争いを持って為すか、エースの証明
●第二次憂国学徒兵
争乱が続くクロムキャバリアにおいて、生産施設『プラント』は無くてはならない設備である。
遺失技術で建造された『プラント』は鋼材や食料まで様々な資源を生産する固定施設。それ故に国家の基本は『プラント』なくば成り立たず、そのプラントの数が国力とイコールで結ばれている。
そう土地の広さが国力ではない。
プラントの数が国力の強さに直結する。
故に小国家同士が戦争状態に陥った場合、真っ先に狙われるのはプラントだ。
プラント一つが生産を止めるだけで国家としての機能は落ち、住まう人々の生活は困窮してしまう。
『グリプ5』もまたプラントを有する小国家だ。
だが、この小国家は最新鋭キャバリア暴走事故や、それに関連して引き起こされた友好国との武力衝突など様々な問題が頻発していた。
「もう大人たちには任せてはおけない。かつての先達がそうしたように、我々も立ち上がらなくてはならない。そうは思わないか」
一人の少女が勇ましい声を上げる。
彼女の凛とした佇まいは、それだけで周囲の少年少女たちの瞳を惹きつける。
自信に溢れた顔。生命力に溢れたような漲るオーラ。張る声の凛々しさ。
何もかもが『カリスマ』というに相応しい人物。彼女の名を『ツヴァイ』。若くしてキャバリアパイロットとしての才能を認められた者であった。
「大人たちは私達を子供だと侮るだろう。だが、恐れてはならない。私達は大人よりも優れている。今の『グリプ5』の状況を見るといい。最新鋭キャバリアは暴走し、まともに止められない。それどころか、友好国であった『フルーⅦ』にさえ見限られ、裏切られる」
拳を握る手が震える。
彼女は彼女の周囲に集まった大勢の少年たちの前で声を張り上げた。
「ならば! 私達が主導しよう! これは抗議であり主張だ! 我々が本気であると大人たちに知らしめよう! 此処に私は『第二次憂国学徒兵』の結成を宣言する―――!」
●争乱の『グリプ5』
それは先日の『フルーⅦ』による侵略戦より日が経っておらず、未だ最新鋭キャバリア暴走事故の復興が未だ為されていないある日の明け方に起こった。
生産施設『プラント』。
そのプラントの一基の生産が急にストップしたのだ。
「どういうことだ。何故、生産ラインが止まっている!?」
「わかりません! 急に電源が落ちたみたいに……なんだ?」
職員たちが慌てふためく。
プラントの生産が止まるということは、国の食料や国民達の生活もまた止まるということだ。電力もプラントが一基止まるだけで十分に世帯に行き渡らない。
『―――我々は、第二次憂国学徒兵。このプラントは我々が占拠させて頂いた』
プラントのコントロールルームに響く放送。
それは確かに機能を停止したプラントから発せられる音声だった。
「第二次憂国学徒兵……? 馬鹿な! 100年前の伝説にあやかったつもりか! プランとを止めるということがどういうことかわからないわけでもないだろうに! 国中の人々の生活が困窮するんだぞ!」
その言葉に帰ってくるのは、冷ややかな冷笑であった。
声の主、『第二次憂国学徒兵』の首謀者である『ツヴァイ』。彼女は一基のプラントの前に立っていた。
しかし、その背後に在るのは多数のキャバリアたちであった。
それが学生のいたずらではないことを、プラント職員たちは知る。
「な、ナイトゴーストに……あれは、セラフィム・リッパー
……!?」
先日暴走事故を引き起こした『セラフィム・リッパー』3号機。
奇しくも暴走事故は偶然に合わせたキャバリア乗りたち……即ち猟兵が食い止めてくれたが、すでに破壊されている。
1号機は忍び込んだ他国のスパイと、内通者によって強奪されてしまっている。
「に、2号機の封印を解いたのか……! やめろ! その機体には未だ暴走する可能性があるんだぞ!」
もしも、また3号機と同じ様に暴走事故を起こしてしまえば、今度こそ『グリプ5』は国家として破綻してしまう。
「わかっているとも。だからこそ、愚鈍なる大人たち……あなた方ができないことを我々がやる。もう私達はあなた方にこの国を任せてはおけないのだ! 要求は唯一。我々『第二次憂国学徒兵』に全ての権限をわたしてもらう。今後一切の政治、紛争、あらゆるものの決定権を!」
その言葉を最後に彼らは通信を遮断し、プラントに立てこもり、要求が呑まれるまで籠城を続けるのであった―――。
●プラント奪還
グリモアベースに集まってきた猟兵たちを迎えたのはナイアルテ・ブーゾヴァ(フラスコチャイルドのゴッドハンド・f25860)であった。
「お集まり頂きありがとうございます。今回の事件は、争乱の世界、クロムキャバリアです」
頭を下げ、微笑むナイアルテの元いた世界、アポカリプスヘルと同じく荒廃した世界である。
その世界において今回起こった事件、それは。
「『グリプ5』と呼ばれる小国家において、プラントが一基、『第二次憂国学徒兵』と呼ばれる集団によって占拠され、機能を停止させられているのです」
プラントからの生産物資の供給が途絶えれば、国民の生活は困窮してしまう。
この立てこもった学生たちからプラントを開放してほしいのだという。
「はい……彼らは争乱に巻き込まれ続ける自国『グリプ5』を憂いている気持ちは本当のようです。ただ……彼らをまとめ上げている少女『ツヴァイ』さんの乗るキャバリアがどうやらオブリビオンマシン化しているようなのです」
無論、他の学徒兵たちのキャバリアもオブリビオンマシン化している。どうやらオブリビオンマシン化したキャバリアと接触したことによって、思想を歪められ、プラントを停止させるという暴挙に出たのだ。
「プラントまでの道のりはすでに彼らの妨害による特殊な妨害電波や幻影が発生する装置によってプラントまでの道程が撹乱されています。これを乗り越え、プラントへ赴き、彼らからプラントを開放してください」
すでに『グリプ5』の上層部とは話が付いている。
猟兵達はそれぞれの思惑で雇われた傭兵という立場で、プラント開放を請け負っていることになっている。
「どうかお願いいたします。一分一秒でも早くプラントの活動を再開させねば、度重なる争乱で疲弊した人々にとって致命的な遅れにつながってしまうかもしれません」
ナイアルテが再び頭を下げて猟兵達を送り出す。
彼らに手渡した情報の中にある『セラフィム・リッパー』2号機。そのオブリビオンマシンの記載に彼女は嫌な予感を覚えながら、それでも猟兵達に『グリプ5』の命運を託し、事件の解決を願うしかなかったのだった―――。
海鶴
マスターの海鶴です。どうぞよろしくお願いいたします。
今回はクロムキャバリアにおいて、度々登場している『グリプ5』という小国家での事件の解決になります。
プラントの機能を停止させ、選挙している集団『第二次憂国学徒兵』からプラントを開放させるシナリオになっております。
キャバリアをジョブやアイテムで持っていないキャラクターでも、キャバリアを借りて乗ることができます。ユーベルコードはキャバリアの武器から放つこともできます。
ただし、暴走衛星『殲禍炎剣』が存在しているため、空は自由に行き来できません。
●第一章
冒険です。
プラントまでの道のりは『第二次憂国学徒兵』たちが敷設したジャミング兼幻影装置によって、プラント群までの道のりを簡単には進めないようになっています。
これらの障害をくぐり抜け、プラントへと迫りましょう。
●第二章
集団戦です。
『第二次憂国学徒兵』に参加している学徒兵たちがオブリビオンマシンである『ナイトゴースト』と共に出撃してきます。
彼らはオブリビオンマシンに触れたことによって心を歪められ、『第二次憂国学徒兵』の首魁である『ツヴァイ』の歪められた思想に感化されているだけです。
機体だけを破壊し、彼らを開放しましょう。
●第三章
ボス戦です。
『第二次憂国学徒兵』の首魁である『ツヴァイ』の駆る『セラフィム・リッパー』2号機との戦いになります。
彼女はアンサーヒューマンであり、ユーベルコードを操る相当な手練のパイロットです。
本来彼女は家族思いの若き女性です。様々な事件が起こったことに心を痛めています。厳しい面もありますが、基本的には優しい女性のようです。
家族だけでなく自国に住まう人々のことも気にかけているようで、エースとまでは呼ばれてはいませんが、内政の手腕によって彼女の名前を知らない国民はいません。
常に人の生活を第一に考える女性でした。
言葉や行動で彼女本来の思想や人柄、良心を一時的にでも呼び覚まし、動きを鈍らせることも可能でしょう。
オブリビオンマシンを破壊すれば彼女も無事に救出されます。
それでは争乱続く世界、クロムキャバリアにおけるオブリビオンマシンの暗躍によって歪められた憂国の徒たちを救う物語の一片となれますように、いっぱいがんばります!
第1章 冒険
『ジャミング地帯を索敵せよ』
|
POW : 突っ込んでいって自分の目で索敵する
SPD : 敵が潜んでいそうな場所を推測して索敵する
WIZ : 魔術や超能力など電子機器以外で索敵する
👑7
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴
|
キャバリア『ナイトゴースト』が『グリプ5』におけるプラント群へと至る道程にジャミング、幻影装置を敷設していく。
その手際は学生たちが行ったと言うにはあまりにも洗練されていた動きであり、無駄のない配置は彼らの言うところの『大人には任せてはおけない』という言葉の真実味を皮肉にも裏付けるものであった。
「何故、今このタイミングで……!」
『グリプ5』の首脳部は頭をかかえる。この小国家は先日から重なる最新鋭キャバリア暴走事故にはじまり、友好国であった『フルーⅦ』の侵略戦など様々な争乱が巻き起こっていた。
居合わせた猟兵たちのおかげで事態は収束しつつあったのだが……。
「ここに来て内乱とは……」
「言葉を慎め! こんなこと、他国に知れてみろ……! 『グリプ5』は良い餌場だ。ハイエナのように奴等、責めて来るぞ」
『第二次憂国学徒兵』。
それは嘗てこの『グリプ5』を興した学生たちに寄る連合の末裔であることを自称していることにほかならない。
「まさか本当に……くそ! これでは彼らの言うとおりではないか!」
今や『グリプ5』には残存するキャバリア部隊はほとんどなく、大半が『第二次憂国学徒兵』の学生たちが強奪して使っている。
プラントの生産が停止されてしまってからもう半日が過ぎようとしていた。一日稼働が停止するだけで、『グリプ5』の国民の生活は一気に損なわれてしまう。
「どうすれば……」
「傭兵を名乗る者たちがいます。彼らがこの事態を治めると……」
キャバリア技師であるヌルと呼ばれる女性が首脳陣たちへ伝える。
傭兵……つまるところ猟兵である。
彼らは先日の『フルーⅦ』の侵略戦にも突如として現れ、この国を救った。今はそれに欠けるしか無い。
猟兵達は皆、国家の許諾を得てプラントへと向かう。
だが、レーダーは効かず、ジャミングが常に起こっている状態だ。それに幻影装置まで持ち出され、視認する範囲でさえもマップと異なる様相を呈する。
この迷路の如き道を抜け、猟兵達は『第二次憂国学徒兵』が立てこもるプラントへと急行しなければならない―――。
ユーリー・ザルティア
さて、世間知らずの学生ちゃんたちに世間の厳しさを教えてあげないとね(注:14歳の若造)
目立つといけないから、まずは月面フレームφに換装っと。
驚かせ力…つまり認識しにくい隠密用フレームって訳。
地上を『悪路走行』『ダッシュ』で駆け抜けるね。
ジャミングには『ジャミング』で妨害工作の穴を突きつつ、『索敵』開始。
欺瞞情報は『瞬間思考力』で素早く判断して『レーザー射撃』でジャミング、幻影装置を破壊して進むわ。
優秀って言ってもしょせん学生。プロの怖さ思い知りなさいっと。
ああ、殺さないからゆっくり怯えなさい。うふふふふ…
ところであのキャバリア技師って大丈夫なの…色んな意味で(新型機の暴走事件を思い出しつつ)
『第二次憂国学徒兵』。
それは嘗て『グリプ5』が国として興る際の切っ掛けとなった者たちの行動をなぞることによって、己たちの正当性を訴える目的があったのだろう。
けれど、それは戦いの何たるかを知らぬ者たちが、誰かの尻馬に乗って事をなそうとする行為であり戦いの実情を知る者たちからすれば、『ごっこ』にしか過ぎないのだということを彼らはまだ知らない。
綺麗事は耳障りの良い言葉であるけれど、それが必ずしも良い結果ばかりを遺すものではない。この争乱が続くクロムキャバリアにおいては尚更のことであっただろう。
それから目をそむけている時点で彼らの語る『第二次憂国学徒兵』の名は、有名無実であると言えたことだろう。
「さて、世間知らずの学生ちゃんたちに世間の厳しさを教えて上げてないとね」
ユーリー・ザルティア(自称“撃墜女王”(エース)・f29915)は己のキャバリア、レスヴァントのコクピットの中で独り言ちる。
彼女自身も14歳という年齢であるのだが、重ねてきた実践というものが違う。経験が物を言う世界である以上、戦場の一年生とでは比べるべくもない。
彼女のキャバリアは今、月面フレームφへと換装を果たし、ジャミングや幻影装置のひしめくプラントへの道を走り抜ける。
彼女のキャバリアは今、驚かせ力……つまるところ、認識されずらく唐突に人を驚かせる力に特化した隠密用フレームを身にまとっている。
ジャミング装置や幻影装置と組み合わせた悪路を難なくアクロバティックに躱して駆け抜ける姿は、まさに月面のウサギのようであった。
「索敵開始―――欺瞞情報を沢山ばらまいて、こっちの認識を阻害しようっていうのが幻影装置ってことでしょう、ならさ!」
瞬間的に情報の洪水を読み取り、ノイズを弾き出す。
つまるところ、不協和音。
目に見える情報と聴覚から来る情報の差異。それが欺瞞された情報。
ならば、そこをつけばどうなるか。
レスヴァントに装備されたレーザーによって幻影装置を破壊する。
そこは一見するとなにもない通路のようであったが、それこそ巧妙に隠されていた幻影装置そのものであった。
「優秀って言っても所詮は学生。プロの怖さ思い知りなさいっと」
確かに学生たちは、その身分に反して優秀であった。
キャバリアを駆る以上、気がつけぬ死角や、そうあってほしくない、という所にトラップを仕掛ける技術は大したものだ。
だが、そこにあるトラップの仕掛け方は千差万別ではない。
誰か一人の考えに基づくものばかりだ。そういう色が見える。
ならば、それは学生たちが己達で培ってきた技術ではなく、統率する者の言いなりでしか無い……言わば。
「ワンマンチームってことね。なら、頭を潰せばいいってことでしょ」
まあ、でも殺さないからね、とユーリーは一応の目的をわきまえている。
倒すべき敵はオブリビオンマシンのみ。
機体の搭乗者はただオブリビオンマシンに心を歪められているだけだ。それが面倒であるとは思うけれど、無闇矢鱈に生命を奪うことこそがオブリビオンマシンの狙いでもあるのだから。
「ゆっくり怯えなさい。うふふふ……」
不敵に笑いつつユーリーは、ジャミングと幻影装置の罠だらけの道を踏破していく。
ただ、不安材料も在る。
今は考えなくてもいいことかもしれないが、あのキャバリア技師。ヌルと名乗った女性技師は大丈夫なのであろうかと彼女は思う。
先日の最新鋭キャバリア暴走事故『セラフィム・リッパー』の担当技師であった彼女にとって、今回の事件もまた『セラフィム・リッパー』が絡んでいる。
疑えばきりがない。
けれど、この疑心暗鬼こそがオブリビオンマシンの狙い通りであるのかもしれない……。
そんなことを思いつつもユーリーは仕事をきっちりとこなしていく。
目指す先にあるプラント施設。
今は、プラントを開放することだけに集中するのだった―――。
成功
🔵🔵🔴
ルイス・グリッド
アドリブなど歓迎
ここも災難だな、暴走に裏切り、今度は反乱か
今の状況を見て不安に思うのは当然だが、冷静な判断かといえば違うな
相手の腕がいいのは本当だな。場所が的確で厄介だ
今回は生身で義眼も使って進む
まずは【視力】【暗視】【聞き耳】【世界知識】を使い敵の位置を【索敵】
位置が分かれば【迷彩】【早業】【忍び足】【悪路走破】、必要なら【クライミング】【ジャンプ】も使い静かに近づいて銀腕を【武器改造】で剣の形状にし【先制攻撃】
敵に気付かれれば【戦闘知識】【瞬間思考力】を使って【見切り】【早業】で避けて【カウンター】で倒す
最新鋭キャバリア暴走事故。
友好国からの侵略戦。
それがこれまで『グリプ5』に引き起こされた事件である。それも日をそうおかずに連続して起こった事件故に、『グリプ5』の疲弊は火を見るより明らかであった。
「ここも災難だな、暴走に裏切り、今度は反乱か」
ルイス・グリッド(生者の盾・f26203)は、三度訪れた『グリプ5』の現状を思ってため息をつく。
災難。
災いの力を宿すメガリスの義眼を持つ彼にとっては、複雑な思いもあることだろう。こうも連続して起こった事件。
不安を煽るのもまたオブリビオンマシンの策略なのだとすれば、あまりにもピンポイントに『グリプ5』のウィークポイントを突いている。
まるで疲弊させることが目的であるかのようなオブリビオンマシンの暗躍。
「確かに今の状況を見て不安に思うのは当然だが、冷静な判断かといえば違うな」
まるで熱に浮かされているような雰囲気さえルイスは感じていた。
のぼせ上がったような頭で物事を考え、それが正しいことであると信じて疑わない。
自らを『第二次憂国学徒兵』と名乗るあたりがまさにそれであろう。
この『グリプ5』が国として興った切っ掛けとなった学生連合の名。それが『憂国学徒兵』である。
彼らの活躍合ってプラントを手に入れ、人々は国としての生活を甘受できるようになった。
今回も自分たちがそうであろうとするように心が歪められているのだ。
ルイスはキャバリアを降りて、生身のままプラントへ至る道を往く。プラントへの道程はジャミング装置や幻影装置によって的確に進路を妨害するように設置されている。
「大口をたたくだけのことは在る。腕がいいのは本当だな。場所が的確で厄介だ」
だが、装置の設置場所などは教科書どおりだ。
誰か一人の思惑が、組織全体を動かし、牽引している要因なのだろう。だとすれば、そこに他者の色が入り込む余地はない。
「だが、逆に読みやすい」
ルイスは駆け出す。
その殆どがキャバリア用に設置された罠ばかりだ。
確かに下手に動けば生身の人間でも引っかかるだろう。けれど、ルイスは普通の人間ではない。猟兵だ。
さらに義眼のメガリスによって暗視までも可能としているのだから、罠にかかる確立というものは、さらに低くなることだろう。
「―――あれが『ナイトゴースト』か」
ルイスの瞳には警邏しているであろうキャバリア『ナイトゴースト』の存在が移っていた。
学生たちが使っているキャバリア。
だが、今はかまっていられない。なるべく隠密にと、ルイスは行動している。どちらにせよ、この先にあるプラントへ向かえば否が応でもキャバリアを相手取らなければならない。
それよりも、プラントへの道すがら生身の人間を警戒している『第二次憂国学徒兵』の斥候を無力化することが大事だ。
「―――いた。やはり教本通りというところか」
キャバリアによる警邏、そして学生たちによる生身の斥候。皆、考えることは同じだ。忍び足で忍びより、彼らを剣の形状に変えた銀の腕で無力化する。
気絶した彼らを縛り上げ、安全な場所に転がしてからルイスは後にする。
「これで彼らも何者かが領内に入ってきたと知るだろう……どちらにせよ、他の猟兵達も向かっているであろうが……これで僅かにも時間をずらせることができたのなら、僥倖だな」
視線の先には機能を停止して半日のプラント。
あのプラントを開放し、すぐさま生産を開始させねば『グリプ5』の血脈とも言うべき国民たちの生活が立ち行かなくなる。
そうなれば連日の事件に続いて、国民の感情は不安に膨れ上がってしまうことだろう。
それはなんとしても防がねばならない。ルイスは義眼の瞳の奥で見つめるプラント、そのさきへと急ぐのであった―――。
成功
🔵🔵🔴
アリッセ・トードゥ
この状況で内乱と来たか。他国に撒き餌してる様なものだぞ。
『オブリビオンのせいでしょ?仕方ないよ』
AI兼OSのALICEに諭される。
一応レーダーやセンサーを確認。やはり役に立たない、か。この国で技術提供して貰ったジャマーは優秀だったな、そう言えば。
だったら私がレーダーの代わりになろう。コクピットから出て肩の上に立つ。機体の操縦はALICEに任せ自律行動させよう。
【フォースマスター】使用。
全方向に【念動力】を放つ。サイキックエナジーを使ったアクティブソナー。手応えがある物が実体だ。
更に、強化された【第六感】でプラントへの大まかな道筋を探る。
ALICEに情報を送り、マップと照らし合わせて進んで貰う。
「この状況で内乱と来たか。他国に撒き餌してる様なものだぞ」
アリッセ・トードゥ(BE-MADER・f30023)は三度事件に見舞われた小国家『グリプ5』の現状をそう表現した。
その言葉は真に迫っていたし、おおよそそのとおりである。ただし、撒き餌をしたのはオブリビオンマシンであって、『グリプ5』の首脳陣ではない。
彼らは被害者に他ならず、クロムキャバリアという世界において争乱の渦中にあるのだ。戦いが終結を迎えようとすれば必ずオブリビオンマシンが暗躍し、戦争の火種を撒いていく。
そうすることによって100年以上もクロムキャバリアは戦争状態が続いているのだ。
あの言葉を思い出す。
『平和という言葉なんてわからない』
知らないということを、この国の若者は知った。けれど、それは一握りの若者に過ぎないのだろう。
『オブリビオンのせいでしょ? 仕方ないよ』
キャバリアに搭載されているオペレーションシステムのALICEに諭され、アリッセは頭を振った。
確かに、と。その言葉と嘗てこの国の若者が放った言葉を合わせれば、それが如何にどうしようもないことか。
オブリビオンマシンは猟兵にしか知覚できない。
だからこそ、己たちが、猟兵が必要なのだ。
「一応レーダーやセンサーを確認したが、やはり役に立たない、か。この国で技術提供してもらったジャマーは優秀だったな、そう言えば」
すでにプラントへの道程には道筋をつけていたのだが、その尽くが役に立たないことを証明するだけにしか過ぎなかった。
それだけ優秀な人材が、このジャミングトラップの敷設を支持したということだろう。
加えて、彼女の機体に搭載されているフィジカルジャマーは幻影を投射するシステムだ。これもまた『グリプ5』から提供された経緯を考えれば、確かにこの手のトラップの精巧さには頷くところがある。
「だったら私がレーダーの代わりになろう」
そう言ってアリッセはコクピットから出てキャバリアの肩に捕まる。
「任せたぞ、ALICE」
自立機動へと移行したキャバリアが疾駆する。フォースマスターたる彼女にとって、念動力を用いた能力の汎用性は言わずもがなである。
全方向に放った念動力がサイキックエナジーと共に放出され、実際に立っている建物や物体から跳ね返ってくる反響の残滓によって物体の形や本来の道程を割り出す。
普通の人間であれば、それを知覚するのに特殊な才能が必要であったことだろう。けれど、彼女はレプリカントである。
全ての行動において精密精緻。あらゆる反響と残滓から割り出した本来の建物や道のりを全て正しく把握し、それを受け取ったOSであるALICEがキャバリアを自律行動によって進むのだ。
「いいぞ、その調子だ。次は―――」
次々とジャミング装置や幻影装置を躱し、アリッセは機体共々プラントへの道を踏破していく。
ALICEの情報統合能力は大したものである。
こちらから送るサイキックエナジーの反響と残滓、その膨大な情報を逐一処理し、機体を制御しているのである。
「今回は教本通りの優秀な者が相手でよかったな……学ぶことも多いが、正確ゆえに読みやすい……言ってしまえば優等生。だが―――」
エース足り得るための壁を突破するには値しない。
それがアリッセのプロファイリングした『第二次憂国学徒兵』の首魁の総評であった。
確かに優秀であり人望もあるだろう。
だが、それだけだ。
絶対的な『エース』と呼ぶには何かが欠けている。直感でしかないが、アリッセはそう感じる。
それが今回の事件においてどのような作用を齎すのか、そこまではわからない。
けれど、それでも迅速にプラントは開放しなければならない。プラントの停止によって脅かされる生命があるのならば、どれだけ高潔なる思想があろうとも、オブリビオンマシンの餌食になるだけだから―――。
成功
🔵🔵🔴
戒道・蔵乃祐
目的と手段が支離滅裂になっていますね…
グリプ5の公共医療機関もプラント停止の影響で、政情の破綻が今はまだ時間の問題だったとしても。インフラ障害の影響は事態を既に逼迫させている
たとえ故国の行く末を憂う志が起こした暴発だったとしても、今を生きる民を蔑ろにして憚らない行いに大義はありません
急ぎます。
◆
觔斗雲の術を使用
雷雲で地表を疾駆する空中戦+切り込み
方位は間違いないはずですが、そろそろ影響が出てくる地域に入りますか
突発的なクーデターであるならば、装置も仮設に留めているでしょう
雲から落雷を次々に投擲し、直撃地点に雷サージ電流を発生させ。接地したジャマーの回路を焼き切る事で幻惑効果を無効化して進みます
相次ぐ事件。不安定な情勢。
それは彼ら『第二次憂国学徒兵』たちの決起を早めるには十分な要素であったのだろう。彼らはプラントをキャバリアによって占拠しプラントの一基を停止させた。
遺失技術によって生み出された生産施設『プラント』。それは鋼材だけではなく食料すらも生み出す国としての要である。
それを一基止めるだけで国民の生活は立ち行かなくなるのだ。
「目的と手段が支離滅裂になっていますね……」
戒道・蔵乃祐(荒法師・f09466)か『グリプ5』に三度起こった事件の原因である『第二次憂国学徒兵』たちの要求を聞いて、その主張と目的があまりにも生産性がないことを嘆いた。
それもそのはずであろう。
この国の首脳部たちはこれがオブリビオンマシンによる策略であることを理解できない。知覚できないのだ。オブリビオンマシンを知覚できるのは猟兵のみ。
蜂起した『第二次憂国学徒兵』の学生たちがオブリビオンマシンによって、その思想を、心を歪められているなど彼らには理解できないのだ。
「『グリプ5』の公共医療機関もプラント停止の影響で政情の破綻が今はまだ時間の問題だったとしても。インフラ障害の影響は事態を既に逼迫せている……」
それはあまりにも悪手であった。
どれだけ彼らの主張が全うであったのだとしても、プラントを停止させて彼らが憂う国民の生活を困窮させることがあってはならない。
ハンガーストライキのつもりであるというのならば、それは己たちだけでなせばいいこと。それを他者にまで強いることのどこに正義があろうか。
「例え故国の行く末を憂う志が起こした暴発だったとしても―――」
蔵乃祐は觔斗雲の術(フライ)によって呼び出した雷雲に騎乗し、プラントへの道程を急ぐ。
この世界では暴走衛星『殲禍炎剣』の影響もあって高く飛ぶことは出来ない。さらに今回プラントへの道のりはレーダーをジャミングする装置や幻影を生み出す装置がひしめいている。
普通に雷雲に乗るだけでは当抵当はできないだろう。
「今を生きる民をないがしろにして憚らない行いに大義はありません!」
雷雲が放つは雷撃であった。
次々と落雷のごとく落ちる雷は、周囲にほとばしり、幻影装置が機械である以上影響を受けないわけがない。
例え耐性があったとしても絶え間なく断続的に放たれる落雷の前には無意味である。
「接地しているジャマー装置である以上、この放電からは逃れられませんよ」
アースなど対策をしているだろうが、それでもこれだけの落雷に晒されれば影響は否めない。幻影を投射していた装置が次々とダウンしていき、目の前にプラントへの道のりが開かれる。
「急ぎます」
雷雲に乗った蔵乃祐が低空飛行で建物の間を縫うようにすり抜けていく。
すでにプラントの一基が停止して半日が立っている。
国民たちの生活は一日でもプラントが停止してしまえば、どうしようもないほどの打撃を与えられてしまう。
それこそがオブリビオンマシンの策略の一つであり、目的であるのだろう。
この『グリプ5』は連日のようにオブリビオンマシンに狙われている。それは何か意味することがるのかもしれないし、ないのかもしれない。
「もしや、この思考すらもオブリビオンマシンの思惑の一つなのでは……いいえ、今は目の前の人々を救わねば」
頭を振って蔵乃祐は雷雲にのって飛ぶ。
目の前にはプラント群が見えてくる。事態は一刻も争う。思い悩み立ち止まっている時間は片時もないのだから―――。
大成功
🔵🔵🔵
才堂・紅葉
大人のやり方で行きましょう
熱に浮かされた学生と言えど一枚岩では有り得ません
カリスマの中心から外側にいる者は現状に不安を抱いている筈です
つまりは調略ですね
学生達の個人情報を【情報収集】し、ついで【野生の勘】と【戦闘知識】で彼等の装備や人員の配置を【見切り】
後は生身で潜入し、斥候の兵士を【忍び足、捕縛、グラップル】で確保します
「こんにちは、〇〇さん。この国は大変な事になっているわ」
事前の調査で学生達の個人情報は暗記している
【先制攻撃】で個人を特定し、集団と言う仮面を剥いで後は話合いだ
上層部の根回しで学生達の投降後の身分を保障し、国家の現状を理解させて協力者にしよう
これも【世渡り上手】と言う奴だ
いつの時代もそうだ。
革命を起こすのは、意志持つ者たちであり世界をより良きものに変えようとする者が先導に立つ。
けれど、それが必ずも善意だけで成り立つものではないことを人は知っているし、その周囲に集まるのもまた同じ志を持つものばかりではないことを。
今回の『グリプ5』の事件に限っているのであれば、それは猟兵たちにとっては少なくとも利するものであったことだろう。
『第二次憂国学徒兵』。
それは情勢が不安定な『グリプ5』において起こった反乱とも言うべき事件だった。
彼らはプラントを占拠し、プラントの一基を停止させた。それだけで国民生活は困窮してしまう。すでに半日が経ち、一日もプラントが停止した状態が続けば、さらに致命的な打撃を被ることだろう。
そうなってからでは国としての骨格が崩れ去るのと同じだ。
「大人のやり方で行きましょう」
そういうのは才堂・紅葉(お嬢・f08859)であった。彼女にとって『第二次憂国学徒兵』に参加している者たちが全て同じ思想を持っているわけではないと考えていた。
オブリビオンマシンによって思想を歪められた首魁―――そのカリスマによって学生たちが集まっては居るものの、そこにこそ隙があると考えたのだ。
「熱に浮かされた学生と言えど一枚岩ではありえません。カリスマの中心から外側にいる者は現状に不安を抱いているはずです」
それはオブリビオンマシンという存在によって成り立つ組織でも合った。
だが、オブリビオンマシンであるキャバリアは全ての学生たちにまで行き渡るほど数があるわけではない。
そうなると必然、『第二次憂国学徒兵』と言えるのは、オブリビオンマシンたるキャバリアに登場する者たちだけである。
ならば、他の学生たちは心が歪められていない。そうなれば、紅葉が為すことは一つである。
「そう、つまりは調落ですね」
『グリプ5』に存在するデータベースにアクセスし学生たちの個人情報を洗い出す。何故、紅葉がそんなことを可能であるかと言えば、世渡り上手(カネトコネ)であるからということでしかないのだが、様々な要因が絡んでいるので、これ以上は言うのは野暮であろう。
すでに紅葉の手元には『第二次憂国学徒兵』たちの情報があるのだ。
後は彼女にとってはお手の物である。生身で『第二次憂国学徒兵』たちの元へ向かう。
彼らはオブリビオンマシンたるキャバリアだけではなく、プラント周辺に斥候として生身の学生たちをも投入している。
そこから彼らに接触するのは簡単だった。
「はぁ……本当にこんなことで大丈夫なんだろうか……」
一人の男子学生をターゲットに絞る。キャバリアに触れていない学生であり、現状に不安をいだきつつも、その場の空気に流されやすい者。
周囲が『第二次憂国学徒兵』へ参加することに熱狂しているが故に、彼もまた流されるように参加していた。
「こんにちは、マルスさん」
紅葉は背後から彼を捕縛し、路地裏に引きずり込む。当然名前まで把握されていることに彼は驚き藻掻くが紅葉の捕縛術には敵わない。
「この国は大変な事になっているわね? 大事な妹さんの進路もままならない状況ではさぞ不安でしょう?」
紅葉は囁く。
それは決定的な情報であり、交渉材料でも合った。さらに言えば、ダメ押しでもある。自分のために誰かを裏切ることは憚られても、自分が大切に思う他者のためならば、他の誰かを裏切ることは容易である。
言ってしまえば、紅葉は裏切る理由を用意したすぎないのだ。
「―――……ッ!」
「ええ、だいじょうぶ。任せておいてください。上層部に根回しは私が。ただ、私をプラントまで無事に送り届けてくれればいいのです。ルートはあるのでしょう?」
紅葉にかかれば学生の一人を内通者に仕立て上げることは容易であった。
こうして紅葉はジャミングと幻影装置のないルートを確保することに成功し、彼を協力者として得ることができた。
「ま、これも世渡り上手という奴だ―――」
大成功
🔵🔵🔵
村崎・ゆかり
『第二次憂国学徒兵』ねぇ。あたしと同年代か。青臭い理想論にかぶれたくなるお年頃。ここは一つガツンと行かなきゃね。
さて、アヤメ。欺瞞、攪乱はあなたの十八番でしょ。それなら対抗策もよく知ってるはず。
幻影装置の対処、任せるわ。あたしは飛鉢法で鉄鉢に乗って付いていく。
仕掛けはセオリー通りで応用が出来てないってことだから、アヤメからしたら簡単に解除出来るもののはず。
あたしはブービートラップに自分が引っかからないよう、空中に浮かぶ鉄鉢を使う。
し、式神にばかり働かせて、自分は左団扇ってわけじゃないんだからね!?
