貴方を喪って、どれくらいの月日が経っただろう。
幾度も幾度も季節が廻り、それでもまだ、覚えている。
何より大切で、誰より愛しくて……綺麗だった貴方。私と対で作られた、私の半身。
聞こえてくる虫の声に目を閉じる。そうすれば、今でも貴方が私を呼ぶ声が……。
『我が君』
聞こえてきた声に、思わず顔を上げる。
『お会いしとうございました、我が君』
目の前に、貴方がいた。
貴方が私に手を伸ばす。
貴方の手が私を抱きしめて……私を飲み込む。
ああ、できることならば。
「時よ止まれ、お前は美しい――」
紡がれる言葉。世界が朧に霞んでいく……。
●
「カクリヨファンタズムの崩壊が始まっています」
その手に薔薇を模したグリモアを携えた桐原・更紗(バーチャルキャラクターの人形遣い・f17310)が口を開く。
切欠は、一人の妖怪がひたすら思い続けた半身の骸魂に出会ったこと。
「彼は……ヒトでいうと十代後半くらいの男性の姿をしているのですが、元は西洋風の人形だったようです」
時を経たモノが人の姿へと変化する、生まれた場所が違えばヤドリガミにでもなったのかもしれないが――それはさておき。
「彼には彼と対となる人形がありました。その人形もまた長い年月を経て少女の姿をした妖怪となりました」
絶滅の危機が訪れると彼らは他の多くの妖怪たち同様、幽世を目指した。
「ですが、少女のほうは幽世を目前にして力尽きてしまったのです」
一人生き延びた妖怪は半身を思い続け、そしてついに骸魂となった少女妖怪と出会ってしまった。
満たされた妖怪の滅びの言葉が引き金となり、一帯は足元から崩れ落ち始めている。そのうえ、深い霧に包まれ目に見える何もかもが朧げになっていた。
「この霧を抜け、元凶となっている骸魂を倒してほしいのです」
霧には奇妙な力があり、立ち入る者に幻を見せたり聞かせたりして惑わせるという。
「幻の内容は様々なようです。想い人の姿であったりトラウマを刺激するものであったり、好きなモノや嫌いなモノ、これ以上先に進めぬと思わせるような物理的な障害……」
幻惑を乗り越えても、骸魂を倒さねばならない。それはつまり、ようやく出会えた半身同士を再び引き裂くことでもあった。
「それでもやらなければなりません。やらなければ世界が崩壊します、そんなことは妖怪も……骸魂となってしまったその半身も、決して望んではいないでしょう……」
言いながら、更紗は僅かに目を伏せ俯いた。しばらくの間の後、緩く頭を振ると顔を上げる。
「幽世を崩壊から救えたら、そちらの世界で少しゆっくりしてきてはいかがでしょう?」
改めて猟兵たちに視線を向け、更紗が言葉を紡ぐ。
「そしてもしよろしければ……半身を喪った彼に声をかけていただければ、と」
そこまで言うと、更紗はその手にあるグリモアを猟兵たちの前に差し出した。
「それではみなさん、どうかよろしくお願いいたします――」
乾ねこ
初めましての方は初めまして、お久しぶりの方はお久しぶりです。乾ねこと申します。
滅びの言葉によりカクリヨファンタズムが崩壊を始めました。原因となった骸魂を倒し、世界を崩壊から救ってください。
滅びの言葉を呟いた妖怪は見目麗しい十代後半くらいの男性の姿をしています。付喪神のような存在で対となる少女の妖怪がいましたが、幽世に辿り着く寸前に失ってしまいました。今回現れた骸魂は、その少女妖怪だったもののようです。
第一章では人を惑わす霧の中、崩壊の中心となる骸魂の元を目指していただきます。
個人個人を惑わせるのは勿論、複数人で同じ幻に襲われるかもしれません。
プレイングには「どういった幻が現れ、それにどう反応し、どうやって切り抜けようとするのか」を書いていただけると嬉しいです。
第二章はボス戦となります。
骸魂を倒せば、飲み込まれた妖怪を救助できます。
第三章では崩壊を免れた幽世にて穏やかにゆったりとお過ごしください。
秋の夕暮れ、藁葺きの古民家に揺れるススキの穂といった日本の里山のような景色が広がり、何処からともなく虫の声が聞こえています。
骸魂を喪った妖怪がどことなく寂しそうにしています。もしよろしければ声をかけてあげて下さい。
第三章のみ、プレイングにてご要望があった場合に限り桐原・更紗(バーチャルキャラクターの人形遣い・f17310)が参加致します。
●以下、注意事項
ご友人等、同行者がいらっしゃる場合はその旨をプレイングにご記入ください。お相手のIDやグループ名等が書かれていると確実です。
また、プレイングの投稿時期が大きくズレますと同行の描写が叶わない可能性があります、ご了承ください。
完全なる「単独行動」をご希望の場合にもプレイング内にてその旨をご指定ください。
記入がない場合、単独参加でも他の参加者の方と行動を共にしていただくことがあります。
それでは、皆様のプレイングお待ちしております。
第1章 冒険
『惑わしの霧』
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POW : 気合を胸に霧を抜ける。
SPD : 一切を振り返らずに霧を抜ける。
WIZ : 心の支えを胸に霧を抜ける。
👑7
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馬県・義透
四人で一人の複合型悪霊。生前は戦友。
第四『不動なる者』まとめ&盾役
一人称:わし/我ら 古風で質実剛健
対応武器:黒曜山
この事件が起きだしてから、考える。我らと彼らの違いは何か、と。
だが、目をそらし続けるわけにもいくまいに。
幻:滅びなかった故郷
…夏のあの日(ステシ上の誕生日)に滅びず、続く戦乱の世でも営み途切れぬ故郷か。
そう、滅びなかったら秋よな、懐かしい。
ああ、だが。幻としては三流よ。何せ、故郷が続いているのならば『馬県義透』は存在せぬのよ。そう呼び掛ける人もおらん。
一人の忍者と三人の武士が、個別に存在する…それが続いているはずだからの。
故にここに用はなく、進ませてもらおう。
…故郷はもうない。
●
白く朧な世界、足元すらおぼつかぬ霧の中を走る。
目指す先には愛する者を飲み込んだ「骸魂」――それを、討伐するために。
(「そもそも我らと彼らの違いは何なのか」)
駆ける馬県・義透(多重人格者の悪霊・f28057)の脳裏をそんな疑問が過った。
一度は息絶えながら肉体を得て蘇る義透のような悪霊と、同じように力尽きながら骸魂やオブリビオンとなってしまう彼らと、一体何が違うのか。
どこで、違ってしまうのか。
思考する義透の眼前が、不意に明るくなった。霧が一気に晴れ、見覚えのある景色が現れる。
天高く晴れた空、美しく色づいた木々。見知った人々。それは、とうに滅びたはずの義透の故郷の姿――。
(「そうか、滅びなかったら秋よな、懐かしい」)
義透の足が止まる。
あの日、あの夏の日。あんなことが起こらなければ。
故郷はこんな穏やかな秋の日を迎えていたのだろうか……。
『――――』
誰かが自分を呼ぶ声がする。その声もまた、懐かしい。
(「ああ本当に、……だが」)
駆け寄ってくる人影に義透はほんの僅かに目を細めた。そしてそのまま、手にした漆黒の剣を一閃する。
義透に斬られた人影が、その場に崩れ落ちて消滅した。
(「懐かしくはあれど、人を惑わす幻としては三流よ」)
故郷がこんな穏やかな日を迎えていれば、そもそも『我ら』は存在しない。当然、故郷にその名を呼ぶものなどいようはずがない。
「故にここに用はない。先に進ませてもらう」
再び濃くなる霧の中、誰にともなく宣言し義透は走り出す。
我らの故郷はもう――ない。
成功
🔵🔵🔴
仇死原・アンナ
アドリブOK
愛が世界を滅ぼすか…逢瀬の果てに世界を滅ぼされては困る…
行くぞ…霧の奥深くへ…!
