迷宮災厄戦⑱-21〜あなたとお揃い
●同じになりましょう
長さが合わないのなら裾をちょんと切りましょう。
形が合わないのなら余分なところを落としましょう。
大丈夫、わたしは刃物の扱いも上手なのよ?
けれど、それでも足りないみたいなら、わたしがあなたに合わせるわ。
嗚呼、どうして泣くの? どうして拒むの?
わたしとお友達になりたいって、そう言ったじゃない。
――どこまでも続く平坦な闇、子供達の死体がいくつも転がったその場所で、オウガ・オリジンは『友達候補』に刃を振り下ろした。
●友達探し
現実改変ユーベルコードによって具現化した、オウガ・オリジンの『無意識の悪夢』。それがこれから向かってもらう場所だ、とオブシダン・ソード(黒耀石の剣・f00250)が一同に告げる。
そこは、『どこまでも続く平坦な闇』のような国。そこに居るオウガ・オリジンは、悪夢の中で正気を失っており、訪れるものを『友達候補』だと思って接してくるという。
「仲良くなろう、って言葉だけだと平穏なんだけどね……」
厄介なことに、オウガ・オリジンは友達に重要なのは『共通点の多さ』と認識しているようで、より仲良くするために、その能力を振るってくるのだ。そうなると、一番手っ取り早いのは、『違うところを失くしてしまうこと』になるだろう。それゆえに、彼女の周りには、オウガ・オリジンとの共通点だけを残した少年少女のバラバラ死体が、いくつも転がっている状態にある。
「君達も勿論『友達候補』と見られちゃうからね、飛び込む前に、対策を練っていくと良いと思うよ」
その行動傾向からすると、最初からオウガ・オリジンに似ていれば、攻撃の手も緩むだろうと予測される。対策を打つとするなら、やはりそこになるだろう。
「とはいえ、正直似せる方が難しい人が大半だと思うんだよね。そういう場合は、とりあえずオウガ・オリジンと同じデザインのエプロンドレスを着れば良いんじゃないかな」
お揃いだよ、とへらへら笑いながら彼は言った。
「……まあ、半分は冗談だよ。何にせよ戦いになる以上、どんな手を使っても『完全一致』させることは不可能だと思う。だからね――」
可能な限り似せられるのなら、それに越したことはないけれど、理想に近づけるばかりに囚われるのではなく、それを戦闘の一要素程度に見るのも一つの手だと、そう彼は付け足した。
例えば、全く彼女に似ていない者でも、髪型と髪色だけ同じにすれば頭部を守れる……と、そんな具合に。
「正気を失ってるせいか、先制攻撃までは行ってこないみたいだけど……強敵な事には変わりないよ、気を付けていってね」
戦いももはや大詰め。この世界を守るために、頑張ってほしいとそう言って、オブシダンは一同を送り出した。
つじ
衣装を合わせるのも一つの手だと、つじはそう思っていますよ。
というわけで悪夢の中のオウガ・オリジン戦です。友達探しの最中の彼女を撃破してください。
当シナリオは迷宮災厄戦の一部であり、一章で完結します。
●プレイングボーナス
オウガ・オリジンに似た姿で戦うこと。
詳細はオープニングの通りです。
●オウガ・オリジン
その姿はオープニングの画像の通り。顔の無い金髪の少女です。
基本的には選択された属性のUCを使いますし、それで判定を行いますが、『似せる』ために他の属性のUCの内容で攻撃してくることもあります。
先制攻撃はしてきません。
●戦場
どこまでも続く平坦な闇。互いの姿は認識可能です。
隠れる場所は全くありませんが、逆に障害物もありません。あるのは犠牲になった少年少女の亡骸くらいでしょう。
以上になります。それでは、よろしくお願いいたします。
第1章 ボス戦
『『オウガ・オリジン』と友達探し』
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POW : 友達ならいつでもいっしょ
戦闘中に食べた【相手の肉体】の量と質に応じて【全身が相手に似た姿に変わり】、戦闘力が増加する。戦闘終了後解除される。
SPD : あなたもお友達になって
自身が装備する【解体ナイフ】をレベル×1個複製し、念力で全てばらばらに操作する。
WIZ : 誰とだってお友達になれるわ
自身の装備武器に【切り裂いたものを美味しく食べる魔法】を搭載し、破壊力を増加する。
👑11
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フロース・ウェスペルティリオ
ふむふむ
同じ感じにすれば良いのかい?