そろそろ仕込みのある地帯を抜けそう? 事項了解。機甲式を出す準備を始めましょう。アヤメ、ありがと。
「『第二次憂国学徒兵』ねぇ―――」
その言葉は空に浮かぶ鉄鉢の上から聞こえてきた。
このクロムキャバリアの世界において空とは人類のものではない。高速で飛翔するものが在れば、暴走衛星『殲禍炎剣』によって容赦なく叩き落され、失墜する他ない。
故に空を飛ぼうとするのならば、必然的に低空飛行にならざるを得ない。
声の主である村崎・ゆかり(《紫蘭(パープリッシュ・オーキッド)》・f01658)にとって、それはストレスの溜まることではあったが、致し方ない。
さらにこれより向かうプラントまでの道のりはジャミング装置や幻影装置によって進路を妨害されるというのだから、如何ともし難い。
ユーベルコード、愛奴召喚(アイドショウカン)によって召喚された恋人にしたエルフのクノイチの式神・アヤメが先導する後を鉄鉢に乗ってついていっているのだ。
アヤメにとって、欺瞞、撹乱は十八番である。
それが忍び、クノイチの役割であるのだから当然であろう。こういった事態において、彼女の存在は非常に助かるのだ。
「彼らはあたしと同年代か。青臭い理想論にかぶれたく成るお年頃」
「そういうものでしょうか? 私にはよくわかりませんが……あ、そこ気をつけてくださいね。センサーありますから」
そう言って式神アヤメが首をかしげる。
彼女にとっては理想論であるとか、そういったたぐいのものはピンと来ないものであるのだろう。
「ま、ここは一つガツンと行かなきゃね」
理想だけでは腹は膨れない。
けれど、理想がなければ良くなるものもない。清濁併せ呑む。そういった気概もまた必要であろう。
それにしても、とアヤメが言う。
「教本通りといいますか、セオリー通りと言いますか……とてもきれいな罠を仕掛ける方々ですね」
彼女の言葉は尤もであった。
目立ちすぎず、けれど相手の視線やどのようにこれらをかいくぐるかまで計算した配置にジャミング装置が配されている。
ここまで見事に一人の色だけに染まった配置も珍しい。
「普通、ここまで見事に一人の色が出るのも珍しいんですけどね……」
この世界の人はみんなこんな感じなのかとアヤメは興味津々になりながらトラップを解除していく。
ゆかりはというと、鉄鉢に乗って後をついていくだけでいいのだから楽ができていい。なんとなし、誰に言われたわけでも、誰かに見られているわけでもないけれど、ゆかりは慌てるように周囲を見回す。
「し、式神にばかり働かせて、自分は左団扇ってわけ? とか思われないわよね? 大丈夫よね? そういうわけじゃないんだから!」
それにいたわることはちゃんとしているのだから、そういう意味ではちゃんと主従のことをしているのだと、ゆかりは自分を納得させる。
「もうすぐ抜けますよ。機甲式の準備、よろしくです」
「事項了解。準備するわ―――アヤメ、ありがと」
そう短く礼を告げるゆかり。
それにアヤメは微笑んで、いいえ、お安い御用です、と安全なルートを駆け抜ける。その先にはプラント。
あのプラントを占拠している者たちがいる。
すでにこちらのことも視認しているであろう。次に出てくるのはキャバリア―――オブリビオンマシンである。
彼らは素早く無力化させ、プラントの機能を再開させなければ、一日でこの国は致命的な打撃を被ってしまう。
それだけ遺失技術であるプラントが国家の礎となっている重要性がわかる。
「さって、のぼせ上がった頭を冷やしてあげましょうか!」
機動準備を終え、ゆかりが集中する。
対するキャバリアを打倒するために―――!
大成功
🔵🔵🔵
エミリア・ジェフティー
はー、これがオブリビオンの力…
「なんでこのタイミング?」って小競り合いを起こす国を幾つか見てきましたが、こういう裏があったんですね
…直近で2度も災難にあって、そこへこの事態
ここまで踏んだり蹴ったりだとちょっと同情しちゃいますね
程々に交戦データを取って帰ろうと思ってましたけど…うん、ちょっと頑張りましょうか
並のレーダーなら機能不全でしょうけど、
こちらの機体はあらゆる環境での情報収集行動を想定した環境耐性が施されています
当然、ジャミング環境下も考慮の内
カウンタージャミングで欺瞞効果を軽減して索敵しつつ、
オプティカルハイドで機体を隠して隠密に進みましょう
…いざという時は第六感をアテにします!
今まで不思議だと思っていたのだ。
何故、クロムキャバリアは戦争が集結すること無く……それこそ100年以上も戦争状態が続いているのかを。
遺失技術によって生み出された『プラント』を奪い合い、いくつもの小国家が生まれては潰えていった。
それは争いの歴史であるが、どこかで終結していてもおかしくないタイミングはいくらでもあったのだ。
例えば『憂国学徒兵』。
この小国家『グリプ5』の国家としての起こりは、『憂国学徒兵』と呼ばれる学生連合の決起だ。彼らは破竹の勢いで、それまで戦争をあちこちに仕掛けていた国家『サスナー第一帝国』を打倒していた。けれど、それで戦争は終結することはなかった。
帝国と呼ばれた国は分裂し、いくつもの小国家となって、再び争い始めたのだ。
「はー、これがオブリビオンの力……」
オブリビオンマシン。
それは人類に知覚できない猟兵によってのみ知覚できる過去の化身。
エミリア・ジェフティー(AnotherAnswer・f30193)は漸くにして往年の疑問が解けたのだった。
彼女の所属する研究都市では疑問に応えるものはいなかった。
「なんでこのタイミングで?って小競り合いを起こす国を幾つか見てきましたが、こういう裏があったんですね……」
彼女にとって、このような光景は一度や二度ではない。
何度も見てきたのだ。プラントの新造を目指す目的を持つ研究都市に所属する彼女は、猟兵として送り出されてはじめて理解した。
「……直近だけでも2度も災難にあって、そこへこの事態。ここまで踏んだり蹴ったりだと、ちょっと同情しちゃいますね」
本当は程々にオブリビオンマシンと交戦してデータを持ち帰るつもりであったのだが、彼女の心に芽生えた同情心がそうさせるのか、ちょとだけだけれで頑張ろうと思う気持ちが彼女の足をプラントへと向けさせるのだ。
すでにジャミング装置や幻影装置の所在は掴んでいる。キャバリア『セシャート』を駆る彼女にとって、このジャミングというものは問題にはならない。
彼女のキャバリアはあらゆる環境での情報収集行動を想定した環境耐性があるのだ。並の機体であれば機能不全に陥るであろう強度のジャミングであっても、彼女の機体であれば問題などない。
「ま、当然ジャミング環境下での行動も考慮のうち。さあ、研究都市の威信をかけて作られた多目的演算レーダーの力、思い知って頂きましょう」
起動した『オウルアイ』と名付けられた多目的演算レーダーが周囲の情報を集め始める。
それはカウンタージャミングとも言うべき機能を伴って、幻影による欺瞞をほつれた糸をほぐすようにモニターに映し出していく。
進むべきルートはすでに算出されている。
「念動球、形成。見えなくなりますよ!」
ダメ押しのオプティカルハイドによって念動球でもって己の機体を包み込み、完璧なる透明へと姿を変える。
物音や機体の温度は消せないことはしようがないが、それでもエミリアの持つ操縦技術と念動力が合わされば、この機体に気がつくことは至難の業であろう。
次々とトラップを突破していくエミリア。この機体であれば当然であろう。
情報収集を主な目的とするということは、此方は見えていても相手からは見えていないことが必須となる。
彼女に課せられた目的は猟兵、オブリビオン、未知の技術……ありとあらゆるデータの収集だ。
けれど、彼女のお人好しな性格は、それを押しのけてでも誰かを救おうとするだろう。それが欠点でもあり、長所でもある。
その意味に価値を見いだせぬ者もあろうが、彼女にとってはそれが全てを決する価値ではない。
「さあ、さっさと突破してオブリビオンマシンの情報を収集させてもらいましょう!」
正義感は人並み。自分の興味が優先である。
それは兵士としては三流であったとしても、猟兵としてはどうだろうか?
その真価がこれから問われようとしていた―――。
大成功
🔵🔵🔵
サージェ・ライト
お呼びとあらば参じましょう
私はクノイチ、世に潜み…胸が目立ちすぎて潜めないとかそんなことないもん!!(お約束
ふっ、やっぱりお約束は落ち着きますね!
シリカぁ(猫)?
冷めた視線やめて><
さて
シリカ、10フィート棒って知ってますか?
簡単に言うと
罠があるなら遠くから確認すればいいじゃない
というアイテムです
はい、正解!
私の10フィート棒はシリカ、君です!(猫、投擲)
シリカが罠を(自己犠牲の元)踏み潰してくれるので
私はその後を素早く移動していきます!
対遠距離攻撃用に【くちよせの術】で大きな盾を呼び寄せておきますね
やー、無事に抜けられました
シリカありが痛い痛い引っ掻かないでー?!><
※アドリブ連携OK
人の世の影にオブリビオンマシンの暗躍があるのだとすれば、人の世を希望の光で照らすのが猟兵である。
ならば、人は救いを求めるであろう。
跳梁跋扈するオブリビオンマシンの策略。その全てを打ち砕き、真に平和を求める心に応える者。それが猟兵である。
『第二次憂国学徒兵』たちの蜂起はオブリビオンマシンの暗躍した結果である。カリスマを持つ学生内の首魁がオブリビオンマシンに搭乗したことによって心を歪められ、その思想すらも歪めた上で何の生産性もない行為に及んだのだ。
それがプラントの停止である。
遺失技術によって生み出されたプラントは国家の礎である。プラントなくば国とはいえず、プラントがなければ荒廃した世界では生活すら立ち行かなくなる。
それだけ重要な施設を半日も停止させているのが『第二次憂国学徒兵』である。彼らは憂国の徒であるが、彼らが要求しているのは『グリプ5』の政権である。
もはや大人たちに任せてはおけないというのだ。
そんな彼らの暴挙を鎮めようと助けを求めた首脳陣の元へやってきたのは、サージェ・ライト(バーチャルクノイチ・f24264)であった。
「お呼びとあらば参じましょう。私はクノイチ、世に潜み…‥胸が目立ちすぎて潜めないとかそんなことないもん!! そんなことないもん! そんな目で見ないでください!」
もはやお約束。
様式美というやつである。ただ首脳陣の方々は、若干えぇ……て顔をしていたが。
だが、彼女はくじけない。めげない。
「ふっ、やっぱりお約束は落ち着きますね! シリカぁ?」
我関せずというように、キャバリア『ファントムシリカ』に宿る魂のアバターである白猫又の冷ややかな視線がサージェに突き刺さる。
すでに彼女は魂のアバターであるシリカと共にプラントを目指している。
道程はすべてジャミング装置によってレーダーは効かず、幻影装置によって目視も怪しいのだ。
これをどうにか突破し、プラントへと向かわねばならない。これからどうするのかとシリカが視線で訴えてくるが、サージェには考えがあったのだ。
「さて。シリカ、10フィート棒って知ってますか?」
唐突に何が始まるのだという風にシリカがかおを上げる。え、ダイス降るの? こんこんって手を突っ込む前に棒をつっこむの?
そんな瞳であった。
「そう、簡単に言うと罠があるなら遠くから確認すればいいじゃない。よく知っていますね、シリカ」
にっこり嗤うサージェを見上げ、シリカが嫌そうな顔をしたが―――。
「はい、正解!」
まだ何も言ってませんですけど!? とシリカが抗議の声をあげようとした瞬間、ひょい、と持ち上げられる。何を、と思った瞬間!
「私の10フィート棒はシリカ、君です!」
唐突の投擲。アバターである白猫又のシリカが宙を舞う。
言ってしまえば人身御供。シリカ、あなたの尊い自己犠牲は忘れない。そんな都合のいいことを言いながら、シリカが投擲された先にある幻影をすり抜けていく。
「しょーかんっ! かもんっ!」
くちよせの術(ナンデモデテクルベンリスキル)によって、ユーベルコードの輝きを放つ。
シリカが幻影装置の中に飛び込んだ―――投げつけられたとも言う……が、その隙に幻影装置のを撹乱する忍び道具『けむり玉』を大地に投げつける。
もうもうと煙が立ち込め、幻影を映し出している光の元……投射機の所在が知れる。
次の瞬間、投擲された手裏剣が幻影装置を破壊し、その大本となっている幻影が消滅する。
「はい、これで正しいルートができましたー! いきますよ、シリカ!」
そう言ってサージェが駆け出す。
幻影装置さえパスできるのであれば、サージェにとってジャミング装置は意味を為さない。あとは駆け抜けてしまえば、プラントまでは一直線である。
「や、無事に抜けられまし―――あたたた! シリカありが痛い痛いひっかくのはやめて、やぶけちゃう!」
涙目になりながら、アバターである白猫又のシリカにガリガリ引っかかれるサージェのドタバタ珍道中は愉快に進むのだった―――!
大成功
🔵🔵🔵
セルマ・エンフィールド
〇生身
私も故郷では体制に立ち向かう側なので、その一点には共感を覚えますね。
が、やり方には賛同できません。
最終的な目的は体制を壊すことでも自分が支配者になることでもなく、より人の暮らしをよくするためでしょう。それを見失っているのであれば、止めさせてもらいます。
ジャミングは問題ないとして……周囲の把握は目視頼みですし、幻影は無視できませんね。ですが、実体のない幻影ならば……
【絶対氷域】を使用、半径90mを冷気で覆います。実体のある物は凍るでしょうが、実体のない幻影は凍らずそのまま、これで幻影とそうでないものの把握はできます。
後は幻影で隠されている道を進んでいけばプラントへたどり着けるでしょう。
『第二次憂国学徒兵』たちの掲げる主張は、学生の身分ながら大人たちからの脱却を掲げるものであった。
確かに言っていることは憂国……今の『グリプ5』の現状を憂いてのことであろう。それは、セルマ・エンフィールド(絶対零度の射手・f06556)にとっても在る種の共感、シンパシーを齎していた。
「私も故郷では体制に立ち向かう側なので、その一点には共感を覚えますが……やり方には賛同できません」
彼女の出身世界。
ダークセイヴァー。吸血鬼の支配が続く常闇の世界。そこもまた人々に強いられる隷属が存在する。セルマはそれに抗う者の一人である。
なればこそ、『第二次憂国学徒兵』の掲げる現状を己たちで打破しようという気概には共感できたのだ。
だが、彼らが掲げる主張、思想とは別に彼らの行動はあまりにも支離滅裂であった。
遺失技術によって生み出されたプラント。
それは鋼材や食料など様々な物資を生み出す国家の礎である。プラント無くば国家とは言えない。それ故にクロムキャバリアではプラントを奪い合う戦争が100年以上も続いているのだ。
そのプラントを一基停止させてしまえば、半日と言えど、国民の生活に影響が出てしまう。
「最終的な目的は耐性を壊すことでも、自分が支配者に成ることでもなく……より人の暮らしを良くするためでしょう。それを見失っているのであれば……」
本来であれば、そうした考えを彼らは持っていたのだろう。
誰かのために立ち上がる気持ちを持つ者たちなのだ。だからこそ、その心を、思想を歪めたオブリビオンマシンは許してはおけない。
「……止めさせてもらいます」
セルマは駆け出す。
クロムキャバリアにおいて主戦力は鋼鉄の巨人キャバリアだ。
けれど、セルマは生身のままプラントを目指す。それは彼女にとってキャバリアは必要であるとは言えないものであるからだ。
猟兵として、その力は超常そのものである。生身でキャバリアを打倒することさえも彼女は可能としている。
それにジャミング装置があるのだとすれば、生身の彼女には影響などない。
「後は幻影装置……これは無視できませんね。ですが、実態のない幻影ならば……」
そう、彼女にとってプラントへの道を妨害しているのは幻影を投射し、建物の位置関係や通路などを隠蔽する幻影装置のみ。
それさえクリアできれば、プラントへの道筋はわかるのだ。
幻影装置は様々な建物や、他の罠と混在して設置されている。嘗てのセルマがそうであったように、獲物を狩る師匠に教わったようなお手本のような罠の工作と設置であった。
この妨害を支持した『第二次憂国学徒兵』の首魁は余程優等生であるように感じられた。
だが、それだけだ。
セルマには怖さが感じられなかったのだ。
「この領域では全てが凍り、停止する……」
彼女を中心にして絶対氷域(ゼッタイヒョウイキ)が広がる。
それは超常の力―――ユーベルコードである。全てを凍てつかせる絶対零度の冷気が放たれ、周囲を覆っていく。
セルマの目の前で冷気があらゆるものを凍結させていく。
彼女の冷気によって凍結しないものは少ない。
彼女の力郎であれば炎すら凍結させてしまうかもしれないが、この場において彼女の冷気の影響を受けないものが一つだけある。
「そう、幻影は冷気の影響を受けない。実態のない幻影は凍らずそのまま……これで幻影とそうでないものの把握はできます」
そして、幻影で隠すということは、それが本来のプラントへと至るルートである。
どれだけ精密精緻に隠蔽されていたとしても、ユーベルコードの力の前には暴けぬものなどない。
「オブリビオンマシンによって歪められた心、熱に浮かされような逆上せた頭があるというのならば、頭を冷やしてあげましょう」
幸いにセルマは物を冷やすことに長けている。
彼女の歩みの先にプラントが在る。セルマは悠然と、優雅に幻影に隠されたルートを進むのだった―――。
大成功
🔵🔵🔵
ジーノ・エヴァーソン
※アドリブ歓迎
学生連中の抱え込みかー。
昨日の今日でもう一騒動とか、厄介な連中(オブリビオン)に目ぇ付けられたね。
ま、これも食い扶持だしな。任務了解。
ダブルでトラップとはまたご丁寧に…
ここはアナログで行く。ミサイルポッド【Atlas】に予め搭載した〈暗号作成〉用の発煙弾を発射。煙を上げ直進して、着弾の破裂時に煙を周囲に巻き上げるヤツだ。
通り道の判別、流れる煙から幻影・壁の看破…。攻撃用誘導弾はあまり使えなくなるが、これを繰り返して進む。勿論装置は見つけ次第破壊していく。
「通路ヨーシ。はい幻影ヨーシ。」
熱に浮かされた若い力という物は、時として途方も無いほどの力を伴ってうねりのように時代を動かすこともあろう。
けれど、それはいつだってあたら若い生命力の消費を意味する。
方向性が定まっていればこそうねりとなって時代を動かすこともあろう。支離滅裂なる思想のもとではただの時間の消費に他ならない。
だからこそ優れた先導者が必要である。
「学生連中の抱え込みかー」
それが『グリプ5』における『第二次憂国学徒兵』の蜂起を見たジーノ・エヴァーソン(Xeno_Fire・f30003)の率直な感想であった。
傭兵として彼は生活している以上、この争いこそが食い扶持である。他者から見れば戦場に巣食うハイエナのように映るかも知れない。
猟兵として覚醒した今でもそれは変わらない。これまで出会ってきた数多の生命だったものが己の轍の後に転がっている。
振り返れば、それが如何なる意味を持つのかを知っている。なかったことにはならない。
「昨日の今日でもう一騒動とか厄介な連中に目ぇつけられたね。ま、これも食い扶持だしな。任務了解」
飄々とした態度でグリモア猟兵からのブリーフィングを終えたジーノはキャバリアに乗り込む。
どれだけ世界のために戦う戦士として選ばれたと言われても、変えられないものはある。それを人は芯であったり、信念と呼ぶこともある。
停止したプラント。
その言葉が何を意味するのかジーノはよく知っている。
荒廃した世界においてプラントとは生命の糧だ。それがなければ国は国として機能しない。だからこそ力を求め、版図を広げようとする人間にとってプラントは必要不可欠な国の礎だ。
「半日も止まってるって事態がもう異常事態だよな……ま、おかげさまで食い扶持にありつけてはいるんだが、一日も保たないってとこが辛いところだな」
仕事は正確迅速に。
ジャミング装置に幻影装置。ご丁寧にセオリー通りのきれいなトラップのし掛け方であるというのがジーノの印象だった。
傭兵ぐらしが長いが故に理解できる。これは優等生の模範通りのトラップ設置技術だ。
並の傭兵であれば、これで煙に巻くことが出来ただろう。
だがジーノは『並』ではない。
「ここはアナログで行く……オーバーブースト・マキシマイザー。連想型多弾頭ミサイルポッドセット」
普段は信号弾などに使われる弾頭を使って発煙弾を放つ。
機体が浮遊し、スラスターを吹かせば一気にプラントへの道を低空飛行で飛ぶ。着弾と同時に煙幕が焚かれ、周囲におびただしい量の煙が充満する。
「建造物が乱立しているのであれば、必ず空気の流れが生まれる……なら流動する空気が流れ込む場所が生まれる。煙幕は姿をくらますだけじゃねーぞ、優等生!」
一気に駆け抜ける。
センサーは未だ死んでいるようなものだが、確実にモニターに映る幻影に違和感が生まれる。
確かに建造物が立ち並んでいるのに空気の流動が起こっていない。
「そこか、なら……幻影を設置しているのはそこか!」
キャバリアが手にしたライフルで幻影装置を破壊する。
投射していた幻影装置が破壊されれば、幻影は姿を消し、隠しておきたかった場所……つまるところプラントへの道程が現れる。
「通路ヨーシ。はい幻影ヨーシってな!」
低空飛行で滑空するようにキャバリアが飛ぶ。
確かに『第二次憂国学徒兵』たちの行動は国を思ってのことであったのだろう。けれど、それを歪めるのがオブリビオンマシンである。
彼らの心に打算はなかったのかもしれない。
けれど、歪められてしまった熱量が生み出す悲劇はジーノにとって知るものであったことだろう。
いつだってそうだ。
だれもが自分が正義の側であると信じている。人は正しいことを愛するがゆえに、自分もまた愛する。
だからこそ、間違える。
「なら、その熱量、もう少しマシな使い道があるってことを押してやらねぇとな!」
モニターに広がるプラント。
あれを開放し、熱に浮かされた彼らの頭に冷水をぶっかけてやるのだ―――。
大成功
🔵🔵🔵
トリテレイア・ゼロナイン
こうも立て続けにオブリビオンマシンの脅威が迫るとは…
100年もの戦乱が続く世界であると改めて思い知らされます
このようなことが繰り返され、一体幾つの国が戦いに突き進み滅びたのか…
騎士として、ウォーマシンとして、滅びを齎す機械の跳梁を許しはしません
キャバリア用欺瞞装置…確かにロシナンテⅣにも影響は認められますね
ですが、SSWのウォーマシンへの対策はどうでしょう
ワイヤーアンカーでの有線●ハッキングで遠隔●操縦するキャバリアの随伴歩兵として先行
UCで自身への電子干渉を弾きセンサーの●情報収集で偽装や幻影を●見切り突破
一番性能が高いセンサーは私自身
敵との交戦を避け速やかに奥地へ向かいます
小国家『グリプ5』。
それは争乱続くクロムキャバリアにおいて度々オブリビオンマシンによる事件が頻発している小国家である。
「こうも立て続けにオブリビオンマシンの脅威が迫るとは……100年もの戦乱が続く世界であると改めて思い知らされます」
トリテレイア・ゼロナイン(紛い物の機械騎士・f04141)は、ウォーマシンたる己の存在意義と矛盾する想いに電脳の揺らぎを感じながら、『グリプ5』が今置かれている状況に如何なる思いを浮かべたことだろうか。
彼にとって戦いとは己の存在理由である。
戦いをなくす、戦いを終わらせるために戦うという矛盾を抱えながらも猟兵として、騎士として振る舞うのは、彼にとって命題そのものであった。
現状、『グリプ5』は最新鋭キャバリア暴走事故から始まった友好国からの侵略、そして今回の内乱とも言える『第二次憂国学徒兵』の蜂起。
そこに絡んでいるのがオブリビオンマシンの存在だ。
「このようなことが繰り返され、一体幾つの国が戦いに突き進み滅びたのか……」
そう、騎士として、ウォーマシンとして、滅びを齎す機械の跳梁を許すことはできない。
トリテレイアは己の乗機である『ロシナンテⅣ』と有線でリンクした状態で、宛らキャバリアの随伴歩兵として先行する。
本来騎士と騎乗する馬は一心同体。そして、それに随伴する騎士もまた存在するのだが、今回に限って言えば主であるトリテレイアが随伴するという異例の事態であったが、トリテレイア自身はさほど気に留めていなかった。
むしろ、式典・要人護衛用銀河帝国製ウォーマシン(トリテレイアシリーズ・シリアルナンバーゼロナイン)として存在する彼にとっては、ある意味で此方が本来の仕様であるとも言えたのかもしれない。
「キャバリア用欺瞞装置……確かにロシナンテⅣにも影響は認められますね」
彼の直結した電脳内に映し出される映像はロシナンテⅣのアイセンサーから送られてくる情報だ。
それと完全なる電子干渉をシャットダウンした己のセンサーとの差異を感じるのだ。もしも、キャバリアに搭乗したままであれば、トリテレイアでさえも騙されていたことであろう。
「ですが、スペースシップワールドのウォーマシンへの対策は取れているとは言い難いですね……」
このトラップの仕掛け方は在る種の様式美を伴っていた。
乱暴な言い方をすれば教科書どおりの型にはまった所作。そこに面白みはなく、ユニークさもなければ、設置したものの揺らぎも感じられない。
人間相手には、これで十分すぎるほどの効果が得られようが、型にはまらぬ……いわゆるエースと呼ばれる人材には遠く及ばない。
「……一番性能が高いセンサーは私自身。やはり、異世界の技術に対する対抗策は殆どないと言っていいでしょう。教本通りに、という方であるのならば尚更」
ウォーマシンという人型のキャバリアより小さい機械が動くということ事態が彼らにとっては脅威そのものなのだ。
センサーで幻影とジャミングを突破し、トリテレイアはプラントへの道程を進む。
彼の視線の先にはプラントがあった。
すでに機能を停止して半日。
たった半日の供給が止まるだけで国民の生活に支障がきたす。さらに一日でも停止してしまえば、それだけで『グリプ5』のインフラは致命的な打撃を受けてしまう。
「なるべく迅速に。それでいて周囲に被害を出さずに……なるほど、確かに我々の出番のようですね」
学生たちのあたら若い命。
それはオブリビオンマシンによって熱量を歪められてしまったとは言え、今後の『グリプ5』を支える屋台骨となる存在だ。
どうにか彼らを救い出さなければならない。
そのためにある障害、それがオブリビオンマシンである。かの戦いを生み出す火種を蒔く存在を破壊せねば、コレを切っ掛けに『グリプ5』は益々戦火の中へと突き進み、取り返しのつかない事態に陥ってしまう。
「それはなんとしても避けねばなりません……それは彼らもわかっているはず」
ならば、騎士として。
傭兵でもなければ、戦機でもなく―――。
大成功
🔵🔵🔵
大町・詩乃
この国は立て続けにオブリビオンによる被害を受けているのですね。
誰かが仕組んでいてもおかしくは無い状況ですが、先ずは人々の困窮を救う為、今回の事件も解決せねばなりません!
生身で向かいます。
(詩乃と契約を結んだスーパーロボットはいますが、まだ詩乃の神社に安置中です。)
UCにて鳥や小動物や蝶等を神の使いとして召喚。
詩乃の進路上にある装置やトラップを探してもらいます。
見つければ影響を受けない遠距離から【衝撃波・貫通攻撃】でピンポイント破壊。
尚、詩乃自身は【空中浮遊・自身への念動力】で少しだけ地上から浮いて、ふわふわ~っと空中を移動します(地中の地雷対策)。
皆が笑い合う未来をもたらす為、頑張りますよ!
