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幻の武器商人を追え! カクリヨ猟兵探検隊!

#カクリヨファンタズム #悪の組織ワルイゾー

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#カクリヨファンタズム
#悪の組織ワルイゾー


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●カクリヨサスペンス劇場!
 はあ、はあ、はあ、はあ。
 荒い息を吐くその男は、左肩に乗せたタライの小豆をとぎながら、右手に赤く染まる日本刀と、頭が胴から離れた女を交互に見つめていた。
 濃い霧に包まれたそこはまるで見通しが悪く、街灯の光もぼんやりとしていた。
 そんな、朝焼けとも夕暮れともつかない町で、凶行が起きたのだ。
 あ、女の頭と胴が離れてるのは伏線です。
「……お、俺は悪くねえっ……この女が……この女が……!」
 やっちゃった人って大体そんなこと言うよね。
 女の体から赤い色がじわりと染み出して、男は情けない声を上げて走り去った。
 残る女は足音が遠ざかるとぱちりと目を開き。
「ふーっ。ろくろ首じゃなきゃ死ぬ所だったよ」
 男の一太刀をアクロバティック回避した女は長く伸びた首を更に伸ばし、買いだめしていたケチャップで汚れた体を拭く。
 伏線回収!
 アホか。カクリヨファンタズムでサスペンスなんて難しいのだ。
 そんな誰がしたかも分からないぼやきを他所に、女は衣服を整えて鋭い視線を周囲に向ける。
 その背には長い柄の一本槍。
「さっきは油断したが、もうやられはしないよ。次に見えた人影は誰だろうと貫いてやる!」
 殺意の塊やんけ。はからずも小豆のおっちゃんは自分の身を守る事に成功したようだ。
「……ひゃ~……凄いの見ちゃった!」
 その後ろで口元を長い手足で隠した蜘蛛の姿。リボンやスカートなどでお洒落しているが、蜘蛛である。
 人の背丈と同等のそれは見る者によっては発狂しかねない。やんなるね。
 蜘蛛はそんな事など構うはずもなく、ドキドキワクワクを胸に霧の中に溶け消えた。

●尚、サスペンスというよりバトル・ロワイアルが始まる模様。
 集まる猟兵を前に、大門・有人(ヒーロー・ガンバレイにして怪人・トゲトゲドクロ男・f27748)は頭を抱えていた。
 すぐに気を取り直して髪を整える有人の姿に、そういうのは先に済ましてくれないかなと思う者もいたが黙して待つ。猟兵の半分は優しさなのだ。
「待たせてすまない、カクリヨファンタズムで事件発生だ」
 月並みな言葉から始まる今回の一件。カクリヨファンタズムにて大量の霧が発生しているというのだ。
 世界を覆い尽くさんとするそれの発生地、中心部となるひとつの町での対処が猟兵に与えられる任務である。
「この町ではすでに人が歩くもままならない、濃い霧に包まれちまった。
 皆、外に出るのも億劫な所で、誰かが武器をばらまき始めたんだ」
 隣近所の者の顔すら見えない世界。隣にいるのは誰だ、本当に知っている者なのか。
 不信感を募らせた住民たちは閉じ籠り、同時に外への信頼、縁を失ってしまった。
 そこへ投げ込まれた武器は、彼らの敵対心を急速に育て上げてしまったのだ。
「不信感はそのまま自衛に繋がる。……全て悪いとは言わないが……このままじゃ疑心暗鬼から自分以外を敵と思い込みかねない、危険な状態だ」
 有人の予知した映像も、必要に迫られ外へ出た住人によって引き起こされたもの。
 このままでは先手必勝とばかりの殺し合いが飛び火しないとも言えないのだ。
「幸い、猟兵は今でも人気者だからな、こちらの言い分は信じてくれるだろう」
 何か住人に用があれば、利用する事ができるかも知れない。
「この霧を払い、武器をばらまく誰かの正体を突き止めてくれ。取っ捕まえるにしろ倒すにしろ、町さえ元に戻ればその後の判断は任せる」
 それともうひとつ。
「町の外に繋がる通りを、ぬりかべという妖怪が塞いでるんだ。本来は彼らを退かす『呪い』があるようだが、何かに気を取られていて呪いに気づいていないらしい」
 なにそれ。妖怪業界ナメてんのか。
 ぬりかべのお陰で外に出られないことも住民の不信感を煽っている上に、霧が結界の役目を果たしているのかグリモア猟兵の彼であっても町中に転送出来ないとのこと。
「住民のケアにも繋がるし、ぬりかべの事情を聞いてやってくれないか」
 満足すれば町への道も開くはず。有人の言葉に、元より人助けならぬ妖怪助けの為に集まったのだからと、猟兵たちは快く頷いた。


頭ちきん
 頭ちきんです。
 カクリヨファンタズムで霧が大量発生し、妖怪たちの疑心暗鬼が加速しています。霧の原因と疑心暗鬼を煽る何者かを退治して下さい。
 それぞれ断章追加予定ですので、投稿後にプレイング受付となります。
 それでは本シナリオの説明に入ります。

 一章では何かに気をとられて通せんぼしているぬりかべを退かして下さい。彼も住人なので、力ずくではなく、彼の欲しがっているものを与えて下さい。
 彼自身、自分の欲する物の詳細を知らない(自称)ので彼の証言や、周りでなーんかカサカサしている蜘蛛妖怪から情報を入手すると良いでしょう。章ラストに皆様の用意した物がぬりかべにプレゼントされます。
 二章では町中を跋扈する、霧の原因となる妖怪(骸魂)たちとの戦闘になります。一章で大体正体が分かります。
 強力な能力はありませんが、世界を救う為に必ず撃破して下さい。
 三章はこの騒動を引き起こしたボス・オブリビオンとの戦闘になります。特殊な戦場での戦いが予想されるので、断章から有利になりそうな道具などを住民から借りるのも良いでしょう。

 注意事項。
 アドリブアレンジを多用、ストーリーを統合しようとするため共闘扱いとなる場合があります。
 その場合、プレイング期間の差により、別の方のプレイングにて活躍する場合があったりと変則的になってしまいます。
 ネタ的なシナリオの場合はキャラクターのアレンジが顕著になる場合があります。
 これらが嫌な場合は明記をお願いします。
 グリモア猟兵や参加猟兵の間で絡みが発生した場合、シナリオに反映させていきたいと思います。
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第1章 冒険 『欲しがり妖怪』

POW   :    情報から連想される物の名前を次々挙げてみる

SPD   :    本人以外の妖怪にも聞き込みを行い、情報を集める

WIZ   :    多くの断片的な情報を繋ぎ合わせ、欲しい物の正体を推理する

👑7
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●さあ、試してやろう。君たちのセンスを! すみません嘘じゃないけど嘘です。
 その道に座り込み、ぬりかべはぼんやり空を眺めていた。普通に壁が建っているような姿だが、本当は見えないはずだとか漆喰の壁のはずなんだから座るとかないだろとか、そんな突っ込みはどぶに投げ捨てよう。
 彼の表面をかさかさ這い回っていた蜘蛛妖怪は、ぼんやりしている彼の姿に興味を引かれたようで言葉を投げる。
「何してんのー?」
「……んー……」
「? どったの?」
「どうしたどしたー?」
 低く唸るぬりかべに、霧が凝固するようにして蜘蛛となったそれらはぬりかべを取り囲む。
 何かすんごい事件の核心に迫る登場の仕方だったけど、その疑問はどぶに投げ捨てよう。
「……ぼかぁ……欲しい物……あるんだよぅ……」
「へー!」
「なになに~?」
「……んー……」
 ぬりかべは目を瞑り、低く唸る。
 己の中の、欲する物の情報をかき集め、目を開いた。
「名前は知らないんだけどいわゆる女性的ファッションで一般的かつ文化祭や特殊な性癖を持つ男性も着る物だけど現在の価値観では男女平等故にそれを差別と捉え更には精神的な理由からこれらを着る人もいて話題に事欠かない議論の中心になりやすい腰に巻くひらひらした布、……だよぅ……」
 ……ぬりかべ……お前……。
「よくわかんないけど、へぇー」
「早口で聞き取れなかったけど、なるほど!」
「よく分かんなかったから簡潔に説明してください」
 最後の蜘蛛ちゃん有能。
 しばらく蜘蛛妖怪たちとぬりかべの間で問答があった末、結論に達したのかふむと頷く。
「スカートかなぁ?」
「スカートだよね?」
「スカートだね」
「スカート、スカート!」
 囃し立てるそれらに、名前は分からないのだとぬりかべ。
「ほらー、これこれ。これだよスカート!」
 ともすれば尻尾とも間違えられる腹部を逆立て、ぶんぶか振る蜘蛛妖怪。なんだろう。はしたないのは確かだけどちっともドキリとこない。
 ぬりかべも同じようで、低く唸る。
「……腰に巻く布は……足が隠れるもの、だから……」
 ぬりかべさぁん!
 全くの同意であるが、体の構造上そうもいかない蜘蛛妖怪は不満げだ。スカートのはずなのに、という事だろう。
「はぅあっ」
 そんなこんなで駄弁っていた蜘蛛妖怪とぬりかべさんだが、内の蜘蛛一匹が辺りを見回す。
 猟兵の気配だ。
「たたた、大変だ、猟兵が近くにいるっ」
「えっ、えっ。逃げなきゃ、隠れなきゃ!」
「でもどこに?」
「どうしよどうしよーっ!」
 パニック発生である。これもう答え出てますね。
 しかしここでも我らがイケ面ぬりかべさんは、落ち着き払った様子でオブリ、もとい蜘蛛妖怪に声をかけた。
「……通行人のフリを……すればいいよぅ……そうすれば、隠れる必要も……ないさ……」
「……ぬ、ぬ……!」
『ぬりかべさ~ん!』
 イケメンなぬりかべさんにひしっ、と抱き付く蜘蛛妖怪たち。
 こりゃ参ったね。照れるぬりかべから離れた蜘蛛妖怪たちの姿がぼやけると、直後にはそれぞれ何かしらの衣服を纏って鮮明化される。
「よし、僕は通行人です。その辺をかさかさしてます!」
「なら私はゲリラライブ中のアイドルよ。そのへんでギャーギャーしてるわ!」
「それじゃ俺は蝉だ。ぬりかべさんの裏でみんみんしてるぞ!」
 わらわらとわいて出た蜘蛛妖怪たちが、それぞれの衣服やコスプレで楽しそうに配役を決めている。
 遊びじゃないんだぞ。
「むむっ、そろそろ猟兵が来る予感!」
「どっちが多くの猟兵を騙せるか勝負よ!」
「一等賞にはオシャレ大臣の称号進呈だ!」
『よっしゃ~っ!!』
 大賑わいを見せた蜘蛛妖怪たちはそれぞれの持ち場に着く。
 そんな様子を一から十まで道端で聞いていた猟兵たちは、思わず顔を見合わせた。


・ぬりかべさんの欲しがっているものをプレゼントし、彼に満足してもらい道を開けさせましょう。
・物がない場合はその辺でかさかさしている蜘蛛妖怪が用意する上に、外れても最終的には蜘蛛妖怪が正解を用意してくれるので好きにプレゼントしてあげてください。
・色々いるので、プレイングに書いた行動をしている蜘蛛妖怪(例:ランニング蜘蛛妖怪など)も発生します。
・蜘蛛妖怪からはぬりかべさんだけでなく、町の様子や町民の状況(視界の開けた戦い易い場所、協力してくれる町民)など、二章・三章の戦闘で活用可能な様々な情報が手に入ります。
・敵対すると一目散に逃走する為、町の情報収集が困難となり、視界の悪さも合間って思わぬ被害(コミカルなもの)が発生するので注意して下さい。
黒木・摩那
うーん、怪しい蜘蛛妖怪とぬりかべさんの会話からすると、やっぱり正解はスカートなんですかね。前掛けとか、闘牛の赤い布ではなさそうです。
しかし、なぜぬりかべさんがスカートに興味を持ったのか、そして欲しがるのかが、疑問ではありますが。
妖怪の性癖も色々ということでしょうか。

ただ、スカートも長さ形がいろいろありますし。その中から好みのものを見つけるのも大変そうです。
そして、なにより今、スカート持ってないし、着てないのです。

ここは蜘蛛にロングスカートを出してもらいます。
そして、くるくる回ってスカートが広がる様子が見たいのかな?と思ってみたり。

ついでに街の様子も教えてもらえるとありがたいです。


アリス・ラーヴァ
アドリブ・連携歓迎

へー、ぬりかべさんは腰に巻く布が欲しーのー?
それじゃー、アリスの糸でチクチクと織った布を腰?に装着した幼い妹(幼虫)を呼び出すのー
さーみんなー、スカートを穿いてぬりかべさんの表面をウゾウゾと這いまわるのよー
足はしっかり隠れているし色やデザインはそれぞれ変えてあるからきっと気に入るものがあるわー
おススメはこの仄かに発光するタイプねー、着用しても人体に直ちに影響はないからへーきへーき、暗所で足元も照らせて便利よー
さて後は事件解決の為の情報収集ねー
その辺りにいる一般通行蜘蛛さん達に街の地理を聞いてみましょー
あと霧の発生原因や排除方法も知っているよーな気がするけど教えてくれるかなー?


木霊・ウタ
POW

心情
不信を招く霧とは
厭らしいやり方だな
オブリビオンを倒すぜ

ぬりかべ
こいつはどうだ?
とポリネシアンとかハワイアンの蓑
大きくて長い蓑なら巻けるだろ
これで思い切り踊ってくれ

通行人のあんたらなら
当然知ってると思うんだけど…
と蜘蛛達へ質問

JK蜘蛛
広々として蜘蛛とか隠れられる所がなくて
霧を吹き飛ばすような風が強く吹いてる場所ってどこ?

郵便配達蜘蛛
猟兵に協力してくれる人たちの居場所と名前

博士蜘蛛
蜘蛛妖怪の弱点っ知ってる?
蜘蛛⇔霧への変化を止めたり戻す方法って?

メイド蜘蛛
霧を起こしてる黒幕ってどんな奴で
どんな能力?弱点は?居場所は?

教えてもらったら流石!と持ち上げる

ぬりかべが躍るんなら
ギターを奏でるぜ


インディゴ・クロワッサン
一瞬パレオかと思ったんだけど…どうなんだろーね?
(SPD)
「わー、何かいっぱい居るねぇ」
久々の穏やか(?)なカクリヨにちょっと興味あるし…その辺の蜘蛛妖怪ちゃん?とお話でもしよーっと!
「やーやー、そこの…」
えーと、コレは完全に修羅場ってる作家…みたいな…?
うん、他の蜘蛛妖怪(コ)にした方がよさそーだね…
他のコを探しながら、ついでに【情報収集/礼儀作法/聞き耳/世界知識】辺りを使ってさっくりと情報をまとめたら、UC:薔薇錬成 で、薔薇の紋章が目立たない様なスカートを錬成してプレゼントするよー!
「あ、リクエストあれば作ってあげるけど、何かリクエストある?」(取引)



●蜘蛛妖怪、演じるってよ。
 配置について、今か今かと猟兵の到着を待ちわびる蜘蛛妖怪たち。
 それを通りの奥から離れて見ていた件の猟兵たちは、お間抜けなやり取りに苦笑する。
 とは言え、ほのぼのしている訳にもいかない。このカクリヨファンタズム滅亡の危機なのだ。
「不信を招く霧とは、厭らしいやり方だな」
 道の先から静かに伸びる霧を見て、木霊・ウタ(地獄が歌うは希望・f03893)事を起こしたであろう未だ見ぬオブリビオンを思い浮かべ黒い布に包まれた拳を握る。
 とは言え、まずは情報収集と通せんぼしている妖怪の対処だ。
「わー、何かいっぱい居るねぇ」
 道の先におめかしした蜘蛛の群れを金の瞳で透かし見て、インディゴ・クロワッサン(藍染め三日月・f07157)は道をわさわさしている蜘蛛妖怪らに言葉を漏らす。
「いっしやーきいもっ、おいーもっだよーん!」
「皆ー、今日は私のライブに来てくれてありがと~!」
「わーっ!」
「わーっ、じゃねえ。お前はアシスタント役だろ!」
「ありゃ?」
 配役ミスがあったのか所々で入れ替わる蜘蛛妖怪を見据えて、黒木・摩那(冥界の迷い子・f06233)は小首を傾げた。
 先程のぬりかべさんと蜘蛛妖怪たちの言葉を思い返す。
「うーん、怪しい蜘蛛妖怪とぬりかべさんの会話からすると、やっぱり正解はスカートなんですかね」
 前掛けや闘牛の赤い布などではなさそうだと、スリットのついた赤いドレスを翻す。
「ギチギチ、ギギギッ」
(へー、ぬりかべさんは腰に巻く布が欲しーのー?)
 摩那の言葉に返したのはアリス・ラーヴァ(狂科学者の愛娘『貪食群体』・f24787)だ。集まった他の猟兵とは違い、むしろ蜘蛛妖怪に近しい姿で道行く蜘蛛妖怪を見つめている。
 弱肉強食ちっくな展開が発生しそうである。
「皆さん、それぞれ情報を集めるのはいかがでしょうか?」
 御園・桜花(桜の精のパーラーメイド・f23155)はピンク色の【ケータリング用キャンピングカー】から降りて言葉を投げる。
 車の中にはぬりかべさん用の衣服を収めているようだ。
「この調子なら聞くのも楽そうだしね」
「俺も用意してるのがあるんだ、試してみるか」
 インディゴは頷くと早速とばかりに道を行き、ウタもそれに倣う。
 しかし、何故ぬりかべさんがスカートらしき物に興味を持ったのか。そして、何故欲しがるのか。
「疑問ではありますが、妖怪の性癖も色々ということでしょうか」
 性癖とか言うと生々しくなって妖怪らしさが消えちゃうね。
 ぬりかべさんが、ぐっと近しく感じられる発言。摩那ははてもさてもと手段を考えながら二人の後を追う。
「ギィイイ、ギチッ、ギチッ!」
(それじゃーアリスはチクチクと布を織るわー)
 まさかの一から手作りである。
 蜘蛛の糸と近しい性質を持つ【アリスの糸】を伸ばし、二メートルを越える体を器用に小さく畳み、道の端に蹲ってチクチク始める。
 女子力高いやん。
 すっかり集中しだしたアリスにくすりと笑い、桜花は道端に咲く野花を摘む。
「おいで蜜蜂、花の蜜をあげましょう。私の代わりに追い駆けて、全てを見て聞いてくれるなら」
 【蜜蜂の召喚】。花の香りに誘われるように現れた蜜蜂は、花弁に潜り込むとすぐに飛び立った。
 契約成立といった所だろうか。視界を共有する蜜蜂は空を飛び、空から猟兵たちを見下ろした。
 視線の先にはインディゴ。思案するような顔を見せているのは、彼は最初の情報でぬりかべさんの欲しがっている物がパレオではないかと考えていたからだ。
「まあ、いいや。久々の穏やかなカクリヨにちょっと興味あるし。その辺の蜘蛛妖怪ちゃん? とお話でもしよーっと!」
 意気揚々とカサカサしている蜘蛛妖怪の一団に目をつけた。
「やーやー、そこの──」
「もっと足を動かせ!」
「へ、へーい!」
「ダメだダメだそんな時間かけてちゃ! ペン入れ終わったら別の人に回して!」
「へーい!」
「出来映えを気にするのはいっちょまえになってからだ! 今は足を動かしてこなすことだけ考えろ!」
「へいぃっ!」
 かりかりかりかり。
 道端に机を広げた蜘蛛妖怪。ぐるぐる眼鏡をかけてペンを走らせるその姿は作家だろうか。次々と下書きしたプリント用紙をアシスタントらしきジャージ姿の蜘蛛妖怪らへ回している。
 道の真ん中でなにしてんだお前ら。
(……えーと、コレは完全に修羅場ってる作家……みたいな……?
 うん、他のコにした方がよさそーだね)
 鬼気迫る様子にさしものインディゴも目標を変え、いやこいつらごっこ遊びしてるだけですよ?
 そのまま物色を始めるインディゴの隣で、摩那も視線を左右に振っていた。
(スカートひとつを取っても長さ形がいろいろありますし。その中から好みのものを見つけるのも大変そうですね。
 なにより今、スカート持ってないし、着てないのです)
 再び自らの服装を見下ろして、蜘蛛妖怪たちに目を向けた。
 どこからともなく衣服を造り出す彼らの力があれば、好みのスカートを造り出すのも簡単ではなかろうか。
 摩那はふと思い至ってアイドルを演じる蜘蛛妖怪へ向かった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