ひとまず『友達候補』らしく、オウガ・オリジンのスタンスに合わせて、その姿を真似してみようか
えっと、何処が違うだろう……?
背は少し小さめ?
髪ももう少し短くして……
いつも着ている服は『黒花印の目録本』に収納、身体の表面をエプロンドレスの形に
最後に色を調整してっと
背が高いとか髪が長いとかで切られたら、その部分はリボンや手から出てるもやもやの役にしておくねぇ
あ、流石に同じ解体ナイフは持ってないので、ダガー使います
ふふ、同じ姿の相手って肉親以外だと、お友達というよりドッペルさんってイメージなウチです
知っているかな? ドッペルゲンガー
生き残った方が本物かも、なんてねぇ
●変幻
「今度はあなたがお友達になってくれるの?」
悪夢の中、平たい闇へと踏み込んだフロース・ウェスペルティリオ(蝙蝠花・f00244)を、ナイフを手にしたオウガ・オリジンが迎える。先程まで両手で抱えていた少女の頭部分を、傍らに置いて。
「この子はねえ、わたしと同じ金色の髪がとっても素敵だったのよ。……あなたはどうかしら?」
問いかける。長身で、黒ずくめ、似ても似つかぬ姿のフロースだが。
「そう、同じ感じが好みなんだね」
ふむふむ、と頷いて、彼は速やかに形を変え始めた。ブラックタール、本来液状である彼等の身体は、ある程度自在に形を変えることが可能である。
「えっと、背は少し小さめ? 髪ももう少し短くして……」
言いつつ、細かく形を調節し、目の前の少女へと似せていく。いつもの衣服を『黒花印の目録本』へと仕舞い、エプロンドレス状にした体表面の色を調整すれば、出来上がりだ。
「すごいわ、わたしと同じ形になれるのね!」
一見すれば同じ姿へと変形を遂げた彼の姿に、オウガ・オリジンは手を叩いて喜んでみせる。が。
「でも……何だか、微妙に違わない?」
「そうかな? 悪くはないと思うんだけど……」
そう、彼等種族の変形はそこまで万能なものではない。個人差もあるだろうが、一般的に造形の精密さには難が出るもの。体積的に余る部分を、リボンや両手から立ち上る謎のもやもやに回しているフロースは、かなりうまくやっている方だが。
「この辺りを削って整えたら、もっとぴったりになれるんじゃないかしら?」
フリルや髪の毛、そして指先。細部を狙うように、無数のナイフがオウガ・オリジンの周りに浮かび、フロースもそれに迎撃姿勢を取る。
「そんなに同じにしたいのかい? それじゃあまるで、お友達というよりドッペルさんみたいだね」
「ドッペルさん?」
「知らないかな? ドッペルゲンガー」
そうして軽口を叩きながら、相手の出方を窺う。
「生き残った方が本物かも、なんてねぇ」
「まあ、それはとっても楽しそうね!」
お友達との遊びの一環と捉えたのか、嬉しそうに言うオウガ・オリジンへ、フロースは素早く斬りかかった。掠めた刃が小さな鮮血の花を咲かせ、それを細切れにするように、反撃の解体ナイフが宙を舞う。しかしオウガ・オリジンが自在に操るそれらは、攻めあぐねるようにフロースの周りを迂回していった。
慎重に、慎重に。自分と似た姿を作ったそれを、崩してしまわぬように。けれど、より綺麗に整えられるようにと、そんな動き。
本来の調子とは程遠いであろう散発的な攻撃を切り抜けて――『シーブズ・ギャンビット』、フロースはダガーで以てオウガ・オリジンを切り裂いた。
