「皆さん。お集まり頂きまして、ありがとうございます」
グリモアベースのブリーフィングルームの一つ、立体映像投影機の前で。ノエル・シルヴェストル(Speller Doll・f24838)が、礼儀正しく一礼する。
「この度、皆さんにお願いしたい依頼は……クロムキャバリア世界における、物資輸送の警護となります」
ノエルは投影機を起動すると、そこにクロムキャバリア世界に無数にある、小国のひとつの国土図を映し出す。
「今回の案件が発生しますのは、クロムキャバリア世界内の小国『シルヴァラント』の領土内です」
この国は国王を長として、それを補佐する文官と武官がおり。その地位は基本的には世襲であるという、一見すると中世の封建国家の様な政治形態を取っている。但し家格という物が無く。故に爵位の類も存在しないのが『らしく無い』と言えるだろうか。
尤も『らしく無い事』の最たる物は。一定以上の地位に在る者は悉く、自身或いは自家が所有するキャバリアが存在し。それに搭乗して一定以上の戦果を上げて後、初めてその地位を認められるという制度だろう。地位在る者イコール、キャバリアにて自国を護る能力を認められた者という訳だ。
国土もこの世界の基準から見れば『豊かな方』だと称して良い。国土自体は内地に位置するが、そのほぼ中央に岩塩の鉱山と共に、大きな湖を抱え込んでいる。食用に充分耐える魚介類も多く産するが……何と言っても『プラントの恩恵無しで真水を得られる』のが大きい。湖の周辺では、馬鈴薯を中心に初歩的な農耕や畜産も行われており。王都もこの湖畔に築かれている。
だが、他の小国家と比すれば『まだ恵まれている』国であっても。現状ではプラントに頼らねば、国も民もやってはいけない。故に他国と同様、確保したプラントの防衛は国家規模の命題である。
但し、今回はプラントその物が襲われた訳では無い。狙われたのは、そこから王都へ物資を運搬する『飛行船』だ。
この国が保有する主要プラントは、王都から概ね湖を挟んだ対岸にある。故に、湖上を突っ切って直進するのが最短の航路だが……当然それは、襲撃する側も承知の上である。そして輸送飛行船の側としても、丸腰かつ単独で任務に就く訳は無く。シルヴァラントの主力量産機『ルーク』の脚部にホバー推進機能を増設した改修機『ストライド』が、二個小隊プラス部隊長機の計十体。飛行船の護衛任務に就いている。
新兵も混じっているとは言え、部隊の練度は総じて高く。野盗程度なら充分に撃退可能な戦力なのだが……しかし流石に、オブリビオンマシンの集団相手は荷が勝ちすぎる。グリモア猟兵の予知では、護衛部隊は全滅。飛行船も撃墜されて、貴重な物資は全て湖の底へ沈んでしまうという惨状であった。
故にこそ、猟兵達の出番と相成った訳だ。
「正直な所を申しますと……事が小国同士の小競り合いであったなら。猟兵が関わるべき事柄では無いと存じます。ですが、事にオブリビオンが関与しているとなれば。話は別と申せましょう」
無論と言うべきか。オブリビオンマシンが、プラントで生成される各種物資を欲している訳は無い。ある意味では羨ましい話だが、連中はほぼ無補給で、生存も継戦も可能なのだ。あくまで物資を狙うのは、補給を断って小国家群に困窮を強いるという意図に依る物でしかない。
こういう迷惑な連中の除去こそが、世界における猟兵の役割と言ってしまっても過言では無かろう。
「戦術的な面に視点を限定しましても。補給線の確保と防衛は、国の生命線の確保とイコールです。余計に戦火を拡大しない為にも、オブリビオンの跳梁を許さない為にも。補給線の防衛は急務と申せます」
衣食足りて礼節を知る、とも言う。物資が困窮すれば、他国の侵略などを考えてしまう者が出ないとも限らない。ついでに言えば、オブリビオンによる戦火の拡大は、誰にとっても得にはならないのだ。精々丁重に叩き潰すのが、いっそ礼儀という物である。
但し、厄介な条件付けも幾つか存在する。
一つは、暴走衛星『殲禍炎剣(ホーリー・グレイル)』の存在だ。この衛星兵器は一定以上の高度を一定以上の速度で飛行する存在を、無条件で攻撃・蒸発させてしまう。これの存在あるが故に、この世界では航空機の運用が、ほぼ不可能となっているのだ。
『殲禍炎剣』の攻撃性能は凄まじく。例えオブリビオンマシンでも、下手をすれば瞬殺させられてしまう……と言えば、その脅威を慮って頂けるだろうか。
二つ目は、襲撃してくるオブリビオンマシンの搭乗員も、元を正せばシルヴァラントのキャバリア操者である故。彼らを殺傷するのは避けて欲しいという点だ。操者一人を育成するには多くの国家予算と、相応の時間が必要となる。つまり貴重な人的資源であって、それを無為に損耗するのは勿体ない。極力操者を傷つける事無く、オブリビオンマシンを撃破して。彼らを救出するのが最も望ましい。
救出した当人らは、相当消耗している可能性が高く。直接謝意を告げられる機会は少なかろうが……その縁者並びに軍や国からは、充分な『謝礼』を受けられる故。決して損にはならない筈だ。
尚。今回は十中八九、水上戦と相成るが……対応準備と適切な戦術があれば、決して難解な依頼では無い。『殲禍炎剣』の脅威と、敵機の乗員の件に留意すれば。着実にこなして行けるだろう。
「手間が少々多い依頼ですが……ひとつひとつの条件は、特に難解な物はありません。変に自棄を起こさず、一手一手を着実にこなして頂けます様。宜しくお願いします」
緑髪のミレナリィドールは、深く一礼すると。鉄と硝煙の刺激臭の漂う、鋼の巨人達が戦場へのゲートを開いた。
雅庵幽谷
初めましてor八度目まして。当シナリオ担当、雅庵幽谷と申します。
当シナリオOPを、ここまで読んで頂き。ありがとうございました。
今回のシナリオは、クロムキャバリア世界にある小国家『シルヴァラント』の湖上を舞台として、お届けさせて頂きます。
それでは、OPの補足です。
【特殊条件】
クロムキャバリア世界では、常に暴走衛星『殲禍炎剣(ホーリー・グレイル)』が目を光らせており。一定以上の高空を高速で飛行する対象は、それが何であろうと即攻撃を受けてしまいます。
現状『殲禍炎剣』の攻撃を受けずに済んでいる、大型の飛行船の巡航高度は約300~600メートル、最高速度は時速125キロ程度との事ですので……飛行する場合は、それを目安に立ち回って下さい。
【プレイングボーナス】
『オブリビオンキャバリアに囚われたパイロット達の救出』
●第一章:
敵オブリビオンキャバリアとの、湖上での集団戦です。
シナリオ開始のタイミングは『湖上で飛行船が襲撃され、戦闘が始まった直後』となっております。
予め護衛部隊に合流する事はできませんので、お気をつけ下さい。
●第二章:
戦場は引き続き、湖上での戦いですが……こちらはボス戦となっております。
シナリオ開始のタイミングは、最速では『集団戦で最後の敵が撃破された直後』ですが、多少陣形を整える程度の時間は捻出可能です。
●第三章:
物資が無事に王都まで届いたら(第二章終了まで飛行船が撃墜されなかったら)猟兵達は王都を挙げての歓迎と歓待を受けます。
まずは戦いの疲れと戦塵を、設備の整った入浴施設で癒して下さい。
但し、お色気表現は『少年誌でOKが出る程度まで』とさせて頂きます。
それでは……皆様のプレイング、お待ちしております。
第1章 集団戦
『オブシディアンMk4』
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POW : ホークナパーム
【油脂焼夷弾】が命中した対象を燃やす。放たれた【高温の】炎は、延焼分も含め自身が任意に消去可能。
SPD : ピアシングショット
【スコープ照準】により、レベルの二乗mまでの視認している対象を、【RSキャバリアライフル】で攻撃する。
WIZ : マイクロミサイルポッド
レベルm半径内の敵全てを、幾何学模様を描き複雑に飛翔する、レベル×10本の【誘導ミサイル】で包囲攻撃する。
👑11
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「迎撃フォーメーションA! 方角、十時!」
湖上をホバー推進で滑走しながら、部隊長の指示に従い。『ストライド』全機が飛行船の影を背に壁を作る。一周回って緊張の糸が、良い意味で『キレた』のか。硬い表情はそのままながら、新人二人も遅れずに定位置に着く。
隊長機が捉えた敵影は、自部隊が陣形を変更する間も続々と増え……その総数は少なく見積もって、二個中隊規模。自分達の三倍前後だ。
――こんな大戦力が、どこから? どうやって?
彼らの所属する小国シルヴァラントは、全体的に治安は良い方だ。少なくとも、三十機以上のキャバリアを運用できる野盗の話など、聞いた事は無い。
やがて両者の距離が近まり、肉眼で敵機を捕捉できる距離となった。シルエットだけで無く、おおよその装備が確認可能となった訳だが……
「脚がありませんな……」
「馬鹿言っている場合か!」
副長の冗談をバッサリと斬り捨てながら、部隊長は幾度目かの舌打ちを漏らす。
敵の使うキャバリアには、確かに『脚部』は存在しなかった。アンダーフレームを脚で無く、小型船舶を彷彿とするユニットで構成しているのだ。一機二機程度のハンドメイドなら、小馬鹿にして嗤ったろうが……三十機以上の装備を統一し、効果的に運用してくる相手となれば、鼻で嗤える手合いでは有り得ない。
「クソッタレ……!」
歯噛みしながら、部隊長はコントロールスティックを握りしめた。年貢の納め時、という言葉が脳裏にちらつく。
(「だとしても、楽に勝てると思うなよ……一機でも多く、道連れにしてやる!」)
これが初陣だという、新入り二人に心中で侘びながら。彼は機体のスロットルを開けた。
※第一章のプレイング募集は、10月8日の午前8:31からとさせて頂きます。
嗣條・マリア
自在に飛べるわけではありませんが――水上戦闘のデータ、取らせて頂きます
浮島、水面から飛び出した岩、敵機……申し訳ないのですが友軍機等
その場にある様々なものを足場として利用した《ジャンプ》と
腰部のジャンプユニットを使用した水平方向への《推力移動》
これを利用して直線的な空中機動を行いつつ、敵機への攻撃を開始
丁度、何かに引っ掛けることもできるコフィンチョッパーがありますから
敵機には特に、攻撃のついでに私たちの足場になって頂きましょう
敵からの照準を受けないように可能な限り動き続けます
“声”が回避すべきタイミングや、足場に使うべきモノを教えてくれますから、それに耳を傾けつつ
――さあ、暴君が通りますよ
トリテレイア・ゼロナイン
多少、無理を押してでも護衛と速やかに合流する必要がありますね
用意したEPメガスラスター(背部大型推進飛行装置)をロシナンテⅣに接続
UCで出力(移動力)更に向上(推進剤満載、暴走寸前で装甲低下)しセンサーの●情報収集で水面に接触せず殲禍炎剣の範囲に入らぬ超高速低空飛行で一気に敵部隊強襲
●瞬間思考力で頭部、肩部格納銃器とサブアームの二丁のライフルを瞬時に照準合わせ通り魔のように●乱れ撃ちスナイパー射撃
十分に敵味方に近づければEPメガスラスターをパージ
●推力移動で水面滑走
機体●ハッキングの直結●操縦での細かな制御で速やかに味方や飛行船を●かばう位置へ
私の後ろへ!
