんてある訳ないから凄く痛いし、しんどいけど
でも、フェアリーさんが苦しい方がずっとずっと嫌だから、助けるっす!
【逆シマ疾風】で風を巻き起こし、毒を吹き飛ばしながら進み少しでも症状を和らげるっす
んーと、こういうのは左手側に進めばいいって聞いたことあるっす
何か違う気もするけど……あとは野生の勘と足でフェアリーさんを探すっす
フェアリーさんを見つけたら毒なんて忘れるくらいの笑顔を向けて
大丈夫、ヒーローが助けに来たから、すぐに元通りっすよ!
お薬、俺苦手なんっすよ
だから、此処がもとに戻ったら俺でも飲める様な美味しいやつ、作って欲しいっす、約束!
アドリブ連携歓迎
森の中の草木から、薬箱を開けた時のような匂いがしている。
思い出すのは苦い薬の味か、それとも毒の味だろうか。
浅く、息を吸う。それだけで。
口の中に苦味が走って、喉を焼くような痛みが臓腑に落ちていく。
吐き出しても、きっと意味はない。
それほどにあたりに毒が立ち込めていて。
「あんまり吸い込まないようにしないといけないっすね」
――逆シマ疾風。
猛禽の翼に風の加護をまとえば、にわかにつむじ風が起こり毒を吹き飛ばした。
風の護りに毒の症状を和らげながら、未不二・蛟羽(花散らで・f04322)はリズムを刻むような軽い足取りで地を蹴って、翼に纏った風に背を押されるように走りだす。
森の中で障害物の多いにも限らず、トップスピードを保ったまま茂みを飛び越え、枝の下をくぐり抜ける。フットワークの軽い動きには淀みがない。
「んーと、こういうのは左手側に進めばいいって聞いたことあるっす」
勘を頼りに道を選べば、なんだかあの辺りが気になるという場所がある。
森の主が、助けを求めて呼んでいるのかもしれない。
「大丈夫っすよ」
口の中で転がすように呟いた。
この奥はもっと危険だと、本能が警鐘を鳴らして訴えてくるけれど。
それでも、蛟羽は足を止めずに先を急いだ。
もともと薬も苦手だし、毒なんて特に苦手。
凄く痛いし、しんどいけど。
「でも、フェアリーさんが苦しい方がずっとずっと嫌だから、助けるっす!」
その気持があるから、辿り着くのはあっという間だっただろう。
パッと光が差したような、見る者の心さえ明るくするような笑顔を浮かべて。
「よかった。フェアリーさん、見つけたっす」
足を止めて見詰める先には、猟兵達から手当を受けて草の上に横たわったフェアリーの少女がいる。
きっと最初の状態からは大分回復したのだろう。けれどユーベルコードを強制的に発動さられている限り、衰弱は続いているはずだ。
顔色は、あまり良くない。
「大丈夫、ヒーローが助けに来たから、すぐに元通りっすよ!」
蛟羽は近寄って屈むと、少女と目を合わせるようにしてそう声を掛けた。
その姿は少女にとってまさしくヒーローだった。
「……ありがとう。こんなに危険な場所へ来てくれて。ありがとう」
喉を震わせるような小さな声で礼を述べる。少し泣いているのかもしれない。
自分の為に駆けつけてくれた人達への感謝でそうなっているだろう。
蛟羽は気持ちを和らげるように「あの」と声をかける。
そして、内緒話のように声を潜めて、
「お薬、俺苦手なんっすよ」
とても真剣な表情でそう言った。
「え?」少女が目を丸くすると、にこーっと蛟羽が笑ってみせる。
「だから、此処がもとに戻ったら俺でも飲める様な美味しいやつ、作って欲しいっす、約束!」
ね。と首を傾げれば、少女もつられるように頷きを返す。
それを見届けて、蛟羽は立ち上がり、背を向けて駆け出した。
「それじゃ、行ってくるっす」
立ち去る最後まで、蛟羽は明るくて元気な姿を見せていた。
けれどフェアリーの少女は、日頃から患者と携わる薬師であったから気がつく。
蛟羽があの明るい笑みの下に、毒から受ける痛みや苦しみを隠していたことに。
心配をかけないように、勇気を与えるように、そうしていたのだと。
「どうか、気をつけて……」
祈るように、遠ざかる背へと向けられた言葉を風がさらった。
大成功
🔵🔵🔵
第2章 ボス戦
『レプ・ス・カム』
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POW : ミラージュ・ラパン
自身と自身の装備、【自身がしたためた招待状を持つ】対象1体が透明になる。ただし解除するまで毎秒疲労する。物音や体温は消せない。
SPD : 兎の謎掛け
【困惑】の感情を与える事に成功した対象に、召喚した【鬼火の塊】から、高命中力の【蒼白い炎の矢】を飛ばす。
