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老化よ止まれ、儂は美しい

#カクリヨファンタズム

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#カクリヨファンタズム


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●バ・バアーンと出てカクリヨファンタズム
 骸魂(むくろだま)。
 それはカクリヨファンタズムに漂う死した妖怪の妄念。
 骸の海に近いこの場所では、年がら年中死者の魂が沸く。

 死者の魂は生前の縁者と結びつき、染み入るように世界に潜り込む。
 そうして、世界はいとも容易く崩壊する。

 砂かけババアのお妙は、いつも鏡を手にしていた。
 ただの鏡ではない。魂を宿す鏡だ。
 雲外鏡――鏡の妖怪とお妙は大の仲良しで。
 それはもう、お天道様のもと鏡を持ち歩いてはコントをするぐらいだった。
「あーれま妙ちゃん、頭に紫蘇ふりかけがかかってるよ!」
「おやおや、ご忠告ありが……じゃかあしぃ! これはアメシスト、お洒落でつけとるっちゅうにお前さんはのぉ!」
 春のうららかな陽の下、そんなやりとりで道行く妖怪(ひと)を笑わせ。
 秋の日には、紅葉で新ネタを引っさげ、また笑わせ。
 小さな街に二人の仲を知らぬ者はおらず、季節は陽気なまま巡っていった。

 けれど、冬はいつか訪れる。

 相方の鏡を失ったお妙の落胆ぶりは、見る者の心を痛めた。
 あれほど元気だったお妙は粥のひと匙も口にしなくなり、
 ロマンスグレーがウリだった髪も、いつしか白髪が目立つようになった。

 そして年月は巡り、お妙は一人孤独に月を眺める。
 ススキの揺れる、月夜の草原。
 そこは、鏡とお妙がいつもネタ合わせをしていた思い出の場所だった。

 不意に声が響いて、お妙は顔を上げる。
『あーれま妙ちゃん、髪いっぱいにチョークまぶしてどうしたんだい?』
「ええい、白髪は元からじゃい! って……お前さんは」
 いつかの調子で返そうとして、気付く。
 戻ってきたのだ。鏡が。

 ふよふよと漂うそれが骸魂とも気づかず、お妙は鏡を手に取った。
 鏡の中に映る姿を確かめ、強く抱きよせる。
「どこをほっつき歩いてたんだい……まったく」
 老婆の目に浮かぶ、涙。
 そして、鏡と一つになったお妙は禁断の言葉を口にする。
 そう、皆さんそろそろお馴染みのあの言葉である。

「時よ止まれ、お前(の中に映る儂)は美しい――」

●ちがう、そうじゃない
 ガン、ガン、ガン――グリモアベースにあるはずもない壁を打つ音が聞こえた。
 壁殴りをしているのは案内人ことグリモア猟兵の一人。
 リグ・アシュリーズ(5回に1回はこういうの引く・f10093)である。

 ふーっ、と息を吐いて壁(アクリル板)をしまうリグ。茶番は終わったのだろうか。
「えっと、誤解のないよう最初に言っておくわ! 私ね、女性は年齢じゃないと思うの」
 センシティブな話題に触れるような前振りをするリグは、肩が小刻みに震えていた。
「だからね、否定するつもりはないのよ? ないんだけど……ふすっ」
 これでも本人、まじめに説明しようという努力の真っ最中。
 そこ、笑ってますやん……というツッコミはもう少し待ってあげてほしい。
「とっても愉快で素敵なおばあちゃん妖怪を……助けてあげて……ほしいの……!」
 やっぱり、笑っていた。アウト。

 今回事件の中心となったのは、お妙という砂かけババアの妖怪だ。
 骸魂と引っ付いてしまったお妙は、世にも恐ろしい最恐・妖怪ババアと成り果てた。
「お妙さんの元へ行くにはまず蓮の花の浮かぶ池を越えなくちゃいけないんだけど……」
 どうやら異変は池の中にも及ぶようで、リグは危険を強調するように忠告する。
「どうにかして無事、池を渡り切ってほしいの。さもないと……噛み付かれるわ」
 ――噛み付かれるって、何に?
 そんな猟兵たちの問いに、リグは何かを堪えながら短く答える。

「……入れ歯」

 言ったきり地面にうずくまり「ちょっと待って……!」とお腹を抱えるリグの言葉を要約すると、こういう事らしい。
 池の中には自動追尾式の入れ歯が泳いでおり、
 獲物を感知すると物凄い勢いで『カーッッ!』と飛んできてお尻などに噛み付く。
 だから勢いで逃げ切るなり水深の深いところを避けて通るなり、
 工夫して渡ってほしいとの事だった。
 なるほど、なるほど。……なるほど?

「辿り着いたら着いたで、ここからが正念場よ! オブリビオンになったお妙さんはね、恐ろしい攻撃を仕掛けてくるわ!」
 たとえば、年の功パワーで自身を超強化したり。
 目にも止まらぬ死角からのチョップで相手をすくみあがらせ、
 立ち向かう戦意と気力を根こそぎ奪ったり。
 挙句の果てには足腰や関節が痛くなる恐るべき呪いをかけ、
 相手に老化の苦しみを味わわせるなんてのもある。
「何よりお妙さん、尋常じゃない程しぶといわ! 倒したと思って油断したら、死角からチョップかまされるから気を付けてね」
 亀の甲より年の劫、生きた年月を甘く見るなという事だろう。

 そして、忘れてはならない事がひとつ。
 お妙さんは明るく振る舞ってこそいるが、鏡を失って沈んでいたのには違いない。
 オブリビオンを倒せばお妙さんと骸魂を分離させる事はできる。
 とはいえ、幾ら世界を救うためであっても、
 力で無理やり引き裂かれれば決していい心地はしないだろう。
「戦いの最中に声をかけるなり、後からフォローするなり、やり方はお任せするわ! 何にしても、思いやりの心は忘れないでね」

 一通り説明を終えたリグは、最後にこんな案内を付け加える。
「全部終えたら、のんびり過ごすのもいいんじゃないかしら! 皆が向かう街には、ちょうど素敵な温泉が湧いてるみたいなの」
 妖怪たちが立てた温泉では、男湯・女湯の他に足湯カフェが併設されている。
 カフェでは抹茶パフェやあんみつ、ゆず茶といった和風のメニューが楽しめる他、
 希望があれば妖怪たちによる肩もみ等のリラクゼーションサービスもある。
 足を湯に浸しながら至れり尽くせり、至福のひと時が味わえるとの事だ。
 また、男女に分かれた露天風呂からは夜空いっぱいの巨大な満月が楽しめる。
 露天風呂は不思議な力で隠されており、
 外から覗かれたり侵入される事は決してない。
 時折空行く妖怪たちが百鬼夜行を成すのを眺めながら、
 月見風呂と洒落込むのも乙なものだろう。

 説明を終えたリグは、手にグリモアを浮かべる。
「今でこそ鏡を握って離さないお妙さんだけど、湿っぽいのは似合わないと思うの」
 第一合体したら鏡、見れないものね? なんておどけながらリグはゲートを開く。
 向こうに見えるは巨大な月。
 ちょうど満月を迎えたばかりのその光景は、どこか楽しい冒険の予感を漂わせた。
「とってもお茶目なおばあちゃんだもの、全部済んだらきっと仲良くなれるわ!」
 いってらっしゃい! 明るい声と共に、グリモアの道は開かれた。


晴海悠
 お世話になっております。晴海悠です。
 浴衣と祭りを書きたくて筆を執ったらおばあちゃんが居た。
 その時の気持ちを皆さんにもお裾分けしたくて書きました。
 人は、運命には抗えない。
 このシナリオを覗いちゃった貴方も、セイ・ワン・モア。
 人は、運命には、抗えない!

『プレイングの受付』
 各章の冒頭に短い文章を挟み、受付開始の合図とします。最初のみ、3章だけなど、お好きな形でお越し下さい。
 また、受付期間のご案内をマスターページに記載する事があります。よろしければご参照下さい。
(複数名の合わせプレイングは2~3名までならはりきって承ります!)

『1章 冒険』
 蓮の花浮かぶ美しい池を、必死こいて渡ります。
 見てる暇は恐らくありません。
 なぜって入れ歯が噛み付いてくるから。ワア、なんてこった!

『2章 ボス戦』
 お妙・改こと、最恐・妖怪ババア。
 年季の入った猛烈な執念で皆さんを追い回し、攻撃を仕掛けてきます。
 普通に戦うと厄介な相手ですが、鏡との思い出に触れたりお妙さんの気持ちを汲み取る行動をすると攻撃の手が鈍るようです。
 うまく立ち回る際の参考にどうぞ。

 ちなみにババアまでが正式名称なのできちんと呼びましょう。
 ちなみにちなみにババアと呼ぶと怒ります。がんばって。

『3章 日常』
 温泉にゆったり浸かって、日々の疲れを落としましょう。
 男湯・女湯に分かれた入浴施設のほか、
 甘味を楽しんだりうたた寝のできる足湯カフェもあります。

 また、お妙さんは街外れのススキの原で過ごす事が多いようです。
 骸魂を倒した事には納得してくれると思いますが、
 心残りに思って下さる優しい方は、お声がけ頂ければきっと喜ぶでしょう。

『その他注意点』
 終始コメディ的なノリですが、版権ネタ・お色気系のプレイングはかなり厳しめにマスタリングします。
 特に3章は温泉が舞台に含まれますが、小・中学生の子にお見せできないはっちゃけ方のプレイングは採用を見送る可能性が高くなります。
 他の方に迷惑のかからないよう、節度を守って楽しくお過ごしください。

 それではリプレイでお会いしましょう!
 次は風情あるシナリオが書きたい晴海でした。カーッッ!!
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第1章 冒険 『蓮華と月の池』

POW   :    勢いのままに通っていく

SPD   :    周囲を探りながら通る

WIZ   :    敢えてゆっくり進んでいく

👑7
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 蓮の花浮かぶ、月夜の池。
 夜風に押され、花たちは静かに水面をたゆたう。
 何もなければ静かに見入っていたい光景ではあるが、そうもいかない。

 猟兵たちが足を踏み入れるや否や。

 ――カーッッ!!

 さすがは崩壊間際になりふり構わずのカクリヨファンタズム、
 お妙の呟く滅びの言葉は綺麗な池を入れ歯の巣窟と変えた。
 一体何回××デント洗浄したら気の済むのやら、
 入れ食い状態の入れ歯たちは隙あらば猟兵たちに噛み付こうとする。

 さあ、猟兵たちよ。
 勇気を、知恵を、策略を駆使してこの関門を乗り切るのだ!
 まちがってもお尻に噛み付かれないように!
 ――DEAD OR ALIVE。
ルルティア・サーゲイト
 言うに事欠いてババアとな! 何、妾の事ではない。なら良い……妾は17歳である、良いな?
 この池を渡れば良いのじゃな? 何も考える事はあるまい。普通に……普通に飛んで渡ってしまえば良いではないか。と、言う訳でレイヴン・シフトで鴉化してとっととわたるぞ。数羽喰われた所で少々服が破れる程度であり気にする事でもない。
 鏡と言う因果があれば、後は何を斬るかの問題である。現実と虚構の境目か? 考えよう、見た目の老いを斬るにはどうすれば良いかを……妾は全てのロリババアを応援するのじゃ。



 月下に花咲く蓮の華。
 水面は眩く銀月を映し、雲がすみすらも淡い明かりとする。
 しかし今はこの風景を楽しむ心地にはなれない。情景乱す入れ歯たちが、ばしゃばしゃと絶え間なく騒音を立てていた。
 そして、静寂を破るのは入れ歯だけではなかった。
「何じゃと!?」
 憤慨したような声が響く。声の主曰く。
「言うに事欠いてババアとな……!?」
 ――と。
 思わず反応してしまったルルティア・サーゲイト(はかなき凶殲姫・f03155)だったが、それが骸魂に飲み込まれた妖怪の名だと教えられれば「何、妾の事でないなら良い」と咳払いひとつ。
「このように美貌を誇る妾を愚弄しようなどとは思わぬ事じゃ。皆の者、良いか」
 水面にぱしゃぱしゃ跳ねる入れ歯たちを見て見ぬふりして、ルルティアは重大な事を告げるように前置きし。
「妾はじゅう『カーッッ!!』歳である。良いな??」
 何か要らぬ空気を読んだ入れ歯により、真相はお蔵に大事にしまわれた。

 改めて、月下の池を仰ぎ見れば。
 世界崩壊を恐れて妖怪たちは姿を隠したのだろうか、入れ歯の他に動くものの姿は見当たらない。
「この池を渡れば良いのじゃな? 何と簡単な……何も考える事はあるまいに」
 ひとつ呟いて鴉の半翼をばさりと揺らせば、たちまち黒の羽根が舞い踊る。
 脚が、衣服が、胴体が。鴉となり、それぞれ別の群れとして羽ばたいていく。
(「普通に……普通に飛んで渡ってしまえば良いではないか」)
 濡れ羽色、とはよく言ったもので。
 夜の色をした鴉の群れは闇に紛れ、溶け込むように姿を隠す。
 だが、それでも全てかわすには至らず。
『カーッッ!!』『ガチガチガチ……!』
 歯の咬み合う音を鳴らして襲い来る入れ歯は、飛魚のように踊りかかる。
 鴉の数羽が尾羽を千切られたが、ルルティアは構わずそのまま飛び続けた。
(「食われたのは衣服の部分か……少々服が破けた程度、気にするものでもない」)
 ハラハラしたそこの貴方、ご安心あれ。
 こういう女性に限ってガードは硬いものである。

 無事池を渡り終えたルルティアは、元の姿に戻って地面に降り立つ。
 食われてしまった衣服の部分も、着物の裾がぱさりと綺麗に覆い隠してくれた。
「さて。鏡と言う因果があれば、後は何を斬るか……現実と虚構の境目か?」
 自身の体ほどもある翼のような大鎌を一振りし、ルルティアは真に戦うべき相手を見定める。
 彼女の関心事は、カクリヨの惨状ともまた別にあるようで。
「考えよう、見た目の老いを斬るにはどうすれば良いかを……妾は全てのロリババアを応援するのじゃ」
 永久に若く、美しく――多くの人が抱く願いを叶えるべく、ルルティアはこの崩壊騒ぎの中心部へと向かって行った。

成功 🔵​🔵​🔴​

黒羽・扶桑
【岩戸】

※spd

まーた崩壊の危機か
お妙には気の毒だが、捨ておくわけにもいかんな
(襲い来る入れ歯の群れを、梛刀で払っていなしつつ)

気遣ってくれるのは嬉しいが、弥七よ
あまり張り切りすぎると…あ、おい。ちょっと待て
あーあ、言わんこっちゃない

(泣きべそかく子狸をあやす)
よしよし、頑張ったなチビ助
だが、早まると怪我をする
お妙のところまで、まずは無事に辿り着かんとな

しかし、見たところ
向こう岸まではそこそこ距離がある上に
入れ歯は無数にいるな
まるであの、ピラ何とかという魚のようだ

これは二人で一気に渡るが吉、かな
弥七、入れ歯の牽制を頼めるか?

