●苦渋の決断
クロムキャバリア世界は争いに溢れている。
いつ始まりいつ終わるのかも知れない戦いに人々がどれだけ疲れ果てようと、生きる為には奪い合わなければならない。
手を取り合う事など出来ない。そんな余裕はどの国にも無いのだと、『無数に乱立した小国家』が示していた。
「今日は、何人死んだ?」
疲れた声が零れた。
若き将校が部下に問う。それはただの戦果報告の要求だけではなく、いったいどれだけの部下を死なせてしまったのかという憂いを含んでいた。
「損失2、不明1。合わせて3体、いずれもレプリカントです」
答えた部下はあえて機械的に返す。
レプリカント部隊であるから死者がレプリカントなのは当然だ。だがここで強調するのは将校に『死なせた』ではなく『失った』と認識させたいから。
罪の意識を背負わせたくないからだ。
「気を遣わなくて良い。君にとっても兄弟の様なものだろう」
「……」
薄く笑う将校に部下のレプリカントは辛そうな顔で黙る。
彼等の国のプラントではレプリカントの出現率が高く、それ故に消耗品・即席兵力として重宝されている。
このレプリカント部隊も将校以外は全員レプリカントで、彼等彼女等には名前さえ存在しない。量産型キャバリア同様にただ配備運用されている兵器に過ぎないのだ。
そんなレプリカントの事を想う将校も、初めはどうとも思っていなかった。
きっと、部隊として長く同じ時を過ごしていたからだろう。
ましてや死線を共に潜り抜けて来た仲なのだ。武器や兵器にさえ愛着がわくというのにレプリカントへ友情や仲間意識が生まれない方がおかしいだろう。
だが、それは将校だけが持ち得た感情。
上は知らないし、聞き入れない。レプリカントもキャバリアも兵器に過ぎぬと言って聞かないだろう。
ならば、この子たちを守れるのは自分だけだ。
「――今日の午後、新型のキャバリアが一機届く」
最新鋭のキャバリア。いわゆる試作機だ。
性能は折り紙付きだがどんな不備を抱えているかは分からない。
そんなものを将校自ら要求した。戦況を変える為、そして試作機の実践テストの為と銘打って。
「届いたなら、選ばなきゃならない。君達を守るために、敵の全てを殲滅するか。あるいは……この国のプラントを奪い、他国へと逃げるのか」
この国はレプリカントにとっては地獄だ。
しかしその分人間にとっては快適で、他国よりも安全な国と言われている。
結局のところ、決断したって変わらないのだ。
将校もまた、自分や自分の親しい者のために、自国民や他国民を殺すしかないのだから。
「何もかも諦めて、自分を殺して生きていく。私達はそうしてきました」
部下が言う。
将校にもそうしろ、と言うのではない。
そうして生きてきたレプリカントがもし何かを選ぶとするのなら、
「私達は、あなたについて行く事を選びます」
その言葉に顔を上げた将校を、部下たちは全員同じ色の瞳で見守っていた。
●選択の末路
「お集まりいただき感謝します」
と、銀髪の少女、絳銕・鐵火(硝煙・f29908)が小銃片手に礼をした。
グリモアベースの一角ではキャバリアが行き来できるスペースが確保され、そこに集った猟兵達が各々好きな格好で話を聞いている。
「今回の依頼内容ですが、とある国の将校、スガワラ大尉の駆るオブリビオンマシンの破壊となっています。大尉及び部下の生死は問いませんが、なるべくなら救出して下さい」
ぺこりと、先程より深く礼をする。
簡単に事情を説明すると、スガワラ大尉は配備された新型キャバリアに搭乗後、それがオブリビオンマシンであったために暴走してしまったとのことだった。
今現在は自国のプラントを占領、立て籠もっている。
「プラントが奪われては国民は大弱りです。今は大尉が抜けた穴を塞ぎつつプラント奪還も計画しなければならないため、大混乱ですね」
そこで、猟兵を『傭兵』として売り込んだ。
まさに渡りに船だと喜んで受け入れてくれたという。量産型で良ければキャバリアの貸し出しもしてくれるらしい。
「そこで『傭兵』としての追加依頼なのですが、道中で孤立してしまった部隊を救出して欲しいとのことです。この国は自国民にとてもお優しいので、どうしても被害は出したくないのだそうですよ。ぜひ皆様も力になってあげてください」
猟兵達が送り込まれる場所はグリモアの関係でやや後方になる。そこから真っ直ぐプラントに向かえば途中で孤立した部隊と合流出来るはずだと、鐵火がまた頭を下げる。
ただ、今度はそのまま頭を上げずに続きを話し始めた。
「ところでスガワラ大尉についてなのですが……」
そう切り出して語られたのは、依頼とは直接関係の無い話。
レプリカント部隊に配属されてから数年に渡り戦い続けた、孤独な男と従順な部下たちの話だ。
「どこにでもある話です。どこにでもあって、どうにもならない。そんな話なんですよ」
語り終えた鐵火の眉間には、ほんの僅かにしわが寄っていた。
一期一筆
初めまして、一期一筆と申します。
今回の依頼目標はオブリビオンマシンの撃破。
及び、道中の部隊の救出。
スガワラ大尉とその部下の生死は不問。道中の部隊員はなるべく無事に助けてください。
第一章は道中の部隊と合流した所から始まります。
部隊はスガワラ大尉の部下と交戦中。守り、撤退させてあげることが目標となります。
部隊員は怪我人も多数存在しますが、時間さえ稼げれば撤退自体は可能です。
ただし、戦力としては期待できないと思ってください。
なお、スガワラ大尉の部下は苦戦すると退き、深追いはしてきません。
余程意図的かつ執拗に攻撃しなければ搭乗員を死なせることはまずありませんので、手加減は不要です。
それでは、猟兵の皆様方のご参戦を心待ちにしております。
第1章 冒険
『脱出援護』
|
POW : 派手に暴れて敵兵を引き付ける
SPD : 脱出ルートを見つけ、兵士達を誘導する
WIZ : 変装し、敵地に怪しまれず潜入する
|
菫宮・理緒
攻撃はちょっと苦手だけど、援護や防御なら任せて!
【モーフィング換装】で装甲を5倍、移動力を半分にした【ネルトリンゲン】で出撃して、
前線での防衛拠点兼保護施設になろう。
孤立した部隊とスガワラ大尉の間に割り込めれば、いちばんかな。
【M.P.M.S】でチャフとデコイを撒きつつ【E.C.M】を発動して相手の動きを鈍らせて、
前線でがんばっていてくれていた部隊を収容していきたいな。
空母だし、整備や補給だってお任せだよ。
補給物資、たーくさん積んでいかないとね!
部隊を収容できたら、まずはゆっくり休んでもらって、
そのあとでけがをしている人を後方に送ったり、
元気な人には協力してもらったりできたらうれしいよー。
●空母上陸
鋼と鋼がぶつかり合う音が響いた。
時に甲高く、時に鈍く響く金属音。銃声は川のせせらぎのように途絶えず、爆発音が市街地を揺らす。
「ちくしょう! もうもたねぇぞ!」
そんな雑音に呑まれながら悪態をつき、ボロボロのキャバリアが後退する。
相対するキャバリアはそれを深追いはしなかった。
鏡写しの様に向き合う無数の同型キャバリア。しかし人間達の駆るキャバリアは同型の筈なのにまるで歯が立たない。
実力と経験の差を埋めるべく物量重視で編成された人間の部隊は、その数を最大限に活かしてさえ、レプリカント部隊の足止めにしかならなかった。
それさえももう限界だ。
頑丈だけが取り柄の量産型キャバリアが膝を折る。しかし諦めまいと片膝付いて掲げた銃の照準も、片腕が欠けていては定まらない。
……ここまでか。
ならばと覚悟を決めて引き金を絞った瞬間、目の前を何かが遮った。
その何かを認識するより速く、とんでもない破砕音の洪水が戦域を押し流す。
銃声も爆音も轢き潰して現れたそれは、見た事のない巨大な鉄の船。ミネルヴァ級戦闘空母、その名を『ネルトリンゲン』と言う。
「お待たせ! ちょっと強引に上陸させてもらったよ!」
余りの出来事に言葉を失うキャバリアへ、船の上から明るい声が降ってきた。
声の主にして船の主、菫宮・理緒(バーチャルダイバー・f06437)は、戦況の不利を察して駆け付けた傭兵……もとい、猟兵だ。
空も飛べず海も無いこの戦場において戦闘空母など持ち出してどうするかと言えば、船を救護対象に開放し、『防衛拠点兼保護施設』として活用する心算の様だ。
それを察したのか、ネルトリンゲンの登場で距離を取っていたレプリカント部隊が攻撃を再開する。分厚い鋼鉄の装甲が雨に打たれた傘のようにボンボンバラバラと音を立てはじめていた。
「傭兵か! た、助かった……!」
開放された空母に乗り込みながら部隊員たちが口々に礼を述べる。
空母の中はただ安全なだけではない。積めるだけ積んできた補給物資はこの場でキャバリアの簡単な整備が出来る。
再出撃しろと言うのではない。理緒は隊員たちにも救援の手伝いをしてもらうつもりだ。
「動ける人は他の人をここまで連れて来て! そうしたらまずはゆっくり休んでもらって、そのあとに後方に送ってあげるからね」
艦内放送で指示を出しながら理緒本人は甲板へと上がる。
横目で指示通り仲間を助けている部隊員たちを見下ろし、頷きながら武器を構えた。
ネルトリンゲンは頑丈だ。キャバリアの攻撃にもある程度は耐え得る。だがそれは物理法則下での話。敵部隊にユーベルコードを持ち出されては安全安心とは言ってられないだろう。
だから先んじてユーベルコードを見舞う。
構えた武器は多目的特殊兵装『M.P.M.S』、弾頭によって効果を変えるミサイルランチャー。
放たれた砲弾は低空を滑るように進み、敵陣手前で炸裂した。
だが、大した火力は無い。
警戒し身を隠していた敵キャバリアを壁ごと吹き飛ばすわけでも無ければ、炙り出す事も無い。
ただ派手に炸裂し、周囲に金属片をぶちまけただけだった。
「今の内に、早く!」
だと言うのに理緒が号令を発して部隊員たちを動かした。
空母の裏から飛び出したキャバリアが、敵陣で倒れた味方キャバリアを担ぎ、戻ってくる。
それを黙って見過ごすわけがなく、隠れていたレプリカント部隊が飛び出して来て、そのまま停止した。
傍目に分かるほど混乱している敵部隊を尻目に部隊員たちが帰還し、理緒はもう一発ミサイルをぶっ放す。
その弾頭は、破壊を目的にしていない。
ユーベルコード『E.C.M』の起点となる電波妨害装置、いわゆるチャフやデコイを撒き散らすための特殊弾頭だ。
ユーベルコードによって超常の域まで強化された電波障害は全ての電子機器を機能停止にまで追い込む。それはキャバリアさえ例外ではない。
キャバリアが停止すればそれを起点にしたユーベルコードは使えない。通常兵装も使えないなら部隊員たちも安全に味方を回収出来る。
一時的に動きを止める、非常に限定的な効果のユーベルコード。それと空母を巧みに操って理緒は戦場のど真ん中に安全地帯を作り出していた。
「攻撃はちょっと苦手だけど、援護や防御なら任せて!」
少しだけ胸を張る可憐な少女は油断無く戦場を見下ろす。
攻撃に転じる気はない。だからこそ成し得る堅牢な防衛ライン。
その突破口を見付けられないまま、レプリカント部隊は理緒を見上げていた。
大成功
🔵🔵🔵
緋月・透乃
何か事情があるみたいだけれど、オブリビオンマシンに乗っちゃった以上ただの敵だねぇ。
大尉とその部隊の覚悟と実力は果たしてどんなものか、それを楽しみに参戦しよう!
私は生身で行くよ!
転送されたら持参したものを食べて【沢山食べよう!】の飛行能力で戦場に飛び込むよ!
戦闘方法は高速飛行で敵機に接近し怪力を活かして武器で叩き斬り戦闘能力を奪ったらすぐに次の敵、といったような1機ずつ素早く倒す方向でいくよ!
上手いこと敵に脅威だと感じさせて、引き付けることができるといいね。
道中の部隊は戦闘中はほったらかしで。速く敵を倒すことで味方の被害を防ぐことを目標にするよ。
●人間砲弾
クロムキャバリア世界では空を飛ぶ事は出来ない。何故なら飛ぶ者は飛行機であろうとミサイルであろうと例外無く撃ち落とされるからだ。
だが、強引に例外を作り出す方法がある。
世の理を捻じ曲げる、ユーベルコードを使うのだ。
戦場に飛来した緋月・透乃(もぐもぐ好戦娘・f02760)もそうして無理矢理空を飛ぶ。
飛びながら持参した食料を喰い尽くす。
ふざけているわけではない。その行為と結果こそが彼女の力の源なのだ。
それを証明するように音速の壁を七枚ほどぶち抜く超超超高速で飛来した透乃が、そのままの勢いで着地……と言うか、着弾した。
凄まじいソニックブームを引き連れた人間砲弾は戦場に風穴をぶち空け、敵も味方も吹っ飛ばす。
キャバリアたちが風に吹かれた落ち葉の様に転がって行ったが問題無い。元より透乃の目的は救援。戦場から救助対象を追い出すのも仕事の内だ。
「さてさて」
ど派手に登場したは良いものの、派手過ぎて周囲に驚いてくれる人も残らなかった。
しかし間を置けばすぐにレプリカント部隊がやってくる。
流石に慣れていると言うべきか、物扱いされ恐怖も動揺も知らないのか。どちらにせよ、人の部隊とは比べ物にならない練度だ。
これは、普通に戦っても苦戦するな。と透乃が思う。
自分がではない。人間のキャバリア部隊がだ。
ましてや相手はオブリビオンマシン。手ひどくやられ、あっさり孤立してしまうのも仕方が無い。
「何か事情があるみたいだけれど、オブリビオンマシンに乗っちゃった以上ただの敵だねぇ」
残念だけど、と、さして残念そうには見えない表情で透乃が構える。
纏うは闘志と、食べ物の香り。ユーベルコード『沢山食べよう!』によって爆発的に増した戦闘力を見せつけるように、透乃は生身で前へ出る。
標語のような名前のユーベルコードは伊達や酔狂ではない。喰えば喰う程力を増すフードファイターならではの技だ。
それを知らないレプリカント部隊は警戒しつつも緩慢に銃を構え、銃口を向けられた透乃は持参した食料の最後の一つ、満腹ニンジンをボリッと噛み砕いた。
瞬間。
銃弾も銃声も置き去りにして、透乃の振るう重戦斧が敵キャバリアをぶっ飛ばした。
銃を狙った一撃がその余波で腕まで叩き割り、超高速移動に伴う衝撃波が砕けたキャバリアを纏めて彼方へと吹き飛ばす。
とんでもない力業。ただの一撃で絶望的な実力差を見せつけて、さらに崩れた隊列に切り込んでもう一機の両脚をローキックで粉砕する。
それでもレプリカント部隊が退かなかったのは、他が退く為の時間稼ぎのためだったのかもしれない。
「時間稼ぎは困るんだよねぇ」
うーんと唸り、遠巻きに囲い込もうとするキャバリアの一機を踏み砕く。
飽くまで破壊対象はオブリビオンマシンのみ。変にコクピットが頑丈な量産型キャバリアのお陰であまり手加減は要らないが、それでもレプリカントを直接は叩かない。
その余裕も何時まで続くか。
謎の超高速飛翔能力まで授ける『沢山食べよう!』の効果は満腹度に比例する。鬼神の如き戦闘力も、この調子で動き回っていれば早々に衰えてしまうだろう。
最低限自身が敵にやられないよう余力を残しつつ敵を圧倒しなければならない。
ただ暴れるだけではない。こうして派手に暴れて視線を集める事で、救助対象の部隊員たちは戦場を脱することができるのだ。
時間稼ぎは透乃も同じ。
つまりこれは空腹との戦いだ。
「大尉とその部隊の覚悟と実力は果たしてどんなものか、少しくらいは今ここで見せて欲しいな!」
叫んで跳んで、飛び回る。
振るった拳が銃を、斧が腕を、蹴りが脚を砕く。
圧倒的な破壊の嵐をどうにかしようとして囲っていたレプリカント部隊が遂に諦めて退いていくころ、透乃のお腹が微かに鳴いていた。
大成功
🔵🔵🔵
栢山・源治
さぁって
中々にキナ臭い話だが
…金の匂いもするな
一つこの状況を利用するか
【瞬間思考】
即座に有利なポイントの把握
友軍部隊の撤退ルート確認
UC起動
【限界突破】で加速し
友軍機を庇う位置に
【範囲攻撃・態勢を崩す・重量攻撃】
敵を捕捉すればブラックホールキャノンで範囲攻撃
但し重力で態勢を崩しての追撃を行わせないため
常に機体を観察しコックピットを壊さぬように注意
ちょいと今後の為に死人を出すわけにはいかねぇからな
…きっちぃオーダーだが…俺も天才っぽい所はやってみせねぇといけねぇよな
…つか猟兵ってのはすげーもんだな
生身でもキャバリアとやりあえそうな気になってくるからある意味こえーが
っと部隊の皆さんは気を付けて帰れ
●深慮疾駆
「中々にキナ臭い話だな」
クロムキャバリアの愛機『紅月』に乗った栢山・源治(自称鬼畜皇帝・f30114)が戦闘区域内を駆け回りながら呟く。
プラント周囲を覆う生産区域は広く、国が物量作戦を決行したために被害も大きい。
元より余裕が無いのが小国家の常なのになんでわざわざ物量作戦なんて取ったのだか。
レプリカントの扱いや、たった一人配備される人間の将官。件の最新型キャバリアに扮したオブリビオンマシンなど、どうにも胡散臭い話が多い。
単にこじれているだけか、何か大きな思惑が動いているのか。分からないが、今はどうでもいい。
重要なのはキナ臭いのと同時に金の匂いもするということ。
「一つこの状況を利用するか」
源治にとっては他国の問題に首を突っ込める機会だ。上手くやれば金以上の物も得られるかも知れないと、一人よしと呟いて加速する。
ほどなくして合流した孤立部隊は、下がれるのに下がらず、敵部隊と撃ち合っているようだった。
「おー、状況は?」
「援軍か!? 芳しくないが、まだ大丈夫だ! 他へ回ってくれ!」
隊長らしきキャバリアに声を掛けると、そんな言葉が返ってきた。なるほど、仲間想いなのは本当のようだ。
「大丈夫には見えないが」
軽く観察するだけで分かる。
数は五分、距離も射程も五分、まあ確かに負けていない。
だがあからさまにこちらの射撃精度が悪い。足止めのためにも乱射しているのですぐに弾が切れそうだ。
なんでかと思えば、敵が倒れた友軍機に近付くのを阻止・牽制するためらしい。
どこまでもお人好しなのだろう。
しかし今は大丈夫でもこのままではじり貧だ。放っては置けないだろう。
「ありがたい。これでもさっき空飛ぶ女の子がソニックブームで敵を蹴散らしてくれたんだがな……」
「空飛ぶおんッ……!? 猟兵ってのはすげーもんだな」
はー、と感嘆し、源治が銃を構える。
源治も猟兵だが、生身では戦えない。自社製の最新型に乗ってようやくオブリビオンと渡り合える程度だ。
だが、愛機に乗っている時は猟兵にもオブリビオンにも劣りはしない。
「きっちぃオーダーだが、俺も天才っぽい所はやってみせねぇといけねぇよな」
言って源治が走り出した。
遮蔽から飛び出し、自らが遮蔽となって立つ
「後のことは任せて部隊の皆さんは気を付けて帰れ」
後ろ手に手を振ってやれば背後でガチャンッと音がした。礼でもしたのか、続いて有軍機が遠ざかる気配。
逆に前へ出るほど増えていくのが大破したキャバリアの姿だ。
撃ち合いで五分なら退けそうなものだが、退かずに粘っていたのはこれのせいなのだろう。
キャバリアは微かに動くものも有れば内部に生体反応が有るものも。これらを回収しなければ撤退など出来ないと。まさに人命優先だ。
その在り方を、キャバリアも示している。
敵味方双方が扱っている量産型キャバリアは多少の差異は有れど基本は同装備。それは非常に硬く、特にコクピットは堅牢無比であり、大破し炎上してなお搭乗者を守っている。
「俺としては助かるんだよな」
オーダーはオブリビオンマシンの撃破。だが最低限の仕事だけでクライアントは満足しない。『なるべく』『出来れば』『可能な限り』は全て『絶対』という意味だ。
完遂できれば当然報酬に色が付く。狙わない手はないだろう。
が、いきなり問題が一つ。
「ポイントは全部抑えられてるな」
数の不利を覆して圧勝するレプリカント軍団だ、それくらいはしているだろう。
アンサーヒューマンとして、天才として、猟兵としてのセンスで探ってみても良いポイントは見付からない。
しかし源治から見ればまだ甘い。
「そこだな」
一進一退の撃ち合いから、一気に加速して走り出す。
高いスペックの中でも特に突出した反応速度を誇る『紅月』の急加速には歴戦のレプリカントでも追い付けない。
流石に動揺はしないし対応も早いが、こちらはそれの上を行く。
「チェックだ」
狭い屋内の狙撃ポイント。そこへブラックホールキャノンを撃ち込みながら滑り込む。
良いポイントだが超重力砲相手に密集陣形はNGだ。押し潰されたキャバリアを乗り越えながら関節を破壊し行動不能へと追いやった。
「大人しく寝ててくれ。ちょいと今後の為に死人を出すわけにはいかねぇからな」
言いながら潰れたキャバリアを脇にどける。流石の頑強さでコクピットは無事だ。
ちょっと強引な突破だが、ここからは違う。
ポイントには『取ると有利になるポイント』と『取られると不利になるポイント』が有るが、このポイントはその両方だ。だから多少強引にでも取るべきポイントと言える。
つまり取ってしまえばそれで終わる。
「チェックポイントでチェックメイト、っと。さあ、暴れても無駄だぜ。俺の頭ん中でもう答えは出てるからな」
源治はそう宣うが、その宣言を崩せるものはいない。
後は超人的な精神力で一手も違わず詰ませるだけだ。
「退いても良いぜ?」
一機対十数機の戦況で、それでも源治は言う。
退くなら今だ、負けを認めろ、と。
しかしレプリカント部隊は源治と違い、答えを未だ得られていない。
だから、何も言わずに銃を構え、そうして一斉に無駄射ちが始まったのだった。
大成功
🔵🔵🔵
ユエイン・リュンコイス
アドリブ連携歓迎
同じ『人形』として思う所が無いわけでもない。まぁ兎にも角にも、まずは撤退支援か…となれば、一つ派手に行こう。
残存部隊と合流次第、まずは稼働不能状態の機体を選別。それらを原材料としてUCを起動、機械神を形成する。
機動力はキャバリアの方が上だろうけど、巨大な姿はそれだけで相手の危機感を煽る。言わば囮だね。【かばう、時間稼ぎ】
手足を振るい【グラップル】で追い払うのも悪くはないけれど、より派手さを求めるなら「月墜」による【砲撃、範囲攻撃、スナイパー】で戦場を掻き回そう。
撤退するというのであれば、深追いはしないよ。万が一釣り出されて待ち伏せされたら厄介だ。
…本番はきっとこれからたしね?
●機人形師
戦況は一方的だった。
ただでさえ物扱いされ兵器として運用されるレプリカント部隊だ。洗練され更に無駄を殺ぎ落とした彼等の動きはただ機械的で完璧なだけではない恐ろしさが有った。
その様子を現場で確認しつつ、ユエイン・リュンコイス(黒鉄機人を手繰るも人形・f04098)が孤立した部隊に合流した。
部隊と言っても既に散り散り。経験の差を数の差で埋めようとしたが覆された末路だ。
人間を大切にする国だと聞いていた。それが裏目に出たのだろう。物量作戦はそもそもとして『削られながらも作戦を遂行する』必要があるのに、削れた端から仲間を想って怯んだり守ったり撤退したりしていたのだろうと見て取れた。
その甘さとは裏腹に、この国はレプリカントを一個の生命とは認めない。
この反乱も飽くまで『スガワラ大尉の乱心』であり、レプリカント部隊の逆襲ではないのだという。
「同じ『人形』として思う所が無いわけでもない」
ユエインが零す。
レプリカントではないが、彼女も造られた存在、ミレナリィドールだ。その名の通りに人形であるが故に物扱いされるレプリカントを他人事として流すことは出来なかった。
ただ、その思いを吐き出すようなことは無い。
「まぁ兎にも角にも、まずは撤退支援か……」
切り替え、冷静に戦況を確認する。
一方的ではあるが敵側がそこまで攻撃的ではないお陰で人的被害は少ない。そこらに転がっているキャバリアの中にもまだ生存者も居るだろう。
敵が手加減している、と言うよりは、単に両部隊のキャバリアが防御特化で火力が低いせいだと思われる。
それでも戦闘不能域まで大破させられたキャバリアは多い。
それを見て、ユエインが頷いた。
「壊れたキャバリアを借りるよ」
部隊員に告げてユエインが前に出る。
借りるのは大破したキャバリアの中でも、搭乗員救出済みのものを選別する。
と言ってもいちいち確認している時間は無い。手っ取り早くパーツを確保するために、ユエインはバリケード代わりに積まれていたキャバリアの残骸に目を付けた。
ユエインがユーベルコードを起動し、周囲の残骸を掻き集め、組み替えていく。
それによりバリケードは崩れ去るが、そうして出来上がったものはバリケードなんかよりも敵の進攻を阻む。
数多のキャバリアより形成されたものは、全長50メートル級の『黒鐡の機械神(デウス・エクス・マキナ)』。降り立つだけで周囲の建造物を圧壊させ、戦場に堂々と君臨する。
「一つ、派手に行こう」
そう宣言し、ユエインが神に命を下す。
応じて振るわれた機神の腕は建物ごと敵キャバリアを薙ぎ払い、慌てて距離を取って弾幕を張るのを意にも介さず突き進む。
あえてゆっくりと振り上げられ、振り下ろされる長大な腕を、敵部隊が集中砲火で押し込んだ。
大きさや重さは強さに直結する。だが同時に弱点にもなる。
遅くて巨大な的が集中砲火を浴びるのは当然のこと。そしていかな機械神でも無敵ではない。
二発目を振るい、三発目を振り上げた頃、攻撃を受け続けた腕が千切れて落ちた。
それでいい。
機神がかばい、時間を稼ぐうちに、残存部隊は撤退を進めていく。
大破したキャバリアから搭乗員を救出してくれれば残ったキャバリアも機神への供物と言う名の材料に出来る。
「もっと派手に行こうか」
なんて言葉と共に放たれた弾丸が、必死に機械神を撃ち続ける敵キャバリアの腹から下を消し飛ばした。
一拍遅れて響く轟音と、さらに遅れる衝撃波。消し飛んだのは敵キャバリアの半身だけではない、着弾地点周囲もだった。
桁違いの破壊力を持つ弾丸を再度を装填する。
厳密には弾丸ではない。砲弾だ。
機人用携帯砲『月墜』。ユエイン本人が扱い切れない超絶火力の火砲に、次弾がガコンと装填される。
機神の腕と砲。薙ぐも穿つも馬鹿げた威力で暴れ回る怪物。乗り込んだユエインを討たねば止まらない。
「撤退するというのであれば、深追いはしないよ」
罠を警戒した上での言葉だが、それはまるで降伏勧告のようで、レプリカント部隊は素直に退いていく。
敵わないと見たか、あるいは別の作戦でもあるのか。
一言も発しないレプリカントたちは最後まで苦悶の声さえ漏らさずに去って行く。
「……本番はきっとこれからだしね?」
得体の知れなさを感じながら、ユエインが呟く。
その足下で近隣最後の救助対象が仲間に連れられ戦域を離脱していった。
大成功
🔵🔵🔵
ロッテ・ブラウ
★青年の姿に化け中
※別の救助対象と合流した演出希望
オーダー通りの仕事は完遂を目指す
UC【幻想奏者】の効果により
愛機『禍津血』の300機を超える大幻影部隊を作成
敵部隊が深追いしない情報を信じ
大部隊を見せつけることで撤退を促します
救助対象達が、レプリカント達をどう見ているのか
話すことが出来るなら確認
もしただの道具としてみているなら
「大尉以外はどうしても構わないんだね」
戦闘で動かなくなったコックピットからレプリカントを引っ張り出し
引き金を引いて目の前で銃殺する幻を見せつけた後
先に撤退させ
「バカだな、嘘つきの言葉を簡単に信用するんだからさ」
レプリカント達を手持ちの薬を使い治療
この戦場の状況を確認します
●幻影大隊
「ああ、やっと見つけた」
はあ、と疲れた風に溜息を吐き、ロッテ・ブラウ(夢幻・f29078)がはぐれた部隊に接触した。
「た、助けに来てくれたのか……?」
傭兵だという事は察したようだが、ぶらりと生身でやってきた青年に疑いの目を向ける。
疑念よりは不安が強い。ただ、その心配はロッテ自身にも向いていた。
この国は人間にとても優しい。
他国民に対しては知らないが、どうやらロッテが化けた青年までその優しさは適用されるようだった。
「ふうん。情報通りか……」
だとしたら、あっちの方も確かなのかな、とロッテが漏らす。
その独り言を聞き逃して首を傾げる部隊員を擦り抜け、ロッテは前へと進んだ。
逃げ惑いながら立ち向かう人間の部隊。それを的確に潰していくレプリカント部隊。
他の場所以上にキャバリアが少ないこの場ではもう間もなく殲滅が終わりそうになっていた。
ギリギリ間に合ったと言う所か。
「危ないぞ! せめて俺のキャバリアを使ってくれ!」
生身のまま進んでいくロッテをボロボロの部隊員が呼び止めた。
どこまでも人間に優しい。自分の身が危ういって時に、命綱のキャバリアを他人に渡そうとするくらいに。
しかしロッテはひらひらと手を振って、いいから逃げなよと返す。
それに、キャバリアは必要ない。もう持っているのだから。
「おいで、禍津血」
その名を呼べば、虚空が開く。
次元と空間を超えて召喚に応じるは黒と紫の専用キャバリア。ロッテ・ブラウが駆る、悪魔の如き愛機だ。
それが、虚空より大量に現れた。
優に三百を超える機体数。いずれも量産型とは一線を画す驚異の性能を誇る怪物機。それらが全て、一斉に地に降り立った。
「さて。実力も見せつけた方が良いかい?」
何時の間にか一機に乗り込んだロッテの声が響く。
先程心配し、今は腰を抜かしている部隊員へ向けた言葉ではない。
目の前で残党狩りの手を止め禍津血部隊を睨んでいるレプリカント部隊に対しての警告だ。
言葉は返らない。
代わりに敵キャバリアが銃を構えた瞬間、禍津血がその一機を瞬殺した。
動いたのは一機だけ。その一機にさえ対応出来ずに四肢を粉砕され機能停止する敵キャバリア。
「どうする?」
もう一度問えば、今度は銃口を震わせて悩んだのち、レプリカント部隊が退いて行った。
戦闘直後で大きく消耗していたのも影響したのだろう。仲間を置いていくことに随分と悩んだようだが、すでに手遅れと見たようだ。
「す、すげえ……!」
腰を抜かしたままの部隊員が感嘆の声を漏らす。
その眼前で禍津血部隊は虚空へと還っていき、残った一機からロッテが降りて来る。ついでに、戦闘不能にしたキャバリアからレプリカントを引き摺り出しながら。
「な、何してんだ……?」
と、瀕死のレプリカントを引き摺ってきたロッテに部隊員が怯えだす。
「訊きたいことがあってさ。これじゃなくて、君に」
別に大したことじゃないよと怯える部隊員の前にしゃがみ込む。
大した事ではない。ただの確認だ。
本当にこの国の人間がレプリカントを道具として見ているのかどうか。それが聞きたかっただけ。
その答えは、聞いていた通りだった。
「そんなの、『物』に決まってるだろ?」
何の疑問も無い、嘘偽りのない言葉。
顔に浮かぶのは困惑だけ。何故そんな当たり前のことを問うのかと。
「……そう」
ロッテが詰まらなさそうに立ち上がる。片手に瀕死のレプリカントを、もう片方の手に拳銃を握って。
「大尉以外はどうしても構わないんだね」
言って、ロッテが引き金を引いた。
軽い破裂音とそれなりの反動。こめかみを撃ち抜かれたレプリカントが、その場にどちゃっと倒れ込む。
最終確認のつもりだった。物扱いの真偽を確かめるための。
そして答えは、
「そういうのは、よしてくれ」
……憤怒だった。
あからさまな嫌悪と憎悪。ただそれも直ぐに曇って消える。
「あんたは恩人だ。でもな、『それ』だって俺達の命と生活を守ってくれてるんだよ。物は物でも『大事なもの』なんだ。粗末に扱っていいわけがねえ」
そう言って部隊員がうつむく。
恩人に向かって酷い感情を向けたのを悔いているのだろう。
謝ろうかと逡巡しているのが見て分かったが、次に出たのは謝罪の言葉ではなかった。
「あんたの言う通りだ。プラントを奪還し、スガワラ大尉を救ってやれるなら、レプリカントはどうでもいい。……好きにしてくれ」
最後の言葉は絞り出すように言って、そうして部隊員は立ち上がり、去って行った。
周囲に脅威は無い。放っておいても無事別部隊と合流出来るだろう。
「……なるほど、『レプリカントにとっては地獄』か」
この国ではレプリカントを物として扱う。
大事なものとして。
虐げているつもりはなく、好いているし感謝もしている。
ただそれは飽くまで国を守る兵器として。
レプリカントはきっと淡く芽生えた感情で自身の役割を受け入れ誇っていたのではないか。
思えば今回の内乱もスガワラ大尉が発端で、レプリカントは彼を守っているだけだ。大尉にしたって『復讐』ではなく『救済』を求めたに過ぎない。
つまりレプリカントは、誰も憎めず、恨めず、己の扱いに疑問を感じる事さえ出来ずにいたのだ。
「地獄だなあ」
そう言ってロッテが『幻想奏者(フェアリーズダンス)』を解く。
それは幻を作り出すユーベルコード。
大量のキャバリアも、撃ち殺されたレプリカントも、全部幻影だ。
「バカだな、嘘つきの言葉を簡単に信用するんだからさ」
言いながらロッテは倒れたレプリカントに歩み寄る。
ロッテが乗り込んだ禍津血と、それに倒された敵キャバリアは本物。気絶したレプリカントも撃ち殺すふりをしただけで本物だ。
ロッテはそのレプリカントを楽な姿勢で寝かせると、手持ちの薬で治療を始めた。
「……本当に、バカだなぁ」
ふと周囲を見渡せば、遠方の空に銃声が響いていた。
地獄はまだ、続いている。
ロッテはしばらく空を見ていた。
大成功
🔵🔵🔵
朱皇・ラヴィニア
レプリカントの部隊か……そういうのもあるんだ
ともあれ、彼等を止めないといけない
思想はどうあれ、やり方ってのがある
刃を向ける相手を間違えちゃいけないよ
肉体改造でゼルの瞬発力をチューニング
147を直剣状に構成して突撃だ
こちらが危ない存在だと暴れ回って
撤退の時間を稼がせて貰う!
