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靜月

#カクリヨファンタズム

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#カクリヨファンタズム


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 月が瞬いている。
 手を伸ばせばもしかしたら、届くかもしれない。
 今日ぐらいは……、そう。「痛み」をなくした、こんな時ぐらいは。

「すてき、すてき、本当に素敵!」
 妖怪たちは歌い、踊り、そうして高らかに声を上げる。
「なんて素敵。痛くない! 痛くないわ!」
 何をしても、平気だった。
 どんなに傷をつけても、平気だった。
 なぜならこの世界は、「痛み」が消えた世界。
「痛くないなら、何をしても。どんなに無茶をしたって、平気だね!」
 妖怪たちが笑う。傷つけることを躊躇わなくとも。力加減を誤っても。ここなら大丈夫。だって何にも痛くない。痛くないなら……何をしたって、大丈夫だ。
 だったら、もしかしたら月の果てまで飛んでいくのだってできるかもしれない。
 きっと翼は痛みを訴えないだろう。身体は苦しみを訴えないだろう。……そう。大地に墜落する、その瞬間だって、きっと。
「行ってみましょう」
「ええ。行ってみましょう!」
 月は見ている。語ることなく、ただ、静かに。
 ただ、静かに。彼らが死んでいくのを。この世の、終わりを。


「痛みは、自分の体のために必要なものだよ」
 リュカ・エンキアンサス(蒼炎の・f02586)はそう言って、ほんの少し、面白くなさそうに目を細めた。
「痛みを堪える術は必要だけど、痛みを消してしまったら人は体の異常に気付けない。……きっと、妖怪だって。程度の違いはあれども」
 痛みをなくす。それは危険なことなのだと、リュカは言った。それからしばし、考え込んで。話しを始める。
「……オブリビオンの企みにより、幽世から「痛み」が消えた……。痛みというのは、生きるために必要な概念なんだ。だから、消えてしまえば、大変なことになる。そして幽世には無数の骸魂があふれるようになって、妖怪たちが次々と飲み込まれて、オブリビオン化していってるんだ。……なるべく早く、その元凶のオブビリオンを倒して痛みを取り戻さなきゃいけない」
 とはいえ、やり方としてはそこまで難しくはないだろう。敵はそれほど強いというわけでもなく、さらに言うとカクリヨファンタズムのオブリビオンは「骸魂が妖怪を飲み込んで変身したもの」なので、オブビリオンを倒せば妖怪たちも無事に救出できる。
「……ただ、痛みがないのはお兄さんやお姉さんたちも一緒だから。気付かないうちに無理をしてしまうこともあるかもしれない」
 そこは、気を付けてほしいと、リュカは言う。それから少し、考え込んで、
「……無事に戦いが終わったら、忘れてた痛みが押し寄せてくるはずだから、少し休んで行くといいと思う。戦いが終わったら、腕のいい薬師の妖怪が薬を作る予定だから、それを塗って療養してるうちに傷も引いてくるんじゃないかな」
 とにかく、気を付けて行ってきてほしいと。
 そういって、リュカは話を締めくくった。


ふじもりみきや
いつもお世話になり、ありがとうございます。
ふじもりみきやです。
そういうわけで以下詳細。

第一章:集団戦
第二章:ボス戦
第三章:日常
です。
OPに述べたとおり、『痛み』がありません。
そして非常に、今回は怪我をしやすい状況になっております。

●一章・二章
純戦形になると思われます。
結構怪我はすると思います。みんな加減を忘れてます。
けど、痛みはありません
尚、治療系UC、ききにくいみたいです

●三章
忘れてた痛みがどっときます。そりゃもう、どくどくと。めっちゃ痛いです。
日常ですが、何がしたいかというと、
皆様、つまり、看病RPです。
「どうしてこんな無茶するんですか!」とか叱られながら包帯まかれたり、
「やり切ったぜ……」とか言いながら傷だらけで友人たちと地面に寝転がったり、
「今日も生き残ったな……」とか言いながら自分で自分の手当てをしたり、
「私には助けたい人がいるんです!」とか看病に走ったり、
その他諸々。
一応、薬師の妖怪さんがよく効く薬を配ってくれるので、それを貰って塗っておけば、明日になれば治ってるぐらいのノリです。優しい世界。
勿論、薬作る手伝いとかもしてもいいですし、
いつも通り、全く関係なくゆるっと休憩するとかでも構いません。
その辺は割と、お好きなように。
治療系UCも普通にききます

!だいじなこと!
種族的に血が出ないとか、紫の血が出るとか、その他もろもろ、こだわり部分はプレイングに必ず記載してください。
それも毎回。
ステータスシートも確認しますし、一回のプレイングで覚えていられればいいのですが、うっかりものなので忘れる可能性もあります。どうしても拘りがあるものは必ずプレイングの最初のほうに記載をお願いします。

●一人参加の方
誰かほかの一人参加の方と一緒になるかもしれませんし、
ならないかもしれません
プレイング内容と、プレイングを頂いた時期と、そのほか諸々のタイミングがあった場合に、誰かと一緒になると思われます。
それくらいに思っておいてください。

●複数参加の方
好きにしろい

●NPC
三章で、お声かけ頂いた場合のみ、リュカが同行します
これで魔法なんかは使えませんが、普通に治療はできたりします。
あんまりうるさいことは言いませんが、無理無茶無謀を行ったと知ると、無言で怒ります

以上になります。
それでは、良い一日を。
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第1章 集団戦 『迦陵頻伽』

POW   :    極楽飛翔
【美しい翼を広げた姿】に変身し、レベル×100km/hで飛翔しながら、戦場の敵全てに弱い【誘眠音波】を放ち続ける。
SPD   :    クレイジーマスカレイド
【美しく舞いながらの格闘攻撃】を発動する。超高速連続攻撃が可能だが、回避されても中止できない。
WIZ   :    迦陵頻伽の調べ
【破滅をもたらす美声】を披露した指定の全対象に【迦陵頻伽に従いたいという】感情を与える。対象の心を強く震わせる程、効果時間は伸びる。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 歌うような声がする。
 笑うような声がする。
 美しい月が見える、竜胆の花咲く丘はもはや血で染まっていた。
「本当だ」
「本当だ痛くない」
「ねえ、私も刺してみて」
「わあ、すごい血! けれども全然、痛くないわ!」
 まるで遊ぶように。新しい服を眺めるかのように。傷つけあう妖怪たちの間を縫うように、走る影があった。
「先生、こちらです」
「うむ、助かるよ、シロウサギくん」
「いいえ。けれども僕の薬も、もう尽きてしまいました」
 前を行くのは、真っ白な兎であった。兎といっても、柴犬ぐらいの大きさはある。そして背中に、何やら紐で大きな壺を括りつけて背負っていた。
「奇遇だね。私も似たようなものさ。早く月を目指さなければ」
 答えるのは、大きな熊だ。二足歩行で、白衣を着ている。黒ぶち眼鏡と、人間のようなひげが何とも知的さを醸し出していた。手には医療用のカバンを持っている。
「あの人たち、いくら僕の薬を使っても、すぐに怪我をしてしまうんです」
「まったく。痛みが見えないというのは困ったものだね。私の話も全く聞いてはくれなかったよ」
 治しても治しても、無駄なことだと熊は肩を竦め、兎はため息をついた。
「しかしそれもまた仕方がない。私たちには私たちのすべきことをするだけさ。……あの月を目指そう、シロウサギくん。あの月の雫を竜胆の筆で撫でて、また新しい薬を作らなくては」
「うう……。治しても治しても怪我されたら一緒だと思いますけど」
「何事も、あきらめてしまってはいけないよ。シロウサギくん。とにかく何があっても、前へ進もう」
「まあ、お客様だわ」
「あら、そうね」
 そんなことをしゃべりながら、忙しなく進む二人を、オブビリオンはもちろん見逃しはしない。
「大丈夫、痛くないわ」
「そうよそうよ。だからあなたたちも……」
 この世界を、血で染めましょうと。
 笑うとともに、美しい鳥たちは彼らに向き直った。


※マスターより
!ご注意!
今回の依頼は怪我率高くなっております。
ですので、そういうの嫌な人は参加をお勧めしません。
あ、プレイヤーさんは覚悟完了してるけどキャラクターはしてないっていうのは、大歓迎です。
だって怪我してないと看病できませんからね(ものすごい大事なこと言ってる顔)
大丈夫、骨が見えるような傷でも三章になったら治ります。大丈夫。

プレイング募集期間
9月13日8:30~15日20:00まで
また、無理ない範囲で書かせていただきますので、再送になる可能性があります。
その際は、プレイングが返ってきたその日の23時までにプレイングを再送いただければ幸いです。
(それ以降でも、あいていたら投げてくださってかまいませんが、すべてを書き終わっている場合は、その時間をめどに返却を始めますので間に合わない可能性があります。ご了承ください)

尚、メンテナンスや、重い(メール詰まり)等により、実際には時間内に提出はしたけれども、遅延して時間外に届いた、という場合は、容赦なく切って捨てます。
実際にそういうことがあったのですが、それを考慮しだすときりがないので(後、その時詰まってたかどうかとか、あとから確認できないので)。
お手数おかけして申し訳ございませんが、よろしくお願いいたします。
オズ・ケストナー
※血が出ません

だめだよだめだめっ
いたいのがわからなくても、しなないわけじゃないんだよ
どうして
刺し合う妖怪たちを慌てて止める
(おもちゃを壊すのとはわけがちがうのに
ううん、おもちゃだってわざと壊してほしくないけど)
みんな、自分のことも目の前の人のことも、だいじにして

兎と熊に気づけば
斧で庇い
そのまま走ってっ

ぜったいに守らなくちゃ
シャボン玉を作り
こっちだよ
速度をあわせびゅんと飛ぶ
ほら、おいかけっこしよう
どっちがはやいか勝負だよ

音波は速度を上げて回避を試み
頬を引っ張っても、痛みがないなら目は覚めない
あとは

真上に浮上し斧を構え
シュネーと糸で手と斧を括りながら落下
地面で挟んで逃げられないよう
意識のあるうちに



 彼らが丘にたどり着いたとき、その場所は異様な空気に包まれていた。
「次はこの切れ味を試してみましょう」
「では、これは……?」
 様々な妖怪たちが集まっては、傷つけあい。いつの間にか彼らは、極彩色の翼をもつ鳥に変じて空へと駆けあがっていく。
「……っ」
 その様子を、オズ・ケストナー(Ein Kinderspiel・f01136)は目を見開いて見守っていた。そして丁度、
「兎の皮をはぐのはどうかしら」
「ええ、ちょうどいい鞄に……」
 真っ白な兎へと包丁を握りしめて迫る妖怪。それに気付いた瞬間、その間にオズは飛び込んでいた。
「だめだよだめだめっ。いたいのがわからなくても、しなないわけじゃないんだよっ」
 慌てて止めようとする。ガジェットで出来た斧がぐるりと旋回して、その包丁を叩き落とす。
「どうして? けががなおるわけじゃないのに。元にもどるわけじゃないのに。どうして……」
 どうして、こんな。言いながらも、庇うようにシロウサギの前で両手を広げて、オズはじっと正面を見据える。
(おもちゃを壊すのとはわけがちがうのに……。ううん、おもちゃだってわざと壊してほしくないけど……っ)
 責めるような言葉になりそうなのを、ぐっとこらえてただどうしてと尋ねる。その言葉に、
「……?」
「どうして……?」
 どうして? 不思議そうに妖怪たちが顔を見合わせた。
「どうしてって……それは」
「それは……」
 どうしてだろうか。何か忘れているような気がする、と、妖怪たちが顔を見合わせた。その瞬間、
「……っ」
 徐々に徐々に、その手が変じていく。その背にあるはずのない極彩色の翼が現れる。姿かたちが塗り替えられるようにぱっくりと変化していく。
 みんな同じ。まったく同じ顔を持つ鳥の姿に……。
「どうしてなんて、意味のないこと」
「遊びましょう。……楽しめばいいのです!」
「ああ……。皆さん、皆さん……」
 オブビリオンへと変じた妖怪たちに、シロウサギが震える声を上げる。その姿を背中で叩きながらも、オズは後ろ手に手を伸ばした。
 ふわふわした怪我、その手に触れた。
「大丈夫……大丈夫だよ。ぜったいに守るから。ぜったいにみんなを元にもどすからね」
「はい……、はいっ」
「シロウサギくん!」
 背後のほうで、熊がシロウサギを呼ぶ声がする。それに気付いて、オズもまた走り出した。
「そのまま走ってっ!」
 いうと同時に、オズは今しがた鳥に変じた妖怪たちへと突っ込んだ。
 背後で草を踏み逃げ出す兎の足音を聞きながら、
「こっちだよ!!」
 シャボン玉のような膜を作り出す。それはオズを飛行可能にした。
「あそぼう。……ほら、おいかけっこしよう。どっちがはやいか勝負だよ」
 鳥たちの目の前を、掠めるように、挑発するようにわざと飛ぶ。
「! 勝負」
「勝負? 楽しそう!」
 案の定鳥は乗ってきて、オズと同じ速度で彼に並走するように走り出した。
(ぜったいに守らなくちゃ……っ)
 熊とシロウサギが逃げる方向を時々確認しながら、それを巻き込まないようにオズは飛ぶ。途中で彼らに向かう鳥を見つければ、それも鼻先をかすめるようにして飛んで、同じように遊ぼう、と声をかけた。
「捕まえた……っ」
「、まだ、掴まってないよ……!」
 一瞬。すれ違いざまに鳥が爪を走らせる。左足のあたりを爪が掠めて、ぱっくりと裂ける。
 ……血が出ない。それは、いつものコトだ。大丈夫。
 けれども、痛みも感じないのは。それは……、
「……シュネー、行こう」
 一瞬、意識が別のことに持っていかれた気がして、オズは首を横に振った。催眠の歌が、オズの思考の隙間に忍び寄ってくる。
「でも、足もぜんぜんいたくないし、ほっぺたひっぱっても平気だから……」
 ちらりと空を見上げて、オズはシャボン玉とともに急上昇した。
「……」
 上昇についていけない鳥たちが、オズを見下ろしている。
「……みんな、自分のことも目の前の人のことも、だいじにして」
 その顔が、さっきまで別の妖怪だったことをオズは知っている。
「しっかり……つかまっていてね!」
 シュネーと糸で手と斧を括りながら、オズはそのまま、勢いをつけて落下した。
 鳥たちがを落下とともに地面にはさんで逃げられないように。そしてそのまま、
「……っ」
 落下の衝撃で体が揺れる。そのまま……其のまま、意識が途切れるまで逃がしはしないとオズは斧を振るい続けた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ディフ・クライン
類(f13398)と共に

痛みがないだけで
命まで無限になった気になるのかい
痛みを忘れることは命を忘れることと同じか
それは、いけないね

うん、無理はしないよ
類もだよ?

