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世界崩壊の刹那~ずっと逢いたくて、決して逢えない貴方

#カクリヨファンタズム #ミズチさん

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#カクリヨファンタズム
#ミズチさん


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●カクリヨファンタズムにて
 その日。

 ミズチさんは空をお散歩しておりました(カクリヨファンタズムだから飛べるんです)。
 UDCアースでは妖怪とかUMAとか言われていたミズチさんがカクリヨファンタズムに逃げ込んできて幾星霜。この世界に逃げ込んできた他の妖怪たちと毎日楽しく暮らしていました。
 お空の散歩は趣味です。何故かというと、以前の主(飼い主とも言えるでしょうか)である天女様がよく連れていってくれたからです。その頃から空のお散歩はミズチさんのお気に入りでした。何故ってUDCアースに居た頃は自分では飛べませんでしたから。

 お空のお散歩はとても楽しいものです。たまにお友達と一緒にいったりして、これもまた楽しい。
 それでも……ふと思う時があるのです。

(天女様が一緒だったらもっと楽しいに違いないのに)

 ですが、天女様は時間の理に従って骸の海へ行かれてしまいました。もうお会いすることはできません。それは『自然の摂理』であり、ミズチさんも分かっていました。

 その日。でも。

 ミズチさんは出会ったのです。
 それはミズチさんの前方に光り輝くカタチとして姿を成しました。光が消えて、その場にいたのは……何をどうやってもお会いできないはずの御方。
「天女、様?」
「あなたは……ミズチ?」
 ミズチさんの声に振り向いた天女様は、以前と何も変わらない、ミズチさんの主である天女様でした。

 ただひとつ違うことがあるとすれば。天女様は骸魂だったのです。

 骸魂は妖怪を取り込んでオブリビオンと化します。
 天女様にミズチさんを傷つける意図はなかったでしょう。ただただこの世界の理(ルール)が働いただけでしょう。天女様は近付いてきたミズチさんを取り込んでしまいました。
 それでも。たとえオブリビオンと化しても。ミズチさんは天女様とまた一緒になることができたのです。

 その時、思ってしまったのです。呟いてしまったのです。

 『時よ止まれ、貴女は美しい』、と。

 それはミズチさんの本心でした。このままずっと天女様と居たいという。

 しかし、その言葉は……カクリヨファンタズムの世界の終わりを告げる『滅びの言葉』だったのです。

●グリモアベースにて
「おおっ、いいところに居た!」
 その声は頭上から。
 見上げると空から椎宮・司(裏長屋の剣小町・f05659)が降ってきた。どうやらどこかの世界から転送で帰ってきたところらしい。
 着地するや否や、司は駆け寄ってきて話し出す。
「悪いんだが、大至急カクリヨファンタズムに行ってくれないかい!?」
 必死の表情に緊急事態ということはわかるのだが、いかんせん状況がつかめない。そのことを告げると、司がハッとした顔をする。
「あ、ああ。そうだね。説明も無しにすまなかった。待ってくれ、ちょっと纏める」
 ふぅ、とひと息深呼吸。しばし目を瞑って開いた後、司が改めて告げる。
「カクリヨファンタズムで世界の崩壊が始まっている。そいつを止めて来て欲しい」

「幽世で酒を飲んでいたら予知が降ってきてね」
 それはミズチという妖怪が骸魂に取り込まれてオブリビオン化。その側から世界が崩壊するという光景であった。
「ミズチ、知ってるかい?」
 サムライエンパイアの文字なら『蛟』と書く。水に関係する神とも妖怪とも言われ、竜とも蛇ともみえる姿をしているという。
「このミズチ、とある天女の眷属だったらしくてね」
 UDCアースにいる頃は天女様の元で働いていたのだ。しかしUDCアースを離れる際に、ミズチは妖怪としてカクリヨファンタズムに、天女は自然の理に従って骸の海に行った……のだが。
「どうやら、天女が骸魂としてカクリヨファンタズムに帰ってきたみたいなんだ」
 そして運命が二人を邂逅させる。その邂逅はとても幸せなものであったはずなのに。骸魂と妖怪という関係がオブリビオンを生み出してしまったのだ。
「そして、世界も崩壊するっていうね」
 何とも言えない顔をする司。
 しかし、この話を悲劇として、このまま世界を終わらせるわけにはいかない。
「今なら、二人を引き剥がせば世界の崩壊を止められる」
 オブリビオンから妖怪を助け出すには、骸魂のみを倒すしかない。それはつまり、せっかく一緒になった二人を引き裂くということに他ならない。

「辛い役目を頼んじまってすまない。でも……頼む」
 司は言う。
 それはきっと世界のためでも、ミズチのためでも、望まずに骸魂となった天女のためでもあると。
「頼めるかい?」
 司の言葉が猟兵たちの間に響き渡る。

●再度、カクリヨファンタズムにて
 司に転送されてきた猟兵たちはカクリヨファンタズムの地を踏む。
 件のミズチと天女が邂逅している空の真下。ここから空へあがる必要がある。

 司の話を思い出す猟兵たち。
「不幸中の幸いってやつでね。崩壊中のカクリヨファンタズムは色んな概念も崩壊している」
 つまり、常識は良い意味で通じなくなっている。
 そこが『足場』だと認識すれば。空であろうと水の上であろうと踏みしめることができるし、その要領で空へ駆けあがることだってできる。もちろん、空である以上、飛ぶことを邪魔するものはいない。

 猟兵たちの道行を邪魔するのはただひとつ。空から降ってくるオブリビオンの欠片のみ。
「ミズチと天女の融合の副作用ってとこだ。空から水塊だったり雹だったり氷柱だったりが降ってくる」
 見た目通りの物質なら問題ないのだが、いずれもオブリビオンとしての力を有している。有象無象とはいえ、対策も無しにその身に受ければダメージは免れない。
「すっごく弱っちいオブリビオンだと思ってくれ。弾くなり吹き飛ばすなり、何か対策を打てば問題ないさね」
 そして、オブリビオンの元まで辿り着いて欲しい。

 その後は……猟兵たちに託す。


るちる
 こんにちはとかこんばんはとか、るちるです。お世話になってます。
 もふもふ依頼が終わるまで、と思って自重し……ごめん、し切れなかった。
 カクリヨファンタズムの新シナリオお届けします。

 オープニングに書き切れなかったので補足です。
 1章が冒険、2章がボス戦、3章が日常になります。
 1章は骸魂に取り込まれてオブリビオン化しているミズチさんの元へ急いでください。
 2章はオブリビオン化した天女様&ミズチさんと戦うことになります。詳細は章はじめに捕捉しますが、純戦となります。また、プレイングボーナスが別途あります。
 3章は事が上手く運べばミズチさんを救出できているはずです。傷心のミズチさんのアフターケアをお願いします。

 1章の補足です。
 空から降ってくる氷柱とか雹とか水塊とかの形をしたオブリビオンをかわしたり弾き飛ばしたり吹き飛ばしたりして、空の上にいるオブリビオンまで到達すればOKです。戦闘は次章からとなります。

 例によってオープニングや追記に記載がなくて、戦場や戦闘に関わることはご自由に設定してください。心情に関しましては慎重にアプローチしてくださいね?

 1章は承認後からプレイング受付。2章と3章は状況説明および捕捉が終わってからプレイング受付となります。
 それではご参加をお待ちしております。
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第1章 冒険 『空中戦!』

POW   :    攻撃はパワー!

SPD   :    攻撃はテクニック!

WIZ   :    攻撃はインテリジェンス!

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🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

ベム・クラーク
アドリブ連携歓迎です!