騎士として、これより助太刀いたします
カイム・クローバー
貧乏人の俺に機体は高過ぎる。が…言えば貸してくれるんだったか?
一騎、貸してくれ。機体は『クロムキャバリア』。武装はそのままで構わねぇが、通信機器は良いのを頼む。
――お喋りなんでね、俺は。
軽くブーストを吹かして、水上をギリギリで【運転】飛行しながら【操縦】しつつ、【挑発】で煽るぜ。
アンタらの洒落てる脚部だ。水上スキーしに来たんだろ?時期的にもまだ遅くねぇと思うぜ。
銃弾を【残像】を残して回避しながら、UCで機体の両手ライフルを【クイックドロウ】。
パイロットってのは頭部に乗ってるのか?なら、狙うは――両肩の破壊。要するに強制全武装解除だ。
バカンスに来たんだろ?そんなヤボなモン、無しにしようぜ、なぁ?
「隊長! 彼我の数が違いすぎます! このままでは――」
「だとしても耐えろ! 飛行船が戦域を脱出するまでの時間を稼ぐんだ!」
悲痛な声と、非情な命令とが交錯する。無論、部隊長とて好きで命令している訳ではない。ただ遺憾ながら、優先順位を考えた場合。自分達の生命より、多くの人々の生活を支える物資の安全の方を、優先せざるを得ないというだけだ。
今のところ、敵の足止めが叶い。敵集団に痛打を与えるだけの余裕は無いが、逆にこちら側の損傷も軽微に留めている。だがその勇戦も、そろそろ底が見えてきた。要するに、残弾が残り少ない。
(「格闘戦を、やるしかない……か?」)
『ストライド』にしろ、原型機である『ルーク』にしろ。基本的に射撃戦機であって、格闘戦能力は補助的な機能に留まっている。つまり、格闘戦になればジリ貧の可能性が非情に高い。
それでも――と、部隊長が口を開きかけた刹那。索敵システムの内、少々意外なセンサーからの警告音が鳴り響いた。いよいよ接敵するという段になって何故か、広域レーダーに反応があったのだ。
しかし――速い! あっという間に中距離レーダーのレンジに入り、更に近距離センサーで捕捉可能な距離まで詰めてきた。
「馬鹿な……!」
最初に反応を捕捉してから数秒の間に、こちらの懐に飛び込んで来るなど常軌を逸している。IFF、つまり敵味方識別装置が敵味方の判別を行う間に。その『何か』は最前線まで到達したのだ。
IFFが敵味方を判別したのと、部隊長が肉眼で『それ』を確認したのと。護衛部隊の大半が、凄まじい圧力の高波を浴びたのは、ほぼ同時だった。
高波の向こうで、中世の騎士が着る全身鎧の様な意匠の、恐らくはキャバリア。打ち上げ式ロケットの様に長大な、大出力メガスラスターを背負い。二機のキャバリアが、そこに掴まっていた。
白騎士のキャバリアが、おもむろにメガスラスターを切り離す。恐らく使い捨てのロケットブースターだったのだろう。同時に他の二機が湖面に舞い降り、僅かに遅れて白騎士の機体も、水面に降りる。
迂闊にも唖然としてしまった部隊長は、慌ててIFFを確認。
信号は、三機ともブルー。彼ら飛行船護衛部隊の、つまりは『シルヴァラント』に所属する者にとって『味方である』という証である。
「良い子にしてたか、坊やども! クリスマスにはちーと早いが、サンタクロースの登場だ!」
白地に赤と黒のラインマークを施された、彼らの良く知るシルヴァラント製のエース機『シルヴァナイト』の内から。カイム・クローバー(UDCの便利屋・f08018)が、見得を切る様に声を張る。
それが、この戦場に存在する者達が、噂のみ伝え聞いていた『猟兵』に。初めて遭遇した瞬間だった。
「やれやれ……何とか間に合ったみたいですね」
赤黒い色の重装甲で全身を鎧ったキャバリア『タイラント』のコクピット内で、この湖面の真っ直中までの『旅程』で受け続けていた加速Gと、到着した時に浴びた減速Gによって、些か乱れた髪を軽く手櫛で直しつつ。嗣條・マリア(アストレア・f30051)は、僅かに吐息した。それは安堵による物なのか、それ以外に由来する物なのか。或いは当人にも分からないかも知れない。
「護衛部隊との速やかな合流の為。多少無理を押しましたが……どうやら、その甲斐があった様です」
この『合流作戦』を立案した、トリテレイア・ゼロナイン(紛い物の機械騎士・f04141)が。彼本人をサイズアップしたかの様な外観の、量産機体の改造キャバリア『ロシナンテⅣ』の内で、こちらは隠す事無く安堵の声を漏らす。
カイムは二人の声を聴きながら、借り物の機体に慣れる為に『シルヴァナイト』のスティックやペダルなどを慎重に操作して、その感触を確認している。この機体を借り受ける際、カイムは言ったものだ。
「武装は量産規格品で構わねぇが……通信機器は良いのを頼む」
注文を受けて、機体を整備していた整備士が首を傾げる。
「通信機器……ですか? 構いませんが、何でまた?」
問われてカイムは、
「お喋りなんでね、俺は」
と、しれっと答え。冗談なのか本気なのか、整備員は判断に迷った物である。
亜音速での匍匐飛行で――キャバリア三機分の物体が、超音速で飛翔していたら。いくらそれが地表近くであっても、『殲禍炎剣』が見逃してくれなかった公算は高い――カッ飛んできたという、猟兵達のセンセーショナルな登場に。飛行船の護衛部隊は勿論、オブリビオンマシンである敵機まで。唖然としたかの様に、砲火の応酬が止んでいた。無論、一時的な現象である事は火を見るより明らかだが……しかしこの空隙、利用しない手は無い。
「騎士として、これより助太刀いたします。さあ、私の後ろへ!」
威厳に満ちた声を発し、トリテレイアはスラスターの推力で機体を滑走させながら、護衛部隊の前に出る。
「今の内に、体勢を立て直して下さい。その程度の時間は稼いでみせますので」
こちらはややぎこちなく――彼女の機体『タイラント』のジャンプユニットは、滞空や滑走といった微妙な推力制御が苦手なのだ――護衛部隊の前に出ながら、マリアが続けて言を発し。借り物の機体の制御を『大体』会得したカイムも、機体を前進させて二人に続く。
「まあ、俺達だけで。全員をメロメロにさせちまうかも知れないけどな」
その軽口が、実力を伴った軽口である事を、護衛部隊の面々が思い知らされるまで。差程時間は必要無かった。
「散開(ブレイク)!」
トリテレイアの号令と共に、マリアの『タイラント』が右側へ左回りに、カイムの『シルヴァナイト』が左側へ右回りに大きく旋回しつつ水面を駆ける。トリテレイアの『ロシナンテⅣ』は、そのまま前進。真正面から突っ込む構えだ。その段になってようやく、敵機群も自身の存在意義を思い出したかの様に、一斉に砲撃を開始。闖入者を叩き潰しにかかってきた。
敵機である『オブシディアンMk4』は、量産機の中でもベストセラーの一つに挙げられる名機である。慎重に被弾経始を計算された重装甲による生存性の高さと、装備換装の自由さがその理由で。基本性能はそろそろロートルの部類とされつつも、当機を愛用する傭兵の類は未だ多い。
だが、生産機体数が多いという事は、それだけオブリビオンマシンと化す機体も多いという事でもある。つまり、集団で行動するタイプのオブリビオンマシンとしても、非常にポピュラーな機体だという訳だ。
その『ポピュラーなオブリビオンマシン』が、五機。ミサイルで弾幕を張りつつ、猟兵達を迎え撃つ様に前進してきた。お手並み拝見、という訳だ。戦術としては間違っていないが……今回は完全な悪手となった。相手が悪すぎたのである。
前衛の五機が突入してくると同時、トリテレイアの『ロシナンテⅣ』は背面のユニットを徐ろに展開した。一対の大出力バーニアとサブスラスター、そして二本のサブアームが姿を現す。更にサブアームはそれぞれ、キャバリア用ライフルを手にしており……そのシルエットはまるで、焼き直し深煎り焙煎の名を持つ機体のそれだった。
ロシナンテⅣは迫るミサイル群を、頭部に装備した機銃で迎撃。難なくそれらを撃破すると、楯を構えながらサブアームのライフルと、肩部に内蔵した機関砲を展開。機体のFCSと、トリテレイアの瞬間思考能力を連動し、最適な照準を確保。五機全てを照準捕捉した事を確認すると――
「正面敵機、全機捕捉。それでは……参ります」
その言葉とほぼ同時に、構えた銃装備が一斉に火を噴いた。
流石に自動小銃と機関砲では、全弾命中という訳には行かなかったが……しかし戦果は充分であった。五機全てが装備している武装は勿論、どう頑張っても彼我の位置関係の都合で狙えない背中以外、全てのハードポイントを破壊するに至ったのである。しかも、コクピットのある胸から腹に掛けての部位には、一発の命中も無い。
無論と言うべきか、敵機の被弾はアンダーフレームである、水上浮揚ユニットにも及んでいる。数箇所から火花が上がると、幾回か小爆発を起こし……それが動力炉に至る前に、アンダーフレーム自体が投棄される。
残った上半身も、続けて沈没する運命を辿るかと思いきや。機体側面の装甲の一部が弾け飛ぶと同時に、内側に仕込まれていたらしいフロートが膨張展開。機体は水没する事無く、湖面に漂う運びとなった。腹の上辺りで固定されたフロートで浮き漂っている彼らは、まるで浮き輪で水遊びをしている様で。鉄の塊の兵器であるにも拘わらず、その光景はユーモラスですらあった。
「まず、こちらは片付きましたか……」
装弾した弾薬のほぼ全てを撃ち尽くした、サブアーム用ライフルの弾倉を交換しつつ。トリテレイアは独りごちた。
先遣の五機が、トリテレイアとロシナンテⅣによって瞬殺されたのを遠見し。オブリビオンマシン達も、戦術を変更する事にしたらしい。
猟兵達の機体を押さえ込む様に、十機が陣形を徐々に狭め、包囲しようと動くと同時に。残った十五機は飛行船を中心として大きく旋回し。猟兵達を避けつつ逆サイドからの攻撃を意図している様だ。
しかし。三人はいずれも、目の前の敵を片付ける事を選んだ。まだ護衛部隊は健在であるし……なにより、今この場に馳せ参じている猟兵は『今ここに居る三人だけでは無い』事を、知っていたからである。彼らはきっと間に合う。それを信じ、三人は自分達の役割を果たす。
無言の信頼と役割分担。それも猟兵の強力な『武器』である。
スラスターを間断なく噴射制御しながら、ロシナンテⅣはやや後方へ下がり、砲撃支援の態勢に入る。一方で、マリアの『タイラント』と、カイムの『シルヴァナイト』は、残った敵機の側面から、絞り込む様に敵機に迫る。猟兵としての練度の差か、カイムの方が先に敵機の群れに届いたが……それはそれで構わない。カイムとしては、行おうとした事が、やり易くなっただけである。
カイムは更に機体の推力を上げて水上を滑走しつつ、慎重に『場所取り』を図りながら。口にするのは、挑発的な憎まれ口だ。
