蝶が誘う死の世界
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ひらり、ふらり、はらり、ひらり――。
その日、幽世は美しくも幻妖なる異変に見舞われた。
晴天も夜天も覆い隠すがごとく、空を舞うは無数の蝶。
淡く光る翅をひらひらと羽ばたかせる姿は美しく、見上げる妖怪たちの心を魅了する。
だが、その美しさは愚かなる者たちを誘い込むための罠。
蝶の群れが舞い散らす鱗粉には、妖怪さえ侵す毒があった。
そうと気付かぬ妖怪は、ひとり、またひとりと、覚めない眠りに落ちていく。
「ね、ねえ、やっぱりやめようよ、こんなこと……」
『煩い。貴様は黙って我に力を寄越せばいいのだ』
その惨劇をひとり眺めているのは、大きな藁人形を抱えた銀髪の少年。
少女と見紛うような華奢で可憐な容貌な、気弱な表情を浮かべている。
その周りを取り囲み、脅迫するかのように燃え盛るは、蒼き妖炎。
『幽世中の全ての命を、魂を我が手に――!!』
「うぅぅ……嫌だよぉ……」
妖怪『縊鬼』と骸魂『妖炎魔』。彼らこそがこの異変の元凶。
オブリビオンとしての衝動のままに猛る骸魂とは対照的に、それに取り込まれた少年妖怪は泣きべそをかくが――心身の自由を完全に奪われた彼に抵抗の余地は無かった。
ひらり、ふらり、はらり、ひらり――。
死蝶の世界と化した幽世に、美しき毒が広がっていく。
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「事件発生です。リムは猟兵に出撃を要請します」
グリモアベースに招かれた猟兵たちの前で、グリモア猟兵のリミティア・スカイクラッド(勿忘草の魔女・f08099)は淡々とした口調で語りだした。
「カクリヨファンタズムで大量発生した『蝶』により、幽世が『死蝶の世界』と化す事件を予知しました」
UDCアースに隣接する、妖怪たちの住まう異世界『幽世(カクリヨ)』。ここは地球の人々から忘れられてしまったモノが誘われる隠遁の地なのだが、地球と骸の海の狭間にあるという性質ゆえだろうか、頻繁にオブリビオンによる世界規模の異変が発生する。
今回はそれが『蝶』の大量発生という形で起こったのだが――無論、ただの蝶であれば世界の危機とまではならない。この蝶の鱗粉は、触れたり吸い続けたりすれば死の眠りをもたらす、危険な毒でできているのだ。
「幽世中を乱れ飛ぶ死蝶の大群は、淡く光る翅を持った美しいものです。その見た目に騙されて、近付いたり捕まえようとしたりする妖怪が絶えず――結果、鱗粉の毒にやられてしまう者が続出しています」
既に昏睡状態に陥った者もおり、このままでは死者が出るのも時間の問題だろう。一刻も早くこの事件を引き起こしたオブリビオンを倒し、死蝶を消し去らなくてはならない。
「事件の首謀者は炎の怨霊『妖炎魔』。この骸魂は繰々里という名の『縊鬼』の少年を取り込んで、幽世の妖怪たちの魂を収集しようと画策しています」
縊鬼とは人に取り憑いて首吊り自殺をさせるという恐ろしい妖怪だが、この繰々里という少年はひどく泣き虫で臆病な性格をしており、単独では悪意のある妖怪ではない。そこを骸魂に付け込まれて、いいように身体と能力を利用されてしまっているのだが。
「妖炎魔と繰々里さんは、幽世の片隅にある樹海を『迷宮化』させて拠点としているようです。まずはそこに向かってください」
無論、平坦な道中とはいかない。繰々里たちが発生させた死蝶の毒は猟兵たちにとっても有害であり、対策なしではミイラ取りがミイラになりかねない。毒に侵された妖怪たちの救助も、可能な限り行うべきだろう。
「加えて敵の拠点に近付けば、今度は蝶ではなく配下のオブリビオンが襲ってきます」
異変発生中の幽世では蝶だけでなく骸魂も大量発生しており、死蝶の毒にやられた妖怪を次々とオブリビオン化させている。倒せば元に戻せるのは不幸中の幸いだが、元凶の元へ辿り着くにはこれも大きな障害となるだろう。
「オブリビオン化した繰々里さんはまだ多少意識が残っていますが、骸魂の妖炎魔に逆らうことはできず、主導権は完全に握られているようです」
つまり元凶と対峙すれば戦いは不可避ということ。縊鬼の力と妖炎魔の力を同時に操り、生者を死へと誘う彼らは凶悪なコンビで、油断すれば猟兵達も自殺者の仲間入りだ。
「ですがこの妖炎魔さえ倒せば、大量発生した死蝶も消滅し、妖怪たちや繰々里さんも全員助け出すことができます。幽世の平和のために、どうか皆様の力をお貸し下さい」
そう言ってリミティアは手のひらにグリモアを浮かべると、カクリヨファンタズムへの道を開く。「死蝶の世界」と化した幽世で、妖怪たちの命と魂を守る為の戦いが始まる。
「転送準備完了です。リムは武運を祈っています」
戌
こんにちは、戌です。
今回の依頼は「死蝶の世界」と化したカクリヨファンタズムにて、元凶であるオブリビオンを倒し、異変を解決するのが目的となります。
第一章では「死蝶の世界」と化した幽世を冒険しながら敵の拠点を目指します。
幽世中を乱れ飛ぶ蝶の群れは美しいですが、その鱗粉には猛毒があります。
なるべく毒を吸わないよう対策を取り、被害を受けてしまった妖怪たちを救助しながら、元凶のいる樹海の迷宮に向かってください。救助のほうは必須ではないですが、助けておけば二章の戦いがいくらか楽になります。
第二章では敵の拠点――迷宮化した樹海を守るオブリビオンとの集団戦です。
ただでさえ迷いやすい樹海の中が、要塞と呼べるほどに複雑化しています。
敵は数こそ多いもののそこまで強くはないです。また、拠点を攻略する工夫や地形を逆に利用する戦術などがあれば優位に立ち回れるでしょう。
第三章では妖炎魔の骸魂に取り込まれた『縊鬼』繰々里とのボス戦です。
本人は気弱な性格ですが妖炎魔は容赦がありません。これ以上の被害を出さないためにも全力で撃破してください。
骸魂を倒せれば幽世中の蝶も消え、妖怪たちや繰々里も助けられます。
それでは、皆様のプレイングをお待ちしております。
第1章 冒険
『死蝶の回廊』
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POW : 息を止め、鱗粉を吸わないように駆け抜ける
SPD : 蝶のいない高所や脇道を探し、そちらを通る
WIZ : 蝶の嫌う匂いや色等を身に付け、蝶を避ける
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キリカ・リクサール
アドリブ連携歓迎
UDCアースと薄皮一枚を隔て、こんな幻想的な世界があるとはな…
改めて思うが、不思議な話だ
UCを発動
虚空より蝦蟇のメダルを取り出し、喉に貼り付ける
こうすれば気管全体を癒し、毒の鱗粉を無効化できるだろう
道中の邪魔をするようであればデゼス・ポアの刃とオーヴァル・レイのビーム線で処理していく
このメダルを喉に貼り付けるんだ、そうすればここでも動ける
肺をやられた者がいるなら胸に付けろ、呼吸が楽になる
途中で鱗粉の毒に侵された者達がいたならメダルを配る
昏倒している者もメダルを貼れば回復するはずだ
目的地に着くまでは可能な限り助けよう
フン…確かに美しい光景だが
死と破壊を振りまくのなら容赦はしないさ
「UDCアースと薄皮一枚を隔て、こんな幻想的な世界があるとはな……改めて思うが、不思議な話だ」
訪れた者にどことない郷愁を抱かせる、妖しくも美しいカクリヨファンタズムの風景を眺めながら、キリカ・リクサール(人間の戦場傭兵・f03333)はぽつりと呟く。妖怪たちが表を歩き、空には無数の蝶が舞う――こんな光景は地球ではまず見られまい。
「だが、感心してばかりもいられないか」
ただ見ているだけならば綺麗でも、この蝶たちは幽世を滅びへと導く恐るべき死蝶。その羽ばたきが散らす鱗粉の毒にやられぬよう、彼女は1枚のメダルを取り出した。
「さあさ、お立ち会い。御用とお急ぎでない方は、ゆっくりと聞いておいで……ってね」
大道芸等でおなじみの口上を少しおどけて口にしながら、【秘薬・大蝦蟇之油】のメダルを喉に貼り付ける。かの高名なる秘伝の妙薬と同じ効果をもたらすこのメダルを付けておけば、気管全体を癒し、毒の鱗粉を無効化できるだろう。
その口上に引かれてかどうかは定かではないが、彼女の周りにはひらひらと蝶の群れが集まってくる。だが、高密度の鱗粉に晒されてもキリカは顔色ひとつ変わらない。
「フン……確かに美しい光景だが、死と破壊を振りまくのなら容赦はしないさ」
余裕の表情のまま彼女が操るのは呪いの人形「デゼス・ポア」と、浮遊砲台「オーヴァル・レイ」。こちらもまたふわりふわりと自由に空を舞いながら、錆び付いた刃と粒子ビーム線を放って、邪魔な蝶を処理していく。
「うぅぅ……苦しい……」
死蝶を駆除しながら敵の本拠地へと向かう道すがらには、路々にうずくまって苦しんでいる多くの妖怪たちがいる。好奇心からうっかりと、あるいは危険を感じたものの逃げ遅れて、鱗粉の毒に侵されてしまった者たちだ。
「このメダルを喉に貼り付けるんだ、そうすればここでも動ける」
キリカはそうした妖怪たちに、自分が付けているのと同じ大蝦蟇のメダルを配っていく。まだ意識がある者はもちろん、昏睡していた者にもメダルを貼ってやれば、その症状は劇的に改善された。
「肺をやられた者がいるなら胸に付けろ、呼吸が楽になる」
「ほ、ほんとだ……すぅ……はぁ……」
大蝦蟇のメダルで一命をとりとめた者たちは、少しすれば顔色も良くなり、立って歩けるようになる。この辺りの生命力の強さはやはり妖怪だからだろう――とはいえ、対処が遅れていれば危うかったのは事実だ。
「助かったよお姉さん! ありがとう!」
「気にする事はない。動けるようになったなら、同じように苦しんでいる者達にもこのメダルを配ってやってくれ」
お礼を言う妖怪に、キリカは手持ちのメダルを何枚か渡す。可能な限り被害者は助けたいが、彼女にはこの異変を起こした元凶を倒すという使命がある。大蝦蟇のメダルさえあれば、妖怪たち自身でも仲間の治療はできるだろう。
「仲間を連れて、なるべく蝶の少ない所に避難しておけ。じきにこの異変も収まる」
「分かったよ。お姉さんも気をつけてね!」
ぱたぱたと手を振って蝶の群れから逃げていく妖怪たちを見送ってから、キリカは再び目的地へと向かう。迷宮化した樹海までの道のりは、まだしばらくの距離があった。
大成功
🔵🔵🔵
七那原・望
既に大変な事になってるみたいですね……
ねこさん、出来るだけたくさんの妖怪を救助してくださいね。
アマービレでねこさんを召喚し、【動物使い】で周囲の捜索や索敵、樹海の迷宮への道の偵察をお願いするのです。
自分とねこさんの身体の周囲に【癒竜の大聖炎】を舞わせ、毒の鱗粉の無効化を。
わたしやねこさんが発見した毒の被害を受けている妖怪達もこの【癒竜の大聖炎】の力で解毒を施しつつ、ねこさん達に魔法で安全な所へ運んでもらいましょう。
こんなところですか。
そろそろ樹海の迷宮へ向かうのです。
一通り救助が終わったら、ねこさんから【動物と話す】でもらった情報を参考に、【第六感】と【野生の勘】も駆使して迷宮へ向かいます。
「既に大変な事になってるみたいですね……」
幽世を覆い尽くさんばかりの蝶の群れと、あちこちに倒れ伏した妖怪たち。視覚を封じられた七那原・望(封印されし果実・f04836)がその惨状を直接見ることはなかったが、大気に混ざる毒の匂いと、苦しげな呻き声だけでも事態は十分に把握できた。
「ねこさん、出来るだけたくさんの妖怪を救助してくださいね」
彼女が鈴の付いた白いタクトを振ると、みゃーんという鳴き声と共に沢山の白猫が現れ、ほうぼうに散っていく。この子たちは召喚者の目となり耳となり、周囲の捜索や索敵、樹海の迷宮への道の偵察までを行う、望の頼もしいお友達だ。
「癒しと為り邪悪を祓え」
望は「共達・アマービレ」を振って猫たちを指揮しながら【癒竜の大聖炎】を自身と猫の身体に舞わせ、探索をサポートする。あまねく邪悪を祓い、負傷を癒やし、毒を浄化するこの炎を纏っていれば、毒の鱗粉も無効化できるはずだ。
「にゃーん」
「みゃみゃぁ」
炎に包まれた猫たちが鳴くところに駆け寄ってみると、そこには昏睡している妖怪の姿が。すでに毒の被害を受けてしまったらしいその者にも、望は聖炎の力で解毒を施していく。
「うぅ、ん……あれ、わたし、どうなって
……???」
意識を取り戻した妖怪の娘は、目の前にいる猫と目隠しをした少女、そして辺りを包む炎に理解が追いつかない様子。それでも自分が命を救われたのは分かったようだ。
「あなたが、助けてくれたのね? 助かったわ……」
「今はお礼はいいので、はやく避難するのです。ねこさん達、お願いするのです」
「みゃぉーん」
白猫がかわいらしく一声鳴くと、魔法によって妖怪の身体がふわりと宙に浮かび上がる。救助者を蝶のいない安全な所まで移動させるには、これが一番手っ取り早い。
「あ、ありがとーうっ!」
彼方へと運ばれていく妖怪に小さく手を振ってから、望と白猫たちは再び探索に戻る。
小回りのきく猫たちの人(?)海戦術により、毒にやられて動けないでいた多くの妖怪を発見することができた。もちろん目的地までのルート調査のほうも順調である。
「こんなところですか。そろそろ樹海の迷宮へ向かうのです」
妖怪たちの治療にあたっていた望は、もうこの近くに倒れている者はいないのを確認すると、いよいよ元凶の元へ向かうことにする。猫たちの調査によれば幸いにも、迷宮までの道のりには敵らしいものはおらず、邪魔になるのは蝶の群れだけだ。
「道を開けてもらうのですよ」
癒竜の大聖炎で死蝶を追い散らしながら、純白の翼を羽ばたかせて樹海に飛んでいく望。たとえ目が見えずとも、優れた第六感と野生の勘を持つ彼女の歩みに迷いはない。
小さな天使の後から白猫の群れがぞろぞろと続くその様子は、こんな異変の最中でもふと和んでしまうくらい、愛らしいものだったという。
大成功
🔵🔵🔵
カビパン・カピパン
ここは『悩み聞くカレー屋』1号支店。
「大変だよ!」
常連妖怪の油すまし。コイツが現れる時はいつも大変だ。
「変な蝶々が大量発生して、繰々里が樹海に引きこもりになってしまったんだ!」
「うわ、何この蛾!」
「蝶だって!」
軍配を扇ぎシリアスと鱗粉を吹き飛ばしつつ、突然歌い出す女。
蝶の大群は苦しみ出し、毒にやられていた妖怪はその歌により色んな意味で目覚めた。こんな歌声とギャグ世界に適応できませんとばかりに。
「この樹海を燃やし尽すわよ、樹がなきゃ樹海と呼ばないでしょ?」
火が扱える妖怪たちと共に自らも突撃。燃え盛る樹海はギャグ地獄世界となり、変な歌声が迫ってくる。
樹海を守るオブリビオンは戦々恐々とした。
「大変だよ!」
ここは『悩み聞くカレー屋』1号支店。カビパン・カピパン(女教皇 ただし貧乏性・f24111)が経営する妖怪たちの駄弁り場に、常連妖怪の油すましが駆け込んでくる。
コイツが現れる時はいつも大変だ。そんなことを思いながらも、カウンターでだら~っとしていたカビパンはとりあえず顔を上げて何があったのか尋ねてみる。
「一体どうしたっていうのよ」
「変な蝶々が大量発生して、繰々里が樹海に引きこもりになってしまったんだ!」
「うわ、何この蛾!」
「蝶だって!」
外を見やればそこにはいつの間にやら大量の蝶。開け放たれた扉から店内にも入り込んできて、ひらひらと毒の鱗粉を散らす。見ているだけなら綺麗だが、こんなに多いと流石にちょっとウザいし、営業妨害どころの騒ぎではない。
「繰々里のやつは骸魂に飲み込まれたらしいんだ。そのせいで幽世もこんなことに……うぐっ」
「油すましー!?」
「お、オレもなんだか息が苦しく……ぐう」
「つるべ落としまでー?!」
店内に侵入した蝶の毒によって、カレー屋にいた常連妖怪が次々と苦しみだす。まるでこの店の不味いカレーうどんを食べた時のよう――と言うのは流石に言い過ぎか。
ともかくこのままでは命に関わる事態なのは間違いない。悩み聞くカレー屋1号支店、創業以来最大の危機――だがその時、カビパンは「笑門来福招福軍配」を片手に立ち上がると、突然歌い出した。
「わたし↑は↓~癒し系↑↑↑ ~~♪」
酷い。とにかく酷いとしか言いようのない、絶望的に音痴な歌声が店内に響き渡る。
百足がのたうつようなメロディに合わせてカビパンが軍配を煽ぐと、鱗粉とシリアスがまとめて吹き飛んでいく。
「ぐおぉぉぉぉぉ……はっ?!」
「く、苦しい……誰か耳栓を……」
死蝶の大群は苦しみだし、毒にやられていた妖怪たちも色んな意味で目を覚ます。
ここはカビパンのカビパンによるカビパンのためのギャグが支配する領域。こんな歌声とギャグ世界に適応できませんとばかりに、蝶たちはぱたぱたと逃げ去っていった。
「あの樹海を燃やし尽すわよ、樹がなきゃ樹海と呼ばないでしょ?」
一曲歌い終えたカビパンは、蝶たちが逃げていった方を見ながらおもむろに宣言する。
あそこに敵が潜んでいるなら焼いてしまえというのは確かに理にかなっているのだが、なんとも乱暴な話である。しかし彼女は躊躇わない。
「面白え、乗ったぜ!」
輪入道のような火が扱える妖怪たちもそれに賛同し、一丸となって樹海へと突撃する。
「もーえ↑ろよ↓もえろー↑よー↓」
【カビパンリサイタル】を続行しながら木々に火を付けてまわるカビパンと常連妖怪。
燃え盛る樹海はギャグ地獄世界と化すが、あくまでギャグなので周辺に燃え広がったりはしない。安全仕様である。
「ひっ……な、何か来るよぅ?!」
『狼狽えるな……情けない……』
だが、火の手と共に迫る変な歌声は、樹海の奥にいる縊鬼の繰々里をビビらせるのには十分だった。憑いている骸魂に叱責されても、ビクビクと身を縮こまらせる始末。
そうしている間にもカビパンと愉快な仲間たちは、死蝶とシリアスを蹴散らしながら樹海の迷宮に迫るのだった。
大成功
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逢坂・理彦
綺麗な蝶だけど毒があるんだよね…鱗粉の毒を吸わない様にマフラーで鼻と口を覆うよ。念のため【毒耐性】も意識しておこうか。
毒を吸って倒れてる妖怪さんを見つけたら【救助活動】だね。とりあえず死蝶の少ないところに運べればいいけど…無さそうなら【結界術】で結界を張って蝶が入らない場所を作っておこう。
あとは…UC【宇迦之御魂神の加護】で回復もしておこうか。
アドリブ連携歓迎
鏡島・嵐
綺麗な生き物には棘とか毒があるってのは定番だけど、毒の蝶ってのは珍しいな。
……離れて見てる分にはともかく、実際に被害を受けたら堪ったもんじゃねえだろうけど。
ともかく、なんとかしねえとな。
〈毒耐性〉を活かして〈ダッシュ〉で駆け回りながら、逃げ遅れた妖怪たちの避難を手伝う。
〈野生の勘〉で風向きとか蝶が群れているあたりを見当を付けて、なるべく近寄らねえようにして進んでいく。
毒の影響で満足に逃げられない妖怪がいるなら、ユーベルコードで治療して助ける。ユーベルコードは適宜自分にも使って、影響を少しでも軽くしておきてえな。
勿論猟兵仲間でも毒の影響があるようなら、ちゃんと治療しておくぞ。
「綺麗な蝶だけど毒があるんだよね……」
「綺麗な生き物には棘とか毒があるってのは定番だけど、毒の蝶ってのは珍しいな」
ひらひらと宙を舞う蝶の群れを見上げながらそう呟くのは、逢坂・理彦(守護者たる狐・f01492)と鏡島・嵐(星読みの渡り鳥・f03812)。今や幽世中で見られる、この幻想的で美しい蝶たちは、しかしこの世界を蝕む異変の象徴でもあった。
「……離れて見てる分にはともかく、実際に被害を受けたら堪ったもんじゃねえだろうけど。ともかく、なんとかしねえとな」
「そうだね。毒を吸って倒れてる妖怪さんがいないか、探しに行こう」
立ち止まってはいられないとばかりに駆けだす嵐に、若草色のマフラーで鼻と口を覆ってマスク代わりにする理彦。元凶のもとへ向かう前に、まずは救助活動を優先するというのが、彼らに共通した行動方針だった。
「逃げ遅れた妖怪はいないか? いたら返事をしてくれ!」
毒の鱗粉が舞う空間の中を、嵐は持ち前の毒耐性を活かして駆け回る。旅暮らしで身に付けた野生の勘で風向きを読み、蝶が密集している場所にはなるべく近付かないようにしながら、まだ避難できていない妖怪を探す。
「ごほっ、ごほっ……た、たすけて……」
助けを求めるか細い声を、彼は聞き逃さなかった。駆けつけてみればそこには、まだ子供と思しき妖怪たちが木陰にうずくまっている。好奇心からついつい綺麗な蝶を追いかけてしまい、毒の鱗粉を吸ってしまったようだ。
「動けるか?」
問いかけに首を振る余力さえ、その子たちにはもう残っていない様子だった。このままでは満足に逃げることもできないだろう――そう判断した嵐は使い込まれた一本の縫い針を懐から取り出す。
「麦藁の鞘、古き縫い針、其は魔を退ける霊刀の如し、ってな!」
【針の一刺、鬼をも泣かす】。針に込められた持ち主の思いが、死蝶の毒を消し去る。
苦しそうな妖怪たちの呼吸や表情が和らいだのを見ると、嵐は彼らの身体を支えて鱗粉の薄いほうへと運んでいく。
「おーい、こっちこっち」
嵐と妖怪たちが向かった先では理彦が、狐の扇を片手に結界を張って待っていた。
巫者である彼の張った結界の中には、死蝶も毒の鱗粉も入ってはこられない。他にももう何人もの妖怪がここに運び込まれ、毒の治療を受けていた。
(とりあえず死蝶の少ないところに運べればいいけど……)
もし近くにそういう場所がなかったり、すぐには動かせないほど患者の状態が悪ければどうするか。理彦は要救助者を見つける前からその解答をしっかりと用意していた。
へらりとした掴みどころのない笑みを浮かべていても、守護者としての気質ゆえか、その飄々とした佇まいは妖怪たちに安心感を与えるに足るものだった。
「う、ぅ……くる、し……」
「大丈夫。息をゆっくりしてごらん」
横たえた妖怪に優しく声をかけながら、施すのは巫覡の力による【宇迦之御魂神の加護】。稲荷神としても親しまれる古き女神の霊威は、悪しき穢れや毒を祓い清め、みるみるうちに患者を快復させていく。
「おれも手伝うよ」
「ありがとう。使いすぎると疲れるんだよね、これ」
結界の中に運んできた妖怪の子らを寝かせると、嵐も縫い針を手に治療に加わる。
死蝶の被害にあった者は予想以上に多かったものの、二人がかりの救助活動の甲斐あって、その多くを手遅れになる前に救うことができた。言うまでもなく、彼ら自身も毒の影響を治療しながら、だ――医者の不養生など笑い話にもなりはしない。
「本当に、なんとお礼をすればいいのやら……」
「お兄ちゃんたち、ありがとう!」
鱗粉の毒が抜けて元気になった妖怪たちは、口々に理彦と嵐に感謝を伝える。
さすがに普通の人間よりも体力や回復力は高いらしく、もう心配はなさそうだ。
「しばらくはこの結界の中にいるか、蝶の少ないところに避難しといてね」
「すぐにあの蝶もいなくなる。それまでの辛抱だ」
理彦と嵐は彼らに忠告と励ましの言葉を残すと、再び死蝶舞う領域に足を踏み出す。
まだ、取り残されている妖怪がいれば救うために。そして、この異変の元凶を止めるために。
大成功
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御狐・稲見之守
――ふむ、趣味は悪くない。芸術点高いナ。
霊符を展開し[結界術]で鱗粉を防ぎながら、狐火で死蝶を燃しつつ先に進むこととしようか。それと[式神使い]で霊符の式神達を作り出し要救助者の捜索と救助避難にあたらせるんじゃ。(手をぱんぱんと鳴らし)そら、仕事じゃよお前達。
あ、そうじゃ。
さらさらっと……筆ペン便利じゃナ。さておき、敵の親玉宛てに[呪詛]を込めた文をしたためて、先んじて式神に敵の拠点へと運ばせてみようか。内容は「お前はすでに死んでいる 御狐稲見之守 🐾」とす。
(しばらくして)
おや、御返事代わりに呪詛返しが来たナ。怖い怖い。
「――ふむ、趣味は悪くない。芸術点高いナ」
霊符により展開した結界越しに、幽世を舞う蝶の群れを眺める御狐・稲見之守(モノノ怪神・f00307)。艶やかな翅をひらりと羽ばたかせながら、郷愁漂う世界に毒の鱗粉と死を散らしていくその様は、確かにある種の美を感じさせる光景である。
最も、それをゆるりと鑑賞していられるのは猟兵のような並外れし者だけだろう。結界にて鱗粉を阻み、狐火にて死蝶を焼き払いながら、彼女は悠々と歩を進める。
「そら、仕事じゃよお前達」
稲見之守が手をぱんぱんと鳴らすと、ひとりでに霊符が舞い、狐のような式神を形作る。それらはこんと一声鳴くと主の命のままに四方へと散り、要救助者の捜索と救助避難にあたり始めた。
「う、うぅ……くるし……えっ、この狐、どこから……?」
生物ではない式であれば、毒の鱗粉が充満する空間でも何の問題もなく活動することができる。毒に苦しむ妖怪たちを見つけた式神は、彼らを蝶のいない安全なところへと誘導し、意識のない者は首根っこを咥えて運んでいった。
「うむ、順調じゃな……あ、そうじゃ」
稲見之守は式神たちの働きぶりを満足げに眺めていたが、ふと何かを思い付いた様子で、霊符装束の中から一枚の紙とペンを取り出すと、きゅぽっとキャップを外す。
「さらさらっと……筆ペン便利じゃナ」
見た目は童女なれども中身は年経た妖狐らしく、綴る文字はなかなかに達筆。炭も硯も要らない文明の利器のお手軽さに感嘆したりもしつつ、一通の文をしたためた彼女は、末尾に肉球のスタンプを押して、それを一匹の式神に渡す。
「あの森の主宛てに、これを運ぶのじゃ」
