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長雨奇譚

#カクリヨファンタズム

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#カクリヨファンタズム


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●火の落ちた街
「知っての通り、妖怪たちの住まう世界・カクリヨファンタズムじゃあ、何かしらの概念がしょっちゅう抜け落ちて、その都度世界の危機がやってくる。例えば『昼』って概念が消えれば世界は真っ暗、『夜』が消えれば閃光まみれ、『味』が無くなりゃあらゆるものが塩味オンリー、ってな具合にな」
 ……とまぁ、開口一番こう切り出されりゃ、集まって貰った理由も大体察しが付くだろう。そう言って、刻乃・白帆(多重人格者のマジックナイト・f01783)は自身のグリモアを玩ぶ。
「で、だ。今度はあの世界から『炎』が消えた」
 ベースが揺らぎ、ぽつりぽつりと降り出す雨の幻影。映る景色は昔の中国……清の時代の街並みによく似ていた。
「少し前までは料理(メシ)が美味いと評判で活気のある街だったんだけどな。雨が降り出してから――概念が消えてからこっち、何処から現れたかカビた餅と妖怪(ヒト)に憑りついた一反木綿が得意満面街を乗っ取って、今じゃジメっとしてるというか湿気ってるというか、見る影もない位くすんじまった」
 人智の及ばぬ大火すら、降りしきる雨はいずれ全てを鎮めてしまう。そう言う理(イメージ)なんだろうとクロノは考察を口にした。
「別にこの雨に当たったからどうなるって事はないぜ。ちょいと肌寒い秋の長雨だ。けど、この雨が降ってる間は世界中どこへ行っても竈の火だって点きやしねぇ」
 マッチ・ライター・蝋燭・行燈・人魂・火薬に銃火器、火息吹(ブレス)や火の属性魔法など。概念が欠落した影響は、凡そ炎が関係するもの全てに及ぶ。
 炎の否定は文明の否定に等しく、雨を止ませる方法はただ一つ。概念喪失の黒幕を倒す事。
「今回の騒動を引き起こした一反木綿は、『焼き切る』とか、『燃やし尽くす』とか、そういう類の奴が大嫌いなのさ。だから手っ取り早く『炎』の概念ごと消し去った。けど、ま、埒外の存在である猟兵なら、この世界じゃ使えない筈の炎をそれでも『使えないことも無い』位には使えるだろう。文字通り『火』力は惨憺たるモンだろうが」
 腕や眼など、もしも体のどこかを炎(じごく)化しているのなら、炎の無い世界に於いて、その部位の能力も最底辺まで落ち込むだろう。
「だから何だって話だけどな。今までも戦争なりなんなりでこっちだけが不利な状況はあったろう? どんな逆境でも、それに抗う手段が思いつくなら何とでもなるさ」

 幻影だった筈の雨が、いつの間にか実体となってクロノの掌に落ちる。世界の移動が完了しつつあるのだろう。
「見返りって訳でも無いけどな。俺の予知が正しけりゃ、首尾よく仕事が終わったら、きっとうまいメシを鱈腹食わせてくれるだろ。『炎なくして食事なし』なんて、最近何処かの誰かも言ってたような気がするが――何にせよ……消えた『炎』はしっかり取り戻さないとな」


長谷部兼光
 いのちが輝く感じかも知れません。

●目的
 かびた餅を蹴散らし、
 一反木綿を撃破して、
 ごはんを食べる。

●概念『炎』の消失
 一反木綿を撃破するまで、『炎・火』に関わる武器・道具・ユーベルコードの威力・地獄化した部位の身体能力が激減します。

●備考
 プレイングの受付は、各章とも冒頭文追加後からになります。
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第1章 集団戦 『カビたモチ目目連』

POW   :    キミモクルシムトイイヨ
攻撃が命中した対象に【口と鼻が餅でふさがった状態】を付与し、レベルm半径内に対象がいる間、【呼吸困難】による追加攻撃を与え続ける。
SPD   :    タベラレルモノナラタベテミテヨ
レベル×5本の【毒】属性の【カビた餅】を放つ。
WIZ   :    デキタテダヨ
自身の肉体を【熱々のお餅】に変え、レベルmまで伸びる強い伸縮性と、任意の速度で戻る弾力性を付与する。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●瞳の怪
 天を覆う濃灰色の分厚い雲。あれが抱えている雨粒は、きっと無尽なのだろう。
「異人サン?」
「異人サンダー」
「コニチワー」
 風雨に晒され褪せた中華の往来で、猟兵達を出迎えたのは手足の生えたカビの餅。
「オ料理食ベニ来タン?」
「デモー」
「デモデモー」
 ぞろり、ぞろりと何時の間に、相対する餅の数が増え、
「美味シイ山ノ幸、ナイヨ」
「新鮮ナ海ノ幸、ナイヨ」
「温カイ肉料理、ナイヨ」
 ぞろり、ぞろり、餅の増殖は止まらない。
「ケレド、オ餅ナラアルヨ」
「沢山アルヨ。一杯アルヨ」
「息ガ止マルマデ食ベルトイイヨ」
「喜ビ勇ンデ食ベルトイイヨ」
 刹那。街全体が瞬いた。
 ――それは幻覚や、比喩の類ではない。
 民家の壁に、倒福の貼られた扉に、四辺の反り返った屋根に、水を湛える大瓶に、敷き詰められた石畳に、果ては雨粒の一滴一滴にすら瞳が宿り、見開き、それら全てがあらゆる方位から猟兵(まねかざるもの)達を睨んでいる。
 平面(かべ)から現れる餅。平面(やね)から様子を窺う餅。骸魂たる餅が取り込んだ目目連の能力。

「見テルヨ」

「視テルヨ」

「観ーテールーヨー」

 無数の瞳が宿すのは、隙間に落ち、カビが生え、食べ物として真っ当に終われなかった事への嘆き。
 ……既に。街の全ては餅たちによって監視されている。少しでも気を抜けば容易くこちらの死角を突いてくるだろう。
 そう――『食べ物』の恨みこそ、この世で何より恐ろしいのだ。
オーガスト・メルト
秋雨は嫌いじゃない…が、湿気は勘弁して欲しいな。
デイズ、炎の調子はどうだ?『…うきゅー』
やっぱりダメか。

【SPD】連携・アドリブ歓迎
デイズは【竜鱗飛甲】を召喚。制御は任せる。
さぁナイツ、今回はお前の雷が頼りだ。『うにゃー!』

敵の攻撃を【見切り】、竜鱗飛甲による【盾受け】とUC【鏡面迎撃砲陣】で餅を撃ち落とす。
反撃は【焔迅刀】に乗せた雷の【属性攻撃】だ。

お前たち、物質を【焼却】するのは炎だけじゃないぞ。
竜帝の雷撃は全てを穿ち、引き裂き、炭化させる。
そして…密かに独立行動させた【八色鋼糸の蜘蛛竜】の雷の糸が既にお前たちの退路を塞いでいる。

徹底的に滅菌消毒してやろうじゃないか。



 ざあざあと、ただ終わりなく降り続ける雫。夏の終わりと、秋の初めを告げる雨。
「……秋雨か。嫌いじゃないが――」
 雨に打たれて戦うのも、そう悪い心地じゃない。白色・黒色二匹の小竜を肩に乗せ、一振りの小太刀を携えたオーガスト・メルト(竜喰らいの末裔・f03147)は、カビた餅の群れを睨む。
「湿気は勘弁して欲しいな」
 よくよく慣れた炎のそれとも異なる、全身に纏わりつく様な温度は面白い物ではないし、何より、
「一杯一杯ハビコッテクヨー」
「水モ滴ルイイオモチダヨー」
 見ての通り、カビや腐食の温床でしかない。街全体が何処かくすんで見えるのも、恐らく黴(かれ)らの仕業だろう。
「デイズ、炎の調子はどうだ?」
『……うきゅー』
「……そうか。やっぱりダメか」
 同様に、竜焔石に込めた魔力も、今は不安定。
 白い小竜・デイズが得意とするのは炎の属性。それを取り上げられてしまっては、気落ちするのも無理はない。肩の上で元気なく丸まるデイズの姿は、心なし何時もより小さく見えた。
「なに、そう落ち込むな。得手が幾らか封じられようが、やり様は無数にある筈だ……防御、任せたぞ」
『……うっきゅー!』
 防御を任せるというとは、命を任せるという事。オーガストの言葉で何時もの元気を取り戻したデイズは、ぱたぱたと雨粒を押しのけて彼の頭に移動すると同時、竜鱗飛甲・七華を喚び出し防御を固める。
「さぁ、待たせたな。ナイツ、今回はお前の雷が頼りだ」
『うにゃー!』
 黒の小竜、ナイツは嬉しそうに返事をすると、オーガストの肩越しに、円らな瞳で眼前の全てを見据えた。
「さあ、何処にでもいるのなら、何処からでも掛かってくるといい。三竜一体の極意を見せてやろう」
 二匹の竜がオーガストの肩や頭へ留まろうと、彼の動きに一切の濁り無く。流麗に、焔迅刀を抜き放つ。
「ムムムー。コッチハ三人ダケジャナイヨ。イッパイ居ルヨ」
「眼ダッテ沢山アルンダヨー」
 ダカラ勝テル訳無インダヨ、と、眼の生えた餅たちは寄って集って一斉に、オーガスト目掛け毒入りのモチを投げつける。が、
「――遅い」
『うきゅー!』
 まるで全てを見切ったかのように、オーガストは不動のまま、竜王デイズの制御する竜鱗飛甲がモチの全てを受け止めて、捌き切る。
 そしてその一部始終を視たナイツは、今まさに飛び交う攻撃現象――『毒モチの投擲』を複製・再現し、虚空より現れた毒モチがあべこべに眼玉餅達へ襲い掛かった。
「『万鏡陣』。自らの力で滅ぶと良い」
『うにゃーっ!』
「ナンデ? ドウシテ!? オモチガコッチニ降ッテクルヨー!?」
「大福ト饅頭ガ無茶苦茶強いよー!」
 その後も打ち返されるだけのモチをひたすら必死に放り投げていたが、やがて遠間からモチを投げつけるだけでは撃ち返されるだけでどうしようも無いと悟ったか、眼玉の餅は自らの躰を熱々に、長く長く体を伸ばして焔迅刀に巻き付いた。
「モチモチクッツイタヨー。コノママ刀取ッチャウヨー」
「……残念だが、刀は盗らせない」
「アレレ? 熱ガ冷メテクヨ?」
「身体ガ硬クナッテクヨー?」
 有形・無形問をわず『ユーベルコード』のみを断つ赤の魔刃。オーガストが雨粒を払うが如く軽やかに、焔迅刀を軽やか一振りすれば、それだけで伸びた餅は力を失い地に落ちた。
「炎を無くしたと言うが、詰めが甘い。お前たち、物質を『焼却』するのは何も炎だけじゃないぞ」
 刹那、刀身に雷が迸り、雨を灼く。瞳の瞬きよりも迅く雷光(ひかり)が疾る度、失われたはずの『焼き尽くす』という現象が、餅達を消滅させてゆく。
「――竜帝の雷撃は全てを穿ち、引き裂き、炭化させる」
「ワー! 眩シイヨ!」
「チカチカスルヨー!」
『雨に濡れ』『瞳を沢山持った』餅達に、刀に宿った竜帝の雷は覿面だったろう。
 餅達は攻撃することも観察することも忘れ、必死になってオーガストから背を向けて、平面(かべ)や平面(ゆか)に逃れようとする。
 しかしすでに手遅れだ。ナイツが鏡面迎撃砲陣を発動させ、餅の視線を奪ったその段階で、八色鋼糸の――今は炎が抜けて七色だが――小さな蜘蛛竜が、密かに雷糸を紡ぎ、彼らの退路を塞いでいる。
 ……故に目玉の餅達は、このままオーガストの手によって焼き掃われるしかないのだ。

「加減はしない。続けるぞデイズ、ナイツ。徹底的に滅菌消毒してやろうじゃないか」
『うにゃー!』
『うきゅー!』

成功 🔵​🔵​🔴​

ヤニ・デミトリ
はいはいコニチワ
モチの無念がこんなに蔓延るたあ嘆かわしいっスねえ
腹に収めてやるのが供養ってもんっス

カビの生えた物を食べないという常識(知性)を代償にUCを発動
“魚骨”に生じた大口で餅共を嗅ぎつけ捕食する
何でも喰うのが昔の仕事だったんで
常識を失ってる今多少カビ生えてても気にしないっス!
んん、他に大事なものも失ってる気がする…?そうかな…
体に収まりゃナノマシンが端から爆速で消化(生命力吸収)しちまうっスよ

俺は擬態っスから口鼻だのは気にしないとして
尻尾の口を塞ぎにくる奴は泥刃で切り刻むっス
食い物をそんな風に使うんじゃない!!

あ、味のことは考えてなかったな
尻尾がえずいてる気がしなくもないけど気にしない



「はいはいコニチワコニチワー」
「コニチワー」
「ゴキゲンイカガー?」
「……んー、キミ達結構アレっスね。意外とノリが良いっスよね?」
 そのまま恨み辛みをスパッと捨てて、あっさり成仏してくれりゃ、こっちも楽でいいんスけれど。雨避けに、フードを目深く被ったヤニ・デミトリ(笑う泥・f13124)が、軽口混じりモチ目連達に提案する。
 しかし、其処は(賞味期限的に)腐ってもオブリビオン。絶対ヤダヨー、とにべもなく、無数の瞳に底知れぬ怨念を、短い両腕に零れ落ちるほどたくさんの毒モチを抱え、一歩も引く気はないらしい。
「おやまあ。全く。モチの無念がこんなに蔓延るたあ嘆かわしいっスねえ」
 上着のポケットに手を突っ込んだまま、ヤニが大きく息を吐くと、彼の背部、身体に癒着した廃金属の尻尾――魚骨の先端は、起き抜けの準備運動さながら、左右に大きく揺れて地面を引っ掻いた後、モチ目連へ向けられる。
「それなら頂きますと手を合わせて、腹に収めてやるのが供養ってもんっス」
 彼らを憎悪と悔恨の塵溜めから救い出すためには、代償にカビの生えた物を食べないという一般的な常識、及び人間性の欠片をゴミ箱に放り投げねばならないが、きっと、多分、恐らく、些細な問題だ。
 ……それはそれとして、こういう姿勢(スタンス)は『人間』として他にも何か大事なものを失ってる気がしないでも無い様な気が一瞬したが、本当に一瞬だけだったので、ヤニは特段気にも留めないことにした。
 些細な覚悟(タスク)を乗り越えた数秒後、魚骨の鋭利な先端が上下真二つに分離して、出来上がるのは大きな口。四方が餅で満ちているなら、嗅ぎ分ける手間いらずだ。
「こう見えて、何でも喰うのが昔の仕事だったんで、結構な大食いっスよ? 常識を失ってる今、多少カビ生えてても気にしないっス!」
「ホントカナ?」
「ホントカナー?」
「オモチヲナゲルヨ」
「口ヲフサイジャウヨ」
 毒モチを投げ、躰を伸ばす。モチ目連達の攻撃はヤニへと集中し、
「キミモクルシムトイイヨー」
 そして雨のち毒モチが降り注ぐ戦場の最中、伸びに伸びたモチ目連の両腕がヤニの口と鼻を塞いでしまう。
「コレデ息ガ出来ナイヨー! 窒息シチャウヨー!」
(「……ところがそうでもないんだよなぁ」)
 餅達は知る由もないが、ヤニの本質は形状不明のブラックタール。外見上の口鼻などは精々人の形に擬態するための化生品に過ぎず、塞がれたからと言って人と同様悶える道理もない。
 それ故至極冷静に、ヤニは自身の顔へ張り付いた餅を引き剥がす。
「エー?」
「平気ナン? 苦シクナイン?」
「ソレジャ尻尾ノ方ノ口にチャレンジシテミルヨー」
「……というか、かびてるのはまだ仕様がないとして、モチを投げたり、モチで口を塞いだり……」
 恨み辛みを盾にして、余りにも行儀が悪すぎる。ヤニは右足を泥の刃に変化させ、
「食い物をそんな風に使うんじゃない!!」
 蹴撃と同時に巻き起こした衝撃波で、雨粒毒モチ諸共モチ目連たちを切り刻む。
 すると魚骨はそろりと尾(からだ)を伸ばし、一口サイズになったモチ目連を捕食する。
 一呑みだ。魚骨のすぐ隣にはいつの間にか、餅と分離したのであろう目目連が、気を失ったまま平面に張り付いていた。
「エッ、食ベラレチャッタ?」
「ウン、食ベラレチャッタネー」
 魚骨の食事風景を目撃した他の餅達は、何やら一拍、神妙な雰囲気で顔を見合わせると、直後に全ての瞳が喜色を宿し、なりふり構わずヤニ、いや、魚骨へと殺到する。
「食ベテー!」
「ボクモタベテー!」
「……ん? 何か急に話が早くなったっスねぇ? でもいいっスよ。お望みとあらば全部食っちまうっス」
 潮目が変わったかの如く、怒涛の勢いで押し寄せる餅。暴力的な物量の餅を次々呑み込んでいく魚骨。
 終わりなき暴食戦の狭間で、魚骨が何だかえずいたような口(かお)をしていたが、ヤニは知らん振りをする。そう言えば味の事とか考えてなかった。
 ともあれ、食べた餅は体内のナノマシンが片端から爆速で分解・消化するので腹の許容量は天井知らず。このまま続けて問題ない。
 
 きなこか醤油でも持ってくればよかったかなと思いつつ、えずいている魚骨の傍ら、ヤニは泥刃を振るい、尻尾の食べやすいサイズに餅を刻んでいった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

六島・椋
【骸と羅刹】
炎の力が弱まったなら、つまり君の取り柄もなくなったわけか
気分はどうだ、エスタシュ・湿気たマッチドア
マッチと言うにはデカくて長いが

ひとつに全てを注ぐ身としては、
「食べられる」というひとつに辿り着けなかった彼らに何も思わないないわけではない
『静寂追い』でシナトに来てもらおう
伸びようが何しようが彼からは逃れられん
そして彼や人形たちに頼んで、奴らを片端から食ってもらう

食われなかったのを嘆いているんだろ
骨(かれ)らなら、熱さも黴も関係ない
とはいえ食の真似事にはなろうが
骨らだけに任せるのも申し訳ないし自分も食ってもいいんだが、それは止められそうだし

生物に食われないと駄目なら、まあ切るしかないな


エスタシュ・ロックドア
【骸と羅刹】
俺のはらわた地獄で消えると生命の危機なんだが
言ってくれるじゃねぇかよ相棒
仕事終わったら覚えてろ
業火の復活を祝ってカリッとおいしくローストすっからな

食うのか?
骨が?
よせ、やめろ
お前は誠に残念ながら生身だ
食ったらどうなるか分かったもんじゃねぇ(むしゃむしゃ)【毒耐性】
俺ぁ良いんだよはらわた地獄の羅刹だから(?)
あー……ダメだなこりゃ
ゴメンナサイして還す他ねぇわ
『鋭晶黒羽』発動
業火でお焚きあげしてやりてぇとこだができねぇんじゃしょうがねぇ
【範囲攻撃】で360度のべつまくなしに敵を攻撃だ
すまねぇな

敵の攻撃は【怪力】でひっぺがして取る



 やべぇ、と柄にもなく弱音を吐いて、エスタシュ・ロックドア(碧眼の大鴉・f01818)は自身の腹部をさする。此処までのピンチは今までなかったかもしれない。
「俺のはらわた炎(じごく)だから、これが消えると生命の危機なんだが」
 炎が弱っているからだろう、ずしんと、いつもより身体が重く感じた。一気に老け込んだ気分だ。
「……成程。炎の力が弱まったなら、つまり君の取り柄もなくなったわけか。気分はどうだ、エスタシュ・湿気たマッチドア」
 かたかたと、六島・椋(ナチュラルボーンラヴァー・f01816)の操る骨格人形たちが主の皮肉に合わせて騒ぐ。
 ……糸越しの反応が少し微妙だろうか。糸に付着する雨粒の重みを勘定に入れて微調整する必要がありそうだ。
「マッチと言うにはデカくて長いが。エスタシュ・弱火タイマツドアとかの方が妥当だろうか」
「言ってくれるじゃねぇかよ相棒。仕事終わったら覚えてろ。業火の復活を祝ってカリッとおいしくローストすっからな」
「ああ。解ってる。要するに飯を食おうって話だろ。望む所だ」
「違……くも無いか。まあいい。旨い飯を食べるのは、面倒な仕事を片付けてからだと相場は決まってるが……」
 地に突き刺した鉄塊剣・フリントに寄りかかり、エスタシュは平面から現れ続けるモチ目連の群れを観察する。

「ボクハモチ!」
「キミモモチ!」
「ミンナオモチー!」
「ゼンブオモチー!」

「……さて、どうしたもんかな」
 エスタシュは思案する。いつもなら問答無用の最大業火で焼き祓うのだが、今回ばかりはそうもいかない。
 それでも考え付く手は幾つかあるが、果たして何が最も有効か。いっそのこと――。
「……個人的な感傷になるが。ひとつに全てを注ぐ身としては、『食べられる』という結果(ひとつ)に辿り着けなかった彼らに何も思わないないわけじゃない」
 無念であったろう、と椋は思う。同時に、彼らにとっての救いとは何であるかと考える。
 食べる為に丹精込めて作られたにもかかわらず、隙間に落ち、黴が生え、うす汚れた彼らなど最早誰も見向きはすまい。それは食べ物にとっての死と同義。
 食べられるために生まれてきた彼らが、誰にも食べられず、それでも食べて欲しいと嘆きながらずっと幽世を彷徨うのはきっと生き地獄だろう。
「――シナト。お願いできるかな」
 椋は狼の骨格標本人形『シナト』を喚ぶ。餅達がどこに隠れていようが、彼の眼窩(め)から逃げ果せるのは不可能だ。
「エスタ。援護してくれ。今から人形たちを総動員して、餅を食う」
「おお? 何を言い出すかと思ったら、食うのか? 骨が? マジか?」
「大マジだ。何なら骨らに任せっぱなしなのも申し訳ないし、いっそ自分から食らいに行く所存だ」
「……いや、それはよしておけよ。誠に残念ながらお前は生身だ。食ったらどうなるか分かったもんじゃねぇし、そう言うのはな――」
 首を鳴らし、指を鳴らし、消え入りそうなはらわたに、気合と言う名の喝を入れ、エスタシュは戦場のど真ん中に仁王立つ。
「俺がやる!」
「マジか」
「大マジだ。良いんだよ俺ぁ。はらわた地獄の羅刹だからな。止めてくれるな」
 存在感で説得力を醸し出しているが、よくよく考えると謎の理屈だった。
「いや別に止めはしないが。墓前に胃腸薬は添えておく」
 死んじまったら胃腸薬だって飲めねぇよ、と、エスタシュは堂々往来を闊歩して、有無も言わせずモチ目連の一匹をむんずと掴むと、そのまままるごとかぶり付いた。
「ワー、タベラレチャッタヨー」
 言葉とは裏腹に、なんだかうれしそうなモチ目連(歯形付き)。
(「!? これは…!?」)
 そしてエスタシュは真理に至る。
 そう。
 これは。
 何を隠そう。
 どう足掻いても。
 カビた餅。
 毒耐性があろうとも、だからといって毒を美味しく感じる訳でも無く、
「……椋。きなこか醤油持ってないか?」
 思わず椋に助けを求めたが、
「ない」
 現実は非情だった。
「あー……だったらダメだなこりゃ。ゴメンナサイして還す他ねぇわ」
 口に含んだ分はきちんと食べたので、それで勘弁してくれよ、とエスタシュが餅達に詫びる。
 が、餅を食べる以前と比較して、モチ目連たちの様子が明らかにおかしい。恍惚として、浮足立っている。
「タベター……」
「タベテクレター」
「ボクモー!」
「ボクモ食ベテー!」
「……おいおい、マジかよ……!」
「大マジー!」
 ――どうやら、『食べる』という行動自体が食べ物(かれら)にとってクリティカルだったらしい。
 餅達は救世主を見つけた、というくらいの熱狂ぶりで、エスタシュに寄って集って伸びて縮んで離そうとしなかったが、エスタシュは自前の怪力で如何にか無理くり引っ付く餅を引っぺがし、距離を取る。
「待ッテー!」
「待ッテ待ッテー!」
「すごいな。エスタ。モテ期来てるんじゃないか」
「……距離の詰め方がえげつねぇ。せめて文通から始めてくれりゃ心の準備もできたんだが」
「けれど、お陰で彼らの性質は理解できた。『見立て(まねごと)』になるが、初志は貫く」
 椋が右の人差し指を僅か動かすと、熱狂しているモチ目連の背後にシナトがそろりと近づいて、その頭からモチを齧る。
「アッ、ボクモ、ボクモタベラレチャッター!」
 齧りつかれたモチ目連は心底からの笑顔を瞳一杯に浮かべると、結びついていた目目連からあっさり分離して、成仏していく。
「獅子舞のように噛みつく見立てや、一口だけでも『食べる』だけで彼らは報われるんだろう。それだけ食べられることに飢えていた。勿論、残さず食べるのが一番良いのだろうけど」
 エスタシュが最初に食べた歯形付きの姿も既に無く、椋の精妙な指の動きに従って、オボロにヨハ、サカズキ組にアマネやおきつねさま、全ての骨格人形たちが順繰りにモチ目連たちを『食べて』いく。
「――さあ、存分に食ってやる。食われなかったのを嘆いているんだろ。骨(かれ)らなら、熱さも黴も関係ない」
「ツギハボクー!」
「チガウヨボクダヨー!」
「おっと! 横入りは厳禁だぜ? 順番はちゃんと守らないとな?」
 食べてくれる骨(ひと)を見つけたモチ目連たちのはしゃぎっぷりは相当なもので、放っておけば邪気の無いまま勢いよく骨格人形たちにぶつかってダメージを与えかねないので、エスタシュは全方位に目を配り、岩をも刻む風切羽・鋭晶黒羽の軌跡を用いて彼らへの牽制を切らさない。

「妙な展開になっちまったが、しかし……『食べれば』成仏、『飯の美味い街』、概念を戻せば『飯』にありつける……。何となく、俺にはこの並びが偶然だとは思えないんだが……」
「ああそうか。確かこの世界には骸魂を――うん。奇遇だなエスタ。自分もこの仕事のオチが見えてしまった気がする」

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

司・千尋
連携、アドリブ可

餅は好きだけど
喋る餅は食えないなぁ…
カビた餅も食ったらヤバいんだっけ?


常に周囲に気を配り敵の攻撃に備える
『食い物の恨み』は恐ろしいが
『数の暴力』も恐ろしい…何処から出てきてるんだよ

攻防は基本的には『子虚烏有』を使う
範囲内に敵が入ったら即発動
範囲外なら位置調整

近接武器や投擲での攻撃も混ぜたり
死角や敵の攻撃の隙をついたりフェイント等を駆使し
確実に当てられるように工夫する
片っ端から消失させてやるぜ
潔く成仏してくれよ?


敵の攻撃は細かく分割した鳥威を複数展開し防ぐ
割れてもすぐ次を展開
回避や『子虚烏有』で迎撃する時間を稼ぐ
無理なら防御


熱々の餅がくっついたら火傷じゃすまないだろ、これ



「うーん、俺も餅は好きだけど……」
 眼前の、傍若無人に蔓延る餅達へ、どう反応を取ったものだろうかと司・千尋(ヤドリガミの人形遣い・f01891)は些かばかりの困り顔。
「餡子ヲ絡メテ食ベヨウヨ」
「オ雑煮ニ一杯オモチ入レヨウヨー」
「喋る餅は食えないなぁ……心理的なハードルが高すぎる」
 それは誰もが同意する至極真っ当かつ率直な意見だろう。
 ……そんな率直な意見を投げ捨てて、もう既に自分から率先して餅を喰らいに行ってる猟兵(なかま)もいるような気がするが、それはそれで見なかったことにする。
「ソレジャ静カニスルヨー」
「ジーットシテルヨー」
 餅達は、喋らないなら当然行けるよね? みたいな態度で静まり返って千尋を待ち受けるが、
「いや。そもそもカビた餅も食ったらヤバいんだっけ?」
 そう。黙ろうが騒ごうが、彼らはどう足掻いてもカビた餅。
 仮にこの、『仮初め』の肉体でカビ餅を食べたとしても、他人(ひと)と比べて大した害は無いかもしれないが、だからと言って食べる気分には到底ならない。
 千尋の代りに、あやつり人形の宵と暁が餅達へバツ印を突き付けた。
「ムー。好キ嫌イシチャ大キクナレナインダヨ」
「ワガママ言ッチャ駄目ナンダヨー」
 なにやらさも正論めいた理屈を振り翳した餅達は、実力行使に移るつもりなのだろう、あらゆる平面から出現に出現を繰り返し、じわり、じわりと、千尋への包囲を強める。
「――いいや。無理矢理人の呼吸(いき)を止めようとするそっちに比べれば、お前達の言う俺の我儘なんて可愛い物だろう」
 尤も、我儘ですらないけどな、と、会話の裏で鳥威を分割展開し終えた千尋は、左右の腕に得物を握り、全周からの攻撃に備える。
 緊張と、睨み合いの果ての静寂。雨が地を叩く音が耳につく。初撃が来るのは果たしてどこからか。
「伸ビ~ルヨ!」
「掴ームヨ!」
 先手を取ったのは餅達だ。左右の囲みから複数個の餅が同時に体を伸ばし、千尋を絡め取ろうとする。
 しかし千尋は取り乱すことなく、ただ一言、簡潔に、
「消え失せろ」
 そう呟いたその瞬間、突如現出した鋭い光が、刹那後千尋に接触するはずだったモチ目連たちを切り裂いた。
「ワー!斬ラレチャッタヨー!
「カラダがウッスラ消エテクヨー!」
 幾何学模様を雨空に描き、餅の包囲を裁断する七十九本の光。――それは、触れたモノの存在を拒否し、消失させる剣だ。
 触れてしまえばあらゆるものがが子虚烏有。何もない、架空と虚構に成り果てる。
「『食い物の恨み』は恐ろしいが、『数の暴力』も恐ろしい……一体何処から出てきてるんだよ」
 平面(かべ)を裂き、平面(しかく)を斬り伏せ、断ち切る月烏に射抜く烏喙、虚実を交えた無数の剣舞が餅を消す。しかし、物見遊山の餅達は、後から後から現れた。
「ココダヨー」
「コッチニ居ルヨー」
 至近距離の雨粒から奇襲を仕掛ける餅。足を攫おうと、平面(じめん)から腕を伸ばす餅。
 咄嗟、接近する餅を遮った鳥威の一枚がじゅう、と沸騰する音を立てて割れる。
「おいおい。熱々の餅がくっついたら火傷じゃすまないだろ、これ」
「コノママ熱コブシヲオ届ケダヨ!」
 死に物狂いで肉薄し、ようやく万感詰まった一撃を繰り出そうとする餅を。
「残念。受け取り拒否だ」
 しかし千尋はおもむろ、鴗鳥のフルスイングで弾き飛ばす。
「アアン、ホームランダヨー……!」
 弾き飛ばされた餅は遠間にあった光剣の一本に接触し……いなくなった。

 ――そうして、剣を躍らせ幾時か、相も変わらぬ餅の数。
 しかしよくよく観察してみれば、数は山ほどいるものの、個体個体は勝手気儘で統制が取れているとは言い難く、付け入る隙はいくらでも。
、彼らと言う群体を片付けるのに必要なのは、後は根気と時間だけだろう。
「来な。片っ端から消失させてやるぜ。――潔く成仏してくれよ?」
 周囲に味方の姿は無い。千尋は宵と暁を巨大化させ、壁、屋根、大地、あらゆる平面ごと付近の餅達を抉り取り、消失させた。

成功 🔵​🔵​🔴​

ミレニカ・ネセサリ
【灯夜様・鏑木様と】
まあ、頂かれることのなかったお餅ですの?
それは確かに不運でしょう
けれど、こうして他者を襲っていい理由にはならなくてよ

UCでDiamond Damselを強化、【属性攻撃】で両手にそれぞれ水と氷属性を付与致します
わたくし以外のものとの接触で爆発を起こすダムゼルですが、此度はお相手が多いのですもの
不用意に爆発することのないようシールドでダムゼルを覆いますわ

そうして、灯夜様の手が届いていないお餅を片端からブン殴ります
お熱いお餅は水属性の拳で冷まし凍りやすく、そうでなければ氷属性の拳で凍らせますわ
幾ら伸縮自在でも、凍ってしまえばどうということはなくてよ
あとは鏑木様、お任せいたします


久賀・灯夜
ミレニカちゃん(f02116)と良馬さん(f12123)と参加

季節外れの梅雨にしちゃタチが悪いな
食中毒起こす前に大掃除といきますか!

ってか数多いなカビモチ!
確かに俺も食べ物を駄目にしちまった事はあるし、本当に申し訳ないって思う。
けどさ、お前たちは火を消し去って人を傷つけて……ホントにそんな事がしたかったのかよ!
火が無かったら米も炊けなくて、餅だって作れないんだぞ!

