●
甘く蕩けるような香りが鼻を擽る。
見渡す限り咲き誇るのはたくさんの桃色の花。
そのすべてから蜜が溢れ、霧へと変わる。
霧はあらゆるものをゆっくりと包み込んで沈めていく。
その先に待つのは、眠り。
甘い蜜の霧に包まれて、見るのは「幸せな過去の夢」。
優しい優しい夢に包まれて、幽世はゆっくりと滅びゆく。
静かな滅びの光景を、うつくしい鳥達だけが眺めていた。
●
「集合お疲れ様。今回は新しい世界での依頼だよ」
グリモア猟兵・花凪・陽(春告け狐・f11916)が資料を配りつつ説明を始めていく。
「今回見つかった新世界は『カクリヨファンタズム』。UDCアースに隣接した妖怪の世界だよ」
『カクリヨファンタズム』は地球と骸の海の間に存在する世界だ。
かつて地球に暮らしていた妖怪達が絶滅の危機に瀕し、この世界へと住処を移したのだという。
そしてこの世界にもオブリビオンによる危険が生じていた。
「この世界では『骸魂』というものに取り憑かれた妖怪がオブリビオンになって、様々な悪さをするみたいなんだ。けれどその悪さの規模っていうのが凄くて……」
しょんぼりと狐の耳を垂らしつつ、陽は一度言葉を区切る。
「……一つ一つの事件が、カタストロフに相当する事もあるみたい」
陽の口ぶりからすると、今回の事件もそのような大規模のもののようだ。
「現場に辿り着く頃には『カクリヨファンタズム』は不思議な花に埋め尽くされているんだ。これはオブリビオンが生み出した危険な花だよ」
世界を埋め尽くす花は眠りに誘う蜜を生み出し、その蜜が変じて発生した霧が世界を覆い尽くしている。
その霧を吸い込んだものは『幸せな過去の夢』に囚われるのだという。
「まずはその夢を跳ね除けてもらうよ。その方法は任せるけれど……とにかく気持ちで勝って欲しい!」
見せられる夢は『猟兵自身が体験してきた幸せな過去』だったり『あり得たかもしれない幸せな過去』だったりと様々だ。
夢から覚めるために物理的手段に訴えるか。
それとも冷静に状況を見極めるか。
あるいは決意と共に夢と決別するか。
とにかく夢から覚めれば霧の魔力からは逃れる事が出来るだろう。
「霧をどうにか出来れば、次はオブリビオン討伐に向かってね。目的地は大きな山の上にある神社だよ」
神社に辿り着くまでには、とんでもない長さの階段が存在している。
そこでは黒幕の配下が襲いかかってくるため、そちらを迎撃する必要があるようだ。
「相手は飛んでいるから、階段で戦うのは不利かもしれないけど……逆に利用する事も出来ると思う」
配下を倒せば次は神社だ。そちらで黒幕のオブリビオンを倒せばこの騒動は無事に収まるだろう。
「一つ気をつけて欲しいのは、どのオブリビオンも元々はただの妖怪なんだ。倒せば彼らの身体から悪い『骸魂』が抜けて、元の姿に戻るみたい。だから……妖怪達を助けるためにも皆には頑張ってきてもらいたいんだ」
一つの事件で世界を救い、巻き込まれた妖怪達を助ける。
なかなか大変な戦いになりそうだが、猟兵達なら大丈夫だろうと陽は笑みを浮かべた。
「早速の新世界、気をつけていってきてね。皆が無事に帰ってくるのを待っているから!」
ささかまかまだ
●
こんにちは、ささかまかまだです。
カクリヨファンタズム、いいですね。
一章は『幸せな過去の夢に抗う冒険パート』です。
世界を埋め尽くした花が眠りに誘う蜜を生み出し、そこから生じた霧が猟兵達へと襲いかかります。
そして猟兵達は夢を見ます。
それは「かつての幸せな過去の夢」だったり「ありえたかもしれない幸せな過去の夢」だったりします。
どんな夢を見るのか、そしてどう抗うかを教えて下さい。
二章は長く続く階段での集団戦、三章は大きな神社でのボス戦です。
どちらも鳥の要素を持つオブリビオンのようです。
周囲の状況を利用しつつ戦うといい感じです。がんばりましょう。
どの章からでも参加していただいて大丈夫ですし、特定の章だけ参加していただくのも歓迎です。
進行状況や募集状況はマスターページに適宜記載していく予定です。
それでは今回もよろしくお願いします。
第1章 冒険
『やさしくてひどいゆめ』
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POW : 自分で自分をぶん殴り、正気に戻る
SPD : 状況のありえなさを見破り、幻覚を打ち破る
WIZ : 自身の望みと向き合い、受け入れた上で幻覚と決別する
👑7
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新世界へ辿り着いた猟兵達を迎えたのは、甘い蜜の香りだった。
その香りは猟兵の意識を奪い、深い夢の世界へと誘う。
気がつくと身体は桃色の花の上に横たわり、瞼はゆっくりと閉じていく。
見るのは過去の夢。
ずっとずっと見ていたくなるような、やさしい夢。
けれど足を止めてばかりもいられない。
猟兵達には現実の世界で為さなければならない事がある。
やさしくてひどい夢を断ち切って、目を覚まさなければならないのだ。
依神・零奈
……ああ、懐かしい。まだ現世と幽世の境界が曖昧だった頃。人と神が近かったあの頃。妖怪も亡霊も鬼もなにもかも存在を許されてたあの頃。……神社の神主としては如何なものかと思うけど我が子を相手するように私と接してくれた父様、私を友達だと言ってくれた人間達。私は幸福の意味を始めて知った、願わくはこの時が永遠に続きますように、と。
……だけど私は知っている、もう全て過ぎ去った後なのだと
なにが夢でなにが現実かなんて区別できるものではないけれど
夢はいつかは醒めるもの、今この時を歩んでいく、私にはそれしかない
【破魔】の力は幻覚の夢を溶かし、体に染みた【呪詛】の力は私を現実に鎖す。少しの間だけど良い夢をありがとう
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ゆらゆらと景色が揺らめく。
微睡みから目覚めた依神・零奈(殯の掃持ち・f16925)の目に飛び込んだのは、見覚えのある光景だった。
「……ああ、懐かしい」
転移された直後の場所に似ているけれど、漂う空気はまったく違う。
そこにあったのは、零奈が神として暮らしていた時代の光景だった。
人々は当たり前のように神と接し、人ならざる者達も皆許されていた時代。
現世と幽世の境は曖昧で、零奈も当然のように人々に囲まれて暮らしていた。
人と神を繋ぐという役割はあったけれど、それも零奈にとっては大切な事だ。
少し先には父様と呼んでいた人の姿が見える。
彼は神に仕える神主という身でありながら、零奈の事を実の娘のように可愛がってくれていた。
父様の声が聞こえれば、ついつい身体はそちらへと歩み始める。
父様の周囲には他の人間達の姿も見えた。
人と神という違いはあれど、皆零奈にとっては大切な友人達だ。
当たり前のように彼らと日々を過ごし、巡る季節を楽しみ、苦楽を共にしてきた。
「そう、みんなが私に幸福の意味を教えてくれた」
暖かな記憶がゆっくりと身体の中を駆け巡り、胸の内がぽかぽかと暖かくなってくる。
そしてもう一度願ってしまうのだ。
また、皆と過ごしたい。あの時が永遠に続いて欲しい。
嘗て抱いた思いが再び湧き上がって、零奈を突き動かそうとしてきた。
けれど本当は分かっているのだ。
これは夢。あの景色はすべて過ぎ去っていったものだと。
零奈の内に宿った呪いは暖かな気持ちを消し去っていくが、それこそが彼女を現実へと繋ぎ止める鎖だ。
彼女に宿る神としての力も溢れ、少しずつ夢の景色は溶けていく。
「……夢だとしても、また皆の顔が見られたのは嬉しいよ」
ぽつり、言葉が溢れた。
まだ夢と現の境が曖昧なうちに、懐かしい皆へと顔を向けて。
夢だとしても別れは悲しいものだ。だけど、零奈にはやるべき事がある。
夢はいつか醒めるものだ。そして零奈はこれからも猟兵として歩んでいかなくてはいけない。
今を生きる者として。忘れ去られた神の一柱として。
歩みは人の真似かもしれない。けれど、私にはそれしかないから。
「少しの間だけど、良い夢をありがとう」
夢の中の父様や友人に礼をして、零奈は少しずつ現実の世界へと歩んでいく。
少しだけ後ろを振り向けば、皆が零奈へと手を振ってくれている。
この光景も自分が望んだものなのだろうか。それとも――。
その答えは分からないけれど、兎に角今は別れの時だ。
少しだけ残った暖かさを胸の内へと宿しつつ、忘れ去られた神の少女は自らの生きる世界へと戻っていった。
成功
🔵🔵🔴
シホ・イオア
そこはバラを模して造られた宝石と花の都市。
シホが知らないはずの家族がいて
白亜の城からは人々の活気を感じることができる。
その世界には喜びが満ちている。
<背中が痛い>
ここには怖いものがない。
<背中が痛い>
ここなら戦う必要がない。
<背中が熱い>
ここでは悲しむことはない。
<背中が熱い>
……シホはこの痛みを知っている
痛みに込められた祈りを知っている!
