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追憶の音色に満ちる想い

#カクリヨファンタズム

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#カクリヨファンタズム


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●追憶の音色
 町のあちこちから涼やかな音色が聞こえてくる。まだ暑さの残るこの時期に、風鈴の音色は涼を感じられて心地よい。
 この土地では毎年この時期に風鈴祭りが開催されるのだ。
 古風な着物を着た黒髪の女妖怪――小夜は、その音色に耳を澄ませ、その音から呼び起こされる懐かしい記憶に思いを馳せた。
 あれは何年か前の風鈴祭り。店で売られている美しい音を響かせる風鈴に惹かれて思わず手を伸ばした。物を掠め盗るその腕には無数の目――彼女は百々目鬼だったのだ。
 風鈴を盗んだことにより店主と口論になったのだが、小夜の盗んだ風鈴の代金を払ってくれた人がいた。狐の耳と尻尾を持つ妖狐の青年は初対面のはずの小夜をかばってくれた。なんとか店主を言いくるめて、小夜は解放された。
 かばってくれて嬉しかったけれど、手癖の悪い自分が恥ずかしくもあり、その時の自分はきちんとお礼を言えただろうか。風鈴はくれると言ってくれたけれど、払ってくれたのはそちらだからと突き返して。それでも嫌な顔一つしないで優しく微笑んでいたその顔を今でも思い出す。
 風鈴の音を聴けば蘇るその淡い想いを胸に歩いていた小夜は、思わず目を見開く。
 目の前に今しがた思いを馳せていた青年がいたから。
「あなたは……」
 記憶の中の優しい姿のままだった。そうだ、あの時は恥ずかしくて逃げるように自分からその場を去ってしまって、名前も聞けなかったから。
「あなたの名前は?」
「風早」
 ああ、ようやく聞けた。もう一度会えて嬉しい。だって、彼も自分を求めてくれているから――。
 大きく優しい腕が小夜へと伸びて――そしてひとつになる。
 骸魂に飲み込まれたとしても小夜の胸に広がるのは幸福感。この満たされた気持ちがいつまでも続けばいいのに……。

 ――時よ止まれ、お前は美しい。

 それが世界の終わりを告げる滅びの言葉だとは気づかずに思わず呟いていたのだった。

●グリモアベースにて
「みんな、集まってくれてありがとう」
 またひとつ大きな戦いを終えて頼もしくなった猟兵たちへと笑顔を向けると、エリシャ・パルティエル(暁の星・f03249)は今回の予知の説明を始める。
「カクリヨファンタズムでは、毎日のように世界の危機が訪れているけれど……滅びの言葉によって崩壊しそうな世界を救ってほしいの」
 人間の感情を食糧としている妖怪たちにも自分たちにとっての大切な思い出がある。その想いの末に起きた事件を説明しながら、エリシャも複雑そうな表情で呟いた。
「大切な人と再会できて、幸せに満たされたと思ったのに、それが世界を滅ぼすことに繋がるなんて思わないわよね……大切な人との時間は永遠に続いてほしい……そう思う気持ちは痛いほどわかるもの……」
 胸に手を当て自らの思いを重ねるようにそう言ってから、エリシャは顔を上げ言葉を続ける。
「ただ、彼女が再会したのは彼女が想っていた青年ではなく、その青年を取り込んだ骸魂だったの。骸魂を降ろす為に作られた失敗作の人形は、飲み込んだ人物になりきろうとしているの。彼以外にもたくさんの妖怪を飲み込んでいるみたい」
 世界の崩壊を止めるには、骸魂を倒さなければならない。それが再び彼女たちをバラバラにすることだとしても。
「ちょうどこの場所では風鈴祭りが開催されていてね。骸魂がいる場所へと向かうにはたくさんの風鈴が吊るされた回廊を通っていかなくてはいけないの。ただ、妖怪たちの願いや想いがこめられたここを通過する際に、みんなも自分の過去の記憶と向き合う必要があるの」
 楽しかった記憶や、辛い記憶。忘れられない思い出。それらが先へ進むのを阻むので、過去に囚われず前へと進んでいかなければならない。
「そこを抜ければ骸魂の元に辿り着けるわ。足元が徐々に崩れて世界が崩壊を始めているでしょうから、骸魂を倒して世界の滅亡を阻止してほしいの」
 それは世界のためでも、妖怪と骸魂の解放の為でもあると信じて。
「何が正解かは立場によって違うのかもしれないけど……あたしたちは黙って世界が滅ぶのを見ているわけにはいかないから。全てが無事に終われば、風鈴祭りを楽しんで来たらいいと思うわ」
 世界が滅んでもいいと思えるほどの想いがあったとしても。その世界で大切な誰かと笑いあえる他の者たちの幸せまで奪うわけにはいかない。
 エリシャは信頼の眼差しで猟兵たちを見つめると、星型のグリモアを出現させ、転送を開始した。


湊ゆうき
 こんにちは。湊ゆうきです。
 滅びの言葉と言えば天空の城を思い出します。

●第一章【冒険】
 願い事の書かれた風鈴がたくさん吊るされた回廊を抜けてもらいます。ここでは何らかの自分の過去の記憶が思い出されたり、目の前に広がったりします。楽しかった思い出や悲しい記憶などに囚われたままでは前に進めません。記憶は何でも構いませんが、それらを乗り越えて前に進んでください。

●第二章【ボス戦】
 過去に飲み込んだ妖怪の力を使って攻撃してきます。
 記憶や感情も共有していますので、思い出にまつわる声掛けなどをしていただいても構いません。
 飲み込まれた妖怪は、オブリビオンを倒せば救出できます。

●第三章【日常】
 風鈴祭りが開催されています。願いを書いた風鈴を吊るしたり、風鈴を買ったり。出店などもありますので、浴衣を着てもいいですし、救出された妖怪たちもいますので、自由に楽しんでください。

 ご参加は途中からでも一章のみでも大歓迎です。
 プレイングはOP公開後すぐに受付いたします。
 それでは、皆様のご参加お待ちしております!
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第1章 冒険 『追憶回廊』

POW   :    過去なんて振り返らないとただひたすら前へと進み続ける

SPD   :    目を瞑る、耳を塞ぐなど、物理的に過去を遮断する

WIZ   :    強い心で過去への誘惑に抗う

👑7
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

故無・屍
…死んだ奴は戻ってなんか来やしねェ。
例えそれがそっくりそのままだったとしても、それは何かを捏ねて作った
単なる木偶に過ぎねェんだよ。

風鈴の回廊の中、浮かび上がるのは自分が『失った』記憶。
『バケモノ』の襲撃で「散らばった」両親、
呆気なく斬り捨てた仇の死骸。

――四肢を斬り落とされ、自分の腕の中で、虫の息で「殺して」と願う妹。

…それでも歩みは止まらない。
自分は家族の生を守れなかった。だからこそ、その死さえも否定することなどどうして出来よう。

家族の血の匂いが、白刃を以て妹の心臓を貫いた感触が、流した涙の感覚が、怒りを向けるべき仇さえも失った虚無感が、あの時のままに蘇る。


――それでも。

涙は、流れなかった。



●喪失
 崩壊を始めた世界に場違いなほど澄んだ音色が響く。
 数多の風鈴が、妖怪たちの願いを乗せて、風に揺れていた。
 妖怪たちは人間に向けられた感情を食糧としている。だからなのだろうか。この風鈴の吊るされた回廊を通るときに、強い感情を抱いた記憶が呼び覚まされてしまうのは。
 回廊を行くのは眼光の鋭い灰髪の青年だ。故無・屍(ロスト・エクウェス・f29031)の耳にも風鈴の涼やかな音色は届いていたのだろうが、彼の頭には妖怪たちを次々と喰らったという骸魂のことがよぎっていた。
 反魂を試み、骸魂を降ろす為に作られた人形――それが骸魂の正体だ。骸魂を降ろすために作られた人形が骸魂になるとは皮肉だ。そして何者でもない人形は、誰かになろうと次々と妖怪を飲み込んでいるという。
「……死んだ奴は戻ってなんか来やしねェ」
 屍はたくさんの死を見てきた。だからこそ死がどれほど絶対で残酷で覆せないものなのか知っている。
 たとえ見た目がそっくりだとしても、それは何かを捏ねて作った見かけだけの単なる木偶に過ぎないのだ。
 死に対する思いが、屍の中の過去を鮮烈に思い出させる。それは死であり喪失の記憶。
 屍が生まれた世界は、『バケモノ』が存在する世界だった。平凡な家庭に生まれ育った彼は家族を守るため、『バケモノ』と戦う組織に所属し剣を振るっていた。
 けれどある日、『バケモノ』が、その当たり前の日常を壊したのだ。
 『バケモノ』は屍の――屍という名はその後に名乗ったものであり、当時の名ではないが――家に入り込み、殺戮の限りを尽くした。
 むせかえるような血の匂いの中、屍が目にしたのは無残に散らばる両親の姿。それが両親だったかどうか、ずたずたに引き裂かれた着衣から判断するしかないほどに、辺りは凄惨な肉塊と血の海と化していた。
 『バケモノ』と戦うのは、家族を守るためだった。それなのに――。
 屍が振るった剣は、呆気ないほど容易く両親の仇を斬り捨てた。
 守りたかった家族にも、『バケモノ』にも死は等しく訪れる。亡骸になれば同じだというのか。
 そして屍は気付く。妹はここにはいない。どこかへ隠れて無事でいるのではないかと祈るように家の中を探す。
 妹はいた。自分を呼んでいる。
 『バケモノ』に四肢を斬り落とされ、虫の息で自分を呼んでいた。
 抱き上げた身体があまりにも軽くて愕然とする。それでも妹は必死に唇を動かして何かを訴えていた。血の気を失った唇に耳を寄せると、小さく、けれど強い願いが込められた声が届く。
 ――殺して。
 どれほどの恐怖と苦痛が妹を苛んだのか。未だ流れ出る血が屍の腕を赤く染めていく。
 一刻も早く、妹をこの恐怖と苦痛から解放してやらなければ――。
 これは過去の記憶だ。それなのに、家族の血の匂いが、白刃を以て妹の心臓を貫いた感触が、あの時のままに蘇る。
 守るべきものを全て亡くした。所属していた組織からも離反し、追手としてやってきたかつての仲間をも斬り捨て、あげく力を求め禁忌の強化実験にも身を晒し、剣を振るっている現在。
 それでも歩みは止まらない。
(「俺は家族の生を守れなかった」)
 だからこそ、その死さえも否定することなどどうして出来よう。
 ちりん、と風鈴の音色が屍の耳に届く。あの生々しいほどに鮮やかに蘇った記憶の感覚はそのままだが、血の匂いはもうしなかった。
 守りたかった家族を失い、怒りを向けるべき仇すらも呆気なくいなくなったあの虚無感に、頬を伝う涙の感覚までが鮮烈なまでに残っている。
 けれど、今は。
 屍は傷跡の残る顔を上げ、緑の瞳で目の前を見据える。
 『故無き屍』に過ぎないのだと嘯く青年が、涙を流すことはなかった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

琴平・琴子
助けられたあの日
私は王子様に出会った

彼は王子様になる途中だと言っていたけれど
私にはそう見えたから
そうなのだと思っていましたよ

貴方が嬉しそうに話す御伽話
貴方がお姫様と呼ぶ少女も隣で微笑んでいて
私はそれを見るだけで幸せだった

けれど助けてくれた貴方の様に
いつしか王子様になりたいと思った
――愛される柔らかな手よりも、未来を拓く勇気を欲した

ねえ王子様
私貴方の様になれていますか
そうであってもなくても
私は前へ進みます
私は前を向きます

私、集中するとずっと一つの事に夢中になるんです
それに、この足は不思議の国をずっと彷徨っていたのだから
それなりに自信あるんですよ

だって王子様は
いつでも前を向いて歩くものでしょう?