御園・桜花
UCで情報集めた後
「それはパレオか…キルトかもしれませんね。ならば、トータルコーディネイトが必要かと」
目がキラン

「本来キルトは下を穿かないものだそうですけれど…上級者過ぎますでしょう?パレオ風にまとめてみましたの」
水着風に白褌と晒、派手なタータンの布地を長くパレオ風に巻きつつ大きく余らせた布をそのまま塗壁の肩から掛けて、はためかないよう褌の背中側でピン留め

「民族衣裳で拘りがあって性差に対する問題提起もある。本来膝丈ですけれどこの時期あまりに寒いですから、パレオ風に長く巻いて更にキルトらしく肩に掛けてピン留めしましたの。これなら貴方のお仕事の…この町の守衛らしさも増しますでしょう?」
うふふと笑う



●やっぱりアレ? ぬりかべさんの欲しいモノ。
「いっしやーきいもっ、おいも! おいーもっだよーん!
 ほっかぁ、あほっかぁないしいも。やきいしーっ! いもやき~いし! おやきっ!」
 なんかどんどんズレてるぞ。
 独特な音感で屋台を引っ張る焼き芋屋さん蜘蛛妖怪が行く手を遮り、摩那は思わずそれを目で追った。
 忙しそうに歌って踊るアイドル蜘蛛妖怪よりも、のんびり屋台を引く蜘蛛妖怪の方が頼み事をするには良さそうだ。
「ロングスカートいただけます?」
「アイヨッ、ロングスカート一丁! え、なんで!?」
 ほっかほっかな焼き芋とやらを取り出そうとした蜘蛛妖怪は驚いた様子で摩那を見上げた。なして石焼き芋屋さんにそんな物を求めるんだとばかりであるが、あまりにも当然と求められれば断る訳にはいかない。
 これならどーでい、とばかりに漢気に溢れた屋台のオヤジ蜘蛛妖怪が四本の足を天に掲げると、道の先から漏れ出る霧が集まり夜の闇を落としたような、黒のロングスカートが現れた。
「どーよ、ぴったりだしょだしょ?」
 ぴったりだしょだしょ。
「うーん、私のではなくて」
「だしょ?」
 ちらと向けた視線に気づいた蜘蛛妖怪は、なるほどと頷く。ぬりかべさんだ。
「私の為に作ってくれたようなぴったりだしょだしょな感じではなく、ゆったりした感じの、回ると裾が広がるような作りでお願いします」
「アイヨッ!」
 再び足を掲げてふわふわと漂う霧を凝結させていく。
 その間に摩那は霧の先である町の様子を蜘蛛妖怪に訊ねてみた。
「町の様子? そりゃもう大変だよ。なんだか皆が殺気だっててさー、霧が濃くなっただけで喧嘩っ早くなるなんて野蛮だよねー!」
 まるで霧の味方をするような蜘蛛妖怪。主観が凄く混じってますね?
 霧が濃くなれば視界も悪くなるし居心地も悪くなるであろうが、蜘蛛妖怪はそんな事、関係無さそうだ。
「町の真ん中が一番霧が濃くて、住人さんたちが一番殺気だってるんだ。気をつけた方がいいよー。
 ヘイ、オマチッ!」
「ありがとうございます。あら、綺麗な花柄ですね」
 ひらりと開けば明るい橙色のスカート。
 蜘蛛妖怪は摩那の言葉から連想して明るい感じにしたのだと言う。オヤジぃ、匠の技やんけ。
 蜘蛛にしては良い出来だと、何から何までの礼を述べれば「良いって事よ!」とばかりに再び屋台を引いて去って行く。
「…………、それにしても、きちんと布の手触りですね」
 間近で彼が作っていた衣を見ても、霞のようか物だと思っていたが。
 摩那は蜘蛛妖怪お手製スカートを畳み抱えて、道の先にぼーっとしているぬりかべさんへ向かった。
 一方、摩那の断念したアイドル蜘蛛妖怪に向かう男の姿。インディゴ・クロワッサンだ。
 彼はアイドル蜘蛛妖怪に熱を上げる観客蜘蛛妖怪に声をかけた。
「やーやー、そこの君」
「ランチュ・ラーちゃーん! 愛してるぞ~っ!」
『エル!』
『オー!』
「ねーねー」
『ブイ!』
『イー!』
『ラブラブ・ランチュちゃーん!』
「じゃあそこの君は?」
「何だよぅさっきから!」
「俺たちは観客役で忙しいんだぞっ!」
 めげずに声をかけ続けるインディゴに、さすがに気になったのか一部の観客蜘蛛妖怪たちが彼を取り囲む。
 こいつらサクラかよ。
「まーまー、ごめんね? 聞きたい事があっただけなんだ」
「聞きたい事?」
 こちらの言葉に耳を傾ける蜘蛛妖怪たち。素直な反応を示す者には、隠しだてせず素直に接するのが効果的だ。
 インディゴはぼーっとしているぬりかべさんを指し、彼の欲しがる物が欲しいのだと蜘蛛妖怪たちに説明する。
「ぬりかべさんかぁ。なんかスカートが欲しいような話だったよね?」
「ええ? 違うって言ってなかった?」
「そー言ってたけどよー、どー聞いてもスカートの話なんだよなー」
「私たちのスカートの穿き方がダメって話じゃないの?」
 混乱する様子の観客蜘蛛妖怪たちであるが、おおよその意見としてはスカートで一致しているようだ。
 目の前であれやこれやとやり取りしている蜘蛛妖怪たちとは別に、背後に聞き耳を立てるインディゴ。彼が注意を向ける背面にはエプロン姿の蜘蛛妖怪が買い物かごを片足に、同じ出で立ちの蜘蛛妖怪らと井戸端会議をしていた。
「ンマ~、オタクのタクちゃんたら町で殺妖事件を目撃したのね!」
「アラ奥さん、違うわよ。タクちゃんが言うにはそのろくろ首、生きてたんですってぇ~。怖いわねぇ!」
 何が怖いんじゃい。
「町の中央あたりの妖怪たちはもう、誰も彼もが妖怪を狙ってるんですって!」
「あんらまぁ~! じゃあ逆に言えばそうじゃない妖怪も?」
「いるんですってよぉ~、オホホホホホホ!」
 …………。
 何だろう。子供が親の真似しておままごとしているような様子であるが。
(なるほど、町の中央にいる妖怪たちはもう他人を信用してないってことか)
 ふむと頷いている間に蜘蛛妖怪たちも話がまとまったようだ。
 彼らはインディゴを囲んで、やはりスカートだと声を荒げている。
「きっとぬりかべさんに似合う、タイトでシックでアゲアゲなスカートがいいはずよー」
「いやいや、パンクで質素で趣深いのがいいんだって!」
「ふふふ、むしろフォーマルでビシッと決めたのが似合うはずですよ!」
『ないわー』
「なんで!?」
 再び加熱するスカート談義であるが、インディゴとしてはやはりスカートであったかと笑みを浮かべるだけだ。
(これ以上は情報も無さそうだし、ぬりかべの所に向かおうか)
 一先ず蜘蛛妖怪らにお礼を述べて背を向ければ、彼らも足を振ってインディゴを見送るが。
「……ぐぬぬ……私のファンたちをよくもっ……! おのれ猟兵っ!」
 ゲリラライブ中のアイドル蜘蛛妖怪だけは恨めしそうにその背中を見つめていた。


●ユーは何しにこの町へ?
「ギーギー、ギチギチ!」
(ふー、終わったわー)
 一仕事終えたとばかりに体を起こして、大きく身震いするアリス。自らの糸で作ったかごにどっさりと入れ込んだそれを頭に乗せて、アリスは足下に溜まる霧を不思議そうにかき混ぜ仲間たちと同じく進む。
「はー忙しい忙しい。道を歩くのに忙しい!」
 そんなアリスを横切ったのは何やら急いでいる様子の、というか急いでいる役の一般通行蜘蛛妖怪である。
「ギギッ、ギイィェエエッ! カチカチカチ!」
(あっ、一般通行蜘蛛妖怪さん!)
「ん? ひえっ!」
 アリスの、直接脳内へと語りかけるテレパスに視線を向けた一般通行蜘蛛妖怪はその身をびくりとすくませた。
 なんと、目の前には如何にもおどろおどろしい蜘蛛の如き巨大生物がいるではないか!
 お前らも大差ないぞ蜘蛛妖怪。
「カチ、カチ、カチ、カチ」
「……あ、あのう……何か……?」
 自分など簡単に切り裂けるであろう【鋏角】を静かに鳴らすアリスの姿に怯える蜘蛛妖怪。
 アリスと言えば空腹を感じて思わず見入ってしまったのだが、今その歯牙にかける訳にはいかないのだと我に返って首を振る。
「ギィッ、ギィー。ギチチッ!」
(この道の先にある町について教えて欲しいのー)
 具体的には地理、どのような特徴があるのかだ。
 アリスの風貌に警戒していた一般通行蜘蛛妖怪も、質問されるのは頼られた証拠とばかり、調子付いてこほんと咳払いをしてみせた。
「この町はベーゴマ床町! その名の通り道の先はすり鉢状の円い形の町になってるんだよ。
 真ん中に向かって地形が下がるようになってるんだ。だから霧も地盤の低い真ん中に集まって、濃くなってるんだよ。ちなみに町の真ん中は運動公園さ!」
「ギチギチッ」
(へー、そーなのねー)
 ところで。
 霧の中から現れた蜘蛛妖怪たち。アリスは霧の発生原因、ともすれば排除方法も知っている事件の根源なのではないかと睨む。
「霧の発生原因? それはねー、『朧化け蜘蛛・カスミン』という妖怪が原因だったんだよ!」
「ギチチーッ!?」
(な、なんですってーっ!?)
 がびーん、と衝撃を受けるアリス。別にショックな出来事などなかったのだが、とりあえずそうすべきという世の習わしに従ったのだ。
 習わしならしゃーないね。
「それでさー、排除方法はねー」

「状態変化?」
「ふぉふぉふぉ、左様じゃ」
 頓狂な声を上げたウタに、博士帽を被った博士蜘蛛妖怪はつけ髭を前足で器用に撫で付けた。
 この事件を巻き起こした犯人、その排除方法は至って単純。燃やして気化させるか凍らせて凝結させるかだ。
 霞雲の妖怪である彼らは状態変化を起こして雲として空に、あるいは水溜りとして地面に残る事になる。
 この状態になると彼らに取り憑いていた骸魂が対応できず離れてしまい、結果的に骸魂を祓う格好となる訳だ。
 気化して空に昇るにしても、凝結して地面に残るにしても霧として町を取り巻く事はないだろう。
 そう、この町を覆う霧とは、この妖怪によるものだったのだ。
 え、なに、知ってた? ですよね!
「手っ取り早く霧を払うには、町を燃やすのが一番じゃて」
「そんな訳にはいかないだろ、博士」
 思わず半眼で言葉を返し、「映え映え!」と言いながら自撮りする金髪のカツラを被った女子高生蜘蛛妖怪へ視線を向けた。
「そのベーゴマ床町、だっけか。そこから来た通行妖怪のあんたらなら、当然知ってると思うんだけど」
 広々とした場所で妖怪、主に蜘蛛妖怪が隠れられず霧を吹き飛ばすような風が強く吹いている場所とは?
 ウタの言葉に女子高生蜘蛛妖怪はアングルやポーズを転々と変えながら答えた。主に蜘蛛妖怪に関して聞いてるんだけど、こいつら気前いいな。
「ベーゴマ床町の中央運動公園に入る直前の辻よ! 東西南北四ヶ所あるんだけど、どれも隙間風になってて強風よ!
 映え映え♪」
「なるほど、隙間風、と。街路風みたいなもんか?
 ──おおっと、ちょっと待った!」
「うひあっ! ななななんですかい!?」
 いきなり呼び止められて驚いているのは郵便配達蜘蛛妖怪だ。飛脚のような格好で、先に箱のついた棒を背中に乗せている。
「この先の町、妖怪たちが疑心暗鬼になってるって聞いてさ。猟兵に協力してくれるような妖怪たちの居場所と名前って分からないか?」
「……うーん……名前は知らないが、町の出入口付近、円い町の外周部分に住んでる妖怪たちはまだ凶暴化してないみたいでさぁ。あっしもそこで手紙を預かったんでやす」
 ……お、お前……飛脚役じゃなくて本物の飛脚なのか……。
「そう言えば中央運動公園に繋がる東の辻には、霧から逃げた妖怪たちがシェルターに避難してるって聞きやしたよ」
「東の辻にシェルター、か。サンキュな、流石に町のこと良く知ってるんだな!」
『でへへ』
 照れたように笑う蜘蛛妖怪たち。そのまま一般通行蜘蛛妖怪として散り散りになる中、静かに孤立している蜘蛛妖怪。
 メイド姿でぴくりとも動かぬそれにウタは首を傾げた。
「何してんだ?」
「はっ、私にお声をかけて下さるとは、まさか貴方が私のご主人様!? 何なりとお申し付け下さい!」
「いや、まあ、うん。あー、うん。
 それじゃあこの町に霧を起こしてる黒幕ってどんな奴で、どんな能力を持ってるか知ってる?
 弱点とか、居場所とかさ」
 ふむ。
 メイド蜘蛛妖怪は空を見上げてしばし、頭の上をひらひらと飛ぶ蝶を前足で捕らえてもしゃりと小腹を満たす。
「この町に根差す悪ですわ、ご主人様。妖怪たちの不和を利用して一儲け考えているようです。
 弱点は私は知りませんが、恐るべき妖術使いと聞いていますわ。何でも周りの者を使い捨ての道具としか思ってなかったり、変身したり、呪いをかけたり、幻術で人を惑わすそうです」
 まだ町にいるとの事だが、一定の場所におらず位置を特定するのは難しいとの事。
 これ以上の情報を取得するのなら、町の中にいる蜘蛛妖怪、あるいは住民から聞いた方が良さそうだ。
「サンキュー。流石、俺のメイドだ」
「お力になれたなら」
 ぺこりと器用にお辞儀するメイド蜘蛛妖怪を背に、ウタはぬりかべさんの元へ向かった。
 それらを見つめていた蜜蜂は、濃くなり始めた霧と共に桜花の元へと戻る。彼女は新しい野花の蜜を与えて、蜜蜂に別れを告げた。
「…………、ぬりかべさんは足の隠れるスカートをお望み、と。それはパレオかキルトかもしれませんね。
 ──ならば」
 トータルコーディネイトが必要かと。
 目をキラリと輝かせ、跳ぶようにキャンピングカーへ飛び乗った。


●ショータイム・ぬりかべコーディネーター!
「……んー……」
「みーんみんみんみー!」
 ベーゴマ床町に続く唯一の道を塞ぐぬりかべさん。その後ろに張り付くセミ蜘蛛妖怪。……セミ蜘蛛妖怪……?
 そんな彼らの元へやって来たのは一台の桜色をした車である。
 タイヤで霧を引き裂いて真っ直ぐ突っ込んできた車は切られたハンドル続き前輪を回し、地面を削りながらぬりかべさんの前で止まった。
 ドアが開き側壁を展開し、中に詰まった衣服と共に運転席から降りた桜花は他の猟兵を引き連れ楽しそうな笑みを浮かべていた。
「ダラララララララ」
「ジャジャン!」
 突如囃し立てるのは、いつの間にかキャンピングカーの上にくっついていた二匹のボイスパーカッション蜘蛛妖怪。
 彼らの間からスーツ姿の司会蜘蛛妖怪が眼鏡をかちゃりとかけ直す。
「エントリーナンバー、一番。『冥界の迷い子』、黒木ぃいっ、摩那ぁぁぁ!」
「わーわー!」
「ぱーふーぱーふー!」
 下手いなボイスパーカッション。
 車の上でやかましい蜘蛛妖怪たちに迷惑そうな視線を送り、摩那は焼き芋屋蜘蛛妖怪から頂いた明るい色のスカートをぬりかべさんに手渡した。
 それだけではない。
「こちらもどうぞ」
 桜花コーディネーターによる薄い橙色の衣が対となる。濃いスカートの花柄を目立たせる配色のようだ。
 これらを身につけたぬりかべさんは、くるりと回ってにっこりと微笑んだ。
 風とともにふわりと広がるスカートの裾は、ぬりかべさんの足下の霧も合間ってどこか幻想的だ。
「……んー……」
「みんみんみみーんみんみんみんっ!」
 お前とっととどっか飛んで行かんかいセミ蜘蛛妖怪。
 着替えたぬりかべさんの服の上にしがみつく彼はまるで装飾品のようでもあるが、明るい色に黒っぽい蝉の色が良く似合う。
「まるで地上に咲く太陽の一輪、華やかかつ可憐!
 おっと満足そうなぬりかべさん。一人目からすでに好感触だーっ!」
 司会蜘蛛妖怪の言葉に、そこはかとなくこちらも満足そうな顔で桜花とハイタッチ。
「えー、続きましてエントリーナンバー二番! 狂科学者の愛娘、『貪食群体』っ。
 ァアリスゥ、ルァアヴァ~!」
「いぇ~い!」
「ひゅーひゅー!」
 キャンピングカーから飛び出したアリスは、「どーもどーも」と重戦車の装甲すら引き裂く鋭い爪の生えた【前肢】を振る。
「ギギギ、ギィイエエエエエエッ!」
(さーみんなー、スカートを穿いてぬりかべさんの表面をウゾウゾと這いまわるのよー)
(はーい)
 アリスの言葉を受けて、スカートを穿いた、と呼べば良いのか胴体の半分に布を巻いた幼き妹たちがぬりかべさん。の体を這い回る。
「ふふふ」
 ここで怪しい笑みを見せた桜花、ぱちんと指を鳴らすとキャンピングカーから飛び立つ色とりどりな花吹雪。
 否、スカートを穿いた蜜蜂たちがぬりかべさんの上半身を覆ったのだ。
 驚くように目を大きく開くぬりかべさんとさすがに逃げ出すセミ蜘蛛妖怪。
「……んー……」
 次々と移り変わる色に、きっと気に入る色があるはずだとアリス。
「まるで生きた服、発想の勝利、変幻自在のお洋服!
 なおアリスさんのお勧めは、『仄かに発光するタイプ』で、着用しても人体に直ちに影響はないからへーきだそうです」
 暗所で足元も照らせて便利だと語る司会蜘蛛妖怪。安全面について語れよ。
 半日もすれば構成する蜜蜂や幼虫がどこかに行きそうなお洋服だが、可能性は無限大だろうか。
「まだまだ行くぞう、エントリーナンバー三番! 『地獄が歌うは希望』ッ!
 ……木ぅ霊ぁぁぁ……ウーターッ!」
「やんややんや!」
「わっしょいわっしょい!」
 車から降りて、ウタは控え気味に片手を上げた。
 今回、ウタは最初から持参していたのは腰簑である。ハワイアンスタイルのカヒコなど古式フラに見られるものだ。
「こいつはどうだ? 大きくて長い蓑なら巻けるだろ」
「……んー……」
 ウタから受け取ったそれを素直に腰へと巻くぬりかべさん。桜花がそれをサポートしつつ、手首などにも巻き付けていく。
「さあ、これで思い切り踊ってくれ」
 ギター&インカムの【ワイルドウィンド】を弾くウタ。だがそれは激しいものではなく、警戒で、シンプルで、そして暖かな音であった。
「……んー……」
 ウタの奏でる音に吊られるように、腰を振りながら右へ左へゆらめき動くぬりかべさんは、優しいダンスを見せる。
「東洋と南洋のコラボレーション、楽器も合わせれば西洋もだ! 楽しげなぬりかべさんに癒されて、ショーコンテストはまだもうちょっと続くんじゃ!」
 司会蜘蛛妖怪がとんとんと車の屋根をつつくと、音に合わせて顔を見せる金の瞳。
「エントリーナンバー、四番、……『藍染め三日月』……!」
 イイイィインディゴゥ、クルゥワッスァアン!」
「ズンタッカ、ズンタカー!」
「フォオオウ!」
 キャンピングカーから降りたインディゴは笑みを浮かべると、両掌を合わせて乾いた音をたてた。
「薔薇を刻もう、【薔薇錬成(ローズ・アルケミア)】!」
 両掌間から生じた閃光が道に広がり、一瞬の後に彼の手にはワインのように深い赤色のスカートが現れた。
 これは模造品を造るユーベルコードだが、薔薇の紋章を誂える事で精巧性をあげる事ができる。
 同じ色で刺繍する事で、スカートに紋章を刻む。悪目立ちしないながらもしっかりと刻まれた紋章は気品を感じるほどだ。
「あ、リクエストあれば作ってあげるけど、何かリクエストある?」
「……んー……同じ色の……ノースリーブのジャケットが……欲しいんだよぅ」
 なるほど、ノースリーブの。え?
 インディゴは怪訝そうな顔をしたが折角のリクエスト、再びユーベルコードを使用する。
 光が収まり、そこには。
「あーっと、これはぁ! 勘違いスケバンのような紅一点、しかし上半身はバリバリの世紀末仕様!」
 赤いスカートと同じ袖無しジャンパーを羽織り、腰を深く落としたぬりかべさんはもはやヤンキーの様相である。
 しかしながらそこはかとなく満足そうにフンスと鼻を鳴らしている。
「それではいよいよ最後のコーディネーターが登場だ。
 エントリーナンバー五番! 『桜の精のパーラーメイド』!
 ……御ぃ園ぅうぅ……! 桜ぅう花あぁぁあ!」
「よっしゃーっ!」
「いっけぇえー!」
 す、と一礼する桜花。破魔の力を持つ銀盆に色とりどりの布を乗せた彼女の目が、ぬりかべさんの前でキラリと輝く。
 駆け抜けるメイドに空を舞う盆。
 目にも止まらぬ早業でぬりかべさんの背後に回り込んでいた桜花は、空から落ちてきた盆を片手で受け止めた。
「……本来キルトは下を穿かないものだそうですけれど……上級者過ぎますでしょう?
 パレオ風にまとめてみましたの」
 匠の笑みを見せた桜花が姿勢を正すと目線の先には着付けの終わったぬりかべさんが!
 ワザマエ!
 水着風に白褌と晒を体に絡め、派手なタータンの布地を長く、余裕を持ちパレオ風に巻きつける。
 大きく余らせた布はそのままぬりかべさんの肩から掛けて、はためかないよう褌の背中側でピン留めときっちりきちんの衣装揃えだ。
 思わず猟兵内からも感嘆の声が上がる。服装のセンスに声が上がったのかそれともその早業が評価されたのかはわからないが。
「民族衣裳で拘りがあって、性差に対する問題提起もある。
 本来、膝丈ですけれどこの時期あまりに寒いですから、パレオ風に長く巻いて更にキルトらしく肩に掛けてピン留めしましたの。これなら貴方のお仕事の、そう、この町の守衛らしさも増しますでしょう?」
 口許を押さえてうふふと笑う桜花。
 司会蜘蛛妖怪さん台詞を全部取られて息してません!
 ぬりかべさんは桜花が車から下ろしたバスケットを受けとると、摩那、アリス、ウタ、そしてインディゴの渡してくれた衣服もそこに収め、満足げに笑う。
 幼虫ちゃんと蜜蜂ちゃんの追い駈けっこが始まってるからヤバそう。
「……んー……」
 それを知ってか知らずか、ぬりかべさんが道を離れると今まで閉じ込められていた霧がぶわりと道へ溢れ出した。
 そう、事件解決の為に進むのはこれからなのだ。
「それじゃあ、気をつけてくれよ!」
「性癖は持って生まれたものですから、大事にして下さいね」
「帰りにまた何かあれば、リクエスト受け付けるよー」
「ギチギチ!」
(妹たちー、大人しくしてなさい!)
「それでは、また」
 猟兵たちは車の中から道の脇に座るぬりかべへ声をかけ、ベーゴマ床町へと発進する。
「……うぬぬぅ……折角の司会役の邪魔を……猟兵めぇっ!」
 その車を睨み付ける司会蜘蛛妖怪は、どろりと形を崩すと霧の中に消え去るのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第2章 集団戦 『朧化け蜘蛛・カスミン』

