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きみの香は

#サクラミラージュ

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#サクラミラージュ


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●きみの香は
 鼻をくすぐる香がある。
 さて、これは――何の、香だったか。
 そうだ、この香は彼女の香だ。一緒に様々な事を学んで、共に店を開いた彼女が好んで纏った、香り。
 いつも側にある当たり前の香じゃあないかと、男は笑う。
 ふらふらとした足取りで、近付いていつものように傍で過ごす。
 この香の調合を、彼女は教えてくれなかった。私だけの特別よ、と言って。
 その香りは――淑やかで、静かな、花の香りだったことは覚えている。
 この香を生み出すにはどうしたらいいのかと考えながら、男は力なく微笑む。
 しかしこの香りをどうして、欲していたのだったか。
 傍にあるというのに、何故つくろうとしていたのか。
 彼女になじむこの香を、どうして、何故――いや、もうどうでもいいと思考は鈍る。
 その傍にいる事で己の命が削られていることを気付いているのか、いないのか。
 幻朧桜の並ぶその中で――男の傍らでひとつだけ、違うすがたのものが揺らめいていた。

●予知
 サクラミラージュで、ある男が影朧を匿っているのだと、終夜・嵐吾(灰青・f05366)は紡いだ。
「匿っているのか、囚われているのか……どっちともいえるんじゃけどね」
 その男は、街で香の店を営んでいる。
 かつては、妻と二人で営んでいたのだが彼女はもともと体も弱く、病気で亡くなってしまったのだという。
 そうして男はしばらく店を閉めていたのだが――最近また店を開きはじめ。
 近所のものたちはほっとしたのだが、身体は日々、衰えている様子。いつ倒れてもおかしくないような様子のようだ。
 それを心配して、近所の者達は声をかけるが男は大丈夫と答えるだけ。
「その店主の男は、店が終わればすぐに家に帰らずにふらふらとどこかに行くそうなんじゃ」
 近所の者達がそれを追うものの、いつも同じ場所で姿が見えなくなるというのだ。
 それは幻朧桜の小径でとのこと。
 おそらく、そのどこかに影朧もいるのだろうと嵐吾は言葉紡ぐ。
「影朧によって男が狂わされているのは確かじゃから、このまま放っておくわけにはいかん」
 店を訪れ男のひととなりを情報収集をするもよし。その後、男が向かう先を追っていけばそのうち影朧のもとへ辿り着けるだろうと嵐吾は続けた。
「皆には最後まで男を追って、そして――影朧に対処してきてほしいんじゃ」
 説得しても言葉通じぬものかもしれない。はたまた、その言葉が届く相手かもしれない。
 それは、きっと対してみなければわからぬことだろうと言って嵐吾はその手でグリモアを輝かせるのだった。


志羽
 お目通しありがとうございます、志羽です。
 プレイング締め切り、受付方法などはお手数ですがマスターページの【簡易連絡】をご確認ください。

●シナリオについて
 第一章:日常『香煙を薫らせて』
 第二章:冒険『迷桜の小径』
 第三章:ボス戦『???』
 以上の流れとなっております。

●一章について
 こちらは問題ないプレイングはすべて採用します。
 お香を扱うお店での時間となります。
 お香、香立、香炉、それからお香をいれる香合。和小物としてにおい袋。香りを染み込ませた便箋やほかにもいろいろ。
 良い香りのするものが色々ありますのでそのあたりはご自由にどうぞ。
 お好きな香りをお求めください。また、お任せの場合はおすすめのものをご用意します。
 情報収集もできますがお買い物も楽しんでいただければ。

●二章について
 詳しくは冒頭にて。
 ご一緒の方が居る場合、どちらかのを一緒にでも。それぞれ別々の内容をでもどちらでも。

●お願い
 複数人数でのご参加の場合は、ご一緒する方がわかるように互いに【ID】は【チームタグ】を記入していただけると助かります。また、失効日が同じになるように調整していただけると非常に助かります。(続けて二章、三章参加の場合、IDについては必要ありません)
 ご協力よろしくお願いします。

 以上です。
 ご参加お待ちしております。
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第1章 日常 『香煙を薫らせて』

POW   :    元気の出る香りを楽しむ

SPD   :    リラックスする香りを楽しむ

WIZ   :    ロマンチックな香りを楽しむ

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 その店の名は『幸香』という。
 人の往来が激しいことはなく、落ち着いた雰囲気の通りにある店だ。
 中に入れば件の男がいらっしゃいませ、と愛想よく笑いかけてきた。
 けれど、目の下にはクマがあり頬は痩せ、疲れているのが目に見えてあきらかだ。
 店内を見回せば売っているものはその名の通り、香やそれに類する小物などが主なものだ。
 香木もあるが練り香など、様々なものが店には並んでいる。
 その香りは白檀や沈香といったものから、調合されて作られたものなどもあるようだ。
 例えば――桜の香はもちろん。涼やかな新緑の香、華やかな花の香のものは様々なものがある。見た目も、円錐形であったり細長い一本のものであったり。また色も様々だ。
 お試し用に少量で色々な種類がはいったものもある。気に入ったもの一つだけで良いのなら、それだけ沢山はいったものもあるようだ。
 少量であれば紙の包みであったり、箱であったり。高い物であれば桐箱に入っているものもある。それらはいずれも贈り物として包んでもくれる。
 それから、自分で調合のできる小さな乳鉢のついたセットもあった。作り方の説明書がついており、何種かの素材がついており自分好みのものを作れるようだ。
 香を楽しむための香立や香皿、香炉などもあり、シンプルなものから花や動物などを模したものもある。
 香をしまう香合も同じように多種あった。漆に精緻な文様描かれたものから貝殻そのままに、美しい細工を施したもの。陶器のものであれば兎や犬といった動物の形をしたものも。
 香をしまっておくにも良いが、他にも小物入れとしても使えるだろう。
 ほかにも匂い袋や香りを纏う便箋といったものも並んでいる。
 客足はぽつぽつと、忙しいということもなく。暇すぎるということもなく。
 店主の男は丁寧にひとりずつ対応しているようだ。必要ありそうなら声をかけ、あとはお好きにという様子。
 店が終わるまで、男はこの場所から動かない。それまでは、それぞれ好きな時間を過ごすのが良さそうだ。
誘名・櫻宵
🌸櫻沫

素敵!
良い香りで満たされているわね
心も華やいでしまうようね
……リル?
もしかして。私の香りにうっとりしてしまった?
なんて揶揄えば、朱に染まる頬がかぁいらし
優しく撫でくすりと笑む

そうね!新しい発見があるかもしれないわ
私は桜を纏うことが多いけれど、おすすめを選んでいただきましょう
爽やかなのも、梔子のように甘いのも好きよ
選んで貰った香りをつめた、さくらんぼのように連なる香り御守りをいただくわ!
あら、リルもいい香りだわ
これが私の人魚の香りなのね
香りに喜ぶリルに微笑んで、香りで染めた便箋で、愛の手紙がほしいだなんてねだってみるわ

私のお守りを片方あげる
お揃いね!
幸せの香りに包まれて
噫、花咲くようだわ


リル・ルリ
🐟櫻沫

わぁ!いい香りがするね!
お花の香りに春の香り、優しさや嬉しいの香りもあるよ
寄り添う櫻宵の袖をひけばふわりと薫る馴染みある桜の香り
―僕の大好きな、君の香り
思わず身を寄せる

な、なんでもないよ!
慌てて照れ隠し
くすくす笑う君に唇を尖らせるも
可愛らしくて和んでしまう

せっかくだから僕らの香りを選んでもらおう
僕、香炉や同じ香りの便箋がほしいな
ふふ、想いと一緒に言葉を送れたら素敵だもの

選んでもらった香りを大切に抱く
いい香り
纏うのが楽しみだ
あ、ヨルも同じ香りになってるや

櫻のは?
ふふ……君らしい
いい香りがする

僕のと交換しよう
そのにおい袋のお守り
僕にも頂戴

大好きな人の香りを傍に
胸の奥から花咲くようで
幸せだな



●抱香
 やわらかに、香る――その香にリル・ルリ(『櫻沫の匣舟』・f10762)は瞬いて、ぱっと誘名・櫻宵(貪婪屠櫻・f02768)へと視線向ける。
「わぁ! いい香りがするね!」
「素敵!」
 良い香りで満たされているわねと櫻宵は、ふふと小さく笑い零す。
「心も華やいでしまうようね」
「お花の香りに春の香り、優しさや嬉しいの香りもあるよ」
 あっちも見てみようとリルは櫻宵のそれを引く。
 するとふわりと――香る。それは他の香に中にあるからこそ際立ったのかもしれない。
 馴染みのある桜の香りだ。
(「――僕の大好きな、君の香り」)
 思わず、リルが身を寄せると櫻宵はそちらを見て。
「……リル?」
 もしかして――と、口の端上がるのをそっと、袖で隠して笑うのだ。
「私の香りにうっとりしてしまった?」
「な、なんでもないよ!」
 かぁいらし、とくすくす零す櫻宵。リルは慌てて顔を逸らして唇尖らせるけれどそうっと伸ばされた手は優しく撫でていくもので。くすりと笑み零すその様に和んでしまう。
 リルは微笑んで、ねぇとひとつ提案を。
「せっかくだから僕らの香りを選んでもらおう」
「そうね! 新しい発見があるかもしれないわ」
 リルが視線投げると、どのようなものをと店主が声かけてくる。
 何か、見繕ってほしいのだと伝えればどのようなものをお探しで、と尋ねられる。
「僕、香炉や同じ香りの便箋がほしいな」
「香炉は、最近は様々な形がありまして」
 いくつか、店主は並べていく。
 それをリルの腕の中でみていたヨルはそれを見て、ぴぃ! とひとこえ。
「ヨルそっくりだ!」
 それはぺんぎんの香炉。最近はこのような動物のものが流行っているのですと店主は教えてくれる。
「便箋も色々とございます」
 これからの季節だと、紅葉の便箋、月見の便箋、そして雪など冬となり、また春へと向かうものを並べていく店主。
 香りはこのようにと、秋の深い香りから冬の静かな香り、華やかな香りといくつか試しをと香りを並べていくのだ。
「ああ、けれどこれも……お似合いになりそうです」
 そう言って店主が差し出したのは蓮の花をイメージした、瑞々しい香りのものだった。軽やかで、けれど優しい香りがリルの鼻をくすぐっていく。
 それを一つずつ感じて、どれにしようかとリルは迷うけれど、気になるのはやっぱり一つ。
「香りに乗せて届くこともありましょう」
「ふふ、想いと一緒に言葉を送れたら素敵だもの」
 リルは頷いて、あとのお楽しみと櫻宵に一言。
 櫻宵は、楽しみにしているわと言って店主に選んで頂戴なと紡ぐ。
 店主は、いつもはどのようなものをと問う。
「私は桜を纏うことが多いけれど」
 爽やかなのも、梔子のように甘いのも好きよと伝える。
「お好みは色々広そうですね、でしたら」
 と、店主が差し出したのは『ひととせ』と書かれた箱だ。
 それを開けると――十二種類の香が並んでいる。それはどれも、花の形をしていた。
 一年を巡る花々の香、それぞれの個数は少ないが様々な香が楽しめるのが良いのでは、ということだ。
「三月はもちろん桜でございます」
「素敵! でもこの香り御守りに全部は無理よね……」
 櫻宵が示したのは、さくらんぼのように連なる香り御守り。
 それに合わせるのだったら、こちらはと勧められたのは秋の香りだ。
 秋――秋桜のやわらかな、やさしい香り。
 それを、と櫻宵は詰めてもらう。
 そしてリルも、いい香りと選んでもらった香りを大切に抱いていた。纏うのが楽しみだ、と笑い零して気付く。
「あ、ヨルも同じ香りになってるや」
 良い香りを纏って、自慢げな顔のヨルがふるりと身を震わせると香りが広がる心地。
「櫻のは?」
「これよ」
 鼻先にちょんと触れるように御守りを向けて。すん、と鼻鳴らしてその香を感じるリル。
「ふふ……君らしい。いい香りがする」
「あら、リルもいい香りだわ」
 もちろんヨルもね、と櫻宵は言って瞳細める。
 これが私の人魚の香りなのね――と、微笑み向けて。
「ねぇ、その香りで染めた便箋で」
 愛の手紙がほしい、と耳元で囁いておねだり。
 もう! とリルはくすぐったげに返して――僕のと交換しよう、と紡ぐのだ。
「そのにおい袋のお守り。僕にも頂戴」
 ええ、と櫻宵は笑って御守りの片方をあげるのだ。
「お揃いね!」
 リルも蓮の花の香りを滲ませて。
 大好きな人の香りを傍に――いつでも感じられ包まれているようで。
「噫、花咲くようだわ」
 うん、とリルも頷く。胸の奥から花咲くようで、幸せだなと微笑んで。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

榎本・英
【春嵐】

嗚呼。香はたまに焚くよ
如何なる時も、香りは心身共に安らげる効果があると私は思っている

うちにある物は新緑に包まれるような
そんな爽やかな香りが多めだがね
君はどのような香りを――
それでは楽しみにしておこう

君が選んでいる間、私は選んでもらおう
緑のあふれる香りは家にある
その他、オススメがあればそちらにしたいね

強すぎる香りは好ましくない
優しく、それでいて安らげるような
嗚呼。そうだね、柔らかい香りが良い
注文が多いかな?

選び終えた君の、いっとうの香り
とても良い香りだね
甘く、包まれるような
それでいて心地良い

私の方は今し方、選んでもらったばかりだよ
さて、君の気に入る香りになっているかな?


蘭・七結
【春嵐】

甘やかな香り、好ましい香り
自分好みの香りに出逢えるのだとしたら
あなたは如何なる香りを選ぶのかしらね

わたしは……ふふ、ひみつ。ないしょよ
選び終えてからのお楽しみだわ

香りは、記憶と記憶を結びつけるもの
やさしい温度を呼び覚ますような
あたたかく包み込んでゆくような
こころ安らぐ春の香りがいい

あれもこれもと手繰り寄せて
ひとつ、またひとつと香りを招く

やわらかな桜と、甘い苺を織り交ぜて
やさしいしゃぼんが香って、ぱちりとはぜるよう
嗚呼、とても好ましいわ
春のような香りを、見附けたの

わたしが選んだのは春の真昼のような香りよ
……よい香りでしょう?
甘い香りがお好きだと云うのなら
屹度、あなたも気に入ってくださるわ



●やさしくやわらかな
 香に満ち溢れている店へと一歩、踏み込んで蘭・七結(まなくれなゐ・f00421)は榎本・英(人である・f22898)を見上げて。
 香はお好き? と問いかける。その瞳の瞬きに英は頷いて。
「嗚呼。香はたまに焚くよ」
 ここで今、たかれている香はどのようなものかと英は香気をかすかに吸い込んだ。
 その香りは――甘い花のものの様。でもひとつではないようだ。店全体を包む香りは居心地がよく。けれど、他の香を試すときには邪魔にならないような。
 よくよく、考えられているような香りだ。
 その中を七結は一歩先に、進んで。
 甘やかな香り、好ましい香りと七結はふわり、微笑み向ける。
「自分好みの香りに出逢えるのだとしたら、あなたは如何なる香りを選ぶのかしらね」
 如何なる時も、香りは心身共に安らげる効果があると私は思っていると英は七結へと告げて。
「うちにある物は新緑に包まれるような、そんな爽やかな香りが多めだがね」
 君はどのような香りを――と、英は尋ねる。
「わたしは……ふふ、ひみつ。ないしょよ」
 選び終えてからのお楽しみだわ、と香の合わせの方へ。
 ひみつ、ないしょと言われたのだからついていくのも野暮というもの。
 その楽しげな気配の背中を見詰め、それでは楽しみにしておこうと英は店主へと視線を。
 七結は自分で選ぶようだから、私は選んでもらおうと彼に声をかけた。
 店主は視線に気づいて、人好きのする笑みで答えてくれる。
「いくつか見繕ってもらえるかな」
「はい。どのような香がお好きです?」
 問われて、家にある香以外のものがよいだろうと英は思い。
「緑のあふれる香りは家にある。その他、オススメがあればそちらにしたいね」
 これからでしたら秋の香はいかがでしょう、と男はいくつか差し出した。
 緑のその先、紅葉の気配纏う香りと。もちろん、花の香りもあるのだ。
 金木犀の香はその定番と言う。けれどその香は強めのようだ。
 英は僅かばかり眉を八の字にして。
「強すぎる香りは好ましくない。優しく、それでいて安らげるような――嗚呼。そうだね、柔らかい香りが良い」
 注文が多いかな? と肩竦めてみせるとおすすめのし甲斐がありますと店主は微笑んだ。こうして伝えていただく方がより好みに近いものをお届できますからと言って。
 秋桜や菊の香から、秋の読書の時間のためにと調合された香。
 その読書の時間のためにと作られた香を僅かに試してみれば――静かな香りだった。ゆるやかな、香り。ふとした瞬間だけ感じられるような穏やかで控えめな香は悪い気はしない。
 それを英が試している姿をちらり、七結は目にとめて自分がいくつか試した香りに視線を向ける。
 香りは、記憶と記憶を結びつけるもの。
(「やさしい温度を呼び覚ますような、あたたかく包み込んでゆくような」)
 こころ安らぐ春の香りがいい、と七結はもうひとつ。
 あれもこれもと手繰り寄せて――ひとつ、またひとつ。
 春の嵐のような芳醇で重厚な香りも素敵かもしれないけれど、今日は。
 やわらかな桜と、甘い苺。その香を織り交ぜて。けれどその香りの甘さだけでは少し足りなくて。
 どうしようかしら、と小さく首を傾げ悩みつつ七結が手にしたのはやさしいしゃぼんの香り。
 これ、と七結は瞬く。ぱちりとはぜるような香りにふふと小さく笑み零して。
「嗚呼、とても好ましいわ」
 七結は幼い子供の様に笑ってその香を手にとって英の方へ。
「春のような香りを、見附けたの」
 君の、いっとうの香りと英は七結の手から綻ぶ香に瞳細めた。
「わたしが選んだのは春の真昼のような香りよ……よい香りでしょう?」
 甘い香りがお好きだと云うのなら、屹度、あなたも気に入ってくださるわとどうかしらとその様子を伺う七結。
「とても良い香りだね。甘く、包まれるような――それでいて心地良い」
 その香りの広がりは優しく、英はそうだと紡ぐ。
「私の方は今し方、選んでもらったばかりだよ」
 さて、君の気に入る香りになっているかな? と今度は七結を秋の香へと誘う番。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

逢坂・理彦
お香…かぁ。俺の大事な彼からは何時も白檀の香りがする。
だから白檀は俺の中では彼の香りだったりするんだけど…。
白檀のお香を持てば彼の香りを何時も感じられるななんて思えば少し気恥ずかしくなったり。

うん…でも香り袋を一つ買っておこうかな。
彼から香る香りが一等いいのだけど。
俺は彼より依頼に出かける事が多いから。
少しでも存在を感じれるように…。

指輪に香り袋にと彼を感じる物を持ちたいなんて俺はずいぶんと寂しがり屋になったものだなぁ…けれど、それも悪くない。



●かおる、それに感じる――彼の
「お香……かぁ」
 店に入れば、鼻を擽る香りがあった。いい匂いだと思う。
 けれど――やはり香りであればなんでもいいというわけではないのだ。
 その香りは馴染みのあるものではない――店に入ってすぐ、逢坂・理彦(守護者たる狐・f01492)は思い浮かべる香があった。
 それは白檀の香り。
 その香を纏うのは――理彦の大事な人。その姿を思い浮かべてしまう。
 白檀は、理彦の中で彼の香りなのだ。そして、理彦にとっても一番馴染む香りなのだ。
「あ、これだ」
 白檀、と書かれた香を見つけ理彦は手に取る。
 香木であったり、線香になっていたりはたまた小さな球体であったりとその形は様々だ。
 そして、それに顔近づけてすんと花を鳴らす。
 僅かに、焚かれてはいなくともそれが、己にとって一番馴染み深いその香りであることはわかるのだ。
 この香りを持てばと、――彼の香りを何時も感じられるな、なんて思えば少し気恥ずかしくなってふわりと尻尾が揺れる。
 けれどそう考えると、嬉しくもあることは確かなのだ。
「何かお探しですか。白檀でも色々な形がございますよ」
 そう、店主に声をかけられて。手の中にある白檀の香りをそっと元に戻す。
 けれどこの香りは、やはり持って帰りたいところ。
 そう思っていると店主は、香りのついた便箋や、香り袋もありますよとそちらを示してくれた。
「香り袋……」
 それはさまざまな色と形をしている。
 ふと、彼の髪色のような香り袋を見つけ、理彦は手に取った。小さくて、胸元にそっと入れておけるものだ。財布の中にも、入りそうな大きさだ。
「うん……でも香り袋を一つ買っておこうかな」
 彼から香る香りが一等いいのだけど――でも。
(「俺は彼より依頼に出かける事が多いから。少しでも存在を感じれるように……」)
 いつでもそばにいられるわけではないから。この香りだけでも、どこでもいっしょに連れていけたならば。
 香り袋にこめるのは白檀の香りだ。
 そしてふと、理彦はその指にある翡翠の指輪に目を止めて、撫でて。
 指輪に香り袋にと、彼を感じる物を持ちたいなんて。
(「俺はずいぶんと寂しがり屋になったものだなぁ……」)
 けれど、それも悪くないと理彦は笑み零し、これを頂いて帰るよと店主へと告げるのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

黒鵺・瑞樹
アドリブOK

なんで来たのか実は自分でもわかってない。
香や練り香水がらみの影朧事件に関わった事もあるし興味があったのは確か。
出羽にいた時は寺で生活してたから線香には慣れてるんが、戦い方が隠密からの奇襲って事もあって香りといった自分の存在を誇示するものはあまり使わないからなぁ。
だから香りのするものは前に偶然見つけた香りの店の子が無料で調香してくれた香水しかもってないし、それだって気分転換で楽しむ程度。

うん。本当に縁のない生活してるとは思う。
おすすめあればとは思うけど、置いとくだけで匂いが移るものは避けたい。
割とずぼらで大事な物は纏めて仕舞い込む癖があるから。
細工物にしといた方が無難だろうか?



●わからぬこと
 なぜ、ここに足を運んだのだろうか。
 黒鵺・瑞樹(界渡・f17491)はそれがわからなくて少しばかり居心地の悪いような思いを抱いていた。
(「香や練り香水がらみの影朧事件に関わった事もあるし興味があったのは確か」)
 そして店の中でくゆる香り――その色づいているは独特のものは馴染みも少しばかりある。
「出羽にいた時は寺で生活してたから線香には慣れているんだが、」
 戦い方が、と瑞樹は思う。
 隠密からの奇襲って事もあって香りといった自分の存在を誇示するものはあまり使わないからなぁと心の中で紡いだ。
 戦いの中で、香りを纏えば敵に知られることもあるだろう。
 だから、瑞樹にとってこういった香りのものはあまり近づかないものだった。
 ひとつ、持っているものもある。
 それは前に偶然見つけた香りの店の子が無料で調香してくれた香水だ。
「あれしかもってないし、それだって気分転換で楽しむ程度……」
 と、呟きながらどれもこれも初めてだなと視線を向ける。
 香、香炉。どれも色々なものがあるのだが珍しい、なんだろうと思ってしまうものばかり。
「うん。本当に縁のない生活してるとは思う」
 何かお探しで、と店主に声をかけられても香を買うことには悩んでしまう。
「置いとくだけで匂いが移るものは避けたくて。割とずぼらで大事な物は纏めて仕舞い込む癖があるから」
 香の店にきて、匂いが移るものはなんていうのもと思いつつ告げると気にはしていない様子で店主は微笑む。
 そういう方もいらっしゃいますと。
「でしたら、香合などはいかがでしょう。香を入れておくものですが、小物入れや飾りなどとされる方もいらっしゃいます」
 香炉ももちろん、部屋の調度としてお持ちになる方もと紹介してくれる。
 大きい物から、小さなものまでさまざまなものがあった。
 小物入れとしてつかえるなら、と瑞樹は一つ手に取る。
 それは木目を生かした香合だ。それからもかすかに香りがするが本当に薄らとで嫌なものではなかった。
 これなら、と瑞樹は思う。身に着けることもなく、香りが移ることもないだろう。
 けれど、時折楽しむのなら丁度よいと。さてどこに置こうかと瑞樹は考えるのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

月舘・夜彦
【華禱】
倫太郎とお香を見て回ります
お香は神様や先祖のお供えでもあり、供えた者のお清めの意味もあります
他の世界では気持ちを落ち着かせたりする際にも使うようですね

私の、ですか?
造花とは言え、花の簪のヤドリガミだからでしょうか
匂い袋の梔子の匂いは私もお気に入りです

会話をしながらお香の匂いを嗅いで好みのものを探します
お香はまだ決めておりませんが、香炉も一緒に買おうと思いまして
私は白の陶磁に蓮の花の香炉にしました

倫太郎は気になるものがありましたか?
素敵な香合ですね……色合いも倫太郎らしいかと

あとはお香ですね
就寝前に気持ちを落ち着かせられるようなものにしたいです
この森のような爽やかな香りは如何でしょう?


篝・倫太郎
【華禱】
夜彦とふたりで色々見よう
正直言えば、香とかは良く判らないんだけどさ

俺が一番好きなのは夜彦の匂いだから
あぁ、でもあんたに渡した匂い袋
あの梔子の匂いも好きだよ

そんな他愛もない話をしながら
のんびりと見て行く
夜彦はどれか気になったのあった?
そう問えば示されるのは香炉の一つ

陶磁の白も蓮の花も……
あんたらしくて、良いと思う
綺麗なところも『らしい』な

俺?俺はどうしようか
そんな話をしていると目についたのは
漆に蒔絵の月とススキが映える小さめの香合

なぁ、夜彦
あんたが香炉買うなら俺これにしようかな……
で、2人で匂い選んで……どうかな?

ん……なんか、懐かしいような匂いで好きかも
なんて名前の香なのか聞いてみよう



●ふたりとわに
 ふわりと、店の中に入る前からかすかに――良い香はしていた。
 それは扉を開けて中に入れば、少し深まる。香の店と言うのだから、もっと香りが深いのかと思えばそうでもなく。
 控えめではありつつも、好ましい良い香りがそこには広がっていた。
 香の店、と篝・倫太郎(災禍狩り・f07291)は店内をまずくるりと見回す。こういった店を訪れるのは初めてだ。色々見よう、と思いつつもわからないことの方が多い。
 だから素直に。
「正直言えば、香とかは良く判らないんだけどさ」
 そう零すと月舘・夜彦(宵待ノ簪・f01521)は小さく笑って、私の知っている事でいいならと紡ぐ。
「お香は神様や先祖のお供えでもあり、供えた者のお清めの意味もあります」
 他の世界では気持ちを落ち着かせたりする際にも使うようですね、と夜彦は並ぶ香に視線向け、僅かに表情緩めていた。
 個々のお店は、そちらのほうに重きを置いているように見受けられますと続けて。もちろん、お供えやお清めとして用いられるものもあるようだが、それよりも楽しむという側面の方が強いのは、並んでいるものを見ればわかるというもの。
 その様子に倫太郎は。
「俺が一番好きなのは夜彦の匂いだから」
「私の、ですか?」
 そう、と倫太郎は頷く。夜彦は香りますか、と己の服の端を少し持ち上げてその香を確認すべくすんと鼻を鳴らすが何も感じない。
「造花とは言え、花の簪のヤドリガミだからでしょうか」
 倫太郎は苦笑して、そうかもしれないけど、と言いつつ――そうだけどそうじゃない、とも思うのだ。
 でもそれは言葉にするのは難しいもの。倫太郎だから感じるものなのだろう。
「あぁ、でもあんたに渡した匂い袋。あの梔子の匂いも好きだよ」
「匂い袋の梔子の匂いは私もお気に入りです」
 この香も良いですね、と試しにと置かれているものを夜彦はいくつか、すでに試していた。
 好みのものはあるだろうか、と探していくのも楽しいのだ。
 倫太郎もいくつか、試していくけれどよくわかんね、と紡いで。
「夜彦はどれか気になったのあった?」
 問われて夜彦は、お香はまだ決めておりませんが、と視線を香炉の並ぶほうへと向けた。
「香炉も一緒に買おうと思いまして」
 私は白の陶磁に蓮の花の香炉にしました、と示す。
 それは精緻な細工の施された上品な香炉だ。
「陶磁の白も蓮の花も……あんたらしくて、良いと思う。綺麗なところも『らしい』な」
 なんて、笑って返せば逆に問い返されるのだ。
「倫太郎は気になるものがありましたか?」
「俺? 俺はどうしようか」
 色々見たけれど、今のところこれといって目を引くものは、とまだ見ていない場所へと倫太郎は視線向ける。
 そして、ひとつ――その目にとまった。
 漆に蒔絵の月とススキが映える小さめの香合だ。
「なぁ、夜彦。あんたが香炉買うなら俺これにしようかな……」
 漆の艶やかな質感。そこに描かれたものも、また美しく。
「で、2人で匂い選んで……どうかな?」
「素敵な香合ですね……色合いも倫太郎らしいかと」
 そう言って夜彦は、あとはお香ですねと笑いかける。
 どんなのにする? と言う倫太郎。夜彦はしばし、考えて。
「就寝前に気持ちを落ち着かせられるようなものにしたいです。この森のような爽やかな香りは如何でしょう?」
 いくつか、先に試したものに良さそうなものがあった。
 二人で使うものだから、自分の意見だけで買うものではなく、倫太郎もまた好きな香りであってほしい。
「ん……なんか、懐かしいような匂いで好きかも」
 それはかつて山にいたからだろうか。でも、山の緑の香りといっても――それよりも鮮やかで、けれど生々しさはなく涼やかなものだ。
 なんて名前の香なのか聞いてみようと倫太郎は店主へと声かける。
 尋ねて聞いたその名にふたりは顔を見合わせた。
 ふたりとわに――二人、永遠に縁紡いでと。その始まり、新緑を思わせる香りであるのだと。
 そして、この香がいいと笑いあった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

思・桜
丁度、香が終わる頃合いでしたので買い足しに参りました
ここ最近は白檀を好んでおりましたが…色々と種類があるのですね
店内のあちこちを賑わす香の品々を、余す所のないように時間をかけて巡りましょう
用途は就寝前の憩いの刻に、肩の力を抜くためのものですので、穏やかな甘い香りが良いですね
…やはり、白檀…、沈香も良さそうです
最後はお店の方のお勧めを選びます
白檀扇子と一緒に購入いたしますね

店内を巡るうち客人の中に見知った方が居た気がしたのですが、
見失ってしまいました
それだけが少し気掛かりではあるのですが、
購入した香のように、縁が繋がっているのなら、
いつか出会えることでしょう
良い巡り合わせが何方様にも訪れますよう



●なじむ香りと新しい香り
 良い香り、と思・桜(水葩・f29610)は表情緩める。夜色の瞳は店内に満たされた香りに柔らかに綻んでいた。
 桜にとって香は使うもの。
 丁度、使っている香が終わる頃合いで買い足すにもよい。
 桜は店内に並んでいる香を色々とみていく。
 ここ最近、一番自分になじんでいた香りは白檀だ。
 それを好んで使っていたのだが、こうして足を運んでみると。
「……色々と種類があるのですね」
 どれもこれも良い香り。
 甘やかな花の香りもあれば、そうっと添えるだけのような優しい香りもある。
 どれも素敵な香り、と余すところのないよう時間をかけて桜は巡っていく。
 どれも魅力的、なかなか一つを決められない。
 そんな桜へと、お手伝いしましょうかと店主は声かける。
「どのような時のものでしょうか?」
「就寝前の憩いの刻に、肩の力を抜くためのものですので、穏やかな甘い香りが良いですね」
 でしたら、と店主は色々な香りを出してくれる。
 その中にはもちろん、今使っている白檀もある。
 それから調合してつくられた、ふわりと広がる花の香りのものや、緑の森をイメージしてつくられたもの。
 どれもこれも良い香りで、桜の悩みは一層深まってしまう。
「……やはり、白檀……、沈香も良さそうです」
「迷われるのならこういったものもございますよ」
 そう言って差し出されたのは数種類がセットになったものだ。 昔からよく知られた香りに、新たに生み出された香りもともに並んでいる。
 どれも少量ずつ。色々楽しんで、好みを見つけるのもよいではないでしょうかと微笑んで。
 それを聞いて桜はではそれでと決める。
 白檀も入っており、沈香もある。それから、可愛らしい花の香りや海をイメージしたものも入っているものだ。
 それからもう一つ。
 良い香りのする扇子が並ぶ場所へと思は足向ける。
 どれにしようかと開いてはその柄や作りを見て、決めたのは白檀扇子だ。
 これにしましょうと扇子を手に、店内をくるりと見回す。
(「店内を巡るうち客人の中に見知った方が居た気がしたのですが、」)
 見失ってしまいましたと桜は瞳伏せる。
 それだけが少し気がかり。
 けれど、ふわりと香がその鼻を擽って。
 この香のように、縁が繋がっているのなら――いつか出会えるはず。
 良い巡り合わせが何方様にも訪れますようと香を楽しんでいる皆へと桜は思い向ける。誰にとっても良き時間であるようにと。

大成功 🔵​🔵​🔵​

五条・巴
長閑(f01437)と

香りの楽しめるもの
一緒にあれもこれもと吟味して
見つけた1つ
愛らしい小鳥の香立

ねえ見て長閑
かわいい鳥

小さな皿の中に小鳥が一羽
お香が立つであろう穴の横で羽を休めているよう
うん、おそろい。ふふ、いいね。

折角だからお香も買おうよ
香りも一緒だったら、家でも長閑が身近にいるみたいに感じられるね

どれにしようかな
小鳥も休めるようなリラックス出来る香り
長閑はどんな香りが好き?
僕は、気分が晴れるような爽やかな香りが好き

オススメされたお香はスっと鼻に通る、芯の奥まで和らぐような、そんな香り

仕事のことまで考えてくれたの?
ささやかな気遣いにまた芯から解れるよう

ありがとう
おかげでもっと頑張れちゃうな


憂世・長閑
巴(f02927)と

お香のお店、来るのはじめてっ
すごい、色んな香立や香皿があるんだな
うさぎや犬、猫も、どれも可愛い
何か見つけた様子の巴の手元を見て

わぁ、休憩中の鳥さん?
可愛い
オレはどれにしようかな
うーんと色々迷ったけれど
巴とお揃いの鳥さんにしてもいい?
色違いを手にして
巴が嬉しそうに笑ってくれたから
オレも嬉しくて笑顔がこぼれる

うんっ、お香買うっ
好きな香り?
少し悩み
巴はある?