成功
🔵🔵🔴
シキ・ジルモント
…エプロンドレスは、遠慮しておく
かわりに真っ黒な面を一つ被って行く
この面を被る事で顔を隠し、顔の無いオウガ・オリジンとの共通点を作ってみる
面で狭まる視界は他の五感、特に聴覚で周囲の音に『聞き耳』を立てて注意し補いたい
攻撃の手が緩んだとしても危険がある事に変わりはない
“友達候補”になるのだからな
攻撃には共通点の一つと判断される可能性のあるナイフを使う
敵の攻撃はユーベルコードの効果も併せて回避を試みる
違いが目立つ手足や耳、尻尾あたりへの攻撃を特に警戒
面に効果があれば顔面に一撃とはならないだろう
敵の刃を掻い潜って接近し、攻撃を通したい
…寂しい、という事なのかもしれないが
方法を間違えているぞ、元アリス
●嵐を超えて
オウガ・オリジンとの邂逅に際して、シキ・ジルモント(人狼のガンナー・f09107)は真っ黒な仮面でその顔を覆った。幼い少女と長身の人狼、ほぼ共通点の無い状況に、一箇所だけそれを作る意図だ。
「困ったわね、本当にお友達になりたいの?」
実際に対面したところ、あまりにも違う、とオウガ・オリジンは難色を示した。
「手足も長すぎるし、削るお肉も多すぎるわ。それに、耳も尻尾も邪魔だし……」
まあ、そうだろうなとシキは内心そう頷く。この反応は予想通り、面のせいで狭くなった視界を補うように、耳を立てて、迫りくるそれに備えた。
「でもね、わたしもあなたと仲良くしたいから」
『ワイルドセンス』、卓越した感覚を活かして、風を切って襲い来るナイフから身を躱す。小振りの割に極めて鋭い刃は、シキの二の腕を掠めて過ぎた。
とはいえ、それで終わるわけではない。オウガ・オリジンの生み出したナイフは数えるのも難しい程で、それら一本一本が、彼女の意思に従うように複雑な軌道を描いている。
「……まあ、着ているものも全然違うし、削れるだけ削っちゃっていいわよね」
動かないで、という呟きと同時に、解体ナイフの群れが先程とは比較にならぬ勢いで襲い掛かった。
狙われている箇所は、シキの見立て通り、彼女とシキの『目立つ差異』の部分。逆に、これだけの刃の数を以って、顔部分を狙ったものは皆無に等しい――と、そう見切ってみせる。眼球など貰ったら致命的な箇所を大きくカバーできた形だが。
「(この数は……)」
かなり厳しい。彼女にとっての『改善箇所』が多すぎたこともあり、複数箇所を一度に狙われているのも都合が悪い。しかし、この手で挑むと決めた時点で、無傷で済まないことなど覚悟の上だろう。
刃の嵐の中、『仮面を狙ってきていない』という穴を突くようにして、シキはそこに身を滑り込ませる。見切り、察知したところで殺到するナイフを避け切る事は難しいが、負傷を最低限に抑えて、彼はそれを掻い潜る。
「もう、あんまり動かないで。せっかくの顔まで切っちゃいそうよ」
頭部と胸部、利き腕と、あとは走れるだけの足。それ以外は迫る刃を躱しきれず、赤く染まっていくが。
「……寂しい、という事なのかもしれないが」
血煙を残して嵐の中を突破し、シキはその手に握ったナイフを振るう。
「方法を間違えているぞ、元アリス」
疾走の勢いそのままに、その刃はオウガ・オリジンへと突き立てられた。
成功
🔵🔵🔴
灯火・紅咲
くひひひひ!