●未来を拓く勇気
 妖怪たちの願いを乗せた風鈴が涼やかな音を回廊中に響かせている。
(「たくさんの願いと想い……」)
 回廊を進みながら、琴平・琴子(まえむきのあし・f27172)は揺れる風鈴を横目で見やる。妖怪たちの願いは、琴子がいた世界の者が願うようなものも少なくない。
 誰かと想いが通じますように。家族の病気が治りますように。幸せになれますように――。
 どちらかというと誰かや何かに頼る性格ではない琴子だが、特定の誰かに頼るのではない願い事は、少しの勇気と希望を与えてくれるのかもしれないと思う。
 妖怪たちの願いが満ちる回廊を進むうち、琴子の脳裏にはかつての記憶が鮮烈に蘇っていた。
(「王子様だ」)
 元居た世界で助けてくれたその人を、琴子は王子様だと思った。
 その人は未来への希望に満ちていた。世界の理不尽を断ち切る勇敢な存在。
 だから、琴子は王子様に出会ったのだと思っていたけれど、彼はこうも言っていた。自分はまだ王子様になる途中なのだと。
 けれど琴子の目にはどう見たって王子様だったのだ。
 王子様の隣には彼がお姫様と呼ぶ少女がいて、柔らかい微笑を浮かべていた。
 王子様が話す御伽話。それを隣で聞くお姫様。その姿を見るだけで、琴子は幸せだったのだ。
 御伽話の中では、お姫様は王子様に助けられて幸せになる。けれど琴子が憧れたのは王子様の方だった。
 自分を助けてくれた彼のような王子様になりたいと思うようになったのだ。
 王子様に愛される穢れのない柔らかな手でなくていい。その手で誰かを助けることのできる未来を拓く勇気が欲しいと思った。 
(「ねえ王子様、私、貴方の様になれていますか」)
 元居た世界から不思議の国へと召喚されて。まだ帰り道は見つかっていないけれど、この足で歩んできたから。
(「そうであってもなくても、私は前へ進みます。私は前を向きます」)
 もしなれていたとしても、歩みを止めるわけにはいかない。まだなれていないのだとしたら、その存在に一歩でも近づけるように。
 どちらだとしても、王子様はそんな自分に優しく微笑みかけてくれるだろうか。
(「私、集中するとずっと一つの事に夢中になるんです。それに、この足は不思議の国をずっと彷徨っていたのだから……それなりに自信あるんですよ」)
 だから諦めたり挫けたりしない。不思議の国にやってきて、アリスとして辛い目にも遭うことも少なくはなかったけれど。傷ついてもその足は前へと進み続けた。元の世界で何でも褒めてくれる両親が自分を大切に育ててくれた。そのことに恥じない自分に胸を張っていられるように。
 凛として澄んだ緑色の瞳が過去ではなく未来に向けられる。
「だって王子様は、いつでも前を向いて歩くものでしょう?」
 まるでその言葉に応えるように、回廊の風鈴が一斉に揺れては、澄んだ音色を響かせる。
 恐怖がないわけではない。けれど、それを乗り越える勇気を持てるように。親からもらった防犯ブザーをお守りのようにぎゅっと握りしめる。
 この歩みは止まらない。諦めない心は、いつかの故郷へと帰る道を探して。

大成功 🔵​🔵​🔵​

空澄・万朶
【WIZ】
こんなに沢山の風鈴が吊るされているだなんて、なんだか幻想的だね

それにしても、オレには幼い頃の記憶が無いけれど、その場合は最近の記憶が現れるのかな?それとも……

ん?あれは……
(目の前に龍やドラゴンなど、様々な種類の竜の群れが空を舞う姿が映し出され)

これってもしかして……オレのかつての記憶……?
彼らの元に行けば、失った記憶について何かわかるかもしれない……
(一瞬翼に力を込めるが、すぐにやめ)

――いや、自分の記憶は自分の力で取り戻さないと駄目だよね
いつか自力で思い出してみせるさ

まだほとんど思い出せないけど、幽世はオレの故郷なんだ
故郷を滅亡させない為にも、ちゃんと前に進まないとね!



●故郷
「こんなに沢山の風鈴が吊るされているだなんて、なんだか幻想的だね」
 妖怪たちの願いが書かれた風鈴が、風を受け揺れている。その数は圧倒されるほどたくさんで。空澄・万朶(忘レ者・f02615)は、目を細めてその様子を見つめた。
 これから世界が崩壊するとは思えないほど美しい光景。けれどずっと見つめているわけにはいかない。願いの満ちるこの回廊の先へと進まなくてはいけないのだから。
 この回廊は通る者の過去の記憶を呼び覚ますという。けれど万朶には幼少期の記憶がない。異世界間の荷物を運ぶ配達業として各世界を回りながら、自分の過去について調べている途中なのだ。
「オレには幼い頃の記憶が無いけれど、その場合は最近の記憶が現れるのかな? それとも……」
 そう呟いた時だった。ちりん、と風鈴の音が聞こえたのを最後に、目の前の景色が一変する。
「ん? あれは……」
 万朶の目が捉えたのは、大空を舞う竜の姿。それは、龍やドラゴンなど、その種類や見かけも様々な竜たちが群れで舞う雄大な光景。
(「これってもしかして……オレのかつての記憶……?」)
 万朶はドラゴニアンだ。これだけの竜がいるのなら、彼らの中に自分のことを知っている存在がいるかもしれない。万朶が失った記憶について、何かわかるかもしれない。翼に力を込め、今にも飛び立とうとしたところで――万朶はゆっくりと首を横に振った。
「……いや、自分の記憶は自分の力で取り戻さないと駄目だよね」
 これは自分の持つ記憶の欠片の一部。それが十分なヒントなのだ。どうして記憶を失ったのか。その理由だって気になる。だから自分で見つける。いつか自分で思い出してみせる。
 配達業を営む者として、猟兵として、いろいろな世界を渡ってきたのだ。そこにはちょっとした些細な喜びから、どうにもならない世界の不条理もあったけれど。その全てが今を生きる万朶の礎となり、過去の記憶を探りながら、未来へと歩む力になる。
 この世界――カクリヨファンタズムにも何度か配達で訪れたが、その時にどことなく見覚えがある風景だと思うことがあった。そうしてこの世界で出会った白蛇を使い魔として迎えたのだが、その白蛇が自分のかつての眷属であったこともわかった。
「まだほとんど思い出せないけど、幽世はオレの故郷なんだ」
 どこか懐かしさを覚えるのは、この世界が過去の遺物で構成されているからなのか、それとも自分の記憶がそう思わせているのか。まだよくわからない。けれど、確実に失った記憶を少しずつ取り戻していると感じるから。
 風に揺れる風鈴が澄んだ音色を奏でると、再び万朶は現実へと舞い戻る。
 滅びの言葉ひとつで、世界は足元から崩れ去ろうとしている。けれどそれを止めることだってできるから。
 この翼でどこまでだって行ける。そうしていつか記憶を取り戻して、自分が何者かがわかったのなら、動物たちと暮らせる一軒家を買って、のんびりとしたスローライフを送るのだ。
「故郷を滅亡させない為にも、ちゃんと前に進まないとね!」
 ここで見た記憶もいつかきっと繋がるだろう。そう思いながら、また一歩前へと踏み出した。

大成功 🔵​🔵​🔵​

榎木・葵桜
目の前に広がるのは
京都にある、おばあちゃんの家
旧家のお屋敷で、すごく広くて迷路みたいで
幼い時は散策するの好きだったんだよね

そういえば、5歳くらいの頃かな

座敷牢に置かれてた箱に
かわいい鏡が入ってて
取り出して覗いたら、
私とそっくりな子が鏡から出てきたんだよね

最初はびっくりしたけど
仲良くなって一緒に遊んだんだよね

そういえば、その時
三人で遊んだのだけど
もう一人も
確か、私と同じ年で…

(ふと見れば、傍らに男の子
視線を向ければその姿は一瞬でかき消えて)

…やっぱり私、知ってたんだ

理由はわからないけど
私には、欠けた記憶があるんだ

(風鈴揺れる虚空を見つめ、頷き)

なら、見つけなきゃね
ちゃんと
そして、向き合わなくちゃ



●欠けた記憶
「ここには、たくさんの願いがあるんだね」
 数多の風鈴が揺れる回廊を進みながら、榎木・葵桜(桜舞・f06218)は、自身が生まれ育った現代地球に隣接するという幽世と呼ばれる世界について思いを巡らせた。
 人間の感情を食糧としていた妖怪たちだが、文明の発達とともに人間たちには妖怪が見えなくなり、それによって飢餓と絶滅の危機に陥ったのだという。人々に忘れられた妖怪は、このどこか懐かしさを感じさせる世界で、過去の思い出や追憶を食糧として得るために集まってくるのだと。
「忘れられるのは寂しいもんね……」
 ぽつり、と呟ければそれに応えるように風鈴が一斉に涼やかな音色を奏で――気が付いた時には、葵桜の目の前に懐かしい景色が広がっていた。
「ここは……」
 そう、京都にある祖母の家だ。旧家の屋敷で、大きくなった今ならそう思わないかもしれないが、幼い葵桜にとってはその広さはまるで迷路のように思えて。けれどそれが楽しくて、屋敷内を散策をするのが好きだったのだ。
 不意に記憶が蘇る。あれは葵桜が五歳くらいの頃だったろうか。いつものように広い屋敷を探索していたら、奥まった場所にある座敷牢に辿り着いた。そこには誰もいなかったけれど、代わりに古びた箱が置かれていた。幼い心にはそれが宝箱のように見えて、そっと蓋を開けてみたのだ。
 箱の中にしまわれていたのは幼い葵桜でも手に持てるほどの大きさの丸くて平べったいものだった。朱漆を何回も塗り重ねて厚い層を作って刻まれた文様は桜で。可愛いと思わず手に取って裏返してみるとそこに自分の顔が映っていた。箱に収められていたのはとても愛らしい姫鏡だったのだ。
 じっと覗き込めば、鏡の中の自分がにこりとこちらに微笑みかけてきて……気が付いた時には、自分とそっくりの誰かが鏡から現れたのだ。
 すごくびっくりしたことは確かだったけれど、自分と同じ顔のその子は嫌な感じはしなかったし、なんだか友達になれそうな気がしたのだ。
「一緒に遊ぼう」
 手を差し出しては同じ顔で微笑んで。たくさん一緒に遊んだことを覚えている。
(「そういえば……」)
 祖母の家で遊んだあの時、その子以外とも一緒に遊んだ。そう、確か三人で。
 もう一人は、葵桜と同じ年頃の男の子で――。
 どうしてすぐに思い出せなかったんだろう。
 ふと隣を見れば、そこにはその男の子の姿が。目元がはっきりと見えない。ただ印象的な口元に笑みが浮かんでいて――そうして何かを思い出す前にその姿は一瞬で掻き消えた。
 そう、以前にも何度か見たあの男の子。でも思い出そうとしても思い出せなくて。
(「……やっぱり私、知ってたんだ」)
 けれど、現れる度に確信が深まっていく。
 どうして思い出せないのか。その理由はわからないけれど、葵桜には欠けた記憶がある。
 何かを約束したのだと彼は言っていた。一緒に遊ぼうと――。
「忘れられるのは寂しいもんね……」
 回廊を渡る前に呟いた言葉をもう一度繰り返す。
 京都の屋敷は消え、辺りには風に揺れる風鈴が願いを乗せて揺れていた。
 顔を上げ、虚空を見つめると、葵桜は大きく頷いた。
「なら、見つけなきゃね」
 ――指切りげんまん、忘れたの?
 耳に残るあの言葉。自分は一体彼と何を約束したのか。それを知るためにも前へと進んでいく。
「そして……向き合わなくちゃ」
 それを知ることは恐ろしいことかもしれない。思い出したくないことなのかもしれない。でもきっと自分を知るためにも必要なことで。
 涼やかな音色がまるで自分を励ますかのように思えて。葵桜は覚悟を決め、歩みを進める。まずはこの世界を救うために。

大成功 🔵​🔵​🔵​

パラス・アテナ
アドリブ大歓迎

風鈴にはしゃぐエライアに笑みが浮かぶ

エライア達とアタシは最初
全然うまくいかなかったね
親が死んで
その死に関わった軍人口調の見知らぬババアが突然親になったんだ
拒否も恐怖も無理はない
アタシも子供の扱いなんざ初めてでね

だから
マスコットを縫ってくれって言われた時は嬉しかったね
家族として認められたみたいでさ
犬と猫のマスコット
…針なんて初めてで苦労したよ
アタシを笑う隊の連中にも無理やり手伝わせてやった
いい思い出さ