ガジェットショータイムで呼び出すのは、強力な冷風機
これでカビモチ達を凍らせて動きを鈍らせる!

数が多いから、ミレニカちゃんとお互いの死角をカバーするように動く
そして動きの鈍った相手を良馬さんに決めてもらう


鏑木・良馬
灯夜、ミレニカと

俺も食の道を志す者の端くれ――食われずして終えたものの無念たるや筆舌に尽くし難い事であろう事は分かる
俺も売れ残り達をできるだけ自分で消化するようにはしているが、どうしても限界はあるゆえ
泣く泣く破棄せねばならぬ時の無力感
ああ諸君らはそれらが積りし者たちなのだろう
まぁだからといって我らが屈するわけにはいかんのだがな!
その無念、我が二刀をもって祓ってくれよう!

とはいえ餅の相手は俺には不利
刃物で軟体を斬ろうなど愚の骨頂よ
ゆえに

二人が凍らせ鈍らせた餅から狙い
硬化した部位めがけ剣刃一閃放ってみせよう
我が霊刀、餅に遅れはとらんッ!…凍ってくれてたらだが
ええい勝てば良いのだ、どんどん征くぞッ!



「概念を取り戻さなけりゃ永遠に降りつづけたままの秋梅雨……タチが悪いな」
 曇天を見上げる久賀・灯夜(チキンハートリトルブレイバー・f05271)は、不意にくしゃみを一つした。
 雨のせいで存外に身体が冷えたのだ。果たして炎を取り戻すの先か、風邪を引くのが先か、いずれにせよ動かなければ始まらない。
「ってか数多いなカビモチ!」
「蔓延ルヨー」
「蔓延ッテイクヨー」
 臆病癖を頭の片隅に引っ込めて、心の炎に火をくべた。
「まあ、頂かれることのなかったお餅ですの? 可哀そうに……それは確かに不運でしょう」
 餅達の境遇に、同情すべき点はある。
 ……けれども、とミレニカ・ネセサリ(ひび割れレディドール・f02116)は道を外れた餅達へ、あえて厳しい口調を取る。
「こうして他者を襲っていい理由にはならなくてよ」
 ミレニカから見て、その行動は『美しい』とは言い難い。見てくれの話ではなく、餅達のねじくれきった性根こそが、ぶっ叩くに値する諸悪の根源だろう。
「理由ナンテシラナイヨー」
「ボクタチ悪クナイモンネー」
「ミンナミンナ世間ガワルインダヨー」
 モチ目連たちは全く悪びれた様子も無く、むしろ居直った様子でふてぶてしい。
「……世間が悪い、か。確かにそうかもしれん。俺も食の道を志す者の端くれ――食われずして終えたものの無念たるや筆舌に尽くし難いものであろう事は……痛いほどよく分かる」
 モチ目連たちの言葉に、深く相槌を打つのは鏑木・良馬(マリオネットブレイド・f12123)。
 彼は流れの肉まん屋(自称)。飲食業に関わる者ならば、買われず残ってしまった食べ物達の、その末路を幾度となく見届け無ければならぬのは業であり、宿命だ。
「俺も売れ残り達をできるだけ自分で消化するようにはしているが、どうしても限界はあるゆえ……」
 丹精込めて作った肉まんたちを、泣く泣く破棄せねばならぬ時の無力感。何故誰も買ってくれなかったんだ、そう味わう挫折感。
「ああ、諸君らはそれらが積りし者たちなのだろう……!」
「ソダヨー」
「オオ、心ノ友ヨー」
 彼らと対峙しているだけで、良馬の悔恨の情は止まらない。
 食べられなかったものの無念が良馬――肉まん屋の前に現れたのはきっと必然なのだろう。しかし、
「――まぁ。だからといって我らが屈するわけにはいかんのだがな!」
「エエー?」
「イケズー」
 それはそれ、これはこれだった。

「……確かに俺も食べ物を駄目にしちまった事はあるし、本当に申し訳ないって思う」
 灯夜は目を伏せ、駄目にしてしまった食べ物の数々を思い出す。
『いただきます』。食べる前に手を合わせてそう言うのは、自分の体を作ってくれる食べ物達への感謝の心を伝えるため。
 そう考えれば、随分と罰当たりな事をやって来たのかもしれない。
「けどさ。お前たちは火を消し去って人を傷つけて……ホントにそんな事がしたかったのかよ!」
 それはもう、食べ物の道理じゃない。人に仇成す化け物の理屈だ。
 灯夜の叫びに心打たれたか、一際瞳を丸くしたモチ目連がチガウヨ、と言いかけて首を振り、ソウダヨと肯定し直した。
「カビノ生エタボクタチハ、モウ人間ニ復讐スルシカナインダヨ」
「……火が無かったら米も炊けなくて、餅だって作れないんだぞ!」
「ソレデイインダヨ。ダッテ――」
 火がなくなったら、もう新しい餅がかびる事も無いんだもの。
 ざあざあと降り続ける雨音を押しのけるように、餅達ははっきりとそう言った。恐らくそれこそ、彼らが黒幕に加担した理由だろう。

「……ねじくれていても何処か真っ直ぐですのね。でも、その理屈を認める訳には行きませんわ」
 握り、開き、軋みも歪みも一つ無く、美しい。ガントレットの調子は悪くない。ミレニカはDiamond Damselに自作のガジェットを搭載し、宣戦布告するように、雨に打たれるモチ目連たちを指差した。
 灯夜は強く頷く。餅たちの想いが分かったからこそ、その思いで世界を滅ぼさせる訳には行かない。
「それじゃあ……食中毒起こす前に大掃除といきますか!」
「ああ。その無念、我が二刀をもって祓ってくれよう!」
 霊刀・天、霊刀・冥、良馬は二振りの緋メ桜をしかと携え、餅達を見据えると、そのまま突撃、否――数歩下がった。
「エッチョット。今突撃スル流レダッタヨネ?」
 物言いは受け付けない。
「ふっ。刃物で軟体を斬ろうなど愚の骨頂よ」
 眼鏡型情報収集デバイスが良馬に伝えた餅達の餅肌レベル。それはもう、腐らせておくのがもったいない位もっちりしていて、切りかかっても弾かれるオチを幻視するレベルだ。
 なので、現状、良馬に出来る事は何もない。かれ出番は二人よりも明確に後だった。

 炎は無くなれど熱はある。ならば、スチームシールドを使用するに不足は無いだろう。ミレニカはDiamond Damselを半透明の蒸気で覆う。耐久性を上げる為ではない。ガントレットが主以外の何かに触れるたび巻き起こる爆発を抑制するためだ。
「此度はお相手が多いのですもの。不用意な爆発は、思わぬアクシデントを呼ぶかもしれませんものね?」
「ハプニング上等ダヨー」
「蒸気ヨリモアツアツダヨー」
 大蛇の如く体を伸長させる餅の群れ。ガントレット――拳打で弾力性のある自分達を倒すことは出来ないと考えたのだろう。餅蛇達はダメージ覚悟、真っ向勝負の直線軌道でミレニカに迫る。
 対してミレニカもまた真っ向から餅達を迎え撃ち、拳の制空権へ進入した順に餅蛇たちを左腕で丁寧に殴り抜く。
「フッフッフー! 叩カレタッテキカナイヨー!」
「痛クモカユクモナインダヨー!」
「……あら、それはどうでしょう」
「……エッ?」
 打撃を受けた餅達は、最初こそ余裕ぶっていたが、すぐにカラダの異変に気付く。
「アレレ? 体ガ冷エテクヨー?」
「伸ビキッタママモドラナイヨー!」
「そう。『水』は熱を冷ますもの。ですわよね? そして……」
 ガジェットとスチームシールドの他に、ミレニカがガントレットに仕込んだものは二つ。
 左腕に宿った水の属性と、
「幾ら伸縮自在でも、凍ってしまえばどうということはなくてよ?」
 右腕に宿した氷の属性。ミレニカが絶対零度の拳を餅に見舞えば、彼らは即座凍てつき、完全に弾性を失い、伸びる事も縮むことも出来なくなった。
「ワー! ツベタイヨー!」
「カチカチダヨー!」
「これで全ての準備は整いました。ここから先は熱の冷めたあなた達を、片ッ端から心置きなくぶん殴っていけますわ!」
 細氷が煌き、小剣が踊る。ミレニカの右腕が唸る度、悲鳴と共に凍みた餅が大量生産されていく。

「俺も負けちゃいられない。この戦場で一番有効なガジェットは……これだ!」
 意識を深く集中し、灯夜が喚び出したのは、大型の強力冷風機。
 自身のサイキックを動力に冷風機を始動させれば、たちまち雨粒が凍り付き、嵐もかくや、という規模の冷風が街を駆け抜ける。
「ワー! 吹き飛バサレチャウヨー!」
「ヒョウガキダヨー!」
 モチ目連たちが冷風機を壊そうとしても、真正面からでは風が強すぎて近づけず、冷風機の死角はミレニカが守護しているためどの道拳骨で凍らされてしまう。
 必死の抵抗とばかりに毒モチを放っても、強風に吹き返されて自分達へ帰ってくる。
 凍気によって、餅達の得手は全てもがれてしまったのだ。
「良馬さん!」
「鏑木様、あとはお任せいたします」

「さて、真打ち登場、ってヤツだ」
 凍える景色のその中で、何より冷たく輝くのは、季節外れの緋メ桜。
 刃が閃く。
 二振りの刀は正確に、モチ目連の硬化部位を捉え、刹那――緋と紫の花弁が乱れ舞う。
「みたか。我が霊刀、餅に遅れはとらんッ! ……凍ってくれてたらだが」
 後に残るのは、両断された餅の姿のみ。

「――ネー。ソレチョットズルクナイ?」
「真剣ナノニ真剣勝負シテナクナイ?」
「…ええい! 勝てば良いのだ、どんどん征くぞッ!」
 尚。やはり物言いは受け付けない。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

納・正純
夕立と(f14904)

俺が生きる目的である新たな知識が生まれる土壌の醸成に、文明の火は欠かせねえ
つまり、俺にとってお前らのやってるコトは見過ごせねえンだよ
取引だ、夕立
据え膳上げ膳、至れり尽くせりで――俺を敵の首魁の元まで連れていけ
報酬は言い値で払ってやるよ

・方針
不確定要素を避けるため、湿気った火薬は使わない
火薬を用いない空気銃と精霊銃だけでCOOLにいこう
だもんで、【冠絶推理】で立ち塞がる敵の強化を剥いでいく
逃げも隠れもしないで、俺は的+強化解除役に徹するさ
そうすりゃ後は影が餅を切り裂いてくれるだろ


火を奪ったのは愚策だったかもな?
だってこんなに暗いんだ、これじゃァどこにだって影は溶け込めるぜ


矢来・夕立
手帳さん/f01867

引き受けました。取引成立ということで。
でも報酬は切り餅幾つでも足りませんよ。

【紙技・化鎮】。姿を消すのはオレひとりです。
アレ(正純)には的になってもらうんで。
いや放っといても平気ですよ。お餅を撃ち落とす係ですから。

できたては難しいですけど、冷えたお餅なら刀で斬れます。
無力化された…お餅…カビのかたまり?から順番に斬り殺す。
隠せるのは姿だけですから、なるべく移動し続けておきましょう。
同じ場所には留まりません。地面が鳥もちみたいにならないとも限りませんし。

世界から火を消したのは、まあ、正解だったかもしれませんよ。
火薬が機能していたら今頃お前ら穴だらけのチーズですからね。



「ああ、やはり。猟兵(おれ)が持ち込んだものでも、点いて精々十に一つか」
 何処で拾ってきた物だったか。納・正純(Insight・f01867)はようやく点いた燐寸(マッチ)の端の、弱々しい揺らめきに目を向ける。
「使えない筈の炎を、猟兵なら『使えないことも無い』位には使える……最初にそう言われたでしょう。戦場で煙草も吸わないくせ、火を点けるだけ無駄ですよ」
 止まぬ雨の往来に、和傘をさして佇むのは矢来・夕立(影・f14904)。もうはや炎が恋しくなったんですか? と、ぞんざいに正純へ皮肉を投げた。
「いいや大したことじゃない。他人(ひと)から見聞きした情報を頭の片隅に仕舞っておくだけじゃ唯の与太話。自分で実践して初めて知識。そう言う性分だ。しかし……」
 細い棒の先端の、この世で唯一の小さな炎は、何の物語も無く、雨に打たれてすぐ消えた。
「奪われて、改めて『火』の偉大さが良くわかる。俺が生きる目的である新たな知識が生まれる土壌の醸成に、文明の火は欠かせねえ」
 つまり、俺にとってお前らのやってるコトは見過ごせねえンだよ。正純は、役目を終えた燐寸を餅達へと弾く。
「火の無い人の営みは、石器の時代以下ですか」
「そうだろうとも。だから取引だ、夕立。据え膳上げ膳、至れり尽くせりで――俺を敵の首魁の元まで連れていけ。報酬は言い値で払ってやるよ」
「……良いでしょう。引き受けました。取引成立ということで。でも、報酬は切り餅幾つでも足りませんよ」
 言って、夕立は静か、ヒトガタの式紙を自身の懐へ忍び込ませる。
「構わん。だが念の為、何かしら割引効くと有り難いが」
 軽口を叩きながら、正純は武器を選定する。火が湿気っているのは実践(み)ての通り。ここは火薬を使わない、空気銃と精霊銃で攻めるとしよう。
「それは勿論。オレと手帳さんの仲ですからね。十割増しで如何でしょう?」
「……ああ、藪蛇だったか。さらっと割り増しされちまった」
 銃口を餅達へ定めた時には既に夕立の姿は無く。彼のさしていた傘だけがふわりと雨天を舞っていた。
「さて、それじゃあ。COOLにいこう」
「ヤメテヤメテー。カヨワイオ餅ヲ撃トウトスルナンテ―」
「暴力反対ダヨー」
「お前達が本当に単なるか弱い餅だったなら、その言い分も通らなくないけどな」
 今必要なのは、叡智よりも弾数か。無数の集団敵の無尽の攻撃。モチ目連達は正純へ、タベラレルモノナラタベテミテヨとばかりに毒モチをあらゆる包囲から投げつけてくる。
 毒モチの弾幕。だが一人相手に過剰すぎる。正純は延び迫るモチ目連を寸前躱すと、自身に接触するであろう最小数の毒モチを精霊銃で撃ち落し、空気銃の射線を確保する。
 ……幻想を撃ち抜く式に代入するものは三つだけ。確かな腕前。幻想を射抜ける武器。そして幻想行使の動かぬ証拠。
 腕前は今まさに披露した。構える空気銃(ライフル)は、物質を撃つには適さないが、幻想ならば容易く砕ける代物だ。
 三つ目、幻想行使の証拠のみ、相手に依存せねばならないが、言うまでも無く、『四肢が生えて多数の瞳を持つカビ餅』など存在そのものが正にそうだろう。
 故に魔弾の論理に導かれた冠絶推理の弾丸は、あたかもそれが原初(はじめ)から定められていた運命の如く、すべてモチ目連達に突き刺さる。
「アレレ? 凍ッテモ無イノニ熱ガ冷メテクヨ?」
「カラダガ伸ビニククナッテクヨー?」
「言ったろう。『COOL』にいこうってな。もしかすると俺を倒せば弾丸の効果も消えるかもしれないが……どうする?」
 正純は意味深に微笑んで、モチ目連達を挑発する。
「オシエテクレテアリガトー」
「オ礼ニ絶対倒スヨー」
『計算通り』。
「そうだ。来い。『俺は』逃げも隠れもしない」
 空気銃に次弾を籠める。正純は、これじゃあこっちが据え膳上げ膳かも知れないな、と内心苦笑して、モチ目連達を引き付けた。

「……アレー? 傘ノお兄さんが居ナクナッテルヨー?」
「アレレー? ホントダー」
 冠絶推理を打ち込まれ、熱が戻るまで、高い屋根に退避していた一部の餅が、ふと戦場を俯瞰し、異変に気付く。
 ドコ行ッタタンダロネー。と戦況そっちのけ、腕を組んで考え始めた餅達だが、
「しーっ」
「!?」
 次の瞬間、何の前触れも無しに、餅達の首は悉く胴から分離し転がった。
「エッ!? ナンデ!?」
「ナンデナンデ!?」
「――余計なことに気付いてしまったのが運の尽きです。お前達も、ほら、あのお餅を撃ち落とす係の人だけを見ていればもう少し長生き出来たのに」
 声はすれども姿は見えず。紙技で姿を隠した夕立は、景気よく乱射を続ける正純の無事を確認する。あの様子なら丸一日放っておいても大丈夫そうだ。
「けれど、試し切りの協力には感謝しますよ」
 不可視となった雷花から、餅の破片を拭う。出来立ての――カビた餅が出来立てとは矛盾している様な気もするが――熱い餅を斬るのは流石に難儀するが、冷めたそれなら訳もない。
 夕立は屋根の端から跳躍すると、地を這う餅の脳天に直上から刃を突き立て、喧騒に紛れ込む。
 ひとところに留まってばかりではいられない。知らずの内に地面が鳥もちよろしく罠だらけになる可能性は捨て切れないし、降りしきる雨が透明な夕立の輪郭(シルエット)を炙り出してしまうのだ。雷花の煌きすら隠し、夕立が秋雨に紛れ込むためには動き続けなければならない。
 どれだけ瞳があろうとも、仕事柄、目を盗む事には慣れている。
 駆け抜ける。不可視の夕立はしかし暴風雨の如く、視界に入った餅達を縦横無尽に竜檀していった。

「ワー! ミンナミンナ斬ラレテクヨー!」
「捕マエヨウニモ姿ガ視えないヨー!」
「そら……火を奪ったのは愚策だったかもな? だってこんなに暗いんだ、これじゃァどこにだって影は溶け込めるぜ?」
 斬り切り舞の暴風圏の中央で、正純は餅の怨念(ねつ)を奪い去り、

「エーン! カラダガ伸ビナイヨー!」
「スッカリ熱モ冷メチャッタヨー!」
「……世界から火を消したのは、まあ、正解だったかもしれませんよ。火薬が機能していたら今頃お前ら、穴だらけのチーズですからね」
 降り注ぐ弾雨の最中、夕立は餅の存在(いのち)を断つ。

 いずれにせよ、哀れな餅は、ただ狩りつくされるのみだった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

四宮・かごめ
※アドリブ連携OK!
びっしり黒カビの生え揃った竹せいろをしげしげとうち眺め
やがて静かに机に戻す
幽世を守護らねばとの思いも新たに
カビ餅共の方へ駆け出すのであった。にんにん

印を結んで何やら唱えれば
辺りは竹林に早変わり
ここに籠城して、敵の視線を切れるか試してみるでござる

状況次第では敵の死角を突く事も視野に入れ
忍装束の迷彩能力を活かし、竹林の中を移動
気配を殺して近寄り、目玉を外して鉈を振り下ろし、元の目々連に分解するでござる

デキタテダヨを打たれたら
持ち前の脚力で竹林に撤退でござる
すたこらさっさ

そういえば
それがし前から目々連にこれ(煙玉)を放り込んでみたかったんでござるよ
密集地帯目がけて、ちゅどーん、と



 とある民家の台所。
 もしやこの騒動から奇跡的に難を逃れた人がいるやもと淡い期待を胸に、四宮・かごめ(たけのこ忍者・f12455)がにんにん探索してみれば、やはり人の姿は無く、代わりにそこに在ったのは、黒カビがびっしり生えた竹のせいろ。
 かごめはそれをしげしげと眺める。何という事だろう。もしもこれがかびた餅達の所業なら、完全なやつ当たりではないか。調理器具に罪はない。
 やけっぱちで世界を滅ぼされる訳には行かぬ。かごめは幽世を守護らねばとの思いも新たに、
「……にん? よくよく見れば随分年季の入った竹せいろ。もしや餅たちが来るより前にかびていた可能性が……?」
 そう言うのはちょっと想定していなかったので、芽生えた疑念をフルスイングで放り投げつつ、かごめは幽世を守護らねばとの思いももう一回新たに、竹のせいろを机に置いて、カビ餅達へと駆けだした。

「マダ居ルヨー」
「出テクルヨー」
「オ代ワリアルヨー」
 既に複数の猟兵が交戦している筈だが、餅達の物量はまだまだ途絶える気配も無く、それはもう矢っ鱈元気にモッチモッチしていた。
「むむっ。それがしも後れを取ってはいられないでござる。それではいざ――!」
 かごめは素早く両の掌を合わせ、にんにんにんと神妙な調子で印を切る。
「臨・兵・闘・者・皆・陣・列・ぜん・ざい! ……にん? 在前? ぜんざい? 」
 餅を見ていたものだから何だか邪念が混じってしまった。
 しかしかごめの思惑通り、秋の長雨と一緒になって降り注ぐ筍梅雨。家や石畳を押しのけて、にょきにょきにょきと特に問題なく無数の竹が生えて来たので結果良しとしよう。大切なのはフィーリングだ。
 出来上がった竹林は、町の一角を占領し、かごめは其処に隠れ潜む。
「竹林ガデキチャッタヨー?」
「鬱蒼トシテルヨー。動キニクイヨー!」
 障害物の数は街中の比ではない。幾ら瞳を持つ餅達が沢山居たとしてもその視線を切るのは容易だろう。ここはかごめのホームグラウンド。地の利は彼女にある。
(「さてさてそれではー」)
 がさり、とかごめは敢えて竹林へ音を反響させるように大振りな動作で鉈を抜く。この林の竹は良くしなる。ざわつく音だけ追いかけても既に遅く、竹林戦に特化した緑色の忍び装束を纏うかごめを見つけ出すのは不可能だ。
「ドコダヨー」
「隠レテナイデ出テキテヨー」
(「そろり、そろりと。後ろに居るでござるよー」)
 かごめは気配を殺して餅の背後に近寄ると、竹の葉の騒めきに紛れて一息、
「ん゛に゛ん゛っ!!!!」
 鉈を振り下ろし、モチ目連を餅と目目連に分割する。
「ワー! 奇襲ダヨー!」
「見ツケタヨー。捕マエチャウヨー」
「捕まる前にすたこらさっさでござるよー」
 即座、自慢の脚力でその場を脱するかごめ。モチ目連達は逃がすまいと、毒モチや熱々の腕を伸ばして捕まえようとするが、無数の竹たちが視界と進路を塞いで邪魔をする。
 一方の攻撃が届き、他方の攻撃が届かない。そうなれば、後はやりたい放題だろう。
 一撃離脱の竹切り鉈が餅達の視界を潜り抜け、次から次へと容赦なく、死角からモチ目連に襲い掛かった。
「……そういえば。それがし前から目々連にこれ煙玉(これ)を放り込んでみたかったんでござるよ」
 人生万事思い立ったが吉日なので、かごめは絶賛混乱中な餅の密集地帯へ煙球を投げてみた。
 果たしてそれはちゅどーん! と期待通りに気持ちよく炸裂し、もうもうと立ち込めた高密度の白煙は、餅達から完全に視界を奪い去る。
「何モ見エナイヨー!」
「五里霧中モイイトコダヨー!」
 視界を奪った後は棒手裏剣を竹の花に変え――ようとしたが、
「にん?」
「ダレカノ腕ガボクノ目ヲ塞グヨー!」
「イタタ痛イヨ! オモチ投ゲナイデヨー!」
 白煙にまかれた餅達は、やたらめったら無茶苦茶に周囲を攻撃し、煙が晴れた後には……同士討ちの果てに伸びきった餅達の無残な姿が。
「にんにん。自分でもちょっとびっくりする位予想以上の効果でござった……許すでござるよ」
 漁夫の利とはこういうことを言うのだろう。とりあえずかごめは、申し訳ないと思いつつも、伸びてるモチにサクッと鉈を突き立てた。

成功 🔵​🔵​🔴​

神崎・伽耶
あー。
なんか、わかるわ。
食べ物を粗末にするのは、ダメ絶対よね!

う~ん。
カビてるお餅は、カビを落とせば食べられるモノなのよね~。
普通のお餅なら、ね?

ここは敢えて!
受けて立とうじゃないの。
お餅が飛んで来たら、顔の直下に鞄を構え、ユーベルコード発動!

無敵が素敵な今のあたしは、口元鼻元の防御も万全よ。
口や鼻をめがけて飛んでくるお餅は、全て鞄の中へ滑り落ちていくわ!

……少しは気が晴れたかしらん?
お餅たちと無数の目を、優しい目で見返して。

火のない時代の食事は、きっと味気ないものだった。
焼かない餅は、賞味期限が短いわよ?

いい加減、拗ねてないで!
鞭を一閃、正気に戻し。

さあ、焼餅目指して、先に進みましょうか!



「あー。なんか、わかるわ。食べ物を粗末にするのは、ダメ絶対よね!」
 うんうん、と頷いて、神崎・伽耶(トラブルシーカー・ギリギリス・f12535)は、憎しみ渦巻くモチ目連達へ、それでも無邪気な笑みを向ける。
 何を隠そう、いや隠してないが、伽耶は主に各地のご当地グルメレポートで生計を立てている貧乏人(ギリギリス)。そんな生業上、『食』無くしては『衣』も『住』も、お金と共に消えてしまう。
 食べ物に足を向けて寝られない、というのは大げさだが、伽耶は粗末に扱われてしまった彼らに対して、敵意よりも同情心を抱いた。
「でも、いい加減、拗ねてないで! それじゃ何時まで立っても先に進めないわよ?」
 伽耶はばちりと鞭を一閃、毒モチを叩き落とし、人と食べ物が戦い合うのは無意味だと、餅達へ更生を促すが、
「コノ怨ミハラサデオクベキカダヨー」
「怪我スル前ニ帰ルトイイヨー」
 すれた彼らは受け付けない。その憎悪を反映するかのように、シャドーボクシングで伸び縮みするジャブの角度がとてもえぐかった。
「う~ん。カビてるお餅は、カビを落とせば食べられるモノなのよね~……普通のお餅なら、ね?」
「同情スルナラレポ書イテー」
「カビタオ餅ガ賄賂ダヨ?」
 流石にかびた餅をグルメレポートに載せるのは無理がある。書くとするなら社会派的な感じになってしまうが、そう言うのをリクエストしてるわけでは無いだろう。
 ともあれ、何とかして彼らの後悔を晴らしてやりたいと思う心は本当だ。
「……よし! ここは敢えて! 真正面から受けて立とうじゃないの!」
 どんと大仰に胸を叩くと、伽耶はグリュプスの魔法鞄開きを顔の直下に構える。
「ホントニー?」
「ほんとにー」
「容赦ナク行ッチャウヨー」
「モチ論、望む所よ?」
「ソレジャヤッチャウヨー」
 モチ目連達は宣言通り容赦なく、毒モチの雨を伽耶目掛けて投げてくる。
 それが最早食べ物の道理を外れた凶器だったとしても、伽耶は一歩も退かない。無敵が素敵な今の彼女にはそれを全て受け入れるだけの度量があった。
 というか実際に受け入れる。無敵城塞中の顔面に当たった毒モチ達は、つるりと滑ってそのまま直下の鞄へ吸い込まれた。
 空間拡張の魔法が施された鞄の中身は大容量。餅程度ならいくら寄せ集まっても軽いもの。
「……少しは気が晴れたかしらん?」
 餅たちとそれにくっつく無数の目を、伽耶は優しい眼差しで見返すと、餅達は円らな瞳をさらにまん丸く見開いて、驚愕している様子だった。
「食べラレチャッター……」
「食ベチャウンダ……」
「……ボ、ボクモー……」
「ボクタチモ食べテー!」
 カビ餅達は我先にと伽耶へ手を伸ばす。
 伸びに伸びた熱々の手は伽耶の身体に弾かれそのまま鞄の中へ滑り落ち、
 ――『口』の開いた鞄。そこに『呑み込まれる』餅。椋の骨格人形が餅を噛んだ時のように。彼らの視点で『食事の見立て』が成立していたのだ。
「食べるも何も……言ったでしょ? 真正面から受けて立つって!」
「ワー!」
「ワーワー!」
 小さな子供がプールに飛び込んではしゃぐように、感極まった餅達は、鞄の中へ次々ダイヴしていって、次々浄化――目目連と分離――されていく。
「火のない時代の食事は、きっと味気ないものだった。焼かない餅は、賞味期限が短いわよ?」
 そう考えると、『火』があるのも満更ではないでしょ? 伽耶はあやすような柔らかい声色で、骸魂に戻ったモチたちへ語り掛ける。
「ソダネー」
「ソダヨー」
「さあ、カビが落ちたなら、焼餅目指して、先に進みましょうか!」
「ソウスルヨー」
「ソレジャアネー」
「ガンバテネー」
 悔恨(カビ)の消えた骸魂(モチ)達は、『食べて』くれた伽耶を激励し、ふわふわと天へ登っていく――。

「『マタ後デネー』」
「……ん?」
 途中で。何やら聞き捨てならない言葉(ワード)を呟き中途半端に謎を残したまんま――去って行ってしまった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

松本・るり遥
【冬星】
炎がダメってなると
未夜の炎矢と、ジンガは火器類がだめか。
俺は……カビかあ、マスクしとく……
おー、帰りのうまい飯に期待。肉まんとかかなあ。

飽食、廃棄、食べ残し、全部、作った側と消費側の勝手。食べ物側の嘆きを浴びたらーーカビやマスクのせいだけじゃなく、息が詰まる
あれ……餅食えると思う……?そう、手遅れっぽいよな……カビたとこだけ剥いで出されたこともあるけどさ、パンとか餅とか……
無念がもし晴れるなら食ってやりたい気持ちと
いややっぱ衛生上無理の恐怖をBANにぶち込んで!
『でもごめん本当ごめんカビた餅は無理!!!!!!』

『時雨』にさっさと代わった方が良かったんだろうなあ……
いい土になってくれ……


三岐・未夜
【冬星】
料理の美味い評判の街だって
帰りに美味しい物食べて帰れるらしいし、食べ歩きのためにも頑張ろー

炎が消えたって僕的にはかなり困るんだけどなー
そりゃ他の属性も使えるけど、個人的に炎が一番なんだよねぇ
ふたりは……属性あんま関係ない?
ジンガそんなことなかった!

……えー……カビてるの、おもち……
おもち好きだけど、早く炎取り戻さないと焼けないじゃん
いや既に手遅れレベルにカビてるけど
るり遥ー、カビ舞ってるから喉気を付けてよね!
ジンガ何時も通り前出るならあとで洗わなきゃ……カビ……
ていうか口の中突っ込んで来るっぽいんですけど!?こわい!

良ーし、炎使えないし土の矢で埋めようそうしよう可及的速やかに土に還れ


ジンガ・ジンガ
【冬星】
はーん、炎
俺様ちゃんの古いオトモダチ、軒並みアウトじゃん?
……まァ、別にいーけどさァ
もーっと付き合い長いコ達は問題無く使えるワケですし?(ダガーくるくる)

……俺様ちゃん、おうどん食べたいにゃあ

ワァオ、めっちゃカビカビ~
食わなきゃ死んじゃうーって状況なら、そりゃ剥いてでも食べますしィ
そーゆーの食べたコトもまァ、ありますけどォ
コレはダメっしょ
どー見ても食ったら死んじゃうヤツっしょ

先陣切って2人の前へ
飛び交う餅の軌道見切り、叩き落とし
手が足りぬなら、全力ダッシュで必殺逃げ足
コート脱ぎ捨てフェイントからの
加速してだまし討ちの2回攻撃

るり遥も未夜も喉ヘーキ?
後でちゃーんとガラガラペッしてよねェ!



