迷宮災厄戦⑱-14〜シェルタリンググリーン
汝は想像、汝は夢。
アリスという迷い子を欲し、美しい好奇心を、生きる渇望を、最も尊き存在であり続けるために、少女の麗しを啜る。
その為ならば、花よ蝶よと彩を与えよう。我こそが花や蝶になろう。
汝は幻想、汝は夢。
ここには何でもある。美しさも醜さも。
だから夢を与える代わりに、それを寄越せ。
アリスの血肉を。アリスの血肉を。
腹を減らしているのがわからないのか。
はやくそれをわたしによこせ。
熱い血の鉄の苦さを。
甘露の如き柔らかく甘い肉を。
その為には何度でも輝こう。
欲するものに、なんでもなってやろう。
ターキッシュディライトか。碧い理想郷か。
「何でも望んでみればいいのです。代償はいただきますが。フフフ……」
黒い影を落とす少女の面影を持つ、オウガ・オリジンがひとたび無限の想像力に抱かれれば、その身も心も、まばゆい輝きを放つクリスタリアンに変じていた。
猟書家プリンセス・エメラルドの、それそのものへと。
「さあ、懐かしい故郷へと侵略を開始しますよ」
己自身をまるで疑うこともなく、プリンセス・エメラルドそのものと化した何かが、それそのもののために行動を開始する。
「……とまあ、よくわからんことが起きている。あれは、本当にオリジンなのか……?」
グリモアベースはその一角において、リリィ・リリウムは自分で書き出した資料を片手に眉を寄せる。
まるで自身の見た予兆を疑うかのようであったが、これまでに予見した内容に外れはなかった。
どんな突拍子のないことであってもそうであったのだから、今回も間違いではないのだろう。
「いや、すまない。整理のため、最初からシンプルに伝えるべきだな。
今回の敵はオウガ・オリジン……だが、彼の者の現実改変ユーベルコードと無限の想像力によって、今は身も心も猟書家の一人、プリンセス・エメラルドそのものになっている。
よって、相手になるのは、プリンセス・エメラルドそのものと言っていいだろう」
オウガ・オリジンから力を奪ったという猟書家たち。少なくとも好いてはいない相手であろうに、敢えてその姿をとる理由は知れない。
だが、プリンセス・エメラルドとてよその世界へ乗り出してフォーミュラになり替わろうという野望を掲げている。
そして、あまつさえそれすらも完璧に再現しているのだから始末に負えない。
「あるいは、我々にプリンセス・エメラルドへの敵愾心を強く持たせるための婉曲な策ともとれるが……やはり、よくわからないな」
考察はひとまず脇へ、リリィは咳ばらいを一つ、今回の依頼の件へと話を戻す。
「本人が健在のまま言うのは妙な話だが、言うなれば完璧な精度を誇る再生怪人だ。
敵幹部としての実力は並々ならぬものがあるのは間違いないだろう。
間違えても先制が取れるとは思わない方がいい。
むしろ、敵の攻撃に対抗する手段を講じる方がいいと思う」
その現実改変の力は凄まじく、プリンセス・エメラルドのみならず、宝石で構築された世界そのものまで再現しているという。
クリスタリアンの最長老たる彼女が、その宝石の世界においてどれほどの支配力を有するのか、想像するだに恐ろしい。
しかし強さもまた突破口。持てる能力と発想、そして魂の限り戦う意志があれば、きっと活路は見いだせる筈である。
「情勢は不安定と言わざるを得ないが、やってくるのは強敵ばかり。捨て置けはしない。
君たちの健闘を祈っている」
一礼し、リリィは猟兵たちを送り出す準備をするのであった。
みろりじ
どうもこんばんは。流浪の文書書き、みろりじと申します。
やはり、緑こそ至高でありますので、彼女のエピソードは欠かせない。
しかしながら、彼女を勢い余って倒し過ぎると、オリジンの戦力がとんでもないことになってしまう。
そんな折! オ、オリジンはん、こりゃあ……!
そこには苦悩するMSのために身を粉にするオブリビオン・フォーミュラの姿が。
などということではたぶんなく、プリンセス・エメラルドとの戦いです。
例によって、幹部扱いでありますので、先制攻撃は免れません。
それに対処するプレイングなどを盛り込んでおりますと、いいことがありそうです。
オリジンさんが変身してはいますが、能力や口調などすべてプリンセスです。
本編中にもオリジンさんが顔を出すこともほぼないかと思いますので、プリンセス・エメラルドを倒すつもりで挑みましょう。
それでは、皆さんと一緒に楽しいリプレイを作ってまいりましょう。
第1章 ボス戦
『『オウガ・オリジン』エメラルド』
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POW : プリンセス・エメラルド号
自身の【サイキックエナジー】を代償に、【宇宙戦艦プリンセス・エメラルド号】を戦わせる。それは代償に比例した戦闘力を持ち、【エメラルド色の破壊光線を放つ多数の砲】で戦う。
SPD : 侵略蔵書「帝国継承規約」
自身の身長の2倍の【皇帝乗騎(インペリアル・ヴィークル)】を召喚し騎乗する。互いの戦闘力を強化し、生命力を共有する。
WIZ : クリスタライズ・オリジナル
自身と自身の装備、【敵に被害を与えうる、半径100m以内の】対象1体が透明になる。ただし解除するまで毎秒疲労する。物音や体温は消せない。
👑11
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空葉・千種
アドリブ歓迎
もしかしてオウガ・オリジンは異世界の情報を取り込もうとしてるのかな?
…話を聞こうにも今のオウガ・オリジンは覚えてなさそうだけど
今回の相手は『戦艦を召喚するUC』だけど…どのタイミングで私のUCが使えるようになるかで作戦が変わるかな?
まず、戦艦召喚時点で可能ならすぐにこちらも【指定UC】を発動し、
ディラタンゼルを装備して砲撃に対抗
次に砲撃開始時点の場合は【ダッシュ】で相手戦艦の直下に陣取り射角外をとり、【指定UC】発動までの時間を稼ぐ
どちらにしてもUC発動後は砲塔誘爆を狙いペリーネウマンの【弾幕】で対空砲火を行うよ!
