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あなたの文は、どのお味?

#アルダワ魔法学園 #ハートフル #お料理

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#アルダワ魔法学園
#ハートフル
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●おまじないに夢中
「『おまじない』と『魔法』や『魔術』は、別物のようであって通ずるルーツを持つものだと思うのです。よって我々自らが身をもってその効果の程を確かめるのは、魔法学園の生徒の義務と言っても過言ではなく――」
「はいはいはい。で、シエリ、次はどんなおまじないを試したいわけ?」
 明らかに建前くさい言葉を並べ立てていたシエリは、いつものことだしというがごとく雑な扱いを受けてもめげない。
「よくぞ聞いてくれました、リッちゃん! 今回は! 自信が! あります! 学園内で恋を実らせて、結婚まで至った先輩から教わった、ありがた~い恋のおまじないです! バレンタインが近い今の時期、最も必要とされるおまじないでしょう!」
「……あんた、とうとう先輩にまで迷惑かけて……」
 リッちゃんことリリシアは、眉間に深いシワを刻んで額を押さえる。幼馴染のシエリ――シエリスタは細マッチョの男性であるが、昔からおまじないのたぐいが大好きなのだ。幼い頃に姉の記したおまじないノートを見てからだというが、彼の暴走――もとい、探究心の相手をするのも昔からリリシアの役目だった。
「で、今回は誰が試すの? 私は協力できないわよ」
「うん、リッちゃんは恋のおまじないは試したくないんだよね? ちっちゃい頃は手伝ってくれたのにねぇ」
「……だって、叶いっこないもの」
 リリシアの呟きはとても小さくて。校内の喧騒にかき消され、シエリスタの耳には届いていない。
「今回は、ワタシのところに恋愛・友情相談に来てくれた子たちの中から、協力者を見つけてあるから!」
「……恋愛のおまじないじゃないの?」
「恋愛に効くってことは、人間関係にも効果があるかもしれないじゃない? 魔法学園の生徒として、あらゆる可能性を――」
「はいわかった」
 熱い主張が始まったので、リリシアはそこで彼の言葉を遮った。「最後まで聞いてよ~」とシエリスタは緩く抗議するが、まあいつものことである。
 爽やかな体育会系に見えるシエリスタと、カテゴライズすれば美少女に分類されるだろうリリシア。初めてふたりを見た人は「つきあってるの?」と聞くが、会話内容に耳を傾けては呆れたように、あるいは微笑ましげに笑うのだった。

●お手紙が大変です
「いらせられませ」
 グリモアベースに佇むのは、淡紅梅に近い唐衣が目を引く十二単を纏った女性だ。見たところ年の頃は二十歳前後だろうか、実年齢はわからぬが、その女性は漆黒の長い黒髪をかすかに揺らしながら、集まってきた猟兵たちに声をかけている。
「これよりわたくしがお伝えするのは、アルダワ魔法学園での事件でございます」
 柔らかく微笑んで言葉を紡ぐ彼女は、グリモア猟兵の紫丿宮・馨子(仄かにくゆる姫君・f00347)。飾り天冠と飾り扇も相まって、まるで女雛のようでもあった。
「アルダワ魔法学園の地下迷宮に、災魔――オブリビオンが封印されているのは皆様御存知かと思います。今回は数ある迷宮のうちのひとつでフロアボスとなっておりますオブリビオンが、上の階層へと攻め上がってきているという情報でございます」
 このまま全ての階層を突破され、学園施設にでも侵攻を許せば、非戦闘員も多い学園の被害はいかほどか。ゆえに、防衛に適した場所で侵攻を食い止めて欲しいと馨子は言う。
「今回の迷宮は、一言で申せば『お菓子の迷宮』でございます。お菓子の家などをご想像ください。壁や床や天井、それぞれ様々なお菓子でできており、甘い香りが漂っております」
 そこに現れる手下のオブリビオン達を撃破し、ボスオブリビオンの元へ辿り着いて撃破してほしいということだ。
「手下としましては……いえ、部下と申し上げたほうが適切でしょうか。郵便鞄を下げた白ヤギが複数点在しております。ただし、白ヤギたちは『ある物』を使えば、甘い匂いの迷宮の中でも特別な嗅覚で嗅ぎ取って、向こうから接近してくるでしょう」
 その『ある物』とはズバリ、『手紙』だ。封書でも葉書でも巻物でも形式は問わないようであるが、きちんと内容が記されている方が望ましい、と彼女は告げる。のんびりとした容貌に反して手紙を狙う動きは素早いのでご注意を、と付け加えられた。
「白ヤギを倒し終えれば、ボスオブリビオンへたどり着くことはできましょう。ボスオブリビオンは……郵便鞄を下げた黒ヤギです」
 冗談ではございませんよ? と微笑む彼女。なんとなく知ってた、という表情の猟兵たちもいる。
「こちらは、白ヤギの上司のようですね。1体ではございますが、それなりの強さがございます。ただし、手紙に引かれる性質は同じでございます」
 わたくしも一度、実際に目にしてみとうございましたが――彼女のその言葉が本気かどうかはわからないが、事件を予知した彼女は前線にはでられない。
「今回、このオブリビオンたちの侵攻に関係しているかはわかりませんが、少し前より学園内の一部で、手紙を使ったおまじないが流行っているようなのです」
 月の光に一晩あてた便箋と封筒、あるいはメッセージカードや葉書など、言葉に思いを乗せて伝えるそれに好きな香りを移し、季節の花やチャーム、リボンなどのちょっとした贈り物を添えて渡すと、気持ちが通じるというおまじないらしい。
「ふふ……文に香りを焚きしめて、季節の花などを添えて送る――わたくしにとっては、身近な風習でございますが、学園の方々には珍しく映ったのやもしれませぬ。UDCアース世界の日本でも、あまり知られてはいないかもしれませんが、手紙に香りを添える『文香』という文化がまだありますれば」
 気持ちのこもった手紙を貰えるのは嬉しいことだ。加えてそれが、特別用意されたものだとひと目で分かればなおさら。
 おまじないの効能の真偽にふれるのは無粋でございますから、そう告げて馨子が手にした飾り扇を開くと、仄かにいい香りがする。
「バレンタインも近いことですし、この手のおまじないは口コミで広がったのでしょう。恋愛関係だけでなく、人間関係……例えば喧嘩をした相手への謝罪などにも効果がみられたようですから」
 つまり学園の一部では、いつも以上に手紙がたくさん存在しているということ。
「万が一このオブリビオン達の学園侵入を許してしまえば……惨劇は想像に難くありませんね」
 よろしくお願いいたします、と告げて、馨子は礼儀正しく頭を下げた。


篁みゆ
 こんにちは、篁みゆ(たかむら・ー)と申します。
 はじめましての方も、サイキックハーツでお世話になった方も、どうぞよろしくお願いいたします。

 このシナリオの最大の目的は、「フロアボスのオブリビオン討伐」です。

 第一章では、お菓子の迷宮の中を徘徊している数体の白ヤギ(郵便屋さん)と戦い、ボスオブリビオンの元への道をひらくかたちになります。

 第二章では、ボスオブリビオンの黒ヤギ(郵便屋さん)との直接対決となります。

 第三章では、第二章が成功していることが前提となりますが、学園の調理室をかりて、バレンタイン用のお菓子を作る調理実習を予定しております。
 お菓子作りはいたしますが、アイテム発行はございませんのでご注意ください。

 ご参加はどの章からでも、何度でも歓迎いたします。

 現地まではグリモア猟兵の馨子がテレポートしたのち、猟兵のみなさまをお喚びする形となります。

 馨子は怪我をしたり撤退する猟兵のみなさまを送り帰したり、新たにいらっしゃる猟兵の皆さまを導いたりと、後方で活動しており、冒険自体には参加いたしません。
 お誘いがあった場合のみ、第三章の調理実習に顔をだすことが可能です。

●お手紙持参について
 ヤギさん達をおびき出す手紙を持参される場合は、それがどういった内容のお手紙なのか、簡単で構いませんのでご記載くださると助かります(例:謝罪の手紙、告白の手紙、怒りの手紙、事務的な手紙など)

●お願い
 単独ではなく一緒に描写をして欲しい相手がいる場合は、お互いにIDやグループ名など識別できるようなものをプレイングの最初にご記入ください。
 また、ご希望されていない方も、他の方と一緒に描写される場合もございます。

 皆様の行動がどのようなお話へと化学変化するのか、プレイングを楽しみにお待ちしております。
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第1章 集団戦 『グルメなしろやぎ』

POW   :    めぇめぇじゃんぷ
予め【めぇめぇ鳴きながらぴょんぴょん跳ぶ】事で、その時間に応じて戦闘力を増強する。ただし動きが見破られやすくなる為当てにくい。
SPD   :    おてがみはりけーん
【カバン】から【何通ものお手紙】を放ち、【視界を埋める事】により対象の動きを一時的に封じる。
WIZ   :    めぇめぇタイム
【めぇめぇと、歌う様な鳴き声】を聞いて共感した対象全ての戦闘力を増強する。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

シュシュ・シュエット
はいけい。
【縁の下の力持ち】のネズミさんたちへ。
わるい吸血鬼さんや、ずるい山賊さん、ぶきみなゾンビさん。いままで沢山のオブリビオンさんたちと戦ってくれて、本当にありがとうございますっ。
毎日いっぱいご迷惑をおかけするかと思いますが、これからも仲良くしていただけるとすっごくうれしいですっ。
また一緒にお散歩しましょうねっ。
けいぐ。

【縁の下の力持ち】のネズミさんたちと力を合わせ、*野生の勘で白ヤギさんを迎え撃ちましょう。
郵便鞄を*狙い噛みついてもらい、皆さんのお手紙を返していただきますっ。
ネズミさんにあちこちへ手紙を持って逃げられたら、白ヤギさんも散り散りになり各個撃破の*時間稼ぎができるはずですっ。