射撃は耐えられそうならば受けて立つ
伊達に突撃仕様じゃないんだ、行くよゼル!
そのまま肉薄して敵機の武装や四肢を攻撃
戦闘能力を奪い機体を捨てて逃げて貰おう
ボクもレプリカントさ、気持ちは分からなくもない
だけどそんな事を続けてたら
最後の一人を失うまで地獄で踊り続ける羽目になるよ
もっともそれはこの国の人達もだ
……まあ、仕事はさせて貰うよ
●朱甲機兵
「レプリカントの部隊か……そういうのもあるんだ」
朱皇・ラヴィニア(骸の虚・f29974)が呟いて敵陣を見やる。
将官一人が大量のレプリカントを率いる歪な部隊。それは人間の都合で作られた筈なのに、まるでそれが最適解かのように機能的で理想的な動きをしていた。
一糸乱れぬ団体行動。一貫した指揮系統。一切揺るがない精神性。
敵がオブリビオンマシンに乗っていることを差し引いても人間の部隊が敵わないのに納得出来る、それほどの部隊だった。
だが、感心してばかりでは居られない。
「思想はどうあれ、やり方ってのがある。刃を向ける相手を間違えちゃいけないよ」
ラヴィニアは駄目元で呼び掛けてみた。
彼等を止めないといけない。それは依頼だからというだけじゃない。
無論返事も反応も無い。それでもラヴィニアは絶えず声を掛ける。
そうしながら合流した部隊を逃がすために注意を引き付けている。
ただ声を掛けるだけではない。ラヴィニアの駆るジャイアントキャバリアは、敵部隊に呼びかけながらも圧倒的な戦力で敵を押し返していた。
ジャイアントキャバリアは生体兵器。その肉体を自ら改造して瞬発力を底上げした愛機『ゼル』が、直剣型のキャバリアソードを腰だめに構える。
次の瞬間には、戦場を一筋のラインが両断していた。
突撃仕様の赤いキャバリアは生半可な弾幕ならば無視して真っ直ぐ突き破る。ラヴィニアの言葉を無視していたレプリカントたちも、この暴虐を見逃すことは出来なかった。
一撃を見舞った次の瞬間には、レプリカント部隊の全ての銃口がラヴィニアとゼルに向いている。
元より深追いはしないとは聞いていたが、あっさりと人間の部隊を見逃すあたり、レプリカントからは怨恨を感じられなかった。
この内乱は、復讐ではない。
飽くまで救済を求め、変革を起こそうとしたものだ。
だからこそ、ラヴィニアは再度言葉を紡ぐ。
「ボクもレプリカントさ、気持ちは分からなくもない」
投げた言葉に嘘は無い。
ラヴィニアはレプリカントだ。
この国では物として扱われ、最前線で使い潰される、消耗品だ。
それどころか相棒のゼルもユミルの子という命を持つ兵器である。
命を持ちながら物として扱われる。その気持ちは、誰よりも理解出来る。
「だけどそんな事を続けてたら最後の一人を失うまで地獄で踊り続ける羽目になるよ」
それはまるで先人としての忠告の様に。
もっともそれはこの国の人達もだ、などと思いながら、今はレプリカントへと真っ直ぐに向き合う。
だがその言葉も無視されるだろうと思っていた。
しかし、レプリカントは反応した。
攻撃の手を止め、言葉を投げ返して来たのだ。
「その『最後の一人』が隊長であるのなら、私達はそれで構いません」
淡々とした言葉だった。
隊長、つまりスガワラ大尉が最後まで生き延びてくれるのなら、それで良いと。
その一言だけで分かった。レプリカントは復讐どころか変革すらも望んではいないのだと。
気持ちを理解出来ると言ったのはラヴィニアの方だが、その返答から感じ取れた『気持ち』には、何かが決定的にずれている印象を受けた。
「……まあ、仕事はさせて貰うよ」
説得しに来たわけじゃない。
それでも、交わした言葉は無駄ではない。
ラヴィニアの合図でゼルが跳躍し、敵機の四肢を瞬く間に奪い去る。飛び交う弾丸を乱雑に弾き返し、獣じみた機動で次の獲物を戦闘不能へと追いやった。
激しい戦いの最中に、ラヴィニアは噛み締める様にして理解した。
レプリカントは、この国を地獄だとは思っていない。
自分が虐げられているとも、苦しいとも、悲しいとも、思っていない。
彼等が選んだのはスガワラ大尉について行くことだけ。
例えその行く末がなんであろうと、きっとレプリカントたちは受け入れてしまうのだろう。
でもなぜだろうか。
本人が悲しんでも苦しんでもいないはずなのに、ラヴィニアからはレプリカントたちがどうしても悲しい存在に思えてならなかった。
大成功
🔵🔵🔵
セロリ・サーティーン
レプリカントの国…何だか、母国を思い出します。
ともかく、撤退を、手伝わなければ。キャバリア『Battler』搭載の『Battler-Assistant』に、【索敵】を、してもらいます。
大尉の部下の位置を、索敵したら、皆さんに無線で共有……俺は、敵が来る道に、居ます。皆さんは、後退して下さい。
俺はあえて、Battlerから降ります。指定UCで、無敵状態になって、敵の的を引き受けます。もし、Battlerを、すり抜けて行くようであれば、乗り込んで、パルスマシンガンによる【制圧射撃】の【マヒ攻撃】。動きを止めます。
何が何でも、敵視は俺に向けさせたい。皆さんは、頑張って、逃げて下さい…!
●任務遂行
レプリカントの攻撃は苛烈だった。
頑丈さが取り柄の量産型キャバリア同士の撃ち合いは泥仕合になり易い。それもあって、執拗なまでに銃弾や爆撃を撃ち込み続け、傍目には凄まじい戦場になる。
人間の部隊が押され始め、撤退を渋る内に機会を失ってからも、レプリカントの猛攻は止まらない。
セロリ・サーティーン(生きるからくり人形・f30142)が自前の量産型キャバリアで駆け付けた時にはとうに決着はついていた。
「完全に囲まれていますね……」
どうしてここまで粘ってしまったのか。
それは戦場見れば分かる。
倒れた仲間を見捨てられなかったのだ。
そうして退くに退けず戦い続けたが故の孤立。そして、全滅だ。
セロリの到着がもう数分遅れていれば全員やられていただろう。
「傭兵か!? 助かった! でももうここは……!」
生き残った部隊員が叫ぶ。
戦闘どころかまともに動ける者も少ない。こんな状況で傭兵が一人駆け付けたところでどうにもならないと思っているのだろう。
それを何とかするのが猟兵だ。
「情報を共有します。このルートを通って撤退して下さい」
セロリは部隊員たちへと言う。
共有した情報はセロリのキャバリア『Battler:S-13』に搭載されたアシスタントデバイス『Battler-Assistant』が算出した逃走経路だ。
敵機の位置や地形データをもとに比較的安全な道を選んでいる。
加えてセロリが敵部隊を足止め出来れば『比較的安全』はより安全になるだろう。
「あんたはどうすんだよ!」
しかし部隊員は逃げ出さずにそう叫ぶ。
人間に優しいとは聞いていたが、仲間を見捨てられず窮地に陥ったり、ここに到って傭兵一人置いていけなかったりと、度が過ぎているようにも思える。
ならばとセロリは両腕を開いた。
そして自ら『Battler』から降りる。
コックピットから顔を出し、胸を張ってセロリは宣言する。
「俺はレプリカントです。だから、大丈夫。皆さんは、後退して下さい」
人を見捨てられないのなら。
人ではないと、示せばいい。
この国で物として扱われるレプリカントだと、明かしてしまえばいいだけだ。
「……そうか」
部隊員が納得したようにうなずいて、立ち上がる。
「仲間も連れて行きたい。時間は稼げるか?」
「お任せを」
急に遠慮が無くなった部隊員に応え、セロリは真っ直ぐに敵部隊を見た。
コックピットから出て生身を晒すセロリに得体の知れなさを感じているのか、敵部隊にまだ動きは無い。
その隙に部隊員たちは仲間を回収し、戦線を離脱する。
「……悪いな、恩に着る」
去り際にそう言って、簡易的な敬礼や会釈を残して部隊員たちは撤退を始めた。
レプリカントを人とは思わない。それでも、感謝していないわけではないということか。
「……何だか、母国を思い出します」
似て非なる部分は多々あれど、と、セロリは少しだけうつむいた。
この国は、レプリカントにとっては地獄である。
こうも真っ直ぐに感謝されては、物扱いされようと、応えたくなってしまう。
うつむいたセロリに向かって、遂に攻撃が開始された。
セロリが立つ場所は撤退ルートの起点。ここを抑えていれば部隊員の撤退を妨げる者は居ない。回り込もうにも正確なルートが割れていなければ追い付く事は出来まい。
つまりここさえ守れば部隊員は無事に退却出来るということ。逆に言えば、レプリカント部隊はセロリを退かす必要があるということだ。
「通しません……!」
セロリが叫ぶ。
その身を撃ち、焼き払う砲撃を、セロリと『Battler』は無傷のままで受け切った。
敢えて戦闘行動を放棄し、全く別の事に没頭することで発動するユーベルコード『ShutOut-Mode(シャットアウトモード)』は、セロリたちを完全無敵の鋼鉄機兵へと作り替える。
壁としてこれほど優秀な技は無い。その無敵ぶりと外見の変貌から『何か途轍もない力を秘めている』と勘違いしたレプリカント部隊が更なる猛攻を仕掛けてきた。
戦場において戦闘を忘れるのは容易ではない。
ただ、この戦場には、この国には、思いを馳せる事柄が多過ぎた。
「全員、生きているのですね……」
じっと見渡した戦場には、大破しもう絶望的だと見捨てられたキャバリアも居る。
だが、そこにも生体反応がある。『Battler』はキャバリア内部に生存者を感知していた。
死者ゼロ名。
狙わなければ出来ない所業だ。
この国の人間が仲間を見捨てられない性分だと知っていて『不殺戦術』を取った可能性が高い。実際に撤退を渋って窮地に立たされていたし、撤退後も治療やなんやで大きな負荷が掛かるだろう。
ただ、そうでないとしたら。
「……通さないと、言いましたよ……!」
セロリは考えを打ち切った。
いつまでも動かないセロリに対し、レプリカント部隊が強行突破を仕掛けてきたからだ。
即座にキャバリアへ乗り込んだセロリがパルスマシンガンを乱射する。
敵機は痺れ、倒れて、それでもなお向かってくる。
やがてレプリカントが不利を悟って後退するまで、セロリはただ、その場を一歩も動かなかった。
任された使命を無心で全うするように。
大成功
🔵🔵🔵
トリテレイア・ゼロナイン
最優先目標はオブリビオンマシン
ですが…
ロシナンテⅣ搭乗
部隊員●かばいつつ●地形の利用の為センサーで●情報収集
●盾受け武器受けで攻撃を防ぎながら機体●ハッキングの直結●操縦で障害物や地形●踏みつけ狙い絞らせぬ縦横無尽の挙動で敵陣突撃
剣やサブアームのライフルで敵機体の悉く固定武装や手破壊
後退させ友軍撤退支援
※オーブンチャンネル
ウォーマシンという機械種族をご存知ですか
(私の様なケースあれど)
己が製造目的や指令遂行を存在意義とする帝国の戦闘兵器
矢面に立たされ、その果てに斃れても
それが誇りなのです
(敵手と向き合う為)
戦機の騎士としてお尋ねします
この国のレプリカント…貴方達の誇りは
意思は何処にあるのですか
●戦争被害
危機に瀕した民の前に、颯爽と騎士が現れ助けてくれる。
そんな御伽噺を体現したのは量産型改造キャバリア『ロシナンテⅣ』に搭乗したトリテレイア・ゼロナイン(紛い物の機械騎士・f04141)だ。
ライフルやサブアームを持ちながら騎士型としてのシルエットを崩さない、頼もしき真のキャバリアに、部隊員たちは沸き上がった。
もちろん搭乗演出の見た目だけでは終わらない。参じるや否や敵を撃ち抜き、薙ぎ倒し、降り注ぐ弾丸から部隊員を庇ったまま敵機をハッキングし、作った隙を抉じ開けるように突撃を敢行する。
まさに八面六臂の大活躍だった。
到着から五分もすれば形勢は逆転し、レプリカント部隊はかなり距離を取ってトリテレイアと睨み合う。
攻めるにも守るにも難しい距離。どちらかを行えばもう一方が疎かになる。
それがわかっていて、両者は睨み合い、そして止まった。
このまま退いてくれれば良いが、どうやらその気は無いらしい。
ならば今の内にとトリテレイアが問い掛けた。
その問いは敵であるレプリカントたちへ。全員に聞こえるようにと声を張る。
「ウォーマシンという機械種族をご存知ですか」
それはトリテレイアの種族名。
レプリカントと同じく機械であり、レプリカントとは違って明確に兵器として製造された種族だ。
「己が製造目的や指令遂行を存在意義とする帝国の戦闘兵器。矢面に立たされ、その果てに斃れても、それが誇りなのです」
無論、そうは思わない者も居る。
ただ少なくとも兵器として戦い散って行った者の胸にはどんな形であれ誇りが有った筈だ。
問われたレプリカントたちの中には誰もウォーマシンの事を知る者は居なかったが、ただ黙ってトリテレイアの話を聞いている。
警戒しているのか、会話する気が有るのかは分からないが、ただ睨み合ったまま動かない。
そこへもう一つ、トリテレイアは本命の問いを投げ掛けた。
「戦機の騎士としてお尋ねします。この国のレプリカント……貴方達の誇りは、意思は何処にあるのですか」
騎士として。
誇りの有無は、最も大事なことだった。
敵の誇りなど関係無いと言う者も多いだろうが、トリテレイアが敵手と向き合う為にはどうしても必要な問いかけだった。
幸い、レプリカントはその問いに答えてくれた。
ばっとりと、「誇りなどありません」と。
ぎり、と武器を固く握りしめるトリテレイアに、しかし次の言葉が紡がれる。
「ですが、隊長は誇れとおっしゃいました。『君達は国民の平和を守っているんだ』と。この終わらぬ戦乱の世界で我が国の子供達が夜に怯えず明日を夢見て安眠できるのは全て、我々のお陰なのだと」
トリテレイアの動きが止まる。
命を賭して人々の生活を守る。それは、まるで騎士のようだ。
しかしとレプリカントたちは否定を重ねた。
それでもそれを誇りに思った事は無いのだと。
「だって、そうでしょう。あなたは女子供をも手に掛けて、その返り血に濡れながら『自分は国を守ったのだ』と誇れるのですか」
スガワラ大尉は思い悩んでいた。
結局は奪い合いなのだと。
国民を守る事が軍人の誇り。この戦乱の世の中で、戦火を知らず、太陽の下でただ笑って過ごせる人々が居る。それが何よりも誇らしい。
だがその反面、レプリカントは消耗品として死んでいく。他国民もそうだ。学生連合と戦えば恋も知らぬような罪無き若者を屠らねばならない。
そんな事を、誰が誇れる。
誇れと言った大尉が誇れぬものを、誇りを知らぬレプリカントが何故誇れる。
「あなたは、悪であることを誇れるのですか」
その言葉が真っ直ぐにトリテレイアへと向けられた。
騎士は。
こんな時、騎士は、何と答えるべきなのか。
黙ったまま、トリテレイアはレプリカントたちを見詰める。
レプリカントたちもまた、黙って騎士を見詰めていた。
その騎士が、彼等の主を救う言葉を持っていることを期待して。
大成功
🔵🔵🔵
セルヴィス・アレス
【POW】
人助けだな!兄弟…『スカベンジャー』に乗って行くぜ!
要は時間を稼げばいいんだろ!正面切って応戦すれば、相手は増援だと思って足が止まるはずだ!
撃って走って、走って撃つ!押し返せなくても、これだけで十分時間稼ぎになるってすんぽーだぜ!
(コクピットに乗りこんでから)
しっかし、隊長以外レプリカントだけでできた隊かー。うちの国じゃレアすぎて無理だな、無理無理!
ははは…あれ?それが裏切ってるってことは、オレ姿見られるとヤバいんじゃ…
ちょっと本気で避けよ…
●単騎増援
「人助けだな! 兄弟……『スカベンジャー』に乗って行くぜ!」
話を聞いてすぐ、そう勇んでセルヴィス・アレス(アクロバット・スカベンジャー・f30483)は量産型キャバリア『スカベンジャー』へと乗り込んだ。
そうして駆け付けた戦場で激しくぶつかり合う量産型キャバリアは同じ量産型でもスカベンジャーとはまるで違う。
スカベンジャーが武器も装甲も戦場の残骸から組み上げる現地調達を得意とした万能型なのに対し、この国のキャバリアはどれもこれもただただ頑丈なだけだった。
動きも遅いし火力も低い。コックピット周りの多重装甲以外には特筆すべき点すらない汎用機ならぬ凡庸機だ。
「これなら特別何かしなくっても押し切れそうだぜ!」
言いながらスカベンジャーは銃を構える。
これだって凡庸な武器だが、それでも敵機の銃よりは余程強い。
流石に防御特化のキャバリアを蜂の巣にする威力は無いが、その分貫通せずに叩き付けられた衝撃がキャバリアの大群を押し込める。
「傭兵か! すまない、助かった!」
「いいってことよ! それよりちゃっちゃと逃げちゃってくれ!」
叫んでセルヴィスが遮蔽物を乗り越えた。
強引過ぎて無謀に等しい突撃だが本気で突破する気は無い。飽くまでこれは陽動。部隊員を逃がすまでの時間稼ぎが出来ればいい。
そして時間の稼ぎ方は何だって構わないのだ。
例えそれが正面切っての単騎突撃だとしても、むしろ応じずにはいられないのだから上々だ。
「敵はオレを増援だと思って足を止める! そんでオレが撃って走って走って撃てば、それだけで十分時間稼ぎになるってすんぽーだぜ!」
退却を開始した部隊員を狙う敵機を優先しつつ、セルヴィスの駆るスカベンジャーが銃弾をばら撒いた。
深追いしない敵部隊は追撃に横槍を入れるだけであっさり止まる。逆に言えば簡単に全ヘイトを掻き集めてしまうわけだが、そこからは腕の見せ所だ。
単純な作戦ほど、成功させるには高い技術が必要になる。
単純すぎて早々に看破された作戦をそれでも完遂しようと言うのだから当然だ。
セルヴィスにそれを成し遂げるだけの実力があるかと言えば、答えは是である。
まるで自分の身体かのように操られたスカベンジャーが鉛の雨を掻い潜り、逆に集中砲火を浴びせて敵機をボコボコに凹ませた。
ユーベルコードを用いない地力勝負の競り合いは一見地味なようでいて、それ故に彼我の実力差を思い知らせるには十分だった。
「深追いはしてこないんだったな……!」
セルヴィスに撃ち負かされた機体は再起不能にまでは陥っていない。にも拘わらず積極的に復帰してこないのは、元よりこちらにそこまで執着していないからだ。
飽くまで機械的に状況判断を下すレプリカント部隊。その冷たいまでの有用性をセルヴィスは垣間見た気がした。
「しっかし、隊長以外レプリカントだけでできた隊かー。うちの国じゃレアすぎて無理だな、無理無理!」
プラントから出現するレプリカントだが、その出現率はごく稀なものである。
他ならぬセルヴィスもレプリカントではあるがその誕生については小さくない悶着が発生したほどだ。
それほどレプリカントは存在が珍しい。
この国がレプリカントに頼っていられるのがそもそも異常なくらいに。
「……ところでオレ、姿見られても平気だよな……?」
この内乱がレプリカントの反逆であったなら、レプリカントでありながら人間を庇うセルヴィスをどう思うだろうか。
実際に敵意は感じない。人間に対して特に何を思う様子も無い。
それでも知られるのは何となくバツが悪いと、セルヴィスが悩む。
「……ちょっと本気で避けよ」
何かしくじってコクピットが破損するとも限らない。
要らない心配に冷や汗を流しながらセルヴィスのスカベンジャーは数多の敵機をスクラップへと変えていった。
大成功
🔵🔵🔵
クシナ・イリオム
アドリブ歓迎
優しいってのは本当みたいだね
ちょっと交渉をしたら結構報酬を釣り上げてくれたよ
…まあ、レプリカントは国民の中に入ってないんだろうけど
指定UCで機雷網を敷設し、敵の追撃を妨げながら
後方に停泊するグレイブマーカーへの収容を行うよ
各々逃げるよりは部隊として収容したほうが生還率は高いはず
配置図は渡すから隠した機雷に誤爆しないよう気をつけてね
余裕があるならどこかで救出した相手と世間話でも
大尉みたいなレプリカント擁護派は本国にどのぐらいいるのかとか
人間部隊とレプリカント部隊ではどっちのほうが多いのかとか聞いておきたいな
…こういう草の根調査もバカには出来ないからね
何が仕事につながるかわからないし
●民心調査
この国の量産型キャバリアの攻撃力は低い。
派手な兵装も無いし、事故を防ぐために爆発物全般をあまり使用しないためだ。
だが戦場には爆発音が連なり、鉄片が煙と共に吹き上がっては周囲の建造物が倒壊していった。
「うん。上手くいってるね」
そう呟いて地響きを残す爆発の名残を見守るのはクシナ・イリオム(多世界戦闘商・イリオム商会総帥・f00920)だ。
孤立した部隊の救援に訪れた彼女が取った行動は、まず周囲にユーベルコード製の機雷網を設置する事だった。
機雷は地面から約4メートルほどの位置に浮かぶ浮遊機雷。
人間が走り回ってもまず当たらないが、キャバリアなら潜るのも飛び越えるのも難しい位置だ。
救護対象の部隊員には誤爆を避けるために配置図を渡してある。いざとなればキャバリアを降りることで機雷を潜ったり、機雷を撃って誘爆させることが出来るだろう。
クシナが直接戦わずともトラップを駆使することでより広域での救援が可能となっていた。
加えて、一時的な退避場所として、クシナは自前の陸上軽母艦を解放していた。
流石に全部隊・全キャバリアを収容できるものじゃない。が、逃げるにしても応急手当てが必要な者、キャバリアから動かせなくなってしまった者を丸ごと乗せられるのは大きい。
ただしメリット以上にサイズも大きいので陸上母艦はやや後方の大通りへと置かれている。
「そこまで誘導出来ればこっちの勝ちだよ」
クシナが呟く。
敵からも機雷は見える。だが連鎖爆発の範囲まで計算するのは難しい。ユーベルコードで作られた機雷は外見から破壊力を推し量るのは難しいからだ。
深追いしないといわれている敵部隊からしてみれば、危険を冒して機雷網の中へ飛び込むような理由もないだろう。
クシナが機雷を周辺一帯に配置し終わる頃には既に敵部隊の影も見掛けなくなっていた。
「思ったよりも利口だね」
指揮官の能力か、レプリカントの現場判断か。向こうにもユーベルコード含む対抗策くらいあるだろうに、それを一つも晒さずに退いていく。
情報をほとんど渡してくれないなんて、この先が面倒そうだ。
なら、とクシナは軽母艦に保護した部隊員たちのもとへと向かった。
敵から情報を得られないのなら、味方から引き出せばいい。
役に立つかどうかを分からないが、草の根調査もバカには出来ないのだ。
「ねえ、大尉みたいなレプリカント擁護派は本国にどれくらいいるの?」
まずは世間話から。
と思ったが、初っ端の話題からして空ぶった。
「大尉? 大尉はレプリカント擁護派じゃないですよ。そもそも擁護派って敵国の精神攻撃でしょう?」
さも当然のように返す部隊員たち。反応を見る限り本気で言っているようで、どうもスガワラ大尉の苦悩を欠片も知らないらしい。
この内乱も、どうして起こったのか分からない、と。
「敵国の奴等は『レプリカントは生きている』なんて言う癖に、うちのレプリカントを容赦無く破壊します。そのくせ人間みたいな言動をするレプリカントを用意して俺達と戦わせるんですよ。人情に訴えて動揺を誘う、卑劣な作戦です」
部隊員たちの言葉にクシナは頷く。
なるほど。彼等から見れば、他国の、一般的なレプリカントの扱いはそう見えるのだろう。
「当然そんな妄言に惑わされないよう、レプリカント部隊の隊長には強靭な精神力の持ち主が任命されます。スガワラ大尉もそうです」
そうだろうか。
とは言えずに、頷く。
「そのレプリカント部隊と人間部隊ではどちらが多いの?」
「そりゃやっぱり人間部隊ですね。ほとんどが後方支援主体でキャバリア乗りも専業操縦士より整備士上がりばっかりですが。ただ、直接戦闘が起こり得る国境付近と侵攻部隊は全てレプリカント部隊です」
つまり、命の危険がある場所にはレプリカントがあてがわれている。
人命最優先。やはりこの国は人間に優しい。
成功報酬ではあるが、クシナの交渉にも快く応じてくれた。部隊員を無事救出出来れば追加で報酬を支払うと。
「危険なことは全部レプリカント任せなんだね」
と、少し嫌味な相槌を打つ。
反応を見たかったからだが、部隊員たちは気にもせずに頷いていた。
「大尉やレプリカント部隊の隊長には頭が上がらないです。お陰で俺らは五体満足で生きていられるし、嫁も子供も笑って生活できるんですから」
だから。
どうにか大尉を救って欲しいと、部隊員たちは頭を下げた。
国からも大尉の保護は追加報酬の条件として提示されている。
英雄と言えば聞こえは良いだろう。
だが、実際には危険なことをレプリカントたちに押し付け、人殺しの罪と罰の全てを隊長たちへ背負わせているだけだ。
彼等は幸せだろう。
彼等だけは、間違いなく幸せなのだろう。
「……天秤が傾き切っているんだね」
商人として、その一方的な関係をそう評す。
でも、先のレプリカントの話といい、おかしいのは彼らなのだろうかとの疑念も沸く。
……レプリカントを国民として認めない国と、レプリカントを国民としながらも戦わせ、殺し、死なせる国。そのどちらがおかしいことを言っているのだろうか。
「なるほどね」
仕入れた情報を噛み締める様に、クシナはゆっくり大きく頷いた。
もう間もなく全戦域での救助活動が終わる。
そうすれば、いよいよスガワラ大尉率いるレプリカント部隊との直接戦闘が待っている。
大成功
🔵🔵🔵
第2章 集団戦
『オブシディアンMk4』
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POW : ホークナパーム
【油脂焼夷弾】が命中した対象を燃やす。放たれた【高温の】炎は、延焼分も含め自身が任意に消去可能。
SPD : ピアシングショット
【スコープ照準】により、レベルの二乗mまでの視認している対象を、【RSキャバリアライフル】で攻撃する。
WIZ : マイクロミサイルポッド
レベルm半径内の敵全てを、幾何学模様を描き複雑に飛翔する、レベル×10本の【誘導ミサイル】で包囲攻撃する。
👑11
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●狂気と正気
「大尉。全隊員、無事に帰還いたしました」
プラント収容所へ訪れたレプリカントが敬礼する。
プラントの前に座する新型キャバリア。その胸部装甲に腰掛けて項垂れていた男が頷いた。
「よく帰って来てくれた」
暗い顔でむりやり笑い、労いの言葉を口にする。
心労が祟った、にしては異常な憔悴ぶりだ。
それが新型キャバリアに扮したオブリビオンマシンの精神汚染のせいだとは、まだ誰も気付いていない。
ただ予兆だけは感じていた。
「最近、どうしても憎しみが拭えないんだ」
スガワラ大尉が零す。
その憎しみは、国に、そして民へと向けられていると。
「今までは誇らしかった。この世界で夜に怯えず明日を夢見て眠る子供達が。その安寧を守っているのが俺だということが、誇らしかったんだ」
偶に本部へ向かう時、祭事に召喚された時、前線から離れた平和な街並みや笑顔の人々を見掛ける度に、心が温かくなるのを感じていた。
たった一人で敵を殺し、奪い、また殺す。そんな血塗られた日々の裏で、こんなにも尊い営みが送られているのだと。
「だが今は違う。俺の苦悩も! 君たちの犠牲も! 何も知らずに惰眠を貪り、上っ面の感謝だけで恩に報いることも無い! そんな奴らの全てが憎くて憎くて仕方が無いんだ
……!!」
大尉の顔が歪む。
