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🍰が♨に🏊して💦

作者：イシダキシモト

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　美容に良いとされる効能がたっぷり凝縮された露天風呂。
　地元の源泉から引いているというそれは、リピーターが多く、旅行誌にも何度か載っている。
　冬の書き入れ時は少し過ぎていたが、それでも観光客で賑わって、
「クリスマスうううううう、おのれクリスマスうううううううううう！！！」
　賑わって、
「クリスマスうううううう、おのれクリスマスうううううううううう！！！」
　賑わっていなかった。
　温泉は売れ残ったクリスマスのケーキ怪人に占領され、溶け出したクリームでべっちょんべっちょんだ。
「クリスマスうううううう、おのれクリスマスうううううううううう！！！」
　しかし彼らも必死なのである。
　クリスマスが終わって早一ヶ月。既に売れ残りなど通り越して廃棄処分。いい加減、賞味期限も限界だろう。
「クリスマスうううううう、おのれクリスマスうううううううううう！！！」
　集団戦の敵扱いであるため、ここらで活躍しておかないと仲間の中には、下手すれば八月あたりに出現しなきゃいけないやつもいるのである。
「クリスマスうううううう、おのれクリスマスうううううううううう！！！」
　少しでも人目につこうと、観光客で賑わう温泉街に、
「クリスマスうううううう、おのれクリスマスうううううううううう！！！」
　もういいや。はよたおそ。

「温泉、楽しみにしておりましたの……」
　石津・くろえが大きな体をしゅんとさせている。
「せっかくの温泉が、ケーキ怪人のせいでべっちゃべっちゃですの。白くてベットベトですのよ？」
　いいからその表現やめようか。アンタが言うとなんかエロいから。
「はて……？　ともかくも、温泉を綺麗にしなければいけませんの。オブリビオンがケーキ怪人だけとは限りませんが、湯船に入れるようにしませんと、せっかくの熱燗が……はっ、煩悩煩悩」
　ぱたぱたと眼の前で何かを掻き消すように手を振るくろえ。
「ともあれ、まずは目に見えるところから綺麗にいたしましょう。ケーキ怪人、倒してくださいまし？」

第1章 集団戦 『売れ残ったクリスマスのケーキ怪人』

POW   :    恨みのローソク 【ケーキの飾りのロウソク 】が命中した対象を燃やす。放たれた【赤い】炎は、延焼分も含め自身が任意に消去可能。 SPD   :    ふかふかボディ 自身の肉体を【スポンジケーキ 】に変え、レベルmまで伸びる強い伸縮性と、任意の速度で戻る弾力性を付与する。 WIZ   :    生クリームブラスト 【両掌 】から【生クリーム】を放ち、【ベトベト感】により対象の動きを一時的に封じる。 👑11 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

 硫黄の匂いと、甘いクリームの香り。
 このふたつが入り混じり、えも言われぬスメルを充満させている。
 見渡す限り湯船は白い。その真ん中で仁王立ちしながら怨嗟を撒き散らしているケーキ怪人から、だばだばどろどろとクリームが溶け出しているからだ。
 柔らかいクリームが妨げになることはないが、湯に足が浸かった状態で戦うのは、動きが鈍ってしまうだろう。
 何より、露天で濡れたままでいるのは、結構寒かった。


「クリスマスうううううう、おのれクリスマスうううううううううう！！！」
　壊れたラジカセのように同じことを叫び続けるケーキ怪人。書く方もコピペで良いのでとっても楽だ。
「怪人はクリームが溶けたら苦しかったりしないのかな？」
　クリームが溶けてふんだんに水を吸った怪人の見た目に、待宵・アルメは疑問を持った。
　まあイラストの時点で、子供何人か救った後のパン屋勤務ヒーローにみたいになってるし、大丈夫なんじゃないのかな。
　アルメの放ったコインがケーキ怪人の頭の一部を貫いた。舞うスポンジ。飛び散るいちご。ぼちょんぼちょんと湯船に沈んでいく。
　腕を伸ばし、硬貨を弾いたポーズで寒風を浴びるアルメ。
　濡れた衣服で戦って体を冷やしてはいかぬと、いつものレインコートスタイルの下は海パン一枚に収めている。
　なかなか、季節を二つは先取りしたファッションだ。時代の最先端を追い越している。脱いでたら濡れる前から冷えるんじゃないかとか言ったらいけないぞ。
　くしゃみをひとつ。身震いをして、クリームまみれになるのも構わず湯船に沈み込んだ。

