迷宮災厄戦⑱-2〜悲しみの海を漕ぐのは
●オウガ・オリジンが水底に謡う
アリスが流した涙でつくる くらくて深い海の国。
今日のわたしは人魚の王女 あまいお菓子に飽きちゃった。
鏡よ鏡よ鏡さん 今日のお昼は何かしら?
いじめられて その身を投げた おまえのみじめな 涙でゆでる、
しょっぱいしょっぱい ボンゴレパスタ……!
●ガン・ヴァソレムが水割りでしくじる
「いや途中までは完璧だったんだよ。マドラーとかな、丸い氷とかな。
でも良い子の前だからってコーラと水でやったのが唯一失敗だった」
つまり1から10まで失敗してた事は猟兵達にもわかった。ついでに言うと丸い氷はロック用だ。
「さて、いよいよボス戦だぜ。オウガ・オリジンはこの一番奥だ」
ガン・ヴァソレム(ちょっと前流行ったアレ・f06145)が展開した画像には、荒れ狂う海とその水底、鋭い乱杭歯をむき出しにした魚が泳ぐ珊瑚礁が写っている。
「待ち決め込んでるだけあって、今回は奴さんなかなか周到だ。
海の中は人食い魚のオウガがうようよしてるし、海底のそこらじゅうを面倒な迷路にしてやがる。
焦ったところに他の戦場で砕けた鏡で無理問答しかけながら攻撃だ」
一息つくと、珍しく口調が苦々しくなる。
「……一番クソッタレなのは、この海そのものだな」
オウガ・オリジンがこの不思議の国に施した最も邪悪な呪い。
海水に触れた瞬間、過去の悲しい思い出が次々蘇り、涙が溢れてくるのだという。
「で、当のボスはニコニコしながら海に入る奴の涙を啜ってるんだとよ、シャレオツな肝臓の傷め方だぜ。
……正直防ぐ方法がろくに見つからん、すまんけど根性決めてもらうしかねえ」
無駄話しかしないガンが謝るところを、初めて見たかもしれない。
辛い思いをする事が分かっていて辛い目にあいに行く、というのは、傍から見てもおかしな話だ。
だが、海底に待つオウガ・オリジンを倒すには避けて通れない障害となる。
「だが、そいつを耐えればボスまでは一直線だ。コケにされた分を思う存分叩き返してやんな」
荒左腕
荒左腕(あれさわん)です。よろしくお願いします。
アリスラビリンスでの戦争もいよいよ最終局面です。
敵は強大ですが踏ん張りどころですね。戦いの海も牙で漕ぎましょう。
●戦場について
涙の海の国、ですがそこは不思議の国。水中の行動に関してのペナルティなどはありません。
勿論海中に特化した行動が有利なことには変わりませんが、今回はOPにもあるギミックへの対応の比重が大きいと思います。
●「プレイングボーナス」について
本シナリオでは以下の行動に基づく行動をとることで有利な結果を得ることができます。
プレイングボーナス……『過去の悲しみを克服しつつ戦う。』
プレイングには過去の悲しみの記憶と、それを乗り越える様子が具体的な程有利になります。
※記載がない場合は心を殺して悲しみを抑えつけます。戦闘は可能ですがご自愛ください。
ド畜生のオウガ・オリジンは涙の海にいても全く平気ですが、悲しみに沈んでいない涙はそれだけでこの国の強烈な異物となり、オウガ・オリジンの戦力と気分を著しく害するでしょう。
敵の攻撃については、OP及びオブリビオンのデータをご確認ください。
それでは、皆様のプレイングをお待ちしています。
第1章 ボス戦
『『オウガ・オリジン』と嘆きの海』
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POW : 嘆きの海の魚達
命中した【魚型オウガ】の【牙】が【無数の毒針】に変形し、対象に突き刺さって抜けなくなる。
SPD : 満たされざる無理難題
対象への質問と共に、【砕けた鏡】から【『鏡の国の女王』】を召喚する。満足な答えを得るまで、『鏡の国の女王』は対象を【拷問具】で攻撃する。
WIZ : アリスのラビリンス
戦場全体に、【不思議の国】で出来た迷路を作り出す。迷路はかなりの硬度を持ち、出口はひとつしかない。
👑11
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シホ・エーデルワイス
私の異世界同位体に罵られた事
私は猟兵になる際
オブリビオンになりつつあった異世界同位体から助けを求められました
オブリビオンだから敵対するのは当然とはいえ
ある同位体は同じ魂とは思えないぐらい価値観が違った
同位体として親しく感じていた私に
彼女の罵倒はとても良く染み
心が割ける様に痛く悲しい
三度相対し交わした言葉に覚悟と勇気を胸に狂気耐性と呪詛耐性で向き合う
オブリビオンは魂が歪んで蘇える事もあると気付き
彼女は私に助けを求めた同位体とは言えないぐらい変質していたと知る
何を守り誰と戦うか…
私は
私を必要とする人を守って戦います
例え敵が私の同位体でも!