WIZ : 素敵な嘘へご案内
【巧みな話術】を披露した指定の全対象に【今話された内容は真実に違いないという】感情を与える。対象の心を強く震わせる程、効果時間は伸びる。
👑11
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「やあやあ、見つかってしまったね!」
森の奥にいたレプ・ス・カムは、猟兵達を見て笑った。
まるでかくれんぼで見つかった子供のように。
余裕綽々といった態度で少しだけ足を止めて、彼女は肩を竦めてみせる。
「悪いけど私も忙しくてね。探しものがまだ見つかっていないんだ」
邪魔をしないでほしいけど、そうもいかないって顔してるね。
のべつ幕無しに口を動かしながら。
悪夢を生み出す白兎は、未だ無邪気な残酷さで世界を蹂躙し続ける。
彼女の佇む足元から、森が腐食し枯れていく。
その残酷さは猟兵達にも向けられて。
「会ったばかりで悪いけど、此処でお別れだね。パパッと終わらせちゃうぞ~!」
戦いを始めようと誘うような口ぶりに、信用ばかりもしてはいけない。
かの兎はとても嘘つきで。
気まぐれに姿を消して逃げてしまう事だって、ありえるのだ。
ロッテ・ブラウ
SPD・アドリブ歓迎
▼対策
敵の『巧みな話術』『困惑』は、声による思考誘導が軸なので
UC【幻想領域】の身体の最適化で
自身の「聴覚」を封じ、代わりに「魔力感知」を向上
根本的に聞こえない状況を作り出します
また近接攻撃を有効にするため青年の姿(人型)へ変身
▼戦闘
幻属性の「属性攻撃」「催眠術」で
周囲に探している『鍵』が大量に見える幻術を掛けて、場を引っ掻き回します
幻術に自信のある奴の方が幻術には掛かり易いしね
困惑している隙に「暗殺」と「継戦能力」で死角から忍び寄り、ぶん殴ります
【鬼火】による反撃も予想されるので
愛機「禍津血」を攻撃に合わせて召喚
「ステルス装甲」受け
凶爪「ナイトメア」の反撃の一撃を狙います
ようやく見つけた。と茶色の双眸に強い光を宿して睨めつける。
「元凶はお前だな、好き勝手しやがって!」
漂う毒ごと空気を切り裂くように、ロッテ・ブラウ(夢幻・f29078)が飛び込んだ。
胸には少女と交わした約束を秘めて、鋭い声で告げる。
「ボク達を、フェアリーを舐めるなよ!」
「へえ、仲間の敵討ちって訳だ」
口角を釣り上げて、神経を逆撫でるような笑みを浮かべながらレプ・ス・カムが手に持ったランタンを揺らした。蒼い鬼火が、炎の矢となってロッテに狙いを定めている。
「あははっ! 小さなフェアリーがいくら怒ってもカワイイだけさ!」
「聞こえなかったか? ――舐めるな、って言ったんだ」
一蹴するように短く吼え。
ユーベルコードを展開すると、その身体を中心にして、大気が揺れるような歪みが疾走った。
この小さな世界を支配する力を奪い返すように、領域を塗り替えて幻想に包む。
幻想の力はロッテ自身にも及ぶほど強力な力だ。
嗤うレプ・ス・カムの声を聴力封じることで遮断し、代わりに魔力感知能力を滾らせる。
大胆な作戦であったが、魔力で空間を把握することでロッテの動きは鈍るどころか研ぎ澄ませられていく。
「コレがボクのチカラだよ!!」
まばゆい光が迸り。
空中で翻したロッテの姿が、一瞬にして精悍な青年へと変わった。
持てる能力全てが向上したこの姿こそ、ロッテの切り札。
「あの子を苦しめたことを、後悔するんだな」
レプ・ス・カムが蒼白い炎の矢を放ち、ロッテを撃ち落とそうとするが。
飛んでくる矢を素早い身のこなしですり抜けるように躱して。
「ほら、探しものだ」
蠱惑的な声で指し示す。
暗示を掛けるような脳髄に染み透る不思議な声音。
白兎の長い耳で聞いたのだろう。次の瞬間。レプ・ス・カムの瞳が驚きに見開かれていた。
辺りに無数の輝く鍵が浮かんでいる。探し求めていた天上への鍵だと頭は咄嗟に認識してしまう。
無論、幻だ。
自分の幻術に自身がある奴ほど惑わされやすいんだ。
あらぬ方向に目を奪われたレプ・ス・カムの姿に、ロッテは幻術を操りながら冷たく一笑した。
大きな隙ができたのを見逃さず、死角から至近へ寄って。
レプ・ス・カムへ、真っ直ぐな拳を叩き込む。
「ぶん殴るって約束したからな……」
何が起こったのか、感知できないほどに惑わせて、意識を幻術に捉えたままに。
ロッテは冷たく告げる。夢を見ていたのはお前の方だと。
「ボクがお前の悪夢だよ――レプ・ス・カム!」
「…………!!」聞こえぬ声で何事かを叫ぶ口だけが大きく動いて。
