●忌むべき儀式の残滓
「さて……集まってもらったのは、他でもないわ。UDCアースのUDC組織から、こんなものを預かったの」
グリモアベースに集まった猟兵達の前に、神楽・鈴音(歩く賽銭箱ハンマー・f11259)が何かを取り出して見せる。それは、一見して干からびた、虫の死骸のように思われた。
「蟲毒……って、聞いたことある? 壺の中に毒虫とか蛇とかカエルなんかを詰めて土に埋めて、その中で共食いをさせることで完成する呪具よ」
そうして完成した蟲毒は、持ち主に圧倒的な富や権威、栄誉などを齎す反面、その命を吸い取ってしまう。故に、呪殺に用いられることも多い道具なのだが、今回の蟲毒は、どうも様子が違っているらしい。
「私の見立てだと、これ……たぶん、末端の働き蜂みたいなものね。他人の命を奪って親玉の蟲毒に力を与えているだけで、これを送りつけられた人は、何の力も与えられないまま命だけを吸われるの」
そして、その命を糧に親玉の蟲毒は力を増し、その恩恵を所持者に与える。要するに、他人の命を糧にして、自らの欲望を叶えようとしている者がいるということだ。
「今からあなた達に向かってもらいたいのは、UDCにある私立高校よ。そこでは既に、生徒が三人も変死しているの」
その事件の裏に、この蟲毒が絡んでいることは間違いない。このまま放置しておけば、より恐ろしいことになるかもしれないと鈴音は続け。
「こいつの親玉は、単なる蟲毒なんかじゃなくて、もっとおぞましい存在だと思うわ。このまま生徒達の命を吸って力を増していったら……いずれは所持者の制御も振り切って、邪神級の存在になって暴れ始めるかもしれないわね」
そうなったら最後、退治するのは一筋縄ではいかなくなる。そうなる前に、事件の起きている学園に潜入し、蟲毒による呪詛の完成を阻止せねばならない。
「申し訳ないけど、私の予知でも学園内の誰が蟲毒の親玉を持っていて、誰が次の犠牲者になるのかまでは分からなかったわ。だから、調査を進めながら事件を阻止してちょうだい」
なかなか難しい要求だが、それでも打開策はある。何を隠そう、事件の起きているのは地域でもナンバーワンの進学校。そして今回の事件、どうも学園内における、スクールカーストが影響しているようなのだ。
勉強ができない落ちこぼれは、自然と見下され、排斥される環境。表向きは仲良くしている素振りを見せても、裏では全員が全員、ライバルであり敵であると思っていても不思議ではない。
正に、学園そのものが蟲毒壺な状態。誰かを追い落とすために、危険な儀式に手を染めた生徒がいてもおかしくない。そして、そもそもオカルトに詳しい者でなければ、こんな儀式に頼ろうなどと思わない。
「実際、変死した生徒も、優秀な成績の人ばかりだったみたいよ。成績至上主義に、専門性の高い儀式……この辺りを参考に調べれば、自然と犯人は見つかるかもしれないわ」
成績不審者やオカルトに詳しい部活、あるいは同好会に所属している者など、ある程度の目星は付けられるだろう。だが、儀式を阻止しても油断は禁物。なにしろ、力の完成を阻まれた術者、あるいは蟲毒の本体が、何をしでかすか分からないのだから。
「儀式を阻まれれば、敵の本体は眷属を呼び出したり、あるいは不完全な姿でも襲い掛かったりしてくるでしょうね。でも、眷属にしろ蟲毒にしろ、学校っていう環境には詳しくないの。だから、上手く状況を利用できれば、地の利はこちらにあるはずよ」
これ以上、事態が悪化する前に、なんとしても儀式の完遂を食い止めねばならない。次の犠牲者が出る前に、禁忌の呪法に手を染めた者の企みを止め、UDC怪物が暴れ出すのを阻止して欲しい。
そう言って、鈴音は猟兵達を、UDCアースの学校へと転送した。
雷紋寺音弥
こんにちは、マスターの雷紋寺音弥です。
UDCアースの私立高校で、変死事件が相次いでいるそうです。
事件の裏には学歴至上主義のスクールカーストや、オカルト系の部活の存在があるようですが……。
なお、かなりホラー色の強い依頼になりますので、参加される方は、その点だけご了承ください。
●第一章
事件の発生している学園に向かい、儀式を阻止してください。
蟲毒の端末を探して物理的に叩き潰す、校内に残る儀式の痕跡から蟲毒の本体の在処を突き止める、あるいは聞き込み調査をすることで、誰が蟲毒の本体を所持しているのかを探るといった行動で、儀式の阻止に向かいましょう。
なお、場合によっては怪奇現象が発生し、猟兵達の行く手を阻んで来るかもしれません。
●第二章
儀式を阻止された蟲毒の本体が、眷属を召喚して来ます。
眷属は学校という場所についての知識がないため、学校という状況を生かして戦えば、戦闘を有利に進められます。
●第三章
眷属を全て排除すると、蟲毒の本体がUDC怪物として襲い掛かって来ます。
不完全な姿での復活であるにも関わらず強敵ですが、やはり学校という場所についての知識がないため、学校という状況を生かして戦えば、戦闘を有利に進められます。
第1章 冒険
『UDC召喚阻止』
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POW : UDCの発生原因となりそうなものを取り除く
SPD : 校内をくまなく調べ、怪しげな物品や痕跡がないか探す
WIZ : 生徒達に聞き込みを行い、UDCの出現条件を推理する
👑7
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彩波・いちご
【ガルヴォルン】
今回は1人で潜入捜査に来ました
学園制服(当然女子用)に着替え、潜入
…しようとしたところで不審なコンビを発見
制服が着慣れない様子…銃火器を持ち出して…
って、あれ、別の世界から来た猟兵なのでは(汗
余計な騒ぎ起こすわけにもいきませんし、声をかけましょう
2人を捕まえて、常識的なツッコミを…
…は、話が合わないっ!?
自己紹介して名乗りあった後、この世界の学校の事くどくど説明して、銃刀法違反的な目立つことはやめさせて
うぅ、蟲毒探す前に疲れます…
2人の常識外れの暴走を止めながら聞き込みを続けましょう
だから尋問しようとしないでっ!?
ツッコミ疲れます…
※なお2人ともいちごを女子だと思っている様子
支倉・錫華
【ガルヴォルン】
護衛依頼?
ふうん、クロムキャバリア以外の世界なんてあるんだ。
はじめてだけど、することはあまりかわらないよね。
これを着るの?制服?これが制服なんだ?
なんだかひらひらしてるけど、これでトゲとか虫とか防げるのかな?
制服を着て、セレーネさんと学校に潜入しようとしますが
小太刀を没収されてしまいます。
あ、ダメだよ、それ返して?
……?じゅうとうほう?それがルール?(しぶしぶ
お部屋も守りにくそうだね。
こんな大人数に、複数の出入り口なんて隙だらけだよ。
とりあえずフロア入り口に監視カメラと、
部屋の出入り口にトラップくらいは必要かな。
などと悩んでいたら、
いちごさんにツッコミをいれられてしまいます。
セレーネ・ジルコニウム
【ガルヴォルン】
「ここがUDCアースですね。
事前の情報収集は万全ですので潜入任務はお任せください」
この世界の教育機関――高校に生徒として潜入します。
制服も学生服をきっちりと着こなしましょう。
……それにしても、この世界の学生の制服はやけにスカートが短いのですね。
「錫華さん、護衛よろしくお願いしますね」
クロムで雇った傭兵の錫華さんと連れ立って学校に入ろうとしたところで……
「なっ!?
アサルトライフル持ち込み禁止!?
それでは敵襲があった時、どうやって身を守るのですか!?
それに、それはモデルガンなどではなく……」
と揉めているところに、彩波いちごさんに助けてもらうのでした。
(キャバリアは迷彩モードで待機)
●戦うスクールリサーチ!?
学園に蔓延する謎の変死。その実態を調べるべく、彩波・いちご(ないしょの土地神様・f00301)は学生に扮し、調査のために学園へと潜入することにした。
ちなみに、今日はいちご一人である。なにしろ、この学園に蔓延している謎の死の原因は、今までになく危険な存在。迂闊に動けば呪いが自分達にまで降り掛かり兼ねず、そうなったら最後、何が起こるか分からないのだ。
とりあえず、最初は情報を収集しよう。そう思って、校門をくぐろうとした矢先……早速、怪しげな二人組の姿を発見した。
「ここがUDCアースですね。事前の情報収集は万全ですので潜入任務はお任せください」
「これが制服なんだ? なんだかひらひらしてるけど、これでトゲとか虫とか防げるのかな?」
どうやら、あの二人も猟兵のようである。支倉・錫華(Gambenero・f29951)とセレーネ・ジルコニウム(私設軍事組織ガルヴォルン大佐・f30072)。新たに発見された、クロムキャバリアより来訪した二人のようだが……しかし、校門を抜けて校舎に入ろうとしたところで、生活指導の教師に止められてしまった。
「こら、貴方達! いったい、学校に何を持ち込もうとしているの!」
錫華が手にしていた小太刀を見て、教師は早々に没収した。当然だ。学園に堂々と刃物を持ち込もうなど、このUDCアースにおいては許されることではないのだから。
「あ、ダメだよ、それ返して? ……? じゅうとうほう? それがルール?」
なんだか知らないが、ルールと言われれば従う他にない。仕方なく小太刀を渡す錫華だったが、教師の追及は止まらない。
「ほら、あなたも! 学校に玩具の銃なんて、持ち込んでいいわけないでしょう!」
「なっ!? アサルトライフル持ち込み禁止!? それでは敵襲があった時、どうやって身を守るのですか!?」
続けて、教師はセレーネの持っているアサルトライフルにも手を伸ばした。戦争が日常茶飯事の世界であればいざ知らず、学校に重火器の類を堂々と持ち込もうなど、もはや狂気の沙汰だ。
「ちょ、ちょっと待って下さい! 二人とも、とりあえずこっちへ……」
このままでは調査どころではなくなると察し、いちごが慌てて二人を物影に引っ張り込んだ。その上で、この世界についての常識を、最初から説明してやったのだが。
「……なるほどね。でも、邪神っていうのが隠れているなら、自衛の手段として最低限の武器は支給されるべきじゃないのかな?」
「それに、いつどこから敵が襲って来るかも分からないのですから、もっと施設の守りも固めるべきです!」
ともすれば、全生徒に歩兵部隊の一般装備を支給すべきと主張したり、校庭に地雷を埋めて壁を電流を流した鉄条網で覆うべきだと言われたり、全く話がかみ合わなかった。
「と、とにかく! この世界では、一般人とは別に警察や軍隊がいるんです! それと、学校は兵士の養成機関ではなく、普通に学問を修めるだけの場所ですから!」
そういうわけで、この世界に法律に合わないものは持ち込むべきではないし、下手に目立つのもよろしくない。それが分かったら、改めて調査を進めようと提案するいちごだったが……果たして、本当に大丈夫だろうか?