【シュバルツァ・リッター】で亡霊馬を召喚し[騎乗]し
霧の中を[悪路走破とダッシュ]で一気に駆け抜けよう…
…処刑人の一族…まして地獄の炎を噴き出す呪われた身…
まるで化け物…否…まさに化け物を見るかのような人々の様子が
目を瞑れどその姿が嫌でも目の前に浮かぶ…不快だ…
だが…それがなんだ…
私は処刑人だ…死と救済を齎す者だ…!
数多の世界を巡りこの呪われた力で救えるものがある事を知った!
それがどうした…私は…処刑人だ!!!
処刑人の一族としての[覚悟と情熱]を胸に灯し
[呪詛耐性]で幻惑を討ち払ってやろう…!
●
(「愛が世界を滅ばすか……逢瀬の果てに世界を滅ぼされては困る……」)
青白い炎を纏った漆黒の亡霊馬の背に跨り先を急ぐ仇死原・アンナ(炎獄の執行人・f09978)を、遠巻きに眺める人がいる。
アンナに向けられるのは見てはいけないモノを見るような、忌避とほんの僅かな好奇、嫌悪や恐怖がないまぜになった視線。
霧の中を進めば進むほど、アンナに向けられる視線が増えていく。
『処刑人の家系……』
『あんなものを操るだなんてなんて恐ろしい……』
『やはりアレは呪われている』
自分を遠巻きに見つめる人々――ひそひそと交わされる心無い言葉の数々に、アンナは思わず目を閉じた。しかしそれでも、化け物を見るような人々の姿が目に浮かぶ。
(「……不快だ……」)
浮かんだ思いそのままに、アンナの表情が歪んだ。
母共々死にかけ、赤子の自分だけが息を吹き返した。立ち会った処刑人にそのまま拾われ、その一族として育った。
呪われし処刑人と言われた一族の子、この身から吹き出す地獄の炎がそれに一層の拍車をかけた。
(「だが……それがなんだ……」)
カッと目を開き、真っすぐに前を見据える。
「私は処刑人だ……死と救済を齎す者だ……!」
亡霊馬――コシュタバァの腹を蹴り、そのスピードを加速させる。
「私は私の力で救えるものがあることを知った!」
猟兵となり巡った数多の世界で、それを知ることができた。
『恐ろしい子』
『呪われた子』
聞こえてくる声に、言い返す。
「それがどうした! 私は……処刑人だ!!!」
この程度の幻惑、この身で打ち払ってやろう……!
主の想いに呼応するように、コシュタバァが加速する。
(「行くぞ……霧のさらに奥深くへ
……!」)
一族としての覚悟と情熱を胸に、アンナは霧の中を駆けていく。
成功
🔵🔵🔴
フリージア・プロトタイプ
霧の中の幻…
想い人やトラウマ…と言っていたが
記憶も家族もない私にも
私にも、ナニかがあるのだろうか
たとえ幻であったとしても、私の生きた証明を与えてくれるナニかが…
追憶-幻
酷い光景だ
どこか、施設だろうか
建物が焼け落ちる
床にはいくつもの骸が転がる
惨たらしく、凄惨な地獄
そんな中に
周囲と不釣り合いな、慈しむような笑みを浮かべる男性
私は彼を知らない
…知らないはずなのに
―何故、胸が苦しい
心音も鳴らない胸が、早鐘を打つような感覚を感じる
微笑む彼が口を開く
『お前は、一つの命として』
その言葉を最後に、彼は鮮血と共に消えてしまう
この地獄のような光景は私の記憶なのだろうか
…だとしたら
こんな地獄を生まない為に、私は進む
●
パラパラと頭上から細かな瓦礫が降ってくる。黒煙が天井を這うように進み、何処からともなく何かが崩れる音がする。
(「酷い光景だ」)
広がる惨状に、フリージア・プロトタイプ(冷たい両手・f30326)は心の中だけで呟いた。
瓦礫が散乱する床には幾人もの骸が転がっている。誰も彼も苦し気に顔を歪め、最期まで苦しんでいたであろうことを思わせた。
(「この地獄のような光景は私の記憶なのだろうか」)
霧が見せる幻は人の記憶や想いに由来するものが多いように言われていた。しかし、フリージアにはこんな光景に心当たりが……ない。
これは喪った記憶の再現なのか。いや、実は本当にただの幻である可能性も……。
そう思い始めたフリージアの前に、一人の男性が現れた。
燃え盛る炎が迫り、壁面が崩れ落ちる。鼻につくような建物の焼き焦げ臭に交じって、肉が焼けるような匂いがする。
そんな地獄の中、彼は微笑んでいた。場違いすぎる表情を浮かべる彼の姿に、フリージアが目を見張る。
――私は彼を知らない。
知らないはずなのに、何故、これほど胸が苦しいのか。
胸の奥、早鐘を打つような感覚に胸を抑える。
苦しくて仕方がないのに、彼から目が離せない。
フリージアを慈しむように見つめる男性。その口が、言葉を紡ぐ。
『お前は、一つの命として』
その直後、彼を中心に鮮やかな赤が噴き出した。
「ッ!!」
思わず伸ばした手の先に、既に彼の姿はなく……花のように広がった鮮血の痕だけが残っていた。
伸ばした腕を戻し、その手をきつく握りしめるフリージア。
記憶は戻らず、真偽もわからず、けれど胸の痛みだけは本物で。だからこそ、その口元を引き締めてフリージアは前を向く。
私はこのまま前に進む。
こんな地獄を、生まない為に――。
成功
🔵🔵🔴
逆傘・からかさ
アドリブOK
我が愛しの故郷を愛しさで壊されるのは困るねぇ。あたしも元々忘れられた番傘だからねぇ
幻:刀を携えたサムライの男
心境:
ああ、あたしの幻はあんたかい、あたしの持ち主よ
剣の達人で、渡りの用心棒で、ある雨の日、あたしを差してる時に暗殺された我が持ち主よ
とはいえ、あんたはあたしのことを知らないだろうね
だってあの時はあたしはこの姿でもなく目も口もなくあまつさえ意思というものさえなかったからねぇ
ともあれ、通してもらうよ
手段:
語るべきことなど何もないので
装備品のお化け唐傘で相手をおどろかせた隙に