まずは類が問題なく動けるように
その声、ミレナリオ・リフレクションで相殺しよう
戦場到着と同時に周囲をよく確認して学習し
練り上げた同じ声をぶつけ続けるよ

その上で類への攻撃は通さぬよう
出来る限り庇おう
友が後で痛むのは困るんだ
とはいえコアが傷つけられるのも困るから
この胸だけは負傷せぬよう気を付けて

無事撃破したら汚れを払い
類、大丈夫?
駆け寄る類に歩み寄り
変わらぬ表情に少し友を憂える目で

※痛覚鈍め。深手で初めて痛む
血ではなく赤い液体魔力が流れている


冴島・類
ディフさん(f05200)と

痛くなければ、怪我をしても良い
…逆でしょうに
警鐘が無いんだ、より注意しないと
命は脆いんだから

ディフさん
無理はなし、でいきましょうね

彼が対調べに集中できるよう
瓜江を先行
蹴撃で意識を引き陽動と
戦場に鳥に攻撃されそうな妖怪居ればかばい
敵の動き注視し放つ機を見切れたら、共有

隙を狙い業滅糸を放ち
負傷しても突撃して来そうだし
翼ごと縛り燃やしたい

なお攻撃してきたとしても
友に直撃させぬと
薙ぎ払いで逸らす
僕だって、貴方が後に痛むのはやです

負傷したら、動作確認し拭い
動ければいいけど
変な感じだな…

それより、だ
傷が気になる連れの元に駆け
常に涼やかだけど
だからこそ

※人同様に赤い血、痛覚も普通



「痛みがないだけで、命まで無限になった気になるのかい……?」
 竜胆の花が血で染まっている。
 それを何とも言えない思いで、ディフ・クライン(灰色の雪・f05200)は見つめていた。
「痛みを忘れることは命を忘れることと同じか……。それは、いけないね」
 静かな言葉にうなずいたのは、冴島・類(公孫樹・f13398)であった。
「痛くなければ、怪我をしても良い……。……逆でしょうに」
 何かを思い出すように目を細めて、類も小さく頷く。
「警鐘が無いんだ、より注意しないと。……命は脆いんだから」
 しみじみといった。その呟きはどこか遠くを見ているようであった。それからふと、顔を上げて、
「ディフさん、無理はなし、でいきましょうね」
 と、穏やかに類が微笑むので、ディフもほんの少し笑った。
「うん、無理はしないよ。……類もだよ?」
「はい」
 顔を見合わせて、確認をするように互いに小さく頷く。
 そうしている間にも、鳥たちは彼らを見つけて舞い降りてくる。
「ああ。新しい仲間でしょうか」
「なりましょう。仲間になりましょう」
 ともに踊ろうと、歌うように。
 またとないこの夜を楽しもうと、誘うかのように。
 響き渡る調べにしかし、類はついとその手を挙げる。
「瓜江、頼んだよ」
 濡羽色の髪持つ絡繰人形が前を向いて走った。それと同時に、ディフは周囲を一度、くるりと見回す。
「この声。この音……」
 音を学び、その波長を理解する。一呼吸遅れて、ディフから同じような音階の声が発せられた。
 それは、彼ら鳥たちの歌を消し去る音である。ぶつかり合い、相殺される音の中をからくり人形が走る。
「そちらには、行かせやしないよ……」
 別の妖怪を狙おうとしている鳥たちを、牽制するようにこちらにひきつけ。
 また自分のほうへと向かってくる敵を、からくりを操り回避させ。
 ディフが相殺し、類のからくりが狩る。そうやって、二人は数多の鳥を蹴散らす。
「ふふふ……」
「平気、平気!」
 とはいえ捌ききれぬ数というものがある。そのからくり糸をすり抜けて、傷をものともせずにかけてくる鳥たちも中にはいて、
「類」
 鋭い足の爪が類のからくりを操る手を掴もうと走る。それをディフが割って入る。代わりにと、庇うように差し入れた左腕が、みしりときしむような音を立てた。
「ディフさん!」
 みしり、みしり、みしり。
 痛覚は感じないが、血ではない。赤い液体魔力が流れだし、握りつぶされた腕が徐々にねじ曲がっていく。
「……友が後で痛むのは困るんだ」
「燃えよ、祓え……っ」
 それを冷静に見つめながら、ディフはそう言った。同時に類が指先を向ける。からくり糸から炎が生じ、ディフを掴んでいた鳥を燃え上がらせた。
 悲鳴は上がらない。けたたましい笑い声を発しながらも得ていく鳥の腕をようやく振り払って、ディフは後退する。それにほっとしたのもつかの間、
 ばさぁ、と別の鳥がその炎を掻い潜るようにして、突撃してきた。
「熱くない……痛くない」
「……っ、それでも……!」
 今度は類が前に出る番だ。からくり糸を薙ぎ払うようにして鳥にあてる。炎が発生するにも構わず伸ばされた鳥の拳が類の腹を直撃した。
「……っ」
 押しつぶされるような感覚。痛みは感じないがその鳥が己の脇腹の肉を掴んで引き裂いたのを類は見た。
「……僕だって、貴方が後に痛むのはやです」
 いうや否や、鳥はそのまま、燃やし尽くす。思わず類が腹に手をやると、なんだか骨に触れそうだったのでそれ以上深く考えるのはやめた。
「……動ければいいけど……。変な感じだな……」
 痛みは全くない。だからか、戦闘には支障はない。それがイイことなのか悪いことなのかわからない」
「類、大丈夫?」
 その言葉に、類ははっとして頷く。こちらに歩み寄ってくるディフに、類も駆け寄って、
「うん、それより、そちらこそ」
 変わらぬ表情に少し憂いをたたえてディフは類を見ると、類は首を横に振る。
「僕は大丈夫だよ。そっちは……」
「オレも大丈夫だよ。オレは、コアさえ傷つけられなければ、困らないから」
 この胸だけは負傷しないように気を付けてます。なんて、なぜかあっさり、奇妙にねじれた腕を放っておいていうディフに、
「……それでも」
 ええ。って、類も自分のことは棚に上げて、軽く頭を抱えるのであった。
「けれども、まだ終わっていないから」
「ああ、うん、それもそうだよね」
 気を引き締めなければ、というディフの言葉に類も小さく頷く。
 天には月が瞬いている。
 この赤い宴が終わるまで、まだしばらくかかりそうだ……。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

クロト・ラトキエ
痛くない…とはいえ、傷なんて御免――
ってなりません?
常日頃が平穏だと、ならぬものなのですかね…

痛みの種類を、強さを、深度を知り、
何が原因か、如何な影響があるか、どの程度の危険度か…
知識とし。早々に必要な対処を。
――体の信号を見逃すな。
それも又、生き残る為に叩き込まれた事。

舞ならば、体捌き。足運び、四肢の振り、視線等から狙いを見切り、回避を。
或いは躱し切る事が困難なら、初手のみ篭手で受け、流して、次手以降へ繋げさせず。
周囲の構造物も用い…UC。
痛みの、その先を以て止めたく。

合間を見。
自分の分の傷は目視で危険度を判断。
止血等、応急措置を取り、次へ。

…痛覚をアテに出来ないってのは、兵には何とも厄介だ


花剣・耀子
……そうね。
いたみは、いのちの幅のひとつだもの。
無くしてしまうことと堪えることは別なのよ。

望んで得たものなら好きにすればいいけれど、
誰彼構わずというのは頂けないわ。
はしゃぐのも程々になさいな。
薬屋さんも困っているじゃない。

妖怪たちを飲み込んでいっているのなら、騒ぎの大きい方へとゆきましょう。
その只中へと踏み込んで、見える限りのオブビリオンへ向けて【《花剣》】
速く飛ぶなら、その行き当たりに刃を置きましょう。
痛みで止まらないなら、止まるまで斬るだけよ。

元よりいたみに頓着する性質でもないけれど、
まったく無いのも変な感じね。
……いいわ。あとのことは、あとのこと。
いつものことを、いつも通りにやるだけよ。



「痛くない……とはいえ、傷なんて御免――、ってなりません? 普通は」
 うーん? とそういって、クロト・ラトキエ(TTX・f00472)が首を傾げれば、
「……そうね。いたみは、いのちの幅のひとつだもの。無くしてしまうことと堪えることは別なのよ。なのに……」
 花剣・耀子(Tempest・f12822)も小さく呟いて僅かに視線を下げた。何か考え込むような間の、後で、
「……止めなければいけないわね」
「そうですね……。常日頃が平穏だと、そういう刺激的なものを求めちゃうものなのですかね……」
 なんともやりきれない話だと、二人して顔を見合わせ肩を竦めたところで遠くで声が聞こえてきた。えいさ、ほいさ、えいさ、ほいさと。この状況なのに、どこか呑気に走っていく、熊と兎の取り合わせ。そして……その後ろを追いかける。美しい羽根を持つ鳥たち。
「可愛い兎、可愛い兎、皮をはいで海につけてみましょう」
「熊さん、熊さん、その鋭い爪でひとつ勝負をいたしませんか?」
「ひぇぇ。先生、なんか僕背中がむずむずしてくるんですがぁぁぁ」
「シロウサギくん、喋っている間に走り給え」
 そんなやり取りが耳に入ってきて、輝子はクロトのほうを見る。クロトも小さく頷いた。
 鳥が一度上昇する。それから勢いをつけて、一斉に降下してきた。耀子が飛び込む。その手に武骨なチェーンソーを握りしめ……、
「……望んで得たものなら好きにすればいいけれど、誰彼構わずというのは頂けないわ」
 けたたましい機械の駆動音とともに、一閃。鳥の足を即座に切り落とした。
「はしゃぐのも程々になさいな。薬屋さんも困っているじゃない」
「そうそう。どうぞあなたのお気に召すまま、とはいえ、こんな非道はさすがに許すことができませんね。もふもふの毛をはぐなんてもったいないですよ」
 耀子と同時に、軽妙な口調でクロトの敵の前へと滑りこむ。そのまま鋼糸を翻せば、まさに熊へとつかみかかろうとしたその腕をねじ上げ、振り落とした。
「お……っ、と」
 しかし鳥もただやられることはない。引っ張られれば躊躇うことなく足をクロトのほうへと払う。庇うように出した左腕にぱっと血が走って、クロトはおや、といささか驚いたように目を見開いた。
「本当に……これは全く痛くないんですね」
「感心している場合!? 二人とも、今すぐここから離れてね!」
 驚いたように声を上げるクロトに、耀子がそう声を上げる。
「わ、わかりました。ありがとうございます……!」
「お二人も、気を付けるんだよ……!」
 走っていく二人組を横目で見ながら、クロトは鋼糸を翻した。
 痛みの種類を、強さを、深度を知り、何が原因か、如何な影響があるか、どの程度の危険度か……、
 敵の強さを、刃の鋭さを。そのすべてを知識とし。早々に必要な対処を知るために……、
「うーん。困りました。痛みがないだけでこうも鈍りますかね」
 何でもないことのように言って、クロトは首を傾げる。耀子が眉根を寄せて、正面の敵を叩き伏せた。
「……あたしの技は巻き込むから、先に行くわ」
「うん、気を付けてくださいね。あの二人は見守れるところまで、責任を持って見守ります」
 耀子の言いたいことを察して、クロトが言うと、耀子はほんの少し笑って走り出す。その背中を少しの間見送りながらも、
「――体の信号を見逃すな。か。見えづらくなってるけど……」
 たとえ痛みが消えても、消えたのであれば他の感覚すべてを使って補うしかない。
 押し寄せてくる敵の前で、クロトは静かに一度、呼吸を整えた。
 囀るような笑い声。極彩色の翼がクロトの目の前に落ちてくる。
「遊びましょう」
「ねえ……遊びましょう」
 もはや応えることもない。クロトはその体裁きを、足運びを。四肢の振りを見て、そして視線を見て。すべての動きを受け取て、
「これも又……、生き残る為に叩き込まれた事、ですね……」
 一撃。
 鋭い拳を、暗色の強化手袋で受け止めた。
 傷ついた場所に負荷がかかったのか、再び血が流れる。それでもかまわない。押し流すようにしてクロトは初撃を回避する。いつの間にかその顔から表情が、消えた。
「断截。……痛みの、その先を以て止めたく」
 そうして、遍く張り巡らされた鋼糸が四方八方から鳥の身体を切り刻み、そしてその地へと落とすのであった。
(……傷が深いな。だが……まだ歩ける)
 まだ動く。まだ……戦える。
 目に見える範囲での敵を屠れば、即座に己の状態確認に入る。左腕はそれなりに深いが、まだ武器は扱えるだろう。さっくり止血をして、再び彼は走り出す。
「……痛覚をアテに出来ないってのは、兵には何とも厄介だ」
 色のない声音で、どこか苦々しげにつぶやくのを、
 月だけが、見ていた。

 耀子は走った。
 鳥たちが騒いでいた。
「……もっと」
 爪が耀子の肩を掠る。ぱっと血が流れるのも構わずに、耀子は走る。ここだと……巻き込んでしまうから。
「もっと、騒ぎの大きいほうへ……」
 それはすなわち、敵の多いほうへ、ということであった。
 真白の月が昇る中、耀子は竜胆の丘を駆ける。血まみれの丘を進み、進み。
 戯れるように右の脹脛に爪が突き刺さっても、
 拳が彼女の手を引いて骨にひびを入れても。
 構わず、彼女は走った。
「元よりいたみに頓着する性質でもないけれど、まったく無いのも変な感じね」
 ふう、と、遊ぶように笑う鳥たちに、耀子はほんの少し、ため息をつく。
 たどり着いたのは見晴らしのいい丘のてっぺんだ。風が吹いて、遠くに湖が見えている。
「……いいわ。あとのことは、あとのこと。いつものことを、いつも通りにやるだけよ」
 すう、と耀子は深呼吸をして、
「……散りなさい。……花を散らし、草を薙ぎ、すべてを平らげてみせましょう」
 無数の白刃が、耀子から円を描くように飛び出した。目に見えるすべてのものをまんべんなく、区別なく切り刻むその刃に、
「……痛みで止まらないなら、止まるまで斬るだけよ」
 丘の上で彼女はそっと、その髪をかき上げた。
 彼らが細切れになるまでの時間なんて、きっと、あっという間のことだろう。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

都槻・綾
薬師さん達の進路を塞ぐもの、背後や不意打ちを狙うものなど
第六感で先んじて対処
護れるよう立ち回り

扇状に開いた符を薙いで生じる衝撃波で
敵攻撃を払い躱し
己が傷つくのも厭わず駆けて踏み込み
符を突きつける

視線が合う一瞬の間
薄く笑って
逃さぬように高速詠唱
朗と謡いあげるは花筐

途端に符が爆ぜ
朱赤の花弁となって錦の翼を血赤に染める

血飛沫の如く舞い散る羽根も花嵐も
鮮やかないのちの彩

己の傷からも滴る赤は
ひとの身に顕現する上で
「別に無くても良い」ものだったけれど
主を写した姿には
きっと似合いの色だろう、なんて
他人事のように思えるのは
痛みを感じぬ所為か
心の痛みさえも麻痺したのか