抵抗するようにレプ・ス・カムは炎の矢を放つ。しかし。
虚空から呼び寄せた禍津血の装甲でその攻撃を防ぎ、右腕のナイトメアを伸ばせば、避けることの出来ない鋭い刃が白兎を切り裂く。
まるで悪魔に捕まったかのような、恐怖に戦慄く悲鳴が上がった。
大成功
🔵🔵🔵
御狐・稲見之守(サポート)
100歳超(実年齢秘密) 妖狐の悪霊✕陰陽師
口調「ワシ、~殿、ゾ、~んじゃ、じゃ、じゃナ、かナ?」
荒ぶる力を揮うカミにして、魂を啜る獣、そして幻を繰る妖狐、御狐稲見之守じゃ。
カミを求め助けを願う声を聞き届けるが我が務め。ヒトの道理で叶わぬならばカミの道理を通してみせよう…なんてナ。
天変地異を起こす[荒魂顕現]に、[眩惑の術]で幻覚を見せて動きを封じたり、[山彦符][万象変幻]で敵のUCに対抗したりするんじゃ。無論、[狐火]は妖狐の嗜みじゃナ。
他にも[式神符]で対象を追跡したり〈催眠術〉で情報収集したりと色々出来るゆえ何卒よしなに。
助けを求める声あらば、聞き届けるのが我が務め。
それがどんなにか細く、小さな声だったとしても、カミは救おう。
たった今降り立ったのか、それとも初めからそこに佇んでいたのだろうか。
それほどに、その気配は周囲に溶け込んでいた。
ふっさりとした黒毛の尻尾を揺らして、現れたのは黒い狐の少女である。
「毒の悪夢とは、なんとも無粋じゃのう」
草木はおぞましく変形し、踏みしめた土すらも毒に汚されている。
誰かの夢だというのならば、夢を見ている者の恐怖は計り知れないだろう。
その者を想って、眼差しにそっと憂いが浮かんだ。
「はやく覚ましてやらねば、ナ」
この小さな世界における夢と現の境が崩れているのなら、そこはもう御狐・稲見之守(モノノ怪神・f00307)ともいえた。
先陣を切った猟兵は、幻術の使い手であったらしい。と、なれば重ねて化かしてやろう。
稲見之守は幻想に惑い混乱するレプ・ス・カムへと向き直る。
「お前の探す鍵とやらは見つかったかのう?」
「偽物ばかりさ。腹が立つことにね。お前達が邪魔しなけりゃ、もっと早く見つかるに決まってるのに」
宙に浮かんだ無数の鍵の幻を、レプ・ス・カムは忌々しげに一瞥する。
精神の均等を崩しかけているのは明らかな様子。
「では、こういうのはどうじゃ」
言って、稲見之守は指を鳴らした。
その途端、宙に浮かぶ鍵が次々と燃え上り、火球に変じてレプ・ス・カムへ向かって飛び交う。
まるで火の雨が降るような光景に、レプ・ス・カムは思わず逃げ出そうと走り出した。
しかし、行けども行けどもそこには火の玉が先回りをしてしている。
「熱っ、くそ――これも幻のはずなのに。いや、本物の火なのか?」
「さて、どちらじゃろうナ」
答える稲見之守の声はすぐ傍にある。レプ・ス・カムは思わず息を詰めた。
距離をとって走り続けたような感覚はあるのに、まさか同じところをグルグルと回っていたのか――? そう考え至って背筋が凍りつく。
灯ったのは、狐火。これも妖狐の嗜みじゃナ、と小さく笑う声。
稲見之守は小さく跳ねるように、レプ・ス・カムの周りを回ってみせた。
まるで無邪気な童女が戯れるように、その仕草はあどけなくて。
しかし、底しれぬ妖しさが潜んでいる。
覗き込むような目と目があえば、逸らせなくなる。
「さて、お前が胡蝶か、胡蝶がお前か……なんてな」
レプ・ス・カムの身体に震えが走った。
蜘蛛の糸に捕まった蝶のイメージが、脳裏に浮かんで離れなくなる。
「お前はもう、どこにも行けぬよ」稲見之守が囁いて。
終わりを告げてやる。
立ち尽くしたように動けなくなったレプ・ス・カムの姿を映しながら。
左右で別の色を持つ瞳が輝いて、絡め取るように細められた。
逃げ足の早い白兎の退路は、これで断たれただろう。
成功
🔵🔵🔴
アレクシス・ミラ
【星雨】
アドリブ◎
フェアリーを、森を…命を踏み躙る所業は僕も許せない
だが…
彼女の様子をちらりと見て
湧き上がる己の怒りを今は飲み込み
彼女の言葉に一言だけ
―心得たよ、レディ
毒は巡らせた浄化の光で耐え
脚鎧に光の魔力を充填し駆ける
【絶望の福音】で彼女が追い込む先を予測し先回りしよう
此処に来て、困惑などするつもりはないが
炎の矢が来れば予測通りに回避
予測した場所…レインさんの大技が当たらない場所まで辿り着けば
盾からオーラ防御…『閃壁』展開
彼女と敵を囲うように逃げ道を塞ぐ
―攻撃を受け止めるだけが盾ではない
僕の役目は…立ち塞がり、敵を逃さない事
友であり、師である彼女の怒りを届かせる事!
