紅葉の漣、血風の夜
場所は小高い山の中の路。
月明かりがこうこうと照らす秋の景色は美しい。
並び立つ木々は、秋の色に染まるばかり。
――はらり、はらりと。
静かなる夜に、紅葉がその色を舞い散らしている。
風が吹く度に消えていく赤い色彩。
花のように。
水のように。
そして、命のように。
世界にある全ては全ては過ぎて、流れて、終わるのだと。
「終わるからと、恨む訳ではあるまい」
諸行無常。移ろう儚さこそ、愛しい程に鮮やかなのだ。
それは唄うように呟いた男の人生にも云える事だ。
戦乱の時代は終わり、今や泰平の世。極めた剣を振るう所か、抜く事さえ最早ないだろう。
名をあげる事は出来なかったが、身につけたのは剣豪に至る技。
その剣理は、あくまで命を奪うものだから。
編み上げた剣術は、何処までも血風の中を駆け抜けるものだから。
悔しいと思うものも、それが行き場もなく果てたとしても、それはそれだと思っている。
吹いて散った桜が、風を恨むのだろうか。
この紅葉たちの色彩は、寒さへの怨嗟なのか。
「いいや、世は穏やかに。それでよいのだ」
果たせぬ夢があっても、よい。
露と散る幻と、駆け抜けた戦の中を振り返るように。
男はただ、舞う紅葉の色を見つめている。
けれど、そのような穏やかなる思いばかりが全てではない。
――するり、さらりと。
踏み入る気配は、まるで静かなる刃。
「この紅葉は、まるで渦巻く血風の景色」
なあ、戦は終わっていないだろう。
まだ世は覆るのだと、赤い鎧を纏う武将は殺気と共に踏み入る。
その武将の名は真田神十郎。猟書家にして、クルセイダーに忠誠を誓いしもの。
今の世に、切っ先を向けるもの。
「貴様も剣豪だろう。未だ、刃を振るう場を求めるだろう」
このままでは終われぬだろうと。
果たせなかった祈りに、誓いに、後悔と苦悩がないとは言わせない。
怒り、嘆き、まだだ、まだだと命ある限り、立ち向かうことこそ、侍ならばこそ。
「その戦場を私が与えてやろう。その命、その剣に新しい色彩をくれてやろう。故に、下れ。さあ、共に――次の戦へと」
否は言わせぬと、真田は降り積もった紅葉を踏みしめる。
平穏をよし。刃を抜かぬことこそ、本懐とみた剣豪の瞳など、見つめることなく。
「勝つまで。ただ、我と共に進もうぞ……!」
――超・魔軍転生「上杉謙信」
かつての魔軍を率いる将の憑装。
それを得て命と魂を得たように散らばり、動くはありとあらゆる刀剣や武器。
無数の武具、それぞれが上杉の力を得て、指揮されたひとつの軍勢として迫るのだろう。
そう。かつての上杉が指揮した車懸かりの陣の如く、剣が槍が、弓がぐるりと円を舞う。
未だにこの世界の戦乱は終わらないのだと、紅葉のように揺れて、流れ。
一気呵成、烈火怒濤に攻めようと切っ先へと様々な力を宿す。
巻き上がる紅葉は止まることのない血潮を思わせるが如く……。
「笑止」
流れるように構える男の構えは、居合い。
かつて斬鉄を手繰ると詠われた男の剣は、何処までも物静かに。
「ただ、悔いて、悔いて、終われぬとしがみつく亡者になど、なりはしない」
一度きりの命だからこそ。
意味はあるのだと、男は眼を細めた。
●
「ついに、各世界へと散った猟書家たちが動き出しました」
ふわりと柔らかに告げたのは秋穂・紗織だ。
かつての迷宮災厄にて残り、そして様々な世界へと散った猟書家たち。
その中でもサムライエンパイアへと移り、再び世を動乱の時代へと動かそうとするものがいる。
真田神十郎。クルセイダーに忠誠を誓いし猛将にして、超・魔軍転生によって「上杉謙信」の力を持つ配下を率いるもの。
「彼の狙いは、『剣豪殺し』。配下たる剣豪を殺害し、オブリビオンとして蘇生して増やすということ」
力あるものを殺し、オビリビオンとして蘇らせることで、配下として増やしていこうというものだ。フォーミュラがいなければオブリビオンが自然発生しない状態ならば、自ら動いて力あるものを取り込もうというもの。
加えて、彼が超・魔軍転生によって受け継いだのは軍神とまで言われた「上杉謙信」。
配下は指揮、武力、共にかなり強力となるのだ。
より力を。
より強くなる為に。
「そうして配下にと剣豪たちが揃わないように、彼らを護りながら戦う必要があるのです」
今から行けば、剣豪と接触が始まった所で辿り着けるだろう。
「ただ倒すだけではダメです。剣豪を殺されてはなりません。その時点で、真田の目的は果たされてしまうのですから」
とはいえ、その狙われた剣豪とて弱い存在ではない。
むしろその逆で、配下にと狙われる程に強い。かつては斬鉄――相手の太刀ごとを斬り伏せたという居合いの使い手。
名が世に響かないのは、その人格だからか。或いは、時既に遅く泰平の世となっていたからなのか。
「それは定かではありませんが、戦う事を好いている人ではないようです」
そんな彼を殺し、世を乱す戦に駆り立てようとする真田。
決して許す訳にはいかず、命を奪わせる訳にはいかない。
それこそ、戦火を巻き上げようとする血風の一戦。
「どうか止めて、そして、守ってください。ひとりの命を、ひとつの世界を」
護る為の刃と、殺す為の刃が交差しようとしていた。
遙月
お世話になっております。MSの遥月です。
ついに始まりましたね、猟書家のシナリオ。
色々と悩みましたが、今回は真田神十郎のシナリオをお届け致します。
どちらかというと、剣戟重視、戦闘系のシナリオとなる筈です。
必ずしも剣戟でなければいけない、というわけではありませんが、雰囲気としてはそのようなバトルシナリオ。
皆さんのキャラの戦う姿、その思いをかっこよく書ければと思っておりますので、どうか宜しくお願い致しますね。
真田神十郎の配下である『兵器百般』には超・魔軍転生によって、ひとつひとつに『上杉謙信』の力が宿っており、通常より強い状態となっています。
それはただの戦闘力のみにならず、まるでひとりの指揮官に率いられた集団での戦闘での連携のように。
加え、配下たちは車懸かりの陣によって、常に移動しつつ、一瞬の攻防に全力を尽くすつもりのようです。
それこそ烈火怒濤の攻勢を凌ぎ、或いは、逆に打ち破るように。
そして、その奥で控える真田を倒す為。
どうぞ宜しくお願い致します。
プレイングボーナスは上手く利用して頂ければと。
剣豪を守るのであれば、自らが前へ前へと出れば出る程、剣豪への危険も減る筈。
守る方法、と難しく考えず、激しい戦いへと踊り出る姿として使って頂ければ大丈夫です。(剣豪に構わずとも、彼もそれなりに戦えるので問題はない筈です)
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プレイングボーナス(全章共通)……剣豪を守る(本人もそれなりに戦うことはできます)。
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第1章 集団戦
『兵器百般』
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POW : 騒霊カミヤドリ
【纏っている妖気の色が血のような赤】に変化し、超攻撃力と超耐久力を得る。ただし理性を失い、速く動く物を無差別攻撃し続ける。
SPD : ひとりでに動く武器
【念動力で浮遊すること】により、レベルの二乗mまでの視認している対象を、【自身が持つ武器としての機能】で攻撃する。
WIZ : 武器の知恵
技能名「【武器攻撃】【武器受け】【戦闘知識】」の技能レベルを「自分のレベル×10」に変更して使用する。
イラスト:童夢
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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種別『集団戦』のルール
記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
月舘・夜彦
【華禱】
剣豪を狙う猟書家……彼等を配下にしたのならば大きな戦力となる
彼等の中には戦いを求める者が居るのかもしれません
ですが己が信念を以て腕を磨いた者も居る
彼は、きっと後者だ
前線に配置、剣豪を護りながら戦う
武器受けにて防ぎ、カウンター
武器落としと鎧砕きにて刃を破壊する
妖気を纏っている場合は刃に破魔を宿して攻撃
同時に複数が仕掛けてきた際には抜刀術『八重辻』
視力と見切りにて刃の動きを読み、なぎ払いにて衝撃波を繰り出して弾き返す
そう……一年前の戦いで、この世界は以前よりも平和になった
穏やかな一時は多くの者が血を流し、命を落とした末
今を生きる者は、その尊さを抱いていければいい
貴方も、そう思いませんか?
篝・倫太郎
【華禱】
矜持故に名手であっても名は知られず
それもまた、在り方の一つ
拘束術使用
射程内の敵全てに鎖で先制攻撃と同時に拘束
その間に剣豪と敵の間に割って入る
邪魔して悪ぃな……
えぇっと、名前聞いてもいいだろか?
この人の腕を信じて庇う行為は必要最低限
ただ、殺されちまわないよう確実にフォロー出来る位置取りで行動
夜彦の早さがこの人より上回れば被害は出ねぇだろ
んで、多分、夜彦の方が……早い
剣豪と最低限の遣り取りを済ませたら
破魔と衝撃波を乗せた華焔刀でなぎ払い
刃先返して2回攻撃
この時、妖気の色が赤い敵を優先して攻撃
夜彦が一撃を放つ前に
舞い落ちる紅葉を念動力で高速移動させて囮に
一瞬で良い、その一瞬があれば、いい
真田の操る武具の前に多勢に無勢。
けれど、数にして押しつぶすのもまた戦の常道。
風が吹けば散るように。
花が、桜が、葉が、紅葉のように。
命と首を、はらりと墜とす為。
妖気を宿した刃がするりと流れる、その寸前。
『縛めをくれてやる』
詠唱と共に、紅葉を散らして飛来したのは見えぬ何か。
それが虚空に浮かぶ刀を、槍を、大太刀を弾き飛ばす。
いや、見えぬだけで、見えぬだけで何かが武具の動きを止めている。
溢れ出す妖念は災いなりと、災禍狩り取る術がそこにあるのだ。
誰何の声より先んじて飛び込む影は二つ。
押し寄せようとした妖しの武具たちを先制してなぎ払い、初動を制しながら、剣豪と敵の間に並び立つ。
琥珀の瞳で剣豪を見つめるのは、篝・倫太郎(災禍狩り・f07291)だ。
「邪魔して悪いな……えぇっと」
この乱入者こそ、先の一撃を放ったのだと。
月明かりの元、災禍を祓う破魔の気配を漂わせる倫太郎。
「名前聞いてもいいだろか?」
突如現れた倫太郎たちは正か邪か。
考える間でもない声色に、剣豪は答える。
「重成だ。しがない武芸者でしかない私などに、ご助力にど。……感謝致す」
矜持あるが故に名は知られず、届かず。
世に響かぬ武芸と名なれど、それこそがこの剣豪の在り方であり、信念なのだ。
剣豪のその心を甘くなどみない。
敬意を払うべき相手とさえ思うからこそ、庇うような真似などしない。
緑色の眸に真摯さと、そして思いの鋭さを浮かべるのは月舘・夜彦(宵待ノ簪・f01521)。
「会話は後ほど、これを切り抜けた後に。さあ、来ますよ」
夜彦が構えるのは霞瑞刀 [ 嵐 ]。
傍らの倫太郎の持つ破魔に似た気を滲ませるそれを、ゆらりと居合いにと構え、前へと一歩踏み出す。
思いを、信念を、胸の鼓動として宿したものを貫き通す為に、磨き上げられた武芸はあるのだ。
その腕は、願いを掴み取る為に。
その刃は、祈りを形として得る為に。
流れる血を求めたのではない。零れる命を願ったのではない。
平和の中で抱く、尊さを求めたのだ。
「……穏やかなる時に、言葉を交わしましょう」
その為に、夜彦の携えし刃は流れるのだ。
ざわりと、不吉な音を立て、紅葉が舞い散る。
妖しの刃は、血と炎のような色彩を伴ない飛翔する。
それを斬り捨てるは、まるで蒼銀の流星。
迎え撃つ夜彦が黒塗りの鞘から奔らせたのは抜刀一閃。
瞬きの内に飛来した一本を、音もなく両断する夜彦の技の冴え。
視力と見切りにて、刹那の動きと隙を捉える精密なるカウンターだ。
元より鎧兜ごと断ち斬る程の夜彦の凄烈な斬撃。鬼さえ斬り伏せる破魔を乗せた刀身は、妖気纏う武具を文字通り断ち斬っている。
だが、迫るのは一本や二本ではない。
無数の妖刃が赤く染まりながら、血と命を求めて狂奔する。
いいや、だからこそ。
『――全て、返そう』
あらゆる全てを弾き返すべく、竜胆の武芸が五月雨の如く放たれる。
夜彦が放つは抜刀術による斬り返し。
金属の激突する轟音を響かせながら、けれど、迫り来る妖刃のひとつも通さない。
十か、二十か、はたまたその数倍か。
驟雨の如く咲き乱れる剣戟の嵐。
つんざく刃の音色は、戦乱の嘆きのようで。
けれど、夜彦が霊刀を振るうその最中では血の一滴、流させはしない。
乱れ咲くは蒼銀の剣閃。
全ての赤を拒み、弾き、斬り裂きながら夜に瞬く色彩。
「そう……一年前の戦いで、この世界は以前よりも平和になった」
夜彦の呟きは、それこそ剣戟の音に掻き消えそうで。
けれど、そこにいる全ての者に伝わる、想いを持って響き、伝わる。
この穏やかたる一時は、数多の血が流れ、命が零れ落ちた末に掴み取ったもの。
今を生きる者は、ただ平穏の中で生きればいい。
夜に不安を抱かず、月を眺めて、その美しさに微笑む。
そんな大切な誰かの隣で、その愛しさを鼓動と共に感じられたら。
――それだけで、夢は叶ったと云える筈なのだから。
「貴方も、そう思いませんか?」
夜彦の振るう霞瑞刀。その蒼銀の剣閃の間合いの外から迫るものを同じように打ち払う剣豪は、ただ、ただ、静かに頷く。
だから、もう戦乱は要らないのだと。
名は空へ、月へ、届かずともよい。
例えば、自らが盾となる事を誓ったものがいるように、矜持の形はそれぞれなのだ。
「流石は夜彦、早いな。けれど、何も全て任せっきりにはできねぇよ」
剣豪をフォローできる位置についていた倫太郎だが、迫り来る刃を弾き返す姿を見て、自らも前へと出る。
倫太郎が構えるは華焔刀 [ 凪 ]。
黒塗りの柄に朱で描かれた焔を再現するように、美しい刃紋に揺らめく破魔の力が宿る。
「少なくとも、秋の名月と紅葉の中で、殺しを求めるなんて――無粋じゃねぇかな」
夜が好きで、月が好き。
ならばそれらを飾る紅葉は、本当はとても綺麗な筈だから。
静かで穏やかな月夜に、血濡れの刃は不要なのだ。
「消えちまいなっ!」
舞うかのように振るわれる華焔刀。
月灯りの下、紅葉を伴いて踊る一閃は焔の華の如く。
巻き上がる衝撃波は赤く染まった妖刃の群れを斬り払い、打ち据える。
そして、赤き斬花は二度咲いた。
まるで一度、舞い散ったものが再び花開くように。
例え、刹那の徒花であろうと、幾度でも繰り返すのだと。
災禍を焼き尽くすまで、華焔刀の動きは止まらない。
返す刃が巻き起こす斬風にて、迫り来る兵器百般の動きを狂わせる。
故に、ようやく訪れる反撃の瞬間。
不動、故に、鉄壁の守りを見せた夜彦が構えを解き、ようやく攻勢にと踏み込む。
その一撃が為に。
刃であろうとする夜彦が為に。
倫太郎が念動力で旋風を巻き起こす。
紅葉が高速で舞い上がり、素早く動くものに反応する妖霊の刃がそちらへと向く。
ただ薙刀を振るうだけではない。守るが為、災禍を祓う為、術を行使する倫太郎のその血筋と想い。
我は盾と、誓ったのだから。
その思いが紡いだ、完全なる隙。
「助かります、倫太郎殿」
「感謝は全部終わった後に、纏めてくれよな」
僅かに微笑む、ふたり。
例え軍神の力を宿したモノ達の前であろうとも、変わらない。
夜彦は刃であり、倫太郎は盾であるという誓いの元に。
無数の赤が乱れる中、二人が身につける双誓の指輪が月明かりに輝く。
夜を好む二人。
誇りと信念を知る二人。
唯一にして無二なるもの。
そんな誓いを交わした華禱で結ばれた手によって、迫る戦禍は斬り払われていく。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ルイス・グリッド
アドリブ・共闘歓迎
護衛対象は貴方と呼ぶ
戦から離れて穏やかに過ごしていたのに邪魔するな
強いからと言って闘争を望んでいると思ったら大間違いだ
僭越ながら助太刀する
邪魔な位置にいたらすぐに言ってくれ、貴方に斬られると痛そうだ
SPDで判定
【視力】【聞き耳】で敵や剣豪の【情報収集】をしながら戦う
銀腕を【武器改造】で剣にし【先制攻撃】【怪力】【早業】【鎧無視攻撃】を使いながら剣豪の背後の武器を破壊
遠距離の武器が相手なら【視力】【暗視】を使い、義眼で視認し藍の災い:圧壊【重量攻撃】を【全力魔法】【スナイパー】【属性攻撃】を使いながら破壊
攻撃をされれば【戦闘知識】【見切り】で避けて【早業】【カウンター】を狙う
紅葉が散り、赤き妖刀が舞う。
それは尽きせぬ雨のように。
戦場で流れ続ける、深紅の涙のように。
命は儚く、想いは脆いのだと、刃が嗤っている。
――ああ、そうだ。命は脆く、儚い。
一度死んでいるからこそ、ルイス・グリッド(生者の盾・f26203)は誰よりも深く、それを知っている。
残され、託されたものがあるから。
この身に埋め込んだメガリスが、失われた記憶を滲ませ続けるから。
穏やかなる時間に食い込もうとする妖刃を睨み付ける。
「戦から離れ、心穏やかに過ごす者の命を、人生を邪魔するな」
迫る妖刀の刃へと叩きつけるのは、義手であり、メガリスでもある銀腕だ。その一撃で刀身が砕ける事はなくとも、遠くへと弾き飛ばす。
強いからと闘争を求める者ばかりではない。
その逆。誰かを助ける為に、戦いを止める為に強くなったものだって、沢山いる。
そう、此処に。きっと、この剣豪も。
「僭越ながら助太刀する。……この国では、義を見て助けざるは勇なきなり、だったかな」
「さて。難しい事はとんと知らぬ身でね。……が、助かるよ。助けられ、救われて、困らない者はいない」
何処までも穏やかな口調の剣豪に、ルイスは銀色の瞳を向ける。
物静かなのは確か。だが、だからといってそれが弱いという訳ではない。
自らを主張するのではなく、ただ、こう在りたいと願った先の存在のような。
この剣豪の強さの種類を言うなら、信念の強さが軸なのだろうと。
「貴方の邪魔な位置にいるのならすぐにいってくれ、貴方に斬られると痛そうだ」
だから、振るう刃はきっと鋭い。
その想いの分だけ、居合いの刃は研ぎ澄まされてきたのだろうと。
「ならば私の裏と背の側を頼めるかな。後は、遠方から攻撃する……弓たちを」
「判った。どんなに鋭い刃でも、弓矢に届かなければ意味がないか」
「そういう事だ」
迫るのは刀に槍、薙刀に戦斧。
念動力によって浮遊し、動くそれらは車懸かりとして円陣を描きながら疾走しているが、その近接攻撃を補佐するように弓矢が放たれている。
確かにあれは邪魔だ。
ルイスが優れた視力と聴力で戦場全体を把握しているが、散発的に放たれる矢がこちらの反撃を邪魔しているのだ。
剣豪の背に回り込もうとした妖念を帯びた槍を見つけて、剣へと姿を変貌させた銀腕で斬り壊しながら、義眼で弓矢の正確な位置を捉えていく。
例え、月明かりしかない夜の帳の裡でも。
紅葉が舞い散り、無数の武器が嵐と乱れる最中でも。
義眼としてルイスの身に宿る、水晶のメガリスは全てを捉え、映す。
――そして、相応しき災いを、その相手に齎すのだ。
「捉えたぞ」
視認した弓矢たち。
映し出した義眼のメガリスが、藍色へと色彩を変える。
宿す虹の色彩、その災いの中から相応しき災禍(イロ)を選び出して。
「剣で、槍で、鏃で。相手するべきとは限らないものだろう?」
ルイスの囁きは、祈りか、それとも呪いか。
みしり、と鳴り響くのは木々や木の葉だけではない。
弓矢のある周囲の空間が、急激な重力の増加に耐えられず、潰れていくのだ。魔術を用いて、一点の重量を増やして引き起こすのは。
「圧壊しろ」
ルイスの藍色の災いがもたらすのは、激増した重力で潰される弓矢の断末魔。
どんなものであれ、その重力による自らの内側への圧縮に耐えられる筈がない。
ばきぃっ、と砕ける弓。
ひゅっん、と解けて弾ける弦の音。
「どんなものも、形あれば、それ崩れて終わる……まさに、か」
居合いの一閃を繰り出し、そして納める剣豪が呟く。
「自分だけ安全な所から狙うような輩には、相応の報い、という奴さ」
再び長剣となった銀腕を一閃するルイス。
怪力による早業は、月よりなお美しい銀の軌跡を残し、迂回して迫った妖刀を斬り砕く。
鋼であれ、妖念であれ。
草花であれ、信念であれ。
全ては儚く、脆い。
それは命と心も、同じこと。
「だから大事にと……そう思い、願える穏やかな一時が」
求めて、願われて、この泰平の世を成したのではないのかと。
乱舞し続ける無数の武具たちの向こうにいるだろう真田へと、ルイスは鋭い眼光を向ける。
ルイスの身に埋め込まれた水晶と銀腕のメガリスをもって、戦乱の赤に染まった武士に、災厄を届けようと。
そう。
真田という戦鬼に相応しき災いと、終わりを。
大成功
🔵🔵🔵
リクオウ・サナダ
……真田神十郎ね。
何となく嫌な名前なんだよね……胸騒ぎってやつかな。
とにかく、神十郎を倒すにも剣豪を守るにも、兵器百般の無力化からだね。
反重力シューズを使って、剣豪を護れる位置まで、ジャンプ&移動。
貴方の力を見くびっている訳じゃないよ。
貴方の望む戦があるとしても、今この場では、無いと思うんだ。
それに、この数は、多勢に無勢だよね?
だから、貴方が真に刀を振るう時の為に助太刀させてもらうよ(にっこり)
まずは、防御に徹させてもらうよ!
UC使用!
力を借りるは、我が側近、海野六郎!
その強靭なる法力の盾にて、全ての剣戟を拒絶しろ!
裁ききれない兵器百般は、長薙刀で打ち払う。
真田陸王……いや、真田幸村いざ参る!
その名に不吉さを憶えた事を、偽るつもりはない。
恐れると驚異と見るは違うもの。
ましてや、戦の最中の胸騒ぎほど、真実を告げるものはないのだから。
「……真田神十郎ね」
真田。その名を知らぬものはいないだろう。
そして、その名に連ねられた武勇を。
徳川の名が泰平をもたらす威光というのならば、最後まで残り続けた戦の火こそが真田の武。
「ともあれ、だ」
反重力シューズを用いて、一気に飛び跳ねるはリクオウ・サナダ(すっとこどっこい宇宙船整備士・f05962)だ。
元より、地に足をつけて駆ける者ではない。
空の遥か高み、宇宙を翔る者こそリクオウだ。
月より遥か高くなど、このサムライエンパイアの世界では驚異に他ならないだろう。
妖術か忍の技かというような動きもリクオウにとっては常。
近くに着地した剣豪が僅かに緊張するが、人の良さそうなリクオウの赤い眼と視線があうと、助太刀にはいってくれる仲間なのだと僅かに頷く。
「いやぁ、あんたの力を見くびっている訳じゃないよ?」
それこそ、猟兵ではないにしても、そして、その猟兵に助太刀をいれられたとしても、オブリビオンと切り結ぶだけの力のある。
その上でだ。
「貴方の望む戦があるとしても、今この場では、無いと思うんだ」
それこそ、嬉々としている様子などない。
この剣豪が願ったもの、信じるものが、この場には欠片もない。
此処が本懐。此処が想いと祈り、信念の集った場所とは決して思えないのだ。
だからこそ、リクオウはにっこりと笑う。
こんな多勢に無勢。血風が渦巻く場が、願いだというような相手ではないからこそ。
「貴方が真に刀を振るう時の為に助太刀させてもらうよ」
朗らかで、柔らかな笑みに、釣られて剣豪さえも笑ってしまう程。
此処は戦場。そうだとも。
でも、望んで求めたものとはかけ離れているから。
「中々に肝の据わった男だな。が、面白いし、私とて出来れば、いずこかの藩で師範をしたいものだ。道場で、身を守る術として技を教え続ける……そんな刀を振るう場に立ちたいものだ」
「ああ、いいね。いい夢じゃないか」
それを風が吹けば消える、何かにしない為に。
ここにあったのだと、振りかえった時の現実となる為に。
「まずは、あんたを守らせて貰うよ」
防御に徹する。守る事に専念する。
身は削られ、血は流れたとしても、それに値する相手と戦いなのだとリクオウは微笑むのだ。
発動するユーベルコードは、それこそ、真田の名を冠するもの。
仕えた雄士をその身に宿し、その力を借りるもの。
中でも、優勢だった軍勢を動揺させた側近、海野六郎。
その強靱なる法力をもって盾とし、全ての剣戟を拒絶し、弾き飛ばそうとする。
故に、顕現するのは巨大な光の盾。
幕のように広く、長く、けれど、妖刃を阻む法力が紡ぐ障壁だ。
これが元の兵器百般ならば、それこそ守りて凌ぐという目的は果たせていただろう。
が、これは超・魔軍転生にて上杉謙信の力を宿したもの。
例え寿命を対価に強烈な力を獣雄士から借り受けようとも、ただ受けて凌ぐには強烈すぎる。
軍神。その名を響かせるように、深く、濃い妖気を、呪詛の毒のように刃からしたらせて迫る兵器百般の怒濤の攻勢。
かつては十二本の刀を用いて攻め続けた軍神。その攻撃を再現するように、より早く、より深く、より鋭くなる攻勢。
拒絶する法力を斬り裂き、リクオウの身を穿つ刃。
吹き出る鮮血に、自らの戦を思い出したかのように妖しき武器たちの攻撃が激しくなる。
それこそ、それぞれの武器を軍神が振るうかのように。
「ぐっ……受けるだけでは、無理、なら」
捌き切れないというのなら、それで構わない。
無傷で勝利出来るというのなら、それこそ真田の名の元で戦うモノではない。
「さあ、来いよ。仕切り直しだ!」
掴み、大上段から周囲をなぎ払うは長薙刀。
烈風が吹き荒れ、紅葉と妖器たちがざわめきたつ。
それでもなお、血を求め、鮮血を散らし、飛翔する妖しの刃。
血風か咲き乱れ、紅葉が散り、歌舞伎の如く見得を張って、長薙刀を振り下ろすリクオウ。
轟音と共に大地が弾けるように割れ、兵器百般と土砂が周囲に撒き散らさせる。
「さあ、さあ」
横凪ぎに振るえば、紅葉が舞い狂って、妖刀が遠くへと弾き飛ばされる。
ならばと身を転じて、周囲一帯を薙ぎ払う。
決して無視はさせない。意識を集め、そして全てを討つのだと心に決め。
「いざ尋常に――」
踏み鳴らす足の音さえ、戦場の全てに轟くように。
戦に我ありと、吼えるように告げるのだ。
「真田陸王……いや、真田幸村いざ参る!」
この身、この武威、止めて見せよと、法力と大薙刀をもってあらゆる兵器を打ち払うリクオウ。
目立てば目立つ程、相手の攻撃の激しさは増す。
だとしても構わない。いいや、乗り越えてみせる。
豪快なる武勇をもって、迫る刃の全てを打ち据えようと、前へと踏み出すリクオウは止まらない。
大成功
🔵🔵🔵
真宮・響
【真宮家】で参加
戦狂いの武将か。真田という名字に思う所あるが、剣の道を真剣に極める剣豪を歪んだ存在に変えようとするとは同じ武の道を進むものとして許さない。
車懸かりの陣ね。所詮借り物の戦法だ。アタシ達の力で打ち破るよ!!奏、瞬、行くよ!!
敵は無差別攻撃してくるのか。じゃあ攻撃対象を絞らせないように炎の戦乙女と共に【ダッシュ】しながら【残像】で敵を惑わせる。敵が目標を絞り切れずにいるところを【衝撃波】で吹き飛ばし、【二回攻撃】【範囲攻撃】【怪力】で一気に薙ぎ払う。敵の攻撃は【オーラ防御】【見切り】で凌ぐ。この世界に戦を起す存在は必要ない!!消えな!!
真宮・奏
【真宮家】で参加
むむ、同じ剣を使う者として剣豪の方の誇りを汚すような所業、許せません。その狂気、止めて見せます!!
敵がなんか車懸かりの陣を使ってくるようですが、所詮借り物の策、彼の上杉謙信の用には行きませんよ?
敵が早く動くものを狙うようなので、トリニティエンハンスで防御力を上げ、【オーラ防御】【盾受け】【武器受け】【拠点防御】で防御を固め、あえて動き回ることで相手の動きを引き付け、【シールドバッシュ】【衝撃波】で迎撃していきます。彼の上杉謙信はいません。戦乱の世は終わったのです。再びこの地を戦火に包もうとするなら、容赦はしません!!
神城・瞬
【真宮家】で参加
彼の上杉謙信もこんな理由で力を使われるのは本意ではないでしょうに。その悪用する輩が真田、というのも皮肉ですね。こんな輩に剣豪の方を殺される訳にはいきません。
敵の遠距離からの攻撃は、手数で対抗しましょう。【マヒ攻撃】【目潰し】【部位破壊】【鎧無視攻撃】を併せた風花の舞で攻撃。敵の攻撃は【オーラ防御】【第六感】戦いを望むなら、自分自身の武で挑むべきです。卑怯者の貴方に、この世界は荒らさせません!!
戦乱の渦の如く廻るは兵器百般。
妖気を帯びた刃が嵐の如く乱れ、近づく者全てを斬り裂かんとする。
例え一部を壊そうとも、これは軍神と呼ばれた上杉謙信の兵法、車懸かりの再現。
ならばこそ、常に全力で攻め掛かる刃の嵐は止まらない。
だが、無数であっても無尽ではないのだ。
超・魔軍転生によって憑装により、真に迫ろうとも、それは軍神たる上杉謙信そのものではないように。
「彼の上杉謙信も、こんな理由で力を使われるのは本意ではないでしょうに」
呟くのは神城・瞬(清光の月・f06558)。
冷静沈着な彼のオッドアイの瞳は、移り行く戦いの状況を見据えている。
他の二人がより真っ直ぐに突き進むからこそ、自分だけは全てを知り、危険を抑えねばならないと判っているのだ。
だからこそ。
「……それを悪用するのが真田、というのも皮肉ですね」
「真田、真田……ね。その名字に思う所はあるけれど」
魔法石を握り絞めながら続けるのは、真宮・響(赫灼の炎・f00434)だ。
その視線は常に回り続ける兵器百般の中央。それらを指揮する真田神十郎へと向けられている。
「戦狂いの武将に、剣の道を真剣に極める剣豪の命を、存在を、同じように歪めて狂わせるなんて許さない」
同じ武の道を進む響だからこそ、湧き上がる義憤。
何処に終点があるかも判らない武の道。それはただ一人、己のみで突き進むしかなく、他の者と共に歩めぬ孤独にして苛烈な道筋。
それでもと望むのだ。
自らの剣は、武は、何処に達するのかと。
それは純粋に過ぎて、己の魂さえ削る道往きだと知るのだから。
「むむ、同じ剣を使う者として剣豪の方の誇りを汚すような所業、許せません」
それを戦火に狂わせようなどと。
剣に宿した矜持、魂を狂気で穢す事は認められないと同じく、真宮・奏(絢爛の星・f03210)が怒りを表す。
奏の構えた剣からも精霊の力が溢れて、その思いの強さを伝えている。
絶対に、止めてみせるのだ。
心のあるがまま、真っ直ぐに。
母である響と、義兄である瞬が共にいるならば、出来ない筈がないと信じている。
「車懸かりの陣ね。所詮借り物の戦法だ。アタシ達の力で打ち破るよ!」
激しき号令を発するのは響。
決して、このような輩に剣豪を殺させてはならないと、瞬も、奏も、心を同じくするからこそ。
「奏、瞬、行くよ!!」
響の声と共に、同時に疾走する三人。
躊躇や迷いはなく、ただ全力。各々のユーベルコードを発動させ、兵器百般の繰り出す剣戟の嵐を打ち破ろうとする。
「所詮借り物の策、彼の上杉謙信の用には行きませんよ?」
先陣を切ったのは奏だ。
火、風、水の魔力で強化された防御力。
更に剣と盾へとオーラを宿した響は、守りを固めて妖刃の群れの中へと突き進む。
敵が素早く動くものに反応するのならば、あえて動き回り、その攻撃を引き受けるまで。
無数の切っ先が奏へと殺到するが、怯みはしない。剣で斬り払い、盾で受けては弾き飛ばす。
飛び散る火花は激しく、そして絶え間なく。
精霊の魔力と、妖気が違いを相殺しあう。
多勢に無勢。絶え間ない全力で迫る刃。無傷であれる筈はなく、鮮血が吹き荒れる。
だが、だから何だというのだ。
精霊の剣で打ち払い、衝撃波で薙ぎ払う奏の瞳は揺るがない。
「無差別に攻めるっていうのなら、駆け抜け続けて、狙いを絞らせないよ」
召喚した赤熱した槍を携える戦乙女と共に、刃の嵐の中を駆け抜けるのは響だ。
揺らめく炎が生み出すのは蜃気楼。
疾走する速度に合わせて残像をひとつ、ふたつと増やしながら、敵を惑わせようと動き回る。
狙いが一点に集中しなければ、防御を固める響の負担も減る。
が、借り物といえど、これも上杉謙信の憑装を得たもの。無差別な攻撃とはいえ、迷うことなく響を、奏を、炎の戦乙女を斬り裂いていく。
理性がなければ惑うこともない。
それこそ、戦乱の狂気とでもいうべき刃の嵐。
だが、攻撃が収束しなければ、そこに反撃の為の隙は産まれるのだ。
「はぁぁっ!」
剣戟の音に劣らぬ、裂帛の気合い。
共に放たれた奏が盾より繰り出す衝撃波が迫り来る兵器百般たちを薙ぎ払い、弾き飛ばす。
回り続け、交互に連続した全力攻撃を繰り出す事こそ車懸かりの陣。
一瞬でも止まれば、その陣形としての機能と力は衰える。
「やったね、奏。私も続かせて貰うよ!」
響が構えるのは燃え盛るかのように赤い色彩が揺れる、一振りの光剣。
身体を転じさせる勢いを乗せ、周囲一帯を薙ぎ払うように振るわれる剣閃。烈火の勢いそのままに、周囲の兵器百般を退かせる。
のみならず。
「私の前から逃げられると思わないでよ!」
翻り、繰り出される連続の剣閃。まるで炎の翼が羽ばたいかのように、熱風と炎を周囲に撒き散らす。
鋼鉄であれ溶かす響の想いに答えた光剣と、そして、共に戦う戦乙女の加護。
切り込み、弾き飛ばし、薙ぎ払ったが末に出来た、車懸かりの陣の切れ目、空白。
無論、敵がそれをよしとする筈がにい。
きりり、と絞られる剛弓の弦。番えられた矢は、鎧も加護も穿つ妖念の鏃。響と奏に狙いをつけられたそれらの数は、十を超えている。
「ですが、それを見逃す筈もないでしょう」
戦場の最中、静かに、冷たく響いたのは瞬の声だ。
猪突猛進な二人をよく知っている。
そんな二人が狙われるのは、百も承知。
だからこそ、瞬は自らが成すべきことを知っている。
二人を守る事を、瞬は必ずや遂げるのだ。
無数の氷柱が、風と共に舞う。
いいや、それは複製された瞬の愛用の杖。
六花を模し、氷の結晶のように透き通った杖が百に迫る数で紡ぎ出され、烈風の勢いをもって剛弓たちへと殺到する。
それこそ、今まで自分達がしたことを、そのまま返されるように、無数の嵐と化して。
だが、鎧を無視して伝わる氷霊の撃。
冷たさに動きは麻痺したように鈍り、凍った部位は動かなくなる。
「少々乱暴な手段ですが、これが私の力です。私たち家族の武です」
大切な家族を守る為の、風花の舞。
降り積もる紅葉をも凍らせ、ばきりと赤い破片を散らして。
瞬は一歩、広がった敵陣へと踏み込む。
そこは響と奏が切り拓いた空隙でもあるのだから。
家族のいる、その場所なのだから。
「戦いを望むなら、自分自身の武で挑むべきです。卑怯者の貴方に、この世界は荒らさせません!!」
その奥にいるであろう真田へと、冷たき言葉を告げる瞬。
「そうです」
疾走、そして精霊の力を宿す剣を一閃。
駆け抜ける勢いを斬威と化し、残った妖刀を切り捨てる奏が続ける。
「彼の上杉謙信はいません。戦乱の世は終わったのです。再びこの地を戦火に包もうとするなら、容赦はしません!!」
再び陣が動き、回り出す。
どれだけ被害を受けても、どれだけ敗北を受けても、認めないというかのように。
だが、奏が告げた通りに、戦乱の世は終わったのだ。
彼女のような想いを宿した剣で、終わりを告げられたのだ。
「うちの娘が言う通りだよ」
赤熱の剣を構え、数を減らしながらも未だに戦乱を繰り返そうとするモノへと、響は宣言する。
「この世界に戦を起す存在は必要ない!! 潔く、禍根の火種を残さずに消えな!!」
だが、だからと。
潔く、清くは終われぬのだと。
はらり、はらりと墜ちる紅葉は、恨むことはないけれど。
何もせず、志半ばで膝は折れぬのだと。
既に三途を渡る覚悟を終えている武将は、己が眼で三人を見つめていた。
それはすぐに、回り続ける兵器百般に覆われても。
あと一歩。あと、一歩で切っ先を突きつけられるのだ。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
桐生・零那
保護対象を守りながらの戦闘…なんとも煩わしい。けれどこれも神敵たるオブリビオンを討つために必要だと割り切らないと。
敵の手数は相当なもの。ならばこちらも第三の刃を
《零ノ太刀》
二刀を囮に殺気の刃で敵の隙をつく。
速いものに飛び付くというなら、投げナイフでも投げてみるのもありね。
剣豪の相対してる敵にも時折視線の刃を飛ばす。
それなりに戦えるのなら、この程度の援護で十分でしょう?