七那原・望
目的まで完全にすり替わってるのですね。この状態をオウガ・オリジンと言えるのか……いいえ。此処にいるのは最早ただのプリンセス・エメラルドです。
【第六感】と【野性の勘】、【聞き耳】で周囲のあらゆる障害物や敵の行動、攻撃を【見切り】、回避を。回避しきれないものは【オーラ防御】で防ぎます。
そのユーベルコードはただ透明になるだけなのでしょう?であれば、視覚に頼らないわたしにとっては何もされていないのと同義です。
アマービレで呼んだねこさん達に【全力魔法】による援護をお願いしつつ、【果実変性・ウィッシーズガーディアン】を発動し、素早く距離を詰めて【早業】による超高速近接戦闘で考える暇を与えず畳み掛けます。
宝石というものは、基本的に自発的に発光するものではない。
にもかかわらず、その世界はあちこちが輝いていた。
色とりどりの宝石を敷き詰められた石畳も、街路樹のように飾られた石柱たちも、建物の壁や門扉、果ては数秒前までそこで生活していたかのような人影ですらも。
そこにあるのはありとあらゆる宝石でできたイミテーションであった。
すべては、そこに陣取る者を、すなわちプリンセス・エメラルドを引き立てるためだけの世界に過ぎなかった。
初めから完結している。
永遠に近い輝きを宿すとされる宝石の謳い文句をそのままに、禍々しい呪いにまでしてしまったかの如く、透き通った緑の宝石で成るクリスタリアンの最長老その人は、毒々しくも美しかった。
そのあまりにも堂に入った姿に、依頼の話を聞いてやってきた七那原・望(封印されし果実・f04836)と、空葉・千種(新聞購読10社達成の改造人間・f16500)は面食らうことになる。
話に聞いた限りでは、彼女はプリンセス・エメラルド本体ではなく、そこにいるのはオウガ・オリジンがその無限の想像力でもって作られた姿であるという。
しかし、彼女自身はおろか、この小世界そのものですらも、まるで本物と大差ないようであった。
「本物、ではないんでしょうか……だとすれば、目的はなんなのです?」
「もしかしてオウガ・オリジンは異世界の情報を取り込もうとしてるのかな?
……話を聞こうにも今のオウガ・オリジンは覚えてなさそうだけど」
「目的まで完全にすり替わってるのですね。この状態をオウガ・オリジンと言えるのか……いいえ」
女性としては背が高めの千種を、8歳の子供である望は見上げるようにして問答する。
見上げるといっても、望の顔には目隠しがされていてその視界が情報を得ることはないのだが、代替となる他の感覚がより機能している証左として、望は話す方を向く。
自身の力を奪った猟書家の姿と心身まで精巧に再現する、その本当の理由は定かではない。
しかしいずれにしても、目の前にいるのはプリンセス・エメラルドであり、仮にそれがオウガ・オリジンであろうとも、倒すべき敵であることに違いはない。
「あら……さっそく、私の船出を邪魔する輩が来たのですね……フフフ、止められるものならば、やってみてごらんなさい」
おそらくは自身の本当の正体など知らず、現身であるかどうかなど問題ではなく、ただただ美しい宝石でできたまさしく芸術品のような顔に笑みを浮かべ、プリンセス・エメラルドは虚空を歩む。
飛んでいる?
いや、澄んだ石を穿つような、小気味いい足音が静かに鳴る。間違いなく虚空の何かを踏みつけて歩いている。
「……! 既に在るのです! 千種さん、こっちへ!」
澄んだ音に混じって地面が大きく揺れ始める気配を、卓越した聴力で感じ取ると、望は傍らの千種を手を引いて身を翻す。
既にプリンセスは、この場に於いて先手を打っていた。
宇宙へ飛び立つための船をこの場に呼びつけておき、クリスタリアン特有の光の屈折を応用した不可視の能力で隠していたのだ。
この揺れはその胎動。
宇宙戦艦プリンセス・エメラルド号がその砲塔を稼働させた拍子の揺れなのだ。
その全容を把握するのは、視覚ではうまく捉えられないものの、可視光を遮られながら光の粒子をチャージする様子は、その影をわずかに感じさせる。
「あれが撃たれたら、まずいよ! 潜り込もう!」
揺れを警戒して距離を取ろうとする望だが、千種もようやく宇宙戦艦の危険性を感じ取り、敢えてその射程の内側に潜り込むことを決断。
小さな望の体を抱えて突っ走り、街並みに尖塔の如く突き出る戦艦の根本へと全力ダッシュする。
艦隊戦を想定する砲塔は巨大であり、長射程を持つがゆえに近づかれるとなす術はない。
さすがに接近用の対空機銃くらいはあるだろうが、離れるよりかは勝機があると見た。
そして対空機銃程度ならば、千種のユーベルコードでも対抗しうると考えたのであった。
「もう、怒ったよ!」
そう意志を持って、自ずから首後ろのトグルスイッチを入れる。それにより、彼女のユーベルコードは成る。
【叔母さんに(無理矢理)取り付けられた巨大化装置】によって、プロセスは省略するが千種の体は見る見るうちに巨大化していく。
それと同時に巨大化の体格に合わせたシールドと銃槍が出現し、その手に握られると、彼女に抱かれていた望は、千種の盾の内側にしがみついていた。
「どう、行けそう?」
「やってみるのです。投げてください!」
「気を付けて、ねっ!」
はやくも対空砲火の光線をシールドで受けながら、王笏を手にする望に攻撃の手を託す千種は、お互いの目配せの後、シールドを振り上げるような動作とともに望を射出する。
その直後に銃槍による掃射で援護をしつつ、対空機銃を潰しにかかる。
艦全体が透明化していて見づらいところだが、機銃の弾道を見て銃座を特定することは可能である。
一方で放り投げられた望は滑空するように上昇しつつ、アマービレによって呼び出した魔法猫たちに対抗魔法で援護をお願いしつつ、自身もまたユーベルコードを発動させる。
オラトリオである彼女は、その翼で空を飛ぶが、通常では自動車の法定速度程度が関の山であるという。
だから、もっと速く、強く飛ぶためには、そのための形態になる必要がある。
まして望は8歳の少女。戦うための無茶を常に傍らの果実と共に超えてきた。
「わたしは望む……ウィッシーズガーディアン!」
【果実変性・ウィッシーズガーディアン】によって望むべく姿に変身、その手に二刀一対の黒い妖刀と白い聖剣を帯びると、望は空中で踵を返すように方向を変える。
不可視の宇宙戦艦の表層を嘗めるように飛行できるのは、彼女が視界に頼らない感覚の持ち主だからこそ成し得るものであった。
そして、千種の35ミリという強力な銃槍による対空機銃の破壊も、望の飛行を妨げない結果をもたらしていた。
素早く紅く、雷光を纏う望の二刀が、艦上の不可視の何かに肉薄し、切りつけた。
すれ違い様の二連撃。確かな手ごたえがあったが、同時に、仕留められなかったことにも思い至る。
「なるほど……目に頼らぬが故に、捉えられたというわけですか。お見事です。ふふふ」
周囲がぼやけるようにして姿を現したプリンセス・エメラルドが柔和な笑みを向ける。
片腕を切り飛ばされながらも相手を称賛する余裕。
その膨大なサイキックエナジーは、単体で巨大戦艦をも動かしてしまうし、片腕を捥がれた程度なら、あっという間にその破片を集積し、再生してしまう。
「ええー、宝石ってそんなこともできるの?」
「どうやら、まだまだいっぱい、切りつけてやらなきゃ、ダメみたいなのです」
大成功
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ユリウス・リウィウス
自分を封じた奴らの姿になって何が楽しいんだ? なあ、おい?