エライアの姉のセレネは今
あの世界でオブリビオンと化している
何をしているのかは知らないが
世界を滅びに導いているのは確かさ
やるせないね

いつか必ず迎えに行くよ
どんな形であれ
どんな立場であれね



●女神と梟
「ばあちゃん、見てみて! あれ、すごくきれいな音がするね!」
 風に揺れ、その度に澄んだ音色を響かせる回廊に吊るされた風鈴たちを見てはしゃぐ孫の姿に、パラス・アテナ(都市防衛の死神・f10709)は思わず笑みを浮かべる。
「エライアは風鈴が気に入ったのかい」
「うん、とっても!」
 にこにこと笑顔を見せる黒髪のくせ毛の少年はあの時のまま十歳程の姿だ。
 エライアはあの時死んだ。かつてパラスがいた世界でオブリビオンに襲われ、そしてパラスはそれを防ぐことができなかった。
 それからいろいろなことがあったが、今はこうしてユーベルコードでその亡霊を召喚することができ、私設諜報部隊としてパラスの役に立てることを本人も嬉しく思ってくれているようだった。
「よーし、少年探偵団出動だ!」
「おー!」
 エライアと同じような年頃の少年少女たちの霊が一斉に声を上げ、回廊を駆けていく。情報収集と偵察に行ったようだ。
「ね、ばあちゃん、ボク役に立ててる?」
 曇りない笑顔でそう問いかける孫を見つめ、まあまあってとこだねと呟いて。パラスも揺れる風鈴を見つめる。
 今でこそこんな風に笑い合えているが、最初は全然上手くいかなかったのだ。
 パラスの脳裏に、エライアを引き取った時の記憶が蘇る。
 両親が亡くなり、しかもその死に関わった軍人口調の、エライアにとっては血の繋がりこそあれ『見知らぬババア』が突然親になったのだ。
 パラスは息子を自分の手で育てることができなかった。自分のそばにいると危険だからと夫の実家に預けきりだったのだ。息子にすら何もできず、そうして忘れ形見となった孫に今更ながらこうして関わることになった。
 エライアは何も知らない。初めて会った自分を恐れるのも拒否するのも仕方ないと思っていた。子育てをしてこなかったから、子供もどう扱っていいのかわからなかった。
 けれど。一緒に過ごす年月を重ねるうちに、ゆっくりとでも家族の距離は縮んでいったのだ。
「ばあちゃん、お願いがあるんだけど」
 そうもじもじと切り出された言葉にパラスも驚いたけれど。学校で流行っているからと、マスコットを縫ってほしいと頼まれたときは嬉しかった。――ようやく家族だと認められたようで。
 作ったのは犬と猫のマスコット。針仕事は柄でもなくて、初めての作業にかなり苦労したのを覚えている。それでも孫の頼みとあらば、周りの友達に笑われないようなものを作ってやりたくて。
(「アタシを笑う隊の連中にも無理やり手伝わせてやったんだったか」)
 その時のことを思い出し、目元が緩む。
 出来上がったマスコットを大切そうに抱き締めて、友達に自慢するんだと喜んでいたエライア。それは今もパラスのそばにあって。
 エライアは今こうしてパラスのそばにいるけれど。
(「セレネ……」)
 パラスはもう一人の家族の名を心の中で呟いた。
 エライアの姉のセレネは、パラスたちがいたあの世界でオブリビオンと化している。
(「何をしているのかは知らないが、世界を滅びに導いているのは確かさ」)
 それがオブリビオンというものだとしても。やるせなさに思わず虚空を見つめる。
 オブリビオンは骸の海に還す。それがパラスの決めた道だ。
(「いつか必ず迎えに行くよ」)
 あの世界へ行くことができるようになって見つけ出すのか、いつかどこかの世界に現れて再会するのか、それはわからないけれど。
 いつか対峙するその時、はたしてそれは猟兵としてなのか、または家族としてなのか――それでも、どんな立場であれ向き合わなければならない。
 エライアと少年少女たちのはしゃぐ声が回廊に楽しそうに響き渡っていた。
 パラスは静かに目を閉じる。
 数々の願いを乗せた風鈴が、パラスの想いを汲むように、ちりんと涼やかな音色を響かせた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

小雉子・吉備
〖POW〗
骸の海を渡る時の記憶

お供の同族が1人1人……骸の海に消えて、そこからキビを残り含めて10人

キビを守る様に囲み、1人1人朽ちる前に、キビに後を託す様にキビの体に魂が入っていく

友達、使用人の人達、お母さん、お父さん、お兄ちゃん、お姉ちゃん……キビの記憶を失う前の名前は

ノイズが走って聞こえない

何でキビを庇って

一番最後に残って朽ちた幼馴染みは
散り際にこう言う事は織り込み済みだったって

死んで骸魂になる前に、キビに魂を取り込ませて、キビを核に九頭雉鶏精に変じさせてでも幽世にと

キビはキビだけの命じゃなかったの?

悲しさが込み上げる……けど、ここで立ち止まっちゃっ!

〖アドリブ絡み掛け合い大歓迎〗



●受け継がれた想い
 回廊には妖怪たちの願いが託された数多の風鈴が揺れていた。ここは幽世。現代地球の隣にある妖怪たちの世界。
 小雉子・吉備(名も無き雉鶏精・f28322)もまた、この世界に辿り着いた妖怪のひとり。この世界では毎日のように世界滅亡の危機が訪れるが、猟兵となった吉備が救うのは、もはやこの世界だけではない。記憶を失い、幽世に流れ着いた吉備が自分探しのために放浪しているところ、骸魂に取り込まれそうになったことがあった。その時助けてくれたのが猟兵の一人だった。
 この世界には過去の思い出や追憶が浮かんでいる。その中のひとつ、現世から流れてきたあらゆるヒーローを扱った作品の追憶に触れたことで、吉備は正義の味方として猟兵として歩みだしたのだ。
 記憶を失いはしたものの、幽世に辿り着けた吉備は運が良かったのかもしれない。ここに辿り着けない妖怪もまたたくさんいて、骸魂として現れることも少なくないのだから。
(「あの時……」)
 風鈴に書かれた妖怪たちの願いを見つめる吉備は、この幽世に辿り着いた日のことを思い出していた。ちりん、と風鈴が澄んだ音を響かせると、目の前にあの時の光景が蘇った。
 自分の名前もわからない、記憶を失った吉備だが、幽世に辿り着く前、骸の海を一緒に渡っていたのが、家族をはじめ同族の仲間だったことを微かに憶えている。
 地球と骸の海の狭間にある幽世。雉鶏精である同族たちが翼を羽ばたかせ、みんなで集団になって幽世を目指して飛んでいた。そうして一人、また一人、幽世に辿り着く前に力尽き、やがて骸の海に飲み込まれ消えていった。
(「みんな……!」)
 後ろ髪をひかれそうな気持ちを、仲間たちが消えていく辛さを耐える。ともすれば自分も同じ運命を辿るのかもしれない。助ける余裕などなかった。残った者たちで力を振り絞り幽世を目指していく。
 その数は吉備を含めて残り十人ほどまでに減っていた。言葉にはしていなかったと思うのに、吉備以外のみんなはその時覚悟を決めていたようだった。
 まるで吉備を包み込むように。同族たちが吉備を囲む形で向かい風や骸の海から発せられる瘴気のようなものから吉備を守る。
 けれど、力尽きた同族が一人、また一人と欠けていく。友達、使用人の人達、家族……。
「お母さん! お父さん!」
 力尽き朽ち果てる前に、骸の海に飲まれまいとその姿は魂となって吉備の身体に入り込んでいく。
「お兄ちゃん、お姉ちゃん……!」
 彼らは優しい笑みを浮かべながら、吉備の……記憶を失う前の本当の自分の名を呼んでくれているのだが、どうしてだがその部分だけノイズが走って聞こえない。
「なんで……なんでみんなキビを庇って……!」
 あの時の記憶を追体験しても、どうして庇われたのが自分だったのかがわからない。
 次々と入り込んでくる魂。それは温かく優しい想いに満ちている。吉備に生きのびてほしいと願っている。
 そうして最後の一人になった幼馴染も全てを見通したような表情でこう告げたのだ。
「こういう事態になったときに、こう言う事は織り込み済みだったんだ」
 みんな初めからわかっていたみたいだったのに、吉備だけ知らなかった。
「死んで骸魂になる前に、こうすることで君を核に九頭雉鶏精に変じさせれば、きっと辿り着けるよね……幽世に」
 ふわりと微笑んだ笑顔が消えて、魂が吉備に入り込んでいく。温かいみんなの想い。
(「キビはキビだけの命じゃなかったの?」)
 温かい、でも胸に込み上げるのは悲しみの感情で。けれどそれとともに、この想いを無駄にできないという使命感が沸き起こる。
 そのあとのことはよく覚えていないけれど。立ち止まれない想いを胸に飛び続けていたら、幽世に辿り着いていた。
 ちりん、と風鈴の音が響き、吉備は現実へと引き戻される。
 たくさんの人に助けられてきた。同族たちにも、そしてこの世界で出会った猟兵にも。
「キビも助けたい。キビが救われたみたいに」
 この命は、もはや自分だけのものではない。たくさんの想いを背負い、受け継いでいるのだから。
 歩みは止めない。この手で救える人達はたくさんいるのだから。
 赤い瞳に確かな決意を漲らせ、吉備は歩み続ける。自分もまた誰かにとってのヒーローになれるように。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第2章 ボス戦 『虚ろな人形』

POW   :    おれは誰?
【真紅の瞳】に覚醒して【過去に飲み込んだ妖怪】に変身し、戦闘能力が爆発的に増大する。ただし、戦闘終了まで毎秒寿命を削る。
SPD   :    わたしは誰?
自身の身体部位ひとつを【過去に飲み込んだ妖怪】の頭部に変形し、噛みつき攻撃で対象の生命力を奪い、自身を治療する。
WIZ   :    ぼくは誰?
対象の攻撃を軽減する【過去に飲み込んだ妖怪】に変身しつつ、【攻撃力を上昇させた武器】で攻撃する。ただし、解除するまで毎秒寿命を削る。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は桜雨・カイです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


※連絡事項※
第二章のプレイング受付は、導入文挿入後、9/18(金)8時半からを予定しています。
 
●心を求めて
 自分には心がないのだと。失敗作なのだと言われたのが最初の記憶。
「くそっ、上手くいかねえな!」
 香木が焚かれた室内は独特の匂いと空気で満ちていた。それは禁断の秘術。骨で作った人形に命を吹き込む反魂の術。
 果たして秘術により肉体は宿った。けれど術者はそれでは気に入らなかったようだ。彼がこの人形に宿らせたかったのは骸魂。けれど心を宿さないただの人形は失敗作と呼ばれ捨てられた。
 術者は気に入らなかったようだが、きちんとその肉体に骸魂が宿っていたのか、捨てられたことにより骸魂と化したのか、今となってはわからない。
 打ち捨てられ倒れていたところを優しい妖怪が介抱してくれた。まずはその妖怪を飲み込んだ。心を手に入れたのだと思った。その人物になりきろうと姿を変えて、その人らしく振舞って。
 けれど何かが満たされない。その心を埋めるように、手あたり次第妖怪を飲み込んだ。
 けれど、紛いものが本物にはなれなくて。
「大丈夫か? 気分でも悪いのか」
 飲み込んだ妖怪の姿で打ちひしがれているところに妖狐の青年が通りかかり、手を差し伸べてくれた。
 ――その優しい心が欲しい。
 今度こそ心を手に入れるのだ。彼になりきって、この満たされない気持ちを埋めるのだ。

 足元が徐々に崩れ去っていく。滅びの言葉により崩壊する世界。その中心に小夜と彼女が会いたいと願っていた風早をはじめたくさんの妖怪を飲み込んだ骸魂がいる。この滅びを止めるには、ひとつになった二人をバラバラにする必要がある。
「風鈴の音色が心地よいわ。この満たされた気持ちが永遠に続けばいいのに……」
 小夜の姿となった骸魂が彼女になりきりそう呟く。しかし次の瞬間に、今度は妖狐の青年へと姿を変える。
 この姿になってようやくに手に入れたのだ。自分に向けられる温かな感情。ないはずの心が満たされていく。
「彼女を守る。決して引き離させはしない」
 風早の姿となった人形は、彼になりきりそう言って猟兵たちと対峙する。
 その他にも飲み込んだ数多の妖怪の力を秘めた骸魂は強力だ。けれど、心を求めるがゆえ、飲まれた妖怪たちの心に寄り添うことができれば、飲み込まれた彼らは、内側から抗うことができるかもしれない。
 そうして上手く骸魂のみを倒すことができれば、今まで飲み込まれた妖怪たちも救うことができるだろう。
空澄・万朶
飲み込まれた妖怪さん達に向かって話し掛ける
「小夜さん、貴女が再会したのは本当の風早さんじゃない。でも本当の風早さんは貴女のすぐ近くにいるんです。必ず再会させてあげますから、待っていてください!
他の妖怪さん達も、絶対に全員お救いしますから、心を強く持って、決して諦めないで下さい!」

戦闘:
【空中戦】とリーチの長い槍により距離を取りながら相手を撹乱し、隙をついてドラゴンオーラを放つ
「誰かの真似をしたって、本当の心は手に入らないさ……!」

そのままオーラの鎖で相手を【捕縛】
敵は能力が増大しているだろうから、オレは敵の動きを抑えるだけで精一杯かもね
その間に誰かが攻撃してくれると助かるな

※アドリブ、連携可


小雉子・吉備
小夜ちゃん、大切な人とずっと一緒に居たい……キビも出来れば皆と幽世にたどり着きたかったし、もし今の様に目の前に大切な人が居たらと思うと

でも、小夜ちゃんが彼と思ったのは、取り込んだ彼の魂を利用した骸魂、騙されないで自分をしっかり持って

彼もキビ達が助けて見せるからっ!