店主さんの様子を心配しつつも
気分が晴れるみたいに爽やかで
疲れが取れるような香りってありますか?
教えて貰えばそれを持って

ともえっ、これ、すっごく疲れがとれるんだって
巴、いつもお仕事頑張ってるから
少しでも癒しになればって思ったんだ



●おそろいの小鳥
「お香のお店、来るのはじめてっ」
 くるり、見回して憂世・長閑(愛し秉燭・f01437)は楽しそうに笑う。
 五条・巴(照らす道の先へ・f02927)は一つ頷いて、楽し気に行く長閑の後を追う。
「すごい、色んな香立や香皿があるんだな」
 楽し気に店内見ていたかと思えば、長閑はぴたりと足止めて。
「うさぎや犬、猫も、どれも可愛い」
 じぃ、と見詰めてちょっとだけ触れてみる。冷たい陶器の香炉だけれど、なんだかあったかさそうに見えて。
 そして巴も、ひとつにじぃと視線を向けていた。
 香りの楽しめるもの、と一緒にあれもこれもと吟味してみつけたのは――愛らしい小鳥の香立。
 巴は長閑がその手元に視線を向けているのに気づいて微笑んで。
「ねえ見て長閑。かわいい鳥」
 そうっと、その掌開くように小鳥の香立を見せた。
 小さな皿の上に小鳥が一羽。香を立てるための穴の横で羽を休めているのだ。
「わぁ、休憩中の鳥さん?」
 可愛い、と長閑は瞬き一つ向けてオレはどれにしようかなとうーんと迷う。
 うさぎもかわいい。犬に猫。亀はのんびりのほほんとした顔をしている。
 どれもいいなと迷ったけれど、長閑は決めたと呟いて。
「巴とお揃いの鳥さんにしてもいい?」
 手に取ったのは、色違いだ。
 その手に取る姿を見て巴は緩やかに、笑み零していく。
「うん、おそろい。ふふ、いいね」
 巴が嬉しそうに笑って、長閑もそれが嬉しくて笑みが綻んでいく。
 おそろいの香立を手にしたなら――これの上で香るものも必要だ。
「折角だからお香も買おうよ」
 香りも一緒だったら、家でも長閑が身近にいるみたいに感じられるねと巴は言う。
 長閑は香りもおそろい、とふふと笑い零して。
「うんっ、お香買うっ」
 どれにしようかな、と選ぶ時間も楽しい。
 小鳥も休めるようなリラックス出来る香り、と手にある香立を見詰め巴は思うのだ。
「長閑はどんな香りが好き?」
「好きな香り?」
 問われ、長閑はしばし悩む。
 ここにある香りはどれも良い香りだと思う。けれどどれが一番好き、というところは定まらない。
「巴はある?」
「僕は、気分が晴れるような爽やかな香りが好き」
 ならその香りを探そう、というものの沢山あってわからない。
 それなら、と長閑は店主へと声かける。
 巴もいくつかだしてもらって試していく。
 その中で気に入ったのは、スっと鼻に通る、芯の奥まで和らぐような香りだ。
 柔らかで、ゆっくりと過ごせそうな香り。
 その横で長閑はこっそりと店主へと尋ねる。
「いっぱいあって迷って、気分が晴れるみたいに爽やかで。疲れが取れるような香りってありますか?」
「でしたら、深緑の香りなどはどうでしょう」
 緑の香りも色々あるので、お試しくださいと店主は手にとっていく。
 深くて濃い香り。軽く、さわやかなもの。様々な香りがある。
 その色々と香をあげていく店主は疲れているようにみえて。
 長閑は心配しつつも、丁寧な対応にひとつ選んだ。
「ともえっ、これ、すっごく疲れがとれるんだって」
 巴、いつもお仕事頑張ってるからとほわほわの笑みを向ける長閑。これでちょっとでも休めたらいいなと思って差し出す。
「仕事のことまで考えてくれたの?」
 巴は瞬いて、長閑の気遣いに笑む。また、芯から解れるような気持ちになるのだ。
 それはここに満ちている香りからではなく、長閑からもらっているものが目に見えなくともあるから。
「少しでも癒しになればって思ったんだ」
「ありがとう。おかげでもっと頑張れちゃうな」
 嬉しい、と微笑む巴へと長閑は――でもと言葉続けるのだ。
 頑張りすぎは駄目だよ、と。
 すると巴はそうだねと頷いて、疲れたときはこの香りの中で休むよと紡ぐのだった。
 この小鳥のように、しばしの羽休めをと。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

カトル・カール
影朧を匿っている、か…
妻を亡くしたと言うし、心の穴にすっぽり収まる奴と出会ってしまったんだろう。
早く――解決したいな

店を訪れ、店主のひととなりを観察して情報収集と買い物を。
落ち着いたいい匂いのする店だな。
陶器の香合と香炉を。じっくり眺めて選ぶ
手頃なものも趣向を凝らしたものも、選りすぐりの素敵な品が並んでいて目移りする。
最終的に桜の花をあしらった揃いのものに決めた。
家で落ち着く時に焚くんだが、香りを見繕ってくれないか?

(店主の様子を見て)
余り細ってしまっては、鼻も衰えてしまうのでは。
また買いに来るのだから元気で店を続けて欲しい旨、慰めと共にお願いする。



●あわせのふたつ
「影朧を匿っている、か……」
 ぽつりと、誰にも聞こえぬ程の小声でカトル・カール(コロベイニキ・f24743)は呟いた。
 店主をちらりと見れば、客の相手をにこやかにしている。
 けれど、その表情は明るさで覆い隠したものを秘めているようだ。
 憔悴は見るものが見ればわかる。
 影朧と出会って――彼は幸せなのだろう、と思いながら。
(「妻を亡くしたと言うし、心の穴にすっぽり収まる奴と出会ってしまったんだろう」)
 早く――解決したいな、と。
 カトルは紡いで、今は視線合わさぬように店主へと背中を向け、品を見ていく。
 背を向けていても店主がひとつずつ丁寧に説明をし、親身に接客をしているのはわかる。
 店内も上品な香りに満たされているのだが、香を選ぶのには邪魔にならぬかすかなものだ。
「落ち着いたいい匂いのする店だな」
 この香はいやではない。
 カトルはそっと、香合に手を伸ばした。
 香をいれるためのそれは様々な材質のものがある。
 漆塗のものや陶器のもの。陶器のものは、様々な形があり見ていて面白くもあった。
 それは香炉も同じで、落ち着いたシックなものから、色を多種もって絵が描かれているものなどもある。
 じっくりと眺めて、手に取って。
 手頃なものも趣向を凝らしたものも。
「選りすぐりの品ばかりだな」
 目移りするばかりだが、カトルはひとつ手に取った。
 それは桜の花をあしらった香合。桜の花の形をしており、蓋の裏まで細工が施されていた。
 香合が桜なら、香炉もと選ぶ。
 それは、蓋の部分は桜がいくつも連なっている香炉だ。
 香炉と香合を決めたなら、あとは香だ。
 カトルは店主へと顔を向けて。
「家で落ち着く時に焚くんだが、香りを見繕ってくれないか?」
「ええ、よろこんで」
 家で落ち着く時でしたら深めの香りか、逆に軽めの香りか。
 店主は色々と選んでくれる。
 その手が――細いような気がして。
「余り細ってしまっては、鼻も衰えてしまうのでは」
 カトルは僅かに瞳細めて、店主の身を案じるように声向ける。
「いえいえ、無理はしておりませんよ」
 そう言いながらすすめてくれた香りは、深い緑の香りだ。
 ゆるりと過ごすなら、この位の強さの方が逆に浸れるかもしれませんと。
 そして気分を変えたいなら、その香炉と香合と合わせて桜の香りもどうぞお試しくださいと微笑む。
 カトルはそのどちらも試して、そうだなと頷き決める。
「また買いに来るのだから元気で店を続けて欲しい」
「ええ。またのご来店をお待ちしております」
 店主の微笑みには薄らと影が見える。影朧の傍にいることは、この店主にとってよくないこと。
 カトルはまた、と品を受け取って店を出るのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

花色衣・香鈴
「色々ある…」
便箋を2種類、香り違いでと思っていて
「うーん」
妙に迷って見た目で決めるかと色々手に取ってみる
不意と気になったのは白だけど縁が絵に描いた雲の如くもこもこした形
鼻を近づけるとほんのり甘い匂いがする
「…鈴蘭?」
ああ、いいかもしれない
帝都の桜の香りに埋もれず、けれど優しい香り

「あの、店主さま、1つお尋ねしてもよろしゅうございますか?」
両親宛に書く便箋を探しているのです
「出来れば桜と鈴蘭以外の香り付きで」
後は勧めに従って2つとも買って店を出る

1つは私が死んだら両親に届けてもらう手紙用
もう1つは…
「ああ、適当に買う方がよかったかな」
優しい香りの愛らしい便箋、書いた後で火にくべられる自信がない



●便箋の香り
「色々ある……」
 どれにしよう、と花色衣・香鈴(Calling・f28512)は並ぶ便箋を手に取っては、戻して。また別のをとって金木犀色の瞳を瞬かせる。
 便箋を二種類、香り違いでと思って選んでいるのだが多くて目移りしてしまうのだ。
 あれもいい、これも気になる。次から次に手に取っては。
「うーん」
 と、唸って迷う。とにかく色々あって迷うのだ。
 香りはどれも違っていて桜の柄のものからは、桜の香りが。薔薇の柄からは芳醇な花の香りがする。美味しそうなケーキなどがかいてあるのは甘い香りがした。
 見た目で決めるか、と色々手に取っていくがなかなかしっくりくるものがない。
 けれど不意に、香鈴の目にとまったものがあった。
 これは気になると手にしたのは白い便箋。とてもシンプルなもので、罫線もない。けれど縁は絵に描いた雲の如くもこもこした形をしている。手触りもなんだか少し違うようだ。
 顔を近づけてすん、とその香りをかぐと――ほんのりと甘い香り。
 この香りは、知っている気がする。何の香りだったかと思い浮かべたのは。
「……鈴蘭?」
 その香りに思い至り、ああ、いいかもしれないと零して。
 ふふ、と香鈴は笑み零していた。
 帝都の桜の香りに埋もれず、けれど優しい香り。
 これにしようとひとつは決まりだ。
「あの、店主さま、1つお尋ねしてもよろしゅうございますか?」
 あともう一つは――店主に聞いてみようと声かける。
 両親宛に書く便箋を探しているのです、と香鈴は告げる。
 それからもう一つ、リクエストは。
「出来れば桜と鈴蘭以外の香り付きで」
「でしたら」
 白檀の香りなどいかがでしょうと。
 鈴蘭とは違った、また甘く、さわやかさも感じられる香り。
「伝統的な香りでございますし」
 便箋は大人びた、けれどシンプルは生成りの色でやわらかな印象だ。
 じゃあ、それでと香鈴は買い求める。
 ひとつは、自分が死んだら両親に届けてもらう手紙用に。
 そしてもうひとつは、と思って――零れ落ちた。
「ああ、適当に買う方がよかったかな」
 優しい香りの愛らしい便箋。
 文字を、思い綴って書いた後に火にくべるのだから。
 けれど、そうできる自信がない。この香りを煙とすることができるかなと小さく、困ったように香鈴は落とした。

大成功 🔵​🔵​🔵​

宵雛花・十雉
あっきー(f26138)と

へぇ、結構本格的
こういうの好きなんだよ、オレ

練り香水なんてあるかい?
あればそれにするし、無けりゃ匂い袋にするよ
香りは…そうだな、梅ベースで任せちまってもいいかい?
オレに合いそうなのをいっちょ頼むわ
アンタがどんな香りを調合すんのか興味あるんだ

香水をさっそく耳の後ろに付けて
おう、いいじゃん
恋って聞くとなぁんかむず痒いけど

あっきーはどんなのにすんの?と見守って
兄貴の話が出てくりゃあ、ついつい物言いたげな目になるだろさ
けどまぁ、内緒だってんなら何も言わねぇ
話したくなったら話してくれ
オレはその日を待つよ

どんな香りか試させてくれって言おうとしてやめた
一番目は兄貴がいいだろうからさ


天音・亮
とっきー(f23050)と

香水とかは身だしなみとしてよく使うけど
こういうお香とかはあまり使った事ないなぁ
とっきーはどんな香りを調合してもらうの?

きみの選んだ香りに鼻を近付けて掠める梅の香り
ん、春告げの甘い良い香り
春告げって言うと恋の香りみたいだね、なんて
ふふ

私はどうしよっかな…あ、ねえお兄さん
「夏の朝明けの、海の香り」なんて注文でも調合してもらえるのかな?

…実は、私の兄がずっと入院していて
今は病院の敷地内からも出られないの
だからせめて少しでも外の色とか香りとか、届けられないかなって
(少し、お兄さんの境遇と似ているね)

とっきーの視線には
今は唇に人差し指を立てて返すだけ
きみにはきっと、いずれ



●香水とは、違って
 そこは穏やかな香りに包まれた場所だった。
 かわいい、と花の形をした香を手に乗せて天音・亮(手をのばそう・f26138)は小さく笑み零す。
 みてみて、とっきーと、宵雛花・十雉(奇々傀々・f23050)は向けられたそれに瞬いて。
「へぇ、結構本格的。こういうの好きなんだよ、オレ」
 そういう形のもあるが王道のも色々あるなと視線を巡らせる十雉。
 あっきーは? 香とか焚く? と亮へと尋ねるとううんと緩く首を横に振る。
「香水とかは身だしなみとしてよく使うけど、こういうお香とかはあまり使った事ないな」
 なるほど、と十雉は頷いて、ひらりと店主へと手を振る。
「練り香水なんてあるかい?」
「ございますよ。あまり多くの種類は作れませんが季節の花の香りや白檀などの香であれば」
 それらであれば調合もできますよ、と店主は微笑む。
 入れ物も色々とあるので、そちらも選んでくださいなとのこと。
「じゃあそれで」
 無けりゃ匂い袋にするつもりだったが、と零し。でもそっちもちょっと気になるのであとで見ようと思うところ。
 練り香水かぁと試しにといくつか出してくれたものを手に取りつつ亮はぱっと顔むけて。
「とっきーはどんな香りを調合してもらうの?」
「香りは……そうだな、梅ベースで任せちまってもいいかい?」
 オレに合いそうなのをいっちょ頼むわ、とからりと笑って任せる十雉。
「アンタがどんな香りを調合すんのか興味あるんだ」
 では、お任せいただければと男は合わせ始める。
 梅の基本の香に、少しだけ違う香りをのせる。それが何かは企業秘密とのことだ。
 十雉は出来上がったそれを早速耳の後ろに。
 ふわり、ひろがる梅の香は上品。けれどその中に、僅かにアクセントになるような違う香がある。それが何かと考え探るのもまた不思議な感覚だ。
「おう、いいじゃん」
 その香りに、亮は鼻を近づける。梅の香りが掠めていって、さりげなく過ぎ去って。けれどそこにあることはしっかりと感じられる香り。
「ん、春告げの甘い良い香り」
 その香りに亮は瞳細め、悪戯するように。
「春告げって言うと恋の香りみたいだね、なんて」
 ふふ、と笑い零す亮に十雉はふと息を吐く。
「恋って聞くとなぁんかむず痒いけど」
 なんて苦笑を返し、あっきーは、と十雉は問う。
「どんなのにすんの?」
「私はどうしよっかな……あ、ねえお兄さん」
 できるかな、どうかなと伺うように亮は言葉続けるのだ。
「『夏の朝明けの、海の香り』なんて注文でも調合してもらえるのかな?」
 海の香りですか、と店主はしばし考える。
「ご自分で使われるのですか?」
 亮は少しの間をおいて、ふるりと首を振る。
「……実は、私の兄がずっと入院していて。今は病院の敷地内からも出られないの」
 だからせめて少しでも外の色とか香りとか、届けられないかなってと亮は紡ぐ。
(「少し、お兄さんの境遇と似ているね」)
 そう思いながら作れそう? と尋ねれば海辺の花の香りも添えてみましょうと店主は微笑んだ。
 兄貴の話、と十雉はついつい物言いたげな目になってしまう。
(「けどまぁ、内緒だってんなら何も言わねぇ」)
 話たくなったら、話してくれたらそれでいい。
 オレはその日を待つよ、と十雉は視線に含めてのせるのだ。
 どんな香りか試させてくれ――と、喉まで出かかった言葉を十雉は飲み込む。
 やめた、と心の中で紡ぐ。その香りを一番に知るのはオレじゃないと思うからだ。
 一番目は兄貴がいいだろうからさ、と胸中で独り言ちる。
 そんな様子にふふと亮は笑い零していた。十雉の視線はもちろん感じていたのだ。
 その視線に含まれた思いも――なんとなく、察して。
 十雉と亮の視線があえば、亮はすっと唇の前に人差し指を立てて。
 きみにはきっと、いずれ――その気持ちを託すのだ。
 瞬き一つ、十雉は向けて。そして笑い返した。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

雛瑠璃・優歌
「ん、いい匂い」
こういうお店ってどうしても店の中に色んな匂いが混ざって漂うよね
もうどれが一番強いのかは分かんないけど…あたしは嫌いじゃないな
「何にしよっかな…」
あたしはこういうのいつも桜を選んじゃう
別段好きな訳でもなく、サクラミラージュの人間だからってぐらいの適当さで
弟ならもっとちゃんと季節に合わせたりするんだろうけど
「梅、はだめだよね」
それはあっちの…お父さんの家のだ
纏ったらきっとうちのお祖父様達が卒倒しちゃう
匂い袋とか、気になるけど
「あの、おすすめって聞いてもいいですか?」
このままだときっと日が暮れちゃうから

香り付きで大きめの紙も欲しいかも
折ったら台本カバーに出来そう
一緒に買って帰ろうかな



●広がる香の中で
「ん、いい匂い」
 お店に入り雛瑠璃・優歌(スタァの原石・f24149)は息を吸い込んだ。
 香りに満たされた場所――自然と、優歌は微笑み浮かべていた。
 こういうお店ってどうしても店の中に色んな匂いが混ざって漂うよね、とくるりと見回す。
 香から、それを楽しむ道具やほかにも香りの乗せられたものと色々並んでいる。
 それをみるだけでも楽しそうだ。
(「もうどれが一番強いのかは分かんないけど……あたしは嫌いじゃないな」)
 ふわりふわり、漂う香り。同じようでいて違うのだ。
「何にしよっかな……」
 優歌は並ぶものをひとつずつ見ていく。
 こうやって何かを選ぶ時、優歌が決まって手に取るのは桜のものだ。
 今日も、これかわいいと最初に手にとったのは桜の香合。小物入れにもよさそうだ。
 別段好きな訳でもなく、サクラミラージュの人間だからなじみがある。
 それくらいの軽く、適当な理由で手にとってしまうのだ。
(「弟ならもっとちゃんと季節に合わせたりするんだろうけど」)
 と、他のものにも目を向けて――ひとつ、視線が縫い留められたものがあった。
「梅、はだめだよね」
 それは――と、思う。
(「それはあっちの……お父さんの家のだ」)
 纏ったらきっとうちのお祖父様達が卒倒しちゃう、とそれを想像してふるりと首を横に振る。
 梅のものから目を逸らして次に見つけたのは匂い袋だ。
 気になる、と足を運ぶけれど色々とあって決めるのも難しそう。
「あの、おすすめって聞いてもいいですか?」
 優歌は店主へと声かける。
 このままだときっと日が暮れちゃうから、と紡ぐと迷うのも楽しさですからね、と彼は笑い返した。
「香りでしたら、桜などは若いお嬢さんが好まれますね。あとは少し背伸びをして、逆に王道の白檀などを求めていく方もいらっしゃいます」
 華やかなものが良ければ、薔薇などもと並べてくれるものはどれも良い香りだ。
 花の香りをすぅ、と吸い込んで。
「香り付きで大きめの紙も欲しいかも」
 折ったら台本カバーに出来そう、と優歌は思いつく。
 それを聞いて、店主は好きな紙をお持ちいただければ香りを乗せるサァビスもございますよと紡ぐ。
 その香りは買ってもらうことになるけれど、衣や紙に好きな香りをのせることはよくしているのだと。
 それを聞いて、優歌は好きな紙にというのに瞬く。それは魅力的だ。
 もちろんすでに香りののせられたものもあるといくつか店主は並べてくれた。
「一緒に買って帰ろうかな」
 まずは香りから試して、次はお気に入りの紙を持ってくるのがよさそうだから。
 それも良いよね、と微笑んで。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ベル・ルヴェール
アヤカ(f01194)

アヤカ、お前は香を焚く習慣はあるか?
僕は良く焚くんだ。僕は香炭を使って香炉で焚く。
猫が居るのか。良い事を聞いた。

アヤカはどんな物を買うのだろう?
僕はオススメの香りをお願いする予定だ。
僕はオススメの香りが欲しい。教えてくれ。

……アヤカ見てくれ。香りのする便箋だ!
僕はこのような便箋を初めて見る。
若い女たちは手紙を出す前に、香水を振りかける事もあるが、
これは最初から香りがついているな!

どのような魔法か。
香りを扱う魔術師か。僕もその魔法を取得したい。
香りの魔法を取得した時は、アヤカに見せよう。


浮世・綾華
ベル(f18504)と

へえ、ベルはそうゆー習慣があるのか

昔はたまぁに焚いてたケド
今は猫がいるから…あんまり良くないって聞いてさ
だから今日は猫がいても炊けるやつ探せねぇかなって

ふは、めっちゃオススメ欲しがるじゃん
でも俺もどんなのがオススメか気になる

俺、この猫の香立てにする
それから猫が大丈夫な香はどれか尋ね

便箋?へえ――お、ほんとだ
新しいものを目にするベルの反応はいつも面白くて
此方もみていて飽きることはなく

どうやって香りをつけているのか気になったが
野暮なことを聞くのはやめておいた

でもまぁ、そうだな
前みたいに花を咲かせてくれるなら
香りまでついたら本物みたいになってすげーし
――うん、習得したら見せて



●香りの魔法を、いつか
 ふわりと漂う香りは、心地よく。
「アヤカ、お前は香を焚く習慣はあるか?」
 香とひとつ手に取って、ベル・ルヴェール(灼熱の衣・f18504)は浮世・綾華(千日紅・f01194)へと尋ねた。
 香でもいろんな形があるんだなとベルは手にとる。細い線のものもあれば小さな山のかたち。はたまた、花や鳥の形をしたものもあっておもしろいなとベルは思うのだ。
「僕は良く焚くんだ。僕は香炭を使って香炉で焚く」
「へえ、ベルはそうゆー習慣があるの」
 俺は、と綾華は――同居猫たちのことを思い出す。
「昔はたまぁに焚いてたケド。今は猫がいるから……あんまり良くないって聞いてさ」
「猫が居るのか。良い事を聞いた」
 だから今日は猫がいても焚けるやつ探せねぇかなって、と綾華は笑って返した。
 アヤカはどんな物を買うのだろう? とベルは思っていたが先に答えを貰ってしまった。
 猫がいても大丈夫なものか、どんな香りだろうかとベルは返して。
 もしかしたら猫の形の香もあるかもしれない、なんて言うと綾華は瞬き、もったいなくて使えなさそうと笑う。
「僕はオススメの香りをお願いする予定だ。僕はオススメの香りが欲しい。教えてくれ」
「ふは、めっちゃオススメ欲しがるじゃん」
 でも俺もどんなのがオススメか気になる、とくるりと見回す綾華。
 にゃあ。
 と、聞こえたわけではないけれど――呼ばれた気がして振り向いたら猫の香立てがそこにあった。
 目が合って、うんと頷き一つ。
「俺、この猫の香立てにする」
 ぐぐ、と伸びをする猫の姿。その前足のところに穴があり、香を持ってくれるようだ。香皿のような部分もあり、そこでも香を焚けそうだ。
 その猫の香立を手に、綾華は店主へと声かける。
「すみませーん、猫が大丈夫な香ってあります?」
 それなら、と店主は色々と並べていく。もし猫が嫌がったりするならすぐやめて換気すれば大丈夫ですよと、言いながら。
「香りはお好きなものを。香りはそんなに強くないものもあります」
 王道の香りに、花の香り、緑の香り。色々あって迷う。ここは意見も聞いてみようとベルは、とその姿探す。
 その姿は――便箋の置かれた場所の前にあった。
 ベル、と呼べばくるりと振り向いて。
「……アヤカ見てくれ。香りのする便箋だ!」
 ぱっと、便箋もって瞳を、心なしかきらきらさせたベルの姿。
「僕はこのような便箋を初めて見る」
「便箋? へえ――お、ほんとだ」
 ふわりと漂ってくる良い香りだと告げればそうなんだとベルは頷く。
「若い女たちは手紙を出す前に、香水を振りかける事もあるが、これは最初から香りがついているな!」
 香水とは違う――しみ込んだ、香りの気配。いや、しみ込んで香っているのかもともとそういう紙であるのか、どちらだろうか。
 興味津々。新しいものを目にするベルの反応はいつも面白くて、飽きることがないなぁと綾華は微笑ましく思う。
「どのような魔法か。香りを扱う魔術師か。僕もその魔法を取得したい」
 解き明かさねば。ベルはそれにはこの便箋を買うべきだろうと真面目に考えている。
 どうやって香りをつけているのか気になって、店主にそっと視線を向けるとにこにこと微笑むばかり。
 気になるけれど、野暮なことを聞くのはやめておこうと小さく肩すくませて。
「でもまぁ、そうだな。前みたいに花を咲かせてくれるなら」
 香りまでついたら本物みたいになってすげーしと綾華が言うと、ベルは深く頷いて返す。
「香りの魔法を取得した時は、アヤカに見せよう」
「――うん、習得したら見せて」
 便箋に香りが染み入っているのは時間をかけて焚き染めたからだ。
 だから決して、魔法ではないのだけれどもベルがそれを可能にする日がいつか来る気がして、楽しみと笑うのだ。
 ベルもまた、その術を得て綾華に披露する日を楽しみに、いまは香る便箋をその手に。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

蜃貝・奈美恵
【朱の社】
お香なんてちょっと新鮮だね
香りを楽しむのにもいろんな形の楽しみがあるんだね
人間ちゃんも、他の種族ちゃんも娯楽って大事なんだね

植物の香りは社で楽しめるんだよね
ナミはやっぱり、故郷をいつでも思い出せる香りがいいな!
だから、磯の香りがいい!
二枚貝の形のお香にしてもらお!

自分で嗅いでもいいし、これを見て、嗅いだ人達はきっとナミを忘れないから

そういえば香水もあるの?
ナミ、詳しくないけど興味あるな、どんなのがおすすめ?

ひとしきり楽しんだらあとはお仕事、だよね?
お店を楽しませてもらったんだもの、きちんと解決してあげよ!


葬・祝
【朱の社】

香りは季節ごとに変えて楽しむものですからねぇ
幾つあっても良いものですよ
毎日使いますから、どうせ直ぐ無くなりますし

あら、カフカったら大人気
君、幾つでしたっけ
さて、歳上だったか歳下だったか……
とはいえ、人外ばかりのお社ですもの
大抵の者は、見た目とそぐわぬお歳でしょうに
ねぇ?

着物に焚き染めるに丁度良い物があれば、頂けたらと
ええ、香炉で使う物ですからそれに合わせて
香炉は気に入りがありますから、中身があれば十分ですよ
まだまだ人の身には暑いらしいですが、暦の上ではもう秋ですし、秋らしい香りを纏いたいものです

ふふ、たまには素直に人の子に貢献して差し上げるのも良いでしょう
今日の私は猟兵ですから、ね


鞍馬之・義経
【朱の社】
アドリブ◎
お香、懐かしいですねぇ
カフカ以外に長生きな方もそれなりにいそうな会話ですけど
天狗で神様なら、500は越えているんじゃないですか?
おじいちゃんですねなんてからかうように笑って
ふふ、かわいい人ですね
うそうそ、とぉっても若く見えますよ

いいものを選んでもらえるなら僕もお願いしましょうか
僕はそうですね…兄上を思い出せるような香りを
世界で一番素敵で
戦場へ馳せ参じた僕を受け入れてくださるような優しい方ですよ
まぁ色々ありましたけど
都合の悪い事は忘れたことにすればいいかなって
だって、僕は僕で彼ではないから

他の方が選んだ香も気になります
もしかがせてもらえるならちぃと試させてもらいたいものですね


白水・和子
【朱の社】
へぇ〜〜、なかなか良いわね!雰囲気あるってゆうの?
あら、歳を取らなくても女の子は嗜好品の良さを知っているものよ?
嗜好品じゃなくて使用品でもあるからね💕

……確かに、気になるわね。天狗っていうんだし、100年以上は生きてんじゃないかしら。
お爺ちゃん……カフ爺!
むっ、そんなことないわ。私は若いもん!

私はねぇ、私も香水が欲しいな〜。コロンかトワレ!後お香も欲しい!
香りは植物系が良いわね!でもお任せできるならプロにお任せしてみたいかも〜〜!

磯…?香水はね、オーデコロン、オーデトワレ、オーデパルファン、パルファンの4種類があって〜(始まる香水講座)

桜の姫君!?桜の姫君って誰!?何を楽しむの!?


神狩・カフカ
【朱の社】

いやァ、いい雰囲気の店だなこりゃ
長く生きていると嗜好品やら蒐集品の類に凝っちまうもんでな
ま、香もその一つサ
ははっ!年齢なんて数えなくなって久しいなァ
とは言え老け込んだつもりはねェぜ?
だから、その…おじいちゃんは勘弁な?
そうそ、年齢なんて気にするだけ野暮ってもンよ

お前さんらはどんなもンを見繕うつもりなんだ?
ほうほう
趣味がいいもンばっかりだ
見て楽しめるってのもまた乙なもんだよな

おれは香炉を一ついただこうか
とっておきの洒落たやつな
香りはお薦めのものを見繕ってくれねェか?
そうだな…桜の姫君と楽しめそうなものを頼むよ
ふふ、さァて誰だろうなァ?

いいもン見繕ってもらったし
ちゃあんとお礼をしないとな


岬・珮李
【朱の社】

素敵なお店だね。それに、いい香りがたくさんする
一応仕事だけど、ちょっとだけ買い物させてもらおっか

長い時間を生きてると、案外年の差なんて気にならなくなるものだけど
ボクもカフカの年齢は少し気になるかな
覚えてればの話だけど

ボクは練り香水を買おうかなと思って
ここなら、入れ物もキレイなやつが手に入りそうだしね
いつもは髪の毛につけたりしてるんだけど、ちょうど使っているやつが切れちゃって
香りは、せっかくだしお任せにしようかな

リラックスしたり、逆に覚醒させたり、香りって一言で言っても効果は様々だからね。色々試すのもおすすめだよ
…せっかくのいいお店なんだ、ちゃんと彼の問題も解決してあげないとね


楜沢・紺
【朱の社】アドリブ◎

香を楽しむ道具も色々な形があるんだね
匂いだけじゃなくって見てたのしんだりできるんだ!
……カフカお兄さんはー何年くらい生きてるんだろ?

そっか。神様って長生きなんだねー。

サクラやカエデの匂いは嗅ぎたくなったら
旅館やお社に行けばいいから。
優しくて柔らかで気持ちがほっとするような匂いがいいなあ。
緊張する事が多いからね。力を抜くように言われてるよ。

でもお香とかじっくり嗅いだ事ないからわからないや
ボクもお勧めを見つけてもらいたいよ!