オーバー・ザ・レインボー。
シホに、痛みと祈りを教えてくれる聖痕。
この痛みがある限り、シホは前に進み続ける。
小さな輝きでも誰かを照らすことができるから。
さようなら。
シホの知らない在りし日の故郷。
●
きらきらと景色が煌めく。
シホ・イオア(フェアリーの聖者・f04634)の眼前に広がっていたのは眩く輝く妖精の都市だった。
あらゆる場所に薔薇の花を模した宝石や様々な花が散りばめられ、美しい建物の中からは人の声が聞こえてくる。
中央に立った白亜の城では知らない人達がシホの事を待っていてくれた。
――いいや、心のどこかで感じ取っている。この人達は、きっとシホが知らないはずの家族。
彼らの顔を見ると胸のどこかがきゅっと締め付けられるようだ。
この城には大切な家族がいて。この都は人々の活気に溢れていて。
すべてが幸せに満ちたこの場所は――シホの知らない在りし日の故郷。
ここにいればシホはずっと幸せなままでいられるはずだ。
怖いオブリビオンも悪い人もこの都市にはいない。夜の闇だって皆と一緒にいれば怖くないよ。
(それなら、)
重たい鎧や剣を手に取る必要もない。好きなものを好きなだけ楽しんで、ずっと過ごせばいいのだから。
(どうして、)
悲しい事だってないはずだ。優しい家族、一緒に過ごしてくれる人達。誰もが笑顔で、シホだってずっと笑えるはず。
(こんなにも、)
だから、ずっとここにいれば――。
(背中が熱いの?)
……違う。この光景は現実じゃない。
灼けるような痛みがシホの背中を突き刺し、彼女の意識を強制的に呼び覚ます。
けれどそこにあるのは不快感ではない。
だってシホはこの痛みを、そこに籠められた祈りを知っているのだから!
この痛みと祈りはシホの背を押す道標。
その輝きは虹を越え、世界を照らすための聖痕。
オーバー・ザ・レインボー。大丈夫、シホなら出来るよ。
どんな小さな輝きだって、誰かを照らす事が出来るから。
それがシホの使命なのだから。
聖痕から溢れる光は夢の中の世界を照らし、少しずつ消し去っていく。
夢の外の世界は怖いけど、それでも立ち向かうって決めたのだから。
剣を握り、鎧に袖を通したのはシホ自身だ。宝石剣の輝きで世界だって照らしてみせる。
現実には悲しい事もたくさんあるけれど……それでも、誰かを笑わせる事が出来るのなら。
「……だから、さよなら」
知らないはずの愛しい光景に背を向けて、シホは現実へと飛んでいく。
彼女の輝きは微睡みの闇を照らし出し、自分自身を道標として現実への道を切り拓く。
その最中に強く思うのは、背中に籠められた祈りだ。
この祈りには皆の思いも乗っているのだろうか。それなら――現実の世界でそれに応えていきたい。
新たな決意を胸に、小さな妖精姫は滅びゆく世界へと飛び出していった。
成功
🔵🔵🔴
水心子・静柄
もし過去に戦場で鞘から抜かれ襲いくる敵を屠っていたら、それは刀としてして幸せな事だったかもしれないわね。ただそれは…脇差で戦うということは本差を失って、もう後がないということになるわ。そうなると脇差である私だけでは切り抜けられることも無く私も失われることになるが刀として本望かしらね?もしくは運良く使い手が切り抜けたり、私が壊れる前に使い手が力尽きて私だけが残り、そのままヤドリカミに至ったかもしれない。刀として戦場で使われ、なお存在できたのなら幸せだったかもしれないわね。でもそこには真峰はいない。けど今は刀として使われなかったけど真峰はいる…さて、どっちが幸せなのかしらね?
●
刀としての本望とは何だろうか。
目の前に広がる光景を眺めつつ、水心子・静柄(剣の舞姫・f05492)は考える。
彼女の眼前に繰り広げられていたのは、嘗ての主が戦っている光景だ。
静柄は抜かれなかった脇差だ。
戦場で刃を煌めかせながら戦うのは本差である姉の役割。静柄はひたすら鞘の中で戦いの音を耳にしていた。
もしこの戦いで自分自身が抜かれたとして、迫りくる敵を次々に斬り伏せたのなら。
それは刀としての幸福を果たせたという事だ。何故なら静柄は戦うために生まれたのだから。
けれど、脇差で戦うような状況ならば主はとっくに追い詰められているのだろう。
本差は失われ、慣れない脇差でのみ戦いを切り抜けるような状況。
それが終わった時にはきっと自分自身だけでなく、主も力尽きているだろう。
……いいや、本当にそうだろうか?
「(こういう可能性もあるわよね)」
例えば脇差のみで主が戦いを切り抜けられたり。
あるいは自分が壊れずに主だけが果てて、残った自分だけがヤドリガミに至ったり。
様々な可能性が考えられるけれど、これらの共通点は一つ。
「……刀として戦場で使われ、なお存在できたのなら幸せだったかもしれないわね」
そう呟きつつも静柄の表情はどこか影が差していた。
だってこの可能性には、姉の姿がどこにもないから。
自分が鞘から出た時点で姉は大きく傷つき、失われてしまっているのだろう。
そうすれば今のような未来には至らない。
静柄と姉の関係は一言では言い表せない。
彼女が戦場でひたすら戦いに明け暮れ、その間自分が鞘の中で待っていたとしても。
現在の姉と自分の立場の違いが蟠りになっていたとしても。
それでも、自慢の姉がいない未来は幸福なのだろうか。
「だから、どちらが幸せなのか……示してちょうだい」
静柄の想像から刃が生まれる。
そこから生じた輝きは夢の世界を切り裂いて、現実への道を作り出していく。
その中央に立っているのは――本差である姉だ。
彼女と共に進む今が本当に幸福なのか。その答えはまだ出ないかも知れない。
けれど、夢の世界に留まっていては何の結論も出ないだろう。
「いきましょう」
想像の姉と共に、静柄は現実へと続く道を歩む。
嘗ての主に別れを告げ、見るべきはこれからの未来だ。
胸に渦巻く思いと共に、脇差のヤドリガミは眩い現実へと降り立ってゆく。
成功
🔵🔵🔴
ロラン・ヒュッテンブレナー
【POW】アドリブOK
※感情が尻尾や耳によく表れる
このにおい、なんだろ?
どんどん、眠くなって…
いけないの
魔術器官に防壁のプログラムを…
○幸せな夢
人狼病を発症せず稀代の魔術師としてなんの憂いも無く日々を過ごす存在しない過去
パパとママ、お友だちと楽しく毎日を過ごしてたの
暴走なんてなくて、人を遠ざける必要も無くて…
アレ?なんで?
何かおかしいの…
どこかで狼の遠吠えが聞こえる
記憶に【ハッキング】して思い出すの
そうだね、キミがいるから、今のぼくなんだね
UCを発動
魔狼に変身して【結界術】と【オーラ防御】で精神障壁を作って目覚めるね
ぼくは、もうキミから逃げないって、決めたから(【勇気】)
力を貸してね、音狼
●
ふわふわと甘い香りが鼻をくすぐる。
新世界へ降り立ったロラン・ヒュッテンブレナー(人狼の電脳魔術士・f04258)は霧の香りを認識すると、すぐに魔術器官を起動していく。
「このにおい……いけないの、どんどん眠く……」
しかし、器官が起動しきるより早く――彼の意識は夢の中へと落ちる事となった。
次にロランが認識したのは懐かしい光景だ。
すぐ側には優しいパパとママ。仲良しのお友達とも毎日触れ合えて、何も心配する必要はない。
ヒュッテンブレナー家の長子、稀代の魔術師としての勉学の日々は大変だけれど。
それでも嬉しい事の方がたくさんある。
将来はもっと凄い魔術師になって、みんなを幸せにして、それで――。
でも、何かが心の奥に引っかかる。
「(……アレ? なんで? 何かが足りない気がするの)」
座学のためにペンを握ると、手元に何か違和感を感じる。
髪を整えてもらっていると、頭に何か足りない気がする。
ベッドに横になる時に仰向けに眠れるのだって嬉しいはずなのに……なんだかおかしい。
何か、大切な事を忘れている気がする。
パパもママもお友達も側にいるのに『それこそがおかしい事』だと思う自分自身に気がついて。
違和感がより強まった瞬間――ロランの耳に届いたのは、微かな狼の遠吠えだ。
魔術器官を起動しよう。そして記憶の回路を巡っていこう。
脳裏に浮かぶのは義理の姉や猟兵のお友達の顔。
そして――。
「……そうだね、キミがいるから、今のぼくなんだね」
ロランの目の前に姿を現したのは、紫色の毛並みをした小さな狼だ。
この子はぼく。人狼病を発症して、皆から距離を置いたぼく自身。
でも大丈夫。キミと一緒に立ち向かうって決めたから。
ぼくは、もうキミから逃げないよ。だから一緒に皆の元へ帰ろう!