成功 🔵​🔵​🔴​

「温泉に何という事をするのじゃ！」
　稲宮・桐葉が両手で頭を掻き毟りながら憤る。
　怪人の気持ちもわからなくはない。
　暖かくなってまだ残っているクリスマスケーキなど、ただの不摂生だ。
　とにかく前に前に出て行こうという姿勢は、若手芸人っぽくてなかなかグッドとも言える。
　しかし、しかしだ。そこはやはりオブリビオン。他人様に迷惑をかける行為に及んだところがどうにもいただけない。
「それより臭いがっ！」
　ただでさえ、硫黄の匂いは好き嫌いが分かれるものだ。温泉に初めて行った際は、誰しも一度は顔をしかめるものだろう。
　それが砂糖たっぷり生クリームの甘い香りとコラボレーションである。
「このままじゃと、温泉もケーキも嫌いになりそうじゃ……！」
　狐型ロボットの背に隠れながら、鼻を摘んでいーっと顔をしかめてみせる。
　その二つが嫌いになるなど人生において多大な損失だ。それだけは避けねばなるまいと、桐葉は腰に差していた刀を抜く。
「ほれ、汚れたくなければしっかり斬るのじゃぞ！」
　武器の悲鳴を黙殺しながら、桐葉は飛んできた生クリームに向けて思い切り振り抜いた。

成功 🔵​🔵​🔴​

「クリスマスうううううう、おのれクリスマスうううううううううう！！！」
　穴を開けられ、いちごが飛び散り、無残に切り裂かれても、未だなおケーキ怪人の怨みは顕在だ。
　寧ろ攻撃されてより凶暴になったのか、元気にクリームを生み出しては撒き散らしている。
「ケーキ達がちょっと可哀想な気もしますが、あまりにも時間が経ちすぎてしまって、もう食べてあげることも出来ませんから」
　佐藤・和鏡子の言う通り、過ぎ去った賞味期限は帰ってこない。悲しいが、老いとは残酷なものなのである。
　生クリーム攻撃には生クリーム攻撃だ。
　怪人から放たれるふわふわべとべとした塊を解析し、和鏡子もまた大量の生クリームをぶつけて威力を殺す。つまり二倍の生クリームが飛び散り、より一層温泉なのか変なテーマのデコレーションケーキなのかわからなくなるが、問題ない。ダメージの相殺には成功している。
　お湯もクリームも気にはならない。汚れることや濡れることを想定された普段着だ。そこに忌避感はなかった。傍から見てるとマニアック感は凄かったが。

成功 🔵​🔵​🔴​

　湯に溶けたクリームの量が増え、段々お湯の透明度に曇りが見えてきている。
　篁・綾がそれをひと掬いすると、どろりとした感触を残しながら、するり手から零れ落ちていった。
「……なんだか摩り下ろした山芋みたいになっているわね」
　これでは生クリーム特有のふわっとした食感は楽しめまい。湯に溶けたものを食べようとは思えないが。
「クリスマスうううううう、おのれクリスマスうううううううううう！！！」
　書き手の横着により同じ怨嗟を撒き散らす怪人。それに向けて綾は刀を抜き、水面を蹴った。
　怪人がまだ足りないとばかりに生クリームを投げつけてくるが、宙を舞う綾には当たらない。
　着地、すれ違い様。交差した瞬間につけたふたつの剣筋が、まるで血飛沫のように桜の花びらを舞い散らせた。
　鼻を擽る桜の香り。だが硫黄に生クリームのそれが充満しているこの場では、綾も眉間に皺を寄せるばかりだ。
「……掃除をしたほうが良さそうね、色んな意味で」
　肩についたクリームを指で掬い、じっと見つめる。
　生産はひと月前だと言うが、甘い物の誘惑は如何にも耐え難い。
　さてどうしたものか。

成功 🔵​🔵​🔴​

　生クリームの勢いが弱まってきたように感じる。
　ケーキ怪人の本体たるスポンジも、切られ叩かれ凹まされ、買ってきた帰りに転んで一回落としたみたいになっていた。
「クリスマスうううううう、おのれクリスマスうううううううううう……！！！」
　心なしか、怨み声も覇気がない。
　撒き散らされたクリームを掃除してしまいたいが、ともかく元凶を先に潰してしまおう。
「そーゆーことで、ケーキに入刀しに来ましたよ」
　刀を正眼に構える秋津洲・瑞穂。
　それに狙いを定め、ケーキ怪人から炎が放たれるが、命中したのは瑞穂の残した影だけだ。本物は既に、身を低くして怪人へと迫っている。
　低い姿勢からの高速移動。怪人からは、瞬間移動をして目前に現れたようにも見えただろう。
「新当流太刀術、秋津洲瑞穂。参ります」
　瞬く双閃。切り裂かれたスポンジが宙を舞い、ぼとぼとと音を立てて湯船に沈んでいく。
　充満するなんとも言えぬ匂い。刀の峰を肩に担ぎながら、瑞穂は深い溜め息を吐いた。
「まともなお風呂に入りたいなぁ」