みんなの匂いも少しきになるなー
これからは皆の事匂いでわかっちゃうかもね。



●それぞれに、それぞれの
 一歩、店に入って神狩・カフカ(朱烏・f22830)は瞬き一つ。
「いやァ、いい雰囲気の店だなこりゃ」
「お香、懐かしいですねぇ」
 薄紅の瞳に楽しさを滲ませて鞍馬之・義経(鞍馬山の鴉・f28135)はふふと笑う。
 店に広がるこの雰囲気、香りは心地よいと思うもの。
「へぇ~~、なかなか良いわね! 雰囲気あるってゆうの?」
 お香のお店。その雰囲気に白水・和子(筆は書き手を選ばず、彼女は恋を選ぶ・f10791)は興味津々、というように視線巡らせる。
 香に香炉、香立にはじまり、他にも便箋などもある。その便箋は、乙女心をちょっと擽るものもあった。
 岬・珮李(スラッシュエッジ・f27446)も店内見回して。
「素敵なお店だね。それに、いい香りがたくさんする」
 一応仕事だけど、ちょっとだけ買い物させてもらおうかと何のためにここにいるかも忘れずに。
「お香なんてちょっと新鮮だね」
 蜃貝・奈美恵(深海に見えた蜃気楼・f28096)は店内見回して。様々な形があるのに目をとめた。
「香りを楽しむのにもいろんな形の楽しみがあるんだね」
 その言葉に葬・祝(   ・f27942)は笑い零す。
「香りは季節ごとに変えて楽しむものですからねぇ。幾つあっても良いものですよ」
 毎日使いますから、どうせ直ぐ無くなりますし、と祝は紡ぐ。
 人間ちゃんも、他の種族ちゃんも娯楽って大事なんだね、と幻生み出す妖怪たる蜃の奈美恵は思うのだ。
 楜沢・紺(二ツ尾の妖狐・f01279)は、この店に並ぶ品に興味深々。
 香りだけかと思えば、それを焚く香炉や香皿や香立。匂い袋に便箋と様々なものがあったからだ。
「香を楽しむ道具も色々な形があるんだね。匂いだけじゃなくって見てたのしんだりできるんだ!」
「長く生きていると嗜好品やら蒐集品の類に凝っちまうもんでな」
 ま、香もその一つサ、と手近なところにあった香をカフカはひとつ手に。
「あら、歳を取らなくても女の子は嗜好品の良さを知っているものよ?」
 嗜好品じゃなくて使用品でもあるからね、と和子は片目ぱちりと閉じて笑み。
「……カフカお兄さんはー何年くらい生きてるんだろ?」
 と、紺は疑問を口に。
 長い時間を生きてると、案外年の差なんて気にならなくなるものだけど、と珮李は言ってじぃとカフカを見上げていた。
「ボクもカフカの年齢は少し気になるかな」
 けれどもういくつか。きちんとはきっと覚えていないかも、とも思う。だから覚えてればの話だけど、と珮李は続けた。
「あら、カフカったら大人気。君、幾つでしたっけ」
 祝の揶揄うような声色で祝うが尋ねると。
「ははっ! 年齢なんて数えなくなって久しいなァ」
「……確かに、気になるわね。天狗っていうんだし、100年以上は生きてんじゃないかしら」
 ねぇ、いくついくつ? というような視線をカフカへ向ける和子。
「さて、歳上だったか歳下だったか……」
 のらりくらり交わす言葉だけれども。とはいえ、人外ばかりのお社ですもの、と祝はくるり、視線で皆の上を撫でていく。
「大抵の者は、見た目とそぐわぬお歳でしょうに。ねぇ?」
 それに義経も頷いて。
「カフカ以外に長生きな方もそれなりにいそうな会話ですけど」
「むっ、そんなことないわ。私は若いもん!」
 そう言うと、私は違うからねと和子は言う。
 女子の年齢には触れてはいけない――義経はうんうんと頷いてカフカへと、でもと。
「天狗で神様なら、500は越えているんじゃないですか?」
「そっか。神様って長生きなんだねー」
 なるほど、と頷く紺。まだまだ、紺にとってはその年月はわからぬ領域だ。
 そして、どうなんです? というように視線向けた義経は。
「おじいちゃんですね」
 と、からかうように笑いかける。
「とは言え老け込んだつもりはねェぜ? だから、その……おじいちゃんは勘弁な?」
 そんな苦笑を滲ませたところで。
「お爺ちゃん……カフ爺!」
 と、和子があげた声。
 カフ爺――その響きは可愛いが。
「カフ爺も勘弁な?」
 そんな困ったような表情に義経はくつり、喉を鳴らして。
「ふふ、かわいい人ですね」
 うそうそ、とぉっても若く見えますよと揶揄い含んだ声色のままに。
「そうそ、年齢なんて気にするだけ野暮ってもンよ」
 この年齢の話にいつまでもひたっているわけにもいかない。
 カフカは話切り替えるように皆へと。
「お前さんらはどんなもンを見繕うつもりなんだ?」
「私はねぇ、私も香水が欲しいな~。コロンかトワレ! 後お香も欲しい!」
 と、和子が言うとコロンといったものはないけれど、練り香水はあるようだと並んでいたものを見つける。
 珮李も練り香水を買おうかなと思ってたんだ、と一緒に。
「入れ物もキレイなやつが手に入りそうだしね」
 そう思った通り。入れ物もシンプルなものから、色々と取り揃えているようだ。
「いつもは髪の毛につけたりしてるんだけど、ちょうど使っているやつが切れちゃって」
 香りは、せっかくだしお任せにしようかなと珮李はお願いを。
 髪にも、というのなら重い香りよりも軽めの、さわやかな香りのほうが使いやすそうと勧められたのは若葉の香りだ。
 それから、柑橘系の香り。それは甘さもなく、すっきりさっぱりした香りだった。
 趣はどちらも違う。けれどどちらも魅力的な香りで珮李はひとつ、悩み抱えることに。
 そして華やかな花の香りが鼻をくすぐるのだ。
「でもお任せできるならプロにお任せしてみたいかも~~!」
 ひとまず、このお試し用をすべて試し終わって和子の心は躍るばかり。
 いろいろな香りを試したからこそ、迷い始めるのは仕方ない事。それは珮李もわかっていて、一緒に悩もうと笑いかける。
「植物の香りは社で楽しめるんだよね」
 それなら、と奈美恵が欲しいと思う香りはひとつ。
「ナミはやっぱり、故郷をいつでも思い出せる香りがいいな!」
 だから、磯の香りがいい! とあるかなぁときょろきょろ。
「磯……?」
 と、その声を聴いた和子はそんな香りがあるのと興味を持つ。残念ながら練り香水の中には、磯の香りはないようだ。
「二枚貝の形のお香にしてもらお!」
 自分で嗅いでもいいし、これを見て、嗅いだ人達はきっとナミを忘れないからと思うから。
 奈美恵は並ぶ香から、これ! と一つ見つける。
 磯の香り、と銘打っているわけではないがなんだか懐かしい香り。
 海、と思える香りがするのだ。
 祝は店主へと声かける。探すよりも聞く方がよさそうだったからだ。
 店に置いてある香はどれもよく。尋ねれば一点ものや特別なのが出てこないかしら、なんて思いもかすかに。
「着物に焚き染めるに丁度良い物があれば、頂けたらと」
 そう紡げば、いつもどのようにお使いにと尋ねられる。香立、香皿、香炉――香を焚くにも色々とあるからだ。
「ええ、香炉で使う物ですからそれに合わせて」
 香炉は気に入りがありますから、中身があれば十分ですよと祝は紡ぐ。
 まだまだ人の身には暑いらしいですが、と言葉続けて。
「暦の上ではもう秋ですし、秋らしい香りを纏いたいものです」
「では、秋向けの香りでも、晩秋の頃を思わせるものをお試しください」
 秋の始まりの香もあるけれど少し軽くて。常日頃からたしなんでいる方には物足りなさそうなのでと店主は言う。
 差し出されたのは芳醇で深い香り。重く深い香りは、秋の気配を纏っている。
 その香りは深く、染み入ってくる。
 根底にある香りは、燃ゆる紅葉のような気配を感じさせ、これにしましょうと祝はすぐに決めた。
 それを目にして、義経は傍らに。
「いいものを選んでもらえるなら僕もお願いしましょうか」
 素敵な香をいただきましたと祝は言う。
「ちぃと試させて」
 義経の言葉にもちろんと祝はその香を差し出す。
 その香を少し試して、これはお任せできそうと義経は店主へと視線を向け。
「僕はそうですね……兄上を思い出せるような香りを」
 どのようなお兄様で、と問われれば言の葉にするのに義経の気持ちが乗っていく。
「世界で一番素敵で。戦場へ馳せ参じた僕を受け入れてくださるような優しい方ですよ」
 まぁ色々ありましたけど、とそこはちょっと声のトーンが落ちるけれども。
「都合の悪い事は忘れたことにすればいいかなって」
 だって、僕は僕で彼ではないから――とは心の中に落とし込む。
「では海の様な香りか……深い森の香りなどいかがでしょう」
 海の香りは、何処までも深く沈んでいくような香りだ。潮の、というのとは少し違う。
 そして深い森の香りは抱くようにただ静かに受け入れてくれる香りだ。
 どちらも、思い起こさせるものがある。
 どちらにしようかと義経の悩みは始まったばかり。
 選んでもらうという、その様を眺めて紺も色々試したけれどとお願いすることに。
 サクラやカエデの匂いは嗅ぎたくなったら、旅館やお社に行けばいいからとそういう香りの他のものを。
「優しくて柔らかで気持ちがほっとするような匂いがいいなあ」
 緊張する事が多いからね。力を抜くように言われてるよと紺は自分が求めている香りを言葉にする。
「でもお香とかじっくり嗅いだ事ないからわからないや」
 ボクもお勧めを見つけてもらいたいよ! とふわり尻尾は揺れる。
 では、と店主は色々と並べてくれる。
 さっぱりとした柑橘の香り。少し強めの花の香りや、王道の香りもいくつか。
 これは秋の新商品です、と出てきたのは甘い林檎の香りだった。
「これはちょっとお腹が減る……」
 なんて甘い香りにむぅと呻る紺。
 そして、これもお勧めですと店主が盛ってきたのは小さな花々の香りだ。これは真っ白な花の微かな香りを集めて作ったのだと。
 ふわりと優しく香る――この匂いは好きと笑って、紺はその香を手にした。
「そういえば香水もあるの?」
 どんなのかな、と奈美恵も練り香水選んだ二人の手をのぞき込む。
「ナミ、詳しくないけど興味あるな、どんなのがおすすめ?」
 なら教えてあげる! と和子が言うと奈美恵も興味津々。
「香水はね、オーデコロン、オーデトワレ、オーデパルファン、パルファンの4種類があって~」
 始まる和子の香水講座。お話はちょっと長くなりそうだ。
「リラックスしたり、逆に覚醒させたり、香りって一言で言っても効果は様々だからね。色々試すのもおすすめだよ」
 珮李は、その途中でもう一つアドバイス。
 そしてすっと視線を向けたのは店主だ。
「……せっかくのいいお店なんだ、ちゃんと彼の問題も解決してあげないとね」
 小さく零した珮李の想いは、声は店に満ちる香りの中に溶け込んでいく。
 そんな皆の得ていくものを見つつ、カフカはほうほうと頷く。
「趣味がいいもンばっかりだ。見て楽しめるってのもまた乙なもんだよな」
 そして――おれは、と視線を向けたのは香炉だ。
 けれどそこに並んでいるのはぱっと見て心惹かれるものがない。
「香炉を一ついただこうと思うんだが。とっておきの洒落たやつな」
 何かないか、と。それから香りはお薦めのものを見繕ってくれねェか? と店主へとカフカは頼む。
 店主は少し考えて、しばしお待ちくださいと店の奥へ。
 持ってきた箱に収められていた香炉は透かし彫りの香炉だ。
 精緻なその作りは職人が時間をかけて作ったのがわかる逸品。
 花と蝶の躍る香炉は掌に乗るくらいで、だからこそとても細やかなものなのだとも思う、一点もの。
「こちらがお持ちできる、当店で一番の香炉でございます。香はどのようなものにいたしましょうか」
「そうだな……桜の姫君と楽しめそうなものを頼むよ
 その言葉が和子の耳に届いて。
「桜の姫君!? 桜の姫君って誰!? 何を楽しむの!?」
 興味深々と尋ねてくるのを、意味ありげな笑みでカフカは迎え撃つ。
「ふふ、さァて誰だろうなァ?」
 はぐらかして交わして。店主がいくつか持ってきた香を試す。
 桜の姫君なら、やはり春の香りの中が一番映えるだろうかと。
 深い、春の――柔らかな香り。それにはあえて、桜の香は含まれていないのだという。
 カフカは確かに桜の姫君がいるのだから、桜の香はいらないかと笑ってそれにするのだ。
 そうして、楽しい買い物の時間も終わって。
「みんなの匂いも少しきになるなー。これからは皆の事匂いでわかっちゃうかもね」
 紺は、あとで皆の香りも教えてと笑む。きっとそれぞれ、素敵な香りを選んでいるだろうから。
 奈美恵は、あとはお仕事、だよね? と首傾げる。
「お店を楽しませてもらったんだもの、きちんと解決してあげよ!」
「いいもン見繕ってもらったし。ちゃあんとお礼をしないとな」
 カフカの言葉に祝もええ、と頷いて。
「ふふ、たまには素直に人の子に貢献して差し上げるのも良いでしょう」
 今日の私は猟兵ですから、ね――と言葉向ける。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

小千谷・紅子
日傘を畳んで、静かに店の中へ
こうした店は初めてで、気持ちと足は何となし浮ついてしまう

人は、様々な香りを纏うのですね。
誰かの気を惹く為か、何か隠したいからか
ただ、その香りを好いているからか
何であっても、選んだ唯一のもの
ーなんだか素敵なこと

これは便箋、でしょうか
香り付きなんて、目新しい
何故だか手放せず、店主様にもし、と声をかける
おひとつ、くださいな。
懐はご心配なく。きちんと持って参りましたから。

こけた頬や隈の残る横顔を見て
余計な事は言うな、という傘の君の静止の目線には気付かず声をかける
ーお辛いですか。
辛くあれど、なくとも。答えがあれど、なくとも構いません。
私はこれを、聞かずにはいられないのです。



●問う言葉
 愛用の日傘を丁寧に畳んで、小千谷・紅子(慕情・f27646)は店の中へと、黒いセヱラア服の裾を翻し、赤いリボンを泳がせて静かに入った。
 とたん、香りに包まれる。
 こうした店は初めてで、気持ちと足は何となし浮ついてしまう心地。
 すん、と紅子は鼻を鳴らす。
「人は、様々な香りを纏うのですね」
 色々な香りが、此処は重なっている。けれどひどく嫌なにおいというわけではなく心地は良い。
 では、何の為にひとは香りを纏うのか――紅子はそれを考えてみる。
 香り――誰かの気を惹く為か、何か隠したいからか。
 それともただ、その香りを好いているからか。
 そう考えて、紅子はそのどれでもいいのでしょうと思う。
 何であっても、選んだ唯一のもの。
 その香りを身に纏う――なんだか素敵なこと、と小さく笑み零れた。
 と、紅子の目にとまったものがある。そちらへ足を向け、紅子は手を伸ばした。
「これは便箋、でしょうか」
 どうしてここに便箋がと手に取ればふわり、香りが広がった。
 香り付きなんて、目新しい。
 少女たちが秘め事書いて送り合った手紙もこんな香りを纏っていたのだろうか、なんてかすかに思いつつ何故だか手放せず。
「もし」
 と、店主へと紅子は声かけた。
「おひとつ、くださいな」
 懐はご心配なく。きちんと持って参りましたからと告げる。
 店主はいえいえ、と首を振って薄らと微笑んだ。
 そちらでよろしいですか、お包みしますかととう店主に頷いて紅子は手渡す。
 丁寧に包んでいくその様を。横顔を紅子は見詰めていた。
 こけた頬。隈の残る様もまったく隠せてはいない。
 紅子は唇を、動かす。
 余計な事は言うな、と。その手にある傘の君の静止の目線には気付かずに。
「――お辛いですか」
「え? ああ、疲れているように見えますか? 養生はしておりますよ」
 ご心配なく、と店主は微笑む。
 彼が、辛くあれど、なくとも。答えがあれど、なくとも構わなかったのだ。
 それを――紅子は、聞かずにはいられないのだから。
 けれど、言葉が返ってきた。
 紅子は無理をなさらぬよう、と続けてお代を渡し便箋を受け取る。
 今は、そう。彼の想いを聞くときでは――まだその時ではないと、思うから。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ヴォルフガング・ディーツェ
【月桜】

香選びか、雅だねえ。狼の鼻にも優しい香りはあるかな…清史郎もよすがも宜しくね

お揃いってのも良いし、文を認める楽しみも増えそうだね。モチーフも俺達にぴったりだ…良い目をしているね、よすが
香炉もあるのか…ランプ花の様な物があれば欲しいな

次いで目に着くのはにおい袋
魔除けの意味もあるらしい、折角だから此れを選び合ってみるのも乙かな
俺は…そうだな、よすがの物を選ばせて貰おうか

雫の飾り紐が目を惹く夜空色の縫い地に纏うは桜の香り
妖しくも美しい夜桜、その加護が君にありますように

清史郎の選んでくれた物に思わず尻尾がわさり
流石は甘党友、素敵な選択だ!魔除け的にも普段使いにも嬉しいな
ふふ、お誘いも喜んで!


筧・清史郎
【月桜】

香選びとは趣き深い
友とであれば尚の事、心躍るな
俺は少々嗜む程度か
故にどの様な香があるか楽しみだ

揃いの便箋か、それは良い
狼思わせる月柄、漂うは俺達に縁深い桜の香
ふふ、風流なお揃いになったな
ぱちり視線合った猫さん香炉も連れて帰ろうか

におい袋はヴォルフガングの物を
黒地に白の籠目柄、組紐は赤
籠目は邪気払う六芒星、魔除けになればと
纏わせるは白檀を基調としバニラ混ぜた仄か甘い香
甘味好きの同士だからな
尻尾の様な黒のもふもふ装飾も付けて

よすがの選んでくれた物に零れる笑み
ふふ、確かに甘い物が食べたくなるな
今度は皆で甘味を食べに行こうか
次の約束も抜かりなく

選んで貰った香を手に
頼りにしている、と二人に笑みを


夜霞・よすが
【月桜】

俺、こういうお店って初めてだ
香りに包まれる店に興味津々

月と狼の影が描かれた便箋発見
ほんのり桜の香りがする
なあなあ、これお揃いはどうかな?
よーく見たら狼は赤い瞳で
俺たちともお揃いなんだぜってこっそりと

俺のは霞草が描かれたの
炉とか皿とかいろんな種類から探してみる

におい袋は3人で贈り合い
じゃあ俺は清史郎の選んでみる
イメージの桜と青は二重な紐にして
若草色と抹茶の香り
甘いの食べたくな―れって

ヴォルフに選んでもらった夜空の色がすごく綺麗
桜の香りはやっぱ安心する
魔除けの意味もあるんだ
だったらこれで怖いもの知らずだって胸をはる

うん、約束な!って笑顔になる
この後どきどきしてるけど
きっと2人がいれば大丈夫



●守りと約束と
 ふわり、香る。こういった店の香りは独特なものだ。
 和であり、いくらか香りも重なっているが――柔らかで心地よい。
 筧・清史郎(ヤドリガミの剣豪・f00502)は香選びとは趣き深いと、ふふと笑み零した。
 それは友とであれば尚の事、心躍るなと続けてふたりへと視線向けた。
「香選びか、雅だねえ。狼の鼻にも優しい香りはあるかな……」
 ヴォルフガング・ディーツェ(誓願の獣・f09192)は、共にいる二人に宜しくねと声向けた。
 夜霞・よすが(目眩・f24152)は香りに包まれる店に興味深々。
「俺、こういうお店って初めてだ」
「俺は少々嗜む程度か。故にどの様な香があるか楽しみだ」
 さてどんなものが並ぶのか――よすがの目に便箋がとまった。
「あ、月と狼の影が描かれた便箋発見」
 それを手にすれば、ほんのり桜の香り。よすがは瞬いて、それを二人へと見せる。
「なあなあ、これお揃いはどうかな?」
「揃いの便箋か、それは良い」
 清史郎は頷く。狼思わせる月柄、漂うは俺達に縁深い桜の香と。
「ふふ、風流なお揃いになったな」
 そしてよすがまもう一つポイントがあるんだといって狼の目のあたりを指さしこっそりと。
「よーく見たら狼は赤い瞳で俺たちともお揃いなんだぜ」
「お揃いってのも良いし、文を認める楽しみも増えそうだね。モチーフも俺達にぴったりだ……良い目をしているね、よすが」
 三人とも、瞳に赤を持つだ。
 清史郎はそこに青が少し混じっているが――その視線がぴっと一点に釘付けになった。
 ふたりはそれに気づいてどうしたのか、と視線向ける。清史郎はまっすぐ一歩進み、手を伸ばしそれを手にした。
「視線が合ってしまった。猫さん香炉も連れて帰ろうか」
「香炉もあるの……ランプ花の様な物があれば欲しいな」
「俺のは霞草が描かれたのにしよ」
 炉とか皿とかいろいろあるとよすがの視線は迷っている。でもこれだというのを見つけて手に。霞草の絵が細やかに丁寧に描かれた香皿だ。
 その間にヴォルフガングはにおい袋か、と手に。
 それは魔除けの意味もあるらしい。
「折角だから此れを選び合ってみるのも乙かな」
「じゃあ俺は清史郎の選んでみる」
「俺は……そうだな、よすがの物を選ばせて貰おうか」
「では俺はヴォルフガングの物を」
 清史郎はにおい袋を眺めて、手を伸ばす。
 黒地に白の籠目柄、組紐は赤だ。
 籠目は邪気払う六芒星――魔除けになればと思って。あとは、纏わせる香りだ。
 白檀を基調として、バニラ混ぜた甘い香り。それに尻尾のような黒のもふもふ装飾をつけて清史郎はその手に。
 ふわりと香る、その香りにヴォルフガングの尻尾はわさりと踊る。
「流石は甘党友、素敵な選択だ!」
「甘味好きの同士だからな」
「魔除け的にも普段使いにも嬉しいな」
 ヴォルフガングはよすが、と名を呼んで。
 差し出したのは雫の飾り紐が目を惹く夜空色の縫い地。纏うは桜の香りだ。
「妖しくも美しい夜桜、その加護が君にありますように」
 その夜空の色がすごく綺麗とよすがは瞬く。そして吸い込む桜の香り。
「桜の香りはやっぱ安心する」
 魔除けの意味もあるんだ、と感心してよすがは胸を張る。
「だったらこれで怖いもの知らずだ」
 そして、俺も清史郎にとよすがは渡した。
 清史郎のイメージの桜と青を二重の紐にして。若草色のにおい袋が纏うのは、抹茶の香り。
「甘いの食べたくなーれ」
 なんてとよすがは笑う。清史郎は受け取ったそれを見て、そして香りを感じて笑み零す。
「ふふ、確かに甘い物が食べたくなるな」
 ヴォルフガングに選んだ香も甘い香り。そして抹茶の香りとくれば――甘味も恋しくなってくる。
「今度は皆で甘味を食べに行こうか」
「うん、約束な!」
 よすがはぱっと笑って、頷いて。ヴォルフガングも。
「ふふ、お誘いも喜んで!」
 次の約束をして――しかしこの後は、戦いの場に赴くことになる。
 頼りにしている、と清史郎は選んでもらったそれを手に笑み向ける。
 どきどきしてるけど、とよすがはひとつ息すって。
 けれど、きっとふたりがいれば大丈夫と頷き返すのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

逢坂・宵
【翠靑星】
香の匂いとは、形がなくとも様々なものを想起させ
快い気分にさせるものです

碧君に似合いそうな香は……
落ち着いていて、それでいて早朝の爽やかさを感じさせるような
白樺の香りで仕立てられた匂い袋を見つけたなら
碧君へ勧めてみましょう

ザッフィーロに沈香の香を勧められたなら
かれが常に纏う匂いに似たそれに思わず笑みを
ええ、この香りは大好きですと頷いて

ザッフィーロが碧君にあてた梨と白檀の香りも中華風でまた素晴らしく
碧君が僕に檜扇をあててくれたなら
古き良き和の香りですね たいへん落ち着く香りで嬉しいです

そうですね、こうした思い出は色褪せず、心に強く残るのでしょう
またこうして、3人でお出かけしたいですね


ザッフィーロ・アドラツィオーネ
【翠靑星】
香の店かと興味深げに店内を見回し二人に似合う香をと探しながらも
沈香がメインの香を嗅げば照れくさげに宵、と声を掛けてみよう
…似合うではなく己の身の香に似た物を選んだと気付かれなければ良いのだが
宵が碧に選んだのは清々しい森の香か、とても良く似合うと思う
後は…碧はどこか中つ国の空気を感じる故梨と白檀も似合いそうだと中国の宮廷で愛されたというそれを碧に勧めてみよう
碧が己へ選んでくれた香を見れば笑みを
…友人の目から見た己を知れるのは照れ臭いが良い物だな

香は嗅ぐだけでその時の記憶を蘇らせてくれる物だからな
皆で過ごした楽しい今日の思い出も嗅ぐ度に鮮明に思い出すのだろう
本当に、香という物は良い物だな


劉・碧
【翠靑星】

いつも人の傍にあり、人と共にあり、悲色の記憶を優しい気持ちに塗り替える…香は人の記憶に棲む魔物のようなものだという

今回は友人に似合う香を選ぼう

宵はこれかな
仄かに香る檜扇を開いて見せる
明け方の空のような、光指す方へ導いてくれるような…
そういう印象が宵にはある

白樺の香りは爽やかさがあって、確かに衣類に馴染ませれば清々しい気持ちになるだろうな…俺ってこんな感じか

宵に渡してた沈香を嗅ぎ寺にありそうだ…と、思いつつ
ザッフィーロには白檀の三角香を渡す
初めて自宅で話した時に感じた気品は彼の生まれ持つ良さだろうと

でもまだ知らない面もあるだろうと、これからも友人の様々な面を知ってみたい
香は奥が深いな…



●選びあうということ
 足を踏み入れた店に広がる香り。いくつかが、重なっているような心地に逢坂・宵(天廻アストロラーベ・f02925)は瞳細めた。
 香の匂いとは、形がなくとも様々なものを想起させ、快い気分にさせるもの。
 今日は、ザッフィーロ・アドラツィオーネ(赦しの指輪・f06826)と、そして劉・碧(夜来香・f11172)と共に。
(「いつも人の傍にあり、人と共にあり、悲色の記憶を優しい気持ちに塗り替える」)
 碧は、ふと思うのだ。
(「……香は人の記憶に棲む魔物のようなものだという」)
 そんな香を今日は友人たちのために。
「宵はこれかな」
 碧は、仄かに香る檜扇を開いて見せる。
 開くだけで香りが広がる――穏やかな、香り。
「明け方の空のような、光指す方へ導いてくれるような……」
 そういう印象が宵にはある、と言って碧は檜扇を閉じ、宵の手へ。
 それを受け取った宵は、自分でも開いてみる。開けば、香る。そしてひらりと閃かせればそれが一層広がるのだ。
「古き良き和の香りですね。たいへん落ち着く香りで嬉しいです」
 そう言って、碧君に似合いそうな香りは……と宵は探す。
 彼に似合いそうな、香り。
(「落ち着いていて、それでいて早朝の爽やかさを感じさせるような……」)
 ああ、これが似合うと宵が手を伸ばしたのは匂い袋だ。
 それは白樺の香りで仕立てられている。
 きっと君に似合うと宵はそれを手渡した。
「白樺の香りは爽やかさがあって、確かに衣類に馴染ませれば清々しい気持ちになるだろうな」
 良い香りだ、と碧は零してふと。
「……俺ってこんな感じか」
 その応えにくすりと宵は笑み零す。
 そんな中、一番悩んでいたザッフィーロはこれだというものを見つけた。
 沈香――それを中心として組み立てられた香り。それを嗅いだならこれだと心は決まる。
 照れくさそうな表情で、ザッフィーロは宵、と声かける。
「この香りはどうだろう」
 と、ザッフィーロの手にある香。その香は――知っている。
 全く同じというわけではないがいつも、そう。傍らから、隣から。
 宵は思わず笑みを浮かべて。
「ええ、この香りは大好きです」
 そう言って、頷いた。
 その香りは、宵に似合うではなく己の身の香に似たものだった。
 それに気づかれなければよいのだが、とザッフィーロは思っていたのだが気づいても宵は何も言わずに微笑んで。
 碧もその香りを試して――思い浮かべたのは寺。
(「寺にありそうだ……」)
 そう思いながらザッフィーロにはと碧はひとつ、勧める。
 それは白檀の三角香だ。
 初めて自宅で話した時、碧がザッフィーロに感じた気品。それはきっと彼の生まれ持つ良さなのだろう。
 だからそれに合う香りを、と探して見つけたのがそれだ。
「……友人の目から見た己を知れるのは照れ臭いが良い物だな」
 その香を見ればザッフィーロは柔らかに笑みを。
 そして宵はどんなのを選んだのか、と尋ねると碧がこれだと白樺の香りを差し出した。
「清々しい森の香か、とても良く似合うと思う」
 では俺からは――これを、とザッフィーロは碧へと送る。
「碧はどこか中つ国の空気を感じる故」
 梨と白檀も似合いそうだと中国の宮廷で愛されたというものだと告げて。
 その香りが宵の鼻も擽っていく。
「その香りも良いですね。お似合いですよ」
 宵からの言葉に碧は微笑んで。
 こうして香を選びあうだけでも、お互いの新たな面が見えるようだ。
 でもまだ知らない面もあるだろう。
 これからも友人の様々な面を知ってみたいと、碧は思うのだ。
「香は奥が深いな……」
「香は嗅ぐだけでその時の記憶を蘇らせてくれる物だからな」
 皆で過ごした楽しい今日の思い出も嗅ぐ度に鮮明に思い出すのだろうちザッフィーロは紡ぐ。
「本当に、香という物は良い物だな」
 友と、そして大切な人に選んでもらった香りは――一層深く、記憶にのこるはず。
 それぞれの手にある香りを感じた時、ここで選びあった記憶と紐づくのだろう。
「そうですね、こうした思い出は色褪せず、心に強く残るのでしょう」
 宵はくすりと、笑い零し。
 またこうして、3人でお出かけしたいですねと――香る中でひとつ、また紡ぐ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

橙樹・千織
千鶴(f00683)さんと
あら、小物も沢山ですねぇ
色んな品物を前に少しだけそわそわ

練り香と、便箋が欲しいですねぇ
ラベンダーに金木犀…この辺がいいですかねぇ
すん、と香りを確かめ、練香選び
千鶴さんは何を探します?

香を共有…いいですねぇ
千鶴さんの便箋も良い香り
どれも素敵なものばかり…どうしましょう
桜に金魚、紅葉、雪椿
他にも沢山の便箋に目移り
…千鶴さんはどれがいいと思います?
ふふ、じゃあそれにしましょう

え、いいのですか?
ふふふ、ありがとうございます
本当に?来てくれます?
と、ころころ笑う

私からも千鶴さんに
紫に桜の花咲く匂い袋
橙の組紐で結ったそれは金木犀を主とした香り
さっき落ち着くと言っていたので、ね?


宵鍔・千鶴
千織(f02428)と

香は道具や種類が多くて
あまいものから爽やかに抜ける
香りから…迷うね
練香をほんのり眺めて
あ、千織の気に入りも凄くすき
金木犀とラベンダー落ち着くねって
一緒にくん、と香りを纏い

俺は便箋にしようか
送った相手と香を共有できたら嬉しい
仄かに郷愁誘う桜便箋を選び
千織は温かいいろが似合うから
段々色付き染まる綺麗な葉を持つ紅葉とかどう?