悪夢は…此処で終わりだ!
氷雫森・レイン
【星雨】
こんなものを最早怒りなどという名で呼ぶ気はない
「…お前か」
今まで出した事の無い様な声と呼称が出た
構うものか
「…アレク、巻き込まれない様になさい」
僅かに残る理性で弟子にそう告げて
毒による不調も構わずラルに飛び乗り、ブレスレットから展開する弓から魔法矢を次々に射掛け襲う
最後に仕留める為の追い込み行動
まるで狩り
もう止まらない
与えられる困惑など容易く塗り潰す、マグマでも及ばぬ憎しみめいたこの激情
「我が同族の命を侵したこと…死んでも許さない」
怒り任せの深追い…という悪手にはなり得ない
私には優秀な弟子が居る
ラルだけを遥か上空へ逃がしUC発動
妖精族を弄んだ罪、命を以て贖いなさい(限界突破、全力魔法)
はじめてのことかもしれない。
こんなにも軋んで苦しいほど締め付けるような、感情を持つなんて。
ぎりぎりぎりと頭の中で渦巻いて思考を占める。
身体が燃えるように熱い気がするのに、対して腹の底は冷えていく。
氷雫森・レイン(雨垂れ雫の氷王冠・f10073)は割れんばかりに見開いた眸で敵を見た。この世界に悪夢を齎し、妖精の生命をこの瞬間も蝕み続けるレプ・ス・カム。
そうか。と奥歯を噛みしめていた。握りしめた掌がわななく。
「……お前か」
零れた声は決して大きくはない筈だったが、不思議とよく響いた。
口調も、声も、自分とは思えないものに聞こえる。
我を失う、とはこのような状態を言うのかもしれない。
ああ、でも。構うものか。
身内を駆け巡るようなこの激情を――"怒り"と呼ぶことすら生ぬるい。
この時。
レインの姿は触れるものを切り裂く、鋭い氷刃の化身のようだった。
その様子を見ていたアレクシス・ミラ(赤暁の盾・f14882)は、レインが心に受けた衝撃を思う。優しく穏やかな彼女が豹変せざるえない程の苦しみを想う。
「フェアリーを、森を……命を踏み躙る所業は僕も許せない」
だからこそ、沸き起こる自身の怒りを飲み込んだ。
いま、この場に必要なのは冷静に立ち回れる者なのだと心得て。
「……」同意するように、レインは微かに頷いた。
今にも灼き切れてしまいそうな理性の狭間。
ふわり、と舞い上がり敵へ視線を遣ったまま告げる。
「……アレク、巻き込まれない様になさい」
その声のあまりの冷たさにアレクシスは息を詰めた。
放たれる殺気は、普段の彼女からは想像もつかないような鋭さ。
それでも彼女は優しい――この状況で発せられたのはこちらを気遣う言葉だ。
それだけでも彼女に信頼を寄せるのには、充分であったから。
「――心得たよ、レディ」
一言、そう答えて駆け出した。
「ラル、お願い」
レインは鳥の姿をした精霊に乗り飛翔すると、流星のごとく戦場を飛び回った。
手首に巻かれたブレスレットが輝き、腕を伸ばすように標的へ狙いを定める。
毒に蝕まれた自身の体に現れだした変調を抑え込み、歪みそうになる視界を瞳を眇めることで堪えて。
「我が同族の命を侵したこと……死んでも許さない」
叫び。祈雨から作り出した魔法の矢を射る。射る。射る。射る。……射る!!