怒り、憎しみ、悲しみ。
全てを混ぜた、苦痛の表情に。
「俺は国を守りたい。だけど君たちも守りたい。誰も死なず、奪われない、そんな都合の良い未来が欲しい」
でも、そんなのは無理だ。
できるのなら初めから戦争など起きていない。
できないからこそ、せめて軍人以外の国民には何も知らずに笑って欲しいと願ったのだ。
それを今更ひっくり返そうとしているスガワラ大尉の方がおかしいのは、大尉自身がわかっている。
それでも。
それでも、どうにかしたい。
だが答えは未だに出なかった。
そんな情けない男の姿を見下ろして、
オブリビオンマシンは、声も無く嗤っていた。
●献身と選択
レプリカントたちは再びキャバリアに乗る。
これもまたオブリビオンマシンと化した怪物だ。
スガワラ大尉が生産コストを言い訳にして人間用と同じキャバリアを配備してもらって以来、ずっと乗り続けている機体。
頑強さが売りの、パイロットを守るキャバリア。
例えそれが悪魔に変じようと、レプリカントたちは躊躇わずに乗るだろう。
彼らの目的はただ一つ。『大尉が悩んでおられるので、答えが出るまでの時間を作りたい』と、それだけだ。
その為に彼らは命を賭けた。
今度は退く気が無い。
例え全てがこの場で終わろうと、彼らは何も悔いることは無い。
彼らが選んだのは、ただ『スガワラ大尉の傍にいること』だけなのだから。
ロッテ・ブラウ
【SPD】
1章で助けたレプリカントに伝言を頼みます
ボクが彼らに化けて潜入もアリだったんだけど
変なところでボロが出そうだしね
伝言の旨は以下の通り
①縁のある他の国への亡命の誘い
②ボクの能力で死亡扱いに偽装して追っ手を騙すこと
③何より彼らを不幸にしない約束
う~~ん、うまく行けば良いけど…
さて戦場に出てきた『オブシディアンMk4』も怪しい雰囲気だしな
サポートしつつ結果を確認するためにも道を切り開きますか
【幻想領域】の効果で、パイロットとして操縦と反射神経の能力を底上げ
『ピアシングショット』に対して『ステルス装甲』の機能で対抗
属性攻撃で囮を作成しつつ
姿を隠し高機動で接近し『暗殺』で無力化を狙います
●拒絶
退却戦は上手くいった。
猟兵もレプリカント部隊もやり合う気が無かったのだから当然だろう。それでも救助対象を守り抜いた分、猟兵たちの勝利に違いは無い。
しかし今度は猟兵たちが挑むことになる。
当然今度もレプリカント部隊は迎撃に出て来るだろうが、猟兵たちはそこらの部隊よりも断然強い。
更なる激戦になるだろう。
だからそうなる前に、ロッテ・ブラウ(夢幻・f29078)はレプリカント部隊との対話を望んでいた。
「さて、どう転ぶかな」
そう呟いてロッテは一人、前線へと向かう。
人目を忍んで前へ出たのも対話のため。その布石は打ってある。
「一先ず次には繋がったみたいかな」
瓦礫の陰で背を預けていると、同じく単身でレプリカントが現れた。
それは先の退却戦でロッテが瞬殺し、介抱までしたレプリカントだ。
つまりは敵。……なのだが、向こうもロッテに気付きながら敵意も無く近付いてきた。
「罠ではないようですね」
「まあね」
問いに頷いて返す。
ロッテは彼が意識を取り戻したのち、伝言を託して帰した。今はその伝言の返事待ちだったと言うわけだ。
「どうかな。提案は飲んでくれる?」
伝言の内容は、『レプリカント部隊の他国亡命援助の誘い』だ。
ロッテと縁のある他国へと、レプリカント部隊を逃がす。そのためにロッテの能力でレプリカント部隊の全滅を偽装すること。加えてなによりも『彼らを不幸にしない』との約束を伝えてもらっていた。
死を偽装し身を隠す上でオブリビオンマシンを放棄・破壊する必要が出る。ロッテや猟兵たちにとってはその時点で依頼は完遂となるので、その後ロッテが彼らを国から逃がそうと問題はない。
しかし返答は否だ。
「あなたへの信用は脇に置くとしても、私たち『国賊』を受け入れるなんて国を、私たち自身が信用できません」
初っ端から、正論が返る。
当たり前だ。国賊を受け入れる国などあれば、その国もまた国賊に襲われるだろう。国賊とは自分の都合で国まで敵に回す連中なのだから、そうならない方がおかしい。
そんな危うい国は例え善良だとしても信用は出来ない。
「第一に、大尉の目的はこの国のレプリカントの自由と平和です。その為にレプリカントが生まれるプラントを奪いました。つまり私たちだけでなく、他の部隊や今後生まれて来るレプリカントも全て受け入れられる国でなければ亡命の価値は有りません」
「そんな余裕のある国は無い、あるならそもそも戦争にはならない。そう言いたいの?」
ロッテの言葉にレプリカントは頷く。
ただし、それは私たちが無知なだけかも知れないと言って一度折れ、それでもと否定を重ねる。
「第二に、大尉の目的はこの国の国民の笑顔と安寧です。故に今も悩んでおられるのです。プラントも、私たちレプリカントも、この国から失われれば大きな損害になるのですから」
こればかりはロッテにもどうにも出来ない。
ロッテの言い分が全て真実だとしてもスガワラ大尉がその手を掴むには今まで守ってきた国と民を捨て置かなければならないのだ。
「どの道答えは出さなきゃいけないと思うけど」
「私もそう思います。そしてもうすぐ、その答えを出すまでの『時間稼ぎ』が行われるでしょう」
国か、レプリカントか。
どちらを選ぶのか、この期に及んでまだ迷う大尉をレプリカントたちは死に物狂いで守り抜くのだと言う。
「最後に」
と、レプリカントの声のトーンが落ちた。
それに気付いたロッテの前に、今までの無表情が嘘みたいに嫌悪を露わにしたレプリカントが立つ。
「『不幸にしない』という言葉が、気に喰わないのです」
それは。
それだけは、スガワラ大尉ではなく、ましてや他のレプリカントたちでもなく、彼自身、個人としての言葉。
「私の幸や不幸が何かも知らないあなたに、軽々しく約束なんてしてほしくありません」
きっぱりとした拒絶。
それまでの理路整然とした会話からはかけ離れた、子供の駄々のような理論。
自分の幸せくらい簡単に守れる程度のものだと、軽んじられていると感じたのだろう。
実際にロッテはレプリカントのことを知らない。
彼らの淡く幼い心が何を想い何を望むのかは誰にだってわからないのだ。
「それじゃあ、交渉決裂だね」
残念だと言ってロッテが笑う。
レプリカントも無表情に戻って一礼した。
心なんて誰にも分からないものだと、ロッテは改めて認識した。
まさかこんなに小さなレプリカントの心の内に、小さいながらプライドのようなものが存在するなんて。
しかし、本当に残念だ。
他人の心は分からない。
それは、彼にとっても同じなのに。
「では、参ります……ッ!」
レプリカントが宣言する。
後方に待機していたキャバリア、『オブシディアン』が咆哮を上げ、彼がそのコックピットへと乗り込んだ。
話が終われば敵同士。こうなるのも当然だ。
一騎討ち。
例え格下であろうと、本気を出したオブリビオンマシン相手ではロッテも瞬殺とはいかない。
なのに、
「悪いね」
ロッテが言った。
オブシディアンの放つユーベルコード『ピアシングショット』をあっさりと弾きながら。
いや、弾いたのはロッテではない。
ロッテを守るように膝をついて手を翳したサイキックキャバリアの『禍津血』だ。
その身を覆うステルス装甲で姿を隠し、直ぐ近くに控えていたロッテの愛機。それを見て、レプリカントは歯噛みした。
ロッテがレプリカントの気持ちがわからないように、レプリカントもロッテの気持ちはわからない。
罠ではなくても、備えてはいる。
亡命や交渉の用意はしてこなかったロッテだが、応戦の準備だけは一切の抜かりが無い。
油断も容赦も無いのになぜ亡命の話など持ち掛けたのか、それをレプリカントが推し量るには、余りに彼は幼かった。
「今度はちゃんと、死んでもらうよ」
禍津血が奔る。
異常を超えた超常の反応速度に、狙撃姿勢に入っていたオブシディアンでは追い付けない。
接近しながらばら撒かれた属性攻撃の派手な目くらましに身を固めた時にはもう、レプリカントはロッテを完全に見失っていた。
格上格下の話をするのなら、戦闘力以前の問題だったのだろう。
かくして、あまりにも呆気なく、『オブシディアン』は殺された。
その頑強な装甲の隙間を的確に打ち貫かれて。
大成功
🔵🔵🔵
セロリ・サーティーン
(POW、アド連歓迎)
…レプリカントの皆さんと、話し合いは難しそうですね。彼らにも、信じる者がいるんですから。Battler、出撃します。
UCで射程を5倍、移動力を半分にしてから、相手のキャバリアのマップやナビゲート機能に【ハッキング】を試みます。解析して、相手付近に爆発物・可燃物などの危険物を表示させ、混乱させます。恐らく、これならナパーム弾も、しにくくなるはず。
幻だとバレる前に、パルスマシンガンで【先制攻撃】。射程を増やしたので、【範囲攻撃】の飛距離も伸びるでしょう。
【マヒ攻撃】を相手が喰らった所で、加えて【ジャミング】を行います。故障と見せかける為ですが、これで投降してくれるでしょうか…
●開戦
「レプリカントの皆さんと、話し合いは難しそうですね」
セロリ・サーティーン(生きるからくり人形・f30142)はそう呟いて前方を見る。
前回は乱戦に横から飛び込む形だったが、今回は待ち構える敵軍に正面から突っ込む形になる。
その相手が、件のレプリカント部隊だ。
先の戦いで荒れた地形もしっかりと把握・利用し、綺麗な戦列を組んでいる。
数がそう多くないのはこの先にあるプラント保管庫を守るために広がって配置しているからだろう。
そんな様子ひとつとっても、譲る気の無さが見て取れた。
「彼らにも信じる者がいるんですから」
スガワラ大尉。
レプリカント部隊をまとめ上げ、今回の騒動を引き起こした元凶。
ただ彼は、レプリカントにとっては信じついて行くに値する人物であるらしい。
大尉と彼らの絆と信頼を前に、言葉だけで立ち向かうのは難しい。どんな甘言も大尉を裏切る苦渋を忘れさせることは出来ないだろう。
ならば、セロリに出来ることは二つに一つ。
押し通すか、捩じ伏せるか。
「Battler、出撃します」
覚悟を決めて、キャバリア『Battler』が前へ出た。
それと同時にオーバーフレームがキャノンフレームへと換装される。
長大な砲身は移動を阻害し機動力を激減させる。代わりに移動など要らなくなるほどに遠大な攻撃射程を獲得できる。
敵は数多。全てが手練れ。猟兵としてのアドバンテージを加味しても油断できるものではない。
ならば不利を押し退け有利を押し付けるまで。
「その綺麗に並び前へ出ない堅実さが命取りです!」
ロングバレルを備えたパルスマシンガン『P.Machine-Gun:S13』が、彼方に見える敵機群へと徹甲弾をぶちまけた。
届く筈の無い距離。
超長距離を飛来し、威力を減じた徹甲弾。
それが、物理法則を無視して『オブシディアン』へと突き刺さる。
頑丈さが取り柄のオブシディアンならば悠々と弾を弾き返せると踏んだのだろうが、当てが外れた。瓦礫からを顔を出したままでいた斥候役はその弾幕に慌てて顔を引っ込めるが、もう遅い。
オブシディアンの装甲に食い込んだ電磁徹甲弾は時間差で電磁波を発し、そうとは知られぬように周囲のキャバリアを侵していった。
「ハッキング開始」
セロリが遠隔で徹甲弾を操作する。
弾から放たれる電磁波によるハッキングは、直接コントロールできるわけではないが、周囲に任意の電気信号を上書きできる。
それで行うのは『マップやセンサーの上書き』だ。
周囲に存在しないはずの危険物を感知させ、パイロットの判断を誤らせる。
当然そんな偽情報はすぐに看破されるだろうが、問題無い。
「これならナパーム弾もしにくくなるはず!」
セロリの目論見通りオブシディアンはユーベルコードの使用を躊躇った。
それでも計器類と実情報の確認へと走る機体、通常兵装で応戦しようとする機体が、一瞬で立ち上がる。
流石レプリカント部隊、動揺も混乱も殆ど感じられない。
が、それでも先手を打ったのはセロリの方だ。
そもそも射程が違い過ぎる。セロリの攻撃が通じると分かってから慌てて前へ出たとして、まだ数秒は一方的に撃たれる羽目になるだろう。
その数秒を逃さない。
パルスマシンガンが張った弾幕は伸びた射程の分だけ超広域への範囲攻撃を可能とする。支援・斥候・遊撃その他、全機を攻撃範囲内に収めるのは容易だ。
問題が有るとすれば、射程が広がっても増えない弾数だ。連射性能までは強化されないので攻撃範囲を広げた分、火力はどこまでも薄くなる。
それを補い、ただ広げるのでなくある程度意図的な高密域を作り出す。その為の腕も技もセロリには備わっていた。
「ただこれ以上広がられると辛いですね……!」
腕でカバーするのにも限界がある。
相手は最前線で戦い続けてきた本物の兵士だ。いつまでも一方的にやられてくれるわけではない。
だから先手を取ってハッキングを施した。
だから先制を取って広域の弾幕を張った。
だから、弾幕にも罠を仕込んだ。
バシンッ!と、空気の爆ぜる音。
それは撃ち込まれた電磁徹甲弾が弾け飛ぶ音。
同時に、徹甲弾に内包された電気が一気に解放された音だった。
「……ッ!」
敵機群に強烈な閃光が奔ったかと思えば、オブシディアンの動きが露骨に鈍る。
そこへ残った分と追加された新たな電磁徹甲弾が今度はジャミング用の妨害電波を発し始めた。
さしものレプリカント部隊も前後不覚に陥り、成す術もなくセロリの降らせる弾丸の雨に打たれ続けた。
「これで投降してくれればいいのですが……」
ここまでくれば一方的で、どうしようもない。
そう思った瞬間に、オブシディアンたちが一斉に『ホークナパーム』をばら撒いた。
セロリには当然ながら届かない。
代わりに、レプリカント部隊の陣地内の殆どが火の海へと沈んでいく。
周囲に爆発物など無いと気付いたか、あっても一縷の望みに賭けたのか。
どちらにせよその選択は功を成した。
燃え広がる爆炎は電磁波を搔き乱し、ハッキングどころではなくする。加えて炎の壁がセロリの射線を遮り、長大な射程の効果を半減させていた。
「抗いますか」
分かってはいたが、やはり投降する気はないらしい。
ではどうする。
押し通すか、捩じ伏せるか。
生かして捕らえるか、殺してしまうか。
「選ぶのは俺の方ですか……!」
ナパームの炎熱を部分的に掻き消し、オブシディアンが押し掛ける。
その最前列の敵機へ向けて、セロリは銃口を向け、
引き金を引いた。
大成功
🔵🔵🔵
緋月・透乃
ふむー、この世界では有り得ないとは思うけれど、この国の人達は道具がヤドリガミになったらどう扱うんだろうね?わざわざ聞かないけど。
それよりも今度はオブリビオンマシンが相手だね!さっきの奴等よりも期待できそうだね!
自分で走ることと、RX推進戦鎚九六式の推進機を利用した高速移動を組み合わせた緩急つけた移動で敵の射撃を避けながら接近するよ。
焼夷弾だから武器で防ぎ自分が燃える前に炎の中を突っ切るのもありだね。
接近したら脚等を攻撃して体勢を崩し【ひょいっと】持ち上げて乗り手が死なない程度に振り回すなり盾にするなり投げつけるなりしよう!一つ使い終えたらまた次のやつ、とっかえひっかえ持ち上げていくぞー!
●衝突
オブシディアンMk4。
パイロットの安全性を第一とし、国軍にて正式採用された量産型キャバリア。
レプリカント部隊にはもっと攻撃力・機動力に長けた量産型があてがわれるものだが、スガワラ大尉の部隊では軍に掛け合ってまでこの機体をレプリカントに与えている。
その機体はスガワラ大尉の想いであり、レプリカントもそれを受けて前線に立つ。
しかしながら猟兵の中には、そんな堅牢無比なキャバリアを生身で易々と粉砕し得る者も居る。
「さっきのはあっけなかったなー」
そう言ってしまえるのが為し得る者の一人、緋月・透乃(もぐもぐ好戦娘・f02760)だ。
先の退却戦では一方的に蹂躙して見せた彼女だが、しかし今度はやや勝手が違う事を敏感に感じ取っていた。
「……今度はオブリビオンマシンが相手だね!」
見渡す敵陣に並ぶオブシディアン。そのどれもが先程とは雰囲気が異なっていた。
元よりその兆候も片鱗も有ったが、今は完全にオブリビオンマシンと化している。
本来は事故を恐れ使われる事のない爆発物を装備しているのがその証拠だ。
焼夷弾から成るユーベルコード『ホークナパーム』は爆発と共に炎を撒き散らす。事故発生率が高そうな兵装だが、ユーベルコードともなればその炎を任意で消してしまえるので、安全性は通常兵装と何ら変わらないくらいだ。
当然向上したのは火力だけではあるまい。
物理的な頑強さに加え、物理法則を逸脱した頑強さを手に入れたのは明白。
「さっきの奴等よりも期待できそうだね!」
手強い。
そんな、本来ならば戦場で最も忌避すべき相手を見つけて、透乃が満面の笑みを浮かべた。
そんな笑顔で振り被るは、人が扱うには巨大過ぎるハンマー。
それもその筈。それはもともとキャバリア用のハンマーなのだから。
「いくよー!」
言葉と同時に地面が爆ぜる。
透乃の人間らしい小さな足の裏に、キャバリア用兵装分も含めた超重量が集中する。踏まれた物は大抵罅割れ、蹴られた物はまず砕ける。
もはや一挙手一投足が破壊行動と化した透乃の前方でオブシディアンたちが迎え撃つ。
構えた武器はナパーム。火力には火力をぶつけて吹き飛ばす算段だ。
透乃が如何に素早く、剛力であろうとも、肌を晒した生身の人間であることに変わりはない。
その判断は間違ってはいなかった。
「……っ!」
透乃の笑顔が紅蓮に呑まれる。
焼夷弾の集中砲火は辺り一帯に油と炎を撒き散らし、一瞬で周囲を火の海へと変えていく。
一過性の爆炎ではない。撒かれた油が燃え尽きるまでは轟々と視覚も聴覚も焼く焔弾だ。
それを透乃に防ぐ手立てはない。
ないので、そのまま突っ込んだ。
高温広域の炎は莫大な熱量で凄まじい熱風を引き起こす。透乃はその風に焼かれながらも飛び乗ったのだ。
「せえいっ!」
ベギンッ!と鈍い音が響き、オブシディアンが一機、ひしゃげて潰れた。
コックピットこそ潰れなかったものの、そこを囲う多重装甲が歪み、内側の電気系統が破損する。何よりも真上からの衝撃に耐えきれずに脚部がぽっきりと折れていた。
「ちょーっと火傷したくらいじゃ止まらないんだよね、私!」
降りかかる火の粉を払って再び透乃が走り出す。
それならと放たれた弾丸を、超加速で掻い潜る。
ハンマーに内蔵した推進機による加速。それを切っての減速。緩急と言うにはあまりに激しく無茶苦茶な軌道を描く透乃を捉え切れず、オブシディアンたちは再びナパームを構えた。
が、透乃は地を蹴り推進器を爆発させ、炎の洪水さえ突っ切った。
「獲ったぁ!」
バツンッ!と今度は最初から足を狙った一撃が振るわれる。
元はキャバリア用兵装。つまりは対キャバリア兵装である『RX推進戦鎚九六式』が、容赦なく敵の機動力を粉砕する。
直後、倒れ込むオブシディアンの腕を透乃が掴んだ。
笑顔で向き合う機械と人間。
しかし助け起こすわけではない。
レプリカントが「なにを」と思ったのとほぼ同時に、透乃はオブシディアンの腕を掴んで振り回していた。
頑丈極まりないオブシディアン。ならば壊れるまでこうして叩き付け続ければいい。
蛮族思考全開で敵を蹂躙する透乃は、他の敵機からの攻撃さえ引っ掴んだ機体で防ぎ、高らかに笑う。
「さー! とっかえひっかえ持ち上げていくぞー!」
言いながらぶん投げた機体がナパームを構えた敵機に激突して、両方が爆炎に包まれた。
次々にべこべこにされ、沈んでいくオブシディアンたち。
透乃は最低限コックピット内のレプリカントが死なないようにだけ気を付けつつ、敵を殲滅する。
「……この世界では有り得ないとは思うけれど、この国の人達は道具がヤドリガミになったらどう扱うんだろうね?」
などと呟くころには周囲に無事なオブシディアンはいなくなっていた。
残念ながらヤドリガミではなくオブリビオンマシンになってしまったキャバリアは、こうして骸の海へと還っていくのだった。
大成功
🔵🔵🔵
朱皇・ラヴィニア
単純火力は向こうが上
こうなれば必殺技を使おうか、ゼル
肉体改造でゼルの持久力を強化
武器改造でブラディエルのエネルギー伝達限界を一時的に上昇
装甲展開、火器管制マニュアルコントロール
サポート、666フィードバックダイレクト
さあ行くよ、全部撃ち落とす!
両腕の装甲が水平に開き
生体荷電粒子砲の放射ノズルが水平に並ぶ
指先まで全部ボク――ゼルの主砲だ
飛来するミサイル群を
両腕からシャワーの様に光線を放射し迎撃
片付いたら両腕を十字に重ね光線を集束
Mk4の頭部を破壊し戦闘力を奪う
離脱させたレプリカントへ問う
大尉と共にキミ達は何を望むんだい?
一緒にいたいなら
やるべき事はここにいる事じゃない
そして、死ぬべきでもないんだ
●死生
オブリビオンマシンと化した量産型キャバリアは、この世の理から外れてしまう。
その最たるものがユーベルコードではあるが、それ以外にも大抵の場合は機体のスペックさえ向上するのだ。
オブシディアンもそうだ。退却戦でぶつかったものとは既に別物。最初から人間の部隊がこれらとやり合っていたなら猟兵達の到着を待たずに全滅していただろう。
「単純火力は向こうが上、か」
朱皇・ラヴィニア(骸の虚・f29974)が敵部隊を遠目に見ながら呟いた。
武装もさることながら、数の差も大きい。全てのユーベルコードが遠距離攻撃で、ともすれば数の利を活かした集中砲火が絶大な威力を発揮する。
ラヴィニアの推測は、実に真っ当な計算の上だ。
加えて集中砲火は回避もし難いのが厄介で、安易に弾幕を潜り抜けるなんて言って出来るものではない。
それでも勝とうと思うのなら、必要なのは準備と覚悟。
「こうなれば必殺技を使おうか、ゼル」
外骨格を纏ったジャイアントキャバリア、愛機『ゼル』に呼び掛け、ラヴィニアがコックピットに乗り込んだ。
ゼルはその言葉に応じる様に巨人の肉体を変貌させていく。
ユーベルコードほど劇的に、ある種別物になったりはしないが、ゼルはこの肉体改造だけでも様々な環境に対応出来る。
今回は持久力重視。
耐久力や防御力ではない。いくら堅くした所で集中砲火を耐え凌ぐのは難しいだろう。
取れる選択肢はおおよそ二つに一つ。
躱しながら突っ込むか、躱さずに突っ込むか。
どちらにせよ突撃するしかない。
「さあ行くよ!」
ラヴィニアが叫び、ゼルが勢いよく飛び出した。
巨体の全速力が地面を叩き割り、瓦礫を高々と巻き上げる。
その猛進は凄まじく、彼方に見えていた敵部隊があっと言う間に戦闘領域内へと近付いていた。
と思った瞬間、敵部隊が一斉にキャバリアのポッドを開く。
そこから伸びる無数の白線。それは、数秒後には頭上から降り注ぐことになるミサイルの軌跡だ。
「ゼル!」
ラヴィニアが合図し、即座にゼルが立ち止まる。
見上げた空は少し不思議な空。数十ものふらふらとした煙の筋が束ねられ、いつしかラヴィニアの元へと落ちてくる。
そんな人生で二度は拝めないような光景の最中、ゼルが両腕を空へと突き出す。
肉体同様、ゼルの纏う鎧のような機体『ブラディエル』が自己改造の末に変り果てる。こちらは持久力とは逆に、瞬間的な出力を上げるために瞬発力強化だ。
一時的なエネルギー伝達限界値の上昇。
加えて、ラヴィニアとゼルの神経接続。
「装甲展開、火器管制マニュアルコントロール。サポート、666フィードバックダイレクト」
紡ぐ言葉に応じるようにブラディエルの両腕部装甲が開放され、生体荷電粒子砲の放射ノズルが水平に並ぶ。
そのノズルの先に、破壊の光が瞬いた。
「全部撃ち落とす!」
宣言と共に両腕の生体荷電粒子砲から光の帯が放たれた。
それは帯ではない。空中で無数に分かれ、シャワーのように空を覆い尽くす。
空を覆ったミサイルの弾幕が、空を覆う光線のシャワーに穿たれ、爆発する。
同時多発的に、時に連鎖して起こったミサイルの爆発が、空を一瞬で薙ぎ払う。
そうして残された『黒い雲』を突き抜けて、更に大量のミサイルの土砂降りが飛来した。
「読んでるよ!」
吼えて構えたままの腕に再度エネルギーを送り込む。
限界値を超えた武器改造と、限界以上の力に耐え得る持久力。
二機の『ゼル』が支え合い生み出した無量の光線は、新たなミサイルも残された黒い雲も諸共に消し飛ばした。
空に残るは光のみ。
第三の雨が降らないと思ってみれば、ミサイルは効果が薄いと判断したオブシディアンたちがラヴィニアに向かって距離をつめて来るところだった。
接近戦の判断は正しい。
ゼルの今の状態はミサイルの雨に対するもので、こんな馬鹿げた出力の物を近接戦闘では使い難い。
だから、近付けない。
掲げていた両腕を振り下ろし、前方敵軍へと向かって十字に重ねた腕を突き出した。
「指先まで全部ボク――ゼルの主砲だ。千のミサイルだろうと百のキャバリアだろうと、逃さない!」
神経接続により一体化したゼルの砲光が、腕を重ねて集束した閃光が、向かってくるオブシディアンたちの頭部を纏めて薙ぎ払った。
それと同時にゼルの全身が悲鳴を上げる。
強制的な限界突破。
超短時間でのエネルギー解放。
接続した神経から伝わる疲労と反動で、無傷のはずのラヴィニアのこめかみに脂汗が伝っていた。
「……よし、間に合ったみたいだ」
流石にゼルの反応が鈍い。敵に耐えられていたら今度は反撃もままならなかっただろう。
だが、無事にレプリカントたちを全員無傷で無力化出来た。
「まだです」
突然かけられた言葉にラヴィニアが振り返る。
その動作さえぎこちなく、振り返った先にはレプリカントが立っていた。
その手には小銃。特別な力を感じない、ただの小銃が握られている。
「この先にはいかせません」
言葉と共に小銃が火を噴く。が、弱っているとは言えゼルにそんなものは通用しない。
それどころかゼルにやられた時の反動でも残っていたのか、レプリカントはその場でふらりと膝をついてしまった。
「そうまでして行かせたくないのか……」
そうしているうちに他のキャバリアからもレプリカントたちが降りて来る。
そして同じように立ち塞がる。
「大尉と共にキミ達は何を望むんだい?」
思わずラヴィニアは問い掛けた。
答えが欲しかったわけじゃない。聞かなくても分かっている。
ただ、教えたかった。
あまりに健気に、そして愚かに、自分の命を投げ出す彼らに。
「大尉と一緒にいたいなら、やるべき事はここにいる事じゃない。そして、死ぬべきでもないんだ」
ラヴィニアの言葉に、レプリカントたちは黙って、それでも銃を構えて立っていた。
ほんの僅かに、泣きそうな顔で。
大成功
🔵🔵🔵
菫宮・理緒
レプリカントさんたちのその気持ちだけは、尊いと思うよ。
気持ちだけは、だけどね。
スガワラ大尉に恩を感じたり、忠誠を誓ったりするのはいいけど、
けど、それを言い訳に思考を止めてしまうのは、いけないって思うよ。
生きているんだし、考えることだってできるんだから、自分たちで判断しないと!
レプリカントさんたちがスガワラ大尉に考える時間を作るのなら、
わたしは、レプリカントさんたちに考える時間を作りたいな。
【E.C.M】で動きを止めて、コクピットを強制排出。
機体から引きずり出したら【ネルトリンゲン】で保護して、
『これから』をしっかり考えてもらいたいな。
大尉も自分たちも含めた未来を、考えて、作っていってほしいよ!