「少しいいですか? こちらの質問にだけ、正直に答えなさい」
「……って、尋問しようとしないで!」
その後も、その辺の生徒を無作為に捕まえては尋問を開始しようとしたり。
「お部屋も守りにくそうだね。こんな大人数に、複数の出入り口なんて隙だらけだよ」
「いやいや、だからって妙な罠仕掛けないで! 生徒や先生まで引っ掛かったら、大変なことになるから!」
教室の入り口に危険な罠を仕掛けようとしたりと、斜め上な行動を止めるのに精一杯。結局、日が暮れるまで調査をしたが、蟲毒の端末さえ見つけられなかった。
「うぅ……結局、蟲毒を見つけることができませんでした……」
がっくりと項垂れるいちご。しかし、僅かばかりだが収穫もあった。この学園で、ここ最近になって妙な死に方をした者達の名前と、急に成績が上がった者達の名前だ。
「死んじゃったのは、佐藤・理沙さん、風間・祐樹さん、それに木下・小百合さんの3人だね」
「……死因は、3人とも衰弱死ですか。そして、それと同じ時期に、成績の上がり出した生徒が4人ほど……」
だが、死んでしまった者達はともかく、成績の上がった者の中に術者がいるのかどうかまでは、この調査では分からなかった。仕方なく、いちごはそれらの情報を集め、他の猟兵に後を託すことにした。
「確か、亡くなられた風間さんは、生徒会のメンバーでしたね。接触できる人がいれば……そこから、情報を得られるかもしれませんね」
学園を覆う深い闇。恐るべき呪詛により生徒達の命を奪った者は誰なのか。黒幕を見つけるための調査は、まだ始まったばかりだ。
成功
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東雲・深耶
「こんにちわ、東京都の大和ヶ丘学院高等部生徒会長の東雲深耶です」
そう生徒と教師の関係として職員室の教師に言って今回の不審死事件の調査員の一人として名門校の生徒会長として潜入調査を行う。
都合についてはUDC組織に記憶処理やカバーストーリーを担当させる。
まず、この学院の生徒会に接触してこの学院の構図を調べ上げる。
「三人も変死しているとは災難だな。なにか事件性について心当たりがある場合は言ってほしい」
そして、何か心当たりがあるなら【コミュ力】で探り、主にオカルト研究部等についての話を聞き出したい。
●蟲毒壺の学園
広い校舎の中心に位置する職員室。その扉を開けるなり、東雲・深耶(時空間切断剣術・空閃人奉流流祖・f23717)は深々と礼をして挨拶をした。
「こんにちわ、東京都の大和ヶ丘学院高等部生徒会長の東雲・深耶です」
学園のものとは異なる制服を着ているため、彼女が他校からの来訪者であることは一目瞭然だ。しかし、教師達は全く驚く様子もみせず、むしろ深耶を快く受け入れてくれた。
「ああ、例の交換交流の生徒さんね。まあ、そんなに堅くならないで、今日は自分の学校にいるのと同じように過ごして構わないよ」
UDC組織の根回しによって、先に話を作ってもらっていたからだろう。教師達は深耶のことを、交流目的でやって来た他校の生徒という程度にしか認識しておらず、彼女が学園にいることに対しても、何ら疑問を抱いていなかった。
「それでは、他の方々にもご挨拶がありますので、これにて失礼いたします」
再び礼をして、深耶は職員室を後にした。向かうべきは、生徒会室。扉を開けると、そこには少しばかり気難しそうな表情の、眼鏡を掛けた少年が据わっていた。
「……おや、君は……ああ、分かったよ。先生達が話していた、交換交流の生徒だろう?」
椅子から立ち上がり、少年は深耶に探るような視線を向けて来た。深耶も女子にしては長身な方だが、この少年は更に背が高い。180cmに届くのではないかと思われる背丈に加え、よくよく見ると引き締まった身体つきをしており、文武両道を地で行く生徒であることは明白だった。
「折角の交流なのに、なんだか学園が妙に騒がしいようだな。何かあったのか?」
敢えて何も知らないふりをして、深耶はカマをかけた。すると、少年は再び椅子に深々と座り、大きな溜息を吐いて眼鏡の位置を軽く直した。
「君も、既に知っているかもしれないけれど……実は、この学園で、既に三人も生徒が亡くなっていてね。原因は、医者でも分かっていないらしい。僕も通夜と葬式には行ったけれど……遺族に反対されて、献花はおろか、死に顔を見せてもらうこともできなかったよ」
遺族からは何も言われなかったが、それだけで酷い死に様だったのだろうと、少年は察していた。その後、学校側からも特に説明はなかったが、しかし立て続けに同じような死に方をする者が現れれば、生徒の中にも動揺が走る。
「三人も変死しているとは災難だな。なにか事件性について心当たりがある場合は言ってほしい」
「心当たり? いや、さっぱりだね。なにもないんじゃなくて……あまりに多過ぎるんだよ」
深耶の問いに、少年はどこか遠くを見るような視線のまま呟いた。表向きは平静を装っていても、誰もが他者に不信感を抱いている。それが、今のこの学園を覆う空気なのだと。
「僕達にとって、学業の成績は絶対基準なんだ。成績が悪ければ、この学校に入った価値はない。世の中ではA大やM大に合格しただけで凄いなんて言う人もいるけれど……僕達にとっては、T大やK大以外は大学じゃないんだ。W大やJ大に入っても、二流なんて言われるくらいだからね」
少年の口から名立たる有名大学の名前が次々に挙げられ、その大半が二流、三流扱いされている。嫌味として言っているのではなく、少年は本当にそう思うよう教育……あるいは、この場合は洗脳されていると言った方が正しいのかもしれない。
「なるほど。つまり、誰が誰を恨んで、誰を陥れようとしていても、おかしくないということか」
これは、なかなかどうして面倒な話だった。互いに相手を潰し合い、トップになるためには卑怯な手段さえ辞さない生徒達。これではまるで、この学園そのものが、生徒達を生贄にした巨大な蟲毒壺ではないか。
「では、質問を変えようか。……この学園にオカルト研究会や、そういった類の部活はあるか?」
このままでは埒が明かないと、深耶は質問の方向性を変えた。すると、今まで色々と話してくれていた少年の顔に、急に嫌な影が差した。
「オカルト研究会? ああ、オカ研ね。あいつらのことなんか調べて、何するつもり? それとも、君もそういった話に興味があるのかい?」
この世に不可思議などありえない。それなのに、オカルトなどに傾倒する理由が分からない。それが少年の、オカルト研究会に対する評価だった。実際、学園内でもオカルト研究会の評判は悪く、部員の大半は成績不審者。中には『こっくりさん』や『一人かくれんぼ』といった危険な遊びを動画で実況配信した者もいるらしく、それが学校にバレて教師からこっ酷く叱られ、部活から同好会へと格下げされたらしい。
「まあ、連中のことなんて、今はどうでもいいんだよ。亡くなった風間は、生徒会のメンバーで、僕のライバルでもあったんだ。あいつとは、正々堂々勝負して勝ちたかったのに……まさか、こんな形で、二度と競い合えなくなるとはね」
姑息な手を使って教師に取り入る者までいる中で、彼は珍しく一本気に努力する人間だった。そんな彼が、何故に死ななければならなかったのか。再び遠くを見つめるような視線になった少年の顔には、深い憂いの色が浮かんでいた。
成功
🔵🔵🔴
フレミア・レイブラッド
UDC組織に偽の戸籍情報と編入手続きを依頼して、学園内に潜入。
編入試験でスクールカーストの上位勢に入りつつ、【魅了の魔眼・快】【催眠術、誘惑】でカースト最上位勢(所謂キングやクイーン)等を魅了して仲良くなる等、転入生として派手に立ち回り、自身を囮に蠱毒が送られてくるか試してみるわ。
妬みや出る杭を打とうとして呪いを実行してる輩なら、派手に動けば目をつけて来てもおかしくないしね。
一応、本当に送られた時の為に【念動力】で防御膜は張っておこうかしら。
後は放課後に新聞部に行って、最近急激に成績やカーストの地位が上がったオカルトに詳しい人物について【魔眼】【催眠術、誘惑】を使って情報を仕入れてみるわ
●潜入捜査
その日、学園の教室内は、少しばかりの人だかりで賑わっていた。
およそ、日本人離れした容姿をした女生徒の周りに、複数の生徒達が集まっている。ある者は彼女の才能に、また別の者は彼女の美貌に惹かれてのこと。帰国子女の転入生として、突如学園に現れた彼女がフレミア・レイブラッド(幼艶で気まぐれな吸血姫・f14467)であることを知る者は、彼女に偽の戸籍を渡して入学を後押ししたUDC組織の者しかいないのだが。
「レイブラッドさん……あなた、編入試験の成績が、歴代の学園の生徒の中でもトップだったそうじゃない」
「まったく、凄い転入生が来ちまったな。こりゃ、俺達もうかうかしていられないぜ」
学年の中でも最上位の成績を誇る者達でさえ、フレミアには頭が上がらない。普段は他の生徒達を従えている、スクールカーストの最上位に位置する者達でさえ、成績という絶対的な数字で表された力の前には、大人しく従う他にないのだ。
「別に、そこまで自慢することでもないわ。まあ、たまたま問題との相性も良かっただけよ」
取り巻きにして欲しいとせがむ生徒達を軽くあしらい、フレミアは教室を後にした。今回の目的は、あくまで潜入捜査。彼らにちやほやされればターゲットに対して自分を囮としてアピールできるが、それだけで事件が解決するわけでもない。