オブリビオンの考えることは理解に苦しむ。もっとも、素で分かるようになったらお終いだが。
皇帝乗騎か。そいつもマインド兵器なのか? まあいい。討滅するだけのことだ。
皇帝乗騎の一撃は、「なぎ払い」「傷口をえぐる」「カウンター」で対処しよう。
初手をしのげたら、「降霊」で亡霊騎士団を喚起する。そのまま荒ぶる亡者に巨大化させ、力押しの袋叩きだ。遠慮はいらんぞ、お前達。
自身は皇帝乗騎がどこから突破してくるかを見極めつつ、そこで双剣を振るおう。双剣撃を叩き込めば、皇帝乗騎に乗っていてもただではすむまい。
エメラルドだかオリジンだか知らんが、骸の海へ沈め。
激しい砲撃戦を経て、プリンセス・エメラルド号の不可視迷彩が効果を薄めると、巨大な戦艦の艦首がその姿を現す。
それはさながら、黄金の道の果てにあるという緑の理想郷を模したような凄まじい威容であった。
それですらもオウガ・オリジンによる完璧な模倣による成果なのだとしたら、オリジナルのプリンセス・エメラルドもさることながら、その再現性の高さを評価せざるを得ないところだったが……。
「しかし、自分を封じた奴らの姿になって何が楽しいんだ? なあ、おい?」
その甲板に降り立ち、ユリウス・リウィウス(剣の墓標・f00045)はその船の質量と共に湧き出る疑問を投げかけずにはいられなかった。
尤も、それを自分で理解できるようになったら、己自身もオブリビオンに近いものになってしまうともいえるのだが。
そもそも今の彼女は、オウガ・オリジンではなく、その本性すら自覚できない、プリンセス・エメラルドそのものである。
「いきなり何を仰るのやら。まあ、単騎で突入してくるだけあって、まともではないようですね」
ユリウスの言葉は当然のように理解できないようだったが、一人でやってきた相手には相応の対応をすべきとしたのか、プリンセスがおもむろに侵略蔵書「帝国継承規約」を掲げる。
皇帝乗騎と呼ばれる固定翼を備えた金属製の馬がどこからともなく出現し、プリンセスはその背に腰を据える。
「噂に聞く皇帝乗騎か。そいつもマインド兵器なのか?」
「さあ、どうでしょう? 身をもって受けてみれば、わかるのでは?」
「まあいい、何であれ、討滅するだけのことだ」
光り輝く粒子を吐き出す固定翼の眩しさに当てられつつ、ユリウスは双剣を構える。
銀河帝国の技術を用いて作られた乗騎は、おそらく白兵戦を想定したものとは言っても、科学技術の塊だ。
剣で受け止められるものなのだろうか。
いや、己の積み重ねたもの疑問を抱くことはない。
来るものは討つ。それだけのこと。
「さらば、騎士よ」
光跡を残して突撃してくる皇帝乗騎の体当たりを真正面から剣で切りつける。
だが、迎え撃つ薙ぎ払いは、未知の装甲に弾かれる。
いやいや、それで諦めるほどあっさりした騎士道を歩んできたわけではない。
一撃目でおおよその装甲の厚みを覚え、本命の二撃目を繰り出す。
勝算は高いとは言えない。騎馬の突撃の前に、歩兵はほぼ無力。だが、それで引き下がれるはずもなし。
「なむさんっ」
えぐりこむように突き込んだ黒剣が装甲の継ぎ目を貫いた感覚があった。
だが、突撃のパワーは双方に同等の衝撃を与える。
そしてウエイトに劣るユリウスは、自動車に激突されたかのように吹き飛ばされた。
「ぬ、う……!」
「おや、まだ立ち上がれるのですね。しかしその頑固も、いつまで続きますかね?」
「頑固か。頑固一徹、とはよく言ったもんでな。その馬、二度は飛べるかな?」
放り出されて全身を強く打ったユリウスは、しかし強靭な精神力で震える手に力を入れ直し剣を掲げる。
訝しむプリンセス。だが、すぐに乗騎の片翼の出力が異常をきたしていることを知る。
同型の衝突にも耐える筈の皇帝乗騎。その装甲の合間をえぐった一撃が見事に馬を射る形となった。
「ふむ、大したものですが、差し引きに合わぬのでは? パワーダウンしたとはいえ、次の突撃を回避できるようには見えませんが」
「ごちゃごちゃいうなよ。そんなことはわかってる。だから、ちょっとズルをさせてもらうのさ」
そうして、わざわざ会話に乗ったのも戦略とばかり、ユリウスはユーベルコードを発動させる。
【亡霊騎士団】によって呼び出された、武装したアンデッドの騎士団が掲げたユリウスの剣より後ろに立ち上がり方陣を組めば、それらは複数体で依り合って巨大な個体を数体分作りだした。
「ここからは、力押しの時間だ。遠慮はいらんぞ、お前たち」
「くっ、増援とは……!」
巨大化したアンデッドの騎士団をけしかけると、さしものプリンセスも数の不利を感じ取ったようだ。
蹴散らそうにも、巨大化された盾と振り下ろされる剣の前に、ついには乗騎を叩き壊されてしまう。
本来の性能なら回避も容易だったろうが、片翼を不調にされた状態ではゾンビたちの猛攻を凌ぎ切れなかったようである。
「本調子じゃないようだな。やはり本物とは違うんじゃないのか?
