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光の天蓋、極彩に染まる白夜

#カクリヨファンタズム #迦陵頻伽 #口寄せの篝火 #あやかしメダル

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●「夜」が消えた世界
 その世界は、一面を極彩と白光が覆う眩しいばかりの「閃光の世界」だった。

 妖怪たちの暮らす、この幽世(カクリヨ)にも、昼と夜の概念はある。
 ……否、あったと言うべきか。
 ある日突然「夜」が失われ、始めは何とか平静を保とうとした妖怪たちも、数日がたち、2週間を過ぎる頃には、更に輝きを増す空に怯え震え、次第に混乱へ変わってゆく。
 光の天蓋で覆われた世界は瞬く間に憔悴で満たされ、代わりに溢れるのは無数の骸魂。

 妖怪たちを飲み込んだ骸魂は彩り鮮やかな人鳥に変貌し、幽世の世界を羽ばたく。
 ――そして。
 数多の彩りと光が世界の隅々まで覆い尽くさんと、空を、大地を、蝕んでいく。

●光の天蓋、極彩に染まる白夜
「大変なのじゃ大変なのじゃ! 新しく見つかった『カクリヨファンタズム』の幽世から「夜」が消えて、光塗れの「閃光の世界」になってしまいましたのじゃ!」
 まごまごしていたユーゴ・メルフィード(シャーマンズゴースト・コック・f12064)は自身を落ち着かせようと深呼吸、猟兵たちへ向き直る。
 夜は、闇夜で活動することが多い妖怪たちにとって、生命線とも言える時間帯。
 さらに、夜が消えた幽世には『骸魂』が大量発生し、悲観した妖怪たちをオブリビオン化させていると、ユーゴは悲しそうに俯いた。
「まるで、この世の終わり――カタストロフが訪れたような感じなのですじゃ」
 このままでは、妖怪たちがオブリビオン化に抗えなくなるのも、時間の問題……。
 けれど、解決策はあるとユーゴは真っ直ぐ猟兵たちを見つめ、力強く告げる。
「幸い、骸魂に飲み込まれた妖怪たちは、オブリビオンを倒すことで救い出すことができますのじゃ!」
 まずは、このオブリビオン化した妖怪たちを倒すのが、最優先!
 発生しているオブリビオンは『迦陵頻伽』。本来ならば極楽浄土に住み、美しい声で鳴くという、瑞鳥とも呼べる存在だけど……。
「このオブリビオンは真逆なのですじゃ。舞えば周囲を破壊、さえずるのは滅びの歌声、遠慮なくサクッと倒して下さいなのですじゃ!」
 オブリビオンの強さは取り込んだ妖怪に左右されるため、それ程強くないと言う。
 猟兵たちの力量であれば、数多を相手取ることも、そう難しくはない相手だろう。
「迦陵頻伽の数を減らしていけば、事件の『元凶』も自ずと姿を現しますのじゃ」
 夜を奪った元凶とならば、強力な妖怪を飲み込んでいる可能性が高い……。
 猟兵たちの表情から察したのだろう、ユーゴも静かにコクリと頷いた。
「薄っすらと見えましたのは『取り込んだ妖怪を囮に獲物を狙う赤いオブリビオン』なのですじゃ。うまく本体を狙えば御の字なのじゃが、この眩しい閃光の世界、狙い通りに当てるのは中々難しいと思いますのじゃ」
 眩しすぎる視界をカバーする方法や、本体を見つけて正確に狙う作戦があれば、より効率に戦えるのは間違いない。
 口を閉ざして一拍、ユーゴは手のひらにピラミッド型のグリモアを顕現させる。
「無事に幽世に「夜」が戻りましたら、妖怪たちは皆さまに御礼がしたいと近くの村に案内してくれますのじゃ!」
 村は昭和の空気を色濃くしており、何処かノスタルジックなものが感じられて。
 村には妖怪の姿を描いた「あやかしメダル」を作る職人工房が幾つもあり、世界を救ってくれた猟兵たちに感激感涙した妖怪職人たちが、こちらが心配してしまう勢いで腕を振りまくってメダルを作ってくれるとか。
 ――オリジナルの、あやかしメダルを作るもよしッ!
 ――いろんな妖怪が描かれた、あやかしメダルを譲ってもらうもよしッ!
 ――あるいは、職人に習って、オリジナルのあやかしメダルを自作するのもよしッ!
「夜を取り戻して活気湧いたメダル工房で手にするメダルは、掛け替えのない思い出になると思いますのじゃー」
 ウキウキとユーゴが告げると同時に、グリモアの輝きも増していく。
 そして。猟兵たちを、極彩に染まる白夜へと誘うのだった。


御剣鋼
 御剣鋼(ミツルギ コウ)と申します。
 危機的な状況ですが、レベルや技能などはあまり気にせず、やりたいことを書いていただけますと、楽しめると思います。
 新規の猟兵さんも、どうぞ気楽にご参加して頂けますと嬉しいです。

●プレイング受付期間:1章は6月25日(木)9時から開始
 1章〜3章ともに導入文が掲載されましたら、受付開始になります。
 進捗などはマスターページ、ツイッターでもご案内しておりますので、合わせてご確認頂けますと幸いです。

●各章につきまして
 1章:『迦陵頻伽』の大群と戦う集団戦になります。
 2章:『口寄せの篝火』との戦いです。如何に本体を狙うかが鍵になるでしょう。
 3章:あやかしメダル職人の職人工房にお邪魔しちゃいます。
 POWやSPDやWIZはあくまで参考程度に、のびのびとお書きください!

 3章のみユーゴもお邪魔しますので、気軽にお誘い頂けますと、幸いです。
 ユーゴは「食べ物みたいな妖怪さんメダルがあれば良いのう」とか言ってます。

●同行者につきまして
 1章と2章は最小人数に留め、その分3章は多くの方を採用する予定です。
 プレイングにご指定頂ければ、可能な限り対応いたします。

 ご一緒したい方がいる場合は【相手のお名前】を明記して頂けますと助かります。
 グループでご参加の場合は【グループ名】で、お願いいたします。

 皆様のアヤカシ冒険奇譚、心よりお待ちしております!
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第1章 集団戦 『迦陵頻伽』

POW   :    極楽飛翔
【美しい翼を広げた姿】に変身し、レベル×100km/hで飛翔しながら、戦場の敵全てに弱い【誘眠音波】を放ち続ける。
SPD   :    クレイジーマスカレイド
【美しく舞いながらの格闘攻撃】を発動する。超高速連続攻撃が可能だが、回避されても中止できない。
WIZ   :    迦陵頻伽の調べ
【破滅をもたらす美声】を披露した指定の全対象に【迦陵頻伽に従いたいという】感情を与える。対象の心を強く震わせる程、効果時間は伸びる。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●白夜に踊る
 光の天蓋の下。戦場に降り立った猟兵たちの視界を、強い光が打ち付ける。
 まるで、閃光の中。
 同時に。周囲を取り囲むように数多の極彩色の人鳥が羽ばたき、此方に向かってくる。
 ――迦陵頻伽。否、その姿をしたオブリビオンと言うべきか。
 羽ばたけば周囲は浅い眠りに落ち、美しい歌声は聞くだけで、心が奪われそうで……。
 鋭く射抜くように双眸を細めた猟兵たちが、周囲を見回せば、戦場は広くて小高い丘。
 ここでは、逃げも隠れも出来ないだろう。
 けれど、それは戦いの障害になるものがなく、猟兵たちの攻撃が通りやすいことにも繋がっている。
 災厄の人鳥の群勢が猟兵たちの間近まで迫った、その時だった。

 ――タスケ、て……!

 羽ばたきに混ざって微かに聞こえたのは、数多なる妖怪たちの声?
 それも、一瞬。
 すぐに人鳥たちの喧騒で掻き消されてしまい、か細き声はもう聞こえない。
「まずは目の前の災厄を倒そう」
 誰かが言う。今ならまだ間に合う、救うことができる、と。
 極彩と白夜に染まる戦場を、猟兵たちは疾風のように駆け出す。
 ――そして。すぐに幾つもの剣戟が鳴り響いた。
ユリウス・リウィウス
夜の無くなった世界か。俺のような臑に傷持つ身であっては、居心地悪いことこの上ない。早く安寧の夜を取り戻そう。

「環境耐性」で眩い環境に適応した上で、迦陵頻伽どもを討滅していこう。
飛び回られるのは厄介だが、「恐怖を与える」「呪詛」を込めたイービルデッドで撃墜していくか。

剣の間合いに入ってきたら、「生命力吸収」「精神攻撃」の双剣撃と虚空斬で対処する。
迦陵頻伽の攻撃を「見切り」「カウンター」をかけつつ、双剣で「なぎ払い」「傷口をえぐる」。

ああ? お前らに従え、だ? 悪いが俺は、騎士団を抜けた時から自分は自分にしか従わないって決めてるんだよ。
お前らごときオブリビオンに惑わされはしない。
大人しく、朽ちろ。



●白夜に煌く闇炎
「夜の無くなった世界か」
 猟兵たちが降り立ったのは、視界一面を光に覆われた世界。
 眩い光を一身に受けて煌く全身鎧に、ユリウス・リウィウス(剣の墓標・f00045)はただでさえ不健康な顔を曇らせ、呟きを戦場に流す。
「俺のような臑に傷持つ身であっては、居心地悪いことこの上ない」
 夜は、休息と安寧をもたらすもの。そう思うのは、きっと自分だけではないはずだ。
 現に、沈まぬ陽光に数多の妖怪たちが悲観し、その多くが骸魂に取り込まれて、極彩色の人鳥へ姿を変えてしまっている。
 白光に赤く青く冴えた瑞鳥の影は、まるで無数の染みのよう……。
 迫る極彩色を眼前に、しかしユリウスは怯まず、射抜くように緑色の双眸を見開いた。
「飛び回られるのは厄介だな」
 ならば、やるべきことは一つだけ。
 思考は一瞬。偽りの瑞鳥に囚われた妖怪たちを迅速に解放せんと、ユリウスの両の手は自然と左右の腰にある黒剣に触れる。
「我、冥府の黒炎によりて、汝らを焼き尽くさん。劫火吹き荒れよ! イービルデッド!」
 呼吸を乱さずユリウスが黒剣を掲げれば、白き虚空に漆黒の陣が展開される。
 闇色の魔法陣から噴き上がる恐怖と呪詛を帯びた黒き炎が、先陣を担う人鳥たちを一瞬で飲みこみ、直撃を受けた数体が地に墜ちていく。
 その様子を一瞥し、ユリウスが更に間合いを狭めようと、踏み込んだ時だった。
 残った迦陵頻伽たちが猟兵たちに向けて、一斉に破滅の美声を披露したのだ――!
「――っ」
 その歌声は、否が応でも迦陵頻伽に従いたいという感情を湧き起こし、ユリウスの心を従わせようとする。
 けれど、ユリウスに足を止める気配は見られない。
 むしろ。歌うために動きを止めた一瞬を見逃すまいと、ユリウスは身を低くして閃光の底を駆け抜けたのだ。
「ああ? お前らに従え、だ? 悪いが俺は――」
 胸の内に染みのように広がるのは、騎士団時代の負の記憶。
 その時の絶望と悲観と苛まれた無力感が、ユリウスの心と身体を掻き立てる。
「騎士団を抜けた時から、自分は自分にしか従わないって決めてるんだよ」
 鋭く、宙切る音。
 迦陵頻伽の間合いに達したユリウスの剣先が弧を描き、無数の羽がひらひらと舞う。
 刃が狙い通りに届くや否や、ユリウスは柄を握る両の手に力を込め、鋭く吐き捨てた。
「お前らごときオブリビオンに惑わされはしない」
 人鳥の唇から歌が紡がれるよリも早く、深く踏み込み、剣風を叩き込む。
 返しながら素早く横に薙ぎ払えば、傍らに迫っていた、もう1体も斬り落とした。
「大人しく、朽ちろ」
 敵の傷口から浸透する生命力で自身の傷を癒し、ユリウスは疾駆する。
 呪いの二振りに斬り伏せられた幾つもの人鳥の羽が、きらきらと地に落ちていく……。
 ――そして。
 それはもぞもぞと動くや否や、元の妖怪の姿へ形取っていくのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

林・水鏡
夜だけがいいとか昼だけがいいじゃとかはたまた黄昏時がいいじゃとか…まったくこの世界の住人はどうしようもないのぅ。
まぁ、我もその中の一人じゃしそう言うわがままを起こしてしまうような子らも可愛らしいなどと思ってしまうわけじゃが。
世界の崩壊は遠慮したいから止めさせてはもらうがの。
あとずっと眩しいと寝られんからの!
眠れんと言うのは意外としんどいもんじゃし。

敵の数も多いしこの技でどうしゃ?
UC【白澤変】
じわじわじゃが効くじゃろう?
特にこちらに害意があるのならのう。

迦陵頻伽の声は【結界術】で防ぐかの。


雨谷・境
うおーっ、めっちゃ眩しいっす!
こんな日々が続いたらおかしくなっちゃうっすよ!
早く夜を取り戻すため、そして骸魂に囚われた妖怪を助けるために頑張るっす!
助けてって、確かに聞こえたっすよ!

バス停担いでいくっすよ
敵の姿は美しいけど能力は厄介っす……
眠気が酷くなってきたら自分の顔をひっぱたいて目を覚ますっす
こんなに眩しい中で寝ても安眠できないっすよ!

俺は飛べないから敵の接近を待ち構えるしかないっすね
俺かなかなか眠らなかったら直接狙ってきたりしないっすかね
そのタイミングで【2回攻撃】!
バス停ぶん回して『断ち切り』っすよ!

もし直接ぶん殴ってきてもバス停で【武器受け】してやるっす
俺の【怪力】舐めんなっすよ!