●感謝の手紙
 と、と、と……お菓子の迷宮内を行くのは小さな少女。シュシュ・シュエット(ガラスの靴・f02357)は封筒を手に、いつ白ヤギが出てきても大丈夫なようにと気を張っていた。
「……!!」
 シュシュが気づくのに一拍遅れて、どぉん、と右前のビスケットの壁が割れた……と思うと、白い物体がシュシュへと猛スピードで迫ってくる!
「ネズミさんたち!」
 シュシュは白ヤギに向かって封筒を投げ、その間に『縁の下の力持ち』を発動させる。現れたのは、多数のネズミ。そして白ヤギに意識を向ければ、彼が食んでいるのはシュシュの手紙だ。
「めぇ、めぇぇ……めぇー……」
 白ヤギは何故か涙を浮かべている。一体どんな味なのだろうか。気になるところだが、今はそんな場合ではない。
「お願いしますっ!」
 シュシュの言葉に、ネズミたちは白ヤギの郵便鞄に一斉に噛み付いた――そして。
「めぇっ!?」
 ぶぁっさーっ!!
 破けた郵便鞄から溢れるのは、ぱんぱんにはいっていた手紙たち。
「皆さんのお手紙、返していただきますっ」
「め、め、めぇ、めぇ!?」
 辺り一面に広がった手紙を、ネズミたちが咥えて散り散りに逃げていく。一方白ヤギは、突然のことにどのネズミを追ったらいいのか判断できぬのだろう、完全にわたわたしてる。慌てている。狼狽えている。
「めぇーっ、めぇーっ!?」
 それでも残った手紙を拾い集め、ふらふらしながらネズミを追おうと歩いていく。
 ネズミが手紙を持ってあちこちに逃げたということは、迷宮内にある『白ヤギの持ち物ではない手紙』の絶対数が増えたということで。
(「これで白ヤギさんも散り散りになって、各個撃破の時間稼ぎが出来るはずですっ」)
 撃破するには至らなかったが、ここに現れた白ヤギもネズミの攻撃で無傷ではないはず(特に精神的に)。そして他の猟兵たちの手伝いとなったのなら、それはシュシュの目的どおりだ。
 ふと、シュシュは白ヤギに食べられた手紙の内容を思い出す。それはネズミさんたちへ宛てた感謝の内容だ。
『わるい吸血鬼さんや、ずるい山賊さん、ぶきみなゾンビさん。いままで沢山のオブリビオンさんたちと戦ってくれて、本当にありがとうございますっ』
 今まで共に戦った思い出を振り返り、素直に感謝を述べるその内容。
『毎日いっぱいご迷惑をおかけするかと思いますが、これからも仲良くしていただけるとすっごくうれしいですっ。また一緒にお散歩しましょうねっ』
 白ヤギが涙したのは、その純粋な感謝に心打たれたからだろうか――真実はわからない。

苦戦 🔵​🔴​🔴​

五條・桜花
雪月(f03400)と同行
関係性のイメージは祖父と孫

手紙
せっかくなので雪月とお互い宛のお手紙を書くのです
生まれた時から傍にいたので手紙を書くなんてどれくらいぶり?
いつもありがとう
これからもよろしく


誰かの想いを込めた手紙を食べてしまうなんて
そういうものとはいえ許せません
悪いですがここで排除しますよ

めぇめぇタイムって私も共感すれば強化されるのかしら?
可愛いなーとかいいなーとか思えば共感できるのかしら
ダメ元で試してみましょう
めぇめぇ……
ほら雪月も真似して……
可愛くないですね……


古の八重桜でありませんが
今日この場所で匂いたつように美しく咲き誇りなさい!


叶・雪月
桜花(f03321)と同行
関係性のイメージは祖父と孫

文は桜花と互いへのものだな
改まって書くとなかなかに難しいな
そうだな、どうか健やかに育ってそしてそれを見守らせてくれ
せっかくだから筆で書くか
さあ桜花、草書は昔教えたから勿論読めるよな

数が多いなら桜花の範囲で全体削りつつ俺が各個撃破かな
さあて、悪いが俺の刃に沈んでもらおう

ってなんだ?
共感しろ?
……めぇめぇ……
言わせておいて可愛くないとか残念そうにいうな
俺が可愛いとかなったらそれはそれで怖いだろうが

【吹き飛ばし】も使って囲まれないようにしよう
文はいつの時代でも誰かに何かを伝えるもの
それを失わせるわけにはいかないからな



●互いへの思いの手紙
『いつもありがとう。これからもよろしく』
『どうか健やかに育ってそしてそれを見守らせてくれ』

 五條・桜花(六花の元に咲く桜・f03321)にとって叶・雪月(六花舞う夜に煌めく月の刃・f03400)は生まれた時からそばにいた存在だ。雪月は、桜花の出身である神社に長いこと奉納されていた太刀『雪月』のヤドリガミである。ヤドリガミゆえに外見ではそうは見えぬが、ふたりの関係は祖父と孫のようなものだ。
(「生まれた時から傍にいたので、手紙を書くなんてどれくらいぶり?」)
 恥ずかしいような、なんだか不思議な気分だ。桜花の記した手紙は、今は雪月の懐にあり、桜花の手には雪月の記した手紙があった。
「桜花、草書は昔教えたから、もちろん読めるよな」
 改まって書く言葉を探してみると、なかなかに難しくて。それでも筆で書き記したのは本心だ。隣を歩く彼女に、揶揄気味に念を押したその時。
「めぇーーーーーーー!!」
「めぇ! めぇーーーーー!!」
「めっめぇっ!!」
 ドドドドド……何かが近づいてくる明らかな気配と音。ビスケットやウエハースの壁やクッキーの天井が揺れ、パラパラとかけらが降ってくる。
 ひょい――まず姿を現したのは、一匹のネズミ。何かを口に咥えているようだが、後ろからネズミを追いかけて猛スピードで接近して来る三体の白ヤギを見れば、それが何なのかは容易に想像できた。そして白ヤギたちの瞳がきらーん、と光ったように見えたのは、桜花と雪月が手紙を所持していることに気がついたからだろう。
「出ましたね。誰かの想いを込めた手紙を食べてしまうなんて、そういうものとはいえ許せません」
 もちろん、雪月からの手紙を食べさせはしない――桜花は白ヤギが接近する前に『桜の乱舞』を発動させた。

「咲き誇れ、我が分身よ」

 無数の桜の花びらが、白ヤギ達を襲い、切り刻む。
「悪いですが、ここで排除しますよ」
 めぇー、と痛がっているような鳴き声を上げる白ヤギ達に桜花が宣言するのとほぼ同時に、雪月は動く。
 ドンッ……『雪月』を振るった一拍後。白ヤギ達がそれぞれ三方向へ吹き飛ばされた証拠に、壁へと背中を打ち付けた。するとその中でいち早く体勢を立て直した一体が、口を開く。
「めぇめぇ~♪ めぇめぇ~♪ めぇ~♪」
 歌うようなその鳴き声に、他の二体はなぜか感動したように涙を浮かべ、そして先ほどと比べて、明らかに素早く吹き飛ばされた分の距離を詰めてきた。
(「あ、これって、私も共感すれば……?」)
 ダメ元で試してみよう、閃いてしまった桜花は、可愛いなーとかいいなーとか思いつつ「めぇめぇ……」と真似をして鳴いてみた。その上。
「ほら雪月も真似して……」
「ってなんだ? 共感しろ?」
 雪月を道連……巻き込んで。
「……めぇめぇ……」
 よくわからないけれど従っとくかと呟いた雪月。
「可愛くないですね……」
 だが返ってきたのは、残念そうな桜花の声。
「言わせておいて可愛くないとか残念そうにいうな。俺が可愛いとかなったらそれはそれで怖いだろうが」
「それもそうですね……」
 共感力が足りなかったのか他の原因があるのかはわからないが、桜花と雪月は白ヤギたちのような効果を感じなかった。だが、そんなことを試しつつも油断はしていない。
「古の八重桜でありませんが、今日この場所で匂いたつように美しく咲き誇りなさい!」
 桜花の桜吹雪が、再び白ヤギたちを襲う。雪月に斬りつけられ、吹き飛ばされた時に一番傷が深かったのか、うち一体が「めぇ……」と悲しそうに鳴いて消えていく。
「文はいつの時代でも誰かに何かを伝えるもの。それを失わせるわけにはいかないからな」
 まずは先ほど歌うように鳴いた一体。雪月は一気に彼我の距離を詰めて、勢いよく斬りつけた。そして流れるよように残った一体に向かい。
「さあて、悪いが俺の刃に沈んでもらおう」
 振り下ろした『雪月』。そして発動させるのは『月下氷雪』。

「我が刃に斬れぬものなし」

 ビリッ……。紙を勢いよく破ったような音がしたのは気のせいだろうか。「めぇー」「めぇ……」という悲しそうな声にかき消されてしまったのでわからない。
 気がつくとそこには、白ヤギの姿は残っていなかった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

アウレリア・ウィスタリア
手紙を二通、用意しましょう
一通は「敵」へ向けた復讐者としての宣誓書
ボクは理由さえあればどんな相手でも
「敵」として戦う復讐者ですから

もう一通はここでは使いません
これは今は亡き両親へ向けたもの
複雑な想いが重なったもの

手紙を囮にしつつ【空想音盤:追憶】を起動
花嵐となって敵を切り裂きます
地を駆け抜け、空を舞って
花弁とともに拷問具たる鞭剣を振るって進みます

お菓子の迷宮
故郷のダークセイヴァーの世界ではこんなもの想像もできませんね
お菓子なんて滅多に手にはいるものではなかったので……
不謹慎ですけど、ちょっと食べてみたいとか
このお菓子をあの世界に持っていきたいとか思ってしまいます

アドリブ歓迎



●宣誓書
 お菓子の迷宮を行くアウレリア・ウィスタリア(瑠璃蝶々・f00068)は、ビスケットやウエハースの壁や灯り代わりらしき飴、飾りと思しきクリームなどをきょろきょろと物珍しげに見つつ迷宮を進んでいた。彼女の故郷のダークセイヴァーでは、こんなもの想像もできない。お菓子なんて滅多に手に入るものではなかったからだ。
(「不謹慎ですけど……」)
 ちょっと食べてみたいとか、このお菓子をあの世界に持っていきたいとか思ってしまうのは仕方あるまい。
 だが、そんなアウレリアの思考を中断させたのは。
「めぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
 激しい鳴き声と、近づいてくる足音、そして、揺れ。
「……、……」
 白ヤギの襲来を察知した彼女は、二通用意した手紙のうちの一通をしまったところに手を触れて。
 今回はここでは使わない予定の手紙。今は亡き両親へ向けた、複雑な想いが幾重にも折り重なった手紙。これは、奪わせない。
 手にしたのはもう一通、復讐者として『敵』へ向けた宣誓書だ。アウレリアは、理由さえあればどんな相手でも『敵』として戦う復讐者だから。
 ひょいっ!
 先に姿を見せた小動物を敵ではないと瞬時に判断し、それを追ってきたと思しき『白』を視界におさめる。
 ひらり。宣誓書を白ヤギの導線上にあえて滑らせれば、白ヤギは容易に釣れた。
「めぇ~♪」
 ぐわしっと掴んだ宣誓書を、嬉しそうに口元へ運ぶ白ヤギ。だがそれを許すより早く、発動させた『空想音盤:追憶』によるネモフィラの花びらが白ヤギを襲った。