クロムキャバリア。
それは争乱が続き、鋼鉄の巨人が戦場を闊歩する世界である。すでに戦争状態に入って100年以上が経過しており、あらゆる小国家が戦いに巻き込まれ生まれては消えていった。
『グリプ5』もそうした小国家の一つである。
その成り立ちは100年以上前の戦争を端に発し、学生連合による蜂起―――『憂国学徒兵』たちが興した国であると言われている。
それをなぞるように先日からの最新鋭キャバリア暴走事故、友好国からの侵略戦など情勢が不安定になった頃合いに『第二次憂国学徒兵』と呼ばれる彼らが蜂起し、国の礎であるプラントを占拠、その一基を停止させてしまうという事件が起こったのだ。
「この国は立て続けにオブリビオンによる被害を受けているのですね……誰かが仕組んでいてもおかしくはない状況ですが、まずは人々の困窮を救う為、今回の事件も解決せねばなりません!」
そう意気込む大町・詩乃(春風駘蕩・f17458)は、『グリプ5』の現状を憂いていた。
国としてのあり方もそうであるが、何よりも国とは人の集合体である。その彼らの生活がプラント停止によって困窮してしまうというのであれば、彼女には見過ごせぬ事実であった。
単身プラントへの道程を走る詩乃。その周囲を飛ぶのは鳥や小動物、蝶である。
その姿は見るものがあれば、童話か神話の再現のように思えたことだろう。
神使召喚(シンシショウカン)。それはアシカビヒメの名によって召喚―――つまるところ、神たる詩乃の求めに応じた眷属神たちである。
彼らの協力の下、彼女の進路上にあるトラップや幻影装置を探索し始める。
装置の殆どはキャバリア、対人用のものばかりである。だが、小動物や蝶などの神の御使いには効果があるはずもない。
「このようなトラップの仕掛け方に対する感想として正しいのかどうかはわかりませんが……とても美しいものですね。教科書どおりと言えばいいのでしょうか」
詩乃が感じたことは他の猟兵達も感じたことであろう。
一分の隙もないトラップ配置。
けれど、それは型にはまった美しさであり、大胆さに欠けるものであった。
だからこそ、神の御使いたる眷属神たちの行動までは読みきれない。
そもそも彼らが相手取る者が神そのものであるとは、夢にも思うまい。だからこそ、詩乃は生身の単身であってもトラップを踏破できるのだ。
「そこですね―――ハッ!」
薙刀を振るい、眷属神たちが見つけたトラップを振るった衝撃波で破壊する。
ふわりと空中に浮遊し、自身の念動力で地上から離れて道を急ぐ。考えすぎかも知れないが地雷や対人用のトラップがないとも言い切れない。
念には念をいれておくにこしたことはない。
鋼鉄の巨人、キャバリア。
詩乃が奉られている神社にも彼女自身が契約を果たした神像……スーパーロボットが存在しているが、このクロムキャバリアと何か関係があるのだろうか。
そんなことに詩乃は思いをはせながらも、見えてきたプラントの姿を認め、駆け出す。
困窮した国民たちの顔は昏かった。
それは信仰を糧とする神たる詩乃にとっては、胸の痛む光景であった。植物を司り、豊穣を齎す神である彼女にとって、人の笑顔こそが信仰の光以上に掛け替えのないものであるからだ。
ならば、その昏き顔を照らすのが己の、猟兵としての役目である。
「皆が笑い合う未来を齎す為、頑張りますよ!」
眷属神たちも同じ気持ちでるのだろう。
張り切るように飛んだり跳ねたりをしながら、詩乃を先導していく。おそらくここからが本当の正念場だ。
熱に浮かされ、心を捻じ曲げられた青少年たちの駆るキャバリア―――オブリビオンマシンが待ち構えているのだから―――!
大成功
🔵🔵🔵
月夜・玲
えーっとね…
うん、えっと…
なんどめだグリプ5
いやごめん覚えてる
2度ある事は3度あるって言うもんね
暴走、侵略、内乱…
実績コンプでも出来そうじゃん
あと何か1号機って言う厄ネタが聞こえたけど、私聞いてなーい
●
チャリで来た!ってやりたかったけど、時間掛るしバイク借りてこ
プラントまでの道筋と周囲の地図データを『情報収集』して端末に入れといて
まずはちょっと幻影装置を弄りに行こうか
幻影装置を『メカニック』技能でちょっと弄って解析…
基本的には同型が設置されてるんだろうから、逆位相で打ち消せないかな?
必要で持ち運べそうな部分だけ切り離して、I.S.Tに接続して使用
疑似とはいえ、異世界の邪神パワーなめんなよー
オブリビオンマシンは猟兵にしか知覚できない過去の化身である。
彼らは自身に搭乗した者の心を、思想を歪める。そうすることによってクロムキャバリアという世界において、絶え間ない争いの火種を蒔き続けるのだ。
その火種が咲かせる戦火は、人々の心を荒ませ、途切れない戦争を生み出す。それが俗に言う100年戦争とも言われる長きにわたる戦乱の歴史でもあった。
「えーっとね……うん、えっと……」
月夜・玲(頂の探究者・f01605)は、小国家『グリプ5』に降り立ち、プラント停止によってごった返す人々の騒動を見下ろしていた。
彼らは皆プラントが停止したことによる電力の供給や食料や物資の不足によって右往左往しているのだ。
たった半日だけでもこの有様である。
一日以上この状況が続けば国民の生活は破綻してしまうことは間違いない。
「なんどめだグリプ5。いやごめん覚えてる。二度あることは三度あるって言うもんね」
少し茶化したのは彼女自身の茶目っ気によるものだろう。
どうしてか憎めない様子であるのが不思議なところである。
「暴走、侵略、内乱……実績コンプでもできそうじゃん」
ゲームのトロフィーのように積み重なっていく嬉しくない実績解除。こんなことある? と玲は小首をかしげる。
「あと何か1号機っていう厄ネタが聞こえたけど、私聞いてなーい」
聞こえなかった。玲は何も聞かなかった。そうであれたら一番楽であったのだけれど、そうも言ってられないのが猟兵の辛いところである。
「チャリで来た!ってやりたかったけど、時間かかるしね」
時間があるのだったら自転車でプラントまで駆けつけていたのだろうか。やりかねない。彼女なら。生命の埒外にある猟兵の中でもさらにある意味で埒外にある彼女ならば。
そうさせるだけの不思議な自信に満ちあふれている。
自動二輪の端末にプラントまでの道筋と周囲の地図データを入力し、バイクで駆け出す玲。
目指す先はプラントであるのだが、まずは彼女のメカニックとしての知的好奇心が幻影装置にへと駆け出させる。
「ふふふふん、ふふふふふん♪ ってあれか」
何か3分でクッキングできそうな鼻歌が聞こえたが気の所為だった。普通の人間であれば、彼女の目の前に広がっている光景が幻影であるとは思えないだろう。
普通の建物だ。
けれど玲にはもうわかっている。目の前の光景が幻影装置によって投射された偽りの建物であると。
「はんはん、なるほどね。こういう作り……なら、投射してる装置は……そこだー!」
玲は目ざとく幻影装置を見つけ、あちこち弄り回す。
メカニックとしての技量が在れば、この程度の機械を弄り回し、解析するなどお手の物である。
「なるほどわかった!」
基本的に幻影装置は同型のものが設置されているであろう。さらに几帳面にも教本通りの設置方法。
なら、後はそこから引っ掻き回すのが玲だ。
「逆位相で打ち消せるよね、これだと。お手本通りのマニュアル通り……基礎も大切だけど、応用も大切だよ、学生さんってね」
幻影装置を切り離し、自身の持つ模造神器へと接続すれば、疑似的にとは言え異世界の邪神の力を宿すことのできる模造神器に逆位相で打ち消すことなどできないわけがない。
「疑似とは言え、異世界の邪神パワーなめんなよー」
放たれる位相パターン。
逆波長が放たれれば、周囲には映し出されていた幻影が尽く霧散して消えていく。
これで玲は幻影に惑わされることなくプラントまでたどり着くことができる。これがマッドと言われるサイエンティストや悪辣なる手を使う者が設置したのならば、ここまで上手くは行かなかったことだろう。
「ま、これも優等生ならではの弊害ってやつだよね。ブレイクスルーにはまだ遠いってやつ」
玲はバイクを走らせ、プラントへと向かう。
この先に彼女の求める厄ネタな存在が座しているのだから―――。
大成功
🔵🔵🔵
アレクサンドル・バジル
流石、百年争乱の世界。次から次へと飽きさせねーな。
今回は第二次憂国学徒兵?
プラントを占拠してね。国を人質にして国を憂うってギャグかな?
まあ、オブリビオンマシンの影響とは言え黒歴史決定だな。
スルトに搭乗。黄金の魔力を纏い、高めた魔力で広範囲に雷を放ち(範囲攻撃×属性攻撃:雷)で幻影装置やトラップを破壊しながら真っすぐにプラントに向かいます。
学徒兵が邪魔してきた場合は生身にしろキャバリアにせよ殺さぬように配慮しながら排除して進行。
(生身は弱い電撃で麻痺。キャバリアは四肢破壊して戦闘不能後にやはり操縦者を麻痺)
こそこそ行く必要はねーさ。(学徒兵やキャバリアは)早いか遅いかの違いでしかねーよ。
クロムキャバリアの戦争状態は長きに渡って継続され続けている。
それは幾千もの小国家がひしめく状況であるがゆえに、絶えず何処かで砲火が交えられ、戦火がくすぶりつづけているからだ。
その戦争は100年戦争とも揶揄されるほどである。しかし、クロムキャバリアの人々が平和を望まないわけではない。
彼らは常に平和を求めている。平穏な世界、日常。それを求めて止まず、戦う理由も殆どの場合が平穏なる日常を手に入れるためだ。
けれど、それは殆どの場合終わることはない。これまで何度もあったのだ。戦争が終結しようとする瞬間が。
だが、戦争は終わらない。
なぜなら、常にオブリビオンマシンが暗躍し、戦争を継続させるために暗躍し続けているからである。
「流石、百年争乱の世界。次から次へと飽きさせねーな。今回は『第二次憂国学徒兵』?」
聞き慣れない言葉にアレクサンドル・バジル(黒炎・f28861)は乗機であるオブリビオンマシン『スルト』のコクピットの中で長い両足をモニタに投げ出しながら、今回の事件の概要を読み返していた。
国家の礎たるプラント。
それを占拠し、生産を停止させている集団の名が『第二次憂国学徒兵』である。彼らは憂国の徒であり、これまで『グリプ5』に起こった事件……最新鋭キャバリア暴走事故、友好国の侵略などによる情勢の不安定さを顧みた学生たちが大人にはもう任せておけぬと蜂起した結果だった。
「そんでプラントを占拠してね。国を人質にして国を憂うってギャグかな? まあ、オブリビオンマシンの影響とは言え、黒歴史決定だな」
確かに支離滅裂なる行動だ。
口では憂国。けれど、行動は国自体を害する行為だ。彼の言う通り冗談であろうとしか思えない愚行だ。
漆黒のオブリビオンマシン『スルト』が戦闘モード Ⅰ(ディアボルス・ウーヌム)へと移行し、その機体を黄金の魔力で包み込む。
その魔力が放つは雷である。
搭乗者であるアレクサンドルのほとばしる魔力が『スルト』を介して、周囲に放たれ続けている。
「どちらにせよ、今回もオブリビオンマシンが絡んでるんだろう。なら、子供を嗜めるのも大人の仕事ってな―――!」
プラントへの道筋を一気に駆け抜ける。
幻影装置やジャミング装置が設置されているのならば、その尽くを破壊してしまえばいい。
学徒兵たちの抵抗があるのならば、電撃の前にはすぐさま無力化されることだろう。いちいちかまってはいられないが、かと言って不要に傷つけるのもまたアレクサンドルの意には沿わない。
オブリビオンマシン『スルト』の黒き威容は、圧倒的な速度でもってプラントへと駆け抜ける。
「慣らし運転ってやつだ。こそこそ行く必要はねーさ。学徒兵だろうがキャバリアだろうが……」
彼の目の前に立つ以上、それは障害でしかない。
ならば、それは結局の所。
「早いか遅いかの違いでしかねーよ」
学徒兵出会っても、どのみち、この騒動が収まれば様々な取り調べがあるのだ。それもまたオブリビオンマシンの策略の一つであるかもしれない。
だが、その思惑にわざわざ乗ってやる必要もない。
アレクサンドルは不敵に笑い、その激しい情動のままにプラントへの道筋を一気に『スルト』と共に駆け抜ける。
黒き漆黒の機体は、黄金のほとばしるような雷撃を撒き散らしながら『第二次憂国学徒兵』たちの抵抗など無意味であると言わんばかりに疾駆するのであった―――。
大成功
🔵🔵🔵
菫宮・理緒
『セラフィム・リッパー』まだあったんだ。
それにしても3機ともオブリビオン化するなんて、運のない機体ではあるね。
それともオブリビオンマシン化する理由があるのかな?
鹵獲できればそのあたりも調べられそうだけど、難しいかなぁ。
【ネルトリンゲン】で出撃して、みんなのフォローをしていきたいなって思ってるよ。
早くは飛べないから、ゆっくり前進していくね。
後方から【ハッキング】と【ジャミング】を駆使しつつ、
【等価具現】も使いながら、妨害電波や幻影を打ち消していこう。
できるなら逆にこちらからフェイクやデコイの情報を送り込んで、
相手を攪乱し、みんなの突入をフォローできたら嬉しいな。
「電脳戦なら、負けないよ!」
最新鋭キャバリア『セラフィム・リッパー』。
それは先日の暴走事故によって3号機が友好国の最新型キャバリア『ブレイジング・バジリスク』とすり替わっていたことによって露呈したことによる友好国との関係にヒビを入れた切っ掛けの機体である。
1号機は他国のスパイと内通者によって強奪されてしまっているが、2号機は3号機の結果を受けて封印処理されていたはずだった。
「『セラフィム・リッパー』まだあったんだ……」
菫宮・理緒(バーチャルダイバー・f06437)は報告書に記載された事項を読み上げて、その事態の深刻さに息を呑む。
『第二次憂国学徒兵』。
それは学生たちが自らそう名乗ったものである。彼らは続く情勢の不安定な『グリプ5』の現状を憂いて行動し、プラントを占拠した。
その目的は政権と主導の譲渡であるが、すでにプラントの一基を停止させ、生産活動に支障をきたしているのだ。
「やってることと言っていることが支離滅裂……でも3機ともオブリビオンマシン化するなんて……運のない機体ではあるね。本当になんでなんだろう?」
オブリビオンマシン化する理由があるのかもしれないと理緒は疑っていたが、真相は未だ闇の中だ。
鹵獲したいと考えてはいるが、パイロットと共に2号機が『第二次憂国学徒兵』の元にあるのであれば、それも難しいだろう。
「今は目先のことから、だよね。まずはプラントを開放しなきゃ」
そう言って理緒はミネルヴァ級戦闘空母『ネルトリンゲン』を低空飛行でゆっくりとした速度で飛ぶ。
このクロムキャバリアにおいて空を高速で飛ぶということは自殺行為である。暴走衛星『殲禍炎剣』によって撃ち落とされてしまうからだ。
故に本来の空母としての強みを引き出せないままであるが理緒はこの『ネルトリンゲン』の性能とユーベルコード、等価具現(トウカグゲン)のちからによって他の猟兵たちがプラントへと至る道筋に仕掛けられた罠……ジャミング装置や幻影装置を切り抜けるための手助けをしようとしていたのだ。
「足が遅いのが何店だけど……後方支援も大切なことだよ。さあ、同位、検索……具現化シークエンス起動。はじめようか」
ユーベルコードの力によって電脳世界の情報から具現化したジャミング装置と幻影装置を生み出す。
この装置を使って同じ波長をぶつければ、相殺され打ち消される。
そうすれば、猟兵たちの行動は随分と楽になるはずだ。なぜなら、『第二次憂国学徒兵』たちの仕掛けた罠は、この二つだけだ。
余程自信があったのだろう。
「でもまだまだ経験不足だね。やってることは優秀なんだけど……でも、優秀だらこそ、この手には動揺するはず」
理緒は更にフェイクやデコイの情報を流し込む。『第二次憂国学徒兵』たちの通信網は即座に理緒によって流された偽の情報に翻弄されて、斥候に出ていた学徒兵たちが戸惑っている様子が『ネルトリンゲン』のモニターに映し出される。
「混乱しているね。これならみんなの突入をフォローできる。後はキャバリアが出てくるはずだから……」
ここからが正念場である。
このクロムキャバリアにおいて主戦力はキャバリアだ。彼らが力を持ってことを為そうとするのであれば、必ずキャバリアという力を持ち出してくる。
けれど、戦いとはキャバリアだけで決するものではないことを異世界を渡り歩く猟兵達は知っている。
「電脳戦なら負けないよ!」
理緒の戦いはこれからが本番だ。
双方ともに犠牲を出させない。これがオブリビオンマシンの策略に寄るものであるのならば、尚更犠牲者は出させない。
それこそがオブリビオンマシンの狙いであるのならば、それを打ち砕くのが理緒の為すべきことだから―――。
大成功
🔵🔵🔵
第2章 集団戦
『ナイトゴースト』
|
POW : パラライズバレット
命中した【RSキャバリアライフル】の【特殊弾】が【エネルギー伝達阻害装置】に変形し、対象に突き刺さって抜けなくなる。
SPD : ゴーストミラー
【両肩のシールド】で受け止めたユーベルコードをコピーし、レベル秒後まで、両肩のシールドから何度でも発動できる。
WIZ : 装甲破砕杭
対象の攻撃を軽減する【電磁装甲モード】に変身しつつ、【手持ち式パイルバンカー】で攻撃する。ただし、解除するまで毎秒寿命を削る。
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
|
「あのジャミング地帯を突破された……? そうですか、わかりました」
『第二次憂国学徒兵』の首魁である『ツヴァイ』は冷静に報告を受けて、プラントに座すキャバリア『セラフィム・リッパー』の前で号令を待つ学生たちへと振り返った。
彼らは皆、『グリプ5』を憂いている。
不安定な情勢、終わらぬ戦い。見果てぬ平和という虚像めいたものへの憧れ。何もかもが頼りない時代であるからこそ、自らの手でつかみ取ろうとする気概が在るものたちばかりだった。
「首脳部はどうやら私達の意を理解していないようです。ならば、やるべきことは一つ。彼らが雇った傭兵たちを打倒し、我々がどれだけの決意を持って立ち上がったのかを知らしめましょう」
彼女の号令によって学生たちは次々とキャバリア『ナイトゴースト』に乗り込んでいく。
彼らは皆学生とは言え、キャバリアを使っての戦闘を学ぶ学生たちだ。実践の経験は浅くとも、その戦闘技術、キャバリアを乗りこなす技量だけはそこらのならず者たちとは一線を画する。
「戦いを。良き戦いをしましょう。これが国の礎になる戦いであればこそ、我々は身命を賭すのです。散っていった生命のために。紡ぎましょう。戦いの歴史を。続く歴史の鎹となるのです―――!」
アンサーヒューマンである『ツヴァイ』が膝をついたキャバリア『セラフィム・リッパー』の差し出した掌に乗る。
彼女の瞳はもはや、他のだれの目にも触れぬ。
その瞳在ったのは狂気でもなければ、欲望に塗れていたわけでもない。ただ、哀切だけがあった。
「そうでしょう……ドライ、フィーア……そうでなければ、あなた達が散ってしまった理由さえも、意味のないことになってしまう。それが、私は許せない」
その呟きは誰の耳にも入ること無く消えていった。
けれど、これから起こる戦闘は覆せない。次々と『ナイトゴースト』が飛び出していく。あのジャミング地帯を抜け出した傭兵―――猟兵たちが迫っているのだ。
倒さなければならない。
あれがただの傭兵ではないことは理解している。
滅ぼさなければ。
滅ぼさなければ。
滅ぼさなければ。
「ええ、滅ぼしましょう。私の敵を。それが私の存在理由なのですから」
その瞳は、狂喜に歪んでいた。その瞳に映るのはオブリビオンマシン『セラフィム・リッパー』の双眸だけだった―――。
月夜・玲
あーまあね、思考がねじ曲げられてるから仕方ないんだけどさ
バッカでーホントバッカでー
こんなご時世憂うのは仕方ないけど
それをするのは大人の役目
学生はモラトリアムを楽しみなさいな
だから私は君たちと良い戦いなんてしてあげない!
君達はこれから理不尽なやつに理不尽に負けるんだよ
●
【アームデバイス起動】
圧縮空間より外装転送、一部機能解放
副腕でその辺の固そうな柱引っこ抜いて武器に
ナイトゴーストの膝関節に叩きつけて体勢を崩さする
90tはないよねこいつ
じゃあ柱を捨てて体勢を崩した機体の両足を掴む
そしてミュージックスタート
野球場っぽい音楽をかけながら、他の機体に叩きつけるよ
バットもボールも君達だ
楽しい野球の時間だよ
「パラライズバレット装填完了! 敵傭兵は手強い。訓練通りやればだいじょうぶだ。俺たちはできる!」
『第二次憂国学徒兵』に参加していた学生のパイロットがキャバリア『ナイトゴースト』のコクピットで僚機たちと声を掛け合う。
彼らはエースではない。
また実践豊富な歴戦の兵士でもない。それを彼らは正しく理解していた。何百時間にも及ぶシュミレーター訓練、過酷な肉体訓練。それらの全てを叩き込まれ、今戦場に立っている。
「敵キャバリアの数はわかっていないが、首脳部が雇った傭兵だ。油断はできない。各自連絡を取りながら―――ん?」
ナイトゴーストのアイセンサーが動体を感知する。
モニターのカメラがズームアップしていく。その先にいたのは一人の生身の女性であった。
「な―――……! 生身、だと……? 斥候は何をしていたんだ!?」
彼らは動揺する。
なぜなら、彼らの敵は常にキャバリアである。生身の人間ではない。だからこそ、動揺したのだ。
あれが敵であるのか、それともただ迷い込んだだけの一般人であるのか誰も判別できなかったからだ。
「あーまあね、思考が捻じ曲げられてるから仕方ないんだけどさ」
その正体は月夜・玲(頂の探究者・f01605)であった。
彼女は心底がっかりしたような表情をしていた。残念で仕方ない。そういうかのようであった。彼女はメカニックである以上に、一人のサブカルマニアでもある。
世界にはもっと楽しいことがあるのだ。
学生とはそのための猶予期間だと彼女は考えている。だからこそ、『第二次憂国学徒兵』の蜂起を引き起こし、それに参加する学生たちの考えは愚かだとしか言いようがない。
「バッカでーホントバッカでー……」
それは罵るというよりも、何か別の感情が動いているようでも在った。
国を憂う。
他者を思う。それを否定はしない。けれど、と思うのだ。キャバリアに乗るパイロット達は皆、年若い者たちばかりだ。
戦争に成れば、彼らの誰かは必ず死ぬ。一人か、二人か、それとももっと多くか。
それが戦争だ。
どれだけの美辞麗句で着飾ろうとも、人の生命が戦争という自称の歯車にしかならぬことを玲は知っている。
だからこそ、言うのだ。
「こんなご時世を憂うのは仕方ないけど、それをするのは大人の役目。学生はモラトリアムを楽しみなさいな」
玲は胸を張ってキャバリアと対峙する。
常人の発想ではない。到底敵うべくもない鋼鉄の巨人を前にして、ここまで威風堂々とした態度を取れる女性が居ていいはずがない。
「デバイス転送。動力直結。攻勢用外部ユニット、起動完了」
アームデバイス起動(アームデバイスキドウ)を告げる音声が響き渡る。圧縮空間より外装が展開され、巨大な腕部が玲の背中に現れる。
それは新たに増えた二本の腕。
絶大なる力を誇り、あらゆるものを掴んで持ち上げることのできる圧倒的なる力である。
「だから―――」
「こ、この女……な、なにかおかしい……! 今、ここでやらなければ―――!」
パイロットたちは気がついていない。
彼女が何であるのか。けれど、彼らが搭乗するオブリビオンマシンは知っている。あれが何物であり、己達に滅びを齎す者であることを知っている。
あれは―――。
生命の埒外に在る者。
猟兵である。
放たれるパラライズバレットの弾丸の雨。
それは生身の人間に向けていいものではない。けれど、彼らはオブリビオンマシンの衝動のままにトリガーを引いた。打ってしまった。その感触だけが彼らの心を更に歪める。
「だから私は君達と良い戦いなんてしてあげない!」
パラライズバレットの弾丸によって巻き上げられた砂塵が晴れた瞬間、そこにあったのは、巨大な構造物の柱を引きちぎるようにして引っこ抜いたアームデバイスが、盾にように銃弾防いでいた光景であった。
玲の赤い瞳がユーベルコードの輝きを灯す。
「君達はこれから理不尽なやつに理不尽に負けるんだよ」
投げはなった構造物の柱。
それがナイトゴーストのアンダーフレームの関節部に衝突し、一機が転倒する。
「ふふん、こいつ90トンはないよね―――ならさぁ!」
玲の体が跳ねる。転倒したナイトゴーストの両足を掴む。唐突に流れる音楽。ミュージック!
謎の波乱万丈な人生を送るような壮大なミュージックと共に玲が笑う。理不尽に笑うのだ。人生は理不尽に塗れているけれど、おとなになるってことはこんなに楽しいことなのだと、大人代表として笑うのだ。
「野球、ベースボールと洒落込もうか! バットもボールも君達だ。楽しい野球の時間なだよ!」
アンダーフレームを掴み上げたアームデバイスが唸りを上げて、ナイトゴーストの一機をバットのように他の機体に叩きつける。
ボールのように跳ねるキャバリア。
あまりの衝撃に関節がもげるも、気にしない。叩きつけ、引きちぎりる。
それは生身の人間がキャバリア相手にできていい芸当ではない。まさに理不尽。破壊の権化。
暴力の嵐だった。
「あはは! これが理不尽ってやつさ! 勉強になったかい?」
超常の人。
それが今、ナイトゴーストのパイロットたちの目の前にいる。あれだけの破壊を齎しておきながら、コクピットは一つも潰さず、破壊されたキャバリアから這い出るようにしてパイロットたちが脱出する。
そして、彼らは見ただろう。
赤い瞳を輝かせ生身の単身でキャバリアを破壊する理不尽の象徴を―――。
大成功
🔵🔵🔵
戒道・蔵乃祐
勝手なことを…!
死者は何も語ったりはしない
ただ、生き残った者達に想いを託すのみ
そして散っていったうら若き生命達が、故郷を戦禍に落とし、同胞達の暴走を望んでいたはずが無い
世を儚み、自棄になった人生を破滅的に終わらせる事で歴史の愚かさを証明するか
そんなヒロイズムはどうでもいいわ!!
勝手に殉死したいのなら、此方は無理矢理にでも生き恥を晒させてやる
悔しければ、自分の手の届く範囲だけでも平和を実現してみせろ!愚図が!!