「月光魔素、生成式展開」
脳内の魔術器官を再起動して、ロランは自分自身へと月の魔力を循環させていく。
回路は青く輝く首輪と鎖に変化して、ロランをぎゅっと縛り付けた。けれど苦しくない。自分でやるって決めたから。
ヒトのものだった手足が徐々に獣のそれへと変化して、夢のロランも人狼の姿へと近付いていく。
「月夜の獣、我が命によりて、この身に現れよ。我が銘によりて、汝縛されるべし」
魔狼開放。完全に狼の姿へと変じたロランは、自分自身を守る魔術を展開しつつ夢の中を駆けていく。
力を貸してね、音狼。ボク達ならきっと大丈夫。
早駆けの紫狼は更に勢いよく加速していくと――優しい微睡み世界の壁を打ち壊して、現実の世界へと飛び出していくのだった。
成功
🔵🔵🔴
逢坂・理彦
新しい世界に来た途端甘い夢に囚われてしまったようだね…。
俺が守れなくて守れなかった里の人が楽しそうに畑仕事をしている。
うちの神社では親父殿が箒をかけてる。
当たり前に幸せだった日々。
前にもこんな夢を見たね。
今回はさらに今の俺を愛してくれる大事な人も一緒にお茶を飲もうと微笑んでる。
本当に幸せでなんてひどい夢。
この幸せな風景は決して存在しない。
今の俺の大事な人とこの里に存在することはできない。
だって、この里が滅んで旅に出てその果てに出会った人だからね。
さぁ、戻ろう。まずは依頼を終わらせて彼の待つ家に帰るんだ。
●
「なるほど、甘い夢だね」
静かに息を吐きながら、逢坂・理彦(守護者たる狐・f01492)は周囲の景色へと目を向ける。
そこにあったのは失われた光景。理彦が守れなかった光景。
彼が生まれ育った、懐かしい里の光景だった。
広がる畑の上では友人知人が仕事に明け暮れ、理彦の姿を認識すれば手を振ってくれる。
彼らにゆるりと手を振り返し、理彦が目指すのは自宅である神社だ。
境内では親父殿が箒をかけつつのんびりしている。
懐かしい声でおかえり、と声をかけられ理彦もゆるりと言葉を返した。
ああ、なんて幸せだ。
ずっとこんな日々が続くと信じていた。当たり前に幸せで、ゆっくりと時間が流れていって。
前にもこのような夢は見た。けれど、あの時とは決定的に違う部分もある。
自宅の中で待っていたのは理彦の愛しい人だった。
彼の側にはお茶の用意がされており、一緒にのんびりと過ごそうと声をかけてくれる。
この夢がずっと続くのなら。
すぐ側に守りたかった人達が、家族がいて。
更に大事な人も一緒に幸せに過ごしてくれる。
本当に幸せで、なんてひどい夢。
「……でもね、分かっているんだよ」
これはありえない光景だと、理彦自身が一番強く思っているのだ。
里の人達と大切な人は一緒に存在する訳がない。
あの愛しい灰髪に出会ったのは、キセルの香りに出会ったのは、里を出た後だから。
守りたかった景色に背を向け、長い放浪の末に出会ったあの人。
彼が里にいてくれたら、と思った気持ちは本物だけれど。
でも、所詮夢は夢。
叶わない夢に囚われるより、現実の世界であの人に会いたい。
だから、懐かしい光景には再び別れを告げなくては。
「さぁ、戻ろう。俺には帰る家があるからね」
夢の中の大切な人には一時の別れを。
何度も出入りした玄関を抜け、次に親父殿へと永い別れを。
けれど大丈夫。夢とはいえど、今度は顔を見合わせて挨拶できるから。
更に里をゆるりと歩き、畑に背を向け進んでいく。
少しだけでも懐かしい顔と会えたのは悪い気分ではなかったかな。そんな事も少しだけ思いつつ。
歩いて歩いて、理彦が辿り着いたのは夢の端。
「ここを抜けたら依頼を終わらせないと。そして、帰るんだ」
決意と共に夢を抜け、理彦は更に歩を進める。
彼の帰るべき場所、目指すべき場所へと向けて。
成功
🔵🔵🔴
政木・朱鞠
頭首候補だったせいで血生臭い修行の連続だった…。
時折、ご褒美として里から出て他の村のお祭りに遊びに行って普通の子供でいられた思い出を刺激されそう。
でも、良い思い出を見せて貰えるのは素敵だけど…所詮は過去の残滓だよね。
ドライな考え方かもしれないけど今は戦の最中、『有り得たかも』なんて曖昧なモノに捕らわれて立ち止まっている場合じゃないよ。
感覚共有した『忍法・繰り飯綱』を放ち【情報収集】で早く出口を探して、この甘ったるい過去からサヨナラだよ。
戦闘
邪魔をする敵が湧くのなら、武器は拷問具『荊野鎖』をチョイスして【鎧砕き】や【鎧無視攻撃】の技能を使い【傷口をえぐる】でダメージを与えたいね。
アドリブ連帯歓迎
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政木・朱鞠(狐龍の姫忍・f00521)の過去は過酷なものだった。
幼い頃から忍者軍団の頭首候補とされ、蘇る記憶は血腥い修行のものばかり。
けれどその分、僅かな幸せがとても濃密で。
「(ああ、良い思い出といったらこの場面なのね)」
気がつくと朱鞠は賑やかなお祭りの中にいた。
自分達が暮らしているのとは別の村で行われる楽しいお祭り。
修行の合間、褒美として連れて行ってもらったそれが楽しくて。
夜闇に浮かび上がる屋台はきらきらと煌めいて、周りの楽しそうな声に自分もついつい嬉しくなって。
その村にいる間だけは、朱鞠も普通の少女でいられた。
ずっとこの時が続けばいいと思った事だってたくさんある。今この瞬間も――?
「……いいえ。この思い出は素敵だけれど、所詮は過去の残滓だよね」
朱鞠にとって大切なのは『過去』ではなく『現在』だ。
自分の人生を楽しみたい。だから里を出ようと決めた。
そして戦いに身を起きながら、好きなように生きると決めた。
長老達を黙らせるのは大変だったけれど、それでも里の外で得たものはかけがえのないものだ。
朱鞠の戦いは今も続いている。人生はもっともっと続いていく。
「ドライな考え方かもしれないけど、『有り得たかも』なんて曖昧なモノに捕らわれて立ち止まっている場合じゃないよ」
この光景も少しだけ惜しいけれど、思い出は思い出だからこそ美しくもあるのだ。
楽しかった光景に背を向けて、朱鞠は自身の忍としての力を高めていく。
「我が魂魄の欠片よ目覚め……力を行使し見聞きせよ……急急如律令、忍法・繰り飯綱!」
そして彼女の側に呼び出されたのは、愛らしい小狐のような姿をした分霊だ。
分霊達は朱鞠の意思に合わせて夢の空間を駆け巡る。
目指すはこの夢の果て、現実への出口だ。
「……あっちの方向ね。分かったよ」
五感を共有しているから、分霊達が何かを見つければすぐに分かる。
朱鞠もすぐに夢の綻びまで辿り着き、荊野鎖を握りしめる。
「さあ、この甘ったるい過去からサヨナラだよ」
そのまま鎖を振り回し、綻びへと叩きつければ――あっという間に眩い光が夢の中を埋め尽くし、しっかりと出口が開いたようだ。
朱鞠はその中へするりと身を滑らせて、現実へと飛び出していく。
過酷だけど愛おしい、彼女にとっての『今』の世界へ。
成功
🔵🔵🔴
第2章 集団戦
『迦陵頻伽』
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POW : 極楽飛翔
【美しい翼を広げた姿】に変身し、レベル×100km/hで飛翔しながら、戦場の敵全てに弱い【誘眠音波】を放ち続ける。
SPD : クレイジーマスカレイド
【美しく舞いながらの格闘攻撃】を発動する。超高速連続攻撃が可能だが、回避されても中止できない。
WIZ : 迦陵頻伽の調べ
【破滅をもたらす美声】を披露した指定の全対象に【迦陵頻伽に従いたいという】感情を与える。対象の心を強く震わせる程、効果時間は伸びる。
👑11
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猟兵達は夢の世界から脱出し、再びカクリヨファンタズムへと降り立った。
次の目的地は巨大な山だ。
山の周囲からは鳥の鳴き声が鳴り響き、禍々しい気配が漂ってきている。
麓には大きな階段が存在しており、これを上っていけば黒幕が待つ神社へと辿り着けるはずだ。
けれど一筋縄ではいかない。
階段の周囲には美しい『迦陵頻伽』達が飛び交って、猟兵達を待ち受けている。
彼らは弱い妖怪が骸魂に取り憑かれる事によって生じたオブリビオン。
おかげで個体としては強くはないが、それでも数は多い。
彼らを上手く倒し、骸魂を引き剥がしながら進んでいく必要があるだろう。
世界の破滅を防ぐため、猟兵達の長い道のりが始まる。
逢坂・理彦
迦陵頻伽か…やっぱり声が厄介かな。
とりあえず【結界】を張って音を防いでみよう呪術的なものかもしれないから【呪詛耐性】にも気をつけて。
後は俺も飛べるようにしておこうか。
UC【狐神楽】
狐の神楽舞を御覧じろってね。
【戦闘知識】を持って敵の動きを把握しながら攻撃を【見切り】【カウンター】からの【なぎ払い】で【範囲攻撃】
くるりくるりと舞うように【破魔】の力を乗せながら薙刀を振るう。
●
周囲に鳴り響くうつくしい歌声。
それに合わせてぴくりと狐耳が動くのを感じつつ、逢坂・理彦は空を見上げる。
「迦陵頻伽か……」
空を飛び回る迦陵頻伽は姿も声も美しい。けれどそれに心を奪われる訳にもいかない。
意識をせずとも迦陵頻伽たちの声は頭に響く。魅入られれてしまえば思うように動く事も出来なくなる。
鳥の声よりももっと愛しい声を聴くために。依頼を無事に完遂し、帰らなければならないのだから。
薙刀『墨染桜』を構えつつ、理彦はゆっくりと呼吸を整える。
すると彼の周囲には強固な結界が展開され、迦陵頻伽の呪いから解き放たれた。
けれどこの結界がずっと通用するとも限らない。
周囲にはオブリビオンの影響で生まれたのであろう桃色の花も咲き誇っている。一刻も早くこの世界を救わなくては。
しかし、ここから先も一筋縄ではいかないだろう。
行く先は長い階段で、敵は空を舞う。それなりの対策も必要だ。
「あまりこの姿には慣れないけれど……俺も飛べた方がいいだろうね」
理彦は墨染桜をゆるりと動かし、静かに神楽舞を踊り始めた。
それに合わせて鈴の音が鳴り響き、理彦の着物も狩衣へと変わっていく。
この姿なら空を飛ぶことだって可能だ。あの鳥達と共に空を舞おうじゃないか。
一際大きく鈴の音が鳴り。同時に理彦の身体が宙へと飛んだ。
眠りの世界で動く者の存在を感知した迦陵頻伽達も、一斉に理彦の方へと迫りくる。