成功 🔵​🔵​🔴​

　飛んできた生クリームを、木目・一葉は衝撃波を放つことで迎撃する。なんというか、アレでべっとべとになるのだけは絶対に嫌だったのだ。うん、気持ちはわかるけどユベコの解説欄に寿命を削るとかあるんだが、いいの？　そこまで嫌だったの？
　とにかく一葉は憤っていた。
　温泉は好きだ。温泉を汚すなんて許せない。だがそれ以上に、どうしても言わないといけない衝動が湧き上がっていた。
「――なぜケーキ怪人なんだ？」
　なんでケーキ怪人が温泉にダイブしてしまったのか。賞味期限がいい加減ヤバイなら、どうして型崩れしそうな場所を選んだのか。コーヒー牛乳を販売している冷蔵庫の横にでもこっそり並んでおけば食べて貰えたんじゃないのか。
「そもそも……ええい、突っこんでたらキリがないわ！！」
　迫りくる怪人の巨体を避け、すれ違いざまにフィンガースナップをひとつ。
　背後で何かを貫いた音が何度も、何度も。
　振り向かず、一葉は顎に手を当てて眉を顰めた。
「む、これだとケーキの串刺しになってしまうな……」

成功 🔵​🔵​🔴​

＼あまーい！　ですわ！／
　キャスリーン・ジョイスが頬についた生クリームを指で掬い舐め、ちょっと昔の一発ギャグみたいなことを言った。コンビ活動してるの、もう何年も見てない気がする。
　口に含むだけで溶けてしまうような食感。露骨なほどではなく、かと言って物足りなさもない絶妙な糖度。工場量産品では為しえないであろうそれに、キャスリーンの感想は、
「……匂いがひどすぎますわ！？」
　うん。臭いんだよな。硫黄とクリームの匂いが混ざりすぎてて。
「何ですのこれ！　べちゃべちゃとは聞いていましたけれど、こんな胸焼けする匂いとは思っていませんでしたわ！！？」
　匂いが酷いと、味もよくわからなくなるよね。
「おいでませガジェット！　この空気を換える物に！！　……なんですのこれ？　消臭剤？　どう使いますのこれ？？」
　トイレとかで使うアレを片手に首を傾げるお嬢様。使い方がわからないのでぽいっちょ。
「……こほん。こうなったら蜂の巣にして差し上げますわ！」

成功 🔵​🔵​🔴​

「一か月も時間が経ったケーキ、処分するしかないわね」
　エルーゼ・フーシェンの言葉はケーキ怪人にとって非常に残酷なものかもしれないが、リアルである。
　賞味期限が短いのだ。特にケーキというものは、一部の愛好家を除けば記念日以外にそうそう口にするものでもない。
　売れ残った日には、廃棄される未来が濃厚なのである。
　そう思えば、バレンタインの何と羨ましいことか。チョコレートは保存が効くし、日常的な愛好家も多いのだ。
「クリスマスうううううう、おのれクリスマスうううううううううう！！！」
　書き手の横着によって結局クリスマスを恨んでいるが、ケーキ怪人の体力はもう風前の灯だ。
　蝋燭の火も陰る中、エルーゼが距離を詰める。
　双剣による横方向の二連斬。深い太刀筋にスポンジが散る。
　そのまま体を回転させ、斬撃の勢いを殺さぬまま両手の剣を手放し、背負っていた大得物を抜き放つ。
　重量級のアックスモード。勢いのまま叩きつけたそれが、スポンジケーキを大きく削り取っていた。

成功 🔵​🔵​🔴​

第2章 ボス戦 『怪人アルパカマッスル』

POW   :    ポージング 自身の【肉体美の誇示】の為に敢えて不利な行動をすると、身体能力が増大する。 SPD   :    鋼の筋肉 全身を【力ませて筋肉を鋼の如き硬度】に変える。あらゆる攻撃に対しほぼ無敵になるが、自身は全く動けない。 WIZ   :    つぶらな瞳 【つぶらな瞳で見つめること】により、レベルの二乗mまでの視認している対象を、【瞳から放たれるビーム】で攻撃する。 👑11 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