文を受け取った式神はコクリと頷くと、主に先んじて樹海の迷宮に向かっていく。
その内容は「お前はすでに死んでいる 御狐稲見之守 🐾」。別にふざけているわけでは――まあ、多少はあるだろうが、けして冗談ではない。モノノ怪の呪詛を込めたその文は、受け取った者を呪殺することも可能な、言葉通りの"怪文書"である。
「さて、奴さんはどう来るかナ……?」
呪い殺す為ではなく相手の反応を見定めるための一通。その結果は暫くして現れた。
稲見之守がふと喉元に熱さを感じて手を当てると、荒縄を押し当てたような痣が浮かび上がっていた。細い首をぐるりと一周するそれは、まるで首を括られた痕のよう。
「おや、御返事代わりに呪詛返しが来たナ。怖い怖い」
稲見之守はかんらかんらと笑いながら、指先ですうっと首をなぞる。喉を締められるような圧迫感も、焼き鏝を押し付けられたような熱も、それだけで痣と共に消えた。
これが『縊鬼』の呪詛返し。どうやら敵の親玉もひとかどの妖怪ではあるようだと、彼女は愉しげに、そして妖しげに笑うのであった。
大成功
🔵🔵🔵
天帝峰・クーラカンリ
なんとも美しい光景ではないか
私の故郷では見られない…柔らかな灯のようだ
とはいえ危険なモノに変わりないなら仕方ない、注意して先に進もう
【POW】
飛んで鱗粉を舞わせるのも危険か…
となれば氷で口の周りを覆い、マスク代わりとしよう
目や肌に降りかかる分は、結晶化させて粒を大きくし、簡単に振り払えるように
あとはなるべく素早く駆け抜けるだけだ
しかし、こういう時踵の高い靴は困るな…
上手く走れん
(諦めて早歩き程度で進んでいく)
途中、具合の悪そうな者が居たら救助していこう
私にできることなど少ないが…
そうだな、この雪で口や目を濯ぎなさい
鱗粉が原因なら、症状も少しは緩和されるだろう
「なんとも美しい光景ではないか。私の故郷では見られない……柔らかな灯のようだ」
それが人や妖怪の命を蝕むものと理解していても、天帝峰・クーラカンリ(神の獄卒・f27935)は感嘆を禁じ得なかった。極寒の地に聳えし霊峰・クーラカンリ山の守護神である彼にとって、妖しくも艶やかに羽ばたく蝶の群れも、雪ではなく鱗粉がちらちらと空に舞うのも、実に物珍しいものだった。
「とはいえ危険なモノに変わりないなら仕方ない」
美しいものに目を奪われはしても、流石に心までもは惑わされない。雪山の神らしくクールな表情を崩さぬまま、彼は死蝶の世界と化した幽世を注意深く進んでいく。
「飛んで鱗粉を舞わせるのも危険か……となれば、こうしよう」
死蝶の毒を吸い込まぬよう、クーラカンリは口の周りを氷で覆いマスク代わりにする。
目や肌に降り掛かってくる鱗粉に対しては、触れた瞬間に凍りつかせ、氷の結晶にしてぱっぱと手で振り払う。雪山の神の権能にかかれば、氷を生み出したりものを凍らせるくらいはお手の物だ。
「あとはなるべく素早く駆け抜けるだけだ」
クーラカンリが歩を進めれば、周囲を舞っていた蝶までもが冷気にやられていく。氷結した鱗粉や蝶が降り落ちる様は、まるで彼の周りにだけ冬が訪れたかのようだった。
「しかし、こういう時踵の高い靴は困るな……上手く走れん」
権能で空を飛べれば楽なのだが――と思いながらも、諦めて早歩き程度で進んでいくこと暫し。この異変の黒幕がいる樹海へと向かうクーラカンリに、具合の悪そうな妖怪の姿が目に入る。
「けほっ、こほっ……」
好奇心か、あるいは感動のあまりの不注意か、死蝶の毒にやられてしまったらしい。
神さえも美しいと感じ入るほどの光景に、妖怪が見惚れてしまうのも無理はなかろう。
(私にできることなど少ないが……そうだな)
癒やしの権能は持たずとも、出くわしたからには見捨てるのも忍びない。クーラカンリはお椀のように丸めた手に雪を生み出すと、苦しんでいる妖怪にそっと差し出す。
「この雪で口や目を濯ぎなさい。鱗粉が原因なら、症状も少しは緩和されるだろう」
「あ、ありがとうございます……」
清らかな雪で毒の鱗粉を入念に洗い流せば、妖怪の具合は幾分と良くなったようだ。
顔色も良くなり、苦しげな表情も和らぐ。あるいは山神の権能にて生まれた雪には、ある種の浄化の力もあったのかもしれない。
「向こうはまだ蝶が少ない。また動けなくなる前に、行くといい」
「助かりました。どうかあなたもお気をつけて!」
鱗粉の薄い方角を示すと、復調した妖怪はお礼を言って去っていく。それを見送ったクーラカンリは再び口元を氷のマスクで覆い、鱗粉舞う領域のさらに奥へ進んでいく。
この死蝶の群れを生み出している元凶がいる所までは、もう一息の道のりだった。
大成功
🔵🔵🔵
トリテレイア・ゼロナイン
呼吸器の無い妖怪すら昏睡している可能性もある以上、非生物であれど警戒が必要ですね
救助を試みるならば万全を期しましょう
極限環境や汚染地帯での活動用コンテナ型UCを背に装備
拠点への移動と妖怪達の救助にリソースを最大限に傾け行動
防塵処理も●防具改造で関節部に施し更に不可視力場で鱗粉遮断
センサーでの●情報収集で蝶の数や鱗粉濃度が特に酷い地帯を割り出し突入、昏睡妖怪発見
●怪力で抱え、人数が多ければワイヤーの●ロープワークでコンテナに括りつけて目的地の道中の安全圏まで運搬
危地に赴き人を助けるは騎士の務めですが
この格好ですと人攫いのようですね…
見栄えに拘れる状況でもありません
一刻も早く事態を解決しましょう
「呼吸器の無い妖怪すら昏睡している可能性もある以上、非生物であれど警戒が必要ですね」
オブリビオンの関与する"毒"に油断は禁物と、ウォーマシンのトリテレイア・ゼロナイン(紛い物の機械騎士・f04141)は気を引き締めながら、死蝶舞う幽世に降り立つ。
既に大勢の妖怪が、この蝶が放つ毒鱗粉の被害を受けている。猟兵たちによる救助も進んではいるが、今だ助けを必要とする者は多い。
「救助を試みるならば万全を期しましょう」
こんな事もあろうかと開発された装備――極限環境や汚染地帯での活動用のコンテナ型【特殊用途支援用追加装備群】を背中に装備して、機械騎士は行動を開始する。
「マルチセンサー起動、大気中の鱗粉濃度、蝶の分布を精査」
トリテレイアはまず周辺状況を把握するために、センサーと電脳をフル回転させる。
現在の彼は戦闘行動用のリソースをカットし、拠点への移動と妖怪達の救助にリソースを最大限に傾けている。最優先で向かうべきは、死蝶による汚染が特に酷い場所だ。
「突入します」
一刻を争う要救助者はそこにいる。汚染地帯へと侵入したトリテレイアの機体には靄のように大量の鱗粉が降り掛かるが、事前に関節部に施した防塵処理と、背部のサポートユニットから展開される不可視の力場が、機体内への鱗粉の侵入を遮断していた。
いかに凶悪な毒を持っていようとも、相手は所詮ただの蝶。確固たる目的意識の下で進撃するウォーマシンを止められる筈もなく、木っ端のように吹き飛ばされていく。
「いました……!」
鱗粉を蹴散らしながら進んでいくと、そこには昏睡状態で倒れている妖怪たちがいた。異変発生初期に死蝶の群れに襲われたのか、センサーが捉える生命反応も弱々しい。
トリテレイアは急いで彼らを抱え上げると、ワイヤーでコンテナに括り付けて不可視力場のフィールド内に保護し、鱗粉濃度の低い場所まで全速力で移動する。
(危地に赴き人を助けるは騎士の務めですが、この格好ですと人攫いのようですね……)
理想の騎士像とはいかない自分の姿に内心で苦笑しながらも、躊躇うことは一切ない。
優先するべきは形式よりも結果。理想を希いながらも現実主義的である彼は、ウォーマシン由来の怪力を以て十名近くの妖怪を一気に運搬していく。
「見栄えに拘れる状況でもありません。一刻も早く事態を解決しましょう」
道中にある安全圏まで妖怪たちを運び終えたトリテレイアは、彼らの容態が徐々に安定してくるのを確認すると、すぐさま敵のいる拠点を目指して移動を再開する。
時間が経つほど死蝶の脅威は幽世中に広がり、いずれ安全な場所もなくなるだろう。
そうなる前にこの異変を収束させる――前方に待ち受ける広大な樹海の迷宮を見据える機械騎士のカメラアイは、鋭い眼光を放っていた。
大成功
🔵🔵🔵
春霞・遙
この世界にも死蝶が蔓延ってるんですね。
同名でも別世界で遭ったものと同じ種とは限らないし初見のつもりであたりましょうね。
物理的な予防効果はないけれど呪術的な対策として、「毒耐性」のあるペストマスクは着けていきます。
蝶のいない空間があるのなら【竜巻導眠符】を使用した時に起こる風で蝶を眠らせて鱗粉ごと吹き飛ばして、道を作ろうと思います。
この方法が有効であれば被害者の妖怪の周囲も安全を確保して、可能な範囲で妖怪たちも救助したいかな。
「この世界にも死蝶が蔓延ってるんですね」
ひらりひらりと幽世を舞いながら毒の鱗粉を撒き散らす蝶の群れを、春霞・遙(子供のお医者さん・f09880)は冷静に観察する。彼女はこことは別の世界でも、類似した蝶とその症例を診たことがあった。
「同名でも別世界で遭ったものと同じ種とは限らないし初見のつもりであたりましょうね」
先入観からくる思い込みは誤診の元。猟兵として、そして医師として、この世界の住民の命を救うために、遥は気を引き締めながら死蝶の世界に足を踏み入れた。
「すごい数の蝶の群れですね……」
先に進むほど、視界いっぱいに飛び回る蝶たちを、遥はペストマスクのレンズ越しに見ていた。このマスクに物理的な毒や病の予防効果はないが、呪術的な防毒効果はある。幸いにもそれは死蝶の鱗粉にも有効なようで、ここまで体調に異変は感じない。
「時間と共に増えているようですが……まだ少しは蝶のいない空間もありますね」
そうした数少ない安全地帯とも言える場所まで辿り着いた彼女は、白衣のポケットから無地の符の束を取り出し、頭の中で印を思い描く。するとどこからともなく竜巻の如き風が吹いて、符束を空に舞い上げた。
「夜の帳が下りてくる、魔法の砂も吹いてきた」
唱えるのは【竜巻導眠符】。欧州に見られるザントマンの民間伝承になぞらえたこのユーベルコードは、風に乗せた大量の導眠符によって睡魔の嵐を巻き起こす。その対象は人や妖怪はもちろんのこと、昆虫――すなわち蝶にも有効である。
「さあさおやすみ、眠りなさい」
強烈な眠りの力に晒された死蝶の群れは、羽ばたくことを止めてはらはらと地に墜ちる。周辺に充満していた毒の鱗粉も竜巻に吹き飛ばされ、清浄な空気と静寂が戻ってきた。
「この方法は有効みたいですね」
竜巻導眠符が過ぎ去ったあとにできた道を、悠々と歩いていく遥。さらに何度か場所を変えてユーベルコードを発動すれば、散っていった蝶群の中から倒れている妖怪が姿を現す。
「こほっ、こほっ……た、助かった、の……?」
死毒に蝕まれ死を待つばかりだった彼らは、突然やってきた救いの手に目を丸くする。
遥は彼らを驚かせないようペストマスクを一旦外し、穏やかな微笑を浮かべながら話しかける。
「ここはしばらくの間は安全なはずです。安静にしていてください」
「う、うん。わかったよお医者さん! ありがとう!」
こくこくと頷いて指示に従う妖怪たち。それを確認した遥はマスクを被り直し移動を再開する――道中で倒れている妖怪たちを、同じようにして可能な限り救助しながら。
そのたびに妖怪たちから送られる感謝の言葉に、背を押されるように。彼女はやがてこの事件の元凶の元へと迫っていくのだった。
大成功
🔵🔵🔵
フレミア・レイブラッド
綺麗なものには毒があるとは、よく言ったものね…。
自身と雪花に【念動力】の防御膜を付与して鱗粉を防御。
更に【ブラッディ・フォール】で「カダスフィアフォートの対局」の「帝竜カダスフィア」の力を使用(帝竜の翼や尾が生えた竜人の様な姿へ変化)
【ミリティア・カダスフィア】でゴーレムの大群を呼び出し、蝶の殲滅を指示。また、【形成するもの】で周囲の無機物からチェスの駒を模した怪物を生み出し、妖怪達の救助を指示するわ。
カダスフィアのゴーレムなら無生物なので毒も効かないし、数も戦力も十分でちょうど良いわよね♪
(雪花も吹雪で蝶や鱗粉を凍結させたり)
さて、救助した子に可愛い子(妖怪)は…
「おねぇさまー?」(ジト目)
「綺麗なものには毒があるとは、よく言ったものね……」
妖しくも美しい姿で見る者を魅了しながら、幽世を蝕んでいく死蝶。フレミア・レイブラッド(幼艶で気まぐれな吸血姫・f14467)はそれを眺めて小さくため息をつく。
その傍らでは、眷属である雪女見習いの「雪花」が、舞い踊る蝶の群れに見惚れている。彼女と自分が毒の鱗粉を浴びないよう、フレミアは念動力による防御膜を張った。
「この様子だと見た目に騙された妖怪も大勢いそうね……」
黒幕の元に向かう前にそちらを救助すべく、フレミアは【ブラッディ・フォール】を発動。かつて群竜大陸にて討伐した帝竜が一体「カダスフィア」の力をその身に宿す。
雄々しく力強い帝竜の翼や尾を生やし、竜人のような姿に変化した彼女がパチンと指を鳴らすと、どこからともなくチェス型ゴーレムの大群が現れた。
「行きなさい。一頭残らず殲滅するのよ」
帝竜フレミアの指示ままに進撃を開始する【ミリティア・カダスフィア】。
その目標は飛び交う死蝶の群れ。数でこそ劣れども、戦力差は歴然である。
「カダスフィアのゴーレムなら無生物なので毒も効かないし、数も戦力も十分でちょうど良いわよね♪」
鼻歌交じりに眺めるフレミアの眼前で、蝶たちは次々とゴーレムに叩き落とされ、踏み潰されていく。毒さえ無効化できるなら、死蝶の退治はただの害虫駆除と変わるものではない。それは戦闘と呼べるほどのものですら無かった。
「わたしもお手伝いするのー」
雪花も雪女見習いとしての力を振るい、吹雪や冷気の息で蝶や鱗粉を凍結させている。
凍りついたそれがはらりと地面に降り積もる様子は、まるで季節外れの雪化粧のようだった。
「こんなところかしらね」
死蝶の殲滅がある程度進んだところで、フレミアはカダスフィアの【形成するもの】のユーベルコードを使い、周辺の無機物からチェスの駒を模した怪物を生み出す。
こちらに指示するのは戦闘ではなく、毒に侵された妖怪の救助。外見だけでなく性質もまた主君に忠実な駒たちは、ほうぼうへと散開して捜索と救助活動に専念する。
「けほけほっ……た、助かったわ……」
「ありがとね! このお礼はいつかきっと!」
死蝶の猛威によって危機に陥っていた妖怪たちは、救助に感激しながらお礼を言う。この世界での猟兵の好感度は元から高い上、命の恩人なのだからそれも当然だろう。
フレミアたちの周囲から死蝶が一掃されるまで、それから然程の時間はいらなかった。
「みんな無事で何よりね。さて、救助した子に可愛い子は……」
「おねぇさまー?」
ひと仕事を終えたところで、ちょっぴり色気を出しはじめるフレミア。が、咎めるようなジト目で雪花から睨まれると、目線を逸らしながらこほん、と咳払いをひとつ。
「……今は元凶の元に向かわないとね。放っておいたらまたあの蝶が湧いてきそうだもの」
可愛い子たちからの"お礼"はまた後で。彼女らにまた危害を及ぼさせないためにも、吸血姫は眷属たちと共にこの異変の発生源――樹海の迷宮へと向かうのだった。
大成功
🔵🔵🔵
雛菊・璃奈
「ちょうちょ!」
「綺麗!」
「でも危険!」
蝶を発見する度、遠距離から【狐九屠雛】の霊火を発射…。
蝶の舞う周辺を霊火を漂わせる様にして蹂躙していき、触れた蝶も鱗粉も全て凍結させて殲滅・無力化…。
後は眠ってる妖怪を【呪詛・属性攻撃】水術で発生させた水で鱗粉を洗い流し、出来る限り助けながら元凶へ向かうよ…。
「救助!」
「運搬!」
「介抱!」
ラン達はそのまま妖怪達の救助と解放をお願い…。
後は地道に突破しないと…。
(突如、璃奈の【共に歩む奇跡】の札の一枚から炎の尾や熱線が放たれ、蝶や鱗粉を焼き払う)
…フェニックス(雨なき幽世に滅びが迫るで最適化した)?手伝ってくれるの…?
助かるよ…。進むのが大分楽になりそう…
「ちょうちょ!」
「綺麗!」
「でも危険!」
ひらりひらりと舞う蝶の群れを見上げる、メイド姿の少女人形たち。その頭上から毒の鱗粉が舞い降りる――よりも速く、熱を持たない地獄の霊火が、毒粉を氷結させる。
九尾炎・最終地獄【狐九屠雛】。それを放った雛菊・璃奈(魔剣の巫女・f04218)は「気をつけてね……」とメイドたちに呼びかけながら、新たな霊火を周囲に展開する。
「魂をも凍てつかせる地獄の霊火……」
蝶に触れたり鱗粉を吸うのが危険なら、近付かれる前に仕留めればいい。璃奈は蝶を発見する度、遠距離から霊火を発射し、群れの周辺を漂わせるようにして蹂躙する。
毒を除けば蝶の飛行速度は普通の昆虫とそう変わらず、術者の意のままに舞う霊火から逃れることは不可能。火の粉にすこし触れただけでも、蝶も鱗粉も全ては凍りつき、雪や氷の破片となって大地に降り積もっていく。
「救助!」
「運搬!」
「介抱!」
死蝶が殲滅された後には、逃げ遅れていた妖怪たちが残る。鱗粉の毒により昏睡状態に陥った彼らを、メイドたちが迅速に救助し、安全な場所まで運搬、そして介抱する。
「これを……」
付近の蝶を無力化した璃奈は【狐九屠雛】を一旦収めてから、水術によって自らの呪力から真水を発生させ、昏睡中の妖怪に浴びせる。毒の原因が鱗粉なら、それを落としてしまえば症状は緩和されるはずだ。
「わぷっ?! あ、あれ、私、一体……?」
冷たい水を全身にかけられて、びっくりしながら目を覚ます妖怪たち。ただ気付けになったというだけでなく、鱗粉を洗い流されたことで顔色も幾分良くなっている。
自分たちが助けられたということはすぐに分かるだろう。「ありがとう!」「助かったよ!」と感謝を口にする彼らに、メイドたちがてきぱきとタオルを差し出す。
「ラン達はそのまま妖怪達の救助と解放をお願い……」
「「「りょうかい!」」」
できる限りのことをやり終えると、璃奈はこの場を信頼のおけるメイドたちに任せ、自分は元凶のもとへ向かうことにする。妖怪の救助も大事だが、一刻も早く異変そのものを解決しない限り、被害者は増え続けるのだから。
「後は地道に突破しないと……」
家族であるメイド人形たちを置いて、今度はひとりで死蝶の群れと対峙する璃奈。
気を引き締め直して、再び【狐九屠雛】を展開するために呪文を唱えようとした時――突如、彼女の巫女装束の中から一枚の呪符が飛び出し、灼熱の光線を放った。
「え……?」
驚く璃奈の目の前で、死蝶の群れが熱線になぎ払われて焼け落ちていく。
思ってもみなかった援護射撃。しかし彼女はその技に見覚えがあった。
「……フェニックス? 手伝ってくれるの……?」
その【共に歩む奇跡】の札の中にいるのは、璃奈の提案を受けて共存の道を選んだ不死鳥。以前は"死"を恐れるあまり幽世から"雨"を奪うという異変を引き起こした骸魂だったが――その罪滅ぼしのつもりなのだろうか、どうやら力を貸してくれるようだ。
「助かるよ……。進むのが大分楽になりそう……」
いつもは無表情な璃奈の口元がかすかに緩む。呪符の中にいるフェニックスからの返事はなかったが、代わりに【不死鳥の尾】から放たれる炎の羽が蝶や鱗粉を焼き払う。
それに合わせるように璃奈もまた【狐九屠雛】を踊らせて――灼熱と極寒の炎の共演が、樹海の迷宮へと至る道を切り開いていった。
大成功
🔵🔵🔵
幻武・極
死蝶の世界か
とりあえず、ここを突破しないとね。
トリニティ・エンハンスで守りを高め
風の魔力で鱗粉を吹き飛ばし
水の魔力をオーラ防御に纏い鱗粉を洗い流しながら進むよ。
ところで、この死蝶は何かの妖怪だったりするのかな?
妖怪だったら攻撃したらマズイけど、
骸魂が作り出したものなら残った炎の魔力で焼き払うよ。
「死蝶の世界か」
空を覆う蝶の大群を見上げながら、幻武・極(最高の武術?を追い求める羅刹・f00331)は呟く。幽世中に大量発生したこの蝶は、今も猛毒の鱗粉を撒き散らし、被害を拡大させている。同時に、元凶のもとに辿り着くには超えなければならない障害だ。
「とりあえず、ここを突破しないとね」
極はすうっと小さく呼吸を整えて【トリニティ・エンハンス】を発動し。
身に纏った炎、水、風の3属性の魔力を守りに、危険な死蝶の回廊に挑む。
「鱗粉に触れたらまずいなら、触れなければいいだけだよね」
粉雪のように降り掛かる毒の鱗粉を吹き飛ばすのは、極の周囲で渦巻く風の魔力。
今の極は小さな竜巻と一緒に移動しているようなものだ。軽い鱗粉はほとんどが彼女の肌に触れることもできず、進路から払いのけられる。
重ねて彼女は全身に水の魔力によるオーラを纏い、付着した鱗粉を即座に洗い流す。この二段構えの防御の前には、死蝶の大群も手の出しようがなかった。
「ところで、この死蝶は何かの妖怪だったりするのかな?」
無人の野を行くがごとく歩みを進めながら、遠巻きに飛び回る蝶たちを観察する極。
妖怪の中には蝶をモチーフとしたものも居るし、毒を扱うものも少なくはないが――この死蝶たちからは妖怪のような意志や知能は感じられない。骸魂の影響によって発生した"現象"、幽世をカタストロフへ導く力の具現化というべきモノのようだ。
「妖怪だったら攻撃したらマズイけど、骸魂が作り出したものなら遠慮はいらないね」
そう判断した極はトリニティ・エンハンスの3つ目の力、炎の魔力を風の魔力に乗せて解き放つ。渦巻く旋風はたちまち猛火の大竜巻へと変わり、鱗粉ごと蝶の群れを焼き払う――毒を除けばただの蝶に過ぎないそれに、逃れる手段などありはしない。
「これでよしっと」
炎の魔力が収まった時、そこには僅かな蝶の燃えカスが地面に残るばかりだった。
道行きの障害を綺麗に一掃し、極は笑みを浮かべながら元凶のもとへ急ぐのだった。
大成功
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セシル・バーナード
綺麗な薔薇には毒があるって? 毒を食らわば皿まで。それじゃ、行ってみようか。
「オーラ防御」で毒を吸い込まないようにしつつ、そもそも毒に触れないように次元障壁を連続展開。
侵攻方向に向けて次々と次元障壁を立ち上げ、風の「属性攻撃」と「衝撃波」で毒に侵された空気を散らしながら突破していく。
毒に侵されてそれでも頑張るなんて、ぼくの性に合わない。
死蝶は本当に綺麗なんだけどなぁ。恋人のみんなへのプレゼントにしたいくらい。
でもまあ、そう思った妖怪たちが真っ先に毒にやられてるわけだから、手を出すわけには行かないか。
妖炎魔を討滅出来た後でまだ残っていたら、その時こそお土産にしよう。
そうと決まったら先を急ごうか。
「綺麗な薔薇には毒があるって?」
昔から言い伝えられてきた警句を口ずさみながら、セシル・バーナード(セイレーン・f01207)は死蝶の群れを眺める。思わず捕まえたくなるほどに美しく、死に至る猛毒を持つ蝶――まさに警句通りの存在だが、これしきに彼は惑わされはしない。
「毒を食らわば皿まで。それじゃ、行ってみようか」
美しさにて惑わす華は彼も同じ。まだあどけない顔に艶めくような笑みを浮かべ、妖狐の少年は散歩にでも行くような足取りで、毒の鱗粉が充満する地帯に踏み込んだ。
「蝶も毒も抜かせない」
鱗粉を吸い込まないようオーラで身を護りながら、セシルは手をかざして【次元障壁】を連続展開。あらゆる攻撃を阻む無敵の防壁が、進行方向に次々と立ち上がる。
死蝶の毒が接触性なら、そもそも触れないようにすればいい。どんなに毒性が高かろうが、次元の壁を突破してくるような異常性を蝶たちは持ち合わせていない。
(毒に侵されてそれでも頑張るなんて、ぼくの性に合わない)
壁にぶつかりばたつく蝶の群れを障壁越しに眺め、優雅な笑みでパチンと指を鳴らす。
その瞬間、激しい風の衝撃波が蝶や鱗粉と共に、毒に侵された空気を吹き散らしていった。
「死蝶は本当に綺麗なんだけどなぁ。恋人のみんなへのプレゼントにしたいくらい」
並みの人間や妖怪ならとうに倒れているであろう危険地帯を余裕の表情で進みながら、セシルが思い浮かべるのは愛しき者たちの顔。愛に生き、愛を求める恋多き少年の元には、年齢や性別を問わず数多くの恋人がいる。
ひらりひらりと幽世を舞う、妖しさと美しさとを兼ね備えた死蝶は、標本や飾りにすればきっと彼女らへの良い贈り物になると思うのだが――。
「でもまあ、そう思った妖怪たちが真っ先に毒にやられてるわけだから、手を出すわけには行かないか」
危険と分かっているものに見境なしに手を出すほど彼は愚かではない。
恋の駆け引きであればそういうのも一興ではあるが、今は依頼中である。
「妖炎魔を討滅出来た後でまだ残っていたら、その時こそお土産にしよう」
そうと決まったら先を急ごうか、とセシルは九尾扇『裏見葛葉』を取り出して一扇ぎ。
すると、これまでの比ではない程の暴風が吹き荒れ、死蝶の群れを薙ぎ払っていく。
毒蝶如きに彼の道行きは阻めず。綺麗に一掃された道を、少年は悠々と歩いていった。
大成功
🔵🔵🔵
夜霞・刃櫻
【アドリブ・連係歓迎】WIZ
わーきれいだなー……って言ってる場合じゃないでやんす!
三下は仲間想いってところを魅せてやるっす!
事前に「情報収集」をして、死蝶の猛毒に対する解毒剤を作製します
「医術」の心得はあるのでないよりはマシ程度のものは出来るか
(より医術の心得がある者に任せても良い)
解毒剤をUC【夜霞の爆窃】で召喚した約325体の爆窃団の幽霊達の重火器に「武器改造」で搭載し、死蝶の猛毒の被害者達にばら撒いて摂取させる
また、死蝶の猛毒を重火器で吹き飛ばし、被害者達を幽霊蒸気機関車に搭載して安全確保します
古来から虫は炎に弱いのだ。え、それはゲームの話?マジで?