「アンタらの洒落てる脚部だ。水上スキーしに来たんだろ? 時期的にもまだ遅くねぇと思うぜ」
しかし残念ながら、反応は特に無い。少なくともこの連中は、挑発に憤るという高度な意識活動は行えない様だった。
「ま……それならそれで、別に構わないんだがな」
言ってのけると同時に、彼は機体のハードポイントからライフルを引き抜いた。二丁拳銃ならぬ、二丁ライフルだ。更に機体を跳躍させて、敵機群の真上を取る。宙返りする様に頭部が下、脚部が上を向いたまま……カイムはライフルの銃爪を引いた。
借り物の機体『シルヴァナイト』は、エース用機の冠に恥じず。カイムの無茶な要求によく応えた。敵機は反撃もおぼつかず、隙を晒してはライフルの餌食となり。そのカートリッジが空になる頃には、散々たる光景が現出していた。飄々とカイムは嘯いてみせる。
「バカンスに来たんだろ? そんなヤボなモン、無しにしようぜ。なぁ?」
撃破に至った機体は、四機に留まるが……残る全てのオブリビオンマシンは、肩部のミサイルや肩背面の無反動砲は使い物にならず。運の悪い機体に至っては、腕その物まで破壊されて動かない。
これがカイムの『狙い』だった。
「トリは譲るぜ、お嬢ちゃん。舞台は充分、整ったろ?」
宙返りの後、優雅に着水しながら。彼は後をマリアに託した。
尤も、託された側は託す側ほど、余裕がある訳では無かった。マリアは訓練や模擬戦、シミュレートは散々行ったが、これが初めての『実戦』である。『タイラント』のコクピット内装は馴染みすぎて、初陣という意識は極薄いが……実戦に対する経験が無い事については、認めざるを得ない現実だ。
スティックとペダルの触感を確かめると、マリアは自機にして相棒である、タイラントに装備されたジャンプユニットの推力方向を、水平から下方へ向ける。
「このタイラント。自在に飛べる訳ではありませんが――水上戦闘のデータ、取らせて頂きます」
一見、重厚にして鈍重な印象を与える、赤黒い重装甲の機体が軽々と宙へ舞い上がる。装甲材が軽量な訳でも、ジャンプユニットが特別優れている訳でも無い。機体に搭載された動力炉『パラドクス・ドライブ』の図抜けた高出力が、重装甲のタイラントをして、易々と重力の軛を振り払わせたのだ。
尤も。飛行や滞空など、長時間推力装置を酷使する機動には、タイラントは対応していない。あくまで『陸戦の雄』としての性能を追求し、重装甲にして地上戦における高機動、高反応速度を付与された機体が、マリアの相棒である。
高く――と言っても、高度三百メートルよりは下に設定されているが――舞い上がったタイラントが、ジャンプジェットをオフにして自然落下する。そこへ、奇跡的にライフルが無事であったオブリビオンマシンが、片手でライフルを構えて狙いを付けた。そして発砲。
しかし……必中を期して放たれた砲弾は、タイラントの影を射貫いたのみで。勿論タイラント本体には、弾痕ひとつ穿つ事すら出来なかった。二射目、三射目も結果は同じであり。カートリッジの中身を、無為に潰えさせたのみに終わる。しかもその回避運動は、必要最小限のスラスター噴射のみで行われたのである。射手が人間であったなら、恐慌に陥ってもおかしくは無い。
マリアには、時折『声なき声』が聞こえる事がある。自身は平行世界の『彼女』の声だと主張しているが、事実か否かは確かめようが無い。その『声』が、彼女に正確な回避運動を取らせた……というのが、種明かしという事になる。
なまじ発砲などを行い、悪目立ちしてしまった事が、この機体の不運となった。
「――さあ、暴君が通りますよ」
その呟きと共に、落下の運動エネルギーを乗算した『コフィンチョッパー』が、胴体に半ば埋まった様な敵機頭部を叩き割って粉砕し、その直下にあるメイン演算システムをも破壊する。人間で言えば中枢神経を破壊されたその機体は、湖に浮かぶ鉄の塊と化した。内部のパイロット……と言うより『生体ユニットにされていた人質』は、無傷であったのが幸いである。
この派手な一撃が、マリアの『初陣』における、最初の戦果と相成った。無機的な存在である筈のオブリビオンマシンが、怯えた様に後退する。
その後は、殆ど『戦闘』にはならなかった。戦場は最早『狩猟場』と化し、時に水上を滑走し、時にジャンプユニットで舞い上がり。更には撃破された敵機をすら足場にして跳躍し、オブリビオンマシンという『得物』を捉え。手にした鉤付き鉈で腕を斬り飛ばし、頭部を叩き割り、アンダーフレームの浮力推進ユニットを破壊して。『ノルマ』の敵機が全て沈黙して漸く、マリアとタイラントの『狩猟行為』は終了し。
「お疲れ、タイラント」
マリアはモニター画面を軽く撫でて、愛機の労を労った。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
春乃・結希
海面すれすれを音速飛行、戦場へ飛び込む【空中戦】
速度も乗せて、超重の『with』を敵機へ叩きつける
味方の方へ手をふりふり。外と会話は出来るのかな?
とにかく味方ということを伝えないと……!
『味方だよ!』『あの飛行船を』『守れば良いんですよねっ?』ということを
大袈裟なジェスチャーで伝えてみます(親指ぐっ)
飛行船に近い敵を優先
自身への集中砲火を避けるため、飛行は常に超低空
纏った暴風で炎を吹き飛ばしながら突撃【火炎耐性】【オーラ防御】
どんな装甲も、『with』の前では意味なんてないです!【怪力】【鎧無視攻撃】
初めて来た世界。ここの旅も大事な思い出にしようね、『with』!
神崎・柊一
同行:楊・宵雪(f05725)
こいつがクロムキャバリア…にしても。
補給無しでも戦い続けられる武装で構成された機体、ってやつか
それでも今回は宵雪をどれだけ生かせるかが鍵になる
主役は任せたよ、宵雪…!
水面スレスレを飛行し敵部隊へ接近
飛行船護衛部隊よりも前に出て囮になり、そちらへの消耗を減らす
必要ならUCを使用し翻弄していく
ある程度ひきつけ横に逃げ、宵雪が狙いやすいように敵の機体の向きを変える
味方部隊にも敵の小型船舶部を狙わせる
此方も可能なら敵へ接近
小型船舶部を切り落とし、戦力を無力化する
又はワイヤーで捕縛し別の敵機にぶつける等で破壊
コクピットは狙わない
助けられそうな場合は救助を護衛部隊へ委託
楊・宵雪
同行
神崎・柊一(f27721)
「ロボットなんてよくわからないけれど、式神だと思えばなんとかなるかしらね
空中浮遊で湖~飛行船間の高さに配置
初動
敵と飛行船部隊の間に割って入って損耗したストライド部隊を下げる
同行者を前衛、陽動とし自分は後衛、射撃
同行者に向いた敵側面を狙っていく
狙いは敵動力部、船部分
上方からは狙いにくいためビットのレーザー射撃を本命に
本機は弾幕、援護射撃を
敵パイロット
なるべくコックピットの損傷は避け
浸水しにくい状態で敵機沈没
戦況落ち着き次第水中から引き揚げる形で救助
派手派手なロボット同士の戦いにびっくり
「柊一は無事かしら?機体とパイロットは別だとわかっているけど心配になっちゃうわね
先発した三人の猟兵が、自ら二隊に別れたオブリビオンマシンの片側と、交戦状態に入った時分。戦場を大きく旋回して逆サイドに達した、もう片側の隊は。置いてきたもう一隊と、負けず劣らずの『手厚い歓迎』を受けていた。
分岐して、どちらかの隊だけでも『目的』を果たそうと試みていた、オブリビオンマシン達だが……攻撃位置に達する前に、『猟兵』という名の分厚い壁に、前進を妨げられてしまったのだ。
相方の機体を背に乗せた状態で、亜音速で飛行するクロムキャバリアと、その背に乗るサイキックキャバリア。そして……彼らと並んで全く遜色ない速度で飛翔している、生身の人間が、その内訳である。
護衛部隊のキャバリア操者達は、思わず唾液を飲み下した。猟兵の中には、生身でキャバリアと渡り合う者も存在する――話に聞いた事はある。だが実際に目にしてみると、その違和感と非現実性は只事では無い。だがその力を疑う気にも、とてもなれない。生身で、しかも亜音速にてシースキミング飛行する存在。超常性はそれだけでも充分だった。
会敵までの移動によって稼がれた、飛行による運動エネルギーを乗せた初撃にて。二機のオブリビオンマシンが、紙細工の様に吹き飛んだ。一体はキャバリア用の斬艦刀にてアンダーフレームを斬断され。もう一体は、充分に運動エネルギーが乗っていたとは言え……生身の人間が手にした伸長した塊剣に、見事な迄󠄂に腰斬されてしまったのである。
「とんでもないな……」
通信回線を介し、護衛隊員の誰かがそう呻く。尤も、偶々口にしなかっただけで。その思いは概ね、誰もが抱いた物であり。彼らが味方であるという幸運を、感謝せずには居られなかった。或いは例え、とりあえず今回は……という但し書きが付いていたとしても。
猟兵達は一度、オブリビオンマシン達の後背へ抜け。そこから弧を描きつつ、護衛のキャバリア部隊とオブリビオンマシンの中間位置に陣取った。
楊・宵雪(狐狸精(フーリーチン)・f05725)の操る『機神『蚩尤』』は、そこで神崎・柊一(自分探し中・f27721)のキャバリア『礎刃耶(ソハヤ)』の背から降り。自身の飛翔能力で高度と方位、距離共に。湖面と飛行船との中間に位置取る。
キャバリア同士の戦場に生身で参戦して度肝を抜かせた、春乃・結希(withと歩む旅人・f24164)は、二人のキャバリアが配置を換える間。護衛部隊に向かって、しきりに手を振ったり、自分と護衛部隊を指さしたり。大袈裟な身振り手振りで、彼らとの意思疎通に努めていた。尤も、結希入魂のジェスチャー集は、ひとつ足りとて意図は伝わらなかったが……しかし『何かを伝えようとしている』事は理解して貰えた様で。角が二本生えた様な頭部形状を持つ、護衛部隊長のキャバリアが。外部拡声機を使って結希に叫びかけた。
「正直、何を伝えたいかは分からないが……君たちが我々に加勢してくれる事は理解した! こちらは万一、君たちから逃れてきた奴を叩く! そちらは好きな様にやってくれ!」
その返答に、結希は満面の笑顔とサムズアップで応じてみせた。
搭乗した機体を敵機に向けながら、柊一は独りごちる。
(「これがクロムキャバリア……その中でも、補給無しでも戦い続けられる武装で、構成された機体……って奴か」)
彼の乗機『礎刃耶』には、射撃武器は一切搭載されていない。つまり弾丸の補給が必要無いという訳で、尖った構成ではあるが、継戦能力は確かに高い。一方、宵雪が搭乗する『機神『蚩尤』』は、射撃武器しか搭載されていない。少なくとも武装面では、対照的な二体だった。