 ゆらり。ゆらゆら。雨の中、黄昏色の炎が今にも消え入りそうなほど小さく燃えている。
 七十六の玄火を束ねてこれだけだ。三岐・未夜(迷い仔・f00134)は大きく溜息を吐くと、寂しげに燃える炎に手を触れて、包み、消した。
「……炎が消えたって僕的にはかなり困るんだけどなー。そりゃ他の属性も使えるけど、個人的に炎が一番なんだよねぇ」
 妖狐には優しくない世界だよ。そう言って、口を尖らせる。
「ふたりは……属性あんま関係ない?」
「はーん、炎? 火薬もダメなら、俺様ちゃんの古いオトモダチ、軒並みアウトじゃん?」
 ジンガ・ジンガ(尋歌・f06126)は肩をすくめてホント困っちゃったわァと剽軽(しんこく)そうに舌を出す。
「あっ、そっか。ジンガジンガも結構大変だ!」
「……まァ? 別にいーけどさァ。もーっと付き合い長いコ達は問題無く使えるワケですし?」
 俺様ちゃんの冴え冴えとした剣撃に乞うご期待じゃんよ? そう言って、ジンガは使い慣れたダガーをくるりくるりと玩ぶ。
「未夜の炎矢と、ジンガは火器類が駄目か。いつも頼りにしてる分、個人的には、というか、心理的にきっついな……」
 松本・るり遥(乾青・f00727)は唯一、世界に炎が無かろうと戦闘力に影響はない。『声』が攻撃の主体だから、精々カビ対策に厚めのマスクをつけておく程度。
 ……今回は『炎』だが、この世界では『声』が無くなることもあるという。ぞっとする話だ。それを思い出したから、と言う訳でも無いが、るり遥はマスク越し、幾度か声の調子を確かめる。
「そーよォ? つまり今回はるり遥が俺様ちゃん達の最終兵器って訳じゃん?」
「えっ」
「そうなるよね。僕達がピンチの時は任せたよ、るり遥」
「いやちょっと待って。そういう風に言われると、肝心な場面で声が出なかったり裏返ったりしそうで怖いんだけど!?」
 ほかの人格(やつ)ならいざ知らず、『勇気』が欠けているるり遥にはなかなかプレッシャーな話だった。
「まあまあ。もしもの時の話より、先ずは目の前の問題を片付けないと。帰りに美味しい物食べて帰れるらしいし、食べ歩きのためにも頑張ろーよ」
 それで、二人は何食べたい? 戦場の様子をつぶさに確認しながら、未夜は二人に問いかける。
「おー、そうだなぁ、街の造りから言って肉まんとかかなぁ。ベタだけど」
「……俺様ちゃんはねぇ、おうどん食べたいにゃあー」

「オ餅ハー?」
「オモチヲ一杯食ベヨウヨ」
「ドウシテ誰モ食ベナイノー?」
 三人の会話を盗み聞きしていたモチ目連達が、憤慨した様子で毒モチを投げつけてくる。
「ワァオ、お餅ちゃんたちめっちゃカビカビじゃ~ん?」
 こんな餅がすぐ近くに居たからこそ、三人の話題に上がらなかったのだ。
「……えー……見事にカビちゃってるね、おもち……」
 未夜の口からはそれしか言葉が出てこなかった。そも、それ以外の何を言えばいいのか。
「あれ……餅食えると思う……?」
 るり遥は一応、モチ達の心情を慮って、そんな問いを紡いでみる。
 ジンガはくるくると玩んでいたダガーを確と握り締め、いつものとおり――いつの間にか日常(いつも)のとおり――先陣切って二人の前衛(まえ)に飛び出した。
「食わなきゃ死んじゃうーって状況なら、そりゃ剥いてでも食べますしィ? そーゆーの食べたコトもまァ、ありますけどォ?」
 そういう状況が、少し前まで日常だったのに――ヒヒヒ、とジンガは笑って毒モチを叩き落とす。
「イヤー、コレはダメっしょ。どー見ても食ったら死んじゃうヤツっしょ」
 何だかそれでも普通に食べてる猟兵(なかま)がいる気がしたが。其処はみんな違ってみんないいの精神で華麗にスルーしつつ、ついでに延びる腕も逃げぬけて、モチ目連の柔肌に、二本のダガーを突き刺した。
「メッチャ伸ビルカラ切レナイヨー」
「それでも無理矢理斬っちゃうヨォー?」
 事前にダガーを振り回すことで、増強された羅刹の戦闘力。腕(かいな)に思い切りの力を込めて、ジンガは弾性の限界を突き崩し、モチ目連を斬り散らす。

 未夜だって、餅は好きだが、目玉をつけてカビを背負ったまま四方八方からむにむに現れる餅は流石に敬遠せざるを得ない。
 とにかく、何は無くともまず炎だ。早く炎取り戻さないと眼前の餅達を焼き上げるのもままならない。
「いや、既に手遅れレベルにカビてるけど!」
「そう、手遅れっぽいよな……俺だって、カビたとこだけ剥いで出されたこともあるけどさ、パンとか餅とか……」
 るり遥は、気持ちを落ち着け深呼吸。『その言葉』を餅達へ叩きつける為には、そこそこの勇気がいるかもしれない。
「オ餅ダヨー」
「美味シクハ無イト思ウヨ?」
 妙な所で素直だった。餅達は胴やら四肢やら勝手気儘伸ばしたいように伸ばして、未夜を追いかける。
「ていうか口の中突っ込んで来るっぽいんですけど!?」
 恐い。あらゆる意味で。
 炎の無い今、使えるのは土か水。水を使ったところで、彼らに根付くカビが洗い流せる気はしないので、そうなると、残る答えは一つ。
「良ーし、土の矢で埋めようそうしよう可及的速やかに土に還れ!」
 未夜はドローンに掴まって空高く浮上し、三百六十の破魔矢を打ち下ろす。鏃が地に到達する僅かな間、土の属性を帯びた破魔矢は土石流に変じ、カビ餅達を埋め立てた。
「ワー! 大地ニズブズブ埋ッテクヨー!」
「何ダカ眠クナッテキチャッタヨー……」

「るり遥ー、土とカビ舞ってるから喉気を付けてよね!」
「ああ。解ってる。けど――」
 ……息が詰まる。
 カビやマスクのせいだけじゃなく。飽食、廃棄、食べ残し、全部、作った側と消費側の勝手。彼らはそういう物の化身だろう。そんな食べ物側の嘆きをまざまざと見せつけられたら――酷く、息が詰まるのだ。どうしようもないからこそ、締め付けられるように息苦しい。
「……るり遥ー。まァたムズカシーこと考えてるんじゃなーい?」
 顔に出てるじゃんよー、とジンガが声を掛けてくる。
「人間、一度上がった生活のレベルは下げられないもんじゃん? 俺様ちゃんだって今の生活レベル下げろって言われたら絶対ヤだし?」
「ジンガー!何時も通り前出るなら、あとで手洗わなきゃ……カビ……酷いよー!」
 未夜を乗せたレギオンは再び浮上する。もう一度、土石流を起こすつもりなのだ。
「あらまァ、未夜ってばそんな大声出しちゃって喉ヘーキ? 後で二人ともちゃーんとガラガラペッってしてよねェ!」
 ジンガは御用達のコートを脱ぎ捨てて、元より身軽な躰を加速させ、カビ餅達の不意を突く。
「……健気でカヨワイ俺様ちゃん達が出来ることなんて、化けてできたこいつらを、全力ブン殴って追い返してやることくらいじゃん?」
 騙し討たれた餅達は、それでぞれ縦・横一文字に裂きつぶれ。それを見ていたるり遥は、ようやく『その言葉』を口にしようと決意する。
「食ベラレ無クテ悔シイヨー」
「食ベナイ奴ガ憎タラシイヨー」
「君モ餅ヲ食ベルンダヨ!」
 見捨てられた、哀れな餅達。
 ……食べられることで無念がもし晴れるなら食ってやりたい気持ちと、そして、
「でもごめん本当ごめんカビた餅は無理!!!!!!」
 いや衛生上どう足掻いてももう絶対食べ物じゃないだろという真実の恐怖を、勇気の代わりに覚悟を使し、あらん限りの声量を振り絞って彼らにBANす(つたえ)る。
 マァソウ言ウ事モアルヨネー! とるり遥の絶叫(おおごえ)に何もかも相殺されたうえ吹っ飛んだ餅達は、土石流の第二波に飲み込まれて跡形もなく消え果てた。
 後には、気を失った目目連が、大地の上に滲むのみ。
「『時雨』にさっさと代わった方が良かったんだろうなあ……」
 どうにも、感情移入してしまった。
『優しさ』の欠けた彼ならもっと早く終わらせることが出来たろうか。
「せめていい土になってくれ……」
『優しさ』が欠けていないるり遥は、彼らの為に、そう、祈った。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

新海・真琴
【炎桜】
(ウサギのようにぴょこんと頭に生えた小さな白翼)
この世界に来ると何故か生えるんだ……あんまり、見ないでくれよ
(両手で押さえて隠しつつ)

ええ、あれ餅なの
(げんなり)
そうだね、食い物の恨みは……ん?辞書と意味がなんか違わない?
ま、いいか。敵は殲滅する!ベルンハルト、火薬使えないけど準備はOK?

ボク、君の矛だからねっ!
(はなきよらを構え)
カビた餅って事は干からびてそこそこ硬いだろうが、鎧無視攻撃でなぎ払い
2回攻撃で更に蹴散らしてく!

うっわ!カビ餅が伸びてきた!
恫喝で、ハルバード振り回して威嚇!

万葉集に曰く、壱師の花の灼然く。物理的な炎じゃない、心の炎だ
破魔と浄化の曼珠沙華、赤い花よ舞い散れ!


ベルンハルト・マッケンゼン
【炎桜】アドリブ大歓迎!

(苦笑して)
……弾薬が使えん、タレットも作動不良とは、な。
真琴、恋人の私が言うのも何だが……誰か、他の人を誘った方が良かったんじゃないか? カタナソードのサムライウォーリアとか、な。戦術的に…フッ。

まぁ、仕方がない。惚れた男の弱みだ。
……Ave Imperator! Morituri te salutant!
(ぼやきながら、それでもバヨネットをライフルに着剣。銃剣を曇天に掲げ、叫んでUC発動)

戦闘知識からCQCの戦闘スタイルを選択。先制攻撃で切り込み、グラップルで組み合い、カウンターで目潰し。
真琴が敵の攻撃に反応できない時は飛び込んで盾受け、彼女を護る。
「貴女の盾だ!」



 薄香色の頭の頂に、いつの間にやらぴょこんと生えた小さな白翼。
 兎の耳にも似たそれを、カビた餅すらそっちのけ、新海・真琴(薄墨の黒耀・f22438)はあわあわと、恥ずかしそうに両手で隠した。
「この世界に来ると何故か生えるんだ……あんまり、見ないでくれよ」
 ご先祖様の血が、きっと悪戯しているんだ。真琴は小さな声でそう言い訳をする。
「……ああ。君がそれを望むなら。しかし、少々残念ではあるけどな」
 隠さなくてもよかろうに。ベルンハルト・マッケンゼン(黄金炎の傭兵・f01418)は苦笑する。
 似合っているよと素直な感想を伝えれば、彼女はどう反応するだろうか。今すぐ確かめたい衝動もあったが、まずは街の大掃除だ。
「しかし…………弾薬が使えん、タレットも作動不良とは、な」
 ベルンハルトの得手は銃撃戦。だが、『炎』を失ったこの世界では、銃火器類など高級な棍棒(どんき)に等しく、まともに使えそうなのは精々近接戦用の銃剣(バヨネット)。
「真琴。恋人の私が言うのも何だが……戦術的に誰か、他の人を誘った方が良かったんじゃないか? カタナソードのサムライウォーリアとか、な……」
「でも、ベルンハルトならなんだかんだで大丈夫でしょ?」
 小さな白翼(みみ)を帽子の中に押し込めて、真琴はカビた餅の群れへ目を向ける。
「えぇ……あれ餅なの……?」
 見た瞬間にげんなりした。目がくっついて全身隈なくカビまみれ。『これはお餅です』と事前に言われていなければ、外見から餅の要素を判別するのは難しい。
「オ餅ダヨー」
「哀シミヲ背負ッタオ餅ダヨー」
「食イ物ノ恨ミハ恐ロシインダヨ!」
「そうだね、食い物の恨みは……ん? 辞書と意味がなんか違わない?」
 しかし、今回の場合『食べ物』が人間を怨んでいるのは相違ない訳で……ややこしい。
「……ま、いいか。敵は殲滅する! ベルンハルト、火薬使えないけど準備はOK?」
 真琴は薔薇石英の勾玉から、星彩を掴むように長柄の洋斧(はなきよら)を展開し、構える。
「いいや。何一つOKではないが――まぁ、仕方がない」
 愛しい人の前でなら、例え其処が神々の黄昏の真っ只中であったとしても、血反吐を吐いて乗り越える。それが惚れた男の弱みだろう。
「……Ave Imperator! Morituri te salutant!」
 彼女が自分を選んでくれたのだ。未来の可能性など惜しくはない。ベルンハルトは黄金銃(ライフル)に着剣したバヨネットを曇天へ掲げ、声高らかそう叫ぶと、カビた餅の軍団へ、一気呵成に切りかかる。
「やっぱり、格好いいよ。ベルンハルト。けど、ボクだって、応援(エール)を送るだけじゃない……!」
 降りしきる雨を押しのけ真琴は走る。ハルバードの間合いの更に先、奇妙な触感の餅を踏み台に跳躍し、高高度からはなきよらを振り上げて、思い切り、餅の群れに叩きつけた。
「ボク、君の矛だからねっ!
「ワーン! ブタレタヨー!」
「タンコブデキチャッタヨー!」
 刀身から伝わる感触。かびる位に干乾びた餅達のそのボディ、弾力と引き換えにそこそこの固さがあるが、そんなものはまるっと無視して薙ぎ払い、鎧袖一触蹴散らしていく。
 餅達が発熱する前に、ある程度は片しておきたい。
「ムムムー。ボクタチダッテヤラレッパナシジャナインダヨウ!」
「鬼ゴッコダヨー。ボクラガ鬼!」
「うっわ! カビ餅が伸びてきた! ちょっとタンマ!」
 真琴はハルバードを大きく振り回し、周囲の餅をつき倒しながら、こっちへ来るなと伸びた餅達を威嚇する。
「流石。こちらも負けてはいられない。さて一つ、私の相手もしてもらおうか」
 眼前の怪異相手に戦場で培ったCQCが果たしてどこまで通用するか。
 頼れるものは銃剣一つ。拳を見舞い、刃を切りつけ、組み合い、引き剥がし、ベルンハルトはカビ餅達相手、至近距離での決死の格闘戦を演じる。
「イタタ。純粋ナ技量勝負ダト部ガ悪イヨ」
「インチキシテ体伸バシチャウヨー」
「フッ。それを待っていた!」
 餅達がベルンハルトの口鼻目掛け、四肢を伸ばしたその瞬間。ラインの黄金銃(バヨネット)が真一文字に閃いて、モチ目連の目玉を潰す。
「ワー! 何モ見エナクナッチャッタ!」
「いくら変幻自在の軟体を気取ろうと、その目玉は借り物ゆえに変われない。即ち、貴様達の弱点という事だ」
 仕掛けが分かれば話は早い。毒モチの雨を潜り抜け、ベルンハルトは無数有る餅の視線を刈り取ってゆく。
 刈られっぱなし餅達の餅達は、しかしベルンハルトが遠距離攻撃の手段に乏しい事を察し距離を取り、まだまだ残った眼差しを、真琴へと向け直す。
「危ない!」
 真琴へと伸びる餅の魔手。ベルンハルトは咄嗟、シールドを構え強引に、真琴への攻撃を受け止める。
「ありがとう、ベルンハルト」
「礼は要らない。私は貴女の盾なのだから!」
「ウワーン! アッツイヨー!」
「ウラヤマシイヨー!」
 餅の野次を聞き流し、真琴はそれなら、とベルンハルトにこう頼む。
「もう少しだけ、このままボクの事守ってくれるかな……?」
「ああ。無論だ」
 互いに微笑み、前を向く。
 ベルンハルトが攻撃を凌ぐその間、真琴はゆっくりとした動作ではなきよらを翳し、解く。

「万葉集に曰く、壱師の花の灼然く――これは物理的な炎じゃない、心の炎だ」
 真琴の顔に浮かぶ緋の彼岸花(らせつもん)。例え世界から『炎』が消えようとも、心に陽炎うそれが消える事はなく。
「破魔と浄化の曼珠沙華……赤い花よ舞い散れ!」
 瞬刻。雨に乱れ舞う彼岸花が、餅達の黴(つみ)を、そっと優しく攫って行った。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

ヴィクトル・サリヴァン
炎がない、熱くない。
シャチ肌的にはいいんだけども…乾燥とか火傷はねー、熱には弱いの。
でも完全消失はよくないよね。
文明奪還頑張らなくちゃ。

…いかにも健康に悪そうだね。
黴を焼いても毒は残るらしいけどもそもそも焼く事も出来やしない。
…熱々になって飛び掛かってくるのは勘弁してくれないかな!?
UCで氷属性と吹雪を合成して吹雪を強化、敵達を冷まして固めて弾力性を奪ってみよう。
動きが鈍ったらそこに高速詠唱から水の魔法で水球を作りだし包み吹雪の冷気で凍らせて拘束。
…何か未来な感じのオブジェになっちゃってるけど大丈夫だよね。
骸魂離れたら妖怪の人達巻き込まれないよう民家の中へ避難して貰うね。

※アドリブ絡み等お任せ



「炎がない、熱くない……いいよね……シャチ肌的にとてもいい」
 降り注ぐ雨をその巨体で受け止めて、ヴィクトル・サリヴァン(星見の術士・f06661)は空を仰ぐ。
「……基本的に海の生き物だからねー。乾燥とか火傷はねー、熱には弱いの」
 少々天気に不満はあるが、ひそか鼻歌交じりに小躍りするその姿は正に水を得た魚。いいやシャチ。
「……でも完全消失はよくないよね。文明奪還頑張らなくちゃ。」
 仮に世界の全てが水に沈んでも、きっとヴィクトルは平気に泳いで(いきて)いける。けれど、炎がなくなれば、人生の楽しみだって半分になってしまうだろう。
 ゆるりと気ままに世間を揺蕩う身としては、そういう事態はやはり歓迎できかねる。
 故に、シャチのキマイラは三又銛を携えて、カビた餅達と対峙するのだ。
「オ餅ダヨー」
「モシカスルトカビノ比率ノ方が大キイカモシレナイヨ?」
「中タルも八卦中タラヌモ八卦ダヨー」
 最早自分で自分の事を餅だと認識してないのでは。ともかく黒ずんだ餅達は、街中をカビ色に染め上げながら練り歩く。
「うーん……いかにも健康に悪そうだね」
 そもそも食べ物が土足で歩き回ってる時点でどうかと言う話だと思われる。真に消えてるのは『炎』ではなく衛生観念なのかもしれない。
「弱ったね。黴を焼いても毒は残るらしいけども、そもそも『焼く』事も出来やしない」
 敵が数を誇るなら、空飛ぶシャチ達を召喚しても良いのだが、それはそれでシャチ達がかわいそうな気もする。
「バーノメニューニ並ベテヨー」
「オ酒ノオツマミガンバルヨ?」
 そんな事したらバーが一瞬で潰れてしまう。
「首ヲ長クシテマッテルヨー!」
 酔客よりも厄介に絡んでくる餅達は、体を伸ばし、ヴィクトルに飛び込み攻撃(えいぎょう)を仕掛けて来た。
「……いやちょっと、熱々になって飛び掛かってくるのは勘弁してくれないかな!?」
 今回は、きっと火傷や乾燥とは無縁の仕事だろうと期待していたが、その希望は儚くも崩れ去ってしまった。
 強引な餅達の攻撃(セールス)を銛で牽制しているその隙に、ヴィクトルは吹雪を戦場に招き入れ、更にそれへ自身の魔力を注ぎ込む。ヴィクトルの魔力と結びついた吹雪は、全てを白く染め上げる強烈な暴風雪(ブリザード)へと変じ、餅達を氷結地獄へ誘った。
「カチコチダヨー」
「伸バシタ首ガ戻ラナイヨー!」
 弾性と吸着力を無くしたモチ達は、それでも諦めず毒モチを投げてくる。それは最早餅どころかカビでも無く、ただの固い雪玉に等しく、
 高速で呪文を紡いだヴィクトルは、天から無尽に降り注ぐ雨を一点に収束させ、巨大な水の球を創る。
 雪玉はその軌道を水球に遮られ、再び吹き荒れ始めたブリザードは容易にモチ目連達を空へ持ち上げた。
「アーレー!」
「ボク今空飛ンデルヨー!」
 暴風に遊ばれる餅達は、地上へ戻ることも出来ず、どぼん、ぽちゃんと音を立て、水球に吸い込まれていく。
「さぁ、総仕上げだ!」
 周辺の餅達を一掃した事を確認すると、ヴィクトルは勇魚狩りの先端から全力の魔力を撃ち出し、大質量の水球を芯まで一気に凍結させた。
 
 少々の建築物を圧し潰し、ごろんと転がる大きな氷球(スノーボール)。
 中を覗けば限りなく透明で、アクロバティックな感じに固まった餅達が無限の世界観の広がりを表現している――様な、してないような。
「……何か未来な感じのオブジェになっちゃってるけど大丈夫だよね?」
 曇天(くも)が晴れれば氷球もその内解けるだろう。
 気付けば氷球の周りには、骸魂から解放された目目連が散らばっていた。
「平べったいというか平面だけど、ここで伸びてたら危ないから、ええと……」
 ヴィクトルは力任せに目目連のくっついた石畳を引っぺがし、彼らを民家に積み上げ、もとい、避難させたのだった。

成功 🔵​🔵​🔴​

花小路・磯良
傘を忘れて少し落ち込む

わあ こんにちは
あんたたち数が多いね
近寄らないでくれるかな
やあ 目も多い
「怖い」だろ 見ないでよ
(UC「リアライズ・バロック」発動)

見ないで フリじゃないよ
みーなーいーでー
よーらーなーいーでー!
カビた餅なんて怖くて食べられないよ

ああ怖い
どうしてこうなるまで放っておいたんだ
ぼくは餅を大切にしよう
ああでもしばらく餅は見たくないな

ほんとうに傘を忘れたのが残念だ
ぼくにもカビが生えてしまいそうだよ



 街は雨で濡れている。それは最初から知っていたのに。何という事だろう。傘を忘れてしまうなんて。
 傘があるなら鬱陶しい雨だって楽しめたろうに。しくじってしまったな。花小路・磯良(伽藍堂・f29875)は肩を落として街を彷徨う。
 ぱしゃり、と戯れに水溜まりを踏む。一粒雨に当たってしまえば、もう避ける事も面倒臭くなって、既に全身ずぶ濡れだ。
 最初の最初から蹴躓いてしまったのだ。今日はきっと、ずっとこんな調子だろう。
 その証拠に、ぱしゃり、ばしゃり、と。ほら。すぐそこの角から。賑やかに。喧しく。
「オ餅ガキタヨ」
「出前ダヨ」
「ミンナデオ餅ヲタベヨウヨ」
 招かれざる客たち。いや。それは自分だったろうか。
「わあ。こんにちは。あんたたち数が多いね。ところでとても不躾だけど、近寄らないでくれるかな」
「ナンデー」
「ヤダヤダー」 
「オ兄サンドコカラキタンー?」
 近寄るな。確かにそう言ったのに、餅達は興味津々近付いてくる。
「やあ、目も多い。ぼくなんて、たまたま紛れ込んでしまったハイカラさんだ。そんな珍しいものでも無かろうに。離れておくれよ」
「ヤダヨー」
「見チャウヨー」
「近ヅクヨー」
 ああ。恐い。態々両手で顔を覆っているのが判らないのか。
「見ないで。フリじゃないよ」
「見チャウヨー」
 壁に目が生え、磯良を見る。
「みーなーいーでー」
「視テルヨー」
 道に目が生え、磯良を視る。
「よーらーなーいーでー!」
「観ーテールーヨー」
 雨粒に目が生え、磯良を観る。
 ろくろ首でもあるまいに。餅達は拒絶すればするほど、首まで伸ばして磯良を覗き込んでくる。
 ああ嫌だ。
 ああ怖い。
 ……けれど自分も彼らと同類だろうか。
 恐怖しながら、拒絶しながら、それでも指の隙間から、ピンクの瞳が彼らを診ていた。
「カビた餅なんて怖くて食べられないよ」
 平静と恐慌の間で揺らぐ感情。それをトリガーに、現れたのは透明標本の如き骨の生き物(レギオン)。
 彼らに瞳などありはしない。あるのはただ、曇天よりもうす暗の、ぽっかり空いた虚たる眼窩。
 ひとたび現れたレギオン達は、慈悲なく餅を攻め立てる。彼らは何より執念深く、餅達が平面(カベ)や平面(じめん)に逃げようと、決して赦さず芥となるまですり潰す。
「ああ怖い。どうしてこうなるまで放っておいたんだ」
「ワー! コワイノハコッチダヨー!」
「捕マッタラ最後ダヨー!」
 全ては近くて遠い指の隙間の景色の出来事。
 辺りがしんと静まって、磯良が掌の仮面(ペルソナ)を外してみれば、そこにはもう、何もいない。
「こんなことはもうまっぴらだ。僕は餅を大切にしよう。ああ、でも、しばらく餅は見たくないな」
 磯良は視界を洗うため、曇天を仰ぎ、

 ●空から降るもの
「ほんとうに、傘を忘れたのが残念だ」
 あれは雨じゃない。餅でもない。唯の木綿(さつい)の塊だ。
 雨が降る。殺意(あめ)が降る。家が砕け、路が散った。
 あれの大元を叩かねば、『炎』を取り戻すことは出来ぬのだろう。
「ああ、ぼくにもカビが生えてしまいそうだよ」
 雨に濡れるのも些か飽きた。
 磯良は殺意を寸前躱し、このまま進むべきか引くべきか――思索に耽った。

成功 🔵​🔵​🔴​




第2章 ボス戦 『キョンシー木綿』

POW   :    キョンシーカンフー
【中国拳法の一撃】が命中した箇所を破壊する。敵が体勢を崩していれば、より致命的な箇所に命中する。
SPD   :    百反木綿槍
自身が装備する【一反木綿が変形した布槍】をレベル×1個複製し、念力で全てばらばらに操作する。
WIZ   :    キョンシーパレード
戦場で死亡あるいは気絶中の対象を【キョンシー】に変えて操る。戦闘力は落ちる。24時間後解除される。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠山田・二十五郎です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


※次回冒頭文更新10月4日(日)予定。
●炎よ消えよ
「世界の外から終末を眺めておれば良いものを。炎が其処まで尊いか」
 布槍と共に降ってきたのか、それとも端から其処に居たのか。
 ゆらりと姿を現した黒幕の、その外見こそ若い娘だが、発した声音は酷く年老いて――嗄れていた。
 恐らく魂(なかみ)が違うのだ。娘の身体を動かしているのは、彼女に取り憑いた一反木綿なのだろう。
「名の有る絵画も、麗しき装束も、歴史を語る書物も、豪奢な建築物も、活力のある女も、頑健な男も、老いも、若きも、ひとたび炎(あれ)が暴れれば、あらゆる全ては灰燼よ。そんな風情の無い結末を、取り戻すだけの価値があると、貴様らはそうほざくのか」
 世界の終わりを選ぶなら、黴が蔓延る現状(いま)の方がそれでも幾許ましであろう――娘の顔が、老獪に歪む。
「早い者勝ちじゃ。何処の誰かもわからぬ骸魂(やから)が炎を用いて世界を焼かんとも限らん。その前に、儂がこの世を滅してくれる」
 直後。大地が揺れ、響き、埋葬された屍が回生したが如く、土の底から現れたのは多数の妖怪(じゅうにん)達。
 まさか街を造っておきながら、土中で暮らす習性があるわけでもあるまい。
 血の気も無い。意識も無い。都合のいい手駒として、一反木綿が住人達を素材(ベース)にキョンシーへと加工したのだ。

 雨が降る。
 布槍と手駒を従えて、一反木綿は拳を構える。老獪な木綿の智慧と若きキョンシーの身体能力。その二つが交じり合い、練り上げられた圧倒的な殺気と隙の見えない身の熟し。一筋縄では行くまい。
「反物としての慈悲じゃ。精々死に装束だけは小奇麗に着飾って、野に八相を晒すが良い。焼相は儂が消したが故、な」
六島・椋
【骸と羅刹】
自分個人としては、焼相が消えて骨相で終わりになっても別に構わないんだが
美味い飯が食えなくなるのは嫌だしな
それに、骨格標本を作らせてもらう時に、煮沸が出来ないと少しばかり困る

『無念嶽』で行こう
対価は骨らへの愛
自分ががしゃどくろの君へ捧げられるものは、それくらいしか持っていない

がしゃどくろの君と合体させてもらったなら、
その巨体と【怪力】を生かして攻撃をしかける
布槍が来ようが何が来ようが、すべてまとめて薙払ってしまおう

普段ならこういったことは相棒の役回りなんだが、
今回のあいつは弱火タイマツドアだしな
こっちは勝手に動くから、そっちは勝手に頑張って避けてくれ


エスタシュ・ロックドア
【骸と羅刹】

尊いぜ、炎が消えたら俺が死ぬ
煙草も吸えねぇ、バイクのエンジンも回らねぇ
いずれ灰になろうとも、
それまでの輝きを無下にするなんざ、俺にゃできねぇな

いつもならサッと焼けば片が付くんだが
炎がなくとも反物が嫌がることはいろいろあらぁな
『蹂躙黒鼠』発動
【動物と話す】で指令しよう
キョンシーは無視しろ
狙いは反物、好きなだけ齧れ
任せっぱなしもガラじゃねぇな
キョンシーを【怪力】と【グラップル】で止めに行くか
元は住人ならそう手荒にゃできねぇが
鼠ども、ちょっとその齧り切った反物寄こせ
キョンシー縛りあげるからよ

