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心中デヱト

#サクラミラージュ

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#サクラミラージュ


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●死の間際、その心
 どの瞬間の心が一番美しいのかと男は考える。
 誰かを思って涙する瞬間。
 人を憎む瞬間。
 人を愛する瞬間。
 自己を犠牲にしようとする瞬間。
 死に際に宿る得も言われぬその甘美な瞬間。
「ああ、ならば想う者への気持ちで心を満たして死ぬ瞬間はどうだろうか」
 それはぜひとも試してみなくてはならない、男は楽しそうに笑った。

●グリモアベースにて
「ちょいと心中してきてくれないか」
 そこまで買い物に行ってきてくれないか、と言うくらいの気軽さで深山・鴇(黒花鳥・f22925)が言った。
「とある場所に向かった人々が心中する、という予知が出てな」
 それはサクラミラージュ、帝都で行われる灯篭祭の夜に不思議な招待状を受け取った者だけが辿り着ける庭園で起こるのだと、鴇が告げる。
「招待状を受け取った者達から、その招待状は回収したんだが……回収したところでまたばら撒かれるだけだろう」
 いたちごっこにしかならない、そこで、だ。
「この回収した招待状を持って、灯篭祭に行ってきて欲しい」
 この日行われる灯篭祭は、石畳の古風な街並みの小路に紙で作られた箱型の小さな灯篭が幾つも並べられ、それが川まで道案内するかのように続いているのだという。
 歩く人々は幻想的な灯りを楽しみながら、川へ向かうのだ。
「灯篭祭には小物を売る露店も出てるから、眺めるのもいいと思うぜ」
 夜店のように賑やかな雰囲気ではないけれど、食べ物を売る露店もちらほら。
「全体的にしっとりとした祭だが、並ぶ灯篭の数はかなりのものだから見る価値はあるだろうな」
 そして川では、願いを籠めて人々が流す灯篭がゆらゆらと煌いて、それもまた幻想的で美しい。
「楽しんだあとは普通に帰るだけでいい、招待状を持ってさえいればいつの間にか影朧が潜む庭園に辿り着くだろう」
 ここからが本題だ、と鴇が笑う。
「この場に潜む影朧は人の心を花の形にして盗み取る、という影朧でな」
 盗られてしまえば、その花を取り戻さぬ限り衰弱して死んでしまう。そして今、この影朧――『花盗人』が狙うのは『想う者への気持ちで心を満たして死ぬ瞬間』の心なのだという。
「一番手っ取り早いのは心中だ。もちろん、本当に死ぬわけじゃなく死んだフリでいい」
 簡単に言ってしまえば、心中ごっこでいいのだ。
「一人でも、既に愛しい人を殺してきたとか、殺せなかったけれど死んであの人の元へ、病や事故で死んでしまった相手と添い遂げる為……なんて設定でもいけるみたいだな」
 要は死ぬ間際にどれだけ相手を想っている素振りができるか、というのがポイントらしい。相手への想いは愛憎問わず、性別も問わない。
「死んだフリをすればすぐに影朧が花を取り出そうと姿を現すだろうから、そこを叩けばいい」
 鴇が回収した招待状を手に、猟兵達へ笑い掛ける。
「灯篭祭へ行き、こいつを持ったまま帰路に就く。その途中で辿り着いた庭園で心中ごっこをして出てきた影朧を叩く……簡単な話だろう?」
 それではよろしく頼むと話を締め括ると、鴇が道を開く為にグリモアに触れた。


波多蜜花
 閲覧ありがとうございます、波多蜜花です。
 今回の舞台はサクラミラージュとなります、第一章はイベシナ感覚でお楽しみいただければと思っておりますので、一章だけのご参加も歓迎しておりますのでお気軽にどうぞ!

●第一章:日常パート
 サクラミラージュの何処かで行われる灯篭祭です。
 趣きのある石畳の大通りや小路に小さな灯篭が道案内のように並べられています。どのような道を通っていくかはご自由にお考え下さい。
 大通りには小さな露店が幾つかあり、和小物等があります。場の雰囲気にあっていれば、どのような品物が並んでいても構いません。購入したアイテム等の発行はございませんが、RPの一助にしていただければと思います。
 飲食を売る場もありますが、こぢんまりとした規模になっております。こちらも、場の雰囲気に合っていれば何を購入しても大丈夫、成人済みであればお酒も可能です。
 最終的に辿り着くのは橋の掛かった川で、灯篭を流すこともできます。
 プレイング受付前に断章を挟みます。
 恐れ入りますが、受付期間前のプレイング送信は流してしまう可能性が非常に高くなっております。断章が入り次第受付期間をお知らせいたしますので、MSページをご覧ください。

●第二章:冒険パート
 彼岸と此岸が混じり合う、影朧が誘い込む庭園です。
 POW/SPD/WIZは気にせず、思うような心中ごっこをしていただければと思います。OPにもあります通り、お一人様でのご参加も可能ですので色々考えるのも楽しいかもしれません。勿論、多人数様でのご参加も歓迎しております!
 心中相手は異性同性性別不明、複数を問わず、相手への感情も愛でも恋でも憎悪でも問題ありません。
 プレイング受付前に断章を挟みます、受付期間などはMSページをご覧ください。

●第三章:ボス戦
 年齢不詳、物腰の柔らかな影朧『花盗人』との戦闘になります。
 心中ごっこをした人の前に順に現れますので、思うようにプレイングをお考え下さい。
 転生は説得ができれば可能かと思います。
 プレイング受付前に断章を挟みます、受付期間などはMSページをご覧ください。

●同行者がいる場合について
 同行者がいらっしゃる場合は複数の場合【共通のグループ名か旅団名+人数】でお願いします。例:【灯3】同行者の人数制限は特にありません。
 プレイングの送信日を統一してください、送信日が同じであれば送信時刻は問いません。

●その他
 成人していれば、飲酒喫煙は可能です。飲酒と喫煙に関しましては、今回に限りまして歩きながらも可能とします(人がまばらにいる、というイメージなので)
 未成年者の飲酒喫煙、公序良俗に反するプレイングなどは一律不採用となりますのでご理解よろしくお願いいたします。
 浴衣でのご参加も歓迎しております、その際は指定があれば今年の浴衣とか去年の浴衣とかお書き添えください。浴衣はお任せとかも大丈夫です。
 それでは皆様の素敵な物語をお待ちしております!
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第1章 日常 『灯桜浪漫譚』

POW   :    狭い裏路地へ

SPD   :    川にかかる橋へ

WIZ   :    桜咲く公園へ

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●灯篭祭のその夜に
 空は黄昏色から夕闇色に、夜の帳が下りていく中あちらこちらで灯篭に灯りが点いた。
 路の左右にずらりと並んだ灯篭に、ひとつひとつ丁寧に家の前の者が火を灯していく。順繰りに灯されるそれは、道案内の役目も果たしているのだろう。どの路から入っても、最後は必ず灯篭を流す川へと続いているのだ。
 灯篭が灯っていく中、露店の店先にも灯りが吊るされる。川へ向かう人々の冷やかしを期待して、石畳に敷かれた布の上に小物が置かれていた。
 そうしているうちに、すっかりと夜の帳が下りて夜空にも灯りが点いた。
 今宵の天気は上々、どうぞ皆様お誘いあわせの上、灯篭祭においでませ――。
有澤・頼
テオドア(f14908)と一緒に

「心中ね…」
そんなことを考えたこともあったな。

【WIZ】
桜咲く公園に向かっていくよ。
灯籠は綺麗だし、出店もあって雰囲気は最高だよね。
和小物も可愛くて良いけど、やっぱり食べ物が良いな。
たこ焼き、イカ焼き、じゃがバター…あと唐揚げも!お祭りの出店の食べ物ってなぜかみんな美味しいんだよね。

「本当に素敵だよね…」
テオがもう少しゆっくりしていこうかって提案している。
そうだね、もうちょっとだけゆっくりしていこうかな。


テオドア・サリヴァン
有澤頼(f02198)と一緒に。

(一緒に死ねたら良かったと考えたこともあったな)
それはあくまで過去の話だがな。

【WIZ】
頼と共に桜咲く公園へと向かうぞ。
この雰囲気は俺は好きだ。灯籠といい、出店のといいなかなか良いな。
頼は小物より食べ物に夢中のようだな。戦闘前の腹ごなしだそうだが、自分が食べたいからじゃないのか…?
確かに出店の食べ物は美味しいが俺は酒が飲みたい。だが、戦闘前に飲むのも気が引けるな。戦闘が終わったら飲むか。

「頼、もう少しゆっくりしていくか?」
楽しんでいる頼を急かすのも気が引けるな。あいつが嬉しそうな顔もしてるし、もう少しだけこの雰囲気を楽しんでいこう。



●桜と灯篭
 サクラミラージュといえば、年中咲き誇る幻朧桜。この灯篭祭が行われている場所でも、あちらこちらで幻朧桜が咲いているのが見える。舞い散る花弁は灯篭の灯りを受けて、より一層美しいものに感じられた。
 灯篭が飾られた路を有澤・頼(面影を探す者・f02198)とテオドア・サリヴァン(ダンピールの妖剣士・f14908)が静かに歩く。その途中、頼がテオドアの名を呼んだ。
「テオ、あそこに寄ってもいい?」
 頼が指さした先には、和小物の並ぶ露店が見える。
「いいぞ」
 構わない、と頷いたテオドアに笑って、頼が露店で立ち止まった。
 いらっしゃい、と声を掛けてくれた店主に頷いて、幾つか手に取って眺める。どれも可愛くて素敵だと思うけれど、いまひとつ決め手に欠ける。これはもう頼の好みだから仕方ない、と店主に礼を言って露店を離れた。
「買わなくて良かったのか?」
「どれも可愛くていいなと思ったけど、決め手に欠けてね。それにどうせなら、食べ物がいいな」
「小物より食べものか」
「こういう所でしか食べられない物もあるからね」
 たこ焼き、イカ焼き、じゃがバター、お好み焼きに焼きそば、どれもこれもお祭りで食べるものは美味しいと言いながら、頼が立ち寄ったのは唐揚げの出店だ。
「おじさん、ひとつ」
 毎度! と、人の良さそうな笑みを浮かべて唐揚げ屋台の店主が頼にカップに入った唐揚げを渡してくれる。それを受け取って、頼はまた歩き出す。
「……酒が飲みたくなるな」
「買えばいいのに。あそこに売ってるよ?」
 テオドアが零した呟きに、頼が指をさす。その先には日本酒とビールだろうか、酒と書かれたのぼりが風にはためいていた。
「いや、戦いの前に飲むのは気が引ける」
「戦闘前の景気付けになるかもだよ? 私のこれは戦闘前の腹ごなし!」
 自分が食べたいだけだろう? とテオドアが視線を向けたけれど、頼はどこ吹く風だ。
「ねえ、テオ」
「なんだ?」
「公園に寄っていってもいい?」
 灯篭が続く路の途中、桜が咲く公園を見つけて頼が言う。
 自分を見上げてそう言う頼に、テオドアは駄目だと言うつもりはなかった。
「ああ、寄って行こう」
 二人で立ち寄った公園にも、灯篭が飾られている。桜と相まって、幻想的ともいえるその雰囲気に頼がぽつりと呟いた。
「心中ね……」
 心中、今回の依頼のことを指しているのか、過去にそう考えたことを指しているのか。言葉には出さず、一緒に死ねたら良かったと考えたこともあったな、とテオドアは思う。
 あくまでも過去の話だけれど、きっと幻想的な灯りに照らされた桜の下で二人は同じことを考えている。溜息は、つかない。
「さ、唐揚げ食べよう!」
 頼がくるりとテオドアを振り向いて、冷めないうちにと唐揚げを一つ自分の口へと放り込む。
「ん、おいひい!」
 行儀が悪いと言う前に、頼がテオドアの口に向けて唐揚げを差し出す。思わずそれに食いついて、テオドアも小さく美味いと頷いた。
 食べ終わったゴミを頼から奪うように受け取ってテオドアがゴミ箱に捨てて戻ってくると、頼が桜を見上げたまま楽しそうに呟く。
「本当に素敵だよね……」
「頼、もう少しゆっくりしていくか?」
 本当はそろそろ行くかと言おうとしていたのだけれど、頼の嬉しそうな顔を見てしまってはもう少しだけこの雰囲気を楽しんでもいいかとテオドアは頼を見る。
「いいの?」
 思わぬテオドアの提案に、頼が嬉しそうにその顔を綻ばせた。
「ああ、もう少しだけな」
「ありがとう!」
 もう少し。あともう少しだけ、このままで――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ステラ・エヴァンズ

【WIZ】今年の浴衣で参加
心中してきてくれとは…まぁ、お一人様参加なのですけれど
フリとは言え旦那様は私が死ぬところなんて見るの嫌がるでしょうから
むしろ反対される可能性も……なので、お忍びなのです

などと大通りを通って川まで向かいつつ、
露天でも巡ってお土産でも買っておきましょうか
そう言えばまだ夫婦茶碗買ってないのですよね…しかし、後の事を考えますと陶器はまずいですか
うーん、他に……ぁ、お箸
いいですね、家族おそろいにできますし柄がついていたりするのが大変雅です
とまぁ、嬉々として桜柄のお箸を家族四人分買っておきましょうか

ふふ、それにしてもこれから心中しようなどと言う人の行動にはとても思えませんね



●お忍び灯篭
 かつん、とヒールの音を鳴らし、ステラ・エヴァンズ(泡沫の星巫女・f01935)が灯篭の並ぶ石畳を歩く。瑠璃色に杜若色のストライプが入った浴衣に大きめの水玉が揺れている。締めた帯に真珠の帯紐を結び、帯留めは黒のリボン、そしてそれに合わせたような黒の手袋とブーツ。アクセントに白いショールと帽子を被った、モダン風な装いだ。
「いつもと違った格好だと、なんだか浮かれてしまいますね」
 依頼の内容は心中してきてくれ、というなんともまぁ物騒なものであったけれど、これも猟兵の務めとステラは下げた巾着バッグを軽く揺らして頷く。
「まぁ、お一人様参加なのですけれど」
 誘えば来てくれたであろう旦那様のことを思いつつ、幻想的な灯りが揺れる大通りを歩く。誘わなかったのは、ひとえに自分の死ぬところを見るのは嫌がると思ったからだ。
 むしろ、反対される可能性の方が高い。だからお忍びなのです、とくすりと笑うようにステラが微笑んだ。
「でもまぁ……私も」
 できれば、フリとはいえ旦那様が死ぬところなど見たくはないです、と独り言ちる。少し歩くと、灯篭が途切れて露店が見えた。
「少し見ていきましょうか」
 誰に言うでもなくそう言って、ふらりと見てみれば陶器を扱うお店で、お茶碗や湯飲み、お箸と箸置きが置いてあり、そういえば……とステラが夫婦茶碗を手に取った。
「まだ夫婦茶碗買ってないのですよね……」
 結婚したのは文月の頃だから、二ヶ月近くいつものお茶碗を使っていることになる。別に慌てて買うようなものでもないのだけれど、形から入るのも悪くはない。もっと言えば、お揃いの物というのは好いた人との物であればなんでも嬉しいのだ。
 でも、と手にした茶碗を元の場所に戻す。この後のことを考えると、陶器を買うのは少し躊躇われる。大暴れをするのかと言われれば、違うとも言い難い。影朧相手の大立ち回りをする予定なのだから。
「うーん、他に……ぁ、お箸」
 夫婦箸にも心惹かれたけれど、その横に並んだ模様が揃いの箸にステラの目がいった。
「いいですね、家族おそろいにできますし」
 揃いの桜柄がとても雅だとステラが黒地、青地、赤地、橙地の箸をそれぞれ手にする。
「旦那様はやっぱり黒として……私は青、あの子は瞳が橙色ですし、あの子はよく赤色のアクセサリーをしていますし……うん、これにしましょう」
 手の中で四つ並んだお箸は自分達家族のようで、ステラの頬に笑みが浮かぶ。包んでもらい支払いを済ませると、大事そうに巾着バッグの中に入れた。
 お礼を言って露店を離れ、また桜舞う大通りを灯篭に導かれるままに歩く。
「ふふ、それにしてもこれから心中しようなどと言う人の行動にはとても思えませんね」
 死ぬ人は自分と家族の分のお箸なんて買いませんからね、と楽しそうに笑うのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

馬県・義透
四人で一人の複合型悪霊。生前は戦友だが…?

第二『静かなる者』霊力使いの武士
一人称:私/我ら 冷静沈着

着流し姿のまま。
灯篭とは、どこの世界にあっても綺麗な物ですね。灯が点っているのならば、なおさら。
道なりに進みつつ、その光景を楽しみましょう。

…ところで、『侵す者』と『不動なる者』。着いたらしばらく眠っていてくださいお願いします。
疾き者「私はいいのですかー?」
…構いませんよ。どうせばれるでしょうから。

※『静かなる者』が最年少(42)、『疾き者(のほほん唯一忍者)』が最年長(50)で、一番付き合いが長い(33年)です。



●四辻灯篭
 紺色の着物に櫨染の半襟を覗かせた、着流し姿の男――馬県・義透(多重人格者の悪霊・f28057)が灯篭の灯りに誘われるように歩く。
「灯篭とは、どこの世界にあっても綺麗な物ですね」
 人の良さそうな笑みを浮かべ、常に閉じられたような目は笑うと一層細くなって灯篭へと向けられる。どこまでも続いているかのような温かな光りを眺め、道なりに進むことにした。
 時折、灯篭の間に挟むように開かれている露店を覗き、何があるのかと興味深げに店主に声を掛ける。特に買うものはなかったけれど、静かな夜に知らぬ者と声を掛け合うのは存外楽しいものだ。
 礼を言って露店を離れると、他の客が露店に足を止める。サクラになれたのならば重畳と、また石畳の路を歩きだした。
「ああ、そうだ」
 思い出したように、義透が誰もいない小路に入る。それから、独り言とはまた違う声で言った。
「『侵す者』と『不動なる者』。着いたらしばらく眠っていてください、お願いします」
『仕方ないの』
『承知』
 何処からともなく、義透に向けて声が響く。けれど、彼の周囲に人はいない。
「頼みます」
『私はいいのですかー?』
 また、声がした。
 その声に臆することなく、否、その声を当たり前のように受け止めて義透が頷く。
「……構いませんよ。どうせばれるでしょうから」
 戦場となればね、と義透が笑えば、それもそうだとまた声がした。
 誰か他の者が見ていれば、独り言を言っているように思うだろう。けれど、そうではなく。馬県・義透という男は四人で一人の複合型の悪霊なのだ。
 四人が集まり一人の悪霊となった、ならば入れ替われば違う人物が現れるのが道理。話し方も性格も違うとなれば。
「多重人格に思われることもありますが……仕方のないことです」
 そんなことは些末なことである、と歩を進めると四辻に出た。
「灯篭はこちらに続いていますね」
 四つの路が交わり、繋がる。
 まるで我らのようじゃないですか、と楽し気に義透が笑って、灯篭が続く路を行く。
 選ぶ先はどうなるかわからずとも、それが昏い路行であったとしても、我らが共にあればそれでいいと四つの笑い声が灯篭の灯る小路に響いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

黒鵺・瑞樹
アドリブOK
POW

大通りを露店を眺めながら進む。
だいぶ伸びた髪に髪留めとか欲しいけど華美なものより、単純に髪結い紐とかで良いものがあるといい。
無ければないで今日は縁がなかっただけ。
露店が切れたタイミングで探検がてらすこし小路へ。
傍から見ればかなりふらふらした変な動きだろうけど、こうした機会にできればたくさん見ておきたい。だって人が怖くて仕事でないと出歩く事をやめてしまったから。

さらにこの間の事(残響~)でどうにも精神的に不安定さを感じるし。
時折、自分の心とか感情がわからなくなる。
あの時の何もない自分が顔を出してしまう。それはとても怖くて、嫌な事でもいいから思い出して自分の心を繋ぎ留めてる。



●揺心灯篭
 灯篭の並ぶ大通りを臨み、黒鵺・瑞樹(界渡・f17491)が小さく息を吐く。人通りはまばらではあるが、灯篭の先を目指して歩く人はそれなりに見受けられた。
 灯篭の灯りが時折途切れたように見えるのは、そこに露店が出ているからだろう。夏祭りのような規模ではないが、飲食を売る店も見受けられる。
「良い物があるといいが」
 少し長くなり過ぎた髪に指先で触れ、髪留めがいいと考えながら石畳を踏んだ。
 一つ目の小物を扱う露店はどちらかというと華美な物が多く、女性向けの品ばかりで軽く覗いただけで店を離れる。次の露店は装飾品、帯留めや和風のアクセサリーが多く、望むような髪留めは見当たらなかった。
「うーん、意外に難しいものだな」
 単純に髪結い紐とかでもいいのだが、これという物には行き当たらない。
「無理して買うこともないけどな」
 こういう物は縁だ、見つからない時はどれだけ探しても納得のいく物は見つからないし、見つかる時は一件目で見つかったりするのだ。
 今宵は縁が無かったということかな、と思いながら灯篭に導かれるように小路へ入ると、もう一件露店が出ているのが見えた。
「この店で最後か」
 この先は露店らしい灯りは見えない。一応覗いてみようかと、瑞樹は軽く店主に声を掛けて露店に並ぶ品物を見ることにした。
 店主はいらっしゃい、と声を掛けたきり、こちらの邪魔をする気……と言えば聞こえが悪いだろうか、あれやこれやと世話を焼くわけでもなく丁寧に煙管を磨いている。
 置かれた小物は落ち着いた雰囲気の帯留めや髪留めで、簪などがメインのようだった。
「簪は持っているしな……」
 海で見つけた螺鈿細工の簪を思い出し、やはり髪紐にしようと思い立つ。露店の端に纏めるように置かれている髪紐を手に取り、一本ずつ見ていく。どれも紐の終わりが房状になっていて、上品な仕上がりだ。
 その中でも瑞樹の目を惹いたのは鬱金色をした髪紐で、房に切り替わる部分に玉飾りが付いている物だった。
「……これにしよう」
 店主に言うとすぐに包んでくれて、代金を渡して瑞樹が店を離れる。渡された包みを懐に仕舞い、再び灯篭を道案内に歩き出す。
「ふう……」
 思わず出た吐息に、存外自分が緊張していたことに気付く。自嘲するように小さく笑って、ゆっくりと石畳を歩く。
 今宵こうして出歩いているのは仕事の一環だからだ、そうでなければ自分は出歩かない。人が、怖くなってしまったから――。
「それでも、仕事と言えど外に出歩けるだけマシなんだろうな」
 先日受けた仕事の折に己の狂気の一端と触れてから、今までになく精神的に不安定になっていると自分でも感じている。時折、自分の心と感情がわからなくなるのだ。
 何もない自分が、感情もなにもかも無い人形のような自分が顔を出すのが怖い。嫌なことでも、なんでもいい、感情を喚起させる記憶を呼び起こさねば自分の心を繋ぎ止められない。
「でも、今日この髪紐を良いと思ったのは間違いなく俺だ」
 それに、目の前に広がる灯篭だって美しいと思う。そう思えるうちは、まだ大丈夫だと瑞樹は自分に言い聞かせ、灯篭の灯りだけを頼りに川を目指して歩いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

四天王寺・乙女
黒い浴衣を着て、ゆっくりと風景を見ながら歩く。
「このような風情のある祭を影朧に邪魔されてはな」
帯に差した七星剣が(空気を読んで)淡く輝くのを見て
「……おまえもそう思うか。では、気合を入れて働かねばならん」
露店で菓子を買い、大通りから桜咲く公園へと移動する

「しかし心中、心中と来たか……ふむむ」
とても悩ましい。
何故なら恥ずかしながらこの乙女、未だ恋を知らぬ!心中する相手など思いつかぬのだ!
「恋愛、思慕、尊敬……恋に限らずとも、心中する相手、相手なあ……」
うむむむ。

「……概念とか、国とか、そういうものでもいいのだろうか?」



●乙女灯篭
 カラン、コロン、と石畳を鳴らすのは黒地にモダンな白の幾何学模様をあしらった浴衣に、藤黄色の帯を締めた四天王寺・乙女(少女傑物・f27661)だ。
 颯爽と、それでいてゆっくりと歩く姿は普段の黒い制服姿からもわかるように凛としていて可憐であった。……帯に、七星剣を差していたけれど。
「灯篭祭と聞いて思わず来てしまったが、風情のあるいい祭だな」
 この祭りに参加した者が心中する、などと影朧のせいで面白おかしく新聞が書き立てるような事件になるのはごめんだと、乙女が小さく呟けば七星剣が淡く輝く。空気を読む、良い剣である。
「……おまえもそう思うか。では、気合を入れて働かねばならん」
 そう、気合を! まずはこの灯篭祭を楽しむとしよう、と乙女が露店へと立ち寄った。
 露店に並べられていたのはUDCアースであれば、昔懐かしいと形容されるであろう駄菓子の数々。見目の良いどんぐり飴に、ころんとした可愛らしい麩菓子、ラムネ菓子に作りたてのカルメラ焼き……どれも乙女の心を擽る品ばかり。
「む……これは迷うな」
 迷った時こそ全部買い、余った物は日を改めておやつにすればいいのだ。
 丁度良いことにこの露店は量り売りのようで、カルメラ焼き以外は金魚袋と呼ばれる袋に好きなだけ入れて買うことが出来た。
 片手に色とりどりのお菓子が入った金魚袋、片手にカルメラ焼きが入った紙袋を持って大通りから見えた桜の咲いている公園へと向かった。
 公園にも灯篭が飾られ、桜と相まって幻想的な姿が映し出されている。ブランコに座り、軽く揺らしながらカルメラ焼きを齧った。
「ああ、これだ、この味」
 ザラメの甘い味、癖になるような味だ。いつものキリッとした表情を綻ばせ、最後まで食べ切る。うむ、満足! とばかりに立ち上がり、ゴミを捨てると桜を見上げた。
「しかし心中、心中と来たか……ふむむ」
 悩ましい。
「心中とはあれだろう、あの、結ばれぬ男女が来世を思って共に死ぬという」
 それだけではないけれど、一般的に心中と言われると思い浮かぶのはそれだ。
「いや困った」
 何をそんなに困っているのかといえば、この世に生を受けて十五年、恥ずかしながらこの乙女――未だ恋と言うものを知らぬのだ。
「心中する相手など、思いつかぬ!」
 フリで良いのは分かっているが、フリであっても手を抜かないのが! この! 乙女である!
「恋愛、思慕、尊敬……恋に限らずとも、心中する相手、相手なあ……」
 うむむむ、と唸りながらも真剣に悩んでいる乙女がなんとか捻り出したのがこちら。
「……概念とか、国とか、そういうものでもいいのだろうか?」
 閃いた! とばかりに乙女が舞い散る花弁を手に掴む。国といえば民だ、民がいなければ国とは言えない。つまりそう、国とは心中相手として文句の付け所のない相手、この国と心中する気持ちで、という言葉も聞いたことがある。
「よし、私の心中相手は国に決めた!」
 待っていろ、影朧! 乙女の高々とした宣言を灯篭の灯りと舞い散る桜、それから腰に差した七星剣だけが見守っていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

アリステル・ブルー
【月影2】◎
ちょっと心中してきてってなかなかインパクトがあるね
予知は阻止しなきゃ行けないけど…せっかくだしお祭り楽しんでみたいな

僕は成人してるから甘そうなお酒ないか探してみる、この後お仕事あるから控えめに
「ヒューは何か飲む?せっかくだから奢るよ」
あとは軽食でも買おうかな?
この世界はじめてだから桜と灯篭見ながらのんびりすごすね
ヒューが行きたい場所があれば着いていくよ
「…この前匂い袋貰ったから」
お礼にヒューが気にしてるがま口っていうの? 僕が買うよお返しだね

時間があるなら灯篭流しに参加、無理なら見るだけでも
願うならそうだね「みんなが幸せでありますように」かな


ヒュー・アズライト
【月影2】◎
俺は前に一度行きましたが…仕事とはいえまたあの桜が見られるのは嬉しいですね

せっかくなので箒じゃなく自分の足で今日は歩きます
アリスのお言葉に甘えて、冷たいジュースでも奢ってもらいます
年下の特権ですね。まぁいつか酒を交わしてみたいですね
「せっかくなので小物見てもいいですか?」
和小物を並べてる露店を中心に見て回ります。このがま口いいですね。
ええ、礼だと言うなら好意に甘えて素直に受け取りましょう。

参加できそうなら最後は灯篭流しに。
俺の願いはそうですね…
(この想いが届きますように、でしょうか。表向きには…)
仕事が無事に終わる事を願います



●宵の灯篭
 両の掌よりも少し小さいサイズの、紙で作られた灯篭がずらりと並ぶ通りを二人の男が歩いていた。
「ちょっと心中してきてってなかなかインパクトがあるね」
 グリモアベースで聞いた言葉がおかしくて、アリステル・ブルー(人狼のクレリック・f27826)が隣を歩くヒュー・アズライト(放浪家出人・f28848)に笑いの混じる声で言う。
「確かに、なかなか聞かない言葉ですね」
 静かに頷いて、ヒューが答えるとアリステルも頷く。
「でも、来てよかったね」
 予知は阻止しなければならないが、それはそれとして、だ。
 このお祭りを楽しみに来たのだと、アリステルの髪色と同じ色をした彼の尻尾が揺れる。
「桜が年中咲いてるなんて、すごく風流だよね」
 サクラミラージュを訪れるのは初めてだと、アリステルが露店を冷やかしながら言う。
「俺は前に一度来ましたが……仕事とはいえ、この桜がもう一度見られるのは嬉しいですね」
 昼の桜も綺麗だったけれど、夜の薄明かりに照らされた桜も美しい。更に今日は灯篭の灯りにも照らされて、舞い散る花弁をより一層幻想的に見せていた。
「あ、お酒屋さんだ」
 ぴょこ、とアリステルの人狼としての耳が揺れる。
「見ていきますか?」
「うん、ちょっと甘いお酒が飲みたい気分なんだよね」
 勿論、この後に響くような飲み方はしないとアリステルが言うと、ヒューが軽く頷いてお酒ののぼりを掲げる露店の前で足を止めた。
 いらっしゃい、と声を掛けてくれた店主に向かい、甘いお酒はないかと聞いてみる。すぐに何種類かのお酒が出てきて、試飲をさせてくれた。
「これいいねえ」
 アリステルが惹かれたのは、淡い桜色をした地酒。ほんのりと甘く、度数もそこまで高くないのだと店主が教えてくれる。
「うん、じゃあこれください」
 淡い桜色をしたお酒が注がれたカップを受け取り店を離れると、アリステルがヒューを軽く覗き込むように見る。
「ヒューは何か飲む? せっかくだから奢るよ」
「では、冷たいジュースを。お酒は大人になったらお付き合いします」
 年下の特権とばかりに遠慮なくヒューが言うと、嬉しそうにアリステルが頷いた。
 近くの露店でヒューが飲むジュースと、軽いツマミだと練り物を揚げたものを串に刺した棒天を買う。そのまま灯篭の灯りと桜を楽しみながら、二人で食べて飲んでと楽し気に歩く。
「大きいサイズを買った方が良かったんじゃないですか?」
「んー、でもこの後があるからね」
 すっかり上機嫌で、飲み干して空になったカップと棒天の串を露店に備え付けられたゴミ箱に捨てさせてもらうと、また川を目指して歩きだす。
「道案内されてるみたいだよね」
「灯篭の灯りに導かれて、って言うと中々浪漫がありますね」
 導かれる先は心中なのだけれど。
「せっかくなので、小物を見てもいいですか?」
「もちろん、ヒューが行きたい場所があれば付いていくよ」
 柔らかく微笑んだアリステルに頷いて、ヒューが気になっていた和小物を並べている露店を覗く。一口に和小物と言ってもやはり種類が色々あるようで、それはそれぞれの露店の特徴にもなっていた。
「ここはアクセサリーが主なようですね」
 髪留めや耳飾りなど、女性が喜びそうなものが並んでいる。男性が使っても良さそうな物もあるが、ヒューの好みではないと、またふらりと違う店を覗いては離れることを繰り返していた時だった。
「あ、このがま口いいですね」
「どれ? ああ、ほんとだ。小銭でも、小物でも入りそうだね」
 ヒューが指さしたそれをアリステルが手に取って、店主へと渡す。
「アリス」
「……この前、匂い袋を貰ったから」
 お返し、と笑ってアリステルが店主から包みと引き換えに代金を払う。そしてそのまま、その包みをヒューへと渡した。
「ありがとうございます」
 礼だと彼が言うのなら、好意に甘えて素直に受け取るべきだとヒューが受け取る。
「大事に使います」
「そうしてくれたら、僕も嬉しいよ」
 包みを仕舞ったヒューと目を合わせ、アリステルが微笑むと行こう? と声を掛けて二人で川へと向かった。
「これは壮観だね……」
 川の揺れに合わせ、流れていく灯篭も揺れている。虫の鳴く声が、この幻想的な光景を更に引き立たせているように思えた。
「ヒューは何を願う?」
「俺ですか? そうですね……」
 表向きには、この想いが届きますように……でしょうか? と考えつつも、灯篭を川に流す為に膝を突きながらヒューが答える。
「仕事が無事に終わることを願います。アリスは?」
「僕はそうだね……みんなが幸せでありますように、かな?」
 二人して自分のことではないのだな、と顔を見合わせて静かに笑って、灯篭を流す。
 緩やかに流れていく灯篭は、二人の願いを載せて――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

迎・青
(アドリブ歓迎です)

灯篭祭を楽しむ
露店で甘いお菓子と飲み物を買って
灯篭を探し辿るように、川まで歩いていく
この後の不安を振り払うように、ちょっとはしゃぎ気味

あうあう、キレイだなぁ…だれかにみせてあげたいな
きらきらが好きなひと、きっとよろこぶだろうな
(何人か、仲間の顔を思い浮かべ)
いっしょだと、きっとたのしいだろうな

――だけど、だれかといっしょだったら、ボクは
「コワいからもうかえろう」って、言ってしまうかもしれない
だから、ひとりはコワいけど、ここから先はひとりでいかないと、ダメなんだ



●煌々灯篭
 灯篭の灯りで石畳が暖かく光るのを眺めては、迎・青(アオイトリ・f01507)がてくてくと歩く。灯篭が灯るその先に露店を見つけ、茶色のぱっちりした目を瞬いた。
「おかし……!」
 露店に並んでいるのは様々な駄菓子で、青の心がふわりとときめく。お店の前で立ち止まり、あれも美味しそう、これも美味しそうだと視線が泳いだ。
「あうあう、全部おいしそう」
 思わず呟いた青の言葉に店主が笑みを浮かべ、好きなお菓子を好きなだけ袋に入れて重さで代金が決まる量り売りなのだと教えてくれる。それから、何がいいのか聞いてくれた。
 迷いに迷って、これとこれ、それからと指をさせば、金魚袋の中にお菓子を詰めて量りに載せる。言われたままの代金を渡し、お菓子が詰まった金魚袋を受け取ると、店主がオマケだよと青の口に飴玉を放り込む。
「おいしい……! あの、ありがとう」
 飴の甘さに緩んだ頬を引き締めて、しっかりお礼を言うと露店を離れて歩き出す。
 灯篭が続く路を迷わぬように、だけどちょっとだけ寄り道もして。
 美味しそうなジュースを売るお店でジュースを買って、ほくほくの笑顔で川へと向かった。
「いいな、すごいな。キレイな、ええと……桜と、とうろう」
 川へと差し掛かれば、強く吹いた風を受けて舞い散る桜の花弁と幻想的に浮かび上がる灯篭の灯りが美しく感じられて、青は川へと近付く。
「あうあう、キレイだなぁ……だれかにみせてあげたいな」
 川をゆらゆらと流れていく幾つもの灯篭、その一つ一つに願いを載せているのだろう。
「きらきらが好きなひと、きっとよろこぶだろうな」
 思わず呟いた自分の言葉に、青が何人かの仲間を思い出す。
「いっしょだと、きっとたのしいだろうな」
 言葉にしてしまえば、今自分が一人だということを強く感じてしまう。お菓子が入った金魚袋をぎゅっと握り締め、視線を落とす。
 ――だけど、だけど。
「だれかといっしょだったら、ボクは」
 落とした視線をぐっと持ち上げ、流れていく灯篭を眺める。
「コワいから、もうかえろうって、言ってしまうかもしれないから」
 ボクは弱いから、きっと誰かがいたら縋ってしまう。そう言ってしまったら、優しい人たちは手を繋いで帰ってくれるだろう。
 でも、それじゃダメなんだと、青が震える指先を温めるように握り締める。
「だから、ひとりはコワいけど、ここから先はひとりでいかないと、ダメなんだ」
 自分に言い聞かせるように、恐怖に負けないように――きらきらと光る川辺を見つめ、そう呟いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

茜崎・トヲル
雲珠ちゃんと来ました(f22865)

んー? あははっ。それおれに聞いちゃう?
理想の方法って意味ならないけど。
状況って意味なら、だれかのしあわせのためがいいな。
(なんでしあわせにしたいのかは忘れたけど)

いっしょにあーるこ。手をつなごーか、おんぶしましょか。ふふ、じゃーあくしゅ。
きれいな帯を守らないと。ひっかけたらたいへんだぜ。
お礼?(なんの?)むしろおれがお礼します。今日もげんきでありがとね。
たこやき食べる? 買ったげる。お金はあるんだー使わないから。

おれも灯籠買いたいな。
生きてるひとも死ねたひとも笑顔でいられますよーに。
しあわせでいてね。(おれはいいから)


なーに、雲珠ちゃん。わたあめ食べる?


雨野・雲珠
茜崎さんと/f18631

理想の死に方ってありますか?
灯籠を辿って、下駄をからころ。
仕事とはいえ浴衣でおでかけ。ご機嫌な俺です。

茜崎さんて、俺のこと五歳くらいだと思っておられますよね…
おんぶは論外として手は繋ぎます
この方なんだか危なっかしいので

お礼したいです、
着いてきてくださったから。
欲しいものとか…
ふふ。最後の晩餐に?

灯籠を買って、河に浮かべて黙祷を。
力及ばず、海へ還すしかなかった影朧にオブリビオン。
昨年亡くなった門前のおばあさまのご冥福も…
あっ、茜崎さんの身の安全も

…多分、見た目以上に年上で。
ずっと優しくしていただいてる分際で、
放っておけないだなんて生意気でしょうか。

…わたあめ。食べます!