見掛けた縮緬の匂い袋は橙に山吹描き
紫の組紐で結んだもの
白檀など数種類調合された香が安堵するから
…はい、これ千織に。
俺、この香り覚えたから、千織が呼んでくれたら
辿って会いに行けるかも、なあんて

選んでくれた桜袋に金木犀がふわり
やっぱり落ち着く、って大事に手の中へ



●ふたつの香り
 迷う、というのが正直な感想だった。どれもこれも、魅力的な香りで。
 そしてそれを楽しむ香炉などもかわいいものがある。さらに香りを纏う小物も多くて目移りするのは仕方ない。
「あら、小物も沢山ですねぇ」
 色んな品物を前に橙樹・千織(藍櫻を舞唄う面影草・f02428)は少しだけそわそわ。
 その横で、宵鍔・千鶴(nyx・f00683)も色々なものがあると視線は忙しい。
「香は道具や種類が多くて。あまいものから爽やかに抜ける香りから……迷うね」
 何から選べばいいのか――千織は練り香と、便箋が欲しいですねぇとまず、練り香の前へ。香水とは違う趣のそれは、入れ物も可愛いものや綺麗なものと多種ある。
 千鶴もそれをほんのり眺めて、千織についていく。
「ラベンダーに金木犀……この辺がいいですかねぇ」
 すん、と香りを確かめれば――広がる甘い香り。
「千鶴さんは何を探します?」
 俺は、と答えようとしたところで千織の香りを千鶴の鼻も拾い上げ。
「あ、千織の気に入りも凄くすき」
 金木犀とラベンダー落ち着くね、と、くん、と香りをもう一度確かめた。
 そして、俺はとくるり見回して。
「俺は便箋にしようか」
 送った相手と香を共有できたら嬉しい、と千鶴は言いながらどれにしようかと便箋に手を伸ばす。
「香を共有……いいですねぇ」
 千鶴は誰に送ろうかな、なんて考えつつ――ひとつ、手に。
 それは仄かに郷愁誘う桜便箋だ。これにしようかな、と千鶴の手は一つ選んだけれども。
「どれも素敵なものばかり……どうしましょう」
 桜に金魚、紅葉、雪椿。ほかにも沢山の便箋に目移りして。
「……千鶴さんはどれがいいと思います?」
 相談に乗って下さい、というような視線。千鶴は色々、見詰めて。
「千織は温かいいろが似合うから――段々色付き染まる綺麗な葉を持つ紅葉とかどう?」
 これ、と選んだのを千鶴は千織へと差し出した。
 千織はそんな風に見てもらっていたなんてと思いながら手を伸ばし。
「ふふ、じゃあそれにしましょう」
 それを受け取って、微笑む。
 そして他にはと見回して千鶴の視線を射止めたのは匂い袋。
 それも、縮緬の匂い袋で橙に山吹描かれ紫の組紐で結ばれていた。
 これと共にある香りならば――と、千鶴が選んだのは白檀など数種類調合された香。
 その香りは安堵する柔らかさ、やさしさを持っていた。
「……はい、これ千織に」
「え、いいのですか? ふふふ、ありがとうございます」
 いい香り、と千織はその香を瞳伏せて感じる。
 すると。
「俺、この香り覚えたから、千織が呼んでくれたら」
 辿って会いに行けるかも、なあんて――と、千鶴は悪戯するように笑むのだ。
 そして千織はぱちりと、瞬いて。
「本当に? 来てくれます?」
 ちゃあんと来てくださいね、ところころと笑い返すのだ。
「私からも千鶴さんに」
 そして、お返しも。
 紫に桜の花咲く匂い袋。橙の組紐で結ったそれは金木犀の香りを軸にしたものだ。
「さっき落ち着くと言っていたので、ね?」
 ふわり、広がった香りに千鶴は瞳細めて。
「やっぱり落ち着く」
 大事に手の中に収めて、ありがとうとお互いに笑み向ける。
 香りも、そして互いの手にある匂い袋も大事なもの。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

波紫・焔璃
わぁあ!すごい色々ある!!
お香だけかと思ってたよ
お店に入って見えた店内の品揃えにびっくり
いざ、探検!ときょろきょろ店内をまわってみる

へぇ…自分でお香作ることもできるんだ
んー、どれもいい匂いだから決められないな
あの!おすすめはどの香りですか?
強すぎなくて、ほんわかする香りが良いなぁ、っておすすめを聞いてひとつ買ってみよう

わー!可愛い便箋と匂い袋だ!
耀みたいな猫がいっぱいいるやつにしよーっと

わ、この小物入れ?きれー
へぇ、ほんとはお香をいれるんだ?
これも欲しいなぁ…
螺鈿細工(柄お任せ)が施された香合を見つけて思わず見とれちゃう

…ん、買っちゃお
こういうのは一期一会だもの!
おにーさんこれもくださいな!



●ひとつの出会い
 茜の瞳をぱちぱち、瞬かせて。
「わぁあ! すごい色々ある!!」
 波紫・焔璃(彩を羨む迷霧・f28226)は店内見回して驚いていた。
 お香だけかと思っていたから、品揃えにびっくり。
 けれど、どれもこれも興味をひくものばかりでいざ、探検! ときょろきょろしつつ回り始める。
 香炉や香立、香皿。すでに出来上がった香もいくつかならび、香りを纏う便箋や匂い袋も気になる。
 そして、焔璃の足がとまったのは。
「へぇ……自分でお香作ることもできるんだ」
 乳鉢といくつかの香の原料が詰められたセット。
 でもそれは、失敗するかもしれないので今日は見ているだけ。
「んー、どれもいい匂いだから決められないな」
 なら、わかる人にきこうと焔璃は店主へと手を振って。
「あの! おすすめはどの香りですか?」
「色々ありますが……どんな香りがよろしいですか? 例えば華やかなものや緑の香りなどもございます」
 店主の言葉に、確かにいっぱいおすすめがありそうと焔璃は笑ってそうだなぁと考える。
「強すぎなくて、ほんわかする香りが良いなぁ」
「では、可愛らしい感じの花の香りが良いかもしれませんね」
 ちょっと甘さを含んだような、香りのやわらかなもの。これからの季節、秋桜の香りですと出してもらったのはふんわりと香る。
 焔璃はこれにします! と決めれば店主は他には何かございますかと丁寧に訪ねてきた。
 そしてあちらは若い女性の方が良く見られておりますよ、と示したのは。
「わー! 可愛い便箋と匂い袋だ!」
 耀みたいな猫がいっぱいいるやつにしよーっと、と焔璃は楽しそうに便箋を選ぶ。
 匂い袋も、あとから選ぼうと思っているとふと、目についたのは香合だ。
「わ、この小物入れ? きれー」
「そちらは香合といって、香をいれておくもの。けれど、小物入れとしてももちろん使えますよ」
「へぇ、ほんとはお香をいれるんだ? これも欲しいなぁ……」
 螺鈿細工の美しい香合だ。絵柄は流水のようでいて、炎のようでもあり、煙のようでもある。
 思わず見とれて――きゅっと、それをもつ手の力は強まった。
「……ん、買っちゃお。こういうのは一期一会だもの!」
 おにーさんこれもくださいな! と焔璃は渡す。
 きっとここで出会った意味が、あるのだろうから。

大成功 🔵​🔵​🔵​

東雲・咲夜
【藤桜】
仄かな香りに日々の疲労で張り詰めた心が弛緩する
彼の問いの答えは…ふふ、見てみたらわかります

実際焚かれているものを前に
いろんな植物から抽出したものを燃やしたり燻したり
その香りでリラックスするんよ

ふふ、選んでくれはったん?
春の優しい香りやね…嬉しいわぁ
桜はうちの神様やから、いっとう、ね
そうくんには…せや、うちの大好きな白檀はどうどっしゃろ
雅で上品な香りを持ち運べる匂い袋
確か魔除けの効能も

ね…知っとる?
匂いは人間が一番記憶として残りやすいものなんやて
うちも香りに包まれると
ひとつひとつ浮かんでくる

せやからそうくんには
うちのお気に入りの香りを纏ってほしいの
いつでもあんさんを想い出せるように…


朧・蒼夜
【藤桜】

柔らかな匂いがする。嗅いだ事のない匂い。
おのお店からする匂いだね。
お香のお店。
………咲夜、お香って何かな?

ごめんね、俺こういうのあまり知らなくて
香水とか違って柔らかくてとても落ち着く匂いだね。

一緒に何か記念に買って行こうか。
あっ、咲夜。桜のお香があるよ。
この匂いが一番、咲夜にピッタリの匂いだな。
俺は、どの匂いがいいなかな?

咲夜選んでくれるかな?
白檀?初めて匂う香だね。
咲夜の好きな匂いなら嬉しいな

ん、俺も君の匂いに包まれて、君も俺の匂いに包まれる
とっても素敵だね。



●つなぐ香り
「柔らかな匂いがする。嗅いだ事のない匂い。おのお店からする匂いだね」
 朧・蒼夜(藤鬼の騎士・f01798)は通りを歩きながら、かすかに伝ってきた香りを捉えていた。
「お香のお店」
 と、蒼夜は呟いて東雲・咲夜(桜妃*水守姫・f00865)へと尋ねるような視線を向けた。
「…………咲夜、お香って何かな?」
「ふふ、見てみたらわかります」
 仄かな香りに日々の疲労で張り詰めた心が弛緩する。咲夜は、問いの答えを紡がずに微笑みを返した。
 そして、いってみましょうと店の扉を開く。
 ふわり――先ほどよりも広がった香りに蒼夜は店内を見回した。
 つぅと立ち上る煙。それがこの香りをかもしているのだろう。
 そして咲夜もそれに気がづいて、もっと近くでと蒼夜を連れていく。
「ごめんね、俺こういうのあまり知らなくて」
「いろんな植物から抽出したものを燃やしたり燻したり、その香りでリラックスするんよ」
 それがお香、と咲夜は笑う。
 実際焚かれているものを前に、蒼夜はなるほどと頷いて。
「香水とか違って柔らかくてとても落ち着く匂いだね」
 好ましい――そんな様子で蒼夜は答えて、そうだとひとつ提案する。
「一緒に何か記念に買って行こうか」
 蒼夜は何があるだろうか、何がいいだろうか――どんなものがあるかと視線を巡らせて。
「あっ、咲夜。桜のお香があるよ。この匂いが一番、咲夜にピッタリの匂いだな」
 確認用の香。その香りを確認して蒼夜は頷き咲夜もと手渡す。
「ふふ、選んでくれはったん? 春の優しい香りやね……嬉しいわぁ」
 桜はうちの神様やから、いっとう、ね――と咲夜は柔らかに微笑んだ。
「俺は、どの匂いがいいかな?」
 そう言って、咲夜と蒼夜は名を呼び。
「咲夜選んでくれるかな?」
「そうくんには……せや、うちの大好きな白檀はどうどっしゃろ」
 白檀は、この香り。
 咲夜はほらと蒼夜へと白檀の香りを近づける。
「白檀? 初めて匂う香だね」
 その香りは心穏やかにしてくれるような香りだ。
 蒼夜はこれにすると頷いて。
「咲夜の好きな匂いなら嬉しいな」
 好きよ、と咲夜は微笑み、ただ香を焚くだけでなくてこういうのもあるのよ、と匂い袋を蒼夜へと見せる。
「雅で上品な香りを持ち運べる匂い袋。確か魔除けの効能も」
 これに香りを乗せて持ち運ぶことも素敵――そう思って、ふと。
「ね……知っとる?」
 匂いは人間が一番記憶として残りやすいものなんやて、と咲夜は紡ぐ。
「うちも香りに包まれるとひとつひとつ浮かんでくる」
 せやから、と蒼夜をまっすぐ、咲夜は見詰めて。
「そうくんには、うちのお気に入りの香りを纏ってほしいの」
 いつでもあんさんを想い出せるように……と小さな声で咲夜は向ける。
 そして蒼夜も瞬いてふわりと笑み向けた。
「ん、俺も君の匂いに包まれて、君も俺の匂いに包まれる」
 とっても素敵だね、と蒼夜は瞳細め見詰めるのだ。
 この香りが――二人を繋いでいるような心地も悪くない。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

高塔・梟示
まどか(f18469)君と

香りに強い拘りはないが
こう沢山あると興味をそそられるな
求める物以外にも目移りしそうだ

花に緑に、季節の妙を楽しめるようだね
まどか君は、好きな香りはあるのかい?
香合も可愛らしいのがある
この磁器の犬、君のご友人に似てる気がする
…ふむ、もっと可愛いってことかね

店主の手が空いたなら
名刺入れや手紙に忍ばせるのに良い
紙香がないか、声掛けて

これでも客商売だからね
印象付けは大事ということで
…お互いあまり顔色が優れないが
何処かお悪いので?と軽く探りを入れて

無邪気な甥っ子君を演技派だなと思って眺め
…ああ、付合わせて悪かったね
君の読書の供にプレゼントしよう
落着いた香りなら、嫌じゃないだろう


旭・まどか
不健康を擬人化した君(f24788)と

特別目当ての物があるわけじゃあ無いから
僕は、付き添い

香りの店なんて主張の激しい濃香が混ざり
鼻が曲がりそうなものかと思ったけれど
馥郁な店内の様子に安堵する

僕は、別に
臭く無ければ何でも良いよ
そうかな?
アレはもっと間の抜けた顔をしているよ

店主に語り掛ける彼の後ろへ控え
関係性を問われれば、親戚とでも答えようか

掴んだ裾の先
顔に乗る色は負けず劣らずの曇り模様なものだから
おじさんも仕事人間で困っちゃう
なんて、片頬膨らませ無邪気な甥でも演じてみよう

このまま手ぶらで店を後にしても良いのだけれど
折角だから栞を指さしあれが欲しいと強請って
かわいい甥っ子に、プレゼントしてくれる?



●演技であるけれど
 香りに強い拘りはないが――と思いながら、高塔・梟示(カラカの街へ・f24788)の視線は店内を巡る。
「こう沢山あると興味をそそられるな」
 求める物以外にも目移りしそうだという梟示へふぅん、と。特別目当ての物があるわけでもなく。付き添いできた旭・まどか(MementoMori・f18469)は興味があるのかないのか、というところ。
 けれど、こういった香りの店なんて。
(「主張の激しい濃香が混ざり鼻が曲がりそうなものかと思ったけれど」)
 すん、と軽く香を吸い込んでも嫌な感じはなく。
 馥郁な店内の様子にまどかは安堵していた。
 梟示は、色々あるとひとつひとつを吟味するように手にとっていく。
 どれもこれも趣深い香りばかりだ。
「花に緑に、季節の妙を楽しめるようだね。まどか君は、好きな香りはあるのかい?」
「僕は、別に。臭く無ければ何でも良いよ」
 そんな釣れない言葉に苦笑して、こういったものもあるのかと梟示が視線向けたのは香合だ。
 格式ばった雰囲気のものから、使いやすそうな手軽なものまで。
 そして最近の、陶器の香合は色々と趣向をこらされていた。
「香合も可愛らしいのがある。この磁器の犬、君のご友人に似てる気がする」
 陶器の香合、その犬の頭を指先でなでてやればつるりとした肌触り。
 まどかはそれに目を向けて、首傾げ。
「そうかな? アレはもっと間の抜けた顔をしているよ」
「……ふむ、もっと可愛いってことかね」
 そっけなさ含んだ言葉。梟示は小さく笑って、手が空いたようだと店主へと声かける。
「何をお探しでしょうか」
「名刺入れや手紙に忍ばせるのに良い紙香はあるかな」
 ええ、ございますよと店主は頷く。
 紙香も様々な香りがある――お好みに合えば、と紡いで。
「お仕事用でございますか?」
「ああ、これでも客商売だからね。印象付けは大事ということで」
 そこで言葉を斬って、梟示は店主をじぃと見詰める。
 店主はどうされましたか、と不思議そうだ。
「……お互いあまり顔色が優れないが。何処かお悪いので?」
「いえ、私は……仕事疲れでしょうかね」
 店主は大丈夫ですと笑うだけだ。けれどその笑みも、力があるかと言えば弱弱しさのほうが強い。
 まどかは梟示の服の端をそっと掴んで。
 顔に乗る色は負けず劣らずの曇り模様なものだからと、思いながら。
「おじさんも仕事人間で困っちゃう」
 ぷく、と片頬膨らませ無邪気な甥っ子をまどかは演じるのだ。
 お互い体を大事にしないといけませんね、と店主は紡ぐが――あなたのほうが、危ないだろうと梟示もまどかも感じるのだ。
 かすかに流れる沈黙――それを破るように、ねぇとまどかは梟示へと声向ける。
 このまま手ぶらで店を後にしても良いのだけれど折角だからと栞を指さして、あれが欲しいと強請る。
「かわいい甥っ子に、プレゼントしてくれる?」
 梟示はおや無邪気な甥っ子君。演技派だなと思い眺め。
「……ああ、付合わせて悪かったね」
 君の読書の供にプレゼントしようと、甥っ子のために、というようにふるまうのだ。
「落着いた香りなら、嫌じゃないだろう」
 栞も、いくつか香りがあるようだ。好きな香りを選ぶといいと前に並べてもらう。
 さてどれがいいだろうか。
 秋のひそやかな香りのものが――ふわりと、広がる。控えめなそれは落ち着いていて、心地もよさそうだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

リカルド・アヴリール
ライナス(f10398)と
アドリブ歓迎

香、か
正直な所、初めて見る物ばかりだな
……俺も、か?
どうしてか、と問い掛ける前に突かれた部分を理解して、
気恥ずかしさに少し視線を逸らした

どんな香りが好きか、と言われると悩むな
あまり気にした事がなかった上
これ程、種類豊富だと――ライナス、それは薔薇の……!?
(制止を試みる

遅かったか……
確か、自分の身体の匂いを嗅ぐとリセットされるとか
……俺の匂いを嗅いでどうする、まったく(照れ隠し

他にも気になる匂いはあるが、決め切れず
気付けば、ライナスが
何かを二つ購入している様子に目を丸くする
受け取った匂い袋の香りに目を細め、柔らかく微笑み
お前も、虫除けをしてくれるのか?と


ライナス・ブレイスフォード
リカルドf15138と

血の香りが一番だけどよ
それ誤魔化す為に香使ってるからな
あんたもこれ、誤魔化すのに丁度いいんじゃねえの?と笑いつつ己が食事した首筋をつついてみんぜ

香を選ぶ際はあんたはどんな香りが好きなんだと香を手にリカルドへ視線を
生理的に苦手な薔薇の香りを嗅いでしまったなら眉を寄せリカルドに顔を寄せ大きく息を
確かに落ち着くなって…あ?別に俺じゃねえけど落ち着くなら良いだろ
その後虫を寄せつけぬと書かれたニームの香りを使った香り袋を嗅げば二つ手にとり会計を
あんた俺にも変なとこで甘えからな
虫よけに持ってろよ…って
ばーか。俺はあんたと違って隙はねえんだよ
でも、あんたと同じ匂いなんは悪くねえ…だろ?



●どの香りよりも
 様々な香りが広がる。けれど香のそれは、香水とは違うものだ。
 柔らかな香りに、この場は満たされている。
「血の香りが一番だけどよ」
 それ誤魔化す為に香使ってるからな、とライナス・ブレイスフォード(ダンピールのグールドライバー・f10398)はひとつ手に取る。
「香、か。正直な所、初めて見る物ばかりだな」
 リカルド・アヴリール(機人背反・f15138)は珍しそうに、並んでいるものを眺めて。
「あんたもこれ、誤魔化すのに丁度いいんじゃねえの?」
 と、ライナスはリカルドの首筋――己が食すために食んだその場所を揶揄うようにつつく。
「……俺も、か?」
 どうしてか、と問い掛ける前に突かれたその場所の意味をリカルドは理解して、唸るように黙り込み気恥ずかしさに少し、視線を逸らした。
 その様にライナスは笑って、選ぶかと香へと視線向ける。
「あんたはどんな香りが好きなんだ?」
 手近にあった香を手に取り、ライナスはリカルドへ視線向ける。
 どんな香りが好きか、と言われると悩むなとリカルドも香を見詰め。
「あまり気にした事がなかった上、これ程、種類豊富だと――」
 と、リカルドは香から視線をリカルドの手の上にあるものに気づいてはっとする。
「ライナス、それは薔薇の……!?」
 その香りは、とリカルドは止めようと――した。けれど僅かに遅く。
 もうその香気を吸い込んで、ライナスは眉を寄せるとリカルドに顔を寄せ、大きく息を吸い込んだ。
「遅かったか……」
 けれど、リカルドは思い出す。
 確か、自分の身体の匂いを嗅ぐとリセットされるとか――そう言っていた。そのために顔を寄せたのだろうと。
「確かに落ち着くなって」
「……俺の匂いを嗅いでどうする、まったく」
「……あ? 別に俺じゃねえけど落ち着くなら良いだろ」
 照れ隠しでリカルドは言って。ライナスはもう大丈夫だと紡ぐ。
 気を取り直す様に改めて色々と二人で見始める。
 香りはどれも多く、リカルドは決めきれずだ。
 リカルドは、虫を寄せつけぬと書かれたニームの香りを使った香り袋の香を確認して口端に笑みをのせ。それを二つ、手にとって。
「会計を」
 と、買うものを決めていた。
 それに気づいて、リカルドは何かをふたつ購入していると目を丸くする。
「あんた俺にも変なとこで甘えからな。虫よけに持ってろよ」
 渡されたそれの香りに目を細め、リカルドは柔らかに微笑んで。
「お前も、虫除けをしてくれるのか?」
「……って、ばーか。俺はあんたと違って隙はねえんだよ」
 そう言いながらもライナスは楽し気なものを滲ませて。
 僅かに声顰めて、囁くのだ。
「でも、あんたと同じ匂いなんは悪くねえ……だろ?」
 同じ香を纏う――それは確かにとリカルドも笑みを向ける。
 纏う香り、気配は自身のものだけれど生来のそれを知っているのは互いだけでいいのだから。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

リアム・ペンタス
アドリブ歓迎

美桜(f00543)とは初対面
アリラビの外に出たのは初めて

美桜が自分の耳を見ているのに気づいて

そこの可愛いお嬢さん、あなたも猟兵よね?
あたしはリアム
この世界に来たのは初めてで少し不安なの
もし良かったらご一緒してくださらない?

と声をかけて一緒に行動

美桜とお買い物をしながら店主の顔を覚えましょうか
もちろん買い物も楽しむわ
そうね、服に香り付けできるようなものが欲しいわ
主張の強すぎない優しい花の香りのお香か匂い袋を探してみようかしら

ありがとう、美桜は何か気に入った香りのものはあった?
ご家族がいるなら、お土産を探してもいいかもしれないわね

あら香りのついた便箋なんてあるのね
おしゃれで素敵だわ


常葉・美桜
リアムさん(f19621)と一緒

くまさんと一緒に頭上で、ぴょこぴょこお耳に興味深々と眺めていたら声をかけられ

ステキなお耳ね、じっとみちゃってごめんなさい
あたしはミオっていうの。どうぞよろしくね
ミオもね、此処には初めてきたの
オトナの人と一緒にいなさいって言われてるから、ぜひご一緒させてね

お店の人とお話しできたら
少しだけおすすめとかを教えてもらおうかしら

とってもおしゃれさんね
それに、とっても優しくて、安心する香り
りっちゃんさんに似合うとおもうのよ

ん、おみやげ!ステキなアイデアなのよ

(同居の青年思い出しながら)
どんなものが良いかしら?

新緑の香りの便箋手にとって

ふふ、ミオも決めたのよ
これでお手紙かくの



●出会い
 アリスラビリンスからでたのは、初めてだ。
 リアム・ペンタス(星屑の道標・f19621)は違う世界にそわりと――己の耳を動かしていた。
 ぴこり、動くその耳をじぃと見詰めていたのは常葉・美桜(ダンピールの人形遣い・f00543)だ。
 ぴょこぴょこお耳。くまさんと一緒に見詰めていると、リアムはその視線に気ついて歩み寄る。
「そこの可愛いお嬢さん、あなたも猟兵よね?」
「ステキなお耳ね、じっとみちゃってごめんなさい」
 美桜ははっとして。ぺこりと頭を下げる。リアムは笑って、気にしてないわと言って。
「あたしはリアム。この世界に来たのは初めてで少し不安なの」
 もし良かったらご一緒してくださらない? と微笑んだ。
 その言葉に笑って、美桜は頷いて。
「あたしはミオっていうの。どうぞよろしくね。ミオもね、此処には初めてきたの」
 オトナの人と一緒にいなさいって言われてるから、ぜひご一緒させてね、と返す。
 リアムが、初めて同士ねと紡げば美桜もそうねと笑む。
 そしてふたりで、くだんの香の店へ。
 店主はどんな顔をしているのかとリアムはその顔を覚える。
 けれど買い物も、もちろん楽しむつもりだ。
 美桜もたくさんのものに迷って――店主をちらり、見ればその視線に気づいて彼は何をお探しですか、と穏やかに声をかけてきた。
「えっと、少しだけおすすめとかを教えてもらおうかしら」
「そうね、服に香り付けできるようなものが欲しいわ」
 でしたら、香か。もしくは香り袋でしょうかと店主は提案する。
 香は焚きしめて、衣に香りを乗せる。香り袋は、箪笥にいれておくだけと。
 その言葉になるほど、とリアムは頷く。
「主張の強すぎない優しい花の香りのお香か匂い袋を探してみようかしら」
 それを聞いて美桜は素敵! と笑む。
「とってもおしゃれさんね」
 美桜は笑む。そしてリアムはいくつかの香りを試して、これと決めた。
 香りは強くなく、花の香りはいくつかが合わさっているのだろう。優しい花の香りはふわりと香るものだった。
 美桜はその香りを少し試してわぁと表情綻ぶ。
「とっても優しくて、安心する香り。りっちゃんさんに似合うとおもうのよ」
「ありがとう、美桜は何か気に入った香りのものはあった?」
 その言葉にまだ、と美桜は首を振る。いっぱいあって迷ってしまうと。その様子にリアムは少し考えて。
「ご家族がいるなら、お土産を探してもいいかもしれないわね」
「ん、おみやげ! ステキなアイデアなのよ」
 美桜はぱっと表情輝かせ、そうするわと笑む。そして思い浮かべるのは同居している青年。
「どんなものが良いかしら?」
 お土産を買うと決めたけれど、今度はそれをどうしようかと迷うところ。
 香をそのままか、香り袋もある。けれど、美桜が見つけて手に取ったのは便箋だった。
 新緑の香りのする、便箋。
「あら香りのついた便箋なんてあるのね。おしゃれで素敵だわ」
「ふふ、ミオも決めたのよ。これでお手紙かくの」
 香りと一緒に、届ける言葉は――きっと素敵。
 美桜は、素敵なお買い物ができたねとリアムへと笑いかける。リアムはええと頷いて返した。
 素敵な出会いもあったわと思いながら。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 冒険 『迷桜の小径』

POW   :    とりあえず白昼夢を見てみる

SPD   :    白昼夢をじぃっと観察してみる

WIZ   :    白昼夢を詳しく調べてみる

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 やがて、店の営業時間が終わる。
 店の戸締りをして、ふらりふらりと歩み始める。
 彼が向かっているのは――幻朧桜の小径。
 ざぁ、と風が靡いて幻朧桜を揺らす。微かに広がるのは桜の香り――けれどふと、違う香りがした気がした。
 それは何の香りか。
 その香りとともに広がるは白昼夢。
 幻朧桜の枝葉に映る、白昼夢だ。
 それは、願望。
 こうありたい、こうあればいい――そう、例えば件の男ならば、亡くなった妻と共に未だ続く、幸せな時間の光景。
 その光景に導かれるように、彼は幻朧桜の中へと誘われるように消えていく。
 そして、この場に訪れたものたちの上にも、それは現れるのだ。
 嘗ていた誰かと得ていたかもしれない、時間かもしれない。
 はたまた共にいるものと迎えたい光景かもしれない。
 幻朧桜の花々の上に現れる光景は揺れて、姿を変えて惑わせようとしているのか、それとも奥へ導こうとしているのか。
 目に見えるものがすべてではないのだろうけれども誘う先は一体どこか。
 ざぁと風が吹いてもその白昼夢は消えることなく、幸せな時間を紡ぐ。
 その光景を見続ける事が、幸せか、それともそうではないのかは――見る者によるのだろう。
逢坂・理彦
白昼夢…俺にとっての理想の夢となると大体同じ形式になってしまうよね…。
あの人が亡き妻との日々を求めるように。
俺は今はなき故郷を望む。
自分が守れなかった故郷。
何度夢見たって結局は夢なのにわかっていても見ると言うことは心の奥底では望んでいるのだろう。

俺にとってはこの白昼夢は諸刃の剣だ。
この夢が幸せだと感じる事は同時に故郷をなくした事実をまざまざと見せつけられているのと同じだ。

だからそんな夢に浸る必要はない。
本物の幸せは今も帰りを待っていてくれている。




 ふわり――幻朧桜の花びらが待っている。
 どこまでも続く幻朧桜。その中を逢坂・理彦(守護者たる狐・f01492)はゆるりと歩んでいた。
 ざわざわ、さわさわ――枝葉が揺れる。そしてその中に映る光景に理彦は吐息を零した。
 白昼夢。
 それが映すものは――俺にとっての理想の夢となると大体同じ形式になってしまうよね、と理彦は零す。
 理彦の目に映るのは、今はなき故郷の姿だった。
(「あの人が亡き妻との日々を求めるように、俺は」)
 自分が守れなかった故郷の姿。その姿は穏やかなものだ。
 日々を紡ぐ者達の姿。何も変わらぬ穏やかな――平和な姿だ。
 瞳細め、理彦は思うのだ。
(「何度夢見たって結局は夢なのにわかっていても見ると言うことは心の奥底では望んでいるのだろう」)
 さわさわと風が枝葉を撫でれば白昼夢の像が揺れる。
 この光景は理彦にとって望んでいるものであることは、確かなのだろう。
 幸せな――過去の、光景。
 けれど、と理彦は瞳を伏せる。
(「俺にとってはこの白昼夢は諸刃の剣だ」)
 この夢が幸せだと感じる事は同時に故郷をなくした事実をまざまざと見せつけられているのと同じこと。
 この幸せな光景を再び目にすることができる幸せ。
 けれど、もうその幸せがなく、そして同じものには二度と出会えぬのだ。
 もうその故郷はないのだから。
 だからそんな夢に浸る必要はない――理彦は口端を僅かにあげて笑む。
 それに、本物の幸せは今も帰りを待っていてくれている。
 理彦はそれを知っているのだ。
 だから、そこへと帰るために理彦は歩む。この先へと向かうために。

大成功 🔵​🔵​🔵​

小千谷・紅子
そうっと彼の人の背中を追えば
なんて見事な桜小径
ええ―桜は願いの写し鏡
そういったものだと、分かっている
一瞬香ったその香りへと振り返ると

揃いの黒茶の髪をした、まだ幼げな仲睦まじい兄妹
ぐずる妹をあやして手を差し伸べる兄
ああ、あれは―
ぼうと立ち尽くし二人を見る

いつの間にか横に居た傘の君が、信じられないものを見るように目を見張る
何か言おうとして、唇を引き結ぶ

言葉は何もそぐわぬ気がして、何故か胸がつきりと痛む
あれは戻らない景色
涙を拭い花咲く笑顔は、私の見送った、君の

―貴方の願望なのですね
問えば、
―当たり前だ
と、既に冷たく、不愛想な顔を装う貴方
―お前に何を言われる権利もない、と

私はただ、そうですね、と返した




 ふらりふらり、歩んでいく店主の背中を、小千谷・紅子(慕情・f27646)も追っていた。
 すると、ひらりと幻朧桜の花びらが躍った。なんて見事な桜小径と紅子は瞬く。
 そう――桜は。ええ、と紅子は小さく頷いた。
 知っている。桜は――願いの写し鏡。
 そういったものだと、わかっているのだ。
 桜の香り――けれどその中に違う香が一瞬漂った気がして紅子はくるりと振り返る。
 さわさわと風が幻朧桜の枝葉を揺らしてその中から像を結ぶ。
「ああ、あれは――」
 ぼうと立ち尽くして、紅子はその光景を見詰めていた。
 動けず、ただ見詰める事しかできない。
 揃いの黒茶の髪をした、まだ幼げな仲睦まじい兄妹の姿。
 ぐずる妹をあやして手を差し伸べる兄がそこにいる。
 紅子は立ち尽くすばかりだ。
 そしていつの間にか、横に居る傘の君。傘の君は信じられないものを見る様に目を見張っていた。
 紅子は、それに気づいて。かすかに唇を動かしたが、引き結ぶ。
 何か言おうとして、けれど言葉は空をさまよって形にならぬような。
 言葉は、何もそぐわぬ気がするのだ。
 つきり、と胸が痛む。それは何故――どうして、そんな痛みがあるのか紅子はわからなくてそうっと、胸元を押さえた。
 そして視線は、夢に向けられる。
 あれは戻らない景色なのだ。
 涙を拭い花咲く笑顔は、私の見送った、君の――
 ふるりと、紅子は首を振る。
 ――貴方の願望なのですね、と静かに問う。
 ――当たり前だ、と。
 既に冷たく、不愛想な顔を装う傘の君。紅子の視線を縫い留めて。
 ――お前に何を言われる権利もない、と返す。
「――そうですね」
 零れ落ちた言葉。
 それと共に、その言葉のうちに白昼夢は消え去っていく。

大成功 🔵​🔵​🔵​

黒鵺・瑞樹
アドリブOK
POW

白昼夢、己の願望を見せる夢。
俺には望みはあるけど願望と言えるかどうか。
だって諦めてる。
共にありたいと思っても願っても、俺ではきっと無理なんだともうあきらめてる。
それに願うにしても具体的にどうしたいかってのもわからんし、思いつかない。
自分の幸せは諦めてるからわかりやすい白昼夢は現れないだろうよ。
そうだな、彼の人が幸せであればとは思うけども、きっとそのそばに俺はいない。
僅かでも希望を持たない事。
きっとそれが望みだ。




 幻朧桜の花びらが散っていく。ひらひらはらはらと、ゆっくりと。
 黒鵺・瑞樹(界渡・f17491)はその様をただ、目で追っていた。
 その先に――何か、みえるだろうかと思って。
(「白昼夢、己の願望を見せる夢」)
 俺には望みはあるけど願望と言えるかどうか――と、瑞樹は息を吐いた。
(「だって諦めてる」)
 共にありたいと思っても願っても、俺ではきっと無理なんだともうあきらめてる。
 瑞樹はそれに、と瞳伏せる。
 それに願うにしても――具体的にどうしたいのか、というのもわからないのだ。思いつかないのだ。
 自分の幸せというものはわからないのだ。
 自分の幸せは諦めてるから、わかりやすい白昼夢は現れないだろうよと瑞樹は周囲を見渡す。
 ざわざわと幻朧桜が揺れている。揺れて――何かの像を映し出した。
 その光景に瑞樹は気付いて顔をあげる。
 そこに揺らめいていたのは、誰かの姿。それは彼の――
「そうだな、彼の人が幸せであればとは思うけども」
 きっとそのそばに俺はいない。ああ、いないと――その手に己がないことを瑞樹は見止める。
 やっぱりな、と思うだけなのだ。
 僅かでも希望を持たない事――きっとそれが、己の望みだ。
 瑞樹はこれ以上何を見る必要があるのかと進む。
 あの店主を、助けるために。

大成功 🔵​🔵​🔵​

篝・倫太郎
さっきまで隣に居たあの人は一足先に家路に着いた
此処にいるのはどう考えても白昼夢だろ
装いも手荷物も異なれば、そうとしか言いようがない

それでも……
手を差し伸べられたなら、名を呼ばれたなら
少しだけ、心が弾む
大概にチョロいもんだと自分でも思う

つい最近、漸く『殿』が取れた俺の名を呼ぶ声は
穏やかで耳に心地良く
差し伸べられて繋いだ手は
本物と遜色なく温かく優しい

今ある日常と何ら変わらない日々
これは今なのか、それとも、もっともっと先の事なのか
判らないけど……

そうであれば――

その想いはやっぱり心の何処かにあるんだろう
変わる事ない唯一無二と永く、永く
老いる事無く、共に過ごせたなら

これはそんな夢なんだろう、きっと……




 ふわりと、花弁が躍る幻朧桜の小径に篝・倫太郎(災禍狩り・f07291)はひとりでいた。
 さっきまで隣にいた彼は、一足先に家路についたのだ。
 だから、この今目の前に見える彼は――どう考えても白昼夢の彼なのだ。
 それに、先ほどとは装いも手荷物も異なれば、そうとしか言いようがない。
 白昼夢は、偽物だとわかっている。
 ちがうとわかっている。それでも倫太郎は――手を差し伸べられたなら。
 心は弾む。
 名を呼ばれたなら、一層。
 それは僅かな心の機微ではあるのだ。
 倫太郎は苦笑交じりに、大概にチョロいもんだと思う。
 ふと、思い出す。
 つい最近、漸く――『倫太郎殿』から『倫太郎』へと。『殿』が取れた己の名前を呼ぶ声は穏やかで耳に心地良く響く。
 差し伸べられたその手は本物と遜色なく。触れれば温かく優しいものなのだろう。
 今ある日常と何ら変わらない日々。
 これは今なのか、それとも、もっともっと先の事なのか。
(「判らないけど……」)
 そうであれば――
 ふと、笑い零れてしまった。
 その想いはやっぱり心の何処かにあるんだろうと倫太郎は小さく落とす。
 変わる事ない唯一無二と永く、永く――老いる事無く、共に過ごせたなら。
 己は老いてしまうから――その事実をわかっているから、これはない姿なのだとわかっている。
(「これはそんな夢なんだろう、きっと……」)
 だから共に生きていける。
 それは――幸せであるのだろうけれど。命の終わりのある倫太郎にとってこの光景はわずかばかり、虚しくも感じるものなのかもしれない。
 けれど今、享受していていいのなら、もう少しの間だけ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

葬・祝
うふふ、白昼夢なんてなかなか見られないですよねぇ
皆さん、何を見るんでしょう?
何を願うんでしょう?
何を嘆くんでしょう?
嘆きも哀しみも渇望も美味しいですから、振り撒いてくださるなら大歓迎なんですが、さて

……嗚呼、私です?
私は何も見ませんよ
だって、とっくに死んでますからね
死体は夢なんて見ないものです
それに、願いも祈りも私にはありませんからね
この余生は降って湧いたモラトリアムのようなもの
愉しいことしかしませんし、やりたいことしかしないので
焦がれる夢なんて、ありはしないんですよ

愉しそうに、可笑しそうに、うっそりと
夢を見ない悪霊は、からりころりと高下駄の音を鳴らして桜の中を歩き、わらう




 幻朧桜の小に足を運んだ葬・祝(   ・f27942)はざぁと走り抜けた風を擽ったいと感じて、そして瞳細めて笑み零す。
「うふふ、白昼夢なんてなかなか見られないですよねぇ」
 ここでは願いの形が現れるというのだけれども。

 皆さん、何を見るんでしょう?
 何を願うんでしょう?
 何を嘆くんでしょう?