「ここにはない記録を追憶し、空想で奏でる……。遠い世界の絆の証、愛するもの全て護る勇気の象徴」


「めぇぇぇっ!?」
 慌てたように、それでも宣誓書を取られぬように懐にいだく白ヤギ。花嵐の中、チョコレートの床を蹴り、翼をはためかせて接敵したアウレリアは、『ソード・グレイプニル』を振るった。
「めっ、めぇ、めぇ~」
 痛みで動転したのか、それともどうしても味を確かめたかったのか、真実は彼しかわからぬものだが、白ヤギは宣誓書を取り出して一気にむしゃぁ、と口に入れた。だが。
「め、えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」
 涙目で四肢をジタバタさせる白ヤギ――なんとなく、あ、辛かったのかな、とわかるその動き。
「め、めぇ♪ めぇ~♪ め……」
 このままじゃまずいと思ったのか、歌うように鳴き始めた白ヤギだが、その歌が全て紡がれるのを待ってやる義理はない。
 ザッ……アウレリアが鞭剣状の拷問具を容赦なく振るったあとには、白ヤギの姿はもう消えていた。
「……辛かったですか」
 内容が内容なだけに妥当な味かもしれない。アウレリアは小さく呟いた。

成功 🔵​🔵​🔴​

スヴェン・フリュクレフ
手紙は……書いたことは、ない。
ないが、今は亡き我が作り手への苦言をしたためてみよう。

人型の楽器を作るのだと意気込んでいたのに、徹夜の勢いとノリで処刑具を組み込んだこと。
絶句していたところに「かっこいいだろ」と有無を言わせない圧力を加えてきたこと。
この時ばかりは泣く機能を搭載されていなかったのを悔やんだこと。
などなど、便箋3枚にびっしりと。
「……これを食べて腹を壊さないだろうか」

白ヤギが寄ってきたら少しづつ千切って、餌付けをしよう。
最低一枚は腹に収めてもらう。
餌付けの最中に『哀歌』で薙ぎ払う。寄ってくるたびにもう一度。
なんなら、書き足せるように紙とペンを持っていこう。
悲しいが…まだまだ増やせる。



●作り手への苦言
「めぇ」
「め、めぇめぇ」
「めめ? めぇっ!」
 手紙を咥えたネズミを追いかける二体の白ヤギに遭遇したスヴェン・フリュクレフ(伽藍・f02900)は、用意していた手紙を少しずつ千切って後ずさっていく。白ヤギ二体は争うようにその便箋の欠片を拾い、口に押し込んでいた。
 手紙を書いたことのなかったズヴェンがしたためたのは、今は亡き自身の作り手への苦言。ミレナリィドールの彼に作り手がいるのは納得なのだが、便箋三枚に満ちているのは苦言ばかり。
 ――人型の楽器を作るのだと意気込んでいたのに、徹夜の勢いとノリで処刑具を組み込んだこと。
 ――絶句していたところに「かっこいいだろ」と有無を言わせない圧力を加えてきたこと。
 ――この時ばかりは泣く機能を搭載されていなかったのを悔やんだこと。
 その他にも細々としたものをしたためたそれを、争うように食んでいる白ヤギ達を見て彼が思うのは……。
「……これを食べて腹を壊さないだろうか」
 見れば白ヤギたちは、相手より早く手紙のかけらを拾うのに必死で、しっかりと咀嚼はしていないようだ。

「手折れてしまえ」

 発動させた『哀歌』は、白ヤギ二体を深紅のゼラニウムの花びらで傷つける。
「めぇ!?」
「めぇーっ!?」
 驚いたように動きを止めた白ヤギたち。
(「……あ」)
 用意した便箋三枚が尽きた。だがこんな事もあろうかと持参した紙とペンですらすらと綴るズヴェン。悲しいが、この内容であればまだまだ増やせてしまうのだ。
「めっ!?」
「めぇっ!!」
 新しい手紙の気配を察知したのだろう、二体とも目を光らせて近づいてくるものだから、びりっとふたつに裂いた手紙をそれぞれに放って、再び『哀歌』を発動させようとしたその時。
「め……めぇ……」
「めぇ……め……」
 白ヤギ達が膝をついた。二体とも、腹部を押さえるような動作で、苦しそうに鳴いている。
(「やはり腹にきたか……」)
 危惧したとおりの出来事が起こって複雑な気持ちを抱かざるを得ない。だが、ズヴェンは容赦なく二体の白ヤギ達を深紅で埋め、散らしたのだった。

成功 🔵​🔵​🔴​

ヨハン・デクストルム
手紙を食べる白山羊、ですか。
とすると、携帯しているという郵便鞄は“非常食入れ”なのでしょうか……?

そんなやくたいもないことを考えつつダンジョンへ。『手紙(亡き神への信仰をつらつら綴ったもの)』をぎっしり詰めた小さな鞄を手に持ち、お菓子の道を歩きます。匂いがきついのでハンカチで鼻と口を覆いましょうね。
『第六感』と『聞き耳』で敵の気配を察知し、敵が攻撃される前に軽く鞄を放ります。そちらに意識が言った瞬間を『見切って』『怪力』をふるい、『杖』で『気絶攻撃』。見切れなかった場合はユーベルコードを使い、隙を作ります。

戦闘が終わったら手紙を拾いつつ、ラム肉に思いをはせます。お肉、最近食べていませんね……。


深護・刹那
ではでは。不肖、深護・刹那、参ります。

えーと、『しろやぎさんがおてがみたべた♪』でしたわ、確か。
ふふ、わたくしがただの人形だった頃に、子供が歌ってくれたお歌ですわ。
…まぁ実現されるとかなりびっくりなのですが。

お手紙で誘い出しましょう。
わたくしが書くお手紙は感謝のお手紙。
わたくしが人形の頃、遊んでくれた子供たちに。

白ヤギさんの誘い出しに成功したら、那由多を繰って戦闘へ。
「さぁ、いきますわよ!」
那由多で攻撃を仕掛けていきますわ。
おてがみはりけーんには錬成カミヤドリで対抗します。
「お手紙攻勢には数で対抗ですわ!」
わたくしが動けなくても錬成した人形たちは念力で動きますので。
そのまま体当たりさせますわ!


蘭・七結
『やぎさんゆうびん』という童謡を聴いたことがあるわ。本当にヤギはお手紙を食べるのね。
ナユのこのお手紙は、おトモダチに宛てた大切なもの。奪わせはしないわ。

はじめての魔法学園。心躍るわ。
お菓子迷宮を堪能しつつ、手紙を携え【おびき寄せ】て【騙し討ち】を。さあさ、おいでなさい。
〝嘲笑の惨毒〟を使って動作を止めるわ。【毒使い】の毒は、ヤギに効くのかしら。興味深いわね。
毒が効いている間に黒鍵の斬首刃を使用し【フェイント】、【2回攻撃】で攻撃していくわ。
視界を埋める手紙は【なぎ払い】皆さんの大切なお手紙でしょう。極力丁重に扱うの。

✼手紙
魔法学園のトモダチに宛てた文
ふわり香る甘いフローラル

✼アドリブ、絡み歓迎



●手紙と食欲
「やぎさんがお手紙を食べるという童謡を聴いたことがあるわ。本当にヤギはお手紙を食べるのね」
「わたくしも知っておりますわ。ふふ、わたくしがただの人形だった頃に、子どもが歌ってくれたお歌ですわ……まあ、実現されるとかなりびっくりなのですが」
 お菓子の迷宮を楚々とゆく蘭・七結(恋一華・f00421)と深護・刹那(花誘う蝶・f03199)が思い至ったのは、同じ歌のようだ。まあ、実際に起こると驚きを隠せないのは確かだろう。
「手紙を食べる白山羊、ですか。とすると、携帯しているという郵便鞄は『非常食入れ』なのでしょうか……?」
 甘ったるい匂いからの防御としてハンカチで鼻と口を覆ったまま呟いたのは、ヨハン・デクストルム(神亡き狂信者・f13749)。
「ナユのこのお手紙は、おトモダチに宛てた大切なもの。奪わせはしないわ」
「大丈夫です、手紙ならここにたくさんありますから」
 七結が白い手できゅっと胸に抱いた手紙は、魔法学園の友達に宛てたもの。甘いフローラルな香りがふわりと立ち上る。対してヨハンが見せたのは、小さな鞄にぎっっっっっっっっっっっっっっしりと詰まった手紙たちだ。亡き神への信仰をつらつら綴ったものだがあえて誰宛てとは語らなかったので、七結や刹那にはそんなにたくさん書くほど思う相手は誰だろう、なんて疑問が浮かんだかもしれない。
「わたくしのお手紙は、わたくしが人形の頃、遊んでくれた子どもたち宛ての感謝の手紙ですの」
 人形のヤドリガミである刹那。彼女がただの人形であった頃に遊んでくれた子どもたちの現在――それを考えるわけではない。ただ、あの頃はできなかった感謝を伝えること、その手段を得た今、綴っておきたい思いがあっただけだ。
「さて、やってくるようですよ」
 ヨハンの聴覚に引っかかったのは、この迷宮の何処かで同じように猟兵達と相対している白ヤギの鳴き声ではなく、明らかに近づいてくる鳴き声と足音。しばらくすると七結や刹那にも振動が感じられるようになり、ぱらぱらこぼれ落ちるお菓子の壁や天井のカケラを七結は物珍しげに見つめた。
 ひゅっ……三人の間を駆け抜けていったのは、何かを咥えた小動物。そしてそれが来た方角から、白い物体が接近――してきたかと思うと。
 どがぁぁぁっ!!
 ばりぃっ!!
 お菓子でできた左右の壁が破られ、破片が視界を埋め尽くす。めぇめぇと鳴き声が交錯する。だが、耳と第六感のおかげでヨハンは驚くこと無く素早く鞄を放り投げた。
「め?」
「めぇ?」
「めぇぇぇぇぇぇぇ!!」
 三体の白ヤギの意識が、手紙ギッシリの鞄へと集まる。その隙に一番近い白ヤギへと、ヨハンは『異形の聖杖』を振り下ろした。持ちうる限りの力を込めて振り下ろしたそれは、ヨハンにとっては重量を感じないものであるが、相当の重さがある大儀仗である。
「め……」
 それを脳天に振り下ろされた白ヤギは、意識を奪われてチョコレートの床へと倒れ伏した。他の二体は鞄に夢中のようで、気絶した仲間に気がついてはいない。
「さあさ、おいでなさい」
 チラッ……七結が自身の手紙をちらつかせた。それに、白ヤギ達が目をつけぬはずはなく。
「めぇぇぇ!」
「めっ!」
 駆け寄ってきたうちの一体に向けて発動させるのは『嘲笑の惨毒』。

「耐え難いくらいが丁度いいでしょう?」

 頭上から降ってきた猛毒のスパイスを吸い込んだ白ヤギは、自身が気づかぬうちに神経毒によって身体を麻痺させられて、動けなくなって転倒する。
「さぁ、いきますわよ!」
 突進してくる残り一体に刹那は向かう。からくり人形である那由多へと繋がる糸を巧みに繰り、まずは足を狙った。
「め、めめぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
 それでもその白ヤギは、諦めること無くカバンを開いた。カバンから飛び出した何通ものお手紙が刹那の視界を埋め、動きを止める。だが、刹那はそれよりも一歩先に動いていた。
「数で対抗ですわ!」
 動きを止められる前に刹那が発動させていたのは、錬成した人形たち。刹那が動けずとも、それらは念力で動く。
 どがっがっがっがっがっがっ!!
 人形たちの体当たり。それをまともに受けた白ヤギは、今度こそころん、と尻餅をついて。だが、その白ヤギはまだ動くことが出来る。