　ケーキ怪人は倒れた。
　どっぼどぼのスポンジを撒き散らし、あたりを生クリームだらけにしながら消えていった。
　お前せめてこれ掃除していけよと周囲の惨状に頭を抱える中、サウナ室から笑い声が聞こえてきた。
「湯船を取り戻しただけで勝ったつもりとは片腹痛い！　私の占拠しているこのサウナ室を取り戻さねば、勝利とは言えんぞ！！」
　むわっとする部屋からこれまたむわっとする肉体をこれ見よがしに見せつけて登場したのは怪人アルパカマッスルだ。
「取り戻したければサウナ室に来い！　私と勝負をしようじゃないか！！」
　そう言って。アルパカマッスルはサウナ室へと戻っていく。
「皆様、大変ですの！　あのマッスルな方を倒してサウナ室を取り戻しませんと！」
　くろえが慌ててイエーガー達に声を掛ける。
　えー。もうよくない？　お風呂取り戻したし。
「えーっと、えっと、ほら、オブリビオンですし！　倒さないと世界がアレでアレな感じですし！」
　しょうがないなあ。

※サウナ室で怪人アルパカマッスルと戦いましょう。ちょっと手狭でむわっとしているぞ。


「サウナ室なんて壁に目張りがしてあるだけだから、再建も簡単よ。部屋ごと焼いちゃったらよくない？」
　秋津洲・瑞穂の無情な言葉に、サウナ室のドアが勢いよく開いてアルパカ野郎が抗議した。
「おいいいいいい！？　そこは勝負する流れだろう！　いいか、焼くなよ！？　絶対焼くなよ！？」
　それだけ言って、肩で息をしながらサウナ室に戻るアルパカマン。
「でも無手の相手に太刀術はちょっと気が引ける。どーしたものかなコレ」
　悩ましげに頬をかきながら、サウナ室へと入っていく瑞穂。むわっとした空気が一気に襲い掛かる。
　熱には熱だ。炎を召喚し、室内の温度をどんどん高めていく。
「焼くなって言っただろおおおおおおおおおおおお！？」
「っていうか、こっちまで熱いわっ！　あほーっ！」
　なんだこれ。
　水分は失われ、喉は渇き、汗が干上がっていく。
「ぁは、あはははは、熱で頭がぼーっとしてきたー」
　瑞穂の目がラリっていた。脱水症状は怖い。少女をバーサーカーに変えてしまう。
「もうどうでもいいや、斬っちゃえ」

大成功 🔵​🔵​🔵​

　サウナルームを前にして、木目・一葉の頭の中はクエスチョンマークでいっぱいだ。
　なんで頭がアルパカなの？　アルパカである必要性はなんなの？　なんで目からビームを出すの？　やっぱりアルパカじゃないの？　いやでもビーム羨ましい。すごくいい。
「ふざけた外見の癖にッ！　僕だってやりたい！！」
　0.5握りしめて申請すればその日の内に出来ると思う。
　しかしあの筋肉に触れるのは嫌だ。
　狭い室内で汗に塗れたくもない。
　そこで一葉が取った行動は、非常に残酷なものだった。
「ごめん、僕のトモダチ。代わりに頼むよ……」
　サウナ室のドアの外から、影を送り込んでアルパカ怪人と戦わせる。人間は自分が一番大切だということだ。
　そのあまりのアレに、アルパカが抗議した。
「オイ！　あんまりじゃないか！　ちゃんと私と戦うんだ！　おい開けろ！」
「もーーーー！　くるなくるなくるなぁー！」
　背中で必死にドアを抑えつける。中からどんどんと叩いているアルパカ。
「ああくそう、また刺しやがったこの影！！」

大成功 🔵​🔵​🔵​

　アルパカが一度ドアを空けただけで、むわっとした空気が漏れ出した。
　あの密室に、顔面アルパカのマッチョと相対する。想像するだけで、篁・綾の頬が自然と引きつった。
「……入りたくないわね。あまり」
　サウナ室に入れば、結構な至近距離であの筋肉男を見ることになる。密着してしまう恐れすらあるだろう。たぶん、普通は人生でよっぽどの罪を犯さないと入れられない地獄だ。
「というかケーキはどこに行ったのかしら」
　それはアルパカを倒している内に掃除しておくので、まずはサウナ室を取り戻そうね。
　溜息をひとつ。そうしてから、息を潜めてサウナ室へと近づいていく。
　まだドアを内側から叩いているアルパカ。抑えている一葉に目配せ。そのドアをそっと開けて、隙間から斬撃を飛ばした。
「痛い！　おのれ、貴様らもうちょっとちゃんと入ってきて勝負しろ！　痛い！　こら、隙間から狙い撃ちするな！」
　アルパカはビームを出して対抗すると、狙い撃ちされないよう部屋の奥へとひっこんでいった。
「……湿気が多い場所は好きじゃないの」