●子守唄に駆ける旋風
「助けてくれて、ありがとうございます!」
「ついでに、この眩しいのも何とかしてくださいませんか? ワシは朝がダメでして」
「ボクは朝の方が好きだけど、ずっと眩しいのはイヤだなあ〜」
 先陣を切った青年の奮闘で早くも姿を取り戻した妖怪たちの声に、お団子頭に文官服姿の少女――林・水鏡(少女白澤・f27963)は、大きく肩を竦めて見せて。
「まったく、この世界の住人はどうしようもないのぅ」
 夜だけがいいと言えば、次の日は昼がいいとか黄昏時が一番だとか。それもこれも全て、常時カタストロフと呼ばれる、幽世に生きる妖怪の性なのだろうか……。
(「我もその中の一人じゃし、そう言うわがままを起こしてしまうような子らも、可愛らしいなどと思ってしまうわけじゃが」)
 唇から紡がれる言葉に反して、水鏡が妖怪たちに向けていた眼差しは、子や孫に向けるような、慈愛そのもので……。
 けれど、それも一瞬。
 水鏡はすぐに戦場に視線を戻すと、数多に迫る敵影を赤色の眼底に捉える。
「世界の崩壊は遠慮したいから、止めさせてはもらうがの」
 未だ、戦場では彼女の愛しい妖怪たちの多くが、助けを求めている。
 視界一面に容赦無く差し込む閃光に水鏡が双眸を細めると、ボロボロのバス停を担ぎながら軽やかに疾走していた雨谷・境(境目停留所の怪・f28129)もまた、ぱちぱちと瞳を瞬いた。
「うおーっ、めっちゃ眩しいっす! こんな日々が続いたらおかしくなっちゃうっすよ!」
 掠れた文字で「雨谷」と書かれたバス停を手にしたまま境が眩しそうに空を見上げると、少し遅れて戦場の風に揺れたスカジャンの端が、白光の世界に色濃く映えて。
 一見すると、人にしか見えないけれど、境も水鏡と同じく、幽世で生を受けた類だ。
「確かに、この眩しさではゆっくり寝られそうにもないのじゃ」
 人鳥たちの喧騒に負けず劣らず大声を轟かせる境に、水鏡もまた堂々と頷く。
 眠れないと辛い。それは幽世に生まれた二人にとっても、同じだとも言えよう……。
「さくっと倒したいけど、あの能力は厄介っすね……」
 閃光の中を舞う人鳥は、迦陵頻伽の名に相応しい美しさを醸し出していて。
 先陣の猟兵を自身に従わせることが叶わなかった人鳥たちは手段を変え、美しい翼を大きく広げたまま戦場を高速で飛び回り、眠りへ誘う音波を放ち続けている。
 その様は、子守唄を唄う天女のよう……。
 自分の頬をパチンと両手で叩いて眠気を覚ました境が「大丈夫っすか?」と周囲を見回すと、眠気を結界術で凌いでいた水鏡と視線が合った。
「我が叩き落としてくれよう、こちらに害意があるのなら効果はあるはずじゃ」
 敵前を見捉えたまま、水鏡は唇に笑みすら浮かべてみせて。
 水鏡の赤い眼差しが妖しく輝く。と、同時に、その姿は小柄の少女から万物に精通すると言う、堅牢な四つ足の獣の姿を形取っていく。
「これが完全なる白澤(ハクタク)の姿じゃ!」
 その姿は、古い書物に描かれている、獅子にも似た姿。
 聖なる獣とも称される完全体に変身した水鏡は、閃光に染まりゆく大地を力強く蹴り上げ、凄まじい速さで宙を駆け抜ける。
 光で揺らめく世界。白光を飛び交う人鳥たちに向けて放つのは、破魔の光。
 流れるように白澤が空間を駆け抜けたあと。
 害意あるものを蝕む光に羽をじわりじわりと焼かれた人鳥たちが、堪らず高度を下げた、その時だった。
「こんなに眩しい中で寝ても、安眠できないっすよ!」
 敵の接近を虎視淡々と待ち構えていた境がバス停を構え、軸足に強く力を込める。
 一心同体。自身の手足のように打ち振うバス停は境の象徴であり、道標を示すように、迷わず敵の一群へと吸い込まれていく。
「切り裂け」
 激しい打撃音。
 重く鈍い音が鳴り止まぬ中、境は半歩踏み込み、更に振り抜くように、もう一打。
 激昂の気合いと共に、鋭く横に振った一閃は人鳥の骨を砕き、胴体ごと両断する。
「俺の怪力、舐めんなっすよ!」
 畳み掛けるように肉薄してくる人鳥の鉤爪を、境はバス停を横にして受け流し、そのまま深く押し込んで、一気に横に疾らせり。
 息継ぐ間もない猛攻の中。僅かに聞こえてきたのは、幾つもの声。
 ――助けて、と。
「早く夜を取り戻すため、そして骸魂に囚われた妖怪を助けるために頑張るっす!」
 助けを求める声は追い風となり、境を始め、戦場を疾走する猟兵たちの背を、大いに後押ししてくれて。
 再びバス停を構えた境は閃光の底を力強く駆け抜け、それに促されるような速さで白澤の姿をした水鏡もまた、光の天蓋を疾駆する風となる。
 喧騒の中から薄らと聞こえる、助けを呼ぶ声。
 極彩色が薄まるにつれて、声は徐々に大きく、そして確かなものへと変わっていく――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

菱川・彌三八
光の中の五色は鳳凰が如し
すりゃ見事なモンさ
真の迦陵頻伽を拝めるなんざ願ったりな筈だが…
この鳴き声がなきゃあな
カン高ェなあ耳障りでいけねえ

だが数が多いなあ僥倖だ
見えずとも当てられる
筆を一閃
辺りを囲う様にぐるりと打ち上げた円形の大波を衝撃波の如く外へ、外へ
ざっと数飲み込む
が、撃ち漏らしは点で飛ばした墨の水柱で狙…
えねえな…ちいと明るすぎらあ
したが再び波の壁を
影をつくる…てえよりは光を散らす方だな
迦陵は影で写るだろ、其処を狙うのサ
速くて捕えられねえなら、それも波二つで挟むなりで捕えるか、動きを縛ってやら
歌声だなんだは滝の様な水音で消してやりゃいい

何で取り込まれっちまってこの姿なんだか
あゝ、真厄介だ



●災い穿つ大波
「真の迦陵頻伽を拝めるなんざ、願ったりな筈だが……」
 立ち向かう仲間の背から、迦陵頻伽が舞う空へ視線を映した、菱川・彌三八(彌栄・f12195)は、哀愁に似た溜息を静かに漏らしていて。
 白光の天と地が極楽浄土ならば、五色は鳳凰が如し。
 形と色だけを見るのならば、其れらは見事だと言っても、過言ではないだろう。
 ……しかし、此処は極楽浄土ではない。
 この世界は何もしなければ、ただ終焉を待つだけの、地獄絵図だったから。
「この鳴き声がなきゃあな、カン高ェなあ耳障りでいけねえ」
 人鳥を鋭く射抜くように双眸を細め、彌三八は滑るように前へ出る。
 歌声に耳を傾ければ意思に反して心が奪われ、美しい翼を広げた姿を目にしたら最後、力無き者は瞬く間に眠りへと落ちてしまう。
 眼前に在るのは瑞鳥ではなく、凶鳥。
 幸いなのは、遠慮なく技巧を振っても、妖怪たちを救うことが可能だと言うこと。
「数が多いのも僥倖だ、見えずとも当てられる」
 先陣の猟兵たちの猛攻を受け続けている極彩色は徐々に薄まりつつあるものの、かなりの数の人鳥が残っている。
 思考は一瞬。ニヤリと八重歯を煌めかせ、彌三八は絵筆をとる。
 宙に筆を一閃。辺りを囲う様にぐるりと打ち上げた円形の大波を、衝撃波の如く外へ、外へ、広げるように描いていく。
「海は苔の露より滴りて、波濤を畳む万水たり」
 彌三八に描かれた大波は幾つも重なり、津波となって戦場の隅々まで押し寄せる。
 獣のように大口を開けた大波が地上近くを飛ぶ人鳥たちを根こそぎ飲み込み、素早く身を翻して大波を躱した人鳥も逃すまいと、彌三八は点で飛ばした墨の水柱で狙わんとする、が。
「狙えねえな…ちいと明るすぎらあ」
 眩しすぎる視界に小さく舌打ちするものの、筆を操る彌三八の手は止まることなく。
 再び鋭く弧を描いて波の壁を作り出す――が、それは影を作るためではない。
「影をつくる…てえよりは光を散らす方だな」
 彌三八が薄らと笑みを浮かべたのと、影で写った迦陵頻伽を狙うように波が押し寄せたのは、ほぼ同時。
 先程と同じように軽やかに避けようとした人鳥を、左右から波が挟み込んでゆく。
「速くて捕えられねえなら、動きを縛ってやらいいさ」
 仲間に向けて人鳥の唇が紡がれようとすれば、彌三八は即座に筆を走らせ、滝が奏でる轟音に似た水音で、破滅の唄声を掻き消してゆく。
 押し寄せた波がすぅと引く。そこには骸魂から解放された数多の妖怪たちが、倒れ伏していた。
「何で取り込まれっちまって、この姿なんだか」
 ――あゝ、真厄介だ。
 むくりと起き上がる妖怪たちに彌三八は小さく安堵を漏らすものの、其の手は片時も休むことなく、再び波を描く。
 彌三八の眼前から極彩色の災いが全て消える、その時まで――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

コノハ・ライゼ
たぬちゃん(f03797)と

へぇ、またキレーだコト
まあでもアレがオブリビオンだってンなら、喰らうだけダケド
狩らなきゃ、妖怪ちゃん達も救えないンでしょ?

ナイフで肌裂き零れる血から【黒涌】生むわ
落ちた分生まれた影狐に*マヒ攻撃乗せ
敵の軌道*見切り動き予測しながら命中重視で嗾けマショ
傷があれば眠気も跳ねのけやすいデショ

……ってナニ見てんの、しっかり働く!
*怪力でちょこまかするたぬちゃんの首根っこを掴み
ごく自然な流れで当て損ねた敵へ全力投狸
そうそう、よくできマシタ
更にたぬちゃんが誘き寄せた敵へ
右目の「氷泪」から*範囲攻撃で網目状に紫電奔らせ捕らえ*捕食
*傷口をえぐって*生命力を喰らっていくわ


火狸・さつま
コノf03130と

初めての世界にわっくわく!
わぁわぁぴかぴかまぶし!
ずっとずっと、な、の?
夜、ぐっすり、寝れない、ね…
それは、たいへん!!

敵の動き良く見て
攻撃見切りぴょこぴょこ躱すか
オーラ防御で防ぎつつ
雷火の雷撃で範囲攻撃で迎撃

敵さん見て、コノを見る
敵さん見て…コノ見る!
コノちゃん凝視!
……うん!コノの方が!綺麗!!!
ふんす!満足気!

わぁ~い!
高い高いして貰うよなキモチで大人しく身を任せ
送り出して貰った群れの中
【封殺】の範囲攻撃繰り出して
其のまま空中浮遊で体勢整え2回攻撃
雷火の雷撃範囲攻撃
空中戦も!得意!なんだから!

ぷかぷか浮かびつつ
こっちこっちと誘き寄せ
コノの攻撃の目前まで誘導!
ぴゃっと退く



●疾る雷火と紫雷
「へぇ、またキレーだコト」
 白夜に浮かぶ極彩色は薄らぎつつあるものの、迦陵頻伽たちの破滅の唄声と眠りへ誘う舞は、未だ戦場に降り注いでいる。
 不快な唄声に薄氷の瞳に冷たさを宿す、コノハ・ライゼ(空々・f03130)とは反対に、火狸・さつま(タヌキツネ・f03797)は初めての幽世の世界に、深青の瞳をキラキラと輝かせて。
「わぁわぁぴかぴかまぶし! ずっとずっと、な、の?」
 強烈な光が侵食し、極彩色の人鳥が飛び交う景色は、他では中々見られない。
 さつまのふさふさ尻尾も楽しそうに揺れる中、コノハは飛び交う極彩色に視線を映し、唇を小さく湿らせる。
「このままだとネ。まあでもアレがオブリビオンだってンなら、喰らうだけダケド」
 仲間の健闘もあり、戦場には姿を取り戻した妖怪たちも、見受けられて。
 その様子を見る限り「少々乱暴な方法」で人鳥を倒したとしても、元の妖怪たちには然程影響はなさそうに見える、が。
「コノちゃん、食べちゃうの?」
「狩らなきゃ、妖怪ちゃん達も救えないンでしょ?」
「こんなに眩しいと、夜も、ぐっすり、寝れない、ね…それは、たいへん!!」
 少しだけ心配そうに首を傾げたさつまに、コノハの口元も自然と緩んで。
 さつまの狐耳がぺちょり垂れたのも一瞬。すぐにぱあっと瞳が輝き、瞬く間に戦場の旋風になる。
 それを見届けるように、コノハは磨かれた鉱石の刃を閃かせる。そして、戸惑うことなく刃を腕に当て、一気に肌を裂いた。
「おいで」
 赤い筋を描き、零れ落ちる血肉から生まれ落ちるのは、変幻自在の影狐。
 迫り来る極彩色に狙いを定め、影たちは軽やかに戦場を疾駆し、飛び掛かる。
 眩しいまでの閃光の中。
 美しく躍動する影狐の麻痺を帯びた牙が、鋭利な爪が、人鳥たちの白磁色の肌に喰い込み、極彩色の翼を裂いていく。
 その光景を真っ直ぐ見つめるコノハの横顔。そして、紫雲に染めた一房がきらりと返す光に、さつまの青色の眼差しが奪われたのも一瞬。影に促されるような速さで距離を詰め、さつまはしなやかに眩い大地を駆け抜けた。
「広がれ」
 もう一度、視線だけをちらりコノハに動かし、すぐに前を見据える。
 軸足に体重を乗せて大きく身を捻る。少し遅れて弧を描く尻尾から黒雷がパチパチと生じ、一迅の鋭さを持って放たれた闇色の雷は、さつまを取り囲む人鳥たちを瞬く間に焦がしていく。
「傷があれば、眠気も跳ねのけやすいデショ」
 傷の痛みで眠りを跳ね除けたコノハも、すぐに撃ち漏らした敵を追従する。
 赤い筋が鮮明に残る傷跡も、痛みも、全て眠気覚ましに丁度良い。予め予測した敵の軌道に狙いを定め、再び影狐をけしかけたようとした、その時だった。
 戦いの中。自分を常に凝視する視線に抗えず、思わず振り向いてしまったのは――。
「……うん! コノの方が! 綺麗!!!」
 コノハの視界に入ったのは(何となく予想していた通りの)相方の満面の笑顔♪
 何だかとっても嬉しそうに、満足気にドヤ顔を決めておりますけれど、どうします?
「……ってナニ見てんの、しっかり働く!」
 ――戦わざるもの、喰らうべからずッ!!
 脊髄反射の如く腕に力を込め、コノハはさつまの首根っこをむんずと掴む。
 そして。そのままごく自然な流れで、当て損ねた敵目掛けて全力投球したああああ!?
「わぁ~い!」
 予想外の全力投狸。特に理由のない暴力が――と書きたいところですが、さつまは高い高いをして貰うよな気持ちで、大人しく楽しそうに宙に身を任せていて。
 コノハの狙い通り(?)に人鳥たちが多く固まっていた一群に放り込まれたさつまは、鋭く宙でくるりと1回転。
 その刹那。人鳥たちが繰り出した蹴りを僅かに身体を逸らして避けると、滑らせるように数多の炎を宙に奔らせる。
「焼き尽くせ」
 溢れ出した愛らしい仔狐形の蒼炎たちが、勢い良く白夜を駆け抜けていく。
 じゃれつくように人鳥たちを焦がす炎を追うように、極小の黒き狸――否、狐火が押し寄せ、最後に白き雷が大きく爆ぜた。
「空中戦も! 得意! なんだから!」
 そのまま空中浮遊で体勢を整えたさつまは、力強く身を捻る。
 ふわり揺れる尻尾から放たれた闇色の雷は、狐火を耐えた人鳥たちを焼き尽くし、気づけば世界を蝕む眩い光も、少しづつ薄れてきているように見えて。
「こっちこっち」
 ぷかぷかと浮かぶさつまを追うように、人鳥たちもまた激しく、美しく宙を舞う。
 頬を目掛けて走る手刀を蛮刀で受け止め、さつまは相手の動きを見、素早く後方に跳び退く。
 同時に。淡く虹色を映す絹のショールを鋭く靡かせ、コノハが前に躍り出た。
「そうそう、よくできマシタ」
 労うような柔らかな笑みを浮かべ、コノハは相方が誘き寄せた敵へ瞬時に肉薄する。
 ――氷泪。右目に深く刻まれたシルシが雷を纏った瞬間、網目状に紫電が奔る。
 張り巡らせた雷を通してコノハの全身の細胞が活性化し、身体に、四肢に、力がみなぎってくる。
 薄氷の目の奥に少しだけ貪欲さを滲ませ、戦場を見据えたコノハは薄らと微笑む。
「まだまだ食べ応えありそうネ」