それじゃあ、最初は同じデザインのエプロンドレスを着ていきましょお
まずは可愛くご挨拶ですよねぇ
こんにちわぁ、アリスちゃん……オウガちゃんの方がいいんでしょうかぁ?
まぁ、どっちでもいいんですけれどねぇ!
ナイフが武器ですしぃ、ちょっきんされる前にまずはシリンジワイヤーで【吸血】しちゃいましょぉ!
さぁさぁ、貴女の血の色は綺麗な赤色?
それとも違う色なのか、楽しみですぅ!
そしたらば、吸った血を美味しく頂いて、へんしーん!
変身したら金髪に小柄な体、お顔も真っ黒になって、理想のお友達じゃないですかねぇ、くひひ!
それじゃあ、あとは気が済むまでいっぱい遊びましょぉ
お友達とは楽しく遊ぶものですよねぇ?
●本領発揮
暗闇の中に扉が開いて、灯火・紅咲(ガチで恋した5秒前・f16734)がそこに降り立つ。どこまでも続くような闇の中、嗅ぎ慣れた血の匂いが混じるのを感じながら、彼女はこの悪夢の中、狂気に囚われたオウガ・オリジンに向かって一礼した。
「こんにちわぁ、アリスちゃん……オウガちゃんの方がいいんでしょうかぁ?」
「そうねえ、どっちの方がいいのかしら。あなたはどう思う?」
「まぁ、どっちでもいいんじゃないでしょうかぁ?」
先客達……かつての『友達候補』達の亡骸から、オウガ・オリジンが顔を上げる。その手に握られた鋭いナイフは、既にこちらをどのように刻むか吟味しているようにも見えた。
「素敵なお洋服ね……でも、ちょっとサイズが合わなくないかしら?」
紅咲が纏っているのは、オウガ・オリジンと揃いのエプロンドレスだ。オウガ・オリジンはそれを喜んでいるようだが、それゆえに、別の改善点に目が向くようで。たとえば身長、手足の長さ。胸元だってもっと削った方が、きっと仲良くなれるのに。
「くひひひひ! そう言われると思ってましたよぉ!」
仲良くするために、そういう名目で害意がこちらを向くのは予想できていた。オウガ・オリジンがナイフを振るうのよりも一手早く、紅咲はシリンジワイヤーを放つ。敵が反応できない角度を狙って、先端の注射針を撃ち込み――。
「いたッ」
「ちょーっとチクっとするだけですよぉ」
血をそこに吸い上げた。『血も涙もない』と称されそうなこの暴君にも、ちゃんと赤い血は流れていたらしい。
「くひひ! 思ったよりも綺麗な赤色ですねぇ!」
袖下から伸びたそれを巻き取って、値千金の赤色を舌にのせる。おいしくそれを頂けば。
「へんしーん!」
シェイプシフターの名に違わぬその力で、彼女は『千に変わり万と化す』。体躯は縮み、髪は金色に染まり、顔は黒い闇に塗り潰されて、血液の主であるオウガ・オリジンそのものへと姿を変えた。
「どうです? 理想のお友達じゃないですかねぇ、くひひ!」
「素晴らしいわ! まさかこんなにも、同じになれる子が居るなんて!」
両手を握って感激の声を上げる敵を前に、紅咲は拷問器具を取り出す。
「それじゃあ、あとは気が済むまでいっぱい遊びましょぉ」
「素敵ね! あなたとは、とっても仲良くできそうよ!」
お友達とは楽しく遊ぶものですよねぇ? そう告げた紅咲の放つ攻撃に、オウガ・オリジンはナイフを手に応戦した。
けれどその刃に、殺意の鋭さはほとんど乗っていないようだ。切り刻んでしまっては、せっかくの『同じ部分』が無くなってしまう――。
「手加減してくれるんですかぁ? 優しいですねぇ」