◆
早業+ジャンプで機体に飛び付き、限界突破の怪力とグラップルで装甲を引き剥がす
抵抗は絡繰偽巧・鬼の爪で駆動部、間接部を早業で切断して武装解除
コクピットからパイロットを引き摺り出し。気絶攻撃
すでにプラントをめぐる猟兵とオブリビオンマシン化したキャバリア『ナイトゴースト』を駆る『第二次憂国学徒兵』との戦端は開かれていた。
ただし、彼らが想定していたキャバリア同士の戦闘ではなく、生身の人間単身との戦いになるとは彼らは思ってもいなかった。
「こ、これでは、狙いが……! ゴーストミラー展開! 『あれ』を止めろ……! これでは散っていった仲間たちに顔向けができ―――があっ!?」
キャバリア、全高5mの鋼鉄の巨人が傾ぐ。
展開された両肩のシールドは有効的に使えば、敵の攻撃をそっくり反射できる機能を持っている。
だが、それはキャバリア同士の場合だ。生身の人間がキャバリアに襲いかかってくる……ましてや、それが機体を傾がせるほどの威力を伴って放たれる拳であるなど誰が思うか。
「くそっ、出鱈目だ! こんなことがあっていいのか! 各機、奮起せよ。我らが今立たねば、死んでいった者たちが浮かばれない」
「勝手なことを……!」
その声は確かに目の前のモニターに映る憤怒の形相を浮かべる男から響いた。
その表情は仏敵に相まみえる力士そのものであり、その威容はあまりにも恐ろしかった。怒りに震えていた。
「死者は何も語ったりはしない。ただ、生き残った者達に想いを託すのみ。そして散っていったうら若き生命たちが、故郷に戦禍を落とし、同胞たちの暴走を望んでいたはずがない」
それは静かな声であったけれど、確かに怒りに震えていると『ナイトゴースト』のパイロットたちは感じていた。
何をそんなに怒る必要があるというのだ。
これは自分たちの戦いであり、散ってい行った者たちへのせめてもの手向けであるというのに。
それがオブリビオンマシンによって歪められた行動の結果だと知らないのだ。だからこそ、彼らは疑問に思い、単身生身で襲い掛かる筋骨隆々たる偉丈夫を恐る。
そう、戒道・蔵乃祐(荒法師・f09466)の内心は荒れ狂っていた。
これほどまでに純粋なる若人がオブリビオンマシンによって心を歪められて、暴走してしまうという事実に。
オブリビオンマシンの策動、策略、その尽くが人身を乱し、人の心を弄ぶものばかりであった。許されるわけがない。
彼らの純粋なる思いが利用されている。
それが我慢ならず、次々と『ナイトゴースト』のオーバーフレームに飛び乗り、仕込み篭手から射出される刃によって打倒していく。
その姿は獅子奮迅の活躍であり、鬼神のようでもあった。
「世を儚み、自棄になった人生を破滅的に終わらせる事で歴史の愚かしさを証明するか!」
蔵乃祐が咆哮する。
歴史は繰り返す。人の愚かさを伝えるためには、人は一歩間違えれば奈落へと落ちる存在であると知らしめるほかない。
だが蔵乃祐は救世救道の戒律を捨てた身であり、悪僧。
だからこそ吼えるのだ。それを亡き戦友たちが望むかと。その身勝手な思いが、オブリビオンマシンの策動が、歪めた心が―――。
「そんなヒロイズムはどうでもいいわ!!」
一喝する。
どうしようもないほどの感情が蔵乃祐を支配する。
これほどまでに俗世は争いに満ちているのかと。クロムキャバリアの現状を憂うと同時にオブリビオンマシンへの怒りが増幅されていく。
「わ、我々が立たねば、誰かがやらねばと―――!」
彼らの言葉は蔵乃祐には届かない。一顧だにすることはない。なぜなら、その言葉は、思いはすでに歪められたオブリビオンマシンの言葉にほかならないからだ。
そんなことに耳を貸す気はない。
放つ、絡繰偽巧・鬼の爪(ヒドゥンブレード)がコクピットの装甲を引き剥がす。
人間にできていい芸当ではない。
力任せに『ナイトゴースト』のコクピットがこじ開けられる。
そこにあったのは、悪鬼羅刹の如き形相の偉丈夫。悲鳴が上がった。殺す覚悟も、殺される覚悟もあったはずなのに。それでもその羅刹の如き蔵乃祐の表情を見て悲鳴を上げてしまった。
コクピットから引きずり出され、蔵乃祐が吼える。
「勝手に殉職したいのなら、此方は無理矢理にでも生き恥を晒させてやる。悔しければ―――!」
それは如何なる想いであったことだろうか。
生きてほしいと誰かが願った代わりに吠えたけるようでもあった。誰も己のために死せる者を望まない。
だとすれば、蔵乃祐の咆哮は彼自身の咆哮でもあり、死せる誰かの咆哮でもあったのだ。
「自分の手の届く範囲だけでも平和を実現してみせろ! 愚図が!!」
その一喝と共にパイロットを気絶させ、放り投げる。
憤怒の形相は収まらない。
この惨状を裏で糸引くオブリビオンマシンの存在が在る限り、彼はとりつかれたように戦い続けるだろう。
鬼の咆哮が、戦場に轟き続ける。それはまるで死せる者の慟哭を思わせるようであった―――。
大成功
🔵🔵🔵
アリッセ・トードゥ
レーダーで敵群の配置を捉える。やはり教科書通り、か。なら読みやすい。
【フォースレイヤー】でミサイルを【一斉発射】。数百の【誘導弾】を全て個別に【念動力】で遠隔操作。AIとの並列処理思考による、アンサーヒューマン並の【瞬間思考力】で操る。
回避や防御機動も計算したチェスの様な複数のミサイルの動きでコクピット以外を破壊し行動不能に。
同時にスラスター全開、AIによる自律操縦で敵陣のど真ん中に【推力移動】。自分のミサイルの雨に自ら飛び込むのは予想出来まい。
UCによるコピー対策だ。ミサイルランチャーを装備している機体があったとしても、ここで強化された弾を撃てば味方を誤射する。
自分達の未熟さを知ってくれ。
戦いにセオリーとドクトリン、メソッドがあるのだとしても、それがそのとおりに成るとは限らないのが実践である。
こればかりはどれだけ言葉を尽くしても体感しなければ伝わるものではない。かと言って、それが実感できたとしても兵士としてものになるか否かはわからない。
結局の所、戦いの中で確実なものなど何一つ無く混沌の如き確立の入り乱れる不安定なさなかにあって、己という自我を保つことができる者と生き残った者だけが、正しいのだ。
アリッセ・トードゥ(BE-MADER・f30023)は己の乗機―――CZ-1=カスタムを駆り、プラントへと急行する。
他の猟兵たちの活躍によってジャミング装置は全て無効化されている。重力波を用いたレーダーも既に復旧している。
「あれが『ナイトゴースト』か……あのシールドが厄介だな」
敵群の配置はレーダーで既に判明している。
あのトラップの配置と同じ教科書どおり、セオリー通りの優等生の布陣だ。訓練であれば褒められたものであるが、ここは実践だ。
それも彼らが望んだ戦場である。
「その布陣で来るのであれば、読みやすい。先手を打たせてもらうぞ、優等生たち! ロックオン……ファイア!」
放たれるミサイルランチャー。一斉に投射されたサイルの群れ、数百という膨大な数の誘導弾が個別に念動力によってコントロールされ、弾幕を張る『ナイトゴースト』のライフルの弾丸を躱して飛ぶ。
「な、なんだこのミサイル……俺達のライフルの弾を、躱しているのか!?」
ありえない。
どれほど技術が優れようと、進歩しようと高速で飛翔する弾丸を狙って交わすように誘導できることなどできようはずもない。
また、それが念動力によってコントロールされているなど考えることもできないだろう。
それを可能としているのが搭載AIであるALICEとテレパシーによって思考を連動、並列処理思考によるアンサーヒューマン並の瞬間思考力によって可能にしているのだ。
それは言わば疑似アンサーヒューマンとも言うべき能力であったことだろう。
「くっ、総員防御態勢―――な、に
……!?」
シールドによってミサイルの雨を防御しようとした『ナイトゴースト』のパイロットたちは今度こそ予想だにしない光景を目の当たりにする。
それは自らが放ったミサイルの雨の中を飛ぶアリッセのキャバリアの姿であった。スラスターが全開に噴いて飛ぶ姿は稲妻のような軌道を描いて飛ぶ。
「ALICE、敵機の回避、防御パターン。並列処理! その間隙を突く!」
予想できない動きでアリッセのキャバリアが空を舞う。
それはまるでチェス盤の上を舞うバレリーナのようだった。理詰めで計算されつくした挙動。
敵機である『ナイトゴースト』の挙動をも計算に入れた、美しき機動はそう表現するに値するものであった。
「これは予想できなかったようだな……生命までは取らない。だが、その機体からは降りていただく!」
ミサイルが次々とナイトゴーストたちの機体を打つ。
爆風が吹き荒れ、オーバーフレームが破壊された機体がアリッセのキャバリアが飛ぶ後に残されていく。
彼らは決して弱くはない。
むしろ兵士としては優秀な部類に入るだろう。アリッセと彼らの明暗を分けたのは、実践経験の差であろう。
機体性能の差もそれほどあるわけでもない。
それほどまでに実際の戦争を経験した者と、そうでないものとでは雲泥の差である。
「生命のやり取りを楽しむでもなく、同僚たちの期待に応えるばかりでもなく―――戦争とは如何なるものか。それを、自分たちの未熟さを知ってくれ」
例えそれがオブリビオンマシンによって歪められた結果だったとしても、彼らにはまだ未来がある。
可能性があると言ってもいい。
争乱が続く世界であったとしても、彼らの経験が今の時代に平和を勝ち取ることができなくても、次代に繋ぐことができる。
「間違えてもいい。けれど、立ち上がり方を間違えてはならない」
彼らが間違えるの在れば、何度でも自分たちが立ちふさがる。止める。
今回のプラント強奪もそうだ。アリッセは周辺に展開した『ナイトゴースト』たちを沈黙させ、パイロットの無事を確認した上で再びスラスターを噴かせる。
まだ倒さねばならないオブリビオンマシンがいる。
今回の事件の首魁。
『グリプ5』をめぐる争乱の発端ともなった機体の名を冠するオブリビオンマシンを目指すのだった―――。
大成功
🔵🔵🔵
村崎・ゆかり
世界は美しくなんてない。だからこそ愛おしい。あなたたちにそんな詞は分かるかしら?
さあ、出番よ。GPD-331『迦利(カーリー)』。(二度目以降は『迦利』のみで可)
器物覚醒で使役して、戦場の空を舞う。
「全力魔法」で先端に「オーラ防御」を張って、そこに不動明王火界咒を発動させる。
炎の楔、受けるがいいわ。
突撃までに「レーザー射撃」の「制圧射撃」による「弾幕」で足止めして、足の止まった機体から炎の楔を突き刺すわ。
降伏勧告よ。あなた達、そのキャバリアから降りてきなさい。あとのことは悪いようにはしない。
ま、これで言い訳は立つわね。少々の怪我は覚悟してもらいましょう。
『迦利』、あなたの舞を見せてちょうだい。
「世界は美しくなんてない。だからこそ愛おしい。あなたたちにそんな詞は分かるかしら?」
その言葉はあまりにも残酷な言葉だった。
美しいことが正しいことだと思うのであれば、それは世界の否定に繋がるだろう。けれど、世界には白と黒があるように対極に位置するものが必ず存在する。
汚いものも美しいものも、共に世界を構成する一部であると認められないのであれば、それは視野を狭めるだけでなく、人の心の有り様すらも乏しくさせるものであったことだろう。
GPD-331『迦利』と共に村崎・ゆかり(《紫蘭(パープリッシュ・オーキッド)》・f01658)は空より舞い降りる。
逆三角形の機体は器物覚醒(キブツカクセイ)によって式神が表するkとによって自由自在に操ることのできる付喪神へと?化している。
「さあ、出番よ……!」
空を舞う『迦利』の鋭角に先端にオーラを纏い、炎が噴出する。
それは言わば炎の楔であった。放たれる突撃は並のキャバリアの機体の装甲であれば貫いてしまうことであっただろう。
けれど、『ナイトゴースト』は電磁装甲によって装甲を強化する。
「硬い……! けど、それって機体に負荷を掛けるやり方でしょう!」
「だからどうした! 私達は戦うことを義務付けられた存在だ。世界は美しくなんてない? 当たり前だ! この世界の何処に美しさが在る! 戦い、戦い、戦いだらけの世界の何を愛せというのだ!」
『第二次憂国学徒兵』のパイロットたちは『ナイトゴースト』の手にした手持ち式パイルバンカーで『迦利』の機体を跳ね上げる。
それは慟哭めいて聞こえたのはゆかりの気のせいであっただろうか。
世界は美しくなんてない。
その言葉は確かに的を射ているであろう。
残酷で理不尽で。何一つ自由などない。けれど、だからこそ愛おしいと思えるのは、それは人が幸せであるからに他ならない。
今はオブリビオンマシンによって心を歪められている学生たちに、それを解する心はないだろう。余裕だってない。
争いが続き、『平和』というものでさえ知らず虚像のようにしか思えない。そんな彼らに言葉は届かないのかも知れない。
「けれど、それでもと―――炎の楔、受けるがいいわ」
空に打ち上げられた『迦利』が『ナイトゴースト』の頭上からレーザー射撃で足を止める。
風を切る音がして、『迦利』の機体が空を舞う。
反転した機体はあまりにも鋭かった。鋭角には炎が巻き起こり、それは炎の楔、槍のように『ナイトゴースト』の電磁装甲をきしませる。
「一度でその装甲が破れないのなら!」
放たれるレーザーが電磁装甲を焼く。反射するレーザーがあたりに撒き散らされ、砂塵を巻き上げる。
あまりの熱量に電磁装甲がダウンし、通常装甲に戻った瞬間『ナイトゴースト』のオーバーフレームごと『迦利』の鋭角が貫き、吹き飛ばす。
「降伏勧告よ。あなた達、そのキャバリアから降りてきなさい。この後のことは悪いようにはしない」
そうゆかりが告げる。
けれど、それを聞き入れる『第二次憂国学徒兵』ではないことは、ゆかりが一番理解していた。
次々と電磁装甲を展開する『ナイトゴースト』たち。
骨が折れる。思春期……いや、反抗期というやつかも知れない。
「いいでしょう……ま、これで言い訳は立つわね―――」
その紫の瞳がユーベルコードに輝く。
それは彼女が想定していた範囲に彼らの行動が収まっていたこと、そして、一応の勧告はしたという事実だけが残る。
後は、彼女のやり方次第だ。
「少々の怪我は覚悟してもらいましょう」
掲げる手に応えるように『迦利』が舞い飛び、ゆかりの背後から反転し垂直に鋭角から吹き出る炎と共に空を駆ける。
「『迦利』、あなたの舞を見せてちょうだい」
炎吹き荒れる戦場に、一機のキャバリアが飛ぶ。
それは炎を受けて煌めくような綺羅星のように。美しくない世界に在るからこそ煌めく星のように。
どこまでも残酷に『第二次憂国学徒兵』の歪んだ心を貫くのだった―――。
大成功
🔵🔵🔵
ルイス・グリッド
アドリブなど歓迎
子供が戦いをするか、未来ある子が戦死なんてしたら衰退しかないだろうに
不安だろうが学ぶ時だ、ずっと戦争なんて出来ないんだからな
SPDで判定
俺のキャバリアを呼び出して戦闘
攻撃されたら【早業】【操縦】【悪路走破】などで回避
その後、【迷彩】で遮蔽物に隠れて相手を【視力】【暗視】で確認
藍の災い【重量攻撃】をUCで付与した弾丸を【スナイパー】【クイックドロウ】【先制攻撃】【全力魔法】を使用して撃ち込み【2回攻撃】で連射、相手の武装を破壊する
必要なら【救助活動】でパイロットを助け出す
戦いしかない世界。
それがクロムキャバリアという世界である。もうずっと100年以上も戦争状態が継続した世界というのはルイス・グリッド(生者の盾・f26203)にとっては想像を絶するものであった。
嘗て『セラフィム・リッパー』の暴走の折、パイロットの少年は言った。
『平和なんて知らない』
それを虚像であると思うのは、あまりにも当然の帰結であった。
「子供が戦いをするか……未来ある子が戦死なんてしたら衰退しかないだろうに」
それは異世界を知るルイスだからこそ言える言葉であったことだろう。
クロムキャバリアに置いて戦争とは日常である。戦わなければ明日の糧を得ることもできない。
いつか戦いが終わると信じて戦うしかなく、その願いはいつだってオブリビオンマシンによって妨げられ、潰えてきた。
その数は幾千万とも言えないだろう。どれだけの血が、どれだけのあたら若い生命が喪われたのか。
次々とプラント施設からキャバリア『ナイトゴースト』が飛び出してくる。
彼らは此処に迫る傭兵―――つまりは猟兵たちを迎え撃つべく迎撃の態勢を取ったのだろう。ジャミング地帯が抜けられた事実に即座に対応している。
これもまた教科書通りであり、迅速な対応は見事であるとも言えた。
『フォーメーションを崩しな。傭兵と言えど、奴等は手練のようだ。ミラーシールドを展開し―――』
次の瞬間『ナイトゴースト』の持つキャバリアライフルやパイルバンカーが何処からか飛来した弾丸で叩き落され、圧潰したように潰れ果てる。
それは一瞬の出来事だった。
『―――狙撃!? どこからだ!? ぐっ!』
次々に『ナイトゴースト』の武装が遠距離からの攻撃によって撃ち落とされ破壊されていく。
武装がなければキャバリアと言えど攻撃力のない移動する案山子に過ぎない。
ルイスは『銀の銃兵』に乗り込み、迷彩機能によって遮蔽物に紛れて長距離射撃を行い、彼らのキャバリアの攻撃力を削ぎ落としていく。
「見えないだろう。敵にはこんな戦い方をする者もいる―――不安だろうな」
それは見えない敵を相手取っている『第二次憂国学徒兵』たちの現状であり、先の見えない終わらない戦争に対しても同じことが言えただろう。
いつ終わるとも知れぬ戦い。
それを己が死ぬまでしなければならないかもしれないという不安。さらには己の家族、大切な者もまた同じ末路をたどるかも知れないという恐怖。
それが彼らの心を叫ばせ、オブリビオンマシンによって歪められたのだろう。
「だが、学ぶ時だ。ずっと戦争なんて出来ないんだからな」
トリガーを引く。
銃声が響き、『ナイトゴースト』の武装が剥ぎおとされていく。今はこれでいい。武装を破壊し、為すすべのない状態にすればいいのだ。
後は―――。
「後は俺たちに任せればいい。武装は破壊した。そのキャバリア―――オブリビオンマシンは破壊させてもらうが」
放った属性付与(エンチャント)された藍色の災い。その弾丸がオブリビオンマシンのオーバーフレームを吹き飛ばす。
籠められた力は圧壊。
放たれた弾丸は弾頭が小さくとも、弾ければ義眼のメガリスの力が開放され、オーバーフレームを破砕せしめる。
そうなってしまえば、如何にオブリビオンマシンと言えど機体を維持できず、その場に擱座する他ない。
「学生はいいのさ。そのままで。いや、そうあるべきだ。学び、恐れ、知る。それが今のお前たちに必要なことだ。失うこと、得ること、その両方を知らぬ者に、奪うことと奪われることの意味はわからないだろうからな―――」
ルイスの義眼が再び輝く。
オブリビオンマシンは未だ多数存在している。
慟哭するような魂を開放する災いの弾丸が、銃声を伴って放たれ続ける―――。
大成功
🔵🔵🔵
ユーリー・ザルティア
ふう、う~ん結構厄介だったけど、やっぱり厄介だったってレベルだったわね。
意志無き力は無力なり、力無き意志は無意味なり…なんてね。
しかし、これじゃあ何のために先人が散って逝ったのか…分かったもんじゃないね。。若造ども!!
さて、レスヴァントで出撃するよ。
地上を『悪路走行』『ダッシュ』で高速戦闘だね。
パールバーティは『援護射撃』よろしく。
『索敵』して敵機を確認。この位置なら『範囲攻撃』でまとめて行けるね。
自慢の『操縦』テクで回避しつつ…よし
ディストーション・ブレイク発動っと、パール協力ヨロ♪
突撃で吹っ飛ばシテ倒れた機体に隙ありっと。
『ジャミング』『ハッキング』でコックピットをベイルアウトさせるよ。
ジャミング地帯を切り抜けたユーリー・ザルティア(自称“撃墜女王”(エース)・f29915)の駆るキャバリア『レスヴァント』と無人機として随伴する量産型キャバリア『パールバーティ』がプラント施設へと直行する。
「ふう、う~ん結構厄介だったけど、やっぱり厄介だったってレベルだったわね」
ユーリーがつぶやく。
お手本通り、教科書どおりのジャミング敷設。
在る種の美しさもあるほどのトラップの設置は確かに厄介であった。けれど、それは厄介以上の致命的なものにはなりえない。
それは設置を指示した『第二次憂国学徒兵』の首魁のレベルとも言えたことだろう。
言ってしまえば、頭打ちになっている者であるともユーリーは思えた。
「意志無き力は無力なり、力無き意志は無意味なり……なんてね」
それはある意味で真理だった。
どれだけ崇高な意志があろうともそれを成し遂げるだけの力がなければ、何の意味もない。何も産まない。
逆に意志のない力は、ただの暴力であり、いたずらに傷みを増やすばかり。
そうさせないために人は紡ぐ。
次代に託す。
より良いものになりますようにと願い、祈りながら次の世代に『平和』というクロムキャバリアにおいては既に虚像の如き概念を託すのだ。
「しかし、これじゃあ何のために先陣が散って逝ったか……わかったもんじゃないね。若造共!!」
レスヴァントが跳ねるようにして飛ぶ。
悪路があろうと関係がない。ユーリーの反射速度は異常だった。攻防一体の重力フィールドを纏った機体は雨のように放たれる『ナイトゴースト』のキャバリアライフルの弾丸を凄まじい速度で躱しながら突進する。
「止まらない―――! なんだあの動き!?」
パールバーティの援護射撃と共にユーリーのレスヴァントがディストーション・ブレイクのユーベルコードを発動させた驚異的な突進能力で『ナイトゴースト』の機体を跳ね飛ばす。
「やれやれ、こー言う熱血は性に合わないんだけど…偶にはいいかな」
重力フィールドに捕まった『ナイトゴースト』にレスヴァントを振りほどく力はない。有線ワイヤーが機体に取り付き、次々と機体の中のデータとコードをいじくり回す。
「ちょいとおとなしくしててね~痛くないからね。ちょっとだけ、ちょっとだけ……」
レスヴァントのコクピットの中からユーリーが素早いコード入力で『ナイトゴースト』の機体のコードをハッキングし、強制脱出装置を起動させる。
オーバーフレームとアンダーフレームがほどかれコクピットが射出される。
「はい、ベイルアウト」
残されたフレームをキャバリアライフルで貫き破壊する。こうすれば、パイロットを傷つけずにオブリビオンマシンだけを排除できる。
頭に血が登ったように見せかけてしっかりとユーリーの頭の中では計算が為されているのだ。
「パール、援護ありがとね。さあ、次に行こうか。まだまだ困った若造たちがうようよいるからね―――さすがの私も偶には熱血みたいになってしまうことだってあるんだから……覚悟してもらおう」
再び重力フィールドに機体が包まれていく。
ユーリーの瞳は『ナイトゴースト』の機体を映していた。
どれだけ彼らが国を憂いていたのだとしてもオブリビオンマシンは、それすらも利用しようとする。
どうしようもないほどに悪辣なる存在。
戦いという火種を撒き散らし、どれだけ尊いものでさえ貶めてしまう。
それがどうにもユーリーには許せない。許してはおけない。
口ではああ言ったが、その胸に宿る熱さはごまかせなかった―――。
大成功
🔵🔵🔵
エミリア・ジェフティー
生身であそこまでやりますかー
やっぱり猟兵っていうのは凄いですね!
…あ、今は私も猟兵なんでしたっけ
さて、頑張ると決めたことですし、感心してるだけではいけません
生身での強襲に浮き足立ってる今が好機
建造物で射線を切りつつ一気に敵部隊へ接近しますよ!
まずは脇見してるそこの機体から!
電磁装甲を抜くために徹甲弾を装填
部位破壊を狙って四肢を撃ちます
…うん、学生らしい教科書通りの対処
悪くないけどレーダーへの目配せが少し疎かかな?
オプティカルハイドの透明化で白兵距離まで来た敵の虚をつき、動力系を切断して無力化です
ほらほら、目が覚めたならさっさと脱出
…まぁ不幸な事故ですから
あんまり思いつめないで下さいね
エミリア・ジェフティー(AnotherAnswer・f30193)は、生身の猟兵が鋼鉄の巨人であるキャバリアを打倒する姿を見て、世界の広さというものを様々と見せつけられていた。
「生身であそこまでやりますかーやっぱり猟兵っていうのは凄いんですね! ……あ、今は私も猟兵なんでしたっけ」
自身もまた生命の埒外に在る者。猟兵である。いまいちその自覚はないのかもしれないが、それでも彼女は決めたことはやると自負している。
「さて、頑張ると決めたことですし、感心してるだけではいけません」
すでに猟兵たちがプラント施設へと突入し、立てこもっている『第二次憂国学徒兵』たちのキャバリア『ナイトゴースト』と交戦している。
彼らとて戦争が続くクロムキャバリアで戦うことを義務付けられた者たちだ。
並のパイロットでは彼らのドクトリン通りの戦いは確かに効果的であったことだろう。だが、エミリアも含め、猟兵とは理の外に在る者たちである。
「生身の強襲に浮足立ってる今が好機!」
エミリアは青い瞳をきらめかせ、キャバリア『セシャート』と共に構造物でライフルの射線を切りながら、一気に迎撃に出てきた『ナイトゴースト』の一群と快適する。
「―――! 敵キャバリア! もう此処まで展開しているのか! なんだ、このスピードは!」
彼らにとって想定外であったのは、生身の存在でキャバリアを打倒する者がいたこと。そして、傭兵と侮っていた相手が彼らよりも実践経験の多い、才ある者たちであったということだ。
「まずは脇見してるそこの機体から!」
電磁装甲が展開されていることは百も承知である。ならば、電磁装甲を撃ち抜く攻撃力があればいい。
自動小銃に装填されたのは徹甲弾。同じく電磁投射される弾丸の連射速度は言うまでもない。
放たれた徹甲弾が電磁装甲を貫き内部フレームまで到達する。
残った弾丸は電磁装甲を展開するためのエネルギー供給を遮り、その機体の状態を通常装甲へと戻してしまう。
「判断が遅い! 電磁装甲の防御力を過信しましたね!」
オーバーフレーム、アンダーフレームを即座に無力化する弾速。確かに彼らの対応は間違っていなかった。
どこから強襲してくるかわからない相手に対して、防御力で面の対応力を高めるのは間違いではない。
けれどその教本通りの行動の虚を突いてくるのが実践を経験した者だ。
「……うん、学生らしい教科書どおりの対処。悪くないけど、レーダーへの目配せが少し疎かかな?」
ユーベルコード、オプティカルハイドによって生成された念動球が機体を包み込み、透明になって姿をくらます。
彼らは目視できないとわかればレーダーに注視する。そうなれば、次の一手への対応が遅れてしまうのは言うまでもない。即断即決。
それが洗浄においては生死を分けることもある。
「やっぱり学生さんですよね。虚を突かれるとうろたえるか、動きが固まってしまうかの二択……なら、相手をするのは容易いですよね」
透明化したセシャートが背後から『ナイトゴースト』の機体の動力部を高振動ブレードによって切り裂く。
駆動部と動力部である箇所を破壊されれば、静音性を高めたまま撃破も可能なのだ。
背後からの強襲で倒れ込むキャバリアを見下ろしエミリアは即座に次なる敵を見出す。
コクピットから這い出すキャバリアのパイロットがかぶりを振っている。このままだと流れ弾にあたってしまうかもしれない。
一応は敵出会っても、護るべき対象だ。エミリアにとっての敵はオブリビオンマシン。パイロットではない。そこは間違えてはならない。
「ほらほら、目が覚めたらさっさと脱出。考えてる時間はないですよ」
そう外部スピーカーからエミリアが語りかける。
彼らにとって今までのオブリビオンマシンに乗っていた時間は夢の出来事のようなものだろう。
「……まぁ不幸な事故ですから、あんまり思いつめないでくださいね」
彼らが今後どんな身の振り方をするのかエミリアは知らない。
感知するところではないけれど、それでもそう声を掛けたのは、そうしなければとエミリアが思ったからだ。
自発的な行動。情報収集が目的の彼女にとっては、必要ない行動であった。
けれど、それは案外悪くない感触をエミリアに遺すのであった―――。
大成功
🔵🔵🔵
才堂・紅葉
「貴方から見たツヴァイって子の事を教えて、マルス」
ここに来るまでに現場の学生視点での彼女について【情報収集】
今回の落し所を探っておかねばならない
「迦楼羅王!」
指を鳴らして愛機を喚ぶ
方針
光学迷彩で風景に溶け込み、忍び足で接近する
内通者による潜入と不意打ちは教科書には載ってないだろう
【暗殺、捕縛、グラップル、盗み】で奪った敵の麻痺銃で敵機達を無力化したい。武器認証はマルス君のを流用した【メカニック】でクリアだ
即コクピットをこじ開けて回り、一人ずつ名指しし、端から迦楼羅焔を籠めてビンタし正気に戻す
「協力なさい、ヒヨッコ達。ツヴァイを助けるわよ」
素面に戻れば優秀な学生達だ。為すべき事はすぐ分るだろう
争いの決着とは単純な勝ち負けで着くものではない。
それは才堂・紅葉(お嬢・f08859)にとってはわかりきっていることであった。
クロムキャバリアにおいて戦争とは終結することがない。だが、こうした内乱は違う。どこかで必ず落とし所を探して置かなければならない。
他の誰かがするであろうと任せるのではなく、紅葉自身がそれを探っておきたいと思ったのだ。
『第二次憂国学徒兵』に参加している学生たちのデータを習得したのにはわけがある。彼らの状況、来歴、あらゆるものが紅葉にとっては必要なものであった。
その中で『第二次憂国学徒兵』の首魁である『ツヴァイ』については、そのデータが殆どない。
アンサーヒューマンであるということと、『セラフィム・リッパー』……最新鋭キャバリアの技師である母と兄弟がいるということくらいしか情報を得ることができなかったのだ。
「貴方から見たツヴァイって子のことを教えて、マルス」
そういって紅葉は調落した男子学生に尋ねる。
彼らは『ツヴァイ』の持つカリスマ、人望の一番外苑にいるものだ。彼らをオブリビオンマシンから引き離しておくことは簡単であるが、その中心にいる『ツヴァイ』に関してはそうはいかない。
「か、彼女は……言ってしまえば、全ての学生たちの規範になっている人だ。もう卒業して、実践には出ているけれど……」
マルスの語る言葉は、他の猟兵達も感じていることと概ね一致する。
優等生。能力の高い者。けれど、頭打ちしている感触が在る。
マルスから語られる言葉も似たようなものであった。そう、言ってしまえば『エース』と言えるほどではない。
けれど、彼女は力に固執している。どうしようもないほどに焦がれている。だからこそ、オブリビオンマシンに目をつけられたのかも知れない。
「―――要するに『エース』へと至らなかった成れはてとでも言えばいいのかしら」
力を求めるのは、失ったからだろう。
一年前の『セラフィム・リッパー』1号機の強奪事件。
それに関与していたのが、彼女の兄である。内通者として兄が1号機を強奪して逃走している。その際に同じ兄弟である双子の妹、ドライとフィーアが死亡している。
目の前で奪われた機体。そして、生命。
「まあ、だからといって―――迦楼羅王!」
紅葉は指を鳴らす。