失敗したら土下座するしかないですね
ティオレンシア・シーディア
※アドリブ掛け合い絡み大歓迎
たしかに、幻想的でものすっごく綺麗なんだけど。…これぜぇんぶ毒かぁ…
さすがにちょぉっと嫌になるわねぇ…
対策なしで突っ込むのは流石に自殺行為よねぇ。まずはゴールドシーンにお願いしてラグ(浄化)とエオロー(結界)をベースに、ソーン(退魔)・不動明王印・烏枢沙摩明王印・軍荼利明王印・孔雀明王印に迦楼羅天印…使えそうなのは片っ端から書き込んで〇毒耐性のオーラ防御を展開。どう考えても長居したっていいことないし、ミッドナイトレースに○騎乗して一気に駆け抜けましょ。
ついでに妖怪さんたちも見つけ次第〇怪力で引っ掴むなりして回収しましょうか。見捨てるのも寝覚め良くないしねぇ。
「わーきれいだなー……って言ってる場合じゃないでやんす!」
幽世を舞う蝶の群れに見惚れ、即座にセルフツッコミを入れる夜霞・刃櫻(虚ろい易い兇刃・f28223)。見ているだけなら妖しくも美しいこの光景はその実、世界を滅びへと導く恐るべき死の先触れなのだ。
「たしかに、幻想的でものすっごく綺麗なんだけど。……これぜぇんぶ毒かぁ……さすがにちょぉっと嫌になるわねぇ……」
数えるのも馬鹿らしくなるほどの大群を前にして、ティオレンシア・シーディア(イエロー・パロット・f04145)も厭気が差したように溜息をひとつ。しかしこの死蝶の回廊を突破しなければ、異変の元凶が潜む樹海の迷宮には辿り着けない。
「対策なしで突っ込むのは流石に自殺行為よねぇ」
「特攻する前に事前準備は大事でやんす!」
死蝶の群れに飛び込む前に、ふたりはそれぞれ手を尽くして毒への対策を講じ始めた。
「今回もよろしくお願いねぇ」
ティオレンシアはペンの形をした鉱物生命体「ゴールドシーン」を取り出すと、身に着けた防具や装備品等に毒耐性を付与するための術式をさらさらと刻んでいく。
「ラグ(浄化)とエオロー(結界)をベースに、ソーン(退魔)・不動明王印・烏枢沙摩明王印・軍荼利明王印・孔雀明王印に迦楼羅天印……使えそうなのは片っ端から書き込んじゃいましょ」
フサルクを中心としたルーンに関する豊富な知識を活用し、東西宗派を問わずに魔除け厄除けに有効とされるものをありったけ記す。これだけ仕込んでおけばどんな猛毒だろうとも、きっと跳ね除けられるはずだ。
「三下は仲間想いってところを魅せてやるっす!」
一方の刃櫻は、先行していった猟兵が倒した蝶の死骸や鱗粉をサンプルとして回収し、死蝶の猛毒に対する解毒剤の作製に取り掛かっていた。今も多くの妖怪たちがこの毒に苦しめられていることを考えれば、放っておくことはできない。
言動に三下感が染み付いている刃櫻だが、実は闇医者としての心得もある。危険な薬毒の知識にも長けた禁忌なき闇医術は、未知の毒に対しても有効な処方を導き出した。
「あんまり時間もかけられないんで、ないよりはマシ程度のものっすけど」
完成した薬を用意しておいた弾丸に詰めて、解毒剤入りの特殊弾に。その頃にはちょうどティオレンシアの方でも、毒耐性のルーンを書き終わったところだった。
「どう考えても長居したっていいことないし、一気に駆け抜けましょ」
「パンクでロックにミッション・スタートっす!」
準備を完了した猟兵達はそれぞれの乗機に飛び乗り、いよいよ死蝶の回廊に突入する。
ティオレンシアが跨るのは異星人が開発したバイク型UFO「ミッドナイトレース」。刃櫻が搭乗するのは【夜霞の爆窃】により召喚した幽霊蒸気機関車だ。
「全員、行くでやんす!」
刃櫻が号令を発すると、機関車の中から325名の爆窃団の幽霊が身を乗り出して、辺り構わず発砲を始める。彼らの装備した重火器は、先程刃櫻が生成した解毒剤入りの特殊弾を発射できるように改造済みだ。
「うぅぅ、苦し……く、なくなった……?」
「さっきまで、あんなに身体が重かったのに……」
ばら撒かれる解毒剤を浴びたのは、幽世のあちこちに倒れている妖怪たち。それは死蝶の毒に苦しんでいた彼らにとって癒やしの雨となり、症状が完全に消えたわけでは無いものの、苦痛を和らげて顔色を良くするほどの効果は十分にあった。
(失敗したら土下座するしかないっすね)
と、製作者の刃櫻は後ろ向きな覚悟をこっそり固めていたりもしたのだが。
予想以上の効能に満足げな表情を浮かべ、今は揚々と機関車を操縦している。
「見捨てるのも寝覚め良くないしねぇ」
解毒剤を散布する幽霊蒸気機関車に先行する形で、ティオレンシアはミッドナイトレースを駆る。入念に施したルーンによる防護は完璧で、耐毒のオーラを纏った彼女の身体に蝶の鱗粉は触れることさえできなかった。
「わわっ?!」
空中を駆ける【禁殺】の技法も織り交ぜて幽世を疾走しながら、進路付近にいた妖怪は見つけ次第引っ掴む。いきなり捕まえられた相手のほうは目を白黒させているが、非常時ゆえに許して貰うことにして、機関車の車両に力任せに放り込む。
「回収完了っと」
バイクには乗せていられる人数にも限りがあるし、安全確保は向こうに任せておけば毒も治療して貰えるだろう。ガラの悪そうな爆窃団たちに解毒剤をぶっかけられる妖怪から視線を外し、ティオレンシアは再びアクセルを捻った。
「轢かれたくなかったら退くっすよ!」
道中で搭載する妖怪たちを増やしながら、汽笛を鳴らして幽世を走行する幽霊蒸気機関車。その乗員たる爆窃団の銃撃は被害者に癒やしを与えるだけでなく、邪魔な蝶を排除するためにも、本来の機能を存分に発揮する。
「古来から虫は炎に弱いのだ」
「それはゲームとかの話じゃないかしらぁ」
「え、マジで?」
したり顔の刃櫻にツッコミを入れつつ、ティオレンシアも愛銃「オブシディアン」のトリガーを引く。バイクの速度を落とさないまま、ひらひらと飛び交う蝶を正確に撃ち抜くその射撃技術は、まさに達人技。
「まぁ、大抵の生物は撃つか焼くかすれば死ぬのは確かよねぇ」
「なら問題はないでやんすね!」
轟く銃声とエンジンの唸り。救助と保護を並行させながら、ふたりの猟兵は元凶のいる樹海へと一直線に向かうのだった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
シェーラ・ミレディ
毎度危機に陥るとは、この世界も大変だなぁ。
……と、呆れている場合でもないな。
助けを待っているものがいるのだ、急がねばならん。
『艶言浮詞』で風と水の精霊たちを呼び出し、僕の身体を覆うように巡らせ、風と水の壁で鱗粉を蹴散らすぞ。
風で蝶ごと鱗粉を寄せ付けないようにして、それでも吹き飛ばしきれなかった毒を水で洗い流すイメージだな。
毒への耐性や呼吸をしない用意もあるが。これから戦闘もあるのだし、なるべく消耗は抑えるべきだろう。
要救助者を見付けたら、精霊に命じて鱗粉を洗い流し、簡単な手当をしておこう。
妖怪というのは千差万別だから、専門的な治療まではできかねるが。何もしないよりはマシだ。
※アドリブ&絡み歓迎
「毎度危機に陥るとは、この世界も大変だなぁ」
絶え間ない異変に見舞われ続ける幽世の窮状に、シェーラ・ミレディ(金と正義と・f00296)は小さく嘆息する。先日は雨が降らなくなったかと思えば、今度は死蝶の大量発生。あまりにも不安定なこの世界では、カタストロフ級の厄災が頻繁に起こる。
「……と、呆れている場合でもないな。助けを待っているものがいるのだ、急がねばならん」
気を取り直したシェーラは【彩色銃技・口寄せ・艶言浮詞】で風と水の精霊たちを呼び出し、自らの側に侍らせながら、死蝶が舞う危険地帯へと飛び込んでいった。
「おいで、僕に手を貸してくれ」
周囲の無機物を媒介に実体化した精霊は、無邪気に戯れながらシェーラの身体を覆うように巡る。それは彼を守護する風と水の障壁となって、死毒の蝶を蹴散らしていく。
ひゅうと渦を巻く風の流れにさらわれて、蝶の大群はほとんどが寄り付くことさえできず。僅かに吹き飛ばしきれなかった鱗粉も、すぐさま水飛沫に洗い流される。
(毒への耐性や呼吸をしない用意もあるが。これから戦闘もあるのだし、なるべく消耗は抑えるべきだろう)
力を温存しながら、最小限の負担で死蝶の回廊を突破するなら、これがベスト。
風と水の精霊たちに守られて、シェーラは猛毒が充満する地帯を安全に進んでいく。
「おや……」
敵の拠点までかなり近づいてきたところで、シェーラは道端にうずくまって倒れている妖怪を見つける。迂闊にも死蝶に近付き、被毒してしまった被害者の1人だろう。
「意識が無いな……おい君、しっかりするんだ」
ぐったりとした要救助者に声を掛けながら、ひとまず精霊たちに命じて鱗粉を洗い流させると、気道確保などの簡単な応急手当を行う。様々な状況に対応するために身に着けた医術の心得が、ここで役に立った。
(妖怪というのは千差万別だから、専門的な治療まではできかねるが。何もしないよりはマシだ)
また毒を浴びないよう、鱗粉の濃度が薄いところまで移動させて介抱していると、患者の顔色もだんだんと良くなってくる。どうやらまだ手遅れでは無かったようだ。
「う、うぅ……わたし、いったい……?」
「気がついたか。しばらく安静にしているといい」
妖怪が昏睡から目覚めると、シェーラは優しい微笑で相手を落ち着かせ、無闇に動かないよう告げる。幽世のあちこちに死蝶が蔓延っている現状では、大人しく籠っているのが一番の安全策だ。
「僕達がこの危機を解決するまで、待っていてくれ」
「うん……助けてくれて、ありがとう」
お礼を言いながらぺこりと頭を下げる妖怪に見送られ、少年は再び敵の拠点を目指す。
元凶たる骸魂の本拠地――鬱蒼と生い茂る樹海の迷宮は、もうすぐそこまで迫っていた。
大成功
🔵🔵🔵
カタリナ・エスペランサ
この景色も眺める分には綺麗なんだけどねー
さて、妖怪たちもしっかり助けていくとしようか!
発動するUCは【衛生兵特級資格】。
《祈り》による魔術的な処置と《医術》の応急手当を組み合わせて妖怪たちの《救助活動》に励みながら進もう
本命前の消耗は避けたいけど道行きにそう時間を掛けるのも頂けない
ある程度の毒は《毒使い+学習力+環境耐性》で構築した免疫と《息止め+毒耐性》で対策。
要所を《見切り》蝶には《誘導弾+爆撃+範囲攻撃+属性攻撃+吹き飛ばし》の羽弾で道を開く
重ねて《オーラ防御》を付与し《存在感》を持たせた《残像》を囮代わりに相手の動きを誘導しよう
自分は《存在感》を抑えて《目立たない》ように蝶の裏をかくよ
「この景色も眺める分には綺麗なんだけどねー」
無数の蝶がひらひらと舞う幻想的な風景を見渡しながら、カタリナ・エスペランサ(閃風の舞手(ナフティ・フェザー)・f21100)は肩をすくめる。もしもこの蝶に毒さえなければ観光もできたのに、そうはいかないのがオブリビオンの憎いところだ。
「さて、妖怪たちもしっかり助けていくとしようか!」
樹海に向かって羽ばたきながら、倒れている妖怪はいないか地上にも目を配る。敵を倒すだけではなく、助けを必要とする人たちの命を救うのも、猟兵としての使命だ。
「げほっ、ごほっ、ごほっ……ぐ、苦し……」
「大丈夫、すぐ助けるからね」
死蝶の毒に侵された妖怪たちを発見したカタリナは、彼らを安全な場所に寝かせて治療活動に励む。猟兵としての旅の中で【衛生兵特級資格】を取得した彼女は、救助活動や医術等に関する広範な知識とスキルを有していた。
(こーんなスキル、出番が無いならそれが一番なんだけど)
こうして役に立つ機会が少なくないのは皮肉なのか。祈りによる魔術的な処置と、医学的な応急手当を組み合わせ、多種多様な妖怪の体質に合わせて処方も変えて――様々な世界を渡ってきた彼女ならではの治療により、多くの妖怪が一命を取り留めた。
「もう大丈夫だね」
「うん! ありがとうお姉ちゃん!」
「本当に助かりました。このご恩は忘れません!」
大勢の妖怪からの感謝を受け取りながら、カタリナは幽世の更に奥地へと進んでいく。
目的地に近付くにつれて蝶の数も増え、それらが撒き散らす毒の濃度も増してくる。
(本命前の消耗は避けたいけど、道行きにそう時間を掛けるのも頂けない)
ここまである程度の毒は、毒使いの技術を応用して体内で構築した免疫力で耐え、鱗粉を吸わないよう息を止めて対策してきたが、ここからはそうもいかないらしい。
「あともう一息だし、少しなら力を使っても問題ないかな」
ここが要所だと判断したカタリナは、広げた双翼から羽根を飛ばして、進路上にいる蝶の大群を狙い撃つ。重ねて自らのオーラを付与した残像を、囮代わりに差し向けた。
厄介な毒を持つとはいえ、死蝶の能力は普通の虫とそれほど変わらない。誘導弾と爆撃の性質を持った羽弾に吹き飛ばされ、ひゅっと翔ける残像に誘われて飛んでいく。
そうして開かれた道を、彼女自身はなるべく目立たないよう、存在感を抑えてこっそりと通過する。
「……ふぅ。うまくいったね」
死蝶の回廊を無事に通り抜けたところでほっと息を吐き、前を向けば目的地である樹海の迷宮はもう目と鼻の先のところまで来ていた。
ここからは、敵と遭遇する危険も大きくなるだろう――気を引き締め直すと、カタリナは装備を確認しながら慎重にその先へと進んでいくのだった。
大成功
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第2章 集団戦
『狐魅命婦』
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POW : 神隠しの天気雨
【にわか雨】を降らせる事で、戦場全体が【視覚を惑わせるあかやしの森】と同じ環境に変化する。[視覚を惑わせるあかやしの森]に適応した者の行動成功率が上昇する。
SPD : フォックスファイアフィーバー
対象の攻撃を軽減する【九本の尾を持つ黒狐】に変身しつつ、【無数の青い炎の弾幕】で攻撃する。ただし、解除するまで毎秒寿命を削る。
WIZ : 天狐覚醒
【神のごとき神通力】に覚醒して【九本の尾を持つ白狐】に変身し、戦闘能力が爆発的に増大する。ただし、戦闘終了まで毎秒寿命を削る。
👑11
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死蝶の脅威を退け、毒に侵された妖怪たちを救いながら、幽世を探索する猟兵たち。
彼らが辿り着いたのは、生活圏の外れで鬱蒼と生い茂る樹海。オブリビオン化した妖怪の影響により迷宮化したそこは、如何にもおどろおどろしい気配に満ちていた。
一歩足を踏み入れれば目につくのは、木々の枝からだらりと垂れた首吊り縄だろう。
『縊鬼』の性質を反映したものだろうか、辺りには濃密な"死"の気配が満ちている。
木々が太陽や月の明かりを覆い隠すため、内部は昼夜問わず常に薄暗く、どこまで行っても同じような景色が続くため、方向感覚を見失わないよう注意も必要だろう。
ここに今回の異変の元凶――『妖炎魔』の骸魂に憑かれた『縊鬼』がいる。
そして異変によって引き寄せられた、それより下位のオブリビオンたちも。
いざ、樹海へと突入した猟兵を迎えたのは、狐の耳と尾を持つ少女たちだった。
「ここは通さないわよ。もう少しでこの世界は骸魂の楽園になるんだから」
狐魅命婦(こみみょうぶ)。
空狐と呼ばれる霊力の強い狐の骸魂が、弱い妖怪を飲み込んでオブリビオン化したものだ。力はそこまで強くはないが、空狐の骸魂に由来する様々な神通力は厄介である。
『妖炎魔』の骸魂の野望――幽世中の魂を収集しようという画策に惹かれ、現在は死蝶の毒で弱った妖怪に取り憑いているようだ。
「お前たち猟兵の身体を貰えば、私たちも神通力をフルに発揮できそうだわ。さあ、生命と魂を捧げなさい!」
あやかしの霊気をほとばしらせながら、殺気を放つ狐魅命婦の群れ。
だが幸いにもその数はそれほど多くはない――ここまでの道中、猟兵たちが多くの妖怪を救って来たことで、ほとんどの骸魂は憑依する肉体を得られなかったようだ。
この狐魅命婦を退けた先、樹海の迷宮の最奥に異変の元凶がいるのだろう。
ここで足止めを喰らっている暇はない。猟兵たちは即座に戦闘態勢を取った。
セシル・バーナード
妖狐のオブリビオンか。放っておくわけにはいかないね。
狐火を「見切り」、「全力魔法」の「オーラ防御」と「火炎耐性」で凌ぎつつ、「範囲攻撃」「歌唱」「楽器演奏」の破壊律動でまとめて片付けよう。狐火も殺戮音波で撃墜する。死の絶唱にどこまで耐えられるかな?
次元障壁は今回破壊律動の邪魔になるから不使用。その代わりに防御をしっかりね。
タイミングが合いそうなら、空間転移で弱ってる空狐の死角に転移して「暗殺」も狙おう。
その辺りの野狐ならいざ知らず、空狐ともあろうものがオブリビオンになるなんて、妖狐の面汚しだよ。
同族のよしみで殲滅してあげよう。感謝してね。
こちらも妖怪たちの救助完了。後は首魁を討滅するだけだ。
「妖狐のオブリビオンか。放っておくわけにはいかないね」
出自は異なれども同族として、オブリビオンと化した狐魅命婦たちと対峙するセシル。
相手も彼が妖狐だと気付いている様子だが、同族だからと容赦するつもりは無さそうだ――むしろ強い同族の肉体は、今の身体より相性のいい器となるとでも考えたか。
「ふふふ、あなたの血肉と魂もいただくわ!」
狐魅命婦たちは九本の尾を持つ黒狐にドロンと変身し【フォックスファイアフィーバー】を放つ。数え切れないほどの青い炎の弾幕が、嵐のようにセシルに襲い掛かった。
「その辺りの野狐ならいざ知らず、空狐ともあろうものがオブリビオンになるなんて、妖狐の面汚しだよ」
セシルは弾幕の軌道を見切りながら防御の構えを取る。口では辛辣なことを言っても、舐めてかかりはしない――全力で張ったオーラの防壁が青い狐火を防ぎ止めた。
彼には炎熱への耐性もあるため、この程度で火で丸焼けにはならない。猛攻を凌ぎながらシンフォニックデバイスとサウンドウェポンを装着し、不敵な笑みを浮かべる。
「同族のよしみで殲滅してあげよう。感謝してね」
「誰が―――!!」
黒狐たちの怒りの叫びは、それよりも激しく、重厚なサウンドによってかき消された。
樹海の迷宮に轟くは、世界が崩落するが如き死の絶唱。シンフォニアにしてサウンドソルジャーたるセシルの【破壊律動】が、狐魅命婦を震撼させる。
「Disbeat, Disrupt! 世界よ、自ら崩れ連鎖せよ!!」
叩きつける様なシャウトと共に奏でられる、ハードなデスメタル系のロックサウンド。
単純な音圧だけでも凄まじい衝撃波が狐火を撃墜していく。当然それは耳を塞いだ程度で防げるようなものではない。
「何……この……音楽……ッ?!」
魂をも震わせる殺戮音波を浴びた狐魅命婦たちは、苦しげにばたばたと九尾を振ってのたうち回る。妖怪の中でも「旧い」存在である空狐たちは、当然デスメタルなど聞いたことも無かっただろう。だからこそ、その音楽は"響く"。
(死の絶唱にどこまで耐えられるかな?)
セシルが死蝶の毒を防いだときのように【次元障壁】を使わなかったのは、強固な障壁が音波まで遮ってしまうため。防御に多少のリスクを抱えながらも放った全力の破壊律動は、彼の想定通り敵群に大被害を与えていた。
(そろそろ頃合いかな)
相手が弱ってきたタイミングを見計らって【空間転移】を発動。音と共に狐魅命婦たちの視界から姿を消したセシルは、空間のひび割れを利用して彼女らの背後に移る。
「い、いったいどこに――」
「ぼくはここだよ」
振り返る間も与えず、次元断層を纏った手刀で一撃。それがトドメとなって意識を失った黒狐はどろんと元の少女の姿に戻り、狐の尾と耳が消える。骸魂が消滅した証だ。
「こちらも妖怪たちの救助完了。後は首魁を討滅するだけだ」
気を失っている妖怪たちに大きなケガがないか確認すると、セシルはそのまま樹海の奥へと進む。狐魅命婦よりも更に不気味で邪悪な妖気が、その先に待ち受けている。
成功
🔵🔵🔴
雛菊・璃奈
同じ妖狐のよしみで通らせて貰いたいけど…駄目そうだね…。
「ご主人に似てる!」
「狐尻尾!」
「でも毛並みはご主人の方が良い!」
【九尾化・魔剣の媛神】封印解放…。
神通力なら負けない…わたしの方は呪力だけどね…。
相手の神通力に対抗してこちらは莫大な呪力を用いた各種の呪術【属性攻撃、呪詛】や呪力の縛鎖等で対抗…。
敵の攻撃を悉く封殺して力を見せつけた後、改めてフェニックスの時と同様に【共に歩む奇跡】を用いた説得を試みるよ…。
受け入れられなければ…仕方ないけど、ここからは本気…。
神速と凶太刀の高速化を解放し、神通力を使う間を与えず一瞬で斬り捨て、無限の魔剣で一気に殲滅するよ…
異世界の同族でも敵なのは悲しい…
「同じ妖狐のよしみで通らせて貰いたいけど……駄目そうだね……」
ありありと敵意を漲らせる狐魅命婦たちの様子を見て、璃奈は残念そうに息を吐く。
向こうからすれば同族という以前にオブリビオンと猟兵、情けをかけるような間柄では無いのだろう――どちらかと言えば、対抗心のようなものを強く感じさせる。
「ご主人に似てる!」
「狐尻尾!」
「でも毛並みはご主人の方が良い!」
「なんですって?!」
主人を敬愛するメイド人形たちは当然のようにそう言い切るが、それは狐魅命婦たちの癪に障ったらしい。「私達のほうが良いに決まっているでしょう!」と叫びながら【天狐覚醒】で白狐に変化すると、九本に増えた尾を誇示するように振るう。
「思い知らせてやるわ、同じ妖狐でも格の違いというものを!」
「神通力なら負けない……わたしの方は呪力だけどね……」
璃奈も【九尾化・魔剣の媛神】の封印を解き、白銀の九尾の妖狐に変身。全身から解き放たれた呪力が、ただそこに立っているだけで彼女の周囲の樹海を崩壊させていく。
「ひれ伏しなさい!」
神のごとき神通力のオーラが、目障りな同族を屈服させんと襲いかかる。対する璃奈は莫大な呪力を利用した数々の呪術でその攻勢を押し返す。数の上では狐魅命婦のほうが有利に見えるが、今の彼女らは弱い妖怪の肉体を介さなければ力を発揮できない――純粋な地力と出力において、封印解放した魔剣の巫女とは大きな隔たりがあった。
「この程度……?」
「な……ッ?!」
璃奈は力の差を見せつけるために、涼しい顔をしながら白狐の攻勢を悉く封殺する。
神通力を直接ぶつけてくれば呪術で相殺。ならばと肉弾戦で飛び掛かってくれば呪力の縛鎖で拘束。どんな攻撃が来ようとも全て呪力と術のみで対抗してみせる。
「貴女達ではわたしには敵わない……降伏してほしい……」
気が済むまで狐魅命婦たちに攻撃させたところで、璃奈は【共に歩む奇跡】の呪符を取り出して呼びかける。あれだけ空狐たちに敵視され猛攻をかけられながら、彼女の身体には傷一つないどころか、その場から1歩も動いてすらいなかった。
「異世界の同族でも敵なのは悲しい……」
いかにプライドの高い妖狐でも、これだけ明らかな実力を示されれば動揺は隠せない。
そこに璃奈が誠実な気持ちで、敵対する意思さえ捨てれば共に生きられると説得を試みれば、迷いを見せる者も現れはじめた。
「わ……私は、降伏するわ……」
「ちょっとあなた?!」
「裏切るつもり!?」
仲間たちからの避難を浴びながら、ひとりの狐魅命婦が差し出された呪符に触れる。
すると妖怪の身体から空狐の骸魂が抜け出し、符の中に吸い込まれていく。死蝶の回廊で協力してくれたフェニックスと同様、この空狐もこれで共に歩めるはずだ。
「ふざけないでよね! 私達は猟兵なんかに屈さない!」
「まだ本気を出してないだけなんだから! 見てなさい!」
しかしその他大多数の狐魅命婦は、あくまで徹底抗戦する道を選んだ。敵意を露わにして提案を拒絶する彼女らを見た璃奈は、哀しげに一度だけ目を伏せ――そしてすぐに、鋭い眼差しを"敵"に向ける。
「受け入れられなければ……仕方ないけど、ここからは本気……」
目にも留まらぬ早業で鞘から抜き放つは、使い手に音速を超える速さを付与する妖刀・九尾乃凶太刀。九尾化による能力向上も併せれば、その速度は神速の域さえ超える。
「――――え?」
狐魅命婦たちは、神通力を使う暇どころか、璃奈が刀を振るう瞬間すら見えなかった。
白銀の閃光が戦場を薙いだかと思ったときにはもう、彼女たちは斬り捨てられていて。
「さようなら……どうか、安らかに……」
その直後、魔剣の媛神の呪力によって顕現した"終焉"の魔剣が、数え切れないほどの刃の豪雨となって、悪しき道に堕ちた狐魅命婦を1人残らず殲滅したのであった。
成功
🔵🔵🔴
御狐・稲見之守
ふふ、このワシに『生命と魂を捧げよ』とは面白いことを云う狐子じゃ。よろしいよろしい、その九つ尾が伊達ではないことを見せてみよ。
[火炎耐性]己の狐火を纏いて彼奴らの狐火を喰うたならば、[UC精気略奪]で彼奴らを一切合切喰らうてしまおう――さあその生命と魂を我に捧げるが良い。
……という、[催眠術][呪詛]による幻覚を彼奴らに見せてやる。ふふっ安心するがよい、ただの夢よ。
さあ、選べ。このまま魂を喰われるか、それともワシの用意する器(霊符)を得て、我が式神となるか。少なくとも、そんな身体よりは神通力に秀でた器であることは約束するがナ。
「ふふ、このワシに『生命と魂を捧げよ』とは面白いことを云う狐子じゃ」
傲慢で身の程を知らぬ狐魅命婦たちの物言いにも、稲見之守は寛容だった。歳経たモノノ怪としての余裕と不敵さ、そして幼い容姿に見合わぬ威厳と尊大さを見せつけながら、粋がる若人をからかうように告げる。
「よろしいよろしい、その九つ尾が伊達ではないことを見せてみよ」
「このガキ、同族だからって調子に乗って……痛い目に合わせてやる!」
黒狐の姿に変化した狐魅命婦たちは九つの尾を扇のように広げると、怒りも露わに【フォックスファイアフィーバー】を放つ。青い軌跡を描きながら樹海を舞う炎の弾幕は、標的を包囲するように四方八方から一斉に殺到する。
「燃え尽きなさい!」
黒狐の一喝と同時に、青き狐火が稲見之守を包みこむ。それはムカつく同族の小娘を確実に尻尾の先まで焼き尽くす筈だった――少なくとも彼女らはそう確信した筈だ。
だが。狐魅命婦たちが注視する中で、青い炎は次第に勢いを失い、その中から火傷ひとつない稲見之守が姿を現す。彼女がその身に纏うのは、紅蓮に燃える己の狐火だ。
「なんじゃ、こんなものとはナ。仮初の器とはいえもう少しやるものかと思うたが」
「う、嘘でしょ
……!?」
平然とした表情でぱっぱと青い火の粉を払う稲見之守。狐魅命婦が放った青い狐火は全て紅蓮の狐火によって喰らわれ、彼女の小腹をほんの少し満たしただけに終わった。
「――さあ、その生命と魂を我に捧げるが良い」
動揺する狐魅命婦たちの前で、稲見之守はにたりと不気味に嗤い。
その足元から、ヒトではない形をした影がぞわぞわと広がっていく。
「な、なにが
……!?」
またたく間に戦場は墨で塗り潰したような漆黒に染め上げられ。いよいよ恐怖に青ざめる黒狐の足元から侵蝕していく影が、その生命を、魂を、存在の一切合財を喰らう。
「一欠片も残さぬ」
「や、やめ――――」
命乞いの叫びは闇よりも深い黒に呑み込まれ。最期に見たのは愉しそうに嗤う童女の、爛々と輝く双眸。それきり視界は影に閉ざされ、感覚が、意識が、消えていく――。
「――――ッ
!!?!!?」
――その直後、狐魅命婦たちは先刻までと何も変わらない状態で樹海に立っていた。
身体には傷一つなく、立ち位置も一歩も動いていない。ただ、影に呑み込まれた際のおぞましい感覚だけが、身体ではなく精神に残っている。
「ふふっ安心するがよい、ただの夢よ」
困惑する小娘共の様子を愉快そうに眺めながら、稲見之守が種明かしをする。ここまでの出来事は全て彼女が見せた幻覚。呪詛を用いた催眠術のようなもので、実際には何も手は出していない――"今は、まだ"。
「さあ、選べ。このまま魂を喰われるか、それともワシの用意する器を得て、我が式神となるか」
稲見之守はひらひらと式神作りにも用いられる霊符を振りながら告げる。口調こそ軽いものだが、それは紛れもない最後通牒だった。もし断れば最期、狐魅命婦たちが見た悪夢は正夢となって、魂の一片まで【精気略奪】されるだろう。
「少なくとも、そんな身体よりは神通力に秀でた器であることは約束するがナ」
「……わ、わたしは……あ、貴女様の御心に従います……」
強烈な鞭のあとで、ほんの一滴の甘い蜜を滴らせれば、逆らうことは難しいだろう。
当初の居丈高な態度はどこへやら、すっかりと心の折れた狐魅命婦の多くは、彼女への服従を誓った。
「ふ、ふざけないで! 私は式神になんて……あ、あぁぁぁぁぁぁ……ッ
!!!?」
――それでも幾人か、頑なに降伏を拒んだ気骨のある者もいるにはいたが。
彼女らが果たしてどんな末路を辿ったのか、多くは語るまでも無いだろう。
大成功
🔵🔵🔵
フレミア・レイブラッド
あら、可愛らしい狐の子達ね♪
でも、残念ね…この世界妖怪に骸魂が取り憑いてる形だから、(中の妖怪救出の為)眷属にし難いのよね…。
「おねぇさまのお手伝いするのー。ついでに熱いのは嫌なのー」(ふぶいてみるで敵の炎を相殺・凍結)
【神滅の焔剣】で真祖の力を解放。
神焔で敵の炎や神通力を焼き払いつつ、【魅了の魔眼・快】【誘惑、催眠術】魅惑のフェロモンで魅了。
【創造支配の紅い霧】で肉体を創造して、元の妖怪からそちらに憑き直して貰えばなんとか眷属として新生できないかしら?