暗視で視界を確保し
第六感と聞き耳で海流を読み
【弾葬】で攻撃
「さあ、たくさんの涙を見せて。宝石みたいな涙のしずくで、わたしのおなかをいっぱいにして」
水底に漂うオウガ・オリジンの呟きと共に、静かな海が痛々しい音を立てて変容した。
色とりどりの珊瑚がばらばらに組み合い、モザイク状になった壁。
砕けた鏡の破片がそこかしこにちりばめられ、海上の光と海底の闇を絡み合わせている。
鮮やかな色彩の中に悪意を仕込んだ、オウガ・オリジンの迷宮であった。
「……嘘」
迷宮に入ってすぐ、シホ・エーデルワイス(捧げるもの・f03442)の眼に飛び込んできたのは、
周囲の壁に張り付いた鏡の破片と、その全てに映りこむ自分の顔だった。
いや、間違おう筈もない。「自分」と異なり怒りや憎悪に歪んだその顔は、かつて自分が手にかけた同位体――オブリビオンと化した「他の世界の自分」だ。
「この偽善者め!自分がいつも正しい顔をして、またお前は私を殺しに来たんだ!」
「……ッ!?」
かつて投げられた言葉とはまた違うものであったが、それは同じようにシホの心を抉る。
だが、これがオウガ・オリジンの力によるまやかしだと思い直した時、ふと疑問が生じた。
……あの時、何故そんなに辛かったのだろう?
自分自身を手にかけたこと?彼女が自分を否定したこと?
鏡に映る彼女の姿をまっすぐ見つめ、やがてシホは当時気付けなかったもう一つの想いに達した。
「あなたの事、とても辛かった。助けられなかった事……それから、「私」ではなかった事」
しかし、「同じ自分なのに」という気持ち自体、自分の傲慢だ。
異なる世界で異なる人生を歩んだ彼女を「自分」だと見做していたことを、改めて悔やんだ。
「何を守り、誰と戦うか……私もあなたも、もう決めていたから!」
鏡の向こうを見つめたまま、ホルスターから二挺の拳銃を抜いてトリガーを引く。
無数の弾丸がただ一点をひたすらに穿ち続け、やがてもう一人の自分が映る鏡と共に強固な迷宮の壁を砕いて大きな穴を開けた。
――やっぱりまた殺した!お前はそうやって、全ての世界で「私」を殺し尽くすんだ!
細かく砕けた鏡から響く、か細い怨嗟の声。
シホはそれを踏み砕くように、迷宮の奥へと進んでいった。自分が守るもののために。
成功
🔵🔵🔴
鈴木・志乃
誰が貧乳じゃあアアアアアアアアアア!!!
(※ほんの少し前にオブリビオンに貧乳コンプレックスを散々弄られた残念な人。他の辛いことは大概克服済み)
サイテーだオリジン……ほんと辛いんだぞこれ……お前も貧乳のくせに……。
……恋人からの手紙と贈り物でも見返そ。土に還りたいって言ったら『瓶に詰めて持ち運ばないといけない』って返って来た手紙とか、薔薇の花束と一緒に送られてきたBD祝いのメールとか、依頼無事に終わりますようにって折ってくれた千羽鶴とか。
……恵まれてんなあ私。幸せだなあ。貧乳でも生きて行ける(ぶわっ)
それはそれとてオリジンは許さないけど。皆、力貸せ。特に貧乳女子。一緒にやろう。
UC発動!
その声が鈴木・志乃(ブラック・f12101)に聞こえ始めたのは、丁度迷宮の狭い通路を通っていた時だ。
「胸が薄いと、そんなところも通れるのね」
「……あ?」
「羨ましいわ、わたしなんか歩くだけで肩がこって」
幻聴にしてもたちが悪い。平静を装いながら努めて無視を決め込んでいたその時、
ぽよん。柔らかい感触が自分の胸を打つ。
「あらごめんなさい、硬いから壁かと思っちゃった」
その一言に彼女の抵抗は決壊し、みるみるうちに涙があふれる。
「乳が……乳があるんがそんなにえらいんかクソがアアア!!」
ただし、血の涙だ。余程溜まっていたらしい。怒りのあまり口調も忘れて男弁だ。
「脂肪のカタマリぶらさげてドヤっとんちゃうぞブタ公が!