いのちを零す傷痕を
感情の燈らぬ眼差しで見遣る



 翼の音がして、都槻・綾(糸遊・f01786)は顔を上げた。
 麗しい羽根が舞い降りてくる。いつもならば風情があると、目を細めて喜ぶかもしれないその色はしかし、
「こんなところに」
「こんなところにもまだ、いるなんて!」
 鮮やかな血で染まっていた。血に濡れた羽で鳥たちは空から降りてくる。目指すものを察して、綾は扇状に開いた符……、紅糸で五芒星、六芒星が縫い綴られた薄紗を翻した。
「遊びましょう」
「あなたも同じになりましょう」
「ひゃああああっ」
 綾は駆ける。駆ける先には白い兎と大きな熊。そのメルヘンさになごむ前に、綾は符を薙いだ。
「!」
 衝撃波が二者の間に割り込む。吹き飛ばされる鳥たちと、シロウサギたちの間に滑り込むようにして綾は立ち符を突きつける。
「あ……っ、ありがとうございます」
 お礼を言うシロウサギに、綾は小さく、頷いた。
「お行き。決して、振り返ってはいけないよ」
 優しく言う。言うと同時に既に視線は鳥へと向かっていた。クマがシロウサギを促して、立ち去っていくのを気配で感じながらも綾は敵から目は離さない。
「……」
「……」
 視線が合う一瞬の間、
 綾は薄く笑った。
 それだけで、何を察したのか。
 にぃ、と、本当に楽しげに、鳥も笑みを彼へとむけるのであった。
「いつか見た――未だ見ぬ花景の柩に眠れ……」
 即座に綾は詠唱を開始する。まるで歌うように、ささやくように。逃さぬように。そんな暇すらも与えぬように、
「遊びがご所望でしたね。……ええ、ええ、相手になりますとも」
 いうと同時に、符が爆ぜた。舞い落ちるのは朱赤の花弁。鳥たちが纏う値よりもなお鮮やかに。雨のように風のように、鳥たちへと降り注いでいく。
「ふふ……」
「ふふふ」
 笑みは、誰のものであったか。花弁によって傷つけられた翼はさらに、さらに、赤く染まっていく。
「綺麗な景色」
「ええ。その通りですとも」
 歌うようなささやくような声に綾もそれを肯定する。舞い散る花びらを、その血をものともせずに、鳥たちは綾の元へと飛び込んでくる。
「踊りましょう」
「素敵な夜を」
「なんてなんて素敵な夜!」
 歌声とともに繰り出される拳での一撃を、綾は数歩後退して避ける。そのままさっと右手を掲げた。その右手に別の鳥の爪が突き刺さる。腕を串刺しにされながらも、綾は手にしていた符をぱちりと弾く。
 弾くと同時に、花弁が散る。赤い花びらはもっと赤い血の雨を作り出す。それをぼんやりと綾は見つめた。
 ……これは、ひとの身に顕現する上で、「別に無くても良い」ものだったけれど……、
 腕を串刺しにしていた鳥が、花弁を全身に受けて消えていく。骸魂が抜けて、取りつかれていた妖怪がどさりと地面に落ちれば、自然と突き刺さっていた爪も消え失せた。
 ……後にはただ、赤い血が流れるだけだ。
「……」
 主を写した姿には、きっと似合いの色だろう。なんて思っていたのだけれど。
 いざこうして見つめると、何も痛まないからか、それともなにの理由があるからか。
 感情すらも、思い浮かばずに。
 綾は感情の燈らぬ眼差しで、その傷を見遣っていた。
 けたたましい笑い声が聞こえて、綾は振り返る。振り返ると同時に左の肩にも衝撃が走る。……走るだけで、痛くはない。ぱっと切り裂かれて飛び散る手を、ただただ見つめて、
「……まあ、兎角」
 片付けましょうか、と。小さく呟いた。小うるさいですしね。なんて呟くその顔は、やっぱり何の感情もこもっていなかった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

アヤネ・ラグランジェ
【橙翠】
痛みのない世界とは少々厄介だネ

ソヨゴ試すのはやめて
僕は大概距離を取っているけど
ガンガン攻めているのはいつもの君じゃないか
はあ
毎回心配しているんだからもう

敵の動きは早い
でも単純で読みやすい
まずはライフルで狙い撃ち
近づいてきたらすかさず大鎌を取り出して迎え撃とう

ソヨゴの動きがいつもより鈍い
怪我をしているのに気付いていないの?
いたたまれずに前に出てソヨゴを庇う
ソヨゴしっかり!目を覚まして

怪我?
手についた血を見て思い出す
ソヨゴに出会う前の僕は痛みも苦痛も感じなかった
いつの間に痛みを覚えたのだろう

僕は大丈夫だソヨゴ
もうやり方を思い出した
大鎌を構えてソヨゴの側へ
無茶をするなって言ってるのに
もう


城島・冬青
【橙翠】

…(頬を抓る)
おお!痛くない
すごい!
でも感覚が鈍ってるようで気持ち悪いな
アヤネさん
接近されたらすぐに対応できるよう構えつつ
なるべく相手を距離をとって戦いましょう
いくら治るといってもガンガン攻めちゃダメですよ?
……はい私も気をつけます
本当ですってば
耳が痛いよ〜

敵は空を飛んでいる
よし、衝撃波で追い立てて
敵の気を逸らせたらその死角からカラスくんをぶつけて攻撃するよ

…あれ、なんか眠くなってきたかも
これがUC?
普段なら負傷した痛みで眠気も飛ぶけど
今はその痛みがない…まずい
?!アヤネさん!
アヤネさんの身体から流れる血を見て一気に意識が覚醒

お前…よくも!
渾身の力で刀を振るい
目の前全ての敵を斬り捨てる



「……」
 城島・冬青(六百六十九番目の宿木・f00669)は、頬をつねった!
「おお! 痛くない! すごい!」
 まるで粘土細工をこねているかのような感触だ!
「でも感覚が鈍ってるようで気持ち悪いな。ほらほら、アヤネさん、アヤネさーん」
「痛みのない世界とは少々厄介だネ。この世界はきっと……って、ソヨゴやめて。試すのはやめて」
 まじめな考察をしようとしていたアヤネ・ラグランジェ(十二の結び目を解き放つ者・f00432)は、冬青の呑気な言葉に慌てて顔を上げる。むにむにむに。と、自分の頬をこねくり回す冬青は、なんだかすでにほっぺたが赤くなっていた。
「だって、アヤネさんが危ない目にあったら大変だから、確認できることはしておかないといけないじゃないですか」
「僕は大概距離を取っているけどガンガン攻めているのはいつもの君じゃないか。ソヨゴがそんなでどうするの。はあ」
「ええー」
「これでも、毎回心配しているんだからもう」
 むにむにと頬をさするアヤネに、そうだったのか、と、冬青は若干驚いたような顔をする。今初めて知りました、みたいな顔は、ちょっとアヤネのハートが傷つくからやめてほしい。
「そんな、心配されるのはうれしいですけれども、私はこれで結構丈夫ですからね!? ええとええと……」
「はい、おしゃべりはそこまで。来たよ」
 これ以上墓穴を掘る前に、アヤネは冬青の鼻先をつついて止める。それと同時に二人へと舞い降りてくる翼の音がして、二人は顔を上げた。
「おやおや、楽しそう」
「本当、楽しそう」
「仲間に入れて」
「一緒に一緒に、遊びましょう」
 遊んでいるかのような二人に、同様に遊びに誘うように声をかける鳥。未だ空中にいる彼らを見て取って、アヤネは応えずにアサルトライフルを構えた。
「遊んであげるさ。……あげるとも」
 そういいながらも、アヤネの銃弾が飛翔する鳥へと叩きつけられる。絶え間なく吐き出される弾丸に交えるように、冬青がえい、と手を掲げた。
「空を飛んでいるなら……落ちてきてもらうよ!」
 それ! というと同時に、衝撃波が放たれる。銃弾と衝撃波で敵が驚いたようにひるんだ……その隙に、
「カラスくんと遊んで下さい!」
 見えない鴉が鳥へと襲い掛かった。激突した見えない鴉に。はたまた銃弾に撃ち抜かれて。鳥たちは地面へと落下していく。落下すると同時に、その姿は消えて他の妖怪の姿と変わった。
「骸魂が吐き出されたネ……!」
「アヤネさん、正面、来ます!」
 しばらくはそうして距離をとっていた二人であったが、次から次へと飛んでくる鳥にそうもいっていられなくなる。ついに接近して地上へ降りてきたその姿を見て取って、アヤネはウロボロスの大鎌を構える。
「いくら治るといってもガンガン攻めちゃダメですよ?」
 同じく花髑髏を握りこんだ冬青が、なんか当然のような顔をして言うので、
「どの口がそれを言うのかな?」
「……はい私も気をつけます」
「本当に?」
「本当ですってば! 耳が痛いよ〜」
 当然のごとく反撃されながらも、二人は再び戦いの中にその手を動かし、敵を倒し続けるのであった。あった……が、
「……あれ、なんか眠くなってきたかも」
「とか言ってる矢先にこれだー!!」
 何度目かの敵を切り伏せたときに、冬青が思わずつぶやいた。敵から出る催眠攻撃が……そういえば……あった気がする。
(あ……。そっか。普段なら負傷した痛みで眠気も飛ぶけど……、今はその痛みがない……まずい)
 ふらふらと頭が揺れる。この数、この相手の中でそれは致命的なミスにつながる。頭では分かっているのに、止められない。拳が冬青のみぞおちを打ち、爪が足の肉を裂く。だというのに冬青の頭の中では、今夜のパジャマのことが頭をかすめるのだ。
「ソヨゴ、ソヨゴ、怪我をしているのに気付いていないの? 来るよ、前を見て!」
「はい、大丈夫です。私……、寝る前にテレビを見て……」
「ソヨゴ!!」
 ぜんっぜん大丈夫じゃない。鳥の一匹が爪を冬青の頭狙って振り上げた瞬間、たまらずアヤネは飛び込んだ。
 ざくんっ。
「ソヨゴしっかり! 目を覚まして」
「?! アヤネさん!」
 目の前が真っ赤に染まった。
「アヤネさん、血が……血が! けがをしてます、けが……! 頭……!」
「怪我?」
 言われて、頭に手をやる。べっとりとその手には血がついていた。
 ……けれども、不思議なくらい痛くはなくて。……辛くもなくて。
 だから、アヤネは、こんなことを思い出した。
「ソヨゴに出会う前の僕は痛みも苦痛も感じなかった……。そう、ちょうど、こんな風だった……。いつの間に痛みを覚えたのだろう」
「そんなことどうでもいいですから!!」
「!?どうでもよくなんて全くないよ!!」
 思わず漏れた呟きに、とんでもない台詞が返ってきてアヤネは目を見開いた。だが目の前には真剣な冬青の姿。
「大事なのは今のアヤネさんの怪我です!!」
「……僕は大丈夫だソヨゴ、もうやり方を思い出した」
 冬青の言葉に、アヤネは小さく頷いて大鎌を構える。
「兎に角、先にこいつらを倒しちゃおう」
「は……っ! そうでした! お前……よくも!」
 ゆっくり話すにも敵を倒してからだと、アヤネが言うとはっと冬青は顔を上げる。そしてまた、
「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
 全力で声を上げて敵陣の中に突っ込んでいった。
「ほんと、聞いてないよね、ソヨゴ。……あーあ、無茶をするなって言ってるのに……、もう」
 あんなに全力で走っていって、どこもかしこも傷だらけだ。
 もちろん心配に決まっている。決まっている……けれど、
「アヤネさんの仇! ぼっこぼこにしてフライドチキンにしてやるんですから!!」
「いやいや、死んでないって」
 ちょっと、笑ってしまったのは、もう仕方のないことだろう。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

灰神楽・綾
【不死蝶/2人】
よくあるRPGの世界でも
HP1まではぴんぴん動いて、0になった瞬間に死ぬよね
今回もそんな感じなのかなぁ
俺としては痛みが無いなんてまっぴらごめんだね
特に殺し合いなんてのは、痛いからこそ
生きている心地を感じられて楽しいというのに
歯を食いしばって痛みに抗うのが最高なのに

まずは自身の手を斬りつけUC発動
…うわぁ、本当に痛くない
包丁で食用肉を斬っただけのような感触
そこまでまず若干テンションを削がれつつも
Duoを構え敵の群れに飛び込む

敵に攻撃されてもただ撫でられたみたい
実際は血も出てるし痣も出来てるんだけどね
特に避けることもせず次々と薙ぎ払っていく
なんだかすんごい雑魚を相手にしている気分…


乱獅子・梓
【不死蝶】
痛みが無くなっても、別に不死になるわけじゃない
自分が死にそうなことにも気付かず
笑顔のままでぽっくり死ぬ、だなんてぞっとするぞ…
あー、うん、お前はそう言うと思った
これは黒幕倒したあとも地獄絵図が待ってそうだな…

UC発動し、炎属性のドラゴンを召喚
数に物言わせて、ブレス攻撃で次々と焼き鳥にしていく
俺は成竜の焔の背に乗って綾の元へ行きサポート
綾の死角から迫る敵を焔のブレスや頭突きで蹴散らす

普段から無茶な戦い方をする奴だが
今回は本当に突然ぶっ倒れてもおかしくないからな…
明らかに傷が増えているのに
全く意に介さないようでハラハラする

という自分自身や焔にも
少しずつ傷が増えていることに気付いていない



「よくあるRPGの世界でも、HP1まではぴんぴん動いて、0になった瞬間に死ぬよね。今回もそんな感じなのかなぁ」
 灰神楽・綾(廃戦場の揚羽・f02235)が割と平然として言った言葉に、乱獅子・梓(白き焔は誰が為に・f25851)は非常に嫌そうな顔で肩をすくめた。その眼を見ることはできないが、うへぇ、という顔をしているのがとてもよくわかりそうな仕草であった。
「痛みが無くなっても、別に不死になるわけじゃない……。自分が死にそうなことにも気付かず、笑顔のままでぽっくり死ぬ、だなんてぞっとするぞ……」
 ああうんマジでマジで。想像してあずさも震えてきた。ある日突然数歩歩いてばったり死ぬのなんて嫌すぎる。と、己の手で両腕をさすって寒気を消す梓に対して、
「俺としては痛みが無いなんてまっぴらごめんだね。特に殺し合いなんてのは、痛いからこそ、生きている心地を感じられて楽しいというのに。歯を食いしばって痛みに抗うのが最高なのに」
「……」
 何やら矢鱈熱のこもった口調で語る綾に対しても梓は若干引かないでもない。何だろう。痛みがないのがごめんなのは同意できるのだが、そこから先がまたなんか全く別のこだわりというか強い思いというかそんなものを感じられるのだ。がりがりと梓は頭を掻く。
「あー、うん、お前はそう言うと思った。これは黒幕倒したあとも地獄絵図が待ってそうだな……」
「まあまあそういわずに。頑張ろうね、梓」
「いや、何をだよ」
 死闘を頑張る趣味は梓にはない。でもたぶん言っても聞いちゃくれないだろうな、みたいな顔を梓はしていた。そんな半眼の梓の顔に気付いているのかいないのか、
「……うわぁ、本当に痛くない」
 まずは小手調べ、とばかりに綾は小型ナイフでさっくり自分の手を切りつけていた。
「いやそれ……そこまで思い切る意味あるのか!?」
「ないけど、せっかくだから」
「せっかくだから!?」
「でもだめだね。包丁で食用肉を斬っただけのような感触しかしない。どちらかというと牛肉より鶏肉のイメージかもしれない。目の前に鳥がいるからかな?」
「いや、そんなこと俺に聞かれても!?」
「あああ。テンション下がるねー」
 もはや駄々っ子。くだをまく綾にこのダメな大人どうしよう……と言いたげな梓の表情である。しかし気を取り直すように梓は咳払い、
「集え、そして思うが侭に舞え! ほら行くぞ、しゃきっとしろ」
 ぶわーっ。と現れる炎のドラゴンを前に、梓は腕を組んで胸を張る。いつぞやは全然ダメダメくんだったドラゴンだが、今日は頼もしい味方だ。
「薙ぎ払え! 鶏肉は鶏肉でも焼き鳥だ!」
「あー。はいはい。ちゃんとついてきてねー」
 炎ノブレスが近づいてくる鳥を飲み込んでいく。その様子にやる気がないと言いながらも綾は顔を上げる。黒地に赤と赤地に黒。一対の大鎌に血を流し込み強化して、両手に構えて敵の群れの中へと突っ込んだ。
「赤い、赤い?」
「炎ね、炎」
 歌うように鳥たちが待っている。隣の仲間が炎に焼かれてもまるで気にも留めないようだ。
 因みに、倒された敵は羽が残っている場合は羽を残して。残っていない場合は散りすらも残らずに消滅する。そしてそこからとらわれていた妖怪たちが現れるのだが、二人にはあんまり関係がない。
「大丈夫、痛くない」
「暖かい、温かい」
「梓梓、火力調整が弱くなってない?」
「なってないっつーの」
 勿論、異常なのは鳥のほうであるが、綾の口からはそんな言葉が漏れる。鎌を薙ぎ払い、それでも肉薄してくる敵が綾の腹を叩く。それと同時にもう片方の鎌でその鳥の身を貫く。
 骨の砕けるような音は自分の腹から。
 首を撥ねたのは綾の鎌である。
 血が飛び散り。それでも悲鳴ひとつ上がらないその状況。
「あー……。攻撃されてもただ撫でられたみたい。なんだかすんごい雑魚を相手にしている気分……」
 ほんとテンション下がる、とでも言いたげな綾であったが、
(ちょ、もう、普段から無茶な戦い方をする奴だが、今回は本当に突然ぶっ倒れてもおかしくないからな……)
 敵の数は多く、あえて突っ込んでいく綾はいつもより怪我が増えてきている。これ以上攻撃を受けたらあの右足は大丈夫なんだろうかと思いながら、梓は成竜の焔の背に乗って、綾の背後に回り込もうとする敵へと突進した。
「……っ、と」
 跳ね飛ばす。それと同時に走る刃が梓の右腕を傷つけたが、かまわず梓は追撃してその敵を引きつぶした。
「……ハラハラする」
 思わずつぶやいた梓の言葉に、返答などはない。
 そして……知らずのうちに己の身体も傷が増えていくことすら、梓は気づいていなかった……。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

叶・景雪
アドリブ歓迎
難しい漢字は平仮名使用
名前以外カタカナはNG

ぼくも本体は刀だからかいたみににぶい(激痛耐性)し、そのせいけがに気づかない時もあるから…
「人の体って楽しいこともいっぱいだけど、ふべんなこともいっぱいかなぁ?(むむむ」

ぼくの知ってるあやかし…ようかいさんは悪いことばっかりしてたから、こういう世界もあるって知っておどろいたけど、なかよくなる前にいなくなったら大変だから……がんばるね!(ふんす!