長い廊下を抜けてフレミアが向かったのは新聞部の部室。扉を開けると、そこには数名の部員達が、何やら作業をしているところだった。
「君は……噂の転入生が、何か用かい?」
3年生と思しき生徒が、徐に顔を上げてフレミアに尋ねた。彼女の才女ぶりは、当然のことながら、既に新聞部にも知れ渡っていた。
「ええ、少し尋ねたいことがあるのだけれど、いいかしら?」
まだ、学園のことを良く知らないので、最も情報を抑えているであろう新聞部に聞きたいことがある。そんな体で当たり障りのない質問をしつつ、機を見計らってフレミアは彼らに本題を尋ねた。
「ところで……最近、急激に成績を上げたり、皆の中で人気が出たりし始めた人っていないかしら?」
その中でも、オカルトに詳しい者がいれば教えて欲しい。なんとも唐突かつ奇異な質問だったが、何故か誰も疑問に思わない。
先の質問の際、フレミアは彼らにこっそり催眠術をかけていたのである。よって、今や新聞部の者達はフレミアの完全なる下僕であり、彼らの意志はフレミアの思うがままであった。
「オカルトねぇ……。あ、そうだ! ほら、あいつがいたじゃん! オカ研の八雲!」
部員の一人が、思い出したように手を叩いた。すると、他の者達もなにやら納得した様子で頷いた。
「この学校のオカルト研究会に、八雲・美月(やくも・みつき)っていう生徒がいてさ。全然目立たない上に、成績も良くて中の下って感じだったんだけど……最近になって妙に成績を上げて来て、ちょっと話題になっていたんだ」
一時はカンニングも疑われたが、学校の教師はおろか、新聞部でも証拠を掴むことはできなかった。ちなみに、新聞部とオカルト研究会は仲が悪く、それが原因でオカルト研究会の面々が、カンニングの証拠を掴むのを妨害しているのではないかと考えている者もいるようだった。
「俺達は真実を掴むのが仕事だけど、あっちは何でもかんでもオカルトで片付けちまうからな。学校の七不思議とか、ミステリーとか都市伝説とか……そういったネタを扱おうとすると、なんのかんのと難癖付けて、こっちの取材を邪魔したりするんだよ」
どうやら、この学園のオカルト研究会自体がトラブルメーカーとして認識されているようである。そして、そんな団体に身を置き、しかも原因不明の成績向上を果たした生徒がいるとすれば……怪しくないと考える方が嘘になる。
「色々ありがとう。だいたいのことは、分かったわ」
これ以上は大した収穫もないと考え、フレミアは部室を後にした。そのまま教室に戻ってみると、なにやら妙なものが机の中に押し込まれているのに気が付いた。
「これは……」
取り出してみると、それは干からびた小さな虫のミイラだった。よくよく注意していなければ気が付かず、そのまま机の奥に押し込んでいたかもしれないが……これは、ただのミイラなどではない。
「なるほどね。でも、これで証拠は掴んだわよ。後は、これの送り主さえ見つければ……」
蟲毒の端末。狙い通りにそれが送り込まれて来たことで、フレミアは思わず笑みを浮かべた。
大成功
🔵🔵🔵
神代・凶津
蟲毒とは、またえげつない物を持ち出してきやがったな。
すでに何人か犠牲者が出ちまってるようだぜ、相棒。
「・・・これ以上の被害は見過ごせません。」
おうよ、オカルト系を相手にするのは俺達の専売特許だしな。
んじゃ、調査開始だぜッ!
「・・・式、召喚【捜し鼠】
相棒の召喚した式神を学園に放って蟲毒の末端や儀式の痕跡を探すぜ。
末端を見つけたら破魔の霊力を込めた霊鋼の薙刀で浄化するぜ。
儀式の痕跡を見つけたらその付近から情報収集して本体の所在を捜し出す。
怪奇現象が発生したら『退魔の鈴』を鳴らして徐霊してやるよ。
この程度の怪異じゃ、俺達は阻めねえぜッ!
【技能・式神使い、情報収集、破魔、浄化、徐霊】
【アドリブ歓迎】
●魔蟲の怪
学園を覆う異様な空気。校門をくぐるなりそれを察し、神代・凶津(謎の仮面と旅する巫女・f11808)は思わず呟いた。
「蟲毒とは、またえげつない物を持ち出してきやがったな。既に何人か犠牲者が出ちまってるようだぜ、相棒」
「……これ以上の被害は見過ごせません」
仮面を手にしたまま、神代・桜が静かに呟く。仮面でしかない凶津にとって、彼女は肉体を貸してくれる大切な相棒だ。
「おうよ、オカルト系を相手にするのは俺達の専売特許だしな。んじゃ、調査開始だぜッ!」
気合を入れて凶津が叫べば、桜もまた何やら印を結び、己の使役する式神を召喚した。
「……式、召喚【捜し鼠】」
それは、物を探すことに特化した鼠の式神。戦闘力はないに等しいが、蟲毒の端末、あるいは本体を探すには、これ以上になく頼りになる存在だろう。
小さな通風口や窓の隙間、果ては雨樋の中にまで入り込み、鼠達は蟲毒を探すべく奔走する。だが、普段であれば直ぐに探し物を見つけて戻って来るはずの鼠達が、なぜかなかなか戻らない。
「これは……もしかすると、面倒なことになったかもしれません」
己の式に異変が生じていることを察し、桜は校舎の中に足を踏み入れ駆け出した。式の反応が消えた場所。それだけを頼りに進んで行くと……やがて、全身を何かに食われ、ボロボロになった式神の姿が目に留まった。
「おいおい、こいつは酷ぇな」
「……来ます。油断をしないでください」
息も絶え絶えな式神の姿を見て呟いた凶津に、桜が警告する。果たして、そんな彼女の言葉は正しく、どこからか現れたのは大量の毒虫。
「うへぇ、気色悪ぃな、おい! 何処から湧いて来やがった、こいつら!」
百足や蜘蛛、それに蛇やカエルといった爬虫類や両生類までもが、一斉に凶津と桜へ襲い掛かって来る。それらを薙刀で桜が軽く払ったところで、凶津が『退魔の鈴』を鳴らし、その音色を響かせた。
「「「…………ッ
!?」」」
途端に苦しみ出し、消滅して行く毒虫の群れ。蟲毒の端末が働きアリなら、こいつらは霊的な物質で作られた、蟲毒にとっての兵隊アリといったところか。
「この程度の怪異じゃ、俺達は阻めねえぜッ!」
全ての毒虫を浄化し、凶津が叫んだ。見れば、そこには干からびた百足のミイラが、力無く廊下に転がっていた。
「……端末を見つけましたね。後は、これを逆に辿れば、術者まで辿り着けるでしょう」
百足を拾い、昨夜は意識を集中させると、そこに残された力の源を辿って行く。どうやら、元凶となった蟲毒の本体は、まだ学園の中にいるようだ。
放っておけば、それは次なる悲劇を生み出すかもしれない。そうなる前に止めるべく、桜は凶津を手にしたまま、再び学園の廊下を駆け出した。
大成功
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荒珠・檬果
さてさて、またマニアックな方法で。
その知識、どこから手に入れたんでしょうね、本当に…。
私はオカルト小説なんですが。
地縛鎖を校庭に刺して、情報を吸い上げましょう。
そのような状態ならば、必ず痕跡は残っているはずですから…それを辿れば。途中で端末見かけたら潰しましょう。
怪奇現象…それは無限廊下。行っても行っても同じところをループする現象。
打開策は、つなぎ合わせられている場所を断つこと。
「七色変換、蒼紋退魔刀」
…この退魔刀、振るうの初めてですね。
※七色変換は、七色竜珠から該当色を対応武器に変換するもの。
●歪んだ回廊
校門から一歩中へ入った途端、背筋が凍るような異様な雰囲気が荒珠・檬果(アーケードに突っ伏す鳥・f02802)を襲った。
「さてさて、またマニアックな方法で。その知識、どこから手に入れたんでしょうね、本当に……」
蟲毒の呪法。それが学園全体を蝕んでいることは、もはや明白。だが、問題なのは、犯人がどうやって蟲毒などといった呪法の知識を手に入れたのかということだ。
「ちなみに、私はオカルト小説なんですが……」
どうも今回の事件は、素人が適当に行ったものとはわけが違いそうだ。通常、蟲毒は持ち主に富と破滅の双方をもたらすもの。端末を用い、他人の命を糧に力を増して願いを叶えるなど聞いたこともない。
これは恐らく、背後に何らかの強大な力や知識を持った存在がいるはずだ。あるいは、そういった存在が一般人を唆し、危険な儀式に手を染めさせているか。
どちらにせよ、放っておける事態ではなかった。地縛鎖を校庭に刺し、檬果は土地に残された呪いの残滓を吸い上げる。様々な人間が行き交う故に、残滓だけを拾い上げるのは難しかったが、それでも特徴的な呪いの痕跡は見逃さない。
「どうやら、こちらにいるようですね」
ほんの微かな違和感だけを頼りに、檬果は校舎の中へと歩を進める。が、長い廊下に出た瞬間、唐突に酔ったような感覚に陥って辺りを見回した。
「これは……」
一見、何の変哲もない学校の廊下。しかし、辺りに生徒や教師の気配はなく、自分だけが取り残されている。
慌てて近くの教室の扉を開けたが、その先も何故か廊下だった。廊下の先を進んでも一向に同じ景色が変わらず、元の場所に戻ろうとしても同じこと。試しに、窓を開けて外に出ようともしてみたが、やはり結果は変わらず、気が付くと再び廊下に戻されていた。
無限回廊。どこぞの学校では、七不思議にも数えられる怪奇現象。一度でも捕らわれれば、気まぐれに次元の歪が生じるまで脱出は不可能であるとされているが。