そんなもんその辺のおっさんもブラブラしとるやんけ!
お前等もおっさんも生きてるラードじゃ、何も違わんわ!!」
その辺のおっさんも貰い事故で涙目だ。
「そして……これを見い!」
懐からどばっと取り出したのは、恋人からの手紙や贈り物。
薔薇の花束に千羽鶴。正直重いプレゼントを持ち歩く方も大概重いが、つまりバランスの良いカップルだということだろう。
「男……そう、男!脂肪なんぞなくっともワシには男がおるけえのう!
ああ独り身はさみしいのうさみしいのう!そのぶよっぶよの塊ぶらさげたままダルッダルのババアになって一人でブラブラしとけぇやー!」
勝ち誇りながらも血の涙は止まらない。溢れる憎しみのままに志乃はユーベルコードを解放する。
「爆ぜろ! 爆ぜろ!! 爆ぜろ!!! 爆ぜろぁあぅああ!!」
渾身の赤黒い感情が迷宮に撒き散らされ、強固なはずの迷宮にあちこち亀裂が生じ始めた。
しかして、迷宮の最奥にいるオウガ・オリジンにも志乃の涙は届いていた。
「……この涙、エグみがきついわ」
成功
🔵🔵🔴
リステル・クローズエデン
記憶がないことが有利に働きますか
・記憶
強制的に思い出される記憶。
燃える室内、異形の剣もつ人々。
白い壁も床も赤く染まる。
ノイズがはしる
倒れているのは、だれ?
ノイズが
友達?家族?
わたしをかばって斬られて、
ノイズ
違う、ちがう、チガウ
『ボク』が斬った。
『わたし』は守られた。
『私』は見ていた。
実験施設で『我ら』は殺しあっていた。
暗転
わからない、わからない
けれど、悲しい、どうしようもなく
けれども『僕』はここに生きている。
だから、『おまえ』なんかに負けるものか
狂気耐性が発動しました。
戦闘
水中機動、深海適応他で水中戦
第六勘で攻撃をよみ、
ユーベルコードを
鎧無視攻撃、貫通攻撃、範囲攻撃で。
攻撃はオーラ防御と残像で
リステル・クローズエデン(なんか青いの・f06520)にはそもそも、蘇るような記憶がない。
悲しみの思い出を強制的に呼び覚ますという力も特に効果を及ぼすまいと、涙の海に飛び込むその瞬間まで考えていた。
だが、霞のように重さを感じさせない海水に全身を浸した瞬間、頭の中いっぱいにノイズ混じりの「知らない」光景が浮かび始める。
――炎と血で真っ赤に染まる白い部屋。
血溜まりに倒れ伏す「とても仲の良かった」知らない人々。
妙な形の剣を振り回してわたしを斬ったお前は――わたしは――ボクは――?
「誰だ!!」
意識を取り戻した時、リステルは既に戦闘中だった。
無数の魚型オウガに囲まれ、いくらかの損傷もある。
「いや――誰でも……いい!今生きているのは……「僕」だ!」
準備しておいた対水中装備を一度に展開すると、爆発音と共にリステルの身体が
矢のように鋭く海中を飛ぶ。
海中にあって隼のごとく縦横無尽に海中を舞い、その推進力で周囲に水流の渦を作り出していた。
「呪剣変換(アームド・カスタマイズ)!!」
鞭状に変形させた剣を渦の中心で一閃。渦に捕えられた魚型オウガ達は、ミキサーにかけられたように細切れになった。
「なんだろう……今のは」
呼吸が出来るはずのこの海の中でも鼻腔が苦しく、目頭が熱い。
自分が泣いているのだと、リステルはその時初めて気が付いた。
成功
🔵🔵🔴
真宮・響
過去か・・・生涯連れ添うと誓った夫がアタシが怪我してたせいで1人で多数の野獣と戦うはめになって目の前で死なせてしまった辛い過去が今だに胸に残るね。
7年も一緒に野営続きの生活してれば、身の処し方は分かってるつもりだった。なのに、迂闊にも上から降って来た落石に気付けなくてねえ。肩が使えない状態だった。本当に私の不注意で永遠に夫を失うことになってしまった。
幻聴ではそんな事仕出かすなら初めから夫と旅なんかするんじゃないとかいうだろうね。でもアタシは夫に託された娘と義理の息子がいるんだ。絶対2人は護って見せるさ。だから・・進ませて貰うよ!!【見切り】【残像】で攻撃を回避、竜牙で攻撃する!!