うるせぇ今に見てろ、よ
ちょ、おまっ、待て!
縛り上げたキョンシー引っ張ってがしゃどくろから全力回避



「……炎がそんなに尊いかって? ああそうだとも滅茶苦茶尊いぜ。なにせ地獄(ほのお)が消えたら俺が死ぬ」
 雨が降る。
 全身から流れ出る自身の血潮が冷たいと、そう感じたのはいつ以来だろうか。
 視界が眩み、踏ん張りも効かない。いつもならば烈火の如く暴れさせる鉄塊剣(フリント)も、今は防戦一方、盾代わりに使うのが精一杯。全く持って湿気たマッチだと自嘲する。
 ――それでも。
「それに、炎が無けりゃあ煙草も吸えねぇ、バイクのエンジンも回らねぇ。そんな世界の何が楽しい。俺ははまっぴらごめんだね」
 それでもエスタシュは不敵に笑い、一反木綿と対峙する。
「強がるな。貴様の腹の内、『消えかけて』いるぞ。それで儂を下そうなどとは舐められたものよ。今の貴様の火力(じつりょく)は、一体往時の何割だ?」
「勿論当然百割だ。こちとら消えかけようが地獄の獄卒。咎人(てめぇ)に心配される道理は無ぇ」
「よかろう。ならば……」
 一反木綿が半歩突き出した脚で石畳(じめん)を震わせるほど強く踏みつけると、地を濡らす雨は一瞬、さかしまに天を目指し、同時、加速した拳がエスタシュを打つ。
 フリントもろとも吹き飛ばされたエスタシュは、民家の壁を突き破り、瓦礫と共にと共に倒れ伏す。しかし、それも僅かの事。
 こいつは良い、ちょうど雨宿りがしたい気分だったんた。そんな痩せ我慢で呼吸を整え、激痛(いたみ)を無理矢理押さえつけて立ち上がる。
「いずれ灰になろうとも、それまでの輝きを無下にするなんざ、俺にゃできねぇな」
「口の減らぬ羅刹(オニ)よ」
「文句があるんなら、消えかけの羅刹の口すら塞げない、てめぇの非力な拳に言うんだな」
 火の落ちた民家の暗がりに、僅かばかりの燐火が瞬く。此処で一反木綿目掛けて最大級の群青業火を見舞えれば満点だが、概念が喪失した影響で、現実は辛うじて傷口を塞ぐ程度の炎が精々。
 だが、相手が反物の妖怪なら、炎以外にも嫌がる手は打てる。
「……此処に示すは我が実業、振るう腕に拠る因果、以て湧き出る黒の群」
 エスタシュがそう口遊むと、雨に紛れて現れたのは四百二十五匹の黒色鼠。
「さぁ鼠共。腹は十分空いてるか? 狙いは反物一点、好きなだけ齧れ。あいつが乗っ取ってる娘さん含め住人(キョンシー)は無視していい」
 ちゅう、とエスタシュの命令(ことば)に鳴き声を返した黒色鼠達の波は、我先にと雨の街を駆け、一反木綿へと押し寄せる。
「なっ……!?」
「――数の暴力、食らいやがれ」
 多数の木綿槍が鼠の群れの一部を突き、穿ち、払おうとも、無数の鼠は決して怯まず、それどころか木綿槍すら食い破り、一反木綿に取り付いて、その身を齧り尽くそうとする。こうなってしまえば中国拳法も形無しだ。両手足の四本だけでは、無数の鼠を除去仕切るのは困難だろう。
「このまま鼠どもの活躍を特等席で見てるのも悪か無ぇが……任せっぱなしもガラじゃねぇな」
 雨宿りを終えたエスタシュは指を鳴らすと、キョンシー化した妖怪(じゅうにん)達と押し合い圧し合い組み合って、力任せに放り投げた。
「悪いな。こうでもしないと大人しくなりそうにないからよ」
 いくら地獄(はらわた)の調子が悪かろうとも、一般人に後れを取るつもりはない。
「元は住人ならそう手荒にゃできねぇが……鼠ども、ちょっとその齧り切った反物寄こせ。いや。俺は別に食わねぇから。口元に持ってこなくていいって」
 エスタシュは鼠たちから反物を受け取ると、放った住人達を縛り上げる。ようは動かなくすればいいのだ。
「そんな訳で椋、住人たちはこっちで引き受けた。一反木綿はそっちに任せたぜ?」 
「……そう言われてもな。こちらにも心の準備というものがある。もう少し考える余地が欲しい所だったが……」
 雨に濡れる椋は物憂げに息を吐き、オボロを繰る。何かほかに『代わりになるもの』は無いか。オボロの白骨(うで)が見事に住人を昏倒させるたび、椋はそう思案するが、どうにも思いつかないまま、視線だけ一反木綿を見据えた。
「そうだな。自分個人としては、焼相が消えて骨相で終わりになっても別に全く構わないんだが」
「おい、そこは、『炎を奪いやがって許せねぇ』って力を合わせて啖呵切るところじゃないのかよ?」
 エスタシュが住人を縛り上げながら遠くで何かを言っている。
「君だってさっき、煙草とかバイクとか欲望まみれに好き勝手言ってたろ。自分の趣味嗜好に素直になるのが人生楽しく生きる骨(コツ)って奴だ」
 故に椋は嘆息する。これからやろうとすることは、自分にとってあまり楽しい話ではないからだ。
「……一反木綿(そっち)が鼠に齧られ尽くしてくれるなら、こっちも悩まずに済むのだが」
「フン、世の中そううまくは出来ておらん」
 木綿が宙に弾いた鼠を、椋の指先一つ、サカズキ組がキャッチする。
「まぁ、なんだかんだ、美味い飯が食えなくなるのは嫌だしな。それに、骨格標本を作らせてもらう時に、煮沸が出来ないと少しばかり困る」
 飛来する木綿槍を、ヨハの陰に隠れてやり過ごし、椋は自身を庇ったヨハの骨(かお)を撫でる。
 雨は止まず。
 骨格人形たちの姿と活躍に愛おしく目を細め、名残惜しみながら目を瞑り、そして、覚悟を決めた。
「――きみよ、力を貸してくれるかい」
 刹那。椋の姿が消え失せて、突如街に顕現するのは巨大なる餓者髑髏。
 何もないはずの眼窩が街を見下ろす。それは餓者髑髏の視点であり、同時に椋の視点でもあった。
 ――対価を。髑髏の骸魂が、椋の魂にささやく。今回はお前の何を差し出すのだ、と。
 現状、自由に動かせるのはしゃれこうべの視界だけ。それ以上を望むなら、相応の代償を用意せねばならぬ。
「対価は。骨(かれ)らへの……愛だ」
 断腸の思いで、椋は髑髏の君にそう告げる。椋の骨らに対する無限だ。しかし一時とはいえ、愛(それ)を手放したくはなかった。だが、今この瞬間、自分が捧げられるものは、それしかない。
 唯一にして、最大の代償。
 ……ふ、と。骨格上半身(ぜんしん)が軽くなる。巨大なる白骨(からだ)が自由に動く。がしゃどくろの君が対価を受け取って、自身の身体の主導権を、骨の髄まで椋に預けたのだ。
 妖怪(ひと)の身体を乗っ取った骸魂と、人にその全てを委ねた骸魂。奇しくも、にらみ合う両者の在り方は対極。
 がたがたと、餓者髑髏は鳴動する。時間はない。愛が尽きてしまう前に、大勢を決しなければならない。
 巨拳を握り、豪速で、路と言わず民家と言わず、一反木綿にぶちかます。瓦礫が吹き飛ぶ乱気流の中で、手の指骨を伝う感触は、確かに敵を捉えた証。
 白骨のあまりの質量に捌くこともままならず、血反吐をまき散らす一反木綿。しかしそれでも達人の業が衰える事はないようで、報復とばかりに餓者髑髏の左中指をへし折って見せた。
 その様を瞳の無いしゃれこうべの眼窩から眺めていた椋は、ただ酷く客観的に無感動で、骨への愛が失せていることを実感する。
 指の骨が欠けたのならば、掌で殴ればいいだけだ。餓者髑髏が鞭の如く腕を振るえばその場所は、一反木綿も何もかも、薙ぎ払われて空になる。
 まだ決着はついていない。中空にのけ反る一反木綿は、その態勢のまま木綿槍を操り餓者髑髏の胸骨を砕く。
 だがそれが何だというのだ。椋の胸には、しかし何の痛みも感じない。
 ……骨を愛さない今の自分は、果たして本当に六島・椋なのだろうか。そんな疑問が頭蓋を掠めた。
 やはり骨への愛を代価とするのは危険なのだ。だからこそ、最初はエスタシュの体力(スタミナ)だとか、当たり障りのないものを差し出そうとしたのだが、
「まぁ……しょうがない。今回のあいつは弱火タイマツドアだしな」
「おいこら相棒よ。図体すげぇでかくなってるから、聞こえちゃいけない愚痴の音量もすげぇうるさくなってるぞ」
「え。なに、ごめん。鼓膜がないからよく聞こえない」
「いいや見てるし話してるし聞こえないってのは絶対嘘だろ。今に見てろよこんにゃろう」
 ごまかすように髑髏は笑う。そのまま白掌(うで)と白掌(うで)を組んで、天高く振り上げた。
「そろそろ眼窩(まぶた)が重い。愛(ちから)尽きるまで、こっちは勝手に動くから、そっちは勝手に頑張って避けてくれ。ちなみに次のが最大で最強級の一撃だ」
「ちょ、おまっ、待て!」
 確かに住人たちはこっちで引き受けるとは言ったけどよ。そう抗議をする暇もなく、エスタシュは縛り上げた住人達を十把一絡げに担ぎ上げ、先導する鼠たちと共に全速力で餓者髑髏から距離を取る。

 直後。
 流星の如く振り下ろされた白骨は、一反木綿に衝突して地へ沈み……街に大きな穴を穿った。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

オーガスト・メルト
墓場の隅から平和を眺めていればいいだろうに、カビがそんなに尊いか?
風情があるとかないとかの問題じゃなくてな、そもそも滅ぼすなという話なんだよ。

【POW】連携・アドリブ歓迎
デイズ、ナイツ、【竜鱗飛甲】の操作は任せる。
【盾受け】と【シールドバッシュ】で援護してくれ。
『うきゅー!』『うにゃー!』
俺は敵の攻撃を【見切り】つつ、【焔迅刀】に雷の【属性攻撃】を乗せて切り結ぶ。
隙を見て間合いに入ったらUC【赤光一閃】で斬り裂こう。

猟兵としての慈悲だ。その反物を裁断して装束代わりにしてやるから適当に着飾って…とっとと退場してもらおうか。



「……墓場の隅から平和を眺めていればいいだろうに、カビがそんなに尊いか?」
 俺はそう思わない。焔迅刀の峰打ちで、意思無きまま牙をむく住人達を昏倒させながら、オーガストは一反木綿へ鋭い言(こと)の刃を投げる。
「死んだはずの骸魂(たましい)が、仮初とは言え体を得、大層な御託を並び立ててはいるが、やろうとしてる事は唯の道連れだ」
 誰一人として、反物の身勝手な滅びに付き合わせるわけにはいかない。長く伸ばした蜘蛛の手甲のワイヤーを、群衆(じゅうにん)たちから遠く離れた位置に居る一反木綿へ差し向けて、掴み取り、強引に刀の間合いへと引き寄せる。
「尊くなどは無かろうさ。じゃがな、身を焼く火葬(ほのお)など、所詮風情無き業火の類よ。灰燼しか残さぬそれを取り上げて、感謝されこそすれ怨まれる筋合いなどありはせぬ」
 一反木綿は最初、右腕に絡みついた鉤爪(ワイヤー)を外そうとしていたが、それが叶わないと知るや一転、むしろ自ら地を駆け加速しオーガストへと迫る。捕らえたはずの獲物があべこべに、強襲を仕掛ける心算なのだ。
「デイズ! ナイツ!」
「うきゅー!」
「うにゃー!」
 オーガストにその名を呼ばれた二匹の竜は間一髪、前面に自らのである七華と七晶――竜鱗飛甲を展開し、一反木綿の蹴撃を受け止める。まともに貰えばただでは済まぬ威力だったのだろう。竜鱗飛甲と蹴撃がかち合ったその瞬間生じた衝撃波が、天地に流れる雨を弾き飛ばし、オーガストと反物、二人を取り巻く極至近の空間だけが一瞬――乾いた。
 そして再び雨は降る。
 一撃を防がれようとも一反木綿の戦意は衰えず。竜鱗飛甲を踏み台に、虚空へ侍らせていた木綿槍の一本を手に取って、オーガストの心臓目掛けて刺突する。
 しかし焔迅刀の閃きが、それ以上の侵攻を許さず、槍と刀が交差して、鍔迫り合う。
「話が噛み合わないな。風情があるとかないとかの問題じゃなくてな、そもそも滅ぼすなという話なんだよ」
「それは生者の理屈であろう。既に滅したこの骸魂(いのち)が住まうには、滅した世界が丁度いい」
「いいや。お前には、あるべき墓場(ばしょ)に戻ってもらう。力づくでもな」
 押せば斬られ、引けば突かれる鍔迫り合いの硬直状態。
「うっきゅー!!」
「うーにゃー!!」
 それを破ったのは竜鱗飛甲だ。七華と七晶は強引に一反木綿へぶつかってそのまま弾き、無理矢理引き剥がしての仕切り直しを反物に押し付けた。
「良い盾を持っておるのぉ。これでは生半に攻められん。ならば――」
 ゆらり。雨中で無数の布地がはためいた。一反木綿は複製した自身を槍に変えると、それを天地の区別なく四方、八方へ、オーガスト達を包囲するように配置する。
「全ての方位から突き刺されるとしたら……どうじゃ?」
「!!」
 一反木綿はオーガストの応答を待ちはしなかった。無数の布槍は瀑布の如く、土砂降りに、横殴りに、雨粒すら割って一斉にオーガストへと降り注ぎ、地を貫く。
 間断なく、隙間なく、そして、全ての槍が地を穿ち、立ち込めるのは雨霞。
 霞の晴れたその跡に、オーガストの姿形は無く、地に打ち捨てられるのは、役目を果たせなかった竜鱗飛甲。
「ふん、跡形も無くなったか」
 ……否。
「うにゃー……」
 飛甲の下からもぞもぞと、顔を出したのは小竜ナイツ。オーガストの肩に留まれるほど小柄だったゆえ、飛甲の下に潜り込み、槍の雨を凌ぐことができたのだ。
「……だが、今更大福一匹に何ができる」
 嘲笑い、一反木綿が無慈悲にも、ナイツを踏みつけようとした、
 その、
 刹那。
「――とったぞ」
「うきゅー!!」
 槍を躱せぬことを見切り、ナイツの管理する『宝物庫』に退避していたオーガストが、幽世への帰還と同時、焔迅刀に雷霆を奔らせる。
 真正面。刀の間合い。拳の間合い。万物を貫く雷。失せたはずの焼相。しかし完全に虚を突かれた一反木綿は微動だに出来ず、

「……猟兵としての慈悲だ。その反物を裁断して装束代わりにしてやるから、適当に着飾って……とっとと退場してもらおうか」
 光輝く雷刃に、焼き斬られた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ヤニ・デミトリ
まァ確かに。手にした炎でヒトが身を滅ぼすなら、ない方がいいのかも
だけど、世界の終わりにゃ美味い飯が欲しいなァ

カンフーとやらが見たいのでこっちも白兵戦
相手の拳が目掛けた部位を液化して避けながら、
尾や泥刃での武器受けによるいなしを挟み、泥を辺りへ散らす

うーん四千年の歴史が詰まってそうな拳圧。まともに食らいたくないっス
だけどなるほど、それが拳法なんスね
機械的に動作を学習(学習力)し、
こちらに的確に打撃を与えに来る瞬間、
回避のしがたい一瞬を狙い散らせた泥を隆起
【徒手】を叩き込むっス

炎の生む文化、文化の生み出す人間の…あった方が面白いと思うんスよねえ
反物にはわからないかなァ



「なるほどナルホド。功罪って奴っスね。まァ確かに。手にした炎でヒトが身を滅ぼすなら、ない方がいいのかも」
『炎』の概念に火薬や弾薬が入るのだから、一反木綿の言にも一理は有るとヤニは頷く。
 オブリビオンが居ようがいまいが、結局、それらを用いて争い合う人間が消える事はないだろう。
「そうじゃなくても単純に、炎の扱いミスっちゃって大惨事! なんてニュースはしょっちゅうっスからねぇ」
 マッチ一本火事の元、全くその通りっスよねぇと、剽軽に、拍子木を叩く真似をする。
「……だけど。そういうの全部ひっくるめて天秤にかけても……やっぱ、世界の終わりにゃ美味い飯が欲しいなァ」
 かびた餅が最後の晩餐、なんていうのは魚骨だって嫌だろう。せめてカップ麺が食べられる程度には文化的な生活を送りたい。
 眩い雷霆の終わり際、ヤニは右手の五指を光に紛れて刃に変え、問答無用に一反木綿へ斬りかかる。
「……あまい」
「おや、外れ。今のタイミングなら当たると思ったんスけどねぇ」
 が、布一重で躱された。その後幾度か突きなり蹴りなり放ってみるが、ひらりひらりと避けられて、当たらない。
 なおかつ向こうは理不尽に、こちらへ拳を当ててくる。砲弾が如く、至近の間合いで打ち出された高速拳。此方の防御を潜り抜けたそれは、しかし拳打の傷(ダメージ)を刻むことなくヤニの胸部にぞぶりと沈み込み、
「! 泥か……!」
「ご名答」
「だが、問題無い。それならそれでやりようはある」
「えっ。マジっスか。四千年の歴史無茶苦茶すぎでしょ」
 相手が泥と認識した一反木綿の、技の質が変わる。
 『気』とでもいうべきか。繰り出される打撃は、泥にすら浸透する神通力を帯び、唸る。無策でまともに受けようものなら、きっと人の形を保ってはいられなないだろう。
 ヤニは四肢を変じた泥刃で、尾の如く蠢く魚骨で、流麗に押し寄せる一反木綿の乱撃を、それこそ泥臭く、後の無い寸前のタイミングでいなし、捌き続けるが、その都度体を構成する泥が撥ね、血潮の如く飛び散った。
「……だけどなるほど、それが拳法なんスね。だんだんわかってきたっスよ」
「戯言を。わが拳にてその容積を減らし続けるモノが何を騙る」
 見た目劣勢でありながら、それでもヤニは飄々とした調子で片足を刃に変え、奇襲気味にサマーソルトを放つ。が、やはりそれも当たらない。
 当たらない。当たらない。捌き、打たれ、いなし、飛沫き、飛び散り、ヤニの体積(しんちょう)が十センチほど縮んだその直後。一反木綿は仕上げとばかりに頭部へ掌打を放ち、ヤニの首から上は爆ぜ散った。
「――いや。違う。これは……!」
 勝利を噛み締めた刹那後、一反木綿は気付く。確かにヤニの頭部へ掌打は放った。しかし、『掌が接触するその前に』『ヤニの頭部は自ら爆ぜ』――。
 拳法を理解したと、そう言ったのは真実だ。
 受け、凌ぎ、飛び散りながらもその動作と呼吸を強かに学習し、待っていたのは相手の息の根を止めたと、そう錯覚するその瞬間。回避し難い、する必要のないその一瞬。
 瞬刻、辺りへ飛沫いた数えきれない泥の、その全てが一斉に隆起すると、あらゆる位置から一反木綿を串刺し、切り刻む。
「俺の腕が何処かと問われれば、泥の雫の一滴まで全部そうだとふざけた答えを返すしか無いっスね。これが不定形(おれ)の『徒手』っスよ」
 頭部の爆ぜた泥、飛び散った泥。全ての泥が蠢き、再び人の形をとる。ただし、今度は複数だ。
 雨が降る。
 中国拳法を学習したヤニ『達』の泥刃は鈍く輝き……。
 一反木綿は、その一滴に至るまで、全ての泥を警戒せねばならなくなった。

「炎の生む文化、文化の生み出す人間の……あった方が面白いと思うんスよねえ。うーん……反物にはわからないかなァ」
 ――泥が。散る。

成功 🔵​🔵​🔴​

神崎・伽耶
あらあら。
今回はまた、風情のない子だわね?

悟ったようなこと言ってんじゃないわよ?
万物流転は世の習い。
再生妖怪に任せられるような現世はないっての!

アンタ、何年一反木綿やってたのよ。
取材は空振り、雨に降られてぐじょぐじょに濡れ。
しょんぼり帰ったときに迎えてくれる、炎の温かさ。
忘れたとは言わせないわよ?(私情)

オッケー、諸行無常の世なれども。
あたしの口八丁手八丁拳、見事受けてご覧なさいな!

くすりと笑って。
ゴーグルに指を添え。

アンタの攻撃が届くのが先か。
あたしの拳が入るのが先か。

賭けよっか!?

ゴーグル装着、アクションスタート!

無数の布槍を鞭と篭手で受け。
返した呪詛で動きを鈍らせて。

灰は灰に戻りなさい!



 雨が降る。
「あらあら。今回はまた、随分風情のない子だわね?」
 眼前の、泥に塗れた一反木綿に比べれば、かびた餅達の方がまだ風情があったろう。
 駄目元で鞄の中を覗いてみるが、既に餅達は其処におらず、伽耶は大きく肩を落とした。
 鞄を屋根の下に立てかける。餅達が最後に遺した聞き捨てならない何かを確かめる為には、この賢者ぶった一反木綿を張り倒すしかないようだ。
「悟ったようなこと言ってんじゃないわよ? 万物流転は世の習い。再生妖怪に任せられるような現世はないっての!」
「ならば、世の習いを変えるまでの事」
「それはまた、大した野望でしょうけども、『頑張ってねー!』とか、素直に応援できる訳がないでしょ!」
 吸血鬼やろくろ首、キョンシー化した妖怪の住人と言う、地味に何だかよくわからない存在達の首筋に、丁度いい角度で手刀を入れて回りつつ、伽耶は一反木綿へ歩を進める。
「アンタ、何年一反木綿やってたのよ。いい? 確り思い出して?」
 急かす様にそう言った、伽耶の脳裏によぎるのは――消えてしまった炎の優しさと安心感。
「取材は空振り、雨に降られてぐじょぐじょに濡れ。しょんぼり帰ったときに迎えてくれる、炎の温かさ……忘れたとは言わせないわよ?」
 そして、あの時食べたセール品で買い置きのカップ麺の味も(おいしいかどうかはともかく)忘れない。単に生活ギリギリスなので、カップ麺のお世話になることが多いからかもしれないと言うのは公然の秘密だ。
「私情であろう」
「まぁ……有体に言ってしまえばそうかもだけど、それってブーメランじゃない? そっちだって、私情で世界を滅ぼそうとしてる訳だし?」
 一反木綿は目を瞑り、沈黙は金とばかりに黙り込む。この手の口車に乗ってしまえば負けだろうと理解しているのだ。
「図星だった?」
 無数の布槍が雨に紛れて伽耶目掛け、飛来したのはその直後だった。問答無用とは付き合いの悪い。
「ずいぶん恥ずかしがり屋さんね? けれどもオッケー! 諸行無常の世なれども。あたしの口八丁手八丁拳、見事受けてご覧なさいな!」
 伽耶はくすりと笑ってゴーグルに指を添え、太腿のホルスターに手を掛ける。
『一番槍』が地を抉る。ふわりと身体が舞ったのは、それを避けた反動か、それとも相手が外したか。
「アンタの攻撃が届くのが先か。あたしの拳が入るのが先か……さあてそれじゃあ――賭けよっか!?」
 賭けの対象は、もちろん世界の行く末だ。
 屈託のない笑顔でゴーグルを装着した伽耶は、ホルスターから鞭(ヒップホップ)を引き抜くと、撓るに任せて布槍を叩き落とす。粘着質なまでに攻撃対象を追尾する鞭だ。鞭の射程範囲に入ったなら、叩き落とされるより道はない。
「そう容易く対処はさせぬ」
 一反木綿が号令し、布槍の爆撃密度が上がる。ヒップホップはそれでもかまわず槍を叩き落とすが、そうすれば、槍はさらに間断なく降り注ぐようになる。
「うわわ、こりゃきつい。こうなると、こっちも加減は出来ないからね?」
 言って、伽耶は鞭と同時、鏡の籠手(ハーフミラー)で攻撃を受け止める。
 鏡が布槍を弾く度、籠手から伝わるのは――槍に込められた世界への、炎への憎悪。
 それは確かに、炎を奪った癖、世界を燃やし尽くすほど鋭く強情で……。
「もらったぞ」
 不意に、一反木綿の嗄れた声は耳に入る。音源はすぐ間近、最至近――。
 密度の高い槍の雨は、拳(ほんめい)を隠すための物だったのだろう。
「なんの!」
 伽耶は撃ち出された拳に躊躇なく籠手をぶつけた。
 衝突する拳と拳。
 一反木綿の拳に込められた憎悪は布槍の比ではなく、『だからこそ』、伽耶は難なく一反木綿を弾き飛ばす。
 ハーフミラーの性質は呪詛返し。人を呪わば穴二つ。鏡に映ったその憎悪が、世界を壊すものであるのなら、それを一身に受けて滅びるのは、映し出された憎悪の持ち主自身なのだ。

「炎を否定するからこそ憎悪(ほのお)に焼かれる。そういう事もあるかもね? さあ、灰は灰に戻りなさい!」

成功 🔵​🔵​🔴​

鏑木・良馬
灯夜、ミレニカと

炎が焼くものにばかり目を向け、炎が生み出すものから目を背けるとは愚かなり。
我らが取り戻さんとするのは炎があるからこそ産まれる数多の輝きと知るがいいッ!!

それはそれとして俺個人としても火が使えねば調理に支障が出るのでな。斬らせてもらうぞ。

【貴公に花を捧げよう】、霊刀の気を開放し、スピードを高め挑む
剣戟の衝撃波も、加減すれば住人キョンシーを斬らずに吹き飛ばすに留めることもできよう
灯夜に近づく物を速度を乗せたみね打ちと衝撃波で払うのに専念する
この剣気の波をも考慮すれば広範囲をカバー出来るであろう!

灯夜が打ち込む直前、全力の衝撃波を打ち込み牽制。
こちらは陽動。
灯夜よ、彼奴を討てィッ!!


ミレニカ・ネセサリ
【灯夜様・鏑木様と】
まあ、お気遣いが行き届いておりますこと
ですが、この身にまとうものは自分で決めておりますの
それに、己のためだけに他のものを利用したりお捨てになったりする方は嫌いですのよ
ですのでどうぞ気にせず、地へお伏しになって

UCを灯夜様へ使い強化致します
そうして鏑木様と共に、灯夜様の援護へと回りますわ
灯夜様への攻撃は全て殴り落として差し上げてよ
住人の方々が変えられたキョンシーには、ダムゼルをシールドで覆ったまま
木綿や他のものに対しては解除して殴ります
ダムゼルの爆発による威力は期待できないかもしれませんが、
意表を突くことはできるかもしれませんもの

わたくし達がいるというのに、手が届くと思って?


久賀・灯夜
ミレニカちゃんと良馬さんと参加

確かに炎は全部燃やしちまうかもしれないけど、
色んなものを生み出して来たのも炎だろ。極端なんだよお前!

俺も『夜の火』なもんで、ここは意地を張らせてもらうぜ……!
『Start Getting Ready...』
ベルトのSpine Spicaと同時に叫び、UCを使って火の粉を纏い攻撃力を強化

ミレニカちゃん、良馬さん、助かる! 背中は任せたぜ!
2人の援護に感謝しながら、目標はキョンシー木綿一点狙い

ここで【勇気】出さなきゃ嘘だろ
火の粉と細雪の煌めきを纏い、良馬さんが作ってくれた隙をついてDaybreakerで一閃する!



「あら、死に装束の心配をしてくださるなんて、お気遣いが行き届いておりますこと。ですが、この身にまとうものは自分で決めておりますの」
 雨が降る。
 世から炎が枯れようと、研鑽し、磨き上げ、常に正々堂々『美しく』有ろうとするミレニカの情熱は途絶えず、むしろ一層燃え盛り、
「それに、己のためだけに他のものを利用したりお捨てになったりする方は嫌いですのよ?」
 不可視(こころ)の炎を搭載したダムゼルの一撃が、一反木綿の防御を突き崩す。
「ですのでどうぞ気になさらず、地へお伏しになって?」
 攻防が入れ替わるその直前、ミレニカは己の隙を隠すようにスチームシールドを広範囲に展開して一反木綿の視界を塞ぐ。
 次手、蒸気の幕の内側で、ミレニカが放つのは右拳か左拳か。
 ――果たして、その解は一反木綿が想定していたいずれでも無く。
「……炎が焼くものにばかり目を向け、炎が生み出すものから目を背けるとは愚かなり」
 蒸気を切り裂いたのは、緋と紫の花が舞い散るがごとき如き闘気の衝撃波。
「我らが取り戻さんとするのは、炎があるからこそ産まれる数多の輝きと知るがいいッ!!」
 散り散りと、花弁に混じって俄か振り落ちる木綿の切れ端。
 良馬は刀を伝う雨粒を払い、
「それはそれとして。俺個人としても火が使えねば調理に支障が出るのでな。斬らせてもらうぞ」
 冗談めいた口調で、しかし切実な胸の裡を吐露する。刺身に使う醤油とて、製造過程で火を通す。火の落ちた世界で誰より居場所がないのは料理人だろう。それこそ、味も素っ気もない話だ。
「確かに炎は全部燃やしちまうかもしれないけど、色んなものを生み出して来たのも炎だろ!」 
 花弁の残滓をかき分けて、突き進むのは灯夜の放ったサイコキャノン。初撃を受けた一反木綿は即座警戒して距離を取り、槍を用いて次弾以降を弾いてみせた。
「文明の終わり、世の終わりじゃ。火が種々の物を生み出してきたのが事実とて、これ以上はもういらぬ」
「……極端なんだよお前!」
 灯夜と一反木綿の言葉は交わらない。三人に警戒した反物は高所に陣取り、軍師気取りで布槍と手駒(じゅうにん)達を差配する。
 三人を包囲する、意思無きキョンシー達。天を仰げば布で出来た槍の雨。
 どれを狙えばいい? 悩む時間がないと知りながら、それでも灯夜は逡巡する。
 布槍か、キョンシーか。いいや違う。狙うべきは最初から一つ。けれども今となっては相手は遠く――。
 キョンシーの腕が伸びる。布槍が降り注ぐ。いずれの脅威も、最早目鼻の先にある。
 今更臆病風に吹かれて後ずさろうと、退路などは何処にもなく、だから灯夜は、目を見開いて覚悟を決めた。
 刹那。緋と紫の花弁が舞い乱れ、駆け抜けて、キョンシーたちの力を奪い、蒸気を纏う機械の籠手が布槍の雨をこじ開ける。
「無数に見える彼奴の攻め手だが、大別すればたったの三種。そして此方も丁度三人」
 良馬は眼鏡――情報収集デバイス越しに、キョンシーの群れを睨み、
「そうですわね。役割分担と行きましょう」
 空を見上げるミレニカは、スチームシールドよりダムゼルを解き放つ。
「ミレニカちゃん、良馬さん……助かる! 背中は任せたぜ!」
 そして灯夜の視線はただ一点。元凶たる一反木綿を見据え――何もかもをも突っ切るように、雨の戦場を駆け抜ける。

「さて、余り悠長にはしていられない。ぼうっとしてれば、すぐに葉桜だ」
 花弁が地に舞い落ちれば、良馬の寿命(いのち)もまた同様に散ってゆく。
 霊刀の気を解放した今の良馬から見れば、キョンシーたちの攻撃は鈍重で、つま先の一瞬とて触れさせてやる道理はない。
 しかし、襲い来るキョンシーたちが元はこの町の住人達なら、思い切り斬り伏せてやるわけにもいかず……一種本気の状態でありながら、まるで正反対に手加減して攻撃せねばならない。
 もどかしい状態だが、それを如何にかするのが腕の見せどころだ。
 軽く、優しく、眠りへ誘うように。二振りの緋メ桜が生み出す、春風にも似た衝撃波は、キョンシー達を弾き飛ばせど、それ以上傷つける事も無く昏倒させ、花の嵐を抜け出してきた根気のある輩には、天・冥両方の峰打ちをくれてやる。黒幕の元へと走る灯夜の邪魔はさせない。
 緋メ桜が雨中に刃の軌跡を描くたび、二色の花弁は波の狭間を揺蕩うように舞い踊る。

「鏑木様が住人の方々の相手をしてくださるのなら、わたくしは加減も容赦も考えませんわ」
 ヴェールを脱いだダムゼルの、その本質はじゃじゃ馬だ。雨粒が籠手のどこかに当たるたび、彼女はぱちん、ぱちんと小さな音を立てる。
 ミレニカが拳を握り、天へと突きだせば、布槍と衝突したダムゼルは、先ほどとは比較にならない爆発(おと)を立て、布槍を弾き飛ばす。これでも何時もよりは大分淑やかなのだと説明したところで、一反木綿は信用すまい。
 借りてきた猫の如く大人しいダムゼルは、縦横無尽とミレニカに振るわれる度爆発し、槍の侵攻を許さない。
「灯夜様!」
 灯夜へ降り注ぐ布槍を、全て叩き落として生まれた攻撃の切れ目。
 僅かな晴れ間に煌めくのは、季節外れのダイヤモンドダスト。
 髪飾りのダイヤが変じたそれは、灯夜の内から、眠れる力を呼び起こす。

 幻想的に閃く細氷は、けれどどこか暖かく、灯夜の足取りを確かなものにしてくれる。
「俺も『夜の火』なもんで、ここは意地を張らせてもらうぜ……!」
『Start Getting Ready……』
 怖気を振り払うように、ベルトに装着したSpine Spicaと同時に叫び、覚悟を決めた灯夜は火の粉を纏うと一反木綿へ突撃する。
 だが。
「炎は消した。そう言ったろうに」
「……っ!」
 一反木綿が手にした布槍で周囲を薙ぎ払えば、火の粉はあっけなく散り散りに、槍の切っ先が、灯夜へ迫る。

「――灯夜よ!」
 突如。良馬の咆哮と共に、全てを攫う突風。乱れ舞う花弁が火の粉を護ると、
「彼奴を討てィッ!!」
 全力の衝撃波が一反木綿の防御を破り、
「ええ。させませんわ。わたくし達がいるというのに、手が届くと思って?」
 ミレニカの渾身の拳が呼んだ爆発が、一反木綿の意識を引き付ける。
「……そうだよな。ここで『勇気』出さなきゃ嘘だろ」
 灯夜が笑い、火の粉(ゆうき)が輝く。答えは最初から出ていたのだ。
 そう。たとえ現象としてのそれが奪われようとも、心の炎は消えやしない。
 花弁と、細氷と、そして火の粉。
 全ての煌めきをDaybreaker(やいば)に載せて、灯夜は一閃、一反木綿を断ち切った。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

矢来・夕立
【影の煩い】手帳さん/f01867
詭弁ですね。
絵画も書物も織物も、その火のあかりがなければ生まれませんでした。
文明は常に炎とともにあります。

それに、ずっと暗いのも考え物ですよ。
何某かが《闇に紛れる》のを、見逃しはしませんか?
けどったとしても、二人目の接近に対応できますか?