エメラルドだかオリジンだか知らんが、骸の海へ沈めてやる」
「馬を一機破壊した程度、あまり調子に乗らぬことです」
冷静なプリンセスの調子は崩してはいないものの、その顔からは余裕の笑みは既に消えていた。
成功
🔵🔵🔴
トリテレイア・ゼロナイン
頭上よりの拝謁、失礼いたします
この世界にとっても、私の故郷にとっても貴女は危険な存在です
人々の安寧の為、討ち取らせて頂きます
機械飛竜に●騎乗し●空中戦機動で砲撃を回避しつつ戦艦直上へ
(遠隔●操縦する飛竜から)飛び降り●防具改造で光線反射処理施した大盾で砲を●盾受けしつつ落下し、戦艦の甲板へ
背負っていたUCを手に持ち戦艦へ発射
遠隔●操縦で弾頭を動かし中枢部へ移動させつつ、戦艦から飛び降り
遠隔●操縦で飛竜を呼び寄せ離脱と同時にUCを起爆
戦艦を吹き飛ばしエナジーを失わせ大打撃を与えます
そのままオリジンの傍に飛び降り剣を抜き放ち
故郷の人々に代わり帝国の復興望まぬ意志を示させて頂きました
御覚悟を
剣を一閃
ユスト・カイエン
そう信じ込んでしまえば、本物と変わらないか。
それなら尚更にその野望、本物と同じように散らせるまで。
例え偽物の描いた夢幻でも銀河帝国の継承なんて絵図には消えてもらう。……全ての星々を喰らい尽くした無限の常闇で唱える覇に、どれだけの意味があるって言うんだ。
エメラルド号の砲火の中、【オーラ防御】を纏い、【念動力】で自分の身体を飛ばし駆け抜ける。【武器受け】でも凌ぎ切れない威力かも知れないが、暗黒のフォースは限界を越えた【継戦能力】を発揮する。やられたと見せかけ【目立たない】よう【闇に紛れ】て死角から【だまし討ち】。【リミッター解除】したセイバーで戦艦ごと叩き斬る。その残骸は野望の棺とさせてもらおう。
煌びやかな宝石の建造物の建ち並ぶ中、ひときわ巨大で異質な形状のまま天を裂くかのように突き出た尖塔。
宇宙戦艦プリンセス・エメラルド号の発進を待つ状態であった。
星の一つ残らず破壊し尽くしたという銀河へ向けた出立を控え、この場は戦場と化していた。
「私の出立を察知するとは、やはり油断ならぬ相手のようです」
空へ向かう艦首のためか、プリンセス・エメラルドの立つ甲板はかなり傾いていたが、それをものともせずまっすぐ立つ姿は異様としか言えない。
シュールともいうかもしれないが、しかしそれだけに、入り乱れる猟兵との戦いの最中、空を焦がすかのような対空砲火を掻い潜る白銀の影が近づいてくるのが見て取れた。
空を駆ける機械の竜、それを駆り背に身を寄せるのは二人の猟兵。
「見えましたよ。やはり、情報通り姿かたちも目的もプリンセス・エメラルドのようです」
「そう信じ込んでしまえば、本物と変わらないか。
それなら尚更にその野望、本物と同じように散らせるまで」
白銀の甲冑、そのバイザーの奥にウォーマシンの鼓動を思わせるトリテレイア・ゼロナイン(紛い物の機械騎士・f04141)が機竜を繰りながら、後ろを振り向かずに言う。
相乗りするのは闇色の外套、その奥のあどけない顔つきに剣呑な決意を乗せるのはユスト・カイエン(終の紅刃・f24320)。
白と青、黒と赤。相容れないような色使いの二人であるが、狙う相手が同じである以上、必要に応じて共闘するのは合理的であるという判断であった。
それに、お互いなぜかよく目立つように思ったのだ。この状況なら、それは同士討ちを避けるのに便利だろう。
「そろそろ別行動を取ろう。僕は一人でやれる。そっちも、やることがあるんだろう? 背中が重たそうだ」
「! お気づきでしたか。ではなるべく、離れた方が良いでしょうね。ご武運を、騎士殿」
「その姿で言われると、なんだか照れるな」
誠実なウォーマシンという印象を与えるトリテレイアの、おそらくは冗談ではない言葉をこそばゆく感じつつも、ユストはその白銀の甲冑の背中を撫でるように小突くと、黒い外套を翻し単身で対空砲火の最中に身を投じる。
プリンセス・エメラルド号に搭載された無数の光線機銃による対空砲火は途切れ目を見せないが、巨体であるがゆえに人間一人サイズの急速接近を簡単に捕捉はできず、さりとて突入する側も飽和的な攻撃をすべて見切るのは至難の業である。
自然と砲火はユストに狙いを定め、ユストもまた自分を狙う攻撃を最小限の動きとフォースで狙いを逸らし、また念動力で自分自身の軌道をずらしにかかる。
「ロシナンテ、別命あるまでこちらで陽動を」
また、別方面では、トリテレイアが機械飛竜を遠隔操作に切り替え、自身もまたプリンセス・エメラルド号に突入を敢行していた。
ウォーマシンの大柄をすっぽりカバーできるほどの大盾を前面に、敢えて大口径砲のある方から突入を試みるのは、先に降りたユストから注意を奪うためであるのと、やや目的が異なるから。
今回の戦いのために、大質量の盾には対光学兵器用の反射処理を施している。単純な鏡面反射のみに頼らず、粒子分散コーティングを何重にも折り重ねて表層を消費しながら、ありとあらゆるレーザーやビーム兵器を受け流し無効化できるはずだが、まぁそれはいい。
回避に専念するユストと違い、耐久力で以て砲火を凌ぐトリテレイアの準備はよろしかったようで、多数の対空光線機銃やレーザー砲の直撃にも耐え、甲板に到達することに成功した。
しかし、突撃であまりにも無茶をしたためか、シールドに施したコーティングはその全てを突破され、気泡状の焦げ跡などでシールド表面がすっかり変形してしまっていた。
「よくもってくれました」
労うような言葉を送りつつ、もうシールドとしてはほぼ役に立たないのであっさり放り投げて代わりに背中に負った装備を取り付ける。
ユーベルコード【小惑星爆砕用特殊削岩弾発射装置&起爆制御装置】は、言うなればドリルをくっつけた発破である。
言葉にするには簡単だが、それを形にして実現するのは難しい。そもそも運用が限定的過ぎる代物だし、何より、
「……騎士の武器どころか兵器ですらないのですが……」
騎士らしくない装備には、それを目指すトリテレイアの気分が乗らない。
攻城兵器と言われればギリギリなんとか……とは思うのものの、やはりスマートではない。
だいたいクエーサービーストの規格外のサイズに対抗するための発破など、他でどうやって使うというのか。
だがこうして、使う機会が訪れてしまうのは、何かしらの運命を感じずにはいられない。
銀河皇帝すら容易に手を出さなかったというクエーサービースト。その装甲を打ち破るための特殊回転刃が駆動し、撃ち込まれると同時にジェット推進で弾頭が甲板に入り込んでいく。
それを確認し、遠隔操作で掘り進む先を戦艦中枢へとセットし、トリテレイアは機械飛竜を呼び寄せる。
「……! 艦に侵入者? 何者ですか」
ドリル爆弾が艦に侵入したのを察知したプリンセスだったが、ほぼ同時に甲板に降り立った黒い外套を前に、移動することを阻まれる。
「名乗るほどの者じゃない。だが、覚えはあるんじゃないのか?」
「なるほど、フォースセイバー。未熟ながらサイキックエナジーを感じます。帝国の縁者ですかね?」
黒い外套の裾、隠し持っていたフォースセイバーから赤い十字の光刃を煌めかせるユストを、プリンセスはせせら笑う。
クリスタリアンの最長老であり、強大なサイキックエナジーを持つプリンセスにとってはその他すべての超能力者が格下でもあるのだろうか。
だが、ユストとてそれを甘んじて受け入れるつもりもない。
「さあね。その手の話は、よく知らないんだ。だけど、例え偽物の描いた夢幻でも銀河帝国の継承なんて絵図には消えてもらう」
「ただの一兵卒如きが、私に近づけるとでも?」
「っ!?」
冷たく微笑むプリンセスの言葉に反応したかのように、ユストの足元、甲板の宝石が鱗のように剥がれて跳び、そこから光線が放たれる。
白兵戦用の防備もちゃんと用意してあったのか!