「頼むよ、もう一杯だけ」
真宮・響(赫灼の炎・f00434)は突如聞こえた懐かしい声に耳を疑う。
「ダメだよ、あんたそうやって何度仕事中に二日酔いになったんだい!」
幾分か若い自分の声に、目の前の男はばつが悪そうに頭をかいた。
……そうだ、これは「あの日」だ。
この少し後。目の前にいる彼女の夫は、怪我をして動けない自分の代わりに野獣の群れと戦い、死んでしまうのだ。
何故もっと注意深く動けていなかったのだろう?
何故もっと自分は力をつけていなかったのだろう?
何故もっと優しい言葉をかけてあげられなかったのだろう?
何を悔やんだところで、これは過去の光景だ。
この先の出来事は変わらないし、今の響の言葉が届くこともない。
「……お前こそ、何しけた顔してんだよ?」
夫が響の顔を覗き込む。……こんな事していたっけ?
「一緒に家族を守ってくんだろう?そんな顔じゃ子供達に笑われちまうぜ」
近所のガキみたいに顔中くしゃくしゃにした笑顔。響はこの顔が一番好きだった。
「……!!」
目を開いたその時、響の眼前には巨大な魚型オウガの牙が迫っていた。
ご丁寧にあの時怪我をした右肩に向かって突っ込んでくる。
「そうだった……そうだったね。もうずっと、あんたとは一緒だった。
安心しな!アタシ達の家族は、絶対守ってみせる!!」
手にした槍を強く握り、誓いを赤熱した穂先に宿す。
「竜牙、たっぷり味わいな!!」
オウガの牙が触れる刹那、滑り込むように迎撃の刃がその体を切り裂く。
最後に大きく槍を振ると、オウガは真っ二つになって海中の藻屑となった。
「……あんた、やっぱりお酒はお預けだよ。すっかり涙もろくなっていけないや」
成功
🔵🔵🔴
メラニー・インレビット
この世界に迷い込まれたアリス様のお世話をさせていただく事、
それがわたくしめの歓びでございました
ですがその多くが、オウガの餌食に…
無力だったわたくしめは、
それを目の前にしながら、何も出来なかったのでございます…
ああ、あの時わたくしめに力があれば、
皆様を喪わずに済んだかもしれないのに…!
……我が悲しみに沈む様を愉しむつもりだったのだろうが、
貴様はひとつ思い違いをしている
確かにこれは我が悲しみの記憶だが、
それ以上にオウガ(おまえたち)への怒りと憎悪の根源なのだ
故にこの海が悲しみを呼び起こす程に、お前の死は確実なものとなる
我はインレビット、裁きと共にお前の時間を終わらせる者と知るがいい!
「待ってよ、うさぎさん!」
「……!?」
メラニー・インレビット(クロックストッパー・f20168)が最初に聞いたのは、
彼女が初めて出会ったアリスの声だった。
「次はどこへ行けばいいの、うさぎさん?」
不安そうな顔のアリスに恭しくお辞儀をする過去の自分。
迷い込んだアリス達に付き添い、彼女たちを導く。それがメラニーが自身に課した役目であり、誇りでもあった。……その日までは。
「たすけて!たすけてうさぎさん!」
「ああ、アリス!そんな……また!」
突如現れたオウガ達の手にかかるアリス、そして為す術なく倒れ伏す自分の姿。
その光景は1度や2度ではない。目の前でオウガに喰われるアリスの断末魔を、何度聞いたことか。
「アリス……アリス……!わたくしは……!」
メラニーの瞳にみるみる涙が溢れる。そして、涙と共に心の底へしまい込んでいた炎も、息を吹き返すのだった。
「……ああ、その涙はお前のだったのね。とても美味しかったわ、哀れで、惨めで」
過去の残滓が通り過ぎた頃、メラニーは珊瑚の迷宮の奥でついにオウガ・オリジンと対峙する。
かつてのアリス達と同じようにころころと笑うオウガ・オリジンの声は、
しかしメラニーの耳にだけは錆びた鉄をねじ切るように耳障りな音として聞こえる。
「……貴様はひとつ思い違いをしている」
メラニーはゆっくりと武器を構えた。
「この涙こそが我が力!貴様等オウガへの怒りの根源だ!