機体に乗り込み、紅葉は駆け出す。光学迷彩によって景色に溶け込んだ機体がプラント施設の中へと潜入する。
彼女の狙いはプラント施設に立てこもる彼らの守備隊だ。
「内通者による潜入と不意打ちは教科書には載っていないでしょう―――?」
背後から突如として現れた迦楼羅王に『ナイトゴースト』は反応できない。即座に奪われたキャバリアライフルのトリガーを引き、装填されている麻痺弾によって機体の回路がショートする。
「馬鹿な……武器認証システムが、外されている
……?!」
コクピットがこじ開けられ、パイロットが引きずり出される。目の前には紅葉が不敵に笑い、パイロットの顔を見て―――。
「あなたはアリーね。唐突で悪いけど―――」
迦楼羅焔を纏った紅葉のビンタが炸裂する。それは軽快な音であったが、パイロットである彼らを勝機に戻すには十分であった。
そうでなくても邪気を払う迦楼羅焔の前ではオブリビオンマシンに歪められた心は為すすべもなかったであろうが。
「目が冷めたでしょう? 協力なさい、ひよっこ達。ツヴァイを助けるわよ」
紅葉の言葉は彼らにとっては訝しむものであったことだろう。
傭兵として雇われた紅葉たちは自分たちの捕縛を目的とするのであって、救出ではないはずだ。
けれど、紅葉は助けると言ったのだ。
オブリビオンマシンは猟兵にしか知覚できない。それでも彼らは直感で分かったのだろう。目の前の紅葉は、彼女の言う通りのことをしようとしている。
助ける。
それはいつもツヴァイに助けられっぱなしであった自分たちができることなのだろうか。
けれど、頬の傷みが弱気な心を張り飛ばす。
そうだ。上に立つものは弱音を吐けない。助けを求める声に耳を澄ませなかった自分たちができることはなにか。
彼らは痛む頬と共に前を向いて歩むしかないのだ。
「素面に戻れば優秀な学生たちだとは思ったけど……張り手一発でわかるなんて、見込みがあるよ」
紅葉はそう笑って彼らとともにプラントの奥、この事件の中心にいる『ツヴァイ』の元へと急ぐのであった―――。
大成功
🔵🔵🔵
ジーノ・エヴァーソン
〈落ち着き〉
いくら煽動してるったって、技量のある乗り手は要る、か…
まぁ、機体性能と乗り手。両方揃えど敵わねえさ
【UC】発動、基本は高速移動の空中戦、残りミサイルを撹乱に放ちつつ、両手のライフルで肩シールドの範囲外を〈世界、戦闘知識〉に照らし合わせて狙撃。
UCをコピーして突出した奴は“穴”だ。ブーストダッシュも加えてさらに攻撃を加速、集団を崩す
語るべき言葉は無い。こんなの、酔っ払いと話してるみてえなもんさ。こっちは音楽かけて仕事中で忙しい。ただ―
「護られてる場所の為に力を蓄えるか、俺みたく本気に飛び出してみるか―正気になった後で考えてみるんだな。」
不殺オーダー、コンプリート。次だ次
いつだったか、誰かが言っていたような気がする。
心の乱れは機体へと直結する。人間は自分で思っている以上に感情的な生き物なのだと。
ジーノ・エヴァーソン(Xeno_Fire・f30003)はコクピットの中に流れる空を思わせる曲を耳にしながら、落ち着きを取り戻していた。
メビウスの名を冠した白きキャバリアはプラントへと向かう。すでに猟兵たちが数多くこの戦いに参加している。
生身でキャバリアを打倒する者やキャバリアの性能を引き出して戦うものもいる。迎撃に出てきたキャバリア『ナイトゴースト』。
攻守ともに優れた機体だ。
「いくら扇動してるたって、技量在る乗りては要る、か……まぁ、機体性能と乗り手。両方揃えど叶わねえさ」
それはどれだけ彼らの技量が高くとも、猟兵には敵うべくもない。
どうしようもないほどの圧倒的な差がある。それは実戦経験であり、様々な世界を渡り歩く猟兵たちの持つ価値観でもあった。
「だがまあ―――俺が仕事をしねえ理由にはなってねえわな!」
白きキャバリア、メビウスがオーバーブースト・マキシマイザーによって低空飛行で高速機動を繰り広げる。
ミサイルポッドに残された残数の少ないマイクロミサイルを放ち、ポッドをパージして身軽になる。
ぐん、とスピードが跳ね上がり、さらに『ナイトゴースト』へと肉薄する。
「来たぞ、傭兵風情のキャバリアが―――! 我々の決意を、蜂起した意味を潰させはしない! ミラーシールド展開!」
両肩のシールドが展開され、ジーノのキャバリアから放たれた弾丸を防ぎ、オブリビオンマシンの持つユーベルコードによってジーノのユーベルコードをコピーする。
幾つかの機体にはシールドの付け根を狙って破壊したが、受け止めた者もいる。
ミラーシールド。
それがユーベルコードを受け止め、コピーする力を持つことは知っていた。ジーノの得意な戦闘機動。それをコピーされてしまえば、不利になるのはこちらである。
「だがよ、意気揚々とこっちのユーベルコードを使うのであれば―――」
それは“穴”でしかない。
飛び出し、突出する『ナイトゴースト』。それはこちらの戦闘軌道をコピーした凄まじい速度でもって飛来する。
だが、飛び出せばそこはただの穴だ。
すれ違いざまに両手に装備したライフルが火を噴き、『ナイトゴースト』のオーバーフレームを撃ち抜く。
「―――ハッ! その程度の加速で俺の動体視力が追いつかねえとでも思ったかよ! お前らがどんな思惑や言葉を持っていたって俺には聞く耳なんてもたねえよ! こんなの酔っぱらいと話してるみてえなもんさ」
それに、此方は忙しいのだ。
仕事中であるし、コクピットに流れる音楽の方が余程耳障りが良い。
「守られてる場所のために力を蓄えるか、俺みたく本気に飛び出してみるか―――」
それは唯一『第二次憂国学徒兵』へとジーノが語りかける言葉であった。
問いかけに答えを今は必要としていない。
白きキャバリアの機体が宙を舞う。ライフルの弾丸が“穴”の開いた『ナイトゴースト』の集団を突き崩していく。
こうなってしまえば、集団というものは脆い。
穴を開け、内側から蝕むように弾丸を放り続けるだけで瓦解していく。そんな光景をジーノは何度も経験したであろうし、何度も見てきた。
戦いとは常にあっけないものだ。
数がものをいうときも在れば、『エース』という突出した者が選曲を覆すこともある。
「―――正気になった後で考えて見るんだな」
オブリビオンマシン『ナイトゴースト』の機体だけを全て破壊し、ジーノは息を吐き出す。
音楽がコクピットの中に流れている。
わかっている。不殺のオーダーは忘れていない。
「コンプリート。次だ次」
目指すはプラント施設中枢。その先に今回の事件の渦中の人物と、元凶たるオブリビオンマシンがいる。
コクピットの外は争いとオブリビオンマシンの策動に塗れている。
けれど、音楽鳴り響くコクピットだけは関係がない。耳をすませば旋律の奥に空が広がる。
自分が飛び出した空。
それを思い、ジーノは機体を走らせるのであった―――。
大成功
🔵🔵🔵
大町・詩乃
戦いは起こりました。
起こったものは仕方ありません。
なら、せめて少しでも有意義な結末に。
【結界術】で探知を阻害する姿隠しの結界を自分に掛け、【空中浮遊】でふわふわ~っと移動。
学生さん達が乗るキャバリア付近で響月を取り出し、UC:帰幽奉告。
【楽器演奏・眠りの属性攻撃・全力魔法・高速詠唱・範囲攻撃・マヒ攻撃・優しさ】を上乗せし、楽曲がオブリビオンマシンを【貫通攻撃】して、中の学生さん達を無傷で無力化。
そうしたら煌月で動かないオブリビオンマシンを破壊し、学生さん達を救出。
現状を憂い、未来を切り開きたい、という想いは判ります。
でも安易な答えに飛びついてはダメですよ。
きちんと考え続けましょう。
と諭します。
世界はいつだって選択を強いる。
それは神たる身である大町・詩乃(春風駘蕩・f17458)に対しても同じである。詩乃はいつだって考えている。迷っていると言ってもいいだろう。
「戦いは起こりました。起こったものは仕方ありません」
そう呟く。
戦いとは常に起こらないほうがいい。争いなどなくなればいい。心穏やかに人々が暮らす平穏が続けばいい。
そう願うのは人々であって神たる己ではない。
けれど、この争乱が続くクロムキャバリアには、願うべき『平和』すらも虚像のように儚いものであった。
その概念すらも100年続く戦争の中で擦り切れてしまっていた。
「―――なら、せめて少しでも有意義な結末に」
未だ迷いの中に詩乃はいる。けれど、決めなければならない。何もかもが手遅れになってしまう前に、決断しなければならない。
彼女は争いを好まない。けれど、戦うと決めた以上オブリビオンに刃を振るうことに躊躇いはない。
ふわりと宙に浮かび、詩乃はキャバリア『ナイトゴースト』のオーバーフレームの肩に飛び乗る。
彼女の姿は結界術の応用に寄る探知を阻害する姿隠しによって姿を隠してるのだ。
「……私はまだ迷っているのでしょうか。彼らの国を憂う想い……それに絆されている……? けれど、それでも、このオブリビオンマシンは破壊せねばなりません」
彼女の手に在るのは神代より存在せし不死の怪物の骨を漆と金で装飾した龍笛。その音色が奏でるは魂と精神へと作用する力。
名を帰幽奉告(キユウホウコク)。
「この曲は貴方達の葬送の奏で。音に包まれて安らかに眠りなさい」
ユーベルコードが音色となって発言し、『ナイトゴースト』のコクピットを透過し、音色が届く。
その幽玄の如く厳かな音色はコクピットの中のパイロットたちの精神を落ち着かせ、眠りに着かせる。
徒に刃を振るうことを詩乃は良しとしなかった。それは彼女自身の優しさもあるであろう。
だが、彼らの国を憂う心まで否定はできなかった。
オブリビオンマシンが歪めているだけ。その事実が詩乃の戦うべき相手を見誤らせることはなかった。
それ故にユーベルコードによってパイロットたちを無力化させたのだ。
詩乃の神力宿るオリハルコンの刃を備えた薙刀がコクピットハッチを切り裂き、パイロットたちを次々と救出していく。
「この方々はオブリビオンマシンによって歪められただけ……」
救出した彼らをひとまとめにし、詩乃は薙刀を振るいオブリビオンマシンである『ナイトゴースト』を散々に破壊する。
パイロットなくば、オブリビオンマシンと言えどただの鉄の塊に過ぎない。自立で行動できないがゆえの弊害であろう。
薙刀によって破壊されたオブリビオンマシンの残骸が立てる音でパイロットたちは次々に目を覚ます。
「こ、ここは……私達は、確かに国を思って行動していたはずなのに」
だというのに彼らの頭の中には靄がかかっているような、そんな要領を得ないぼんやりとしたものしか浮かばないのだろう。
心を歪めるとはそういうことだ。
「現状を憂い、未来を切り開きたい、という想いはわかります」
詩乃は優しく語りかける。
怒っているわけではない。彼らの想いは純粋なものだ。それを否定はしない。けれど、と詩乃は思うのだ。
人は正しさを愛する生き物であるが、流れに身を任せて流される存在でもある。
だからこそ、神たる彼女が導かねばならない。それが信仰の力を得る女神としての責務であろうから。
「でも安易な答えに飛びついてはダメですよ。きちんと考え続けましょう」
考え続ける。
誰かの答えじゃない。自分の答えが人を歩ませる一歩となる。だから、と詩乃は怒り、咎めるわけではなく諭すのだ。
厳しさだけが正解ではない。
時には優しく諭すだけで人の心は解れるものであるから。微笑み、詩乃はプラント施設の中枢へと飛ぶ。
そこには未だ救われぬ慟哭を抱えたまま、オブリビオンマシンに歪められた者がいる。
悩み、考え、詩乃は続ける。
それが生きるということであるのならば、詩乃はずっと思い悩み続けるだろう。神たる身であっても、それは変わらないのだから―――。
大成功
🔵🔵🔵
トリテレイア・ゼロナイン
良き覚悟です
戦いという理不尽の中では、多少論理がおかしな思想でも士気を保つ為必要な場面もあるのですから
ですがそれは外部の介入が無ければの話
そうで無い以上、彼らは対等の敵手では無く庇護すべき対象です
高層建築物の間…狭路に陣取られましたか
飛び出せば釣瓶打ちですが…
(センサーで建物強度●情報収集)
…可能ですね
パターンを逸脱した行動への対処はどうでしょうか
囮として大盾●投擲
撃たれる間隙ついて続いて飛び出しUC使用
機体●ハッキングでの●操縦で●推力移動制御
左右壁面●踏みつけ三角跳びの要領で狙い絞らせぬ挙動で上を取り一気に接近
敵中飛び込み剣で全機無力化
アンカーで盾回収
次は正しき形でその力を振るってください
『グリプ5』のプラントを巡る戦いは、いよいよもって激化する。
猟兵たちの能力は高く、『第二次憂国学徒兵』たちの乗るキャバリア『ナイトゴースト』の性能と拮抗していた。
明暗を分けるのは実戦経験と歪められた心であろう。
猟兵達は数多の世界を巡ってきている。その経験が、価値観の相違が彼らとを別つ条件のようなものであった。
「パラライズバレットの装填を急げ! あのキャバリアの足を止めろ! 此処を抜かれては我らの悲願が、国の存亡に関わる!」
『第二次憂国学徒兵』のパイロットたちが叫ぶ。
彼らはすでに猟兵たちの活躍によって押されている。いくつかの防衛ラインは抜かれていることが情報として伝わってきてる。
「案ずるな、こちらには『セラフィム・リッパー』が在る。現政権に異を唱え、その機体の暴走を持って訴えたあの期待が!」
それが例えオブリビオンマシンによって心を歪められた結果であったとしても、彼らの国を思う気持ちに偽りはなかったのだろう。
「良き覚悟です。戦いという理不尽の中では、多少論理がおかしなはそうでもシキを保つ為必要な場面もあるのですから」
トリテレイア・ゼロナイン(紛い物の機械騎士・f04141)はキャバリア『ロシナンテⅣ』を駆り、プラントをめぐる戦いに身を投じていた。
彼らの士気の高さは、主導している『ツヴァイ』の言葉や手腕も大きいのだろう。人を束ねる力というものが彼女には在るように思えた。
けれど、それがオブリビオンマシンによって捻じ曲げられていなければ、という前提にはなるのだが……。
「ですが、それは外部の介入が無ければの話。そうでない以上、あなた方は対等の敵手ではなく庇護すべき対象です」
故にトリテレイアは彼を打倒しない。
破壊するのはキャバリア―――オブリビオンマシンだけだ。『ナイトゴースト』の集団は高層建造物の間に陣取っている。
良き選択であるとトリテレイアは評する。こちらが飛び出せば釣瓶撃ちで撃破されることが予想される。
「ですが―――」
手にした大盾を投擲する。
それは飛来する敵機のようにも思えたことだろう。訓練で反復練習によって基礎動作を叩き込まれた学生たちであれば尚更反射的に反応してしまうことだろう。
実践では敵機だけではない何か別のものも飛び出すということを理解しなければならない。
どれだけ経験を積んだとしても、素早く目の前に飛来するものを見れば、人間の反応は2種類だ。
視線を向け対処する者。唐突なことに体を竦める者。
『第二次憂国学徒兵』たちは一体どちらであったか。
いや、トリテレイアにとってはどちらでもよかったのだ。
「パターンを逸脱した行動への対処はどうなさいますか? ―――コード入力【ディアブロ】、戦域全体の未来予測演算を開始」
それは未来予測の大演算。
ユーベルコードのみが可能にする未来予測。大盾が投擲され、それに一瞬の気を取られた瞬間、トリテレイアは飛び出す。
それも左右の壁面を利用しての三角飛び。二次元ではなく三次元立体の戦術機動。頭で理解していても、それを処理する時間が足りない。
彼らが例え一瞬の判断にすぐれるアンサーヒューマンであったとしても、トリテレイアにとっては、その一瞬の思考ですら計算のうちである。
「素晴らしき反射速度。反応、対応―――なるほど、皆さんは教科書通りといいますが……基礎の力強さを感じさせます。ですが」
一瞬の内に振るわれる剣が、『ナイトゴースト』のオーバーフレームを切り刻む。
破壊されたオーバーフレーム以外に武装はない。彼らは無力化したコクピットから這い出ることしかできないだろう。
アンカーによって宙を待った大盾を素早く回収し、トリテレイアは『ロシナンテⅣ』のコクピットから彼らの姿を見下ろす。
国を憂い、人を想い、誰かのために走ることのできる者たち。
彼らが例えオブリビオンマシンに心を歪められたとしても、彼らの心に根ざす信念は変わることはないだろう。
故にトリテレイアはこの言葉を彼らに送るのだ。
「次は正しき形でその力を奮ってください」
機体を翻し、トリテレイアは次なる戦場へと向かう。
この事件の中心にある『セラフィム・リッパー』の元へ―――。
大成功
🔵🔵🔵
菫宮・理緒
引き続き【ネルトリンゲン】でみんなのフォローしていきたいな。
今回、首謀者はオブリビオンマシンとその搭乗者だけど、
それ以外の子たちはどうなんだろ?
国を思う気持ちは本物みたいだけど、扇動されてるだけなのかな?
どちらにしても、倒しきっちゃうわけにはいかないよね。
わたしはこのまま敵キャバリアの『目』を潰していこう。
空母の防御はAIにお任せして、わたしは【電脳潜行】を使ってしかけていくよ。
【ハッキング】でキャバリアのシステムをダウンさせたり、
【罠使い】でフェイク情報を流したり、
【ジャミング】でセンサーを潰したりして相手を攪乱していくよ。
行動不能にして、パイロットはなんとか助けないと、だよね!
人の意思はバラバラである。
同じ様に思えても、同じ方向を向いているだけのこともある。人間は同一の存在にはなれず、違う人間ばかりで完全に理解できることはないということを理解するからこそ、互いの個を尊ぶことができる。
ミネルヴァ級戦闘空母『ネルトリンゲン』を指揮する菫宮・理緒(バーチャルダイバー・f06437)にとって『第二次憂国学徒兵』に参加している学生たちは、そういうものであるのだと理解していた。
今回の事件、プラント施設を占拠し生産を停止させたことは、いわゆるハンガーストライキである。
自分たちの要求が通るまでプラントの停止は続く。けれど、そこに全体としての意志統一はない。あくまで先導した者の思想に共感した者だけの意志が介在する。
「……『第二次憂国学徒兵』の人達以外の子たちはどうなんだろう。キャバリア……オブリビオンマシンが人の心を歪めるというのなら、それは」
それは彼らの意志ではない。
人の暮らしを圧迫してまで為すべきことではないと彼らは考えるだろう。
「国を思う気持ちは本物みたいだけど、扇動されているだけだとするなら」
オブリビオンマシンによって歪められた心の根本は純粋なものだ。
だからこそ、歪められた時の反動は大きいのだろう。
「なら、どちらにしたって倒しきっちゃうわけにはいかないよね。それなら―――認証クリア……ログ、イン」
彼女のユーベルコード、電脳潜行(デンノウセンコウ)が発動し、空母『ネルトリンゲン』の制御をAIに任せた理緒が電脳世界へと突入する。
彼女の存在感は世界から限りなく希薄になり、彼女に干渉しよとする者は、理緒という存在を知覚できなくなる。
すでに電脳潜航によってキャバリアのシステム内に入り込んだ理緒はいくつもの布石を打っていた。
キャバリアのシステムをシャットダウンさせることは難しかったけれど、システムの中にフェイクの情報を流し込むことはできる。
キャバリアがモニターによって外界の情報を取り入れるのであれば、目視の効かない状況であれば容易にモニターをハッキングし、偽りの光景を見せることはできるだろう。
「私は直接戦うことはできないかもしれないけれど―――それでもできることはある。このままキャバリアの、オブリビオンマシンの『目』を潰す!」
次々と流し込まれるフェイク情報。
混乱に陥る『第二次憂国学徒兵』たちが操る『ナイトゴースト』。彼らは互いにキャバリアライフルで同士討ちをはじめる。
それこそが理緒が流し込んだフェイク情報。敵機と味方の機体の情報を入れ替えてしまえば、モニターに映るのは彼らが敵視する傭兵……つまりは猟兵たちの駆るキャバリアだ。
「ど、どこから現れた!? いつのまに……!」
互いに互いが発泡すれば、もう彼らは混乱の渦中に引きずり込まれたも同然である。センサーで識別しようとしても理緒の電脳潜航によってセンサーすらも潰されている。
撹乱と同士討ちを同時に引き起こす理緒によって『第二次憂国学徒兵』たちの駆るオブリビオンマシンは次々とオーバーフレームを破壊され、かく座する。
そうすれば、彼ら自身は傷つかずオブリビオンマシンだけが破壊されることになるのだ。
「行動不能にするまでなら、私にだって。パイロットはなんとか助けてあげないと―――よしっ、これなら!」
ハッキングしたキャバリアのシステムの最期の防壁をクリアした理緒は次々と『ナイトゴースト』の強制脱出装置を作動させる。
オーバーフレームとアンダーフレームからコクピットブロックが排出され、残ったのはオブリビオンマシンの機体だけだ。
「後は、破壊しちゃえば問題はクリア!」
理緒は戦わずして『第二次憂国学徒兵』の学生たちを保護していく。
彼らはこころを歪められただけだ。それを理解できるのは猟兵たちしかいない。だからこそ、傷つけてはならないのだ。
理緒は電脳世界から戻ってきた『ネルトリンゲン』の指揮する座席に沈むように息を吐き出す。
ここまでくれば、後は首謀者―――『セラフィム・リッパー』だけだ。
何が彼女を此処まで駆り立てたのかわからない。けれど、それもまたオブリビオンマシンによって歪められたものであろう。
ならば、救わねばならない―――!
大成功
🔵🔵🔵
サージェ・ライト
(シリカ(猫)が爪を立てて頭の上に張り付いている)
シリカー?そろそろ許してー
ほ、ほら!キャバリア戦闘始まりそう!
準備です準備!
『お姉ちゃん、続きは後で』
「何その捨てセリフ怖い!」
と、ともかく気を取り直して
かもんっ!『ファントムシリカ』!
相手の態勢が整うまでに、いっきまーす!
ファントムクォーツユニット起動!
幻影を作り出しつつ
本体も的を絞らせない行動をとって
まずは回避から
パラライズバレットが外れたら
次弾装填の隙に一気に間合いを詰めて
「私の刃は全てを斬り裂く! 参ります!」
命中率重視の【疾風怒濤】で行動不能に追い込みます!
ヒット&アウェイ戦法
何かちょっとクノイチっぽくないですか?!
※アドリブ連携OK
自己犠牲とは常に、それを為す者の意思を持って行われるものである。
それを強いる者のどこに正義があろうか。
『第二次憂国学徒兵』たちも同様である。彼らは己たちの犠牲と、無辜の民の犠牲とが同じであると考えている。
国を思えば、国と民は同一のものである。国無くば民は生きていけず、民無くば国と成りえず。
だからこそ、その生命は国のものであり、国と一心同体である。
そう、彼らは歪められた思想のもとに集い、駆け出している。それがどれだけの犠牲を生み出し、何の生産性もない破滅への一歩であるとも知れずに……。
「シリカー? そろそろ許してーほ、ほら! キャバリア戦闘が始まりそう! 準備です準備!」
白猫又がサージェ・ライト(バーチャルクノイチ・f24264)の頭上で爪を立てて張り付いて離れない。
先程のジャミング地帯を抜ける際に10フィート棒……まあつまるところ便利なアイテム扱いしたことに大変ご立腹なのであろう。
いやでも無事だったし、とサージェは結果オーライのどんぶり勘定で、お腹いっぱいにたらふく……あいたたたたッ!? というわけである。
すでに猟兵たちと『第二次憂国学徒兵』たちとのキャバリアによる戦闘は所々で始まってしまっている。
『お姉ちゃん、続きは後で』
ぼそりと呟いて渋々準備に取り掛かったシリカの最後のセリフにぞわりと背中が泡立つ。あかんやつやあれ。
「何その捨てセリフ怖い!」
この後に待ち受けるシリカの『何か』を感じ取ってサージェは背筋を伸ばしたが、やるべきことはやらなければ、もっとひどいことが起こりそうな気がした。
「かもっ!『ファントムシリカ』! 相手の態勢が崩れている所がチャンス。整う時間を与えないで……いっきまーす!」
彼女のキャバリア『ファントムシリカ』に搭載されたファントムクォーツユニットが起動する。
それは幻影を生み出し、索敵の妨害と撹乱を齎す装備である。
従来の幻影装置と一線を画するのは……その生み出される幻影が別々の動きを見せるということである。
「か、数が多すぎる―――! 幻影ではないのか、これは!? 本当にこの数が!?」
『第二次憂国学徒兵』の駆る『ナイトゴースト』がたじろいだように迫る『ファントムシリカ』の幻影に照準を合わせられない。
幻影であると推察はできても、彼らの知る幻影装置とは性能が違うのだ。本来の幻影であれば、本体の機動に追従するものである。
だが、目の前のキャバリアの幻影は全てが別々の動きを取るのだ。これではどれが本体であるかわからない上に照準は惑って狙いをつけることができない。
その数瞬の惑いが実践では生死をわける。
無闇矢鱈に発砲すればパラライズバレットの弾倉は空になり、装填する時間がまさに完全なる隙を生み出す。
「私の刃は全てを切り裂く! 参ります!」
一瞬の攻防。
目にも留まらぬ疾風怒濤(クリティカルアサシン)の如き斬撃。フローライトダガーの淡い緑のベーム刃の軌跡が、『ナイトゴースト』のオーバーフレームを切り刻む。
「見えなかった、だと―――ぐわっ!?」
次の瞬間には『ファントムシリカ』の機体は陽炎のように消え、再び姿を現したときには、別の『ナイトゴースト』が無力化される。
それはまるで幻影そのものが実態を持って『ナイトゴースト』を切り刻んだかのようにも見えたことだろう。
無数の幻影が『第二次憂国学徒兵』のパイロットたちを翻弄し、何も出来ぬままに『ファントムシリカ』の緑色のビーム光が彼らを打倒していく。
その姿はまさに幻影、亡霊。
戴くファントムの名に恥じぬ活躍であったのだが。
「何か今のちょとクノイチっぽくないですか?! ね! シリカ! ね! ねね!」
色々台無しですお姉ちゃん。
そんなシリカのため息交じりの声が戦場に場違いのように響くのだった―――。
大成功
🔵🔵🔵
セルマ・エンフィールド
今回のやり方には賛同できませんが、革命自体は否定しません。
推奨するものでもありませんが……自らの意思で立ち実行するのであれば私が関与することではないでしょう。
ですがそれはオブリビオンマシンが絡んでいないのであればの話です。
……あまり長く使わせると、操縦者にも負担がかかりそうですね。
あの兵器、威力は高いのでしょうが人に当てるものではなさそうですね。
小回りを活かし、『敵を盾にする』立ち回りで攻撃を避けていきます。
あちらも数を活かし囲もうとするでしょうが、そこが狙いです。『鎖す氷晶』で電磁装甲ごと切り裂き、こちらを囲もうとするキャバリアをまとめて切り裂きます。
「今回のやり方に賛同はできませんが、革命自体は否定しません」
セルマ・エンフィールド(絶対零度の射手・f06556)は冷ややかながら、冷静な眼差しで『第二次憂国学徒兵』の駆るキャバリア『ナイトゴースト』と対峙していた。
彼らの駆る『ナイトゴースト』の性能はすでに聞き及んでいる。
電磁装甲。
防御力を高め突撃能力を高めた形態だ。それが数を揃え一列に並んで突撃する姿は、言わばファランクスのようなものであったことだろう。
対する彼女は生身。
言わば象と人との戦いだ。
「ならば、我々の為す未来もまた理解できるだろう! 国を憂い、虚像に塗れた今の世界を破壊する。そのために国の礎たるプラントは必要ないのだ!」
彼らの言っていることは支離滅裂だ。
このクロムキャバリアにおいてプラントは必要不可欠であり、プラントがなければ国として保つことができない。
それを彼らは理解しているはずだ。いや、理解していたとしてもオブリビオンマシンに搭乗している以上、彼らの心は歪められてしまっている。
「……推奨するものでもありませんが……自らの意思で立ち実行するのであれば私が関与することではないでしょう。あなた達があなた達自身の力で為すべきを為す。それでいい」
ですが、とセルマはその青い瞳にユーベルコードの輝きを宿しながら言う。
「それはオブリビオンマシンが絡んでいないのであればの話です。その機体の性能、引き出すのは操縦者への負担がかかる上に機体の消耗も激しいものでしょう。強大な防御能力―――そのパイルバンカーが主装備に成るのは、『それしか使用できなく成るから』でしょう!」
セルマが駆け出す。
彼女の戦術眼はたしかであった。装甲の強度を上げる電磁装甲。確かに絶大な防御力をえることができる。だが、機体のエネルギーインゴットの消耗も激しく、パイルバンカーのような原始的な炸薬よって杭を打ち出す武装にしか仕様ができなくなるのだ。
ならば、やりようがある。
あの武器は対人を考えられたものではない。セルマのように生身単身で戦う猟兵とは相性が悪い。
なのにセルマに対して電磁装甲を使ったのは、すでにセルマたち猟兵が超常の人として、生身ではありえぬ程の攻撃力を有していると彼らが恐れているからだ。
「その恐れはオブリビオンマシンによって歪められたものではないでしょう。それがあなた達の抱える当然の感情。戦いに赴く者に恐怖は足枷でしょうが……」
翻弄するように駆け抜けるセルマ。
焦って彼女を攻撃しようとすれば、僚機に攻撃が及んでしまう。それこそがセルマの狙いであった。
敵を盾にするよう立ち回り、敵はセルマを捕らえようと囲いを狭める。
「生物には必要な感情なのです。どれだけの年月が過ぎようとも、人は恐怖を捨てきれない。捨てられない。だからこそ、囲いこもうとする―――逃げ道など作りません」
輝くユーベルコード。
青い瞳が煌き、彼女の手がまるで氷の結晶を振り撒くように広げられる。それらは氷晶の刃となって周囲を飛び、幾何学模様を描いて飛翔する。
「その恐怖の意味、そのオブリビオンマシンから降りた後でも構いません―――今一度考えて頂きます」
放つ氷晶の刃がセルマを取り囲む『ナイトゴースト』を鎖す氷晶(トザスヒョウショウ)の檻の如く包囲し、オーバーフレームを次々と切り裂いて擱座させていく。
電磁装甲と言えど千本近い刃に晒されて無事でいられるはずがない。
刃の衝撃がエネルギーの消耗を早まらせ、何度も打ち付けられる刃に装甲は通常装甲に戻ってしまう。
「これで終幕です……」
氷晶の刃が消え失せる頃、セルマの周囲にはコクピット以外を切り裂かれ倒れ伏すキャバリア『ナイトゴースト』の山が築かれていた。
革命の気概を持つものを悪く思うつもりはない。
けれど、それらを、意志をないがしろに弄ぶオブリビオンマシンは許してはおけない。セルマは、最後の一機『セラフィム・リッパー』のいるであろう、プラント施設中枢へと歩をすすめるのであった―――。
大成功
🔵🔵🔵
アレクサンドル・バジル
お、出てきた出てきた。ナイトゴーストか。ちょっとカッケーな。
まあ、壊すんだが……
黄金の魔力を纏った『スルト』を駆り、『炎の剣』を振るって戦います。
(戦闘モードⅠ)
武器、四肢を破壊して戦闘能力を奪います。(部位破壊)
敵POWUCは特殊弾を炎の剣で切り払ったり、空中で魔法の炎弾で撃墜したり。
(オブリビオンマシンを破壊した後)
憂国愛国良いんじゃねーの? それが本当の自分の意思ならな。
どーだい、今もプラント占拠が正しいと思っているのかい?