…いや、誰が“ウチの影”ですか。後詰めという意味ではそうですが。馴れ馴れしい。
まあ今はいいです。

【竜檀】。
狙いは手帳さんのUCが発動する瞬間。
敵が【攻撃ないし反撃に使おうとした部位】を切り離して、行動を妨害します。
手足がなければ拳法も何もない。
キョンシーってどう殺すんでしたっけ。
真っ二つにしたら死にます?やってみます。


納・正純
【影の煩い】
面白ェ言い草だが、惜しむらくは論点が微妙にズレてるッてとこだな
俺たち猟兵はな、世界の終わりなんざさらさら選ぶ気ねェんだよ
気が変わったぜ。テメェのような退屈野郎は、火薬を用いて撃ち殺す

・作戦
2人で闇に紛れ、先に俺が出て敵に挑発とUCをぶつけてやる
俺の仕事は敵の器と魂を繋ぐ視覚を狙い撃つことだ
影に紛れての防御と追撃は本職に任せよう
闇の中での争いならば、うちの影に一歩分があるぜ

・台詞
世界の外から終末を願っていりゃあ良いものを
炎が其処まで羨ましかったのかい?
黴に塗れて消えていくより、幾許華やかだろうものな
猟兵としての慈悲をやるよ。そんなに見たくないのなら、お前の目から火を奪ってやる



 雨が降る。
 ひどく眩い煌めきから、辛くも脱した一反木綿は、前線を住人キョンシー達に任せ、自身は隠れて傷を癒そうと、適当な民家を物色する。
 その最中、
「――何奴」
 暗がりの、狭い通路に向けて一反木綿がそう問いかけると、決まりの悪そうな顔をして、正純が姿を現した。

「おっと、しまった。自分としちゃうまく隠れたつもりだったんだが……」
「嘘をつけ。さして隠れる心算など無かろうに」
「ああ。なんだ――話が早くて助かるぜ」
 一転、正純はにやりと笑い、一反木綿と対峙する。『影』の事を考えれば、暫し、骸魂と語らうのも良いだろう。
「一度炎が暴れれば、全ては灰燼、か。面白ェ言い草だが、惜しむらくは論点が微妙にズレてるッてとこだな」
「何?」
「簡単さ――俺たち猟兵はな、世界の終わりなんざさらさら選ぶ気ねェんだよ」
 演説をぶち上げただけ無駄だったな。言って、正純は予告なく、至近の距離から空気銃を撃ち放つ。
 これまでの猟兵たちの攻撃で、浅く無いダメージを受けているはずの一反木綿は、しかし弾丸の悉くを回避して跳びまわる。
 失敗ではない。弾は尽きたが、未だにそれだけ動けると分かっただけで『試射』の甲斐はあった。
「ただ埒外と言うだけで、自らが自由に結末(おわり)を選べると思うのは、業突く張りの錯覚じゃ。この世界に足を踏み入れた以上、貴様らの終わりは儂が呉れて進ぜよう」
 狭い路地にもかかわらず、密集し、高速度で、正純を突け狙う布槍たち。あらゆる全てが毒モチと比較になりはしない。彼我の弾数差的に劣勢を強いられるが、それでも『まだまだ足りない』。
「……気が変わったぜ。テメェのような退屈野郎は、火薬を用いて撃ち殺す」
 布槍たちを躱しながら大仰に、L.E.A.K.の銃口を一反木綿へ向ける。装填している弾丸は―――。
「湿気た火薬でか? 面白い冗談よ」
「わからんぜ。人間の智慧って奴は万能さ」
「ふん。ならば――」
 一反木綿は地を蹴ると、一瞬でライフルの砲身を掻い潜り、一息に拳の距離まで跳ねてくる。
 刹那後に自身を抉るであろう拳が、最早回避不可な位置に到達したことを悟った正純のとった行動は――祈るでもなく、避けるでもなく、スティムピストルの引き金に指を掛けることだった。

「単純ですね」
 酷く冷徹な声音が路地裏に響いたその瞬間、正純に到達するはずだった反物の右腕は宙に舞う。そして、
「――猟兵としての慈悲をやるよ。そんなに見たくないのなら、お前の目から火を奪ってやる」
 正純は引鉄を引く。考える時間は与えない。薬液の充填された注射器が、人型の皮膚に突き刺さり、一反木綿の視覚を殺す。
「さすが夕立。見事なタイミングだ。見事(ギリギリ)すぎて、一瞬来ないんじゃないのかと肝を冷やしたが……」
「そうですね。実は直前まで行こうか如何か迷ってましたが」
「マジかよ」
「冗談(マジ)ですけど?」
 夕立は落ちた一反木綿の腕を拾い、興味なさげに眺めると、幸守達に散らさせる。
 体を奪い取られた娘のものに見えるが、これは『キョンシー木綿』と言うオブリビオンの骸魂が人の形を成したもの。
 切り取ったところで娘にダメージは無く、放置すればまた生えてくる。その程度の塵芥(もの)に過ぎない。
「炎はすべてを灰にする。事実ですが、詭弁ですね。絵画も書物も織物も、その火のあかりがなければ生まれませんでした。文明は常に炎とともにあります」
 それを無くしていいと考えるのは、やはり後先の無い死人の思考でしょう。夕立は水練を放り、邪魔な布槍を地や壁に縫い止めた。
「それに、ずっと暗いのも考え物ですよ。何某かが『闇に紛れる』のを、見逃しはしませんか?」
「さあて。いると分かれば、どうにでも」
 果たして、一反木綿は視覚と片腕を失いながら、それでも闇に紛れて放たれる雷花の斬撃を、紙一重のところで避け、それどころか第六感めいた体捌きで夕立に拳を当てようとしてくる。
 ……闇討ちが効かないわけじゃない。事実初撃は当たったのだ。先ほどと違うのは『居ると知られた』と言う認識一枚。
 故に、もっと濃く、もっと深く。
 雷花の刃文が赤く揺らめき。否無きすらも隠蔽し。精霊銃の銃声(おと)をきっかけに、夕立の気配は完全に闇へと融けた。

「よう、ご老体、そんなに警戒してどうした? さてはあいつを完全に見失ったな?」
 空気銃に精霊銃、スティムピストルに記憶消去銃。正純はひっきりなしに手持ちの銃を撃ち放って一反木綿の意識を乱し、夕立の現在位置を悟らせない。
「本職だからな。いくらてめぇが目を瞑っても戦える達人だろうが、闇の中での争いならば、うちの影に一歩分があるぜ?」
「……いや、誰が『うちの影』ですか。後詰めという意味ではそうですが。馴れ馴れしい」
 ようやく聞こえた夕立の声をよすがに、一反木綿は拳を振るうが、そこに彼はもういない。
「嫌だってんなら、代わりに俺が影役をやっても良いが」
「凄い。お互い死ぬ未来しか見えませんよその提案」
 夕立は式紙・牙道を一反木綿の左腕に打ち込む。それは目印であり、予告だ。
「それで、キョンシーってどう殺すんでしたっけ。真っ二つにしたら死にます?」
「そうだな。まずは呪符を――無いな。物理で倒すしかない」
「なるほど。やってみます」
 夕立は壁を蹴って一反木綿の頭上を取ると、予告通り空を切った左腕を刎ね飛ばし、着地と同時に上下を真二つに竜檀した。
 手足が無ければ拳法も何もないだろう。
 半身を切り取られた一反木綿はしかし地に伏さず、失った部位を布槍で補い、逃走しようとする。
「流石は妖怪変化か。世界の外から終末を願っていりゃあ良いものを」
 正純はそんな一反木綿の胴体へ、L.E.A.K.の砲身を突き刺した。
「世界中から奪ってしまうほど、炎が其処まで羨ましかったのかい? 黴に塗れて消えていくより、幾許華やかだろうものな」
 こんな銃の使い方、スナイパーとしては失格だが、こうでもしないと火力が稼げないのだから仕様がない。
「言ったろう。火薬を用いて撃ち殺すってな」
 銃に籠めるのは、薬莢に68と刻まれた六極定理のただ一発。『使えないことも無い』炎を一点にかき集め、装填し、そして零距離から。

 光るはずの無い火花が爆ぜる。
 銃弾は、一反木綿を貫いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ベルンハルト・マッケンゼン
【炎桜】
(恋人の羽根に微笑む)
妖怪センサー、か? 便利そうだな。
だが、私にも分かる。戦場で何度も感じてきたこの気配は、間違いなく敵だ。
愛する真琴、後ろは頼むぞ!

(UCを発動、ラインの呪いの封印を解く。黄金の輝きと共にライフルへバヨネットを着剣。左手でタクティカルシールドを前に構え、右手で銃剣を槍のように握ると、古代の戦場がフラッシュバックする)
……テルモピュライ、か。偉大な王と並んで戦うのは、光栄だった。血が騒ぐまま、久々に叫ぶとしよう……This is Sparta!

敵の攻撃を盾受け、カウンターでシールドバッシュ。距離が開けばバヨネットで切り込み、捨て身の一撃。続いてグラップルで肉弾戦へ。


新海・真琴
【炎桜】
む、敵か!!
(帽子を跳ねのけるように、白翼がビョーンと反応し)
羽根に反応したってことは敵で間違いないな!!多分!

(月季星彩に仕舞われるはなきよら、代わりに現れる巴板額。力いっぱい弦をかけつつ)
ごめん!ベルンハルト、銃剣で前衛頼んだ。
あいつにどでかい一撃喰らわすには、これしかない!

(矢をつがえ、弓を引く。中国拳法に必要なのは関節のしなり。それを封じるよう、穿つように狙い撃つ)
後方からの援護射撃として、破魔と浄化を載せた甲矢を放つ。
クイックドロウで二本一手の乙矢を放ち反撃を防ぐ。
誤射には気を付けないと……狩りの女神様みたいになりたくないし。

最期の一射は桜弧玉矢、破魔の矢に厄除けの玉の鏃だ!



 雨が降る。
 戦場に蠢くは有象無象の住人達(キョンシー)達。真琴は押し寄せる彼らをはなきよらで薙ぎ祓いつつ全身するが、どういう訳だか元凶たる一反木綿が見当たらない。
 先ほどから姿を隠しているようだ。
「あれ? 何処行ったのかな?」
 倒せど倒せど住人ばかり。
「達人ぶっていたが。猟兵(われわれ)に恐れをなして逃げたのか。そうなると些か厄介だが……」
 ベルンハルトが、締め上げ落とす前のキョンシーに尋問してみるが、やはり意識が混濁している様子で、何も答えない。正気が戻ったところで同じだろう。
 キョンシー達を投げ飛ばしながら、どうしたものかとベルンハルトが思案していると、突如、ぴょんと跳ねるように、真琴の頭部から帽子が滑り落ちた。
「む!? 敵か!!」
 真剣な様子の真琴とは正反対に、ベルンハルトは微笑する。恋人の頭頂部を見れば、兎の耳のように、ぱたぱたとはためく小さな白翼。あれが帽子を押しのけたのだろう。
 白翼が跳ねてしばらく、繭の如き大きな木綿の塊が、二人の前に姿を現す。
「羽根に反応したってことは敵で間違いないな!!多分!」
「妖怪センサー、か? 便利そうだな」
 ベルンハルトは白翼から、木綿の繭に目を移す。分厚い布に覆われて、中身を視認することはできないが――その正体を確信する。
「私にも分かる。戦場で何度も感じてきたこの気配は、間違いなく敵だ」
 二人が繭を睨む中、繭は震え、内より破られる。現れたのは案の定、『生まれ変わったように新品で』『妖怪(ひと)の四肢を揃えた』一反木綿だ。
「ごめん! ベルンハルト、銃剣で前衛頼んだ!」
 真琴は手にした洋斧(はなきよら)を月季星彩に仕舞い込み、代わりに和弓・巴板額を取り出すと、矢を番え、目一杯に弦を引く。
「あいつにどでかい一撃喰らわすには、これしかない!」
 射撃に必要なのは何より集中。弓を構えた以上、ここから先は僅かでも心を乱されてはならない。しかしここは戦場。どのような妨害(アクシデント)も起こりうる修羅の射的場。故に真琴はベルンハルトに防御の一切を委ねた。
「やれやれ……困った女(ひと)だ。寄りにもよって得手の大半をもがれた射手の私に前に出ろという。だが――私が貴女の盾ならば、悔しい事に退く理由が微塵も見当たらない」
 ベルンハルトは意を決し、ラインの呪いの封印を解く。眩いの光を零す掌中にあるのは黄金色に輝く銃剣(バヨネット)。それをライフルに着剣し、長槍の如く振るうと、左の手にはタクティカルシールドを携える。
 瞬間。ベルンハルトの脳内に、フラッシュバックするのは古代の戦場。圧倒的な戦力差を覆した、あの戦い。
「――テルモピュライ、か。偉大な王と並んで戦うのは、光栄だった」
 真琴には指一本とて触れさせない。そんな決意を胸に秘め、ベルンハルトは血が騒ぐままに咆哮する。
「……This is Sparta!」
「小賢しい。泣いて叫べば結末が変わるわけでもあるまいに」
 まず立ちはだかるは住人達。ベルンハルトが盾を掲げて強引に住人達をねじ伏せながら押し切って、一反木綿へ一段近付くと、今度は槍衾(ファランクス)の出迎えだ。
 ラインの呪詛の封印を、もう一段階解き放つ。さらに輝きを増した黄金銃剣を片手、ベルンハルトは根気良く槍衾を叩き、払い、弾き、傷つきながら、一歩一歩確実に、一反木綿へ歩を進める。
 そして。
「……さて、ようやく辿り着いたぞ、黒幕よ」
「よくぞここまで来たと褒めるべきか」
 あらゆる戦場の終わりがそうであるように。ベルンハルトの全身は、血まみれの傷だらけだった。

「ベルンハルト……!」
 真琴は恋人の身を案じつつ、一反木綿へ狙いをつける。住人も、槍衾も全て斃れ、射線をを遮るものは何もない。
 ……中国拳法で重要なのは関節の『しなり』。それを封じれば、勝機は自ずと見えてくるはずだ。
 射手の意志に応じ、何処までも強度が増す弦を、真琴は限界まで引き絞る。
 一射目に放つのは、破魔と浄化を乗せた甲矢。
 冷静に、息を整え、全力で放たれたそれは、一反木綿の右脚を貫き、その体捌きを縫い止めた。
 純粋な矢のダメージだけではない。『破魔』と『浄化』、その二つの属性が、不死人たるキョンシーに覿面だったのだろう。
 視界の端で、斃れたはずの布槍が動く。だが、そうはさせない。槍が再び一反木綿の手中に収まる前に、真琴はすかさず二本一手の乙矢を番えた。
 破けた布の、切れ端がはためく。少しでもこちらの視界を遮るつもりなのだろう。
(「誤射には気を付けないと……狩りの女神様みたいになりたくないし……!」)
 愛しき人を自ら殺めてしまう終わりなど、必要ない。
 さらさらと舞い踊る彼岸の花弁が、そっと布の切れ端を除く。
 果たして乙矢は見事、一反木綿の左脚を射貫き、穿った。
 
 万全には遠く及ばない。しかし、真琴の援護で暫しの休息は出来た。ベルンハルトは呪詛の封印をさらに解き、一反木綿へ挑む。
「フン。盾など無意味よ」
 反物の拳が盾に接触した瞬間。ベルンハルトは強か吐血する。盾を伝い、直接体の内部へ攻撃されるこの感覚。そう何度もは食らえない。
 ベルンハルトは一反木綿の拳を弾くと同時盾を捨て、両椀に掴んだライフルの、バヨネットで斬り捨てる。
 機動力は真琴が奪ったのだ。外すわけもない。手ごたえもあった。
 だがそれも一度きり。呪詛に侵された体にもう一度槍を振り上げる力はなく、ついに捨て身の覚悟で一反木綿へ掴みかかった。
 どん、と大きな音を立て、反物の拳が胸部を抉る。限界などとうに超えた。だがベルンハルトは倒れない。
「気力で立つか。何故倒れぬ。なにがお前をそうさせる?」
「―――単純だ。惚れた男の……弱みと言う奴だよ」
 振り絞れるだけの力を拳に宿し、思い切り、一反木綿を殴り飛ばした。

 ぐらりと揺れる一反木綿。前のめりに倒れるベルンハルト。
 すぐにでも駆けだしたい気持ちを抑え、真琴は最期の矢を番える。
 それこそが大本命の桜弧玉矢。破魔の矢に厄除けの玉の鏃を備えた特別品。
「桜の精が弓引く、玉の矢だ。魔は疾く祓われたまえ!!」
 万感の想いを込めて放たれた矢。
 宙空で無数の黒曜石の破片へと変じた鏃は、雨の街に煌めく銀色の軌道を残しながら、終点である一反木綿の胸部へ突き刺さり、決して外れはすまいと深く食い込んだ。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

花小路・磯良
ふむ 声と姿が合わないというのは初めて見るね
違和感がひどいな

それで 黒幕は一反木綿?
なるほど炎が嫌いなわけだ
ここなら燃える心配はないね
濡れてカビが生えた布になるだけ
汚いなあ
(UC「一骨」発動)

できるだけ一反木綿のほうを見ていよう
ぼくのバロックはぼくのことが大好きだから
ぼくの感情をよく読み取るんだ
ああほら白い布は汚れが目立つ
洗濯したまえよ

けれど洗濯したところで 乾かないか
生乾きは嫌なものだよ
かく言うぼくが今 そんな状況なんだから

ああ 妖怪たちも土まみれ
かわいそうに 正気に戻ったら驚くだろうな
しかし傘を忘れたのは本当に痛い
雨合羽も必要だったかもしれないよ



 雨が降る。
「ふむ 声と姿が合わないというのは初めて見るね。違和感がひどいな」
 今日び幼稚園児のおままごとだって、もうすこしうまい具合にやるだろう。諸悪の根源を目の前に、磯良は堂々悪態をついてみせる。
「それで? 黒幕は一反木綿? ははあなるほどそれは炎が嫌いなわけだ」
 もしや生前こっぴどく燃え散らかした過去でもあるのかな? ずけすけと、磯良は気取った調子で言葉を吐く。
「でも安心だ。ここなら燃える心配はないものね。ああ。よかった。ところで傘は持ってるかい?」
 磯良の発言に、一反木綿は眉根を寄せる。胸に突き刺さる鏃が疼くのもあるのだろう。
 だがそんな事。磯良の知ったものではない。
「いいよね。炎が無いから後は濡れてカビが生えた布になるだけ。汚いなあ……ああごめん。うっかり本音が出てしまった」
「……言いたいことはそれだけか?」
「やめてくれないかなその皺枯れ声。言いたいことはそれだけかって? 馬鹿を云っちゃいけないよ。まだまだ沢山あるともさ。でもね、切りがないんだ。あんたがここに居る限り」
 磯良は大きく嘆息する。ああ最悪だ。最初は傘を忘れただけなのに。ふと気が付けば、かびだらけの濡れ鼠。
 そんな態度に堪忍袋の緒が切れたのか、一反木綿は住人達をけしかけて、襲い掛かり、磯良の口を永遠に封じようとする。
「本当に、世も末だ。暴力に訴えるなんて最低だよ。妖怪(ひと)としてあるまじき行いだ。ぼくは所詮非力な男だからね。そんな事されたら死ぬしかない……でもやっぱり、こんな汚い死に方は嫌かなぁ」
 怖気と不快の間で、磯良の感情がゆらぐ。それに呼応して現れるのは、何とも知れぬ、透明標本のような骨の生き物たち。
 今から彼らのすることを思うと悍ましい。けれどその一部始終を網膜から脳裏に焼き付け続けなければ、彼らとて幽鬼の如く、手持ち無沙汰に闊歩するだけだ。
 思わず顔をそむけてしまうほどに見たくないものであっても、視なければならない。断腸の思いで一反木綿達を凝視する。
「ぼくのバロックはぼくのことが大好きだから、ぼくの感情をよく読み取るんだ。だからそう、今の彼らは、潔癖なほどに綺麗好き」
 レギオン達は動き出す。雑多に視界へ入り込む住人(キョンシー)達が煩わしいと思ったから、レギオンは住人を適当な民家に放り込み、ひらひらと泳ぐ布槍の丸まり方が汚く感じたから、レギオンは突き出される槍を強引に掴んで、ほぐし、へし折って、正(ころ)す。
 ついに雨降る往来には、一反木綿が一人きり。
「ああ、ほら、ぽつんと一人ぽっちだと、白い布は汚れが目立つ。血かカビか、知りはしないが洗濯したまえよ。石鹸くらいはそこらにあるだろう」
「余計なお世話よ」
 一反木綿の応答に、磯良は大仰に、頭を振って落胆する。
「どうして聞き入れてくれないんだい? そういう態度はいけないね。こうなったらもう――暴力に訴えるしかないじゃないか」
 ああ嫌だ。なんて凄惨な。見たくない。レギオン達が一斉に、白骨(うで)を振り上げたその瞬間、蒼褪めた磯良は瞑目する、振りをして、薄く開いた眼から、一部始終を覗き込む。
「けれど洗濯したところで、乾かないか。生乾きは嫌なものだよ。かく言うぼくが今 そんな状況なんだから。よく平気なものだよねぇ」
 どすん、がちゃん、ひどい音。再び眼を見開いたその視界(さき)に、一反木綿の姿は無く――あの傷じゃあ、もって精々数人分だろう。
 いやだねぇ、と世間話をする調子で、民家の中に目をやった。
「ああ 妖怪たちも土まみれ。かわいそうに。正気に戻ったら驚くだろうな」
 住人達に目だった怪我はない。
 当然だ。磯良がバロックを呼び出したとき、『そう』思ったのだから。

 戯れに民家の中を探せども、やはり傘は見つからない。
「しかし傘を忘れたのは本当に痛い。雨合羽も必要だったかもしれないよ」
 雨合羽も、きっと見つかりはしないのだろう。
 ずぶ濡れの磯良は、再び騒がしき街を彷徨する。

成功 🔵​🔵​🔴​

司・千尋
連携、アドリブ可

俺もモノだから燃えるのは嫌だって
気持ちは分からなくもないが
流石にやりすぎだろ…


中国拳法を使うキョンシーは『翠色冷光』で攻撃
接近されないように気をつけつつ『翠色冷光』の範囲内に入るよう位置調整
回避されても弾道をある程度操作して追尾させる

住人達は手荒で悪いけど鴗鳥で殴る
正気に戻ったら気絶してる住人を連れて避難してもらう
ここ危ないから今すぐ避難してくれる?


敵の攻撃は細かく分割した鳥威を複数展開し防ぐ
割れてもすぐ次を展開
オーラ防御も鳥威に重ねて使用し耐久力を強化
速度や威力を相殺し回避や『翠色冷光』で迎撃する時間を稼ぐ
間に合わない時は双睛を使用


炎以外でも燃えると思うけど
それは許容なんだ?


ヴィクトル・サリヴァン
燃えちゃうと色々残念だよね。
でも黴でやられるのも大して違いなくない?寧ろ酷いような。
まー言っても無駄なんだろうけど。
八相図なんて勘弁、特に俺なんか酷い事になるし。

雨で何となく元気。寧ろもっと水欲しい位。
水の魔法でキョンシー達を迎撃、足元を水でぬかるませたり川のようにして動きを制限したり。
逆にこっちは足元の水を周囲に逃がしたりして足場と体勢をなるべく維持。
武術は足元が命、空中戦を狙うのも続くならどこかに隙は生じるはず。
そこを決して見逃さぬように銛を構えて思いっきり投擲、UC発動。
周囲の雨をも巻き込んで巨大になった水シャチの齧り付き、拳法で凌げるかな?
殺さないようには注意ね!

※アドリブ絡み等お任せ



雨が降る。
 街に満ちるのは屍と黴と荒廃の匂い。
「俺も飾り紐(モノ)だから、燃えるのは嫌だって、そういう気持ちは分からなくもないが……流石にやりすぎだろ……」
 改めてその惨状を認めた千尋は思わず苦い顔をする。
 傷だらけの一反木綿。それでもなお健在で、暴れ過ぎだ。容赦は出来ない。
「確かにね。燃えちゃうと色々残念だよね。でも黴でやられるのも大して違いなくない……? 寧ろ酷いような」
 ヴィクトルは当たり前の疑問を口にした。どちらも結局、その物の価値を損なう・汚すと言う点では同じだろう。半端に形が残る分、カビの方が忌避感は高いかもしれない。
「言ったろう。炎(あれ)は全てを灰にする。形すら残らぬという事は、存在したと言う確たる痕跡すら永遠に失せるという事」
 火に焼かれようとも、人の営みの、その痕跡は残ろうが、所詮一反の木綿などは儚く消えて終わりよ。
 木綿がそう吟じるのは、謂わば織物の理屈だ。ならばいくら言葉を交わしても、無意味なのは道理だろうか。
「やー、でも、八相図なんて勘弁だよ、特に俺なんか酷い事になるし」
 ヴィクトルは大きな首を横に振る。
「そうか? そちらの方が意外と男前かもしれぬぞ?」
 言って、一反木綿が合図をすれば、土中から、民家から、街の角から、キョンシー達の大群が現れ二人を取り囲む。
「随分と嫌な妖怪(ひと)の扱い方だ。ちょっと手荒で悪いけど……」
 千尋は鈍器・鴗鳥を片手、優しく、とまではいかないが、ほどほどの力を込めて迫る住人達を反対に叩いてゆく。
 白目を剥いたまま、感情も無い癖土気色の怒り顔で襲い掛かってくる住人達を叩き伏せ、そろそろ積み上げた住人の山が四つになろうかと言う頃合い。
 高みを見物を決め込んでいた一反木綿が突如、屍達をかき分け、疾風怒濤の勢いで、千尋の至近まで詰めてくる。
 千尋は咄嗟、オーラを纏う鳥威を展開し、音すら裂いて唸りを上げる布槍を防ぐ。
 数秒の拮抗の後、鳥威は砕け、布槍もまた千切れ飛ぶ。相打ちだ。
「……しかし、まさか、これで終わりとは思うまいな」
 瞬間。一反木綿の周囲には、無数の布槍。
 千尋もまた新たな鳥威を分割展開し、受けて立つ。
「さっきの雷とか、炎以外でも燃えると思うけど、それは許容なんだ?」
「忌々しい。そんなわけがあるまい」
「……『炎』を奪うのが精一杯で、他には手が回らなかったと。抜けてる話だ。そんな中途半端な理想郷(ほろび)で満足か?」
 展開。接触。均衡。破砕。裁断。数え切れぬほどの繰り返し。
 雨の粒すら介入を許さぬ攻防の最中、優位を取ろうと先んじたのは一反木綿。
 地を踏みしめ、布槍の気配に紛れて放たれた拳は必殺の威力を携えて、鳥威の防御を掻い潜り、千尋へ迫る。
 絶対絶命の窮地に抗うべく、千尋が切った鬼札は懐鏡・双睛。どのような攻撃でも必ず防ぐその鏡は、ごうと轟く必殺の威力すらも殺し切り、
「消えろ」
 応酬に千尋は青色の光弾を間近で見舞い、一反木綿を吹き飛ばす。
「あの動き……厄介だな……」
 千尋がつぶやいてる間にも、二人の戦闘の律動が伝わってしまったか、むくりと正気を取り戻し始める住人達。
 双睛はしばらく使えない。その上で、住人達を護りながら戦う余裕はなく。
「ちょっとごめん。ここ危ないから今すぐ避難してくれる?」
 一反木綿を睨みつつ、千尋は住人達へ呼び掛けた。

「それなら俺がやっちゃうよ」
 三又銛で住人(キョンシー)達をがつんとのめし、ヴィクトルは千尋にそう応える。
 降り続ける雨のおかげで、いつもより少しだけコンディションがいい。気がする。今なら多少の無茶も効くかもしれない。
「雨が降るだけなら大歓迎なんだけどね。むしろもっと降って欲しいくらい」
 三又銛の石突きで、軽く地面に穴を穿つ、穿たれた穴からは滾々と水が湧く。湧水は止まらず、踝を浸すほどぬかるんでも留まらず、やがて戦場は大海と化した。
 こうなってしまえば、意思無きまま歩き回る住人(キョンシー)達など置物同然で、ヴィクトルは水の流れを操作して、キョンシー達を洗い流し、意識を取り戻した住人達を波に載せて避難させた。
 無論、自分たちまで海に飲まれるのは元の木阿弥なので、二人の周囲のみ水の流れを寸断し、孤島の如く、自由な足場を確保する。
「武術は足元が命だって言うよね。腰まで水に浸かった状態じゃ、自慢の拳も使えないんじゃない?」
 ヴィクトルはさらに空泳ぎのシャチたちを喚び出して、徹底的に一反木綿を追い立てる。
 彼の言うとおり、半身を水に取られたまま戦うのはいかな達人とて難しい。海戦の不利を悟った一反木綿は、布槍伝いに屋根へと上り、自由になったその足で、多数の布槍を従え空中戦を挑んでくる。

「成程な。飛び跳ねるのは一見アクロバティックだが……そう長くは続かない」
「うん。そういう事」
 千尋は跳ぶ一反木綿目掛けて再び青の光弾を放つ。
 翠色冷光。冷たい月の光の如きそれは、千尋の意志に応じて彼の精神力が持つ限り、進み、曲がり、隠れ、如何様にも軌道を変える。
 地の利……本来の足捌き(うごき)を殺された一反木綿の急所(すがた)を捕らえるのはそう難しくない。
 滲むような頭の痛みに耐え、動かされる月光は、忙しなく空を舞う布槍達を消し去って、一反木綿を貫いた。

 月の光に眩み、宙で震える一反木綿。
 その姿に好機を見出したヴィクトルは、くるりとご機嫌に勇魚狩りを回して担ぎ、渾身の力を籠めて投擲する。
 雨の空を疾る三又銛は、鈍い音を立てて一反木綿に突き刺さり、しかしそれでは終わらない。
 降り注ぐ雨も、街に出来た大海も、戦場にある水と言う水が勇魚狩りを目印に収束し、巨大な鯱の形に変じた。
「……ちょっと張り切りすぎちゃった。けど、街を飲み込むほどの超巨大シャチの齧りつき、拳法で凌げるかな?」
 三又銛を引き抜いて一反木綿は拳を振るう。しかし、足捌きを殺された上、相手がこれほど巨大では、自慢の、液体にすら浸透する拳は意味をなさない。
「捕らわれた娘さんは殺さないように、悪い骸魂(かび)だけ剥がしてしまうよ」
 大口を開けた水の巨大鯱が抗う一反木綿を丸齧り、鯱の内部は天地の所在すら掴めぬ程に大時化で、一反木綿はその身が散り散りに千切れるほど、ただひたすらに翻弄された。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

三岐・未夜
【冬星】
炎の使い道をそれしかないと思ってるのがちょっと頭悪……ごほん
使い手次第で善悪なんて変わるもの
僕は炎大好きだし、取り戻したいに決まってるよ

あれこれ大仰に言ってるけど、結局中身は世界を自分の都合で勝手に改悪しますってことだしさ
もー……土の中とか料理人さんたち衛生的に問題じゃん……
早く助けて綺麗にしてあげなきゃ
それとも、倒したら元に戻るから大丈夫なのかな?

【おびき寄せ、誘惑】で敵を集めて、水の矢に【破魔、祈り】
この街は、美味しい匂いがして、みんなが笑ってご飯を食べる幸せな場所
こっちだよ
早くみんな、戻っておいで

そういえば、知ってる?
狐火って、迷子を案内してくれることもあるんだよ


ジンガ・ジンガ
【冬星】
わかるわかる
物理、概念
何方が暴れても灰燼ルートじゃんよ
……でも、その前にィ

世界の終わりにマシもクソもあるかっつの
別に終わらせなくてイイじゃん?
まず終わんねーのが第一じゃん?
終わったら俺様ちゃん死んじゃうじゃん?

逃げ足ダッシュで手駒ちゃんを掻い潜り
本丸の動きを観察、ギリギリまでおびき寄せ
体勢崩したように見せかけフェイント
攻撃見切り、だまし討ち
見切れずとも
相殺狙って俺様ちゃんの生存ホンノー(咄嗟の一撃)が唸る

炎の否定が文明の否定に等しいならば
戦『火』も一緒に消えるだろうか

――なァんて
ハイハイ、ガラにもねェ
第三の故郷のコトは消えねーわよ
おいしーモン食って、イチジのカンショーなんざ忘れまショ!