●ゆるふわ灯篭
 桜舞う石畳の大通りをからん、ころん、と下駄を鳴らして雨野・雲珠(慚愧・f22865)が歩く。その横を楽しそうな足取りで、茜崎・トヲル(白雉・f18631)が歩いていた。
「唐突ではありますが」
「んー?」
 雲珠が前置きをすると、トヲルがなぁに? と首を傾げて雲珠を見る。
「理想の死に方ってありますか?」
 好きな食べ物ってありますか? くらいの、トヲルの好みを聞くような調子で雲珠が彼を見上げて言った。
 きょとん、とした表情のあと、堪え切れずにトヲルが笑う。
「あははっ。それ、おれに聞いちゃう?」
「ですが、この後心中するじゃないですか」
 聞いておいても損はないかと、と雲珠が灯篭を辿るように下駄を鳴らす。
「損はないかもだけど、徳もないと思うんだけどなー? んー、でも理想の方法って意味ならないけど」
 一旦区切って、トヲルが言葉を続ける。
「状況って意味なら、だれかのしあわせのためがいいな」
 なんで幸せにしたいのかは、忘れてしまったけど。でも、そう思うんだよとトヲルがふわりと笑った。
「そういう雲珠ちゃんは?」
「俺ですか?」
 自分から聞いたものの、言われてみれば難しい。誰かの為にと言われたならば、たった一人しか思い浮かばないけれど。
「……そうですね、状況で言えば誰にも迷惑を掛けない……でしょうか」
「あー、死体の処理って面倒だからね」
 そういう意味ではなかったのだけれど、確かにそれは面倒だと雲珠が頷いた。
 からころと下駄の音が鳴る、雲珠が腰に締めた兵児帯が風に揺れる。
「雲珠ちゃん、いっしょにあーるこ」
「もう歩いているじゃないですか」
「手をつなごーか、おんぶしましょか」
「茜崎さんて、俺のこと五歳くらいだと思っておられますよね……?」
 前々から思ってはいたのだが、これは確実にそうではないかと雲珠がトヲルを見上げた。
 その先には、ばれた! みたいな顔をして笑っているトヲルがいて、雲珠は自分が十七であることを強く主張する。それから、これ以上言っても多分変わらず子ども扱いなのだろうと諦め、手を差し出した。
「おんぶは論外として、手は繋ぎます」
 だって、この方なんだか危なっかしいんですもの。
「ふふ、じゃーあくしゅ」
 受け入れられるというのは嬉しいことだとトヲルが雲珠の手を取って、しっかりと繋ぐ。そうして、また風に揺れる帯を見て、きれいな帯を守らないと、と思う。どっかに引っ掛けたら大変だ、なら引っ掛けないようにして雲珠をも守ればいいと一人で納得して、少しだけ手に力を入れた。
「茜崎さん、何か欲しい物はないですか?」
「え? なんで?」
「お礼したいんです」
 お礼? はて、何の? とトヲルが考える。考えても分からなくて雲珠に問い返すと、一緒に来てくれたお礼なのだと言う。
「ふは、それならむしろおれがお礼します」
「俺の話を聞いてらっしゃいましたか?」
「聞いてたよー、だから今日もげんきでありがとね、のお礼」
 やはり聞いていなかったのでは? と首を傾げた雲珠に、楽し気にトヲルが笑う。
「たこやき食べる?」
「ふふ、最後の晩餐に?」
 最後の晩餐にたこ焼き、いいね! と、たこ焼きの露店の前でトヲルが立ち止まった。
「あ、お金なら俺が」
「いーの、買ったげる。お金はあるんだー、使わないから」
 そう言って、トヲルが押し切ってしまえば雲珠にはどうしようもない。何か改めてお礼をしなくてはと考えながら、ありがたくたこ焼きを頂いた。
「ご馳走さまでした」
「また食べようね」
 きちんとゴミを始末して、また二人でからころと下駄を鳴らし、灯篭に導かれるままに川へ向かって歩き出した。
 川辺には既にそれなりの人がいて、灯篭を流している。
「ねー、雲珠ちゃん。おれも灯篭買いたいな」
「俺もです、買ってくるので待っててください!」
 ここは俺が、と譲らぬ雲珠が灯篭を買って戻ってくると、お礼を言ってトヲルが受け取る。二人して川のほとりにしゃがんで、そっと灯篭を流した。
 流れていく灯篭を見て、雲珠が静かに目を閉じる。
 思うのは、力及ばす骸の海へ還すしかなかった影朧にオブリビオンのこと、それから、昨年亡くなった門前のおばあさまのご冥福も……。あっ、あと茜崎さんの身の安全も、あれやこれやと考えて、いやこれは灯篭に願うよりも神社だろうかと思い至って目を開けた。
「雲珠ちゃん、ずいぶん真剣なかおだったね」
「そうでしたか? 思わず色々願ってしまって……茜崎さんは何を?」
「おれはね、生きてるひとも死ねたひとも笑顔でいられますよーにって」
 幸せでいてね、とそう願った。おれはいいから、とも。それは口に出さずに、自分を見ている雲珠にトヲルがふわりと笑う。
 その笑顔がどこか引っ掛かってしまって、雲珠は何か言うべきか考えてから、自分も小さく笑んだ。
 多分、この方は見た目以上に年上で。坂で偶然会った俺にずっと優しくしてくれて。そんな相手に、放っておけないなんて思ってしまうのは生意気なことだろうか――。
「なーに、雲珠ちゃん」
「いえ、なんでも。戻りましょうか?」
「うん、雲珠ちゃん」
「はい」
「……わたあめ食べる?」
「……わたあめ。食べます!」
 あはは! と、トヲルが笑って立ち上がる。差し出された手に遠慮なく掴まって、雲珠が引き上げられるように立ち上がった。
 帰り道、わたあめを買うまで影朧の庭に招かれませんように、なんて思いながら――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

スキアファール・イリャルギ
お酒を飲みつつ散策
これから恥ずかしいことするんだから少し酔わないとやってられない(若干自棄)

……心中なんて考えことなかったな
自分を殺す術も勇気も無いし
誰かに殺されようにも怪奇が赦さず無理やり生かされる
絶対ひとり残される陳腐なパターンだ

ひかりのきみがちょっと怒ったように煌めいてる
あー、うん
あの時は本当にごめん……
(※以前、邪神が生んだ夢の中で彼女の制止を振り切って、彼女の幻と共に海に沈んだ事がある)

心中のフリは水に沈むの禁止? あ、ハイ。
結構根に持つタイプか……

灯篭をふたり分買って一緒に流そう
……ひとりにはさせない、って?
……ふふ
きみは強いな、ありがとう
私も、もう――きみをひとりにはさせないから



●ひかり灯篭
 露店で買ったお酒のカップを手に、ちびちびと飲みながら長身の背を軽く丸めてスキアファール・イリャルギ(抹月批風・f23882)が灯篭の灯りの中を行く。
「心中か……」
 は、恥ずかしい……! お酒を持っていない手で、思わず顔を覆ってしまう。誰も見ていないことを確認してから手を外し、またお酒を飲んだ。
「これから恥ずかしいことをするんだから、もうちょっと酔ってないとやってられない……」
 若干自棄になりながら、それでもこれは仕事、仕事だからと自分に言い聞かせ、とぼとぼと歩く。
「……心中なんて考えたこともなかったな」
 心中といったら、相手のいる自殺だ。スキアファールには自分を殺す術も勇気も無かったし、たとえ誰かに殺されたとしても自分の中の怪奇がそれを赦さず、無理やり生かされる。
「これってあれだろ、絶対ひとり残される陳腐なパターンだ」
 一緒に死にましょうと毒を飲むのか崖から飛び降りるのかは知らないが、一緒に死ねたら綺麗かもしれないけれど片方が生き残ってしまったら、それはちょっと地獄じゃないかとスキアファールは思う。
「あ」
 そんなことを考えていたからだろうか、スキアファールのひかりが、彼の傍らで昏い炎に散る火花がちょっと怒ったように煌いていた。
「あー、うん」
 意思があるように輝き、ひかりのきみがスキアファールに異議を申し立てている。
「あの時は本当にごめん……」
 藪蛇だった、以前UDCアースでの依頼を受けた時の話だ。
 邪神が生んだ夢の中で、彼女が止めるのも聞かずに彼女の幻と共に海に沈んだこと、それをスキアファールに怒っているのだ。昏く明滅したひかりがスキアファールの頬をぺちぺちと叩くように飛ぶと、彼の表情が申し訳なさそうに伏し目がちになる。
「え? 心中のフリは水に沈むの禁止?  あ、ハイ」
 結構根に持つタイプかぁ……とこっそり思うけれど、それはひかりのきみが自分のことを心配してくれていることの表れだと思うと、頬が緩みそうになる。笑ってしまったら、きっともっと怒られるのだろうとスキアファールは乏しい表情筋に力を入れて、川へと向かった。
 灯篭を二つ買って、川岸に膝を突く。
「どうして二つ買ったのかって?」
 ひかりが、二つの灯篭を見比べるように飛ぶのを見て、スキアファールが小さく笑う。
「きみと一緒に流そうと思ったから」
 そう答えた彼の身体を抱き締めるように、ひかりがくるくると舞った。
「……ひとりにはさせない、って?」
 肯定するように、ひかりが煌く。
「きみは強いな、ありがとう」
 二つの灯篭が、寄り添うように流れていく。
「私も、もう――きみをひとりにはさせないから」
 手の中に戻ってきたひかりに、口付けるようにそっと触れる。
 コローロ、この心はきみと共に。

大成功 🔵​🔵​🔵​

乱獅子・梓
【不死蝶2】
露店で見かけた桜酒というものに惹かれて購入
薄い桃色の酒に桜の花弁が浮いている
この世界らしい洒落た酒だな
それを飲みながらのんびりと灯篭照らす道を歩く

綾の遊びに付き合いながら川へ到着
次々と流れる灯篭をボーッと眺める
…なんというか、演技とはいえ
これから「死にに行く」っていうのに
不思議と気分が穏やかだ

そういえば、UDCアースでは灯篭祭は
死者の魂を弔う為のものらしい
影朧がこの祭りを選んだのも何となく納得が行く
ったく、はた迷惑な泥棒だ

綾が死ぬ時、俺はこいつに対して何を想うのか
そして俺が死ぬ時、綾は俺に対して
何を想ってくれるんだろうか
それが花の形に表れるのだとしたら…
……正直、見るのが怖いような


灰神楽・綾
【不死蝶】
ねー、とっても綺麗なお酒だよね
梓と同じく桜の花弁が浮いているけど
俺のはノンアルコールの桜酒
うっかり酔っ払うとこのあと支障が出そうだしね

最終的には目的地に辿り着けるしと
敢えて迷子になるかのように
あちこち色んな小路に入り込んでみる
人気の無い夜道を、灯篭の光だけを頼りに歩くのも楽しい

わ、本当に川に着いた
自分も穏やかな気持ちに包まれているけれど
それは灯篭の優しい光のおかげなのか
それとも隣に梓が居るからなのか

人の心を花の形にして盗み取る、だなんて
随分とロマンチストな泥棒だよねぇ
俺の心はどんな花になるのかな
影朧のお気に召すような美しい花なのか
もしかしたらこの世のものとは思えない醜悪な花かもね



●桜酒灯篭
 ぽう、と灯った灯篭がひらひらと舞い散る桜の花弁を映し出す。なんとも風流な大通りを乱獅子・梓(白き焔は誰が為に・f25851)と灰神楽・綾(廃戦場の揚羽・f02235)が隣り合って歩く。手には酒ののぼりを掲げた露店で買った、桜酒という名のお酒。
「この世界らしい、洒落た酒だな」
「ねー、とっても綺麗なお酒だよね」
 薄い桃色の酒に、桜の花弁と金箔が浮いている。塩漬けにした桜の花弁なので、そのまま食べてしまってもいいと露店の店主が言っていたっけ。
 梓の手の中にあるのは正しくお酒だが、綾のはノンアルコールのジュースのようなもの。普段だったら飲んでいるところだけれど、うっかり酔っ払うとこの後に支障が出そうだからとノンアルコールにしたのだ。
「一口飲むか?」
「んー、飲んじゃうと来た路戻って買いにいっちゃいそうだから、やめとく」
 そりゃ困る、と梓も差し出した手を引っ込め、唇を湿らせるように桜酒を飲んではのんびりと灯篭が照らす路を歩く。
「この灯篭って、どう辿っても最終的には目的地に辿り着けるんだよね?」
「そう聞いたな」
「じゃあ……次はこっち」
「あ、おい」
 真っ直ぐ行けばすぐに川に着いてしまうし、それではつまらないと敢えて迷子になるかのように灯篭が続く小路へと綾が足を向けた。
「お前なぁ」
「ちょっとした散歩だと思ってよ」
 知らない路というのは存外わくわくするものだなと、綾が足取りも軽く歩く後ろを呆れたように梓が付いてくる。人気のない夜道を灯篭に案内されるままに、あっちこっちと歩いていれば、やがて水が流れる音が聞こえてきた。
「わ、本当に着いた」
「着かなかったら今頃迷子だぞ、俺たち」
「迷子は困るよね、俺たちいい大人なのに」
 ねぇ? と笑った綾はどうにも大人には見えなかったが、梓が溜息と共に頷く。
「あ、もう結構流れてるよ」
 小路を抜けて川を臨めば、幾つもの灯篭がゆらゆらと流れていくのが見えた。
 川縁に面した土手に腰掛け、二人で流れゆく灯りをぼんやりと眺める。
「……なんというか」
「うん」
 ぽろりと零れた梓の言葉に、綾が相槌を入れるように頷く。
「演技とはいえ、これから『死にに行く』っていうのに不思議と気分が穏やかだな」
「そうだねぇ、灯篭の光りのおかげかな」
 それとも、隣に梓が居るからか、そう考えて綾が口元を緩めた。
「灯篭か。そういや、UDCアースでは灯篭祭といえば死者の魂を弔う為のものらしい」
「じゃあ、あれは弔いの火なのかな」
「どうだろうな、願いを載せて……っ聞いたからそれだけではなさそうだが」
 願いは人によって様々だ、亡くなった人の魂が健やかであれと願う者もいれば、ささやかな自分の願いを託して流す者もいるだろう。祭とは、人が楽しめるように姿を変えることもあるのだから。
「でも、そう考えれば影朧がこの祭りを選んだのも何となく納得が行くな」
「人の心を花の形にして盗み取る、だなんて随分とロマンチストな泥棒だよねぇ」
 それも今回に限っては、人の死に際の心だなんて。
「ロマンチストで悪趣味で……ったく、はた迷惑な泥棒だ」
「俺の心はどんな花になるのかな」
 影朧がお気に召すような美しい花なのか、はたまたこの世のものとは思えない醜悪な花になるのか――。
 くすりと笑った綾に、梓が視線を向ける。その視線を感じたまま、綾は川を流れゆく灯篭を眺めた。
 その横顔を眺めながら、綾が死ぬ時に俺はこいつに対して何を想うのだろうかと梓は考える。それから、自分が死ぬ時に綾は何を想ってくれるのだろうか、とも。わからない、その時にならなければわからないことだ。
「そんなもん、その時にしか分からないだろ」
 少し遅れてそう答えたけれど、想いが花の形になって現れるのだとしたら。
 それは、少し見るのが怖いと梓は思う。心が詳らかにされてしまうことと同じだと、気が付いてしまったから――。
 さらさらと流れゆく灯篭は、ただ二人の心を映し出すように光りを灯していた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ハルア・ガーラント
【焼鳥】2名 ◎
今年の浴衣姿で参加

浴衣は着慣れないので少し心配、でも折角だもの
雰囲気出す為にもしっかり着付けて行きます

賑やかで活気のあるお祭りもいいけど、穏やかな時間が流れるこんなお祭りも趣があって素敵
露店に並ぶ小物を眺め、時折好みの工芸品に足を止めながら散策
灯篭流しに参加する為川へ向けて移動します
歩みの遅いわたしに何も言わないけれど歩幅を合わせてくれている相馬
わ、いけない顔がにやけます

川辺では広がる光景に心を奪われながらの灯篭流しになりそうです

大事な人への想いを胸いっぱいに満たした状態で死ぬこと
それは幸せな逝き方のひとつなのかな

影朧の思惑を肯定するかのような考えを払拭できなくて、ぽつり独り言


鬼桐・相馬
【焼鳥】◎
通常の姿で参加

ハルアの普段と違う装いに「馬子にも衣裳」という言葉が浮かんだが黙っておく

夜闇を照らす灯篭の光に心が落ち着く
ハルアが足を止めて迷う素振りを見せていた燐葉石色のガラス細工があしらわれた髪飾り
彼女が他の露店を眺めている隙に購入しておこう
美味そうな酒があれば程々にしつつ楽しむよ

川辺では広がる光景に郷愁に似た感情が湧く
闇が大半を占める世界にいたからだろうか

灯篭を流しつつ不安げなハルアの独り言には髪飾りを手渡し答えよう
オブリビオンに感化されぬよう脅しもかけておくか

死んでもそこで終わりじゃない
魂は死者の国――冥府で裁判にかけられる
もし地獄に落ちたら……俺の同僚に呵責されるかもな?



●月華灯篭
 ふわり、と隣を歩くハルア・ガーラント(宵啼鳥・f23517)の桜色をした帯締めが揺れる。浴衣の帯にアクセントとして締められたそれは、背中側で大きなリボンのようになっていてハルアが歩く度に揺れるのだ。
「どうしかしたの? 相馬」
「いや……」
 ふわふわ揺れるリボンが気になるというのもあれだなと思い、いつもと変わらぬ恰好をした鬼桐・相馬(一角鬼・f23529)は静かに首を振る。
「ふふ、浴衣が気になるんでしょう?」
 着慣れない浴衣だけれど、折角の機会だと今日は今年仕立てた浴衣を着て来たのだ。
 白地に、裾と袖に赤い花をあしらった浴衣、中に着る襦袢は袖口や裾からレースが覗くお気に入りで、帯は相馬の瞳のような金色。ハルアの気合も入るというものだろう。
「ま……」
「ま?」
 馬子にも衣装、という言葉が浮かんだがそれは咄嗟に喉の奥に飲み込んで、相馬は前を向いて歩けとだけ言ってそのまま口を閉じた。
 確かに慣れぬ下駄ではあるしとそれに頷いて、ハルアが前を向いて歩く。似合ってるとか、可愛いとか、言ってくれてもいいのにな、とは思ったけれど、それを言うのはちょっと気恥ずかしくて思うだけにした。
 夏祭りのような賑やかさはないけれど、秋の風情がある穏やかなひと時を感じるお祭りも趣きがあって素敵だとハルアが笑う。
「そうだな」
 言葉少なに返事をするが、確かに花火が上がるような祭りも好ましいけれど、夜闇を照らす灯篭の光りは心が落ち着くと相馬も感じていたことだ。
「相馬、ちょっとあっちに寄ってもいいですか?」
「ああ」
 相馬の了承を得て、ハルアが小物の並ぶ露店へと立ち寄る。そこはアクセサリーをメインとした露店で、和の要素をふんだんにあしらった髪飾りや腕輪、指輪などが所狭しと並べられていた。
「わあ……!」
 年頃の女性らしく、ハルアが並ぶアクセサリーに目を輝かせ、幾つか手に取って眺めた。
 相馬はといえば、その後ろで興味なさげに立ってハルアを見守っている。
「これもいいけど、これも……あ」
 うろうろと視線を彷徨わせていたけれど、燐葉石色の硝子細工……とんぼ玉と呼ばれるそれがあしらわれた髪飾りを手に取った。
 何度か眺めすがめつ、買うのかと相馬が見ていれば、そっと元の場所へ戻す。それから、店主に礼を言ってハルアが店を離れる。
「いいのか」
 頷いたハルアがあっちも見てきます、と工芸品の並ぶ露店へと向かうのを見送って、相馬がハルアの見ていた髪飾りを手に取る。それは店先の灯りに照らされてきらきらと輝いて、きっとハルアに良く似合うだろう――そう思った瞬間、相馬はそれを手にしたまま店主に声を掛けた。
 渡された包みを仕舞い、何食わぬ顔をして工芸品を眺めているハルアの横に相馬が立つ。
「まだ見るか?」
「ううん、大丈夫」
 目を合わせ、また隣り合わせて灯篭の灯りを頼りに歩き出す。
「相馬、相馬、見てください。お酒が売ってます」
「酒か」
 ぴくりと反応した相馬に笑って、寄っていきましょうとハルアが相馬の服を引っ張り、酒と書かれたのぼりを掲げる屋台に近付いた。
 何かお勧めはあるかと相馬が店主聞けば、桜色の甘めのお酒とやや辛口だがスッキリとした後味が人気だというお酒を試飲させてくれる。
「俺はこちらで」
 辛口の酒を指させば、月華という名前の酒だと教えてくれた。
 それをカップで買い、礼を言って川へ向かう為に店を離れる。
「ハルアはいいのか」
「相馬ほど強くは無いので」
 相馬と比べれば大抵の者は弱いのだけれど、その言葉に頷いて遠慮なく相馬が酒を口に含んで歩く。揺れる灯り、時折隣から零れる笑い声、どれもが酒のいい肴のように思えて相馬が口元を緩めて笑った。
 その笑みを横から盗み見るようにして、ハルアが頬を赤くする。歩みの遅い自分に合わせ、歩幅を合わせてくれているのもハルアにとっては心ときめく程に嬉しいこと。思わずにやけてしまったハルアを見て、相馬が酒を飲みながら言う。
「どうした、変な顔だぞ」
「へ……変じゃないです!」
 そういう所ですよ、相馬! と、ハルアが胸の内で膨れているうちに、川へと向かう路が開けた。
 目の前には、川を流れていく灯篭。それは夢のように美しく、ハルアの機嫌が上を向く。
「相馬、灯篭を流しましょう!」
 ああ、と答えて灯篭を二つ買うと、川辺にしゃがんで灯篭を流す。
 流れていく灯篭を見ていると、どこか郷愁にも似た感情が湧いて相馬が目を閉じた。
 闇が大半を占める世界に居たからだろうか、流れていく灯りは希望のようにも思える。短く息を吐けば、隣からハルアの頼りなさげな声が響く。
「大事な人への想いを胸いっぱいに満たした状態で死ぬのは、それは幸せな逝き方のひとつなのかな……?」
 影朧の思考を肯定するかのような呟きに、相馬が黙ってポケットから先程買った髪飾りの包みを取り出してハルアに差し出した。
「これは?」
「やる」
 開けてみろ、と言う相馬に首を傾げつつ、ハルアが包みを開ける。その中にあった髪飾りを見て、相馬を見て、もう一度髪飾りを見たハルアの頬が、見る間に赤く染まっていく。
「そ、相馬、これ」
「ハルア」
「は、はい!」
「死んでもそこで終わりじゃない。魂は死者の国――冥府で裁判にかけられる」
 地獄の極卒であった記憶が朧気にある相馬が言うと、それは中々に迫力のある言葉だ。
「もし地獄に落ちたら……俺の同僚に呵責されるかもな?」
「ひえ……っ」
 地獄の責め苦はそれは苦しいと聞いたことがある、ぶるりと背筋を震わせて、ハルアがこくこくと頷いた。
 それから、ハッと気が付いて手の中の髪飾りを見て、再び相馬を見て口を開く。
「あの、これ、ありがとう……!」
 頷いた相馬に、心がふわふわとしながら、ハルアが髪飾りを付ける。
「似合う?」
「ああ、良く似合ってる」
 店先で思った通り、それはハルアに良く似合っていた。
 相馬が立ち上がり、ハルアに向けて手を差し出す。それに一度だけ瞬いて、ハルアが嬉しそうに笑うと差し出された手を取った。
 ぐい、と力強い腕がハルアを立ち上がらせる。
「行くか」
「はい!」
 先程の弱気はどこかへ飛んでいったのだろう、取ったその手をそのまま繋いで、迷いなど無いように歩き出した。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ティア・メル
菫ちゃん(f14101)と

ふふふー招待状があるお祭りってちょっぴし不思議だね
繋いだ手を頼りに一歩、また一歩
からりころり鳴る音が心地良くて笑みが咲く

菫の花飾りが白い指先に掬われて
髪に添えて貰ったなら
ぼくも沙羅の花の髪飾りを一緒に買う
菫ちゃんの髪にそっと預けて
出会った記念に、お揃いっ

橋の上から眺める灯がゆうらりゆらゆら
見てると眠くなっちゃいそうで
だけどなんでか寂しい気持ち

こんなにお願い事をされたら神様もびっくりだね
それは願い事にならないよー
だってぼくも同じ気持ちだもん
菫ちゃんともっと遊んで仲良くなりたい
お願い事は…んにー
絡めた指先にそっと力を込めて
菫ちゃんが幸せでありますよーにっ


君影・菫
ティア(f26360)と

片手に招待状ひとつ
不思議やねえて、好奇心添えて
片手は繋いで一緒
からころ、からころ
石畳の上で花下駄を楽しげに鳴らして

菫の花飾りに出会えたら買うてティアの髪に飾ったろ
うちらの出会いの花、絶対似合うもの
はら、ティアのは沙羅やろか
似合う?てそっと髪飾りに触れて咲う

辿り着いた先の橋
ゆらゆら、ゆらゆら
灯籠は煌めき流れゆく
ふたりゆうるり灯を眺めながら
…なあ、ティア
あの灯籠の数だけヒトの願いが有るんやって
ティアはお願いごとある?
うちはキミともっと遊べて仲良うなれたら嬉しいから
ゆびさきの熱を絡めて灯を見送り
願い事って難しいねえて

ああ、でも
キミがいつも幸せだったらええなは
そっと置いた願い事



●願掛け灯篭
 招待状を片手に持って、ティア・メル(きゃんでぃぞるぶ・f26360)と君影・菫(ゆびさき・f14101)が指先を絡めて歩く。楽し気な声が二つ、鈴を転がすように灯篭が続く路に小さく響いた。
「ふふふー、招待状があるお祭りってちょっぴし不思議だね」
「ほんま、不思議やねえ」
 そこに在るのは好奇心と、二人で出掛ける喜び。絡めていた指先を捕まえるようにしっかり手を繋ぎ直すと、菫が招待状を浴衣の合わせに差し込んだ。
「無くしたらあかんからね」
「ぼくも仕舞っておこうかな」
 無くしてしまっては大変だと、ティアもそっと服の中へ仕舞いこむ。
 繋いだ手を頼りに、顔を見合わせては笑って灯篭の灯りに誘われるままに一歩、また一歩。
「良い音だね」
「ふふ、気に入った?」
 ティアの言葉に石畳の上で花下駄の音をからころ、からころ、と鳴らす菫が繋いだ手を揺らす。
「とっても!」
「それやったら、うちも嬉しいなあ」
 浴衣を着てきて良かったと、菫色の瞳が細くなる。ふわふわ、ゆらゆら、夢心地とはこのことかしらと幻想的な灯りを道案内にして、時に顔を近寄らせて内緒話のようにして路を歩いた。
「あれ、露店やね」
「露店! 見ていこうよ」
 勿論、と菫が頷いて、二人で露店に立ち寄ると、そこには和小物のアクセサリーが隅から隅まで並べられていた。
「素敵やねえ」
「いっぱいあって、選びきれないくらいだね」
 二人並んであれもこれもと、手に取っては戻していく。
「あら、これ」
 菫の白い指先が、菫を模った髪飾りに伸びる。つまみ細工で作られた花に薄緑色の硝子が揺れていて、留め具は簡単に留めることのできるヘアクリップだ。
「ええね、おじさんこれちょうだい」
 毎度、と店主が返事をし、包もうとしたところを菫が止める。代金を渡して受け取ると、そのままティアの髪へぱちんと留めた。
「あげる、よう似合うてる」
「いいの? ありがとう!」
 露店に置かれた鏡に姿を映し、揺れた硝子玉にティアの笑みが弾ける。
「じゃあ、ぼくもこれ」
 ティアが手に取ったのは、こちらもつまみ細工で作られた沙羅の花の髪飾り。白い花びらにの中央には黄色の硝子玉が光っていて、こちらは櫛で髪に差し込むタイプの留め具だ。
 代金を渡すと同じように包まず受け取り、菫の結い上げた髪へと差した。
「はら、ティアのは沙羅やろか? 似合う?」
 そっと髪飾りへ触れて、ティアを見る。
「勿論、すごく似合ってるよ。うん、出会った記念に、お揃いっ」
「ええね、お揃いや」
 二人の笑みが弾けて咲き誇る。そうして、また手を繋いでからころと下駄の音を楽しんで、髪飾りを揺らして川へと向かう。
「はらまあ、ようけ流れとるわ」
「すごい、綺麗……!」
 橋の上、流れる灯篭はあちらこちら、ゆらゆらゆうらりと、川の流れに任せるままに流れていく。水面に映った灯りまでもが美しく、二人でほう、と溜息を零した。
「綺麗だけど、なんだか眠くなっちゃいそう」
「穏やかやものね」
「うん、でも」
 ティアの言葉の先を、菫が流れていく灯篭を眺めて待つ。
「なんでか、寂しい気持ちもするかな」
 郷愁、とでもいうのだろうか。言葉にするには難しくて、ティアが菫を見る。
「そうやねえ」
 安心させるように微笑んで、菫が繋いだ手に少しだけ力を入れる。大丈夫、と心を込めて。
「でも、うちがおるよ?」
 ティアの揺れた瞳がみるみる嬉しそうに輝いて、こくんと頷いた。
「もうちょっと近くで見てみよか」
「そうだね、ぼく灯篭を流してみたい」
 二人で橋を渡りきり、河辺へ下りる。橋の上からとはまた違う灯りの揺らめきに、どこか違う世界に来てしまった気がして思わず繋ぐ手に力が入ってしまい、ティアが菫を見上げた。
 そんなティアの手を指先で撫で、菫が唇を開く。
「……なあ、ティア。あの灯籠の数だけヒトの願いが有るんやって」
「こんなにお願い事をされたら、神様もびっくりしちゃいそうだね」
 そう考えたら、ティアの身体から少し力が抜けた。
「ティアはお願いごとある?」
「菫ちゃんは?」
 聞き返されて、菫が笑う。
「そうやねえ、うちはキミともっと遊べて仲良うなれたら嬉しいから」
 それかなあ、と言えば、ティアが笑った。
「それは願い事にならないよー」
 どうして? と首を傾げた菫に視線を合わせる。
「だって、ぼくも同じ気持ちだもん。菫ちゃんともっと遊んで仲良くなりたい」
「はらまあ」
 相思相愛やねえ、と笑って、菫がそっと灯篭を流す。ティアもそれに倣って、同じように流した。
 二人してしゃがんで、ゆびさきの熱を触れ合わせて絡ませる。
「願いごとって難しいねえ」
「お願いごと……んにー」
 絡めた指先にティアもそっと力を込めて、口には出さずに菫が幸せでありますように、と目を閉じて願う。
 そんなティアの横顔を見て、ふわりと菫の心にも願いごとが宿る。
 ああ、でも。キミがいつも幸せだったらええなは。
 同じように目を閉じて、菫もそれだけを願った。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

十朱・幸也
花菱(f06119)と
アドリブ大歓迎

灯篭祭、っつーか
サクラミラージュに来るのも久々だな
花菱は初めてか?一年中桜が見られるっていうのも不思議だよな
前は遊女に扮装、今回はどうなるやら……
ととっ、その前に花菱と祭りを楽しむか

ちょっと、ま……!
初めてだからってまあ、はしゃいでんなぁ
若いっていいわ……いや待て、俺まだ三十代(言い聞かせる
賑やかな祭りも楽しいけど
ま、たまにはこういうのも悪くないよな

花菱、何か食べ歩きするか?
オニーサンが何でも奢ってやんよ
俺?どうするか……ああ、偶には綿飴とかいいかもな
一人で食うには多いし、良けりゃ一緒に食おうぜ

依頼が終わったら、灯籠とか見て回るか?


花菱・真紀
十朱さん(f13277)と
わぁ、本当に一年中桜が咲いてるんですね…!
サクラミラージュ気にはなってたんですが来る機会なくて…ご一緒してもらって嬉しいです。

はしゃいでるですか?これでも大人しくなった方ですよ?
前は賑やかな祭りで騒がしくするのが好きでしたけど最近はこう言うしっとりしたお祭りもいいなって思えるようになりましたし。
まぁ、十朱さんからしたら幼く見えるかもですけど。

え?十朱さんがご馳走してくれるんですか?
やった!ありがとうございます!
十朱さんは何か食べたいものありますか?
そこから行きましょう!

!はい、灯籠もゆっくりみたいです。
依頼頑張りましょう。



●朱彩灯篭
 ひらり、と桜舞う大通りの前で、花菱・真紀(都市伝説蒐集家・f06119)が眼鏡の奥にある瞳を大きく見開いて遠くに見える大きな桜を見上げている。隣に立つ十朱・幸也(鏡映し・f13277)は、わかる、という顔をして彼が何か言うのを待った。
「わぁ……本当に一年中桜が咲いてるんですね……!」
「花菱は初めて来たんだよな?」
「はい、あんな大きな桜は初めて見ましたよ」
 大きな桜は、このサクラミラージュではそこかしこで見られるもの。初めてサクラミラージュを訪れた時は俺も驚いたなと幸也が笑う。
「俺もサクラミラージュに来るのは久々だけど、一年中桜が見られるっていうとやっぱり驚くよな」
「立派ですね、それに俺の知ってる桜と同じに見えるのに、年中咲いてるなんて不思議です」
 その不思議に拍車を掛けるのが大通りの両脇にずらりと並んだ、見渡す限りの灯篭だ。この不思議な空間を更に神秘的に見せていると言っても過言ではないと、真紀が楽し気に話している。
「俺が前に来た時は遊女に扮装したんだが、今回はどうなるやら……」
「遊女に? それもかなり気になるんですけど」
「ま、それはそのうちな。その前に、灯篭祭を楽しむとしようぜ」
 はい! という元気のいい真紀の返事に笑って、二人で石畳の上を歩きだす。大人しく歩いていたのはほんの数分、すぐにあれは、これはと真紀が幸也を引っ張って露店を冷やかし始める。
「ちょっと、ま……!」
「こっちですよー!」
 和小物が並ぶ露店を覗く真紀の後ろに立って、幸也が息を整える。
「あ、これいいですね」
 女性向けの華やかなヘアピンが並ぶ中、シンプルな花がちょこんと一つ付いたつまみ細工のヘアピンを真紀が手にする。記念に買おうかな、と言うと店主に渡して手早く購入して幸也の方を振り向いた。
「お待たせしました!」
「そりゃいいけど、初めてだからってまあ、はしゃいでんなぁ」
「はしゃいでるですか? これでも大人しくなった方ですよ?」
 これで……? と、幸也が首を捻る。
 いや待てよ、これはもしかしなくても若さって奴か?
「花菱って幾つだっけか」
「二十一ですけど」
 そっかー! 二十一かー! そりゃ若いよな……いや待て、俺もまだ三十代、三十代はまだ若い。大丈夫、いけるいける。頑張れ俺! 心の中で葛藤する幸也のことなど知ってか知らずか、真紀が話を続ける。
「前は賑やかな祭りで騒がしくするのが好きでしたけど最近はこう言うしっとりしたお祭りもいいなって思えるようになりましたし」
 大人って奴です、とキラキラした目で言われてしまっては、幸也にはうんと頷くより他なかった。
「そうだな、賑やかな祭りも楽しいけど……ま、たまにはこういうのも悪くないよな」
 桜も灯篭の灯りも綺麗だし、何より人混みでごった返していない、というのはいいものだ。ゆっくりと楽しむことができる。
「はい! まぁ、十朱さんからしたら幼く見えるかもですけど」
 十も違えば当たり前なことを言う真紀がちょっと可愛く見えて、幸也が笑う。
「花菱、何か食べ歩きするか? オニーサンが何でも奢ってやんよ」
 可愛いゲーム仲間に向かってそう言うと、真紀がきらんと瞳を輝かせて幸也を見た。
「え? 十朱さんがご馳走してくれるんですか? やった! ありがとうございます!」
 素直に喜ぶのも若者の特権か、と思ったが自分だって奢ってくれると言われれば素直に嬉しいよな、と思い直して幸也が勿論と頷く。
「何にしようかな、十朱さんは何か食べたいものありますか?」
「俺? どうするか……ああ、偶には綿あめとかいいかもな」
 幸也の口から出た食べ物の名前があまりにも可愛くて、真紀がふふっと笑う。
「なんだよ、一人で食うには多いし、二人で食うなら丁度いいだろ」
 それに糖分だぞ? ゲームで頭使ったら糖分は必要だろ、と重ねて幸也が言った。
「はい、綿あめ買いに行きましょう!」
 それから半分こしましょう、と真紀が嬉しそうに綿あめの露店を探して再び歩き出す。
「後は何にしましょうか、お酒もあるみたいですけど依頼の前ですからね」
「そうだなぁ、依頼が終ったらゆっくり灯籠とか見て回って、酒も飲むか」
「! はい、お酒も飲みたいですし、灯籠もゆっくりみたいです」
 依頼、頑張りましょうと真紀が笑う。
「その前に食べ歩きだな」
 灯篭が途切れた先には露店の灯り。そしてまた灯篭が続いて――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

アパラ・ルッサタイン
今年仕立てた浴衣を纏って
灯篭に誘われるままに
ゆらりと足を運ぼうか

道行く途中でひとつ
朱の灯篭を買うておこう
背高な竹が左右を覆う小路は
灯る足元こそ辛うじて視認出来るが濃く暗く
……やあ、これは何処かに迷いこんでしまいそうだね

ひらけた川には先に流された灯篭が浮き沈み
全て、あちらへ届けと願われた灯なのかな
これそのものが魂のようじゃあないか

倣い朱色の灯篭を手放して
ぼんやりと
……といってもなア
あなた、こんな雅な場所とは無縁だったろうし
それともあちら側からは異なる世界も見えるのかい?

ああ、灯が沈む
君へ、届きますように



●朱煌灯篭
 灯篭の並ぶ石畳をアパラ・ルッサタイン(水灯り・f13386)が歩く。
 黒地の裾に煉獄の炎を纏ったような浴衣、それに深く透けるような翠玉の帯を蝶の翅のように翻し、からころと下駄を鳴らして灯篭の灯りに誘われるままに進む彼女は、まるで黒い蝶のよう。
 宝石のように煌く髪が灯りを受けて光る様は、まるでアパラをこの世の者ではないように思わせるほどに神秘的だ。
「ふふ、ランプの灯りも美しいけれど、紙で作られたこれ……灯篭というのだったかな」
 これもとても美しく柔らかい光りを灯すのだね、とアパラの瞳が優しく揺れる。
「どれ、道行く途中で何か買ってみようか」
 からん、ころん、と下駄を鳴らし、幾つかの露店を覗き見て、アパラが目に留めたのは鮮やかな朱色の灯篭。紐が付いていて、手に提げるには丁度いいと買い求める。火を灯してもらえば、暗い夜道の良き供のように温かみのある灯りが広がった。
 手に持った灯りを楽し気に揺らし、アパラが灯篭の続く路をまた歩き出す。真っ直ぐに歩くのもいいが、ちょっと寄り道も楽しいだろうと小路に入れば灯篭の続く路はまた印象を変えた。
 大通りと違って灯篭の数は少し減り、また独特の雰囲気を醸し出していて、更に進めば背高な竹が左右を覆う小路に出る。足元は灯篭の灯りで辛うじて見えてはいるが、辺りを包む闇は濃くて飲み込まれてしまうような錯覚を覚えるほど。
「……やあ、これは何処かに迷い込んでしまいそうだね」
 灯篭を買っておいて良かったよと笑って、ぼんやりと朱色に灯るそれを前に出し、案内されるように足元で光る灯篭を目印に前へと進んだ。
 何処までも続くような暗闇を抜けると、その先に見えたのはゆらゆらと川を流れていく灯篭の灯り。幾つ流れているのか数えるのも一苦労しそうな数だと考えながら、アパラがその先へと足を踏み入れた。
「これら全て、あちらへ届けと願われた灯なのかな」
 川の揺れに合わせ、ふわり、ゆらり。沈みそうに見える紙の灯篭がアパラの目の前を幾つも流れていく。
「まるでこれそのものが、魂のようじゃあないか」
 海へと還るのか、あなたたち。
 美しい女の唇が、笑みを浮かべる。
「そういや、空へと灯りを放つ祭りもあるのだったかな」
 何で聞いたのか、見たのかは覚えていないけれど、空へ還るのも海へ還るのも、どちらも神秘的だと思いながらアパラが川縁へとしゃがむ。そうして、手にした朱色の灯篭を水面に浮かべて手を離した。
 ゆらゆらと、他の灯篭と同じように流れていく朱い灯篭をぼんやりと眺め、はたと気付く。
「死者に祈るのだったかな? ……とはいってもなア」
 岸から離れていく灯りを見送って、しみじみとアパラが呟く。
「あなた、こんな雅な場所とは無縁だったろうし」
 煤塗れの顔をした、黒曜石のようなあなた。
 アパラの青い瞳が灯りを反射してきらきらと煌く。
「それともあちら側からは異なる世界も見えるのかい?」
 ふふ、と笑って立ち上がれば、朱色の灯りは随分と遠くへ流れてアパラの手にはもう届かない。
 どうか、君へ届きますように。
 灯が沈むまで、アパラは見守るようにそれを見つめ続けた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

宵鍔・千鶴
千織(f02428)と

ぽつり、ぽつりと
宵に灯りが続く路を
ゆるりと進めば
まるで異界にでも辿り着けてしまいそう、

……千織、折角だから
何か見てゆく?
和小物扱う露店を、ふわふわ灯りを照らし、眺めていれば一際目を引くもの
様々な色の小さな灯篭を模した耳飾りに花が垂れている

…俺は臙脂色に桜が零れる灯篭にしよう、
(自分の大切な場所に合う気がして)
良かったら、千織も揃いで着けよう。いろも沢山ある。
選んだ藍を見遣れば千織の元で綺麗に彩り桜が咲いてるね

飾りを揺らし
招かれる川の方へ
そうと、灯篭を水面に浮かべ
瞼を臥す

うつしよ、かくりよ
天も地獄も
最期に往く先は解らないけれど
…まだ、俺は果たすことがあるから
どうか眠っていて


橙樹・千織
千鶴(f00683)さんと

……綺麗…
闇夜に浮かぶ灯りとその光景に見惚れ
異界…確かにそんな雰囲気がありますねぇ

ぇ…いいのですか?
ええ、ええ。ぜひ!
灯籠の灯りも、それらが照らす露店もどれも綺麗できょろきょろ

あら、素敵なお店ですねぇ
隣の彼が何かに惹かれたことに気付きそっと覗き込む

灯籠も花も綺麗…
ふふ。素敵な色合いですねぇ
彼が選んだ耳飾りに微笑んで
思いもよらぬ提案に瞬きひとつ
揃いで…千鶴さんが良いのでしたら喜んで
少し擽ったいけれど、ふわり花咲く様に笑む
では、と選ぶのは青藍から桜が零れる灯籠
(桜は縁の深い花だから…)

揺れる飾りにゆるり笑みが浮かぶ
川に着いたなら
先祖の安らかな眠りを祈り、灯籠を送り出す



●彩桜灯篭
 大通りから少し外れた路を宵鍔・千鶴(nyx・f00683)と橙樹・千織(藍櫻を舞唄う面影草・f02428)が並んで歩く。日が落ちて暗くなった宵時、足元を彩る灯篭の灯り――。
 ゆるりと歩けば、静寂の中に二人の足音だけが響いていた。
「綺麗……」
 吐息の混じった千織の声に、千鶴の頬が緩む。
「ああ、綺麗だね。このまま進んでいけば……そうだな、異界に辿り着けてしまいそうだ」
「異界……確かにそんな雰囲気がありますねぇ」
 このまま二人、見知らぬ世界に迷い込んでしまったらどうしましょうか? と、千織が言えば、どうしようか? と二人でくすくすと笑い合った。
 灯篭の灯りを頼りに歩いていると、足元の灯りがひととき途切れた先に露店の灯りを見つけ、千鶴が千織に囁くように声を掛ける。
「……千織、折角だから何か見てゆく?」
「ぇ…いいのですか? ええ、ええ。ぜひ!」
 パッと花が咲いたような笑顔に千鶴が頷いて、二人で露店へ立ち寄るとそこは和小物を扱う店で、特にアクセサリーに力を入れているように見えた。
「素敵なお店ですねぇ」
 千織が思わずそう言うと、店主が嬉しそうにゆっくり見ていってくださいと二人へ声を掛ける。その言葉に甘えるように、二人は店先に掛けられた灯りに照らされて艶めく小物を端から眺めていく。
 つまみ細工の髪飾り、とんぼ玉の首飾り、七宝焼きの帯留め……どれも美しくて目を惹くが、千鶴の目を一際惹いたのは小さな灯篭を模した耳飾りだった。
 色の種類も豊富で、灯篭のすぐ下で花がひらりと垂れているのも可愛らしい。
「千鶴さん、何か気になるものがありましたか?」
「ああ、これが気になって」
 千鶴の手が、臙脂色に桜が零れる灯篭の耳飾りを台紙ごと引き寄せる。手の中にあるそれを覗き見て、千織が目を輝かせた。
「素敵、灯籠も花も綺麗……」
「なんだか目が離せなくてな」
 色合いも素敵だと千織が言うと、一層手の中のそれが美しく思えて、千鶴の目が優しくなる。
「俺はこれにしよう」
 自分の大切な場所にも合っている、そう思ったらこれしかないように思えたのだ。
「良いと思います、千鶴さんに似合いますよ」
「……良かったら、千織も揃いで着けよう」
 思いがけない提案に、千織が目を瞬かせる。それから、蕩けるような笑顔が咲いて、頷きながら千織が言う。
「揃いで……千鶴さんが良いのでしたら喜んで」
「勿論。ほら、どれにする? 色も沢山ある」
 千鶴に促され、どれにしようかと千織が耳飾りの並ぶ棚を真剣な表情で見つめている。指先で軽く触れながら、彼女がこれと決めたのは青藍から桜が零れる灯籠の耳飾り。桜は千織にとっては縁の深い花、手に取ったそれの桜の部分に指先を這わせて千織が微笑む。
 では、と千鶴が笑んで彼女の手から耳飾りを攫うと、店主にこれをと頼んだ。
「千鶴さん、私自分で……」
「いいから」
 そう言われてしまえば彼の好意に甘える他なく、千織がありがとうと、擽ったそうに、けれどふわりと花咲くように微笑んだ。
「ここで着けていこうか」
「……はい!」
 店主に頼んで鏡を借り、二人で揃いの灯篭を耳元で揺らす。店主に礼を言って露店を離れ、また灯篭を頼りに二人で歩く。ゆらゆら、ゆらゆらと揺れるのは灯篭の灯りだけではなく、二人の耳元の灯篭も灯りを受けて煌くように揺れていた。
 千織の選んだ青藍のそれを見遣れば、彼女の耳元で飾りが揺れる。
「千織の元で綺麗に彩り桜が咲いてるね」
「嬉しい……でも、千鶴さんの元でも、です」
 揃いの耳飾りを揺らし、笑みを零して招かれるまま川の方へ向かえば目に映ったのは川を流れる沢山の灯篭。
「道案内の灯篭も風情があったけれど、これはまた見事だな」
「ええ、とても幻想的ですねぇ」
 暫し二人で見とれてから、灯篭を流す為に川辺に向かう。二人それぞれ手に持った灯篭をそうっと水面に浮かべると、どちらからともなく瞼を伏せた。
 うつしよ、かくりよ、天も地獄も自分が最後に往き付く先は解らないけれど――。
 まだ、俺には果たすべきことがあるから。どうか眠っていてと千鶴は祈る。願う。そうして、ゆっくりと目を開けると、まだ先祖の為に祈っている千織の姿が目に入った。
 目を開けた千織が千鶴と視線を合わせ、首を傾げる。
「どうかしましたか?」
「いや、なんでもないよ」
 二人の揃いの耳飾りが揺れる。今はただ、それだけで――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

音海・心結

零時(f00283)と

みゆもとっても楽しみなのです♪
きっと、すごく綺麗なんでしょうねぇ

はいなのですっ
色々見て回りましょうっ!
ふたり並んで歩けば、楽しさも二倍

初めて見る和に気分が高揚
あっちへこっちへ視線は移る

名を呼ばれ、思わずリボンを注目
すごく綺麗なリボンですねぇ
えへへ みゆに似合うでしょうか
照れ笑い一つと感謝の想いを

お礼にと手に取ったものは和紙でできた兎を模った灯り
これ、零時に似合いそう
……受け取ってくれますか?