だが、なればこそ。二体が『二体である事』に、特別な意味が発生する。お互いに互いの不得手を、補い合える存在であるという意味が。
その宵雪は、乗機のシートにもたれかかりながら、軽く首を捻っていた。
「ロボットなんてよくわからないけれど……式神だと思えば、何とかなるかしらね」
どうやら、キャバリアに搭乗している事自体が、彼女の悩みになっている様だ。確かに宵雪の様な、精神方面を酷使する猟兵にとって。機械仕掛けの巨人が相争う戦場は、些か場違いに感じるのかも知れない。
「まあ、やるべき事はやる。それで良いわよね……」
語意その物とはまるで性質の異なる、やる気を帯びた語気で。宵雪は独り言を締めくくった。
彼らの初撃によって、派手に混乱していたオブリビオンマシンの部隊は。その混乱をどうにか収め、再び飛行船目掛けて進軍を再開した。その整然とした前進は、眼前に見れば大抵は、恐怖を掻き立てられる威圧感に満ちている。
だがその様なハッタリは、歴戦の猟兵達にとっては虚仮威しに過ぎない。精々派手に掻き回してやるのが、いっそ礼儀という物だろう。
宵雪の機体を後衛として、結希と柊一は前衛に立つ。結希などはキャバリアに対して、生身で前衛を務める事になるのだが……恐怖も気負いも微塵も感じられない。つまりは、ごく自然体。彼女に言わせれば、愛剣であり恋人(!)の『with』と共に居る限り、自分もまた不滅不敗である――らしい。
尤もそれは、柊一と宵雪とても大差ない。二人で足りない所を補い合えば、勝利は向こうの方から、頭を下げてくるだろう。
推力全開で、二人の前衛は敵中へ突撃していく。迎え撃つかの様に、敵キャバリアも砲撃を開始。様々な弾種の洗礼を、高速のシースキミングと乱数機動とで潜り抜けつつ、結希と柊一は更に飛翔距離を伸ばす。オブリビオンマシンの最前衛に手が届きかけた、その刹那。全敵機が同時に、自身の虎の子を吐き出した。
油脂焼夷弾とマイクロミサイルの、一斉発射。どうやら、出し惜しみするのを止めた末の行為の様だが……大盤振る舞いにも程がある。厄介な弾頭による弾幕に、二人が流石に全力回避を考えたが……結果として、その必要は無かった。
見ているだけで軽く嫌気が差す数のミサイル群、しかも二人の手元には射撃武器が無い。だが、それを補って貰える仲間は居た。
二人の眼前に突如広がる、爆発光の連鎖。光と炎の圧力の後に残ったのは『浮遊砲台『陰陽玉』』と『機鳥型電波妨害装置『舞鶴』』の姿。いずれも、宵雪の乗機『蚩尤』の搭載兵装だ。『舞鶴』でミサイルの誘導装置を狂わせて、互いに衝突させ。生き残った弾頭は『陰陽玉』のレーザーで叩き落とし。見事、二人を護ってみせたのである。
礼の代わりに、柊一は宵雪に向かって片手の親指を立ててみせ。宵雪の方も同じ動作を返してみせた。結希は左手を大きく振って、礼の代わりとする。流石に戦闘の真っ直中では、長々と挨拶を交わしている暇は無い。
搭載された最大の兵装であるミサイルを全弾失い、オブリビオンマシンの火力は大きく減衰した。如何に名機をベースにしており、放っておけばミサイルも再生産出来るとは言え。今この時、即座に再生できないのなら意味は無い。
オブリビオンマシンの半ばはチョッパーを抜き、半ばは無反動砲を構えて、即席の陣形を形成する。こう真っ当な叩き合いとなると、流石に数が物を言う。マトモに付き合っていたら、何時までかかるか知れた物では無い。
故に、彼らが取った方策は。自分達の持ち味である『速度』を、使えるだけ使い倒した『一撃離脱』と『陣形擾乱』であった。
結希が強大なエネルギーを持つ風を纏い、幾重にも重ねた暗示と共に突撃し。凶悪な重量を誇る『with』を、アンダーフレームの浮揚ユニットに叩き付けて破砕する。敵機が側面の一部装甲を解除して、緊急時用のフロートを展開し。湖面に漂う鉄の塊と化すのを確認する事無く、結希は一気に駆け抜ける。
それを追うか否か、一瞬逡巡した別の機体に、今度は柊一が突貫。背中でX字を形成すフレキシブルスラスターが、単純な速度だけで無く柔軟な機動性も、柊一と礎刃耶にもたらしている。
オートキャノンの砲撃を紙一重で回避して、斬艦刀の一撃が敵機の左腕ごと無反動砲を斬り捨て、返す一撃でアンダーフレームを貫く。更に『三身綱』の先端を敵機に突き刺し、不運なその機体を振り回すと、別の機体へ叩き付ける。その後の結果を見定める事無く、柊一も離脱。すると結希が再突入して、『with』の一撃で敵頭部を叩き潰し。その機体を鉄の塊に変えてしまう。そして彼女が飛び去ると、またしても柊一が再突入。チョッパーの一撃を掻い潜ると、鉈を腕ごと斬り落とし。更に斬艦刀を翻して、片腕を失ったばかりの機体を腰斬してみせる。
結希と柊一の一撃離脱法だけでも、大概手に余るのに。更に宵雪のビット攻撃が、敵機の混乱を助長した。どちらかと言えば作戦では、宵雪のビット攻撃こそが本命だったのだが……あまりに調子よく踊ってくれる、オブリビオンマシンの醜態に。戦法は兎も角、役割を厳守する必要は無いと。猟兵達はこのまま一気に、敵陣を削りきる方針に切り替えた。
「それにしても……」と、宵雪は複数のビットを操作しながら独りごちる。
「ロボット同士の戦いって、もの凄く派手派手なのね……」
びっくりだわ、と呟くと。微かな不安を覚えるのは、柊一の事。
「柊一は無事かしら? 機体とパイロットは別だと分かっているけど、それでもちょっと心配になっちゃうわね……」
確かに、機体の方が無事でも操者が負傷するケースは幾らでもあるし、その逆も同様だ。ここまで一方的な展開となると、余程の事が無い限り。状況がひっくり返る事も、誰かが負傷する事も、そうそう無いだろうが……敵のチョッパーが、柊一に向けて振るわれる都度。心臓に悪い思いをさせられる宵雪だった。
それより、あと僅かの後。この湖面全体において、オブリビオンマシンは全機沈黙。敵機の安全装置である緊急フロートの存在もあって、うっかり湖中へ沈没してしまった機体も無く。機体内に生体ユニットとして囚われていた、シルヴァラントのキャバリア操者達も救出する事が出来た。尤も、彼らを纏めて運搬する手段が手元に無い為。結局オブリビオンマシンだった残骸に搭乗させたまま、それを護衛部隊全員で牽引していく事と相成った。些か雑な手段だが、無い袖は振れない。
しかし、それら全ての措置を、即座に行える訳では無さそうだ。猟兵達の直感、或いは予感を覚える感覚を、ビリビリと震わせる『何か』が、来る。
それは間違いなく、ごく近い未来に現出する『敵』に対する予感である。
大成功
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第2章 ボス戦
『モノアイ・ゴースト』
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POW : バリアチャージ
【バリアを纏った】突進によって与えたダメージに応じ、対象を後退させる。【支援機】の協力があれば威力が倍増する。
SPD : パルス・オーバーブースト
レベル×100km/hで飛翔しながら、自身の【オブリビオンマシン】から【光学兵器による一斉攻撃】を放つ。
WIZ : ゴーストスコードロン
自身が【敵意】を感じると、レベル×1体の【支援キャバリア】が召喚される。支援キャバリアは敵意を与えた対象を追跡し、攻撃する。
👑11
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「これが、猟兵の力という物か……」
三倍の戦力差を、たった数人で引っ繰り返してしまった圧倒的な戦闘力に。畏れたら良いのか、感心したら良いのか。或いはいっそ呆れたら良いのか。
半ば以上呆然としながら、コクピットの上部ハッチを開けて身を乗り出し。自身の肉眼で周囲を見回して、護衛部隊長は片手で髪を掻き回す。その心中と同様、表情もまた。選択に困った様に微妙な表情だ。
だが、と。部隊長は気を取り直す。彼らが居なければ、自分達も飛行船に積載された物資も、そしてオブリビオンマシンに囚われていた操者も。どれひとつ助からなかった事は間違いない。それら全てを救い上げてくれたのは、猟兵達の力であるという事は。純然たる事実だ。
「高い位置から失礼する。猟兵の皆、この度の助力に感謝する。自分は――」
挨拶から謝意の言葉を続けようとした部隊長は、自身のコクピット内から警告音を聞き取り。猟兵達に謝罪しつつ潜り込む。
「ちっ……!」
思わず舌打ちしつつ、部隊長は外部拡声機をオンにする。
「猟兵諸君、申し訳無い! レーダーレンジ外から相当な速度で、こちらへ接近してくる機体を捕捉した。IFF(敵味方識別装置)には反応無し。単騎だ」
もう一度、髪を掻き回し。言を継ぐ。
「推測だが……恐らくこれは、エース級(クラス)の機体だろう。申し訳無いが……今一度、手を貸して頂けるだろうか?」
正直なところ、彼が敵の戦力を弁えていなければ。自分達で応戦しようと言いたくなる気持ちは部隊長にもある。が……『奴』には、自分達の機体と技倆では、相手にもならない事を彼は知っていた。失礼な言い様だが……規格外には規格外をぶつける事が。この場合、最も適切な対処法だ。
「どれだけ役に立つかは分からないが……救出して頂いた人員の待避と、支援射撃程度は期待してくれて良い。背中は気にせず、好きにやってくれ」
この提案と指示に、不満を持った部下は居ただろう。だが不満を口にした部下もまた居なかった。彼らも恐らく、猟兵の力に度肝を抜かれたのだろうと推測。
「全機、鹵獲ネットと牽引ワイヤーで、擱座した機体を牽引! 邪魔にならない様、場所を空けるぞ!」
指示と同時に、自身が率先して作業にかかる。同時に無反動砲を射撃位置に構え、発砲可能な体勢に。有言実行。猟兵達から要請があれば、いつでも援護射撃を行える姿勢は崩さない。
(「他力本願この上ないが……奴は君達にしか倒せない。頼んだぞ
……!」)
歯噛みしながら随時指示を飛ばし、敵機の接近方向から見て後方へと牽引しながら。殆ど祈る様な気持ちで、部隊長は外部モニターを睨みつけていた。
※断章の提出が遅くなってしまい、申し訳ありません。
本章では、プレイングは随時受け付けておりますので
ご参加、どうかよろしくお願いします。
楊・宵雪
同行
神崎・柊一(f27721)
「新手ね…!連戦、いける?
前回同様高度は飛行船をこえないようにしつつ
「あれの中にもパイロットがいるのかしら
「この人達を死なせるわけにはいかないわ。柊一、お願いできる…?