我は背に翼を出して
子狸を抱き上げ飛び立とう
真っすぐに、全速力で行くぞ


千々岩・弥七
【岩戸】
お妙おばあちゃんを助けるために、ふそーさん(扶桑さん)を守るために!
今こそ真の姿を見せる時!
とうっ!いくです!【正義の誓い】!

(変身!もふもふぽんぽんの子狸登場)

今のぼくはムテキなのです!(ちょいちょいシャドーボクシング)
だいじょぶですよ、ふそーさん!
入れ歯ごとき、ぼくの敵では…
びえー!(お尻に噛み付かれる)

うああ、ふそーさん!
ぼくのおしりかけちゃったのです!
ピラ…?魚にもこんな怖いのいるですか!?

ふぇ?入れ歯の牽制です?
あい!おまかせですよ!
ふそーさんに助けて貰ったのに、いつまでもメソメソしてられないです
えいえい!髪の毛武器で攻撃です!
ふそーさんが安心して飛べるようにがんばるですよ!



 カクリヨの崩壊騒ぎは、今に始まった事でなく。
 カタストロフ祭りとすら形容できる状況に、慣れてしまった自分が少し恨めしい。
「まーた崩壊の危機か。お妙には気の毒だが、捨ておくわけにもいかんな」
 軽くため息まじりに、黒羽・扶桑(あまづたふ・f28118)は襲い来る入れ歯をあしらい、池の中へと帰していた。
 旧くは神の使いとも呼ばれた黒の鳥。その神々しき翼をはためかせ、神木より削り出した薙刀で小突けば、池にばしゃりと水柱が上がる。
 満ちる神力は藍より深く。妖怪としても古参の内に数えられそうな扶桑だが、戦っているのは彼女だけではなく。隣にもう一人、若々しい力を湛える者がいた。
「まったくなのです! 世界が消えたら、いくら歯があってもおいしいお魚食べられないのです」
 どれほど生きたかも分からぬ扶桑と対照的に、千々岩・弥七(ちびたぬき・f28115)のみなぎる元気は樹の芽のよう。
 まだ世間を知らぬ声に擦れた気配は微塵もなく、弥七は純真無垢なる思いを叫ぶ。
「お妙おばあちゃんを助けるために、ふそーさんを守るために! 今こそ真の姿を見せる時……とーうっ!」
 ぺっかーん!
 頭上に掲げた光の玉を、地面に跳ねつけどろんと煙幕。
 姿を消す少年の代わりに現れたのは、しっぽふさふさの子狸だった。
「えっへん! 今のぼくはムテキなのです!」
 しゅしゅっと短い手足で、入れ歯たちを見据えてシャドーボクシング。今の弥七は秋の味覚を身に蓄えもふもふぽんぽん、どんな悪いヤツにも負ける気がしない。
「気遣ってくれるのは嬉しいが、弥七よ。あまり張り切りすぎると……あ、おい」
「だいじょぶですよ、ふそーさん!」
 ちょっと待て――扶桑の止めるのも聞かず、弥七はしゃばしゃば水をかき分け大胆に入水を試みる。しかし、そんな風にかわいい尻尾をイン・ザ・ウォーターされれば入れ歯も黙っちゃいられない。
「入れ歯ごとき、ぼくの敵では――」
 ガブリ。
「な、びえー!! あー、あー!!!」
「あーあ、言わんこっちゃない」
 慌てて弥七を助け出せば、おしりの毛がハートマーク型に毟られていた。
「うあああん、ふそーさん! ぼぼ、ぼくのおしり、かけちゃったのです!」
 扶桑は驚いた顔のまま泣きべそをかく弥七を抱きかかえ、どうどう、とあやして落ち着かせる。
「よしよし、頑張ったなチビ助。だが早まるとさっきみたいに危ない目にあう。お妙のところまで、まずは無事に辿り着かんとな」
 軽く身を揺すりながら先に目を凝らせば、水面は遠く対岸まで広がっているように見えた。
「見たところ、向こう岸まではそこそこ距離があるな。それに」
 合間に満ちる、けたたましい水音。姿が見えずとも、水面に反響する音は入れ歯たちの存在を伝えていた。
「無数にいるな。まるであの、ピラ何とかという魚のようだ」
「ピラ……? 魚にもこんな怖いのいるですか!?」
 いつも食べる側だった魚に食べられてしまうなんて、と子狸の豊かな想像力は恐怖を生んだ。
 ガタガタ震える弥七を宥め、扶桑は意を決したようにこう告げる。
「これは二人で一気に渡るが吉かな……弥七、入れ歯の牽制を頼めるか?」
「ふぇ? ……あい! おまかせですよ!」
 呼ばれた弥七は一瞬きょとんとしたが、まもなくその顔にやる気が戻った。
 毛はともかく、扶桑に助けてもらったおかげで身は無事だ。それに頼りにされたとあっては気は張るもの、いつまでもメソメソしてはいられない。
 張り切る弥七を見て微笑み、扶桑は背に翼を拡げて子狸を抱きかかえる。
 対岸へ渡る推進力は、扶桑が担った。
 空飛ぶ彼女めがけて襲い来る入れ歯は、弥七が髪の毛を針のように変えて撃ち、矢ぶすまの目にあわせていく。
「えい、えい! がんばるですよ!」
「真っ直ぐに、全速力で行くぞ」
 威勢のいい声を響かせながら、二つの影は闇の中へと消えていった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

ロニ・グィー
アドリブ・連携・絡みも歓迎!

アハハハハハハ!ほんとに入れ歯が泳いでる!
ホラー映画も真っ青だね!

うひゃあ!危ない危ない!
【第六感】を駆使して勢いのままに突っ切るよ!
なんだか楽しそうなお婆ちゃんだね!会うのが楽しみだよ!
さよならは悲しいよ。悲しいけれど…それで合体しちゃうってやっぱり何かおかしいよ!

そこらへんをとっくりと教えてあげないとね!
ていうかネタ合わせしてたってそれもう確信犯じゃない?
まあ仲がいいのはいいことだよね!



 池の渡り方も十人十色。
 賢く難を逃れる者もいれば、堂々と真正面から突っ込む者もいる。
「アハハハハハハ! ほんとに入れ歯が泳いでる!」
 居所がバレるのも構わず、ロニ・グィー(神のバーバリアン・f19016)は興奮した笑い声を響かせる。
 歌や芸術を愛する多感な神様は、目の前の奇妙な景色にたいそうご満悦。
「ばしゃばしゃと肉食魚みたいに入れ歯が泳ぐなんて、ホラー映画も真っ青だね!」
 どちらかと言えばこれは、B級映画のノリな気もするが。無対策に乗り込めば、脅威となる事には違いない。
 違いない、のだが。
「うひゃあ! 危ない危ない、アッハハハ!」
 試しに足を踏み入れたロニは、入れ歯の群がる様子を楽しんですらいた。
 無鉄砲なロニの行いは、どこか人に理解されぬ神童の発想を思わす。
 あらゆる事をちょっとずつできるが、ちょっとずつしか得意でないロニ。
 しかし彼には一つだけ、他者の追随を許さぬ才能があった。
 ――勘が、非常に鋭いのだ。
「よーし、それじゃ突っ切るよ!!」
 足が沈む前に、次の足。
 考える間もなく踏み出せば、翼の力宿すスニーカーが水面を歩く事を可能とした。
 見よう見まねの水上踏破。
 靴の持つ神秘の力に加え、生来持つ勘でロニは入れ歯の群れを避けていく。

 翼の力宿すスニーカーが、水面に一直線の飛沫をあげる。
 駆けながら、ロニは伝え聞いたお妙の人物像に思いを馳せていた。
「聞けば聞くほど、なんだか楽しそうなお婆ちゃんだね! 会うのが楽しみだよ!」
 入れ歯まみれのこの池も、きっとお妙の影響を受けて愉快な事になっているのだろう。厄介さこそあれど、そこに他人を害するような悪意は見られない。
「さよならは悲しいよ。悲しいけれど……それで合体しちゃうって、やっぱり何かおかしいよ!」
 なんでそこでフュージョンするのさ! と笑ってツッコミを入れつつ、ロニは水上をひた走る。
「ていうか、ネタ合わせしてたってそれもう確信犯じゃない?」
 思わず抱いた疑問はある種、自然なもので。
 まさか骸魂になる事までコントの内とは思えぬが、そうであってもおかしくない陽気さがお妙にはあった。
「まあ、仲がいいのはいいことだよね!」
 駆け去る水面に笑い声を残し、ピンクの台風が池を一直線に横切っていった。

成功 🔵​🔵​🔴​

ノインツィヒ・アリスズナンバー
わあお☆
兎にも角にも歳を取るのはアイドル的にご法度☆
私ちゃん永遠の16歳だもん☆

基本的には勢いのまま噛みつかれてもいい【覚悟】で突っ走りぬける☆
バラエティ番組もアイドルするなら避けて通れない道だよね☆
私ちゃんはそういう仕事を選り好みなんてしないから。舞い込んできた仕事は徹底的にやらせていただきます☆

噛みついてくる入れ歯は、UCでつかんで他の場所に投げ捨てるの☆
入れ歯の胸倉……まあ間接部とかその辺☆私ちゃんが決めたからそこ胸倉な☆

アドリブ・絡み歓迎


祓戸・多喜
うーん大惨事ね!
綺麗な泉が入歯洗いにされてるなんて酷い!
てか自動追尾式って何!?
ともかくお婆ちゃん妖怪助けるために頑張って超えちゃおー!

水上歩行と空中浮遊、あと念動力活用して全力ダッシュ!
ルートはデバイスと持ち前の視力で比較的浅い場所を走り抜ける感じで選定。
…と行きたいけど流石に浅瀬でも入歯に狙われるだろうし、まずは陸地から池に数発矢を離れた所に撃ち込んで誘き寄せておく。
ある程度ダッシュルート上から入歯引き離したら迷わずゴー!
それでも飛び掛かってくる奴にはデリカシーないんだから!とかぷんすか怒りながら念動力で操る通連と鼻で弾き飛ばす!
噛まれたら逆に加速する位の勢いで!

※アドリブ絡み等お任せ🐘


漏刻・カイカ
砂かけババアさん様といえば大先輩じゃん!
これはお知り合いになれるチャンスでは。サインもらいたい!

ということで大先輩の影響によって変異した池をじっくり味わいながら進もうと思います!
分身けろろたちに索敵手伝ってもらって避けれるものは避けるけど、大先輩の凄さをこの身で実感してみるのも修練かなって。
あと、何か得られるものはないかと。大先輩を救う手がかりみつけらんねーかな。
俺みたいのが揺らぐのはわかるんだけど大先輩みたいな妖怪が飲み込まれるのは…知識として知ってても信じられねーっていうか。

って、いってえ!入れ歯強い、すっげえいったい!おうちかえりたい!!
くっっそ、サインもらう、絶対サインもらうからな!!



 遠く遠く、この池の向こうに住まうというおばば様。その呪いを浴びれば、老いた者の痛みを味わう憂き目に合わされるという。
 ――なんて昔ばなし風にまとめてみても、その力が厄介な事に変わりはなく。
「わあお☆ 兎にも角にも歳を取るのはアイドル的にご法度、困っちゃう☆」
 現役アイドルを務めるノインツィヒ・アリスズナンバー(90番目のアイドル・f29890)は、お妙の力をそう評した。
 若くて活力に満ち、世界は未知にあふれている――そんな年の頃に、加齢による節々の痛みを味わう等とあってはたまったものではない。彼女たちを送り出したグリモア猟兵も、そこには同意してくれるだろう。
「だって私ちゃん永遠の16歳だもん☆」
 さようでございますか。あれ、このフレーズ今日既にどこかで聞いたような。
 ノインツィヒが永遠の16歳なら、こちらは華のJK。祓戸・多喜(白象の射手・f21878)は池の様子を覗き込み、呆れ返ったように大きく首を振る。
「うーん、大惨事ね! 綺麗な泉が入れ歯洗いにされてるなんて酷い!」
 確かに。水につければいいってもんじゃない――しかも、これだけの数を投入されては風流な景色も台無しで。
「てか自動追尾式って何!?」
 思わず猟兵たち総出でツッコミを食らう、お妙の巻き起こした大珍事。
 しかし、長生きしたお妙自身は時にあこがれの的にもなるらしい。
「砂かけババアさん様といえば大先輩じゃん! これはお知り合いになれるチャンスでは……!」
 比較的近年生まれた妖怪の漏刻・カイカ(あやしび・f30045)からすれば、お妙含む砂かけババアは語り継がれ名の知れた妖怪の大先輩。
 むしろこの機にサインもらいたい! と意気込むカイカに、ノインツィヒは「えー、サインもらうの?」と物珍しそうな眼差しを向ける。
「私ちゃん的にはサインはむしろあげる側かな☆ でも、バラエティ番組もアイドルとしては避けて通れない道だよね☆」
 体を張る仕事もなんのその。選り好みしていては取れる人気も取れないと、ノインツィヒは潔く覚悟を決める。
「決まりね! ともかく、お婆ちゃん妖怪助けるために頑張って越えちゃおー!」
 ぱおーん、と鼻を高々と掲げるJKに合わせ、三人分の拳が勢いよく上がった。