成功 🔵​🔵​🔴​

　サウナルームというのは、そんなに広いわけではない。
　無論、十人程度は余裕で入れる程の空間あ用意されているが、それ以上となると手狭に感じてしまう。
　だが、護堂・結城を入れて四人なら、問題はないはずだ。ないはず、だった。
　最後の一人が三メートルを超える巨人でなければ。
　炎の竜巻で出来た体を持つ巨人。天井で頭がつっかえ、居心地悪そうに中腰でいるそれが、室内空間の大半を締めている。
　もう少しわかりやすく言う。
　室内の大半が炎の竜巻である。それはもう消防署も匙投げるやつだ。
「だから、焼くなって、うわっちぃ！！　言ってんだろおおおおおおお！！？」
　燃え盛るサウナルーム。端的に言ってダイレクト自殺。どこもかしこも地獄絵図。炎は木材に容易く燃え移り、アルパカを倒す前にサウナ室が崩れそうだ。
　わかってるよね？　救助対象＝サウナ室、倒す敵＝アルパカだよ？　救助対象のＨＰがとっくに真っ赤っ赤だよ？
「こんなとこに立てこもったお前が悪いわ！！」
「なんで焼く奴だけ中に入ってくるんだよ！？」

成功 🔵​🔵​🔴​

　サウナ室が燃えている。なんでだかわからんが中から燃えている。
　おかしい。サウナというのは確かに暑い部屋で健康的に汗をかく為のものだが、こういうヘルファイアー的なものではなかったと思う。
「……考えてもしかたないので」
　エルーゼ・フーシェンはやや呆然とした面持ちで部屋の様子を伺っていたが、意を決し、二刀を抜いて室内へと入っていった。
「おお、やった！　刀持った奴だ！　君、焼かない奴だろう！　いや油断できん。最初の少女も刀持ってたが焼く奴だった！！」
　完全に警戒の色を示すアルパカ。警戒も何も入ってくる人は全員アルパカの敵なのだが。
　最早何と戦っているのかわからなくなっているアルパカに向け、エルーゼは遠慮なく剣を振るった。
　荒塩が塗り込まれたボディに刃を通すのは難しいが、持ち前の膂力でもって切り伏せる。
「なんという痛み！　だがいいぞ！　こういう勝負を求めていたのだ！！」
　耳は貸さない。相手に手番も与えない。
　連撃。オイルと汗でてかてかのボディを、左に携えた一刀が撫で裂いた。

成功 🔵​🔵​🔴​

　熱い。暑いを通り越して熱い。
　最早ここはサウナではない。いや、見た目はサウナかもしれないが、既に熱気よりも火炎が勝っているこの状況。ただの火事現場だった。
　だがアルパカマッスルは生きている。最早風前の灯火となった、ごめん完全な業火に包まれたサウナルームを占領しているというパーソナリティを守るために、ここに君臨し続けているのだ。
　そのマッチョに、佐藤・和鏡子は召喚した鍋焼きうどんを投げつける。キムチ鍋を投げつける。おでんを投げつける。
「熱い！　これ以上ないくらい熱かったのにそれでも熱い！　うおおおおお、後でスタッフが、主に私が美味しく頂きましたあああああああ！！」
　体に貼り付いた麺を、具材を、おでんを口に入れていくアルパカ。ついに体内まで熱を帯びるアルパカ。
　既に生物が居ていい環境ではないサウナ。しかしこうなればもう意地の戦いだ。
「向こうもこちらも水着で五分五分なので根比べです」
　十一歳の少女とアルパカ顔のマッチョが水着着て燃え盛る室内で向き合ってる光景ヤバイ。