 雨が降る。
 ジンガたちの前に現れた一反木綿は、大海で溺れたがごとくずぶ濡れだった。
「……炎が全部壊しちゃう? わかるわかる俺様ちゃんも心当たり超大アリだわ。物理、概念、何方が暴れても灰燼ルートじゃんよ」
 手癖のようにダガーたちをくるりと回し、ジンガはこれまでの半生を思い出す。
 生きる為、『旧友』たちと必死になって這いずり回ったあの懐かしくも遠(ちか)い日々。望むにせよ、望まないにせよ、そういう場面に出くわすことは多かったように思う。
 悪し様に、『罪』の方だけ騒ぎ立てるなら、一反木綿の言にも多少の理はあろう。
「……でもォ、その前にィ」
 飽き飽きした調子で、ジンガはあからさま嘆息する。
「世界の終わりにマシもクソもあるかっつの。別に終わらせなくてイイじゃん? まず終わんねーのが第一じゃん? 終わったら俺様ちゃん死んじゃうじゃん?」
「故に、死ねと言っている」
「絶対ヤダ。て言うか言葉のキャッチボール剛速球過ぎじゃなぁい? 何処に向かって投げてんの?」
 そうする事が目的だとは言え、オブリビオンという奴らは揃いも揃って死だの、滅びだの、どうして、こう。
 ……ストレスなく叩き切れるのが解っただけ収穫か。
「僕としては炎の使い道をそれしかないと思ってるのがちょっと頭悪……ごほん」
 話の途中で、未夜はごまかす様に咳払い。少々本音が尾を出した。
 しかし、日常的に『炎』を扱う妖狐として、それくらいの文句をつけても罰は当たるまい。
「何でもそうだよ。使い手次第で善悪なんて変わるもの。僕だって炎大好きだし、取り戻したいに決まってるよ」
 指の先で揺れるのは、七十八の炎を束ねた玄火。その輝きはやはり弱々しく。
「――そういえば、知ってる? 狐火って、迷子を案内してくれることもあるんだよ?」
「道標など、貴様らのされこうべで十分よ」
 一反木綿の指図一つ。土中より住人(キョンシー)達が現れて、列を為し、冬星達を掴まんと殺到する。
「あらまァコイツはエクストリームな鬼ゴッコ? 鬼の数半端じゃないじゃんよ。 どう考えても俺様ちゃん絶対捕まりたくないワケで、悪いケド、全力ダッシュで逃げちゃうわ」
「どっちに?」
「モチロン、真ッ正面に」
 ここにきて、撥水性抜群なのが逆に恨めしーわ。ジンガは苦笑しながら愚痴を零しつつコートを脱ぎ捨て、宣言通り真正面から(キョンシー)に突っ込んだ。
「はいはいどうもゴメンナサイねェ。俺様ちゃんも急いでるから、苦情とかは後でたっぷり聞くじゃんよ?」
 などと言いながらすっぽかす気満々のジンガは、返したダガーで住人達を叩きつつ、屍人の波を最短距離で駆け抜けた。

「もー……土の中とか料理人さんたち衛生的に問題じゃん……早く助けて綺麗にしてあげなきゃ」
 ジンガがキョンシーの群れを突破すれば、必然彼らの狙いは前方――未夜に集まる。
「それとも、倒したら元に戻るから大丈夫なのかな?」
 どうだろう。正気に戻ったところで衣服の汚れは落ちないと思われるが、妖怪だから何でもありかもしれない。
 ……降りしきる雨、街を濡らす『水』そのものに力を感じる。誰かが魔法を使った名残だろう。
「この街は、本当なら美味しい匂いがして、みんなが笑ってご飯を食べる幸せな場所でしょ?」
 無色透明な水の矢を創りつつ、未夜は蠱惑的な橙色の瞳で、揺らめくような妖しい声色で、住人達を引き寄せる。
「ほら、こっちだよ」
 矢に乗せるのは、破魔と祈り。
「早くみんな、戻っておいで……!」
 そうして打ち出した三百九十の矢は、住人達を貫けど命は奪わず、言った木綿に施された邪気だけを消却する。
 屍人の群れが居なくなった先には一反木綿と戦うジンガ。
 未夜は今一度、水の矢を創る。

 水の矢(あめ)が降る。
 無色透明の矢はジンガを綺麗に避けて一反木綿に降り注ぎ、その隙ジンガは小休止、もう一回転ダガーを遊ばせる。
 数手やり取りしただけで解る。あれは理不尽に技量が高いタイプ。
 ……リボルバーのあの男。嫌な記憶を思い出す。だが。今は『そう』ならないはずだ。
 変幻自在な動きを見せる、槍術の刺突。弾き、逸らし、へし折り、十数合程度はやり過ごすが、
「小賢しい。動きが大振りに過ぎる」
 得物を振り回し過ぎた代償か、強か手首を打ち据えられ、頼みの綱のダガーを落としてしまう。
 そのまま回避を続けるが、脚を叩かれた反動で大きく姿勢がぐらついた。
 それを見逃してくれるほど、達人(てき)も甘くはないだろう。
 殺意に塗れた布槍が、脳天目掛けて――。
「――残念。そうはならないじゃんよォ」
 ……羅刹旋風そのものが、だまし討ちの布石。
 一反木綿の敗因は、刃の軌跡を見切れても、ジンガの、意地汚いまでの『生への渇望』を見切れなかったことだ。
 生への渇望(それ)は手段を択ばない。なんの前触れもなく反物の背後に出現し、全力の、全霊で、不意打ちをぶちかますくらいは平然とやってのける。
 吹き飛ぶ反物。執念深い渇望。
「ジンガ!」
 未夜の声が聞こえる。
 血みどろの闘争を続ける二つをよそに、倒れたジンガの視界に揺らめくのは、玄火(ハジメノヒ)。
 ジンガは黄昏色の炎に手を伸ばす。
 ――自分を助けてくれるほのお達、自分を脅かすほのお達。
 炎の否定が文明の否定に等しいならば、戦『火』も一緒に消えるだろうか。
「――なァんて。ハイハイ、ガラにもねェ。じめじめしてる雨のせいだわ。第三の故郷のコトは消えねーわよ」
 いいや。結局、どちらのほのおを無くしても、今のジンガ・ジンガは成り立たない。
 ジンガは笑う。
 玄火が指し示していたのは、破魔と祈りの力が籠められた水の矢。
「そろそろ終わりが近いじゃん? おいしーモン食って、イチジのカンショーなんざ忘れまショ!」
 不可視の刃で、一反木綿の首を斬り裂いた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

四宮・かごめ
※アドリブ連携OK!
(しゅたっ)四宮忍軍。再び参上。
遅ればせながら助太刀に参った。
この世界の全ての竹山が腐り果てる前に、骸魂『一反木綿』いざ勝負。

UCを発動。外法には外法ぶつけるんだとか。
肉壁として、正面から当たって貰うでござる。
とはいえ、数も質も向こうが上。守勢に回る槍兵共は一人二人と討ち取られ、だんだん追い込まれて来るし、敵はそれが面白くて布槍の操作にのめり込む筈。

その頃それがしは障害物の多い街並みの地形を活かし、敵の死角に潜んでいるでござる。
気付いた時には、ひょっこり姿を現したそれがしの【暗殺】により深傷を負っているという寸法でござる。
そうそう。得物は問わないでござる。



 雨が降る。
「四宮忍軍。黄昏時の戦場に再び参上!」
 かごめにとって、天候などは些細な話。
 大雪、大雨、例え槍が降ろうとも、使命のためなら命を捨ててそこにあるのが忍びというもの。
 問題なのは忍軍なのに総勢一名な方だが、そこのところはワンマンアーミーと言う事でどうか一つ。
「遅ればせながら助太刀に参った……にん? もしや誰もいないでござる?」
 左右を見ても猟兵(みかた)の姿は無く、恐らく敵の卑劣な罠だろう、端からかごめは孤軍奮闘を強いられる。
 味方の姿は見えなくとも、敵の姿はうじゃうじゃと。
 キョンシーばかりの荒れた街。狙いは敵の首魁の首一つ。何やら既に首魁の首と胴が大分ずれてる気がするが、まぁ飛頭蛮とかいるわけで、そう珍しい事でもないのだろう。
「この世界の全ての竹山が腐り果てる前に、骸魂『一反木綿』、いざ勝負!」
「面白い。それほど竹が好きならば、竹林の肥やしとしてくれる」
 そう簡単に朽ち果てる心算も無い。
 槍に群衆と、一反木綿が数を率いてくるならば、こちらもワンマンアーミーの看板を徐に叩き割り、それを触媒に援軍を召喚するのみだ。
 外法には外法を。歩の無い将棋は何とやら。
「そんなわけで、例によっていつもの如く。タダ働き、お願いするでござる。にんにん」
 喚び出されるの六十五人の落ち武者たち。対峙するのは多数の住人キョンシー。蒼白VS土気色。当然双方ただ働きなわけで、労働基準法など幽世には存在しないのだ。あるいは誰かがすでに奪った後なのかもしれない。
 その上で、特段兵法などは用いない。あえて言うなら、肉壁として無策でまっすぐ突っ込んで、哀れ返り討ちに会うまでが今回の遠足……ではなくプランだ。
 住人達も布槍で武装して、いよいよ本格的に衝突する両軍。
 果たして、奇跡など起ころうはずもなく、かごめの読み通り、一人、また一人とその竹槍(いのち)を落としていく落ち武者たち。
 無論、自殺に近しい突撃を繰り返したところで報われるものは何もなく、しかしその、無意味に思える犠牲こそ、かごめの描く広大なる深慮遠謀の核心部なのだ。
 落ち武者たちが劣勢を演じる(演じてない)その隙に、かごめは闇に紛れ影に潜み笊をかぶり、一反木綿の死角に死角に潜む。障害物だらけの街中に隠れるなど、忍者にとってはお手の物。
 そうっと一反木綿の様子を窺えば、案の定、落ち武者たちを刈り取ることに傾注している。今なら背後を付けるだろう。
「にんにんしめしめ、では、獲物は何れに……」
 鉈か、棒手裏剣か、簪か。それらをすべて竹の花にしても良いし、仕掛け罠を使うのも良いだろう。
「竹把台明神はどう思うでござる?」
「竹把台明神!」
「成程全部。しかしそれではそれがしの手が足りぬでござるよ」
「そこのところはそれがしに任せるでござる」
「……なっ!? 貴殿はまさか……もう一人の拙者……!」
「分け身にござる。にんにーん」
「おお。言われてみればそうでござった。にんにん」
 
 そんなわけで全部である。
「にんにん。お命頂戴!」
「なっ――」
 一反木綿が最後の落ち武者を討ち取ったその瞬間。竹の花と共に死角よりひょっこり現れたかごめ達は、トラバサミで一反木綿の足を止めたその隙に、筍梅雨を降らせて竹林を作り、苦無を投げつけ、矢継ぎ早に棒手裏剣を打ち込み、再召喚した落ち武者達の竹槍で突っついて、煙幕に紛れて接近すると膝当で蹴っ飛ばし、竹把台明神は竹把台明神で、最終的にダブル鉈で、
「「ん゛に゛ん゛っ!!!!」」
 とばっさり叩き割る。
 そこまで徹底的に攻撃すれば、深手を負わせるどころの話ではなく、一反木綿はものの見事にくたばった。
「にんにん。ありきたりな言葉でござるけれど、正義は勝つ、という奴でござるな」
 暗殺(正義)は大成功だ。

 雨が、上がる。

●大掃除
「うーん? ええと……川へ洗濯しに行った後……ここ最近の記憶がない無いネー」
 一反木綿から切り離され、娘――キョンシー姐さんが目を覚ます。
 事の一部始終を猟兵から聞いた姐さんは、謝謝と深々お辞儀して、それなら街を救ってくれたお礼に美味しいお料理を、と、街に目を遣り、
「ありゃー、湿気に黴に酷い有様。まずはお掃除しないといけないネー」
 正気に戻った住人達と、手分けして大掃除をし始める。
「2~3日くらい待っててネー。竈に火を入れたり、材料揃えたりしないといけないからネ。準備ができた暁には豪勢にいくヨー。覚悟しといてネ」

 そして、世界に『炎』が戻る。
 脅威は退けた。
 もしも時間があるのなら、数日後、街をあげての食事会に赴いてみるのも良いだろう。

成功 🔵​🔵​🔴​




第3章 日常 『大食いバトル』

POW   :    豪快にガンガン食べまくる

SPD   :    味変を駆使して最後まで飽きずに食べ切る

WIZ   :    ペース配分を考え、無理なく食べ進める

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


※次回冒頭文更新10月14日(水)予定。
●キョンシーコック
 ふと見上げれば、満点の星。
 街からはすっかり湿気とカビが消え失せて、簡素な造りの屋台から、立派な構えの高級料理店まで、大小問わず数え切れぬほどの飲食店がずらりと灯をともし、何処の往来も美味な料理を求めて行き交う妖怪達(ひとびと)で賑わっていた。きっとこの活気に満ちた景色こそが、街にとってはありふれた、本来の姿なのだろう。
「ハロハロ猟兵サーン、よく来てくれたネー。今日は街と世界が元に戻ったお祝いネ。いっぱいいっぱい食べてくと良いヨ。無礼講ネー!」
 もちろん猟兵サン達からお金なんて取らないヨ~。食べ放題ヨ食べ放題、と一反木綿から解放された娘――キョンシー姐さんは無邪気に笑う。
「街の造りは中華っぽいケド、こと料理に関しては何でもあり(バリトゥード)ネ。和洋中にゲテモノ高級食材(レアモノ)、甘いの辛いの苦いのしょっぱいの。ファーストフードにスイーツとか。ちょっと探せば自分の口に合う料理がきっとあると思うヨ。タピオカとかも最近仕入れるようになったからネ」
 当然お酒も置いてるけど、二十歳未満は種族関係なく伝統的にNGだヨ? と無礼講だがそこのところはしっかりしていた。
「何を隠そうワタシもコック。いろんな料理作れるけど、一番得意なのはやっぱりこれネー」
 言いながら、姐さんが露天のテーブルに並べたのは、現代地球の日本でもよく目にするポピュラーな料理たち。
 一見すると何の変哲も無さげだが……時折何やらふるふる動いたり、跳ねたり、
「異人サンオ料理食ベニ来タン?」
「フワフワのパンケーキ、アルヨ」
「アマアマノ杏仁豆腐、アルヨ」
「ツキタテノオ餅、アルヨ」
 喋ったりしている。
 
 ……。

「骸魂料理ヨ。ネー? みんな活きが良いでショ? 踊り食いヨー」
 この世界の妖怪は、割とスナック感覚で骸魂を食べてしまうという。
 そして。もしや。この料理の材料は。
「えっ? 材料? カビたモチ目目連の骸魂(モチ)部分だけど何カ? 西洋人はカビたチーズ食べるでショ? 早い話それと同じヨ」
 なるほど姐さんのいう事にも一理無い。話の本質が全然違うと思われる。
「言ったっテ、妖怪皆死ねばホトケサマ、魂に貴賤ナシ、この子達の邪悪(カビ)な部分は猟兵サンたちが全部取っちゃったシ、ワタシ含めてこの街の料理人は皆骸魂調理師免許持ってるかラ、心配しなくてもベリーベリー大丈夫ヨ」
「オ腹一杯食ベルトイイヨー」
「喜ビ勇ンデ食ベルトイイヨー」
 そんな。ふぐの調理師免許持ってます的な調子で言われても。
 安全に食べられるとして、飛んだり跳ねたりはまだしも、喋ったりする料理を食べるのは普通の感覚からすると割と勇気がいるだろう。
 が、どうやら地元の妖怪たちの一番人気はその骸魂料理であるらしく、みんなふはふは言いながら美味しそうに骸魂バーガーやら骸魂のてんぷらを食べている上、(元)餅達はうれしそうに食べられている。そこの所人間たちの世界とは(食)文化が大分違う様子。
 ……それで、気になったのなら食べてみればいいし、別に気にならないなら食べなくてもいいだろう。骸魂を使っていない料理や店もたくさんある。
 宴に細かな制約などありはしない。一人で過ごしても、友人や恋人と遊んでも、あるいは妖怪達と大食いバトルに興じても良いし、いっそ何も食べずに街を見て回るだけでも、いったい誰が咎めよう。

「そうそう。一杯お料理食べてくれたらネ、景品(トロフィー)としてエクスカリバス停がもらえるヨ」
「貰エルヨー」
「食ベテ食ベテー」
 えっ、急に何それ。

 ――ともかく。
 時刻はまだまだ宵の口。一夜限りの復興祭。街を挙げてのどんちゃん騒ぎ。多少羽目を外そうと、早々罰は当たるまい。
※プレイング受付締め切り 10月18日(日)8時くらいまで
六島・椋
【骸と羅刹】
(もぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐ)
(無言で一心不乱にかつ片っ端から種類問わず食う)(ただし甘いものは除く)

本当は骨らを抱きしめたいと思うのだが、それは骨らの迷惑になるだろう
なので、こうしてすべて食うことにぶつけている
まあ、もともと腹が減っているのもあるわけだが
(相棒のところの飯にも構わず手を伸ばす)
……さあ、何日ぶりだったろうか。まったく覚えていない

オチならあの時察していたろう
しかし、骸魂料理というものは初めて食うが美味いもんだな
あの時はあくまで食う真似事だったが、
こいつらもこうして食われるというなら本望だろう
君に食われた奴ならあいつじゃないか(その辺を適当に指さしてる)


エスタシュ・ロックドア
【骸と羅刹】
俺、復活(無駄に業火が迸る)
ようモチども、数日ぶりだな
息災(?)なようで何よりだぜ
ちゃんとした料理になって良かったなぁ
そんじゃ遠慮なく食わせてもら……
だから早ぇよ相棒

抱きしめりゃいいじゃねぇか
俺もシンディーちゃんとベッタベタするぜ?
迷惑、なぁ
お前にとっちゃそーいうもんか
おう、食え食え
食えっつったが俺の皿から取るんじゃねぇ(払いのける)
何日ぶりの飯かは聞かないでおいてやる

それにしても、マジで飯になって戻ってくるたぁな
ああ、うめぇ
ちょいちょい口ン中で動くのは遠慮してもらいてぇが
そーだな
あン時俺が齧った奴いるか?
今度はちゃんと全部食ってやるからよ



 あちらからも。そちらからも。
 美味なものを求めて笑う妖怪たちの百鬼夜行。
 そんな賑わい途切れぬ露天の一角で、迸るが如き勢いで燃え盛る群青色の炎が一柱。
「俺、復活――!!」
 異変を解決したことで、はらわたの炎(じごく)の火力を取り戻したエスタシュは、さながら無敵な調子で大笑い。
 数日前の雨曝しは、全身が沼地に沈んでいる気分だったが、今はとても体が軽い。いっそ翼を生やして鼻歌交じりに星空を自由自在に飛び回る事も出来そうな気分だ。と言うか実際数十分前までそうしてた。
 適度な運動を経て、丁度いい具合に腹も空いた。さあ、とエスタシュは箸片手、ずらりとテーブルに並べられた骸魂料理(元モチ)たちに向かい合う。
「よう。モチども、数日ぶりだな。息災……息災? なようで何よりだぜ」
「オ久シブリー」
「メッチャメッチャ元気ダヨー」
 パスタにパエリア、ケバブにパイに焼売に肉まんに寿司やら何やらテーブルに並ぶ料理は和洋中それ以外にと様々で、どれもこれもがこれ見よがしに美味そうだ。
「お前たち、ちゃんとした料理になって良かったなぁ……」
 しみじみそう思う。
 ……正直、モチの骸魂を如何調理したら寿司だのケバブだのが出来上がるのか全く理解が及ばないが、そこの所気にしたら負けなのだろう。
「そんじゃ遠慮なく食わせてもら……って」
 とりあえずのお試し感覚で、エスタシュが焼売へ箸を伸ばした直後。焼売はせいろごと全力で箸の届かぬ位置へと逃げてしまった。
 一瞬、モチ達が無邪気に飛び跳ねたのかと思ったが、何のことはない、犯人は対面に座る椋だった。
「早ぇよ相棒。あと独占してないで一個位俺に寄こせよ。お前が全部食っちまったらどうすんだよこのタレとからし」
「そんなのグイっと行けばいいじゃないか。ほらグイっと」
「いやいけるわけねーだろ。何が悲しくて調味料だけ飲まなきゃなんねーんだよ」
 エスタシュが平和的に交渉してみても、椋は餓狼の如き眼差しを寄こすばかりで、焼売の一個たりとも渡す気配はなく、ただ一心不乱に、片端からのべつまくなし、卓上の料理たちを食らってゆく。
「……ははぁ。察するに自己嫌悪(やけぐい)か。あの時がしゃどくろに『骨への愛』を差し出したダメージがまだ抜けてねぇんだろ?」
「丸焼キダヨー」
 焼売を諦め、踊る鶏の丸焼きにかぶり付いたエスタシュが、椋の胸中を言い当てる。あと焼いた鶏肉の香ばしさと弾力がすっごい。食いでしかない。
 椋は杯に並々注がれた烏龍茶を飲み干し、一息。
「――本当は骨らを思うさま抱きしめたいと思うのだが、それは骨らの迷惑になるだろう」
「魚ノパイダヨ。甘イパイ以外ニモイロイロアルンダヨー」
 なので、こうしてすべて食うことにぶつけている、と、白身魚のパイを切り分ける。ナイフを入れたと同時、立ち上る湯気。火の入れ方は完璧だ。
「抱きしめたけりゃ抱きしめりゃいいじゃねぇか。お前が『そう』決断したからこそ世界に炎が戻ってきた。骨たちだって、温かく迎えてくれるだろうさ」
 俺だったらシンディーちゃんとベッタベタするぜ? そう言ってエスタシュは持ち込んだ羅刹殺しの蓋を開け、ゆるりと注ぎ杯を揺らす。 なあ? とシンディーちゃんに声を掛ければ、自慢の愛車は頷くように一際大きいエンジン音を返してきた。
 しかし、カルボナーラのパスタを両手のフォークで丸めながら、椋は首を横に振る。
「迷惑、なぁ。まぁ、お前にとっちゃそーいうもんか」
 エスタシュ羅刹殺しをあおぐ。それ以上、椋と骨の関係に対して何かを言うつもりはなかった。彼女には彼女の理(ルール)がある。それを外野がとやかく言うのは、一反木綿と同じ轍。風情の無い話だ。
「ま、飽きるまで好きなだけ食えばいい。何せ今日は無礼講だ」
「言われなくても食うともさ。もともと普通に腹が減っているのもあるしな」
 ……それにしても、何日ぶりの食事だろうか。まったく覚えていない。そう首をかしげる椋の箸先は、表情とは裏腹、何より貪欲に料理(えもの)を探し回り、そして彷徨の果て、
「おい待て。食えっつったが俺の皿から取るんじゃねぇ。八宝菜は俺のモンだ」
「ちっ」
「何日ぶりの飯かは聞かないでおいてやるがな。そりゃちょっと無礼講が過ぎるだろう」
 エスタシュは、自分の陣地を侵す椋の腕を寸前のところで払いのける。が、油断も隙もあったもんじゃないと息を吐いたその刹那、
「だが大トロは確保した。後は侘しくかっぱ巻きでも齧るといいさ」
「あっ! こらてめぇ盗みやがったな!?」
「カッパ巻キモ美味シイヨー?」
 そして始まる卓上の小戦争。吹き荒ぶルール無用のデスマッチに巻き込まれた料理たちは、一つ、またひとつと二人の口中へ消えていく。

「……それにしても、マジで飯になって戻ってくるたぁな」
 そして、あらかたの料理を食べ尽くしたが為の停戦。エスタシュは食後のデザートに手を伸ばす。
「ああ、うめぇ」
「ゼリーダヨ。イッパイイッパイフルーツギッシリダヨ」
 爽やかな甘みが口の中をリセットしてくれる。
「まぁ……元気が良すぎてちょいちょい口ン中で動くのは遠慮してもらいてぇが」
 弾ける美味しさ、なんて売り文句(フレーズ)はどこかで見聞きした覚えがあるが、この骸魂料理(モチ)達は本当に口中で弾けているのだから面白い。
「オチならあの時察していたろう。しかし、骸魂料理というものは初めて食うが美味いもんだな」
 まだまだ食べ足りない椋はメニューを覗き込む。甘いものでなければ何でも構わない。この際、見たことも聞いたことも無い料理を頼んでみるのも一興だろうか。
「あの時はあくまで食う真似事だったが……」
「アアン、ボクオ箸デツママレテルヨー」
 最後に残った餃子を持ち上げ、
「料理人様様だ。こいつらも、こうして食われるというなら本望だろう」
「メッチャホンモーダヨ」
 椋はぺろりと平らげた。
 生物ならば捕食されることに忌避感を覚えようが、端から料理として自我を得たものの最良の結末は、やはり無事食べられることなのだ。
 ……改めて言葉にすると、それこそ伝奇や『奇譚』じみているが。
「そーだなぁ……所で、あン時俺が齧った奴いるか? 今度はちゃんと全部食ってやるからよ」
 それとも知らずの内に食っちまったかねぇ、とエスタシュは腹を叩く。
「君に食われた奴か。なら、ほら、今姐さんが抱えてるあいつじゃないか」
 そう言う椋の指先を、エスタシュが辿ってみても、姐さんの姿は見えなかった。
 いや違う。どん、と、隕石が落下したかの如き衝撃がテーブルを揺さぶり、運んできた料理の影に隠れて姐さんの姿が見えなかったのだとエスタシュは理解した。
「はーいコレサービスネー。そこの羅刹ノお兄サンに是非トモ食べて欲しいっテ、骸魂(オモチ)ちゃんからのリクエストヨー」
 そしてテーブルに置かれたのは――ボーリング玉の五倍はあろうかという超巨大みたらし団子!
「ムフー」
 超(スーパー)みたらし団子と化した骸魂(モチ)はとても誇らしげだ。そりゃこれだけ大きければ誇らしいだろう。
「――マジかよ……ッ!」
「美味シクナッテ新登場ダヨー!」
 終盤で唐突にとんでもないラスボスが現れた。
『全部食ってやる』――男に二言は無いが故。腹八分目のこの状況で、数秒前、自分自身が言い放った言葉がエスタシュに重くのしかかる。
 一縷の望みにかけて、椋に目を向けるが。
「大丈夫さ。そう心配しなくたって、君の皿から何も取りはしないとも。これ見よがしなみたらし団子(アマイモノ)だしな」
 知ってた。一応予備の胃腸薬を渡してくれただけ有情ではある。
 ……援軍を召喚し手分けして掛かればそう難儀な量ではないのだが。しかし。
「タベキレルモノナラタベテミテヨー」
「――言ったな? この野郎……!」
 この漢(モチ)は、一対一の戦いを望んでいる。
 ならば……受ける(たべる)しかない。男の戦いは、いつだって窮地から始まるのだ。
 はらわたの炎は万全。エスタシュは群青業火を最大級に奔らせて、目を瞑り、穏やかなる境地で意を決すると、
「うおおおお!!!」
「甘々ノミタラシガ押シ寄セルヨー!」
 箸を携え、超みたらし団子に立ち向かう。
 果たして激戦の行方は――!

「ところで姐さん。これとこれとこれ、追加でよろしく」
「ハイヨー」
 それはそれとして、椋は追加の料理を姐さんに頼んだのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ヤニ・デミトリ
おお…こういう再会は考えてなかったなァ…
どこかで時よ止まれなんて聞こえると思えば、
こっちじゃ料理になってるっス…強かっスねえ…

まあでも俺は燃費悪いもんで、好き嫌い少ない方っス
美味い料理、しかもタダ飯とありゃ喜んで
食ったことないしなァ、骸魂料理…いくか…

適当な露天で、モチ達の声を聞きつつのんびり飯を食います。
量多いから中華がいいなァ。食う時はちゃんと人間ぽく。
切り刻んじまったけど痛くなかったっスかねえ、身の上話(?)とか聞いてみつつ
そういえばこのモチ喋ってるな…まあいいか…普通に食います。はらへりなので

むむ…これは直に食うより断然美味いやつ
魚骨もこれ食わないのは勿体ないから一口だけ分けてやるっス



「コニチワー」
「ジャナクテコバワー」
「ゴキゲンイカガー?」
「おおう……こういう再会は考えてなかったなァ……」
 小皿に取り分けられた色とりどりの餅達が、嬉しそうに跳ねている。
 その様子ときたら幻想(ファンタズム)を通り越して喜劇(スラップスティック)に片足突っ込んでる気がしないでもなかったが、まぁ、餅達が幸せそうならそれで良いのだろう。
「どこかで時よ止まれなんて聞こえると思えば、こっちじゃ料理になってるっス……ホント強かっスねえ……」
「ボク達ダッテ美シイヨー」
「黒カビ一ツナイモンネー」
 ……怨念から解放された彼らを眺めていると、何やら妙なほっこり感。昔はグレてた不良が立派に更正したのを見届ける気分ってこんな感じなのかもしれない。
 なんにせよ、元来の大食い――燃費の悪さも相まって、好き嫌いは少ない方。加えて美味い飯がタダで食べられるとあればあえて見逃す理由も無く。
「食ったことないしなァ、骸魂料理……よし、いくか……」
 空腹と好奇心に突き動かされるまま、ヤニは適当な露天のテーブルについて、何を食べるか思案しつつメニューを見遣る。
「どれも漏れなく美味いなら、決め手はやっぱ量っスね。となると中華が大定番。そんな訳で、すいませ~ん!」
「中華注文イタダキマシター」
「辛イカラ甘イマデ、色々アルヨ美味シイヨー」

 しばらくして。炒飯、春巻き、水餃子、北京ダックに上海ガニなど、系統(ちほう)を問わずずらりと置かれる骸魂中華料理。
 湯気と香りが混然一体となった卓上に鎮座するそれらは、同時に加減を知らぬ大盛ぶりで、時折ふるふる跳ねたり弾けたりもしている。
 活きが良すぎてカニとかまだ生なんじゃないかと錯覚するが、チャント中マデアツアツダヨーと、カニ本人(元はモチ)が律儀にも教えてくれた。本人が言うからにはそうなのだろう。
 全く奇妙な話だが、元より此処は妖怪たちの住まう世界。人間らしい、真っ当(ふつう)な感性を有している方が、寧ろあべこべに特異なのかもしれない。
「……こうやって向き合った今思い出したんスけど、あの時勢いで切り刻んじまったの痛くなかったっスかねえ?」
 けれど料理の作法は人間らしく。元不良(モチ)達に身の上話を持ち掛けながら、ヤニは端に置かれたレンゲを捕まえて、炒飯をつつく。黄金色の米粒は、しかし過度に油っぽくはなく、パラパラと一粒一粒が輝いていた。
「痛カタヨー」
「血トカドバドバ出タモンネー」
「エー! 真ッ赤ナ嘘ダヨ! オ餅ハ血ナンカ吐カナイヨ!」
「騙サレチャダメダヨー! アノ時痛ミヲ感ジタトシタラ僕ラノ良心ガ痛ンダンダヨー!」
「アアン、バレター」
「バレチャッタネー」
 レンゲの上で米粒たちが何やら漫才をしている。
 そんな骸魂達の漫才を聞きつつ、今更だけどそういえばこのモチ喋ってるな、とヤニは一瞬ふと我に返ったが、
「……まあいいか……普通に食うっス」
 郷に入れば郷に従えの精神と腹の減り具合から躊躇なくパクっといった。
「むむ……これは直に食うより断然美味いやつ」
 口の中で踊る米。味もさることながら、僕タチを食ベテ元気ニナッテヨーと、滋養と慈愛の精神めいたものを感じる。医食同源とはよく言ったもので、これならいくらでも行けそうだ。
「魚骨も、ほら、これ食わないのは勿体ないから一口だけ分けてやるっス」
 そうしてヤニに料理を勧められた魚骨だが、勢い余って一口どころか一皿行った。おかげで先程まで炒飯が山ほど盛られていた皿は、一瞬にして空になり、
 おやまぁ、ヤニは軽い調子で息を吐く。魚骨が何処か嬉しそうな口(かお)をしていたので、それなら良いか、と微笑んだ。何せ、頼んだ料理はまだまだあるのだ。
 改めて、跳ねる上海ガニに手を伸ばす。
 
 ――炎を取り戻した世界で。
 笑う泥は、この奇妙な宴を目一杯楽しむことにした。 

大成功 🔵​🔵​🔵​

司・千尋
アドリブ、他者との絡み可

食べ放題かぁ…
折角だから色々挑戦してみようかな


色んな屋台を物珍しそうに物色しながら歩く
オススメって何?とか聞きながらフラフラ食べ歩き
ゲテモノ系も挑戦してみようかなぁ

骸魂料理…は此処じゃポピュラーなんだ……?
見た目がキツい食い物より喋る食い物の方が食べるのに心理的ハードル高くない??