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

七瀬・麗治(サポート)
沈着冷静な、黒スーツのUDCエージェント。
多重人格者で、闇人格「ロード」は好戦的で尊大な性格です。
一人称はオレ(私)、二人称はあんた、おたく(貴様)
体育会系のスポーツマンで、肉や魚料理を好んでよく食べます。
結構動物好きで、特に柴犬を好みます。硬派に見えて、
恋バナが大好きです。
麗治は調査や情報収集、ロードは戦闘中心という具合に、
シナリオの内容に応じて自由に人格を使い分けてください。

集団戦では『寄生融合兵器』『暗黒騎士団』など多数を相手取るUCを使用します。『オルタナティブダブル』による連携攻撃も得意です。

特にサポートの必要が無ければ、流してください。



●閃光に煌く黒剣
「脆弱な筋肉だな」
 薄れゆく極彩色の空を見上げ、七瀬・麗治(ロード・ベルセルク・f12192)は、愛用のシルバーフレームの眼鏡を掛け直す。
 闘争心が沸き起こるよりも先に、迦陵頻伽の体型が気になってしまうのは、脳筋――否、現役医学部の大学生の性なのだろうか。
 けれど、それも一瞬。急かすように脳裏にとても覚えのある声が響くと、有無を言わさず麗治の身体の主導権を奪い取った。
「御託を並べるのは後だ、さっさと奴らを蹴散らすぞ」
 仲間の奮闘もあり、まさしく飛ぶ鳥を落とす勢いで、人鳥たちは倒されている。
 このまま静観を決めるのは、好戦的な別人格――ロードにとって、許されないものがあったのだろう……。
「このまま一気に押し切る……!」
 麗治から入れ替わったロードは、未だ飛び交う極彩色を射抜くように、双眸を細めて。
 そして。抑えきれぬ闘争心と敵愾心をぶつけるように、眩い空に向けてロケットランチャーを構えた。
「総員突撃。尽く叩き潰せ」
 瞬間。ロードのロケットランチャーが火を吹くと同時に、周囲に甲冑で武装した騎兵型UDCが宙に展開される。
 ――その数、75体。
 甲冑で武装した騎兵型UDCは、主人の戦意を昂らせた敵影をすぐに捉えると、ロケットランチャーの対空砲火に合わせて、疲労を濃くした人鳥たちを、撃ち落としていく。
 それを視界に留めたロードは、鋭く黒剣を閃かせる。
 そして。地上へ激突する前に辛うじて態勢を整えようとした人鳥に狙いを定め、滑るように前方へと躍り出た。
 敵が気付く前に更に加速。一迅の鋭さを持って人鳥の間合いに滑り込んだロードは、低い態勢のまま刃を見舞う。
「仕上げだ」
 すれ違いざまに剣を一閃。
 軸足を変えて振り抜くように薙ぎ払えば、傍らに迫る、もう一体の胴体を両断する。
 呪われた黒剣の軌跡が閃光の中を何度も駆け巡り、幾つもの極彩色を散らして。
 視界を染める全ての凶鳥が消えるまで、ロートは刃を閃かせ、戦場を駆け抜ける――。

成功 🔵​🔵​🔴​

ヴィクトル・サリヴァン
うわっ眩し。
毎度毎度世界がヤバイって大変だね。
でもま、何とかできるなら解決しないと。
まずは鳥退治からだね、頑張ろー。

シャチ仕様のサングラスと厚手の布準備。
元々日除け目的だし少しは視界もマシになるかな。
輪郭さえ分かれば動きも分かる、効果薄ければ最悪布を目隠しのように巻いて光和らげよう。
移動の時は風の精霊の力を借り周囲の障害物等を探り移動補助に。
囀る声、空を舞う影が近づいてきたらUC発動。
氷属性と竜巻合成して氷の竜巻で鳥達を拘束、妖怪を解放するようにオブリビオンだけ倒すよう威力を調節する。
妖怪達には不安にさせないようもうちょっとで解決してくるから待っててね、と優しく対応する。

※アドリブ絡み等お任せ



●氷疾風、縛を解き、偽りの太陽現る
「うわっ眩し、毎度毎度世界がヤバイって大変だね」
 空を仰ぎ、ゆるり穏やかに言葉を紡いだ、ヴィクトル・サリヴァン(星見の術士・f06661)は、サングラスの奥のつぶらな瞳を静かに細めて。
「でもま、何とかできるなら解決しないと」
 まずは、眼前の凶鳥退治。
 幽世を蝕む閃光は少しだけ和らぎ、天を舞う極彩色も、百を切ろうとしている。
 このまま一気に押し切れば、災厄を起こした元凶を引き摺り出すことができるだろう。
 ――だが、しかし。
「ちょっと状況が良くないかもね」
 これまで一面を占めていた敵影は点となり、眩い光に溶け込んでしまっていて。
 視界対策をしていない味方の命中率が大きく減少している中、ヴィクトルは厚手の布を手に取る。
「元々日除け目的だし、これで少しは視界もマシになるかな」
 姿はおぼろげでも、輪郭さえ分かれば、動きは掴めるから。
 布を目隠しのように巻いたヴィクトルが再び瞳を開くと、視界はほとんど遮られてしまっていたものの、迦陵頻伽がもたらす唄声だけは、鮮明に聞こえてきて。
 ――これなら狙える。
 確信を得たヴィクトルは小さく頷き、頑丈で重量のある三又銛を手に、詠唱を紡ぐ。
 足元から吹き上がる風の加護に背中を押され、ヴィクトルは鋭く閃光の底を蹴った。
「ここかな」
 思考は一瞬。身に纏う風がぶつかる場所に足場を感じたヴィクトルは、とんっと跳躍。
 足元――岩場の感触を確かめるように強く蹴って身体を宙に委ねると、耳に入る唄声も、羽ばたきの音も、より大きくなってくる。
 囀る声。それは心を強く震わせる、魔性の唄。
 けれど、ヴィクトルは臆することなく、むしろ唄に惹かれるように、三又銛を振う。
「もうちょっとで解決してくるから待っててね」
 優しく、流れるように振るわれた矛先から解き放たれたのは、氷の竜巻。
 それは瞬く間もなく大きなうねりとなり、轟と大きく空気を振動させながら、人鳥たちをとらえていく。
 ヴィクトルは妖怪たちを傷付ないよう威力を弱めていたけれど、既に満身創痍の凶鳥たちに終わりを告げるには、十分だった。
 凍てついたまま相次いで落下。乾いた音を立てて地面に四散した残骸からは、次々と妖怪たちが姿を見せていて。
 ヴィクトルが小さく安堵を溢したのも、一瞬。
 宙から、味方から、只ならぬ空気を感じると、頭部を覆っていた厚手の布を取り払う。
 そして。真っ直ぐ天を仰ぐ。

 閃光が薄らいだ白夜にぽつりと浮かぶのは、禍々しい炎球と少女。
 白夜に元凶――偽りの太陽が顕現したのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第2章 ボス戦 『口寄せの篝火』

POW   :    甘美な夢現
【対象が魅力的と感じる声で囁く言霊】が命中した対象に対し、高威力高命中の【対象の精神と肉体を浸食する炎】を放つ。初撃を外すと次も当たらない。
SPD   :    怨嗟の輩
【吐き出した妖怪の亡霊】で対象を攻撃する。攻撃力、命中率、攻撃回数のどれを重視するか選べる。
WIZ   :    蠱惑の怨火
レベル×1個の【口や目】の形をした【魅了効果と狂気属性】の炎を放つ。全て個別に操作でき、複数合体で強化でき、延焼分も含めて任意に消せる。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主はシエル・マリアージュです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●白夜を照らす篝火
 閃光を舞う迦陵頻伽が消えて和らいだ光の天蓋に、篝火がぽつりと灯る。
 白光に浮かぶ赤色の焔。それは、少女の妖怪を形取ったような、オブリビオン。
 少女の顔が一瞬だけ歪み、哀しそうに唇を震わせる。
 ――助けて。村に帰りたい、と。 

 か細く紡がれた言の葉は、まるで温かな篝火のよう……。
 甘美にも似たそれを耳にするだけで、ふらりと引き寄せられてしまいそうになる。
 けれど、それが罠であることは、この戦場に降り立った者たちには、一目瞭然だった。
「本体は、少女の後方にある球体だろうな」
 心惹きつけられる炎の後ろにあるのは、無数の口と目が蠢く、不気味な球体。
 幾つもの視線が獲物を求めるように忙しなく動き、猟兵たちへと注がれていて。
 そう、妖怪の少女は、囮。
 無闇に近づけば、この赤い塊の怨嗟と怨火の格好の的になるのは、実に明白。
 骸魂に取り込まれた少女もまた、このオブリビオンを倒さない限り、切り離すことは出来ないだろう。
 そして、懸念点はもう1つ。
「あのオブリビオン、女の子を盾に使ってきそうだね」
 取り込んだ妖怪を囮にしているくらいだ、盾代わりにするのは容易に想像できる。
 ――妖怪の少女に構わず、集中砲火を見舞うか。
 ――何らかの工夫をして、オブリビオンだけに狙いを定めて攻撃をするか。
 未だ眩しい閃光の中、猟兵たちは武器を取り、鋭く地を蹴る。
 少女を解放し、この幽世(カクリヨ)に、再び夜を取り戻すために。
 
 ※マスターより
 プレイングボーナス:眩しい戦場で攻撃を正確に当てる工夫

 少女に攻撃が当たっても支障はありませんが、その方針のプレイングが多く占めた場合、オブリビオンの動きが激しくなるため、苦戦判定が生じやすくなります。
 オブリビオンは少女を盾にしながら動き回りますので、部位破壊を狙う場合は『眩しい戦場で攻撃を正確に当てる工夫』が必要になるでしょう。

 可能であれば、猟兵さんが魅力的と感じる言葉や情景を明記して頂けますと、より雰囲気あるリプレイになるかと思います。
 2章からの助っ人的な参戦も大歓迎です、どうぞよろしくお願いいたします。
ユリウス・リウィウス
ふん、何とも気に食わん相手だな。
まずは視界の確保か。サバイバルゴーグル『荒野の千里眼』を遮光モードにして装着。ついでに「恐怖を与える」死霊の霧で濃霧を生み出して、光を弱めよう。
俺は、「視力」「暗視」で、霧の中を見通す。

狙うはオブリビオン。「呪詛」を込めた悪意の怨霊をまとわりつかせて、その場から動けないようにしてやろう。

オブリビオンの言霊か。悪いが、死霊の霧が漏らす怨嗟の声の方が強いようだな。まるで届かんぞ。

死霊の霧で実体のない人影を生み出してそれに紛れながら、オブリビオンに近づき、双剣で「なぎ払い」「傷口をえぐる」。
最後は「生命力吸収」「精神攻撃」の双剣撃でとどめを刺してやろう。
少女は無事か?


林・水鏡
うむ…少々不安じゃが【天候操作】で雲を呼んでみるか…うまく呼べれば眩しさも少しくらいはマシじゃろう。
さて今度は饕餮に力を借りるかの。
UC【骸合体「饕餮」】
饕餮は何でも食う怪物じゃ吐きだ妖怪すら喰ってしまおうぞ。

少女の方には幽世蝶を飛ばしてそちらの注意を引くようにしばし待てと【慰め】を。

霊力使い切ってしもたら寝てしまうから気を付けんとの。噂のあやかしメダルは我も実は気になっとるんじゃ!そんな時に寝とる場合ではないからの!