「狐の神楽舞を御覧じろってね」
自身へと迫る爪や翼を冷静に見極め、理彦は大きく身体を捻った。
ゆったりと舞い踊るような動きだけれど、そこにあるのは長年培ってきた戦いの経験。
迦陵頻伽の脅威を回避しつつ、理彦はしっかりと墨染桜を握り直す。
「君達の姿かたちは美しい。けれど、誰かを巻き込むような美しさはいただけない」
再び身体を大きく捻りつつ、振るうは破魔の力を籠めた一閃だ。
刃がきらりと煌めけば、その輝きは次々に迦陵頻伽を切り裂いていく。
けれどその刃が切り裂くのは骸魂だけ。悪しきものから解放された妖怪達は力を失い、眠りの中へと落ちていく。
「なかなか良い調子だね。先も長そうだけれど……」
続く階段を見上げつつ呟く理彦。けれど彼の表情に疲れの色はない。
戦いが終わった後に思いを馳せれば自然と気合も入るもの。
自分の中で再確認した大切な事を思いつつ、理彦は更に先へと進んでいった。
成功
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政木・朱鞠
可哀想に…迷子の骸魂と混じってしまうとわがままさんになっちゃったのかな?基になった妖怪さんには八つ当たりの様な悪夢から早く解放してあげないとね…。
骸魂さんには正体を失って他人の体を好きに操った咎をここで一時的だけど幕引きさせて貰うよ…そして、オヤスミナサイ。
戦闘
動き回られるのは少し厄介だし、避けきれなければ軽い眠気を貰ってピンチになる可能性は避けたい所だね。
武器は拷問具『荊野鎖』をチョイスして【鎧砕き】や【鎧無視攻撃】の技能を使って体に鎖を絡めて動きを封じたいね。
心情的な攻撃なのかもしれないけど…『忍法・咎狐落とし』で骸魂に対して悪意を絞り出させる様にダメージを与えたいね。
アドリブ連帯歓迎
●
周囲を飛び交う迦陵頻伽の姿を見て、政木・朱鞠は少し心を痛めていた。
「可哀想に……迷子の骸魂と混じってしまうと、わがままさんになっちゃったのかな?」
このような滅びの世界を飛び回るなんて、骸魂に取り憑かれた妖怪は望んでいないだろう。
彼らをこの悪夢から解放するためにも、ここはひとつ頑張らなければ。
朱鞠が階段を上り始めると同時に、迦陵頻伽達が翼を広げる。
その姿は美しいけれど能力は厄介だ。
敵は高速で飛び回り、更には眠気を誘う歌声も放ってくる。
おまけに今いる場所は足場が悪い。少しの失敗がすぐに自分を追い込んでしまうだろう。
「油断は禁物、だね」
朱鞠は『荊野鎖』を構えて敵を迎え撃つ姿勢を取る。
彼女の意識がはっきりしているのを確認した迦陵頻伽達は、早速眠りの世界へ誘おうと接近してきていた。
けれどそれこそが朱鞠の狙い。
自分はしっかりと地に足を着け、飛び交う敵をじっと見つめる。
「……そこだ!」
翼に紛れる身体へとしっかりと狙いを定め、朱鞠は荊野鎖を投げつける!
幾つものスパイクが迦陵頻伽の肌へと食い込めば簡単には逃れられない。
けれどこの攻撃は本命ではない。何故なら倒すべきは妖怪ではなく、彼らに憑いた骸魂なのだから。
「骸魂さん、あなた達にも同情はするけれど……他人の身体を乗っ取って操った咎は幕引きさせてもらうよ」
荊野鎖の鎖を握りしめ、朱鞠は己の力を高めていく。
鎖から吹き上がるのは浄化の炎。妖怪の肉体を傷つけず、骸魂の悪意を殺す清めの術だ。
「咎に巣食いし悪狐の縁……焼き清め奉る!」
朱鞠の叫びに合わせ、より一層炎が強まった。
その輝きに呑まれた迦陵頻伽は叫び声をあげるが――それもすぐに落ち着く事となる。
骸魂だけが見事に浄化され、解放された妖怪がふわりと地に落ちたからだ。
「……オヤスミナサイ。今度はあなたが幸せになれることを祈っているわ」
消え去った骸魂に慰めの言葉を囁いて、朱鞠は周囲を見遣った。
階段はまだまだ続いており、飛び交う迦陵頻伽も存在している。
どうやら先は長そうだ。けれどここで立ち止まる訳にはいかない。
「私もここで終わる訳にはいかないからね。この世界を、救わせてもらうよ」
しっかりと気合を入れなおし、朱鞠は再び階段を駆け上がる。
その先に、未来に進むことが自分の役割なのだから。
成功
🔵🔵🔴
シホ・イオア
空を飛んでショートカットってわけにはいかないね
隠れるのは苦手だし、正面から行っちゃうか!
せっかく遠距離攻撃できるんだし
敵を見つけ次第がんがん撃っちゃおう
浄化と破魔で悪い『骸魂』を取っ払う!
敵の歌には精神攻撃と呪詛耐性と祈りで対抗
何ならこっちも歌っちゃう?
破滅なんかより愛と平和や勇気をくれる歌の方がいいよね☆
連携アドリブ歓迎!
●
目的地へ続く階段の周囲には未だ迦陵頻伽が飛び交っている。
空を突っ切って進むことは不可能だろう。その事実を再確認し、シホ・イオアは静かに気合を入れる。
自分の身体は聖なる光によって輝いているから隠れることも得意ではない。それなら取るべき手段はシンプルに。
「正面から行っちゃうか!」
拳をぎゅっとを握りしめ、シホは幽世の空を駆ける。
迦陵頻伽達の呪詛が心を捉えるより早く、シホは指先を彼らへ向ける。
「近づくならばきゅーん、だよ!」
指先から放たれたのは獅子の魔弾だ。
エメラルドの魔力を帯びた輝きは幽世をまばゆく照らし、迦陵頻伽の身体を射抜く。
その中に籠められた浄化と破魔の力が迦陵頻伽を包み込めば、骸魂だけを見事に消し去っていった。
残った妖怪は地面の上にふわりと落ちるが、命に別状はなさそうだ。
けれどそちらに気を取られる訳にもいかない。迦陵頻伽はまだまだ迫ってきている。
「もっと皆を助けてあげないと!」
自身に宿る光も強めつつ、シホは更に先へと進む。
シホの魔法は着実に敵の数を減らしているが、相手も簡単にはやられてくれないようだ。
ふと美しい歌声が耳に入れば、意識がぐらぐらと歪みだす。
「あの歌のせいかな……負けちゃダメだね……!」
悲しい歌、怖い歌に怖気づいてはいけない。
シホは聖なる光で自分自身を包み込み、迦陵頻伽の歌に込められた呪詛を中和していく。
けれどこれだけじゃきっと足りない。
骸魂に取り憑かれた妖怪達だって、こんな悲しい歌は歌いたくないはずだ。
「それなら、一緒に楽しい歌を歌おう?」
破滅なんかより、愛と平和や勇気をくれる歌を。
気が付くとシホは楽しげな歌を口ずさみ、迦陵頻伽達へと手を伸ばしていた。
彼らの奏でる歌に自分の声も乗せて、でも少しずつ曲調は明るいものに。
世界を滅ぼすのではなく。悲しみや眠りを齎すものでもなく。
嬉しい、楽しい、そんな歌を一緒に歌おう。そう伝えるような旋律が世界の中に響き渡った。
シホの聖者としての性質か、それとも彼女自身の優しさが伝わったからか。彼女の歌声は骸魂達すら癒していく。
暖かな歌声と輝石の光が階段を包みこみ、優しさが妖怪達を救う。
その光景を見届けつつ、シホは更に先へと進む。
「この調子で皆を助けなきゃ……!」
決意を胸に、小さな聖者は勇ましく突き進んでいくのだった。
大成功
🔵🔵🔵
依神・零奈
有為の奥山今日越えて……兎にも角にも先に進まなきゃね
とはいえまずは周囲の妖……オブリビオンをどうにかしないとかな
空中から声で仕掛けてくるのは厄介だけれど、言葉が届くのなら問題はない
【破魔】の力を込めた霊符を宙で向けて放ち、【フェイント】でタイミングをずらしつつ連続で攻撃を仕掛けてこちらに注意を引きつけるよ。
敵がこちらに注目しだしたらUCを発動
「神代より鳥は地上より射抜かれる、キミ達も例外ではない」
言葉で視界に入る全ての敵を指名し、各々の視覚から矢による強襲を仕掛けていく。
●
「有為の奥山今日越えて……兎にも角にも先に進まなきゃね」
巨大な階段を見上げつつ、依神・零奈は先へと進む。
彼女の行く手には何羽もの妖・迦陵頻伽の姿も見えている。彼らを倒しつつの行進になるだろう。
足場の悪い状況で敵は空を飛ぶ。面倒な状況だけれど、零奈には彼らをどうにか出来る手段がある。
「空中から声で仕掛けてくるのは厄介だけれど――言葉が届くなら問題はないね」
零奈は舌禍を操る事が出来る。
これは呪いによって手に入れた力だけれど、今は存分に使わせてもらう時だ。
階段を更に駆け上がろうとした零奈の元へ、次々と迦陵頻伽が声を投げかける。
その美声により齎されるのは破滅だ。少しでも気を抜けばきっと心は彼らに奪われてしまう。
けれど、そんな事はさせるものか。
零奈は霊符を取り出すと、そこに自らの力を籠めていく。
破魔の力を帯びた霊符は淡く輝き、周囲を眩く照らし始めた。
「……そこだね」
そしてそれをしっかり構え、まずは数枚を空中へ向かって投げつける。
地上から飛来してきた輝きに対し、迦陵頻伽は驚くような声をあげて回避していく。
しかし霊符はまだまだ存在している。零奈は更にタイミングを変え、投げる角度を調整し次々に霊符を投げつける。
迦陵頻伽達も破滅を齎す声を発する余裕はなくなってきたようだ。怒りを示すような鋭い声を発しつつ、彼らは零奈の方へと殺到していく。
敵の数はかなりのもの。彼らに一斉に囲まれ、爪や翼で攻撃されてはただでは済まない。
――仕掛けるなら今だ。
「神代より鳥は地上より射抜かれる、キミ達も例外ではない」
殺到してくる迦陵頻伽達に向け、零奈は鋭く声を発する。
自分の視界に入る全ての敵へと向けた刃のようなその言葉。そこに籠められた呪詛はゆっくりと迦陵頻伽の身体を冒し、彼らに死を近づけていく。
しかし、彼らはその事実に気づく事はないだろう。気付いた時にはきっともう遅いのだろうから。
「……呪詛『咎無き鳴女の死』」
鋭い爪が零奈の身体を切り裂こうとした瞬間、迦陵頻伽の白い身体に何本もの矢が突き刺さる。
彼らが零奈へと到達するより先に、矢によってその身を階段へと縫い付けられたのだ。
一体どこから? 何が起きた? きっと迦陵頻伽達はそれを理解する事すらないだろう。
「やっぱり鳥は射抜かれるものだよ。それじゃあ、さようなら」
地に伏した迦陵頻伽を追い越し、零奈は更に先へと進む。
それと同時に再び降り注いだ矢が骸魂達を打ち砕いていった。
大成功
🔵🔵🔵
水心子・静柄
昔の逸話で、お寺に続く階段で長めの刀を携えた佐々木小次郎が守護者として待ち構えた話があるけど、上に陣取られるとかなりの力量差がないと突破するのは難しいわね。でも今回は進路上じゃなくて頭の上…空中だから無視して階段を掛け登って境内に入ってしまえば良いんじゃないかしら?