まあ、考える時間は幾らでもあるさ。安全な場所に隠れてな。
アドリブ歓迎です。
「クソッ! 第一中隊も、第二、第四もやられた……! 敵の傭兵はどれだけいるんだよ!」
『第二次憂国学徒兵』のパイロットたちは次々と連絡が途切れたキャバリア『ナイトゴースト』の部隊の数に冷や汗とも脂汗とも言えぬ汗を額に浮かべながらモニターを叩きつける。
こんなはずではなかったと叫びたくなる気持ちを抑える。
戦場に出たいと思っていた。
誰かのために、家族のために、国のために戦うのだと意気込んでいた自分を呪う。キャバリアに載って戦うのは好きだ。
気分が高揚し、楽しいと思う。
けれど、実践はまるで楽しくない。恐ろしいばかりで、気ばかりが急いてしまう。上手く身体が動かない。どうしようもないほどに身体がかたまり、恐怖が己の身体をがんじがらめにしているようであった。
「お、出てきた出てきた。ナイトゴーストか。ちょっとカッケーな」
そんな戦場には似つかわしい声が響く。
プラント中枢の構造物の合間……その影から漆黒のキャバリア『スルト』の姿が現れる。
それは闇を溶いたような装甲色に黄金の魔力を纏いしアレクサンドル・バジル(黒炎・f28861)の従僕にして乗機。
緊張感のない声は彼の余裕の表れであろう。異世界の住人であるアレクサンドルにとってキャバリアとは好奇の対象でしかない。
「まあ、壊すんだが……」
「て、敵―――!」
キャバリアライフルに装填されたパラライズバレットが放たれる。
絶え間なく放たれるキャバリアライフルの弾丸が『スルト』へと吸い込まれていく。
だが、それはすべて漆黒の装甲に吸い込まれる前に手にした未知の金属によって作られた真紅の実体剣が切り払う。
その動きはキャバリアの動きではなかった。まるで人、生物、それを思わせるようななめらかな挙動。
「なんだ、なんだよ! あれ! あんな出鱈目なのがいるなんて聞いて―――ひっ!」
眼前に迫る『スルト』の頭部。
ツインアイが輝き、その瞳の奥に意志を感じて『第二次憂国学徒兵』のパイロットはすくむ。
機械とは思えない。生物的な瞳。意志を感じ、それが一個の生命なのではないかと思うほどの圧倒的な存在感。
それは『スルト』がキャバリアではなくオブリビオンマシンであるがゆえであろう。アレクサンドルとの主従において、屈服している状態であるが……。
「おっと、スルト。やりすぎるんじゃあない」
コンソールを蹴り飛ばしアレクサンドルが言う。
オーバーフレームを破壊し、アンダーフレームをも切り裂いた炎の剣がピタリと止まる。オブリビオンマシンである『スルト』にまかせていては、常に暴走の危険がいつ訪れてもおかしくない。
それを止めるストッパーとしてアレクサンドルは操縦桿を握る。
「手加減ってえのはこうやるんだよ」
振るった剣が再び別の『ナイトゴースト』の四肢を一瞬で切り捨てる。コクピットブロックだけになった機体を地面へと放り投げ、アレクサンドルは息を吐き出す。
「憂国愛国。いいんじゃねーの? それが本当の自分の意志ならな。どーだい、今もプラント占拠が正しいと思っているのかい?」
コクピットから這い出すパイロットに向かってアレクサンドルは言う。
彼の言葉はある意味で試金石だった。
『第二次憂国学徒兵』。
それがほんとうの意味での憂国であるのか、それともオブリビオンマシンに心を歪められただけの結果であるのかを見極めるためである。
「ち、違う……俺たちは、本当に……でも、なんで、プラントを……」
彼らは見上げる。
何故自分たちがプラントを占拠しようとしたのか理解できていないのだ。
困惑も当然だろう。国を憂う気持ちは本物だったとしても、そこから派生するものを捻じ曲げられているのだから。
アレクサンドルは笑った。ならば、それでいいのだと。
「まあ、考える時間はいくらでもあるさ。安全な場所に隠れてな。後は俺たちに任せとけ―――」
アレクサンドルは『スルト』と共にプラント施設中枢へと駆け抜ける。
その瞳が捉えるのは―――。
大成功
🔵🔵🔵
第3章 ボス戦
『セラフィム・リッパー』
|
POW : 断罪の剣
【無敵斬艦刀】が命中した対象を切断する。
SPD : エンジェルビット
自身が装備する【BS-Fクリスタルビット】をレベル×1個複製し、念力で全てばらばらに操作する。
WIZ : フォールンウイング
【光の翼】を向けた対象に、【プラズマビーム】でダメージを与える。命中率が高い。
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
|
『第二次憂国学徒兵』のパイロットたちが乗る『ナイトゴースト』が猟兵達によって打倒された。
誰も彼もが傷つくこと無く、コクピットだけをきれいに外して無力化されていた。その様子を『セラフィム・リッパー』2号機のコクピットの中で静かに見つめるのは『第二次憂国学徒兵』の首魁にしてアンサーヒューマン、『ツヴァイ』。
彼女の瞳に戸惑いはなかった。
ある意味で当然であるとも思っていた。
「あれが傭兵……百戦錬磨、超常の人、どのような呼び方をしても正しく表現できるものではありませんね」
ツヴァイの言葉は冷静であった。
あらゆるもの俯瞰し、正しく状況を見定める。
「私達の負けですね。ここまで蹴散らされ、プラント施設の支配権を奪われようとしている……」
彼女は優等生と言えた。優秀な能力、分析力、人を束ね、指揮する力。どれをとっても傑物と言っていい女性であった。
けれど、それは在る一定のレベルでの話だ。
世界には戦乱が続いている。
玉石混交。玉であっても石の角にあたれば削れ、摩耗していく。それが戦乱の世界クロムキャバリアの常である。
彼女の双子の妹、ドライ、フィーアも同じであった。彼女たちもまた優れていた。優秀だった。けれど、それでも生命は明日あるとは限らない。
「―――ならば、その傷みを、真理を人は知らなければならない。明日もまた同じ様に訪れるなど―――」
考えてはならない。末の弟妹たちもまた、双子の妹たちと同じ路をたどるかも知れない。それが胸が張り裂けそうな傷みを伴って彼女の心歪めていく。
「彼女たちは十分に生きてはいなかった! 生きていたかったはずなのに、それでも誰かのために……戦う! それを止められなかった私の責を! 謗るのならば私だけにしなさい」
誰に言う言葉なのか。
己を責める言葉は虚しくコクピットに響き渡る。
「フュンフ、あなたがなそうとしたことは、こういうことなのでしょう。不甲斐ない姉でしたが……ですが、それでも私は―――! プラントを停止させる。確実な明日などない! それを国民に問うべきなのです! 戦うものがあるからこそ、守られる者は生きることができる。国民全てが明日をも知れぬ戦う者とならなければ! この国は滅びるしかないのだと!」
オブリビオンマシン『セラフィム・リッパー』2号機が咆哮する。
ジェネレーターが唸りをあげ、出力を上げていく。
かつて最新鋭キャバリア暴走事故として知られる機体があった。その対処にあたった猟兵達もいたことだろう。
すでにあの機体の性能は知っていると言う者もいるかもしれない。
あの『セラフィム・リッパー』のパイロットが荒削りなる可能性秘めた『エース』の原石であるのだとすれば、ツヴァイの乗る『セラフィム・リッパー』は実利を突き詰めた機体。
そこに一切の妥協はなく、己の能力全てを用いて敵を穿つまさしく兵器であるのだと知れ。
「―――ツヴァイ……ツヴァイ・ラーズグリーズ。参ります―――!」
これまで得てきたツヴァイという実像が歪む。
心を歪められ、オブリビオンマシンのパーツの一部と化した彼女はすでに優等生ではない。
例え偽りであったとしても『エース』なのだから―――。
ルイス・グリッド
アドリブなど歓迎
AIは女性の声で敬語口調
全ての者を戦う者へか、なら、守られる人はどこにいる?
正しい事もあるが意見が飛躍しすぎだ。頭を冷やせ
SPDで判定
AIに敵機の【情報収集】を頼み、俺は【早業】【見切り】で攻撃を回避、ビットを【スナイパー】【クイックドロウ】で撃ち落とす
コックピット以外の武装や脚部に藍の災いの圧壊【重量攻撃】をUCで付与した弾丸を【スナイパー】【クイックドロウ】【全力魔法】で撃ち込み行動を制限する
接近戦になれば片手剣を使い防いだ後、ビームガンに変形され【レーザー射撃】【零距離射撃】で【カウンター】をする
オブリビオンマシン『セラフィム・リッパー』から噴出したクリスタルビットの数は尋常ではない数であった。
しかも、それら全てがコントロールされているという点においても、嘗て猟兵が相対した『セラフィム・リッパー』の3号機とは似て非なるものであると言えたことだろう。
「変えましょう。人が変わらぬというのならば、私が変えましょう。どれだけの血が流れるかわかりませんが変えましょう。その責任は、咎は、私だけが背負っていきましょう―――クリスタルビット!」
空中に展開されたクリスタルビットが猛烈なる勢いでプラント施設の中を駆け巡る。障害物を避け、あらゆる場所に隠れ潜む猟兵すらも見逃さぬ猛追を開始する。
「全てを戦う者へか、なら―――」
ルイス・グリッド(生者の盾・f26203)は嵐のようなクリスタルビットの猛追をキャバリア『銀の銃兵』に搭載された戦闘補助システム〝Minerva〟によって情報を得、それらを用いてクリスタルビットを躱そうとしていた。
だが、それはどれだけ優れたAIが存在しようともあらゆる角度、あらゆる場所から飛来するクリスタルビットを全て躱すのは不可能であった。
『―――警告。敵飛翔体の感知が追いつきません。警告。このままでは撃墜される恐れがあります』
AIの女性の声が響く。
流暢な喋りであるが、れっきとしたオペレーションシステムである。モニターに映る情報から察するに全方位からの如何なる射程にも対応した装備であるのだろう。
以前、最新鋭キャバリア暴走事故の時の『セラフィム・リッパー』とはクリスタルビットの展開の数が違う。
「守られる人はどこにいる! 躱しきれないというのなら、撃ち落とすまで! 火器管制のリミッターをはずせ、狙いは―――俺がつける!」
ルイスはその左眼の義眼―――メガリスの力を開放する。藍色に輝く瞳。メガリスの力がキャバリアに伝導し、その災の力を発言させる。
属性付与(エンチャント)と呼ばれるユーベルコードである。
ルイスの左眼に備わった義眼のメガリス。そのメガリスは輝く色によって災いを齎す。付与された災いの力は弾丸から放たれ、黄色であれば電撃、藍色であれば圧壊など様々な力を齎す。
「―――数が多いというのなら、その尽くを撃ち落とす」
義眼のメガリスの輝きが増す。
点でクリスタルビットを全て撃ち落とすのは不可能だ。
ならば、面で制圧する。放たれた藍色の弾丸は圧壊の災いを齎す。素早く放たれた弾丸は空中で炸裂するようにクリスタルビットを押しつぶすような衝撃波を放ち、次々とクリスタルビットを破壊する。
「守られる者が存在しなければ、誰も戦う理由など見いだせなくなる! お前だってそうだろう! 誰かのために戦うために、何かをなそうとしたはずだ!」
「そんなものがあるから、人は己を犠牲にしてしまうのです。その犠牲が誰かの心をえぐる事も知らず―――!」
クリスタルビットが再び展開する無尽蔵なのか! とルイスが毒づく。遠隔装備、それもオールレンジに対応していると成れば、距離を取れば取るだけルイスに分が悪い。
優等生。教科書どおりの戦い方をする。
そんなイメージを持たされていた。いや、事実そうであったことだろう。だが、今のツヴァイは違う。皮肉にも心を歪められたからこそ、起こるはずのなかった『エース』へのブレイクスルーが起こってしまっているのだ。
「喪われないためには! 全てが一丸とならねばなりません。ならば、守られる者などあってはならない! 指向性を持った一つの弾丸となって敵を穿ち続けなければ、いつまで立っても、人は誰かによりかかり続ける!」
ルイスはキャバリアの銀腕を片手剣に変形させ、突っ込む。クリスタルビットの飽和攻撃を藍色の弾丸で打ち破り、開いた穴へと突入して『セラフィム・リッパー』へと接近戦を挑むのだ。
無敵斬艦刀が振るわれ、片手剣を押しつぶすように振るわれる。火花が散る。ぎりぎりと押し負けるように『銀の銃兵』の腕が変形した銀の片手剣が歪む。
「お前の言うことは正しいこともあるが……意見が飛躍しすぎだ。頭を冷やせ」
銀腕が変形し、ビームガンの形態を取る。
近接戦闘では勝ち目がない。
ならば、ルイスができることは一つだ。放ち、穿つこと。変形したビームガンからゼロ距離射撃を行い、レーザーによる光線が『セラフィム・リッパー』のブレードアンテナを切り裂く。
「誰だってそうだ。守られるだけではいられない。けれど、有史以来人間はそうやって生きてきた。誰かを助けるのは、守られる者のためだけじゃない。いつか自分も、そして、自分の大切な何かを守ってもらうためだ。そうやって人間の歴史は紡がれた来たんだからな―――!」
クイックドロウ。
再び放たれるレーザー射撃が無敵斬艦刀の刃にあたり、火花を散らす。
『セラフィム・リッパー』が後退する。あれを追いかけるには、『銀の銃兵』もまた消耗しすぎてしまった。
膝をつくキャバリアのコクピットからルイスは身を乗り出す。
後退していく『セラフィム・リッパー』に問いかける様に言葉を発する。
「お前は誰がために戦うというんだ、ツヴァイ―――」
大成功
🔵🔵🔵
村崎・ゆかり
引き続き、器物覚醒と「式神使い」で『迦利』を制御。
ご機嫌よう、ツヴァイ。あなたをそこから降ろしに来たわ。雛鳥は、自分で飛べるようになるまで親鳥に庇護されているべきよ。
「全力魔法」の「オーラ防御」を『迦利』の鋭角に展開。「衝撃波」で光の翼を吹き飛ばしながら、『セラフィム・リッパー』の上半身を抉る。
続けて、零距離からの「レーザー射撃」。『リッパー』の装甲を灼いていくわ。
抜き取られたら、「空中戦」で機動しつつ、「制圧攻撃」の「弾幕」を展開する。
完全に『迦利』意識が向いたところで、九天応元雷声普化天尊玉秘宝経を『リッパー』に叩き付ける。
終わりにしましょう。
『迦利』、『セラフィム・リッパー』へ全力突撃!
『セラフィム・リッパー』のブレードアンテナがレーザーによって焼き切られる。
センサーに狂いが出たのかわずかに機体を蹌踉めかせながら機体を反転させる。オブリビオンマシンである『セラフィム・リッパー』の機動性は未だ損なわれていない。
けれどブレードアンテナが損傷したことによってセンサーの範囲が狭まってしまったことは否めない。
「くっ……これではクリスタルビットの索敵範囲が……! あれが猟兵……!」
ツヴァイは歯噛みするように低空飛行する機体を制御する。
速度と攻撃力。
さらにはオールレンジ攻撃を行えるクリスタルビット。無敵斬艦刀による近接戦闘ととにかく『セラフィム・リッパー』にはやれることが多い。
言ってしまえば汎用性の高い機体なのだ。けれど、汎用性が高いからと言って、それら全ての性能を十全にだれもが引き出せるわけではない。
「ご機嫌よう、ツヴァイ。あなたをそこから降ろしに来たわ」
村崎・ゆかり(《紫蘭(パープリッシュ・オーキッド)》・f01658)は機甲式『GPD-331迦利(カーリー)』を器物覚醒(キブツカクセイ)によって遠隔制御しながら、『セラフィム・リッパー』を駆るツヴァイの前に立ちふさがる。
「私を降ろす? いいえ、降ろす必要などありません」
広がる『セラフィム・リッパー』の背面ユニット。フォールンウィングと名付けられた光の翼が広げられ、収束していくプラズマがビーム状になってゆかりに放たれる。
それを防ぐのは『迦利』の逆三角形の機体であった。
プラズマビームとレーザーが打ち合い、衝撃が飛ぶ。そのあまりの衝撃に『迦利』の機体は揺らぐ。
だが、『セラフィム・リッパー』は違う。吹き飛ばしたと確信した光の翼さえも未だ健在である。
「雛鳥は時分で飛べるように成るまで親鳥に庇護されているべきよ」
放たれるプラズマビームと『迦利』の鋭角に施されたオーラ防御がぶつかり、余波を周囲に撒き散らす。
ゆかりの言葉は、未だ子供と言っていい『第二次憂国学徒兵』たちの本来あるべき姿に言及していたのかもしれない。
だれもが未だ巣立ちのときではない。
未だ誰かの元にあって、力を蓄える時期であるはずだ。
「私達は鳥ではありません。空を飛ぶことすら知ることのできぬ、この世界において私達は地に這う者でしかない。力ある者はいつだってそういうのです。まだ早い、まだ力をつけていないと。それが―――」
光の翼が更に大きく展開される。収束するプラズマの奔流がゆかりの頬を熱風となって撫でる。
ジェネレーターの出力さえもオブリビオンマシン化することによって上がっているのか。
「それが、持つ者の傲慢であると誰が否定できましょうか!」
放たれるプラズマビームがほとばしり、『迦利』の機体装甲を剥ぎ取っていく。オーラの防御も間に合わぬほどの熱量。
けれど、ゆかりはその言葉に頷く。
「ええ、そうね。それが傲慢であることは間違いないわね。けれど、力のない者がどれだけ喚こうが、世界は優しくない。空飛ぶ猛禽の糧にしかならないと知って送り出す親が何処にいるの?」
プラント施設内を飛び回る『迦利』の機体。
またプラズマビームを受けれてしまえば、今度こそ撃ち落とされてしまうだろう。空を舞うようにレーザーを放ちつつ、牽制し、弾幕を張り続ける。
「終わりにしましょう……心を歪められた貴方に言葉が届くとは思えない。だから、あたしはあたしの力で答えましょう」
『セラフィム・リッパー』が釘付けになった『迦利』。そこへゆかりのはなったユーベルコードの雷撃が周囲を光の明滅で覆い尽くす。
その放たれた激烈なる一撃は『セラフィム・リッパー』を穿つ。
だが、まだ足りない。
「くっ―――! この程度の攻撃で! 私が墜ちるとでも、セラフィム!」
光の翼が広げられる。
瞬間、『迦利』の鋭角が凄まじい勢いで『セラフィム・リッパー』へと突撃する。その一撃はオーバーフレームをえぐり取らんとする一撃であったが、とっさに反応した『セラフィムリッパー』の無敵斬艦刀が受け止める。
刀身と『迦利』の鋭角がぶつかり、火花を散らせる。その衝撃は凄まじく、突風が吹き荒れる。
「『迦利』―――全力を出しなさい! 貴方の力はそんなものではないでしょう!」
その音はどちらの機体から響いた音であっただろうか。
何かにヒビが入る音。
それは無敵斬艦刀の刀身に入ったものであり、『迦利』の内部フレームに亀裂が入った音でも在った。
だが、それでも『迦利』の突撃は『セラフィム・リッパー』をプラントから引き離すように吹き飛ばし、鋭角を大地に突き立て、停止する。
「……皮肉ね。心を歪められたからこそ、『エース』として一皮剥けたなんて……でも、それでも。何度でも言うわ。ツヴァイ、貴方はまだ庇護されるべき存在なのよ。その危うさはね―――」
大成功
🔵🔵🔵
アリッセ・トードゥ
『正真正銘、本物のエース機だね。私みたいな量産機じゃ勝てないよ?』
小娘の様に気楽な口調でALICEに言われる。私と同一人格、裏の性格だと言われるが信じられない。
「それがどうした。彼女の願いを叶えさせる訳にはいかない」
『了解』
【郷力将来】。プラントが転送してくれた力で超強化、無尽蔵のエネルギーを得る。
理論値を超える【推力移動】と超高速演算の【戦闘知識】で敵の攻撃を回避。通常の数倍の長さのフォースセイバーの【なぎ払い】でコクピットを外し【切断】攻撃。
私はお前を責めない。もっと上手くやれたと思うのは止められない。
だけど、世界は皆で少しずつ変えていくしかないんだ。
だから、お前もそんなに自分を責めるな。
プラント施設の中で繰り広げられる攻防の激しさは、時折放たれる衝撃波の力強さから類推することができよう。
圧倒的な『エース』同士の戦い。
それは他者が簡単に介入できるものではなくなっていた。猟兵とオブリビオンマシン。その戦いの激烈さは言うまでもない。
『正真正銘、本物のエース機だね。私みたいな量産機じゃ勝てないよ?』
キャバリア、『CZ-1=カスタム』に搭載されたアリッセ・トードゥ(BE-MADER・f30023)と同一人格のAI兼OSのALICEの言葉が頭の中で重く響き渡る。
小娘のように気楽に言ってくれるとアリッセは内心毒づくが、それでもテレパシーによって情報をリンクしているALICEとは筒抜けの状態だ。
『もう、本当のことでしょう?』
これでアリッセ自身と同一人格、裏の性格なのだと言われるが未だに信じられない。
「それがどうした。彼女の願いを叶えさせるわけにはいかない」
ただ短くそれだけ告げる。
『セラフィム・リッパー』2号機のパイロットである『ツヴァイ』。彼女の願いはオブリビオンマシンに搭乗することによって支離滅裂なる生産性のない破滅への道へと続いている。
破滅すると分かっている者を、その先に進めさせることなどできようはずもない。
争乱だけが続くクロムキャバリアの世界であるからこそ、彼女のように物事を俯瞰し、人を束ね、導くことのできる存在は貴重である。
なればこそだ。
彼女を救い出さねばならない。それはテレパシーを介してALICEにも伝わる。本当に彼女が時分と同一であり裏の性格を持たされているのであれば、返ってくる解答をアリッセは分かっていた。
『了解』
短い返答。
けれど、そこに何か感情が乗っているような気さえした。
「此処にもいましたか、猟兵! 私の道を阻む者! 滅ぼさなければならない―――敵!」
ツヴァイの駆る『セラフィム・リッパー』が会敵する。
その広げられた光の翼はプラズマビームを放つ力を示すように巨大な翼となって広げられている。以前相対した『セラフィム・リッパー』3号機とは比較にならぬほどの出力。
あれが『エースの原石』と壁を打ち破って『エース』となった者の差であると言えるのであろうか。
オブリビオンマシン化しているからであるとか、そんな些細な問題ではないほどの大出力。
「あれを受けては私も無事ではいられないな―――だからと言って退く理由にもなっていないが! 私はお前を責めない。もっと上手くやれたと思うのは止められない」
「ええ、そうでしょうとも! 私は私自身が許せない。私は私自身のために誰かの血を流すことを共用するのですから!」
支離滅裂ながらも、その『エース』としてのブレイクスルーを引き起こしたのがオブリビオンマシンによる心の歪みであることがもどかしい。
アリッセはそう感じてしまう。
「世界は変わらねばなりません! 変革を! 人のあり方から変えていかねばならないのです! それには猟兵は邪魔なのです!」
光の翼から充填されるプラズマが収束し、アリッセの駆る機体を狙う。
確かに彼女の言う通りかもしれない。争いばかりが起こる世界であるというのなら、人のあり方を変えなければならない。
けれど、そこにオブリビオンマシンの存在は必要ないのだ。
「お前の言う通りかもしれないな―――だけど、世界はみんなで少しずつ変えていくしかないんだ」
『エナジーフォール。ダウン』
ALICEの音声がコクピットの中に響き渡る。
ユーベルコードの輝きがアリッセの瞳宿る。郷力招来(エナジーフォールダウン)。それはプラントから転送吸収したフォースエナジーによって機体を覆うユーベルコードの輝きである。
対峙するキャバリア―――オブリビオンマシンは間違いなく『エース』である。
その脅威度は言うまでもない。
だからこそ、アリッセは退かない。己が特別であるとは言わない。けれど、それでも退くことのできない理由がある。
「ツヴァイ、お前は泣いているだろう。自分を責め続ける。それは間違いではないけれど―――」
アリッセは充填されたプラントからフォースエナジーを受けて肥大したフォースセイバーを振るう。
理論値はとっくに越えている。
この熱量に、エナジーの力に機体が持つかどうかは掛けだ。
けれど、やらねばならない。目の前で己の傷の傷みにあえぐ者がいるのであれば―――!
「お前もそんなに自分を責めるな。世界はみんなで少しずつ変えていくしかないように、誰かの傷みを、誰かの憂いに寄り添うことができるから人は、きっと優しいのだから」
放たれたプラズマビームとフォースセイバーが激突する。
エネルギー同士が衝突し、世界を光で満たす。吹き飛ぶ互いの機体。アリッセの機体はフォースセイバーが焼け落ち、使い物にならなくなっていた。
けれど、対する『セラフィムリッパー』はオーバーフレームの左腕が欠損し、抉れていた。
「人とはそういう生命だ、ツヴァイ」
大成功
🔵🔵🔵
ユーリー・ザルティア
こんのぉぉぉぉバカヤロー!
自分の酔うのはいい加減にしろ。
その姉妹が、兄弟が何のために戦ったのか思い出せッ!!
オーバーブースト!!最大加速ッ
レスヴァントを最大加速させるよ。
『肉体改造』された体が軋むけど、ボクの『操縦』テクなら楽勝だった!!
アストライヤの『威嚇射撃』と内蔵火器による『レーザー射撃』でビットを撃墜させる。
長年において蓄積した『戦闘知識』から『瞬間思考力』で最適解を導き出したのさ。
ツヴァイって言ったよね…歯を食いしばりなさい!!
一気に加速させて懐に潜り込んだらキャバリアの右手から『重量攻撃』…パンチするわ。
痛いでしょ…その痛みの100倍以上の痛みをみんなに強いろうとしてるのよ君は!!
エネルギーの奔流が激突し、プラント施設の中で明滅する。
衝撃波が周囲に撒き散らされ、それがオブリビオンマシン『セラフィム・リッパー』と猟兵の駆るキャバリアが激突したことを知らせる。
すでに『セラフィム・リッパー」はブレードアンテの一部を欠損、無敵斬艦刀に亀裂が入り、オーバーフレームの左腕を消し飛ばされていた。
「私は……! この世界が、優しくないことを知っている! 人がどれだけ他者の憂いに添うことのできる生命だと知っていたとしても、それでもその優しさを吹き飛ばすのが人であると知っている! 銃弾は、たやすく人の生命を散らす!」
だから! 『セラフィム・リッパー』のパイロット、ツヴァイが慟哭する。
それに応えるようにオブリビオンマシンである『セラフィム・リッパー』からクリスタルビットが展開される。
ブレードアンテナの欠損によってコントロールに乱れは出ているものの、未だクリスタルビットの数は尋常ならざるものであった。
「私は他者の境界線をなくすのです。人が人という一個の生命に成れば、争いなど起こらないのです。他者という存在があるからこそ、人は争う。争い続けてしまう!ドライもフィーアも!」
それは『平和』を知らぬがゆえの咆哮であった。
けれど、それを真っ向から受け止める者がいた。
「こんのぉぉぉぉバカヤロー!」
ツヴァイの咆哮を否定する言葉だった。乱暴な言葉であったけれど、そこには明確な怒りと悲哀が籠められていた。
「自分に酔うのはいい加減にしろ。その姉妹が、兄弟が何のために戦ったのかを思い出せッ!!」
ユーリー・ザルティア(自称“撃墜女王”(エース)・f29915)はキャバリア『レスヴァント』の機体を更に加速させる。
クリスタルビットがどこからでも敵を狙えるのであれば、ユーリーはさらに早く飛ぶだけだ。
「オーバーブースト!! 最大加速ッ」
機体がきしみ、肉体が軋む。
それは常人であれば、耐えることの出来ない重力加速度であったことだろう。だが、ユーリーは違う。肉体の改造を施され、圧倒的な重力加速度にも耐えうる身体を持つ。
だからこそ、無茶な戦い方ができる。
誰かが言うだろう。
そんな無茶な戦い方をしなくてもユーリーは十分に敵と渡り合うことができるであろうと。けれど、ユーリーは頭を振る。
そうではないのだと。
ならば、なんのために。
「そんなの決まってる」
歯を食いしばる。機体のきしみは更にひどくなっていく。どれだけ頑強なるフレームであったとしても、この殺人的な加速度の前では意味がない。
手にしたキャバリアライフルと内臓火器であるレーザーが次々とクリスタルビットを撃ち落としながら『セラフィム・リッパー』に肉薄する。
クリスタルビットが次々と火球に代わり、撃ち落とされていく。
それはまるで夜空に咲く花火のようであり、これまでクロムキャバリアに散った生命の輝きであったようにも思えたかも知れない。
「セラフィム! クリスタルビットの精度を上げなさい! 私の全てを使ってでも! あの敵は、猟兵は! 私自身のために墜とさなければ―――!」
クリスタルビットがユーリーの放つキャバリアライフルの弾丸を躱し始める。
当たらなくなったと、ユーリーの中の瞬間思考が働く。
一瞬の攻防。
アンサーヒューマンとレプリカントの瞬間思考能力が火花を散らせる。互いに互いの一手先を読む戦い。
牽制と射撃、思考と反射。あらゆる面に置いて数瞬の時間が永遠にも感じられる。この瞬間において、ユーリーとツヴァイの思考は極限にまで高められていた。
「ツヴァイって言ったよね……歯を食いしばりなさい!!」
キャバリアライフルが爆発を起こす。クリスタルビットによって破壊されたのだ。
けれど、クリスタルビットも数を減らしている。
どれだけ面で囲おうとも、もはやレスヴァントの突撃を止められる厚さにまで展開するには時間が足りない。
強行突破した凄まじき速度に乗ったレスヴァントが迫る。
その腕に武装はない。このまま突っ込んでくるつもりだ。
「勝った―――!」
だが、ツヴァイのその宣言はあまりにも早かった。ユーリーは言った。歯を食いしばれと。どういう意味だ? それは瞬間思考能力を持つアンサーヒューマンであっても出せぬ答えであり……その答えがすぐにはじき出される。
一気に加速して懐に入り込んだレスヴァントの最後の武器。マニュピレーターがきしみながら握りしめられる。
その形は拳。
人は生まれ出る時、拳を握りしめて生まれる。
それは何故か。答えはわからない。けれど、その答えをツヴァイは知っているような気がして―――。
放たれたレスヴァントの拳が『セラフィム・リッパー』のフェイスを砕くように叩きつけられる。
機体が跳ね、ふきとばされる。対するレスヴァントの機体は拳を放った腕部がひしゃげ、使い物にはならなくなっていた。
「痛いでしょ……その痛みの100倍以上の痛みをみんなにしいろうとしているのよ君は!!」
ユーリーが吼える。
それは彼女の信念であった事だろう。
なんのために。その答えは拳と共に放たれている。
誰かに痛みを強いる者に反逆するためだ。誰かにこれ以上痛みを押し付けないように。誰かの痛みが許せないからこそ、ユーリーは全力以上の力を引き出す。
「わかるでしょう! お姉さんなんだから!」
レスヴァントのひしゃげた腕が天に向かって突き上げられる。
それは確かに『エース』に競り勝った勝利の証だった―――。
大成功
🔵🔵🔵
エミリア・ジェフティー
『敵高脅威目標、アンサーヒューマンと推定。システム出力の引き上げを推奨』
さすがアンサーヒューマン、厄介そうな相手ですね
…いえ、あれはオブリビオンの力もあるからこそでしょうか
此方も本腰を入れて情報収集といきますか
サイコアクセラレータ出力上昇、防性強化重点
オウルアイ、稼働最大
一手先を読む力なら此方が上
後付けの瞬間思考力ですが、天然物にも負けませんよ
散弾、徹甲弾を織り交ぜた牽制
一瞬隙を見せて誘い込んで…
斬艦刀の振り下ろしを予測
最小限の機動で回避し、刀の上を伝って一気に接近
零距離の散弾砲でオーバーフレームを吹き飛ばします!
