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季節外れの吹雪

#カクリヨファンタズム

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#カクリヨファンタズム


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●カクリヨファンタズム
 季節は梅雨である。
 カクリヨファンタズムのとある地域では雨乞いの心配などないほど多量の雨が降り注いでいた。
 実り豊かな秋、その一歩手前たるこの季節に雨は必要不可欠な存在だ。
 真夏に生い茂る雑草を、青々と茂っている木々の枝葉を、これから育つ種へと、どれだけ大きな力を振るわれようとも、妖怪たちはそれらを望み、受け入れていた。
 雨の到来を喜び、また次の季節へとつなげられるように。彼らは楽器を以て歓迎の儀を開く。
 ぴいひゃら、どんどん、ぴーひょろろ。
 止まぬ祭囃子が奏でられるそこは、妖怪たちの住まう屋敷であった。
 短い雨季を楽しく過ごせるようにと、屋敷の中で屋台を開き、祭りの賑やかさを楽しんでいる。
 今年もまた無事に夏が始まりますように。その願いを以て行われていたのだが――。

●グリモアベース
「ウルトラゴージャスに可愛い私からお願いがあるのですが」
 グリモアベース、その一角であなたはメイド服の少女シュテルンヒェン・ライヒナシュナイデ(バトルメイド・f14769)に声を掛けられた。
 どうやら何か予知でもしたらしい。語り口調こそふざけていたが、その表情は真剣なものである。
「カクリヨファンタズムという世界で行われていた、雨季を祝うお祭りでちょっとした異変をビビッとキャッチいたしまして」
 そう言って彼女は話を続けた。

 雨季を祝うお祭りは通称『化物屋敷』と呼ばれる妖怪たちの住処で行われていた。
 屋敷内には林檎飴や焼きそば、金魚掬いなどUDCの者に馴染み深い屋台が設置され、室内でも楽しく過ごせるように工夫がされているらしい。
 そのまま雨が止むまで騒ぎ立て、終われば秋に向けての畑仕事が始まるらしい。
 だが、彼女は予知をしてしまったのだ。骸魂と呼ばれるオブリビオンたちにより、祭りが乗っ取られ、別の『祭り』が開かれてしまう未来を――。

「なので、あなたさえ宜しければ妖怪たちのお力になってほしいのです。あ、もちろん報酬はご用意いたします。それと僭越ながら……妖怪たちのご飯がお口に合わなあかった時のためにこのパイをどうぞお持ちください!!」
 そういって彼女は右手に掲げたパイ(?)を掲げる。
 嗅いだだけで嘔吐を催しそうになる悪魔の化身を、あなたへと近づけたのだ。

●化物屋敷
 化物屋敷はやや古めかしい外観をした洋館だ。
 未だ妖怪と人間が同じ場所に生きていた時の造りをしている。

 そんな屋敷では祭りのために様々な屋台が設置されていた。
 通りがける者たちは賑やかな声を上げ、笛や太鼓などの音に耳を傾けていた、はずだった。

 だがどうだろう、今はその活気など感じられなかった。
 屋台は開かれているもののそのラインナップは偏っている。
 アイス屋、かき氷屋、冷やし飴……もれなく冷たい食べ物ばかりだ。
 そしてその前を往来する妖怪たちは初夏には似合わぬ厚着をしており、寒さの中で冷たいものを楽しんでいる。
 廊下の端々には凍てつく氷がその根を伸ばし、吐き出す息を白く染め上げているというのに。

 季節は初夏、そのはずなのに今この屋敷には肌寒い風が舞い込んでいた。
 外は蒸し暑く、喜ばしい雨が降られているのに、屋敷の中は静かで凍てつく寒さがはびこっている。

「……祭り? ああ、雨季の祭りじゃあなくて今は冬の祭りをしているんだ。君もよかったどう? 冬にぴったりのアイスケーキがあるんだ。さあどうぞ、君もお食べ、何回もお食べ、冬にはやっぱり――冷たいものだよね」


ゴリラ
 はじめましての方ははじめまして!そうでない方はこんにちは!!
 ゴリラと申します!!
 今回はカクリヨファンタズムで行われている祭りで起きた事件を解決してほしく、筆を取った次第であります。
 第一章では凍えそうな中、冷たいものをお勧めしてくる住人たちからボスについての情報を探り、
 第二章で得た場所へと赴き集団戦をこなし、
 第三章でボスとの戦闘を予定しております。

 メイドのパイについては死ぬほど不味い、あるいは死んだ方がマシな味のダークマターとなっております。
 こちらは触れていただけなくとも通常通りのリプレイを執筆させていただきますのでギャグが苦手な方もご安心下さい。
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第1章 冒険 『化物屋敷は今日も賑やか!』

POW   :    親身になって話を聞く。

SPD   :    テキパキと情報を集める。

WIZ   :    惜しみなく知恵を貸す。

👑7
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

箒星・仄々
確かに冬の炬燵のアイスは最高です!
けれど
寒い中で冷たいものはいただけません

記憶や認識の操作?
皆さんを早くお助けしたいです

仲良くなり話を聞きだす作戦です

素敵なお祭りですね~
アイスケーキや冷し餅
どれも美味しそうです!遠慮なくいただきますね~

実は予め炎の魔力を自身に付与して
ぽかぽかなので
冷たいものが本当に美味しいです
急いで食べないと溶けちゃうかも?

指捌きも滑らかに竪琴も奏で盛り上げます

情報集めの為も勿論ですが
好意や愛情を
沢山感じていただけたら嬉しいです
美味しい氷菓へのお礼として

冬の祭りですか
こんな素敵なお祭り初めてです
雨季の祭りから変わったのはどうしてですか?

ふむふむ
そのお方はどんな方なのでしょう?



●カクリヨファンタズム、化物屋敷

 箒星仄々は思案する。
 グリモア猟兵から得た情報によれば、何者かによって祭りを挿げ替えられてしまったらしい。
 元は純粋に雨を祝う祭りであったそうだが――なるほどこれはかけ離れている、と大きな目を瞬いた。
 室内は梅雨独特の暑さが恋しく思えるほど気温が低くなっていた。色褪せた柱には氷や霜が降り、ひんやりとした冷気を放出している。

「確かに……冬の炬燵のアイスは最高です、けれど……寒い中で冷たいものはいただけません」
 ごう、と室内に冷気を纏った風が抜けた。
 ここには暖かなものなど存在していなかった。冬の必需品である暖炉も、空調を整えていくれる暖房機も見当たらない。
 あらかじめ炎の魔力で体温調整をしておいてよかったと息を吐く。


 箒星はすれ違う人々の様子を窺いながら長い廊下を進んだ。
 ここの人々は物静かで多くを語らない。出店に並べられた冷たい食べ物を買い、それを食している。その繰り返しだ。
 厚着のお陰でなんとかなってはいるが、いずれは内側から参ってしまうだろう。
「記憶や認識の操作……?」
 委細は分からないが、やるべき事は一つ。ここに居る、様子のおかしな者たちを助ける事こそが猟兵の務めだ。

 箒星は近くに居た出店を覗いた。
 出店には色とりどりのアイスケーキが並んでいる。どれもこれも美味しそうで可愛らしい飾りが乗せられていた。
「素敵なお祭りですね~」
 箒星は店主に声を掛けた。褒められた事に機嫌を良くしたのだろう。鼻歌交じりにお勧めのアイスケーキを差し出してくれる。
「今日はこれがおすすめだよ、たくさんお食べ。何せ冬の祭りだからな」
 差し出されたアイスケーキは桃とバニラのマーブル模様だ。アイスの上にはシャーベット状の桃がいくつか乗せられている。
「ありがとうございます、遠慮なくいただきますね~」
 渡された皿はひんやりとしている。魔法で温度調整している自分には心地よい冷たさだった。
 使い捨てのプラスチックフォークでアイスを一口大に切り、口の中へと運ぶ。
 バニラのさっぱりとした甘みと、桃の濃厚な甘みが相まって口の中でとろけていく。シャーベットもアイスとは違う口当たりなので飽きずに楽しめるようになっていた。

 ――ここが極寒の地でなければ、最高だったろうに。
 いくら美味しいものだからといって、周りの環境を考えなければ台無しだ。

 箒星は周りの人を案じつつ、自身の熱によって溶け始めたアイスケーキを慌てて平らげた。

「アイスケーキ美味しかったです。これは私の気持ちです」
 箒星は持ち込んだ竪琴を店主に見せた。店主は首を傾げているが、箒星は気にせず皮手袋を外して弦に指を掛ける。
 爪先を当てぬよう指先を滑らせれば美しい音色が辺りに響いた。続いたのはどこか暖かな感情を抱いた旋律だ。

 一期一会を祝う感情、アイスケーキをくれた好意、そして愛情。思いの丈を乗せた音は凍えた廊下に木霊する。

「――美味しい氷菓のお礼です」
 その言葉に合点がいったのか、店主はうっそりと笑む。
「こちらこそありがとう、祭りにはやはり音楽が必要だな」
 店主の表情は朗らかで明るい。とても素敵なものだ。
「冬の祭り――ですか? こんな素敵なお祭りは初めてです」
「ああ、そうさ。ここの者は冬を祝って――いや、今は雨季だったはずなのに一体どうして冬の祭りになってしまったのか」
 店主の零された言葉に箒星は耳をピクリと動かす。

「雨季の祭りから変わったのはどうしてですか?」
 問えば店主も得心が行っていないのか、不安そうな表情を浮かべていた。
「いや、まったく思い出せない。いつもの通り、雨季を祝う筈だったというのに、いつの間にか冬を祝う祭りになっていて……そういえば、祭りが変わっちまったのは見慣れない妖怪が来たあたりだったか?」
「そのお方はどんな方なのでしょう?」
「ここいらの妖怪には珍しい、冬の妖怪さ。冬を好む妖怪なんかは暑すぎるからってここいらには近寄らないはずなのに……」
「……ふむ」
 箒星は不自然にならぬよう、曲を終わらせる。
 演奏が止まった事に気が付いた店主は熱心な拍手を打ち鳴らし、箒星に感謝の言葉を述べた。
「いやはや、良いものをありがとう。俺もいつも通り曲を演奏するとしよう」
「こちらこそ。ところでそのお方は一体どちらに?」
「館の奥だよ。祭りのためだなんだって一番奥に籠っている。雪の妖怪を携えてな」
 あっちだ。そう続けた店主に小さく礼をして、箒星は粉雪の舞う廊下をまっすぐと進んだ。

成功 🔵​🔵​🔴​

アリステル・ブルー
(アドリブ連携◎パイの反応おまかせ!)

「パイ? 甘いやつかな、ご飯系かな?」
うきうきしながらおひとつもらってから現地に向かうね!躊躇なく一口食べるよ。

さて…現地に着いたらまずは情報を集めるね。もう1人の僕を呼んで手分けしてみよう。
「今まで雨季の祭だって聞いてたんですが、いったい今年はどうして冬の祭りに?」
ってアイスケーキを貰いながら聞いてみる。原因を知りたいよね。
それにしても厚着してきたら良かった…。

もう1人の僕にはそうだね。「館の主」について可能だったら聞いてもらおうかな。難しそうなら屋台とか現地の妖怪たちの会話を聞いてもらおうかな。
今回の異変について話していたりするかも?



●グリモアベース
 アリステル・ブルーはうきうきとしていた。
 メイドから仕事のお供にどうぞ、と差し出されたパイに心を躍らせ……いや、パイと称して分からない物体を目の前に心を躍らせていた。
 パイからはブスブスと何か燻るような音が聞こえ、黒々とした身からは謎の赤い煙が揺れている。
 誰がどうみてもまともでない代物だが、グリモア猟兵が振舞っているものだ。そう危険ではないだろう。そう判断をしたアリステルは切り分けられたパイを一つ摘まみ上げる。
「パイ? 甘いやつかな、ご飯系かな?」
 断面はタールのように黒く、層らしきものは見えない。
 だが、彼女はパイと断言していた。パイと言ったら、パイなのだろう、これは。
「いただきます」
 躊躇なく口の中に放り込む。
 ガキリ、とパイには似合わぬ音を立て、そこでアリステルの意識は暗転した。

●カクリヨファンタズム、化物屋敷
「…………」
 どうやらアリステルはいつの間にか眠ってしまっていたようだ。
 ぼんやりとしている頭を働かせ、未だ抵抗を見せる瞼を無理やり開く。
 先ず見えたのは木目模様の板だ。延長上に自分の足が見えたので、それが床で、自分が寝転がっていたという事に気が付くまでそう時間は掛からなかった。
 ……それにしてもここはどこだろう。
 横たわっていた身体を起こせば、アリステルの身体に悪寒が走る。思わず庇うように両腕で自身を抱いた。
「――さ、寒い」
 悪寒は寒さからくるものだったようだ。
 頬を撫でる風は氷のように鋭く、床と設置していた部分には霜が移ってしまっていた。
「ここは……」
 どこかの洋館で、その廊下には出店が立ち並ぶ。それら全てに雪が積もり、分厚い氷が根を下ろしていた。
 異様な雰囲気に首を傾げたくなったアリステルだが、グリモア猟兵から貰っていた情報と一致している事に気が付く。
 彼女の言う事が正しければ、ここが件の洋館なのだろう。
「……あれ、でも僕は……いつの間にここへ」
 考えてみたがどうにも前後の記憶が曖昧だ。それに、転送直前の事を考えようとすると頭痛が酷くなり、どうしても思い出す事ができなかった。
 あまり無理に思い出す事はやめるとしよう。それは事件が解決してからでも問題は無い筈だ。

「さて……」
 気分を切り替え、事件解決の為に思案する。
 何をするにも情報が必要となるだろう。

『僕の影、少しだけ力を貸して!』
 ユーベルコードでもう一人の自分を呼び出した。
 二人で手分けすれば情報の精度が高まるはずだ。もう一人の自分を先に行かせ、アリステル自身は近くの聞き込みを始める。