ピピッ「上空に保護対象と思しき反応。周囲には氷塊多数。任務を開始します…キラキラと綺麗ですが、破壊しながら出なければ進めませんね。」

(POW)飛行しながら火力に任せて突入します。
大きな障害は砲撃とミサイルで吹き飛ばし、破片はマシンガンでさらに細かく、あとは重装甲と推進力に任せて突き進みます。

戦いに散った戦友たちが敵として現れたなら、迷うことなくトリガーを引くウォーマシンの自分と骸魂すら受け入れたミズチの違いに思いをはせて

「骸魂でも共にありたいほどの感情など理解できません。想定不能の思い…人間の言葉で表すなら、嫌な任務です。」




 大地を踏みしめる確かな、そして重厚な音を立てて。
 ベム・クラーク(ウォーマシンの鎧装騎兵・f27033)はグリモア猟兵によるカクリヨファンタズムへの転送を完了させた。その身は非人間型重四脚の機械の身。されど彼は非生物に非ず、とある世界に生きる生命体であり、そして猟兵である。

 『ピピッ』と頭部の計器が鳴って、ベムはデータを確認する。
「上空に保護対象と思しき反応。周囲には氷塊多数。任務を開始します」
 グリモア猟兵からのデータとマッチングさせた結果、大きな問題はなさそうだ。
 直後、ベムの背中にあるバーニアが火を噴く。巨大なベムの体が浮かび上がり、推進力のまま、真っ直ぐに標的に向けて飛翔するベム。
 その行く手を遮るのは、変異と世界の崩壊の影響を受けたミズチの名残。先のデータで氷塊と称したオブリビオンの力の欠片。
「……キラキラと綺麗ですが、破壊しながら出なければ進めませんね」
 輝きだけなら宝石にも劣らないのかもしれないが。不確定要素は取り除くべき、とベムは迎撃態勢に入る。
 両肩のアームドフォートが展開して砲撃、進路上の氷塊をビームがなぎ払って。続けざまに背面腰部の20蓮ミサイルランチャーからばらまかれるミサイル群がビームを逃れた氷塊を爆発で砕いていく。
 されど、氷塊であるがゆえにそれは破片となって幾度も降り注ぐ。それらを両腕のマシンガンがさらに細かく細かく砕いていく。これ以上はいかな武器とて砕けまい、というほどに砕け、さながら氷の霧と化した中を。
「影響、微小。問題無しと判断します」
 重装甲を頼りにオブリビオンの力を弾き飛ばしながら、推進力で突き進むベム。

 そして標的が見えてくる。妖怪ミズチとそれを取り込んだ天女の骸魂、それがオブリビオン化した存在。

 もし。

 戦いに散った自分の戦友たちが敵として現れたなら?
(迷うことなくトリガーを引くでしょう)
 そう断言できるウォーマシンの自分。ゆえにベムは思う。
「骸魂でも共にありたいほどの感情など理解できません」
 それはベムという存在が、自分と骸魂すら受け入れたミズチの違いに思いを馳せた結果。その結果にベムは思うのだ。
「想定不能の思い……人間の言葉で表すなら、嫌な任務です」
 少しばかりデータが軋むような感覚を振り払うように、ベムは武器を構え直すのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

シビラ・レーヴェンス
墨(f19200)と。
私は【白炎の矢】を行使し遠距離から目標を迎撃。
(早業、高速詠唱、全力魔法、範囲攻撃、属性魔法)
生み出す炎の矢の本数は限界突破で水増しさせる。
上に向けて放つのは初めてだが…まあ可能だろう。

相手は真上か。そして足場と認めれば移動は可能らしいな。
ならば移動は雲や空気を踏みしめ駆けあがる方法をとる。
迎撃しつつ昇りながら二人で相手の場所まで行こう。
墨には私が撃ち逃した対象の処理を頼む。彼女なら問題ない。
昇る時は周囲の警戒。降ってきたら背中合わせになり迎撃。

露か?今回の仕事はあの子には少し酷だろうと判断した。
仕事の後で私により執着されても困る。…凄く困る…。
墨。…なぜそこで微笑む?


浅間・墨
シビラさん(f14377)と共闘。

国綱の一刀を用いて【蓑火】を使用します。
(早業、破魔、属性攻撃、2回攻撃、継戦能力)
蓑火で撃ち逃した落下物を破壊及び蒸発させます。
シビラさんの隣や周辺で目標を見切って…斬ります。
主に魔法で撃ち逃したモノを斬ろうと思いますが…。
巨大なモノだった場合は協力しようと考えています。

歩行方法は不思議な感覚です。流石妖怪さん達の世界。
認識が必要とのことですが…疑念を感じたら危険でしょうか?
怖いので慎重に一歩一歩昇って行こうと思います。
シビラさんも行うと思いますが私も周囲の警戒をします。

不思議なことが一つ。露さんは?理由を聞きながら…私は。
露さんが大事なんだなと思いました。




「っと」
 グリモア猟兵の転送が雑だったのか。シビラ・レーヴェンス(ちんちくりんダンピール・f14377)は少しよろめきながらカクリヨファンタズムの地面を踏みしめる。少し腰を落としながら着地して。
「相手は真上か」
 見上げる先には崩壊しつつあるカクリヨファンタズムの空。そこに浮かび上がっている目標。
(足場と認めれば移動は可能らしいな)
 グリモア猟兵の言葉を思い出しながら、シビラが振り返る。視線の先にいるのは今日の相方、浅間・墨(人見知りと引っ込み思案ダンピール・f19200)。シビラの視線を受けて、こくこくと頷く。
「よし、では……」
 前に向き直り、いくぞ、と言う前に、シビラがかくんとつんのめった。何故かというと、墨がシビラの服の裾を摘まんだからである。再び振り返ったシビラの視線の先には『不思議なことが一つある』という感じの表情の墨。
「なんだ?」
「露さんは?」
 シビラの問いかけに、ぽそぽそっと蚊の鳴くような聞き取りにくい小さな声が返ってきた。
「……今回の仕事はあの子には少し酷だろうと判断した」
「…………」
「……仕事の後で私により執着されても困る。……凄く困る……」
「……」
「墨。……なぜそこで微笑む?」
 困惑したシビラの眉間にしわが寄る。墨としては『露さんが大事なんだなと思いました』とのことです。


 ほんわかしかけたシビラと墨の頭上に、氷塊が降ってくる。
「ほら! いくぞ」
 すぐに思考を切り替えたシビラが、素早く空に向かって【白炎の矢】を放つ。魔力で創った青白い炎の矢が高速で生成され、範囲最大、全力魔法。
(こいつで、水増しだ)
 さらには自身の力を絞り出すようにして限界突破。矢の本数を水増しして空に向けて叩き付けられる。
(上に向けて放つのは初めてだが……まあ可能だろう)
 というシビラの思惑通り、視界内の氷塊たちが消滅していく。

 しかし、氷塊の降下は一度きりでは無い。引き続いて降ってくる雹、氷塊。【白炎の矢】をすり抜けて落ちてきた氷を。
「墨、処理を頼む」
「……」
 『彼女なら問題ない』という考え。シビラの声に応えて、こくり頷いた墨が『粟田口国綱』を素早く抜刀。放たれるは【蓑火】による超高速抜刀発火斬撃。それは紅蓮の炎の帯のように広がって、矢の弾幕をすり抜けてきた氷塊たちのことごとくを蒸発させる。
「今だ、いくぞ」
 シビラが声を駆けると同時に、空を駆けあがる。目標までの手段は『雲や空気を踏みしめ駆けあがる方法』。
「……っ!」
 墨もシビラに倣って空を踏みしめて駆けあがる。
(流石妖怪さん達の世界)
 『不思議な感覚』と思いながらも足はしっかりと空を掴まえている。
(認識が必要とのことですが……疑念を感じたら危険でしょうか?)
 ふっ、とよぎった疑念をぶんぶんと振り払いながらも、怖いので慎重に一歩一歩昇っていく墨である。