死に方を選べない時勢です
生き方まで縛る必要はないと思いますよ
他人も、貴女自身も
凄まじい重力加速度に乗って放たれたキャバリアの拳がオブリビオンマシン『セラフィム・リッパー』のフェイスマスクを砕く。
「―――!?」
それは『セラフィム・リッパー』のパイロットである『ツヴァイ』にとって、想定外のダメージであったことだろう。
すでに猟兵との戦いで左腕が脱落している。ブレードアンテナは損傷し、無敵斬艦刀の刀身には亀裂が入っている。
だが、それでも戦うことをやめない。やめられるわけがないのだ。
「私が止まってしまえば、それこそあの子たちの死すら意味がなくなってしまう。あの子達の生命の意味を、意義を、私が作り出さなければ」
『セラフィム・リッパー』のツインアイに狂喜の光が灯る。
あれだけの機体の損壊を受けて尚、オブリビオンマシンとしての力は健在であった。
『敵高脅威目標、アンサーヒューマンと推定。システム出力の引き上げを推奨』
それはエミリア・ジェフティー(AnotherAnswer・f30193)の駆るキャバリア『セシャート』の中核を担うコクピット、サイコアクセラレータが告げるアナウンスであった。
彼女が今相対しているオブリビオンマシンのパイロットは間違いなくアンサーヒューマンである。システムに頼らなくても肌で感じるプレッシャーがそう言っている。
「さすがアンサーヒューマン、厄介そうな相手ですね……いえ、あれはオブリビオンの力もあるからこそでしょうか」
これまでのジャミング地帯や、『第二次憂国学徒兵』たちの用兵の傾向から察せられる『ツヴァイ』の人となりは、『エース』たり得ないパイロットであった。
頭打ちの存在。
だが、ここに来て『エース』としてのブレイクスルーを引き起こしたのがオブリビオンマシンが齎した心の歪みであることは皮肉以外の何物でもない。
この圧はまさしく『エース』と相対していることを現している。
「此方も本腰を入れて情報収集と行きますか。サイコアクセラレータ出力上昇、防性強化重点。オウルアイ―――稼働最大」
それは彼女の超感覚や思考速度を強化していき、多目的演算レーダーと共にあらゆる事象を記録し、見通す賢者の眼と為すものであった。
エミリアはキャバリアと電脳接続によって、機体性能、オウルアイから送られてくる情報を処理する。
それは言わば未来予知と言ってもいいレベルに増幅されるものであり、それこそが彼女の本領、ユーベルコードである。
「一手先を読む力なら此方が上……後付の瞬間思考能力ですが、天然物にも負けませんよ」
先に動いたのは『セラフィム・リッパー』だった。
すでにクリスタルビットは半数が脱落し、復旧に時間がかかっている。
一方的に砲撃を加えることのできるプラズマビームは、牽制としては使えない。エネルギーの充填を急ぐのならば、エミリアへの対処は無敵斬艦刀によって行われるだろう。
「そういう計算はもう済んでいるんですよ―――!」
互いに互いの手の内を読み合う。
瞬間思考能力同士がぶつかった際、その思考は一手先以上を読み取る。互いの挙動、癖、あらゆる情報を処理出来たものこそが戦いの勝者となる。
システムが異常な速度で情報を処理していく。
エミリアの脳に負荷がかかるが、気にしてはいられない。ここで一瞬でも手を抜けば、ツヴァイに全て思考を読み切られてしまう。
ならば、立ち止まるときは今ではない。
ブルパップ式自動小銃から放たれる散弾と徹甲弾を織り交ぜた斉射で『セラフィム・リッパー』の接近を牽制する。
それはこちらに近づかせないためと思わせる牽制であり、誘いであった。
どれだけ電磁投射によって連射速度を手に入れたとしても、弾数に限りが在る火器故に、隙が生まれる。
一般の兵士たちの間には問題にならないほどの僅かな時間。けれど、それは瞬間思考を有する者たちの間にとっては、決定的な隙である。
「誘い込みますか、猟兵! ならば、無敵斬艦刀に露と消えていただく!」
放たれる上段の大ぶり。
それはエミリアにとって予測された一撃であった。機体の肩アーマーが寸断されながらもギリギリで躱す。最小限の動きで躱すにはこれしかなかった。
無敵斬艦刀が地面を抉り、その一撃の凄まじさを語る。
「その大ぶり―――迂闊ですよ!」
地面に突き刺さった斬艦刀の上を伝って駆け抜け、一気に懐に入る。
無敵斬艦刀は絶大な威力を誇るが故に空振りにされてしまえば、その隙はさらに大きくなる。
零距離で放つ散弾砲の前にはオーバーフレームも保つまい。
「―――ッ! この距離で、対応しますか!?」
だが、その目論見は復旧したクリスタルビットに阻まれる。いや、今引き金を引かなければ、更に距離を取られてプラズマビームを放たれてしまう。
追い詰めたはずのエミリアが逆に誘い込まれた形になってしまう。
破滅の未来が見える。
それはエミリアの瞬間思考能力が導き出した未来。
超感覚で導き出された答えであるがゆえに疑う余地はない。けれど、それを否定する『別のエミリア』がいる。
「思考加速、開始―――!」
それは言わば、アナザー・アンサー。森羅万象全てを見通す賢者の眼であっても見通せぬユーベルコードの輝き。
答えは得ている。
けれど、それとは別の答えを掴むためのユーベルコード。未来予知のレベルまでに増幅された瞬間思考があるというのならば、答えは一つではないこともまた道理である。
「死に方を選べないご時勢です。生き方を縛る必要もないと思いますよ。そして、未来もまた決定してないのですから―――!」
クリスタルビットが己の弾丸を防ぐのであれば、それでいい。
放つ散弾。
放たれる礫のごとき弾丸をクリスタルビットが全て受け止めて、破砕していく。その火花、破片が散る様子を全てエミリアは観測していた。
破壊され、砕けるクリスタルビット。
その防御の層に穴が開く。
己の自動小銃の弾倉に籠められているのは散弾だけではない。徹甲弾も装填されている。
切り替える。それは操縦桿でマニュアルで動かす挙動。
一瞬の思考。放たれる徹甲弾がクリスタルビットの防御の間隙を縫って放たれ、『セラフィム・リッパー』のツインアイの片割れを穿つ。弾け、貫通し、そのメインモニターの一部を欠損させる。
「―――他人も貴女自身も」
まだ何も決まっていない。
未来を見通すほどの思考と情報の奔流の中にあっても、何一つ決まっていない。
ならば、其処に在るのは可能性だ―――。
大成功
🔵🔵🔵
セルマ・エンフィールド
私も同じです。明日も知れぬ町で生きてきました。
今なおあの地ではそうやって生きる人が大勢いる……ですが、私は彼らに立ち向かい戦うことは求めません。もちろん自発的に立つのであれば歓迎しますが。
私が戦い、勝ち、守ればいい。それだけです。
【大いなる冬】でプラズマビームの高熱やブースターを無力化します。
この技は90秒以上は使えません。エースたろうとするのであれば、凌いで見せてください。
時間はありませんが焦って戦い良いことはありません。効果時間中は氷の弾丸と冷気で敵の関節部や機関を狙い動きを鈍らせ、効果が切れそう、あるいは切れたタイミングで重要機関を『スナイパー』の技術で狙い仕留めます。
オブリビオンマシン『セラフィム・リッパー』のツインアイの双眸が打ち貫かれる。
その眼窩の如く穿たれた銃創は本来であればキャバリアとしての機能を喪わせるものであったことだろう。
だが、今猟兵が対峙するは過去の化身―――オブリビオンマシン。
隻眼となった『セラフィム・リッパー』が咆哮するようにジェネレーターの出力を上げていく。
それは通常のキャバリアであれば暴走してしまうほどのエネルギーであった。
「何を言われようと私は止まれないのです。止まってしまえば、立ち止まってしまえば洪水がやってくる。感情という名の洪水が私を押し流してしまう。ならば、明日があると漠然と、漫然と生きる者たちに道を示さねければならないのです!」
パイロットの『ツヴァイ』が咆哮するのに合わせて光の翼が展開される。
その光景はこれまで見たどんなキャバリアの機能よりも美しかったことだろう。悲しいほどに強大な光の翼は、ツヴァイの慟哭に呼応するように広がっていくのだ。
「私も同じです」
セルマ・エンフィールド(絶対零度の射手・f06556)は一度たりとて否定しなかった。
彼女もまた何かに抗うと決めた者であるから故に。
その瞳に揺らぎはない。彼女とツヴァイの間に横たわる溝は何か。それはオブリビオンマシンの存在に他ならない。
「明日も知れぬ町で生きてきました。今尚あの地ではそうやって生きる人が大勢いる……ですが、私は彼らに立ち向かい戦うことを求めません。もちろん自発的に立つのであれば歓迎しますが」
「戦う者と守られる者があるからこそ、軋轢が生まれるのです。流れなくていい血が流れ、誰も彼もが傷ついていく。それならば―――!」
それならば、すべての人が戦う者になればいい。
誰も彼もが傷つくことを止められないというのなら、誰も彼もが傷つけばいい。その論理の飛躍こそがオブリビオンマシンの力であろう。
心を歪ませた彼女にとって、それこそが『エース』足り得るブレイクスルーであったことは皮肉としか言いようがない。
広がる光の翼が燦然と輝き、その力を発露させるようにプラズマが収束していく。
「皆、同じに成ればいいのです。そうすれば、傷は浅くてすみます。みんなで幸せになるために、みんなで等しく傷つきましょう?」
放たれようとしたプラズマビームが臨界を迎えた瞬間、その力が停止するように減少していく。
「―――!? プラズマビームの出力が下がる……!? いえ、これは―――……!」
「貴女の言うことを否定はしません。ただ、これだけは伝えておきましょう。明日をも知れぬ世界であるのならば」
セルマの瞳が輝く。
それはユーベルコードの輝き。彼女の身体から冷気がほとばしる。それは周囲の熱を奪い、炎すらも止めてみせる絶技。
名を―――大いなる冬(フィンブルヴェト)。
その力はプラズマすらも停止させる。あらゆる熱を含む者を全て停止させるユーベルコードは絶大であるが、今の彼女では90秒が限界であった。
それ以上は死を意味する。
「私が戦い、勝ち、守ればいい。それだけです」
駆け出すセルマが手にするは、ユーベルコードの名と同じマスケット銃。
放つ氷の弾丸が『セラフィム・リッパー』へと迫る。
「エースたろうとするのであれば、凌いで見せてください」
時間はそう多くない。
ユーベルコードの力は絶大であるが、彼女自身の生命が危険にさらされる。けれど、その90秒でいい。
戦うことは生きることと同じである。セルマにとって、ダークセイヴァーはそういった世界だった。
争いが常にある世界。明日もわからない生命。
転がる生命であったモノが告げる。これが明日のお前であると。そこに恐怖はあったのかもしれない。不安もあったのかもしれない。光差さぬ世界であったとしても、セルマの瞳は輝く。
「それだけの力がありながら―――! それでもなお、一人で征くというのですか、あなたは!」
クリスタルビットが舞い、氷の弾丸を防ぐ。
けれど明らかに動きが鈍っている。セルマのユーベルコードによって出力が思った以上に上がらないのだろう。プラズマビームなど放つことも出来ない。
さらに的が生身のにんげんである以上、捉えることも難しい。
「ええ、それが私のできることですから。私の前には敵しかいません。私の後ろには護るべき者しかいません。隣に立つ者がいますが、彼らは私と同じです。護る必要はない」
ならば、戦える。
たった一人で荒野に立っていたとしても、セルマは戦い続けることができる。
孤独を友とするわけではない。
ただ、生きるということの最前線に立ち続けることこそが、セルマにとっての戦いなのだ。
「―――しのぎましたね、『エース』」
ユーベルコードの輝きが失われる。冷気が消滅し、ジェネレーターに火が灯る。プラズマビームが収束し、セルマに放たれようとしていた。
「ですが、私の勝ちです」
マスケット銃『フィンブルヴェト』が構えられ、氷の弾丸が『セラフィム・リッパー』の光の翼を打ち貫く。
その射撃、その精密精緻なる狙いは過たずプラズマビーム制御装置を打ち貫く。制御を失ったプラズマが『セラフィム・リッパー』の機体を焼く。
片腕を失い、隻眼となった機体が膝をつく。
それは、オブリビオンマシンが此処にきて漸く消耗しはじめたという事実。
「いつか、あなたにも訪れるはずです。先頭を征く貴女の隣に立とうとする誰かが現れる時が―――」
大成功
🔵🔵🔵
ジーノ・エヴァーソン
…狂わされた言葉でもな…こっちも限度があンだよ!!
※真の姿・本来の粗暴な性格に呼応し、メビウスも損傷消滅・装備充填
戦うという選択を、姉(お前)が嘆くな!妹が選んだ確かな自由を!
一旦お前の命は無視する…殺す気でかかれよ、『ツヴァイ・ラーズグリーズ』…!!
【UC】機動、今度のは違え…
誘導弾一斉発射から高速の追い越し、ライフルによるビット破壊と拘束の制圧射撃!
至近距離から左腕の【Nenekiri-maru】で切断の一撃!ダメ押しのミサイルなだれ込み、順番仕立ての同時攻撃だ!!
案じるなら、命懸けで戦ってみせろよ…
繰り返す戦いだろうと…同じ場所に立ち尽くす事なんてあるはず無い
そうだろ、メビウス…
ついに膝をついた『セラフィム・リッパー』
ブレードアンテナが損壊し、ツインアイの片割れは眼窩の如く穿たれている。左腕は脱落し、プラズマビームを制御するユニットは穿たれた。
ひび割れたフェイスは痛々しい。けれど、それでも尚、ツヴァイは立ち上がる。あれだけの機体状況であっても、立ち上が在ってくる『セラフィム・リッパー』はオブリビオンマシンであるが故であろう。
だが、それでも立ち止まらない。オブリビオンマシンが突き動かしているのか、それともツヴァイの歪められた心の強さ故か。
「私は、まだ行かねば……! 人の心のあり方を、生き方を変えなければ―――戦いのない世界を目指すというのなら、だれもが失う痛みを知らなければならないのです。痛み知らぬ者が要るがゆえに、他者を虐げることに何の感慨も浮かばない。そんな悪辣許してはおけぬのです!」
論理の破綻。
あらゆるものを傷つけようとするツヴァイの心は歪められているからこそ、破綻した心でも成り立つ。
「……狂わされた言葉でもな……こっちも限度があンだよ!!」
ジーノ・エヴァーソン(Xeno_Fire・f30003)の駆るキャバリア『メビウス』の機体の損傷が消滅し、消耗したはずの装備が充填されていく。
それは猟兵としての真なる姿の権限でもあり、ジーノの保つ本来の粗暴な性格をも現していた。
彼は怒りに身を焦がしていた。
どれだけ清廉なる心を持っていたとしてもオブリビオンマシンに搭乗してしまえば、否が応でも心を歪めさせられてしまう。
それあがオブリビオンマシンの悪辣なるところである。心の根本はそのままに、枝葉の心を歪めていく。
「戦うという選択を、姉であるお前が嘆くな! 妹が選んだ確かな自由を!」
「選んだ! あの結末が! 死が、あの子達の選んだ自由だというのですか!」
互いに激高する。
咆哮の如き言葉が紡がれる。
「私は認めない。自ら死を求める行いを! 死を強いる者に正義などないのです! あの子達が死ななければならなかった理由なんてどこにもなかったはずなのです!」
クリスタルビットが再び展開される。
コントロールが不十分であったが、それでもなお膨大な数が展開される。それは空を埋め尽くさんばかりの光景であり、それら全てが放たれればキャバリアなど塵一つ残さず消滅させられてしまうだろう。
「一旦お前の生命は無視する……殺す気でかかれよ、『ツヴァイ・ラーズグリーズ
』……!!」
ジーノが咆哮し、凄まじい勢いで戦場であるプラント施設の中を駆け抜ける。放たれるマイクロミサイルポッドの誘導弾が一斉に『セラフィム・リッパー』へと向かう。
それは全てクリスタルビットによって迎撃され、爆風が吹き荒れる。
「戦いの場に置いて、殺意を保たぬ者には―――!」
クリスタルビットの弾幕は厚い。
触れるだけで破壊される小さな水晶体の如きビットは、オールレンジでジーノの駆るキャバリアを狙うだろう。
だが、オーバーブースト・マキシマイザーによって高速で飛翔する機体にクリスタルビットが追いつけるわけがない。
『セラフィム・リッパー』を追い越し、構えたライフルで迫るクリスタルビットを次々と撃ち落としていく。
火球が広がり、白きキャバリアの機体の軌道を歪ませる。
「この程度で私を殺す! そう息巻いた結果がこれですか! 逃げ回り、私に迫ることもしない!」
「ああ、俺は端から殺す気はないからな―――俺が殺す気でかかっていたのは、その機体―――オブリビオンマシンだけだ!」
まだ加速する。
機体のフレームが歪み、推進機が暴走寸前である。モニターに表示されるのは警告メッセージばかりだ。
視界が赤く染まってきている。
あまりの重加速に眼球の血管が切れたのだろう。だからなんだというのだ。
「―――セラフィム!」
クリスタルビット多重に展開される。それはジーノの特攻じみた突撃を止めるためであったが、間に合うわけがない。
展開されたクリスタルビットの層を左腕に搭載された両刃刀が切り裂く。十字に切れ込みを入れられたようなクリスタルビットの層の隙間からマイクロミサイルポッドから放たれたミサイルがなだれ込むようにして殺到する。
爆風が膨れ上がり、ジーノのキャバリアが、その中から現れ、懐に飛びんだ。
「正気ですか! この距離で、その機体が爆散しないという保証はどこにもないというのに」
無敵斬艦刀を構える。
「遅い―――! 案じるなら命がけで戦って見せろよ! 繰り返す戦いだろうと……同じ場所に立ち尽くす事なんてあるはずがない!」
人は歩み続けなければならない。
立ち止まったとしても時の流れは残酷なまでに平等に流れていく。止めようがない。逆巻くことはない。
だからこそ、立ち止まっては居られない。駆け出さなければならない。
彼女が『エース』として皮肉にも突出したように。
「お前もまた同じだ、ツヴァイ・ラーズグリーズ!」
放たれた斬撃が『セラフィム・リッパー』のオーバーフレーム、コクピットの装甲を袈裟懸けに切り裂く。
それは皮膚一枚を切り裂くに留まる斬撃であったが、確かに届いたのだ。
クリスタルビットが破壊される爆風におされるようにしてジーノのキャバリアが吹き飛ぶ。
コクピットの中には未だ空を思う曲が流れていた。
「そうだろ、メビウス……」
ジーノの独白が、空に溶けるように消えていく。
立ち止まることは許されない。
ときは過去を排出して進むように、己もまた同じである。進まなければ。例え、その先の未来がわからなくても―――。
大成功
🔵🔵🔵
才堂・紅葉
「頼んだわよ、マルスにアリー」
二人に任せて決戦の地へ
「中々の貫禄じゃない『エース』」
過程はどうあれ彼女は壁を越えた。それを潰すのは余りに惜しい
光学迷彩は無意味だ。正面から六尺棒で打ち合おう
高い機動力と地形を利用して近接し【早業】で白兵だ
紋章による重力【属性攻撃】を乗せれば、ただの棒でも強烈な【重量攻撃】となる
三節ギミックを交えつつ、作戦ポイントに誘導したい
「イグニッション」
真の姿の【封印を解き】、UCの発動で装甲を半分になる隙を敢て晒して攻撃誘導
狙いはあの二人が幻惑装置で彼女に隙を作り、私が五倍の攻撃力での【カウンター】の鉄拳
後は【気合】だ
「目ぇ覚ましなさい。あんたには良い仲間がいるのよ」
過去の幻影が見せるのは何か。
慈しむべき思い出か。それとも愛おしいと思った者の残影か。
どちらにしても、どれにしても、過去を懐かしむ心が生命には在る。けれど、時間とは過去を押し出すことによって未来へと進んでいく。
それが躯の海へと蓄積されていき、堆積した過去から滲み出すのがオブリビオンマシンという名の過去の化身である。
「ふぅ―――! ふぅ―――! 私は、まだ……! だれも傷つけられていない。私と同じ痛みを、傷を! 等しく在るために、人が国となるためには―――!」
オブリビオンマシン『セラフィム・リッパー』の機体状況は芳しくない。けれど、それでも立ち上がる。
それが歪められとは言え、『ツヴァイ』の心の根本にあるものが推し進める。誰かのために。人のために。国のために。
己が護るもののために己の殻を破る。それは嘗て見た『エース』の残響であったのかもしれない。
「中々の貫禄じゃない『エース』」
才堂・紅葉(お嬢・f08859)にとって『ツヴァイ』の成長、エースとしての躍進はオブリビオンマシンに歪められた結果とはいえ、歓迎すべきものであった。
雰囲気が違う。
ジャミング地帯や用兵から察する彼女の気質とは、もはや別人である。それを成長と捉えるか、歪みと捉えるかは個人の差でしかない。
紅葉にとって過程は重要ではない。彼女が壁を越えたという事実、それだけが最も評価することであり、それを潰すにはあまりにも惜しいと考えていた。
『グリプ5』のこれからを考える上で『第二次憂国学徒兵』と彼女の力は必要なものであるはずだからだ。
「迦楼羅王―――やるわよ。光学迷彩なんて無意味。正面からぶつかって―――!」
紅葉のキャバリア『迦楼羅王』が戦場となったプラント施設を駆ける。
高い機動性を誇るキャバリアとオブリビオンマシンが正面から激突する。構えた六尺棒と無敵斬艦刀が打ち合う。
火花が散り、互いの機体の装甲を明るく照らす。
「ハイペリアの紋章よ! こちらの重力属性の攻撃に食いついてくる―――! ほんと、惜しい!」
迦楼羅王の放つ六尺棒は属性を付与することによって取り回しの良さを誇る六尺棒であるにも関わらず、見た目にそぐわない重たき一撃を放つ。
さらに三節棍のように変幻自在なる打撃の軌跡を『セラフィム・リッパー』が躱す。
オブリビオンマシンだけであるのならば、三節棍の奇襲だけで終わったことだろう。
だが、今紅葉が対峙しているのはアンサーヒューマンであり、『エース』たる技量を開花させたツヴァイである。
躱し、受け流す。取り回しの悪い長大なる無敵斬艦刀で攻撃を凌ぐ。
「私は、私自身を惜しいとは思わない! 私程度の才能など! 後から次々と生まれてくる! 何も惜しまない。あとに続くものがあるのであれば!」
無敵斬艦刀の一撃が六尺棒を切り捨てる。
両断された武装。対する迦楼羅王には武装らしきものはない。後退していく迦楼羅王に追いすがり、肉薄する『セラフィム・リッパー』。
すでに頭部のフェイスはひび割れ、隻眼野ごとくアイセンサーは穿たれている。
その痛々しくも鬼気迫る形相めいた『セラフィム・リッパー』はまさに気迫満ちる敵であった。
「頼んだわよ、マルスにアリー!」
紅葉が掛け声を上げた瞬間、生み出されたのは幻影。
そこにあったはずの迦楼羅王の存在が隠蔽され、プラント施設内の光景が広がる。それはジャミング地帯に敷設されていた幻影装置。
それを扱っているのは、紅葉が調落した学生たちであった。
「―――! マルス・アージェ! アリー・ペルト! あなた達は!」
『セラフィム・リッパー』のコクピットでツヴァイが気がつく。
彼らが幻影装置を操作している。すぐに気がついた。彼女は『第二次憂国学徒兵』たちのメンバー全てを記憶している。
生い立ち、来歴、すべてだ。
顔も名前も年齢も。何もかも。
何故彼らが、と思った次の瞬間、ツヴァイは己が決定的なミスを犯したことを悟る。
「迦楼羅王超過駆動(イグニッション)―――勝負を決めるわよ、迦楼羅王!!」
迦楼羅王の機体装甲が弾け飛び、そのフレームを露出される。
だが、それを覆うのは迦楼羅焔。
身に纏うはユーベルコードの赤き輝き。
世界が軋む音が響く。もはや迦楼羅王には武装はない。今更機体を軽くしたところで何を為すというのか。
「虚仮威しを―――!」
「目ぇ覚ましなさい。あんたには良い仲間がいるのよ―――!」
声なき声が聞こえた気がした。
それは戦いの音にかき消された『第二次憂国学徒兵』のアリーとマルスのツヴァイを呼ぶ声であったのかもしれない。
紅葉には聞こえなかった。
けれど、『セラフィム・リッパー』の動きが止まった。それはツヴァイの耳に届いたということだ。
「なんだ、ちゃんと聞こえているんじゃない―――!」
迦楼羅焔を纏った拳が『セラフィム・リッパー』を撃つ。
気合を籠めた一撃が、オーバーフレームの装甲を剥離させるほどの衝撃となって『セラフィム・リッパー』の機体を吹き飛ばす。
破片が飛び散り、幻影装置が破壊されるが、もはや役目は果たしてくれた。紅葉は拳を放ってひしゃげたマニュピレーターで親指を立てる。
それは彼女に協力してくれた二人、そしてツヴァイを思う仲間に応えるサインだった―――。
大成功
🔵🔵🔵
大町・詩乃
家族を喪った悲しみが彼女の視野を狭めています…。
ここは心を鬼にして告げましょう。
「あなたの言う真理は、きっとこの世界の誰もが気付いてます。辛いのは皆も同じ。あなただけが辛いのではありません!」
焔天武后をナイアルテさんに送り込んで頂き、乗り込んで【操縦】。
神力で大きくした雷月と天耀鏡を装備し、UC使用。
【天候操作】の降雨でプラズマビーム減衰し、【第六感と見切り】で躱すか、【結界術】の防御壁と【オーラ防御】を纏った天耀鏡の【盾受け】で防ぎます。
雷月の【光の属性攻撃・衝撃波・貫通攻撃】で機体のみを破壊する。
「人の苦しさや悲しさを思いやり、支え合う心が、苦難を乗り越える力になりますよ。」と優しく諭す。
叩きつけれた拳はオブリビオンマシンを介してツヴァイの頬を叩いたような感触がした。
それは気のせいであったのかも知れないけれど、それでもツヴァイは頬の痛みを感じた。機体がプラント施設の外壁をぶち破り、オブリビオンマシン『セラフィム・リッパー』が外へとふきとばされる。
機体の損傷箇所は凄まじい。
左腕が脱落しており、背面ユニットのプラズマチャージャーが上手く機能しなくなっている。さらに頭部はフェイスが割れ、ツインアイの片割れは眼窩の如く穿たれた。
「何故、何故……人は真理を理解しようとしないのです。誰も彼もが戦っていなければ、他者の痛みも苦しみも理解出来ない……! 私の苦しみが!」
未だオブリビオンマシンは、その力を宿している。
どれだけ猟兵達に痛めつけられとしても、オブリビオンマシンはツヴァイを離さない。もはやツヴァイは人の形をしたパーツにすぎない。
「貴女の言う真理は、きっとこの世界のだれもが気づいています。辛いのは皆も同じ。貴女だけがつらいのではありません!」
宙に浮かぶ生身の女性が言う。
その言葉はあまりにも身を切るようなものであった。
それは大町・詩乃(春風駘蕩・f17458)にもわかっていた。人の言葉は人を斬りつけることもある。
だからこそ、神たる己の身を顧みても言葉を尽くす。それがどれだけ傲慢に見えようとも、それでもという言葉を紡ぐのだ。
これは刃を交える戦いではなく。
―――信仰の、悟りの戦いである。
「そんなことはわかりきっています! 辛い、辛いと嘆くだけであれば私は! どれだけ愚かであれば、私の心は救われたというのです!」
出力の上がらないであった光の翼が『セラフィム・リッパー』の背面から噴出する。その光の力強さは、傷ついた機体状況からは想像もできない。
それが彼女の『エース』たる技量の全てなのだろう。オブリビオンマシンによって歪められたからこそ殻を破ったことが皮肉でしかない。
詩乃はこころを鎮める。
家族を喪った悲しみ。それがツヴァイの視野を狭めている。それがわからない彼女ではないはずなのに、オブリビオンマシンがそれを妨げている。覚醒と阻害。それが同時に起こっているのが今の彼女なのだ。
「人の心の救いは、己の手によってしか為し得ないのです。それは神たる身であっても同じこと―――焔天武后!」
世界をまたぐ石神像。
宙に浮かぶ詩乃がそれに吸い込まれ、神像の装甲が真紅に変わる。周囲に浮かぶは神力宿りし剣と超硬の神鏡。
「神の威を此処に知らしめましょう」
神威発出(シンイハッシュツ)によりて、その神性が世界にあまねく光を齎す。
その光景はあまりにも神々しく、目もくらむほどであった。だが、その光を前にして膝を折り祈ることのない者がいる。
『セラフィム・リッパー』である。
収束したプラズマの光は、天に舞う神をこそ撃ち抜かんと鋭い鏃となって放たれる。
光の奔流が神鏡に激突し、飛沫のように周囲へとほとばしらせる。
「その荒ぶる魂は烈火の如く。ならば、それを鎮めましょう」
掲げた剣に雷鳴が落ち、天候すらも操作する女神としての権能を発露する。降りしきる雨はプラズマの熱量を減退させ、プラズマビームを消滅させる。
「雨―――!? 何故このタイミングで……! 天命すらもあなた方に味方するというのですか! 私を否定すると!」
無敵斬艦刀を構える『セラフィム・リッパー』であったが、詩乃と焔天武后の方が速い。
切り結ぶことなく一撃の下に雷月の剣が光を伴って『セラフィム・リッパー』の機体を貫く。
それは機体のみを、オブリビオンマシンのみを傷つける神罰たる一撃。
「人の苦しさや悲しさを思いやり、支え合う心が、苦難を乗り越える力になりますよ」
その言葉は今はまだ届かないこかもしれない。
詩乃にはわかっていた。
オブリビオンマシンに乗っている以上、歪んだ心に言葉は刃にしかならない。けれど、その刃のつけた跡がいつかきっと彼女の道行において思い出されることがあるだろう。
過ちを犯してしまうかもしれない時も、心挫けてしまうかも知れないときも、必ず詩乃の言葉を思い出す。
「そのために貴女は『第二次憂国学徒兵』を組織したのでしょう。誰かのために。自分のためじゃない。戦う力のない者のために。もう悲しみを広げさせないとために、己が全てを背負う責として! ならば私は―――!」
振るった剣が『セラフィム・リッパー』のコクピットブロックの装甲を弾き飛ばす。
「この力を振るいましょう。貴女の戦いを、私の戦いによって導く!」
オブリビオンマシンにとって、それはあまりにも不可解なものであったことだろう。人の心を歪める存在において、悟りとは理解不能なるものである。
ならば、これは詩乃とツヴァイの戦い他ならぬ。
詩乃の言葉はいつかきっと届く―――。
大成功
🔵🔵🔵
菫宮・理緒
それだけみんなを思う気持ちがあるなら、なんで戦う方向にいっちゃうかな。
戦いを望んでいる人なんて、そんなに多くはないんだよ?