「あの、今まで雨季の祭りだって聞いてたんですが……」
 アリステルが尋ねれば、出店の人はにっこりと微笑んでアイスケーキを1ピース差し出した。
「何を言っているんだ、今は冬を祝う祭りだよ。さあさあ、これお食べ、美味しいぞ。話はそれからでもいいだろう?」
 差し出されたアイスケーキはとても美味しそうだ。
 上部はチョコレートでコーティングされており、飾られた金粉と共に艶やかに輝いている。断面からはチョコレートアイスとバニラアイスが美しい層を成していた。
 確かに美味しそうだ。美味しそうではあるが――できれば暑い時に欲しかった。

 震える身体に活を入れ、アリステルは皿を受け取る。
 添えられたフォークでアイスケーキを一口に切り分け、意を決して口の中に放り込んだ。
 豊潤なカカオの香りが鼻を抜け、トロっとしたチョコレートソースの強い甘みが広がる。アイス部分はほんのりと苦いチョコレートアイスと、さっぱりとしたバニラアイスが口の中で混ざり、先ほどの強い甘みをかき消した。確かに美味しい、美味しいのだが。食べるのは今じゃない。
 厚着をしてくればよかった。少しだけ後悔をしつつ、店主に言葉を投げる。

「それで、いったい今年はどうして冬の祭りに? 運営をしている人が変わったりしたんですか?」
 例えばそう『館の主』とかが。続ければ、店主は首を傾げる。
「いいや、ここは集合住宅みたいなものでな。妖怪たちが集まって暮らしているってだけだ、誰かが纏めている訳ではないな……流れてきた妖怪たちで暮らしているんだ」
「流れてくる妖怪、ですか」
「ああ、そうさ。そういえば最近来た妖怪が居たな。この辺りでは珍しい冬の妖怪が」
「その妖怪はいつ頃ここに」
「確か、雨季の祭りの最中で――あれ、そういえばどうして雨季に冬を祝っていたんだ?」
 店主は凍り付いた窓の外に視線をやる。
 外ではバケツをひっくり返したような雨が続いている。轟轟と音を立て、大地に確かな恵みを齎していた。
「雨、そうだ。雨だよな、俺らは雨季の祭りをしていて……」
 会話はそこで途切れてしまった。
 
 それ以上収穫はないだろう。アリステルは食べ終えた皿を返し、その場を離れた。
 すれ違う人々は口数が少なく、厚着をしながら一心不乱に冷たい食事を楽しんでいる。その横を通りすぎ、もう一人の自分と合流した。
 あちらが得た情報も同じようなものだが、流れてきた妖怪についての情報を持っていた。
 どうやらその妖怪は館の奥に籠り、冬の祭りを楽しんでいるらしい。

「そうか、なら……奥に行かないとね」
 アリステルは歩き出す。目指すべきは館の奥、冬の妖怪の元だ。

成功 🔵​🔵​🔴​

御十八・時雨
へえ、冬の祭りねえ
こんな寒くするなんて、黒幕さんはよっぽど暑いのが嫌いなんだな
せっかくだ、おれも少し楽しんでからやっこさんを斬りにいこう

まずはさっきのえらい味のしたもんを舌から取っ払いたいな
食えるもんは食ってきたつもりだったけど、あんなんははじめてだ
冷たくていいからなんか別のもんを食いたいな
食べ歩けたらなおよしだ
道行くもののけに聞いてみる
なあ、おすすめの品はあるかい?

向かった先の屋台でも話を聞いておこう
こんなお祭り開いた方ってのはどんなお方なんだ?
こんだけ祭りを楽しませてもらってんだ
お礼のひとつ言いに行きたいから、おれにどんなお方か教えとくれよ

腹がふくれたら、参ろうか



●カクリヨファンタズム、化物屋敷

 御十八時雨は目を眇め、辺りの様子を窺っていた。
 洋館の内部はどこかしこも氷や霜に覆われ、廊下に立ち並んだ出店の屋根には雪が積もっている。
 凍り付いた窓の外では熱気を孕んだ雨粒が大地に恵みを与えているというのに、なんとも不思議な光景だ。 
「へえ、冬の祭りねえ」
 夏の暑さを厭うかのように、館の内部は氷漬けにされている。
 今回の任務、その黒幕である骸魂はよほど暑さを疎んでいるのだろう。
 なに、せっかくだ。どうせならおれも少し楽しんでからやっこさんを斬りにいくとしよう。御十八は鼻歌交じりに廊下を歩む。

 だが、そのまえにまずは口直しをするとしよう。
 食えるものは食う、そのようにして生きてきた御十八であったが、先ほどグリモア猟兵から貰ったパイは酷い物であった。
 今まで味わったことのない感情を抱かせるような代物で、未だ口の中で存在を主張している。
 何をどうしたらあんなものが作れるというのか不思議で溜まらなかった。
「えらい味だったなあ」
 冷たくても良いから別のものを食べたい。あれを上書きできるようなものを。


「なあ、そこの兄さん」
 御十八はすれ違おうとした物の怪を呼びとめ、訪ねる。
「この辺りにおすすめの品はあるかい?」
「ここにあるものはなんでもお勧めだよ。でもそうだな……あそこの屋台のアイスケーキは絶品だ」
 物の怪は少し離れた屋台を指さした。


 御十八がやってきたのはアイスケーキの出店だ。
 味はいろいろとあるようで、店先には様々な色合いのアイスケーキが並んでいた。

「おすすめの品はあるかい?」
 問えば、店主は「それじゃあこれをどうぞ」と切り分けられたアイスケーキを1ピース、皿に移して差し出した。
 断面からは抹茶の綺麗な緑色の層がいくつか見え、その間にはとろりとした黒蜜が挟まれている。
 御十八は店主に礼を良い、ひんやりとした皿を受け取った。

 添えられていたフォークで食べやすい大きさに切り、口の中に放り込んむ。
 瞬く間に少し渋めの抹茶が口の中に広がり、やや間を置いてから甘い黒蜜が舌に触れ、ちょうど良い甘さにしてくれた。
 口に運べば運ぶほど、先ほどのパイで味わった不快さが取り除かれていくようで気分が良い。
 気が付けば皿の上には僅かに黒蜜が残るだけとなった。

「もう一皿」
 御十八が皿を突き出せば、店主は気前よくもう1ピース、皿の上に追加してくれた。
「そういや、冬の祭りとはまた面白いものをやっているんだな」
「そうかい? 冬は素晴らしいからね、祝ってもおかしくはないだろう?」
 御十八はちら、と凍った窓を見る。
 相変わらず外は噎せ返りそうなほど夏の訪れを感じさせていた。

「……外はあんな雨だっていうのにかい?」
 店主はつられるようにして窓に目をやる。その瞬間、僅かに瞳が揺れた。
「ああ、そうだ。雨が降っていて……そうだ、今は雨季で……?」
 冬であるはずがないんだ。呟かれた言葉は廊下を吹き抜ける風に掻き消されそうなほど弱弱しい。
「なあ、お前さん。こんな祭りを開いた方ってのはどんなお方なんだ?」
「ああ、少し前にやってきた流れの妖怪たちで……確か、寒い地域の出身だったかな」
「ほう、ついでじゃないんだが……祭りを楽しませてもらってんだ。お礼の一つ言いにいきたいから、どこにいるのか教えとくれよ」
「館の一番奥にいるよ」
「そうかい、ありがとさん。世話になったな」
 御十八は空いた皿を店に戻し、その場から離れた。

 口直しはできた、腹も膨れた。相手の居場所も掴めた。
 ――それじゃあそろそろ、参ろうか。

成功 🔵​🔵​🔴​

エルフリーデ・ヒルデブラント
スミスくん(f17217)と

これがパイ?焼きたての食欲をそそる香りとかしないんだけど。むしろクサイんだけど?
スミスくんの背に隠れパイから距離を取るよ
ニオイとスミスくんの様子からあれが恐ろしいものなのはわかるさ

折角だけどぼくも遠慮しておくよ
だから近づけるのはやめてくれ!

●転移後

平気。ぼくはエルだもの
気遣いの言葉をくれるスミスくんに微笑で返すよ

自然と共に生きる妖精の守り神にとって雨は欠かせない物
雨を祝うお祭、大事だよ
だからこそ原因を探らなきゃ

道行く妖怪に声をかけたり屋台で聞き込みをしよう
美味しそうなものが沢山。すてきなお祭だね
このお祭りを開いている人はどんな方なんだい?
ぼく、会ってお話してみたいな


スミス・ガランティア
エルフリーデさん(f06295)と。

げ。
しばらく見ないと思ったらあのメイド……

今回は連れもいるから余計にパイは阻止しないと……
無駄な抵抗になるかもしれないけどエルフリーデさんを後ろに庇いながらパイを拒否するよ。

その、今回は遠慮したいと思って、パイ……ハハ……要らぬ!!!!!!!!(素を出してでも全力拒否

(転移後)
はァ……しかし本当に寒いな。我は氷も司る神で【氷結耐性】もあるけど……そちらは大丈夫かい?(エルフリーデさんを気遣う

館に着いたら出されたものを食べつつ、妖怪達から【コミュ力】でどうして今この祭りをしてるのか聞くよ。本来はウキ?を 祝う祭りをするというのを聞いてきたのだけどという感じで。



●グリモアベース

 エルフリーデ・ヒルデブラントとスミス・ガランティアは僅かに後退する。
 ずい、と差し出されたそれから一歩でも距離を置きたかったせいだ。
 目の前に差し出されたパイ――パイでいいのだろうか。それからは黒々しい黒煙と、禍々しい赤き煙立ち上り、混ざり合った臭気がじわじわと広がっていく。
 肺に入れようものならばどんな恐ろしい事が引き起こされるのか――考えただけで冷や汗が頬を伝った。

「しばらく見ないと思ったら……」
 スミスは以前、このメイドのせいで酷い目に合わされた被害者の一人だ。
 今回、メイドの姿を見かけて「げ」と声を上げてしまったのは致し方が無い事である。そしてその声のせいでメイドに見つかり、捕まってしまったのもまあ、運が悪かったとしか言いようが無かった。
 そのまま逃げだしても良かったのだが、グリモア猟兵がこの場にいるということは、誰かのピンチであることを意味する。
 困っている人を放っておくことなどできやしなかった。
 結果、同行者であるエルフリーデを後ろに庇いつつ、予知の内容ついて説明を受けたのがつい先ほどの事でる。

 そして、今その目の前にパイ(?)が差し出されている。

「ね、ねえ。これがパイ? 焼きたての食欲をそそる香りとかしないんだけど? むしろクサイんだけど?」
 エルフリーデはスミスの背に隠れつつ、問題の物体を覗き見る。

 メイドの手に持たれているパイは、少なくとも彼女が知っているパイとは全てがかけ離れていた。
 匂いばかりの感想が浮かんでしまうが、明らかに食べ物としておかしな風貌をしている。
 そういえば、とエルフリーデは思い出した。以前、ニオイとスミスから聞き及んだ恐ろしい事件についてを――。

「その、今回は遠慮したいと思って、パイ……ハハ……要らぬ!!!!!!!!」
 スミスの大声がグリモアベースに響く。そこに神らしいの態度は無く、彼の素が晒されていた。だが構ってなどいられない。なんとかして先日の二の舞を防がなければならないのだ。
「せっかくだからぼくも遠慮しておくよ!!」
 エルフリーデの声も続く。ここは何としてでもパイだけは回避しなければならない。

 だが、メイドの表情は微笑んだまま変わらない、例え全力で否定をされたとしても彼女の『善意』はとても強いものであった。
 バサリ、とメイドの服が翻る。続いたのは二人分の短い悲鳴だ。


●カクリヨファンタズム、化物屋敷

 転移先の屋敷は凍えそうなほど気温は低く、吹き抜ける風は初夏とは思えぬほど鋭く冷たいものだ。
 室内だというのにそこら中に雪が積もり、建物の至る所に氷の根が張り巡らされている。寒冷地でもここまでは酷くならないはずだ。

「はァ……しかし本当に寒いな」
 そう零したのは氷を司る神であり、氷結耐性を持っているスミスだ。
 耐性を持っている己は未だ耐えられるが、ここに住んでいる者たちは違う。時間が経てば体調を崩す者も出てくるだろう。
「……雨は欠かせないモノのはずなのに」
 エルフリーデは凍った窓から外の様子を窺った。
 バケツをひっくり返したような大雨は少々厳しさを感じられる。だが、その雨粒は大地へと染み込み確かな恵みを齎してくれる素晴らしいものだ。
 自然と共に生きる妖精、その守り神であるエルフリーデにとって、今回の異変は人々の願いを捻じ曲げられている蛮行にも思えた。

「雨を祝うお祭り、大事だよ。だからこそ、原因を探らなきゃ」
「そうだね。ところで……そちらは大丈夫かい?」
 スミスはエルフリーデの様子を窺う。それは寒さを案じるものではなく、先ほど転移前に起きた『事件』に対して問うているようだ。
「平気、ぼくはエルだもの」
 無理やりパイを口に捻じ込まれた事により多少のトラウマが芽吹きそうであったが、今はそれどころではない。
 ここの人たちのためにも、実り豊かな未来のためにも、この異変を素早く解決しなければならない。
 微笑んだエルフリーデに安心したスミスは小さく頷き、情報を集める事にした。



 すれ違う妖怪たちは誰もが厚着をしており、その手には冷たい食べ物が握られていた。
 額に浮かぶ汗は厚着のせいか、あるいは体調を崩したサインか。どちらにせよ、急がねばならなかった。
「――ちょっとお聞きたいことが」
 エルフリーデが声を掛けたのはアイスケーキの出店だ。
 店の前には色とりどりのアイスケーキが並んでいる。真夏に出会えたらどんなに良かっただろうか。
 ……本来は素敵なお祭りなのに、とても残念だとエルフリーデは眉を僅かに下げた。