 道中、次々と生み出される氷塊の形をしたオブリビオンの欠片。
 二人とて周囲の警戒を怠っているわけではなく、【白炎の矢】と【蓑火】を都度放ち、行く手を阻むものを排除していく。

 そして二人の頭上にひと際大きな氷塊が生み出される。

「合わせるぞ!」
「(こくこく)」
 足を止めずに、シビラが墨に声をかける。頷きを返して、まずは墨。粟田口国綱を素早く納刀の後、目にも止まらぬ速さで再び抜刀する。【蓑火】の発火斬撃が巨大な氷塊を受け止める。直後。
「Ardeți prin cei care blochează…」
 シビラの【白炎の矢】が放たれる。一点に向けて放たれた青白い炎の矢が氷塊を粉々に砕いていった。細かな破片が砕かれた傍から【蓑火】によって蒸発していく。
「見えた」
 シビラの言葉に墨も前方を確認する。

 そして二人は、今回の標的、氷塊を降らす元となっているオブリビオンへと到達したのである。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

鈍・小太刀
折角会えたのに、ね
運命ってのは残酷だ
どれだけの時を経ての再会だったのかな
それでも…いや、二人が互いを想っているなら尚の事
止めなければならないのだと思う
だってミズチは生きているから
ミヅチを、ミヅチの生きるこの世界を、天女だってきっと…
だから行くよ、この空の上へ

片時雨を手に空を駆け上がる
踏みしめる空気の足場は何だか不思議
氷の欠片もキラキラと綺麗で
表面に映るのは誰かの過去の記憶?
オブリビオンの欠片なんだっけ
刀で衝撃波を放ち範囲攻撃で弾き突き進む

二人に近付いているのかな
氷塊がだんだん大きくなっているような?
簡単には弾けなくなってきたら
刀を和弓に持ち替えて
炎と風と破魔の属性込めた黒雨の矢を放ち突破するよ




 とんっ、と爪先が、崩壊し続けている大地を捉える。まだ立つに足る地はあるようだ。鈍・小太刀(ある雨の日の猟兵・f12224)は直立したまま、空を見上げる。
(折角会えたのに、ね)
 運命ってのは残酷だ、とも思う。どれだけの時を経ての再会だったのか。
 それを想うならば、このまま見守りたいような気も起こる。

 それでも。……いや、だからこそ。互いを想っているなら尚の事。

「止めないと、いけないね」
 止めなければならないのだ、と思う。

 ――だって、ミズチは生きているから。
 ――ミヅチを、ミヅチの生きるこの世界を、天女だってきっと……。

 だから。
「行くよ、この空の上へ」
 決意を新たに小太刀は『片時雨』を抜き放つ。ぐっ、と膝に力を込めて、小太刀は空を駆けあがった。

 踏みしめる空気の足場は何だか不思議な感覚だ。空から舞い落ちてくる氷の欠片もキラキラと綺麗で。
「……?」
 光の反射? あるいは力の一片? 氷の表面に映るのはまるで誰かの過去の記憶のようで。
(オブリビオンの欠片なんだっけ?)
 とグリモア猟兵の言葉を思い出しながら、それでもそこに寄せるのは想いのみ。片時雨を振るい、その衝撃波で氷の欠片を纏めて吹き飛ばす。

 空を駆けあがるにつれ、徐々に氷の欠片が、雹に、そして氷塊へと変化していく。

(二人に近付いているのかな)
 その影響か、片時雨の一閃だけでは対処できなくなってきた。なんとか氷塊の軌道を逸らし、さらに駆けあがろうとしたところで、特大の氷塊。
「うわ」
 思わず声を零しながら、しかしすぐさま得物を黒漆塗の和弓『白雨』に持ち替える。
「戦場に黒き矢の雨を」
 ユーベルコード【黒雨】。炎と風と破魔の属性が込められた黒い矢の一群が特大の氷塊を一気に融解していく。
 霧のようになった氷塊の中を素早く駆け抜けていく小太刀。

 そしてそれを抜けた先に。

 融合を終えて、オブリビオン化したミズチと天女の姿があった。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第2章 ボス戦 『リヴァイアサン天女』

POW   :    伝説の序章
【海の力を纏った黄金の槍による攻撃】が命中した対象にダメージを与えるが、外れても地形【に空いた穴に海水が満ち】、その上に立つ自身の戦闘力を高める。
SPD   :    羽衣伝説
【水の羽衣が高速回転して飛行形態】に変身し、レベル×100km/hで飛翔しながら、戦場の敵全てに弱い【が貫通力のあるウォータージェット】を放ち続ける。
WIZ   :    レジェンドオブリヴァイアサン
海の生物「【リヴァイアサン】」が持つ【海水で大渦を創り出す等】の能力を、戦闘用に強化して使用する。
👑11
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種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主はピオネルスカヤ・リャザノフです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●空に降臨した、崩壊の要にして新たな天女
 崩壊を続けるカクリヨファンタズムの上空。
 猟兵たちの前に姿を現わしたのは、オブリビオンと化したミズチと天女――『リヴァイアサン天女』。2人の力が溶けあい、そして新たな形として成した存在。

 それは『共に在りたい』というミズチの願いの形でもあり、そして天女もミズチを抱きしめた結果である。
 その証拠にリヴァイアサン天女は、全体としては天女の造形を成しながら、力の象徴である羽衣や右腕、左足といった部分がミズチとなっているのだ。

 リヴァイアサン天女が集まってきた猟兵たちに目を向ける。
「猟兵……か」
 その口調は厳かで静かに周辺を威圧するもの。天女の口調ともミズチの口調とも違うもの。
「我らは不倶戴天の敵同士。ならばこそ、この場で滅ぼす定め」
 黄金の槍を手に、リヴァイアサン天女は悠然と空に佇む。

 ――おそらくは。

 ミズチは天女と一緒に居る。それはとても幸せな、夢のような時間。包まれたような安心感と共に、二人の人格はリヴァイアサン天女の奥底で眠っているのだ。
 だからこそ、骸魂の部分が第三の人格となって外側に出ている。二人から吸い取って融合させた力で、オブリビオンと化して。
 ならば、単純にオブリビオンを倒してその力を削ぎ落してしまえば。骸魂が崩壊して、ミズチが吐き出され、カクリヨファンタズムの崩壊を止められる。それでミズチも納得するだろう。彼とてカクリヨファンタズムの崩壊は望んでいないのだから。

 でも。

 それはミズチと天女がひと言も交わさないままに、再び別れを告げるということに他ならない。
 であるならば。全ての判断は現場の猟兵に託されているけれども。
 ミズチと天女を目覚めさせて欲しいのだ。ミズチと天女の思い出や関係を問いかけて。

 どんな思い出があったのかと問いかければ、二人は思い出話をするだろう。
 どんな関係だったのかと問いかければ、お互いに思っていたことを話すだろう。
 どんなことがしたかったのかと問いかければ、二人の未練が浮かび上がるはずだ。

 問いかけに反応してきっと二人は目を覚ます。そして二人が言葉を交わしている間はリヴァイアサン天女の動きが鈍くなる。

 その後、二人を引き裂くことには変わり無いのだけれども。
 夢の中ではなく、現(うつつ)の中で。二人に言葉を交わす時間をわずかでも与えてやってほしい。それはきっと……夢より幸せなことだろうから。