まぁ、上手くいかなかったり魅了しきれなかった子は逃がすわけにもいかないから…レーヴァテインの神焔で全て塵に還すしかないのだけれどね♪
「あら、可愛らしい狐の子達ね♪」
それが自分の生命と魂を狙っていると分かったうえで、楽しそうに微笑むフレミア。
不完全とはいえ空狐の群れを相手にするというのにまるで恐れる様子もない。気に入った子はあわよくば懐柔して眷属にしていくのが彼女のスタイルである。
「でも、残念ね……この世界妖怪に骸魂が取り憑いてる形だから、眷属にし難いのよね……」
骸魂に囚われている一般妖怪を救出するためには、眷属にする前にどうにか憑依を解かせないといけない。何かいい方法はないかと考えていると、そんな悩みなど知ったことかとばかりに容赦なく敵が襲い掛かってくる。
「私達を眷属にしようだなんていい度胸ね!」
放たれるのは九尾の黒狐に変化した狐魅命婦たちによる【フォックスファイアフィーバー】。身の程知らずを消し炭にしてやろうと、無数の蒼炎がフレミアに襲い掛かる。
だがその時、前に飛び出した雪花の【とにかくふぶいてみる】が、炎の弾幕を遮った。
「おねぇさまのお手伝いするのー。ついでに熱いのは嫌なのー」
幼い容姿の雪女見習いといえども、眷属筆頭として多くの事件に参加してきた彼女の実力はけして低くない。樹海に吹き荒れる吹雪のヴェールは敵の炎を相殺・凍結させ、主の元へは決して届かせない。
「あら、ありがと雪花♪」
フレミアは健気な眷属をねぎらうように頭を撫でると、自らの真祖の力を解放する。
その身より放たれるのは真紅の魔力。背中には4対の翼が生え、背丈も成長し、手元には【神滅の焔剣】レーヴァテインが顕現する。
「我が血に眠る力……今こそ目覚めよ! 我が眼前の全てに滅びの焔を与えよう!」
高らかな宣言と共に放たれる焔の剣。神殺しの焔を極限にまで圧縮されたそれは、狐魅命婦たちが操れる狐火とは、熱量も規模も比較にならないほどの威力を誇った。
「な―――熱ぅっ
!!!?」
蒼炎の弾幕が真紅の焔剣に焼き払われ、その熱の余波が狐魅命婦たちに襲い掛かる。
同じ炎でも、まるで格が違う。戦慄のあまり総毛立つ彼女らに、フレミアは艷やかな微笑を浮かべ――その瞳が妖しい輝きを放つ。
「わたしの僕になりなさい……あなたはもう、わたしのトリコ♪」
強烈な快楽と共に対象を虜にする【魅了の魔眼・快】。動揺により精神強度の下がっていた空狐たちは、魅惑のフェロモンを発するフレミアの眼差しに抗えず、次々に陥落していく。
「あぁ……フレミアさまぁ……♪」
「ちょ、ちょっとあなたたち、どうしちゃったのよ?!」
中にはまだ正気を保っている者もいるが、突然仲間の様子がおかしくなっては戦うどころではない。敵陣が混乱に陥っている間に、フレミアは真祖の魔力を活性化させ【創造支配の紅い霧】を発動し、戦場を紅い霧で包み込む。
「全てを満たせ、紅い霧……」
この空間にいる術者は、魔力からあらゆるモノを自在に具現化することができる。それを利用してフレミアは目の前にいる妖狐の娘とそっくりの肉体を創造してみせる。
「元の妖怪からこちらに憑き直して貰えば、なんとか眷属として新生できないかしら?」
「フレミアさまと一緒にいられるのなら、どんな身体でも……♪」
完全に魅了された空狐の霊は、あっさりと現在の肉体を捨ててフレミアの創った肉体に移動する。元のプライドはどこへやらだが、本人はとても幸せそうだったという。
「そんな作り物のお人形の中に入れですって? ふざけないで!」
だが、魅了しきれなかったその他多くの狐魅命婦たちは、猟兵に屈することを良しとせず。烈火のごとく怒りながら再びフォックスファイアフィーバーを放つが――。
「逃がすわけにもいかないから……全て塵に還すしかないのだけれどね♪」
「……ぇ?」
彼女らの渾身の弾幕がまるで線香花火のような――圧倒的な火力を誇るレーヴァテインの神焔が、にっこりと微笑むフレミアの手から放たれ、全てを焼き払っていく。
眷属になっておくのが賢い選択だったと、後悔する間もなく。狐魅命婦たちの魂は瞬時に灰燼に帰し、飲み込まれていた妖怪たちだけが後には残されたのであった。
成功
🔵🔵🔴
逢坂・理彦
同じ狐が相手とはね。
幸い数はすくないけれど一人一人の力も強そうだそうだねこう言うのはどうかな?
UC【稲荷詣・千本鳥居】
それじゃあ、出口で待ってるね〜。
出口に来るまでに寿命を多少は削れそうだし。
とりあえず出口を【拠点防御】で守って。
相手が来たら【だまし討ち】で攻撃。
さらに【生命力吸収】を攻撃にのせて弱らせようか。
アドリブ連携歓迎
「同じ狐が相手とはね。幸い数はすくないけれど一人一人の力も強そうだそうだね」
自分と同じ狐の尾と耳を持つ娘たちを、厄介そうに肩をすくめながら見やる理彦。
彼女らに取り憑いている空狐の骸魂は、歳月に応じた強力な神通力を操る。弱い妖怪の身体では十分な実力は発揮できないようだが、それでも油断は禁物だろう。
「ふふふ……おじさんの生命と魂と霊力も、あたしたちが貰ってあげる」
狐魅命婦たちは嗜虐的な気配を放ちながら【天狐覚醒】を発動。
九尾の白狐へと変じたその身に、神の如き絶大な神通力が宿る。
「そうだね。こう言うのはどうかな?」
正面きって戦うには不利だと判断した理彦は、柏手を打って【稲荷詣・千本鳥居】を発動。今にも飛び掛からんとしていた狐魅命婦たちの周囲から、赤い鳥居が現れる。
「稲荷詣と参ろうか」
「なにっ?!」
千を超える鳥居はまたたく間に回廊となり壁となり、複雑怪奇な迷路を作り上げる。
敵が困惑している間に、理彦はへらへらとした笑みを浮かべながら遠ざかっていく。
「それじゃあ、出口で待ってるね〜」
「ま、待ちなさいっ!」
狐魅命婦は慌てて後を追いかけようとするが、理彦の作り出した迷路は一筋縄では脱出できない。神通力で壁を破壊しようとしても、強固な鳥居はびくともしなかった。
敵が中で右往左往している間に、理彦はこの迷路のたったひとつの出口に陣取り、迎撃の準備を整えておく。
(出口に来るまでに寿命を多少は削れそうだし)
狐魅命婦の【天狐覚醒】は強力なぶん代償も激しいことを彼は見抜いていた。迷路攻略に時間をかけさせてその分消耗させれば、こちらは何もしなくとも優位に立てる。
「ぜぇ……はぁ……や、やっと出口……」
やがて、迷路を攻略してきた最初の狐魅命婦が、だるそうな様子で出口に姿を見せる。やはり覚醒の消耗が大きかったのか、白狐への変身を解いて少女の姿に戻っている。
散々に迷わされた徒労感と、ようやくゴールについた安堵感から生じる気の緩み。理彦はそれを見逃さずに奇襲を仕掛けた。
「はい、ご苦労さま」
「ぎゃうっ?!」
退魔刀・翠月による、柔らかい月光の軌跡を描く一閃。生命力吸収の効果も付与されたその斬撃は、狐魅命婦をばっさりと斬り伏せ、囚われていた妖怪を骸魂から解放した。
「この感じならいけそうだね」
再び出口に陣取って、迷路から出てくる敵を待ち構える理彦。狐魅命婦たちが迷路をクリアするまでにかかる時間はまちまちで、言い換えれば連携が取れないということ。多対1の勝負を1回やるよりも、1対1の勝負を繰り返すほうが勝算が高いのは明らかだ。
彼の作戦は見事に嵌まり、迷路に閉じ込められた空狐たちで外に出られた者は、それから誰一人として居なかった。
大成功
🔵🔵🔵
キリカ・リクサール
アドリブ連携歓迎
フッ…ここでも狐狩りか
しかも今度の獲物は本物の狐だ、腕が鳴るな
と挑発しつつ装備銃器で銃撃
距離を取りながらも敵集団をおびき寄せるように行動
その隙にデゼス・ポアも空中に放ち、UCの準備を行う
フン…なるほど
どうやら私の攻撃は軽減されているようだな
UCを発動
武器を取り落とすほど脱力をして無数の炎の弾幕を一身に受け、そのままデゼス・ポアからカウンターで相手に撃ち返す
私の銃弾は軽減できるようだが、自分たちの攻撃はどうかな?
例え軽減できたとしても、集団が放つ嵐のような弾幕を受けてはひとたまりも無いだろう
追い込まれていたのはお前達だったという事に気付かなかったか
飲み込んだ妖怪達も返してもらうぞ
「フッ……ここでも狐狩りか。しかも今度の獲物は本物の狐だ、腕が鳴るな」
「なんですって?!」
強化型魔導機関拳銃"シガールQ1210"の銃口を向け、冷笑と共に敵を挑発するキリカ。
いかにも気位やプライドの高そうな相手から主導権を奪うには、これが最もシンプルに効く。案の定、狩りの獲物扱いされた狐魅命婦は顔を真っ赤にして怒声を上げる。
「獲物はあんたのほうよ! 消し炭にしてやるわ!」
怒りのままに【フォックスファイアフィーバー】を発動した彼女らは、九本の尾を持つ黒狐に変化し、無数の青い炎の弾幕を放ちながら襲い掛かってきた。
(まずは第1段階はクリアだ)
まんまと敵を挑発に乗せたキリカは、蒼炎の弾幕から遠ざかりながらシガールQ1210で銃撃を放ち、距離を取りながらも敵集団をおびき寄せるように仕向ける。そうとは知らぬ狐魅命婦たちは、銃弾にも怯まずひたすら正面から猛追してくる。
「フン……なるほど。どうやら私の攻撃は軽減されているようだな」
「こんな豆鉄砲、効きはしないわよ!」
秘術にて強化された銃撃を豆鉄砲呼ばわりとは、強がりもあるのだろうが大したものだ。攻め手に欠くキリカを嘲り笑いながら、黒狐たちはさらに激しく攻撃を仕掛ける――彼女が隙をみて上空へと放った呪い人形「デゼス・ポア」に気付かぬまま。
「口ほどにもない奴ね! さあ、追いつめたわよ!」
やがて狐魅命婦の群れはキリカを完全に包囲し、ほくそ笑みながら勝利を宣言する。
四方八方から一斉に放たれる、嵐の如き無数の狐火。それを見たキリカは全てを諦めたかのように力なく項垂れ――だらんと垂れ下がった手から機関拳銃が取り落とされる。
「殺った
……!!」
黒狐の口の端に浮かぶ残虐な悦び。だが、それは早計であったと彼女らはすぐに知る。
燃え盛る青炎の中から現れたのは焼死体ではなく、火傷ひとつ無いキリカの姿だったのだから。
「嘘……どうしてっ?!」
仕損じた理由が分からす困惑する狐魅命婦。それには答えずキリカはこう呟く。
「狂い震えろ、デゼス・ポア。貴様が喰らう幻覚を吐き出せ」
その瞬間、上空に待機していた人形が少女とも老婆ともつかぬ不気味な金切り声を上げ、たった今キリカが受けたのと同じ【フォックスファイアフィーバー】を解き放った。
キリカが使用したのは【ディアレ・アリュシオン】。完全な脱力状態で受けたユーベルコードを無効化し、その威力を増幅したうえで人形から排出するカウンター技である。
「私の銃弾は軽減できるようだが、自分たちの攻撃はどうかな?」
自分自身の炎を――それも集団による一斉攻撃をそっくりそのまま返され、さあっと青ざめる狐魅命婦たち。彼女らが逃げる間もなく、上空から降り注いだ狐火の嵐は戦場を青く染め上げていく。
「きゃあぁぁぁぁぁぁっ
!!?!」
絹を裂くような悲鳴と、魂の焼ける匂いが辺りに満ちる。仮に自らの攻撃を彼女らが軽減できたとしても、デゼス・ポアの力で強化された炎嵐に耐えることは不可能だったろう。
「追い込まれていたのはお前達だったという事に気付かなかったか。飲み込んだ妖怪達も返してもらうぞ」
毅然としたキリカの言葉と、嘲笑うようなデゼス・ポアの金切り声を聞きながら、狐魅命婦たちは燃え尽きていく。その焼け跡から出てくるのは、骸魂に囚われていた妖怪たち。死蝶の毒の影響でぐったりとしているが、直ちに生命の危険はなさそうだ。
「よし、次だ」
邪魔者を排除したキリカは落とした拳銃を拾い上げると、人形も回収して先を急ぐ。
樹海の迷宮の、さらなる奥。この死蝶の異変を引き起こした元凶を仕留めるために。
成功
🔵🔵🔴
カタリナ・エスペランサ
楽園って言うならキミたちが還るべきは骸の海の方さ
過去の亡霊がまだ生きてる妖怪たちに迷惑掛けるものじゃないよ?
弾幕は《第六感》で《見切り》《空中戦》の機動力を活かして応じるとしよう
使うUCは【架空神権】
物理法則を《蹂躙+ハッキング》する黒風を《オーラ防御》代わりに敵の攻撃を受け流し、風の一部は羽弾に纏わせて《カウンター+属性攻撃+弾幕》で迎え撃つよ
この黒風の本質は侵蝕でね
風を通じて《学習力+情報収集》で敵の能力を解析と同時に《目立たない+ハッキング+魔力溜め+破壊工作》
仕込みが整えば《封印を解く》事で敵の能力制御も奪い取って一気に畳み掛ける
吹っ飛ばした敵の骸魂は確実に破壊して妖怪を解放していこう
天帝峰・クーラカンリ
骸魂の楽園だと? そんなもの、楽園なものか。
そんじょそこらの雑兵は誤魔化せても、私達獄卒の目は誤魔化せんぞ。
【WIZ】
とはいえ実践経験の少ない身だ。あまり前線に出すぎるのも危険だろう。
ここは癒しの術を以って、皆をサポートする。
『生まれながらの光』で被弾した者達を次々に回復。
私自身は疲労するが、此処は都合のいい事に樹海。
回復しきれぬほど疲労したら木々に隠れて身を潜め、体力の回復を待つ。
なに、私はこれでも神故に、人よりは丈夫に出来ている。
いざとなれば樹海の神に祈りを捧げ、精神力を分けてもらうとするさ。
さぁどうする狐魅命婦よ。お前の攻撃は猟兵に届くかな?
鏡島・嵐
ッ、幾らかは憑かれた奴が出ちまったか……。
この後のこともあるし、あまり時間はかけてられねえ。
怖ぇけど、何とか踏ん張るしかねえよな。
クゥの背中に乗って機動力を強化し、間合いを有利に保ちながら攻撃。
弾幕ったって、全部の弾を避けないといけないわけじゃねえ。当たりそうなのだけを〈見切り〉、躱せばいいってことだからな。
その弾幕の合間を縫って〈スナイパー〉ばりに精度を高めた一射で反撃。狙えそうなら〈目潰し〉や〈武器落とし〉も狙いに行く。
もし他の仲間が近くに居るんなら、状況を見ながら〈援護射撃〉を飛ばして支援も行う。
もし憑依から解放されて助けられそうな妖怪が出たんなら、適当なタイミングで安全圏に逃す。
「ッ、幾らかは憑かれた奴が出ちまったか……」
死蝶の被害者の身体を乗っ取った狐魅命婦を見て、嵐は悔しそうに顔をしかめる。彼を含め多くの猟兵が救助に尽力したにも関わらず、救いきれなかった者が出てしまったのは――事件の規模を鑑みればやむを得ない事とはいえ、やるせない気持ちは残る。
しかしまだ、取り憑いている骸魂を倒すことができれば、彼女らを救い出せるはずだ。
「この後のこともあるし、あまり時間はかけてられねえ。怖ぇけど、何とか踏ん張るしかねえよな」
胸の奥から這い上がってくる戦いへの恐怖を、ぐっと歯を食いしばって抑え込む。救えるはずの生命を置いて、ここで逃げ出してしまったら、きっと一生後悔するから。
「私達の楽園を邪魔する輩は、誰であろうとも容赦しないわ!」
「骸魂の楽園だと? そんなもの、楽園なものか」
自分たちの理想を謳う狐魅命婦の言葉を、欺瞞であると喝破するのはクーラカンリ。
おおかた元凶である『妖炎魔』に吹き込まれたのだろうが、この異変の果てに待つのは全ての生命が死に絶えた世界。未来なき終焉(カタストロフ)に他ならない。
「そんじょそこらの雑兵は誤魔化せても、私達獄卒の目は誤魔化せんぞ」
「楽園って言うならキミたちが還るべきは骸の海の方さ」
生と死の境界を乱す者に厳しい目を向ける山神から、言葉を継ぐようにカタリナも言い放つ。この幽世は地球から忘れ去られた者に残された安住の地だ――そこにずけずけと踏み込んで、妖怪たちの平穏を乱すなど、許されることではない。
「過去の亡霊がまだ生きてる妖怪たちに迷惑掛けるものじゃないよ?」
「五月蝿いっ!!」
カタリナたちの言葉に怒りを露わにしながら、狐魅命婦は九尾の黒狐に姿を変える。
扇のように広げられた尾の先端に灯るのは、青く燃える狐火。【フォックスファイアフィーバー】の予兆を感じ取った三人の猟兵は、的を散らすように三方に分かれた。
「我ら光と影。共に歩み、共に生き、共に戦うもの。その証を此処に、その連理を此処に。……力を貸してくれ、クゥ!」
嵐が【我が涅槃に到れ獣】を詠唱すると、一緒に連れてきた仔ライオンのバディペットが炎を纏い、黄金に輝く成獣の姿へと変身する。獅子は嵐を背中に乗せると、力強く樹海を疾走しながら咆哮を上げた。
「さぁて、少しばかり書き換えるよ?」
同時にカタリナは【架空神権 ― domination ―】を発動、発生する黒い風をオーラのように身体に纏いながら空へ舞い上がる。地を駆ける嵐と連携して、こちらは得意の空中戦での機動力を活かして敵を翻弄する構えだ。
「逃げられると思って……ッ!!」
空と地を駆ける2人の猟兵を睨みつけながら、狐魅命婦たちは青い狐火を一斉に放つ。
戦場を蒼く染め上げんばかりの数え切れない炎の弾幕。並大抵の者ならその規模に圧倒され、逃げられないと絶望するだろうが、ここにいる者たちは違った。
(弾幕ったって、全部の弾を避けないといけないわけじゃねえ。当たりそうなのだけを見切り、躱せばいいってことだからな)
嵐は落ち着いて狐火の軌道把握に努め、クゥはそれに従って弾幕の隙間をすり抜ける。言葉で指示を出すまでもなく、彼らの動きはまさしく一心同体という言葉が相応しい。
「見栄えは派手だけど、それじゃ撃ち落とせないよ」
上空に目を向ければ、そこには華麗に空を舞うカタリナの姿がある。弾幕の合間を縫う嵐たちとは異なり、こちらはまるで弾幕のほうが彼女を避けているようにも見える。
その身を包む黒風は魔神"暁の主"の権能の具現。彼女はその力で周囲の物理法則を書き換え、攻撃が自分から受け流されていくように仕向けているのだ。
「難題に挑む者に、癒やしの術を」
弾幕飛び交う戦場の後方からは、クーラカンリが【生まれながらの光】で前線の味方のサポートに徹している。たとえ嵐やカタリナが回避しきれずに被弾しても、山神から放たれる癒やしの光を浴びれば瞬時に治癒し、身体には火傷の痕ひとつ残らない。
(実践経験の少ない身だ。あまり前線に出すぎるのも危険だろう)
他の猟兵と比較すればまだ実戦に乏しい彼は、それを嘆くでもなく冷静に受け止めたうえで、自分にできることを遂行する。ユーベルコードの代償により彼自身は疲労するが、表情には疲れをおくびにも出さず、前線維持のために力を尽くす。
「ええいっ、まずは後ろにいるヤツから……!」
「させるかよ」
なかなか猟兵たちを仕留め切れないのに業を煮やした狐魅命婦は、回復役であるクーラカンリに狙いを集中させようとするが――そうはさせじとスリングショットを引き絞った嵐の援護射撃が、スナイパーばりの精度で敵の尻尾を撃ち抜く。
「痛っ?! こいつっ!!」
尻尾の向きが逸れたことで、あらぬ方向へと飛んでいく狐火。その隙にクーラカンリは樹海の木々に隠れて身を潜め、しばし体力回復に努めることにする。山の神である彼にとって、自然豊かなこの場所は霊気を回復させる絶好のスポットだ。
「そろそろ反撃といこうか」
敵の注意が地上に集まりつつあるのを感じたカタリナは、黒風の一部を羽に纏わせ、撃ち放つ。上空から飛来する漆黒の羽弾は、過たず狐魅命婦たちに突き刺さった。
「いたたっ!? やってくれたわね!」
黒狐の姿には攻撃を軽減する効果もあり、羽弾そのものは大したダメージを与えられていない。逆に狐魅命婦たちの怒りを買い、猛烈な弾幕による返礼を叩き付けられる。
一部とはいえ黒風を攻撃に裂いたことで、受け流しきれなかった狐火が肌を掠める。だが、カタリナは静かに笑みを浮かべた――敵がこちらの攻撃に触れた瞬間から"書き換え"はもう始まっている。
「この黒風の本質は侵蝕でね」
カタリナは羽弾に纏わせた黒風を介して敵の能力を解析し、同時にその制御を奪うための工作を行う。それは言うなれば魔神の権能を用いた魔術的なハッキングに近い。
必要なのは解析を完了するまでの少々の時間。彼女ひとりでは苦労したかもしれないが、ここには共闘する仲間がいる。
「上ばっかり見てると足元をすくわれるぞ」
クゥと共に樹海を駆ける嵐が、狐魅命婦の目や尻尾をピンポイントに狙い撃つ。いくらダメージを軽減されようとも、目潰しや武器落としまで無効化できるわけではない。
狙撃を嫌って敵が後退すれば、その間に戦線に復帰したクーラカンリが再び生まれながらの光を放ち、カタリナの火傷を治療する。
「こいつら……っ!!」
狐魅命婦たちは互いをフォローしあう猟兵の連携を、どうしても打ち崩せないでいた。
ぎりりと牙を剥き出しにして苛立ちを露わにする彼女らに、クーラカンリが告げる。
「さぁどうする狐魅命婦よ。お前の攻撃は猟兵に届くかな?」
「このっ、いい気になるな――――ッ!?」
怒りのままにありったけの蒼炎弾幕を放とうとした、その瞬間――本人たちの意に反して、狐魅命婦の変身が解除される。九尾の黒狐から、狐の耳と尾を持つ少女の姿に。
「解析完了。キミたちの能力制御は奪い取った」
仕込みを整えた閃風の舞手が、黒風纏う翼を羽ばたかせながら会心の笑みを浮かべた。
「そんな、馬鹿な……っ?!」
ユーベルコードの制御を掌握された狐魅命婦たちは、もはや黒狐だけでなく他の姿に変化することも、狐火を操ることさえできなくなっていた。青い炎の弾幕が止み、愕然と立ち尽くす彼女らへと、猟兵たちが一気呵成に畳み掛ける。
「行くぞ、クゥ!」
「骸の海まで吹っ飛びなよ!」
猛然と飛び掛かる獅子の爪牙、その上から追撃するスリングの弾丸。そして黒風と共に吹き荒れる羽弾の豪雨が狐魅命婦たちを吹き飛ばし、空狐の骸魂を的確に破壊した。
「ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁ―――っ
!!!!」
断末魔の悲鳴の後から現れるのは、骸魂に飲み込まれていた妖怪たち。
憑依から解放された彼らは嵐とクゥが回収し、安全な場所まで運送する。
「治せるか?」
「やってみよう。このままにしてもおけまい」
嵐が妖怪たちを運んだ先にいたのはクーラカンリだった。骸魂から解放されたとはいえ、彼らの身体にはまだ死蝶の毒が残っている――クーラカンリの【生まれながらの光】は、この場で妖怪たちを治療できる最も速い手段だった。
「こっちのスキルでも治療はできるけど、即効性ならそっちの方が速いしね。疲れてるところ悪いけど」
「なに、私はこれでも神故に、人よりは丈夫に出来ている」
残敵を掃討したカタリナも、残された妖怪を連れて合流を果たす。ここで全員を治療するのはかなりの疲労が伴うだろうが、クーラカンリはやはり疲れた態度を見せない。
「いざとなれば樹海の神に祈りを捧げ、精神力を分けてもらうとするさ」
彼にとって自然の神は隣人のようなもの。幽世を正常な状態に戻すための行為だと言えば、この地の神々も嫌とは言うまい。気力と体力を回復する当ては十分にあった。
かくして3人の猟兵の連携により打ち倒された狐魅命婦の群れから、無事に救出された妖怪たちは、山神の治療によって大事無く一命を取り留めたのであった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
カビパン・カピパン
長寿トークショーで流れているかのようなBGM。
いよいよ始まりました、黒柳カビパンの部屋。
本日は狐魅命婦さんたちをお招きしております。
あーた、空狐だそうですけど。 あたくし勉強不足でして。空狐ってはどういう事が出来るんですか?
ふーん、あぁそうなんですか。じゃあ悪いですけど、ちょっとここでやって貰えます?
それだけ?もっと色々何かやられるのかと思ったんですけど。 空狐ってのはそういうものなんですか?
天狐覚醒?よくわからないけど面白いわね。
じゃあその姿で今、面白い事とか言って貰えるんでしょうか?
では最後のチャンスに。はい、どうぞ。
他の追随を許さない、圧倒的なトーク力で狐魅命婦たちの心はやられた。
『~♪ ~~♪ ~♪』
どこぞのテレビの長寿トークショー番組で流れているかのようなBGMが樹海に響く。
それを聞きつけた狐魅命婦が何事かと辺りを見回せば、そこにはカビパンがいた。
だが、何かがおかしい――いや、いつもおかしいだろうと彼女の店の常連妖怪なら言うかもしれないが。いつもと比べても何やら雰囲気が違う。
「いよいよ始まりました、黒柳カビパンの部屋。本日は狐魅命婦さんたちをお招きしております」
「………………は?」
まるでトーク番組の司会進行役のように語り始めるカビパン。念の為に言っておくとここはスタジオではなく樹海の迷宮の真っ只中である。これには狐魅命婦たちも困惑。
しかし彼女は有無を言わせない。ユーベルコード【黒柳カビパンの部屋】により、伝説級のトーク力を持つ霊をその身に降霊させたカビパンの口を止められる者はいない。
よくわからんプレッシャーと理解不能な状況に、敵もどうすればいいのか決めかねたまま、彼女のペースに乗せられていく。
「あーた、空狐だそうですけど。 あたくし勉強不足でして。空狐ってはどういう事が出来るんですか?」
「え? そりゃあもう、神通力とかすごいわよ。神のごときレベルなんだから!」
「ふーん、あぁそうなんですか。じゃあ悪いですけど、ちょっとここでやって貰えます?」
なんか普通に質問している。そして相手のほうもなんか普通に答えてしまっている。
自信満々な狐魅命婦の返答に対して、カビパンはそっけない相槌だけで話を進行させる。そうなるとプライドの高い空狐としては目にもの見せてやらないと気がすまない。
「いいわよ、見てなさい!」
気合いたっぷりに【天狐覚醒】を発動。狐少女から九本の尾を持つ白狐へと変化し、全身から神通力のオーラをほとばしらせて、全力で凄さをアピールする。
「どうよ! 驚いたかしら?」
白狐の顔でドヤ顔をかます狐魅命婦たち。妖怪としての経験からして、殆どの人間はこれで震え上がって許しを請うのだ。このヘンな女もそうだろうと疑っていなかった。
が。彼女らの変化を目の当たりにしても、黒柳カビパンの塩対応に変わりはなかった。
「それだけ? もっと色々何かやられるのかと思ったんですけど。 空狐ってのはそういうものなんですか?」
「え? いや、ちょっと、それだけって……凄いでしょコレ?! 神通力よ?」
感動もしなけりゃビビりもしない。狐たちが神のごとき神通力をどんなに懸命にアピールしても思ったような反応は得られない。そもそも神通力ってなんやねん、ってこのカビパンなら考えていそうである。
「わ、私達の【天狐覚醒】にこれっぽっちも驚かないなんて……!」
「天狐覚醒? よくわからないけど面白いわね。じゃあその姿で今、面白い事とか言って貰えるんでしょうか?」
「は???」
これほど感情の抑揚のない「面白いわね」を、狐魅命婦は初めて聞いたかもしれない。
そこに畳み掛けるような突然の無茶振り。「いや面白いことって何よ」と質問することさえ許されない、有無を言わさぬ強烈なプレッシャーをカビパンから感じる。
「では最後のチャンスに。はい、どうぞ」
「え、あ、は??? え、えぇっと……」
決してきつい口調ではないのに、圧迫面接を受けている時のそれをさらに数十倍にしたような重圧が狐魅命婦たちを襲う。精神的に進退窮まった狐たちはダラダラと冷や汗を垂らしながら視線を泳がせること暫し――己の九本の尻尾でくるんと身体を包み。
「…………お、おいなりさんだコン……」
「はい、ありがとうございました。黒柳カビパンの部屋、本日はここまでとなります」
他の追随を許さない圧倒的なトーク力で、狐魅命婦たちの心はへし折れた。合掌。
成功
🔵🔵🔴
シェーラ・ミレディ
誰が卑しい狐なぞに身体を明け渡すものか!