 命落とす程の危険はないにしても、準備をするに越した事はない。まず手始めにと、カイカが頼もしい助っ人を呼び寄せる。
「行くぜ、けろろ! 索敵開始だ!」
『けろよーん! お呼びでけろ?』
 カイカの足元、カエルのような何かが何匹も現れて付き従う。分身したけろろ達は喉を震わせて池に入り、水面を伝う振動を感じ取る。
『おやびん! こっちが比較的邪魔が少ないみたいだけろーん!』
「でかした、ありがとな!」
 示された方角を仲間にも伝え、カイカはごほうびにと小さな虫をカエルたちに分け与える。
「情報ありがと、助かるわ!」
 感謝を述べつつ、多喜は陸地から水深の浅いルートを探る。
 コンタクト型デバイスを起動すれば、池のおおよその水深が3Dマップで示された。眼前の浅瀬は一見遠くまで続いているようにみえるが、奥にある深みには入れ歯の群れが多く潜んでいるように感じられた。
「まっすぐ行くと深みにはまるわ! ここから右手の方角、弓なりにつたっていけばあんまり襲われなくてすむはずよ!」
 分析結果をそう伝えれば、二人からは感謝の声が返る。
「私ちゃんマジ感謝☆ ロケのポイントさえ決まったら、後は徹底的にやらせていただきます☆」
 早速池を突っ切ろうとしたノインツィヒに、多喜は「あと少しだけ待って!」と制止の声を投げかける。
「いくら浅瀬でも入れ歯に狙われそうよね……よーし、アタシが合図したら、一気に駆け抜けて!」
 そう言って弓を構えた多喜は、三人の居場所から遠くの水辺に数発、矢を射込む。水飛沫が上がって数秒後、すぐにばしゃばしゃと入れ歯の群がる音が聞こえ始めた。
「さーて、いっくわよー!」
 三人はざぶざぶと水をかき分け、あるいは念力で身を浮かせて池を渡り始める。
 途中噛み付いてくる入れ歯を見て、多喜は憤慨の声をあげた。
「もう、乙女に噛み付くなんてデリカシーないんだから!」
 ぷんすかと鼻から荒く息を吐き。多喜は三本一振りの刀を念力で操り、入れ歯を弾き飛ばす。それでも襲い来る入れ歯は鼻で追い払っていたが、ふと多喜は後ろのカイカが遅れていることに気づく。
「いってぇ、すっげえ痛い!!」
 まるで応戦する姿勢も見せず、カイカは入れ歯に噛まれながらまっすぐ池を突っ切ろうとしていた。
「大丈夫!? 襲われっぱなしじゃ流石に危ないんじゃない?」
「いや、大先輩の凄さをこの身で実感してみるのも修練かなって」
 化かし、かどわかす事を得意とする妖怪にとって、巻き起こす怪異の大きさは力の証左。避けてなお来るものはあえて拒まず体感しようと、カイカはそう決めたのだ。
「俺みたいな新参妖怪が揺らぐのはわかるんだけど、大先輩が飲み込まれるのは信じられねーっていうか……だからせめて、向かう前に力をつけておきたいんだ」
 年長者を敬うカイカの目は、真剣味を帯びていて。今こうして入れ歯に囲まれているのも、ふざけている訳ではない事が伝わってきた。
「ついでに何か、得られるものもあるかもしんねーし。たとえば、ほら……大先輩を救う手がかりとか!」
「まあ、気持ちは分からなくもないかな……無理はしないでよね!」
 ひょいひょい入れ歯を跳ねのけて先に行く多喜の背を見送り、カイカは静かに佇んでいたが。
 ――ガブリ。
「ぎゃ!! いででで、やっぱキツイ、おうちかえりたい!」
 激痛に思わず弱音を漏らしたが、多喜がさりげなく数匹(?)の入れ歯を肩代わりしてくれたのはカイカにもよく見えていた。
「くっそ……サインもらう、絶対サインもらうからな!!」
 今更、後には引けないと。カイカはざぶざぶと池の真ん中を泳ぎ歩いていく。
 一方その頃、先頭ではノインツィヒが大胆に水をかき分け進んでいた。当然それだけ音を立てれば、噛み付いてくる入れ歯も多いのだが。
「オッラァ!!」
 ばちこーん☆
 かました裏拳はぬりかべも真っ青でひっこむ剛速球、弾かれた入れ歯は水の上を二転三転して転がっていく。
 フラスコチャイルドとして生まれ持った才能に、仕事の合間にふと壁ドンの練習をしていて身に付いた腕力が組み合わさる。
 向かう所は全方位死角なし、どこからかかって来られても大歓迎の全力応対。
 これぞ、磨きに磨いた乙女の素手喧嘩(ステゴロ)である。
 あまりにしつこい入れ歯に伝家の宝刀胸倉落としを決めようとし、ノインツィヒは禁断の事実にはたと気づく。
 入れ歯の胸倉、どこ――。
「まあジョイント部分とかその辺で☆ 私ちゃんが決めたからそこ胸倉な☆」
 可愛くきゃるるん☆ とウインクの星を散らし、すう、と息を吸い込む。
「――ぬぅわめてんじゃぬぅええええ!!!」
 ああっと野太い声! なお、ご存知の方も多いとは思うが念のため。
 水面はある速度を超えて叩きつけられるとコンクリートのような衝撃を生む。水の衝撃吸収速度を超えて叩きつけられた入れ歯は、すなわち、高層ビルから叩き落されたようなものであり。
 ――バッキイィィン!!
 上顎と下顎に泣き別れして飛んでく入れ歯を、青ざめたカイカの目が見送り。
 騒がしく、勢いよく、三人は嵐のように池の中を突き進んでいった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

重松・八雲
【花守】
おお何という怪奇現象!これはいかんな――蓮がこれだけ咲いとるという事は此処、泥んこじゃろ?
そんな所に入歯を浸けておっては逆効果であろう!

む、何じゃ?
年寄り笑うな行く道と言うじゃろ!
ああいや、お主らヤドリガミじゃでちと特殊じゃったか!まあよかろ!

何はともあれ、解決の為にはささっと渡れり抜けば良いんじゃな!
任せよ、此処は儂のUCと怪力で担いでひとっとび!――でも良いが!
泥池とは何だか童心を擽られるのう!(?)折角じゃし冒険ざぶざぶしながら進むも一興ではないか?

ようし、では誰が一番早く渡るか勝負じゃよ!
かーーーぁっつ!!(紛らわしく活を入れ、突然狐尻尾を出し叩き落としながらつっこんでった!)


呉羽・伊織
【花守】
この世界の崩壊――離別と再会を巡る話ってのは、どーにも複雑で参るな
…(神妙極まる真顔で池眺め)
ウン、ホント、こんな(違う意味でも)複雑極まりない心境になるなんてもうどんな顔したら良いの?

まぁ俺としても乙女心は極力尊重したいトコなんだケドさ――!
世界の前に色々ぶち壊しすぎっていうか、何、此処はぱわふる老人会会場なの??

何で敢えて危ない橋を渡りにいくかな~!?
そんなトコで童心に返るな児爺~!
(折角颯爽とUCで姐サンを援護しようと思ったのに何この悲(喜)劇)
くっ、姐サン(に何かあると後が怖いんで自分)の為にも頑張るケド…ケド~!

こんな時だけ尻尾ずるくない!?
(早業やら残像やらで必死にかわし)


花川・小町
【花守】
ええ、全く――このままじゃ何もかも複雑でならないわ
笑顔を齎していた二人が崩壊を招く未来も、序でに折角の蓮池が奇怪な入歯の生簀というのも、ええ、いけないわ
(相手と張り合う勢いで斜め上のお爺ちゃん&百面相中の青い子を生温く見守りつつ)

さて、乙女(?)の為に一肌脱ぐのは貴方達も吝かじゃないわね?
あら笑っちゃいないわ、私は至って真剣よ?(にっこりと)

入れ歯だけこう空元気でも、ね――深い哀しみの底から掬われたと思ったら、骸魂の泥沼に囚われてしまったなんて笑えないもの

それじゃ――何でも良いから格好良く露払い、お願いね?(ちゃっかり盾にして)

お爺ちゃん、そんなに張り切っていきなりぎっくり腰はやめてね



 およそ過半数の者たちが池を渡り終えた頃。
 ようやく再び月の映りはじめた池のほとりに、佇む三つの人影があった。
「おお何という怪奇現象! これはいかんな」
 重松・八雲(児爺・f14006)はからからとした笑いを響かせていた。
 幾らか静けさが舞い戻ったといえ、池に入れ歯の跳ねる姿は怪奇そのもの。少々長生きをした八雲をしても、なかなか見た事のない珍妙な光景であった。
「蓮がこれだけ咲いとるという事は此処、泥んこじゃろ? そんな所に入歯を浸けておっては逆効果であろう!」
 諸々の都合(雰囲気とか)で深く言及しなかったところをあえて掘り下げる好々爺。よかろう。そこまで的確に触れたとあらば、三人は泥んこ待ったなしである!
「この世界の崩壊――離別と再会を巡る話ってのは、どーにも複雑で参るな」
 いらぬ予感に若干寒気を覚えつつ、呉羽・伊織(翳・f03578)はどこか物悲しげな顔で池を眺める。
 ゆるくかぶりを振って美男子ムーヴを決める、その背景にピチピチ映り込む入れ歯ガールズ。むせるような声漏らして一瞬固まった伊織は、そのまま神妙な顔つきになり呟く。
「ウン、ホント、こんな複数の意味で複雑極まりない心境になるなんてもうどんな顔したら良いの?」
 困惑し、救いを求めるような顔でほとりに佇むオンボロ社を眺めたが、残念ながら神は答えなかった。というかたぶん神様も困ってる。
「ええ、全く――このままじゃ何もかも複雑でならないわ」
 池に映る花川・小町(花遊・f03026)の艶姿は、月のように目映く、色白く。白粉で彩った柔肌は、いっそ素性を包み隠すような妖しさを湛えていた。
「笑顔を齎していた二人が崩壊を招く未来も、序でに折角の蓮池が奇怪な入歯の生簀というのも、ええ、いけないわ」
 人の言葉を聞いてるようで聞いてない流れに「姐サン、たぶんそれ複雑の捉え方がオレとちが……」まで言いかけた伊織を物理的手段で黙らせた後。
 小町は青ざめる百面相と元気のみなぎりすぎた八雲お爺ちゃんを交互に見、生温かい視線を送った。
 夏のほとぼりも過ぎ、そぞろ歩きには程よい気候の秋の夜。とはいえ、ずっとこうして夜風を浴びていては風邪を引くばかりだ。
「さて、乙女? ……の為に一肌脱ぐのは貴方達も吝かじゃないわね?」
 乙女の範疇に首を傾げつつも小町が問えば、不承不承という響きで伊織が返す。
「まぁ俺としても乙女心は極力尊重したいトコなんだケドさ――! 世界の前に色々ぶち壊しすぎっていうか、何、此処はぱわふる老人会会場なの??」
 世界の豹変ぶりに、未だ戸惑いを隠せない様子の伊織。
 何せ乗り越えた先にもお妙本人とのバトルが控えているのだ。池に入れ歯を放ち、挙句追い縋った相手にデスタッチを決めるなぞ、およそ老婆の所業とは思えない。
「む、何じゃ? 年寄り笑うな行く道と言うじゃろ!」
 困惑の声にわずか混じる笑い声の気配に八雲はそう返したが、二人の素性を思い出してすぐに言い直す。
「ああいや、お主らヤドリガミじゃでちと特殊じゃったか! まあよかろ!」
 器物といえどいつかは朽ちる身。いずれは分かると、八雲は流れる時の違いすらも些事のように笑い飛ばす。
 しかし、八雲の言に対し小町のとった態度は些か予想外のものだった。
「あら笑っちゃいないわ、私は至って真剣よ?」
 笑顔で返しつつも、此度の声は笑う気配などない。
「入れ歯だけこう空元気でも、ね――。深い哀しみの底から掬われたと思ったら、骸魂の泥沼に囚われてしまったなんて笑えないもの」
 おそらくそれは、本心なのだろう。人を手玉に取り、心の容易に読めぬ人物ではあったが、小町とて思う事があるから此処に立っているのだ。
「まあ、そうじゃな……それは直接本人に伝えるのが良かろうて。ともあれ、この場はささっと渡り抜ければ良いんじゃな! 任せよ、此処は儂の力で!」
 天を衝くような気が、八雲の身から立ち上る。
 挫けぬ心意気と、不退転の覚悟。強固な意志を束ねたものが気流となって迸り、辺りを黄金色の闘気で包み込む。
 児爺がその気なら、と伊織は重ねるように風を吹かせ。知恵ある大鳥の群れが、三人を援護しようと風に乗って迫る。
「お主らを担いでひとっとび! ――でも、良いが!」
 まさかの寸止め、オーラが消えた。
 ズッコける伊織。あくびする小町。
 鳥たちは三人の頭上をかすめてそのまま空へと消えていった。
「泥池とは何だか童心を擽られるのう! 折角じゃし、ざぶざぶしながら進むも一興ではないか?」
 そう言い残して堂々と池に分け入る八雲。童心に帰るとは言うが、泥の中に踏み込むのは小学生男児でも躊躇いそうなものである(母に怒られる的な意味で)。
 泥池に放たれた八雲、自由奔放六十九歳。家族が見たら、きっと泣く。
「何で敢えて危ない橋を渡りにいくかな~!? そんなトコで童心に返るな児爺~!」
 不発に終わった風を恨めしそうに見送り、肩を落としながら伊織は後をついていく。颯爽と小町を送り届けるはずが哀れ鳥たちは遠くの空。戻ってきてくれなかったのはきっと、駄賃(餌)が行きがけの分しか無かったからだろう。
「それじゃ――何でも良いから格好良く露払い、お願いね?」
「くっ、姐サン(に何かあると後が怖いんで自分)の為にも頑張るケド……ケド~!」
 悲壮な口ぶりに心の声が漏れる伊織のすぐ後ろ、ちゃっかり二人を盾にできる位置取りで小町が駆けていく。
「ようし、では誰が一番早く渡るか勝負じゃよ! かーーーぁっつ!!」
 入れ歯と聞き紛う声で活を入れれば、八雲の後ろからは狐の尻尾がふぁさりと垂れ。束ねた尾で穿つようにして、彼は入れ歯を叩き落としながら突っ込んでいく。
「こんな時だけ尻尾ずるくない!?」
 悲鳴じみた声も届かず、八雲の背中はあっという間に遠のき。叫びを放った伊織はというと、襲い来る入れ歯を残像で惑わせ、何とかギリギリ躱していた。
「お爺ちゃん、そんなに張り切っていきなりぎっくり腰はやめてね?」
 先を行く八雲へ、小町は一応案じるような声を投げかけるが、止まる気配は微塵もなく。
 池にざばざばと泥の渦が幾つも描かれ、それに惹かれるように入れ歯たちが後を追い――そして、池は始めからそうであったかのように静まり返るのだった。

🏆実績が解除されました!
 重松・八雲 どろんこ児爺、こころは児童
 呉羽・伊織 時津風、不発
 花川・小町 池を渡った(他力本願)