「なんだい、聞きたいことがあるのならまずはこれをお食べ、話はそれからだよ」
 店主が差し出したのは皿の上に乗せられたアイスケーキだ。
 ピンク色のアイスとバニラアイスがマーブル状に混ぜられている。上部には可愛らしく飾り切りのされた桃が乗せられていた。
「では頂くよ」
 スミスはそれを受け取り、添えられていたスプーンでアイスケーキを口へと運ぶ。
 さっぱりとした桃の甘さとバニラアイスの濃厚な甘みが混ざり、僅かに残っていたメイドのパイの残滓を洗い流してくれた。
 渡りに船である。先ほどのパイを上書きできるのは大変有難かった。
 スミスはエルフリーデの負担にならぬ程度にアイスケーキを勧めつつ、店主に祭りについて伺う。

「今はどうして冬の祭りなんだ? 本来は……ウキ? を祝う祭りをすると聞いていたのだけど」
「何を言っているんだ。冬を祝うにきまっているだろう。冬は素晴らしい季節だからな」
 そのまま会話を続けてみたが、どうにも店主の主張は変わらない。
「冬は素晴らしい」「今は冬の祭りだ」 などといった言葉しか返ってこなかった。
 認識阻害の術でも掛けられているのだろうか、祭りについて問うのはやめた方が良いのかもしれない。

「それじゃあ……その素晴らしいお祭りを開いている人はどんな方なんだい? ぼく、会ってお話がしてみたいな」
 エルフリーデが切り口を変えれば、店主は上機嫌に教えてくれた。
「屋敷の奥にいるよ。冬の祭りを取り仕切っている素晴らしい人だ」
 二人は顔を見合わせる。行くべき場所は、決まったようだ。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

灰神楽・綾
【梓(f25851)と】
パイを差し出してくれたメイドさんの
好意を無下にしないようにと
…ありがとう、今はその気持ちだけ受け取っておくよ
この事件が解決したらありがたく頂くね、梓が

ふう、なかなか冷えるねー
コートの前を閉じて暖を取りつつ
見た感じアイスやかき氷とか甘い系が多いようだけど
普通の食事系も無いのかな?
ほら、甘いものをたくさん食べたあとは
塩っ気も欲しくなるじゃないか
例えば冷やし担々麺とか
もしあれば、辛さを増し増しにして貰う
うん、これならいくらでも食べられそう

そうだね、妖怪達の記憶を紐解く為に
少しずつ質問攻めしてみようか
前の祭りはどんな感じだったの?
何がきっかけで今の祭りに?
誰が言い出したの?等


乱獅子・梓
【綾(f02235)と】
なんか有無を言わさず
あとで劇物を食わされる事になっていたんだが??
俺、事件が解決したら死ぬんだろうか…

さて、祭りに来たわけだが
寒い日に炬燵で食うアイスは美味い
暑い日に一気飲みする酒も最高だ
だが寒い日に冷たい物はどうなんだ
とは思いつつもアイスを2つ頼む
1つは自分に、もう1つはドラゴンの零に
氷竜だけあって寒いのも冷たいのも気にせず
美味そうに食っているな
俺は腹を壊さないように焔を腹に抱いて
湯たんぽ代わりにしつつアイスを食う
…パイとは違った意味の劇物を
食べる綾を横目で見ながら

突然これまでと祭りが変わったのに
妖怪達は当たり前のように受け入れている
何か洗脳でも受けているんだろうか?



●グリモアベース

 灰神楽綾と乱獅子梓は目を伏せる。
 グリモア猟兵が目の前に差し出したパイ――パイと称して良いのか分からぬ物体から目を背けたかったせいだ。
 先ほど、サングラス越しに見たそれは異臭を視覚化して放っていた。
 黒煙、そして赤いオーラのような煙。
 間違っても食用ではないそれに対し、どう言葉を続けるべきか悩んでいたのだ。

 三者に沈黙が降りて幾ばくか。先に口を開いたのは灰神楽の方であった。

「……ありがとう」
 有難迷惑な話ではあるが、グリモア猟兵が善意で用意をしてくれたものだ。
 その好意を無碍にする訳にもいかないだろう。灰神楽はにっこりと微笑んで言葉を続けた。
「今はその気持ちだけ受け取っておくよ。この事件を解決したら有難くいただくね――梓が」「は?」
 灰神楽は隣に立っていた男をそっと指さした。指名された男のサングラスが僅かにずれる。
「さ、転送してもらえるかな」
 乱獅子が口を開くよりも早く、灰神楽はグリモア猟兵に転送の要請をする。
 グリモア猟兵の方も準備はできていたようだ。直ぐに転送門を開いてくれた。
 有無を言わさぬ出立の流れに、乱獅子は断る事も出来なかった。
 逃げ出すように飛び込んだ灰神楽を追いかけるように、乱獅子は慌てて転送門を潜り抜ける。
「俺、事件解決したら死ぬんだろうか……」 あの劇物を、食わされて。
 小さな呟きだけがグリモアベースに残された。

●カクリヨファンタズム、化物屋敷

 屋敷内はけあらしが立ち上るほどの寒さに包まれている。
 出店の屋根には雪が積もり、吹き抜ける風は冷たく厳しいものだ。廊下の窓は全て氷によって施錠され、その向こう側には冬に似合わぬ大雨が大地を潤している。
 グリモア猟兵の情報通りらしい。

「ふう、なかなか冷えるねー」
 灰神楽はコートの前を閉じて息を吐いた。吐き出された息は白く、霧のようである。
 早く解決をしなければここに住んでいる妖怪だけではなく、自分たちもやられてしまいそうだ。
「見た感じ、アイスやかき氷とか甘いものが多いようだけど――普通の食事も無いのかな?」
 見渡した限りでは灰神楽の言う通り、甘いものが多く並んでいるようであった。
 アイスケーキ、かき氷、ひやし飴……と続き、その先に冷やし担々麺とアイスあります、という謎の組み合わせをした上りが静かに揺れていた。
 どうやらここには冷たいものしか置かれていないようだが、味についての縛りはないらしい。

「冷やし担々麺、辛さ増し増しでください」
 灰神楽の注文を聞き、店主は「あいよ」と短い返事を寄越してから調理を始めた。
 予め麺は茹でてあったのだろう。店主は慣れた手つきで皿の上に麺とトッピングを乗せ、真っ赤な液体を注いでくれた。
 液体は見ているだけで汗が吹き出しそうな毒々しい赤色をしていたが、追加で掛けられたやや黒みを含んだソースのせいで禍々しいものへと変貌を遂げてしまった。
 灰神楽は皿を受け取り、添えられていた箸で麺をすする。ひんやりとした麺はソースをたっぷりと巻き上げて口内に吸い込まれていった。一口噛めば喉の奥を刺激してくる痛みが襲い、やや遅れて舌先に痺れがやってくる――はずなのだが、灰神楽にとっては慣れた味なのだろう。美味しそうに食べるばかりで辛みなどものともしていない様子だ。
「うん、これならいくらでも食べられそう」
 箸が止められることはなかった。

 それを横目で見つつ、乱獅子も同じ店でアイスを二つ注文する。
 一つは自分用に、もう一つは肩に乗っていたドラゴンの零のためだ。
 渡されたバニラアイスを雫に向けつつ、反対側の手で乱獅子も一口味わう。
 さっぱりとした甘みが先に来て、後から濃厚な甘みがやってくる。どうやらバニラ同士のマーブルらしい。
 一口ごとに違った甘みを楽しめてなんだかお得な気分になれた。
「……だが、寒い日に冷たいものはどうなんだ」
 寒い日に食べるアイスは暖かな炬燵があってこそのものだ。
 今は腹を下さぬようにドラゴンの焔を抱いているが、普通の人間には耐えられぬ寒さだろう。
 時間が過ぎれば体調を崩す者も出始める。
 隣でパイとは違った劇物を食べている灰神楽に視線をやれば、彼も何か察したのだろう。箸を止め、店主の方に顔を向けた。

「前の祭り……雨季の祭りってどんなのだったの? 何がきっかけで今の祭りに?」
 問えば、店主は「ああ」と短く返してからぽつりぽつり語り始めた。
「そうだな……前の祭りは賑やかでそこかしこから太鼓や笛の音が響いていたな。賑やかなもんで――こんなに静かなものではなかった」
 店主は視線を辺りに向ける。長く広い廊下にはいくつもの出店が並んでいるが活気はない。
 みな静かに冷たいものを食し、歩き、また食す。その繰り返しだ。

「そういえば……いつからこの祭りは変わっちまったんだ?」
 店主は首を捻る。そこに嘘や戸惑いはなく、店主自身にも覚えがないようだ。
 それについて違和感はないのだろうか。乱獅子が問えば、店主からはやや混乱した様子を感じ取ることができた。

「……何か洗脳でも受けているんだろうか?」
「さあ、どうかな。ところで……この祭りって誰が言い出したの?」
「この祭りは……そうだな、最近やってきた妖怪が提案したはずだ」
 ほら、そこの先をまっすぐ行った屋敷の奥に。店主は廊下の先を指さした。
 行くべき場所は決まったようだ。二人は空になった皿を返し、奥地へと続く廊下を歩きだした。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ニグラクス・サンバッカス
【アドリブ・連携歓迎】

雨季を祝う祭事をね
それは豊穣神の端くれとしても放っておけないわ

その仕事、請け負うからパイ…パイなのよねそれ?
ともかく頂いておくわね

化物屋敷の妖怪たちに話を聞いて回ろうかしらね
ねえ、あなたたち
こちらで雨季のお祭りをしてるって聞いたのだけれど
なんだか違うお祭りをしているのね?
主催はどなた?
夏に冬の祭りをだなんて、きっと面白い方なのでしょうね

勧められる氷菓子は有難く頂戴するわ
アイスケーキなんて綺麗なものもあるのね
という感じでお話して情報を集めましょう

それにしても溶けるものばかりでお腹にたまらないのよね
さっきもらったパイを頂きましょう(パイへの反応はお任せ)



●グリモアベース

 ニグラクス・サンバッカスはグリモア猟兵の仕事内容に眉を寄せた。
 雨季を祝うことはその地に住まう人にとっても、祀られる神にとっても重要な儀式だ。
 おいそれと他人が手を加えても良いものではないし、ましてや乗っ取ることなど許されぬ蛮行である。
 豊穣神のはしくれを自負しているニグラクスにとっては許しがたい事件だ。

「分かったわ。その仕事、請け負うからパイ……パイなのよねそれ?」
 ニグラクスが知っているパイと剥離していたため、確認を取る。
 グリモア猟兵は「はい!」と元気の良い返事をしただけで、その原材料や工程については何も語らなかった。
 パイ(?)からはぶすぶすと何かが燻る音が立ち、黒煙と赤煙が奇妙に揺らめいている。
 明らかに食べ物ではないが、グリモア猟兵が用意したものだ。恐らくは大丈夫だろう。多分。
 ニグラクスはやや不審そうな表情を浮かべながら包み紙を受け取り、グリモア猟兵の用意した転送門を潜った。


●カクリヨファンタズム、化物屋敷

 降り立った洋館には冷たい風が吹き荒んでいた。
 長い廊下には実りある秋を祝う出店が並んでいた。尤も、その殆どは氷や雪によって白く彩られてしまっている。
 白くなった窓そっと覗けば、あちら側には祝われるべきである大雨が激しく大地を打ち付けていた。これほどの雨量ならば水に困る事は無いだろう。

「さて……」
 ニグラクスは思案する。何をするにもやはり情報は必要だろう。
 屋敷内の様子を探りつつ、妖怪たちに話を聞いて回るのが良い。

「――お嬢ちゃん、どうだいうちの氷菓子は」
 掛けられた声に反応すれば、近くの出店の主が手招いていた。
 店の看板には大きく『かき氷』の文字が描かれている。

「聞きたい事があるのだけれど」
「いいよ。でもまずは氷菓子を食べてからにしておくれ」
 店主はニグラクスの返事を待たず、機械で氷を削り始めた。
 静かな廊下に機械の音が響き、内部で削られた氷が紙コップに落とされる。
「シロップはどうするかね」
「お任せするわ」
 店主は色とりどりの瓶を眺め、そして赤色の液体を柄杓で救い上げた。
 ふんわりと削られたかき氷の上に少しずつ落としていく。キラキラとした氷は液体のせいでやや小さくなってしまった。

「さあどうぞ」
 ニグラクスはかき氷を受け取り、添えられていたストロースプーンですくい上げる。
 口の中に放れば酸味のある苺味が口内に広がる。今の寒さを加味しても、美味しいと感じられる優しい味わいだ。
 出来れば暑い中で食したい。そう考えつつ、祭りについて尋ねる。

「こちらで雨季のお祭りをしてるって聞いたのだけれど、なんだか違うお祭りをしているのね」
「ああ、今は冬を祝う祭りだからな」
 冬。その言葉にニグラクスは窓の外へ視線を向ける。
 屋敷の外はきっと噎せ返るほどの土の匂いと、生命力を感じさせる緑の匂いで溢れかえっているはずなのに、何故冬を祝っているのだろうか。

「主催はどなた? ……夏に冬の祭りを、だなんて――きっと面白い方なのでしょうね?」
 問えば店主は「夏?」と短く返事を寄越し、考え込むように顎に手を当てる。
「そうだ、今は夏のはずなんだ。それなのに、一体どうして冬の祭りなんかを……?」
 その表情には混乱の二文字が色濃く出ていた。
 もしかしたら店主はよくわからぬまま冬の祭りをしていたのかもしれない。

 店主は暫く考え込んでいたようだが答えは見つからなかったらしい。思考を切り替え、ニグラクスの質問を答えてくれる。
「ああ、主催についてだったな。最近どっかからやってきた冬の妖怪が指揮をとっていてな」
「その方はどちらに?」
「館の一番奥だ。そこの廊下をまっすぐ進めばたどり着く」
 ほら、そこだ。店主は先の見えぬ廊下を指さした。
「有難う。ご馳走様、美味しかったわ」
 空になった紙コップを店主に私、ニグラクスは館の奥へと向かう。