レプ・ス・カムを矢の雨が襲う。一の矢が腕を貫いて、鋭い痛みを与えた。
「ああ、もう、鬱陶しいなあ! どいつもこいつもさあ!!」
子供のように喚きたて、息をつく暇もなく飛んでくる矢を躱す動きはなかなかに素早いものだったが。それこそが思うツボなのだ。
レプ・ス・カムを誘導する。それこそが狙いなのだ。
しかしこの作戦をやり遂げることは、レイン一人では不可能に違いない。
優秀な弟子が居るから、できることだろう
レプ・ス・カムは飛び回るレインへ怒鳴った。その手に下げたランタンから蒼い鬼火が迸り、炎の矢を作る。
「あのさあ。たかが一人死ぬくらいで大げさじゃないか! お前達みたいなちっぽけな生き物は、黙って消えればいいんだよ!」
あまりにも理不尽で身勝手な言葉だった。レインの中ですでにマグマのように煮え滾っている感情が波打つ。
青白い炎の矢が反撃となって、飛んでくる。当たれば、ラルもろとも傷を負うだろう。それでも、もう止まれない。
傷つくことを恐れずに、突っ切っていく。困惑なぞ、する訳もない。
「……許さない」
真っ暗な感情を乗せた声は、どこか悲しい響きを含んでいたかもしれない。
その、未来を予測したから。
「今は思うがままに成せばいい」
森の木々に囲まれた場所に待ち伏せて、アレクシスは呟く。
白銀の脚鎧に魔力を充填し、身体能力を向上させていた。よって、どのような状況になろうともいつでも対応ができる。
浄化の光に身を包み毒から身を守りながら立つその姿は星のように煌めいていた。だから、敵を追って飛んでくるレインからも見えていただろう。
合わせる。と、眼差しで示して。そのために自分は此処にいるのだと伝えるように。
かかげた盾から、オーラの光を放って一帯を覆うように張り巡らせる。
自分の役目は立ち塞がり、敵を逃さない事。
友であり、師である彼女の怒りを届かせる事!
「悪夢は……此処で終わりだ!」
茂みを飛び出すようにしてレインの矢を避けたレプ・ス・カムは、見えない何かにぶつかって倒れた。
「なんだよ、これ!」"閃壁"が行く手を阻み、逃げ道を塞いでいる。
罠にかかった獣のように暴れて、レプ・ス・カムが逃げ道を探す様子をレインは離れた場所から冷たく眺めた。
まるで狩りだ。
回り込んで、追い詰めて、仕留める。
自分でも驚くほどに、冷酷と言ってもいいようなほど迷いもなく。
巻き込まれないようにラルを上空へ退避させて、レインは雨を喚んだ。
「『我に仇なす全てを打ち砕け
……!』」
轟。と大気が揺れた。空が割れたかと思うような雷光が走り。
雷と共に生じたのは、巨大な氷の塊――雹だ。
まるで天が怒り狂ったような光景。雹は雷にあたって砕ける度に鋭利となって、一つ一つが剣のようになり。レプ・ス・カムの姿が見えなくなる程に降り注ぎ、大地に叩き込まれる。
「妖精族を弄んだ罪、命を以て贖いなさい」
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
黒城・魅夜
あら、ちょっと「困惑」してしまいました
まさかあなたと意見が合うとはね
ええ、おっしゃるように、ここでお別れとしましょう
もっとも、さっさと終わらせはしませんが
私を敵に回した以上、すぐに死ねるとは思わないことです
「早業」「範囲攻撃」で鎖を舞わせ「衝撃波」を発生
炎の矢を討ち払いながら進みます
同時に密かに「オーラ」を展開
そこに映し出した「精神攻撃」による幻像で敵を「誘惑」します
そう、あなたの探し物、──「カギ」のビジョンを映し出してね
ほら一瞬でも注意が逸れ、隙だらけ
あとに残るのは私の鎖に引き裂かれた兎肉だけ
妖精さん、よく頑張りましたね
毒に耐え悪夢に耐えたあなたの勇気
それこそが素晴らしいお薬なのですね