私の神敵を討つための剣術とあなたたちの陣形、どちらが勝ってるか。
考えるまでもないでしょう?私の業は神が与える慈悲の代行なのだから。
保護せねばならない者がいる事の、なんと不自由なことか。
人の手足は二本、眼は一対。出来る事が限られる以上、殲滅に全力を注げないのは確かなこと。
人によってはいっそ煩わしくさえあり、オブリビオンを神敵と見做す桐生・零那(魔を以て魔を祓う者・f30545)にとっては言うまでも無い。
そこに神敵がいるのだ。
全身と全霊をもって滅ぼすべし。
神の救済は、それをもって成るのだ。
その光を受ける為に、過去の残骸はすべからく撃滅すべし。
そう信じるからこそ、後方で抜刀を振るう剣豪へと桐生は苦い表情を浮かべながら、視線を向ける。
これも神敵を討つ為。
ならば割り切らねばと、思った矢先に、剣豪の静かな声が届く。
「何、私に構わずともよい。むしろ、我、一番槍と切り込むのが得意ならば、そうすればよい」
ゆらり、するりと動く剣豪は、自らが狙われているのだと判っているからこそ、積極的な攻勢へと出てはいない。
むしろ、猟兵たちに前線を任せ、無理に突出した相手を狩ることに専念している。
むしろ後方にいる事で囮となり、敵が無理攻めする事を誘っているのか。
「そういう事なら、助かるわね」
言葉と共に構えるのは破魔の霊刀たる神威と、怨憎にて鍛え上げられた影無を構える桐生。
聖なる太刀と、妖しき小太刀の二刀流。
それは西洋伝来の祓魔術と、日本の剣術を組み合わせ、魔を払う彼女のスタイルを象徴するように。
右と左、それぞれが違うものを、同時に扱うことこそ桐生の技なのだから。
だが、迫る敵の武器群の数は相当なもの。
数えることは馬鹿らしく、そして、意味がない。
「ならば、こちらも」
神威と影無の二刀を構え、殺到する兵器百般を迎え撃つ桐生。
手数というものにおいて圧倒的に劣る。増してや、相手は軍神と名高き上杉謙信の力を得たもの。
構えた二刀の隙を斬り裂こうと、血のように赤く染まった刃の群れが飛翔する。
だが桐生に切っ先が届く寸前、不可視の刃によって騒霊の妖剣が両断された。
それをもたらしたのは殺気の刃。
殺すという念を、想いを斬刃へと変える桐生の零ノ太刀。
抜かず、けれど、視線で捉えたものを両断する殺意によって練り上げられ、磨き上げられたもの。
そう、神敵を斬り裂くべく、殺意という祈りを刃へと変じさせる業。
『散りなさい』
その言葉と共に、殺意の刃が乱舞する。
斬意の視線は襲い来る兵器百般の群れを斬り捨て、そしてまた別のものを捉えては斬る。ただ見て、念じるだけで斬滅を成す祓魔の術法。
そして、五月雨の如く迫る全てを視線で捉えるのは不可能でも。
「構えているのは、飾りじゃないのよ」
赤い妖気を纏った刃が、桐生の投擲したナイフに釣られて動く。
超常の攻撃力と耐久力を得るものの、理性を失い、早く動くものに反応するという性質は隙として余りにも大きい。
その分の強さはあるだろう。
だが、絶対ではないのだ。
「神敵は、全て滅ぼす。それだけよ」
言葉を残して身を翻し、二刀を振るう桐生。
強靱となった妖しの武具たちを一刀で両断する事はできずとも、絶え間なく繰り出す斬撃で弾き、打ち返し、そして削って動きを止める。
瞬間、視線が合えば放たれる殺意の視線が両断を叶えるのだ。
身に妖刃が迫り、腕や胴を削って鮮血を散らすが、桐生もまたひとつ、ひとつと仕留めていく。
両手の太刀と小太刀を手繰って、迫る刃を切り払い。
斬りて、斬られて。
散って、散らされて。
火花が踊り、鮮血がその後を追う。
あがる鋼の断末魔は、殺意の刃が走った証。
ひとつ斬れ捨てればば、桐生の信じる神の救済にまた一歩近づくのだ。
ひとつの痛みが叫べば、そこに神敵がいるという証拠。
身を裂く激痛。だからなんだというのだ。その存在を許すなと云う神託に他ならない。
――必ずや、全ての神敵を討つ。
黒い長髪を翻し、終わりの見えない剣戟に身を晒しながら、桐生が思い描くはただ一つ。
オブリビオンの殲滅こそ、もたらす光への道。
信仰は戦いと共に加速し、より激しく、強く、鼓動と共に走り抜ける。
痛みごときで戦意が鈍る筈はない。
むしろ、神の意志に従い、戦っている証なのだ。
ならばこそ、視線に宿る殺意の刃もまた研ぎ澄まされ続ける。
斬滅の意志をもって、果てない剣戟の中へと身を投じながら。
祈るように、願うように、ふたつの刃と殺意の視線を手繰る。
巻き上がる赤は、紅葉と刃と、血と風。
だが、決して桐生は狂気に溺れている訳ではない。
信仰に身と魂を捧げているだけなのだ。
オビリビオンの妖刃に身を晒しながらも、剣豪が相対していた者へと殺気の刃を放つ。
「それなりに戦えるなら、この程度の援護で大丈夫でしょう?」
より加速していく戦いの中でも、桐生は忘れない。
この剣豪が討たれれば、神敵たるオブリビオンは増えるのだ。
神の敵を増やすのを見逃すなど、あってはならない。
「さあ」
終わりの見えない、車懸かりの陣の攻勢。
数える事も出来ない程の武器の群れを前にして、桐生は僅かな怯えも抱かない。
「私の神敵を討つための剣術とあなたたちの陣形、どちらが勝ってるか」
考えるまでもない。
この剣は、この業は、神が与える慈悲の代行。
「主の慈悲を刃にて示し、遂げさせて貰うわ」
刀剣の嵐の全てを斬り裂かんと、信仰と殺意の刃が振るわれる。
終わりが見えずとも、絶望の翳りなどなく。
止まらず刃を走らせれば、ひとつ、ひとつと消えていく神敵。
妖気纏う鋼の断たれる音。
それは、救いへと近づく福音に他ならない。
大成功
🔵🔵🔵
鈴桜・雪風
修めた剣の技を振るえずとも、太平を良しとできる方ですか
一人の人間として、わたくしはその有り様を尊敬しますわ
「故に、この場での助太刀をお許しを。折角平和の世で生きると決めたのですもの、早々に果ててはつまらぬでしょう」
剣豪氏を守るべく、傘から仕込み刀を抜いて前線に立ちますわ
「ほんの嗜み程度ですが……敵手が剣士を求むるなら、わたくしも剣士として立ち会いましょう。桜純流、鈴桜雪風。怖れぬならばかかっていらっしゃいませ」
連携して飛来する武器群を剣で捌きつつ、敵陣が攻撃に寄って一斉に襲い来る機を待ちます
一斉攻撃は、一度で捌いてしまえば後がありませんので
「そして、わたくしの剣はあなた方より十分『速い』ので」
紅葉が舞い散り、妖刃が流れる戦場。
闇夜の中、ゆらりと歩く姿がある。
物静かに、たおやかに。
それらの隙間を泳ぐ少女の姿は優雅でさえある。
ゆらり、ふわりと。
それこそ、季節外れの桜のように。
幽玄の美をもって、微笑むのは鈴桜・雪風。
湖畔の如き眸が映すのは、太平をよしとするひとりの剣豪。
修練の果て、辿り着いた剣を振るえずともよい。
朧月の如く、世の人々に姿をしかと捉えられずとも、自らが目指したものに辿り着けたのならば。
それでよいのだと。
今の世で夢見るものは、叶えるべきものは違うのだと。
誇りや名誉より、今の世を見据える事ができるのならば、鈴桜はその有様に尊敬する。
「血を流し、流させ、成す事より。今の世を見られるお方とお見受けします」
優美なる桜の模様の施された和傘を傾け、流し目をひとつ。
何処までも柔らかく、穏やかに。
鈴が転がるような声で紡ぐのだ。
「故に、この場での助太刀をお許しを。折角平和の世で生きると決めたのですもの、早々に果ててはつまらぬでしょう」
戦いは既に始まっている。
だというのに、余りにも緩やかな鈴桜の物腰は、その喧騒を忘れさせる程だ。
「確かに、早々に果ててはつまらぬな。新しい夢を見始めた所なのだから」
「この世は総じて浅き夢のようなもの。ですが、それを追い続けるのが生きるという事なのですから」
叶う、叶わぬではない。
求め、焦がれ、祈りて願うが人の心。
何処までもお淑やかに、けれど、謎めいた言葉を残して、からんと下駄を鳴らして前へと踊り出る。
「一度醒めた戦乱の夢を追い求めるのは、少し、無粋ではありませんか。ええ、同じ夢は二度と見られないのですから」
それでもというのならばと、桜が散るように音もなく。
さらりと和傘から抜かれるは、仕込み刀。
握る手に相応しい美しき直刀は、けれど、闇を断つ鋭刃を持つのだ。
「ほんの嗜み程度ですが……敵手が剣士を求むるなら、わたくしも剣士として立ち会いましょう」
僅かに剣呑な気配が沸き立つ。
風に乗って薫るは、桜の香りに似て。
「桜純流、鈴桜雪風。怖れぬならばかかっていらっしゃいませ」
美しくも不可思議に。
謎めくが故に、眼が離せない。
それが鈴桜・雪風。咲き続ける夜桜のように、しんっ、と静かに構えた。
故に、殺到するは妖しの刃。
花散らす五月雨の如く鈴桜へと殺到する。
全てを赤く染め、己がモノへとしようと。
これより再び巻き上がる血風の中、吹き荒れる桜の剣豪と化そうと。
「なんとも、無粋ですね」
だが、故にこそ桜の精にその刃は届かない。
桜色の魔力光が輝く刀が神速をもって翻り、連携して迫る武器群を捌いていく。
掠れる刃が奏でるは、玉散るが如き美しき音色。
紅葉の夜を桜の色彩に染めて舞う鈴桜は、決して止まらず、そして、切っ先に囚われない。
これは桜吹雪の舞踏なのだ。誰も捉える事が出来ないのは当然のこと。
舞い散る花びらを、その掌で掴めぬように。
「己が配下、己がモノになれと、力でねじ伏せようなど」
一気呵成に攻め立てようとも、優美な剣閃の前で、斬り流されていく。
散った花が水に流されいくかのように。
「淑女にも、配下にも、全てに嫌われて、袖にされてしまいますわよ」
それこそ、このようにと。
一斉に攻め掛かった武器群たちが斬り流され、鈴桜の後方へと流れていく。
血の匂いは一切なく。
やはり、何処か桜のような不思議な匂いをもった空気が揺れて。
「一斉攻撃は凌がれれば後がない。一度、全てを捌かれれば続きません」
剣士としての当然を、優しく示唆する鈴桜。
が、それを補うのが車懸かりという上杉謙信の戦法。
複数の部隊、群れが連続して襲い懸かり続けるという驚異。
だが、それは常識が通用する相手のみだ。
幻櫻の咲き誇る都で生きる鈴桜の剣は、軍神と呼ばれたモノを易々と越えて見せる。
「そして、わたくしの剣はあなた方より十分『速い』ので」
瞬間、鈴桜に捌かれ、通り過ぎた筈の武器群が止まり。
幾重もの桜色の斬閃が刻まれる。
一刀を持って全てを断つ。
その覚悟を持って九度と振るわれた刃は魂さえも絶つ剣舞となる。
ばらばらと斬り崩れていく妖念を纏った刀身たち。
切り結んでいた最中か、それとも、すれ違った刹那にか。
鈴桜の剣の至った『速さ』を捉えられないからこそ、判らない。
永遠の謎を残し、緩やかに直刀を構え直す鈴桜。
「わたくしを恐れぬならば、まだお相手致しましょうか? それとも、そろそろ奥で控える将がその顔を見せてくださるのでしょうか?」
何処までも、桜のように物静かに。
闇の中を泳ぐように、からん、と下駄を鳴らして一歩、踏み出して。
夜桜のように儚き佇まいのまま、直刀をするりと滑らせる。
遅れて、ちりんと鳴り響いたのは、結ばれた鈴たる涼音。
誘うように。
誘われたかのように。
より深き夜、激しき戦へと。
回遊するような軽やかさで、微かな音を残していく。
大成功
🔵🔵🔵
アネット・レインフォール
▼静
まあ、剣豪が全て戦目当てという訳ではないしな。
今後の身の振り等を聞いてみたいものだ。
指南役とかお勧めだぞ?
…しかし車懸りの陣か
有用な時代もあったのだろうが
猟兵に通じるかは些か疑問ではあるな
丁度良い。
狼煙と挨拶を兼ねて此処から一撃を見舞うとしようか
▼動
戦況と敵の位置関係は冷静に把握するとして
殿を剣豪に任せて前線へ。
刀剣を念動力で射出&斬り伏せながら外周へ移動
式刀を手に陣の中心を貫くよう
霞の構えから【黒鵺】で突き技を放ち薙払う。
真田に当たるとは思わないが
陣形の両断や足並みを崩しておけば
後続も戦い易いだろう
――元来、居合とは抜く前に相手を制する業だ。
剣豪の次なる道…見つかるといいな?
アドリブ歓迎
どうして強くなりたかったのか。
何故、剣を握ったのか。
その時、胸に抱いた最初の思いは、願いは。
いいや、どうして強く在ろうとしたのかは、人それぞれ。
それこそ、剣豪に至ったものが、戦目当てであるとは限らない。
切り結ぶ最中に見えるものがあるのだろう。
死線の果てで、得るものとてあるのだろう。
だが、それが全て、だなんて狭い世界にアネット・レインフォール(剣の異邦人・f01254)は生きていない。
武人として強さを求める理由は、そんなに小さな空に浮かんでいない。
だからこそ、剣を振るう前に問いたいのだ。
血と紅葉と刃が、風に乗って荒れ狂う戦場に臨む前に。
「貴方の今後の身の振りを聞いても宜しいか?」
アネットの問いは余りにも素朴なもの。
戦はもういいのだという剣豪。
悔いはある。天下無双などという夢話、けれど、それもまた夢なのだから。
砕けて、散って、叶わない輝きは余りにも悲しく、痛ましい。
けれど、そこに磨き上げた剣の業があるのなら、受け継がれず、途絶えて消えることこそ、なおのこと、嘆くべきなのだ。
「それほどの腕を持つなら、指南役とかお勧めだぞ」
「そうさな。どこぞの藩の指南役などなれればよかろう。でなくともよい。町で身を守り、心を映す剣を教えられれば、それはよかろうな」
すらりと流れる剣豪の抜刀。
飛翔してきた妖刀を一刀の下に断ち斬っている。
「だが、世話は要らぬぞ? この太平の世でこそ、見つけた新しき夢。自らの足で歩き、腕で行い、成してこその新しき夢と理想よ」
それこそ、紡ぎ上げた殺人の剣理を手放し、失われても。
新しい理想を掲げる剣豪の顔は、余りにも穏やかだった。
「死なせるには惜しい人だ」
アネットの言葉は、心のままに。
「だからこそ、俺の背と殿を願えないか」
それこそ、背中を預けるに値する心と技を持つのだから。
実力不足だといっているのではないと、剣豪とて判るからこそ。
「ああ、先を切り拓くは若人に任せ、殿は私に任せて進むがいい。その剣を振るい、道を作るがいい」
ならば憂いはない。
ただ全力で斬り進むのみと、念動力にて周囲に武具を展開させるアネット。
あらゆる武器を、スタイルを瞬時に切り替える為の術理。
アネットが自ら編み上げ、辿り着いた武の一つ。
果たせぬ夢ではない。
アネットのその強さは、止まらぬ限り先へ、先へ、いずれ夜天の月にさえ届く筈なのだから。
「……しかし、車懸りの陣か」
かつては有用な時代もあったのだろう。
だが、それは今の猟兵に通じるものだろうか。
所詮は過去の残滓。先へと進み続ける剣を阻むものではないと、アネットは指先を伸ばす。
掴むのは式刀【阿修羅道】。
焔の刃紋が揺れ動く大太刀にして、異常なまでの鋭さを誇る一振りだ。
まるで全てを飲み込む烈火の威を刀身に宿しているかのように。
それが偽りではないことを、握りて構えるアネットがこれより証明するのだ。
「丁度いい。挨拶と狼煙を兼ねて、一撃を見舞うとしようか」
アネットの踏み出す一歩は滑るように音もなく。
それでいて、翔るように素早く、円陣を描く武器の群れへと迫る。
念動力で射出する他の刀剣が迎撃に走った兵器百般の妖刃を斬り伏せる。
青の漣を帯びた刀は横薙ぎに走った妖刀と切り結び、紫水晶が刻まれた儀礼剣は長槍の柄を斬り裂く。
十三に及ぶ武器がアネットの意志に従い、その刃を閃かせる様は、これもひとつの軍。
少しでも怯めば、アネット本人が持つ式刀によって斬り伏せられる。
彼に近づこうとする雑兵を切り払う武威そのものだ。
瞬くのは無数の火花と、剣戟の響き。
その中心で、アネットは大太刀の切っ先をゆらりと上段に――霞みの構えと呼ばれる型へと変える。
それは刺突へと特化した構え。
この場からでは届かない。間合いが遠いなど、関係ない。
練り上げた闘気を、アネット自身の魂を刀身へと乗せていく。
それはただ一点、己が狙うものを貫き、穿つ為の剣の極致。
膨大な闘気が収縮し、一刀で全てを決めるのだと、斬威が渦巻く。
我に穿てぬものなく。
この切っ先、奔る跡に残るものなし。
そう己が魂にこそ誓い、振るえば叶わぬ事などないのだ。
『参式・黒鵺』
そして焔の刃紋を宿す刀身から放たれるは、斬滅の一閃。
アネットの持つ全闘気と、削った魂を上乗せしたそれは、剣術の常識を覆す。
あらゆる防御、あらゆる属性を無視して貫く破滅の剣閃。
刀剣の間合いという距離を越え、妖刃たちが成す円陣を両断するほど。
剣の先にあれば軍勢さえ穿ち抜く、一刀に全てを懸けた技だ。
そう、全てを飲み込む焔の如く。
星さえ斬り砕く、夢想の切っ先刃として。
「流石に、真田には当たらないか……だが、こちらの意志は届けたぞ」
故にアネットの疲弊も激しい。続けての使用などは論外であり、今も肩で息をする程。
一息の休みを挟まねば戦う事さえ危ういだろう。
だが、陣形ごと斬り崩された妖念の武具達も再び陣を組み直すので必死だ。後続が攻めるならば今という好機を、文字通りに斬り拓いてみたのだ。
そして仮に今、アネットを妖刀たちが襲ったとしても、殿として構える剣豪の援護とてある。
「――元来、居合とは抜く前に相手を制する業だ」
ある意味、アネットの放った黒鵺もまた同様。
抜き放てば終わる。故にこそ、抜かずに敵を制する。
戦う前に勝つという理想。争いを起こさず、その場を制する心こそ、居合の刃。
だが、そこで留まるつもりはアネットにはない。
何処までも強く。
心と魂が求める果てまで。
夢というには、余りにも鮮烈なるものだとしても。
「剣豪の次なる道……見つかるといいな?」
アネットの武人の道への歩みは、決して止まらない。
だからこそ、刃を交えていくのだろう。
陣の奥に控える真田や、その他の者達と。
自らの強さ、その刃が、何処まで届くのかと。
アネットが進むは終わらぬ夢路。
例え夜天の月を斬り崩しても、それが路の最果てではないのだから。
鼓動が続く限り、強さを求める夢は終わらない。
それは戦いではなく。
強さを求める魂だからこそ。
大成功
🔵🔵🔵
西院鬼・織久
守りは不得手ですが敵を減らせば安全にはなるでしょう
我等は狩るもの、喰らうもの
悉く喰らい尽くしてくれよう
【行動】POW
五感と第六感+野生の勘を働かせ周囲を把握し敵を行動を予測
先制攻撃+UC+範囲攻撃で開いた空間に向かってダッシュ+なぎ払い
残像+フェイントで敵の注意を引いて攻撃を避けると同時に回り込み二回攻撃なぎ払い
敵陣の中で戦う事で敵を引き寄せ剣豪の方に向かわせない
敵UCは素早く動くUCを囮にして集中攻撃に集まった所を纏めて爆破
傷は各種耐性と精神系技能で耐え攻撃の手を止めない
その狂気の魂に、誰かを守ることは不得手。
が、ひとつ、ふたつと敵を屠れば、安全になるだろう。
みっつ、よっつと驚異を狩れば、狩る程に。
全ての敵が闇に飲まれて消えれば、何も案ずることはない。
故に、喰らおう。
全ての敵を。
我等は狩るもの、喰らうもの。
「悉く喰らい尽くしてくれよう」
爛々とした赤い瞳は殺意と狂気の具現。
手にした暗器に宿るは犠牲者の怨念の炎。
世は全て、儚く、脆く、危うく、移ろうならばこそ。
西院鬼・織久(西院鬼一門・f10350)が纏う狂念が、ひたりと空気を蝕んでいく。
闇より、なお昏き捕食者の死線が、つぃ、と群れ成す妖刃達へと向く。
鋼の身をもつあれも今は、魂を宿すならば。
「そう、悉くを――狩り、喰らうといったのだから」
一度、標的を捉えた狂気が逃すは筈がない。
漆黒の髪を靡かせながら、紅葉散る夜を駆ける織久。
研ぎ澄まされた五感の全てと、第六感、そして狩人として勘。その全てを駆使し、周囲と敵の動きを把握する。
夜に溶け込むような、音を立てぬ動きにオブリビオン達は織久が迫ることに気づけない。
それは死神の訪れに似た静寂。
けれど、確かな死をもたらす殺意の影。
『何人たりとも死の影より逃れる事能わず』
織久の囁きにて呼び起こされるは黒き影。
妖念で動く兵器百般たちが気づくより早く、それは周囲を覆い、触れるのだ。
瞬間、爆ぜたのは闇と怨念。
まるで怨嗟の嘆きのような音を立てて炸裂し、数体の妖刃たちを屠る。
熟練の暗殺者のような手際。だが、織久は決して殺し屋ではないのだ。
彼はあくまで、怨嗟を糧とする凶戦士。
「さあ、喰らわせよ。その身、その魂、その怨念」
浮遊する妖刃が赤く染まり、狂乱の斬撃を繰り出す最中へと滑り込む織久。
爆破によって開いた空間に滑り込むや否や、織久が構えるは怨念からなる血色の焔を纏う大鎌だ。
銘を闇焔。更なる怨念をその刃に宿すべく、漆黒の斬閃を放つ。
周囲を薙ぎ払う鎌刃は不吉な唸り声を立て、妖念の武具を斬り崩していく。
怪力であると同時に、恐ろしい程の身のこなしと早業。
確かに、陣の内部へと入り込めば、円を描いて動き回る車懸かりの敵には不利。むしろ、どう陣を突破して内部に入り込むかが鍵とも云えるのを、見事に成し遂げている。
狙ったのか。
それとも、狩人としての直感がそうさせたのか。
ただ云えるのは、怨念の捕食者の狂乱から逃れる術はないということ。
「我等に狩られよ」
その言葉と共に振るわれる大鎌。
逃げる、避ける、受け止める。どれも兵器百般たちにはない選択だ。
円を描いて動き続ける車懸かりを成立させる為、決して、兵たちは立ち止まれない。
「さあ、糧としてその怨念を我等に」
変わり、血の色へと変じた刃が織久へと迫る。
だが、騒乱の妖刃の虚をつき、残像を作って避けながら回り込み、放つ大鎌は二度。
地上に二つの黒い三日月を描きながら、血色の刀身を砕いて散らせる織久。だが、その程度では止まらない、終わらないと続けて舞う怨念の炎と鎌刃。
敵陣の内部へと乗り込み、刃を振るう事で、決して剣豪の元へとは行かせない。
その視線を、敵意を、刃を己のみに。
守る事など不得手。
だが、狩りて喰らうことならば、織久が劣ることなどありはしない。
いいや、存分に、十全以上に、事を成す。
怨念と狂気の糸が絡む場で、織久が苦戦することなどありはしないのだ。
故に、目的を果たしたのならば、隠密の姿など最早不要。
凶戦士としての姿、その貌を晒すのみ。
「どうした、我等に与えられるのはこれだけか?」
血色の妖刀が織久の脇腹を抉るものの、痛みに人は慣れて耐性を持つ。
呪詛の毒をもっていたとしても、怨念と共にある織久に効く筈がなく。
「ならば、砕けろ。散りて、思念と漂い、我等に喰われよ」
怯む所か、止まる事のない織久の振り下ろす闇焔の一閃にて、妖刀が崩れ去る。
気づけば織久の身には無数の傷。
流れる血は決して少ないとは云えない。
だが、その負傷に織久が気づく事はなく、より激しく、そして狂気に大鎌を振るうのだ。
視界に入る全てのオブリビオンを、怨念を狩り尽くすまで。
凶戦士による蹂躙は止まらない。
織久自身でさえ、止める事は出来ない。
再び織久の囁きに呼ばれた黒い影が敵陣を走り抜け、それに反応した騒霊の妖刃が殺到するが、それに触れるということは。
爆ぜて消え、闇夜の中に消えゆくということ。
そして、仮に残ったとしても、互いを繋ぐ影の腕が、そこに獲物がいると織久に知らせるのだ。
「さあ」
狂気の赤い瞳が、怨念による炎が、迫る。
振り下ろされた闇焔に慈悲などない。より酷く、より無惨で残酷に。
怨念を生み出すように、命と魂を奪っていくのだ。
軍神と言われた上杉謙信の憑装。
だから何だと。
悉く、そして、総ては我等が獲物。
喰らうべく糧に他ならぬ。
「我等が怨念尽きる事なし」
夜闇の中、はらりと落ちる紅葉と、血と狂気の赤。
蠢く狂気に終わりはない。
大成功
🔵🔵🔵
御堂・茜
ええ、ええ、良いでしょう!
戦乱の世に死してなお志を遂げる為再起する
それでこそわたくしの憧れた戦国武将の生き様!
有事の為我ら武士は鍛錬を怠らぬのです
望みとあらばお相手致しますわ!
数が多いですから【風林火山】で対抗致します
わが家臣や剣豪の方が重傷を負わぬよう
御堂自ら愛馬に跨り速駆けで敵陣へ突入
注目の的となり陣形を崩します
心配をかけてはいけませぬ
敵の太刀筋は勘で見切り大太刀で受けましょう
連携が乱れた折に家臣達へ精度重視の攻撃を行うよう指示
謙信様は強敵、一斉にかかり仕留めなさい!
わたくしが最前線に出る事で味方に気合いを入れ鼓舞します
貴方の正義、わたくしの正義が阻ませていただきます
御堂家の魂ここにあり!
渦巻く戦いはなお激しく。
風となって夜を駆け抜け、空に響く程に。
終わらない。終われない。
一度の敗北。一度の死。
膝を折り、命断たれ、だが途切れぬ志に刃が唸る。
決して挫けぬ想いこそ、我が誇りなのだと。
勝利を叶えるまで、決して立ち止まる事など出来ないのだと。
「ええ、ええ、良いでしょう!」
その様に喝采の声をあげるのは、御堂・茜(ジャスティスモンスター・f05315)だ。
戦乱は終わり、泰平の世となった。
駆け抜けた時代は終わり、最早、過去の残影を追うばかり。
などと、志半ばにて終わらぬ姿。
まるで燃え盛り、決して尽きせぬ魂。
「それでこそ、私の憧れた戦国武将の生き様」
どのような理不尽や絶望が襲い掛かろうとも、瞳に宿した光を曇らせない。
終わったのだ。過ぎたのだ。
そのような達観と諦観に囚われるようでは、決して辿り着けないものがある。
追い求め続ける姿を賞賛し、桜色の眸に憧憬を乗せる御堂。
「潔さと、忠義さはまた別。理想と信念はまた別なのですから」
戦国の世を肯定するのではない。
そこにあった魂の苛烈さ、凄烈さを御堂は褒め称える。
けれど。
「ですが、有事の為、我ら武士は鍛錬を怠らぬのです」
だからといって、胸に抱く志が過去に劣る訳ではない。
むしろ逆。先達を越える輝きを秘めているのだと、示してみせよう。
「貴方たちの戦いは無駄ではなかった。憧れた姿に近づこうと、この御堂は追い求め、駆け抜けて……」
そして越えたのだと、信じている。
前を駆けて散った者の光を、受け継ぎて背負い、更なる先へと進んだのだと。
「故に、望みとあらばお相手致しますわ! 憧れたからと、その影を踏むばかりではない、この御堂の勇を持って!」
そうでしょうと、御堂が抜き放つ大太刀。
夜を斬り裂く一条の光の下、呼び出されるは御堂家の家臣団。
数ならば負けない。
ならば、各々が掲げ持つ想いと強さが勝負を決めるのだ。
「いざ、尋常に」
愛馬へと乗るや、率いる将たる御堂自身が一番槍と駆け抜ける。
注目を集め、そして、敵陣を斬り崩す為に走るその姿に迷いなどない。
「勝負と致しましょう。上杉に真田、相手取るに不足なき義を持つ者達ならばこそ!」
繰り出すは騎馬の疾走を乗せての一閃。
唸りを上げた刀身が巻き起こすは斬風。振るう御堂の志の凛烈さが侭に、敵群を斬り裂いていく。
ただならぬ相手と赤き妖気に染まった刀が、槍が、連続した刺突となって襲いかかるが、御堂はそれらを切り払ってみせる。
勘といえばそれまで。
だが、有事の為にと鍛えた強さであり、技の一端。
身の丈程の大太刀を旋風の如く振るって迫る妖刃を切り払う。
途絶えぬ連携と攻勢こそ上杉の車懸かり。だが、それを乱す事ならば、御堂の大太刀は成してみせる。
後に続く家臣達に武勇見せ、鼓舞する為に。
心配などさせず、全霊にて戦えるように。
戦に狂うのではなく、切っ先に志を宿して振るう故に。
「さあ、皆、続きなさい! 先は私が斬り開き、崩し乱します!」
響き渡る御堂の声に、家臣たちも声を張り上げ応じていく。
将たる者、ただ導くだけでは足りない。
心に響かせ、士気を燃え上がらせることこそが必須。
如何なる敵であれ、この方の元ならば負ける事はない。朽ちて果てる事はないと、信じさせる。
魂を燃やさせる事こそ、将の本質。
御堂はそれを見事、成し遂げてみせている。
「謙信様は強敵、一斉にかかり仕留めなさい!」
迷い、躊躇い、恐れ。
大太刀を振るう姿と号令で切り払い、率いてみせる。
故に、僅かでも御堂が乱した隙があれば、そこに殺到する御堂家家臣の切っ先。放たれた鏃が射貫き、槍が貫いて、刀で斬り伏せる。
統率された動きには一糸たりとも乱れはない・
個ではなく群。
武士の志を元に繋がれた、ひとつの強さ。
それは上杉謙信という軍神の憑装を得た筈の兵器百般でも止められない。
「貴方の正義、わたくしの正義が阻ませていただきます!」
そう、敵にも正義があるのだ。
だが、こちらにも正義があるのだ。
どちらが間違っている。悪だというのではない。
違う正義があるからこそ、武士は命を散らしても戦うのだ。
そんな御堂の姿は何処までも清く、清冽で、故にその様は美しい刃のよう。
妖槍が御堂の肩を掠めるが、早駆けを止めはしない。
むしろ逆。時を超え、上杉の義と、己が義が衝突しているという高揚すら覚えてしまう。
どうして止まる事が出来るだろう。
御堂が振るう大太刀は翻る度にその速さと、鋭さを増していく。
ここに在るのだと。
滾る想い。高鳴る鼓動。
そして。
「御堂家の魂ここにあり!」
その眼は、この国に義と信を抱く武士が消える事はないと。
時代が、世界が、幾ら移ろっても消えぬ不変を示していた。
魂は受け継がれ、背負われ、正義となって続くのだ。
大成功
🔵🔵🔵
鞍馬・景正
尉繚子曰く、兵は凶器、争いは逆徳。
まことに名剣と呼ばれるものは何を斬ったかではなく、何も斬らずに己を護ったものをいう。
それでも争いを求める修羅の相手は羅刹が致そう。
◆戦闘
謙信公とは嘗ての戦で二度ほど打ち合いました。
故にその攻め筋、一端ではあろうが【見切り】得たものと存ずる。
二刀ともに抜刀しながら、【打草驚蛇】の構えにて前面に。
攻めかかる武器は【怪力】による【切断】で砕き、遠間であれば斬撃の【衝撃波】で応戦。
刀の振り幅は小さく、脇差は盾のように払い技と牽制に用いて、隙は作らぬように。
もし剣豪殿が苦戦している様子ならその場から衝撃波で援護を。
逆に此方が助太刀の世話にならぬようにも注意しましょう。
剣戟が響き、戦いの狂乱の渦巻く夜。
風に乗って舞い散っている赤は、紅葉か血か。
漣の如く繰り返し、削れて夜の裡に舞う。
その様を見つめるのは、瑠璃色の眸。
物静かに、けれど、奥底で戦の高揚を揺らすは竜胆の武者。
鞍馬・景正(言ヲ成ス・f02972)は前と踏み出る。
その動きに淀みはなく、迷いもない。
流れる水のようでありながら、静謐なる武威を纏ったまま。
「尉繚子曰く、兵は凶器、争いは逆徳」
まことに名剣と呼ばれるものは何を斬ったかではない。
何も斬ることなく、己を護ったものを云う。
それこそ、立ち向かう総てを斬る所か、自ら流血を呼ぶものなど妖刀でしかない。
「それでも、と」
するりと。
鞍馬の腰より抜き放たれるは二刀。
荒波が如き威を滲ませる濤景一文字と、脇差でありながら肉厚の大鉈めいた鬼包丁。
共に、繰剣に並ならぬ怪力を求めるそれを、ゆらりと。
「――終わらぬ争いを求める修羅の相手は、羅刹が致そう」
そうであろうと、鞍馬が視線を流せば血色に染まった妖刀が応える。
軍神と詠われた上杉謙信。
彼岸に渡れど、未だ戦い続けるというのならば、悔いが尽きるまで切り結ぼう。
何度でも、幾度でも。
魂が、想いが、晴れて清らかになるまで、真っ正面より。
何も残す事なく、散りて果てるまで。
「謙信公、再び打ち合いましょうぞ」
鞍馬が構えるは打草驚蛇。
無数にと妖刀が殺到するが、それらの真実は上杉謙信の魂の憑装。
嘗ての戦で、二度は斬り結びしその軍神の剣。鞍馬は僅かたりとも忘れてなどいない。
全てではなくとも、既に見切りて知り得たと確信するからこそ、振るう切っ先は何処までも鋭く、迅い。
上段より攻め掛かる太刀の一閃。
鞍馬のそれは、まるで岩をも砕く波涛の如く。
羅刹の怪力の乗せられたそれは、妖念で赤く染まった刀身を斬り砕く。
物静かな佇まいから想像出来ない程、激しく、苛烈なる一刀。
正面より切り結べば、何もかも斬り伏せることこそ、鞍馬の遣う正剣。
「が、謙信公の刀は一つに非ず」
知っている。判っている。切り結びし相手の事は。
神速にて手繰られるは諸手の二刀と、操られる十の刃。
数えて十二の絶える事なく自在に翻る剣閃こそ、軍神の技だ。
その手の内を見切るが故に、鞍馬の正剣は恐ろしき冴えを見せる。
僅かな時間差、角度をつけて飛来する三つの切っ先を、脇差を盾のようにして打ち払い、続く妖槍の前へと弾いて動きを止める。
のみならず、自ら前へと踏みだし、動きの鈍った槍の塩首を斬り落とす。
絶え間なく襲い来るというのならば、鞍馬もまた続けて振るうのみ。
そして、群がる無数の武器が同時に迫らぬよう、誘いて弾き、流して封じ、鞍馬へと自由に攻められる瞬間を削っていく。
「攻め筋、振るう剣理。一端といえど見切り得たと存ずる」
刀を振るう幅は小さく。
隙など出来ぬよう、連続して。
鞍馬によって描かれる幾つもの斬閃。
それはまるで剣による瀑布。刀身同士が衝突し、刃金が歓喜に似た響きを上げながら、砕けた鋼を周囲に散らす。
羅刹の剣は虎児を得るどころか、越後の龍にさえ切っ先を届かせている。
惜しむならば、憑装された妖念の武具では謙信公の技と、鞍馬の振るう刃に耐えられぬということ。
止まらぬ鞍馬の歩は廻る軍と妖刃を斬り裂いて進み、遠間の敵へは衝撃波を飛ばして様子見や動きを整える暇を与えない。
息つく間もないけれど。
飛び散る火花は、それこそ星の数より多くとも。
鞍馬の剣に衰えはなく、より加速していくことを物語る。
正面からの前へ、前へと進むのは車懸かりの戦法を相手するには不利。けれど、愚直なまでに清冽な武者は、策や絡め手など用いない。
いや、むしろ元より頭に浮かぶ事がないからこそ。
奔る斬刃。何を前にしても、止まることなく。
信念の元に剣気宿した切っ先に、断てぬ事なし。
戦乱こそ、斬らんと進む鞍馬の姿。
斬らずに何を護るか。語った言葉に嘘はなく、己が剣に誇りを持つのならば。
斬り崩した刹那、吐く息と共に告げる鞍馬。
「そう、剣士としての誇りは如何に、謙信公。無闇に斬りて、血染めの世がお望みか」
否と応じるが如く、謙信公の魂宿る刃が殺到し、剣豪へと向かう切っ先その数を減らしていく。
「ああ、地獄の獄卒如きが相手では、磨き上げた剣が嘆いておられるか」
ならば存分に。
例え仮初めであれ、この世で果たせるならば。
「一夜の夢、泡沫の語りとして、剣に詠わせるとしましょうぞ」
かの武将が信じた毘沙門天の耳にまで届くほどに響かせんとと。
乱舞と化す正剣と妖刀。何時までも続くかに思えたこの剣戟の嵐も、確かな終わりを感じて。
なお激しく、なお鮮烈に。
互いの魂をこそ貪婪に曝け出しながら、剣風にて鮮血と刀身の欠片を巻き上げた。
大成功
🔵🔵🔵
鍋島・小百合子
SPD重視
他の猟兵との絡み、アドリブ可
かの戦で相対した上杉謙信の残滓の果てか…
なれば討ち滅ぼすのみぞ
「覚悟の果てに勝利が掴めるはずじゃ!行くぞ!」
UC「勇者乃武器」発動
勇気を具現化した光を我が薙刀に宿し、剣豪を守る布陣を崩さぬ立ち回りのまま敵陣へ残像を纏いつつの切り込みにて先制攻撃
攻撃面では破魔の力を乗せた薙刀捌き(なぎ払い、範囲攻撃、乱れ撃ち、鎧砕き併用)と薙刀での武器受け防御からの反撃(カウンター、咄嗟の一撃併用)を主とす
戦いながら剣豪を気にかけ、その身に危険が迫った場合は御身を盾に守り通す
他の猟兵と共闘する場合は剣豪を守る立ち回りに重きを置き、その後ろを預かれるよう死守す
かの戦。
かつての戦い。
それによって討たれし筈の上杉謙信。
だが、残滓は残る。越後の龍の残した爪痕は記憶と伝承として。
鍋島・小百合子(朱舞の女丈夫・f04799)とて知らぬ存在ではない。消せる思い出ではない。
在りし日の侭ではなくとも、確かに今、世を覆さんとあるのだ。
そして憑装として蘇りしそれは、成れ果てというよりも……。
「終われぬと、流れを逆らうか」
時を、戦を。
恨む事はなくとも、惜しむ事があるのならば。
「が、ならばこそ、ここで討ち滅ぼすのみぞ」
移ろいて散るは花。流れて過ぎるは水。
四季がいずれ雪たる風花を来たらせ、そして解けて流れるように。
今を生きる存在を、過去の残滓が脅かすなどあってはならぬこと。
小百合子のように、親しきをものを奪われる戦乱の世など、もう二度と。
「それこそ、戻らせてはならぬ」
だからこそ、剣豪を守れる位置にとつく小百合子。
奪わせてはならない。
叶わせてはいけない。
明日を掴み取るのは、儚き命をもって、必死に今を生きる者のみの権利なのだから。
それがどんなに苦痛と後悔があったとしても。
飲み込んで、一度きりの人生を駆け抜ける。
「覚悟の果てに勝利が掴めるはずじゃ! 行くぞ!」
それこそを覚悟と呼ぶのだと、勇気を光として具現化する小百合子。
心の奥底で重んじる義と勇。
共に死地を駆け抜けた竜王御前は、その光と想いを宿して、更なる武威を示すのだ。
勝利を、必勝を。
この光を宿した刃にて、魔を祓い闇を斬り、掴むのだ。
ならばと立ち回り小百合子の動きは鉄壁のそれ。
剣豪にこれ以上の傷を付けさせぬと、残像を纏いながら、舞い踊るように敵陣へと切り込んでいく。
確かと小百合子の姿を捉えられないのは、その速さのみにあらず。
体術に組み込まれる程に洗練された優雅なる舞踊。
舞は武にて通ずもの。ひとつの芸として成った小百合子の動きは滑らかにして、先を読む事ができない。
そして、振るう刃は迅速そのもの。
瞬き、夜闇を切り裂く斬閃は幾度となく翻る。
破魔の力を宿した薙ぎ払いの乱れ撃ち。連続する竜王御前の刃は次々と妖念宿す武具を打ち砕いていく。
光を纏う姿は戦姫としての優美さと、女武者としての苛烈さを両立させているのだ。
だからこそ、切り込んで範囲一体を薙ぎ払えば、後方へと飛ぶ小百合子を兵器百般達は捉えきれない。
「どうした。ついて来れぬか、上杉謙信たる者が」
投げかける視線と言葉は挑発そのもの。
故にと追いかけ、殺到する妖しの切っ先。
大半を避けていなしながら、身ごと旋回させる竜王御前で受けて捌き、動きの流れた兵器百般へは返しの刃を見舞う。
未だ余裕あり、だからこそ、無視してはならないのだと思わせる為に。
小百合子に全力で攻めさせてはいけない。それが上杉謙信を憑装した兵器百般の判断だ。
が、実質は全身全霊。出し惜しみのない全力で動き続けている小百合子だが、剣豪を気にかけるからこそ。
その身を盾にしてでも守り抜くつもりでいる。
ならばと、敵の攻撃を一身に引きつけ、引き受ける。
負担は滲む汗と、激しくなるばかりの鼓動が告げていたとしても。
「だから――なんじゃ。身が惜しければ、痛みが嫌ならば引くのが義か」
ついに妖刃に腹部を斬り裂かれ、鮮血を散らす小百合子。
続く槍が、斧が、短刀が白い肌を掠めるが、呟く言葉に苦痛の色はない。
あるのは勇のみ。
誇らしく、己を貫こうとする光だけ。
魔に侵されるものが、如何にして魔を祓う。
闇を恐れるものが、どうして闇を斬れる。
「つまりは浅く、脆く、軽いのじゃよ。ひとりでにふらふら、ふらふらと浮遊する武具などに宿るから」
それは戦いの適正としてひとつの正解であれ。
主張としては違うだろう。誇りとして、戦の中で見せる己が姿として、それは正しく、美しく、己が道を往っているのか?