〖WIZ〗
【激痛耐性】と【オーラ防御&結界術】で備え【第六感】で攻撃を【見切り】つつ【空中戦】で駆け、回避しつつ小夜ちゃんを説得しつつ

〖なまり&ひいろ〗ちゃんに【動物使い】で撹乱を指示

【高速詠唱&多重詠唱】の併用で長時間の詠唱を圧縮し【浄化&貫通攻撃】を込めたUCの【弾幕】で骸魂の引き剥がしに掛かるよ。

〖アドリブ絡み掛け合い大歓迎〗



●空を舞う翼
 風鈴の吊るされた回廊を抜けると、そこは開けた丘のような場所だった。そこに植えてある木々の枝にも妖怪たちの願いが書かれた風鈴が吊るされている。大切な人を想ってしたためられた願い事が揺れる中、この世界は滅びの言葉により足元から徐々に崩れようとしていた。
「小夜ちゃん、大切な人とずっと一緒に居たい……その気持ちはキビにもわかるよ」
 先ほど脳裏に蘇った記憶があるからこそ、小雉子・吉備(名も無き雉鶏精・f28322)にもその気持ちが痛いほどわかる。できることならば幽世を目指していた雉鶏精の同族たちと一緒に辿り着きたかった。けれど、それはもう叶わない。もし、もう二度と会えないと思っていた彼らが目の前に現れて、優しく微笑んで手を差し伸べてきたのなら……吉備も小夜と同じようになっていたかもしれない。
 目の前に立っているのは、彼女が会いたいと願った妖狐の青年の姿。でも、彼自身ではない。けれど飲み込まれた小夜はそのことを理解できていないだろう。
「小夜さん、貴女が再会したのは本当の風早さんじゃない」
 だからこそ、骸魂に取り込まれた小夜に届くようにと、空澄・万朶(忘レ者・f02615)はそう声をかけた。その言葉に吉備も頷く。
「小夜ちゃんが彼と思ったのは、取り込んだ彼の魂を利用した骸魂。騙されないで自分をしっかり持って!」
 確かに二人は骸魂の中でひとつになれた。けれど、このままでは伝えたかった思いもきちんと伝えられないのではないか。
「でも本当の風早さんは貴女のすぐ近くにいるんです。必ず再会させてあげますから、待っていてください!」
 時よ止まれと願ってしまった。けれど彼女の本当の願いを叶えるのなら、時を前に進めなくてはいけない。骸魂に取り込まれた二人はバラバラになる。けれど、そうすることで今度こそきちんと再会できるのだから。
「小夜ちゃんも彼も、キビ達が助けて見せるからっ!」
 吉備が施した結界術で辺りの崩壊が一時的に停止する。オーラ防御で相手の攻撃に備えた吉備は霊刀を手に風早姿の人形に迫る。相手もまた攻撃力を高めた刀で応戦する。何度か切り結び、相手の力を受け流すように斬撃を回避した吉備は、雉鶏精の翼で宙を舞う。
「なら、オレも空から」
 万朶もドラゴンの黒い鱗に覆われた翼を力強く羽ばたかせると、ドラゴンランス【虚空】を構え、空中から一気に降下し迫る。防戦を強いられた人形に、別方向から空中を駆けた吉備が一太刀浴びせ、続けざまに青色の狛犬【なまり】と赤い猿【ひいろ】をけしかける。
「なまりちゃん、ひいろちゃん、かき乱しちゃって!」
 利発ななまりはすぐに指示を理解すると、人形の着衣の裾を加えて離さず、身軽なひいろは背中に飛びつくと、こちらも行動を阻害する。
「頼もしいね」
 自らも獣奏器で動物たちと意思疎通を図り、この幽世で出会った黒猫と白蛇の使い魔を持つ者として、万朶は心強そうに呟くと、その隙を逃さず槍のリーチを活かして距離を取って攻撃する。人形も動きを阻害されながらも反撃に転じるが、翼を持つ二人はひらりと宙へと飛び去り攻撃が当たらない。
 不利を悟ったのか、風早を模していた人形は次の瞬間姿を変える。飲み込んだ妖怪の内のひとりなのだろう。その背中に翼を生やしたカラス天狗となっていた。
「他の妖怪さん達も、絶対に全員お救いしますから、心を強く持って、決して諦めないで下さい!」
 一体この骸魂の中にどれだけの妖怪が飲み込まれているのか。だが確かに彼らはその中にいて、きっとこの言葉も届いている。
「必ず助けるから……!」
 吉備もまた妖怪たちに語り掛ける。自分が救われたように、今度は助けてみせるから。
 なまりとひいろを振り払った人形は、翼で空を舞うと手にした錫杖で吉備に迫る。その真紅の瞳は能力に覚醒した証。増した戦闘能力に押されつつも、激痛に耐え吉備は歯を食いしばる。
「誰かの真似をしたって、本当の心は手に入らないさ……!」
 万朶の槍が錫杖を打ち払う。そうしてその隙をついて解き放ったドラゴンオーラが命中し爆発すると人形をオーラの鎖で縛める。だが戦闘力を増した相手を押さえるので精一杯だ。
「誰かに憧れる……キビだってそうだよ」
 この世界で追憶に触れた時に出会った吉備にとっての大切なヒーロー。でも誰かの真似だけじゃなくて、自分がそうなろうと思わないと、偽物や紛い物で終わってしまう。
 高速かつ多重にして詠唱時間を圧縮すると、時間逆行の力を秘めた光弾が動けない人形を直撃する。浄化の力を込めた光の弾は爆発するが、その部分だけ時間が何度も逆戻る。傷を与えたまま、再度光弾は弾け、炸裂弾のように何度も何度も光の明滅を繰り返し、傷を深くしていく。
「みんなを返してもらうよ!」
 風を受けた風鈴が澄んだ音を奏でる中、吉備の声もまた力強く響いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

八狸・快鈴(サポート)
アドリブ歓迎

ある時は突然ドロンと目の前に、またある時は身近な物に変化していていつの間にか傍にいる
そんなどこからともなく現れ、嵐の様に敵を攪乱し、気付くと(自分が満足すると)いなくなっている妖怪です
直接的に攻撃するというよりは、驚かそうとした結果、相手に揺動・攪乱効果などのデバフ・賑やかし要員なイメージ
一般人は驚いてくれる大切な存在なので、驚かす事はあれど傷付ける事は無く、命の危機には陰ながら守ろうともします
敵を引っ掻き回すことはしますが、他の猟兵に迷惑をかける行為はしません
例え依頼の成功のためでも、公序良俗に反する行動はしません



●狸と人形の化かし合い
「えー、また世界滅亡の危機? ヤバいじゃん!」
 言葉とは裏腹に、深刻さを感じさせない口調でそう言った八狸・快鈴(たぬたぬたぬきたぬたぬき・f28141)は、目の前のカラス天狗に見えた妖怪が、ろくろ首に変化するのを見て、にやりと笑う。
「化かし合いだったら負けないし!」
 快鈴はその昔、UDCアースでは有名な化け狸だったらしく、坊主や陰陽師、果ては妖狐までいろいろな相手と化かし合っては楽しく暮らしていたのだが、今となってはその名を知る者はいない。UDCアースでは空腹を感じることが多くなったため、この幽世に逃げるようにやってきた。人間の驚きの感情は大切な食糧で、今はこの世界に浮かぶ過去の思い出や追憶を糧に空腹を満たしているのだ。けれどやはり驚きの感情で腹が膨れるのが何よりだ。
「ふーん、いろんな妖怪飲み込んだんだ? なかなか手数はありそうだねぇ」
 にやりとそう笑みを閃かせると、それでも化かし合いでは負けないと、快鈴は愛用の葉札を頭に乗せると、どろんと姿を変える。
 だが、相手にはまるで快鈴が目の前から消えたように見えただろう。なぜなら快鈴はその姿を小さな蟻に変えたのだから。
 相手から驚きの感情を感じ取ると、踏みつぶされる前に姿を戻す。
「化かし合いはさぁ、驚いた方が敗けなんだよねぇ」
 そうして驚きの感情を与えた相手の前に大小様々な狸の置物の群れが現れる。緊張感のないその姿には脱力感を覚えないでもないが、そののんきな姿がろくろ首姿の人形に襲い掛かる。巨大な狸の置物がどすんと、まるでかちかち山のうすのように落ちてきては動きを封じる。
「驚いてくれた? じゃあ狸の置物あげるよ! え、いらない?」
 手を差し伸べてこないのをそう受け止めて。まあいっか、と呟くと。
「お腹も満たされたし、おいらはこの辺で!」
 どろんと、現れた時のように唐突に姿を消すのだった。

成功 🔵​🔵​🔴​

琴平・琴子
どうして貴女は時が止まって欲しいと願うの
どうして貴方は守りたいの

――あなたは一体、誰だというの

私には、守りたいものは多くあれど立ち止まって欲しいことなんてない
――ううん、無いと言ったら嘘になる
でもそれ以上に、前に進んで歩きたいの

前しか見るなとは言いません
後ろを振り向くなとは言いません
時に立ち止まったって良い
時に振り向いたって良い
休んだって良い

でも、立ち止まって後ろ向いたままで
あの人達はそれで良いと仰るでしょうか?

おいで
あなたが気が済むまで付き合ってあげますから
痛いのも、苦しいのも、全部受け止めてあげましょう



●心の在りか
 姿は飲み込んだ妖怪そのもので、彼らの意識や記憶もその内に取り込んで。それでもそれは本物でなく真似事だと、偽物なのだと突き付けられて。
 それは自分に心がないから? 先ほどから、取り込んだ妖怪たちがざわついているのを感じる。彼らには心があるから、紡がれる言の葉ひとつで感情を揺さぶられるのだろうか。
 彼らの感情をも飲み込んで、だからそれらしく振舞って。
「このまま時が止まればいいの……」
 数多の妖怪を取り込んだ虚ろな人形が、小夜の姿になって呟く。その言葉に、琴平・琴子(まえむきのあし・f27172)は、ただ静かに問いかける。
「どうして貴女は時が止まって欲しいと願うの」
 どうして? それはこの姿を持つ者が願うから。その理由なんてわからない。
「どうして貴方は守りたいの」
 守りたい――その言葉に、自分の中にいる妖狐の青年が反応したようだった。けれど自分にはわからない。その姿を変えてみても、意識も記憶も飲み込んでいるのに、どうしてなのかがわからない。
「――あなたは一体、誰だというの」
 琴子の言葉は決して責めるような強いものではなく、ただ静かにその在り方を問いかける。
 誰、誰、誰。
 誰でもなくて、誰にでもなれて。
 その問いかけに答えることができないのは、誰かの姿を借りているだけだから。心が欲しいと願っても、誰かの心を表面だけなぞっているに過ぎないから。
「私には、守りたいものは多くあれど立ち止まって欲しいことなんてない――ううん、無いと言ったら嘘になる」
 返答はなくても、琴子は静かに言葉を続ける。その緑色の瞳には強い意志の光が宿る。清く正しく凛々しく。関わってくれた人たちのためにいつでも胸を張っていられる自分でいたいから。
「でもそれ以上に、前に進んで歩きたいの」
 生きていれば傷つかないことはない。それでもその手を差し伸べるのは、自分を助けてくれた王子様のようになりたいから。
「前しか見るなとは言いません。後ろを振り向くなとは言いません」
 時に立ち止まったって良い。時に振り向いたって良い。休んだって良い。
 けれど時を止めてしまえば。前にも後ろにも進むことができない。そこから何も生まれない。
「でも、立ち止まって後ろ向いたままで、あの人達はそれで良いと仰るでしょうか?」
 それは自分に言い聞かせるようにも、目の前の誰かに問いかけるようでもあって。
「おいで……あなたが気が済むまで付き合ってあげますから」
 大人びた表情で、くるくるとその姿を変える人形へとそっと手を差し伸べる。
 迷い子のようなその姿には見覚えがある。琴子自身もまた元居た世界を探す旅の途中。その頼りなさも不安な気持ちも理解できるから。
 姿を変える人形が、妖怪になりきって琴子へと攻撃を仕掛ける。彼らの意識を頼りに思いをぶつけるように。
 琴子はその全てを受け止める。全身を超防御モードに変え、その想いを痛みを静かに受け止める。
 ――痛いのも、苦しいのも、全部、全部。

大成功 🔵​🔵​🔵​

榎木・葵桜
人形さんと話をするよ

人形さんの攻撃は【桜花捕縛】で迎え撃つよ
[手をつなぐ、コミュ力、優しさ]も使って
戦うためじゃなくて話をするために動きを止めるね

心は、なり代わって手に入れられるようなものじゃない

人形さん、あなたは、あなたとして認めてもらえなくて、悲しかったんだよ
飲み込んでなり代わった妖怪さんとしてではなくて、
あなた自身を認めて、心を向けてほしかったんだよ

ね、人形さん
私は、誰かになったあなたじゃなくて
あなたと友達になりたいな

んー、仮だけど、名前は「ウツロさん」でどお?
私は、あなたを、敵じゃなくって
友達として送ってあげたいな

ね、友達になろ?
あなたのこと、忘れないから

ゆびきりげんまん、約束しよう?