 祝の心は躍っていた。
 ここで生まれる感情のすべては祝にとって惹かれるものになるだろうから。
「嘆きも哀しみも渇望も美味しいですから、振り撒いてくださるなら大歓迎なんですが、さて」
 さて――現れるのは、見せてくれるのは一体どんな、夢なのか。
 そう思ってくるりと視線回すと幻朧桜の枝葉にゆらめくものはあれど、形にはならぬのだ。
 そのゆらめきは祝にどうして、とためらいを向けているようなここち。
「……嗚呼、私です?」
 私は――何も見ませんよ、と祝は笑う。
「だって、とっくに死んでますからね」
 死体は夢なんて見ないものです――と、当たり前のことを言う。
 しかしもし、死体でも夢を見れたとしても、きっと映し出されるものはないのだろう。
「それに、願いも祈りも私にはありませんからね」
 この余生は降って湧いたモラトリアムのようなもの。
 だから、死んでいるけれども生きている。
「愉しいことしかしませんし、やりたいことしかしないので――焦がれる夢なんて、ありはしないんですよ」
 ころり、笑い転がしていく。
 愉しそうに、可笑しそうに、うっそりと――祝は瞳細めて、微笑むのだ。
 夢を見ないのだ。
 夢を見ない悪霊は、からりころりと高下駄の音を鳴らして幻朧桜の中を歩いていく。
 わらって、皆の見る夢を――ちらりとその瞳の端に、映してしまう。
 見られてしまったことを彼らが気づいていようと、気づいていなくとも。
 だいじょうぶ、だぁれにもいいませんと、笑ってただ胸の内に。

大成功 🔵​🔵​🔵​

リカルド・アヴリール
ライナス(f10398)と
アドリブ歓迎

桜の香りを追い掛けていた筈だ
不意に、ニームの香りに変わったと思えば
目の前にライナスの姿が見え始める

ライナスは隣に居るのに
何故、そんなに柔らかい笑みを浮かべているのか
作り物じゃない自然な笑みを、一体誰に向けているのか
主が誰に笑いかけようが……
所有物が疑問に思う必要などありはしないのに

胸の中心が軋む様に痛い
見たいと願った笑顔を、見たくないと思ってしまう
こんな夢から、早く抜け出したいと足を進めると――

お、れ……?
穏やかに笑い合って
共に歳を重ねていく姿に目を見開いてしまう
ライナス、お前……あんな風に笑えるんだな……
(いつか本当に見たい、とは口に出来ないまま)


ライナス・ブレイスフォード
リカルドf15138と

桜の花弁が舞うその先
リカルドが誰かに話しかける姿が映れば思わず瞳を眇めてしまう
隣に居た筈っつうのもあるけどよ…んな柔らかな笑みとか見た事なかったからな
桜で見えぬリカルドの相手に苛立ちと共に足を進めかけるーも
花弁の向こう同じく自然な笑みを浮かべる己自身が見えたなら思わず瞳を瞬かせちまうかもしれねえ
ゆっくりと年を重ね皺と白が滲む髪に変わるその姿は…ああ、願望が見せる白昼夢か
リカルド、あんたは何を視…って。…もしかして同じもんみてたのかよ?
僅かに頬が緩んだのはリカルドも同じ願いなんじゃねえかと思ったからとは言わねえけど
…あんたこそ、ああいう表情もっと見せてもいいんじゃねえの?




 幻朧桜の花びらが、風に巻き上げられて視界を覆いつくす。
 桜の香を追いかけていた筈なのに――不意に、ニームの香に変わった。
 リカルド・アヴリール(機人背反・f15138)はすんと花を鳴らして傍らにいるライナス・ブレイスフォード(ダンピールのグールドライバー・f10398)へと視線向けようとしたのだが――目の前に、その姿が見え始めた。
 隣にいるのに、と思う。
 それはライナスも同じだった。
 リカルドは傍らにいるとうのに、今目の前で誰かに話しかけている。
 その姿が映れば、ライナスは思わず瞳を眇めていた。
 隣にいたはずの彼が、目の前にいて誰かに笑みを向けている。柔らかな、笑みを。
 それが、ライナスは面白くない。
(「……んな柔らかな笑みとか、見た事ない」)
 ざぁと躍る幻朧桜の花弁の中、その相手が誰かは見えやしない。
 苛立ちと共に、それが誰が見てやろうとライナスは足を進め掛け――気づいた。
 リカルドの前、同じく自然な笑みを浮かべる己自身の姿が見えて、ライナスは瞬く。
 そして、その目の前のライナスとリカルドはゆっくりと年を重ね、皺を刻み、髪色に白を滲ませていく様を目に、視線は緩やかなものへと変わった。
「……ああ」
 願望が見せる白昼夢か、とライナスは零した。
 そして――リカルドもまた、白昼夢を前に戸惑っていた。
 隣にいたはず――それよりも、何故、そんなに柔らかい笑みを浮かべているのか。
 作り物じゃない自然な笑みを、一体誰に向けているのか――誰に、なのだろうか。
(「主が誰に笑いかけようが……」)
 所有物が疑問に思う必要などありはしないのに。
 ありはしないはずなのに、今は胸の中心が軋む様に痛い。
 ライナスが浮かべた笑顔。見たいと願った笑顔を、見たくないと思ってしまうちぐはぐさ。
 こんな夢から、早く抜け出したいとリカルドは足を進める。
 すると、ライナスが笑いかけている相手が見えた。
 それは、その姿は――と、息を飲む。
「お、れ……?」
 穏やかに笑い合って。共に歳を重ねていく姿に目を見開いてしまう。
 そんな姿は、リカルドの心にさざなみたてていくのだ。
 そんな中、傍らから声がひとつ向けられはっとする。
「リカルド、あんたは何を視……って」
 問いかけて、ライナスは言葉閉じた。
 なんとなくだ。何を見ていたかは本当にわからない。
 けれど同じであれば――などと。
「……もしかして同じもんみてたのかよ?」
 問いかければ同じもの? とリカルドは零す。
 僅かに頬が緩んだのはリカルドも同じ願いなのではないかと、思ったからとは、ライナスは決して紡がない。
 リカルドはふ、と息吐いて同じものかもな、と零す。
「ライナス、お前……あんな風に笑えるんだな……」
 ぽつりと、零れ落ちた。
 いつか本当に見たい、とは口にできないままに。
「……あんたこそ、ああいう表情もっと見せてもいいんじゃねえの?」
 それはどんなだ、とリカルドは聞くけれどライナスは笑ってさぁ、どんな表情だろうなと揶揄うように返すのだ。
 その表情に自分で、気づいてほしくて。
 そしてその表情は無理に作らせるものではなく――いつかと。
 僅かの願いを、互いにもって。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

岬・珮李
さてと、ちゃんと見失わないように……って、あれ?
……まいったな。皆とはぐれちゃった
とりあえず先に進むしかないかあ

それにしても、本当にきれいな光景
とはいえ、自分でもどんな白昼夢を見せられるのかいまいちピンとこない、けど
―ああ、成程
そういう風に来たか

これはボクだ。戦神じゃない。ただのヒトであるボクだ
神の血を飲まず、ヒトとして戦って
そしてヒトとして死ぬボク
皆のために負けられなかったから選んだこの道に後悔はないけど、まだこんな願い持ってたんだなあ

けど、こんなのあくまで夢だ
あいにくとボクはそれを自分の意志で選ばなかったし、それでいいと思ってる
まあ、たまに疲れるけど…仕方ないよ
さ、早くみんなと合流しなきゃ




 幻朧桜の小径に足踏み入れて、岬・珮李(スラッシュエッジ・f27446)はくるりと周囲を見回した。
「さてと、ちゃんと見失わないように……って、あれ?」
 ざあ、と風が吹いて花弁が舞う。すると――ともにいたはずのみんなの姿が見えなくて。
「……まいったな。皆とはぐれちゃった」
 珮李はもう一度、くるりと自分の周りを見る。
 誰の気配もない。珮李はここで立ち止まっていても、駄目かとひとつ息を吐く。
「とりあえず先に進むしかないかあ」
 ゆっくりと、珮李は歩みだす。ざわりと幻朧桜の枝葉が揺れた気がした。
 さわさわと花や葉のこすれる音は穏やかな心地。ふわりと風が頬を撫でていくのも心地よい。
「それにしても、本当にきれいな光景」
 幻朧桜の小径は穏やかで――しかしここは、白昼夢を見せるという。
 それがどんな白昼夢なのか。珮李はいまいちピンとこなかった。
 けれど、それが像を結べば。
「――ああ、成程」
 そういう風に来たか、と珮李は零した。
 幻朧桜の枝葉に揺らめいたそれは確かに自分の姿だった。
(「これはボクだ」)
 けれど、自分とは同じではない、自分。
(「戦神じゃない。ただのヒトであるボクだ」)
 死に際で神の血を口にせず――絶えた、己の姿。
 その戦いの様は記憶の端にあった。
 そして今の自分となるかどうかの、分岐点が巡る。
(「神の血を飲まず、ヒトとして戦って。そしてヒトとして死ぬボク」)
 あの時、あのまま死んでいれば――今の自分はない。
 そして、守れたものもなかったかもしれない。
 珮李は小さく吐息零す。
「皆のために負けられなかったから選んだこの道に後悔はないけど、」
 まだこんな願い持ってたんだなあと、何かを懐かしむように珮李は落とした。
 ゆらゆらと、幻朧桜の中でその光景がゆっくりと動いていく。
 その光景に瞳細め珮李は思うのだ。
 こんなのはあくまで夢だ、と。
「あいにくとボクはそれを自分の意志で選ばなかったし、それでいいと思ってる」
 だから今、この光景を見ても――後悔を抱いたりはない。
 己が選んだからこそ今があるのだから。
「まあ、たまに疲れるけど……仕方ないよ」
 懐かしい光景ではあったけれど、これに心とらわれることはなく。
「さ、早くみんなと合流しなきゃ」
 珮李はその光景を――己のあり得たかもしれない過去を、幻朧桜の小径に置いていく。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ベル・ルヴェール
アヤカ(f01194)

何かの香りがする。この香りが何かは分からない。
けど目の前の景色はどうした。
僕の片割れと一番最後の主と三人で食事を共にしている。
あれはとても幸福な時間だった。今も十分すぎる程に僕は幸福だ。
でもあれは今よりももっと幸福な景色だ。

僕はこの景色を見続ける事は望まない。これは随分と昔に過ぎ去った過去だ。
僕は身に着ける装飾を鳴らして幻想から目覚める。
アヤカ、お前も起きたか?寝ぼけていると冷たい水をかけるぞ。
僕はこの通りピンピンとしている。褒めるか?褒めても良いぞ。

僕たちは何かに導かれているのだろうか。
ああ、ワクワクとするな。


浮世・綾華
ベルと

ふと目を開けば、広がる景色があった
懐かしいような、それでいて新鮮な香り

あの日かみさまと見た赤い花が揺れる花畑に
青空が混じっている

どくりと、脈打つ感覚
太陽のように綻ぶ笑顔の果てにあるものを知ってる
全部終わるってこと

今を生きていくと決めてもなお
そこにいて欲しかったと想う心が消えることはない
多分、永遠に――

目を醒ませば、声を掛けられてああと頷いた
うわ、それ最悪
本気か冗談かそれでも調子を取り戻すには十分で
彼も何かを見たのだろうか、視線を合わせれば
ふは。何で褒めんだよ
いや、ぴんぴんしてるなら良かったケドさ

ベルの言葉には頷けずに舞う桜に手を伸ばした。でも
――導かれてるなら行くしかないよな




 何かの香りがして――ベル・ルヴェール(灼熱の衣・f18504)は顔をあげる。
 しかしこの香りが何かは、分からなかった。
 これはと考えているとベルの視線の先。幻朧桜の枝葉が揺れて――景色が変わる。
 風の音だけがやけに大きく聞こえて、視界を薙いでいく。それに少し瞳眇めた矢先、僅かばかり目を見張った。
 ぼんやりとしていたそれが鮮明になっていく。
(「僕の片割れと」)
 一番最後の主と、三人で食事を共にしている。
 今の己は主の面影を持つものだ。けれど、彼は勇敢で心優しい者だったから浮かべる表情は自分とは違う。
 それはとても幸福な時間だった。笑って、楽しくすごした幸福な、三人の時間。
 ベルは思う。もちろん今も十分すぎる程に幸福であるのだと。
 でもあれは――
(「あれは今よりももっと幸福な景色だ」)
 ベルの静かな水の上に、ぽつり落された一滴が波紋を描いていくように。ベルの心にも響くものがある。
 それは確かなことなのだろう。
 しかし、この景色をずっと見続ける事を、ベルは望まなかった。
 これは随分と昔に過ぎ去った過去なのだから。このような時間はもう、戻ってこないことを知っている。
 ベルは音を生み出す。纏う金の装飾を鳴らしてそれを幻想から目覚める道しるべに。
 その音に――浮世・綾華(千日紅・f01194)も目を覚ます。
「アヤカ、お前も起きたか?」
 目を覚まし、横からのその声に綾華はああと頷いた。
「寝ぼけていると冷たい水をかけるぞ」
「うわ、それ最悪」
 水をかけるような動きをするベル。それは本気か冗談か、でも調子を取り戻すには十分だ。
 あの、白昼夢から――幻朧桜の香りから、何か違う。懐かしいような、それでいて新鮮な香りを感じて。
 綾華も広がる景色に捕らわれていた。
 綾華の前に広がったのは、あの日かみさまと見た赤い花が揺れる花畑に、青空が混じっている様。
 それを目にした瞬間――どくりと、脈打つ感覚があった。
 太陽のように綻ぶ笑顔の果てにあるものを知っているから。
 全部終わるということを――それを知っているから、ここにそれがあることを思い出す。
 今を生きていくと決めてもなお、そこにいて欲しかったと想う心が消えることがないことを。
(「多分、永遠に――」)
 きゅうと胸を締め付けるような痛みを感じていると、その音がして目覚めたのだ。
 目の前に広がっていた像は掻き消えて、傍らを見ればベルがいる。
 白昼夢から抜け出した綾華はベルも何か見たのだろうか、と視線合わせた。
 するとベルはぐっと力こぶつくるようなポーズをして。
「僕はこの通りピンピンとしている。褒めるか? 褒めても良いぞ」
「ふは。何で褒めんだよ。いや、ぴんぴんしてるなら良かったケドさ」
 綾華の心に何かが深く蹲っているけれど、それが和らいでいくようなものがあった。
「僕たちは何かに導かれているのだろうか。ああ、ワクワクとするな」
 けれど、ベルと綾華の足取りは違っていた。
 ベルは前に進むことに前向き。しかし綾華は、その言葉には頷けずにひらりと舞い踊る幻朧桜の花びらに手を伸ばした。
「――導かれてるなら行くしかないよな」
 綾華は呟いて、一歩を踏み出す。
 ひらひら、落ちる花弁を案内役のようだと紡ぎ追いかけるベルと共に。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

劉・碧
【翠靑星】

幻朧桜の小径を往けば懐かしい声がする
あにさま、と呼ぶ声
碧、と呼びかける声
そのどちらにも振り向けば、見慣れた妹と師範である旦那様のお姿が見える

無邪気に俺の足に纏わりつく妹の髪を撫でてやると、嬉しそうに笑う
帰ろうと声を掛けられれば俺がまだ旦那様に必要な使用人であると知らされることに多幸感が押し寄せる

俺は帰るのだ
(どこに?)
帰ろう
(誰と?)

臆、俺は何か忘れている
そうだ、宵とザッフィーロを紹介しよう
俺の親友に会わせればもっと喜ぶ筈だ
そう思って声を掛けようとすると姿が遠ざかっている
混乱しながら友人達を探せば思いの外近くに居た
頭が冷めてきて苛立ちを覚える
一瞬でも幸福だと感じたことが、悔しかった


ザッフィーロ・アドラツィオーネ
【翠靑星】

降り注ぐ花弁の向こうに燃える様な赤毛を見止めれば微かに瞳を眇めてしまう
肉を得て共に時間を過ごした前所有者
その彼女と共に桜を見、感じた思いは過去の物とはいえ、己にとっては大事な物だ
だからこそ…胸を騒がせるこの景色は―思い出を冒涜するかの様なこれは赦せぬと『破魔』を使い幻影を退けよう
幻影が晴れれば周囲を見回し二人の元へ
碧も宵も大丈夫か…?
そう声を掛けながらも宵と碧の顔を見れば自然と安堵の表情が零れてしまうやもしれん
猟兵になる前ならば惑っていたかもしれんが愛しい伴侶と大事な親友の居るこの場所が俺の居場所だからな
そう照れくさそうに宵の言葉に返せば笑みと共に小道へ視線を
さて…では、先を急ぐか


逢坂・宵
【翠靑星】
花咲かす常桜の花吹雪のその眺めにふと
この器物の造り手と最初の主人の姿が見えた気がして
器物たる僕をあるべき形で扱ってくれた彼ら
器物としての幸せだけを言うならば、まさにあの頃が理想にして願望でしょう

けれど、いまの僕は意思をもち、心を擁き、歩み寄る足をそなえ、抱きしめられる腕がある
嘗ては望むべくもなかった最上級の幸せが、いまここにあります

幻影を「破魔」「除霊」「浄化」で退けたなら
ザッフィーロと碧君の姿を探し
ああ、二人とも大丈夫ですか
大事ありませんかと二人を見比べて
僕は大丈夫ですと言葉を
ええ、いま立つ此処よりも行きたい場所などありません
過去は自分の足跡であり、道標にはなり得ませんからね




 ザッフィーロ・アドラツィオーネ(赦しの指輪・f06826)と、逢坂・宵(天廻アストロラーベ・f02925)。そして劉・碧(夜来香・f11172)は、幻朧桜の中を歩いていた。
 しかし、不思議なことに――互いの姿が激しく吹いて花弁を巻き上げる。
 碧はその中で視線を巡らせる。その耳に懐かしい声が届いたからだ。
 幻朧桜の小径を往く中でとらえたそれは。
 あにさま、と呼ぶ声。
 碧、と呼びかける声。
 そのどちらにも碧は振り向いた。そこにいたのは見慣れた妹と師範である――。
(「旦那様」)
 心の中で、彼らのことを呼べば――近づいてくる。
 無邪気に、碧の足にまとわりつく妹の髪をなでようと手を伸ばす。それだけで嬉しそうに笑って。
 そして――帰ろう、と。
 碧に向かって声が向けられた。
 それは碧が、目の前にいる旦那様に必要な使用人であるということ。
 それだけで、多幸感が押し寄せる。
 俺は帰るのだ、と歩む。
(「どこに?」)
 けれど心に、疑問が浮かんだ。
 帰ろう――そう、響く。
(「誰と?」)
 碧は、歩みを止めた。
「臆、俺は何か忘れている」
 何をだろうかと考え――碧は、そうだと零す。
 妹と旦那様、二人を俺の親友に会わせればもっと喜ぶ筈だ。
 そう思って二人に声をかけようとすると姿が遠ざかっていく。
 二人は一体どこへ行くのか。そういえば友人たちの姿も見えない。
 その頃、宵は――最初の主人の姿が見えた気がして、視線を巡らせていた。
 旧き天図盤のヤドリガミである宵。
 器物たる僕をあるべき形で扱ってくれた彼ら――器物としての幸せだけを言うならば、まさにあの頃が理想にして願望。
 丁寧に扱われ、そしてともに星の下で過ごす。
 けれど、今の良いは器物ではないのだ。
(「いまの僕は意思をもち、心を擁き、歩み寄る足をそなえ、抱きしめられる腕がある」)
 ひとの身があることで得たのは自分で動き回れる自由――そして、それだけではないのだ。
 宵は、己を正しく幸せに使ってくれた彼らへと柔らかな表情向ける。
「嘗ては望むべくもなかった最上級の幸せが、いまここにあります」
 そう告げると、白昼夢の中でみんなが笑った気がした。
 しかしこのままでいるわけにはいかないのだ。
 何がこれに響くかはわからない。宵は破魔に除霊、浄化と持てる力をこの場に広げた。
 そしてザッフィーロも降り注ぐ花弁の向こうに――燃える様な赤毛を見止め、微かに瞳を眇めていた。
 この、人の身の肉を得て共に時間を過ごした前所有者。
 彼女の赤毛の、その色を忘れることはない。
 その彼女と共に桜を見、感じた思いは過去の物とはいえ、己にとっては大事な物。
 こう易々と見せられるのは、ザッフィーロの心を逆撫でるばかり。
 胸を騒がせるこの景色は――思い出を冒涜するかの様なもの。これは赦せぬとザッフィーロは己の身から破魔の力を溢れさせ退けていく。
 すると、その幻は消え去って――ザッフィーロは周囲を見回す。
 そして宵の気配が、彼の力がまた重なるのも感じていた。
 碧は視界が晴れたことにより、二人の姿を見つけて、頭も冷えてくる。案外近くにいたものだ。
 先ほどまで見えていたのは白昼夢なのだ。そのことに、碧は苛立ちを覚えていた。
 一瞬でも幸福だと感じたことが、悔しくて碧はぎゅっと拳を握りこんで。
 それも、ふたりの声で柔らかに消えていく。
「ああ、二人とも大丈夫ですか」
「碧も宵も大丈夫か……?」
 近くにいた、と二人の顔を見て自然と安堵の表情零れるザッフィーロ。
 宵も己とザッフィーロの声重なり、僕は大丈夫ですと言葉返す。
 猟兵になる前ならば、あのような幻を見れば戸惑っていたかもしれない。
 けれど今、そうなることはないとザッフィーロは思う。
「愛しい伴侶と大事な親友の居るこの場所が俺の居場所だからな」
「ええ、いま立つ此処よりも行きたい場所などありません」
 その言葉に宵も微笑み、ザッフィーロは照れ臭そうにするのだ。
「過去は自分の足跡であり、道標にはなり得ませんからね」
「さて……では、先を急ぐか」
 まだ、幻朧桜の作る道は――続いているのだから。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

リアム・ペンタス
アドリブ歓迎
引き続き美桜と一緒

もちろんよ美桜
優しく、でもほどけてしまわないように美桜の手を握り返すわ

美桜の白昼夢を一緒に見るわ
……あたしの白昼夢は、見たらきっと泣いてしまうから
だから考えないようにするわ

ええ、見えているわ
美桜に似た面差しの二人と青年が一人
きっと美桜にとって大切な人たちなのね
こんな『もしも』も素敵だし
『もしも』を想って心が軽くなるのは悪いことではないけれど
それに溺れたら『本当』の彼らを置いてきぼりにしてしまうわ
『もしも』を想っても『本当』を忘れないでいてあげてね

……ああ、悪趣味で虫唾が走る
影朧だったかしら絶対に始末するわ
だからじっくり観察しましょう
こんなもの見せてどうしたいのかを


常葉・美桜
引き続きリアムさんと一緒に
りっちゃんさんと素敵なお買い物ができたから
お仕事もがんばらなきゃなのよ

ねえ、りっちゃんさん?一つお願いがあるのだけど……

あたしが迷子にならないように手を繋いでもいいかしら?

ふんわり漂う優しい香り……

キョロキョロ見回すと
目の前には3つの影

りっちゃんさんにもみえてるのかしら?

見た事あるような、ないような姿
あれは誰なのかしら?

白昼夢で見るのは亡くなった両親と
兄がわりの青年の姿

楽しげにお話ししてる姿に

少しの違和感

ずっと、みんなで一緒なら
どんなにステキなのかしら

でも、知ってるの
これはきっと真実じゃないって

だって、あたしの知ってるぜろくんはね
いつだって少し哀しそうに笑うんだから




 ふわふわと、花弁が舞う様を常葉・美桜(ダンピールの人形遣い・f00543)は見上げていた。
 その光景をリアム・ペンタス(星屑の道標・f19621)もともに見詰めて。
 そして美桜はリアムを見詰める。
(「りっちゃんさんと素敵なお買い物ができたから、お仕事もがんばらなきゃなのよ」)
 そう思って、美桜は。
「ねえ、りっちゃんさん? 一つお願いがあるのだけど……」
 あたしが迷子にならないように手を繋いでもいいかしら? と美桜は手を差し出す。
 するとリアムは笑って。
「もちろんよ美桜」
 優しく、でもほどけてしまわないように美桜の手をリアムは握り返す。
 そしてゆっくり、歩いていくと――二人の前を風が駆け抜けて、そしてゆうらりと花弁の中に像を結ぶ。
 ふんわり漂う優しい香りに気づいて、美桜は顔をあげキョロキョロと見回す。
 目の前には三つの影が現れて、ちらりと美桜はリアムを見た。
(「りっちゃんさんにもみえてるのかしら?」)
 その視線を受け取って、リアムはみえてると小さく頷いた。
 リアムはよかったと思う。
 己の白昼夢がこの、目の前に形にならなかったことを。
(「……あたしの白昼夢は、見たらきっと泣いてしまうから」)
 だから考えないように――そう努めて共に見詰める。
「ええ、見えているわ」
 美桜に似た面差しの二人と、青年が一人。
 それは美桜の亡くなった両親と兄がわりの青年の姿だ。
(「きっと美桜にとって大切な人たちなのね」)
 彼らは、楽しげに話しをしている。
 その姿に美桜は少しの違和感を感じてもいた。
「ずっと、みんなで一緒なら」
 どんなにステキなのかしら――ぽつりと美桜は零す。
 楽しそうで幸せそうな光景。
 この光景に美桜が何か抱いていることは、リアムにも分かった。
(「こんな『もしも』も素敵だし、『もしも』を想って心が軽くなるのは悪いことではないけれど」)
――それに溺れたら『本当』の彼らを置いてきぼりにしてしまうわ。
 リアムはそう思って、繋いだ手に少しだけ、力込めてねぇ、美桜と声向ける。
『もしも』を想っても『本当』を忘れないでいてあげてね、と囁いて。
 美桜はその言葉にうんと頷いた。
 幸せそう――でも、知っている。
(「これはきっと真実じゃない」)
 だって、と美桜は青年を見詰めた。良く知っている。
 だからわかる――あんな笑い方はしないのだから。
「あたしの知ってるぜろくんはね」
 いつだって少し哀しそうに笑うんだからと美桜は向けるのだ。
 小さな声で。
 その声が聞こえたか、どうなのか。
「……ああ、悪趣味で虫唾が走る」
 リアムも、思わずと言ったように零していた。
(「影朧だったかしら絶対に始末するわ」)
 だからじっくり観察しましょう、とその視線は冴えるばかり。
 こんなもの見せてどうしたいのか――それを知るために。
 ここに巡った幸せな光景は――本当に、幸せなのだろうかと。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

楜沢・紺
故郷では、妖狐は大事な事を成したり
大切な事を学ぶと尾が増えると言う
九尾を持つ妖狐は偉く賢いのだと言い伝えられてた
九尾を得た自分は何をするのだろう。

夕焼け? 雲が赤く燃えている。戦? 焼けた血肉の臭い。
九つの尾を持つ女の人の後姿が見える
知らない城の上からそれを見下ろしている。

どういう状況か分からないけど
この人がこの状況を作り出した事だけは分かる。
九尾の妖狐は、一番賢くて偉いんじゃなかったの……?

だけど、ボクは九尾になろうとして
九尾に成って。一体何をしようとしていたのだっけ?

あ……いい匂いがする。社のみんなの香の匂い、ボクもそこに行かなきゃ。
ボクも何時か、何をするか答えを出さないといけないのかな?