刀の一閃で感傷ごと幻を両断する
幻が消滅したら、振り向いて、舌を出して一言
妖怪相手に幻惑は通用しないのさ
●
何かが軋むような音がする。あちらこちらの地面に罅が入り、世界の崩壊が進んでいく。
「よっ……と」
足元にできた亀裂を、和装姿の逆傘・からかさ(唐笠お化けの剣豪・f30188)が器用に飛び越える。
(「我が愛しの故郷を愛しさで壊されるのは困るねぇ」)
彼女もまた元は無機物、とあるサムライが愛用する番傘だった。
サムライは雇われの用心棒をしながらあちこちを渡り歩いていた。それができるだけの腕前を持つ剣の達人だった。
――けれど。
どこかで恨みでも買ったのか。あるいは何かの口封じか。
ある雨の日、からかさを差して歩いていたサムライは闇討ちに遭いその命を散らした。
主を喪った番傘はどういうわけか意志を持ち……今、妖怪としてここにいる。
(「ああ、あたしの幻はあんたかい、あたしの持ち主よ」)
目の前に立つ男の姿に、からかさが目を細めた。
刀を携えたその姿は、彼女の持ち主だったサムライそのもの。そう、まさにあの雨の日の――。
(「……とはいえ、あんたはあたしのことを知らないだろうね」)
だってあの時はあたしはこの姿でもなく目も口もなく、あまつさえ意思というものさえなかったからねぇ。
からかさの胸に懐かしさと……別の何かが去来する。
「ともあれ、通してもらうよ」
サムライが刀を構える。いつのまにやら降り出した雨に、からかさはほんの僅かに苦笑した。
語るべきことなど何もない。からかさはサムライに向かって一気に踏み込み、手にした朱塗りの唐傘を突き出す。
お化け唐傘の大きな目がぎょろりと動いた。思わず動きを止めたサムライの体を、からかさの刀が一閃する。
そのまま走り出すからかさの後方、両断されたサムライの姿が消えていく。
からかさは幻の跡を一度だけ振り返り、思い切り舌を出してみせた。
妖怪相手に、幻惑は通用しないのさ――。
大成功
🔵🔵🔵
第2章 ボス戦
『いろあつめ』
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POW : あなたの『くろ』はきれいかしら
自身の【鳥籠に収集した悪感情を解き放つこと】を代償に、【実体化した任意の悪感情】を戦わせる。それは代償に比例した戦闘力を持ち、【交戦対象の感情を汚染すること】で戦う。
SPD : あなたの『ひかり』はまぶしいかしら
攻撃が命中した対象に【勝手に増幅する任意の良感情】を付与し、レベルm半径内に対象がいる間、【感情の暴走による過剰な体力消耗】による追加攻撃を与え続ける。
WIZ : あなたの『いろ』、わたしにちょうだい
【悪感情を簒奪する『黒い手』】【良感情を簒奪する『白い手』】【その2つからなる鳥籠からの射出攻撃】を対象に放ち、命中した対象の攻撃力を減らす。全て命中するとユーベルコードを封じる。
👑11
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●
――霧が晴れる。
現れたのは、どこか懐かしさを感じさせる日本の里山の風景だった。
藁葺きの古民家の庭、茜色に色づいた実のなる大きな柿の木の袂に、一人の少女が立っている。
『やっと……やっとお会いできました、我が君』
自身とさほど変わらない程大きな鳥籠の前、少女が囁く。
『お会いしとうございました』
――私もだよ、と声なき声が応える。
『これからはずっと共にありましょう。もう二度と離れませぬ……』
崩れ行く世界の中心で、少女は幸せそうに微笑んでいた――。
馬県・義透
四人で一人の複合型悪霊。
引き続き『不動なる者』にて。
我らと彼ら…ああ、一つだけ、違う点があるではないか。
彼は生者だ。
本来、生者と死者は交わってはいかんのよ。
死者側にその意思なくとも、汚染し歪ませてしまうからの。
我らは『四人とも死者』であるから対等であれるだけの話。
それに、共にあろうとしても…その場所になる世界が消えるのだぞ。
あとな、似てるからわかるのだが。貴殿ら、顔を合わせて話すことができん。
感情を汚染されたとして、もとより悪霊。悪霊として抱く『恨み』が強くなるだけの話よ。悪霊強くしてどうする。
わしは黒曜剣でなぎ払い攻撃を。…この姿のまま話すのなら、どうしてもそうなる。
●
「本来、生者と死者は交わってはいかんのよ」
愛する者を飲み込んだ骸魂の少女に、馬県・義透(多重人格者の悪霊・f28057)が語り掛ける。
『我ら』と『彼ら』には、一つだけ、決定的に違う点がある。
少女に飲み込まれてしまった『彼』は生者――姿はどうあれ、同じ命をずっと繋いできた者。一度は命を失った我らや彼女とは、違う。
「『こちら』にその意思なくとも、汚染し歪ませてしまうからの」
我らのような死者同士であれば、対等であれるかもしれぬ。しかし、相手が生者では……。
手にした得物は下ろしたまま、何も応えない少女に一歩近づく。
「共にあろうとしても……その場所になる世界が消えるのだぞ」
『それの何がいけないのです?』
少女の髪が揺らめいた。鳥籠の中の闇がざわり、と蠢きだす。
『我が君といられるなら、世界などいりませぬ』
そもそもオブリビオンとは世界を破壊するモノ。オブリビオンと化してしまった少女にとって、世界など取るに足りないものでしかないらしい。
鳥籠に捕らわれていた悪感情が吹き出す。実体化し襲い掛かってくる闇にも似た何かを前に、義透はしかし、微動だにしなかった。
「――不動なれ」
目を伏せて、ただ一言。
義透を打ち据えんと伸ばされた闇が弾かれる。貫かんとした闇はその皮膚すら傷つけられず戻っていく。