貴様らの方こそ、乗っ取った身体から出ていくのだな!
迷わず先へ行けるよう、周囲を注視して特徴を頭に叩き込みながら進むぞ。
例えば樹々の枝ぶりや下生えの植生、落ち葉の枚数まで覚えていれば、同じ場所をぐるぐると巡るような愚はおかすまい。
戦闘では『法界悋気』。浄化属性を持たせた雷雲より稲妻を落とし、敵を穿つ。
万一暴走して味方に当たっても、浄化するだけならばさして被害はないだろう。
しかし、敵……弱った妖怪に憑依するような悪しき骸魂に当たったなら、抜群の威力を発揮してくれるはずだ。
神擬きが、思いあがるなよ──!!
※アドリブ&絡み歓迎
春霞・遙
樹海もオブリビオンの力で迷宮化されているんでしたっけ?
それなら無理に押し通っても問題なさそうですね。
【御霊滅殺符】を用いて迷宮の一部を壊して印をつけたり回避するための道を確保したり射線を通したりしようと思います。また、相手ユーベルコードや骸魂という霊的な要素を攻撃します。
全て符術に頼ると反動に耐えられるかわからないので可能な限り狙撃で戦います。弾幕も射撃で相殺できるかな。
逆凪で弱ってるように見えて近づいてくる骸魂がいれば直接符を貼っつけてあげますね。
死に満ちた世界も死のない世界もごめん被ります。
「樹海もオブリビオンの力で迷宮化されているんでしたっけ? それなら無理に押し通っても問題なさそうですね」
まるで人を迷わすために誂えられたような不気味な樹海を見回しながら、遥は白紙の符を取り出す。呪言を唱えて【御霊滅殺符】を発動すれば、符より放たれる穢れが木々を腐らせ、迷宮に迷いようのない痕跡と目印、新たな道を切り開いていく。
「迷子になっている暇は無いからな。なるべく最短経路を進みたいものだ」
同道するシェーラも迷わず先へ行けるよう、周囲を注視して特徴を頭に叩き込みながら先を急ぐ。一見すれば同じような風景も、例えば樹々の枝ぶりや下生えの植生、落ち葉の枚数まで覚えていれば、同じ場所をぐるぐると巡るような愚は犯すまい。
得意分野の異なる2人の探索行は順調で、現在位置を見失うこともなく、まっすぐに樹海の最奥へと迫りつつあった。
「もうこんな所まで来たの?! でも、これ以上は行かせないわ!」
「この世界は私達の楽園になるの! 諦めてその身体を置いていきなさい!」
だが、そうはさせじと立ちはだかるのは狐魅命婦たち。その骸魂である空狐たちは現在の弱い妖怪の肉体に不満があるようで、強い猟兵の身体を求めて襲い掛かってくる。野望成就の邪魔者も排除できて、向こうからすれば一石二鳥というわけだ。
「誰が卑しい狐なぞに身体を明け渡すものか!」
「死に満ちた世界も死のない世界もごめん被ります」
シェーラは怒りで眉をつり上げながら精霊銃を抜き放ち、遥は静かな拒絶を示してスナイパーライフルを構える。悪ギツネどもを撃ち抜く銃声が、樹海の迷宮に響き渡った。
「抵抗するなら、痛い目を見るわよ!」
神通力を操る白狐、あるいは狐火の弾幕を放つ黒狐に変化し襲ってくる狐魅命婦たち。
遥とシェーラは敵の標的を散らすために散開し、各々得意とする術と銃技で応戦する。
「射線よし、と。よく見えます」
遥が御霊滅殺符で切り開いてきた道は単なる自然破壊ではなく、敵の攻撃を避けるための退路であり、狙撃のための射線を通すための準備でもあった。下生えの草に身を隠すように射撃姿勢を取り、暴れまわる黒狐に照準を合わせ、トリガーを引く。
「まず一人」
「な―――ギャッ?!」
穢れを纏った銃弾は青い炎の弾幕を突き破り、驚く黒狐の胴を射抜く。あらゆる霊的要素を殺害する【御霊滅殺符】の穢れを直接撃ち込まれれば、骸魂はひと溜りもあるまい――悲鳴と共にユーベルコードが解除され、元の妖怪だけがその場に残る。
(全て符術に頼ると反動に耐えられるかわからないので)
強大な呪いには術者にも『逆凪』を受ける覚悟がいる。遥が狙撃を織り交ぜた攻撃を行うのは負荷を最小限に控えるためだ。その銃口に"狙われている"と感じさせるだけでも、敵の行動は大きく制限され、警戒を強いられることになる。
「ちっ。御霊を穢す呪いなんて、厄介なものを……!」
「穢れが嫌いか? ならその逆はどうだ?」
狙撃銃の射線上から逃れようとする狐共に、挑発的にそう言い放ったのはシェーラだ。
彼は精霊銃を手に自然に満ちる精霊に呼びかけ、【彩色銃技・法界悋気】を発動する。
「余すことなく、漏らすことなく。万象一切を掌中に──」
霊力の高まりと共に、上空がにわかにかき曇り。立ちこめる黒雲の中からゴロゴロと雷鳴が轟いたかと思った直後、"浄化"の属性を付与された稲妻が戦場に降り注いだ。
「ひ―――ッ?!」
避ける猶予も、そもそも避けられる空間もありはせず、嵐のごとき稲妻が悪狐を穿つ。
まるで戦場全域を埋め尽くすような雷撃。これほどの規模の術を制御下に置くのは容易なことではなく、万が一暴走すれば味方を巻き添えにする恐れもあったはずだ。
「自分や仲間もろとも、ってわけ
……?!」
「そうでもない」
不敵な笑みを浮かべるシェーラ。この稲妻はあくまで"浄化"を目的としたもので、見た目の壮烈さとは反して、普通の生物や味方の猟兵に当たってもさして被害はなかった。
「しかし、貴様ら……弱った妖怪に憑依するような悪しき骸魂に当たったなら、抜群の威力を発揮してくれるはずだ」
「この―――ッ
!!!!!」
シェーラの目論見通り。浄化の稲妻は狐魅命婦に宿る骸魂のみに致命的なダメージを与え――眩い雷光の中で、空狐の霊たちは断末魔の悲鳴を上げて滅び去っていった。
「くそ……っ、せめて、1人だけでも!」
敗色濃厚を悟った狐魅命婦は、なんとか猟兵たちに一矢報いようと、標的を遠方にいる遥に定める。稲妻が降り始めた辺りから、彼女は一発も狙撃を行っておらず――呪術の反動によって動けないでいるのだと判断したためだ。
「逆凪は苦しいわよね。今楽にしてあげるわ!」
地に伏せたままの獲物に飛び掛かる白狐の狐魅命婦。だがその牙にかかる寸前、遥はくるりと地面を転がって身を躱しざま、懐に忍ばせていた呪符を相手に貼り付けた。
「諸々の禍事、罪、穢れ、大いなる災いの一抹を此処に顕し給え」
弱っているように見えたのはただの演技。シェーラの【法界悋気】が降らせた稲妻は、遥の身体から逆凪の呪縛を消し去っていた。そうとは知らずのこのこと近付いてきた狐魅命婦にかけられるのは、森羅万象を汚染する呪言。
「ばか、な―――ぎゃああぁぁぁぁぁぁっ
!!!?!!」
骸魂に直接【御霊滅殺符】を叩きつけられ、跡形もなく消滅する空狐の霊。その際に上げた耳をつんざくような断末魔は、他の狐魅命婦たちをも恐怖に震え上がらせた。
「そ、そんな……私達が負けるなんて……」
「神擬きが、思いあがるなよ──!!」
青ざめる悪ギツネ共の傲慢に鉄槌を下すのは、天より来る浄化の稲妻。雷鳴と共に轟くシェーラの一喝が悲鳴をかき消し、逃げまどう狐魅命婦を情け容赦なく殲滅する。
やがて上空から雷雲が去る頃には、御霊を穢す呪いと浄化する稲妻によって、付近にいる骸魂は残らず一掃されていた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
トリテレイア・ゼロナイン
要らぬお節介でしょうが、私の身体との相性は良くはないと思われますよ
最も、易々と獲らせはいたしません
妖怪達を解放していただきます
視覚頼らぬ環境は此方も得手
微かな熱、音、振動…『そこにある』限りマルチセンサーの●情報収集で行動を●見切るは容易いこと
緩やかに歩き攻撃誘い、僅かな挙動で回避
●怪力近接攻撃で反撃
回避困難な同時攻撃は●武器受け●盾受けで防御からの反撃
同時に展開格納銃器●スナイパー射撃で一掃
頭部や肩部銃器は360度回転し死角無し
警護用ウォーマシンを余り見縊らないで貰いたいものです
この先の骸魂操る縊鬼の力は精神への干渉で自害を促すそうですが…
先に自己ハッキングで電脳内に対策を施しておきましょう
「要らぬお節介でしょうが、私の身体との相性は良くはないと思われますよ」
新しく強い肉体を求める狐魅命婦たちに、ウォーマシンのトリテレイアは忠告する。
宇宙科学の産物とオカルト要素の塊、噛み合わせが良いはずも無いだろうが、そんな事はお構いなしとばかりに敵は突っかかってくる。物は試しとでも言うことか。
「最も、易々と獲らせはいたしません。妖怪達を解放していただきます」
トリテレイアとて、ここで倒されるつもりなど微塵もない。右手に儀礼用長剣を、左手に重質量大型シールドを構え、隙のない所作で狐魅命婦の群れを迎え撃つ。
「見るからに力自慢の腕自慢ってところね! だったらこれはどうかしら!」
白兵巧者の騎士と対峙した狐魅命婦は【神隠しの天気雨】を降らせ、戦場を視覚を惑わせるあかやしの森に変える。有利な環境に紛れて姿を消し、不意を打つつもりだ。
「さあ、隠れ鬼をしましょう」
「私たちがどこにいるか分かるかしら?」
クスクスとからかうような声が森の中に木霊する。化かすことを得手とする狐としての強いプライドと自信が、そこには感じられる――しかし過去の物事しか知らない彼女らは、トリテレイアの性能を見誤っていた。
(視覚頼らぬ環境は此方も得手)
メインカメラで捉えられずとも、トリテレイアの全身に搭載された「全環境適応型マルチセンサー」は、魔力以外のほぼ全ての情報を探知できる。微かな熱、音、振動など、光学に依らぬあらゆるデータを収集して、彼は索敵を実行する。
(『そこにある』限り行動を見切るは容易いこと)
森の中に潜む敵の配置を確認すれば、戦術モードを戦場全域の連続予測に最適化させ、敢えて気付いてないふりをして緩やかに歩く。まるで所在なく敵を求めて彷徨うようなその挙動に、狐たちはまんまと騙された。
(バカね、どこを見ているのよ!)
底意地の悪い笑みを浮かべ、木陰から飛び出した狐が背後からトリテレイアを襲う。
だが、完全に不意を突いたように見えたその一撃を、彼は振り返ることもせず、僅かな挙動のみで回避する。
「え? ふぎゃっ!!!」
手応えのなさにきょとんとした直後、ぶぉんと横薙ぎに叩きつけられた大盾が狐魅命婦を吹き飛ばす。重質量の塊をぶつけられた相手は、悲鳴を上げてすっ飛んでいった。
(バレてる?! いや、そんなはずは……)
(まぐれに決まってる! もう一度行くわよ!)
驚きと焦りを感じながら、今度はふたりの狐が同時に仕掛けてくる。しかしそれも読んでいたトリテレイアは儀礼剣と大盾をかざし、左右からの攻撃を完璧に防いでみせる。
「警護用ウォーマシンを余り見縊らないで貰いたいものです」
「う、嘘っ?!」
敵に先手を譲り、攻撃を完全に見切ったうえで反撃する――それが【機械騎士の戦闘舞踏】。緩慢なように見えて無駄のないよう計算され尽くした動作は、全て相手を誘導し、仕留めるために最適化されたもの。
「ば……化かされたっていうの?! あたしたちが……!」
狐魅命婦たちが驚愕と屈辱に震えた直後、トリテレイアの頭や肩から格納銃器が展開される。360度回転し全方位を死角なく収めるその銃口は、森に潜む全ての敵に向けられている。
「これにて閉幕です」
「っ……きゃぁぁぁぁっ
!!?!」
一斉に鳴り響く発砲音と、甲高い悲鳴。にわか雨がぱたりと止み、元の環境に戻った樹海のあちこちから、倒れ伏した狐魅命婦の姿が現れる――まさに一掃という言葉がふさわしい光景の中心で、トリテレイアは硝煙のたなびく銃器を機体に収納する。
「この先の骸魂操る縊鬼の力は精神への干渉で自害を促すそうですが……先に対策を施しておきましょう」
彼の意識は既に、この樹海の奥で待ち受けて本命のターゲットに向けられていた。
自己の電脳にハッキングを行い、精神干渉への対策を構築。配下相手に完勝を収めても一切油断することなく、機械仕掛けの騎士は先に進むのだった。
大成功
🔵🔵🔵
七那原・望
そう言われて捧げると思いますか?この身体はわたしの物です。
雨……森の気配が変化しましたね……でも、わたしに対してそれは悪手なのです。
【第六感】と【野生の勘】で相手の行動や攻撃を【見切り】、回避や攻撃を。
生憎、惑わされる視覚は持ち合わせていないのです。だからこんなユーベルコード、わたしには無意味です。いえ、むしろ逆効果なのです。
攻撃回数を重視した【Lux desire】に【破魔】と【浄化】の力を込め、【クイックドロウ】【誘導弾】【乱れ撃ち】の【制圧射撃】による【範囲攻撃】で骸魂を【なぎ払い】ます。
身体を置いて骸の海に還りなさい。
可能なら骸魂のみを浄化し、依り代にされている妖怪は救出します。
「あら、かわいい子ね。魂と生命をもらった後は、新しい器にしましょう」
「そう言われて捧げると思いますか? この身体はわたしの物です」
獲物を狙う狐の目で凝視してくる狐魅命婦たちに、望ははっきりと拒絶の意思を返す。
身体も生命も魂も、こんな連中の好きにさせてやる謂れはない。無論、はいそうですかと敵も引き下がる訳はなく、ならば力尽くだとばかりに妖力を一斉に解き放つ。
「雨……森の気配が変化しましたね……」
しとしとと鳴る微かな音と、肌に当たる冷たい感触。そして空気に混じる雨の匂いから、望は環境の変化に気付く。狐魅命婦の降らす【神隠しの天気雨】により、樹海の迷宮は視覚を惑わせるあかやしの森に書き換えられていた。
「ふふ……かくれんぼはお好きかしら、お嬢ちゃん?」
雨に紛れて姿を眩ませた狐たちのからかう声が聞こえてくる。人を騙し、化かし、驚かすことに長けた妖怪狐にとって、このフィールドは最も適応したものなのだろう。
「でも、わたしに対してそれは悪手なのです」
望はにわか雨に打たれながら意識を集中する。目隠しによって封じられた視覚の代わりに、研ぎ澄まされた第六感と野生の勘。それを頼りに潜伏する敵の所在を捉える。
「なっ?!」
背後から飛び掛かってきた狐魅命婦の奇襲を、彼女は振り返りもせずに避けた。白翼にて舞い上がる少女の手には、いつのまに取り出したのか、黄金の果実「真核・ユニゾン」が握られていて――そこから放たれた眩い光が、悪狐の骸魂に浴びせられた。
「ぎゃあぁぁぁぁっ!!?」
破魔と浄化の力を込められた【Lux desire】を受けた狐魅命婦は、喉が裂けんばかりの絶叫を上げて消滅し、骸魂に飲み込まれていた妖怪がその後から姿を現す。それを見た他の狐たちの動揺が、ざわざわと森に広がっていく。
「ど、どうして……」
「生憎、惑わされる視覚は持ち合わせていないのです」
とんとんと自分の目隠しを指で叩きながら望が言う。常日頃から視覚以外の五感に頼って生活している彼女にとっては、視界がどう変化しようが不都合が増える訳ではなかった。
「だからこんなユーベルコード、わたしには無意味です。いえ、むしろ逆効果なのです」
あやかしの森に適応できるのが、自分たちだけだとでも思ったか。驕りから一転して表情を引きつらせる狐魅命婦たちの感情の揺れ動きさえ、望の第六感は鋭敏に捉える。
先程のはほんの小手調べだとばかりに、黄金の果実が光り輝く。その実に詰まっているのは勝利を渇望する無数の願望――そこから生じるエネルギーを、彼女のユーベルコードは一斉に解き放つ。
「身体を置いて骸の海に還りなさい」
陰影さえもかき消すほどの膨大な光の奔流が、あやかしの森を真昼より明るく照らす。
手数を重視して乱れ撃たれた【Lux desire】は、潜伏する敵を一人残らずあぶり出し、制圧し、薙ぎ払う。誘導効果まで付与されたその攻勢から逃れる術はなかった。
「ば、馬鹿なあぁぁぁぁぁぁ……ッ
!!!!!」
断末魔の悲鳴を上げて、次々と倒れる狐魅命婦。彼女らの妖力により維持されていたにわか雨も止み、元の様子に戻った樹海には、依り代にされていた妖怪だけが残される。
望が放ったのは骸魂のみを浄化する破魔の光。憑かれていた妖怪の身体には傷ひとつなく、気を失ってこそいるものの、全員命に別状は無いようだった。
「救出成功です」
作戦が上手くいったことに少女は微笑みを浮かべながら、妖怪たちの容態を確認する。
そして比較的安全な場所に彼らを寝かしつけると、樹海の最奥を目指して先を急ぐのだった。
成功
🔵🔵🔴
幻武・極
さて、キミ達を倒せば死蝶を生み出している妖炎魔の元にたどり着けるのかな?
キミ達だけじゃなくて、その周りにもたくさんの骸魂がボクたちの体を狙っているみたいだけどね。
さて、神通力か。
神のごとき力ね。
ねえ、知っているかな?
昔のゲームは魔王や悪魔だったけど、今はね神が敵だったりすることもあるんだよ。
人ごときが神に逆らうなんて、考えていると逆に滅ぼされちゃうよ。
神通力は厄介だけど、神ですら倒す人の力を受けてみるといいよ。
常に神に勝ち続ければいいんじゃない、たった一瞬だけでも打ち勝てばいい。
その一瞬を追加入力で作り出すよ。
「さて、キミ達を倒せば死蝶を生み出している妖炎魔の元にたどり着けるのかな?」
「ええ、そうよ。私達に殺されなければの話だけれどね?」
ぽきぽきと拳を鳴らす極の問い掛けに、クスクスと笑いながら答える狐魅命婦たち。
彼女らは樹海の迷宮を守護するもの。侵入者を排除し、魂と生命を喰らい、果ては肉体さえも依り代として奪っていく――狐の性悪な側面を凝縮したような骸魂だ。
「キミ達だけじゃなくて、その周りにもたくさんの骸魂がボクたちの体を狙っているみたいだけどね」
皆の救助活動の甲斐あって肉体を得られた骸魂はさほど多くない。どれだけ強力な空狐の霊だろうと、器がなければ現世への干渉は不可能だ。指を咥えて見ていて貰おうと、極はゲーム武術の構えを取った。
「魔力もあって頑丈な猟兵の身体なんて、器としてはこの上ないわ!」
妖怪の肉体を乗っ取った狐魅命婦はより強力な器を求め、早いもの勝ちだと言わんばかりに【天狐覚醒】を発動して極に襲い掛かる。威厳あふれる美しい九尾の白狐から発せられるのは、神のごとき神通力のオーラだ。
「さて、神通力か。神のごとき力ね」
極はガードの構えを取って白狐たちの攻撃を受け止める。交差させた腕越しにでも響いてくる、強烈な衝撃――なるほど"神のごとき"という触れ込みに一応偽りは無いらしい。だが、そんなことで恐れをなすほど、彼女は信心深いタイプではなかった。
「ねえ、知っているかな?」
「何をかしら!」
覚醒した狐魅命婦たちの猛攻を凌ぎながら、極は現代のゲームに基づいた情報を披露する。それは幽世に流れついた"過去の遺物"である彼女らは知らないであろう知識だ。
「昔のゲームは魔王や悪魔だったけど、今はね神が敵だったりすることもあるんだよ。人ごときが神に逆らうなんて、考えていると逆に滅ぼされちゃうよ」
「ふんっ! なにをバカなことを……ただの人間が神に勝てる訳ないでしょう!」
古い伝説の中には人間に討伐された大妖怪や妖狐の逸話も確かにある。だがそういったのは選ばれた英雄が、神仏の加護を得てようやく成し遂げるものだ。かりそめの器とはいえ、神通力を得た自分たちが負ける筈がないと、狐魅命婦は驕り高ぶっていた。
「神通力は厄介だけど、神ですら倒す人の力を受けてみるといいよ」
その傲りを打ち崩す一撃を。常に神に勝ち続ければいいんじゃない、たった一瞬だけでも打ち勝てばいい。その一瞬を作り出すのは幻武流『追加入力』――いつの間にか手元に現れたゲーム用コントローラーを操り、ピンチを覆す隠しコマンドを打ち込む。
「ここだっ!」
「なによ、そんな技……ッ
!?!!!」
防戦一方の苦戦から満を持して放たれた逆転の一手は、まさしく"神をも殺す"ほどに強化され。すっかり侮りきっていた狐魅命婦たちの表情が、驚愕と絶望で一変する。
「ば、バカなぁぁぁぁぁぁぁぁっ
!!!?!」
愚かな狐は画面端――もとい樹海の端までふっ飛ばされ、二度と戻っては来なかった。
快勝を収めた極はニッと笑みを浮かべながら、次の対戦相手が待つ樹海の奥へと進むのだった。
成功
🔵🔵🔴
ティオレンシア・シーディア
※アドリブ掛け合い絡み大歓迎
…うっ、わあ…さすがにこれだけ陰気だと気が滅入ってくるわねぇ…
前座に時間もかけてられないし、さっさと突破したいとこだけど。
さすがに無策で弾幕に突っこむのは無茶が過ぎるわよねぇ。ラグ(水)・ソーン(退魔)・エオロー(結界)のルーンで〇火炎耐性の○オーラ防御を展開。これでも○結界術の知識にはちょっと自信あるのよぉ?引き続きミッドナイトレースに○騎乗して動体○視力と〇第六感全開で突っかけるわぁ。
軽減されるんなら、●粛殺で単純に攻撃の威力を上げちゃいましょ。弾丸に刻むのは大威徳明王印。その権能は悪鬼覆滅――祓って〇浄化するには、うってつけでしょぉ?