「それにしても溶けるものばかりでお腹に溜まらないのよね」
 ニグラクスが見かけた出店は氷やアイスといったものばかりだ。腹の膨れそうな食事は置かれていなかった。
「……さっきもらったパイを頂きましょう」
 歩きながら、グリモア猟兵から貰っていた包み紙を開いた。
 ぶわり、と赤と黒の煙と――明らかな異臭が立ち込める。
 見た目や香りは絶望的でも、グリモア猟兵の作ったものだ。味はまともなはずだろう。
 いくつか詰められていたうち、一番小さなものを摘まみ取り口の中へ放った。
 咀嚼しようとすればガキリ、と奇妙な音が立つ。
 あまりの固さに歯が欠けるのではないのかと不安が過る。眉を寄せれば、僅かに砕けた部分からどろりとした液体が口内へ流れ込んだ。
 未熟な果物のようなえぐみが舌先を走り、やや間を置いて苦みが口内を支配する。
 到底人が食するものではない。だが、吐き出すのも行儀が悪い。
 バギリ、ボキリ、乱暴にかみ砕けばその度になんともいえぬ味わいが襲い来る。
「…………」
 ようやくの思いで嚥下すれば、なんとも言えぬ開放感がニグラクスを出迎えた。
「これは……」 到底食べ物と呼べる代物ではない。
 紙袋の中身を見る。パイ(?)はまだまだ残っていた。
 ニグラクスは見なかったふりをして懐にしまい、館の奥へと足を進めた。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第2章 集団戦 『『剣客』雪だるま』

POW   :    雪だるま式に増える
自身が戦闘で瀕死になると【仲間】が召喚される。それは高い戦闘力を持ち、自身と同じ攻撃手段で戦う。
SPD   :    抜けば玉散る氷の刃
【その手でどうやって持つんだかわかんない刀】が命中した対象を切断する。
WIZ   :    雪合戦
レベル×5本の【氷】属性の【雪玉】を放つ。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 廊下を抜けたあなたの前に現れたのはやや広い多目的ホールだ。
 先ほどと同じく、そこかしこに氷や雪が蔓延っており、辺りには靄が生まれている。
 その中央部には雪の固まり――雪だるまたちが歓喜の声を上げていた。

「今は冬のお祭り」「そうだ冬は素晴らしい」「冬こそが一年で最も輝く時期なんだ」

 わあわわと雪だるまたちは喜びに震え、室内に雪を降らせていたる。
 その向こう側にはひと際大きな観音開きの扉があった。隙間からは凍えるような風が吹きこんでいる。
 どうやら冬の祭りの主催者はあの奥にいるらしい。
 まずは雪だるまたちを蹴散らすとしよう。
箒星・仄々
確かに冬は素敵です
雪とかお鍋とかイベントとか
楽しみは多いです
そして
四季の移ろいがあるからこそ
それぞれの季節がより輝くのかな~って思います

季節外れの雪だるまさんには
お還りいただき
憑りつかれている妖怪さんをお助けしましょう

UCで摩擦抵抗を操作し
氷上・雪上を高速で滑走

敵攻撃は華麗なドリフト&魔法の残像分身で回避
業火の盾で防御

すれ違いざまぺろ
仲間同士でドミノ倒しになっていただきましょう
だるまさんが転んだ!

刀も摩擦0で持てなくなります
…最初から持てなさそうですけれども

炎の魔力を込めた刃を一閃

戦闘後に骸魂さんへの鎮魂として
竪琴を奏でます
幽世へ辿りづけず心残りは多いでしょうが…
どうぞ海で穏やかにお休み下さい



●彼らの旅路を祈って

 箒星仄々は広間から楽しそうな雪だるま達を覗き見る。
 どの雪だるまたちも冬を祝い、喜び、その身を震わせている。その姿を邪魔するのは少しだけ気が引けた。

 確かに冬は素敵な事が多い。
 美しい雪が大地を染め、人々は寒さを乗り越えようと鍋や器具で暖を取る。それに冬に実るような植物だって存在している。悪い事ばかりではないのだ。
 冬が過ぎれば、次には春がやってくる。夏と秋を経て、再び冬がやってくる。
 無事に巡る一年に感謝をし、祝い合う。素晴らしい季節だ。

 だが、季節は順々に巡るようにできている。
 四季の移ろいがあるからこそ、冬はより一層輝く。

「なので季節外れの雪だるまさんにはお還りいただき、憑りつかれている妖怪さんをお助けしましょう」

 箒星はざらついた舌を伸ばし、身体の毛を丁寧に毛づくろいする。
 ユーベルコードによって整えられた毛並みは美しく輝いていた。そのまま全身の摩擦抵抗を操作すれば、一歩踏み出した足がつるりと雪の上を滑った。
 力を入れて踏み込めば楽に身体が前進する。もう一歩、力を入れて雪を蹴り付ければ勢いよく滑り出した。
 スケートの要領で滑り出し、雪だるまの前に躍り出る。
 突然の来訪者に雪だるまたちは驚き、わあわあと背中の刀を抜こうとしていた。
 だが加速していた箒星の方が圧倒的に早い。

 雪だるまの群れを縫うように滑り、踵でブレーキを掛けながら蛇行する。
 掴みかかろうとしてきた雪だるまには残像で対処し、一人、二人、三人とその隣を駆け抜け、すれ違うざまに雪の身体をペロリとひと舐めしていく。
 先ほど箒星が自分に掛けたユーベルコードと同じだ。対応にまごついていた彼らに心の準備などはない。

「だるまさんが転んだ!!」

 群れを抜ければ、雪だるまたちは順々に転びだし、仲間を道連れにして床に倒れていく。立ち上がろうにも摩擦抵抗が無ければ立つことすら儘ならない。
 雪だるまたちは騒ぎながら体勢を整えようとしたり、刀を抜こうとしていた。
 だが、刀は鞘から抜かれる事は無かった。

「刀も摩擦ゼロで持てなくなります。……まあ、最初から持てなさそうですけれども」
 そもそも一体どうやって持とうとしているのだ。
 枯れ木のような雪だるまたちの腕?を見ながら、箒星は自身の刀を抜く。
 キラリと刃は光り、鋭い音が立つ。
 次いで聞こえたのはゴゥという燃え盛る火炎の音だ。火の爆ぜる音を携え、その刃は美しく燃え盛っている。
 魔力を纏わせた刀を構えれば雪だるまたちは後退しようとし、また転がっていく。
 怯えている姿を見て少しだけ心が痛むが、骸魂から解放してやるほうが遥かに真っ当な幸せだ。

 刀に纏う炎を調整し、真横に一振りする。
 紫電一閃。
 鮮やかな炎は流線を描き、雪だるまたちの身体を切り裂いた。
 刀傷からは炎が上がり、ごうごうと燃え盛る炎は彼らの体積をみるみるうちに減らしていく。
 後には、ここの住人であろう妖怪たちの姿と、溶けてしまった水溜まりだけが残った。
 妖怪たちが起き上がる気配は無かったが、みな安らかな寝息を立てている。

「さて」
 箒星は竪琴を取り出し、弦に指を這わせる。
 敵対しているとはいえ彼らは失われた過去の化身だ。元々は自分たちと同じ生き物である。
 悲しみや憎しみに塗れ、打ち破れてしまった彼らがどこへ向かうかは分からない。
 だが、その旅路はどうか希望に溢れるものであってほしいと、そう願う。

「幽世へ辿り着けず心残りは多いでしょうが――」
 奏でられたのは骸魂に対する鎮魂歌だ。
「――どうぞ、海で穏やかにお休みください」
 美しく荘厳で、どこか寂しさを孕んだ音色は少しだけ暖かくなった広間に響き渡った。

大成功 🔵​🔵​🔵​

乱獅子・梓
【綾(f02235)と】
うおっ、寒っ!!
此処に来たときから思っていたが
室内なのに雪を降らすってどういう原理なんだ

そうかお前ら、冬が好きか
冬は冬で良いところはあるし
寒いが俺も嫌いじゃない
だが、単純な話だ
そういうのは冬にやれ!

氷といえば炎だな
UC発動し、炎属性のドラゴンを最大数召喚
数の暴力で一斉に炎のブレス攻撃を浴びせて
片っ端から雪だるまを溶かしていくぞ
(属性攻撃・範囲攻撃
ブレスの熱風で寒さも緩和されて一石二鳥だ

敵が仕掛けてくる刀は…
どうやって持ってんだそれ(UC通りのツッコミ
とにかく、刀を振り上げる等の攻撃動作を見せたら
すかさずドラゴンの頭突きや尻尾で
柄の部分に先制攻撃して叩き落とす


灰神楽・綾
【梓(f25851)と】
雪だるまがはしゃいでいる光景は
見ている分には微笑ましいんだけどねぇ
素直に奥に進ませてはくれなさそうだし
さくさくっとやっちゃおうか

まぁ俺も暑い夏に比べたら
どっちかというと冬の方が好きかなぁ
寒くてもこうやって動き回れば
良い感じに身体がポカポカしてくるもんね
と、いい笑顏で武器構え

へぇ、雪合戦か
じゃあ俺も乗っちゃおうかな
俺が投げるのは雪じゃなくてこれだけどね
UC発動し、炎属性のナイフを生成
飛んでくる雪玉を迎え撃つように投擲
雪玉を破壊したナイフが
その勢いで雪だるまにも当たれば尚良し
迎撃しながら雪だるまの群れに接近し
Emperorを大きく振り範囲攻撃で一気に薙ぎ払う



 乱獅子梓と灰神楽綾は対極の表情を浮かべていた。
 片方は目を眇めながら室内の様子を観察し、もう片方は雪だるまの様子を楽しそうに眺めている。

「……うおっ、寒っ!!」
 そう零したのは乱獅子だ。
 出店が並んでいた廊下とは違い、ホールの中は雪や氷が我が物顔で蔓延っている。
 雪だるま達が跳ねまわる度にどこからともなくぱらぱらと粉雪たちが舞い降り、床に積もっていた雪の嵩を増やしていくばかりだ。

「雪だるまがはしゃいでいる光景は、見ている分には微笑ましいんだけどねぇ」
 やや眉を下げ、灰神楽は雪だるま達の宴を眺める。
 適切な時期であればその程度の感想で済んでいただろう。

「そうかお前ら、冬が好きか」
 冬は冬でも良いところもある。寒いが俺も嫌いじゃない、乱獅子がそう零せば灰神楽も数度頷き言葉を返す。
「まぁ、俺も暑い夏に比べたら……どっちかというと冬の方が好きかなぁ」
 だが今は初夏である。
 梅雨の湿気と夏の到来を疎みながら、実りある秋に向けての重要なフェーズなのだ。

「だから……そういうのは冬にやれ!!」

●戦闘開始

 最初に冬の宴へ飛び込んだのは乱獅子だ。
「氷といえば炎だな」
 ユーベルコード『竜飛凰舞』で炎属性のドラゴンを召喚する。
 冷気漂う空間には何十匹ものドラゴンが宙を陣取った。
 ドラゴンの口に熱が灯り始め、爆ぜる音と共に黒い煙を生み出している。一斉に息を吸い込んだ、かと思えば身体の大きさには似合わぬ火球が雪だるま達目掛けて射出された。
 火球は冷え冷えとした空間を熱によって切り裂き、雪だるま達の身体に着弾する。
 じゅわっと氷の溶かされる音が辺りに響く。火球の効果もあり、室内の温度が僅かに上昇した。
 それでも数は多い。直撃を逃れた雪だるま達は侵入者へ向かって巨体を震わせると、木の枝を器用に動かして背中に背負っていた刀を抜いた。

「いやどうやって持ってんだそれ」
 雪だるま達は答えを寄越さぬまま、乱獅子に向かって飛び込んだ。
 だが、シンプルな身体の構造をした彼らの動きは見切りやすく、動作の際に木の枝がしなる音がよく耳に届く。
 それに合わせ、周りのドラゴン達に指示を出して刀の柄を狙わせた。思いのほか握る力は弱いらしく、雪だるまたちはあっけなく武器を落としてしまった。
 しかし敵はまだ残っている。無事であった雪だるま達が伏した仲間を避け、重たい身体で跳ねている。
 倒れている雪だるまも辺りを埋めていた雪を纏め、氷のような雪玉を射出し始めた。

「――へぇ、雪合戦か」
 傍観していた灰神楽は雪だるまたちの様子を見て楽しそうだな、と不敵な笑みを零す。
 それに、じっとしているよりは動き回った方が身体も温まるだろう。灰神楽は忍ばせていたナイフを抜き取り、炎属性のオーラを纏わせた。
「じゃあ俺も乗っちゃおうかな。……俺が投げるのは雪じゃなくてこれだけどね」
 飛んできた雪だるまの軌道を予測し、炎のナイフで迎え撃つ。投擲されたナイフは向かってきた雪玉を蒸発させ、勢いを落とさぬまま射手へと降り注いだ。
 空をドラゴン達が制し、距離を置くためにナイフで牽制をする。
 暫くの間続いた攻防戦であったが、じわじわと雪だるま達の数は減っていく。あと少し、もう少しだ。

「雪合戦、面白かったけど……これで終わりにしようかな」
 灰神楽はハルバードのemperorを構え、先端を大きく後ろへと下げる。
 目標は残っている雪だるま全てだ。
 大振りのハルバードは物騒な音を立てて真横に振り払われた。
 雪だるまは鋭い衝撃に姿形を保てなくなり、徐々に液体へと変化していく。

 後に残ったのは、骸魂から解放された妖怪たちだけだ。
 起き上がる事は無かったが規則的な吐息に二人は安堵する。

 室内の気温も上がりきったようだ。どこもかしこも水浸しになり、少々の蒸し暑さを感じる。
 だが、雨季にはちょうど良いだろう。

「さて」
 どちらからともなく声が上がる。
 二人は水溜まりを越え、ひと際大きな扉の前に立った。
 ここまでくればあと少し。この先に居る骸魂をなんとかしてやるだけだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

スミス・ガランティア
エルフリーデさん(f06295)と。

アレは……雪の塊に……顔?(雪だるまをご存知ない世間知らずな神様
なるほど、雪だるまって言うんだね。我の城に……ふむ

ってそうだ。先に進まなくてはいけないんだった。どいてもらうよ。

我の得意な吹雪とかはあまり効かなそうだし……【雪待草の嵐】で杖を花に変えて雪玉を切り裂いて相殺しつつ、敵にも攻撃を届かせるよ。

エルフリーデさんの所、手が回らないようならそちらにも花の嵐で加勢するね。増えていくのも厄介そうだからね。【オーラ防御】で彼女をガードしたりもしようか。

わあ、見事に原型がなくなって……(熱さで溶けていく雪だるまをみて心持ち赤い三日月から距離をおく熱いの苦手な神様)


エルフリーデ・ヒルデブラント
スミスくん(f17217)と

あれは雪だるまだよ
可愛いよね、とスミスに声をかける
きみの住処にも置いてみたらどうだい?
物の少ない雪の城にちょこんと居座るまんまる
想像したら笑みが溢れる

とにかく今は、集中しないとね

ごめんね、雪だるまくん
きみと雪遊びをしている場合じゃないんだ
道を開けてもらうよ

攻撃回数重視の【炎弧‐crescent flame‐】を放って飛んできた雪玉を相殺しつつ、雪だるまにも攻撃を届かせるよ

真っ白なきみたちに見せてあげよう。触れたものを無にし還してしまう真っ赤な月だ
ほら、熱いだろう……?