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​




第2章 ボス戦 『最恐・妖怪ババア』

POW   :    千歳たる年の功
全身を【見るからに凶悪な攻撃的オーラ 】で覆い、自身の【これまで生きてきた年月】に比例した戦闘力増強と、最大でレベル×100km/hに達する飛翔能力を得る。
SPD   :    スーパーBBAチョップ
【触れた者を畏怖させる禍々しく邪悪な妖力 】を籠めた【死角への瞬間移動による接近から続く手刀】による一撃で、肉体を傷つけずに対象の【戦おうとする意志】のみを攻撃する。
WIZ   :    老人会強制加入の呪
攻撃が命中した対象に【突然の耐えがたい腰痛や膝などの痛み 】を付与し、レベルm半径内に対象がいる間、【身体の急激な老化とそれに伴う体調不良】による追加攻撃を与え続ける。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠ミカエラ・マリットです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 ススキの揺れる、月夜の草原。
 鏡とお妙が多くの時間を過ごした思い出の場所は、
 崩壊する世界にあっても辛うじて大地を残していた。

 それもそのはず。
 この場所こそが、カクリヨ乱す事件の中核なのだ。

「カーッッ!! おのれら勝手に踏み込みよって!!」

 背丈ほどもある草むらをかき分け、老婆の手がふいに伸びた。
 侵入者を見つけたお妙の目は、今まさに襲い掛からんとする猛虎のよう。
 相手がたとえ巨人であろうと、勇み飛びかかってきそうな剣幕であった。

「この場所を荒らそうったってそうはさせんぞい……儂の目が黒いうちは!!」

 バ・バン☆
 目を爛々と光らせてそう言い放つ。

 しばしの静寂。
 お妙は何かを待つように啖呵を切った姿勢で固まっていたが、
 望む返事が返らぬとみて不満足そうに唸り声をあげる。
「……うんむ、今のはちぃと分かりづらかったかの? 別に儂の目が黒くないところがツッコミどころじゃったんじゃが」
 ツッコミ担当が不在(合体中)で調子が出ないのか、
 お妙は「芸風を新たにせんとのぅ」等と呟いている。

 視線を彷徨わせ気づかぬ様は、あるいは知己を失くした事からの逃避か。
 大事な半身であった鏡が、合いの手を入れる事はもう、ない。
 その事実を如何に受け入れさせるかが、カギとなるだろう。

 刃を手に力を示し、心を傾ける。
 両方せねばならないのが猟兵の辛いところだが、
 そうしなければ救えないものがある。
 笑い溢れる日々を取り戻せるかの命運は、猟兵たちの双肩にかかっているのだ。

「あ、それはそれとして勝負は全力で行くからの!」

 ――あ、はい。
漏刻・カイカ
死角の攻撃恐るるに足らず!何故なら入歯の攻撃でパターンを掴んだから!
……とうまくいけばいいけど、取り敢えずオーラ展開で防御張っておこう
チョップもオーラで受け、UCをコピー出来たら乱れ撃つ
目的は一時でも戦意を奪って言葉を聞いてもらう体制を作ること
倒しちゃう前に少しでもいい方向にもっていければと

砂かけババアの先輩、先輩は孤独だった?今はもう孤独じゃない?本当に?
その漫才は誰とやってた?隣には今何がある、何かあるか?
まだ芸を磨くのは、みんなを笑わせたいからじゃねえの
今の先輩じゃ見ててなんだか泣けてくるよ
(さっきの入歯とかあかん方向に体を張ったギャグに)
あと、今の先輩目ぇ黒いです(白目部分だけど)


ロニ・グィー
アドリブ・連携・絡みも歓迎!

やれやれ、相方のいないコンビ芸なんて興醒めだね!
オーディエンスは勝手なもの、期待なんてしちゃいけないよ!
だけど、まあ、そんな半端な状態は寂しい、のかな?人に言わせれば

●時を止める
UCを発動して、鏡を分離させて蘇らせる
もちろん一時的にだけどね
説得なり、ツッコミなり、あーと、後はお別れとか…するといいよ!
あ、秘蔵のとっておきのネタとか見せてよ!最後なんだからさ!

……フフッ!アハッ!アハハハハハッ!

●時は動き出す
さて、ちゃんとお別れは済んだみたいだね
じゃあさっさと分離してくれない?それで終わりだからさ

え?それはそれとして勝負は全力で…?えー…
んもー!しょうがないなあ!



 びしぃっ! お妙に指を突きつけ、漏刻・カイカは高らかにこう告げた。
「死角からの攻撃恐るるに足らず! さっきの攻撃でパターンを掴んだぜ!」
 格好よく決めポーズ――からの、ピピピと指先から出る炎のオーラ。宣言の勇ましさと裏腹に、漏れ出る怪火はカイカの身を護るように配置されていく。
(「いやだって、ホントに防げるかわかんないし」)
 カイカにとってお妙は妖怪の大先輩。力の計り知れぬ相手とあれば、とりあえずの保険は欠かせない。
「やれやれ、相方のいないコンビ芸なんて興醒めだね!」
「ええい、黙らっしゃい! 年長者を敬う気持ちを持たんかい、お前さんは!」
 一方のロニ・グィーは相も変わらず恐れを知らない。ムキになるお妙にも、ロニは調子を崩さず気ままに答えをよこす。
「オーディエンスは勝手なもの、期待なんてしちゃいけないよ! それに自分で敬えっていうのもどうかなあ!」
「キーーッッ!!」
 しわがれた顔を赤くして襲い来るお妙の張り手を、身を反らしながら躱し。おかしそうに笑い声を響かせつつも、ロニはふと思いを馳せる。
「だけど、まあ……そんな半端な状態は寂しい、のかな?」
 人ならば持ちうる感性は、神には理解し難い。神の多くは、他者の存在や承認がなくとも生きられるからだ。
 だがロニとて歌や芸術を通し、愛の存在や別離の苦しみを知っていた。互いに求める者同士をくっつけたとて、それで当人たちが満たされるとは限らぬことも、他人事ながら理解はできる。
「おわっぷ! さすが先輩、容赦ねぇ……!」
 死角からくるチョップを、辛うじてカイカの炎が受け止めた。一瞬遅れてぶわり、と辺りに舞う風圧に冷や汗が流れ、ついでにお妙のドレスがププッピドゥ。
「うっ……手強い、けど」
 別の意味で戦意を削がれそうになりつつ、一度受け止めてしまえばこちらのもの。
 カイカを取り囲む焔の中から、炎の手が伸びる。
「胸を借りるつもりで……ド派手に行くぜ!」
 鬼火の中から次々と伸びて振るわれる、炎の手刀。お妙は見慣れた技を超絶老婆ムーヴで躱していくが、ここまで数が増えては捌ききれない。
(「これで少しでも聞く耳、持ってもらえりゃ……!」)
 手刀の一つがお妙に炸裂したのを見て、カイカは「今だ!」と合図をかける。
「ボクの出番かな!」
 暴風が渦を巻き、歌のような響きをもって時を凍らせた。
 神としての権能――息を吹き返した全知全能の力が、世界すらも歪めていく。
 静止した時空の狭間。この中だけでなら、ロニは如何なる奇蹟も呼び起こせる。
 ――そう、たとえば。
「一緒になってちゃ話せないでしょ! だから切り離しちゃった、アハハ!」
 気付けば、お妙のそばには鏡――雲外鏡の姿があった。

 驚いた表情の二人を認め、カイカが声を投げかける。
「砂かけババアの先輩。先輩は……今はもう孤独じゃない?」
「ああ、そうともさ! 鏡がぶらついてる間はどうしたもんかと思ったが、今は元通りってもんさね」
 快活な笑みを浮かべるお妙は、傍らに鏡を伴う事もあって晴れやかな顔をしていた。その姿がいっそう悲しく、カイカは事実を突きつけるようにこう指摘する。
「本当に? ……隣にいる、相方の姿をよく見てくれよ」
 ともに漫才を演じていた鏡の姿は、ロニの力をもってしても朧気で。それは、鏡に宿っていた魂がもう戻らぬことを暗示していた。
「まだ芸を磨くのは、みんなを笑わせたいからじゃねえの。今の先輩じゃ見ててなんだか泣けてくるよ」
 先の入れ歯騒動を巻き起こし、骸魂の影響で最恐オーラを身に纏うお妙。今のお妙は、人を笑わせ元気を分け与える本来の彼女の姿とはかけ離れていた。
「ボクにはよく分からないけど、そういう事だね……あ、そうだ! 秘蔵のとっておきのネタとか見せてよ! 最後なんだからさ!」
「む……この場でかい?」
 お妙と鏡は若干面食らっていたが、まんざらでもないのか。こほんと咳払いして往年のネタを披露し始める。
「昔むかし、儂の背筋が今よりもう少ししゃんとしてた頃の話じゃ」
 うっとりとした目のお妙。長話が始まると見て、鏡は古めかしいテープレコーダーを持ち出した。
 話に熱が入るのを見計らい、鏡は右向き三角の二つ重なるボタンを押す。
『よいこらせーの、ポチッとな☆』
「それはそれは美形な『キュルルル』……バルコニーに『早送り!』……ワインを『もいっちょ!』……口説いて『ああっと巻き戻し!』……ワインを、なにっさらすんじゃああああい!!」
 スパーン、と決まりかけたスーパーBBAチョップは霊体の鏡をすり抜ける。
 どうやらツッコミ芸だったらしい。
「はあ、はあ……ともかく。そんでその美男子は若い頃の儂に、こう言ったのさ」
 お妙の瞳が懐かしき記憶(※捏造)に潤み、あの情熱的なセリフを再び口ずさむ。
「時よ止まふぇ! お前はんはふふふひひ」
『妙ちゃん、歯、歯! 口から本体出てる!』
 すぽーん! 口から抜け出る入れ歯に、禁断の言葉は未遂に終わる。
 ロニが力を発動中とはいえ、易々と呟かれてはカクリヨの危機がクライマックスである。というかお妙、過去にも世界崩壊≪やらかし≫かけたんじゃあ。
 ネタを見届け、ロニが堪えていた笑いを爆発させる。
「……フフッ! アハッ! アハハハハハッ!!」
 笑いと共に息が吐きだされ、そして――止まっていた時空が、動き出した。

 再び舞い戻った時の流れに、鏡の姿はない。
 ロニの力は現実には干渉しない。残るものは何もないのだ――記憶、以外は。
「さて、ちゃんとお別れは済んだかな」
 もう気が済んだでしょと、ロニは佇む老婆に呼びかける。
「じゃあさっさと分離してくれない? それで終わりだからさ」
 言葉を受けてもお妙は暫し黙っていたが、そうさの、と重い腰をあげる。
「不思議な体験もさしてもらった事じゃし、よぅく考えてみようじゃないか……決着がついてからのぉ!!」
 言葉の終わりは耳元で聞こえ。鈍い音が頭に響き、ロニの天地は逆さになる。
「あーーれーー……もー! しょうがないなあ!」
 きりもみ縦回転しながら吹っ飛んでったロニが、観念したのか球体を纏って舞い戻り。ススキの原には、カイカが悲鳴じみた声を響かせながら逃げ回る。
「やっぱこうなんのかー! てか、今の先輩目ぇじゅーぶん黒いです!!」
「そこは白目じゃー! 待て、どっちがどっちじゃ??」
 まんまるお月様の輝く下、カクリヨは今日も一段と賑やかでした。

「いや崩壊しかかってるんだけどな!! 先輩ーー!?」

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

黒羽・扶桑
【岩戸】

ふむ、思っていたよりも
聴く耳は持ってくれそうな相手だな

しかし、実力は本物だろう
油断は禁物だな
あと弥七よ。バンザイではなく挽回だ

放たれる呪の気配
弥七をかばうべく前に出る
護符を展開しての『結界術』で受け止めるが
なるほど…肉体が衰えるとはこういうことか

※髪や翼の黒さは据え置き、その他老け具合お任せ

落ち着け、弥七
我は大丈夫…いや、待てよ
チビ助には悪いが
この状況、利用させてもらうか

これは困った、我にもお迎えが近づいたか
弥七とはもっと思い出を作りたかったんだがなあ
(お妙の情に訴えるムーブ)

そこまでしても矛を収めてはくれぬだろう
対するは【巫術「八咫鏡」】にて

映しませ
きっと過去とは違う、今のお妙の姿を


千々岩・弥七
【岩戸】
面白いおばあちゃんですけど、手加減はしないのです!

今度こそ、ふそーさんにカッコイイところを見せるです
めいよバンザイ!ですよ!
【正義の誓い】で子狸に変身!

ふそーさん、ここは下がって…ああー!
そんな!僕をかばったせいで、ふそーさんが老人会に…!
や、やですよー!
ぼくだってまだまだ一緒に遊びたいのです!思い出作りたいです!
どっか行っちゃ嫌ですよ!(しがみ付いてびーびー泣く子狸)

おばあちゃんは、お友達の鏡と別れて寂しくなかったですか?
ぼくだってさみしいです!
だから、ぼくからだいじなお友達をとらないでください!

涙で前がちゃんと見えないけど、髪の毛武器で攻撃なのです!
元のふそーさんを返してください!