 幻朧桜の枝葉が、花々が揺らめく先を楜沢・紺(二ツ尾の妖狐・f01279)は見詰めていた。
 紺の故郷では、妖狐は大事な事を成したり大切な事を学ぶと尾が増えると言う。
 そして、九尾を持つ妖狐は偉く賢いのだと言い伝えられてた。
 今、紺の尾は二本だ。
 ではこの尾があと七本増えて、九尾を得た自分は何をするのだろうと紺は思うのだ。
 そして――目の前で揺らめく光景。
 その色は赤だった。その赤は、あかは――今まで見たことがある色か、それとも。
「夕焼け? 雲が赤く燃えている。戦?」
 焼けた血肉の臭いが――広がっていくような。
 そんな中で妖狐の後姿が見えた。
 女だ。九つの尾を持つ女。
 知らない城の上からそれを見下ろしている姿だけが見えてくる。
 一体、どんな状況なのか――それは紺にはわからない。
 けれど、この人がこの状況を作り出した事だけは分かると紺はその瞳で見つめていた。
(「九尾の妖狐は、一番賢くて偉いんじゃなかったの……?」)
 どうしてそんなことをしたのかは、わからないまま。
 九尾がゆうらり、ゆれる。
 その様が紺の目にひどく焼き付いた。
「ボクは」
 九尾になろうとして――九尾に成って。
 一体何をしようとしていたのだっけ?
 その心にぷかりと浮かんできた疑問。それに答えがあるのか、それを見つけられるのかは今の紺にはわからない。
 けれどふと、その鼻をくすぐる香りがあった。
 血肉の臭いではなく――それは。
「あ……いい匂いがする」
 それは――社のみんなの、香の匂い。
 ボクもそこに行かなきゃ、と紺は歩み始める。ここで立ち止まっていては、きっといけないのだ。
(「ボクも何時か、何をするか答えを出さないといけないのかな?」)
 その答えは、まだ胸にはなく。

大成功 🔵​🔵​🔵​

思・桜
幻朧桜の花々の香りに惹かれ、一歩また一歩
眼に映るは愛しき家族の幻
血の繋がらぬわたくしを、可愛がってくださる優しいあにさまのお姿
容姿端麗で聡明な母御と思慮深く文武両道の父御
花のかんばせと名高いあねさま
双つ子の片割れ、わたくしの妹
あにさまと同じ陽光抱く翡翠の瞳が羨ましかった
家族みんなが楽しそうに笑っている光景はとても眩しく

けれどそれはわたくしが築けなかったもの、手放した過去
今のわたくしはこの地を踏む、龍神の…猟兵として此処に在りまする
故に立ち止まる訳には参りませぬ

悪戯に心惑わす怪異を討つ為に
前を見据え道を急ぎましょう
道は続いておりまする
悪意の源を絶つことが出来れば
その先に縁があり、幸を運びましょう




 幻朧桜の花々の香りに惹かれ、一歩また一歩と思・桜(水葩・f29610)は歩む。
 ざぁざぁと風が吹いて桜の花々は揺れるのだ。揺れるその音の中、花が翳す影。
 どこにでもありそうで、それはここにしかないものだとなぜか思えた。
 そしてその中で桜は、見つけてしまったのだ。
 瞬くその瞳に映してしまった――愛しき家族の幻を。
 あにさま、とぽつりと声が零れおちた。
(「血の繋がらぬわたくしを、可愛がってくださる優しいあにさまのお姿」)
 容姿端麗で聡明な母御と思慮深く文武両道の父御、花のかんばせと名高いあねさまが並んで。
 そして、双つ子の片割れ、わたくしの妹と桜は見詰める。
 その、妹の瞳の色は――翡翠。
 あにさまと同じ陽光抱く翡翠の瞳が羨ましかったものだ。
 家族みんなが楽しそうに笑っている光景は、桜にはとても眩しいものだった。
 その家族の楽しそうで幸せそうな光景は、桜が築けなかったもの。手放した、過去だった。
 幸せそうな――いや、幸せな家族の、過去。
 たとえ幻だとしても、桜は告げる。
「今のわたくしはこの地を踏む、龍神の……猟兵として此処に在りまする」
 故に立ち止まる訳には参りませぬ、と言葉向けて。
 それが彼らに届いているかどうかは――いや、届いていていないことはわかるのだ。
 だって、幻なのだから。
 桜はふ、と息を吐かう。そして一度瞳を閉じ、瞬いて前を見据えた。
 悪戯に心惑わす怪異を討つ為に、その歩みは先ほどより早くなる。
 道は続いているのだから。
 悪意の源を絶つことが出来れば――その先に縁があり、幸を運びましょうと桜の心に迷いは無かった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

旭・まどか
梟示(f24788)と

その言葉、そっくりそのまま返してあげる
無自覚な彼と改善する気が無い君と
どちらがより罪深いのだろうね

夢だと解っているならば呑まれるなんてありえない
それが例え、どれほど幸福な夢だろうとも

案ずる君に手を振り知覚する夢の世界を歩もうか
話を聞いた時から浮かぶ光景はひとつだけ
“お前”が未だ、この世界に在る姿

やっぱりね

夏の陽射しに負けぬ笑み
あちこちへ遊びに行きたいと浮足立つ姿

在って然るべきだと疑いもしなかったその日々が
どれ程儚いものだったのか
喪ってしまってから気付くなんて、本当に、愚か

自嘲と共にまたねと口作り

ただいま
夢見が悪いのは今に始まった事じゃあないよ
君の顔色には負けるけれど、ね


高塔・梟示
まどか(f18469)君と

己の異常に無自覚とは良い傾向じゃないな
こっちは死にはしないから、と肩竦め
休む為にも確り働かなければね

わたし達も小径へ
目立たぬよう店主の後をつけよう

…何の香りだろう
揺らぐ景色にはた、と足を止め
小さくも確り者の相棒を見遣れば
どうか無事に、幻に飲まれぬよう

瞼を閉じ、ゆっくり開く
長い金髪が風に揺れる
手を差出し微笑む姿に触れようと
瞬間、彼女の姿がぶれる

…違う
呟き手を引いて
俺が繋ぎ留めたいものは
此処には無い

全ては変わって行くんだ
手を取りたいのは、もう君じゃない

やあ、まどか君
お目覚めは如何かな?

失せ物探しで少年を見つければ
またご挨拶だね、と微笑んで
さて、仕事の続きと行こうじゃないか




 店で買い物をし、店主の様子を近くで目にした。
 店主の彼は、本当に――今、ぎりぎり保っているところなのだろう。それは目に見えて明らかなのに、本人は気付いているのか、いないのか。
 おそらく気づいてはいないのだろう。そうなるように仕向けられている可能性もあるが、それは今はわからぬこと。
「己の異常に無自覚とは良い傾向じゃないな」
 高塔・梟示(カラカの街へ・f24788)の言葉に旭・まどか(MementoMori・f18469)は視線を僅かにむけて。
「その言葉、そっくりそのまま返してあげる」
 無自覚な彼と改善する気が無い君と――どちらがより罪深いのだろうね、と問い掛けるのだ。
 まどかの声にいろはあるようで、なくて。梟示は肩を竦めて。
「こっちは死にはしないから」
 そう言って休む為にも確り働かなければねと軽く返す。
 目立たぬようにふたりも、幻朧桜の小径へと彼を追って向かう。
 見事な幻朧桜の小径は花弁がひらひらと舞い踊り、いつの間にか彼の姿はみえなくなっていた。
 ここは――白昼夢が、目の前に現れるという。
 それは、一体どんなものか。
「……何の香りだろう」
 梟示は己の鼻をくすぐる香りに気づいた。そして揺らぐ景色にはた、と足止める。
 梟示は小さくとも確り者の相棒、まどかを見遣る。
 どうか無事に、幻に飲まれぬよう――梟示の視線にまどかはひらりと手を振り、大丈夫だと告げる。
 夢だと解っているならば呑まれるなんてありえないとまどかは思う。
(「それが例え、どれほど幸福な夢だろうとも」)
 夢は、夢でしかないのだから。
 話を聞いた時から浮かぶ光景はひとつだけだった。
 まどかの前に浮かび上がる――“お前”が未だ、この世界に在る姿。
「やっぱりね」
 まどかは僅かに瞳細める。
 夏の陽射しに負けぬ笑み。
 あちこちへ遊びに行きたいと浮足立つ姿。
 それは――在って然るべきだと疑いもしなかった日々。
 その日々がどれ程儚いものだったのか。
「本当に、愚か」
 喪ってしまってから気付くなんて、とまどかの心に落ちていく。
 僅かに口端が引きあがるが、笑んでいるわけではなく。
 それは自嘲で、瞳は伏せられる。
「またね」
 そう告げると、目の前のものが揺らいだ。
 これは夢なのだ。覚める時はすぐにやってくる。
 そして梟示も、また出会っていた。
 瞼を閉じ、ゆっくり開く。
 その先で長い金髪が、風に揺れていた。
 微笑んでいる――手を差し出し微笑む姿に触れようと梟示も手を伸ばした。
 瞬間、彼女のすがたがぶれる。
 それは夢であり、実はここにないからだ。
「……違う」
 呟き、手を引く梟示。
 わかっては、いるのだ。
(「俺が繋ぎ留めたいものは、此処には無い」)
 梟示は彼女を見詰め、ゆっくりとその口開く。
「全ては変わって行くんだ。手を取りたいのは、もう君じゃない」
 君ではないと告げる――幻に。
 ゆらり、揺れて消えていく姿はさよならを告げているようだ。
 けれど目の前の光景が消え去れば、ここは変わらず幻朧桜の小径だ。
 探す事もなく、視線巡らせただけで梟示はまどかの姿をみつける。
「やあ、まどか君。お目覚めは如何かな?」
「ただいま。夢見が悪いのは今に始まった事じゃあないよ」
 君の顔色には負けるけれど、ね――と、まどかは言って。
 梟示はまたご挨拶だね、と微笑み返す。
「さて、仕事の続きと行こうじゃないか」
 まどかは小さく頷いて、ふたりゆるりとまた歩み始める。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

橙樹・千織
願望を映す白昼夢ですか

呟き浮かぶのはあの子の姿
性懲りも無くあの子との日々が見えるのだと思っていたが…

風に舞い上がった桜が映したのは
大切な友人達で賑わう桜の館

いつものように集い
チョコを食べ、戯れ、笑い合う
愛おしく、護りたいと想っている光景
今と違うのは
彼らが数年経た姿であること

ぼうっと見入っていれば名を呼ばれ
どうかしたのかという視線には
何でも無いと曖昧な笑みを返す

この光景が今からどれくらい後なのかわからないけれど
その時もそこに私が居て良いのだろうか
自分が何なのかもわからぬ歪な私も

でも…
我儘が許されるなら
大切な人達が大切な場所で過ごす日々の中に
できうる限り長く共に在れたらと
匂い袋と首飾りを抱いて想う




 ふわりと風が、橙樹・千織(藍櫻を舞唄う面影草・f02428)の髪を揺らしていく。
「願望を映す白昼夢ですか」
 千織の呟きと共に浮かび上がる姿があった。
「性懲りも無くあの子との日々が見えるのだと思っていたが……」
 風に舞い上がった幻朧桜の中、映されたのは大切な友人達で賑わう桜の館だ。
 いつものように集い、共に時間を過ごす。
 チョコを食べ、戯れ、笑い合う。
 愛おしく、護りたいと想っている光景が千織の前で巡るのだ。
 ただ、一つ――今と違うのは、彼らの姿が数年経た姿であることだ。
 これは、今の――その先の光景。ねがい。
 これからの先も、みんなと――楽しい、時間が続けば。
 ぼうっと千織が見入っていると己の名が耳を擽る。
 誰かが、名を呼んで。
 そちらを向けば、どうしたのかという視線と出会う。
 何でも無いと千織は曖昧な笑みを返してよくよく、この白昼夢を見詰める。
 これはどのくらい先の光景なのだろうか。
 それはわからない。
 その時も、そこに――
(「私が居て良いのだろうか」)
 自分が何なのかもわからぬ歪な私も――居て、良いのだろうか。
 千織の心の中で何かがくるりと、踊るように巡って、駆けていく心地。
 きゅっと胸に手を当てて、ぎゅっと握りこんだのは心のうちに何かが、あるからだ。
「でも……我儘が許されるなら」
 居たいと――思う。
 大切な人達が、大切な場所で過ごす日々の中に。
「できうる限り」
 長く共に在れたらと――願う。
 ふわりと、香りが巡った。それは、さっき送られた匂い袋の香り。
 そして首飾りを抱いて、千織は思うのだ。
 この光景は幻であるけれど――いつか訪れる時であるなら、その時は共にと。

大成功 🔵​🔵​🔵​

カトル・カール
行く先がたまたま同じ方向――なんて風を装って後を追ったが
桜舞う風に包まれて、気づけば懐かしい風景が広がっている
砂と石の荒れ果てた大地。窪地で死んだ兄弟が焚き火を囲んでいた
兄と弟妹。戦場帰りのすすけた姿で、笑いながら話している

戦いの合間の幸せな時間だった。
遙か遠い過去の光景だ。もう皆死んだ。死ぬところを見たんだ。覚えている

お前も来い、と言わんばかりに兄弟が手招きするが。
懐かしさはあっても、もう過去へ戻るつもりはない。
俺は俺で楽しくやってるよ。またな、兄弟。




 幻朧桜の小径をカトル・カール(コロベイニキ・f24743)もまた、歩んでいた。
 行く先がたまたま同じ方向――なんて風を装って後を追ったが、カトルはその姿を見失っていた。
 いや、見失ったというよりも、見せられているのだ。
 花弁が舞う。風が吹けばその光景を連れてきた。
 カトルの前には、気づけば懐かしい風景が広がっていた。
 幻朧桜の中であったはずだが、砂と石の荒れ果てた大地が広がっている。
 その空気まで、乾いたものになったかのような気がするほどに。
 その中で、窪地で死んだ兄弟が焚き火を囲んでいた。
 カトルの視線は彼らへと結ばれる。
 兄と弟と、妹。決して綺麗な格好ではない。戦場帰りのすすけた姿で、でも笑いながら話している。
 表情は暗いものではなく、楽し気なのだ。
 それは――戦いの合間の幸せな時間。
 カトルの、遙か遠い過去の光景だ。
 笑っている、笑いあっている。けれど、もう皆死んだ。
 死ぬところをカトルは目にした。その姿を、瞬間を――カトルは覚えている。
 その、幻の中の彼らがカトルに気づいたかのように笑って大きく手を振ってきた。
 そしてこっちへ来い、お前も来いと言わんばかりに兄弟が手招きする。
 懐かしいと思う。懐かしさは確かにこの胸の中にあるとカトルは彼らを見詰めていた。
 けれど――過去へ戻るつもりはないのだ。
 ひらりと、カトルは手を振って返した。けれどその足は、彼らの方へは向かない。
 俺は俺で楽しくやってるよ、とひらりと振って返した手に込める。
「またな、兄弟」
 俺はここにはとどまれないのだとカトルは歩み始める。
 歩み始めれば乾いた大事の光景は、柔らかな色の幻朧桜の世界へと戻っていく。

大成功 🔵​🔵​🔵​

神狩・カフカ
おっと、はぐれちまったか

桜の香り――
だがこれは姫さんの…常夜桜の香りだ
現れたのは桜鬼の姫
おれが見初めた唯一の女
彼女とおれの蜜月の白昼夢
おれの名を呼ぶ声の甘いこと
それはずっと夢見ていたことで――

あいつが生まれ変わる度に見守ってきた
姿形が変われど
纏う桜の香りでわかるのサ
けれど種族の差ってのは酷なもンで
何度も別れを味わった

だからおれは今生の姫さんに
おれの力を分け与えることにした
片目は失ったが
これでずっと一緒だな

なのにあいつは人間の男にお熱ときた
…いいサ
今はおれに気がなくたって
人間なんてすぐ死んじまうもンな
おれはお前の最後の男であればいい
待つのは慣れているからな

さァて先へ往こうか
夢を現にするためにもな




 幻朧桜の花弁がざわりと、踊っていく。
 神狩・カフカ(朱烏・f22830)はそれに一瞬、視線を向けて。
「おっと、はぐれちまったか」
 次の瞬間には、皆の姿が見えない。迷い込んだか、迷わされているのか。
 それとも、それぞれ導かれているのか。
 ふわりと、カフカの鼻を擽ったのは桜の香りだ。
 それも――覚えのあるもの。
「これは姫さんの……」
 常夜桜の香りだ、とカフカは笑う。
 この香りがするならば――と振り返る。その先にある姿にカフカはふと表情緩めた。
 桜鬼の姫――おれが見初めた唯一の女、と口端には笑みが乗る。
 ふたりきりだ――カフカと、彼女だけの蜜月の白昼夢。
 名を呼ぶ声。己の名しか呼ばぬのだ。その声のあまいこと。
 それはずっと、夢見ていたことだった。
 さらりと、その豊かな髪が流れる様を、向けられる表情をカフカは見詰めている。
 生まれ変わる度に見守ってきたのだ。
 姿は変われど、変わらぬものがある。
 それは桜の香りだ。その香りがあれば、わかるのだ。
「けど」
 種族の差ってのは酷なもンだよなとカフカは苦い笑みを向ける。
 何度も別れを味わってきたのだから。
 だから――と、そっと、カフカは己の右瞳に触れた。
(「おれの力を分け与えて、片目は失ったが」)
 失ったことを悔やんでなどいない。なぜなら、これでずっと一緒にいられるからだ。
「なのに人間の男にお熱ときた」
 それを目の前の、この幻とわかっている女に言っても届きはしないのはもちろんわかっているのだ。
「……いいサ」
 今はおれに気がなくたって、とカフカは続ける。
 どうしてなんて、問うような。追い詰めたり、乞うたり――そんなことはしない。
 カフカは知っているのだ、己が悠と構えていればいいことを。
「人間なんてすぐ死んじまうもンな」
 おれはお前の最後の男であればいい、と幻に向けて笑いかけるのだ。
「待つのは慣れているからな」
 ふわり、桜の香りがカフカを撫でていった。それに微笑み、背を向ける。
「さァて先へ往こうか」
 夢を現にするためにもな、とカフカは歩み始める。
 これは幻、ここにはないもの。ずうっととどまる必要なんて、ない。

大成功 🔵​🔵​🔵​

天音・亮
【宵天】

夕日が沈む
走る子供たちの声が聴こえる
そんな帰り道を歩いている
懐かしく思える程時間は経っていないはずなのに

『あきら』

きみの声を聴くのは随分と久しぶりな気がするよ
─お兄ちゃん
それに
ああ、どうして

『おねえちゃん、一緒に帰ろう』

どうしてきみまで居るの
「はる、と…」
もう触れることが出来ないはずの少し高い体温
見れるはずのなかったかわいい笑顔
手を握って見上げる甘えたは相変わらず

『あきら』
『おねえちゃん』

大好きで大切な
私の家族

でも
ごめんね、ごめんなさい
願いに溺れるわけにはいかないから
今は一緒に帰れない

「、…とっきー」
情けないな、脚が動かないや
おんぶ…
少し照れくさいけど
今はその背中に頼ろうと手を伸ばす


宵雛花・十雉
【宵天】

夕焼けに照らされた道
子供たちの楽しげな声
オレには見覚えのない景色だ
ってことは、もしかしてあっきーの…?
このまま暫く一緒に白昼夢を見てみようかと、黙って隣を歩く

しばらく行けば、親しげにかけられた声に振り返る
ああ、そういえば兄貴がいるって言ってたっけ
けどもう一人…?
弟がいるってのは聞いてなかったけど

側から見りゃあ仲睦まじい家族の団欒
けどきっとこれは幻術の類だろ
なら、この光景もそういうこと……だよな

己の名を呼ぶ彼女の脚が震えてるのを見れば、とても歩ける状態にないだろうと察し
「亮」
そう呼んでからしゃがんで背中を向け、おぶってやると目で示す

夢を見るのは終いだ、帰るぞ




 ざぁ、と風が鳴いて幻朧桜の花弁が走り抜けていく。
 視界が塞がれて――開ける。その先の光景に天音・亮(手をのばそう・f26138)は僅かに息を飲んだ。
 夕日が沈む光景だ。
 走る子供たちの声が聞こえる。
 宵雛花・十雉(奇々傀々・f23050)はこの光景にもあわてずくるりと視線回した。
 この光景は十雉には見覚えのない景色だ。
(「ってことは、もしかしてあっきーの……?」)
 亮はゆっくりと歩む。その横を十雉も一緒に黙って、隣を歩いていく。
 歩みながら亮はこの光景を一層鮮やかに思い出す。
 懐かしく思える程時間は経っていないはずなのに――
『あきら』
 その名を呼ぶ。親し気な響き、想いの込められたものだった。
 きみの声を聴くのはずいぶんと久しぶりな気がするよ、と亮はその光景にきゅっと唇引き結んだ。
 ――お兄ちゃん。
 それに、ああ、どうして――亮の視線は縫い留められている。
『おねえちゃん、一緒に帰ろう』
 十雉の瞳にも、その二人の姿は映っていた。
(「ああ、そういえば兄貴がいるって言ってたっけ。けどもう一人……?」)
 兄弟のように見える。弟がいるってのは聞いてなかったけど、と亮へと視線を向けた。
 亮の唇が、かすかに音を生み出す。
「はる、と……」
 どうしてきみまで居るの、と亮の抱く想いは複雑だ。
 もう触れることが出来ないはずの少し高い体温、見れるはずのなかったかわいい笑顔。
 亮の傍にやってきて――ああ、と零れそうになる。
 手を握って見上げる甘えたは相変わらずだ。
 何も変わらない。亮の中にあるがままの姿だ。
『あきら』
『おねえちゃん』
 大好きで大切な、私の家族。
 その気持ちで胸がいっぱいになる。
 亮と、ふたりと――側から見れば。
(「仲睦まじい家族の団欒、だな。けどきっとこれは幻術の類だろ」)
 十雉はなら、と思う。
(「なら、この光景もそういうこと……だよな」)
 亮の、抱えた物が零れ落ちたか――けれどそれについて深くは知らない。
 だからといってそれを告げるのも、踏み入りすぎる。
 だが言わずとも亮もわかっていることを、十雉は察して。黙って見守るだけだ。
 亮もわかっている。ここに長くいてはいけないことを。
 だから、亮は唇を震わせる。
「ごめんね、ごめんなさい」
 願いに溺れるわけにはいかないから――今は一緒に帰れない。
 その手からそうっと、離れる。
 亮はふ、と息を吐いて。
「、……とっきー」
 彼らから視線外して、十雉の名を呼んだ。
 それが精いっぱいだ。
 情けないな、脚が動かないや、と亮は視線を落とす。
 その脚が震えている様を見て十雉は、歩ける状態ではないだろうと察し。
「亮」
 いつもと、違う呼び方をして、しゃがんで背中を向けた。
 おぶってやる、と言葉にはせず。ちらりと向けられたその瞳が言っている。
「おんぶ……」
 少し照れくさいけど、と居間はその背中に頼ろうと亮は手を伸ばす。
 亮がその身を預ければ、十雉は立ち上がり歩み始める。
 夢を見るのは終いだ、帰るぞと、紡いで。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

筧・清史郎
【月桜】

花霞の中、仄か漂う香と共に視るもの
…ああ、俺達の姿か
少しだけ妙に納得してしまう
桜は俺にも、俺達にとっても縁深い花だから

眼前には、先程の約束果たし甘味楽しむ俺達
それは何の変哲もない様にみえて、けれども叶わぬかもしれぬ未来
ヴォルフガングの言う様に、猟兵として在る以上、死とは隣り合わせ

けれども、共に先に征くと
そうも二人と約束したからな
頼りにしていると紡いだ言の葉に、嘘偽りはない
よすがの言葉に頷き微笑みを

それに視るだけでなく、実際に甘味を楽しみたいしな(微笑み
視ている俺達が食べているパフェを楽しむ為には、前に進まねばな

光のルーンに合わせ、扇広げ桜吹雪を
約束を果たす為の導きになれば

ああ、共に先へ


夜霞・よすが
【月桜】

香りがさっきより強くなる
ちょっとくらくらするや
ぼんやり見えるのは…俺たち?

迷ってたら目の前はもうお皿いっぱい
ヴォルフと清史郎と一緒に
食べて笑って話が盛り上がって…

当たり前のような楽しい時間
これが夢で終わっちゃうのか?
ここで消えてなくなっちゃうのか?
そんなの、嫌だ

…俺は戦うの怖いよ
今でも少し怖い
だけど今は俺もひとりの猟兵だから
守りたいもの、叶えたいものがあるから
失わないために踏み出すんだ
ヴォルフも清史郎もいる、だから大丈夫だって
今はここにちゃんといるんだ
今もこの先も見失わないように
だって、約束したもんな!

光と桜に導かれるように追いかけるみたいに
しっかりと前を向く
その先へ進むために


ヴォルフガング・ディーツェ
【月桜】
枝葉見遣れば揺蕩う心、写すかの様な幻
…結ぶ像は俺達、か?

きっとよすがは遠慮するだろうから、俺は老婆心であれやこれやと甘味を皿に盛る
其れを眺める清史郎は穏やかで
ありふれた幸福は、けれど決して当たり前ではない一幕

猟兵にとって死は様々な理由で侍る招かざる隣人よ
故にこそ幻として見るには相応しき誘いやも知れぬ

…だけどコレは叶えられる願いだ
清史郎もよすがも折れない芯がある、時に甘美な死を振り解く力がある

だから俺は夢を嗤おう
友の足を縫い止めようとする手を踏み潰そう

宙に描くは光のルーン
俺には程遠いが、二人は受けるに相応しき明りを呼ぼう
光差す道よ、幻を退けるが良い

舞う桜花を掌で捉え…さあ、行こう
先は長い




 幻朧桜の枝葉が揺れていた。ざぁざぁと響く音にヴォルフガング・ディーツェ(誓願の獣・f09192)は顔を上げる。
 揺蕩う心を、写すかの様な幻がざわめいて。
「……俺達、か?」
 筧・清史郎(ヤドリガミの剣豪・f00502)はその声に釣られたかの様に視線を。
 仄かに漂う香りをたどっていればそれは結ばれたのだ。
「……ああ、俺達の姿か」
 少しだけ妙に納得してしまう、と清史郎は思うのだ。
 清史郎にとって――いや、三人にとっても桜は縁深い花なのだ。
 そしてその香りに、夜霞・よすが(目眩・f24152)はふるりと頭を振っていた。
 香りがさっきより強くなり、ちょっとくらくらするのだ。
 そして、ふたりと共にそれを見詰める。
「ぼんやり見えるのは……俺たち?」
 ゆるゆると、それは確かな形をとっていく。
 それは、先ほどの約束を果たした自分たちの姿だった。
 何の変哲もない、と清史郎は思う。そう見えるのだがもしかしたら、叶わぬ夢かもしれないものだ。
 幻の中には沢山の甘味がある。どれにしようとよすがはその中で迷っていた。迷っていたら、目の前はもう皿がいっぱい。
 傍らで笑っているのはヴォルフガングだ。
 きっとよすがは遠慮するだろうから、とヴォルフガングが次々ととっていく。
 その様をヴォルフガングは見詰め、笑う。俺は老婆心であれやこれやと甘味を皿に盛るだろうと思っていたら、その通りだったからだ。
 清史郎は穏やかに、その様を眺めつつすでに沢山の甘味を平らげていた
 食べて、笑って――会話もきっと弾んでいるのだろう。楽しそうにしている。
 ありふれた幸福だ。
 けれど決して、当たり前ではない一幕でもある。
「これが夢で終わっちゃうのか? ここで消えてなくなっちゃうのか?」
 よすがはぽつりと呟く。
 そんなの、嫌だと。
 この幸せな光景を失うのは、と。
「……俺は戦うの怖いよ。今でも少し怖い」
 それはきっと、誰もそうなのだろうとも思う。
 だが抱えた想いは、簡単に納得して昇華できるものでないこともわかっているのだ。
 ヴォルフガングは紡ぐ。
「猟兵にとって死は様々な理由で侍る招かざる隣人よ」
 故にこそ幻として見るには相応しき誘いやも知れぬ――けれど、目の前にあるこの幻は。
「……だけどコレは叶えられる願いだ」
 ヴォルフガングは二人へ視線向ける。
 清史郎は緩やかに、涼やかにいつもと変わらぬ笑みを浮かべていた。
(「ヴォルフガングの言う様に、猟兵として在る以上、死とは隣り合わせ」)
 けれども、共に先に征くと、そうも二人と約束したからなと清史郎は思うのだ。
 そしてよすがへと視線を向ける。
 ぎゅっとその拳握りこんで、顔をあげたよすがの表情。
 ああ、大丈夫だと清史郎は思うのだ。
 頼りにしていると紡いだ言の葉に、嘘偽りはない。
「俺もひとりの猟兵だから」
 守りたいもの、叶えたいものがあるから――失わないために踏み出すんだ、と。
 それにひとりではない。
(「ヴォルフも清史郎もいる、だから大丈夫だ。今はここにちゃんといるんだ」)
 今もこの先も見失わないように――
「だって、約束したもんな!」
 よすがの言葉に清史郎は頷き微笑む。それが答えなのだろう。
「視るだけでなく、実際に甘味を楽しみたいしな」
 一層笑み深めて、清史郎は幻の皆の手元も見詰める。
「視ている俺達が食べているパフェを楽しむ為には、前に進まねばな」
 ヴォルフガングとよすがは確かに、と笑って頷いて。
 清史郎もよすがも折れない芯がある、時に甘美な死を振り解く力がある、と。
 だから、とふと笑み浮かべた。
 だから俺は夢を嗤おう、と。
 友の足を縫い止めようとする手を踏み潰そう、とヴォルフガングは宙に光のルーンを描く。
(「俺には程遠いが、」)
 二人は受けるに相応しき明りを呼ぼうと、心にその様を描いて。
 光差す道よ、幻を退けるが良いと導を生み出す。
 それを見て清史郎も扇広げた。
 その扇の上から桜吹雪が旅立ち光を追っていく。
 約束を果たす為の導きになれば、と紡いで。
「……さあ、行こう」
 舞うその花弁を、ルーン描いたその手で捕まえて、先は長いとヴォルフガングは紡ぐ。
「ああ、共に先へ」
 よすがはその光と桜に導かれるように、ふたりより一歩、先を追いかけるように進んだ。
 しっかりと前を向いて、その先へ進むために。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『像華『面映』』

POW   :    アナタの望むままに
全身を【相手の逢いたいと願うものの姿】で覆い、自身が敵から受けた【欲望】に比例した戦闘力増強と、生命力吸収能力を得る。
SPD   :    アイしてあげるから
自身が【慈しみや憐み】を感じると、レベル×1体の【肉体を侵食する綿胞子】が召喚される。肉体を侵食する綿胞子は慈しみや憐みを与えた対象を追跡し、攻撃する。
WIZ   :    目蓋を閉じて、身を委ねて
【ハナミズキの花弁】【甘い芳香】【影の枝の揺籠】を対象に放ち、命中した対象の攻撃力を減らす。全て命中するとユーベルコードを封じる。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠四辻・鏡です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 白昼夢を抜けた猟兵達は、そこへとたどり着く。
 幻朧桜の小径、その一角で店主は女に抱かれていた。
 いや――それは影朧、像華『面映』だ。
 しかし、店主には失った妻の姿に見えているのだろう。彼の意識はぼうっとしており、己がどのような状況にあるのかはわかっていない様子。
 甘い芳香を漂わせ、面映の背から伸びる黒い枝より白い花弁が躍る。
 面映は――その姿を揺らめかせていた。
 揺らめかせ、己の前に立つ者の求める物の姿をとろうとしているのかもしれない。
 店主の身には綿帽子がふわふわと漂い纏いついて、影の枝の揺篭で守っているのか、それとも――糧としているのか。
「――アナタたちも、アイされたいの?」
 面映は、猟兵達へと言葉向ける。
 アイされたいなら、ワタシはアナタの望みのままに姿を変えるわと。
 甘い芳香を漂わせて微笑む。
 腕の中の店主をその場に横たわらせて、猟兵達の方へとゆるり、歩みながら。
黒鵺・瑞樹
アドリブ連携OK
右手に胡、左手に黒鵺の二刀流

なんというか思い浮かんだのは偶像って言葉だな。
そうであってほしいという望みをかなえるけど、主たる意思を感じないからだろうか?

幻の姿に変わられる前に一撃、可能な限りマヒ攻撃を乗せた暗殺のUC剣刃一閃で先制攻撃。
敵の攻撃は第六感で感知、見切りで回避。
回避しきれないものは本体で武器受けで受け流し、カウンターを叩き込む。
それでも喰らってしまうものはオーラ防御、激痛耐性で耐える。

「会いたい」も欲望の一種になるんだろうか?
微かに姿成すそれを意識してしまえば、次第にはっきりとしたものに成してしまう。
それを懸命に振り払う。だってそれは本物の輝きじゃない。



 ゆるりと、柔らかに微笑んでいるのだろう。
 黒鵺・瑞樹(界渡・f17491)は、像華『面映』の姿をその瞳に映しつつも、その手に己の得物を構える。
 右手に胡、左手に黒鵺を持つ二刀流は瑞樹の戦い方だ。
(「なんというか」)
 思い浮かんだのは偶像という言葉。
 目の前にいる面映から感じるものはそれだ。
(「そうであってほしいという望みをかなえるけど、主たる意思を感じないからだろうか?」)
 アナタの望むままに――ゆらりと、面映の姿が揺らめいた。
 その姿を完全に変えられる前に瑞樹は走りこむ。
 面映の姿が一体誰になるのか、それは気になるがそれより前に一撃を。
 その攻撃にマヒをのせるが面映の伸ばす枝葉がそれを防いだ。
 しかし一閃、その枝は切り落とされる。
 面映は向き合う瑞樹から得る欲望を糧にその力を増して攻撃をかけてくる。
 攻撃の威力が上がっている。振り払う枝の一撃をどうにか受け流しながら、一歩踏み込んでカウンターを叩き込んだ瑞樹。
 ほろほろと涙を流す女の姿は面映のものだろう。
(「『会いたい』も欲望の一種になるんだろうか?」)
 攻撃をかけながら、瑞樹はふと思う。
 揺らめいて、姿が変わる。
  微かに姿成すそれを意識してしまえば、次第にはっきりとしたものに成って――瑞樹の目に映る姿は、もう面映のものではない。
 でも、それは違うのだ。
(「それは、本物の輝きじゃない」)
 懸命に振り払って瑞樹は二刀を躍らせた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

篝・倫太郎
まぁ、愛されたいか愛されたくないか、つったら
愛されたいよなぁ……

既に充分に充分過ぎるくらいに愛されてようが
もっと、と思うのが俺だから

んで、あの人は……俺の唯一無二は
静かに笑うんだ
本体の花簪の花に込められた言葉のように真っ直ぐに
そんな俺の気持ちも丸ごと全部俺だからって
受け入れて受け止めてくれる

流されてる訳じゃなく
あの人があの人の気持ちとしてそうしてくれる

だから、愛されたいけど
それはニセモノに、じゃないんだ……
悪いな?早く帰ってあの人をこの腕に抱きたいから
さっさと終わらせようぜ?