故無・屍
…ッチ、面倒な道を歩かせやがって。


誰かに成り代わって心を得た気になるってのも手段の一つじゃある、否定はしねェよ。
だが、そりゃ結局誰かの受け売りで構成された混ぜ物でしかねェ。
心を得るってのは、その上で自分を見つけて初めて成り立つもんだ。

UCを発動、変身した人形の姿を強制的に断ち切る

「その気になってる」だけじゃねェってなら他人の皮なんざに頼るんじゃねェよ。
自分で考えて喋って見せろ。
心を手にして、お前自身は何をしたかった。


――『お前ら』もだ、妖怪共。
まだそこに『自分』が居るんならさっさと起きて手伝え。

こいつを中から食い破れとまでは言わねェよ、
ただ、恋路の一つくらいは守る程度の気概は絞り出して見せろ。


パラス・アテナ
心が欲しい、ね
本当の虚ろは心を得たいとも思わないものさ
そう思うだけでアンタはもう心を持っている
それは紛い物じゃない、本物のアンタ自身さ

そして心なんてものは経験でね
様々な事を経験しなきゃ宿らないものさ
妖怪たちの心は妖怪たちのものだ
アンタのものじゃない
骸の海へお還り

どんな妖怪でも基本は変わらないよ
敵の攻撃は見切りと第六感で回避
武器受けで受け止め激痛耐性と継戦能力で戦闘続行
体勢を崩すため2回攻撃と一斉発射
マヒ攻撃で足を止めて鎧無視攻撃でダメージ上乗せ
敵が体勢を崩したら指定UC

心なんてあっても無くてもしんどいもんさ
アタシもひょっとしたらアンタみたいになるかも知れないなんて
ぞっとするね
まあそれも今更かね



●心葬
「……ッチ、面倒な道を歩かせやがって」
 世界崩壊の元凶たる骸魂の元へ辿り着くまでに通らなければいけなかった回廊は、否応にも過去の記憶を呼び覚ました。はっきり言って気分はよくないが、故無・屍(ロスト・エクウェス・f29031)が歩みを止めることはない。
 この世界は足元から崩壊しようとしている。その中心に、妖怪たちを取り込んだ心を求める虚ろな人形がいる。
 だが、その様子がおかしい。姿は安定せず、飲み込んだ妖怪に変化しては何事か呟き、また別の妖怪へと姿を変えることを繰り返していた。まるで、混乱しているかのように。
「誰かに成り代わって心を得た気になるってのも手段の一つじゃある、否定はしねェよ」
 心を求めた人形に、屍はそう言葉をかける。器でしかない人形が心を得るのならば、取っ掛かりは決して間違ってはいないのだと。
「だが、そりゃ結局誰かの受け売りで構成された混ぜ物でしかねェ」
 その人物らしく振舞ったところで、それが心を得たことにはならない。
「心を得るってのは、その上で自分を見つけて初めて成り立つもんだ」
 その先を見つけられなかった人形に対し、誰かであろうとするその行為を強制的に断ち切りにかかる。
 風早の姿をした人形は、彼女を守るのだと呟く。自分に向けられた温かな感情。人形である自分に向けられたものでなくても、それが心地よくて。この姿でならあれほど欲していた心が得られると思って。
 屍は誰かの姿でしかない人形へと、黒刃の大剣の切っ先を向ける。己の寿命を代償とした事象破壊エネルギーの込められた、いかなる物事にも止めることのできない剣閃が、妖狐の青年の姿を切り裂いた。だがその一撃は肉体を傷つけない。相手のユーベルコードのみを断ち切り、本来の人形の姿を露にする。
「その気になってるだけじゃねェってなら、他人の皮なんざに頼るんじゃねェよ。自分で考えて喋って見せろ」
 今は他の誰かの姿を借りていない。誰かを演じる必要はない。
「心を手にして、お前自身は何をしたかった」
 人形そのものへの問いかけに、屍の言葉を引き継ぐように、榎木・葵桜(桜舞・f06218)がさっと進み出た。
「ね、人形さん。それなら私とお話しよ?」
 そこに敵意はなく、葵桜は素直に、誰かの姿を借りたわけではない人形と話をしたいと思ったのだ。もし攻撃してくるようなら、戦うためでなく、動きを止めるユーベルコードを使ってでも、相手の心に向き合えるように。
「みんなが言ってるように、心は、なり代わって手に入れられるようなものじゃないよ」
 葵桜は自分の胸に手を当てる。心ってなんだろう。心臓とは違う。感情の源で、自分が自分であるという証。
「人形さん、あなたは、あなたとして認めてもらえなくて、悲しかったんだよ」
 初めに捨てられたのも、自分に価値を見出してもらえなかったから。そうして誰かになっても、向けられるのは自分自身ではなくて。
「飲み込んでなり代わった妖怪さんとしてではなくて、あなた自身を認めて、心を向けてほしかったんだよ」
 一番初めは、誰でもない自分に手を差し伸べてくれた妖怪がいた。けれど骸魂を宿した人形が本能のままに妖怪を飲み込むうちに、自分が何なのか、どうして満たされないのかわからなくなったのだ。
 葵桜の言葉を受け、いつでも攻撃できるように銃を構えていたパラス・アテナ(都市防衛の死神・f10709)は、構えは解かないまでもゆっくりと口を開く。
「心が欲しい、ね」
 その心も、絶望を感じた折、時に捨てたくなることがあるのは、人形でない自分たちの我儘なのかと皮肉に思いながら。
「本当の虚ろは心を得たいとも思わないものさ。そう思うだけでアンタはもう心を持っている……それは紛い物じゃない、本物のアンタ自身さ」
 ただ作られた人形ならきっとそんなことは思わない。彼を作った術者は心が宿らない失敗作だと打ち捨てた。けれど、心が欲しいと願う気持ちが既にただの人形ではなかったのだ。ただ自分の心でなく誰かの心を得ようとしたことで、それに気づくこともなかった。
「そして心なんてものは経験でね。様々な事を経験しなきゃ宿らないものさ」
 そうしてパラスは戦場傭兵の顔を覗かせる。オブリビオンは葬り去る。それがパラスが為すべきことだから。
「妖怪たちの心は妖怪たちのものだ。アンタのものじゃない。骸の海へお還り」
「パラスさん、ちょっと待って」
 銃口が人形を捉えているのを確認し、葵桜はパラスへと制止の声をかける。相手はオブリビオンであり、救えないことはわかっている。それでも葵桜にはまだできることがあると信じているから。
「ね、人形さん。私は、誰かになったあなたじゃなくて、あなた自身と友達になりたいな」
 すっと差し出された手は友好を求めたもの。目の前の人形へと確かに差し出されたのは、求めていた心地よい感情と温もりで。
「んー、仮だけど、名前は『ウツロさん』でどお? 私は、あなたを、敵じゃなくって、友達として送ってあげたいな」
 自分には名前もなかった。呼ばれる必要もなかった。人形である自分を識別する必要すらなかったから。
 虚ろな人形は明らかに混乱していた。ユーベルコードは封じられ、誰かに成り代わることもできない。だがそれでも初めて触れるこの思いに身を委ねるのが恐ろしいのか、ばちばちと火花のようなものを全身から放ち抗っていた。
「――おい、妖怪共。まだそこに『自分』が居るんなら『お前ら』もさっさと起きて手伝え」
 人形に飲み込まれた妖怪たちは、これほどまで人形が取り乱しているのなら、その影響力も薄れているのではないかと屍は呼びかける。
「こいつを中から食い破れとまでは言わねェよ、ただ、恋路の一つくらいは守る程度の気概は絞り出して見せろ」
 その言葉に応えるように、人形が放つ火花が小さくなる。内側から、言葉を聞いた妖怪たちが人形の暴走を押さえつけているのかもしれない。
「ね、友達になろ? あなたのこと、忘れないから」
 葵桜がさらに手を伸ばし、熱を持たない人形の指に触れた。誰かに成り代わった姿でなく、人形としての姿を目に焼き付けて。
 そしてパラスへと視線を向ける。それだけで意図を理解したパラスは、愛用の銃を構える。
「……心なんてあっても無くてもしんどいもんさ」
 夢に現れる胸糞悪い女の哄笑。死体の上に立ってこちらを見て嗤っている。いつ、自分があちら側に行くかもしれない。そんな予感とも知れない想いを抱えて。
「アタシもひょっとしたらアンタみたいになるかも知れないなんてぞっとするね。……まあそれも今更かね」
 動かない相手を射抜くのは造作もなかった。ユーベルコードで極限まで高められた威力を秘めた弾丸は、寸分違わず急所を撃ち抜く。
 頽れた人形の身体を支え、葵桜は笑顔で友人を送る。
「ゆびきりげんまん、約束しよう?」
 忘れないよと、人形の指に自分の指を絡めて誓う。
 この約束も、かつてした約束もきっと守ってみせるから。
 人形の身体がばらばらと音を立てて崩れていく。人でも妖怪でもないその身体は骸の海へと還っていくのだろう。けれど、それは借り物の姿ではなく、その姿を忘れないと約束した友人に見送られて。
「……妖怪共も、無事のようだな」
 気が付けばそこには数多の妖怪たちの姿。どれほどの数を飲み込んだのかわからないが、その中に小夜と風早の姿を見つけて、猟兵たちはひとつ胸をなでおろす。
 骸魂の中でひとつになった二人はバラバラになり、世界の崩壊はようやく止まった。
 妖怪たちの生還を祝福するように、また骸魂となった虚ろな人形を悼むように、風鈴の奏でる涼やかな音色が辺りに響き渡った。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 日常 『思い出綴り』

POW   :    高い場所に飾り付ける

SPD   :    近い場所に飾り付ける

WIZ   :    風鈴の音色を楽しむ

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


※連絡事項※
第三章のプレイング受付は、導入文挿入後、9/25(金)8時半からを予定しています。
 
●希望の音色
 猟兵たちによって骸魂から助け出された妖怪たちは、取り込まれている間の記憶は少し曖昧なようだったが、外傷などもなく皆無事のようだった。
「そうだったのね……」
 一体何があったのかを猟兵たちから聞かされた小夜は、たくさんの妖怪たちを見渡して頷いた。
「わたしが見たあの人は骸魂が姿を変えたもの……でもあの人も飲み込まれていたのね。世界を危険にさらしてしまったことは申し訳ないけど、そのおかげでまたあの人に会えたことには感謝してるの」
 もちろん、あなたたちにもと小夜は猟兵たちに微笑んで。そっと骸魂を悼むように彼方を見やってから、何かを決意したように妖狐の青年――風早の元へと向かう。
「ねえ、風早……さん。わたしの名前は小夜よ。覚えているかわからないけど、数年前の風鈴祭りであなたに助けてもらったの。あの時はお礼を言えなくてごめんなさい。でもとっても嬉しかったの……ありがとう」
 その言葉に、小夜の記憶のまま優しい笑顔で微笑んだ風早はゆっくりと頷いた。
「もちろん覚えているよ。お節介だったかと、あなたに嫌な思いをさせたのではと心配していたけれど……そう言ってもらえてよかった」
 ああ、やっぱりあの時の優しい彼のままだった。そしてだからこそ骸魂に飲み込まれてしまったのだと。
「風鈴の音色を聞くたびに、少しの後悔と共にあなたのことを思い出していたんだ。でも……これからは嬉しい記憶になる」
「ね、ねえ。せっかくだから一緒に風鈴祭りを楽しみましょう? 今度はあなたが欲しい風鈴をわたしが贈りたいから……」
「じゃあ、お互いに好きな風鈴を贈りあうということで」
 その言葉に小夜は心から嬉しそうな笑顔を浮かべて。猟兵たちにも声をかける。
「あなたたちにも風鈴祭りを楽しんでいってほしいわ。良かったら案内するわよ」
 世界の危機が去ったところで、風鈴祭りは無事開催され、屋台の準備も進んでいるようだ。願いを綴った風鈴を好きな場所に吊るすもよし、多種多様な風鈴からお気に入りのものを見つけて購入するもよし。お祭りの屋台もたくさん出ているので、好きに楽しむのもいいだろう。
 妖怪たちの様々な願いを乗せて、平穏を取り戻した世界を祝福するようかのように、吊るされた風鈴たちが澄んだ音色を響かせていた。
空澄・万朶
皆を無事救出出来て本当に良かった……