まぁ上手くいかずに戦う事のになったら空を飛んでいる相手は厄介よね。グラウンドクラッシャーも居合も届かせるのはちょっと…この場合、射合も厳しそうね。そうなると切り札を切るしかないわね。この刀(本差)で切れないものは何もないわ…例え、空を飛んでいる相手でもね!睡眠音波?そんなものすら斬り捨ててあげるわ!!
●
階段を駆け上がりつつ、水心子・静柄は昔聞いた話を思い出していた。
「お寺に続く階段で、長めの刀を携えた佐々木小次郎が守護者として待ち構えた話があるけど……」
実際に自分がこの状況に立つとよく分かる。
階段での戦いにおいて、敵に上を陣取られるのは厄介だ。
単純に打ち勝つには相当な力量差が必要で、しかも相手は複数いる。
幸いな事に敵の強さはさほどではないけれど、いちいち相手にしていては上り切る頃の損傷もかなりのものになるかもしれない。
「頭上にいるのだから、無視出来ないかとも考えたけれど……」
翼を広げた迦陵頻伽達の動きは素早く、更に彼らは誘眠音波を放ち続けている。
ある程度数は減らしていった方がいいだろう。
対処法を考えるべく、静柄は少し考え込んだ。
「空を飛んでいる相手は厄介よね」
静柄が得意としているのは接近戦だ。
普段武器として使用しているのは自分の本体である脇差であり、それ故に相手との距離を詰めつつの戦いがメインになる。
ある時は直接鞘を相手の身体に叩きつけ地面ごと割ったり。
またある時は高速の居合によって刀身を晒す事なく相手を切り払ったり。
遠距離に向けて攻撃する手段もあるのだが、高速で飛び回る迦陵頻伽との相性は良いとは言えない。
更には恫喝も通用するかどうか。相手はオブリビオンと化した妖怪で、本能のままに暴れまわっている様子。言葉でのやり取りは通用しないだろう。
そうすると、遺された手段はたった一つ。
「切り札を切るしかないわね……頼むわよ、真峰」
静柄の言葉に応えるように、風が吹いた。
風の中から姿を現したのは一本の太刀だ。
これは静柄が想像力で生み出した刀。姉を模した何よりも強い無敵の刀だ。
「この刀で切れないものは何もないわ……例え、空を飛んでいる相手でもね!」
静柄が太刀を一振りすれば、そこから生じた衝撃波は凄まじい勢いで空を駆ける。
すると一体の迦陵頻伽が叩き斬られ、彼の身体からふわりと骸魂だけが離れていった。
周囲の迦陵頻伽達は慌てた様子で声を発し、静柄を眠りへと誘おうとしてきている。
けれど、無敵の刀はそんなものに遅れを取らない。
「睡眠音波? そんなものは関係ないわ、斬り捨ててあげる!」
更に一閃。先程よりも鋭い衝撃波が見えない音を斬り裂いて、静柄の身体を守り抜く。
この刀があれば大丈夫。どんな敵にだって負けはしない。
「さあ、これ以上邪魔はさせないわ……道を開けなさい」
低い声と共に刀を構え、静柄は敵を睨む。
その瞳には無敵の姉に対する強い信頼の光が宿っていた。
成功
🔵🔵🔴
ロラン・ヒュッテンブレナー
※絡み・アドリブOK
(魔狼解放の姿のまま寿命を削りつつ参加)
【POW】
何か、聞こえるね?【聞き耳】
それに電脳空間に表示されるパラメータは…、さっきのにおいと似た感じ?【学習力】
においと声の感じだと、いっぱいいそうだね…【情報収集】
音を遮る防壁【オーラ防御】【結界術】で対策して…
この状態でいられる時間も限られてるから…、力押しで行くの!
【高速詠唱】でUC準備、巨大な魔術陣を練るの
【ダッシュ】で相手が見れる所まで移動して
【全力魔法】で撃ち出すよ
直撃は要らないの
密集してる所に撃ち込んでたくさん巻き込む様にするね
2・3発は撃てるはずなの【乱れ撃ち】
ごめんね
でも、先に進まなきゃいけないの
●
長い階段の上で軽快な足音が鳴り響く。
狼へと変身したロラン・ヒュッテンブレナーは階段を駆け上りつつ、周囲の気配に意識を傾けていた。
この状態を維持するには命を削らなければならない。長時間の戦いは出来るだけ避けた方がいいだろう。
「ん……何か、聞こえるね?」
狼の耳が捉えたのは鳥の鳴き声だ。
同時に展開した電脳魔術のスクリーンには先程の香りに似た数値が映し出されている。
この両方が複数の敵性反応の存在を教えてくれていた。
身体にもその予感は伝わってきている。迂闊に行動していては先程のような催眠状態に陥ってしまうかもしれない。
「この音は危険そうなの。しっかり防御しなくちゃ……」
結界術を展開し、聞こえてくる音色から身を守りつつロランは突き進んでいく。
階段を上っていけば迦陵頻伽達も姿を現した。
彼らは翼を広げ、歌や笛の音色でロランの足を止めようとしているようだ。
だけれど魔術的な防御は完了している。ロランの勢いは止まらない。
「ここは力押しでいくの。制御が難しい術だけど……でも、これで行こう」
結界は展開し続けたまま、ロランは別の魔術も詠唱していく。
今回使用するのははかなり危険な術だ。あまり連発も出来ないため、着実な成果が欲しい。
そこでロランは敢えて堂々と身を晒し、敵を引きつける事にした。
「こっちなの」
尻尾をぱたぱたと振るい、存在感を主張するロラン。
迦陵頻伽達も自分たちが放つ音波の中で動き回る存在は気に障るのだろう。彼らはあっさりとロランの方に目掛け、空中から降りてくる。
「来てくれて助かるの。それじゃあ……」
狼の姿でありながら少年らしい気配を纏っていたロランだが、詠唱が進むにつれて瞳に宿る光は冷たいものへと変わっていく。
「対消滅術式展開、マジカ圧縮、臨界、高密度魔術弾装填完了。レディ――全部喰らい尽くすの」
詠唱が終わった瞬間、世界が揺れた。
凄まじい魔力の塊が放出され、密集した迦陵頻伽の方へと撃ち出されたのだ。
彼らは慌てて逃げ出したため直撃は逃れたが――それでもロランの魔術の威力は相当のものだ。
魔力の塊は軽く触れただけの迦陵頻伽も消し飛ばし、その空間に残ったのは骸魂に喰われていた妖怪だけ。
周囲にいた迦陵頻伽達も急いで空へと発とうとするが、もう遅い。
「もう一発……!」
再び放たれた魔力塊は周囲の迦陵頻伽を飲み込み、どんどん無力化していく。
気がつくと迦陵頻伽は消え去って、妖怪達だけが倒れ伏している。
ロランは呼吸を軽く整え、彼らの元を走り去る。
「危ない攻撃でごめんね。でも、先に進まなきゃいけないの」
ロランのリソースがいつまで保つかは分からない。けれど今は、とにかく階段を上りきらなければ。
小さな狼が走り去った後、階段の周囲は静寂に包まれていた。
成功
🔵🔵🔴
第3章 ボス戦
『フェニックスドラゴン』
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POW : 不死鳥再臨
自身が戦闘で瀕死になると【羽が燃え上がり、炎の中から無傷の自分】が召喚される。それは高い戦闘力を持ち、自身と同じ攻撃手段で戦う。
SPD : フェニックス・レイ
レベル分の1秒で【灼熱の光線】を発射できる。
WIZ : 不死鳥の尾
レベルm半径内の敵全てを、幾何学模様を描き複雑に飛翔する、レベル×10本の【炎の羽】で包囲攻撃する。
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴
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●
猟兵達は無事に階段を上りきり、目的の神社に辿り着く事が出来た。
そこに待っていたのは――炎の翼を広げた少女だ。
「大人しく眠っていれば良かったものの」
少女はゆっくりと言葉を紡ぐが、その声はしゃがれた老人のものにしか聞こえない。
この声は少女に取り憑いた存在のもののようだ。
「まあいい……お前たちからも力を頂くぞ。そして今度こそ私は不死となるのだ……!」
彼女は『フェニックスドラゴン』。罪のない竜神の少女が「フェニックス」の骸魂に飲み込まれた存在だ。
本来不死であるはずのフェニックスは何かしらのきっかけで命を落とし、過去の亡霊と化している。
今はこの少女を通じて再生を試みようとしているようだ。
フェニックスドラゴンをオブリビオンとして討伐すれば骸魂だけが消滅し、少女は救出出来るだろう。
フェニックスが力を失えば眠りの花も枯れ、危機を乗り越える事が出来る。
幽世を救うべく、この骸魂を討伐しなくては。
●
3章のプレイングは【7月4日(土)8:31~】募集開始とさせていただきます。
よろしくお願いします。
リトルリドル・ブラックモア(サポート)
★アドリブ連携歓迎だぞ!