攻撃力強化に篝火使用
ダッシュで接近して衝撃波と破魔を乗せた華焔刀での先制攻撃

店主ま巻き込まないよう位置に注意して立ち回り



 その面映の姿は、篝・倫太郎(災禍狩り・f07291)にはまだ涙を流す女のものだった。
「まぁ、愛されたいか愛されたくないか、つったら」
 愛されたいよなぁ……と、零して。
 既に充分に充分過ぎるくらいに愛されてようが――もっと、と。
 そう思うのが自分だからと倫太郎は思っている。
 ゆらりと面映の姿が揺らめいた。じんわりとその姿が変わっていく。
 誰になるのか、まぁひとりしかいないかと倫太郎は思うのだ。
「んで、あの人は……俺の唯一無二は」
 静かに笑うんだ、と紡げばその言葉の通り。
 倫太郎が思い描くままに、笑みを浮かべるのだ。
 かすかに笑い零して、それだと倫太郎は思う。
 彼の、本体の花簪の花に込められた言葉のように真っ直ぐに――
 そんな俺の気持ちも丸ごと全部俺だからって、受け入れて受け止めてくれる。
 倫太郎は己の唯一無二の在り様をよく知っていて。そして互いに気持ちを向けあっている。
(「流されてる訳じゃなく、あの人があの人の気持ちとしてそうしてくれる」)
 決して倫太郎だけが気持ちを向けているわけではない。
 ちゃんと想いは引きあって、対等であるのだ。
「だから、愛されたいけど。それはニセモノに、じゃないんだ……」
 お前は違うと笑って、倫太郎は向き合う。
「悪いな? 早く帰ってあの人をこの腕に抱きたいから――さっさと終わらせようぜ?」
 倫太郎が纏うのは神の力だ。
 それを纏い、華焔刀を振り払う。その瞬間、面映に捕らわれていた店主の姿を視界の端にとどめ巻き込まぬように。
 大きく伸ばされた唯一無二の幻――面映のその幻の向こう、伸ばした腕のような枝葉を倫太郎は叩き切った。

大成功 🔵​🔵​🔵​

逢坂・宵
【翠靑星】
ハナミズキの花言葉は「華やかな恋」「永続性」「私の思いを受けてください」。

……囚われた店主殿が、影朧となったあの存在がどのような思いを抱いていたのかはわかりませんが
幻のなかに救いを見ることもあるでしょう
幻のなかこそが居所と感じることもあるでしょう
ですが僕らは生きねばなりません
現世のさなかに

ザッフィーロの様子に気づけば声をかけようとするも
強い眼光で敵を見据えるかれに心配は無用でしたかと笑い

碧君、ザッフィーロ―――
さぁ、まいりましょう

2人の後ろで敵へ「衝撃波」を放ち「吹き飛ばし」て体勢を崩すのを狙いつつ
「高速詠唱」し「全力魔法」にて
【天航アストロゲーション】で敵を狙い撃ちましょう


ザッフィーロ・アドラツィオーネ
【翠靑星】

店主は幻影を見て居るのかと僅かな警戒と共に前衛に出るも
ふと、視線の先に赤毛の所有者が現れれば思わず瞳を見開いてしまう
先にみた幻覚とは違い、記憶の中の物ではない生前と変わらぬ様なそれに思わず足が進みかけるーも
ふわりと先に選びあった己と二人の香りが鼻を擽れば正気に戻るやもしれん
…此処に、居る筈がない
ならば…店主を惑わしている様な幻影なのだろう
宵の声に大丈夫だと笑みを返しつつ頷けば、宵と碧に幻影への注意の声音を投げた後敵へ間合いを詰めんと地を蹴り【鍛錬の賜物】にて敵を地へ倒そうと思う
…彼女ならば斯様な無駄な動きはせん
その後は碧と宵と連携しながらメイスを振るい体力を削って行ければと思う


劉・碧
【翠靑星】

甘い香りに導かれるように友と進もう
藪に潜む蛇を突こうと言うのだ、怯まず進まねばな

しかし…そうは心に留め置いても、見えるのは焦がれるほどに染み付いた郷里の面影
師たる旦那様
あどけない妹や死んだはずの優しい両親の姿が目に映る
視界から追い出そうと心を強く保つことは…裏目となるのか…
現と幻の境が薄れる頃
友に選んでもらった香が鼻を掠めれば、幻惑を断ち
敵の姿を視界に収めれば、豪胆にも間合いを詰め拳を振るう
自身の拳を捻じ込むことで一撃必殺の破壊力を持つ威力にまで高め、敵と相対する

俺に帰る場所は無い
だけど居場所が無い訳じゃない
友がいる
大切な過去がある
それを守るためなら幻など怖くない



 甘い香りがする、と劉・碧(夜来香・f11172)は思う。
 その香りに導かれるように友と進む――藪に潜む蛇を突こうと言うのだ、怯まず進まねばな、とかすかに笑って。
 ふわりと花弁が舞う。それは真っ白な、ハナミズキのものだった。
 そのひとひらを逢坂・宵(天廻アストロラーベ・f02925)はそっと、掌にのせた。
「ハナミズキの花言葉は『華やかな恋』『永続性』『私の思いを受けてください』」
 そう紡ぐと、掌から花弁は逃げていった。
「……囚われた店主殿が、影朧となったあの存在がどのような思いを抱いていたのかはわかりませんが」
 幻のなかに救いを見ることもあるでしょう、と宵は視線を向ける。
 倒れている店主は――穏やかな顔をしていた。一体どのようなものを見ているのか。
「幻のなかこそが居所と感じることもあるでしょう」
 ですが、と宵は顔をあげ二人を見詰める。
「僕らは生きねばなりません。現世のさなかに」
 その通りだと、ザッフィーロ・アドラツィオーネ(赦しの指輪・f06826)は前へ。
 視界の端に店主の姿を捉え、彼は幻影を見て居るのかと、僅かな警戒と共に。
 すると――ゆらりと何かが揺らめいた。
 その先、ザッフィーロの、赤毛の所有者が現れれば思わず瞳を見開いてしまう。
 先にみた幻覚とは、違う。記憶の中の物ではない生前と変わらぬ様なその姿に、思わず足が進みかける――も、その足は止まった。
 ふわりと、ザッフィーロの鼻をくすぐる香りがあった。その香りに引き留められたか、それとも正気に戻ったか。
「……此処に、居る筈がない」
(「ならば……店主を惑わしている様な幻影なのだろう」)
 宵はザッフィーロの異変に気付いて、声をかけようとするも必要ないかとやめた。それはその呟きを耳にしたのと、ザッフィーロが強い眼光で見据えていたからだ。
 心配は無用でしたかと笑い、言葉向ければザッフィーロは大丈夫だ、と笑み返しつつ注意しようと視線は、敵へ。
 そして碧の目にも、幻は――見えていた。
 心に留め置いても、見えるのは焦がれるほどに染み付いた郷里の面影
師たる旦那様だ。
 それに、あどけない妹や死んだはずの優しい両親の姿も目に映るのだ。
(「視界から追い出そうと心を強く保つことは……裏目となるのか……」)
 現と幻の境――けれどそれは、共に選んでもらった香が鼻を掠めれば、その幻も途切れる。
 ここにはひとりできたわけではない。三人で、いるのだ。
「碧君、ザッフィーロ―――さぁ、まいりましょう」
 とん、と宵は一歩後ろへ下がる。
 面映から攻撃向けられたのだ。けれど、甘い芳香に影の枝の揺籠は――届かない。
 その横を抜けるように地を蹴ってザッフィーロは前へ出る。
 手を伸ばす――それは、面映には招くように手を伸ばしたのかもしれない。
 ああ、と幻を被った面映も答えるように手を伸ばした。
 しかし、その手を力のままにザッフィーロは掴んだ。
 この程度ならば、持てる。そのまま持ち上げ振り回し、ザッフィーロは地面へと叩きつけた。
「……彼女ならば斯様な無駄な動きはせん」
 そこへ碧がさらに踏み込む。
 拳を握りこみ、捻じ込む一撃は一撃必殺の破壊力を持つ一撃。
「俺に帰る場所は無い」
 だけど居場所が無い訳じゃない――碧はその想いを拳へと乗せた。
 友が、いる。
 そして大切な過去がある。
 それを守る為なら幻なら怖くないのだ。
 今は傍らでザッフィーロがメイスをふるい共に敵に向かっている。
 そしてふたりの後ろから宵は衝撃波を。それが幻を払い、そして面映をも吹き飛ばし態勢を崩させる。
 その瞬間がねらい目だ。
「彗星からの使者は空より墜つる時、時には地平に災いをもたらす。それでもその美しさは、人々を魅了するのです。星降る夜を、あなたに」
 紡ぐのは早く。宵の示した先に、隕石が落下し面映を吹き飛ばしていく。
 それでも、まだ倒れはせず他の猟兵へも、面映は敵意を向けていく。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

リアム・ペンタス
アドリブ歓迎
引き続き美桜と一緒

わかったわ美桜
またこの手が必要なら教えてね

あなたがあの悪趣味な夢を見せていたのかしら
あたし、ああいうの大嫌いなの
さっさと始末させてもらうわね

美桜が好きに動けて、不意打ちの攻撃を受けないようにサポートしつつ
あたしも影朧を槍でなぎ払ったり串刺しを狙ってみたり
攻撃されたら槍で受け流しましょう

状況を見て必要ならUCであたしの兎たちを呼び出しましょう
さあ、可愛くて物騒な兎ちゃんたち、切り刻んだり齧ったりして影朧の気をそらしてちょうだいな
もしも上手く気をそらせたなら、捨て身のランスチャージで突っ込んであげる
あなたの下手な幻や物真似はお呼びじゃないのよ
すっこんでらっしゃいな


常葉・美桜
リアムさんと
アドリブ歓迎

りっちゃんさん、さっきは手を繋いでくれてありがとう
あたしは大丈夫

朧龍に対すると
アナタが……店主さんやみんなにいろんなものをみせているの?

もしかすると、本当は……
アナタが誰かに会いたいのかしら?
それなら、同じ思いの人を増やしちゃダメだとおもうのよ

あたしが逢いたいと思う姿を取られたらそのまま抵抗せずに受け入れて
大丈夫、お父さんとお母さんに逢いたいけど、ぜろくんを置いてはいけないの

くまさん、あたしのお手伝い、よろしくね?

傍らのくまの人形さんを操り
オペラツィオン・マカブルで
そのままお返しするのよ

りっちゃんさんのお邪魔にならないように、なにかあったら護れるように、くまさん操り行動



 常葉・美桜(ダンピールの人形遣い・f00543)はリアム・ペンタス(星屑の道標・f19621)を見上げて。
「りっちゃんさん、さっきは手を繋いでくれてありがとう」
 あたしは大丈夫、と美桜は紡ぐ。リアムはその言葉に小さく笑って。
「わかったわ美桜。またこの手が必要なら教えてね」
 そして二人もまた、面映と対峙するのだ。
「あなたがあの悪趣味な夢を見せていたのかしら」
「アナタが……店主さんやみんなにいろんなものをみせているの?」
 リアムと美桜は、面映へと視線を向ける。
 面映は、白い花びらを躍らせ甘い芳香纏ってそこにいる。
「もしかすると、本当は……アナタが誰かに会いたいのかしら?」
 美桜は問いかける。面映はその答えをもっていないようだ。
 答えることはなく、しかしはらはらと涙を流している。
 そんな面映に美桜は言葉を向けるのだ。
「それなら、同じ思いの人を増やしちゃダメだとおもうのよ」
 そう言うと――ゆらりと、その姿が揺らめいた。
 その姿は美桜が逢いたいと思う人の姿だ。
「大丈夫、お父さんとお母さんに逢いたいけど、ぜろくんを置いてはいけないの」
 けれどそれを、受け入れはするものの惑わされることは――なく。
「くまさん、あたしのお手伝い、よろしくね?」
 そして美桜は、りっちゃんさんと声かける。
 邪魔にならないように傍らのくまの人形を美桜は操って、面映の向けた攻撃をそのままはじき返した。
 そして、僅かに表情歪めていたのはリアムだ。
「あたし、ああいうの大嫌いなの。さっさと始末させてもらうわね」
 不意打ちの攻撃を受けないようにしつつリアムは踏み込んで手にした槍をふるう。
 伸ばされた面映の枝葉を薙ぎ払って叩き落して。
 けれどざわざわとその身から伸ばした枝葉を揺らして面映は距離を取ろうとする。
「さあ、可愛くて物騒な兎ちゃんたち、切り刻んだり齧ったりして影朧の気をそらしてちょうだいな」
 それを見てリアムは、刃物の角を持つ化け物兎たちが面映を追いかけ始める。
 それを払おうと面映が攻撃をそちらへ向けた所で、リアムは構えて。
「あなたの下手な幻や物真似はお呼びじゃないのよ」
 すっこんでらっしゃいな、と槍に力を乗せて踏み込んだ。
 その一撃を受けた面映。ふわりと綿胞子を放たれる。しかしリアムは槍を振り払って、それを吹き飛ばした。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

逢坂・理彦
店主さんはあぁやって今も大切な人の幻に浸っているんだろうね。
気持ちは分かるよ…大切な人の腕の中っていうのは暖かいものだらか。

けれどその影朧は世界に害をなす…さぁ、目を覚そう。

UC【狐火・椿】
花や枝は炎で燃やそう。優しい香りは振り払って。煙草の煙を燻らせよう。

優しくない世界でごめんね。



 戦いのさなか――逢坂・理彦(守護者たる狐・f01492)は、倒れている店主へと視線を向ける。
(「店主さんはあぁやって今も大切な人の幻に浸っているんだろうね」)
 大切な人の姿。それは幻であるのだが、大切な人の腕の中にあるというのは――きっと、特別なものがあるのだろう。
 そうあれば――どんな気持ちになるのか。理彦は小さく笑みをこぼしていた。
「気持ちは分かるよ……」
 大切な人の腕の中というのは、暖かいものと理彦は知っている。
 だからあの店主が今どのような気持ちなのか――想像できてしまうのだ。
 ずぅっとそのまま、夢幻の中にいた方が幸せなのかもしれない。
 けれど、そうではないことも、また理彦は知っているのだ。
 店主を抱くものは、本当に求めているものではないのだから。
「けれどその影朧は世界に害をなす……さぁ、目を覚そう」
 理彦は、狐火を生み出し躍らせる。
 面映の花や枝が伸びてくる。それは狐火を消そうとしているのか。
 だが、払われたくらいで消えるものではない。
 それの纏う優しい香りは、煙草の煙を燻らせてかき消して。
「優しくない世界でごめんね」
 その言葉と共に、面映の枝葉に炎が燃え広がった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

思・桜
欝々と絡みつくような香の正体を追いましょう
咽ぶように漂う香の中、その元を辿れば
眼に映るは在りし日の「家族」の姿
其れは弱い己の心の在り方が招く幻なのだと識れば
何を躊躇うことがありましょう

わたくしは過去を望みませぬ
猟兵であることを忘れ
偽りの幸せに浸る愉楽を望みませぬ

忘れて唄を紡ぐだけの『面映』
噫、あなたさまの在り方はまるで
…月映ゆる水面
掬えども掌から零れ落ちる影の眷族
その御心は救えませぬ
故に紡ぎましょう浄めの歌を

あなたさまには少々苦痛やもしれませぬ
されど、其れがあなたさまの真実でございまする
払い清めの歌を編み、虚飾の夢を終わらせましょう
幻は無へ、夢は朝を迎えまする

余力あれば店主へ近寄り、癒しの歌を



 欝々と絡みつくような香を追って、思・桜(水葩・f29610)は歩み進めていた。
 咽ぶように漂う香の中、その元を辿る桜の瞳に映ったのは――在りし日の、『家族』の姿だった。
 けれど、その姿はここにはあってはならぬものだと桜は知っている。
 其れは弱い己の心の在り方が招く幻なのだと――識れば、ふと口端は僅かに緩んだ。
「何を躊躇うことがありましょう」
 ほとり、零れ落ちた言葉に滲む想いは桜のみが抱えたものだ。
 桜は、僅かに唇を動かす。
「わたくしは過去を望みませぬ」
 猟兵であることを忘れ――偽りの幸せに浸る愉楽を望みませぬ。
 それが、桜の想いだ。
 そしてその瞳は、目の前の相手をしっかりと映している。
「忘れて唄を紡ぐだけの『面映』」
 ――噫、あなたさまの在り方はまるで、と桜は思い浮かべるのだ。
「……月映ゆる水面」
 掬えども掌から零れ落ちる影の眷族。
 何かを得ることもなく、そして受け止めてもらえることもなく。
 ただ、零れ落ちていく――それは、その在り様もだろうか。
 そして。
「その御心は救えませぬ」
 故に紡ぎましょう浄めの歌を、と桜は喉を震わせる。
(「あなたさまには少々苦痛やもしれませぬ」)
 されど、其れがあなたさまの真実でございまする、と桜は払い清めの歌を編んでいく。
 虚飾の夢を、終わらせるために。
「幻は無へ、夢は朝を迎えまする」
 桜は歌を響かせる。それが面映への手向けともなるように。
 その、視界の端――面映に捕らわれている店主の姿が見えた。
 彼へは、のちに癒しの歌を。きっとそれは必要なことだから。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ライナス・ブレイスフォード
リカルドf15138と

元凶のお出ましって訳な
さっさと倒して帰んぞとリボルバーを構える…も
舞う花弁と香が鼻を擽ると同時
敵が幼馴染の少女の姿に変われば思わず動きが止まる
…望みの侭に姿を変えるって、んの事かよ?
大事だった少女の姿に揺れながらも、リカルドの様を捉えれば正気に戻るかもしれねえ

…あんた、何してんだよ
咄嗟にリカルドの腕を取れば傷口に口を寄せ【血の洗礼】
牙で己の舌を抉り漏れ出た赤にて回復した後にっと笑みを
…もう大丈夫だろ?援護ならしてやるから行ってこいよ

その後はリカルドの援護をする様リボルバーにて『クイックドロウ』『制圧射撃』を
ばぁか。俺の望みはあんたも見ただろ
…聞きてえなら帰ったら、な


リカルド・アヴリール
ライナス(f10398)と
アドリブ歓迎

甘い香りに目が眩む
せめて、意識が少しでもはっきりしている内に
ライナスの正面に【かばう】様に立とうと試みる

紛いものの愛も、哀も要らない
機械だと言い聞かせながら、
目を閉じて眠ってしまう前に
生身の左腕を大剣の刃に押し付けようと

ライナス、もう大丈夫なのか……?
自傷の痛みよりも
其の事実が気に掛かるが
傷が少しずつ塞がるのを見て、目を丸くする
……ありがとう、行ってくる

幻覚を打ち消そうと接敵し、UC:撲を
ハナミズキの花弁や影の枝を打ち落として
【捨て身の一撃】【重量攻撃】の一撃を見舞う

なあ、ライナス
その……お前が見た幻覚は、いや……何でもない



 リボルバーを構えながら、ライナス・ブレイスフォード(ダンピールのグールドライバー・f10398)はその視線を面映へとむけて。
「元凶のお出ましって訳な」
 さっさと倒して帰んぞとリカルド・アヴリール(機人背反・f15138)へ声向ける。
 リカルドは頷いて、しかしふたりを擽る甘い芳香がひたひたとする。
 目が眩むような感覚にリカルドは頭を振って、せめて意識が少しでもはっきりしている内にとライナスの前へと立った。
 ライナスの目には――その、面映の姿が幼馴染の少女の姿に見えていた。
 思わず、動きが止まる。けれどリボルバーを持つ手は、強まった。
「……望みの侭に姿を変えるって、んの事かよ?」
 大事だった少女の姿にライナスの心は揺れる。
 けれど――己の前にはリカルドがいる。
 リカルドはライナスに向く攻撃を代わりに受けていた。
 伸ばされた枝葉がその身を裂いていくけれど、リカルドにとってそれはなんてない事なのだ。
 守れているのだから。
(「紛いものの愛も、哀も要らない」)
 リカルドは機械だ、と己に言い聞かせる。目を閉じ眠ってしまう前に――左腕に大剣の刃を押し付けようとしていた。
 僅かに生身の腕に傷が生まれ、その血の香が花の香に混ざる。
 そのことに気づけば、何のことはない。
「……あんた、何してんだよ」
 その腕と掴んで引き寄せ、ライナスは唇を運ぶ。
 牙で己の舌を抉り、漏れ出た赤でその傷癒し笑みを向ける。
「ライナス、もう大丈夫なのか……?」
「……もう大丈夫だろ? 援護ならしてやるから行ってこいよ」
 腕の痛みはあったはずなのに消えている。
 そこにあった痛みよりも、ライナスの事のほうが気にかかるのだ。
 傷がいえる様を目にして目を丸くしつつも、貰った言葉にリカルドは頷いた。
「……ありがとう、行ってくる」
 リカルドは走りこむ。右腕の義手『代』による殴打をかけながら面映のかけてくる攻撃を打ち落としていく。
 そうしやすいように、近づく攻撃をライナスはリボルバーで制圧していく。
「なあ、ライナス」
 深く踏み込んで、ライナスは思い攻撃を一撃打ち込んだ。
 そうしながら、ライナスへと言葉を投げる。
「その……お前が見た幻覚は、いや……何でもない」
 けれどやはり、最後まで――その想いを告げるのは躊躇われて。
 その心をライナスは察して。
「ばぁか。俺の望みはあんたも見ただろ」
 告げることはできるのだ。
 しかし今ここでは、と思う。
「……聞きてえなら帰ったら、な」
 静かに落としたその言葉はリカルドの耳にも届いていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

高塔・梟示
まどか(f18469)君と

いいや結構、充分間に合ってるさ
何度も同じ手が通じると思うかい?
顔貌を真似たところで所詮は別物だ

問われれば、まあねと肩竦め
化けるならもっと精巧に願いたいものだ

素早く敵に接近し、一撃必殺
鎧砕く怪力を載せた拳を叩き込む
体勢を崩すか、マヒして隙が出来れば
畳み掛けるのも容易だろう

世辞に驚いて瞬き、どうもと
君の施しのお陰かな

敵攻撃は残像でいなそう
こっちの武器は身一つ
超常の力を封じられても
手詰まりにはならないさ

なあ、まどか君
あんなものの侵入を許すなんて
店主の心に開いた喪失は
どれだけ大きかったのだろうね

返る言葉に、そうだねと頷いて
纏う香りを変えるように
気持ちを変えることが出来たなら


旭・まどか
梟示(f24788)と

要らないよ
君からのアイも、他の者からのアイも
僕にはどちらも、必要無いものだから

おやおや
不健康の君はご立腹かい?
君にも人間らしい一面があったんだね
苦笑交じりの苦言には同意する

駆け出す君の背を瞠り
案外武闘派なんだねと
成れば僕は君の拳に天からの施しを授けよう
繰り返す連撃は僕には到底成し得ないもの
凄いね、と素直に世辞送り
そこは素直に受け取って欲しいな

嗚呼、僕の方だって
僕自身の攻撃力は元より大した足しにならないから
気にも留めず芳香を楽しもう

さぁ、僕にはわからない
彼が感じた喪失は彼だけのもの
想像し、同情した所で所詮は他人事
本当に立ち直るには、彼が自我を取り戻し
前を向くより他無いよ



 面映は、猟兵達からの攻撃を受けて。
 どうして、とほろほろと涙を流しつつ紡ぐのだ。
 ただアイするだけなのに、と。
「いいや結構、充分間に合ってるさ」
 何度も同じ手が通じると思うかい? と、高塔・梟示(カラカの街へ・f24788)は紡ぐ。
 顔貌を真似たところで所詮は別物だ、と。
 旭・まどか(MementoMori・f18469)もゆるく横に首を振っていた。
「要らないよ」
 君からのアイも、他の者からのアイも。
「僕にはどちらも、必要無いものだから」
 まどかはは言って、梟示へと視線向ける。傍らで言葉向けた彼はどうやら、と思って。
「おやおや、不健康の君はご立腹かい?」
 君にも人間らしい一面があったんだね、と続けて向ければ梟示はまあねと肩竦めて。
「化けるならもっと精巧に願いたいものだ」
 あれではすぐにわかってしまう。いや、わかってくれと言っていたのかもしれないね、と面映に惑わされることなどは、いう様子。
 まどかは苦笑交じりの言に同意して頷きひとつ。
 そして、この場を終わりに向かわせようと梟示は面映へと向かってゆるりと歩み、走り始める。
 素早く接近し、向けるは一撃必殺。鎧砕く怪力乗せた拳を、梟示は叩き込んだ。
 その背中を瞠り、まどかは案外武闘派なんだね、と。
 成れば僕は君の拳に天からの施しを授けようと、天の雫を、施しを。
 続けて何度も振るわれる梟示の拳。それにより面映の態勢は崩れ、隙が生まれればその拳戟はさらに激しくなる。
 梟示のその戦いは、まどかには到底成し得ないものだった。
「凄いね」
 素直に向けられた世辞は小さなものだったが、梟示の耳にも届いて。
 それに梟示は驚き瞬くと同時に、どうもと返すのだ。
「君の施しのお陰かな」
「そこは素直に受け取って欲しいな」
 そんなやり取りの間に、伸ばされる攻撃を梟示は残像でいなす。
 こちらの武器は身一つ。超常の力を封じられても、手詰まりにはならないさと面映の攻撃を気にもせず、ただ攻撃向けるだけだ。
(「嗚呼、僕の方だって」)
 まどかは思う。
 僕自身の攻撃力は元より大した足しにならないから――気にも留めず芳香を楽しもうと。
 梟示の攻撃が深い場所に入り、面映はぐらついて倒れこむ。
 そして距離をとる、その向こうに店主の姿を見つけて梟示は零した。
「なあ、まどか君」
 あんなものの侵入を許すなんて、と視線は面映に。
「店主の心に開いた喪失は、どれだけ大きかったのだろうね」
 その言葉にまどかは瞳細め淡々と返す。
「さぁ、僕にはわからない」
 彼が感じた喪失は彼だけのものと。
 想像し、同情した所で所詮は他人事。
「本当に立ち直るには、彼が自我を取り戻し、前を向くより他無いよ」
 何をしてやることもできない。いや、ひとつだけあるかなとまどかは言う。
 あの面映を、倒すことは猟兵にしかできないこと、と。
 そうだねと梟示は頷いて、鼻を擽る香りを感じていた。
 ――纏う香りを変えるように、気持ちを変えることが出来たなら、きっと。
 確かにそのための一手は、あの面映を倒すことと。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

小千谷・紅子
淡い夢を抱き救われたい心を、私は止めようとは思いません
それが安らかなのであれば、何を咎める理由があるでしょう
私は見送るだけ
一抹の悲しみや悔恨が残れど、別れにはつきものなのでしょう
けれど、けれど
紅はまだ、そのお心を聞いておりませんよ。店主様―

―君、君よ。ひと時その力を貸して下さい。
花弁と芳香を大きな翼で吹き飛ばし、揺籠を裂く
店主様を捕らえる籠と綿を取り除き
抵抗があれば、応戦を

貴女も人に寄り添い、慰めようとしているのかしら
むつかしいですね―どうにも不器用な様、私達
最後は、彼等自身が決めなくてはならないから
吸い尽くすのは、いけませんよ
それとも貴女にも、縋る思いがあるかしら
―思いを、聞きませうか



 甘い香り、白い花弁に、伸びる枝葉。枝葉は誰かの炎に塗れたか、焼けてすすけて、ほろりと崩れていくところもある。
 その姿を、小千谷・紅子(慕情・f27646)はゆるりと瞳に映していた。
 そして、とらわれた者でもある店主の姿も。
「淡い夢を抱き救われたい心を、私は止めようとは思いません」
 それが安らかなのであれば、何を咎める理由があるでしょう――紅子はそうっと瞳伏せる。
 私は見送るだけ、と。
(「一抹の悲しみや悔恨が残れど、別れにはつきものなのでしょう」)
 けれど、けれど――と、紅子は瞳開く。
「紅はまだ、そのお心を聞いておりませんよ。店主様――」
 望んでいるのか、それとも、そうではないのか。
 それもわからぬままにとらわれたのか。
「――君、君よ。ひと時その力を貸して下さい」
 紅子は望む。傘の君の力を借りることを。
 ひとつ、視線を向けたのちに傘の君は大きく羽ばたいた。
 その大きな翼で、花弁と芳香を吹き飛ばす。そして銃剣の切っ先をもってその揺籠を裂いた。
 捕らわれている店主は、これで少しは正気に戻るだろうか。
 ふわふわとその身に宿る綿胞子を紅子は払う。
 するとそれを邪魔するかのように、いや――邪魔をするなというように面映が枝葉伸ばして防ごうとする。
 その応戦を払うのは傘の君の役目だ。
「貴女も人に寄り添い、慰めようとしているのかしら」
 ほとり、紅子は零す。けれど、面映のしていることは、やがて店主の命を奪う事だ。
「むつかしいですね――どうにも不器用な様、私達」
 しかし、このまま好きにさせておくわけにはいけない。最後は、彼等自身が決めなくてはならないから、と紅子は思うのだ。
「吸い尽くすのは、いけませんよ」
 それとも貴女にも、縋る思いがあるかしらと店主と面映を見詰める。
 彼女も、誰かの代わりに彼をしているのかもしれない。
 店主が心地よき夢をみて幸せを得ているように。幸せを与えて――何かを。
「――思いを、聞きませうか」
 問わなければ、聞かなければわからない。
 紅子の問いかけに面映はただ攻撃を向けるだけだ。
 これが答えというように――この想いは誰にも、教えていいものではないのだというように。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ベル・ルヴェール
アヤカ(f01194)

綺麗な花弁だな。僕の住む世界には無かった花だ。
僕はこの花の名前も香りも知らない。
僕は愛されたいと思った事はない。

僕は幻を扱うんだ。同じ幻にやられる訳にはいかないな。
砂嵐シムーン。熱の風を生み出して花を枯らす。
花だけじゃない。砂漠の砂嵐は恐ろしいんだ。
人間も動物も枯れる。
アヤカ、まだ起きているか?今は水をだせないけど
目を覚まさせてやる事はできる。
何度も言っているが心配なんだ。

花は綺麗だけど見ている人を連れて行きそうだ。
大丈夫だと僕は信じている。
水が欲しければ歌って踊るんだ。
花で惑わすなら僕は水を差し出す。
それが僕の役割だ。

愛も思い出も誰かの物
僕のものじゃない


浮世・綾華
ベルと

ベルは己があの砂の国での宝物だと言った
どんなかたちかは分からないが
ベルはきっと、愛されてきたのだろう
だからその言葉が、どんな意味で紡がれたのかを考えようとしたケド

成程。んじゃ
ベルが押し負けねえようにしっかりサポートするよ
鬼火で花弁も――芳香も燃やし尽くす

…嗚呼、おそろしーな
伸びる影はきっと砂嵐に巻き込まれるだろうから

こんな状況じゃ、寝れねーっての
水は勘弁
呟くも、真っすぐに向けられる言葉は何処か居心地が悪くて
けれど小さく笑う
…大丈夫だよ、ベルがいるだろ

愛されたかったと思うことも
ないわけじゃない
でも、それは少なくともお前でも
お前が模るものでもないから

解放する
店主さんが、前を向いていけるように



 大きく、大きく伸ばされた枝葉は、中心にいる面映から伸びたものだ。
 しかしそれは、他の猟兵達からの攻撃により折れて枯れて、焼けていっているところもある。
 けれど、いまだ咲き誇る枝葉はあるのだ。その枝からひらひらと踊るのはまっしろな花弁。
「綺麗な花弁だな。僕の住む世界には無かった花だ」
 ひらりひらりと舞い降りてくる。べル・ルヴェール(灼熱の衣・f18504)はそのひとひらを掌の上へと、乗せた。
 僕はこの花の名前も香りも知らない――その言葉に続くのは。
「僕は愛されたいと思った事はない」
 ベルの言葉に浮世・綾華(千日紅・f01194)は瞬き一つ。
 ベルは己があの砂の国での宝物だと言った。
 それがどんなかたちかは、綾華は分からない――けれど。
(「ベルはきっと、」)
 愛されてきたのだろうと綾華は思う。だからその言葉が、どんな意味で紡がれたのかを考えようとしたけれど、それより先に彼の言葉が降ってくる。
「僕は幻を扱うんだ。同じ幻にやられる訳にはいかないな」
 そう言ったベルの手元に踊るのはまだ小さな熱の風。先ほど掌に載せた花弁はその中で舞い踊り――その色を変えて、砕けるように散った。
 神が望むなら――熱の風を生み出し、花を枯らす。
「花だけじゃない。砂漠の砂嵐は恐ろしいんだ」
 人間も動物も枯れる。それを知っているのはかつてがあるからこそ。
 綾華はからりと、ベルへと笑ってみせて。
「成程。んじゃ」
 ベルが押し負けねえようにしっかりサポートするよ、と綾華は緋色の鬼火へと、黒鍵刀を変えて躍らせる。
 鬼火で花弁も――芳香も燃やし尽くすとその姿を捉えて。
 ベルはふと、綾華に遊びしかけるように言葉向ける。
 けれど、そこには想う心があるのだ。
「アヤカ、まだ起きているか? 今は水をだせないけど」
 目を覚まさせてやる事はできる。ベルは視線を、面映へ。そして店主へと向ける。
 何度も言っているが心配なんだ、と。
「こんな状況じゃ、寝れねーっての」
 水は勘弁と呟くも、真っすぐに向けられる言葉は何処か居心地が悪くて――けれど、小さく笑う。
「……大丈夫だよ、ベルがいるだろ」
 面と向かって視線合わせて言うには、もどかしいような。
 今は敵を見ていなきゃなと、面映が伸ばす真っ黒な枝葉に鬼火を充てる綾華。
「花は綺麗だけど見ている人を連れて行きそうだ」
 大丈夫だと僕は信じている、と熱の風が花弁を振り払った。
 綾華の目の前駆けて、芳香もともに払いのける。
「……嗚呼、おそろしーな」
 綾華は視線一つを差し向ける。すると伸びた枝葉に鬼火が走り、端から燃やしていくのだ。
 燃えたものは、ベルが躍らせた風の中に消えていく。
「水が欲しければ歌って踊るんだ」
 花で惑わすなら僕は水を差し出す――それが僕の役割だ。
 ベルは、面映へと問う。
 お前の役割は、なんだろうかと。少なくとも、その店主の命奪うことが役目ではないだろうと。
「愛も思い出も誰かの物」
 僕のものじゃない、と灼熱の道に埋もれた宝の片割れは零すのだ。
 その言葉は綾華の耳にも届いていたのだろう。
 愛されたかったと思うことも――ないわけじゃない。
「でも、それは少なくともお前でも。お前が模るものでもないから」
 面映の見せたものは、違うものだと綾華は思う。
 解放するのだ。
 面映がとらえているものを。今、それが成すべき事だろう。
 店主さんが、前を向いていけるようにと綾華の想いを乗せて鬼火は緋色を増して燃え上がった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