●無知
この国のレプリカントは物として扱われる。
そんなレプリカントが感情を得て、一人の人間を想って行動している。
それが今相対しているレプリカント部隊である。
「レプリカントさんたちのその気持ちだけは、尊いと思うよ。気持ちだけは、だけどね」
菫宮・理緒(バーチャルダイバー・f06437)はやや否定的にレプリカントたちを見ていた。
誰かを想って行動するのは良いことだが、その想いと行動が必ずしも一致するとは限らない。良かれと思ってやったことが逆に良くない結果に結びつくことなんてよくあることだ。
相手は今まで命令を聞くだけだったレプリカント。その服従精神が染みついていて、いまだにただ従えば良いと思っていてもおかしくない。
いわゆる思考停止だ。
スガワラ大尉と共にあることを選び、スガワラ大尉を守っているようでいて、自分たちが考えるべきことの全てをスガワラ大尉に任せてしまっているだけなのだ。
それではいけないと、理緒は思う。
そしてその思いをぶつけるために飛び出した。
生身で飛び出した理緒に対し、レプリカントたちは全員キャバリアに搭乗して迎え撃つ。
いくら猟兵と言えども生身で渡り合うには限界がある。ただでさえ多勢に無勢で不利な理緒は瓦礫や建造物の陰に隠れながら逃げ回った。
「なんとか話を聞いてもらわないと……!」
理緒の声は物理的にも届き難い。
代わりに、敵が降らせたミサイルの雨が容赦なく理緒を炙り出す。
瓦礫に隠れても建造物に隠れても障害物は絨毯爆撃に吹き飛ばされて理緒の隠れる場所はどんどんと減っていく。
いっそ戦闘空母『ネルトリンゲン』に立て籠もってしまいたいが、そうすれば集中砲火を受けて沈められるだけだ。
「強くなってるね……」
誤算と言えば誤算だった。
退却戦では殆ど見せなかった実力……と言うか、オブリビオンマシンとしての本性。それが明らかに機体を強化している。
理緒は攻撃こそしてはいないものの、別方向からのアプローチは仕掛けていた。
退却戦の時にも用いた『E.C.M』による敵行動の一時停止。その停止時間が極端に短いのだ。
酷い時は多少鈍くなる程度で破られさえする。
おそらくは電子機器を使用不可にしても超常存在ゆえにすぐ復活するのかも知れない。なにせ向こうは存在そのものがユーベルコードのようなもの。
「いや、どちらかと言うと範囲のせいかな」
オブリビオンだから効かないと仮定するよりは、対象が多過ぎて効果が薄いと考えるべきだろう。
それなら対象を絞れば……。
「……話すだけで命懸けだね」
ふう、と息をつき、理緒が物陰から飛び出した。
対象は一機。不意を突いて『E.C.M』を浴びせ掛け、効果を確認するより先に肉薄する。
我ながら無茶をしているとは思うが、身体を張っているのは誰だって同じ。安全圏からご高説を垂れ流したって聞く耳持たれないだろうから、これはこれで良かったと思おう。
「それで、コックピットも堅いのか……ッ!」
せっかく取りついたのに肝心のコックピットが開かない。
それもそのはず。オブシディアンは特にコックピットを固く守っている機種なので、オブリビオンの力も合わさって並大抵では突破出来ないのだ。
「ハッキング……いや、ジャミングで誤作動……ううん、全部後回し!」
この際、今はパイロットの救出は諦めよう。
どの道このままならパイロットに危険が及ぶこともない。
だからこのまま、理緒が話し始めた。
「聞いて」
動きを止めたオブシディアンの装甲越しに、レプリカントへと語り掛ける。
「スガワラ大尉に恩を感じたり、忠誠を誓ったりするのはいいよ。けど、それを言い訳に思考を止めてしまうのは、いけないって思うよ」
説教に聞こえるかもしれない。
少なくとも余計なお世話だとは思われるだろう。
それでも伝えなければ分かり合えない。
どうせ相互理解など不可能だと決めつけてしまうのは、それこそ思考停止になってしまうから。
「生きているんだし、考えることだってできるんだから、自分たちで判断しないと!」
たった一度、スガワラ大尉について行くと決めただけで終わりじゃない。生きている限り選択は無限に存在し、その度に考えなければならないのだから。
その全てを誰かに任せてしまうのなら、それは手に入れた心を捨てて再び『物』に戻ろうとしているのと同じだ。
だから、考えて欲しい。
その理緒の懸命な呼び掛けに、レプリカントは冷ややかに応じた。
「考えていないと、お思いですか」
微かな怒りさえ滲む声。
まずいと思った時には、理緒はオブシディアンから振り落とされていた。
咄嗟に受け身を取った直後、頭上から降り注ぐミサイルを躱し、爆風に押されるようにしてまた物陰へと飛び込んだ。
「私たちは考えました。スガワラ大尉の苦悩を取り去るにはどうすべきか。心を捨て、物に徹しようとも、スガワラ大尉は二度と私たちを物として扱って下さることはありませんでした」
ミサイルと共に言葉が降ってくる。
その言葉は独白でありながら、呪詛のようで、ひどく頭に響く。
「私たちは考えました。クーデターを起こし国を支配下に置けばレプリカントは解放されるのではと。ですがスガワラ大尉はそれでは人と君たちが入れ替わるだけで何も変わらない、いつか今度は人間がクーデターを起こすとおっしゃいました」
機械的だが、それでも考えてきた。
足りない知識と少ない心で、一生懸命考えてきた。
「私たちは考えました。人間とレプリカントが決別し、私たちだけの小国家を作ってはどうかと。スガワラ大尉はそれによって失われる国民たちの平和をも憂い、悩んでいる様子でした」
そして、
考えた末に、辿り着いた。
「私たちは考えました。ならばもうスガワラ大尉を見捨ててレプリカントは各々好きなように生きてはどうかと。結論は直ぐに出ました。理由も理屈もありませんが、誰もが『嫌だ』と答えたのです」
だから、
「私たちは選択しました。スガワラ大尉について行こうと。苦悩を聞き、歩みを共にし、地獄の底までついて行くと」
「なぜなら」
「それが、私たちの幸せだったからです」
そう言って、レプリカントたちは黙った。
情操教育など受けている筈もなく、彼らの知り得る知識とは戦闘知識を除けば本当に些細なもの。
理緒は思考しろと言ったが、そもそも思考や判断に必要なものがあまりにも足りていないのだ。
つまり、彼らは『幸せ』を知らない。
何をもって幸せとするのか、何があれば幸せなのか。
一般的な幸福を一つも知らない彼らにとって、スガワラ大尉との日々だけが唯一無二の幸せだった。
だから彼らは他に何も望まない。
そして、自分だけでなく、スガワラ大尉がどうすれば幸せになるのかさえ、分からない。
「……まるで『生涯の伴侶(一番大切な人)』を決めたみたいだけど、レプリカントさんたちはまだまだ子どもだと思うよ」
そりゃあ新婚さんにもっといい相手が居るよ、思考停止しないで、なんてわたしも言わないけど、と理緒が笑う。
「でも、レプリカントさんはやっぱり時間が必要だと思う。たくさんのことを知る時間が。そして、『これから』のことをしっかり考えるだけの時間が」
「――……」
理緒の言葉は、奇しくもレプリカントたちが出した答えと同じだった。
悩み続けるスガワラ大尉に、レプリカントたちは時間を作ってあげたいと願った。
完璧な答えじゃなくて良い。納得できる決断を、何かを諦め覚悟を決めるだけの猶予を、と。
「大丈夫。時間ならわたしが作るから!」
理緒が言う。
同時に飛び出し、ロケットランチャーを構えた。
出し惜しみは無しだ。こんな子供たちをオブリビオンマシンになんて乗せておけるか。
それに、理緒も考えていた。どうすれば彼らを止められるのかを。
「『E.C.M』発動。対象、……レプリカント!」
オブリビオンマシンはほとんど止まらない。
一度に複数ともなればなおさらだ。
だがその中に居るレプリカントなら。
彼らはオブリビオンじゃない、軍人とは言え一般人だ。
彼らを止めればオブリビオンマシンも止まる。だから、あの分厚いコックピットを突破するだけの出力を。
「……わたしは、大尉も自分たちも含めた未来を、考えて、作っていってほしいから」
理緒の渾身のユーベルコードが雷撃のように広がっていく。
その後には、誰も、動けなくなっていた。
大成功
🔵🔵🔵
トリテレイア・ゼロナイン
あの一群は…
先程の応答に感謝を
お応えしましょう、あの問いに
被弾した宇宙船、生存者を無視しエアロックを閉じる
『過去』の無力な女子供を手に掛ける
…騎士として必要であると私が為した所業です
(『今』の為『過去』を殺す。自国の為に手を汚す彼らと何が違うと言うのか)
御伽の騎士に憧れ、剣を握った瞬間から
私は『それ』となる資格を失った『悪』なのです
…ですが、それは善を希求しない理由とはなりません
私は私の責と意志でもって悪を為し善を目指し騎士の道を往く
それが私の誇りです!
此度の乱の責にオブリビオンの関与在りと弁護し、貴方達を導くスガワラ大尉の今後を護る為…退いて頂きます
敵陣飛び込みUC
操縦席避け一気に無力化
●義悪
地獄とは、終わりのない苦痛であると言う。
その果てしなさこそが地獄の地獄たる所以であり、ともすれば、単純な苦痛の度合いだけで言えば地獄を上回るものなど幾らでもあるのだと。
この内乱もそうだ。
地獄を終わらせるために、地獄よりも苛烈な戦闘に身を投じる。
一進一退を繰り返す前線とは違って今回の戦いでは必ず何らかの決着が求められる。
退路は無い。あるいは、進路さえも。
元より進退窮まった彼らに引導を渡すべく、猟兵たちは再度戦場へと戻って来た。
「あの一群は……」
その内の一人、トリテレイア・ゼロナイン(紛い物の機械騎士・f04141)が敵部隊の中に知った顔ぶれを見付けた。
顔ぶれ、と言っても量産型キャバリアが並んでいるだけ。それを既知か初見か判別がつくのはトリテレイアなどのごく一部の者だけだろう。
とは言えトリテレイアにも確信があったわけではない。間違いないと思ったのは、接近し交戦域に入ってからだった。
トリテレイアに対し、相手が僅かに戸惑うような動きを見せた。
こちらからは判別がつかなくとも、向こうからは分かり易い。一度トリテレイアと戦い、退却したレプリカントたちは、トリテレイアとその機体を覚えていたのだ。
「先程の返答に感謝を」
確信を得たトリテレイアは今度も話し掛ける。
前は誇りの在り処を問うた。レプリカントたちは誇りなど無い、誇れるはずが無いと返したが、それは真っ当な返答でもある。
先ずは、礼を。
そして、答えを。
トリテレイアから投げかけた問いは、レプリカントから新たな問いとして返されていた。
あなたにこそ、誇りは有るのか。
例え罪の無い誰かを手に掛けたとしても、己の行いを恥じず、誇れるのかと。
レプリカントはそれを無理だと断じた。
だが、トリテレイアは違う。
同じだが、違うのだ。
「お答えしましょう、あの問いに」
武器も構えず、騎士は一歩前へ出る。
そうして語り出したのは、自分の過去だ。
「被弾した宇宙船。漏れ出した空気。このままでは船内の全員が死んでしまうと、慌ててエアロックを閉じる。その向こうに締め出された生存者を無視して」
この世界では空を飛べない。
空の向こうの宇宙など、レプリカントたちには異世界のようなものだろう。
それでも何となく、トリテレイアの言葉を理解する。
「『過去』の無力な女子供を手に掛けたこともあります。……騎士として必要であると、私が為した所業です」
そう言って、トリテレイアは空を見上げた。
騎士として。
守る者として。
より多くを、より尊きを守るために、それ以外を守ることを放棄した。
だけではない。それどころか自ら手にも掛けたのだ。
騎士の剣は守るための剣。しかし、より正しく言うならば『守るという名目で他を斬り捨てるための剣』である。
時に正儀は天秤に例えられる。
トリテレイアは、己の中の天秤に人の命を乗せて、片方を斬り捨ててきた。
殺してきたのだ。
斬り捨てられたものにしてみればトリテレイアを騎士だとは到底認められないだろう。
なぜ助けてくれなかったのか、なぜ助けるどころか殺そうとするのか。
お前は騎士ではなかったのかと、その瞳に呪詛を込めてトリテレイアを見詰めていたはずだ。
(『今』の為『過去』を殺す。自国の為に手を汚す彼らと何が違うと言うのか)
騎士は空から目を離し、今度は地面を見た。
過去、即ちオブリビオン。
斬らねば世界が滅ぶと言われ、それを信じてただ斬った。オブリビオンの心情も境遇も言い分も跳ね除けて。
時間を消費しなければ世界は未来へ向かえない。そうしてあらゆる可能性が骸の海へと消えていく。この世界の理が犠牲を強いていることを、トリテレイアは知っていた。
「私は御伽の騎士に憧れました」
善なる者、正義の象徴。
幸せや平和や笑顔といったものを守り、感謝される存在。
そんなものに憧れたのだ。
彼らが美談の裏で何を斬っているのかも知らないままに。
「御伽の騎士に憧れ、剣を握った瞬間から、私は『それ』となる資格を失った『悪』なのです」
憧れるのなら、御伽の世界そのものにすべきだった。
善が許され、悪は討つべきしか居ない。分かりやすく、初めから全てが天秤の両端に振り分けられている、そんな世界を。
「……ですが、それは善を希求しない理由とはなりません」
正義の為に悪を成した。
己の為に騎士を名乗った。
今までに得られた救いは、積み重ねた犠牲の数に等しい。
それはいわば罪の数。
斬り捨てた命は、己が罪として背負う。
罪さえも切り捨てたりはしないのだと、トリテレイアは誓いを立てた。
「私は私の責と意志でもって悪を為し善を目指し騎士の道を往く。それが私の誇りです!」
自身が悪であること。
これからも悪を為すこと。
その全てを受け入れてなお、トリテレイアは『騎士』を名乗る。
やがて自分自身を斬り捨てる日が来たとして、この誇りは決して揺るがず、最期まで騎士道を歩むのだろう。
最後まで悪のままであろうとも。
それでも、トリテレイアは騎士道を往く。
その道の先に目指すべき『善』があると信じて。
「……なるほど。よくわかりました」
気付けば真っ直ぐに前を向いていたトリテレイアに、レプリカントたちが頷く。
本当の意味で理解出来たかは分からない。ただ、幼い心にも通じたものは有った。
だから、レプリカントたちはトリテレイアへと武器を構える。
トリテレイアも応じるように全身に力を巡らせた。
「もし……」
と、臨戦態勢に入った両者の間に、レプリカントから言葉が投げ込まれる。
問いではない。
だがトリテレイアは黙って聞いた。
「もしあなた方がこの戦いに勝利したならば、どうか私たちのことは『物』として、処分して下さい」
それは頼みだった。
わけの分からない、願いであった。
「御伽に憧れたあなたになら、この嘘を託せます」
そう言うレプリカントは、どこか満足気に話す。
「貴方達は、まさか……」
その覚悟には覚えがある。
自己犠牲。トリテレイアにも備わった義の心。
それを聞いた瞬間に、レプリカントたちが、スガワラ大尉が何を思っているのか理解できてしまった。
「全てはスガワラ大尉の暴走であり、ただの道具であるレプリカントは利用されたに過ぎず、故に、他部隊のレプリカントには一切の問題はない」
「レプリカントは『物』であるが故に罪を背負う権利も無い。全ての責は所有者たる大尉が負うものであり、此度の国家反逆罪の全責任は彼の首一つに掛けられるものとする」
「結論。スガワラ大尉を処分してしまえば、この国はこれまで通りに運用出来る。取り除かれるべき異物は大尉一人のみであり、正すべき悪も、疑うべき事柄も、この国には存在しない」
レプリカントたちが次々に語る筋書き。
それをトリテレイアに託すのは、この国の他のレプリカントたちを守るため。
もしここで『レプリカントには心がある』と認められれば、他のレプリカントにまで反逆の意思を持つかもしれないとの疑惑が向けられる。
今まで物扱いし、人間が忌避していた戦場に強制的に送り出していたのだ。恨まれているに違いないと、誰もが思うだろう。
そうなってはならない。
だから、託した。
御伽噺という優しい嘘に憧れたトリテレイアなら、この嘘を引き継いでくれると信じて。
実際に、トリテレイアは迷った。
だが、断った。
「そんな嘘は、必要ありません」
泣きそうなほど優しい彼らの心に向き合うように。
騎士は言う。
「此度の乱の責にオブリビオンの関与在りと弁護し、貴方達を導くスガワラ大尉の今後を護る」
だから、嘘は必要ない。
悪は『オブリビオン』だ。彼らも知らない巨悪なのだ。
どうせ嘘を吐くのなら、トリテレイアは彼らをも守りたい。
だから、彼らは彼らの意思で反乱を起こしたわけでは無いと、『彼らの想い』を嘘にする。
「その為に……退いて頂きます」
そうしてまたも騎士は悪を為す。
他者の想いも覚悟も踏み躙り、己が信ずる善を貫く。
そんな騎士に向き合う敵もまた騎士の想いを否定した。
「それでは騎士様、私たちを捩じ伏せてください」
悪として。
斬って、捨ててくれ、と。
応じるようにトリテレイアは白騎士へと変じ、戦場を駆け抜けながら思う。
悪であろうとなかろうと、レプリカントたちが他を想う心は、間違いなく、誇るべきものであると。
大成功
🔵🔵🔵
クシナ・イリオム
アドリブ歓迎
なるほど『レプリカントのために行動するってことが想像出来ないレベル』ね
…そうなると収拾後に処分がおりるのは大尉よりもレプリカントの方になりそうかな
指定UCで戦闘に4隊回す
方針は『大尉に傭兵(猟兵)の戦闘能力を強調できる材料を得る』
私本体は投降した相手の対応に
投降の説得とかは他の猟兵に任せるとしてこっちは後の話
亡命とかするなら手は回すけど…
命よりも大尉と共にあることを優先するんだったら、誘導に1隊回すからそれについていって
武装したままで構わない
私達と大尉の話を聞いてから判断してもいいと思うよ
あと救出した部隊の護衛に2隊
私や他の猟兵のやることに余計な口出しをされないよう監視や情報制限を
●変質
戦闘が開始され、ややあって次々とレプリカントたちが運び出される。
最後まで抵抗したものの猟兵たちによって気絶させられ、無力化された者たちだ。
「動きはなしか」
なるほど、『レプリカントのために行動するってことが想像出来ないレベル』ね、とクシナ・イリオム(多世界戦闘商・イリオム商会総帥・f00920)がぼやく。
彼女は問うた。この国の人間に。レプリカントに対してどう思っているのかを。
答えは聞いた通りの『物扱い』であり、それ以外の特別な感情は一切含まれない。
物として扱い、物として感謝し、物として気に入っている。その思い入れは、『何かあれば捨てる』程度だと容易に想像できた。
「……そうなると、事態の収拾後に処分がおりるのは大尉よりもレプリカントの方になりそうかな」
人間に優しいこの国のことだ。ともすれば、大尉を守るためにレプリカントへと罪をかぶせるかも知れない。『突如レプリカントが暴走、大尉を監禁し、そのキャバリアを用いてプラントを奪取。国外逃亡を企てる』……なんて具合の作り話で。
ただその発想がこの国にあるかは分からない。
クシナは知らないことだが、レプリカントはこの国では罪を背負う権利すら無いのだ。国が作り話を流布しレプリカントを処分したとして国民がそれで納得するとも思えず、それでもその路線で行くなら国中のレプリカントが何らかの処分を受けかねない。
が、それによって国防が緩めば矢面に立たされるのは人間になる。
大尉のためにレプリカントを犠牲にしたくとも、それがさらに多くの人を犠牲にすることとなるのだ。
「だからかな、動かないのは」
再度クシナはそう呟く。
動かないのは国の人間。助けたのち護衛の名目で付けた監視からの情報だ。
ただし念のために保護したレプリカントたちは彼らとは別の場所で安静にさせている。……幸い、その場所としてクシナの母艦以外にも個人所有の空母を貸し出す猟兵もいてくれた。
「レプリカントはここまで必死なのにね」
酷い温度差だ。
結局この国の人間は軍人でさえ他人任せなのだ。
本当は投降したレプリカントに対応し、説得するつもりだったクシナだったが、レプリカントは皆抵抗が激しく、先に言った通り投降しないので気絶させるしかなかった。
説得も直接相対した猟兵がしたはずだが、会話は出来てもどうしても頷いてくれなかったという。
「やっぱり、カギは大尉かな」
レプリカントの精神的な中心は大尉だ。彼が投降しない限り、どんな説得にも応じるつもりはないのだろう。
だから大尉を直接説き伏せる。
そのためには、やはりここを突破しなければならないのだった。
「一応聞くけど、通してくれないかな。私達はスガワラ大尉と話したいんだ」
向かい合ったレプリカント部隊に訊いてみても当然首は横に振る。
会話は出来ても通じない。ダメもとで「武装したままで構わない。私達と大尉の話を聞いてから判断してもいいと思うよ」と続けてみたが、変わらない。
彼らは彼らで考え、そして選択している。
結局のところ、『万が一』が有り得る限り、どうしたって猟兵を大尉に会わせたくないのだろう。
と、そこまでは考えつく。
加えてもう一つ、レプリカントが言った。
「大尉は今、悩んでおられます。話はせめて大尉が落ち着いてからにして下さい」
それは要求と共に出された、説得を拒む代わりの最大限の譲歩。
指揮官の精神状態が不安定だと敵に教えることが不利益になることを承知しての懇願だった。
これはレプリカントたちなりの説得に等しい。
それに応じてやれないのなら、レプリカントを頑固だとは言えないのかも知れない。
「じゃあ、押し通るよ。ついでに大尉には私達の戦闘能力を把握してもらいたいかな」
脅迫したいわけではないが、話し合いにもある程度のパワーバランスは必要だ。せめて手を取り合う価値が有ると示せなければ何を言おうと弱者の戯言だと一蹴される。
しかし、クシナは嫌な『歪み』を感じていた。
クシナが用意した『イリオム商会・制式機械妖精』は1m級の超小型キャバリア。それをユーベルコードの力も借りて大量に操作し、幾つもの分隊を組ませ、用意した。
二部隊は救助した人間の部隊の護衛に回したが、それでも数十体の大隊規模。
それらを前に、何故レプリカントたちは冷静でいられるのか。
……長らく物として扱われてきた彼らが動揺や躊躇とは無縁なのは知っている。だからクシナの分隊を前にしても怯まないのは理解できる。
クシナも分隊もフェアリーサイズだ。キャバリアに乗った彼らとのサイズ比はおおよそ五倍。油断しているとも解釈できるが、しかし、その油断や慢心とも無縁なのが彼らのはずだ。
「大尉は、守るべき国民が憎いとおっしゃいました。それは、私たちの知らない感情です」
相対するレプリカント部隊とクシナ部隊。
その睨み合いのまま、不気味な程にゆっくりと、レプリカントたちは武器を構える。
「ですが、大尉が与えて下さったこの機体に乗っている間は、大尉のお心が少しだけわかるのです」
心が。
憎しみが。
何も恨まず、憎しみを知らぬはずのレプリカントが、その心を理解出来るとのたまった。
「……それは、見落としてた」
まいったなとクシナが頭を掻く。
見落としていた。忘れていたのだ。
ついて来てもいいとか、武装したままで構わないとか、言えるはずがなかったのに。
だって、レプリカントたちが乗っているキャバリアも、侵食されたオブリビオンマシンなのだから。
感じていた歪みの正体とは、彼らの妙な余裕ではなく、『反応が薄いこと』だった。
彼らは彼らの意思で戦うことを選択した。と、そう思っていた。おそらくは彼ら自身も。
だが彼らはオブリビオンマシンを知らない。
それが、操っているつもりで操られるという、悪魔の機体であることを。
「その心に身をゆだねてはいけない。決して、それだけは」
忠告を発し、クシナが駆ける。
その前方で戦列を組んだ機械妖精たちも同時に走り出し、『オブシディアン』たちに肉薄した。
機体侵食によるオブリビオンマシンの増殖に始まり、搭乗者の精神を支配し、闘争を経て滅亡へと向かわせる。そうしてオブリビオンマシンはこの世界に終わらない戦争を作り上げたというのに、忘れていた。
「説得が難しいわけだ」
ただの理屈や理想でオブリビオンの支配から脱せるのなら、戦争はとっくに終結していただろう。
この期に及んでスガワラ大尉が苦悩し悩み続ける理由が、きっとこれなのだ。
大尉はきっと邪悪な意思の介入をどこかで察し、それを必死に抑えている。でなければ今頃、国民皆殺しにしてレプリカント解放をうたっていてもおかしくはない。
「まあ、とりあえず今すぐ方針を変える必要はないか」
説得は有効だ。オブリビオンマシンの支配を緩和できる。
ただその上で考えなければならない。
もし、説得が失敗すれば。
会話にも応じないほど彼らの決意が固まってしまったなら。
その時は、全力全開の『オブリビオンマシン』とやりあうことになる。
「まだ私一人で抑えられるレベルだといいけど」
クシナが溜息交じりに呟いた。
精神支配が進むにつれ破壊と破滅の権化としての本領を発揮するオブリビオンマシン。
これ以上強くなる前にと、機械妖精たちはオブシディオンのスナイプに撃ち抜かれながら敵陣へと踏み入った。
使い潰しが利く兵器。奇しくもこの国のレプリカントと同じ扱いの妖精たちが、オブシディアンへと喰らい付く。
その光景を見て指揮を執りながら、クシナはただ次の手を考えていた。
大成功
🔵🔵🔵
栢山・源治
…やれやれ
大抵の奴は割り切るんだが…だがまぁ
そういう感情をなくしちまったらきっと世界は終わりなんかもな
何より…猟兵ってのが世界を救うってのならやってやろう
【瞬間思考】で事前の知識の機体構造把握
特にコックピットの位置
爆発させずの無力化の為に攻撃するポイント捕捉
UC発動
【限界突破】で動きを加速
【威嚇射撃】で敵機の動きに制限を与え
【範囲攻撃・重量攻撃・貫通攻撃・体勢を崩す】
まず重力波砲を広範囲に放ち動きを止めて体勢を乱し
貫通弾で無力化させる為の射撃で襲い掛かる
悪いな
お前さんらを今はしなせるわけにはいかねーんだよ
何…あれだ
悪いようにはしねーさ
尚
レプリカントの生還している様子は動画にしっかり撮る
●破壊
レプリカントたちの異常はすぐにその場に集まっていた猟兵たちに知らされた。
キャバリアがオブリビオンマシンと化していたのは知れていた。だが、その支配力がパイロットであるレプリカントを侵食しつつあるという事実は猟兵たちにも予想できていなかった。
いや、レプリカントたちの意思の強さならば、呑まれずに抗えると信じた部分が有ったのだ。
しかし彼らは猟兵じゃない。
自分の心の内に入り込む悪意を新たに生まれた感情だと勘違いする者。
スガワラ大尉との精神的な繋がりだと思い違いをする者。
気付かないままに思考が鈍り停止してしまう者など。
オブリビオンマシンはあらゆる方向からじわりじわりと理性を侵していったのだ。
個体差はあれど、誰もが少しずつ心を蝕まれていく。
そうして出来上がるのは、『スガワラ大尉のために』との名目で近付く者全てを粉砕しようとする傀儡だった。
「大抵の奴は割り切るんだが……だがまぁ、そういう感情をなくしちまったらきっと世界は終わりなんかもな」
ああだこうだと迷い悩む大尉とレプリカントたちを栢山・源治(自称鬼畜皇帝・f30114)はそう語った。
その言葉の通り、感情さえも蝕まれたレプリカントたちは、世界を終わらせる過去からの使者へと成り果てる。
オブリビオンマシンは『世界』を滅ぼす。それが『地獄』であろうと、例外はない。
しかし地獄が終わろうともそこに救いは無いのだ。
「……猟兵ってのが世界を救うってのならやってやろう」
源治が呟く。
オブリビオンマシンが世界を滅ぼす存在であるなら、猟兵は世界を救う存在であると。
この世が地獄なら、猟兵たちは地獄を救う。戦争が止まらないとしても知ったことではない。
世界を変えていくのはその世界に住まう者たちの為すべきこと。
だから源治は、ただ戦う。
戦うしかないのだから。
そう、割り切ってしまえば、こんなに楽なことはない。
「生憎、世界は救えてもお前さんらは救えねぇ。救われたかったら、てめぇでてめぇを救うことだ」
突き放すように言葉を投げて、源治が『紅月』を駆って出る。
相対したオブシディアンが構えるより速く肉薄し、最も装甲の薄い脇腹へ銃弾を叩き込む。
堅い。しかし、コックピットほどではない。
瞬時に叩き込まれた複数の弾丸は脇腹に亀裂を入れ、続け様に打ち込んだ銃床が装甲の向こうの可動部まで叩き割った。
どれほど堅牢であろうと無敵ではなく、弱点だって存在する。
源治は事前の情報と瞬間思考によってオブシディアンの弱点など透けて見えていた。
「っと」
ぐらつくオブシディアンに止めを刺す前に源治が離脱する。
直後、多方から一斉に弾丸が殺到した。
源治が離脱したことでそれらが突き刺さるのはオブシディアンの方になったが、その頑強さと急所を避けた狙撃のおかげで当たり前のように立ち上がった。
オブシディアンのスペックもウィークポイントも源治より知り尽くしているのがパイロットだ。源治が敢えて避けた弱点であるナパーム弾収納箇所さえ盾にして、源治へと敵機群が突っ込んでくる。
「そりゃ、爆発しても問題ないって言ってるよーなもんだぜ……ッ!」
だから読める。
一番至近距離まで詰めてきたオブシディアンに弾丸を叩き付けた直後、横合いからの狙撃が目の前の敵機のナパーム弾収納箇所を撃ち抜いたのだ。
爆発、爆炎。
ぶちまけられた特殊な燃料が炎を広げて燃焼を維持する。
真面に浴びれば無事な機体など居ない。それこそオブシディアン自身もコックピット以外へのダメージは免れない。
ただし、当たればだ。
源治の瞬間思考と紅月の反応速度が有れば、ナパーム弾が引火した瞬間を見てからだって避けられる。
だから避けず、掻い潜った。
頭上に広がる業焔が源治の姿を覆い隠し、オブシディアンたちの視界から巨大なキャバリアを完全に消し去った。
「見えなきゃ狙撃はできねーだろ」
それも弱点だと、言いながら源治が加速する。
反応速度の限界を超えて、機動力まで跳ね上げて。
優に音速を超えた紅月が低空を飛翔して戦域を離れ、最初の突撃への対応で集まっていたオブシディアンたちに弾丸の雨を降らせる。
意図的に軸のずれた射撃をオブシディアンが避けて中央へと寄った瞬間、その中心へと重力波砲が撃ち込まれた。
広範囲に渡る超重量攻撃が、装甲特化故に自重が重いオブシディアンを完全に捕らえた。
加えて重力は装甲を貫通し、レプリカントにまでダメージを与える。
とは言っても即死する様なものじゃない。身体が異常に重くなり、操縦が困難になるだけだ。
機体と操縦士の双方が重力に捕まりまともに動けなくなった所で源治がライフルの貫通弾で確実にオブシディアンを撃ち殺す。
コックピットのすぐ傍の、中枢機構を撃ち抜いて。
「悪いな。お前さんらを今はしなせるわけにはいかねーんだよ」
救う救わないは別の話。
説得する気が無いからって殺す気なわけじゃない。
本気になったオブリビオンマシンも、本気を出した猟兵には敵わない。
手加減された上でいいようにやられたオブリビオンたちが源治を、紅月を見上げる。
まだ無事な機体もスコープ越しに源治を睨み、息を呑んだ。
「何……あれだ。悪いようにはしねーさ」
軽くそう言って、源治は再び飛翔した。
スコープ越しでは追い切れない、その悍ましほどの機動力を相手に、重たいだけのオブシディアンが成す術もなく倒される。
ただの一人も、レプリカントを死なせずに。
大成功
🔵🔵🔵
セルヴィス・アレス
【SPD】
撤退完了だな、じゃあこっからは…プラント奪還戦だ!