ワーハッハッハッ!
まおーリトルリドルサマ参上!
どうやらオレサマの助けがいるみてーだな!
クックックッ…ヤダね!
オレサマがかんがえてるコトはひとつ…
イタズラすることだー!(※大したことはできません)
アッなんだその目!
オレサマすげーワルなんだぞ!
オブリビオンよりやべーワルだから
ヤバそうなヤツが相手でも…
…
ちょーコエーじゃん!!
よわそうなヤツにはかてるぜ!
でもカワイイヤツには手加減するし
こまってるヤツはたすけるぜ
まおーサマはウツワがひろいのだ!
カワイソーだからじゃねーし!
イイヤツじゃねー!
なんかイロイロあるとおもうケド
UCや技能やアイテムでなんとかすっぞ!
あそぶのもまかせろー!
マリウス・ストランツィーニ(サポート)
助けが必要と聞いて馳せ参じた!
どんな理由であっても人々に害為す敵は許さん!いや、理由によっては許すかもしれないが全力で戦う!
我が一族の誇りに懸けて、私の剣で成敗してやる!場合によっては銃で成敗してやる!
はあはあ、どうだ……!まいったか!
……まいったよね?
(アドリブ連携等歓迎)
シアン・ナアン(サポート)
『まずは自分を壊しちゃお!世界もどーせ壊れてるから!』
『自由こそ真の秩序……』
『シアン難しい話わかんなーい☆』
◆口調
コロコロ変わり、ぐちゃぐちゃである
◆行動
戦闘、遊び、調査等何をするにも分身を使って活動する
分身も意識があり区別がつかない
行動指針に一貫性がなく都度変わる
爆発物好き、派手好き
ユーベルコードは指定した物をどれでも使用し、怪我や死ぬことも厭わず積極的に行動します。他の猟兵に迷惑をかける行為は多分しません。また、例え依頼の成功のためでも、公序良俗に反する行動は恐らくしません。
つまりはだいたいおまかせ。よろしくおねがいします!!
●
炎の翼を揺らめかせ、猟兵達を迎え撃とうとするフェニックスドラゴン。そんな彼女の耳に、やたらと賑やかな声が届いた。
「助けを求めている者がいるのだな。ならば私達の出番なのだろう……二人共、大丈夫か?」
「まおーサマはイタズラしに来たんだぞ! でもオレサマにまかせとけ! オレサマはつよいからな!」
「シアンも難しい話わかんなーい☆ 好きに壊しちゃえばいいんだよねっ。そういうのなら好きだよ!」
わいわいと会話をしつつ階段を上ってきたのは三人の猟兵だった。
「助けが必要と聞いて馳せ参じた! ストランツィーニ家の当主として、この事態を解決させてもらうぞ!」
先頭に立っていたのはマリウス・ストランツィーニ(没落華族・f26734)。彼女は勇ましく刀を構え、フェニックスドラゴンをキッと睨む。
「ワーハッハッハッ! まおーリトルリドルサマ参上! オレサマの手にかかればどんなヤツでも……あれ、なんかヤバそう……?」
「だいじょぶだいじょぶ、好きに壊しちゃお。ぜーんぶ弾けさせればすぐ終わるって!」
敵の姿を見てちょっとぷるぷるしているのはリトルリドル・ブラックモア(お願いマイヴィラン・f10993)、その横で笑顔を崩さないのはシアン・ナアン(自己壊乱・f02464)。
三人のテンションも目的もバラバラだけれども『フェニックスドラゴンを倒す』という最終目標は一致している。
猟兵達は力を合わせ、強大なオブリビオンに立ち向かいに来たのだ。
「姦しい奴らめ……まあいい、お前達も私の力となるがいい!」
フェニックスも大きく翼を広げ、強大な力を発露させていく。いよいよ戦いの始まりだ。
「炎に飲まれろ!」
フェニックスの翼から羽が舞い踊り、その一枚一枚が幾何学模様を描きながら飛んでいく。
それらの数はかなりのものだ。纏まっていては危険だろう。
「こういう時は……もーっと派手な事しちゃお☆」
炎の羽が着弾するより早くシアンが動いた。まずはユーベルコードを発動し、呼び出したのはシアンの分身体だ。
二人のシアンは懐から幾つもの爆弾を取り出し、周囲にばら撒いていく。
「「巻き込まれないように気をつけてね♪」」
ただでさえとんでもない爆発力を持った爆弾を二人がかりで起動していけば、その威力はかなりのものだ。
これこそがシアンの望む光景。世界は壊れているのだからもっともっと壊してしまおう。
苛烈さの中には確かな狙いも存在し、猟兵達はそれを理解しながら行動していく。
「凄い爆発だな……! だが作戦は了解だ、任せろ!」
マリウスは刀を構えたまま爆風の中を突き進み、少しずつフェニックスの元を目指す。
周囲の熱量はかなりのものだが、中央に立つフェニックスのそれは一際大きい。とにかくそちらへ駆けていけば大丈夫だろう。
身体は緊張で強張っているけれど、それに気を取られてはいけない。煙を吸い込まないように、けれどしっかり意識を整え。華族の少女は境内を走る。
「シアンのコーゲキもちょーヤベーじゃん! でもオレサマもまけねーぞ!」
リトルリドルも跳ねるように炎の中を進み、フェニックスの方角を目指していた。
敵は怖い。けれど困ってる人がいるならしょうがない。まおーサマの器は広いのだから、こういう時こそ暴れまくろう。
そんな気持ちを滾らせつつ、ちいさなマオーは突き進む。
先にフェニックスの元へと辿り着いたのはリトルリドルだった。
「お前、この炎の中を
……!?」
「まおーサマならオチャノコサイサイだぞ! クックック……さーて、イタズラしてやる!」
リトルリドルが取り出したのは特製の油性マジックだ。身体を自由に伸縮させ、ペン先を向けたのは――。
「おもしれーカオにしてやったぞ! ……そのカラダはお前のじゃねーらしーけど、ゆるせよ!」
フェニックスの顔面だった。
一瞬の間に彼女の顔には個性的なラクガキが描かれ、なんだか不思議な力が巡っていく。
「この程度のイタズラで何が出来ると……」
怒りの形相を浮かべたフェニックスは、すぐさまリトルリドルを迎撃しようと炎の羽を飛ばすが……思うように飛んでいかない。
本来描かれるはずの幾何学模様は意味を為さず、自分の顔面に描かれたようなコミカルな模様しか浮かび上がらないのだ。
「これは……」
「お前はすでにギャグキャラとなったのだ! さあ、どんどんひでー目にあうんだぜ!」
リトルリドルのイタズラ描きには不思議な力が宿っている。これが描かれた相手は思うように動けず、なんだかコミカルな事になってしまうのだ。
慌ててラクガキを消そうにも使用したのは特製の油性ペン。そう簡単には落とせないだろう。
焦るフェニックスの元へ、次なる影が迫りくる。
「骸魂にも事情はあるのだろう。だが、お前は既に人に害為す敵となっている。ならば我が一族の誇りに懸けて、私の剣で成敗してやる!」
勇ましい声と共に飛び込んできたのはマリウスだ。
彼女の手に握られているのは名刀『八重霞ノ太刀』。炎の揺らめきを受け、刀身が眩く煌めいている。
その輝きを目にしたフェニックスはすぐさま翼を構え、マリウスを迎え撃とうと羽を舞わせた。
「成敗だと? 倒されるのはお前の方だ!」
近距離での炎攻撃は危険だが、先程のイタズラの効果も相まって炎の飛び方はへにゃりとしたものに変わっている。
その合間をマリウスは勢いよく駆け抜けた。
「へにゃへにゃした攻撃もなかなか軌道が読みづらいが……けれどこの程度!」
軍服を翻し、更にマリウスは距離を詰める。迫りくる炎は刀で跳ね除け、そして敵が目の前にくれば一気に飛び上がる。
刃に籠めるのは一族への想い。少しでも武勲を立て、力をつけ、ストランツィーニ家を再興するために。
そして目の前の敵を倒し、助けを求める声に応えるために。
マリウスの思いに応えるように、八重霞ノ太刀が一際大きく煌めいた。
「――斬り裂け!」
剣刃一閃。マリウスの放った一撃はフェニックスの胴を裂き、彼女から骸魂の力を奪う。
その衝撃でフェニックスの身体は大きく後ろへと飛んでいく。
「お、おのれ……」
吹き飛ばされたフェニックスは自分の身体を炎で包み込んだ。
端から見れば自傷にも見えるけれど――その狙いは擬似的な再誕だ。
ここまで追い詰められたのは屈辱的だが、機会はまだある。そう思ったフェニックスの耳に届いたのは、明るい少女達の声だった。
「まだまだ壊れ足りない? 自由になりたいってのは分かるけど……でもそれって私達が楽しくないんだよね☆」
気がつくと二人のシアンがフェニックスの側に立ち、ニコニコと笑顔を向けていた。
「お前みたいなトリさんは……チキンにして食っちまおう!」
「それじゃ、バイバーイ♪」
再誕の炎に向かって、幾つもの爆弾が投げかけられる。
それらはフェニックスの炎を殺さんばかりの勢いで弾け飛び、全てを台無しにしていった。
フェニックスも命からがら炎の中から逃れたが、思ったよりも傷は癒えていない。彼女は忌々しげに猟兵達を睨んでいる。
「いえーい、大成功!」
「さっすが私達!」
楽しげにハイタッチするシアン達の横ではリトルリドルが楽しそうに高笑いしていた。
「ワーッハッハッ! ド派手なイタズラはダイセイコーってワケだな!」
更にその横にはマリウスも立っていたが――彼女は少し緊張の糸がとれたのか、どこか気疲れしたような表情をしている。
「はあ、はあ……これでまいったよね……と言いたいが、そうも言えないか。それなら何度でも立ち向かうのみだ……!」
三人のテンションはやはりバラバラ。
けれど彼ら彼女らのペースは間違いなくフェニックスも巻き込んで、彼女の目論見を潰す一歩になっていった。
成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴
政木・朱鞠
さて…黒幕登場で最後の詰めって所かな?