さて、では折角だし、オレもこの間仕立てた浴衣を着て参加しようかな

店(旅団)へのお土産用と、願い事を書いて吊るす用の風鈴を買いたいな
動物が描かれているような風鈴はあるかな?
(※何の動物が描かれているかはお任せします)

書く願いはシンプルに【商売繁盛】かな
まさに店長職に就いている人って感じでしょ?
……自分の記憶は自力で思い出すって決めたからね、『願い事』にはあえて書かない事にするよ

救出された妖怪さんの内の誰かがいたら声を掛けたいな
「お怪我が無かったようで何よりです。あ、宜しければ一緒に屋台を回りませんか?」
色々食べ歩きながら世間話でもしたいな

※アドリブ歓迎



●願いを叶えるために
「皆を無事救出することが出来て本当に良かった……」
 妖怪たちで賑わう風鈴祭りの様子を見れば、この世界が滅亡の危機に瀕していたなどと思えないくらいだけれど。
 日常を取り戻した幽世の風景に、空澄・万朶(忘レ者・f02615)は心から胸をなでおろす。いくら世界滅亡の危機が日常茶飯事だとしても、猟兵たちが行動しなければ止めることができない。ここは万朶にとっても大切な故郷なのだ。決して失いたくはない。
 骸魂に飲み込まれた妖怪たちもこのお祭りを楽しんでいるようだ。先ほどまで一緒だった妖怪の一人を見かけ、万朶はその背中に声をかけた。
「お祭り、楽しんでいますか?」
 振り返ったのは猫又の妖怪。二本足で立つ三毛柄の猫又は人より少し背丈が低いが風流な着物を着こなしている。着物の裾から延びる尻尾が二股に分かれているのが猫又の証だ。
「ああ、先ほどの。ありがとうございました」
 すぐにこちらに気付き、丁寧に頭を下げる猫又の様子に万朶も安心したように笑顔を浮かべる。
「お怪我が無かったようで何よりです。あ、宜しければ一緒に屋台を回りませんか?」
「いいんですか? では……」 
 山吹という名の猫又の青年と自己紹介を済ませて風鈴祭りの会場を歩いて行く。竹で組まれた風鈴棚や辺りに植わった木々にたくさんの風鈴が吊るされている様は壮観だ。涼やかな音色が響く中を歩いていると、山吹が万朶の方を向いては金色の目を細めた。
「万朶さんの浴衣素敵ですね」
 せっかくだからと、この間仕立てた浴衣を着てみたのだが、そう褒められるとやはり嬉しいもので。黒一色の浴衣はシンプルながら品が良く、瞳と同じ青い色の帯に桜模様が散りばめられていて趣のある逸品だ。
「ありがとうございます。ああ、屋台を巡る前に風鈴を見たいと思っているんだけど……」
「あっちのようですね。行ってみましょう」
 そうして二人はたくさんの風鈴がぶら下がっている売り場へとやってきた。
「願い事を書くんですか?」
「それもありますが……店へのお土産用にも欲しいと思っていて」
 目の前には多種多様な風鈴の数々。色や形も様々で、ガラス製以外にも陶器や金属でできたものまである。
「お店? お店を開いているんですか?」
「物を売っているんじゃなくて、配達業なんですけどね。ここにもたまに配達に来ますよ」
 そう言いながら、たくさんの風鈴たちを眺める。できれば動物が描かれているものがあればいいと思いながら。
「そうなんですね。では、届けたいものがあれば僕からもお願いしますね」
「はい、喜んで」
 そうしてせっかくの縁だからと、店へのお土産の風鈴は猫又が描かれたものを選ぶことにした。
「願い事を書く風鈴はこちらですね」
 それはいたってシンプルな風鈴で、願い事を書くための短冊がついている。
 大きく『商売繁盛』と書いた万朶は満足そうに頷く。穏やかでマイペースな万朶であるが、こと仕事に関しては妥協を許さない。その様子を見て、山吹も万朶の仕事に対する並々ならぬものを感じ取ったのだろう。
「万朶さんは店長さんなんですね」
「わかってしまいましたか。山吹さんは何を?」
「……ちょっと迷っているんです。どうも骸魂に飲み込まれて半年ぐらい経っていたみたいで……ちょっといい仲の相手がいたんですが、もう僕のこと忘れてるんじゃないかと思って……」
 半年の空白の時。幼少期の記憶がない万朶にも、不安な気持ちは理解できる。
「山吹さんが会いたいのなら会いに行ったらいいと思います」
「そうですよね……そうですよね……ありがとうございます!」
 背中を押されたように、何度も何度も頷く山吹。二股の尻尾がせわし気に揺れていた。そして書かれたのは『恋愛成就』の文字。
 願いはきっと自分の行動で叶うものだから。だから、万朶は敢えて記憶を取り戻したいという願いは書かなかった。それは自力で行動して、思い出すと決めたからだ。
 願いを託した風鈴を思い思いの場所に吊るすと、二人はいい香りが漂う飲食の屋台へと足を向ける。
「何かおすすめの食べ物はあるんですか?」
「僕は個人的にたい焼きが好きですね」
 ならばと一つ目小僧が切り盛りする屋台でたい焼きを買って頬張れば、なんだか懐かしい味がする。それはここが幽世だからなのだろうか。
「次はどうしましょう? あっちは焼きそばで、あっちは綿菓子ですね」
「せっかくなので、いろいろ食べ歩きしましょう」
 二人は世間話をしながら、風鈴祭りの屋台を楽しむ。あちこちで妖怪たちが声をかけてきては、平和を取り戻したことへの感謝を告げられる。本当に、世界が無事でよかった。
 いつかきっと記憶を取り戻すのだ。この故郷を今よりもっと懐かしく思えるように。

大成功 🔵​🔵​🔵​

榎木・葵桜
UCで田中さん(霊)召喚
私は浴衣コンテストの浴衣を着用

小夜さんと風早さん、再会できてよかったね
ふふ、お二人のお邪魔虫はせずに、
私は私で楽しんじゃうよー

風鈴の音も綺麗だし、素敵だよね♪

そいえば田中さん、いつも全身鎧兜だけど、風通ししないとまずくない?
(兜の中を覗き込もうとして制止され

もー、もう5年ものつきあいなのに、
顔見せてくれないとかどんだけ照れ屋なのー?(むくれ

じゃあ、田中さん願い事は?
折角だし風鈴に願いを…
(全部言う間もなく、頭を撫でられ

どゆこと?
気遣い不要ってこと?
んー、まいっか
それじゃ、今日は私が田中さんをエスコートするよ!
拒否権はなしだかんね?
(にっこにこで田中さんの手をとり歩き出し



●言葉はなくても
 骸魂に飲み込まれた妖怪たちも無事助け出され、それぞれが思い思いに風鈴祭りを楽しんでいる。
「小夜さんと風早さん、再会できてよかったね」
 二人並んで売り物の風鈴を眺めている姿を見て、榎木・葵桜(桜舞・f06218)はにっこりと微笑む。
「ふふ、お二人のお邪魔虫はせずに……私は私で楽しんじゃうよー!」
 お祭りを案内すると言ってくれたけれど、せっかくの二人の時間を邪魔するのも悪いと遠慮して。葵桜は今年の浴衣コンテストでも着たお気に入りの浴衣姿で祭りを楽しむことした。この浴衣はその昔母が着ていたもの。臙脂と白の縞模様に、満開の桜が咲き誇る浴衣は初めから葵桜のために仕立てたようにぴったりで。大好きな母から譲り受けた浴衣を着ればお祭りもより楽しいものになる。
「ね、田中さん。風鈴の音も綺麗だし、素敵だよね♪」
 隣にはユーベルコードで召喚した古代の戦士の霊・田中さんの姿。葵桜の大のお気に入りで、どんな場面でも頼りになる心強い存在なのだ。でも戦いだけでなく、こういった日常も田中さんには楽しんでほしい。
 風鈴棚に並ぶたくさんの風鈴たち。そのひとつひとつに願いがこめられ、風が吹くたびに涼やかな音色が奏でられる。その音を聴くだけでも心が洗われるような気持ちになる。
「そいえば田中さん、いつも全身鎧兜だけど、風通ししないとまずくない?」
 ふと思いついて葵桜は田中さんに問いかける。古代の戦士の霊である田中さんは常にその身を鎧兜で覆っている。こんなときぐらい脱いだっていいし、風鈴の音もよく聞こえるのではと葵桜は提案し、その兜の中を覗き込もうしたのだが……やんわりと手で制止されるのだった。
「もー、もう5年ものつきあいなのに、顔見せてくれないとかどんだけ照れ屋なのー?」
 別に召喚するUDCは田中さんでなくてもいいのだが、葵桜は田中さんが気に入ってずっとその力を借りている。短くもない付き合いなのに、まだ一度も顔を見たことがない事実に、むくれてしまいたくもなるというもの。
 葵桜の言葉に、ちょっと申し訳なさそうな雰囲気を漂わせていた田中さんだが、表情が読めないので実際何を思っているのかわからない。でも、五年の歳月は伊達ではないのだ。田中さんと言葉を交わすことはなくても、葵桜にはなんとなく、田中さんの気持ちがわかる気がするのだ。
 そしていつも力を貸してくれるその優しさへの感謝の気持ちも。
「じゃあ、田中さん願い事は? 折角だし風鈴に願いを……」
 吊るされた風鈴を指差してそう提案した葵桜の言葉が全部言い終わる前に――大きな手が葵桜の頭を優しく撫でていた。
 田中さんのその行動の意味を紐解けば……。
「どゆこと? 気遣い不要ってこと?」
 いい子だね、とでも言うように頭を撫でられた葵桜が問いかけるも、もちろん答はなく。でも、霊だとしても差し出されたその手の優しさは両親に似て温かい。自分を大切に思ってくれていることがわかるから。
「んー、まいっか。それじゃ、今日は私が田中さんをエスコートするよ!」
 田中さんの心の内まではわからないけれど、葵桜だって田中さんのことを大切に思う気持ちは大きくて。優しく撫でてくれた手を繋ぐと、こっちだよと手を引いて。
「拒否権はなしだかんね?」
 悪戯っぽく笑うと、金魚すくいの屋台へと向かう。
「田中さんも一緒にやろう。釣りも上手な田中さんはきっと金魚すくいも得意だよね!」
 浴衣の袖をまくりながら、葵桜はポイを手に、素早く赤い和金をすくいあげる。一匹、二匹までは上手くいったけれど、三匹目をすくう前に破れてしまった。
 田中さんはというと、無駄のない動きで水面近くの金魚を次々とすくっていく。極力水に触れる時間を減らし、金魚に逃げられないような位置と角度でポイを差し込めば、面白いように手元の桶に金魚がたまっていく。
「田中さん釣りも上手だったけど、ここまで上手だなんて……」
 これは田中さんが苦手なことを探す方が難しいのではないかと思ってしまうほど、田中さんはあらゆるものをなんでもそつなくこなすのだ。
 少し大きな黒い出目金をすくったところで終了。もちろんすくった金魚は葵桜にプレゼント。
「田中さん楽しかった? 私はね、とーっても楽しかったよ!」
 兜の下は笑顔なんだろうかと想像はするけれど、きっと葵桜が楽しければ田中さんも楽しんでくれるに違いない。それは長年一緒にいてくれたからこそわかることで。
「よーし、次は射的だよ! 田中さんに負けないからね!」
 元気いっぱいの声を出して手を引けば。まだまだ楽しい時間は続いていく。

大成功 🔵​🔵​🔵​

小雉子・吉備
骸魂に取り込まれた妖怪は、全員無事に救い出せて良かったけど

千早ちゃんと小夜ちゃんの様子を見届けたら、キビ達もどうしようかなっ?

取り敢えずは、ちょっと季節外れかも知れないけど、現世にあるキビの拠点の茶屋に飾る風鈴でも一つ買って

後は、なまりちゃんやひいろちゃんと一緒に屋台でも適当に回ってみるかな?

折角だしアリスラビリンスで出来た友達もUCで喚んじゃおうか。


「吉備ちゃん、ボクを呼んだり?と言うか此処は何処り?アリスラビリンスでもなければ、見覚えもない所だし」

チケちゃんは此処始めてだよね、此処はキビの第二の故郷とも言える幽世って世界だよ

今お祭りやってるけど、一緒に回る?