「……この退魔刀、振るうの初めてですね」
唯一、抜け出す手段があるとすれば、それは空間と空間を断裂させ、ループを断ち切る他にない。失敗すれば、自分が次元の狭間へ落下し兼ねない危険な行為。だが、それでもやるしかないのだ。
「七色変換、蒼紋退魔刀」
七色の数珠の中から、その一つを選択して力を刀に宿し、檬果は迷うことなく目の前の空間を斬り捨てた。一瞬、視界が歪んだかと思うと、世界の全てが大きく歪み……気が付いた時には、檬果は元いた場所へと戻っていた。
「どうやら、戻って来れたようですね。しかし、あの場所は……」
あの無限回廊、単に空間が歪んで生じた場所というわけではなさそうだ。そもそも、蟲毒には空間を歪ませる力などない。では、あの場所はいったい何だったのか。
もしかすると、あれは怪奇現象などではなく、何かの通り道だったのではないだろうか。この世界とは異なる場所から、異形の存在を呼び出すための。
まあ、それも全ては、本体を見つければ分かること。次なる犠牲者が出るのを防ぐべく、檬果は再び校内に残された蟲毒の残滓を追い掛け始めた。
成功
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第2章 集団戦
『パープル・フリンジ』
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POW : 狩り
【視線】を向けた対象に、【群れ】が群がり【鋭い牙】でダメージを与える。命中率が高い。
SPD : 存在しえない紫
対象の攻撃を軽減する【位相をずらした霞のような姿】に変身しつつ、【不意打ち】で攻撃する。ただし、解除するまで毎秒寿命を削る。
WIZ : 「「「ゲッゲッゲッゲッゲッ」」」
【不気味な鳴き声】を発し、群れの中で【それ】を聞いて共感した対象全ての戦闘力を増強する。
👑11
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●隙間より来る者
夕陽に染まった学園の校舎が、校庭に長い影を作っている。
既に部活も大半が終わりの時間に近づき、校門を抜けて行く生徒達の姿も、ちらほらと。
教室中は、昼間の喧騒が嘘のように静まり返っていた。生徒達が帰宅し、稀に教師が見回りに来るくらいしか人が訪れない時分。だが、そんな教室の中で、密かに蠢く人影が。
「……次は、こいつね。私が頂点に君臨するためには、邪魔な人が多過ぎるわ」
誰もいない教室で、一人の少女が誰かの机の中に、こっそりと何かを入れようとしていた。が、しかし、ふいに少女は振り返ると、自らの手に持っていたものを隠して目の前に立つ者達を睨みつけた。
「あなた達……見たの?」
その瞳の中に仄暗い怒りと憎しみを宿し、少女は猟兵達に向かって呟いた。そう、彼女こそが今回の騒動を引き起こした張本人。蟲毒を使って3人もの犠牲者を出し、その命を啜って自らの力に変えていった、オカルト研究会の八雲・美月に他ならなかった。
ある者は蟲毒の残滓を辿り、またある者は地道な調査の結果から、美月へ辿り着いていた。そうして現場を押さえたことで、もはや美月に抗う手段はないと思われたが……しかし、彼女は不敵な笑みを浮かべ、一匹の蟲を教室の中に伸びる影へと放り投げた。
「悪いけど……見られたからには、あなた達を生かしてはおけないわね。呪詛返しを受けるくらいなら、あなた達を生贄にして、私は更に高みへと登るわ!」
その邪魔だけは、絶対にさせない。なぜなら、この学園で頂点を極めるのは、他でもない自分なのだから。そう言いながら高笑いする美月の声に合わせ、影の中から現れたのは奇怪な生物達。
「ゲッゲッ……」
「ゲッゲッゲッ……」
蟲ともカエルとも、そして人ともつかない異形の怪物が、次々と影の中から湧き出してくる。それらは頭部の大半を占める巨大な単眼で猟兵達を睨みつけると、一斉に襲い掛かって来た。
どうやら、美月は完全に蟲毒の力に魅了され、人間として正しい判断さえできない状態にあるようだ。彼女を正気に戻すにしても、そのためにはまず、目の前の化け物どもを退治せねばならない。
幸い、この化け物達は、ここがどのような場所なのかまでは分かっていない。ならば、こちらが有利になる場所へと誘き寄せれば、一網打尽にできるかもしれない。
学校という特殊な環境。それを利用することこそが、勝利への近道。帰宅中の生徒達に被害が及ばぬよう注意しつつ、隙間より現れし異形を殲滅するのだ!
フレミア・レイブラッド
くだらない…そんな事の為に人の命まで奪うなんてね。
仮に頂点を取ったところで、所詮は呪いで得た地位。
実力でない、呪いで得た地位に何の意味があるの。
貴女の過ち…止めてあげる(1章で届いた虫を魔術で灰に)
生徒達に被害が出ない様にしないとだし…仕方ない。
物的損害には目を瞑って貰いましょう
窓や出入り口等を【念動力】で封鎖し、自身の周辺にも【念動力】の防御壁を展開。
更に【ブラッディ・フォール】で「黒竜を駆る者」の「ドラゴンテイマー」の姿(テイマーの黒衣と剣を装備し、翼が生えた姿)へ変化し、教室内の机や椅子、教壇等を【文明侵略】で黒竜へ変化。
後は黒竜の群れに殲滅させるわ。狭い教室内で逃れられると思わない事ね
●虚構の偶像
教室の影より現れし、蟲、蟲、また蟲。
昆虫とも動物とも取れぬ奇怪な生物を前に、しかしフレミア・レイブラッド(幼艶で気まぐれな吸血姫・f14467)は、何ら意に介せず大きな溜息を吐いて呟いた。
「くだらない……。そんな事の為に人の命まで奪うなんてね」
どれだけ上位に上り詰められるとはいっても、所詮は学校内での地位ではないか。そんなもの、社会に出れば何の意味もない。それなのに、わざわざ人を殺してまで、それに執着する意味がフレミアには分からなかった。
「あなたになんか、私の気持ちはわからないわ。才能、美貌、そして出自……どれを取っても、私より優れたものを持っているあなたなんかにはね!」
だが、そんなフレミアの言葉を聞いて、美月は怒りを露わに蟲毒の本体を掴み、叫んだ。
今のフレミアは、海外からの転校生ということになっている。才色兼備な彼女のこと。必要以上の情報操作などせずとも、スクールカーストの上位に食い込むのは簡単だった。が、それ故に、美月は鳴り物入りで学校に現れ、そしてカーストの上位へと上り詰めたフレミアのことを敵視していた。
「行け! あの女を殺すのよ! さあ、早く!」
美月が命じれば、それを聞いた異形の化け物達が一斉に動き出す。化け物どもはフレミアの周囲を取り囲むと、奇怪な声で鳴きながら、徐々に間合いを詰め始めた。
「ゲッゲッ……」
「ゲッゲッゲッ……」
互いに力を増しながら、距離を詰めてくる怪物達。しかし、それでもフレミアは慌てない。ここが学校の教室内であるならば、そこにある全ての物体が、彼女にとっての武器となるのだから。
「骸の海で眠るその異形、その能力……我が肉体にてその力を顕現せよ!」
その手を掲げて声高に叫べば、フレミアの身体が黒衣へと包まれる。手には赤き剣が握られ、その背中からは翼が生え、彼女は竜を統べる者の力を身に纏った。
「なっ……! その姿……あなたも、人間じゃなかったの!?」
さすがに、これには美月も驚いた様子で、しばし呆然と立ち尽くす他になかったようだ。その隙に、フレミアは周囲の机や椅子へと波動を伸ばし、それら全てを漆黒の竜へと変えて解き放った。
「悪いけど、ここでその化け物の餌になるわけにはいかないの。反対に、私の竜の餌食になってもらうわ」
文明侵略。かつて、キマイラフューチャーに現れたドラゴンテイマーの技をそのままに用い、フレミアは椅子や机が変じた黒竜を、一斉に怪物達へと嗾けた。状況がつかめず、狼狽えている怪物達など、黒竜の敵ではない。
一匹、また一匹と、食われて消えて行く怪物ども。逃げ出そうとする美月だったが、窓や扉はフレミアが念で抑えているので、そう簡単には開けられない。
「くっ……だったら!!」
化け物どもの狙いをフレミアから扉へと変え、美月は教室の扉を食い破らせることで、強引に部屋から脱出した。そのまま、外へと逃げ出して行く美月。しかし、フレミアは慌てることなく彼女の後姿を見つめ、そして不敵に笑っていた。
「それで逃げたつもりかしら? 残念だけど、もうこの学園に、あなたの逃げ場なんてないわよ」
なぜなら、この場所は既に猟兵達の手が至るところに入っているのだから。そう結んで、フレミアは最後に、教室に残っていた怪物達を、黒竜の力を以て一掃した。
大成功
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荒珠・檬果
人を呪わば穴二つなんですけどねぇ…。
すでに穴に入っている気がします…。
ここ学校で、進学校といえど設備は大差ないはず。
そう、廊下に面したトイレは必ず有るんですよね。ないと大問題です。
そして、トイレって入り口一ヶ所なんですよ。相手ってよく知らないから、窓から入ってくることも少ないでしょうし。
【二聖召喚】。入り口に文聖(高速・多重詠唱による焼却魔法攻撃)。私のそばに武聖(護衛)。
万一窓から入ってきても、武聖が突き攻撃しますでしょうし。窓もたいてい入り口の反対側にしかないですし。