いつも通りの感覚で応戦
敵が舞いながらおりてきたら、本体で迎えうつね!つばさをねらって『傷口を抉って』、『吹き飛ばし』てみるよ!上手くいったら舞風でこうげきするね。
ぼくの舞とどっちが上手か勝負だよ!


ティア・レインフィール
リュカ様が仰る通り、人にとって痛みは必要なもの
例え辛くとも、生きているからこそ痛みは感じられるのですから

シロウサギ様達を守る為、彼らと敵との間に入ります
……夥しい血の匂いに、一瞬衝動を感じたのは
普段は聖者の力で抑えた、ヴァンパイアの血のせいでしょうね

それでも私は人として、人々を守ると決めたのです
だから、血は吸いません

神に【祈り】を捧げ、精神が【落ち着き】を取り戻すよう深呼吸
悲愴の葬送曲を【歌唱】します

声には声を、歌には歌で対抗するまでです
【破魔】と光の【属性攻撃】を込め、歌い続けます

今だけは、痛みが無いのは都合が良いですね
どれだけ傷付いても、歌を止めてしまう事は無いでしょうから



 月が明るく輝いている。
 竜胆の丘をかけるその姿は、おとぎ話のようであったろう。
 そんな月からやってきたかのように、舞い落ちるのは極彩色の羽。
 そして……、

「……!」
 ばさり。と、羽音とともに血が舞った。
 美しい羽根の下から拳が走り、ティア・レインフィール(誓銀の乙女・f01661)の喉元を切り裂いた。
「君……!」
「大丈夫です。先を、お急ぎください」
 熊が足を止めようとするのを、ティアは片手で制した。致命傷は、紙一重だ避けた。どくどくと血を流す首筋に手を当てながら、ティアは目の前を見据える。
「……大丈夫です。――皆様に、神のご加護がありますように」
「……あいわかった。君も気を付けるのだよ」
 一瞬であった。一瞬で熊は頷き、シロウサギを促して走っていく。それを背中で守りながらも、ティアは目の前の敵を見上げる。
 天より舞い降りてきたそれは、いったい何をしてきたのか。
 すでに己か、他人かもわからぬ地でその身を染めて、ただただ楽しそうにティアを見下ろしている。
「……っ」
 その血の匂いに、めまいがする。普段は聖者の力で抑えた、ヴァンパイアの血が口に出すのもおぞましい衝動を引き起こす。
 息を吸う。……上手く吸えない。そう思った、その時、
「たー!!!」
 どーん、と。
 ティアを守るように、今にも舞い降り彼女に襲い掛かろうとする敵に向かって突進したのは叶・景雪(氷刃の・f03754)であった。
「そ……れ!」
 翼の付け根を狙った一撃に、鳥はけたたましい笑うような声を上げて地に伏せる。ぶわっ、と舞うのは極彩色の羽、羽、羽。死に際に景雪の肩口を爪でえぐり、落ちて倒れれば羽を残してその姿は消えていた。
 あとから現れたのは、骸魂に捉えられていた妖怪である。意識はないようで、
「だ、大丈夫!?」
 まず景雪がティアに問うた。ティアはそれではっ。と我に返って、
(……、私は人として、人々を守ると決めたのです。だから……、血は吸いません)
 神に祈りをささげて、ティアは心を落ち着かせる。深呼吸をして、ありがとうございます。と一礼した。
「助かりました」
「いえいえ、こまったときはおたがいさまだよ!」
 ティアの言葉に、ちょっと景雪は照れたように笑う。そうして何か言おうとする、その間もなく。再び鳥たちが二人の間を取り囲んでいた。
「こんなところにも」
「あそぼう、あそびましょう」
 どこか壊れたように笑う鳥を、景雪は見上げる。
「ぼくの知ってるあやかし……ようかいさんは悪いことばっかりしてたから、こういう世界もあるって知っておどろいたけど、なかよくなる前にいなくなったら大変だから……がんばるね!」
 舞い降りてくる鳥たちに、景雪も負けじと手を掲げる。
いちげき必殺、とはいかないけれど。そのぶん、手数でしょうぶだよ!」
 己の本体、担当の複製を大量に作り出し、そのまま操り鳥たちを迎え撃つ。体に刀が刺さっても、全く気にせず迫ってくる鳥たちに、
「主よ。願わくば、彼の者の魂に永遠なる安息を――」
 ティアが唇を開いた。そんな言葉とともに零れ落ちるのは歌声だ。悲愴な聖歌による魂の浄化は、傷ついた鳥の骸魂を妖怪たちから引っぺがしていく。
「声には声を、歌には歌で対抗するまでです……!」
「ぼくだって、がんばるよ……! ぼくの舞とどっちが上手か勝負だよ!」
 歌声で浄化し、担当が突き刺していく。
 むろん、鳥たちも負けてはいない。鳥の拳がティアの方のあたりを打つ。それでもティアは歌声を止めなかった。
「今だけは、痛みが無いのは都合が良いですね。どれだけ傷付いても、歌を止めてしまう事は無いでしょうから……」
 歌の合間に、思わずつぶやくティア。相変わらず首からは血が流れているし、肩は何か骨が砕けるような音がしていた。それでも、全く何にも感じずに、歌うことができるのだから不思議なことだ。
「……ぼくも本体は刀だからかいたみににぶいし、そのせいけがに気づかない時もあるから……」
 その言葉を聞いて、景雪は首を傾げる。自分はそんなだから、あんまりこの異様な世界に気付くことができなかった。うーん、と己の掌を見ると、真っ赤だった。
「わ」
 気づくと、己の両腕がぱっくりと縦に避けている。爪でえぐられたのだろうか。
「人の体って楽しいこともいっぱいだけど、ふべんなこともいっぱいかなぁ?」
「そうですね……。人にとって痛みは必要なもの。例え辛くとも、生きているからこそ痛みは感じられるのですから……」
 今の私が言うと、説得力がありませんか、とティアは微笑む。
「うーん……。でもぼくもいっしょだから、よくわからないよ」
 その言葉に、景雪もまた、笑うのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

夏目・晴夜
随分と野蛮な舞ですねえ
このハレルヤへの供物としては如何なものかと

あ、そうか。痛みを感じないんでしたね
うわ、痛くないのって物凄く良いですね…!
どんな怪我を負っても余裕で動きまくれるではないですか!
気持ち悪い傷でも見なけりゃいい話ですし
え、何か不都合あります?

まあ、だからといってハレルヤの貴重な血を無駄に流すつもりはありません
美しい舞とやらに対する【武器受け】や【カウンター】での回避や反撃は勿論、
『恋う欲求』に敵を【串刺し】【傷口をえぐる】のも抜かりなく行って参ります
より回避し易くなるように【目潰し】でその目も無くしておきましょうか!
痛くなくてもハレルヤに怪我を負わせた事への代償は払って頂きますよ


コノハ・ライゼ
痛みがない世界、って実際目にしてしまうとナンというか……シュールってヤツ?

まだ無事なコ達がいるならせめて怪我しない様*庇いましょか
もとより痛みは気にしない性質だから
手足が捥げるとか物理で動かなくなるまで気付かなさそうではあるのよねぇ
最悪命だけは落とさないよう急所は*オーラ防御で守っとくヨ

さて、痛まずとも血は流れるし【黒涌】でくーちゃん生んで
速い敵にも当たるよう命中重視で嗾けるわネ
骸魂の生命だけを*吸収出来るとイイわ
眠くなったらくーちゃんにはたいてもらおうカシラ

赤に溢れた世界はもっと満たしてくれると思ったりもしたけれど
ナンだか食事を粗末にしてる気分になるのよねぇ
だからさっさと、取り戻すとしマショ



「随分と野蛮な舞ですねえ。このハレルヤへの供物としては如何なものかと」
 夏目・晴夜(不夜狼・f00145)はなんか両腕を組んでえらく自信満々にそう言い切った!
「まあ? この素晴らしきハレルヤに対して敬意を表し、何らかの贈り物をしたいというのは理解できますとも。ええ。理解できますとも! そして贈り物とはモノだけにあらず。自分のできる最大限をささげることもまた、素晴らしい贈り物となることはわかってはいるのですよ。しかしですね、このハレルヤ、愛と平和の使者であることには間違いなく、このような血に染まった世界など頂いてもいってー!?」
 ずべし!
 なんか物凄い勢いで頭をはたかれたので、晴夜は思わず声を上げた!
 そう、思わず反射的にそう声をあげてのだ。頭に手をやると、なんだか若干ぱっくり切れて血が流れてる気がしないでもないようなそうでもないようないややっぱりそうなような……、
「あ、そうか。痛みを感じないんでしたね。うわ、痛くないのって物凄く良いですね……!」
 思わずらんらん、と、目を輝かせる晴夜であった。頭から血を流して血まみれの状態であるというのに割と元気である。
「これはすごい! どんな怪我を負っても余裕で動きまくれるではないですか! 気持ち悪い傷でも見なけりゃいい話ですし!!」
「……」
「え、何か不都合あります?」
 はて。と、謎のテンション上昇によってまくし立てていた晴夜であったが、視線を感じてふと振り返った。一連の行動をすべてたまたま目撃してしまったコノハ・ライゼ(空々・f03130)はええ。と、いうべき言葉に一瞬迷った様子で、
「痛みがない世界、って実際目にしてしまうとナンというか……シュールってヤツ?」
 何だろうこれ。と、思いながらもはい、とハンカチを出して軽くその血を抑えた。自分は兎も角他人のこういうのは放っておけないコノハである。丁度、晴夜の頭を勝ち割った鳥を蹴散らしたあとのことであった。
「そんなに深くないから大丈夫だと思うけど、血が目に入ると視界を悪くするカラ、これで止めときまショ」
「ああ、なるほどそれは困りますね! ありがとうございます……!」
 人の良さを全開で発揮して、コノハはくるりと周囲を見回した。
 丘をかけていく熊と兎。狂乱の中で若干委細を放つその獣たちに向かって鳥たちが飛んでいく。ちらりとコノハが視線をやると、了解、とばかりに晴夜は親指を立てた。
「まだ無事なコ達がいるならせめて怪我しない様庇いましょか……。かわいい子たちが傷つくのを見るのも忍びないしねぇ。……こらこら、二人は忙しいのョ。邪魔しちゃだめじゃない」
「ふっふっふ。モフっとした二人組に惹かれるのはわかりますが、このハレルヤを無視して飛んでいくのはいかがなものかと思いますねえ!」
 注意を引き付けるように、コノハは二人組の間に割って入る。今にも熊のほうに鋭い爪で斬りかかろうとしたその鳥の、攻撃を身を挺して庇って受け持った。
「おいで、くーちゃん。よろしくネ!」
 咲かれた肩から血が流れる。その血は滴り落ちるその前に、影の狐へと変化した。素早く周囲に散った狐たちは、正面の敵も、勿論彼らを取り巻く敵の鼻先にも襲い掛かっていく。
「ああ。助かったよ、ありがとう」
「そういうのいいから、気にせず走ってネ」
 大丈夫大丈夫。とコノハはひらひら手を振って、そんな彼にぺこりと頭を下げて熊たちもまた走り出す。それを微笑ましく見守りながらも、コノハはとっさにオーラで右腕を防御した。
「遊ぶ?」
「あなたたちが遊んでくれる?」
「ええ。たっぷり遊んであげるわヨ!」
 引きちぎられそうになる腕をぎりぎりオーラ防御で補強して止めて、黒狐とともにお返しのようにそのナイフで突き刺していく。骸魂w¥の生命力だけを吸収しながら、危うく引っこ抜かれそうになった左腕にうーん、と視線を向けた。
「もともと痛みは気にしない性質だから、手足が捥げるとか物理で動かなくなるまで気付かなさそうではあるのよねぇ。気を付けなくっちゃ」
「わかりますよ……。特にこの状態はいけません。色々気を回すのが面倒くさくなるんですよね!」
 だってほら、こんな感じで腕とか頭とか切れようが殴られようが何にも感じないんですもの。なんて、隣で刃を振るっていた晴夜も同意する。
「まあ、だからといってハレルヤの貴重な血を無駄に流すつもりはありませんが。世界の損失です」
「……(もう充分流してるじゃないって突っ込んでいいのかしら)」
「それにおや、鳥さんたちも怪我しておられる様子。抜かりなくこのまま手羽先にしてついでにそのきれいな羽で帽子を作って差し上げましょう!」
 悪食の名のついたひと振りを晴夜は払う。鳥の胴体を串刺しにして、その傷口をえぐるように降りぬいていく。
 舞うような攻撃が襲い掛かる。それを紙一重でよけて……よけきれないところは気にせず受けてまた傷を作るわけだが……よけながらも積極的に目を潰して。
「痛くなくてもハレルヤに怪我を負わせた事への代償は払って頂きますよ!」
 そうしてとどめを刺していった。言葉とは裏腹に、着実に一匹ずつ。間違いのないように屠っていく隣で、
「うぅ……。くーちゃんはたいてくれるカシラ。……はっ。痛くないからこれは目が覚めないわ……!」
 手してしてし。と催眠電波を受けるコノハを、くーちゃんがはたく。そんなことを言いながらも、コノハはその半ばボロボロになった左腕をかばうように前に出し、それを囮にナイフを敵の身体へ突き立てた。
「ふふ……」
「ふふふ……」
 仲間を倒されてなお、鳥たちはさえずるのをやめない。痛みがないものだから恐怖も感じていないようで。次から次へと湧いてくるその姿に、
「……赤に溢れた世界はもっと満たしてくれると思ったりもしたけれど、ナンだか食事を粗末にしてる気分になるのよねぇ……」
 圧倒的に残念だ、と言いたげに、コノハは目を細め、
「だからさっさと、取り戻すとしマショ」
 ため息とともに、刃はとまることなく敵の身体を切り裂き続けるのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