(「感情を汚染されたとて、もとより悪霊。抱く『恨み』が強くなるだけの話よ」)
失笑か自嘲か。義透の口元にやれやれとでも言いたげな、困ったような笑みが浮かぶ。
「そうそう、わしは貴殿らと似てるからわかるのだが」
悪感情をぶつけ続ける少女に、更に語りかける義透。
「貴殿ら、顔を合わせて話すことができんだろう?」
『あ……』
少女の攻撃の手が止まった。それを逃さず、義透が一気に少女との間合いを詰める。
『!!!』
後ろへ飛び退こうとした少女の動きは一瞬だけ遅かった。横薙ぎに繰り出された漆黒の刃が少女を捕らえる。
『……っ』
顔を歪める少女に対し、義透は再び言葉を紡ぐ。
「彼はわしらとは違う……生者なのだよ」
大成功
🔵🔵🔵
仇死原・アンナ
アドリブ歓迎
…あなた達の愛とやらで世界を滅ぼされては困るんだ
申し訳ないけど…二人を引き裂く為にここに来た…!
行くぞ…私は処刑人だ…!
[オーラ防御と呪詛耐性]を身に纏い、霊剣を抜き立ち向かおう
敵の攻撃は霊剣を振るい切り払おう
良感情を増幅させぬように敵を絶対に倒す[覚悟]を胸に
歯を食い縛り、体力消耗には[継戦能力]で消耗を抑えて耐え抜こう
攻撃を耐え抜いたら【剣樹地獄の刑】を発動し
霊剣による[破魔と浄化]を用いた滅多切りと滅多刺しで
少女の骸魂を切り裂き串刺して[除霊]し討ち倒そう…!
フリージア・プロトタイプ
アナタが…崩壊の原因か
ここに送られる前に、話は聞いた
大切な人と会えたのだと…けれど、それは崩壊の始まりだと
それでアナタのことを理解したとは思わないが…悲しいことだと思った
けれど、私はアナタを止めろと言われた
だから…すまない、アナタを斃す
私には近接戦闘しか手がない
刀を抜き、敵に向かい一気に斬り込む
…何かを、召喚したのか?
鳥籠から実体化したソレと交戦しながら、本体へ接敵する隙を窺う
刀は左手に持ち、右手は敵の攻撃を捌く為の籠手代わりに
…なんだ?コレと戦っていると感情が濁っていく…
長期戦は危険、か…なら
UCを発動、渾身の拳を打ち込み迸る紫電で本体も巻き込めれば…!
これで、終わってくれ…ッ!
●
鍔のない刀を抜き放ち、フリージア・プロトタイプ(冷たい両手・f30326)が骸魂の少女に肉薄する。
鳥籠から現れた暗い感情がその刃を受け止め、少女の視線とフリージアの視線が交差した。
「アナタが……崩壊の原因か」
手にした刀で暗い『何か』とせめぎ合いながら、フリージアが尋ねる。
『だからなんだというのです』
実体化した感情が力を増す。咄嗟に距離を取ったフリージアの足元に、悪感情の刃が突き刺さった。
続けざまに飛来する『何か』を、右腕の鉤爪で叩き落す。
(「……なんだ? 感情が濁っていく……」)
少女の攻撃をひたすら捌き隙を伺うフリージアの胸の内に、モヤモヤとしたモノが沈殿し心が濁っていく。
(「コレと戦っているからか? 長期戦は危険、か
……?」)
少女からの攻撃の手は緩まない。
ならば、と防御を捨て攻撃に転じようとするフリージア。しかしそこへ、他の誰かの声が割り込んだ。
「あなた達の愛とやらで世界を滅ぼされては困るんだ」
言葉と共に骸魂の少女に斬りかかったのは、退魔の霊剣を構えた仇死原・アンナ(炎獄の執行人・f09978)だった。気付いた少女がアンナに片手を向ける。
少女の掌から眩い光が放たれ、アンナの体を貫く。
「くっ……」
その場に片膝をついたアンナの顔がほんの僅かに歪んだ。
アンナの心に温かく優しい想いが湧き上がる。それに比例するかのように蓄積されるのは、心身の疲労感。
その速度はすさまじく、ともすればそのまま座り込んでしまいそうなほど。
(「だが……ここで倒れるわけにはいかない」)
アンナはギリ、と歯を食いしばる。
『貴方も私たちの邪魔をするのですか……』
少女の悲しげな声が耳朶を打つ。ただ共にありたいだけなのに、と声なき声が聞こえる。
「申し訳ないけど……私は二人を引き裂く為にここに来た……!」
溢れる思いをその覚悟で抑え込み、アンナは立ち上がる。
「ここに送られる前に、話は聞いた」
実体化した暗い感情を払いのけながら、フリージアが口を開く。
少女は大切な人に会えたのだと。そしてそれが、世界の崩壊を招くのだと。
……それだけで少女のことを理解した、とは思わない。
「けれど、悲しいことだと思った」
『ならば捨ておきくださいませ』
「それはできない……私はアナタを止めろと言われた」
機械で造られたフリージアの右腕が紫電を纏う。襲い来る暗い闇目掛け、紫電を纏った拳を渾身の力を込めて叩きこむ。
その瞬間あたりに紫電が迸り、巻き込まれた少女の視界を奪った。
「行くぞ」
それに合わせるようにして、アンナが妖刀と化した剣を突き出す。
フリージアの拳の余波を受け体勢を崩した少女の体が、アンナの妖刀に幾度も貫かれ切り裂かれる。
(「これで、終わってくれ……ッ!」)
フリージアの想いとは裏腹に、少女はまだ倒れない。
オブリビオンとしての強さなのか、あるいはその想いの強さ故なのか。見るも無残なズタズタの姿になってなお、少女はそこに立ち続けていた。
「すまない……それでも私は、アナタを斃す」
「私は処刑人だ……この力であなたを打ち倒す……!」
それぞれの得物を構え直し、改めて少女と対峙するフリージアとアンナ。
幽世を護るため、骸魂たる少女は倒す。それが、想いあう二人に永遠の別れを齎すことになるのだとしても――。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ナギ・ヌドゥー(サポート)