俺も男だ、挑戦してみるか…!
これも何かの縁だろうし
カビたモチ目目連の骸魂を食べてみる
お、意外と美味い…!
やっぱりつきたての餅は美味いよなぁ
調理法も色々あって飽きないし
いくらでも食えるぜ





………ごめん
やっぱり食べてる時はちょっと黙っててくれると助かるかな
味は美味いから慣れたら普通に食えそうだけど



 巨大化した宵と暁をつたって高い屋根(ばしょ)へと上った千尋は、そこから街の全体を見下ろした。
 満天の星ほどに、忙しなくも瞬くは、飲食店の灯の光。陰り一つない、平和な景色だ。
 何気なく伸びをして、深呼吸をすれば、香ばしい匂い達が仮初の鼻腔をくすぐった。
「食べ放題かぁ……折角だから色々挑戦してみようかな」
 そう思いついた千尋は屋根から飛び降りて、百鬼夜行に紛れ込む。
 多くの妖怪たちがそうであるように、特に目当てを考えず、気の向くまま探索した方が面白くなりそうだ。
「へぇー……」
 じっくりと、物珍しそうに往来の隅々にまで目をやって、美味しそうなものを物色しながら街を歩く。
 何せ料理を食べずとも、見ているだけで興味深い。料理を作るのにやたら演技がかってオーバーリアクションな料理人(ようかい)もいれば、そんな物すら食べるのかと驚くほど珍妙な食材もあり、通り一つを跨ぐと、扱っている料理の系統(カラー)もがらりと変わった。
「此処のオススメって何?」
 鷲鼻のいかにもな出で立ちの魔女にそう尋ねると、ジャック・オー・ランタンを象った、笑い顔のパンプキンパイをぶっきらぼうに渡された。
「ハロウィンにはまだ早いけど……」
 早速一口食べてみる。悪党じみた格好の調理人が作ったとは思えない程優しい甘さと口当たり。悪くない。
「他には……」
 鉢巻をまいた一つ目巨人(サイクロプス)が作るのは、チーズがぎっしり詰まったホットサンド。巨人用のサイズの、ほんの端の方を分けてもらったが、それでもなかなかのサイズで、チーズがとてつもなくよく伸びる。きっとチーズも巨人用なのだろう。
 その後もコロッケ、水餃子、パエリアなど、洋の東西を問わずフラフラ食べ歩き、小休止代わり、夜叉に振舞われたチャイを飲んだ後、せっかくだからゲテモノ料理にも挑戦してみようと思い立つ。
 が、
「ん? これがゲテモノ料理……?」
 ゲテモノを食わせてくれるという店で、満を持して出てきたのは、しかし何の変哲も無いふぐ刺しと納豆ごはん。組み合わせはともかく、びっくりするくらい拍子抜けだった。
「アリャー。お客さん日本に縁のある人だったかぁー」
 料理を出したぬらりひょんのコック曰く、外国(よそ)の人の目から見れば、安全なモノが容易に手に入る現代で、態々毒魚を捌いて食べるのはゲテモノ食らいだし、発酵――腐りかけの大豆を食べるのも匂いがあるしやはりクレイジーだと。
「ああ、成程。視点を変えれば、か」
 千尋はふぐ刺しと納豆ご飯を極々普通に平らげる。その食事にたじろぐ西洋妖怪達の姿も見えた。
 食べ物や習慣など、自身が特段奇異だと思ってないものが、他人から見れば酷く異質に思われる。そういうギャップは、意外とよくあるモノだ。
 ……例えば、この世界でいうのなら、食文化的に避けては通れない『アレ』の事。

「オイシイオイシイオ餅ダヨー」
「キナコモ醤油モオイテルヨー」
「骸魂料理……は此処じゃポピュラーなんだよな……?」
 食べられる側の餅が、自発的に自分の事を売り込んでいる凄まじい光景。
 見た目や匂いがキツい食べ物より、喋る食べ物の方が心理的なハードル高くないかと千尋としては思う訳だが、道行く妖怪たちは皆ファーストフード感覚でつまんでいる訳で、つまり奇異に感じるそれこそが視点の違いなのだろう。
「……よし。俺も男だ、挑戦してみるか…!」
 最早見知らぬ仲じゃなし。だからこそ躊躇が生まれるのだが、これも何かの縁と意を決し、千尋は貰った(元)カビたモチ目目連・(現)ふつうの白餅達をテーブルの上に広げ、
「アア、餡子ナボクニオ箸ガ迫ッテクルヨー」
「オオ、隣ノオ餅がタベキリ易イサイズニ四等分ダヨ」
「ワーオ。オ餅ヲ掴ンダオ箸ガ宙ニ持チ上ッテー」
「食タベラレチャッタ!」
「食ベラレチャッタネー」
 食べた。
「お、意外と美味い……!」
 食べる以前は抵抗感しかなかったが、一口食べればそれはもう。餅好きだからと甘めに見ても、中々の味と食べ応え。ポピュラーなだけはある。
「やっぱりつきたての餅は美味いよなぁ。調理法も色々あって飽きないし、これならいくらでも食えるぜ」
 舌鼓を打ちながら、今度はお雑煮の中に入れようと餅達へ箸を伸ばし、
「アア、オ箸ガ今度はスッピンナボクニ迫ッテクルヨー」
「ミンナデオ雑煮ダイヴダヨ」
「酸イモ甘イモ任セテヨー」
 とても五月蠅かった。

「………ごめん。やっぱり食べてる時はちょっと黙っててくれると助かるかな。味は美味いから慣れたら普通に食えそうだけど」
 そうして、千尋は静かになった雑煮を食べる。
 その後も新しい餅を貰うたび、決まって賑やかなのに難儀したが――それもまた、『平和の味』という奴なのだろう。

大成功 🔵​🔵​🔵​

オーガスト・メルト
…デイズ、ナイツ、お前達は喋る料理は大丈夫か?
『うきゅー…』『うにゃあー…』
やっぱり無理か。うん、俺もダメだな。
一応だが、懐に隠れてろ。(食い物に間違えられたら面倒だし)
『うきゅきゅ?』『うーにゃ?』
いやいや、別に何も変な事は考えてないぞ。お前たちの為だ。
さてさて、普通の料理はどこかな…
蜘蛛ロボの魔力補給も出来たらいいんだが。(カサコソ)
はいはい、せっつかなくても分かってるって。
お前もだんだんと自我が強くなってきてるなぁ。
さすがは欠片とはいえ、元オブリビオンフォーミュラ…か。
まぁ、時間はあるんだし、ゆっくりと楽しむとしよう。



「アルヨーアルヨー美味シイ天麩羅アルヨー」
「モチモチノタピオカアルヨー。周回遅レトカ言ワナイデヨー」
 食べる側に作る側。双方の活気に満ちたこの街で、誰より商売っ気があるのが食べられる側の(元)モチ達であるという、疑問と矛盾に満ちたこの光景。オーガストは取り合えず、一歩引いた視点から、妖怪達の営みを見守る事にした。
「……デイズ、ナイツ、お前達、喋る料理は大丈夫か?」
「うきゅー……」
「うにゃあー……」
「……やっぱり無理か。うん、俺もダメだな」
 デイズとナイツの応答に、オーガストは密か胸を撫で下ろす。もしやおかしいのは自分の方ではなかろうかと、そんな考えが頭の中を過り始めていた頃合いだった。
「特製ノ白饅頭、アルヨ。美味シイヨー」
「出来立ての黒大福、アルヨ。モチモチダヨー」
 往来に響き始める新たな宣伝。寄りにもよってその中身が饅頭と大福とは。心無し、道行く人々のデイズとナイツに目をやる頻度が増えたような。
「……ふたりとも、一応だが、懐に隠れてろ」
 何せここは餅や大福が飛んだり跳ねたりする巷。食べ物に間違えられると面倒なので、オーガストは二匹の竜の返事も聞かず、懐の奥深くへと押し込めた。
「うきゅきゅ?」
「うーにゃ?」
「美味しい料理を独り占めするつもりかって? まぁ、ある意味言い得て妙だが――ごほん。いやいや、そんな事はない。別に何も変な事は考えてないぞ。お前たちの為だ――こら、じっとしていろ」
 納得いかない様子でもぞもぞ動く二匹を宥めつつ、オーガストはテーブル一つを拝借し、姐さんからもらったガイドブックに目を通す。
「さてさて、普通の料理はどこかな……」
 骸魂を扱う店と普通の店の割合は、概ね7:3程度。街の調理人全員が、骸魂調理師免許を持ってるだけはある。カビ餅達が大発生したのも、もしかするとこの街自体が食べ物系の骸魂を呼び寄せやすい『造り』になっているからかもしれない。
 また、比較的数の少ない普通の店でも和洋中を求めるのに不足なく、何処も軒並み高評価でよりどりみどり。これはなかなかに迷ってしまう。
「蜘蛛ロボの魔力補給も出来たらいいんだが……」
 と、ふつうのプーアル茶と茶請けの月餅で一息入れていると、デイズとナイツが引っ込んだ隙を狙い、かさこそとオーガストの頭頂部へ蜘蛛竜が登り詰める。『炎』が復活し、ようやく本来の八色に戻ったせいか、とても上機嫌そうだった。
「はいはい、せっつかなくても分かってるって」
 オーガストの頭に陣取る蜘蛛竜は、さあ行くぞ、と言わんばかりに体を揺らす。これではどちらが主だか。
「お前もだんだんと自我が強くなってきてるなぁ……」
 己の持ち得る武具加工技術の粋を集め、かのオブリビオンフォーミュラの欠片から造り上げたのが、現在、オーガストの頭の上で踏ん反り返る蜘蛛竜だ。
 オーガストと共に成長を続ける蜘蛛竜の力は未だ未知数。それが頼もしくもあり、末恐ろしくもある。
 けれども今はただ平穏に、勝ち取った平穏を竜たちと分かち合いたい。
「まぁ、時間はあるんだし、ゆっくりと楽しむとしよう」
 そうだろう? と蜘蛛竜に呼びかけ、オーガストは料理店選びを再開する。

「……食べるのなら魔力の回復を見込めて、余り人目のつかない静かなところがいい。そうなると街の端の、希少な茶葉が置いてある――よし、ここだ。いくぞ、みんな!」
「うきゅー!」
「うにゃー!」
 種々の料理の匂いにつられ、待ちきれない様子のデイズとナイツが懐から顔を出す。
 そんな逸る竜達と頭の蜘蛛竜を従え……美味なる料理を求め、オーガストもまた百鬼夜行に合流した。

大成功 🔵​🔵​🔵​

花小路・磯良
やあ 雨が止んだ

妖怪たちも解放されて一件落着だね
火を大いに使った温かい料理が食べたいよ
ふむ和洋中にゲテモノ高級食材?
そうだね それならぼくは中で
スープ 炒飯 海老や貝の蒸し物
少しずつ色々な種類をいただこう
落ち込んだ気持ちも晴れるというものさ

え うわ 餅の声

あんたはカビ…ていない餅
違うな カビていた餅?
しばらく見たくないと思っていたけど
そうだねえ 名物なんだって?
そうだねえ 名物ならば
おいしいなら 少しだけなら
ぼくのバロックたちも「食べてもいい」そうだ
好奇心が抑えられないのは内緒

さ おいで
「いただきます」で食べてあげるよ



「やあ 雨が止んだ」
 幽世の星座などは何一つとして知らないが、漸く傘を気にしないで済むのは有り難い。妖怪達も解放されて一件落着。
 ……まさか適当に家屋の中へ放り込んだのを怨まれてはいやしないかと、熱心に炎を扱う料理人たちをおっかなびっくり観察してみるが、特に気にもしてない様子。
 世はすべて事もなし。ともすると、途端に空っぽの腹が図々しく食べ物(カロリー)を求め始める。さあて何を食べてやろう。冷たいものもいいけれど、折角だし、まずは火を大いに使った温かい料理にありつきたい。
「ふぅむ……和洋中にゲテモノ高級食材? おやまぁ、本当に何でも揃っているんだね。見ているだけで腹が膨れてしまいそうだよ」
 このまま立ち尽くしているだけではもったいない。磯良は食欲(はら)が命じるままに種々の中華料理を見繕う。
 卵と鶏肉のシンプルなスープ。エビがごろっと入ったあんかけの炒飯、海鮮の蒸し物に、箸休めの揚げ団子。
 色んな種類の料理を少しづつ、好きなように。
「ああ……いいね。落ち込んだ気持ちも晴れるというものさ」
 この世界に来てからこっち、ずぶ濡れのカビ塗れで酷い有様だったけれど、料理を口に運ぶたび、それも悪くは無かったろうかと思えてくる。
 なんともイカサマ染みた話じゃないかと苦笑して、蒸した帆立の貝柱を掴んだ刹那、唐突に、胡麻を着飾った揚げ団子たちがぴょんと跳ねた。
「ホクホクノ揚げ団子、アルヨー」
「美味シイヨー」
「えっ。うわ。餅の声」
 磯良は骸魂揚げ団子をまじまじと眺めた。
「あんた達はカビ……ていない餅。違うな。カビていた餅?」
「ソレハ昔ノ話ダヨー」
「今ハ真ッ白堅気ダヨー」
 別段その気はなかったが、好き勝手に選んだ結果、好き勝手に紛れ込んでしまったのだろう。
「しばらく見たくないと思っていたけど……」
「腐レ縁ダネー」
「オ兄サンコレカラ何処ヘ行クン?」
「むしろあんたたちの行く末の方が気になるよ。食べられて、そうしたらまた食べ物に生まれ変わるのかい?」
「ドーダロネー」
「ソーカモネー」
 邪気(カビ)から切り離されようと、相も変わらずモチ達は胡乱な存在だった。
「そうかい。そうだねえ……名物なんだって?」
「ソダヨー」
 帆立を堪能した磯良の興味は揚げ団子達に映る。
 あの時は、食べるという選択肢すら浮かぶ余地も無かったが。
「そうだねえ 名物ならば、おいしいなら。少しだけなら……」
 そろりそろりと箸を伸ばす。鈍間に動く箸は躊躇と葛藤の表れだ。けれど、周りの妖怪たちが美味そうに骸魂料理を齧っているのを見る内に、跳ねる団子と世間話をする内に、警戒から興味へと大きく傾いた胸中が、心配性のバロック達を呼び寄せる。
「嫌だねぇ。これじゃあ小学校の授業参観だ。けど、ぼくのバロックたちも『食べてもいい』そうだ」
 透明標本のような骨の生き物たちが異質に見ええたのもほんの数秒。妖怪跋扈のこの世界では、バロック達もすぐさま道を賑わせる百鬼夜行に組み込まれ、何気ない日常の景色に溶け込んだ。
 ……異質こそが、この世界の日常だというのなら。
 好奇心が抑えられないくせ、誰に聞かせるわけでもない建前を捏ねながら、

「さ おいで。『いただきます』で食べてあげるよ」
「ソーコナクッチャー」
「食ベテ食ベテー」
 箸を繰り、嬉しそうに跳ねる骸魂を宙で掴むと、磯良は蕩ける程に甘々の揚げ団子を頬張った。

大成功 🔵​🔵​🔵​

矢来・夕立
手帳さん/f01867

食べるわけないでしょうが。

外で食べるのは控えてるんです。何が入ってるか分かったもんじゃない。ああ骸魂ですね。食べません。
忍びの者から見れば得体の知れないものを口にするなんて狂気の沙

は?ビビってませんけど?馬鹿馬鹿しい煽りも大概にして頂きたいですね。29歳にもなって恥ずかしくないんですか?バス停にも興味ありません。勝手にやっててください。

アラサーバカがある程度食べたところで勝負に乗ります。
「いつからいつまで」って言ってないですよね?
これは速さでなく数で勝負するものでしょう。
あなた胃袋にも精神にも余裕はないんじゃないですか?
この若さで追い上げていきますから。

※勝敗お任せ


納・正純
夕立/f14904

食うしかねぇなオイ

こういうのは外で食うのが最高なんだよな、中に何が入ってるか分からないってのもスリリングで最高だぜ。これは? 骸魂? 知らねえ食いもんだ、興味あるぜオイ!
何にしろ食うぞ夕立!
ははァ〜ンもしかしておビビり遊ばせてらっしゃるのか? 18歳育ち盛りの胃袋が草葉の陰で泣いてはるわァ! 悔しかったら見ろ! あそこでお誂え向きに開催してる孤独なsilhouetteは……もしかして「わんこ骸魂大食いグランプリ2020秋の陣」では!?
こうなりゃお前と俺、どちらがエクスカリバス停に相応しい漢か勝負するしかねえなオイ! いくぜ反抗期真っ盛り忍者! 今日こそ鼻を明かしてやらァ!



 東西南北どちらを見ても、視界に映るは唸るほどある料理の数々。
 最早この街そのものが、巨きな食卓(テーブル)であると評しても過言無いだろう。
 故に。
「――食うしかねぇなぁオイ。やっぱこういうのは外で食うのが最高なんだよな」
 キョンシー姐さんの誘いに乗って、堂々宴に乗り込んだ正純のテンションは、端からフルスロットルの最高潮。
 何せ、あらゆる知識の収集に余念がない正純ですら、この場に於いては初見の初心者。見る光景(もの)全てが目新しく、心の裡では好奇心が大暴れ。いっそマイク片手にリサイタルの一つでもぶち上げたい気分だった。
「そっちが売ってるこれは? 骸魂? 見た目饅頭だけど何が入って……食べてからのお楽しみ? おいおいスリリングすぎるだろ最高かよ」
 往来を三歩も歩けば即座知らない食べ物とエンカウント。これはもう、突っ立ってるだけでも興味しか湧いてこない。
「よし! 何にしろ食うぞ夕立! さあて……まずはどれから――」
「勝手に頭数に入れないでください。食べるわけないでしょうが」
「……あん?」
 場の空気(テンション)に身を委ね存分にはしゃぐ正純とは正反対に、夕立は冷ややかあきれ顔。
「外で食べるのは控えてるんです。何が入ってるか分かったもんじゃない」
「この茶碗蒸しの中には、骸魂がごろっと入っているんだとさ」
「オイシイヨー」
「ボリューム、アルヨ」
「それはもう、分かるとか分からないとかそういう問題ですらないでしょう。食べません」
「エエー?」
「ケチー」
「何と言われようが食べません」
 正純が中華風茶碗蒸し(骸魂仕立て)を数度差し出すが、夕立はふいと顔を背けて受け取らない。仕様がないので正純が茶碗蒸しを二杯食べた。
「何だ、すげえ美味いのに勿体ない……おっと、いかん。俺としたことが美味すぎて語彙が死んでる」
「どうでしょう。もしかすると語彙力を喪失させる効能があるのかも知れませんよ? だから、忍びの者から見れば得体の知れないものを口にするなんて狂気の沙――」

「ははァ~ン? もしかしておビビり遊ばせてらっしゃるのか?」

「……は?」

 その瞬間。夕立の眼鏡にぴしりとひびが入る幻覚が……見える人には見えたかもしれない。
「なぁ夕立よ。お前の言う忍びの理(ルール)だって、言い換えれば先人たちの実体験(ちえ)の集積体だ。時代の流れは大きく速い。ちょいとでも足踏みしようもんなら、どんな理(ちえ)だってすぐに黴が生えちまう」

「は??」

「つまり噛み砕いて言うとだな……18歳育ち盛りの胃袋が草葉の陰で泣いてはるわァ! 嗚呼なんて可哀そうに!」

「は???」

 静かボルテージを上げる夕立をよそに、正純は企むような意地の悪い笑い方をした。
 夕立は、波風立つ胸中を鎮めるように、ゆっくりと眼鏡の位置を調整し、
「別にビビってませんけど? 見え見え馬鹿馬鹿しい煽りも大概にして頂きたいですね。29歳にもなって恥ずかしくないんですか?」
「全然?」
 強い。
「ほうら、悔しかったらあっち見てみろ!」
 別に。全く以て、全然々々悔しくないが、こころがとてもとてもひろい夕立は、あえて29歳アラサーバカ(グラサン着用)の茶番に乗るだけ乗ってやることにする。
 正純が指し示す先にある孤独なsilhouette――その正体こそは紛れも無く……わんこ骸魂大食いグランプリ2020秋の陣!
「なんてこったお誂え向きが過ぎるだろ。こうなりゃお前と俺、どちらがエクスカリバス停に相応しい漢か勝負するしかねえなぁオイ!」
「はあ。そうですか。勝手にやっててください。別にバス停にも興味ありませんし」
 夕立はついに大きく嘆息し、そっぽを向いた。
「無いのか?」
「ありませんよ。第一、オレがバス停片手に戦う姿、想像できますか?」
「いや待て……もしや最高に格好良くないか?」
「どの知識(くち)がそんなこと言ってるんですか。いい加減にしないと縫い止めてしまいますよ?」
 ――そこまで言うなら仕様がない。不戦勝で俺の勝ちか……などと、最後まで聞き捨てならないセリフを残しつつ、正純は単身、わんこ骸魂大食い大会へと向かってゆく。
 精々優勝目指して頑張ってください、と素っ気の無いエールを送りつつ、アルカネットデバイスで現在時刻を確認した夕立は密か――企むような、意地の悪い笑みを浮かべた。

 椀子の中には手ごろなサイズの骸魂(オモチ)がひとつ。味は醤油だったり味噌だったり餡子だったり、なるべく飽きが来ないよう、十食ごとに切り替えてくれる仕組みらしい。
「21食目ダヨ。今度ハ胡麻餡、美味シイヨ」
「そいつは美味い上に態々ありがとうよ」
 その上モチが自ら現在数をカウントしてくれるという珍妙なサービス付き。
 味については文句が無い。ただの餅としてみても、口当たりなめらかで、コシが強く、そんじょそこらの高級品より上等だろう。
 ただしこちらの箸を待たず、口先目掛けて強引に突撃してくる奴(モチ)もいるので、少しでも気を抜くと、自分が餅を食べているのか、それとも食べさせられているのかよく判らなくなりそうなのが難点ではあるが。
 正純は21食目を平らげる。競争相手不在なのは侘しいが、餅もうまいし一人で黙々と記録に挑戦するのも悪くない。
 ――などと。
 そう思い始めていた矢先。
「ヒア カム ニューチャレンジャーダヨー!」
「――ふ。調子はどうです手帳さん。そろそろ胃袋的にも精神的にも余裕はないんじゃないですか?」
 あれだけ出ないと頑なに否定していた夕立が、立ち食い蕎麦屋に顔を出す程度の気軽な感覚で参戦してきやがった。
「別に『いつからいつまで』って言ってないですよね? それにこれは速さでなく数で勝負するものでしょう」
 悠然と、余裕の態度で、夕立は椀子を突き出す。
「全ては策(ウソ)。敵を欺くための戦術(ちえ)ですよ」
 その言葉を聴いた正純は、ああ良いだろう受けて立つ、と緑茶を一気に飲み干して、戦闘態勢を整える。
「だがな夕立。知恵(ソイツ)で俺に挑むたぁ、ちょいと生意気が過ぎるってもんだぜ?」
「その時に扱えるものを何でも扱うのが忍びですから。例えば、あれは偶然ですが、今なら二杯分の茶碗蒸しも重いでしょう?」
 二言三言交わしている間にも、夕立は既に10食目。
「言ってろよ。茶碗蒸し2杯と21食分のハンデはくれてやる。それでようやくイーブンだろ? いくぜ反抗期真っ盛り忍者! 今日こそ鼻を明かしてやらァ!」
「アラサー舐メテルト痛イ目見ルヨー!」
「嫌だな、子供の茶目っ気に大人げないですよ。でもまぁ、俺も負ける気有りません。この若さで追い上げていきますから」
「世ノ中ヲ変エルノハ何時ダッテ若イ人間ナンダヨー!」
 そして(わんこ骸魂大食いグランプリというよくわからない形で)ぶつかり合う宿命の二人。
 箸が弧を描き、餅が跳ね、正純が逃げ、夕立が追い、
 その勝負の行方は――骸魂(モチ)達だけが知るところ。

「何か決着つきそうに無いカラ、取り敢えず二人にエクスカリバス停進呈しておくネー。よっしゃ一気に二本掃けたヨー」
 尚。意地の張り合いに次ぐ張り合いで、店を変え品を変え、決着は最終的に第三ラウンドまでもつれ込んだという。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

新海・真琴
【炎桜】
恋人と夜市を食べ歩き
カクリヨ探検だ!いこっ!(手を引いてズンズン歩く)

いやー、疲れたよねー
ベルンハルトには負担かけちゃったし、今夜はボクが奢るからね!!
ほら、旅先ではその土地の物を食べようっていうあれやそれやもあるしさー
食べてみようよ、骸魂料理!この飲茶コースとかいいんじゃない?
(好奇心に満ちた眼差しを傍らの彼氏に向ける)

ボクは茘枝酒のソーダ割りでっ!
骸魂の大根餅とー、ニラ饅頭とー、春巻に餃子にー
(基本的に健啖家かつ、アルコールにも強い半分羅刹)
次は桂花陳酒とか飲んでみよっかな。
ボクの奢りだからね!遠慮はいらないよ!

姐さーん!シメに食べたいんだけどラーメンとかあるー!?


ベルンハルト・マッケンゼン
【炎桜】
恋人と夜市の屋台を食べ歩き

全く、今回は酷い目に遭った。
最終日の今夜は、その埋め合わせに彼女が奢ると言ってくれたので、恋人達らしくお洒落なディナーコースでも……

え? 何それ? 骸魂料理? 喋ってる?
……訂正しよう。全く、今回は酷い目に遭いそうだ。これも惚れた男の弱味というヤツか……って、彼女に弱すぎないか、私は!

意を決して、骸魂小籠包をチョイス。
……や、止めてくれ! そんな慈愛の瞳で、私を見つめないでくれ! 胸が、痛む……うぅっ。

仕方がない、先に喉を潤しておこう。
店主、私に甕出し紹興酒の老酒を一杯! 男兒當自強!
(BGMは将軍令。何処かの草原でCQCを修行した光景がフラッシュバックする)



 全く、今回は酷い目に遭ったものだと頭(かぶり)を振って、ベルンハルト夜空を見上げる。けれども、永遠の曇天からこの煌めく星空を取り戻しただけでも、自分が傷つくだけの価値はあったと、今ならそう素直に思えた。
 この街に留まるのも今日が最後。今夜は無茶振りの埋め合わせに真琴が付き合ってくれるというので、やはりここは恋人達らしくお洒落なディナーコースでも……そう思い馳せていたベルンハルトの意識を、よくよく透き通った真琴の声が呼び戻す。
「ベルンハルトー! ああ、ようやく見つけた」
 息を切らし妖怪(ひと)の波をかき分けて、ベルンハルトの元へとたどり着いた真琴は、そのまま彼の手を引くと、休む間もなく再び歩き出す。
「カクリヨ探検だ! いこっ!」
「おいおい、そんなに急がなくたって、料理は逃げたりしな――」

「ワー! 見テ見テー! ボクオ空飛ベルヨウニナチャタヨー!」
「だれかー! あのパンケーキ捕まえて―!」

「逃げてるな……」
「逃げてるね」
 何て珍奇な街だろう。居るだけで早々飽きが来そうにないのは、美徳とみるか欠点とみるか。
「それにしても、いやー、疲れたよねー。ベルンハルトには負担かけちゃったし、今夜はボクが案内するからね!!」
「ああ、楽しみにしてるとも……ところでどうやら高級料理店街は過ぎてしまったようだが、いったい何処へ……?」
 おしゃれなディナー……ではなさそうだ。そうなると軽めのフレンチとか、カジュアルな雰囲気の料理店……も通り過ぎ、
「ほら、旅先ではその土地の物を食べようっていうあれやそれやもあるしさー……」
「あれやそれや……?」
 この時点で、ベルンハルトは直感的に嫌な予感を察知した。しかし、真琴に手を引かれている以上、どうしてそれを払えよう。
「ね! 食べてみようよ、骸魂料理!この飲茶コースとかいいんじゃない?」
 はにかみながらそう言って、好奇心を波々湛えた銀の瞳を彼氏に向ける彼女。ぴょこんと、白い翼(みみ)も嬉し気に揺れている。
「え? 何それ? 骸魂料理?」
 純真な彼女に対して、思わず口調が乱れた彼氏。そういえばさっきのパンケーキも元気に喋っていたような。病み上がりの幻聴ではなかったのか。
 ベルンハルトはシニカルな調子で苦笑する。全く、今回『も』酷い目に遭いそうだ。惚れた男の弱味というヤツは、何よりうれしいバッドステータスなのかもしれない。
「……というか、彼女に弱すぎないか、私は!」
「ん? ごめん。周りが賑やかすぎて、今何て言ったのか聞き取れなかった」
「真琴が好きだと言ったのさ」
「……え? えっ!? どど、どうしたの急に大きな声で!」
 真っ赤になって慌てる真琴。ベルンハルトの告白に、思わず振り返る通行人(ようかい)たちの姿もちらほら。
「いや。これくらいはやり返してもきっと罰は当たるまい?」
「もう。そんなこと言うなら、ボクはお酒に逃げちゃうからねっ!」
 席に着いた真琴は頼んだ茘枝酒のソーダ割りを一気に飲み干し、そのまま二杯ほどお代わりする。
 そして三杯目の茘枝酒と同時、運ばれてきたのは満を持しての骸魂飲茶コース。
「来たきた! えーと、骸魂の大根餅とー」
「プルプルシテルヨー」
「ニラ饅頭とー」
「モチモチシテルヨー」
「春巻に餃子にー」 
「ウマウマシテルヨー」
「杏仁豆腐!」
「アマアマダヨー」
(「やはり喋っている……」)
 妖怪達の生態こそ、戦場で見てきた何よりも怪奇かもしれない。
 たじろぐベルンハルトをよそに、真琴は物怖じすることなく骸魂料理を口に運んでいく。
「んー! 美味しー!」
「美味シイヨー」
 幸福そうな彼女の顔を見る限り、味に関しては絶品なのだろう、が。
「料理の追加お願いしまーす! そうだねー。次は桂花陳酒とか飲んでみよっかな」
「お姉サン惚れ惚れする食イップリ飲ミップリネー。料理人冥利に尽きるヨ」
「料理冥利ニ尽キルヨー」
「えへへ、半分羅刹だからお酒は結構強いんだ」
 そう朗らかに笑う彼女の横顔はどんな炎よりも眩しく。
「さあ、ほら、ベルンハルトも。ボクの奢りだからね! 遠慮はいらないよ!」
「猟兵サンは今日ハ食ベ放題ネー。マニーの方は大丈夫ヨ?」
 それでも、食べた分はきちんと払うよ。そうしないと食べ尽くしたり飲みつくしたりしちゃうかも、と真琴は悪戯めいて微笑んだ。
 そんな彼女のやり取りを横目に、ベルンハルトは意を決し、小籠包とにらみ合う。見間違いでなければ、皮に描かれた目玉模様が瞬きしている。
「見テルヨー」
「食ベゴロダヨー。美味シイヨ」
「……や、止めてくれ! そんな慈愛の瞳で、私を見つめないでくれ! 胸が、痛む……うぅっ」
 邪気(カビ)から解き放たれた骸魂(モチ)たちはやたらと善良で、それがまた彼らを口に運ぶのを躊躇させるのだ。
 ……そんな時。ふと、真琴の掌中で微睡む様にゆらゆら揺れる桂花陳酒が目についた。

 そう。有体に言ってしまえば酒だ。
 ベルンハルトは先に喉を潤しておくことにした。
「店主、私に甕出し紹興酒の老酒を一杯!」
 熱き血潮の赴くままに、鳴り響くのは将軍令。脳裏を掠める鍛錬の記憶。CQCを修業したあの草原は、いったいどこであったろうか。
 老酒を飲み干して、最早どこにも逃げはしない。ベルンハルトは改めて、小籠包と対峙する。
 そして、囁く小籠包。
(「一気ニガブットイッチャエヨー」)
(「彼女ニイイトコミセヨウヨー」)
(「そんななりして君達天使か何かか」)
 ますますもって食べずらいが、ベルンハルトはそれでも食らう。
 ――果たして。
「……美味い」
「でしょ?」
 それまでベルンハルトの葛藤を見守っていた真琴は得意気に口元を綻ばせる。
 あふれるスープに火傷しかけたが、中身は(跳ねたり跳んだり喋ったりしないという意味で)普通のとてもおいしい具材。
 恐らく骸魂料理を口にした誰もがそう思うように、純粋な味としては普通の材料の物よりこちらの方が美味だろう。
 ……しかし。
「ボクモ。ボクモタベテー」
「モチモチムッチリオイシイヨー」
 喋ったり、見つめられるとどうしても罪悪感めいたものが沸いてしまうので、ベルンハルトとしては普通の料理の方が好みかもしれない。慣れるのには大分時間が必要そうだ。

 からん、と寂しげに音を立てるグラス。桂花陳酒も飲み干して、宴もたけなわ。
 いろいろな料理を食べたけれど、お酒を飲んだ後のシメと言えばやはり。
「姐さーん! シメに食べたいんだけどラーメンとかあるー!?」
「アルヨー!」
 そんな訳で真琴は堂々と、懐かしくも頼もしい、シメのラーメンを頼んだのだった。

 ――そして、これはラーメンが到着するまでの、ほんの僅かの出来事。
「それで、今日はどうだった? ベルンハルト」
「いや全く、面白い一日だった。食事をするだけで、こんなに大きく価値観を揺さぶられるなんてな」
 満足そうに星空を見上げながら、ベルンハルトはそう言った。
「さて。そうなると次は私の番だな」
「番?」
「もしも機会があれば、今度は私がデートに誘う番だろう?」
「……うん」

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

神崎・伽耶
キタキタキター!
飯のネタが飯のタネになる。合理的!
存外良い世界じゃない、ココ♪(腕まくり)

あら、モチモチ連さん、お久しぶり♪
元気してた?
食べられる前に、一言いただけるかしらん?

どのようなお料理にされるのが夢でしたか?
夢は叶いましたか?
では、最期に一句、お願いします!

ハイ、有難う御座いましたー。いただきま~す。
ん~、お醤油がとても香ばしくて、お団子みたい♪
隠し味は柑橘系ね。柚子、じゃなくて、カボス!
え、スダチ? やられた!
お姉さん、シャッポを脱ぐわ!(優雅に一礼)

ニホンには、踊り食いっていう文化があるの。
そして、マニアっていうのは、とことん突き詰めちゃうものなの!

会話食い、流行らないかしらね~♪



 宵町に満ちるのは香気と熱気。
 料理に関してはバリトゥード。その言葉に偽りなく、街の何処を切り取っても、あらゆる料理の看板が問答無用で視界内に飛び込んでくる。
「キタキタキター!」
 食レポ書きのギリギリスが、そんな状況に放り込まれれば、それはもう黙って居られるはずも無く、足に翼が生えたかのような軽やかステップで、店から店への渡り鳥。
「飯のネタが飯のタネになる。合理的!」
 縁日感覚で焼きもろこしなどつまみつつ、たこ焼きを食らう影の追跡者(ストーカー)に協力させて伽耶はちょこちょこ取材もこなす。世界中から、あるいは、世界すら超えて集まる美味で未知な料理たち。気ままに飲み食いするだけで、当分の生活費(レポネタ)には不自由しないだろう。全く以て救世主(メシ屋)様様だ。
「存外良い世界じゃない、ココ♪」
 もろこしを一粒残さず齧り尽くすと、気合を入れて腕まくり。
 格好をつけた言い方になるが、モチを鎮め、一反木綿と戦い炎を取り戻したのは何より世界のため。
 ……そう。英雄(ヒーロー)として招待客(ゲスト)として、今の今まではあっちこっちつまみ食いしつつも少々遠慮があったのだ。
 しかし、無礼講と言うのなら、ここから先は容赦なく。
 伽耶は他でも無い自身の生活費(あした)の為に走り出す。
 ――とりあえずエクスカリバス停がもらえる位には食べ尽くそうと思った。

「美味シイ美味シイオ餅ダヨー」
「妖怪達モビックリダヨー」
「あら、モチモチ連さん、お久しぶり♪ 元気してた?」
 色々と食べ歩いてしばらく。餅屋の前で自ら宣伝しているつきたての餅達へ、伽耶は気軽に会釈した。
「メッチャ元気ダヨー」
「活キガイイッテ良ク言ワレルヨー」
 小皿の上で跳ねる転がる。皿から落っこちたりするんじゃないかと見ている方がはらはらする。
「食ベテー」
「食ベテ食ベテー」
「それはモチ論。けどその前に、一言いただけるかしらん?」
「エッ!? 取材!? 困ッチャウナ緊張シチャウヨー」
「サイントカー、練習シテオケバ良カッタヨー」
 何やらそわそわし始める骸魂(オモチ)たち。しかし満更でもないらしく、道行く目目連が熱い視線で見守る中、快くインタビューを受けてくれた。

「それではまず、どのようなお料理にされるのが夢でしたか?」
「人ノホッペヲ問答無用デ落ッコトス感ジー」
 言ってることは(料理として)真っ当なのに、何だかおどろおどろしいような。そこの所彼らも妖怪なのだろう。
「夢は叶いましたか?」
「今カラ叶エニ掛カルンダヨ!」
「覚悟スルトイイヨー」
 おおっとこれは伽耶に対する宣戦布告。受けて立たざるを得ないだろう。
「……では、最期に一句、お願いします!」
「モチ生五十分。下天ノ内ヲ比ブレバ、夢幻ノモッチモチ」
 賞味期限早いからあったかい内に召し上がれ的な恐らくそんな感じだと思われる。

「ハイ、有難う御座いましたー。それじゃいただきま~す」
「アーン、遂ニボクモ食ベラレチャウヨー」
 そんな訳でパクっと一口。
 刹那、目に浮かぶのは桃源郷。問答無用でほっぺが落ちた。モチ達の予告通り覚悟を決めていなければ、落ちていたのは頬では無くて意識だったかもしれない。
「ん~、お醤油がとても香ばしくて、お団子みたい♪ 隠し味は柑橘系ね。柚子……じゃなくて、カボス!」
「ブッブー。スダチダヨー」
「え、スダチなの? それはやられた~! お姉さん、シャッポを脱ぐわ!」
 まさしく脱帽。伽耶は美味なる餅と、それを作ってくれた料理人への感謝を込めて、優雅に一礼した。

「うーん、美味しいし面白し、会話食い、流行らないかしらね~♪」
 飽くなき食への執念と、生活費(あした)を強く思う心が化学反応した結果、割とあっさり手に入ってしまったエクスカリバス停へ寄りかかり、伽耶は考える。
「流行ルカナー?」
「難シクナーイ?」
 さすがの骸魂達も、そこの所は懐疑的。けれども伽耶はぐいと拳を熱く握り、

「どうかな? ニホンにはね、踊り食いっていう文化があるの。そして、マニアっていうのは、とことん突き詰めちゃうものなの!」
 ――もしも会話食いが流行る余地があるとするのなら、それは伽耶のペン次第。

大成功 🔵​🔵​🔵​

久賀・灯夜
ミレニカちゃんと良馬さんと参加

ふいー、お疲れ! 何とかなってマジで良かったな!
って料理が動いた! 喋ってる!?
こ、これ食べんのは中々勇気がいるな
あれ? そういやさっきから見ないな良馬さん…

ってめっちゃ馴染んでっし! 順応速すぎだろ!?
これが料理人魂ってやつなのか…
ってミレニカちゃんまでノリ始めたし! ガチでお祭り騒ぎになってきたよ!