【アドリブ絡み掛け合い大歓迎】



●友達と一緒に
 平和を取り戻した幽世の風景。たくさんの屋台や風鈴棚に吊るされた風鈴が揺れる様を見て、小雉子・吉備(名も無き雉鶏精・f28322)は心から安堵する。助け出された妖怪たちもそれぞれお祭りを楽しんでいる様子だ。その中に風早と小夜が仲良く風鈴を選んでいる姿を見つけ、吉備もにっこりと微笑む。
 吉備の中には幽世に辿り着けなかった家族や同族の魂が寄り添っている。風早と小夜も骸魂の中でひとつになれたのかもしれないが、それぞれ別に生きる道があるのなら、バラバラになってでも妖怪としての人生を歩む方がいい。
 つん、と足元をつつかれたので視線を向けると、狛犬の【なまり】が心配そうに吉備を見上げていた。
「大丈夫だよ。キビはひとりじゃないから。なまりちゃんやひいろちゃん……みんなだってすぐそばにいるんだから」
 昔の記憶を思い出したことで少し感傷的になっていたのだろうか。猿の【ひいろ】も吉備の肩にちょこんと乗ってきたので、よしよしとその頭を撫でる。
「みんなの無事は見届けたし……キビ達もどうしようかなっ?」
 明るい声を出すと、ひいろが風鈴が売られている店を指差す。
「うん、そうだね。もう秋だから、これから飾るにはちょっと季節外れかもしれないけど……」
 現世にある吉備が拠点としている茶屋に飾る風鈴を探すのも悪くない。
「うーん、どれにしようかな……」
 あまりにもたくさんの風鈴がありすぎて選ぶのも一苦労だった。
「あ、こっちはなまりちゃんっぽい青だね。こっちはひいろちゃんの赤だよ」
 でも飾るなら一つでいいかと、さらに風鈴選びは難航し……最後に決めたのは、青と赤が混じり合い、マーブル模様になった美しいガラスの風鈴だった。
「素敵な風鈴が買えたよ。それじゃあ、みんなで屋台でも回ろうか?」
 そう言ったところではたと思い出す。先日の迷宮災厄戦で戦地に赴いた際に、仲良しの友達ができたのだ。ユーベルコードで召喚することができるから、せっかくなら楽しいお祭り、みんなで楽しみたい。
「アリスラビリンスからの縁と絆に基き……今日は戦場じゃないけど、チケちゃんキビの元に来て!」
 吉備の言葉に応えるように、すぐさま姿を現したのは、以前共闘した雉鶏精型着ぐるみの愉快な仲間のチケだ。
「吉備ちゃん、ボクを呼んだり?」
 ゆるキャラのような雉をデフォルメした愛らしい姿のチケは吉備を見て笑顔を見せるが、すぐに辺りをきょろきょろと見渡す。
「……と言うか此処は何処り? アリスラビリンスでもなければ、見覚えもない所だし……」
 不思議そうなチケに、吉備が丁寧に説明する。
「チケちゃんは此処始めてだよね、此処はキビの第二の故郷とも言える幽世って世界だよ」
「吉備ちゃんの故郷! この前はボクたちの故郷を助けてくれたから、張り切って役に立つり!」
「えっと、今日は戦いじゃないんだよ。たくさんお店が出てるでしょ? 風鈴祭りって言うんだよ。一緒に回る?」
「お祭り……!」
 辺りを見回しきらきらと瞳を輝かせたチケに、吉備はどんな屋台が出ているかを説明する。
「食べ物を売ってるお店や、遊んだりできるお店があるんだよ」
 りんご飴や綿菓子に焼きそばや冷やしきゅうりにフルーツ。金魚すくいや射的にヨーヨー釣りなど様々な屋台が並んでいた。
 ひいろが吉備の肩をつついて、指差した先には輪投げの屋台。
「ひいろちゃんやりたい? これならチケちゃんもできそうかな?」
 台の上に景品そのものが並んでいて、そこに輪を投げて獲得するというもの。景品には駄菓子やおもちゃなど子供が好きそうなものばかり。
「このわっかを投げれば良いり?」
「そうそう、狙いの景品に向かって投げるんだよ」
 ひいろが器用に投げておもちゃを獲得するのを見て、チケも翼の先っぽに輪を引っかけて、器用にえいと投げれば輪っかは駄菓子の元へとすっぽり収まった。
「これは故郷で見たことないりっ」
 郷愁を誘うパッケージのフーセンガムをしげしげと眺めるチケ。ちなみになまりは輪っかをくわえて、器用に投げては蒼い鉛に似た美しい鉱石を手に入れた。
「食べ物の屋台も見てみようか」
 またしてもひいろがここに行きたいと示したのは水餃子の屋台。
「ひいろちゃんは行きたいところがいっぱいあるんだね。でもせっかくお祭りだもん。みんなでたくさん楽しもう!」
「これがお祭り……吉備ちゃん誘ってくれてありがとう! とっても楽しいり!」
 お祭りはいつだって楽しいけれど、一緒に楽しむ友達がいるともっと楽しい。
 吉備たちは次々と屋台を巡っては心行くまで幽世のお祭りを楽しんだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

九十九・白斗
【パラスとデート】
空に建物が浮き、巨大な満月が見える
「ここがカクリヨファンタズムか。初めて来たが良い景色だな」
横を歩くパラスに、空を見上げながらそう言った
リンリン
と風鈴が涼しい音色を奏でている

屋台で買った酒を飲みながらとりとめのない話をする
今回の依頼は結構心をえぐってくるような依頼だったらしいので、それには触れないでおく
ただ、何でもない話をしながら、屋台で買ったものを食べたり飲んだりしながら風に揺れる風鈴の美しさや音色を二人で楽しむ
それが心地よい

風鈴を贈りあう風習があるようなので屋台で買う
丸みのある金属製の風鈴
ガラスの風鈴は割れてしまうんではないかと思い、実用性を考えた
それをすっ、と差し出した


パラス・アテナ
【白斗とデート】
風鈴祭を二人で見て歩く
ここは儚い世界だからね
言葉一つで滅びを迎える
美しいのは世界が放つ最後の輝き故なのか
それとも強く生き残る命の逞しさ故なのか
沢山の風の音色を聞きながら
どうでもいい事を話して歩く

屋台で適当に買った料理を肴に酒を飲む
話題に出るのはとりとめのない話ばかり
明日には忘れてしまいそうな話題だけど
それがいいんだ
だからこそいい
何でもない時間
だからいいんだ

贈られた金属製の風鈴に笑みが溢れる
実用重視の白斗らしくて嬉しくなる
高く澄んだ音色が耳に心地よくて

贈り合うならアタシからも贈ろうか
美しい音色の華奢なガラスの風鈴
アンタは自分の身体に雑すぎる
それを割らないように
大切にすることだね



●月見一献
 妖怪たちが楽しむ風鈴祭りは夜を迎えても盛況だった。現代地球で失われた過去の遺物で組み上げられたこの幽世は、UDCアース出身の九十九・白斗(傭兵・f02173)にも、どこか郷愁を抱かせる。
 この世界では日常的に世界滅亡の危機が訪れる。この場所も先ほどまでは足元が崩れ去り、世界が崩壊しそうになっていたのだという。そんな世界に浮かぶ大きな満月を見上げ、白斗は満足そうに頷く。
「ここがカクリヨファンタズムか。初めて来たが良い景色だな」
 隣を歩くパラス・アテナ(都市防衛の死神・f10709)も同じように空を見上げて呟いた。
「ここは儚い世界だからね、言葉一つで滅びを迎える」
 美しいのは世界が放つ最後の輝き故なのか。
 それとも強く生き残る命の逞しさ故なのか。
 たくさんの願いを乗せた風鈴が風に揺れて涼やかで美しい音色を奏でている。それを聞くでもなく聞きながら、二人は他愛もない話をしながら祭りの会場を歩いて行く。
「そういえば、パラスは浴衣を着ないのか? 確か仕立てたって言ってなかったか?」
 妖怪たちや一緒に来た猟兵たちが浴衣を着ているのを見て、白斗はパラスに問いかける。
「……まあ、一応用意はしてきたけどね」
「なんだよ、せっかくだから着たらいいじゃないか。何より俺が見たい」
「……だったらアンタも一緒だよ。そこで浴衣を借りられるそうだから」
 会場には浴衣を貸し出しする場所もあるようで。
「よし、浴衣デートだな。でも、俺に合うサイズの浴衣があるのか?」
「ここは妖怪たちの世界だよ。大男なんてざらにいるだろうさ」
 そうしてパラスが言ったように、大柄な上に鍛え上げられた筋肉に包まれた逞しい白斗の心配は杞憂に終わり、パラスは白地に落ち着いた花柄の浴衣、白斗は落ち着いた濃紺の浴衣に着替えると、飲食の屋台を巡っていく。
 ビールやワインもいいが、浴衣とこの景色に合うのは日本酒だろうと二人は屋台で売られている酒を吟味する。幽世で造ったという酒を、バーを営んでいるパラスは質問を交えながらあれこれ試して、気に入ったものを選ぶ。これなら白斗もきっと気に入る。
 川沿いにテーブル席が設置してあったので、二人は買ってきた酒とおつまみを広げて月と風鈴を眺めながら乾杯した。
「ここで買ったつまみも悪くないが、やっぱりパラスが作ってくれるつまみが最高だな」
「褒めたってここでは何も出せやしないよ」
 イカの姿焼きを口に運べば、パラスが選んでくれた酒が進む。美味しい酒やつまみがなくても、目の前に浴衣姿の美人がいればそれだけで充分幸せなのだが、そんな軽口のやり取りさえ楽しくてしょうがない。
 次々と移り変わる話題は本当にとりとめのないもので。
 今回の依頼では、過去の自分の記憶と向き合う必要があったらしいと知った白斗は、パラスがそのことで消耗しているのではと心配し、その話題には触れずに、敢えて馬鹿げた話やとりとめのない話を振った。五十年以上戦場を渡り歩いた歴戦の兵士である白斗には、女性が好むような気の利いた話ができるわけでも、若者のように輝かしい未来の話ができるわけではないが、明日忘れてしまうようなそんな話題が今の二人にはちょうどいいのだ。
(「こんな穏やかな気持ちはいつぶりだろう……」)
 パラスは『特別』をつくるわけにはいかなかった。いつだって自分の大切な人たちが自分のせいで死んでいくのを見てきたからだ。そんな死神を優しく抱き寄せて、自分のせいで死にかけても不運ではなく幸運だと笑い飛ばしてくれる人。その温もりに委ねてしまえば安堵で満ちていく。けれど決して消えない不安と恐怖は胸の奥底にあって。それでも今はこの何でもない時間が心地よくて、自然と顔に穏やかな笑みがこぼれる。
「そういえば、風鈴を贈りあう風習があるんだって?」
 先ほど見かけた妖怪の男女はお互いに風鈴を贈りあっていた。よし、それじゃあ見に行くかと立ち上がった白斗はパラスに手を差し出すと、風鈴が売っている店へと歩き出す。
「……たくさんあるな」
 風鈴祭りの名の通り、種類が豊富で選ぶのにも時間がかかってしまいそうだ。その中で白斗がパラスにと選んだのは丸みのある金属製の風鈴だ。ガラスの風鈴も繊細で美しいが、すぐに割れてしまいそうな気がして、実用性を考えた上での結論だ。
「おや、アンタらしいね」
 すっと差し出された風鈴を見て、パラスは思わず微笑んだ。実用性を考えたなんとも白斗らしい選択だからだ。揺らしてみると、金属製らしい高く澄んだ音色が耳に心地よく、目を閉じては何度もその音を繰り返す。
「ありがとう。……それじゃあアタシからも……」
 たくさんある風鈴の中からパラスが選んだのは、対照的な華奢なガラスの風鈴。金属製のものとはまた違う澄んだ優しく美しい音色が響く。
「アンタは自分の身体に雑すぎる。……それを割らないように大切にすることだね」
 白斗はその言葉に頭を掻きながら、持って帰るまでに割ったりしないだろうかと思いながらも重要な指令を受けたかのように重々しく頷く。
「パラスにもらったものを壊したりはしないさ……絶対にな」
 あまりに真剣な顔で呟くものだから可笑しくて。
 パラスがこらえきれずに口元を押さえて笑うと、まるで共鳴するかのように、数多の風鈴たちも澄んだ音を響かせながら揺れているのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

真白・時政
コトちゃん(f27172)にお呼ばれして合流するヨ

お祭りだからお洋服はちゃァんと着たじんべさん!
だって今日はオキャクサンだからネ
葉っぱのオビドメがカワイーコトちゃんの浴衣
やぱり良く似合ってるヨ

お手手繋ごうかと思ったケド、コトちゃんは屋台を見るのにキョロキョロ大忙し!
だったらこのままでイイかなってウサギさんは人混みで逸れないヨーニゆっくり歩くよ

ナァニ?ってしゃがめばきらきらキュートなウサギさん!
ワァワァスゴイスゴイ!ショクニンワザってヤツだね!