POW   :    我がお洒落に策など不要ッ!
いま戦っている対象に有効な【服装のカスミン】(形状は毎回変わる)が召喚される。使い方を理解できれば強い。
SPD   :    一番、カスミン! 歌います!
戦闘力のない【審査員風カスミン複数】を召喚する。自身が活躍や苦戦をする度、【審査員のシャレオツ評価】によって武器や防具がパワーアップする。
WIZ   :    僕が服になろう。こんな装いはどうだい?
非戦闘行為に没頭している間、自身の【オシャンティーなセンス】が【激しく光り】、外部からの攻撃を遮断し、生命維持も不要になる。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●恐怖、霧の町! カクリヨファンタズム奥地の秘境にオシャレグモは実在した!
 ぬりかべさんが道を譲った事で、霧の町へ進行した猟兵たち。
 町は深い霧に沈み、まだ夜でもないのに薄暗く、立ち並ぶ外灯がぼんやり輝いている。
 気配はする。しかし警戒しているようで、こちらに近づこうとする者はいない。
 町は珍しくも単純な構造をしており、ベーゴマ床町の名の通り、中央に向けて地盤の下がった緩い半円形の地形である。
 町を区分けする道も等分するような円周と、中心に向けた縦の道が東西南北に四本伸びる。
 一先ず中央を目指す彼らは、ざわりとまとわりつく気配を鋭敏に察知した。
 町に住まう妖怪らではない、悪意を持った無形の意志が取り囲み、同時に濃霧の中から色付くように現れたのは、様々な衣装を身につけた蜘蛛妖怪たちだった。
 否、正確には。
 彼らは蜘蛛ではなく、雲の妖怪。それが『朧化け蜘蛛・カスミン』の正体なのだ。
「くっくっく、罠だと知らずにやって来たな……ノコノコと……!」
 得意げに声をかけたのはぬりかべさんショーコンテストで司会を務めていたカスミンである。
 君たち理解してないようだけど、自分で用意した檻に猛獣とセットになってるんだからね?
「折角の司会役に大抜擢されたと言うのに最後の最後でジャマしよって!
 お前たちに恨みを持つ同胞を紹介しよう、行くぞ!」
 霧に溶け消えると同時に、今度は大量のカスミンが二列になって現れて口を開く。
「どぅんわっ、どぅんわっ、しやーてーりー」
「あーあーあー、あ~、おっ」
「どぅん!」
 相変わらず下手いなボイスパーカッション。
 列となったカスミンたちの声が順番に後方へと引き継がれ、最奥にスポットライトの光が注がれた。霧のせいで乱反射して眩しいっす。
 光に照らされたのはピンクの衣装に身を包んだカスミンの姿。
「はーい! 皆のアイドルっ、ランチュ・ラーでーす!
 皆、今日はアンコールありがとう!」
 体を揺らしてリズムを刻んでいたランチュはギラリと光る目で猟兵たちを睨み付けた。
「私のファンの心を一瞬とは言え奪った貴方たち猟兵は許さないわ!
 カムヒアッ、ファンの皆さま!」
 ランチュの言葉と同時に、空から蜘蛛が糸を伝うように降りてきたのは、屋台を引いていたあのカスミンだ。
「よくもランチュちゃんに恥をかかせたな! それに石焼き芋も買ってくれないし!
 このオヤジが相手だ!」
 知らんわい。
 ささっ、と手拭いを頭に巻いてオヤジ。トングを武器のように構えるその横に、黒っぽい何者かが飛び過ぎる。
「みんみんみーんっ!」
 セミカスミンだ。セミの着ぐるみに身を包んだカスミンは非難がましく猟兵たちを睨み付けている。みんみん言わずに喋れ。
 大方、ぬりかべさんショーコンテストでの一件で恨んでいるのだろうが、そんな事なんて知ったこっちゃーないのである。
「ふぉふぉふぉ、お初お目にかかる方もいらっしゃるのう。ワシはドクター・アシダカじゃ。よくもワシの知識を騙し取って同胞へ向けてくれたのぅ!」
 地面から沸き立つように現れたのは博士帽子を被ったつけ髭カスミン。まだ何にもしてないし、あんた町に火をつけろとかノリノリだったじゃん。
 そんな四匹のカスミンたちの前に改めて姿を表したのは司会カスミンこと。
「クモリだ。ここに集いし化け蜘蛛衆五傑! 貴様ら猟兵を骸の海に送ってやるーっ!」
 ばっ、と立ち上がり前足を広げると、左右に並ぶカスミンたちが独特なポーズを見せた。
 カスミンの列もまるでパフォーマンスを見せるかのように足を振り上げて彼ら化け蜘蛛衆五傑を強調しているようだ。
 まるでやっすいヒーローショーのようなノリを見せていただいた所であるが、敵が攻勢に出たことは間違いないのだ。
 猟兵たちは五傑を正面に構えを取るが、その周囲を囲う気配に対しても隙を見せる事はなかった。


・どこからともなく現れる、大量のカスミンとの戦闘になります。五傑は少し強い程度ですが、それ以外は猟兵と比較するには論外な弱さです。
・カスミンは物理攻撃に対して耐性がありますが、吹き散らせば簡単に無力化できます。また、熱気や冷気の状態変化で簡単に骸魂が祓える事が分かっています。
・濃霧により視界が悪いものの、町の中央運動公園に繋がる東西南北の道は強い風が吹き、霧が薄くなっています。カスミンの襲撃頻度も下がります。
・風は町の中央に向かって吹き込んでおり、他の妖怪はいませんがすり鉢状の中央公園は霧が一番濃くなっています。
・中央運動公園に繋がる東の辻、町の外周付近にはまだ疑心暗鬼に囚われていない、協力的な妖怪がいます。
・地理を無視して戦う(壁を壊すなど)ことは可能ですが、第三者妖怪が面白おかしなトラブルに巻き込まれます。
・カスミンを含む町の妖怪からボス妖怪の情報を入手する事が可能です。
アリス・ラーヴァ
アドリブ・連携歓迎

わー、面白い地形ーすり鉢状の地形は夏は蒸して大変そーねー
でも、中央に霧が溜まりやすいのは使えるかもー
まずは妹達を沢山呼んで自慢の前肢で『カスミン』さん達を吹き散らしちゃいましょー
吹き散らして雲になったら、本日の目玉商品の登場でーす
じゃーん!【アリスの糸】で織った巨大うちわー!
さーみんなー、得意の【団体行動】でうちわを扇いで霧を中央公園に集めましょー
霧が中央に溜まったらパパにお願いして衛星機動兵器で焼き払うのよー
とりあえず死んでしまわない程度に軽く炙る感じでいきましょー
炙り終わった『カスミン』さんは安全な場所に仕舞っちゃいましょーねー
仕舞うついでにボスの情報も聞けるといーなー


インディゴ・クロワッサン
「ふぅん…やる気なんだぁ」
舌舐りをして(うっかり恐怖を与えつつ)愛用の黒剣:Vergessenを構えたら【衝撃波/吹き飛ばし】で周囲の霧ごと吹っ飛ばしちゃおーっと!
「なら、僕は容赦しないよ?」
で、相手が体勢を立て直している間に、UC:燃え盛る真紅の薔薇 を使って、霧だけ燃やしちゃえばイイだけの話だよね☆
「いや~、UCって便利だねぇ~」(首から燃える薔薇が滴っている)
襲いかかってくる連中は黒剣で【なぎ払った】り、鎖付きの短剣:Piscesをぶん回す(ロープワーク/範囲攻撃)事でちょっと風を起こしたりしてぼっこぼこにしながら、とりあえず霧を焼いていっちゃいますか!
「流石に焼却は…止めとこーっと」



●霧の町はうきうきウォンチュ!
「ギチギチ、ガチチッ!」
(わー、面白い地形ー。すり鉢状の地形は夏は蒸して大変そーねー)
 周囲を見渡して鋏角を鳴らすのはアリス・ラーヴァ(狂科学者の愛娘『貪食群体』・f24787)。
 敵を前にして余所見するなどと嘗めた態度だ。アリスの行動に語気を強めるカスミンたち。威嚇するかのように前足を上げたりお腹を逆立てたり洋服の毛玉取りローラーを構えたりと三者三様の反応を見せる。
 どっちが嘗めとんのじゃい。
 そんなカスミン集団の様子にインディゴ・クロワッサン(藍染め三日月・f07157)は思わず舌舐りして目を細めた。
「……ふぅん……やる気なんだぁ」
「ひえっ」
「サイコパスっぽい!」
「ふぉふぉふぉ、こういうのは猟奇的と言うんじゃよ」
 たじろぐ名も無きカスミンたちへ訂正の言葉を送るドクター・アシダカ。そんな説明が何になるのだとランチュは叱責しつつマイクを構えた。
 お前こそそのマイクは何になるのだ。
「要は相手にとって不足はないって事でしょ! 絶対に負けないわ!」
「イヨッ、激しいランチュちゃんも可愛いよーっ!」
 合いの手を入れるオヤジの姿に、黒木・摩那(冥界の迷い子・f06233)は周囲を取り囲む気配へ油断なく意識を散らして笑みを見せる。
「貴方たちは先程の蜘蛛妖怪。どうやら他の方たちともお知り合いのようですね」
「やや!? そういうお前さんは食い逃げ犯!」
「違いますけど?」
 さも当然と記憶違いを起こしているオヤジに冷めた目で訂正すると、そうだっけと小首を傾げる。怒りのままに罪状を捏造するんじゃない。
 しかし、それはそれ。これはこれとばかりに摩那は化け蜘蛛衆五傑へ頭を下げた。
「お陰でぬりかべさんの願いを叶えることができました。ありがとうございます」
「ほっ? へへっ、そう面と向かって言われちゃあ、悪い気はしないね!」
「なぁに敵にほだされてんのよっ!」
 鼻の代わりか照れた様子で顎をさするオヤジにランチュがマイクを投げつけた。
 慌てて頭を下げたオヤジに愉快な奴らだと苦笑するのは木霊・ウタ(地獄が歌うは希望・f03893)だ。
「それでも、あんたたちはオブリビオンだ。
 その骸魂を海へ送ってやる。憑かれた妖怪は開放させてもらうぜ」
「ほほう、それがお前たちにできるかな?」
 挑むウタの言葉を目にしても、不適な自信を見せつけたクモリはサングラスをかけると前足を振り上げる。
「それじゃあ皆、猟兵と戦ってくれるかな!?」
『いいとも~っ!』
 元気溌剌な掛け声と共に、周囲の霧からカスミンたちが猟兵に向かい襲いかかるのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

御園・桜花
「皆様ご無事ですか?」
まず町外周&東辻の無事な妖怪を確認
怪我人がいればUC「桜の癒やし」
治療後は肩を軽く叩いて起こし話を聞く
「私達はあの道から参りました。彼処からなら外に出られますので、避難されては如何でしょう」
カスミン以外の暴れている妖怪や普段見かけない妖怪がいたか、気になることがあったか、話を聞いたら避難勧める

「貴方達が目を覚ます前に解決するよう努力しますね」
カスミン以外の狂乱者見かけたらUCで眠らせ隅に寄せる

カスミン達に会ったら高速・多重詠唱で弾丸に炎属性乗せ制圧射撃
行動阻害で仲間の行動補助
骸魂抜けたのを確認出来たらUCで治療

「貴方達の願いが、今度は叶いますよう」
戦闘後
鎮魂歌歌い送る



●爆走カー・イン・霧の町!
 深い霧を行く女が一人。行灯を手に、白い闇の如き道を行く。
『……ふふふふふふ……!』
「だっ、誰!?」
 昭和観溢れるテイストで霧の中から現れたのは、黒いマントにスーツで身を包んだカスミン。口から覗くつけ牙を行灯の光にきらりと輝かせ、ばっさばっさとマントを羽ばたかせる。
「きしゃーっ、血~吸うたろかーっ!」
「きゃあああああっ!?」
「ぎえーっ、顔が無い!?」
 落とした行灯に照らされるのっぺらぼうに、つけ牙を落として仰向けに転がるカスミン。
 落ちた行灯が破けて火に包まれると同時に、地面を抉る音ととにドリフトをかましたピンクの車が腰を抜かしたカスミンごと行灯を引きちぎる。
 上手い具合にばらけて消火されたそれに、ほっと一息を吐いて顔を見せたのは運転手の御園・桜花(桜の精のパーラーメイド・f23155)だった。
「ご無事ですか?」
「え、ええ。あのでも今何かお轢きになりませんでしたか?」
「いえ、彼らは──」
 言葉を濁しながらも指摘するのっぺらぼう。桜花はそれを訂正しようと口を開いたところで、気配を感じて振り返る。
 そこにはタイヤの下から沸き上がるように現れたカスミンが、ばらばらになったはずの体を霧のようにして集め実体化していた。
 やってくれたな、そう言わんばかりの目で桜花を睨み付け、再びマントをばっさばっさと羽ばたかせた。
「こんにゃろー、血ぃ吸、…………!
 あり? 牙どこだ?」
 つけ牙を探すカスミン。自前の牙のが鋭いよ。地面に降りてあちらこちらを行く化け蜘蛛を運転席から見下ろして、桜花はとりあえずと助手席から【軽機関銃】を取り出す。片手でも扱えるサイズで、運転席から撃つにはぴったりだろう。
 つまりお前は的って訳さ!
「炎よ、我が前に立ち塞がる敵をことごとく薙ぎ払わんが為に──、ファイヤー!」
「どわーっ!?」
 容赦なく浴びせられる鉛弾は熱く焦げて、道路に無数の炎を刻む。
 同時にカスミンの体は音をたてて消えていく。まるで水が蒸発でもするように。
「じっ、銃刀法違反!」
「ご安心を、私は猟兵です。
 先程の化け蜘蛛は骸魂に飲み込まれてしまった妖怪、彼らがこの町の異変を引き起こしているのです」
 猟兵という言葉に警戒を解いたのっぺらぼうだが、すぐに周囲を取り囲む仮装化け蜘蛛に気づいたようだ。
 不安げにこちらを見つめる。…………、見つめてるんだよね?
「ぬっふっふ。脳みそをよこせー!」
 フランケンシュタインの怪物を模したであろう、頭の両サイドにネジをつけたカスミンが襲いかかる。
 ゾンビと間違ってないかこいつ。
「車に乗って下さい、脱出します!」
「は、はいぃっ!」
 開いたドアから慌てて助手席に飛び乗るのっぺらぼう。桜花は前面に迫るカスミンの群れ目掛けて弾丸をばらまきつつ、ハンドルを切って急カーブを行う。
 タイヤが路面を滑る嫌な音とともに、霧散した第一陣の霞となったカスミンを蹴散らし、更に迫るカスミンたちをかわし路地へと抜ける桜花。
 カスミンカスミン単語が多いぞ!
「ふう、なんとかまけましたね」
 後方を流れた霞蜘蛛をバックミラーに、桜花はひっそりと息を吐く。ちらと横目に見ればのっぺらぼうはショックを受けている様子で、ぼんやりとしていた。
 ぼんやりしてるんだよね?
「あのお化け蜘蛛以外にも、暴れている妖怪や普段見かけないような、そんな妖怪を見ませんでしたか?」
「私は特には。ただ、私の息子が何か、変な音を聞いているんです。それで今日はその正体を確かめるんだって、外に」
 なるほど、更にその息子を追って外に出た訳か。
 桜花は頷きハンドルを切る。
「中央公園に向かう東辻に、無事な妖怪が避難されているそうですから、そこへ向かいましょう」
「あ、ありがとうございます!」
 頭を下げるのっぺら母さんに笑みを返せば、その耳に声が飛び込んだ。
「みーんみんみん、みーんみん!」
「むむっ、セミカスミン!」
 車と並走するように現れた着ぐるみカスミンの飛行速度。それ本当に着ぐるみかよ。
 どうやらファッションショーで大好きなぬりかべさんの背中から蜂に追い払われた事を根に持っているようだ。
「屋根の上を飛ばれては銃を当てられませんね。どこかに掴まっていて下さい!」
「ははは、はいぃ!」
 のっぺら母さんの返事を聞くやいなや、桜花はアクセルを踏み込んだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

木霊・ウタ
心情
愉快な奴らだけどオブリビオンだ
骸魂を海へ送り
憑かれた妖怪を開放するぜ

戦闘
殺気だった住人達を
戦いに巻き込みたくないから
敵の攻撃をいなしながら
辻の方へ誘き寄せ

序にシェルターの妖怪たちへ
声を掛けて勇気づけも

霧が元凶だ
炎か氷で払える
すぐに済むから身を守っていてくれ


ってわけで
親切に教えてくれた弱点を活用させてもらうぜ

ギター奏で
空気を伝わる音色
つまり音波に炎纏わせ紅蓮の旋律とし
音と共に焔渦を広げ
カスミンを気化させる

蜘蛛のみならず
霧そのものも燃やして同上だ

霧が消えたらお前たちのボスも
隠れ場所がなくなって丸見えかもな?

事後
鎮魂曲を奏でる

住民達から妖術使いの情報収集
居場所とか正体とか心当たりはある?