●怨火穿つは濃霧と貪欲の獣
「ふん、何とも気に食わん相手だな」
 閃光の中を泳ぐ篝火を鋭く見据え、ユリウス・リウィウス(剣の墓標・f00045)は、頑丈な黒色ゴーグルの奥底の双眸を細めて。
 ゴーグルを遮光モードにした瞬間、刺すような光が和らぎ、視界で動き回っていた燃える赤色が、ぼんやりと少女の形に彩られていく。
 ――否。本体のオブリビオンが少女を囮にし、猟兵たちの注意を惹きつけようとしていると言うのが、正解なのだろう。
 その光景を然りと瞳に捉え、ユリウスは腰の左右の黒剣に指を滑らし、詠唱を紡ぐ。
「苦しみのうちに斃れた死霊達よ。その怨念をもって憎き命をとり殺せ」
 重く、低く響くユリウスの言の葉に導かれて空間に染み出すのは、恐怖を与える濃霧。
 ――死霊の霧。
 虐殺された死者の怨念を孕む冷たき霧が怨嗟の篝火に剥けられたのと、ほぼ同時。
 囚われの妖怪に一瞬だけ憂いを向けた林・水鏡(少女白澤・f27963)もまた、赤色の大きな瞳で爛々と輝く篝火を見据えた。
「うむ……少々不安じゃが、我も天候操作で雲を呼んでみるか…」
 濃霧に覆われて、光がおぼろげに揺らめく空を、水鏡は仰ぎ見る。
 そして。流れるような所作でゆるり天叢雲剣を掲げると、雷雲を呼ぶ名に相応しい雨雲が空に滲み、死霊の霧と折り重なるようにして、光の天蓋を覆い隠していく。
 水鏡が呼んだ雨雲により、閃光の世界は更に闇色を濃くする。
 いち早く薄闇に視界が慣れたユリウスが、先陣を切って駆け出した。
 ――狙うは、本体のオブリビオン。
 ユリウスの意を受けた濃霧は呪詛を込めた数多の悪意の怨霊と化し、飛び回る篝火に執拗に纏わりつき、しがみつく。
 けれど、オブリビオン――口寄せの篝火も攻撃の手は緩めず、低く唸る。
 無数の瞳がギョロリ蠢く。視線がユリウスに剥けられると同時に、少女の唇が震えた。
「オブリビオンの言霊か」
 ――苦しい、痛い、ここから出して。
 悲痛と甘美が折り重なった言霊は、ユリウスの五感ごと精神を揺さぶり、焦がそうとして。
 助けを願う声に惹かれるものはないと言えば、嘘になる。
 しかし、ユリウスは怯まず、実体なき無数の影に紛れながら、更に半歩踏み込んだ。
「悪いが、死霊の霧が漏らす怨嗟の声の方が強いようだな」
 拮抗する力。篝火が放つ精神と肉体を浸食する炎と、怨嗟の霧が衝突する。
 前線で戦う青年を後押しするように、雨雲を呼び終えた水鏡も、軽やかに地を蹴った。
「さて、今度は何でも喰らう怪物にしてみるかの」
 思考は一瞬。宙に躍動した水鏡の姿が、瞬く間に面妖で屈強な怪物に変貌する。
 その身体は牛か羊のよう。東洋神話における凶獣と恐れられ、魔を喰らうとも呼ばれる大妖怪は嬰児のような鳴き声を上げ、力強い四肢で鋭く宙を蹴り上げて。
「不服じゃろうが力を借りるぞ」
 ――骸合体、饕餮(トウテツ)
 骸魂「饕餮」と合体して一時的にオブリビオン化した水鏡は、その名の通り、貪り求め、強いて奪うが如く、宙を疾走する。
 嘲笑いながら篝火が吐き出した亡霊を、水鏡は喰らうように牙を突き立てて相殺。
 僅かに生まれた一瞬の隙を逃さず、一迅の鋭さを持って篝火の懐に滑り込んだユリウスは、低い態勢のまま二振りの刃を閃かせた。
 まずは一振り。
 その軌跡を追い掛けるように振われた二振り目は、篝火本体の傷口を抉るようになぞり、貪欲に生命力を屠る。
 確かな手応えを得たユリウスは追撃を与えるべく軸足を変え、もう一度剣撃を奔らせようとした、その時だった。
「むっ」
 半歩後退した口寄せの篝火の間に割って入ろうとしたのは、囚われた妖怪の少女。
 意のままに操られた少女が盾替わりになろうとした瞬間、少女の耳元に淡く光る蝶がひらりと舞い、注意を引くように「暫し待て」と宥めるように囁いた。
 微かに聞こえたその声は――共に戦う、水鏡のものだった。
「霊力使い切ってしもたら寝てしまうから気を付けんとの、噂のあやかしメダルは我も実は気になっとるんじゃ!」
 そう言い捨てながらも、水鏡は幾つもの幽世蝶を囚われた少女に優しく手向けて。
 骸合体は強力な技。そして、毎秒自身の霊力を消費してしまう、諸刃の剣でもある。
 可能な限り消耗を抑えたいと願う水鏡の声を受け、ユリウスは渾身の力を乗せて斬り込んだ。
 一閃。
 そのまま速度を乗せ、鋭く弧を描くように、二撃目の黒剣を横に振り払う。
「少女は無事か?」
 すれ違いざまに、ちらり少女の方を見やると、深く傷が入ったのは篝火だけ……。
 黒剣に生命力を貪られたオブリビオンの動きも、何処か鈍っているように見える。
「増援も続々と来ておるの、深追いは避けて後退しようぞ」
 先陣の役目は、十二分に果たした。
 背中に幾つもの味方の気配を感じたユリウスと水鏡は、入れ替わるように後方へ下がり、態勢を整えるのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ルネ・ロッサ(サポート)
 ダークセイヴァーの歴史ある街を故郷に持つ自由人。色々なジャンルの本を読むのが好き。好きな食べ物は甘味全般。戦闘では前衛に立って剣戟を交わすのが得意なアタッカー。

 ユーベルコードは指定した物をどれでも使用し、多少の怪我は厭わず積極的に行動します。他の猟兵に迷惑をかける行為はしません。また、例え依頼の成功のためでも、公序良俗に反する行動はしません。
 あとはおまかせ。よろしくおねがいします!



●連鎖する呪いと剣戟
「次の相手は私です!」
 先陣を担った猟兵たちと入れ違うように、最前線に躍り出たルネ・ロッサ(自由に生きているダンピールの黒騎士・f27104)は、闇の呪詛が籠められた外套を、閃光の中ひらりと翻して。
 雷雲に覆われた空に高らかと掲げるのは、銛とも錨にも見える大剣。
 ルネは浮遊する篝火に狙いを定めると、刃を閃かせて閃光の宙を駆け抜けた。
(「あの不気味な塊が本体ですね」)
 一瞬だけ、敵を射抜くように、金色の双眸を細める。
 少女の形をした炎は無傷だったけれど、後方でケタケタと嘲笑う炎の塊には不自然と思えるほど、目新しい傷が幾つも残っていて……。
 それは、先の猟兵たちが付けたものに、他ならない。
 自身のユーベルコードとの相性も考えると、やるべきことは一つ――!
「このまま本体を追撃します!」
 流れるような動きで素早く距離を詰めたルネは、更に半歩踏み込んで肉薄し、零距離から鋭い剣風を叩き込む。
 突き、身体を捻り、薙ぎ、斬り返す。
 対する口寄せの篝火も自身が狙われているのを察したのか、ひらりひらりと身を躱しながら、本体から無数の赤を解き放つ。
「――っ!」
 幾つもの燃え盛る炎が轟々と唸りをあげて、ルネを襲う。
 全てを避けきれず、その一つが赤茶色の髪の端を焦がし、二つめが右肩を、三つめが左腕を焼いていく。
 魅了と狂気が織りなす赤が弾ける。相手の身からも、この体からも。
 もはやそれが、自分からなのか相手からなのか判然としない中、ルネは恐れず更に前進すると、球体から伸びる触手のようなものを、ざんと斬り捨てた。
「呪われてしまいなさい!」
 ルネが鋭く奔らせた傷口から瞬く間に噴き出すのは、連鎖する呪い。
 決して癒えること無き傷跡から侵食する呪いに惹かれるように、雷雲から生じた雷が篝火目掛けて、閃光を奔らせる。
 乱れ狂う呪いの嵐。その中を掻い潜るように、ルネは力強く疾走する。
 ――一閃。
 身を屈めて深く斬り込んだルネは、そのまま刃を一気に横に奔らせる。
 それは、再び鋭く斬り裂く剣戟へと変貌し、味方への追い風に変わるのだった。

成功 🔵​🔵​🔴​

火狸・さつま
コノf03130と

おみみぴこぴこ
おうち、帰ろ、ね!だいじょぶ!待ってて!

キッ!と後方の敵見据え
コノが!いちばん!まばゆい!!
その程度の光で!俺の目は!くらまない!!!(ふんす!)
自信満々に言い放ち『環境耐性』で順応
もぅなれた!
ぴんっと『聞き耳』立て
敵の動き『見切り』
全力魔法【燐火】範囲攻撃
盾にしてきたってお構いなし
だて、コノが護ってる
それに…
俺の炎は!俺の攻撃したいものしか、燃やさない!
炎の仔獣大群嗾けて
数撃ちゃ当たる作戦…に見せ掛け全てが『誘導弾』
数多の炎に紛れ少女躱し本体狙う炎に
仲間や少女に向う『オーラ防御』纏わせた護る炎

コノの声の方が魅力的に感じるし!
似せたって聞き間違えたりも、しない!


コノハ・ライゼ
たぬちゃん(f03797)と

はっ
その手を選んだコト、たっぷり後悔させたげる

武器を解き【天片】解放、濃灰の曇天色の花弁で空を覆い
敵の光と己らの姿を隠すわ

その隙に跳躍し*空中戦へ
花影に紛れ少女へ攻撃すると見せかけその頭をしっかりと抱こう
*オーラ防御展開し攻撃や流れ弾から*かばい、攻撃に見える炎も見せないわ
子は傷付けない――そーゆー家訓なの

怖いでしょう、でももう少しの辛抱ヨ

同様に紛れさせたたぬちゃんの攻撃の後追い
花弁に「氷泪」の雷纏わせた*だまし討ちの追撃
しっかり*傷口抉って*生命力吸収しときましょ

ああ、二重の防御の前には目や口ナンて滑稽でしかナイね
狂気なら身の内だし……アタシの方が魅力的デショ?



●狙い爆ぜる炎と薄氷と
 ――帰りたい、村に。お家に。
 その声は少女自身なのか。それとも、口寄せの篝火の悪足搔きだろうか……。
 けれど、それに答えるモノはなく、ただ鋭く舌打つ音だけが、戦場に洩れ落ちた。
「はっ、その手を選んだコト、たっぷり後悔させたげる」
 コノハ・ライゼ(空々・f03130)は空に浮かぶ敵影を鋭く見据えたまま、磨かれた鉱石の貌の一対のナイフを手元で閃かせて、短く告げる。
「彩りを、」
 同時に。艶めく銀の刀身も、染まらぬ燻銀の魔鍵も、柘榴を冠する刃と共に無数の風蝶草の花びらに姿を変え、濃灰の曇天色の花吹雪となりて、空を覆っていく。
(「わあ、綺麗」)
 降り注ぐ花びらが光の天蓋を、そして、コノハの姿も同時に隠していく中。
 火狸・さつま(タヌキツネ・f03797)は視線と、ぴんと立てた狐耳を、囚われた少女がいると思われる方向に、ぴこぴこ向けていて。
「おうち、帰ろ、ね! だいじょぶ! 待ってて!」
 そう優しく告げるも一瞬。さつまは只でさえ鋭利な双眸をさらに細め、少女の後方で不気味に揺らめく球体を、射抜くように見据える。
 球体――オブリビオンの本体に多く刻まれた傷跡は、味方が少女を避けながら戦っている証でもある。
 ならば、自分たちもやるべきことも、只一つ。
「たぬちゃん、準備はいい?」
「俺は、だいじょうぶ。だって――」
 振り返らず、敵影を瞳に捉えたまま、コノハが軽やかに疾駆する。
 宙を蹴り、瞬く間に風となったコノハの背を追うさつまの瞳からは、先ほどの鋭さが消えて、今はとってもキラキラと輝いていて?
「コノが! いちばん! まばゆい!!」
 ――その程度の光で、自分の眼は眩まない!
 先の猟兵たちが戦場に展開した薄闇も未だ健在、眩い世界に視界が慣れてきたさつまはふんす!と鼻息荒くしてドヤ顔を決めると、鋭く地を蹴る。
「それに、もぅなれた!」
 閃光が薄まった世界。口寄せの篝火はさらに禍々しく輝いていて。
 篝火は、相変わらず物を扱うように少女をポンっと向けてくる。それに少女が異を唱えることはなく、愛らしい唇は怯えるように震え、言霊を招く。
 囁くように溢れた声色は、とても聞き覚えがあるモノだった。

 ――たぬちゃん。

 それは、優しくて心地良い声色で……。
 けれど、さつまの背筋をざわつかせたのも一瞬、鋭く聞き耳をぴんと立てたさつまは、迷わず前進する。
「コノの声の方が魅力的に感じるし! 似せたって聞き間違えたりも、しない!」
 所詮、あれはコノハの声を真似た紛いモノ。
 自分の知っている声は、こんな悲しい響きじゃない。あれは、全く違うモノだ……!
「ちょいと遊ぼうか」
 肉体を浸食する炎を紙一重で避けたさつまは唇を強く結び、素早く魔力を紡ぎあげると、くるりと身を捻る。
 その瞬間。愛らしい仔狐の形を成した狐火の大群が弾むように跳躍、曇天色の花びらごと、少女ごと、全てを巻き込むように炎を纏わせ、駆け抜ける。
 迎え撃つ本体も再び少女を盾にするものの、さつまは怯まず、さらに魔力を導く詠唱を高めて。
 ――大丈夫、少女を盾にされても構わない。
 さつまが視線だけを横に動かすと、視界の端に映るのは、炎と花影に紛れながら距離を詰めていくコノハ。その艶やかな唇は笑っていた。
「子は傷付けない――そーゆー家訓なの」
 そのまま攻撃すると見せ掛けて、コノハはトンっと跳躍。少女の頭をしっかりと抱く。
「怖いでしょう、でももう少しの辛抱ヨ」
 ――敵と味方の攻撃や流れ弾から庇うように。そして、迫る炎を見せないように。
 少女を護るべく、コノハが身を纏うオーラをさらに高めた時だった。少女の閉じていた瞳から涙が溢れ、始めて大きく瞬いたのは。
(「動きが鈍っている?」)
 コノハがちらり見回すと、迫り来る無数の怨火の動きが明らかに鈍足になっていて。
 同時に。その好機を逃さず、さつまがしなやかに動き、狐火が軽やかに疾駆する。
(「大丈夫、コノが護ってる」)
 ――それに。
 胸の内に小さな安堵を溢しながら、さつまは青色の眼差しを力強く篝火に向けて。
「俺の炎は! 俺の攻撃したいものしか、燃やさない!」
 闇雲に打っているように見せ掛けて、実は全てが誘導弾!
 思うがままに操れる炎は少女を避け、弧を描くように、本体へ吸い込まれていく。
 さつまの炎を避けようとした篝火が後方に跳躍しようとした刹那、背面に一際大きな衝撃が爆ぜた。
 護りから攻勢に転じた、コノハだった。
「二重の防御の前には、目や口ナンて滑稽でしかナイね」
 降り注ぐ数多の炎の中。
 怨火を恐れず、滑り込むように肉薄したコノハに、本体に浮かぶ無数の目と口が大きく見開く。
「アタシの方が魅力的デショ?」
 狂気なら既に身の内にある。
 コノハの右目に深く刻まれたシルシから溢れたうすいうすいアオが、戦場に舞う花びらに雷を纏わせて。
 そして。一斉に放たれた雷撃は篝火の背を焼き焦がし、火花が次々と爆ぜる。
 無数の雷で然りと傷口を抉っていくコノハの涼しげな横顔を、さつまが眩しそうに瞳を細めたのも一瞬。
 狙い爆ぜる炎は再び狐火を手繰り寄せ、薄氷と共に怨火を追い詰めていく――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

駒鳥・了
雰囲気はなんかこーゴメン(先に謝るスタイル

でもってコイツひきょー過ぎてムカつくから気合入れてしばく!