損傷のあるストライドと要救助者を安全地帯に逃がす
運びきれていない残骸を運搬
背に守りながら弾幕維持
ビットを同行者の支援射撃に向かわせつつ
有効射程内であれば引き撃ちし続ける
有効射程外では湖面を攻撃して飛沫の衝立を作り要救助者を敵から隠す
ジャミングも併用し照準を逸らす
無事戦線離脱できたら戻って加勢
神崎・柊一
同行:楊・宵雪(f05725)
…一段落ついたと思ったら…
こいつがエース機ってやつか
やれるもどうも、やんなきゃダメなんでしょ…!
倒しちゃっても文句なしだかんね!
宵雪が回収終わるまで抑え込めれば正気はある
焦るな、今はまだ…!
自身は前衛として前へ
敵への近接攻撃を仕掛けバリアが一定時間発動しっぱなしなのか、攻撃の瞬間のみなのかを測る
次にギリギリまで攻撃せずに接近しバリアの発生を阻害できるかを確認
可ならばその間合いで勝負
負荷ならば近接攻撃でバリアを叩き割る
宵雪合流後は一気に攻勢に
自分の機影に宵雪を隠し、射撃着弾間際によけての奇襲やバリア発生装置の破壊を目指す
こいつと推進部を破壊し救出を狙う
「一段落ついたと思ったら……こいつがエース機って奴か!」
自機の索敵機能に反応が認識された次の瞬間、あっという間に中距離レーダーのレンジに押し入ってきた反応を確認し、神崎・柊一(自分探し中・f27721)は感嘆半分、悪態半分の言葉を吐いた。
間の悪い事に、他の仲間機は悉く。元オブリビオンマシンであった機体を、ストライド部隊に牽引させる為の作業に取り掛かっていた。即応できるのは柊一と、楊・宵雪(狐狸精(フーリーチン)・f05725)の機体だけである。
「新手ね……! 連戦、いける?」
宵雪が通信越しに声をかける。言葉の上では問いかけだが、実際には確認だ。柊一もそれは分かっている。
「やれるもどうも、やんなきゃダメなんでしょ……!」
自棄っぱち気味の返答で、自分を奮い立たせながら。柊一は自身の機体『礎刃耶(ソハヤ)』を、敵機の矢面に立たせた。
宵雪の機体『機神『蚩尤』』の援護と、ストライド部隊の支援射撃があるとは言え……少しばかりの間、彼一人で戦線を支えねばならないのだ。愚痴めいた言も致し方ないだろう。
「折角助かったんだもの。今更、この人達を死なせるわけにはいかないわ。柊一……お願いね」
そう依頼する宵雪こそが、恐らくこの状況を最も不本意に感じている者に違いない。柊一なら大丈夫と、信じてはいても……それでも、不安や心配が無い訳がない。だが。
「OK……! うっかりコイツ倒しちゃっても、文句なしだかんね!」
柊一の強がりに紛らわせた一言で、完全に吹っ切った。要は宵雪達が作業をとっとと終えて、戦線に復帰すれば良いだけの話。
「それってフラグじゃ無いかしら?」
笑みさえ浮かべて、宵雪が言い返す。それで意思疎通は充分だった。
『蚩尤』は再び宙を舞い、飛行船と湖面との中間位置を占めて、敵機の牽制と牽引作業の護衛に付き。『礎刃耶』は真正面から、敵オブリビオンマシンへ立ち向かい。作業と自陣営を立て直す時間を稼ぐ。
目に見える敵機より、目に見えない時間との戦いの始まりだった。
「宵雪達が作業を終わるまで抑え込めれば、勝機はある。焦るな……!」
いくら猟兵用の専用機と言えど。エース級のオブリビオンマシン相手では、正面からの一対一は分が悪すぎる。ましてや、その腹の中には他のオブリビオンマシンと同様、シルヴァラントのキャバリア操者を抱え込んでいる。あまり無茶を仕掛ける訳にもいかない。
幸い、敵機は機動力と射撃攻撃能力には秀でているが、防御力はバリアシールドに頼っており。近接戦の攻撃法は、速度を乗せた体当たりだけだ。高機動型のそれは脅威ではあるが、その性質上、軌道が読み易いという欠点も併せ持つ。
そして……欠点と言えば、もうひとつ。
X字を描くフレキシブルスラスターを噴かして『礎刃耶』が前に出る。この機体には現状、射撃武器が無い為。攻撃するには近寄るしか無いのだ。尤も、この無茶とも思える敵機への接近には。攻撃以外の意図があった。
斬艦刀『顕明連』を下段に構えつつ……間合いを詰めて、詰めて。遂には素手での殴り合いこそが適する程に、両機は接近する。瞬間。
『礎刃耶』が、大きく突き飛ばされた。しかしオブリビオンマシンが、その両腕で突き飛ばした訳では無い。それを成したのは、オブリビオンマシンが両肩から発生させたバリアシールドだった。そのシールドの向こうから、小口径の光学兵器を連射しつつ。オブリビオンマシンが距離を取る。柊一も自機の姿勢を立て直しつつ、同じく距離を取った。
「なるほどね……」
乾いた唇を舌で湿しつつ、柊一は笑みを履く。彼は闇雲に突っ込んだ末、突き飛ばされた訳では無い。敵機のバリアシールドの特性を、その身を以て確認したのである。
どうやらあのバリアシールドは、発生させたら一定期間切れない物では無く。任意で発生・消失させる事が出来る事。そしてその発生自体は、妨害する事は不可能に近いらしい事。それは重要な情報だった。
このオブリビオンマシンは、このバリアシールドに行動の多くを委ねている。逆に言えば、バリアシールドを攻略する事が出来れば。戦いは大きく有利となるであろう。
柊一は身体を張って、その情報を掴んだのだ。
それだけの事が分かれば、差し当たっては無理をする事は無い。それに、今最も欲していた『時間』も稼ぐ事が出来た。とりあえずの戦果としては、上々と言えた。
一方。牽引の為の作業を護衛する宵雪も、必ずしも安楽な立場とは言えなかった。『敵意』を感じ取ったオブリビオンマシンが、子機とも言える支援用キャバリアを呼び寄せ。後方である作業現場を強襲してきたのだ。
『支援用』と言うだけあって、そのサイズは通常のキャバリアの半分程。火砲は頭部の無反動砲一門のみで、格闘能力も最低限だ。但し、数が多いのは厄介と言えよう。
宵雪は『蚩尤』本体だけで無く、『陰陽玉』を展開。上方から弾幕を張って敵機を一定ラインに釘付けにする。同時に、作業が終わった機体から順次後方へ逃がし『足手まとい』の数を減らす。
幸い、護衛部隊が使用する『ストライド』の出力には余裕がある為。キャバリア数機程度なら無理なく牽引できる。行きがけの駄賃で、肩部の無反動砲を敵支援用キャバリアへ向けてぶっ放しつつ。一機また一機と戦闘領域外へ離脱していく。彼らの練度が高く、下手な加勢はかえって邪魔になる事を、弁えてくれているのも良い方へ働いた。
やがて、宵雪が支援用キャバリアを叩き終えるのと前後して。飛行船護衛部隊全機が擱座した元敵機を引き連れ、戦闘領域から脱出する。同時に飛行船自体も、概ね戦闘領域の外へ逃れ出た。オブリビオンマシンが本気で追えば、すぐに追い付けるだろうが……それを猟兵達が、みすみす見逃すなど有り得ない。
そして足手まといの要素が、唯一戦域に残るオブリビオンマシン、その中に囚われた操者以外、ほぼ消えた今。猟兵達もようやく、本領を発揮して戦えるだろう。
戦いは最後の局面へ、突入しようとしていた。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
春乃・結希
うんうんっ。相手がキャバリアでも全然余裕やったね!さすが『with』!
相手はエース級…なら私も、本気出します
私に力を貸して!『with』!
UC発動
射撃を反応速度で回避
…っとと。離れてるとどうしようもないですね
なら、それから狙って行きます
翼を自在に操り、斉射の隙間を縫うように接近【空中戦】
武装、または飛行装備の破壊を狙う【鎧無視攻撃】
あははっ。近づかれると、小さい的は狙いにくいやろー?
武装を弱体化出来たら、隊長さん達にも手伝って貰います
隊長さーん!今からそっち行くからー!
速度を乗せて『with』をキャバリアへ突き立て
そのままみんなの方へ押し込みます!
私は最強だから大丈夫!気にせず撃てー!!
カイム・クローバー
エース機体のご登場って訳だ。なかなか勿体付けるじゃねぇか。
こっちもエース機体を所持してる。借り物だが、悪くねぇ。――ハハッ、良いねぇ、この感覚、ハマっちまいそうだ!
機体の制御も慣れて来た。バリアを伴った突進を【残像】を残した【操縦】で躱す。二丁ライフルの【クイックドロウ】で牽制しつつ【挑発】を掛けるぜ。
おいおい、エース機の割には鈍い挙動だな。その程度じゃ、欠伸が出ちまうぜ。
――反応が無くても構わねぇよ。言ったろ、俺はお喋りなんだ。
UCはギリギリまで発動せず。奥の手ってのは最後に見せるモンだ。懐に潜ったその時こそ、UCを解放するぜ。
武装がライフル以外にあるなら――それを使って叩き込んでやるか!
トリテレイア・ゼロナイン
助力に感謝を!