黒木・摩那
あなた達は先程の蜘蛛妖怪。おかげでぬりかべさんの願いを叶えることができました。
ありがとうございます。
次は私達の願いをかなえるため、ここであなた達の骸魂祓わせていただきます。

ヨーヨー『エクリプス』で戦います。
UC【トリニティ・エンハンス】を発動して、ヨーヨーに【水の魔力】を付与します。
これで触れたら張り付く冷凍ヨーヨーの出来上がり。あとは【重量攻撃】も付けて、威力あげます。
マジカルボード『アキレウス』に乗れば、風を利用して【ダッシュ】も効率よく使えそうです。
カスミンはたくさんいるので【なぎ払い】を駆使しながら祓っていきます。

そうそう。今回の騒動の元、ボス妖怪はどんなのなの?



●激闘? 化け蜘蛛衆五傑・前編!
 さて。
 踏み込む足も真っ直ぐに、インディゴが正面へ堂々と進めば、そそくさと後退するカスミンたち。
 怖がってますねぇ!
「ああもう、何してるの!」
「だってアネゴ、あの猟兵こあいっス!」
「アネゴじゃないよ! アイドルのランチュちゃんとお呼び!」
 鞭をぴしりと振るっていそうな台詞を並べて怖じけた有象無象のカスミンを叱責するランチュ。
 だが先刻、彼に刻み付けられた恐怖は抜けていないようで攻撃の姿勢が整わないようだ。
 その様子にインディゴは肩越しに振り返る。
「ここは僕だけで抑えられそうだ。手分けしようか」
「そうですね。この霧が町の全てを覆っているなら、相当数のカスミンがいると思っていいでしょうし」
 声を潜めた青年に小声で返し、摩那は頷いた。
 敵の注意も恐怖するインディゴと、叱責するランチュとに別れている。
「散らばるなら、今だな」
 二人の言葉に賛同するウタ。彼としては町の住民が気がかりな様子である。
 絡む視線が周囲へ散った時。
「あーっ!? 逃げられちゃったじゃないの!」
「えー、だってさー」
「ねー?」
 散開する猟兵たちの姿に気づいたランチュが声を張り上げるが、カスミンたちはしゃーないやんけとばかりにインディゴに近づこうとしない。
 このままでは埒があかない。
 ここでくるくるとマイクを器用に回して口元に当てるランチュ。
「私の歌で皆に勇気を上げるわ!」
「ひゅー!」
「ランチュちゃん最高~!」
 感情がある以上、恐怖は避けられないと言える。同時にその心を鼓舞することも出切るのだ。
 そう、多くの感情を揺さぶる力、それこそが歌唱であり。それを力に人々を集める偶像、それこそがアイドルである。
 ちなみに彼女はアイドル役なだけです。リズムを刻んで右に左に体を揺らし、お腹を揺らして場を盛り上げて。
「さあいくわよっ、春のファーストアルバムより『あなたの心にアルファ・ラトロキシン』!」
 毒やんけ。
 しかし彼女が言葉と声を音楽へ変える間もなく、急激に発達した風が衝撃波となりランチュを含む取り巻きカスミンたち、更には周囲の霧を巻き込んで吹き散らしてしまった。
「ぴえ~っ!」
 悲鳴を上げて虚空へ消えたカスミンらを見送り、インディゴは彼らへ切っ先を向けていた愛用する黒の直剣【Vergessen】を、ランチュのマイクパフォーマンスに対抗するかの如く、くるりと回す。
 鍔の中心に刻まれた藍薔薇の紋章を指で撫でる。
「僕は容赦しないよ? と、言うのが遅かったかな」
 小さく笑う間にも吹き抜けた霧の跡を埋めるように、音なく流れ込む濃霧。ざわりとした気配を感知して視線を向ける。
 集う濃霧の中から顔を覗かせたのはランチュだった。吹き飛ばされた彼女も霞雲と化した体を必死に集めているようだ。
「なるほど、まだ万全の体勢じゃないワケだ。それなら!」
「ちょっ、何やって──、っきゃーっ!」
 愛剣を自らの喉元に当ててすらりと引き裂く。目の前で起きたショッキングな出来事に顔を隠して悲鳴を上げるランチュ。俺でもそうする。
「君は燃え尽きるべきだよ」
「へ? みぎゃわー!」
 首筋から零れたのは血ではなく、炎に紅く燃える薔薇の花弁。風と共に走るそれがランチュの額に貼り付いて、そのまま燃え上がった。
 ユーベルコード、【燃え盛る真紅の薔薇(バーン・クリムゾンローズ)】。自ら引き裂いた傷より放つ死の花弁は、インディゴの意思通りに動くのだ。
 それにより燃え上がったランチュの体は即座に蒸発し、濃霧に消えていく。
 一瞬にして揮発したその体からは骸魂は抜けて、彼女も元の妖怪たる朧霞雲として空へ上ったことだろう。
「ラ、ランチュちゃーん!」
「うぬれ猟兵ぃ~!」
 激昂するカスミンたちが続々と霧から現れるが、ものの数ではないとインディゴは不適な笑みを見せた。
「いや~、ユーベルコードって便利だねぇ~」
 首から未だに滴る燃えた薔薇は、周囲を取り囲う霧のみを燃焼していく。
 これでは近づけないと威嚇するカスミンたち。この難局をどう打開するのか。取るべき策は?
 ──否! 策など不要、我がお洒落道に不可能はない!
『うおおおおぉおぉおおっ!』
 一斉に空へ向けて咆哮するカスミンにインディゴが剣を構える。その目前で、ぽぽんと霧から現れたカスミンたちは、藍色の薔薇のコスチュームを身に付けていた。
「!?」
「なんじゃこら?」
「さあ? あっ、猟兵の奴の様子がっ!」
 藍薔薇から頭と手足を出しているような格好のカスミンたちに、苦い顔を見せたインディゴは花弁から拡散する炎を消失させた。
 カスミンたちは顔を見合わせると、この格好が効いてるのかとほくそ笑む。
「どうした猟兵こんにゃろー」
「薔薇がこあいのか~?」
 挑発するように花弁を抜き抜き、ばっとインディゴに投げつける。
 地雷踏みましたね?
「それーっ、わっぷ!?」
 怯んだ今がチャンスと突撃したカスミンを素手で捕らえて持ち上げる。
 そのまま黒剣を一閃し、カスミンの首と胴体を別けてしまう。
 本来ならば致命傷だが、霞雲の化身たるカスミンらには傷にもならない。しかし。
「あっちちち! あつあつ!」
 捕まれた頭部はそのまま燃え上がる。揮発したそれに、えっ、とばかりに見入るのは薔薇カスミンたち。
 それらを見つめて笑みを浮かべたインディゴの周りには、美しい紅薔薇が渦を巻いていた。

 遠くで上がる火の手に気づいた摩那は、やはりそれらが有効なのかと駆け足のまま思考する。
 白い濃霧に反射して、ぼんやりと輝く空の色から目を逸らし、濃度を増していく霧にヒーロー戦争で入手した超可変ヨーヨー【エクリプス】を構える。
 打撃武器としては勿論のこと、ちっとやそっとの扱いで壊れる事のない頑丈な造りとなっている。なおその素材は不明である。
「食い逃げ犯め! ここで会ったが百年目!」
「違いますけど?」
 摩那と並走するようにふわりと霧の中から顔を出したオヤジに摩那は目を細めた。
 そうだっけ、とばかりに首を傾げたのも束の間、すぐに気を取り直して濃霧の中から他カスミンを引き連れて躍り出る。
「化け蜘蛛組体操其の一! 蜘蛛サボテン!」
『ハイッ!』
 オヤジの言葉に合わせて摩那の走る道を通せんぼするカスミンたち。
 彼らは一列に並ぶとその上に更にカスミンが並び、蜘蛛の身体構造を無視したかのような見事なサボテンを披露する。ボイスパーカッション以外はパフォーマンス良いなこいつら。
「どーよ見たかコンニャロウッ。この十点満点のサボテンを!」
「はあ」
 プルプル震えているカスミンの前で、どややっと偉そうにしているオヤジの姿にとりあえず拍手を送ると、嬉しそうにするカスミンたち。
「それでは、次は私たちの願いを叶えるため、ここであなたたちの骸魂祓わせていただきます」
『ええっ!?』
 摩那の言葉に驚いたのか、組体操の列にも動揺のうねりが見えた。まるで攻撃されないと思い込んでいたようだが、むしろなぜ戦闘にならないと思ったのか。
 エクリプス構える摩那にオヤジは身を低くし跳躍の準備をする。
 後ろの組体操はなんかもたもたしてる。
「……まさか、戦う運命だった……。ふっ、なんてな!」
「!」
 オヤジが後方に飛んで組体操の列に乗ると同時に、背後に感じた気配。
 伏兵だ。
 先程の様子も、伏兵の準備が整うまでこちらを油断させるための演技ということか。
 お間抜けな態度も様になっていたが、蜘蛛らしく狡猾な相手だと内心ほぞを噛み、気配に向かって振り返った。
『どうだーっ!?』
 見ればそこには人間ピラミッドならぬ蜘蛛ピラミッドを行うカスミンたちの姿が!
 何しとんじゃい。
 無言で肩越しに見れば、何故か満足げなオヤジの姿。
「…………、凍てつく息吹よ我が手足に。【トリニティ・エンハンス】!」
 エクリプスへ冷気が宿ると同時に空へと走らせ、大きく振るえば薙ぎ払う。
「ぬわ~っ!」
「いやーん!」
 ピラミッドを披露していた方のカスミンは悲鳴を上げて散らばるが、すぐに元の形へと戻っていく。
 さすがは雲の妖怪と言った所だが。
「ふはは、べらんめい! そんな攻撃しても無駄だー!」
「試してみますか?」
 摩那はエクリプスと右手の指とを繋ぐ紐を左手で摘まみ、複雑な軌道に変えて動きに激しさを増す。
 そんなものが一体何になるのかと笑うオヤジ。しかし。
「あ、あり?」
「ありりりりー!?」
「体が小さくなってる~!」
「な、なんじゃこらー!」
 クモなのにアリとはこれ如何に。元の姿に戻る度に明らかに小さくなるカスミンたち。
 それもそのはずユーベルコード、トリニティ・エンハンスで凍気を宿したエクリプスによって冷え冷えになったカスミンたちの体は凝結し、水滴となって弾き飛ばされているのだ。
 その為、体が復元できずにどんどん小さくなっているという訳である。このままでは体を失った骸魂はカスミンから離れるしかない。
「おのれ、こうなれば!」
「むっ!」
 飛びかかるオヤジに手首のスナップを効かせて脇の下から潜り抜けるようにエクリプスを飛ばす。
 それは迫る蜘蛛を問題なく捉え。
「あまーい!」
 ぼわんと拡散したオヤジの姿。直撃により倒したかと思えばそうではなく、手元に戻るエクリプスに布が巻き付いていた。
 デフォルメされた蜘蛛の刺繍のされた、エクリプス用の服とでも言おうか。
「どーよこの溢れ輝くセンス・ザ・オシャンティー! 今の俺は無敵ッ! 冷気など効くものかッ!」
「ふむ、確かにこれは可愛いかも知れません」
「だしょだしょ!?」
 完全に無敵状態となったオヤジであるが、ただの布だから別に冷気を封じこめる力もなく、ヨーヨー型のエクリプスが回らないようにしたかと思えばその形跡もない。
 機能と見た目を両立させる。それこそがオシャンティー道なのだ。
「つまり何の問題もありませんね!」
「ぐわぁぁ~ッ、しまったーッ!」
 次々と同胞を祓うエクリプスにへばりつき、オヤジは自らの失策を嘆いた。

 化け蜘蛛衆五傑とその他のカスミンたちが次々と祓われる中、霧の町を散策していたアリス・ラーヴァ。
「ギチギチ!」
(中央に霧が溜まりやすいのは使えるかもー)
 霧の町の特徴を把握して、アリスは周囲を見渡す。
 白に覆われた深い霧。彼女はこちらを遠巻きに見つめるカスミンたちに気付いていたようだ。
 それを察して空からぶら下がるように現れたのは、ドクター・アシダカである。
「ふぉふぉふぉ、お嬢さん。最初から地形を気にしているようじゃったのう。一体、何を企んでいるんじゃ?
 いや、説明は要らんよ」
「ギチ?」
 右に小首を傾げたアリスにアシダカは前足を上げる。その先に乗るのは小さな手帳。
 彼は眼鏡をかけ直すと手帳を顔へ近づけた。
「子、いわく。……『速さが足りない』、と……!」
「ギチチ?」
「ふぉふぉふぉ、ちょっと待つんじゃよ」
 今度は左に小首を傾げたアリスに、アシダカはタンマを宣言すると背を向けて手帳を物凄い勢いでめくり始めた。
 前以て準備するか付箋の用意をしておくんだぞ。演出なんて二の次、それが仕事をする上での約束ごとさ。
「えーっと、赤いのは三倍速い、じゃないし案ずるより産むが安いから買い倒せ、でもないし、あれー?」
 こいつも所詮は博士役でしかないのである。
 しばらく悩んだ様子のアシダカがちらと振り返れば、待機中のアリスにこれ以上待たせられないと向き直った。
「ふぉふぉふぉ、まあ速いのは良いことでっせ、みたいなアレじゃよアレ。お嬢さんの説明を聞く間にもちゃちゃっと倒してしまった方が良い感じじゃろ?」
「ギチギチ、カチッ、カチッ」
(もしかして、『先手必勝』って言いたかったのー?)
「それだーっ!」
 すっきりしたと朗らかに笑うドクター・アシダカ。隙だらけなその姿に、アリスは特に気配を殺すでもなく近づいて口を開く。
「ガチーッ!」
「っ、きゃーっ!?」
 お腹を丸々食われて悲鳴をあげたアシダカは意に介せず、ガチガチと鋏角を鳴らし咀嚼している様子だが、その口から霧が漏れだし、食べ応えの無さにアリスも不満そうである。
「いきなり何をするんだね君は!」
「ギギギ、ギィイエエエエーッ! ガチガチ!」
(カスミンさんのお話から、アリスも先手必勝を学んだのよー)
「ぬぬぅ、これが策士策に溺れるというものかッ!」
 アシダカせんせー策を弄してないじゃないですか。
 怒るアシダカが前足を振り上げると、それを合図に道路や塀からカスミンたちが実体化していく。
 捕食者であるアリスに怖がっている様子も見受けられたが所詮は一匹、群れたる自分たちの敵ではないと誤魔化しているようだ。
「よ、よーし、行くぞー」
「お、おう、お先にどうぞ?」
「えっ。一緒に行こうよぅ」
「……えー……? 仕方ないかぁ」
 やる気無さすぎカスミンたち。
 こちらを取り囲み、そろそろと近づくそれらを見渡していたアリスは、彼らが一定の距離に迫ると同時に大きな声を上げた。
 途端に身を伏せたり驚いて仰向けに転がったりと様々な反応を見せるカスミンたち。戦う前に勝負は決してますね。
「ふぉふぉふぉ、落ち着くのじゃ。所詮はただのこけおどし、こんなものどうともあらん」
「さっすが五傑の一角!」
「観察眼は蜘蛛八倍!」
 六十四個ぐらい目があるのかな?
 カスミンたちの声に煽てられて、照れるアシダカの後ろに佇むアリス。動きの止まるカスミンたち。
「ん? どうしたんじゃ?」
「…………、ドクター。死んだ振りって今からやっても有効かな?」
「何を言って、ハッ?」
 気配に気付いたのか振り向いた先には、やはりアリスの姿。馬鹿な、今取り囲んでいる最中だと言うのに。
 そう囲んだアリスへ視線を向けて、絶句する。
 自分たちを取り囲む、アリスとそっくりの捕食者たちの姿に。
 カチカチと鋏角が打ち鳴らされて、ようやく他のカスミンたちも包囲された状況に気付いたようだ。
 慌てた様子でおたついている。
「ド、ド、ドクター・アシダカ~!」
「ふ、ふふぉう、ふぉふぉっふぉっ、あわっ、わあわわわてるんじゃありません! 諦めたらそこで蜘蛛生フィナーレじゃよ!」
 もう終わってるみたいですね。
「ギチチーッ!」
(みんなー、準備はいい~?)
(はーい!)
 アリスの言葉に答えた彼女たちはそう、アリスの妹たちだ。成虫となったことで群体の司令塔たるアリスと全く同じ姿になるのである。
「ギエェッ、ギイイイイイイイッ!」
(みじん切りよー!)
 アリスの号令により始まった彼女らの前肢によるミキサー運動は風すらも起こし、逃げようとするカスミンたちを引き寄せて次々と細切れにしていく。
 怖い。
「みゃあああっ!? く、くそぅ、だがしかし、我々カスミンにそんなものは通用しないっ!」
 自身も刻まれつつ語るのはドクター・アシダカ。でもそんなこと他の皆さんも言ってましたよ?
 吹き散らして霞となってしまわれたカスミンたち。ここでアリスは体の下からごそごそと何かを取り出した。
「ギチチーッ! ギエエエィ!」
(じゃーん! 本日の目玉商品、巨大うちわの登場でーす!)
 アリスの糸で織られたそれに、妹たちも倣って腹の下から取り出す。
「…………、うちわ? ま、まさかっ」
「ギィイエエエエエエエエッ! ギィーッ!」
(さーみんなー、得意の連携でうちわを扇いで霧を中央公園に集めましょー!)
(はーい!)
(そーれそれそれ~)
「や、やめ、ひゃーんっ!」
「うわーっ!」
 つけ髭まで飛ばされて、ドクター・アシダカと彼に続くカスミンたちは風に運ばれてしまうのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『南の幹部妖怪』