夜霞・刃櫻
【アドリブ・連係歓迎】POW
ヒトの身体を借りてまで何かを為すって執念はすげーっすけど……
他人の威を借る狐って害悪過ぎでやんすよ
(三下のお前が言うな)
UC【夜霞の警笛】で霞化して樹海と【視覚を惑わせるあやかしの森】に適応します
世の中には雨霞という美しい現象があるのだ
「環境耐性」も相まって適応出来るだろう
【にわか雨】に霞となって「紛れる」事で、「目立たず」「忍び足」で行動し、敵オブリビオンを「暗殺」する
失敗したら『ヘイズ・グレネード』で「目潰し」「時間稼ぎ」をして、「敵を盾にしつつ」撤退
味方の支援にもなるはず
それもダメだったらごめんなさい(土下座
「……うっ、わあ……さすがにこれだけ陰気だと気が滅入ってくるわねぇ……」
首吊りの名所と言わんばかりの陰鬱な雰囲気に満ちた樹海の迷宮の中で、厭気が差したように眉をひそめるティオレンシア。オブリビオンとなった妖怪の影響により陰気さが増していることも含めて、あまり長居はしたくない場所である。
「なんだか雨まで降ってきたし……」
空を見上げれば太陽が出ているにも関わらず、ぽつりぽつりと降ってきたにわか雨。
それと共に姿を現すのは、この樹海の迷宮の守り人たち――狐魅命婦の群れだった。
「ヒトの身体を借りてまで何かを為すって執念はすげーっすけど……他人の威を借る狐って害悪過ぎでやんすよ」
より強大なオブリビオンの威光にへつらって自分たちの楽園を作ろうとする狐魅命婦に、不快感を露わにするのは刃櫻。自分が他人の威を借ってなんぼの三下であることを思い切り棚に上げているが、それはそれ、これはこれである。
「というわけで正面から戦うのは任せたっす、お姉さん」
少女は隣にいるティオレンシアにぐっとサムズアップすると【夜霞の警笛】を発動。【神隠しの天気雨】が降ってきたのをいいことに、自らの身体を霞に変えて姿を消した。
「……逃げた? いや、流石にそれは無いわよねぇ」
向こうなりに考えがあるのだろう。消えた刃櫻のことはひとまず置くとして、ティオレンシアは引き続きミッドナイトレースに騎乗したままエンジンを吹かす。愛銃オブシディアンを片手に構え、戦闘準備は万全だ。
「前座に時間もかけてられないし、さっさと突破したいとこだけど」
「タダで通れると思わないことね! 生命と魂を置いていきなさい!」
にわか雨の降りしきるあやかしの森から飛び出してきた狐魅命婦たちは、九尾の黒狐に変身して【フォックスファイアフィーバー】を放つ。扇状に広げた尾から放射される青い炎の弾幕は、少々の雨程度では消えないほどに熱く激しかった。
「さすがに無策で弾幕に突っこむのは無茶が過ぎるわよねぇ」
ティオレンシアはバイク型UFOを走らせながら防御用のルーンを刻む。使用するのはラグ・ソーン・エオローの三文字――妖炎を退ける"水"と"退魔"の力が、オーラの"結界"となって彼女の周囲に展開された。
「これでも結界術の知識にはちょっと自信あるのよぉ?」
その自負に違わず、耐火性を重視したルーンの結界は飛来する青炎の弾幕を弾き返す。
攻撃を防がれぎょっとする狐魅命婦に、ティオレンシアはお返しとばかりに発砲。樹海の悪路に視界不良、移動中の射撃という三重苦にも関わらず、優れた視力と第六感、そして卓越した射撃技術を持つ彼女にはなんの苦にもならず。銃弾は過たず標的を捉えた。
「痛っ! このっ、やってくれたわね!」
銃弾が的中した狐魅命婦だが、黒狐に変身中はダメージを軽減する効果もあるようで、さしてその傷は深くはない。逆上して牙を剥き出しにしながら、さらに激しい狐火の弾幕をティオレンシアに浴びせようとするが――。
「只今霞が発生してるっす。十分に御注意下さいっす」
「―――ッ?!」
ふいに耳元で聞こえた声に戦慄した直後。一本のナイフが銃創を深々と抉っていた。
どろりと溢れ出す血に染まるナイフを、握っているのは刃櫻。その身体は今だ半分以上が霞と化し、まるで幽霊のように樹海の風景と溶け込んでいる。
「世の中には雨霞という美しい現象があるんすよ。知らないでやんすか?」
「ぐ、かは……っ」
世間話をするように語りながら刃を捻ると、黒狐はびくりと痙攣したのちに絶命する。
周囲にいた狐魅命婦が「よくも!」と飛び掛かるが、それよりも間一髪速く、刃櫻の姿は消えていた。
「一体、どこに……っ!」
降りしきるにわか雨に霞となって紛れる刃櫻を見つけるのは、この環境を作り出した当人たちにすら容易ではない。雨霞となって完全にあやかしの森に適応した彼女は、雨音の中に気配と足音までも溶かし込み、悠々とターゲットの死角を取る。
「こ、こんなことって……ぎゃぁッ?!」
「あたしたちが、化かされてる……? がはっ!!」
森のあちこちで悲鳴が上がるたびに、急所を一突きにされた狐の骸が地面に転がる。
無論、暗殺したのは骸魂のみで、取り憑かれていた妖怪は無事だが――見えざる暗殺者の存在に、狐魅命婦たちがパニックに陥るのは無理からぬこと。
「完全に連携もバラバラねぇ」
弾幕の密度も下がり、撃ってくれと言わんばかりの隙だらけの連中を、ティオレンシアが見逃す訳もなかった。オブシディアンの残弾をリロードしながらアクセル全開で突っかかり、今度は近距離からの銃撃を見舞う。
「そんな鉛玉、何発食らっても痛いだけで……ぎゃぅッ
!!?!」
前は止められたからと高を括っていた連中を襲ったのは、身体を貫通する激痛と衝撃。
黒狐のダメージ軽減に対してティオレンシアが取った対策は、単純な威力の増幅。【粛殺】により強化されたオブシディアンに、大威徳明王印を刻んだ銃弾を込めて、敵の防御を真っ向からブチ抜いたのだ。
「その権能は悪鬼覆滅――祓って浄化するには、うってつけでしょぉ?」
「ひ、ひぃぃぃっ!!」
文化圏においても近しいものもあり、明王の権能は悪狐の骸魂には効果覿面なようだ。
恐怖の悲鳴を上げて逃げまどう狐魅命婦たち。しかし標的がどこへ逃げようとも、ティオレンシアの銃弾は決して逃さない。
「て、撤退よ! このままじゃ全滅――ッ?!」
残された狐魅命婦は敗色濃厚を悟り、せめて自分だけでも助かろうと遁走を始める。
だが、そんな彼女らの足元に転がってきたのは「パンク・ロック・ヘイズ・グレネード」。その持ち主である刃櫻は、相変わらず雨霞に紛れたままにやりと笑い。
「ほんとは失敗した時の時間稼ぎ用だったっすけど、味方の支援にもなるはずっすよね」
「この―――!!!」
狐たちの罵声はグレネードの爆発音にかき消された。至近距離から叩きつけられた爆音と閃光で前後不覚に陥った彼女らの心臓を、ティオレンシアが的確に撃ち抜く。
「これで最後ねぇ」
「土下座せずに済んだでやんす」
最後の銃声が響き渡るのと同時ににわか雨が止み。元通りの樹海の風景が戻ってくる。
猟兵たちの前に立ちはだかった狐魅命婦は、かくして一匹残らず退治されたのだった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
第3章 ボス戦
『『縊鬼』繰々里』
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POW : くびれ鬼の誘い
攻撃が命中した対象に【精神的苦痛を伴うトラウマ 】を付与し、レベルm半径内に対象がいる間、【自ら命を絶ちたいと望んでしまう自殺衝動】による追加攻撃を与え続ける。
SPD : 幽世招炎
【縊鬼の力 】を籠めた【対象の魂を媒介に発火する知覚不可能な妖炎】による一撃で、肉体を傷つけずに対象の【生きることへの執着心】のみを攻撃する。
WIZ : 噴き出す炎の怨念
戦闘力のない、レベル×1体の【炎の怨霊「妖炎魔」 】を召喚する。応援や助言、技能「【呪詛】【恐怖を与える】【生命力吸収】」を使った支援をしてくれる。
👑11
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妖怪たちの身体を奪った狐魅命婦を退治し、樹海の迷宮を攻略していく猟兵たち。
森の奥へと進むにつれて、一帯に充満している陰鬱な気配も高まっていき――それが最高潮へ達したとき、"彼ら"は姿を現した。
『忌々しい猟兵め、ついにここまでやって来たか……』
「うぅぅぅぅ、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい……」
地獄から響くような不気味で邪気に満ちた声と、泣き声の混じったひどく気弱な声。
それがひとつの身体から同時に発せられている。少女のように華奢な身体つきに雪のように白い肌と髪、小さな角と腕に抱えた藁人形――そして足元から立ち上る妖炎。
彼らが今回の異変の元凶である骸魂『妖炎魔』と『縊鬼』の繰々里で間違いないだろう。
『後一歩で、幽世の全ての妖怪の魂を我が物にできたものを……』
「やめようって、言ったのに、止められなくて……ごめんなさいぃぃっ」
ひとつの身体にふたつの意識。主導権を握っている『妖炎魔』は炎の怨霊としての本性のままに幽世を死で満たさんとする。臆病な繰々里の意思はそれに抗えず、縊鬼としての妖力を利用され、不本意な異変に加担させられることとなった。
不運だったのは繰々里が持つ潜在的な妖力が高く、なおかつ妖炎魔と相性が良かったことだろう。怨霊としての力に加えて縊鬼の力を自由に操れるようになったことで、彼らは幽世にカタストロフを起こしかけるほどのオブリビオンになってしまった。
『この世の魂と生命は全て我のもの。かくなる上は貴様らの魂も奪い、我が糧にしてくれよう! さあ力を寄越せ繰々里、愚かなりし我が憑代よ……!』
「ふえぇぇぇぇぇぇんっ……!」
繰々里の身体は泣きじゃくりながらも、怖気を感じるほどの邪気を放ちはじめる。
ここで彼らを止めなければ幽世は完全に死蝶の世界と化し、終焉を迎えるだろう。
それまでに骸魂『妖炎魔』を倒し、繰々里のオブリビオン化を解く。幽世に平和を取り戻すために、猟兵たちは決戦の構えを取った。
フレミア・レイブラッド
あら、可愛らしい子ね
男の子って聞いてるけど、女の子みたいに可愛いわ♪
それと…その青黒い炎が元凶の妖炎魔って事で間違いなさそうね。
その子もこの世界の妖怪達も貴方のモノじゃないわ。
悪いけど、返してもらうわよ。
【ブラッディ・フォール】で「生み出すことを許さないというならば」の「イーギルシャトー」の力を使用(竜の翼や尾が生えた姿へ変化)
【世界を絶つ氷翼】の「周囲に存在する熱を代償にする」特性を逆手に取り、妖炎魔や縊鬼の炎を無効化。
発動した氷翼の刃と【白銀の世界に君臨す】の絶対零度ブレスで追い込むわ。
ごめんなさいね。少し手荒になるけど、もう少しだけ我慢して
「おねぇさま、私も手伝うのー」(ふぶいてみる)
「あら、可愛らしい子ね。男の子って聞いてるけど、女の子みたいに可愛いわ♪」
「ふぇぇ……っ」
樹海の最奥で『縊鬼』繰々里と対面したフレミアは、弾んだ声でにこりと微笑んで。
その言葉に、泣きべそをかいている少年は微かに頬を赤らめる。気にしているのだろうか、しかしそんな反応もまた可愛らしく、そして儚く、弱々しい。
「それと……その青黒い炎が元凶の妖炎魔って事で間違いなさそうね」
続くフレミアの声色は低く、敵意と怒りがありありと浮かんでいて。少年妖怪を囚えるようにわだかまる妖炎は、一目で分かるほどの邪気に満ち満ちていた。
「その子もこの世界の妖怪達も貴方のモノじゃないわ。悪いけど、返してもらうわよ」
『渡すものか。この器はすでに我と一心同体……大願成就の邪魔はさせぬ!』
少年の口を借りて放たれる不気味な声。繰々里の意に反してその身体がすぅっと動くと、指先の動きにそって【噴き出す炎の怨念】が炎の怨霊「妖炎魔」の形を取る。
周囲に満ちる呪詛と陰鬱な雰囲気が増していくのを感じ取り、フレミアは【ブラッディ・フォール】を再び発動。ダークセイヴァーにて交戦した白竜の異端神「イーギルシャトー」の力をその身に纏う。
「骸の海で眠るその異形、その能力……我が肉体にてその力を顕現せよ!」
吸血姫の身体を冷気が包みこみ、氷の結晶のような翼や竜の尾が生える。竜神にも似た半人半竜の姿となったフレミアを中心として、真冬のような寒気が樹海に広がっていく。
『ふん、虚仮威しを。貴様も魂を寄越せ!』
季節外れの寒さに臆することなく、妖炎魔の骸魂はあやかしの炎を放つ。縊鬼の妖力によって強化されたそれは、恐怖を与え、生命を奪うことに特化した呪いの塊である。
しかし。その呪詛が標的を焼き焦がすよりも早く、フレミアの近くまで迫った炎はトカゲの舌のようにちろちろと激しさを失い、消え去ってしまう。
『何……?』
「残念ね。あなたの能力が炎なら、この神の権能とは相性最悪よ」
背中の【世界を絶つ氷翼】を広げてフレミアが告げる。一対の巨大な刃のようでもあるそれは、周囲に存在する熱を代償として力を増す特性がある――彼女はそれを逆手に取って、妖炎魔の鬼火から熱を奪い取ったのだ。
『なんと……!』
周囲に喚び出された妖炎魔の群れも、熱を奪う氷翼に吸い込まれるように消えていく。
骸魂が驚嘆の声を上げた直後、飛翔したフレミアはその翼にて繰々里の体を一閃する。
「ごめんなさいね。少し手荒になるけど、もう少しだけ我慢して」
「うく……っ!」
切り裂かれた白い肌と白い着物を、血飛沫が赤く染める。痛みに身体を強張らせながらも、少年は悲鳴を上げまいとぐっと唇を引き結ぶ。それが彼にできる数少ない抵抗。
いい子ね、と微笑みながら更に攻め立てるフレミア。その氷翼の刃は肉体のみならず精神をも同時に切り裂き、少年に取り憑いた骸魂にもダメージを与えていた。
「おねぇさま、私も手伝うのー」
ここまで付いてきた眷属の雪花も、フレミアの戦いを援護しようと【とにかくふぶいてみる】。イーギルシャトーの権能が招いた寒気が、雪女見習いの操る吹雪によって一層冷たさを増して、炎の怨霊を凍てつかせる。
『おのれ、まだ子供の雪女ふぜいに、我が炎が……!』
「あら、その子だけじゃないわよ!」
愛しい眷属の吹雪に合わせてフレミアも【白銀の世界に君臨す】を発動し、絶対零度のブレスを放った。魂さえも凍りつくような極寒の息吹が吹き荒れ、鋭い氷柱が戦場に幾つも突き上がる。八寒地獄もかくやというその冷気は、炎の妖にはさぞ堪えよう。
『ぐ、おぉぉぉ……っ!!』
吹雪く白銀の世界に追い込まれ、じりじりと後退していく『縊鬼』と妖炎魔。
しかしまだ、その野望の炎が完全に消えるには至らず。戦いは始まったばかりだった。
大成功
🔵🔵🔵
カビパン・カピパン
定番のBGMが響き【黒柳カビパンの部屋】。
本日は妖炎魔と繰々里さんのコンビをお招きしております。
あーた、縊鬼だそうで人に取り憑いて首吊り自殺させるのが大好きだと伺いましたが、本日もおはようの首吊り自殺させたの?あぁそう。
妖炎魔さんも何か面白い芸は無いの?はぁー
…貴方達、こんなに素晴らしいフリをしているのにも関わらずメソメソしてたり偉そうにしてるだけの怨霊コンビじゃもう二度とトークショーで日の目をみることはないわよ!幽世の妖怪の魂がどうとかいうよりはまずは妖炎魔に逆らう根性とトーク力を身に着けてから黒柳カビパンの部屋にまたくることね!
繰々里に激励し主導権を握っているのは終始黒柳カビパンであった。
『~♪ ~~♪ ~♪』
早くも定番となりつつあるBGMが響き、【黒柳カビパンの部屋】の始まりを告げる。
苦手な寒さから一時退避してきた『縊鬼』と妖炎魔の骸魂が出くわしたのは、ハリセンを片手に持って優雅に椅子に座っているカビパンだった。
「本日は妖炎魔と繰々里さんのコンビをお招きしております」
『何だこやつは……?』
「ぐすっ……ふぇぇ……?」
訝しげな声を発する妖炎魔に、泣きべそかいたまま首を傾げる繰々里。唐突に巻き込まれた謎のトークショー空間に困惑するのも無理はない――普通は誰だってそうだ。
「あーた、縊鬼だそうで人に取り憑いて首吊り自殺させるのが大好きだと伺いましたが、本日もおはようの首吊り自殺させたの?」
「ふぇ……っ?! ぼ、ぼくですかぁ……?」
いきなり話題を振られてビクッと肩を震わせる『縊鬼』繰々里。カビパンが口にした通りのおどろおどろしい妖怪としての伝承とは裏腹に、そのふるまいはひどくなよなよしく、人どころか虫すら殺せなさそうである。
「や、やったことないですよぉ、そんなおはよう首吊りなんてぇ……ぼく、縊鬼なのにどうしても物騒なことが苦手で……それで今もこんなことになっちゃってるし……だめだめで……未熟で……ぐすっ、ひっく……」
「あぁそう」
話の途中で泣き出してしまった妖怪少年に、カビパンの反応はそっけない。(こりゃ、これ以上はトークになんないわ)と判断したか、今度は彼に取り憑いている『妖炎魔』の骸魂のほうに話を振ってみる。
「妖炎魔さんも何か面白い芸は無いの?」
『下らん。なぜ我がこんな茶番に付き合わなければならん』
繰々里とは対照的に、妖炎魔の反応はそっけなく不遜であった。段取りも台本も(そんなもの最初から無いが)ガン無視して、司会のカビパンよりも遥かに偉そうな態度でふんぞり返る。こっちはこっちでトークショーには不適格である。
『我が炎はこの世の全ての生命と魂を喰らう。邪魔立てする気がないのなら去ね、焼き殺されんうちにな』
「はぁー」
【噴き出す炎の怨念】を周囲に飛ばしながら威圧する妖炎魔に、生返事のカビパン。
まったくもってトークが成立する様子がない。このままでは視聴率がピンチである。
「……貴方達、こんなに素晴らしいフリをしているのにも関わらずメソメソしてたり偉そうにしてるだけの怨霊コンビじゃもう二度とトークショーで日の目をみることはないわよ!」
黒柳カビパン、キレる。素晴らしいと言うかだいぶ剛速球なフリだったような気もするが、それくらいキャッチして投げ返さなければこの業界生き残れないということか。いや彼らは別に芸能人ではないのだが、そんなことはお構いなしにキレる。
「特にあーた!」
「ひゃいっ?!」
びしっとハリセンを突き付けられた繰々里は反射的に背筋をピンと伸ばして返事する。
終始うじうじビクビクめそめそしている彼に、カビパンは遠慮のない言葉をぶつけた。
「幽世の妖怪の魂がどうとかいうよりはまずは妖炎魔に逆らう根性とトーク力を身に着けてから黒柳カビパンの部屋にまたくることね!」
それは叱責――のように見えて、本質は繰々里に向けた激励。根性つけろと言われた少年はハッと目を丸くして、厳しい口調のカビパンが実は笑っていることに気付く。
『貴様、何を余計なことを……』
「あーたはもう黙ってなさい!」
ばしーん、とハリセンでしばいて一喝。相手がどんな妖怪であろうと、降霊術により伝説級のトーク力を身に着けたカビパンは、強引な話術で誰にも主導権を譲らない。
「本日の黒柳カビパンの部屋はここまで! さあ帰った帰った!」
『くっ……何だ、このプレッシャーは……何故か逆らえん……!』
理不尽に憤りながらも圧倒されて、妖炎魔はすごすごとカビパンの前から退散していく。彼が――そして繰々里がここで味わった精神的影響は、けして小さくは無さそうだ。
成功
🔵🔵🔴
カタリナ・エスペランサ
可笑しな事を言うね、オブリビオン
過去の亡霊がこの世界から奪っていいものなんて何一つ有りはしないよ
妖炎自体は知覚不可能でも《戦闘知識+情報収集》でそれを操る敵の動きや思考を分析すれば攻撃を《見切り》躱すのは難しくない
アタシなら《空中戦》の技術でだいぶ自由に動き回れるしね
《残像・フェイント》も織り交ぜて読み合い勝負だ
使うUCは【失楽の呪姫】、炎はアタシの領分でもあるってところも見せてあげる!
万象を終焉に染め上げる《属性攻撃+ハッキング+焼却》の劫火を《オーラ防御》で纏って妖炎も焼き尽くせるようにしておこう
攻め手は劫火と黒雷を束ねた投槍で縊鬼の核を貫く
待たせたね、繰々里
キミの事も今に助けてみせる!
「えぇい煩わしい猟兵め……この世の魂と生命は我のものだと言っておろうが!」
「可笑しな事を言うね、オブリビオン」
傲岸不遜な物言いを繰り返す『妖炎魔』の骸魂に、冷笑を浮かべてカタリナが返す。
他人の身体を奪わなければ現世に干渉すらできないような怨霊が、こうも我が物顔でいるのは、彼女からすれば滑稽でしかない。
「過去の亡霊がこの世界から奪っていいものなんて何一つ有りはしないよ」
『抜かせ……! 貴様こそ、人間風情が思い上がるでないわ!』
その傲慢を貫かんと閃風の舞手は空へ羽ばたき、妖炎魔は繰々里の身体と共に奪った『縊鬼』の力を解放する。発動するユーベルコードは【幽世招炎】――肉体ではなく魂を焦がし、生への執着を焼く見えざる妖炎が放たれた。
(妖炎自体は知覚不可能でも、それを操る敵の動きや思考を分析すれば攻撃を躱すのは難しくない)
アタシならだいぶ自由に動き回れるしね――と、内心で呟きながら、カタリナは華麗な空中機動で妖炎をかいくぐる。戦いの中で積み重ねてきた経験と知識が、不可知の攻撃を避けるという難行を可能としていた。
「待たせたね、繰々里。キミの事も今に助けてみせる!」
「は……はいっ」
呼びかけられた少年妖怪はまだ泣きべそをかいているものの、猟兵を信頼している様子でこくりと頷いた。妖炎魔は憑代のそんな反応に苛立ちながら妖炎を放つが、どんなに精緻に狙ったつもりでも、紙一重でカタリナに躱される。
「読み合い勝負だ。負ける気はしないけどね」
不可知の攻撃がどこに飛んでくるかを予想し、フェイントや残像を織り交ぜて飛び回る閃風の舞手。変幻自在な機動を読み切ることができず、妖炎魔は翻弄される一方だ。
カタリナはふっと笑みを浮かべたまま【失楽の呪姫】を発動、その身に宿る魔神の力を励起させ、終焉を招く劫火の欠片を纏う。
「炎はアタシの領分でもあるってところも見せてあげる!」
羽ばたきと共に放たれる劫火は、オブリビオンの影響で迷宮化した樹海を焼き、縊鬼の妖炎すらも焼く。ラグナロクや黙示録等の伝承にて語られる"世界を滅ぼす火"と同質の存在であるその"火"に、焼き尽くせぬものなどこの世に存在しない。
『バカな……?! この力、人間のものでは無いぞ……!』
自らの炎が"焼かれる"という前代未聞の事象に直面し、妖炎魔は驚愕の声を上げた。
猟兵といえどたかが人間と侮ったのが運の尽き――ヒトにして魔神"暁の主"の化身でもあるカタリナの力は、妖怪にさえも計り難い領域にある。
「アタシの本気、ちょっとだけ見せてあげる」
凛と微笑む少女の手には、稲光を上げる更なる魔神の権能がひとつ。あらゆる守護を貫く黒雷に、万象を終焉に染め上げる劫火を束ね、一振りの投槍の形を作り上げる。
「とっとと骸の海に還ってもらおうか!」
高らかな一声と共に放たれる雷炎の投槍。それは黒い閃光のように戦場を駆け抜け、縊鬼の少年に――その肉体に取り憑いている、骸魂の核のみを正確に貫いた。
『ぐ、ごああぁぁぁぁぁッ
!!?!』
怨霊としての本質を直に攻撃され、地獄の底から響くような絶叫が樹海に木霊する。
手応えはあった。上空よりカタリナが見下ろす妖炎魔の火は、それまでよりも明らかに勢いを衰えさせていた。
大成功
🔵🔵🔵
春霞・遙
そっか、繰々里ちゃんも頑張っていたんですね。
私たちなら多分大丈夫ですから、もう少しだけ頑張ってください。
目の前で泣いているオブリビオンを倒すことで繰々里ちゃんがちゃんと助かることを「祈り」、「呪殺弾」や「破魔」の「弾幕」で全力攻撃する「覚悟」をして、拳銃と【竜巻導眠符】で戦います。
遠距離で「援護射撃」をメインに立ち回り、召喚された妖炎魔には符を燃料として食わせて鎮めて邪魔できないようにします。
接近されたら手元に残しておいた導眠符か「零距離射撃」で対応。
別に私の命がどうこうなるのは構わないですけどね、助けられるかもしれない命に手を伸ばせなくなるので簡単に生きることを諦めてあげられないんですよね。
キリカ・リクサール
アドリブ連携歓迎
フン…他者の身体を乗っ取っているだけのくせに随分と偉そうな態度だな?
大層な名前もあるようだが…お前の名は寄生虫で十分だろう
挑発しつつ、エギーユ・アメティストを足元の妖炎に叩き付け、繰々里を傷つけずに妖炎魔のみを攻撃する
お前に与える慈悲は一片も無いと思え
生きる執着か…フッ、そんな物はお前達と戦う道を選んだ時に捨てている
だがな…例え生への執着を失い、己の屍を戦場に晒そうとも、お前達を狩る猟兵としてのプライドだけは絶対に捨てんさ!
敵がUCを発動したらこちらもUCを発動
気合を入れて全身の倦怠感を振り払ったら巨大な鉤爪を使い妖炎魔の本体を叩き切る
安心するんだ、繰々里
私達が必ず、君を助ける
「そっか、繰々里ちゃんも頑張っていたんですね」
気弱で臆病な縊鬼の少年のせめてもの抵抗を知って、遙は優しい微笑みを浮かべる。
それは彼女がいつも患者に対して向ける表情と同じ。心配させないようにと穏やかな口調で、泣きべそをかいている繰々里に呼びかける。
「私たちなら多分大丈夫ですから、もう少しだけ頑張ってください」
「は……はい……っ」
少年はこくりと小さく頷き、骸魂に完全に呑まれてしまわぬよう懸命に意識を保つ。
その抗いはささやかなものだが、骸魂『妖炎魔』にしてみれば腹立たしいものだった。
『大人しく我の言いなりになっていれば良いものを……憑代の分際で抵抗しおって』
「フン……他者の身体を乗っ取っているだけのくせに随分と偉そうな態度だな?」
遙とは対照的に、冷ややかな笑みと辛辣な口調で敵を挑発するのはキリカ。その手に持った純白の革鞭「エギーユ・アメティスト」をヒュッと振るうと、蠍の尾のように先端に取り付けられた紫水晶が、繰々里の足元でたゆたう妖炎に叩き付けられる。
「大層な名前もあるようだが……お前の名は寄生虫で十分だろう」
『貴様……我を侮辱するか!』
炎の妖怪は気が立ちやすい性質でもあるのだろうか。あっさりと憤怒の頂点に達した妖炎魔はメラメラと燃え上がり、【噴き出す炎の怨念】と【幽世招炎】を解き放った。
『我が業火にて焼き尽くされよ!』
死と恐怖をもたらす呪詛を放つ鬼火と、生きることへの執着を奪う知覚不可能な妖炎。
妖炎魔と縊鬼の力を複合させた炎の災いが、遙とキリカに襲い掛かる。肉体ではなく心や魂へと直接作用するそれにかかれば、いかな強大な生命とて自死に導かれよう。
――その力に対抗する最善の手段は、死を恐れず、死に浸らぬ、強い心を保つことだ。
「別に私の命がどうこうなるのは構わないですけどね、助けられるかもしれない命に手を伸ばせなくなるので簡単に生きることを諦めてあげられないんですよね」
医師としての使命と矜持を支えにして、遙は妖炎による心魂への侵蝕を跳ね除ける。
目の前で泣いているオブリビオンを倒すことで、繰々里がちゃんと助かることを祈り、全力をもって戦う覚悟が彼女にはある。その想いを弾丸と共に拳銃に込めてトリガーを引き絞れば、呪殺と破魔の弾幕が敵に放たれる。
『ぐ……ッ、こやつ、我が炎が効かぬ
……?!』
予想以上の反撃が来たことに妖炎魔は動揺し、銃弾に射抜かれた痛みで顔をしかめる。
遙はさらに【竜巻導眠符】を飛ばし、周囲を漂う鬼火たちに符を燃料として喰わせることで怨念を鎮め、眠りにつかせていく。樹海に満ちていた陰鬱な雰囲気が薄らぎ、それに比例して敵本体の力も弱まっていくのを、猟兵らは見逃さなかった。
「お前に与える慈悲は一片も無いと思え」
たじろぐ敵に飛び掛かるのは、禍々しい大きな鉤爪を両手から生やしたキリカ。
【呪詛の獣】と化した彼女の一撃は、宣告通りに妖炎魔の本体を切り裂いた。
『ぐぁぁッ?! 貴様も、何故……生への執着心を焼かれて何故平気でいられる!?』
「生きる執着か……フッ、そんな物はお前達と戦う道を選んだ時に捨てている」
魂を焼かれる痛みを表情に出すことなく、キリカはふっと陰のある笑みを見せる。
UDCやオブリビオンとの戦いは過酷を極める。事実、数え切れないほどの者が戦場で生命を落としてきたことを、彼女は実体験として知っている。自分もいつ死んでもおかしくないという自覚くらい、持っていないほうが可笑しいだろう。
「だがな……例え生への執着を失い、己の屍を戦場に晒そうとも、お前達を狩る猟兵としてのプライドだけは絶対に捨てんさ!」
戦士の矜持を奮い立たせ、全身の倦怠感を気合で振り払い、力強く鉤爪を振るう。
この爪は、デゼス・ポアと共に屠ってきたオブリビオンの残滓を自身に纏わせたもの。かつて世界を脅かした呪詛は今、同族を引き裂く刃となって、猟兵の手で閃く。
『があぁぁぁッ
!!!!』
巨大な呪詛の獣の鉤爪に引き裂かれ、妖炎魔の骸魂から鮮血のように火の粉が散る。
さらに後方からは遙による援護射撃も。小さな拳銃弾と侮るなかれ、破魔の力を付与された呪殺弾は怨霊にとっては非常に相性の悪い攻撃だ。
『このままでは、不味い……ッ』
前衛にキリカ、後衛に遙。この布陣を崩さないことには勝機はないと悟った妖炎魔は、足元から間欠泉のように青い妖炎を吹き上げ、猟兵たちの視界を一時的に奪う。
「目眩ましか」
キリカが火の粉を振り払う一瞬のうちに、繰々里に取り憑いた妖炎魔の姿はその前から消え、後方に居る遙のほうに向かっていた。
『まずは貴様からだ!』
「に……逃げて……っ」
炎が効かなければ手ずから縊り殺すまでだと、遙の喉首に手を伸ばす妖炎魔。繰々里はいやいやと首を振って必死に抗っているようだが、肉体の主導権は今だ骸魂にある。
だが――瞳に涙を溜める少年に「大丈夫ですよ」と言うように微笑みながら、遙は白衣の中から一枚の符を、先程の竜巻に使わずに取っておいた導眠符を押し付ける。
「さあさおやすみ、眠りなさい」
『な……ぐぅ……っ!!?』
妖炎魔に襲い掛かる強烈な睡魔。さすがに死蝶のように簡単に眠らせることはできないが、一時的にでも動きを封じられさえすれば十分――発砲音が響き、零距離からの銃撃に膝を突くオブリビオン。その背後からは呪詛の獣が鉤爪を振りかざす。
「安心するんだ、繰々里。私達が必ず、君を助ける」
繰々里にかけられる優しい言葉。同時に放たれるキリカの一閃が妖炎魔を叩き斬る。
骸魂を討ち、繰々里を救い出すという点において、彼女たちの決意は共通していた。
その心に秘めた慈愛ゆえに一切容赦のない遙とキリカの猛攻が、妖炎魔を追い込んでいく。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
御狐・稲見之守
やれやれ、男ノ子がそんな泣きっ面見せるもんでない。普通なら意識も骸魂と同化しているところを、意識だけは残して抗うているだけでもエラいってもんさ。
繰々里の身体を影業で[呪詛][捕縛]したらば[UC火喰らし]――涙を指先で拭ってやり、顎クイして唇から妖炎魔を啜り喰ろうてしまおう。ふふ、ちょいと個人的な趣味もあるにはあるが。
ま、こうして妖炎魔の力が弱めれば繰々里の意志で多少は抗うこともできよう。
(狐魅命婦『むしろ趣味全開でしょー?』『ショタコン』『へんたーい』)
うっさいぞお前ら。
逢坂・理彦
骸魂に取り憑かれると意識を完全に乗っ取られてる感じが多かったけど…あの子の意識も残ってるってことはあの子自身の力も強いってことかな。
幽世全ての魂どころか一つたりともあげるきはないけどね。繰々里ちゃん。もうちょっと我慢してね。その骸魂。払って見せるから。
UC【狐火・椿】に【破魔】【除霊】の力を載せて攻撃。
薙刀にも【破魔】を載せ【早業】で【なぎ払い】
「ぐすっ……ごめんなさい、ぼくのせいで、ぼくのために、こんな……うぅっ」
「やれやれ、男ノ子がそんな泣きっ面見せるもんでない」
妖炎魔の骸魂に身体を奪われ、猟兵との戦いを見ていることしかできない『縊鬼』繰々里。己の不甲斐なさや恐怖や罪悪感に苛まれる彼を宥めたのは、稲見之守だった。
童女から妙齢の美女へと姿を変えた彼女は、繰々里から立ち上る妖炎に対抗するように、呪力を具現化させた「影業」を足元から発現させる。
「普通なら意識も骸魂と同化しているところを、意識だけは残して抗うているだけでもエラいってもんさ」
「骸魂に取り憑かれると意識を完全に乗っ取られてる感じが多かったけど……あの子の意識も残ってるってことはあの子自身の力も強いってことかな」
手には墨染桜の薙刀を、周囲には【狐火・椿】を浮かべて、理彦も同じ見解を示す。
オブリビオン化した妖怪に二つの意識が顕在する――それは、あの一見気弱な少年に強い力が秘められている証左だろう。だからこそ『妖炎魔』は彼を器に選んだのだ。
『この憑代があれば我の力は増大する……! 猟兵ごときに負けるものか!』
雄叫びと共に【噴き出す炎の怨念】が樹海を飛び交う。生命力を奪う恐怖の呪詛を撒き散らす鬼火どもに対して、理彦は73発の狐火を個別に操作し、迎撃に向かわせる。
『この世界の魂を、全て我がものに!』
「幽世全ての魂どころか一つたりともあげる気はないけどね」
破魔と除霊の力を載せられた狐火・椿は、怨念を焼く浄炎となって悪霊を滅ぼす。
負けじと妖炎魔もさらなる悪霊を召喚しようとするが――飛び交う狐火に気を取られた隙を突いて、漆黒の影が忍び寄る。
「足元に注意せい」
『ぬぁっ?!』
「きゃぅ!?」
稲見之守の足元から伸びた影業は、不意を突かれた縊鬼の体に蛇のように絡みついた。
妖炎魔と繰々里、2人の驚きの声が重なる。モノノ怪の呪詛を編んだこの拘束は、そう簡単に千切れるものではない。その間に【火喰らし】を発動して悠々と接近する。
「火喰らしの鳴きつるなへに火は紅れに」
全身を狐火で覆ったその姿は、炎にて炎を喰らうモノ。邪魔な鬼火どもを吸収しながら、捕縛した敵の前までやって来た稲見之守は手を伸ばして――繰々里の瞳から流れる涙を、指先でそっと拭ってやる。
「ふ、ぇ?」
「ふふ、可愛いヤツめ」
雪のように白い繰々里の頬にほんのりと赤みがさし、ぱちくりと目を丸くする。そんな彼の様子に稲見之守は艶めいた笑みを浮かべ、今度は顎をクイと指で持ち上げ――。
「ん! んむぅーっ?!」
触れあうところから直接、憑代の中にいる妖炎魔を啜り喰らう。『魂喰卿』『人喰い魂呑みの外道』とも畏れられるモノノ怪としての本領発揮。突然のことに繰々里は仰天するが、妖炎魔が受けた動揺はそれ以上だった。
『わ、我が、喰われ……ッ!?』
繰々里の中から強制的に引きずり出され、稲見之守に啜り取られていく妖炎魔の魂魄。
生き血を吸われているような苦痛に苛まれながら、必死に拘束を振り解くが――脱力感に襲われ、腰が抜けたようにがくりと崩れ落ちてしまう。繰々里のほうはと言えば、もう"ほのかに"とは言えないほど頬を真っ赤にして、完全に放心してしまっていた。
「繰々里ちゃん。もうちょっと我慢してね。その骸魂。払って見せるから」
――いずれにせよこの機を逃す手はないと、今度は理彦が踏み込む。墨染桜が描かれた愛用の薙刀には、狐火と同じ破魔の力を載せて、揺らめく陽炎を連れて颯爽と。
『ぐ、ぅ……く、来るな……』
動けない本体に代わって、鬼火の群れが盾になるように彼の前に立ちはだかる。
しかしそれに直接的な戦闘力は乏しく、猟兵の進撃を止められようはずもない。
「ぽとり、ぽとりと椿の様に」
守護者たる狐に付き従う狐火たちが、炎の怨霊どもを吹き飛ばして。
神楽舞のごとき鮮やかな一閃が、少年の中にいる骸魂を薙ぎ払った。
『ぐ、ごおおぉぉぉぉ……っ!!』
魂喰らいと破魔の刃によって魂魄自体に甚大なダメージを負い、妖炎魔は堪らず悲鳴を上げる。足元で燃える妖火の勢いもますます弱まり、相当に憔悴しているようだ。
「ま、こうして妖炎魔の力が弱まれば繰々里の意志で多少は抗うこともできよう」
唇をちろりと舌で舐めながら、稲見之守が満足げに笑う。少なくとも憑代にも付け入る隙が出来る位には、骸魂との力関係は崩してやった――あとは繰々里の意志次第だ。
「ふふ、ちょいと個人的な趣味もあるにはあるが……」
『むしろ趣味全開でしょー?』『ショタコン』『へんたーい』
「うっさいぞお前ら」
『ぴえん』
――先刻式神になったばかりの狐魅命婦が後ろから野次を飛ばしてきたり、それを稲見之守がひと睨みでビビらせる一幕もあったりしたが。戦いは概ねにおいて、猟兵たちの優勢のまま進んでいた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
トリテレイア・ゼロナイン
速やかに解放していただきます
(炎を防ぎ)
…!?