「落ち着いていただけますか?」

 いつの間にか接近していたヨハンが、その白ヤギの瞳をまっすぐ見つめた。見開いたその瞳から放たれるのは、積み重ねてきた底知れぬ狂気――。
「……め、……ぇ……」
 その白い顔がさっと青ざめたように見えた。本能的に恐怖を抱いたのだろう、カタカタ震えはしているものの、その白ヤギは動けないようだ。

 気絶、マヒ、恐怖……それぞれ手段は違うものの動きを封じられた白ヤギ達。彼らが姿を消すのにそう多くの時間は必要なかった。
「このヤギのことも、おトモダチに教えたいわ」
 白ヤギを斬った『奪罪の鍵杖』を手にした七結は、アルダワ魔法学園へ来るのは初めてだ。無事だった友達あての手紙に追伸をつけるのもいいかもしれないと思い巡らせて。
「もしかして、白ヤギは今ので終わりですの?」
「恐らくそうでしょう」
 辺りを警戒する刹那に、ヨハンは音を辿った結果を告げる。そして散らばった手紙を拾いながら思い浮かべるのは――ラム肉。
「お肉、最近食べていませんね……」
 その呟きが真に意味するところを、七結と刹那は知らない。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​




第2章 ボス戦 『上司のくろやぎ』

POW   :    でりしゃすれたー
【『あまい』告白の手紙】【『しょっぱい』別れの手紙】【『からい』怒りのお手紙】で自身を強化する。攻撃力、防御力、状態異常力のどれを重視するか選べる。
SPD   :    ようしゃしないめぇ!
【『するどいきれあじ』の催促状のお手紙】による超高速かつ大威力の一撃を放つ。ただし、自身から30cm以内の対象にしか使えない。
WIZ   :    そくたつぽっぽさんめぇ!
レベル分の1秒で【頭上にいる速達担当の相棒ぽっぽさん】を発射できる。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠メーアルーナ・レトラントです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●とびらのむこう
 お菓子の迷宮――白ヤギ達が手紙を求めてところどころ破壊したおかげで、風通しの良くなったそれを奥へと行けば、マカロンで飾られた板チョコの扉に行き当たった。
 チョコペンで書いたのか、『そくたつはこちらまで』という文字が歪に書かれたプレートが掛けられている。
 この扉を開ければ、ボスオブリビオンがいることだろう。
 いや、もしかしたら、こちらが扉を開ける前にあちらから破ってくるかもしれないが――どちらにしろ、猟兵達がやるべきことは同じである。
ヨハン・デクストルム
ええと……こういうときは「頼もう」といって入るのが礼儀なのですよね。
ノックして入りましょう。先に破られたらしません。
黒山羊さん、あなたがしたことそのものを否定したりはしません。そういうものと生まれついたのですから。ただ、それに対する反発を受け止めるのも責任というものです。
UC『懺悔傾聴』を起動、隙を作って殴ります。せめて後悔の念を示しなさい。手加減することはありませんが、憎悪の念は多少なりとも減るでしょう。
使用技能:気絶攻撃、二回攻撃、第六感、怪力、早業など


アウレリア・ウィスタリア
『そくたつはこちらまで』
この手紙も配達してもらえるのでしょうか?
ボクを育ててくれた両親
彼らはボクの背に白黒二色の翼が生まれたその時から
ボクをあ、くま…そう……よ、んだ

書かれたのは懐かしい幼い日
幸せだった頃の感謝の言葉
しかし込められた想いは「なぜ?どうして?」
そう助けを求めた暗く冷たいもの

これはどんな味がするのでしょうね?

戦闘では【今は届かぬ希望の光】による遠距離攻撃を主軸に
手紙を餌に走って飛んで舞い上がってと
クロヤギを引き付けつつ撃ち抜いていきます
接近されれば手紙をあさっての方向に投げて距離をとります
むしろ一番のチャンスかな?
クロヤギが背を向ければ、その背に七色の光剣を突き立てます

アドリブ歓迎


シュシュ・シュエット
ぎゅっと想いの詰まったお手紙をもぐもぐしたらだめですっ。
お手紙はおなかじゃなく、えっと……こころにしまっておくものですよ。

【ライオンライド】のお力をお借りします。
接近されないよう*地形の利用……白ヤギさんたちにより崩されたお菓子の山を飛び回りながら、
催促状さんを受けないよう間合いを*見切りつつ、他の猟兵さんと連携して隙を狙い戦いましょう。

お壁を破壊されていますし、きっと猟兵にもできるはず。
可能ならライオンさんのお背中からお菓子を*すないぱー……投げつけて攻撃します。

お菓子ももろいですし……足場を踏み外したり、崩れるかもしれませんっ。
*野生の勘や*学習力で、しっかりと注意しながら移動しましょう。



●くろやぎさんたら……
 ――そくたつはこちらまで。
 板チョコでできた扉にかかったプレート、その歪な文字をアウレリア・ウィスタリア(瑠璃蝶々・f00068)はじっと見つめる。
(「この手紙も配達してもらえるのでしょうか?」)
 手紙を持つ白い指に、無意識に力が入る。
(「ボクを育ててくれた両親。彼らはボクの背に白黒二色の翼が生まれたその時から」)
 両親宛てのその手紙に記されたのは、懐かしい幼い日の気持ち。幸せだった頃の、感謝の言葉。
(「ボクをあ、くま……そう……よ、んだ――」)
 しかしその言葉に隠された、便箋に滲むように籠められた思いは、暗く、冷たく澱んだモノ。
 なぜ? どうして?
 答えを、助けを求めたホントウのココロ。
「ええと……こういうときは『頼もう』といって入るのが礼儀なのですよね」
「……!!」
 深く沈みかけたアウレリアの心を引き戻したのは、ヨハン・デクストルム(神亡き狂信者・f13749)の言葉。無意識のうちに手の中でつけてしまった手紙のシワに気づいて。
「よくわからないので、おまかせします」
 ゆっくりと伸ばしながら告げた。
「私も準備、できていますっ」
 告げたシュシュ・シュエット(ガラスの靴・f02357)は、2m半はある大きな黄金の獅子に騎乗し、準備万端だ。
「では」
 ヨハンはすぅ、と息を吸い込んで、ノックののちに。
「たのも――」

 バァァァァァァァァァンッ!!

 皆まで言う前に開かれ――否、砕かれた扉。姿を現したのは、ヨハンと同じくらいの体長を持つ黒いヤギ。体長は近くとも、丸っこい分迫力があるというか、なんというか。
「ごよう、めぇ? おてがみ、めぇ?」
 しかも。
(「無駄にいい声!?」)
 先ほどの白ヤギたちと違い、この黒ヤギは人語を話すことが出来るらしい。そして、何故かバリトンのいい声! 正直、ゆるさとのギャップが酷い。
「黒山羊さん、あなたがしたことそのものを否定したりはしません。そういうものと生まれついたのですから」
 しかし至近距離で顔を突き合わせているヨハンは、怯むこと無く説法のように言葉を並べていく。
「ただ、それに対する反発を受け止めるのも責任というものです」
「ごよう、ちがう? おせっきょう、めぇ?」
 黒ヤギが小さく首を傾げる。サイズとボイスを脳内補正すれば、可愛く見えるかもしれない。しかしヨハンはそれを隙と認識した。黒ヤギと視線を合わせ『懺悔傾聴』を発動させる。

「何者も、過去から逃れることは出来ない。ええ、たとえ神であろうとも」

「め、ぇ……?」
 ぐぐぐ……黒ヤギが自らを抱きしめるように身体を縮める。そして小さく震えだしたのは、ヨハンの『懺悔傾聴』が効いているからだろう。
「せめて後悔の念を示しなさい。手加減することはありませんが、憎悪の念は多少なりとも減るでしょう」
 黒ヤギに植え付けられた良心が、罪悪感に塗りつぶされていく。
「ぎゅっと想いの詰まったお手紙をもぐもぐしたらだめですっ」
 追い打ちをかけるように言葉を投げかけるのは、獅子上のシュシュ。
「お手紙はおなかじゃなく、えっと……こころにしまっておくものですよ」
 その言葉に黒ヤギは、苦悩するように額に手を当てて。
「おてがみおとどけするめぇ……でもおてがみのあじ、わすれられなかっためぇ……いろんなあじ、するめぇ……」
 苦悩を見せた黒ヤギ。ヨハンの言う通り、手紙を食べるものとして生まれついてしまった以上、完全なる改心を望むことはできないかもしれない。けれども彼らは彼らなりに、罪悪感がまったく無いわけではないようである。動きが止まっているのがその証左か。

「なにものにも染まり、なにものにも染まらぬ七色の光。貫け、天空の光剣」

 そんな黒ヤギに、アウレリア『今は届かぬ希望の光』を発動させる。向けた剣から放たれた虹色に輝く七本の光剣が、黒ヤギを貫いた。
「めぇぇぇぇぇぇぇ!!」
 上体をのけぞらせるように倒れてゆくかに見えた黒ヤギ。だが。
「そくたつぽっぽさんめぇ!」
 ぐいんっと上体を戻しながら放たれたのは、頭上にいる相棒のぽっぽさん。速達担当のぽっぽさんが飛び立った――その時。
 ぶんっ!!
 黒ヤギの近くにいたヨハンが『異形の聖杖』を振った。素早く、そして力の込められたその一撃が、ぽっぽさんを容赦なく床へと叩き落とす!
「ぽ、ぽっぽさぁぁぁぁぁぁっん!!」
 いい声で嘆く黒ヤギ。そんな黒ヤギに向けて、二色の翼で舞い上がったアウレリアは手紙をちらつかせる。
「これは、どんな味がするのでしょうね?」

「お て が み めぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」

 さっきの懺悔はどこへやら。手紙を目にした黒ヤギは、素早く床を蹴る。
「こちらですよ」
 アウレリアが黒ヤギを引き付けている間、シュシュは獅子を駆り、白ヤギ達に破壊された壁などのお菓子の瓦礫の向こうから、落ちているお菓子の中でも硬そうな飴玉などをスナイパー技術を生かして投げつける。
 接近されないようにお菓子の瓦礫を飛び回りながら、脆くなっていると勘が告げる場所は他の猟兵達に告げて。更に投げ続けるお菓子は、黒ヤギの首の付根などの当たったらおそらく凄く痛そうな場所を見事に捉えていた。
「お願いします!」
 近い――手紙を狙うヤギたちの速度を甘く見てはいない。だからこそ、距離をみてそう判断したアウレリアは、シュシュのいる方へと自身の手紙を投げた。
「めぇっっっ!? めぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」
 キュッ、キュッ。その速度と図体からは想像できないような機敏な静止と方向転換。黒ヤギはシュシュへと向かい中空をゆく手紙しか、視界に入っていないようで。
「任せてください!」
 滑るように手元へ来た手紙を受け取ったシュシュは、黒ヤギに背を向けて獅子を走らせる。
「一番のチャンスですね」
 アウレリアは、自身に背を向けた黒ヤギに、剣の切っ先を向ける。
 放たれた七色の光剣が、その背中へと見事に突き刺さった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

スヴェン・フリュクレフ
白ヤギと同様手紙に反応を示すのなら、用意しておこう。
内容はどうせ読まれることは無いのだし、これで……いい。
(手紙には“貴方の傑作であることを誇りに思う”とだけ綴られている)
誘き寄せる餌に、使おう。
しかし、何か妙案があれば扱いは任せる。

【咎力封じ】で黒ヤギの行動力を削ぐことに専念する。
【拘束ロープ】で脚に引っかけ転ばせる。
そして【猿轡】で口を塞ぎ、拷問具をチラつかせて【恐怖を与える】
可哀相だが、自己強化は控えて貰いたいのでな。
恐怖でいくらか食欲もなくなるかもしれない。

可能ならぽっぽさんとやらを頭上から降ろして地面に転がして仕舞おう。
ロープで雁字搦めにすれば簡単には抜け出せまい。


深護・刹那
ではでは。不肖、深護・刹那、参ります。

今度は黒ヤギさんですわねー。
めぇめぇ可愛いのですが、ですが!