※シナリオ捕捉※
 戦闘の前、あるいは戦闘中に『ミズチと天女に思い出や関係を問いかける』ことによって特別枠のプレイングボーナスが発生します。
 環境は引き続き、空の上です。概念崩壊中のため、空でも足場とか、認識すればそのように『設定』されます。ただし、リヴァイアサン天女の認識を上書きすることはできません(逆も然り)。あくまで自分自身が戦うための環境を整える程度とお考えください(UCやアイテムによる効果は別枠です)。
 例)認識による『相手の足場崩れろ!』とかは無理ですが、周囲の空気を石礫にして放った場合、その石礫を敵側が『そんなのナシ!』と無効化することも出来ません。

 リヴァイアサン天女は槍を投げることもできます。空でも突き刺さるし、小さなクレーターみたいな穴が開くのでご注意ください。
スフィア・レディアード(サポート)
『皆さん、頑張りましょう!』
 ミレナリィドールの妖剣士×鎧装騎兵、20歳の女です。
 普段の口調は「女性的(私、あなた、~さん、なの、よ、なのね、なのよね?)」、機嫌が悪いと「無口(私、あなた、呼び捨て、ね、わ、~よ、~の?)」です。

 ユーベルコードは指定した物をどれでも使用し、
多少の怪我は厭わず積極的に行動します。
他の猟兵に迷惑をかける行為はしません。
また、例え依頼の成功のためでも、
公序良俗に反する行動はしません。

性格は元気で、楽しい祭りとかが好きな少女。
武器は剣と銃をメインに使う。
霊感が強く、霊を操って戦う事も出来る(ユーベルコード)
 あとはおまかせ。よろしくおねがいします!




 崩壊が進むカクリヨファンタズムの空で、ミズチと天女が融合していく。それはオブリビオン顕現の予兆。
 その最中にあって、スフィア・レディアード(魔封騎士・f15947)は離れた位置で愛用の『霊素還元砲台』を構えていた。概念が崩壊したこの空を足場として。
 スフィアの意志に従って、霊素還元砲台が周囲の霊体に干渉し、エネルギーへと変換する。
「ファイア!」
 快活な掛け声とともにトリガーを引いて、エネルギー波を発射するスフィア。
 狙いは牽制。直撃しなくともダメージが入ればいいし、あるいは空を駆け、直接『リヴァイアサン天女』の元へ赴こうとしている猟兵たちを支援となればいい。

 今の彼女のポジションはサポート。グリモアベースでグリモア猟兵に呼びとめられて、その要請を受けたという流れだ。

 幾度となく、攻撃的な霊的エネルギー波を叩き付けているためか、リヴァイアサン天女への融合を遅らせることが出来た。どうやら他の猟兵たちが辿り着くまでの時間は稼げたらしい。

 ならば、あとひとつ、強烈な一手をお見舞いしよう。今までは命中を重視してきたが、この一撃だけは全力で叩きこむ……!

「私の声に応えて……霊達よ……」
 スフィアの声に応えて彼女に助力すべく霊たちが集まってくる。それは彼女の手の中で明確な形を作り出し……スフィアの力となるべくライフル型の武器と化す。
「私に力を与えてね! 【ファントム・スナイパー】!」
 銃口より発射される弾丸。それは霊的エネルギーを凝縮した、威力重視の一射。

 氷嵐渦巻く空を斬り裂くように弾丸が空を貫き、リヴァイアサン天女に直撃した。太ももを深く抉る一撃にリヴァイアサン天女の動きが鈍る。

「ふぅ、後は任せるね」
 そう言ってスフィアはライフルを降ろす。事前のお膳立てはここまでで充分だろう。後はリヴァイアサン天女の元に駆け付けた猟兵たちに任せて、スフィアは一足先に帰還するのであった。

成功 🔵​🔵​🔴​

鈍・小太刀
敵同士…そうね
貴女を倒さなければこの世界は崩壊する
それでも少しぐらいはさ
話に付き合ってくれてもいいんじゃない?

オーラ防御展開し刀を手に対峙
空を踏みしめ空中戦
残像のフェイントで攻撃回避し

ミズチと天女様
二人はどうして出会ったの?

攻撃見切り武器受けでいなし
カウンターで桜花鋭刃
質問を重ねていくよ

ミズチは散歩が好きなんだよね
天女様とも良く散歩してたって
どんなとこに行ったのかな
お気に入りの場所もあるのかな

もしミズチが天女様に見せたい景色があるのなら
それが見える位置へ密かに誘導する

天女様もミズチの事、やっぱり心配だったよね
だからさミズチ
君の今を、この世界の事を
たくさんたくさん教えてよ
君の大好きな天女様に、ね




 崩壊し続けるカクリヨファンタズムの上空。そこで顕現した『リヴァイアサン天女』を前にして、鈍・小太刀(ある雨の日の猟兵・f12224)は不機嫌そうに告げる。
「敵同士……そうね。貴女を倒さなければこの世界は崩壊する」
 そのために小太刀はここに来たのだ。武器を携えて。
 それでも。告げたいことがある。
「それでも……少しぐらいはさ。話に付き合ってくれてもいいんじゃない?」
「……?」
 小太刀の言葉に不思議そうな顔をするリヴァイアサン天女。
 その瞬間、彼方の方向から飛来する一条の弾丸がリヴァイアサン天女の足を貫く。
「開幕の合図みたい。付き合ってもらうね」
 そう言って小太刀はリヴァイアサン天女の方へ駆けた。

 愛刀の『片時雨』を抜き放ちつつ、全身をオーラで包む。空を地面として踏みしめ、空中戦を仕掛ける小太刀。ただ突進するだけでなく、残像を作り出してかく乱しながらリヴァイアサン天女に肉薄する。

 一閃。

 小太刀の片時雨とリヴァイアサン天女の黄金の槍がぶつかり、お互いを弾き飛ばす。素早く態勢を立て直したリヴァイアサン天女が続けざまに刺突を繰り出すが、それは小太刀の残像を捉えるのみ。

「ミズチはさ、どうやって天女様と出会ったの?」
「……!」
 小太刀の問い。その回答を『目の前の』リヴァイアサン天女は持っていないが、しかし魂の奥底にいるミズチが反応した。リヴァイアサン天女の動きが揺らぐ。

 ――天女様‥‥そう、あれはまだ僕がミズチにもなっていない頃。
 ――『白い体がとてもキレイね』ってそう笑って、拾ってもらったんだ。

「くっ……!」
 無理矢理振り抜かれた槍の一撃を、小太刀は片時雨で受け止め、いなす。その勢いに釣られて流れたリヴァイアサン天女の体に、叩き込むカウンターの一撃は【桜花鋭刃】。
「ぐあっ!」
 願いと祈りを籠めた小太刀の一撃は、肉体を傷つけずにリヴァイアサン天女の第三の人格のみを斬り裂く。

 その様子に手を止めず、小太刀は攻撃と質問を続けていく。
「ミズチは散歩が好きなんだよね。天女様とも良く散歩してたって」
「知らぬ……!」
 激昂するリヴァイアサン天女を無視して、小太刀はミズチに話しかけ続ける。
「どんなとこに行ったのかな? お気に入りの場所もあるのかな?」

 ――晴れた日に、人里離れた山の上をのんびり風に乗って散歩したんだ。
 ――人の営みも綺麗だけどやっぱり自然が一番ね、って天女様と。
 ――あの頃はまだ飛べなかったから‥‥そう、こんな感じで天女様に巻きついて。