「わらわの命、わらわの魂に届かぬと知れ。違うというのなら、越後の龍、上杉謙信、その武と刃をわらわに刻んでみせよ」
応とばかりに唸る刃。
殺到する勢いは今までで最大の苛烈さと勢い。
それでいて、流れる太刀筋は、確かに精緻で美しい。
なんだ。侮辱されれば、真に迫る武を見せるか。男の魂というのなら、女に言われる前に本気を出さぬかと……苦笑する小百合子。
「討ち滅ぼす。そう決めた相手は、その全力を討たねばならんからの」
そうでなくば、成した勝利を、覚悟を、誇れないから。
迅速にして優美なる舞踊を持つ小百合子へ一気に迫る刃群。
その全てを受け、捌き、斬り砕くは難しいと知れども。
自らも前へと踊り出る小百合子に恐れは欠片もない。
振るう竜王御前の光纏う斬撃。薙ぎ払うそれが、交差した妖器の刀身を一つ、二つと斬り砕く。
間を抜けて駆けた妖刃に無数の傷を刻まれ、血を吹き散らしても。
「覚悟とは、この程度で揺るぎはせぬ!」
身ごと竜王御前を翻し、繰り出す刃は此処に来て最高の冴えを見せる。
四つ、五つと斬り砕き、更にその先へ。
戦果として討ち取った敵の数は、さて、幾つか。
数える理由は小百合にはない。
自らが成すのは、狙われた剣豪の命を守ることなのだから。
常に気にかけて注意し、なお敵を引き受けて。
守るという事を忘れず、剣豪を囲う布陣の一端として。
女武者の掲げる義は、光纏う刃となって、夜闇を斬り払うのだ。
その光で照らされた場で、命が奪われる事などありはしない。
大成功
🔵🔵🔵
一駒・丈一
剣の道とは、其れ即ち日陰の道だ。鮮血の痕が残る道が、花道に成り得る訳がない。
この剣豪は、それを心得ているのかもしれん。真偽は定かではないが。
だが、守る理由は俺の狭い考えのみで十分。故に剣豪より前に出て、ひとりでに動く武器を相手取ろう。
武器には往々にして共通点がある。
「持ち主が手を添える箇所がある」点だ。
武器は、其処に込められた力と技により威力が定まる。
逆に捉えれば、その箇所に別の力をぶつければ、威を削ぐ事が出来るだろう。
故に、そこを狙う。
刀や槍ならば柄を、矢ならば羽中節を。迫り来る刃を畏れず、UCにて底上げした【咄嗟の一撃】と【早業】でその箇所を狙い軌道を逸らしつつ武器としての機能を削ごう。
この戦いが、人知れぬ夜の裡にあるように。
剣の道とは光の当たらぬ日陰の道。
鮮血の痕が残り、鋼が轍を刻む道が、どうして花道に成り得ようか。
進む剣の夢路。どんなに飾り立てようと、そこにあるのは折れた刀と、屍ばかり。
常在戦場。ならば戦の中にある心に、どんな花が咲くというのか。
胸にある想いは、理想は。
ただ、ただ一つ。剣の形を取るそれが真に求めるものは――。
「真偽など定かではないが」
声を漏らした一駒・丈一(金眼の・f01005)は首を振るう。
あくまで、剣士達が胸に抱く誇りは、それぞれ違っている。
憧れ、求めるものが違うならば、その魂の裡にあるものもまた同様。
同じである筈がないのは、振るう太刀筋そのもので。
目の前でオブリビオンと切り結ぶ、平穏をよしとする剣豪もまた、一駒と違うのだろう。
判っている。
自分の考えが狭く、世界の全てを、数多の剣の理由など知れない事を・
「だが、守る理由などそれで十分」
正しいか、間違っているか。
悩み続けるよりは、前へと歩み続けるのが一駒。
総じて剣士とはそういうもの。
何処まで、己が想いという剣を貫けるか。
この世界を切り裂き、新たな道を駆け抜けられるか。
己が、願いし己で在る為に。
全ての敵を倒し、斃し、更にその先へ。
――辿り着くべき場所など、判らずともよい。
剣を振るう場と、理由がある。
そう感じれば、それが全て。
僅かに、胸で何かが軋むけれど。
「ひとりでに動き、彷徨い、斬る。……目指すものを知らないからこそ、何にも辿り着けない武器は、俺が相手取ろう」
するりと鞘より抜き放つは刀。
刀身より滲むは涙のような哀惜の念。
かつて、幾つもの介錯に用いられたとされるそれは多くの死と、悲憤を知るからこそ。
「武器は、人に握られてこそ。振るわれる理由あってこそだ」
その為にと、自ずと研ぎ澄まされるは刃。
使い手の想念をゆっくりと宿し、振るわれた理由に色付く。
それこそが正剣と呼ばれる物を、或いは、妖刀というモノを作り出す一因なのだから。
「……もっとも、そんな心情的なものだけではない。武具に共通するものは」
そして、一駒はもう片方の手に贖罪が為に使われた杭を持ち、回り狂う武具たちの間合いへと踏み込む。
槍が、刀が、そして槌が。
刺突に斬撃、殴打と己が機能と性質をもって一駒に襲いかかる。
風が鳴く。裂かれて、潰され、妖念に蹂躙されて。
「それは、人に振るわれる為に、その構造を持つということ」
だが、その全てを一駒は金色の瞳で捉えている。
冷静なる侭に、揺らぐ事なく。
向けられた殺意の全てを受け止め、その流れを見切っている。
連続して攻め掛かる兵器百般の切っ先を避けるや否や、翻すは手にした刀。
夜に瞬くは、目にも止まらぬ迅速の一閃。
音さえ置き去りにした斬刃は、目の前を滑った妖刀の柄を断ち斬っていた。
遅れて聞こえる鋼の断末魔。折れた刀が、地へと刺さる音。
「武器は総じて持ち主が手を添える場所がある」
其処に込められた力と技にて、放たれた威力は定まるのだ。
逆を云えば、人が持ち、その力を全体に伝える為に繊細な造りとなっている部分があるのだ。
端的にいって脆い箇所。人でいうなら関節、動く為に必須な急所。
突き出された槍の穂先を切り流し、瞬く間もなく柄の中心へと杭を打ち込む一駒。
「故に、そこを狙う。斬って、穿ち。鋼であれ、全てが頑丈などある訳がない」
終わらないものがないように。
壊れぬものはないのだと。
幾度となく一駒の刃が走り、杭が唸る。
斬撃、打撃、刺突。その支えとなる箇所を動きから見切り、力のかかった瞬間に捉え続ける。
決して容赦などなく、一撃で仕留めて砕く。
それは瞬間で命を奪う殺人剣の冴えであり、戦場を渡り歩いた咎狩りの業でもある。
切り結ぶのではなく、対峙した相手の呼吸を止める為に。
決して業を咎を逃さないから、断罪の剣たりえるのだから。
見切りて翻し、斬りては流れる。
切っ先を向ける対象の構造上の急所を、躊躇いや迷いなく見つけて斬るのは、それこそ。
「日陰の剣、光の当たらない道か」
先ほどの言葉を、噛み締めるように呟く一駒。
だが、だからと後悔はない。
それで良いのだと思うし、止まるつもりは更々ないのだ。
故に、繰り出す刃は次第により早く、より鋭く研ぎ澄まれていく。
妖念に、憑装された魂に介錯を送るように。
これは贖罪だと。磔の後、器より魂と想念を解放するように。
刃で描くは、死への道標。
斬り砕く武具のみらず、はらりと散る紅葉のひとつ、ひとつをもその瞳で捉えながら。
「怨念、復讐。例え負の向きのものであれ、握る手より心は伝わる」
感情が強さ、とは言い切らない。
あくまで一駒の見解と世界は狭い。
だが、実感として。今まで自らが振るい、そして代行して来たからこそ。
「人の心、その重さなく、ふらりと泳ぐだけの剣には――技があって、力があっても、足りないものか」
心技体。これ満ちて、一振りの剣となる。
ならばこれはなり損ない。
なまくらでしかないから、易々と断たれて砕かれるのだ。
せめてもの慈悲だと。
鋼が激突し、火花散らし、断たれる轟音の最中。
静かに、静かに。星が流れるように一駒の刃が振るわれる。
ひとすじで、またひとつ。
命が夜空から斬り落とすように。
幾度となく戦場で振るった断罪の剣を、杭を、この夜の裡でまた繰り返す。
大成功
🔵🔵🔵
トリテレイア・ゼロナイン
馬上からのお声掛けのご無礼、お許しください
騎士として助太刀させていただきます
あの車懸かりの陣…打ち崩し大穴を開けます
二の矢をお頼みします
機械馬に●騎乗しUCでの●推力移動も併用し突撃
攻撃を●盾受けで防ぎ●怪力ランスと●踏みつけ蹴散らし陣崩し
剣豪の道行き切り拓き
突出した騎馬を包囲し側面攻撃…確かに有効です
ですが…
頭部、腕部、肩部格納銃器展開
センサーでの●情報収集と瞬間思考力で敵位置●見切り全方位に●乱れ撃ち
矢を●スナイパー武器落とし
背から出したワイヤーアンカー先端に装着した儀礼剣を鞭か尾のように●なぎ払い
平和の世に不要なこの力、我が存在意義
戦望む者に振るうに躊躇なし
戦の権化としてお相手しましょう
それは鋼が動く音。
周囲に満ちる剣戟のそれよく似ている。
けれど、何処までも清らかに。そして、誇り高く。
この国の武士とは違えど、同じ高潔を持って志を抱く声。
「馬上からのお声掛けのご無礼、お許しください」
鋼鉄の身体を持つ騎士、トリテレイア・ゼロナイン(紛い物の機械騎士・f04141)がやや後方へと身を引いていた剣豪へと言葉を向ける。
甲冑などではなく、肌や肉、骨や瞳に至るまで全てが金属。
だが、そこに宿るのは確かな勇と義。そして、清冽な想いだ。
「騎士として助太刀させていただきます」
「……何に仕え、何を矜持と抱くかは存じぬが」
ぽつりと零れる剣豪の声。
それは否定ではなく、感嘆の色を帯びている。
「信義を抱く方と見る。その助太刀、深く感謝を申し上げる」
剣豪が何を見て、どう感じたのかは判らない。
だが、確かにトリテレイアの瞳を見て頷いたのだ。
これは信頼に値するものだと。
携える武具に刻まれた傷が全面のみに集まっているのもあるだろう。
騎士とは何か。この国で生きて育った剣豪に単語の意味は判らずとも、勇を以て、理想へと駆け続けるものだとは、トリテレイアの姿を見れば感じる筈。
或いは、共感するのかもしれない。
「あの車懸かりの陣………打ち崩し、大穴を開けます」
それがどれ程、危険であり、熾烈な事なのかは理解している。
だが、せねばならないのならばトリテレイア自らが。
流れる血を、刻まれる傷を。
戦にて零れる何かを。
それらを止める事が出来るのならば、自らが幾ら刻まれようと、望む所でさえあるのだから。
「二の矢をお頼みします」
覚悟は静かに、確かなる芯を持つ響きとなって。
機械馬たる「ロシナンテⅡ」に跨がり、巨大な馬上槍と大盾を構える姿。
トリテレイアに恐れはなく、高揚もなく。
――ああ、と。
鋼の嵐と化して回り続ける兵器百般。
それらへと矛先を向けた瞬間、あれらもまた、自分と同じように恐れや迷いなどないのだと。
――それは鋼の身の呪いではないのかと、何かが揺れる。
傷つく事。壊れる事。
それらを躊躇わないのは、勇気ではなく、鋼の身たる罪ではないかと。
ふと過ぎり、苦悩として広がるからこそトリテレイアは意を固める。
「ならば確かめてみせましょう」
これは無謀ではなく、武勇なのだと。
出来ると己を信じ、仲間を信じ、駆け抜けてこそ騎士の姿。
ただ空虚に浮遊し、螺旋描く妖刃達とは違うのだ。
騎士道への憧憬を曇らせはしない。
打ち破る事で、この戦の中で示してみせる。
「いざ、参ります!」
懊悩など後で出来る。
全ての紅葉が散り、雪の中に埋もれたその後でも。
だから今は、全身全霊をもって正面から車懸かりへと挑むのだ。
勢いを乗せて突き出すは馬上槍。
その様は陣形を討ち崩す、ひとつの鋼鉄の進撃。
槍ひとつ、騎兵ひとつで成せる威の範疇を超えた破軍の突撃だ。
機馬につけられたスラスターも爆ぜるように噴かせ、更なる加速をもって敵陣を突き進む。
無数の武具を弾き飛ばし、打ち砕き、なお止まらず。
悪夢を散らす純白の騎士として。
薄紫の色彩を、勝利として月明かりに浴びせるべく。
注目され、攻撃として狙われる程により早く、より強烈になる機械騎士の突撃。勝利という理想を希うからこそ、理不尽な現実を蹴散らす強さを求めた魂の技だ。
迫る無数の切っ先は大盾で受けて強引に防ぎ、驚異の怪力をもって陣形ごと踏み散らす。
その後に残るは剣豪が進む路のみ。
轍を刻むように円陣を踏破するのは、英雄譚の騎士のよう。
「ですが、物語のように甘くはない」
完全に踏破できなければ、次なる攻め手が側面より襲来する。
半端な攻めではかえってカウンターとなる。それこそが車懸かりの驚異。
ましてや単独の騎兵突撃など、狩り取るが為の兵法だろう。
新手として側面から迫るは妖気で赤く染まった穂先を持つ槍たち。
騎兵の胴を、或いは騎馬の足そのものを。
突いて、払い、地に落として蹂躙する為に、数多の切っ先が夜に閃く。
「突出した騎馬を包囲し側面攻撃……確かに有効です」
だが、だから何だというのだ。
機械の身体、その胸に鼓動はなくとも。
瞳はセンサーで、宿す光がないとしても。
「ですが……その程度で止まるものを、決意や勇気、誇りとは云わないのです!」
トリテレイアは戦機の騎士。
剣や槍、盾や装甲で愚直に突き進むだけではない。
じゃきり、と無数の鋼がトリテレイアの声に応じて鳴り響き、その姿を現す。
頭部や肩、腕部。その他の装甲に格納されていた銃器たち。
それらは全て、トリテレイアの一部であるが故に、一糸乱れぬ統率を見せる。
人の眼より精密なセンサーで捉え、瞬間の演算で導き出すのは敵の位置とその動き。それぞれの銃口が確かに迫り来る妖槍たちを捉えている。
軍神、上杉謙信の采配とて此処まで成るか否か。
「判らぬならば、試して、行い、成して見せるのみ!」
この身があの空虚に浮かぶ鋼の刃と同じか否か。
迷う気持ちが少しでもあるのならば、全力をもって打ち破り、違うのだと現実に成して示すのだ。
でなければ、何時までも絡み付く過去は拭えない。
懊悩の糸は、覚えなき筈の記憶としてこの身に絡み付くから。
乱れ咲くは鉄火の銃撃。
夜天にまで轟き、紅葉を更に散して妖槍たちを蹂躙する。
「止まりませんか。ええ、恐れを知らないから、止まらない」
それはまるで妖鬼のように。
或いは、過去から来る怨嗟のように。
――血のように染まったそれは、トリテレイアの知る魔女の過去の映像に似るのだろうかと、ふと、過ぎって。
「血を持たないから、その赤の持つ意味に理解は出来ませんが」
追いかけるものだろう。
断ち切れぬものが、過去の記憶と感情なのだろう。
向けられた怨嗟に、何も思う事がなくとも、確かに心に刻まれたのならば……ああ、確かに。
「虚ろな亡霊は何も応えないからこそ、かえって、振り切れないのかもしれせんね」
それは自分も同じこと。虚ろなる記録、記憶ではない過去は、何も応えてくれないから。
真実として、自らが選び取っていくしかないのだ。
故にと、腰より新たに抜くは儀礼剣。
凶刃を弾くが為に堅牢にして頑強。切れ味より、護ることに特化した筈のそれを背より伸びたワイヤーへと繋ぐ。
まるでそれを鞭か尾の如く振るうトリテレイア。が、戦機の振るう怪力によってもたらされるそれは、まるで破城槌。
切れ味がないからこそ、より凄惨で強烈な打撃となるのだ。
振るわれて妖槍を数本纏めて押し砕き、地面に衝突して土砂を巻き上げる。が、埋もれることなく次は地平を薙いでいく。
今は戦うしか出来ない。
戦いに没頭し、戦機の騎士であらねばならない。
「平和の世に不要なこの力、我が存在意義」
破壊をばらまく闘争。
まさしく鋼の戦鬼。
神仏を護るが為の戦いを司る天部神。
上杉謙信が信仰を捧げた毘沙門天の一端の如くとは、まさしく皮肉でもあるが。
「戦望む者に振るうに躊躇なし」
それこそ、迷い、懊悩あるからこそのトリテレイア。
晴らすべく、戦い、苦しみ、その先を目指す姿は何処までも、そう、何処までも眩く見えてしまう。
それは仏道にて、苦難の道をあえていく清冽さにも通じて。
「戦の権化としてお相手しましょう」
だって、それは王道を往く姿だから。
苦しみながら歩みを止めないその背を、もしも泰平の世の子が見れば、どのように映るのか。
戦の権化だと、そのように恐れるのか。
それとも、戦国の世を生きた武将のように、誇りあり、信義に満ちた英雄と語られるのか。
それはまだ判らない。
銃声響く裡では、まだ、判らない。
大成功
🔵🔵🔵
陽向・理玖
真田に上杉
いいな
血が騒ぐ
生き方はその人が決めるもんだ
あんたが決めるもんじゃねぇ
ましてや押し付けるなんて…許せねぇ
覚悟決め
龍珠弾いて握り締めドライバーにセット
変身ッ!
衝撃波撒き散らしUC
残像纏いダッシュで間合い詰めグラップル
拳で殴る
車懸かりの陣って正面から当たりつつ替わりつつって奴だろ?
真正面からぶち当たらなかったら
陣とは呼べねぇ
戦闘知識用い正面切り替わるタイミングで空から強襲
踵落とし
更に追い打ちで吹き飛ばし
陣の内側へ他の敵巻き込むように蹴る
位置取り注意
守れるよう常に剣豪の人の前へ
攻撃見切り
入れられる前に『龍牙』で絡めるように武器受けしカウンター
拳の乱れ撃ち
さすがに神懸ってんな
でも…負けらんねぇ
いいね、と。
刃金が散らす響きの中、零れる声。
青い瞳は内なる戦意に燃え、そしてゆっくりと正義の彩を乗せていく。
それは激しくも清冽で、滾る血と想いの侭に。
陽向・理玖(夏疾風・f22773)が見つめる戦いの敵手に、血が騒がない訳がないのだ。
「真田に上杉。戦える相手だなんて思ってなかったぜ。……けどな」
それこそ本で読み、歴史として語り聞くだけの存在。
武勇は誉れ高く、義に殉じて生き、戦い抜いた武士だ。
「けど、それは違うだろう」
頭を振るって、夕焼けに似たオレンジ色の前髪を揺らし。
吐き出す思いは義憤そのものだ。
「生き方はその人が決めるもんだ」
それこそ、どれ程に偉くとも。
誉れや名誉、歴史に名を刻む栄光を持っていたとしても。
「あんたが決めるもんじゃねぇ、増してや押しつけるなんて……許せねぇ」
なあ、自分の思いと姿、行動で示せなかったのか。
陽向の師がそうであったように、こう生きたい、こう戦いたいと背で、言葉で、仕草で思わせ、信じさせはしないのか。
志を継ぐというのはそういうことだろう。
誰かの思いを背負い、遂げるとはそういうものだろう。
決して強制や、運命なんてものに巻き込まれたんじゃない。
自分の選択だと、笑って告げられるような。
「ああ、それこそ覚悟だよ」
どんな理不尽、戦いの渦でも後悔しない事。
貫く思いとして、此処に覚悟を決める陽向。
虹色の珠が連なる念珠を握り絞め、青い瞳に宿る鋭き眼光を向ける。
じゃらりと、念珠が音を立てたのは、既に走り始めていたからか。
判らない。
それでも、ただ云えるのは一つだけ。
「あんた達は間違っているんだよ!」
ドライバーにセットするや、七色に輝く龍のオーラを覆う陽向。
のみならず、周囲に衝撃波を発生させながらその姿を変身させる。
そこにいるのは怒りに燃える少年ではない。
正義に溢れ、優しい人達の世界を守りたいと願うヒーローの姿だ。
例え、この世が優しくなく、刃が乱れ舞うようなものであっても。
それを打ち据え、殴り、砕いて穏やかなる風を吹かせて見せるのだと、覚悟を決め、地を這うように飛翔するヒーロー。
そう、まずは一歩。
「殴らなけれりゃ、始められねぇよ!」
残像を纏い、疾走して一気に間合いを詰めれば放たれるは龍掌を握り絞めた拳の一撃。
掴み取れと唸るそれは、妖しの刃を恐れることなく突き進み、真っ正面から打ち据えて刀身に無数の罅を走らせる。
が、即座に上へ、空へと飛んで離脱する陽向。
恐れる訳ではない。ただ、上杉謙信の指揮を舐めていないだけだ。
車懸かりという、変わる変わるで正面から当り続ける陣。
だが、それも正面からの衝突にこそ意味があり、それがなければ陣とは呼べない。
「狙いを外した陣立ては、烏合の衆と変わらねぇよ」
陽向はあくまでヒーロー。争いを好む戦闘狂でなければ、剣戟に生きる剣豪でもない。
あくまで敵を倒し、救う為にあるのだ。
その為に蓄えた戦闘知識。陣の動きを見切って先読む力。
空へと飛んだのも、正面が切り替わるタイミングに空より強襲を仕掛ける為。
「いっくぜぇ!」
覚悟に比例したオーラによる飛翔速度は、音よりも早い。
いや、音のぶつかる壁を七枚は突き破る程の勢いを以て、空より襲いかかるのは七色の龍の一撃。
陽向が放ったのが単なる踵落とし、などとは云えない。
周囲一帯を粉砕する剛の一撃。直撃した兵器百般は粉砕され、違うものも弾き飛ばされている。
「これで終わりな訳ないだろう!」
体勢が崩れたモノへ、更に追い打ち。
身体を旋回させての回し蹴りは、やはり直撃せずとも放つ衝撃波だけで数体の妖念の武具を陣の内側へと吹き飛ばす。
それで更に他の敵も巻き込み、陣が乱れて、崩れて――動きが鈍ったのは僅かな間。
閃くのは血の色。
赤い妖刃持つ薙刀が、さながら毒蛇の如き動きで陽向に迫る。
「ちっ」
見切った上で、胸部を掠めて出血。後方へと跳ねて下がれば、直前までいた所へと無数の長柄が殺到している。
乱れた、崩れた。それは確かだが、後続が即座にそれを埋めるどころか、攻め手へのカウンターとして動いている。
軍神、上杉謙信。妖念にて動く武具に憑装しているそれは、やはり本物だ。
「さすがに神懸ってんな」
後退した瞬間、陽向に見えたのは自らへと飛翔する数本の矢だ。
遠間の敵にも攻撃は届くそれは、攻めた後、退く相手への追撃ともなる。流れる連携は陽向の動きへの先読みで、故に神速の如く迫る。
「けど、な!」
剣豪を守れるよう、常に前へ。
その立ち位置も読まれているのか、鏃を払った所に五本の妖刀が迫り、陽向へと鬼の爪の如く斬り掛かる。
見切った所で、全てを受け流すのは不可能。
だとしても、陽向が纏っているのはそこで怯むような半端な覚悟ではない。
「軍神と言われたんなら、これ位やるんだろうさ」
瞬間、装着されたのは四本の鉄爪ならなる武器、龍爪。
殺傷性を高めたい時に用いるものだが、この相手に、半端や余裕など用いていられるものではない。
肩口を二つの刃で切り裂かれながらも、龍爪で絡め取るように受け止め、放つはカウンター。
一瞬でも動きが止まれば、両の拳による乱打で打ち据えるのみ。
ただの拳でも、百度打ち付ければ岩を砕く。
千ならば大樹を打ち倒すし、万ならば山に穴を穿つだろう。
増してや、此処にいるのは龍のヒーロー。呼吸の間もない乱撃は、いずれ軍をも打ち破る。
何より、それを陽向自身が信じ、覚悟として持っているから。
「軍神の采配、神掛かった動きと戦術」
戦場を駆け抜けて磨かれた斬撃を宿した無数の刃。
だが、だから、何だ。
脇腹、太股、頬。切っ先が掠め、斬り裂き、噴き出す鮮血。
それは動けば動く程、激しくなるけれど。
「でも…負けらんねぇ」
より激しく、苛烈に叩き付ける拳。
一歩も退かない。後ろにいるのは、狙われている剣豪なのだから。
平穏に生きよう。そう決めて、悔いを飲み込んだその人の人生を、救いたいから。
自分で選んだその生き方、真っ直ぐに歩んで欲しいから。
「神だろうと、鬼だろうと。人の生き方に指図出来ると思うな! その心の有り様まで、従えて決められる筈がないだろう!」
それこそ魂の叫びのように、響き割る陽向の叫び。
劣らぬように。告げた想いこそ、真実なのだと示すように。
七色に輝く闘気を纏った拳が、正面から斬り掛かった妖刀を打ち据え、打ち砕く。
その刃を、思惑を、真っ正面から。
例え傷ついて血に染まっても、殴りつけて示すのだ。
青い瞳に燃える正義と、滾る血は高まるばかりなのだから。
大成功
🔵🔵🔵
鷲生・嵯泉
巫山戯た目論見なぞ必ず阻んでくれる
……奴等に抗うのならば、恐らく戦を好む性質なのではあるまい
だが狙われるに足るだけの腕を持つ者に死なれては此方も困る
何より――奴等の要求は其の在り様を侮辱する事に為ろう
我等はアレ等と敵対する、天下自在符を持つもの
僭越ながら手を貸そう……敵の敵は味方とでも思って貰えれば良い
手勢を引き付ける為に前へ出て立ち回る
戦闘知識で以って、向きや風切る音等から攻撃を読み見極め
見切り図って武器受けにて叩き落し、決して後ろへは通さん
――弩炮峩芥、逃れる事なぞ叶わんぞ
怪力乗せた斬撃を叩き込み、木端微塵にしてくれる
必要とするのは戦乱の世ではなく、命の貴ばれる世
其の為に此の刃は在るのだ
なんと巫山戯た目論見なのか。
他の人生、その生き様。抱きしめ、護りたいモノ。
夢であれ、信念であれ、そして、大切な誰かであれ。
喪われてよいものなど、ひとつもないのだ。
石榴のような赤い瞳は、瞬間、まるで烈火の織りなす刃のように鋭く、激しく、その意志を燃えさせる。
「必ず阻んでくれる」
言葉と共に、吸っていた煙草を投げ捨てるのは鷲生・嵯泉(烈志・f05845)。
ぐじゃりと踏み躙りて消す火種は、これから起こそうとする戦乱のものもだと。
「言葉にする間でもない。今吹く風が、どのような者か知らぬ輩には」
既に幾人もの猟兵が剣豪の守りについており、そうでなくとも、上杉謙信の憑装した兵器百般へと攻勢を仕掛ける者達の激しさは剣豪を狙うだけの余裕を喪わせている。
ならば言葉にする相手ではないのは、僅かな間だけ捨て置いて。
「我等はアレ等と敵対する、天下自在符を持つもの」
剣豪へと声を向ける鷲生。
共に戦え、武士よ。
この平穏な世で朽ちるには惜しい刃だと云われても。
「僭越ながら手を貸そう……敵の敵は味方とでも思って貰えれば良い」
抗うというのなら、戦を好む性質なのではあるまい。
だが、死なれては困るし、何より、狙われる程の腕は、有り体に言って惜しい。
それを磨き上げた心が。
歩んできた人生、時間そのものが。
その裡に何が詰まっていようとも、尊いものだから。
「泰平の世に生きるとはいえ、剣に生きるものが、軽く他人の剣を借りるとは思えんからな。敵の敵は、だ」
「なんとも、心地よい御仁か。敵の敵は、か」
そうやって肩を並べて戦うのも、またひとつの在り方。
少なくとも、鷲生にとって剣は矜持。軽く共に戦おう、助太刀を致すなど侮辱なのだから。
敵の敵は、新たな敵と返さぬ限り。
剣豪である以前、そこで共に戦える武士であり、泰平の世を歩むと志すのが真実であれば。
「でなくとも、穏やかなる世の為に生きる者が、他にもいる。その志がここまで鮮やかなるを、喜ぶばかりよ。敵の敵、敵ばかりではないと……知れたこの夜は美しい」
「……そうか」
――ならばこそ、奴等の要求は其の在り様を侮辱する事に為ろう
「御仁。私の前を頼んでも宜しいか? 私の居合は多勢には不利なればこそ」
「合い判った。元より、前へ出て立ち回るつもりだ」
手勢を引き付ける為に、とは言葉にせず。
何処までも武人としての誇りを尊重する鷲生。
此れほど細やかに、気を配り、礼節払うものばかりならば、世が荒れた筈もないだろう。
いいや、彼が戦場に立つ今だから、平穏が訪れようとしているのかもしれない。
そう、今は。
嘗ての喪失に、魂に痛みを覚え続けながらも、己が足で立ち、前へと歩くのだから。
何処までも静謐に、戦の予感を裡に秘めながら。
鷲生の佇む姿は毅然として変わらない。
風切る音、流れる錆鉄の匂い。戦の子細を知らせるもの、全てを五感で捉え、知識を用いて脳裏に図を描く。
飛翔してきた妖刀。その技の冴えは、神速を誇った上杉謙信の腕をなぞるが如く。
斬り伏せ、叩き落せど、連続して迫るのは五月雨に立ち向かうかのよう。事実、火花を散らして響き渡る刃金の音は絶えることがない。
鷲生を中心に、秋水の切っ先が届く範囲を円として咲き乱れる刹那の徒花。削れて、舞い散る鋼と火。妖念にて翔る刃が幾ら罅割れど、それこそ求めし闘争とばかりに加速する切っ先。
「戦狂いか。それとも、果てた後、戦に名残があるから、この様か」
或いは、鷲生のような剣豪の存在を知ったが為に、軍神に心残りが出来てしまったのか。真実は知れず、触れられず、彼岸の彼方にある。
まるで夢幻の如く、されど、瞬間でも気を抜けば、鮮血の花が咲き乱れるだろう。
だが、幾度と刃を振るうつもりなど、鷲生にはない。
所詮は振るうにも、見せるにも値せぬ相手。
確かに強いだろう。上杉謙信による憑装、舐めてはいない。
しかし、戦を求めるというのなら、この戦いをこそ刹那で終わらせてくれる。
決して後ろには通さぬし、後に続かせもしない。
一刀必滅。群として魂があるなら、それら悉く。
「――弩炮峩芥、逃れる事なぞ叶わんぞ」
秋水が纏うは術気を破砕する氣。
何事も、何者も逃さず、赦さず斬り崩すべく構えられた切っ先は、秋の名月の光に濡れるように輝いて。
露を零すように、瞬く刃が一閃。
流れたのは斬気。戦場に顕れるは三日月の姿。
音さえ断ちて祓うそれが、狂奔するかの如く戦場を駆け抜け、直線上にいた妖器を両断していく。
いや、その刃の振るった直線上に、数多の妖しの武具が並んだ瞬間を見切り、鷲生の剣は振るわれたのだ。
鋼鉄の身で、妖気持ち、憑装されている?