速達、速達…。
はっ!?今気づいたのですが!
これは黒ヤギさん宛てに「もふもふ可愛いのでもふもふさせてください(真剣)」というお手紙を速達すれば目の前で読んでもらえるのでは?
えっ食べられる?そんなぁ…。

くっならば仕方ありません。
わたくしのもふもふへの想いを食べたからには、
覚悟してもらいますわ!
『からくり仕掛けのセツナ』で仕掛けます。
「頭の上のぽっぽさん、いただきですわ!」(攻撃しつつもふるために)



●恐怖と食欲ともふり
(「今度は黒ヤギさんですわねー。めぇめぇ可愛いのですが、ですが!」)
 背中に攻撃を受け、へちゃりと床に伏したもののなんとか立ち上がった黒ヤギを見て、深護・刹那(花誘う蝶・f03199)は心中で呟く。ただ、手放しで「可愛い!」といえないのは、その体長ゆえか。それともバリトンボイスゆえか。
「白ヤギと同様手紙に反応を示すようなので、用意しておいたが」
 スヴェン・フリュクレフ(伽藍・f02900)が手にした手紙の内容……白ヤギ達に食べさせたものは作り手への苦言であったが、今度の手紙には、想いがただ一行のみで綴られていることを知るのは当のズヴェンのみ。
(「内容はどうせ読まれることは無いのだし、これで……いい」)
 綴られた想いは、宛先の人物に紐解かれることはない――それでも、その一文は……。
「はっ!? 今気づいたのですが!」
 速達、速達、と呟いていた刹那が勢いよく顔をあげる。現実に引き戻されたズヴェンは、表情こそあまり動かさぬが、彼女を見やる。
「これは黒ヤギさん宛てに『もふもふ可愛いのでもふもふさせてください(真剣)』というお手紙を速達すれば、目の前で読んでもらえるのでは?」
「読まれる前に、食べられるのではないだろうか?」
「えっ食べられる? そんなぁ……」
 ズヴェンの尤もな返答に刹那はがっくりと肩を落とした。だが、ズヴェンの手紙を察知してかこちらへと向かってくる黒ヤギを見据えて、すぱっと気持ちを入れ替えた。
「くっ、ならば仕方ありません。わたくしの行き場をなくしたもふもふへの想い、覚悟して受けてもらいますわ!」
 宣戦布告とばかりに告げて発動させるのは『からくり仕掛けのセツナ』。

「夢はうつつ。うつつの私はヒトガタ。ヒトガタは繰られ夢を見る。これが、人形の、刹那の、夢」

 召喚したのはからくり人形の人形遣い。それに自らを操らせる準備は整った。

「お て が み めぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」

 突進してくる黒ヤギ。対して(手紙を)狙われているズヴェンは、『咎力封じ』を発動させて。
「持って」
「あ、はいっ」
 拘束ロープの片端を刹那に預け、もう片端を手にしたズヴェンは、ロープがピンと張るように持ち、後はただ待つだけ。
「めえっ!?」
 突進してきた黒ヤギは、下半身付近に張られたロープに気づかずに引っかかり、前のめりにバランスを崩す。
「ぽーっ!?」
 頭上のぽっぽさんもまた、突然のことに宙に投げ出されたが――それには刹那が素早く反応した。
「ぽっぽさん、いただきですわ!」
 自身を操らせてぽっぽさんへと迫り、一撃。そしてそのままむぎゅっと抱きとめて。

 もふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふ。

「ぽっぽさぁぁぁぁぁぁんっ!!」
 ずべしっと床へダイブした黒ヤギの叫び。その口を猿轡で封じようとしたズヴェンだったが、黒ヤギが倒れたままあまりに暴れるものだから、猿轡は断念せざるを得なかった。代わりにちらつかせるのは『黒い脚』――数多の刃と拷問具を宿す彼の脚。
 はらっ……ほぼ同時に用意していた手紙が床へと舞った。おてがみめぇぇぇぇぇっ、と手紙に手を伸ばした黒ヤギの顔の横にどんっと脚を下ろす。
 さぁぁぁぁぁっ、と黒ヤギの血の気が引いてゆくのが聞こえるようだった。それでも我慢できない性なのか、黒ヤギが手紙を一口かじったものだから。
「可哀想だが……」
 ズヴェンは冷たい瞳で見下ろして、黒ヤギの恐怖心を煽る。
「……めぇ……あまずっぱくて、なつかしいあじがする、めぇ……」
 味の感想を述べたものの、黒ヤギはそれ以上手紙を食みはしなかった。恐怖で食欲が萎えたのかもしれない。
(「甘酸っぱくて、懐かしい味、か」)
 黒ヤギの述べた味の感想が、ズヴェンの心に何かを宿し、記した一文が脳裏に蘇る――『貴方の傑作であることを誇りに思う』。
「そっちは……」
 たしか刹那はぽっぽさんを捕獲したはず。そしてもふもふしていたはず。視線を動かすズヴェン。
「もふもふだわ! とってももふもふよ!」
 本懐を遂げた刹那が機嫌良さそうにぽっぽさんをもふっている。
 だが、攻撃からの抱きしめともふり(ときどき攻撃を兼ねた手が交ざる)を絶え間なく繰り返されているぽっぽさんは、白目をむいて気を失っているようだった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

蘭・七結
もう少しこのお菓子迷宮を探索してみたいけれど、先にここの主を倒したほうが良さそうね。
この扉を開く前に、ナユたちの手紙に引き寄せられてあちらから現れてきたりしないかしら。
華やかな香の手紙をひらり、ひらり。

白ヤギの次は黒ヤギなのね。
あの童謡の通りの登場人物だわ。
愛らしい姿だけれど、あなたもとても暴れん坊なのね。少し、大人しくしてちょうだいね。
〝満つる暗澹〟を使用し黒ヤギに【先制攻撃】
【毒使い】の猛毒、たんと味わってちょうだいな。
黒ヤギの攻撃の催促状は【見切り】、【フェイント】をしながら白刃の双刀で切り捨てるわ。
延滞をしては、ダメよ。
とっておきのお仕置きをあげるわ。

✼アドリブ、絡み歓迎です。


シエル・マリアージュ
今回用意した手紙、宛先は天に見初められし乙女達へ。
「私や貴方達を天に見初められし乙女なんて存在にした教団は滅びて、私が最後の乙女です。もう私達のような存在が生み出されることはないので安心して眠ってください。でも、時々力を貸してもらうかも」
骸の海から生まれたオブリビオンのくろやぎさんなら、過去の存在となった人達にも手紙を届けてくれるかな?
というわけで、くろやぎさんには手紙を手土産に骸の海にお帰り頂く。
【残像】による【フェイント】で【ドラゴニック・エンド】を当てにいき、その火力で【でりしゃすれたー】の防御力をぶち抜いてみせる。
「くろやぎさん、配達よろしくね」



●骸の海へ
「もう少しこのお菓子迷宮を探索してみたかったけれど」
 そう呟いて蘭・七結(恋一華・f00421)は黒ヤギを見やる。だいぶ弱ってはいるが、手紙への執着心は消えぬだろう。彼らはそういうモノだから。
「先にここの主を倒したほうが良さそうね」
 確かに探索するにも、追いかけられては落ち着けぬというもの。七結の手紙は、黒ヤギに食べさせてはいおしまい、とするわけにはいかぬものなのだ。
「私も手紙を持ってきたの。食べてもらって大丈夫――いえ、むしろ食べてもらうために」
 七結の横に立ち、手紙をひらひらさせるのはシエル・マリアージュ(天に見初められし乙女・f01707)。彼女が用意した手紙は、天に見初められし乙女達へのもの。先輩、仲間……いや、同胞と称するのがふさわしいだろうか? とある教団でシエルと同じ『存在』であり、今はもう亡い彼女たちへの手紙。
「もしもの時はお願いするわ。そうね……わたしもこうすれば、こちらへ来てくれるかしら?」
 ひらり、ひらり。七結もまた、手紙を揺らす。お菓子の匂いに混ざって香るのは、華やかな香り。

 ぴくっ。

 黒ヤギの嗅覚――いや、嗅覚とは限らない何かの感覚に手紙の存在が引っかかったのだろう。しょぼんとしていた黒ヤギが、顔を上げて七結とシエルを視界におさめると。

「お て が み めぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」

 丸っこいその体躯からは想像できぬスピードで、接近してくるではないか。
「白ヤギの次は黒ヤギなのね。あの童謡の通りの登場人物だわ」
 満足気に頷いた七結は、猛スピードで迫りくる黒ヤギの姿にも落ち着いていて。
「愛らしい姿だけれど、あなたもとても暴れん坊なのね。少し、大人しくしてちょうだいね」
 彼が接近するより先に『満つる暗澹』を発動させた。

「さあ、味わってちょうだい」

 複製された猛毒の小瓶達が、全て黒ヤギへと向かう。毒使いたる彼女の毒を受け、黒ヤギは動きを止めて苦しそうに身体を捩った。
「んめぇぇぇぇぇぇぇっ!! ようしゃしないめぇぇぇぇぇぇぇ!!」
 それでも黒ヤギは再び動き出し、七結との距離を詰めた。そして差し出したのは『するどいきれあじ』の催促状。けれども毒に冒されたその動きは、七結にとって見切るにたやすく。
「とっておきのお仕置きをあげるわ」
「めぇぇぇぇぇっ!?」
 取り出した白刃の双刀を振るえば、黒ヤギは悲鳴を上げてぺちゃりと床に伏した。