カトル・カール
過去は…俺にとってはもう過ぎたもの、終わったもの
未練が全く無いわけじゃあないが、今と未来を見る方が楽しいんだ
だから、アンタにアイされたい、とは思わない

桜の癒やしで、店主を眠らせられないか試みる
例え幻でも、失った人を再び失うのは酷だろう
後は…策ってほどの何も無いが
『散華』で攻撃。武器的に影の枝を斬るってか叩き折る…かな

いい夢も過ぎれば毒だ。毎日を生きるにはちょっとばかり刺激的すぎたな
終わりにしよう
店主にかける言葉は見つからないが――香が終わったら、また買いに来る
ついでに知り合いにもこの店を勧めておく
ので、まあ、店を閉めずに続けてくれると、嬉しい



 花の香りがしていた。先ほどまでみていた光景は今はすでになく咲き誇る花々の姿ばかり。
 その中で、相対していた。
 カトル・カール(コロベイニキ・f24743)にとって過去は――過去だ。
 もう過ぎたもの、終わったもの。
 その過去に、未練が全く無いわけではない。けれど、その過去に浸るよりも――今と、未来のほうがカトルには大事なものだったのだ。
 そちらを見る方が、楽しいのだから。
「だから、アンタにアイされたい、とは思わない」
 ふわりと、桜の花吹雪がカトルの周囲を舞い踊った。それは渦巻いて、店主の方へと向かっていく。
 この癒して彼を眠らせないだろうか。
 彼の意識はふわりふわり、現実と幻の境にあるのだろう。
(「例え幻でも、失った人を再び失うのは酷だろう」)
 それならば――きっと、目にしない方がいい。
 眠っているうちに、夢として全部終わって目覚めればきっと、その心に悲しみが起こることはないはずだ。
 けれど、何か感じたか――面映は邪魔するように枝葉を伸ばし、そして芳香と花弁で攻撃をかけてくる。桜吹雪に白い花弁が向かってくるのだ。
「……策ってほどの何も無いが」
 その枝葉を、亡き妹の愛剣。敵を骨ごと砕く無骨な鉄塊を手にカトルは振り払った。
「いい夢も過ぎれば毒だ。毎日を生きるにはちょっとばかり刺激的すぎたな」
 終わりにしようとカトルは告げる。
 店主にかける言葉は、見つからぬまま。けれど放っておけるはずもない。
「――香が終わったら、また買いに来る」
 ついでに知り合いにも店を勧めておくと、続けて。
「ので、まあ、店を閉めずに続けてくれると、嬉しい」
 だからここで――命を落としてはならない。
 この言葉が、想いが彼に届けばと思いながらカトルは再び伸ばされた枝葉を切り落とした。

大成功 🔵​🔵​🔵​

葬・祝
【朱の社】
あらあら、人の子って何時の時代も難儀ですねぇ
愛とか恋とか執着とか、とても大変そう
うふふ、人の子に限った話じゃありませんでしたね、カフカったら可愛い

生憎と愛されたいなんて思ったこともないので
寧ろ、君にとっての愛って何なんでしょう
君の胞子、その人の子の何に反応して紛い物を見せてるんです?
…… 珮李は速いですねぇ、目で追うのも疲れそう
私はあんまり動き回るのは好きじゃないので

ねぇ、「面映」の君
枝が腐り落ち、その身が飢えたなら、夢幻を君は何処まで維持出来るんでしょうか
試してみても良いです?
嗚呼、だってもう、君は私と出逢ってしまったんですもの

カフカを酒の肴に?
んふふ、喜んでご相伴に与りましょう


岬・珮李
【朱の社】


お楽しみの所すまないけれど、時間切れだよ
愛されたいなんて、誰でも思うこと
けれど誰でもいいわけじゃない
店主、キミもお目覚めの時間だ

おや、こんなふわふわした綿胞子でいいのかい?
そんなんじゃ、ボクの速度には到底追いつけないよ
店主は起こさないといけないけど、キミは逆に眠らせないといけない
あいにく、優しく寝かしつけてはやれないからね
黄泉路転げて、元の場所へ戻るといい
悲しいだけだよ。こんなのは

ひと仕事終わったら、店主を送りがてらどこかで打ち上げしようか
カフカのお姫様の話、まだあんまり聞いたこと無いから肴にさせてよ
ボク?ボクは…皆が幸せそうなら、それでいいかな
はふりも行くでしょ?というか逃さないよ


神狩・カフカ
【朱の社】

愛されたい、か…
否といえば嘘になるが
けれど、それはお前じゃない
外身だけ同じでもおれの慾は満たされねェのサ
――難儀な話だがな
…可愛いって言われても嬉しくねェし
なんか含みがねェか?

…はふりは相変わらず敵に回したくねェやり口だな
綺麗な花だが所詮は偶像
この香りも姫さんの芳しい桜には及ばねェ
花弁も枝も
朱に塗り替えて
すべて燃やしちまおう

店主さんよ
そろそろ夢から醒める時間だ
おれはお前さんみてェな奴を大勢見てきたぜ
人の世に別れは付き物
だからと言って慣れるもンでもねェがな
お前さんを待ってる客がいるンだ
戻ってこいよ

打ち上げはいいが
…何かよからぬことでも考えてねェか?
話してもいいが
お前らの話も聴かせろよ?



 幻の先へとたどり着けば、ふわりと甘い芳香が広がっていた。
 岬・珮李(スラッシュエッジ・f27446)はそれに、僅かに表情顰めて。しかし面映の姿をしっかりと、とらえた。
「お楽しみの所すまないけれど、時間切れだよ」
 愛されたいなんて、誰でも思うこと。
 珮李はけれど、と言葉続ける。
「誰でもいいわけじゃない。店主、キミもお目覚めの時間だ」
 珮李は刹舞霊殺『斬風』――常世幽世の別なく、全てを斬り伏せる刃を柄に手をかける。
「愛されたい、か……」
 ほとりと、神狩・カフカ(朱烏・f22830)は零す。
 否といえば嘘になる。
 けれど――と、カフカの視線は面映を射抜く。
「それはお前じゃない。外身だけ同じでもおれの慾は満たされねェのサ」
 は、と息吐いてカフカが思い浮かべる姿はひとり。
「――難儀な話だがな」
 カフカがため息のように落とした言葉を、拾い上げたのは。
「あらあら、人の子って何時の時代も難儀ですねぇ」
 愛とか恋とか執着とか、とても大変そう、と葬・祝(   ・f27942)は軽やかに笑う。
「うふふ、人の子に限った話じゃありませんでしたね、カフカったら可愛い」
「……可愛いって言われても嬉しくねェし。なんか含みがねェか?」
 じとっとした視線をカフカが向けるも、祝は気のせいですよと笑ってかわす。
「生憎と愛されたいなんて思ったこともないので」
 寧ろ、君にとっての愛って何なんでしょうと祝は投げかけた。
「君の胞子、その人の子の何に反応して紛い物を見せてるんです?」
 ふわりふわりと柔らかに飛んでくる胞子。
 それを斬り払ったのは珮李だ。切ったという手応えがあるようで、ない軽さ。
「おや、こんなふわふわした綿胞子でいいのかい?」
 そんなんじゃ、ボクの速度には到底追いつけないよと珮李は軽やかに地を蹴って走り抜ける。
 雷が地面に走る。それによって珮李は速度を上げて面映へと走りこむ。
 店主は起こさないといけないけど、キミは逆に眠らせないといけない――その視線はまっすぐ面映を捉えていた。
「あいにく、優しく寝かしつけてはやれないからね。黄泉路転げて、元の場所へ戻るといい」
 悲しいだけだよ。こんなのは、と珮李は紡いで、刃を抜き放った。
 一閃――ふわりと泳ぐ胞子ごと、面映へと刀傷が走るのだ。
 その様を、ゆるりと祝は見詰めて。
「…… 珮李は速いですねぇ、目で追うのも疲れそう」
 私はあんまり動き回るのは好きじゃないので、と視線を向けるだけの祝。
「ねぇ、『面映』の君――」
 枝が腐り落ち、その身が飢えたなら、夢幻を君は何処まで維持出来るんでしょうかと祝は問いかける。
 問いかけと共に、面映の伸ばした枝葉が伸びるのが止まる。
「試してみても良いです?」
 嗚呼、だってもう、君は私と出逢ってしまったんですもの――大きく伸ばされた枝葉が、ぽろりと崩れ落ちるのは祝が視線で撫でたとともに。
「……はふりは相変わらず敵に回したくねェやり口だな」
 カフカはその様を目にし言葉送る。
 そして――面映を見詰めた。どのようなものを映し出されようとも――綺麗な花だが所詮は偶像。
「この香りも姫さんの芳しい桜には及ばねェ」
 花弁も枝も――朱に塗り替えて。
 すべて燃やしちまおう、とカフカは手向けの彼岸花を向ける。
 燃え盛るそれは、枝葉に触れればさらに伸びて、面映の身の上を駆け抜ける。
 そしてカフカはいまだ、捕らわれている店主へと言葉を投げかけた。
「店主さんよ。そろそろ夢から醒める時間だ」
 おれはお前さんみてェな奴を大勢見てきたぜ、と長き時を生きるもの言葉が紡がれる。
「人の世に別れは付き物。だからと言って慣れるもンでもねェがな」
 そして、先ほど足運んだ店を思うのだ。
 あの店を必要としている者達は、いるのだろう。それは訪れたからこそわかることだ。
「お前さんを待ってる客がいるンだ。戻ってこいよ」
 面映の身が崩れ始める。
 その様を目に、珮李は二人の下へと舞い戻り。
「ひと仕事終わったら、店主を送りがてらどこかで打ち上げしようか」
 そう言って、カフカへと視線を投げて。
「カフカのお姫様の話、まだあんまり聞いたこと無いから肴にさせてよ」
 そしてぱっと、珮李は祝へ視線向け笑いかける。
「はふりも行くでしょ?というか逃さないよ」
「カフカを酒の肴に? んふふ、喜んでご相伴に与りましょう」
 それは楽しみ、と祝は笑み浮かべる。
 カフカは二人へと何か言いたげだ。
「打ち上げはいいが……何かよからぬことでも考えてねェか?」
 話してもいいが、お前らの話も聴かせろよ? と言うカフカに、珮李は瞬いて少し考える。
「ボク? ボクは……皆が幸せそうなら、それでいいかな」
 だからやっぱりボクの話よりカフカの話かな、なんていわれると逃げ道を塞がれたような。そんな気持ちの現れた表情を僅かに浮かべちらりと祝を見るカフカ。
 それに気付いた祝は面白そうに笑み零した。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

朱赫七・カムイ
美しい桜鼠の長い髪に、桜の瞳
角に咲く桜がゆれる
たたえるのは私が大好きな笑顔――大切な大事な友の姿に変じた姿を前に笑む

アイ、あい……
どうだろう
わからないな
『前』の私はアイされたかったのか
それとも、アイしていたのか
『私』は全てをおとしてしまったからね

けれど確かなことは
私は、望まれてここに在るということだよ
あの櫻(こ)が望んでくれた
私が還ってくることを

だからね
そなたが…私の大切な友の姿をとることが許し難い
私にもう一度、例え偽りでも
『きみ』を斬らせるなんて
無意識に零れた言葉を疑問に思う暇もない

枯死の神罰と共に斬りこみ放つ
「黄泉ノ絶華」
そなたを散らせるよ

…ねぇ、本当は
アイされたかったのはそなたではないの



 朱赫七・カムイ(無彩ノ赫・f30062)の目に映る、面映の姿は――美しい桜鼠の長い髪に、桜の瞳。
 角に咲く桜がゆれて、そこにたたえるのはカムイの、大好きな笑顔だった。
 カムイの持つ記憶の中とそれは遜色ない。
 大切な、大事な友の姿に変じた面映。その姿に、カムイもまた笑みを浮かべていた。
 けれど――これは、友ではないこともわかっている。だからすぐに、何かうまく言葉にできない思いも頭もたげてくる。
 アナタの望むままに――アイしてあげる。
 そんな言葉を向けられて、カムイは瞬きをひとつ。
「アイ、あい……どうだろう。わからないな」
 カムイは思うのだ。
(「『前』の私はアイされたかったのか」)
 それとも、アイしていたのか。
 それはわからないのだ。
 すべてのことを、綺麗に思い出せるものではない。
『私』は全てをおとしてしまったからね、と小さく零して。
 わからないことはある。
 けれど確かなことも、またあるのだ。それがあるから、何も迷うことはない。
 それは――ひとつ。
「私は、望まれてここに在るということだよ」
 あの櫻(こ)が望んでくれた――私が還ってくることを。
 カムイはその姿を、瞳閉じて瞼の裏に描き出す。
 目の前に、いるけれどそれは違う。
 思い起こすその姿こそ、本物だ。
「だからね――そなたが……私の大切な友の姿をとることが許し難い」
 カムイは己の持つ喰桜――朱砂の太刀に手をかけた。
「私にもう一度、例え偽りでも、『きみ』を斬らせるなんて」
 ぽとりと零れ落ちた。それは無意識のものだ。それを疑問に思う暇もなくカムイは踏み込んだ。
「――唯春の夜の夢のごとし。たけき者も遂にはほろびぬ、 偏に風の前の塵に同じ」
 そなたを散らせるよと、空間ごと抉り切り黄泉への一歩を踏み込ませる。
「……ねぇ、本当は」
 アイされたかったのはそなたではないの、と。
 カムイの言葉は面映にも響いていく。綺麗に走った一閃の痕と共に。

大成功 🔵​🔵​🔵​

誘名・櫻宵
アイかほしいか、なんてその姿でよく言えたものだわ

目の前で、揺らぐあなたが象る姿
――私の師匠
厄神である黒い神様
闇夜のような漆黒の髪に、血のように深く赫い瞳―それでも誰より何より優しくて
私を消して、見捨てなかった神様

もういない、逢いたいひと
私にまた…あなたを斬れというのね

私は愛を識った
喰らうものではなく、慈しみ寄り添うものであると
しれたのよ
だから、偽物などに惑わされないわ
あなたのそれは唯の偽物
私の神様を穢さないで頂戴な

あなたの愛はいらないわ
浄化と破魔宿らせた斬撃放ち、なぎ払う
…その姿で私の前に、立たないで
蹂躙するように斬撃這わせて
『絶華』の刃で斬り祓う

大丈夫よ
だって私はちゃんと―あいされていたから



 白い花弁がはらはら、ひらひら。幻朧桜の花弁と共に嵐のように舞い踊っていた。
「アイかほしいか、なんてその姿でよく言えたものだわ」
 その中で、僅かに瞳を細めて誘名・櫻宵(爛漫咲櫻・f02768)は紡ぐ。
 目の前で揺らぐ、その姿は――櫻宵の師匠の姿だ。
 それは厄神である黒い神様のもの。
 闇夜のような漆黒の髪に、血のように深く赫い瞳――それでも、誰より何より優しくて。
 櫻宵の記憶の中にある姿とは違わぬそれ。しかし、そこにいるのは、師匠ではないこともわかっている。
「私を消して、見捨てなかった神様」
 ぽつりと、櫻宵は呟き落とす。
 これはもういない、逢いたいひとの姿だ。
 けれど真似ただけ、映しただけ。それでも、倒すと――その身の上に刃を走らせるということは。
「私にまた……あなたを斬れというのね」
 櫻宵は血桜の太刀の柄に手をかける。
「私は愛を識った」
 喰らうものではなく、慈しみ寄り添うものであると――しれたのよ、と櫻宵は言って。
「だから、偽物などに惑わされないわ」
 見据えるのは師匠の――いや、それを写し取っているだけの面映。
「あなたのそれは唯の偽物。私の神様を穢さないで頂戴な」
 簡単に写されて快いものなどではないのだ。
 あなたの愛はいらないわ、と櫻宵は囁くように言ってその在り様を浄化するよう破魔宿らせた斬撃でなぎ払った。
 一閃が走る。誰かの与えた綺麗走った傷の痕がなぜかその目に入った。
「……その姿で私の前に、立たないで」
 黄泉桜を咲かせてあげる。潔く、散りなさい――言い放つとともに放った斬撃が面映の身の上を撫でるようにするりと刻まれた。
「大丈夫よ。だって私はちゃんと―あいされていたから」
 もうしっているから、何も迷う事はないのだとその身の上をさらに深い一撃が走った。
 師匠の姿は揺らいで、そして面映の持つ本来の姿へと変わっていく。

大成功 🔵​🔵​🔵​

橙樹・千織
あいされたい…
そうね……そうかもしれない

姿を変える?
彼らに?
貴方は一人しか居ないのに?
無理よ
ころころ姿を変えたって、錯覚はしない

そう、錯覚なんて…しない
山吹と糸桜のオーラを練り上げ防御態勢を整える
同時に風で店主の綿帽子を祓い、浄化を試みましょう
戦闘中は巻き込まれないよう結界術で隔離を

彼らが幸せな日々の中で笑っていてくれたなら…
それを見守ることが出来たなら…
それで十分
思い起こすのは先程の白昼夢

だから、あいされずとも
この身朽ちるまで、私は彼らを護り続ける
武器には破魔と炎の属性を付与
纏わり付く綿帽子は衝撃波で吹き飛ばし
敵の傷口を鎧をも砕く勢いでなぎ払う


そもそも

あいされるなんて
そんな資格

私には無いもの



 面映の身は、焼かれ斬られ、削られ――ぼろりと崩れ始めていた。
 アイしているだけなのに……アイされたくないの、と独り言ちる様に零して。
 その言葉が橙樹・千織(藍櫻を舞唄う面影草・f02428)の耳に届く。
「あいされたい……そうね……そうかもしれない」
 千織はほとりと零す。
 そして目の前でゆらり。面映の姿が変わっていく。
 ひとりずつ、千織の瞳に映っていく。
「姿を変える? 彼らに?」
 貴方は一人しか居ないのに? と千織は問い返し――無理よ、と告げる。
「ころころ姿を変えたって、錯覚はしない」
 一人でみんなの姿をたどるなんて。
「そう、錯覚なんて……しない」
 千織は山吹と糸桜のオーラを練り上げ、防御態勢を整えていく。
 それと共に風を起こし、綿胞子を祓い浄化を試みる。
 その風は店主の身を撫でて綿胞子を吹き払った。
 店主は、攻撃は届かぬ場所ではあるが守りのために結界術を施して。
 千織は、そうして彼の安全を目の端におきつつ、まっすぐに面映を――姿を次々に移ろわせる姿を目にとめた。
「彼らが幸せな日々の中で笑っていてくれたなら……」
 それを見守ることが出来たなら……と、千織は息を吐く。
 それで、十分なのだと。
 先程の白昼夢を思い起こし千織は僅かに笑む。
 だから、あいされずとも――この身朽ちるまで、と千織は思えるのだ。
「私は彼らを護り続ける」
 それは心に抱いた強さだろう。
 破魔と炎を刃に乗せて、ふわりふわりと向かってくる綿胞子を衝撃波で吹き飛ばした。
 その圧にひるんだか、面映の姿がほどける。面映の身には、すでにいくつもの傷跡があった。
「そもそも」
 傷跡を追うように、藍色の装飾が施された黒鉄の刀身を千織は振り払う。
「あいされるなんて、そんな資格」
 私には無いもの――千織の振るう刃はその枝葉ごと、面映の身を斬り伏せた。
 面映はまだ動けるようだが――それもどうにか、というところ。後ずさり、千織と距離を取り枝葉伸ばし、面映は行く手を遮った。

大成功 🔵​🔵​🔵​

筧・清史郎
【月桜】

アイされたい、か
長年箱で在った俺にとって、愛とはまだよく分からない感情だが
ひとにとって、特別なものだということは分かる
そしてそれを弄び糧にする影朧は、斬るべき存在だということもな
さぁ参ろうか、ふたりとも

ふたりと共に征けるのは何とも頼もしいな
敵の花弁や芳香は広げた扇の衝撃波で吹き飛ばし
揺籠は花霞の如き残像駆使し見切り躱し、抜いた刀で叩き斬る
お返しに、数多の桜花弁の刃をくれてやろう

ヴォルフガングが敵の動きを止めてくれれば、隙をつき間合いを詰め
よすがと連携し、友の祝福を受けた刀の一閃を

俺達は惑わされない
甘い芳香よりも今は、甘いパフェの方が心惹かれるからな
そんな楽しい約束のためにも終わらせよう


夜霞・よすが
【月桜】

アイって大事な感情だろ?
色んな種類はあるかもしれないけど
無理に奪ったり苦しめるアイは好きじゃないから

自分の意思で枷を外すのは初めてなんだ
これからはこの力を正しく使うために
行こう、ヴォルフ、清史郎

ヴォルフの詠唱が聞こえる
作ってくれたこの隙は絶対に逃さないよ
より強くなった気がするのは
きっと3人の思いが重なってるから
敵の攻撃は聞き耳を立てたり、野生の勘をつかってうまく避ける
霞草をいっせいに散らして目眩まし
霞草に隠れた薔薇の棘がじわじわと迫るように
清史郎の攻撃に合わせるように棘でも切りつけていく

パフェは香りだけじゃなくって
見た目も味も楽しさも待ってるもんな
幻の誘惑より絶対そっちのがいいや!


ヴォルフガング・ディーツェ
【月桜】
弐度と戻らぬモノ、それでも追い求めるのは追慕か愛執か
…少なくとも、弄られるのは業腹であるに違いない

嗚呼、行こう二人とも

愛執を幻と変えるか、面倒だ
ならば…世迷い言など交わせぬ様にしよう

「全力魔法」「多重詠唱」「高速詠唱」「精神攻撃」を駆使し描くは死のルーン
象徴たるイチイの樹槍で貫き、縫い付けよう
さあ、お前が恐れる死を想え
そして蝕まれるが良い

立ち向かう二人には【指定UC】で祝福を
偽りなれど世界樹を模した魔術、花舞う戦場には相応しかろう

迷いない一閃、凛と咲く薔薇に零れる笑みは禁じ得ない
嗚呼、此れが未来を歩む力
哀すら糧とする生命の輝きだ――

ふふ、血腥ささより俺達にはスイーツの香りが似合うよな!



 ヴォルフガング・ディーツェ(誓願の獣・f09192)はその瞳細めて、面映を見詰める。
「弐度と戻らぬモノ、それでも追い求めるのは追慕か愛執か」
「アイって大事な感情だろ?」
 夜霞・よすが(目眩・f24152)は色んな種類はあるかもしれないけど、と紡いで小さく尾を揺らした。
 今、目の前で面映の紡ぐそれは決して相いれる物ではない。
(「無理に奪ったり苦しめるアイは好きじゃないから」)
 よすがの目には、そう映るのだ。
「アイされたい、か」
 それはいったいどんな感情だろうか。
 筧・清史郎(ヤドリガミの剣豪・f00502)にとっては――長年、箱で在った清史郎にとって、それはまだよく分からない感情だった。
 しかし、それがひとにとって、特別なものだということは分かる。
 そして、もう一つ分かるのは。
「それを弄び糧にする影朧は、斬るべき存在だということもな」
 さぁ参ろうか、ふたりとも、と清史郎は涼やかに、二人へと笑みを向けた。
 うん、とよすがは頷いて――枷を外す。
 自分の意志で、それを外すのは初めてだ。
(「これからはこの力を正しく使うために」)
 行こう、ヴォルフ、清史郎と二人の名を紡ぐよすが。
「……少なくとも、弄られるのは業腹であるに違いない」
 嗚呼、行こう二人ともとヴォルフガングは二人の声に応えた。
 ふふ、と笑い零したのは清史郎だ。
「ふたりと共に征けるのは何とも頼もしいな」
 こちらに来るなと言うように甘い芳香を、花弁を、枝葉を伸ばす面映。
 清史郎は扇をひらりと躍らせて、それらを衝撃波で吹き飛ばした。
 衝撃波を潜り抜けて伸ばされる揺籠がとらえたのは残像。捕まえたと思えば花霞。
 清史郎が抜き放った刀が叩き斬る。

 面映は、己に敵意を向ける物に対して構えるだけ。
「愛執を幻と変えるか、面倒だ。ならば……世迷い言など交わせぬ様にしよう」
 ヴォルフガングは持てる力をすべて傾けて面映へと何よりも早く、精神を浸す死のルーンを描く。
 そして象徴たるイチイの樹槍で面映を貫き、その場に縫い留めた。
「さあ、お前が恐れる死を想え。そして蝕まれるが良い」
 よすがの耳にもヴォルフガングの詠唱は聞こえていた。
 作ってくれた隙は絶対に逃さないように。
 より強くなった気がするのは、きっと三人の思いが重なっているからだろう。
 甘い芳香を振り払って。そして伸びた枝葉に捕まりそうになったが、己の野生の勘が囁いたか、間際によすがは逃げた。
 そして面映へと向けてよすがは露草をいっせいに散らす。
 それは目眩ましだ。その中に隠れた薔薇の棘が、面映にじわじわと迫る。
 共に戦う清史郎の刃が届く瞬間に合わせて、よすがの棘がその身を斬りつけていった。
 敵の動きが止まるその一瞬をよすがも清史郎も見逃さない。
 ヴォルフガングはふたりへと――祝福を。
「偽りなれど世界樹を模した魔術、花舞う戦場には相応しかろう」
 そして手向けられた祝福を、刃に乗せて一閃する。よすがもまた、茨を伸ばし共に力重ねた。
 その迷いない一閃、凛と咲く薔薇にヴォルフガングは笑みをこぼす。
「嗚呼、此れが未来を歩む力。哀すら糧とする生命の輝きだ――」
 それを、面映は知らぬのだろう。
「俺達は惑わされない」
 甘い芳香よりも今は、甘いパフェの方が心惹かれるからなと清史郎は微笑んだ。
「パフェは香りだけじゃなくって、見た目も味も楽しさも待ってるもんな」
 幻の誘惑より絶対そっちのがいいや! とよすがはからりと笑う。
「ふふ、血腥ささより俺達にはスイーツの香りが似合うよな!」
 ヴォルフガングも笑って、頷いて相好崩す。
 そんな楽しい約束のためにも、この戦いを終わらせようと振るう刃、伸びる棘は面映の力を削いでいく。
 そして面映は、追い込まれていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

天音・亮
【宵天】

捉えた姿は記憶のままの幼いきみ
見上げる瞳が心の隙間を撫でる様

降ろしてもらったあとでその背に片手を添える
ありがとう、とっきー
もう大丈夫
ひとりで立てるよ

深く息を吸う、甘い花の香り
目を閉じる、幻がちらつく
でも耳を澄ませればきみたちの声が聴こえる
にせものじゃない
愛するきみたちの本当の声
だから私は前に進む

私の周りには愛が溢れてる
ちゃんと知ってる
きみのアイはいらないよ

本物の愛で色づいた私の翅で
きみの揺籠から飛び立つの
あの子の姿を見せてくれてありがとう

オーラ防御で包んだこの身を
とっきーの言葉がさらに守ってくれるから
怖いものなんて何もない
きみに返すピースサイン

店主さん、喪失に囚われちゃダメ
戻ってきて


宵雛花・十雉
【宵天】

背から降ろした彼女の声も触れる手も、さっきまでとは違う
もう震えてなんていなかった
そっか、ならやるぞ
…無理はすんなよ

今はきっとあっきーが過去と向き合うべき時なんだろう
ならどうするか、彼女が自分で決めるべきだ
そして今のオレに出来ること、それは前に進もうとしてる友達の背中を押してやることだ
『兵の言霊』で彼女に鼓舞を送るよ

あっきーの周りに愛が溢れてるって
もしもそう感じるなら、それはきっとあっきーの中も愛で溢れてるってことだろうさ
あっきーはちゃあんと愛に気付けるんだ

彼女に攻撃が向けば「結界術」で守りの援護をして

飛べ、あっきー!
ほんの少しの勇気さえありゃあ、どこまでも行けるさ



 捉えた姿は記憶のままの幼いきみ――天音・亮(手をのばそう・f26138)の心の隙間を撫でるように、その瞳が見上げていた。
 宵雛花・十雉(奇々傀々・f23050)は黙って、亮を背中に歩んでいた。
 甘い芳香、白い花弁――その先は、戦いの場。
 そこで十雉は、亮を降ろした。
 亮は、地に足付けてその背に片手を添える。その手はもう震えてなどなく、亮はしっかりと自分の力で立っていた。
「ありがとう、とっきー」
 もう大丈夫、と亮は言う。
「ひとりで立てるよ」
「そっか、ならやるぞ」
 そう言ったけれど、十雉は少し間をおいて。
「……無理すんなよ」
 その言葉に亮はひとつ頷き、深く息を吸い込んだ。
 甘い花の香り――目を閉じれば、幻がちらつく。
 でも、その耳澄ませれば。
(「きみたちの声が聴こえる」)
 それは、にせものではない。愛するきみたちの本当の声。
(「だから私は――前に、進む」)
 亮はぱちりと、瞳開く。
 その様を十雉は傍らで見守っていた。
(「今はきっとあっきーが過去と向き合うべき時なんだろう」)
 きっと、何も言うべきではない、と。いや、言葉にして踏み込んでいいことではないのだろうと。
(「ならどうするか、彼女が自分で決めるべきだ」)
 そして今、己に出来ることを思えば、それはひとつ。
 前に進もうとしている友達の背中を押してやることくらいだ。
「頼りにしてるぜ」
 行って、ぽんとその背中を軽く叩く十雉。
「あっきーの周りに」
 愛が溢れてるって――もしもそう感じるなら。
「それはきっとあっきーの中も愛で溢れてるってことだろうさ」
 亮は十雉から向けられた言葉に瞬いて、うんと頷く。
「私の周りには愛が溢れてる」
 ちゃんと知ってる、と亮は言って前を――視線を面映へと、向けた。
(「あっきーはちゃあんと愛に気付けるんだ」)
 だから何も、問題はない。
「きみのアイはいらないよ」
 面映へと、亮は紡ぐ。そしてとんと、地面を蹴った。
 己に向かってくるもの――もう、絶えかけている面映はそれでも己を保つためにか、攻撃をかけてくる。
 白い花弁で視界を奪い、甘い芳香で惑わせ伸ばした枝葉が亮を捉えようとするけれど。
「本物の愛で色づいた私の翅で、きみの揺籠から飛び立つの」
 けれど、感謝していることもあるのだ。
 あの子の姿を見せてくれてありがとう、と亮は言葉向ける。
 正面から伸びてきたその枝。避けるかどうするか――そう思ったけれど、そのまま真っすぐ。
 十雉が、守りの援護をしてくれているからだ。己の身を包む結界。それに温かさのようなものを感じる気もする。
「飛べ、あっきー!」
 ほんの少しの勇気さえありゃあ、どこまでも行けるさ――十雉がその背中に向かって投げた言葉に笑み零して。
(「とっきーの言葉がさらに守ってくれるから」)
 怖いものなんて何もない。
 その手を伸ばし、ピースサインを返す。
 何よりも早く、幽世蝶たちと共に駆ける亮。そして太陽の足跡と共に、己の脚を振りぬいた。
「店主さん、喪失に囚われちゃダメ」
 戻ってきて――亮の言葉にぴくりと、面映に捕らわれた店主は反応する。
 それは今までも、猟兵たちがさまざまな手を打ってきたからあるのだろう。
 その瞼は震え――目覚めの時がやってくる。
 そして面映も、その腕から店主を放つ時なのだ。
 重ねられた攻撃。耐えてきたけれど堰を切ったように面映の身は崩れていく。
 面映は涙零しながら、その身を崩して塵になる。
 アイしてあげるといいながら、アイされたかった――それは、そうなのかもしれない。
 伸ばした枝葉も、花弁もすべて消え去って。その香りも、消えていく。
 面映が消えた先には店主がひとり、横たわるだけだった。衰弱しているが、命は――保たれている。
 店主はこれからきっと、今までのことを夢として日常にまた戻るのだろう。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2020年10月09日


挿絵イラスト