わっ、もうそんな時間ですか
ゆきましょうっ!

目を引く灯篭たちに感嘆を上げ、そっと近づく
おいでと手招きもして

この数だけ願いがあると思うと素敵ですね
一つに絞れるのもすごいと思いますけれどっ


兎乃・零時

心結(f04636)と!

灯篭祭…あんま行ったことねぇのだからすげぇ楽しみだ!

色々売ってたりするみたいだし
露店見に行ってみようぜ、心結!

普段は余り見かけぬ和風の小物に目を輝かせ

ふと、目に入った金襴生地のリボンの髪飾りを見
なぁなぁ
これとか心結に似合ったりするんじゃねぇか?
まだ持ってねぇ奴ならさ
一つプレゼントしよっか?

和紙の…兎!すっごく良いな、これ!
あぁ、当然!あんがとな、心結!
灯りを持って嬉しそうにして

あ、そろそろ灯篭が流れてくるんだっけ
行こうぜ!

辿り着いた先で見たのは

灯篭が…いっぱいあるな…!
目を輝くほどの光景

…願いを込めて流すやつだし
あの数だけ願いがあるんだよな…沢山の願いが流れてるんだな



●兎結灯篭
 灯篭の灯りが大通りの入り口から見えない終わりの方までずらりと並んでいるのを眺め、兎乃・零時(其は断崖を駆けあがるもの・f00283)と音海・心結(瞳に移るは・f04636)が、ぽかりと口を開けて顔を見合わせた。
「……すっげー!」
「……すごーい!」
 息があったように二人で同じような言葉を口にする。それから笑って、もう一度並ぶ灯篭の灯りを眺めた。
「灯篭祭……あんま行ったことねぇの、だからすげぇ楽しみだったんだ!」
「みゆも、とっても楽しみにして来たのです♪ きっと、すごく綺麗なんだろうって思って……」
 でもこれは、想像以上に綺麗で、二人の心がふわふわと踊りだしたくなるくらい、わくわくしてしまう。
「色々売ってたりするみたいだし、歩きながら露店も見に行ってみようぜ、心結!」
「はいなのですっ、色々見て回りましょうっ!」
 二人並んで歩いたなら、楽しさも二倍、ううん! きっともっとそれ以上! とばかりに、赤い金魚のような浴衣の彼女と、水辺に浮かぶ桜のような浴衣の彼が下駄の音をカランコロンと鳴らして歩き出した。
 灯篭の灯りの間にぽつりぽつりと立つ露店はどこか不思議な感じがして、零時と心結がドキドキする気持ちを抑えて並べられた商品を覗き込む。そこには、二人が普段あまり見掛ける事のない和風の小物が並んでいて、見る間に二人の瞳が輝き出した。
「とっても綺麗っ」
「これは布で作ってあるのか? こんなに綺麗な形になるんだな……!」
 花の形をしたつまみ細工や、硝子玉をあしらったもの、表面はつるんとしているのに、灯りを受けてきらきらと輝いて見える七宝焼き、そのどれもが落ち着いた雰囲気で可愛くて綺麗だった。
「この髪飾りも素敵だし、こっちのブローチも綺麗です」
 初めて触れる和の美しさが詰まった小物に、心結は楽しくて仕方がないという風に視線をあちらこちらへ動かしている。勿論、零時もそれに負けないほど視線を彷徨わせていたのだが、ある一点に目を留めると指先で手元に引き寄せた。
 それは金襴生地で出来たリボンの髪飾りで、中央には房の付いたロープタッセルとも呼ばれる髪紐を梅結びと呼ばれる花のように見える結び方をした物が付いた、見栄えもよく可愛らしいもの。色も心結の好きそうなピンクに金色と、まるで彼女の髪を飾る為にあるような気がして、零時は心結に声を掛けた。
「なぁなぁ、これとか心結に似合ったりするんじゃねぇか?」
「え、どれですか?」
 零時に言われ、どれどれと彼の手の中にあるリボンを見ると、心結の丸くて可愛い目がぱっちりと見開かれる。
「わぁ……すごく綺麗なリボンですねぇ……!」
 こんなに綺麗なリボン飾りが自分に似合うだろうか? 不安になって零時を見上げると、心結の不安など吹き飛ばすかのように零時が力強く頷く。
「絶対に似合う!」
 零時にそう言われ、嬉しくなって心結が微笑む。
「あのさ、まだ持ってねぇ奴ならさ……その、一つプレゼントしよっか?」
「えっ、いいのですか!?」
 勿論だ! と笑った零時が、店主に向かってリボンを渡す。代金と共にそれを受け取ると、心結の頭に手を伸ばしてリボンを飾った。
「ありがとうございます! えへへ、似合うでしょうか」
「思った通りだぜ、すっごく似合ってる!」
 手放しで褒められて、照れると共に嬉しさがこみ上げる。何か、お礼を――そう思って心結が手に取ったのは、和紙でできた兎を模った灯りだった。
 手の平に載るくらいの、それこそパルくらいの大きさの灯りは心をほっとさせるような温もりを感じる灯り。
「これ、零時に似合いそう」
「ん? 和紙の……兎! すっごく良いな、これ!」
 パッと明るくなった零時の表情に押されるように、心結が店主に向けてそれを渡して、先ほど零時がしてくれたように兎の灯りを零時へと差し出す。
「……受け取ってくれますか?」
「あぁ、当然! あんがとな、心結!」
 灯りを受け取って、零時が嬉しそうに笑う。ほっとしたように心結も笑うと、二人で店主に礼を言って露店を離れた。
「あ、そろそろ灯篭が流れてくるんだっけ? 行こうぜ!」
「わっ、もうそんな時間ですか? ゆきましょうっ!」
 二人でからころと下駄を鳴らして、金魚と水面の桜が楽し気に揺れる。灯篭の道案内は完璧で、二人は迷うことなく川へと辿り着く。その先で二人が目にしたのは、川をゆらゆらと流れていく沢山の灯篭の灯りだった。
「灯篭が……いっぱい流れてるな……!」
「路に並んでいた灯篭も綺麗でしたけど、川を流れる灯篭もとっても素敵ですっ」
 思わず引き寄せられるように、心結が河辺へと歩みを進める。もう少しそばで、と二人で川岸にしゃがめば、灯篭がゆらりふわりと流れていくのを身近で見れた。
「わぁ……! おいで、おいで」
 心結が思わず手招きをすれば、灯篭は近くなったり遠くなったり、そうして遠くへと流れていく。少しだけ残念な気持ちもあったけれど、あれはきっと誰かの願いだから、と零時が言うと納得したように心結が隣の彼を見た。
「この数だけ願いがあると思うと素敵ですね」
「そうだな、あの数だけ願いがあるんだよな……沢山の願いが流れてるんだな」
 色々な願いが籠っている灯りが、二人の目の前を幾つも流れていく。
「みゆは、一つに絞れるのもすごいと思いますけれどっ」
「ああ! そうだぜ、俺の願いはたった一つだからな!」
 ここにある沢山の願いにも負けない願いだ、そう言って零時が笑う。
 零時の眩しいくらいの笑顔に心結も一緒になって笑って、時間が許す限り二人で灯篭の灯りを見送った。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

柚木・眞衣


ひとり、ふらりと立ち寄った
食べ物の香りもするけれど
心惹かれたのは露店の和小物

きれい、

と言葉にはせず
その場に屈み込んで
商品に目移りしてしまう

どれも素敵な物ばかり
自分で選べはしないから
言われるがままに
店主のおすすめを購入

微かに軽くなる足取り
次に進むは、川に掛かる橋

流されてゆく灯篭を
橋の上から、そっと眺める

夜空にも灯りが点り
光り輝く場所になっていた
あまりの眩しさに、目がくらむ

やさしい光たちが
向かう先は、どこだろう
あの子にも届くのなら
わたしも流すべきだった?

ああ、でも、

わたしから貰っても、
きっと、あの子は喜んでくれない

大好きな、たったひとりの片割れ
そんな、あの子を✕✕したのは、

──わたし、だから、



●花宿灯篭
 灯篭の灯りに誘われるように、柚木・眞衣(Evening・f29559)がふらりと大通りを歩く。特に何かの当てがあるわけでもなく、ひとりという自由さで蝶が舞うようにひらり、ひらりと灯りに照らされた路をいく。
「いい匂い」
 灯篭の間に幾つかある露店は食べ物を売っているようで、食欲を掻き立てる香りが流れてくる。でも、そんないい香りも眞衣の心を惹くことはなかった。
 まばらに歩く人の下駄の音がカランコロンと響くのを聞きながら、またふわり、ひらりと足を前へ進める。また露店が見えて、何を売っているのかとちらりと視線を遣れば和小物が並んでいるのが見えた。
 きれい、確かにそう感じたから、眞衣は気紛れに露店の前に屈み込むと、ひとつひとつ小物を眺めた。
 装身具から小物入れまで、豊富な種類が取り揃えられていて、思わず目移りしてしまう。どれも素敵で選べないと悩んでいると、同じようなお客さんが多くいるのだろう、店主がこちらなどお勧めですよと眞衣にショールを差し出した。
 それはこれからの季節、肩に掛けるのも首に巻くのにも良さそうな、ふわりとした黒地に和柄が映える逸品。華美ではないが、大柄な模様は確かに美しいと感じられた。
 何より決め手になったのは、リバーシブル仕様なので柄を見せたくなければ真っ黒なショールとしても使えるところだ。おまけに、ショールを留めるつまみ細工のブローチを付けてくれた。
 代金を渡し、値札を切ってもらうとそのまま肩に羽織り、礼を言って店を離れる。来た時よりも確かに軽くなった足取りに、ああ、わたしは今、少し楽しいのだろうかとぼんやりと考える。そうしているうちに、灯篭が途切れて目の前に橋の掛かった川が見えた。
 橋に向かって歩き、流れていく灯篭を見つめる。橋の中頃に差し掛かると足を止め、欄干に寄り掛かるようにして流れていく灯篭を眺めた。
 きれい、素直にそう思う。
 夜空にも灯りが点り、満天の星が広がっている。
 いつの間にか光り輝く場所になっていたその眩しさに、眞衣の目がくらむ。自分を落ち着かせるように深呼吸を繰り返し、やさしい光たちが流れていくのを見遣った。
「向かう先は、どこだろう」
 頼りなげな声が小さく響く。
 ああ、あの子にも届くのなら、わたしも流すべきだった? そんな想いが胸を締め付ける。
「ああ、でも」
 わたしから貰っても、きっと、あの子は喜んでくれない。
 大好きな、たったひとりの片割れ。
 あんなに、あんなに大事で大好きだったのに。
 なのに。
 あの子を■■したのは――。
「わたし、だから」
 囁くような声は、川のせせらぎに流れて消える。
 ぼんやりと、ただぼんやりと、眞衣は優しさに満ちた灯りが遠くに消えていくのを見ていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

花川・小町
【花守4】
牡丹に蝶を添えた今年の浴衣でめかしこみ、悠々と小路の逍遙へ

ええ本当、華があるって良いわねぇ
流石だわ、春ちゃん――ふふ、美人と連れ立って味わう佳景の風情は、一層ぐっとくるものね(ちゃっかりと春和の隣をキープ&ガードしながらにこりと)
はいはい、折角のお祭で文句は無しよ
静かにしていれば絵にもなるというのに、貴方達って子は、もう――放っといて行きましょ、春ちゃん
(ああいう男達には捕まっちゃ駄目よ、なんて悪戯っぽく囁きながら手を取って)

(それから暫しまた、静かに風情に浸り――ふふ、本当に黙っていれば見事なものじゃない、とは心内に留め、満ちる情緒と浪漫にそっと笑みを深めて)
――嗚呼、至福の一時ね


永廻・春和
【花守4】
しっとりとした浴衣姿(お任せ)で
灯籠と小路を楽しみに

(最早お決まりの様な応酬を緩く聞き流しつつ、小町様には微笑み返し)
あら小町様、それは私の台詞ですよ
華の御姐様の御相伴に預り、此方こそ幸甚に存じます
(続く男性陣の話はもう全く耳に入らぬ様子で、のんびり灯籠へと目も心も向け)
はい、では先へ参りましょう
こうして道を照らし出す様子も夢路の様で素敵ですが、水面を揺蕩う灯りの幻想もまた楽しみですね
(心得ました――でも小町様に掴まるのは特別ですねと、笑んで手を)

(改めてゆるりと辺りを見渡せば、何処までも綺麗で、心まで優しく温か照らされる様で――)
ええ、願わくは――(この様な幸いと灯りが続く日々を)


呉羽・伊織
【花守4】
今年の浴衣でシックに
しっとり浪漫を求めに――

来た筈なのに
今日こそ両手に花で最高の夜だと思ったのに
…またアンタか邪魔狐め、煩いっての!
(入り込む余地もない女性陣と割り込んでこなくて良い野郎を前に、遠い目で灯篭へ逃避し)
ホント黙れよ、冗談でも願い下げだ
折角の美観と祭だってのに、色々台無しじゃんか!
あっまってコイツと二人にしないで
そんで春を誑かすってか変なコト吹き込まないで姐サン~!

(応酬も程々に、そっと歩み出した後は存外大人しく――再びちゃんと灯篭へ目を向ければ、自然と心穏やかに笑みが浮かび)
…そーだな、悪くない
(口振りと裏腹に、それでもきっと、この先の川で灯籠に乗せる思いはきっと――)


佳月・清宵
【花守4】
今年の浴衣で気楽にふらり
祭の風情と灯の情緒
序でに色々愉しみに

(随分な挨拶にも笑って返し)――俺は最高の気分だがな?
てめぇこそまたその調子かよ
せいぜい花に集る悪い虫と払われねぇよう大人しくしてるこったな――否、手遅れか(女達の位置と見比べ更に笑い)
相変わらず全く相手にされてねぇザマを見かねて、構ってやろうと親切心で声を掛けてやったんだぜ?
(風情も容姿も)悉く台無しにしてんのはてめぇの言動だろうがよ

(この野郎と一纏めにしてくれるなと肩竦めたり、小町に密やかに同意しつつも――おまけは十分愉しんだのか、後はしっとり祭に浸る様に

己は何か願う性分では無いが、この連中と唯眺めるだけでも、中々――)



●百花灯篭
 大通りから少し外れた小路に、からころと四つの下駄の音が響く。
 牡丹をあしらった朱色から裾に向けて橙色へと変わっていく絞りの浴衣に、光沢のある黒い帯、そこへレースの羽織を小粋に重ね、蝶の飾りで留めているのは花川・小町(花遊・f03026)で、永廻・春和(春和景明・f22608)が頻りに素敵だと口にしている。
「ありがとう、春ちゃんの浴衣も素敵よ」
 シックな黒の地色に華やかな桜が咲き乱れる浴衣、真っ白な帯に黒と桜色の帯紐を可愛らしく締めてある上に、裾から覗くレースの甘辛なテイストが春和に良く似合っていると小町が言えば、春和がふんわりと頬を染めて喜んだ。
「本当よ? 華があるって良いわねぇ」
「あら小町様、小町様の言葉を疑うようなことは決してありませんけれど、それは私の台詞ですよ? 華の御姐様の御相伴に預り、此方こそ幸甚に存じます」
 視線を合わせ、甘く微笑む春和はなんとも可愛らしく、美しい。
「ふふ、美人と連れ立って味わう佳景の風情は、一層ぐっとくるものね」
 いつになく機嫌よく小町が言えば、後方から相槌のような独り言のような男の声が飛ぶ。
「いいよな、女の子の浴衣ってやつは何度見てもいいもんだ」
 前を歩く麗しの花を眺めつつ、裾に流水紋のような粋な模様が入った黒の浴衣を着こなした呉羽・伊織(翳・f03578)が満足気に頷いてから、すっと表情を消す。そう、しっとりとした浪漫、そして美しい花を近くで眺める喜びを求めてここへ来たというのに。
「今日こそ両手に花で最高の夜だと思ったのに……またアンタか邪魔狐め!」
 伊織の随分な挨拶もいつものことと意に介さず、笑って隣を歩くのは佳月・清宵(霞・f14015)だ。
 茶褐色の地色に黒い縦縞模様の浴衣の半身を赤と黒に仕立てたモダンなそれをさらりと着こなし、薄手の羽織を肩に掛け煙管を片手に伊織を見遣る。
「――俺は最高の気分だがな?」
「笑うな!」
 くつくつと笑う男を横目で睨んでいれば、前を歩く小町が煩いわねとばかりに振り向いた。
「はいはい、折角のお祭で文句は無しよ? 伊織ちゃん」
「だって姐サン!」
「静かにしていれば絵にもなるというのに、貴方達って子は、もう……」
 隣で笑う春和との間を保ち、尚且つ男共が割り込んでこれぬように鉄壁の守りを築き上げていた小町が溜息交じりに春和に言う。
「放っといて行きましょ、春ちゃん」
「はい、では先へ参りましょう。この路を照らし出す様子もまるで夢路のようで素敵ですが、この先にある川の水面を揺蕩う灯りも楽しみで……」
 伊織と清宵の話は最初から何時ものことと聞き流していたのだろう、春和がのんびりと眺めていた灯篭から視線を外し、小町へと向けた。
 それを後ろで眺めていた清宵が、伊織に向けて鼻先で笑うように言う。
「てめぇは相も変わらずその調子か、せいぜい花に集る悪い虫と払われねぇよう大人しくしてるこったな」
「煩いっての」
 どう足掻いても入り込む余地のない女性陣と、割り込んでこなくてもいい野郎を前に灯篭の灯りの美しさに現実逃避していた伊織が噛み付く。
「――否、手遅れか」
 自分達と距離を開いていく華やかな浴衣を前にして、清宵が意味ありげに見比べて笑った。
「ホント黙れよ」
「相変わらず全く相手にされてねぇザマを見かねて、この俺が構ってやろうと親切心で声を掛けてやったんだぜ?」
 感謝されこそすれ、邪険に扱われる覚えはねぇなと清宵が流し目を送れば、心底嫌そうな顔をした伊織が叫ぶ。
「冗談でも願い下げだ! 折角の美観と祭だってのに、色々台無しじゃんか!」
 あんまりだ、オレが何をしたっていうんだ、と伊織が嘆くように呟くと何もかもが惜しいな、という顔をして清宵が指摘する。
「悉く台無しにしてんのはてめぇの言動だろうがよ」
 今にも噛み付きそうな表情をした伊織が何か言ってやろうと口を開いた時だった。
 既に十メートル程の差が開いた前方にいた小町から、声が掛かったのだ。
「貴方達、本当に置いていくわよ?」
 呆れたように言うと、続けて春和に視線を向ける。
「ああいう男達には捕まっちゃ駄目よ?」
 くすりと笑って、戯れるように囁くと小町が春和の華奢な指先を取る。
「心得ました――でも、小町様に捕まるのは特別ですね」
 悪戯に、悪戯で返すように笑うと、春和が小町の指へ自分の指を絡めた。
「あっまってコイツと二人にしないで! そんで春を誑かすってか変なコト吹き込まないで姐サン~!」
 こうしてはいられないと、伊織が二人を追うべく歩く速度を少し上げる。清宵はといえば、この野郎と一纏めにしてくれるなと肩を竦めつつ、ああいう男達と言った小町に密やかな同意をしてその後姿を追うように歩いた。
 からころと、下駄の音を響かせて四人がそれぞれ灯篭の灯りを堪能したころに、足元を照らしていた灯篭がふいに途切れる。足元から視線を上げると、その先には川を流れていく幾つもの灯篭が見えた。
「道案内の灯篭も素敵だったけど、これはまた違う風情があっていいわねぇ」
「ええ、ええ、本当に……」
 訪れた人々が流した灯篭がゆらゆらと、何処までも流れていく景色は心かで優しく温かに照らされているようで、春和が吐息を零す。
「これは中々――」
「……そーだな、悪くない」
 呟くような清宵の声に、伊織の声が重なる。いつもなら、ここから嫌味の一つも飛んでくるところだが、目の前の幻想的で美しい風景を前にしてしまっては、そんな気もしなくなるというもの。
 そんな二人をこっそり眺め、本当に黙っていればこの二人も見事なものじゃない、と小町がそっと笑みを深める。決して言葉にはしないけれど、その眼差しはどこまでも優しい。
「灯篭、私達も流しましょうよ」
「はい、私も流したいです」
 小町と春和がそう言えば伊織と清宵に否はなく、四人並んで灯篭を流すことにした。
 手から離れ、四つの和紙で作られた紙の灯篭が流れていく。
 願わくは――この様な幸いと灯りが続く日々を……そう願った春和が顔を上げ、他の三人を見遣る。何を願うのかは人それぞれ、聞いてみたい気持ちはあれど、口には出さぬまま流れゆく灯篭を見守る。
「何処まで流れていくんだろうな」
 灯篭に乗せた思いを胸に秘めて、伊織が立ち上がりながら誰に言うでもなく言葉に載せる。
「さぁな、海まで届くかもしれないが」
 何かを願うような性分ではないが、それでも思うところはあったようで清宵もその先を眺めている。
 満ちる情緒と浪漫に笑みを深め、小町が吐息混じりに呟いた。
 ――嗚呼、至福の一時ね、と。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

桜田・鳥獣戯画

最近メシの誘い合いをしているアルフレッド(f03702)と

お前!昨年のも良かったが今年の浴衣も随分と粋だな!
エイの群れとか一通り褒める
青のイメージが強いが、赤もよく似合う男だ
私か? 私のはこれ男物なのだが
(↑男物浴衣を見繕っていただけませんか)

川へ出たら、流れる灯篭に合わせてゆっくり歩きながら近況などを話す
このようにゆるく歩く機会など、最近はなかなかなかった

露店の店先で可愛らしい小物を見つけては、これはあやつに似合う、これはあの子などと旅団員自慢を始める

…が、アルフレッドの目線につられ灯篭を見つめる
おのれがどこへ向かうとも知らぬ、命の灯のようだ

…ん? 私の顔に目鼻でもついているか?


アルフレッド・モトロ
飯が美味いと噂の喫茶店に行くつもりが
予定変更だ!

バッチリ浴衣もキメた所で
戯画の姐御(f09037)と灯籠祭へいざ出陣!

って

えー…
姐御の男モノ浴衣に少し意気消沈
知らず知らずのうちの姐御の浴衣姿に期待していたというのか…!?
お、俺はそんな野暮な気を起こす男ではないはず(震)

気を取り直して祭へ

こういう光を見ると
海の深みで暮らしてた時の事を思い出す

見た目ほぼ怪物みたいな連中が
揃いも揃ってふわふわ光って
なんの光か分かっちゃいるのに
ぼーっと見とれてたんだっけ

こんなに綺麗な景色があっても
想い人とやらと添い遂げるために
自ら命を捨てる奴がいるなんて


しんみりしちまうなあ

…と、楽しそうに話す姐御を横目でチラリと見る



●小粋灯篭
 桜舞う大通りに、灯篭が灯りが揺れる。そわそわする心を落ち着けるように、その灯りを眺めてアルフレッド・モトロ(蒼炎のスティング・レイ・f03702)が共に祭に行く相手を待っていた。
 飯が美味いという噂の喫茶店に行く話をしていたのだが、何故か灯篭祭に来ることになったのだ。
 いや、全然それは良いし、なんだったらちょっと食い気味に頷いたのは記憶に新しい。気合を入れて今年新調した浴衣も着たし、あとはそう、浴衣で来るであろう相手と落ち合うだけ――。
「いやすまん! 待たせたな!」
 期待に胸を膨らませ、俺もさっき来たばかりだぜ、姉御。そう言おうとしていたアルフレッドの顔がみるみる内に曇っていく。海産系キマイラである彼の皮膚は青白い程に青く、姉御と呼んだ相手――桜田・鳥獣戯画(デスメンタル・f09037)には全く気付かれないのだが。
 気付かないまま、鳥獣戯画がアルフレッドの浴衣を見て表情を明るくする。
「お前! 昨年のも良かったが今年の浴衣も随分と粋だな!」
 日の沈んでいく、暗くなる手前のような色から裾に向けては深海を思わせるような海の色をした浴衣には、エイが青海波文を思わせるように並んで泳いでいる。
「このエイの群れはいいな! 実にいい!」
 青のイメージが強いけれど、赤も良く似合う男だと鳥獣戯画が感心していると、アルフレッドが礼を言いながら鳥獣戯画に尋ねる。
「その、姉御のは……」
「私か? よくぞ聞いてくれた、私のこれは男物なのだが、中々のものだろう?」
 紺の地色に生成りの縦縞、裾の目立たぬ箇所に蛙と兎が相撲を取っているような柄が見えた。帯は黒地に彼女の髪色のような梅鼠色の模様が入っている。
「一目で気に入ってしまってな、思わず一揃いで買ってしまった」
 サラシもセットでな! と快活に笑った鳥獣戯画にアルフレッドは思う。
 確かに、確かに縦縞は彼女のすらりとした身体に合っている。でもそうじゃない、そうじゃないんだよなぁ! と。しかしハッと我に返れば、俺は知らず知らずのうちに姉御の浴衣姿に期待していたのかと思わず震える。
「よ、よく似合ってるぜ姉御……!」
 俺はそんな野暮な気を起こす男ではないはず、と唇を噛み締めたアルフレッドを、肩に乗ったカブトムシが慰めるようにその角で突いていた。
「どうした? 腹が減ったか? 何か食ってから行くか?」
「大丈夫だ姉御、時間がもったいないし祭へ行こうぜ。食いもんの露店もあるみたいだしな!」
 いざ、気を取り直し灯篭祭へ――!
 大通りの灯篭の灯りを道案内にし、からころと下駄を鳴らして二人が歩く。露店に寄っては焼そばだたこ焼きだと買い求め、二人で分け合いながら灯りが揺れる路を進んだ。
「む、あの露店は食べ物屋ではないが、ちょっと見ていってもいいか?」
 勿論だとアルフレッドが頷いて、ゴミ箱にゴミを放り込みに行く。戻ってくると、鳥獣戯画があれもこれもと真剣に和小物を見て楽しそうにしていた。
「気に入ったもんがあったか、姉御」
「いやな、これはあやつに似合うと思うし、これはあの子に似合うだろうと思ってな」
 旅団員のここがいい! あれがいい! という話を交えて鳥獣戯画が笑う。
 あっこれただの自慢だとアルフレッドが気付いた時には、既に全員分を語り終えて満足気にしている鳥獣戯画がいた。
 姉御が楽しいならいいかと、笑って頷くとまた二人で並んで川へと向かう。
 すぐに川のせせらぎが聞こえ、開けた先に流れていく灯りが見える。それは何とも不思議な光景で、思わず二人顔を見合わせてしまうほど。橋へ向かうと、鳥獣戯画がアルフレッドに訊ねた。
「最近の調子はどうだ?」
「ハハッ、今聞くのかよ姉御。いつも通りさ、調子は悪くないぜ」
 優しく緩やかな時間の中で、互いの近状を話し合っていると橋の中央に到着する。どれ、と欄干に身体を預けて川を眺めると、また違う風情が感じられて目を細めた。
 こういう光りを見ると、海の深みで暮らしていたことを思い出すなとアルフレッドがぼんやりと灯りを目で追う。
 見た目はほとんど怪物と変わりないような連中が、揃いも揃ってふわふわ光って――なんの光か分かっちゃいるのに、俺はぼーっと見とれてたんだっけ。あの頃も悪くなかったと考えていると、鳥獣戯画の言葉が響いた。
「おのれがどこへ向かうとも知らぬ、命の灯のようだ」
「……こんなに綺麗な景色があっても、想い人とやらと添い遂げるために自ら命を捨てる奴がいるなんて」
 叶わぬ想いを来世で。
 その気持ちは、分かるようで分からなくて、アルフレッドはなんだかしんみりしながら隣の女を横目でちらりと見遣る。
「来世で叶えるくらいなら今世で叶えたいものだが、そうもいかん事情があるのだろう」
 そう言って笑った鳥獣戯画は男物の浴衣を着ているのに、いつもより綺麗に見えて。アルフレッドが押し黙る。
「……ん?  私の顔に目鼻でもついているか?」
「姉御、そりゃ大抵の人型についてるやつだぜ」
 あと口もな! と、アルフレッドがしんみりとした空気を払拭するように笑った。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 冒険 『彼岸と此岸を分かつもの』

POW   :    彼岸の存在と交わる

SPD   :    異様な光景に常ならぬものを見出す

WIZ   :    己の、あるいは誰かの過去を追体験する

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●境界
 灯篭の灯りを頼りに、再び帰り路を歩く。
 同じ路のはずなのに。
 違う路であっても、さっきまで人が歩いている先が見えたのに。
 どうして、今自分は見知らぬ庭園に立っているのか――。
 どこかぼやけたような庭園には、四季を問わず様々な花が咲き誇っていた。
 よく知っている花も、知らぬ花も、枯れることなく咲いている。まるで、この世のものではないような――そう思ってしまうに値するような庭園だった。
 そして、此方側ではなく彼方側へ行かなくてはいけない気がして、ぼんやりと庭園を見て回る。
 あの樹の幹は、太くて首を吊るのに良さそうだ。
 そこの池は透き通った水を湛えていて、花が浮いている。入水するのに丁度良さそうだ。
 あんなところに東屋があるじゃないか、毒を飲んで死ぬのにも刃で共に自刃するのにも――。

 嗚呼、どうやって心中しよう?


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 MSコメントの【●第二章:冒険パート】を参照ください。
 心情路線でも、コメディ路線でも、紡ぐのは物語の主役である猟兵の皆様方です、どのような心中方法でもお好きなようにプレイングをかけてくださるとこちらも色々漲ります。
 【受付期間】はMSページを参照ください、受付期間前に送られたプレイングはタイミングが悪いとお返しすることになってしまいますので、恐れ入りますがプレイング送信前に一度ご確認くださいませ。
有澤・頼
テオドア(f14908 )と一緒に。

「本当に綺麗な場所…」
この世のものとは思えないとはまさにこのことだね。

【POW】
花を見つめていると誰かの気配がした。顔を上げるとそこにはもう死んでしまった親友がいたんだ。辛い時励ましてくれた私たちの親友で兄貴分だった人。
「し、東雲…」
テオも驚いている。あの頃と変わらない姿で彼はそこにいた。
涙が溢れてきてしまう。
テオが声をかける。そうだ、心中をしなければ。
事前に用意した睡眠薬を二人同時に飲むよ。

(なんか、あったかい…)
何かが触れているし、彼が何かを言っているけどそれを聞き取ることができないや…


テオドア・サリヴァン
有澤頼(f02198)と一緒に

「これは見とれてしまうな」
ここにずっといたいと思わせてしまうくらいの美しい場所だ。

【POW】
俺たちの前に現れたのは死んでしまった親友だ。
実験体だった俺たちを励まし、一緒に自由になろうと言ってくれた頼れる兄貴分だ。
「東雲…本当にお前なのか…?」
彼は頷く。頼を見ると泣いていた。それは仕方のないことだろう。
俺は頼に声をかける。時間はあまりかけない方が良いだろう。
頼と一緒に事前に用意した睡眠薬を飲む。あっという間に眠気が襲う。
東雲の声がする何を言っているのか聞き取れない。

(もう少しだけ会話をしておけば良かったか…?)
今更遅いが…仕方ないか。



●忘声心中
 灯りを頼りに戻ったはずなのに、と有澤・頼(面影を探す者・f02198)は隣を歩いていたテオドア・サリヴァン(ダンピールの妖剣士・f14908)を見上げる。
「ここが影朧の庭……だよね」
「どうやらそうらしいな」
 顔を近付け、誰にも聞こえぬように小さな声で囁いて、二人が目を合わす。小さく頷き合うと、身体を寄せ合うようにして花の咲き乱れる庭園を歩いた。
「本当に綺麗な場所……」
 ここは敵地に等しい、それはわかっているけれど、それでも咲き誇る花々は美しいと頼が思わず呟く。
 まるで、この世のものではないみたいで――。
「これは確かに、見惚れてしまうな」
「う、うん! 私もそう思うよ」
 ぼんやりしそうになった頭を軽く振って、頼がテオドアの言葉に頷く。そのまま広い庭を当てどなく歩くと、大きな桜の前に出た。
 幻朧桜とは恐らく違うのだろう、枝垂れ桜と呼ばれる桜だ。その名の通り枝が柔らかい為に枝が下を向き、桜のカーテンのようになっている。近付くと、その枝の下に誰かが立っているのが見えた。
「し、東雲……?」
 その姿に、いち早く声を掛けたのは頼で、幻でも見るかのような顔をしている。それはテオドアも同じで、信じられないものを見た時のような顔で、彼を食い入るように見ている。東雲、そう呼ばれた青年はあの日と変わらぬ笑みを浮かべて、二人を見ていた。
 東雲、それは頼とテオドアの、忘れ得ぬ友の名。実験体として、筆舌に尽くしがたいほどの苦しく辛い日々を送っていた頼とテオドアにとって、辛い時に励まし寄り添ってくれた大切な親友であり、兄貴分でもある人物だ。
 自分だって痛くて辛かったはずなのに、彼は何よりも二人を気に掛けてくれていた。
 一緒に自由になろうと、二人に希望を捨てさせず諦めさせなかった、恩人のような。けれど、けれどだ。
 東雲という男は、もう――死んでいるのだ。
「テオ……」
 頼がテオドアを見上げる。驚いた顔をしたまま、テオドアが東雲に話し掛けた。
「東雲……本当にお前なのか……?」
 それ以外に言葉が出てこなかったけれど、彼は肯定するかのように頷く。あの頃と、変わらない笑顔で彼は其処にいた。
「東雲……東雲……っ」
 頼が東雲の名を呼ぶ。それは嗚咽混じりの声で、彼女が泣いているのだとテオドアは思った。
 東雲は何も、何も言わぬまま二人を見ている。それがこの庭園が見せた幻なのか、本物の彼なのか。もうそんなことはどうでも良かった。
 あんなに会いたかったけれど、二度と会うことのできない彼の姿を見ることが出来たのだから。
 だから、とテオドアは頼の涙を拭うように親指を滑らせ、彼女の名を呼んだ。
「頼」
「……わかってる、わかってるよ、テオ」
 わざわざ招待状を持ってまでこの庭園に来た理由を忘れるほど、彼女は子どもではない。自分が猟兵であることを自覚している。
「心中、しないとね」
「ああ」
 時間はあまり掛けない方がいいだろう、そう思う。
「東雲、会えて嬉しかった」
「俺もだ、東雲」
 二人が東雲にそう言って涙を拭うと、予め用意してあった睡眠薬を手にする。そうして、二人顔を見合わせて。
 泣き笑いのような顔をして、薬を飲み干した。
 害のある薬ではない、一瞬意識を奪うような、そんな薬だ。
 けれど、見る者によっては毒を飲んで二人倒れたように見えるだろう。二人の身体は重なり合うように、桜の花びらの上に頽れる。
 最後に見た東雲の顔は困ったような、仕方ないなというような、優しげな顔をしていて――。頼とテオは笑みを浮かべてゆるりと意識を手放そうとしていた。
 誰かが頼の頭を撫でている。それはとても優しくて、ずっと欲しかった温もりのようにも思えて、でも。目を開けられなくて、頼の唇が小さく、しののめ、と名を呼ぶ。
 テオは耳元で聞こえた頼の声に一瞬瞼を動かそうとするけれど力が入らず、聞こえる音だけに神経を集中させる。
 ああ、東雲が何か言っている。けれど、その声は自分には届かずに消えていく。何を言っているのか聞き取りたくて必死で耳を澄ますけれど、何かを言っているのはわかるのに、東雲の声は聞こえない。
 薬を飲む前に、もう少しだけ話をしておけば良かったとも思うが、今更だ。
 薄れゆく意識の中、二人は東雲の声を拾おうと、ただそれだけを思った。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ステラ・エヴァンズ

WIZ判定
これは…以前までの私が本当に考えていた事ですが
刀也さん…私の旦那様は私を照らす太陽であり、翔ける為の空であり…そして私を私にしてくれた人
人形ではなく、私と言う人にしてくれた人
だから失ってしまったら潔く後を追おうと、閻魔様に裁かれるまでは、死の道中すらも共にしようと思ったのです
…だって、あの方のいない世界は太陽も空も失せたも同然なのですから
そんなの…耐えられません

と言った心持ちで…折角の浴衣は汚せませんし、自身の身の回りに結界術を施し川への身投げと参りましょうか
飛び込んだなら川底にて無酸素詠唱して呼吸の確保、水中機動も用い移動して流れの先で打ち上がった土左衛門のように倒れていましょう



●君恋心中
 四季を問わず花が咲き乱れる庭園は、招待状を持つ者にのみ開かれる。
「なるほど……確かにこれを持っていなければ入れない場所なのですね」
 招待状を忍ばせた巾着バッグにそっと触れ、ステラ・エヴァンズ(泡沫の星巫女・f01935)が辺りをそっと見回す。庭園には、ちらほらと人が見えたけれど、彼らも猟兵なのだろう。
「さて、折角ですから死に場所を探すと致しましょうか」
 影朧のテリトリーとはいえ、確かに花々は美しい。庭園には歩道のようなものが整備されていて、その上を歩いて行けば一周できるのだろう。影朧はこちらが心中――死んだ振りをしなければ現れないというのならば、散策がてら探すのも悪くない。
 背筋を伸ばし、ステラが足を踏み出した。
 歩きながら思うのはステラの伴侶でもある旦那様……刀也のこと、以前までの自分が考えていたことだ。
「刀也さん……」
 私を照らす、太陽のような人。
 自由に翔ける為の、空のような人。
 それから――。
「私を私にしてくれた人」
 神の恩恵を与う存在と謳われながら、蔑まれ道具として育ち利用されてきた……人形のようであったステラを自我のある人にしてくれた、掛け替えのない人だ。
 大好きな、ステラがこの世でただ一人と決めた人。
「ええ、ですから」
 切なげな笑みを浮かべ、どこから水が引かれているのかもわからない底の見えぬ川の前で立ち止まる。
「もしも失ってしまったら……潔く後を追おうと、閻魔様に裁かれるまでは、死の道中すらも共にしようと思ったのです」
 甘え方も知らぬ私に、甘えることを教えてくれたあなた。
 あなたがいない世界など、太陽も空も、色彩さえも失せたも同然。
「そんなの……耐えられません」
 吐息が零れ、ステラの瞳が伏せられる。
 さて、今年新調したばかりの浴衣を汚してしまえば、家に帰った時に旦那様が心配するだろう。そう思うと浴衣は汚せないし、とステラがそっと自身の周囲に結界を張る。
 演技と心持ちは充分、本当に彼がいなくなったらと考えてうっかり悲しくなってしまったほどだ。
「今、参ります」
 思い切って深そうな川へと身を投げる。勿論、ステラの対策は完璧だ。
 結界術で自分の身が汚れぬようにし、川底で息が出来ずとも可能な詠唱を紡いで呼吸ができるように整える。その後は水中で慎重に移動して流れの先で上がった遺体を装うだけだ。
 ああ、帰ったら悲しくなった分旦那様を充電しなくては……そんなことを考えながら、ステラは川岸で目を閉じるのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

黒鵺・瑞樹
アドリブOK

(庭園を見て)…そっか心中の必要あったんだっけ。忘れてた。

すごいな。彼岸花撫子槍水仙。牡丹芍薬鈴蘭に竜胆もある。
引き寄せられるように花々の中に入り、座り考える。
ふむ、飛刀で手首を切るか。本体じゃ落としかねないし。

諦め、思うはあなた一人、純粋な愛、秘めた恋、誠実、純粋。
気が付けば好きな花は似た言葉。
悩んでた解の一つは出たけれど、未だ引き摺ってる想いがどうしたってぐるぐる廻る。
感情を殺し過去にしようと思っても、今の不安定な自分を繋ぎ留められる一番はその想いで。
諦めていても、それでもあの人の心に俺という存在を刻み付けたい。
花を流れる血で赤く染める。

このまま死んだらそれができるだろうか?