苦戦 🔵​🔴​🔴​

＼あつーいですわっ！？／
　キャスリーン・ジョイスの心からの悲鳴が響いた。
「ホントに暑いですわ！？　しかも暑苦しいですわ！！」
　マッチョが居る。炎が渦巻いている。それでも人はサウナ室を取り戻すために火中に身を投げ出すのだ。すごいぞイエーガー（棒読み）。
　キャスリーンはとりあえずこの場を打開できるガジェットを呼び出そうとする。
「今回は予想通りのものが出るはずですわ！」
　消防車でも出てくるんだろうかと思いきや。彼女の手に握られていたのはおでこに貼るような冷却ジェルシートだった。
　どう使うべきかとシートを見つめるキャスリーン。とりあえずおでこに貼ってみたところ、そのひんやり感にひとつアイデアが浮かんだ。
「おーっほっほっほっ！　その熱い身体を冷やして差し上げますわ！！」
　そう、冷やしてしまえばいいのだ。
　冷やしてしまえば、アルパカの熱気も収まる。多分炎も弱まる。
　キャスリーンは冷凍光線銃を大量に生み出すと、アルパカに向けて乱射を開始した。
「我ながら完璧な選択ですわね！」

成功 🔵​🔵​🔴​

「冷たかったけど、冷凍光線銃にはちょっと期待したんだ。うん、わかってたさ。この火、ユベコだもんなあ……」
　呆然と呟くアルパカの半身を凍らせていたそれが、熱気によって溶けていく。舞い狂う狐火は、埋め尽くす炎嵐の巨人は、残念なことにいまだ顕在だ。
「ジビエの気配っ！」
　頭にもっそり生クリームを載せながら、待宵・アルメが湯船からざばっと顔を出した。アルパカって美味いんだろうか。
「ムキムキのアルパカが？　サウナを占拠？　僕が湯船に沈んでる間にいったい何が……？」
　アルメの頭にはハテナがいっぱいだ。無理もない。ケーキ倒したらアルパカ出てくるとか、普通は想像しない。顔を上げたらサウナ室がばんばん燃えてるとかも普通は想像しない。
　アルメはもう一度お湯をだばーっと被る。火事現場に突入する前にバケツの水被るアレだ。今は寒いが中は灼熱。きっと直ぐに熱くなるだろう。
「ドア閉める役の人、何発か殴ったら出てくるから少ししたら開けてね？　振りじゃないよ？」
　出てくるまでにドアがあるかどうかだ。

成功 🔵​🔵​🔴​

「あーつーいー。火がー。火がー」
　うわ言のように秋津洲・瑞穂が焦点の合わない目で呟いている。
　もうサウナの中の誰だってこんな感じだ。アルパカだって例外ではない。多分酸素欠乏かなんかだと思う。そろそろ煙もヤバイし。
「こんな冬服でいられっかー！」
　瑞穂がセーラー服を脱ぎ捨てると、中から水着が。可愛い女の子の脱衣シーンのはずなのに、火事現場だとありがたみがねえなあ。
「あーつーいー！」
「ちょ、危ない！　テキトーに刀を振り回すな！　せめて私にだけ向けろ私に！」
　もうアルパカの発言も意味不明だ。極限状況で変な連帯感生まれてないだろうな。
「もう何でもいいから終わらせるっ！　熱いしっ！」
「お前もうあんまり見えてないだろう！？　ただでさえ煙で見えないんだぞ！　その衝撃波飛ばすやつを無茶苦茶に撃つな！　壊れる！　サウナ室壊れるから！！！」
　瑞穂の衝撃波で煙が晴れる。壁に穴が空いてお外が晴れなのもよく分かる。
「町ごと切り刻んでくれるわぁぁぁぁ！」
「誰かこのバーサーカー止めてくれええええええええええ！！！」

成功 🔵​🔵​🔴​

第3章 日常 『温泉へゆこう』

POW   :    全力であびる SPD   :    いい具合に浴びる WIZ   :    賢くあびる 👑5 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

　かくして。
　アルパカマッスルは消えた！
　ついでにサウナルームも消し飛んだ！
「章が進んだということは成功ということですの」
　身も蓋もないくろえの言葉に振り向くと、いつの間にか温泉が綺麗になっている。
　あの大量の生クリームはどこへ行ったのか。
「こう、いい感じになんとかなりましたの」
　いい感じになんとかなったか。いい感じになんとかなったならそりゃあ良かった。
　さあ、後はひとっ風呂浴びて帰ろうか！！