POW   :    チャム・ティアム
【隠の面を装着し怪力を有する人鬼変身】【申の面を装着し棒術の得意な妖猿変身】【辰の面を装着し空を飛ぶ昇龍変身】で自身を強化する。攻撃力、防御力、状態異常力のどれを重視するか選べる。
SPD   :    モー・タム
自身が装備する【様々な呪符】をレベル×1個複製し、念力で全てばらばらに操作する。
WIZ   :    モー・マウ
攻撃が命中した対象に【先視水晶による嘘の未来の幻視】を付与し、レベルm半径内に対象がいる間、【視界、精神に次々と発生する幻覚】による追加攻撃を与え続ける。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠大門・有人です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●激闘? 化け蜘蛛衆五傑・後編!
「……一枚、二枚、三むぁい……五十八枚足りないっ……! なんで手を滑らせてしまったの!」
 どんだけ滑らせてんねん。
 しくしくと泣いていた白装束は、不意に顔を上げるとぎらりと目を光らせた。手にした高枝切鋏を振り上げる。それ突き刺す方がいいと思いまーす。
「お前のせいだぁあ!」
「人のせいにすんじゃねえオバさんっ!」
「キィイイイイイイッ!」
 オバさんぶち切れである。
 必死に高枝切り鋏を叩きつける幽霊女に慌てて避けるのは小さな影。
 ヒステリックな人ってやあねえ。
「ちょいと失礼っ」
「なっ、へぶぅ!」
 あわやという所で子供をかばい、鋏を背負った剣で受け止めたのはウタである。
 直後には流れるように当て身を入れて、女幽霊を気絶させた。怪我はしないよう気を付けたようだ。
 助けられた子供は驚いてその頭を上げるがそこに顔は無かった。
 のっぺら息子じゃん。
「お、お兄ちゃんは誰?」
「猟兵だ。ちょっと失礼するぜ」
 有無を言わさず小さな体をひょいと抱え上げ、走り出すウタ。その背を追うのは濃い霧であった。
「な、なんだ!?」
 流れ迫る霧から逃れるべく走るウタは、小さな体を背中に回し落とさないようにしっかりと支えている。
(やっぱりこっち狙いか。このまま住民たちと離す、のはいいけど)
 流れで拾ったのっぺら息子に目を向ける。そのままにしておいては先の如く、他の住民に襲われる可能性もある以上は仕方のない事だろう。
 確か東辻にはシェルターがあるのだったかと、少年の処遇を考えていると目の前に凶悪な鉤爪が現れて咄嗟に仰け反りこれをかわす。
「ようやくおいでなすったぜ!」
「呼ばれて飛び出てジャジャジャジャーン!
 司会進行役にして夜道のストーリーテラー、クモリです!」
 黄泉路の案内人とかじゃなくて?
 霧の中から前足を振るったクモリに呼んではいないとしながらも四方から襲い来るカスミンを蹴り倒す。
「なんだなんだ、その程度か?」
「ほう?」
 軽口を叩きながら逃走を続けるウタの姿に、クモリはサングラスをかけ直した。
 こちらと戦う意思を見せなかった事を訝しんだようだ。
「くっくっくっ、何を思ってか知らんがこのクモリ! 安っぽい挑発などステキングラサンをかけた私には通用しない!」
「さすがに蜘蛛に人間用のサングラスは似合わないと思うぞ?」
「ねー?」
「ビークワイエット・マザーファッカーッ!!」
 蜘蛛なのに怒ってるとすぐに分かってしまう程の表情の変化を見せて、ウタへ追撃するクモリ。
 カスミンたちはリーダーの突撃あらばとその後をカサカサついていくのみ。
「上手いこと釣れたな。ちょっと怖いかも知れないが、必ず守るから安心してくれ」
「怖くなんかないよ、猟兵さんと一緒だもん!」
 少年特有のきらきらとした声。顔はないから輝く顔ではないのだ。
 ウタはのっぺら息子に笑顔で返して先を目指す。敵の注意を引き付け、町の住民が戦いに巻き込まれないようにするのだ。
 と。
「みーんみんみんみんっ!」
「なんだぁ?」
 唐突に響く謎の声に目を向ければ、隣の路地から桜花の車が飛び出して来た所であった。
 暴走するような走行速度で下り坂を一気に飛び越えた。
 ドリフトをかまして車体を傾けながらも無事に路地を抜けたキャンピングカーは、商店用のサイドウィンドウを開く。
「こちらからどうぞ!」
「助かる、ぜっ!」
「みっ!?」
 乗り込む前に屋根に取り付いてみんみん言ってるセミカスミンを殴り飛ばし、車内に体を滑り込ませる。
 車内には他から見つけたであろう妖怪たちが数名乗っている。ウタの登場に驚いていたが、のっぺら息子をおんぶする姿に彼も救助を行っていたのかと安堵したようだ。
「発進します!」
 アクセルを踏み込み、急発進する車に多少ふらつきながらものっぺら息子を下ろすと、助手席の母親が気付き声をあげた。
「のっぺら坊主!」
「母ちゃん!」
 名前。
 妖怪らしいと言えばらしいが、感動の対面に水を差す訳にはいかない。皆は運転中に助手席から後部座席に移動するのは止めようね。
 ひしと抱き合っていた親子であるが、のっぺら母は息子が怪我をしていることに気付いたようだ。
 どうやら先程の女幽霊に捕まった際にやられたものらしいが。
「こんなのへっちゃらだよ。かすり傷さ」
「いえ、追っ手も撒けましたし、傷は看ておきましょう」
 道の端に車を止めて、後部座席ののっぺら坊主に向かう桜花。
 捕まった拍子に転んだのか、膝や肘が血で汚れている。
「冬から春へ向けて命が芽吹くように、その身の傷も癒されて下さい」
 桜花の手から桜の花弁が舞う。ユーベルコード、【桜の癒し】は対象を眠らせると同時に治癒させる効果を持つ。のっぺら坊主もそのまま睡魔に巻かれて眠りについた。
 他の乗客たちも、同じようにして桜花に救われている。
「起きなさい、のっぺら坊主」
 すやすや寝ていた所をのっぺら母に優しく起こされる。寝てたんだよね?
 いつの間に寝てしまったのかと辺りを見回す坊主に、何か不審な物を見なかったかと母が問う。
「それが、霧でよくわからなかったんだけど、道の真ん中に大きな壁が出来てたんだ」
「壁?」
 またもぬりかべさんか、桜花とウタが顔を合わせていると、のっぺら坊主は言葉を続ける。
「それで先に進めなかったんだけど、しばらくしたら大きな音が鳴って壁が無くなったんだ」
 がらごろがらごろ、それはまるで大きな歯車が回るような。
「移動する壁、か?」
「と言うより、大きすぎて壁と勘違いしたんじゃないでしょうか?」
「道は一本しかないからさ、真っ直ぐ行けば中央公園だったしそこに向かってると思ったんだ」
 しかし、正体を知る前に逆ギレヒステリックおばさんに捕まってしまったのだと地団駄を踏む。言い方ぁ!
 そんな坊主に拳骨をくれて、どれだけ周りを心配させたと思っているのだと叱るのっぺら母。
 そんなやり取りも微笑ましいが。
「見つけたぞぅー!」
「みんみんみみんみん!」
「追い付いたか!」
 クモリとセミカスミンだ。
 ウタは運転席に戻る桜花に、敵を振り切らない速度で車を走らせるようお願いする。
「引きつける、というのは分かりますが、どうされるんです?」
「これだけ大勢いれば、嫌でも目立つ。他のカスミンたちもこっちに集まってくるはずだ」
「そこを叩く訳ですね」
 速度を緩めながらつかず離れずを演出する桜花。しかしやはりセミカスミンだけがやたらと早くキャンピングカーの屋根に張り付かれてしまった。
 でもこいつみんみん言うだけだからほっといて良さげ。
 のっぺら坊主が屋根を叩いて驚かせている間に、窓の外からちらほらと光が映る。
「…………? 遠くてよく見えないけど、……炎……か?」
 他の猟兵も移動しているようだ。
 町を包む霧そのものが薄く、否、移動を始めている。町の中心へと。
 こちらもうかうかしていられない、そう腕を組むウタに桜花が声をかける。
「あれを見てください」
「! あれがシェルターか」
 件の東辻である。
 そこにはトタンに即席のレンガなどを固めて作られた家と、それを取り囲む妖怪たちがいた。
「出てこい! 強い武器を他に持ってるんだろう!」
「皆で分けあおうとは思わないの!?」
「とりあえずチョコケーキ食いたい!」
 一人変なこと言ってるやついるじゃん?
 その建物は元は洋菓子店のようだが、外を固めた事で外に出る必要がない、夜毎に武器を配れる程の力を持っていると勘違いされたのかも知れない。
 信じる心がない以上は、これもまた濃霧のせいか。
「ウタさん、後ろのカスミンたちを! 前の住民さんたちは任せて下さい!」
「分かった!」
 車から飛び出すウタに、歯軋りする勢いで突進をかけるクモリ。
 それをひらとかわし、ウタは勝ち誇った笑みを見せた。
「あな憎しや!」
 怒髪天を突く勢いでウタを追いかければ、クモリを先頭にカスミンたちを引き連れた濃霧が遠ざかる。
 車の屋根でみんみん言ってるのは無視だね。
「な、なんだ!?」
 しかし減速して近づいたものの、あっさりと暴れる妖怪たちに見つかってしまった。
 みんみん言ってる奴がいるもんなぁ。
「すみませんが、寝ていて下さいね?」
「そんなみんみんうるさいのに寝れるか!」
 運転席から笑みを見せた桜花の言葉に青筋を立てる唐笠お化け。
 しかし彼女の手から放たれた桜の花弁に抗えるはずなどなく、妖怪たちは壁に持たれるようにして寝てしまった。
 桜花は車から降りてシェルターを優しく叩く。
「外の妖怪の皆さんには寝てもらいました。少しの間でいいので、こちらで保護した妖怪の皆さんを匿ってくれませんか?」
「な、何者だ?」
 レンガの隙間から目だけを覗かせた家主に、猟兵だと微笑んだ。


●キャンプファイヤーやろうぜ! お前薪な!
「背の低い家ばかりで助かるぜ!」
 道路から塀、塀から屋根、更に屋根へと跳び移るウタを追う霧の雪崩。多少の段差は気にせず進めるだろうが、高低差があれば煙も昇らねばならないのが現実だ。
 もこもこと追跡する霧を尻目に、そろそろ進路を変えるかと考えた刹那。
「伏せて下さい!」
「おおっ!?」
 本日二度目の身反らしでかわしたのは巨大な物体。
 リンボーダンスもかくやというバランス能力と体の柔らかさを見せたウタの胸の上を音をたてて過ぎ去るそれは、濃霧にぶちあたって轟音を周囲に響かせた。
 振動に足が震えて思わず尻餅をつく。彼の乗っていた屋根の先に摩那が笑みを浮かべて右手を翻した。
 風を切る、否、風を吹き飛ばす重い回転音をたてて彼女の手元に戻ってきたのは巨大な氷の塊だった。
「……そ、それは……?」
「エクリプス・ウィズ・カスミンアイスです」
「ご、ごめんよ皆の衆ぅ~!」
 オヤジの泣き声が氷から響く。
 トリニティ・エンハンスによる影響範囲を広げ、凝結させたカスミンたちを更に凍結させ、エクリプスに繋いだのである。
 こうなっては骸魂が手を出せるはずもなく、これだけの重量となった武器をカスミンらが止められるはずもない。
「そ、その声はオヤジ! 一体何があったと言うんだ、この有り様は!」
 濃霧を食らう氷解に腰を抜かすクモリ。蜘蛛に腰ってあるのか?
 が、オヤジは泣くだけで役に立たず、クモリは悔しげに呻いた。
「こ、こうなったら撤退だ! だが忘れるなよ、私たちは猟兵に負けたんじゃない、その氷の塊に負けたんだ」
「結局負けてるじゃねーか」
「それにこれも猟兵の力でしょ」
 半眼で呻くウタに言葉を続けたのはインディゴである。
 彼らと違い、こちらは道路の上だがその首から溢れる炎の花弁はまだ収まりを見せていない。
「あの、猟兵さん? なんかもうお首が大事故ですよ?」
「心配してくれてありがと。それじゃ、いっちょ狩りたてようか!」
 引き抜いたのは二対の短剣、それぞれを鎖で繋がれ【Pisces】と名付けられたそれ道路に向けて投げ放つ。
 ばちりと音を鳴らし火花を散らした鉄の刃はそのまま塀へ屋根へと跳ね返り、インディゴが鎖を手綱のように握ることで誘導、目まぐるしい勢いでカスミンたちの視線を翻弄し、そして。
 勢いを利用した大回転で扇風機の如く風を巻き起こす。迫る空気の塊に弾かれて、堪らずカスミンは叫んだ。
「こりゃーっ! そんなに風を出してゴミまで翔んだらどうするんだーっ!」
「あっは、まとめて焼却するから心配無用!」
「ひええっ」
 実体から霧へと変化していたカスミンたちは為す術なく簡単な風に飛ばされ、飛ばぬカスミンも炎に追いたてられる。
「……流石に焼却は……止めとこーっと。飛び火でもしたら大問題だしね」
 にっこりと笑みを浮かべているが、逃げ惑うカスミンたちからは罵詈雑言の嵐である。しょうがないね。
「く、くそっ、だが、だぁがしかし、まだまだまだまだ我々は負けてはいなっ、?
 ひょわぁ~っ!?」
 突然の横風がクモリを横凪ぎにする。
 それはインディゴの起こした風とは比べ物にならない烈風、彼の灯した炎が更に勢いよく燃え上がるほどの。
「ギイイイッ! ギチギチッ。ギイイイッ! ギチギチッ」
(あ、そーれわっしょい! わっしょい!)
(わっしょいわっしょいなのー)
(えーりやん、こーらやん~)
(らっせーらっせーらっせーらー!)
 アリスたちが巨大うちわを使い、一糸乱れぬ連携で生み起こした起こす豪風。
「ふぉっふぉっふぉー!」
「ド、ドクター・アシダカ!? あなたまでやられたと言うのかっ!」
 むしろ勝てると思ってたのか。
 遂には霧の外から風でかき集められたカスミンたちも合流、ひとまとめにされて町の中心へと押し流されていく。
『うわああああああっ!』
 怒濤の勢いで消えていく霧を、そのまま見送るだけでは終わらない。頷きあってアリスの後を追う三人。途中、ウタは東辻のシェルターで足を止める。
 外から押さえられたトタンを剥がし、レンガをどけて桜花が車内に保護していた妖怪たちをシェルターへ案内している所であった。
「皆、他の妖怪たちがおかしくなったのも、この霧が元凶だ。
 でも炎か氷で払える。すぐに済むから、ここで身を守っていてくれ」
「ほ、本当かい?」
 ウタの言葉に顔を輝かせたのは、避難妖怪を受け入れてくれる霧の町のパティシエ・赤鬼さんだ。
 良かった、こいつには顔があるから感情が分かり易い!
 屈強な体をびくつかせ、目尻も落ちた赤鬼さんは暴徒と化した妖怪に囲まれ怖かったのだろう、泣き腫らした目も真っ赤だ。
「私たちはぬりかべさんの居た、あの道から参りました。もう彼は通せんぼしている訳ではないので、あそこからなら外に出られます。
 まずは私たちが霧をどうにかしますから、それから避難されては如何でしょうか」
「……あ、ありがとう……! 恩に着るよ!」
 深々と頭を下げた赤鬼さんは、お礼にと小綺麗な包みを渡した。
 包装に『赤鬼が泣くほどうまい!』と書かれたそれは苺のショートケーキだ。クリームも苺を使い赤色に仕上げられている。
「皆さんで分けて下さい!」
「ありがとうございます。あ、それとですが」
「他に何か怪しいものは見かけなかったかい? 聞いたでもいいけど」
 怪しいもの。
 思わず自分のごっつい体を窮屈に押し込めた白の清潔感溢れる調理服を見下ろした。
 そういう小ネタはいいんで。
「そういえば最近、物凄い音をたてて何かが町を回っているようなんです」
「……何かって……?」
 そう、それはまるで。
「巨大な朧車が口から火を吹きつつ狭そうに街道を走り抜けてその屋根にいる怪しげな妖術使いが特徴的な笑い声を上げながら武器を投げ落としているような、そんな音が」
 …………。
 赤鬼さんさぁ。
「お、おう? 随分と具体的だな?」
 つい頬を引き吊らせたウタに対し、音から連想しただけですとする赤鬼さん。これ絶対見てるよね?
 しかし、怖がっているであろう彼に無理を言わせる訳にはいかない。保護した妖怪たちを中に入れて、ついでに眠りこける暴徒妖怪たちも近くの廃材で囲んでおく。
「貴方たちが目を覚ます前に解決するよう、努力しますね。
 ──さあ、決着といきましょう」
 桜花の言葉に、手に着いた埃を落としてウタは頷いた。

「くそう、どこまで運ぶ気だ蜘蛛の化け物め!」
 ……お前らが言うことじゃあ……いやこいつら雲の化け物だったわ。
 もこもこと扇がれる霞雲たちは、運ばれる先に気づいて悲鳴を上げた。
『四辻だーッ!』
「えっ、マジ?」
「中央公園だ!」
「ああ、マズいマズい!」
 にわかに慌て始めたカスミンは構わず今の状況など構わず実体化し、必死にアリス烈風包囲網から抜け出そうと踠く。
 それは端から見れば、ぎっしりと狭い場所に詰め込まれた蜘蛛たちが暴れまわっているようで。
「……うッ……気持ち悪いですね……」
「ギエエエエエッ!」
(活きが良くて美味しそーねー)
 食欲の減る光景にげんなりとする摩那と、正反対に腹を空かせるアリス。
 だが無理な実体化が功を奏したのか、圧縮されたことで構造の結び付きが強靭にでもなったのか、仲間の体を盾に段々とカスミン溜まりがばらけ始めたのだ。
「微力ながら抑え込み、お手伝いします!」
「ここなら燃えそうな物も少ないし、僕も手伝うよー」
「どわわわわっ!?」
「あっついんですけどー!」
「なんでこの人たち火炙りにばっかりするのっ!?」
 地面に片膝をつけて軽機関銃を前面に乱射し弾幕を張る桜花。更にインディゴの燃え盛る真紅の薔薇が炸裂するが、この町一帯を覆っていたカスミンの集合体だ。その量は尋常ではなく、焼石に水とまでは言わないまでも、拡散する彼らを防げるようには見えなかった。
「そんなに熱いのがお嫌いでしたら、冷ましてあげますよ!」
 空に咲く火炎の花をすり抜けて。
 アリス烈風包囲網の嵐の中を、まるで波に乗るかの如くマジカルボード【アキレウス】で舞い上がる。
 耐火耐爆性能もあるのだ、この局面で正に輝く風乗りサーファー。
 カスミン溜まりの頂上へと一気に駆け登った摩那は勢いのまま天地逆さに身を翻し。
 氷塊をカスミン溜まりへの中心へと叩きつけた。中央を貫く冷気と熱せられた表面との気温差が内部で気流を起こし、爆発するように散らばるカスミン溜まり。
「ふ、ふはは! しくじったな猟兵! このまま一気に脱出を!」
「だ、ダメじゃーっ!」
 勝ち誇るクモリの言葉をドクター・アシダカの悲鳴が切り裂いた。
 そう、ばらばらに解けてはそのまま拡散するのではと思えるだろう。
 しかし実際にはここはアリス烈風包囲網のただ中なのだ。結び付きを失った風船の如く、ただその風に押し込まれるのみ。
「ひえーっ! こ、こんなっ、こんな事でぇえええっ!」
 こんな事言うけど割りと大事よ?
 爆風に押し込まれたカスミンたちは、そのまま街路風に乗り、四辻から吸い込まれるように中央公園へ閉じ込められていく。
 彼らが四辻を忌避していたのは、街路風によって外に出れなくのが理由だったのだ。
「ってワケで」
 ひとつに小さく纏まってしまえば。
 ドクター・アシダカからから丁寧に教えて貰った弱点を活用しようとウタが取り出したのは、ギター【ワイルドウィンド】。
「音を届けるには、丁度良い風だぜ」
 弦を弾いて右腕を、霞の消えた空に突き上げて一拍。
「纏めて還してやる」
 振り下ろすと同時に激しく、低めの音がベーゴマ床町の空気を揺らす。それは気迫を伴い風を呼び、音の嵐となって空間を縦横無尽に駆け巡る。
 音色はそのまま四辻を通って中央公園へと収束し。
「紅蓮に抱かれて眠れ」
 旋律は紅蓮を纏いて焰の渦となり、カスミン溜まりを取り囲んだ。
 轟々と燃える炎に巻き上げられて細長く天へと伸びる。
 周囲の対象を地獄の炎で焼き尽くす。それがウタのユーベルコード【ブレイズブラスト】だ。
 音波そのものを燃焼させたウタの力で巻き上げられるカスミンたちを、アリスは山のように折り重なった妹たちの頂上から見下ろしていた。
「ギチギチ、カチッカチッ!」
(霧も全部中央に溜まったし、パパにお願いして衛星機動兵器で焼き払っちゃいましょー)
 両の前肢を振り上げて、空に向けてぶんぶか振るう。
「ギギギギィイイアエエエエエエエッ!!」
(パパー、とりあえず死んでしまわない程度に軽く炙る感じでいきましょー!)
 天にも届けとばかりの大咆哮。
 愛すべき娘の言葉は養父へと届き、その自らの愛の証が起動する。衛星軌道上を遊回する衛星機動兵器、『LOVE LOVE☆ALICE号』から放たれるは養父の愛である【指向性超出力マイクロ波篇(オブツハショウメツ)】ビームだ。
 突如、桜花のキャンピングカーのラジオにノイズが走る。
『……良いお友達になれるかと思ったが……嫁入り前の娘に近づく汚物は……焼き滅ぼすべきだと思わぬかね……?』
「えっ」
 キャンピングカーを中央公園入口へ移動させていた桜花は思わず声を上げ、直後。
 天から降り注ぐ光がカスミンたちを包む炎ごと貫き。
 真っ白な煙が視界を埋め尽くす。
 カスミンの姿は跡形も無くなり、同時にウタが生じさせた地獄の炎まで消えていたのは彼らを蒸発させたからに他ならなかった。
 最早、完全なる蒸気となってしまった霞雲を骸魂が捕らえ続ける事は叶わないだろう。
 骸魂に飲み込まれた妖怪たち。ならばその意識はきっと骸魂のもののはず。彼らは色々な役に成りたがっていたが、それこそ彼らの望みだったのだろうか。
「貴方たちの願いが、今度は叶いますよう」
 静かに黙祷するしながらも、空に流れた霞雲たちが早く癒されるようにと桜の花弁を流す。
 傍らではウタが、今度は優しい曲を奏でていた。彼らの魂があるべき場所で静かに過ごせるように。
「…………、ギチチッ」
(せっかく炙り終わったのに、これだとカスミンさんたちに話が聞けないわー)
 天へと舞い上がり、或いは冷えて埃のように漂う白煙にアリス。変幻自在の霞雲の妖怪とは言え、そのほとんどが空に消えてしまっては、癒されどもすぐには語る力も残っていない。
 これでは情報が集めきれないかと落ち込んだ様子に見えなくもないアリス。
 摩那はそんな彼女を見上げて小さく笑う。
「大丈夫ですよ」
 彼女の手元にあるエクリプスは中央公園の熱を利用したのかすっかりと氷が溶け落ち、代わりにびしょ濡れになった蜘蛛の刺繍のある布が貼り付いていた。
「あー、なるほど。まだいたんだぁ」
「……ぎくっ……」
 舌で唇を舐めてインディゴ。
「これはまた可愛らしいですね」
「ぎくぎくっ」
 車から降りた桜花はそのデザインに笑みを見せ。
「霧が消えたことだし、お前たちのボスも隠れ場所がなくなって丸見えになるんじゃないか?」
「ぎぎくーっ!」
 ギターを片手に頭を掻くウタ。
「ギチギチッ」
(布なら今度こそ食べられそーねー)
「ぎくくぎっくー!」
 ボスの情報よりも無念が先に立ったかアリスの言葉。
「今回の騒動の元、ボス妖怪はどんなのなの?」
「…………」
 しばらく摩那が目の前で垂らしていたエクリプスに、布カバーとして貼り付いていたオヤジは沈黙していたが、やがて観念したかのように口を開く。
「えっと。うんとね、怒らない?」
「答えによるよ?」
 あくまで笑みを崩さないインディゴに小さな悲鳴を上げて、遂には変身を解いて摩那の足下に蹲る。
「ボ、ボスの名前はモーピー参謀。色んな妖術を使うすっごく胡散臭い奴です!」
 よく自分の上司にそんな事言えたね。
 オヤジによれば彼はピーガスーと呼ばれる存在らしいのだが、詳しくは分からないとのこと。
 猟兵たちもその名に聞き覚えがないのか首を傾げているようだ。
「で、そのピーガスー参謀ってのは何の目的でこんなことを?」
「ばーろい、ピーガスーじゃなくてモーピー参謀でいっ!」
「あ、ああ、そう」
 ちょーどうでもいい。
 名前を間違えるのは大変失礼な事なのだとプンスコしているが、罪状を間違え食い逃げ犯に下手あげようとした輩の台詞ではない。
 インディゴが改めて聞き直せば改めて地面に伏せるオヤジが語るにこのモーピー参謀、武器を投げ配っているのは武器を買わせる為だと言うのだ。
 町の出入口を塞いでいたぬりかべを、たまたま見かけたモーピー参謀がカスミンたちを使い町を閉鎖してしまったのだ。
 そして不信感を高めた所にわざと手入れの行き届いていない、或いは武器とも呼べないような凶器を投入、殺し合いを起こす事で品質の良い製品を高値で売り捌こうと考えていたのである。
 閉じた世界の中で、正に下劣な行いだ。
「それは許せませんね。その参謀とやらはどこに?」
「…………、あっちです」
 あっち?
 指し示されて振り向けば、そこは件の中央公園。未だに白煙舞うその場所は、中身を見ることなど敵わず。
 刹那。
 白煙をも焼き払って、青い炎が燃え上がる。霧を引き裂き現れたのは公園一杯かと錯覚するほどの巨大な顔。
 ぎょろりとした目玉が猟兵たちを見回し、恨めしげな乱杭歯の口元から青い火の粉がちらちらと舞う。
 振り乱す黒髪は風に揺れて、その顔が収まるのは巨大な、本当に巨大な牛車であった。
 朧車。
 パティシエの赤鬼さんが話してくれていた存在そのもの。
 朧車は両目から怪光を放ち、向きを変えると猟兵たちのいる東辻とは反対の、西辻へと走り出した。
「……逃げた……?」
「追いましょう!」
 逃亡する朧車へ、猟兵たちは慌てて追跡を開始した。
 彼らがいなくなり、ふうと溜め息を吐くオヤジ。生き残りは彼だけになってしまったのか。
 元たる霞雲の妖怪が解放されているだけなので、生き残りと呼ぶのもまた違うが。
「はあ。どうしたもんかねぇ。………、ん?」
 ふと、その視線がこちらから離れるキャンピングカーに留まる。そこには、鳴き疲れてすやすやと眠るセミカスミンの姿が!
「……あ、ちょっ……待ってーっ!」
 オヤジもまた、大慌てで彼らの後を追うのだった。