敵支援機の牽制を願います
ロシナンテⅣの●推力移動で移動
援護に乗じて支援機を銃器で撃ち落としバリア突進を●盾受けで受け流しながら攻撃しバリア強度●情報収集
やはりあの障壁に対処する必要がありますね
再度の突進に合わせUC使用
更に機体●ハッキング直結●操縦で機体追従性●限界突破
●見切って紙一重で躱すと同時に●怪力大盾でバリアごと殴打し体勢崩し
直後に頭部、肩部格納銃器、サブアームのライフルを展開し●乱れ撃ちスナイパー射撃
加速する演算、動作速度で狙うはバリアの只一点
過負荷でバリアが一瞬でもダウンした瞬間狙い銃を放棄し接近
振るう剣で機体を破壊
再展開されるまでの瞬きの内に…
勝負を決するのみ
「うんうんっ。相手がキャバリアでも、全然余裕やったね! さすが『with』!」
自身の『恋人』に、春乃・結希(withと歩む旅人・f24164)は得意満面で語りかける。実際、彼女の言には偽りは無く。ほぼ鉄塊剣一本でキャバリアを退けてみせたという、金縁付きの実績もある。下に恐ろしきは猟兵なり、と。現場を見咎めた誰かが唄ったとしても、不思議は無い。
だが、戦闘はもう一山残っている。眼前の敵機を排除せねば、依頼を完遂した事にはならない。今一度、労務をこなさねばならないらしい。
「はっ……! やっとエース機体のご登場って訳だ。中々勿体付けるじゃねぇか」
先程の戦闘で、借り物である『シルヴァナイト』のスティックが手に馴染んできた感のある、カイム・クローバー(UDCの便利屋・f08018)が。ネコ科の大型肉食獣の様な眼差しで舌舐めずりする。両手のライフルの残弾を確認し、空に近いカートリッジを落として再装弾。
「こっちの機体は借り物だが、悪くねぇ。――ハハッ。良いねぇ、この感覚。ハマっちまいそうだ!」
確かに兵器同士、それも鋼の巨人同士での戦闘には。他の兵器には無い独特のカタルシスがある。カイムももう暫く、そのカタルシスを堪能できそうだ。
一方、トリテレイア・ゼロナイン(紛い物の機械騎士・f04141)の方は、冷静に。先程の、仲間機と敵機の戦闘で得られたデータを高速で検討していた。
「敵機のバリアの展開タイミングと、発生シーケンスは確認出来ましたか。後は強度が分かれば、盤石といった所ですね」
トリテレイア自身が機械である所為か、彼はこの手の技術に縁が濃い。その利点も限界も、概ね把握できている。最後の問題は、タイミングだ。それを合わせる為にも、共に戦線に立つ仲間の『呼吸』を、理解する必要があった。
背中の大型バーニアを展開し、オブリビオンマシン『モノアイ・ゴースト』は、高機動体勢に入る。猟兵達が、構える暇もあればこそ。その青白い機体は、推進炎を後に引きつつ宙に舞い上がり。乱数機動を取りながら、手にしたライフルと機体の内蔵火器を、景気よくバラ撒いてきた。猟兵達は散開して、レーザーだのビームだののフルセットを回避する。
「……っとと。離れたままだと、どうしようもないですね」
結希が陽気な口調でぼやく。言い換えれば、取り付けたならどうとでも出来る、という自信の表れでもあったろう。
ただし、それにはひとつ。超えなければならないハードルがある。
「バリア展開確認……来ます!」
トリテレイアの警告が発せられた、次の刹那。ベイパーコーンを発生させながら低空を駆け、更に障壁を張り巡らせたオブリビオンマシンが、猟兵達目掛けて突撃を仕掛ける。二機と一人は、それぞれの機動をもって回避したが……敵機が発する衝撃波を御するのに、若干の手間を取らされた。尤も、超音速での突撃など。猟兵でなければ回避どころか、反応する事すら難事であったに違いない。
「やはりあの障壁に、対処する必要がありますね……」
トリテレイアの言は、すなわち結希とカイムの心境でもあった。実際、敵機の防御力の殆どは、あのバリアフィールドに依存している。アレを何とかした上で、更に機動力も奪う事が叶ったなら。あのオブリビオンマシンは、単なる的と化すだろう。
「あの身持ちの固いお嬢さんを、口説き落とす手に心当たりが?」
「多少は、強引な手段になりますが」
カイムの疑問に、トリテレイアは頷きを返す。
「ただ、私は『それ』に、掛かりきりとなりますので。出来ればお二人には『後詰め』をお願いしたいのですが……宜しいでしょうか?」
カイムはコクピット内で拳を手に打ち付け、不敵に笑む。
「地獄へのエスコート役か……それはそれで面白そうだな。やってやるさ!」
結希は満面の笑みとサムズアップを、トリテレイアの『ロシナンテⅣ』に向けた。
「『with』が居れば、私は無敵だって事。もう一回証明してあげます!」
『詰めに繋がる最初の一手』が、これにて纏まった。
とは言え。この相談自体、敵機の一斉射撃や体当たりを回避しながらの事であって。実行は更に厄介だろう。まず『最初の一手に繋がる一手』が必要だった。
またしても敢行された、突撃攻撃を躱してカイムが放言する。
「おいおい、エース機の割には鈍い挙動だな。退屈すぎて、欠伸が出ちまうぜ」
あからさまな挑発である。しかし実際、突撃攻撃は一度たりとて、猟兵達に直撃していない。結果論だがこの言は、事実に即した放言だった。
その挑発を受けてか、それともそう見えただけか。『モノアイ・ゴースト』が、再び突撃体勢に入る。それに応じるのは、トリテレイアの駆る『ロシナンテⅣ』。
二者が真正面から衝突する瞬間。トリテレイアは自機を軽く反らせながら、一方で巨大楯を、怪力をもって叩き付ける。凄まじいエネルギーの奔流を発しながら、バリアフィールドが明滅する。その一撃が、どれ程の負荷になったかは分からないが……『強い負荷が掛かった』事は、間違いない。更に『ロシナンテⅣ』の内蔵火器と、サブアームのライフルが火を噴き。シールドに更なる負荷をかけていく。
『バリア』『シールド』『フィールド』など。防御力場には様々な名前と、構築用の理論が存在する。そして、その大半の存在においては。どの様な理論で構築された力場でも、理論上では絶対無敵の防御力と、無限の稼動時間を兼ね備えている。
それが実際には、理論上の無敵ぶりに指すら掛からないのは……防御力場の発生機が無限の出力を持っておらず、それに注ぎ込まれる稼動用エネルギーも、有限に過ぎないからだ。
つまり、どれ程堅牢なバリアでも。『力場の負荷になる』攻撃を加え続ける事が出来れば、消失させる事が出来るという道理である。
更に結希が、大声で叫ぶ。
「それじゃ隊長さーん! 宜しくお願いしまーす!」
その呼びかけと共に、現出したのは。後方から飛来する多数の砲弾。幾つかはオブリビオンを逸れて湖面に着弾するが、その大半は、トリテレイアの砲撃と共に『モノアイ・ゴースト』のバリアシールドに叩き付けられていく。
「ふん……猟兵という連中は、中々『粋』な事を思い付く……!」
遙か後方で、不敵な笑みに感嘆と感謝を交え。指揮官用『ストライド』の操縦席にて、部隊長は肩部の無反動砲のトリガーを引く。
無論、普通にぶっ放すだけでは、とっくに射程外だ。しかし仮にも『練達』を謳われる、物資輸送飛行船の護衛部隊である。砲塔型の実弾兵器ならば、射程を多少誤魔化す術くらい心得ている。曲射の要領で、砲弾は大きく弧を描き。砲弾はバリアへ突き刺さっていった。
「ざまぁ見やがれ! 人間様を舐めるなよ!」
そう歓声を上げる隊員もいる。これまで散々『虚仮にされてきた』感を抱えていた彼らにとっては、鬱屈を晴らす意味合いもあったろう。その反動が、曲芸めいた射撃を神技に変えていたのかも知れない。
様々な距離から、次々と突き刺さる砲弾に。バリアシールドの力場その物より、それを発生させている両肩のジェネレーターが、悲鳴を上げ始めた。異音を発し、過負荷の火花を発して、更に煙を上げ……遂には発火して、ジェネレーターは機能停止。当然、バリアを形成していた力場も消失して。『モノアイ・ゴースト』は、防御力的には丸裸になった。
たたらを踏むオブリビオンマシンに、更に追い打ちを掛け。トリテレイアは自機と一体化すると……機体が過負荷の悲鳴を上げる程の、文字通り『神速』の剣技が。『モノアイ・ゴースト』の首をカッ飛ばした。
更に、紫電を纏った『シルヴァナイト』が。残弾を失った上に、間接部が悲鳴を上げている『ロシナンテⅣ』と入れ替わり。両手のライフルのトリガーを引く。
「遠慮は無用だ。あるだけ喰ってけ!」
紫電はライフルにも纏わり付き、その銃弾も紫電を纏う。単なる電光では無く『邪神の力の一端の顕現』であるが故に、発生する現象だ。
紫電を纏う銃弾は、バリアシールド用のジェネレーターを完膚無きまでに撃ち壊し。更に肩部その物を撃ち抜き、破壊してしまう。
しかも、これで終わりでは無かった。
『with』を構えた結希の全身が、紅蓮の炎で燃え上がる。その炎は彼女の背に集約され、炎の翼を形成する。他の部位にも炎は残留し、それらは部分鎧の体を成し、結希を守護する様である。
炎の翼を打ち振るい、舞い上がった結希は。敵機の背面に回って『with』を大きく振りかぶる。振り下ろした先にあるのは、高速飛行用のメインバーニア。ただの一撃でバーニアを破壊すると、行きがけの駄賃とばかりに、サブスラスターなどの補助推進機構をも、纏めて叩き斬る。推進機器を集約していたバックパックは、数度の破裂音を響かせると煙を上げ。完全に沈黙した。
バリアフィールドはおろか、殆どのセンサーシステムが組み込まれた頭部や両腕も失い。更に推進ユニットも内蔵火器も動かなくなった『モノアイ・ゴースト』は、最早スクラップと大差ない。
だが……と言うより、だからこそ。やっておかねばならない事が、今ひとつあった。
カイムの操る『シルヴァナイト』が、オブリビオンマシンだった残骸の、胸部装甲を引っ剥がす。予備兵装のキャバリア用ナイフで、隙間をこじ開けながらの作業だった。
「なーんか、牡蠣の殻でも引っ剥がしてる気分だぜ……」
半分ぼやきながら、カイムは手は休めず。その下から現れたコクピットシェルを剥がし取る。そこを覗き込んだ結希と共に、カイムは思わず声を漏らした。
「「おおー……」」
オブリビオンマシンのコクピット内で、気を失っていたのは。有り体に言ってしまえば『美女』だった。正確には『美女』と『美少女』の狭間の年頃、といった所である。シルヴァラントの操者服を着ている所から、取り込まれる前はシルヴァラントのキャバリア操者だったのだろう。
不具合を発した愛機から降りたトリテレイアが、簡単にサーチした所。衰弱してはいるが、生命に別状は無さそうだと断が下り。すったもんだの末、移送の際は結希が彼女を抱え、カイムの『シルヴァナイト』の手に乗る事で手打ちとなった。
気付くと、護衛対象だった飛行船は湖岸に達し、着陸態勢に移ろうとしている。元々の護衛部隊であった『ストライド』部隊も、欠員無く任務を終え。オブリビオンマシンに囚われていた操者達も、全員無事に救出できた。
多少すったもんだは存在したが……終わってみれば、大団円の結末であった。
大成功
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第3章 日常
『魅惑の銭湯プラント』
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POW : じっくりと、腰を落ち着けて温まろう
SPD : 様々な湯を反復して楽しもう。
WIZ : 効率的に、色々入って疲れをとろう。。
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オブリビオンマシンから飛行船を死守して、物資を護り。更に囚われたキャバリア操者達を救出した猟兵達は。王都を挙げての歓呼で迎えられた。
キャバリア操者達は、治療と療養の為。医療施設に収容されたが……幾人かは意識を取り戻しており。家庭を持つ操者などは妻子共々、猟兵達の手を取って。家族揃って涙ながらに感謝の意を述べた物である。
また、猟兵達の使用したキャバリアは。猟兵達に貸し出された機体は勿論、彼らの専用機も纏めて、軍の整備施設で修理とメンテナンスを受けられる事になった。ついでに改修したい箇所があれば、手を加えてくれるという厚遇ぶりだ。
更に今宵は、彼らを歓待してくれるとの事で。盛大に宴が開かれるらしい。
延いてはその支度の前に、戦塵と汗を流せる様。大浴場を開放して貰える運びとなった。洗体場以外は、湯着を纏ってとは言え、混浴になるが……飲み物やつまみ、冷えた氷菓子も用意されている。
のぼせぬ程度に愉しんで、疲れを癒して欲しい。
※第三章のプレイング受付は、10月18日の午前8:31からとさせて頂きます。
春乃・結希
潮で髪までベタベタやったけん助かりました
withもオイルとか付いてるし洗ってあげるねー
汚れを落としたら、withを抱えたままお風呂に浸かります
(向けられる困惑したような視線)
…どうしました?あ、見られても恥ずかしくないスタイルだと自負しております!(立ち上がる)
…え、これ?