でも、悲しいね…力を失った苛立ちと取り戻したい焦り…そう考えると同情する所はあるけども…最悪の終末を迎えないために、君の咎はここで幕引きとにして今は骸の海にお帰り頂くよ…オヤスミナサイ。
戦闘【SPD】
敵の『フェニックス・レイ』の発動速度はちょっと怖いね。
『忍法・狐龍変化身』を使用して仮初めだけど真の姿の足部分を再現して機動力に特化した強化状態で牽制しながら隙を作りたいね。
本攻撃では拷問具『荊野鎖』をチョイスして、【鎧砕き】や【鎧無視攻撃】の技能を使い【傷口をえぐる】で体に鎖を絡めて動きを封じながら締め上げてダメージを与える戦法を取ろうかな。
アドリブ連帯歓迎
●
「さて……黒幕登場で最後の詰めって所かな?」
拷問具『荊野鎖』を構えつつ、政木・朱鞠は静かにフェニックスドラゴンを観察していた。
フェニックスの骸魂から伝わってくるのは苛立ちや焦りといったネガティブな感情だ。それを身体で受け止めつつ朱鞠はそっと目を伏せる。
「悲しいね。考えると同情する所はあるけども……」
力を失ってしまうのが嫌だ、それを取り返したいと願う。それだけなら仕方のない事だけれど、このオブリビオンを放っておけば迎えるのは最悪の結末だ。
それは防がなければならない。だから、フェニックスの咎は幕引きとさせてもらおう。
「今は骸の海にお帰り頂くよ。さあ、覚悟してね」
「そうなるのはお前の方だ!」
フェニックスの怒号と共に光が弾けた。炎の翼からは灼熱の炎が溢れ、次第に別のものへと形を変えていく。
恐らく発射されるのは――超高速の光線だろう。
「あの光線の発射速度はちょっと怖いね。どうにかしてついていきたいんだけど……」
生半可な速度ではきっと追いつけない。それならこちらも命をかけて敵と向き合おう。
朱鞠はゆっくりと呼吸を整え、自らの足元に力を集めていく。
「抑えし我が狐龍の力……制御拘束術第壱式にて……」
この術は無理やり法則を捻じ曲げて扱うもの。上手く制御出来ない場合のリスクは相当なものだ。
だけど、やらなくちゃいけない。大丈夫、私ならきっと出来る。
「強制解放、忍法・狐龍変化身!」
次の瞬間、朱鞠の足元に凄まじい妖力が集まっていく。
解放されたのは真の姿として扱う力の一端。それを足元にだけ発露することで、一時的に機動力を上げる事が可能だ。
だが長期戦は危険だろう。速攻で戦いを終わらせるべく、朱鞠は勢いよく地を蹴った。
朱鞠が飛び立つと同時にフェニックスが光線を放ち始めた。
その速度は予想通り途轍もない。けれど今の朱鞠ならば回避しつつ前進する事も可能だ。
少しずつ、着実に二人の距離は縮んでいく。今のフェニックスは光線を放つので精一杯だが、朱鞠は次の手段を行使する事が可能だ。
「捕まえさせてもらうよ!」
光線の間を抜けるように投げつけられたのは荊野鎖。しゅるりと生き物のように伸びた鎖はフェニックスの身体を捕らえ、スパイクが深々と突き刺さっていく。
「何っ……」
「さっきも言ったけれど、君が帰るべきは骸の海だよ。ゆっくりと……オヤスミナサイ」
鎖からなんとか苦れようとするフェニックスだが、朱鞠が接近しきる方が早かった。
朱鞠は更に鎖を締め上げ、フェニックスから少しずつ力を奪っていく。
けれどそれはただの殺戮のための一撃ではない。少しでも相手が安らかに眠れるように――そんな祈りが籠められた攻撃は、フェニックスを再びの眠りへと近づけていくのであった。
大成功
🔵🔵🔵
逢坂・理彦
あの女の子にフェニックスの骸魂が憑いているというのでいいのかな?
フェニックス…鳳凰が命にこだわるのは何処か愚かしい気もするけど当たり前のものを失って気付くこともあるか…。
だがもうそれは終わってしまった命だ。
別の命にそして世界にまで影響を与えるのはよくないと思うんだけどね。
【戦闘知識】で戦場把握。
機を見て【早業】【なぎ払い】から
UC【狐火・紅薔薇】に【破魔】と【除霊】をこめて蔦で繋いで動きを封じる。
●
猟兵達から傷を受けつつも、フェニックスドラゴンは立ち向かってくる。
けれどそれは罪のない竜神の少女の身体を使っての行為だ。決して許せるものではない。
「あの女の子にフェニックスの骸魂が憑いているというのでいいのかな?」
逢坂・理彦は戦況を確認しつつ炎を広げるフェニックスを見つめていた。
本来不死の存在である鳳凰が命に拘っている。なんだかそれはおかしな話で、どこか愚かしくも思えていた。
いや、だからこそだろうか。不死の存在が命を失えば、そこにあった『当たり前』にようやく気づく事が出来たのだろう。
「だが、もうそれは終わってしまった命だ」
フェニックスがただ一人で彷徨い、再び命を得ようとするのならば構わない。
けれど今の彼女は他者を利用し、更には世界までもを傷つけている。
「そんな風に誰かに影響を与えるのはよくないと思うんだけどね」
「うるさい……お前も炎に飲まれてしまえ!」
理彦の言葉にフェニックスは激昂し、更に大きく翼を広げた。
吹き上がる炎は嵐のようで、放っておけば世界を全て飲み込んでしまいそうだ。
そうはさせてなるものか。自分には帰るべき場所があるのだから。
理彦は薙刀『墨染桜』を構え、フェニックスの炎を観察していく。
「あの炎は強力だけど……ただの炎でもないようだね」
理彦の金の瞳が炎を受けてきらきらと輝く。そこに映し出されているのは周囲の景色だ。
フェニックスの放つ炎は相当のもので、熱さもしっかりと伝わってきている。けれど境内に大きな被害も出てはいなさそうだ。
恐らくあの炎は霊的なものなのだろう。それなら周囲への被害や周辺環境の変化も気にする必要はない。
自分に迫りくる炎だけを墨染桜で払いつつ、理彦は一気に前へと駆ける。目指すはフェニックスの元だ。
「炎なら俺も扱えるんだよ。こういうのはどうかな?」
走る速度を落とさないように気をつけつつ、理彦が展開していくのは花のような狐火だ。
狐火は苛烈な不死鳥の炎の合間を抜けながら、敵の元へと飛んでいく。
「この程度の炎で私が灼けるとでも思ったのか?」
嘲笑と共に炎を跳ね除けようとしたフェニックスだが――それこそが彼女の慢心だ。
弾けた炎からは薔薇の蔦が伸びていき、炎の翼を拘束していく。内に籠められた破魔の力も相まって、その強度は相当なものだ。
思わず動きを止めたフェニックスの元へ、理彦が一気に距離を詰める。
「骸の海でゆっくり休むといいさ」
どこか優しい言葉と共に、墨染桜の刀身が煌めいた。
理彦が放った一閃はフェニックスの身体を袈裟斬りにし、彼女を再びの眠りへと近づけていく。
彼女にもきっと帰るべき場所があるのだから。理彦の放ったその刃は、そんな気持ちが籠められた道標のようだった。
大成功
🔵🔵🔵
ロラン・ヒュッテンブレナー
※絡み・アドリブOK
(最後まで魔狼解放の姿のまま寿命を削りつつ参加)
…、あの人、なんで二つもにおいがあるの?
片方、とっても、弱ってる?
きっと、あの炎をどうにかすれば、いいんだよね?
ぼくも限界が近そうなの…
一回で、確実に当てるの
他の人との交戦記録を分析【情報収集】して
有効な手段を考えるね【学習力】
【高速詠唱】でUC発動
二個一に融合して40の炎魂でぼくの周囲に熱を奪う【オーラ防御】の結界【結界術】を纏って【ダッシュ】なの!