生じた隙を掻い潜り、紅咲はオウガ・オリジンに確たる一撃を刻んだ。
大成功
🔵🔵🔵
エドガー・ブライトマン
行こう、ルイ君(f13398)
彼女は本当の友達というものを知らないのかもね
可哀想だけど、同情はしてやれない
先祖より血と共に受け継いだ金髪に
リボンを載せたのは生まれて初めてだ
こんな日がくるとは…
ルイ君がいて良かった。いろんな意味で
頭と背に大きなリボン
彼女、そして彼とお揃いのエプロンドレス
友達になるってこんなに過酷なコトだっけ
でも平和のためだから…
困った、王子様だから何着ても似合う
ルイ君の鏡としての心構えを尊敬する
私も平和のため少しの間お姫様になる覚悟が出来た
私たちとお友達になりましょう、オリジンさん
たくさん連れてきましたのよ(裏声)
狙いを逸らしたら、早業
剣で彼女の体を貫く
ある意味、捨て身の一撃だ
冴島・類
エドガーさん(f21503)
同じじゃないと友じゃない
何とも狭量な子だ
隙が生まれるとなれば、寄せましょうとも
共に行きましょうエドガーさん
平和のために!(合言葉)
1人じゃないって心強い
エプロンドレスと、頭と背中のりぼん
靴までは合わせて
後は何やかんや誤魔化そう
…考えたら負けだ、感じさせるんだ
彼が着たら、正装に見えてくる気も
これが、王子の覚悟(ごくり)
人型に慣れてしまったせいで躊躇するんだ
僕は鏡
似合ってなかろうと記号さえ揃えたら、寄せる
唸れ化術
友達が欲しいなら、沢山はどうだい?
攻撃の狙いを逸らすため
空蝉の鏡面に僕らの姿を写し
彼女のナイフを誘い
エドガーさん攻撃を届かせたい
声まで…!
覚悟の切っ先で、貫いて
●覚悟の証明
「同じじゃないと友じゃない、何とも狭量な子だ」
「もしかしたら、彼女は本当の友達というものを知らないのかもね」
冴島・類(公孫樹・f13398)とエドガー・ブライトマン(“運命”・f21503)がそう言葉を交わす。悪夢と狂気の只中に居るオウガ・オリジンの気持ちを推し量る事は難しい。だがその価値観がどうであれ、その在り方が哀れであれ、やる事は変わらない。
全ては、そう、この世界の平和のために。
「行こう、ルイ君」
「共に行きましょう、エドガーさん」
そうして二人は、オウガ・オリジンの待つ悪夢の中へと踏み込んで行った。
――エプロンドレス姿で。
「あら、あなた達が新しいお友達?」
現れた二人に向かって、オウガ・オリジンが嬉しそうな声を上げる。捨て身の決意の表れとでも言うべきだろうか、エプロンドレスに大きなリボン、足元までオウガ・オリジンと揃いのデザインに合わせてきた二人の姿は、彼女にとってはとても『仲良く出来そう』な存在に映ったようだ。
「いやあ……こんな日が来るとはね」
思わず、エドガーがそう小さく呟く。先祖より血と共に受け継いだこの金色の髪に、王冠ではなくリボンを載せることになろうとは。もちろん、この無闇にかわいいフリルのついたエプロンドレスも初めての経験。
平和のためだから仕方ない。しかし友達になるというのは、こうも過酷なコトだったか。
「しかし困った、王子様だから何着ても似合う」
「え……?」
隣の王子様が何を口走っているのかわからず、類が訝し気な顔になる。もしかして自暴自棄になってしまったのだろうか……いや、ここで変に考えてはいけない。ふわっと感じれば、ほら、何だかこれも正装のように見えてくるような気が、んー。