普段はなるべく穏やかで優し気な感じで話してます。
……そう意識しておかないと自分を抑えきれなくなりそうなので。
それでも戦闘が激しくなると凶悪な自分が出てしまいますね。
オブリビオン相手なら最初から素で対峙し、手段を選ばず殺しにいきますよ。
探索行動の時は第六感などの知覚に頼る事が多いです。
日常的な行動は、寛ぐ事に慣れてないから浮いた存在になるかもしれません……
武器は遠距離ではサイコパーム、近距離では歪な怨刃、
痛みや恐怖を与える時はソウルトーチャーを使います。
己は所詮、血に飢えた殺人鬼……
それでも最後の理性を保つ為に良き猟兵を演じなければ、とも思っています。
どうぞ自由に使ってください。
グレイ・アイビー(サポート)
これが敵の親玉ってやつですか…分かっちゃいましたが、こいつも不味そうですね
刻印には後で上手いもんたっぷり吸わせてやらねぇと機嫌を損ねてしまいそうです
味方がいれば共闘し前衛で行動
共闘相手にもよりますが、その時は盾役も兼ねて援護しましょう
彼等への攻撃は出来るだけ庇うつもりです
ぼくの事は気にしねぇで、とっととやっちまって下さい
単独で敵の相手をしなけりゃいけねぇ時は、奴の動きに注意しつつ隙を見て懐に潜り込み、グラップル
発動可能、成功率が高いと判断すればUCを叩き込みます
あとは敵が使用した技の相殺が可能と判断すれば使用
臨機応変に行動し考えましょう
ぼくに出来ることを、精一杯やりましょう
逆傘・からかさ
やぁ、少女の皮をかぶった誰かさん。
あんたにあまり言うことは無いよ。まぁせめて安らかに成仏してくれって思うぐらいだね。
同情は無しさ、あんなものを相手にさせられてなお同情するほど出来たからかささんじゃないからねぇ。
出てきな、我が同胞! 相手は我が故郷を荒らす骸魂だよ!
基本的に間合いを広く取り、敵の射撃や召喚したモノはUC【九十九神百鬼夜行】を使用し、大勢の付喪神を呼び寄せ敵の射撃や召喚したモノと戦わせます。
隙が出来たら刀で斬る一撃離脱戦法を取ります
極めて平常心を保とうとしますが、感情が汚染されたり増幅されると同情心と怒りで顔を歪ませます。
いけないねぇ、妖怪がこんな幼稚な技に心を乱れるなんてねぇ
水鏡・多摘
やっと巡り逢えた二人を引き裂くのは悪かも知れぬが…それが世界の滅びを齎すのなら看過できぬ。
どれほど望もうと禁忌を超えてはならぬのだから。
護符装束の一部をばらしてUC起動。
向こうの鳥籠から放たれる白黒の手に対し護符をバラバラに操って迎撃する事で力を封じよう。
できるだけ鳥籠扉の正面に立たぬよう移動し被弾を防いだ上で、じゃが。
その護符の中の一つを気付かれぬよう操り本体に当てそこから一気に畳み掛けるとする。
…前を向け、等とは言えない。
それ程に想い続けた痛みを忘れることも受け容れることも時間しか解決できない。
だから時には振り向いてもいい。
ただ今の周りを見る事も忘れなければ、それで。
※アドリブ絡み等お任せ
●
軋む世界の中心で、満身創痍の少女が呟く。
『やっと……やっと一緒になれたのです。やっと……』
ボロボロの体に鞭打つようにして力を振るおうとする少女の耳に、新しい誰かの声が飛び込んできた
「やぁ、少女の皮をかぶった誰かさん」
声のした方向に視線を送り、少女は新手が現れたことを知る。
『貴方がたも、ですか』
「まあね」
軽く肩を竦める逆傘・からかさ(唐笠お化けの剣豪・f30188)の手には美しい刃を持つ抜き身の刀。
「どんな理由があろうと、汝が世界に滅びを齎すならば看過できぬ」
答える水鏡・多摘(今は何もなく・f28349)が纏うのは、神仏の加護を受けた護符を集め補強された特殊な装束。
「どれほど望もうと禁忌を越えてはならぬのだから」
『それでも……それでも私は……!』
私たちは――。
「アンタの言い分なんかどうでもいい」
少女の言葉を、ナギ・ヌドゥー(殺戮遊戯・f21507)がバッサリと切り捨てた。
鋸のような歪な形の鉈を手に、少女へと躍りかかるナギ。少女が半ばよろける様にして鳥籠の影に隠れると、その直後に鳥籠から白と黒の手が現れた。
「出てきな、我が同胞! 相手は我が故郷を荒らす骸魂だよ!」
からかさの声に応えて召喚されるのは、六十を超える付喪神。
付喪神たちが一斉に二つの手に飛び掛かり、その行く手を阻まんと奮戦する。
『……ジャマ、をシナイデ……!』
苛立たし気な少女の声。白と黒、対となった手がいくつも伸ばされ猟兵を捕らえんと動き回る。
急いで鳥籠の側面に回り込んだ多摘の装束からハラリ、と護符が舞った。護符は一枚、二枚と装束から剥がれ落ち、まるで意志を持ったかのように白と黒の手に迫る。
多摘の護符が張り付いた手が消滅する。からかさの付喪神たちもまた懸命に二つの手を攻撃し抑え込んでいた。
だが、しかし。
一対の手が二人の防御をすり抜ける。白と黒の手が掴みかかったのは、少女にもっとも近い位置にいるナギだった。
――ドン。
手に捕まれるその直前、ナギの体に衝撃が走り横方向に突き飛ばされる。
体勢を崩しながらも振り返ったナギの視界に飛び込んできたのは、白と黒の手に捕まれたグレイ・アイビー(寂しがりやの怪物・f24892)の姿。
「アンタ……!」
思わず声を上げたナギに向け、グレイがどこかいたずらっ子を思わせる笑みを浮かべてみせる。
「あ。ぼくの事は気にしねぇで下さい」
それだけ言うと、グレイはその琥珀の瞳を骸魂の少女へと向けた。
(「……こいつも食いでがなさそうですね」)
心の中だけの呟きに、グレイの腕に刻まれた刻印が反応する。
(「後で上手いもんたっぷり吸わせてやらねぇと機嫌を損ねてしまいそうです」)