木々の間から見えた空に、明るい青色が差し込んでいる。
毒混じりの空気が澄んできているのだろう。
少しずつではあるが、この世界が元の姿を取り戻しているのだ。
それはフェアリーの少女の心に希望が宿った証。
妖精さん、よく頑張りましたね。
胸の中で優しい言葉を紡ぐ。
黒城・魅夜(悪夢の滴・f03522)は空を見上げる眦を柔らかく細めた。
そうした魅夜や猟兵達の心遣いがあったからこその光景がある。
ひっそりと死ぬはずの彼女の運命を、魅夜は確かに変えたのだ。
毒に耐え、悪夢に耐えたあなたの勇気。
それこそが素晴らしいお薬なのですね。
その勇気に応えよう。と、魅夜はゆるりと歩き出した。
かそけくように鳴る鎖を引き連れるようにして。
対峙するレプ・ス・カムへは、打って変わって冷たい表情を向ける。
パパッと終わらせよう、なんて。そんな事を言うものだから。
思わず、瞳をまたたいてしまう。
「まさかあなたと意見が合うとはね」
じつに奇遇だと。魅夜の口角がスウッと釣り上る。
「ええ、おっしゃるように、ここでお別れとしましょう」
小首をかしげた、優雅な仕草のまま攻撃態勢に移り。
「――もっとも、さっさと終わらせはしませんが」
私を敵に回した以上、すぐに死ねるとは思わないことです。
告げて。その白い腕はしなやかに弧を描いたようだった、"ようだった"とは、つまり目にも止まらぬ速さだったのである。
瞬間。
懐から引き抜かれた無数の鎖が、レプ・ス・カムの眼前に迫っている。
「くそっ!」
紙一重で躱したつもりでも、鎖が頬を裂いている。身体に当たればひとたまりもないだろう。
レプ・ス・カムはランタンから鬼火の矢を射って鎖を弾き落とそうと対抗してみせた。
矢と鎖がぶつかりあう度に火花を散らす。どちらかが集中力を欠けば、状況が一変するようなほどの迫力に満ちた応酬が続く。
「殺しておけばよかった! あんな妖精一人のせいでこんなことになるぐらいなら! もっと悪い夢を見せて狂わせてやるんだったなあ!」
残忍に叫んだ言葉は魅夜の動揺を誘うためのものか、それとも腹立ち紛れの暴言か。
魅夜は顔色を変えず、聞き流した様子だった。しかし、その瞳はもはや笑ってはいない。
そうして涼やかな顔のまま。炎の矢を鎖で打ち払いながら、敵へ近づいていく。
相手が崩れぬようなら、拮抗を壊す一手を放つまでだと。
「ほら、あなたの探し物ですよ」
声を掛けながら、魅夜はレプ・ス・カムの精神を揺さぶるように幻像を作り出した。
見せる幻は相手が探し求める"輝く鍵"のヴィジョン。
それも唯の幻ではない、精神に強く訴え耐え難き誘惑を与える幻だ。
レプ・ス・カムの瞳が吸い寄せられるように、あらぬ方向を向いて。
しまったと思うと同時に「あ、あああああああ!!」魂消るような絶叫を上げた。
ほら一瞬でも注意が逸れれば隙だらけ。
「それでは、さよなら」
蛇のようにうねった鎖が好機とばかりに、縦横無尽に放たれ襲いかかって。
ぎゃりぎゃりと凄まじい金属音を鳴り響かせて飲み込んでいく。
あとに残るのは、鎖に引き裂かれた兎肉だろうか。
大成功
🔵🔵🔵
乱獅子・梓
【不死蝶】
見た目や語り口こそただの少女のようだが…
自分都合の為に何食わぬ顔でフェアリーを
死に追いやるようなことをする外道っぷりは
さすが猟書家サマといったところか
透明化してとんずらしようって魂胆か
そうはさせない
UC発動し、ありったけの声量の
零の咆哮を森中に響かせる
これは音による攻撃だから
姿だけを見えなくしても防ぎようがないだろう
このUCで敵の動きを鈍らせて
綾が位置を特定するまでの時間を稼ぐ
実はもう一つ狙いがある
敵に対しては生命力を削ぎ取る咆哮だが
この森にいるフェアリーの少女に対しては
神秘的な歌声のみを届ける
なぁ、聴こえているか?