しかし、思考に負荷がかかりすぎる内に、彼は悟った。この懊悩も、躊躇も、なまじ人型に慣れてしまったせいではあるまいか。元々自分はヤドリガミ、この人の身は『仮の姿』のはずである。元の『鏡』の在り方を思い出せ。
「似合ってなかろうと記号さえ揃えたら、寄せる……!」
「えっ、今似合ってないって言ったかい?」
エドガーの声はとりあえず聞き流して、唸れ化術。姿を写す存在として、類はその身を可能な限り、向かい合うオウガ・オリジンの姿へと近付けた。
「素敵ね! あなた達とはとっても楽しく遊べそうよ!」
「ルイ君……」
これが鏡としての心構えか。そう感じ入ったようで、エドガーは仲間の尽力に応えるべく、覚悟を決めた。
「エエ、私たちとお友達になりましょう、オリジンさん」
う、裏声? 大分無理のある甲高い声音に、類が驚愕する。しかし、それを無駄にすることなどできるだろうか? 動揺を押し殺し、こちらも全力の裏声で、続ける。
「友達が欲しいなら、沢山はどうかしら?」
「ご覧の通り、たくさん連れてきましたのよ」
『空蝉写し』、類のユーベルコードにより、複製された彼の器物――鏡が、暗闇の中にいくつも現れる。自在に飛び回るそれらは、一つ一つ巧妙に角度を操作し、エドガーと類、二人のエプロンドレス姿をオウガ・オリジンの視界にずらりと並べた。
「すごいわ! 一度にこんなにお友達が出来るなんて初めて!」
感激の声を上げると同時に、オウガ・オリジンもまた、鋭いナイフを無数に呼び出し、自らの周りに浮かばせる。
「みんなみんな、わたしにそっくり! 手足をちょんと切って、詰めてあげるとなおよさそうね! ……ああ、でも、困ったわ、それだとせっかくお揃いのパンプスが台無しになっちゃうかしら」
彼女が浮かべた迷いに従うように、空飛ぶナイフの群れもゆらゆらと揺れる。
オウガ・オリジンの実力を鑑みれば、浮かべた鏡面の全てを貫くことも可能だろう。エドガーと類の身を刃で斬り裂くことも時間の問題だったはず。しかし二人が力を尽くしたことにより、その攻撃の手は明らかに、緩んでいる。
「今です……!」
類の裏声に合わせて鏡のいくつかが空中を舞い、オウガ・オリジンの浮かべたナイフの群れを分断する。そしてその合間を、作られた道を、エドガーが駆け抜けていく。
「――キミが居て良かった。色んな意味でね」
「僕としても、一人じゃなくて良かったって思ってますよ」
頭の上のリボンを揺らして敵へと迫り――『Jの勇躍』、エドガーの振るった剣は、過たずオウガ・オリジンを貫いた。
「ああ、せっかくお友達がたくさんできると思ったのに……」
ドレスに穴が開いてしまったわ。それに、見る見る赤い染みが広がってしまう。そんな嘆きの声を上げながら、少女は闇の中に膝を付き――悪夢の一幕は、一時終わりを迎えた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
アニー・ピュニシオン
どうして彼女がこの様な狂気に染まってしまったのか
分からないけど、私のやるべき事は決まったわ。
ドレスと装飾品を彼女に合わせるよ
お気に入りの髪も同じように
……貴女とは一緒に素敵なお茶会をしたり、
海や空の旅に行ったりするぐらいの
仲の良いお友達になれたかもしれないわね、と
そんな風に軽く会話をして近づいて、
オリジンの刃物を奪い取るね。
「足りないみたいなら、わたしがあなたに合わせる」って?