グレイが僅かに苦笑を漏らす。
『ドウしテ!』
少女がグレイを睨みつけた。鳥籠に封じられた悪感情が噴き出し、二つの手に捕らわれたグレイを飲み込まんと迫る。
咄嗟に援護に入ろうとした猟兵たちを止めたのは、他ならぬグレイだった。
「――ぼくは平気なんで。とっととやっちゃってください」
そうこうしている間も、グレイの周囲のどす黒い感情は彼を侵食せんと蠢き続けている。
「すぐ、終わらせる」
瞬時に意識を切り替えたナギの傍に侍るのは、肉と骨が露になった皮膚のない異形の獣。
「甘美なる宴を恐怖と共に――」
詠唱と同時に異形の獣『ソウルトーチャー』による残酷すぎる拷問が始まった。その影響をまともに受けた少女の顔に恐怖の色が浮かび、攻撃の手が緩む。
それに気付いたグレイが腕の刻印に自身の血を注げば、刻印がグレイを取り囲む悪感情を食い破り始めた。
多摘の鋭い眼光が少女を射抜き、数多の護符に紛れ込ませた切り札の一枚が少女に張り付く。
『…………っ』
全ての白と黒が掻き消える。グレイを襲う黒き感情もまた、消え失せる。
驚愕に目を見張る少女の間合いに飛び込んだナギが、歪な鉈を振りかぶった。ボロボロになった骸魂の少女の瞳に、ナギの顔が映りこむ。
(「己は所詮、血に飢えた殺人鬼……」)
振り下ろされた鉈が、少女の体を両断した。
『キャアアアア!』
少女の口から初めて悲鳴が上がった。崩れ落ちるようにしてその場に両膝をついた少女に、からかさが迫る。
「あんたに言うことはあまり無いよ」
そう言うからかさの表情は、ほんの僅かに歪んでいた。
(「あんなものを相手にさせられてなお同情するほどできたからかさらんじゃないからねぇ」)
あんなものの相手をさせられたからだろうか。自身が直接襲われたわけでもない悪感情に当てられて、心がザワザワとして落ち着かない。
しかしまあ、それでも。
「せめてあんたが安らかに成仏できるように願ってあげるよ」
からかさの刃が、骸玉の少女の最期の力を刈り取った。
『我が、君……』
力尽きた少女が虚空に手を伸ばす。その体の輪郭が、徐々に朧になっていく。
――少女が消え去るその直前。
突然その場に青年が現れ、伸ばされた少女の手を取った。
「……貴方を想っているよ、この先もずっと……」
『ああ……我が君……』
泣き出しそうな笑顔を浮かべ、骸玉の少女は完全に消滅した。
●
少女の最期を見届けたからくさが独り言ちる。
「いけないねぇ、妖怪があんな幼稚な技に心を乱されるなんて」
ともあれ、幽世は元の姿を取り戻した。
骸玉の少女は消え、残されたのは今を生きる青年ただ一人。
「……前を向け、等とは言わぬ」
多摘に声を掛けられ、その場に立ち尽くしていた青年が振り向いた。
「時には振り向いても良い」
長い長い時、ただひたすらに思い続けたその痛み。忘れるか受け容れるか、いずれにせよ解決できるのは時間だけだ。
「ただ、今の周りを見ることを忘れてくれるな」
ようやく巡り合えた二人にしてみれば、それを引き裂いたのは悪かもしれぬ。だがしかし、それでも――。
「大丈夫……わかって、おりますから」
多摘の言葉にそう返し、青年は静かに目を伏せた。
成功
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第3章 日常
『虫聞きの夕べ』
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POW : 虫の声に耳を傾ける
SPD : 虫の声に耳を傾ける
WIZ : 虫の声に耳を傾ける
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日輪の残光が西の空を茜色に染め、一足先に夜の帳がおり始めた東の空には望月が浮かぶ。
風に揺られるのは穂を実らせた大きなススキ。藁葺き屋根の古民家の庭から伸びる畦道に咲くのは、紅い紅い彼岸花。
日常を取り戻した幽世に、澄んだ虫の音が響く。
「私と半身がご迷惑をおかけしました」
古民家の庭の大きな柿の木の袂、青年が猟兵たちに頭を下げた。
「本来ならばお詫びと……お礼、を、すべきところなのでしょうが」
そこまで言うと、青年はその顔に困ったような、自嘲するような笑みを浮かべて見せた。
「ご覧の通りの場所で……お礼は愚か、並みのもてなしもできぬのです」
ここには楽しい催しも、面白い土産品も存在しない。けれどもし、そんな場所でも構わないのであれば。
「私は縁側にでも控えておりますので、どうぞ心行くまでご滞在下さい」
ここはただ、移ろう季節を眺めためだけの場所。
虫の声を聞きながら何かに思いを馳せるのも、悪くないものですよ――。
馬県・義透
四人で一人の複合型悪霊。
引き続き『不動なる者』にて。
善き秋の庭だと思うのだが。
縁側にて、青年に声をかけるか。
その半身との話を聞かせてくれぬか。…こういうところで、過去を語るのもよいだろうよ。
我ら四人は聞いたことは忘れぬ故に。
ああ、我らは四人で一人での。…貴殿には、理不尽かもしれぬが。
昔は四人で卓を囲み話すこともあったが…今はできて二人である。
同じものを見、聞き、味わう時には常に一人。…どういう原理かわからぬが、四人ともが同じものを得られるのだ。
この姿になっての苦労話も一つ。
背の高さに戸惑った(生前160、今182にギリ届かない181)。慣れるまで額ぶつけたわ。
わしだけ味わった理不尽。
フリージア・プロトタイプ
風景を見渡し
咲く彼岸花に手を添え、自分達によって斃された…
再び引き裂いてしまった彼女のことを想う
貴女も、本来あるべき場所でどうか安らかに
…あの青年は…縁側、あちらか