つっても市街地戦、施設防衛してる敵さんにイニシアチブがある。
加えてこの国にはそんな詳しくない、いわゆるアウェーって奴だもんな。慎重に行こうぜ兄弟。
方針はこう。
【地形を利用】してできるだけ建物の陰を行く。
表通りはできるだけ避けたいけど、出なきゃいけないならいっそ勢いよく飛び出す!
初撃は敵側、待ち構えられてる以上これはしょうがない。
兄弟の正面は丸みがあるし、うまく受ければ戦闘に影響は無いだろ!
それで敵の位置を把握したら、周りの建物も足場にして一気に詰める!
【RS-Aアームキャノン×2】で追撃も忘れないぜ!オレの【操縦】テクの見せどころだ!
●蹂躙
レプリカントとの対話。
オブシディアンの変質。
激突と撃破を経て、いよいよ戦闘は終盤に差し掛かっていた。
残ったレプリカント部隊は防衛ラインを下げ、減った頭数でもなんとかプラントとスガワラ大尉までの道を防衛しようと試みる。
最後まで投降の意思はない。
猟兵たちによって無力化された者を除けば、例えキャバリアを失っても小銃片手に戦い続けている。
オブリビオンマシンの精神汚染が有っても無くても、レプリカントたちがスガワラ大尉を守ろうとするのには変わりないのだ。
「撤退完了だな、じゃあこっからは……プラント奪還戦だ!」
セルヴィス・アレス(アクロバット・スカベンジャー・f30483)が、いつもの兄弟『スカベンジャー』に乗って宣言する。
人間の部隊も、最初の激突で保護したレプリカントたちも、今は戦線を離脱し安全圏にいるはずだ。
ここからは攻める番。押して押して押し込んで下がり切った防衛ラインは、おそらくはこれが最終防衛ライン。
ここまで来ればどの建物がプラントを擁する目的地かも分かってくる。
しかし、さっきまで主戦場となっていた瓦礫だらけの市街地と違い、ようやく踏み込んだ新たな戦場はまだまだ無事な建造物も多く、死角も非常に多かった。
この地形、この布陣ならば、地の利はレプリカント部隊にある。
最終防衛ラインだけあって各所にバリケードやトラップらしきものも見える。
「いわゆるアウェーってやつだもんな。慎重に行こうぜ兄弟」
セルヴィスがポンと操縦桿を叩いた。
ホームの向こうはまだ動かない。これ以上下手に動いて数を減らされればいよいよ守り切れないと分かっているからだ。
オブリビオンマシンの影響も有って、こうなってはもう会話を試みようとすることさえできないだろう。
だからセルヴィスが出る。
量産型キャバリア乗りの彼は、派手な火力を持っていない。
加えてユーベルコードの使用を自ら封じたセルヴィスは、まずもってオブシディアンの装甲を突破できないだろう。
それでいい。
他の猟兵たちの手前、ここでレプリカントを手に掛けるのは悪手だ。
だが咄嗟に手加減できるような相手ではない。
だから最初に制限を設け、あとは全力でぶつかるのだ。
そうして余計に考えなければならないこと全てを切り捨てて、セルヴィスは戦闘に集中する。
最後の激突、殲滅戦。
その過酷な戦場へ、スカベンジャーが飛び込んだ。
瞬間、前方複数から狙撃を受ける。
「そりゃ先手は敵側だよな!」
恐ろしい程の精度だが予測していれば躱せなくもない。
加えて距離の関係で単発の狙撃になるのも読めていた。セルヴィスは流れるように機体を横に倒し、弾丸を避けて路地裏へ滑り込む。
姿勢を低くしたスカベンジャーの装甲表面を弾丸が滑っていくのを感じながら、今度は逃げ込んだ路地のトラップを飛び越える。
路地から頭が出た所を狙撃されるのも予測済み。
ここまではテンプレートのような波状攻撃で易々突破できたが、さて次はどうかとセルヴィスが息を吐く。
ただし逃げるだけではない。
逃げ回っているだけで最終防衛ラインを突破できるわけがない。
反撃の糸口を掴むためにも狙撃手の位置を覚えてはみたが、さて、狙撃後にポイントを移動しない大胆不敵なポンコツは何人いてくれるやら。
「それが結構いるんだよな! なあ兄弟!」
路地を抜けて一気に狙撃ポイントの一つへと駆け寄る。
二階建ての工場屋根上に一機。ライフルを片付けてポイント移動しようと背を向けていたところに、スカベンジャーが飛び込み蹴りを喰らわせた。
堅さが売りのオブシディアンにスカベンジャーの蹴りでは軽いものだろうが、代わりにオブシディアン自身が重過ぎる。
転倒時に上に覆いかぶさってしまったライフルはひん曲がり、代わりの武器を抜いて振り向こうとした時にはもうスカベンジャーのアームキャノンが下腹部に突き刺さっていた。
「っと、見晴らし良いのはごめんだな」
屋上から落ちていくオブシディアンと共に下へ降りる。その最中もやはり狙撃させ、寸での所で躱し切った。
ついでに、撃破した敵機の銃からスコープを捥ぎ取って覗き込む。
「さっきの狙撃はあっちで、最初のはこっち、っと……おぉ、いるいる!」
狙撃用スコープを望遠鏡にして敵位置を確認。隠れる振りして路地に引っ込んだのちもう一度確認してみれば、ちょうどポイント移動するところだ。
「なるほど次はそっちか。ならこっちに行こうぜ兄弟!」
地形と敵機の残骸を利用し、スカベンジャーが戦場を駆け回る。
強引に突破するでもなく、敵の撃破に拘るでもない。
防衛戦の利は待ち伏せに狙撃に拠点作りにと地の利や先制権を得られるところだ。が、一度始まってしまえば自由に動けず最初以外は後手に回らざるを得ないので途端にやり難くなる。
セルヴィスのように確実に少しずつ攻略していけば地の利さえ少しずつ失われ、やがてはただ追い詰められるだけになるだろう。
「それでも前に出て逆転狙わないってのは、やっぱ守ること優先してるからかね」
このままでは負ける。勝ったとして被害が大きくなる。そうわかっていても、レプリカントたちは前に出ない。出られないのだ。
堅実であることは必ずしも強いわけではない。
格上との戦いで堅実に徹すれば、堅実に負けるだけなのだから。
だがレプリカントは待つ。
最終防衛ラインの中の最後尾にて。
正真正銘最後に残った全戦力を以て、敵を撃退するために。
流石にここからは隠れてこそこそもできやしないと悟ったセルヴィスも、覚悟を決めて大通りへと飛び出した。
せめて勢い良く、加速を活かして一息に。
「さあ、こっからはオレの操縦テクの見せどころだ!」
猛々しく咆えた猟兵が、弾丸飛び交う大通りを滑るように駆け抜ける。
最後に居並ぶオブシディアンとレプリカント。
そのただ中に、スカベンジャーの両腕が叩き込まれた。
大成功
🔵🔵🔵
第3章 ボス戦
『セラフィム・リッパー』
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POW : 断罪の剣
【無敵斬艦刀】が命中した対象を切断する。
SPD : エンジェルビット
自身が装備する【BS-Fクリスタルビット】をレベル×1個複製し、念力で全てばらばらに操作する。
WIZ : フォールンウイング
【光の翼】を向けた対象に、【プラズマビーム】でダメージを与える。命中率が高い。
👑11
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●地獄と地獄
この国では、志願した者の内、きつい訓練をクリアした者だけが軍人になれる。
いわゆる扱きは無い。辞めたいならいつ辞めても良いのだと言われ続けることが逆に辛かった覚えがある。
振り返れば平和で優しい日常が有るのに、軍人に志願する者は少なくて当たり前だ。
それでも毎年それなりの数が軍へと入り、軍人として、国家の盾として、命を賭すことを誓うのだ。
皆、愛おしいのだろう。この国が。この生活が。
だから戦うことを決意できる。
俺もそうだった。
この輝かしい日々を守るためなら何でもしてみせると声高に宣言し、その通りに行動してきた。
レプリカント部隊への配属打診が回って来たのはそんな時だった。
この国で人間が唯一前線に立つのは、このレプリカント部隊だけ。
数十ものレプリカントとキャバリアをたった一人で運用し、最前線で何年も何十年も戦い続ける。そんな役目だった。
だから俺は志願した。
国防の要であり、巨大な戦力を一手に引き受ける大命だ。打診があっただけで名誉なこと。英雄になりたいわけではなかったが、これ以上に国を守る役目など無いと俺は考えていた。
とにかく守りたかったのだ。
最初の訓練で言われたのはレプリカントとキャバリアを盾に使うこと。前線勤務ではあるが、俺自身は決して最前線に立ってはならないということだ。
副隊長もいない一人きりの部隊なのだから当然だ。俺の代わりはレプリカントには務まらないのだから、レプリカントを犠牲にしてでも生き残らねばならない。
そうして実際に、多くのレプリカントを犠牲にした。
キャバリア以上にレプリカントの消耗が激しかったのが最初の誤算だった。キャバリアと違い、修理できる箇所が少ないのだ。
永久停止に陥るものも多く、とにかく当時は苦戦していた。雑に扱えばすぐに壊れる、兵器にしては弱すぎるこれらをどう使えばいいのだろう、と。
そうやって考えて、少しずつでも損失を減らし、どうにかこうにか戦線を維持していた頃の話だ。
敵の猛攻を凌ぎ切れず、あるレプリカントのキャバリアが半壊。露出したコックピットにキャバリアソードを振り下ろされた時、俺は思わず庇ってしまったのだ。
修理が利かない不便な兵器。国の為にも無駄に数を減らすわけにはいかないと考えての行動だ。
なのに、レプリカントは言った。
ありがとうございます、と。
俺はその時、初めて必要以外の言葉をレプリカントから掛けられたのだ。
「思えばあそこから全てが狂ったんだ」
物として扱えなくなったのは、それからすぐのことだった。
一度気付いてしまうと、この兵器に感情があるのが直ぐにわかったのだ。
いや、感情というよりは、個性だ。俺の呼び方や戦い方の癖、平時は何をしているかなど、個体によって明確な差が存在していた。
そのことに興味を抱いたのも失敗だった。
無駄口が増えた。一人きりで知らず人恋しくなっていたのもあると思う。仕事でもないのにレプリカントに話しかけ、どうでもいいことを問いかけることが日課になった。
あとはもう見るも無残な落ちぶれようだ。
レプリカントが破壊されるのを本気で悲しむ自分が居た。
それが嫌で、上に掛け合い頑丈なキャバリアを配備してもらった自分が居た。
専守防衛を謳い、不必要な戦闘を避け、少しでもリスクを回避しようとしている自分が居た。
そして、やがて国に楯突き、プラントを奪って立て籠もる自分が、ここに居た。
「だから俺は、レプリカントに毒されたと思ったんだ」
だってそうだろう。
気が付けば全てがレプリカントを中心に回っていた。
国防はどうした。国民を見捨てるつもりか。プラントを失えばどうなるかくらいわかるだろう、と。
そもそも持ち場を離れたことで他のレプリカント部隊が、つまり別のレプリカントが、犠牲になっているかも知れないのだ。俺の行動はレプリカントのためにもならない、最低最悪の自己満足だった。
それでも国を滅ぼし、レプリカントの国を築けたなら、まだしも一貫性はあっただろう。
だが、それも出来なくなった。
知ってしまったのだ。
国民がどんな気持ちでいたのか。
どうしてレプリカントを犠牲にしてまで人間を戦場に送りたがらなかったのかを。
「……奪ったプラントから、レプリカントが生まれたんだ」
初めて見た、生まれたてのレプリカント。
いわば赤子だ。
ただでさえ精神的には幼いレプリカントが、見た目も子供で、全くの無知で。
無垢で。
無邪気で……。
それを見た瞬間、知ってしまった。「ああ。道理で、誰も我が子を戦場に行かせたくないわけだ」と。
あまりに愛おしいのだ。狂おしいまでに、大切なのだ。
他の何を犠牲にしてでもその子だけは守らなければならないと思ったんだ。軍に志願した時や、レプリカント部隊への配属を希望した時よりも、ずっと強く。
その気持ちを理解してしまった時、俺は国を滅ぼせなくなった。
守りたかった国を、もう一度、守りたいと願ってしまったから。
国民全員が誰かの子供なのだ。だからどんな罪を背負ってでも守りたかった。一人きりの部隊長を作り上げ、他国では一種族として認められているレプリカントを兵器だと言い張ってでも。
その気持ちがわかってしまった以上、俺にそれを奪うことはできない。
「ならば、どうするというのだね。この地獄を。この戦争を」
その問いに答えるために、ずっと悩んでいた。
答えなんて無いと知っていながら、ずっと、ずっと。
それでもいつかは選ばなければならない。
時間は有限だ。
最早一刻の猶予も無い。
だから、どうしても何か一つを選ばなければいけないのなら、
「俺は、この国以外の全てを滅ぼす」
国民とレプリカント、その両方を守るために。それ以外の全てを滅ぼし、奪い尽くすと俺は宣言した。
これで、良かったのだ。
これが俺の答え。
未だ見ぬ騎士が問うたという、誇りの在り処。
俺が思う最善のために、考え得る中で最悪を選び取る。
悪を為せ、愛すべき善のために。
罪は全て我に有り。
そうだ。世界を滅ぼした暁には、俺も死んでしまえば良い。
全ては俺が勝手にやった事だと、そう言って死のう。
「それじゃあ、行こうか」
俺は立ち上がる。
やるべきことは決まっている。
先ずは全レプリカントに投降命令を出す。
ここから先は俺一人で良い。
いいや、俺一人が良いんだ。
「否。その願いに、我が力を与えよう。これから君は常に我と共に在る」
頭上から声が降る。
見上げると、新型キャバリアが邪悪な笑みを浮かべている。
……そんな気がした。
緋月・透乃
いよいよ今回のターゲットのお出ましだね!
ここまでに戦ってきた数頼りの奴等とは違うってところを見せてもらいたいね!
敵は単体だしじっくりいくよ!
使う武器は重戦斧【緋月】で、勿論生身で戦うよ。
生身の剣士でも相手にしているように、敵の剣の間合いギリギリくらいでじっくり様子を伺い、ここだと思ったところで突撃して怪力全開の攻撃をするよ!ユーベルコード無しでも叩き斬るぞー!
敵の攻撃は避けれそうなら避けて、ユーベルコードは昂気抗辛梁(素肌の腕だけで受け止める構え)で防いでいくよ。
仕方がないとはいえ、洗脳されたことに気づかないような奴の一撃では私の体も闘争心も斬れないってことを見せつけるぞー!
●無敵と無敵
「全軍、速やかに投降せよ」
その穏やかな声は短距離通信と外部発信の双方によって通達された。
量産型キャバリアに乗っていた者も、生身で戦っていた者も、そしてレプリカント部隊と戦っていた猟兵たちも、その言葉を聞き逃すことはなかった。
「どうして……」
誰かが呟いた。
そして悲痛な面持ちでレプリカントたちは停止した。
武器を捨て、両手を挙げて。
投降の意思表示。極力平和的に事を進めてきた猟兵たちにとっては願ってもない展開だ。
だが、それは終戦を表すわけではない。
あらかたのレプリカントたちが投降し、武器やキャバリアを捨てたのち、再び穏やかな声が響いたのだ。
「これより、単騎進軍を開始する」
宣戦。
されど、その矛先は自国に非ず。
「後に続く者、不要也。先に進む者、無用也。謀反の責、騒乱の咎を雪ぐ為、我が身、我が剣を以って恩国を勝利せしめん」
仰々しい宣戦布告を読み上げて、奪ったプラントさえ放棄した一機のキャバリアが出陣した。
猟兵たちの側からは遠く、それでもその威容が見間違えようの無いほどの瘴気を孕むオブリビオンマシンだと知れる。
突然の投降と進撃。
レプリカントの罪を全て被り、罰を受ける前に自ら償いを果たそうとする姿勢。
これでは、傭兵は、猟兵たちは、彼を止められない。国が彼を止める理由が無いのだから、傭兵として国の依頼を受けた体でこの場にいる猟兵たちはスガワラ大尉と争う理由がなくなってしまうからだ。
真の目的、オブリビオンマシンの破壊を成さねばならないのは猟兵の都合。それを強行すれば、傍目には『改心しその身を以て国に報いようとする大尉を何故か攻撃した』と映るだろう。
「いよいよ今回のターゲットのお出ましだね!」
異様な空気の中、それでも溌剌とした声で叫ぶのは緋月・透乃(もぐもぐ好戦娘・f02760)だ。
愛用の赤い重戦斧『緋月』を肩に担ぎ、真っ直ぐとオブリビオンマシンを睨み付ける。
事ここに到ってしまえば、猟兵たちにできることは一つ。例え強引にでもスガワラ大尉の機体を粉砕するということだけだ。
のちの言い訳はあとで考えれば良い。「スガワラ大尉の人命を優先し、無謀な突撃を力づくで止めた」とか言っておけば納得してもらえるだろう。
重要なのはスピード。依頼主から正式に待ったが掛かれば、今度は猟兵たちが暴徒にならざるを得なくなる。
加えてレプリカントたちが放棄した量産型キャバリアもオブリビオンマシンなのだからきっちり破壊しなければならない。戦闘の余波で巻き込んでしまったとか言い訳しつつ。
面倒極まりない。
この、突然盤面をひっくり返してその始末をこちらに押し付けてきた手腕だけでも、スガワラ大尉がどれだけ戦慣れしているかが窺い知れる。
しかしそれこそ透乃が望むもの。
「ここまでに戦ってきた数頼りの奴等とは違うってところを見せてもらいたいね!」
レプリカント部隊は弱くない。だがそれは飽くまで一般人基準での話。
歴戦の猟兵である透乃からしてみれば数を揃えてさえ手強い程度にしかならない。
それに殴り合うなら一対一が一番分かり易く滾るというもの。
そしてその闘争心を満たすためにも透乃は誰より速く飛び出した。
一番槍の誉れとは、『万全の状態でぶつかれる』ということ。
事実上全ての戦闘が消耗戦である以上、真に全力をぶつけ合えるのは開戦直後の僅かな時間のみ。戦闘狂にとっては『止めを刺す』よりも『一番槍』こそ他に渡し難い『美味しいとこ取り』である。
「度し難し」
くく、と押し殺した笑みがオブリビオンマシンから漏れた。
直後、透乃の『緋月』と敵機の『無敵斬艦刀』が交わった。
生身対キャバリアの鍔迫り合い。当然重量において大きなアドバンテージを持つ敵機が押し込むが、それを透乃は膂力のみで押し留める。
が、突然刃越しの重さが消えた。
ふわっと持ち上がる重戦斧の向こう側、引かれた刀身が、再度振り下ろされる。
「ッ!」
今度は受けない。
透乃は地を蹴り飛ばし、長大な刃を横跳びで回避した。
受けて受けられないわけじゃない。ただ、受けたとてその先が無いのだ。
あまりにも大き過ぎるこのリーチの差では、さっきの通り、相手の刀身を弾き返したとして次に繋がらない。逆に一度受けてしまえば引くに引けなくなり抑え込まれてしまうのが透乃の側だ。
力任せに押し切れる相手ではない。
ただの一合でそれが透乃にもよくわかる。
知略に、武力。
やはりレプリカントとは格が違う。
佇む敵機、『セラフィム・リッパー』の実力は、最早疑いようもない。
「……じっくりいくよ!」
透乃が静かに、自制するように言葉にする。
不用意に飛び込めば斬られる。当たり前のことだが、透乃ほどの実力を持つ者にとっては中々味わえない緊迫感。
相対するセラフィムは雷光の翅をバチバチと爆ぜ散らせ、斬艦刀を静かに構えた。
「参る」
短い言葉。
それが終わる頃には、セラフィムの間合いに立っていた建造物が全て真っ二つになっていた。
「っその実力でこの搦め手かー!」
透乃が大きく後方へ跳んだ。
その後を追うように、両断され崩壊した建造物の瓦礫が粉塵と共に吹き抜ける。
透乃が油断しないように、セラフィムとて慢心は無い。
ただ一手一手丁寧に畳み掛け、跳んで宙に身を晒す透乃へと、斬艦刀を振り下ろす。
ふんばりの利かない空中では自慢の膂力も活かせない。だが、透乃は気合いで刃に刃を叩き付け、その衝撃で別方向へと吹っ飛んだ。
その勢いのまま建物の壁面に着地しようとして、しかし壁をぶち抜いてしまう。それでも無傷なのは透乃だからだ。
透乃は思う。洗脳されたことにも気づかないような奴の一撃では、私の体も闘争心も斬れはしないと。
そしてそれを見せつけ、思い知らせるように、再びセラフィムの前へ出た。
剣の間合いは見切った。
見切ったということも見切られた。
間合いギリギリで様子を窺う透乃へと、セラフィムが大きく飛び込んで一閃を浴びせ掛ける。
不意打ちにも等しいその斬撃を、しかし、透乃は待っていた。
咄嗟に斧から離した片腕で、無謀にも剛剣を受け止める。
それが無謀ではなく、無敵であると、スガワラの戦術眼でも読めなかった。
「その程度じゃ斬れないよ!」
咆哮と共に片手で振り上げた『緋月』が、セラフィムの脚部装甲を捕らえた。
かち上げるような振り上げは片手と言えど怪力全開の一撃。加えて敵の重量を丸ごと利用した返しの一閃は、セラフィムの装甲を叩き割った。
余力で僅かに浮き上がるセラフィムが「ほう」と感嘆の息を漏らして下がる。
「我が一刀を防ぎたるは理外の力。しかし、その豪腕は自前か。驚嘆に値する」
また、くく、と笑う声。それはスガワラ大尉ではなくセラフィム自身の声だ。
脚部のダメージは相当なものだ。
だが、一切気にする事も無く、敵機は構える。
「我が剣に敵は無し。無敵なれども同じ事。構えよ、娘。我が剣をその細腕で止められると思うのならば」
見え透いた挑発と共にセラフィムは大上段に構えた。
間合いは半歩足らず。セラフィムが一歩踏み込めば、その切っ先は透乃を捕らえる。
避けられそうなら避けるつもりでいたが、ここで下手に退けば二の太刀で先のように打ちのめされるだろう。
「二の轍踏むなら容赦はしないよ!」
ぐ、と透乃も斧を振り上げて構えた。
迎え撃つ。
無敵と無敵が向き合って、再度一刀が振るわれた。
「『断罪の剣』」
「『昂気抗辛梁』!!」
あらゆるを断つ無敵の剣と、あらゆるを防ぐ無敵の盾。
矛盾の決着は一瞬。
セラフィム・リッパーの振るう長大な無敵斬艦刀の一撃を、気合い漲る透乃の片腕が完璧に受け止めていた。
が、透乃は斧を振るえない。
振るうより先に、地面が裂けたから。
「落ちよ」
斬艦刀が押し込まれる。
触れた物全てを断つ無敵の剣。
例え透乃がそれを上回り、決して斬れぬ身体を持とうとも、それを支える地面の方がもたないのでは堪えようがない。
斬艦刀の切っ先が地面に触れることを防ぐには、透乃の身体は小さ過ぎたのだ。
「この……ッ!」
無敵の代償、『動けない』のが今回ばかりは高くついた。
自由を取り戻したころには落下に抗えず、代わりに落ちながら緋月を振るうが、それは斬艦刀を弾き、僅かに刃毀れを作るに留まった。
亀裂は深く、透乃はどこまでも落ちて行き、その上に土砂まで流れ込んでいく。
「さらばだ敵ならぬ敵よ。まだ斬って欲しくば這いあがって来るがよい」
セラフィムが嗤う。
オブリビオンマシンは戦闘狂ではない。
だが、この世界に戦乱を齎そうとする。
戦うのであれば世界を混沌へ沈めてからでもいいとセラフィムが笑って言った。
「すまない」
その笑い声の向こうで、大尉が幽かに呟いた。
大成功
🔵🔵🔵
セルヴィス・アレス
【POW】
戦闘音が止んだところに、新手が一機?例の大尉さんか。
見るからに強そうなキャバリアだな…出力じゃあまずもって勝てない。普通だったら逃げる一手だけど…
他でやってたドンパチも収まってるし、援軍の望みもあるよな。ここは意地の見せどころだぜ!
ミサイルを【一斉発射】、あの機体の出足を見極めるぜ!最悪、その場で凌がれても動きの癖は見える!
その後はキャノンで引き撃ち!とにかく接近戦は避けて、消耗させる!
つっても、派手にやりあった後だから弾切れも近いか…それで近付かれたら、奥の手だな!
UCで兄弟と一つになって【カウンター】に蹴りでも入れてやる!小さくはなるけど、重さはそのままだから弾かれもしない筈だ!