※温泉に入れます。サウナには入れません。なくなったので。なくなったので！！




　かこん、と。どこかで鹿威しが鳴った。
　広い湯船。塀越しに見える雄大な山々。焼け焦げた跡地だけが残るサウナルーム。
　成分によるものか、少し濁ったお湯を手のひらに掬えば、硫黄の香りは一層強いものになる。
　この匂いには好き嫌いが分かれるものだ。しかし先程までの生クリームの甘いそれが混じりいる、ドギツイものと比べれば遥かに正常だった。
　溶け込んでいたはずの甘ったるいアレは、今や影も形も見受けられない。
「凄いわね、どうやったのかしら……」
　篁・綾をして、山芋を溶いたようだと思えた先程までとはまるで違う。自分達がサウナ室に集中している間に、お湯はちゃんと元に戻っていた。
　これが温泉宿のスタッフが為せる技か。プロの仕事とは素人の理解を超えるものであるらしい。
　しかし、であるならばこの浴場を楽しまぬ手はない。
「やっと温泉に入れる」
　エルーゼ・フーシェンの体を温めるそれは、サウナと火災で偉いことになっていた猛烈な熱気とは違い、芯から包み込むものだ。
　山間を眺めつつ、体のコリを解すようにひとつ伸びをしたエルーゼに、綾が盆に載せた熱燗を差し出している。
　小さな杯をくいと傾ければ、やや辛いそれが喉を熱くした。
　ほう、と一息。
　その飲み振りに、綾は何も言わず次を注ぐ。
　かこんとまた、どこかで鹿威しが鳴った。
　どこで、とは少し気になったが、まさか塀に身を乗り出して周囲を確認するようなはしたない真似が出来るはずもない。
　機会があれば、帰るまでに探してみよう。その程度にとどめ、今は景色と染み入るそれを楽しむのだ。
　びゅうと冷たい風が吹き、思わず湯船に肩まで身を沈めた。
　露天とはなんとも景色の良いことだが、この季節には寒気のそれと相成り、夢見心地であったものを容易く覚まさせてくる。
　もう少しだけ、もう少しだけ浸かっていこう。
　空を見上げれば雲ひとつ無く、名前を知らない鳥たちの小さな群れが、悠然と羽ばたいていた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

「あー…………」
　喉から声とも言えぬ音を出しながら、秋津洲・瑞穂はぷかぷかと湯船に浮かんでいる。
「いいおてんきねー」
　ゆらりゆらりと仰向けに、晴れ渡った空を眺めるとも言えずただ視線を向けながら。
「かなしいじけんもおわりましたー」
　うん。（サウナルームにとっては）悲しい事件だったね。
　瑞穂の記憶は曖昧だ。アルパカを倒すためにサウナ室に入ったまでは覚えているのだが、気づけば全てが終わっていたのである。
「何がどうなったやら」
　暴れきったバーサーカーがなんか言ってる。
　体が熱くて湯船に浸かる気にもなれない。たぶん熱中症だが、半身とは言え湯に当てていいのだろうか。
「うつ伏せになるのもいいかなー」
　くるりと体を反転させる瑞穂。無論、思い切り顔全体が湯の中だ。
　しばし清寂。どこかで鹿威し。その内、ぶくぶくぼこぼこと泡が漏れ出て。
「って、窒息するわっ」
　まだ熱気に脳がやられているらしい。この年齢で後遺症とか残りませんように。
「ところで、サウナ室どこ行ったの？」
　やかましいわ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

　お湯の流れる音、飛び行く鳥の鳴き声。
　露天の風呂場はけして無音ではないが、騒がしくもない。
　程よい静けさに包まれており、湯に入る者の心をより穏やかにしてくれる。
　嗚呼、また鹿威しがに水が貯まる。一定の間隔を空けてまたひとつ――かこん。
「……はっ！？」
　その音で稲宮・桐葉は目を開いた。
「……燃えるサウナに躊躇しておる間に片が付いてしまったようじゃな」
　そりゃあんな大惨事に突撃していくのは消防隊員でも躊躇する。
　過ぎたことは仕方がない。せっかくの湯治場だ。温泉で風呂を遠慮するなんて勿体無い選択肢を取らずとも良いだろう。
　生クリームに塗れた衣装はフロントでクリーニングに出し、自身についた汚れも落としてしまう。
　そして湯船で、ほっと一息。
「うむ、平和じゃ……クリーム汚染やサウナの火事があったなど嘘のようじゃ」
　正確にはクリーム汚染とアルパカによる占拠です。サウナの火事は人災です。コラテラルなアレとして脳内処理しておきましょう。おのれアルパカめ。