●幻の武器商人を追え! 死闘・巨大朧車!
 登り始めた光の玉を、霞雲が捕らえた朧月。
 ベーゴマ床町を激走する巨大朧車に揺られて、座禅を組んでいたモーピー参謀は風に揺れる髪を苛立たしげに払う。
「……まったく、トンだ貧乏くじですよぉ……!」
 だだっ広い朧車の屋根に乗せた場違いなソファーの上で、モーピー参謀は手鏡を取り出すとメイクを始める。
 脂汗で落ちた白粉を塗り直しながら、危うく火に巻かれていたであろう自分を夢想してほぞを噛む。
「おの朧車に火に対する能力があればこそ、ワタクシの力で耐える事が出来たというもの。あの醜い蜘蛛のお化けも、役に立ちやしないんですから!」
 だが、しかし。
 気を取り直して化粧直しの終えた自分の顔に笑みを浮かべる。
「考えようによってはまだまだ妖怪の残っているこの町の中、いくらでも肉の壁が」
 下衆の笑みを浮かべて屋根の縁へ小躍りしつつ、下を見下ろす。
「……肉の……壁が……」
 無いですねぇ!
 先の猟兵らにより暴徒化した妖怪も避難しているのだ、彼の思惑の通りに行くはずもない。
「ぐっ、むぐっ、ぐぎぃいいいいっ!」
 禿げた頭の天辺から湯気を出して、苛立ちを隠そうともせず地団駄を踏む。
 それから自分の太い指にはまった黄金の指輪にかじりつき、ふごふごと荒い音を鼻から響かせた。
「……落ち着け……落ち着くんですよぉ……ピンチはチャンス、どんな困難も乗り越えて売上げを伸ばして来たじゃあないですかぁ……!」
 ならばどうする。
 迫る猟兵の気配に焦燥感に駈られながらも、ふと。
 彼らを追うカスミンの姿を確認した。どうやら猟兵の一段にそれと気付かずもう一匹のカスミンもいるようだ。
「……ンっふっほっほっはっはっはっ……! やはりチャンスとはこのワタクシの為に巡るもの!
 ツキはまだまだこちらにある、ということですねぇ! ンっふっふふふ!」
 朧月も光を増した逢魔時。
 モーピー参謀のぎらつく目を迫る猟兵たちへ向けられていた。


・ボス戦です。敵に合わせて戦い方を変える強敵となります。全ての元凶であるオブリビオンを叩き潰して下さい。
・ボスオブリビオンの正体はピーガスーと呼ばれる妖怪です。
・巨大朧車上での戦闘となります。朧車はカクリヨファンタズムの住民なので、極力被害を出さないようにしてあげてください。ですが、彼の生死はシナリオの成否と無関係です。
・朧車は常に走り続けているので、足を取られて転ぶと落下しダメージを受けてしまいます。また、落下後朧車の屋根に登らなければ、環状街路を走る朧車に轢かれる可能性があります。これは敵も同様です。
・戦場には骸魂を祓い損ねたカスミンが二体います。戦意を失っていますが、ボスオブリビオンは彼らを利用するつもりです。ボスとの信頼関係がないため、猟兵の味方をしてくれるかも知れません。
・第三章に参加する全てのプレイヤーは、パティシエ・赤鬼さんの赤い苺のショートケーキを持っています。戦闘前、戦闘後に食べるのもいいですが、有名店の極上スイーツなので敵や味方にあげると喜ばれます。
アリス・ラーヴァ
アドリブ・連携歓迎

たいへーん!さっきの炎でピーガスーさんの髪の毛が無くなっているのー
敵ながらちょっと可哀想かもー
骸魂を祓ったらアリスの糸で植毛してあげましょー
その為にも早く倒してあげないとねー
まずは巨大朧車を【ダッシュ】で【追跡】ー
足が無い人は妹達に【騎乗】してもらって朧車にとりつきましょー
【足場習熟】で壁を伝って敵の死角から回り込んで執拗に足を攻撃して転ばすのー
落ちたピーガスーさんさんが屋根に登る時がチャンスよー
【迷彩】で隠れた妹達にお願いして朧車の進路上に先回り、潜伏状態からの【不意打ち】で先視水晶を奪ってお家まで【運搬】しちゃいましょー
綺麗な珠だからきっとお家が華やぐわー



●遂に発見!? 幻の武器商人!
「ギイィィィ! ギチギチギチ~!」
(【みんな~助けて~】)
 開口一番、大きな声を上げて仲間を集めたのはアリス・ラーヴァ(狂科学者の愛娘『貪食群体』・f24787)だった。遠ざかる朧車を見据え、霧の町に潜伏していた妹たちを呼びつける。
「私、走るのはさほど得意ではないものですから。今回は員数外かもしれません」
 少し落ち込んだ様子、と言うよりは淡々と事実を述べる様子で御園・桜花(桜の精のパーラーメイド・f23155)は考え込むように目を閉じた。
「ギチギチ!」
(妹たちに乗って貰えば追いかけるわー)
(運びますよー)
(じゃんじゃか連れていくわー)
「ありがとうございます。ただ、朧車での戦闘がどうかな、と」
「ギチチ?」
 走り続ける不安定な足場での戦闘となれば、それなりの足腰の強さが求められるもの。転んでしまって距離が離れればまた迫らねばならないのだ。
 アリスらに乗って戦うのも良いが、彼女らの場合は足腰? の強さはもちろんのこと、その足の爪により体を支えているであろう点も見受けられるので、カクリヨファンタズム住民の朧車を不必要に傷つける可能性もあるかも知れない。
 あくまで可能性の話でしかないが、桜花は念の為とそれを選択し、朧車までは連れて行ってくれるようアリスにお願いする。
「件の武器商人がいるのはあそこ、と。それにしても、中々の速さですね」
 爆走する朧車を見つめて黒木・摩那(冥界の迷い子・f06233)は唸る。彼女のかけるスマートグラス【ガリレオ】は一見、スポーティーな眼鏡であるがその実は眼鏡のレンズに情報を投影するHMDウェアブル端末。各種センサを内蔵しており、目標の速度も読み取り可能だ。
 円上の町を周回している事から前で待ち構えるのも有効に見えるが、この速度で乗り移るのは危険である。失敗して通り過ぎたら恥ずかしいし、轢かれたらもっと恥ずかしい。
「ともかく、逃がす訳にはいきません」
 と、先のカスミン戦で活躍したマジカルボード・アキレウスを用意する。しかしこのアキレウス、空中滑空や風を利用したサーフは可能だが、ここでは利用可能な風がない。
 さてはどうしたものか。悩む摩那の様子に桜花は声をかける。
「朧車に近づいたら、私が空へ運びましょうか?」
「いいんですか? 助かります」
 笑みを見せて頷く桜花に、こちらも改めて笑みを見せる摩那。
 話が決まってしまえば早いもの、こちらが乗り易いように身を伏せて待つアリス妹に乗り込む二人。
 その後方では別次元の問題に頭を悩ます男が一人。インディゴ・クロワッサン(藍染め三日月・f07157)だ。
 彼は赤鬼さんからいただいた絶品ケーキを茨を纏う小さな扉から繋がる屋敷内へと保管している。ユーベルコード、【無限収納(インベントリ)】で接続された世界において、浮いているともお洒落とも取れないカラフルなケーキは食欲を誘うものであったのは確かだ。
「ケーキはお仕事が終わってからのお楽しみって事で」
 思わず呟いたのは自身に言い聞かせるため。しかし、目を開けばケーキの姿がちらつき、目を閉じれば食卓に並ぶケーキセットが頭に浮かぶ始末。
(……でもなぁ……夜糖蜜を入れた紅茶……いや、珈琲も捨て難いなぁ……)
 私的には何だかんだで水が一番だと思います。
「いやいや、今はお仕事お仕事!」
 そんなこんなの邪念を振り払いインディゴは自らの頬を叩いて、逃げる朧車を睨み付けた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

御園・桜花
「…あら?熟女の呪術師の方かと思っていたのですけれど」首傾げ

朧車見上げ
「私、走るのは然程得意ではないものですから。今回は員数外かもしれません」

「轢けばビックリして停まるかと思ったのですけれど…?」
朧車の上で走り続けて戦うことを早々に諦めUC使用
飛行し朧車から落ちた仲間を拾い上げ戻す作業をメインに
頼まれれば仲間を背負って飛びアッシー代わりも
ソニックブームで仲間を吹っ飛ばさず接敵出来る自信が付いたら盾構え全速で敵に特攻
敵を朧車から弾き飛ばして轢かせる二次被害狙う

「売上という言葉が微かに聞こえましたけれど…貴方の望みは何だったのでしょう」

ケーキはのっぺら坊主に
「偉かったですよ、小さな自警団員さん?」


黒木・摩那
いよいよ、今回の首謀者ですね。お覚悟を。

……誰?

スマートグラスで検索はするものの、素性がよくわからない妖怪ですね。
マイナーにもほどがあります。

ともかく、逃がすわけには行きません。
マジカルボード『アキレウス』で追いかけます。

まずは、後続のためにも朧車の足を止めたいところです。
魔法剣『緋月燭欄』で戦います。
UC【偃月招雷】で剣を帯電させた上で【念動力】を使って、朧車を刺して感電させます。
走りが遅くなったら、剣を回収して乗り移りモービーと対岐します。
防御は【受け流し】や【第六感】【念動力】で回避。
攻撃は【衝撃波】を使った牽制と、剣の質量を操作した【重量攻撃】からの一撃します。

決着後のケーキうまい!



●鎮魂歌にはまだ早い。
「ふぃー、追いついたぜ!」
 ひょっこりと顔を見せたのはオヤジであった。まるで夏の終わりを告げるセミの如くひっくり返ってぴくりともしないセミカスミンに近づいていく。
 まあ夏すら始まってないんだけど。
「アイゼンハワー、無事かい? いつまでも寝てるんじゃねーぞっ」
「みんっ?」
 名前かっこ良すぎない? セミカスミンで十分だろ。
 アイゼンハワー、否セミカスミンはオヤジの呼び掛けに目を覚ますと、しばらく足をわきわきさせた後に体をばたつかせて腹這いになる。
 完全に目を覚ましたようで辺りを見回しているセミカスミンに、オヤジは頭の手拭いを取って話しかけた。
「もう生き残ってるのは俺たちだけさ。これからどうするよ?」
「……みんみん……」
 どこか哀愁を漂わせるカスミン二匹。
 背後より、そのようにしみったれた雰囲気でどうするのだと声をかける者が一人。木霊・ウタ(地獄が歌うは希望・f03893)だ。
「蝉の命は短い、思い切り鳴くといいぜ。なんなら合わせてやろうか」
「みみんっ?」
 ギターを構えれば訝しげなセミカスミン。オヤジもまた疑る視線を向けていた。
「今度は一体どうしようってんだ!」
「まあまあ。オヤジにはこれをやるぜ」
「ほっ?」
 ここでウタが渡したのは赤鬼さんの苺のショートケーキだった。敵に塩を送るとは言うが、こちらはもう戦う意思はないとするオヤジ。
 そんなものは些細な事だと笑う。
「これを参考にして、至高の石焼き芋を作ってくれ」
「……あ、あんた……! ……ショートケーキでどうしろと……!?」
 正論をぶつけるんじゃない。
「…………、そりゃあ、ねえ?」
 真向から問われれば返すに困る言葉を受けて思わず詰まるウタに対し、何かに気づいたようにハッとするオヤジ。
 ひとまず受け取ったショートケーキの箱を開き、味すらも想像できようその見事な出来栄えに思わず頷く。
「……そうか……この一分の妥協も許さない匠の技を参考に……切磋琢磨しろと……意識高い系を目指せと……そう言うんだな、猟兵!」
「そうだぜ!」
「……もぐもぐ……、オイシィーッ!」
 意識高い系とかじゃなく実際に高いんです。
 勝手に納得してショートケーキをご機嫌で食すオヤジ。感激しているオヤジにセミカスミンも同調したのか、お腹の鳴き袋を震わせる。
「みみんみみんみんみんみんっ!」
 普通に口から声出してるけど、空も飛べるしこいつのコスプレやたらレベル高くない?
 気分も上々なカスミンらの姿にウタも思わず笑みを見せて弦を弾く。
 だが。
「みみみみみーんっ!?」
「ししししびれしびれぅう~!」
 唐突に飛来した二枚の呪符がそれぞれカスミンの背に貼り付くと雷光を発する。
 二匹の動きを止めると光の玉となり彼らを拘束、宙へと浮く。
「な、なんだ?」
「あ~れ~っ」
「みぃぃぃん!」
 状況を掴む間もなく巨大朧車へと飛び去る球状結界に、あの参謀が何かをしたのかと歯噛みする。
 上手くいけばカスミンらも満足し、自ずと飲み込んだ妖怪を放してくれるのではないか、そう考えていただけに。
「何をするつもりか知らないが、待ってろよ!」
 ギターをしまうウタの目には怒りの色が映った。