●鉄屑と鉄屑
「キャバリアよ」
スガワラ大尉がコックピットで呟く。
大きく削られた脚部装甲、その先の駆動部にまで異常をきたしていないか確認しながら。
「キャバリアにも心はあるのか?」
投げたのは、特に意味のない言葉。
先程の傭兵との一戦は大尉と傭兵との一騎討ちだった。なのにこのキャバリアは自分が戦っているかのように振る舞い、話し、そして笑っていた。
大尉はそのように命じてはいない。全てはこのキャバリアが勝手にやっていること。戦闘行為は大尉の操縦によるものだが、無意味な通信は確実にキャバリアの意思で行われていた。
「主よ。君は先ず端から思い違いをしているのだ」
対して、キャバリアはやはり意思を持って話し出す。
コックピットの中にだけ響く誰のものとも知れない声は、大尉を諭すように語りかけた。
「そもそも、畜生とて心を持ち、草木にさえ魂は宿るのだ。我等物とて例外ではない。要はそれに価値を見出すか否かが重要なのだろう?」
「それは……」
価値。
命や魂そのものではなく、自分にとって大切かどうかで判断するということ。
そもそもキャバリアに意思があるのはそう珍しいことではない。スガワラ大尉が知らなかっただけで世界中に存在している事実だ。
だが、他ならぬキャバリアが言う。心の有無など些末事だと。
スガワラ大尉はそんな所に価値を見出したのではないだろう、と。
「君が大切に思うのであれば、虫けらでも石ころでも、キャバリアでもレプリカントでも、好きに守れば良いだろう。逆に、大切ではないのなら、人も国も平らにしてしまえばよい」
誰が心を持つかなどどうでもよい。他者の心ではなく、己が心こそを大切に思うべきだ。……そう語って、キャバリアは笑った。
それが悪魔の囁きだと分かってはいても、スガワラ大尉には、どうしようもなく救いの言葉に聞こえてしまうのだった。
「そら。お誂え向きの客が居るぞ。主と同じ、鉄屑に価値を見出す変わり者だ」
「あれは……」
キャバリアの言葉に前を向けば、そこには一機の量産型キャバリアが立っていた。
凹凸も装飾も少ないシンプルなシルエットに、塗装も剥げかけたアースカラー。一言で言えば地味。逆に言えば実用性の塊。
一切の無駄を排したセルヴィス・アレス(アクロバット・スカベンジャー・f30483)の愛機『スカベンジャー』がその両腕を掲げて待っていた。
「戦闘音が止んだところに、新手が一機……例の大尉さんか」
「いかにも」
セルヴィスの言葉に、黙り込んだ大尉に代わってキャバリアが返す。
どこか楽しそうな声のキャバリアに対し、スガワラ大尉は淡々と剣を構えた。
スガワラ大尉が操る新型キャバリア、セラフィム・リッパー。
オブリビオンマシンでなかったとしても出力では敵わないだろうとセルヴィスは悟る。
そもそもスカベンジャーは基本性能に優れた機体ではない。量産性と特殊技能こそ花である。なので、今回のようにまともにぶつかれば大抵のキャバリアには見劣りしてしまう。
それをパイロットの腕と機転で切り抜けるのがセルヴィス流なのだが、その腕と機転を、相手も持ち合わせているのが問題だ。
「普通だったら逃げる一手だけど……」
向き合ったまま、セルヴィスが後方を気にする。
投降命令はセルヴィスにも聞こえていたし、他の場所から聞こえていた戦闘音も止んでいる。なら援軍も期待できるはずだ。
このまま大尉を素通りさせては戦闘域が国の中心部、あるいは隣国の国境付近へとずれることにもなるだろう。
抑えなければならない。
そう判断したセルヴィスが、スカベンジャーの両腕をガキンとかち合わせて構えた。
「ここは意地の見せどころだぜ!」
同時に走り出すスカベンジャーは、速くはない。ただ安定した滑り出しは走行しながらも機体バランスを維持し、敵の出方に応じてすぐに向きを変えられる。
「よかろう。見定めてやろうとも、その意地とやらを」
無敵斬艦刀が振り上げられる。
キャバリアの間合いは広い。一歩踏み込めばそれだけで斬撃がスカベンジャーの鼻先を掠める。
一手早く回避行動を取っていたスカベンジャーが反転しながらミサイルをぶちまけた。
一閃を見ただけで分かる。近付いて良い相手じゃない。
その判断は至近で放たれたミサイル群をあしらうセラフィムを見て正しかったと証明される。
ミサイル群を一つ一つ、触れて反らし、叩いて弾き、斬って捨てて、蹴り飛ばす。
淀みの無い一連の動きはずば抜けた反射神経と機体の反応速度、加えて機械仕掛けのような冷静さが必要な神業だ。
「今のをユーベルコードも無しに防ぐってのか!」
洒落になってねえと喚くセルヴィスがそれでも攻撃の手を緩めない。
距離を取り、後退しながらの攻撃。いわゆる引き撃ちでセラフィムを押し留めようとした。
大尉の癖は何となく知れた。
その一般人とは思えないスペックを活かした『後の先取り』だ。
攻撃も防御も常に余裕を持って行う。引き過ぎず、攻め過ぎない。揺るがないことで敵の揺らぎを誘い、返す刃で切って落とす。
まだ反応が遅い量産型キャバリア『オブシディアン』ならセルヴィスとスカベンジャーでも互角以上に渡り合えた自信がある。
だが、『セラフィム・リッパー』の性能も相まって、今の大尉は手が付けられない。
「砲弾まで斬るってのか!」
セルヴィスが叫んだ。
引き撃ちで浴びせたのはただのちゃちな鉛玉じゃない。曲がりなりにもキャノン砲の砲弾だ。
それを躱すだけならいざ知らず、叩き斬って直進し、セラフィムがセルヴィスへと接近する。
先に派手にやり合った後だ。弾切れが近い。とは言え、そんな事言って出し惜しみしている場合でもない。
ましてや砲弾を斬るような奴を相手にするなら手札なんて全部切ってもまだ足りない。
「く……ッ!?」
セラフィムに向けた砲身が跳ねた。
砲弾を斬るだけに飽き足らず、斬られ減速した砲弾の破片を掴んで放り投げてきたのだ。
拙い。
手札の数まで多いのか。
そう思った時には、セラフィムの斬艦刀がスカベンジャーの首を刎ねていた。
直後、セラフィムの機体が悲鳴を上げる。
大尉が何事かと視線を下げれば、腹部に突き刺さった鉄屑が見えた。
衝撃で宙へと跳ね上げられ否応なく眼下の異常事態を知る。
セラフィムの腹を蹴り飛ばしたのが3m級の超小型キャバリアのようなものであること。
そして、そのキャバリアが『スカベンジャー』との融合で作り上げられた『セルヴィス・アレス』本人だということ。
「首を刎ねた相手にまだ奥の手があるなんて思わなかったろ?」
セルヴィスが笑う。
手札を全部切らなければ渡り合えない相手。だからこそ、手札を隠す意味がある。
騙し討ちのカウンターだ。泥臭い戦い方ならセルヴィスは大尉にだって引けを取らない。
「くく。路傍の鉄屑風情が、我を躓かせると言うのか」
面白い。などと上から目線で称賛し、セラフィムが初めて引いた。
そして再度踏み込む前に問う。
セラフィムとは違う、優しい声で。
「その身体、斬ればその身を失うぞ。何故に『鎧』を捨てた」
量産型キャバリアの最大の利点は、使い潰しが利くこと。だがユーベルコード『ダウンサイズ・リパッケージ』によってスカベンジャーと合体したセルヴィスはその身を使い潰すことはできない。
敢えて利点を捨て、我が身を危険に晒すその行為。それ自体が意識の隙間を突くカウンターの布石になるとは言え、それでもスガワラ大尉にとっては理解し難い。
大切な命を、そこらの兵器に融合するなどと。
「オレにとっちゃ愛機もそこらの鉄屑も等しく兄弟よ。兄弟に命預けんのを躊躇うわけないってことだ!」
セルヴィスは笑う。
随分と縮んだ身体で。
「ならば出来ているな? その鉄屑ごと両断される覚悟を」
今度はセラフィムが訊いた。
やはり楽しげなその声にセルヴィスが首を振る。
「あいにく、どんな局面でもしつこく生き足掻けるのがオレと兄弟の特異性でな」
切った手札を捨てないように握り締め、セルヴィスが真っ直ぐセラフィムを見上げた。
矮躯なれどキャバリア一機分の武装と装甲を取り込んだセルヴィスが重々しく構える。
応じて、大尉も剣を掲げた。
「ならば斬る。その誇り高き鉄屑を、物言わぬ屑鉄へと変えてでも、俺は進まねばならないのだ」
惜しむように。
しかし躊躇わず、大尉が半歩前へ出た。
大成功
🔵🔵🔵
ロッテ・ブラウ
投降命令ね…
どうやらキミらの大好きな大尉殿は決断したようだね
機体の四肢を破壊し
こじ開けたコックピットに座るレプリカントから凶爪を外し
プラント施設に目を向けます
気が向かないけどお仕事なんでね
どうなるか確かめたけりゃ
地を這ってでも追って来な
属性攻撃による無数の実体幻影を囮に使いながら
狙える安全圏に位置取りをし
ステレス装甲+回収したRSキャバリアライフルによる遠距援護射撃を敢行
素では機動力が高い、敵機体を捉えることが難しいので
UC幻想領域により、反射神経や動作など射撃戦特化に肉体を改造
精密な速射により敵機体の駆動部と邪魔なBS-Fクリスタルビットの破壊を狙います
悪いけど好きにはさせないよ
●死神と死神
「投降命令ね……。どうやらキミらの大好きな大尉殿は決断したようだね」
ロッテ・ブラウ(夢幻・f29078)が笑う。
その手で四肢を破壊し、コックピットを抉じ開けたオブシディアンを見下ろしながら。
確実に息の根を止められたオブシディアンは何も言わない。しかし、凶爪を向けられながらもまだ生きていたレプリカントが、眉尻を下げて膝をついた。
手にした小銃も地に落ちて、レプリカントは完全に戦意を喪失する。
彼らは拒絶されたのだ。
唯一選び取った「大尉について行く」という選択を、「ついて来るな」と一蹴された。
物として扱われてはいたが必要とされ続けていた彼らが初めて『捨てられた』その瞬間を、ロッテは見届けた。
そしてロッテはプラント施設の方を見る。
「気が向かないけどお仕事なんでね」
その言葉にレプリカントが顔を上げる。
それはつまり、ロッテの凶爪が今度はスガワラ大尉へと向くということ。
それがわかっても、レプリカントは銃を取れずに震えていた。
意思と命令。相反する二つの行動原理。加えて捨てられたショックがレプリカントの中で渦を巻く。
ロッテはレプリカントに寄り添うつもりはない。
「どうなるか確かめたけりゃ、地を這ってでも追って来な」
あえて収容はしない。
ロッテにさえ捨てられて、レプリカントは一人、壊れた悪魔の上で座り込んでいた。
スガワラ大尉の投降命令は全てレプリカントを守るためのものだ。捨てたというには余りに優しく、救ったと言うには余りに悲しい、そんな選択。
ロッテもそんなレプリカントの哀愁漂う背中は捨て置いて、代わりにキャバリアが使っていたRSキャバリアライフルを回収して走り出す。
さして時間もかからず、目標は姿を現した。
腹部と脚部の装甲を破損した、光の翼をもつ新型キャバリア、セラフィム・リッパー。
その神々しいまでの威容を、ロッテがスコープ越しに覗き込む。
「悪いけど好きにはさせないよ」
走り回られれば捉えられない。
だからステルス装甲で身を隠し、意識の外から狙撃する。
第一射。
放たれた弾丸が、セラフィムの胸部装甲へと突き刺さる。
スコープ越しでもわかる、大袈裟な仰け反り。そんなリアクションに反し、ダメージは少ない。
敢えて衝撃に押されるままに仰け反ることで衝撃を受け流し、ダメージを軽減したのだろう。
だが、それを行うには着弾とほとんど同時に仰け反らなければならず、生身でも困難、キャバリアではほぼ不可能の域だ。
「どんな反射神経してるんだか……」
言いながらロッテも『幻想領域(ファンタズム)』によって反射神経を強化する。
ここからの狙撃は狙われているのを悟った敵機の動きを追わなければならない。
狙撃の正確さは勿論、敵機の予想外の行動やフェイントにも対応するための反射神経は必要不可欠。しかし肉体改造で狙撃特化に成ったとしても、セラフィムは捉え切れるものではない。
「誰かは知らぬが、いい腕だ」
セラフィムが述べた称賛は、しかし、距離のせいで届かない。
代わりに届いたのはロッテの属性攻撃だ。
実弾に幻影を重ねて擬態させた属性攻撃は一気にセラフィムを囲い込む。
囮。しかし攻撃だ。
不用意に払い除けようとすればダメージを受ける。そんな厄介な囮を、セラフィムは「くく」と笑うだけで流す。
同時に、第二射。
今度は仰け反る暇を与えない。囮ごとぶち抜く剛速球が、セラフィムの肩を貫いた。
「浅い」
ロッテが確認するように短く発する。
肩を貫通したが、駆動部にダメージが無い。
これでは支援にしても弱いと第三射を装填した時、スコープの向こうのセラフィムと目が合った。
弾丸にステルス装甲は無い。
だからと言って、たった二射で気付くのは頭がおかしい。
「ポイント移動……。さて、逃がしてくれるのかな」
そんなわけはないか、と、言い切る前に戦輪が飛来した。
それは『BS-Fクリスタルビット』。光学兵器を積んだ戦闘ドローン。
クリスタルビットはチカッと光ると同時にレーザー射撃でロッテを追い立てる。
一機ならば叩き落せばいい。だが、ドローンは無数に存在する。
「天使というものは、人類より遥かに大勢存在するらしい」
セラフィムが語る。
その間に、セラフィムの頭上に浮かぶクリスタルビットが自己増殖を繰り返し、無数のドローンを空へ放ち続けた。
ユーベルコード『エンジェルビット』。それはただクリスタルビットを複製し続ける超常能力。
しかしそれだけで大抵のキャバリアは圧倒される。
ロッテが属性攻撃による攪乱と迎撃を行わなければ、ロッテも間を置かずに制圧されていただろう。
ただ今回はステルス装甲と敵との距離が功を奏した。距離のせいで索敵能力も射撃能力も落ちたドローンならば、大した労も無く追い払える。
しかしそれは同時に、これ以上接近できないことを示していた。
「やっぱり、それ、邪魔だね」
囮を用いてドローンを引き付け、第二ポイントで再び狙撃態勢に入る。
狙うは、クリスタルビット。
それも本家本元、唯一無二のオリジナル。セラフィムの頭上で輝く戦輪だ。
「手元の物から砕く。全部撃ち落とすから、覚悟しなよ」
殺意も悪意も沈むように隠蔽し、第三射が放たれた。
それは丁度分裂したドローンを叩き割り、破片をセラフィムへと振りかける。
それを笑って眺め、セラフィムは歩を進めた。
「……堅い」
ドローンは武器だ。
だが、盾だ。
隙在らば駆動部などの急所の一つでも撃ち抜こうと思っていたが、その急所を周囲で旋回するクリスタルビットが守っている。
このままでは押し切られる。ドローンを抑えられても、セラフィム自体は止められないからだ。
しかしそれでもロッテは冷静に、冷淡に、クリスタルビットを次々に撃ち落としていった。
「……なんで、レプリカントを捨てたんだ、君は」
ふと、ロッテの口から零れた言葉。
レプリカントたちがいればもっと猟兵と渡り合えただろうに。
他国殲滅も現実味が増すだろうに。
捨てられたレプリカントが、傷付く事くらい、分かっていただろうに。
「気が向かないな」
間を置いて、ロッテがぼやく。
だから、
「好きになんて、させてやらないよ」
第四射。
同時に、五射、六射。
リスクを呑んで強引に放つ速射が、ドローンを、その向こうのドローンを、更にその向こうのセラフィムの機体を、真っ直ぐにぶち抜いた。
大成功
🔵🔵🔵
朱皇・ラヴィニア
骸に囚われたか……分からなくもない
だけどね、その選択は次の君を生み出すに過ぎない
何も終わらないよ、このままじゃあね
ゼルを持久戦仕様にチューニングし147を大剣にして突撃
動き回り狙いをつけさせない。そうして大技を誘発する
それが狙いだ……光の翼が開いたらボクが先手を打つ
無駄だ、効かないよ
その隙に間合いを詰め白兵戦へ移行し相手の動きを止める
聞こえるかい、レプリカント達の声が
誰も殉教者なんて望んでいない
生きろ、生きて抗え
それが残された者が唯一出来る、死者への手向けだ
助けられたら彼の弁護を
原因はマシンと
悪しきこの国の仕組みなのだから
国自体が変わらないと
また彼の様な者が生まれかねないよ、と
※アドリブ連携可
●死骸と死骸
「思いの外、削られているようだが?」
セラフィムが嗤いながら大尉へ話し掛ける。
「彼らは強い。退け、逃れられているだけで恩の字さ」
大尉は冷静にそう返した。
傭兵たちは強い。
だからこそ、大尉は自分の判断をより深く信じることになる。
もし、あのレベルの傭兵が、他国の軍についたなら……この国は成す術もなく蹂躙されていただろう。
なぜこんな内輪の動乱に首を突っ込んで来たのかは分からないが、とにかく、あんなにも強大な存在がいる以上、より焦燥感は強くなった。
戦争を終わらない地獄だと称したが、それが甘えだと思い知ったのだ。
一歩間違えれば、その地獄さえも『終わらせられていた』のだと。
「戦闘は避ける。まずは国を出よう。今までの経験上、隣国なら突破できる」
まともにやりあう必要はない。
先程相対した狙撃手にも近付くことさえできなかった。
向こうに倣い、ドローンを囮にして離脱しただけで、相手のライフルがもう少し上等ならばもう一二撃はもらっていただろう。
「それより、削れているのは君の身体だろう。問題無いのか?」
「くく。機体の損傷具合など君が確認したまえよ。乗り換えを検討するにしても今じゃあないだろう?」
「……それは、そうだが」
不思議な奴だ。
意思も心もあるように思えるセラフィムだが、その方向性が全て戦闘に向いている。
レプリカントたちとはまるで違う。セラフィムのそれは、兵器に宿るべき兵器としての心だった。
「さあ主よ。次の敵が現れたようだぞ」
知らず考え込む大尉をセラフィムの声が現実に引きずり戻す。
言われて前を見れば、新手のキャバリアが立っていた。
「骸に囚われたか……分からなくもない」
そう言葉にするのは、赤いキャバリアに乗った朱皇・ラヴィニア(骸の虚・f29974)だ。
強化外骨格型という異形のキャバリアを纏うキャバリア『ブラディエル』こそ、見ようによっては鬼か骸のような姿をしている。
それもその筈、ブラディエルもセラフィム同様、骸の海から現れたオブリビオンマシンなのだから。
「骸か……」
スガワラ大尉にはオブリビオンマシンは認識できない。セラフィムもブラディエルもただの特異なキャバリアだと思ったまま、投げられた言葉の意味を考える。
この国で生まれる、人を囚えるような骸は二つ。敵、あるいは味方の戦死者だ。
たしかに大尉は敵を殺すのにも味方を死なせるのにも罪悪感を感じていた。
「だけどね、その選択は次の君を生み出すに過ぎない」
ラヴィニアは告げる。
「今度は君が誰かの大切なものを奪う。奪われた誰かは二度と奪われまいと立ち上がる。そしてやがて君のように二度と奪われない世界を目指して奪い尽くすことを決意する」
「知っている。だが、それも俺が終わらせる」
「何も終わらないよ、このままじゃあね」
「ああ、このままではな。だから誰かが、俺が、『奪い尽くす』のだ」
復讐は復讐を呼ぶ。
争いは新たな争いの火種となる。
それを断つ方法は、一つ。
「撫で斬りだ」
セラフィムが嗤った。
無敵斬艦刀を引き抜き、ラヴィニアへと構えながら。
「禍根を断つには根絶やしにするしかない。復讐の芽を摘むために罪無き者が罪を犯す前に殺す。それが平和へと至る唯一無二の道である」
それが道理。
奪い尽くす決意をしながら、それを成せないからこそ繰り返してしまうのだ。
殺し合いを選択した時点でもう戻れない。
だからセラフィムは嗤う。猟兵たちを。戦うことを選びながら生温いことばかりほざく中途半端な偽善者たちを。
同じ命を賭けるのならば、どうして武器を捨て話し合うことに身命を賭すことが出来なかったのかと。どうして黙って斬り伏せ、恨みも憎しみも背負うことができないかったのかと。
「さあ、下らぬ問答は終いだ。殺る気が無いのなら退くが好い」
「退く気はない。君を、殺すつもりもだ」
「そんな甘い考えで我が同胞を飼い慣らした気でいるのなら、我らが手を下すまでも無い。御したつもりの骸に囚われ、喰われてしまう日も近かろう」
「……」
セラフィムの嘲笑を受けてラヴィニアが黙る。
御したつもりの骸とは何を示すのか、それがわからないラヴィニアではない。
骸に囚われているのは、はたしてどちらなのか。
少なくとも今のラヴィニアは違う。だが、それがいつまでも続く保証はどこにもない。
それでも、ラヴィニアは骸から降りたりはしなかった。
「ゼル!」
ラヴィニアが叫ぶ。
呼応してブラディエルがその姿を変える。これから始まる長い戦いを生き抜くための姿へと。
同時に引き抜いたキャバリアソード『RX-147ロストオウス』が二回りほど巨大化し、元よりも分厚い大剣となる。
「面白い。我に剣技で挑むと言うのか」
構えた斬艦刀を刺突の姿勢に引く。
と、次の瞬間には切っ先がブラディエルの喉元目掛けて突き出されていた。
だがほとんど同時に走り出していたブラディエルは大剣を斜めに構えて剣を受け流す。
一瞬にしてゼロになった間合い。
腕を伸ばしたセラフィムの下に潜り込んだブラディエルが大剣を振り上げ、セラフィムはそれを加速がつく前に踏み付けて押し留めた。
機体速度もさることながら、反応速度が尋常では無い。
ただしそれはラヴィニアも同じだ。
大剣の刀身に脚を滑らせ、引き戻す勢いで斬艦刀が振るわれるも、半瞬速くブラディエルが飛びずさる。
持久力に特化させたのは斬り合いを長引かせるためではない。逃げ回り、脚と粘りで勝負するためだ。
「その逃げ腰にその大剣とは似合わんなあ!」
「そう見えるならそっちの戦術眼も大したことないね!」
瞬時に追い縋るセラフィムの凶刃をブラディエルの刀身が受け止める。
触れた物を両断する魔剣を正面から受け止め、そのまま当たり前のように受け流した。
「斬れぬ……否、触れられぬだと?」
「磁力か斥力か。何であれ、普通の武装ではないな」
「かか! そうか、面白い!」
驚くセラフィムを置き去りにして大尉が冷静に機体を操る。
斥力……反発力を発生させるブラディエルの主武装は、セラフィム・リッパーの無敵の斬撃さえ跳ね返す。
血染めの天使の名を持つ機体と、切り裂く熾天使の名を持つ機体。向かい合った赤と白が火花を散らしながらぶつかり合う。
「振り切れず、押し切れず。やはり強いな、傭兵は……」
だから、出さざるを得ない。
断罪の剣が通じないのなら、断罪の光を以て焼き尽くす。
「我が主の名の下に!」
心にも無い言葉を唱え、セラフィムが背中の翼を広げた。
広げた翼が輝き、更に大きく、眩く広がっていく。
そうして焼くのは視界だけではない。羽先は光の帯となって敵へ伸び、光熱を以て焼き切ってしまう。
どれだけ反応速度が速かろうと光速から逃れる術はない。
だからラヴィニアはスガワラ大尉と同じ手を使った。
出鼻を挫く。
光より速くはなれないのなら、光が放たれるより速く、反撃に転じるのみ。
「無駄だ、効かないよ」
言葉と共に放たれたのは障壁。
セラフィムが翼を向ける隙を突いて、ブラディエルは全身から『絶対無効化障壁(アブソリュート・インヴァレイド)』を放っていた。
それはユーベルコードを無効化するユーベルコード。セラフィムの広げた翼が障壁に押し退けられ一時的に光を失った。
「誘われたか……」
「今だ、ゼル!」
悔やむでも驚くでもなく、なおも冷静に応じる大尉に、間髪入れずにラヴィニアが肉薄する。
障壁でユーベルコードを封じ、白兵戦で物理的にも抑え込む。出力さえ拮抗させてしまえば、持久力に特化したブラディエルがセラフィムを逃すはずもない。
巨大な鉄同士が掴み合い、聞くだに恐ろしい金属の悲鳴が響いた。
しかし抑え込んだ所で次の手はない。
白兵戦で押し切るには手数も出力も足りないし、ユーベルコードを解けば今度こそ光に焼かれるだろう。
それでいい。
ラヴィニアは元々止めを刺すつもりもない。
だから代わりに言葉を投げた。
「聞こえるかい、レプリカント達の声が」
抑え込んだセラフィムの向こう、コックピットの中へと向けて。
骸に囚われた大尉へ、骸の声を聞けと呼び掛ける。
「誰も殉教者なんて望んでいない」
ラヴィニアにだってわかる。付き合いもない、会ったこともない、そんなレプリカントたちのことが。
スガワラ大尉が命を投げ出すことを善しとするレプリカントは、きっと、死者にも生者にも存在しない。
それでも命を賭して償いたいと言うのなら、
「生きろ、生きて抗え。それが残された者が唯一出来る、死者への手向けだ」
真っ直ぐにラヴィニアが言い切った。
何をしろとか、何をするなとか、そう言う話ではない。
まるで死に場所を求め命を捨てたがる大尉へと向けた言葉だ。
だが、大尉は頷かない。
「彼らの声は聞こえない。彼らは皆、物言わぬ骸になったのだから」
当たり前のことを当たり前のように言う。
「俺の死を望まないのも当然だ。彼らは、何も望まない。何かを望むという心も知識も無いからだ」
それもまた当たり前だと、憎むべき常識だと。
「故に、手向けるものなど在りはしない……! 彼らは! 手向けられたものの意味すら理解出来ない兵器として死んだのだ!」
それまで努めて冷静でいた大尉の感情が爆発した。
ブラディエルに抑え込まれたまま、セラフィムの機体が無理な操縦で酷く軋む。
「残された者もまだ幼いままだ! 彼らこそ誰よりも簡単に命を投げ出してしまう! だが! 彼らを人殺しに仕立て上げた俺が! 彼らに『命の尊さ』など教えられるわけがないだろう!?」
悲鳴だった。
どうしようもなく、長く苦しんできた、一人の男の慟哭だった。
死に救済など無い。誰が喜ぶわけでもない。そんなことは、大尉にだってわかっているのだ。
「だから託すのだ。悪は裁かれ、人殺しは報いを受けるべきだと示すためにも!」
吼える様に叫んで、突如、セラフィムのコックピットが開放された。
中から飛び出したのはアサルトライフルの銃身。キャバリア相手に向けるには余りにも粗末な銃口が火を噴いた。
「生きるとも、抗うとも! 言われるまでも無い! 俺はこの国を救うまで絶対に死ねないんだ!」
ぶちまけられた言葉と感情、そして弾丸が、ブラディエルの顔面に叩き付けられた。
ダメージは無い。
撃ち込まれたのは対キャバリア用のペイント弾だったから。
ただ、視界を奪われ、怯んだ隙に鬩ぎ合いの均衡が崩される。その瞬間、光が縺れ合う二体のキャバリアを断ち切った。
「……ッ!」
逃げられた。
ラヴィニアは眩む視界の端に映る機影を見ながらそう思う。
結局、大尉にはレプリカントたちの声は聞こえていなかった。
しかしその代わりに、
ラヴィニアの言葉だけは、確かに心に突き刺さっていた。
大成功
🔵🔵🔵
セロリ・サーティーン
確かに、レプリカントを捨て駒にしている所も、あります。母国がそうでした。ですが、大尉を慕ってではなく、助け出す為に、動く他国のレプリカントがここにいるという事を……知って下さい。
引き続きUCを使い、攻撃力を5倍、装甲を半分にします。
【先制攻撃】として、パルスマシンガンで【マヒ攻撃】。どうか、そのまま動かないでいて下さい。動きが止まったようなら、Battler、突撃。コックピット以外を狙い、Battlerの【限界突破】した物理的連撃を仕掛けます。もしまだ攻撃可能なようなら、【見切り】で、かわします。
反撃されるのならば大尉の機体の制御を【ハッキング】で崩します。
どうか、洗脳から覚めて下さい。大尉。
●洗脳と洗脳
「見つけました」
次々と移動する戦場。
猟兵たちから逃げ回るスガワラ大尉を追い駆けて、セロリ・サーティーン(生きるからくり人形・f30142)がようやく接敵した。
応援を呼ぶ暇はない。即座に戦闘を開始し、足止めしている内に他の猟兵に気付いてもらう他無い。
もちろんこの場で制圧出来ればそれが最良だが、巨大なオブリビオンマシンを喰い止めるのは容易ではない。ましてや一般人がコックピット内に存在しているのだから尚更だ。
いっそ諸共に破壊してしまえれば楽なのだが、集まった猟兵たちは皆、依頼内容に関わらずスガワラ大尉の救出を望んでいた。
ただそれは足止めよりも困難だ。
「そこを退いてくれ」
穏やかだが、はっきりとした声。間違いなくスガワラ大尉本人の声だ。
操られているとは到底思えない強い意思を感じる声を、足止めのために飛び出したセロリへと投げ付けてくる。
「どうか止まって下さい、大尉」
返すセロリの言葉にも強い意思は宿る。
スガワラ大尉の決意がどれほどであろうと、セロリも一歩たりとも退くわけにはいかないのだ。他ならぬ大尉のためにも。
そうして進路を塞ぎ、間合いを一定に保ちながら両者は滑るように移動する。
抜けたい大尉と抜かせないセロリは、自然、互いに武器を抜いていた。
ただ、大尉が仕掛ける前に、僅かに躊躇いを見せた。
気付いたのだ。
セロリが、レプリカントであることに。
少しだけ堅い口調、独特な無機質さ。当然この国のレプリカントとは違うが、どこか根源的な所で似た空気を感じ取っていた。
「君は、レプリカントなのか?」
思わず訊ねた大尉にセロリは頷いて返す。
セロリはレプリカントだ。それも、戦争用の。
この国ほどの『物』扱いとは違うが、この国よりも扱いは酷かった。なまじ心を持つが故に出撃したがらなかったセロリを待っていたのは、廃棄処分だったのだから。
「大尉。確かに、レプリカントを捨て駒にしている所も、あります」
母国もそうでした、と、思い出しながら話すセロリに、大尉は黙って並走を続ける。
やはりレプリカントには思う所があるのだろう。それもこの国に似た境遇だったというのならなおのこと。
セロリはそんな大尉に願う。
「ですが、大尉を慕ってではなく、助け出す為に、動く他国のレプリカントがここにいるという事を……知って下さい」
その言葉に嘘はない。
セロリがこの国に対して何か思う所があったとしても、それとは別に、大尉を救いたいと本気で願っていた。
かつて大尉自身がレプリカントに戦えと、死ねと、命令してきたのは知っている。それでもセロリは今の彼を救おうと動いていた。
「……知っているさ」
そんなセロリに返された言葉は、ひどく沈んでいた。
知っている。スガワラ大尉は、セロリの想いを。
それだけではない。レプリカントたちを通じて聞いた猟兵たちの振る舞いや、自分自身が戦場に出て交わした言葉の数々など、それらを統合して、どの猟兵にも大尉を救おうという意思が感じ取れた。
「だが、その想い応えるわけにはいかない」
誰が彼を救おうとしても、彼はそれを、救いだとは認めない。
彼の求める救いはあまりにも出来過ぎていて、例え猟兵であっても用意出来なかったから。
「さあ、退いてくれ。時間がないんだ」
長く続いた並走も、その言葉で終わりを迎えた。
大尉の操縦で急制動を掛けたセラフィムが、反応の遅れたセロリの背後を擦り抜ける。それを嫌って、セロリはパルスマシンガンを乱射した。
弾丸の雨霰には雷さえ迸り、嵐のような広範囲制圧射撃が吹き荒れる。
それをさも当然のように回避するスガワラ大尉だが、逃走経路から引き離すことは出来た。
押し込み、抑え込む。それを主軸に、セロリはマシンガンの銃口を突き付ける。
「通しません」
「そうか」
では、と、二人がともに口にする。
構えたのは大口径のパルスマシンガンと、無敵斬艦刀。
セラフィムの触れた物を切断する魔剣相手に装甲など意味をなさない。だからと、敢えて攻撃に特化し装甲を投げ捨てたオーバーフレーム。
セロリにしろ、大尉にしろ、一撃貰えば致命傷になりかねない。そんな綱渡りの戦いが、セラフィムの一閃から始まった。
「迷うな主よ。これは敵で、言葉に何の意味もない」
紙一重で横一文字を掻い潜った時、セロリの耳に異様に神経に触る声が聞こえた。
それはセラフィム・リッパーの声。
大尉を惑わす、悪魔の囁きだ。
「考えてみよ。彼奴等は主を想うと言いながら具体的に道を示さず、そのくせ揃って邪魔をする。想っているからなんだというのだ、それで誰もが手を緩め足を止めてくれるのならば、話はここまで拗れておらん。そうだろう?」
天使の名を冠する悪魔が嗤う。
今までにも似たようなことはあった。
隣国との小競り合い。レプリカントは物じゃないと言いながら破壊する兵士。私にも心が有ると言いながら命を投げ出すレプリカント兵。
共存したい。
戦争なんてやめにしよう。
こんな事はしたくない。
そんな言葉は、今までだって何度も聞いてきた。
そしてその言葉に耳を貸すたびに誰かが傷付き、信じようものなら誰かが死んだ。
戦場で銃口を突き付け合いながら「君を救いたい」などと宣う者を、何故信じたいなどと思うのか。
「主よ」
「わかっている」
セラフィムの静かな声に、大尉がはっきりした声で返す。
それを聞いてセロリが僅かに眉根を寄せる。
洗脳。
言葉巧みに、退路を断って、追い詰める。
お前には血塗られた道しか残されていないのだと言うように。
「大尉……!」
いけないと、そう思って掛けた言葉は、斬艦刀に両断された。
先程より速い、一切の迷いのない太刀筋。寸での所で回避したセロリの背後で建物が倒壊する音がした。
セラフィムが、
歪むはずのない機械の貌が、
醜悪な嘲笑を浮かべていた。
「……ッ!」
セロリが奥歯を噛み、パルスマシンガンを連射する。
強烈な電撃を纏う弾幕は当たれば機体の自由を奪う。
だが、当たればの話だ。
スガワラ大尉は獣じみた動きで射線を切って跳躍し、かと思えば一瞬で接近して剣を振るう。
当たれば終わるのはどちらも同じ。それなら手数や攻撃範囲で圧倒的に有利なはずのセロリの攻撃が、どうしても当たらない。
コックピット、つまりは機体の中心を避けているからというのもあるのだろう。だが、手足にすら当たらないのは流石に異常だ。
セラフィムはセロリの言葉をまるで精神攻撃かのように言っていた。だが、セロリにしてみれば目の前で救いたい相手が洗脳されているのを見せられることこそ精神攻撃だった。
どうすれば救える?