UDCEで護ると約束し邪神と化した少女を殺めたこと?
Sエンパイアでフォーミュラの赤子身籠った女性オブリビオンを殺めたこと?
我が身の未熟と合理の決断で今までに騎士として多くの命と心を取りこぼし切り捨てたこと?
(胴部コアユニットへ剣を突き刺そうと)
…どの理由/罪を想えば良いのでしょうか?
逡巡の刹那、2章の「自害行動時発動対策」でUC起動
指令の優先権争いで動作不安定ですが…
泣いている方を前に騎士が取るべき行動は只一つでした
繰々里様…ご自身を責めることは考えず心のままにお叫び下さい
『嫌だ』と
それにお応えする為
私達は全力を尽くしましょう!
妖炎魔を切り裂き
『くそっ、忌々しい……何故我の邪魔をする、猟兵め……!』
「妖怪達の生命と魂を弄ぶ所業、私達が見過ごすとでも?」
『縊鬼』繰々里の口から発せられる妖炎魔の苛立ちに、トリテレイアは毅然と返す。
死蝶の異変に巻き込まれ、骸魂に取り憑かれた妖怪を救いながらここまで来た。彼にとってそれは当然の使命であり、そして今、救出すべき相手は目の前にもひとり。
「速やかに解放していただきます」
『させるものか!』
一歩前に踏み出す機械騎士に、妖炎魔は青黒い炎を放つ。それは盾によって容易く防がれはするものの――火の粉を浴びたトリテレイアの電脳に、突如としてエラーが発生する。
「……!?」
『掛かったな!』
妖炎魔が放ったのは【くびれ鬼の誘い】。繰々里の妖力を利用したそれは一度術中に嵌まったが最後、精神的苦痛を伴うトラウマと強迫的な自殺衝動を対象に植え付ける。
トリテレイアの記憶領域から無作為に浮かび上がる、過去のメモリー――今なお忘れることのできない後悔や煩悶の残る事件がリピートされる。
『自らの後悔と罪に焼かれ、己の手で命を絶つがいい!』
嘲笑う妖炎魔の言葉に操られるかのように、騎士は剣を両手で構えると、自らの胴部に切っ先を当てる。その内部に収められたコアユニットこそが彼の頭脳にして心臓、ここを破壊してしまえばいかなウォーマシンとて修復は不可能となる。
『さあ、やれ!』
トラウマの炎によって自ら命を絶ちたいという望みを煽り立て、自殺を唆す妖炎魔。
だが――あとは一突きするだけで終わりというところまで来て、トリテレイアは剣を構えたまま石像になったように動作を停止する。
「……どの理由を、どの罪を想えば良いのでしょうか?」
『何?』
その口から発された言葉に妖炎魔は訝しむ。
騎士が自殺を止めたのは、罪悪感やトラウマが無かったからではない――逆だ。
「UDCアースで護ると約束し邪神と化した少女を殺めたこと?」
「サムライエンパイアでフォーミュラの赤子身籠った女性オブリビオンを殺めたこと?」
「我が身の未熟と合理の決断で今までに騎士として多くの命と心を取りこぼし切り捨てたこと?」
彼の歩んできた騎士道を振り返れば、そこには数え切れないほどの屍が重なっている。
メモリーを消去しない限り電子頭脳が忘却することはなく、罪も懊悩も消えはしない。ゆえに彼は迷った。"なぜ死ぬのか"ではなく"どの罪に裁かれるのか"と。
「……!!」
その逡巡の刹那、事前に施されていた「自害行動時に発動する対策」により、トリテレイアの意識は正常状態に復帰する。樹海探索中に電脳内に組み込んでおいたユーベルコードが起動し、敵のユーベルコードによる不正な自害命令を抑制したのだ。
「指令の優先権争いで動作不安定ですが……泣いている方を前に騎士が取るべき行動は只一つでした」
まだノイズの混ざる思考で、それでもトリテレイアは剣を構え直す。今、耳を傾けるべきものは妖炎魔の声ではない。今、見るべきものは泣いているひとりの少年だ。
「繰々里様……ご自身を責めることは考えず心のままにお叫び下さい」
「え……?」
『バカなッ!?』
正気を取り戻したトリテレイアがかける言葉に、繰々里は戸惑い、妖炎魔は驚愕する。
精神的苦痛が消え去ったわけではない。ただ、今はそれよりも優先すべき事があるだけのこと。【機械人形は守護騎士たらんと希う】と、少年に向けて高らかに叫ぶ。
「『嫌だ』と。それにお応えする為、私達は全力を尽くしましょう!」
「……っ!!」
感極まったように口元を引き結ぶ繰々里の目元から、また涙が一筋。しかしそれは悲しみの涙ではない――助けにきてくれた人たちがいる、その事実に対する歓喜の涙。
「ぼくは……嫌だ。もう皆を傷つけるのは嫌だ。こんなやつの言いなりになるなんて、嫌だっ!!」
『貴様ッ! 憑代は憑代らしく、大人しくしておればいいと何度も
……!!』
強く、強く、骸魂を拒絶しようと叫ぶ繰々里と、怒りと動揺を露わにする妖炎魔。
両者の意志がせめぎ合い、オブリビオンの動きが止まる――その機を逃さず、トリテレイアは剣の間合いに踏み込んだ。
「御伽噺に謳われる騎士達よ。鋼の我が身、災禍を払う守護の盾と成ることをここに誓う」
騎士としての理想、己の原点を謳い上げながら振り下ろされた一太刀は、過たず妖炎魔を切り裂き――血飛沫の如く火の粉が散り、樹海の迷宮に苦悶の絶叫が響き渡った。
大成功
🔵🔵🔵
セシル・バーナード
可愛い子だね、繰々里。無事に助け出せたら、ぼくとお付き合いしてもらえるかな? なんて「誘惑」を仕掛けよう。
それじゃあ、討滅を始めよう。繰々里は少し我慢してね。妖炎魔を滅する。
可愛いオトコノコを泣かせるなんて、万死に値するよ。
妖炎魔の攻撃を「見切り」、次元障壁で弾きながら攻撃の機を待つよ。
攻撃は空間断裂。重い一撃を確実に敵へ当てていく。
繰々里、勇気を出してその骸魂に抗うんだ! 動きを鈍らせるだけでもいい。後はぼくらの仕事さ。
繰々里が妖炎魔の動きを抑えてくれたら、「全力魔法」の空間断裂を叩き込む。
繰々里がくれたこのチャンス、無駄にはしない!
砕け散れ、オブリビオン!
繰々里は無事かな? 大変だったね。
雛菊・璃奈
大丈夫だよ…貴方はわたし達が助ける…。わたしが止めてみせるから…。
妖炎魔、貴方はフェニックス達とは違う…。
悪意を以て妖怪の魂や命を自分のモノとする為に事件を起こした…。
貴方は許すわけにはいかない…。
【ソウル・リベリオン】を召喚…。
妖炎魔は炎の怨霊…力の源である怨念を【リベリオン】で喰らい、弱めた上で【神滅】を発動…。
弱体化させた上でその力の根源を断ち切り、完全に無力化して消滅させるよ…。
取り憑かれただけの繰々里を痛い目に会わせるのも可哀想だしね…。
なるべく彼にダメージを与えない様に妖炎魔を倒すよ…。
「救出!」
「手当!」
「よしよし」
「大丈夫だよ……貴方はわたし達が助ける……。わたしが止めてみせるから……」
「ぁ……ありがとう、ございます……っ!」
涙を浮かべながら骸魂の支配に抵抗する『縊鬼』繰々里に、璃奈は優しく声をかける。
まだ彼の意識は骸魂に取り込まれてはいない。それならきっと他の妖怪たちと同様に救い出せる。そのための切り札となる魂喰らいの魔剣【ソウル・リベリオン】を召喚して、彼女は凛と前線に立つ。
「可愛い子だね、繰々里。無事に助け出せたら、ぼくとお付き合いしてもらえるかな?」
「え、ふぇっ?! ぼ、ぼく、男ですよっ?!」
同じタイミングで前線に出たのはセシル。艶のある笑みで試しに誘惑を仕掛けてみると、初心な少年はあたふた。セシル的には可愛ければ性別なんて些細なことのようだ。
『戯言をほざくな、猟兵が! この器はもはや我のものよ!』
業を煮やした『妖炎魔』が繰々里の口を使って叫ぶ。骸魂からすればこれだけの力ある憑代をみすみす手放す理由も無いだろう。【噴き出す炎の怨念】を大量に呼び出し、凄まじい呪詛をほとばしらせて猟兵たちを威圧する。
『貴様らは、我が怨念の炎にて魂まで焼き滅ぼしてくれよう……!』
「抜かせない」
炎の怨霊がもたらす呪詛は、ただそこに"在る"だけで恐怖をもたらし命を奪う。しかしその危険性を即座に見切ったセシルは、渾身の【次元障壁】にて怨念の炎を弾いた。
物理だろうと呪術だろうと、このユーベルコードに防げないものは無い。近くにいる仲間も同時に囲うように障壁を展開しながら、彼は繰々里に向けて呼びかける。
「繰々里、勇気を出してその骸魂に抗うんだ! 動きを鈍らせるだけでもいい。後はぼくらの仕事さ」
たった一度でもいい、攻撃を仕掛ける機会ができればその瞬間に重い一撃を。
次元障壁を維持したまま全神経を研ぎ澄ませて、好機が来るのをじっと待つ。
「呪詛喰らいの魔剣よ……彼の者を縛る呪いを喰らい、正しき姿、正しき魂へ戻せ……。彼の魂に救済を……!」
セシルの障壁が怨霊の呪詛を阻んでいるうちに、璃奈は祈るように詠唱を紡ぎながらソウル・リベリオンを振るう。呪詛や怨念を喰らい力とし、呪いや怨念に縛られた者を救済するのがこの剣の力――現世に彷徨う骸魂相手にこれ以上の魔剣はあるまい。
『ぐうぅぅぅぅっ?! ち、力が、また、抜ける……っ!』
虚空を薙ぐ魔剣の刃が、炎の怨霊から怨念を喰らっていく。力の源を失った妖炎魔は苦しげに呻き、樹海に満ちていた恐怖の呪詛も消えていく――そして、骸魂の力が弱まったということは、憑代に対する支配力も同時に緩むということだ。
「ぼ……ぼくも……泣いてばっかりじゃ、だめなんだ……!」
繰々里は臆病な自分を奮い立たせ、なけなしの勇気を振り絞って妖炎魔に抵抗する。
彼は縊鬼として強い力を持ちながらも、意思の弱さゆえに骸魂に従うままとなっていた。しかし今、猟兵の戦いに感化されたことで少年の心に変化が起こり始めていた。
「み……皆さん……今です……っ!」
『繰々里、貴様、何を……ッ?!』
けして劇的なものではない、ほんの些細な意識の変化は、妖炎魔から肉体の主導権を取り戻した。それは一時的なことではあるが、猟兵たちにとっては十分すぎる勝機。
「繰々里がくれたこのチャンス、無駄にはしない!」
敵の動きが止まったのを見たセシルは、障壁を解除して攻撃のために全力を注ぎ込む。
昂ぶる感情や思念を力に変えて、叩き込むのは渾身の【空間断裂】――不可視にして無音の空間という刃が、敵のいる座標をピンポイントで斬り裂く。
「砕け散れ、オブリビオン!」
『グガァァ―――ッ
!!!?』
通常の防御が意味を成さない空間操作による直接攻撃は、妖炎魔の骸魂にも甚大なダメージを与えた。繰々里の足元や体内から飛び散る青い火の粉はまるで血飛沫のようであり、喉から絞り出される絶叫は悍ましい怨嗟となって戦場に木霊する。
「妖炎魔、貴方はフェニックス達とは違う……。悪意を以て妖怪の魂や命を自分のモノとする為に事件を起こした……」
空間断裂の一撃を受けたオブリビオンに追撃を仕掛けるのは璃奈。その手に構えたソウル・リベリオンは彼女から莫大な呪力を与えられ、刀身に妖しい輝きを纏っている。
「貴方は許すわけにはいかない……」
悪意ある怨霊には共に歩む奇跡ではなく魂の滅びを。【妖刀魔剣術・神滅】を発動した璃奈の身体は魔剣と共に飛躍的に強化され、その太刀筋は神業の領域へと達する。
「神をも滅ぼす呪殺の刃……あらゆる敵に滅びを……」
『―――――ッ
!!!!?!』
一閃――標的を貫いた魂喰らいの刃は、その肉体には傷ひとつ付けることなく『妖炎魔』の力の根源のみを断ち切る。その瞬間、繰々里の周りから青い妖火が消失した。
(取り憑かれただけの繰々里を痛い目に会わせるのも可哀想だしね……)
そんな配慮も含めて放たれた【神滅】は見事にその役を果たしたようで――ふらり、と糸の切れた人形のようにその場に崩れ落ちる少年の身体を、璃奈はそっと支える。
「救出!」「手当!」「よしよし」
と、待機していたメイド人形たちが救護に駆け寄ってくる。見たところ繰々里の身体に大きなケガはなく、憑かれていた間のダメージの殆どは骸魂に与えられていたようだ。
「繰々里は無事かな? 大変だったね」
「は……はい」
彼の中から怨霊の気配が消えたのを感じ取って、セシルもねぎらいの言葉をかける。
たくさんの優しい言葉と想いに囲まれて、繰々里は始めて皆に笑顔を見せる。これで無事に異変は終わったと――その時は誰もが思っていた。
「皆さん、ありがとうございま―――」
『―――まだだ』
感謝を口にしようとした繰々里の背後から不気味な声が響いたかと思うと、樹海の陰から青黒く燃える火の玉が飛び出し、彼の中に入りこむ。それは【噴き出す炎の怨念】にて召喚されていた炎の怨霊のひとつ――言うなれば妖炎魔の魂の欠片。
『まだ、我は終わっておらぬ
……!!』
「う、ぐぅ、ぅ、っ?!」
一度は元に戻ったはずの繰々里の身体から、再び青黒い怨念の業火が燃え上がる。
遺っていた怨念と炎の残滓をかき集めて、妖炎魔は自らの存在を繋ぎ止めていた。
「往生際が悪いね」
「だったら何度でも滅ぼす……」
仕留め切れなかったとはいえ、骸魂本体の核はセシルと璃奈の手で断ち切られている。
復活した妖炎魔にこれまでと同等の力がないことは明らかだ――次はその怨念の炎を最後の一欠片まで吹き消すべく、猟兵たちは再び戦いの構えを取った。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
天帝峰・クーラカンリ
泣くことはない。お前はおまえで、骸魂を止めようとした。
それは此の幽世において、とても大事な心構えだ。
後の事は心配しなくていい、その為に私達は来たのだからな。
武器など不要。私自らお相手しよう。
相手の肉体は人のかたち。であれば、弱点もヒトと通っているだろう。
顎の下に掌底を喰らわせ、鳩尾には膝蹴り、相手のつま先をわざと踏んで体勢を崩したら、そのまま人中に拳をふっかける。
己の身が傷ついたら【生まれながらの光】で自己回復。
ふむ――傷は癒えるがこの疲労感……不思議な感覚だ……。覚えておこう。
さて、では裁きの続きを。地獄で閻魔がお前を導いてくれるだろう。
「うぐ……ごめん、なさ、っ……やっぱり、ぼく……っ」
「泣くことはない。お前はおまえで、骸魂を止めようとした。それは此の幽世において、とても大事な心構えだ」
抗えども止められない無力感に涙する『縊鬼』の少年に、クーラカンリは厳しくも力強い調子で励ましの言葉をかける。たとえ敵わずとも骸魂という危険な存在に挑み、立ち向かう者を、山神にして地獄の獄卒がどうして責められよう。
「後の事は心配しなくていい、その為に私達は来たのだからな」
全身に気魄を漲らせ、拳を固め、ずんと踏み込む。骸魂から妖怪たちを護り、生と死の境を分かつ――閻魔大王より与えられし使命と猟兵としての依頼、果たすべきは今。
『何だ貴様……素手か?』
「武器など不要。私自らお相手しよう」
獄卒の基本装備である鬼棍棒さえもその手に持たず、徒手のまま距離を詰めるクーラカンリ。『妖炎魔』の骸魂は乗っ取った繰々里の顔でせせら笑いながら、【噴き出す炎の怨念】を彼を阻まんとする。
『思い上がるなよ! 焼き尽くしてくれる!』
めらめらと燃える青黒い朧火は、生ある者に恐怖と死をもたらす呪いそのもの。あの死蝶の群れと同じように、触れるだけで生命を蝕まれるだろう――だが彼は迷うことなく、その只中に足を踏み込んだ。
「この程度、何ということはない」
炎の怨念に焦がされていく己の身体を、即座に【生まれながらの光】で治療する。
聖なる光によってすぐに傷は癒えるが、またすぐに炎の怨念でダメージを受ける。
それを繰り返しながら、一歩一歩、拳を握り締めたまま敵との距離を詰めていく。
「ふむ――傷は癒えるがこの疲労感……不思議な感覚だ……。覚えておこう」
『こやつ……! なぜ平然としていられるのだ?!』
自己回復はできても疲労は残り、傷つくたびに痛みが無いわけではない。しかし彼の歩みは極寒の風雪にも耐える大山のように揺らがず、真っ向から敵を間合いに捉えた。
「さて、では裁きの続きを。地獄で閻魔がお前を導いてくれるだろう」
『くっ
……!!』
破れかぶれで炎を手に宿し、首を締めようと掴み掛かる妖炎魔。しかしその動作はクーラカンリからすれば素人そのもの。妖力は高かれども格闘技の心得は無いようだ。
(相手の肉体は人のかたち。であれば、弱点もヒトと通っているだろう)
掴みを躱しざまに顎の下に掌底を喰らわせ、脳へと浸透する衝撃を伝える。『ぐぁ
……?!』と敵が呻きながらよろめけば、さらに鳩尾に膝蹴りを。人体の急所に突き刺さる重い打撃は、か弱い少年の肉体には強烈だった。
『かは……っ!!』
同時につま先をわざと踏みつけてやれば、相手は衝撃を逃がそうと後ろに下がることすらできない。大きく体勢が崩れれば、そのまま人中に渾身の拳をふっかける。
「去らばだ」
『ごはぁ……ッ
!!!!』
くの字に折れ曲がりながら、妖炎魔の身体が地面に叩き伏せられる。自負に違わぬ、そこいらの武器よりも強靭なクーラカンリの拳脚をことごとく急所で味わったのだ。
起き上がることさえ容易ではない様子で、悪霊はぶるぶると地に這いつくばるのだった。
成功
🔵🔵🔴
ティオレンシア・シーディア
※アドリブ掛け合い絡み大歓迎
なまじ潜在能力が高かったのが不幸、ってのもなぁんかアレな話ねぇ…
ともかくさっさと取り憑いてるのを叩き出しちゃいましょ。
いくら直接戦闘能力がないっていっても、呪詛やらなにやら鬱陶しいなんてもんじゃないわねぇ。
狐魅命婦戦で展開した〇オーラ防御に迦楼羅天印を書き足して〇呪詛耐性を追加。ラグには「浄化」の意味もあるから、降魔悪滅の権能とは相性悪くないのよぉ?
目には目を、数には数を。描くのは五大明王印、その権能は怨霊調伏・天魔降伏・悪鬼覆滅・破邪顕正。怨霊相手なら覿面でしょ。
ミッドナイトレースで駆け回りつつ●黙殺の弾幕で片っ端から〇蹂躙しちゃいましょ。
鏡島・嵐
嫌がってる奴に無理強いするなんてよくねえぞ。……いやまあ、悪ィことすること自体よくねえことだけどさ。
あと、独りじゃ大したこと出来ねえ奴に愚かだの臆病だの偉そうなコト言われる筋合いも無え。
他の仲間を〈援護射撃〉で支援したり、向こうの攻撃を〈フェイント〉も織り交ぜた〈武器落とし〉で妨害したりして、戦いを有利に進める。
んで、隙を見計らって不意に接近して、ユーベルコードで一撃を入れる。
オブリビオンは“存在そのものが異常”だから、この針が刺さるとすげえ痛ぇはずだ。あるいは、攻撃の手が止まっちまうくらいの。
繰々里って奴もちょっと、いや結構痛みを感じるかもしれねーけど……ダメージは無ぇから堪えてくれ……!