スキアファール・イリャルギ
属性攻撃は火と雷使用

怪奇の目口を潰し続けて
「敵の攻撃の回避」を成功させ続ける
万が一に備え雷を全身に纏い触れた者を灼く

攻撃を避け乍ら呪瘡包帯で相手を捕縛し
呪詛を流し込んで動きを鈍らせ
炎で一気に焼却

……あぁ
本当に痛くないや
潰した感覚は確かにある
血が流れ躰が濡れていく感覚がある
でも全然辛くないし苦しくない
痛覚無い人が無茶する気持ちがよくわかる
いや痛覚が在っても私は無茶するタイプですけど

今なら試せるんだろうか
どれ程潰せば怪奇の目口が絶えるかを

今なら……楽に死ねるのかな

――……冗談だよ
傍らの"ひかり/きみ"に咎められた気がして苦笑いで誤魔化す
……ごめん、今は無茶させてほしいんだ
大丈夫、死にはしないよ



 スキアファール・イリャルギ(抹月批風・f23882)は顔を上げた。
 天から降りてくるものは、何とも美しい鳥たちであった。
「……」
 スキアファールはそっと唇を開く。
「死にはしないよ……、辛いけど」
 呟くと同時に、鳥から踊るような攻撃が放たれた。
「ああ……でも」
 拳をよける。回避すると同時に呪瘡包帯を敵へと巻き付けていく。
 念じれば一瞬で全て解け、一瞬で全て巻き付く。それで捕縛した影に、呪詛を流し込んで動きを鈍らせた。
「?」
 痛みがないからか、美しい鳥たちは呪詛は気づかない。そのまま一気に炎で償却すれば、すぐさままた別の鳥を捕まえて繰り返す。
 囲まれようが、対処は同じだった。スキアファールは敵の行動を回避し続ける、それは、
「……」
 それもまた「彼」である。無数の目・口を持つ耳聡い不定形の影。その怪奇の目口を潰し続けることにより、その回避を成功させ続けていたからだ。
 万が一に備え雷を全身に纏った雷も、スキアファールを守るために一役買っている。
 そうして飛び込んでくる鳥たちを、スキアファールは処理していくのだ。
「……あぁ」
 そうして不意に、言葉を漏らす。
「本当に痛くないや……」
 潰す目口も彼である。潰した感覚は確かにある。血が流れ躰が濡れていく感覚だってもちろん、ある。
「でも……全然辛くないし苦しくない」
 スキアファールの声は、ほんの少し、弾んでいた。
「痛覚無い人が無茶する気持ちがよくわかる。……いや痛覚が在っても私は無茶するタイプですけど」
 くすくすと柄にもなく笑いながら。スキアファールは目を細める。それから戯れるように、ふと。
「今なら試せるんだろうか……」
 どれ程潰せば怪奇の目口が絶えるかを。
 耐えるまで潰し続けることが可能なのかを。
 そうすれば……、
「今なら……楽に死ねるのかな……」
 こんな竜胆の丘で、月に見守られて死ぬのなら……、
「――……冗談だよ」
 ついと、火花が散った気がした。
 傍らの"ひかり/きみ"に咎められた気がして……スキアファールは苦笑いで、その思いを誤魔化した。
「……ごめん、今は無茶させてほしいんだ。大丈夫、死にはしないよ……」
 けれども。……それでも。スキアファールは天に向かってそうつぶやく。だって敵はいるから。もっと戦わなければいけないから。
 なんたって、こんなにも痛みがない。
 素敵な夜、なのだから……。

大成功 🔵​🔵​🔵​

宵雛花・十雉
【双月】

あぁそうだな、綺麗だ
けどお月さんに見惚れてる場合じゃねぇぜ?

痛みが無いってのはどんな心地なんだろうなぁ
ちゃんと傷は出来るし血も出んだろ?
…って、試すって何するつもりだよ
この男はまたとんでもないことすんじゃねぇだろうな
思わず野良猫みたいに警戒する

ほら、敵さんのお出ましだぜ
先に言っとくけど、絶対オレのこと庇ったりすんなよ?
アンタにだけ死なれても困る
それだけ言って、ユェーが止める間も無く薙刀片手に敵に突っ込んでやる
UCで魂ごと燃やし尽くしてやるよ

ユェーの戦いぶりを見れば
凄惨な光景に思わず口を覆って愕然とする
な、何やって…もしかして喰ってんのか?
おっかねぇなァ、オレまで喰われちまいそ


朧・ユェー
【双月】

月がとても綺麗ですねぇ。
今の光景が見えてるか見えてないのか穏やか口調で月を眺める

痛みが無いみたいですよ?
ふふっ、十雉くん試してみますか?
大丈夫です、痛くは無いのですから。

おや?誰か逃げてる人達が居ますね。
このままほっとくと危険ですから助けますか

えぇ、十雉くんも死なないでくださいねぇ
彼が敵に攻撃をしてる中
漆黒ノ鏈のチェーンで敵の動きを止めて
十雉くんの攻撃とてもカッコ良いですねぇ

さぁ、ディナーの時間だ
暴食グールが屍鬼へと変化して一匹ずつ喰べていく

ふふっ、お腹を空かせた子にはご飯をあげないといけないでしょうと微笑んで



「……月がとても綺麗ですねぇ」
 朧・ユェー(零月ノ鬼・f06712)は静かにそうつぶやいた。血に染まる丘の景色が、果たして見えているのかいないのか。口ぶりは穏やかで、まるで月見に来ているかのような様子であった。
「あぁそうだな、綺麗だ。けどお月さんに見惚れてる場合じゃねぇぜ?」
 宵雛花・十雉(奇々傀々・f23050)はそんなユェーの言葉に肩をすくめる。
 極楽色した鳥は次から次へと舞い降りてくる。
 あれがすべてとらわれた妖怪だと思うとなんだか呆れてしまう。
 そんな異様さを十雉は口にしているのに、ユェーのほうときたら、
「痛みが無いみたいですよ? ふふっ、十雉くん試してみますか? 大丈夫です、痛くは無いのですから」
 なんて笑うので。十雉も肩をすくめた。
「…って、試すって何するつもりだよ。アンタはまたとんでもないことすんじゃねぇだろうな」
 ほんの少し。滲むような殺気を十雉は見逃しはしない。
 一瞬走る緊張に、野良猫のように十雉はユェーを見据える。
 そんな視線を受けてもユェーは何処かこの場所にいないような穏やかな微笑みで、
「とんでもないこと……それもまた楽しそうでいいよねえ」
 なんて笑うものだからたまらない。思わず十雉が、竜胆と名を付けた長柄の得物に手をかけた。……その、瞬間。
「おや? 誰か逃げてる人達が居ますね。このままほっとくと危険ですから助けますか」
 つい、と視線が外れた。一瞬で緊張が霧散して、十雉は拍子抜けしたかのように肩の力を抜きながら、ユェーが視線を向ける方向に自分も目をやる。
「熊と兎だな。あそこに突っ込んで気を引いたら、勝手に逃げるだろ」
「ふふ。なんだかお伽噺みたいだねぇ」
 呑気に言うユェーを半眼でわずかに見やって、十雉は走り出す。ユェーもその後に続いた。
「痛みが無いってのはどんな心地なんだろうなぁ。ちゃんと傷は出来るし血も出んだろ?」
「つまり、傷つかなくなるというわけではないのですねぇ。つまり、殺されれば死ぬということ」
 不吉なことを言って笑うユェーに十雉も頷いて、そして注意を引き付けるように大きく声を張り上げた。
「ほら、敵さんのお出ましだぜ! 遊ぶならオレ達が相手になってやるぜ!」
 高々と声を上げて、今にも兎に襲い掛かろうとしていた鳥の脇腹を十雉は突き刺す。
「そぉら、綺麗に咲いただろ?」
 そのままぐるりとなぐように薙刀を動かせば、同時に纏わせた紅蓮が椿のように花開いた。
「おや」
「お客様だ」
「新しい仲間だ」
「仲間じゃねえよ。……先に言っとくけど、絶対オレのこと庇ったりすんなよ? アンタにだけ死なれても困る」
 気色をにじませる鳥たちに十雉は言い捨てて、ついでに後ろについてくるユェーにも言い捨てて、十雉は敵の中へと突っ込んでいく。
「えぇ、十雉くんも死なないでくださいねぇ」
 いうだけ言って走っていく十雉の背中を見ながら。ユェーはそんなことを言う。普段は万年筆である、鋼のチェーンをくるりと翻した。
「十雉くんの攻撃とてもカッコ良いですねぇ。だから、邪魔をするのは無粋というもの」
 様々な思いを込められたチェーンが、今しも十雉に襲い掛かろうとしていた鳥の足に絡みつき、引き倒す。
「さぁ、良い子だね、ディナーの時間だよ」
 別の鳥がユェーへと襲い掛かる。あえてそれを避けずに受け止めたユェーの方のあたりが鋭い爪に引き裂かれた。血が流れる。その血が己の体内に埋め込まれた刻印に吸い込まれ、しみこんでいく。狂気暴食の巨大な黒キ鬼が現れるのに、そう時間はかからなかった。
「ふふっ、お腹を空かせた子にはご飯をあげないといけないでしょうと微笑んで」
 攻撃はあえて受け、流れる血をしみこませる。それで強化された鬼が今しがた彼に攻撃を加えた鳥に食らいつく。ばりばりと羽を毟り、肉を引き裂くその音に、十雉はわずかに振り返って、
「何やって……もしかして喰ってんのか?」
 口元を覆って思わず愕然とした。手が止まっている。
「おっかねぇなァ、オレまで喰われちまいそ」
「おや、食べてもいいのかい?」
「いいわけねぇだろ」
 ツッコミは即座に。倒されれば元の妖怪に戻るとわかってはいるが、思わず十雉は両手を合わせて何かに対して拝んでしまった。そのくせ相変わらずユェーは穏やかに微笑んでいるのでなんかこわい。
「魂ごと燃やし尽くしてやるよ。生きたまま喰われるよりは……いいだろうぜ」
 そんな光景だが、鳥のほうは全く気にもしていないらしい。次々に舞い降りてくる爪の刃が十雉の頭をかすめるので、軽く降って地を落としながらも、再び十雉は薙刀を構え、炎の舞を舞うのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ヴィクトル・サリヴァン
痛みがないまま限界迎えたらどんな感覚なんだろうなーとちょっとは思うけどもね。
糸が切れるように、っていうアレ。
でも痛みがないのは不健全、さっさと取り戻さないとね。

ここの医者さんっぽい熊と白兎見つけたら救出に。
銛をぶん投げこちらに注意を向けさせよう。
いやいや痛くないなんて冗談きついよ。月の狂気にでもやられたの?とか挑発重ねつつUC発動。
雷属性と嵐合成して空舞う迦陵頻伽を飲み込んで叩き落してやろうか。
向こうの美声も命令聞こえない位に強烈に雷の嵐強くして効果を抑制してみる。
一応変身してた妖怪が死なない程度には加減(目視)
…俺自身を見ると結構傷…まだやれるけど。

※アドリブ絡み等お任せ。ちみどろじょーとー


ジャック・スペード
※欠損しても血は出ない
機械の傷口からは導線が溢れ
バチバチと火花が散る

『痛くない』か
機械仕掛けの俺にとって
それは「良いこと」だが
ヒトには必要な感覚だろうな

痛くないと嘯くのなら
其の命を少し、此奴にくれないか
片腕に暴食の機械竜を宿し、敵陣へ突っ込もう
さあ――
存分に食い尽くせ、ハインリヒ

繰り出される格闘攻撃は
竜の顎で受け止めよう
ハインリヒ、暫く食いついておけ
竜の歯がボロボロに砕けようとも
力の限りに食い止めて

空いた手で銃を抜けば
敵の急所へ炎の弾丸を零距離射撃
互いに「痛くない」というのは良いな
銃を向ける時、幾らか罪悪感が減る

兎と熊に攻撃が飛びそうなら
この身を挺して庇うとしよう
俺は動物が、特に兎が好きなんだ



 バチバチと火花が散っている。
 引きちぎられかけた腕は、斬れた導線が零れ落ちていて、さて。とジャック・スペード(J♠️・f16475)はそれを引っ張り上げて無理やくたに腕に引っ付けて布で縛って固定した。ぶらぶらさせておくのも据わりが悪かった。ぐらいな気持ちではある。
 そのまま目の前の敵を銃で撃ちぬき吹き飛ばす。倒された鳥が別の妖怪へと戻っていくのを確認しながら、手早く彼は周囲を見回した。
「『痛くない』……か。機械仕掛けの俺にとってそれは「良いこと」だが……、ヒトには必要な感覚だろうな」
 機械である己としては、痛みで足がすくむなんてことがあってはならない。それは機会の役割に反するからだと、まじめな顔をして言うジャックに、隣でヴィクトル・サリヴァン(星見の術士・f06661)がシャチ姿のまま両腕を組んでうんうん、と頷いた。
「痛みがあるから逆に思うんだけど、痛みがないまま限界迎えたらどんな感覚なんだろうなーとちょっとは思うけどもね。糸が切れるように、っていうアレ」
 便利だろうか。楽しいだろうか。なんて思うのも痛みがあればこそ。
「でも痛みがないのは不健全、さっさと取り戻さないとね」
 うんうん。と何やらご機嫌でそう言って、
 二人は敵へと、向き直った。

 鳥が羽を散らして舞い降りてくる。丘をかける熊と兎を見つけて、ジャックは走った。
「俺は動物が、特に兎が好きなんだ」
「おーけー。じゃあ。熊さんのほうは任せてー」
 気軽に言いあいながらも、二人へ襲い掛かる鳥を見据えてジャックとヴィクトルは割って入る。
「はい、ちょっとタイムね」
「ここは俺たちが引き受けよう!」
 ヴィクトルの森が熊をひっかけようとした鳥の爪にぶち当たる。それと同時にジャックも己の片腕を掲げた。
「――餌の時間だ、ハインリヒ」
 銀色に煌く機械竜……ハインリヒの頭部にボロボロであった片腕が変形する。そしてそれをそのまま、シロウサギの間に割って入り、鳥の腹に食らいつかせた。
「お客様」
「新しいお客様だわ」
「痛くないと嘯くのなら……、其の命を少し、此奴にくれないか」
 腹を食らい、その生命を食らい、倒し伏せるジャック。それと同時に別の鳥が、その機械の体を穿つ。首のあたりに感じる衝撃は痛みを伴わず、だがぶちぶちと回路が切断される音がする。
「さあ――、存分に食い尽くせ、ハインリヒ」
 同時に腹へと伸びる鋭い爪を持った手は、竜の顎で受け止めた。
「ハインリヒ、暫く食いついておけ」
 口の中で敵の刃が暴れている。内側から破壊されて行くのを感じながらも、ジャックは空いたほうの手で銀の歯車、終幕齎すリボルバーを即座に抜き放ち炎の弾丸とともに敵の頭部をぶち抜いた。
「互いに「痛くない」というのは良いな。銃を向ける時、幾らか罪悪感が減る」
「気を付けてください……、まだ……!」
「ああ。わかっている!」
 安心させるようにジャックは高々と声を上げ、前方の敵をにらむ。
 その間にもヴィクトルもまた銛をぶんぶんと振り回して、目の前の敵を牽制するように動かした。
「いやいや痛くないなんて冗談きついよ。月の狂気にでもやられたの?」
 挑発するようにヴィクトルは言う。月。と、鳥たちは嬉しそうに声を上げる。
「そう、月!」
「今夜はとっても、月が近いわ!」
「さあもっと、もっともっと踊りましょう!」
 長髪が効いているのかいないのかわからない。というより、彼の言う通りもはや狂気の沙汰であった。素早く繰り出される拳は刃を伴いヴィクトルを切り裂き、時折それに打撃が混じる。
「えええ。それ認めるんだ」
 認めちゃうんだ。と言いながらも、ヴィクトルはその嬉しそうな声も聞こえないように嵐を作り出す。雷を伴う嵐でその声を遮るようにしながら、鳥たちを飲み込んでいった。
 鳥たちは倒れると同時に、姿が違う別の妖怪になって地に落ちる。それは巻き込まれないように、なるべく加減をして調節をする。
「そっちは、片付きそうか」
「うん、まあ、すぐに第二陣が来そうだけど」
「隙をついて、この御仁たちには走ってもらわねばなるまい」
「オーケイ、嵐を調節しよう」
 戦いのさなかも守るべき対象を忘れない。ジャックの提案にヴィクトルは頷く。それを聞いて、シロウサギが不安そうにふるりと耳を震わせた。
「ありがとうございます……。なにもお手伝いできずに、すみません」
「大丈夫だよ。お互いやるべきことをすればいいって。ね、先生?」
 ヴィクトルがシャチウィンクをするので、熊のほうも一つ頷く。
「その通りだ、シロウサギくん。急ごう。私たちを守ってくれた方々の思いに応えなければ」
「……はい」
 しゅんと耳が垂れる。思わずジャックは手を伸ばして、その垂れた耳を軽く撫でた。
「気にすることはない」
「……はい」
「ところで二人とも、とてもありがたいことだけれども、あまり無理はしないようにね」
 走っていく熊たちが、最後にそんな言葉を残した。ヴィクトルとジャックは顔を見合わせる。
「いや、俺自身は……………………まだやれるけど」
 ヴィクトルはちらりと自分の状態から目をそらした。
「うむ、問題ないな」
 ジャックも、己のはみ出たコードを見ないふりをして、
 二人敵のほうへと向き直るのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