 ひらり。

 そんな黒ヤギの前に落ちてきたのは、手紙だ。
「骸の海から生まれたオブリビオンのくろやぎさんなら、過去の存在となった人達にも手紙を届けてくれるかな?」
「おてがみめぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」
 わざと手紙を落としたシエルの呟きは、黒ヤギには届いていない。黒ヤギにとってその手紙は、最後の希望に見えたことだろう。
 めぇめぇ鳴きながら手紙を食む黒ヤギの姿は、シエルの予想通り。
「めぇぇぇぇぇ、めぇぇぇぇぇぇぇ」
 味の感想を言う余裕もないのか、黒ヤギはカバンから取り出した手紙を続けて食んだ。
「もうすこし、がんばれるめぇぇぇぇぇっ!!」
 なんとか立ち上がった黒ヤギは、自身を強化したのだろう。だが。
「くろやぎさんには手紙を手土産に、骸の海にお帰り頂きましょう」
 淡々と告げ、シエルは黒ヤギに迫る。黒ヤギはその動きに反応してみせたが、それは残像――フェイントに引っかかった黒ヤギへと迫るのは『尖竜槍キルシュヴァッサー』。

「くろやぎさん、配達よろしくね」

 槍先の命中とほぼ同時に現れた小型のドラゴン。さくらんぼ色のドラゴンは、黒ヤギの強化をぶちやぶるほどの高威力で迫り。
「めぇ……」
 何か言い残したのか、中途半端な鳴き声を残し、黒ヤギは消えていった。

 ――私や貴方達を天に見初められし乙女なんて存在にした教団は滅びて、私が最後の乙女です。
 ――もう私達のような存在が生み出されることはないので安心して眠ってください。
 ――でも、時々力を貸してもらうかも。

 シエルの手紙がどんな味だったのか、それは消えていった黒ヤギのみが知る。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 日常 『アルダワ的調理実習』

POW   :    レシピなんて見なくても気合いと間隔で料理できるさ!

SPD   :    料理もスピードがいのちだよね!

WIZ   :    料理は科学だ。正確に計量して料理する、

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●お菓子作りをしませんか
 お菓子の迷宮を破った猟兵達に貸し出されたのは、アルダワ魔法学園内の調理室だった。
 広めのその部屋には、専門的なものも含めて調理器具やレシピ本なども完備されており、お菓子で賑わう時期だからか、材料も豊富にある。
 普段は調理部などが使っているのだろうか、お菓子以外を作れるような食材も置いてあるので、甘いものが苦手な者は軽食やご飯モノをつくるのも良いだろう。
 誰かにあげるためのお土産としても良いかもしれない。
 さて、何を作りましょうか?
シエル・マリアージュ
調理室を借りて、ピンクの皮であんこを巻く「桜餅」を作るよ。
美味しく作りたいからレシピ通りに丁寧に調理して、試し焼きの皮を食いしん坊の小竜キルシュにあげたりしながら、楽しく桜餅を作ってキルシュと食べます。
「これは乙女さん達へのお供え物だからダメ、わたしのあげるから」
さっさと自分の分を食べ終わって物欲しそうにしているキルシュに自分の分を分けてあげたり。
「キルシュ、最近太ったんじゃない?」
キルシュのお腹をぷにぷにしたりじゃれながら楽しい時間を過ごしたら、楽しい思い出と美味しい桜餅を持って帰ろう。
帰ったら、この思い出を「偽典〈慈悲深き天上の乙女〉」に乙女の新しい思い出として書き加えないとね。



●桜色の
 シエル・マリアージュ(天に見初められし乙女・f01707)はさくらんぼ色のドラゴン、キルシュヴァッサーの見守る中、目的のレシピの載った本を探し出し、目を通していた。
 彼女が作ろうとしているのは桜餅。道明寺粉を使うタイプではなく、小麦粉と白玉粉を使うタイプの方だ。UDCアースでは『関東風桜餅』などと地方を付けて呼ばれることもあるらしい。
「餡は既に出来上がっているものを使ったほうが良さそうね。桜の葉は塩抜き中……皮の方は、食紅はほんの少し……」
 ボウルに入れた皮の材料に注意深く食紅を入れる。ピンク色にするなら、ほんの少量でいいらしい。少量で十分に色がつくのだ。
 粉のだまが残らないように、丁寧に泡立て器で混ぜていく。
「白玉粉の粒が残らないように注意……」
 レシピに目を通しながらも手を動かしてゆく。美味しく作りたいのでレシピに忠実に、丁寧に作業を進めて。念のために漉し器を通してなめらかな生地を作った。
 フライパンより温度調節が楽なホットプレートの方が失敗しにくいとのことで、学園のホットプレートを借りて熱する。
「キルシュ、熱いから近づきすぎたら駄目よ」
 皮の焼けるほんのり甘い香りに惹かれたのか、ホットプレートを覗き込もうとするキルシュを制して。裏返して軽く焼いた生地を、冷ますためにクッキングシートの上に取り出して、「もういい?」と視線を送ってくる愛らしい小竜に「まだよ」と告げた。
 試し焼きの皮が冷めるのを待つ間に、水にさらしておいた桜の葉を取り出して水気を拭いたりして。
「お待たせ」
 粗熱が取れた生地をふたつに分けて、片方をキルシュに。
「餡を包むから、このくらい甘さ控えめでちょうどいいわね」
 味を確かめて、本番用の生地をホットプレートに流し込む。火が通るのを待つ間に、試し焼き用の生地の残りで餡を包んでみた。くるくるくる。餡が多すぎるとはみ出てしまう。けれども巻く前は、ちょっと餡が少ない気がして足したくなる。その気持を抑えて巻き上げれば、その分量でちょうどよかったことが知れた。
 生地が焼き上がれば冷ましている間に次の生地を焼き、冷ましている間に冷めた生地で餡を包み、桜の葉を巻く。
「キュッ、キュウッ!」
 何やら訴えるように鳴くキルシュを見て、シエルは苦笑して。
「もう自分の分を食べてしまったの? これは乙女さん達へのお供え物だからダメ、わたしのあげるから」
 先程試し焼き用の皮を使って完成させた桜餅をあげたはずなのに、催促のようだ。シエルは残っていた自分の分をキルシュの前へと差し出して。
「キルシュ、最近太ったんじゃない?」
「ピキュッ!?」
 そんな! とばかりに泣いたキルシュのお腹をぷにぷにとするシエル。抗議しながらも、きちんと桜餅をお腹におさめたキルシュは、今度こそ本格的に抗議とばかりにぺちと翼でシエルを軽く叩いた。
 それは楽しいじゃれ合いの時間。自分のすぐ側にある、平穏を実感するひととき。
(「帰ったら、この思い出を『偽典〈慈悲深き天上の乙女〉』に乙女の新しい思い出として書き加えないとね」)
 出来上がった桜餅を詰めながら、この新しい思い出を記すことを誓うシエルだった。

成功 🔵​🔵​🔴​

蘭・七結
スズさん(f02317)と

無事、ナユのお手紙は届いたようね
来てくれてうれしいわ。スズさん
初めての魔法学園は、あなたに案内してもらおうと思っていたの

スズさんとお菓子作り
作るのはビターのフォンダンショコラ
本当にお上手なのね、スズさん
談笑をしながらスズさんのお手伝い
ナユのすきな人
そうね…とてもとおくて、近い場所にいるわ
首に連ねた指輪を見つめ、冗談げに笑む
意外だと。そう感じた彼女の返答
このお菓子は、毒のように甘く蝕むのでしょうね
愛する箱庭で共に飲んだ甘い紅茶を思い出し

スイーツに合う紅茶を持ってきたの
アールグレイのピュアティー。一緒に飲みましょう
あなたの愛する魔法学園のお話、たくさん聴かせてちょうだいな


コイスル・スズリズム
ナユさん(f00421)と
【WIZ】

ナユさんは不思議な人
ここにいるのにここにいないよな気がする
この人の場所だけ違う世界みたい

そんなことを思い
お菓子作りが趣味なすずが
こうやって作るんだよ~!って教えながらお菓子作り
毒より甘いの作ろうね~。って冗談めかして
フォンダンショコラ

話題はバレンタインちっくな方向に

本命に渡すの?

返された答えに
指輪の中にいるんだろうか?
思いながら首を傾げる

すずね
いません!彼氏とかメンドくない?

お紅茶にはやったー!と両手をあげて
お茶のセンスすごいね
えっとね、学食がね
あの給水塔がね
あそこの貯水池がね
紹介したい所が多すぎて
ついすずばっかり喋ってしまいながら一緒に仲良く完成品をたべる