「そっか」
 ミズチが小太刀に応えるごとに、リヴァイアサン天女の動きが鈍っていく。そこを捉え、的確に攻撃を叩き込んでいく小太刀。
「もう、黙れぇぇぇぇぇ!!」
 怒りのままに、黄金の槍を投擲するリヴァイアサン天女。
 小太刀は冷静に黄金の槍を片時雨で弾き飛ばし、切先をリヴァイアサン天女に突き付ける。
「天女様もミズチの事、やっぱり心配だったよね」
「知らぬ、と言っている!!」
 空に突き刺さった黄金の槍。そこから溢れ出る海水を操り、小太刀を飲みこもうとするリヴァイアサン天女に対して。
 小太刀は再び空を蹴った。リヴァイアサン天女へ肉薄するために。
「だからさミズチ。君の今を、この世界の事を。たくさんたくさん教えてよ」
「……っ!」
 今日一番、リヴァイアサン天女の動きが鈍る……否、止まる。それはきっと、ミズチが天女に話しかけている、その反動。
「君の大好きな天女様に、ね」
 リヴァイアサン天女とすれ違うようにして放った【桜花鋭刃】の一撃が、骸魂に確実な亀裂を叩き込むのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

シビラ・レーヴェンス
墨(f19200)と。
ミズチと天女の二人には心残りなことがないか聞こうと思う。
オブリビオンの内だが…少しでも『何か』がミズチに残れば。
…親友同士黙って去るのはかなりキツイ…だろうからな…。

親友か…。そういえば私にも自称『親友』がいたな。
あの子もこの二人のような状況になったらどうなるだろう。
…。この二人のようにならない気が凄くするような…。

私は主力の墨のサポートを。行使する魔術は【白炎の矢】。
(早業、高速詠唱、全力魔法、範囲攻撃、2回攻撃)
矢に破魔の力を付与して放つ。姿を隠す弾幕にも利用する。
回避は見切りと第六感で。勿論墨と連携することを忘れない。


浅間・墨
シビラさん(f14377)と共闘。
二度も別れの悲しみを経験するのはツライです。
だからせめて…極力早い解決をしようと思います。
【黄泉送り『彼岸花』】を『兼元』の一刀で。

シビラさんの攻撃魔法に潜みつつ懐まで近づいて…。
刃に破魔と鎧砕きの力を籠め早業の居合で一閃。
防がれた場合はすぐに二回攻撃を繰り出します。
二度目の斬撃には鎧防御無視を加えます。

問いかけはお互いにおもっていたことを伺います。
『思い』でも『想い』でもどちらでも自由に。
花を。花弁をお二人が消滅した空間へ撒きます。
…ただその場に花があるかどうかわかりませんが…。




 先行した猟兵に遅れること少し。シビラ・レーヴェンス(ちんちくりんダンピール・f14377)と浅間・墨(人見知りと引っ込み思案ダンピール・f19200)が到着する。
 既に『リヴァイアサン天女』との戦闘は始まっている。

(二度も別れの悲しみを経験するのはツライです)
 墨は猟兵と戦っているリヴァイアサン天女を見上げ、そう思う。
(だからせめて……極力早い解決をしようと思います)
 抜き放つは『真柄斬兼元』。二尺三寸三分の大刀を構えて視線を横にやる。
 それはシビラに対する合図。
「いいだろう。サポートしてやる」
 そう言ってシビラが詠唱を始める。
『Ardeți prin cei care blochează…』
 行使する魔術は【白炎の矢】。高速詠唱で形を成した青白い炎の矢が広範囲に放たれる。それを隠れ蓑にして墨は空を駆けるのであった。

 破魔の力が付与された矢の弾幕がリヴァイアサン天女を襲う。
「くっ……!」
 大きく跳び退り、弾幕を回避して。リヴァイアサン天女は下方に視線を向ける。そこにいたのはシビラ。そして。
「……」
 声も無く、音も無く。矢の弾幕を使ってリヴァイアサン天女の死角に回り込んだ墨の、【黄泉送り『彼岸花』】の一撃。
「ちぃっ!!」
 墨の作り出した森羅万象の物質を断つことができる切れ味、そして刃に籠められた破魔と鎧砕きの力による斬撃が、受け止めようとした黄金の槍を真っ二つにたたっ斬る。
 だが、槍としての機能が完全に死んだわけではない。穂先がある方を素早く繰り出すリヴァイアサン天女。
 その一撃を真柄斬兼元でどうにか弾き飛ばし、墨は再び距離を取る。追撃しようとしたリヴァイアサン天女を留めたのは、シビラが連続して放った【白炎の矢】であった。
「小賢しい!!」
 苛立ちと共に海水で大渦を複数、周囲に創り出すリヴァイアサン天女。それを墨とシビラに向けて放つ。
「……?!」
「くっ……!」
 大渦は矢を飲みこみながら二人に迫ってくる。
 咄嗟に斬撃を繰り出し、大渦すらも斬り捨てる墨。一方、シビラは第六感を頼りに、大渦の動きを見切って身を翻す。回避と移動を繰り返して合流するシビラと墨。
「何なのだ、貴様らは」
 半分になった槍を構えつつ、リヴァイアサン天女がシビラと墨を睨み付ける。

「君は、いや、君たちは心残りはないのか?」
「何を……っ?!」
 シビラの問いに、リヴァイアサン天女は鼻で笑おうとして、胸を押さえる。

 ――無いよ。心残りなんて無い。でもただ、天女様に会えなくてちょっとだけ寂しかっただけ。
 ――心残りなど……いえ、ミズチがこんなに悲しんでいるなんて。私は……。

 それはシビラの問いに、ミズチと天女が答えたがため。お互い納得した上での別離だったはずだ、それでも今、二人の胸中にあるのは明確な悲しみ。
(オブリビオンの内だが……少しでも『何か』がミズチに残れば)
 それでもシビラの問いは『この後』を想ってのことだ。
(……黙って去るのはかなりキツイ……だろうからな……)
 話せずにまた別れるなど。そう思って問いかけたシビラの思惑は成功している。

「……お互いに、思っていることを……」
 状況が状況なので、いつもよりもちょっと大きな声で。墨が囁くようにして話しかける。『思い』でも『想い』でも、どちらでも。それを教えてほしいと。

 ――天女様、また会えて、本当に嬉しい。嬉しいよ。
 ――ミズチ、私もです。もう、生きている間に会えるはずなどなかったのですから。

 その語らいはまるで親友のようで。ずっと会えてなかった想いが溢れ出る。

「う、るさいうるさいうるさいうるさい!!!」
 しかし穏やかな時間はリヴァイアサン天女の激昂によって破られる。最早、まともに身動きが出来ない状態。ミズチと天女が覚醒し始めているのだ。
「墨、片付けるぞ」
「……」
 シビラの言葉にこくりと頷きを返した墨。
『Ardeți prin cei care blochează…』
 再度の詠唱は再び青白い炎の矢を生み出す【白炎の矢】。全力で放たれた矢の弾幕は余すことなくリヴァイアサン天女へ突き刺さる。
「お、のれぇぇぇぇ!!」
 槍と腕でどうにか矢を振り払うリヴァイアサン天女。その大雑把すぎる動きが生み出した隙。そこへ墨が素早く踏み込む!
「……っ」
 墨の小さな小さな呼気とともに、放たれたのは【黄泉送り『彼岸花』】を乗せた居合い抜き。その一閃は黄金の槍に受け止められるが。
「……!」
 それを読んでいた墨の二閃目。鎧防御無視を加えた斬撃が骸魂の核に届く。振り抜かれた刃によって一刀両断される核。
「あ、ア、あぁぁぁぁーーーッ!!!」
 絶叫と共に、リヴァイアサン天女はカクリヨファンタズムの空から霧散していくのであった。