逆に聞きますけど、恋人と一緒にお風呂入った事ないんですか?ありますよね?
こんなんで錆びるわけないやないですか
キャバリアだって斬れるんですよ?隊員さんたちも見てましたよねっ?
ついでに言うと寝る時も抱き枕にして寝ます
ひんやりしてて気持ち良いんですよー
周囲が引き気味なのも気にせずお風呂を楽しみます
あ、私にも冷たいのくださーい
「いやー。潮で髪までベタベタやったけん、助かりました」
長く艶やかな髪に纏わり付く泡を、湯で流して。春乃・結希(withと歩む旅人・f24164)は、ほうと息を吐く。
海に比すれば比べるべくもないとは言え。シルヴァラントの湖は、内陸の河川が幾つか流れ込んでくる、水の中継地だ。単なる湖沼に比べたら、幾らか塩分の度合いは多い。
更にその湖の上で、散々ドンパチやらかしたのだ。水を被れば不快感はあるし、生身でキャバリアを相手取れば。機械油や伝導液、冷却剤など。不快な物を浴びる羽目にもなる。
同様に身体もすっきり洗い終えると、結希は再び湯着を纏い……徐ろに、傍らに置いてあった物を取り上げた。
――鉄の塊が如く、異様な存在感を誇る。巨大な剣を。
湯殿係が、どうツッコんだら良い物かと。困惑するのも委細構わず。それが当然とばかりに、結希は鉄塊剣――『with』を、赤ん坊を洗体する様に丁寧に、そして丹念に洗い上げていく。結希自身が使った物と同じ石鹸を使い、普通に湯をかけているが……どうやらそれで錆びたり傷んだりする様な、尋常の材質で出来ている訳では無いらしい。キャバリアの開発技官がそれを知ったなら、或いはその素材を知りたがったかも知れない。
すっかりと洗い上げ、汚れを落としきった『with』は、鈍色の輝きを照明に照り返らせ。冴え冴えとした輝きを放っている。こうして磨き上げられてみたならば、『重量武器』としてだけでなく『剣』としての威も、持ち合わせている事がよく分かる。
――が。問題は『場所が場所』であった。
どこからどう、触れたら良い物かと。困惑しきって結希を見やる湯殿係の視線を、どう勘違いしたか。『with』と共に湯船に浸かった結希が、すっくと立ち上がる。
「どうかしましたか……あ! これでも私は、見られても恥ずかしくないスタイルだと自負しております!」
湯着に包まれた肢体を、結希は湯殿係(ちなみに女性だ)に晒してみせる。確かに均整の取れた美しいプロポーションだが……残念ながら、湯殿係の彼女が言いたいのは、其方では無い。
「ええと、その……浴室への武器の持ち込みは、ですね……」
ようやく隙を見つけて、言いたい事が言えた湯殿係だが。返ってきた返答は、彼女の認識の斜め上にあった。
「えー……逆に聞きますけど。恋人と一緒にお風呂入った事ないんですか? ありますよね?」
「いえ、無いです……」
湯殿係の彼女は、初心だった。と言うか、それなりの年齢に達しなければ。異性と同じ湯に浸かるのは、それなりにハードルは高い。
というか……恋人? 彼女の目に映るのは、どう見ても『剣』である。一瞬混乱した湯殿係だったが……自身が搭乗するキャバリアを『ハニー』と呼んだり、剣や楯に名前を付けるキャバリア操者の事を思い出し。何とか強引に納得する。
「その。錆びたりしたら。困るのではと……」
疑問の一端を漏らした湯殿係に、胸を張って結希は言ってのける。
「こんなんで錆びる訳、無いやないですかー。キャバリアだって斬れるんですよ?」
護衛隊の隊員さんも、みんな見てはったんですよと。胸を張る結希。破砕力と防錆性に、関連は全く存在しないが……とりあえず、材質の特殊性は理解した湯殿係である。
しかし、彼女なりの常識内で、何とか決着を付けた湯殿係へ。結希は無邪気に追撃を放つ。
「ついでに言うと、寝る時も抱き枕にして寝ます。ひんやりしてて、気持ち良いんですよー」
恍惚として述べる結希に、湯殿係はようやく結論を得た。即ち『この人、重度のフェチだ……』と。
正確には『フェチ』どころの騒ぎでは無いのだが……方向性はあながち、間違っていないのも確かである。
「あ、私にも冷たいのくださーい」
その様な湯殿係の心境など関係無く。明るい声が、浴室内に響くのだった。
大成功
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カイム・クローバー
風呂は確かに嬉しいね。けど、それ以上に個人的に見たいモンがある。悪ぃが、風呂はそこそこに軍の整備施設を訪れるぜ。
探すのは機体に通信機器を取り付けた整備士だ。ほら、話が通じそうだし。俺が見たいモンっつーのは、キャバリア達だ。俺が使用したエース機体以外にも色々あるんだろ?
別に悪用とか、乗り回したいとか言う訳じゃない。自分のキャバリアを用意する時の為に見せて貰いたいだけだ。
『シルヴァナイト』に備えられた通信機器は良かったぜ。…因みに、だが。シルヴァナイトぐらいの機体になると購入費用はどれぐらいになる?
これ(指で輪っかを作り)が幾つぐらい必要だ?……自転車、買うぐらいの値段じゃ無理……だよな、やっぱ…
一方で、入浴や祝宴より興味のある物が存在する者も居る。
カイム・クローバー(UDCの便利屋・f08018)は、浴場で汗と戦塵と疲労を手早く落とすと。祝宴までの時間を別の場所で過ごす事にした。
それは、シルヴァラントの軍用キャバリアの整備施設である。
カイムは別に、最新鋭機を乗り回したいとか、ちょろまかしたいと思っている訳では無い。単に、もし次にキャバリアを借りる機会があった時の参考の為に。様々なキャバリアを見ておきたいというだけだ。
例えば、今回彼が借用した『シルヴァナイト』も、パイロットに併せて様々な改装機が存在するし。ライフルひとつ取ってみても、ロングバレルタイプやブルパップタイプなど様々な型式がある。そういった知識を得る事は、決して『仕事』の邪魔にはならない筈だ。
王都の軍施設、その中のキャバリア整備施設まで。丁度そちらに向かうジープに相乗りさせて貰い。カイムはまず、彼が借用した『シルヴァナイト』の通信機を換装してくれた整備士を探した。試しに、カイムが借用した『シルヴァナイト』を探してみると、丁度その頭部装甲を取り外し、センサー部の調整を行っている彼に出くわす事が出来た。
カイムが彼に声をかけると、整備士の方もカイムに気付き。和やかな笑顔で答礼してくれた。こうして改めて見ると、彼はまだ随分若い。恐らく二十歳そこそこといった所だろう。カイムとほぼ、同年代。
整備士が仕事を片付け、リフトで地上に降りると。どちらからともなく、互いに歩み寄って。白地に赤と黒のラインマークが入った、カイムの乗機であった機体を見上げる。
「イカしてたぜ。アンタが積んでくれた通信機器も、コイツ自身も」
カイムが、ポツリと呟くと。整備士は優しく笑んで
「それは良かったです。僕達は、こいつを出来る限り完璧に仕上げて、パイロットに託す。そこまでしか出来ませんから」
「そうか? 俺にしてみりゃ、アンタ達がコイツを仕上げてくれなかったら、出撃する事すら出来ねぇ。どっちが偉い……なんてのは無いと思うぜ」
整備士は被っていた帽子を取って、軽く髪を掻き回す。
「……ありがとうございます」
「へっ……」
柄にも無い事を言った気がして、カイムは視線を横に振った。
「そう言や……」
ぐるりと周囲を見回して、様々なキャバリアの姿を確認し。カイムは話を変える。
「戦闘用のキャバリアって奴は、一機につき幾らくらいする物なんだ? 大体……自転車が、何台分くらい……だ?」
その問いに、整備士は闊達に笑う。自転車での換算は兎も角、話題としては良く訊ねられる類なのだろう。
「流石に自転車で換算するのは、かなり無理ですね……大体ですと」
整備員から聞いた、この世界の概ねの貨幣価値から判断すると。払い下げの中古の『ルーク』で、本体のみの価格が、おおよそ五~七億円。その派生機体も含めて、装備と使い込み具合によって価格が上下するらしい。
「それじゃ、コイツ……『シルヴァナイト』は、もっと凄ぇ値段なんだろうな……」
げんなりしてカイムがぼやくと、整備士は頭を振った。
「『シルヴァナイト』は、売り物には出来ません。例え機体が、スクラップ同然になっても、です」
既に後継機が開発中とは言え。『シルヴァナイト』は現状、シルヴァラントの最新鋭機だ。それに詰め込まれた技術も、シルヴァラントの最高峰と言って良い。その技術の流出を避ける為と、それが解析される事を避ける為。市場には当分の間、出回る事は無いだろう……というのが、整備士の語る所だった。
「言わばコイツは、シルヴァラントの機密事項で出来てるみたいな物ですね」
彼はそう、言を締めくくった。
「そうか……」と、流石に差程残念そうでも無いカイムだったが。
「ただ、抜け道というか……例外みたいなのもありまして」
と、整備員が続けた言葉に、カイムは再び耳を傾けた。
なんでも、この世界の暦で、今から四十数年前。オブリビオンマシンに恋人を囚われたエースパイロットがいて。軍籍のままでは彼女を殺さなければならなくなるかも知れないと。軍から除隊して自分の私財で、彼女を追おうとしたのだが……当時の王は『彼のこれまでの総合的な功績を鑑みて』退役金の代わりに、当時の最新鋭のキャバリアを。そのパイロットに下賜した……という実話があるそうだ。
ちなみにそのオブリビオンマシンは、彼女を乗せたまま別世界へ逃亡し。そのエースパイロットもまた、それを追って別世界へ去ったのだという。
記録上では『民間協力者一名、戦闘中行方不明』という無味乾燥な物だが……その戦場に居た者全てが、その光景を目撃しており。この話は近隣諸国でも、有名なエピソードであるらしい。
「愛だねぇ……」
感心したのか、呆れたのか。どちらとも取れる口調でカイムが呟くと。
「愛ですねぇ」
しみじみと呟き、整備士は幾度も頷いてみせた。
大成功
🔵🔵🔵
楊・宵雪
同行
神崎・柊一(f27721)
一緒に混浴風呂へ
「お背中流しましょうか
などといたずらぽく言いながら柊一に体に触ろうとする
色気を押し出すが、本心は怪我などしていないか、痩我慢していないか気になっている
肩を抱かれたら
「口説いているの?本気にしてしまうわよ?
と、指先で柊一の頬をつーっとなぞる
風呂上り
柊一が満更でもなさそうなので、なんだか胸が暖かく
「これから先はなんだか照れちゃうかもしれないわ
宴会場へ一緒に行こうと誘う
いつもならからかうように腕を絡めているところを今回は顔を赤くしながら指先で手を繋ぐ
神崎・柊一
同行:楊・宵雪(f05725)
一緒に混浴へ
まだ機体に慣れていないのか疲労はいつもよりも多いが混浴
しかも相棒は美人なので行くしかない
なので心配をよそに割と元気
「背中!?だ、大丈夫だって…!」
ここから先は理性が危ない
風呂に入り隣にいる宵雪を眺めながら
無意識に肩を抱くように手をまわしてしまう
宵雪に頬をなぞられながら我に返り
何時もは自分で普段しないことをしてる
そんな自覚に恥ずかしくなるがほぼ自棄で強気にいく
「勝利の女神さまを本気にできるなら、逃げるわけにゃいかないでしょ?」
風呂に上がった後一人柄でもないことして
あ゛あ゛あ゛あ゛!!