●ショコラの
「無事、ナユのお手紙は届いたようね。来てくれてうれしいわ。スズさん」
 蘭・七結(恋一華・f00421)は、調理室の扉が開く音に反応して視線を向けて、そこに立つ人物を確認して立ち上がった。
「初めての魔法学園は、あなたに案内してもらおうと思っていたの」
「お手紙ありがとう!」
 七結が出迎えたのはコイスル・スズリズム(人間のシンフォニア・f02317)。ふわりとした金の髪を揺らして微笑みながら、コイスルは調理室へ足を踏み入れ、改めて友人の姿を視界におさめた。
(「ナユさんは不思議な人。ここにいるのにここにいないよな気がする。この人の場所だけ違う世界みたい」)
 綺麗で魅惑的で、言葉で表現するのが難しい存在感を醸し出している――そんな風に七結のことを思いつつ、コイスルは七結を導く。
「調理室なら使ったことあるから、まずは使う道具を出そうかな」
 魔法学園に通っているコイスルは調理室の備品の在り処も知っていて。ふたりで協力して道具と材料を調理台の上へと集めた。
「始めよう~!」
 ふたりが作るのはビターなフォンダンショコラ。チョコレートを刻んでいる間の時間を無駄にしないようにと、同時に生クリームをレンジで加熱するコイスル。その手際の良さに、七結は感心してしまう。
「本当にお上手なのね、スズさん」
「お菓子作りが趣味だからね~。ナユさんはこのボウルを湯煎にかけて中身を溶かしてくれるかな? あ、湯煎っていうのはね……」
 テキパキと動き、七結に教えながらも自分の作業を続けていくコイスル。レシピは頭の中にあるのだ。
「毒より甘いの作ろうね~」
 そんな冗談めかしたコイスルの言葉に、七結からも笑みが漏れる。
 型に生地を入れて、ガナッシュを入れて、また生地を入れて。予熱済みのオーブンに入れれば、あとは出来上がりを待つだけ。談笑しながら送った時間は、思ったよりも早く過ぎ去って。ふたりで一緒に作ったからか、いつもより、または思ったより早くできた気もする。
「今のうちに洗い物しておくね」
「わたしはお茶の支度をするわね。スイーツに合う紅茶を持ってきたの」
「やったー!」
「アールグレイのピュアティーよ。一緒に飲みましょう」
 焼き時間はそんなに長くない。片付けやお茶の支度をしている間に、あっという間にオーブンが焼き上がりを告げた。
「あったかいうちに食べようね」
 いくつか焼いたうち、ひとつずつお皿に乗せて。向かい合って座ったテーブルには、七結の淹れた紅茶のカップが湯気を上げている。
「本当に、中からとろりとチョコレートが出てきたわ」
「味はどうかな~?」
 フォンダンショコラの肝であるとろ~り溢れるチョコ部分は成功。あとは味の問題。
 ぱくっ。
 口に入れたふたりの顔が、明るくなる。ビター感はあるけれど、甘さはちょうどよく感じて。紅茶も一口含めば、甘さと混ざりあって素敵に香る。
「お茶のセンスすごいね」
「喜んでもらえてよかったわ」
 小さく微笑み、流麗にフォークを動かす七結。そんな彼女をじーっとみつめて、コイスルは思い切って口を開いた。
「本命に渡すの?」
「ナユの好きな人……」
 彼女の問いに、七結は首に連ねた指輪を見つめて。
「そうね……とてもとおくて、近い場所にいるわ」
 そう冗談気に微笑んでコイスルを見る。
(「……指輪の中にいるんだろうか?」)
 そんな思いを抱きながら、首を傾げたその時。
「スズさんは?」
「すずね」
 七結から向けられた言葉に、口を開く。自分で振った話題だからには、自分にも振られる心づもりはしていた。
「いません! 彼氏とかメンドくない?」
「……意外だわ」
 感じたままにそう、呟いて。七結はショコラをもう一口。
「このお菓子は、毒のように甘く蝕むのでしょうね」
 思い出すのは、愛する箱庭で共に飲んだ甘い紅茶。思い出に引かれていく意識を、そっと連れ戻して。
「スズさん。あなたの愛する魔法学園のお話、たくさん聴かせてちょうだいな」
 柔らかく告げると、目の前の彼女の顔が嬉しそうに輝いた。
「えっとね、学食がね……」
 自分の大好きな学園のことを伝えようと、一生懸命言葉を編むコイスル。
 ――あの給水塔がね……。
 ――あそこの貯水池がね……。
 紹介したいところが多すぎて、自分ばかり多弁になってしまうけれど、目の前の彼女はそれをひとつひとつきちんと聞いてくれて。聞くだけでなくときおり質問を挟んでくれるのが、興味を持ってくれているのだと感じて、コイスルもまた嬉しくなるのだった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

アウレリア・ウィスタリア
……料理は出来ないです
それにボクには料理を振る舞う相手が……いなくはないですね

でも今回は故郷に持っていけるようなものを作れたら良いですね
どなたか教えてもらえる人はいるでしょうか?
レシピ本とかあるのでしょうか?
馨子に聞けば出てきたりしますか?

簡単に作れるものだとクッキーでしょうか?
他にも作れそうなものがあればチャレンジしてみましょう

ボクは料理とかまったく教わったことがないので
でも学ぶことは好きですから
きっとうまくいくでしょう

完成すれば、いく機会があれば……
故郷に供えましょう
今のボクはそんな気分です

あ、うまくいってもいかなくても
味見はしっかりします
はじめての料理、どうなるでしょうね

アドリブ歓迎



●小麦の柔らかな
「……料理は出来ないです」
 調理室の整った設備を見て、アウレリア・ウィスタリア(瑠璃蝶々・f00068)は小さく呟いた。
(「それにボクには料理を振る舞う相手が……いなくはないですね」)
 でも今回は、故郷のダークセイヴァーに持っていけるようなものを作りたい……そう思うものの、どれが簡単に作れるものか見当もつかない上に、棚に並んだレシピ本をパラパラと見ても用語の意味がわからぬ部分もある。おとなしく助っ人を待つことにしよう、アウレリアがそう思ったその時、調理室の扉が開く音がした。
「お待たせいたしました」
「馨子、来てくれましたか」
 姿を見せた待ち人をレシピ本の前に導いて、アウレリアは希望を告げる。
「簡単に作れるものだとクッキーでしょうか? 他にも作れそうなものがあればチャレンジしてみたいですね」
「そうですね……」
 ヤドリガミとして肉体を得てそこそこ長いらしい彼女は、レシピ本をパラパラめくって、そして2冊を開いてアウレリアに差し出した。
「簡単で持ち歩きやすいものとなりますと、アウレリア様の仰った通り、クッキーや……あとはカップケーキなどはいかがでしょうか?」
「教えてもらえますか?」
「勿論でございます」
 料理などはまったく教わったことのないアウレリアだが、学ぶことは好きであるからして、結果はその努力を裏切らぬだろう。
「クッキーと一口に申しましても様々な製法がありまして……型抜き、絞り出し、アイスボックスなどありますが、アレンジしやすい型抜きクッキーにいたしましょう。まずは材料を正確に計量いたしましょうね」
 ある程度慣れれば目分量で自分好みの味に仕上げたりも出来るようだが、さすがに最初はレシピ通りに計量するのが良い。アウレリアは馨子のアドバイスを受けつつ、ひとつひとつ丁寧に計量してゆく。時間はかかるが、最初だからそれは当たり前のこと。
「馨子、結構柔らかい生地になりましたが、これで大丈夫でしょうか?」
「大丈夫ですよ。このあと冷蔵庫で寝かせますから」
 ラップで生地を包み、冷蔵庫へ。その間にカップケーキを作りましょうと馨子が取り出したのは、初心者でも扱いやすい魔法の粉。
「UDCアースでは『ホットケーキミックス』という名で売られておりますね。学園にも同じようなものがございましたので、これを使いましょう」
 バター、砂糖、卵を混ぜるあたりはクッキーと近い。そこに粉を入れて泡立て器で混ぜる。少し、泡立て器の使い方にも慣れてきた気がする。出来上がった生地は、クッキーの生地より柔らかく、とろーりと流れるような感じだ。
 ココアパウダーとチョコチップを混ぜたそれを数個のカップに注ぎ入れる。ついたっぷり入れたくなるが、このあと膨らむと言われて慌てて量を調整したりして。予熱したオーブンに入りれても焼き上がりが気になってつい、じっと見つめてしまう。
「膨らんできました」
 上手く膨らんできて安心したアウレリアに、馨子は優しい笑みを向けて。冷蔵庫からクッキー生地を取り出した。
 麺棒で伸ばして、さあ型抜き。調理室の備品の型は種類も豊富で、どれにしようか迷ってようやく手にしたそれは、星の形。
 ぎゅっ……生地に押し付けて恐る恐る型を上げれば、生地が綺麗な星の形に切り抜かれていて。
「……!!」
 想像していたよりずっと楽しい。アウレリアははハートや花、小鳥など色々な型で生地を抜いて、次々と鉄板に並べる。そんな中、隣で馨子が何やら砕いているのに気がついた。
「それは飴、ですか?」
「ええ、こうするのですよ」
 馨子は型で抜いた生地の真ん中を更に小さな型で抜いたものを用意していて。その内側の穴に飴のカケラを落としていく。
「?」
「出来上がってのお楽しみです」
 首をかしげるアウレリアに、彼女がいたずらっぽく微笑んだその時、カップケーキの焼き上がりを知らせる音がした。
「いい匂いです」
 オーブンの扉を開けただけで、チョコレートの甘い香りがアウレリアを包む。きちんと膨らんでいるのを確認して、小さく笑んだ。
 カップケーキを冷まし、クッキーを焼いている間に使った道具を洗って片付ける。片付けまでが料理ですから、そう言われて納得。作るだけ作って使った道具をそのままにするのは、気持ち的にスッキリしない。
(「クッキーも完成して……行く機会があれば……故郷に供えましょう。今のボクはそんな気分です」)
 甘い物という嗜好品はなかなか手に入らなかった故郷。少しでも、味わってもらえたらと思うから。
「出来上がりましたよ」
 クッキングシートごと取り出したそれを、予め敷いておいたキッチンペーパーの上に乗せる馨子。彼女は続けて次の生地を焼きにかかる。
「焼けてます」
「熱いですけれど、味見しても大丈夫ですよ。やけどに気をつけてくださいませ」
 感慨深くクッキー達を見つめていたアウレリアは、そっとそのひとつに手を伸ばした。まだ熱い、けれども口に運べばサクッとして程よい甘さが広がっていく。生地の端、薄くしすぎた部分を型で抜いたものはその端の部分がちょっと焦げてしまっているけれど、それはご愛嬌。
「おいしいです」
「ようございました。アウレリア様が頑張ったからですね。それではこちらもどうぞ」
「これは、さっき馨子が作っていたクッキーですか?」
 型で抜いた生地の真ん中が別の型で抜かれている。だがそこに入れた飴のカケラの姿はなく、うっすら色づいた硝子に似たものがそこに嵌っている。
「熱で飴が溶けて、冷めて固まったのですよ。こうしてみると……」
 手にとって光にかざせば、キラキラと輝く。それはまるでステンドグラスのようだ。
「食べるのがもったいないですね」
 いつまでもキラキラを手の中に置いておきたい……でも、意を決して口に運べば、サクサクした生地とは違い、飴の部分がカリカリとしていて不思議な感覚だ。
「カップケーキも味見いたしましょうか?」
 その提案に頷いて。そっと外紙を剥がして口に。
「甘い、です」
 はじめての料理。教えてもらいながらだけれど自分にも出来たその味を噛み締めながら、口元を綻ばせるアウレリアだった。

成功 🔵​🔵​🔴​

スヴェン・フリュクレフ
・WIZ
『懐かしくて、甘酸っぱい味』とやらを、知りたい。
レモンパイとやらが、良さそうだが……。
(パラパラとレシピ本を眺めながら)
……調理自体、初の試みだ。
まあ、レシピ通りに作れば問題あるまい。
“アレンジは上級者になってから”と書かれていることだしな。
(目当てのページを広げ、調理に取り掛かる)

ああ、そうだ。
出来上がったものの試食を馨子にお願いしたい。
『懐かしくて甘酸っぱい味』かどうか。
それと、ちゃんと食べられるものかと。
……食べてみたが、私はどうにも味覚が鈍い。