●卑劣! 人質作戦は悪の華!
「ンっふっほっほっはっはっはっ! 準備万端、仕掛けヨシ!
 指差し呼称はお大事ですよぉ!」
 やたらと嬉しそうなモーピー参謀。深く腰を下ろしたソファーの上で、優雅に構えるグラスから白ワインが跳ねに跳ねて彼の髪を濡らし後方へと消えていく。
 そんな所で注ぐからですよぉ。
「ええい、まあ良いでしょう!
 ……さて……問題の猟兵どもは、と」
 グラスを投げ捨ててソファーから身を乗り出す参謀。
 彼の視線の先には猛ダッシュで巨大朧車へ追い縋るアリスたちの姿が!
「ギィエエエエエエエッ!」
(もう少しで追いつくわよー)
(待て待てなのー)
(妖怪って美味しいのかしら~?)
「ひえっ、蜘蛛のオバケッ!」
 それはカスミンだろ。
 ガラガラと走る朧車をドカドカと追いかけるアリスらに恐怖した様子のモーピー参謀。
 完全に地上へ視線が固定された所で、空を飛ぶ桜花の手より離れ、アキレウスで滑空する少女。
「……ウロボロス起動……励起。昇圧、集束を確認……帯電完了……!」
 自らの諸手に構えた魔法剣、【緋月絢爛】は月光を照り返し霞の中、万華鏡の如くルーン文字が移り変わる刀身も淡く輝き。
 帯電する。
「おや、静電気ですねぇ?」
 両サイドの毛髪がふわりと浮かんで嫌そうな顔を見せたモーピー参謀。
 髪を追い何気なく見上げれば、アキレウスと共に下降する摩那を視認して目を見開いた。
 慌てて懐から呪符を取り出すが、時既に遅し。
「【偃月招雷(エペ・ド・エクラ)】!」
 その手より離れ念動力によって操作される刃は、飛来する呪符をかわして朧車の屋根へと衝き立った。
 弾ける青の雷光に顔を庇って悲鳴を上げる参謀。
 同時に朧車の巨大な口から青い炎が一際多く吹き出されて大きく傾ぐ。
「後続の為にも、朧車は足止めさせていただきます!」
「見えない所から迫るとは卑怯な!?」
「霧の中に潜んでいた人に言われたくはありませんけど」
 アキレウスから、減速した朧車上へと軽やかに飛び移る摩那。
 スマートグラスを怒る標的へ向けて、目を細めた。
「ようやくお会い出来ました、今回の首謀者ですね。お覚悟を」
「なによ偉そうに!」
 モーピー参謀は厚化粧の下に浮かぶ青筋も判別出来るほどに見せてその右手に水晶を、左手に呪符を浮かべた。
「…………、誰?」
「……えっ……?」
 少女の口をついて出た素の言葉に、モーピー参謀も目を丸くする。
 スマートグラスをカチカチといじる摩那は首を傾げた。モーピー参謀、その正体はピーガスー。
 カスミンより得た情報はそれだけだったが、実際に映像から解析すれば更に正体に迫れるだろうと考えた摩那であったが、思いの外にマイナー。
「ん、……んん……? ……素性不詳、マイナー過ぎますね……」
「住所不定無職みたいな言いがかりはお止めなさい!」
 言ってないっす。
「あら? 熟女の呪術師の方かと思っていたのですけれど」
「知っているんですか、桜花さん!」
 桜の花弁と共に減速した朧車へ降り立つ桜花。摩那の言葉に恐らくはと頷く彼女に、参謀は怪しい笑みを見せた。
「知っているなら話は早いものですよぉ。そう、ワタクシは熟女の、ちょっと待ってくださいよく話が見えませんけども?」
 空を見上げて顎を擦り、おそらくはナーン・ナーク辺りのお話からではないか、と結論してモーピー参謀はやたらと自慢気な笑みで自らを指す。
「モーピーとはいわゆる呪術師、霊媒師、イタコ、ユタなどに類するものですよぉ。まあ厳密には色々と区別がありますがそれはさておき、ワタクシは精霊や幽霊などピーを使役するもの、モー。
 すなわちカスミンなどの雑魚妖に命ずる立場にあるということですよぉ。ンっふっほっほっはっはっはっ!」
「あまり品の良い妖怪とは言えないですね」
 参謀の差別意識丸出しの発言に嫌らしい笑い声と、桜花は眉を潜める。
 だがどちらにせよ倒すべき敵だと剣を構えた摩那に、モーピー参謀は邪悪に顔を歪めた。
「そうそうアナタがたの好き勝手にはさせませんよぉ、これをご覧なさい!」
 参謀が叫ぶと、空からふわりと降りてきたのは光の玉。オヤジとセミカスミンが封じられた結界である。
 存在を忘れていたと顔を見合わせた女二人に、モーピー参謀は悪役らしい要求をひとつ。
「この雑魚妖の命が惜しければ」
「攻撃します」
「援護は任せてください」
「ちょっとちょっちょっと!」
 言葉を最後まで待ちもせず剣と銃を構えられ、モーピー参謀は大慌てで手を振るう。
 猟兵の立場としては脅しに屈するなどあってはならないのだが、そもそも霞雲の妖怪なんだから火炙りにされても死なないのは先の戦いで立証済みなのだ。
 だがそこは参謀、すらりと取り出した札を二人に見せる。
「よお~っく、ご覧なさい! これはそりゃあもう霊験あらたかな除霊の札!
 さすがのワタクシでも手が痛くなるほどですが、これを使えば骸魂どころか元の妖怪なんてひとたまりもないんですよぉ!」
『!』
 彼の言葉にはさすがの猟兵でも止まらざるを得なかった。住民の命がかかっているのだから、様子も見ずに問答無用とはいくまい。
 動きを止めた二人に、ようやく効果があったかと溜め息を吐くモーピー参謀。
「ギィィッ! ギエエエエエエエエエ!」
(たいへーん! さっきの炎でピーガスーさんの髪の毛が無くなっているのー)
「そう、全くもって大変なことに──ってやかましいんですよぉ、これはワタクシのヘアースタイルなんですぉ!
 ……なんなんですか、おシリアスな空気をぶち壊して……、あら?」
 唐突な毛髪への懸念に堪らず声を上げた参謀であるが、見渡しても声の主は見当たらない。
 ちなみに朧車を追いかけていた大量のアリスたちの姿、いつの間にか見えなくなってますね。
 参謀はこほん、と咳をして振り出しに戻ると声を張り上げるが、更にそれを制する者が。囚われのオヤジとセミカスミンである。
「猟兵の皆、俺たちのことを気にする必要はねえ、やっちまってくれぇ!」
「みーんみんみんっ!」
「いえ、あなたたちを気にしてる訳じゃないんですけど」
 思わず半眼で呟く摩那。気にしてるのは霞雲の妖怪であってカスミンじゃないのよね。
 だがこの発言に焦りを見せたのはモーピー参謀だ。抵抗して暴れるカスミンたちに、そして猟兵らに本気であることを示さねば人質作戦の意味がない。
 とは言え二人とも祓ってしまえばそれこそ人質の意味がなくなる。
(二匹いたのは天の恵み、やはりワタクシは選ばれてるのですよぉ!)
 ひとまず夏の代名詞であり存在が鬱陶しいセミカスミンへ狙いを定めたモーピー参謀は符を構え。
「おさらばですよぉ、アイゼンハワー! っんがぁあぁあ!?」
「みみんっ!?」
 唐突に何かに足を引っかけてすっ転ぶモーピー参謀。
 丸い体は減速したとは言え、今なお走り続ける朧車の屋根を転がるが慌てて起き上がった。
 何やら恥ずかしさ、あるいは怒りに頬を紅潮させてカスミンたちを睨み付ける。
「全く誰ですか、今日の朧車のオボロンの掃除当番は!?
 石か何かに躓きましたよ、おシリアスな雰囲気がズタボロですよぉ!?」
「俺たちですぅ」
「……みんみん……」
「オヤジ、アイゼンハワー! ちゃんと掃除しなさいよぉ!」
「はいはーい」
「みーんみんみんっ!」
「はいは一回!」
 割りときちんと指導するモーピー参謀。おシリアスな空気なんて見る影もありませんよぉ。
 とにかく仕切り直しだと二回、三回と咳払いするモーピー参謀が反省した様子のカスミン二匹に向かい、あ。またコケた。
「んんんがあああぁああああっ!」
 かなりの不自然な、故意的タイミングだが、今度は急ぎ足だったこともあってかかなりの勢いがつき丸い体をごろごろと転がして。
「いやあああああああっ!」
 そのまま巨大朧車ことオボロンの屋根から落下していった。
『…………』
 重い沈黙。
 符がひらひらと風に乗ってオボロンの後方へと流れ、車輪の回る音に合わせて水晶玉が屋根上を右に左にころころと。
 おい、どうするんだこの空気。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

インディゴ・クロワッサン
(ケーキは戦闘前に無限収納に収納済/やる気に満ちている)@SPD
ケーキの味は今すぐにでも確認したい所だけど…
「僕は、お仕事が終わってからのお楽しみって事で」
でもなぁ…夜糖蜜を入れた紅茶…いや、珈琲も捨て難いなぁ…
「いやいや、今はお仕事お仕事!」
指定UC を使った上で【空中戦/空中浮遊】も使って、万全の体勢を整えたら【第六感/怪力/精神攻撃/衝撃波/フェイント】辺りで朧車に攻撃が当たらない様に気を遣いながら攻撃するよー!(団体行動による協力大歓迎)
敵の攻撃は【見切り/範囲攻撃/なぎ払い】で迎撃してから【カウンター】として【早業/吸血/生命力吸収】かな
「ケーキの前の食前酒…なーんてね☆」



●実録! オブリビオン決戦!
「ひげぇっ!」
 がったん、と揺れたオボロンに恐らくは誰か轢かれたんだろーな、と他人事のように考えて桜花は減速する様子のない朧車に小首を傾げた。
「……轢けばビックリして停まるかと思ったのですけれど……?」
 摩那の攻撃で減速はしたものの、停まる様子はない。そもそもモーピー参謀を轢いたとすら認識してないのかも知れないが。
 ちらと目を向ければアリスの妹たちが、カスミンを捕縛する光の玉に足先で引っ掻いているところだった。結界を発生させる符を引き裂こうとしているのだろう。
 と、言うことは先ほどモーピー参謀が転んでいたのも彼女らによるものか。
「一先ず、と言ったところでしょうか。落っこちたモーピー参謀を探さないといけませんね」
「ギチギチ!」
(その必要はなさそうよー)
 姿は見えないながらも聞こえる思念波に、摩那は剣を構え直す。
 低い呻き声と共にオボロンの縁に現れる手。続いて除かせた顔には車輪の痕が生々しく、今しがた轢かれたことを如実に物語っている。
(それなのに朧車に縋りつけたのですね)
 涙ぐましい努力で済ませるには余りにもフィジカル。
「……ぐふぅ~……ぐふぅ~……!」
 血走った目で息も荒く、再びオボロンの屋根へと立つ。口許の池泡を袖で拭い、口角を引き上げる様は悪鬼羅刹の如く。
「……アッ、アッ……アナタ方のッ……好き勝手はこれ以上ッ……!
 オッヒョッ!」
 更にオボロンの縁から伸びた肢がモーピー参謀の足を引っかけて、完全に意識の裏を突かれた彼は顔面から倒れ鼻先を痛打する。
「ギイイィイッ!」
(皆ー、チャンスよー!)
(はーい!)
 アリスの号令を受けて、オボロンの屋根や側面に保護色を展開し潜んでいた妹たちが飛び掛かる──、水晶玉に。
「ギエエッ、ガチガチ。ギィイイイッ!」
(さー、その先視水晶をお家まで運んじゃいましょー)
(綺麗な珠ねー)
(きっとお家が華やぐわー)
「あ、こら止めなさい! 止めなさいったら!」
 モーピー参謀の制止も虚しく、すたこらさっさだぜと先視水晶を前肢で大事に抱え込んで、未だ走るオボロンからぴょこぴょこと脱出していく妹たち。
 顔だけ上げて地に伏していたモーピー参謀はそれを見送るしかなく。
 呆然としているモーピー参謀に、アリスらにより戒めを解かれたオヤジがその肩にぽんと足を置いている。惨めやのう!
 怒りにぶるぶると震えていたモーピー参謀。せっかく同情してくれたオヤジの足を払い、ゆらりと立ち上がる。
「……よくも……よくも、このワタクシを……ここまで……コケにッ……」
 鼻血で汚れ、脂汗の噴き出た顔からは白粉もどろりと流れ溶けて憤怒の形相を晒すオブリビオン。
 身構える摩那と桜花、なぜそんなに怒っているのかと小首を傾げるアリスが並ぶ中、頬を引き吊らせる上司の姿にそそくさと撤退するオヤジとセミカスミン。
「ギチギチ!」
(敵ながらちょっと可哀想かもー)
 怒りの原因が何処にあるのか、はたと気づいた様子で参謀の頭部に視線を向ける。
「ギィイエエエッ! ガチッ! ガチッ!」
(骸魂を祓ったら、アリスの糸で植毛してあげましょー。その為にも早く倒してあげないとねー)
「これはワタクシのヘアースタイルだと言ってるんですよぉ!」
 二人のやり取りに思わず吹き出した摩那と視線を逸らす桜花。その反応すら腹立たしく、もはやここまでだとモーピー参謀は更に声を張り上げた。
「ブチ殺して差し上げますよぉ!」
 再び符を取り出したモーピー参謀、その頭の周りに仮面が並ぶ。
 鬼、猿、龍。それぞれの仮面が奇々怪々な威圧感を生じ、ここからが本番かと桜花は息を吐く。
 ふわりと浮いた体はその身に桜の花弁が渦を巻き、彼女の瞳には強い闘志が宿る。
「我は精霊、桜花精。呼び覚まされし力もて、我らが敵を討ち滅ぼさん!」
 吹き込む風が全身を透過するように、涼風が体内を廻る。
 【精霊覚醒・桜】。先の摩那を運んだのもこの力だ。モーピー参謀は怯む事なくそれを見つめて、ふわりと浮かぶ仮面をその顔に張り付けた。
 まるでもとからそうだったかのように張り付いた仮面には血が通い、肉々しい変化を見せて大きな目玉がぎょろりと蠢く。
 ざわりと膨らむ衣服から覗く体毛がびっしりとその体を覆い、首に巻いた毛皮から毛を抜けば、妖気にあてられた獣が生きているかの如く牙を剥く。
 毛は一本の棒へと変じ、くるくると回して背中に構えたモーピー参謀は、不気味な猿の赤ら顔で晒らっている。
「さあ、行きますよぉ!」
 前進するオブリビオン。後方へと体を流した桜花と対照的に未だ雷光を留めた魔法剣を片手に構えて開脚、身を低く見せた後にモーピー参謀を迎撃するとばかりに突進する。
 雷矢となって疾る切っ先を棒の先端で絡め取る。
「うっ!」
 受け流す動作で少女を引き込み、足払いと共に体勢を崩して背を突けば為す術なくその体はオボロンから投げ出され。
 しかし摩那が空へ身を投げ出すと同時に彼女を抱き留めた桜花。その姿を鼻で笑い、モーピー参謀は屋根に突いた棒にもたれかかって挑発するように手を仰ぐ。
「なんて、ね!」
「ギチッ!?」
 その背からゆっくりと近づいたアリスが三度すっ転がそうと前肢を伸ばせば、モーピー参謀は棒を支えにひらりと空を舞い、逆にアリスの無防備な背中へと着地様の振り下ろしを繰り出した。
 刹那。
 差し出されたのは罪を示す黒い直剣。藍薔薇の紋章を参謀の目に焼き付けて、その凶撃を弾いたのはインディゴ・クロワッサンだ。
 追いついた彼の背にはばさりと翻る【黒の外套】、その下から一対の羽を覗かせていた。自らの寿命を削りながらの限定覚醒、【藍薔薇纏ウ吸血鬼(リミテ・エヴェイユ)】は彼の吸血鬼としての能力を爆発的に増大させるものだ。
「藍の血の片鱗を、今ここに」
「ほぉう、中々にお値段もよろしそうな剣じゃあないですかぁ!」
 逆手に握り直した剣を胸元に引き戻せば、オブリビオンはにたりと笑った。
「カチカチッ!」
(インディゴさん、ありがとうなのー!)
「こういう手合いは僕と摩那さんに任せて貰おうかな」
 保護色を展開して再び姿を紛らわせるアリス。
「変ですね。どうしてあの方はアリスさんに気づいたのでしょう?」
「さあ。あの仮面で動きも変化しましたし、気配を感じ取ったとか?」
 傷一つなく自らをオボロン上へ戻してくれた桜花にお礼を述べて、摩那はモーピー参謀へ鋭い視線を向けた。
 敵の無造作な前進に機先を制そうとしてカウンターを取られてしまった。相当な技量を持つのは明白だが、それならばそれで戦い用はある。
 舞うように剣を回し、中華式の立ち姿に構えを変える摩那。それに反応して棒を両手に構え直すオブリビオンに摩那は内心で笑う。
(こちらに合わせて動くタイプのようですね。こっちはハッタリですけど)
 思考する摩那の頭上に影が落ちる。嫌な気配を感じないそれは、視線も入れずに援軍だと感知して。
「ようやく追いついたぜ。俺の事を忘れちゃいないよな?」
 インディゴと並ぶように炎の翼、地獄の炎と一体化する金翅鳥【迦楼羅】をその背に宿して不適に笑うウタ。
 前衛三に補助が一で遊撃一。
 遂に揃った五人の猟兵を前にしても肉面の不気味な晒い顔は変わらず、モーピー参謀は戦力を分析する。インディゴはそんな彼の様子に臆することもなければ、むしろどうでも良いとでも言いたげに前へ出た。
「ちょっとムカついてるんだよね。君、僕の剣を売り飛ばす気でしょ?」
「ンっふっほっほっはっはっは! だとしたらどう――」
 先の参謀の言葉を聞き咎めていたようだ。苛立ちとは精神の乱れ、怒りとは即ち隙である。インディゴの言葉にその歪を広げようと耳障りな笑い声を上げたその瞬間。
 隙有りとばかりに摩那の突き出した魔法剣の切っ先から放たれた衝撃波が指向力を持ち、稲光を生じてモーピー参謀へと唸りを上げる。
「甘いんですよぉ、旋風扇華!」
 派手な名前の割に扇風機のようにくるくる棒を回すだけの防御で衝撃波を受け止める。回す棒を左右へと揺らすことで衝撃を逃し、そのまま無力化してしまうモーピー参謀。思いの外に凄いな。
 衝撃波が掻き消えると同時に左右より前後に別れて迫ったインディゴとウタによる挟撃が繰り出された。
 振り下ろす巨剣と刺突する直剣の刃を受け流し、あるいは受け止めて振り払う。その背に向けられた摩那の一閃も脇の下から伸ばした棒で受け止められ、そのまま回転をもって流される。
 ついでに足下に這い寄るアリスからは距離を取ったようだ。
「ちっ!」
 流水のような動きで捌きながらのカウンターを、身を仰け反らせてかわした摩那はたたらを踏む。
 隙が無い。死角からの攻撃は勿論、不可視の攻撃すら捌いてみせたモーピー参謀の技量は並みではない。
(何かカラクリが?)
 上空から猟兵の剣戟をいなすオブリビオンを観察して、はたと気づく。
 彼が先程持っていた符はどこへ行ったのか。
「空飛ぶお嬢さん見といで寄っといで! ここ、ここ! ここですぜ!」
「みんみんみ~ん!」
 呼ぶ声に広いオボロンの屋根の上、四隅の対角上にオヤジとセミカスミンが合図を送っている。
 彼らの足下には符が貼られており、更には足で示す先にの角にも更に符が貼られていた。
 朧車の屋根四隅に貼られ、猟兵たちを取り囲むように。
「ちいっ、余計な真似をするんじゃありませんよぉ!」
「ほんぎゃーっ!」
「みみみみみぃーっ!」
 猿の肉面が口を開けば放たれた符を受けて、炸裂する電流に二匹のカスミンは悲鳴を上げた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