ってなっている
風呂上がり、宵雪のリアクションにかるい不安を覚えている
「うはー。今日は、疲れた……」
男性用の脱衣所で、湯着に着替えながら。神崎・柊一(自分探し中・f27721)は思わず溢していた。キャバリアという、まだ扱い慣れない機体に搭乗し続けたお陰か。いつもより妙に疲労感が大きい……が。あてがわれた部屋で休む、という選択肢は。今の彼には存在しない。
男女共に、水着より遙かに露出の少ない湯着を纏ってとは言え、混浴。しかも相方は美人さん。この機会を棒に振るなど、お天道様も許すまい。
用意を一通り済ませると。疲労感の割には意外と元気に、柊一は浴場へ入っていった。
浴場では既に、楊・宵雪(狐狸精(フーリーチン)・f05725)が待っていた。真白な湯着は、纏う者の肌が透けそうで、実は全く透ける事は無い。だが、その体型までは隠す事は叶わず。宵雪の豊満なプロポーションを、余す事無く見せ晒している。
ひとまず、二人でかけ湯を済ませ。洗体の為に男女で一時別れようかという刹那。悪戯っぽい声色と口調で、宵雪が言を紡ぐ。
「お背中、お流ししましょうか……?」
言いつつ既に、彼女の指先は柊一の背中に掛かっている。柊一の脈拍は、三段ほど一気にスッ飛んだ。
「背中!? だ、大丈夫だって……!」
盛大にどもりながら、柊一が辛うじて言を吐く。これ以上の肌を晒したスキンシップは、理性のリミットが危険で危ない。
実のところ、色気を前面に出してはいるが……宵雪としては、柊一が怪我などしてないか、痩せ我慢などしていないか。気になって仕方ないのである。ならばそう言えば良いだけの事の筈だが……そう素直に口に出来るなら。人界の労苦の大半が、消え失せているに違いない。
さて置き。
洗体と洗髪は、結局男女に別れて済ませ。再度合流すると、隣り合って湯船に浸かって手足を伸ばす。
暫くは交わす言葉も少なく、二人してのんびり湯船に浸かっていたが……天使が悪戯心を発揮したか、それとも悪魔が気を利かせたか。当人ですら、意識の外で――柊一は、隣に座する宵雪の肩に、手を回していた。端から見れば、肩を抱いている様にしか見えない。
さて。より驚いたのは、どちらであったろう。
時間にしてみれば、互いに。ほんの数秒の硬直である。が、その間に渦巻いた想いの量は、両者ともに筆舌に尽くしがたい。
が、結局。色恋事に幾らか免疫がある、宵雪の方が。立ち直るのは早かった。
「あら……口説いているの? 本気にしてしまうわよ?」
悪戯っぽく、そして艶っぽく、のたまいながら。柊一の頬を、つつ、となぞる。それで柊一の方も、ようやく思考が現実に戻って来た。普段の自分なら、天地がひっくり返ってもやらない様な事を、しれっと行ってしまい。正直、穴を掘って埋まりたい気分であったが……一周回って、逆に自棄っぱち魂に火が付いた。
「勝利の女神さまを本気にできるなら、逃げる訳にゃいかないでしょ?」
最早まるきり、口説き文句その物である。しかもほぼ直球だ。しかし宵雪は顔を赤らめるでも無く、悪戯っぽい表情も崩さない――表面上は。
結局、どちらも充分に身体が温まった事もあり。二人は再度別れて、脱衣所に向かった。
「あ゛あ゛あ゛あ゛!!」
そして。脱衣所で奇声を発しつつ、ゴロゴロのたうち回る柊一である。先程、必殺の一撃を繰り出した凜々しさは欠片も無い。うっかり思い人に見られたら、百年の恋も冷めそうな勢いだ。
結局、自力で立ち直る事は叶わず。湯殿係が必死で宥めすかして、ようやく立ち直ったのは。すっかり身体が冷めてしまった後であった。
一方、宵雪の方はと言えば。柊一が満更でも無い、或いはもう少しばかり先の関係まで期待できそうな予感で。胸がポッと暖かい思いを噛みしめていた。
「これから先は、なんだか照れちゃうかもしれないわ……」
ほう、と息を吐く、その頬がほんのり赤いのは。湯殿で暖まった温もりの所為だけでは無かったろう。
柊一が脱衣所から出てくるまで、そこそこの時間が経過していたが。宵雪は露ほども気にしなかった。何をしていたのかと問われなかった柊一は、ささやかな幸運を噛みしめた物である。
宴の広間へ一緒に行こうと、宵雪に誘われ。無論、断る理由など欠片も無い柊一は、二つ返事で同意した。そこで少しばかり、緊張する。
何時もならここで。からかう様に宵雪が、腕を絡ませてくるからだ。友情の延長線上の行為だとは分かっていても、柔らかく滑らかな感触は、初心な男を緊張させるに充分な威力を持っている。
が――その感触は、いつまで経っても襲ってこない。怪訝に思い、宵雪の方を振り返ろうとした刹那。柊一は自分の指に、細く柔らかく、滑らかな感触を覚える。視線を落とすと、宵雪が自分の指を、柊一のそれに絡めてきたのだと知れた。
普段と全く異なる反応に、柊一は不安に駆られたが……一方の宵雪は、頬を赤らめている。そして、それに気付かない柊一。
二人の気持ちと心とが、軌を一にするには。もう暫く、時間がかかりそうな趣である。
大成功
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トリテレイア・ゼロナイン
ロボットヘッド用の洗浄施設は規格の違いで利用できませんでしたね…
(遠い目ならぬアイセンサーで黄昏れ)
いえ、折角できた時間です
有効活用せねばなりませんね
破壊して回収できたオブリビオンマシン
それに装備されていた水上浮揚ユニットの実機を確認したりデータを収集しておきましょう
私の水中戦用装備のようにSSWの技術で再現し調整を重ねて行けば、これからの特殊環境の戦闘で役立つ場面もあるかもしれません
ホバー推進で滑走するより推進剤等の消耗が少なく速度も出ますが、反面3次元的機動が取りづらい…空中での機動が不得手の陸戦用キャバリアの追加装備と見ましたが…
専門家の方に話を伺って話を聞いてみるのも良いでしょうね
「ロボットヘッド用の洗浄施設は。規格の違いで、利用する事はできませんでしたね……」
トリテレイア・ゼロナイン(紛い物の機械騎士・f04141)は、遠い目……もとい、アイセンサーを常より暗い明度で、明滅させて黄昏れた。
尤も、彼のボディは燻し銀の日本刀の様に、渋い輝きを帯びている。『ここまで大きいと、キャバリアを磨くのと手間は大して変わりませんから』と。キャバリアの整備員達が、対ABC汚染洗浄用のホースを温水に設定して、満遍なく放水(放湯?)洗浄した後に、手作業のブラシで磨き上げ。更にキャバリア用のワックスまでかけてくれた成果である。
普通に人間種族が入浴したり、ロボットヘッドが洗浄施設を使って磨き上げられるのと。結果的には時間も手間も、そして見栄えも。ほぼ遜色ない仕上がりに磨き上げられていた。
『身繕い』の時間自体は、それなりには掛かったものの。宴の時間までには今少し間がある。そもそも『身繕いに時間がかかる事』を見越して、設定された時間であるから……むしろ些か効率的に時間を使えた事で。トリテレイアに手渡された時間は、それなりに多かった。
さてどうしようかと、トリテレイアは悩んだが……
「いえ、折角できた時間です。有効活用せねばなりませんね」
そう独りごちると。鹵獲物資の再利用セクションへ、歩を進めるのだった。
トリテレイアの興味が向かう先は、回収された敵量産機が使用していた『水上推進ユニット』だった。
確かに、彼の産まれたスペースシップワールドでは、発生しようのない発想で生まれたユニットである。居住可能惑星の重力下、しかもその水上で運用する機構など。トリテレイアの故郷では切望されてはいても、実際には現状、実現も実用も成し得ない技術だ。
ただ、そのままでは実用に耐えない技術でも。他の技術と化合したなら、思いも寄らぬ所で実用に至る技術は数多い。
別にそれを期待した訳では無かったが……技術自体の練度はスペースシップワールドと大差なく。それでいて彼の世界とは方向性が異なる、この世界の技術や理論は。トリテレイアにとって興味は尽きない。それは、この鹵獲された水上ユニットも同様だった。
機体の鹵獲に参加した猟兵の特権で、実機を生でまじまじと見せて貰ったトリテレイアは。アイセンサーで光学的なデータを採取しつつ。更に内蔵されたセンサ類で、透過データや素材や組成。それらのデータから推測されるスペックを採取する。
トリテレイアの想定通り、とまでは十全には行かないまでも。彼の水中用装備の様に、トライアンドエラーを幾度か繰り返して技術を熟成すれば。これから先に出くわす可能性のある、特殊環境下でのミッションに役立つ事もあるかも知れない。
現状では『かも知れない』の連呼ではあるが……可能性に備える事も、生き残る為に必要な手段や知識である。十全な準備を怠った上で、最終的な勝利を得た勢力は存在しない。
「ホバー推進で滑走するより、推進剤の消耗は少なく、推力機関の稼動時間も長い。そして速度も出せますが……」
トリテレイアは、考え込む様に。自身の顎に片手を添える。
「反面。三次元的機動を取るには、かなり厳しい設計の様ですね……空中での機動が不得手な、陸戦用キャバリアの追加装備と見ましたが」
「それはその通りです。この手のユニットは、単一の用途で全性能を吐き出せる様に設計する物ですからね。流用はまだしも、応用はまず考えません」
トリテレイアに追随してきた技官が、そう応じた。
「ですから安価で数を、開発生産できます。それこそ、コソ泥河賊や湖賊ですら。ポンコツユニットを開発できる程度に」
ただ……と、技官は言を継ぐ。
「今回、貴方がたが鹵獲してきたユニットは、かなり良く出来ています。別ユニットとの流用も考えられているのでは……と思える箇所もある程に」
はあ、と。技官は溜息を吐く。
「正直……我々を長年に渡って混迷させる。オブリビオンという輩の目的が、サッパリ分からないんです。どう対処したら良いのかも」
眼前のユニットを、親の敵の様に睨み付け。技官は更に呟いた。
「ですから……連中の力に、真っ向から相対せる、貴方がた猟兵の『力』は。正直相当アテにしております」
彼よりかなり上の方にある、トリテレイアの『眼』を見据えた後。技官は深く頭を下げた。
「この戦乱を、収束して欲しいなどとは申しません。せめてオブリビオンと称される、かの勢力が。我々の世界を引っ掻き回せない程度に、押さえ込んで頂けたら。それで充分に有り難い事だと、私は思っております」
その願いが、その技官一人の物では無い事を。トリテレイアは暫しの後、宴席にて。間接的に知る事になる。
大成功
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