呉羽・伊織
【花守】
(元々、己の身体的な痛みには無頓着なきらいがある反面――誰かが後々、胸を痛める様な展開はどうにも厭わしく感ずるもので)
痛みだけ無くなっても、な――戦や傷が絶えないんじゃ笑えないっての
ああ、ソレにその通り
俺達みたいな生業の身は兎も角、あのセンセ方を傷付けさせる訳にゃいかない

話ながらもUC使い早業で先制
麻痺の毒や呪縛の呪詛仕込んだ暗器や妖刀で攻撃重ね牽制しつつ、急ぎ兎と熊の護衛へ
己の傷は気にも留めず、二人を狙う者から庇い、阻む者を退け続ける
一応手足部位破壊狙ったり、フェイント混ぜ翻弄したりと、致命傷だけは防ぐべく阻害

何、護衛での怪我なら、後で心配性にバレても怒られる事はないだろう!…多分!


吉城・道明
【花守】
(我等は負傷も痛みも元より覚悟で駆ける身、その点に於いては今更何も揺らがぬ
故にこそ、感覚こそ失えど、痛覚の重みは身に染みて――身の為にも、或いは心の為にも、軽んじてはならぬものと改めて痛感し)
……戯れに傷付け合い、徒に破滅へ向かう様を、このまま放っておく訳には行かぬ
失われた平穏と感覚を取り戻す為――医者を不必要に困らせぬ為にも、止めに行くとしよう

UCで身を強めつつ、伊織と連携し二匹の元へ至る道を切り開きに
此方は伊織の牽制で鈍ったところへ、重い一撃を重ね気絶攻撃を主に
二匹の安全確保を最優先に
身を盾にして庇い、月まで送り届けよう

――医者も心配性も、泣かせぬようにしたいものだな



 吉城・道明(堅狼・f02883)はその様相を静かに見下ろしていた。
「我等は負傷も痛みも元より覚悟で駆ける身、その点に於いては今更何も揺らがぬ」
 もともと守るために生きている人間だ。ゆえに道明にとって、怪我をものともせずに駆ける、ということは、一概に悪いとは言い切れない。
 けれどもあくまでそれは……ものともせずに、ということであって、
「故にこそ、感覚こそ失えど、痛覚の重みは身に染みて――身の為にも、或いは心の為にも、軽んじてはならぬものであるというのに」
「……ふっ」
 そのまじめ腐った言い方に、思わず呉羽・伊織(翳・f03578)はほんの少し面白げに笑う。なんだ、と言いたげな道明の視線に、何でもないない、と、伊織は軽く首を横に振った。
「オレも、元々、自分の体の痛みはあんまり気にしないたちだけど――、誰かが後々、胸を痛める様な展開はどうにも厭だなあ、って、思っただけだよ」
「……ふむ?」
「つまりは同感同感、ってこと。痛みだけ無くなっても、な――戦や傷が絶えないんじゃ笑えないっての。平和に痛みのない世界が来るのは歓迎だけどな」
 冗談めかして伊織が軽くウインクをするので、道明はそれを手で払うような仕草をする。
「……戯れに傷付け合い、徒に破滅へ向かう様を、このまま放っておく訳には行かぬ。失われた平穏と感覚を取り戻す為――医者を不必要に困らせぬ為にも、止めに行くとしよう」
「ああ、うん、ソレにその通り。俺達みたいな生業の身は兎も角、あのセンセ方を傷付けさせる訳にゃいかない」
 ちらりと二人が視線を向ける先に、丘を駆ける二人組があった。二人、といっても片方は熊で、片方は兎。月のある方向へ、方向へと、急いでいるその姿にも、降るように鳥が襲い掛かっていく。
「――何処までも飄々と……、センセ、あとは任せな!」
 そうしていうや否や、伊織は走る。闇に染む暗器を手の中に落とし、ふらり組へと襲い掛かろうとしていた鳥の胸へと投げつける。
「!?」
「見事」
 心臓をひと突き。謝ることなく投擲されたそれに道明も声を上げて二人組と鳥の間へと飛び込んだ。声もなく落ちる鳥の向こう側から、新たな鳥が現れて二人に向かって襲い掛かるのを、妖刀を構えて一刀のもとに切り伏せる。
「――堅忍不抜の志を」
 守りを固めて、二人の前へ立ちはだかり、道明は声を上げた。
「これよりしばしの間、我らが護衛仕る。身を盾にして庇ってでも、月まで送り届けよう」
「そうそう、ここはオレたちに任せとけって! 何、護衛での怪我なら、後で心配性にバレても怒られる事はないだろう! ……多分!」
 多分は若干願望が入っていたが、ものすごく自信満々に伊織は言う。
「ありがとうございます……! 先生、先生、もう少しですよ!」
「うむ、うむ。お礼を言わないといけないね。それにしても、運動不足に、これは何ともつらいねえ」
 そう話している間にも、ひらりひらりと舞い降りてくる鳥に視線を向けた。
「邪魔をする?」
「それとも一緒に、遊んでくれる?」
 無邪気に問いかける鳥たちに、伊織も笑みを浮かべて、
「そうだな。センセたちの代わりに、オレ達が遊んでやるぜ」
 黒刀を握りこむ。その動作はただ静かに。てくてくと走って彼らから当座買っていく熊とシロウサギたちを守るように立ち塞がれば、
「――医者も心配性も、泣かせぬようにしたいものだな」
 ぽつりと道明が言った。言うなり、鳥の拳が二人へと走る。鋭い爪が伊織の腕をかする。鋭いそれは刃となり伊織の右腕を裂いたが、そのまま伊織もまた構わず刀を走らせて、牽制するようにその鼻先へ刃を叩き込む。
「ああ……うん。うん。気を付けます。気を付ける」
 言いながらも、非常にばつの悪そうな顔を伊織はした。思わず変な言葉遣いになってしまう。やってしまった、という声音とともに、血の滴る腕に目をやって。目がどこか泳いでいるのを、道明は突っ込まなかった。
 伊織の牽制で体制を崩した鳥を、確実に道明が刀で追撃してとどめを刺す。まずは一羽。と、思った矢先に、
「――!」
 倒される仲間の影で隠れるように接近していた鳥が爪を払った。
 とっさに体を引くが、よけきれずに刃がその足を掻く。
「大丈夫か!?」
「不覚を取ったが、さほど深くはない」
 さほどの傷ではない、という道明に、そう、と伊織は頷いて、
「……大丈夫だよな?」
「……」
 あれとかそれとか色々と。二度目の大丈夫に、道明は半眼になって、
「頑張ろう」
 なんて、彼らしからぬ台詞を吐いて敵に向き直るのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

天狗火・松明丸
血染めのべべ着て、何ぞお披露目か
俺のように弱い妖には痛みなぞ無い方が良いわ

何れ、俺も少しばかり遊んでみようかねえ
紅葉のひとひら翳して化けりゃあ
己が本性、火の怪鳥へと姿を変えて
高く高く、迦陵頻伽の元へと駆け昇る

そのまま炎で焼いてやろうか
鉤爪で裂いて綺麗な翼を捥いでみるか
この身一つで突撃を噛ます間際に
朱い祟り縄をくるりとお前さんにやろう
首に飾れば呪詛で結んで
…嗚呼、中々に似合いだ

同じ怪鳥でも此れ程に違うものかと
美しい舞に怒涛の攻撃を受けても
まあ痛みのないこと、楽しいねえ

踊り狂う最中に首の輪が絞まるだろうが
痛くは無いよな、さぞ心地良かろう

馬鹿みたいに揃いの血衣を羽織って
地に落ちるのは何方が先だか



 楽しそうな声がする。
 音だけ聞けば、なるで賑やかな宴のよう。
「おう。おう。宴のようと思っておったが、ようじゃなくて本物の宴かいな」
 大地を踏みしめ、天狗火・松明丸(漁撈の燈・f28484)は肩をすくめた。狂乱ともいえるその景色。妖怪たちが骸魂にとりつかれて、同じような殻を被って遊んでいるように見えなくもない。歌うように松明丸は手を広げる。葉っぱがひらりとその手の中に。
「血染めのべべ着て、何ぞお披露目か。俺のように弱い妖には痛みなぞ無い方が良いわ良いわ。何れ、俺も少しばかり遊んでみようかねえ」
 ぽん、とかざすように紅葉の葉をひらりとすれば、その身は火の怪鳥へと変わる。くるり、くるりと己の姿を顧みて、鳥は少し、笑ったようであった。

 飛んでいく。……飛んでいく。迦陵頻伽は空にいるのもあったから、それを目指して空へと舞い上がる。
 応じるように、迦陵頻伽たちも空へと舞い上がった。
「行くのか」
「行こう」
「この先へ」
「痛みのないその先へ」
「――」
 じろりと、松明丸は鳥の姿で彼らを見つめる。
 人の姿を撮れていたならば、ねめつけているのだとわかるだろうが。生憎と今は鳥の姿であった。
 故に変わらず、松明丸は朱い祟り縄をくるりと迦陵頻伽たちへと巻き付ける。
「……嗚呼、中々に似合いだ」
 そうしてそのまま、火の鳥は極彩色の鳥の群れへと突撃を開始した。
 鉤爪が走る。それは怪鳥のものであったか、迦陵頻伽のものであったか。
 美しい腕をもぎ、また迫りくるその爪に首を掻かれる。
 痛くもないから悲鳴も上がらぬ。首元を切り裂かれながらも松明丸はさらにその腕を振るう。
 一つ。炎で燃え落ちる迦陵頻伽に目もくれず。己の腹に拳を叩き込んだ別の迦陵頻伽を、松明丸もまた蹴飛ばした。
「同じ怪鳥でも此れ程に違うものかねえ……まあ痛みのないこと」
 楽しいねえ、なんて。美しい舞を潜り抜けるように、松明丸はただ真っ直ぐに敵の姿を屠り続ける。
 迦陵頻伽がまた一つ。首の輪が締まって落ちた。それは彼の仕込んだ呪い。それをちらりと見送って、
「……痛くは無いよな、さぞ心地良かろう」
 墜落した鳥にはもはや興味を示さない。
「……馬鹿みたいに揃いの血衣を羽織って、地に落ちるのは何方が先だか」
 呟きは風に乗って消える。楽しいのか、それとも苦しいのか。痛みもなければ逆にそんな気も地すらも分からなくなってきて。
 僅かに笑って腹に刺さったままの爪を引き抜いて。
 松明丸は空を飛んだ。
 きっとその身が落ちるまで、松明丸は夜空を飛び、倒し続けるだろう……。

大成功 🔵​🔵​🔵​

篝・倫太郎
痛みは必要だ
リュカが言うように生きる為に必要な感覚で概念だ

それが損なわれた理由は……
判るかもしれないし判んねぇかもしれない
今一番重要なのは『痛み』が喪失しているって事実だけで充分
だからって戦い方を変える器用さは俺にはねぇけど

天地繋鎖使用
指先を走らせるようにして対象指定し攻撃
対象は自身に近い場所に居るすべての敵

美声は衝撃波とかで相殺出来ねぇかな……
出来ねぇなら、仕方ねぇ
従いたいって気持ちが強くなる前に全部倒せば問題ない……

仲間は出来るだけ傷付けたくねぇもんよ
自傷するなら左手を犠牲にしとく
右手は武器使うのに無事でねぇとヤバいしな

痛みがなくて
血の生温かさと臭いだけが満ちるのは
気に入らねぇよ、やっぱり



 篝・倫太郎(災禍狩り・f07291)は軽く唇をかみしめた。
「……痛みは必要だ。生きる為に必要な感覚で概念だ……」
 押し殺すように、声を上げてみる。
 叫んでみたとしても、きっと誰にも届かない。
 けれども……けれども叫ばずにはいられない。
(それが損なわれた理由は……、判るかもしれないし判んねぇかもしれない……でも)
 ぐっ。と拳を握り締めて前を見据えた。
 目の前に見えるのは、ただただ楽しそうに……楽しそうに、踊り続ける鳥の群れであった。
「今一番重要なのは『痛み』が喪失しているって事実だけで充分!」
 自分は、決してそんなことにはならないと。
 叫ぶように言って、倫太郎は走り出した。

「あなたも」
「あなたも仲間になりましょう!」
 鳥が躍るように爪を走らせる。新たな正常者。倫太郎を見て歓喜の声を上げる。
「だからって……戦い方を変える器用さは俺にはねぇけどな!!」
 まっすぐに彼へと飛び込んでくる鳥に、彼もまた声を上げた。
「其処に天地を繋ぐ鎖を穿て!!」
 指先を滑らせる。指をさすのは一瞬だ。それと同時に天と地から発生した不可視の鎖が、鳥の姿を縛り上げる。
「!」
 縛りあげられた鳥が、驚愕の悲鳴を上げる。その間にも倫太郎は次から次へと対象を指定。それと同時に倫太郎は愛用の薙刀を旋回させた。
「まとめて……開放してやらあ!」
「どうして」
「どうして」
「こんなに楽しいのに!!」
 鳥の声が走る。倒されてなお、仲間を誘うように声を上げる。
「痛くない。苦しくない。いったい何が悪いの?」
「苦しむことが、どうしてどうして、必要なの?」
 それは仲間を誘う声だ。倫太郎は衝撃波を出して、その声を相殺しようとする。……けれども、
(そうだよな。一概に痛みをなくすことが悪いってわけじゃない……)
 例えば不治の病で苦しんでいるものがいたら。傷で死にかけのものがいたら。そこまで考えて、倫太郎ははっとする。
(って、何極端なこと考えてんだ俺ー!? 従いたいって気持ちが強くなる前に全部倒せば問題ない、しっかりしろ俺!!)
 それはそれ、これはこれ!
 気が付けば倫太郎は、己の薙刀の刃を己の左手で握りしめていた。
「さあ、傷つけましょう」
「あの子も、……そう、あの子も」
「試してみたくない? 傷をつけて見たくない?」
「そんなこと、やってられっかよ!!」
 倒された迦陵頻伽は、憑依される前の妖怪に戻る。
 そうして助かった彼らをまた、仲間にしようと誘いかける。
 切ってみて。大丈夫だから。やってみたいでしょう? 痛くないからと、ささやき続ける。
「……」
 右手は武器使うのに無事でねぇとヤバいしな。と、倫太郎は口の中で呟いて、
「……痛みがなくて……血の生温かさと臭いだけが満ちるのは、気に入らねぇよ、やっぱり」
 吐き出すように。
 頷きそうになるその声を蹴散らすように。薙刀を振るった。
 どうしてもこらえきれない時は、その左手を。その次には左腕を。徐々に、徐々に傷つけながら……。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ジェイ・バグショット
痛みが消えた世界か…
俺にとってはある意味、理想郷かもな。