どうすれば洗脳を解ける?
本来戦いには必要の無い思考が溢れ、セロリの行動がどんどんと鈍っていくのを感じていた。
それでもセロリが足止めの役を果たせていたのは、皮肉にも、スガワラ大尉もコックピットを狙わなかったからだ。
洗脳されてなお、彼は心を失わずにいる。
それが余りにも痛々しい。
「止めなくてはいけません、ね……!」
覚悟を決める。
大尉を見て知れたから。
洗脳されていようと、いまいと、彼の決意と覚悟は本物だと。
ならば同じだけの覚悟を決めなければ頑なな心を開かせることなど叶わない。
「いきます」
短く告げて、愛機『Battler』を走らせた。
構えたマシンガンが、銃口以外からも火花を散らす。
射出、排莢、再装填。超高速で回転するサイクルを更に何倍もの速度でぶん回す。
限界を突破したパルスマシンガンはもはや銃身にまで紫電が走り、いつ暴発してもおかしくない状態で吼え続けた。
「ッ!」
一発。
そうまでして、やっと一発、セラフィムの機体に突き刺さる。
脚の先、装甲の端だ。致命傷になど、なりようもない。
だが、着弾点を粉砕しながらも電撃が脚部の配線を焼き切った。
「自動修復脚部集中!」
「二秒待て」
「待てません」
セロリが言う。僅かに脚を引き摺った、その瞬間を待っていたと。
自壊を始めたパルスマシンガンが射線を切ろうとするセラフィムを追い回し、二発目を、次いで三発目を叩き込んだ。
撃ち込むたびに動きが鈍るセラフィムと距離を詰めようとした瞬間に振るわれた斬撃も油断無く回避し、振った腕にも麻痺弾を浴びせ掛けた。
だがそこでパルスマシンガンが沈黙した。
限界を超えて回し続けた結果だ。オートリペアー次第でまだ動くとしても、今この瞬間は両者の主武装が失われている。
このチャンスに、セロリは賭けた。
ハッキング。
洗脳を解くためにまず、オブリビオンマシンを黙らせるのだ。
「なにを……!」
満足に動けない両機が接触し、セロリがハッキングを開始する。
スガワラ大尉は一般人だ。セラフィム・リッパーが動けないならユーベルコードも使えない。
それでも、一歩間違えれば殺されてもおかしくない超至近距離で、セロリが無防備に姿を晒す。
「これは大尉を惑わし、闘争へとけしかける悪魔です。大尉の意思も、覚悟も、希望も、その全てを利用して」
そんなことは許されない。
許せるはずがない。
人の想いを土足で踏み躙る悪魔をどうにかしなければ、
「どうか、洗脳から覚めて下さい。大尉」
「無駄だ」
ハッキングが、突然弾かれた。
いや、弾かれたのではない。干渉できないのだ。
「機械である我にとってはこの行いこそ洗脳に等しい。だが許そう。その無力さを、責める気にはなれんからなあ」
言葉とは裏腹に、楽しそうに悪魔が嗤う。
どうして、と思うセロリに応えたのは、大尉の方だ。
すまないと、一言謝ってから彼は言う。
「間違っているのは、分かっているんだ」
洗脳されていたとしても。
悪を為すと、彼は決めた。
レプリカントは物である、という洗脳から解けた時から今まで、ずっと考えて決めたことなのだ。
そう、彼はオブリビオンマシンに乗る前に決めていた。
一番大切なものを選び、他の全てを捨てる、と。
大成功
🔵🔵🔵
トリテレイア・ゼロナイン
Ⅳ搭乗
無礼ながら
貴方で無く大尉に用があります
●推力移動交えた足捌き
刀の腹を●武器受け盾受けで逸らし接近戦
お伝えしましょう
星すら滅ぼす悪意を源流とし生まれた戦機から
無垢より生まれし肉持つ機械に光を見出した貴方に
貴方を護った彼らのように
力は意志によって振るわれます
癖、挙動●情報収集
誇りを胸に終わる?
貴方『は』安らぐことでしょう
自機体●ハッキング直結●操縦
動作精度●限界突破
教育、亡命
国民の意識改革、周辺国との和平
どの道も地獄です
●瞬間思考力で剣の軌跡●見切り紙一重で回避
直後にUC蹴撃で刀握る手粉砕し●武器落とし
それでもなお、戦い続けなさい
貴方の信ずる光の為に!
斬艦刀奪取
断罪の剣を『機体』に振り下ろし
●外道と外道
断罪の光は我が身さえ焼き焦がし、電撃の楔は内より機体を焼き尽くす。
上等なオートリペアーも万能ではない。傭兵の手を掻い潜り逃げ延びてはいても、相対する度に何かしらの痛手を受けてきた。
「限界が近いな。どうにかオブシディアンの一機でも拾わねば、国外へ逃れたとて先がないぞ」
セラフィムはやはり他人事のように言う。
暗に乗り捨てて行けというこの機械にとって、この戦いには何の価値があると言うのか。
「兵器に多くを求めるな、主よ。我は所詮人殺しの道具よ。生き長らえようとそれは変わらん」
「より長く戦っていたいとも思わないのか?」
「思わないな。我はただ、『そうあれかし』と望まれたまま振る舞っているに過ぎぬ。例え何度生まれ変わろうとも、我は変わらんだろうよ」
望まれた役割をこなし、役目を果たす。その言葉は、初めて見せたセラフィムの『熾天使(セラフィム)』らしい内面だった。
「お初にお目にかかります」
そんな白いキャバリアの前に、同じく白いキャバリアが現れる。
色合いこそ似通えど、天使とはまるで違う。槍を手に鎧を着込んだその姿は、騎士そのもの。
「君が例の騎士か」
一目で分かる。
レプリカントたちから伝え聞いた、騎士の姿の通りだった。
騎士、トリテレイア・ゼロナイン(紛い物の機械騎士・f04141)は、肯定も含めて一礼し、歩を進める。
「騎士よ、退いてくれ。我が主は今まさに騎士道を歩み出さんとしておられるのだ」
向かい合った白いキャバリアへセラフィムが芝居じみた態度で言う。
退く気が無いのが分かった上での煽りだが、返ってきた言葉は予想とは少し違った。
「貴方こそ退いて頂きたい。無礼ながら、貴方で無く大尉に用があります」
堂々と、騎士がオブリビオンマシンなど眼中に無いと言い放つ。
オブリビオンマシンのことも猟兵のことも知らない大尉にしてみれば、何故今のが大尉ではなくセラフィムの声だと分かったのかは疑問だった。
だが、それはどうでもいい。
それよりも大尉は、騎士が何と言ってくれるのかが気になっていた。
正義を求め、悪を為す。
そう言ったのはこの騎士だという。
少なからず大尉の決断の一助となった騎士の理論。それを唱えた本人は、相対した今、何と言うのだろう、と。
「お伝えしましょう。星すら滅ぼす悪意を源流とし生まれた戦機から、無垢より生まれし肉持つ機械に光を見出した貴方に」
大尉の期待を感じ取ってか、トリテレイアは立ち止まって真っ直ぐに言葉を紡ぐ。
本来戦場は語り合う場ではない。茶の一杯、言葉の一篇より先に、弾丸が交わされる。そう言う場所だ。
ただ二人の間には、敵同士でありながら、誇りという共通項がある。
これは答え合わせだ。
追い詰められ、選び取った悪。それを為すことに決めたスガワラ大尉が、騎士の目から見ても誇り高き戦士に見えるか否か。
「貴方を護った彼らのように、力は意志によって振るわれます」
まだ幼いレプリカントたちにも、トリテレイアは意志の光を見た。
大尉を救おうと動いた猟兵たちにも同じことが言える。
では、大尉はどうか。
守ろうとする意志はある。そうして力を振るっている。
しかし、騎士からは強く否定的な声が紡がれる。
「誇りを胸に終わる? 貴方『は』安らぐでしょう」
お見通しだった。
大尉が己の行く道の先に、自害を選ぶことなど。
敵を全て滅し、最後に己を悪として排する。残された者は誰も傷付けようとはしない、善良なものだけ。
悪は滅び、善なる者が残る。それが、スガワラ大尉の目指すもの。
しかし騎士は否定する。
意思を持って力を振るい、守るべく戦う大尉を。その結末だけは認めないと、突き放す。
だが、大尉は笑った。
セラフィムの中で穏やかに。
そう言われるだろうと分かっていたと、……答え合わせは、『正解』だったと言うように。
「君が騎士道を歩むように、俺は俺の道を往く」
誇りを胸に逝く。
死にたいわけじゃない。
生きて、彼らの傍にいたい。
でも、違う。それは出来ない。
「俺はね、悪は、討たれるべきだと思うから」
悪を為し、悪を討つ。
己さえ例外無く。
そして残された者に悪を憎む心を教えたい。
いかなる理由があろうと誰かを傷付けてはならないと。
償える罪にも限度は有るのだと。自らの悪を自覚しながら良しとした外道に、赦される謂われは無いのだと。
ただ彼らには、騎士道も修羅道も、歩んで欲しくはなかったから。
彼らの歩む道は、人として、レプリカントとして、正しい道であってほしい。
「貴方は……ッ!」
トリテレイアが槍を構える。
相容れないのは承知の上。ただ、互いが掲げたもの以外の全てが二人は瓜二つだった。
悪を為す。悪を討つために。
悪を為す。善を為すために。
二人は目指す場所が違った。ただそれだけのことだ。
「いずれ善になりたい君には、酷なことかも知れない。だが俺は、背負って生きるだなんて勝手を言わず、罪は罪として、裁かれるべきだと思うから」
トリテレイアは徹頭徹尾自分勝手な騎士道を貫くと言った。
誰に恨まれようと、誰を手に掛けようと、最後には善に至ると信じて進むと、そう言った。
だが大尉はその道を信じられなかった。
善に至ったとして、だからなんだと。
では誰もが善に至るため悪を為して良いのか? 最終的に善人になるのなら積極的に悪事に手を染めることが許されるのか?
そうじゃない。
そんなものが善であるはずがない。
少なくとも大尉は、自分の部隊のレプリカントたちに、「敵を殺した君たちは善人だ」なんて言ってやることが出来なかったのだ。
その『悪』を呑めなかったからここに居る。
ここでこうして、騎士と対峙している今がある。
「道は違えた。騎士よ、最早交わすべきは言葉に非ず」
悪は決して許さない。
しかして大切なものを奪われることも決して許せない。
大尉の中の二つの誇りが、悪を為し、悪を討つと言う、地獄のような矛盾を生んだ。
全ては自分ではなく、残された人たちが清く正しく生きていてほしいから。
「どの道も地獄です」
トリテレイアも槍を構え、言葉を返す。
教育。亡命。国民の意識改革。周辺国との和平。
戦争以外の道は困難を極め、それはそれで地獄であっただろう。
それでも、
トリテレイアは、スガワラ大尉に『こんな地獄』を選んで欲しくはなかった。
「たった今、悪を為します。貴方の選んだ道を断つという、身勝手で自分本位な騎士にあるまじき悪を!」
否定したい。
理屈ではない。
ただ誰かのためにその身を投げうった者の末路が自死などと、そんな話を認めたくないだけだった。
為すべきは悪。
望まぬものは、何であろうと全力で拒む。
やはりその一点において、騎士と大尉は、何も変わらないのだ。
だから互いに一歩も退かない。
セラフィムが振るう斬艦刀をトリテレイアが寸前で回避し、返しの槍がセラフィムの頬を掠める。
超接近戦。
機体を操るには操縦するというラグが有る。だからキャバリア同士の戦いで、刹那の反応速度が求められる接近戦は好まれない。
しかし極まった両者の激突は、もはや肉弾戦と遜色がないほどに速かった。
瞬間思考に限界突破。操縦のラグを潰すために自機をハッキングして直結した神経系統。あるべきをあらざる領域まで高めたトリテレイアは、この一瞬だけは生身よりも速く槍を繰る。
一般人の大尉では決して到れぬ境地。それでも渡り合えるのは、セラフィム・リッパーの異常性の表れだ。
洗脳・精神侵蝕の転用。逆に大尉の意思を読み取り己へとフィードバックすることで得られる超高速反応。
弱者である大尉が何年にも渡って蓄積し磨き続けてきた生き抜くための戦略が、トリテレイアの技量にまで食い下がる。
触れた物を断つセラフィムの魔剣。その刃を避け、刀身の腹に盾をぶつける。
推力を交えた足捌きで肉薄し、地形さえ変えてしまう重撃を放つトリテレイア。その槍を避け、受けて断とうと魔剣の刃を立てる。
一進一退の隙さえ無い。
両社はぴたりと張り付いたまま、互いを打ち倒すために武器を振るった。
その激戦の最中にさえトリテレイアは思考する。
目の前の戦闘から得た情報を分析し、一瞬で次の一撃へと反映させる。
スガワラ大尉の癖。
その類稀な反射神経と判断力に頼るために、攻撃をギリギリまで引き付ける悪癖。
言ってしまえば自ら追い込まれようとする、スガワラ大尉の現状にすら関わる無意識化の選択。
それを利用する。
大尉が攻撃を引き寄せ、迎え撃とうとした瞬間に、トリテレイアは『ロシナンテⅣ』のスラスターを爆発させた。
振るわれた斬艦刀。その下を潜り抜ける軌道だ。
触れれば両断される魔剣の、刃の無い鍔へと盾を叩き込む。
「君ほどの敵ならば、それくらいはやってのけると思っていた……!」
刀を押し退けられ、両腕を浮かせるセラフィム。
その隙を、しかし、トリテレイアは見逃した。
見逃さざるを得なかった。
鍔へと叩き込んだ盾が、真っ二つに両断されたから。
「く……ッ!」
切断の効果が腕にまで及ぶ前にトリテレイアが盾を手放す。
その間に構え直したセラフィムが嗤う。
ユーベルコードのロジック。
彼の振るう『断罪の剣』は、『無敵斬艦刀が命中した対象を切断する』というユーベルコード。
その『切断』を引き起こすのに、『刃』を命中させる必要は、ない。
「盾で凌げていたのではない。凌がせてやっていただけだ。より致命的で決定的な瞬間に隙を晒すまでなあ!」
嘲笑と共に振るわれる斬艦刀が、咄嗟に防ごうとした槍をも斬り飛ばす。
両手は空に。
それで、今度はトリテレイアが笑う。
「貴方なら、このくらいは出来ると信じていました」
そして、ロシナンテの振り上げた足刀がセラフィムの手に打ち込まれる。
崩れた姿勢で放つ蹴撃。本来なら押し返す力さえない攻撃が、斬艦刀を握るセラフィムの腕を粉砕した。
地形を変える程の一撃を放つユーベルコード。トリテレイアの操るそれも、『槍』である必要はない。
宙に浮いた斬艦刀、それをトリテレイアが掴み取れば、それさえも大破壊を齎す武器と化す。
「例え全ての道が地獄でも、それでもなお、戦い続けなさい。貴方の信ずる光の為に!」
死ぬなんて許さないと、トリテレイアの言葉と一撃が、セラフィムの肩口に叩き込まれた。
装甲を砕く大破壊。
しかし、浅い。
それどころか、周辺に撒き散らされた金属片は、トリテレイアのキャバリアから生じたものだった。
「ありがとう」
大尉が返す。
斬艦刀を振るったのとは逆の腕で、『斬艦刀の鞘』を掲げながら。
それもまた斬艦刀の一部。
取るに足らない蹴りがセラフィムの腕を粉砕したように、取るに足らない鞘での打ち払いが、ロシナンテの腕を切断していた。
それは大破壊より、僅かに速く。
「俺は死なない。戦い続ける。この世の悪が、たった一人になる日まで」
「……ッ!」
違う。
そう叫ぶより先に、セラフィムは飛びずさる。
取りこぼした斬艦刀を回収し、その凶刃を片手で器用に鞘へと納めながら。
そうして巨悪は、騎士に背を向けて逃げ出したのだった。
大成功
🔵🔵🔵
クシナ・イリオム
…交渉とか器用な事できたらこんな仕事してないか
生身で戦闘
小柄な体を活かし駆動部に竜の髭を巻きつけながら
竜の牙で内部構造を破壊
機動を低減させたらUCで機内に突入
可能なら外に叩き落し…商談を始める
今、この世か…近隣諸国には傭兵が大量に集っている
それも私らみたいな特級戦力がね
今回で前線が私達を防げないことがわかった
しかも消耗品という割に命令バグがある不良品を廃棄交換せずに使い回す程度の数
…流石にこの状況で上から命令が無いことは無いよね?
だから…私達は大尉がやろうとした事をこの国にできる
前線が誰とか関係ないよ
それを踏まえて聞きたいんだけど…前線外注に興味はある?
金さえ出すなら、この地獄多少引き取るけど
●脅迫と脅迫
オートリペアー。
自動修復装置。
オブリビオンマシンとして元来のスペック以上に引き上げられた驚異の再生機能。
それが、全く間に合っていない。
駆動部など、重要な部分を優先して修復しているが、装甲は勿論、神経系等の配線さえ破損したままの部位がある。
「世界には、もっと強い者も居るのだろうな……」
大尉が呟く。
世界を滅ぼす。そう謳ったものの、実際には隣国を滅ぼすのがせいぜいだと思っていた。
それでも土地が空き、プラントが手に入れば、周辺諸国には余裕が生まれると踏んでいた。
いわゆる口減らしのつもりだったのだ。
それでも戦争が続くのなら少しずつ滅ぼす範囲を広げていく。そのつもりだと。
いや、どの道遺恨を断つために全てを滅ぼさねばならなかったのだが、しかしそれが志半ばで途絶えたとしても、国は向こう十数年は平和になり、その間レプリカントたちにも危険な任務は回って来ないと。
「我は本気で滅ぼす心算でいる」
セラフィムが言う。
覚悟もなく、決意もなく、それでも大尉より強く真っ直ぐに言い放つ。
その様子に少しだけ笑って、大尉は新たな敵に向き直った。
「……交渉とか器用な事できたらこんな仕事してないか」
クシナ・イリオム(多世界戦闘商・イリオム商会総帥・f00920)が、ぼやきながら現れた。
立ち塞がる、と言うには余りにも小さな身体。
フェアリーである彼女の身長は実に25cm弱しかない。
それでも歩を止め、大尉はクシナに剣を向ける。
「君のことは聞いている」
「だろうね」
「君の提案は断ったはずだが」
「そうだね。でもセールスはしつこいくらいが良いんだよ」
「押し売りか」
はは、と大尉が笑った。意外にも嫌そうではなく、穏やかに。
そして、踏み込んだ。
「断る」
一閃。
深く踏み込んで姿勢を低くしたセラフィムが、クシナを見上げる形で斬艦刀を振るった。
当然、クシナはそれを躱す。
真正面からなら不意打ちも何も無い。元より的の小さなクシナなら、生身でそう簡単には捉えられはしない。
が、それは大尉も承知の上。
躱された斬撃はそのままクシナの背後の壁を斬る。
致命的な亀裂。大きく斜めに裂かれた壁が、間を置かずに崩壊した。
降り注ぐ石飛礫。普通の猟兵、ましてやキャバリアが相手だったなら、まず通用しない技。しかし小さなフェアリーが相手ならこれでも攻撃として通用する。
ただし、それは相手が普通のフェアリーであったならだ。
ユーベルコード『暗殺技能・魔力霊身変化』。クシナはその身を透明化し、物理存在をすり抜ける。
降り注ぐ瓦礫も、なんなら最初の斬撃さえも、クシナはなんの問題もなく回避することができるのだ。
加えて透明化は回避行動以外にも応用が利く。
「……面妖な」
クシナを見失い、周囲を警戒していたスガワラ大尉が、苦々しげにつぶやいた。
セラフィムに異常が出ている。
最初は駆動部に異物反応。膝や腕などの関節部、だけではない。その内側の駆動部に、何かが絡みついているという。
最悪引き千切れはするが異物はリペアーで除去してやらなければならず、一刻も早く逃走したい今は面倒だった。
しかしそれ以上に面倒なことが起きる。
機体内部の損傷だ。
その時点で大尉も気付く。クシナが先程の『物質透過』の力を使い、セラフィムの内部に入り込んでいると。
「商談、始めてもいいかな」
クシナの声が、ずいぶん近くから聞こえた気がした。
大尉は息を吐き、オートリペアーに指示を出しながら応じる。
「今、この世か……近隣諸国には傭兵が大量に集っている。それも私らみたいな特級戦力がね」
「……そうか」
そうかも知れないとは思っていた。
事実かどうかは知らないが、可能性は十分にある。でなければこんな国の内乱にこれだけ強い傭兵たちが突然現れたことの説明がつかない。
「今回で前線が私達を防げないことがわかった」
事実だ。実際に前線を守っていたレプリカント部隊がほとんど一方的にやられている。
大尉も危惧していたことだ。傭兵が一人いるだけで前線は壊滅する。
セラフィムに乗った大尉が渡り合えているのが不思議なくらいで、以前に乗っていた機体で戦っていたなら大尉も傭兵に瞬殺されていただろう。
加えて、今回の暴動だ。
レプリカントは物ではなく、命令にも縛られない。その事実が上に知られれば、どんな命令が下るとも知れない。
良くて廃棄。悪ければ、本格的に使い潰される。
クシナは言う。この国の内部が平和でいられるのは、ただの奇跡でしかないと。
何か一つ、大きく事が動けば、この国は滅び去るだろう。
「だから……私達は大尉がやろうとした事をこの国にできる」
殲滅。
この国を滅ぼし、近隣諸国に平和と資源を齎すこと。
「できるだろうな」
事実だ。
逃げるので精一杯な今の大尉が奮戦したところで、あるいは前線の部隊を呼び寄せて戦力を集中したところで、猟兵たちには敵わないだろう。
この商談は脅迫に等しい。
生殺与奪の権利はこちらにあると前置きして、クシナはようやく、本題に入った。
「それを踏まえて聞きたいんだけど……前線外注に興味はある?」
提示された商品は、傭兵。
前線外注。傭兵を国境に配することで、今現在配置しているレプリカント部隊は内勤に収まる。
もちろんレプリカントのもの扱いが変わるわけではないが、殺し殺される地獄からは抜け出せるだろう。
代わりに傭兵がその仕事を請け負うが、彼らはレプリカントたちとは違う。好きか嫌いかはおいておくとして、自ら傭兵であることを選んだ者たちだ。
つのり、望まず戦場に立たされるものがいなくなるということである。
「金さえ出すなら、この地獄多少引き取るけど」
クシナがあけすけに言う。
地獄の沙汰も金次第。この国には特別潤沢に資源や資金があるわけではない。
「それは、魅力的だな」
そう返すスガワラ大尉だが、その言葉にはやはり、拒絶の色が浮かんでいた。
「……理由を聞いても?」
クシナは問う。しつこく食い下がるのがセールスだ。言い訳なんて一つも出なくなるくらい粘っても良い。
だが、商人であるクシナ本人がわかってもいた。この商談は、前提からして破綻していると。
「まずは自国の主力部隊を大きく上回る戦力を受け入れるかどうかの問題だ。強ければ強いほど、こんな国の雇われではなく、国でも興した方が稼げるだろうと思われる」
「専守防衛、攻め込むのは無しで契約したら?」
「それならよほど平和的な集団だと思ってもらえるかもしれない。ただ、今度は君たちが請け負わない『略奪部隊』がレプリカントたちで編成されるだろう」
「……地獄は減るけど、無くならない」
「より苛烈な地獄が生まれるとも言う。なにせ平和は人の数を増やし、資源の消費量を増やすからな」
人口が増せば資源が足りなくなり、いずれは奪う必要が出る。レプリカントも内勤で死に難くなれば死亡率より発生率の方が上回るようになるだろう。
「傭兵が決して裏切らず、決して破られず、そして国が決して契約を反故にしないと仮定してさえこれだ。慎ましく暮らし今あるプラントだけで生活したとしても、いずれ淀みは生まれるだろう」
「それでも今の地獄よりはましでしょう」
クシナの言葉に、大尉が頷く。
「話は変わるが、この世界で起きている異常のことを知っているか? ある日突然弱小国家が戦況をひっくり返して暴れ回り、ある日突然巨大国家が内部から崩壊するという、異常な話だ」
「ええ……」
オブリビオンマシンの存在を大尉は知らない。しかし、異常な事態が起きていることは分かる。
「100年以上も戦争が続いているというのに、目立った大国は存在しない。分裂・崩壊・建国を繰り返しているからだ。その原因とも言われているのが、プラントから突如現れる強大なキャバリアの存在だ」
「私達なら撃破出来ます」
「それはつまり、君たちなら世界を平和に出来るということだろう」
実際にどれほど強力なキャバリアが現れるかは分からない。
ただ分かっているのは、平和が突然終わりを告げるということだけだ
この世界にはプラントという名の爆弾が散らばっていて、しかしその爆弾に縋らなければ人々は生きていけないのだ。
「それとな。さっき、君の仲間に『何も変わらない』と言われたんだ」
「なにがですか?」
「いずれ俺と同じような者が現れると」
だから、
「君の提案を飲んだとしても、いつか君たちの身を案じる者や、あるは隣国で資源の枯渇に苦しむ者が、私と同じ道を進もうとするんじゃないかとね」
それは、そうだ。
結局世界を救わなければ必ずどこかに悲劇は生まれてしまう。
「対処療法です。環境が改善されるまで、防波堤になるだけです。必要でしょう。例え世界を救うにしても、滅ぼすにしても、変えるとしても、それまでの間国を守る存在が」
クシナが捲し立てた。
それに大尉はやはり頷く。
「俺が失敗したなら、その話を軍に持ちかけてくれ」
「……あなたは?」
「進むとも。もし君たちがこの国の前線に立ってくれるとして、俺はそこへ敵が来ないようにしたい」
「私達より、弱いのにですか?」
「ああ。弱いからだ」
「なぜ……」
「さてな。俺はもう、君たちを気に入り始めているからかもしれない」
困ったように笑って、スガワラ大尉が操縦桿を握った。
そして、クシナを無視して歩き出す。
「君は、初めから俺を止める気なんて無かったんだろう。その小さな身体に、物体透過能力だ。俺がキャバリアを走らせるだけで君は振り切られるし、機体に入られたとしてさして問題にもならない」
「実体化出来ないようにしているのは、わざとですか」
「もちろんだ。オートリペアー含め、機内の圧力や電力は半暴走状態にしてある。下手に実体化すれば中で潰れて死んでしまうから、やめてくれよ」
「……やっぱり、交渉なんて器用なことはできませんね」
肩を落とすクシナが、セラフィムの内から出る。
止められない。
分かっていたことだ。
本気を出せばいざ知らず、今回のクシナは完全に敵を倒す気がなかった。
そうまでして挑んだ商談も、結局は実らなかったのだ。
「そう落ち込まないでほしい」
大尉は言う。
去り際に、ただ、嬉しそうに。
「君が最初から最後まで俺達のことを案じ、話し合おうとしてくれたこと。俺は決して、忘れない」
だから後を頼むと、そう言って、セラフィムは去って行った。
「ダメ、かぁ……」
あれこれ理由を付けても、なんとなくわかった。
彼はそもそも、誰にも戦場に立ってほしくないのだ。
レプリカントにも、そして、傭兵たちにさえも。
大成功
🔵🔵🔵
栢山・源治
…すげーなあんた
猟兵って奴になったからわかるよ
あんたはそれに乗って尚
大切な者の為に戦うんだな
此奴はちょいと…俺も頑張るか。
基本まずは観察
特に機体構造とどう攻撃すれば救出できるかを冷徹に分析
これまでの戦いからも癖を把握
【瞬間思考】
セラフィムの動きと隙と癖
どう攻撃すれば大尉を救出できるか
そして…レプリカントと大佐をどう助け
己の都市へ亡命させるか
UC起動
【限界突破】で加速
【威嚇射撃】で動きを制限
【体制を崩す・重量攻撃・範囲攻撃】で動きを制限し
【貫通攻撃】で止め
大尉をこっそり救出
派手に爆発させて死亡に見せ
戦闘後
俺の故郷は特に種族に拘りはねぇし
あんたらの様な実力者は大歓迎だ
…一つの選択として考えてくれ
●破壊と破壊
「……すげーなあんた」
もう何度目か、セラフィムの前にキャバリアが立つ。
どこかでさっきのやり取りを聞いていたのか、あるいは傭兵同士の情報共有でもあったのか。
真っ直ぐに立つ栢山・源治(自称鬼畜皇帝・f30114)は、とかく頻りに頷き、大尉を褒め称えた。
「猟兵って奴になったからわかるよ。あんたはそれに乗って尚、大切な者の為に戦うんだな」
源治は言う。
オブリビオンマシン。その存在を知った彼なら分かる。大尉の強靭過ぎる精神力が。
多くは暴走状態にまでなり、そうでなくても洗脳されおかしな理屈ばかりこねるというのに、どうしてか、スガワラ大尉は真っ当に自分の意志を貫いていた。
放っておいても戦乱に身を投じるのでセラフィム側から過剰な洗脳を行っていないだけかも知れない。と、思っても見たが、しかしそれなら猟兵を仇敵と見做すオブリビオンが意図的に猟兵を見逃したことになる。
どちらかがおかしいのか、どちらもおかしいのか。
わかるのはただ、スガワラ大尉が戦い続けているということだけ。
「此奴はちょいと……俺も頑張るか」
半端は出来ないと思った。
だから、まずは身を引いた。
「くく、それで我を止める気があるのか?」
半身で空けた空間へ斬艦刀が振り下ろされる。
速い、が、連戦で鈍った動きだ。しかしそれで油断できない相手だと源治は知っている。
「煽るんなら、突破して見せろよなぁ!」
セラフィムの軽口に応じて、愛機『紅月』が踏み込んだ。
セラフィムの砕けた装甲、特にひどい肩口を目掛けてぶつかり、罅割れた方の足へと体重を乗せる。
金属がぶつかり合う鈍い音に混じり、悲鳴のような破砕音が聞こえた。
そのまま圧し潰せれば楽なものだが、コンマ一秒もしない内に斬艦刀が引き戻されて振るわれる。キャバリアには躱し難い横薙ぎの一閃を源治はよく見て大きく回避した。
「随分と慎重なものだ。傷付くのが嫌なら隠れていればいいものを。ほれ、今隠れるのなら見逃してやるぞ?」
「オブリビオンマシンの方がひっでえ性格してんなあ……!」
くく、と嗤うセラフィムに、はは!と笑って源治がライフルを構えた。
ばら撒かれた弾丸を、さも当然のようにセラフィムが躱す。幾らか当たった所で装甲の表面を削る程度にしかならない。
慎重なのは大尉の方だ。
これ以上の負傷は、即座に完全停止へと繋がりかねない。
転がるようにして乱射を避けつつ崩された体勢を整え、深追いせずに剣を構える。
砕かれた片手もまだ戻らない。
片手で握り締めた斬艦刀を、手首から先の無い腕で支えて、上段に構える。
「やっぱすげーよ、あんた」
セラフィムの舐めた口と態度は別にして、それ以外は殆どが完璧だ。
瞬間思考で巡らせた戦闘シミュレーションの中で、源治が出した『答え』とほとんど同じ動きをしていた。
完璧だから読み易い。しかし対応出来ないからこその完璧だ。
「だったら、俺も完ッ璧にやってやる」
地力勝負だ。
こうまで完璧な相手の癖などすべて見え透いた罠に思える。それも踏まえて、挑むのならこれしかない。
最善手の打ち合い。
一度ミスればその都度喰らう。
最後まで立っていられれば、それが完全な勝者だ。
「かか。ついて来れるのか!」
「こっちのセリフだ、死に体のくせによぉ!」
信じられない光景だ。
歩くだけで脚が折れそうなほど手傷を負ったキャバリアが、ほとんど無傷の源治と競り合っている。
威嚇射撃で行動範囲を狭め、ブラックホールキャノンで捕えようと試みても、決定打だけは絶対に喰らわない。
躱すべきを躱し、弾くべきを弾き、被弾しても一切の動揺もなく斬り掛かる。
と思えば、斬艦刀の派手さを目くらましに、クリスタルビットをばら撒いている。
数十、いや、百を超えるようなドローンの大増殖。それと同時に雨の様に降り注ぐ光の矢。弾幕のことを軽々しく『雨』と呼ぶのを今後は躊躇いたくなるほどに、その雨は余りに完璧な土砂降りだった。
「こんなもん喰らえば削り切られるぞ……!」
ライフルで引き撃ちし少しでもドローンの数を減らしながら源治が構える。
ライフルに、キャノン。
慎重にやるのはここまでだ。
離れ、離脱する、と見せ掛けての再突撃。
雨は知らん。突っ切る。
出せる出力の限界ギリギリまで引き出して、最高最速でセラフィムへと掴みかかる。
零距離射撃なら躱せまい。
その意図を察し、大尉が僅かに腰を落とした。
瞬間、源治が加速する。
限界まで酷使した脚が、限界以上の出力で地面を蹴り飛ばした。
一瞬残像が揺れるほどの超高速突撃が、ほんの僅かにスガワラ大尉の『完璧』に穴を穿つ。
穿ってしまえば、後は簡単だ。
限界を超えて拉げた脚。それに代わる長大出力で飛翔し、『紅月』がセラフィムを押し倒す。
地面を削りながら滑る二機。上を取った源治は、飛翔速度を緩めることなく全搭載武装を開放する。
「なああんた、うちの国に来ないか?」
逃れようと藻掻く大尉に源治が言った。
剥き出しの砲門が火を湛え始め、二機の顔が赤く照らされる。
「俺の故郷は特に種族に拘りはねぇし、あんたらの様な実力者は大歓迎だ」
源治の故郷。クロムキャバリア世界の一商業都市。
大尉は言ったことが無いが、源治から見ればこの国より余程余裕も活気もある。
大尉一人くらい歓迎するだけの度量だって持ち合わせている。
だからまずは大尉を脱出させてやりたい。
国とレプリカントはその後で追々と……。
「それは、さぞ生き易い良い国なのだろうな」
大尉が返して羨むように笑う。
「だが、俺がこの国とレプリカントたちを置いて亡命するなんてことは有り得ない」
「わかってる。だけど……一つの選択として考えてくれ」
しかし大尉は首を振る。
何の迷いもない即答だった。
だからこそ、源治は大尉を大した奴だと思ったのだ。
この期に及んでさえも、一切ぶれることはない。
「それでもな、俺はあんたを助けたい!」
だから、
死ぬなよ、と。
限界を超えて熱を蓄え続けた『紅月』の全武装が、爆炎と共に大爆発を引き起こした。
大成功
🔵🔵🔵
緋月・透乃
強いだけでなく頭も冴えていてまさに強敵って感じのオブリビオンマシンだったねぇ。もっと戦いし、負けたままではいられないから這い上がってきたよ!