だいたいの人は、平和で、穏やかなのが好きなんだからね。
ま、若さ故のあやまち、ってことにしておこうか。わたしも若いけどね!
とりあえず長くなりそうなお話しは、あなたが機体を降りてからだね。
ワンオフのオブリビオンマシンにどのくらい潜り込めるかはわからないけど、
【電脳潜行】で、できる限り動きを抑えさせてもらうよ。
エースといえども、機体の制御系にエラーを起こさせれば戦いにくいよね。
完全に動きを止められればいちばんだけど、
それが無理なら、みんなが戦いやすいようにフォローしていくね!
「それだけみんなを思う気持ちがあるなら、なんで戦う方向に傾いちゃうかな?」
菫宮・理緒(バーチャルダイバー・f06437)にとっては至極真っ当な疑問であった。
他者を思う心があるのであれば、人に敵はいないはずだ。
誰も彼もが敵でもなければ味方でもない。人に敵は存在しないはずなのに、世界にはそうでないことが多い。
白と黒を分けたがる。
敵と味方に別れたがる。
好む者、嫌う者がある。
それがどうしようもないことであるなんて、いいたくはない。戦いを望む者が多くはないように、人の心は平穏を、平和を愛するものであると理緒は知っている。
「ま、若さ故のあやまち、ってことにしておこうか。わたしも若いけどね!」
ユーベルコード、電脳潜行(デンノウセンコウ)によって特別な機体である『セラフィム・リッパー』に潜り込めるかはわからない。
けれど、彼女のユーベルコードによって限りなく存在感を希薄にすれば、オブリビオンマシンと言えど感知することはできない。
機体のネットワークに入り込み、隅々まで澄み渡ったオブリビオンマシンとしてのデータにアクセスする。
「戦いの記憶……これが猟兵との戦い……」
彼女はこれまでの猟兵たちとオブリビオンマシンの戦いを垣間見ていた。
穿たれるツインアイの片割れ、砕け散るフェイスガード。巨大なビームの刃が振り下ろされ、左腕が欠落する。
そのどれもが戦いの激しさを物語るものであった。
ならば、ツヴァイの意志はどこにあるというのだろうか。オブリビオンマシンは人の心を歪める。
全く生産性のない思想へと歪め、人の道を誤らせる。
それがクロムキャバリアに100年続く戦争状態を常に齎している元凶とも言える。
「私は、私の大切なものを私と同じ様に大切に思ってくれる者が欲しいだけなのに」
それはツヴァイの心の叫びでも在ったことだろう。
自分が大切に思うものも、他者にとってはそうではない。
誰しもが大切だと思えるものなど存在しないのかも知れない。それが悲しみとともに沈んだツヴァイの歪められた心の根本であった。
「誰だってそうだよ。みんな自分の大切なものを守りたいから戦うんだし。けれど、人間だってみんな戦いたがりばっかりじゃないんだよ。痛がり屋だし、寂しがり屋。だから人の傍にいたがる」
それが国というものの起こりであるというのなら、そこに怒りや憎しみは不似合いであろう。
だれもが心を寄り添わせて生きていく。
それを理緒は知っている。若輩者だと自分を評するけれど、それでもという優しさと穏やかさでもって、激烈なる怒りと憎しみに向き合うのが理緒という猟兵だ。
「みんなが戦いやすいように。私はフォローするよ。ツヴァイ、あなたがみんなの元に戻れないなんていうのなら、いつだって背中を押すよ」
オブリビオンマシンの中にあって、ツヴァイを一人きりにはできない。理緒は、力でもなければ言葉でもなく、ただ在るということで人の心を救おうとしていた。
「完全に動きを止められたらよかったんだけど―――みんな、お願いね!」
オブリビオンマシン『セラフィム・リッパー』の機体がガクガクと震え始める。
それは理緒の介入によって機体のフレームをつなぎ合わせる接続部分が不安定になっていることを示していた。
キャバリアはオーバーフレームとコクピット。そしてアンダーフレームで構成されている。
殆どのキャバリアはオーバーフレームに機体の攻撃力が備えられている事が多い。アンダーフレームは機動性に特化しているためオーバーフレームの制御だけでも阻害できれば、どれだけ強力なオブリビオンマシンであっても打倒の目はある。
「負けないよ! 人はいつだって一人で生まれて一人で死ぬのかも知れないけれど、その道程には、いつだって誰かが傍にいるんだから―――!」
だから、何も怖がらなくていい。
そういうように電脳体のまま理緒はツヴァイに寄り添うのであった―――。
大成功
🔵🔵🔵
アレクサンドル・バジル
2号機もオブリビオンマシンだったか。こりゃ、今回の件が終わったら一回、全部チェックした方が良さそーだな。
さて、お嬢ちゃん――ツヴァイだったか。大切な者を喪い、そして残った者をも喪うことを怖れるか。
まあ、普通の感覚だよな。何も間違っちゃいねーよ。
今、そのガラクタから解放してやる。
その後、醒めた頭で喪わない方法をじっくり考えると良いぜ。
黄金を纏った『スルト』に搭乗して対峙。(戦闘モードⅠ)
今回は本気モードという事で無手。スルトでゴッドハンドの体術を再現して戦います。(勿論、コックピットの破壊は避けます)
敵POWUCは『真剣白刃取り』で対応。(見切り)
アドリブ歓迎です。
機体がきしみあげるようにガクガクと震える。
猟兵の一人がオブリビオンマシンである『セラフィム・リッパー』の中のシステムに介入している証であった。
すでに機体の状況は普通のキャバリアであるのならば、戦闘力を喪っていたことだろう。だが、『セラフィム・リッパー』は違う。
まさしく『エース』が乗るワンオフのキャバリアなのだ。
「私は……! 恐れない! 私は怖がりじゃない―――!」
否定する言葉。
それは裏返しでも在ったことだろう。どうしようもない程の怒りと悲しみ。そして恐れ。それらがない混ぜになった時、人の心は如何なる色を見せるであろうか。
「さて、お嬢ちゃん―――ツヴァイだったか。大切な者を喪い、そして残った者をも喪うことを恐れるか―――まあ、普通の感覚だよな。何も間違っちゃいねーよ」
アレクサンドル・バジル(黒炎・f28861)は、その乗機であるオブリビオンマシン『スルト』の機体を黄金の魔力で多いながら、一歩、また一歩と同じオブリビオンマシン『セラフィム・リッパー』へと近づいていく。
互いに同じオブリビオンマシンである。
共鳴するように互いの機体のジェネレーターの出力が上がっていく。
片や怒り。
片や侮蔑。
「私は間違ってない! 私のやり方が、あり方が、何もかも証明してみせる! 世界が一つにならないと! 護るものと護られる者とに別れてはならないのだと―――!」
無敵斬艦刀の鋭き切っ先が『スルト』に剥けられる。
亀裂が走っているものの、それでもなお、脅威は変わらない。光の翼が羽撃くように噴出し、その機体のスラスターとなって一瞬で『スルト』との間合いを詰める。
あれだけの損壊を受けて尚、このスピード。
「ハッ―――! そのガラクタから開放してやると言ってやりたいところだが―――!」
『スルト』が手にしていた炎の剣を投げ捨てる。
それは『スルト』が望んだことではない。アレクサンドルが望んだことだ。この戦いに獲物は不要であり、無粋である。
真っ向から打ち破らねばならぬ敵であるとアレクサンドルは実感したのだ。
『エース』としての実力に開花したツヴァイの技量は凄まじい。もしも、機体が十全の状態であったのならば、きっと押されたのは『スルト』の方であったこっとだろう。
だが、それでもアレクサンドルは負ける気がしなかった。
「いいじゃねーか! 迷いながらも、歪みながらもこの太刀筋! 見どころがある!」
『スルト』の無手、徒手空拳が無敵斬艦刀と打ち合う。
亀裂が徐々に増していく。
「私の限界を語るか! 戦いを好む者がいるとうのなら―――! 私が!」
放たれる必殺の間合いに寄る無敵斬艦刀の一撃。
それはアレクサンドルでもってしても躱すことのできない神速の一撃。両断される。躱すこともできない速度。
だが、忘れることなかれ。
彼の者。神たる身であり、神の手を保つ者であれば―――。
「―――せぁっ!」
黒きオブリビオンマシン『スルト』の両腕が交錯する。
それは真剣白刃取りの要領で振り下ろされた無敵斬艦刀の刀身へと放たれた両の拳であった。
黄金の魔力纏った拳は亀裂の入った無敵斬艦刀の刀身を砕き、へし折る。
無敵斬艦刀であった破片が舞い散る中、『スルト』の脚部が跳ね上がる。胸元にひきつけて放たれる前蹴りの一撃が『セラフィム・リッパー』の機体を吹き飛ばす。
黄金の魔力が消え、『スルト』の機体のフレームのあちこちから白煙が上がる。機体に対してアレクサンドルの体術の速度が再現できていないのだ。
過負荷のかかった機体がオーバーロードを起こし、関節駆動部に異常をきたしてしまっていた。
「―――チッ……これからだってのに。だがまあ……お嬢ちゃん……いや、ツヴァイ。醒めた頭で喪わない方法ををじっくりと考えると良いぜ。心配するこたあねえよ。時間はいくらでもある」
やり直せないことなんてない。
国としての機能も、人としてのあり方も。
変わらなければならないと願う心も、何もかも。此処がスタートだと人は決めることができる。その時、いつだって未来へ続く道は真っ白なのだから。
己が歩いた跡が轍となっていくのであれば、前をむけばいい―――。
大成功
🔵🔵🔵
月夜・玲
戒道さん(f09466)と共闘
へーいよく合うじゃん
ちょっと合わせて行こうよ
●
副腕収納
Blue Birdと空の記憶を抜刀
【雷鳴・解放】を起動
クリスタルビットを稲妻で『なぎ払い』、更に『念動力』+『ハッキング』でビットにハックを掛けて動きを弱める
やれるかな…やれるかも!
後は高速移動で突っ切る!
そんでもって一気に接近して零距離からの雷鳴斬撃を二刀による『二回攻撃』!
なんだ安心した
君は結局、理想の姉で居たかったんだ
かわいいじゃん
後悔と憤りと罪悪感と…色んな感情に難しい理屈を付けてるだけじゃん
いいよ、受け止めてあげる
だけどこれだけお騒がせしたんだ
ごめんなさい、はちゃんと言おうね!
一緒に謝ってあげるからさ
戒道・蔵乃祐
月夜さん(f01605)と共闘
◆
クロム・クルアハを発動
破魔・除霊・浄化で心を侵す悪霊の殺意に抗いながら
動体視力でクリスタルビットの軌跡を見切り、早業+クイックドロウの閃刃で次々切り捨てていく
光学兵器は残像で躱し、直撃はオーラ防御で屈折させて避け、射程圏内まで追跡で追い縋る
ジャンプからの切り込み+限界突破でセラフィム・リッパーを両断
オブリビオンマシンを見分けられない
それは確かに不幸な現実だが
この小娘は国を見ても人は見ていない
まるで全智を悟ったような口を利く
十年早いわ!
和を以て尊しと為す
世界を知れ。フルーⅦを知れ!
藻掻いているのは一人だけではない
対話こそが、
理不尽な戦争に抗う最も賢き抵抗なのだから
無敵斬艦刀は地に折れた。
その残骸はすでに『セラフィム・リッパー』の手にはなく、ギシギシとフレームの軋む不吉な音を立て、漸くに立ち上がる。
機体の状況は満身創痍。
すでに機体に装備された武装は背面ユニットの光の翼と過半数が脱落したクリスタルビットのみ。
だが、それでも立ち上がってくるのは如何なることか。
それが例え歪められた心に寄る結果なのだとしても、ツヴァイは立ち上がってくる。下手なオブリビオンマシンであるのならば機体を破壊するだけでいい。
無力化すればいいのだ。
だが、『エース』の乗った機体は歪められたとは言え、その根本に在る心は強靭なるものである。
「クリスタルビット―――!」
展開されるクリスタルビットは全盛のものではないにせよ、未だ脅威として猟兵たちの前に立ちふさがる。
「私は、私が願う私のままでいなくては―――! 猟兵―――来ますか!」
モニターに映るのは二人の猟兵。
それもキャバリアに搭乗するのではなく、生身のままだ。
「へーい、よく合うじゃん。ちょっと合わせて行こうよ」
そんな風に戦場には不似合いの気楽な……それこそ、ちょっとそこのコンビニまで、とでも言うように月夜・玲(頂の探究者・f01605)は戦場で顔を度々合わせる戒道・蔵乃祐(荒法師・f09466)へと、ひょいと手を上げてみせた。
対する蔵乃祐は応える余裕はなかったが、確かに頷いた。
彼の手にあるのは、英雄幻妄パラドクスメサイア。魔刃である。災魔の邪気宿り続け、遂には災魔そのものと成り果てた刃である。
彼はその封印を解き放ち、己の心を侵す悪霊の殺意にあらがっている最中であった。加減はできない。できる相手ではない。
それが『セラフィム・リッパー』に対する認識であった。数を減らしたとしても未だクリスタルビットの脅威は健在である。
オールレンジで攻撃を仕掛けてくる飽和攻撃は、それだけで猟兵を追い詰めるだけでなく、防御にも転用する。
嘗て戦った『セラフィム・リッパー』3号機とは全く別物と考えてよかった。
蔵乃祐の身体が跳ねるようにして駆け出す。
それに追従するようにクリスタルビットが宙に舞い、蔵乃祐の身体を穿たんと閃くのだ。
それを振るった魔刃によって切り払い、間に合わぬものはオーラの力によって防ぐ。
だが、それで完全に殺しきれるものではない。
「ぐっ―――! だが! 我が心臓を喰らい、殺戮の権能を呼び覚ませ!」
魔刃に施された悪霊の封印をまた一段解き放つ。
目にも留まらぬ速度で放たれる剣戟がクリスタルビットを撃ち落とし続ける。
「雷の疑似UDC解放。我が身よ、稲妻となれ!」
その真横を玲の身体がすり抜けるようにして駆け抜ける。雷鳴・解放(ライトニング・リリース)によって得た擬似的なUDCの力と雷鳴の如き超スピードによって蔵乃祐を襲うクリスタルビットを尽く切り払う。
「おっと―――やれるかな……やれるかも!」
掲げた掌でクリスタルビットにふれる。一瞬の交錯。瞬時に構造を読み取り、念動力によって動きを封じる。
直接は無理であったとしても、子機であるクリスタルビットはハッキングできる。玲はクリスタルビットの制御系に働きかけ、その動きを鈍らせたのだ。
このままでは過半数が落とされたクリスタルビットであったとしても、二人はじりじりとクリスタルビットの包囲によって消耗させられてしまったことだろう。
だが、それをさせぬために玲がいる。
蔵乃祐が玲の横を通り抜けるようにして跳躍する。目指す先にあったのは『セラフィム・リッパー』であった。
すでに無敵斬艦刀を喪ったオブリビオンマシンに蔵乃祐の斬撃を受け止めることはできない。左腕は脱落しており、右腕しかかばうことができないのだ。
「オブリビオンマシンを見分けられない。それは確かに不幸な現実だが、この小娘は国を見ても、人は見ていない―――!」
魔刃がオブリビオンマシンである『セラフィム・リッパー』の右腕と衝突し火花を散らせる。
「小娘で何が悪いのです! 私達はすぐ大人になんてなれないのに! 大人はいつだってそうです。大人になれ、現実を見ろと言う。私達はもう十分に現実を見てきました! 救える生命と救われぬ生命があって! その選別を私達にしろという! 人の生命は平等であると説きながら!」
泣き叫ぶような声が響く。
それはツヴァイの慟哭であり、歪められた言葉ではなかったのかもしれない。根本に在るものまでは変えようがない。それが如何にオブリビオンマシンであったとしても。
「ならば、私がやるしかないでしょう! 大人の代わりに! 大人よりも優れていると証明しなければ―――!」
「まるで全智を悟ったような口を利く。十年速いわ! 和をもって尊しとなす。世界を知れ。フルーⅦを知れ! 藻掻いているのは一人だけではない!」
火花散る装甲と魔刃の攻防。
互いに、もはや刃を交える必要はなかったのかもしれない。それが舌戦であるというのであれば、理解の及ばぬものであったことだろう。
蔵乃祐は知っている。
争いというものが刃を交えることだけではないことを。理不尽に溢れた世界にあって、兵器が、力が全てではないのだと説く。
それは力を持って為すべきではなく、彼の言うところの―――。
「他者を知れ。さすれば己を知ることができよう。己とは他者の一部であり、他者は己の一部である。迷うのならば、他者の瞳を見よ。そこには何が在る。それを知れば、自ずと答えは出るはず―――対話こそが、理不尽な戦争に抗う最も賢き抵抗なのだから」
弾き返さられる『セラフィム・リッパー』の右腕。
そこに駆け込むように突っ切ってきたのは玲の手にした模造神器であった。雷鳴の如き斬撃が一度響き渡った。
だが、放たれた斬撃は十文字に切り結ばれている。
それは神速の如き二連撃。
瞬時にはなった連撃が『セラフィム・リッパー』の右腕すらも破壊する。
「なんだ安心した。君は結局、理想の姉でいたかったんだ。かわいいじゃん」
玲は笑っていた。
似ているね。と笑った。『平和』を知らず、その意味を理解できず、それでもそれを求めることに疲れ果てた少年がいた。
玲はその少年を知っている。面影があるのかもしれない。姉弟だったらそうかもとも思った。
「後悔と憤りと罪悪感と……いろんな感情に難しい理屈を付けてるだけじゃん」
「大人がそれをしろと言うから―――! 子供のままではいられないと! だから私は、大人を超えていかなければならないのです!」
クリスタルビットの残存機が玲のハッキングを振り切って飛来する。
それを蔵乃祐の魔刃が切り捨てる。
痛みを知って泣くのが子供であるというのなら、痛みを覚えて歯を食いしばるのが大人というものである。蔵乃祐は己の心を侵し続ける悪霊の意志とも戦いながら、クリスタルビットを叩き落としていく。
「いいよ、受け止めてあげる」
それは同じ数字で名付けられた彼にも言った言葉だった。
どうしようもないほどの衝動。
それを抑えられぬ者もいるだろう。行き場のない心を受け止められなければ、地面に落ちて砕け散ってしまうだけだ。
体は心の容れ物だと言う。
心さえ傷つかなければ、体はいくら傷ついても癒えるものであると。けれど、違うと思う。肉体が傷つけば、ひび割れてしまえば、心は溢れ出す。
傷ついた心も、体も、取り返しがつかない。
だから玲は受け止めるというのだ。柔らかな掌ではないかもしれないけれど。それでも、誰も受け止めないというのであれば、己が最後の掌になろうと。
「だけど、これだけお騒がせしたんだ。ごめんなさい、はちゃんと言おうね! 一緒に謝ってあげるからさ」
「然り。ならば、僕らがすることは唯一つ」
その心を歪め、捉え続けている檻たる『セラフィム・リッパー』を破壊することだけ。
二人の猟兵が高く飛び上がり、その手にした刃を振るう。
二対の剣閃がオブリビオンマシン『セラフィム・リッパー』の背面に配置されたエネルギーインゴットの格納ユニットを斬り捨てるのだった―――。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
トリテレイア・ゼロナイン
失ったご家族の為、ご自身を責めるのはお辞めください、とは申しません
…護るべきモノの為に戦いを選んだ以上、届かぬ手を悔い、己を呪うことは避けては通れぬ苦しみです
ですが、その哀しみで護るべきモノを見失うなどあってはなりません!
心歪ませるその機体…破壊させて頂きます
斬艦刀の腹叩く●武器受け盾受けで攻めを凌ぎ敵挙動●情報収集
教本から脱却し始めましたか…ですが!
ハッキングでの直結●操縦で機体追従性●限界突破
●瞬間思考力で振り下ろしを●見切り紙一重で回避
同時に剣を地に突き立てそれを支点に回し蹴り
四肢を使ってこその近接戦です
刀握る指関節粉砕
体勢が崩れた相手に追撃
頭部を抉り抜く勢いでオーバーフレームを大盾殴打
「腕が、震える―――私が、負ける……?」
すでにオブリビオンマシン『セラフィム・リッパー』の両腕は脱落し、背面に配されたエネルギーインゴットの格納ユニットまで破壊された。
勝負は決して居たのかも知れない。だが、それでも心が喚く。
負けてはいないと。
お前は『エース』なのだと。争いを持って証明と為すしかない。それだけがアンサーヒューマンとして生み出された己『達』の責務であり、存在意義であるのだと。
折れた無敵斬艦刀を眼窩のように穿たれたツインアイの片割れが捉える。
左腕は完全に脱落している。だが、右腕はわずかに肘から下を残している。ならば、汎用性を誇るオーバーフレームの関節と無敵斬艦刀の柄を接続すればいい。刀身が砕けているおかげで、取り回しには問題ない。
「まだ―――まだ、私はやれる―――! そうでなければ、あの子達の死が! 散っていった者たちの無念が、晴らせない!」
奪われる者の慟哭を。
保たざる者の哀切を。
世に、世界に知らしめなければならない。
「喪ったご家族の為、ご自身を責めるのはお辞めください―――とは申しません」
それはトリテレイア・ゼロナイン(紛い物の機械騎士・f04141)の声であった。キャバリア『ロシナンテⅣ』が満身創痍たる『セラフィム・リッパー』と対峙する。
そのいびつなる姿を見て、トリテレイアは己が戦機であることを自覚する。
どれほどの損傷を受けても尚、立ち上がる。
使える装備はすべて使って、己の存在意義を果たそうとする。それは戦うための機体である己と似通っていたかも知れない。
「……護るべきモノの為に戦いを選んだ以上、届かぬ手を悔い、己を呪うことは避けては通れぬ苦しみです」
それはトリテレイアが辿った軌跡の証明でも在ったことだろう。
その言葉はもしかしたら、己に対しての言葉であったのかも知れない。忘れることのできない機械の体。ウォーマシンであるがゆえに人とは違う別の種類の懊悩を抱えることもあったことだろう。
「ならば、苦しみ続けろと言うのですか! 戦い続けろと!」
「いいえ。ですが、その哀しみで護るべきモノを見失うなどあってはなりません!」
「私は何も見失ってなど―――いない!」
『セラフィム・リッパー』と『ロシナンテⅣ』の機体が激突する。
右腕の肘から下に接続された折れた無敵斬艦刀が振るわれる。それはあまりにも不格好な戦い方であった。
嘗てジャミング地帯や用兵から『ツヴァイ』という者をプロファイリングしたが、それとはもはや別人である。
教科書どおり、優等生。型にはまった者。そんなイメージが払拭されてしまう。
「教本から逸脱……いえ、脱却しはじめましたか……ですが!」
その動きはもはや『エース』と言って差し支えのない動きだった。
もしも、トリテレイアが十全たる状態の『セラフィム・リッパー』とツヴァイを相手にした場合、シュミレートで導き出される答えは―――。
「心歪ませるその機体……破壊させて頂きます」
わかっている。
成長する人間と、機体性能が定められている己とでは前提が違う。だが、それでもと思うのだ。
人の、生命の力は偉大である。際限がない。成長し続ける。それを好ましく思うけれど、それが己が敗れていい理由にはなっていない。
己が機体性能というスペックに縛られているというのであれば、それを超えるのが騎士である。
ウォーマシンである前に己を騎士と規定したトリテレイアこそが、ウォーマシンという存在の埒外である。
「見事な対応力。ギミックを理解し、それを即座に取捨選択できる思考力。素晴らしい! ですが、経験が足りませんね! 四肢を使ってこその接近戦であります!」
限界を越えた『ロシナンテⅣ』の機体動作。
関節部があまりの負荷に火花を散らせ、白煙を上げる。だが、関係ない。すでにキャバリアはトリテレイアの体の一部であり、延長線上にあるものにすぎない。
薙ぎ払おうとする無敵斬艦刀の刀身の折れた腹を剣の柄で叩き軌道をずらす。
そのまま剣を地面に突き立て、支柱のようにしながら脚部が回し蹴りのように放たれる。
「機械騎士の精密攻撃(マシンナイツ・プリセッションアタック)―――いかがですか。再びご覧にいれろとおっしゃられるのであれば、如何ようにも」
ロシナンテⅣの脚部の切っ先が無敵斬艦刀を接続していた右腕のジョイントを砕く。
無敵斬艦刀が大地に落ち、次の瞬間、『セラフィム・リッパー』の頭部に迫るのは大盾による打突。
鈍い音が響き渡り、『セラフィム・リッパー』の頭部が弾け飛ぶようにしてえぐられ、大地に墜ちる。
「これが、ウォーマシン……戦機の戦い方です。『エース』たる証。その技量、見事でした」
堕ちた『セラフィム・リッパー』の頭部をロシナンテⅣの脚部が踏み砕く。
オブリビオンマシン。
心を歪ませる悪夢の如き機体。その頭部を首級とするまでもない。トリテレイアは、今『エース」としての証明を『ツヴァイ』の技量に見たのであった―――。
大成功
🔵🔵🔵
サージェ・ライト
引き続き『ファントムシリカ』に乗ったまま参戦
シリカ、またちょっと無理をします
お仕置き説教は後で!
あなたが天使を戴くなら私もお見せします
エンジェライトスラスター起動!
高速直線移動は狙われますけど
直撃さえしなければっ!
ごめんシリカ耐えて!
切り抜けたらそのまま突撃
ぶつかりながら話しかけます
「ツヴァイさん、あなたはそこにいますか?」
断言できますか?
今のあなたがあなたの大切な家族が笑い合える未来に繋がっていると!
「悪意に歪まされた幻想、この一撃で以て砕きましょう! そうるぶれいかーっ!!」
【快刀乱麻】でオブリビオンマシンのみを破壊(ブレイク)!
ツヴァイさん、未来を思い出して!
※アドリブ連携OK
『セラフィム・リッパー』の頭部がえぐられるようにして弾き飛ばされる。
すでにオブリビオンマシンとしての体面を保つことも難しいであろう頭部と両腕を喪った機体は、ゆらり、ゆらりと揺れるようにして機体を蠢かす。
「……もう、どうしようもありません。負けてしまえば、取り返しが着かない。私は、負ける―――」
ツヴァイはコクピットの中で虚ろに呟く。
けれど、心の中に入り込む何者かが囁くのだ。負けてはいないと。人は死ぬまで負けたことにはならないのだと。
死に体ではあるが、未だ武装は残っている。
この光の翼。フォールンウィングと名付けられたプラズマビーム発射装置を暴走させ、プラントを巻き込めば―――。
「……私の、勝ち……プラントは、止まる……私のもく、てき……」
頭が痛む。
どうしようもないほどに。何かがせめぎ合う。それは歪められた心と、歪められてはならぬ心の根本がぶつかり合っていたようなものだった。
機体が震える。
次の瞬間、機体の背面から光の翼が現出する。それはこれまで見せたプラズマビームを発射する態勢とは異なっていた。
臨界を超える数値が次々とモニターに映し出されていく。つまるところ、暴走―――。
「シリカ、またちょっと無理をします。お仕置き説教は後で!」
サージェ・ライト(バーチャルクノイチ・f24264)の瞳にユーベルコードの輝きが宿る。
それは彼女の覚悟であり、逼迫した状況を高いするためでもあった。
そして何よりも、サージェの目の前にある『セラフィム・リッパー』から救い出さなければならぬ者がいるからだ。
背面に同じく展開された一対の羽根。
それはファントムシリカの保つエンジェライトスラスターの放つ輝きであった。光輪がいくつも明滅し、その力を発現させていく。
「エンジェライトスラスター軌道!」
それは一瞬の明滅。
『ファントムシリカ』と『セラフィム・リッパー』の距離を一瞬で零にする。高速直線移動は狙われてしまうけれど、今の互いの状況ではそれもない。
ただ機体が保たない。
あまりのスピード、臨界値を越えた互いの出力は己の機体をも自壊させてしまう。
サージェは心の中で謝った。直撃しなければいい。目的を達成できればいい。
だから、謝るのをやめた。でも、ごめん、と前置きした。
「シリカ耐えて!」
天使の名を冠する機体と亡霊の名を冠する機体がぶつかる。
すでに『セラフィム・リッパー』には両腕がない。ファトンムシリカが押さえつけ、プラントへ特攻するのを防ぐのだ。
「ツヴァイさん、あなたはそこにいますか?」
断言できるだろうか。
「―――……」
答えられない。応えることができないだろう。オブリビオンマシンに心を歪まされた末路。
己の心が純粋であればあるほどにオブリビオンマシンは喜ぶように歪ませる。それが戦いの火種であるというかのように。
けれど、サージェは構わずに言う。
答えがないからと言って諦めるわけにはいかないのだ。
「今のあなたがあなたのたいせうtな家族が笑い合える未来につながっているのです! あなたは鎹。亡くした者と今を生きる者を繋ぐ人なんです! だから! これから何度だって貴女の心を歪ませる者が現れるでしょう」
機体が軋む。
ファントムシリカの光輪が光を増せば、増すほどに機体の内部フレームがきしんでいく。
装甲が剥離していく。
ただプラントから引き離すだけで、これだけの損傷を齎されている。サージェはモニターに映るエラーメッセージや警告音を無視した。
「でも、何度だって私達が! 悪意に歪まされた幻想、この一撃で以て砕きましょう!」
サージェのユーベルコードが輝く。
もつれにもつれたどうしようもないほどの感情や思惑、心が紡ぐ解くことのできぬわだかまりを快刀乱麻(ブレイクアサシン)の如く断ち切ってみせる。
天使の光輪の如き翼が何度も明滅する。
それこそがユーベルコードの威力を上昇させる。
放たれる三日月状のエネルギー波がオブリビオンマシン、悪意の塊を一刀の元に切り捨てる。
「ツヴァイさん、未来を思い出して!」
オブリビオンマシン『セラフィム・リッパー』が霧散する。
コクピットから投げ出されたツヴァイをファントムシリカのマニュピレーターで包み込み、大地に失墜する機体。
どこもかしこも傷だらけであったけれど、その手に包んだ生命だけは傷つけない。
立ち上がり、掌に包んだツヴァイを見下ろすサージェ。
守れた。
その事実が、彼女の心の中に温かいものを運んでくる。
「キャバリアにのって戦うだけが、エースの証明じゃないですよ。一人がみんなのために。みんなが一人のために。そうやって連綿と紡がれてきた思いが、きっといつか実るが平和なんです」
だから、その日まで証明して欲しい。
彼女が殻を破ったように、歪められたとしても、その力が『エースの証明』であると―――。
大成功
🔵🔵🔵