体を苛む痛みは内側からじわじわと己を侵していく
ガキの頃から体が弱かったせいもあるが
今ある痛みは後天的なもの

命を繋ぎ止めるために移植されたUDC『ニルヴァ・ロニタ』
臓器の一部として俺を生かすコイツは
同時に俺を蝕み殺す存在でもある

難儀な話だ
生きながらにして喰われる痛みが分かるか?
あぁ…どうでもいいな。そんなことは

今は痛みも感じない
それだけで、気分が良い。

召喚したのは拷問具『荊棘王ワポゼ』
七つの棘の鉄輪は高速回転しながら自動で敵を追尾し
引き裂いたり捕縛したりと用途は多彩

血に濡れることに慣れすぎたからだろうか
自分が傷つくことすら、最早どうでも良い



 ふらりとジェイ・バグショット(幕引き・f01070)はその世界に降り立った。
 血で染まった竜胆の丘。どこもかしこもけが人だらけ。だというのに全く聞こえない悲鳴。あるのは狂ったような、鳥の声。
「痛みが消えた世界か……」
 そんなどうしようもない。どこにも行けない。行き止まりのような世界を、
「……俺にとってはある意味、理想郷かもな」
 ジェイは己の胸に手をやって。心から。その世界を歓迎すると、受け止めた。

 くすくす、と笑う声がする。
 遊ぼう遊ぼうと、誘う声がする。
 体を苛む痛みがない。内側からじわじわと己を侵していく苦しみが消え去っている。
「…………まさか、こんな日が来るとはな」
 ガキの頃から体が弱かったせいもあるが、今ある痛みは後天的なものだった。
 この痛みを感じたその日から、碌に心安らかに休めた日なんて、一度もなかったというのに。
 寄りにもよってこの危険な戦場で。気を抜けば死んでしまう敵がいる場所で、こんな思いをするなんて……、
「……難儀な話だ」
 久しぶりの安息を、自らの手で壊さなければいけない。
「生きながらにして喰われる痛みが分かるか? あぁ……どうでもいいな。そんなことは。……今は痛みも感じない。それだけで、気分が良い」
 ジェイの命を繋ぎ止めるために移植されたUDC、『ニルヴァ・ロニタ』。……臓器の一部としてジェイを生かし、同時にジェイの身体をを蝕み殺し続けるその存在も、今はただの生命維持装置となっている。
 感謝しなければ。だから。ジェイはただ静かに、飛んでくる鳥たちに視線を向けるのであった。
「……おやすみの時間だ。今日なら、心安らかに眠れるだろう」
 いいながらも、ジェイは『荊棘王ワポゼ』……鉄輪に棘が刺さっている拷問器具を召喚した。
 ……後は、ただ。
 血の宴が始まるだけだった。
 上空にかかる満月に、重なるようにジェイの力で紅い月が現れる。
 七つの棘の鉄輪は高速回転しながら自動で敵を追尾し、次々に飛んでくる鳥を撃ち落とし、引き裂き、切り裂いた。
「まあ、怖い」
「これは痛そう」
「冗談を。……痛みなど、感じはしないだろう」
 鳥が戯れにそう言うと、ジェイも戯れるようにそんなことを言う。
 とげが鳥を拘束し、引き裂く。それと同時にジェイの身体を鳥の爪が裂く。
 けれどもそこに、痛みはない。互いに全く痛みはしない。
 だからこそ、ジェイもまたどうでもいいと鉄輪を振るい続ける。引き裂かれる何倍も引き裂いて、返り血なのか自分の地なのかももはやよくわからない。まさに凄惨。その一言に尽きる現場で、ジェイは己の獲物を振るい続けた。
「ああ……」
 怪我の箇所も把握できない。そうして周囲が沈黙すると、ずるりと痛む足を引きずりながらジェイはまた歩き出す。
 次の獲物を探すように。
 もっと、この痛みを感じないことを、実感したいとでもいうように……。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ユウイ・アイルヴェーム
※人形なので出血しません

痛みは、命を守るために大切なもの
ですから、人形である私には必要ないものなのです
命のない私だからこそ、命を守るためならなんでもできます
大切なものは少ないほどいいのです
守りきれるものはこの手が届くところまで、なのですから

することはいつもと変わりありません
この刃を振るい、倒して、守る。それだけなのです
たとえ私がなくなるとしても、それでいいのです
「こちらですよ」と声を掛け、UCを発動します
皆様のために、少しでも多く引き付けられればいいのですが

いつもより壊れても動かしやすいのです
動きにくくなることも、力が入らなくなることもありません
これなら、もっとたくさんお役に立てるのです



 ユウイ・アイルヴェーム(そらいろこびん・f08837)は空を見上げた。
 殺しあう鳥たちは、とても楽しそうで。その喜びが、ユウイには理解できなくて、
「痛みは、命を守るために大切なもの……」
 呟いてみた。呟いてみてから、こくりと彼女は小さく頷いた。
(ですから、人形である私には必要ないものなのです。……命のない私だからこそ、命を守るためならなんでもできます)
 鳥たちが何かに気付いた、ユウイもそちらのほうに視線をやる。丘を行く熊とシロウサギ。何ともメルヘンなその二人組だが、すでにその周囲は血の匂いで満ちていた。
(大切なものは少ないほどいいのです。守りきれるものはこの手が届くところまで、なのですから……)
 判断は一瞬だった。することはいつもと変わりがない。ユウイは大地を蹴って丘を駆け上る。二人組に視線をやって、それから、
「……こちらですよ」
 何にも染まらぬかのような、刃渡りの長い白剣をユウイは翻した。敵の翼を叩き伏せる。鳥の血が刃を伝って流れるが、軽く振ると一滴も残さず美しくも白い刃がまた輝いた。
「……この刃を振るい、倒して、守る。それだけなのです。私は、それだけなのです。……たとえ私がなくなるとしても、それでいいのです」
 息を吸い込み、そして吐く。それと同時にユウイは薙刀の柄でで強く大地を叩いた。
「命には、光が必要なのです。ですから、南枝に光を」
 宝石花の薙刀。それと同じ形をした光の刃が次々と現れて、鳥たちを串刺しにしていく。
「あらあら……」
「まあ……」
 痛みと同時に、いろんなものが鈍くなっているのか。鳥が興味深そうにユウイのほうを向いた。
「あなたが遊んでくれるのかしら?」
「……はい、その通りです。……行ってください、少しでも多く引き付けられればいいのですが」
 最後の言葉は小声で、背後のシロウサギたちに向けて放たれた。こくこくと頷く兎と熊を、ユウイは見ることがない。視認している対象は、すべて串刺しにする。そして、
「どうか、気を付けて!」
「……問題、ないです」
 去っていく足音を聞きながら、ユウイは剣を構える。
 遊びましょう、と。ユウイの刃を掻い潜った鳥が、ユウイに肉薄した。
 ざっくりとユウイの腹を裂き、そして優位にたたき伏せられる。
 鳥は地に落ち、翼を残して消失し、その下から別の妖怪が現れる。
 優位は切り口のみを残して、血は流れずそれを見下ろす。
「……いつもより壊れても動かしやすいのです」
 その声が、ほんの少し高揚していた。ぐるりと嬉しそうに、彼女は剣を旋回させる。
「動きにくくなることも、力が入らなくなることもありません。……これなら、もっとたくさんお役に立てるのです」
 腹に、腕に、足に。攻撃を受けても気にならない。ユウイは傷ついても戦い続ける。それが、誰かの焼きに立つのだと、信じて……。

大成功 🔵​🔵​🔵​

レザリア・アドニス
ふーむ、騒がしい鳥たちですね…
痛くないなら、いくらでも刺してやっていい、ということですね…?

【高速詠唱】と【全力魔法】で、炎の矢を沢山編み出して、鳥たちを攻撃
矢に貫かれたのと、炎に焼かれたのを見て、
心底から悦んで、艶やかな微笑を綻ばす
黒に染まった魂は、一度解放されたら、二度も、簡単に解放されるものです

美声を聞いても、うるさいね、と眉を寄せる
無意味な歓声はノイズにしか聞こえない
別にこの狂い祭りに、仲間入りはしたくない

攻撃され負傷しても、あまり気にしない
例え血の色も、黒には溶けて見えなくなる
髪の福寿草だけは、赤く染まってもっと美しく咲く



 レザリア・アドニス(死者の花・f00096)は不愉快そうに顔をしかめた。
「ふーむ、騒がしい鳥たちですね……。痛くないなら、いくらでも刺してやっていい、ということですね……?」
 言いながらも、レザリアは杖を掲げる。即座に作り出したのは魔法の矢であった。
「それ……っ。まずは火だるまにしてみましょう!」
 炎の矢が、一斉に鳥へと放たれる。たくさんたくさん編み出した、無数の矢が地上に降りる前に鳥たちを貫いた。
 ごう、と炎が舞い上がる。ここからだと声はあまり聞こえないが、悲鳴すら上がっていないように聞こえる。もとより頓着はないのだろうけれども、
「……」
 その炎の色に。敵を貫いた夜に。レザリアは無言で、微笑んだ。心底から悦んだ、艶やかな微笑であった。
「……黒に染まった魂は、一度解放されたら、二度も、簡単に解放されるものです」
 歌うように言って、自らが汚いと評する翼を揺らす。止めることなく炎の矢を打ち込めば、それでも逃れていた鳥たちが、いったい、また一体と、舞い降りて行った。
「まあ、綺麗」
「今日の夜にふさわしい、何とも明るい炎です」
「……うるさいね。別にこの狂い祭りに、仲間入りはしたくない。……あなたたちのためじゃ、ありませんよ」
 歓声に、不愉快だと言いたげに。
 レザリアは眉を寄せて、炎の矢を声を上げた鳥たちの顔面に叩き込んだ。
 ノイズをまき散らしながら、鳥たちはレザリアに襲い掛かる。
 左の腹に一撃。右側頭部に一撃。
 刃は躊躇いなく彼女を裂き、しかし衝撃のみで何の痛みも残さない。
 髪の福寿草が、赤く染まってもっと美しく咲くだけで、
 血の色すらも、その衣装に吸い込まれて。
 ……まるで、なかったかのように。彼女はそこに、佇んでいた。
「……ああ」
 炎が。矢が、鳥を焼き、落としていく。
 その姿の、何とも美しいことだろう。
 まるで自分のことなど目に入っていないかのように、レザリアはその宴を見つめ続ける。
 もっと。……もっと血を。もっと殺戮を。痛みがないというのなら、もっともっと甚振ってもいいはずだ。
 天に向かって手を掲げる。
 肯定するように、月は静かに、レザリアを照らし出していた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ジャスパー・ドゥルジー
ファルシェ(f21045)と

いやいやこの世の地獄だろそんなん!?
他者から痛みや傷を奪っていいのは俺だけだぜ
俺から痛みを奪うんじゃねェ、くそ××××野郎

ナイフで自身の躰を裂き、流れた血で【イーコールの匣】
生み出すのは巨大な鎌
やっぱり全然痛くない
最高にイカした技の爽快感がまるでねェ
やだもう辛すぎる(涙目)

【かたわれ】で空を飛びながら迦陵頻伽どもを狙うぜ
多勢に無勢って奴だし怪我は避けられねえだろうけど
すッげーーー悔しいからなるべく無駄な負傷は避けるようにするわ
だって痛くねーんだもん

そォんなお強い商人サンがいたら生粋の戦士が泣いちまうぜ
軽口交わしつつ鎌を振るう手は休めない
さっさと首魁を殴りに行きたいし


ファルシェ・ユヴェール
ジャスパーさん(f20695)と

痛い思いはしたくないのが本音ですが
しかし
痛みが無い事の空恐ろしさも分かるつもりです
いえ、その反応はジャスパーさんくらいかと思いますが
少なくとも、気がつけば貫かれて死んでいた等
そういう落ちは遠慮したい

洞察力のタイガーアイを触媒に力と速度を得れば
飛び回る相手の動きにも反応出来ましょう
私の得手は防戦
敵の動きを止められれば、ジャスパーさんが狙い易い筈

一撃を受け止めた筈の杖
支える腕に衝撃はあれど、痛みも痺れも伝わらず
往なして返す為の力加減が判らない

…思った以上に厄介な
強引に振り抜けば
隙を見せぬよう並び立ち

私は商人です故、戦いは本業では無いのですよ

敢えていつものように嘯いて



「いやいやこの世の地獄だろそんなん!? 他者から痛みや傷を奪っていいのは俺だけだぜ!!」
 ジャスパー・ドゥルジー("D"RIVE・f20695)が何やら全力で主張していた。両手で顔を覆いこの世の終わりのような顔と声で、
「俺から痛みを奪うんじゃねェ、くそ××××野郎」
 なんか叫んでいる。ああ、うん、と。それを見ていたファルシェ・ユヴェール(宝石商・f21045)は何とも言えない顔で肩をすくめていた。
「痛い思いはしたくないのが本音ですが……、しかし、痛みが無い事の空恐ろしさも分かるつもりです」
 そういってから、しばしの沈黙。
「……いえ、その反応はジャスパーさんくらいかと思いますが」
 まったくそこは理解でない。という顔をするファルシェ。なんでだ!? なんて大げさにショックを受けるジャスパーに、ひらひらファルシェは手を振って、
「少なくとも、気がつけば貫かれて死んでいた等。そういう落ちは遠慮したい。そう言っただけですよ」
「うっわ。そういうのもう想像しただけでやる気なくすわ……」
 物凄くテンションが下がったような声音で、ジャスパーはナイフで己の手を突き刺す。血が流れると、それをそのまま、
「……造作もねえよ」
 巨大な鎌へと作り替えた。作り上げた鎌は立派で、禍々しくて、強そうで、
「やっぱり全然痛くない……最高にイカした技の爽快感がまるでねェ……。やだもう辛すぎる……」
 だっていうのにもはや涙目である。見る影もなく元気がへこんでいる。はいはい、とあきれたようにファルシェが前に出た。
「上質な物が力を持つ――それもひとつの見方に過ぎませんが。テンションにかかわらず、物には一定の価値があるのですよ」
 そりゃあもうそういう気持ちに上げ下げされずにある普遍的な価値である。そんなことを言いながらも、ファルシェは洞察力のタイガーアイを触媒に力と速度を自分に付与する。
「飛び回る相手の動きにも反応出来ましょう。……ほら、いつまでもいじけてないで、行きますよ」
「いじけてねえよぉぉぉぉぉぉぉぉ」
 完全にいじけてるジャスパーの声を聴きながら、ファルシェは敵の中に突っ込んでいった。
「遊ぶ?」
「遊ぶ?」
「ええ、遊んであげましょう」
 空へと舞い上がれば、嬉しそうに歓迎するように鳥たちが声を上げる。
 あげると同時に手を伸ばす。まるで踊るような拳の連打を、ファルシェは仕込み杖で受け流した。
「……っ、と」
 右へ、左へ、次から、次へ。
 繰り出されるその手を受け止め、ファルシェは返す。
 動きを止めれば、ジャスパーが狙いやすいだろうという判断の元である。
「……」
 けれども。その杖を振るいながら、ファルシェはわずかに眉根を寄せる。……受け止める拳は早く、重く。衝撃はあるのに、痛みも痺れも伝わらない。……そう、つまりは、往なして返す為の力加減が判らない・
「くっそ、いくぞ、かたわれ!」
 思った以上に厄介な。と、言いかけたところで、オウガの血が模る翼を広げて、ジャスパーもまたファルシェの後を追いかけた。
「くっそ、すッげーーー悔しいからなるべく無駄な負傷は避けるようにするわ!! だって痛くねーんだもん!!」
「負傷を避けるのは当然ですが、子供ですか」
 物凄く全力で主張するジャスパーに、ファルシェは強引に杖を振ってその拳を押しとどめる。留めきれなかった勢いで、杖を握る手を爪がひっかく。血はふきだしても隙を見せぬよう、ファルシェはジャスパーの隣に並び立った。
「まあ、多勢に無勢って奴だし怪我は避けられねえだろうけど!!」
「仕方がありませんよ。私は商人です故、戦いは本業では無いのですよ」
 あえて何でもないように嘯くファルシェに、ジャスパーはようやく、いつもの様子を取り戻し肩をすくめた。
「そォんなお強い商人サンがいたら生粋の戦士が泣いちまうぜ」
 いうなり、素早く、手早く。ファルシェの周りに集う鳥たちを一掃する。
 宣言通り、舞い散る拳をできる限り避けるけれども、数限りない敵の姿に、ジャスパーは面白くなさそうに鼻を鳴らした。
「まあいいぜ。さっさと首魁を殴りに行きたいし、手早く片付けるかァ」
「はいはい、お願いしますよ」
 徐々にその身を削りながらも、二人もまた敵を押し返していく。
 やっぱり面白くねえなあ、と。己の足を砕くように握りつぶす鳥を切り裂きながら、思わずジャスパーはそうつぶやいた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ティオレンシア・シーディア
※アドリブ掛け合い絡み大歓迎