「なまじ潜在能力が高かったのが不幸、ってのもなぁんかアレな話ねぇ……」
骸魂のいいように利用されている縊鬼の少年を、ちょっと不憫そうに見るティオレンシア。本人のどうしようもない点でタチの悪い怨霊に目をつけられ、自分の暮らす世界を滅ぼしそうになるとは――なんともまあ、確かにアレな話である。
「ともかくさっさと取り憑いてるのを叩き出しちゃいましょ」
ミッドナイトレースに跨ったまま、片手にはペン型生物ゴールドシーンを持ち。
狐魅命婦との戦いで展開したオーラの護りもそのままに、彼女は戦場は駆け回る。
『くそっ! 繰々里よ、もっと我に力を寄越せ……!』
「ひ、ひぅ……! い、いや……っ」
「嫌がってる奴に無理強いするなんてよくねえぞ」
新手の出現に警戒を深めつつ、劣勢を覆さんとさらなる力を憑代から搾り取る妖炎魔。
そんな輩を普段よりもキツい視線と語調で嵐が咎める。使い慣れたお手製スリングショットから放たれる石つぶての弾丸が、牽制のように鼻先を掠めた。
「……いやまあ、悪ィことすること自体よくねえことだけどさ。あと、独りじゃ大したこと出来ねえ奴に愚かだの臆病だの偉そうなコト言われる筋合いも無え」
『喧しいわ小僧……! 幽世の全ての生命と魂は我のものだ。我の所有物をどう扱おうとも我の勝手よ!』
正論でのひと刺しに傲慢な暴論で応じ、威圧的に【噴き出す炎の怨念】を撒き散らす。
骸魂にも様々なものが居るが、こいつに限っては改心の余地もないだろう。嵐は殺意に身体が竦まぬよう、勇気を振り絞りながら次弾をスリングに装填する。
「いくら直接戦闘能力がないっていっても、呪詛やらなにやら鬱陶しいなんてもんじゃないわねぇ」
戦場にゆらゆらと浮かぶ炎の怨霊をティオレンシアは厭そうに一瞥する。ただそこに在るだけで生命を蝕み、恐怖と呪詛を撒き散らす――この怨霊どもの性質はここまでの道中で見てきた死蝶に近い。敵というよりは戦場に仕掛けられた障害要素だ。
「でも、それだったら対策も同じようなものが使えるわよねぇ」
彼女はゴールドシーンのペン先をさっと走らせ、ルーンのオーラ障壁に迦楼羅天印を書き加える。狐火の弾幕を防ぐために展開したそれに、呪詛への耐性を追加した形だ。
「ラグには『浄化』の意味もあるから、降魔悪滅の権能とは相性悪くないのよぉ?」
ルーンに関する豊富な知識があるからこそ成り立つ重ねがけ。相乗効果でより強固となったオーラの護りは、ティオレンシアに迫る怨霊の呪詛や火の粉を弾き返していく。
一方の嵐は矢継ぎ早に石つぶての弾丸を放ち、疾走する仲間の進路上にいる怨霊を撃ち落とす。仲間の援護や敵の妨害に徹して戦いを有利に進める戦法は、彼の十八番だ。
『チッ、小癪な……っ!』
炎の怨念が思うような効果を上げられていないのを見た敵は、ならばと【くびれ鬼の誘い】を放とうとするが。それを見逃さなかった嵐が、すかさずスリングをそちらに引き絞る――射たれる、と思わず身構えたために、妖炎魔は攻撃の機会を逸した。
「フェイントだよ」
ふっと嵐が口元に笑みを浮かべた直後。失踪中のティオレンシアがバイクの上で描き続けていた反撃のユーベルコードが完成し、黄金の光が戦場をまばゆく照らし出す。
『なんだ、この光は……ッ』
「あたしとゴールドシーンからの贈り物よぉ」
魔導の才能が絶無な彼女がゴールドシーンの力を借りて描くのは五大明王印、その権能は怨霊調伏・天魔降伏・悪鬼覆滅・破邪顕正――悪しきを滅する力ある魔術文字から、大量の魔力の矢と刃が放射された。
「目には目を、数には数を。怨霊相手なら覿面でしょ」
『―――ッ!!』
合わせて千をゆうに超えようかという刃と矢の全てには、五大明王印と同様の魔術特性を帯びている。窮地を悟った妖炎魔は顔を引きつらせながら回避に徹するが、魔弾は敵を【黙殺】せんと幾何学的な軌道を描いて包囲網を作り上げていく。
『不味い……どこか、逃げ道は……ッ』
どちらを向いても視界には矢と刃が迫る。召喚された怨霊たちも片っ端から殲滅され、残っているのは繰々里の身体に取り憑いた本体のみ。そんな状況下での焦りゆえだろう――弾幕の中に紛れて接近してくる猟兵の存在に、彼は全く気付いていなかった。
「隙あり、ってな!」
『な、貴様――ぐぅッ
!!!?』
敵の懐に飛び込んだ嵐が突き刺したのは【針の一刺、鬼をも泣かす】。死蝶の毒に侵された妖怪を助ける時には、治療のために用いられたユーベルコードだが――この針の効果は、対象の抱えている肉体や精神のあらゆる異常を攻撃するというもの。"存在そのものが異常"であるオブリビオンに対しては、この上ない激痛をもたらすのだ。
「繰々里って奴もちょっと、いや結構痛みを感じるかもしれねーけど……ダメージは無ぇから堪えてくれ……!」
「へ……へいき、です……っ!!」
瞳にいっぱいに涙を溜めながらも、繰々里は歯を食いしばって針の痛みに耐えている。
そして彼よりも、彼の中にいる骸魂のほうが遥かに、耐え難い激痛を味わっていた。
『ぐおおぉぉ、抜けッ、この針を抜けェッ
!?!!』
"異常"として排斥される痛みは、あれだけ驕り高ぶっていた鬼火が恥も外聞もなく泣き喚くほど。攻撃の手が止まり、前後不覚に陥るほどの隙を、猟兵が見逃す筈もない。
「こういうのを、自業自得って言うのよねぇ」
ティオレンシアがすっとペン先を振ると、包囲を狭めた魔力の矢刃が敵に殺到する。
迦楼羅天の加護を宿したそれもまた怨霊にとっては天敵。全身を撃ち抜かれ、切り刻まれ、飛び散る青黒い火の粉と共に、耳をつんざくような絶叫が上がる。
『ギィィィィヤァァァァッ
!!?!!』
往時の傲慢さはどこへやら。醜態を晒し地を這うその様に、大妖としての威厳は無い。
どれほど往生際が悪くとも、猟兵たちの牙は着実に悪しき骸魂を追い詰めつつあった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
シェーラ・ミレディ
僕は僕のものであってお前のものではない!
煩わしく飛び回る妖炎魔を『相思相愛』で撃ち落とし、浄化していく。
召喚された存在とはいえ、骸魂の妖炎魔とも何らかの繋がりはあるはず。ひとつずつ削っていけば相手の消耗を誘えるし、支援されてしまうのも防げる。
ある程度耐性があるとはいえ、恐怖に身をすくませて何もできないのは御免だからな。
怨霊を蹴散らし、数を減らせたら本体の方へ向き直る。
『相思相愛』は構造的な欠陥……今回の場合は召喚主との繋がりを断ち切って妖炎魔を霧散させていた訳だが。さて、骸魂と宿主の繋がりを断てばどうなるのだろうな?
リハーサルは散々させてもらった。狙いを外すことなどないぞ!
※アドリブ&絡み歓迎
『ぐぬぬ、力が……力が足りぬ……寄越せ、貴様らの魂も……』
「僕は僕のものであってお前のものではない!」
見苦しくもがく妖炎魔の言動に、怒りを込めて一喝するシェーラ。魂も、生命も、くれてやるものは何も無いと言わんばかりに、抜き放たれた精霊銃が発砲音を轟かせる。
「その子を置いて、とっとと消え失せるがいい!」
『ぐぅッ……ま、まだだッ』
妖炎魔は苦しげに顔をしかめながら、自らの周りに【噴き出す炎の怨念】を喚ぶ。ゆらゆらと揺らめく妖しき怨霊の群れが、再び樹海を不気味な雰囲気で満たしていく。
「そんなものが、僕に通用するとでも?」
呪詛を発する怨霊どもに対して、シェーラはそう強気に言い放つと、【彩色銃技・相思相愛】にてそれらを撃ち落とす。放たれる弾丸に刻まれた術式は対象の構造的な欠陥を射抜き、相殺する特殊な魔法弾だ。
(召喚された存在とはいえ、骸魂の妖炎魔とも何らかの繋がりはあるはず)
これまでの戦いから、敵が呼び出す炎の怨霊は妖炎魔の分身――魂の欠片に近いものであることが分かっている。ならば、その魂の繋がりを貫けば怨霊は浄化される。
漂う魂の断片をひとつずつ削っていけば相手の消耗を誘えるし、支援されてしまうのも防げるだろう。
「ある程度耐性があるとはいえ、恐怖に身をすくませて何もできないのは御免だからな」
シェーラは鋭い眼光で怨霊どもを睨み付け、複数の精霊銃を巧みに操って弾丸の雨を降らせる。元々戦闘力に乏しいそれは、欠陥を見抜かれれば簡単に蹴散らされていく。
ある程度の数を減らせたところで本体の方に向き直ると、孤立した妖炎魔は少年の顔に渋面を浮かべながら、じり、と一歩後ろに下がった。
『ぐ、ぅ、その程度の怨念を祓った程度で、勝ったと思うなよ……ッ!』
「往生際が悪いな。ところで『相思相愛』は構造的な欠陥……今回の場合は召喚主との繋がりを断ち切って妖炎魔を霧散させていた訳だが」
今度は自らの手に怨念の炎を燃やすオブリビオンに、悠然と銃口を向けたまま語る。
【相思相愛】の弾はまだ残っている。魂と魂の繋がりを断ち切る、浄化の銃弾が。
「さて、骸魂と宿主の繋がりを断てばどうなるのだろうな?」
『―――ッ!!』
シェーラの意図と脅威を悟った妖炎魔は、その瞬間さっと青ざめながら身を翻した。
だが、もう遅い。今更逃げようとしても、精霊銃の銃口はピタリと標的を捉えたまま。
「リハーサルは散々させてもらった。狙いを外すことなどないぞ!」
ぐっとトリガーを引き絞れば、放たれた弾丸は過たず縊鬼の中にいる骸魂を貫いた。
霊魂を揺さぶる衝撃。意識と身体が切り離されたように肉体の感覚が希薄となり、敵はばたりとその場に倒れ伏した。
『ぐおぉぉぉぉぉぉ……ッ!』
宿主との繋がりは、言うなれば骸魂にとっての命綱。そこにピンポイントにダメージを受けた妖炎魔は、引き剥がされまいと必死に憑依を保つが――実に見苦しい抵抗だ。
どれだけ足掻こうとも終焉の時からは逃れられない。倒れ込んだ敵に向かって、シェーラはもう1発、術式を刻んだ弾丸を撃ち込んだ。
大成功
🔵🔵🔵
七那原・望
なぜ、謝るのです?あなたはなにも悪くないのです。
悪いのはあなたの身体を好き勝手に使っている卑怯な骸魂なのです。
あなたは全ての妖怪の魂なんて望んでいないのでしょう?
それなら、あなたの望みをわたし達に委ねてください。
きっと、あなたを解放しますから。
【第六感】と【野生の勘】で敵の動きや攻撃を【見切り】、常に足を止めず回避しながらの戦闘を。
必要であれば【浄化】と【破魔】の力を秘めた【結界術】で【呪詛耐性】を付与した【オーラ防御】を。
攻撃回数を重視した【Lux desire】の【誘導弾】に【浄化】と【破魔】の力を込め、【クイックドロウ】で【乱れ撃ち】し、骸魂を削ぎ落します。
消えなさい、骸魂。
「ごめん、なさい、皆さん……迷惑、かけてしまって……っ」
「なぜ、謝るのです? あなたはなにも悪くないのです」
戦いの最中、妖炎魔の凶行を止められず涙ぐむ繰々里に、望は慰めるように優しく声をかけた。彼もまた今回の事件の被害者のひとり、謝罪するようなことは何も無いと。
「悪いのはあなたの身体を好き勝手に使っている卑怯な骸魂なのです」
たとえ目隠しをしていようと、真に忌むべきもの、倒すべきものを見誤りはしない。
白翼を広げる少女の手には、勝利の果実「真核・ユニゾン」が今も輝きを放っていた。
「あなたは全ての妖怪の魂なんて望んでいないのでしょう? それなら、あなたの望みをわたし達に委ねてください」
天使のように可憐な微笑みを浮かべて、望は繰々里に呼びかける。皆の望みや願いが強ければ強いほど、彼女の手にある真核はそれに応じて数多の奇跡さえも引き起こす。
「きっと、あなたを解放しますから」
「ぼ……ぼくはもう、こんなことやりたくない。自由になりたい……!」
望に促され、絞り出すように己の望みを口にする繰々里。それは泣き虫で臆病な少年妖怪が振り絞った精一杯の勇気。彼の想いを受け取って、勝利の果実は輝きを増した。
『これ以上、我の憑代を惑わせるな……!』
憑依が途切れそうで焦っているのか、妖炎魔はふたりの会話に割り込んで青黒い妖火を放つ。危険を察知した望は直感的に敵の攻撃動作を見切り、翼を翻して回避する。
【くびれ鬼の誘い】を付加した攻撃は、命中すれば最後、トラウマによる精神的苦痛と自殺衝動により延々とダメージを受け続ける羽目になる。呪いに侵されぬよう、望はさらに浄化と破魔の力を秘めたオーラの結界を張り、防御を盤石のものとする。
「全ての望みを束ねて……!」
くびれ鬼の誘いを跳ね除けながら、真核・ユニゾンより放つは【Lux desire】。縊鬼の少年の望みを叶えるべく、膨大な数の光の奔流が怒涛の勢いで敵に降り掛かった。
『っ、これは不味い……!』
その光にもまた破魔と浄化の力が込められている。怨霊にとっては相性最悪となる攻撃に顔色を変えた妖炎魔は、呪炎にて目眩ましをかけながら回避を試みるが――閃光は吸い込まれるように敵を追尾して逃さない。
『ぐあッ!!? お、おのれッ!』
避け切れなかった光が骸魂を焼き焦がす。逆上した妖炎魔はさらなる【くびれ鬼の誘い】で応戦するものの、望は常に足を止めずに樹海を動き回り、狙いを絞らせない。
互いに避けあいながらの射撃戦なら、手数でも機動力でも彼女のほうが優位だ。乱れ撃たれる光の奔流は、確実に骸魂の力を削ぎ落としていく。
「消えなさい、骸魂」
『ぐぎゃぁッ!!!』
繰々里に対する時とは打って変わって冷淡な宣告と容赦のない攻撃。妖炎魔の悲鳴が樹海に木霊し、飛び散る火の粉さえもが真核の光に浄化され、跡形もなく消えていく。
しかし、まだ。敵が完全に浄化されるまで、望は手を緩めることなく光を放ち続けた。
成功
🔵🔵🔴
幻武・極
へえ、キミがあの死蝶の原因か。
やめようと言っても何も変わらなければ意味はないんだよ。
あやまるぐらいなら必死にその骸魂に抗い続けなよ。
それで動きが鈍れば少しは意味があるからね。
それにキミの妖怪としての力は人を操るものだからね。
さて、キミの魂に働きかけるもの。
なら、魂を持たないバトルキャラクターズには通用しないよね。
戦闘はバトルキャラクターズに任せ、ボクは術者として倒れないように守りを固めるかな。
生きることへの執着心、結構ボクも無茶な手を取るけどボクは生き抜く勝算を持ってやっていることだからね。
だから、今回も生き残ってみせるよ。
「うぅぅ……ごめんなさい……っ」
「へえ、キミがあの死蝶の原因か」
妖炎魔に支配されながら、何度も何度も猟兵に謝り続ける『縊鬼』繰々里を見て、極はあえて厳しい調子で突き放すように――あるいは叱咤激励するように呼びかける。
「やめようと言っても何も変わらなければ意味はないんだよ。謝るぐらいなら必死にその骸魂に抗い続けなよ」
泣き言を口にしたところで骸魂は聞き入れてなどくれない。現実を直視したうえで出来ることをやれという少女の言葉に、繰々里ははっとした様子で顔を上げた。
「それで動きが鈍れば少しは意味があるからね。それにキミの妖怪としての力は人を操るものだからね」
伝承に語られる縊鬼は、人に取り憑いて首を括らせる妖怪だ。他者に憑依し操るという性質は骸魂のそれに近く、ならば逆に骸魂を操り返すことは出来るかもしれない。
「や……やってみます……!」
『えぇい、いらぬことをッ』
繰々里が骸魂への抵抗に集中し始めると、妖炎魔は苛立ちを隠そうともせずに喚く。
こちらも猟兵との戦いで余裕はとうに無い。そこに憑代の抵抗まで激しくなるのは相当に堪えるというのが本音なのだろう。
『この小僧に余計な希望を与えるな! 貴様らは早々に死ぬがよい!』
猟兵を殺せば憑代の反抗心も折れる。そう考えた妖炎魔は縊鬼の力を籠めた【幽世招炎】を放つ。魂を媒介する不可知の妖炎にて、生への執着心を焼き尽くすつもりだ。
だが。妖炎が襲い掛かる寸前、極の周囲に召喚された【バトルキャラクターズ】が盾となって攻撃を防いだ。
「さて、キミの魂に働きかけるもの。なら、魂を持たないバトルキャラクターズには通用しないよね」
ゲームキャラクターを具現化するためのゲームデバイスをピコピコと操作しながら、不敵な笑みを浮かべる極。その言葉通り、不可知の妖炎に焼かれても召喚されたキャラはびくともせず、個性豊かな装備を振りかざして逆襲を仕掛けた。
『何だこやつらは……っ!』
過去の遺物である妖炎魔に、現代のゲームの知識はない。どんな攻撃が来るかも分からず、合体してレベルアップするバトルキャラクターズの猛攻に押し込まれていく。
極はその様子を見てにやりと笑ったまま、自らは距離を保ったまま防御の構えを取る。ゲームキャラに攻撃が通じないなら、最も危険なのはプレイヤーが直接攻撃を受けること。そのことをよく理解しているが故の防御専念である。
「生きることへの執着心、結構ボクも無茶な手を取るけどボクは生き抜く勝算を持ってやっていることだからね。だから、今回も生き残ってみせるよ」
勝って、そして生き延びる。羅刹らしい貪欲な闘争心は極の力となり、彼女が操作するバトルキャラクターズは手足のように意のままに動く。弱っている敵は反撃の糸口を探るどころか、極に近付くことすらできない。
『お、おのれ……っ』
「い、今だ……止まれっ!」
『な――ッ?!』
妖炎魔が余裕を失った隙を突いて、繰々里がほんの一瞬だけ身体の支配を取り戻す。『貴様ッ!!』と怒声を荒げる無防備な敵に、バトルキャラの必殺技が叩き込まれた。
「ボクの勝ちだよ」
『がはぁッ
!!!!』
極の勝利宣言と同時、放物線を描いてふっ飛ばされた妖炎魔は、樹海の木々をへし折りながら地面に叩きつけられる。もしゲームなら「K.O.」の表示が出ていただろう。
この戦いにコンティニューはない。骸魂のゲームオーバーの瞬間はもう間近だった。
大成功
🔵🔵🔵
夜霞・刃櫻
【アドリブ・連係歓迎】WIZ
借りものの力で威張り散らすなんちゃって三下をぶっとばしてやるっす!
あっしは真の三下なんで借りもので威張り散らしても良いんでやんす
UC【夜霞の爆窃】で幽霊蒸気機関車と重火器武装した爆窃団の幽霊を召喚!
妖炎魔達を轢殺!銃殺!爆殺!
呪詛だの恐怖だの怖かねぇ!ポリ公以外怖いもんあるか!
幽霊蒸気機関車から生命力を吸い取れる訳ねぇ!
炎だから爆発が効かない?常識をぶっ壊す爆風消火!
「武器改造」で威力を底上げ!「爆撃」!「焼却」!吹っ飛ばせ!
ヒャッハー!この世は諸行無常っすー!!(意味分かってない
なんかミスったらマジすまんかった!(土下座
「借りものの力で威張り散らすなんちゃって三下をぶっとばしてやるっす!」
妖炎魔にびしっと指を突き付け、真なる三下の誇り(?)のために宣言する刃櫻。
一般的に三下とは取るに足らない下っ端扱いを意味する言葉なのだが。何故彼女が三下に拘るかを知らない骸魂からすれば、それは紛うことなき侮辱である。
「あっしは真の三下なんで借りもので威張り散らしても良いんでやんす」
『わけの分からぬことを抜かしおって……三下は消え失せるがよい!』
怒りを【噴き出す炎の怨念】に変えて撒き散らし、生命を蝕む呪詛で戦場を満たしていく妖炎魔。対する刃櫻は【夜霞の爆窃】を発動、死蝶の回廊を突破するのにも利用した幽霊蒸気機関車を再召喚する。
「パンクでロックにミッション・リスタートっす!」
「「ヒャッハー!!」」
乗車する爆窃団の幽霊が雄叫びを上げて重火器を振りかざし、辺り構わず銃弾を撒き散らす。前回とやっている事がほとんど変わっていないようにも見えるが、今回は最初からガチで殺しにかかっている点が大きく違う。
「轢殺! 銃殺! 爆殺!」
爆走する機関車が怨霊を轢き潰し、けたたましい銃声が呪詛をかき消す。刃櫻も車両の先頭に陣取りながら「パンク・ロック・グレネード・ランチャー」をブッ放し、邪魔なものを爆発で吹き飛ばしていく。
『何だこやつらッ?!』
もう何度同じような言葉を繰り返したか分からないが、今回の妖炎魔の驚きには別種のものが混じっている。それは贔屓目にも暴徒のようにしか見えない連中への困惑だった。
「呪詛だの恐怖だの怖かねぇ! ポリ公以外怖いもんあるか! 幽霊から生命力を吸い取れる訳ねぇ!」
豪腕な理屈で怨霊どもの呪詛を跳ね除け、擲弾をぶっ放しまくる刃櫻。彼女が持っているランチャーも爆窃団が武装する重火器も、改造により威力が底上げされている。
「爆撃! 焼却! 吹っ飛ばせ!」
炎だから爆発が効かないなんて理屈は通じない。森林火災を爆風で消火するように、彼女の爆撃は常識ごと炎の怨霊をぶち壊す――この場合、同時に森に火を付けているのも彼女らなのだが。機関車と爆窃団に蹂躙され、樹海の戦場は焦土と化していく。
「ヒャッハー! この世は諸行無常っすー!!」
刃櫻は意味の分かってないセリフをでまかせで口にしながら、ノリノリで暴れまわる。
彼女を乗せた機関車はそのまま敵の元へと突っ込み、爆窃団が銃弾の嵐を浴びせる。
『なんというヤツだ……!』
戦慄しながらも防御を固める妖炎魔だが、総勢340人と1人の猛攻を一挙に浴びて無事でいられる筈が無い。轢殺されないよう何とか突進は躱したものの、銃撃と爆撃からは逃れられなかった。
『ぐ、があぁぁぁぁっ!!』
血のかわりに青い火の粉を撒き散らしながら、爆風にふっ飛ばされていく妖炎魔。
なおも夜霞の爆窃団は追撃を仕掛けようとするが――その時、樹海の木の根っこに機関車が車輪を引っ掛け、ガタンと車体が大きく揺れる。
「トドメでやんす……おおっとぉ?!」
幽霊蒸気機関車から振り落とされる刃櫻。彼女がすっ転んだ先は運悪く、敵の真正面。
グレネードランチャーも取り落してしまい手ぶらな彼女に対し、向こうは炎の怨霊。
「…………」
『…………』
「マジすまんかった!」
『逃がすか貴様ァ!!』
それまでのイケイケムーブから一転、土下座から流れるような逃走に移行する刃櫻。
その背中目掛けて妖炎魔は怒号と共に怨念の炎をぶっ放すが――ここまでの戦闘で相当弱っていたのだろう。刃櫻にとっては幸いなことに、その火が届くことはなかった。
大成功
🔵🔵🔵
シララ・ミーファ
アドリブOK
ヒーロー見参ッ!!
マイフレンドの繰々里(くくり)くんを苛める骸魂を成敗しにきたよっ♪
普段はおちゃらけなシララちゃんだけど、今回ばかりは真剣(マジ)でいっちゃうからっ♪
妖炎魔!!私のお友達を返してもらうよ!!!
他の猟兵に比べたら私はまだ未熟で頼りない
他のひとたちに任せようとも思った
けど、だからといってそれを君を助けない言い訳にしたくないから
一瞬迷ってしまってゴメンね
絶対に助けるから、そうしたらまた藁人形一緒につくろうねっ♪
いくら「妖炎魔」を召喚しようが無駄!!
攻撃対象の足元の無機物を超次元の竜巻に変換、さらに破魔の力を込めて
ヤツの炎ごと吹き飛ばす!!
繰々里くんの保護を最優先して行動
『ぐぅっ……まだだ……まだ……ッ』
「妖炎魔……もうやめようよ……」
激戦の末、今や満身創痍の妖炎魔は、それでも己の野望を諦めようとはしなかった。
幽世全ての魂を我が物に――そんな歪んだ妄執に衝き動かされる骸様を諌めようと繰々里が呼びかけるが、それさえも火に油を注ぐ行為にしかならない。
『五月蝿い! 貴様はいつまでも世迷言をうだうだと……いいから力を寄越せッ!』
「うぅ……っ!」
憑代から強引に妖力を引き出し【噴き出す炎の怨念】を解き放つ。繰々里がどれほど嫌がっても、それは一時的な抵抗にしかならず――やっぱり駄目なのかと諦めかけたその時、聞き覚えのある声が少年の耳に届いた。
「ヒーロー見参ッ!!」
蝙蝠の翼を広げ、竜の尾を振るい、レイヨウの脚で樹海に舞い降りたその少女の名は、シララ・ミーファ(魔獣姫・f17818)。百を越す魔獣と一人の少女の融合体にして、オブリビオンをブッ飛ばす神のヒーローにして――繰々里の大事な友達。
「マイフレンドの繰々里くんを苛める骸魂を成敗しにきたよっ♪」
「シララちゃん……! 来て、くれたの……?」
言葉のトーンこそ軽いものの、シララの瞳には真剣な怒りの炎が燃えている。驚きに目を丸くする繰々里と視線が合うと、彼女はもう大丈夫と言うようににこっと笑ってみせ――それからすまなそうな顔をする。
「他の猟兵に比べたら私はまだ未熟で頼りない。他のひとたちに任せようとも思った」
友達だからこそ、本当のことを隠さずに打ち明ける。自分の非力さを理由にして助けに行くか迷ったこと、不安を覚えていたこと――猫かぶりの裏にある本心を、正直に。
「けど、だからといってそれを君を助けない言い訳にしたくないから」
何もやらなくて後悔するくらいなら、力の限り立ち向かうほうが、きっといい。
少しだけ遅くなってしまったけれど、彼女はこうして、友の窮地に間に合った。
「一瞬迷ってしまってゴメンね」
握り締めた拳が地獄の炎に包まれ、鎧岩龍の千年鱗がその身を覆う。全身に発現させた魔獣の因子にて戦う意志を示しながら、シララはにっこりと晴れやかな笑みで言う。
「絶対に助けるから、そうしたらまた藁人形一緒につくろうねっ♪」
「うん……信じてる。シララちゃん……助けて……っ!!」
繰々里が"助けて"と、自分からそう口にしたのは、この戦いにおいて初めてのこと。
それは臆病な彼からの、ここまで来てくれた友達に対する最大限の信頼の証だった。
『いい加減にしろ……ッ! 何が友だ……何が助けるだ! 貴様らの生命と魂は全て、我のものになるのだ!』
取り込んだはずの繰々里の抵抗力が強まっているのを感じ、癇癪を起こしたように妖炎魔が吠える。同時に召喚された怨霊どもが呪詛を撒き散らすが、今のシララはそんなもの微塵も恐れはしない。
「普段はおちゃらけなシララちゃんだけど、今回ばかりは真剣(マジ)でいっちゃうからっ♪」
不敵な笑みを作りながら大地を蹴り、翼を羽ばたかせて全力飛翔。進路上にいる邪魔な怨霊を「紅蓮血爪」で引き裂いて、まっすぐに敵との距離を詰めていく。
『くそ……くそッ、クソッ、クソォッ!!』
「いくら『妖炎魔』を召喚しようが無駄!!」
罵声と共に噴き出してくる怨霊共を、ことごとく蹴散らし、なぎ倒す。幾多の魔獣と一つになった「大海」とでも言うべきシララの生命力は、この程度の輩に吸い付くせるものではなく。友を助けんと猛る心は、呪詛がもたらす恐怖にも屈しない。
『来るな……来るな、来るな……ッ?!』
怒涛の勢いで迫るシララに対して、恐怖を覚えたのは寧ろ妖炎魔のほうだった。
恥をかなぐり捨てて後退しようとしたその時、まるで金縛りにあったように彼の動きが止まる。取り憑かれた少年の口が「今だよ」と動いたのを、少女は見た。
「妖炎魔!! 私のお友達を返してもらうよ!!!」
直後、放たれたのは破魔の力を込めた渾身の【クライシスゾーン】。
妖炎魔の足元に発生した超次元の竜巻が、妖炎ごと敵を吹き飛ばす。
『オ、オォォォォォォォ―――――ッ
!!!!?!!』
獣のような断末魔の叫びが樹海に木霊し、少年の身体は高々と宙に舞い上がる。
その身に纏わりついていた青き怨念の炎は、荒れ狂う超次元の力によって引き剥がされ――そして、火の粉の一欠片も残さず、この世から消え失せた。
「繰々里くん!」
シララは即座に飛び立って、上空から落下してくる繰々里を空中でキャッチする。
抱きとめられた少年の身体は、少し衰弱しているものの、生命に別状のあるような怪我はない。ずっと瞳に溜まっていた涙も、竜巻に吹き飛ばされたのか――その顔には、穏やかな笑顔が浮かんでいた。
「シララちゃん、皆さん……助けてくれて、ありがとう」
その感謝の言葉と時を同じくして、幽世中に発生していた死蝶の群れが消滅していく。
迷宮化していた樹海も、元の森へと戻る。それは今回の異変の完全決着を示していた。
かくして、猟兵は死蝶の異変から妖怪たちを助け、妖炎魔の野望から幽世を救った。
この日、助けられた妖怪たちと、ひとりの少年は――この世界のために戦ってくれた、勇敢な猟兵たちのことを、きっと、ずっと、忘れないだろう。
大成功
🔵🔵🔵
最終結果:成功
完成日:2020年07月31日
宿敵
『『縊鬼』繰々里』
を撃破!
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