●花染心中
 灯りが途切れたその先に、その庭園はいつの間にか広がっていた。
 後ろを見ても、もう来た路はなく、前へ進むしかできぬ……否、庭園へ足を踏み入れたくなる、そんな光景だった。
「へえ、これが……すごいな」
 招待状を持つ者だけが招かれるという、影朧の庭園。そこは見渡す限り花の咲く、言われなければ影朧のものだとはわからないほど雅であった。
「……そういえば、心中の必要があったんだっけ。忘れてたな……」
 困った、というように笑って、黒鵺・瑞樹(界渡・f17491)が庭園に向けて足を踏み入れる。特に当てがあるわけでもないと、取り敢えず辺りを歩くことにした。
 すぐに目に入ったのは桜で、様々な品種の桜が咲き誇っている。八重桜、枝垂れ桜、染井吉野……桜から離れると、撫子、槍水仙……知っているだけでも、かなりの数が咲いていて、瑞樹の目が綻ぶ。
「あれは牡丹、芍薬……鈴蘭に竜胆もあるな」
 目に美しく、その芳香も心を慰めるような――。
 引き寄せられるままに花の咲き乱れるそこへ足を踏み入れると、紅く咲く曼殊沙華が見えた。
 彼岸花とも呼ばれるその花は、真っ赤な火花が咲いて散るかのような形をした美しい花。その花々に囲まれるような場所に腰を落ち着け、さてどうやって死のうかと考える。
「ふむ、柳葉飛刀で手首を切るか。本体じゃ落としかねないし」
 落としてしまっても死にはしないが、その後の戦闘に支障が出ては意味がない。軽く手首を切るくらいなら、なんとかなるだろう。そうと決まれば、と投擲用にと持ち歩いているナイフの一本を取り出した。
「うん」
 それから、心中というのならば相手が必要だとも考える。
「だったら俺は、あなたがいい」
 いつからだったか、気が付けば好きな花は似たような花言葉を持つものばかりで。
 思うはあなた一人、純粋な愛、秘めた恋、誠実、純粋――そして、諦め。
 瑞樹が瞼を閉じて、吐息を漏らす。悩んでいた解の一つは出たけれど、未だに忘れられずに引き摺っている想いが瑞樹の心を圧し潰すかのようにぐるぐると廻っている。
 感情を殺して、過去にしようと何度も思ったけれど、今の不安定な自分を繋ぎ止める一番の想いはそれしかなくて。
「……好きだ」
 言葉にしてしまえば、それは鮮明になって瑞樹を襲った。
 苦しい、忘れたい、でも俺を今の俺たらしめるのは、どうしたってその想いしかなく。
「諦めて、いるのに」
 それでもあの人の心に、自分という存在を刻み付けたい。
 狂おしいまでのその感情に突き動かされるかのように、瑞樹は手にしたナイフで手首を切りつけた。
 流れ落ちる血は温かく、曼殊沙華よりもなお紅い。
 まるで瑞樹の想いを形にしたかのように、流れる血は花を染めていく。
「ああ、このまま死んだら――」
 それができるだろうか。
 それとも、この想いだけを殺してしまうことができるだろうか。
 目の前に広がるのは己の血か、紅の花か――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

馬県・義透
引き続き『静かなる者』。
『侵す者』と『不動なる者』は眠り中。

毒を飲んでからの水中へ。毒耐性で耐えますし、元々死んでいるのであまり関係無いような。

この今の姿(『疾き者』がベース)を決めたのは私ですが。生前身長(疾179と静181)が近かったので…というのはあります。
ありますが…かつての初恋もあるのでしょう。今は見られぬ、銀灰色の髪を持つあなたに。まだ幼かった私への護衛として現れたあなたに。
一時期は、本当にそういった関係もありましたが。…まさか、今のようになるとは思ってもみなかったんですよ。

疾「私にはばれるって、そういうことですかー」

※関係は自然消滅→戦友移行しました。
髪の白部分は静かなる者由来。



●初恋心中
 灯篭の灯りが揺れる路からいつの間にか外れ、見知らぬ庭園へ辿り着いても馬県・義透(多重人格者の悪霊・f28057)は柔和な笑みを浮かべたまま、着流しの裾を乱さぬ速度で歩いていた。
 一人ではあるが、うちに抱えるのは実に四人。その内二人は祭りの道行の際に眠っていてくださいと頼んだ通り、義透の中で眠っている。声を掛けて起こさぬ限り、こちらの行動も会話も知らぬままだろう。
「見れば見るほど立派な庭園ですね」
 閉じた目の先に見えるのは四季を問わず咲き乱れる花々。それは枯れる様子もなく、時折吹く風に揺れている。
「彼岸と湖岸の境目、まさしく境界と言うべきでしょうか」
 元々が死んで魂となり、長い間漂っていた身だ。この雰囲気は馴染みがあると言っても過言ではない。
『なんだか懐かしい感じがしますねー』
「そうですね、そう感じるということは……そういう場所なのでしょう」
 死がすぐそばにあるような、そんな。
「さて、ではそろそろ死ぬとしましょうか」
 軽い口調でそう言って、義透が懐に手をやった。
 取り出したのは小さな小瓶で、見るからに毒々しい色をしている。
「後は死に場所ですか」
 もう死んでいるのに死に場所とは、と内心笑いながらふらふらと歩けば、丁度良さげな池のようなものが見えた。
「ここにしましょうか」
 毒を飲んで水に落ちれば、死んだようにも見えるだろう。
 そうと決まれば、と瓶の口を開けて一気に飲み干す。噎せ返るような苦さに僅かに眉を顰め、水中へと身を投じる。
 冷たい、と感じるのは生前の記憶からか、それとも今この身体が生きている者を真似ているからか。
 そうして、まるで走馬灯のようにつらつらと思うのはこの身体……今の姿の事だ。
 これを決めたのは私だけれど、表向きは生前の身長が近かったので、と言ってはいるがそれだけではないと、静かなる者は思う。
 かつての初恋は、思ったよりも根深かったようで。くすりと笑えば、脳裏に甦るのは今はもう見ることの出来ぬ、銀灰色の髪を持つあなた。
 ねえ? と、意味ありげに笑うと、疾き者が随分と懐かしいことを、と笑っている。
 そうですよ、まだ幼かった私への護衛として現れたあなた。
『あの頃はとても可愛らしかったですねー』
 懐かしい話だ、もう何十年と前の、まだ故郷がオブリビオンに滅ぼされていない頃の、平和な――。
 一時期は本当にそういった、愛を囁くような関係でもあったけれど。まさか、今のようになるとは思ってもみなかったのだと静かなる者が笑った。
『私にはばれるって、そういうことですかー』
 呑気な声に、そうですよと答える。
 だって心中するのなら、この初恋と共に死ぬべきだと思いましたので。
 揺蕩う水の中で、懐かしい手が自分の手を包んだ気がして、義透が静かに微笑んだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ハルア・ガーラント
【焼鳥】2名 ◎

繋いだ手はそのままに死に場所を探して彷徨います
わたし手汗大丈夫かな

心中場所はふんわり柔らかい植物が生い茂る場所にしたいです
夜行性のお花が咲いていたら素敵
だって、貰った髪飾りが倒れた衝撃で壊れたら嫌なんだもの

相馬には毒薬として[天使ドロップ]の中からとびきり甘い蜂蜜味を渡しましょう
毒薬だもの、苦手な味を使った方が雰囲気出そう
わたしは[銀曜銃]で

相馬の提案には首を振ります
わたし1秒でもあなたより長く生きて、見送る側でいたいの
絶対に置いて行ったりしない

相馬が倒れる様子に演技だと解っていても涙が零れそう
事前に銃に棲む光の精霊さんにお願いした、一瞬小さく光る閃光弾を自らに撃ち後を追います


鬼桐・相馬
【焼鳥】◎
此岸と彼岸の境といったところか

死ぬ場所より、俺が絶望的に演技が下手なことの方が懸念事項だな
だからと言ってリアルさを追求して身体に傷をつけようものなら、噴き出す冥府の炎で傍にいるハルアが怪我をするかもしれない
思案する中ハルアのいかにもな死に場所の提案
理解はできないが異論はない

それなら服毒死で行こうか
猛烈な疲労と睡魔で倒れるように眠るイメージならまだ何とかなりそうだ

共に服毒して倒れるつもりでいたが拒否するハルア
俺が研究施設で取り残された過去を気にしているのだろう

ハルアの掌に乗る黄金色の飴玉
彼女の手首を掴み口に含んで噛み砕くが余りの甘さに参る
地面に角が刺さらないようにだけ注意して倒れよう



●蜜酔心中
 からんころん、と鳴る下駄の音はそのままなのに、景色だけが変わっていく。灯篭の灯りは既になく、目の前に広がる庭園は月明かりだけだというのに、その姿を鮮明に表していた。
「相馬、ここって」
「ああ、此岸と彼岸の境……と言ったところか」
 繋いだ手をそのままにして、ハルア・ガーラント(宵啼鳥・f23517)と桐・相馬(一角鬼・f23529)が少しだけ歩く速度を落として庭園を探るように歩く。
 綺麗な庭だと思うけれど、今のハルアは繋いだ手に手汗を掻いてないかの方が気になっていた。
 わたし、手汗大丈夫かな……自分では良く分からないけど、多分大丈夫だと思うのだけど――!
「何処がいい」
 返事のないハルアに視線をやって、相馬が繋いだ手に軽く力を込めてハルアを呼ぶ。
「おい」
「えっあっはい!」
「……大丈夫か?」
「だ、大丈夫です! ちょっとほら、花が綺麗で……」
 ぼんやりしていたというか、ごにょごにょ……と誤魔化すハルアを見下ろし、もう一度相馬が問う。
「死に場所、何処がいいんだ」
「死に場所……」
 手汗は良くないけれど一旦横に置いて、ハルアが周囲を見渡す。
「できたら、ふんわり柔らかそうな植物が生い茂る場所にしたいです」
 だって、折角もらった髪飾りが倒れた衝撃で壊れてしまったら嫌だし……もしもそうなってしまったら、影朧に八つ当たりしてしまいそうだし。
「わかった、良さそうな場所を探そう」
 相馬からすれば、死に場所などは何処でも同じ。ハルア好みのいかにもな提案は、理解はできないが異論はない。それよりも、自分が絶望的なまでに演技に向いていないことの方が懸念事項だ。
 それでも、心中ごっことはいえ死ぬフリをするのであれば、ハルアの望み通りにしてやろうと彼女言うところの柔らかそうな場所を探して歩く。
「あそこはどうだ?」
「どこですか?」
 相馬の指さす先をハルアが真っ直ぐ視線で辿ると、そこは柔らかそうな緑が生い茂っている場所で、周囲には白く可愛らしい花が見えた。
「チューベローズ……!」
「チューベローズ? 何だそれは」
「夜行性のお花です、いい匂いがするんです」
 気に入りました! と笑ったハルアの手を引いて、相馬がチューベローズ……月下香とも呼ばれる花が咲く場所へと近付く。足元の草は確かに柔らかく、多少荒っぽく倒れても地面にそのまま倒れるよりはマシだろうと判断し、月下香の咲くその場所で立ち止まり、ハルアへと向き直った。
「ハルア」
 影朧を警戒してか、内緒話をするようにその長身を屈め、ハルアの耳元で相馬が囁く。
「ひゃ、ひゃい」
 緊張しすぎて噛んだ……! 恥ずかし気に頬を染めるハルアの姿は、どこかで影朧が見ていたとしたら愛しい男に向かって恥じらう乙女に見えただろう。実際そうなのだが。
「どうやって死ぬ?」
「あ」
 そうだった、死に方も考えなければいけないのだ。
「俺はどういった方法でも構わないが、身体に傷を付けるのはまずい」
 傷口から噴き出す冥府の炎で、まかり間違ってハルアを焼いてしまっては困る。
「だったら……服毒死、とか」
「いいな、それでいこう」
 演技は絶望的だが、猛烈な疲労と睡魔で倒れるように眠る……自分が実際体験していることなら何とかなりそうだと相馬が頷く。
「相馬、これを」
 白い袋の中から透き通った黄金色の飴を取り出す。ハルアが持っている天使ドロップの中でも、とびっきり甘い蜂蜜味の飴だ。
「ハルアも一緒に飲むんだろう?」
 一つだけ出されたそれに首を傾げれば、ハルアがゆっくりと首を横に振る。
「わたし1秒でもあなたより長く生きて、見送る側でいたいの」
「ハルア」
「絶対に置いて行ったりしない」
 どんな時だって、絶対に。
「……わかった」
 恐らく、自分が研究施設にひとりだけ取り残された過去をきにしているのだろう、と相馬は思う。この女らしい、とも。
 ハルアの掌に載せられた黄金色の飴玉をちらりと見て、それからハルアに視線を合わせたまま彼女の手首を掴む。
「相馬?」
 そのまま、掌に口付けるようにして飴を口に含むと、ガリ、と音を立てて噛み砕く。
「ハルア……」
 苦し気な声は、飴玉の余りの甘さに出た声だったが、結果オーライともいえよう。軽く睨まれたハルアは、その恥ずかしさから顔を赤くするやら、毒薬なのだから苦手な味を使った方が雰囲気が出ると思ったのは正解でしたね、とちょっと関係ないことを考えたりしていたのだけれど。
「相馬……っ」
 毒が回ったふりをして、角を庇うように倒れ込んだ相馬に縋りつく。演技だと分かっていても、心臓が凍り付くような感覚に、じわりと涙が浮かび上がった。
「置いて、いかないから」
 ぽつりと呟いたハルアが、銀曜銃を取り出すと自分へと向ける。事前に銃に棲む光の精霊に頼んだ、一瞬だけ小さく光るだけの閃光弾を撃つために、銃口を心臓へと向ける。
 小さな光が咲いて、ハルアが相馬の上へと倒れ込む。
 もし、もしも。
 本当に死ぬ時がきたら、こんな風に一緒に死ねたら。なんて、少しでも考えてしまったことは一生秘密にしようと思いながら――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

茜崎・トヲル
雲珠ちゃんと心中(f22865)

ちっちゃいガラスのビン。ラムネ入り。
血のりのカプセル。おれはこれが大好き。平和じゃないと、こんなのつくれないもの。
はぁい。気をつけます。
桜の木がいいなあ。雲珠ちゃんは桜の精の人だもの。木の根元にすわって、幹にからだをもたれるよ。
木肌ってごつごつだし、雲珠ちゃんにはいたいかも。
おれのひざまくらをどーぞ。あおむけなら角もひっかかんないよね。

(フリだってのはわかってるんだ。でもなんだかかなしくなってきた)
(どうかほんとうの未来で、このやさしいひとが、こんな顔でしぬことのないように)
(――よ、このひとをお守りください)

最期の息はちいさく吐いて、とめる。


雨野・雲珠
茜崎さんと/f18631

薬瓶めいたガラスの小瓶ふたつに、
さっき買ったラムネをすこしずつ入れて。
血糊を入れたカプセルもひとつずつ、
こっちも毒薬めいて見えるかも。

いっせーの、で飲み干して、
カプセルも奥歯で噛みしめましょう。
気をつけてくださいね、
お召し物についたら落ちないので。

あとはじわっと唇から滲ませつつ…
やや!よろしいのですか?
失礼します。
(角が刺さらないように頭を乗せてころり)

…ひとりで向かうつもりだった時は、
苦しむべきじゃないかって考えてたのに。
気づけば、いくらでも身を削ろうとする茜崎さんを
どう痛くない方向に誘導するかで頭がいっぱいです。

(思わず微笑んでしまい)

…いいですよね、心中ですもの。



●ラムネ色心中
 影朧の作り出した庭園、それは忌むべきであるのかもしれない。だけど、この庭園はあまりにも美しすぎて、雨野・雲珠(慚愧・f22865)は知らぬうちに溜息を零していた。
「立派なお庭ですね……」
「どーやって維持してるんだろうね?」
 季節などこの庭園には無いように咲き誇る花を眺め、茜崎・トヲル(白雉・f18631)が思ったことを口にする。
「どうやって……」
 思わず影朧が手ずから花を世話している姿を思い浮かべてしまい、雲珠が珍妙な顔をした。
「それはそれとして、ねえ雲珠ちゃん」
「はい、なんでしょう」
 名を呼ばれ、雲珠が自分より長身の男を見上げて答える。
「やっぱり、桜の下かなって思うんだよね」
「……えっと?」
 何の話かと雲珠が首を傾げると、トヲルがニィッと笑って言った。
「死に場所! あ、心中場所? どっちでも一緒かな」
「そうですね、できれば」
 幻朧桜でなくても、桜は雲珠にとって馴染み深いもの。その方が確かに落ち着くだろう。
「雲珠ちゃん、ほらあっち」
 トヲルが指さした先には、品種も様々に桜が咲き乱れている。
「枝垂れ桜に八重桜……あ、あちらは江戸彼岸桜ですよ、茜崎さん」
 大きいですね、と雲珠が言う通り、桜の中でも長寿種である江戸彼岸桜は巨樹に育ちやすい品種だ。
「雲珠ちゃんは桜の精の人だけあって、くわしいんだねえ」
 感心したようにトヲルが笑う。
「有名なものだけですよ、全部は知らないです」
 それでも、見知らぬ桜があれば名を調べたくなるのは、彼が言う通り自分が桜の精だからだろうか。
「それでもえらいよ。よし、じゃあここにしちゃおっか」
 彼岸桜、なんて名前もそれっぽいしとトヲルが言うと、雲珠が薄青色をした薬瓶のような硝子の小瓶を二つ出す。
 二人で綿あめを買った時に、ついでにとトヲルが買ったラムネを少しずつ入れて、血糊を入れたカプセルもひとつずつ。知らぬものが見たら、しゅわりと泡が弾けるそれは劇薬にも見えるだろう。
「それにしても、よく血糊なんてもってたよねえ」
「以前、死んだふりをしたことがあるので」
 詳しくはまた今度お話しますね、と内緒話をするように雲珠が言う。
「ふふ、やくそく」
 指きりげんまん、嘘ついてもいーいよ、なんてトヲルが笑うと桜の樹の根元に座り、幹にもたれ掛かった。
 雲珠もその隣に座り、トヲルを見上げる。
「では、いっせーの、で飲み干しましょう」
 カプセルは飲み込まず、奥歯で噛み締めてくださいね、と囁く。それから、お召し物に付かないように、とも。
 だってもし付いちゃったら、落ちないので。そう思いながら雲珠がトヲルの白い着物をじっと見つめる。無言の圧を感じて、トヲルは大人しく頷いた。
「いっせーのー」
 二人でカプセルを口に含んで、薬瓶に入ったラムネで飲み干す。しゅわ、としたそれに、雲珠は一瞬喉を焼かれた気持ちになったけれど、最後まで飲み干して奥歯に寄せていたカプセルを噛み締めた。
 トヲルはといえば、しゅわっとした気がするな、あまくておいしい。ええと、カプセルは飲み干したらだめで、奥歯で噛んでと雲珠に聞いた手順をきちんと守っていた。
「茜崎、さん」
 雲珠が唇からじわりと血を流している、それは血糊だとわかっているけれど。
「……おれのひざまくらをどーぞ」
 仰向けなら角も引っ掛からないだろう、そう思ってトヲルが雲珠の肩を自分へと引き寄せ、膝に寝かせる。
 フリだとわかっているけれど、どうしてか、とても悲しくなってしまって目を閉じて寝転んだ雲珠の唇から流れた血糊をそっと拭って、ぺろりと舐める。
「雲珠ちゃん」
 哀し気な声に、雲珠が薄っすらと目を開ける。そこには唇から同じように血糊を垂らしたトヲルがいて。
 ああ、ひとりで向かうつもりだった時は、苦しんで死んだふりをするべきかと考えていたのに。今は嘘なのに、一緒に死ぬふりなのに。気が付けば、いくらでも身を削ろうとする茜崎さんをどう痛くない方向に誘導するべきか、それだけで頭がいっぱいで、つい苦しまないで済むようにしてしまった。
「雲珠ちゃん、おれ」
 しょんぼりとしてしまったトヲルの声に、思わず微笑んで。
「……いいですよね、心中ですもの」
 そう言って、トヲルの唇に付いた血糊を同じように拭って、目を閉じる。さすがに、同じように舐めるのは雲珠には無理だったので、そっと衣服に付かぬように手の甲で拭う。そうして、死んだふり……と、それっきり目と口を閉じた。
 だから、トヲルがどんな顔で何を願っていたのか、雲珠は知らない。
 どうかほんとうの未来で、このやさしい桜のひとが、こんな顔でしぬことのないように。それだけを考えて、トヲルは目を閉じる。
 ――よ、このひとをお守りください。
 声には出さず、唇だけを動かして願う。最後の息は、小さく吐いて。
 そして、息を止めた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

スピーリ・ウルプタス


「想いを纏って命を絶つ。
 真に実行したらば、どれほどの苦しみと痛みで至福になるのでしょうかねぇ」
作戦を斜め上に反芻する変人

庭園の美しさに
花盗人様という方はご親切なのでしょうか、などと目を細め
本体(禁書)を一撫で
「さて…私のもう一つの未来。
 『主様』の後を追う道をここで体験致しましょうか」
遥か過去、共に果ててもいいかと思ったのも本当なれば
当時を思い出しウットリ

「とはいえ願わくばどなたかの手を望むところですが。
 贅沢は言えませんねぇ」
庭園内で一刃のナイフを拝借
何の躊躇もなくその身に突き刺した(ガチで
ああ…自らだとやはり痛みの予想がつく…と哀愁の死んだフリ

ええ、本体は無事ですから生きてます。たぶん



●禁断心中
 柔和な笑みを浮かべ、仕立ての良い三つ揃えのスーツを着た男が庭園を楽し気に歩く。正確には死ぬふりだけれど、今から死ぬ予定の男が浮かべる笑みではない。
「想いを纏って命を絶つ。真に実行したらば、どれほどの苦しみと痛みで至福になるのでしょうかねぇ」
 ほう、とスピーリ・ウルプタス(柔和なヤドリ変態ガミ・f29171)が恍惚の混じる溜息を零す。
「……楽しみです」
 僅かに目尻を染めた彼こそ、他力本願できもちよくをスローガンにして生きる、とある禁書のヤドリガミである。自身の変態性をきっちりと把握し、人様に迷惑を掛けることなく変態行為を追求する……平たく言えば、ある程度の常識を持ち合わせた被虐趣味のある変人。ハイブリッドが過ぎる。
 しかも彼のその手におけるセンサーは高く、ちょっと合法的に痛いことができる場を嗅ぎ付けるのは流石としかいいようがない。すごい、ここまで極めるともう褒めるしかない、変態すごい。
 けれど、きっとそうやって褒められても彼は私などまだまだです、と謙遜するのだろう。頂上決戦の場は何処だ。
「それにしても……花盗人様という方はご親切なたちなのでしょうか」
 こんなに美しい庭園を作り上げるなんて、余程の凝り性としか思えない。その道を極めようとしていらっしゃるのでしょうか? と、方向性もジャンルも全く違うがその道を極めようと邁進するスピーリが色とりどりの花を眺めては、その目を細めた。
 薔薇を見ればその棘の鋭さに嬉しそうな笑みを浮かべ、猛毒を持つ花を見れば、あれの毒はこう、これの毒はこのような効果が、と溜息を零す。マジで生粋のアレだ。
「毒のある花はどうしても美しく感じてしまいます、勿論普通の花々も美しいと思いますが」
 毒のある花程美しいのだから仕方ない、とスピーリが手に持っていた本体でもある禁書の表紙を硬く縛る鎖に触れる。指の腹でそれをひと撫でし、顔を上げた。
「さて…私のもう一つの未来。『主様』の後を追う道をここで体験致しましょうか」
 遥か昔、共に果ててもいいかと思った、たった一人の主様――。
 思わず当時を思い出してうっとりと頬を染める。ああ、めくるめく懐かしきあの日々よ……!
「と、いけない」
 これを思い出していると時間がどれだけあっても足らないのだ、惜しいけれど今は主様を想って死ぬことだけを考えようか。
「とはいえ、願わくはどなたかの手を望むところですが」
 自分で死ぬより、誰かに殺された方が絶対気持ちいいでしょうし。
「贅沢は言えませんねぇ」
 同意があれば別だが、人様に迷惑を掛けるのはスピーリのよしとするところではないのだ。
「首吊りはオーソドックスでしょうか、水死は……本体が水浸しになるのはちょっと」
 多分水とか弾くだろうが、気分的に……いやそれもありか……? 色々高度なことを考えつつ、スピーリが辿り着いたのは誰もいない東屋だった。
「おや、ナイフがあるじゃないですか」
 なんて親切なんだろうか。
「では、主様。今あなたの元へ参ります」
 そちらで逢えたら、どうぞもう一度可愛がってくださいね。
 そっと目を閉じ、一切の躊躇いなくスピーリが己の身体へナイフの切っ先を突き刺した。
「ああ……」
 やっぱり自分で刺すのは痛みの予想が付いて、あんまり楽しくないですね……哀愁漂う笑みを浮かべて、スピーリ渾身の死んだふりをする。ふりってレベルじゃないくらい、めっちゃくちゃ血が出てるけど。
 レベルの高い趣味人は趣味が高じて死ぬこともあるけれど、スピーリはなんといってもヤドリガミなので。
 ええ、本体が無事ですから死ぬことは無いのです。
 たぶん。

大成功 🔵​🔵​🔵​

四天王寺・乙女
美しい庭園だ。
見渡す限り、様々な種類の花……だが、この庭園には欠けている花が一つある。

そう!私という可憐な花が!

(根拠のない自信。自身が花盗人に狙われることを疑っていない)

さて、心中もどきをせねばならぬのだ。
国と死ぬことに決めたはいいが、そうすればやはり大地と重なる死に様が良さそうではあるな。
自刃で美しい庭園を汚すのも気が引ける。静かに池にて入水しよう。

丁寧に服を畳み、下着姿で水に入る。
できれば早めに来てくれよ、花盗人!

(「ハイカラさんは止まらない」をごくごく最低限に活性化して生存を確保する。少し後光が漏れて池の底が明るくなるが、それはそれで神秘的なのではないだろうか。たぶん。)



●乙女心中
 いつの間にか灯りの揺れる路は消え失せ、四天王寺・乙女(少女傑物・f27661)は影朧の庭園へと足を踏み入れていた。
「迷い込む……否、誘われたと言うべきか」
 招待状を持つ者だけが引き込まれると言うが、どういった基準なのだろうかと乙女はふと考える。
「心中しやすそうな者か、いなくなっても気が付かれ難い者か……無作為というのもあり得るだろうな」
 そもそも、普通に生きている人間の考えることですらわからんと思うことがあるのに、影朧のことなどわかるわけもない。そんなことを思いながら、何処に何があるかも知らぬ庭園を乙女は迷いなく歩いた。
「しかし、影朧……花盗人であったか? 奴の自慢の庭なのだろうな」
 そうでなければ、このような場所に誘い込む事も無いだろう。この庭園は誰が見ても美しいと思うのは間違いない。何せ、この乙女であっても――。
「見渡す限り、様々な種類の花が咲き乱れる……美しい庭園だ」
 そう、思ってしまうのだから。
「だがな」
 見る者を魅了するような、涼やかな笑みを受かべて乙女は続ける。
「この庭園には欠けている花が一つある」
 百花咲き乱れるこの庭園の中心で、乙女が高らかに笑う。
「そう! 私という可憐な花が!」
 可憐なるこの乙女、花盗人に狙われぬわけがない――!
 どっからきたの、その自信。
 いや、それでこそ四天王寺・乙女と言えよう。
「さて、心中もどきをせねばならぬのだったな」
 国と共に死ぬ、と決めたのはいいけれど、そうなると場所はどこがいいだろうか。
「やはり大地と重なるような死に様がそれっぽいか……」
 いやでもな、自刃で美しい庭園を汚すのも気が引けるな。桜の敷き詰められた場所で真っ赤な血を撒き散らして死ぬのも、めちゃくちゃにそれっぽいのだが。
「……折角の浴衣を汚すような真似はしたくないな」
 だって新調したばかりだぞ? しかも血液の汚れは落ちにくいし、何より剣で刺したら浴衣が破れるではないか。
「困ったな」
 服を汚さず、できるだけ庭園も汚さず、それなりに美しく死ぬ方法……そんなことを考えながら歩いていれば、花の浮いた池が見えた。
「これだ、入水しよう」
 閃いた! そう、まさに今、乙女は完璧なる自殺を思い付いたのだ。
 そうと決まれば話は早い、とばかりに乙女が帯に手を掛ける。しゅるりと帯を解き、丁寧に畳む。
 何で? そんな見る者が見れば首を傾げるような行為を乙女は手を止めることなく、帯の次は浴衣とばかりに躊躇うことなく脱いでいる。
 いや、ほんとに何で???
 そうこうしている間にも、乙女は脱いだ浴衣を綺麗に畳み、帯と共に池の近くにある大きな石の上に置く。
「これも脱ぐか」
 浴衣用のインナーもサラッと脱いで、手早く畳んで浴衣の上に載せた。
「うむ、これで完璧だな!」
 何が??? そう問い掛けたくなるほど、今の乙女は堂々とした――下着姿なのである。
「下着など水着のようなもの、つまり水の中に入るのであれば適切な恰好はこれしかあるまい」
 浴衣も汚さず一石二鳥! しかも私のこれはスポーツ用ゆえ、水に入っても一切透けぬ! 完璧だな……と呟いて、乙女が水面を見つめる。
「国よ、私はお前と共にあるという誓いを今果たそう」
 そして、躊躇いなく水の中に足を踏み入れた。
 池の中は思ったよりも深く、底に到達するよりも前に乙女はうっすらと自身の後光を光らせる。こうしておけば、水中とて死ぬことは無いし、何か神秘的にも見えるだろう。
 できれば早めに来てくれよ、花盗人! そう思いながら、乙女は心中相手である国を心に描くのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

桜田・鳥獣戯画
◎アルフレッド(f03702)と

…よいか、我々の心中は「相撃ち」だ。らしかろう?
いきなり戦闘シーンだ、全力で殺す気で来い!
私には無敵城塞がある、遠慮も手加減も要らん!!

深呼吸、そして

「来い、ワンダレイ!!」

UCラストスタンド発動
目も眩むようなアルフレッドの蒼い炎に包まれる
何度も共に戦ったが、その炎が自分に向けられるのは初めてだ
緊張感の中、今までで一番近い距離でその蒼い瞳と目が合う
相手に手加減はなく、だが殺意とも違う 心ごと抉るような炎

自分に記憶も過去も何もなくても、死にたいなどとは思わない
だがここでなら、お前となら死ねるかもしれないと思ってしまう

頬に触れる
アルフレッド 私と死んでくれるか


アルフレッド・モトロ
心中ごっこか~
さくっとオブリビオンを引きずり出してやろうぜ!姉御(f09037)!

さあ元気にUC発動!
盛大に景気よく!


…眩しいくらい真っ青だ
下手すりゃオブリビオンどころか何もかも燃やし尽くしちまうような炎なんだが
火傷どころか傷ひとつつかない姉御と目が合う

ああ
オッサンみたいに豪快に笑うくせに
どっか可愛くもあるいつもの笑顔だな

…やっぱ姉御はすげえよ
もう姉御を傷つけられるヤツなんて
この世にいないんじゃないか?

…おかしいな
周りの空気に当てあられたか
それとも別の理由か

姉御の鉄壁をこの手で溶かせるなら
今ここで死んでもいい気がしてきた

無意識の内に力がこもって
更に火力を上げちまう

姉御…
もうここで一緒に死のうか



●闘乱心中
 帰り路はいつも、どことなく寂しさがあるような気がする。けれど、それもまた出掛けることの楽しみの一つなのだが――。
「何か凄いところに着いたな!」
 桜田・鳥獣戯画(デスメンタル・f09037)の言葉を受けて、アルフレッド・モトロ(蒼炎のスティング・レイ・f03702)がちらりと振り向いて見えた光景に笑いながら言う。
「すげーな、見てくれよ姉御。後ろに道がない」
「マジだ、ないな」
「ないだろ」
 ヤバい、うけるな! と、笑って鳥獣戯画が影朧の庭園を歩く。
「しかしあれだな、どこもかしこも花だらけだな」
「よっぽど花が好きなんだな、その影朧ってのは」
 春夏秋冬、季節を問わず咲き誇る花々は美しいけれど、やはりこの庭はこの世ならざるものなのだろう。そんな話をしながら、花の無い場所を探すように辺りを見回せば、庭園の端のような場所へ辿り着いた。
 庭園の端……だと思われるそこは崖のようになっていて、それなりに広い。崖の下は霧が掛かっていて先は見えず、花も咲いていない。
「ふむ、ここならいいか」
「姉御?」
 立ち止まり、くるりと鳥獣戯画がアルフレッドへと向き直る。
「……よいか、我々の心中は『相撃ち』だ。らしかろう?」
「最高の心中ごっごだな、姉御」
 訝し気にしていたアルフレッドの瞳が、瞬く間に輝きだす。
「貴様ならそう言うと信じていたぞ! いきなり戦闘シーンだ、全力で殺す気で来い!」
 遠慮も手加減も要らん!! と叫ぶ鳥獣戯画への返事の代わりに、不敵な笑みを浮かべたアルフレッドの尻尾の蒼炎が燃え上がる。目の前の女がそうと言ったなら、真実そうなのだと知っているからだ。
 深く息を吸って、吐いた女の胸が湧き踊る。
「来い、ワンダレイ!!」
 壁を従える女が、飛空戦艦ワンダレイを従える男に吼えた。
 アルフレッドの全身を蒼炎が覆うように包み込む、それはアルフレッドの闘志のように何があっても消えることの無い地獄の炎だ。
 それと同時に、鳥獣戯画も己の持つ力を発動させる。ラストスタンド、それは彼女の全身を無敵城塞に変える力。何者にも退かぬ、鋼鉄の意思だ。
 一瞬の静寂、それは嵐の前の静けさにも似て。
「行くぜ」
 短く発せられた言葉のあと、何もかもを燃やし尽くすような蒼が鳥獣戯画の眼前に迫る。
 目も眩むようなアルフレッドの蒼い炎が、鳥獣戯画の全身を包み込んだ。
「ハハ、ハハハ!」
 思わず楽しくなって、鳥獣戯画が笑う。
 今までに何度も共に戦ってきた、蒼い炎が敵を屠るのも何度も目にした。
 けれど、その炎が自分に向けられたのは初めてだったのだ。
 いつにない緊張感、アルフレッドの戦闘能力の高さ、そして自分の言葉通り全力を以てしての一撃。それから、今までで一番近い距離で見た蒼い瞳。殺意でもない、不思議な光りを湛えた瞳。
 ああ、それがどれだけ楽しいことか!
「楽しいな、アルフレッド!」
 眩しいくらい真っ青な世界の中で、鳥獣戯画が笑っている。下手をすればオブリビオンどころか、何もかも燃やし尽くしてしまう自分の炎を受けきって、火傷どころか傷ひとつ付けていない、彼女が。
 オッサンみたいに豪快に笑っているくせに、どこか可愛くもあるいつもの笑顔を自分に向けている。
「ああ、楽しいな、姉御!」
 アルフレッドの蒼い炎が、更に勢いを増す。それでも、鳥獣戯画は笑っている。
「……やっぱ姉御はすげえよ」
 この世界に、この女を傷付けられるヤツなんているのだろうか? 思わず、そう考えてしまう程に彼女の眼差しは強く鋭い。
「そう思ってくれるのは、お前の優しさだと私は思うがな」
 そう言った女の顔はやっぱり綺麗に思えて、アルフレッドの炎が燃え盛る。
「なあ、姉御」
「何だ」
 泣きそうだ、泣かないけど。震えそうになる声を抑えて、アルフレッドが続ける。
「姉御の鉄壁をこの手で溶かせるなら、今ここで死んでもいい気がしてきた」
 この庭園に流れる境目の空気のせいか、それとも別の理由か。心底そう感じて、アルフレッドが蒼い炎を纏ったまま鳥獣戯画の肩に触れる。
「アルフレッド」
 自分に記憶も過去も、それ以外の何もかもが無くても、死にたいなどとは思わない。
 だけど。
 ここでなら、お前となら死ねるかもしれないと思ってしまって、鳥獣戯画はアルフレッドの頬に触れた。
「私と死んでくれるか」
「……姉御」
 アルフレッドの腕が伸び、鳥獣戯画の身体をそっと抱き締める。
「ここで一緒に死のうか」
 蒼い炎が、いやさか煌々と燃え盛った。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

柚木・眞衣


心中、なんて、今更

あの子が居なくなって
もう何年も経つのに

双子の愛衣ちゃん
わたしが■■してしまった

表情には出さないけど
あの日を思い出して
黒のショールを
ぎゅっと強く握り締める

ねえ、

あなたを追い掛けるのなら
やっぱり同じように逝くべき?