成功 🔵​🔵​🔴​

　湯船に身を浸しながら、お湯をひと掬い。
　両手の隙間から零れ落ちるそれを見つめながら、木目・一葉は首を傾げた。
「生クリームはどこにいったんだ？」
　あれほど溶け込んでいたのにと不思議に思いながら、寒気を感じて顎の先まで身を沈める。
　ケーキのことも気にかかったが、先程まで戦っていたマッチョのことを思い出す。
　火に焼かれ、ハメ技みたいなアレでふるぼっこにされていたアルパカのことを。
「案外あいつマトモだったな。一人くらい普通に戦ったほうがよかったのだろうか。気の毒なことをしたような……」
　アルパカを押さえ込みながらざっくんざっくん遠距離攻撃していたのはこいつです。
　そう言えば、アルパカの肉は美味らしい。食べたいと思って、そうそう食べられるものではないのだが。
「――ハ、僕は勿体ないことをしたのでは？」
　いやいや、可食部がなかったろうと思い直す。しかし、いつか食べてみたいものだ。まずは手に入れやすいものから。そう、甘いケーキでもひとつ。
「……あとでお店を探すか」

成功 🔵​🔵​🔴​

　焼け焦げた跡だけが残る不自然な空間。
　そこにキャスリーン・ジョイスは敬礼を向けた。
「……ところでなんでアルパカが居ましたの？」
　サウナ好きだったのかしら。
　そうとなれば、自分もちゃんと入っておきたいものだ、サウナ。
「おーっほっほっほっ！　おいでませ、ガジェット！」
　そんな時こそ便利ユベコ。出て来いサウナルーム。
「――なんですの、この大きな燃料缶みたいなものは」
　ドラム缶だった。どうして温泉で風呂桶が出てきたのか。
「仕方ありませんわ、大人しくお風呂に……お風呂ってどうやって入りますの？」
　きょろきょろと周囲の様子を伺うキャスリーン。
「えっ、裸に！？　公衆の面前でそんな破廉恥な！！　というか脱いだら誰が着付けて下さいますの！？」
「でしたら、わ・た・く・し・が」
　いつの間にか背後に近づいていたくろえ。小さく飛び上がったキャスリーンはずざざざざっと彼女から距離を取った。
「く、くろえさんはこちらに来ないで下さいます？　別な意味で危険な気配がしますわよ？？」

成功 🔵​🔵​🔴​

「サウナもろとも消し飛ばされそうになった気がするのですがっ！」
　待宵・アルメはところどころが煤で汚れている。やはり燃え盛る室内になど飛び込むものではない。
　倒壊した建物から這い出てくるなど、貴重ではあるが出来れば体験をしたくなかった。
「とりあえず汗と煤を落としたいね。だいぶふざけ……ゴホン。えっと、元気いっぱい戦ったから汚れちゃった。ゆっくり湯船に浸かって癒されるのも悪くないかな」
　体を清めたら、分身を呼び出して別々の効能を持った湯船に浸かってみる。こうしておくと、戻った際により湯治効果が出ていたりしないだろうか。
　しかし、とぐるり周囲を見渡した。
　オブリビオンが消滅したことで、一般の湯治客も戻ってきている。
　先程までよりも人は増えていたが、客のマナーが良く、程よい静けさは保たれたままだ。
　洗面器が宙を舞ったりしない。覗きを行って物理的な制裁を加えられる者もいない。
「もしかして僕の周りの人だけだろうか？」
　首を傾げるも、細かいことは考えないことにした。

成功 🔵​🔵​🔴​

　人も増え、静かな賑わいを取り戻しつつある温泉。
　佐藤・和鏡子は自分も湯船を楽しむ前に、倒したオブリビオン達に向けて手を合わせていた。
「今度は温泉を汚したりせずに入りに来てね」
　温泉は皆で楽しむものだ。占領して生クリームを撒いたり、サウナルームを更地にジョグレス進化させたりするものではない。後半はオブリビオンのせいかと言われれば極めて怪しいところだが。
「サウナも後で良い感じに修復されるのかしら？」
　気づかぬ内に生クリームを除去してみせたここのスタッフの手腕なら、それも可能かもしれない。
　シャワーを浴びて、備え付けの洗剤で身を清める。湯に入る時は、使用したタオルを畳んで頭の上に乗せていた。
　体全体に染み込んでいく心地良い温度、和鏡子もまた他に漏れず、ほう、と溜息を漏らしてしまう。
　見上げれば、少し日が傾き始めていた。
　こんな時間から風呂に入っている。その贅沢を噛み締めながら、自分達がこれを取り戻したのだという実感が湧いて、自然と笑みが零れるのだった。

成功 🔵​🔵​🔴​

最終結果：成功 完成日:2019年02月07日