…あの、女子トイレなのは仕方ないんです。ごめんない。
●前門の武聖、後門の文聖
校内に溢れ出した魔蟲の群れ。迂闊に放置すれば、それはやがて無関係な生徒や教師にさえも牙を剥くことは明白だ。
「人を呪わば穴二つなんですけどねぇ……。すでに穴に入っている気がします……」
人として踏み越えてはいけない領域を越えてしまった美月に対し、荒珠・檬果(アーケードに突っ伏す鳥・f02802)は大きな溜息を吐いた。だが、既に美月は教室から逃げ出しており、当然のことながら檬果の言葉に耳を貸すはずもなかった。
仕方がない。ここは、現れた魔蟲だけでも始末して、後の憂いを断つとしよう。
こちらに向かって来る魔蟲に背を向け、檬果は廊下を走り抜けた。後ろからは魔蟲が追い掛けて来るが、それも計算の内。ここが学校である以上、廊下に面した場所であれば、必ず存在するものがある。
「やはりありましたか。途中、生徒に出合わなかったのは幸いですね」
檬果が逃げ込んだ場所は、他でもないトイレだった。出口は一つしかない上に、なにより狭い。戦いをするには、あまりにも不向きな場所に思われたが。
「ゲッ……ゲッゲッ……!」
魔蟲の群れが、狭い入り口を乗り越えて檬果に迫る。後ろは窓だけで、しかもここは3階だ。完全に逃げ場を失われたかに思われた檬果だったが、それさえも彼女は計算していた。
「いでませい!」
瞬間、檬果が印を結ぶと同時に、彼女の傍に古めかしい鎧を纏った戦士が現れた。そして、同時に敵の後ろには、導師のような服装を纏った男の姿も。
「……ゲ?」
突然の乱入者に、魔蟲達は驚きを隠せない。当たり前だ。追い詰めていたと思っていたのに、反対に挟み撃ちにされたのだから。
文聖孔子と武聖関羽。古代中国の偉人と同じ存在を呼び出し、檬果は情け容赦なく魔蟲を攻撃させる。彼らを使役している間は自分から攻撃を仕掛けられない上に、自分が傷つけば彼らも消えてしまうので、ここは先手必勝だ。
「ゲゲェェェェッ!!」
孔子の放った炎が後ろから魔蟲を焼き払い、魔蟲の身体が溶けるようにして消えて行く。立ち昇る黒煙からは、まるでゴムが焼けた時のような不快な臭気が撒き散らされ、檬果は思わず顔を顰めた。
「ゲ……ゲゲ……」
それでも、中には炎を潜り抜けて檬果へと迫るものもいたが、瀕死の魔蟲に何ができよう。
「……ゲャッ!?」
関羽の一撃で容易く両断され、最後の魔蟲も床に落ちる。気が付けば、辺りには化け物がいた形跡などまるでなく、周囲は何事もなかったかのように静まり返っていた。
「どうやら、片付いたようですね。さて……」
これで残るは、美月の持っている蟲毒の本体のみ。彼女にこれ以上の凶行を働かせないためにも、檬果は改めて美月の居場所を探し、そして蟲毒を叩き潰すことを決意した。
大成功
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神代・凶津
見つけたぜ、あの嬢ちゃんが蟲毒の親玉の所持者か。
おい嬢ちゃん、その危なっかしい物をこっちに渡しな。
って言って渡す訳ないか。
「・・・なら無理矢理にでも取り上げ、彼女を正気に戻します。」
おうよ、相棒。
さあ、怪異祓いと行こうかッ!
教室にある机や椅子を化け物共に殺気を込めてぶん投げて、化け物共がそっちに視線をやった隙を見切って一気に視界外から回り込んで、破魔の力が宿った霊鋼の薙刀で浄化してやるぜッ!
まあ、この机や椅子を使っている生徒には悪いと思うが致し方ないって事で。
敵に囲まれちまっても千刃桜花で纏めてなぎ払って一網打尽だぜッ!
【技能・殺気、見切り、破魔、浄化、なぎ払い】
【アドリブ歓迎】
●桜花乱舞
美月が呼び出した魔蟲の群れ。それらを他の猟兵達が引き受けている間に、神代・凶津(謎の仮面と旅する巫女・f11808)は最初の部屋とは別の空き教室にて、蟲毒を手にした美月を追い詰めていた。
「見つけたぜ、あの嬢ちゃんが蟲毒の親玉の所持者か」
彼女から蟲毒を取り上げなければ、この学園を覆う死の連鎖は止まらない。何故、彼女が蟲毒などという分不相応な力を手に入れたのかは不明だが、それを追求するのは後回しだ。
「おい嬢ちゃん、その危なっかしい物をこっちに渡しな……って言って、渡す訳ないか」
案の定、美月は凶津の言葉にも、首を縦に振ることはなかった。それどころか、彼女は再び蟲毒の本体を掲げると、新たな部屋にまで不気味な魔蟲を呼び出した。
「……なら無理矢理にでも取り上げ、彼女を正気に戻します」
「おうよ、相棒。さあ、怪異祓いと行こうかッ!」
そう叫ぶや否や、桜の身体を借りた凶津は、教室に並べられていた椅子や机を魔蟲に向かって放り投げた。
「……ゲ?」
散開する魔蟲の群れ。当然のことながら、その程度で鎮まることもなければ、倒されるような相手でもない。が、しかし、それは凶津も承知の上。今の一撃は、あくまで相手の気を逸らすためのものであり。
「よっしゃ! 隙あり!!」
敵の視線が自分から机や椅子に写った一瞬の隙を突き、凶津は敵の側方に回り込んで薙刀を振るった。魔を滅する力を持った刃を受ければ、いかに異界の怪物といえど無事では済まない。両断され、それでも微かに身体を痙攣させている辺り、なかなかしぶとい相手のようだが。
「ゲ……ゲゲッ!」
「ゲゲゲッ……ゲッ!!」
仲間を傷つけられて怒った魔蟲が、今度は一斉に凶津へと向かって来た。薙刀で払えるのは、せいぜい数匹。前後左右、あらゆる場所から襲い掛かられれば、さすがに対応はできないが……それでも凶津は、そして桜は慌てない。
「……いけ、千刃桜花」
「細切れになっちまいなッ!」
瞬間、薙刀が桜の花弁に姿を変えて崩れ、その花弁は凄まじい花吹雪となって魔蟲へと襲い掛かる。しかも、ただの花吹雪ではない。
触れた瞬間、全てを切り裂く鋼の花だ。元が薙刀である以上、花弁と化した状態でも、その性質は失われていないのである。
「ゲゲェッ!?」
「ゲッ……ゲェッ!!」
何が起きているのかも分からないまま、魔蟲の群は桜の花弁の海に沈み、そして静かに散って行った。ふと、凶津が顔を上げると、そこに美月の姿は既にない。どうやら、また逃げ出したようだが、しかし慌てる凶津とは対照的に、身体を貸している桜は冷静だった。
「……心配ありません。もう、彼女に逃げ場はありませんから」
そう言って廊下に出て桜が指差した先には、屋上へと続く階段の方へと逃げて行く美月の姿が。
慌てて冷静な判断ができなくなったのだろうか。あんな場所へ逃げ込めば、反対に追い詰められるだけだというのに。
もっとも、この状況は凶津達にとっても好都合。下手に学校の外に逃げられてしまえば追跡も困難になるので、これは願ったり叶ったり。
「よし、行くぞ! 悪夢もこれで終わりだ!」
これ以上、蟲毒の犠牲者を出してはならない。魔蟲の群れを蹴散らした凶津達は、美月から蟲毒の本体を取り上げるべく、彼女の向かったであろう屋上を目指して駆け出した。
大成功
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支倉・錫華
【ガルヴォルン】
たしかに見た目はよくないけど、
攻撃力はそれなりにありそうだね。
やっぱり武器を預けちゃったのはは痛かったな。
セレーネさんはいったん下がって、とどめの準備をお願いしたいかな。
わたしはその間の時間を稼ぐよ。
ちょっとでも数を減らせるなら減らしておきたいところだけど、
無理はせず、セレーネさんの離脱を最優先。
いちごさんと連携して
【クィンクェ・ブレード】と【次元召喚分離攻撃】で相手を攪乱。
セレーネさんのキャバリアが来るまで時間を稼ごう。
キャバリアが来てくれれば、一気に殲滅できるもんね。
え? 建物壊しちゃダメ?
そんなこと言われても、
そんなにピンポイントなミサイルとかないと思うよ?
セレーネ・ジルコニウム
【ガルヴォルン】
「随分と不快な容姿をした敵ですね。
ですが、この程度の敵などキャバリアに比べたら……」
アサルトライフルを取り出して掃討しようとしますが……
「ああっ、そういえば、銃は没収されていたのでしたっ!?」
だから敵襲があった時、銃がないと身を守れないと言ったのですっ!
仕方ありません。錫華さんといちごさんに時間を稼いでもらいつつ、キャバリアに指示を出しましょう。
「ミスランディア、光学迷彩解除。
武装の使用を許可します。
廊下の敵を焼き尽くしなさい」
光学迷彩で広場(グラウンド)に待機していたキャバリアのAIに命令します。
建物の廊下にミサイルの雨を降らせて炎に包み、敵を蒸し焼きにしましょう。
彩波・いちご
【ガルヴォルン】
まったく…学校内の順位の為だけにこんな危険なことをするなんて
こんな力、身を亡ぼすだけですよ
…そして、この世界の常識を知らない人たちが、この学校を滅ぼしてしまいそうですよ!?
いやいや2人とも、このくらいの相手にそんな大げさなもの出さなくていいですからね!?
押さえて押さえて……(汗
この程度の相手ならこれでいいんです
私自身を囮にして廊下に群れを誘導
逃げる振りをしながら【異界の抱擁】で触手を静かに召喚
敵の正面と真後ろに呼び出した触手で廊下を区切って壁にして閉じ込めてやりましょう
私たちは、その間に教室に避難
あとは触手の間隔を狭めて殲滅するだけ……って、だから狭い所で重火器ダメええ!?