 崩壊の核となっていたリヴァイアサン天女が消えたことで、カクリヨファンタズムの世界が徐々に復元を開始した。

(親友か……)
 その最中。シビラはミズチと天女のやりとりを思い出していた。
(……そういえば私にも自称『親友』がいたな)
 思い出すのはとある人物。それはここに連れてこなかった、あの子のことだろうか。
(あの子もこの二人のような状況になったらどうなるだろう)
 首を傾げながらうーんと想像してみるシビラ。
(……この二人のようにならない気が凄くするような……)
 私もそう思います。

 復元していく空に向けて、墨は手を振るった。

 ――花を。花弁をお二人が消滅した空間へ撒きます。

 墨の手からこぼれ舞うのは花の花弁。それは元に戻ろうとしている空に、風に舞いながら流れていく。
 ……もうすぐ復元が終わる。そんな中、花弁が集うようにして逆巻いて一点に集まり……。

 全てが終わった後、そこには一匹のミズチが空に浮いていたのである。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 日常 『思い出食堂』

POW   :    美味しい(楽しい、嬉しい)料理を注文する

SPD   :    辛い、苦い(辛い、悲しい)料理を注文する

WIZ   :    甘酸っぱい、ほろ苦い(恋や友情)料理を注文する

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。



 ふと気づくと。

 ミズチは『いつもの』カクリヨファンタズムの空に浮かんでいた。本当にいつもの。

 ミズチの前には、猟兵たちがいた。確かに普段は見かけない存在だけれども、特段珍しいかと問われれば、そうでもない。

 そして……ミズチの前には確かに見たはずの、言葉を交わしたはずの、天女様の姿が無かった。

 そう、確かに声を交わして。そしてゆめうつつな中とはいえ、お互いの言葉を存分に語り合ったはずだ。それは遠い過去のことでは無く、ほんの少し前の出来事であったはずで……それはつまり。

 ――ああ、そうか。
 ――天女様はもう一度骸の海へ戻られたんだ。ひと時の逢瀬を終えて。

 全てを悟ったと思しきミズチに猟兵たちは声をかける。カクリヨファンタズムの崩壊を止めるために、倒すしかなかったと。

 ミズチは許してくれた。どれほど天女様に会いたかったとしても、会えたとしても。世界と引き換えに、なんてことをしたら、天女様に怒られると。
 だから笑って許してくれた。でもとても寂しそうな笑顔で。

 これでこの話はお終い。骸魂は倒されて、事件は解決しました。

 ……それでも。ミズチはその場に佇んで空を見渡している。しょんぼりした寂しげな雰囲気を纏いながら。『もう一度』がないものかと。

「お、ミズチ。どうした元気ないじゃないか?」
 そこに通りかかったのは一匹の妖怪。空飛ぶ大烏であった。ミズチの友達である。口を開こうとして戸惑ったミズチ。それを見て察した大烏が笑いながら話してくれる。
「そういや『思い出食堂』には行ったかい? あそこは行くべきだよ」
 と大烏さんオススメの『思い出食堂』とは。

 それは訪れた人の思い出を料理にしてくれる不思議な食堂。といっても、思い出と引き換えに料理が作られるわけでは無くて。
 そう、思い出が料理の味になる、と言えばいいだろうか? もちろん料理そのものの味が変わるわけではない。

 食べるということは糧にするということ。それは未来に向かって進む行為でもある。色んな思い出は過去に縛り付ける要因にもなるけれども、未来へ進む力となることもある。それをこの食堂は料理という形で手助けしてくれるのだ。

 思い出食堂自体は小さな食堂である。フレンチのフルコースが出てくるわけではないが、それでもお客さんの食べたいものは全力で応じてくれる。
 その時、ひとつ。思い出を添えて注文して欲しい。大丈夫、その思い出が無くなるわけではない。

 感動したり、驚嘆したり、笑い合った思い出は美味しい料理へと変わって。食べることで純粋に新たな活力となってくれるだろう。
 泣いたり、悲しかったりした思い出は辛い、苦い料理になるけれども。噛み砕いて飲みこんで、そうすれば乗り越えられるかもしれない。
 少し遠くてセピア色になっている恋や友情といった人生の一幕は甘酸っぱい、ほろ苦い料理になるけれども。噛み締めることで再び色鮮やかな想いとなって再び力となるだろう。

 食べることで、噛みしめることで。その思い出を鮮明に思い出すことができる。あるいは追体験と言ってもいいかもしれない。それを飲みこむことが、取り込むことが生きるということ。
 きっといま、ミズチに必要なのは、そういうことなのだ。

「猟兵さんたちと一緒に行ってきなよ。そこで食べて来れば元気も出るさ」
 大烏に促されてミズチは思い出食堂へ向かうことにする。
「猟兵さんたち、どうする?」
 ミズチが首を傾げながら問いかけてくる。

 もし、時間があるのなら。ミズチと一緒に思い出食堂へ行ってみませんか?
 あなたが注文するのは、どんな料理で、どんな味なのでしょう?

※補足
プレイングにて、食べたい料理とどんな思い出をかみしめるかを書いて下さい。
料理は普通のレストランとかで出てくるものでもいいですし、『思い出の味』といった記憶を頼りにしているものの再現もできます。
色んな思い出をかみしめることで、明日への活力にして下さい。

なお、ミズチはお誘いを受けた場合に、皆さんの選んだPOW、SPD、WIZに従って天女様との思い出を料理にする予定です。
シビラ・レーヴェンス
墨(f19200)と露(f19223)。
…。
ふむ。ミズチに何か声をかけてやりたい。
だが…私はどうかけたらいいかわからん。
あの子ならどう声をかけるのだろうか。

注文するのは野菜たっぷりのシチューだ。
故郷で食べていた味とは違うなやはり。
…まあ。幼い頃の料理だからな…。
過去だが。
ランタンの灯りの中で独り食べてたな。
泣きながら食べた時もあったか。
むぅ。碌でもない過去ばかりだな。

墨は満足そうに食べているようだ。
ミズチも心なしか元気になったか。
思わずミズチの頭を撫でてしまう。
和やか…って何故隣に君がいる露?
うっとおしい。苦しい。邪魔だ。
食べ難い。ひっつくな。抱きしめるな。
あたしを撫でろ?…断る。ひっつくな。


浅間・墨
シビラさん(f14377)と露さん(f19223)。

私は店で煮込み饂飩を一つ注文します。
理由はよく母が拵えてくれたものだからです。
はふはふしながら食べると美味しいですね。
思い出ですか?そうですね…。
厳しい剣の修行が終わった後のごちそうでした。
痣や擦り傷で苦しい毎日でしたが耐えられました。
「…美…し…で…♪」
ミズチさんの方は少し元気を取り戻したようです。
そうそう元には戻らないでしょうがなによりです。
「…ミ…チ…さ…も…食…ま…か?」
と言ってはみましたが問題ないんでしょうか?

実は露さんを招待したのは私です。秘密ですが。
(誰にもわからないよう密かにピースサイン)
シビラさんが悲しそうな気がしたので。


神坂・露
レーちゃん(f14377)、すーちゃん(f19200)と。

隣に座ったんだけど初めは気が付いてない…。むぅ。
気が付いてからレーちゃんを思い切り抱きしめるわ。
「えへ~♪ レーちゃんレーちゃん…えへへ♪」
え?なんでいるのかって…それはね。あのねあのね。
「気配とね、レーちゃんの匂いを辿ってきたの!」
犬かって言われたけどレーちゃんのならわかるんだもん!
(すーちゃんからの手紙のことは誰にも言わないわ♪)
「むぐ…ぶ、鰤定食…うぐ…を一つ!」
レーちゃんに抱きつくのを抵抗されつつ注文をするわ。
一口食べたら不思議不思議。盗賊仲間との思いでが?
そーいえばよくお魚食べてたなーって思い出したわ。
…?ミズチさん笑ってる?