なら、丁度良いわね。
貴女のお友達候補だった者達と
同じ痛みを少しでも味わってほしいの
そうして鋭利な刃物を突き立てるわ。
お友達というものは、
貴女のエゴを満たす為の道具ではないの
……もっと、尊くて凄くて、大事なものだったのよ。
●悪夢を切り裂いて
暗闇の中に降り立って、アニー・ピュニシオン(小さな継ぎ接ぎの国・f20021)は目の前に立った少女と向かい合う。お気に入りの二つ結びの髪を解いて、きれいなエプロンドレスに身を包んだアニーは、その少女とよく似ていた。
「はじめまして! あなたが次のお友達?」
「……ええ、はじめまして」
明るい声で問うた少女は、楽しそうに、軽い足取りでアニーの周りを歩く。ゆっくりと一周した彼女は、その表情の全く分からない、闇の中で笑った。
「よろしくね! あなたとは良いお友達になれそうよ」
「そう、よかった」
こちらも、安堵と喜びを滲ませた声で頷く。良く似ている、という評価は、そのまま少女からの好意に置き換えられるだろう。
だから、笑顔を浮かべたアニーは、遠慮なく少女に近付いていく。
「貴女とは一緒に素敵なお茶会をしたり、海や空の旅に行ったりするぐらいの、仲の良いお友達になれたかもしれないわね」
「本当に? 素敵ね! 一緒に空を飛んだり、愉快なサーカスを見に行ったりもできるかしら?」
夢見るように歌う少女の、あり得ない『もしも』を思う。未来を語る少女に対して、アニーは過去と、そして現在を見ていた。
少女の手にしたナイフは血で塗れ、ステップを踏む足元には、バラバラに喰い残された少年少女の亡骸が転がっている。どんなに素直な少女に見えても、これはあの傲慢で、残虐なオウガ・オリジンに違いないのだ。
どうして彼女がこの様な悪夢に囚われているのか。そして、どうしてこの様な狂気に染まってしまったのか。それはもう、わからない。
けれど、『アリスがアリスを殺して、刻み』、『オウガがアリスを食い物にする』、この場所は、アニーにとっても悪夢の縮図だ。
ならば、やるべきことはひとつ。そう心を決めて、彼女は口を開いた。
「ねえ、もう一つお揃いにするのはどう?」
「良いわよ! 何処が良いかしら?」
やっぱり顔を削ぎ落すの? そんな弾んだ声をあげるオウガ・オリジンの手を、アニーは両手で包み込む。
鋭く、赤く濡れた刃を握る、細く華奢な指。
「みんなと同じ痛みを、少しでも味わってほしいの」
そうして握ったそれを、オウガ・オリジンへと突き立てた。僅かな手応えと共に、ドレスの上に赤が広がる。嗚呼、嗚呼。自分とよく似たアニーに対しては、敵意に欠けているのか、オウガ・オリジンはただ『お揃い』ではなくなっていくその色に嘆いていた。
けれどその声は、やがて苦痛に濡れて、問いに変わる。
「どうしてこんなことをするの? わたしが何かしたかしら?」
「あの子達も、きっとそう思ってたわ」
目尻に滲むものを堪えるように睫毛を伏せて、それからもう一度彼女を見据える。
この場所で死んだ子達も、ここではない場所で犠牲になった子達も。そう、アリス達は。
「お友達というものは、貴女のエゴを満たす為の道具ではないの」
……もっと、尊くて凄くて、大事なものだったのよ。
わからないでしょう。そして、もう取返しは付かないの。
零れ出るままに言葉を紡いで、アニーはその両手にきつく、力を込めた。
もう変えることのできないもの、過ぎ去ったもの達を思い、せめて小さな祈りをここに。
悪夢よ終われと彼女は願い、白銀の刃が闇を切り裂く。
大成功
🔵🔵🔵
ユヌ・パ
不用意に悲しませたいわけじゃない
小細工ナシで行く
相棒に顔と手腕を青白い炎で覆うように命じる
オリジンに似せるように
あたしなら
あなたの本当の友達になれるわ
あたしもアリスで、オウガみたいなものなんだもの
魂の在り様が、きっとあなたに似てるの
あたしは自分が「何番目のアリス」で
「何番目のオウガのなりそこない」なのかは知らないけど
ヒトとして生きられなかった子どもの寂しさくらいは
理解しているつもり
あたしは…
あたしは、もっと「少女」として生きたかった
…あなたは?