縁側へと歩を進め、青年へと声をかける
この度は、貴方にも申し訳ないことをした。すまない
…貴方達の話は聞いていた…が、世界を、命を守ることを優先した
…こんなことを、言えた義理ではないが
貴方が彼女を想う限り、その想いは無くならないと思う…だから
どうか、私達の救ったこの世界で貴方は生きていてほしい
…それと
よければ、貴女の愛した女性のことを
貴方と、彼女のことを
私にも、教えてもらえないだろうか
彼女のことを、私も忘れないように
●
虫の音が響く秋の里山。ふと足を止め、足元に咲く彼岸花に手を伸ばす。
鮮やかな紅色の花に手を添えたフリージア・プロトタイプ(冷たい両手・f30326)が想うのは、つい先ほどまで対峙していた骸魂の少女のこと。
(「理由はどうあれ、貴女がたを再び引き裂いてしまった……」)
曼殊沙華、天上花とも呼ばれる赤い花が風に吹かれて微かに揺れる。
(「貴女も、本来あるべき場所でどうか安らかに――」)
暫くの間黙祷し、顔を上げる。
(「あの青年は……あちらか」)
遠目に目的の人物の姿を確認し、フリージアは古民家の縁側へ向けて歩き出した。
縁側に腰を下ろした青年は、近づくフリージアの姿に気付いているのかいないのか、ただ静かに古民家の庭を眺めている。
「少し……いいだろうか」
「ええ、構いませんよ」
フリージアの問いかけに、青年が柔らかな声で答える。
「この度は、貴方にも申し訳ないことをした」
二人の経緯は聞いていた。しかしそれでも、世界を、命を守ることを優先した。
すまない――謝罪するフリージアに、青年がゆっくりと頭を振る。
「謝って頂く必要はありません……私たちが、間違っていたのですから。謝罪すべきは私たちの方でしょう」
逆に頭を下げようとする青年を慌てて止めるフリージア。
「……こんなことを、言えた義理ではないのだが」
顔を上げた青年にフリージアが再び話始める。
「貴方が彼女を想う限り、その想いは無くならないと思う……だから」
フリージアはそこで一度言葉を切った。一度目を閉じ一拍二拍置いてから、改めて青年と視線を合わせ言葉を続ける。
「どうか、私達の救ったこの世界で貴方は生きていてほしい」
フリージアの願いに、青年がふんわりと微笑んで頷く。
「……もしよければ、なのだが」
暫くの間の後、フリージアが口を開いた。
「貴方の愛した女性のことを……貴方と、彼女のことを、私にも教えてもらえないだろうか」
自分も彼女のことを忘れないようにしたいのだ、と続けるフリージアに、青年はどこか困ったような顔をして見せる。
「その話、是非わしにも聞かせてくれぬか」
躊躇う様子を見せる青年に、それまで黙って趣ある秋の庭を愛でていた馬県・義透(死天山彷徨う四悪霊・f28057)も声を掛けた。
「こういうところで互いの過去を語るのもよいだろうよ。我らは四人は聞いたことは忘れぬ故に」
「四人、ですか?」
義透の言葉に、青年が不思議そうに首を傾げる。
「フリージア殿を入れると五人かの。実はな、わしは一人ではないのだ」
義透の肉体には、死した四人の人格が宿っている。
「昔からの戦友でな、生きておった頃は四人で卓を囲み話すこともあったが……」
死して死霊となった今は、ユーベルコードの力を借りて二人で話すのがやっと。同じ時に同じものを見、聞き、味わうことはもう二度と叶わない。
「……とはいえ、貴殿には理不尽に思えるかもしれぬな」
義透が微苦笑を浮かべる。幾つもの人格が一つの肉体に共存する、目の前の青年と骸魂の少女にはそれすらも叶わなかったのだから。
「お気になさらず。……私たちと貴方がたでは、その在り方が違うのでしょう?」
青年の問いかけに、義透が頷く。
「我らは『悪霊』故な。その在り方故に、貴殿の話を聞くことができるのは今ここにいるわし一人。しかしな、不思議なことに他の三人もちゃんとそれを記憶できるのだ」
義透の中の誰かが体験したことは、他の三人にも共有される。四人は常に同じものを得、失う時も同じように失うのだ。
「もっとも、何もかもまったく同じにとはいかぬようでの」
得られるものは同じでも、それに対する反応は四者四様。身体感覚なども、それぞれが生きていた頃を引き継いでいるらしく。
「わしは生きておった頃はフリージア殿とそう変わらぬ背丈での、この姿になったばかりの頃は背の高さに戸惑ったものよ」
生前の感覚のまま動き回り、よくあちこちに額や頭をぶつけた。この体に慣れるまで、いったい何度ぶつけたことか。
「他の者たちはそんな苦労はしなかったというのにわし一人だけ……理不尽だとは思わぬか?」
そんなことを言いながらがっくりと肩を落として見せる義透の姿に、青年が初めてクスクスと小さな笑い声をたてた。
「……っ、失礼を……」
口元を抑え、青年が謝罪する。
「構わぬよ、笑えるということは良いことだ」
辛い別れの後であれば、猶更に。
「我らに話してくれぬか。貴殿と、貴殿の半身のことを」
穏やかな声で義透が願う。フリージアも、義透の隣で静かに青年の言葉を待つ。
「……そうですね」
ややあって、青年が口を開いた。
「とは言っても、何からお話すればよいのやら」
青年がどこか嬉しそうに苦笑を浮かべ、言葉を紡ぐ。
なにせ、人形として誕生した時からずっと一緒だったものですから――と。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
仇死原・アンナ
アドリブ歓迎
…終わったね
あの青年には申し訳ない事をしたが…どうあれ世界は救われた…
ただ…複雑な気持ちだけれど…
日が沈み、虫達が鳴いている…
いろんな世界で見たはずの光景なのに