 ミズチに誘われて、思い出食堂を訪れた面々。そこはぴっかぴかでもなく、古過ぎず。どこか懐かしいような店構え。
「よっと……」
 椅子をよじのぼり(見た目は蛇だから)、椅子の上に座る(のたっている)ミズチ。
 その表情は普段を装っているようで、どこかしら哀しげというか疲れているというか。
 それでも食堂に来たのだから、とメニューを広げて覗き込んでいる。
「……」
 そんな様子を横目で見ながら、ミズチの隣に座るシビラ・レーヴェンス(ちんちくりんダンピール・f14377)。ミズチを挟んで逆隣に浅間・墨(人見知りと引っ込み思案ダンピール・f19200)が座る。ちなみにカウンターである。墨が目の前にあるメニューに手を伸ばす。
 それを見てシビラもメニューに手を伸ばした。
(ミズチに何か声をかけてやりたい)
 その気持ちは十分にあるのだけれども。メニューを見ている振りをして、その実、視線はずっとミズチに注がれていた。
(だが……私はどうかけたらいいかわからん。あの子ならどう声をかけるのだろうか)
 思い起こすのはひとりのわんこ……じゃない、女の子。

 答えは出ず、されどメニューは決まり。墨と一緒に注文をするシビラ。ミズチさんはまだ考え中である。

 不思議にも料理はすっと出てきて。
 シビラの前に『野菜たっぷりのシチュー』が、墨の前に『煮込み饂飩』がとんと置かれた。
 それをスプーンで口に運ぶシビラ。
「……故郷で食べていた味とは違うなやはり」
 そう言いながらシチューを口に運ぶスプーンを置くことは無く。
(……まあ。幼い頃の料理だからな……)
 連鎖的に思い出すのは過去のこと。
 ランタンの灯りの中、独り食べていた時の。そして泣きながら食べていた時も。
(むぅ。碌でもない過去ばかりだな)
 少し舌に残る苦味に眉をひそめるシビラであった。

「……♪」
 対して、墨ははふはふ、と美味しそうにおうどんを食べていました。
 煮込み饂飩を注文した理由は『よく母が拵えてくれたものだから』。必然的に思いだされるのは母との思い出である。
(そうですね……)
 じっとおうどんの丼を覗き込む墨。そう、これは……『厳しい剣の修行が終わった後のごちそう』だった。痣や擦り傷で苦しい毎日を耐えられたのはこれのおかげもあったはずだ。
「……美…し…で……♪」
 『これ』は辛くとも乗り越えた先にあるご褒美の味だったのである。


 そんな二人の様子をじーっと眺めていたミズチ。不意に顔をあげた墨と目が合う。
(ミズチさんの方は少し元気を取り戻したようです)
 墨の目に映るミズチは先ほどより生気が戻ってきている気がする。そうそう元には戻らないだろうけど。元気が出てきたのは何よりである。
「……ミ…チ…さ…も……食…ま……か?」
 丼を差し出しながら、蚊の鳴くような囁きで墨が申し出る。
「……うん……」
 元気なく、しかし申し出に悪いと思ったのかミズチが箸を伸ばす。つるっとひと口食べて。
「うん、美味しいね」
 とはこくり頷きを返す。料理本来の美味しさはあるけれども、やはり思い出の味は本人しか伝わらないようで?

 そんな様子を今度はシビラがじっと見ていた。ちなみにシチューは完食である。過去は飲みこむものだ、うむ。
(墨は満足そうに食べているようだ。ミズチも心なしか元気になったか)
 隣にいるミズチの頭を思わず撫でるシビラ。
「……?」
「おっと。すまない思わず」
 気を悪くした様子は無さげだが、ちょっとびっくりしたのか。くるり振り向いたミズチにシビラが詫びる。
「和やかだったので、ふいにな。条件反射だ」
「レーちゃん、撫でるならあたしも撫でて!!」
「そうそう。こんな感じの……って何故隣に君がいる露?」
 がしっと、ミズチとは反対側からタックル……じゃなかった、抱きつかれるシビラ。抱きついてきたのは……神坂・露(親友まっしぐら仔犬娘・f19223)であった。
「レーちゃんレーちゃん! 撫でて撫でて!」
「……断る。ひっつくな」
 先程までの和やかさはどこにいったのか、一気に騒がしくなる店内。
 ミズチの反対側でこっそりピースサインをしていたのは墨である。どうやらシビラに秘密で露を呼んだのは墨らしい。
(シビラさんが悲しそうな気がしたので)
 この場においては、紛れも無くファインプレーだったようだ。


「えへ~♪ レーちゃんレーちゃん……えへへ♪」
 と嬉しそうにシビラに抱きついている露の、これまでの行動を振り返ってみる。

 墨から連絡というか置手紙というか。それを見た露は執念でグリモア猟兵を捕捉。カクリヨファンタズムに飛ばしてもらった。
 そしてどうやってここまで来たのかというと。
「気配とね、レーちゃんの匂いを辿ってきたの!」
「犬か」
 露の言葉に思わずシビラがツッコむ。どう見てもわんこです、かわいいです。
「レーちゃんのならわかるんだもん!」
 ツッコミにも負けず言い張る露。ということでこの店まで辿り着けたらしい。
 カウンターに座っている3人の、というかシビラの横にちゃっかり座ったのだが、シビラの視線と意識は逆側、ミズチと墨にずっと向けられていて。
(むぅ……気が付いてない……)
 と我慢していたのだ(大切なことなら邪魔しちゃいけないので!)
 でも自分を差し置いて撫でてもらったミズチに嫉妬が爆発である。思わず声をあげて、シビラが気付いたので、思い切りタックル……抱きしめたというわけだ。

 一応、墨の手紙のことは誰にも言わない約束らしい。墨のピースサインに密かに気付いた露はにぱっと笑顔を返しておく。

「うっとおしい。苦しい。邪魔だ。食べ難い。ひっつくな。抱きしめるな」
「むぐ……ぶ、鰤定食……うぐ……を一つ!」
 シビラに邪険にされながら(いつも通り)、それでも抱きつきを止めずに(こっちもいつも通り)、その態勢から注文する露。
「料理が出てきたら食べろ。店主に失礼だ」
「はーい」
 さすがに料理を前にして抱きつき続けるのは無理だったらしい。シビラを離して今度は箸を手に取る露。
「いただきまーす」
 と一口食べたら。
(あら? 盗賊仲間との思い出が?)
 『そーいえばよくお魚食べてたなーっ』と思い出す露。お味は……美味しい方かな?
 うーん、と首を傾げながら、不思議不思議と食べていた露がふと顔を上げる。
(……? ミズチさん笑ってる?)
 そこには微笑んているミズチがいました。


 ぱたん、とメニューを閉じてミズチが口を開く。
「親父さん、塩おにぎりを」
 ささっと目の前に運ばれてきた塩おにぎり。それをぱくっと飲みこむミズチ。咀嚼……はしてないけど、ごくんと飲みこんだ様子はとても満足そうで。
「うん。とっても……とっても美味しい」
 と笑顔を見せる。
「何を食べたの?」
 露が問いかけ、墨が首を傾げる。
「……天女様の手作りのおにぎりだよ」
 それは、空の散歩の後。日向ぼっこをしながら天女様と食べた、思い出の料理。いや、料理とも言えないものかもしれないけれども。
(そう、あの時も。天女様に頭を撫でられながら、笑顔に包まれて、一緒に食べたんだよ)
 今の店内はそれを思いだすのに、十分すぎる雰囲気で。
 もぐっともうひとつ塩おにぎりを食べる。ちらりとシビラが見ている中、天女様との思い出を噛みしめて。ミズチは塩おにぎりを美味しそうに飲みこむ。
「誰かが側にいるってことはとっても嬉しいことだね」
 そう言うミズチは、先程よりも前を向いていて。
 その様子に露と墨が笑い、シビラが嘆息(でもどこかしら安堵したかのような)をこぼす。

 こうして4人は思い出食堂の不思議な料理を堪能したのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

鈍・小太刀
へえ、ここが思い出食堂
あ、いい香り
ミズチはどんなの食べたいの?
私はそうね甘い物がいいな
ケーキとか!