反射的にその射線を見切り、フォースセイバーで飛び上がる宝石を切り落とすが、攻撃の手数が多すぎるためか、咄嗟の動きでは対処しきれない。
「ぐあっ!」
いくつか捌いたのが関の山。身を翻した拍子に黒衣を光線が貫いた。
甲板の上を跳ねるようにしてユストが体を転がし、動かなくなった。
「他愛のない。では、とどめを……」
こつこつと動かなくなったユストへと歩み寄ろうとしたところ、唐突に艦が大きく揺れた。
トリテレイアの仕掛けたアステロイドバスターが艦中枢へと到達、起爆して重要機関を吹き飛ばしたのだった。
「何事!? まさか、機関部が!?」
「そう、やはり宝石には掘削機械が有効です」
「お前がっ!?」
見上げるプリンセスが目にしたのは、機械飛竜から飛び降り、剣を最上段に構えた大柄の騎士甲冑。
「故郷の人々に代わり帝国の復興望まぬ意志を示させて頂きました」
そのまま力任せに剣を一閃。
咄嗟に受けた手甲ごと、プリンセスの腕を叩き割る。
「御覚悟を」
「帝国の着せ替え人形が、そんなことを仰るのね!」
砕けた腕を庇う様にして距離を取るプリンセスに対し、トリテレイアのそのバイザー越しのカメラアイがギラリと光る。
「……全ての星々を喰らい尽くした無限の常闇で唱える覇に、どれだけの意味があるって言うんだ」
にらみ合いが続くかと思われたその拮抗を破ったのは、ばさりと風を切る黒いローブ。
先ほど光線に撃ち落されたはずのユストの黒い外套が空に翻り、意表を突かれたプリンセスは思わずそれを迎撃するが、
「しまった、囮か!」
撃ち抜かれたそれは、外套だけ。
古典的だがそれだけに、咄嗟とだまし討ちを重ねれば効果を発揮する。
その隙に死角へ回り込んだユストが改めてフォースセイバーを使わぬという誓約を破棄する。
この技はそれをもって発動する。
今までも使っていたじゃないかというかもしれない。ならば改めて言うべきだ。
「……この剣を見せたからには、死んでもらうという事だ」
【一切斬滅宿業両断】。フォースセイバーを用いたリミッターの解除。暗黒のフォースを扱うものは、その身体能力の限界を超え、光線を受けても立ち上がり、戦い続ける。
故にこの技は禁忌とされている。故に、それを見たものは殺さなくてはならない。
真紅の光刃が、プリンセスのその首を刎ねた。
かに見えた。
轟音とともに崩れたのは、甲板からせり上がった宝石の装甲。それが鏡面の如くプリンセスの姿を模して、それが切り落とされて崩れた。
この甲板の上で戦う限り、いや、この世界で戦う限り、ありとあらゆる宝石が彼女の味方をするとでもいうのだろうか。
「忌々しい……帝国の亡霊ども……」
崩れた宝石の向こう側から、切り裂かれた喉笛を、砕かれた片腕を瞬時に修復するプリンセスが怒りも露にする。
「まだそんなエナジーが残っているとは……」
「いいさ、艦を沈めるまで戦ってやる。その残骸は野望の棺とさせてもらおう」
大成功
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ネフラ・ノーヴァ
共闘、アドリブOK。
底無しの餓鬼だろうが、隠居しそこねた長老だろうが、どちらも倒すべき相手だ、かまう事はない。
寸分違わずプリンセス・エメラルドであるなら、突くべきも同じ。お得意のクリスタライズは透明になった後に攻撃するもの。その刹那にUCクリスタル・サラウンドを展開、音や熱が発せられれば直ちに迎撃する。怯んだところに刺剣の一撃を見舞おう。
さあ、美しき滅びの花を咲かせるが良い。
ラックラ・ラウンズ
死ね。
奴は姿を消して攻撃せんとし、脅威となる対象武装も計り知れん。
ならば砦を。手持ちの不思議な種を全て地に投げ、大量の蔦として生成。また、揺蕩いの杖より多数の武装を取り出しそれを成長する蔦に投げ、即席の壁として作成し巨盾を構え待機。
奴が披露してまで時間をかけるとは思えん。攻撃も1分もしないうちにしてくるだろう。
ならばそれを受ける。壁をぶち抜かれ巨盾で受け止めるが腕も拉げる事だろう。だが、位置は分かった。
その場にある蔦を身に纏い、獄炎と氷獄、落命の蔦の鎧とする。
したらば纏った蔦を全方位に掃射。脅威となる武装も、奴も其れで分かり捉えられる。
残った蔦で巨砲を括り付け、奴に向けて発射。
絶対に、逃さん。
メイスン・ドットハック
【WIZ】
オウガ・オリジンも愚かじゃのー
わざわざエメラルドになるから狙われるのに気づかないとはのー
先制対策
電脳魔術による自身のホログラム幻影を生み出し、ダメージ透明化の的を拡散させる
実体を含ませる為に、体内に電脳浮遊機雷も設置して、損傷があったら爆破するようにして攪乱する
自身はサーモグラフによる熱探知で、エメラルド・プリンセスの位置を把握し、100mの距離を測り位置取り
先制後はUC発動で、精神や魂を焼き尽くす電脳の炎を熱探知で感知した場所に散弾式で発射
一つでも被弾したら取り付くように合体させて、中身のオウガ・オリジンの魂ごと焼き尽くす
エメラルド死すべし、慈悲はないじゃのー
アドリブ絡みOK
がらがらと、澄んでいながらも恐ろしい質量を感じさせる宝石でできた船が崩壊を始めていた。
宝石の国から突き出るようにして発進姿勢をとっていた宇宙戦艦は、異なる銀河へとその翼を広げる筈だった。
しかし、さしもの艦隊戦にも耐えうる驚異的な装甲と、プリンセス・エメラルドによる膨大なサイキックエナジーを動力とする特別製の宇宙戦艦とは言えど、機関部を爆破されては航行不能に陥るしかなく、爆破の余波を受けてその船体は緩やかに崩壊し始めていた。
だが肝心の本体、プリンセス・エメラルドその人は健在であり、度重なる猟兵との戦いにおいてもどこか余裕を崩さず、その体が傷ついても持ち前のサイキックエナジーによって瞬時にその宝石の体を修復してしまう。
無限にも近い意志の力を思わせるプリンセス・エメラルドではあったが、銀河を渡るための船を沈められたとあっては、さすがにその威がいくらか弱まったようにも見えた。
それを好機と取ったか、猟兵たちは、崩壊する宇宙戦艦を眺めるしかないプリンセス・エメラルドのその背へと追い縋る。
「オウガ・オリジンも愚かじゃのー。
わざわざエメラルドになるから狙われるのに気づかないとはのー」