ツッコミ疲れで息切れしながらも、やれやれと言った風に笑って
…2人とも、今日は本当にありがとな。
2人が助けてくれたおかげで一歩踏み出せて…皆を助けられた
だから、ありがとう

って俺ちょっと今いい事言ってなかった!?
この流れで毒見させられんの!?

ま、まあ楽しく過ごせたかな?


ミレニカ・ネセサリ
【灯夜様、鏑木様と】
これが骸魂料理
こうして目にするのは初めてですが……動いておりますわね
ブルーチーズは頂いたことがありますけれども……
とはいえあのお餅様方が、あのように嬉しそうにしていらっしゃるのですもの
よろしいことですわ
ところで鏑木様はどちらに?

鏑木様の熱意は日頃、目に致しますしね……ふむ
サーヴァンツ!(軽く手を叩き呼び出す)
お前たち、【楽器演奏】の準備を
折角のお祭りですもの
調理も盛り上げてしまっても構いませんでしょう?

あら、当然のことでしてよ?
お礼を言われるほどのことではありませんのに
けれど、ふふ。はい、どういたしまして!

まあ、灯夜様お召し上がりになりますの?
是非感想を教えてくださいましね


鏑木・良馬
灯夜、ミレニカと

これが骸魂料理なるものか!実に興味深いッ!
ぜひ挑戦して…
む、免許がいるのかね?そうか…
ではそれは今度習得するとして

骸魂料理たちに並んでホカホカノ肉マン、アルヨとか言っておけば客受けする…
しないか?そうか…
おお灯夜よ、何をそんなに騒いでいる
これほどに食の並ぶ場
ならばこの俺が振る舞わぬのは嘘であろう
骸魂使わずとも我が魂の逸品、決して遅れは取らん!
ミレニカの演奏も加われば肉まんたちも踊りだし…

む?もしや分けてもらった材料に骸魂が混ざっていたか
参ったな異物混入など痛恨の極み…しかしなんかこいつ食べてほしそうにしているな
よし灯夜よ、一つ毒味…じゃなかった味見してみないかネ?



「ふいー、お疲れ! 何とかなってマジで良かったな!」
 異変解決より数日。綺麗になった街中と、活気にあふれた料理人たちと、行き交う妖怪達(ひとびと)を眺め、灯夜はようやく、一息つけた思いがした。
「オツカーレー」
「打チ上ゲドコデヤル―?」
「……って料理が動いた! 喋ってる!?」
 そこら辺の屋台から、極々普通に会話へ参加してくる骸魂達。悪気がないのは分かっているが、いきなり話し出すのはやっぱり怪談(ホラー)の類だ。
「これが骸魂料理……こうして目にするのは初めてですが……動いておりますわね」
「プルプルシテルヨー」
「悪イ骸魂(オモチ)ジャナイヨー」
 ミレニカが緑の瞳でじっとお餅を見つめると、餅はすっぴんが恥ずかしかったのか、店主を急かして餡子を纏った。
「カビた食材と言うと……ブルーチーズは頂いたことがありますけれども……」
「エッ!? カビテルノニ食ベラレチャウノ!?」
「ソンナノズルダヨ卑怯ダヨー!」
 別に今は綺麗な身なんだからブルーチーズにやきもち焼くことないじゃないか、と灯夜は餅達を宥めた。
 ……餅を宥めた。改めて言葉にすると、何かしらの深淵に手が届きそうな予感で危ない。
「けど……こ、こいつら食べんのは……中々勇気がいるな……?」
 いっそ一反木綿と対峙するより手強い気もする。
「とはいえ、あのお餅様方が、このように嬉しそうにしていらっしゃるのですもの。よろしいことですわ」
「ソダネー」
「ソレガー一番大事ダネー」
 踊る餅達に笑顔で手を振って、ところで、と、ミレニカは周囲を見回す。
「鏑木様はどちらに?」
「あれ? そういやさっきから見ないな良馬さん……何処行ったんだろう?」
 辺りは何処も大賑わいだが、それ故良馬の姿も見当たらず、はぐれてしまったのかもしれないと、二人が本格的に探し始めようとした、そんな時――。

「ハァイ、其処ノカッコカワイイ少年少女達。ホカホカノ肉マン、アルヨ」
 肉まん屋の怪しい主人が、如何にもなカタコト喋りで話しかけてきた。
「あら、私としたことが見落とすなんて。鏑木様も屋台を出していらっしゃったのですね」
 どうみても良馬だったので、ミレニカがそう声をかけたものの、この期に及んで屋台の主は否定する。、
「イイヤ違ウヨ? 俺は銀髪の情報解析デバイス(メガネ)を掛けた3月5日生まれの17歳で、二刀の緋メ桜を悠然と振るい、ちょっとスれてた過去もある、粋でいなせな流れの肉まん屋とは何の関係もナイヨ?」
 否定すると見せかけて完全な自己紹介だった。軽く変装してはいたが、天地がひっくり返っても、純度百パーセントの鏑木・良馬である。
「めっちゃ馴染んでっし! 順応速すぎだろ!?」
 流石と言うべきか、料理人魂恐るべし。
「くっ! まさか俺の完璧な変装が秒でばれるとはな。しかし灯夜よ、それにしたって何を騒いでいる?」
 これだけの料理人達が鎬を削る街で、ただ招待客(ゲスト)としてそれを眺めているだけなぞ性に合わん。そう言いながら、良馬は怪しげな変装を解く。
「知ってのとおりの骸魂料理なるものは、俺としても実に興味深くてな。それで、ぜひとも挑戦しようと意気込んでいたのだが、免許が必要だと言うじゃないか」
 残念だが、次の機会にと気持ちを切り替えて、やはりここは自分の最も信頼する武器一つでこの宴に殴り込みをかけることにしたのだと良馬は言う。
「つまり肉まんだ。これほどに食の並ぶ場。ならばこの俺が振る舞わぬのは嘘であろう?」
 そんな訳で、先ずは一口。良馬は二人に肉まんを渡す。
「ん、美味しい。何だかほっとする味というか……」
 灯夜がほうと吐いた息も暖か。びっくり箱のような街中で、そう思わせてくれる味は貴重だった。
「だろう? だが如何にも客受けしなくてな……ホカホカノ肉マン、アルヨ?」
「良馬さん……味じゃなくてむしろそれのせいなんじゃないっすか?」
 そんな、沈んだ様子の良馬を見るミレニカは思案する。
「鏑木様の熱意は日頃、目に致しますしね……報われてほしいですが……ふむ」
 味に問題がないのなら、ネックなのは宣伝の方だろう。これだけ料理屋が犇めいているのだから、『美味』と言う当然の武器だけでは埋もれてしまう。
「サーヴァンツ!」
 ミレニカが軽く手を叩くと、肉まん屋台の周囲には、手のひら大の蒸気ロボットが現れた。
「お前たち、楽器演奏の準備を。折角のお祭りですもの。調理も盛り上げてしまっても構いませんでしょう?」
 そうしてスチームパンクの住人たちが奏でるのは、激しくも勇壮で中華調(カンフーチック)なBGM。
「ってえええミレニカちゃんまでノリ始めたし! ガチでお祭り騒ぎになってきたよ!」
 音につられ、匂いにつられ、賑やかな往来はさらに賑わい、やがて良馬の屋台には長蛇の列が出来た。
 特製の肉まんを頬張る妖怪達は皆幸せそうで、全力で振舞う良馬も思わずつられて破顔する。
「はっはっは! 見たか灯夜! そしてありがとうミレニカ! 骸魂使わずとも我が魂の逸品、決して遅れは取らん! がそれはそれとしてびっくりするほど忙しいので手伝ってほしい!」
 止まらない良馬。とめられない客足。食べに来たはずなのにこれじゃああべこべだと、二人は苦笑しつつ――良馬の屋台を手伝った。

 どれくらい働いていたものか。ようやく客が掃けると、サーヴァンツ達はそれに合わせて穏やかな、しっとりとした旋律を奏で始める。
 ツッコミや手伝い疲れで息切れ気味の灯夜は、それでもやれやれ、と言った風にはにかみ、
「……二人とも、今日は本当にありがとな」
「どうした、急に。そんなに俺の肉まんが旨かったか?」
 いやいやそれもあるけれど。良馬に応えつつ灯夜は頭をかく。面と向かって言うのは照れ臭いが、今言わないと、きっとずっと後悔するだろう。
「2人が助けてくれたおかげで一歩踏み出せて……皆を助けられた。だから、ありがとう」
 勇気を出して、言い切った。
「あら、当然のことでしてよ? お礼を言われるほどのことではありませんのに」
 ミレニカは微笑む。
「けれど、ふふ。はい、どういたしまして!」
「その通り。俺も今日は屋台を手伝ってもらったしな。困ったときはお互い様だろう?」
 良馬もまた事も無げにそう言って、灯夜の感謝を、二人は真っ向から受け止める。
 ……ああ、ずるいなぁと灯夜は苦笑混じりに呟く。
 言い切った後の灯夜の心中は空っけつで、いっぱいいっぱいなのに、二人は変わらず悠然と笑って――。

「気ニスルコトナイヨ。ソレヨリダンスノ時間ダヨー。朝マデ踊リ明カソウヨー」

「えっ!? 急に何!?」
 いつの間にやら良馬の屋台の上で、一匹の肉まんがロボたちの音楽に合わせ踊っていた。
「鏑木様の肉まんですわね。骸魂は使用していなかったはずでは?」
「む? もしや分けてもらった練習用の材料に骸魂が混ざっていたか」
 良馬が後で食べようと思っていた試作品のとっておき。いろいろ趣向は凝らしたが、踊りだすのは良馬にとっても想定外だ。
「参ったな。異物混入など痛恨の極み……」
「大シタコトナイヨー。自分ノ腕ヲ信ジヨーヨー」
「肉まん(骸魂)……お前……」
 不意に良馬の目からじわりと熱いものが零れる。きっと常備してあるからしのせいだ。
 自作ながら、なんて慈愛に満ちた肉まんだろう。もしかすると災い転じて最高傑作なのでは?
「食ベテタベテー」
「……食べてほしそうにしているな」
「食べて欲しそうにしていますわね」
 本人の望みならば仕様がない。そして、料理人は己の料理を客に食べさせることこそが本道。
 故に。良馬は断腸の思いで――。
「よし灯夜よ、一つ毒味……じゃなかった味見してみないかネ?」
「味見トイイツツ全部食ベチャッテ良イインダヨ?」
「えっちょっと待って俺ついさっきまでいい事言ってなかった!? この流れで毒見させられんの!?」
 一瞬で窮地に陥った灯夜はミレニカへ助けを求めるが、
「まあ、灯夜様お召し上がりになりますの? 是非感想を教えてくださいましね」
 無念。いつの間にかBGMまで空気を読んで何だか逼迫したものになっている。

「――さあ灯夜。ホカホカノ肉マン、アルヨ?」
「アルヨー」
「うわあああああぁぁ……!!」

「あっ。美味い」
 美味かった。
 まあ、いろいろあったが、楽しく過ごせたので良しとしよう。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

三岐・未夜
【冬星】

……めっちゃ喋ってる……
……や、うん、えぇと、……そういうこともあるよね!
だ、大丈夫、つちねこと新鮮生トマトのバーガーとかも食べたことあるし!何ならつちねこ山ほど団地のお土産にしたし!同じようなもんでしょ、いける!多分!!
勢い付ければ良いってもんじゃない?知ってる

何食べよっかなー(立ち直るのが早い狐)
肉まんとうどんは探すとしてー、んー……あ、天丼食べたいかなぁ
ん?君んとこおいしいの?オススメ?
じゃあ行ってみよー

ふたりとも見て!天丼なんかいっぱい喋る!天ぷらにも米にもきゃっきゃされてる!
口の中までこのノリだからすげー食いづらいけど、確かにおいしいんだよなぁ……
団地へのお土産にしたいなー


松本・るり遥
【冬星】

お前ら食えるのかよお前らお前らお前ら(餅を貰って箸でもちもちもちもちつつきまわす)

未夜は食う?ジンガ様子見?
フ-……(餅と見つめ合う)
いただきます!(南無三!)
あ、うま!もちもちで米の旨味甘味もつまってる!
ただまあうん、食べ歩くしちょっとで良い、かもな(苦笑)(お前らが食べられて良かった)

あー天丼いいなあ、うどんも……もちの天ぷらとちからうどん……流石オススメ餅……
米もしゃべんの?うわっ賑やかっうるせ
ビビりも入りつつ愉快で仕方ない
しらはま、食いたいもんある?
土産にしたいっつったら、ここの屋台みんな飛び付いてくるんじゃね?

(エクスカリバス停持ちたさにバス停景品を度々目で追う男子)


ジンガ・ジンガ
【冬星】
エクスカリバス亭めっちゃ気になるゥ~
まァ、自分の胃のキョヨーリョーと相談じゃんよ、相談ソーダン
……おいで、しらはまちゃん
一緒に行こ、たぶん柚子ゆべしもあるわよ

骸魂料理は……お腹壊したり、命がヤバいことになんねーなら食ってみても良いかにゃー
あ、しらはまちゃんには骸魂系ナシね
一応精霊ですし、万が一融合とか突然変異とかでも起こしちゃったら困るじゃん?

骸魂使ってないヤツは、しらはまちゃんと分け合って
3人と1匹で食べ歩き
美味いヤツなら骸魂料理でもいーわ
活け造りも、踊り食いも、お喋りも大差ねぇっしょ、たぶん
俺様ちゃんには、一番オススメのおうどんちょーだい

おうどん食べれば、表情も蕩け
……ああ、おいし



「お前ら食えるのかよお前らお前らお前ら」
「アアン、ツッツキ回サレテルヨー」
 取り敢えず屋台から餅(骸魂)を貰ったるり遥は、おっかなびっくりつっつきまわす。
 伸ばしたり、ひっくり返したり、いろんな角度から餅を観察してみるが、外見的には普通のそれ。目耳口があるわけじゃなく、いったいどうやって見聞きしているか不明な怪奇の塊だ。
「うおお無駄にモチモチしてるってモチだから当たり前か」
「モチ肌ダヨー」
 とりあえずつきたてで熱々だし、少し冷ますのも含めて諸々慣れるまでつっつき倒しておこうと思った。
「うわー……めっちゃ喋ってる……」
 突っつき回されながら喋くる餅を見て、未夜は若干引き気味だ。
 しかし、よく考えてみればモノに魂が宿るという点ではヤドリガミと同じような、いいや違うな、何だろうこれ。
 スーパーのPOPに描かれたニワトリのゆるキャラが、『ここの鶏肉美味しいよ!』って吹き出し付きで宣伝してるの冷静に考えたらおかしくない? なんて思っていたら、突如実態化してきたゆるキャラに『いいや別におかしくないよ?』と面と向かって諭された気分というか。
「……や、うん、えぇと……そういうこともあるよね!」
 要するに考えても考えるだけ仕様がないので、未夜は割り切ることにした。
「だ、大丈夫、つちねこと新鮮生トマトのバーガーとかも食べたことあるし! 何ならつちねこ山ほど団地のお土産にしたし! 同じようなもんでしょ、いける! 多分!!」
 UDCアースでああいうのが出るのだし、そのすぐ隣のカクリヨファンタズムならこういうのも出るだろう。かびてても最初から加工食品(モチ)だった分、つちねこよりは敷居が低い……はずだ。
「未夜ってば結構アグレッシヴー。でも大丈夫? 勢い付ければ良いってもんじゃなくなァい?」
「うん。知ってる」
 知ってた。ジンガに言われ、未夜は割と冷静さを取り戻す。
「まァ? 俺様ちゃんとしては骸魂ちゃんよりエクスカリバス停の方がめっちゃ気になる奴なんだけど?」
「バスバス。ざぶざぶ!」
「違うチガウ、そっちじゃなくて乗り物の方よ、しらはまちゃん」
 ジンガは連れてきたカピバラ(精霊)のしらはまちゃんを、たしなめる口実で優しく撫でて、餅と格闘しているるり遥の隣に座る。
「えっ、ジンガも? 実は俺も結構あのバス停気になってるんだけど」
「ハァイ、知ってまーす。るり遥さっきからモチを突っつくかバス停目で追うかじゃんよ」
「グルングルン回サレテルヨー」
 小皿の上で餅が回る。目とかは別に回さないらしい。
「一杯食べたら貰えるって、結局どの位だろ。いっそちょっと触らせてくれるだけでもいいんだが」
「そこの所は自分の胃のキョヨーリョーと相談じゃんよ、相談ソーダン」
「そうだよなぁ、詰め込み過ぎても苦しいだけだし……所でしらはまは、何か食いたいもんある?」
「おんたま!」
「あ、しらはまちゃんには骸魂系ナシね。一応精霊ですし、万が一融合とか突然変異とかでも起こしちゃったら困るじゃん?」
「えっぼりゅーしょん」
 ありえない、とは言い切れないのがしらはまちゃんの自由な所だった。
「じーっ」
 そして当のしらはまちゃんが何をしているのかと言えば、るり遥が突き回している餅をずーっと見ている。
「るり遥ー、しらはまちゃん多分るり遥がお餅を食べないと梃子でも動かないやつじゃない?」
 何なら僕が食べようか、とカルチャーショックから抜け出した未夜が提案し、
「俺様ちゃんでもいいじゃんよ、俺様ちゃんそう言うトコはザッショクだから」
 ジンガも至極軽い調子でそう言った。
「――いや、待て。二人とも手出しは無用だ」
「真剣過ぎて時代劇の人みたいになってるよるり遥」
 ついにるり遥は餅をつつくのをやめて、目がどこにあるかよくわからないモチと見つめ合う。
「フー……」
 そして、一度切りの深呼吸。
 勇気はない。覚悟も未だついてるわけじゃない。
 あるのはただ純粋な、食べ物への感謝の気持ち。
 即ち。
「いただきます!」
「イタダカレマス!」
 南無三、という心境で口を開け、一気に食らいついた。
「……あ、うま! もちもちで米の旨味甘味もつまってる!」
 食べてみればあっけなく、待っていたのは美味なる感覚。食事は楽しいものなのだと、そんな基本的で尊い事を、改めて思い出させてくれる。
「ただまあ、うん、これから食べ歩くしちょっとで良い、かもな」
「エー?」
「モット食ベヨウヨー」
 るり遥は屋台の出来ての餅達へ、悪いなと苦笑して席を立つ。
「けど、お前らが食べられて良かったよ。本当に」
「エヘヘー」
「オ兄サン褒メルノメッチャ上手イネー」
 さあ、とるり遥は二人(と一匹)に目配せする。
「……ほら、そんなところでボーっとしてないで、おいで、しらはまちゃん。一緒に行こ、たぶん柚子ゆべしもあるわよ」
「ゆべべし!?」
 ジンガの言葉に即座反応したしらはまちゃんが彼の肩によじ登り、これで準備は完了だ。
 三人(と一匹)は、食べ歩きへと繰り出した。

「さー。それじゃ何食べよっかなー」
 二人と一匹の先頭に立って、未夜はあちこちの屋台を覗き込む。
 たこ焼き、イカ焼き、ピザ、パスタ、小籠包にポットパイ。ウナギのゼリーは見た目的に敬遠したいが、どれもこれも美味しそうで逆に迷ってしまう。
「肉まんとうどんは探すとしてー、あれ? さっきまでここに肉まんの屋台があったんだけどなー?」
 ホカホカノ肉マン、アルヨ、が宣伝文句の怪しい屋台。美味しそうだったが、今は見つからない。当てが外れてしまった。
「……あ、天丼食べたいかなぁ」
 ふと、今すれ違ったろくろ首が手に持っていた天麩羅を見て、ふと思いつく。どうせならがっつり行きたい。
「あー天丼いいなあ、うどんも……」
 敢えてここは和で攻めるのもありかもしれない。そう思いを馳せつつ、るり遥は半熟の温泉卵に醤油をたらし、スプーンでいただく。
 思わず無心で食べてしまったが、しらはまちゃんがとても円らで飢えた視線を送ってきたので、もう一個、堅ゆで卵を殻をむき、しらはまちゃんの口元に近づけた。
「まっしまっし!」
「ああ、ほらほら落ち着いて、ゆずのゆべしも控えてるじゃんよ?」
「ゆべべべし!」
 ジンガはゆべしを半分こ。いや、しらはまちゃんが余りに嬉しそうなものだから、7対3……8対2ぶんこ。ほのかにゆずが香るゆべしの味と同様に、ジンガはしらはまちゃんに甘々だった。
「俺様ちゃんは美味いヤツなら骸魂料理でもいーわ。活け造りも、踊り食いも、お喋りも大差ねぇっしょ、たぶん」
「そお? それじゃええと――」
「オイシイ和食、アルヨ」
 近くに居た妖怪――の持っていた天麩羅が未夜へささやきかけてくる。
「ん? 君んとこおいしいの?オススメ?」
「オススメヨー。地図描クヨー」
 天麩羅がどうやって、と思っていたら持ち主の妖怪が描いてくれた。
「ありがとう。じゃあ行ってみよー」

 そんな訳で訪れたのは、ぬらりひょんの料理屋台。日本料理ならふぐ刺しから納豆ご飯まで扱っているらしい。
「ああ良いじゃん、フンイキ出てるじゃん? 俺様ちゃんには、一番オススメのおうどんちょーだい」
「僕は天丼ー。るり遥は何にする?」
「それじゃ俺は二人の間を取って……天ぷらうどん」
 そうして出てきた料理たち。
「もちの天ぷらとちからうどん……流石オススメ餅……」
 流石にここまで来ると、るり遥は感心せざるを得ない。和食と言うか最早餅尽くしだ。
 見目と香りからして絶品の予感しかしないが、
「ふたりとも見て! 天丼なんかいっぱい喋る! 天ぷらにも米にもきゃっきゃされてる!」
 やはり跳ねて動いて喋っている。
「えっ、米もしゃべんの?」
 るり遥が未夜の天丼に耳を澄ますと、
「ツキタテデアゲタテのオ餅。最強ダヨー」
「エビモ忘レテモラッチャ困ルンダヨー」
「ドンブリノ主役ハオ米ダヨ。ミンナミンナツヤツヤダヨー!」
「ツヤツヤダヨー」
「ダヨー」
「ヨー」
「うわっ賑やかっうるせ、木霊になってる」
 自分のドンブリのうどんも本当に喋りながら汁(スープ)の中で泳いでいる。
 最初に一回骸魂を食べたとはいえ、それでもまだまだおっかなびっくり箸をつける。一生慣れないかもなぁと思いつつ、けれどもそれが愉快で仕方ない。
「タベチャウ? タレデヒタヒタ染ミ染ミノゴ飯食ベチャウ?」
「アー!オ箸ガオ米ヲ攫ッテイクヨー!」
「……うん。口の中までこのノリだからすげー食いづらいけど、確かにおいしいんだよなぁ」
 団地へのお土産にしたいなー、と。ご飯をよく噛んで飲み込んだ未夜は、跳ねる海老天と格闘しながら呟いた。
「土産にしたいっつったら、ここの屋台みんな飛び付いてくるんじゃね?」
 天麩羅餅を伸ばするり遥が何気なくそう言うと、
「ハイヨー! お持ち帰りの注文ネー!」
 ――姐さん以下、料理人たちが本当に飛びついてきた。
「オオ! 団地の住人全員分! イイヨーイイヨー。バス停三本つけちゃうネー」
 そしてお持ち帰りでもよかったらしい。流れであっさりバス停が手に入ってしまった。が。
「デモ骸魂だからネー。早めに食べてアゲテネー。そうじゃないとまたカビが生えてうっかり世界が滅亡しちゃうカモよ?」
「えっ」
「えっ?」
 ――引き換えに、もしかするととんでもない爆弾を注文してしまったのかもしれない。

 そんな二人を尻目にジンガはうどんをじっと見る。
 透き通ったスープの中ではしゃぐ骸魂(めん)達に、白く大きく揺蕩う餅。
 柄にもなしに手を合わせ、いつ振りくらいにいただきます、なんて言葉を吐いてみる。
 そうしていよいよ数本まとめてうどんをすくい、口に運べば、
 いつもの剽軽な顔だって、跡形無しに蕩けてしまう。
 だから、常日頃から口数の多いジンガも、今回ばかりはたったの一言。

「……ああ、おいし」

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ヴィクトル・サリヴァン
何でも料理にできるんだねー。
バーのおつまみも…扱い難しいから無理か。
でもここに出張店を作るなら…あれ、ちょっと常識こっちに染まりかけてる?
まあともかく、今は料理を楽しもうかな。

中華中心に色々種類を食べてみる。
まずは動かないのから少しずつ、キョンシー姐さんのオススメ中心にねー。
そして覚悟決まったら骸魂料理にチャレンジ!
まずは天ぷら…本当に大丈夫だよね?
ちゃんと邪悪部分取り除いてたらセーフな種類のカビだよね?
そもそも妖怪だから大丈夫なのかもなーとか内心思いつつえいっと一口。
うーん中々の味。他のはどうかなと唐揚げとか火を通した感じの料理中心に頂くよ。
…刺身とかあるのかなー…

※アドリブ絡み等お任せ



「うーん……何でも料理にできるんだねー」
 古今東西の料理がそろう街中。屋台や店を見回って、ヴィクトルが抱いたのは何より感心だ。
 この世界は概念(ルール)がしょっちゅう欠落するというが、そもそものルール自体が破天荒。魂を料理にするなんて、ほかの世界のだれが思いつくだろう。その上食べられる側が全力で合意してるし。
「バーのおつまみも……骸魂この世界から持ち出して大丈夫なのかな。ほっといたら世界が滅びたりしない?」
「スルヨ?」
「するんだ……」
 今まさに、妖怪に食べられようとしているハンバーガーが答えてくれた。
 扱いが難しいので免許を持ってないと無理そうだ。
「でもここに出張店を作るなら……あれ、ちょっと常識こっちに染まりかけてる?」
 酒にも食材にも不自由しなさそうだし、それも良いかな、と思い始めていた自分が居た。二号店……考える余地はあるかもしれない。
「隠レ家的穴場ナ物件……アルヨ?」
 なぜ今出来立てのたこ焼きがそんなことを知っているのか。
「まあともかく、今は料理を楽しもうかな」
 ヴィクトルが巨体をドスンと椅子に預ければ、周囲が揺れる。あわやテーブルの端から落っこちそうになった大皿を片手で受け止め、中華中心の注文を入れてみた。

 紹興酒をちびちび空けているうちに、ずらりとテーブルを占拠した姐さんお任せの中華料理プラスアルファ。全体的に動いていたりいなかったり。
「まずは動かないのから少しずつ……この上海蟹の姿蒸しは骸魂……?」
「違うヨ。普通の上海蟹だヨ」
 試しに突っついてみても反応はない。余計な調味料は使われていないので、身はさっぱり、味噌は甘く、カニ本来の味が素直に楽しめた。
 次に挑戦したのは北京ダック。パリパリの皮は香ばしく、肉厚に切られているので食べ応えも抜群だ。
 その後豚の丸焼きを近くの妖怪達と手分けして食べて、甘めのエビチリをお代わりし、食べ放題にかこつけてふかひれのスープなんて豪華なものを飲んでみる。
 この時点ですでに満足度は高いが、やはり、まぁ、幽世(ココ)に来たからには一回くらい骸魂料理に挑戦したい。
 まずは天麩羅。まんま魂をそのままカラッと揚げました的な大ボリュームの見た目だが。
「……本当に大丈夫だよね?」
「大丈夫ダヨー」
 骸魂が。カラッと揚げられて尚、動いてるし喋ってる。
「ちゃんと邪悪部分取り除いてたらセーフな種類の骸魂だよね?」
「…………」
「えっ。何でいきなり黙っちゃうの!?」
「ウソウソ! 全然セーフナヤツダヨー」
 大丈夫だろうか。信じていいのだろうか。そもそも元カビた餅を信じるとは一体。
(「そもそも妖怪だから大丈夫なのかもなー」)
 なんて内心思うが、妖怪だから駄目かもしれない可能性も五割あると思われる。そこの所は、この街の料理人たちを信じよう。
「えいっ!」
 意を決し、塩だけ振って一気に一口。むっちりもっちりさくっとふんわり? 正直形容しがたい食感だが、悪くはない。素材本来の味が活きているのを直に感じる。実際口の中で跳ねてるし。
「うーん、中々の味。他のはどうかな?」
 まさしく味を占めるとはこのことで、一番最初の壁を乗り越えたヴィクトルは、唐揚げや酒蒸し、小籠包など、中まできちんと火が通っているだろう骸魂料理に手を伸ばす。
 どれもいちいち飛んだり跳ねたり、隙あらば実食過程を詳らかに実況してくるのが厄介だが、味がいいので許せてしまう。
 気付けば普通の料理達より多く食べていて、第二の壁を突破した感がある。
 となると次は……。
「……刺身とかあるのかなー……」
 そう。生だ。ヴィクトルは周囲に聞こえるか聞こえないかくらいの、『拾われなければしょうがないかな』的な小さな声量でぼそりと呟いてみる。
 しかし耳が無い癖耳ざとい肉まん曰く、
「オ刺し身、アルヨ」
 何という堕落への誘いだろう。
 しかし生はやはりまだ、というか最後の一線では無かろうか。此処を超えたら、割と本気で出張点がありうるかもしれない。
 とにかくキマイラとしての誇りにかけて、生骸魂という最後のラインは譲れない。

「絶妙ナ炙リ加減ノ鰹、アルヨ」
「あっじゃあそれで」
 しかし。半焼けならまぁいいよね、駄目ならエレメンタル・ファンタジアで丸焼きにすればいいし、という事で、ヴィクトルはあっさり陥落した。

●宴の終わりに
 あれだけ盛況だった街中も、今ではすでに妖怪(ひと)もまばら。気付けば空が白み始めていた。
「名残惜しいケドそろそろお開きの時間ヨー。ドウネ猟兵さん、一杯食べて、一杯楽しんだ?」
 まだまだ元気な姐さんは猟兵たちにそう訊いた。
 ……妖怪が少なくなったのもそうだが、妙に静かだと思ったら、骸魂達の茶々が無いのだ。
「あの子タチは皆旅立って行ったヨ。お持ち帰りされた子以外ネ」
 食べ物は食べられて初めてハッピーエンド。寂しいけれど、留めて置いてカビさせるわけには行かないでショ? と姐さんは言う。
「猟兵サンたちは、世界すら超えて戦って、ずっとずっと忙しいんでしョ? もしお腹がすいたら、またここに来るといいネ」 
 お代はきっちりとるけどネ。姐さんは、そこの所意外とシビアだった。

 朝が来る。
 宴の終わりは、新たな日常(たたかい)の始まりでもあるだろう。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2020年10月21日


挿絵イラスト