あなたのその寂しい気持ちを
あたしたちにも、味あわせて
そうしたらほら
あたしたち、ぜんぶぜんぶ、お揃いよ
嫌がらなければ、抱きしめる
あたしも
友達がほしかったの
ねえ、相棒。あの子は『はじまりのアリス』で、『はじまりのオウガ』なんだって。
あたしたちは、何番目なのかしら。
皮肉気な言葉と感傷が、青白い炎に溶けていく。
●悪夢を抱き締めて
自らの肉を代償にオウガを呼び覚まし、両腕と顔を炎で覆ったユヌ・パ(残映・f28086)は、悪夢の中に立つオウガ・オリジンと対峙した。
「あなた、何だか不思議な感じね」
こんなところが似ているなんて、とても珍しい気がするわ。黒く揺らめく両腕を広げて、彼女は言う。それは、きっと形だけの話ではないのだろう。ユヌもまた、それを肯定するように頷いて。
「ええ。あたしなら、あなたの本当の友達になれるわ」
そう請け負ってみせる。とはいえ、オウガ・オリジンの側はそこまで確証が持てないらしく、首を傾げた。
「本当の、友達に? どうしてそんなことがわかるの?」
「魂の在り様が、きっとあなたに似てるから」
その身に取り憑いたオウガごと『悪霊』と化したユヌは、アリスであり、同時にオウガであるとも言えるだろう。今の彼女の在り様は、悪夢に囚われたオウガ・オリジンに通じるものがあるはずだ。
それに――『はじまりのアリス』で、『はじまりのオウガ』、その存在が真には理解できていなくとも、ヒトとして生きられなかった者の寂しさくらいは――。
「あたしは……あたしは、もっと『少女』として生きたかった」
叶わなかったその願いを、ただの事実を告げるように、彼女は言う。
「……あなたは?」
そう問いかけたユヌに、オウガ・オリジンはただ小首を傾げて。
「ごめんなさい、よくわからないわ? わたしはただ、あなたと仲良くできればいいの」
がぶり、とユヌの肉を喰らった。
が、しかし。
「それは、なぜ?」
「……え?」
それに構わず、ユヌは問い掛けを続ける。オウガにその身を削られる事なんて、彼女にとっては慣れたことに過ぎないのだから。
「どうして、そんなに仲良くしたいの?」
思い出して。忘れたつもりになったって、大事なものは、きっとそこに刻まれている。
あなただって、きっと。
「わたしはただ、友達を……誰かと、一緒に……?」
揺らめく闇の向こうで、オウガ・オリジンが呟く。同時に、ユヌの体を喰らったことで、彼女の身にも変化が起き始めていた。彼女の行う『攻撃』は、より仲良くなるため、そして同じになるために行われる。先程のものも、例外ではない。
手足が少しばかり伸びて、髪は紫色に染まる。そして、両手の黒い揺らめきは、青白い炎へと変わっていった。
「ほら、ね?」
その手を引き寄せ、同じ様に青く燃える手で抱き締める。
形も、在り方も、それから寂しい気持ちだって。
ぜんぶぜんぶ、お揃いよ
「あたしも、友達がほしかったの」
きっと同じように在って、きっと分かり合える相手。そんな、悪夢の中の邂逅。
そうして、灯火のように、青白く輝く炎が燃える。
闇の帳を照らし出し、広がり行く炎は、昏い悪夢を呑み込んでいった。
成功
🔵🔵🔴
●夜明け
平たい闇のような世界は消えて、それぞれの形で悪夢は終わる。
薄れ、消え行く夢の中へ、オウガ・オリジンもまた呑み込まれていった。