運ばれた皿にはキャロットケーキ
飾りにニンジンのグラッセものっている
一口食べれば優しい甘さ
思わず笑顔に

料理好きな母さんの得意料理の一つでね
小さい頃はよく作って貰ったな
弟とどっちの皿が大きいって取り合いしてさ
ニンジン嫌いの父さんもこのケーキだけは幸せそうに食べてたけど
母さんが怒ってる時はグラッセの量が増えたりしてね(笑

五感を通し鮮やかに蘇る思い出

ミズチはどう?
料理の奥に浮かぶ天女様は
笑ってるかな怒ってるかな
きっと色々だね

天女様は沢山の思い出と一緒に君の中に
今日会えた事もね

だから感謝を込めて
ごちそうさま




 激闘を終えた後、鈍・小太刀(ある雨の日の猟兵・f12224)はカクリヨファンタズムの再生した世界を見回りしていた。
(特に問題なし、っと)
 先に思い出食堂に向かったミズチを追いかけて、小太刀も足も運ぶ。
「へえ、ここが思い出食堂」
 店の前で立ち止まり、感嘆の声を漏らす小太刀。

 その時、中から猟兵たちとミズチが出てきた。そこはかとなく、さっき別れた時より元気になっているようなミズチ。
「……うん♪」
 その様子に笑みを浮かべた小太刀はすれ違いざま、ミズチをかっさらってもう一度店内へ誘う。
「あ、いい香り。ミズチはどんなの食べたいの?」
「えっ、さっき食べたばかり……」
「私はそうね甘い物がいいな。ケーキとか!」
 そんなこんなで押し切った小太刀さん。ミズチをテーブルの向かいに座らせることに成功したのである。


「わぁ!」
 宣言通り、ケーキを注文した小太刀。目の前に運ばれてきたキャロットケーキに目を輝かせる。
 飾りに乗せられているニンジンのグラッセをつんとフォークで突いてから。ひと口分をとても大事そうに口の中へと運ぶ。
「~~~♪」
 優しい甘さに思わず笑顔になる小太刀。

 そんな小太刀の様子を見ていたミズチさん。その実、お腹いっぱいだったりするのだが。
(デザートは別腹……確か天女様が?)
 言ってたような気がする。ならば食べられるんじゃないか?
 再びメニューに視線を落とそうとするミズチを今度は小太刀が嬉しそうに見守る。
「……?」
 小太刀の視線に気づいたミズチが不思議そうに首を傾げながら逆にじー。
「どんな思い出なのかなって」
 短く一言だけ告げて。小太刀はキャロットケーキにフォークを入れる。
「料理好きな母さんの得意料理の一つでね」
 もう一度口に運べば思い出すのは幼い記憶。
「小さい頃はよく作って貰ったな。弟とどっちの皿が大きいって取り合いしてさ」
 ニンジン嫌いの父もこのケーキだけは幸せそうに食べていた。しかし母が怒っていた時はグラッセの量が増えていた(!)ような気がする。
 そんなことを思い出しながら、小太刀は口元に笑みを浮かべる。

 味覚だけではなく。嗅覚や触覚、五感を通して鮮やかに蘇る思い出。それは小太刀にとって、まぎれもなく『美味しい』記憶で。
 あふれ出る笑顔のままに小太刀は問う。
「ミズチはどう?」
 その問いに答えたのはミズチではなく、運ばれてきた料理。三色団子にみたらし団子のセット。いや、たくさん。
 小太刀がいつも呼ぶ鎧武者の『オジサン』がいたら、めっちゃガタってたと思います。


 ミズチが器用にお団子を飲み込んでいく。もぐもぐといった感じではなく、ぱくっといった感じだけれども。
 それでも思い浮かんでくるのは笑みだ。
「料理の奥に浮かぶ天女様は……笑ってるかな怒ってるかな?」
 小太刀はそう問うも答えは求めず。否、今のミズチの表情を見ていれば聞くまでもないのだ。
 ミズチの前にある色とりどりのお団子たち。それは見た目にも鮮やかさで、しかし見た目だけの鮮やかさではないのかもしれない。そう、例えば。すべての味が違うとか。
 それはつまり、ミズチと天女の思い出がそれだけたくさんあるということだ。
「きっと色々だね」
 そう呟いて、そう思って。小太刀はミズチに満面の笑みを見せる。
「天女様は沢山の思い出と一緒に君の中に……今日会えた事もね」
 それはきっと奇跡のような思い出(味)だろう。

 そして二人は目の前のデザートをぺろりと食べきってしまう。

 ――だから感謝を込めて。

「「ごちそうさま」」
 小太刀とミズチの声と想いが綺麗に揃った瞬間であった。

大成功 🔵​🔵​🔵​


●カクリヨファンタズムにて

 その日。

 ミズチさんは空をお散歩しておりました。
 UDCアースからカクリヨファンタズムに逃げ込んできて幾星霜。ミズチさんは今日も趣味の、空のお散歩をしています。

 でも以前とは違うことが2個あります。

 まずひとつめ。
「やあ。今日もお仕事かい?」
 猟兵を見るとミズチさんは近寄ってきて挨拶をしていくようになりました。以前は素通りしていくことも多かったのですが。猟兵という存在に親しみを持つようになったみたいです。

 そしてふたつめ。
「今から、思い出食堂にいかないかい?」
 ミズチさんは思い出食堂の常連客になっていました。とはいっても毎日行くと思い出だらけで現実に戻れそうにないので、週に1回と決めています。
 その時は必ず誰かと一緒に行くようにしているのです。出来れば……カクリヨファンタズムに縛られない猟兵がいいようです。

 何故って?

 やっぱりずっと一緒に過ごしてきた妖怪たちはミズチさんの天女様好きを知っていますからね。『またそれか』と言われないように、あまり天女様を知らない人がいいのです。恥ずかしいですから。
 そして思い出を交換します。つまり見せ合いっこするのです。その時、自分が知らない世界を知ることができる猟兵が、やっぱり都合がいいのです。

 天女様は側にいないけれども。
 天女様が側にいた事実と思い出は決して消えなくて。

 ミズチさんはずっと天女様と一緒なのです。
 そしてその思い出が今のミズチさんに新しい繋がりをもたらしてくれるのです。

 思い出食堂の料理を通じて。

 ――誰かが側にいるってことは、本当に嬉しいことだね。

 その言葉は、ミズチさんの内にも外にも向けられた、ミズチさんの魔法の言葉なのです。

最終結果:成功

完成日:2020年10月10日


挿絵イラスト