音狼、ぼくに、あの人を救う【勇気】をちょうだい
懐に潜り込んだら【全力魔法】で炎魂を操作
フェニックスドラゴンが奪った”熱”は、返してもらうの
※終わったら消耗と魔力切れで気絶する
●
少し時間は巻き戻って。
小さな狼の姿のままロラン・ヒュッテンブレナーは境内へと突き進んでいた。
そこで彼の嗅覚に触れたのは二つの匂いだ。
片方はとても強く、どこか煤けたような匂い。
そしてもう片方は――とてもか弱い、どこか澄んだ匂い。
その中央に立っていたのは炎の翼を広げる少女だ。
「……、あの人、なんで二つもにおいがあるの?」
じっと観察して分かる。煤けた方の匂いが澄んだ方の匂いを浸食しているのだ。
そしてその発生源は炎。あれさえどうにかすれば弱っている方は助けられるはず。
けれどここまでの戦いでロランはとても消耗していた。
変身状態による負荷は大きく、魔術器官にも疲労が蓄積しているのが分かる。
「ぼくも限界が近そうなの……」
だから、当てるなら一撃で。
ロランは一気に前へと駆け抜け、フェニックスドラゴンの元を目指す。
ロランがフェニックスの元へ接近するまでの間に、複数の猟兵が彼女と交戦していた。
その様子もしっかりと紫の瞳には映している。
「一番危ないのは……きっと飛んでくる炎の羽なの」
高速の光線も炎による再誕も危険だが、一番対策が必要なのは飛び交う炎の羽による遠距離攻撃だろう。
そのために必要な魔術を計算しつつ、ロランは更に駆け抜ける。
「狼の妖怪か? まあいい、お前も炎で飲み込んでやろう!」
ロランの存在を視認したフェニックスが、大きく炎の翼を広げる。
そこから飛来するのは複雑な模様を描いて飛んでくる炎羽だ。
「エントロピー移動術式、展開。リアライズ完了」
羽が殺到するより早く、ロランは素早く呪文を詠唱していく。
機械のように冷たい声に合わせて呼び出されるのは、熱を奪う魔術の炎だ。
「分離、解放。オペレーション、スタート」
呼び出された炎を混ぜ合わせれば強固な炎の結界の出来上がり。
結界と共にロランは更にダッシュして、一気に目指すはフェニックスの懐だ。
「音狼、ぼくに、あの人を救う勇気をちょうだい」
自らの内に声をかけ、最後の一撃を放つ力を高める。
フェニックスの驚愕する声が聞こえるがそんなものはどうだっていい。
骸魂に囚われた女の子に、ぼくの声が届けばいい。
「きみが奪った”熱”は、返してもらうの」
ロランの声と共に魔術の炎が弾けた。その煌めきはフェニックスの炎を消し飛ばし、少しずつ熱を奪っていく。
生み出された衝撃でロランもフェニックスも大きく弾け飛び、どちらも崩れるように地面へと倒れ込む。
もう限界だ。ロランの意識は少しずつ薄れていき、ゆっくりと目は閉じられていく。
その直前に聞こえたのは複数の足音。きっと他の猟兵達だ。
同時にか細い少女の声も聞こえる。小さく聞こえた「ありがとう」はあの少女のものだろう。
「きみに……届いたのならよかったの……」
確かな手応えを感じつつ、ロランの意識はぷつりと途切れる。
次に目を覚ました時に見えるのは――きっと希望に溢れた光景だ。
大成功
🔵🔵🔵
依神・零奈
不死鳥の亡霊だなんて面白い冗談だね。……何が原因でそうなったのかは知らないけれど死を阻むは不死鳥にあらず、死を乗り越えてこその不死鳥だ。もう一度死んでやり直すといい。
炎に囲まれる前に手を打つべきだね、UCを発動して言の葉より蝶を作り出す。そして不死鳥に「本当の自分とは」という問いを投げかけるよ。自分は自分、それだけの話だけど一瞬だけでも動きを止められればそれでいい。動きが鈍るその瞬間に距離を一気に詰め【破魔】の力を込めた無銘刀で一閃を食らわせる。
歯には歯を、夢には夢を。これはさっきの夢のお礼だよ、本当の自分を思い出すといい。
●
猟兵からの攻撃を受けつつも立ち向かい続けるフェニックスドラゴン。
その姿を見ながら依神・零奈はぽつりと呟く。
「不死鳥の亡霊だなんて面白い冗談だね」
諦めが悪いのはそれらしいかもしれないが、今のフェニックスは到底『不死鳥』という存在には見えていない。
彼女がどのような理由で命を落としたのかは分からないが、その在り方は歪んでしまっているのだろう。
「死を阻むは不死鳥にあらず、死を乗り越えてこその不死鳥だ。もう一度死んでやり直すといい」
「うるさいッ! お前こそ私の糧となれ!」
零奈の言葉に激昂したフェニックスは怒号をあげつつ炎を広げる。
あの翼から展開されるのは超高速の光線だろう。あれに囲まれてしまってはひとたまりもない。
ならば炎より早く届くものを。
零奈の唇がゆっくりと開き、紡がれるのは呪いの言葉だ。
「……本当のキミはどこにいる?」
激しい炎の煌めきの中を、ふわりと蝶が飛んでいく。
この蝶は零奈の投げかけた疑問が形を持ったもの。夢のように飛ぶ蝶はそっとフェニックスの身体へ触れる。
瞬間、溢れ出たのは凄まじい呪詛だ。
フェニックスの意識は大きく混濁し、同時に多幸感に包まれていく。
「歯には歯を、夢には夢を。これはさっきの夢のお礼だよ、本当の自分を思い出すといい」
「わた、私は……?」
骸魂というのは曖昧な存在だ。わざわざ妖怪に取り憑かなければ事件を起こす事も不可能なのがその証拠。
フェニックスも妖怪だった頃にははっきりとした自我もあったのだろうが、今の彼女はすぐにそれを取り戻せない。
ふわり、酩酊感が彼女の身体を更に包む。
「私は……フェニックス、再び蘇る不死鳥だ!」
叫びと共にフェニックスは意識を取り戻すが、生じた隙はかなりのもの。
その間に零奈はしっかりと距離を詰め、フェニックスの側まで駆け寄っていた。
「もう一度、ゆっくり眠るといい……次はきちんと生まれ直せる事を願っているよ」
零奈の手元で無銘刀が煌めく。
破魔の力が乗せられた刃の一閃が振るわれ、それがフェニックスの胴を大きく斬り裂いた。
傷がついたのは竜神の少女の身体だが、傷口からはフェニックスの炎だけが漏れ出していく。
少しずつ悪しき力が抜けていく少女の顔は感謝しているようにも見えた。
その様子を見て零奈も少しだけ安堵する。
「……キミ達も在るべき姿に戻るといい」
投げかけられた言葉は優しく、暖かい。きっとそれは彼女達を行くべき道へと導く標になるはずだ。
大成功
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シホ・イオア
貴方の目的はわかったよ。
悲しかったし、悔しかったよね。
でもね、かつての貴方みたいに罪なき者を犠牲にしちゃだめだよ!
悲しみを連鎖させちゃいけないんだ。
その思い、シホの愛で晴らしてみせる!
「輝石解放、ルビー!愛の炎よ、悲しき亡者を包み込め!」
全力で収束させた炎を叩き込み浄化します。
あるべきところへ帰れるように祈りを込めて。
防御に関しては霞の残像で対応。
連携アドリブ歓迎。
●
フェニックスドラゴンの炎は随分と弱まっているが、取り憑かれた少女の顔は鬼気迫るような気迫が宿ったままだ。
その顔を見てシホ・イオアは思う。きっと、彼女は諦めきれないのだろう。
「お前達に何が分かるのだ……!」
「ううん、貴方の目的はわかったよ。悲しかったし、悔しかったよね」
でも、それじゃ駄目なのだ。
「でもね、かつての貴方みたいに罪なき者を犠牲にしちゃだめだよ!」
悲しみの連鎖はここで止めなくちゃ。身体に宿った聖光を強めつつ、シホは真っ直ぐにフェニックスを見つめる。
「その思い、シホの愛で晴らしてみせる!」
「うるさい!! お前こそ私の炎に飲まれてしまえ!」
交わらない二つの思い。それを象徴するかのように、境内に二つの輝きが舞い上がった。
片方はフェニックスが燃え上がらせる憎悪の炎だ。
そこから飛び上がった炎の羽は次々に舞い踊り、シホの方へと殺到していく。
「凄い炎……これが貴方の思いなんだね……!」
咄嗟にシホが握りしめたのは宝石剣エリクシアの鞘だ。
鞘からは優しい光が溢れ、柔らかな霞となってシホの身体を守る盾となる。
更に霞はシホの姿を映し出し、境内の中に彼女の残像が生まれ始めた。
「小癪な事を……全て撃ち落としてくれる!」
残像も全て消し飛ばそうと、フェニックスは更に羽を展開し始めたようだ。
その軌道が描く幾何学模様は美しい。けれど、どこか空虚な雰囲気も感じ取る事が出来た。
そこに宿っているのは悲しい気持ちだけ。ただ過去に囚われ、他者を巻き込み燃え上がる炎なんて、綺麗だなんて思えない。
「……大丈夫、シホが全部送り出すから」
シホは両手を祈りの形に組み、自らの力を高めていく。
同時に周囲に生み出されるのは煌めくルビーの輝石だ。
その輝きは次第に炎の形を取って、フェニックスの炎も飲み込んでいく。
内側で瞬くのはハートの模様。シホが籠めた愛を象徴するかのような輝きは、優しくフェニックスも包み込む。
「輝石解放、ルビー! 愛の炎よ、悲しき亡者を包み込め!」
祈りに応えるように炎が弾けた。
あるべき者はあるべきところへ。フェニックスも竜神の少女も、帰るべきところへ帰る事が出来ますように。
道標のような光は憎悪すらも飲み込んで、すべてを優しく浄化していく。
「嘘だ、私はもう一度……死ぬのか……?」
「大丈夫、眠るだけだよ。次に起きる時には、もっと素敵な未来が待っているから」
シホの言葉と同時に炎がかき消えていく。その瞬間――フェニックスが、小さく礼を述べた気がした。
その言葉を耳にして、シホは優しく微笑んでいた。
●
戦いが終わり、残ったのは猟兵達と竜神の少女だけ。
世界を覆っていた花も少しずつ消え始めているようだ。
暫くすれば妖怪達も眠りから醒めるだろう。
幸せな夢は終わりを迎え、皆が現実へと戻っていく。
誰もが帰るべき場所へと帰り、更に幸せな現実を歩いていくだろう。
大成功
🔵🔵🔵