ゴーグルを遮光モードで装着!
女の子を囮にされないよーにUCで姿を隠して忍び足で接近&位置をゲットしたら
ナイフの蝶を大量に乱れ撃ち!
位置を特定される前に一旦跳んで後退
追撃で炎が来るようなら第六感で逃げとこーって
避けらんなかったら属性攻撃の水で消す!
場所バレるし熱ッ!

ゴメン、もーちょいがんばってねって
再度踏み込む前に女の子の傍でささやいとく
女の子が顔を向けたらもっかい跳んで後退
反対側から突撃しよっかー
つかこのUC疲れんよ!
切り込みかけて刃で斬れる距離まで来たら解除!
渾身で塊をがっつりなぎ払ってやる!


菱川・彌三八
如何にかするったってよ…
大浪で戦場ごと覆っちまうくれえしかもう策なんざねえ
分厚い水は影も作るが、夫れとて何時までも保ちやしねえ
…が、構わねえ
互いの距離を縛り、刹那でも何処に居るか分かれば良い
そら、見えた後ろの不気味な目玉共の姿形を確と目に焼き付け
覆った波の一部を崩して滝が如くぶつける
童が心配かい?まァ見てな

俺もすっかり忘れていたが、この波には只押し流すだけに留まらねえ
「何を攻撃するか」、俺の意思ひとつってェこった
童を盾に取ろうが関係ねえ
お前ェを見たと云ったろう

こんな奴から聞きてえ声がする前に、先の様に轟音でかき消してやら
序でに炎から童を守れりゃ大出来だな



●大浪に奔るの刃
「コイツひきょー過ぎてムカつくから気合入れてしばく!」
 戦いも佳境を迎えているのだろう、眼前の篝火の動きは鈍い。
 あともう一押し。ゴーグルを遮光モードにかえて装着した、駒鳥・了(I, said the Rook・f17343)――アキは、手の中に収めたバタフライナイフをくるりと回転、素早く逆手に持ち替える。
「もういいかい、まーだだよ」
 まるで、隠れんぼでも楽しむようにアキが声を響かせると、その姿と装備がまるで閃光の中に溶けるように、すっと消えていく。
 それを見届けた菱川・彌三八(彌栄・f12195)は双眸を細め、宙を仰ぐ。
「大浪で戦場ごと覆っちまうくれえしか、もう策なんざねえな」
 この世界を侵食していた光の天蓋は、今や呪いと雷雲が覆い、曇天色の花びら舞う中、幾つもの刃と炎が煌めいている。
 けれど、それらは全てユーベルコードが生み出した産物。
 大きな波が作った影も一瞬で姿を消してしまうのとほぼ同じ、何時消えてしまってもおかしくないと言えるもの。
「…が、構わねえ」
 何処か溜息混じりに吐きながらも、彌三八の口元は僅かに弧を描いていて。
 絵を嗜みながらも、猟兵として、多くの戦いを経験してきた彌三八は、知っている。
 僅かな一瞬。それが、好機にも危機にもなることを。互いの距離を縛り、一瞬でも刹那でも、敵が何処に居るか分かれば、それは大きなチャンスになることも――。
「海は苔の露より滴りて、波濤を畳む万水たり」
 絵筆を取った彌三八は、先程よりも大きな動作で、宙に波を描いていく。
 躍動感ある軌跡は水飛沫を上げ、折り重なりながら大波となり、ぐんと天に伸びた水は壁となり、影を生む。
 薄闇に覆われた世界に、大きな大きな影が差す。
 その刹那。遠くからでもはっきりとわかる禍々しく輝く炎を瞳に捉え、彌三八はニヤリと口元を緩ませた。
「そら、見えた」
 最初は盾代わりに向けられた少女に。そして、すぐにその後ろで不気味に揺れる球体を然りと焼き付けるように見据えた彌三八は、高らかと筆を掲げて。
 炎に少女が焼かれている様子は見られない。
 それでも、少女を悪しき炎から守れたら僥倖と思いながら、彌三八は腕を振り下ろした。
「たんと喰らいな」
 戦場を覆う波の一部がドッと崩れ、滝のように勢い良く落下する奔流が、篝火に激しく激突する!
 遠くからでも伝わってくる、熱、衝撃。
 発生した水蒸気が戦場を覆う中、姿を隠しながら忍び足で本体に接近していたアキが、胸ぐらを掴む勢いで飛んできたああああ???
「ちょっとオレちゃん、女の子を囮にされないよーに接近しているんですけどー!」
「童が心配かい? まァ見てな」
 アキの剣幕を前に彌三八は顔色1つ変えず、視線だけで口寄せの篝火を指す。
 喉元まで出掛けた「波の効果はすっかり忘れていた」というのは、ぐっと飲み込んで見せたのは、彼の胸の内だけにしておいて。
「この波には只押し流すだけに留まらねえ、「何を攻撃するか」、俺の意思ひとつってェこった」
 他に人質を取ろうが問題ない。
 しっかり敵を目視出来さえすればいいと彌三八が視線を戻すと、既にアキの姿はなく。
「ありがとー、それ採用!」
 叩きつける波と水蒸気を隠れ蓑にして一気に距離を詰めたアキは、低い態勢のまま高速の刃を見舞う。
 まずは一閃。軸足に体重を乗せてもう一刃。軽やかに踊る鋼の蝶を幾つも奔らせる。
 乱れ来る刃と蝶。
 奇襲を受けた本体の目がギョロリと動くや否や、アキは即座に後方に跳んで姿を消す。
 空切る音。火花が双方の間で爆ぜる。
 飛び交う怨火をアキは僅かに身を逸らして躱し、二撃目は紙一重で避けながら相手の動きを見、素早く跳び退く、が。
「うわ、熱ッ!」
 三つ目は避けきれないと察したアキがナイフに水の加護を奔らせた刹那、戦場を再び滝のような豪流が押し寄せた。
 ――波濤(ハトウ)。
 浮世絵師であり猟兵である彌三八が渾身の力で描いた、大浪だった。
「こんな奴から聞きてえ声がする前に、全て轟音でかき消してやら」
 彌三八が鋭く見据える先にあるのは、自分に向けて甘美な夢現に誘う言霊を紡ごうとしている、囚われの少女。
 それに促されるような迅速さで再び距離を詰めたアキは、弾くように少女の側に回り込むと、耳元で明るく囁いた。
「ゴメン、もーちょいがんばってね」
 少女の動きが一瞬だけ止まり、僅かにアキの方へ顔が向けられて。
 閉じられた瞳の端に残る涙に、アキの唇が一瞬震えるものの、すぐにぎゅっと口元を結び、少女と反対側――本体へ回り込むように跳躍する。
「つかこのユーベルコード疲れんよ!」
 激昂の気合いと共にユーベルコード――hide & seek(カクレンボ)を解除したアキは、渾身の力でナイフを横に滑らせる。
 刃は狙い通りに届く。そして、寄せて返す波の如く、素早く腕を振り抜いて。
 光と水と刃揺らめく世界。
 鋼色の軌跡が深く、鋭く、蝶のように煌めき、三度目の大浪が叩きつけるように篝火を呑み込んでいく――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

雨谷・境
やっぱりめちゃくちゃ眩しいっすね
下手に動くよりどっしり構えた方が良さそうっす

バス停を構えて敵の攻撃を待つっすよ
聞こえてくるのは他の妖怪達の声
猟兵の仕事なんてしないで遊んでいようって誘ってくるような
……確かに俺は勢いで猟兵になったっす
遊んで暮らせるならそっちの方が楽しいような

……でも、さっき聞こえたんすよ
あの女の子の「助けて、帰りたい」って声が
それを無視なんか出来ないっす!

言霊を投げ掛けられる方向を意識しそちらの方へ
敵が向かってくるならそれが一番だけど、無理なら声を頼りにいくしかない
【捨て身の一撃】になっても構わないっす
声の方角にバス停をぶん回す!
この技なら悪いもの、つまり球体だけを狙えるっす!



●流影一閃
「やっぱり、めちゃくちゃ眩しいっすね」
 先陣を切った猟兵たちが展開した呪いや雲、花びらや大浪が戦場を覆い、口寄せの篝火の輝きも乏しくなる中、雨谷・境(境目停留所の怪・f28129)は、赤い双眸をさらに鋭くして。
 猟兵たちの息継ぐ間もない猛攻を受けた篝火の動きは、鈍っている。
 もはや、満身創痍。ならば、自分がやるべきことは、ただ一つ。
「ここは下手に動くより、どっしり構えた方が良さそうっす」
 腰を深く落とし、ボロボロのバス停を構える境の視界に入るのは、疲労困憊の怨火。
 不意に絡み合う視線。
 それが徐々に大きくなるにつれて、耳に聞こえてくるのは、幾つもの声だった。

 ――猟兵なんてやめて、みんなで遊んで暮らそうよ。
 ――そうそう、他の人がなんとかしてくれるし、お兄さんは休んでもいいのよ?
 ――猟兵なんて、辛いキツイ汚いな「3危」だろ? そんなことにアンタが命を張り続ける価値は、あるのかい?

(「これは、妖怪たちの声?」)
 と、境が思ったのは一瞬だけ。
 すぐに、囚われた妖怪以外は助けていることを思い出した境は、首を横に振る。
 束の間の夢。甘美な偽りの現実。――そう、戦いはまだ終わってはいない。
「……確かに、俺は勢いで猟兵になったっす」
 遊んで暮らせるなら、そっちの方が楽しいし、きっと楽なんだと思う。
 一拍置いて瞼を落とした境は、すぐにカッと見開いた。
「……でも、さっき聞こえたんすよ」
 口寄せの篝火に囚われた少女の「助けて、帰りたい」という声が、聞こえたから。
 助けを呼ぶ声が、聞こえてしまったのだから――!
「それを無視なんか出来ないっす!」
 境は、敢えて言霊がはっきり聞こえた方角に軸足を動かし、空を仰ぐ。
 敵影は瞳に捉えた。相手も差し違えるつもりで、真正面から切り込んでくる――!
「上等っす!」
 流影二つ並ぶ、この瞬間。
 捨て身の一撃になっても構わない。境は更に深く踏み込み、バス停を叩き込む。
「切り祓え」
 妖力を籠めた境の渾身のフルスイングは、オブリビオンが盾にした少女を素通りし、不気味に動めく球体だけを屠らんと、深くめり込んでいく。
 確かな手応えを感じた境は、そのまま深く押し込み――一気に横に奔らせた。
「この技なら悪いもの、つまり球体だけを狙えるっす!」
 境が繰り出したユーベルコードが喰らうのは、悪しきものだけ。
 少女を傷つけず、球体を両断した技の名を、――断ち浄め(タチキヨメ)、という。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第3章 日常 『あやかしメダル職人』

POW   :    討伐した敵をモデルにあやかしメダルを作ってもらう

SPD   :    職人に習って、オリジナルのあやかしメダルを自作する

WIZ   :    自分や同行者をモデルにあやかしメダルを作ってもらう

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●あやかしメダル職人の村――カナヤコ村へ
 口寄せの篝火が消え、夜が失われた幽世に星空が広がっていく。
 白光から闇に覆われていく世界。辺りに響くのは不安ではなく、大きな歓声だった。
「嗚呼、夜が戻ってきたよ!」
「良かった……自分、狼男だから、一生変身できなくなるんじゃ……って」
「なあ、あんたらが俺たちを助けてくれたのか? 本当にありがとう!」
 あちこちから助けられた妖怪たちの声が、わぁと上がる中、篝火が消えた場所にぽつりと少女の姿が浮き上がる。
 一息ついて姿勢を正した少女は「鬼灯(ホオズキ)と申します」と名乗り、猟兵たちに深く頭を下げた。
「この度は、この幽世と私たちをお救いくださり、誠にありがとうございます」
 少し疲れは見えるものの、元気そうな鬼灯に数人の猟兵が安堵を漏らす。
 何処か安らぎすら感じる、満天の星空の下。
 周囲の妖怪たちもまた、幽世を救った猟兵をどう歓迎しようかと、盛り上がっていて。
「村長さん、どうせならアタシたち『あやかしメダル職人の村』で歓迎しましょうよ!」
「ぼ、僕も、賛成、です……!」
「うおおおおおおお、天狗妖怪の腕が、なりまくるぜ!!」
 その村は、ここから少し南下した場所にあり、住人のほとんどがあやかしメダルを作る職人と、あやかしメダルを求めるコレクターだと言う。
 鬼灯が「あちらです」と示した方角を見ると、小さくも温かな光が灯っていて。
 同じように視線を留めた妖怪たちも、「村のみんなも夜が戻ったことに、喜んでいるようだ」と、満面の笑みを返してくれた。
「そういえば妖怪たち、鬼灯さんを村長さんって……」
「はい、私は村の工房と炉を管理している妖怪です。今回の事件はその力を利用されてしまった、と言ってもいいでしょう」
 申し訳なさそうに瞼を伏せたのも一瞬、すぐに瞳を瞬かせた鬼灯は「私からも是非!」と、微笑んで。
「よぉし、ここはアタシが案内するわ!」
「硯のツクモガミのお婆さ……お姉さんは、もう少し休んだ方が……」
「あ” そこの狼男、なんか言った?」
「い、いえ……」
「ああ、じれってえな! どうせ帰る方向は同じだ、皆で道案内すればいいじゃん!」
 わあわあと盛り上がる妖怪たちに背を押されるようにして、猟兵たちはあやかしメダル職人たちの村へ向かう。
 辿り着いたのは、昭和レトロ風味で、どこか懐かしさを覚える村の風景で……。
 違うのは、住居に点在するように炉を構えた工房がいくつも建ち並んでいること。古今東西の妖怪たちが和気藹々と、メダルを作っているところだろうか。
 ふと、ぐるりと周囲を見回す。
 雰囲気ある家々の縁側では、コレクターの妖怪たちがメダル交換に話を弾ませており、猟兵たちに気づくや否や、皆瞳をキラキラと輝かせて。
 いずれも「世界を救った猟兵たちと話したいがしたい!」と、興味津々な様子。
 外の世界の話をしたり、珍しいモノを渡したら、御礼に妖怪本人が描かれたメダルや、珍しいメダルと交換してくれるかもしれない。
「「「ようこそ『カナヤコ村』へ」」」 
 世にも摩訶不思議な、あやかしメダル職人たちの村。
 さてさて、貴方はどうやって過ごす?