 ぽんぽこ狸の珍道中は、ついにススキの原っぱへと至り。
 鴉の鳴く頃もとうに過ぎ、あたりは暗闇に包まれている。
 月の光だけが足元を照らし、崩れ行く景色の中。
 高笑いを響かせて立つお妙の前に、千々岩・弥七は意を決して踏み出した。
「面白いおばあちゃんですけど、手加減はしないのです!」
 今度こそふそーさんにカッコイイところを見せるです! と意気込む弥七は、葉っぱを頭に乗せ変身の準備。
「めいよバンザイ! ですよ!」
 ぽんぽこりん☆ 可愛らしい腹鼓の音を響かせ、ふたたび子狸へと姿を変えれば、心にたてた正義の誓いがちいさな体を包み込む。
 一方の黒羽・扶桑は冷静で。幾歳も生きた妖怪同士、相手の手の内を探るように視線を巡らせた。
「ふむ。思っていたよりも聴く耳は持ってくれそうな相手だな」
 悲しみに我を失う妖怪も少ない中、お妙は己を見失っているだけで、まだ理性は保てている。これならば、言葉による説得もいくらか届くだろう。
 しかし本人の言ったように、それはお妙が手を抜いてくれる保証とはならない。油断は禁物と気を引き締め、扶桑は護符を数枚手に取った。
「あと弥七よ。バンザイではなく挽回だ」
「そなのです? それじゃ、バンカイです!」
 今度は刀が伸びそうな響きになったが、ツッコむ気力も無尽蔵ではないので扶桑はお妙の方に視線を戻す。
「カッカッカッ! 二人とも仲が良さそうじゃて、いまからコンビを組めば案外いい線行くかもしれんの!」
 愉快そうに肩を揺らすお妙は、弟子を見るような目つきであり。骸魂に飲まれてこそいても、そこに世界を憎む類の悪意は感じられない。
 だが。
「いくら息がぴったりじゃとて、デビューには時期尚早! まずは儂のもとで、たんまり丁稚奉公してもらわんとのぉ!」
 目に見えるほど色濃い呪いを宿し、お妙の皺だらけの手が迫りくる。守りを固めようとした扶桑が、護符を幾重にも張り巡らせて結界を張る――が。
「なんの! 儂の手にかかれば妖怪みな友達、弱った足腰で一緒にパターゴルフを楽しむ時間じゃよ!」
 鞭のようにしなる呪いの気が、弥七へと伸び。
 とっさに庇おうと前に出て――扶桑は二人分の呪いを、その身に浴びた。
「ふ、ふそーさんっ!!」
 ばっ、と後ろに飛び退いた扶桑を心配するように弥七が声を投げかける。
「なるほど……肉体が衰えるとは、こういうことか」
 老い――それは長く生きた扶桑をもってしても、味わったことのない未知の感覚。声を発する途中、自らの声質が変わっていくのを扶桑は感じた。
 髪色こそそのままだが、うら若き少女のようだった肌からは急速につやが失われ。弥七が彼女の方を仰ぎ見た時、そこには目元に皺を刻んだ精悍な顔立ちの女性が立っていた。
「ああー! そんな、僕をかばったせいでふそーさんが……!」
「落ち着け、弥七。我は大丈……いや」
 うろたえて足元をちょろちょろ駆ける弥七を宥めようとして、扶桑は言いかけた言葉を飲み込んだ。
「うっ……」
 胸元を押さえ、苦しそうに地面にうずくまる扶桑。
「ああー!? ふ、ふそーさんがー!!」
 混乱極まる弥七。呪いをかけたお妙は「はて、そんな強烈な呪いかけたかいの……?」と不思議そうに首を傾げている。
「これは困った、我にもついにお迎えが来たか」
 皺だらけの眦に、影が差す。弱気な表情は、これまでの数々の出来事を思い返しているように見えた。
「……弥七とはもっと、思い出を作りたかったんだがなあ」
 寂しげな笑顔で弱音をこぼす扶桑に、弥七が思わず駆け寄った。
「や、やですよー! ぼくだってまだまだ一緒に遊びたいのです、ふそーさんと思い出作りたいです……!」
 どっか行っちゃ嫌ですよー! と、袴の裾をぐいぐい引っ張る子狸は。
 天に召されそうな黒羽の神使いを縋るような目で見上げ、行かせはせぬと懸命に引っ張っては咽び泣く。
 ――その実、扶桑はというと。
(「すまぬな、チビ助……敵を欺くにはまず味方からと、古来より申すのでな」)
 必要以上に呪いを受けたフリして敵の情に訴え、ついでに弥七のやる気をも引き出す。まさに一石二鳥――扶桑の打つ手は、見た目よりも遥かに老獪であった。
「ひっひっ、これは愉快! かの導きの鳥であっても老いは免れんっちゅう事じゃ! どうやら狸の坊主、こたびのY-1(ヨウワン)グランプリは儂とお前さんの決選投票となりそうじゃのぅ?」
 凶悪な形相を浮かべたお妙の周りを、黒のオーラが包む。
 砂かけババアとして現役を務めたお妙の歳月――■■■■年にも渡る積み重ね(※プラバシー保護のため一部伏字に変えてあります)がいま、空を飛ぶことすら可能にした。
 猛烈な砂ぼこりをまき散らして向かってくるお妙。しかしブルブル身を震わせながら、弥七はその場から離れなかった。
「ううう、怖いのです、怖いのです……でも!!」
 ぴょいんとお妙の頭上を飛び越え、背に飛び乗る。
「おばあちゃんは、お友達の鏡と別れて寂しくなかったですか?」
 生まれたばかりに等しい子狸だからこその、純真無垢なる問い。抗議するように頭をてしてし叩かれ、お妙はううむ、と押し黙る。
「ぼくだってさみしいです! だから、だいじなお友達をとらないでください!」
 涙と風圧で視界を塞がれながらも、弥七が毛を針のようにしてお妙へと飛ばす。
「元のげんきなふそーさんを返してください……!」
「よくやった、チビ助」
 弥七が涙を振り払って前を向くと、いつの間にか、空飛ぶ二人の前に立ち塞がる影があった。
「ここまでしても矛を収めてくれぬのであれば、力もって鎮めるまで」
 天叢雲剣――霊力宿す神剣の先で、扶桑は宙に目映き正円を描く。
 本来のお妙は妖怪といえども老婆であり、このような力など有していない。虚飾の一切を削ぎ落す神鏡は、事の真相のみを映して返す。
「映しませ――さあ、とくとご覧じろ」
 巫術の描く、八咫鏡。
 身を覆い尽くす程の大鏡に、映り込む姿は見紛う事なき魂の姿。
「ひ、ひぃぃぃ! そうじゃった、儂は腰痛持ちじゃった……アイタタタ!」
 思い出したように腰をさすり、地に降りるお妙。鏡面に照らし返された月の光が、彼女の身に纏う禍々しい気を取り払っていった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

ノインツィヒ・アリスズナンバー
アドリブ・絡み歓迎

ぎぃいいいやあああああ!!!今でさえ色々と無理してるってわかってんのにそれに加えて強制老化!?絶対喰らうかボケェ!!

こういう時はこのUC!そもそもの攻撃を中断させる!
死なない程度に唄って、攻撃をやり過ごす……!
攻撃も念動力を使ってやり過ごしておこう。

いい加減目を覚まして!鏡を失って悲しいのはわかるけど、誰かを同じ目に合わせてまでやることじゃない!
あなたの漫才は……誰かを笑わすための、大事な物。
今のあなたを見たら、きっと鏡の妖怪さんは悲しむよ?

とまあ、ヒロイン的な情に訴えかける言葉を投げつつ、メリケンサックで殴る。
すんませんやっぱりアイドル的に老化はNGなんで。


祓戸・多喜
うーんもう結構離れかけ?
もう一押し…アタシにできるか分からないけど頑張るわよ!

死角に潜り込んでの手刀は発動前に空に向けUC発動、味方除いた周囲丸ごと撃ち抜く感じで対抗するわ!
相手の攻撃からの離脱までに矢が落ちればこっちのもの。
攻撃自体は通連念動力で操って死角…視界広いから範囲小さいそこをガードする感じで!

話聞いてくれそうなタイミングで説得。
出会いがあれば別れがある。
それは悲しいのかもしれないけども、誰かに伝えて残せばそこで一緒だった証は残り続けるんじゃないかな。
その役目放り投げてちゃ雲外鏡さんに顔向けできなくならない?
楽しかった二人の想い出、アタシ達に語って欲しいな。

※アドリブ絡み等お任せ🐘



 腰をさすりながらも立ち上がるお妙。うっかり呪いの気に触れた背の高いススキが、生気が抜けるように根元から枯れていく。
 その様を見て、ノインツィヒ・アリスズナンバーの喉から甲高い悲鳴が上がった。
「ぎぃいいいやあああああ!!! 無理無理、さすがに老化は無理!!」
 お妙の体からほとばしる呪いは、触れる者を誰彼問わず老化させる凶悪なもの。人呼んで、老人会強制加入の呪い――いかに仕事を選ばないノインツィヒといえど、あんな呪いを受けてはアイドル生命が断たれてしまう。
「今でさえ色々と無理してるってわかってんのにそれに加えて強制老化!? 絶対喰らうかボケェ!!」
 ここでまさかのキャラ作ってました告白。しかしなりふり構ってはいられない。
 名前じゃなく年齢がノインツィヒ☆(90)なんてのはまっぴら御免。アイドル以前に、彼女は今を生きる16歳の乙女なのだから(鯖、読んでたりしないよね?)。
「うーん、もう結構離れかけ?」
 祓戸・多喜は視覚補助デバイスの力と、闇夜を見通す眼力でお妙の出方を探る。
 彼女の見立ては正しく、お妙には当初ほどの覇気はない。鏡と引き剥がせるまで、恐らくあとひと踏ん張りだろう。
「もう一押し……アタシにできるか分からないけど頑張るわよ!」
 元気みなぎらせ矢を番える多喜に、お妙はにわかに興味を示した。
「ひっひっ、これは愉快! 白い玉肌に美しい鼻の小じわ、お前さんには儂と近しいものを感じるのぉ」
 顎をさすりながら目を細めるお妙に、多喜が「失礼ね!」と抗議する。
「小じわって何よ、アタシJKなんだから! 勝手に親近感抱かないでよ!?」
 多喜が腹を立てるのにも構わず、お妙は飄々としゃべり続ける。
「なぁに、皺は生きた証じゃて恥ずかしがるでない! 何なら儂がもひとつ皺を刻んでやろうかい……のぉ!」
「っ……!」
 突然、耳元に響く声。風を切って振るわれる手刀の威力を、三ツ矢のように交差させた刀で削ぐ。
 死角から襲い来る攻撃は、警戒していてもおいそれと避けられるものではない。だが象の姿持つ多喜は元々視野が広く、死角が少ないのだ――敵の来る方角も絞り込めるというもの。
「ちょっと、大丈夫!?」
 ガードしてもなお次から次へと襲い来るお妙。見かねたノインツィヒが助けに入ろうとするが、多喜の大きな手のひらが彼女に静止を促した。
「大丈夫、離れてて!」
 天高くを指差す仕草にその方を見上げれば、夜空の一点、まばゆく光り輝くものがあった。
 それは、白き矢であり星だった。初めひとつだった星は双つ星へと分裂し、更に輝きを強めながらその数を増やす。
 4、8、16――65536、131072――およそ、百億。空より至る百億の星が、数多の生命焼く光となって降り注ぐ。
「纏めて、撃ち抜く……!」
 大地に突き立つ、幾筋もの条光。射抜く光は手刀を食らわせようとしていたお妙を飲み込み、周囲の地盤ごと撃ち貫いていく。
「これはこれは、嬢ちゃんやりおるのぉ! ……しかし、の」
 夜空の星すべてをぶちまけたが如き一撃に、さしものお妙にも疲弊が見えた。しかし彼女は諦める様子はなく、ここに来て本性を表すように妖気を溢れさせる。
「簡単に折れては芸人根性が聞いて泣くわい! 儂とて鏡は代えのきかん相方、鞍替えするにゃ千年早いわい……!」
 手足のように伸びる妖気。自我を崩壊させかねないほどの気を纏い、襲い掛かるお妙を支えるものは、鏡への想いか。
「いい加減目を覚まして!」
 その姿を見かね、声に訴えたのはノインツィヒだった。取り出したマイクの電源を弾いて入れ、有無を言わさずその場にいる全員に向け歌声を響かせる。
「この歌を、この場の平和の為に捧げますーっ」
 紡ぐ歌声は色すら帯び、あたりの闇をあたたかな黄色へと塗り変えていく。
 それは、文字通り命を賭けた平和の鎮魂歌。争いを厭う歌詞と旋律があたりに満ち、聴く者の戦意を奪っていく。
「な、なんじゃ……やるせのぅて力が湧かんぞい……!」
 よよよとその場に崩れるお妙。お妙だけでなく、応戦していた多喜の体からも戦う力が抜けていった。
 歌の調べがもつ時間は、戦い全体からすればごくわずか。だがその時間は、お妙に平静さを取り戻させるのに十分だった。
 地面にしおらしくへたり込むお妙のそばへ、ノインツィヒが歩み寄る。
「鏡を失って悲しいのはわかるけど、誰かを同じ目に合わせてまでやることないじゃない!」
 愛情をもって叱りつけるような声に、老婆ははっとして顔を上げる。
「あなたの漫才は……誰かを笑わすための、大事な物。今のあなたを見たら、きっと鏡の妖怪さんは悲しむよ?」
 ノインツィヒの言葉。ひとつひとつに込められた意味と感情に頷きながら、多喜がその先を繋いでいく。
「出会いがあれば、別れがある。それは悲しいのかもしれないけども……誰かに伝えて残せば、そこで一緒だった証は残り続けるんじゃないかな」
 多喜の目は静かに訴えかける。さよならが全ての終わりではない――さらぬ別れを迎えた先にも、証を残すのが生きる者の役目だと。
「その役目、放り投げてちゃ雲外鏡さんに顔向けできなくならない?」
 そういって微笑み、多喜は優しく声を投げかける。自棄になって世界を壊すぐらいなら。楽しかった二人の思い出、アタシ達に語って欲しいな――と。
「……お前さんらの、言う通りじゃわい。儂はどうも、自分の役を見失っておったようじゃ」
 年を取ると耄碌していかんのぉ――そんな風に笑う老婆の目には、いつの間にか光が宿っていた。
 観念したように立ち上がり、お妙の皺深い口元が笑うのを見て。
 多喜とノインツィヒは実感する――想いが、通じたのだと。

 お妙の宿した妖気の舌の先が、ノインツィヒへと伸びる。
「では最恐・妖怪ババアの座はおぬしに譲――」
 バチコーン☆

 あ、と多喜の止めようとする手が宙をかいた。
 頬を殴りつける音の発生源は、ノインツィヒのデコデコメリケンサック。
 何せ止める手の間に合わぬ光の速さで振り抜かれたのだ、やむを得まい。
「すんませんごめんなさいすんませんでもやっぱりアイドル的に老化はNGなんで」
 ノインツィヒもまた呪いをかけられちゃたまったもんじゃないので、これも正当防衛と言えよう。
 宙を舞うお妙も恐らくはBBAジョーク、だったと思われるが――。

 あらゆる問題は当事者の非のあるなしではなく、その後どうするかが肝要である。
 すなわち。かえった水は戻らないし、泣く泣く拭き続けるしかないのだ。
「カーッハッハッ! 年寄りに鞭打つとはいい神経しとる! あいわかった、それならそれで――ふぁいなる・らうんどと行こうかのぉ!! カーッッ!!」
 お妙は、まことに懲りない性分であった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

重松・八雲
【花守】
ようし、儂も負けぬぞ――最恐・妖怪ババア殿!
(対抗して気合やら何やら込めUC発動――序でにぽじてぃぶな童心も併せ、何か凄いオーラ纏いつつ――物理的に突っ込むより早く地雷源へ突っ込んだ!)

くらいまっくす?うむ、此処が正念場じゃろ!
お主ら気圧されている場合ではないぞ!