●非情なる殲滅作戦
他の猟兵達が、美月を屋上へと追い詰めている最中。支倉・錫華(Gambenero・f29951)とセレーネ・ジルコニウム(私設軍事組織ガルヴォルン大佐・f30072)、そして彩波・いちご(ないしょの土地神様・f00301)の3人は、周囲を無数の魔蟲によって囲まれていた。
「まったく……学校内の順位の為だけにこんな危険なことをするなんて。こんな力、身を滅ぼすだけですよ」
分不相応な力を得た美月のことを考え、いちごがぼやくも、本人がここにいないのだから、どうしようもない。おまけに、魔蟲はこちらの事情などお構いなしに、3人に襲い掛かって来るのだから。
「随分と不快な容姿をした敵ですね。ですが、この程度の敵などキャバリアに比べたら……」
そう言って、武器を取り出そうとしたセレーネだったが、肝心の得物が手元にないことをすっかり忘れていた。
「ああっ、そういえば、銃は没収されていたのでしたっ!?」
だから、敵襲があった時に銃がないと、身を守れないと言ったのだ。その戦闘力の大半をキャバリアに依存しているセレーネは、今や完全な丸腰に等しい。
「たしかに見た目はよくないけど、攻撃力はそれなりにありそうだね」
向かって来る魔蟲に対して身構える錫華だったが、彼女もまた小太刀は没収されている。当然、戦うための手段は限られており、このままでは好き放題にやられてしまう。
「ゲゲッ……」
「ゲッ……ゲッ……」
獲物が丸腰であることを知ってか、魔蟲達は一斉に、セレーネや錫華に襲い掛かって来た。さすがに、このままではやられてしまう。こうなったら、なんとか時間を稼いで、セレーネのキャバリアで敵を一掃するしかない。
「仕方ありません。錫華さんといちごさんは、時間を稼いでください。敵を一ヶ所に集めた後、キャバリアで殲滅します」
それだけ言って、セレーネは駆け出した。慌てていちごが止めようとするも、セレーネも錫華も敵の相手で精一杯で、碌に話も聞いていなかった。
「いやいや2人とも、このくらいの相手にそんな大げさなもの出さなくていいですからね!? 押さえて押さえて……」
このままでは、魔蟲が学園を滅ぼす前に、この二人が学園を滅ぼし兼ねない。そうこうしている間にも、魔蟲はどんどん距離を詰め、ついには錫華に襲い掛かった。
「……っ!?」
擦れ違い様に牙を突き立てられ、錫華が思わず腕を抑えた。小さいながらも、なんという力だろう。この奇妙な生き物は、本気になれば人間の喉笛など容易に食いちぎり、一撃の下に仕留めるだけの力を秘めている。
こうなったら、素手であろうと時間を稼ぎ、セレーネの攻撃に賭けるしかない。少しでも手数を増やすべく、錫華はもう一人の自分を召喚し、彼女に魔蟲を攻撃させるが。
「これ、躱せる?」
平行世界から現れた錫華が小太刀を振るったところで、その刃が虚しく空を切った。否、当たらなかったのではない。確かに小太刀は魔蟲のいた座標をしっかりと斬り裂いたはずなのだが、その刃は魔蟲の身体を通り抜けて、殆どダメージを与えていなかったのだ。
「どうやら、本体を異相次元に置くことで、身体の一部を量子化できるようですね。ですが……この程度の相手なら、これでいいんです」
なかなか厄介な相手だが、それでも戦うための手段はあると、いちごが静かに触手を召喚する。いかに異相次元へ本体を置いているとはいえ、こちらの次元に干渉する以上、肉体の一部は必ず残しているはず。それならば、回避など絶対にできない状況に追い込んで、全て圧殺してしまえばよい。
「ふんぐるいふんぐるい……星海の館にて微睡む我が眷属よ!」
気が付くと、召喚された触手が廊下の前後を壁のように覆い、魔蟲が逃げるのを防いでいた。これで、後は教室に逃げ込んで、一気に触手と触手の幅を狭めて圧殺するだけだ。
だが、いちごが勝利を確信した時、なにやら校庭の方から不穏な声が。そう、彼らが敵の相手をしている間、セレーネはついに校庭に待機させていたキャバリアのところまで戻っていたのだ。
「ミスランディア、光学迷彩解除。武装の使用を許可します。廊下の敵を焼き尽くしなさい」
「あとは触手の間隔を狭めて殲滅するだけ……って、だから狭い所で重火器ダメええ!?」
慌てて制止するいちご。こんな場所で、キャバリアによる砲撃など冗談ではない。バルカンだかミサイルだか知らないが、とにかくキャバリアサイズの砲撃を浴びせたら、校舎まで破壊し兼ねないのだから。
「え? 建物壊しちゃダメ? そんなこと言われても、そんなにピンポイントなミサイルとかないと思うよ?」
もっとも、校舎の破壊については全く考えていなかったのか、セレーネに代わり錫華が、さも当然のように答えた。そして、光学迷彩を解除したセレーネのキャバリア、ミスランディアが放ったミサイルが、いちごの追い詰めていた魔蟲達に向けて一斉に発射され。
「いやいや、こんな場所でミサイルなんか使ったら、校舎が……ぁぁぁぁっ!!」
制止も虚しく、校舎に降り注ぐミサイルの雨。凄まじい爆風と振動が廊下を襲い、学園の校舎諸共に、そこにいた魔蟲を全て吹き飛ばした。
成功
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第3章 ボス戦
『バケモノ』
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POW : たべたい/たべたくない
戦闘中に食べた【親しい誰かや、たまたま居合わせた他人】の量と質に応じて【全身の異形部分が人間部分を侵食、活性化し】、戦闘力が増加する。戦闘終了後解除される。
SPD : どうかふれて/ちかづかないで
攻撃が命中した対象に【本体から離れても蠢く触肢】を付与し、レベルm半径内に対象がいる間、【同化し蝕もうとする侵食行動】による追加攻撃を与え続ける。
WIZ : いきたい/もうつかれた
あらゆる行動に成功する。ただし、自身の【人間性】を困難さに応じた量だけ代償にできなければ失敗する。
👑11
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●妖蟲変化
轟音と共に崩落する校舎。既に大半の者が下校した時刻だったことが幸いし、人的被害はなかったようだ。
もっとも、これにはさすがの美月も、しばし唖然としたまま立ち尽くす他なかった。なにしろ、校舎の3階から屋上にかけて、一部がごっそり抉られる形で消滅しているのだ。
「な、なんてこと……! あなた達、何者なのよ、本当に……」
だが、それでも彼女は直ぐに気を取り直すと、手にした蟲毒の本体をしっかりと握り締め。
「まあ、いいわ。これであなた達も、ただの人間じゃないってことがわかったし。だったら……」
こちらも最後の手段を使わせてもらう。そう結んで、美月は自ら手にした蟲毒を口に入れると……それを、そのまま飲み込んでしまった。
「うふふ……。あんな蟲なんか呼び出さないで、最初からこうすれば良かったのかもしれないわね。これで、私は蟲毒の力をその身に宿したわ。もう、誰にも負けることはない、最高の力を……?」
そう言って薄笑いを浮かべる美月の身体に、突如として変化が訪れた。しかし、それは美月自身も予想していなかったのか、途端に彼女の顔が蒼褪め、そして苦悶の表情に変わって行く。
「あ……が……ひぎぃっ……!」
制服を破り、その腹から現れたのは蟲の脚。指先が吹き飛び、代わりに生えて来たのはカマキリの腕。
「そ、そんな……ど、どうし……て……」
見れば、既に美月の身体の半分は、巨大な百足と化していた。人間らしい肉体は、もう半分も残っていない。人でもなく、さりとて蟲毒でもない。文字通り、彼女はバケモノと化したのだ。
「う、嘘よ! これをくれた人が……言っていたのに……。こうすれば……呪いがバレても、絶対にあなたは救われるって……」
残された僅かな意識で、美月は懸命に抵抗しているようだった。だが、それでも蟲毒の力には抗えず、彼女の意識はこうしている間にも混濁して行く。
蟲毒を食べる。それは即ち、自らが蟲毒のヒエラルキーの頂点に立つことを意味している。故に、蟲毒の力を完全に手に入れる方法としては間違いではないが、それには当然ながら代償が伴う。
蟲毒とは、閉鎖された空間の中で共食いを繰り返して生み出された禁断の呪具。そこに至るまでには毒蟲達による数多の争いがあり、その勝者ともなれば相応の力を持っている。
それを最後に横取りしようというのであれば、その者にも相応の力を要求されるのは当たり前。何の力も持たない美月如きに、蟲毒の力など制御できるはずもなかったのである。
彼女は言った。これをくれた人は、こうすれば救われると。それは確かに本当のことだったのだろう。蟲毒に『救われる』のではなく、『巣食われる』ことで人間性を喪失し、呪い返しで死ぬことがなくなるという意味では。
恐らく、彼女に蟲毒を渡したのは、どこぞの悪しき邪神を辛抱する団体に違いない。彼女に中途半端な知識を授けたのは、呪いが判明した際の口封じも兼ねてのことだろうか。
どちらにせよ、こうなってしまった以上、美月を元の人間に戻すことはできない。ならば、せめて人としての意識が少しでも残っている内に、倒してやるのがせめてもの情け。
自業自得の結末とはいえ、このまま美月の変じたバケモノを放っておくわけにもいかなかった。夕陽を受けて、赤く染まる屋上の上で、最後の戦いが始まった。
セレーネ・ジルコニウム
【ガルヴォルン】
「手遅れでしたか……
せめて苦しまないように眠らせてあげましょう。
あなたをこんな風にした組織はガルヴォルンの名にかけて必ず潰します」
さすがに半壊した屋上でキャバリアを使うわけにもいきません。
ここは生身で【ガルヴォルンフォーメーション】を使って指揮官として指示をだしましょう。
「錫華さん、いちごさん、連携して攻撃してください!
これ以上、異形化が進む前に決着をつけますよ!」
って、ちょっと、敵が無防備な私の方にっ!?