●マスターより:プレイング受付【7月17日(金)9:00〜7月20日(月)23:00】まで
 大変お待たせしました、世界でただ1つのあやかしメダルを作りましょう!
 カナヤコ村でできることは『あやかしメダルを作る』『妖怪と交流してメダルを貰う』のどちらかになります。
 あれもこれもと……プレイングを割くより、やりたいこと1つに絞る方が、密度があるリプレイになると思います!
(導入文に登場している妖怪たちとの交流も可能です)

※カナヤコ村流あやかしメダルの作り方
 1)あやかしシールに絵を描きます。絵が苦手な方は職人さんに頼んでもOK!
   古今東西の妖怪職人がおりますので、お好みの妖怪さんをご指名ください。
 2)好きな素材(金銀銅の他、木や石など色々あります)のメダルにあやかしシールをペタっと貼り付けます。
 3)炉に入れます(フレーバーとして書物や宝石、食べ物を一緒に入れても大丈夫とのこと)。
   火が衰えないように団扇などで3分ほど風を送り、完成!

※妖怪と交流してメダルを貰う場合
 古今東西の妖怪さんがおりますので、お好みの妖怪さんをご指名くださいー。
 基本、救世主である皆さまのお声掛けを断る妖怪さんはおらず、皆さん快諾してくれると思います。

※その他
 作ったメダルのアイテム化などはご自由にどうぞ!
 グリモア猟兵のユーゴ・メルフィード(わしは妖怪ではありませんのじゃー)も、お誘いがありましたら、ウキウキと同行いたします。
林・水鏡
ほうほう、妖怪メダルには職人がおるんじゃな。
うーむ…そこの一本ただらの職人!
おぬし実にいい目をしておるな我のメダルを作ってくれんかの?

まずは絵か…上手いとは言い難いかもしれんが何事も挑戦じゃ。我の姿を描いてみるぞ。

素材は銀がよいかのう。と言うか銀色の方が金や銅より好きなだけじゃからアルミとかでもいいんじゃが。せっかくじゃし銀にしとくか。

フレーバー…そうじゃなぁこの赤瑪瑙なんかどうじゃ?我の目の色ににとるじゃろ?

おー出来たか!これが私…我のメダルじゃな!
ふふっ、興味があったから嬉しいもんじゃな。



●白銀と赤瑠璃の写し身
「ほうほう、ここにはいろんな妖怪職人がおるんじゃな」
 にっこり……否、悠々と瞳を細め、里の大路を歩いていた林・水鏡(少女白澤・f27963)の足取りは、弾むように軽々としていて。
 カランコロンと鳴らした足元と、好奇心いっぱいの眼差しが留まったのは、如何にも重厚で年季が入った、あやかしメダル職人の工房の前。
 水鏡は戸口に触れると、躊躇うことなく勢いよく、ばーんと扉を開けた。
「たのもー!」
 飛ぶように踏み入れた水鏡に多くの職人が目を丸くするものの、その中でも落ち着いた様子の妖怪職人が、ニヤリと笑みを返す。
「ほう、話には聞いていたが、あんたが俺たちを助けてくれた猟兵(イェーガー)の1人だな。改めて礼を述べさせてくれ」
 落ち着いた妖怪の名は、一本だたら。
 東洋に伝わる妖怪の一種で、目は一つ、足も1本という奇妙な姿をしているけれど、鍛冶に精通しているとも言われている、妖怪だ。
 そのことは東方の妖怪である水鏡はよく知っているのだろう。自信満々にコクリ頷くと、一本だたらの皿のような大きな一つ目を真っ直ぐ見つめ、堂々と告げる。
「うーむ…そこの一本だたらの職人、やはりおぬし実にいい目をしておるな! 我のメダルを作ってくれんかの?」
「ああ、問題ない。ぜひ俺に作らせてくれ」
 水鏡の頼みに一本だたらは「願っても無い好機だ」と力強く返し、工房の隅にある作業台へ案内する。
 作業台の周りは整えられており、水鏡が椅子に腰掛けると、一本だたらは机の上に厚めの和紙を広げ、続いて硯と筆を静かに置く。
「まずは、この和紙にメダルに刻みたい絵を描いてくれ。描くのが苦手だったら、俺が手伝おう」
「大丈夫じゃ…我は上手いとは言い難いかもしれんが、何事も挑戦じゃ!」
 迷わず筆を取った水鏡に、一本だたらは「大したものだ」と瞳を細め、炉の方へ。
 程なく炉が温まった頃。
 水鏡が「できたのじゃ!」と声を響かせ、思わず振り向いた一本だたらに絵が描かれた和紙を、ばーんと広げて見せて。
「我の姿を描いてみたのだが、どうじゃろう?」
「うむ、気合が入った良い絵だな、次はメダルとなる素材を選んでくれ」
 一本だたらが示した丈夫な木材で出来た棚には、金銀銅や木、大理石などなど、古今東西の様々な素材で作られたメダルが丁寧に並べられている。
「幽世を救った猟兵なら、どの素材も選び放題だ。遠慮なく好きなのを使ってくれ」
「ほう、アルミもあるんじゃな」
 柔らかい白光の輝きに水鏡は眩しそうに瞳を瞬き、一瞬だけ瞼を軽く落とす。
 金や銅より銀色の方が好きだから、アルミでも構わないけれど……。
「よし!」
 伏せた瞼をゆっくり見開いた水鏡は、銀で作られたメダルをそっと手に取った。
 見た目よりもずしっとした重みがある。純銀という証だった。
「せっかくじゃし、銀にしとくか」
「おう、銀は魔除けにもなるからな。いい選択だと俺も思う」
 ニカっと笑った一本だたらは水鏡から和紙と銀のメダルを受け取ると、和紙の裏をベリベリっとめくりっていき!?
「その和紙は、シールじゃったのだな」
「そうそう、この和紙もとい「アヤカシール」をメダルを貼り合わせて、あとは炉に入れるだけなんだが、他に一緒に入れたいものはあるかい?」
 基本はこれで十分!
 けれど、人によっては縁起ものや思い出の品を一緒に入れることも多いとか。
「よくあるのは、妖力を増幅するものや、メダルのワンポイントにしたい宝石とかだな」
「……そうじゃなぁ、この赤瑪瑙なんかどうじゃ? 我の目の色ににとるじゃろ?」
 先程の素材が置かれた棚に視線を戻した水鏡は、炎色の赤瑪瑙に触れる。
 燃えるような赤色は、工房の炉の炎よりも赤く、色濃く、力強く輝いていて。
 水鏡の瞳と赤瑪瑙を交互に見た一本だたらは「いい選択だ」と、顔をしわくちゃにして笑って見せて。
「銀一つだけだと渋みが出るが、その赤瑪瑙が華となり、彩りを添えてくれるだろう。あんたの名前は?」
「林・水鏡じゃ」
「良い名だな。俺の名は猪笹(いのささ)という。このメダルもきっと水のように澄み、鏡のように磨かれた美しい銀色になりそうだ」
 さてさて、水鏡のお眼鏡にかなうメダルは、できるのか。
 3分後。炉から取り出したメダルの熱を取った猪笹は、丁寧に布で磨いていく。
 その様子を好奇心いっぱいで見守っていた水鏡の眼差しが、差し出された銀色の前に大きく見開いた。
「おー出来たか! これが私…我のメダルじゃな!」
 美しく磨かれた銀盤には、くっきりと水鏡の姿が浮かんでいる。
 その瞳には大きな赤瑪瑙が埋め込まれ、周囲にも赤が小さく散りばめられていて。
「良いものを作らせてもらった、俺からも礼を言う」
 顔をほころばせて笑う猪笹に、水鏡を口元を緩め、きらり輝く白銀をそっと胸元に引き寄せるのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

雨谷・境
あやかしメダル作るっす!
しっかしどういうのがいいっすかねー
そう考えて思いついた案を職人さんにお話するっす

作ってもらうのは鬼灯をモデルにしたものを
出来るならあの子からも許可を貰いたいっすけど、難しいならそれはそれで
なんつーか……友達になりたいんすよ!
きっかけはあんまりよくないけど、せっかく知り合えたんだから!
だから俺のメダルも作って鬼灯に渡せるならしておきたいっす
友達の証っす!

職人さんがメダルを作ってるところも見学していきたいっす
絵も得意じゃないからおまかせするっす
色々眺めてるのは楽しいっす

出来上がったメダルを見ればウキウキしてくる
唯一無二、オンリーワンのメダルっす!
大切にするっす!



●弾む心と友情の証
「しっかしどういうのがいいっすかねー」
 夜を色濃くした、あやかしメダル職人の里を歩く、雨谷・境(境目停留所の怪・f28129)の双眸から鋭さは消え、さてさてどうしたものかと首を捻る。
 まずは、意中のメダルを作れる工房を、探さないと……。
 境の視線がぐるり周囲を見回す中、ひょっとこのお面を付けた子供の妖怪が「どうしたんだい?」と、近づいてきた。
「オイラの名はひょうとく。この辺は庭みたいなもんだ、なんでも聞いてくれよ」
「あやかしメダルを作る工房を探しているっす、思いついた案があるっすけど、職人さんにもぜひ聞いて欲しいっす!」
「ふむふむ、ある時は竈(かまど)を司り富をもたらす妖怪! そして、その正体は――あやかしメダル職人のオイラが相談に乗るよ!」
 ――さてさて、どんなのが作りたいんだい?
 ドンッと胸を張るひょうとくに、境も願っても無いと、豪快に笑い返して。
 境曰く。作ってもらいたいメダルは、先の事件で最後に救出した里の村長でもある、鬼灯(ほおずき)をモデルにしたもの。
 可能であれば、本人にも許可を貰いたいと真摯に口元を結ぶのも一瞬、境は顔をほころばせて笑った。
「なんつーか……友達になりたいんすよ!」
 出会った切っ掛けは最悪な状況だったけれど、せっかく知り合えたのだから。
 そう告げた境は、さらに笑みを深めて。
「だから、俺のメダルも作って鬼灯に渡せるなら、しておきたいっす」
「なるほど、友情の橋渡しってことか! よし、近くにオイラの持ち場があるから、一緒にきてくれよ!」
「ありがたいっす! 職人さんがメダルを作ってるところも見学したいっす!」
「嬉しいねえ、穴があくまでみてってよ!」

 ひょうとくが案内した工房に足を踏み入れると、まず視界に入るのは竃形の炉。
 朱色の光が土床を広く照らす様は、まるで昭和初期の台所のよう。そして、何処か懐かしいような、温かさのようなものも感じられて……。
「オイラにお任せでいいんだね?」
「絵は得意じゃないし、色々眺めるのも楽しいっす」
 作業台に座ったひょうとくが顔を上げると、好奇心溢れた境の赤い瞳は、最初に様々な素材のメダルが置かれている棚に留まり、すぐに炉で赤々と弾ける炎に移り、目まぐるしく宙を飛び回っている。
 その横顔を、ひょうとくはじーっと見つめたまま、少しだけ熱を帯びた声で言った。
「キミの名前を教えて欲しいな」
「雨谷・境っす」
「ふむふむ、境目であり道標……境さんのメダルは、その手のバス停にリスペクトしてみよう」
 ひょうとくは和紙の上下にさっと赤い墨を走らせると、中央の白に境の横顔を大きく描き、その下に「雨谷」と、文字を添える。
 そして、素材が置かれた棚に駆け寄ると、迷わず鉄のメダルを手にとった。
「この和紙は裏側がシールになってるんだ。これをメダルを貼り付けたら大方完成ってところかな。……そうしたら、お次は村長さんのメダルだね!」
 不意に、ひょうとくのお面の奥底が、妖しくキラーンと光る。
 そのまま炉の方へ振り向き「村長さーん!」と呼ぶと、炉が一瞬だけ強く、大きく輝いて――!?
「ひょうとくさん、どうかしましたか?」
 ドロン、と現れたのは、なんとあやかしメダルの里の村長こと、鬼灯である。
「村長さんは、この村の全ての炉を管理している妖怪だから、炉を通して呼べるんだ」
 ひょうとくはケラケラ笑いながら何も書かれていない和紙と夕焼け色の銅のメダルを、2人にひらりと見せる。
「あのねあのね、境さんが村長さんをモデルに、1枚作りたいんだって!」
「俺からもお願いしたいっす!」
 180度に近い角度で頭を下げた境に鬼灯は瞳を瞬き、けれど、すぐに微笑んで。
「ありがとうございます、身が引き締まる思いです」
 喜んで快諾した鬼灯は、敢えて境のメダルと対になる方向を向く。
 その様子に、ひょうとくは「村長さんわかってるね!」と嬉しそうに筆と言葉をささっと走らせ、描き上がった和紙を丁寧にメダルに貼り付けると、炉に並べていく。
 炉に鎮座する2つのメダルを見据えたまま、ひょんとくは「他に一緒に入れたいものはある?」と、境に呼び掛けた。
「そうっすね、せっかくだし鬼灯の意見も聞きたいっす!」
「では、私の髪飾りを……あ、鬼灯の花言葉はアレですが、これは実なので!」
 わたわたと両手を振りながらも、鬼灯は赤い実を模した髪飾りを外すと、2つのメダルに橋をかけるように、そっと乗せる。 
 境が斬り開く路先の、厄除けと無病息災を祈り、願いながら――。
 3分後。炉から取り出された2つのメダルに境は好奇心を抑えきれず、鬼灯も食い入るように、キラキラと眼を輝かせて。
 対のメダルはどちらも傷1つなく、まるで鏡のような光沢を放っている。
 上下の赤はほんのりと鬼灯の色を彷彿させ、布で丁寧に磨かれた2つを受け取った境は、鉄のメダルを鬼灯へ差し出した。
「これ、友達の証っす!」
 その輝きは、唯一無二の、オンリーワン!
 弾む心と炎の加護を受けたメダルは、2人の友情を示すように、未だ温かみを残していて。
「……ありがとうございます、私からも是非に!」
 満面の笑みで微笑む鬼灯に、境も笑って、頷いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