――ところでお妙殿
熟練の身で更に芸風を新たにと成長を志すならば、時を止めては成らぬじゃろう
儂らも――それに本来の鏡殿もきっと、な
此処に滅ぶのではなく、いつまでも元気に若々しく歩み、輝き続けるお主の姿こそを願うておるよ(急に真顔で見つめ)

然し全力勝負とは気が合うのう!
(カッ飛んでちょっぷを白羽取りしたりオーラをぶつけ合ったり!)


呉羽・伊織
【花守】
いきなりそーいう突っ込み方はヤメテー!?(目を白黒)
姐サンも姐サンでもっと他にこう、突っ込むトコないの!?
(ツッコミ不在の恐怖と強烈な老人会の様相に及び腰気味)

何この最初からクライマックス感
相殺どころか相乗効果でもう手に負えないんだケド!
(UC使い一応頑張って速度に対抗し、姐サンへのちょっぷだけは阻みつつ!)

くっ…ああもうやってやるさ!
なぁ、お妙サン――皆の笑顔を生み出してきた貴女や鏡は、美しく輝かしい存在だと思う

其をこんな形で歪めるなんて
思い出も何もかも悉くその手で滅ぼすなんて
どうかやめてくれ
そんな結末は誰も――貴女も、鏡も、望んじゃいない筈だろ

…おいコラさっきの真顔どこ行ったー!


花川・小町
【花守】
何だかお爺ちゃんすらひよっこ扱いされそうな風格ね――褒め言葉よ?
伊織ちゃんはお妙ちゃんの黒目ネタに乗ったつもり?
(ちゃっかり死角にはUC姿見配して防ぎ)

まぁ、強烈なものには強烈なものをぶつけるのよ、とか言うじゃない?
――勢い有り余って双方腰を痛めないと良いけれど

あら、伊織ちゃんの腰も腰で宜しくないわね
今こそ男を見せる時よ?

さて、私も鏡なのだけれど――今の貴女達は、酷く哀しく写るよう
本来の貴女達の在り方こそ、目映く美しいものだった筈
いつか本当に、また胸を張って鏡ちゃんに顔向け出来るよう――どうかその美しい心や思い出の地を、未来へ繋いで頂戴

それに歳なんて気にしたら負けよね(児爺ちゃん見て)



 攻撃を受けても受けてもまだ立ち上がる、パワフルお婆ちゃんことお妙さん。
 さすがは気骨あふれるベテラン芸人。「わしゃあまだまだ現役じゃあー!」などと月下に吼ゆる様は、そう簡単に諦めてくれそうもなく。
「何だか、お爺ちゃんすらひよっこ扱いされそうな風格ね」
 勿論、褒め言葉よ? と付け加え、花川・小町は静かに扇子を扇ぐ。
 多くの女性の人生を見届けた小町からしても、奔放意のままに生き続けるお妙はどこか別格のようで。
 そして、呼ばれた当のお爺ちゃん――重松・八雲はといえば、すう、と息を吸い込み何かの準備。気合十分覇気たっぷりに、お妙に向けてこう呼びかける。
「ようし、儂も負けぬぞ――最恐・妖怪ババア殿!」
 ビキン☆ と青筋浮き出る音。さすがは天下の69歳児。やる事なす事は無駄に早く、止めようと伸ばした手は大抵、遅い。
「おんどりゃああ! 誰がババアくゎーーーっ!!」
 後先考えぬ豪快じいや、なんと足を踏み込む前から地雷原を踏み抜いた。もはや言葉にならぬ怒声を浴びても八雲はただ笑うばかり、頭にきたお妙はとうとう呪いのオーラを包丁のように研ぎ始める始末。
「かぁぁぁぁ~~……よう言うたわ、こんの小童が! おぬしらまとめて千枚漬けにしちゃるわい!」
 入れ歯が飛び出そうな勢いでまくし立てるお妙に、呉羽・伊織は戦う前からたじたじで。目を白黒させつつ、八雲に向かって悲鳴を上げる。
「いきなりそーいう突っ込み方はヤメテー!?」
 なんで余計な一言添えてくれるのサ、と。頭抱える伊織をよそに、八雲は天を衝く気を纏って自身の身をがっちりと包む。
「あら、伊織ちゃんはお妙ちゃんの黒目ネタに乗ったつもり?」
「姐サンも姐サンでもっと他にこう、突っ込むトコないの!? てか二人ともいつの間にか守りばっちりだしサ!!」
 死角から来るなら死角を塞げばいいじゃない、と言わんばかりに小町は姿見を配置するちゃっかりぶりで。今唯一身を護る術がない伊織は「もうヤダー!」と悲嘆にくれる。
 悲しいかな、この場にいるのは伊織を除けば、意のままに振る舞う者ばかり。ツッコミ不在と嘆けど、誰かが代わりに止めに入ってくれる事はないのだ。
「まぁ、強烈なものには強烈なものをぶつけるのよ、とか言うじゃない?」
 勢い有り余って双方腰を痛めないと良いけれどと、小町はあっという間に遠のく八雲の背を見送る。
「それはそうと、伊織ちゃんの腰も腰で宜しくないわね。こういう場面こそ男の見せ時よ?」
 及び腰を見抜かれてトンと押される伊織の背中。前はばーちゃん後ろは姐サン、そして爆弾に向けて突っ走る元気な導火線。
 あまりの逃げ場のなさに、そりゃ叫びたくもなろう。
「何この最初からクライマックス感。相殺どころか相乗効果でもう手に負えないんだケドー!」
「くらいまっくす? うむ、然り! 此処が正念場じゃろ!」
 とっくに戦いを始めた気の早い八雲は、お妙とほぼ同質のオーラで身を覆う。本人曰く『ぽじてぃぶな童心』を上乗せしたとあって、八雲の闘気はめらめら立ち上り、お妙と八雲は互いに火花を散らせてススキを焦がす。
「ほれ、お主ら気圧されている場合ではないぞ!」
「くっ……ああもうやってやるさ!」
 とうとう覚悟を決めたと見え。暴風吹き荒れる真っただ中へと、遅れて伊織も駆けだしていった。

 巻き起こる陣風の中、黒く透いた刃が舞う。
 不可視の一閃はお妙の手刀の威力を削ぎ、次々とはたき落としていく。
 確実に小町めがけて振るわれたチョップを、柄で弾いて別の方へと流し。姐サンを守るべく戦い続けた伊織は、ある時点からふと違和感に気づく。
「あれ、なんかオレ狙われてね?」
 後ろを顧みる余裕のない伊織は、小町が場を離れている事などつゆ知らず。
 当の小町は後方、戦いの合間にちょっとだけお色直し中であった。
「――ところでお妙殿」
 ふいに八雲が真剣な声を響かせる。
「熟練の身で更に芸風を新たにと云う心意気や良し。じゃが……成長を志すならば時を止めては成らぬじゃろう」
 儂らもな、と。自身が前に進むたび、砂時計の砂は手から零れる。訪れる時の流れは、若者とて老齢の者とて何ら変わりない。
 零れゆく砂は行きがけの駄賃、そして自身が歩んだ距離の証。その変化を、失う事を恐れてはいかんのだと老剣士は諭す。
「今は眠る、鏡殿も。此処に滅ぶのではなく、いつまでも元気に若々しく歩み、輝き続けるお主の姿こそを願うておるよ――きっと、な」
 真剣な眼で覗き込む八雲に後押しされ、伊織もまた声を投げかける。
「なぁ、お妙サン――皆の笑顔を生み出してきた貴女や鏡は、美しく輝かしい存在だと思う」
 明るさふりまく女性(ヒト)、他人を照らす鏡。どちらも身近であるだけに、その尊さ得難さは十分想像できた。
 それだけに、顔が、鏡が、曇ってしまう事は。伊織にとっても耐えがたく、何とか救おうと手を伸ばさずにはいられない。
「其をこんな形で歪めるなんて、思い出も何もかも悉くその手で滅ぼすなんて。どうかやめてくれ。そんな結末は誰も――貴女も、鏡も、望んじゃいない筈だろ」
 伊織の言葉には小町も、深く同意を示すように目を伏せる。
「そうね、私も鏡なのだけれど――今の貴女達は、酷く哀しく写るよう」
 人の姿や心を映し、笑いの活力をもって頬に紅を添える。そのような幸せな生き方は、おいそれと誰もが真似できるものではない。
 本来の貴女達の在り方こそ、目映く美しいものだった筈。お妙と鏡の寄り添う様をそう評した小町は、幾許かの敬意と共に薙刀を振るう。
「いつか本当に、また胸を張って鏡ちゃんに顔向け出来るよう――どうかその美しい心や思い出の地を、未来へ繋いで頂戴」
 全ては、彼女たちを元に戻すため。何のことはない――お妙は、疲れてほんの少し道を誤っただけなのだ、と。
「それに――歳なんて気にしたら負け、だものね?」
 小町の見守る前、八雲が盛大に襟元をはだけさせ、艶やかな肌を夜風に晒した。
「然し全力勝負とは気が合うのう! ここは一つ、儂も超(すぅぱぁ)な所を見せねばな!」
「おいコラ児爺、さっきの真顔どこ行ったー!!」
 何か金色のシュインシュインと音立てる闘気を纏いはじめた八雲、そして伊織も巻き添えにして。
 ――ゴッ。
 なぎなたの長ーい柄が、三人の頭にぷくぷく腫れあがるお月見団子をこしらえた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​




第3章 日常 『温泉へ』

POW   :    まったり浸かる

SPD   :    ゆったり浸かる

WIZ   :    のんびり浸かる

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 りん、りぃん、と虫の鳴く声が響き渡る。
 元の姿を取り戻したカクリヨは、澄み渡るような月夜だった。

 はじめこそ、月のほかに明かりはなかったが。
 ひとつ、ふたつ――。
 妖怪たちの営む温泉宿が、日々の情景を取り戻していく。

 風情ある温泉旅館には、ゆっくり浸かれる露天風呂があるという。
 張られた湯は泉質も優れ、もっぱら肌に良いとの噂。
 男女に分かれた湯舟は外界と隔てられ、外から邪魔が入る事はない。
 外からは隠れるのに中からは月が一望できるとあって、
 静かに過ごしたい者にも人気が高く、
 時折妖怪たちがツアーを組んで訪れるという。
 だが、今ならば猟兵たちの貸し切りとの事だった。

 離れてしまうのが寂しければ、併設の足湯カフェがちょうど良い。
 カウンターの下に流れる湯に足を浸せば、
 冒険の疲れなどあっという間に溶けていくだろう。
 メニューは和のスイーツであれば大体揃えているほか、
 ご希望とあらば妖怪たちの精鋭「ほぐし隊」の面々が
 極上のマッサージでもてなしてくれるだろう。

 そして、そんな商売っ気ある場所から離れ。
 ススキの原には、今もお妙の姿があるという。

 猟兵たちの説得をしまいには受け入れ、お妙は鏡を手放した。
『相方が雲隠れ? カッカ、儂らの世界じゃよくある事じゃわい!』
 ――と、そんな風に笑いを響かせて。

『いつかひょっこり鏡の奴が現れた時にの、とっておきのネタを見せちゃるんじゃ! 考える時間だけはたーっぷりじゃ、何せわしゃあと千年生きるんじゃからのぉ!』
 そういって一人、お妙はススキの原に残った。
 声こそ元気ではあったが、鏡の欠けた空間はすぐに埋まるものではない。
 今しばらく、そっとしておくのも優しさのうちだ。

 だが、もし。
 ススキの原に足を向ければ、彼女は両手を広げて笑顔を咲かせ。

 ――新ネタをひねり出すのに付き合わせようと引きずり回す事だろう。
黒羽・扶桑
【岩戸】

折角だ、弥七と共に楽しめる場所がいい
足湯カフェでゆっくりしよう

こうした月夜の楽しみ方も悪くないと
湯に足を浸していると

おい、チビ助。今のはお前の腹の音か?
ははは。花より団子、月より汁粉か
ちょうど注文の品も来た
いただくとするか

む、何だ?
(「あーん」の誘いに首傾げ)
ああ、いつも家族とそうやって分けているのか?
ではありがたくもらうぞ
夜は少し冷える時期ゆえ
温かな物が身に染みるな

お返しに私の栗羊羹も一口どうだ?
秋の味がするぞ

楽しみつつ、ふとお妙のことが頭を過る
弥七よ、奴に差し入れでも持って行ってやろうか
何が良いだろう…歯は丈夫だろうし

ふむ、ではこれにしようか
お前の勧めるものなら
喜ぶに違いなかろうさ


千々岩・弥七
【岩戸】

ふそー(扶桑)さんと足湯カフェへ!

ふわー…足がぽかぽかしてきました
テーブルに顎を乗せてまったりしちゃうです…

…うぐっ、ふそーさんにお腹の音が聞こえちゃったです
は、腹がへってはいくさができないですよ

あっ!ほんとです!いいタイミングでお汁粉が着ました!
白玉のおしるこ、あずきもいっぱい!
お腹も心もぽかぽかです

はい、ふそーさん!これおいしいですよ!
一口すくってすそーさんにあげるです!

ふわわ、栗ようかん…!いただきます!
ほっくりの栗とようかん…秋のぜいたくですね!

お妙おばあちゃんに差し入れ、大賛成なのです!
この栗ようかんにしませんか?
秋がぎゅっと詰まった味を一緒に食べれば、きっと元気になるです!