そのような事は関係ない。振り下ろされた刃は、ただ総てを斬り裂く。
斬る。刀に、それ以上も、それ以下も求められはしないのだから。
当然として辿り着く極致は一刀による斬滅。
「必要とするのは戦乱の世ではなく、命の貴ばれる世」
竜さえ斬ったという技と怪力。
それを宿して奔った斬撃により、遅れてようやく兵器百般たちの刀身に断線が、いや、そこを中心に無数の罅が入る。
斬られた事実が遅れて訪れ、断たれた事実の後にようやく刀身へとその威が響く。
ぱきり。
ぴきりと。
戦場のあらゆる場所より、氷が砕けて落ちるような音が流れて。
「其の為に此の刃は在るのだ」
告げた鷲生の言葉をきっかけに、一斉に砕け散る無数の兵器百般の刀身たち。
鋼の断末魔としては美しく、そして数多に砕けるが故に楽曲の如く奏でられる。
それらを僅か一振りにて成した鷲生。
多くは振るわぬ。そも、抜かぬ。
命の貴ばれる世にてある刃とは、狂に染まらず、吉を呼ばぬものなればこそ。
「故に、此の刃、幾度も振るう必要、もはやない」
総てが奪われ、喪われるなど。
最早ない。
月灯りを弾いて、鷲生の琥珀に似た髪が金の光を零す。
それは優しく、穏やかなるもの。
柔らかく、決して血や鉄を思わせぬもの。
「――そして、お前達の目論見が叶う世では最早ない」
見よと。
ひとりを護る為。
戦乱を起こさぬ為。
これだけの奮戦が起きている。
この想いが、信念が、戦乱の世など拒む剣となるのだ。
戦線の優勢は既に決まり、廻る刃の円陣は狭く、小さくなっていく。
ならば奥にいる相手へと挑む前に。
奮戦が故に作り出された、この間隙に。
ひとつの煙草を取り出し、指で挟んで火を付ける。
吸い込むのは、何処までも馨しき煙と、言葉の思い出。
往く路が何処であれ、如何なる場と世であれ。
繋ぐ願いであれと在ったものを、思い出させるもの。
より深く吸い込む。
吐き出した煙は灰色。いいや、清き月灯りに照らされて、灰燼の色に似る。
そう、往く路は――この命の貴ばれる世に繋がっていたのだ。
言葉を吐き出さず、灰燼の煙がもたらす苦さにひたる。
大成功
🔵🔵🔵
黒鋼・ひらり
戦う理由が無い相手を殺して無理矢理手駒に…
くっだらない…まさに『悪』の所業…悪いけど邪魔したげる
私には戦う理由がある…悪(あんたら)の思惑全部ぶっ潰して吠え面かかせるってね
上杉謙信、確か多数の刀剣を操ってたわね、成程こいつら…動く武器とは相性いいって訳
…けど御生憎様
私の磁力はそれ以上に刀剣(あんた)らに対して相性がいいのよ
磁力で武器共弾いて逸らして…何なら逆に操り同士討ちよ
磁力を抜けてきたり一部非金属の武器に対しては義手や転送した斧槍、鋼鉄板で防御、範囲内に諸共集めた所でUCで一掃したげる
剣豪は…居合なら派手には動かない筈…なら私が動いて囮に、後は鋼鉄板や斧槍を操作してカバーすれば問題ないわね
戦いに身を置く理由はひとそれぞれ。
理想だったり、信念だったり。
報復であれ、正義であれ。
命を賭ける理由があるから、そこにいるのだ。
だからこそ、黒鋼・ひらり(鐵の彗星・f18062)は赤い瞳に侮蔑の感情を浮かべる。
「くっだらない……」
それはまさに悪の所業。
戦国の世を生きて、戦乱を駆け抜ける時ならば許されたのか。
それは正しく、善なるものだと認められたのだろうか。
「……まさに悪の所業じゃない」
いいや、違うだろう。
追い求める光を見せ、戦いへと誘う。
それこそ理由がなくとも、自らの生き様で兵を率いるのが将。
或いは、善き所へと。
正しき光が当たる場所へと、導くものこそ英雄、ヒーローだ。
「悪いけれど、邪魔したげる。私には戦う理由があるの」
ぎりっ、と握り絞めるひらりの右の掌。
それは義手。戦う理由の象徴でさえあるもの。
これがある限り忘れない。
「悪(あんたら)の思惑全部ぶっ潰して吠え面かかせるってね」
人から意趣返しと云われて結構。自分が忘れない正義があればいい。
確かにほら、ここにある。
漆黒のコートを翻して、前へと懸ける姿は颯爽と風をきっていく。
高鳴る鼓動の侭に。
悪を前に立ち止まらない心こそ、ひらりの戦意。
黒一色のスタイリッシュなひらりの出で立ちは、夜を駆け抜けてこそ映える。
見据えるのは、ひとりでに走り回る血色に染まった刀身。
確か上杉謙信、その本人も多数の刀剣を操っていた。
都合、十二の属性違いの刃を、神速を以て繰り出すのが軍神と呼ばれた上杉謙信の戦い方だ。
成る程、と頷くひらり。
妖念にて動く無数の武器と上杉の魂は相性が良いのだろう。
かつての上杉の再現として自在に舞う切っ先。それは驚異に他ならず、易々と逃れる事は出来ない。
「……けど御生憎様」
が、ひらりの軽やかな足取りは止まらない。
むしろ自身をもって加速する。
銀髪がさらりと流れ、紅葉が降りしきる夜に一筋の色彩を残す。
振るうは右の義腕。宿るは磁力。
鉄を統べる力が周囲一帯に広がるのだ。
「私の磁力はそれ以上に刀剣(あんた)らに対して相性がいいのよ」
磁力は不可視。
だが、その効果は絶大だ。
今にもひらりの身体に突き立とうとしていた妖刀たちの動きが止まる。
のみならず、一箇所へと引き摺り、集められる刃達。
かたかたと震えて、抗おうとするがそれは叶わない。どんな妖念で動こうとも、所詮は鋼鉄。
磁力の範囲内に囚われれば、後は身動き叶わず、一箇所へと掻き集められていく。
ひらりの言葉通り、相性の差が結果に現れる。
引き摺られた妖気纏う刃たちが、同士討ちをするように衝突。
鋼が悲鳴を上げるが、意に介さず渦巻く磁力。妖しの武具同士を衝突させ、その身を削らせる。
血はなくとも、舞い散る火花。
それさえも、ひらりの磁力に操られ、逃れられないのだ。
すらりと伸びるはひらりの右の義手。手袋に覆われれ隠されたそれは、磁力の操作を助けるものであり。
「どんな企みがあろうと、諸共纏めて……ブッ飛ばしてやるわよ!!!」
眼前にある悪を弾き飛ばす力となるのだ。
別空間より、転送されるのは無骨なる鉄球に、無数の斧槍。渦巻く鉄鎖に、ただ単純に分厚く強靱な鉄板。
どれも凶悪な重さと威力を持つ鋼たちだ。
巨大なそれらを更に磁力で操り、共食いするように衝突しあう妖刃達へと向ける。
ぐらりと、空間が揺らいだと錯覚するような強烈な磁力の流れ。
その執行をと、横へと振り抜いた右腕の動きに合わせて、チェスターコートの黒と、銀髪が揺れて、流れる。
何処までも素早く、颯爽と。
自らは縛られるものではなく、操るものなのだと。
「言葉通り、一掃よ!」
強烈な磁力に導かれた斧槍が、鉄球が、鉄板が。
轟音伴って地を奔る暴威の流星群と化して、妖しの兵器百般へと襲いかかる。
逃れられないし、受けられない。
磁力で絡め取られた者は、ただその強烈な磁力による剛撃を受けて粉砕される。
言うなれば破城が為の砲撃。
それだけの重さと勢いを磁力で宿させたひらりの技だ。
「ふん。悪くはないわね」
豪快にして強烈な一撃を成したと思えないほど、細い右腕を再度振るい、一歩、二歩と進むひらり。
次なる兵器百般が見えようとも、真っ直ぐに。
背後にいる剣豪へと何も届かせないよう、磁力で幾枚もの鋼鉄の板を盾の如く広げながら。
「さあ、邪魔してあげましょうか。まだ続けるつもりなんでしょう」
操る武具の重さなど、ひらりは感じない。
あくまで振るうは磁力。ならば、その身は軽く。
「顔をぶん殴って、膝を付かせ、悪巧みを止めて……そして、終わらせてあげるわ」
鋭い視線と意志を、兵器百般渦巻くその奥へと向けるのだ。
大成功
🔵🔵🔵
花盛・乙女
助太刀いたそう、重成殿。貴殿の心悸、角の先まで響いた。
戦を求める剣士ならいざ知らず、己が為磨いた先達の腕を汚す訳にも、増してや失う事はさせない。
未だ至らぬ未熟の身なれど私とて世を護る刀として。
羅刹女、花盛乙女。推して参る。
前衛に出て【黒椿】と【乙女】を構え、襲い来る武器共を払い退けよう。
重成殿を狙うのであればその軌道を読み、斬る。払う。
焦れて速く動くものを狙うようになればなお容易い。
重成殿より早く動き私に攻撃を引きつける。
私の剣刃一閃にて、悪しき武具は全て絶つ。
斬って、回り。砕いて、回り。
血風ならぬ鉄風を吹かそう。
我が身は羅刹。「怪力」を活かし、全て砕く。
必ずや大将首を引きずり出してみせよう。
流れた声は誇り高き女性のもの。
宿す志故に美しく、月光のように夜闇を滑る。
「助太刀いたそう、重成殿」
それは花盛・乙女(羅刹女・f00399)のものだ。
戦場にて臆す事なく胸を張る姿は、戦に生きる羅刹そのもの。
矜持宿すが故に、雅と飾らぬとも美しいのは刀剣のそれに似て。
「貴殿の心悸、角の先まで響いた」
花盛の額の右側より伸びる異様なる角も、またひとつの刀身のよう。
そこに届き、芯まで響いたのだ。
剣豪、重成と名乗ったその男の様は静かであれ、確かに剣士の志のひとつ。
戦乱を求める剣士、修羅の類いならばいざ知らず。
だが、己が為に磨いた先達の腕を、想いと志を汚す訳にも、増して屋喪う訳にはいかない。
それこそ、花も紅葉も世を恨む事はない。
時が移ろったのだと、清らかな音を立てて解けて流れる雪のように。
今の世界に生きる剣として在るべきなのだ。
血風渦巻く世界ではない。
雪原にて、梅花の匂いを詠う世こそが、これからあるべき時代。
「未だ至らぬ未熟の身なれど私とて世を護る刀として」
剣豪よりなお前へと踊り出る姿、その眼に僅かな曇りもなし。
このように清冽な武こそ、これよりの世で鮮やかにあるのだ。
「羅刹女、花盛乙女。推して参る」
抜きて構えるは二刀。伝家の悪刀たる黒椿と、母より賜りし小太刀たる乙女。
かたや、重く、脆く、醜き刀。
かたや、自らが名を刻む程、愛用されし鋭き逸品。
まるで正反対の二刀。だが、携えて構える花盛の姿に違和感はない。
何故ならば、根幹としてこの二つは同じもの。
いいや、二刀と、振るいし者は同じ流れを汲むのだ。
どちらも、花盛家に伝わり、受け継がれた武と誇りそのもの。
故に、それを確かに振るえば無双の武を振るうのだ。
継承されし血が、想いが、誇りが。
そこに宿る武威が、新たな道を切り開かんと。
「上杉謙信公。かつての軍神、越後の龍よ。名残も悔いも、現に残したものは総て斬り、砕かせて頂こう」
静かに、けれど凄絶な気を含ませて告げた言葉る
共に踏み出した一歩は、まさに戦場への跳躍。
臆す事なく妖刃の群れが成す嵐へと切り込み、舞うが如く周囲を一閃。
月光の元で瞬くは二刃と、異形の角のひとつ。
羅刹の女剣士、此処に有りと放たれた剣気が告げるのだ。
その動きに武具たちが赤く染まり、騒乱の刃として荒れ狂う。
終わらぬ。終われぬ。ならば、今、再び狂い咲かんとする妖霊の切っ先たち。
「が、乱れた心で振るう太刀筋は、曇りて鈍るもの」
ただ無差別に荒れ狂い、素早く動く者へと奔る刃というのならば、花盛にしてみれば読みやすく、見切りやすい。
迫る刃の軌道を読んで先んじ、黒椿で斬り砕いては、乙女の刃で払いて弾く。
共に退く事のない剣戟の応酬。
瞬いて散る、火花の激しさと苛烈さ。
だが、それでよし。剣豪である重成へと刃は流れず、ただ早く剣閃を繰り出す花盛へと全ての攻勢は向けられている。
その最中で、なお誇り高く、武を咲かせんとする花盛。
ただ勝つのではない。己が意志を貫き通して、真っ向から斬り崩す。
振り返って邪道、騙しなどなかったのだと。
百度繰り返せども、百度の勝利だと示す為に。
「終わったのだ、謙信公。憑装されしその魂、眠られるがいい」
所詮は過去。叶わぬ夢の残滓。
それに縋り、悪しき武具に囚われるなど、悲しいのだと。
「私の剣刃にて、悪しき武具は全て断つ。そこにある魂、彼岸へと葬ろう」
故にこれは葬列の鎮舞にして、武人に捧ぐ武の神楽。
武士である筈の上杉謙信は散り、その志は途絶えたのだと。
認め、納得して貰わねばならない。
ああ、考えるのは苦手だ。だが、曲がったものは更に嫌いなのが花盛なのだから。
剣に宿ったというのなら、真っ直ぐに振るう剣で示すしか他に浮かばぬからこそ。
瞬くように、流れるは二つの斬撃。
重さ、長さ、そして振るう重心。
左右にて違うそれらを狂わせることなく、自在に振るうは花盛が磨き上げた武の証。悪しき癖のある剣であれ、鋭い逸品であれ、我が身のひとつ、一端として扱ってみせる。
斬って、回り。
砕いて、舞いて。
するりと流れて、次なるものへ。
振るう二刃は止まる事なく、新たなるものへ。
無数というのならば、無尽の剣撃を繰り出すまでだと。
斬られ、滑り。
砕けて、撒かれる。
花盛を中心として剣風は渦巻き、砕かれた刀身から零れた鉄が巻き上げられる。
清冽な剣気によって巻き上げられたそれは、血の一滴も含まぬもの。
今や、戦場で吹き抜けるは鉄風。
羅刹が怪力、剛のもたらす斬鉄、撃砕の剣神楽。
我が身は羅刹。
全てを砕いて、進む者。
ならばこそ、血風をと求める修羅と相見えよう。
必ずや、その大将首。引きずり出して、斬り落としてみせよう。
今や血風は止まり、剣の撒き散らす鉄風こそが戦の有様。
戦乱を求めて起こしたそれは、斬りて砕いてみせた。
ならば。
「さあ、いざ、参られよ。この羅刹が剣に、臆した訳ではあるまい」
剛にして静謐に。
振るわれるは悪刀たる黒椿。
風を切り、切っ先より流れて周囲を揺らすは清き剣気。
はらり、はらりと紅葉散り、砕けた刀剣と共に地へと落ちる中。
戦意を秘めた花盛の赤い瞳が、切っ先より先んじて、将たる者へと届く。
大成功
🔵🔵🔵
冥門・残士郎
※連携可
泰平の世にあってなお錆びぬ強者。実に。心を震わせる
この男もそう、一目に解るこの剣気―
―ですが。平穏を愛するこのお人、死なせるにはあまりに惜しい
武器の軍勢、その大半は【彼岸斬原】にて引き受ける
体幹へと力溜め、剛刀である天瑠璃の重量攻撃
屍気の呪詛耐性でもって妖気も凌ぎ…その強靭な兵具諸々、打ち砕いてみせましょうや
斬鉄の剣豪殿も武具の一や二、造作も無いでしょうが…此度は守る為の我が剣、剣豪殿へ向かう武具を見切りて叩き切りましょうか
俺の事は気に食わんでしょう。あんたとは真逆の、人斬りです
ですがあたしは暖かな平穏が好きです。貴方と同じようにね
同じものを愛すればこそ、貴方を命懸けで守りましょう
この事件を起こした者の思惑とはまるで違う。
少なくとも戦いの流れはそのように動いている。
清く、澄んだ想いと刃が鳴り散らす。
風は血よりも、志と想いを孕み、流れて揺れる紅葉は月の元で鮮やかに。
決して鮮血とは相容れぬ色彩だからこそ――ああ、違うのだと。
冥門・残士郎(人斬り義侠・f21843)は己が剣に微笑む。人斬りの夜ではなく、これより先は血風などより別のモノを求められるのだろうと。
このように。
この有様として。
だが、自分の真実、魂が変われようか。
「泰平の世にあってなお錆びぬ強者。実に。心を震わせる」
剣豪へと呼びかける斬士朗。
禍々しき瘴気は隠せない。生来の人斬の性は如何様にも変えられぬ。
そんな己と、この剣豪は違うからこそ、一目にて解り、触れる剣気に目を細める。
僅かに、燻るのは血煙の。
これが渇きを癒やす渇望のものだと解り、故にこそ今は、飲み込む。
――平穏を愛するこのお人、死なせるにはあまりに惜しい。
だが、会話を結ぶ間もなく、ぱっと抜けるは妖念の刃。
鉄壁の如き猟兵たちの布陣も、己を顧みぬ無数の切っ先の全てを落とすには至らない。
だからこそと、狂風を巻き起こしたのは残士朗。
神速の抜刀は瘴気を残して空を過ぎ去り、途中にあった妖刀を切り捨てている。
鳴くは堅牢の神刀か、それとも異天の妖刀か。
ただ、斬鉄では足りぬ。血こそが欲しいと担い手の願望を揺らす天瑠璃羅豪。
「ああ、俺の事は気に食わんでしょう。あんたとは真逆の、人斬りです」
「そのようだな」
のらり、くらりと。
斬られた刀身が落ちて、言葉を交わす。
「ですがあたしは暖かな平穏が好きです。貴方と同じようにね」
「…………」
肩を竦める残士朗。
だが、素直に頷くのではなく、剣豪は含みあるように苦く笑う。
同じ居合。元は殺人が為の剣。
真逆と云われて、ああ、確かに。
今はそうだ……と、過去を振り返っているのかもしれない。
だが、残士朗の灰色の髪の奥、漆黒の瞳は偽りなく剣豪を見据えている。
「ですがあたしは暖かな平穏が好きです。貴方と同じようにね」
人斬だが、だからといって血煙の中で笑うのではない。
もっと大事なものがある。狂いて剣鬼に墜ちている訳ではないのだと、するりと刃を鞘に納めて。
「同じものを愛すればこそ、貴方を命懸けで守りましょう」
「なんとも」
瘴気と屍鬼が漂う剣。
斬殺を繰り返して、染みついたそれは決して拭う事はできない。
そう、消せるようなものではないから。
「……己を振り返ればこそ、貴殿を疑う所など一箇所とてないな」
ゆらりと笑う剣豪に、ゆらゆらと微笑んでみせる残士朗。
「なら、剣豪殿も妖しの武具のひとつやふたつ、造作ではないでしょうが……此度は守る為の我が剣」
人斬の渇望と、義侠の念。
血煙る死合、衆の笑む姿。求めるはふたつ、どちらも、同じ激情で、残士朗の思い。
どちらも至上のものなればこそ。
「剣豪殿へ向かう武具、見切りて叩き切りましょうか」
このようにね、と再び構えるや、放たれる居合いの刃。
抜けば終わり。抜けば負け。
そのようなもの、剣理のひとつでしかないと再び迫った兵器百般を切り捨てて見せる残士朗。
斬るか、斬らぬか。
それは剣士にとって、強さと共に付随する永遠の命題。
魂に刻まれた業なのかもしれない。
ならば今は、言葉にして誓った通り、残士朗は守る剣として。
「上杉謙信が憑装されし刃の軍勢、彼岸斬原にて引き受けさせて頂きましょう」
構えを取るは居合いのそれ。
咽せるように、周囲に溢れるは屍気。
滾らせながら鯉口切り、体幹へと力を溜める。
元より剛刀である天瑠璃。
それが鞘より放たれれば、血が華咲かせるもの。それが幾度と重ねられれば、啜りて佇む彼岸花が佇む路が顕れる。
此度の敵は鋼。血のように赤く染まれど、血肉を持たぬが故に、咲く花はないけれど。
それは所詮、人斬の華。今は違うだろうと、懐より転び出るは冥門の御守り。
義心をと取り出してくれた人に託されたそれに。
血の跡など残したくないからこそ。
「往かせて頂きましょう」
迫る妖気など、纏う屍鬼に比べれば甘い。
怯まず、込めた力をもって繰り出すは禍々しい流星。
血を求め、散らして、魂斬る刃の唸り。
切っ先の流れを見切られた妖刀は、僅か一閃にてその刀身を捉えられ、ずるりとその身を二つに分けていく。
それはひとつではない。
ふたつ、みっつ、よっつと。
「刀の試し切りに、胴幾つと云うでしょうに」
いつつ、むっつなればもはや、天下に名高き名刀を越える。
斬り砕かれ、ばらりと崩れて地に転がる妖念の刃たち。それを越える、人斬の斬刃。
残士朗が振るえばこそのこの業、この成果。
「七つ胴、ならぬ、七つ刀斬り。一刀で斬り伏せたには、中々で御座いましょう」
するりと鞘に納められる剛刀、天瑠璃。
が、構えが解かれることはなく。
「――が、一度で止まらぬから、人斬というのは」
どうしようもないのだと、言葉を受け継ぎ。
流れれば、血華咲き乱れる吉兆の流星。
屍気を纏う刃は、夜闇の帳を斬り裂いて、周囲に剣風と不吉を撒き散らす。
それでも。
守りたいという事に偽りはなく。
義侠の激しさ、胸に秘めているのだと。
「暖かな平穏を愛しいと思うこと。ええ、嘘偽りなく」
ゆらりと泳ぐ天瑠璃の切っ先が、まるで義の雫を宿すかのように、きらりと光る。
大成功
🔵🔵🔵
ニルズヘッグ・ニヴルヘイム
剣豪殺し、ね
その単語は頂けんなァ
ちと個人的な理由だが、手を貸そう、ジェントル――あー。ニホンじゃ「御仁」か。
まずは相手の優位に追いつこう
――起動術式、【此岸の境界】
そら見ろ、貴様らの敵が見えるであろう。貴様らの呪うべきものが
貴様らの命を奪ったのは、間違いなく「武器」だ!
私も存分に呪わせて頂こう
世界の敵は全て私の敵なのさ
さて御仁。下がってくれとは言わんが
少々邪魔をしても許してくれるか
呪詛幕による防護を展開
それだけでも御仁に向かう攻撃は多少なり低減されよう
私は防衛を務める
なァに、武器どもは呪詛に任せておけば良いのさ
奴らは執念深いんだ
自分を殺した奴を、地獄に引きずり落としたくて仕方がないんだからな
それは呪詛のような願い。
未だ終われない。戦いたい。
勝利を求めるて焦がれ、狂いてひた走る。
ああ、それはよく知っている。
ニルズヘッグ・ニヴルヘイム(竜吼・f01811)が触れ、扱う死者の怨嗟そのものだ。
「だがね」
ああ、それはダメだ。
幾ら呪い、願い、昏い希望を寄せたとしても見過ごせない。
正しい、間違っている。さて、どうだろう。
動かす掌の中でかちゃりと音を立てるoffero――焔を灯し、共に在る事を知らしむライター。その存在をしっかりと確かめて。
「剣豪殺し、ね。その単語は頂けんなァ」
それは決して、目の前で戦う居合の使い手のみに理由があるのではない。
自らが持つ熱と零度、それを示すようなオッドアイで見つめて。
けれど、笑うニルズヘッグの表情はまるで大型の犬だ。気安い親しみと、確かな違和感を両立させながら、言葉を紡いでいく。
「ちと個人的な理由だが、手を貸そう、ジェントル――あー。ニホンじゃ『御仁』か」
「どちらでよい。それこそ、私が感謝する、『じぇんとる』と返せばよいのな?」
慣れぬ発音はニルズヘッグへの違和感を流す程。
それでいい。気にすることなんてない。
個人的な理由なんて、他人からすれば些細なこと。
少なくとも、手を借りあい、肩を並べるのならば。
腹の底を探り合うなど、それこそ親しい友とのみで十分。
「さて、まずは相手の優位に追いつこう」
戦場を睥睨するニルズヘッグ。
そこで溢れるのは妖念纏いし武具たち。
騒乱の元に刃を染め、狂騒となって巡る呪詛の器。
この数、そして、荒れ狂いながらも統率される上杉謙信の采配。これこそが相手の優位。
身も蓋もなく云えば、率いられた数の暴威だ。
だからこそ――ニルズヘッグはそれを囁く。
決して無視できない。上杉謙信が如何に軍神と称えられても、既に『死んだ』ものなのだから。
『死んでしまえ』
響き渡り、起き上がって巡る術式。
呪え、怨め、歪んだ愛憎と怒りをもって向かうがいい。
戦場全体に湧き上がり、断末魔を経験した魂の無差別に呼び起こすニルズヘッグの呪詛。
一度、ニルズヘッグの術式が起動すれば、もう此処は何時もの世界ではない。
【此岸の境界】。この世とあの世の境界線上。その中で、ぐつぐつと煮詰まった思いが湧き上がっていく。ぼこり、ぼこりと断末魔と共に沈んだ呪念の泡が湧き上がる。
平穏たる世を、戦のない時代を。
ここにある命を、そして、奪えなかった命を。
ああ、いや。自分を滅ぼした存在こそを憎み、恨み、連綿と続く命を怨んでいるのだからこそ。
「そら見ろ、貴様らの敵が見えるであろう。貴様らの呪うべきものが」
呼びかけるニルズヘッグの声は、まるで破滅の契約へと誘う悪魔のように甘い。
少なくとも、負の感情に染まったモノには抗いがたい響きがある。
ならば、見えている敵とは。
呪うべきものはなんだと、一斉に、世界を軋ませる程に揺らぐ怨嗟。
「貴様らの命を奪ったのは、間違いなく『武器』だ!」
ああ。
ああ、そうだ。
憑装した上杉謙信は云わずとも。
兵器百般に妖念宿るなら、それは犠牲者のもの。その武器で殺された断末魔と呪詛がこびり付いている。
妖念とは、そもそも犠牲者の怨嗟だ。
返り血と怨念こそが、妖刀を産み出すものだからこそ。
「さあ、存分に呪い合おうか。私もまた、貴様らと共に呪わせて頂こう」
ニルズヘッグの声に導かれるように。
かたり、かたりとひとりでに震える浮遊する妖刀。
その切っ先は、傍らに在った槍に向かう。槍の穂先は矢を番える弓へ。まるで憎悪の連鎖のように、戦の呪いとはこれだとばかりに、次々に『武器』たちが、『武器』を呪い、殺そうとする。
つまりは一種の蠱毒。何がキッカケなのかは判らない。だが、瞬間で始まった妖刃たちの同士討ち。いや、呪い合い。
妖気と鋼が激突し、我が身厭わず互いに削り合う。
お前は俺を殺した武器だから。
俺もまた、俺を殺した武器になったのだから。
さあ、共に呪い、恨み、壊し合おう。
真に狂っているのは、こんな世界なのだとしても。
「いいや、世界は愛と希望に満ちている」
渦巻く呪詛の共食い。それを引き起こしながら、ニルズヘッグは詠うように言葉を紡ぐ。
だから何だ。だからどうした。
此処は、この世界は、決して地獄などではない。
「世界の敵は、全て私の敵なのさ」
ただ、今、餓鬼の如く互いを喰らい合う刃たちは世界の敵であるというだけ。
気にする必要などない。
存分に壊し合うがいいのだ。抱いてしまった呪怨の分だけ。
そして視線を切り、再び剣豪へと視線を合わせるニルズヘッグ。
その声には先ほどの悪魔のような響きはなく、何処までも礼儀正しい青年のものだ。
「さて御仁。下がってくれとは言わんが、少々邪魔をしても許してくれるか」
「邪魔も何も、剣を振るいすぎて疲れた所だ。何、呪い合えば、終わらない……地獄絵図、百鬼夜行の絵巻をこの場で再現してくれて何より」
今後の覚えと戒めとなると、剣豪はするりと流す。
ならばとニルズヘッグが展開するのは呪詛幕による防御だ。
死者の怨嗟は武器に宿って周囲に渦巻き、生者の情念は戦う猟兵が立ち上らせている。
ならば、編み出す呪焔が絶える事などありはしない。
ぼう、ぼうと。
鬼火が揺らめくように流れて、斜幕のように剣豪とニルズヘッグを守る防壁が成る。
「私は防衛を務める。なァに、武器どもは呪詛に任せておけば良いのさ」
奴らは執念深いのだ。
呪詛というものは一度始まれば、相手と自分、双方が滅びるまで終わらない。人を呪わば穴ふたつ。ならば、勝手に諸共、朽ちてくれる。
「だって、なぁ」
妖しの、呪いの武具たちの共食いを眺めみるニルズヘッグ。
そこには憎悪や怨念、怒り以外の何かもあっただろう。
けれど、それは全て染まる。染まって、何かへと変わっている。
憎悪と殺意。混じり合った刃が、砕けて散る。
「自分を殺した奴を、地獄に引きずり落としたくて仕方がないんだからな」
どうして相手だけ、地獄に落ちずに残っているのだと。
墜ちるならば諸共で構わない。相手を引き摺り込めるなら、どのような責め苦も厭わぬと、狂いて哮る不吉の響き。
「それを断ち斬る事は、果たしてできるかな」
問いかける剣豪の声は、既に達観の域にある。
だからこそ、ニルズヘッグの声もまた、軽やかに。
「さあ、なァ。でも、私にしてみれば御仁、貴方にも……」
それは付いているる
なんで、お前だけは地獄に落ちないのだと。
未だ死なないのだと。
呪念は尽きせず、あらゆる命を手招きしているのだ。
「地獄の有様など……と。墜ちれば判ることか」
それは戦場を駆け抜けた、剣士の声。
剣豪となる為に、殺人を磨いた。
血濡れた事を隠すことなど、出来はしないから。
「それでも」
泡のように浮かび、弾けるニルズヘッグの囁き。
「世界は愛と希望に満ちている。何も今、死ぬことはない。出来る事をしてから、成してからいいだろう、御仁」
にやりと笑うのは、やはり大型犬のような人懐っこさで。
決して怨念と呪詛を編むモノには見えないからこそ。
ニルズヘッグのその姿は、悪魔そのものなのかもしれない。
悪魔と踊れば悪魔となる。
共食いとして相打つ妖しの武器たちがそうであるように。
これが灰燼の忌み子の姿。熱と零度、共に持ち合わせ、己が価値観と眼で使い分ける。
ああ、でも。
この何処か。とても近くで。
親しんだ煙草の煙の匂いがする気がした。
錯覚だろうか。それとも本当に。手の中で転がすライターに火を灯すことはなくとも、ニルズヘッグは目を細めた。
妖念、呪詛。それを断つものも、また確かにある筈なのだ。
言葉にはしないけれど。
言葉に、今は、しないけれど。
大成功
🔵🔵🔵
穂結・神楽耶
ええ。
泰平の世を乱そうとせず、その腕ごと歴史の流れに埋もれゆくを由とした。
平和を尊んでくださる方を戦に駆り立てる暴挙、許せるはずありません。
どうぞ一度、力をお貸しくださいませ。
剣豪様と共闘、肩を並べて前線を征きましょう。
とはいえ腕に覚えのある方を無闇に庇っては失礼に当たるというもの。
居合に必須であろう納刀の隙を埋める立ち回りを意識しつつ、
敵を確実に仕留めることを重点に参りましょう。
──おいで、【神遊銀朱】。
叩き斬りなさい。
一度きりの命をどう使うか──どう生きるか。
決めて、果たそうとする姿のなんと尊いことか。
己の意志で曲げるならまだしも、弑して曲げさせようとするなど。
討ち果たしますよ、真田様。
ええ、と頷く少女の思いは真っ直ぐ。
それこそ一振りの刀のように。
迷いがなければ躊躇いもない。
他の思いが滲む筈もないのだから、決して逸れる事がない。
何処までも真っ直ぐな、一振りの刀身。
いいや、それは当然なのだ。
少女の真実はひとつの刀。
焔と共にある神刀こそ、穂結・神楽耶(あやつなぎ・f15297)というヤドリガミの本体。
己がどうあろうとしても、その始まりの因子は存在そのものに顕れる。
「泰平の世を乱そうとせず、その腕ごと歴史の流れに埋もれゆくを由とした」
物静かながら、礼儀正しく流れる穂結の声。
だが、決して己の意志と思いを譲らぬという決意がある。
張り詰めた弦を爪弾くような、美しい響きがある。
「平和を尊んでくださる方を戦に駆り立てる暴挙、許せるはずありません」
それは己が身に宿る焔と破滅を思うからか。
穏やかに、暖かく。触れ合い、寄り添う世こそを尊ぶ。
そう、あくまで欲しいのは温もりの筈だから。
「どうぞ一度、力をお貸しくださいませ」
争い、破滅。熾烈なるものから遠ざかろうとするものと、今、戦いたいのだ。
結ぶのは明日へ、繋げるのは幸せ。
あくまで過去と今は切り分けて、決して侵させたりなどしない。
「やれ、私はそんなに善きものではないというのに。流れた花、散った葉、解けた雪に何を託す。これ先、泰平の世を生きて、進むのは……私もお主も同じ筈なのに」
ならば何故、と云われれば。
穂結は先の言葉を繰り返すだろう。
許せる筈がないのだと。
世界を守りたい。少しでも素敵だと思うものを、過去になんかしたくない。
「ならば、共に踏み出す一歩。わたくしと共に一振りを願えませんか」
「こうも云われれば、な」
乱れて流れる兵器百般。その数はもはや激減している。
だからこそ、ただ守っただけではなく。
泰平の世を願った剣と共に、戦乱を呼ぶものを切り払いたい。
ああ、それは確かに輝きで、光で、希望の未来。
掴み取るに値するものなのかもしれない。
花の如き慈愛で触れたいのは、そういう勝利の跡に在るものなのだろう。
そうだ。それこそ明日で、未来で、希望という幸せなのだから。
「では、往くか」
ええ、と。
再び響く、真っ直ぐに過ぎる穂結の声。
剣豪と肩を並べ、最後の前線へと踊り出る。
腕に覚えのある剣豪を無闇に庇えば、それは失礼になる。そうよく存じるからこそ、穂結は僅かに呼吸を剣豪の居合に合わせる。
抜刀一閃と流れたそれは、迫った太刀を斬り捨てる。
だが、納刀という如何しても拭いがたい隙はある。
その瞬間を狙って殺到する妖刀の切っ先。幾つもの刃が、僅かな隙に滑り込もうと流れるが。
『偽りなれど、彼の色は真となりて』
響きし穂結の声色は玲瓏にて。
けれど、何処か焔に似た彩を帯びている。
「──おいで、【神遊銀朱】」
呼ばれて浮かび上がる刀の姿。それは穂結が手にする鏡の如き白銀の刀身を持つ神体、結ノ太刀にうりふたつだ。
何処までも真実に近い。だが、名の通り、穂結の霊力で紡がれたもの。
銀朱とは、朱丹という自然物の代わりにと、人造のものなればこそ。
だが、真に迫る程、人の手と思いによって作られたものが、自然ではないからと劣るというのか。
その真実は、流れる刃が示すのみ。
穂結の赤い双眸が、斬るべき姿を映し出す。
「叩き斬りなさい」
穂結の意志を果たすべく、夜闇を切り裂く霊刃の瞬き。
複製の刀。だとしても、真に迫り、これを越える事とてある。
妖念を帯びた大太刀を斬り捨て、更に後方へと奔る鋭き刃。少なくとも呪いの魂、その残滓如きで止まる威と想いで紡がれたものではない。
鋭刃に烈火の威を乗せ、次々と妖しの武具を斬り捨てていく。
例え複製であれ、それを紡いだのは穂結。その思い、魂が込められいるのだから、妖気や鋼などで止まる事はない。
そして、まるで蝶のように軽やかに。
何処か火のような鮮明さで。
妖気を帯びた切っ先が続けて眼前に迫れど、結ノ太刀にして後方へと斬り流してみせる。
靡くはぬばたまの長き髪。一筋とて囚われることなく、風と共に踊る。
「わたしくに触れるつもりならば、もっと強い思いと覚悟をもって頂かなければ」
優雅ともいえる体捌き。けれど、刃のような鋭き攻防。
穂結が舞うように足を滑らせ、位置取れば、続くは剣豪の放つ居合の一閃。
連続して攻めるは敵のみならず。
即興とは思えぬ呼吸と正確さで穂結と剣豪も応じている。
「一度きりの命をどう使うか──どう生きるか」
例え、どう成るか定まっていたとしても。
「決めて、果たそうとする姿のなんと尊いことか」
自ら選び、定めて、突き進むそれは痛みに満ちている。
悲痛さに、理不尽さに投げ出したくなるだろう。
誰かに決めて、導いて欲しいと嘆くこととてあるだろう。
だが、今、隣で肩を並べて戦う剣豪は違うのだ。
「己の意志で曲げるならまだしも、弑して曲げさせようとするなど」
ゆらりと流れて構えられるは鏡の如き、結ノ太刀。
そこに映り、宿る想いは、焔の如く。
音のひとつ立てずとも、熾烈なる信念がある。
その身に宿るは血ではなく、炎だというのならなおのこと。
はらはらと、紅葉の赤が舞い散る元で、穂結は告げる。
「討ち果たしますよ、真田様」
それは焔という拭いがたき己が一因だろうか。
だが、討ち果たし、終わらせるべきものを、確かに見つけて。
一際強い風に紅葉がざわめき、一斉に散ったその瞬間。
赤い色彩を破り、無数の【神遊銀朱】が妖念を斬り払うべく駆け抜ける。
残るは清浄なる剣気と、微かな焔の気配だけ。
片割れたる黒焔蝶がちらりと揺れた。
大成功
🔵🔵🔵
第2章 ボス戦
『真田神十郎』
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POW : 不落城塞
戦場全体に、【真田家の城郭】で出来た迷路を作り出す。迷路はかなりの硬度を持ち、出口はひとつしかない。
SPD : 神速十字斬
【両手の十字槍と妖刀による連続攻撃】を発動する。超高速連続攻撃が可能だが、回避されても中止できない。
WIZ : 侵略蔵書「真田十傑記」
自身が戦闘で瀕死になると【侵略蔵書「真田十傑記」から10人の忠臣】が召喚される。それは高い戦闘力を持ち、自身と同じ攻撃手段で戦う。
イラスト:瓶底
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠蛇塚・レモン」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
※断章投下まで、プレイングはしばらくお待ちください。
予定では土日(11/7~8)のいずれかかには。
また、プレイングの受付の日付もその際にと。
再送信願う事となりましたら、どうぞご容赦くださいますよう、お願い致します。
● 断章・三途を渡りても
――或いは、その輝きこそが。
決して喪われぬ、猟兵たちの見せる魂の色彩こそが。
我等から喪われたが故に、勝てぬのではと。
そう感じたが故に、六文銭の魂は、貪欲な炎のように揺れる。
――ならば、此処で得るのみ。敗北など、断じて認めぬ。
ないのならば、紡ぎて、或いは、対峙し者より奪いて得ればよい。
それは、ある種、戦鬼の本能に似て……。
鋼の嵐が鳴き止み、紅葉がはせらりと夜に散り。
闇の中から男、真田神十郎の声が続く。
「幾名もの剣豪、或いは強者。そして、呪術士。名高き光がある者達よ」
それは時代に残された赤き鎧。
いいや、残ってしまった武者の姿だ。
完全に戻す事が出来ず傷の刻まれた甲冑は歴戦の程を物語っている。
それがかしゃりと、夜の静寂に音を立てて。
「悪巧みも何も、その通り。弁明など出来ぬのは確か」
続くは武士の声。
戦乱を生き抜き、今を否と認めぬ激しさを込めて。
「が、戦の最中、兵法に正道も鬼道もありはしないのだ」
正面より踊り出ては敵将を斬り伏せ、騙して背より陣を突き崩す。
どちらも間違いなく、武勇と唄われる。
勝った方が正義であり、道理なのだ。
敗残の兵が語る志など、一生に付されて残らないからこそ。
「志と忠誠こそ不撓不屈。戦乱企て、泰平の世を揺るがす。ああ、悪と見れよう。業と思うだろう。戦に狂った。そう言われても仕方なし」
だが、それは勝者の意志。
決して己は認められぬのだと、赤き鎧に身を包みし武者――真田神十郎は、十字槍の穂先を向ける。
「飽きられぬ思いがあるのだ。抱いた志は砕けておらぬ」
烈火のように猛る戦意。
それは、ただ高潔たれというのではなく。
「敗れて散った先達たちの思い。私の元で善しと死んだ部下達の思い。魂さえ歪める所業と判っていても……せずに終わるなど出来はしないのだ」
ただ美しい程に潔く、真っ直ぐに。
誇りだけを抱いて突き進められれば、どれ程によいことか。
血と怨嗟に塗れたこの身。最早戻る路はなし。
「成せる事、全て成す。そうせねば、主君へと誓いし大願、同胞に語らった夢。その全てが無為と帰す。己が過去になるだけならよい、だが」
悔いて、悔やんで。
流した血に赤く染まった武こそ真田の姿。
それは背負うものがあるからこそと、決して止まれぬ真田は語る。
「欺きて軍を乱し、翻して兵を散らし、突き進む路は止まれぬ、止まれぬからこそ――ぶつかろう」
それこそ。
「勝利を。共に目指すそれはひとつ故に、削りあい、切り合い、殺し合い。そして、それを奪いあおう」
何、と。
この身ある誇りなど、最早、血泥に塗れて穢れていれど。
「相見えた汝らにも剣豪たる輝きがある。それを得て、我と我が主君は覇道を進むのみ」
剣豪と至りしもの。ここに集ったものたちには。
未だ血に汚れていない魂がある。
烈士たる想い、自らが元に集わせるべく。
或いは、自分達が喪ったその輝きと色彩。それこそ取り戻せれば、奪って、その喪失を埋められてたら。
きっと勝てる筈なのだと、愚かなまで信じて。
十字槍の穂先が翻り、はらりと流れる紅葉のひとひらを斬り捨てる。
「さあ、この戦鬼と、戦陣を駆け抜けようぞ」
これよりは戦乱の再現。
ただ正面より切り結ぶのみならず。
乱れ咲くは血花と彼岸。
彼が駆け抜け、経験した戦が、此処に再現される。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
※プレイングの受付は、11/09(月曜)の08時31分からとさせて頂きます。
だいぶ時間をお待たせする事となりますが、何卒、どうぞ宜しくお願いします。
ルイス・グリッド
アドリブなど歓迎
剣豪には貴方呼び
貴方を狙ってくるのは間違いありません、俺が盾になります
俺は文字通り一度死んだ身、生者を守ると決めています
そちらにも志はあるだろうが、思い通りにはさせない
SPDで判定
多大なダメージは負うだろうが【覚悟】と【勇気】を以て挑む
剣豪を【かばい】ながら銀腕を【武器改造】し【盾受け】
【瞬間思考力】【情報収集】【戦闘知識】で敵の行動に合わせて【シールドバッシュ】で【体勢を崩す】
少しでも隙が出来れば義眼の黄の災い:感電【マヒ攻撃】を【全力魔法】【属性攻撃】【スナイパー】を駆使して発動
それから銀腕を剣に【武器改造】し【怪力】【鎧無視攻撃】【貫通攻撃】を行い敵を【切断】する
無常に吹き抜けるは風。
散った紅葉がざわりと鳴り、足下に赤い波が揺れる。
炎のように鮮やかで。
戦意のような激しさをもって。
ルイス・グリッド(生者の盾・f26203)の靴を撫でるそれは、止まらない。
何故なら、それは目の前にたつ武人を中心に起きているから。
彼の放つ武威が、紅葉の山に渦巻いている。
「貴方を狙ってくるのは間違いありません」
目の前に迫る真田神十郎が走り寄る事はない。
だが、ゆっくりと、一歩、一歩と近づく姿。逃れる事は出来ず、気を逸らせばそこに刃が突き立つ。
夜闇に舞う紅葉は、その鮮血を思わせるのだ。
「俺は文字通り一度死んだ身、生者を守ると決めています」
だが、ルイスは臆す事なく背にいる剣豪に告げている。
真田の手にする十字槍と妖刀から眼を離さず、一気に飛び込もうと身を撓める。
表情は冷静。隻眼もまた鋭くも、静かに。
揺るぐことのない決意を顕して、真田が携える血刃の前へ。
「真田といったか。そちらにも志はあるだろうが、思い通りにはさせない」
交差する視線の刃。
形なく、音もなく、激突する互いの想いと信念。
「ああ。名も知らぬ異国の者よ。そちらにもまた志があるのだろう。死した身とお前は言う。が、誠に脈打ちて身体を動かすは魂」
旋回する真田の十字槍。
それは、決してルイスの身体を動かす動力装置を見抜いた訳ではないのだろうけれど。
「見せてみろ。示してみろ。鼓動より強き、お前の誓い」
「言われずとも」
故に駆け抜けるルイス。
あるのは覚悟。携えるは勇気。
決して捨て身の蛮勇などではなく、勝機を切り拓くべく真田の前へと躍り出る。
銀色の義手を盾と化して正面より。
背後の剣豪には一振りたりとも通さぬのだと。
「真田、お前の身に災いを刻んでやる」
一陣の烈風と化したルイス。それを迎え撃つのは神速の槍撃だ。
盾となった義腕を掲げるが、防げたのは僅か数撃。無数の刺突として放たれたそれらが火花を散らし、ルイスを弾き飛ばす。
続くは、三日月を描く妖刀。流体金属である義腕を削り取る。
翻る切っ先と穂先は神速。盾へと変じた義腕でも守り抜けずルイスに裂傷がひとつ、ふたつと刻まれていく。
血飛沫が舞い、乱舞する真田の刃。
より深く、その命に至らんと狂奔する斬風に対して、ルイスの姿は余りにも静か過ぎる。
激痛など意味はく、流れる鮮血など不要。
死した身を動かすの魂の衝動であり、ルイスの誓いそのものを斬らなければ真田に勝利はないのだ。
だからこそ、数多の刃が乱れ咲く中、ルイスはその瞬間を見出す。
「そこだ……!」
合わせたのは突き出された十字槍の一閃。
避けきれず、刃が深く胸部を斬り裂くが何だというのだろう。
もう片手に握られた妖刀が閃くが、それを迎撃する銀腕による防盾。
十字槍に斬られながらも、更に踏み込んで妖刀を弾くなど、生きる者にとっては狂気の所業だ。何しろ、先の槍撃で既に肺へと刃は達している。
此処で妖刀を弾けど、
後に続かない。相打ち狙いならばまだ判る。
肉を斬らせて骨を断つ。
それは戦場だからこそよくある事。
だが、歴戦故にこそ、真田は骨を断たせて肉を斬る……などという事に戸惑い、判断が僅かに揺れる。
「致命傷、少なくとも生きている者には。だろう?」
そこから先に続く訳がない。
そう知っているからこそ、止まる真田の槍と刀。
僅かながら姿勢は崩れ、後ろへと飛び退く。
「お前がいった事だ。誠に身体を動かすのは魂」
だというのなら、お前のそれを見せてみろ。
虹色の願いたる、水晶のメガリスが煌めき、黄の光と災いを放つ。
「ぐっ……」
真田に訪れたのは感電。
全力で一点へと照射された義眼のメガリスの魔力。
マヒには届かずとも、その動きと太刀筋を狂わせる。
出来た隙は一瞬か、それとも更に短いか。
――それでも、生きる者を守ると決めているのだ。
ならば此処でこそと、ルイスの銀腕が長剣へと変形する。
僅かな間隙。切り抜ける為に更に身を血刃に晒そうと構わない。
「鎧がどれほど頑丈だとしても」
魂の叫びがメガリスの剣を極限まで研ぎ澄ませば。
全ては無意味。必ずや斬り伏せる刃へと至らせる。
「その身ごと、お前の信義を必ず斬る。俺たちの志こそが、お前への刃であり、齎す災いだ」
奔るルイスの刃の音、涼やかなる鈴に似て。
生きる屍が故に限界を超えた怪力で振るわれた一閃。
真田とすれ違った一瞬の後に、鮮やかなる血を噴き出させる。
大成功
🔵🔵🔵
穂結・神楽耶
ならば此処で止めましょう。
どこへも行けぬまま、ただそれだけを求めて争うというのなら。
我等の勝利を以て幕引きとさせて頂きます。
真田神十郎──音に聞こえし武人。
あなた相手に無傷で勝とうとは思いません。
故に防御を固め、先を取らせます。
あなたの攻撃とわたくしの防御、どちらが速いか。
──そう見せかけて、初撃を回避。
己に纏った炎熱の幕は防御の為ではなく。
揺らめく輪郭で遠近感を狂わせ、爆風により遠ざけさせる攻勢回避。
超高速の連撃も当たらねば恐れるものではありません。
兵法に正道も鬼道もありはしない。卑怯とは言いますまい。
その六文銭、今度は渡し忘れのないように。
しっかり三途の川を渡って、骸の海へ還りなさい──!