苦しみも痛みも双子だもの
分け合わなきゃ、いけなかったのに

いつも、いつも、
褒められるのは愛衣ちゃんで
わたしのことなんて誰も見てなかった

それでも、あの瞬間、

わたしを、眞衣として、
ひとりの人間として認めてくれたのは、

──愛衣ちゃん、あなただけ

それが、どんなに嬉しかったのか、
そして、こんなに後悔しているから、

ゆっくりと向かう先は花が浮かぶ池
──待ってて、愛衣ちゃん

今、逝くから



●独り心中
 黒いショールが風に揺れる。それに気を取られ、ふっと視線を外した隙に目の前にずらりと並んでいた灯篭がいつの間にか消え、代わりに見知らぬ庭園が広がっていた。
「……ここが」
 招待状を持つ者だけが招かれる、影朧の庭園。
 聞いていた通り、四季を問わぬとばかりに花々が咲き乱れている。この季節に見ることのできぬ花が咲いているのは、此処がこの世でも、あの世でもない境目のような場所だからだろうか。この庭園で、花に囲まれたこの場所で今から心中するのだ。
「心中、なんて、今更」
 そう呟いた柚木・眞衣(Evening・f29559)の声が、風に攫われる。
 あの子が居なくなって、もう何年も経つのに? おかしくなってしまって、つい笑ってしまう。表情は、変わらなかったけれど。
「わたしが――」
 ■■してしまった、双子の片割れ。
 ぎゅう、と目をつぶって、黒のショールを縋るように握り締める。あの日のことを思い出すと、いつもこうだ。
 目の前が真っ暗になったような、急に宇宙にでも放り出されたような、そんな感覚に襲われる。自分を落ち着かせるように小さく息を吐いて、目を開けた。
 目の前に広がるのは、花、花、花。
 まるであちらに誘うような、そんな光景。そうだ、死ななくちゃいけないんだ。そう思って、ふらりと眞衣は歩き出した。
「ねえ」
 あなたを追い掛けるのなら、やっぱり同じように逝くべき? そう心の中で問い掛ける。
 返事など無く。
「苦しみも痛みも、分け合わなきゃ、いけなかったのに」
 双子だもの、そうするべきだったのに。
 月の光を受けて、眞衣の長い髪が白金に輝く。
 同じように、あの時と、同じように。そうして辿り着いたのは、花の浮かぶ広い池。向こう岸は遠く、橋も見当たらない。
 池の縁に膝を突いて、水面を覗き込めば自分と同じ顔が映っていた。
「いつも」
 指先で水面を撫でる。
「いつも褒められるのは愛衣ちゃんで、わたしのことなんて誰も見てなかった」
 姿形は同じなのに、中身は全然違うのね。聞こえてくる言葉は、そんなものばかり。
「それでも、あの瞬間」
 水面を撫でるのを止めて、立てた波が静まるのを待つ。
「わたしを、眞衣として、ひとりの人間として認めてくれたのは」
 水面に、同じ顔が映る。
「――愛衣ちゃん、あなただけ」
 それが、どんなに嬉しかったのか。
 水面に映った顔は、変わらない。
 そして、こんなに後悔しているから。
 水面に映った顔は――。
「待ってて、愛衣ちゃん」
 立ち上がった眞衣が、踊るように足を前へ踏み出す。
「今、逝くから」
 とぷん、と沈んだ水面に、花が揺れた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ヒュー・アズライト
【月影2】◎
願い事、二人して自分の事じゃないのは笑っちゃいますね
これが予知でなければゆっくりしたいのですが心中デヱトの舞台なんですよね
「さてアリス、お仕事ですがどうしますか?」
どこか心中に良さそうな舞台を探してみますよ、多分こんな機会二度とないでしょうし

東屋もなかなかにいいですが、そうですね
「月が綺麗ですね…ええ、月がよく見える場所なんてどうですか?」
…たしかにあそこなら綺麗な場所です

「あなたに全部任せますよ」
何を持ち出すかは表情で察しはつきますが、彼なら上手くやってくれるでしょう
この俺が最も信頼してる相手ですからね
光を受けた刀身が綺麗ですね…目を閉じてすべて受け入れるます
ええ信頼してますから


アリステル・ブルー
【月影2】◎
景色が変わったね…?確かになんていうか狂気にのまれる…みたいな感じだねここ
「まぁ心中するような事は避けたいけどね」
せっかくだし舞台探しに付き合うよ

ん?そうだね綺麗…だね、背がざわざわするくらいには
「いいよ、あっちの方なら色々花も咲いていいんじゃない?」
遠目に見えた場所を示すね、幻想的な場所だし

「ねぇどうやって死にたい?」
僕らには身分差があった、彼は街の有力者の子だからね
まぁそこに多少の羨望とか思う事は、あったよね
今は何とも思ってないけど…もし持ち出すならこの感情だ
「うん任された」
細剣を抜いて彼を貫く真似事をしよう
目を閉じた彼を横たえて僕も自害の真似、隣に倒れる…これで上手くいくかな



●月夜心中
「願い事、二人して自分の事じゃないのは笑っちゃいますね」
 思い出したように、ヒュー・アズライト(放浪家出人・f28848)が笑う。
「ほんとだね」
 アリステル・ブルー(人狼のクレリック・f27826)も静かに笑って相槌を打つが、互いの性格を考えればおかしなことでもないか、と思い直してもう一度笑った。
 呑気に二人で笑っていると、いつの間にか景色が変わる。足元を照らしていた灯篭は消え、花の咲く路へと取って代わっていた。
「景色が変わったね……?」
「ここが影朧の庭園ですか。綺麗ですが……変な感じがします」
「確かに、なんていうか狂気にのまれる……みたいな感じだねここ」
 感情を増幅させやすい、とでもいうのだろうか。あちら側へ引っ張られるような、ぞわりとした感じがする、とアリステルが言う。
「心中を促すような場所ですから、そういう影朧の思惑もあるのかもしれませんね」
 憶測の域を出ないが相手はオブリビオンなのだから、そういうこともあるのだろう。
「でも、そういう色々を差っ引いても綺麗な庭園です」
「それには同意するけどね」
 見慣れない花もあって、見応えは確かなものだ。
「さてアリス、お仕事ですがどうしますか?」
「そうだね……これ、お仕事だったね」
「ええ、そうでなければゆっくりしたいのですが」
 なんといっても、心中デヱトなので、とヒューが小さく笑った。
 どこか心中に良さそうな舞台でも探しましょうか、と歩き出したヒューをアリステルが追う。
「多分、こんな機会二度とないですよ」
「まぁ、心中するような事態は避けたいけどね」
 せっかくだから舞台探しに付き合うよ、とアリステルがヒューに囁いた。
 散歩道になっているようなところを歩くと、如何にも心中に良さそうな場所が沢山あることに気付く。大きな桜の樹、溺れるだけの深さを持った池や川、なんだかありとあらゆる心中ができそうだとアリステルが言う。
「俺は東屋なんかも中々に趣きがあっていいと思いますが……そうですね」
 ふっと空を見上げれば、大きな月が浮かんでいる。
「月が綺麗ですね……ええ、月がよく見える場所なんてどうですか?」
「ん? そうだね綺麗……だね」
 背がざわざわするくらいには。人狼であるアリステルには月とはそういうものだ、思わず耳がピンと立ってしまう。
「いいよ、あっちの方なら色々花も咲いていいんじゃない?」
 ざわりとする気持ちを落ち着け、遠目に見えた場所を指で示した。
「……たしかにあそこなら綺麗な場所です」
 月の光を受け、白く輝く可憐な花が見える。それは中々に幻想的で美しく心中場所に相応しいように思えた。
 二人で少し開けたその場所に向かい、向き合う。
「ねぇ、どうやって死にたい?」
 アリステルがヒューにそう問いかける。
「あなたに全部任せますよ」
 躊躇いもせずにそう言ったヒューに、アリステルが少し笑う。
 僕らには身分差があった、ダークセイヴァーと呼ばれる世界のあの街で。
 ヒューは街の有力者の子だから、アリステルにとって思うことは多少なりともあったのは事実だ。それは多少の羨望であったり、余り良いとは言えない感情であったり……今でこそ何とも思ってはいないが、心中となれば持ち出すのはこの感情しかないだろう。
 そして、それは多分ヒューにもわかっていること。
「うん、任された」
 腰に差していた黒の細剣をすらりと抜いて、ヒューに向ける。
 何一つ疑いもしない、アリステルを信用している顔で、ヒューが真っ直ぐにアリステルの瞳を見た。
「アリス」
 何を想っているのか、大体アリステルの表情で察したけれど、彼なら上手くやってくれるだろうとヒューが笑う。
 だって、この俺が最も信頼している相手ですよ? ねえ、アリス。
 そう想って瞼をゆっくりと伏せる。完全に閉じ切る間際に見た、月の光を受けて輝く刀身が綺麗だと、あの刀になら本当に突き刺されても悔いはないのだろうと思いながら。
 アリステルが動く。彼の信頼を裏切ることなく、ヒューを貫く振りをして、その胸に抱いた。
 それから、そっと花咲く地面に彼を横たえて、自分も自害の真似事を。
「ああ、月が綺麗だね、ヒュー」
 本当に、死んでもいいほどに綺麗だ。
 煌く刃を己に刺すようにして、アリステルもヒューの隣に倒れ込んだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

迎・青
(アドリブ歓迎です)
おねーちゃんを、さがしてるんだ。
だけど、みんなといるのがたのしくて
ボクはいつか、おねーちゃんに会いたいことを、忘れてしまうんじゃないかって、コワくなった
だからひとりで、いかなきゃ
おねーちゃんが、もうあっちにいるのか、これからくるのか、わかんないけど
いつかぜったい会えるとこに、いかなきゃ

庭園で花に囲まれ、持参した毒薬の小瓶を手に
いかなければ、という思いと恐怖の間で揺れ動く
知った姿がどこかに見えた気がして、縋ってしまいそうになって
ダメだと焦り、毒薬を飲み干し、苦しみ倒れる

(きらきらが、遠くにいっちゃう)
(――ごめんね、ボクわるいこだ)



●涙色心中
 きらきらを追いかけていたはずなのに、いつの間にかその灯りは消え失せて見知らぬ庭園に迷い込んでいた。
「あうあう……ここどこ?」
 まんまる茶色の瞳に、薄っすらと水の膜が張りそうになって迎・青(アオイトリ・f01507)はそれを堪えるように上を向く。
「おっきな、お月さまだ」
 灯篭の灯りの代わりに、大きなきらきらを見つけて青の心細さが少し消える。落ち着いて辺りを見回すと、沢山の花が咲いているのが見えた。
「きれい」
 知っている花もあれば、初めて見る花もある。花の美しさを追い求めるように、青がふらりと歩き出す。赤い花、白い花、黄色い花……どれもこれも、みんな綺麗。
「おねーちゃんに、みせてあげたいな」
 そうだ、おねーちゃん。
「ボク、おねーちゃんを、さがしてるんだ」
 どうして忘れそうになっていたんだろう。いつもそうだ、ボクはおねーちゃんを探しているはずなのに。
「みんなといるのが、たのしくて」
 いつか本当に、姉を探すことも会いたいと思っていることも忘れてしまうのではないか。ぎゅっと締め付けられるような怖さが、青の心を襲う。
「そんなの、ぜったいにダメだから」
 だから、一人で、独りで行かなくては。
「だって、ボクはそのためにここに来たんだから」
 立ち止まっていた足が、前へ進む為に再び動き出す。
「おねーちゃん……」
 あっちにいるのか、これから来るのかはわからないけれど、それでも、いつか絶対に会えるところに行かなくてはいけない。それだけが、この泣き虫で臆病で、どこまでも優しい子どもを前へと進ませるたった一つの理由。
 その理由を胸に、青はひとりで庭園を進む。ポケットの中の小さな小瓶を握ったまま――。
「あうあう、ここ、すっごくきれい……!」
 そうして彼が選んだのは、色とりどりの花々が咲き乱れる、庭園の中の小さな庭。
 こんなに綺麗な場所なら、会えるだろうか。ポケットの中の小瓶を取り出す手は震え、今にも泣きそうな表情で青は小瓶の蓋を開ける。
「ボク、いかなくちゃ」
 おねーちゃんのところへ、いかなくちゃ。
 でも、こわい。
 死ぬのも、死んだ振りをするのも、ここにひとりでいるのも、全部全部!
「あうあう……」
 引っ込んでいた涙が、ぽろりと零れる。滲んだ視界のその先に、見知った姿が見えた気がして思わず叫びそうになる。
 たすけて、その声を呑み込んで、縋る気持ちを抑え込んで。
「ダメ、だから」
 ボクがいかなくちゃいけないから。
 涙が止まらないけれど、手の震えもおさまらないけれど。
 誰かを頼ってしまうのはダメだと、小瓶の中身を一気に飲み干した。
「うう、うー……!」
 苦しい、辛いよ、ねえ、おねーちゃん、おねーちゃん。
 仰向けに転がったその先には、滲んだ大きなお月さま。それすらも、次第に霞んで。
 ああ、きらきらが、遠くにいっちゃう。
 ごめんね、ごめんなさい。ボク、わるいこだ。
 息が、詰まる。
 遠ざかっていくきらきらに、手を伸ばして――。
 それはまるで届かない祈りにも似て、青は意識を手放した。

大成功 🔵​🔵​🔵​

アパラ・ルッサタイン
あたしが死ぬのなら
方法はひとつしかない
あの方が認めてくだすったこの身の焔
あの方への想いでこの身を焼き尽くすまで

開けた場所でくるり炎を喚び
めらり翻る熱いレースが花嫁衣装
あたしたちに白なんて似合わないだろう?
待っていておくれ、おまえさま
ああ、もうすぐあなたに

ブレイズフレイムで喚んだ炎を
触れる寸前で纏わせて
熱いのはまァ、火炎耐性で凌ごうか

薄い帳の向こう側
渡ってしまうのも
存外悪くないんじゃあと思うけれど
ふは、あなた滅茶苦茶に嫌な顔しそうだよね
いやさモデルが無いと演技しにくいじゃない?

ああ安心おしよ
命ある限りどうせ何れは逝く身だが
未だ早いと思うのさ
この世はまだ興味深く彩りに満ちているもの
ねえ?



●炎彩心中
 馴染みのある色をした灯りが、不意にアパラ・ルッサタイン(水灯り・f13386)の前から消える。おや? と思ったのも束の間、景色は一転して花咲き乱れる庭園に姿を変えていた。
「器用なものだね」
 手品師にでもなった方がいいんじゃない? と思いはしたが、花の美しさに罪は無しとそのまま歩みを止めずに前へと進む。進めば進むほど、この庭園の美しさと奇異さが見えてアパラは唇の端に笑みを浮かべる。
「枯れない花、かな」
 どの花も今が盛りとばかりに、競い合うように咲いている。その中に、枯れかけているようなものは一つも無い。あちらとこちらを繋ぐ場所、またはその境目、死を誘発させる――。
「ふふ、あなたを想って死ぬのならどんな場所がいいだろうね」
 場所なんてどこでも構わないけれど、この身が輝くようなところであれば尚良しというもの。
「だけど、花の咲いていない場所がいい」
 だって、あたしという女が死ぬのなら、方法は一つしかないのだから。
 そう思いながら庭園を歩けば、小さな広場のようになっている場所に出た。
 周囲にはぐるりと張り巡らされるように花壇があり、中央がまるで舞台のように円形になっている。
「いいじゃないか、ここにしようか」
 これなら、花を燃やさなくて済む。この庭園の花が、燃えるかどうかは知らないが。
「あの方が認めてくだすった、この身の焔」
 アパラの蝶のような帯が、ひらりと舞う。
「あの方への想いでこの身を焼き尽くすまで」
 アパラの指先が空を撫でる。くるりとターンを決めれば、アパラの身体を斜めに走る裂け目から、美しく燃える炎が噴き出した。
 炎はまるでレースのように広がって、美しい花嫁衣裳のよう。
「あたしたちに白なんて似合わないだろう? 待っていておくれ、おまえさま」
 女の身の内に潜む激情のように、激しく炎が燃え盛る。
 ああ、もうすぐあなたに――。
 アパラが喚んだ炎は彼女の全てに触れる寸前で纏わせていて、真に燃えぬように調整している。遠目から見れば、炎を纏った女が焼身自殺をしているように見えるだろう。
 熱いのはまァ、耐えられないこともない。薄っすらと笑って、アパラがひらり、くるりと舞った。
 炎を纏った視線の先に、大きな月が見える。曖昧な境界を破って薄い帳の向こう側に渡ってしまうのも、存外悪くないんじゃあと思ってしまったけれど、すぐに脳裏に浮かんだ黒曜石の瞳をした男が心底嫌そうな顔をしたので思わず笑ってしまう。
「いやさ、モデルがいないと演技しにくいじゃない?」
 くすくすと笑って、アパラが月へ向けて囁く。それでも、浮かんだ男の顔は嫌そうな顔をしたままで、アパラは炎のベールの中で愛を囁くように唇を動かす。
「ああ、安心おしよ」
 命ある限り、どうせ何れはあなたのもとへ逝くけれど、それは未だ早いとアパラはきちんと理解している。だって、この世はまだまだ彼女にとって興味深く、彩りに満ちているのだから。
「ねえ?」
 あなた。
 だからその時まで、もう暫く待っていて。
 アパラの炎がより一層美しく、彼方へと届くように勢いを増す。それはまるで、炎の花が咲いているようで――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

花菱・真紀
十朱さん(f13277)と
心中…俺と十朱さんで心中。
心中って叶わぬ恋に来世こそはと誓い合って死ぬやつですよね。
まぁ、無理心中もありますが。
叶わぬ恋…俺と十朱さんで何かありますかね。今時性別なんて野暮ですし。

…心中ごっこだから考えたりしなくてもいいのかもですけど。
んー俺はどっちも嫌かな?
置いていくのも置いてかれるのも…
それなら俺は一緒に死ぬ方がいいかもしれはせん。
じゃあ、逝きましょうか「幸也」さん。
ふふ、この方がらしいでしょ?

心中デエトしましょう。
(手を繋いで緩く笑うと池へ飛び込んで)


十朱・幸也
花菱(f06119)と
アドリブ大歓迎

にしても、心中……心中、なぁ……
年齢の差って意味では
これからやる事は心中なのかもしれねぇな
性別?俺としては今更って感じだけど、花菱はどうよ?
つーか……ごっことはいえ、俺でいいのか?

年下殺して生き残るのも、手を汚させるのも
いくら、フリでも避けたいっつーか
……花菱はこうしたい、ってあったりするか?

一緒、か
こんなオッサンと一緒に死ぬとか、物好きだよな
笑っている内に、不意に名前呼びをされたら
思わず目を丸くして

怖くねぇか、真紀?
それじゃ、心中デートと洒落込むか
いつも通りの足取りで、手を繋いだ状態で
迷わず池へと飛び込んだ



●逢瀬心中
 灯篭の灯りが足元を照らす、昭和モダンな町並みを歩いていたはずだったのだけれど。そう、二人で顔を見合わせる。
「なんていうかこう……狐に化かされてる気分だよな」
「狸かもしれませんよ」
 十朱・幸也(鏡映し・f13277)の言葉に、花菱・真紀(都市伝説蒐集家・f06119)がちょっとした軽口で返す。
「でも、ちょっとこう都市伝説っぽくて」
 不謹慎ですけど、わくわくしちゃいますね! と、真紀が楽し気に笑った。
「あー、こういう都市伝説あってもおかしくはねぇよな」
 祭の帰り道、気が付けば見知らぬ庭園に招かれる――。
 うん、あり得るな、と幸也が頷けば真紀が神隠し系の都市伝説のパターンを語りだす。
「無事に帰れるパターンと、帰れないパターン、条件を満たせば帰れるパターンとかあるんですけど」
「この場合だと、どうなるんだ?」
「多分帰れないパターンですよ」
 だって、俺たち今から心中するんですから、と真紀が悪戯っ子のような笑みを浮かべて幸也を見た。
「そうだった」
 今から心中するんだったわ、と幸也も小さく笑う。
「にしても、心中……心中、なぁ……」
 見目麗しい花を横目に歩きながら、うーん、と幸也が唸る。
「心中って叶わぬ恋に来世こそは、と誓い合って死ぬやつですよね。まぁ、無理心中もありますが……叶わぬ恋、俺と十朱さんで何かありますかね」
 一般的な心中と言われて思い付くのはそのくらいだが、自分達だと何になるのか。
「年齢の差って意味では、これからやる事は心中なのかもしれねぇな」
 年の差を苦にしての心中、あり得なくはない。
「でも、今どき年齢を理由に心中ってあんまりない気がします」
 年の差婚なんて珍しくなくなっているのは確かだ、江戸時代でもあるまいし。
「じゃあ、性別? 俺としては今更って感じだけど、花菱はどうよ?」
「それこそ、今時野暮な話じゃないですか」
 だよなぁ、と二人して顔を見合わせて、それから笑った。
「つーか……ごっことはいえ、俺でいいのか?」
 心中だぞ? と、幸也が真紀を見る。
「それこそ今更じゃないですか。いいですよ、勿論」
 緩く外向きにはねた真紀の毛先が揺れる。
「それとも、十朱さんは俺ではご不満ですか?」
「ばっかお前、不満なんかあるわけないだろ。俺はこう……年下殺して生き残るのも、手を汚させるのも、いくらフリでも避けたいっつーか」
「ごっこ、なんですからそこまで考えたりしなくてもいいと思いますけど」
 変なところで真面目だな、十朱さんはと笑って真紀が言う。
「諦めて、腹くくってくださいね」
「ハイ……花菱はこうしたい、ってあったりするか?」
 心中方法。
 中々に非現実的な響きだな、と思いながら真紀が悩みつつも答える。
「んー、俺は置いていくのも置いていかれるのも……どっちも嫌かな」
「それは俺も嫌だな」
「それなら、俺は一緒に死ぬ方がいいかもしれません」
 せーの、で一緒に。
「一緒、か」
 何処か一緒に出掛けましょうと約束するみたいな気軽さで、お前と心中か。
「まあ、悪くはねぇな」
「はい?」
「いーや、こんなオッサンと一緒に死ぬとか、物好きだよなって」
 おかしくなって、ちょっと笑ってしまう。
「言うほどオッサンじゃないですよ、幸也さん」
 幸也さん、と不意に名前で呼ばれ、思わず幸也が目を丸くする。
 悪戯が成功したみたいな顔をして、真紀が笑う。
「ふふ、この方がらしいでしょ?」
 仮にも心中する相手だ、名前で呼んだ方がよりそれらしい。
 いつの間にか花に囲まれた道から外れ、目の前には水連が浮かぶ池が広がっていた。
 二人視線を合わせ、ここでいいかと頷き合う。
「怖くねぇか、真紀?」
「ええ、幸也さんと一緒なら。俺と心中デヱトしましょう?」
 真紀が幸也の手を握り、誘う。
「それじゃ、心中デートと洒落込むか」
 いつもと変わらぬ足取りで、いつもとは少し違う二人で。
 しっかりと手を繋いだまま緩く笑いあって、迷いなく――。
 水連が、揺れた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

兎乃・零時

心結(f04636)と

祭り終わりの帰り道
いつの間にやら知らない庭園

…?

何故か
彼女と何処かへ行かないといけない気がする
でも、行ってもいけない気がする
頭が警鐘を鳴らす
何かに抵抗するように
望まぬ先へ行かぬように

…死ぬ前、に?

その姿に目を見開く

それ、は…
……待て、違う、やめ、ろ…ッ!!

何かの衝動に抗う様に歯を食いしばり
迫る剣を杖で防ぐ
例えどれほど変わっても、俺は友は殺さない…!

……うぅ…

口から血が零れる
悲しくて
辛くて
とても痛い
何より弱い俺が許せない
感覚が遠のく
体から血と涙が止まらない

泣かせたくない
そんな風に笑ってほしくない
霞む視界でそう想う

最後に零したのは精一杯の強がりだ

…あの世が…あれば、考えとく


音海・心結

零時(f00283)と

ぐらり
視界が揺れる
帰路につかないといけないのに
沸々と違う欲が勝る

――彼と共に逝かなくては

感情に従うべく手持ちの黒剣に手を当て距離を取る
正気を失った瞳で彼に

死ぬ前にやり残したことがあるのです

唐突な告白
剣を愛しく撫で誘うように

――愛しい人と殺し愛をすること
零時、代わりに相手になってくれませんか?

勢いのまま彼に剣を振り下ろす
彼が自分を殺せなんてしないのに
狂った少女は止まらない

やがて、その時はやってきた

みゆの勝ちですね

確かなる手応えを前に笑み
それと、涙
とめどなく溢れるものを止める術を少女は知らなかった

……ふふ

己の心の痛みに気づけず
彼の頬を撫で

あの世では本当に愛し合いますか?



●愛色心中
 祭りの終わりの帰り路、赤い金魚と水辺に浮かぶ桜が揺れる。
「……あれ?」
「……ここ、どこ?」
 道案内代わりの灯篭の灯りは消え失せて、大きな月がぽっかりと浮かぶ庭園の真ん中で、兎乃・零時(其は断崖を駆けあがるもの・f00283)と音海・心結(瞳に移るは・f04636)が顔を見合わせる。
 あれ、俺たち。
 あれ、みゆたち。
 何をしないといけないんだっけ?
 二人を笑うように、風が吹き抜ける。たくさん、たくさん咲いた花が揺れて、二人が頷いた。
「帰らないと、いけないんですよね」
「ああ、でも。何処かに行かなきゃいけない気もするんだ」
 そうだったかな、行ったらダメだった気もするけれど。でも、一緒に行かないと、いけない……本当に?
「そう、そうです。一緒に、一緒に逝かなくては」
 帰れないの、みゆたち。
 そう呟いて、感情に従うまま心結が黒剣に指先を這わせて零時から距離を取った。
「……ッ!?」
 零時の頭がツキリと痛む、それはまるで警鐘を鳴らしているかのようで、光を失くした瞳を自分に向ける心結を見る。
「心結……っ」
 抵抗しろ、さもなければ望まぬ先へ進むことになる。そんな予感ばかりが胸を襲って、零時が心結の名を呼ぶ。
「死ぬ前にやり残したことがあるのです」
 呼びかけを聞いていないかのように、心結が虚ろな目をしたまま、ふわりと微笑む。
「……死ぬ前、に?」
 死ぬって、どうして。わからない、わからないけれど、多分、この庭のせいだと零時が頭を振る。せめて自分だけは、のまれぬようにと。
「聞いてくれますか、叶えてくれますか」
 黒剣を愛しいものに触れるかのように、指先で撫で、誘うように微笑んだ。
「何、を」
「――愛しい人と殺し愛をすること」
 すらりと黒剣を抜いた瞬間、心結の雰囲気がガラリと変わる。それはまるで血に飢えた天使のようで、零時がその姿に零れんばかりに目を見開く。
「零時、代わりに相手になってくれませんか?」
 愛しい人に、なって。
「それ、は……」
 わからない、一緒に逝けばいいのか、でも、違う。頭の中で、ぐわんぐわんと音が鳴る。
「だめなのですか?」
 そう、でも……お願いを、聞いて。
 冷たく囁いて、心結が黒剣を勢いよく振り下ろす。
「……待て、違う、やめ、ろ……ッ!!」
 目の前の少女が望むままにしてやればいい。そんな衝動に抗うように歯を食いしばり、咄嗟に杖を構えて彼女の振るう刃を防ぐ。
「ほら、ねえ!」
 そのまま死んでしまうだけなんて、つまらないです。
 彼女の望みは殺し愛なのだから、本気でやらなくてはこちらが本当に死んでしまうかもしれない。そんな危機感が、零時を焦らせるけれど――。
「聞け、心結! 例えどれほど変わっても、俺は友を殺さない……!」
 自分の命が危険に晒されようともだ! 少年は力強く吼える。
 知っています、そう少女は笑う。
 彼が自分を殺せなんてしないことを知っていて、それでも狂った少女は止まらない。
 止まれ、ない。
 だから、ひたすらに剣を振るうしかなくて。
 防戦になるしかない零時は、少しずつ体力を削られていく。普段とは違う、容赦のないその攻撃をただ耐えるしかなかった。
 口から血が零れても、身体から血が流れても、涙が、流れても。
 悲しくて辛くて、とても痛いのに。でもきっと、自分よりもあの子の方が。
「俺は、いいんだ……っ! 弱いのは俺のせい、だから!」
 それは何よりも許せないことだけれど、零時だけの問題だ。
「でも、心結のそれは、違うだろ……ッ!」
 杖が、零時の手から払われる。カラン、と音を立てて転がった杖の前に、心結が立っている。
「みゆの、勝ちですね」
 確かな手応えに、心結が笑っている。
「そんな風に、笑うなよ……」
 そんな、笑顔のまま泣かないで。
 霞む視界の中で、零時はそれだけを望んで泣いている。
 泣かせたくない、泣かせたくないのに。
 今、その涙を止めるだけの力が、俺にはない。
「……ふふ」
 零れ落ちる雫を止める術を持たぬ少女は、自分が泣いていることに気が付かないまま零時の頬に触れる。
「あの世では、本当に愛し合いますか?」
「……あの世が……あれば、考えとく」
 それは精一杯の零時の強がり。
 けれど、少女はそんな答えでも満足して、瞳から溢れる熱を拭いもせず艶やかに微笑むと、そっと零時を抱き締めて。
「一緒に、死んでください」
「……ああ」
 二人、目を閉じた――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

橙樹・千織
千鶴(f00683)さんと

不思議な景色…
庭園を彩る花に、景色に魅入られて
舞い散る桜花弁へ手を伸ばす

柔らかな風をうけ
舞い上がる花弁を見上げ
桜霞のその先を想う

…?千鶴さん?
振り返ればふわり燈る灯籠飾りが揺れる
桃源郷…ふふふ
なら、桜の方舟を探さなくては

花弁の揺れる水面を見つめ
静かに一歩水の中へ
…少し……こわいかもしれませんね…
差し出されたその手に縋るよう、もう一歩
でも…千鶴さんがいれば、大丈夫かも…?
ひとり残されるくらいなら
連れていってほしい
二人の間を流れる花を追いやり
貴方の隣の一歩手前へ

温もり追って沈みゆく
桜舞う異世界で身を寄せて

どうか
燈した灯りのもとで
巡り逢えますように

演技か真か知るは心の花のみ


宵鍔・千鶴
千織(f02428)と

花が、咲いている
噫、この匂いは、いろは
はらり、はらり、と
庭園に零れるは桜華

桜霞の向こうに視えるは
深く果てなき花筏

耳元の灯篭飾りがゆらり淡く小さく燈して
……ねえ、千織、
桜の方舟に委ねて、攫われてみようか
儚く、美しい、桃源郷へ
連れて行って貰えるかも

水中は不思議と冷たく感じなくて花弁が堕ちる度に波紋が重なる
彼女へそっと手を差し伸べて
……こわい?
俺は……平気
きみの温もりが近くに在るもの
縋る手は強く握り
連れてゆきたくない
けれど最期まで共にと
心は裏腹に片手で花水を掬う

進み往けば深みへと
沈んで
沈んで
桜が舞う

叶うなら眼が醒めたとき
きみと繋ぐ灯篭の光を辿り
巡り逢えますように、
…なんてね



●夢桜心中
 あ、と思った時にはもう灯篭の灯りは見えず、二人の眼前に広がっていたのは四季を問わぬ花々が咲き誇る庭園だった。
「不思議な景色……」
 まるでこの世のものではないような、なんて橙樹・千織(藍櫻を舞唄う面影草・f02428)が宵鍔・千鶴(nyx・f00683)を見て笑う。
「あながち間違いでもないだろう」
 あの世とこの世の境目、そうでなければ季節を無視したように花が咲き乱れるわけもない。
「ほら、千織」
 花が咲いている、この匂いは、彩は。
 千鶴が指を差した先には、見事に咲き誇って舞い散る桜華。
「幻朧桜……ではないみたいですね?」
「普通の桜みたいだな」
 薄い白に近い色、薄紅を引いたような色、珍しくも黄色いそれも見える。
「綺麗……」
 誘われるように、千織が手の平で受けるように指先を伸ばすと、ひらり、桜の花弁が白い手の上に落ちた。
「桜の花びらに好かれたみたいだ」
 千織の手の平に自分の手を重ね、千鶴が彼女の手を引いて歩き出す。足元に気を付けるように、歩調を合わせ千鶴が向かう先には満開の桜が幾つも並んでいるのが見える。
「桜のお花見、ですか?」
「うん、それも悪くない」
 でも、もっときみと見たいのは。
 千鶴が笑って、ほら、と空いている手で桜霞の向こうを示す。よくよく見えたその先には川があり、桜の花弁が敷き詰められているのが見えた。
「花筏……!」
 薄紅を刷毛で塗り込めたかのように、桜色で染められた川はまるで――。
「別の世界へ繋がっているみたいだね」
 深く果ての無い、何処でもない場所に。
「どんな世界なんでしょう」
 その先にあるものは、そう千織が千鶴に問い掛ける。
「行ってみたい?」
「え?」
 千鶴の耳元を飾る灯篭がゆらり、と揺れる。淡く小さく燈したそれに、振り向いた千織の視線が止まった。
「……ねえ、千織」
「……? 千鶴、さん?」
 風が吹いて、桜吹雪が二人を包む。どこもかしこも桜に染まった中で、青藍から桜が零れる灯籠に向けて千鶴が囁いた。
「桜の方舟に委ねて、攫われてみようか」
 桜に攫われたその先にある、儚くも美しい、桃源郷へ。
「……連れて行って貰えるかもしれないよ」
 それは何て素敵な誘惑だろうか。
「桃源郷……ふふふ、なら――」
 桜の箱舟を探さなくては、ね? と、千織が微笑んだ。
 繋いだ手はそのままに、二人桜の樹の下を歩く。そして、下りられそうな場所から川へ向かって進む。遠目から見ても美しかった桜色の川は、近付いてみても遜色なく美しく、千織がほう、と溜息を零す。
「千織、おいで」
 手を引かれ、桜色に染まる水面へと一歩足を踏み入れる。不思議と水は冷たくはなくて、千鶴に手を引かれるままにもう一歩。桜の花弁が舞い散る水面は、二人を迎え入れるように波紋を広げていた。
「……こわい?」
「……少し……こわいかもしれませんね……」
 引いたその手に、俺がいると言うように千鶴が力を込める。その力強さと温もりに、縋るようにもう一歩、千織が歩を進めた。
「でも……千鶴さんがいれば、大丈夫かも」
 薄っすらと笑んだ唇は、どの桜よりも可憐な桜色。
 千鶴さんは? と問われ、ゆっくりと進んでいた足を止める。
「俺は……平気」
 この手の温もりが、君の体温が近くに在るのなら、何処へでも。
 ああ、だけど。
 連れてゆきたくないと、少しだけ思ってしまう。一人だけ進んでいってしまおうか、と離しかけた手を千織が縋るように握り止めた。
「私、残されるくらいなら」
 連れていってほしい、あなたとなら怖くはないのだと瞳だけで訴える。
「……ああ」
 縋る手を強く握って、最後まで共にゆこうと二人で花水の中へ身を投げた。
 花を纏って、花の中に沈みゆく。
 離れぬように追いかけて、温もりに縋るようにもう片方の手も伸ばして。引き寄せられた腕の中、あなたとわたし、桃源郷で二人きり。
 叶うなら、目が醒めたとき、きみと俺とを繋ぐ灯篭の光を辿って巡り逢えますように。
 叶うなら、どうか燈した灯りのもとで、あなたとわたしが巡り逢えますように。
 なんて、演技か真か、知るは互いの心に咲く花だけで――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

灰神楽・綾
【不死蝶2】◎
咲き乱れる花々をぼーっと見つめながら
実際に見たことなんて無いけど
まるで「あの世」みたいな場所だね

人生何が起こるか分からないから
死なないことを断言は出来ないけど
今ここで一緒に死ぬことは出来る
…君が望むなら、喜んで

じゃあ、どんな死に方がいい?
梓の血を一滴残らず俺が吸ってあげるとか?
…あー、それは流石に無理かも

じゃあやっぱりこれだね
愛用のナイフを2本取り出し、1本は梓へ
この位置にね、心臓があるから
せーのでお互いの胸をグサッといこう
変に躊躇してやり損ねて
俺だけ後追い自殺だなんて
虚しいことさせないでよ?

狂気の空間に攫われてしまった時のように
きっと君は彼岸でも一緒にいてくれる
だからこわくない


乱獅子・梓
【不死蝶】◎
あの世か…いつもなら綾の言葉に
何言ってんだと突っ込むところだが
今回は本当にそうなのかもな、と思えてくる

親父に託されたこいつを守り抜くことが
バカ息子の俺が出来る親孝行であり、使命だと思っている
もし綾が先に死ねば、こいつを守りきれなかった
もし俺が先に死ねば、誰がこの先綾を守るのか
ならば、一緒に死ねば――
そう考えてしまったことは、実はある

お前、それ5L以上は血吸うことになるぞ?
まぁ…やっぱりなるべく一瞬で楽に死ねる方がいいな

…ああ、分かっている
口ではそう答えるが
演技だというのに己の手は震えていて
俺の望みは「一緒に死にたい」なんかじゃなくて
いつまでも何処までも綾と「一緒に生きたい」んだ



●血桜心中
 灯篭の揺れる灯りを眺めて歩いていたはずなのに、と思わず乱獅子・梓(白き焔は誰が為に・f25851)がサングラスをずらして急に切り替わった……それこそテレビのチャンネルを切り替えるかのように変化した風景に目を軽く瞬かせる。
「これが招待状を持ってると誘われるって庭園か」
「へえ、綺麗なとこだね」
 咲き乱れる色とりどりの花をぼんやりと眺めて、灰神楽・綾(廃戦場の揚羽・f02235)が梓に向かって悪戯っ子のような笑みを浮かべた。
「まるであの世みたいな場所だね」
 実際に見たことなどないけれど、天国ってやつは花が咲いていると聞いたことがある。
 こんな風に四季など関係ないというくらいの、花々が。
「……物騒なことを」
 何時もであれば、何言ってんだと突込みを入れているところだが、この風景を見ているとあながち与太話でもないのかもしれないと思ってしまう。それほどに、現実離れしすぎているのだ。
「あっちには桜で、こっちには向日葵、秋桜にパンジー。本当に節操がないっつーか、なんというか」
 見たことはあるけれど、名も知らない花も多く咲いている。本来であれば、この時期に見られるようなものではない。
「でもさ、死に場所としてはいいんじゃない?」
「死に場所……か」
 そういや、心中しに来たんだっけか。フリとはいえ、心中か……と梓が取り敢えず歩きながら考える。もちろん、そのちょっと後ろを綾が付いてきているのを確認しつつだ。
 父親に託されたこいつを守り抜くこと、それが幼いころに実家を飛び出して、あっちこっちで好き勝手にしてきたバカ息子の自分ができる親孝行であり使命だと――梓はずっとそう思って綾と共にいる。
 もし、綾が先に死んでしまったら、自分はその親孝行ができなかったということになる。それは梓としては何としても避けたいこと。かといって、自分が先に死んでしまったら誰がこの先、綾を守るのか。
 だったら、どっちが先に死ぬことになったって、一緒に死んでしまえば――。
「梓? あーずーさー?」
「……ッ、ああ、悪い。何だ?」
「ぼんやりしてるから、呼んだだけ」
 そうかよ、と返事をして、小さく息を吐く。
 一緒に死んでしまえばいい、と考えてしまったことは、実を言えばある。その考えを読まれてしまった気がして、梓は息を整えてから立ち止まって綾に向き直った。
「綾」
「何?」
「俺と一緒に死ぬか?」
「……こんなところで言われると、プロポーズみたいだねぇ、梓」
「なっ、お前わかってて言ってるだろう!」
 慌てる梓がおかしくて、綾が笑う。
 人生なんて何か起こるか分からないから、俺は死なないなんては断言できないけど。
 でもさ、今ここで一緒に死ぬことは出来るよ、と艶やかに笑って見せる。
「君が、望むなら」
 喜んで、死んでみせるよ。
 言えぬ言葉を飲み込んで、ぱっと雰囲気を切り替えた綾が楽しそうに言葉を続ける。
「じゃあ、どんな死に方がいい?」
「……お前な」
「梓の血を一滴残らず俺が吸ってあげるとか? 痛くしないように頑張るけど」
「それだと、五リットル以上吸うことになるぞ? 飲めるのか?」
 五リットル……そう考えて、綾の表情が曇った。
「それはちょっと……流石に無理かも」
 美味しいものは、適量だからこそ美味しいのだ。
「分割にできたらいいのに」
「馬鹿言ってんな。まぁ……それなら、なるべく一瞬で楽に死ねる方がいいな」
 残すのも、残されるのもごめんだ。
「じゃあ、やっぱりこれだね」
 一番確実だよと、綾が嬉々としてコートから愛用のナイフを二本取り出し、一本を梓へと渡す。
 何でこいつこんなに楽しそうなんだろう、と思いつつ梓がナイフを受け取る。よく磨かれた、人を殺す為の刃物だ。
「梓」
「ん?」
 綾が梓の手を取って、自分の心臓に手を当てさせる。そのまま鼓動が伝わってくるような気がして、梓の指先がぴくりと動いた。
「この位置にね、心臓があるから」
「……ああ、分かってる」
 わかってなさそうだから言ってるんだけどな、と綾が小さく笑う。
「そう? じゃあ、せーのでお互いの胸をグサッといこう」
 心臓の上に置いた梓の手の上に、自分の手を重ねて握り締める。
「変に躊躇してやり損ねて、俺だけ後追い自殺だなんて虚しいことさせないでよ?」
 無言で頷いた梓の手を励ますように、もう一度だけ強く握ってから離す。
 ナイフを構えて。
 構える手は震えているけれど。
「梓」
「綾」
 互いの名を呼んで、視線を交わして。
 それだけでもう充分。
 あの狂気の空間に攫わた時みたいに、きっと君は彼岸でも一緒にいてくれるから、わかっているから。
「こわくないよ」
 せーの、と綾が言う。その声に、演技だとわかっているのに震える手は止まらず、それでもなんとか差し違える振りをする。
 互いの手から、ナイフが落ちて、折り重なるように花びらが舞い散る地面へと倒れ込んだ。
 綾、今わかった。
 俺の望みは『一緒に死にたい』なんかじゃなくて、いつまでも、何処までだって綾と『一緒に生きたい』なんだと。そこには、親孝行だとか使命感だとかはきっと関係なくて。
 だから、何があっても俺と生きろよ――。
 そう思って、目を閉じた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

呉羽・伊織
【花守(刃)2】◎
(虚構の関係を拗らせた体で、愛憎劇を一つ
この清く正しい娘を、嘘偽りに巻き込むのはやり辛い――が、流石というべきか覚悟は固いよーで――己も意を決して距離を詰め)

さて、と――春、漸く捕まえた
逃げよーたってそうはいかない
もう手遅れだ
もう誰にも渡さない

こんなにも想っているのに
近くにいる筈なのに
手も心も届かぬなんて嫌だ

――お願いだから、置いていかないで
この手を取って

決して邪魔の入らぬ果ての果てまで、二人だけで、一緒に
(触れた瞬間に手を引き寄せ、刺し違えた風に桜の中へと倒れ込み)

(演技とはいえわりと真剣に迫ってんのに、ホント哀しい程に脈がないな~ハハハ
なんて気を紛らわしつつ目を閉じて)


永廻・春和
【花守(刃)2】◎
(いつの間にか二人きり
桜舞う庭の隅へ
――拗れ逸れて、取り返しのつかぬ所まで来た様にふらり)
(心中を、偽る、騙る
誰より心を尊ぶこの御仁に対し、斯様な真似は心苦しくも――此も仕事なれば、迷い無く静かに見据えて応え)

あの…
先刻の…御姐様とのお話、根に持ってらっしゃいます?