メイスン・ドットハック(ウィザード級ハッカー(引き籠り)・f03092)が、同族の最長老であるというプリンセス・エメラルドのその背をぼんやりと眺め、気だるげな声を上げる。
同族とはいえ、元はオウガ・オリジンが再現した存在に過ぎぬ。
それでもスペースシップワールドにとって、宇宙船は国という単位にも近い。それが沈むという場には同情しないではなかった。
尤も、オブリビオンという存在を放置するわけもないのだが。
「底無しの餓鬼だろうが、隠居しそこねた長老だろうが、どちらも倒すべき相手だ、かまう事はない」
ネフラ・ノーヴァ(羊脂玉のクリスタリアン・f04313)は、相手がクリスタリアンだろうが、最初のオウガであろうが関係ないといった様子ではあるが、同種であるがゆえに戦いようは特別に用意しているのか、その鋭い眼差しは油断なく背を見せる猟書家との距離を測っていた。
「そう、オウガならば……倒す。絶対に逃がさん」
最後の一人、ラックラ・ラウンズ(愉快口調の墓守案山子・f19363)は、普段の温厚な様子も引っ込み、フォーミュラの存在を前に、憎しみも露にする。
愉快な仲間の一人として、多くのアリスと出会い、その世界の残酷に触れて命を落としていったアリスの無念を晴らすべく、二度とアリスを失わぬため、その身に猟兵の力と、アリスたちの遺品を背負った案山子の男は、その行動理念の最たるを前に感情の高ぶりを抑えられずにいた。
「逸るなよ。隙ができる」
「この案山子の身一つで、同じだけの隙を作れば、皆さんが仕留めるには容易いことでしょう。どうか、お構いなく」
「フ、いい心掛けだ」
意気に逸る様子のラックラが勇み足を踏まぬようにか、落ち着かせるようネフラが声をかけるが、その心意気のブレの無さに思わず鼻を鳴らす。
その身は猟兵となり尋常ならざる力を有しているとはいえ、所詮は案山子。どうなろうと構ったものではない。
魔法使いのとんがり帽子を目深に、笑みのまま固まった顔の表情を見せまいとする仕草こそ人間臭さを思わせるが、木と鉄でできた体を燻ぶらせるかのような心底の怒りは、果たして人らしいものなのか。
それを成した時、自分自身は元の穏やかさを保っていられるのか。
或は、ここで燃え尽きるもまた本望か。
荒れ狂うかのような激情を抱いてなお、ラックラの心は冷えていた。
ネフラもまた戦いの中に命を見出すからこそ、燃えるような心意気はわからないでもなかった。
しかし、
「が、そうだな。貴殿のごとき木偶の体が背負うものは、心無い案山子ほど安くはない筈だ。せいぜい高く、売りつけてやろうじゃないか」
「そうだのー。まがい物の宝石では、とてもとても買えん心意気じゃのー」
両脇に立つクリスタリアン二人がまぶしく思えたのか、それはわからない。
それでも玉砕覚悟の心意気は、いくらか鎮静化したように感じた。
このまま敵にぶつかるも悪くないが、相手はフォーミュラ。素直に受けてくれるとは考えにくい。
「……ふう、ならば、アリス世界の住人、その心意気を見せましょう」
大仰な仕草。赤いローブを翻しポーズをとるように見せかけたそれは、密かに周囲に種を撒いていた、言うなれば布石であった。
相手は容易くない。だからこそ、打てる手は早いうちに打っておく。
「騒がしい……まさか、船を一隻沈めた程度で、得意になっているのではありませんか? ここは宝石の国。私の世界で、道理が通らぬ理由はない」
でも今は、とプリンセス・エメラルドがゆっくりと振り向き、三人へと向き直ってその身を不可視のものへと変じていく。
「私の船が沈んだのは残念です。しかし、こんなものはまた作ればいいこと。だから今は……船の無念のため、あなた方には供物となってもらいますよ。ふふふ」
姿を消すその瞬間、プリンセス・エメラルドの頭上に降り注ぐ宇宙戦艦の残骸が空中で静止し、その残骸の一切が消えうせる。
「クリスタライズだ。来るぞ!」
ネフラの声に反応したかのように、視界から消えた戦艦の残骸、巨大な宝石の塊が猟兵たちに降り注ぐ。
「受ける!」
前に出るラックラの、その周囲に撒いておいた不思議な種が急激に成長し、宝石の地面に根を張った巨大な蔦が伸び、壁となって立ちはだかる。
更に揺蕩いの杖によって運び出したラックラの有するあらゆる武器が蔦に絡まって、即席の複合盾として宝石の雨を防ぐ。
「なるほど、質量でくるかー。サイキックを使うにしちゃあ、雑な運用だのー」
植物の壁に激しく打ち付ける大質量の宝石群の騒音を聞き、それがきっと長くはもたぬと判断したメイスンは、即座に電脳魔術によるホログラムを作成。
自身と寸分違わぬ姿を投影し、周囲に出現させると同時に、浮遊機雷も仕込んで質量も兼ねる。
数を増やした的は、降り注ぐ宝石の標的を散らし、蔦の壁にかかる負担を減らす。
それと同時にメイスンは一人距離を取って離れた位置から不可視の状態であるプリンセスの居場所を探る。
クリスタリアンとて体温はある。光学情報としては見えずとも、サーモセンサーにはかかるはずだ。
「フン、どうにも雑だな。だが、隠れられては、燻り出したくなるものだ」
降り注ぐ大小の宝石を身を翻しながら、注意深く周囲を見回すネフラは、しかしそのどこにもプリンセスの気配を感じない。
そのことに焦れるでもなく、頃合いを見てユーベルコード【クリスタル・サラウンド】を発動する。
おびただしい数の乳白色の結晶がネフラの周囲から放たれ、幾何学模様を描いて降り注ぐ宝石たちを迎撃するとともに、熱や微細な音を感知して飛び掛かっては爆裂する。
その多くは降り注ぐ宝石と相殺し、或は奥で燃え盛る爆破の残り火に反応していたが、その中に別のものを追うものがあった。
「う、ぐぅ……さすがに、受けきれないか……だが!」
ひときわ巨大な宝石の塊が蔦の盾を引き裂き、その奥で盾を構えるラックラの片腕を拉げる。
だが、受け流しきれなかったその宝石が作った蔦の裂け目から見たのは、ネフラの飛ばした結晶が炸裂した瞬間だけ透明化の剥がれたプリンセスの姿だった。
見つけた。
自身のダメージよりもその思いが勝り、ユーベルコードを発現させる。
「嘆く暇があるなら、その手を……」
【遺術・最果祈祷】により、拉げた腕を体を、生み出した蔦が巻き付いて、燃え盛り、或は凍り付いて、命を食らう姿となって鎧と化す。
「絶対に……逃がさん」