 足湯カフェの小さな暖簾を、黒羽・扶桑の手がかき分ける。
 先の騒動では随分とお年を召した容貌になってしまった扶桑だったが、今ではすっかり元通り。
「折角だ、どうせなら共に楽しめる場所がいいだろう」
 そんな思いで訪れた二人は、カフェの窓際、月の見える席に陣取った。
「ふわー……足がぽかぽかしてきました」
 テーブルに顎を乗せてくつろぎモード、千々岩・弥七は足を浸す湯の心地よさに、今にもとろけそうな目をしている。
 まったりと過ごす、月夜の晩。たまにはこんな過ごし方も悪くない……なんて、思っていたら。
 ぐう、きゅるるる。
「おい、チビ助。今のはお前の腹の音か?」
 隣に目をやれば、ビクッと肩をすくめて弥七が縮こまる。
「うぐっ……ふそーさんにお腹の音が聞こえちゃったです」
 どうかこれ以上鳴りませんようにと、弥七はお腹を押さえるが。
 きゅるる、きゅぴぴ~……やっぱり音は鳴り響く。
「し、仕方がないのです。腹がへってはいくさができないですよー」
 正直に答える弥七の声は、頼んだ品を待ちわびるあまり、すっかり萎んでいて。
「ははは。花より団子、月より汁粉か。ちょうど注文の品も来たようだ」
「あっ、ほんとです! いいタイミングでお汁粉がきました!」
 やっと運ばれてきた、かぐわしい香りの甘味たち。
 ふんふんと鼻を鳴らして顔を近づける弥七を、これ以上待たせるのもしのびなく。
 いただくとするか――促すような扶桑のしぐさに、弥七の目が歓喜に満ちた。

 お椀を傾ければ口の中いっぱいに広がるあずきの香り。
 豆の味そのままに甘さはほどよく、とろりと温かい温度が舌の上に広がる。
「ふわ……白玉のおしるこ、あずきもいっぱい! お腹も心もぽかぽかです!」
 もきゅもきゅと白玉を頬張っていた弥七は、この美味しさを独り占めするのがふと、もったいなく感じ。
「はい、ふそーさん! これおいしいですよ!」
「む、何だ?」
 白玉ごと掬って差し出せば、近づけられた木のさじに扶桑は首を傾げる。
「あーんのおすそわけなのです、口あけてほしいのです!」
 そこまで聞いて扶桑も「ああ」と合点がいき。馴染みが無いながらも、弥七の誘いを受け入れる。
「いつも家族とそうやって分けているのか? では、ありがたくもらうぞ」
 ぱくり。口に入った白玉は、大きいながらも中までしっかり弾力があって。
 食感を黙って味わいながら、汁粉の優しい甘みを噛みしめる。
「うむ……うむ。夜は少し冷える時期ゆえ、温かな物が身に染みるな」
 悪くない――月を眺めながら、静かに味わう扶桑だったが。
 貰うばかりではしのびないと、お返しにと自身の食べていた羊羹を半分に分ける。
「私の栗羊羹も一口どうだ? 秋の味がするぞ」
「ふわわ、栗ようかん……! 栗がたっぷりはいってるですか!」
 時に狸の姿で野山を駆け回る弥七は、栗の身の甘さをよく知る。
 落ち葉をかき分け探し当てた栗は、剥くのに一苦労も二苦労もする代物だが、それだけに、たどり着いた中の身の甘さと風合いは格別なのだ。
「いただきます!」
 楊枝で切り分けるほどの間も待てず、ぱくりとそのまま齧りつけば。
 隠したつもりの尻尾がぼわわと膨らみ、喜びを表すようにぶんぶか揺れる。
「ほっくりの栗とようかん……秋のぜいたくですね!」
 里山の味を頬張る弥七の頬に、紅葉のような色がさした。

 甘味を味わいつつ、すっかりこのひと時を楽しんでいた扶桑だが。
 ふとお妙のことが頭を過ぎる。この夜空の下、今も外にいるのだろうかと。
「なあ、弥七よ」
 はい? と隣から返る声。
「奴に差し入れでも持って行ってやろうか」
 気丈に振る舞ってこそいたが、今宵、お妙は二度目の別れを迎えたばかり。
 まだ整理のつかぬ思いもあるはずだ、と。
「お妙おばあちゃんに差し入れ、大賛成なのです!」
 ぴたり重なる二人の思惑。そうと決まれば、後は何を贈るかだ。
「何が良いだろう……歯は丈夫だろうし」
 思案顔の扶桑の袖を弥七が引っ張り、自信満々に訴える。
 もう答えは、決まっていた。
「ふそーさん、ふそーさん! この栗ようかんにしませんか? 秋がぎゅっと詰まった味を一緒に食べれば、きっと元気になるです!」
 一瞬、虚を突かれたような顔をし。扶桑は弥七の提案を快く受け入れる。
「ふむ、ではこれにしようか」
 笑みをこぼし、店員に早速包んでもらうよう手配する。
 外ならぬお前の勧めるものなら、喜ぶに違いなかろうさ、と。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

漏刻・カイカ
サインを…と不躾に行くのは気が引けるので多少時間を見てからススキの原に行こうかと
カフェは持ち帰りOKなものあるかな
袖の下…じゃない、手土産兼ねた労りというかそんな感じでお勧めのものがあれば持っていきたい

長く生きてれば偉いのか、という人もいるだろうけど俺にとっては偉いんだよ
それだけ長い間存在し続けているんだから
自分で在り続けてるんだから
そんで、オブリビオンになってもあのノリでなんだかんだ話聞いてくれて
こうやって戻ってきた先輩はやっぱすげーと思うので
「砂かけババアだから」ではなく「砂かけババアのお妙さん」のサインが是非とも欲しいと思った次第です

え、ネタ出し?ええと俺にはちょっと無理かなけろろ任せた



 あてどなく、ぶらぶらと。
 おおきな満月の浮かぶ草原に、彷徨い歩く漏刻・カイカの姿があった。
 元々、妖怪の大先輩であるお妙に会いたいと願って訪れたカイカであったが。
「サインを……っていきなり不躾に行くのは気が引けるな」
 鏡との別れを受け入れる事は、決して軽い選択ではなかったはず。
 いかに気にしなさそうなお妙といえど、多少の時間はおきたかった。
 どこで時間をつぶすか――探し歩くカイカの目に留まったのは、夜でも営業を続けるカフェだった。
 店内入ってすぐには土産物屋もあり、商品を見て歩くのに気兼ねは要らない様子。
「……持ち帰りOKなものもあるかな」
 袖の下、もとい手みやげを兼ね、お妙に労わりの心を示したい――そう考え、店先の暖簾をくぐる。
 お勧めのものがあればと店員に尋ねてみた所、妖怪たち謹製の醤油餅がおいしいと聞いた。
「じゃあ、それをひとつ」
「あいよ、まいどっ! 帰りの夜道、化かされて落っことしちまうなよ~!」
 陽気な一反木綿に見送られて店を出れば、そこにはカイカにとって心落ち着く風景――真っ暗闇が広がっていた。

 包みをさげて野原を歩けば、秋風に揺れてススキの穂が優しく足をくすぐる。
 草原に分け入れば、月を除いては何ら照らすもののない夜道。
 行きはよいよい、帰りはこわい――ここを歩けば老若男女、生まれも様々な妖怪仲間たちとすれ違えそうな気すらした。
「長く生きてれば偉いのか、という人もいるだろうけど」
 別に、誰から言われた訳でもなかったが。
 ふと思いの丈を夜空に聞いてもらいたくなり、カイカは呟く言の葉を風に乗せる。
「俺にとっては偉いんだよ。それだけ長い間いて、自分で在り続けてるんだから」
 妖怪は人の感情を食わねば生きていけない。人に忘れ去られても生きていけない。
 長い間人の記憶にとどまり続ける事の難しさ――それを理解し始めた今だからこそ、尊敬の念はいっそう強まる。
「そんでさ、オブリビオンになってもあのノリで……はっちゃけながらもなんだかんだ話聞いてくれて。こうやって戻ってきた先輩はやっぱすげーと思う」
 はたしてお妙と同じだけの、多くの人の心に留まる生き方が今の自分にできるだろうかと自問する。

 そうしてカイカの辿り着いた先には、お妙の姿があった。
 妖怪の種としての先輩の、砂かけババアだから、ではない。
 人を笑わせ愉快にその姿を留めおく『砂かけババアのお妙さん』だからこそ、直々のサインが是非とも欲しい。
「――そう、思った次第です」
 まるで、告白を告げるように。
 ざあっと月明かりに色すら溶かし、ススキのうねりが彼方へと波打った。

「……あ??」
 ――お妙には、聞こえていなかった。

「いえ、だからサインを」
「パイン?? あー、いらんいらん。わしゃ酸いのは嫌いでな」
 一文字聞き違えて綺麗にボケる。こういう時の年長者ほど手強いものはない。
 サインを……と三度言いかけたカイカを遮り、お妙は構わず話し始める。
「ところでな。お前さん、ちょいとネタ出しに付き合うてくれんかの? ほれ、現代妖怪なら街頭のテレビでお笑いくらい見た事あろうて」
 唐突な無茶ぶりに困惑し、カイカは口ごもる。
「え、ネタ出し?? ええと俺にはちょっと無理かな……けろろ任せた」
 カエルのようなお供に押し付けるも、けろろもまた無邪気に飛び跳ねるばかりで。
『おやびーん、あっしもおやびんの晴れ舞台観たいでけろ!』
「ええー……」
 天高くに座する、月は知る。
 ほとほと困った顔して月を眺めるカイカの顔を、さも楽しそうにくつくつと笑って眺めるお妙には。
 ――きっと、全ては届いていただろう、と。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ロニ・グィー
アドリブ・連携・絡み歓迎!

ねーねーおばーちゃんおばーちゃん!ねーねー!
おーばちゃんまた面白いお話聞かせてよーねーねー!
え?だってさっき聞かせてくれたお話面白かったから!
あはあははははははは!

おばーちゃんは生まれたときからおばーちゃんなの?
それとも昔は美人だったとか!え、今もそうだって?
……そうだね!!

●もっとも古く古く父無く母無き者
これはあんまり関係無いけど
長く生きれば老成するわけでもないけどじゃあ何をすれば老いたと言えるのかな
身体が衰えたとき?それとも心が衰えたとき?
そーいうのとは違うのかな?よくわかんない!
よくわかんないけど…おばーちゃんってなんだか好きだな!ボクは


ノインツィヒ・アリスズナンバー
あらやだ。いい感じの温泉じゃん☆
さっきの戦いとか、日々の活動の癒しになるわー……
老化はヤダって叫んだのはいいけど、こうしてケアもかかせないお年頃なのです☆
16歳だけどね☆

さっきめちゃくちゃお妙さんぶん殴ったけど、後で謝ったほうがいいかな……私ちゃん史上類を見ないスピードの乗ったストレートだったし。

いつか、こうしてのんびり湯につかる老後も悪くないかもしれない。
まあ今は月明かりが立派に輝いてらァ。月明かりの下、都々逸と洒落込みたいものだねぇ。
こんな夜には、落ち着いたこの景色が一番の風流かな。


祓戸・多喜
うーん温泉よさそうね!
水の上突っ走ってちょっと疲れたしちょっと温まってこようかしら。
お妙さんも気になるけどちょっとは時間置いた方が…こう、優しさ的にもネタ出しの時間的にも!

そういう訳で温泉で軽く温まって浴衣に着替えてきてからススキの原へ戻る。
妖怪御用達のお肌にいいお湯…中々ね!(よくわかってない)
お妙さんにはああ言ったんだしネタ出し手伝うわ!と。
いや一人で考えたいんだったら聞き役だけでも。
観客というか誰かの目があった方が楽しいかもだし。
ネタ出しはアタシがボケ役で色々と。
JKネタでお妙さんツッコミ役に回らせたり、その逆でも。
うん、皆が笑ってるのが一番よね!

※アドリブ絡み等お任せ🐘



 湯煙たちこめる露天風呂、空には大きく満月が映えて。
 ノインツィヒ・アリスズナンバーは、そんな絶景の湯舟に感嘆の声をあげる。
「あらやだ。いい感じの温泉じゃん☆」
 妖怪たちに人気の温泉もいまはガラガラの貸切状態。
 番組のロケでもめったに巡り会えないラッキーな状況に、ノインツィヒも思わずテンションが上がる。
「温泉、よさそうね! アタシも温まっていこうかしら」
 祓戸・多喜は鼻を器用に使って湯桶に湯を汲み、入浴前にひとかぶり。
 バシャーン! と勢いよくお湯が散り、ノインツィヒが一瞬だけ渋い顔をする。
 ここに来るまですったもんだの大騒ぎだったが、一たび湯に入れば流れて消えて。
 体はぽかぽかにごり湯の中、火照ったおでこを夜風が撫でていく。
「はぁー……癒しになるわー……」
 極楽夢心地。アイドルらしさも忘れてうっとり目を細めたノインツィヒに、多喜が「ね!」と同意の目配せを送る。
「水の上突っ走ったりしてちょっと疲れちゃったもんね!」
 入れ歯でミチミチの池を駆け抜け、老化の危機をあわや乗り切った事を思い出す。
 お妙の事も気にかかっていた多喜は、どこかで声をかけようと思っていたが、少し時間をおいた方がいいかと思い直す。
(「その方がいいわよね! 優しさ的にも……ネタ出しの時間的にも!」)
 軽く温まってから向かおうと決めたのは、お妙への気遣いでもあった。
「それにしても、妖怪御用達のお肌にいいお湯……中々ね!」
 腰までとぷんと半身浴。普通のお風呂との違いは多喜にはピンと来ないけれど、妖怪たちが良いというならきっと良いのだろう。気持ちいいし。
「ね☆ 老化はヤダって叫んじゃったけど、若くたってケアは欠かせないお年頃なのです☆」
 きらり、と笑顔花咲かせほっぺの横でダブルピース。
 可愛く決めてみせたけど、思わず「ケア」とか言っちゃったのに気づき。
「……16歳だけどね☆」
「アタシも華のJKだし!」
「「ねー!」」
 真相はきっと、お湯の中である。

   ◇    ◇    ◇

 場所は変わってススキの原。
 ネタ出しの時間を、との多喜の気遣いを帳消しにする勢いで、お妙の周りをぐるぐる回るロニ・グィーの姿があった。
「ねーねーおばーちゃんおばーちゃん! ねーねー!」
 躊躇なく絡むロニに、お妙は行く手を次々と阻まれ。
「おばーちゃんまた面白いお話聞かせてよーねーねー!」
「じゃかあしい! ちったあ黙らんかね聞こえとるわ!!」
 はじめは親戚の子を預かったつもりで我慢していたお妙だったが、息継ぎの間もなくせがむロニがさすがに煩くなったとみえる。
「そうせっつかれちゃあ、喋りだす暇もありゃしないよ! 大体何だい、そんな矢継ぎ早に! 儂のしゃべるのがそんなに滑稽かね!」
 何だいと聞かれれば、あっけらかんとしてロニは答える。
「え? だってさっき聞かせてくれたお話面白かったから!」
 無邪気な笑みに、お妙は目を丸くする。
 お妙にとっては使い古したネタでも、ロニには関係ない。
 芸術を愛する神は遠慮もしない代わり、あらゆる芸術を分け隔てなく愛していた。
「あれま……そうかい」
 気を良くしたように声を落ち着かせるお妙の隣で。
「あは、あははははははは!」
 ロニは心の昂るままに、笑い続けていた。