特にこの幽世で見る光景は…何故だろう…
懐かしいような…不思議な感情が芽生えてくる…
私が生まれたのは常闇の世界のはずなのに…
ススキの草原に座って目を瞑り
虫達の声に耳を傾けようかな…
いずれここを離れなければならないけど…
それまではこうしていよう…
●
残照が消える。濃紺の闇に染まった空を、月の光が優しく照らす。
「……終わったんだね」
改めてそんな感想を漏らす仇死原・アンナ(炎獄の執行人・f09978)の視線の先には、藁葺きの古民家があった。古民家の縁側には、件の青年がいるはずだ――幸か不幸か、その姿はこの場からは見えないが。
(「あの青年には申し訳ないことをしたが……どうあれ世界は救われた……」)
崩壊を逃れた幽世には、穏やかな時間が流れている。自分たちは正しいことをしたのだ。
(「ただ……」)
そこまで考えて、アンナは小さく息を吐く。
――理由はどうあれ、想いあう二人を引き裂いてしまった。
間違ってはいない。後悔もない。けれど、だからといってそう簡単に割り切れるものでもなく。
脳裏に燻るモヤモヤを払うように頭を振り、改めてこの地の風景に視線を向けるアンナ。
特別に珍しい景色といういうわけではなかった。「どの世界にも」とまでは言わないが、よくある秋の里山の風景だ。アンナ自身、幾つかの世界で同じような景色を見たことがある。
(「なのに何故だろう……特にこの幽世でみる光景は……懐かしいような、不思議な感情が芽生えてくる……」)
常闇の世界で生まれ育った身にもかかわらず、胸に湧き上がってくる郷愁にも似た思い。それを殊更強く感じるのは、ここが幽世であるからか。
澄んだ虫の声に誘われるように、ススキ野原へと足を踏み入れる。ススキの株をうっかり踏まぬよう気をつけながら歩を進めれば、少し開けた場所へ出た。
人一人が足を延ばせるかどうかの狭い空き地に、少し傾斜のついた平たい岩が地面から顔を覗かせている。
この岩のせいでススキが地下茎を伸ばせなかったのだろうか。埒もないことを考えながら、アンナは岩の上に腰を下ろす。
大きく育ったススキが岩に腰を下ろしたアンナの視界を遮る。唯一視線が通る頭上に広がるのは、月に照らされた明るい夜空。
(「いずれはここを離れなければならないけど……」)
目を閉じたアンナの耳に、風に揺れるススキの音と優しくも切ない虫の声が響く。
それまではこうして、虫たちの声に耳を傾けていよう――。
大成功
🔵🔵🔵
逆傘・からかさ
まったく・・・・
勝利はしたけれど、ほっとしたのと、虚しさとか色々な感情で
うまく言葉に表せずに沈黙して月を見上げます。
それから、袖から酒と書かれた瓢箪を取り出し、青年の方へ寄って
飲むかい?天狗からもらった酒さ。ちょっと酒精はきついがね旨いやつさ と杯を渡します。
断られたらちょっと残念そうな表情して 自分の杯に並並注いで一杯
了承されたら、杯に並並注ぎ自分の杯にも注いで 小さく乾杯して一気に飲み干します。
酒の肴は持ち歩いてないので、 虫の音を 酒の肴で
これからどうする? とか先の話はあまりせず酒を楽しむと
同じ妖怪のよしみさ、寂しかったら訪ねてくるといいさ と言い残して立ち去ります。
●
青みを帯びた月は美しく、どこか静謐を思わせる――しかし、それを見上げる逆傘・からかさ(唐笠お化けの剣豪・f30188)の胸中は静謐とは真逆の状態にあった。
戦いに勝利し、幽世を救うことができた安堵感。二人を無理矢理引き離したことに対する罪悪感にも似た何か。想いあいながら決して共にあることのできない切なさや虚しさ……。
(「まったく……」)
胸中に渦巻く言葉にできない感情の数々に心の中だけで毒づいて、からかさは自分の袖口に目をやった。
(「こんな時だから、というわけでもないけどね」)
袖から瓢箪水筒を取り出し、縁側に座る青年へと歩み寄る。
「飲むかい?」
瓢箪水筒を軽く振りながら青年に問いかけるからかさ。
「天狗からもらった酒さ。ちょっと酒精はきついがね、旨いやつさ」
隣に腰を下ろし盃を差し出すからかさに、青年が申し訳なさそうに返す。
「せっかくのお誘いですが、酒類は一切飲めないのです」
「おや、そうなのかい?」
「体質、とでも言うのでしょうか。人形から転じた身にそんなものがあるのかはわかりませんが……」
「それじゃあ仕方ないねぇ」
少しだけ残念そうな顔をして、からかさは自らの盃に酒を注ぐ。盃に並々と注がれた酒が、月の光を反射した。
「悪いけど一人で失礼するよ」
「ええ」
青年の言葉を待って、盃に口を浸ける。そのまま一気に酒を飲み干し、再び盃に酒を注ぐ。
青年がからかさの気持ちいいほどの飲みっぷりに目を細め……思い出したように苦笑した。
「何か肴がお出しできれば良かったのですが」
「いいよいいよそんなもの。あたしが勝手に飲んでるんだ、そんな気遣いは不要さ」
からかさとて酒のつまみまでは持ち歩いていない。宵に響く虫の音を肴に飲むのもまた、乙なものだろう。
酒を片手に青年と取り留めのない話をするうちに、徐々に宵は更けていく。気が付けば月は南東の空へと高く昇っていた。
もうそろそろ帰る時間か――名残惜しげに酒をしまい、からかさが立ち上がる。
「この度はありがとうございました」
改めて礼を言う青年と別れの言葉を交わす。その場を立ち去る直前、からかさは肩越しに青年にチラリと振り返った。
「……もし寂しかったらあたしを訪ねてくるといいさ」
同じ妖怪のよしみさ、付き合ってあげるよ――。
●
帰り支度をする猟兵たちに、青年が深々と頭を下げる。
青年と、虫たちの声に見送られ――猟兵たちは幽世を後にした。
大成功
🔵🔵🔵