――それでも進もうとするのが、罪咎にして魂なのでしょう
喪われたモノが為に。
ちりん、と清浄なる音を響かせるは神楽鈴。
幾つを喪っただろう。
これからを過ぎていくのだろう。
全てを灼き尽くす事こそ、戦と焔の業だというのならば。
「ならば此処で止めましょう」
詠うように告げるは穂結・神楽耶(あやつなぎ・f15297)。
全てを焼き焦がして進むなど災禍でしかなく。
辿り着く場がなくとも彷徨うならばなんと痛ましく、悲しい姿か。
それでも止まれない。進むしかない。
そこに希望がある限り。手で触れて、しかりと握り絞めたいものがある限り。
ああ、痛ましい程、胸に迫る切望。
それが勝利か、明日かの違いはあれども、確かに判る。
己も滅びの因子を身に宿すが故に、穂結はそっと瞼を伏せた。
判るからこそ、決して、道を譲らない。
「どこへも行けぬまま、ただそれだけを求めて争うというのなら」
舞うようにゆらりと神刀構える穂結の姿はたおやかに。
揺れる焔の激情を、美しさを、その身に秘めて。
「我等の勝利を以て幕引きとさせて頂きます」
夜色の長い髪が揺れて、艶やかなる焔百合の簪が綺麗に映える。
果敢なる掌にて、未来に触れようとする。
儚き夢を見て、花の慈愛の色合いなればこそ。
戦場にては刹那の美として、深く眸と心に映り込む。
「己がそれだけの刃であると、自負するか」
「ええ、鋭き刃と、焔の苛烈さを持ち合わせると」
言葉の通り。穂結のその身、その声に、あらゆる焔が従い始める。
咲き誇れ、我が渇望。赤々と、紅葉に負けぬ鮮烈さで、戦鬼に劣らぬ熾烈さで。
穂結が身に宿すは黒焔蝶『結火』。
破滅をもたらし、何れ、我が身と魂を灼かんとするものなれど。
今は穂結が振るいし、神威として。
今や少女は無名の刀神。
あらゆる焔は彼女の指先にして、悉くを斬り散らす切っ先。
「されど、貴方は真田神十郎──音に聞こえし武人。無傷で勝とうとは思いません」
周囲で揺れる赤色は祈りのように、果敢なきもの。
深緋の華が如く穂結を包むは赤熱の幕と、季節外れの蜃気楼。
余りの高熱で景色が歪み、風が鳴く。
その中で、静謐さを讃える結ノ太刀を構える穂結の姿。
触れられるものならば、触れて見なさいと。
半端なる武では、ただ焔華の前で散るのみなのだから。
ただ、ただ守りて、斬り流す守りは、けれど、容赦なく、苛烈なる侭だ。他に眼をやる不埒な刃など、決して辿り着ける筈がない。
「その火焔の中を踏破してみせろ、と」
「真田が名が誠に天下に轟く武勇ならば」
さあ、さあ、いざと。
どちらが刃が迅く、鋭いか。
振るう太刀筋に宿す願いの苛烈さ、如何なる程か。
天すら未だ知らぬそれを、示そうと。
「乗った。この真田神十朗、相対するは儚き娘ならず、焔の刀神と見て、いざ推して参る」
ならば戦乱に生き、武を以てひた走る真田が応じぬ訳がない。
焔華斬りて、刀神の芯を断たんと踏み込むは戦鬼の歩。
武気が爆ぜて、己が武威を轟かせんと真田の十字槍が奔る。
故に、散るは赤き焔の花。
朱く、何より紅く。
深緋に染め抜く穂結の剣気が夜闇に爆ぜて、真田を焼き払う。
――咲き誇れ、狂い咲け。我が渇望。
真田を巻き込み、舞い散る焔の華。
炸裂した爆風と炎が真田を迎え撃ち、巻き起こした熱風に乗って穂結はひらりと身を翻す。
「卑怯とは言いますまい」
焔華の裡に佇む事で、真田の遠近感を狂わせた穂結。
それに挑むならば真田はより深く踏み込まねばならず、誘われて躍り出れば、爆炎がその全身へと襲いかかっている。
ひらり、ひらりと舞う火は蝶のよう。
花は散りて、流れ逝く。
だが、炎の花吹雪を強引に突き破る真田。
焔に蝕まれ、されど止まらぬ真田の姿はまさに戦の鬼。
だが、それを今、穂結は越えて斬り伏せるのだ。
「如何にも。正道も鬼道もありはしないならば」
「地も空も、悉く、我が剣にて描くものなり」
言葉を残して真田の懐に入り込み、舞うが如く振るわれる結ノ太刀。
切っ先と焔が描くは八重の花。ぽとりと墜ちるは、斬り落とされた命なのだと。
血の一滴残さず焼き付くそれは、容赦もなき幕引きとして。
「その六文銭、今度は渡し忘れのないように」
神楽を踊るが如く、刀神となった穂結が翻る。
刀身が示すは焔従えて奔りし斬滅の千紅万紫。あらゆる赤を、焔を従える神威を以て、この夜に咲いた願いの剣花。
「しっかり三途の川を渡って、骸の海へ還りなさい──!」
幾重にも奔った斬閃から、焔が溢れる。
はらり、はらりと。
季節外れの徒花が踊る最中。
ちりんと、清浄なる鈴が。
燃えて灰となり、喪われたものの為に音を奏でる。
大成功
🔵🔵🔵
鈴桜・雪風
仰る通り、戦にあっては勝敗こそが全て
手段の正邪など些細なこと
そこまで覚悟をお固めなら、今更言葉は不要ですね
「わたくしは平和をこそ望みますので。人の歴史にならい、刃にて勝ち取らせて頂きましょう」
敵は槍と刀の2刀流
片手の力だけならわたくしでも拮抗できましょう
ならばこちらは常に左右どちらかに回り込む動きにて攻撃を
剣豪氏に手出しをさせぬ為にも、相手の一番嫌がる戦い方で参ります
戦場に卑怯など有らずと言った以上
絡め手への備えも忘れずに
敵が配下を召喚したらそこへ【ソノ花咲カスベカラズ】
「いけませんわ。女性を大勢の男で囲もうだなど、あまり無作法。我が根も黙ってはいませんよ」
まるでそれは幻灯。
夢か現か。真実、それは此処にあるのか。
その姿は誰かが見せる幻想であるかのように、夜闇の間隙を泳いで滑り込む。
ここは戦場と化したというのに。
からん、と下駄を鳴らす音、たおやかに。
決して他に染められぬ、斜幕に映された姿さながら。
幽玄と優美をもって、鈴桜・雪風(回遊幻灯・f25900)は佇むのだ。
眼前には幾つもの戦傷を負い、けれど気炎の衰える事のない真田神十朗。
「今更、言葉は不要ですわね。……ええ、言わんとする事、納得致しますもの」
確かに、彼の語る通り。
戦においては勝敗が全て。手段の正邪、過程など些細なこと。
でなくば、散った者こそが浮かばれない。
勝者や敗者ではない。それが正しいと信じて、戦い、死んでいった烈士たち。
その魂、想いのひとつ、ひとつを汲み取ることなど不可能なのだから。
千の、万の死。その元に今がある。
ならば、今を生きる者としてどう望むか。
何を求め、その眸に見据えて生きるのか。
「わたくしは平和をこそ望みますので。人の歴史にならい、刃にて勝ち取らせて頂きましょう」
言葉は不要。それで想いを穢すのなら、なんと無粋。
物静かながら、戦の道理を、世の無常を知る鈴桜の声だ。
それが、ついに戦の裡へと入り込んだのだと、真田が応じる声が知らせる。
「ならば、後は刃が映すもののみが全て」
――ゆらり、するりと鈴桜の姿が揺れる。
まるで花びらが舞うように。
流れる足取りは何処までも軽く、幻のように。
確かにそこにいる筈の鈴桜。けれど、桜吹雪さながらに、その存在を掴めきれない。
舞い散る花びら。その一枚、一枚をしっかりと捉える事など出来ないように。
見るものを幻惑する、音無き歩法。
頬に触れて、初めてその存在に気づくように。
閃く刃が、真田の肩口を捉える。
鮮血を散らして後ろへと飛び退く真田。
気づけば鈴桜が間合いに踏み込み、直刀を振るっていたという事実に眼を見開いている。
鈴桜の動きは決して早いという訳ではなく、むしろ奇妙な遅ささえ感じて……。
けれど振り払えない。
如何に真田が鋭く、迅くと身を動かしても、舞う花びらを相手取るが如く。
真田の左右に流れる鈴森を正面に捉えれない。
そう、まさしく桜吹雪に身を包まれたかのよう。ひらりと瞬く斬閃が、意識の外、構えた守りの間を抜けて走る
「これは、縮地の一種か」
「さあ。乙女の真実と本音は、光にあてるべきではないと思いますが」
神速をもって成すのではなく、体捌きによって迫る速度を掴ませない緩急自在のそれ。力や速さではなく、研ぎ澄まされた剣士の技だ。
正しき歩法を極めれば、その動きは流水のように掴み所のないものとなる。
槍と刀。二つの武具の内、長物である槍を持つ側面、その間合いの内側へと回り込み続け、自在なる槍捌きを奪っている。
その上で、刃で奏でられるは風雅なる剣舞。
澄んだ剣閃の後に吹くは赤き血による花吹雪。
ふわり、するりと流れる鈴桜の剣も、姿も流麗で、決して止まらない。
激突する鋼など響きなど無粋だと、鈴が転がるような妙なる調べが鳴るばかり。
如何に真田の眼といえど、鈴桜という桜の精の芯を捉えられずにいる。
結果として正面から切り結ぶ事さえ叶わず、鈴桜がくるりと翻る度に飛び散る真田の鮮血。鎧を砕く力はなくとも、その切っ先は何処までも鋭利に。
いずれは、その命に届く程に。
「成る程、朧なる剣こそか。ならば、桜手折るような手荒で無粋であれど」
あくまで真田は武者。
勝敗に全てを置くが故に、武技においての優劣を競わない。
侵略蔵書から溢れるは影。かつて、命と魂を真田に捧げた十人の忠臣たちの姿を取り、鈴桜のひとりを囲もうとしている。
「既に死を覚悟した身。この身は勝利という呼吸を得るまで、瀕死も同然なれば」
「それでも、夢を見て、己が手で掴み取るのが殿方でしょう」
あくまで自分は自分。その命を燃やし、進み続ける姿は勇ましい烈士であれ。
他を奪い、支配し、使うのであればそれは違う。
何か絡め手を用いる前にと、鈴桜は自らを囲もうとする影へと囁く。
「いけませんわ。女性を大勢の男で囲もうだなど、あまりに無作法。我が根も黙ってはいませんよ」
不用意に桜の元へと近づくものではないのだから。
血を吸い、魂攫い、人を隠す。
桜は、自体がひとつの奇譚なのだから。
地面を割って現れたのは、そんな切っ先のように鋭き桜の木の根。
吸血の質を持つそれらが、真田を含み、影の忠臣たちの動きを射止める。足の甲を射貫き、或いは脚を傷付け、流れる血を吸って。
いずれ花咲く色艶を得ようとする四百を越える桜の根。
埋められた謎を、命を、抱く程、幻朧なる桜は美麗に咲き誇るのだから。
今は、真田という者、その歴史を、歩みを抱いて。
――からん、と下駄が鳴り響く。
「さあ、お眠りくださいな」
ようやく、真田の瞳に映った鈴桜の切っ先。
それは月の涙を零すように、銀光を繰り出しながら。
「この地が求めるは平穏。月は骸の影など、決して求めていないのですから」
鈴桜の刃が詠うは風花雪月。
移ろう四季を美しく、穏やかに。
夢見るように次の世界、その情景を読む事が出来るのは、あくまで世が平和ならばこそ。
秋の悲しき血のような赤が過ぎ去れば、冬の優しく雪の白さが。
そして、巡りて来る春の桜花の色合いは、きっと。
穏やかなる微笑みを呼ぶのだろうから。
それが鈴森の理想で、勝利なのだと。
静謐にして優雅なる刃が、闇影を呼ぶ鬼を斬る。
大成功
🔵🔵🔵
桐生・零那
あぁ、何か敵の親玉が朗々と語っていたようね。ごめんなさい、まったく聞いてなかった。
さぁ、神に仇なす者よ。存分に斬り結びましょう。これがあなたの最後の晴れ舞台なのだから。
二刀をもって敵の十字槍と妖刀を迎え撃つ。
【破魔】の力で敵の邪気を払いましょう。
そして高速の攻撃には……
《世界は色を失った》
アグレアプト、仕事の時間よ。
あの鬱陶しく飛び回る武士の動きを止めなさい。
真紅の鎧も色を失ってみるとそこらの雑兵変わらないのね。
卑怯なんて言わないでよ。ただ目の前の神敵を討つ。私の任務はそれだけなんだから。
風がどのような言葉を運ぼうとも無意味。
聞き届けるつもりはない。
心に留めおくつもりもない。
全ては枯れ葉の漣に似て、ただ流れて過ぎていくもの。
いいや、桐生・零那(魔を以て魔を祓う者・f30545)にとっては更に。
「ああ、ごめんなさいね」
さらりと黒い前髪を手で払う。
赤茶色の眸は鋭く、けれど、とても冷たい。
全てに無関心で、真田の声にだからどうしたのだと。
「何か敵の親玉が朗々と語っていたようね。全く聞いていなかったわ」
これは神敵。
その声に向ける耳などありはしない。
交わす言葉など、その身に刻む慈悲の刃で十分。
信仰に生きる者の常としてストイック。一直線の怜悧な祈りこそ桐生の生き方だ。
だから真田は問うのだ。
「ならば、お前の口上は如何に。語れ、告げ。戦をもって成す事を」
「笑わせないでよ」
それこそ表情を僅かに薄める桐生。
なんて当然。どうして判らない。
言葉にする間でもない事を理解出来ないから、これはそうなのだと。
「神敵は討ち祓い、滅するのみ」
だから、真田が桐生に幾ら語らえど。
どのような言葉を求めようとも。
降魔の剣に言葉を向けている事となんら変わらない。
ならば、躍り出る動き似合わせて靡く桐生の長髪は、黒き迦楼羅の翼か。
迷妄の一切なく、狂信の刃をこの夜に走らせるのだ。
「さぁ、神に仇なす者よ。存分に斬り結びましょう」
血を流させ、流して。
神敵の断末魔を、幸いなる祈りの道標として。
辿り着ける世界こそ救済の光。神威と銘打たれた霊刀が、はらりと落ちる紅葉を斬り裂いて流れる。
神に仇なすものに苦痛と解放を。
「これがあなたの最後の晴れ舞台なのだから」
担い手である桐生の生命力を奪って切れ味を増していく影無をもう片手に。
怨むべき者を、滅するべき者を。
二振りの切っ先が、しかりと見定めて。
瞬間で交差する刃。先の攻防に劣らぬ鋼の嵐が吹き荒れる。
「我が主、クルセイダーも神の救いを説いた」
まさしく神速。真田の攻勢は止まらない。
右の十字槍と左の妖刀を持って斬撃を繰り出す真田。ただ太刀筋が鋭いだけではない。一歩一歩が、体捌きが、歴戦を物語る武を宿す。
故に血風を巻き上げ、劣勢に立たされる桐生。
破魔の力で敵の邪気、妖気、果ては剣気そのものさえ斬り祓わんとする神威と影無。だが、相手取る真田の気は総体として膨大過ぎる。
言わば、湖の水を救いて消そうとする事に等しい。
更には繰り出される攻勢の数で負け、放たれる刃の鋭さで劣る。
衣服に、身に、裂傷と血の赤が増えていく。敗北への秒読みさえ始まっているだろう中、けれど、桐生の赤茶色の眸は見据えているのだ。
真田をではない。
その先を。
勝利を、神敵を討った後。
訪れる幸福、救済の光のみを、その眸に捉えている。
湖水の全てを手で掬うなど不可能?
否、神の意志があればそれは叶う。神の代行として行う桐生ならば、それもまた叶うのだ。
だから迷わない。戦意は衰えない。激痛など、まだ動けるという証拠でしかないのだから。
全力で振るう一閃。それで更に傷が開いて血飛沫が踊れど。
「これは、神が為の」
どくん、と鼓動が高鳴る。
「全ては、その御心の為に……」
その為、劣勢の侭に戦い続けたのだと、信仰に燃える眸が、魂が詠う。 諸手で攻めれば、如何に神速であれど守りに綻びが生じる。
切り結び続ければ、その正面の敵へと意識は向く。
ただ普通に放つだけならば、避けられようとも、今ならば違う。勝利を得ようと、深く踏み込む真田の背は隙だらけ。
「アグレアプト、仕事の時間よ――今その契約を果たせ」
履行されるは知の悪魔との契約。桐生の右目の色彩の一切を失う代わり、敵対者である真田の背より迫るは無色透明の束縛の鎖。
その姿はさながら硝子のようでありながら、あらゆるユーベルコードの力を縛る強制力。
それが真田の腕に絡み付き、トドメとして放たれようとしていた神速の十字斬を止める。
技にて加速していたが故に、唐突な失速。それは体勢を揺らがせる事であり、意識の動揺と重なって隙を産み出す。
ならばこの瞬間こそ好機と、信仰の刃は狂奔する。
幾ら鮮血が噴き出そうと止まらない。
全身全霊では足りないのだと、魂を燃やし尽くす程の想いを込めて。
祈りが、願いが。死(ソレ)を叶えるのだと。
風を越えて、音の壁を斬り裂き、十字架を刻むが如く振るわれる神と影の二刀。
真田の甲冑を切り裂き、胴体に届く切っ先。
「見事。それも信義の成す所か」
地面を蹴って後ろに飛び退く真田。
噴き出す血潮は赤く、赤く。桐生への賛辞と共に、この場を濡らす。
けれど、そんなものは桐生に届かない。
「あら、鬱陶しく飛び回る武士だと思っていたけれど」
後方へと跳び、間合いを取った真田へと詰め寄る桐生。
真田へと強烈なカウンターを繰り出したとはいえ、明らかに深手を負っており、その姿は真田と変わらぬ赤。
ましてや、紅葉の降りしきる中では、より一層。
ゆらりと力を失いつつも、ただ信じる想い一つで進み続け、戦うのはまるで幽鬼のようでさえある。
だというのに。
「真紅の鎧も色を失ってみると、そこらの雑兵と変わらないのね」
決して臆さない。退かない。
ユーベルコードを封じたとしても、真田とは純然たる力の、技量の差があると判っている筈なのに。
「卑怯なんて言わないでよ」
何処までも真っ直ぐな声は刃のように、真田に向けられている。
ああ、と。
相手が強い、弱いなどで判断していないのだ。
勝つか、負けるか。そんな算段など桐生はしていないのだ。
「ただ目の前の神敵を討つ。私の任務はそれだけなんだから」
神敵を討つという祈りは叶う。
その絶対の理の元に生きて、刃を振るっているだけ。
「覚悟はとうに過ぎたか。ならば、是非もない」
共に奥の手でもあるユーベルコードを放った後。
残るは身に宿した技と、それこそ覚悟のみなのだと。
神速と祓魔の術。共に喪い、共に赤く濡れた者が斬り結ぶ。
幾度となく衝突し、弾き合う火花。
神敵の魂を破魔にてき斬りさかんと、我が身を厭わずに。
相手の放つ切っ先の前へと躍り出る桐生。
――そこに、狂信の願いが叶う刹那があるというのなら。
大成功
🔵🔵🔵
真宮・響
【真宮家】で参加
真田、戦乱の世の終焉に輝きを放った武将の名。目の前にいるコイツも、世の中の流れに取り残された徒花かもね。
時代の流れに抗う威勢は良し。でも所詮はこの世にそぐわない。どっちの信念が勝つか、競うとするかね。
護りの要の奏が消えたので、前線はアタシが支えようか。敵の攻撃はなるべく【残像】【見切り】【目立たない】で回避。たとえ怒涛の攻撃でも同じ動作を続けるならいずれ軌道を読んで付け込む隙が出来るはずだ。回避しきれなかった分は【オーラ防御】で凌ぎ、隙を見出したら、【グラップル】【怪力】で足払いして体勢を崩し、【気合い】を込めた飛竜閃で攻撃する!!アンタの戦はこれで終いだ!!
真宮・奏
【真宮家】で参加
日本一の兵と言われた真田。掲げる六文銭。退く理由は無いんでしょうね。ならば、こちらも退く理由はありません。貴方の望む戦乱の世、それは私達の望む世ではない故。
真っ先に飛び出したら真田城に取り込まれてしまいます。冷静に道筋を極め、念の為に【オーラ防御】【盾受け】【武器受け】【拠点防御】で防御を固めてから出口を目指します。目指すは大切な母さんと瞬にいさんのいる戦場。出口を見つけたら【怪力】【グラップル】で出口を破壊、すぐ信念の一撃で家族に加勢します!!苦戦中なら【かばう】し、【シールドバッシュ】で吹き飛ばします!!さあ、この世から退場願います!!
取り囲むは真田が城郭。
瞬きをする間もなく聳え立つ城壁は、家族を分かつ。
兵の全てを一度に相手取るのではなく、討ちやすいものから各個撃破。
それは当然の戦法であり、雌雄決する場に美学を持ち込まない武士の戦だ。
よって物理的に切り離され、のみならず、いきなり真田神十朗との一騎討ちの場に持ち込まれたのは真宮・響(赫灼の炎・f00434)。
が、動揺はない。家族ならばこれらを踏破して、辿り着くのだと赤光の剣を構える響。
真田。それは戦乱の世の終焉に輝きを放った武将の名。
しかし刹那、終わりの美として消え逝くのではなかった。
世界と時間の流れに取り残されてしまった徒花なのだ。散れと言われど、そこにある以上は全霊をもってその色彩を浮かび上がらせる。
つまりは戦乱の赤。
傷ついた鎧傷は歴戦の誉れであり。
衰えぬ気迫は、天に迫ろうとする武士のそれ。
「時代の流れに抗う威勢は良し。でも所詮はこの世にそぐわない」
けれど、結果として流れる血を善しとなど出来はしないのだと、響き赤く輝く切っ先を向けた。
「世にそぐわない。流れと逆さ。だからといって、消える筈もないだろう。それでもなお、咲かんとするが狂い咲き」
まさしく。故に、こうして戦うのだ。
言葉で止まれるのなら、既に何処かで。
それほどに担った想いが強いのだから。
「どっちの信念が勝つか、競うとするかね」
守りの要が消えた。支援を徹するものも何処へと知れず。
ならば、自分の脚のみで立つしかないのだと、響が前へと踏み込もうとした瞬間。
「だとすれば、競うモノをこそ間違えているだろう」
瞬間、迸ったのは真田が振るう神速の刃。
残像の悉くを斬り裂き、見切ろうとする眼を振り切り、この場に立つ以上、逃れられはしないのだと猛る十字槍と妖刀。
鮮血が飛び散り、風となって舞い散る。
「くっ、それでも……!」
「同じ技を連続して振るうとでも?」
真田が繰り出す技は多彩にして多芸。
冴え渡る達人の超高速連続攻撃だからこそ脅威なのだ。
加えて左右で異なる二種の武具。槍と刀の間合いが違えば、振るわれるものも違う。合わせれば倍にして、組み合わせれば更に。
故に、見切る事、避ける事叶わず、オーラの防御で辛うじて致命傷を防ぎ、急所へと至る狂刃を赤熱の剣で防ぐが響。
故に、響が崩れ落ちるまでは秒読みであり。
「貴方は六文銭を掲げたのでしょう」
それを防ぐが為、颯爽と駆け抜ける姿は真宮・奏(絢爛の星・f03210)のものだ。
精霊の力を宿す盾を構えて、ただ一直線に。この迷宮のような城郭を駆け抜け、罠や仕掛けに傷を負えど。
「退く理由など最早ないのでしょう。ですが、私達にはそこに家族がいるのならば、同じく退く事などありません!」
日本一の兵と呼ばれた真田が神速の斬撃の中へと躍り出る奏。
迷いはなく、躊躇いはなく。ただ、母を助けるが為。
その一念は迎え撃つ妖刀の一閃で断てるものではなく、響を庇いながら、盾の一撃で真田の身を弾き飛ばす。
更に踏み込み、追撃に走るは信念の一撃。
「さあ、この世から退場願います!」
「その想いと踏み込み、剣の鋭きことは凄まじい」
その年頃にしては、と真田が赤い眼と奏の紫の眼が交差して。
続くのは、精霊の力を宿した剣を、真田の十字槍が絡み取り、弾き飛ばす峻烈なる一閃。
「が、未だ至らない。この身を斬るならば、読み、合わせてみせよ」
翻る穂先。狙うは奏の喉。
戦とは殺人であり、それ以上でもそれ以下でもないと。
だからこそ、母の愛という想いを穿てず、空を斬る。
「ひとの娘に、何しようっていうんだい。ああ、そもそも、真田、あんたの相手は私だろう!」
横手より伸びて穂先を払ったのは剣ではない。
母である響の腕。肉を斬り、骨まで削がれても、素手で真田の十字槍を撃ちはらったのだ。
剣であれば間合い近すぎた。或いは、間に合わなかった。
咄嗟の反射であるからこそ、真田には読み切れなかった場面。愛する家族の為、身を捨てて戦う――母の愛など、真田の駆け抜けた戦場ではついぞ見なかったものだから。
母は強いのだ。子供達の前では、絶対に。
出来た瞬間の隙。決して狙って得たものではない、その刹那の間隙へと、響は刃を走らせる。
それは飛竜が如き赤き剣閃。
痛みさえ忘れる集中力と、慈愛の精神は戦乱の武士を斬るに足りる。
「アンタの戦はこれで終いだ!!」
噴き出す血潮。
それは、決して戻ることのないもの。
流れて、流れて、もう終わろうと。
世の泰平を願う哀しい色が、秋の夜に散っていく。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
月舘・夜彦
【華禱】
戦が如何なるものか
貴方も私も、以前から知っておりましょう
強い武器を得るも、技を磨き、戦術を学ぼうとも
全ては命の奪い合いなのだと
私にとって貴方は猟書家である以前に武人
互いに譲れぬものがあるからこそ戦うべき相手
――いざ、勝負
倫太郎から援護されておりますが重成殿は引き続き攻撃に注意を
敵の攻撃は視力と見切りにて動きを読み
衝撃波にて弾く、または武器受けにて防御してカウンター
敵の動きから攻撃手段を読み、連続攻撃が来ると感じ取った際
フェイントで攻撃を仕掛けると見せ掛け、倫太郎に任せる
その隙に納刀、連続攻撃が終わったのを合図に早業の抜刀術『神風』
彼は私の盾、私は彼の刃
如何なる相手も、これを崩せはしない
篝・倫太郎
【華禱】
重成サンよ、あんたの腕は疑ってねぇ
だから言っとく
さっき同様に最低限の支援しかしねぇし
あんたも俺の刃と思わせて貰うぜ
正確には出来ねぇ、だけど言う必要はない
誰かを常に守って楽に勝てる相手じゃねぇからな
夜彦、これで仕舞いにしようぜ
参革伍刃使用
詠唱によって夜彦と重成の強化
俺自身は詠唱と同時にオーラ防御展開で盾として行動
敵の攻撃は見切りと残像で回避
但し、動きは必要最低限で大きく動かない
夜彦達を攻撃に晒す事だけは絶対に避け
必要であれば重成は確実に庇う
華焔刀で十字槍と妖刀の連続攻撃は受けて流す
華焔刀には破魔と生命力吸収を常時乗せとく
自分の手で……その誇りを、矜持を、
穢してるんだって判ってンのかよッ!