 浴衣を羽織った多喜がたどり着いた頃、お妙はロニを相手にしゃべり通してすっかり喉がカラカラになっていた。
「おお、ええ所に! ちょいと助けておくれ、さっきからこの子に笑いのネタをせがまれてさしもの儂もネタ切れじゃわい!」
 状況を察した多喜はあらら、と困ったように笑い、頼もしく胸をトンと叩く。
「伝えて残せば、っていったのアタシだもんね! いいわ、ネタ出し手伝うくらいなら喜んで!」
 お妙の元気が出るなら聞き役に回ってもいい――そう思っていたが、乞われたとあっては応えるほかない。
「でも、どこから手を付けよっか……まずは役回りから?」
 考え込む多喜。その横で、ふいにロニがお妙の袖口を引っ張った。
「ねーねー、おばーちゃん。おばーちゃんは生まれたときからおばーちゃんなの? それとも昔は美人だったとか!」
「こりゃ、口の利き方に気を付けんかい! わしゃ今でもカクリヨ一の美人じゃろうに」 好奇心むき出しの問いにお妙がしたり顔で答えれば、楽しそうに笑っていたロニ、ここでまさかの真顔。
 何か、ものすごく驚いたように目を見開き、一拍考えるような間をおいて。
「……そうだね!!」
「今の間はなんじゃい!」
 そのやりとりを聞いてピンときた多喜は、すぐさまお妙に声をかける。
「お妙さん、ツッコミ役ね! 絶対そっちの方が向いてるわ!」
 鏡と組む時はボケる事もあったが、ツッコミの方が切れている。そう見抜いた多喜は、自らがボケ役を請け負う事にし、早速大雑把な台本を手元のメモに書き留めていく。
「ねーねー、おばーちゃん」
「ああもう、今度は何だね」
 ネタ合わせの邪魔すらする勢いで、しつこく絡むロニへと振り向けば、彼はお妙の目をまっすぐ見てこう問いかけた。
「長く生きれば老成するわけでもないよね? 何をすれば老いたと言えるのかな」
 突然突きつけられる禅問答めいた問いに、お妙は押し黙る。
 先頃まで話をせがんでいた少年とは、思えない言葉だった。
「身体が衰えたとき? それとも心が衰えたとき? そーいうのとは違うのかな?」
 首を傾げ、無軌道に考えをめぐらすロニの中に、お妙は彼の本質を見る。
(「……ああ、そうかい。お前さんも、なのかい」)
 妖怪や化生の中にも、そういった者がいるように。
 この者は、老いの概念を知らぬ類のものなのだ、と。
「よくわかんないけど……おばーちゃんってなんだか好きだな! ボクは」
 唐突に結論づけたロニに、お妙は「わからん小僧だね、まったく」と呟く。
「さ、準備できたわ! 得意のJKネタでツッコミ追いつかなくさせたげる!」
 軽くウインクを寄越した多喜へ不敵に笑って、お妙はしみじみと頷きを返し。
「そうそう、儂とお前さんで鉄板のJK……始める前からネタばらすんじゃないよ!」
「あはははは!!」
 笑い転げたまま草むらに突っ込むロニを見送りつつ、多喜はこう声を響かせる。
 ――うん、皆が笑ってるのが一番よね! と。

   ◇    ◇    ◇

 一人きりになった湯で、ノインツィヒは静かに溜息をつく。
 さっきまで語らいの場だったこの湯も、いまは湯の注がれる音と虫の声が響くのみ。
「さっきめちゃくちゃお妙さんぶん殴ったけど、後で謝ったほうがいいかな……?」
 私ちゃん史上類を見ないスピードの乗ったストレートだったし、と。
 先程握った手の甲には、未だメリケンサックの食い込む感触が残る。
 ひとしきり暴れたお妙のこと。もう忘れていそうではあるけれど――。
 この湯を出たら、自分の気の済むようにしよう。
 そう決めてほうっと一息、迷う気持ちを夜空に溶かす。

 この大きな月を眺めていれば、色んな事を忘れられる。
 予定に追われる日々。仕事のない時期の焦り。
 手帳のカレンダーばかりを見つめていては、自分の時間など持てやしない。
 いつか、こうしてのんびり湯につかる老後も悪くないかもしれない――。
 そんな事を思いながら、無理せず自分らしくいられる生活を思う。
「まあ、今は月明かりが立派に輝いてらァ」
 雲がさし、薄ぼけた月明かりは、それでもまだ夜闇の中に木の影をあらかしむほどに明るい。
 こんな景色の下にゃ都々逸と洒落込みたいものだねぇ――気持ちよさそうに呟いて、ノインツィヒは詩を吟じる。
 着飾らず、今だけはアイドルの看板もおろして。

 こんな夜にゃ 落ち着いたこの 景色が一等 風流かな――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

呉羽・伊織
【花守】
何言ってんの姐サン、児爺と二人にしないで!?
癒されるどころか余計に疲れるから~!
ソレにホラ、姐サンは温泉の力を借りるまでもなく美肌デショ?

(つっこまれた饅頭にむぐっとなりつつも、何とか方向転換出来て一息
――ついたのも束の間、ぱわるふ老人会再びの気配にまた及び腰気味で)
や~、お妙サンさっきぶり!
良かったらこの元気有り余ったボケ倒し児爺を練習相手に使ってやって!
(その隙にオレは姐サンと――とかいう淡い期待なんてしてないヨ)(する前に粉砕されたともいう)

…いや二人して元気過ぎて体力も突っ込みも追い付かないな!?
ああ、でも悪かないな!(笑いつつ――この調子で、ネタも笑顔も絶えぬ良い千歳を、と)


花川・小町
【花守】
それじゃ私は美肌の湯を楽しんでくるから、貴方達もどうぞごゆっくり
――伊織ちゃん、褒めてくれるのは良いけれど目が泳いでるわよ?
(二人してこれ以上色々と喧しくなる前に、そっと温泉饅頭を口に押し込み黙らせて)

仕方ないわね
それじゃ温泉は後でお妙ちゃんを口説いて誘うとして――その前に月見がてら、新ネタ老人会にお邪魔するとしましょう
(変に重苦しくならないようにのんびりと――せめて少しでも気分転換になれば――と思いつつ)
ふふ、お妙ちゃん、私は漫才序でにその元気と美容の秘訣を伝授頂けると嬉しいわ(伊織ちゃんはスルー)

本当に見事なこと
――でも悪い疲労感ではないでしょう?(笑みながら同じ祈りを心の内で)


重松・八雲
【花守】
儂は腹も減ったしかふぇで御褒美たいむに行きたい!
腰も若干痛む気はするが、腰に腹は代えられぬじゃろ!
ほれ行くぞ皆…(むぐ!からのもぐ!であっさり満足顔)

こりゃ中々美味いのう!
うむ、折角じゃしお妙殿にも差入れてのんびり月見も良いな!
それにあの元気や勢いは見習いたい――ひとつ稽古をつけて頂きたいところでもある!
(そんな訳で意気揚々と温泉饅頭を月見団子代わりに持って行き)
頼も~う!お妙殿、再びお相手願おう!
今度は気楽に話し相手としてじゃがな!

儂は漫才の話はようわからんが、小町のつっこみ(物理饅頭)は中々じゃったぞ
若いもんに負けてはおれんよのう!

(――笑いに笑って少しでも何か晴れる所があれば!)



 しゃらんら、と唄う様な足取りで草履の靴音響かせて。
「それじゃ私は美肌の湯を楽しんでくるから、貴方達もどうぞごゆっくり」
 花川・小町の姿が、温泉旅館の中に消えゆこうとして。
「何言ってんの姐サン、児爺と二人にしないで!?」
 本日幾度目かも分からない悲鳴が、呉羽・伊織の喉からあがった。

 何を言っているのかしら、ととぼけるような目に「癒されるどころか余計に疲れるから~!」と懇願するような声をあげ。
「ソレにホラ、姐サンは温泉の力を借りるまでもなく美肌デショ?」
 伊織は上目遣いでご機嫌を伺った、つもりだったが。
「――伊織ちゃん、褒めてくれるのは良いけれど目が泳いでるわよ?」
 ああ、ほらまた、にべもない返し。
 美人というのは褒められ慣れているだけに、安いおだてには乗らないのだ。
「儂は腹も減ったしかふぇで御褒美たいむに行きたい!」
「児爺は年がら年中ご褒美たいむデショ!?」
 重松・八雲が豪気に笑えば、野郎二人むさ苦しくカフェデートを阻止すべく伊織が全力で引き止める。
「大体児爺、今日もう随分と暴れたじゃないのサ! だからそろそろ、ね? 宿でゆっくり休んだ方がいいんじゃないのかな~……って!」
 心こめて(?)の伊織の訴えには、うむと八雲も腰をさすり。
「気遣い痛み入る! 腰もまあ、若干痛む気はするが、腰に腹は代えられぬじゃろ!」
「気遣いチガウヨ!!」
 涙目でキャンキャン吠えるような伊織の声に、だんだんと小町の眉間が皺をよせ。
「ほれ行くぞ皆……むぐっ!!」
「姐サごふっ!?」
 小町、温泉饅頭を二人の喉奥へつっこみ饅頭。これ以上色々やかましくなる前にと、力ずくで黙らせた。
「仕方ないわね……それじゃ温泉は後でお妙ちゃんを口説いて誘うとして」
 手をパンパンと、一仕事終えたとばかりに粉を払えば、やった、泥沼回避! と伊織が表情を輝かせ。
「その前に月見がてら、新ネタ老人会にお邪魔するとしましょう」
 もっと酷い底なし沼の予感に急転直下の形相をする伊織の隣、八雲がもぐ! と饅頭を頬張り飲み込んだ。
「うむ、折角じゃしお妙殿にも差入れてのんびり月見も良いな! しかし、こりゃ中々美味いのう!」
「待って児爺、なんでそっちに心変わりすんのサ!?」
 八雲が一票投じれば、二対一で行き先はほぼ決まり。伊織が引き止めるも、意気投合した老人の決意は止められず。
「それにあの元気や勢いは見習いたい――ひとつ稽古をつけて頂きたいところでもある!」
 そう元気にのたまい、温泉饅頭を手土産にと買い求める八雲に、がくりと伊織が項垂れた。

   ◇    ◇    ◇

 月夜の草原に、快活な爺やの声が響く。
「頼も~う! お妙殿、再びお相手願おう!」
「また来たのかい、性懲りもない! さっき頭にこさえた団子じゃ足りなかったと見えるね!」
 わしゃもう暴れるほどの元気はないよ! とお妙が振り返れば、八雲はいやいやと首を振り。
「今度は気楽に話し相手としてじゃよ! ほれ、きちんと食える団子……あいや、饅頭も持ってきたでな!」
 いって包みを差し出せば、「おぅや、あの旅館の……!」とお妙も目を輝かせる。
「や~、お妙サンさっきぶり! 良かったらこの元気有り余ったボケ倒し児爺を練習相手に使ってやって!」
 先の剣幕がまだ忘れられないのか、及び腰の伊織は口元が引きつっており。
 けれどここで引いてはならぬ、ピンチをチャンスへと勇気を奮い立たせる。
「そして」
「お妙ちゃん、私は漫才序でにその元気と美容の秘訣を伝授頂けると嬉しいわ」
 矢の如き速さで先手を打たれ、小町とお妙に先約が入る。
 袖を口元にあてがいふふっと笑う見返り美人に、伊織も合わせて曖昧スマイル。
 オレは姐サンと――なんて淡い期待は、キラキラ涙と共に夜空に儚く消えていく。
「やれ、まったく。今夜は随分と賑やかな夜だねぇ!」
 寂しく一人晩酌をする間もありゃしない、と。
 口ぶりとは裏腹に、お妙の声には喜びの色が滲んでいた。

 夜が更け、空気が冷え込んでなお、月は変わらぬ大きさで輝き続け。
 時間の経つのを感じさせない眺めは、お妙たちの宴に拍車をかける。
「儂は漫才の話はようわからんが、小町のつっこみは中々じゃったぞ!」
 息巻いて語る八雲は温泉饅頭を手に取り、伊織の首根っこを捕まえて。
「どれ、これをこうして……角度を……」
「実演はヤメテ!? てか児爺もつっこまれた側じゃないのサ!!」
 ツッコミ(物理)を再現しようとする八雲の手から伊織が辛くも逃れれば、お妙はひっひっと腹を抱えて笑う。
「こいつは愉快だねぇ! 儂もひとつ、隣町のタキちゃんと組んで試」
「試しちゃダメ喉詰めちゃうからー!?」
 お餅でなくとも食べ物は切り分けて少しずつ、よく噛んで。無理はダメ、絶対に。
「しかし……鏡抜きでとなると、儂も芸風を改めにゃならないねぇ」
 漫才は二人でいて成り立つもの。
 お妙のツッコミは冴えてこそいたが、誰かがボケてくれねば披露のしようがない。
「うむ? お妙殿が一人で兼ねてはいかんのかの?」
 笑いを知らぬ八雲はあっけらかんとして言ったが、その言葉に背を押され。
「それもそうじゃの! ここはひとつ落語家に転身するとしようかい、ひっひ!」
 さも楽しそうに笑うお妙の表情は、もはや相方を失った老婆のそれではなく、新天地で新たな生き方を探す陽気さに満ちていた。
「そうさの、最初のお題目は……おお、閃いた! 饅頭くわばら、じゃ!」
「……お妙ちゃん」
 真剣な声して呼び止める小町に、お妙がそちらを見れば。
「そのお題は、やめた方がいいわ」
 後に小町は語る。なんとなく止めないといけない気がしたの、と。

   ◇    ◇    ◇

 それからというもの。
 見た事のない世界の話を聞きたがるお妙に、八雲は武勇伝を語り聞かせ続けた。
「そしてじゃ! ざばんと出た鰹をざぶんと追い込みトマトと煮て――おでんじゃ!」
「ひっひっ、何だいそりゃ! そんな奇怪なのはカクリヨでも見た事ないわい!」
 もはやテンションの上がった二人の間でしか分からぬ言語が飛び交っていて、盛り上がる老人会を止める事など出来そうにない。
「……いや二人して元気過ぎて体力も突っ込みも追いつかないな!?」
 途中までお目付け役だった伊織は息を切らせてへたりこみ、常識人寄りの自身の立ち位置を少し恨めしくも思ったが。
「本当に見事なこと――でも」
 小町がふとこぼした声に、そちらを見る。
「悪い疲労感ではないでしょう?」
 はんなりと微笑むその口元に、宿る思いを感じ取り。
 伊織は染み入るような顔して、夜空を見上げる。
「ああ、悪かないな!」
 笑い転げては続きをせがむお妙も、すっかり心晴らす事ができたに違いない。

 ネタも笑いも絶えぬ、良い千歳を。
 そう願う伊織たちの、賑やかな笑い声が――いつまでも夜空に響いていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2020年10月18日


挿絵イラスト