失敗作なら私の腹の中へ収めよう。
大丈夫そうなら、シエリスタとリリシアに差し入れとして渡す。
きっとこの味は、あの二人に似合う気がする。



●懐かしくて甘酸っぱくて
「……、……」
 レシピ本をパラパラと眺めているのはスヴェン・フリュクレフ(伽藍・f02900)。彼は黒ヤギの口にした『懐かしくて、甘酸っぱい味』とやらが気になっていた。自身の手紙を食んで黒ヤギが評したそれは、どんな味なのだろうか。
「レモンパイとやらが良さそうだが……料理自体、初の試みだ」
 本の最初の方にある初心者向けのガイドに『アレンジは上級者になってから』と書かれていたのを思い出して。
「まあ、レシピ通りに作れば問題あるまい」
 目当てのページを広げ、まずは材料を調理台へと集めにかかった。
 パイ生地を一から作るのは初心者には敷居が高い。冷凍されたパイシートを見つけたズヴェンは、それを解凍してパイ皿へ広げる。レシピの指示通りに重石を乗せてオーブンに入れている間に、レモンカードを作る。卵がうまく割れずに殻が混入したが、きちんと取り除けば問題ないだろう。
「ゆ、せん……?」
 首を傾げながら基本の調理法を記した本をめくり、なんとか湯煎にこぎつける。とろみがついてくるに従って、レモンの爽やかな香りと砂糖の甘い香りが漂い始めた。
「メレンゲ……? 卵黄と卵白を分ける……?」
 卵を上手く割れなかったズヴェンには、卵の殻を使って卵黄と卵白を分けるのは至難に思えた。メレンゲなしのレシピも派生的に載っていたのでそちらにするかと思った時、学園の調理室を使用したことがあるという猟兵が卵の黄身と白身を簡単に分ける道具を教えてくれた。それを使うことで卵白を確保したズヴェンは、泡立て器とボウルを手に卵白と砂糖とレモン汁を混ぜ始める。
「ツノが立つくらい……ツノ?」
 手元の卵白はまだ半透明でサラサラしていて、とても本の写真のように真っ白になるとは思えない。首を傾げながらも、泡立てる、泡立てる、泡立て続ける。
「これがツノ、か」
 ようやくピンと立ったツノが出来て、達成感を感じて――ちらりと見たレシピの端に『ハンドミキサーを使うと楽に手早く出来ます』と書かれていたのを見なかったことにする。ハンドミキサーとやらを探すのにも使いこなすにも時間がかかったやもしれぬ。出来上がったのだから、これでいいのだ。
 冷ましたパイ生地にレモンカードを入れて平にし、その上にメレンゲを乗せてオーブンへ。
「上手く出来るだろうか」
 ついじっと、オーブンの中を見つめてしまった。

 十数分ののち、出来上がったそれはメレンゲが色づき、レモンの香りと生地の香ばしい香りがする代物になっていた。だが、匂いと味とは別だ。ズヴェンは包丁でレモンパイを切り分ける。なんとなく、他の調理器具よりも包丁のほうが手に馴染む気がした。
「……?」
 ぱくり。フォークで一口食べてみたが、自分には判断ができない。目的の味になっているかどうか以前に、料理として成立しているものなのか、それすらも判断できない。
「馨子、試食を頼みたい」
 ズヴェンは調理室を訪れていた馨子に声をかけ、自身の調理台へと導く。
「これは……レモンパイでございますか?」
「ああ。『懐かしくて甘酸っぱい味』かどうか。それとちゃんと食べられるものかどうかを知りたい」
 真摯に告げるズヴェンは、困ったように表情を動かして。
「……食べてみたが、私はどうにも味覚が鈍い」
「それでは、ご相伴に預かりますね」
 初めて作ったお菓子にはどんな審判が下されるだろうか。手で口元を隠して上品にレモンパイを食べる彼女の様子を、ズヴェンは見守る。
「……甘すぎず、かといって酸っぱすぎず……この辺は好みに左右されるかと思いますが、この甘酸っぱさとパイ生地が合わさって醸し出す味に、懐かしさを感じます。おいしゅうこざいますよ」
「そうか」
「この甘酸っぱさに、初恋を重ねる方もいらっしゃるでしょうね」
 彼女が付け加えた言葉の意味はなんとなくしかわからないが、ちゃんと食べられるものになっていると知ってズヴェンはほっと息をついた。そしてふと思いついたのは。
「シエリスタとリリシアには会えるだろうか?」
「声はかけておきましたので、じきにみえると思いますよ」
「そうか。きっとこの味は、あのふたりに似合う気がする」
 告げて微かに口元を動かしたその時、調理室の扉をノックする音が響いた。

成功 🔵​🔵​🔴​

深護・刹那
ではでは、不肖、深護・刹那、参ります♪

えぇ、お菓子作りでも参りますとも。
えぇ、お菓子…作り…(お菓子作りはあまり得意ではないらしい)

ここはいっそ開き直って、皆さんのお腹を満たす軽食を作るべきなのでは!?
それならわたくし自信ありますし!
というわけで、わたくしはフレンチトースト作りますわ。
迷宮攻略で疲れた人も、お菓子作りで集中してひと息いれたい人も
気軽に食べてもらえると思いますので。

んー、卵をどこまで染み込ませるか…ここが大切なところ。
今回はたっぷり染み込ませて、柔らかフレンチにしますわね。

さぁ、出来ましたわ。
お腹空いた人いらっしゃい。


シュシュ・シュエット
魔法学園さんの調理室……やっぱり、まほう的なまかふしぎな調理道具とかご用意されているのでしょうかっ!
……あっ、で、でも、普通にお料理をしようかと思います。
まごころ込めて、がんばりますっ。

今日はふわふわシフォンケーキをお作りします。
ボウルに入れた卵黄さんをまぜまぜしたり、ハンドミキサーできれいなメレンゲさんをお作りしたりっ。
思わずお料理のうたも口ずさんじゃったりして、焼きあげたら型ごとしっかりと冷まして出来あがりですっ!
紅茶もご用意したりと、皆さんと一緒にお茶会したいですっ。

そういえばリッちゃんさん……ええと、リリシアさんもお菓子を作られるのでしょうか?
時期も時期ですし、ちょっと気になりますね。



●甘く、甘く、美味しく
(「ではでは、不肖、深護・刹那、参ります♪」)
 調理室を見て回り、備品や材料を把握していく深護・刹那(花誘う蝶・f03199)。
(「えぇ、お菓子作りでも参りますとも。えぇ、お菓子……作り……」)
 レシピ本の棚には、時期のせいなのか、お菓子作りの本が手に取りやすいところに並んでいて。一度は自分もお菓子を作ろうと思った刹那だったが……実のところ、お菓子作りはあまり得意ではない。
「う~~~ん……」
 本棚の前でしばし唸ったのち、辿り着いた結論は。
(「ここはいっそ開き直って、皆さんのお腹を満たす軽食を作るべきなのでは!? それならわたくし自信ありますし!」)
 開き直った刹那は、バゲッドや卵、ミルクの確保に動く。彼女が作ろうと決めたのはフレンチトースト。迷宮攻略で疲れた人にも、お菓子作りで集中してひと息いれたい人にも、気軽に食べてもらいたいと思ったからだ。

「わぁ……」
 わくわくした様子で調理室の備品を見つめるシュシュ・シュエット(ガラスの靴・f02357)。
(「魔法学園さんの調理室……やっぱり、まほう的なまかふしぎな調理道具とかご用意されているのでしょうかっ!」)
 確かにそういったものもあるだろう。けれどもそれを初見で使いこなせるかは怪しい。
(「……あっ、で、でも、今回は普通にお料理をしましょう」)
 いつか不思議な調理器具の実演を見てみたいなんて思いつつ、シュシュは調理器具と材料を用意して調理台の前に立った。
(「まごころ込めて、がんばりますっ」)
 器用に卵を割り、卵黄と卵白を分けて。卵黄と砂糖、そして順に様々な材料を加えて分離しないように混ぜるシュシュ。
 その時、調理室の扉がノックされて。
「転校生の皆さん、お声掛けありがとうございます」
 姿を見せたのは、シエリスタとリリシアだった。

 今回の迷宮での冒険を、既に調理を終えた猟兵達に聞いているシエリスタ。リリシアはというと、調理室に満ちる甘い香りと作業中の猟兵達に視線を向けていた。それに気づいたシュシュは、ハンドミキサーで卵白を泡立てながらそっと彼女に近づく。
「リッちゃんさん……ええと、リリシアさんはお菓子を作られないのですか?」
「えっ……」
 ハンドミキサーの音でシュシュの問いは他の者達には聞こえない。突然の問いに驚いた様子のリリシアだったが、苦笑しながら口を開いた。
「この時期にお菓子をあげるのは、もう恒例になっちゃってて、トクベツ感なんて何もないから」
 シュシュは別に誰かにあげるお菓子とは言っていないが、もしかしたら時期的に色々な友人知人に似たような問いを投げかけられたのかもしれない。リリシアの答えが想定している相手は、シュシュにもわかった。だって苦笑した彼女が向けた視線の先には、彼がいたのだから。
「じゃあ、わたしと一緒に作りましょうっ」
「えっ……」
「混ぜるの、手伝ってください」
 半ば強引にリリシアを調理台へと連れて行ったシュシュ。リリシアといえば最初は戸惑ったようだったが、気を悪くした様子はなく。メレンゲを潰さぬよう慣れた手付きでヘラを操っていく。シュシュはその横で、お料理の歌を口ずさんだ。次第にリリシアの表情が柔らかくなっていく。
「手際が良いですね!」
 バゲッドを卵液に浸している間にこちらの調理台へと寄ってきた刹那が、リリシアの手付きを見て感心したように息をつく。お菓子作りは苦手だが料理には明るければ、手際の良さはわかるというもの。
「小さい時は頻繁に作っていたから……」
 照れた様子で告げるリリシア。彼女からボウルを受け取り、シュシュは生地を型へと流し入れる。
 それをオーブンに入れる段階で、刹那は自分の調理台へと戻り、フライパンを温め始めた。バターを落とすと良い香りが室内に広がっていく。
 卵液をどこまで染み込ませるかによって、フレンチトーストは味も食感も変わってくる。今回はたっぷり染み込ませた柔らかフレンチを目指してバゲッドをフライパンへ。
 ジュー……。いい音といい香りに、室内の人々の視線が集まっているのがわかる。
「たくさん用意しましたから、出来上がったら皆さんもどうぞ」
 表面はカリカリに、中はふわふわに。焼き具合をよーく見て、手際よく焼いてゆく刹那。全てを焼き上げる頃には、シュシュのシフォンケーキも焼き上がっていた。
「紅茶も淹れて、皆さんとお茶会したいですっ」
「いいですわね。さあ、こちらも出来ましたわ。お腹空いた人、いらっしゃい」
 シュシュと刹那の呼びかけに、他の猟兵たちも自分たちの作ったお菓子を手に集まってきた。
 生クリームを添えたふわふわのシフォンケーキに、カリふわのフレンチトースト。味も好評で、シュシュと刹那も嬉しくなる。
(「お似合いだと思うのですけれど」)
 シュシュが視線を向けたのは、レモンパイを口にしているリリシアとシエリスタ。シエリスタが何も断らず、当然のようにリリシアの横に座ったのを、シュシュはしっかりと見ていた。

 このふたりが今後どうなるのかはわからない。
 けれども今、こうして手作りお菓子を囲んでゆっくりとお茶会が出来るのは、猟兵たちの活躍があったからに他ならないのだ。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​



最終結果:成功

完成日:2019年02月21日


挿絵イラスト