どんなに華やかに飾ろうとも。
雅なる調べで詠われようとも。
そこにあるのは、ただ、ただ命の奪い合い。
過去より今、そして如何なる未来でも変わらぬ不変なるモノ。
強い武器を得るも、技を磨き、戦術を学ぼうとも。
どれ程に精神を研ぎ澄まし、心を悟りに近づけようとも。
戦の本質とはそれだと、月舘・夜彦(宵待ノ簪・f01521)は心得ている。
夜空のような夜彦の藍色の髪に咲く模造竜胆の簪。
幾星霜の時を経ても喪われぬ、その美しき風雅があるなばと思えど。
戦の中、命が散る刹那にもまた、永遠の美しさがある。
でなければ、どうして、皆が皆、戦の道に立つというのか。
それこそ、華やかに、雅にと。飾り立てて、音を鳴らし、武士の魂に不純を挟めども。
「私にとって貴方は猟書家である以前に武人」
だからこそ、夜彦は告げねばならない。
奪い合った命の先、決してそれを貶めることはしないのだと。
ただ、ただ。単に、そして何処までも。
「互いに譲れぬものがあるからこそ戦うべき相手」
決して、渡せぬと矜持が刃を成す。
魂こそが求める憧憬を世界に描くべく、切っ先は瞬く。
それしか道を知らぬ。
それ以外に進む術を知らぬのだ。
「武人とは、これまた、なんと不器用な生き方しか出来ぬ魂か」
応える真田は、けれど僅かに頬を綻ばせる。
何処までいっても命の奪い合い。
だから、その上でどうありたいか。その先でどうしたいのか。
武人という生き様として、共に重なるは、きっと誇り。同様に信念をこそ持って生き抜いたモノと、互いら見るから。
「――いざ、勝負」
鯉口切るは霞瑞刀 [ 嵐 ]。黒塗りの鞘から僅かに覗く蒼と銀の刀身、その麗しさ。
そして、鋭利さ。
魂を込めた一振りに他ならず、そして、宿すはひとつの魂のみならず。
「重成サンよ、あんたの腕は疑ってねぇ」
それは霞瑞刀との対の武器か。
少なくとも、似た気配を滲ませる黒塗りの柄に朱線描かれた華焔刀 [ 凪 ]を脇に構え、篝・倫太郎(災禍狩り・f07291)は口にする。
「重成サンよ、あんたの腕は疑ってねぇ」
霞瑞刀が刃なれば、これは守るが為のものと、美しき刃紋が夜に浮かぶ。
「だから言っとく。さっき同様に最低限の支援しかしねぇし、あんたも俺の刃と思わせて貰うぜ」
共に肩並べて戦うならば、俺もお前もまた、同じく一振りの刃。
道半ばで果てようとも、同胞たる戦友が光を灯すのならばそれでよし。
受け継いでくれるのだろう、この想いを。
ならば私の心も魂は不滅で、抱いた志は後の世へと続いていくのだと確信出来るから。
憂う事なはない。恐れる必要もない。
何より。
「最低限――死なぬようにと、共に戦ってくれるのだろう?」
共に生きて、勝ち抜こうという意味。
私がお前の刃ならば、お前もまた私の刃。
この身を越えて、繋がりし何かが力となる。
「さて、ねぇ。だが、死んでくれるなよ」
実際には最低限の支援と守りしか出来ない。
真田は誰かを守りながら楽に戦える相手ではなく、ならば当然、ここからは死闘に踏み出すことになる。
――正確には支援なんて簡単には出来ねぇ、だけど言う必要もねぇよな。
それこそ信頼しているのだ。
戦いが終わった後、その繋がりがこの世で未だ結ばれている事に。
悲しみ、悔いる記憶とならないように。
「夜彦、これで仕舞いにしようぜ」
華焔刀を頭上で旋回させる倫太郎。その視線は真田へと突き刺すように。
戦乱とは、どれも理不尽で、凄惨でやるせない。
そんなものを再びなどと、呼ばせるつもりなど毛頭なく。
「真田。もう三途の渡し賃は出しているよなぁ。だったら、とっとと向こうに渡りやがれ」
何も残さず。
無念や悔いがあるというなら、この倫太郎と夜彦が斬り散らしてみせるから。
『我は盾、汝は我が刃』
倫太郎が紡いだ言霊は、何一つの偽りなき魂の本音。
真実だけが故に、受ける側も何処までも研ぎ澄まされていく。
かくあれかし。そう祈り、誓うが故に、それを誠にすべく。
夜彦と倫太郎の契りは、本心のみ。
「ならばと、出来ぬ道理はないだろう」
居合いの構えの侭、突き進む夜彦。我は刃と、戦乱に残された鬼を斬るべく走る竜胆の姿。
義を以て勝利を成す。清冽と高潔をもって、武の誉れとするその姿。
真田のの瞳に烈士と映り、言葉が零れる。
「血濡れの戦は嫌いか、武人殿」
……ああ、本当は私もだよ。
その囁きが本音だからこそ。
他に届かぬようにと、真田の槍撃が轟を伴い、全ての音色を貫き壊す。
音を越える神速。夜彦の視力と見切りをもってしても叶わぬ程。見えたのは刃が散らす残光のみ。
「ああ、だが、何かの為の刃であれる戦いは好きだとも。真田殿」
肩口を貫かれて溢れる血。
だが、それで止まらぬ両者。鞘走る刃が真田の脚を両断すべく夜彦の蒼銀の斬閃が地を這い、それを受け止める妖刀。
響き渡る刃金の悲鳴に合わせ、翻る真田の槍はまさに荒ぶる龍の牙だ。
が、一度見た。同じではなくとも、手繰る者が同一ならば。
「――防げぬ程ではない!」
見切るのはその軌道ではなく、技の起こり。
全てを避け、受け流す到底無視。倫太郎の詠唱の元に高められた動体視力でも薄らと見えるだけの真田の切っ先。
ならば攻撃の始まる前を見切り、その呼吸に合わせて動くのみ。鞘から放たれた霞瑞刀と共に夜彦の身体が幾度となく翻る。
その動きはさらながら、夜空にて流れて絡み合う赤と蒼銀の流星。
星に喩えるには余りにも苛烈でも。
互いの光と色彩を零し、崩して、幾度となく繰り返す様は美しい。
迫る妖刀を弾いたのは霞瑞刀が放つ衝撃波。返す刃で迫る真田の穂先を受け止め、一歩踏み込みながら袈裟に斬り上げる。
まさに紙一重。鎧甲冑を切っ先で裂かれながらも避けた真田が十字槍を翻して放つ石突き。下がらねば骨を砕くという一撃に、否と横手に滑った夜彦を追い詰める妖刀の横薙ぎ。虎の爪の如く。
絡み合う刃と刃。響き渡る静かなる鋼の音。
神速に踏み込んだ剣士のみが見て、聞く事の出来る、静謐なる夜空の者で。
「さながら彼岸花。触れた者を斬りて血吸う、直紅の剣か。真田殿」
「曇り無き刃は宵の空の如くだな。お前も我が配下の剣豪となって欲しい程だが」
溢れんばかりの武威と剣気。宿す刀身が絶えきれず砕けて、儚き花のように散ってしまいそうな錯覚を覚える程。
夜彦と真田、両者の鬩ぎ合いは熾烈で。
遅れて開いた刀傷が、両者の肌に朱線を刻む。
「お前のような男は、死しても魂の行く先を自ら決めるのだろうな」
故に、此処で終われと真田の闘気が増す。
弾き合う刀身。だが、真田の十字槍と妖刀は龍虎の威を宿している。
乱れ斬りて、乱れ咲く。
漏れる真田の呼吸が終わりだと告げる最中、けれど夜彦は瞼を落とす。
見ぬ、どころではない。
鞘に霞瑞刀を納めようとするその無防備。居合いはただでさえ守りが薄いというのに、納刀など無防備の瞬間でしかなく。
「――!」
故に、離れたる真田の十字斬は必殺。
此処で止まれば、夜彦に居合という必殺への溜めを与える事になる。故に迷いや動揺なく、全力で攻め掛かる姿は正しく武士だ。
瞬間、瞬間に命を燃やし尽くして武を放つ。
その姿は、雄々しくもありながら。
「そんだけ、語れるんならなぁ」
否だと間に割って入るは倫太郎だ。
戦場においていかれた訳ではなく、狙われた剣豪である重成を守る為。
何より、瞬間、夜彦が己に身を託すだろうという予感からだ。
いいや、それは信頼であり、絶対なのか。
――我は盾にして、何時は刃
汝は刃にして、我は盾――
違える事などありはしない。
打ち合わせ、示し合わせ、合図などひとつもなくとも。
夜彦が隙を晒し、真田が全身全霊で攻め掛かり。
倫太郎がその間に割って入る瞬間、迎撃の好機は来ると信じていたのだから。
いや、知っていたのだから。
多重に展開されたオーラによる防御。
それはさながら焔の花のよう。真田の十字槍と妖刀で切り裂かれ、赤い光となって夜に溶けていきながら。
「忘れてねぇんだろう、誇りを、誰かかの信頼を、託された想いを」
代わり、倫太郎が諸手に構えた華焔刀を直進させる。
何処までも真っ直ぐに。
如何なる武勇、如何なる武威。
自らに迫ろうとも、恐れる筈がない。
我は刃と誓ったものがそうならば、倫太郎は盾として、等しき強さがなければならない。
盾は刃と違って、流れ星となれずとも。
そこにある色彩を、手で空へと掲げて、想いを伝えるものだから。
如何なるモノをも阻むものとして。
だからこそ、真田の龍牙の槍と虎爪の刃を阻む盾たりえるのだ。
交差する華焔刀と、十文字と妖刀。すれ違った互いは、必殺の威力を喪わさせながら、なお進み。
倫太郎の身体と、真田の身体に切っ先が突き立つ。
だが、倒れない。結果として必殺を狙った真田の剣は目的を果たせず、守る事を誓った倫太郎は、見事にそれを果たしている。
ましてや破魔と生命の吸収を宿した華焔刀の刃。互いに傷を負わせる程度ならば、倫太郎の勝利と云える。
その結果を引き寄せたのは他でもない。
「胸と腹の中にあるものを。自分の手で……その誇りを、矜持を」
生命を奪う破魔の焔を刀身に纏わせ、真田の傷口を抉る倫太郎。
いいや、刃よりも言葉こそが、真田の裡にあるものを傷付けている。最早、癒えることのないそれを。
「穢してるんだって判ってンのかよッ!」
災禍を祓うべく、焔の華が夜に咲く。
強引に身を捩り、穿たれた刃による拘束を逃れた両者。
真田の追撃にと倫太郎の焔が、そして炎風と化した焔華刀の刃が真田の身ごと空間を薙ぐ。
――誰かに託されたその槍と妖刀でないのか。
一度目に、火を伴って刀身を槍と妖刀で受けて、剣戟散らし。
――従う忠臣たちは、この行いをよしとするのか。
翻る倫太郎の二閃目。受けきれずに姿勢を崩して、その身に炎を受ける真田。
――平穏が来ればいいと、笑いかける姫君はお前にはいなかったのか。
終わりと払うが熾烈なる三閃目。夜を裂く鮮やかなる赤さは、紅葉にも負けず、真田の甲冑の色褪せを夜闇に晒す。
血など、決して美しいものではなく、時が立てば穢れるものでしかないのだと。
「――穢しているとも! 悲運の定めで笑い、自ら自害なされたあの方が為、戦乱は終わっておらぬと、まだ戦えるのだと、示すしかなかろう」
自分がまだ戦えると示せていたのなら。
果たして、果たして。
「もしも、というものは戦になない」
果たして――など、断末魔での悔恨でしかないのだ。
横溢するは夜彦の呼吸。
盾として誓いし侭、その力と信念で倫太郎は真田を崩して、隙を晒させている。
真田が後方に飛び退き、刀身の間合いから脱しても意味はない。
所詮、戦は命の奪い合い。
その真実、魂と信念の芯を晒している真田に、夜彦の抜刀を抜けられる術はない。
「彼は私の盾、私は彼の刃」
それを真実として貫き通した。
己独りで成せた事ではなく、相手が示してくれたから続けられる。
「如何なる相手も、これを崩せはしない」
真田神十朗。天に名を響かせ、轟かぬ武人がひとり。
それでも、倫太郎の己が盾という誓いを、斬り崩せなかったのだ。
ならば、後はそれに続く刃として。
天下に名だたる銘刀よりなお怜悧に。
如何なる神刀にさえ劣らぬ鋭利さを以て。
「――私が死しても、還りて宿る先はもうあるのだ」
流れる抜刀。刀身に浮かぶ刃紋の麗しさ。
それらは死する直前まで再会を待ち続けた、とある老婆の恋情を知るが故に。
死を経て、なお巡り、出逢う事を願う魂の深さを知るが故に。
愛しき、哀しき、ああ、かなしき。
刃が詠う。血風を散らして、清き月風を舞わすかのように。
見えざる斬撃が、真田の芯を捉えて斬り伏せる。
盾だと倫太郎が果たした以上、夜彦もまた刃として。
誓いし想いの重さの分だけ、硬く、強く、そして鋭く。
如何なる者も此れを崩せず、また、覆せない。
「荒れた時代では再び逢う事さえ叶わぬ思いがある。泰平の世だから出逢えるものがある。……ただ先に行く、想いを連れて。それだけではありませんか」
連れ往く想いを、友を、愛しさを。
相容れぬから、戦うのかもしれないとる
愛しき、哀しき、ああ、かなしき、と。
刃は詠い、竜胆の簪は月に色を涙のように滲ませ。
「それでも誇りを、矜持を、色を変じさせず、抱いていけたんなら、よぉ……それが幸せ、だろうが」
真実、誓った祈りが叶ったとしても、
それが正しくない方法で、穢されたと知れば、向けられた相手はどう思う。
判らぬ。知らぬ。今更だと。
そして、刃と盾の誓いを、倫太郎と夜彦は破らず、穢さぬ故に。
真田の槍は盾たる身に防がれ、刃たる者に斬られた事実のみが此処にある。
――真田の信義、今や何処に。
ざわめくように、紅葉が漣を成す。
かつての同胞が、迎えに来たかのように。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
鞍馬・景正
貴公は見果てぬ夢を語られる。
しかしそれを共にせぬ者には所詮悪夢でしかないのだ。
花散らす嵐にならんとするなら、当方はそれを払うのみ。
◆
引き続き剣豪殿を背に、敵将に名乗りを。
将軍家旗本、鞍馬景正――まさか避けて通るとは言いますまい。
二刀のまま、【天狗飛斬・八艘超え】にて迎え撃ちましょう。
敵の攻めは【怪力】にて得物を打って弾き、或いは鎧の装甲へと滑らせて防御を。
加速され肉眼も思考も置き去りされようが、【第六感】を頼りに食らい付く。
やがて、羅刹の力を受ける手足に疲れや痺れを蓄積させ、攻勢が秋毫とでも滞ったと感じれば、好機として跳躍。
そのまま全霊の兜割りにて、その面差しの傷を十文字にして進ぜる。
月は朧に。星は清らかに。
夜天の高さに限りなどなし。
それこそ、夢想を描くには相応しき藍色の屛風が如く。
「貴公は見果てぬ夢を語られる」
今の真田神十朗に告げられる事は、確かにあるのだ。
鞍馬・景正(言ヲ成ス・f02972)の声は、するりと夜気を切って真田へと届いた。
地では紅葉と血と、刃がかくも赤き曼珠沙華ばかりを咲かせるというのに。
空に浮かぶ理想か、地を伝いて駆ける矜持か。
どちらが美しい花かと、問われて応えることはできずとも。
「しかしそれを共にせぬ者には所詮悪夢でしかないのだ」
「夢に正しいも悪いもあるまい。悪鬼には悪夢こそ求める夢。そして、かつては同胞たちも見た夢。今、孤影を浮かべど、独りの夢とは言わせぬぞ。天や世を覆せば、かつての同胞もその姿を浮かべるだろう」
ああ、剣士の夢とはかくも果敢なき刃なのだろうか。
何処までも直向き。言葉にて覆るような薄さや軽さがない。
元より武の夢の根本。
それは天下無双の剣を求める。
最強の、誰より、お前より強い。
叶わぬ事がないのだと白刃にて試し、命を賭す。
武の根幹がそこならばこそ。
世に映るすべてを刃で試さねばならぬ。
そして、認められぬのならば、天も世も覆そう。
だって、この夢と魂は強いのだから。浅き夢として、叶わぬ絵空事を描いているのではない。
叶わぬ筈がないと信じて振るえば、全てを断つが刃の理。
疑念など、刃に浮かぶ錆でしかないのだ。
「が、世を覆せば今に咲く花は皆散りましょうぞ」
「そう。かつてに戻るのではなく、散らせる事になれど」
この妖刀、振るうしかないのだと真田は視線を向ける。
それは戦乱の世を駆け抜けた剣であり、成る程と頷くものもある。
あるが――ああ、そうだと頷くならば鞍馬は武士ではない。
ここは戦場。刃の上に立つが如く、真っ直ぐに脚を踏みだし、土を蹴る鞍馬。言葉を交わしながら、けれど、死線の上に立ち続けている。
「花散らす嵐にならんとするなら、当方はそれを払うのみ」
「言葉はなんと無常か。己が信念を散らすか、他を散らすかを、夢より短い間にて定めよとは……無為がかつての傷に染み入る」
「が、そこで覆るならば、我等のような者、おりますまい」
「徳川の世も、な」
言わずともがな。
見果てぬ夢を追い求めて。
永遠の平和、泰平の世など、これもまた夢話。
されど、それを叶えて背負う事こそ、志なれば。
一陣の風は、僅かに浮かぶ情を流すかのように。
ざわざわと紅葉が漣描いた後、凪いだ世界にて二人の武士が相対する。
「将軍家旗本、鞍馬景正――まさか避けて通るとは言いますまい」
「無論。かの鞍馬が天狗、薄緑の武の流れを汲むならば、相手に不足なし。世の花のみならず、鋼を散らす嵐として真田神十朗。推して参る」
共に構えるは二刀。
十字槍と妖刀という二種を操るが真田。
羅刹の怪力にて、荒波が如き威を誇る太刀と異様なる脇差を操る鞍馬。
初手は槍の長さを持つ真田だ。神速、音を斬って全て十字槍の穂先。応じるは鬼包丁。
穂先を打って弾き、響く刃金の音色。
それこそが真の合図とばかりに、二人の剣速が跳ね上がる。
鞍馬の手の甲に竜胆紋が浮かべば、先の剣戟の音を追い越す勢いにて翻る身体。槍の間合いでは届かぬと踏み込むその鋭さ。
ならばそこから繰り出される濤景一文字の切っ先は尋常ならざる域にある。
受け損ねた真田の妖刀を押しながらまま進み、刃が甲冑に切り込む程。真田をして弾くも、流すも叶わぬ技量と怪力。
「鞍馬と羅刹が、連綿と紡ぎし剣か」
そのまま圧し斬る、を止めて跳ね退く鞍馬。その瞑色の髪が一房、流れて散ったのは神速をもって放たれた十字槍の刃が掠めたが為。
弾かれた穂先が、地に衝突した勢いを乗せて跳ね上がってきたのだ。鞍馬にしてみれば、己が羅刹の怪力をそのまま転じさせせれての返し技。
「貴公、あえて弾かせたか」
「剣も夢と同じよ。正しいも悪いもない」
正面より斬り伏せるを善しとする正剣こそ鞍馬が遣う剣。
対して真田は戦乱を生き抜いた血濡れのそれだ。凶剣と呼ぶには研ぎ澄まされ、騙し打つというには技が冴え過ぎている。
が、鎧ごと一刀を刻んだのも確か。
臆する事なく真っ正面より踏み込む鞍馬に、真田の十字槍と妖刀が斬撃を繰り出す。
怪力をもって弾く動きに迷いはなく、先ほどの返し技を恐れてなどいない。初手から合わせられたからといえ、自らの武と剣を捨てることなど有り得ないのだ。
むしろ、それを凌いでみせた。ならば、二度と己には通じまい。
自負と矜持の貪欲なる鬩ぎ合いこそ剣気の芯。
真田の踏み込みが浅いとみるや、刀を用いず藍染の仏二枚胴鎧の装甲に滑らせて妖刀の切っ先を受け止める。
自らが甲冑への信頼。自らが眼。そして斬撃の威力を逃す体捌き。
いずれかが欠ければ、飛び散るのは火花ではなく鮮血だった。
「九天震動して乾坤倒覆す――」
そして、真田の一閃が防がれたからこそ、故に鞍馬の返す刃は全力で。
さらに間合い踏み込み、交刃の更に奥へ。滑らせて振るうは鬼包丁。
純然たる鋭刃ではなく、肉を斬りて骨砕くかのような斬威。真田もまた鎧で受けて刃こそ止めるが、響き渡る衝撃までは殺せない。
真田の苦鳴。しかし、それを置き去りにさらに加速する赤い戦鬼。
このままでは終われないと。
「花散らす嵐ならばこそ、その竜胆も散らしてみせよう」
いいや、これからが本領だと。
神速の十文字。連続する高速の刃閃は燃える星の如く煌めき続ける。
真田の攻撃に一度捉えられれば、抜け出せない。
自らでは途中では止まれぬ姿は、それこそ戦に取り憑かれた鬼の剣。ましてや、振るう武具が左右で違うという異質さ。
剣の間合、槍の間合と違う上に、槍の石突が、柄が嵐の猛威となって打ち据える。
手数自体も恐ろしい高速で廻るが、振るう技の数も多才。
眼で捉えられず、直感に頼るしかない場で、初見に属する武技が混ざる驚異。
剣気が迫りて命に触れるひやりとした感触。
肌を刃が撫で斬った熱くひりつく痛み。
それらが鞍馬の芯に触れる。死を孕む切っ先は、まるで氷刀のようであるからこそ。
「いや」
それでこそ、剣士の血が滾るのだ。
死線で斬り結ぶ中、滾るは羅刹の血筋か、それとも武芸者の魂か。
夢見るか酒に酔ったのか。もしくは、どちらとも違うのか。高揚は果てず駆け抜け、手繰る剣は止まらない。
竜胆色の眸では捉えられぬ真田の斬光の乱舞。けれど、その先を見据えて、なお真っ正面から食らい付いて離れぬ鞍馬。
つんざく轟音さえ置き去りにした、二人の剣舞。
音速を超え、周囲の木々を剣風で斬り裂き、紅葉の赤を打ち払って。
中心で竜胆色の羅刹と、深紅の戦鬼が未だに斬り結んでいる。
この二人でなければ切り合う流れは判らない。
刃を通してしか伝わらぬ、灼き付く魂に似た感触。
それが見出した隙など、この二人にしか判らない。
生か死か。生きるか死ぬか。
互いに命を晒し合った、この二人にしか。
「真田が武、確かにこの眼に焼き付けた」
衰えたのは秋毫。真田の攻勢は止まっておらず、音速を超えた切っ先は今もなお翻り続けている。
だが、それを切り払い、或いは切り付ける鞍馬の剛力。それらがもたらす衝撃は痺れとなり、真田の刃に曇りを見せている。
それこそ、交わしているから判る僅かな差。
滞るなど、この刃の元で過ごした者でしか判らない。
「――我が血脈、祖の奥義を見よ」
それは八艘跳びの如き空への跳躍。
前後左右ならば判る。だが、予兆無しの上空への跳びに、真田が瞠目する。
二種の武具。槍と刀という異なる間合いと、攻撃手を織りなした武。それを身一つで越えるなど。
「私が恨むべき……いや、讃えるべきは、北条の政子殿が慈愛か……!」
それはかつて。もしかすれば。
ひとつの恋慕を認めたが故に、続きし血脈と技が、今世の鬼を斬るならば。
「受け継ぎ、継承して、育んだ世界の強さこそが貴公を討つのだ」
鞍馬が繰り出せしは全霊を込めた二刀の兜割り。
消耗あれど、それらを見せぬ鞍馬のここぞの冴え。
それは祖より繋がりし義の威烈。
面差しの傷をなぞるが如く、十字に刃が進む。
頭蓋は斬れ、或いは砕けたか。
噴き出す血潮で何も見えぬ二人。咄嗟に間合いを取り、掌で顔を覆う真田を鞍馬は見る。
「花散らす嵐たらんとするならば、今もなお、新たなる技として育つ種を狩り取らんとする所業」
それは剣豪の夢。
理想を摘み取らんとする事に他ならない。
思い出したように息が乱れ、鼓動が暴れる。それでも静かに、鞍馬は告げるのだ。
「それは武人として進もうとする、我等の初心と一歩をも脅かす悪夢。それは、同じ武人として理解して頂けぬか」
正しき夢はなくとも。
悪しき夢と断じるものはなくとも。
剣を握り、剣に託し、武芸と成す夢は同じく胸に抱いていた筈なのだと。
「それぞ、六文銭では足りぬ渡し賃。乱を鎮める誇りとはなりますまいか」
かつての同胞達も。
先達も。
かくして、剣を磨き上げた筈なのだから。
せめて死に際は、晴れやかに。
――吉野山 峰の白雪 ふみわけて
そう詠う事で、憤激を買うともあろう。
――入りにし人の 跡ぞ恋しき
それでも、それでも。
夢は美しく、後の世の者に託すべきなのだから。
いずれ、この場にも白雪は降りそそごう。
その風花、打ち払う嵐は不要。
そして、雪に残った足跡を恋しきと、追う者など最早ないように。
鞍馬は剣を一閃する。
それはかつて。もしかして。
今に繋がる、歌物語となるかもしれず。
大成功
🔵🔵🔵
トリテレイア・ゼロナイン
(剣豪へ)
城攻めのご経験は?
場所は宙なれど拠点攻めには覚えがあります
往きましょう
…共に駆けるのに名を知らぬとは不作法でした
私の名はトリテレイア
無辜の民助く御伽の騎士なる存在たらんとするモノです
矢は銃器で剣で撃ち(打ち)落とし
落石や融けた鉛は怪力大盾で弾き防ぎ
剣豪かばい負担を和らげ
振るう大盾を破城槌代わりに城崩し
揺れはご容赦を
空を跳べるなら話は別ですが…
(将と相対)
その勝利への一念
戦機として、騎士として理解はすれども…私が奉ずる『道』には受け入れ難し
…果てて頂きます
剣盾で槍刀を防ぎ、捌き接近戦
…上へ!
剣豪の跳躍と同時、大盾殴打し床破壊
脚を獲られた真田を格納銃器だまし討ちで武器落とし
彼の一刀に繋げ
紅葉が丘に立つは城郭。
それは世を統べた筈の徳川勢を苦しめ抜いた出城の姿。
かつて伝説、伝承をそのままに。
けれど、もはや守る兵はえらず、将だけとなった砦と塹壕。
再現されたそれは、空虚ながら、火を内部に溜め込んでいるような。
「御仁、城攻めのご経験は?」
この世界、この国の城とは思えないと。
トリテレイア・ゼロナイン(紛い物の機械騎士・f04141)は近くの剣豪へと語りかける。
何しろ。
「ああ、ある。『これ』を攻め落とそうとした」
「……私も場所は宙なれどあります」
似ているのだ。宇宙で築かれた要塞に。
何処までも徹底したリアリズム。士道の精神を曲げても、勝利を得ようとした乱戦の末。
隠しきれない血と、硝煙の匂いをトリテレイアは、データとして受け止めて。
「往きましょう。これは、この世にあってはならないものです」
「……そうさな。この出城ひとつに、軍ひとつが縫い付けられぬなど笑えぬ過去よ。道理をはき違えたとさえいえる」
魔城と呼ばれた安土城とはまた違う。
攻め入ったものを殺す為の戦の塊だ。ある種、トリテレイアに似ているとさえ感じてしまう。
故に踏み進めるのに恐れと違和感はなく、機械馬にトリテレイアと剣豪が乗る。
本来ならば騎馬は攻城戦に不向きだが、これは常ならぬ敵と味方。
駆け抜ける際、塹壕のひとつひとつ、近づかずに駆け抜けていく。迎撃がない事のほうが不安を煽るが、見える城壁には自動式の火矢。
「……共に駆けるのに名を知らぬとは不作法でした」
「それをいうなら私もだ。重成だ。覚えてくれればこれまた嬉しい、異国が者よ」
いいえ、と首を振るうトリテレイア。
「私の名はトリテレイア」
それは名に重きを置くからではない。
重成にとっては剣豪という称号が最早無意味であるように。
「無辜の民助く、御伽の騎士なる存在たらんとするモノです」
御伽の騎士たろうとする姿こそ、己なのだとトリテレイアは告げる。
剣にて龍を斬り伏せんとするものが、称号に誉れを持つように。もっとも重要な所は、無辜の民を助ける騎士であるということ。
それが御伽であれ。
「合い判った。ならば、私も泰平の世で剣を教えながら、共に戦った鋼の騎士の御伽を子供達に語ろうか」
それがせめてもの例だと駆け抜ける機械の騎馬の上で交わされた直後。
鳴り響くは銅鑼の音色。それも後方、塹壕よりと驚く暇もない。
「間合いに入れば即座に知らせての火矢ですか」
降り注ぐ火矢は五月雨の様だ。
格納されていた銃器で撃ち落とそうとしていくが、駆け抜けながらでは全ては不可能。剣を、盾をと振るって剣豪、重成を庇っていく。
身に着弾すれば、星間の超熱と絶対零度を誇るトリテレイアの装甲を確かに穿つ何か。本物の鏃と炎ではなく、呪詛か何か。
だが、真に判断すべきなのはそこではない。
「考え、迷い、判断に戸惑えば……それこそ迷路たる本望と」
相手の狙いは迷わせる事だとトリテレイアは即座に見抜く。
如何なる罠、仕掛けがあろとも、これは踏破できるもの。出口が用意されてしまっているもの。ならば通り過ぎようとする最中、どれだけ削り殺せるかという事になる。
「なんと徹底した殺し技か」
「間違っても塹壕に逃げ込むなよ、トリテレイア殿。爆薬があり、毒の不意打ちあり、騙し討ちあり」
「高潔を以て成らんとする侍の姿からは程遠い……なんという様か」
「それが長く続いた戦乱の世の果てが産んだものだ。御伽としても残す訳にはいかない、災禍だ」
トリテレイアがセンサーをはたからせれば落石、大筒の仕掛けとてある。溶解させた鉛とて浴びせてくるのだと、何処から手に入れた知識なのか、防衛に組み込まれているからこそ。
「ならば、私達は、直進するのみ。この世は、この歩みは間違っていないのだと、示して見せましょう!」
気炎を吐くトリテレイアだが、その実は、己とこの城の主、真田は目的こそ違っていても、遣う手段は似ているのではという想いからだ。
徹底して使えるものは何をしても。
それでいて志や誇り、武勇に重きを置いている。
血と鉄の二律背反めいているのは、それこそ、戦乱の産んだ果てだからか。
戦の権化とは己だけではなく、様々な世界にあるのか。
判らない。判らないからこそ、止まってはならないのだ。
「揺れはどうかご容赦を。空を飛べるのならばまた別ですが……」
そのまま直進すればあるのは城壁だ。騎馬を拒む杭を銃撃を集中して粉砕し、城壁へと突貫する。
最短経路は直進。言うまでも無く真実であり、それを阻むのが城壁という常だが、それを粉砕して進むからこその戦機の騎士だ。
大きさが違えば、規模も違う。
風車に挑む騎士の御伽話もあるが、そんな笑い話の幻想を現実の戦に持ち込むのがトリテレイア。
「用いる全てを、ええ。そこに異論はありません」
全力で振るうのは身の丈ほどの大盾。
重く、硬く、扱うものによっては鈍重でしかないそれを、片腕で振り回し、騎馬の勢いを乗せて城壁へと激突させる。
最早、ただの質量攻撃。
が、それ程に恐ろしいものはない。
極論、流れ落ちた星の一撃を防げる城壁などありはしないのだ。
穿たれた城壁。舞い散る粉塵と、瓦礫の数々。
「ひとつ」
ならばふたつと。
直向きなまでに直進し、破城槌として振るわれる大盾。
みっつ、よっつと先は数えてなどいない。猛進する暴威として、城壁を穿って進む姿。
途中で幾つかの仕掛けがあろうとも、怯まず、止まらず、衰えない。
「まさしく、戦の申し子だな」
だからこそ――辿り着いた中心、ある意味出口といえる陣で、真田は口にしたのだ。
粉塵に塗れ、火矢や大筒を受けて削れた装甲。
武器としても振るった盾など罅入り、今にも砕け散る寸前。
けれど、後ろに乗せた重成に傷一つついていない。真田へと迫る姿、いまた猛進するのみ。
「その勝利への一念」
口にした瞬間、仕掛けが発動して火を噴く大筒。巨大な鉛玉を腕そのもので打ち払い、鋼鉄が軋む音と、苦い笑みを噛み殺しながら。
それこそ、開幕の口上にさえ一撃の挨拶を入れようなど。
「戦機として、騎士として理解はすれども……私が奉ずる『道』には受け入れ難し」
「城壁に穴を開けて雪崩れ込む騎兵が、この程度の横やりで口を閉ざすとは思っていない」
いきなり騙し討たれても、平然としているだろうと。
此処に来るまで、上杉の憑装相手を含めて、トリテレイアの姿を真田は見ているからこその対応だとしても。
「ならばこそ、そう。……御伽として語られる世の平穏の為、果てて頂きます」
最早、元の純白と紫の色彩を喪ったトリテレイアの装甲。
されど、誇りは色褪せず、曇らずにあるのだと緑のセンサーアイが瞬く。
騎馬で突き進む先、迎え撃つは真田神十朗。
その槍、妖刀の驚異は語るまでもない。
「まずは馬から下りて貰おうか」
言葉は地面を這って翻る穂先と共に。
三日月を描き、騎馬の胴を切り払った一閃。足下に滑り込まれ、駆け抜け様にされたのだと気づくのに一瞬遅れるトリテレイア。
「ならば……重成殿」
剣豪たる男を抱えて着地。
そして何かを囁くや否や、剣と盾を掲げて再び突貫する。
真田の頬が、ぴくりと動くのをトリテレイアは見逃さない。
「これは、確かに厄介な」
「先の一閃、私達ではなく馬にした事。……いえ、馬しか狙えなかった事、見逃す訳がないでしょう」
身の丈ほどある大盾と、ひたすらに頑丈さと強度を高めた儀礼剣。
共に十字槍、妖刀で攻めれば、刃が欠け、切れ味鈍り、サムライエンパイアの誇る武芸の冴えは曇る。
「だが、削って壊せない訳ではない」
故に連続するの十字槍での連続刺突。数秒で十や二十どころではなく、百に迫るような穂先が繰り出される。
元より罅割れた大盾。更に亀裂が走り、小さな欠片が散っていく。
それでも身を覆い尽くす程のものだ。大盾を怖さなければ、真田はトリテレイアを狙えないという事でもあり。
「どうしました。勝利への執着、この程度ですか……!」
乱れ咲く刺突の乱舞。全て受け止めながら、その衝撃を意に介さぬと戦機の怪力で前進する。
盾が壊れるのが先か。
それとも、トリテレイアが接近しきるのが先か。
――などと、真っ当な騎士ならば信じて挑むのでしょうね。
「私の勝利への一念は、彼の一刀へと繋ぐ事――此処で勝利を得るは彼です」
上より跳躍する剣豪、重成。
流れる水のような太刀筋は、上段より円弧を描きる
「私の名を、彼の名を、聞いてもいない貴方は、私どころか彼を従えるに相応しくありません」
これだけは断言できると、トリテレイアが告げた瞬間。
地上に疾走、そして跳躍。二重の力に、戦機の騎士が紡いだ瞬間を捉えた切っ先が、地上にて月を残す。
「との事だ、真田殿。私も貴方の元で剣を振るうはご免被る」
重成は鮮血のついた切っ先を振るって、血糊を払い。
斬撃でよろめいた真田を、トリテレイアが剛剣で薙ぎ払う。
「……彼は重成。平穏を善しと詠われる、剣豪で」
いずれ。彼が道場でも持てば。
鋼の戦機であり、御伽の騎士と共に。
真田の戦鬼を討ち取ったと、弟子に話すような。
「無辜の民を導く剣が、真田、貴方を討つ。
そこにあるのは剣と血、鉄と硝煙ではなく、微笑みなのだと。
大成功
🔵🔵🔵
一駒・丈一
この男の考えは、嘗ての上司に似ている。
善悪、正邪…これらは戦の最中、刃の前では意味を成さない。
斬るか斬られるか。それしか無い
それを識る貴殿に敬意を評し、全力でお相手しよう
刃を交え、敵の綻びを見出すに至るまで刃にて【受け流す】
綻びを見出せば、相手の太刀筋に合わせ【ジャストガード】にて弾きを試み、
そして、【持たざる者の埋み火】にて一撃を見舞う。代償は、21歳の頃の半年の記憶。
一つ。嘗ての上司と貴殿の考えで、唯一異なる点がある
貴殿は今を生きる剣豪に、己の志を強いてるに過ぎない。
志は、強いるのではなく受け入れ束ねるのが将の務め。
そして、志は未来を紡ぐもの。貴殿の在り様とは相反する。故に、ここまでだ
幾度、その身に刃が突き立てられか。
斬られ、貫かれ、鎧の間から血の塊を落としてなお。
奮い立つ姿は、そう、時代が時代ならば戦の英雄。
ただ全てを倒し、斃していった己とは違う。
目標を忘れず、忠義を立て、進み往く姿は戦乱の申し子に相応しい。
真田神十朗。
その名を、忘れぬように書き留めよう。
この幽すかなる思考が、例え、忘れてしまっても。
ひとつの書に纏めてておこう。真偽の程が掠れて消えてしまっても。
追憶として残るのならば、無意味な筈などない。
身体、記憶、感情、魂さえも。
全て戦いでふる武の源泉として、新しい刃を紡ぐ為に投げ捨てるものだからこそ。
「俺はお前の名を忘れない。お前の姿を忘れない」
一駒・丈一(金眼の・f01005)は金色の瞳で、真田を見つて告げるのだ。
瞬間、薫ったのは何かの香水めいた言葉。
それ自体が、腐乱した果実めいた匂いを秘めるような。
――忘却こそ、罪咎。
忘れるという甘い罪と逃避――
ああ、今のは誰かが言ったことかもしれない。
誰かは、忘れてしまったけれど。
「少なくとも、真田・神十朗。お前の刃を識る姿は忘れない」
この男は、一駒の嘗ての上司に似ている。
善悪の判断、正邪の基準。
これらは揺れ動く天秤に乗せられたものであり、戦の前では意味を成さない。
斬るか、斬られるか。
二つに一つで、悔いや恨みなど、残った側しか抱けない。
つまり、勝利して生き残る事。
そうしなければ、全てが水泡へと帰すのだ。
如何に因果が巡り、罪咎が如何ように顕れようと、それを成して下す断罪の刃がなければ意味はない。
強く、ただ強く。
生き抜いて、勝ち抜いて、己が信念で進む。
「それを識る貴殿に敬意を表して、全力でお相手しよう」
諸手で介錯刀を構える一駒。
だが、その刃が僅かに震える。
まるで同類をその瞳に映したように。
鬼が泪を零すように、その刀身が月明かりを滲ませるのだ。
見れば、真田の携える妖刀も振るえている。感じるは悲痛なる叫びであり、同時に、狂わんばかりの忠義。
「それも介錯に使われた刀か」
「かの鬼半蔵が介錯に用いた村正と言えば名は通るか」
これ程に徳川の世を怨んだ刀はあるまいと。
捧げるが如く持つ刃の本質。神速を叶える昏い祈り。
「泰平の世にと、礎に捨てられた者達の嘆き。まだ、戦乱の最中ならばと潔く散れたものたちの」
はらはらと。
舞い落ちる紅葉は、鬼の血涙。
徳川の所業は百鬼を読んでしかるべきもの。
罪咎を受け、断罪を代行する一駒だからこそ深く感じる、怨嗟の鼓動。
百年、二百年。或いは途方も無い時間を経て、これは蘇る。
だが、それは今ではないのだ。
だからこそ、真っ直ぐに一駒は返すのだ。
「なら、この場が誠の戦場となり、此処で散れば本望か」
「少なくとも、この妖刀はそうだろう。私は、それほどに潔いものではない」
僅かに真田が笑う気配が、夜に流れる。
――斬るか、斬られるか。
己を刃と定める二人の男が、白刃に身を晒す――
神速と奔る十字槍。
刃を交えようにも、まずこの速度に反応できなければ終わるのだ。
翻る斬閃は死神の鎌に他ならず、一駒をして視認不能な軌跡だ。
が、見えなければ触れられぬ、という道理はない。
澄んだ刃金の音色を響かせる二振り。それも撃ち成らせば一度や二度では止まらない。
「見えなければ触れられないのならば、想いを受け取ることもまた不可能」
故に一駒が読むのは技の起こり。
真田の呼吸、死線、体捌きに起伏する感情と、それに合わせて流れる剣気。
勿論、実と虚があり、読み違えて騙された瞬間に一駒の首と胴は泣き別れるだろう。白刃の上を歩くとはまさにこの事で、僅かな乱れが死に繋がる。
「が、それもまた何時もの事だ。言っただろう、全力でお相手しようと」
神速の十字斬を受け流し、火花を散らせながら横手へと滑る一駒。
交差する刃は涙を散らすように火花を躍らせ、互いの刀身を削りあって、命をこそ斬ろうとする。
「では、見切るに至ったか?」
「それはこれからだ。真田、貴殿こそ、こちらの剣を理解したか。未だ、この魂に切っ先は触れていないぞ」
僅かな綻びを見つけようとするのは両者。
守り抜いた先に光を得ようと流れる一駒の介錯刀は絶え間なく空間を泳ぎ、鎬を用いて受け流す。
が、絶対の堅守というものは存在しない。ついに一駒の肌に、肉に、刃が届いて裂傷を刻む。
ざざぁっと、漣の如く流れる紅葉に混じる血の赤さ。
だが、そこで動じることがないからこその断罪の代行者。攻めるが為に踏み込む真田の姿に、ついに綻びを見出す。
それは糸よりなお細い、僅かな揺らぎ。槍の刺突に続く袈裟斬りの太刀筋を読み切り、その刀身を斬り伏せるが如く、弾き飛ばす。
剣の極意のひとつ。後の先より相手の太刀筋を斬り伏せるものがある。
打ち落とし。或いは、転と呼ばれるそれ。
それこそ受けた側は山風の吹き下ろしを身に受けたが如く。
徳川の指南役に選ばれた新陰流の柳生こそ遣い手の代表。徳川を怨む妖刀の一閃を崩すにはこれ以上ない技と云えるだろう。
「だが、この程度で……!」
「完全に崩れないからこそ、真田の名なのだろう」
全力といった。全霊でこそ一駒は相手するのだ。
本来ならば腰が砕けてその場で躓き、転んでも可笑しくない弾きと返し。
踏みとどまり、なお攻め続けようとする真田の武もまた賞賛されてしかるべきだ。
例え、それが血濡れの中で磨かれたものであれ。
「一つ。嘗ての上司と貴殿の考えで、唯一異なる点がある」
それは見逃せないものがたから、秘中の秘たる斬撃に言ノ葉を添えて告げるのだ。
「今を生きる剣豪に、己の志を強いているに過ぎない」
それでは誇りある剣の輝きは消え失せる。
残るは鬼の涙の如き妖刀だけ。数百年続く怨嗟であれ、それだけで人の魂は動かせない。
「志は、付いているのではなく受け入れ、束ねるが将の務め」
かつて一駒が戦場で共にした上司はそうであった。
そこが違うから、決して相容れないのだと。
朧になるは一駒の記憶。過去を棄て、未来を切り拓くが為に。
持たざる者は、己の悉くを棄て、刃に乗せて繰り出すのだ。
より、持たざる事になっても。
この一太刀が成り立てば、それで構わない。
放たれた一駒の剣閃。
月よりなお冴え冴えと美しく。
周囲の紅葉の赤を散らして、真実の色彩を顕わにする。
それは真田へと断罪の刃が触れた真実。
それは鮮血など、闇夜の色だという現実。
鮮やかで綺麗だなんて、何も識らぬものが詠う泡に過ぎない。
これを求めるより、笑顔の景色を求めるのが人だ。まだ忘却されていない記憶、何処かの世界の、素敵な景色はありありと一駒の脳裏に。
連れて行ってと求められる、美しい光景。
願いて、祈り、求められる先は、朧な月灯りと記憶でも、決して、決して、色褪せぬ何かを宿す。
零れる血は何処まで美化しても所詮は血なのだと、一駒は流血で濡れた柄を握り絞める。
真田の胴へと深く刻まれた刀身は、介錯という慈悲には届かず、命を奪う深さに至らず。
それでも、過去の戦乱の闇を斬り祓い、未来の光を紡ぐ刃となっている。
「そして、志は未来を紡ぐもの」
何を代償にしたのか、一駒は忘れてしまった。
忘却とはそういうこと。より深く、絡み付くが如く罪となる。
忘れてしまうから何度でもやってしまう。喪失の痛みが伴わないから、果敢にてその光の刃を振るうのだ。
その果てに。続く者がいると信じるから。
自分の生で終わりではない、一駒は信じ抜いているから。
――麻酔のように、麻薬のように甘い罪。
光(ミライ)を見据えているから、忘却(ヤミ)を受け入れる――
「貴殿の在り方とは相反する。故に、ここまでだ」
真田の身体より抜き払う介錯刀。翻して真田の首を落とさんとする中、再び激突する妖刀。
血を唇が零し、なお、衰えぬ真田の眼光。
「相容れぬからこそ、故に、未だだ」
それは、一駒が語る志が紡ぐ未来、光を求めているかのように。
喪失してしまった、将が率いる志と勢いを、取り戻そうとするかのように。
喪われたものへの憧憬が、秋の夜で浮かび上がる。
大成功
🔵🔵🔵
西院鬼・織久
我等に如何なる信念も志も不要
我等が為すべきはただ一つ
死合いを以て狩るべき敵を狩り、互いの血肉を喰らうのみ
【行動】POW
五感と第六感+野生の勘を働かせ敵行動を予測
先制攻撃+ダッシュ+串刺し、UCを流し込み傷口を抉り怨念の炎(呪詛+焼却+生命吸収)の継続ダメージを付与し目印に