いくら増えても変わらないさ
ぜんぶ溶かしてあげるよ
きみたちには、こんなもの届いてほしくないだろうけれど



 スミス・ガランティアとエルフリーデ・ヒルデブラントはこっそりと広間の様子を窺っていた。
 視線の先には、先ほどの廊下よりも酷く凍り付いてしまった広間があり、その中央では雪だるまたちがその身を震わせている。

「アレは……雪の塊に……顔?」
 丸い雪の塊が二つに顔らしき飾り、笠やマフラーの装飾品はまだいいとしても背中の刀が物騒極まりない。不思議な生き物を見てスミスは首を傾げる。

「あれは雪だるまだよ、可愛いよね」
「なるほど、雪だるまっていうんだね」
 可愛い――のだろうか。やや間抜けな表情は気になるが、もぞもぞと動き、冬を祝っている態度は確かに可愛いのかもしれない。
「きみの住処にも置いてみたらどうだい?」
 きっと、雪の城に映えるだろう。物があまり無い城となれば、尚の事飾りとして相応しいのかもしれない。
「我の城に……ふむ」
 笑みが零れるエルフリーデと、何やら算段を立てるスミス。
 そして中央には歓喜に打ち震えている雪だるまたちが冬の祭りを祝っていた。

 雪だるまが騒げば騒ぐほど、室内には粉雪が降り積もり嵩を増していく。
 ――このまま降り続けたら館の内部から雪に埋もれてしまうのではないだろうか。
 ふと過った考えに、スミスは首を数度振るった。
「ってそうだ、先に進まなくてはいけないんだった」
「そうだね。とにかく今は、集中しないとね」

 スミスが先に前に出ようとしたが、自身が得意な吹雪は効果が薄そうだなと思いとどまる。
 むしろ状況によっては敵の助けにも成りかねない。ここはエルフリーデの様子をみつつサポートしていくのが良さそうだ。
 スミスがちらりと彼女の方を向けば、彼女は小さく頷く。桃色の羽根を震わせ、雪だるまたちの前に躍り出た。

「ごめんね、雪だるまくん」
 現れた猟兵に驚いた雪だるま達であったが、それよりも早くエルフリーデが詠唱を始める。
「ぼくの手も……あの『月』に届けばいいのに」
 先手必勝。魔力で生み出した炎を操り、三日月型に整えてから打ち込んだ。
 炎はごうごうと音を立てて放たれる。雪だるま一匹分ではない、数体を薙ぎ払えるほど強大な火の斬撃だ。

「きみと雪遊びをしている場合じゃないんだ、道を開けてもらうよ」
 一撃、もう一撃と向かえ討とうとしてきた雪だるまを溶かしていく。
 その後ろ側では、控えていた雪だるまが興奮した様子で炎の斬撃を潜り抜けようとしていた。
 それを察知し、スミスは杖を構える。

「――可憐な花でも見て落ち着きなよ」
 スミスが詠唱すると、杖は大量のスノードロップへと変化した。
 操るように掌を翻せば、花たちは雪だるま達を一か所に押し留めるよう囲い、鋭い風と共に壁を作り上げる。
 距離を取っていた雪だるま達が加勢するために雪玉を放った。だが、花嵐に触れた瞬間、雪玉は細かく砕けて霧散する。
 念のためにと展開していたオーラの防御だが、この分では使うことなく終わるかもしれない。


 花嵐に閉じ込められた雪だるまたちを眺めながら、エルフリーデはうっそりと微笑む。
「真っ白なきみたちに見せてあげよう。触れたものを無に還してしまう真っ赤な月だ――ほら、熱いだろう……?」
 放たれた炎の斬撃は的確に雪だるま達の体積を減らしていく。
 後ろのほうで新たに召喚された雪だるま達をも巻き込み、辺り一面を覆っていた氷や雪を溶かしていった。
 炎が生み出される音、そして焼き払われた雪だるまの蒸発音がホール内に木霊する。

「いくら増えても変わらないさ。ぜんぶ溶かしてあげるよ」
 エルフリーデの炎により室内の気温はどんどん上昇していく。
 雪だるま達が溶かされていくと、辺りには温泉のような湯気が漂い始めた。
 だが、それも程なくして治まりを見せる。どうやら彼女の炎により、燃やせるものが無くなってしまったようだ。

「わあ、見事に原型がなくなって……」
 熱さを苦手とするスミスの頬には一筋の汗が伝った。いや、これは汗ではなくもっと別の――もしかして冷や汗なのでは……?
 スミスはエルフリーデに気付かれぬよう、少しだけ距離を置く。

「きみたちには、こんなもの届いてほしくないだろうけれど」
 エルフリーデの口から憂いを帯びた言葉が零された。



「さあ、行こう」
 エルフリーデは扉を真っすぐに見据える。
 あとはあの先にいるべき者を討ち、この地をあるべき姿に戻すだけだ。
 扉から視線を外すと、少し離れた場所にスミスが立っている事に気が付く。いつの間にそんなところまで後退したのだろう? エルフリーデは首を傾げながら近寄った。
 それに対し、スミスが更に距離を置こうとしたように見えたのはきっと、エルフリーデの勘違いだろう。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

御十八・時雨
そうか、御前様達
そのなりで刀を使うのか
なればひとつ腕試しといこうじゃないか

といってもおれは刀に使われるだけ
刀を引き抜き、振り回すだけのがきでしかない
御前様と手合わせするのはこちらの姫様よ
そちらが刀を抜いたなら、合意の合図とさせてもらおう

抜いても抜かなくても攻撃されたら、仕合おうか
【妖剣解放】、和歌津姫を抜いたら雪だるまへ向けて大きくぶん回す
刀を持つおれはそれしかしない、できない
衝撃波を出すか、斬るか斬らないかはワカツの自由にさせる

でもおれの近くに寄って来たならば、刀を持たぬ手でぶん殴ろう
ああ、おれは力が強いんだ
凍って固くなった雪でも、握って砕くくらいは容易いもんだ

ありがとう、いい仕合だった



 御十八時雨は雪だるま達の宴に足を踏み入れた。
 ザリ、と氷交じりの雪が跳ね、一人分の足型が数歩分押し固められる。
 吐く息は白く、僅かな水分が氷の結晶へと変化していった。

 雪だるま達が御十八に気が付いたのはそれからすぐの事だ。
 祝うような仕草を潜め、冬を祝う雰囲気はたちまちに霧散した。
 か細い木の枝が撓り、背中に背負っていた刀にそっと手を這わせる。
 やや間を置いて鯉口を切る音が響いた。

「そうか、お前達……そのなりで刀を使うのか」
 よく聞きなれた音だ。
「なれば、ひとつ腕試しといこうじゃないか」
 どちらの刀が強者であるのか、今ここで勝負をつけよう。

 とはいえ、御十八にとっての勝負は少々具合が違う。
 自身は刀に使われるだけであり、振り回すだけの子でしかない。
「御前様と手合わせするのはこちらの姫様よ」
 御十八が所持している刀の名は和歌津姫、三尺程の大太刀だ。御十八と然して変わらぬ長さである。

「そちらが刀を抜いたなら、合意の合図とさせてもらおう」
 静寂に包まれた広間に風が鳴る。
 雪だるまたちは一斉に刀を抜いた。どの刀も辺りに散らばっている氷の光を受けて輝いている。
 しかし御十八にとっては然程興味を惹かれる代物ではない。自分が所持している和歌津姫のほうがうんと別嬪さんだと考えているせいだ。

 刀を抜いた雪だるま達を合意とみなし、御十八は鯉口を切る。
 ちらと見えた地肌は美しく、辺りに散らばっている氷の光を受けて煌めいた。先ほどの刀たちよりもひと際輝いて見える。
 見る者が見れば妖刀だと思われそうなほど妖しげな雰囲気がある。詳しくないものでも見惚れてしまうほどの逸品だ。

 刀を抜いた御十八は雪を蹴り、間合いを詰める。
 刀は乱暴に振り上げられた。その動きは武骨なもので瀟洒な様子はない。
 それを自身も理解しているのだろう。御十八は「刀を持つおれはそれしかしない、できない」そう零しながら刀で衝撃波を押しやった。
 鋭い風が粉雪を舞い上げて雪だるま達に放出される。先頭に立っていた雪だるまたちはその身を抉られ、ドサリという音を立てて床の積雪と一体化した。
 振りぬかれた刀は美しく煌めいている。地肌に残っていた雪はやや間を置いて水滴へと変化した。

 一瞬、雪だるま達の動きが鈍る。だが向こうも止まるわけにいかないのだろう。残された者らも御十八と同じく、間合いを詰めた。
 次の一撃が来る前に仕留めたいのだろう、和歌津姫の切っ先が下を向いた今こそ好機と捉えた。
 だが、御十八に取り乱す様子は無い。刀を持たぬ手に力を込め、雪だるまにくれてやった。
 固くなった雪であれ、然したる問題はない。強く握られた拳は相手の腹中ごと貫き、真っすぐな風穴を開ける。
「ああ、おれは力が強いんだ」
 氷が付着した拳を数度払い、御十八は再び和歌津姫を構えた。



 雌雄を決したのはそれからしばらく経ってからの事だ。
 雪だるま達は御十八の手と刀により身を崩し、床に伏せっていた。
 どの雪だるまも姿かたちを保っておらず、溶けた雪は大量の水溜まりへと変貌していた。
 その中に点々と転がっているのは骸魂となる前の妖怪たちだ。酷く疲れているようで誰も起き上がる気配はないが、胸の動きを見る限り命に別状は無いのだろう。

 鞘に納め一息つく。
 御十八は和歌津姫が錆びぬよう、鹿のなめし革で拭ってやった。
「ありがとう、いい仕合だった」
 雪だるまの残滓たちにそう語りかけ、水溜まりの中を歩む。
 目指すは大きな扉、その奥に居る今回の元凶だ。
 
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

ニグラクス・サンバッカス
【アドリブ・連携歓迎】

何が冬のお祭りよ
その地において正しい季節の巡りが行わなければ育つものも育たないし
季節に沿った祭りをしなきゃこの地の神や精も困るじゃない

こんな無粋なことをする者には罰が必要ね
多重詠唱と高速詠唱で呪詛と全力魔法、神罰を仕掛けましょう
そうね、炎とか陽光とか、雪だるまたちがとろけてしまうようなものにしましょ
自分の体がとろけるさまを見るのって、なかなか恐怖心が沸くもの

UCには【クライシスゾーン】で対抗するわ
雪玉が私に届かなければ意味ないものね

念のためオーラ防御はしておくけれど、痛いのには私、慣れてしまったのよね
この程度で女神ニグラクスを害せると思うだなんて、見た目同様可愛らしいわ


アリステル・ブルー
(アドリブ連携◎詠唱省略OK)

協力の同意があれば積極的に他の猟兵さんと協力/サポートするね!

●行動WIZ
「さてと。祭の主催は奥にいるようだけど……まずはこれの退治からかな」
味方を巻き込まない位置を考えて、使い魔ユールを呼ぶね。【指定UC】を発動して一直線にユールを飛ばして攻撃!
反撃の雪玉は…UCで溶けたらいいけど期待せず、ユールの援護射撃には期待しつつ、黒の細剣を抜いて可能な限り切り捨てたいよね。第六感とかで回避できないかな。
やれる事をやっていこう!