我はインレビット、裁きと共にお前の時間を終わらせる者と知るがいい!」
「終わるのはお前だけよ」
オウガ・オリジンが手をかざすと、メラニーの周囲を鏡の破片が舞う。
「私の問いに……」
「邪魔だッ!!」
鏡の国の女王が問うより早く、メラニーの瞳が輝いて怒りが走り出す。
手にした殺戮刃物が弾けるように9つの軌跡を描き、鏡の破片を次々と砕いた。
「お前にはたっぷり味わってもらうぞ、彼女たちの痛み!!」
再び1つになった殺戮刃物を逆手に構え、オウガ・オリジンの「見えない」顔に刃を突き立てる。
「アア……ァァアッ!?おのれ……!よくも、よくもわたしを!!」
黒い鮮血が海中に染まる。見えぬはずのオウガ・オリジンの瞳は、しかし誰の眼にも明らかなほど憎悪に歪むだのった。
成功
🔵🔵🔴
シホ・エーデルワイス
「同じ自分なのに」という考えが傲慢か…
さっき至った答えが遅効性の毒の様に心へ浸み込む
薄々気づいてはいた
同じ魂でも歩んだ人生が違えば価値観も異なる可能性を
いえ
本当は辛い記憶も宝物だと言った彼女の価値観を
同位体として受け入れられなかった
私にとって辛い記憶は心を壊す毒で
猟兵になった時も記憶を封じられていたぐらいだから
彼女の考えを受け入れようとしたら
私の人格は崩壊してしまう…
私の至らなさに涙
認めましょう
私は私の価値観でしか考えられない傲慢な偽善者です
けど
私は無理に相反する価値観を理解しなくても良いと思う
無理をすれば自分を見失うから
だから
この先出会う同位体とは
お互いの価値観を尊重できるように向き合います
「……ッ」
オウガ・オリジンが体勢を崩した好機。しかしシホの動きは鈍かった。
(傲慢……偽善者……)
自分で紡いだ言葉がそのまま自分を縛り、暗い海の底をぐるぐると回る。
靄のかかった思考は、やがてオウガ・オリジンの反撃を許してしまった。
「教えなさいよ。あんたにとって、わたしは一体なんだったの?」
シホの周囲を再び珊瑚と鏡の破片が取り巻き、そこに映る「もう一人の自分」が問いかける。
「それは……」
「彼女」に会うまで、シホにはネガティブな記憶がなかった。
成長を阻害するとして、その度に消去されていたのだ。
同じ姿を持っていながら辛い記憶を宝物のように抱えていた「彼女」のことをどうしても理解できず、
それが二人の間に溝を作り、やがて致命的な結果として帰結する。
「教えなさいよ。何がそんなに気に入らなかったの?」
海がもたらす魔力のせいか、涙が止まらず思考がまとまらない。
まとまらないからこそ、何も考えずに今思ったままをシホは口にした。
「ほんとはっ、なかよく、なりたかった!でも、できなかった……!」
思わず口走った言葉に、シホは驚きと共に確信めいたものを感じた。……たぶん、これが答えだ。
友人?家族?もう一人の自分の事を、普通はどう扱うのだろう。とにかくそんな風になりたかった。
それは、「彼女」がシホと同じものだからではなく。
「でも、私とぜんぜんちがうから……!」
その時。鏡に映る「彼女」が、初めて微笑んだ気がした。
「……友達なんてね、大体違う事ばっかりよ」
「あなたは、いったい?」
オウガ・オリジンの操る鏡には、問いかける機能しかないはずだ。
「……次に会うまで考えときなさい、かなり先になると思うけど」
その言葉と同時に鏡が粉々に砕け、シホの視界が開けた。
「はい……!」
突如周囲を覆う鏡半壊し、虚を突かれたオウガ・オリジンへ二丁拳銃を乱射する。
「返せ……!わたしの鏡……わたしの涙……!」
怒りに震えるオウガ・オリジンが繰り出す鏡と珊瑚の礫を躱し、シホは懐に飛び込んだ。
「違う!これはアリスラビリンスの人々の思いのかけら!すべて返してもらいます!!
わたしの、未来のともだちに誓って!!」
拳銃のオプションスイッチを捻り、機構を解放する。
総計50発以上の弾丸がオウガ・オリジンの傷跡に吸い込まれ、やがて内部で弾け飛んだ。
「響き渡れ、【弾葬】!!」
「あああああああ……わたしの……わたしの
……!!」
怨嗟の声を響かせてオウガ・オリジンの肉体が崩れ、骸の海へと沈んでゆく。
オウガ・オリジンの形が完全に無くなると、珊瑚の迷宮もあわせて崩壊を始めた。
崩れ落ちる迷宮から脱出した猟兵達は、浮上しながら涙の海の国の本来の姿を見ることになる。
涙は決して悲しみのみで生まれるものではない。
暗い迷宮から解き放たれたそこは、様々な感情の色が混ざり合う虹色の海の国だった。
大成功
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