あと少しだから、この歌が聴こえている間だけでも
どうか頑張ってくれ
灰神楽・綾
【不死蝶】
まるで子どもが道端の蟻を踏みつけていくような…
そんな悪意のない残酷さを感じられるね
この子にとってはフェアリーが死のうと
「自分が殺した」のではなく
「勝手に死んだ」くらいの感覚なんだろうねぇ
辺り一帯にPhantomの紅い蝶たちを放ち索敵を開始
敵は見えなくなるだけで物体としては存在する
ゆらゆらひらひら舞う中で
何か(つまりレプ・ス・カム)にぶつかれば
蝶は不自然な動きになるだろう
その瞬間を見逃さない
位置を特定したらすかさずUC発動
蝶が鎖へと変化し、見えない敵を捕縛
かくれんぼは終わりだよ、兎さん
さぁお家に帰る時間だ――骸の海、と言うね
一発で仕留めんと、Emperorの力溜めた一撃を叩き込む
多分、罪悪感なんてないんだろうね。
道を歩いている時、たまたまそこに居た蟻を踏み潰していくようなもので。
わざとそこに足を踏み降ろすのに、深い理由なんてなくて。
命をもてあそぶような行為を無邪気に、もしかしたら無意識に。
そんな、悪意のない残酷さだ。
「フェアリーが死のうと。『自分が殺した』のではなく『勝手に死んだ』くらいの感覚なんだろうねぇ」
眼鏡の奥にしずかな眼差しをして、灰神楽・綾(廃戦場の揚羽・f02235)は淡々と云う。常に笑顔である彼の唇は、今もうっすら微笑んでいるようだった。
こういう手合ならば、気兼ねなく殺し合えるというように。
「さすが猟書家サマは、大した外道っぷりだな」
綾の隣で乱獅子・梓(白き焔は誰が為に・f25851)も皮肉げに呟く。
レプ・ス・カムの容姿や語り口はただの少女めいていて、だからこそ自分の都合でフェアリーを死に追いやる残酷さが際立った。
まったく質の悪い。
胸が悪くなった心地になりながら、隣の綾にとんと肩を触れ合わせ、梓は囁く。
「無茶はするなよ、毒がまだ抜けきってないだろ」
「はは。平気だよ……正気を保つ方法はちゃんとあるから」
「それが心配なんだよ」
ほんの少しずれた会話を交わして、綾は一度二度、ゆっくり瞳をまたたいた。
わかっているのか、いないのか、曖昧にして。
「梓こそ気をつけてね」
ひらり、手を振って、翻るように強く地を蹴って飛び出し。
一気に敵へと間合いを詰めた綾は、殴りつけるような形でナイフを突き出す。
鋭い一刺しを見舞って。
「そろそろ退場しようか、この世界に君は必要ないから」
おだやかに言う。
レプ・ス・カムは忌々しげに綾を睨みつける。
「言うじゃないか、でもさあ招待状もないくせに踏み込むなんてお行儀が悪いんじゃない!」
目の端を吊り上げて叫んだレプ・ス・カムが手にするのは"招待状"だ。
それを持つことがユーベルコードの発動条件なのだろう。
ナイフから逃れるように転身したその姿が空気に溶けるように消え失せる。
気配が素早く移動して行くのを感じ取りながら、二人は身構えた。
透明化してとんずらしようって魂胆か。
そうはさせない、と梓は「零」やさしく竜を呼ぶ。翼を広げてふわりと浮き上がるように跳び出した零は瞳に強い意志の光を宿して。
「――歌え、氷晶の歌姫よ」
その声に呼応するように氷の竜は息を吸って口を開くと、森中を揺らすような咆哮を上げた。
その神秘的な響きは、敵の生命力を削ぎ取る。いくら姿を消そうとも、この声が聞こえているのならば、攻撃を受けているはずだ。
「大きな耳でよく聞くんだな」
これはお前が聞く最後の歌になるだろうから。
零が咆哮するのと同時に、綾のナイフからは刀身がほどけるように蝶の群れが飛び立っていった。
ゆらゆらひらひら。揺れる翅は紅葉のよう、辺りを一面の紅色に染めていく。
「逃げられないよ」
どんなに足音を忍ばせ息を潜めても、紅い蝶が埋め尽くすように舞うこの領域にいるかぎり無駄なこと。
そこにいると蝶はその動きで知らせるから。
みいつけた。と目を向けた先で、蝶は鎖へと変じ白兎に絡みつくように捕縛する。
「かくれんぼは終わりだよ、兎さん」
歌声によって苦しむレプ・ス・カムは鎖を解くことができないようだ。一息に詰め寄り、渾身の力を込めてハルバートを振り下ろして。
「さぁお家に帰る時間だ――骸の海、と言う我が家へ。深く沈んでしまうがいいよ」
帰路の案内は、紅の蝶々が送ってあげる。
梓は空を見上げた。
もうすぐこの世界は自由になれるだろう。
フェアリーの少女はきっとこの瞬間も抗い戦っている。
だから、この歌を贈ろう。悪意に押し潰されてしまわないように、寄り添うように。零の歌声を、遠くまで響かせて。
彼女の元へ届かせる、美しい調べだけを。
なぁ、聴こえているか?