蔦の鎧を纏い、あらゆる武器を纏い、アリスの遺品の一つである大砲を肩に縫い付けるかのようにして蔦で固定する。
射線は通っている。降り注ぐ宝石も、ユーベルコードで纏った蔦で今なら迎撃できる。
「ただの案山子が、調子づくなど!」
目と目が合う。その瞬間、プリンセスが念動力で宝石の雨を降らせようとするが、その喉元や手足に炎が吹き上がった。
「ふっふ、この炎はちょっと獰猛じゃけーのー」
「ぐうっ!? これは……なにを、焼かれている!?」
サーモセンサーによって正確にプリンセスの位置を察知していたメイスンが、絶妙なタイミングでユーベルコード【紫炎よ、その根源を消し滅ぼせ】によって出現させた炎は、プリンセスのその宝石の体ではなく、魂や意志などといった非物質を焼くものであった。
膨大な念動力を有するプリンセスならばそれに対抗する術もあったかもしれないが、咄嗟に出されては対応も遅れようというもの。
メイスンはまさにその瞬間を狙って発現させたのである。
しかしそれでも、強靭な意思でプリンセス・エメラルドの片腕が持ち上がる。
その手にある侵略蔵書「帝国継承規約」によって、新たな術を発動させようとするが、それよりも早く、書を乗せる手首が鋭い一突きによって砕かれた。
「おっと、無粋な真似をしてくれるなよ。さあ、私の手ではないが……。
美しき滅びの花を咲かせるが良い」
いつの間に接近していたのか、刺剣を手にしたネフラの一撃が反撃の瞬間を完全につぶした。
あとは任せたとばかり、即座に後ろに跳ぶネフラを見送るしかできず、貴重な書が地に落ちると、残すは火砲を構えたラックラだけが地に根を張って攻撃の瞬間をまさにその時とばかり控えていた。
「ハロー、死ね」
届かぬ先の巨砲。轟音が響き、榴弾が爆炎を上げる。
大成功
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ブランク・ディッシュ
・・・まぁ、エメラルド様では・・・ないのですか?
・・・不思議な物ですね。あ・・・消えてしまいました。
ワイヤーを伸ばして周囲に張り巡らし、生命力吸収と情報収集を行います。
ワイヤーに触れれば感知、近くを通るエネルギーは吸収、感知し、即座に回避行動。
・・・例え貴方様が皇帝であろうとも・・・私と、彼らにとって・・・貴方様は敵。ですから・・・ウォーマシンの性能をお試しください。
『幽霊機械兵団』295機の幽霊と1機の悪霊が、お相手します。
集団戦術、数百機による広範囲を対象としたなぎ払い攻撃。
四方からの波状攻撃をもってエメラルド様を袋叩きにします。
私も、魔導化術で幽霊に変装し混じって暗殺を狙います。
テリブル・カトラリー
オウガ・オリジンでプリンセス・エメラルド
どちらにせよ倒すだけだ。
武器改造、超重金属シールドに反射コーティングを施し、盾受け
同時にアームドフォートを展開し、ミサイル一斉発射
迎撃された際の爆炎で身を隠す
『蹂躙大戦車』
転送した装甲車を始め、装備武器と合体し、あらゆる攻撃に対しほぼ無敵の巨大戦車を遠隔操縦する
継戦能力、盾と同じ、反射コーティング装甲で光線を弾き、巨大化した大砲で砲撃。ブースト、機体をブースターで吹き飛ばし、エメラルド・プリンセスを射程に入れ、機銃化した銃器で制圧射撃
私は銀河帝国兵士で、猟兵だ。過去の残骸も、オウガも、皇帝とは認めない
そのまま接近し超高熱のブレイドバンパーで属性攻撃。轢く
風が吹く。
爆炎を含んだ風が、ごうと音を立てながら、星々の煌めきの如く砕け散る宝石たちを煙に巻くかのように。
それは、抜け道としてはあまりにも大きく、宝石の国の表面を知る者ならば、実に質素で巨大な空洞に思えたろう。
まるで宝石をくり抜いただけのような、なめらかな虫食いの穴が宝石の国の地下にはあった。
さながら、表向きの万一に備えるためであるかのように。
「……まさか、まさか……私の船が沈むなんて。でも大丈夫です。プリンセス・エメラルド号は、ここにもある」
表の戦場では大敗を喫したと言わざるを得ない。
大型の宇宙戦艦で以て戦えば、たとえ猟兵相手であろうとも遅れは取らぬと踏んでいた。
しかし結果はどうだ。
次々と姿を現す猟兵たちの猛攻を前に、発進態勢だったプリンセス・エメラルド号は機関部を爆破され、その残骸を利用して追い払おうとするも、手痛い反撃を貰い、このように撤退を余儀なくされてされてしまった。
あの戦場から辛くも逃げ出し、侵略蔵書「帝国継承規約」を持ち出し、表向きには死を偽装し、この脱出路に格納しておいた予備のプリンセス・エメラルド号で密かにかの銀河を目指すというのは、プリンセスには当初無かったプランであった。
大量のサイキックエナジーを失ってしまった。
もう長くは戦えまい。
大多数の機能をオミットし、サイズも随分小さなこの宇宙船では心もとないが、贅沢は言っていられない。
私さえ生きていれば、いつでも再起は可能。急いでこの世界を離れなければ。
それがオウガ・オリジンによる模倣された姿だとしても、今の彼女は本物と同等であった。
「……まあ、エメラルド様では……ないのですか?」
「同じようなモノだろう。まさか、こんな抜け穴を用意していたとはな……」
予備の戦艦の起動を開始したところで不意に声をかけられて、プリンセスは今度こそ驚愕する。
よもや、この緊急脱出路にすらも入り込むとは。
だが、見つかってしまっては仕方がないとばかり、もはや退路のないプリンセスは瞬時に戦う姿勢を見せる。
「ここを見つかった以上は、見逃してはくれないでしょう。この船まで失うわけにはいかない……。愚かな人形たち。ここで破壊させてもらいますよ」
度重なる戦いを経て、すでに修復が追い付かないほど追い詰められているとはいえ、プリンセスはその気品と優雅さを損なうことなく、クリスタライズを行使し、広い抜け穴の中で鎮座する小型宇宙船ともども透明化して姿を消す。
「不思議なものですね……消えてしまいました」
抜け穴を幸運にも見つけることとなった二体のウォーマシンの一人、ブランク・ディッシュ(ウォーマシンの悪霊・f28633)は、どこかぼんやりとした様子で光学機関の索敵から外れたプリンセスを観測しようとするが、周囲の鉱石とほぼ同等に擬態するクリスタライズを探知するには至らなかった。