「あっ、そのっ、私なんか食べても美味しくないと思いますよーっ!?」
敵の攻撃を避けようとしつつ、足がもつれて転んでしまい……
錫華さんといちごさんに助けられるのでした。
彩波・いちご
【ガルヴォルン】
過ぎた力は、己を滅ぼすだけなんですよ
…なんて、体の中に邪神を封じてある私の言う言葉ではないかもですけどね
さて、とりあえず崩壊した校舎の責任は取らないといけませんし、これ以上校舎に被害及ばさないよう2人のブレーキ役を…できるかなぁ…
とにかく【異界の深焔】を召喚して、錫華さんと連携して遠距離から攻撃を
セレーネさんも指揮だけなら面倒はないでしょうし…
…って、あれ、もしかしてセレーネさん狙ってます?
仕方ない、深焔には自動で攻撃させつつ、彼女を庇いに行きましょう
転んだ彼女を抱きかかえて、敵の攻撃から逃れ、カウンターで深焔を当てていきます
その際余計なこと触ってたかもですが、そこはご容赦をっ
支倉・錫華
【ガルヴォルン】
呪いの本質を解っていない子を誑かしたってことか。
のまれないで、っていうのも酷な話かな。
『美月』であるうちに楽にしてあげるのが、せめてもの情けだね。
あまり近づきすぎると危なそうだし、
【九芒真空輪】で遠距離から攻撃していこうかな。
万分の一くらいの可能性ではあるけど、
切り落としたら中から出てくる、とかあるかもしれないし。
……まぁ、おそらくは無理だろうけどね。
可能性がないと解ったら、速やかにとどめをさしたいな。
長引かせたらいけない。
あれ?大佐狙い?
まぁいろんな意味で狙いは間違ってないかな。
全部終わってから教団を探し出せるなら、
大佐と一緒に殲滅してきたいな。遠慮とか容赦とかいらないよね。
●望まぬ変身
校庭にキャバリアを待機させたまま、半壊した校舎の屋上に舞い戻ったセレーネ・ジルコニウム(私設軍事組織ガルヴォルン大佐・f30072)。だが、そんな彼女を待っていたのは、人間であることを捨て、バケモノと化した美月だった。
「ア……ァァ……」
苦しそうに呻きながら、しかしかつて美月であったものは、静かにセレーネへとにじり寄って来る。その、あまりにおぞましい姿を前にして、セレーネは思わず顔を背けた。
「手遅れでしたか……」
蟲毒と融合し、その肉体を乗っ取られてしまった美月は、もはや人間には戻せない。今はまだ人としての上半身を保っているが、いずれは肉体の全てを内部から喰い尽くされ、完全なる蟲の怪物になってしまうことだろう。
「過ぎた力は、己を滅ぼすだけなんですよ」
「呪いの本質を解っていない子を誑かしたってことか。のまれないで、っていうのも酷な話かな」
気が付けば、彩波・いちご(ないしょの土地神様・f00301)と支倉・錫華(Gambenero・f29951)の二人も屋上に駆け付けていた。だが、変わり果てた美月の姿を目の当たりにして、速攻で何が起きたのかを悟ったようだった。
もう、これ以上は彼女を放置できない。覚悟を決め、バケモノと成り果てた美月を討つ決意をする三人。
「せめて苦しまないように眠らせてあげましょう。あなたをこんな風にした組織は、ガルヴォルンの名にかけて必ず潰します」
「そうだね。『美月』であるうちに楽にしてあげるのが、せめてもの情けだね」
そうとなれば、話は早い。戦いが長引けば、それだけ美月を苦しめることになるため、それぞれ全力を以て短期決戦を仕掛けるのみ。
「私設軍事組織ガルヴォルン、任務開始です!」
セレーネの号令に続き、いちごと錫華が散開した。敵の武器は、右手の変じた巨大な鎌だ。カマキリのものと同じ構造をしているのであれば、捕まったが最後、脱出することは難しい。
ならば、ここは遠距離から攻撃すべきであろうと、まずはいちごが神の炎を召喚する。もっとも、神といっても決して聖なる存在ではなく、どちらかといえば破壊の権化と形容した方が正しいのかもしれないが。
「ふんぐるいふんぐるい……遠き星海にて燃え盛る神の炎よ!」
異界の門が開け放たれ、その中から姿を現したのは炎の塊。それは神々しく、それでいて荒々しさも併せ持った輝きを放ちながら、姿形を変えてバケモノへと襲い掛かり。
「……っ! ひぎぃっ! あ、熱……ぃぃぃぃっ!!」
身体を焼かれたバケモノが美月の声で叫んだ。果たして、それが本当に美月の意思によるものなのか、それとも蟲が声真似をして叫んでいるだけなのかは不明だったが。
「……いくよ?」
炎に包まれ、焼かれて行く美月に向け、錫華が真空を刃を解き放つ。あそこまで変わり果てては、もはや人に戻すことは不可能。それでも、万に一つの可能性でも残っているのであれば、もしかすると蟲の身体を切断することで人に戻せるかと思ったのだが。
「……ッギィィィィッ!!」
脚を断たれ、甲殻を穿たれ、バケモノは今度こそ本来の声で叫んだ。その、あまりに人間離れした叫び声に、錫華は自分の考えの甘さを痛感した。
ああ、これは駄目だ。彼女はもう、骨の髄まで魔性の蟲と化してしまった。今、目の前に見えている少女の部分は、もはや美月の残した抜けがらと、後は僅かばかりに残された、彼女の記憶の残滓でしかない。
「ア……グギ……ォォォ……」
口から気色悪い粘液を吐きながら、バケモノの腹が割れて行く。焼けた甲殻が剥がれ、ずるりと抜け落ちると、その中から現れたのは新たなる身体と無数の脚。
「……脱皮してダメージを回復した!?」
「本当に、蟲そのものになっているようですね。ならば、残された人の身体の方を焼けば……」
蟲毒の恐るべき生命力に驚愕しつつも、再び仕切り直さんと構える錫華といちご。しかし、先の戦いで彼女達とやり合うのは不利だと悟ったのか、バケモノは二人には目もくれず、無数に生えた脚を激しく動かして、一気にセレーネへと距離を詰めて来た。
「あれ? 大佐狙い? まぁ、いろんな意味で狙いは間違ってないかな」
「いやいや、そんなこと言ってる場合じゃないですよ!」
冷静に状況を分析している錫華に、思わずいちごが突っ込んだ。そうしている間にも、無防備かつ無力なセレーネは、あっという間にバケモノに追い詰められてしまい。
「ア……ァ……たべ……たい……」
「あっ、そのっ、私なんか食べても美味しくないと思いますよーっ!?」
勢い余って転んだセレーネに、バケモノの鎌が迫る! このままでは完全に敵の餌食だ。もう、駄目かと思われたが……間一髪、鎌がセレーネの胸を貫くよりも前に、いちごが彼女のことを抱き締めながら転がり込んだ。
「あ、危ないところでした……。大丈夫でしたか?」
いちごの問いに、辛うじて頷くことで返事をするセレーネ。抱き締めるような形になってしまったのは、もうこの際、仕方のないことである。それよりも、今はあのバケモノをなんとかしなければ、全員纏めて蟲毒の餌だ。
「あの子に悪知恵を与えた教団、探せるなら探して殲滅したいけど……」
「そのためにも、今は彼女を楽にしてやらないといけないですね」
気を取り直し、錫華といちごは再びバケモノと対峙する。怪物と成り果ててしまった美月の無念。それを晴らしてやるためにも、こんなところで死ぬわけにはいかないと。
成功
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東雲・深耶
アドリブ連携歓迎
「安心しろ……私が貴様に安息を与えてやる」
そう、しゃらりと鞘から刀を抜き放ち刀から溢れる妖気が空間と調和するように溶け込んでいく。
屋上で刀を抜き放つ。それは次元空間の制約ごと断ち切って斬撃を届かせる御業。
屋上の広さを活用して遠距離から斬撃を放って一撃を加える。
その後は崩壊した校舎に駆け込み巨大な体躯故の這いずる音などから場所を推察し、そこから遮蔽物越しに距離座標を無視して斬撃を放っていく。
「哀れだな……貴様にも何物にもなりうる可能性があっただろうに」
だが、もうそれは叶わない。
異形となり苦しめられるしか可能性がないなら。
「――貴様を殺す」
そう、慈悲を笑みを浮かべて斬撃を放つ。
荒珠・檬果
(より『まじない』専門家に近くなる真の姿で登場)
日本語、口頭じゃと紛らわしくなるものがあるのじゃが。それみたいだのう…。
妾ができるのは、人の意識持ちしままに屠ることのみ。
【兵貴神速】とも言うであろ?うむ、これUCじゃて。
ここは屋上であり、一部は崩落。ならば、常より狭い。
適度なサイズに調整した騎馬兵にて崩落場所より遠くに…できれば落下防止柵側へと押す。
人の意識持っておるなら、飛び降りるのも怖いじゃろうて。逃げ場所はないと心得よ。
「七色変換、紅紋薙刀」
妾はこの薙刀でお主を攻撃するが…痛いなら、痛いと叫べ。それくらいの権利はある。妾は忘れぬ。
人を呪わば穴二つ。…こうなることは、見えておった。
神代・凶津
ちぃ、だから言わんこっちゃねえッ!
迎撃するぞ、相棒ッ!
一気に距離を詰めて破魔の力が宿った霊鋼の薙刀で叩き斬るぜ。
敵の攻撃は見切って避けつつ、防ぎきれなさそうな攻撃は結界霊符で結界を張って防ぐ。
「・・・何とか彼女を救い出したいです。その魂だけでも。」
マジか、相棒。
あれはもう無理っぽいが・・・。
ええい、分かったよッ!
相棒がそういう性格なのは知ってるからなッ!
あの嬢ちゃんから距離を取り、式神【ヤタ】で撹乱して破魔弓を構えるぜ。
「・・・祓います。」
『破魔の祓い矢』をぶちこんで蟲毒の呪詛を浄化するッ!