私は…
私だって、本当は
(伸ばされた手には、刃――此を取るという事は、つまり)

…目移りばかりする貴方様が憎くて
それでも愛しくて狂おしくて

甘んじて、受け止めましょう――刃も心も、全て
(手に触れれば、後はもう勢いの儘)

(普段からこれぐらい真剣な態度でいらっしゃれば良いものを…と、改めて哀情を懐きつつ、桜の絨毯に埋もれ)



●花響心中
 からりころりと鳴らした下駄の音が、変わる。四つあったはずのそれは二つだけになって、二人はぴたりと足を止めた。
「此方が……」
 影朧の、とは口には出さず、隣に立つ男に永廻・春和(春和景明・f22608)が視線を向けた。
「そうみたいだな」
 その視線を受けて、呉羽・伊織(翳・f03578)も春和へと視線を落とす。
「……やっと、二人になれた」
 切なげに笑ってみせれば、心得たとばかりに春和が顔を逸らし、伊織から逃げ出すように影朧の庭園を奥へと進む。
 事前の打ち合わせ通り、さすが春……と思いながら伊織が彼女を追うように下駄を鳴らした。
 この愛憎劇に、清く正しい娘を嘘偽りに巻き込むのは伊織の良心が痛むのだが、流石と言うべきか桜咲く乙女の覚悟は確りと決まっているようで、寧ろこちらの覚悟が必要なくらいだと、伊織が困ったように小さく笑う。
 では、虚構の関係を拗らせた、そういう体で――ひとつ、本気で口説く勢いで演じさせてもらうとするか。
 意を決して、伊織が距離を詰める。
「春」
 細く白い腕を掴めば、桜の舞い散る庭の隅で春和がびくりと足を止めた。
「春、漸く捕まえた。逃げよーたってそうはいかない」
「……私」
 嫌がっているようには見えぬよう、細心の注意を払って。でも、追い掛けてきた男をどうしたらいいのか分からぬ乙女のように、春和が顔を上げた。
 心中を、騙る為に。
 誰よりも心を尊ぶ目の前の御仁に、このような真似は心苦しいと思う気持ちもあれど――此れも猟兵としての仕事なれば、と心の中で謝りを入れて、迷いなく春和が伊織を見据えた。
「あの……先刻の……御姐様とのお話、根に持ってらっしゃいます?」
 恥らうように頬を染め、春和が伊織に問い掛ける。
「……持っていないように見えるか?」
「……見えません」
 なら、聞くなとばかりにその細い肩を抱き寄せる。僅かばかりの抵抗は、伊織の胸に添えられた手のみ。
「春」
 囁くように、愛しさを込めて伊織が囁く。
「もう手遅れだ、もう誰にも渡さない」
 それが誰であっても何であっても、この手で握り潰してキミをオレのものにする。そう、意思を込めて伊織が春和の瞳を覗き込んだ。
「駄目です、いけない……いけません……」
 辛そうな声を出して、春和が伊織の胸から逃げ出すように身を捩って距離を取る。
「春、春!」
「伊織様……」
 再び逃げようとする彼女を桜の樹へと追い詰めて、これ以上逃げられぬように囲い込む。
「オレはこんなにも春を想っているのに」
 近くにいる筈なのに、今も手を伸ばせば届く距離だというのに。
「――お願いだから、置いていかないで」
「私は……私だって、本当は……!」
 貴方のことだけを考えられたらいいのに。
「春、お願いだ。この手を取って」
 そう言って、伊織が刀を抜いた手を春和へと伸ばす。
 嗚呼、この手を取って、貴方はそう仰るのですね。だったら、私は。
「……私だって、私以外の方に目移りばかりする貴方様が憎くて、それでも愛しくて狂おしくて……っ!」
「春、今ならずっとオレはキミのものだ」
 だから、この手を。
「なら、甘んじて受けましょう――貴方様の刃も心も、私が全て」
 泣き笑いのような表情を浮かべ、春和が伊織の手に触れる。
「ああ、決して邪魔の入らぬ果ての果てまで、二人だけで、一緒に」
 伊織が春和の手を引き寄せ、そのまま一息に刺し違えたように見せ掛ける。
「春、春……」
「伊織、様……」
 そうして二人、桜の花びらが敷き詰められた地面へと、倒れ込んだ。
 勿論、伊織が下になるようにし、春和には傷一つ付けぬよう配慮もばっちりだ。
 そうでなければ、姐サンに怒られちまうからな……と、薄っすら開いていた瞳を春和に向けて、柔らかく微笑んだ。
 伊織の胸の上で、その表情を眺めつつ、春和は思う。普段からこれぐらい真剣な態度でいらっしゃれば良いものを……と。そして、改めて伊織に対して哀情を懐きつつ、やや冷たくなった視線を隠すようにゆっくりと目を閉じた。
 演技ではあったけれど、わりと本気で迫ったというのに驚くほどに動じない春和に、悲しい程に脈が無いと伊織が今の視線一つで察っし、胸の内で乾いた笑いを零しながら同じように目を伏せる。
 桜舞う中、折り重なるように倒れる麗しき男女は早く影朧がこないかと、ひたすらにそれだけを考えるのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

スキアファール・イリャルギ

苦しげに呼吸し樹に凭れ掛かる
恰も怪奇に浸食されているかの如くUCで躰を徐々に影に変えていく

手持ちの薬を毒に見立てて飲む
心も怪奇に成って化け物になる前に
人間として怪奇と共に死ぬ為に
……嗚呼、コローロ
ようやく約束を果たせるよ
私も海に還る時が来たんだ
長い間待たせてごめん……

(ひかりのきみを抱く
可笑しいな
フリなのに悲しい
未だ影に成ってない目から涙が零れる)

ずっと一緒にいよう……
だいすきだよ……

あ、あああアアッ……!!
醜い叫びを上げドロドロと溶けながら
きみを喰らうように覆い被さって――


きみを躰で隠すように倒れ伏し期を待つ
あ、こら
笑わないでくれコローロ
酔いと勢いでやったとはいえ、恥ずかしいんだから……



●君影心中
 灯篭の灯りが揺らめく帰り路、月が綺麗だとひかりに向かってそう言おうとした瞬間、スケッチブックを捲るように世界が変わった。
 レトロモダンな町並みが、色とりどりの花咲く庭園に。
「……ここが」
 影朧が呼び寄せるという庭園。言葉にはしなかったけれど、ひかりが警戒するようにスキアファール・イリャルギ(抹月批風・f23882)の周囲を飛び回る。
「大丈夫、ここで約束を果たすんだ」
 スキアファールがゆっくりと庭園を進む。
「こんなに綺麗な庭園なんだ、きみと楽しんでもいいだろ?」
 心中前のデートだよ、とは恥ずかしいので口に出さなかったけれど、ひかりのきみにはお見通しだったかもしれない。少し赤くなった頬を摩って、花の咲き誇る庭園を歩いた。
 夜の中でも月の光を受けて輝くように咲いている花は、この世のものではないような美しさでスキアファールとひかりを楽しませる。夜には閉じているはずの花も、まるで今こそが真昼というように花開いていて、ここが普通の庭園ではないことをスキアファールに告げているようでもあった。
「ここにしようか」
 何処がいいかと考えていたけれど、桜の樹の下というのはとてもそれらしい。
「……ハ、ァ……ッ」
 苦しげな呼吸を漏らし、桜の樹に凭れ掛かる。それから、肉体を無数の目と口を持つ、不定形の影へと変移させていく。それはあたかも、怪奇に浸食されているかのように見えるだろう。
 ゆっくりと影へと変わる己の身体を眺め、苦し気に眉を寄せるとスキアファールがポケットの中からピルケースを取り出す。乱暴に中身を取り出して、手の中に握り込んだ。
「心も怪奇に成って化け物になる前に、私は人間として怪奇と共に死ぬよ」
 手の中の薬を毒に見立て、一息に飲み込む。ずるずると樹の根元に座り込み、スキアファールがひかりへと指先を伸ばした。
「……嗚呼、コローロ。ようやく約束を果たせるよ」
 嘘だってわかっているけれど、それでもひかりが嫌だというように火花を放つ。
「私も海に還る時が来たんだ、長い間待たせてごめん……」
 ちかちかと瞬くひかりのきみがとても綺麗で、スキアファールはひかりを胸に抱く。
 ああ、どうしてだろう。フリなのに、本当に死ぬわけではないのに、どうして私は今、こんなにも悲しいのだろう。まだ影になっていない瞳から、雫が零れ落ちる。
「ずっと、一緒にいよう……? だいすきだよ、コローロ」
 きみを想って死ぬのは、こんなにも悲しくて、こんなにも幸せで。
 いつか、こんな日が本当にきたら、きみは傍にいてくれるだろうか。ねえ、コローロ。
 火花が散る、それだけで充分だった。
「あ、あああアアッ……!!」
 精一杯の醜い叫びを上げて、スキアファールが己の身体を影へと変える。それはまるでドロドロと溶けながら、ひかりのきみを喰らうように覆い被さって、ひかりが、きえた。
「……あ、こら」
 自分の躰でひかりを隠すように倒れ伏したスキアファールが小さな声でぴかぴかと光る彼女に囁く。
「笑わないでくれコローロ。酔いと勢いでやったとはいえ、恥ずかしいんだから……」
 本当に恥ずかしいんだから、とスキアファールが拗ねるように笑って、影朧を迎える為にそれきり口を閉じた。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『花盗人』

POW   :    これは、どんな感情だったかな
自身の【今までに盗んできた花】を代償に、【元になった人の負の情念】を籠めた一撃を放つ。自分にとって今までに盗んできた花を失う代償が大きい程、威力は上昇する。
SPD   :    君の心はどんな花かな?
【独自に編み出した人の心を花にする魔術】を籠めた【手を相手に突き刺すように触れること】による一撃で、肉体を傷つけずに対象の【心を花として摘み盗る事で全ての意思や感情】のみを攻撃する。
WIZ   :    嗚呼、勿体無い
あらゆる行動に成功する。ただし、自身の【今まで盗んできた花】を困難さに応じた量だけ代償にできなければ失敗する。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は佐東・彦治です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●心花
 花咲き乱れる庭園で、心中した遺体が其処彼処。
「こういう場合は大漁……というのだったかな?」
 ああ、それでは少し情緒がないな、花に相応しくない。
「豊作……うん、こちらの方がしっくりくる……かな」
 さあさあ、それでは収穫といこうか!
 書生風の衣装に学帽とマントをした男――『花盗人』が猟兵達の前に姿を現す。
 花盗人の庭で、倒れ伏した猟兵達の心が花の形に具象化する。
 君達の花は、どんな花か。
「この僕に見せておくれ」

------------------------------

 遂に影朧が姿を現します、花を求め皆様のもとへ現れるでしょう。
 花盗人が現れると同時に、皆様の心の花も具象化され浮かび上がります。どのような花が咲いたかプレイングにてお書き添えください。心中する相手を想う心が【花】となりますので、そちらをよく考えて選ぶと楽しいかもです。お任せも歓迎です、プレイング内容を鑑み花言葉なども参考に決めさせてもらいます。
 心情路線でも、コメディ路線でも、紡ぐのは物語の主役である猟兵の皆様方です、どのような心中方法でもお好きなようにプレイングをかけてくださるとこちらも色々漲ります。
 【受付期間】はMSページを参照ください、受付期間前に送られたプレイングはタイミングが悪いとお返しすることになってしまいますので、恐れ入りますがプレイング送信前に一度ご確認くださいませ。
黒鵺・瑞樹
アドリブOK
花お任せ
右手に胡、左手に黒鵺の二刀流

ただの興味本位で心を摘み取る。悪趣味なこった。
しかもそれを攻撃にも使うとは。

近づいてきたところに目くらましを兼ねてそのまま手に持ってた飛刀を投擲。相手が対処してる隙に起き上がり体制を整える。
そして踏み込みUC剣刃一閃で攻撃を。
敵の攻撃は第六感で感知、見切りで回避。
回避しきれないものは本体で武器受けで受け流し、カウンターを叩き込む。
それでも喰らってしまうものはオーラ防御、激痛耐性で耐える。

本当に花が出るんだろうか。
俺はこの気持ちに気が付きたくなかった。気が付かなければ良かった。
だから叶える事を諦めて、でも想いを殺せず未だ過去にできないでいる。



●オキナグサ
 血の色で紅く染まった花の真っ只中に、その男はふわりと現れた。
 倒れたフリをした黒鵺・瑞樹(界渡・f17491)を上から覗き込み、彼の心が具象化した花を眺める。
「ふふ、これはこれは……綺麗な暗赤紫色の花だ」
 血の色のような花――オクナグサ。
「丁度あそこに紅い花が欲しかったところ……ッ!」
 近付き、今にも花を摘み取らんとする花盗人に、瑞樹が手に握ったままだった柳葉飛刀を投げ付ける。そして、自身の心の表れでもある花をしっかりと掴み、転がるように花盗人から距離を取るとその勢いのまま跳ね上がるように立ち上がり、即座に体勢を整えた。
「ただの興味本位で心を摘み取る、悪趣味なこった」
 手の中にある花にちらりと視線を落とし、盗られぬように懐に仕舞う。
「僕はただ綺麗な花を集めているだけだよ。その苗床が土か心か、それだけのことさ」
「それを悪趣味と言っている」
 右手に胡、左手に黒鵺を構え、瑞樹が一歩踏み込む。そしてその勢いのまま、刃を閃かせた。
「猟兵か、是非ともその花を貰わねばならないな」
 その為なら、多少の代償は支払うべきだと花盗人が笑い、虚空へと手を伸ばす。そして引き抜いたその手の中には、青く可憐な花が連なる茎が一本。
「勿忘草、その想いを見せておくれ」
 勿忘草がはらりと散って、花盗人の腕が情念に覆われる。
「……攻撃にも使うのか」
 花盗人はそれには答えず、ただ穏やかに笑って瑞樹へとその腕を振りかざした。
 当たると拙い、そう瑞樹の第六感が告げている。黒いオーラを放つ花盗人の拳を避け、続く連撃を左手の黒鵺でその力の流れを逸らす。そして右手に持った胡で大きく踏み込んで花盗人へ斬り付けた。
「ああ、惜しい」
 花盗人がその斬撃を情念で受け止め、距離を取る。
「その花、貰い受けたかったんだが仕方ない」
 心底残念そうな顔をして、指先から血を滴らせた花盗人が目眩しのように青い花弁をばら撒いた。
「く……っ、待て!」
 手に入らぬ花よりも、手に入る花――ということだろうか。違う花を求め、花盗人はその身軽さで瑞樹の前から姿を消した。
「仕方ない、手傷は負わせた」
 刀を納刀し、懐へと手をやる。
「あれ……確かにここに仕舞ったはずなんだが」
 あの紅い花、花盗人はオキナグサと呼んだか。
「本当に花が出るのかと思っていたけど」
 小さく息を吐き、花盗人が消えた庭園を見遣る。
「この気持ちに、気が付きたくはなかった」
 気が付かなければよかった、そうすれば苦しむことも無かったはずなのに。
 叶わぬと知ってしまってからは、求めることは止めて諦めようとしている。けれど、どうしても想いを殺せずにここまで来てしまった。
「この想いを過去にすることができれば」
 あんな恋もしたのだと、思い出せる日がくれば。
 そう願って、瑞樹は花咲く庭園の中、月を見上げた。
 オキナグサ―― 『清純な心』 『告げられぬ恋』 『何も求めない』

大成功 🔵​🔵​🔵​

馬県・義透
引き続き『静かなる者』
対応武器:白雪林
花:アザレア(色はお任せ)

水から上がりつつ。初恋は相当根深いようで。
ああ、でも。だからこそ、この花は渡しませんよ。
UC発動。呼ぶのはもちろん『疾き者』。
私自身も驚いてますよ。この執着。
早業での援護・制圧射撃を。


第一『疾き者』のほほん唯一忍者
対応武器:漆黒風

あなたがそんなに執着するのを見るのは、珍しいですねー。
ですが…ええ、そうも想われると嬉しいものですねー。
今は少しだけ、昔を思い出しますかー。
…そう、その花は、あんたには渡さない。
属性攻撃:風つきの漆黒風を、早業で投擲。攻撃は見切りましょうか。

※『疾き者』の誕生日は11/28



●白いアザレア
 澄んだ水の中で、着物が揺らめいている。
「水の中でもよく見える、綺麗なアザレアだ」
 空間から滲み出るように現れた花盗人が、白いその花を掬い取ろうと手を伸ばす。その手を払いのけるように、馬県・義透(多重人格者の悪霊・f28057)が手の中に顕現させた白い雪のような長弓を水中で振るった。
「!?」
 その動きに、花盗人が咄嗟に飛び退く。
「すいませんが、この花は渡しませんよ」
 水中を蹴り、水面へ顔を出すと共に義透が花盗人にそう告げる。それから、ちらりと咲いた花を見て、初恋は相当根深いようで……と小さく笑いながら陸へ上がった。
「それは困る、僕はその花が欲しいんだ」
 この庭に植えて、もっと綺麗に咲かせてあげると花盗人が微笑む。
「そう言われましても、これは大事な物なので」
 あなたなどに渡す義理はないと、弓を構えて射る。その威嚇のような射撃に、花盗人がまた一つ距離を取った。
「出番です、『疾き者』」
 そう呼び掛ければ、疾き者と呼ばれる彼が姿を現す。
『ふふ、あなたがそんなに執着するのを見るのは、珍しいですねー』
「そうでしょう、私自身も驚いていますから」
 だから初恋は根深いのだと言ったでしょう、と義透が言うと、疾き者がほんの少し嬉しそうに笑った。
 そう想われるのは、死んだ今となっても嬉しいもの。そんな感情は言葉にせずとも、伝わっているのだろう。彼の頬が僅かに赤くなっているのを見て、昔を思い出すようだと思いながら疾き者が花盗人に向かって漆黒風――棒手裏剣を構える。
『では、今は少しだけ……昔の私に戻るとしますかー』
「随分と物騒な護衛がいたものだ」
 花盗人が溜息を吐く。ああ、自分はその花が欲しいだけだというのに。
「渡せない、と言いましたよ」
『……そう、その花はあんたには渡さない』
 目付きも口調も変わった疾き者が義透を狙って突き出された手を牽制するかのように、漆黒風を投げ付ける。それを援護するかのように、義透も彼の早業に負けぬ速度で矢を放った。
「嗚呼、本当に猟兵という輩は度し難いな」
 肩に突き刺さった漆黒風を苛立った声を上げながら抜き捨てると、花盗人が二人から距離を取る。
『逃げるのか』
「花が手に入らないのであれば、お前達に用など無いよ」
 この庭園に誘われた者達の死体は、まだあるのだから。
 そう笑うと、花盗人が花弁に紛れるようにして姿を消した。
『……追いますかー?』
「この広い庭園を探すのは骨が折れそうです」
 何せ、びしょ濡れですし、と義透が弓を仕舞う。
『昔のように、温めてあげましょうかー?』
「……結構です」
 ああ、本当にあの二人には眠ってもらっていて良かったと、義透が溜息を零しながら彼の人の誕生花でもある花を懐へ忍ばせた。
 白いアザレア―― 『恋の喜び』 『充足』

成功 🔵​🔵​🔴​

ステラ・エヴァンズ

花はスターチス、花言葉は『変わらぬ心』『永遠に変わらない』等でしょうか

見せる事は構いませんが、差し上げる花は生憎と持ち合わせておりません
代わりに引導をお渡し致しましょう

相手からの攻撃対策として結界術に破魔と浄化を練り込んでおきましょう
駄目でも狂気・呪詛耐性持ちですのである程度緩和は出来る筈
然らば、後は恐れる事なく進むのみ、です
天津星にてなぎ払いながら踊るような足取りにて間合いを詰め
UCにて一気にけりをつける事と致しましょう

これは私の心、私の花
他の方の手に渡って美しくあり続けるとは思えません



●スターチス
 川岸に倒れ死んだ振りをする、僅かな間。帰ったらどうやって減った分の旦那様分を充電しようかと、ぼんやりとステラ・エヴァンズ(泡沫の星巫女・f01935)が考えていた時だった。
「やあ、これは可憐なスターチスだ」
 小さく可憐なピンク色の花が、ステラの胸の上にひと房。それを目にした花盗人が、なんとも嬉しそうな声でステラへと近付いた。
 そしてその手を伸ばそうとした矢先、ステラが花に触れられることを拒むように花盗人の手を払い立ち上がる。
「花をお見せする事は構いませんが……あなたに差し上げるような花は生憎と持ち合わせておりません」
「……お前も」
 猟兵か、と払われた手を軽く振って花盗人が距離を取る。
「ええ、その通りです。ですから――」
 花の代わりに、あなたに引導をお渡し致しましょう。
 そうステラが微笑むと偃月刀の様な刃をつけた薙刀、天津星を円を描くようにくるりと回す。それは即座にステラの周囲に薄い膜を張るように、清浄なる空気を纏った結界を張り巡らせた。
 これで少しは影朧からの攻撃を凌げるはず、それが通じなくともある程度の呪詛や狂気への体制は持ち合わせている。これでも巫女ですので、と琥珀色の瞳を星のように瞬かせ、天津星を手に花盗人へと舞うように歩を進めた。
 足場の悪い川岸であるというのにステラの動きはそれを意に介さず、巫女舞を行うかのようなその所作は美しい。
「参ります」
 天津星の刃を花盗人に向け、なぎ払うように斬り付けては間合いを詰めた。
「美しい動きだね、まるで花のようだ」
 益々その花が欲しくなったと、花盗人が虚空に指先を向けて紅色の椿を手にする。その花はすぐに萎れ、代わりに花盗人の指先に紅い情念が宿り、ステラの花を摘まんと花盗人が手を伸ばす。
「……ッ!」
 バチン、とステラの張った結界がその指先を拒絶する。その僅かな隙を見逃さず、ステラが短く息を吐き一時の間己の五感を犠牲にすることで放つことができる不可視の刃を花盗人へと放った。
「全てを切り裂け……終焉を賜わす不可視の光刃!」
 星と星の間すらも切り裂くとされるその一撃を花盗人が僅かに身を捩らせ、急所を避ける。
「折角の花が台無しになってしまうだろう? 全く」
 受けた傷がじわりと痛む。不愉快だと眉根を寄せて、花盗人が踵を返した。
「お待ちなさい!」
「僕は戦いたいわけではないのでね」
 花が欲しいだけなのだから、と一息にその場を離脱する為に駆けだしていく。次の花を摘む方が、彼にとっては大事なのだ。
「厄介な影朧ですね……」
 ふう、と息を吐いて天津星を納める。遠のく五感はすぐに戻るだろう、それまでは結界を張ったまま少し大人しくしているべきか。
「私の他にも猟兵の方はいらっしゃいましたから」
 よく見る顔もいた、ならば大丈夫だろう。信頼を滲ませた表情で、ステラが守り切った己の花に触れる。
「ふふ、これが私の心、私の花……ですか」
 ならばこの花を手に取って欲しいのは一人だけ。他の誰かの手に渡って、美しくあり続ける訳もない。
「ねぇ」
 旦那様、とステラが小さく微笑んだ。
 スターチス―― 『変わらぬ心』 『永遠不変』

成功 🔵​🔵​🔴​

アリステル・ブルー
【月影2】◎藤の花
死んでもいい、なんて思ったのは内緒だよ
いやしかし武器向けるの心臓に悪いね…うん、あんな事、月に狂うでもなきゃやらないよ
この感情は僕の、僕だけのものだからね。誰にだってあげやしないよ

…今頃どこも花でいっぱいなんだろうね

それはさておき、影朧というのだっけ
「一応聞いておくけど転生するつもりはある?」
最近敵に甘い自覚はあるんだけどそこまで憎くは思えないんだよね
予知で犠牲者がいないのが最大の理由なんだけど…

対話を試みるヒューをいつでもかばえるようにしておくよ
今の僕なら痛みは耐えられる
駄目なら高速詠唱で全力でUCを使う
使えるものは利用してヒューを守るよ
戦わずにいられる事を祈っているけどね


ヒュー・アズライト
【月影2】◎リナリア
流石に彼に剣を向けられるのはぞっとしませんね
…悔いることは決してないですが出来ればそんな未来は永劫に来ないことを願いますよ
しかし案外ノリノリでしたね、彼

花は…綺麗ですね今にも手折れそうで頼りない

さて本題ですね
「學府に転生を望めばいいようにしてくれます」
アリスの質問に追加しておきますよ
「どうせなら転生して花屋にでもなればいいんですよ」
人が想う気持ちは確かに美しいですし、結果生まれた花は俺も綺麗だと思います
ですが、命を奪うのは頂けないです。今までどれだけ奪いましたか?
俺たちは出来れば戦闘を回避したい
どうしても駄目ならばUCを全力で使用
敵の攻撃は全てアリスに受けてもらいますよ



●リナリアとウィステリア
 月の光を受け、白い花が輝いているように見える……そんな場所で隣り合うように死んだ振りをしている二人の前に、花盗人がふわりと現れた。
 靴底が地面に触れるその音で気が付いていたが、もう少しだけ油断を誘うようにとヒュー・アズライト(果てなき青を知る・f28848)もアリステル・ブルー(果てなき青を望む・f27826)も目を閉じたままだ。
 耳が不用意に動かぬように、アリステルは苦労していたようだけれど、二人の胸の上に咲く花にしか興味のない花盗人が気付くことは無い。
「これは良い花だ、リナリアとウィステリア……この庭にはきっと藤の花も良く似合う」
 何処に咲かせてあげようか、と花盗人が二つの花へと手を伸ばす。
「悪いけど、この花をあげることはできないよ」
 ヒューが起き上がるよりも早く、彼を庇うようにアリステルが身を起こし細剣の切っ先を花盗人へ向ける。今にも花に触れんとしていた花盗人がそれを避けるように、後退る。
「誰もかれも、全く僕の邪魔ばかりだな」
 いつまでも枯れることなく、この庭で咲き誇っていればいいものを……苛立ちを隠しもせず、花盗人が緩く首を横に振りながら溜息を吐いた。
「この感情は僕の、僕だけのものだからね。誰にだってあげやしないよ」
「俺もごめんだね、影朧に渡せるようなものはないよ」
 アリステルの後ろで起き上がり、その隣に立ったヒューも同じくとばかりに腕を組んで花盗人を見る。ヒューを庇うように僅かに前に出て、アリステルが花盗人に告げる。
「それはさておき、影朧というのだっけ。一応聞いておくけど、転生するつもりはある?」
 問い掛けながら、アリステルは敵に甘くなっちゃったなあと胸の内で小さく、困ったように笑う。相手はオブリビオンだ、容赦なく殲滅してしまうべきだとも思うけれど、転生する手段のあるオブリビオンなのであればとも思ってしまうのだ。
 何よりも、予知で犠牲者がいないというのが最大の理由ではあるが、憎く思えない敵もいる。本当に困ってしまうな、と思いつつ敵の出方を窺う。それに重ねるように、ヒューも花盗人へ問い掛ける。
「學府に転生を望めばいいようにしてくれます。それにあなた、そんなに花が好きだというのなら花屋にでもなればいいんですよ」
 人が、人を想う気持ちは確かに美しいものだ。それを追い求め、結果生まれた花も綺麗だとは思う。けれど、だ。
「ですが、命を奪うのは頂けないです。今までどれだけ奪いましたか?」
 その問いに、花盗人は薄っすらと笑みを浮かべて答える。
「君は今まで見てきた花の数を覚えているのかい?」
 花屋も悪くないかもしれないけれどね、と呟いて、花盗人がヒューの花を狙うように一歩踏み出して手を伸ばした。
「ヒュー!」
 いつでも庇えるように、と神経を尖らせていたアリステルがその間に割り込み、この身体が盾とばかりに花盗人の手を弾いた。
「俺たちは出来れば戦闘を回避したい」
 アリステルの背に庇われながら、ヒューが花盗人へと言葉を重ねる。
「そうかい、僕もできれば戦うのは御免なんだ」
 だって、花を手に出来ないのなら争う意味もないだろう? 花盗人がそう笑って、虚空に手を伸ばす。
「交渉は決裂ですか?」
 ヒューが指先で複雑な魔方陣を描きながら、問う。
「花屋になれ、という話であれば、そうだね」
 虚空より色とりどりの花をばら撒いて、花盗人が言う。
「そうですか」
 残念です、と呟いたヒューが魔方陣を完成させ、無数の魔法剣を召喚する。それを花盗人に向け、今にも攻撃に移ろうとした瞬間であった。
 花盗人のばら撒いた花が一斉に散り、全てを隠すかのように花吹雪の如く舞ったのだ。
 敵の攻撃かもしれない、とアリステルが花吹雪から庇うようにヒューを抱き締めるのと同時に、ヒューは迷わず花盗人が居た場所へ魔法剣を突き刺した。
「アリス、怪我は」
 花吹雪が収まったのを確認し、ヒューがアリステルに問う。
「大丈夫だよ」
 全く痛みはないとアリステルが言い、花盗人が居た方へと振り返る。
「……居ない?」
「逃げられましたか」
 そういえば、花盗人も戦う気はないと言った。
 あれが嘘でないのであれば、彼は逃げの一手を打ったのだろう。
「仕方ないですね、アリスに怪我が無かっただけ良しとします」
 月明かりの下で、そうヒューがアリステルに微笑む。その笑みに、あの時死んでもいい、なんて思ったのは一生秘密にしようと思いながら手にしたままの黒剣を納めた。
「その剣」
「うん?」
 ヒューがアリステルの黒剣の柄を指先で撫で、小さく笑う。
「流石に向けられるのはぞっとしませんね」
「僕だって、ヒューに武器を向けるのは心臓に悪かったよ」
 ばつが悪そうな顔をしたアリステルを見て、ヒューが指先を柄から咲いたままの彼の藤の花、ウィステリアに伸ばす。
「アリス、あなたに剣を向けられても悔いるようなことは決してないですが」
 そんな未来は永劫に来ないことを願います、とアリステルを見上げて言う。
「うん、あんな事、月に狂うでもなきゃやらないよ」
 月に狂ったとしても、やらない。そう、アリステルが笑った。
「そうですか? 案外ノリノリだったじゃないですか」
「あれは演技だからね?」
 演技でも、そうではなかったとしても。この花が咲き乱れる庭園で、あの一瞬は真実であったと二人は口に出さずに思う。
 月明かりに照らされた、あの時を。
 リナリア―― 『この恋に気付いて』 『幻想』
 藤の花―― 『決して離れない』 『恋に酔う』

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

呉羽・伊織
【花守4】◎
桜の花枝に埋もれながらも芽吹く桜菫が一輪
(取るに足らぬと見向きもされぬ様な、気付かれる事すらもない様な、とても小さな野花――ああ、でも確かこの花は――)

思考は後
敵の気が花へ向いた瞬間に不意打ちでUC使い風切で一撃

――小さな幸せとかいうんだっけか
其を摘み取ろうなんて無粋だぜ
えっ?いや俺ちゃんと誠実な時は誠実デショ?(笑って目を反らした!)
揶揄うなっての!

さて!残念ながら脈はないが、命脈はこの通りだ
命も心も奪わせやしない

桜と共に戯れる様に
再度UCで刃を踊らせて

(演じた関係こそ欺瞞と虚偽ではあるが――実際の関係はまぁ兎も角として!
この連中と過ごす時間に小さな幸いが花開くのは、多分真実)


永廻・春和
【花守4】◎
(凛と咲く山桜の一枝――開花に5年10年と要する筈の野生種
其が咲いたという事は、自身もまた自然体で心を開きつつあるのか――と、思うも束の間)

合わせて花摘む手を払う様に一太刀
花が意味する所が何であれ――ええ、渡しません
…普通にずっと誠実だとは仰らぬのですね?

――冗談も演技も程々に
人の心を荒らす魔の手は、払い除けるまでです
(取るに足らぬ訳がない――心というものを痛く大切にする彼が咲かせた一輪程、興味深く目や心を引くものはない
其を奪わせたくはない)

心は譲れぬも、せめて手向けに一花
UC桜舞わせつつ共に剣舞を

(時に淡白ながらもふと微笑む様な――そんな日々は嘘偽りなく、確かに幸いに想うのです)


花川・小町
【花守4】◎
(ひっそりと心中役の二人が窺える木陰に潜み、一部始終を愉しく見物――もといそっと見守っていたものの――さていよいよ出番かしらと、目配せ一つで清宵ちゃんと動き)

――そうよ、野暮は許さないわ
その花は、盗人等に向けたものではないもの
花に惹かれた敵の背へ、挟撃の形でUC衝撃波

ふふ、それにしても可愛い花を咲かせた事ね
ところで伊織ちゃん、菫には誠実なんて言葉もあると御存知?(面白がる様ににこり)

まぁ茶番は此処までね
幽世蝶の霊力で春ちゃんの桜の力を高めつつ
仲良く舞う様に刃を閃かせて

(この子達の花は、これからも沢山の想いを重ね、一層綺麗に伸びゆくであろうもの――そんな楽しみを、奪わせはしないわ)


佳月・清宵
【花守4】◎
(必要なら小町と毒酒でも煽る心算が、上手く運んだ様で――なら後は面白ぇもんを見せてくれた礼を返すしかあるまいと、目配せ返し)

後背から同時にUC衝撃波
おう、その花の真の面白味はこれからだろ
横から掠め取って散らそうなんざ、許すと思うな

――然し本当に見てて飽きねぇ連中だな(深く触れぬも愉快げに花を見)
あのまま誠実と謙虚に努めてりゃ、多少は見直されたかもしれねぇものを、なぁ?

(脈無しを本当に根にもってやがるな?と更に笑うもそこで止め)
ああ――災いの芽たる者こそ、摘み取ってくれよう

UC使い連れや花と戯れるが如く、刃を敵へ
(コイツらは馬鹿やって戯れてる時こそ一等華やぐもんだと、思い知るが良い)



●桜菫と山桜
 桜舞う中、折り重なるように倒れる男女が二人。それから、それを見守るように死角になる場所に潜み一部始終を愉しく見物――否、見守っていた男女も二人。
 前者は完全な囮として、後者は二人の囮としての演技を愉し……花盗人に演技だとバレた時の不測の事態に対して動く為の遊撃部隊として控えていたのだが。
 思ったよりも二人の演技が迫真であったのと、普段見ない真面目な彼ら……主に彼なのだが、を見られたことで非常に満足したように花川・小町(花遊・f03026)が口元を押さえて笑っている。佳月・清宵(霞・f14015)に至っては必要なら小町と毒酒でも呷るかと考えていたのに、予想外のものを目にして震える肩を抑えるのに一苦労だ。
 気を取り直し、小町が清宵に向けてそろそろ出番だと思うけれど、と目配せを一つ。それに応えるように、こんな面白ぇもんを見せてくれた礼はきっちり返すしかあるまいよ、と清宵が視線で返した。
 まあ、つまりは二人とも声には出さず笑っていたということなのだが。
 そして、間違いなく笑われているんだろうよと思いながらも倒れている呉羽・伊織(翳・f03578)が見知らぬ気配を察し、永廻・春和(春和景明・f22608)に誰にも見えぬよう小さく合図を送った。
 それに身動ぎせず合図を返し、春和も花盗人が来るのを待ち構える。
「山桜に桜菫……桜はこの庭にも沢山あるが、この色は中々見ない。桜菫もその傍で咲かせれば美しいだろうな」
 ふわり、と花弁が散るかのように姿を現した花盗人が山桜と桜菫のひと房に向け、瞳を輝かせて手を伸ばす。彼の盗人の気が花へと向いた瞬間、伊織が左手に春和を抱き、右手に握ったままの暗器を花盗人へ突き付ける。追うように、春和も退魔の力を持つ太刀を一息に抜きさって、花を摘もうとした手を払うように一閃させた。
 ちらりと咲いた花に伊織が目を遣れば、気が付かれることなくひっそりと咲くとても小さな野花であった。
 けれど、確か……覚え間違いをしていなければ、小さな幸せを意味する花だ。
「其を摘み取ろうなんて無粋だぜ」
 春和も己が咲かせた山桜をそっと懐に忍ばせ、これが咲いたということは、自分もまた自然体で心を開きつつあるのか、と目を細める。
「花が意味する所が何であれ――ええ、渡しません」
 軽々しく触れていい花ではないと、凛とした態度で春和が花盗人を拒絶すれば、気配を消して隠れていた二人も花盗人を挟み撃ちにするかのように姿を現す。
「――そうよ、野暮は許さないわ」
「おう、その花の面白味はこれからだからな。横から掠め取って散らそうなんざ、許すと思うな」
 薙刀を手にした小町と妖刀を手にした清宵が目配せ一つで息を合わせて衝撃波を撃ち放った。
 前門の虎後門の狼――花盗人からすれば正に今の状況がそうだろう。花を摘まんと手を伸ばせば二つの刃に阻まれ、距離を取ったと思えば背中から不意打ちの攻撃を喰らい。
「全く、厄日とでもいうんですかね?」
 花盗人が苛立たし気に虚空に向けて手を伸ばす。すぐに様々な花が虚空より零れ落ち、花盗人の姿を隠すように花弁が舞う。
「逃げる気か?」
 清宵がそう言うと、逃がさないとばかりに小町が幽世蝶を羽ばたかせ、春和の桜の力を高める。
「行くわよ、春ちゃん」
「ええ、小町様。心は譲れませんけれど、せめて手向けにひと花……!」
 小町の手助けにより霊力を高めた春和が桜の花吹雪を放つ。それと共に、花盗人を挟み込むように二人の麗しき美女が舞う。
「桜舞う中でこんな剣舞を見れるとはな」
「サボってないでアンタも働け!」
 そのまま酒でも飲みだしそうな男に向かって伊織が叫び、桜と戯れるかのようにその身を影朧へと走らせる。
「さて! 残念ながら脈はないが、命脈はこの通りだ」
 その台詞に、清宵が散々灯篭の路で脈無しだと揶揄ったのを根にもってやがるな? と笑いそうになったが、伊織が花盗人まであと三歩というところで表情を引き締め、動き出す。
「命も心も、奪わせやしない」
 伊織が手にした風切の刃が桜の中で鈍く煌く。
「ああ――災いの芽たる者こそ、摘み取ってくれよう」
 いつの間に歩を詰めたのか、清宵が伊織の動きに合わせるように刃を花盗人の背へ突き立てる――!
 桜と、名も知らぬ花々の花弁が一層強く舞う。
「悪いが、さすがに僕の方が分が悪い」
 業腹ではあるが、今まで盗んできた花を代償に、花盗人がこの場から離脱する。薄くなっていく花盗人の気配に、伊織が小さく舌打ちをする。
「手応えはあったんだがな」
 刃に付いた血を眺め、清宵がそれを拭うと刀を納める。
「此方も、斬ったと思ったのですけれど」
「手傷はしっかりと負わせた……ってとことかしらね」
「ま、花を盗られずに済んで良かった……かな?」
 其々が武器を仕舞うと、具象化された伊織の花を覗き込む。
「見せもんじゃないって!」
「いいじゃない、それにしても随分と可愛い花を咲かせたことね?」
 桜菫、桜のように花弁の先に切れ込みがあることからそう名付けられたと言われる花だ。
「ところで伊織ちゃん、菫には誠実……なんて言葉もあるのは御存知?」
「えっ? 知らないけど……いや俺、ちゃんと誠実な時は誠実デショ?」
 ね? と笑って伊織が言うと、極上の微笑みを浮かべたまま小町が見つめる。耐え切れず、そっと笑ったまま目を逸らした。
「……普通にずっと誠実だとは仰らぬのですね?」
 春和が呆れたように視線を遣れば、清宵がくつくつと笑って桜菫に煙管の先を向ける。
「あのまま誠実と謙虚に努めてりゃ、多少は見直されたかもしれねぇものを、なぁ?」
「揶揄うなっての!」
 あれは演技だろ、と伊織がこれ以上揶揄われないようにと桜菫を懐へと仕舞うと、一層飽きねぇ連中だと愉快気に清宵が肩を揺らした。
 春和も山桜のひと房をそっと手にし、袂に入れ込む。そうして、じゃれ合うように言い合う伊織と清宵を眺め、時に淡泊ながらも、こんな風にふと微笑むような……そんな日々を嘘偽りなく、確かに幸いに想うと小さく笑んだ。
 しっかりと仕舞われたその心の花を想い、小町が優し気に口元を緩める。
 この子達の花は、これからも沢山の想いを重ね、一層綺麗に伸びゆき、時折形を変えるであろうもの。そんな楽しみを奪わせることはこれからも私が赦さない、そう心に誓って――。
 桜菫―― 『小さな幸せ』 『誠実』 『仲間』
 山桜―― 『あなたに微笑む』

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

スピーリ・ウルプタス

占めているのは“無限の哀しみ”
愛情深い故に味わうのだと、この身深くに刻み込んで下さった御方
――“私が殺した” 主様も、悦びの中に在られたなら良いのですが。

遥か過去を思いうっとりしていれば、事前に発動して庭のいずこかに隠れていたUC蛇君にぺしぺし起こされる。
「おや、現れましたか」
花盗人と対峙

まぁるい紫のポンポン
アリウムの花
摘まれて痛みがあるなら悦に表情崩したり

「美しく麗しいモノを見たい知りたい。そのお気持ちには、ええとても共感致します」
手段が違えばお手伝いすらしたいところ
けれど
「ヒトは“生”を喜ぶ時こそ、美しさを生むのでは、と」

他の傭兵さんが説得するなら委ね
そうでなければ容赦なく蛇で攻撃



●アリウム
 目を閉じて東屋の冷たい椅子の上、血を流して倒れている男が一人。
 スピーリ・ウルプタス(柔和なヤドリ変態ガミ・f29171)は想定していた痛みの中で、死なないとはいえ軽い走馬灯を脳裏に巡らせていた。
 身の内に感じるのは、無限の哀しみ。
 あの日、愛情深いが故に味わうのだと、この身深くに刻み込んで下さった御方――主様、私が殺した主様も、この喜びの中に在られたなら良いのですが。
 思わず出そうになったうっとりとした溜息を押し殺し、まるで業火に炙られているような深い哀しみに身を委ねる。外傷による痛みも好むところだが、治ることなく疼き続ける、心の痛みはまた格別で。
 ああ、これ以上の深い感情などあるのだろうか。
 堪りません、そう興奮のあまり身動ぎしてしまいそうになりながら、事前に召喚しておいた蛇君がいるのをいいことにスピーリはヒートアップしそうになる妄想の中、ただ影朧を待った。
「これはアリウムかな? 丸く美しい紫色、とても綺麗だ」
 もうちょっとで精神的に到達する、というところでスピーリに向けて……正確には具象化した花に向けて、声が掛けられる。控えていた蛇君も、見えないように気を使いながらスピーリをその尻尾でぺしぺしと叩いていた。
 現れるのが早い、もう少しでいけたものを……と名残惜しむ気持ちを切り替えて、スピーリが目を開けて身を起こす。
「あなたが花盗人ですか」
 今にも花に触れん、としていた花盗人の指先が揺れる。それは花の切っ先を掠めて、スピーリに震えがくるような痛みを齎した。
「すみません、今のもう一度、ワンモア!」
「お前も猟兵か」
 ワンモア! という言葉を聞かなかったことにして、花盗人が眉間に皺を寄せて距離を取る。
 対するスピーリと言えば、突き刺したナイフを抜き取ってその辺に転がすと、さっきのをもう一度お願いするにはどうすればいいのかを涼しい顔で考えていた。
「ええ、これでも猟兵の端くれです」
「呼んだ覚えはないのだがね」
 その言葉には答えず、スピーリが自身の花に触れて花盗人へ問い掛ける。
「花がお好きで?」
「ああ、美しいだろう? ひとつ知ってしまえば、もっと美しい花が欲しくなる」
「ええ、美しく麗しいモノを見たい知りたい。そのお気持ちには、そうですね。ええ、とても共感致します」
 スピーリが追い求めるのは美しく麗しいモノというよりは、この世にまだまだあるであろう、体感したことのない苦痛なのだが。
「手段が違えばお手伝いすらしたいところですが――」
 あなたのそれは、人の命を散らすものでしょう?
「花となって、散ることなく咲きほこれるんだ。それは永遠の命のようなものだろう」
「考え方の違いでしょうが」
 スピーリが指先で蛇を呼ぶ。
「ヒトは“生”を喜ぶ時こそ、美しさを生むのでは、と」
 まあ、私は痛みに喜ぶ時ですが! そう微笑みながら、スピーリが大蛇の姿となった黒蛇を花盗人にけしかけた。
「ダイ様、よろしくお願いします」
 シャア、と低く唸った黒蛇が花盗人に絡み付く。予想外の締めあげられる苦しみに、花盗人の骨が軋む。
「……くっ」
 それを眺めながら、いいなぁ、私もあとで締め付けてもらいたい……と呟いた。
 歪みないその呟きは花盗人の耳には届かなかったのだが、花盗人が自由になる指先を虚空へと伸ばす。そうして掴んだ無数の花を辺りへ散らすと、まるで奇術のように黒蛇の戒めから逃げ出した。
「ああ、逃げられてしまいましたか」
 でも、あの締め付け具合からいくと肋骨の一本や二本はいってますよね、とスピーリがアリウムを摘まんで考える。
「私以外の方が入れたダメージも蓄積されているようでしたし」
 逃げ続けることはできないでしょう、と自分の元へ戻ってきた黒蛇の頭を撫でて呟いた。
 アリウム―― 『深い悲しみ』 『正しい主張』

大成功 🔵​🔵​🔵​

灰神楽・綾
【不死蝶】◎
花:オンシジューム

倒れながら考える
俺は今までずっと、血腥い戦場こそが
自分の居場所だと思っていた
血を流し、骨が折れ、どちらの心の臓が先に止まるか
そんな壮絶な戦いの末に死ねるなら本望だと思っていた

今でも死合いが愛おしいことには変わりないけど
それ以上に、縁日に行ったり海で遊んだり料理をしたり
血腥い戦場とは程遠い平穏な日々を
もっと過ごしたいって想うようになっていた
異端と思っていた自分が「普通」を求めるようになった
梓と出会ってからだよ

君と一緒に死ぬのはこわくないけど
それはもうちょっと後にしておこう
もしあの世がこんな場所だとしたら
綺麗なだけであんまり面白くはなさそうだし
さぁ、一緒に生きて帰ろう