菱川・彌三八
此の地の職人技見られるなんざ願ったりサ
俺ァ水を扱う紺屋の出だからよ、釜ァあるが炉なんてなァちいと珍しいな
手順は其処迄難解でもなさそうだ
絵も描くみてえだしな
俺の領分サ、任せな

だが…何を描くかが問題だ
我こそは!てェ特技のある奴ァいるかい?
一点に長けた奴なら、俺や味方に恩恵の有る物になるだろうし、
姿を隠す奴なんかァ物を調べんのに持ってこいだろ、
先みてえに夜がなきゃ…って奴なら地に貼り付けて辺りを夜にする事だって出来るだろうよ
そら、何だって描くぜ
…なんて云ったら関係ねえのも来ちまいそうだが、まァいいか
貼り付けンなァ銅にしとく

へェ、此奴ァ好いな
すりゃ、何枚も持ちてえ気持ちもよく分かる
亦世話ンなろうかね



●浮世絵師と赤銅色の追い風
 夜がふけても、あやかしメダル職人の里「カナヤコ村」の賑わいの声は絶えず、菱川・彌三八(彌栄・f12195)もまた、村に点在する工房の1つに足を踏み入れる。
 土床は目まぐるしく動く職人たちによって然りと踏み固められており、工房の中央に赤々と輝く大きな炉は、まるで火山のよう。
 水を扱う紺屋の出の彌三八にとって、釜はあっても炉がある光景は珍しく、出迎えた妖怪職人の説明を聞きながらも、視線だけはあちらこちらへ飛び回っていて。
「珍しいかい?」
「ああ、此の地の職人技が見られるなんざ願ったりサ」
 クスッと小さく笑みを返した妖怪職人は、怜悧な瞳が印象的な、硯のツクモガミの女。
 見た目は、自分と同じ年頃だろうか。
 けれど、その所作から其れ以上の年月が感じられたのは胸の内に秘め、彼女から一通りの説明を聞き終えた彌三八は、茶色の瞳を細めて軽く答えた。
「手順は其処迄難解でもなさそうだな、むしろ俺の領分サ、任せな」
 特に、和紙に絵を描くのは、浮世絵師の十八番とも言えるもの。
 懐から自前の筆を取る彌三八の仕草に、周りの妖怪職人たちも思わず息を飲み、硯のツクモガミ――桐花(きりか)もまた、笑みを深めて視線だけを注ぐ。
 静寂が浸透する中、赤々とした炉の炎だけが、パチパチと音を立てる。
 ふと、彌三八の手がぴたりと止まる。鋭く顔を上げると、挑むように周囲を見回した。
「我こそは! てェ特技のある奴ァいるかい?」
 妖怪たちの視線が気になったのではなく、「何を描くか」が一番の問題だったから。
 ――一点に長けた妖怪なら、自身や味方に恩恵の有る物になるだろう。
 ――姿をドロンと隠すのが得意な妖怪なら、物を調べるのにも役に立つはず。
「先みてえに夜がなきゃ…って奴なら地に貼り付けて、辺りを夜にする事だって出来るだろうよ、そら、何だって描くぜ」
 ――さあさあ、このしがいない絵描きに描いて欲しいものはいるかい?
 彌三八がニヤリ口元を緩めたのと、棒のようなお手手がひょこっと上がったのは同時。
 けれど、そのお手手の主は……。
「おおおお、わしは料理が得意なのですじゃ! ぜひぜひ描いてくださいなのですじゃー」
「おめぇは、妖怪じゃねえだろ」
 両手を高らかにふりふりしていた、ユーゴ・メルフィード(シャーマンズゴースト・コック・f12064)は、誰が見てもシャーマンズゴーストであーる。
 それでも満更でもなさそうに笑い返す彌三八に、ユーゴも空気を呼んで「お粗末さまですじゃー」と、くるくる回りながらフェードアウトしようとした、その時だった。
 不意に突風が巻き起こり、壮年の大妖怪が、ふわりと舞い降り立ったのは――。
「天候を自由自在に操る、大天狗は如何かな?」
 ――天狗。
 古く東洋に伝わる伝説の生き物で、その手の団扇で風を巻き起こして天候を操り、古代中国では月食も天狗の仕業だと言われることもあったという。
 そんな大妖怪が、なぜここに?
「我は狗彦(イヌヒコ)という。汝が先の戦いで大浪を起こした猟兵であろう……名は何という」
「菱川・彌三八。ただの売れねェ絵描きだよ」
 山伏の姿をした狗彦は人の形に近いものの、鼻は高く、背負うのは頑健な鳥の翼。
 天狗族の中でも強い神通力を有すると言う大天狗は威風堂々であり、けれど其の双眸は、穏やかに彌三八を見据えていて。
「単刀直入に申す。汝のあやかしメダルに我を記して貰いたい。あの大浪を駆使する汝なら、我の力を存分に扱うことができよう」
「へェ、何ができる?」
「この羽団扇1つで、飛行、縮地、分身、変身、風雨、火炎、人心、姿隠し、何でも自由自在じゃ」
「……多いな、もう少し絞ることはできねェのかい?」
 というか多すぎる。
 むしろ、チート級なのではと目を細める彌三八に、狗彦も「其れが大天狗だ」と言うように、悠然と事構えるだけでして。
「無論問題ない。汝の采配に任せよう」
「それなら、まァいいか」
 ――1つに絞るのも良し、複数の内の何か1つが発動するのも良し!
 細かいところは丸投げされてしまったものの、自分の腕を見込んでくれた大妖怪の期待に応えるべく、彌三八は筆を疾らせる。
 天候を自在に操り、天駆ける大天狗。筆跡も雑破で躍動感を残すくらいが丁度いい。
「貼り付けンなァ銅にしとくか」
 流れるように描きあげた大天狗の絵を、彌三八は素早く銅のメダルに貼り付ける。
 そして、仕上げを硯のツクモガミである桐花に託すと、彌三八は銀色の煙管に刻み葉を詰め、火を点して軽く吸い込む。
 仄かに柑橘の香りが漂うと同時に、メダルの錬成で炉の炎もさらに輝きを増して。
 一拍置いて。心地良い音を立てて灰皿に灰を落とした彌三八は、ゆるりと煙を宙にくゆらせた。
「いい感じにできたよ、さあご覧あれ!」
 あっという間に3分が過ぎ、磨きも完了したのだろう。
 風のようなカラッとした笑みを浮かべる桐花に、狗彦も少しだけ熱のある声で「良いものが仕上がったようだ」と、目を細めて。
「へェ、此奴ァ好いな」
 どれどれとメダルを手にした彌三八の目の奥にも、黄昏に似た色が光る。
 未だ炎の温もりが残る其れを手の中で軽く転がすと、何枚も集めようとする収集家の気持ちも良くわかるものだ。
「亦世話ンなろうかね」
 刻まれた銅色(アカガネイロ)の照りには、一点のにごりも無く。
 顔を上げてニカリと笑う彌三八に、狗彦も「存分に使ってくれ」と、赤胴色の顔にシワを寄せて破顔した。

大成功 🔵​🔵​🔵​

三上・桧
猫又の火車さんを連れて現地入り

ここがあやかしメダルを作れる工房ですか
火車さんのメダル作ってもらいましょうよ
『……まさか、妾をメダルに封じるのではあるまいな?』
そんなわけないでしょう
純粋にメダルが欲しいだけです
格好いいじゃないですか、あやかしメダル
『それはそれで、若いおなごとしてどうなのじゃ』
ほら、早く行きましょう

まずは火車さんの絵を描けばいいんですね
もふもふに描いて差し上げましょう
素材はどうしましょうか
『高級感がある方が良い』
金色とかですか?
持っている猫じゃらしを一つ、一緒に炉に入れてみましょう
どんなメダルができるでしょうか。楽しみですね



●少年の心と気高きシャンパンゴールド
「ここが、あやかしメダルを作れる工房ですか」
 もっふもっふの毛並みの猫又――火車さんを連れて、あやかしメダル職人の里に足を踏み入れた三上・桧(虫捕り王子・f19736)は、出迎えた妖怪職人に挨拶を済ませると、早速話を切り出した。
「火車さんのメダルを作って貰いたいのです」
「なるほど、そちらのお嬢さんのことだな。工房にあるものは好きに使ってくれ」
 桧の応対相手となった妖怪職人――一本だたらの猪笹(いのささ)は、皿のような1つ目で火車さんを見据えると、穏やかに細めて。
 一本だたらは東洋に伝わる妖怪の一種で、目は1つ、足が1本という姿でありながらも、鍛冶や錬成に精通している妖怪でもある。
 逆に、その淡々とした職人気質に一株の不安を覚えた火車さんは、桧に憮然とした眼差しを向けた。
『……まさか、妾をメダルに封じるのではあるまいな?』
「そんなわけないでしょう、純粋にメダルが欲しいだけです」
『本当に本当か?』
「格好いいじゃないですか、あやかしメダル」
 桧は工房の片隅にある、無数のメダルの素材が置かれている棚へ、視線を動かす。
 和紙と貼り合わせるのを、今か今かと待ちわびるメダルたちは一点の曇りも無く、そこに在るだけで収集欲が駆られる、そんな妖しさすら醸し出している、が……。
『それはそれで、若いおなごとしてどうなのじゃ』
 既に、虫マニアの少年の心を持つ桧の将来を思い、火車さんはさらに目を細めていく。
 そんな2人のやり取りが面白かったのか、猪笹は初めて声を立てて、笑った。
「メダル好きに老若男女は関係ない、騙されたと思って1つ作ってみてくれ」
「そうですね、ほら、早く行きましょう」
 嬉しそうに笑う猪笹とは反対に、桧は終始ポーカーフェイスのまま……。
 けれど、その足取りは軽く、火車さんも色々あきらめがついたのか、溜息だけを残して、2人の後を追い掛けた。

「まずは、この和紙に火車さんの絵を描けばいいんですね」
 工房の奥にある作業台に腰掛けた桧は、台に置かれた和紙をゆっくり観察する。
 和紙の裏はシールになっており、描き終えたら好きな素材のメダルに貼り合わせ、仕上げに炉に入れて錬成するという、手順のようだ。
『妾の気高さを然りと描くのじゃ』
 和紙から少し離れたところでは、モデルの火車さんが、ちょこんとお座りしている。
 桧は黙したままコクリ頷くと、迷わず筆を取り、すっと和紙に滑らせた。
「もふもふに描いて差し上げましょう」
 そう呟き、桧はマイペースに和紙の上に、筆先を走らせる。
 火車さんは、もはやあきらめの境地に達したのか、それ以上はノーコメントを貫き、背筋を真っ直ぐ伸ばして、モデルに徹していて。
 暫くして、絵が完成したのだろう。すっと作業台から離れた桧は、メダルの素材がずらりと並んだ棚の方へ、てくてくと歩いていく。
 棚に所狭しと並ぶのは、金銀銅、玉鋼だけではない。
 木材や大理石、宝石など古今東西の素材の全てが此処にある、そんな光景だった。
「火車さん、素材はどうしましょうか」
『高級感がある方が良い』
「それなら、金色とかですか?」
 少しだけ思案し、桧は落ち着いた色合いの、シャンパンゴールドのメダルを取る。
 金としては薄めだけど、落ち着きと気高さが同時に感じられる、そんな色味だった。
「いい目をしているな。その薄金は最近入荷したばかりの素材だが、宝石との相性がとても良く、高貴な色としても重宝されていると聞く」
 2人の邪魔をしないよう、猪笹は少し離れたところで、ウンチクを語りだす。
 火車さんもまんざらではなさそうで、桧は「これにしましょう」と決めると、猪笹に素材と和紙を手渡した。
「炉の準備も万全だ。他に一緒に入れたいものはあるかい?」
「これも一緒にお願いします」
 頷いた桧が、にゃんこ福袋から取り出したのは、猫じゃらし。
 猪笹の皿のような1つ目がぱちくりと大きく見開き、少し遅れて口元が緩んだ。
「なるほど、高貴さと遊び心の共演か……金色は扱う場所を選ぶ色だが、このメダルはそんな堅苦しさとは無縁の、良き御守りになりそうだな」
 少し饒舌になってしまったな、と謝る猪笹に、桧はふるりと首を左右に振る。
 それは、目の前の妖怪職人にとっても、如何なるものが出来るかワクワクしているという、裏返しだったから。
「どんなメダルができるでしょうか。楽しみですね」
 炉にメダルを収め、3分ほど経った頃。
 再び向き合った薄金のメダルは気高さと重みがあり、火車さんのもっふもっふの毛並みの1つ1つが、繊細に刻まれていて。
 そして。それをぐるりと囲むように猫じゃらしが優雅なアーチを描き、メダルに映り込んだ桧と火車さんの顔を、優しく包み込むように、輝いていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

コノハ・ライゼ
たぬちゃん(f03797)と

あやかし、かぁ
やけにテンション高いたぬちゃん横目に首ひねりつ
センセー、シャーマンズゴーストはあやかしに入りますかー、ナンて
ユーゴちゃん見つつ聞いてみたり
ね、獣系の絵が得意な職人サンはどちら?
オレ絵心無いからお願いしたいンだよネ

熱心に筆とる傍らで、職人サンに特徴を伝える
真っ黒で、ちっちゃくて細いケド毛並みがふかふかな狐なの
目に毛色と同じ黒い石を埋めたいンだけどイケるかしら?
ええそう、とても可愛いでしょう
オレの管なの

満足気に頷き隣見れば、これまた自信満々の笑み
ぇえ……センセー、妖孤はあやかしに入りますかー
思わずうんざりした顔を返すケド、まあ……悪くはないわネ


火狸・さつま
コノf03130と

わぁい!あやかし!メダル!作る作るー!
おりじなる!(おめめきらーん!)