先ほどはサーモセンサーに引っかかったじゃないかと言われそうなものだが、敵とて学習するのである。たぶん。
とにかく攻撃能力を持った小型宇宙戦艦と共に消えてしまったのは危険なので、各自で対応するしかない。
ブランクは、見えない相手を検知するのと防御を兼ね、悪霊のワイヤーを周囲に展開、張り巡らす。
周囲のエネルギーを吸収するのと、情報を収集することによって、見えない相手を探ろうというものだが……。
「オウガ・オリジンでプリンセス・エメラルド……。
どちらにせよ倒すだけだ。」
どうせあの船はまだ動けないだろう。ならばと、もう一人のウォーマシン、テリブル・カトラリー(女人型ウォーマシン・f04808)は、アームドフォートを展開、バイク型の浮遊砲台と携行浮遊砲台が次々と内蔵したミサイルを発射する。
大体のあたり、というか宇宙船の待機していた辺りに狙いをつけて範囲攻撃を行うと、それらミサイルが対空レーザー機銃の輝きで相殺されてしまう。
だが、これであたりはついた。
迎撃されて爆炎を上げる中で、撃ち漏らしたレーザー機銃が流れ弾として飛んでくるが、それらはブランクのワイヤーに吸収され、テリブルの反射コーティングされたシールドによって弾かれる。
相手がエネルギー兵器中心とみて事前に加工しておいたシールドだが、功を奏したらしい。
おそらく、プリンセスはこの抜け穴から簡単には逃げられない。
もっと言うなら、動かせない宇宙船をわざわざ透明化したのも、そこから離れられないからなのだろう。
何しろそれを失えば、今度こそ銀河侵攻への足掛かりを失うからだ。
もはや、細かい位置を検知するよりも、宇宙船を破壊するほうが手っ取り早いかもしれない。
そう判断したブランクは、ワイヤーを展開したままユーベルコードを発動させる。
「例え貴方様が皇帝であろうとも……私と、彼らにとって……貴方様は敵。
ですから……ウォーマシンの性能をお試しください。戦いましょう」
【幽霊機械兵団】。一度自壊し、執念故に蘇ったという変わり者のウォーマシンであるブランクは、機械であると同時に悪霊という側面も持つ。
戦いの中で自我に目覚めたりというものはよく聞く話だが、悪霊にまでなる情念の深さはもはやオカルトであるが、そのような奇跡のような存在であるからこそ、同様に散っていったウォーマシンの亡霊を呼び寄せることができる。
銀河の果てにおびただしい数のウォーマシンが鉄くずと化したならば、彼らの無念はどこへ行くのか。
人と同じだけの心を得たとするなら、或は虐殺兵器としての名残が世界に色を刻んだのか、ブランクの呼びかけに応じた機械の怨霊が輸送され、隊伍を組んで砲火を浴びせる。
「……」
それを見て何を思うでもないが、迎撃のレーザー砲に晒されながらも攻撃を続ける幽霊機械の兵団を見かねたのか、テリブルもまたユーベルコードを発動させる。
自身を合体装置として、保有する装甲車をはじめとしたあらゆる武装と合体し、【蹂躙大戦車】は完成する。
合体装置と化するため自身は身動きが取れなくなるが、すべてを手足と同様にとまではいかずとも、合体した武装は遠隔操作を利用して動かせる。
宇宙船による破壊光線は、亡霊であるウォーマシンすら破壊してしまうが、数にものを言わせて倒れた屍を乗り越えて次々と前へ進む。
それに加え、大戦車と化したテリブルが陣頭に立つことにより、反射加工されたシールドを装備したため大きく射線を遮る。
巨大化した大砲、機械化した銃器による制圧射撃。
亡霊たちの飽和攻撃。それらに圧力が、やがて宇宙船プリンセス・エメラルド号の攻撃力をも圧倒する。
そして宇宙船がある攻撃起点を射程内に収めた大戦車が、後部ブースターを噴射し、飛ぶように加速する。
ヘッジロウカッターのごとく、車体に装着されたサムライブレイドのバンパーが、元来の性能を踏襲して高熱を帯びる。
目には見えない宇宙船を蹂躙戦と飛び掛かる大戦車が、その直前で押しとどめられる。
それが何者かは、もはや言うまでもない。
「お待ちなさい! 貴方は、貴方方は、銀河帝国の者でしょう! 何故に、皇帝に仇なすのです!」
大質量と化した戦車のブレイドを、侵略蔵書「帝国継承規約」を持つ凄まじい密度と化した宝石の腕が押しとどめる。
頑健な手甲がサイキックエナジーでもって密度を高めているとはいえ、徐々に赤熱化した刃が食い込んでいく。
「私は銀河帝国兵士で、猟兵だ。過去の残骸も、オウガも、皇帝とは認めない」
色のない声が、冷徹に告げる。
長い戦いの日々、永い眠り。気が付けばテリブルの周囲は変り果て、命運を捧げる筈だった銀河帝国は滅び、戦いのみを生存理由として結果的に平和を手に入れた。
そこから叩き起こされてからはまた戦いの日々だが、そこにはもう帝国も次の帝国も、関係のない世界だった。
戦いの中に生き続けるテリブルには、煙る記憶と膨大な今があるだけだ。
激しい衝突音。
熱量と質量で引きちぎったプリンセスが吹き飛び、そのまま宇宙戦艦に衝突した大戦車が勢いそのままに破壊の限りを尽くす。
もはや宇宙船としての役割は期待できないであろう。
それでも、半身だけとなったプリンセス・エメラルドは、頑なに書を手放すことなく、片手で地を這う。
しかし、その行き着く先には亡霊が一人佇んでいた。
他の数ある亡霊たちが既に透明化の切れた宇宙船に砲火を浴びせる中、その一人だけは、地を這うプリンセスをぼんやりと見下ろしていた。
「どうして……私が、やらねば……」
「エメラルド様……おやすみの、お時間です……」
亡霊の伸ばした手の先から、魔導化術によって変装した術が解けていく。
そうして本来の姿に戻るブランクが、手助けするかのように伸ばした手から、格納した高周波ブレードを伸ばせば、
わずかなうめきと共にその頭蓋を両断せしめ、動かなくなった。
しばらく見下ろしていたところ、復活の兆しはなく、手にしていた侵略蔵書「帝国継承規約」が火に包まれて消えうせた。
完全にその気配が失われてから、ブランクは瞑目するかのように虚空を見る。
オウガ・オリジンによる模倣であったとしても、その無念、その魂の健やかならんことを、悪霊でもあるウォーマシンは祈らずにはいられなかった。
たとえそれが、邪なる思いを抱いた巨悪であろうとも。
大成功
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