敵攻撃は体術と残像+フェイントで回避、または武器で受け流し死角に回り込みカウンター+なぎ払い
傷は各種耐性+精神系技能で無視、動きを止めない
常に自身の間合いを保ち敵UCの予兆をなぎ払いで阻止
敵UCが阻止できない場合UCで城郭を焼いて脆くすると同時に目印の怨念の炎を追跡
鎧砕きの要領で城塞を破壊、破壊できずとも炎を辿り最短距離で走破
血を吐き、骨を折り。
何故止まらぬのだと、奔るからこそより傷を深める。
道理としては判る。感情と魂が認められないのだ。
狂ったか。
ああ、相違ない。
鬼と相成ったか。
そも、今が人であるかも定かではない。
今はただ、赤い双眸が、互いの裡にある狂気と怨念を探り寄せるばかり。
「そうだ。我等には如何なる信念も志も不要」
暗器に怨念の焔を宿して立つは西院鬼・織久(西院鬼一門・f10350)。
終われぬだろう。終点などそもないだろう。
そうやって走り始めた以上、怨念こそが全て。雪だるまのように増えていくそれ。狂気を伴って加速していく激流。
海鳴りのような音が、絶えず鼓動より。
「我等が為すべきはただ一つ」
今更、光を得よう。救われよう。
そんなの遅すぎる。
「死合いを以て狩るべき敵を狩り、互いの血肉を喰らうのみ」
殺意と狂気にて、爛々と燃ゆる織久の瞳は鬼火に似て。
血濡れて笑う真田の姿が、未だ人のそれだと思えるほど。
「互いの血肉、魂さえ喰らって――その先へ往けるならば」
嫌は無い。背負ったもの、泰平の世、今に咲き誇らんとするものたち。
それらを全て、今は投げ捨てて。
ただの武と凶。怨嗟の闇を曝け出そう。
「今はただの鬼と化そうぞ」
地面を叩く石突き。響く音は城郭の再構築。
だが、それは織久から距離を取る為ではない。
真田がもっとも戦いやすい空間の構築だ。
天守閣の様を見せるはかつての真田の城ではあるまい。が、並ぶ銃器に火槍。すり減った畳は、幾度となく鍛錬した名残か。
「知らぬ。我等には記憶も情景も不要」
織久の五感と直感、そして戦い抜いた野生の生存本能が告げるのは、此処は真田がもっとも武を振るいやすい場所だということ。
流れる空気。立ち並ぶ武具や障害物。利用しやすい地形であり、戦うにあたって絶対的な利点がある。無論、騙し討ちの罠も言うに及ばないからこそ。
「死合い。それのみ」
呟くや否や、黒き疾風と化して真田に迫る織久。
闇焔と銘うたれた大鎌に宿る怨念の炎は、呪詛と生命の焼却が為に燃え上がる。触れれば、如何なる命であれ、灰となるまで燃やしさんと揺らめく姿は邪妖の如く。
『我等が怨念尽きる事なし』
怨念が尽きせぬ焔だというのであれば。
全ての命、怨念を抱いてしまうものがある限り、燃え広がって止まらぬ。
先制して駆け抜け、翻した鎌先にて串刺しにせんと奔る織久の大鎌。
その赤い瞳に、僅かな脈動が宿ったのは真田の反応だ。
「尽きせぬ怨憎は、徳川の世の続く限り……と、理解もするが故に」
自ら鎌の振るわれる先に立つ。
その上で振るう十字槍と妖刀、諸手の武器。守りなど棄てた捨て身の一撃で、互いの血肉が斬り飛ばされ、弾け飛び、灼けて散る。
「お前の怨念の炎。この身に宿してみよう。その上で、勝つ。何、死合いだ。臆して下がるなど、真田が名が許さぬ」
戦略としても怨念の炎を身に受けた真田が、迷宮の如き城郭に引きこもっても不利。消せぬ炎に身を焼かれるならば、なお激しき闘争へ。
それは一種の合理的に見えて。
その状況を、暗器の一閃を受けたのは狂気に他ならない。
「ああ。言い換えようか。……真っ向からでなくば、死合いと呼べぬ、だろう?」
「我等にそのような定義はない」
織久による無音の体術は、影が滑るかのよう。
加え、虚を織り交ぜ、残像を纏って己が芯と次なる行動を読ませない。真っ正面からという誇りと、凶戦士のスタンスは異なるものなのだから。
「ならば、斬りて刻んでやろう」
畳を穂先にかけて翻し、盾か壁の如く並ばせる真田。
視界を奪われ、左右のどちらかにしか道のない織久。後ろに下がるというのは元より頭になく、前に出るのは真田の理想だと瞬間で判断するから。
ならば死角へ。長物である十字槍を持つ方へと滑ろうとした瞬間、待ち構えていたのは妖刀による一閃だ。
瞬時に左右の武器を持ち替え、間合いと死角を変え、織久の動きを読んで殺しにかかる。戦乱を生き抜いた武士故の直感と戦略。
僅かに織久の狂気にも似るそれ。
「我等は告げた筈ただ。互い
血肉を貪るのみ」
避けられぬと見るや織久が取るのはカウンター。
懐に滑らせたのは超極細の糸。
夜砥との名をつけられた、無念の死を遂げた者の髪と血を擦り上げ、新しい怨念を吊して引き摺るが為の暗器。
腕に束ねるように纏わせ、迫る妖刀を迎え撃つ。
真田が振るうは徳川の世を憎みし鬼の刀か。宿す怨念と憎悪が鬩ぎ合い、織久の腕の半ばまで妖刀が食い込む。が、骨に至らなければ、激痛も呪詛も凶戦士の前ではかすり傷と等しい。
むしろ逆。妖刀を降った直後の隙に滑り込み、真田の脇腹を断つ闇焔の刃。更に燃え広がる怨念の焔。
だが命に届いていない。ならば、まだ終わらぬ。
暗器を翻し、間合いを取る織久。左右に滑ることで的を絞らせず、一方で踏み込めば切っ先届く距離を維持することで真田の脳裏に待避の選択を
浮かばせない。
いいや、踏み込めば織久へと刃を届かせられるのだと。
怨み、憎み、敵意抱かせ続ける。
怨嗟の扱いで明らかに織久は真田に勝っているのだ。
故に、敵意もって挑みかかる事を、攻め掛かる事を辞められないし、辞めさせない。
「どうした、我等の怨念の情、このようなものか」
「激しく燃える狂気があれば、静かに潜む憎悪もあるだろう」
「然り。然り。渦巻く姿、あらゆる影の如し」
怨念は千変万転。その姿、有様を保ちはしない。
ただ今は、織久と真田の間で、防御を棄ておいた攻撃と反撃の応酬が繰り返されるだけ。
揺れる黒と赤の炎の如く。
憎め、呪え、無念と無常を怨念とせよと。
終わりし果て。どうしても、如何様にしても尽きぬそれこそが。
織久の喰らう糧となるのだから。
どう転ぼうとも。
これほどの狂気、無念、無常と憎悪。
――我等が怨念、尽きる事なし。
かつて在りし、城郭の上で躍るは闇と炎。
決して、決して、消えることはない。
命の全てが果てたとしても。
大成功
🔵🔵🔵
冥門・残士郎
歴史に名を轟かす古強者…それもエンパイア一の兵と評された男
まさしく稀血…!…だが、こうもまだ誇りを香らす人だとはねぇ。刃は鈍らずとも少し驚きだ
多数を相手取る技の数々…いくさ人らしいねェ…だがだからこそ見てみたい。人一人を殺しきる業を
【阿修羅相】にて神速の十字斬―重成さんを狙う攻撃も含めて―を武器で受け続け、技の終いに体勢を崩させカウンターの一太刀を〈力溜め、重量攻撃〉で浴びせかける
あんたも喜んで人を斬るような性の人じゃないんだろう。だがね
いくさはならぬ。民草まで死合に関わらせるなど罷り通らぬ、御免被る
故にあんたを斬る
…手前に都合の良い相手に会えるほど、事はままならないもんだね
歴史に名を轟かす古強者。
真田とはその名。戦乱の世をひた走った六文銭。
確かに徳川の将軍の三代目となり、それは古き、と名の付く程の過去になったということ。
だが、日の本に一の兵と評された男に錆も曇りもありはしない。
その武は、忠義は、死してなお志を遂げんと猛る魂は。
「まさしく、今においての希血……!」
笑みに近く、けれど、斬意の滲む表情。
冥門・残士郎(人斬り義侠・f21843)にとっては最高に類するだろう賛辞を送りつつ、ひらり、すらりと袖を揺らして真田神十朗へと歩み寄る。
少なくとも互いの間合いへと入る前。
あと一歩で、交差する互いの刃を幻視しながら。
「……だが、こうもまだ誇りを香らす人だとはねぇ」
「意外だったか。が、誇りを掲げねば人は続かぬもの。或いは、先達から受け取ったものこそ、香るのかもしれないが」
「刃は鈍らずとも少し驚きだ。いや、だが同時に納得した。人から頂き、譲り受け、受け継いだものならば、誇らしいものだねぇ」
残士朗の笑みは、どうしても刃物の鋭さを思い浮かべさせるが。
触れ合う寸前までは語らうのだ。
だって、斬り捨てた骸からは何も聞けはしない。
その前に何故、聞かなかったのだと、骸の前で後悔したくない。
己が勝利を疑わない訳ではないが、如何なる場と相手であれ、信じ抜いている事。それが残士朗と真田の共通点と言えるのだろう。
「そして、今や血のみならず、その剣の技も希たるもの」
ひっそりと、滲む戦意を隠そうともしない残士朗。
今や泰平の世。ならば一騎討ちに特化するのが剣術の発展と言えるだろう。少なくとも技は受け継がれ、薫るが如く見事に花咲き、新たな色艶を帯びていく。
それが人斬のものであれ、活人のものであれ。
「だから、今や枯れた多数を相手取る、戦乱の世の技。みたいねぇ」
その人斬りの黒い眼に、その鮮やかさを見せてくれよと。
「いくさ人らしいねぇ。見たくて仕方ないねぇ」
だからこそ、よりなおと。
千の槍を斬り崩す剣先が、ただひとりの剣士に向けばどうなる。
それこそ時を超えた幻想。夢物語。
「真田、あんたが人一人殺しきる業をこそ、見たいんだよ」
判ってくれるかい。
血煙の中で佇む心地よさを。
愛しくて、愛しくて、より振るう切っ先を研ぎ澄ましたくなる。憧憬で鼓動が早まるのは夢見る童のよう。
いいや、その頃から何も変わっては無い。
そうだ。百年たっても、二百年たっても。
「例え千年前の剣でも根っこは同じだねぇ。あんたの剣を、俺の剣で斬り殺せるか。逆はどうか。剣士は寝ても覚めても、そればかりを忘れられずにいる」
「否定はしないさ。ああ、肯定さえしてしまう。世を覆す程の剣、ならば、徳川の威光に従うもの全てを斬れる剣でなければ、貫く槍でなければと」
一人か、国か。
違いはあれど、同じこと。
ただ残士朗の願いはひとつ。今は、国に向ける刃の全て、俺ひとりに向けてくれはしないかと。
「重ねて願うよ。狙いは剣豪、そちらの重成さんでも、今は、今この瞬間は、さ」
「つまり――日の本一の兵の剣を、捌ききり、凌ぎ、越えたいのだと」
「歴史という時代さえ越えた、夢を見せて欲しいんだよ」
応えを待たず、構えを取る残士朗。
剣士に此処まで言わせて、褒めさせて、それで何もなしなんてあんまりだろうねと。
剛靭の著しさが語るのか、相反する謂われを持つ流星刀を構えるのだ。 ずしりと掌に馴染む段平刀の重さ。
血煙咲かせた、その白刃に眼を細めて。
『この身は阿修羅……』
からん、と鳴り響く下駄の音。
それに続けて祈る先は剣神か、はたまた、黄泉に眠る狂神へか。
定かな事などひとつもない。
『災禍受け止める身なれば……』
この身、この刃で試させねば、何事も判らぬが武士。
それほど愚直に走るのが、いくさ人というのだから。
「六文銭、腹にでもいれていると見た」
故に狂い咲く神速の十字斬。
まずは槍の穂先。続けて踏み込んでの妖刀。一陣の刃風と化した真田の武を眼で捉えたのは、残士朗をしてその一瞬のみ。
後には吹き止まぬ血風。嵐が来たる音に、血肉を斬る鋼の音。
噛み合う刀身。欠ける刃。刃筋の鋭さが描く軌跡さえ見えないからこそ、呼吸さえ棄てて――残士朗は真田の刃へと躍り出る。
それはさながら、剣技を身をもって貪るように。
血煙吹かせるは、今や残士朗だというのに。
何が見えている。見えやしない。が、斬られたのなら、その筋に太刀があり、槍があった。
ならば夢描いて、かく滑った切っ先と夢想するのみ。
それで十分。
ズタボロに、それこそ腕など石榴の如く血肉を晒しながら、なお天瑠璃の刀を構える。
「これで十分。見聞き、覚えましたよ、真田の刃」
続けて聞こえるは、澄んだ鋼の音。刃金が噛み合い、互いに衝撃で弾き飛んだ音色だ。
災禍受ける身といった。故に、その通りに。
が、阿修羅ともいった。故にこそ、身を刻む一方だった真田の十字槍を、妖刀を、閃く殺人の剣が迎え撃つ。
新たな血煙が上がることはない。
真田へと奮いて立ち向かう残士朗が、斬刃が結びあう光を散らすだけ。
「あんたも喜んで人を斬るような性の人じゃないだろう」
それは身に刻まれた太刀筋が物語る。
今や斬り結び、受け、弾いて退けようとする残士朗の剣が、共に告げる。
地獄の閻魔の前で、共に証言してもいい。
これは嘘偽りない、刃の本音。
「だがね。だが、いくさはならぬ。民草にまで死合に関わらせなど罷り通らぬ。根を断つなど罷り通らぬ。声に聞こえる三日三晩、血で染まった滝壺の噺、あんたも聞こえていただろう」
それは徳川が世の手前。
関白となろうとした天下人が起こした、戦の惨劇。
あれはならぬ。
道理として通らぬ鬼の所業。
それが刃があるから、武があるからと通るなど。
「故に、あんたを斬る」
舞踊の如く、技には終いがある。
それは残心であり、次へと繋げる為の一拍の休息。
絶え間ない斬と刺。されど、放つ身体は生きている。呼吸があり、鼓動があり、故に永遠などありはしない。
「永久のいくさなんざ、ありはしない。何処かで踏ん切りつけて、平和に過ごさなければならぬ」
それは真田からすれば否と叫ぶ事だろう。
だからここに立つ。剣を振るう。ああ、最もで、結局は剣と武の理の裡にいる。相容れぬから、斬って先に。
未来へと繋ぐのだと。
渾身を込めた最上段、天より降り注ぐ禍ツ星が如く、天瑠璃を振り下ろす残士朗。
「徳川が世が、民草に最良と謂うか」
交差した十字槍と妖刀で受けるも、剣の気勢に圧されて鎧ごと圧し斬られる真田。
赤い破片、赤い血。
どうしてまだ立っていられるのか。戦える筈もない身体でなおと。
残士朗をして凝視させる戦の鬼、真田神十朗。
身ごと刀を引き抜く残士朗。退くではなく、むしろ、再度交える為に。
決着の寸前、声を、言葉を知りたくて。
後になって、ああ、と悔やみたくは無いから。
この世は一期一会。人斬りでもそれは変わらない。
なら、先の叫び。応えを真田も知りたいだろう。六文銭を持てど、心残りはあるに決まっているのだから。
「今、民は笑っているよ。愛しく、愛しく、比べようもない程に。衆の笑み、かつての戦乱の世に咲かなかった花と、俺は思うね」
「つまりは」
「最良なんて知らぬ、存ざぬ。最強、天下無双の剣を決めるようなもんだ。……だから応えるならさ」
じり、と互いに間合いを詰める。
もう一度、決着をつけようと。
「今、民草が笑って、幸せを受けているんだ。最良ではなく、今の幸福を、覆して奪い、散らして燃やすなんざ、誰に許されるんだい」
「ああ」
それが今、この夜に瞬く残士朗という男の誇りたる光なのかと。
真田が赤い瞳で見るから。
――斬られねば終わらないんだね、あんた
魂をこそ断たねば、戦の禍根は終わらぬのだと。
剣先を向ける残士朗が、真田の間合いへと踏み込む。
吹き荒れる剣風。鋼の嵐は、確かに。
幸せに今を生きる民が、触れえるものではなく、触れるものではないのだ。
大成功
🔵🔵🔵
鷲生・嵯泉
譲れぬものの為に引けぬ、か
其れは此方も同じ事――過去の残滓なぞに未来は渡せん
あれは先刻の連中よりも格段に手練れ
そして此れが戦なれば何より「将」を討たれる訳には行かん
討たれぬ事が其の役割と果たして貰いたい
――伐斬鎧征、血符にて為さん
積んだ知識、一極集中した勘、五感で得る情報、総て重ね
捉えるのは動きの起点、其の向きを見極め見切り
致命、或いは動きの阻害となるものは武器受けにて躱し
些少の傷は耐性と覚悟で捻じ伏せ前へ出る
手数で圧すのならば、只一刀を以って抗し――其の首、貰い受ける
止まれぬと云うなら止めてやろう
今はもう嘗て流れた血を戒めとし、泰平を良しとする世界
戦いを求めるものの居場所など、既に無いのだ
譲れぬものの為に、引けはせぬ。
先に進む為ならば命と六文銭、投げ打ったとしても。
それこそ、真田という男もまた。
総てを喪ったのだろうから。
そこから邁進するは悪鬼のようでありながら、武人としてかくあるべきとも云える。
「だが、其れは此方も同じこと」
夜の裡を滑るは秋水の切っ先。
これ担う一身、護るべきの為。
一閃の裡にて露掃い、迷妄もたらす悉くを鋭く断つ。
あらゆる災禍断ち切る為だけにあると知らしめる刃が、ゆらりと真田へと向けられる。
「――過去の残滓なぞに未来は渡せん」
「過去の残滓というか。……鋭刃、かくあれかしというような男だ」
惜しいと口にする真田は血濡れ。
鎧は斬り砕かれ、穿ち抜かれ、血を零しながらもなお進む。
「戦乱は過去だろう。国を焼く火を、再度灯して何となる。ましてや、魂を従えるなど、剣に生きるものへの侮辱に他ならない」
故に相容れぬ。
過去に総てを喪いても、今を進み生きる鷲生と。
総てを喪いし過去をやりなおそうと、他を巻き込む真田。
肩を並べることなどありはせず、刀光剣影の場でしか共に在れはしない。
一種の不倶戴天だと、共に直感を以て理解する。
「実に惜しい。共に戦うならば、徳川の首も取れたろうに。いいや、取れるだろうに。……悔やみ、悔やみ、このままではと謂うからこそ、私は過去の残滓なぞ、か」
「当然を今に理解したか。それとも」
理解しながら進みし折れぬ刃だったか。
死んでも志半ばではと、朽ちぬ芯だったか。
鷲生が石榴めいた赤い隻眼の視線をつい、と流せば、そこにいるのは居合の剣豪。苦い顔をするのは、戦乱の裡を知る身だからこそか。
「故に、剣豪殿。理解して頂きたい。先ほどの連中よりも格段に手慣れ、そして、此れが戦ならば何より『将』を討たれる訳には行かん」
徳川の本陣まで迫ったという真田の猛撃。
語られる武勇として、日の元一の兵とされる一片なれば。
「合い判った。ならば、この重成の命、刀、総て貴殿に預けよう」
それは鷲生の剣の腕、赤き瞳に宿る志。
何より、真田との相性を見て、納得しているのだ。戦場を端であれ知っていれば、手の届かぬ後方に下がりすぎる事もないだろう。
だから、後は鷲生と真田の一騎討ち。
対峙し、交わす刃。届かせる切っ先が全てを分ける。
「ならば鋭刀の如き御仁。赤き隻眼の剣豪殿」
十字槍と妖刀を携え、深手を負いながらも進み出る真田に翳りも衰えもありはしない。
むしろ、より研ぎ澄まれているだろう。
死線を潜れば潜るほど。死により近づけば、近づく程。この真田の武は、その領域を深めていく。
「未来を渡せん、とは、私達が未来を掴む未来もありうると識るとの事か」
「敗北を前提に生き、戦いはしない。可能性として、そして、負けられぬ理由として挙げるだけだ」
「ならば――悉く灰燼と化し、空へ地へと散れぬ私たちの志」
過去の残滓など、と謂われれば確かに。
否定はしない。むしろ肯定して、成る程と真田は頷く。
「――未来を掴めば、悉くをまた得られる。半ばで果てた若者に、勝利の花を。その故郷に錦をあげられるのだ」
二人の剣気で軋む空間。
風が止んで、夜が凪いだのは偶然か、はたまた、必然か。
どちらを選ぶかは、勝者が決める。
「が、それは仮の話。そして、奪いし後の枕語だ。話にならん」
そも、此処で、言葉を幾ら交わしても。
どちらかが退いて、身を翻すなどありはしないのだから。
全ては、狙い定める刹那の起点のみ。
此処までの言葉は共に誘導。
合間の呼吸を掴み、視線を取り、筋肉の硬直と弛緩を読む。
詰んだ知識。一極の点へと集中した勘。更には五感で得る情報、全て重ねて。
つまりは今までの剣士としての生き様、総てを用いて。
それほどに負けられぬのかと、己が胸の裡で呟く鷲生。
成る程、剣士とは、武士とは、退けぬと決まればなんと不器用で、ただ進むしか出来ない身と魂か。
過去に暮れてやるものなどない。
未来へと歩き、進むものこそ全て。
でなくば――共に進む者達の想い、志、信念を軽んじることになる。
彼ら、彼女らの魂の色艶。真に素晴らしきは、それだと、胸を張って誇れるから。
今、鷲生を取り巻く総ての色彩が、剣士の眸が映す世界に重なる。
「――伐斬鎧征、血符にて為さん」
それは何時、起こったのかさえ不明。
鷲生の黒符が血を吸い上げて燃え盛り、あらゆるユーベルコードを粉砕する氣を行使する状態へと変化させる。
構えられていた秋水は、ただ真っ直ぐに斬り棄てるべく奔しっていた。
何処に。それは、踏み込んできていた真田の身に。
技の起こり、踏み込みの前兆。悉くを読まれ、一刀を以て斬られる額当て。致命こそ防いだが、弾ける血飛沫は傷の深さを語っている。
そして神速を紡ぐ技――それは、硝子の如く儚く夜に散っていた。
完全なる後の先を取っての一閃。術をも斬り伏せて霧散させているのだ。
その寸前、それこそ紙一重で鷲生の首筋と胸板に朱線が奔れど、覚悟をもって踏み出した一歩で捻り伏せている。
命に届かぬ剣に意味はない・
この結果が偶然か、必然か。それは二つとも同じ意味を持つのか。
定められるのは、常に、勝者のみ。
「故にこそ、此処で潔い敗者になれはしない」
故に、残るはただの武術。真田に残れた剣と槍を手繰る技が、敗残を認めぬ炎と化して吼えるのだ。
龍の牙の如き十字槍。
此処まで高めるのに、如何なる地を歩いたか。
放たれる妖刀の斬撃、猛虎の爪に似る。
極めた上で、更なる威をと果て無き武人。
「その名残。残滓。止まれぬというのなら、止めてやろう」
所詮、真田の真実は骸の海より蘇りし過去の残滓。
どう取り繕い、誇りと志を見せても――過去の昏き穴に落ちた者に過ぎぬのだから。
翻る秋水、手繰る鷲生の眼に曇りはない。
一刀を以て連続する刺突の合間を斬り伏せて槍を弾き飛ばし、切っ先を返す事もなく当て身で妖刀を振るう腕を封じる。
真田が身につけた竜虎の技。共に斬りて屠るのみ。
「今はもう嘗て流れた血を戒めとし、泰平を良しとする世界」
真田が戦っていた間は、今より酷かったのかもしれない。
初代の徳川将軍に黒い噂は絶えない。呪詛に渦巻かれ、けれど、それを背負ってみせた男なのだと聞くだけだ。
今は、もういない。
そんな血と憎しみの世で戦い抜くものなど。
「戦いを求めるものの居場所など、既に無いのだ」
「ならば、虚空を踏みて進もう。この鼓動は、動いている」
弾き合う二人。
真田の懐へと流水の如く踏み込み、凜然たる秋水の刃を振り抜く鷲生。
「そう、ないのだ。……夢の如く、幻のように。過去を振り返って、在ったのだと、心で感じる名残しか。その名残さえ、吹いて散るべきなのだ」
判らぬか。
それとも、真実を刻まれた魂が断末魔をあげているのか。
「雪が溶ければ春を告げる音になろう。桜散りて翠葉薫れば、夏風の涼を思いだそう」
するりと流れたのは、鷲生にとっていつか、何処かの光景。
いいや、この国に生きるならば、見て、聞いて、肌で感じた四季の美しさ。
「過去は惜しむ。されど、其れを噛み締めて進む。……統べては時と共に進みて、消えるのだ。それを美しいと感じたこと、お前は覚えているのか」
陽だまりだとか。
轡を並べた仲間の好んだ酒だとか。
四季の移ろいと共に、触れたこと。それらは戦の最中では、決して味わえぬ匂いなのだから。
沈黙は、鮮血が流れ落ちる音に邪魔されて。
「真田、お前と俺の違いを、決して相容れない理由を言葉で教えてやろう」
そうしなければ、物分かりの悪い武士は、決して認めないからこそ。
「胸郭に、喪われた時より空いた穴は塞がらん。幻に幾度となく激痛を覚えて、夜に瞼を開くのみ。だが――それが、愛しさなのだ」
愛しき幻。
如何様にあれど、愛しく、尊きもの。
「それを認めぬ限り、真田、お前は俺に勝てん。どのようになれど、所詮、過去の残滓が侭だ」
故に散れよ。露と消えて掃われよ。
お前が、お前の受け継いだ志が、同胞の勇と義と共に消えたとしても。
この泰平の世において、素晴らしきそれらが消え失せる事はない。
故に、心残りなく逝け。
今や新しい想いが彩り続けるのみ。
語る言葉の最後を、鷲生は刀に託して。
仰ぎ見た夜空に浮かぶ星の数だけ、世界は未来を宿していた。
大成功
🔵🔵🔵
鍋島・小百合子
SPD重視
戦をせんがために黄泉より舞い降りたか…真田の子倅め
今すぐ那由他の果てまで送り返そうぞ
「肥前が女武者鍋島小百合子!人馬一体となりて貴様を討つ!いざ参る!」
UC「鎧装馬騎乗」発動
召喚された鎧軍馬に騎乗し、わらわの薙刀の技と併せ真田の子倅に攻め入る
人馬一体で残像を纏い敵に切り込みをかけてはなぎ払いと咄嗟の一撃、そして馬の速力を活かした一撃離脱を意識(鎧砕き、乱れ撃ち、破魔併用)
剣戟を交えながら真田の子倅の太刀筋を戦闘知識として頭に入れ、防御・回避の際に役立たせてもらう
敵の大技がくれば直撃をこの身に与えぬよう先の戦闘知識を参考に回避を意識、間に合わない場合は薙刀の武器受け防御で可能な限り捌く
黄泉とは何処か。
三途の河が先で、安らかに眠れるか。
それとも鬼と争い、今を見て、まだまだと心を奮わせるのか。
行ったことのある者しか判らない。
天国地獄、極楽浄土。相応しき最果てなど、きっとありはしないのだから。
だからこそ、この世の流れを決められるは、今を生きる者のみ。
「戦をせんがために黄泉より舞い降りたか……真田の子倅め」
鍋島・小百合子(朱舞の女丈夫・f04799)は夜の如く色合いの瞳で見つめるは、赤い戦鬼となった真田神十朗。
「小倅とは、なんという物言いか」
「聞き分けがない分、悪童の方がより正しいか。……正しき義とは、泰平の世という水面を乱すものではない」
構えるは薙刀たる竜王御前。
しんっ、と静まりかえったその刀身のように。
「流れは、流れる侭に。今は正しき方へと進んでいる。逆らえば、留まり、淀むが水」
流れ続けなければ。
変わり続けなければ、世界はその美しさを色褪せさせていく。
「それでもなお、戦いを求めるならば、今すぐ那由他の果てまで送り返そうぞ」
「成せる者ならば、成して見せるが武者の心意気と存ずるが」
「はっ、言うわ小倅!」
旋回する竜王御前が風を切る。それこそが呪文であり、祈りであるかのように。
体現され、小百合子の元に呼び出されるは鎧軍馬。
向かいし敵の踏み潰せし蹄持つ勇猛なる戦馬にして、小百合子と命をひとつに結びし存在。
故に止まる事などありはしない。
自在に駆け抜けることこそ、小百合子が武芸。
「肥前が女武者鍋島小百合子! 人馬一体となりて貴様を討つ!」
「相見えるこれは真田が小倅、なれど、地獄では朽ちる事も出来ぬ真田・神十朗」
口上は武士の誉れ。
共に高らかに告げてこそ、悔いのない未来を得るからこそ。
「いざ尋常に」
「推して参る!」
攻め入るは騎馬の速力を持つ小百合子だ。
疾走すると共に放つ一閃。苛烈なる烈風と化して真田に迫る竜王御前だが、流れる妖刀がそれを弾き返す。
交差は一瞬。
響き渡る音色は幾度なく。
そして、舞い散るは赤。紅葉と鮮血が戦の風に巻かれる。
「ちっ、小倅め」
「馬ならば仕留めたと思ったが」
見れば小百合子の鎧軍馬の胴へと刻まれている刃の後。
溢れる血はすれ違う刹那に真田の十字槍が刻んだもの。並の馬ならば悶絶し、小百合子共々に倒れているだろう。
「ただの馬ではないか」
「そこらの駄馬と比べるでない。鍋島が義を受け継ぐ女武者たるわらわの鎧軍馬だ。この程度で止まりはせぬ」
かく告げる真田とて無傷ではない。
肩口より鎧ごと斬られた裂傷。溢れ出る血を意に介さず、ゆらりと流れる歩み。
一度で終わらぬなら、幾度でも。
鎧軍馬を翻し、再度駆け抜ける小百合子。
疾風のようにしなやかに。
厳かなる威をもって。
駆け抜けるは駿馬か、摩利支天の化身か。
それはまさに人馬一体。主の意を汲んで再現する馬の切り込みは、女武者の技そのもの。残像纏い、確かなる芯と間合いを計らせずに踏み込んでいく。
竜王御前の刃に宿すは破魔であり、妖刀の纏う怨念ごと斬り砕かんと振るわれる。
その場で槍を構え、騎馬を迎え撃つのならばそのまま踏み躙り、斬り砕かんとする武の猛進。例え数十人がかりでの槍衾を組まれても、小百合子の騎馬突撃は止まらない。
故に交わる剣戟。
散らす刀身の欠片。振るう度に情が滲んで伝わり、故に、その武威を増してきた互いの愛刀。
お前が身を削られるならばと。
後を追う血飛沫が、情念のもならば、なんとも麗しい歌だろうか。
が、此処にいるは矜持と義を持つ女武者。
「どうした、神速の槍と刀が泣いておるぞ」
斬り結びて即座に離脱。常に一撃離脱を気をつけながら、騎馬の利点、己が長所を刃として真田に押しつける。
つまりは騎兵の突破力。
真っ正面から挑めば、当然その蹄にて踏み砕かれる事となる。槍の間合いで待ち構えようと、鎧を纏った騎馬を、そしてその騎手を一瞬で屠るなど絵空事だ。
ならばとまず左右に避けるのが道理。つまりは後に回り、先を常に奪われる事となる。神速を誇る連続斬撃を持つ真田にしてみれば、これは厄介な状況。
とはいえ、戦乱の世に立った者。
「ああ、泣いている。斬れ、斬れ、斬れと。案ずるに及ばない。すぐにお前も知ることになる」
真田が鎧軍馬に何の対策も持たないのか。
そんな筈はなく、殺しの技を携えている――に相違ないと、小百合子として判っている。
故にそれが放たれるまで、真田の太刀筋を読む。
一撃離脱で斬撃を交わし、なぎ払ってその動きを探るのだ。
ひとつでも放たれた動きは、決して忘れない。どのような次へと繋がるかも。
風が吹いて紅葉がくるりと周り。
何処からか訪れた雲が、月の端を隠した。
「頃合いか。月も翳る」
「……ほう、わらわに示して見せるのではないか。月にさえ見せられぬ技とでも」
「見切れば判ること。どちらにせよ、次が結末だ」
ならば小百合子も多くは語るまい。
生命を共有するからこそ、鎧軍馬に刻まれた痛みはその身にも。
だが、その一切を表にすることなく、果敢に攻め込むは勇と信義を携えるから。
真っ向より斬り伏せて。
何度蘇ろうと、世は覆せぬと知らしめる為に。
「ゆくぞ、真田が小倅!」
やはり今回も攻め掛かるは小百合子。
だが、一拍遅れて真田も前へと躍り出る。
「鍋島が女武者殿。此れは如何に」
神速の名が、小百合子の前で絶叫をあげる。
それは名乗り。それは口上。後の先を取りて翻り続ける十字槍と妖刀。軍馬の速度を追い抜き、瞬きをする前に十、二十と鎧軍馬を斬り刻む。
噴き出す血潮。走る激痛。
馬に跨がる小百合子の脚を斬り落とそうと走った凶刃こそ薙刀で受けて凌ぐに至るが、繋がった鎧軍馬との生命はごっそりと削ぎ落とされている。
そして――それは未だに続こうとしているのだ。
擦れ違う最中、十に、二十に。技の起こり、今まで振るった太刀筋。それらから読んでなお、神速の斬閃の先と終わりが見えない。
ならば。
「跳べ!」
その場で跳躍する鎧軍馬。理由や意志の疎通がなくとも付き従う忠であり、それは人と人の間でのみではないのだと示す。
上空への退避。それは戦乱を駆けた真田をして、経験の浅いもの。
「小倅よ。貴様こそ、此れは如何か」
そして、跳躍しながらの下段。
地を擦りて、降り積もった紅葉を散らして走る竜王御前の切っ先。
武者にとっての下段は鬼門だ。攻め筋の乏しさはあれど、受ける側からすれば更に防ぐ術がない。
武は円を描くことを中心にすれば、地面を這って脚を狙う刃というものほど恐ろしいものはなく。
「大層に吼えるが、義のなんたるか。わらわに語るなど、笑止千万」
紅葉を巻き上げ、月へと向かう竜王御前の切っ先。
真田の太股に刻まれた深き一閃を、夜天に示してみせるように。
これにて真田の機動力はどうしても落ちるだろう。不撓不屈の意志と戦意を持てど、負傷は負傷。身体は身体なのだ。
――が、こちらの傷も酷いかの。
苦い言葉を、血の味と共に飲み込む小百合子。
無傷で勝利するを誉れとはしない。むしろ、戦傷を受ける程の強敵に打ち克ったという事を名誉とするが武士というものだ。
弱者を斬り捨てて、何を笑い、掲げる。
が、同時に傷と弱みなど見せて、何になるのだと。
「多様なる義はあれど、大義に勝るものはなし。それは、世の為成らんとする意志」
駆け抜け、距離を取りながら真田に告げる小百合子。
これは当然のこと。それを理解出来ぬから、三途の渡し賃を持ちながら、蘇ってしまうのだと。
「今の泰平の世を覆すは、その重き大義に反する。如何なる志あれど、それを破る者は武士にあらず」
今の世の有様を知らず、見ず、聞こえず。
己が理想だけを語るなど、ああ、何度でも言おう。
「所詮は小倅の侭よ、貴様など」
強き意志。鋼の忠義。烈士たる信念。
その何れも持ち合わせようと。
まず大前提たる義をはき違えたものに、天は微笑まないのだと。
月天へと、竜王御前が切っ先を掲げる。
小百合子の進む正道に訪れる勝利は近いのだと。
大成功
🔵🔵🔵
ニルズヘッグ・ニヴルヘイム
大義も忠義も死ねば無と同じこと
生きている者にしか明日を切り開く権利はないのさ
貴様の抱く信念は二度も挫かれるというわけだ
恨むなら、こちら側に甦らなかったその身を恨むんだな
少し下がっていてくれるか、御仁
呪詛と氷の障壁で威力を低減、蛇竜を黒槍と変え攻撃を受け流す
致命が避けられれば他は構わんとも
――現世失楽、【悪徳竜】
正道も鬼道もないと言ったな。私も同じ考えだ
貴様ら人間が定めたのであろう
歴史は勝者のものであると
まずはその目を削いでやろう
氷も呪詛も槍も、貴様が再び死ぬまで幾らでも叩き込んでやる
良いなァ、その執着
貴様が目的を強く念ずるほど、私の糧が増えるんだ
私はな
――人の想いを食い物にする、悪徳なのだよ
禍々しい光が、ぽつり、ぽつりと。
舞い散り、飛び散った血の跡を追うが如く。
これがお前の道。
幾度となく、巡り逝き、そして果てには辿り着けぬと知れと。
「大義も忠義も死ねば無と同じこと」
朗々と響くのはニルズヘッグ・ニヴルヘイム(竜吼・f01811)の声。
灰燼色の忌み子たる彼は、呪いの如き真実を言葉にしていく。
そう、何処までもこれは覆せない真実。
「生きている者にしか明日を切り開く権利はないのさ」
拭いがたき、死と敗北の経験。
奈落へと墜落したものが、どうして再び太陽の下で輝けるという。
違うというのなら、どうして、夜という時刻を選んで現れた。
「お前に朝日は似合わないだろう?」
凍てつく邪竜の性をこれでもかと見せるニルズヘッグ。
何しろ、これは死者なのだ。
幾ら取り繕ろい、呼吸をして、鼓動を鳴らせど。
死んだという過去は変わらない。
だから美談として語られるのだろう。
そのまま果てていれば、輝かしい武勇に包まれていただろうに。
「貴様の抱く信念は、二度も挫かれるというわけだ」
――さあ、絶望しろよ
悪徳の囁きを、言葉の裏に潜ませて。
恨むなら、こちら側に甦らなかったその身を恨むんだ。
運命をこそ呪えよ、貴様の魂の倫理を。
夜闇の裡、詠うように語るニルズヘッグの姿はまさに悪魔。
今まで如何なる言葉にも返じてきた真田をして、沈黙を選ぶ程。ただ、その姿を探し、禍々しい鬼火に囲まれた灰燼色の姿を睨むばかり。
「少し下がっていてくれるか、御仁」
膨れ上がる殺意。どうしようもない情動。
悲哀、悲嘆。狂わんばかりの憤激――ああ、どうして表に出さない!
「あれは、今は私を殺したがっているし」
傍らに控えていた黒い蛇竜を槍と変え、すらりと手に取り構える。
「私は、あれの怨念と情動を、喰らいたいのだよ」
灰燼の如き髪の奥、ニルズヘッグは金色の瞳は獣のような飢えを見せる。
「そうか。お前は――悪鬼か」
ぽつりと、零れた真田の声に。
続くのは神速の穂先と切っ先。
返答など求めていない。無言で、殺しきるのだと全身全霊の殺し技が初手より放たれる。
「いい、いい。その呪怨が、深いからこそ、決して身を結ばない徒花であることを教えてやる」
瞬間、紡がれるのは呪詛による氷の障壁だ。
幾重にも重ねられたそれは、自らのみならず迫る真田が迸らせたものを編み込んだもの。
殺意に駆られて突き進む者が、自らの呪詛にて阻まれる。それを悉く斬らねば、刃は何にも届かない。
ニルズヘッグの悪辣さであり、故に誰も抜け出せない牢獄といえ云えるだろう。
が、これはニルズヘッグ曰く、死者。
氷壁を砕き、己が情念のどす黒さに声を漏らしながらも、神速の十字槍と妖刀が振るわれる。
「おいおい、俺は純然な武人とかではないんだ。判るだろう?」
故に幾つもの深手を負い、鮮血を迸らせながら後ろへと飛び退くニルズヘッグ。障壁で威力と勢いを殺し、槍で急所を狙うもの受け流してこの有様。
が、己が傷、流す血より大事なものが、すぐそこにある。
元より致命さえ防げれば他は構わない。
必要なのは、真田が抱く心。情。想い。
「――現世失楽、【悪徳竜】」
冷気の霧が吹き荒れる。いいや、氷の障壁と同時に既に展開されていたのか。それに自ら踏み込み、己が憎悪を浴びせられたが故に、気づけなかった武人は、ぴたりとその動きを止めてしまう。
何故。如何して。
応えはなく、氷霧が嵐となって真田に襲いかかる。
「正道も鬼道もないと言ったな。私も同じ考えだ」
故に、先に合意はなされた。
鬼道の先に罠を仕掛けたのがニルズヘッグであり、そこに突っ込んだお前に非がある。だから、その代償を払えと求めるのは、邪龍の囁き。
「貴様ら人間が定めたのであろう。歴史は勝者のものであると」
過去を編纂し、どのような光を、どのような方向で照らすのか。
真田という名は、そういう意味であまりにも恵まれていただろうに。
「眼が見えないのだろう。ああ、貴様の思考と挙動は読めるよ」
まずは視界を奪うのがニルズヘッグの発動した術式だ。
故に、見えなくなった視界ではなく、聴覚でニルズヘッグを捉えようとした真田。
十字槍の穂先が神速の侭に伸びて、そして、ニルズヘッグの首のすぐ傍を通り過ぎる。
外したのだ。
狙い、定め、けれど、真田ほどのものが武士でも何でもないニルズヘッグへと。
嗤う声はダレカの喉の奥より。
続けて思考、挙動の隙を覚えていく氷霧。
絡み付くこの術式から逃れない限り、何も見えず、ただ隙を晒して溺れていくしかなく。
「まずはその目を削いでやろう」
黒龍の槍が一閃される。
ニルズヘッグの槍捌きも達人の域にある。が、それで真田の眼を狙って、穂先で捉えられるかといわれれば否だ。
本来ならば。
今は、ほら。
志を一瞬でも忘れた武士など、冥府に落ちる悪鬼に他ならないのだと。
「どうせ見えないのだから、どうなったかも判らないか。ただ、な」
幾度となく繰り返されるのは氷霧と呪詛、そして槍撃。
ぎりぎりの所でそれらを避け、かつ、反撃の糸口を探ろうとする真田は確かに武芸者としても凄まじい。
だが、だからどうした。
「氷も呪詛も槍も、貴様が再び死ぬまで幾らでも叩き込んでやる」
光を心に取り戻し、蝕む邪気と呪いを浄化出来れば――或いは、既に深手を負うニルズヘッグを押し返せるだろう。
勝利さえ、近しい筈なのだ。
だが、だが。
「良いなァ、その執着。徳川が世を怨むのは、ただ自らのみではあるまい」
邪龍の囁きが止まらない限り、どす黒い想いはあふれ出る。
氷霧が思考の隙として、憎悪の連鎖を感知するから、ニルズヘッグは心の柔らかい所へと、言葉の刃を、ゆっくりと突き刺すのだ。
「同胞か? 主君か? それとも憐れな姫君か? 悲運、非業、悲劇とは哀しいなァ」
ぎりりぃっ、と握られた妖刀が一閃。
この状態でニルズヘッグの二の腕を掠めたのは流石と云えるだろう。が、其処までだ。
「なんだ、共に生きた者たちを悲劇と片付けられるのは許せないか? 所詮、お前も死者だ。が、俺は生きている。歴史をどう綴り、語るかは、生きる俺のみの権利だ」
故にお前には何も発する言葉はないだろうと。
呪詛が真田の肉を食み、氷が血を蝕む。
膝を屈せば楽になるというのに、それでも闘志を燃やす姿。
熱があるから冷気はそれを奪う。
魂に輝きがあるからこそ、悪魔はそれを盗むのに。
「貴様が目的を強く念ずるほど、私の糧が増えるんだ」
許せぬ、負けられぬ。
邪念、殺意に溺れた刹那は確かに隙で、そこに付けいられた我が身は悔いれど。
必ずや、全てを擲ってでも勝つのだと。
「私はな」
言わずとも知れている。判っている。
これは氷獄の処刑。何をしても、自らの罪咎で、想いで、氷りて砕ける血肉のみ。
魂は、心は、情念は。
「――人の想いを食い物にする、悪徳なのだよ」
このニルズヘッグという悪徳の龍が、全てその貪り尽くすのだから。
最後の最後。想いだけ残ればいいなど。
全ては地上で織りなされるコンメディア・デッラルテ。
悲劇に過ぎて、喜劇的。仮面など使い回し。
「その、ような……こと。言い回しの一つ、許せぬからこそ……!」
走りて流れる妖刀。
十字槍の穂先も、もう少しでニルズヘッグに届くのに。
誇りを傷付けられ、同胞との思い出を踏み躙られて、憤激を清めることの出来ない真田は、ただニルズヘッグの悪徳の氷獄に囚われるだけ。
「いいや、頑張れ。もう少しだ。目的を強く抱いて、念じろ」
今度は殺意や憎悪、呪詛だけではなく。
最初に見せた、清らかな烈意、尽きせぬ戦意を貪りたいからこそ。
思い出せ。それを以て、この悪徳の氷獄より脱してみろと。
「ああ、一度、地獄より這い上がっているものな。出来ない訳ではあるまい?」
所詮これは死者。
亡者は、ニルズヘッグの掌で踊る、怨念と呪詛でしかないのだから。
大成功
🔵🔵🔵
アネット・レインフォール
▽零
俺にもかつて仲間がいた
共に冒険をし世界を救ったりもした
だが――もう会えない
(武器を固く握り)
故に本来の持ち主に返す事は叶わない。
寂しさはあるが
今も生きる俺が下を向いてはいられない
絆は今も、此処に在る
▼静
一度走り始めたら止まれない、か
…立場とはままならぬものだな?
真田と上杉の関係性は不明だが
無手で殴り合った縁もある
せめて彼の技を以って慈悲としようか
▼動
刀剣を念動力で操り足場にし
迷路は破壊・相殺しつつ空中を進む
【洸将剣】で軍神の毘沙門刀を再現
(必要なら装束など姿形も)
籠城もいいが竜巻や津波・火攻めは想定したか?