今度はぶっ壊す!
今回も武器は重戦斧【緋月】で。
さっきは私にしては防御を重視し過ぎた気がするし、今度は攻撃的にいくよ!
もはや間合い等はお互い分かりきっているのでとにかく攻撃を当てるために突撃!体勢を崩すための一撃からの緋迅滅錘衝をぶち込みにいくよ!
敵の攻撃は怪力で武器を振って弾く!
ユーベルコードに対してはこっちも緋迅滅錘衝をぶつけて武器破壊を狙うよ!小さい私のほうが力を一点に集中しやすいからできるはず!
●死力と死力
爆発の威力は凄まじかった。
だからこそセラフィムは爆炎と爆風に紛れて逃げられたが、決して無傷では済まなかった。
ボロボロの装甲は焦げ付いて変色し、白かった機体が黒にさえ見える。そんな有様で、セラフィムは逃げていた。
しかし、その行く手を非常にも阻む者が居る。
「あと少しなんだ。見逃してくれないか?」
「イヤだよ。だって、」
負けたままではいられないから、と、緋月・透乃(もぐもぐ好戦娘・f02760)が笑う。
這い上がってきたよ!との言葉の通り、彼女は泥だらけだった。
余程急いだのだろう。
瓦礫に埋められた時点では無敵化のユーベルコードで無傷だったはずだが、あのユーベルコードは動きながらは使えない。だから自力で這い上がろうとすれば崩れ雪崩てくる瓦礫を浴びながら進まなければならないのだ。
だから、透乃はボロボロだった。
それはまるでセラフィムと同じくらいに。
「ハンデはお互い要らないね! また全力で戦おう!」
もっともっと戦いたいと弾む声色で言う透乃に、セラフィムが声を上げて笑っていた。
馬鹿だ。それも、愛おしいほどの。
「良かろう。捩じ伏せ、逃げ延びさせてもらうとする」
「今度はぶっ壊す!」
獰猛な笑みが向かい合う。
そして、合図も無いのに揃って動き出していた。
振り上げた斧と、振り下ろした剣が、なんの飾り気もなく真っ直ぐにぶつかり合う。
途轍もない衝撃が生まれるも、両者一歩も譲らずに踏み止まった。
「はっ!」
「くく!」
戦闘狂が笑い合う。
何故、命中したなら切断するセラフィムの魔剣が発動しなかったのか。そんな疑問も、問うまでもなく消える。
そう言うものだと、肌で感じた。
透乃が振るった一撃も『命中箇所を破壊する』という似通ったユーベルコードであることをセラフィムは気付かない。
ただ、『ユーベルコードが相殺した』という事実のみを受け入れ、その馬鹿さ加減に噴き出したのだ。
「我が剣をこれほどまでに打ち込んだのは初めてだ!」
「こっちこそ! なんでぶっ壊れないのさ!」
ガギン! バギン! と、何がぶつかっているのかもわからない轟音が響く。
互いに振るう斧と剣がぶつかる度、打ち消し合ったユーベルコードの余波が周囲に広がっていく。
それでも両者は譲らない。
透乃は防御重視を悔いた。らしくないと。
知略にも長けた相手とやり合うのに自ら持ち味を薄めて不慣れな戦術を取れば、それは足元をすくわれても仕方ないと。
だから今度は全力全開。
傷付いて疲れ果て腹も空いてきた体に鞭を打ち、左手に握り締めた『緋月』を思いっきりぶん回す。
そんなふざけた戦いに応じる必要はなかったのに、セラフィムは応じた。そして大尉も。
大尉にしてみればこの戦いにも得るものがある。越えなければならない相手だとも思っていた。
しかしそんな細かい考えをも吹き飛ばす程に、二人の争いは単純にして激しく、暑苦し上に清々しかった。
「く、っははは! 馬鹿め! 阿呆め! なにを戦場ではしゃいでおるのだ! この我は!」
「そりゃ楽しいからに決まってるよ! ほら! これだけ本気で打ち込んでも刃毀れひとつしないんだ!」
雷鳴が轟く様な、轟音が何度も何度も何度も何度も響き渡る。
決着などつかないのではないかと不安になるほどに長い間、剣と斧との打ち合いは続いた。
しかし当人同士は一瞬の出来事のように振る舞う。
まだだ。まだ足りない、と。
だがそれでも、決着の瞬間はいずれ訪れる。
それは因果なことに、一戦目で透乃が砕いた脚がきっかけになった。
砕かれ、そのまま連戦を耐え抜いた、セラフィムの脚。
それが、ここに到って、完全に砕けたのだ。
原因は明白。ユーベルコード相殺ラッシュの余波で凄まじい負荷が掛かったから。
そうして突然ガクンと体勢を崩したセラフィムを、透乃は決して見逃さない。
「ッ『緋迅滅錘衝』!!」
有りっ丈の気合を込めて、咆哮と共に放つ『緋月』の一撃。
それは、体勢を崩し、それを利用して全体重を乗せて放った『断罪の剣』と激突した。
生まれた衝撃波はそれまでの比ではない。
しっかりと踏ん張った透乃の両脚が、沼に沈むように道路へ沈んでいく。
逆にかち上げを全体重で受け止めたセラフィムは、ただでさえボロボロだった機体が一気に重傷化する。
またも相殺。
一際大きな雷鳴と共に、ようやく二人は距離を取る。
そして、そのままセラフィムは盾蓑の屋根上へと逃げ果せた。
「逃げるのか!」
「逃げるとも!」
真っ直ぐな罵倒に真っ直ぐ打ち返してセラフィムが笑った。
元より勝利条件は逃げ延びることだ。無理をする理由がない。
「それに、決着はついた。見ての通り、我は敗北したのだ」
言葉とともに掲げた斬艦刀。それが、ベキベキに折れ曲がっていた。
対する『緋月』は健在で、透乃の腕の中で揺れている。
命中箇所を破壊するユーベルコードと、命中箇所を切断するユーベルコード。その二つがぶつかり合って、破壊の効果だけが表れたのなら、それはもう破壊の勝利としか言いようがない。
「許せ、我が敵。この勝負、敗走させてもらう!」
堂々と言い放ち、セラフィムが逃げ出した。
砕けた脚を引き摺るその姿を追えなかったのは、透乃の両脚が衝撃で痺れていたからだ。
「強敵だった!」
最後まで抜け目ないのも含めて。
果たして、初めからこんな殴り合いをしていたなら、勝利はどちらの手に落ちたか。
わからない。
わからないが、真正面から魔剣を打ち破り、破壊したことに、透乃は大きく胸を張った。
大成功
🔵🔵🔵
菫宮・理緒
『仲間』を思う気持ちは、
どんなときでも、どんな人にだって、あるものだよね。
それがレプリカントだとかなんだとかは関係ないと思うよ。
だって、いっしょに戦ってきた『仲間』だもん。
その人たちを大事に思う気持ちは、すごく普通のことだし、
それは絶対大事にして欲しいと思うんだよ。
だから、止めるよ。
このまま【M.P.M.S】でセンサーをばらまいて【E.C.M】を発動。
オブリビオンマシンの目を潰していこう。
なにがあっても生き抜いて、レプリカントさんたちの力になってあげてね。
これからこの国でなにがあるにしても、将校さんにどんな未来が待っているとしても、
レプリカントさんたちの気持ちを解る人は必要だと思うからね。
●仲間と仲間
限界だった。
連戦に次ぐ連戦。それも、いずれも自身より明らかな格上ばかり。
セラフィム・リッパーの力を得てさえ、逃げ切る事さえ叶わなかった。
それでもここまで戦い抜けたのは、執念とも言うべきスガワラ大尉の覚悟が有ってこそ。
だからだろうか。
先に限界を迎えたのは、傷だらけのセラフィムではなく、スガワラ大尉の方だった。
「主よ。もう直ぐだ。包囲網は狭まりつつあるが、まだここを凌げば脱出の目はある」
似合わない励ましなんて口にしつつ、セラフィムが一歩ずつ歩を進める。
スガワラ大尉は操縦桿を握ったまま、荒い息を繰り返していた。
目立った外傷は無い。コックピットの中で振り回されていたのだから軽い打撲や脳震盪は有るが、命に別状はないと言って良い。
しかし、精神の方は、既にズタズタになっていた。
張り詰めていたのだ。
きりきりと、いつ千切れておかしくないほどに。
その末に示した覚悟を、猟兵たちは否定した。
それは優しさ故ではあったが、それでも、スガワラ大尉にとっては悲しいことだった。
傭兵たちは、レプリカントをもの扱いしなかった。大尉に対して理解も示してくれた。たった一人で悩んでいた大尉にとって、それは、泣き出しそうなくらいに嬉しかった。
だからこそ、二言目には「でもそれは違う」と否定されるのが辛かった。
間違えているのは分かっている。でも、だったら何が正しいと言うのか。
あんなに強い傭兵たちでさえ全てが解決する完璧な答えを持っていないことに絶望もした。
言ってしまえば、打ちのめされていたのだ。
「俺は……悪を為してさえ……何も、守れないんだな……」
覚悟を決めて飛び出して、国を出ることさえ叶わず敗れ去ろうとしている。それが情けなくて情けなくて、消えてしまいたくなった。
そうだ。初めからそうだったんだ。
自分が強ければ、ただの一人もレプリカントたちを死なせずに済んでいたのなら、ここまで思い悩むことなんて無かったのだ。
弱いから死なせてしまい、弱いから悩んで、弱いから悪を選び、弱いから、負けた。
弱い。
あまりにも、弱い。
そんな彼を、しかしセラフィムだけは見捨てない。
「主よ。我が主よ。為すべきを為すのだ。為せるか否かではない、為さねばならぬと、主がそう決めたのだから」
洗脳。
それは、余りにも甘やかで。
もう歩く気力もない大尉に代わって、セラフィムは、自動操縦で歩き続けた。
「我は為す。世界を闘争で満たし、滅ぼすために。故に主を守らねばならん。主こそ、この世界を終わらせる最後の戦火となるのだから」
セラフィムが謳い上げる。大層な役割を大尉に押し付けて。もはやオブリビオンマシンであることを隠そうともせずに。
「俺は、弱い」
大尉は小さく呟いた。だから無理だと。最後の戦火どころか、火を起こすことさえできないのだと。
「知っているとも」
そんな泣き言に、セラフィムは頷いて理解を示した。
「だから『その願いに、我が力を与えよう』と言ったのだ。『これから君は常に我と共に在る』、と」
「……あぁ」
言っていた。
確かにセラフィムは出陣の直前、乗り込む大尉に向かってそんな事を言っていた。
「君はどうして、俺に力を貸してくれる」
「無論、我がオブリビオンマシンであるが故。主が、この世界という名の地獄を過去へと捨て去ってくれると、信じたが故に」
悪魔が笑う。
地獄が失われ、残った者には永遠の平和という名の『未来なき終末』が訪れる。
滅ぼされた側も、残った側も、そのまま全てが骸の海へと沈むだろう。
その結末をただ求むる。その身を何度犠牲にしてでも。
「さあ、主よ。最後の敵だ。我が身、我が力の全てを駆使し、突破せよ」
「……ああ」
やってみるよと、大尉は零した。
その眼前に立ち塞がる最後の傭兵は、とても優しい瞳で大尉を見上げていた。
「『仲間』を思う気持ちは、どんなときでも、どんな人にだって、あるものだよね」
そう話すのは傭兵、菫宮・理緒(バーチャルダイバー・f06437)だ。
おおよそ血腥い争いごとなど知らぬような顔立ちで、しかし間違いなく地獄に立っていた。
仲間。
背中を預け合い共に戦う仲間。
後ろで支えてくれる仲間。
帰りを待ってくれている仲間。
人もレプリカントも、等しく仲間だ。
「それがレプリカントだとかなんだとかは関係ないと思うよ。だって、いっしょに戦ってきた『仲間』だもん」
例え一人で悩んでいたとしても、独りではない。
思い悩む大尉を支えたいと、多くのレプリカントたちが悩んでくれていた。
この内乱を起こしてさえ、同じ軍の人たちは傷付きながらも大尉のことをずっと考えていた。
支えたい、傍にいたい、救いたい、助けたい。
仲間たちが、ずっとスガワラ大尉のことを考えてくれていた。それは、きっと、猟兵たちだって。
「その人たちを大事に思う気持ちは、すごく普通のことだし、それは絶対大事にして欲しいと思うんだよ」
想われていたように、大尉もずっと想い続けていた。
大尉も、仲間も、誰も独りではない。今この瞬間でさえ、大尉の無事を多くの人とレプリカントが祈っているだろう。
「だから、止めるよ」
理緒が言う。
また否定だ。
二言目には皆、必ず手の平を返す。
だけど、不思議と今回は、大尉の胸は痛まなかった。
「ならば押し通る。我もまた、主の仲間なのでな」
くく、と笑って、セラフィムが剣を抜いた。
折れた剣の切先が、あらぬ方向へ向こうとも。セラフィム・リッパーは最後まで嗤って世界を否定する。
「……行こう、セラフィム」
「御意のままに」
自動操縦が切れる。
操縦桿に重さが戻り、一瞬セラフィムがその場で崩れ落ちかけた。
それを予備動作にして、セラフィムが走り出す。
曲がった剣を振ったところで掠りもしない。それでも、最後まで抗う覚悟を示す。
「わたしもわたしの仲間のために。そして、あなたの大切なレプリカントさんたちのために」
理緒が『M.P.M.S』を構え、宙にミサイルを打ち上げる。
多目的ミサイルランチャーが放った弾頭は、電波妨害を目的としたセンサーを搭載している。
その技はレプリカントたちから聞いていた。しかし、今の大尉には対応するだけの余力はない。
光の翼を広げ、熱戦を放ってみても、センサーを半分も撃ち落とせずにユーベルコードの発動を許した。
それは凶悪な電波障害を引き起こし、電子機器を狂わせる。キャバリアとて例外ではなく、セラフィムがゆっくりと膝をつく。
次の瞬間、セラフィムが理緒へと飛び掛かっていた。
「っ!」
理緒がとっさの判断でセラフィムにミサイルを叩き込む。しかし至近弾は爆風で理緒自体を吹っ飛ばした。
対するセラフィムはボロボロになりながら生き汚い獣となってまだ理緒に喰らい付く。
ユーベルコードが効かないわけではない。
ただ、セラフィムはオブリビオンマシンだ。元のキャバリアのスペックを変質させるにあたり、電気系統さえ変異させている。
だから僅かにでも動かせる。
動かせるのなら、戦える。
「操縦が効かない時は、セラフィム、君が勝手に暴れてくれ」
「仰せのままに。くく、しかしどうしたって戦闘力は落ちるぞ」
短い打ち合わせを交わし、セラフィムが突っ込んだ。
まだ動けるうちにセンサーを破壊する。
息も絶え絶えなのに、諦めようとしないセラフィム。それに引っ張られるように大尉の気力が回復した。
喜ばしい事ではない。
なのに、理緒は目を細めてミサイルランチャーを構えた。
セラフィムがセラフィムを操る。一見最適解に見えて弱体化でしかない組み合わせ。
獣じみた動きも、センサーを破壊し制御を取り戻した瞬間に切り替わる。
「主よ! 敵よ! 聞くがよい!」
突如、セラフィムが叫び出す。
ミサイルの雨を潜り、弾頭を光翼で焼き尽くしながら。
最後の戦い。最終局面で、セラフィムは嗤う。
「実に、楽しかった」
嗤う。心底楽し気に。嘘も偽りもなく。
「再誕より数日か。起動してからは半日と経っていない。だが、なかなかどうして良いものだった!」
あまりにも短い命を謳歌したと、叫ぶ。
兵器として生まれ、兵器として死に、生まれ変わってさえ、セラフィムは兵器であった。
だが嘆くことは何も無い。
理緒が言う通り、仲間がいてくれたのだから。
「主よ。君は生きよ。そして強くなるのだ。世界への憎悪と絶望を募らせて、今よりもずっと強くなって、そしてオブリビオンになるが良い」
その方が都合が良いと笑いながら、セラフィムはミサイルの直撃を受けて吹っ飛んだ。
「そして敵よ。怨敵よ。疾くと死ね、と言いたいが、その胸やけする甘すぎる理論で主のことも守ってくれ」
煽りながらもどこか真剣に言う。
セラフィムは悟っていた。
自分はここで終わると。
だから、主を託さねばならない。
世界を滅ぼすには、より強いパイロットが必要なのだから。
「セラフィム!」
操縦が効かない、その隙に、セラフィムの砕けた装甲を爆炎が吹き飛ばしていく。
大した威力では無いが、妨害電波で目が機能しなくなったせいか、直撃してしまう。
しかしそれでいいと笑いながらセラフィムが立ち上がり、そのまま崩れ落ちた。
「……ッ!」
立てない。
操縦桿をいくら引こうと叩こうと、セラフィムが動かない。
それなのに通信機だけは動かして、ノイズ混じりの言葉を吐いた。
「我が主、我が友、我が同胞よ。我は先に、次の地獄で待つ」
その言葉を最後にセラフィムが完全に沈黙する。
周囲を舞うセンサー。ユーベルコードによる行動阻害。
それを全て解除しても、もう、セラフィムは嗤わなかった。
「……逝ったか」
常に共にある、なんて言っていたくせに。
スガワラ大尉が、鉄屑と化したキャバリアから這い出る。
「ああ、こんなに……」
傷だらけだったのかと、大尉はセラフィムを見回して言った。
ずっと同じ調子で話すものだから実は損傷は大したことないのではと思っていたが、そんなことは無かった。
セラフィムはちゃんと戦い、役目を果たして散っていったのだ。
「将校さん」
理緒がゆっくりと大尉に近付く。
武器を警戒したが、素手だ。小銃はコックピットの中に放られている。
終わった。
終わってしまった。
大尉は黙って立ち上がり、理緒へと向き直る。
「俺の負けだ」
そう告げる大尉へ、理緒が頷く。
そして返す言葉で願う。
「なにがあっても生き抜いて、レプリカントさんたちの力になってあげてね」
死ぬなよ、と。
多くの傭兵と、セラフィムまでもが口にした言葉。
そして何を為せという部分はまちまちだが、それでも、誰も死ねとは言ってくれなかった。
「死にぞこないに何ができる」
思わず訊いていた。
これから先、何をすればいい。
きっと自分は厳罰に処され、部隊は別の軍人の手に渡る。
そして全てが元通りだ。
理緒は、その言葉を否定しない。
きっとそうなってしまうだろう、と、やんわりと同意する。
でも、それでも。
「これからこの国でなにがあるにしても、将校さんにどんな未来が待っているとしても、レプリカントさんたちの気持ちを解る人は必要だと思うから」
レプリカント本人にさえ分からない彼らの気持ちを分かってあげられるのは、スガワラ大尉しか居ない。
大尉を失えばレプリカントたちは皆孤独になってしまう。
だから、死んではいけない。
置いていってはいけない。
絶対に。
「……そうか。……独りは、苦しいからな」
なら、そばにいてやらないと。
微かに零れたそんな言葉に、理緒は少しだけ、笑って見せた。
●余談・その後の顛末
スガワラ大尉の処分を巡っては、たくさんの声が上がった。
まずはレプリカントたち。
彼らは飽くまで物として振る舞いながら、しかし、大尉が前線での戦闘で精神的に参っていたと進言した。情状酌量の余地を願ったのだ。
他の軍関係者からも同様の声が上がっていた。
スガワラ大尉の悩みを知る者は居ない。だが、過酷な環境でおかしくなることは仕方のないことだと。傷付けられながらも死者が出なかったのも、暴走した大尉がしかし最後の一線だけは越えまいと戦った証であると弁明した。
そして、猟兵たちからも声は上がった。
オブリビオンマシンの存在を明かす者、こっそり亡命の根回しをする者、過酷な前線に問題が有ると商談を持ち込む者など、様々な角度からスガワラ大尉を庇おうとする動きが見られた。
その末に、
今、スガワラ大尉は国軍本部に呼び出され、処分が決定されようとしていた。
「かけたまえ」
「はっ!」
上官の命に、大尉は敬礼して従う。
前線勤務の大尉は市民に英雄視されているが、それは上官も同じだ。立場が下とは言え、たった一人で戦場で血を流すスガワラ大尉の前で偉そうにふんぞり返れる者など居ない。
だが今回は、話が違ってくる。
なにせ大尉は国に刃を向けたのだ。
最終的には踏み止まったものの、国中は一時大混乱に陥った。お咎め無しとはいかないだろう。
しかし、この国に余裕はない。
「大尉」
「はっ!」
「君はオブリビオンマシンと言うのを知っているかね」
「……あの時、傭兵たちが口にしていた記憶がある、程度です」
そうだろう、と、上官は頷く。
傭兵からの情報はにわかには信じられないことだった。だが、調査してみればスガワラ大尉に支給された新型キャバリアがスペック以上の有り得ない戦闘能力を発揮したのは疑いようがない。
「ここが今回の問題点となった」
「はっ! ……問題点、ですか?」
ああ、と頷いて、上官が息を吐く。
「まず、オブリビオンマシンの実在は不明。しかし新型キャバリアに異常が見られたのは確か。そこで軍部は暫定的にオブリビオンマシンを『敵国のスパイウェア』として認識することとした」
「スパイウェア、と言うと、あのキャバリアは遠隔操作されていたと?」
「そんな技術があれば戦争の無人化が起きる。だから軍部はこれを自動操縦ソフトではなく、洗脳装置として解釈している」
洗脳。
あの日も何度も聞いた言葉だ。
実際にオブリビオンマシンの能力であるという。
「つまり、だ。洗脳プログラムが仕掛けられていたことに気付かず、君へ支給してしまった技術開発部にも責任があるとみなされた」
「ッ! そんな……!」
席を立ちかけたスガワラ大尉を、上官が手で制す。
「これによって、責任の所在は広く分布した。開発部、輸送部、実働部……つまり君、と。しかし当然ながら全員を処分してしまえば我が軍は弱体化を免れないだろう」
そこで、と、上官が手を叩く。
「執行猶予を付けることとした」
謹慎であれ退職であれ投獄斬首刑であれ、即処分となれば軍に空席が多く出来る。その穴埋めをしてやれる余裕はない。
だから執行猶予を付ける。
猶予期間に問題を起こさなければ、晴れて無罪放免とする、と。
「そんな……私は、許されていいはずがない!」
「だが大尉。君が処分されれば、君の『持ち物』も処分しなければならないのだよ」
「それ、は……!」
大尉が口を噤む。
持ち物。その言葉が示すのは、間違いなく、レプリカントたちのことだ。
レプリカントは相変わらず物として扱われている。大尉に従い国に背いた事も、大きく問題視はされなかった。その分、所有者の罪は余計に重くなったはずだが。
「とにかく、今回の件はこれで終いとなったのだ。君はこれまで通り、前線にて国防に努める。良いかね?」
「…………はい」
納得は行かない。
それでも、
レプリカントたちのために、飲み込まなければと思った。
「ああ、それと。レプリカントで思い出したのだが。君は北東のレプリカント部隊の、オオトリ少佐のことを知っているかね?」
「はい……。祭事に顔を合わせた程度ですが、レプリカント部隊を率いる隊長たちの中で一番隊長歴が長いと伺っています」
「そう。そのオオトリ少佐だね。先日にね、彼の部隊で八体目のレプリカント仔個体が産出されたそうだよ」
「ここたい……ッ子供ですか!? レプリカントの!」
驚いて立ち上がった大尉が、椅子を倒して大きな音を立てる。
「うん。彼の部隊ではね、時折レプリカント同士が新個体の製造に励むらしいよ。それで軍部にも支援物資の要請がよく届くんだ」
「それは……いったい……?」
自体が呑み込めない。
上官が何を言いたいのかもわからない。
スガワラ大尉が混乱して、浮かせた腰を落ち着かせる事も出来ないでいた。
「真面目な君にも分かるように言うなら、オオトリ少佐の部隊ではレプリカントの自由恋愛が許可されているということだね」
「レプリカントの恋愛
……!?」
それだけではない、と、上官は続けた。
西ではレプリカントの情操教育、上等教育を始めている。レプリカントの指揮官を作れれば前線完全無人化が出来るとの建前で、すでに人と大差のない個性を持つレプリカントが揃っているという。
南ではロストと称してレプリカントを勝手に戦線離脱させる隊長が居るが、軍部はそれを見逃している。その後のレプリカントの所在も含めて不問らしい。
他にも、潜入作戦用と称してレプリカントに私服をあてがう隊長や、隊長同士で秘密裏に連絡を取り合い、レプリカントのトレードや情報交換なども行われているという。
「君は真面目だ。だから、レプリカントの扱いが各部隊でまるで違うことにも気付かなかったのだろう。しかし大抵の場合、ただの物として以上に大切にされているようだね」
仲間がいる。
ふと、傭兵の言葉が脳裏に浮かんだ。
「改めて言おう。レプリカントは物であり、部隊長に支給される消耗品だ。即ち君たちの所有物であり、軍法下においてその扱いの全ては一任されている」
「それは、つまり……」
「つまり、あの子たちを人として扱い、幸せの何たるかを伝えるのも、君の自由ということだ」
上官が笑う。
にっこりと。
そしてすぐに顔を引き締めて言った。
「我々軍部、そして国民が君たち部隊長に望むのは! 国防! この一点のみである! それさえ守ってくれるのならば、我々は君に最大限の支援を行うものである!」
支援。
最大限の支援。
思えばオブシディアンも、新型キャバリアも、要求はすんなりと通っていた。
「資源は少ない。だが平和には代えられない。国民が多少貧しい思いをしたとしても、前線にいる君たちこそが最もぜいたくな生活を許されるのだ。それが君たちに対する礼であり、君たちの有する権利である」
だからもっと、君はわがままを言って良いんだよ。
上官が震える大尉の肩を叩く。
「前線は地獄だ。それは変わらない。でもね、この世界全てが地獄なのだよ。だから、我々は地獄に極楽を作るのだ。この国の内側のように」
そうだ。
この国は地獄の中で地獄を知らずに生きられる国。
ヒントはずっと、初めからそこに在ったのだ。
「なら俺は、あの地獄にレプリカントの極楽を築きます」
新たな決意を胸に、大尉が宣言する。
上官はにっこりと笑って、「まだ堅いよ君!」と肩を叩いた。
それからの話は、簡単なものだ。
傭兵たちの一部が今後も力を貸してくれること、特にオブリビオンマシン関連なら呼ばずとも駆け付けることなどが知らされた。
突如現れ、地獄を破壊していった傭兵たち。
そんな彼らに礼の一つも言えなかったことに気付いたのは、大尉が部隊に復帰し、泣きじゃくるレプリカントたちにもみくちゃにされている最中だった。
大成功
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