●心情
じめじめーってした空気好きじゃないし、例えば故郷の陰鬱な景色とかも嫌だけど、やっぱり夏って暑さが必要だよね! というわけで奥に行かせて貰うよ



「何が冬のお祭りよ」
 ニグラクス・サンバッカスは物陰に潜み、雪だるまの宴を眺めながら吐き捨てる。
 正しい季節の巡りというものはそれに順応してきた生物たちにとっての当たり前の日常だ。
 季節に沿った祭りをしなければ、この地の神や精霊達も困り果ててしまうだろう。
 困るだけならば未だ良い。もしも本当に手を引いてしまったら――考えたくもない災害や飢饉などが引き起こされてしまう。

「こんな無粋なことをする者には罰が必要ね。――あなたも、そう思うでしょう?」
 二グラクスは目を眇めて問う。
 その問いは雪だるま――ではなく、今しがたここに辿り着いた猟兵のアリステル・ブルーに向けられていた。
 会話を振られ、アリステルもニグラクスと同じように広間を覗き込む。
 広間の温度はかなり低いようだ。床は氷や雪に覆われて室内かどうかも分からない。
 壁や窓にも霜が降り、辺りには白い靄が漂っている。

「……そうだね、僕は梅雨があまり好きじゃないけど――」
 アリステルにとって梅雨特有のじめじめとした空気は好きになれなかった。
 だが、ここに住まう人たちにとって雨季とは欠かす事のできないフェーズである。
「――やっぱり夏って暑さが必要だよね」
 自身の出身世界である夜と闇に支配されたダークセイヴァーのようにしてはならない。日常を謳歌する権利は誰もが持ち合わせている特権だ。
「ええ、そうよ。恵みを枯らしてしまう彼らは……決して許されぬ存在よ」
 ニグラクスは静かに頷いた。

●戦闘開始

「祭りの主催は奥にいるようだけど……まずはこれの退治からかな」
 アリステルは奥の扉に目をやる。
 あちらから流れ込んでくる冷気は今の比ではなさそうだ。視覚化した寒さは触れるものらに確かな死を齎そうとしている。
 その前方には騒ぎ立てる雪だるま達の姿がある。まだこちらには気が付いていないようだ。
「私が出るわ。念の為にオーラの防御を張るけれど……あなたも続けられる?」
「うん、いけるよ」 アリステルが頷いたのを確認し、ニグラクスは防御魔法を展開する。

 少し間を置き、先に飛び出したのは会話の通りニグラクスだ。
 広間の中央へと飛び出し、雪だるまたちの不意を突く。
 高速詠唱からの多重詠唱。
 呪詛を織り交ぜた魔法はシャンデリアに向かって放たれた。
 氷漬けにされていた真鍮のシャンデリアは雷光のように輝き、柔らかい光のカーテンを真下へと降ろしていく。
 白い靄はたちまちに蹴散らされた。真夏の陽光が如く、強い光は雪だるま達を覆っていく。
 刹那、ジュワッと蒸発するような音が鳴った。
「自分の身体がとろけるのってどうかしら?」
 その言葉に、雪だるま達は恐怖に慄く。
 ここの人たちが受けたのは同じような事なのよ。そう言いたげにニグラクスは光りを強めた。

 後ろに控えていたアリステルはあまりの輝きに目を伏せた。
 まるで善神が纏う後光のようだ。いや、彼女の口ぶりからするに彼女は善なる存在であり、恵みを齎す豊穣神の一柱なのだろう。
 それならば先ほどの問いかけも、隠されていなかった怒気にも理解が及ぶ。

 ――今、確かな神罰は下された。
 ならば自身もそれに続こう、アリステルは聖職者(クレリック)としての祈りを捧げる。
「僕の友であり幸運をもたらすもの――」
 ユーベルコードを展開し、使い魔たる蒼色の小鳥を呼び出した。
 愛らしく飛び回る鳥たちは雪だるまを見つけると、羽先に魔力の炎を宿らせる。燃え盛る羽根はごうごうと唸り、鋭い風を携えて滑空する。
「――敵を焼き尽くせ!!」
 陽光を逃れようとしていた雪だるま達に、燃え盛る青い小鳥が襲い掛かる。
 逃れえぬ大火は粉雪を水滴に変えながら雪だるま達の腹中を貫いた。

 炎と陽光、そのどちらをも食らった雪だるまたちに生き残る術は無い。
 雪だるま達は最後の力を振り絞ってニグラクスとアリステル相手に雪玉を放ってきた。
 だが、その全てはニグラクスのクライシスゾーンによって生み出された竜巻と、細剣を構えていたアリステルの剣技によって叩き割られる。

「この程度で女神ニグラクスを害せると思うだなんて、見た目同様可愛らしい存在だったわ」
 後に残されたのは雨季特有のじめじめとした空気と、足元に広がっている水溜まり……その中で安らかな寝息を立てている妖怪たちの姿だけである。

「……うん、皆さんも無事だね。このままにしておくのは申し訳ないけど――」
 アリステルは扉を見遣った。
 冷気は未だその奥から吹き荒んでいる。
 近くにあった水溜まりは徐々に氷へと変質し、この地に訪れた初夏を妬んでいるようだ。
 妖怪たちの手当てや避難をしている場合ではないだろう。

「――奥に行かせてもらうよ」
「ええ、彼らが雨季の祭りを楽しめるように」

 後はもう、その元凶を断ってしまうだけである。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『三障の悪女・フロストサラマンダー』

POW   :    讃称三唱
戦闘力が増加する【メキシコサンショウウオ】、飛翔力が増加する【ウーパールーパー】、驚かせ力が増加する【アホロートル】のいずれかに変身する。
SPD   :    コールドインフェルノ
レベル×1個の【あらゆるエネルギーを奪い燃える冷気】の炎を放つ。全て個別に操作でき、複数合体で強化でき、延焼分も含めて任意に消せる。
WIZ   :    三障WAR
【煩悩障(迷いや欲望を増幅させ操る思念波)】【業障(術者の都合の良い悪事へ導く甘言)】【報障(対象の過去の悪事を具現化した存在)】を対象に放ち、命中した対象の攻撃力を減らす。全て命中するとユーベルコードを封じる。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠中村・裕美です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 肌が切り裂かれそうなほどの寒さの中、一人の少女が氷で作られた椅子に腰かけている。
「どうして、どうして!!」
 金切り声を上げたのは館の奥地に居た一人の少女だ。
 妬みや憎しみが込められた瞳は濁り、ひと際大きく歪められていた。
「冬はもっと褒められるべき、素晴らしき季節なのよ。……それなのに、それなのにこの地に住まう妖怪たちは私の事を崇めてはくれない!!」

 春は恐ろしい冬を越せた祝うべき季節であり、
 夏は実りへの第一歩であり、
 秋は豊かな恵みを齎してくれる素晴らしい季節である。
 ――では冬は?

「巡るべき季節の一つであるにも関わらず、だあれも私のことを褒めてはくれない。山中の祠にだって――私が起きている冬には誰も来てくれないじゃない!!」

 今この場に妖怪たちがいれば「根雪が深いので冬のお参りにはいけない」と声を上げただろう。
 しかしながら彼女はそれらを妖怪たちに問う事もなく、一方的に妖怪たちを恨んで祭りを挿げ替えた。
 その傲慢さが骸魂に落ちる切っ掛けとなってしまったのだが、それを正すものは全て冬を祝うものに変えられてしまっている。
 残された道は数少ない。このまま緩やかにこの地は滅びゆくだけだった、はずだ。

 だが、救世主は降り立った。
 世界を跨ぎ、安寧を齎してくれるべき猟兵たちだけがこの運命を変える事ができる。

「冬を、冬を愛して……私を崇めてよ!!」
 鋭い冷気が氷漬けの室内に生み出される。館の柱が嫌な音を立てて歪んだ。
 残された時間は少ない。


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 MSより。
 第三章までたどり着けましたありがとうございます!!
 残りはボス戦となっております。嫉妬に駆られた彼女を止めていただければ幸いです!!
 また、文字数に余裕があったり、エンディングで何かしたいことがあればプレイングに記載してくださると嬉しいです。
 正常化した祭りを楽しむ、倒れていた人を助ける、そのまま何も言わずに去る、いやいや戦闘だけできれば大丈夫。
 どれでもオッケーです!! 個別のエンディングを書かせて頂きます!!
 それでは第三章をよろしくお願いします~!!
箒星・仄々
お可哀想に
深い悲しみが骸魂さんと共鳴してしまったのですね
今、お助けします

…因みにアホロートルさんへ変身するのですね…
寒さは大丈夫でしょうか

弦を爪弾き魔力を練り上げ
音色に属性魔力宿す

緋の音:炎を主に攻撃
翠の音:風も添えて炎の勢いを煽り増幅
蒼の音:水は雪や氷に干渉して減弱

三障に対し破魔込めた音色で
その思念や甘言、存在を打ち消します

冬は大好きな季節ですよ
同じ気持ちの妖怪さんはきっと沢山いらっしゃいます
どうぞ安心されて下さいね

終幕
骸魂さんへ捧げる鎮魂の調べ
静かな眠りを

少女さん
移設か分霊し
化物屋敷の近くかお庭に祠を創るのはどうでしょう?
皆さんと一緒に楽しい冬を過ごせますよ
私からもお願いして見ましょうか



 箒星仄々は尾と耳をへにゃりと下げた。
 神々にとって忘れ去られるというのは死に等しき事態である。
 祀られるというのは彼女の存在を示す手立てでもあり、来訪者の無い祠など神としての価値すら揺らぎかねない。

 先ほど聞こえてきた少女の叫びは怒りや嫉妬に覆われていた。だが、胸中の奥底、深海に眠る感情はもっと別のものだ。
「お可哀想に」 箒星は呟いた。
 奥底に追いやられた感情はきっと悲しみや寂しさの類だろう。

「今、お助けします」
 箒星は竪琴を構える。骸魂に付け入られてしまった彼女を救えるのは猟兵たる己だけなのだ。

●戦闘開始
 骸魂は箒星の姿を見つけてけたたましい叫び声を上げた。
 悲痛な声は冷え冷えとした室内に響き、共鳴するように氷や雪が輝きを増している。
 僅かに気温が下がった気がする――これはあまり時間を掛けないほうが良いだろう。

 竪琴に指を置き、数本の弦を爪弾く。魔力の練りこまれた音階は視覚化して白い世界に色彩を齎した。
 緋色、翠色、蒼色。色鮮やかな音階記号は淡く光を放ち、箒星の周囲をくるくると回る。
 それを受け、骸魂も負けじと声を張り上げた。
 世のすべてを厭うような声は室内の白い靄を増幅させ、氷の撓る音と共に彼女の囁きが乗せられる。
 聞けば信念をねじ伏せられてしまうような甘美な言葉が脳内へ入り込もうとしていた。

 箒星は指先に力を入れ、切り捨てるように竪琴の音量を上げる。
 破魔の込められた音色は辺りの靄を弾いてシャボンのようにパチンと姿を消した。

「冬は大好きな季節ですよ」
 旋律の最中、箒星は声を通す。
「同じ気持ちの妖怪さんはきっと沢山いらっしゃいます」
「うるさいうるさい、そんなことがあるのなら……あるのなら――こんなに寂しい思いはしないはずだもの!!」
 氷の礫が巻き上げられる。鋭い風切り音が響き、宙を渦巻いた。
 ヒステリックな金切り声と共に氷の礫は箒星へと降り注ぐ。
「そんな事はありませんよ」
 優しい声色が届いたかは分からない。
 苦しそうな表情をする彼女に憐憫の念が膨らんだ。

「……トリニティ・ブラスト!!」
 魔力を孕んだ音色は形を変えて矢に変化する。形状を変えた切っ先が氷の礫を弾き飛ばし、勢い良く飛んでいく。
 無数の矢は宙を切り裂き、泣きそうに顔を歪めていた彼女を貫いた。

●終幕
 ぴーひゃら、どんどん。祭囃子が室内に響き渡る。
 初夏独特のじめっとした暑さが身に纏わりつく。
 歩くだけで軽く汗ばんでしまう程だ。
 廊下には相変わらず出店が並んでいる。ラインナップが変わっていないところを見ると、今の暑さにはちょうど良かったのだろう。
 人々は騒がしさの中で冷たいものを食している。その合間には笑い声が上がっていた。


 箒星は室内ではなく、軒先でその喧騒を味わっていた。
 この騒ぎならば、豊穣にまつわる者たちも満足してくれる事だろう。
 雨は相変わらず手厳しいものだが、きっとこの地は例年通りの豊作が訪れてくれる。そんな気がした。

「良い祭りでしょう?」
 箒星は問いかける。視線の先には小さな祠があった。

 あの後、箒星は館の人々に事の顛末を話し、分社の設営をお願いした。
 館の人々は彼女を責めるわけでもなく快く引き受けてくれた。
「きっと冬が来ても大丈夫です。同じように賑やかな音色があなたを包んでくれることでしょう」
 建てられたばかりの分社は美しく、たくさんのお供え物が並んでいる。この分ならば冬が来ても彼女が寂しい思いをすることはない。
 夏が過ぎ、秋を越えたら、やっと待ちわびた冬の祭りだ。

「それまで少々お待ちいただく事になるわけですが、ここはひとつ……私の竪琴で手を打ってはいただけないでしょうか」
 祭りには敵いませんが、箒星はそう続けて竪琴を構える。
 背に伝わる喧騒とは違い、奏でられた音楽は物静かなものだ。
 過去に縛られた骸魂が少しでも安らな旅路を行けるように、願いを込めて鎮魂歌を奏でる。

「……おや」
 雨の紗幕、その奥には先ほど死闘を繰り広げた少女が立っていた。
 あの時とは違い、その表情に悲しみは無い。柔らかな表情に骸魂の残滓は感じられなかった。
 そしてその頭部から触覚が消えていたことに気が付いた。なるほど、骸魂のベースとなったのはアホロートルだったのだろう。
 ……あの寒さは大丈夫だったのだろうか? 箒星がそのような事を考えていると、いつの間にか少女は姿を消していた。
 これから冬の到来を待ちわび、暫しの眠りについたのかもしれない。

「それでは少し音を変えましょう」
 冬の深々とした雰囲気や美しい雪化粧、冬独特の洗練された美しさをイメージして指を動かす。
 あの少女が静かな眠りへつけるように。または二度と同じ過ちを犯さぬようにとの願いも込めて。


 暫く音色を奏でていると、雨足はみるみるうちに弱まっていった。
 空に広がっていた分厚い鈍色の雲は徐々にその姿を眩ませ、青々とした空が広がり始めた。
 どうやらタイミングよく雨季が終わったらしい。雲に閉ざされていた太陽はその身を燦々と輝かせている。
「ふふ、もう少しですね」
 夏が始まった。季節は切り替わった。
 彼女の望む季節は少しだけ先の話となるが、変わらぬ巡りというのは大事なものである。
 今暫し、その刻を待ってほしい。