十二の刀の属性攻撃も併用し
黒白の刀を手に連続剣戟で応戦を
気が済むまで駄々に付き合おう
聳え立つは真田が城郭。
決して負けぬと、その意志にて再現されたものだ。
事実、徳川勢を追い詰めて苦しめた出城。戦乱の最後の証でもあるのだろう。
刀剣を念動力で操り、足場として城壁を越えるアネット・レインフォール(剣の異邦人・f01254)。
妨害を破壊、粉砕していくのは消耗だが、それも全て、真田の清算なのだろう。名残り香を払うように、刃を走らせ、打ち砕く。
僅かばかりの時。
けれど、ひとつひとつ、記憶の欠片が見えてしまう。
それは、これが真田の在りし日、という想像と記憶から作られているからか。
ただの迷路。消耗戦が為の。そう切って棄てるには余りにも。
「感傷といえば感傷。だが、それを感じられること大事だと思う」
故に、ついに降り立つ真田が前。
所詮、出口はひとつ。ならば、絶対に辿り着く先。
それはかならず決着をつけるという意味でもあるのだろう。
それは、残された者の哀しき余韻。
血さえもう落ちないのかと。
それでも、膝を屈する訳にはいかないのだと。
地を蹴る戦鬼、真田の姿は何処までも真っ直ぐに過ぎた。
「いいや、背負ったもののせいか」
アネットもまた、残された異邦の者だからこそ。
友がいて、戦友がいて。
冒険をし、戦い抜いて。
その最中にあったひとつ、ひとつが煌めく星のよう。
ふとした時に夜空を仰ぎ見て、点と点ほ繋ぎ、ひとつの記憶の姿を浮かばせる。
そんなものはもう幻だけれど。
世界を救った誇らしさより、友に生き抜いた事に、幸福と誇りを未だに感じるのだ。
けれど、もう――逢えない。
所詮、宙に浮かぶ星など幻影。
痛ましく、愛しい、追憶の光が滲んで重なっているだけ。
「……ああ。友を無為に出来ないな。罪深く、或いは、非業の。などと、他人にとやかく言わせるのは、我慢出来ないな」
武器を硬く握り絞めるアネット。
もう逢えないからこそ、元の持ち主に還す事も叶わない武器たち。
寂しさはある。悲しさは、それこそ漣のように迫って。
ざあざあと、紅葉が立てる音のように、空虚な心の間隙に響くのだ。
「だが、だが。今を生きる俺が、下を向いてはいられない」
如何に、浮かべるものが夢、幻であれ。
心に空いた痛みほど、確かに絆はないのだから。
――此処に、在る。
彼らとの繋がりをまだ感じている――
「それはお前もか、真田」
「……ああ。自らは哀しい定めに産まれたのではないと、懸命に生きる姫がいた。それを守り、育て、美しい世を望もうとした仲間がいた」
「彼らは、決して、勇士たらんとしようとしたのではないのだろうな。死んだものだけが英雄と呼ばれ、勇士とはそれと繋がるものだ」
「そう、生きようとした。そして、今もなお、この胸の中で彼らは生きている」
何を語っているのか。
何を告げようとしているのか。
定かではない中、ただ朧な痛みを共有する武人がふたり。
「一度走り始めたら止まれない、か……立場とはままならぬものだな?」
「だが、選んで掴み取った道だ。それが意と異なるものなど、云えぬよ」
ならば。
ここで相対し、雌雄を決するもまた、選びし道の先。
「なら、せめて彼の技を以って慈悲としようか」
「慈悲は不要だ、武人殿。何故なら」
渦巻く戦気。
築き上げられるは、かつての城。
共に戦いし盟友たちの息遣い残る、幻の城郭にて。
「――終わらぬ、からだ」
「強情だな。それなら彼との絆はどうかだ? 引導を渡すに値するか?」
アネットが繰り出したのは碌ノ型:模倣。
軍神たる上杉謙信が毘沙門刀。操る十二の刀を模倣して再現し、それぞれの属性を宿すものと至らしめる。
身体に纏う装束もまた同様。仏門、信仰に厚き彼が越後の龍として。
「籠城もいいが竜巻や津波に火攻めは想定したか?」
「無論。その程度で落ちる城ではない。私の武は、それに飲まれるものではない」
真田とアネットが同時に振るうは神速の剣。
故に瞬く剣閃乱舞。焔が爆ぜ、冷気が渦巻く、稲妻が地に走る。
それら悉く剣撃と共に。
アネットは闇と光の刃を交互に繰り出すが、真田の十字槍と妖刀が悉くを阻む。
いいや、弾いて圧し迫る真田の武。
「どうした、軍神たる武人殿」
前進止まらぬ真田を止めようと、樹木の一刀が地面に刺さり、大樹が盾となる。
大地の力をもって、頑丈なる岩壁を紡いで穂先を阻む刀身。
だが、それが罅割れていく。
真田の戦意に燃える赤い瞳の前で、次々と。
「真に迫る再現は凄まじく。が、武人殿は、果たして、軍神たる程の力の以上を持つのか?」
問われれば否。
アネットと上杉謙信の力量を比較すれば、後者が勝っているのは言うまでも無い。魔軍将の格は確かなものであり、一騎討ちであったならどう転ぶのかなど言うまでも無いもの。
ましてや、再現して振るうのならば、それを越えるものでなければならない。結果として、足りない所から砕けていく模造の刀がそこにある。
十二という多彩な属性でなければ。
それほどの数を一度に作らなければ。
或いは、此処まで明確な差にはならずとも。
「その心意気、心遣いには感謝する。だが、如何なる道と手段でね勝利に邁進するが、この身、真田の武勇なれば……!」
「ああ。その駄々に最後まで付き合ってやらなければ、お前は終われないのだろう」
ふたつの刀が砕け、四つが斬り捨てられる。
なお前へ、前へと駆け抜けるように刃を振るう真田が武威。
「戦乱は過ぎ去りしもの。浅き夢で見る酔いのようなものなれど」
熱に浮かされ、より猛る真田の槍と刀。
ああ、昔こうであれば。
確かに、軍神と呼ばれた上杉謙信と刃を交えるというのも、真田神十朗が憧れたもので、勝利できのならなんと至福か。
七つ、八つと散り散りになったアネットが模倣する刀。
未だ、ここにありと、真田が斬り伏せて躍り出る。かつて、徳川が本陣まで、その首級まで迫った姿のように。
劣勢にして敗北近く、けれど、それを覆すまであと一歩と迫ったその武勇のままに。
「あと、一歩」
そう、あと僅かで。
「徳川の世を断てたのだ。もう一度、その夢を追えるのならば、この身は血に塗れても進もうぞ!」
十の刀が硝子が粉砕される。アネットに残るは闇と光の二刀のみ。
「そうか。あと一歩、あと少し。喉笛まで迫り、けれど、届かなかった」
あらゆるモノ。あらゆる命。
仲間も主君も、同胞も、自らの命も使い潰して、なお、僅かに。
指の届かなかった夢だからこそ、焦がれるように追い求める。
「その無念。共に戦ってくれた仲間が送り出してくれたからこそ――逢えないのだな。果たせぬまま、その顔を見せる事はできない」
ならばと、此処で属性と念動力に裂いていた力を消す。
変わりに全意識と神経を注ぐのは、アネット本来の剣技。精密にして精緻。何処までも研ぎ澄まされた技の冴えにだ。
「絆は今もあるから」
「止まる事は出来ないのだ」
乱れ裂く剣撃の嵐。
切っ先が旋風を描いて、斬り裂いた血を花と散らす。
瞬く閃光は刃と、刀身が削れた欠片たち。元に戻るものは何もないのだと、凄絶に、そして清冽に、ふたつの武が真っ向より斬り結ぶ。
ユーベルコードという超常の技ではない。
両者の持つ武が極まっているからこそ、果てなど、終わりなどないのだと覚える程に。
だから。
そう、だから、終わりは夢が醒めるように唐突に。
アネットの携える光と闇の刀に亀裂が走って、終わりを告げるのだ。
瞬間、湖面のように凪いだ蒼い刀身が真田の身を一閃する。
「だが、思い浮かべたのは夢だろう。其処にあるのは幻だろう」
孤独に、独りで。
何も持たず、携えず、我が道を直進するだけでは。
「叶わないものがある。届かないものがある。……もう逢えないと判って、納得できずとも飲み込むしかないんだろう」
夢は果てて。
露と消えるのだから。
それは如何なる愛しい時も、大切な命も同じこと。
「出来るのなら、返したい。言葉を交わしたい。ああ、それが出来ないから止まれないのは判るが……」
全てのユーベルコードの業と力が消え去った後、アネットが握り絞めているのは聖女の姿が刻まれた覇剣。
両手で持つそれは感情と記憶の分だけ重たくて。
これを託されていたから、模倣の剣と力の全てを破られてなお、真田へと勝利出来たのだと。
数多の仲間の武器を振るうが為、身につけた武こそ、真田という戦鬼を斬ったのだ。
「駄々を言えば言うほど、仲間に申し訳が立たなくなるものだろう。今は、もう眠れ。何も果たせなくとも、お前の仲間達は、志は、怒りも悲しみもしない」
よくやったというだろう。
戦乱の中で、出来る限りをやったのだ。
夢に指が届きかけて、墜落したとして、だから何だ。
「責める者はいない。少なくとも、この平穏なる世の中で」
故に骸の海に戻れ。
お前は仲間に逢う事が出来るのだから。
大成功
🔵🔵🔵
黒鋼・ひらり
終われないのなら終らせてやるわよ、完膚なきまでにぶっ潰して
あんたは…あんたが『悪(それ)』である限り絶対に勝てない、私がさせない
城郭の迷宮…ホームに誘い込んでの戦闘、地味に厄介ね
これだけ入組んでたら飛び道具も制限される…少なくともさっきみたいに磁性体を派手にばら撒いて斉射…なんて芸当は難しいし何より地の利が向こうにある…間違いなく、奇襲強襲で来る
無論こっちだって黙って奇襲なんてさせない
感覚総動員…五感は勿論それ以上、私の磁気感知能力…文字通りの第六感って所ね…こいつで地磁気や生体磁気の乱れで位置を把握し奇襲に対応、武器転送でのガードや磁力反発で攻撃を凌ぎ…カウンターのUCを零距離で叩き込むわよ
もしも、ひとかけらでも残るからこそ。
終われず、燻り、戦へと駆り立てるのが魂だというのならば。
「終われないのなら終らせてやるわよ」
城郭の中、壁と障子に囲まれた空間で黒鋼・ひらり(鐵の彗星・f18062)は呟く。
「完膚なきまでにぶっ潰して」
真田は、真田が悪である以上、ひらりには勝てないのだ。
自ら悪を認めてどうする。悪行を企み、成して、世を覆し、再び成すのは悪の世界だというのだろうか。
ならばさせない。ひらりが正義を胸の奥に持つ限りは、絶対にさせはしないのだ。
「私が、させない」
口にして、周囲を見渡す。
狭い迷路のような有様。
暴れて戦うには狭すぎて、かといって広い所へと出ればどうだろう。
流れるに易きは危うい。戦い易い場にと向かえば、そこにあるのは罠だと直感的に感じている。
何かしら暴れれば自らの居場所を伝えるようなもの。
ぎりぎり刀と槍は振るえるが、それ以上のものは難しいというのもまた、なんて意地の悪い。
ここは真田のホーム。地の利は向こうにあり、かつ、全てが真田の為にあるのだ。
ならば、来るのはひとつ。
先の口上で欺すと告げていた以上、奇襲に強襲はまずあって当然。
騙された方が悪い。欺かれた者が劣っている。
戦の道理の常であり、敗者の異論など泣き言だ。
「でもね、判っていてされる程、私は愚かでも、無謀でも、蛮勇でもないのよ」
ましてや、それが悪の成す事ならば。
感覚を総動員するひらり。視覚、聴覚、嗅覚に何処かか吹き込む風が揺れて肌にあたる触覚まで。
何より、周囲へと放つ電磁波という自らの力を頼りに。
第六感というべきものだが、それを操るのはひらりの力と経験だ。
何より役に立ち、信頼できるとさえ云えるだろう。
「惑わされたりはしない」
僅かに笑ってみせるのは、この城郭の中にある磁力への反応だ。
命ある者は真田神十朗ただひとり。が、磁力に反応する鉄は数多。仕掛けとして容易されているものも多数。恐らくは爆薬の類いもそこらの壁に。
壊して回れば、それこそ藪蛇。自ら危険に身を晒すという事であり。
――近いわね
一方で、全ては動かない。
命あるのが真田だけならば、動いているのは彼という証拠。
では何処から。それが問題。上下に動き、左右に揺れて、機を伺っている。
――騙す側こそが、騙されないようにかしらね
張り詰める空気と緊張。
それは共に、互いを捉え合って、狙いあっていると気づいているからこそ。
さながら居合の勝負。どちらが動いて、制するのか。
その火蓋を切って落とすのは真田――何の前触れもなく、天井が崩れ落ちて、一枚の巨大な岩壁としてひらりの上から迫る。
「忍者屋敷って奴? でも生憎、悪が影でなす事に、私は怯んだりしないの」
瞬間、別空間より召喚されたのは無数の凶悪な武具に、頑丈な鉄板の盾。共に衝突しあい、弾き合い、粉塵散らして空間を埋め尽くす。
その中から奔るは十字槍の穂先。
取った、と身構えたひらりだが、告げる第六感――磁力の反応が危険を知らせる。
なぜならば、粉塵より飛び出したのは槍のみ。
「愛用の武器を投げるって、武士のやること?」
呆れ半分、驚愕半分。
されど、ひらりの身は前へ、槍の来た側へと跳躍している。
十字槍が身を掠めるが、深手には程遠い。
少なくとも、これは牽制。その場で受けさせ、動きを止めるものなのだから。
そんな悪の目論見に射貫かれはしないと、颯爽と翻るひらりの黒いチェスターコート。
赤い瞳はその奥、僅かに遅れて飛び出した真田を見据えている。
天井落としで反応させ、槍の投擲で虚を付き、反応した所を妖刀で切り裂く――真田の狙いはそれだ。
「お生憎様。あんたみたいな、悪の考えと動きはよく知っているの」
故に躊躇わずに跳ねて跳ぶひらり。十字槍の刃が身を掠め、更に自ら真田が構える妖刀の切っ先へと向かうが、恐れなどないから全力の速度。
「……お見事」
故に、真田をして止められない。
妖刀が身に届くより早く、ひらりの掌底が真田を撃つ。
「これで終わる訳ないでしょう? 終われないあんたには、特別に」
ひらりの右手で弾けるは紫電。
高磁力は視認できる光となって瞬く。
「何処までも、欠片も残さず、身ン中から、ぐっちゃぐちゃになって砕けなさいな!!」
放たれるは体内電流という命を乱す程の高磁力。
カウンターとして放たれたそれを、真田が受け逃す術はなく。
それはまさに天神の怒りたる落雷の威。
血肉を内部から弾けさせる程の衝撃が、真田を揺さぶり、城郭の奥へと弾き飛ばす。
がらがらと揺れる城は、ひらりの一撃で支柱のひとつでも崩れたのか。
「この城ごと、潰してあげるわ!」
追いつき、更に一撃を叩き込もうと駆け抜けるひらり。
悪を砕いて、倒す。
ただの意趣返しと嘯くには、余りにも強烈な光と意志を持って。
このような輝きこそ、これからの未来を紡ぐのだと、真田の眼に焼き付ける。
大成功
🔵🔵🔵
リクオウ・サナダ
10人の忠臣の魂を背負っているから……それは分かるよ。
同じカタチでは無いけれど、ボクも夢を見るから。
キミの魂は、オブリビオンになって、ボクの魂は猟兵になった、別の世界線に落ちた……ただそれだけかもしれないね。
だから、同じ得物でお相手するよ。
但し、ボクの村正はボクが手を加えているから、打ち負けないけどね!
今のボクは整備士であって剣豪では無いから、真田の技(UC)を使わせてもらうよ。
我が相棒、『十文字槍』よ!
古来の力とSSWの技術を今ここに!
偽りの真田の過去を現在のサナダの力を持って切り捨てる!
勝てば官軍……負ければ、仲間の犠牲も無意味になる。
キミにだけは……真田の者にはだけは、負けられないんだ!
それは、魂が流れて零れた先の違い。
ただ、それだけでしかないのかもしれない。
事実と真実。その全ては定かではない。
ただ、決めていく事は出来て、選びとることは出来る。
リクオウ・サナダ(すっとこどっこい宇宙船整備士・f05962)が見つめる先にいるのは、戦乱の世を生きた真田・神十朗。
「十人の忠臣の魂を背負っているから……それは分かるよ」
この世ではなく、星々の間を泳ぐ技の施された戦槍を構えて、静かに見つめるリクオウ。
それは、自分もまた背負っているのだから。
「同じカタチでは無いけれど、ボクも夢を見るから」
魂に灼き付いた景色を。どうしても、在りし日をなかった事には出来ないから。
「キミの魂は、オブリビオンになって、ボクの魂は猟兵になった、別の世界線に落ちた……ただそれだけかもしれないね」
ざわざわ、ざわざわと漣の如く揺れる紅葉。
その裡で。
「貴様は何を言っている?」
戦乱を生きた真田は、傷だらけの身体を押して、一歩踏み出す。
動く度に血が零れど、なんというのだと。
「十人の忠臣? 私が指揮し、死を命じたのがたった十人? その十人のみを特別に扱っているとでも」
背負った命と魂の数。
数多に過ぎて、その屍は山を、血は河を作る程に。
ならば、悲痛だと哀しく眼を伏せることなど出来はしないのだと。
「別の世界という、もしかして。それらは悉く、ないのだ。ああ、夢という意味ではあるだろう。私とても夢想する。酒に綻んだ心が、思い描く」
軋むような声色で。
裡に秘めた憤激を、ぎりぎりまで抑えて。
「私達は、ひとりしかいない。同じ存在はなく、故に、相手もまた然り。必然として尊ぶ心は生まれるのだ。この程度の事も判らず、『同じ』と語るは許さぬ」
「そうかもしれないね。キミにとっては、そうなのかもしれない」
それこそ、零れた水の大元は同じでも。
清らかな湖水として佇むこともあれば、泥水となって淀むこともあるだろう。
現状と自らを取り巻くこと。
それは意識と認識の問題であり、つまりは、幸福の定義という難しいもの。
ダレにも、自らの魂の事など理解は出来ないのだから。
真実は、事実は、月や星に辿り着いても、なお人の手の届かぬ所。
「だから、同じ得物でお相手するよ」
この世界はあらゆる世界が並列して存在するのもまた然り。
「但し、ボクの村正はボクが手を加えているから、打ち負けないけどね!
」
故にと、リクオウが手にする十字槍は、星間を走る程の技術が施され、手にした妖刀もまた同様に改造されている。
構える二人は、異色にして飾られた、鏡映しを見るかのよう。
ああ、だからこそ――真田は許せぬ、認めれぬと余計に憤慨するのかもしれない。
徳川の世を善しとする、己の虚像など。
幻と嘘だったとしても、認められはしない。
仮に事実であれば、腹を切るべしと赤い眼が訴えている。
「怖いな」
これが戦国の世なのかと、戦槍と妖刀を構えるリクオウ。
こういう裡で、元の魂が生きていたというのなら。
「散れ、妄言はもう沢山だ」
瞬間、吹き荒れるは真田が武威。
血風の如く紅葉を吹き下ろさせ、視界を奪う。
その中でひた走る気配は、確かに戦鬼で、これを自らと同じと呼ぶリクオウの肝こそ恐ろしいと云えるのかもしれない。
だが、結局。
「我が相棒、『十文字槍』よ! 古来の力とSSWの技術を今ここに!」
物事の真贋、真偽など、勝者が定めるだけ。
間合いを、威力を増加させるは真田流十文字槍が秘伝、一閃炸裂。
これが現実。これが真実。
そう示させんと、真田を迎え撃つリクオウの一閃。
「偽りの真田の過去を、現在のサナダの力を持って切り捨てる!」
勝てば官軍。負ければ敗残の屍。
今までの味方の犠牲も悉く無為になるというのなら。
そんな訳にはいかないと、静かなるリクオウと、狂い立つ真田がその槍を交差させる。
真田に届いた戦槍が穂先。鎧を射貫き、確かに肉を刻んだ。
「が、この程度か。浅い」
それを撃ち払うは神速の妖刀。連続して変幻自在と化した槍撃が放たれる。
「同じ事が出来るのか? 抗しえるか? 僅かでも私に遅れれば、斬り結んだ敵将、そして敵兵のひとり、ひとりに」
「ああ、敵にさえ――申し訳が立たない!」
瞬間、乱れ裂いたのは真田が血。
そう、ふたりの真田の血飛沫が、混じり合うように夜空に飛ぶのだ。
「キミにだけは……真田の者にはだけは、負けられないんだ!」
鋼の斬り結ぶ音の中で叫ぶリクオウ。
己こそが真田幸村。日の本一の兵だと、そう信じるが故に。
しかし、それは目の前で神速の十字を刻む真田神十朗とて同じこと。
己を語る偽物に、負ける訳はいかないのだと。
誠に真田の者であれば、血筋絶えるまで世に、背負いし志を叫ぶ筈だと。
「示してみろ」
神速で翻る刃にて十字に胸板を刻まれたリクオウへと、真田が告げる。
――ただ、ここに自ら信じた事に、魂に、従いて戦ったモノがひとり。
幾ら身を刻まれても、リクオウは不退転。
不撓不屈と告げた、真田の口上をこそ、その身で体現しながら。
大成功
🔵🔵🔵
陽向・理玖
【戦狩場】
変身状態維持
かっけぇよなぁ
ほんとオブリビオンじゃなければ
この城も
…ま
何の城でも同じか
叩き潰す
さすが熱いな茜姉さん
凄ぇサイバーアイ
こりゃ負けらんねぇ
UC起動
地の利は向こう
けど
待ち伏せとかは大体読める
持ち上げてもいいか?
一気に行くぜ
大丈夫多分
戦闘知識用い
不意打ちされそうな箇所読み
見切り躱して一気に突破
特に物陰や高台等注意
剣風凄ぇ!?
居たぜ
目晦ましに衝撃波飛ばし残像纏いダッシュで距離詰めグラップル
相手の間合いのが断然長ぇし
槍武器受けし払い受け流し
加速し一気に懐へ
拳の乱れ撃ち
俺がやり合ってりゃその外からいけんだろ
頼んだ茜姉さん
あんたが何背負ってようが
俺だって覚悟が違う
負けらんねぇ
合わせて蹴り
御堂・茜
【戦狩場】
その潔さや良し!
ええ、神十郎様は気高きもののふ
なればこそ身命を賭し首級を挙げに!
歴史に名高き真田の城塞…!
いざ共に駆けましょう、理玖様!
索敵は御堂のサイバーアイにお任せを!
姿は隠せど燃ゆる魂は隠せませぬ
正義へと至る道を理玖様へお伝え致します
…御堂、こう見えて重いのですよ?
お恥ずかしい…!
不審な地点へは刀からの衝撃波で破壊工作
神十郎様と相まみえましたら腕を火器に変形させ
後方から援護射撃にて理玖様の支援を
利き腕は右のご様子
鎧の隙間を通し気合いで撃ち抜きます
理玖様、ラッシュですわ!
今やおなごも戦う世
踏み出し刀で一閃、共に参りましょう
UC【大一大万大吉】…!
時代を翔ける我らが覚悟、ご覧あれ!
瞬きをする間もなくも、築きあげられたのは城郭。
これが真田の戦場だと、在り日の姿をそのままに、
戦が為にある城など最早、この国に残ってはいないだろう。
「かっけぇよなぁ」
戦乱を駆け抜けた兵。
その血筋は受け継がれ、志は育まれて。
一代ではならぬ矜持を前に、陽向・理玖(夏疾風・f22773)は呟いた。
「ほんとオブリビオンじゃなければ」
過ぎ去りし過去の残滓。
かつてをなぞる残影であり、本来では今に形を結ぶ筈のないもの。
「それさえ季節外れの狂い咲きと思わせる、とね」
だが、何にしても潰すのだ。
叩き、殴り、真っ向から正義を叩き付ける。
相容れないとは先ほど語った通り。陽向には陽向の義がある。
どちらが正しいか、間違っているか。それは些細な事で、後に誰かが語ること。
今はただ勝敗に総てを賭けるのみ。
「その潔さや良し!」
だからこそ御堂・茜(ジャスティスモンスター・f05315)は喝采の声を上げるのだ。
かつて。もはや触れ得ぬ時と共に通り過ぎた影。
憧れもしたし、歴史を記す書の通りに詠いもした。
それと今、刃を交える際に立つのだ。
「ええ、神十郎様は気高きもののふ。なればこそ、心身を賭し首級を挙げに」
何もせずに終われぬというのならば。
御堂はその身で、真田の全てを受け、そして、斬り返してみせる。
いずれにせよ、戦の熱と艶を帯びている事に変わりはない。
「眼前に立つは歴史に名高き真田の城塞……! ならばそこに在るのは戦乱の魂と、積み重ねられた剣戟の果て。いざ共に駆けましょう、理玖様!」
興奮が醒める事のない御堂に、陽向は小さく笑う。
だってそうだ。これは夢見る子供ものそので、なのに、何処までも輝きを知るものだから。
憧憬をもって駆け抜けようとする姿なのだ。
「さすが熱いな茜姉さん」
それだけの想いの熱量、持つこと、保つこと。とても難しい。
夢見るのは本当は難しいことなのだ。
夢をしかりと描き、触れることも、聞くこともできないそれを胸に抱き続ける。
他人に形して見せて、音にして聞かせることが出来ない。
自分だけの裡に秘めるもの。
そして、行動を以てのみ示せるもの。
「ええ、このような魂奮わせる場が、幾度とてある訳ありませんもの」
眸から輝きを零さんばかりの御堂。
そして、それは比喩に止まらない。異なる世界で、機械の身体へと転じている御堂の身体。
かつての戦城に挑む、今の侍として。
「索敵は御堂のサイバーアイにお任せを! 姿は隠せど燃ゆる魂は隠せませぬ」
迷宮と化した真田が城郭。
至る所に掘られた塹壕はひとつの迷い道。
城壁や設置された火筒は謂うまでもなく、全てが惑わし、躊躇わせ、欺いて心を削り、身体を消耗させるのが目的のものだ。
故に、真田に辿り着くまでに十全に己を保てるかが分水嶺であり。
「正義へと至る道を理玖様へお伝え致します」
御堂がすらりと水平に構えるは身の丈ほどの大太刀。
一閃すれば巻き起こるのは、気迫がもたらす激しき剣風。
不審な点として見ていた城壁の一角を斬り崩し、そこに隠されていた、大砲。かつては国崩しとまで呼ばれたものを地へと落とす。
「剣風凄ぇ!?」
「とはいえ、全てを相手取る訳にはいきませんもの。御堂がサイバーアイで捉え、剣を振るえど、不意打ち、騙し討ち。その全ては捌けませんわ」
見通すのはあくまで燃える魂。
冷徹な隠し刃として潜む、戦の欺術に通じるかといえば絶対とは云えない。
「地の利は向こう、ってな。けど、待ち伏せとかは大体読める」
それこそ徳川を相手取った真田丸は、その驚異から取った戦術がしかりと残されているのだ。
これがかつての姿を取っているというのならば、注意する点は歴史を好む陽向と御堂にとっては判りやすい。
「塹壕という身を隠す場所はむしろ誘き寄せ。火矢の雨は、注意を引くが為。散発の大筒は、潜む者への合図」
「つまり、真っ向から危険に身を晒すのが最短にして、俺たちにとっては最良ってな」
奇作を打破するだけの武があると信じるから出来る事。
それこそ、どうするのだ意志を迷わせ、鈍らせ、挫くことこそ出城の役目。決意と覚悟をふたりが決めている時点で、真田が城郭はその機能の半分を喪失したといっていいだろう。
「持ち上げてもいいか? 地を駆けるより、空を飛んだ方が絶対に早い」
「……御堂、こう見えて重いのですよ?」
「茜姉さん。女性はどうあれ、花のようで、重さなんてないもんだろう?」
片腕で抱き上げられる御堂。陽向の腕の中で、頬を赤らめる。
「お恥ずかしい……!」
「さっき、凄げぇ剣風見せてくれたからな。今度は、こっちが何か見せねぇと」
不意打ちに用いる塹壕、物陰は陽向が飛翔することで高く距離を保つ。
城壁ならば飛び越えられるし、高度を維持すれば、物見櫓や高台に注意するだけ。
それでなお、大砲が空を飛ぶ二人へと狙いを定めるが。
「せいっ!」
御堂が大太刀を振るえば、如何に巨大な鉛玉であれど空で斬り崩されるのみ。
続けて無数の火矢が空へと奔るが、これもまた、音速を超える陽向ならば容易いこと。
「掴まってくれよ、茜姉さん」
自在に空を飛翔し、音を残して狙うは燃える魂が在る場所。
此処にある命はただひとつ。
もはや、城に残った兵はただひとり。
なれど真田神十朗。日の本一の兵なりと、陣にて佇む赤備え。
三途の渡し賃たる六文銭は鎧につけて、陽向と御堂を迎え撃とうとする。
「居たぜ。奥まで辿り着けば、隠れる気はさらさらなしか」
着地と共に離れる二人。
構えるを間って、真田が口を開く。
「真田が城を空を飛んで攻略するとは、世も変わったものか」
「世は進み、次の世代へ。新しく、なお、鮮やかに。それが魂というものでしょう。ひとつの生の中でのみ終わるものでないものこそ、武士の志と信念というものなれば」
もはや移ろい、過ぎたのだ。
「神十朗様。貴方が戦った事、無為ではなかったと。立派と誇れる先達であったと、この御堂が剣にて示します!」
終われぬのは、全てが潰えて崩れるからならば。
全ての形あるものが無常に消え去っても、受け継がれるものがあるのだと語るのだ。
が、言葉で止まるのならば、決して此処で相見える事などありはしない。
「単純な事だ、俺だって負けられねぇ」
開幕の火蓋を切るのは、振り抜く陽向の拳だ。
唸る様は龍の顎。轟音伴う衝撃波が一直線に走り抜け、真田へと迫る。
「無論。だから、全ては武の激突で決まるのだ」
それを斬り裂く妖刀の一閃。これが決まるとは陽向も思っていないが、余りにも静かな挙動で陽向の剛拳を鎮めている。
残るは舞い散る砂塵。
いいや、これでいい。目晦ましとなれば、それで続く瞬間が出来る。
利き腕を火器へと変じさせ、突き進む陽向の援護として銃弾を放つは御堂。
「城に自動の国崩を設置し、迎え撃った以上、飛び道具を卑怯などとはいいませんわね! これもまた、私の正義ならば!」
「どのような武の在り方も、そこに義があれば変わらない。成すべき事を成す。全霊を尽くせずに尽きるは、先達にも己にも、相手にとっても侮辱だ」
故にこれらの弾丸悉く、翻る妖刀で撃ち払う真田。
御堂の銃撃にどれ程の気合いが込められいても、それを斬り伏せる真田の剣にもまた同様に宿る。
ならば拮抗。
いいや、それでこそ神十朗。真田の血。
容易ならざる敵に挑むこそ、武士が本懐。御堂の義を向ける相手として相応しい。
受ける赤い双眸は、戦意に燃えながら、何処か懐かしさと憧れを織り交ぜた感情を灯している。
ああ、かつてはこうだった。
そうだ。『私達』もかくあろうと、奮い立った。
「世は流れ、されど、人は人」
故に、今踏み出す一歩が戦乱を呼ぼうとも、変わらぬのだと真田の武威が猛る。正しい、間違っている。それは、この戦いの後にまた、誰かが定めれば良いことなのだと。
「だったら同じだろう。何時もと、過去と、そしてこれからは変わらねぇ。自分の掌で掴み取るもんだ!」
残像を纏い、疾風の如く駆け抜ける陽向。砂塵と銃弾による援護の中、真田へと拳の届く距離まで一気に詰めている。
刀の、そして、槍の間合い。
明らかに真田が長く、有利であり、これを踏破しなければ始まらない。
赤き鎧を掴む掌。そのまま握り絞め、罅入れながら一撃を入れようとして。
「掴んで、触れていいのか? 私は構わないが」
「……っ!?」
陽向がぞっとしたのは、流れる真田の気迫によって。
炎のように揺らめくそれは、翻る十字槍の柄に宿る。
「槍が間合いは変転自在」
放たれたのは石突きによる一閃。
陽向の鳩尾を撃ち抜き、動きを射止めるや否や、流れる柄がその身を打ち据えて弾き飛ばす。
それを可能とするのは真田が槍の柄を握る掌。指を滑らせて握る長さを瞬時に変え、あらゆる間合いへと対応させる。
長槍の刺と思えば太刀の斬。太刀の刃と思えば旋棍のような殴打。敵味方が混じり、間合いなど容易に取れぬ乱戦が前提の戦の技に他ならない。
「だから、なんだよ」
強いのは判っている。その上で挑んでいるのだ。
地面から跳ねて飛び起きる陽向の戦意は何ら衰えていない。
再び直進する陽向。勇敢に、果敢に、戦乱の中で研ぎ澄まされた武へと挑む。
「掌にのせて、握り絞めた想い」
そう、例え時代が違えど。
「背負った覚悟、違うからこそ、重く、確かで、譲らないんだろうが!」
負けられないと真田の刃の間合いに踏み込む陽向。
「同じものは何一つない。真田、お前も判るからこそ」
「終われない。唯一無二のそれが、終わって消えたと認められない」
「だったら、後は語る間でもねぇ!」
龍爪と、十字槍が交差する。
互いに受け流し、絡め取ろうとする刃同士。
受け止め、捌いて流し、更に加速して踏み込む先は真田が懐の中。
先ほどのカウンターを、陽向が忘れている訳ではない。
だた恐れていない。怯んでいない。
躊躇う理由などある筈がないからこそ、陽向の青い瞳に浮かぶのは純然たる闘志。
「負けらんねぇんだ!」
地を踏みしめ、陽向の拳が乱れ撃たれる。
「成る程。清くも勢いある志と瞳だ。今の世は、此処までの勇の心を紡ぐとなるか」
罅割れたのは赤き鎧か。それとも、その身の骨か。
受け流し損ね、数打を浴びて後方へと飛び退く真田。
ならば、この瞬間こそ躍り出るのだと、裂帛の気勢を上げて御堂が大太刀を諸手に上段に。
「今や、おなごも戦う世」
神十朗様の知らぬ世にて御座いますと。
そしてこれから先、悉く、誰もまだ知らぬ世が続く。
「共に踏みだし、参りましょう。敵とは、ただ打ち倒すべき兵にあらず。我等が道を阻むあらゆる者、物、想い」
それこそ天災とて、邪悪とて。
「一人は万民の為、万民は一人の為………世に理想の姿を描くことこそ、これ大義!」
かつて徳川と天下分かれ目の戦で敵対した総大将が掲げし大一大万大吉。
だが、今のもののふにもまた宿る。
掲げて、戦を駆け抜ければ、その輝きの片鱗は確かに、各々に宿る。
消えはしない。
ただ進むだけ。
迷いなく、曇りなく、放たれる諸手と正義にて繰り出される一閃。
二の太刀など考えられていないが故に、何処までも苛烈。
異なる正義があって戦い、けれど、敗残の兵の夢までは貶めぬ。
むしろ理想は汲んで。
その信念と志を抱いて。
「時代を翔ける我らが覚悟、ご覧あれ!」
より善き世へと、願いて燃える御堂の正義の魂。
何時、何時とて、戦場では同じ輝きを宿す切っ先が、時代を斬り引いてきたのだ。
「そうだ」
陽向の唇から零れる言葉よりなお早く。
地面を這うように旋転する蹴撃。真田の足を打ち据え、逃げるを砕く。
「茜姉さんの覚悟にも、俺は負けられねぇ!」
その眼をあけて、迫る時代の新生。
新たなる覚悟と想い、刃として受けろと。
袈裟に振るい抜かれる大太刀の一閃。残す剣風が嵐へと、鮮血を舞わす。
「敗北を恥じるつもりはない」
流れる真田の声は、変わらず戦の熱を帯びて。
「悔いることはあれど。覚悟を、志を、お前達のような者と斬り結ぶからこそ――負けたと、己が心身を恥じることはないのだ」
足りぬと悔いても。
勝ちたいと、果たしたいと名残があれど。
「時代を駆け、覚悟背負う武。最後の最後、戦乱の火種が、この鼓動と共に零れ落ちるまで」
応えを聞くまでもなく、大太刀を横薙ぎに振るう御堂と、拳を叩き付ける陽向の姿があるかにこそ。
「それまで、名残りという迷妄を晴らすが為に斬り結ぼう。恥じるつもりはなくとも、負ける気もまたない!」
その輝きに、焼かれるように。
鮮血が迸り、刃が瞬く。
最後の瞬間、魂の燃え尽きるまで。
かつての歴史。過去の話。
それらを越えていくかのように。
「ならば、そう、ならば」
翻った妖刀に身を斬られ、なお進むは御堂。
拳と蹴撃の乱舞を繰り出す陽向がいるからこそ、一太刀ごとに渾身。後を顧みることなく、進み出ては斬閃を轟かす。
「この世に生きる我らに、未来を託すは不足であると見られますか!」
「……っ」
「世の流れ。行く末。任せられない、信じられないと。そう仰いますか!」
それに応えられない。
ああ、確かに御堂は、陽向は、彼ら彼女らは輝いている。
どのよう在り方であれ、正しく、または、歪に。それでいて、ひた走る先は明らかな光で。
終われないのは事実、この胸で燻る想いがあるから。
けれど、この先を任せるのに不安など欠片もないと気づいてしまったから。
「難しいのはわからねぇ。でも、俺はあんたをカッコいいと思うし」
変幻自在の真田の槍捌き。それについに追いついた陽向は、まさに蜃気楼。もはや体捌き、そこから繰り出される一打、一打、芯を捉えられず、先を読めず。
直撃した拳が、迷う胸の鼓動、その真上を打ち付ける。
「追い越してみせるって、そんな覚悟も抱くんだよ!」
心臓が止まるとはこの事か。
ならば、この者達に、未来を、明日を。
「神十朗様が真に求めていたは、勝利した後の未来。不安になどさせません」
止まった真田へ、大太刀を振るう御堂。
もはや守りの一切、投げ捨てるは正義に燃える焔のよう。
流れる熾烈なる斬撃。徳川の世を怨む妖刀が受けるも、断末魔の悲鳴を上げて砕け散る。
憎悪を、怨念を、闇を晴らすはいつも光。
ならばこそ、御堂の正義宿す剣に、妖刀が抗えないのは道理で。
「っ」
何かを言葉にしたいのに、陽向が打ち据えた心の臓が震えて息が出来ない。いいや、拳を伝わり、響いた想いにこそ、魂が震えている。
眩いと。このように二人のように憧れた。
いずれ追い越す。天下に武名を轟かせた、かつての将を。
そして戦乱を終わらせるのだと、誓ったのでは。
何処かで間違えたのでは、ただ、まっすぐに走り抜いただけ。
だから、終わりを越えてしまっただけ。
その先を駆け抜けようと手にした十字槍の柄を、陽向が拳撃が打ち砕く。此処が線引き、ここが幕。有終の美などなくとも。
世に残りしものを御堂の大太刀が引き継ぐのだ。
陽向の青い瞳に、覚悟として受け継がれるのだ。
――それは命を、魂を越えて、継承されるということ
志半ばに果てようと、己が夢を託して逝けるならば―――
「今度こそ、三途を渡り、あの世よりご覧ください。私達の覚悟、成す未来。異があるならば、舞い戻りくださって結構」
けっして、そのような想いにはさせないのだと。
天に描き理想は、必ずや、尽きせぬ義と志をもって、遂げる。
それは御堂や陽向の代で終わらない。
真田の人生で、終わらなかったように。
「故に、今一度、世代を託すお覚悟を!」
何があろうと真っ向より斬り伏せる御堂の刃。
ついに真田の身を、心臓を斬り捨てる。
けれど、その真田の身体が倒れる事はなく。
言葉を残すこともなく。
「その眼で見てください、神十朗様」
「後悔は、させねぇよ」
戦乱の世を見続けていた瞳が、泰平の世を翔る二人を映す。
名残も、後悔も。
全ては消えて、晴れやかに。
此れほどの志が生きる世は、誇らしいのだと。
今更に。今更に。
終わったからこそ、見つめるのだ。
負けたのではなく、次の世代に託せたのだから。
我が命、人生にもはや悔いはないと。
大成功
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最終結果:成功
完成日:2020年11月17日
宿敵
『真田神十郎』
を撃破!
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