乱獅子・梓
【不死蝶2】◎
花:アングレカム

『綾を死なせない』という使命は、いつの日か
『綾と生きたい』という願いに変わっていたことに気付く

演技とはいえ、死の間際に相手を想う心が詳らかになる…
癪だが、影朧の思惑通りになってしまったわけだな
だが、ここからはお前の思い通りにはさせない
この花は、俺の、俺たちのものだからな

焔のブレスでは火の粉が花を傷付けかねないから
零を呼び出しUC発動、咆哮を響かせ影朧の生命力を奪う
この庭園の花々に罪は無いからな

ハハッ、心中ごっこはもう真っ平御免だ
どうせ死ぬなら何十年か後に畳の上で大往生だな
我ながら爺くさいことを言ってしまったと笑いつつ
……ああ、何があっても、お前と生きて帰る



●オンシジュームとアングレカム
 花咲き乱れる庭園で、折り重なるように倒れる男が二人。
 倒れる瞬間、乱獅子・梓(白き焔は誰が為に・f25851)が灰神楽・綾(廃戦場の揚羽・f02235)の身体を引き寄せ、自分が下敷きになるように花びらが敷き詰められた地面へ倒れ込んだので、現在綾は梓の胸の上に頭を預けるような状態で倒れ込んでいた。
 倒れ込んだまま、梓の心臓の音を聞きながら綾が考える。
 俺は今まで、ずっと血腥い戦場こそ自分が在るべき居場所だと思っていたけれど。
 真っ赤な血を流し、骨が折れて、戦う相手か自分の心の臓が先に止まる――そんな壮絶な戦いの末に死ぬことこそが本望だと、ずっと、幼いころからずっと思っていたけれど。
 耳に聞こえてくる心臓の音が、こんなにも愛しく思えるだなんて、思ってもみなかった。
 困ったな、今でも死合いが愛おしいことには変わりないのに。どうしようか、もう少しこの心臓の音を聞きながら考えるのも悪くないなぁ、なんて。自分でも気が付かないまま、綾は穏やかな笑みを浮かべていた。
 下敷きになった梓も、同じようにぼんやりと心中間際に感じたことを考える。
 『綾を死なせない』という自分に課した使命は、こいつと過ごすうちに『綾と生きたい』という願いに変わっていた。
 こんな心中ごっこで気が付くなんて、焼きが回ったもんだと胸の内で溜息を吐く。演技とはいえ、死の間際に相手を想う心がつまびらかになる……癪だが、すっかり影朧の思惑通りだ。
 だからこそ、この庭園の主は死の間際の心を欲しがったのだろうが――。
「白と黄色の蘭……アングレカムとオンシジュームか。可憐な花が咲いたね」
 その思考に割り込むように現れた男の声に、瞬時に意識が引き戻される。そして、現れた花盗人が胸の上に具象化された花を手にしようとした瞬間、綾が動いた。
「悪いけど、その花は渡せないんだよね」
 手にしたままのナイフを花盗人へと向けて振るう。その切っ先は花盗人の手の平を掠め、滴り落ちる血をそのままに花盗人が二人から距離を取る。
「大人しく死んでいてくれないかな、猟兵の君達」
 手の傷に懐から出したハンカチを巻いて、心底不愉快だというように花盗人が言う。
「この花は、俺の、俺たちのものだからな」
 手にしていたナイフを綾へ渡し、梓も花盗人から視線を外さぬようにして起き上がる。
「今まで思い通りに花を手に入れて来たんだろう? だが、ここからはお前の思い通りにはさせない」
 その為に、この庭園へ来たのだから。
「ああ、本当に猟兵という奴らは厄介だ」
「先に厄介な出来事を引き起こそうとしたのは、そっちだと思うんだけど」
 責任転嫁も甚だしいね、と綾が両手にナイフを構えて言う。そして、花盗人を逃がさぬように刃を閃かせた。
「焔じゃ火の粉で花を傷付けかねないな……零!」
 喚ばれた氷竜の零が、ひと声鳴いて応えるように翼をはためかせる。
「歌え、氷晶の歌姫よ」
 零がその頤を開き、咆えた。
 その咆哮神秘的な音階を庭園へと響かせ、眠りの世界へ誘うもの。ぐらりと傾きかけた花盗人の身体へ、綾がナイフを突き立てるべく踏み込む。
「仕方ない」
 虚空へと指先を向け、即座に花盗人が艶やかな薔薇の花束を引き出す。その半分が見る間に萎れ、花盗人が綾のナイフに抵抗するように腕を払った。
 滴る血と、跳ね飛ばされた右手のナイフ。すぐに綾が左手に持っていたナイフを右手に持ち替え、逃がさないとばかりに投擲し――。
「紅く彩られながら、おやすみ」
 投げ付けたナイフを紅く光る蝶の形をした花びらに変える。それは舞い散る花弁の如く、蝶の如く、花盗人へ襲い掛かった。
「……くッ」
 低い呻き声を漏らし、花盗人が薔薇の花束を掲げる。花弁が蝶の花弁を防ぐように散り、花盗人の姿を隠すように舞い上がった。
 僅かな、瞬きひとつの間の目眩まし。
 花弁が全て舞い落ちた時には、花盗人の姿は消えていた。
「逃げられたか?」
「だねぇ、斬った手応えはあったんだけどな」
 ナイフを仕舞って、綾がくるりと梓に向き直る。
「俺ね、やっぱり殺し合いが好きだよ」
「……知ってる」
 何を今更、と梓が言うと、綾が笑う。
「でもさ、それ以上に縁日に行ったり海で遊んだり、料理をしたり」
 梓は黙って、綾の話に耳を傾けている。
「血腥い戦場とは程遠い、平穏な日々をもっと過ごしたいって想うようになっていた」
 ずっと自分は血を求める異端だと思っていたのに、普通を求めるようになって。
「これ、全部梓と出会ってからだよ」
「綾」
 困ったよね、と綾が口元を歪めて、それから梓の心臓に指先を置く。
「君と一緒に死ぬのはこわくないけど、それはもうちょっと後にしておこうと思う」
「……告白みたいだな」
「やだなぁ、梓のプロポーズへの答えだよ」
 語尾にハートマークでも付けたように、悪戯っぽく笑って綾が言う。
「タチが悪い……!」
 はー、と深く息を吐いて、梓も笑う。
「心中こっごはもう真っ平御免だ」
「うん、もしあの世がこんな場所だとしたら、綺麗なだけであんまり面白くはなさそうだし」
「どうせ死ぬなら何十年か後に畳の上で大往生だな」
 爺くさいことを言ったな、と思ったけれど綾が笑っているから、まあいいか。
「それじゃあさ、一緒に生きて帰ろうか」
「……ああ」
 そうだな、これから何があっても、お前と生きて帰るとしようか。
 ――オンシジューム 『一緒に踊って』
 ――アングレカム 『いつまでもあなたと一緒』

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

茜崎・トヲル
雲珠ちゃんの花はなーにかなー(f22865)

おれへの花、これ? わーかわいい。ありがとー!(ラフレシアじゃなかった!)(ほっ)
雲珠ちゃんへのはー……なんだろ? さくら色。見たことねえや。

? なあに、花どろぼーさん。でぃもるふぉせか?
へー、かわいい花だなー。
おわー雲珠ちゃんがおいかりだ! あ、口のはしに血のり。ハンカチいる? いい? そお。

じゃまはさせないよ。影朧の人はおれのこころでも見てて。
黄色いマリーゴールド。「健康」だっけ。ぴったり!
ふふは。おれがけがすると作戦が成功しやすくなるんだ。
でも気にしてくれるから見えないように背中むけとこ。
ヌシサマ?が帰るまでには直すよ。においは気のせいだよ!


雨野・雲珠
茜崎さんと/f18631

蒲公英がお好きだそうですが、菊も似合うと思うんです。
白くて大きい…――あ。
馬酔木だ…
かわいいけど、どうしてこの花なんでしょう…

あ、この花の形見たことあります。
その覚えられない名前も!
…って、あなたはどなたですか。
血糊ぺぺぺぺってしながら立ち上がります 

ひとのものを盗むことはいけないことです
あげませんし!
触らないでください、不愉快です俺は(ぷんすこ)
(ハンカチは遠慮)(汚れてしまう)

他人の心を摘み愛でたところで所詮は他人。
ご自身の心を味わい愛でるため、
転生して新しい旅に出てはいかがでしょう?
(※神鹿召喚の設問)
――ぬしさま、花盗人です!

……
…血の匂いがするような…(じっ)



●ディモルフォセカと馬酔木
 桜の樹の下、幹に背凭れた男が一人と、その膝に寝転がる少年が一人。
 唇から血を垂らし、転がるのは小さな硝子瓶。さては毒で死んだかと、桜舞い散る中にふうわりと現れた花盗人が笑んだ。
「君たちはどんな花を僕に見せてくれるんだい?」
 歌うように花盗人が問い掛けると、茜崎・トヲル(塔・f18631)と雨野・雲珠(慚愧・f22865)の心が具象化していく。
 まだもう少し、影朧の油断を誘う為に身動ぎせず目を閉じたままだけれど、どんな花が咲くのだろうかと雲珠は考える。
 茜崎さんは蒲公英がお好きだそうですが、菊も似合うと思うんです。ああ、でも俺はこの間図鑑で見たすっごい花が気になります……全然関係ないのに今思い出してしまったから、それが咲いてしまったらどうしましょうか……もしそれだったらごめんなさい、と心の中で謝って、雲珠が薄く目を開けて確認しようかと思った時だった。
「ねえ、あんただれ?」
 トヲルがぱちりと目を開いて、具象化した花に手を伸ばそうとした花盗人の手を掴んだのだ。
「へえ、これがおれの花? なんだろ? さくら色の……でもさくらじゃなくって、見たことねえや」
 雲珠への花は何になるのだろうかと、楽しみにしていたのだけれど。名前がわからないと、トヲルが首を傾げる。
「ディモルフォルセカ、と言うんですよ」
 猟兵の君、と忌々し気に呟いて、花盗人がトヲルの手を振り払う。その隙に、雲珠もトヲルの膝から起き上がって影朧に向かって体勢を整えた。
「? なぁに、花どろぼーさん。ええと……」
「ディモルフォルセカ」
「ああそう、それ、でぃもるふぉるせか? かわいい花だなー」
 ねえ、可愛い花が咲いた! と、嬉しそうにトヲルが雲珠に笑う。
「はい、俺もこの花の形を見たことがあります。その、覚えられない名前も! 俺のは……あ、馬酔木だ」
 可愛らしいけれど、どうしてこの花なんだろう? と雲珠は思う。でも、図鑑で見たあの熱帯雨林に咲くという、とても大きな……なんかすごい花じゃなくて良かった、とも。それはラフレシアというのだが、なんとも強烈な匂いを放つ花なので本当に咲かなくて良かったと思うのは帰って図鑑を開いてからのこと。
「あせび? あせびっていうんだ? かわいいね」
 枝の先に白い壺のような花が連なるように咲いていて、可愛らしい。
 変な花じゃなくてよかった、とちょっと嬉しくなって、トヲルがにこにこしながら花盗人を見る。
「でね、見せるのはかまわないんだけど」
 あげるのはできないな、と目を細める。
「そうです、差し上げられませんからね。ところで、あなたはどなたですか」
 ちょっと薄荷の味がする血糊をぺっとしながら、雲珠が影朧を見遣る。影朧であることは分かっているが、名を、と言っているのだ。
「花盗人、と呼んでくれるかな」
 それから、できたら大人しく花を渡してくれと、馬酔木に手を伸ばす。
「ひとの物を盗むのはいけないことです。それから、もう一度言いますが」
 あげませんし! そう言って、馬酔木の花を懐に隠す。
「触らないでください、不愉快です俺は」
 誰かの為の心を花の形にするのまでは、百歩譲って良しとしても。それを勝手に盗もうだなどと、なんて失礼な影朧なのかと雲珠が心底不機嫌だと眉間に皺を寄せる。
「おわー、雲珠ちゃんがおいかりだ!」
 初めてみたかも、と言いながら、トヲルが雲珠の口の端にまだ血糊が残っているのを見つけ、ハンカチを差し出す。
「雲珠ちゃん、くちのとこにまだ赤いのついてる」
「あ、ありがとうございます。ですが大丈夫です」
 綺麗なハンカチを落とし難い血糊で汚してしまうのは、なんだかとても勿体なく思えて雲珠が遠慮すると、そう? と、トヲルがハンカチを引っ込める。それから、雲珠にどうする? と問うた。
 雲珠は桜の子ゆえ、影朧を転生させるのは自分のお役目だという信念を持っている。それを尊重してくれているのだろう。
「お聞きしますが、転生なさる気は?」
「あると思うかい?」
 ああ、エンジョイ勢だと雲珠は思う。何回も影朧に接しているとなんとなく分かってくることだが、転生を望む者とそうでない者、影朧としての自分の行いを楽しんだ上で転生する気がない者がいる。今回の影朧は、影朧としての仮初の生を楽しんでいる方か、と雲珠が短く息を吐いた。
 それでも、転生を促すのは、そうあればいいと願うからで。
「他人の心を摘み愛でたところで所詮は他人。ご自身の心を味わい愛でるため、転生して新しい旅に出てはいかがでしょう?」
「ふふ、面白いことをいう子だ」
 でも、遠慮しておこうかと花盗人が嗤う。
 真を問うた、だがその答えは雲珠が納得するところではない。
「――ぬしさま、花盗人です!」
 雲珠の背負った箱宮が淡く光る。その光は強くなって、角に花咲く神鹿が絢爛たる蹄を鳴らす。その蹄は花盗人を追い立て、踏み潰さんと迫る。
「随分と乱暴な……っ」
 ならばその心の花、奪ってやろうと花盗人が指先を雲珠へと向けた。
「だーめ、じゃまはさせないよ」
 影朧の人はおれのこころでも見てて。
 雲珠を庇うように立ったトヲルの胸に、花盗人の指先が触れる。現れたるは黄色いマリーゴールド、花言葉は――。
「健康? だっけ、おれにぴったり!」
 あは、と笑ったトヲルが、その花を奪われないように立ち回りつつ、蹄を誘導する。そしてそれは成功する、トヲルが文字通り身を削っているからだ。
 おれがけがすると作戦が成功しやすくなるんだと、雲珠には見えぬように薄っすら笑う。
「さあ、ヌシサマ? やっちゃってー!」
 その声に応えたのかどうか。はたまた、トヲルが身を削ったからか。蹄が花盗人を捉え、踏み潰す!
「やった?」
「どうでしょう……手応えは、あったような」
 主様の姿が淡く光る、箱宮へ戻るのだ。
「ところで茜崎さん」
「なあに?」
「……血の匂いがするような」
 じっと見つめられる視線を感じたけれど、トヲルは背を向けたまま答える。
「影朧の人のじゃない? それか気のせいだよ!」
 雲珠の主様が帰るまでには治るから、気のせいで間違いないとトヲルが笑う。
「さて……あ! 逃げましたね」
「え、にげちゃった?」
 残ったのは主様の蹄の跡だけで、影朧の姿はなかった。
「でも、けっこうぼろぼろだったよ」
「はい、時間の問題かと思いますが」
 恐らく、自分達の元へ来るまでにも戦闘を行っていたはずだ。
 そして、この後も花を求めるのならば――。
「そっかー、じゃあ帰ろっか」
「……そうですね」
 帰りましょう、と雲珠が小さく笑うと、トヲルも嬉しそうに笑うのだった。
 ディモルフォセカ―― 『誠実』 『幸福』 『すこやかな人』 『明るい希望』
 馬酔木―― 『犠牲』 『献身』

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

花菱・真紀
幸也さん(f13277)と

咲いた花:エゾギク

ん、…びしょ濡れになっちゃいましたね。でも影朧はちゃんと呼べたみたいです。
あ、花、咲いてるこれが俺の…。
…風邪ひいたら困るからさっさと倒して帰りましょう。幸也さんはお仕事もありますし。

UC【都市伝説の過剰摂取】
これは、俺の花だからお前にはあげないよ。

花を取ろうと近づいて来たところを自動拳銃で【零距離射撃】

…えーと俺の花は、と。
はい!これ、幸也さんにあげますね。
幸也さんへの気持ちらしいですから幸也さんに渡すのが一番かなって。要らなかったら捨ててください。
あ、幸也さんってずっといってるけどそれも嫌なら…でも俺はもっとそう呼びたいかな。

!もちろんです!


十朱・幸也
真紀(f06119)と、◎
咲いた花は風鈴草(カンパニュラ)

飛び込んだ後の事
完全にノープランだったな、そういや……
って、俺にも花が咲いてんな
……あー、現実に戻りたくねぇけどやるか
(サラリーマンの仕事を思い出して、少し遠い目)

偶には張り切りますか、ってな
自分の親指を噛み切って、UC:血宴を発動
真紀に近付こうとするのを【なぎ払う】様にして、妨害
お前にくれてやれんのは、血の花くらいだっての
上手い事、撃退出来りゃ幸い

真紀、何やって……俺に?
差し出された心花には思わず、目を丸くして
んじゃ、こっちの花も貰ってくれるか?
捨てる訳ねぇし、名前も好きな様に呼べっての

俺も、真紀って呼ばせてもらうけど……良いか?



●エゾギクとカンパニュラ
 二人で心中デヱトと洒落込んで、水連の浮かぶ池に飛び込んで。
 さてこの後どうする? と花菱・真紀(都市伝説蒐集家・f06119)と十朱・幸也(鏡映し・f13277)が水の中で目を合わす。適当なハンドサインで池の縁を示し、取り敢えず死んだ振りして上半身だけ上がろう、というところで纏まった。
 水死体を装って、池の縁に二人して倒れ込む。
 完全にノープランだったな……と幸也がぼんやりと考えていると、二人が伸ばした手の先に足音がひとつ。
 ゆっくりと近付いてくるそれに、幸也と真紀が起き上がるタイミングを計る。一歩、二歩、ゆっくりと近付いてくる足音に神経を研ぎ澄ませた。
「やあ、綺麗な花が咲いたじゃないか」
 機嫌の良さそうな、男の声だ。
「エゾギクにカンパニュラ、どちらもこの庭に咲かせるに相応しい」
 摘み取って、僕のものにしてあげよう。そう笑って、花盗人が指を伸ばした。
 今だ、と水中の足を軽く揺らして幸也が合図すると、二人同時に勢いよく池から上がり、自分に咲いた花を掴んで転がるように花盗人から距離を取った。
「……猟兵か」
 花盗人の苦虫を噛み潰したような言葉に、真紀が笑う。
「びしょ濡れになっちゃいましたけど、影朧はちゃんと呼べたみたいです」
「そうみたいだな」
 これで一安心だと幸也が小さく息を吐くと、真紀が手にした花に視線を落とした。
「花、咲いたな」
「あ、そういえばそうでした。花、これが俺の……」
 気持ち、と誰にも聞こえないような大きさで呟いて、真紀が小さく笑う。
「俺のもですけど、幸也さんのも咲いてますよ」
「そういやそうか」
 無意識に掴んだ花は、互いの手の中でその花を揺らしている。
「……風邪ひいたら困るから、さっさと倒して帰りましょう」
「……あー、現実に戻りたくねぇけどやるか」
 いつまでもここに居たいわけでもないし、と幸也が花盗人を見た。
「僕に花を渡してくれたら、現実などに帰らなくて済むと思うのだがね」
「それ、死ぬってことだろ」
 さすがにお断りだぜ、と幸也が言うと花盗人が僅かに嗤って指先を二人に向ける。
「花の命は短いものさ」
「短くさせているのは誰ですかね。これは俺の花だから、お前にはあげないよ」
 花盗人の手に渡らぬよう、後方に花を置いて真紀が静かに力を発動する。それは数多の情報、真実も嘘もごったになって真紀を笑うけれど、確かな力となって宿るもの。
 伸ばされた指を対UDC仕様自動拳銃の先で弾き、心臓を狙って躊躇なく放つ。
「UDC仕様だけど、似たような者なら効くでしょう」
「乱暴だな、君は」
 身を貫いた弾丸に眉根を寄せ、花盗人が距離を取る。そこへ、幸也が仕掛けた。
「偶には張り切りますか、ってな」
 自身の親指に犬歯を突き立て、噛み切る。流れ落ちる血は無数の刃となって、複雑な幾何学模様を描きながら花盗人が真紀へ近付こうとするのを防ぎ、真紀の放つ弾丸に合わせて花盗人へと降り注いだ。
「ああ、本当に猟兵というのは厄介だ……!」
 避け切れない数のそれが自身に全て降り注ぐ前に、花盗人が虚空へと手を伸ばす。そこから現れたのは、幸也の血刃に負けぬ数の、花。
「嗚呼、勿体無い」
 心底惜しいと言うように唇を歪めると、花が散った。
 それと同時に幸也の血刃が花盗人目掛けて地面へと突き刺さり、真紀が自動拳銃の引鉄を引いて弾丸を放つ。
 無数の花弁と、血刃と、弾丸。
 その全てが晴れたそこには、花盗人の姿は無かった。
「逃がしましたか」
「ダメージはそれなり食らわせただろうから、撃退出来たなりゃ上々だ」
 それもそうですね、と自動拳銃を仕舞って真紀がきょろきょろと自分の花を探す。
「真紀、何やってるんだ?」
「……えーと、俺の花は、と」
 幸也の花と寄り添うように在ったそれを真紀が指先で掴むと、幸也へと向き直った。
「はい! これ、幸也さんにあげますね」
「……俺に?」
 差し出された心の花に、思わず幸也の目が丸くなる。
「幸也さんへの気持ちらしいですから幸也さんに渡すのが一番かなって。要らなかったら捨ててください」
「捨てる訳ねぇだろ」
 何言ってんだ、と幸也が笑って、真紀と同じように自分の花を指先で拾う。
「ん」
 そして、同じように自分の心の花を真紀へと差し出した。
「幸也さん、これ」
「俺にその花をくれるなら、こっちの花をお前が貰ってくれるか?」
「……もちろんです!」
 花が綻ぶような笑顔だな、と思いながら幸也も笑う。お互いの花を交換し、口元を緩くして花を眺めていた真紀が何かに気付いたように顔を上げた。
「あ、幸也さんってずっといってるけど、嫌ならいつもの呼び方にするので」
 そこで一度言葉を切って、思い切ったように幸也に言葉を続ける。
「……でも、俺はもっとそう呼びたい、かな」
 ダメですか、と真紀が凛々しい眉をへにょりと下げる。
「ばーか、名前くらい好きな様に呼べっての」
 おかしそうに笑って、じゃあ、と幸也が思い付いたように口を開く。
「俺も、真紀って呼ばせてもらうけど……良いか?」
 今度は真紀が目を丸くして、瞬かせる番だった。
 答えは言うまでもなくて――。
 エゾギク―― 『変化』 『同感』 『信じる恋』
 カンパニュラ―― 『感謝』 『誠実な愛』 『思いを告げる』

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

アパラ・ルッサタイン
【アンモビウム、又はお任せ】

おやおや
意外な花というか
素朴な花が咲いたものだねえ
華美はもっと似合わないとはいえ
彼に向けては可愛い過ぎやしないかい?

意味は何だっけ?
不変のナントカと……

…………あっは、なるほど?
なら、この花はあなたにくれてやる訳にはいかないねえ

この想いはきっと恋だの友情ではない
もしかしたら愛ですらない
ただ
どうしようもなく、絶対なのさ

意思だの感情だの
他人のを摘まんだ位で満足かい
あなたの顔を見ていれば
何れだけ盗られようと沸き上がってくるよ
焼いて差し上げる、って意思がさ

あたしの身体に触れた瞬間
その腕を
捕まえた

ごきげんよう、花泥棒さん
今度はあなたが花咲く番だ
さあ赤い焔の花を魅せておくれよ



●アンモビウム
 炎を纏ったまま、花壇に囲まれた中央で地面へと倒れ込む。炎の勢いはやや弱く、人が燃えているように見えるだろう。
 さあ、早くおいでよ。
 そう薄っすらと笑って、アパラ・ルッサタイン(水灯り・f13386)は花盗人の訪れを待った。
 大した時間は掛からずに、どことなく早足で歩いているような足音が聞こえる。焦っているような、そんな感じがしたのはアパラが炎を纏っているからだろうか。
 花を燃やすと思われたのかねえ? 胸の内で笑って、アパラは大人しく死んだ振り……燃えている振りをした。
「焼身自殺とはまた、苛烈だね」
 他に燃え移ってはいないことに安堵したのか、花盗人がそう呟く。そして、燃えるアパラの近くで浮いている花に手を伸ばしながら、その花の可愛さに笑みを浮かべた。
「随分と可愛らしいアンモビウムだ」
 指先が花に触れるか触れないか、そんな刹那の瞬間にアパラが纏っていた炎を花盗人へと振るって立ち上がる。
「おやおや、本当だねえ」
 意外と言うか、随分と素朴な花が咲いたものだとアパラが笑い、炎を既の所で避けた花盗人へと向き合った。
「華美な花はもっと似合わないとは思うけれど、彼に向けてはちょいと可愛いが過ぎやしないかい?」
 手の中にあるアンモビウムに向けて、アパラがそう囁く。
「お前も猟兵か」
「そうさ、あなたの敵だよ」
 嫣然と微笑んで、アパラがアンモビウムの花言葉を考える。
 確か、不変のナントカと……ううん、思い出せないと呟いて、アパラが花盗人を見る。
「花盗人と言うからにはあなた、花言葉も詳しいのかい? これの花言葉をご存じ?」
「……不変の誓い、永遠の悲しみ」
 溜息混じりながらも答えてくれた花盗人に、まさか答えてくれるとはね、とアパラがぱちりと瞬く。
 そして、その花言葉にも――。
「……あっは、なるほど?」
 そうかそうか、なるほどねえとアパラが笑って花盗人に礼を言いながら花を懐へと仕舞う。
「なら、この花はあなたにくれてやる訳にはいかないねえ」
「礼の代わりに渡してくれてもいいのだがね」
 それとこれとは別物さ、とアパラが自身のファイアオパールを瞬かせた。
 胸元の花に触れ、この想いはきっと恋だの友情ではなく、もしかしたら愛ですらないのだと笑う。
 ただ、それでも、どうしようもなく。
 絶対で、アパラをアパラたらしめんとする、深い想いだ。
「ねえ、あなた。意思だの感情だの、他人の物を摘まんだ位で満足かい」
「人の想いこそ、美しい花として残るべきだろう? 僕はその美しさだけでいいのだから」
 花盗人が嗤う、ああ、ファイアオパールが瞬いている。
 どれだけ盗られたとしても、尽きることなく湧き上がってくるだろうね、と思いながらアパラが花盗人の手を潜り抜ける。
 焼いて差し上げる、その強い意志が。
 花泥棒の手がアパラに触れる。心が花へと変わろうとしていく。花盗人が己の勝利を確信して笑おうとした瞬間、アパラがその腕を掴まえた。
「ごきげんよう、花泥棒さん。今度はあなたが花咲く番だ」
 アパラの指先から炎が溢れ出す。その炎は花盗人の腕を伝い、煌々と燃え移るように花盗人にダメージを与えていく。
「さあ、赤い焔の花を魅せておくれよ」
 轟、と燃え盛る焔を振り払うように、花盗人がアパラから距離を取って虚空を撫でた。
「物騒なお嬢さんだ」
 燃える炎を花びらで消して、そのまま男もふわりと消えた。
「あらまあ、良い逃げっぷりだねえ」
 花にしか、興味が無いのだね、と呟いて。
 アパラがランプの灯を落とすように、そっと焔を消した。
 アンモビウム―― 『不変の誓い』 『永遠の悲しみ』

成功 🔵​🔵​🔴​

兎乃・零時

心結(f04636)と

声が聞こえた
…お前、が…っ

咲いた花はナナカマド
今宵芽生え咲いた花

…もう

ボロボロの体で無理やり立ち
帽子を彼女の頭覆う様に被せ

…泣かせねぇ

先祖返り
故郷で調整した結晶薬を打ち込む
もつ限界値は14分間

…これ、以上っ!

UC発動
宝石側の真の姿へ
藍玉の杖を「拳」と「脚」の機械外装へ無意識武器改造
人らしさが抜け落ちた状態
静かな怒りだけが其処に在る

屍積み上げ
望んだもんは見れたかよ
貴様に収穫の機会は無い

此処で砕く

攻撃が成立するまで何度でも

脚で【踏みつけ×怪力×重量攻撃】
触れた空気を結晶変え【範囲攻撃×串刺し】や【空中浮遊】
魔術無し
全て種族特有物理技

歌は届く

無駄だ
徹底的に
全て
砕く
そう決めた


音海・心結
零時(f00283)と

ぽろぽろ
儚い命が削られても
零れ落ちる涙は終わりを知らない
なんで、あんなことを……

咲き乱れるは『黄色の水仙』
綴る想いは『私のもとへ帰って来て』

頭上から降るは彼の声と帽子
涙で滲んで姿が霞む

こんな終わり方はや
零時が頑張るのなら、みゆも頑張る

UC発動
震える足で立ち上がり
震える声で音を紡ぐ

彼の姿が変わろうとも怖いことはない
心はいつだって零時のまま
思い切りやってよいのですよ
みゆがサポートしますって

秘めたる想いを音に乗せ
切なくも淡い歌を奏でる
零時の耳に届いてるでしょうか?
不安は在れど絆は尽きない

満足したでしょう?
さぞ滑稽だったでしょう?
……散ってください
もう、終わりにしましょう



●ナナカマドと黄水仙
 寄り添い、抱き締めあったまま動かぬ満身創痍の少年と少女が二人。
 顔は伏せられていて表情はわからなかったけれど、兎乃・零時(其は断崖を駆けあがるもの・f00283)には音海・心結(瞳に移るは・f04636)が泣いていることだけはわかっていた。
 撫でて、泣くなと言ってやりたいけれど、影朧が現れるまでは死んだ振りを続けなくてはいけない。心結も身動きしないまま、自分はどうしてあんなことを……と悔いるように静かに涙を零していた。
 この庭園の空気に当てられてしまったのかもしれない。感受性が強く、けれどその心を守る術は未だ未熟。
 強くなりたい、誰も泣かせないように。
 強くなりたい、こんな終わり方をしない為に。
 抱き締め合う二人の想いは、奇しくも同じであった。
「ふふ、可愛らしいことだね」
 知らない男の声が庭園に小さく響く。何処から現れたのかもわからないほど、男の出現は突然だった。
「ナナカマドに黄水仙、どちらも綺麗に咲いている。この庭園の彩りになるだろう」
 膝を突き、抱き合う零時と心結の真上にふわりと浮いた一枝と一輪に、花盗人がゆっくりと手を伸ばす。
「そいつは、やれねぇ……っ」
 触れさせちゃ駄目だ、咄嗟にそう感じた零時が花盗人の手を遮るように立ち上がる。身体はボロボロで、今にも倒れてしまいそうなのに、気力だけを振り絞って。
「……猟兵か」
 今にも死にそうな零時と涙を零す心結を見て、花盗人がふっと笑う。これなら敵ではないと思ったのだろうか。それが間違いだとは、すぐに知れるのだけど。
「そうだ!」
 花盗人を睨んで、息を整える。
「もう、泣かせねぇ」
 零時が帽子を取って、泣いた彼女を見せないように心結の頭へと被せる。その優しい温もりと、頭上から聞こえる彼の声に心結の瞳にまだ涙が溢れる。咄嗟に顔を上げれば、自分を庇うように立っている零時の後ろ姿が見えた。
 あんなに傷付いているのに。
 みゆがやったのに。それでも、みゆを庇ってくれるの、守ろうとしてくれるの。
 涙で滲んで、零時の姿が霞む。
「……これ、以上!」
 泣かすものか。
 零時が自分の腕に調整を施した結晶薬を打ち込む。
 その為なら、何にだってなってやる。
「零時……っ」
 だからそんな顔で、泣かないで。
 閃光、その眩しさに目を伏せる。瞬きの中で、零時がその姿を人のものから宝石側の真の姿へと変えた。
 藍玉の杖を拳と脚の機械外装へと形状を変化させ、花盗人と相対する。その表情は、いつものくるくると変化を見せる零時の表情ではなく、静かな怒りだけが満ちていた。
「屍を積み上げてまで望んだもんは見れたかよ」
「花なら、それはもう。けれど、まだ見た事の無い美しさを持った花が人の中にはあるだろうね」
 だから、満足はしていないし、君の言う望んだものは見れていないね、と花盗人が嗤う。
「そうかよ、だがな」
 貴様にこれ以上の収穫の機会は無い、そう言って零時が拳を握る。
「俺が、此処で砕く」
 誰の涙も流さない為に!
 花盗人へ向けて、零時が拳を振るう。避けられても、避けられても、何度も、何度も軌道を修正しながら。
「零時……」
 みゆは何をしているの? 此処で、零時が頑張っているのに何もしないで泣いているだけなの?
「そんな、そんなのはいや」
 そんな終わり方はいやだと、心結が震える足で立ち上がる。
「零時が」
 拳を、脚を振るって戦う零時の小さくも大きな背中。
「零時が頑張るのなら、みゆだって――」
 頑張る、頑張れる!
 どんなに姿が変わったって、零時の心はいつだって零時のままだった。怖いことなんて、なんにもないの。
 だから、思い切りやってもよいの、零時、みゆが、みゆが。
「みゆがサポートします!」
 たった一人のあなたに届けと、震える声で心結が歌を紡ぐ。秘めた想いを音に乗せて、切なくも淡く、甘い歌を奏でた。
 零時の耳に、心に、みゆの想いは届いてるでしょうか? 不安はあるけれど、心結は零時との絆を信じている、あなたを信じている。
 そうして絶え間なく続いていた零時の攻撃に変化が現れる、触れた空気を結晶にして零時が花盗人へ飛ばしたのだ。
 心結の歌は確かに零時に届いている、その心を鼓舞している。
 それだけで、もう心結には充分だった。
「もう、満足したでしょう? さぞ滑稽だったでしょう? ……あなた、もう散ってください」
 終わりにしましょう、と心結が歌う。
「は、これだから猟兵は厄介なんだ……!」
 花盗人が避け切れなくなった結晶の攻撃を受けて呻き、虚空へと手を伸ばす。
「無駄だ、徹底的に」
 全てを砕く。零時が動きの鈍くなった花盗人を眼前にし、拳を突き付ける。
「これで終わりだ」
 拳の先が花盗人に触れるか触れないかのその瞬間、花盗人が虚空より数多の花を喚び出して辺り一面にばら撒いた。
 零時の拳の軌道が逸れ、体勢を整えた時には。
「逃げたか」
 花盗人の姿は、そこには無かった。
 姿を変えていた藍玉の杖が元の姿に戻り、零時の手へと戻る。零時の姿も徐々に宝石から人へと戻って、完全に人の姿に戻ると、零時がその場に崩れ落ちるように座り込んだ。
「れ、零時!」
 駆け寄って、縋りつくように抱き着いた心結の背を零時が撫でる。
「逃がしちまったな」
 ぽろり、と涙が零れる。
「でも、でも、零時の勝ちです」
 そう言って、心結が被ったままだった帽子を零時へと被せた。
 そうして、二人で泣き笑いのような表情を浮かべ、涙が止まるまで暫くそのままで――。
 ナナカマド―― 『私はあなたを見守る』
 黄水仙―― 『私の元へ帰ってきて』

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

有澤・頼
テオドア(f14908 )と一緒に。

(花は希望の花言葉を意味するガーベラ)
「この花はお前には触れさせないよ!」
ガーベラの花言葉って確か…

敵の攻撃には「見切り」や「残像」で避けるよ。
なんだか、見た目が普通の人だから調子狂うけど。きっちりとお灸をすえさせてもらうか。「咎力封じ」を使用してユーベルコードを封じさせようかな。

「私はお前に感謝しているよ。だってもう一度彼に会えたから」
もう会えない筈の彼とまた会えたのだから。
だけどね、人の花を勝手に取るのは良くないよ。だってこれはその人の心そのものだから。私の心は私のものだから他人が気安く取っていいものじゃないからね。


テオドア・サリヴァン
有澤頼(f02198)と一緒に

(花は固い絆の花言葉を意味するアサガオ)
「悪いがそれを渡すことはできない」
頼も起きているようだな。どうやら上手くいったようだ。

頼はお灸をすえてやると意気込んでいるようだが、それは俺も同意だな。
敵の攻撃には「残像」で避けるぞ。頼はユーベルコードで敵を縛り上げているな。
彼女に話して口枷だけ外すよう指示する。理由はこいつの口からなぜ、花を盗むのか問いただすためだ。勝手に人の心そのものである花を盗むのは言語道断だからな。きつく説教でもしようか。

「お前のおかげであいつに会えた。それだけは感謝している」
束の間だが、あの頃に戻れたからな。



●ガーベラと朝顔
 桜の樹の下、降りしきる花びらの感触で二人はふっと意識を取り戻す。東雲、そう思ったけれど、もう彼の気配も何もかもがなかった。
 夢だったのだろうか、この現と夢の境目のような場所での、ひと時だけの。寄り添うように倒れる有澤・頼(面影を探す者・f02198)の目尻には涙の名残が光っていたけれど、死んだ振りをしている今は拭うことが出来ない。
 早く影朧が現れたらいい、そうしたら拭ってやれるのに、とテオドア・サリヴァン(ダンピールの妖剣士・f14908)が思った時だった。
 桜の花びらを踏み歩く足音が聞こえたのは。
「やあ、白いガーベラに朝顔だね」
 知らない男の声だ、東雲ではない。恐らく、件の影朧なのだろうとテオドアが薄っすらと目を開けて頼を見る。すると、彼女も自分のことを薄目で見ていたのだろう、視線が合った。
 視線だけで軽く合図をすれば、頼が目を閉じる。そして花盗人が二人の花に触れようとした瞬間、頼が素早くテオドアの腕の中から跳ね起きて、手にした剣で花盗人を斬り付けた。
「この花は、お前には触れさせないよ!」
「ッ!」
 その動きに、花盗人が花に触れようとした指先を引き、後方へ飛び去る。着物が切れたと花盗人が溜息混じりに起き上がった二人を見た。
「また招かれざるお客人ですか」
「招待状は持っているがな」
 テオドアがそう言うと、花盗人が力なく首を横に振り、しっかりと目を開いて二人を見据えた。
「大人しく花を渡してくださる気はない、と?」
「悪いが、それを渡すことはできない」
 テオドアが静かに刀を抜いて、花盗人へ向ける。
「交渉は決裂だよ!」
 頼が叫び、テオドアが動くのと同時に剣を振るう。桜舞い散る中、二人の息の合った剣舞のような動きを花盗人がひらりと避けた。
「これじゃ埒が明かない!」
 紙一重というような間合いで避ける花盗人を捉える為、頼が手枷と猿轡、そして拘束ロープを取り出して花盗人へと放つ。全て当たれば相手の力を封じることができる、頼の強力な力だ。
 手枷が嵌まり、頼があと二つと意気込むが猿轡が外れ拘束ロープは花盗人を捉えたかと思えば桜の樹へと当たってしまう。手錠の嵌まった手を前にして、困りましたね、と困ってもいなさそうな顔で花盗人が笑うと、両手ごと頼へと手を伸ばした。
「頼!」
 咄嗟にテオドアが頼の腕を引き、自分の方へと引き寄せる。
「花は渡さないって言ったよ!」
「気は変わりませんか」
「懲りない影朧だな」
 何よりも花に固執する影朧に、頼がお灸を据えてやらなくちゃと再び剣を手にする。頼の気持ちに同意するように、テオドアもまた花盗人へ攻撃の手を緩めることなく距離を詰めた。
「お前は何故、花を盗むんだ」
「それが何よりも美しいと思うからだよ」
「だからといって、人の心を……命を奪うような真似が許されると思っているのか?」
 テオドアの問いに、花盗人が嗤う。
「誰が誰の許しを得るんだい?」
 そんな必要などないのだと、花盗人が二人と距離を取った。
「……癪だけど、私はお前に感謝しているよ。だってもう一度彼に会えたから」
 もう二度と会うことが出来ないと思っていたはずの彼と、幻だとしてももう一度会えたのだから。
「ああ、そうだな。お前のおかげであいつに会えた。それだけは感謝している」
 束の間ではあったけれど、確かにあの頃に、三人だったあの頃に戻れたのだから。
「だけどね、それとこれは別だよ。人の花を勝手に取るのは良くないし、そもそも花って言ってるけど、これは人の心そのもの、命そのものだよね?」
「だからこそ、何よりも美しく輝くんだよ? お嬢さん」
「私の心は私の物だから、他人が気安く触れていいものじゃないよ」
 だから、私はお前を許さない、許すことは出来ない。
 そう呟いて、頼がテオドアと共に剣を手に花盗人へと迫った。
 相容れない主張だ、ならばこの場で倒さなくてはならない。そうして、確かに花盗人の身体を二人の剣が捉えたと思った瞬間。
 まるで花が散るように、花盗人は二人の目の前から掻き消えた。
 残されたのは、花盗人の手首に嵌まっていたはずの手錠のみ。
「逃げられたか」
「あともう少しだったのに……!」
 逃がしたとはいえ、手応えが無かったわけではない。あの手傷であればいずれ……テオドアがそう思考していると、頼の声が響いた。
「テオ、見て! 白いガーベラだったよ、私の花」
「ああ、俺のは……アサガオだったな」
 二人、己の心が具象化されたという花を手に、それを見つめる。
「ガーベラの花言葉って、確か……」
「アサガオは知っているか?」
「ううん、どうだったっけ。帰ったら、二人で調べようよ」
 東雲の為に咲いた花を――。
 白のガーベラ―― 『希望』
 朝顔―― 『固い絆』

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

迎・青
(アドリブ歓迎です)
浮かび上がる花は紫色。名前はわからない(=種類お任せします)

毒の味や「死ぬ」感覚と、罪悪感が蘇り
現れた影朧がコワくて
一瞬、花を差し出してしまいそうになる

ボクは、おねーちゃんとの思い出がなくて
「会いたい」って気持ちしかない
だから、それをあげちゃったら…ボクとおねーちゃんの間には、なんにもなくなっちゃう
もってっちゃだめぇ!だよぅ!あうあう!

【B.B.B.】使用、花を守って飛び回る。取られてしまったなら追いかけ取り戻す
相手の隙を突き、光の【属性攻撃】【全力魔法】を叩き込む

あのひとがもってるあの花もきっと、だれかの大事な気持ちなんだ
コワいやツライにつかうのは、ダメだよぅ…!