「さてそれでは私も行くとしましょう」
 箒星は竪琴をしまい、水溜まりの海へと歩を進める。
 新たなる事件を解決するため、または悲しい思いをする者を減らすためにグリモアベースへと帰還した。

大成功 🔵​🔵​🔵​

アリステル・ブルー
アドリブ連携◎
可能ならパイリベンジを「真実を知らなくては」
難しければ露店巡りします

●行動SPD
「なるほどね」
たしかに自分だけが、のけものになっちゃうのは悲しいよね。
「対話の余地ってない?冬のお祭りもしてよってさ。こんな風にするんじゃなくてさ、そうだなぁ雪祭りとかきっと楽しいんじゃない?雪像作ったりさ」
ここが積らない地域ならどうしよう…まぁ一応提案はしてみるね、応じてくれたら骸魂だけ切り取って彼女を解放して妖怪巻き込んで話し合いをしよう。
応じてくれないなら【指定UC】使用。とりあえず敵全部燃やしちゃえ。空飛ぶなら使い魔で叩き落としにダメ元で挑戦。地にいるなら叩き伏せる!
終われば話し合いだよ。


ニグラクス・サンバッカス
※アドリブ連携OK

なるほど、冬の眷属あるあるを拗らせたわけね
私の神族にも一時拗らせた方いたわね…

だからって他の季節を侵してはいけないでしょう
どうして麓やここに参拝用の祠を作ってもらわないの
私みたいに一族も奉ってくれる者もいないわけじゃないんだから
夏を乗っ取る前にそういう活動をなさいな

まずは、その骸魂を引き剥がしましょうか
オーラ防御とUCで自身を強化しつつ
高速・多重詠唱で神罰と全力魔法で陽光を当てましょう
冬の眷属ならこれで多少力を削げるでしょう

痛いのには慣れてるから怯まないわよ
さあ、私とあなたで我慢比べといこうじゃない

後は妖怪たちに事情を話して任せて帰るわ
残りのパイを食べなくちゃいけないしね



 広間を抜けたアリステルとニグラクスを迎えたのは、氷によって覆われた室内だ。
 部屋に置かれていただろう調度品や家具は全て氷により閉ざされ、舞い散る粉雪が足元にふっくらとした絨毯を作り上げていた。
 肌を刺す冷気は中央部に座っている少女から放たれている。氷で作られた椅子に腰かけるさまは神としての威厳を遺憾なく発揮していた。
 その、神というものが善なるものか、邪なるものなのかは、道中で嫌というほど思い知らされている。

「なるほど」
 それはアリステルか、ニグラクスの呟きか。どちらともつかぬ呟きが零される。
 擁護するわけではないが少女の訴えは真っ当なのかもしれない。

「確かに、自分だけがのけものになっちゃうのは悲しいよね」
 アリステルは尾と耳をしゅんと下げる。妖怪たちに悪意があったかどうかは定かではないが、冬の神がそう感じてしまった事実は無視できないだろう。
「そうね。……そうやって、冬の眷属あるあるを拗らせたわけね」
 私の神族にも一次拗らせた方いたわね。そう続けたのはニグラクスだ。
 だからといって他の季節を侵して良い理由にはならない。心情は理解はしてやるがそれが最善ではないだろう、と呆れた表情を浮かべる。
 お参りを望むのならば麓やここの近くに分社を作ればいいだけの話だ。
 人々が望む恩恵や地を守る働きをするのならば、自身のように一族も祀ってくれるくれる者もあらわれてくれるだろう。
 このように歪んだ形で冬の祭りを行う事も無くなる筈だ。

「あの、対話の余地ってない? 冬のお祭りもしてよってさ」
 武力を以て事を解決させようとするのではなく、もっと良い方法はいくらでもあるだろう。
 例えば冬のお祭りをしてほしいと願うのはどうだろうか。雪まつりで雪像を作るとなればその準備にも、祭りにも熱が入るだろう。
 アリステルがそう続けてみたが、骸魂はヒステリックな叫びを返すだけでまともな会話は見込めなさそうであった。

「良いじゃない、正当な時期に正当な祭りを行うのはどちらにとっても有益よ。でも……まずはその骸魂を引き剥がすのが先ね」
「そうだね。会話は無理そうだし……まずは心の揺らぎを利用した骸魂をなんとかしないと」
 二人は対峙する。真冬の化身たる彼女、その背後で糸を引く骸魂を打ち倒すために。


●戦闘開始
 室内の気温は思っているよりも低く、呼吸によって取り込まれた冷気が気管を刺激する。
 あまり時間を掛けるのもまずいだろう。ニグラクスはオーラによって冷気を遮断した。
「ダーク・ヴェンジャス」
 ユーベルコードを展開し、全身を漆黒の粘液で覆い隠した。強化によって四肢の筋力が増強する。これならば反撃を貰っても問題はないだろう。
「サポート頼めるかしら?」
「うん、でも大丈夫?」
「大丈夫よ、痛いのには慣れてるから怯まないわ」
 さあ、私とあなたで我慢比べといこうじゃないの。吹雪を操っていた少女に言葉を投げれば、少女の表情は忌々し気なものへと変化した。

 相手は冬の眷属だ。ならば雪だるまたちと同じような目に合わせてしまえばいい。
 前に出たニグラクスは先ほどのように全力魔法で陽光を生み出した。神の後光が如く、空中より召喚されし陽光は辺り一帯を覆いつくす。
 氷はぱきぱきと音を立て融解していった。粉雪も水の粒となり、室内の景色は徐々に変わりゆく。
 だが雪だるまたちのように少女が溶けることはなかった。痛手は負わせている、はずなのに少女はぼろぼろの身体でしっかりとこちらを睨め付け、氷の礫を投げつけてくる。
 礫はニグラクスを纏っていた粘液に当たり、僅かに切り裂くだけに留まる。
 ニグラクスはちらと背後を覗き見る。

「解放せよ、怒りを、憎悪を、醜い心の闇よ――」
 アリステルがユーベルコードの展開を試みている。先ほどとは違うユーベルコードのようだが、彼の周りには生み出された炎が白い靄の中で漂っていた。
 炎は火の粉を巻き上げ、音を掻き鳴らして爆ぜている。白い靄はいつの間にか黒煙へと変化していた。
「――そして敵を焼き尽くせ、アンリーシュ!!」
 生み出された炎は竜のように蜷局を巻き、辺りの氷を蹴散らして骸魂へと向かっていく。

 神罰と業火。逃れられぬ攻撃を喰らった骸魂がどうなったかは、推して知るべし。


●戦闘後
 ぴーひゃらどんどん、ぴーひょろろ。賑やかな祭囃子が館全体に響き渡る。
 その中でもひときわ賑やかだったのは雪だるまたちと戦った広間だ。元はここがメインの会場だったらしい。
 床を覆っていた水溜まりは妖怪たちの手により片づけられ、中央にはシャンデリアにも届きそうなほど大きな櫓が組まれている。
 人々は思い思いに太鼓や笛の音を掻き鳴らし、雨季の祭りを楽しんでいた。

「――結局、話せばわかる妖怪たちだったじゃない」
 ニグラクスは人々の様子を見ながらそう零した。
 あの後、アリステルが骸魂に持ち掛けた内容をそのまま妖怪たちにも持ち掛けてみたのだ。
 ひどい目に合わされていたにも関わらず妖怪たちは快諾し、雨季が終わったら冬の神を祀る分社を設けてくれる運びとなった。

「そうだね。話し合いって大事だよね」
 隣に並ぶアリステルはにこにこした表情で返した。
「まったく……夏を乗っ取る前にそういう活動をなさいな」
 そうすれば骸魂に付け入られることにも、猟兵たちの出番も不要になったというのに。
 ニグラクスはため息を零した。だがその表情は柔らかく、女神に相応しい慈愛を僅かに孕んでいる。
「戦ったらお腹空いたなぁ。せっかくだから帰る前にご飯でも食べていこうかな」
「あら、お腹が空いているの? それなら、これでもいかが」
 ニグラクスは懐にしまいこんでいた包み紙を取り出した。相変わらず何で出来ているのか分からぬパイ(?)が得体の知れぬ煙と香りをばら撒いている。

「これは……あのメイドさんのパイ」
 アリステルはごくりと喉を鳴らす。来るときに食べた記憶こそあるが、不思議なことに味は覚えていなかった。
「真実を知らなくては……」 いったいこれが何なのか。
「大げさね」
 アリステルはニグラクスからパイを受け取った。ニグラクスもまた、ひとつを取り出す。

「お疲れ様」
 互いに労り、パイを口に含む。
 ガキリ、と鉱石を食んだ時のような奇怪な音が響き、数秒遅れてアリステルのほうだけがその場に倒れた。表情はなんとも説明し難いほど歪められている。
「あら……そんなに疲れているたのかしら」
 咀嚼し続けているニグラクスに変わりはない。
 バキボキとパイ(?)を砕く音だけが、明るい演奏に紛れ、消えた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

御十八・時雨
御前様、冬が好きか
おれもすきだ。冬はしんしんと静かで、冷たくて、空が高い
いい季節だ。だから、ちゃんと巡ってこなければだめだ
ずっと冬だけだと、他の季節に生きるものが死んでしまう

おれが出来るのは、御前様を斬ることだけだ
御前様のさみしいを斬ることだけだ
ワカツにおれの全部を乗っけて、思い切り斬りつけよう

なあ、御前様
冬に誰も来ないというなら、おれが遊びにいってやる
友だちになろう、でっかい雪だるまも作ろう
だから、今は少しお眠りよ

祭りが始まったら、また色々食べ比べようか
ああ、祠の場所も聞かないとな
冬には行きづらい場所なら、今のうちから道を探らないと
約束したんだ、遊びに行くって



「御前様、冬が好きか」
 凍てつくような寒さに支配された世界に御十八の声が響く。
 吐いた息は白く、煙のように棚引いた。鼻先は赤くなり、むずむずとしている。
 少しばかり厳しい環境ではあるが、御十八に厭うような感情は無い。

 冬は好きだ。しんしんと静かで、冷たくて、空は見上げても尚高い。
 良い季節であると考えている。
 だからこそ、季節はちゃんと廻らなければならない。
 冬しか許されぬ季節では他の季節に生きるものは死んでしまう。
 植物や動物だけではない。それらを糧にしている人々も野垂れ死ぬ。
 そうなれば、この地は滅ぶ。神が生きる理由も消えてしまうだろう。

「おれが出来るのは、御前様を斬る事だけだ」
 ザリ、と氷が踏みしめられる。
 胸中に沈められた寂しさと、それに付け込んだ骸魂ごと斬る事しかできない。
「だからこそ思い切り切りつけよう」
 呪縛を断ち切る為に、ワカツに己の全てを乗せて。

 女を守るように突風が巻き上げられる。
 風に乗せられたのは女の呪詛めいた叫びと、辺りに落ちていた氷の破片だ。

 御十八は鞘から刀を引き抜き、構える。
 轟々とうねる風が竜巻のように蜷局を巻いていた。その向こう側で女が微笑んでいる。
 眉尻の下がる表情は嬉々としたものでは無い。泣くのを堪えている子のようで、哀れであった。

「なあ、御前様」
 御十八は静かに語りかける。
「冬に誰も来ないというなら、俺が遊びにいってやる。友達になろう、でっかい雪だるまも作ろう。だから――」

 氷の渦は収まる気配がないが、向こう側に立つ女の表情が変わった。ような気がした。

「だから、今は少しお眠りよ」
 鈍い音を立てて刀が振り抜かれる。霊力の込められた一閃は竜巻を分かち、その向こうに立つ骸魂を両断した。 


●終幕
 ぴーひゃらどんどん、ぴーひょろろ。
 館内には祭囃子が鳴り響く。喧騒を携え、絶え間ない賑やかさに包まれた空間はとても楽し気であった。
 御十八はその雰囲気の中、出店を渡り歩いていた。
 蒸し暑い空間には冷たいものがよく合う。そうこうしている家に、食べ比べをしていた御十八の腹もだいぶ膨れたものだ。
 飯はこのくらいで良いだろう。
 御十八は通りすがりの妖怪に声をかけた。
「なぁ、冬の祠を知らないか?」
「冬の祠? それなら通りから少し外れた山道を辿っていけば直ぐだよ」
 冬に登るのは過酷なので夏のうちに整備をして、秋の終わりに登山するのが定番らしい。
 成程。それじゃあ女が気付かない訳だ。眠っている間にお参りをされていとなれば、知る由も無い。

「ほかに何もないが良いところだよ。アンタもお参りかい?」
「いいや、約束したんだ。遊びに行くって」
「遊びに行く? 用事かい?」
「そうさな、友達がいるんだ」

●来訪
 季節は巡り、山岳は白く染められていた。
 川は凍りつき靄が立つ。雪の重みに負けた木々は手折られ、葉をなくした枝が力なくしな垂れていた。
 積雪は思っていた以上に多い。これならば、妖怪たちが冬に訪れないのも理解がいく。
 御十八は足を取られぬよう道なき道を進んだ。
 しんしんと静かな山は厳かで美しい。冷たい風は登山により火照った身体に丁度良く、高い空には雲一つなかった。

 足を止めたのは登り始めてからしばらくの事だ。
 山頂に近い場所には開けた空間が広がっていた。木々に守られるようにして中央に在ったのは石造りの祠だ。
 屋根には雪が降り積もっている。御十八は掌でそれを優しく退けてやった。
「遊びに行くって言ったろう」
 言えば突風が吹く。巻き上げられた粉雪は煌々と輝き、待ち侘びた来訪者を歓迎した。

大成功 🔵​🔵​🔵​

エルフリーデ・ヒルデブラント
スミスくん(f17217)と

冬は好きだよ。雪、綺麗だしね
ぼくの森はね、花が咲いても葉が色づいても美しいけど、やっぱり毎年楽しみにしてるのは、雪化粧した木々なんだ。でもね……

愛されたいのなら、どうして皆の願いを歪めようとするんだい?
ぼくは、きみが思ってるよりも冬が好きな人たちは沢山いると思うんだけどな

【浄化の水脈】で炎を呑みこもう。
きみの心が少しでも洗われるように

事件解決後はお祭の様子を見て回ろう。折角だし何か食べようか

その青いシロップはなんだい?海みたいな色だ……綺麗だね

わたあめだよ。お砂糖でできてるんだって。冷たくはないけど、美味しいよ
甘いふわふわが口の中でとろける食感に年相応の表情を見せる


スミス・ガランティア
エルフリーデさん(f06295)と

このままだと世界が滅んで、本当に誰も君を崇めてくれなくなるよ? 体調崩しかねない人もいたし……そういう押しつけは我、どうかと思うな。

我も似たようなことしてたからね……だからこそ、止めないと。手遅れになる前に。

燃える冷気とは熱いのか冷たいのかわからないけど……杖で【武器受け】して、【氷結耐性】【火炎耐性】で耐えるよ。そして……【虚像の反射】で反撃。
後は…彼女の水で頭を冷やすといい。

事件解決後はお祭りに。実はお祭りというものに参加するの、初めてなんだ。

前に食べたことのあるかき氷を食べよう。ブルーハワイ? っていうのは初めて見るな。

エルフリーデさんのそれは何かな?