木霊・ウタ
心情
骸魂を海へ還して
妖怪を元に戻すぜ

カスミン
戦闘前に…

蝉の命は短い
思い切り鳴くといいぜ
鳴き声に合わせて演奏してやる

オヤジへケーキをやる
これを参考にして至高の石焼き芋を作ってくれ

各々心残りがなくなれば
満足して
骸魂が憑くのを止めることを期待

戦闘
火矢の如き速さで飛翔し追い縋る

朧車は傷つけない
こんな参謀の傀儡にされて可哀そうに
今、助けてやるからな
火の守りから参謀を外してくれると有難いぜ

爆炎加速で回避
もし幻視幻覚が現れても
炎の渦を広げ
視界、精神内共に焼却

獄炎纏う焔摩天で薙ぎ払い
水晶玉を砕く

悪どい商売は儲からないぜ

トドメは
飛び出してきた首&内臓を両断しつつ灰に

事後
鎮魂曲
安らかに

石焼き芋を喰う
美味いぜ(ぐっ



●敵の総大将を追い詰めろ! 激震のオボロン!
「カスミンさん!」
 雷に打たれてオボロンから転げ落ちる二匹のカスミンの元に赴く桜花を横目に、彼らの示した符を破くのは未だオボロンに張り付いていたアリスの妹たちだ。
 四方に貼った符により練り上げられた結界が、内部の者の動きを具にモーピー参謀へ伝えていたのだ。
 これが死角不視問わず全方向からの攻撃に対応した彼のカラクリだ。とは言え、それが可能な技量を持つに違いは無いが。
「あんたの部下じゃなかったのか」
 桜花に助けられるカスミンらを肩越しに、モーピー参謀を睨み付けるウタ。
「ンっふふっ。そうですよ、だから切り捨てたんですよぉ、使えないから」
「下衆め!」
 その言い種に嫌悪を見せた摩那の衝撃波を再び棒で受けるオブリビオン。
 しかし猿面の笑みは変わらずとも、そこに余裕はない。
「ぬほっ!?」
「おっと惜しい!」
 背後から駆け抜け様の一撃を面に受けて悲鳴をあげる。カスミンらの被害など関係ないとばかりの攻撃手、インディゴを睨み付けたその隙に足払いを仕掛けたのは、先の仕返しとばかりの摩那。
 衝撃波を受ける隙に正面から堂々と接敵した。それはつまり、モーピー参謀がオボロン上の動きを察知出来ていない事を意味していた。
「もう後が無いんじゃないですか!?」
「小賢しいんですよぉ!」
 傾いた体へ叩きつけた刃を棒で弾き、その衝撃を流れに変えて倒れる体を支えたモーピー参謀。
「チェックメイトだ!」
 棒で屋根を突いて空へと舞い上がったオブリビオンへ、月光を照り返すのは巨大剣。身にはその名、【焔摩天】の梵字が彫られ、軌道に合わせて青い夜に赤の軌跡が刻まれる。
「!」
 ジャストミートかと思われし一撃。だがそれは青く巨大な手によって受け止められた。
 振り返るモーピー参謀の顔は赤ら顔の猿ではなく、乱杭歯を剥き出しにした青黒い鬼の顔へと変貌していた。
 鬼の肉面だ。
「落ちなさい!」
 焔摩天を握り、逆の手で拳を握ったモーピー参謀に叩き落とされたウタ。その体を慌てて抱き止めたのはアリスだった。
 オボロンを揺らして着地したモーピー参謀は、青い肌に覆われて、筋肉で膨らんだ体を解すように回し三人と一匹を見つめている。
「……ぐふぅ~、ふふふ……かかってきなさい、弱小ども!」
「ギチチッ!?」
(あの人、髪が増えてるわー!)
「何時までワタクシの髪を気にしてるのこの蜘蛛のお化けは!?」
 鬼の面からざわりと伸びた髪が頭部を覆い、良かったじゃないかと喜ぶアリス。当のモーピー参謀はおシリアスな雰囲気が台無しだと憤慨している。
 自分の服装見てからものを言え。
「大丈夫ですか、ウタさん?」
「ああ、直撃は食らってない」
 インパクトの瞬間に剣を内へと回してモーピー参謀の魔手から逃れたウタは、その鎚の如き拳を刀身に受けたのだ。
 立ち上がるウタに並び、インディゴは翼を畳んで青鬼と化したオブリビオンの回りを浮く面に注目した。
 申、辰、そして彼の装着した隠の面。
「やっぱりあのお面が厄介な感じだねー、壊しちゃおっか」
「賛成です」
「なら、正面は僕が行くよ。隙はよろしく」
 インディゴの言葉に長く息吹いて肺の空気を絞り出す摩那。ウタも敵を正眼で睨み付けて、剣を正面に構える。
「作戦は決まったんです?」
「正面からまっすぐさ!」
「は?」
 クラウチグスタートのように身を屈めたインディゴは次の瞬間、強靭な脚力で加速──するとオボロンにまで被害が出てしまう為、再び広げた翼で加速し真っ直ぐに突進。
 それを正面から見据えて口角を引き上げたオブリビオンは、豪腕を振り上げた。
「ペシャンコにして差し上げますよっ、ほぉい!」
 踏み出した足をアリスに引っ掛けられてバランスを崩したモーピー参謀。その体故か今度は倒れこそしなかったものの。
「ふンがッ!」
「…………、あれ、その顔って割れたりしないの?」
 鼻っ柱を叩き潰す黒剣の柄頭。突進の勢いをそのままに叩きつけられ、強化された肉体を構わず跳ね上げたのは細身の体からは想像もつかない怪力だ。
 滝のように鼻血を吹き出したモーピー参謀であったが、目に涙を浮かべながらもにやりと笑う。
「……捕まえましたよぉ……!」
 言葉の通り、インディゴを取り囲み虚空を漂う符の姿。
 だが。
「オッヒョッ!?」
 上空から放たれた弾丸が符を焼き焦がし、参謀は恨めしく軽機関銃を構えた桜花を睨む。
 だがもはや、そのような時間はない。
 進み出た摩那、そして旋回したウタの双刃がモーピー参謀の周りを飛び交う仮面を同時に叩き斬った。
「甘いんですよぉ!」
 振り払う巨拳。仮面を割らせて打撃を選んだ参謀の一撃を、勘で察した摩那は既に引き戻した剣で受け流し、ウタはまた手元を返すことで刀身を盾の如く受け止める。
「……くっ……!」
 風貌に劣らぬその威力。押し返された二人には目もくれず、続くは貴様だとばかりに正面のインディゴへ襲い掛かった。
「甘いんですよぉ、っと!」
 既に一拍置いた追撃など、反撃の暇を得るには十二分。
 見え透いた手を紙一重でかわし、脇の下を潜り抜けてモーピー参謀の背後へ回る。
 その金の瞳が捉えるのは青く染まる彼のうなじであった。
「……ケーキの前の食前酒……なーんてね☆」
 がぶりんちょ。
「いった~い!」
「まっず~い!」
 殆ど同時に叫んで離れた二人、モーピー参謀は首筋を押さえ、インディゴは腐ったような臭いを放つ血を吐き出していた。
 それでも生命力はきちんと吸収出来たようだ。良薬は口に苦いもんね!
 三方から囲まれる配置となり、青鬼は額から汗を流して後退る。ちなみにその方向には保護色で隠れるアリスがいまーす。
「…………、直接戦うなんて、ワタクシもそんなマネしたくはないんですよぉ」
 とは言え、そう言っていられる状況でもない。
 モーピー参謀が懐から符を一枚取り出すと、瞬時にそれは灰となる。
「せめて、万全の状態でなくてはね」
 意味ありげに笑うオブリビオン。
 一方、霧の町より離れた場所で、先視水晶を持ち出したアリス妹たちは巣、もといお家までの道を急いでいた。
(この辺にもお家を作った方がいいかしらー)
(多いにこしたことはないものねー)
(ねー。あら?)
 などと話していると、目の前に炎とともに一枚の符が現れたのだ。
 首を傾げるアリス妹の内の一匹、先視水晶を抱え込んだ個体の頭に吸い付くと、その妹と供に消えてしまった。
(しぇーなのー!)
(あっちょんぶりけ!)
 驚く妹たちの思考は情報として現在、モーピー参謀と戦う司令塔個体・アリスに統合される。
「ギエエエエエーッ!」
(たーいへーん!)
『!?』
 アリスの驚愕に何の事かと驚く一同、モーピー参謀に至ってはノーマークの場所から上がった奇声に驚愕し、手元にアリス妹と共に召喚された先視水晶に気付くのが遅れた。
「んんがぁ!?」
(きゃーっ)
 本来なら右手に水晶を転移させるつもりだったのだろうが、アリス成体が現れた上に余所見をしている最中で何の心構えもなく、あっさりと右手をオボロンの屋根に縫い付けられる。
「ぐっ、この、おどきなさい!」
(いたーい!)
 豪腕で殴り飛ばされるが、彼女らの【甲殻】は硬度だけでなく靭性にも優れる。単純な打撃では内臓を痛めはしても外皮を破壊する事は不可能だ。
 大した被害も無さそうなアリス妹であったが、後生大事に抱えていた先視水晶を落としてしまったようだ。
 澄んだ音を鳴らし、走るオボロンの屋根に跳ねる珠。
「ギヂギヂギヂッ」
(やらせないわー!)
「あっ、ふぁっ!?」
 落とす訳にはいかないと腕を伸ばす青鬼の足に、妹の仇と怒りの足掛けを炸裂させる。
 彼女らの概念としてそのような感情があるかは分からないが、シチュエーションがそれっぽいからそういうことにすれば良いのだ。
「こンのお化け蜘蛛、いい加減にしてくださいよぉ!」
「ギッ、ギィーッ!」
(いたーい!)
 足を引っ掛け逃すまいとするアリスに、保護色で見えない為にそこかしこに足を繰り出すモーピー参謀。
「アリスさん!」
 彼女の悲鳴を聞きつけて、桜花を渦巻く桜の花弁に勢いが増す。
 仲間を守る為。燃やした闘志を表す桜は、その身から生えるように鮮やかに萌えて、構えるのは退魔刀と同じくして製作された【破魔の銀盆】。
(カスミンさんたちも無事に受け止められたんですもの。被害を出さず、敵を討つ!)
 傷ついたカスミンらは離れた家屋に下ろしている。仲間であり、部下であるにも関わらずあっさりと切り捨てたモーピー参謀を、摩那と同じく桜花も許してはいない。
 加速する桜花は衝撃波を起こさない程度である事を念頭に突撃、アリスを蹴りで引き剥がそうとするオブリビオンをぶちかます。
「おおっぶふぅ!」
 タイミングを合わせて拘束を解いたアリス。その眼前で弾き飛ばされた青鬼は弾むように転がっていく。まるでゴム毬だぜ!
 しかしその先にあるのは彼の求めた先視水晶だ。
「お馬鹿さんたち、返して貰いますよワタクシの──」
「──ちょいと荒っぽいぜ?」
 嵐のお通りだ。
 【焔摩天W(ワイルドウィンドウィスパー)】でその身を地獄の紅蓮に包み、背より展開した翼を爆炎へと変じさせたウタの姿。
 弾き飛ばされ無様に転がるオブリビオンを飛び越えて、転がる先視水晶へ焔摩天の巨刃を叩きつけた。
「アァァーッ!? ワタクシの可愛いお玉ちゃんがァーッ!!」
 発言に気を付けろゲロカス。
「悪どい商売は儲からないぜ!」
 ウタが見守る中、ご逝去なされた先視水晶に悲鳴を上げながらオボロンから再び転がり落ちたモーピー参謀が、やはり再びオボロンに轢かれてがたんと屋根が揺れる。
 しかし。
 火矢となって飛翔するウタの翼は横切るオブリビオンを一薙ぎしたのだ。その瞬間、まるでそこだけ避けるように炎は途絶えていた。
(まだ、朧車からの加護があるのか)
 ウタは身を包む炎と共に、町を走るオボロンの巨顔の前に浮遊する。
「オボロン、だっけ? あんなオブリビオンの傀儡にされて可哀そうに。
 もう大丈夫だ、奴はいない。停まってくれないか?」
 ウタの説得に対して口から青い炎を息吹く所を見れば警戒しているようだ。
 まずは警戒心を解かねばと唸るウタの横に、セミカスミンがオヤジを背に乗せて現れた。モーピー参謀の雷から回復したようだ。
 否、回復し切ったとは言えないだろう彼らは、以前より一回り小さく、この間にも体の節々から昇る蒸気により縮んでいるようだった。
「オボロンよーい、掃除してやるから停まってくれーい!」
「……めっちゃ簡単に停まるじゃん……」
 オヤジの言葉にあっさりと停止したオボロン。口を閉じると鼻から真っ白な煙を放出して上機嫌な顔だ。
 まあ、停まってくれればこちらのものだ。
「火の守りから、あのモーピー参謀を外してくれるように頼んで貰えると有難いぜ」
「ふん、猟兵と手を組むのは今回限りだぞ!」
「みみんみん!」
 オボロンの顔に張り付く二匹は憎まれ口を叩く。
 苦笑して屋根へ向かうと、オヤジが遠慮がちにウタを呼び止めた。
「町の一画に屋台を隠してるんだ。まだほくほくの石焼き芋があるから、良かったら食べてくれよ」
「…………、ああ、分かったぜ」
 親指を立ててそれに答える。
 オボロンの屋根上ではアリスが割れた水晶玉の破片を妹らと拾い集めている所であった。
 さしものモーピー参謀も今回は踏ん張れなかったようで、オボロンから完全に振り落とされたようだ。摩那とインディゴ、桜花は先に彼の元へ向かっている。
「そろそろ、決着だな」
 剣を肩に乗せて、炎に包まれたウタは青い夜空を見上げた。


●恐怖、執念のピーガスー!
 呻き声を夜の道に響かせて、ゆっくりと立ち上がるモーピー参謀。度重なる戦闘で遂に限界が来たのか、青の肉面には亀裂が入り、肥大した両腕もぼろぼろと、乾いた土塊の如く崩れ行く。
「……お遊びは、もうおしまいですよぉ……」
 崩れた腕から現れた本来の手で、裂けた肉面を引き剥がす。白粉もすっかり溶け落ちて、血で汚れた顔を見せるオブリビオンの顔は憤怒にどす黒く染まっていた。
「あれ、今まで遊んでらしたんですか?」
「それで自分から朧車に轢かれに行くって、ちょっと特殊な人ですよね?」
「ギチギチ!」
(轢かれるのが好きなのかしらー?)
 驚きに目を丸くする桜花、悪意を込めて話を進める摩那と、それに同意するアリス。
「本気になってあげるってことですよぉ! いちいちいちいち癪に障りに障って障りにまくる人たちですねぇ!」
 三娘に馬鹿にされて声を張り上げるが、ならば今度はこちらだと口を開いたのはインディゴとウタ。
「いやー、そうじゃないか思ってたよー。弱すぎてさ~」
「まあ、本気になった所で俺が、俺たちが負ける訳がないけどな!」
「減らず口ばかりの出血大サービスなんて必要ないんですよぉ!」
 悔しげに服の袖に噛みついたモーピー参謀はそのまま引き千切り、残る袖も指先で斬り落とす。
 現れた腕は鬼の肉面を装着した程ではないが、浮かぶ肉の厚みに彼の体がただ太っている訳ではない事が伺い知れる。
 モーピー参謀は襟巻きの獣から体毛を抜き、ふ、と息を注いで先ほどと同じく棒へと変化させ、続いてその左手に符を浮かべた。
 真っ直ぐにこちらを睨み付ける彼に笑みはなく、ならば行くぞとの言葉すらもなく。
 闘志を以て夜気に熱を加えるモーピー参謀に、猟兵たちも馬鹿にした笑みは止めて各々の構えを見せる。
 一瞬の静寂。
 次の瞬間、先に動いたのは誰だったか。
「ケェエェエェイ!」
「はあぁあぁあっ!」
 棒を頭上で旋回させるモーピー参謀と、コンクリートで舗装された道路上、もはや遠慮する必要はないと背面を爆裂させて加速したウタ。
 互いの獲物をぶつけ合う瞬間、棒を傾ける事で打点をずらし、ウタの焔摩天を受け流すオブリビオン。
 先の技量ならば抵抗する間もなく追撃を加えたのだろうが、面を失った影響か動きが遅く、精細さにも欠けていた。
「甘い!」
「オッヒョッ!?」
 弾けた炎の翼に合わせ、虚空で前転したウタの踵が禿頭に突き刺さる。
 すんでの所で身を反らしたものの完全回避とはいかず、額から出血するモーピー参謀。身を翻しながら次々と投じる符を左右へかんし、接敵するのはインディゴと摩那の両名。
 風に巻かれるような不規則な軌道を見切る二人に対し、獲物なき左手で印を結ぶ。
 その左手を。
「ギギギ、ガチッ、ガチッ!」
(いただきまーす!)
「ぎっ!?」
 丸ごと噛り取るアリス。
「──がぁああああッ!」
 印が結べず苦し紛れの大薙ぎ。
「返し胴ッ!」
 叫ぶ摩那の緋月燭欄が月光をルーン文字に照り返し、青く染まる刃に雷が走る。
 モーピー参謀の振るう棒を僅かに小突いただけで弾き飛ばしたのは、剣本来の質量を何十倍にも高めた力によるもの。
「帰し胴ッ!」
 すでにその威力は破格に達する。深々と脇腹を貫き抜ける刃は雷光を生じ、白刃を受けたその身を硬直させる。が、それも束の間。
 脇の下から抜けた刃、傷口と刀身から稲妻が吸い取られるように中空の符の一枚に封じられた。
「猟兵ぃーっ!」
 棒を取り零しながらも拳を固めたオブリビオンの鉄槌を受け止めたのは、桜花の銀盆だ。
 ずしりと体の芯にまで響くそれも、意志の力を糧とし強化された彼女を仕留めるには程遠い。
 そして。
「がら空きな所を悪いけど!」
「っ!!」
 背後から貫通する黒剣が、モーピー参謀の胸から姿を現す。
 致命の一撃を加えたインディゴは微笑み、手元をしっかりと返して傷口を抉り、剣を引き抜いた。
 伝う血を一振りで払い、膝をつくオブリビオンへ肩越しに振り返る。
「どうも君の血じゃあ、僕の剣を買い取る価値はなかったみたいだね」
「……お……おの、れ……」
 苦しげに呻いて立ち上がろうと踠くが、もはやその体に力は残っていないのだろう。
 あえなく仰向けになったモーピー参謀は咳き込みながら血を吐いた。
 終わりか。
 武器を納める摩那は、守りに入ってくれた桜花に頭を下げた。
「ありがとうございます」
「いえ。…………。
 売上という言葉が微かに聞こえましたけれど。……あなたの望みは何だったのでしょう……?」
 桜花の問いに、荒く浅い呼吸を繰り返すモーピー参謀は、霞んだ視界に哀れむ彼女の表情を認めた。
「……ンっふっふっ……決まって、る……じゃあありま、せん、か……資金集め、ですよ……」
 何の為の資金集めかと問われれば、それを明確にする事など今になっては出来ないが。
 ただそれを第一とする目的だけが、骸魂となっても執念として残り続けたのだろう。それ以外の目標すらもなく。だからこそ、空虚な自分を満たす為に全力を打ち込んだのかも知れない。
 それも、もう終わりか。
 血に染まる体を見下ろして力なく呻く。だが、だからこそ。
「……あと……一太刀……、そう願わずにはいられませんよぉ!」
 やおら血走った双眸を開けば首の下に生えた昆虫のような足が蠢き、その首を胴体から音を立てて引き抜いた。
 針金で固定されたような荒い縫合痕の残るその足は役目を終えれば力なく、胴体より離れた首、それに垂れ下がる内臓と同じく。
「げっ!」
「ギチチッ」
(わーっ)
 グロテスクな光景に仰け反る摩那と、逆に身を乗り出すアリス。それを目の前にして動じぬ桜花と、一歩離れた場所に立つインディゴに動きなく。
「一太刀もやらねえ。けど、安らかにな」
 その身の炎に焼かれ、光となった剣が桜花へと迫る生首を真っ直ぐに貫いた。
 ウタは、小さくも重い吐息を漏らし、【大焔摩天】を振り上げ、遂にはベーゴマ床町に混乱を呼び込んだオブリビオンの頭を両断したのである。


●霧の消えた町。
 夜も更け始めた町の中、霧も、邪悪も祓われて月光が静かに町に溢れている。
 キャンピングカーを走らせた桜花は町を出てしばらく、道の脇にちょこんと座るぬりかべさんから避難した人々の行き先を尋ねていた。
 子供や、意識を失った者もいる事から遠くまで進んではいないと考えていたが、気弱な赤鬼さんの即席リヤカーで思ったより遠くへ進んでいたらしい。
 追い付いた彼女は事件の終了を報せて、町に平穏が戻ったことを告げた。
 それからと、のっぺら親子に赤鬼さんからいただいたケーキの箱を手渡した。
「偉かったですよ、小さな自警団員さん?」
 疲れて寝てしまったのっぺら坊主が起きてしまわないよう、優しく言葉をかけて。
 その様子を車の中から見ていた摩那は、訪れた平穏に顔を見合せ喜ぶ住民の姿に、これで心置きなくと赤いショートケーキを口にする。
「やっぱり激闘を制した決着後のケーキはうまい!」
 年相応の少女としての顔を見せる。兵器に転用出来うる激辛料理を好むとは言えやはり女子、甘いものを否定するはずがないのだ。
 場所は戻りベーゴマ床町。
 妹らを引き連れたアリスは、オボロンの傍で先視水晶を復元している妹の一人というか一匹というか、とかく彼女を迎えに来ていた。
「もぐもぐ、ギチギチ!」
(様子はどうかしらー?)
(くっつけられたけど元通りにはならなかったわー)
 ひょいと頭に乗せれば月光に輝く水晶玉。アリスの糸で接着され元の球形を取り戻しているが、亀裂をなかっとことには出来ない。
 しかしお陰で光を乱反射する珠は燦然と輝いていた。
(綺麗ねー)
(これで十分大丈夫じゃないかしらー?)
 口々に輝く珠を見つめて、帰路につく前にとオボロンの周囲を回る霞に声をかけた。
「カチカチ、ギチギチ!」
(カスミンさん、バイバーイ)
「猟兵様方、ありがとうございました」
「ギチチッ?」
(あらー?)
 ふわりと漂う霞がし収束すると、着物姿の人型となって頭を下げる。
 カスミンではないのかと小首を傾げれば、彼らは既に依代となった霞雲に憑依し続ける力が残っておらず、消えてしまったと。
 他の霞雲と違い、その身を消耗させなかった彼らはオヤジ、セミカスミンの望みを聞き入れオボロンの掃除をしているのだと言う。
 気持ち良さそうに瞼を下ろしている朧車からは、交通の邪魔にはなるが邪気は感じられない。住民の望みがあればどこへなりとも去ってくれるだろう。
 問題が無ければ良いのだと、アリスは踵を返し、町の外を目指す。腹にショートケーキを乗せて引き摺るのは、首なし死体が道路に血の跡を残しているのはお構い無しであった。
 ウタもまたベーゴマ床町におり、オヤジの言葉通り放置された屋台を発見していた。一先ず火元をそのままにしておく訳にもいかないので消火し、甘い香りを周囲に広げる石焼き芋を取り出した。
「あちち、あちっ、あちっ」
 包帯に包まれた右手で掴めばこれぐらいはどうともないのだが、敢えて生身の左手でその熱を楽しみながら芋を割れば白い湯気、黄色の中身が姿を表した。
 口をつければ柔らかく解れ、舌を火傷しないよう芋を転がし香りと甘味を楽しむウタ。
「オヤジ、あんたの石焼き芋は美味いぜ」
 いくつか食べて腹を膨らませて、その幸せな気持ちのままにギターを構える。
 彼の鎮魂歌が、住民の未だに戻らぬ町に響いた。
「もの悲しい響きでも無く、満ち足りた感じの、いい音色だね~」
 町に響く音をその耳に入れて、無限収納内のテーブルで小綺麗な装飾を施されたティーカップを傾けた。中に入っているのは紅茶か珈琲か、それとも。
 小皿に乗った赤いショートケーキを前にナイフやフォークを並べて、どれを使い食するのか、それすらもデザートを美味しく頂く調味料としてインディゴは微笑んでいた。

 忘れ去られし物の怪や妖どもの集まる世界、カクリヨファンタズム。特別不安定なこの世界では物が増殖することですら住民たちに影響を与え、世界そのものを滅ぼしかねない事態へと、しばしば発展している。
 そんな大事件も解決していく猟兵たちの姿は、正に救世主と言えるだろう。
「石焼~き芋っ、お芋ー、お芋~♪」
「ほっかほかののっぺら焼き芋、赤鬼さんのショートケーキも置いてますよ~!」
 霧に封印されたこの町、ベーゴマ床町も今では怪しさの影すらない。戦いの傷痕は各所に残りながらも、住民たちはそれらをありのままに受け入れて毎日を過ごしている。
 何故ならばこの世界、カクリヨファンタズムこそが彼らの全てを受け入れた世界だからだ。
 この世界はこれから先、何度も滅亡の危機に瀕するだろう。そして、その度に猟兵たちに救われ、住民たちは共に戦い、この世界の全てを受け入れるのだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2021年03月15日


挿絵イラスト