あと少しだから。
この歌が聴こえている間だけでも、どうか頑張ってくれ。
まるでその声が届いたかのように、森から毒の気配が遠ざかっていく。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
未不二・蛟羽
おかえりするのはアンタの方っすよ
ここはフェアリーさんの世界!探しものは人の迷惑にならないように、がお約束っす、だからとっとと出ていくっすよ!
無事な木々の合間を跳び、空中戦に持ち込みながら笹鉄の鉤爪で攻撃するっす
ロープワークで相手の足元を攫って拘束
尻尾の蛇ちゃんで敵を睨んでUCで喰って生命力吸収っす!
ワジュツとか言われても、俺ムズかしいことはわかんないっすもん!
だから、俺は俺の勘に従うっすよ
つまりフェアリーさんを苦しめたアンタは悪いやつで、ぶっ飛ばさなきゃいけないってこと!
あとは…えーっと、No.40≒chiotに正気に戻してもらいながら戦うっす
約束、したから!だから俺はこの世界を元に戻すっす!
「おかえりするのはアンタの方っすよ」
木々の上を跳ね跳び現れた未不二・蛟羽(花散らで・f04322)は、爛々と輝くような金の瞳をレプ・ス・カムに向けた。
「ここはフェアリーさんの世界! 探しものは人の迷惑にならないように、がお約束っす、だからとっとと出ていくっすよ!」
木々の隙間を縫うように投げ放たれた笹鉄の鉤爪がレプ・ス・カムを裂き鋭い痛みを与える。
「うっとうしい、さっさと消えてよ!」
レプ・ス・カムのランタンから蒼い火が飛び出し矢のように射られる。
蛟羽はその軌道から目を離さずに、
「お断りっす!」
とん、と軽いステップを踏み軽やかに身を空に躍らせ、木の幹を蹴って軌道を変えて火の矢を躱した。そうした咄嗟の動作でも毒の部分を踏まぬように避けている、驚異的な動体視力がなければできないだろう。
反撃をものともせずに向かってくる蛟羽をレプ・ス・カムは睨みつけた。
「なんっで、無関係なお前達がしゃしゃり出てくるかなあ!」苛立たしげに息を吐く、うんざりとした顔をして「たかが妖精が死ぬだけじゃないか! 妖精一匹に悪夢の中に飛び込んで守るほどの価値があるとは思えないね!」
よく回る舌が捲し立てるのは、自分勝手な都合ばかり。
たかが。と生命をどこまでも軽んじた価値観は到底同意できるものではない。
それでも少しでも精神が揺らげば真実に聞こえてしまうだろう。
蛟羽はその事を知っている訳ではなかった。ただ純然に理解ができないと言わんばかりの表情を浮かべ、撥ねつけるように叫ぶ。
「無関係とか価値とか考えて来たんじゃないっす。そんな風に言われても、俺ムズかしいことはわかんないっすもん!」
理解はできないが浮かぶ感情は困惑ではなかった。
頭で考えるよりも先に、解っているのだ。今の自分がなんのために戦い、誰を守ればいいのか。だから迷わない惑わされない。
だから、俺は俺の勘に従うっすよ。一心にそれだけを決めて。
「つまりフェアリーさんを苦しめたアンタは悪いやつで、ぶっ飛ばさなきゃいけないってこと!」
黒い犬耳のパーカー、あるいは影の仔犬が、同意するように意識をクリアにする。
それでいいのだと、そう言ってくれているようだったから。
「約束、したから! だから俺はこの世界を元に戻すっす!」
一息に手元の笹鉄を引き寄せた。変幻自在に貼り廻るワイヤーがキリリと張りつめる音を立ててレプ・ス・カムの足元を攫う。
巻き取られるように体制を崩して倒れ込むレプ・ス・カムを蛟羽の尾である蛇が、鎌首をもたげて視線で捉えた。
そして、顎が迫る。
一口で、その生命力ごと喰らいつくして。
「――」飲み込むような音だけが、後に残った。
●
そして、壺の中の小さな世界に平和が取り戻された。
フェアリーの少女が元気な姿で飛んできて、猟兵達に感謝を伝えてくる。
土産に森の糧や薬を持たせようとしてくるかもしれない。
森の景色は美しく、生き生きと輝いているだろう。
帰る前に、少し眺めてみたりするならば。
花が咲くのどかな草の中に、あなた達は光るものを見つけるだろう。
それは何処から現れたともしれない"輝く鍵"であった。
大成功
🔵🔵🔵
最終結果:成功
完成日:2020年11月20日
宿敵
『レプ・ス・カム』
を撃破!
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