 吹き荒ぶ風は鋭く、氷の礫が巻き上げられている。
 室内の殆どは氷に閉ざされており、ここで人々が生活していたとは思えぬほど変わり果てていた。
 風の嘶きの合間、少女の叫び声が木霊する。
 全てを厭うような呪詛は来訪者たるエルフリーデとスミスに向けられていた。

「愛されたいのなら、どうしてみんなの願いを歪めようとするんだい? ぼくは、きみが思ってるよりも冬が好きな人たちは沢山いると思うんだけどな」
 森に住んでいるエルフリーデにとって、四季というものは様々な姿を見せてくれる美しいものだ。
 春は色とりどりの花が開き、夏は青々とした緑が揺れ、秋は太陽のように色づき、冬には雪化粧が施される。
 それぞれ違った美しさは素晴らしく、その中でもエルフリーデは特に冬を楽しみにしていた。
 年を重ねた木々たちが白化粧され、高い空から雪の結晶舞い散る様は心震えるものがあるものだ。

 しかし季節が冬ばかりではこの地に住まう人々も参ってしまう。
「このままだと世界が滅んで、本当に誰も君を崇めてくれなくなるよ?」
 体調を崩しかねない妖怪も居た。このままでは妖怪たちは倒れ、崇めるものは居なくなる。
 そうなれば神という立ち位置すらも危うくするだろう。
「そういう押し付けは我、どうかと思うな」
 それは同じ神であるスミスの実直な想いであった。

 だが、両者の懸命な訴えは氷の嵐によって閉ざされてしまった。
 鋭い風は収まらず、勢いを増していく。
「……我も似たようなことをしてたからね……だからこそ、止めないと」
 悪意に呑まれた者が自身の意思にそぐわぬ事をしたとき、待っているのは深い後悔だけだ。
 手遅れになる前に、その悪意を断ち切らねばならない。

●戦闘開始
 骸魂は耳を劈くような叫び声を上げ、氷の嵐をこちらに向かって放った。
 地面の氷が削り取られ、破片の飛沫が床を跳ねる。
 スミスは氷の嵐を杖で払いのけ、耐性魔法を展開する。

「ただの真似事ではあるけど、ね」
 先ほど杖で払いのけた氷の嵐をそのままにお返しする。
 同程度の氷の嵐がぶつかり合い、煙幕のような靄を生み出した。
 一瞬の静寂。スミスは呟きを零す。
「後は……彼女の水で頭を冷やすと良い」
「――清らかな水に身を任せ受け入れよ。さらば救われん」
 エルフリーデのユーベルコードが展開する。魔力を水に変換し、何もない空間に水溜まりを生み出した。水溜まりは徐々に大きく広がってその水位を上げていく。
 仕上げにとエルフリーデが魔力を強めれば、水溜まりは命を与えられたが如く、その姿を変えていった。

 召喚されたのは巨大な龍だ。
 天井ギリギリまで鎌首を擡げ、咆哮する。
 骸魂が追撃を叩き込むのよりも早く、龍はその身体をくねらせ、津波と共に骸魂へと呑み込んだ。


●戦闘後
 ぴーひゃらどんどん、ぴーひょろろ。祭囃子は館の至る処から奏でられている。
 あの後、館の妖怪たちは前後の記憶が曖昧であったり、何故か雪だるまになっていた夢を見た。といった事を口々に語り合い混乱をしていた。
 だが、外の雨を見て雨季の祭りの途中であったことを思い出し、各々が祭りの再開にむけてその身を動かした。

 結果、祭りは直ぐに再開される事となる。
 今度は冬の祭りではない。いつも通り雨季を祝う祭りだ。

「折角だし何か食べようか」
「実はお祭りというものに参加するの初めてなんだ」
 一仕事終えた二人は各々好きな物を購入する。
 エルフリーデが選んだのは妖精サイズに整えられたわたあめだ。口の中に広がる甘さはとても優しく、思わず頬が緩む。
 年相応の表情は祭りにとてもよく馴染んでいた。その様子を見た店主は「もう一つどうぞ」と袋に入れられたわたあめを持たせてくれた。

 一方、スミスは以前に食した事のあるかき氷を選んでいた。蜜をどうするか悩んでいたが、あまり見かけないブルーハワイを選んでみた。
 苺やレモンのように名前から味が想像付かないが、透き通る青色は海や氷のように美しい。
 一口食べれば、口の中にはすっきりとしたサイダーの風味が広がる。
 じめじめとした梅雨にはぴったりな味なのかもしれない。

 ふと、スミスは窓の外を見た。
 雨足はだいぶ弱まり、小雨に留まっている。空の様子からするに、間も無く雨も止むだろう。
「……そろそろ夏が来るね」
「うん、楽しみだね」
 春が終わり夏が来る。夏が終われば今度は冬が来る。
 そうやって季節は廻り、人々の恩恵を齎してくれるのだ。
 この大切さが少しでもあの冬の神様に伝われば良い。二人はそう願いながら残り少ない祭りを楽しんだ。
 
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

灰神楽・綾
【梓(f25851)と】
こうなってしまった根底には
寂しさがあったんだろうね
この子が素直にその気持ちを
他の妖怪達に伝えられれば良かったのにね…

おや、変身してもなかなか可愛いじゃないか
とはいえ自由に動き回られると厄介だね
追いかけたり防御したりと普通に戦っているふりをして
そっとPhantomの蝶の群れを飛ばす
少しでも蝶が敵の身体に触れた瞬間UC発動
悪いけどじっとしててもらうよ

■戦闘後
せっかくだから元のお祭りも見て回る
妖怪達に今回の事の真相を話して
「冬の妖怪が寂しがっていたよ」と教えてあげようか

お祭りのあとは帰るわけだけど…
梓はパイを食べるという最後の仕事があるから
ちゃんとお腹を空けておくんだよ


乱獅子・梓
【綾(f02235)と】
確かに実りという観点からすれば
冬は一番歓迎されにくい季節ではあるが…
とはいえ、偽りの祝福を得られても
最後に残るのは虚しさだけだろう

成竜に変身させた焔を、綾と共に戦わせる
綾の蝶によって敵の拘束完了したら、ここからが本番だ
成竜の零を呼び寄せUC発動
お前の中の悪い骸魂だけ叩き出してやる
心ゆくまで聴いていきな!

■戦闘後
最初の祭りでは食べられなかった焼きそばを食べつつ
「冬の祭り」自体は悪くないから
内容や時期を見直して本当に開催するのも良いかもな
例えば雪で各々が作品を作る雪祭りなんてのもありだろう

…今の今まで忘れていた事を思い出させたな!?
こいつも絶対道連れにしてやろうと心に誓った



 室内の気温は広間とは比べ物にならないほど低かった。
 吐いた息はたちまちに凍り付き、小さな粒が床に零れて落とされる。
 息をするたびに呼吸器官が刺激されているせいか、整えづらく咳が出そうになった。

「確かに実りという観点からすれば、冬は一番歓迎されにくい季節ではあるが……」
 上着の襟元を伸ばしながら、乱獅子は先ほど少女が吐き捨てた言葉に思いを馳せる。
 多少の雪ならばいざ知らず、室内の様子を見る限りでは少女が祀られている場所は根雪も深いのだろう。
 一見すれば恩恵は他の季節に比べて薄いかもしれない。だが積もった雪は春を迎えれば雪解け水となる。
 貯蓄されていた水分は季節の移ろいを経てゆっくりと地表や川に流れ、下流に住まうものたちへ確かな恩恵を齎してくれるものだ。
 言い分からするに手入れがされていない事に対しては憤りがみられない。
 もしかしたら少女が活動する冬以外の時期にお参りが行われているのではないだろうかと推察する。
 だとすれば、少女は長年の間、推し量れぬ悲しみに襲われていたのだろう。

「こうなってしまった根底には寂しさがあったんだろうね」
 灰神楽の呟きが落とされる。同じことを考えていたのだろう、その表情には同情の念が浮かんでいた。
「とはいえ、挿げ替えた偽りで祝福を得られても、最後に残るのは虚しさだろう」
 乱獅子の言葉に灰神楽も頷く。
 望むことは悪い事ではない。その手段さえ合っていれば問題は無い。
「この子が素直にその気持ちを他の妖怪たちに伝えられれば良かったのにね……」
 せめて一言伝えられていれば。
 骸魂に付け入られる事も無く、望んだ祝福を得られた筈だ。
 ……今となっては全て後の祭りではあるが。

●戦闘開始 
 戦闘開始の合図となったのは少女の悲しき雄叫びだ。
 呪詛の折り込まれた叫び声は耳を劈くほどやかましく、脳を直接揺さぶってくる。
 乱獅子と灰神楽がびりびりとした痺れを感じていると、少女はその姿を変えた。
 人らしい見た目はどこへやら。筋肉は沸騰した湯のように隆起し、サンショウウオのような姿となった。

「おや、変身してもなかなか可愛いじゃないか」
 サイズが適切ならばそうなのだろう。威嚇するように開かれた口は、人を丸呑みできそうなほど巨大なものであった。
 この大きさで動かれるのはなかなかに厄介だ。愛らしい見た目とは裏腹に、イラつきを乗せられた尾は大きな氷塊を砕き割る。
 建物が崩れるのが先か、魂骸が平伏すのが先か、そのどちらかだ。

 灰神楽が骸魂の射程に飛び込んだ。
 骸魂の変化した腕が灰神楽を捉えようと振るわれる。それを回避しつつ、彼は掌を数度振るう。
 宙に放たれたのは極寒の地に似合わぬ紅い蝶だ。淡い光を携えたそれは骸魂の攻撃によって生まれた隙をつき、等間隔にばら撒かれていった。

「焔」
 乱獅子は赤い竜を宙へと解き放つ。彼の魔力を受け、成竜となった焔は骸魂と同じく巨大だ。
 地を轟かす唸り声を産み、骸魂に向かって牙を伸ばす。
 攻撃を察知した骸魂が身体を捻れば、その一部が灰神楽の蝶々に触れた。

「離してあげないから、覚悟してね」
 灰神楽の呟き、その刹那。骸魂が触れた蝶々は一際強い輝きを放ち、捕縛の鎖へと変貌する。
 獲物を狙う蛇のようにその身を伸ばし、骸魂の身体を捕らえた。
「悪いけどじっとしててもらうよ」
 灰神楽は骸魂から距離を置いた。後は乱獅子の役目なのだろう。

「零」
 乱獅子はもう一匹の竜を宙へ放つ。その姿は先ほど成竜となった焔と同じような大きさだ。
「歌江、氷晶の歌姫よ――」
 氷竜は鎌首を擡げ天を仰ぐ。鋭い牙の隙間からは冷気が漏れ、白い靄が棚引いた。
「――お前の中の悪い骸魂だけ叩き出してやる、心ゆくまで聴いていきな!!」
 極寒の地に竜の咆哮が響き渡る。
 室内を覆っていた氷はそれに共鳴し、ばきばきと音を立てて崩れていった。
 同じようにして、捕縛されていた骸魂もまた、その身を崩壊させた。

●依頼完了?
 その後、骸魂を祓った二人は再開された祭りを楽しんでいた。
 冬の祭りが終わり、今は雨季の祭りである。
 出店には冷たい食事も残されているが、元々用意されていたのであろう温かな食事も復活した。
 先の祭りでは食べられなかった焼きそばを食べつつ、乱獅子は店主に向かって言葉を投げる。
「冬の祭り自体は悪くないから、内容や時期を見直して開催するのも良いかもな」
 食べ物もそうだが、雪を使った展示なども良いだろう。人によって姿かたちを変えた雪塊はきっと、良い目玉にもなる。
 上手くいけば、よその地域からの来客も見込める。そうすれば、冬の季節にも分かりやすい恩恵が齎される事だろう。
 店主がそれに「面白そうだな」と耳を傾けていると、灰神楽も後押しする。
「それに、冬の妖怪が寂しがっていたよ」
 ほら、冬は誰もお参りにいけないだろう? そう続ければ、店主はハッとした表情を浮かべて店から離れていってしまった。
 きっと誰かに相談しに行ったのだろう。この分ならば、次の冬には新たな祭りが生まれるのかもしれない。

「んじゃあ、もう少し何か食べてから帰るか」
「そうだね帰る訳だけど……梓はパイを食べるという最後の仕事があるから、ちゃんとお腹を空けておくんだよ」
「……今の今まで忘れていた事を思い出させたな!?」
 序章、その一幕。記憶から消してしまいたかった流れを思い出し、乱獅子は頭を抱えた。
 絶対にこいつも道連れにしてやろう。
 そう心に誓った乱獅子だが、その後がどうなったのかは、二人だけが知る事である。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2020年07月18日


挿絵イラスト