せめて、化け物ではなく人として逝きな。
【技能・破魔、見切り、結界術、式神使い、浄化】
【アドリブ歓迎】
フレミア・レイブラッド
馬鹿な子ね。その姿は貴女の罪そのもの…自業自得よ(キツイ言葉と裏腹に非常に悲し気に)
【ブラッディ・フォール】で「徒花の下には常に死の影が踊る」の「『姉桜』紅桜華」の髪型・服装へ変化。
【念動力】で敵の拘束や防御膜で他の猟兵を支援。
また、【相枝相遭】で罪を抽出した桜の枝を剣と見立て、その虫の身体を斬り裂き、攻撃するわ。
最後、彼女の死の前に【紅桜手鞠】で彼女の罪と記憶を浄化。
…ある意味、彼女も利用されたようなモノだしね。せめて、最後は安らかに…。
この子は自分の為に他人を殺すという重い罪を犯したわ。
決して許されない事だけど…それでも、素直に罪を認めて償えば、死ぬ事は…本当に、馬鹿な子…
●失われたもの
夕暮れ時の日を背に受けて、屋上に伸びる長い影。蟲毒を食らうことで反対に中から喰い尽くされた美月は、時が経てば立つ程に、その人間性を喪失して行く。
「あ……ぁぁ……た……す……け……て……」
伸ばされた腕は、しかし目の前の猟兵達を獲物と認識して大きく鎌を開いて揺れる。無数の脚は美月の意思とは関係無しに蠢いて、半壊した屋上を這い回る。
「ちぃ、だから言わんこっちゃねえッ! 迎撃するぞ、相棒ッ!」
その手に余る力を求め、その代償として人を辞めてしまった美月の姿を見て、神代・凶津(謎の仮面と旅する巫女・f11808)が思わず叫んだ。
人を呪わば、穴二つ。そもそも、少しばかりオカルトを齧っていたからといって、それで制御出来る程、呪詛というものは甘くないのだ。
「日本語、口頭じゃと紛らわしくなるものがあるのじゃが……」
「馬鹿な子ね。その姿は貴女の罪そのもの……自業自得よ」
半ば騙された形で力を授けられた美月に荒珠・檬果(アーケードに突っ伏す鳥・f02802)が少しばかりの同情を示すも、フレミア・レイブラッド(幼艶で気まぐれな吸血姫・f14467)の言葉は対象的に辛辣なものだった。
もっとも、そんなフレミアとて、心の底から美月を軽蔑していたわけではない。何故、最後まで解ってくれなかったのか。何故、力に溺れて自分を見失ってしまったのか。ほんの少し前までならば、人に戻るための術はいくらでもあったのに。
「安心しろ……私が貴様に安息を与えてやる」
助けを求める美月の言葉を聞いて、東雲・深耶(時空間切断剣術・空閃人奉流流祖・f23717)が太刀を抜く。刀身から溢れる妖気が空間と調和するように溶け込んで、刃に宿る力が増して行く。
「あ……ぁ……たべ……たい……もっ……と……」
その意識を蟲に蝕まれた美月が、バケモノとしての本能のままに、猟兵達へと近づいて来た。
救ってやれるものなら、救ってやりたい。しかし、今の彼女に与えられる救いは、穏やかな死、のみ。下手に情けを掛けて攻撃の手を休めれば、その瞬間に屠られるのは自分の方だ。
「骸の海で眠るその異形、その能力……我が肉体にてその力を顕現せよ!」
もはや手加減は無用だと、フレミアは自らの肉体にかつての敵、桜の力を操りし影朧の力を降臨させる。念で膜を張り、桜の枝を剣に見立て、それで敵の甲殻を穿とうとするものの。
「……っ! 止められた!?」
バケモノの大鎌が、フレミアの桜を真正面から受け、そして用意に切断していた。同時に、バケモノの身体が大きく膨れ上がり、残された美月の部分が更なる異形へと変化して行く。
「ぉ……ぁぐぅ……ぎ……ぁ……」
白目を剥いて口から数多の蟲を吐き、裂けた背中からも毒々しい色の甲殻が顔を覗かせている。衣服は破れて既になく、しかし乳房のあるべき場所は大きく抉れ、その代わりに不気味な触手が肉を貫いて顔を覗かせ獲物を求めて蠢いている。
人間性を喪失させる……否、心の髄まで食らうことで、蟲毒は事象を歪め、あらゆる行動に成功するのだ。
それは、因果さえも歪めて所持者に巨万の富や成功を引き寄せる、蟲毒の持つ本来の力。だが、当然ながら、その発現には代償を要する。生きた人間の生命力や魂という、最も忌むべき代償を。
このまま戦えば、美月はいよいよ人としての心まで失って、本物のバケモノになってしまう。そうなれば、魂の救済さえも適わない。美月という存在は消滅し、完全に異形の怪物に成り果ててしまう。
そうなる前に、必ず決着をつけねばならない。半壊した校舎の上で、猟兵達はそれぞれに覚悟を決め、荒れ狂うバケモノへと挑んで行った。
●せめて人間らしく
本能ままに獲物を求め、目の前の全てを食らわんとする怪物。しかし、そんな異形のバケモノであっても、歴戦の猟兵を纏めて相手にするのは分が悪い。
「哀れだな……貴様にも、何者にもなりうる可能性があっただろうに」
崩れ落ちた校舎の中へ逃げ込もうとするバケモノを深耶が阻む。気が付けば、バケモノの脚部は何本かが無残にも斬り落とされ、脱皮による再生さえも追い付いておらず。
「ヒ……ヒィィ……」
途端に脅えるような表情を見せるのは、未だ微かに美月の意識が残っているからだろうか。だが、それももうじき失われる。夜の帳が降りる頃には、彼女は完全に魔性の蟲へと変化して、悪戯に人を殺しては食らう怪物となる。
そんなことは、絶対にさせない。逃げようとするバケモノを白光纏いし騎馬兵により追い込み、檬果が屋上のフェンスへと追い詰めて行く。
「妾はこの薙刀でお主を攻撃するが……痛いなら、痛いと叫べ。それくらいの権利はある。妾は忘れぬ」
「異形となり苦しめられるしか可能性がないなら――貴様を殺す」
檬果と深耶の振るった刃が、それぞれにバケモノの甲殻を穿つ。不快な臭気のする体液が夕刻の屋上に飛び散り、奇怪な雄叫びが響き渡る。
もう、あのバケモノに逃げ場はない。後は一気に止めを刺すだけだが……しかし、そんな状況においても、凶津の相棒である桜だけは、未だ美月を救うことを諦めてはいなかった。
「……何とか彼女を救い出したいです。その魂だけでも」
「マジか、相棒。あれはもう無理っぽいが……」
正直、もはやどこまで理性が残っているのかも分からない相手だ。人間らしい感情など消え去り、辛うじて残されている人の身体も、単なる皮に過ぎないかもしれないのだが。
「……ええい、分かったよッ! 相棒がそういう性格なのは知ってるからなッ!」
ここで正論を述べたところで桜が退かないことは、凶津も十分に承知していた。ならば、ここは桜の好きにやらせてやろう。それで美月を救えるかどうかは、また別の話なのかもしれないが。
「……祓います」
式神でバケモノを撹乱しつつ、矢を番える桜。意識を集中し、彼女は肉体の向こう側にいる何かに狙いを定める。そうして放ったのは、怪異のみを穿つ浄化の矢。
「ギィィィェェェェェッ!!」
胸元を穿たれ、蟲が吠えた。肉体の大半が怪異と化してしまった今の美月にとって、この攻撃は致命的。
「せめて、化け物ではなく人として逝きな」
口から黒い汁を噴き出して崩れ落ちるバケモノに、凶津が告げた。果たして、どこまで人間の心が残されていたのだろうか。それを確かめるべく、再びバケモノに視線を向けたところで……不気味な蟲の身体は、しかし唐突に投げられた手毬の中へ、音もなく吸い込まれて行ってしまった。
「悪いわね。この子を、このまま消滅させるわけにはいかないわ」
手毬を投げたのは、フレミアだった。一見、何の変哲もない手毬だが、その内部は罪と記憶を浄化する揺り篭になっている。放っておいても、あのバケモノは死ぬだろうが……その前に、欠片でも残っていた美月の心に少しでも罪の意識があったのであれば、それを浄化してやりたいと思ったのだ。
「……ある意味、彼女も利用されたようなモノだしね。せめて、最後は安らかに……」
学力主義の競争社会。一面的な価値観に縛られ続け、その果てに邪神教団の贄として利用されたというのであれば、彼女の人生はあまりに哀れだ。幼い頃から子どもらしい遊びを我慢し、年頃になっても色恋の一つも知ることなく勉強を繰り返し……その果てに待っていたのがこんな終わり方では、あまりにやるせないものがある。
「人を呪わば穴二つ。……こうなることは、見えておった」
誰に言うともなく静かに告げ、刃を納める檬果。全員、その場にいた猟兵達は、それ以上に何も言うことができなかった。
「この子は自分の為に他人を殺すという重い罪を犯したわ。決して許されない事だけど……それでも、素直に罪を認めて償えば、死ぬ事は……」
毬を拾い上げ、フレミアが呟いた。破壊された校舎は直せても、失われた人の命は戻らない。蟲毒に魂を吸われて死んだ犠牲者達も、中から全てを食らわれた美月も、もう誰も戻ることはない。
戦いに勝ち、事件を解決した猟兵達だったが、その心境は複雑だ。こうする以外に方法がなかったとはいえ、せめてもう少し早く事件に介入できていればと……どうしても、自分を責めてしまいそうになる。
「本当に、馬鹿な子……」
溜息交じりに口にして空を仰げば、いつしか日は落ち、星が瞬いていた。
だが、忘れてはならない。この静寂と平穏の裏で、邪神教団は今も暗躍しているということを。彼らは人間の心を弱さを、隙間を突いて、ひっそりと忍び寄って来るということを。
UDCアース。そこは、日常の裏で怪異と狂気が交錯する世界。いつか、必ず今回の事件の元凶を断つと心に誓い、猟兵達は夜の帳が降りた屋上を後にした。
成功
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