風鈴祭りなのに風鈴じゃなくてイイの?
そっかそっかァ~それじゃあウサギさん、このお花、コトちゃんにプレゼントシてあげる
タノシ―お祭りに誘ってくれてアリガトォ


琴平・琴子
うさぎさん(f26711)と浴衣を着てから合流

甚平、着てきたんですね
ちゃんと服装も正してますし
うさぎさんのその姿もよく似合ってますよ
それくらいしか褒めても出ませんけど

逸れない様にうさぎさんの袖を掴んで歩く
心地良い音を鳴らす風鈴も良いけれど
目に入ったのは屋台のに並んだ飴細工の数々
平面的な物のみならず立体的な物もあって
ライトに照らされてキラキラ輝いて綺麗

足を止めて袖をくいっと引っ張る
飴細工可愛いですねっ兎のもありますよ

おじ様、お花の飴細工を包んでくれますか?
お部屋に飾って眺めるんです
そんな悪いです
付き合ってくれただけで良かったのに、もう
でも嬉しいので歩きながらも買って貰って綻ぶ顔



●風鈴祭りに咲く花は
 骸魂に囚われた妖怪たちも無事に解放され、滅びかけていた世界はようやく平穏を取り戻した。辺りにはたくさんの屋台が並び、風鈴祭りの名にふさわしい多種多様の風鈴たちの中から、客はお気に入りの一つを見つけ出す。
 竹で組まれた風鈴棚には願いの描かれた短冊をぶらさげた風鈴が揺れていた。
「コトちゃん、お待たセ~!」
 風鈴の音色に耳を澄ませていた琴平・琴子(まえむきのあし・f27172)だが、自分を呼ぶ声に振り返った。目の前には見知った顔。けれど、今日はいつもと違う服装だ。
「甚平、着てきたんですね」
「お祭りだからネ! ちゃァんとじんべさん着てきたヨ!」
 真っ白な髪に赤い瞳、色白の肌のまるでうさぎのような青年、真白・時政(マーチ・ヘア・f26711)は笑顔のまま、くるりとその場で一回転してみせる。だって今日はオキャクサンだからネ、とりんご飴を提供する側ではないのだと楽し気に呟いて。
「葉っぱのオビドメがカワイーコトちゃんの浴衣……やぱり良く似合ってるヨ」
 琴子が待ち合わせまでに着替えた浴衣は、浅黄と浅葱の柔らかい色合いの市松模様。時政が称賛した葉っぱをモチーフにした帯留めがいいアクセントになって浴衣を引き立てている。
「ちゃんと服装も正してますし……うさぎさんのその姿もよく似合ってますよ」
 前に見たときは、ちゃんと着れていなかった甚平姿を思い出し、思わず笑みがこぼれる。自分の浴衣への賛辞はなんだかくすぐったくて、小さく呟く。
「……それくらいしか褒めても出ませんけど」
 たくさんの屋台に人出も多く、ともすれば逸れてしまいそうで。背の高い時政の袖を掴むと辺りを見渡す。お祭りらしい飲食の屋台に射的や金魚すくい。見ているだけでもわくわくとする。
 あちこちに目をやる琴子に気づいた時政は、この人混みに逸れないように手を繋ごうかと思っていたが、琴子が袖を掴む様子にこのままでもいいかなと思いなおす。琴子の歩幅も考えつつ逸れないようゆっくりとした歩調で歩いて行く。
 屋台通りを歩いていても、至る所から風鈴の音色が聞こえてきて。ここが幽世だからなのか、その音色は郷愁を誘う。琴子は両親の優しさにも似たその心地よい音色に耳を傾けていたが、ぱっと目に入ったのは見事な飴細工の数々。
 おはじきみたいに可愛い小さなものや花や星を象った平面的なものだけでなく、躍動感あふれる動物の飴細工たちが屋台の下、ライトに照らされキラキラと輝いていた。その美しさに思わず見惚れた琴子は足を止め、くいっと時政の袖を引っ張る。
「コトちゃん、気になる屋台でもあったのかナ?」
 琴子は瞳を輝かせて、飴細工の屋台を指差す。
「飴細工可愛いですねっ。ほら、見てください。兎のもありますよ」
 どれどれと屋台に近づいて、そこに飾られる飴細工の数々をよく見ようと時政はしゃがみこむと、その視線の先には今にも飛び跳ねでもしそうなうさぎの飴細工の姿が。明かりに照らされキラキラと輝くキュートなうさぎに、時政も目が釘付けになる。
「ワァワァスゴイスゴイ! ショクニンワザってヤツだね!」
 視線を上げれば、そこには実演販売をする職人の姿が。手にした飴がこねくりまわされると、まるで生き物のように自由自在に伸びていき、ハサミを入れる度にパーツが現れ、細部に命が吹き込まれていく。その手際は鮮やかで、ものの数分で顔には立派な髭と角が現れ、鱗に覆われた胴体から力強い尾が伸びる龍の姿になる。天を目指すかのようなその姿に、辺りからも称賛の声が飛ぶ。
「おじ様、お花の飴細工を包んでくれますか?」
 折を見て琴子がそう声をかけると、飴細工職人は琴子をじっと見つめてから頷いた。そうしてなにやら新たな飴を作り始めたのだ。既に作って売られているもので良かったのだが、琴子はじっと飴細工が作られるのを見守る。
「風鈴祭りなのに風鈴じゃなくてイイの?」
 琴子の様子に時政がそう問いかける。
「お部屋に飾って眺めるんです」
 風鈴の音色も素敵だけれど、何より琴子はこの飴細工に心を奪われてしまったのだ。飴でできているから食べられるのだろうけど、この美しさをじっくりと眺めたくて。 
「そっかそっかァ~、それじゃあウサギさん、このお花、コトちゃんにプレゼントシてあげる」
「そんな悪いです」
 琴子が遠慮がちに首を横に振るも、時政がやんわりと制する。こんな風に甚平姿でお祭りを楽しむことができて、琴子には感謝しているのだ。
「タノシ―お祭りに誘ってくれてアリガトォ」
「付き合ってくれただけで良かったのに……もう」
 お礼を言うのはこちらの方なのに。けれどその気遣いが嬉しくて。そうしてあっという間に出来上がった飴細工にも瞳を輝かせる。
「コトちゃんのカミカザリとおそろいなのかナ?」
 浴衣の色に合わせて揃えた髪飾りの花を模した飴細工が明かりを受け美しく輝いていた。
「おじ様、ありがとうございます」
 時政が会計を済ませ、包んでもらった花の飴細工を琴子は大切そうに受け取った。嬉しさにどうしたって思わず顔が綻んでしまう。
「うさぎさんも行きたい屋台があれば言ってくださいね」
 もう一度時政の袖を掴んでから、琴子はそう声をかける。
「うーん、やっぱりリンゴ飴かナ?」
「じゃあ行きましょう」
 風鈴の涼やかな音色を聴きながら微笑み合うと、二人はゆっくりと歩き出した。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

故無・屍
…仕事は終わりだ、祭りに関しちゃ依頼内容に含まれてねェんでな。
今手を繋いでる奴が明日もそこに居る保証なんざどこにも無ェ。
会いたい奴と会えたんなら精々後悔しねェように生きるんだな。

UCを発動し、目立つことなく1人で祭り会場を後にする


…この風鈴の音も、今は思い出す必要もねェ事を思い出しちまう。
本当に面倒な依頼を受けちまったモンだな。

帰る道すがら、思い出に惹かれた『何か』を見つければ声をかけて
…お前も迷ってんのか。
付いて来い、出口くらいまでなら案内してやる。


心なんてのはありゃいいってモンじゃねェ、
それがあるから苦しいってこともある。
…それでもそれを求めるってんなら、『次』は精々気張って生きるんだな。



●還る場所
 骸魂は消え、取り込まれた妖怪たちは無事に解放された。先ほどまで世界崩壊の危機に瀕していたとは思えないほど、辺りには風鈴祭りを楽しみにとやってきた妖怪たちの賑やかな声が響いている。
「……仕事は終わりだ」
 そんな妖怪たちの姿を目の端に入れ、故無・屍(ロスト・エクウェス・f29031)は祭り会場から離れるように歩みを進める。正直、世界の滅亡を救いたいだとか、そんな正義感に駆られてやってきたわけではない。屍は屍の仕事をする。それだけなのだ。それが終われば、ここに居残る理由はない。
「あの、先ほど助けてくれた方ですよね?」
 立ち去りかけたその背中に、遠慮がちに声がかけられる。無視するわけにもいかず、仕方なく振り向けば、そこには先ほど助けた小夜と風早の姿が。お互いに贈るべき風鈴を選んで、少しこの辺りを散策でもしていたのだろう。
「……何か用か」
「いえ、せっかくだから風鈴祭りを楽しんでいかれませんか? よければ、わたしたちが案内しますから……」
 面倒なことになったと心の中で舌打ちし、屍は仕方なく口を開く。
「祭りに関しちゃ依頼内容に含まれてねェんでな」
 取り付く島もない屍の言葉に二人は顔を見合わせて。それでも何かお礼をしたいという気持ちなのはわからないでもないが。
「今回は無事だったがな、今手を繋いでる奴が明日もそこに居る保証なんざどこにも無ェ。……会いたい奴と会えたんなら、精々後悔しねェように生きるんだな」
 それだけ言うと、もう一度踵を返す。その言葉をどう受け取るか、それも相手次第だ。
 屍の背中を見送った二人は、黙って深く頭を下げる。それは救われたことへ感謝でもあり、大切なことを教えてくれたことへの敬意でもあったのだろう。

 ユーベルコードを発動させ、屍は闇に溶け込むように目立つことなく、今度こそ祭り会場を後にする。この調子では他の妖怪たちにも声を掛けられかねないからだ。
 数多の風鈴が揺れては奏でる涼やかな音色は、祭り会場を抜けるまで耳に残り続ける。美しい音色なのだと頭では理解できても、もうそれは屍にとっては別の意味を持ってしまったのだ。
(「……この風鈴の音も、今は思い出す必要もねェ事を思い出しちまう」)
 回廊を抜ける時に蘇った過去の記憶。守りたかったものを守れなかった。怒りや恨みのやり場すら失った虚無感。心が空っぽになる喪失感。
(「本当に面倒な依頼を受けちまったモンだな」)
 この依頼に引き合わせられたのも、全ては定められた巡り合わせなのだと運命論者を気取って嘆くつもりはないが。
 ただ、ここは地球と骸の海の狭間にある幽世。過去の思い出や追憶に触れてしまう可能性はわかっていた。
「……お前も迷ってんのか」
 だからこの世界で、思い出に惹かれた『何か』を見つけてしまうのも道理なのかもしれなかった。
「付いて来い、出口くらいまでなら案内してやる」
 骸の海は世界から排出された「過去」の集積体。消費しなければ前へ進めない時間を過去へと変え、骸の海へと追いやられた過去が稀に染み出し、失われた過去の化身としてオブリビオンとなって蘇る。
 たとえ猟兵に倒されたとしても、宿命を持つ者に止めを刺されなければ何度でも蘇る。世界を滅ぼすまで、何度でも、何度でも。
「心なんてのはありゃいいってモンじゃねェ」
 それが、一体何なのかははっきりとわからないけれど、それでも屍は語り掛ける。
「それがあるから苦しいってこともある」
 いっそ心を失くしてしまえば、過去の記憶を思い出して心を乱されることもないのに。禁忌の強化実験を施されたとしても、心を鋼鉄で覆うことはできない。
「……それでもそれを求めるってんなら、『次』は精々気張って生きるんだな」
 世界を過去で埋め尽くそうとする存在に未来を語るのもおかしな話だが、消えゆくことができない運命ならば、せめて別の道を願うというもの。けれどどうするかは、結局決めるのは自分自身なのだ。
 『何か』は無事に出口に辿り着けたのだろう。その気配が消えたのを確認し、ひとつ息を吐き出した。
 過去の記憶は、そんな懐かしい日々が自分にもあったのだと、ごく平凡な家庭に生まれ育った少年だったことを思い出させる。時が流れようとそれは己を支えるものであり、身体と心を蝕む毒でもあった。
 それでも屍は帰るのだ。守りたかったものはもういない『世界』へと。
 ――自分の仕事をするために。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2020年10月03日
宿敵 『虚ろな人形』 を撃破!


挿絵イラスト