●アネモネ
 小さな庭の中、色とりどりの花に囲まれて迎・青(アオイトリ・f01507)が目を覚ます。
 重い瞼はまだ動かないけれど、意識だけは少しずつはっきりとしてきて、青がぼんやりと考える。
 ボク、どうしてこんなところに倒れているんだっけ……?
 どうしてひとりなんだろう、どうして、どうして……朧気な意識の中で頑張って考えていると、口の中に甦ったのは苦くて不味い毒薬の味。それから、唐突にフラッシュバックする『死ぬ』という感覚。
 ヤドリガミである青は本体である器物が破損しない限り、死ぬことは無い。けれど、痛みはあるし苦しいという感覚だってある。
 そうだ、ボク、死んだ振りをする為に毒を飲んだんだ。
 花を狙ってやってくる、影朧が来るから――。
 そこまで考えた時、目を閉じたままの青の近くで砂利を踏むような音が聞こえた。誰か、なんて考えなくったってわかる、影朧だ。
「これは綺麗な紫色のアネモネだ」
 アネモネ、それがボクの咲かせた花? どうしよう、これを奪われてしまったら大変なことになるんだっけ、死んじゃうんだっけ。
 青が一生懸命考える。
 もしも、もしもだけれど。
 この花を渡してしまったら、おねーちゃんの所へいけるのかな?
 影朧は怖いし、おねーちゃんには会いたい。だったら、だったら咲いている花をこのまま抵抗しないで渡してしまえば――。
 けれど、それはダメだと青の本能が告げている。
 コワくて、コワくて、コワいけれど。
「それでは貰い受けるとしようか」
 でも――!
「もってっちゃだめぇ! だよぅ! あうあう!」
 閉じていた目を開いて、青が目の前にある花を守るように両手に握って、花盗人から距離を取る。
「おや、君も猟兵か」
 猟兵に年齢や種族は関係ないのだろうが、それでも非力な少年に見える彼まで猟兵とはね、と花盗人が困ったように笑う。
 けれど、その笑みはコワいものだと青は直感的に感じ取る。
「坊や、僕にその花を渡しておくれ」
 ほら、悪い人の目をしてる。
「だめ、だよぅ……! ボクは、おねーちゃんとの思い出が無くて! 会いたいって気持ちしかないから」
 泣いてしまいそうだ、と青がぎゅっと目を瞑る。でも、負けることはできない。
「これをあげちゃったら……ボクとおねーちゃんの間には、なんにもなくなっちゃう!」
 何もないおねーちゃんとの、初めて形になったもの。
 だから、ボクは勇気を振り絞るんだ!
「あうあう、コワくない……コワくなんか、ない!」
 青と花盗人の間に、風が吹く。それは次第に青い輝きを放って、青の全身を包み込んだ。
 ああ、きらきらだ。
 きらきらが、戻ってきたんだ。
 青がふわりと浮き上がり、花を守るように飛び回る。そしてその速さを活かし、光の魔法を花盗人へと叩き込んだ。
「子どもだからといって、油断はできないな……!」
 虚空に向けて指先を動かせば、花盗人の元へ幾つかの花が舞う。
 あれもきっと、誰かの大事な気持ちなんだ、と青が思う。
「ダメだよぅ、大事な気持ちをコワいやツラいにつかうのは、ダメだよぅ……!」
 花が枯れる、枯れていく。その力を以てして、花盗人が青に攻撃を仕掛ける。
 コワくても、ツラくても、ボクは逃げない。
 その気持ちだけを胸に、青は花盗人へありったけの魔力を放った。
 辺りを光が蔽い、思わず目を閉じて動きを止める。恐る恐る開いてみれば、もうそこには花盗人の姿はなかった。
「あうあう……ボク、守れたのかな?」
 大事な花、紫色の可愛い花。
「あの人、アネモネって言ってたっけ」
 これが、おねーちゃんへのボクの気持ち。
 どうしてか嬉しくなって、青は悲しくもないのにアネモネの花弁へ涙を一粒、ぽとりと落として――。
 アネモネ―― 『あなたに会いたい』 『信じて待つ』

大成功 🔵​🔵​🔵​

宵鍔・千鶴
千織(f02428)と

彼女が振るう刃と呼応するように
燿夜は花盗人へ
花を護るように突きつける
咲くは黄色に揺れるヒヤシンス

千織と一緒に居ると、心が温かくて、しあわせだから
きみが咲かせた花の想いも俺は大切にしたい

お前に摘んで良い花など無いよ
其処に咲く心の花は誰にも奪うことなど赦されない
彼女が纏わせた糸桜のオーラの中で
己の刃からも花びらを零す
花盗人の手から
逃れるように見切り
花を隠すならば、花を、
お前に与えてやろう、覚悟の証を

彼女の碧き耳飾りに
そう、と触れて
噫、やっぱり
こうしてきみの傍で
きみの体温を感じながら
もっと想い出を作るまでは
勿体なくて
心中は出来ないね、って
あえかに微笑むんだ


橙樹・千織
千鶴(f00683)さんと

その花に触るな
花に手を伸ばす花盗人へ間髪入れずに刃を振るう
彼を想い、咲んだ花はトリテレイア
そう、彼は大切で守りたい人…
心の何処かで未だ気付かぬ淡い想いが揺れる

奪わせない、触らせない
お前にこの花を渡すものか
咲いた二つの花を結界で囲い遠ざけて
金が過ぎる橙の瞳で睨め付ける

花も、彼も傷つけることは許さない
破魔を込めた糸桜のオーラで各々を覆い態勢を整える
武器受けで攻撃を受け流し、マヒを誘発するなぎ払いを

…?どうしました?
手を伸ばしてくる彼にきょとりと首を傾げ
告げられる言の葉に頬が薄紅に染まる
……そう、ね
私ももっと貴方との想い出が欲しい
愛おしいその温もりは手放せそうにないもの、て



●ヒヤシンスとトリテレイア
 花筏の流れに任せ、二人流れ付いた岸辺で手を取り合ったまま倒れ込む。濡れた浴衣に桜の花びらが幾つも付いて、まるでそういう柄のようにも見えた。
 さて、どのくらい死んだ振りを続けていればいいのか……と、宵鍔・千鶴(nyx・f00683)が繋いだ手の先の温もりを感じながら考えていた時だった。
「桜の中で心中か、綺麗な花が咲きそうだ」
 聞き覚えの無い男の声、そして水音が響いた。
 ぴくりと動きそうになる手を必死に堪え、橙樹・千織(藍櫻を舞唄う面影草・f02428)が影朧の油断する瞬間を待つ。
「ああ……綺麗な黄色いヒヤシンスとトリテレイアだね」
 倒れた二人の胸の上にふわりと浮かぶ、美しい花が二輪。
 これは良い収穫となりそうだ、と微笑んで花盗人がゆっくりと指先を伸ばした。
「その花に触るな」
 花に指先が触れるか否かの瞬間、千織が黒鉄の刃を振るう。その煌きに呼応するように、千鶴が血染め桜の打刀を花盗人へ突き付けた。
「はあ、貴方たちも猟兵ですか」
 パシャン、と水音を鳴らして花盗人が刃の切っ先を避けるように後ろへと下がる。
「大人しく花を渡す気は――」
「奪わせないし、触らせない」
 寄り添うように咲いた二つの花を、千織が結界で囲い戦いの場からほんの少し遠ざけ、金色を煮詰めて橙にしたような鋭い瞳で睨め付けた。
「お前に摘んで良い花など、ひとつたりとて無いよ」
 花と花盗人の間に立つようにして、千鶴が言う。
「……無いようですね」
 知っていましたが、と花盗人が嗤って千織に向かって距離を詰めた。
 突き出された手に、触れてはならない。
 瞬間的にそう判断し、千織が藍焔華でその手を弾く。それから、破魔の力を込めたオーラで自身や千鶴を覆って崩し掛けた体勢を整える。
 千織が張ったオーラの紗幕は糸桜のように美しく、まるで桜の化身のよう。桜纏う二人が、踊るような優雅さと力強さで花盗人へ攻撃を仕掛けた。
「花を隠すならば、花を、お前に与えてやろう。覚悟の証を――!」
 千鶴が繰り出した刃が無数の桜の花びらとなって、一斉に花盗人へと襲い掛かる。
「く……ッ」
 確かな手応えに油断することなく千鶴が二撃目を振るうと共に、千織も刃に麻痺の力を乗せて横一閃に花盗人をなぎ払う。
「ああ、本当に割に合わない」
 嘆いたような声を出し、花盗人が虚空へ指先を伸ばす。現れたるは花、花、花。
 そこいらで見るよりも美しく咲いたそれは、今まで花盗人が奪ってきたものだと千織が直感的に覚る。
「お前、どれだけの人から花を奪ったの」
「さあ、そんな些末なことは覚えていないよ」
 此処で倒さなくては、この影朧は何処までも花を追い求める。もう一度、千織が麻痺の力を乗せた刃を躊躇いなく花盗人へ振るおうとした瞬間――花盗人が取り出した花に口付けた。
 花が散る、散る、散る。
 それを代償として、花盗人は二人の剣戟から花吹雪で隠されるように姿を消した。
 あとに残るは舞い散る花弁と、二人が咲かせた二つの花のみ。
「逃がしてしまいましたね」
「ああ、けれど深手は負わせたよ」
 影朧といえど、蓄積された痛手は死に至るだろう。二人でそう頷いて、手にした刃を納めた。
 それから、千鶴が千織の碧き耳飾りに、壊れ物に触れるかのようにそうっと触れる。
「……? どうしました?」
 揺れる耳飾りがキラキラと月明かりを反射して、小首を傾げる千織の耳元を照らす。
「千織、君と一緒にいると心が温かくてしあわせなんだ」
「千鶴さん……」
 微笑む彼の笑顔は千織にとって大切で、守りたいもの。そう思うと、心の何処かが甘く揺れた気がして千織が自分の胸元で手を握り締めた。
「噫、やっぱりこうしてきみの傍で、きみの体温を感じながら……」
 千鶴の指先が、耳飾りから千織の薄紅に染まった頬へと触れる。
「もっと想い出を作るまでは勿体なくて、心中は出来ないね」
「……そう、ね。私も、もっと貴方との想い出が欲しい」
 それは揺れる心から零れ落ちた、千織の精一杯の言葉。
 頬に触れる千鶴の指先に、そっと自分の手を重ねる。
 愛おしいと思うこの温もりは、どうしたって手放せそうにはなくて。
 桜舞い散る月明かりの中、互いが咲かせた花の想いを確かめるように、二人あえかに微笑みあって――。
 黄色いヒヤシンス―― 『あなたとなら幸せ』
 トリテレイア―― 『守護』 『淡い恋』

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

四天王寺・乙女
花:おまかせ

池底にて待ち、花を摘み取ろうと影朧が手を伸ばすまで動かず誘い込む。
そのまま心の花を摘み取られ、意志や感情を害されても耐え、苦しそうな顔をしつつも目を見開きニヤリと笑う。
「我が胸の内に咲く心の花が、ただ一輪と誰が決めた!」
ぽん、ぽんと、次々と浮かび上がり咲く心の花。
「尽きぬ心の花園、貴様如きには摘み切れまい!」
そのまま後光を輝かせ、目眩まし&速度上昇で虚を突いて攻撃し気絶させる。

「乙女心に触れるには、まだまだ甘い……だが、場面(シチュエイション)は良かった。乙女ポイントをやろう」
服を着た後に、倒れ伏す盗人の額に追い討ちのように判子をぺたり。



●カランコエ
 池の底にて、僅かに光りを放ちながら四天王寺・乙女(少女傑物・f27661)が影朧を待つ。
 水中から見る月というのも乙なものだな! とか、花の裏側を見る機会も中々あるまい、なんていうどうでもいいことを考えながら。要はちょっと暇になってきていたのだが、気を抜いては拙かろうと頑張って死体の振りをしているのだ。
 欠伸が出そうだな……と目を閉じた瞬間、水面が揺れるのを感じて乙女が一層死体の振りに徹する。
「水の上に咲く花というのも、一興だな」
 本来は水の上に咲く花ではないが、乙女が水の中にいるので花もそれに準じて咲いたのだろう。
「可憐に咲いたカランコエ、うん、とても美しい」
 満足気に息を吐いて、花盗人が水の上に浮かぶように咲くカランコエに手を伸ばす。
 まだだ、もう少し、花盗人が花を摘んでしまうまでは耐えるのだ。そう強く念じ、乙女がその時を待つ。
「ああ、やっと手に入れた……!」
 これまで幾度となく猟兵に邪魔され続けた花盗人が、歓喜の声を上げる。手にした花は美しく、月明かりを弾くよう。
「ぐ……ッ!」
 夢中で花を愛でる花盗人は、水底からぽこりと空気が浮いたのには気付かない。
 意思や感情が搔き乱される、強い信念を持つ乙女でさえも、耐えがたく思うほどに。
 けれど、けれどだ。
 私を誰だと思っている、と乙女は思う。
 私が、私こそが意志の力で不条理を捌き、悪鬼羅刹を斬り伏せる――誰よりも王子様、そして誰かが求めた英雄。
 そう、四天王寺乙女だ――!
 苦しげな顔を笑みに変え、カッと見開かれた瞳で花盗人を真っ直ぐに射貫く。そして水底を蹴り、一気に水面へと躍り出ると華麗な一回転を決め地上へと降り立った。
「我が胸の内に咲く心の花が、ただ一輪と誰が決めた!」
「!?」
 今まで確かに水底で死んでいたはずの女が、花盗人へ指先を突き付ける。驚きに満ちた花盗人の表情が、次第に苦々しいものへと変わり、乙女と距離を取るように後ろへ跳んだ。
「貴女も猟兵か……」
 やっと花を手に入れたと思ったのにと、花盗人が溜息を零す。
 この四天王寺乙女と相対して、可哀想なことにならなかったオブリビオンなど少数だ、諦めてほしい。
 嘆く花盗人など意に介さぬように、乙女の周囲にぽん、ぽん! と、次々とカランコエの花が咲き乱れる。
「国とは数え切れぬ人と知れ! その人らへの想いの分、花は咲くのだ。尽きぬ心の花園、貴様如きには摘み切れまい!」
 そのまま、眩しいまでの後光を七色に輝かせ、乙女が花盗人へ距離を詰める。そう、これこそが乙女虹霓之事……レインボー乙女である!
「く……ッ」
 鮮やかな閃光、それは一瞬の間花盗人の視界を奪うもの。その一瞬で、速度を上げた乙女が花盗人へ渾身の力を込めた突きを食らわせた。
「ガハッ」
 ふらついた花盗人が、乙女から奪った花を取り落とす。そうして、悔しそうな顔を乙女へ向けると、これ以上は無意味とばかりに闇夜へ溶け込むように消え去った。
「む、逃げるな盗人が!」
 そうは叫べど、どこにも花盗人の姿はなく――。
 仕方なく、乙女が丁寧に畳んだ浴衣を綺麗に着直す。乙女たるもの、着付けの一つも出来て当然なので。
「ふん、乙女心に触れるには、まだまだ甘い……だが、シチュエイションは良かった。乙女ポイントをやろう」
 花を愛でるだけあって趣味は悪くなかったと、乙女が心の中で花盗人の額へ乙女と刻まれた判子を押してやるのであった。
 カランコエ―― 『あなたを守る』 『幸福を告げる』

大成功 🔵​🔵​🔵​

柚木・眞衣
◎花はお任せ

沈んだ水面
空を仰いで想うは、
たったひとりの大切な人

双子の愛衣ちゃんに向けるのは、
いとおしい感情ばかりじゃなかった
■■してしまった後で、
あなたが、わたしを見てくれたこと
認めてくれたことを知ったけど

それまでは、
嫌われてるとばかり思ってた

そうして、現れた花盗人
わたしから浮かび上がる花
それがどんなものなのか
見るのが怖くて、目を瞑る

ああ、でも、

ゆっくり瞼を開いて
変わらない表情で敵を見据えた
水面から出て、デバイスを構える

あなたを想って咲いた花
それがどんなものでも受け入れる
だって、全部、本物の気持ちだから

引き金を引けば
舞い始める夕顔の花弁

もっと、ずっと一緒に居れば良かった
──ごめんね、愛衣ちゃん



●バーベナ
 深く深く、どこまでも沈んでいけたらいいのに。
 そう思いながら薄っすらと目を開ける。見えるのは月明かりに照らされて、ゆらゆらと揺れる水面。
 水の中から見る水面はどこか不思議な色をしていて、柚木・眞衣(Evening・f29559)はそっと手を伸ばす。その先に、双子の片割れがいるような気がして――。
 愛衣ちゃん、あの子に向けるのは決して愛おしい感情ばかりではなかった。
 わたしが、わたしが■■してしまった後で、あなたがわたしを見てくれていたこと、みとめてくれたことを知ったけれど。それまでは、ずっとずっと嫌われていると思っていたのだから。
 時間が巻き戻ればと、何度も思ったけれど時は流れゆくばかりで、思うようにはならなかった。
 ああ、こんなわたしに咲く花は、いったいどんな醜い花なのだろうか。
 黒いショールが水の中でふわりと翻る。それは眞衣の白い髪が月明かりを反射して煌めくたびに、底から上がる気泡に揺れた。
 ゆっくりと身体が押し上げられ、眞衣の身体が水面へと浮かぶ。月明かりが眩しく思えて、眞衣が目を閉じる。暫くの間そうやって揺蕩っていれば、池の縁に足先が当たるのを感じた。
 薄く目を開けようかとした瞬間に知らない男の声が聞こえて、そのまま死んだ振りを続ける。
「オフィーリアのようだね」
 オフィーリア、小川に落ちて死んだ女の名だ。
 水の上、黒い衣装をふわりと浮かばせている眞衣は花盗人にはそのように見えたのだろう。
「それに、紫とピンクのこの花も美しい」
 花、ああ、わたしにも咲いたのだと眞衣は思う。目を開けるのが怖くて、どんな花なのかはわからない。
 ああ、でも――。
 ゆっくりと目を開けば、花盗人が今にも浮かぶ花に手を伸ばそうとしているところ。触らせは、しない。
 変わらぬ表情のまま敵を見据え、浮かぶ花を掴み取ると一息に水面から上がる。
「……猟兵!」
 憎々し気に吐き捨てられた花盗人の言葉にすら反応せず、眞衣がダイモンデバイスを構える。
 ねえ、わたし、あなたを想って咲いた花なら、それがどんなものでも受け入れると、そう決めたの。
 だって、それは偽りないわたしの心だから。全部、本物の気持ちだから。
 花盗人が眞衣の花を奪おうと手を伸ばす。
「触れないで」
 冷たい声が響くと、眞衣が手にしていた武器が無数の夕顔の花びらへと変わる。それは眞衣を守るように浮かび、引鉄が引かれるのを待っている弾丸のようでもあった。
 花盗人が咄嗟に虚空へと手を伸ばす。何もさせない、とばかりに夕顔の花びらが一斉に花盗人へと襲い掛かる。花びらが花盗人を覆い尽くそうとしたその瞬間に、花盗人もまた相対するように花弁を舞い散らす。
 夕顔の花びらに切り刻まれる花盗人が、苦悶の表情を浮かべたまま――花に紛れるが如く消え去った。
「逃げたの」
 静かにぽつりと呟いて、夕顔の花びらを武器へと戻す。それから、手に握り締めたままだった自分の花に目を遣った。
「バーベナ……」
 紫と、ピンク色のバーベナだ。
「もっと、ずっと一緒に居れば良かった」
 花を抱き締めるようにして、眞衣が呟く。
「――ごめん、ごめんね、愛衣ちゃん」
 懺悔するような囁きは、風へと溶けて。
 紫とピンクのバーベナ―― 『後悔』 『家族の和合』

大成功 🔵​🔵​🔵​

スキアファール・イリャルギ
◎(花はお任せで!)

近づいてきたらUC発動
ひかりのきみの突進と私の霊障で敵を吹き飛ばして距離をとる

……あー、もう
めちゃくちゃ恥ずかしかった……

呪瘡包帯を躰に巻き直して人間の姿に戻りつつ浮かんだ花を眺める
……こんな私でも花は咲くのか
(きみにも咲いてるんだろうか?)
私はこんなにもきみのことを大切に想ってたんだね
父さんや母さん、先生と同じくらい……いや、それ以上、なのかな――

だったら猶更この花を渡すわけにはいかない
……大切なきみと一秒でも長く生きていたいから

(きっとそう遠くない未来に私は死ぬだろう
寿命が尽きるか、怪奇に喰われるか、それとも……
あぁ、でも
できれば看取られながら穏やかに逝きたいな……)



●エリンジウム
 樹の根元で人が黒い泥になった、そんな風な塊を装ったまま、スキアファール・イリャルギ(抹月批風・f23882)が内側に隠したひかりのきみと外に聞こえないように内緒話のような会話をしていると、土を踏むような硬い靴音が響いて、ひかりが小さく瞬くのを止めた。
 わかっているよ、コローロ。声にはせず、スキアファールがタイミングを計る。
「うん? これはまた不思議な死体……ああ、花はちゃんと咲いているから構わないけど」
 そういう死に方もあるのだろうと、花盗人の意識はすぐに泥の上に浮かぶように咲いている花へと移った。
 その言葉にほっとしつつも、本当に花にしか興味が無いのだなとスキアファールが思う。足音が近付き、スキアファールの手前で止まる。
「ああ、これはアザミ……綺麗なエリンジウムだ」
 嬉しそうな声で、花盗人がエリンジウムへと手を伸ばし、今にも花に触れようとしたその時。
「一緒に行こう、私のひかり」
 スキアファールの声が響き、泥が弾けた。
 煌めくひかりが花盗人へと突進し、その跡を追うようにスキアファールがヒトガタの影となって追従する。
「く……っ」
 その勢いに押され、花盗人が吹き飛ばされるように後方へ退いた。
 距離が開いた隙に、スキアファールが呪瘡包帯を形なき躰に巻き直し、人間の姿へと戻る。
「……あー、もう」
 めちゃくちゃ恥ずかしかった、と呟けば、ひかりが笑うように火花を散らす。
「もうしないからね……?」
 そうして、と言うように、ひかりが花盗人を警戒しながらスキアファールの周囲を飛び回る。そのひかりに頷いて、スキアファールがふわりと浮いた花を手に取った。
「……こんな私でも、花は咲くのか」
 何と言っていたっけ、確かそう……アザミ、エリンジウムと。少し独特だけれど、綺麗な花だ。
 きみにも、咲いているんだろうか? ひかりを見て、スキアファールが指先を伸ばす。それに応えるように、ひかりがスキアファールの指へと止まった。
 私は花を咲かせるほどに、きみのことを大切に想っていたんだね。父さんや母さん、先生と同じくらい……いや、きっとそれ以上に――。
「君も猟兵か」
 花盗人がスキアファールへと……否、スキアファールの心を具象化した花へと向けて距離を詰める。
「そうです」
 その答えに、つまらぬものを見るように花盗人が首を緩く振った。
「君たちは僕の邪魔ばかりだ」
 大人しく、その花を渡せばいいのに。
 冷たい目をして、花盗人がエリンジウムへ手を伸ばす。
「これは大事な花ですから、あなたに渡すわけにはいきません」
 ひかり、きみの為に咲いた花であれば、猶更のこと。
「……大切なきみと、一秒でも長く生きていたいから」
 そう、指先に止まるひかりへ唇を寄せて囁く。
「だから、力を貸して」
 喜びに舞うように、ひかりがスキアファールの周囲を飛び回る。そして、花盗人がスキアファールの胸を穿つように突き出した手ごと、花盗人を再び吹き飛ばした。
 すぐに追撃を掛けようとスキアファールが霊障を起こす為、花盗人が吹き飛ばされた先を見るが――そこには既に花盗人の姿はなく、吹き飛ばされた勢いのままに逃げたのだと覚る。
「逃げられてしまったね」
 ひかりが応えるように上下に飛ぶ。けれど二回も吹き飛ばしたのだ、ダメージもそれなりのものだろう。
 スキアファールがエリンジウムの花を手に取り、そっと目を閉じる。
 そう遠くない未来に、きっと私は死ぬだろう。寿命が尽きるのが先か、怪奇に喰われるのが先か、それとも……また違う死が訪れるのかもしれないけれど。
 あぁ、でも。願わくは。
「ねぇ、コローロ。怒らないで聞いてくれるかい?」
 ひかりが、小さく明滅する。
「私はね、できれば……死ぬ時はきみに看取られながら穏やかに逝きたいって思うよ」
 その小さな願いに、ひかりが頬擦りをするように、スキアファールの頬に寄り添った。
 エリンジウム―― 『光を求める』『秘めた愛』

成功 🔵​🔵​🔴​

アルフレッド・モトロ
(がばっ)
ようやくおいでなすったな盗人野郎!
悲恋の末に死んでいく者達の
心の花ばっかり盗んでるってか?

…趣味悪いな!

◎【鱏桜2】

心の花は桜
あの日、姉御と一緒に行った島
元はサクラミラージュにあったというあの島は
海のド真ん中で幻朧桜をめいっぱい咲かせていた

俺の思い出の花だ


さあカッコイイ啖呵は任せたぜ姉御!

姉御が奴の生命力を奪うまで
炎を纏いつつ集中&【力溜め】
そして姉御への攻撃を
【かばう】で肩代わりして受ける

俺のUCは【カウンター】
炎を纏った俺に触れたが最期
【気合い】と【捨て身の一撃】を叩き込む!
旋風で桜の花弁が巻き上がるかもな

あのさ姉御…
あん時俺おかしかったよな!?
急にその…
ぎゅってして悪かったよ!


桜田・鳥獣戯画
(がばっ)ふはははは!出たな花盗人!!
我ら猟兵の花、そう易々と狩れると思ったら大間違いよ!!

◎【鱏桜2】

心の花はハイビスカス
何その空気読めてない南国感
赤、黄、オレンジ、白、青…
…すまん、艦長アロハシャツ着てそうイメージが強すぎたのだな…
花言葉? いや詳しくはないぞ!

さてアルフレッド、この優男いかにする!!

【今まで盗んできた花】をなるべく使わせたくない
UCで攻撃し生命力を削る
ただし説得を試みる者が他に居るなら手を止めて協力しよう

生きて咲かせてこその花だ
花の盗人よ、お前さんも次の生では
きっと自分の花を咲かせるがいい!

…「ぎゅって」か!
ふははは気にするな、私もおかしかった!
死ぬかと思ったわ!!



●桜とハイビスカス
 燃ゆる蒼炎がその勢いを無くし、アルフレッド・モトロ(蒼炎のスティング・レイ・f03702)の胸に桜田・鳥獣戯画(デスメンタル・f09037)がその額を寄せ、俯いたまま死んだ振りをしていた。
 そろそろこの体勢、腰に来るな! と、考えているのが鳥獣戯画で。
 この手をどうすればいいんだ……? と、動くに動かせない手のやり場に困っているのがアルフレッドだ。
 花盗人がくればこの問題が解決するのに、そうだお前早く来い――。
 その一点において、今この二人の心はひとつだった。
 二人の心の声に引き寄せられたのか、その時は意外と早く来た。崖のようになったこの場所に、誰かの足音が聞こえたからだ。
 こんな場所に来るのはアルフレッドか鳥獣戯画、そして花盗人くらいなもの。それは外れていなかったようで、すぐに聞いたことのない男の声が近くで響いた。
「桜とハイビスカス……珍しい組み合わせだが悪くない」
 あ、これもう絶対花盗人だな。二人はそう思い、そして後はタイミングだと花盗人に見えぬよう合図を送り合う。
「僕の蒐集のひとつになるといい」
 大事にしてあげるよと、うっそりと囁きながら花盗人が二人の花に手を伸ばした、その瞬間。
 鳥獣戯画の肩を抱き寄せていたアルフレッドの腕がガバッと離れ、指先を花盗人へと突き付けた。
「ようやくおいでなすったな盗人野郎!」
 アルフレッドの胸に額を預けていた鳥獣戯画も、ガバッと離れて同じように指先を突き付ける。
「ふはははは! 出たな花盗人!! もうちょっとで私の腰が死ぬところだったわ!」
 頭を下げた同じ体勢は腰にくるのだ。
 二人が指を突き付けると同時に、咄嗟に距離を取った花盗人が眉を顰める。
「……猟兵」
「如何にも!」
 ニィ、と鳥獣戯画が唇の端を持ち上げる。
「一応聞きますが……僕に花を渡すつもりは?」
「あるわけないだろう、悲恋の末に死んでいく者達の心の花ばっかり盗んでるような根暗野郎に渡すもんは、一つも無いぜ!」
 アルフレッドが拳を握り、戦闘態勢を取る。
「今のところ、それが一番美しいのでね」
「……趣味悪いな!」
「家庭菜園とかにしておけばどうだ」
 鳥獣戯画も影朧を前に軽口を叩いてはいるが、隙はない。
 心の花を背に庇うようにして二人が動き、花盗人の前に立つ。
「さてアルフレッド! この優男、いかにする!!」
「決まってら、悪さが出来ないようにぶっ飛ばす!」
 ぎらり、と二人の瞳が燃える。赤と青、それはまるで対のよう。
「さあ、カッコイイ啖呵は任せたぜ姉御!」
「ふはは! よかろう!!」
 この浴衣に似合うような、とっておきの啖呵を切ってみせようか!
 鳥獣戯画が一歩前に出ると、アルフレッドが下がる。下がったその場で、蒼炎を静かに纏い、集中力を高めた。
「生きて咲かせてこその花だ、花の盗人よ。お前さんも次の生では、きっと自分の花を咲かせるがいい!」
 鳥獣戯画が吼えると、自身の腕を鰐の頭部へと変え、その顎を花盗人へ噛み付かせる。呻き、苦悶の表情を浮かべた花盗人が自身の手をまるで刃の如く前に出し、彼女に触れんと肉薄する。鳥獣戯画は顎を噛み付かせたまま動かない、今まさにその手が己の胸に触れようとする瞬間でさえも、ただ笑ってみせるだけだ。
 その理由はすぐに知れる、蒼炎を纏ったアルフレッドが彼女を庇うように花盗人の腕を跳ね除けたのだ。
「姉御に、触れるなっ!」
 蒼い炎が燃え盛る、それは蒼き溟獄の炎。アルフレッドの拳が花盗人の鳩尾を捉え、打ち放つ――! 蒼い炎の旋風で、桜の花びらが舞い上がる。
「絶景」
 満足気に笑った鳥獣戯画が、次の一撃を入れようと花盗人に向かって足を踏み込んだ瞬間、花盗人が諦めたような笑みを浮かべた。
「ああ、本当に割に合わない……!」
 舞い上がる桜に紛れるように、花盗人がその姿をゆらりと消した。
「アルフレッド! 花盗人が消えたぞ!」
「あの野郎、逃げたのか」
 ゆっくりと炎を尾へと収めて、アルフレッドが花盗人の消えた方を見遣る。追いかけたところで、闇雲に探すのは効率も悪いだろう。
「致命傷は入れたと思うんだけどな」
「うむ、あれは中々に効いただろうな!」
 鳥獣戯画も手をすっかり戻して、守り切った己の花を見た。
「アルフレッドは桜か」
「ん? ああ、なんか姐御っていったら桜を思い出してさ」
「桜田だからか?」
「ちが、違うからな!」
 あの日、鳥獣戯画と共に訪れたグリードオーシャンの島、元はサクラミラージュにあったというあの島は海のド真ん中で、幻朧桜をめいっぱいに咲かせていた。
 あの桜の島で、鳥獣戯画の手を引いて夜の肝試しと洒落込んだのは……本当に楽しかったのだ。そうして、大事なアルフレッドの想い出となった花が咲くのは、至極当たり前の事だった。
「姉御はハイビスカスか?」
「うむ。我ながら空気読めてない南国感に、笑いすら禁じ得ない」
 赤に黄色、オレンジに白、青……色とりどりのそれは、何かを連想させて。
「……すまん、艦長がアロハシャツ着てそうイメージが強すぎたのだな……」
「アロハシャツは寧ろ姐御が着てるイメージがあるんだけど」
 着たことなどない! と言い合う二人は、もういっそお揃いでアロハを着ればいいんじゃないかな。
「そういや姐御、花言葉は詳しいのか?」
「花言葉? いや、全く詳しくはないぞ!」
 花より団子なものでな! と、鳥獣戯画が笑う。帰りに何か食って行こうか、と言おうとしてアルフレッドがハッとしたような表情で鳥獣戯画を見た。
「ん? どうした?」
「いや、あのさ……姐御」
「なんだ、歯切れの悪い。遠慮せずに言うといい!」
 鳥獣戯画に促され、ちょっと深呼吸をしてからアルフレッドが覚悟を決めて鳥獣戯画へと向き合った。
「あん時の俺、おかしかったよな!?」
「どの時だ」
 う、と言葉に詰まりつつも、何とか言葉を続ける。
「あん時だよ、その……急にぎゅってして悪かったよ!」
 八の字になった眉毛を見て、鳥獣戯画がぽかんとしてから笑いだす。
「……はは、ふはは! 『ぎゅって』か!」
「笑い事じゃないんだよ姉御!」
「いや、ははは、ふはははは! 気にするな、あん時は私もおかしかった!」
 この庭園の、どこか死を感じる空気のせいだろうと鳥獣戯画が笑う。
「死んでもいいなんて、思うとは思わなかったぜ」
「そうだな! 私も死ぬかと思ったわ!!」
 あの時はあの時で、嘘なのではなかったのだと思うが。そういう空気だったのだから、仕方ないのだ。
 そう、二人で笑って、来た道を戻る。
 さあ、無事に元の路に戻れたら、何を食べようか? なんて笑いながら――。
 桜―― 『精神美』『優美な女性』
 色とりどりのハイビスカス―― 『勇敢』『新しい恋』『華やか』『清潔』

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ハルア・ガーラント
【焼鳥】2名 ◎
下にいる相馬は重くないかな
不安だけど伝わる体温に安らぎそう

チューベローズの花と引き立て合うように咲くのは黒いジャーマンアイリス
炎を意味する花言葉
ふふ、確かに相馬の身体は冥府の炎だらけ
わたしの中に息づく想いも込められているのだろうけどそれは内緒

現れた花盗人さんに尋ねます

盗む花は所詮他人の咲かせた花
あなた自身が咲かせる花を知りたくはないですか?
花の美しさを誰よりも理解し愛でるあなたなら
きっと、最上の花になる

UCに[祈りと慰め]を込めて歌い彼を癒したいです
転生し新たないのちで彼だけの花をこころに咲かせて欲しい

大丈夫だよ相馬
もし花を奪われても、わたし何度だって花を咲かせる自信があるもの


鬼桐・相馬
【焼鳥】◎
いつまでこうしていればいいんだろうか
上にいるハルアの安心しきって今にも寝そうな息遣いに、角を使った[頭突き]をお見舞いしてやりたくなるが我慢しよう

身体から咲くのはハルアの頭に咲くものとよく似た月下美人
まあ相手のことを考えて咲く花なら妥当か
ただ、彼女のそれは淡く発光しているのに対し俺のは紺青色の炎が滲んでいる

ハルアの戦うつもりのない様子に溜息をついてUC発動
解った、お前の好きなようにやれ
もしものことがあっても冥府の道案内くらいはしてやる

花を失い心を喪ったらどうするのか
そう思うと[冥府の槍]を握る手に力が入るが信じるしかない

もし彼女の翼が震えていたら軽く叩いてひとりじゃないことを伝えるよ



●ジャーマンアイリスと月下美人
 月明かりの下、チューベローズの花咲く若草の上で、横向きに倒れる鬼桐・相馬(一角鬼・f23529)の上に、上半身を預けるようにハルア・ガーラント(宵啼鳥・f23517)が倒れ込んでいた。翼を下敷きにしないようにと考えたら、こうなったのだ。
 どうしよう、重くないかな……! 乙女としては一番気になるところだが、触れた場所から伝わる相馬の体温がじんわりと温かくて、思いの外安らいでしまった。
 うっかりしたら、寝てしまいそう……なんて考えながら、ハルアが呼吸を小さくする。勿論、花盗人に死体だと思われるようにだ。
 一方、相馬はといえば、いつまでこうしていればいいんだろうか……とぼんやりと思っていた。
 口の中は甘いままだし、自分の上に上半身を預けているハルアは安心しきったような、今にも寝てしまいそうな息遣いをしているし。この角で頭突きでもしてやろうかと思うのは仕方のないことだと思う、しないが。
 そんな何処かちょっとずれてる二人だったけれど、彼らの前にも花盗人は現れる。
 若草を踏み、がさりとした足音にハルアが息を詰めた。
「ああ、みつけた。君たちはどんな花を僕に見せてくれるのかな」
 足音が、ゆっくりと近付いてくる。最良のタイミングを計るように、相馬も息を整えた。
「……黒いジャーマンアイリスに月下美人、ああ、とても綺麗だ」
 相馬とハルアの頭上でふわりと浮いた花に向かって、花盗人が指先を伸ばす。ああ、もう少しで花が手に入る……そう、花盗人が溜息を零した時だった。
「悪いが、易々と渡す訳にはいかないんだ」
 ハルアを片手に抱きながら、相馬が牽制するように花盗人の指先を叩き落とし、身を起こすと花を掴んで距離を取る。
「ああ、お前達も猟兵か」
 何処か疲れたようなその声に、ハルアが相馬の腕の中から抜け出して花盗人の前に立った。
「おい」
 咎めるような相馬の声に、一瞬だけハルアが振り返る。
 お願い、わたしに任せて。
 そんな目をされてしまっては、相馬も溜息を吐くしかない。この目をしているハルアには、何を言っても無駄なのだ。
「花盗人さん」
「なんだい、お嬢さん」
 草臥れた、今にも倒れそうな花盗人が答える。きっと、此処に来るまでに猟兵たちとやり合ってきたのだろう。
「あなたが盗む花は、所詮他人の咲かせた花です。あなた自身が咲かせる花を知りたくはないですか?」
「はは、僕の花? そんなものには興味が無いな」
 だって、僕が欲しいのは美しい人の心、花の形で摘み取ったそれは何よりも美しいんだと、花盗人が笑う。
「……でも、わたしは」
 相容れないのだろうか、でも、それでも。
「花の美しさを誰よりも理解し愛でるあなたなら、きっと、最上の花になる……そう思うんです」
 どうか転生し、新たないのちとなって、彼だけの花をこころに咲かせて欲しい――。そう願って、ハルアは歌を紡ぐ。月明かりの下、影朧の為に天使言語による親愛歌を響かせた。
「ふふ、変わったお嬢さんだ」
「ああ、俺もそう思う」
 何気なく呟いた花盗人の声に、相馬が答える。
 ハルアの好きなようにやれとは思うが、万が一のことがあってはならない。相馬が冥府の槍を構え、哭燈火を発動する。それは冥府の昏き加護、ハルアを守る為の――。
「だけどお嬢さん、僕が欲しいのは歌でも癒しでもない、その心に咲く花だけなんだ」
 残念だが、と嗤った花盗人が虚空へと手を伸ばし、ありったけの花を降らせる。そしてその花吹雪に乗じるように、黒いジャーマンアイリスへと手を伸ばした。
「――ハルア」
 相馬が低く名を呼んで、冥府の槍を手に動く。けれど、それよりも早く花盗人の指先が黒いジャーマンアイリスに触れ――同時に、ハルアの身を護るかのように冥府の炎が花ごと彼女を包みこんだ。
「ぐ……っ」
 その炎の勢いに、花盗人が一度は触れた花から手を離す。
「ハルア」
 相馬がハルアを庇うように前に立ち、冥府の槍を花盗人へと向ける。それでも、ハルアは歌うのを止めなかった。
 転生をしても、しなくても。あなたの心が安らぎますようにと、それだけを願って。
「悪いが、俺はお前を討つ。一度は彼女の意思を尊重したが――二度はない」
 天使の歌を聞きながら、骸の海に還るがいい。
 花を失い、ハルアが心を喪ってしまったら。花盗人が花に触れた瞬間にそう考えてしまったら、相馬にはそれを許すことはできなかった。
 歌声が響く中、既に虫の息に近い影朧が笑う。
「ああ、歌が――」
 花が燃える中、歌が聞こえる。
 燃えているのは花か己か。聞こえているのは天使の歌か、己の呻きか。
 それすらもわからぬまま、花盗人は炎に消えた。
「……ハルア」
「大丈夫、大丈夫です、相馬」
 転生をという願いは叶わなかったけれど、あの影朧の心が僅かばかりでも救われたと彼女は信じているから。
「我儘をいって、ごめんなさい」
「……いや、いい。お前の我儘など今に始まったことじゃない」
 譲れない部分は相馬にもあるけれど、譲歩することは覚えたのだ。
 相馬が守り切った花に手を伸ばす。
「ほら」
「黒いジャーマンアイリス、ふふ」
 ハルアが咲かせた、炎を意味する花だ。
 確かに相馬の身体は冥府の炎だらけだもの、とハルアが思う。それから、きっと自分の中に息づく想いも込められているのだろうけれど、それは内緒だ。
 どうせ、この男は花言葉など知らないのだろうから。
「相馬のは月下美人ね」
「ああ」
 ハルアの頭に咲くものとよく似た月下美人、一つ違うとすれば彼女の頭の物は淡く発光しているが、相馬が咲かせたそれは紺青色の炎が滲んでいた。
 まるで、俺の独占欲のようだ――そう思ったけれど、目の前の女には言わないことに決めた。
「ねえ相馬、その花貰ってもいいですか?」
「これをか?」
「ええ、それから……わたしの花は相馬に」
 そっと、交換するようにハルアが黒いジャーマンアイリスを相馬に差し出す。
 大人しくそれを受け取って、相馬も月下美人の花を手渡した。
「綺麗……」
 相馬の炎に包まれているみたいだと思ったけれど、言ってしまえば取り上げられてしまう気がして、ハルアは黙ったままそれを月に翳して眺めた。
 花盗人が骸の海に還ったからなのだろう、徐々に庭園が元の世界へと戻ろうとしている。
「帰りましょう、相馬」
「ああ」
 互いに、花を片手に持ち、触れあった手を取って――。
 黒いジャーマンアイリス―― 『燃える思い』『情熱』
 月下美人―― 『強い意志』『秘めた情熱』

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2020年10月24日


挿絵イラスト