あやかしメダル、妖怪さんが1体描かれた、メダル(ふんふん)
ね、ね、妖狐、も、妖怪さんの、一種…だよ、ね?
種族として分けられてはいるものの
あやかしには違いない、きっと!
そう自分の中で結論付ければ
いそいそ筆を執り
さらさらと迷い無く描くのは…妖狐と言う割には耳も尻尾もなし
妖艶…ではあるかもしれない
と、言うか……その姿…

出来たぁ!!!

わぁい!上出来!と筆をおけば
みてみてー!っと自信有り気に満面の笑み

コノちゃん!(えっへん!)

一応アートの心得は有ったらしく中々の出来!

コノは?何にした、の?
見して見してと周囲うろちょろ



●妖狐とシャーマンズゴーストは、あやかしに入りますか?
「わぁい! あやかし! メダル! 作る作るー! おりじなる!」
 突然、工房に響き渡った、火狸・さつま(タヌキツネ・f03797)の元気いっぱいの声に、作業をしていた妖怪職人たちの視線が、一斉に戸口へと集まる。
 戸口に立つのは、3人の猟兵。
 早々に工房に飛び込んださつまを始め、コノハ・ライゼ(空々・f03130)と、道中で合流した、ユーゴ・メルフィード(シャーマンズゴースト・コック・f12064)の3人だ。
「1人だけテンションがやたら高くて、ごめんなさいネ」
 やけにハイテンションなさつまを横目に、コノハはどうしたのかしらと首を小さく捻りつつ、工房の土床に足を下ろす。
 先の戦いで見せた険はとうに失せ、今はこの時間を楽しむように薄氷の視線を巡らせると、中肉中背の妖怪職人の柔和な目と合った。
「猟兵の皆様ですね、お初に目に掛かります。私はこの工房を任されている竜神のワダツミと申します。……さて、どのようなメダルをご所望でしょうか?」
 本心から優しげに微笑むワダツミに、コノハもへらり軽めの笑みを返す。
「ね、獣系の絵が得意な職人サンはどちら? オレ絵心無いからお願いしたいンだよネ」
「ああ、それなら1人おります。少々人見知りの気がございますが、大変腕が立つ職人でございますよ。……さあ、アレックス、此方へ」
 ワダツミと入れ替わるように、恐る恐る3人の前に出たのは、西洋妖怪の少年。
 年頃は10代くらい。耳と尻尾だけが狼で、あとは人間と変わらない。変化の度合いは、さつまと同じくらいといっても、いいだろう。
「こ、こんにちわ、僕は西洋妖怪のアレックス……狼男です。僕たちの姿が見える人はとても珍しいので、みんなびっくりしてますが、ゆっくりしていってくださいね」
 よくよく見回すと、この工房の妖怪職人は東洋と西洋の妖怪が半々で、工房の作りも昭和レトロというよりも、西洋モダンに寄せられていて。
 他の工房と同じなのは、炉の作りと温かな炎の色、そして、もう1つ――。
「メ、メダルの作り方も、一緒です。……あ、質問とかありましたら、遠慮な――」
「アレックスセンセー、シャーマンズゴーストはあやかしに入りますかー」
「ああああ、先生なんて、とんでもない、です!! ……す、すみません、取り乱しました、シ、シャーマンズゴーストは、たぶん、あやかしに入らないと、思います」
「そう、残念ネ」
 コノハがちらり横に視線を投げると、何故か「なんじゃ、と!」と、無駄に劇画調で驚くユーゴの姿が!
 どうやら、変に純粋無垢なところがあるらしく、少しだけ期待してしまったらしい。
「あ、メダルに描くのは、妖怪でなくても、大丈夫、です」
「わーい、良かったのじゃ! せっかくなのでわしを書いてもらうのじゃ!」
 ――捨てるアレックスあれば、拾うアレックスあり?
 一転して喜びの小躍りを始めたユーゴは捨て置き、職人たちの言葉にふんふんと頷いていたさつまの狐耳が、ぴんと伸びる。
「あやかしメダル、妖怪さんが1体描かれた、メダル……あっ!」
 ふさふさ尻尾が左右に大きく揺れたのも一瞬、さつまはアレックスの幼い瞳を真っ直ぐ見つめると、恐る恐る口を開いた。
「ね、ね、妖狐、も、妖怪さんの、一種…だよ、ね?」
 ――種族として分けられてはいるものの、あやかしには違いない、多分!
 期待いっぱいのさつまの眼差しを受け、アレックスも閉じた唇を懸命に動かす。
「は、はい! 妖怪にも妖狐は、います。仙と呼ばれる方々には、中々お目にかかれませんが、そうでない者なら、この里でも探せば見つかる、はずです!」
「やったぁ!!!」
 アレックスの二つ返事に、さつまは両手を上げて、ぴょんぴょんと飛び跳ねて。
 そうと決まればやるべきことは只1つ、ぴゅーんと駆けたさつまは作業台に勢い良く腰掛けると、いそいそと筆を手に取る。
 ユーゴもワダツミに教えてもらいながら、自分の姿を描くことにしたようだ。
「二人とも大丈夫そうネ」
 ふわり口元を緩めたのも一瞬、隣の作業台に座ったコノハは熱心に筆をとる傍らで、アレックスに然りと特徴を伝えるのも、忘れない。
 向かい側に座ったアレックスも丁寧に一礼したあと、ゆっくり言葉を継いだ。
「先程、獣系の絵と聞こえました、が……」
「ええ、真っ黒で、ちっちゃくて細いケド、毛並みがふかふかな狐なの」
「小さくて、細い狐……もしかして、管狐(クダギツネ)ですか?」
「話が早いわネ」
 工房責任者のワダツミが「大変腕が立つ職人」と言ったのは過言ではなく、職人としてのアレックスからは、先程の辿々しさは消え失せていて。
 コノハが特徴を伝えると、アレックスはその意図をさらに膨らませて、コノハが求めるものへと昇華させていく。
 その腕前にコノハは目を見張りながら、できれば……と、注文を1つ添えた。
「目に毛色と同じ黒い石を埋めたいンだけど、イケるかしら?」
「できます。炉に入れるときに、瞳にしたい石を一緒にいれるだけで大丈夫です……それと、もうすぐ描きあがりますが……この子、とても可愛いですね」
 感嘆の声を上げたアレックスは、描かれた管狐に見入ってしまった様子。
 きっと動物が好きなのだろう、その穏やかな空気を好むように、コノハも薄氷の目を細めて。
「ええそう、とても可愛いでしょう、オレの管なの」
 満足げに頷いたコノハが、隣を見ようとした、その時だった。
 ――出来たぁ!!!
 さつまの華やいだ元気な声が、工房いっぱいに響き渡ったのは。

「わぁい! 上出来!」
 さつまがとんっと筆を置くと、その隣で作業台と睨めっこしていたユーゴも手を止め、どれどれと、さつまの和紙を覗き見る、と。
「――こ、これは、素晴らしい!!」
 再び劇画調に染まる、マンゴーコックッ!!
 その只ならぬ劇画調を見たコノハが色々察してしまったのと、さつまがふんすと鼻を鳴らして、得意げな笑みで和紙をバーンと見せたのは、ほぼ同時ッ!
「みてみてー!」
 弾む心の赴くまま、さつまがさらさらと迷いなく和紙に描いたのは、妖艶ではあるけれど、妖狐と言うわりには耳もなく、尻尾もなく……けれど、その姿は知る者には、はっきり「妖狐」だとわかる、ある人物。其の名は――!
「コノちゃん!」
 ドヤ顔を決めたさつまの和紙に優美に描かれていたのは、紛れもなく、コノハ。
 当者比よりキラキラ度と美形度がマシマシになっていたものの、さつまにはアートの心得があったらしく、中々の出来栄えになっていたのが、何とも言えないものがありまして……。
「ぇえ……アレックスセンセー、妖孤はあやかしに入りますかー」
「ええと……」
 アレックスが戸惑う理由も、十二分に理解できる。
 だって、さつまが最初に訪ねたことを、そっくりそのまま、返すようなものであーる。
「とっても綺麗なのですじゃー! 完成したら、もっとキラキラなのですじゃー」
「ユーゴちゃん、さらりと恐ろしいコトを言うわネ」
 さつまのメダルを炉から取り出した瞬間は、本当にどうなることになるやら。
 ユーゴにも止めを刺された形となったコノハは、もはや肩を落とすしかなく……。
「まあ……悪くはないわネ」
 思わずうんざりした顔を返すものの、何処かまんざらでもなさそうなコノハの笑みに、さつまの顔が華開くように、ぱあっと輝いて。
「コノは? 何にした、の?」
 見して見してと、周りをうろちょろするさつまに、コノハは悪戯めいた笑みを返す。
 このままやられっぱなしで終わるというのも、釈然としないものがある。
「真っ黒で、ちっちゃくて細いケド、毛並みがふかふかなものヨ」

 炉から取り出したさつまのメダルにより、再びカオスが訪れたのは、また別のお話♪

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ヴィクトル・サリヴァン
一件落着、めでたしめでたし。
折角なんだし妖怪と交流してみようかな。
何とも変わったこの世界、どんな人ならぬ妖怪柄なのか気になるしねー。
…というか妖怪の範囲ってどこまでなんだろ。

海の妖怪中心に交流してみよう。
海坊主とか…もし地理的にこの村にいないなら川系、河童とかはいるはず。
いずれにせよ水が必要な妖怪、彼らのお話には興味あるし、聞いたなら俺は忘れずにいるし。
俺一人分じゃ大したことないかもだけど。
聞いたらお返しに故郷のお話でもしてみようか。
星そのものがリゾート状態でねー、ある意味妖怪から一番遠いのかも。
だからこそ妖怪の存在は凄く興味津々、色々話して語り明かしちゃおうか。

※アドリブ絡み等お任せ



●大海原の術師と水妖たちの語らい
「一件落着、めでたしめでたしってところかな」
 里の大路をのんびり歩く、ヴィクトル・サリヴァン(星見の術士・f06661)の耳にも、工房の炉が奏でる音と、それに混じる猟兵たちや、妖怪職人たちの楽しげな声が飛び込んでくる。
 けれど、ヴィクトルは工房に入らず、郷愁あふれる里の周囲をぐるりと見回した。
「折角なんだし、海の妖怪中心に交流してみたいけど……」
 里を救った多くの猟兵たちがメダル作りを試みる中、ヴィクトルは工房が立ち並ぶ大路を通り過ぎ、住宅が多く集まる古道を目指していて。
 職人たちに訪ねたところ、この大路周辺は多くの建物が火を扱う性質上、水系の妖怪は余り見られないと、聞いたからだ。
「海坊主とか…地理的にこの村にいなくても、川系、河童とかはいるはず」
 しかし、当てが外れた訳ではない。
 先程の大路で出会った威勢のいい鞍馬天狗が、メダル交換やコレクション目当てで村に訪れた水妖の一部が、古道の先の縁側に集まっている、と教えてくれたからだ。
「この辺は住宅地だね、少し寂しげだけどとても静かだね」
 何とも変わった、幽世の世界。
 だからこそ、この里に住む水妖たちが、どんな人柄ならぬ妖怪柄なのか、ヴィクトルは気になって仕方がなくて。
「ん? この匂いは……」
 少し細めの路地を曲がった瞬間、水の気配がヴィクトルの鼻腔をくすぐっていく。
 ――この先に水があり、それを拠り所にしている、妖怪たちがいる。
 そう確信したヴィクトルが歩みを早めると、すぐ近くから「そこの者よ」と、はっきり声が聞こえた。
「足を止めてすまなんだ、ワシの名はミツチ。またの名を蛟(ミズチ)ともいう」
「ミツチの爺さん以外は、皆河童さ。アンタ、オイラたちを救った猟兵なんだろ?」
「アタシもお話聞きたい! お礼に爺様がメダルをあげるって」
「これこれ、河童どもよ、勝手に話を進めるのではない。客人が困ってしまうであろう」
 振り向いた先の縁側にちょこんと座っていたのは、竜神らしき老人と河童たち。
 話を聞くと、ほぼ全員がメダル交換を目的とした来訪者のようで、今は里を救ってくれた猟兵たちの話で、盛り上がっていたという。
(「…というか、妖怪の範囲ってどこまでなんだろ」)
 先程の鞍馬天狗といい、目の前のほぼ人と変わらぬ竜神といい、史実そのままの姿をした河童たちといい、自由度が高すぎるような……。
 いずれにせよ、水が必要な妖怪に変わりない。
 ミツチたちの誘いは、ヴィクトルの興味を十二分に引くものがあった。
「俺はヴィクトル・サリヴァン。俺一人分じゃ大したことないかもだけど」
「構わんよ。ワシらの姿が見えて、こうやって会話をしているだけでも、ワシらにとっては、僥倖というものじゃ」
 ――人々に姿が見えない。
 それが、彼ら幽世の妖怪たち全ての憂いであることは、ヴィクトルも知っている。
 なので、猟兵たちの存在は「救い」であると同時に「憧れ」でもあると、河童たちはほぼ前のめりの勢いで、瞳をキラキラ輝かせて。
「猟兵になったら、姿が見えるようになるって、本当?」
「ああ、猟兵になった幽世の妖怪の中には、他の世界で冒険している人もいるよ」
「うわあ、いいなあ、アタシも外の世界に行きたい!」
 話の流れは、いつの間にかヴィクトルの故郷の話題へと、移り変わっていて……。
 ふと、周りを見回せば、全てがヴィクトルの故郷にないものばかり。
 きっと、自分の話に耳を傾けているこの妖怪たちも、自分の話から幾つもの新しい景色を夢見ているのだろう。
「星そのものがリゾート状態でねー、ある意味妖怪から一番遠いのかも」
 だからこそ、妖怪の存在は凄く興味津々なのだと、ヴィクトルは笑う。

 その後も、楽しい語らいは、尽きることなく。
 蛟のメダルを手にしたヴィクトルが村を後にしたのは、陽が一番高く昇った頃だったという。

●平穏の訪れ
 再び昼の光が差した世界は、けれど穏やかな静穏に包まれていて……。
 強き光は夜の訪れと共に、地平線の向こうに消え、同時に幾つもの朱色が灯る。

 夜を取り戻した、あやかしメダル職人の里「カナヤコ村」は、絶えず賑わいの声が響き渡り、その類いまれぬ職人芸と彼らを救った猟兵たちの話を求め、さらに多くの妖怪たちが、カナヤコ村を訪れたという。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2020年07月24日


挿絵イラスト