あーもー、痛くないのはまだいいにしてもなぁんでわざわざ怪我しようとするのかしら、まったく…

気分良く踊り始めると面倒な手合いねぇ、コレ。なら、出端をくじきましょうか。●的殺の〇先制攻撃で舞い始めを潰すわねぇ。痛覚がマヒしてても衝撃は徹るし、魔術文字の起動にも問題ないもの。帝釈天印での〇マヒ攻撃、遅延のルーン3種による〇捕縛…足引きの手筋ならいくらでもあるのよぉ?
煙幕や閃光手榴弾の○投擲による○目潰しも合わせればより効果的かしらぁ?

痛みってのは体からのアラートだもの。今のとこマヒしてるからひとまず支障はないにしても、間違いなくパフォーマンス自体は落ちてるのよねぇ…


九十九・白斗
「痛みがないのか」
軽くストレッチしてみる
いつもなら筋が伸びて痛みが走るがそれがない

「なるほど、怖いな」

別に痛みを感じない相手が怖いわけではない
自分の負傷に気がつかないであろうことが怖い

「怖いか…」

少し前なら、怖いなんて思わなかったが、恋人ができたせいか死ぬのが怖くなった

とはいえ、戦い以外に自分ができることはない

「美声の例えに使われる妖怪だな。ただ、迦陵頻伽は女だと聞いていたがどう見ても男だな。なら遠慮はしねえ」

服を脱ぎ始める白斗
裸に近い方が負傷がすぐにわかる
武器はナイフ一本
遠距離からの狙撃で倒しても良いが、それだと殺してしまう
医者が治そうとしてるようだし、腱を狙い行動不能を狙うとしよう



「痛みがないのか」
 九十九・白斗(傭兵・f02173)はその場で、軽くストレッチをしてみた。
 場所が場所だというのに、全くいつも通りに彼は体を動かして、そうして自分の状態を確認する。……いつもなら筋が伸びて痛みが走るが、今日はなかった。
「怖いか……。なるほど、怖いな」
 なるほど。しみじみ白斗は呟く。その言葉に、
「あらぁ。そういうたちには見えないけれど?」
 ティオレンシア・シーディア(イエロー・パロット・f04145)が微笑みながら訪ねた。その言葉に確かに、と白斗は頷く。
「少し前なら、怖いなんて思わなかったが、恋人ができたせいか死ぬのが怖くなった」
「あら。それはそれは」
「と、いうのもあるが……、別に痛みを感じない相手が怖いわけではない。自分の負傷に気がつかないであろうことが怖いのだな」
 死ぬのが怖い。それもある。
 だが、己の状態が理解できない、ということも恐ろしいものであると感じたのだ。
「同感よぉ。……ていうか、それが普通だと思うんだけれどもねぇ……」
 困ったように首を傾げるティオレンシアの視線の先には、傷つけあっている鳥たちの姿が見える。猟兵たちと戦って傷ついているのもあれば、鳥どうして傷つけあっているのも、いるのだ。
「あーもー、痛くないのはまだいいにしてもなぁんでわざわざ怪我しようとするのかしら、まったく……」
 ばかみたいねぇ。と、ティオレンシアは口の中で呟いた。
「ま、あたしたちも、せいぜい気を付けましょ」
「ああ。とはいえ、戦い以外に自分ができることはないがな」
「……確かに」
 白斗の言葉に、ティオレンシアは思わず肩をすくめた。ことここに至って戦う以外することがないのは、ティオレンシアも認めることであった。そんな彼らに気付いたのか、鳥たちがこちらを向く。
 翼が羽ばたく音がする。こちらに向かって跳んでくるのだ。遊ぼう、と楽しそうに歌う鳥たち。
「気分良く踊り始めると面倒な手合いねぇ、コレ。……なら、出端をくじきましょうか」
 いうなり、ティオレンシアはリボルバーを構えた。そのまま、
「攻撃=防御の解除。そこを崩せばハイこの通り、なぁんてね?」
 相手の動きを理解して、その先を持って敵の身体に弾丸を打ち込んでいく。翼に。足に。敵の攻撃の起点を潰していく。
「迦陵頻伽……。美声の例えに使われる妖怪だな。ただ、迦陵頻伽は女だと聞いていたがどう見ても男だな。なら遠慮はしねえ」
 一瞬。接近を止められた鳥に、即座に白斗も服を脱ぐと即座に接近し同時に軍用ナイフを閃かした。目にもとまらぬ鋭い動きで、鳥の首を掻いて落とす。
「お見事ねぇ。次は右よぉ」
「了解だ。後ろも来る、気をつけろ」
「はーい」
 言いながら、ティオレンシアは帝釈天印や遅延のルーンを刻んだ弾丸で、次々に敵を麻痺させ、足止めをし、動きを封じていく。
「……足引きの手筋ならいくらでもあるのよぉ? ちょぉっと……数、多いけれどもねっ」
 押し寄せてくる敵を前に、ティオレンシアは銃弾をばらまき続ける。その背後に一匹、難を逃れた鳥が回り込む。
「!」
「こんの。女の足を触るんじゃないわよ!」
 鋭い爪がティオレンシアの左の太腿をひっかいた。ぱっと血が落ちると同時に、白兎がその背後から敵の腱を狙い、それと同時に顔面を殴りつけて気絶させる。
「厄介だな。遠距離からの狙撃で倒しても良いが、それだと殺してしまう……」
「まったくねぇ。あたしたちの優しさに感謝してほしいわぁ」
 足の傷をかばうように、肩越しにティオレンシアは振り返る。煙幕や閃光手榴弾を背後に向かって投げつけた。目つぶしだ。
 それから己の足を確認する。痛みはないが結構傷は深くて、……走れないというほどではないが、確実に速度は落ちるだろう。
「痛みってのは体からのアラートだもの。今のとこマヒしてるからひとまず支障はないにしても、間違いなくパフォーマンス自体は落ちてるのよねぇ……」
 うわあ。て顔をしているティオレンシアに、再び鳥が襲い掛かる。それをナイフ一本で前に出て、白斗が受けもった。
(医者が治そうとしてるなら……)
 即座にナイフを相手の足へと叩きこむ。必要があるならば即死させることもできたが、白斗はそれをしなかった。
 返すように鳥が白斗の腕をひっかいた。両手で、その両腕に爪を立てると、ぱっと赤い血が白斗の双腕から流れ落ちる。
 裸に近い方が負傷がすぐにわかる。問題はない。そのまま追撃して敵を先頭不能にする白斗に、
「まだまだ来るか……。やれ、面倒な戦争だな」
 難しい戦争も、悲惨な戦争もあったが、ここまで面倒なのは少し珍しい。なんて独り言ちる白斗に、
「本当にね。さっさと終わらせて、ゆっくりお茶でも飲みたいわぁ」
 その時は、痛みが戻って落ち着かないかもしれないけれどねえ。なんて、ティオレンシアも笑うのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

五条・巴
月の果てまで、行きたい
月は冷たい?熱い?
なんでも知りたい
そして、月になりたい
月のように
皆から──

僕の身体は全て商品として価値のあるもの
見せ物に傷は付けちゃいけない
特に顔は

元から痛いことは嫌い
だって、痛みをそのままにしておくなんて出来ないから

でも、もしも、月にいけるなら
ちょっとの痛みは我慢出来る
今痛みが無いなら尚更
目の前にいる君を屠って、月へ近づくんだ

ねえ、よそ見しないで
僕はここだよ

ぱちぱちと雷を帯びた牝鹿を敵に放ち、自分も銃を構え翼や四肢を狙い撃つ
繰り出される攻撃から身を守るけれど、偶に追いつかない

ああ、痛みは無いけれど血の垂れる感触が気持ち悪い
けれど、けれど、進みたい
月をめざして



 五条・巴(照らす道の先へ・f02927)は静かに、しかし熱のこもる目で、月を見つめていた。
 今宵は満月。普段よりもいくつもいくつも大きな月が、ただ深々と降るように輝いている。
 月は瞬いている。その惨状を知っていて。
 月は佇んでいる。ただ、何を語ることもなく静かに。
「……」
 ついと、巴は天へと両手を伸ばす。
「……月の果てまで、行きたい。月は冷たい? 熱い?」
 ねえ、教えてよ。とでも言いたげに。熱に浮かされた子供のように、巴は言葉をつづける。
「なんでも知りたい。そして……、月になりたい。月のように、皆から──」
 ねえ、と声をかけて。
 答えなんて返ってくるはずもなくて。
 だというのに、天から舞い降りてくる鳥たちは、
 まるで自分たちが月の使者とでも言いたげに、翼を広げて月を隠す。
「ああ、こんなところにも」
「行きましょう。さあ……行きましょう」
「一緒に、行っていいのかい……?」
「ええ。一緒になれば」
「私たちと、一緒になれば」
 鳥たちは笑う。楽しげに笑う。妖怪に骸魂が付いたもの。それが彼らだ。だから……猟兵である巴は、一緒になれるわけがないのだけれども、
 その言葉は、とても魅力的に聞こえた。
「……」
 けれどもそれを、ぎりぎりのところで押しとどめたのは巴の理性だった。
(僕の身体は、全て商品として価値のあるもの……。見せ物に傷は付けちゃいけない。……特に顔は) 
 元から痛いことは嫌いだ。
 だって、痛みをそのままにしておくなんて出来ないから。
 理性が言う。その誘いに乗ってはいけないと。
 頭では分かっている。そんなものは何にもなりはしないのだと……。
 ……でも。
「……でも、もしも、月にいけるなら……、ちょっとの痛みは我慢出来る。今痛みが無いなら尚更……」
「なら」
 鳥が巴の左腕をとる。そのままミシミシと力強く握りこむ。筋肉が潰れて骨にひびが入っていく音がする。……そして、
「でも……、目の前にいる君を屠って、月へ近づくんだ。ねえ、月の近くに行くのは……僕だけでいいだろう?」
 月が見たいんだ。
 そのために、この鳥は邪魔なんだ。
「ねえ……、よそ見しないで。僕はここだよ」
 あくまで巴が月に向かって語り掛けた。……その時、
「……僕はここだよ」
 ここからともなく、雷気を帯びた牝鹿が召喚された。
「!」
 雷撃が放たれる。巴の腕をつかんだ鳥がそれで撃ち落とされる。そのまま巴も銃を構えて、撃った。鳥のその翼を、四肢を。
「ああ……」
 鳥は痛みにひるむことはなく。巴の手を再び鋭い爪をもつ手で握りこもうとする。無意識のうちに、目に見えてわかる掌ではなく左腕のあたりを巴は差し出した。深々と鋭い爪によって左腕がえぐれると、血が滴り落ちた。
「……」
 痛みは無いけれど血の垂れる感触が気持ち悪い。
「……行かなくちゃ……」
 けれども、彼は行かなくてはならない。
 巴は歩き出す。……月を目指して。
 きっと、完璧に攻撃をよけきれはしないけれども……。
 それでも、月のよく見えるあの丘まで……。

大成功 🔵​🔵​🔵​

陽向・理玖
元々割と痛みには強い方だ
だけど
普通の人や妖怪にこれは…駄目だろ

龍珠弾いて握り締めドライバーにセット
変身ッ!
衝撃波撒きつつ手近な敵にダッシュで間合い詰めUC起動しグラップル
拳で殴る

…確かにこりゃあやばいな
いつもより踏み込みが過ぎる

成程
痛みがあるから間合いも読める
踏み込み過ぎるのはちと怖ぇ
便利なだけじゃないんだな
首から下げてる指輪を装甲の上から撫でオーラ防御
ないよりマシだろ

攻撃よく見て見切りカウンター
止めらんないんじゃ
こっちの攻撃入れ放題だな
拳の乱れ撃ち
最後は吹き飛ばし追い打ち

慣れてくりゃ動きも見える
そしたらもう喰らいやしねぇ
戦闘知識に暗殺用い
死角から間合い詰め翼狙い蹴り
こんなとこで
負けらんねぇ



 陽向・理玖(夏疾風・f22773)は目の前に広がる光景に息をのんだ。
 拳を握りしめる。爪が軽く掌に食い込む。
 だというのに……、そこに痛みを、全くと言っていいほど、理玖は感じなかった。
(元々割と痛みには強い方だ。だけど……)
「普通の人や妖怪にこれは……駄目だろ」
 ぽつん、と苦しげに呟く理玖は、それでも俯くことなく顔を上げた。虹色の珠が連なる念珠を握りしめて、弾くようにドライバーにセットした。
「……、変身ッ!」
 潰しあっている鳥たちは、もともとは普通の妖怪だった。
 骸魂にとりつかれたために、こんなことになってしまった。だから……、
「俺が……助ける!」
 出来ることなんて限られている。でも、
 理玖は躊躇うことなく、人の群れに全力で突っ込んでいった。
「……っ!」
「おや、新しいお客様が」
「お客さま?」
 無邪気に喜んでいる鳥たちに、一瞬で理玖は距離を詰めて拳を固め、そのわき腹を殴りつける。
「……!」
「おや……?」
「――見えた」
 動きを確認して、続くようにして絶え間なく鳥の一隊を殴り続ける。それが落ちればすぐに体を翻す。次の敵へと向かい合うときに気付く。
(……確かにこりゃあやばいな。いつもより踏み込みが過ぎる)
 返すように鳥が足を向ける。とっさに理玖は左腕を前にしてそれをガードした。しかし鋭い爪はやすやすとその装甲を引きちぎって、理玖の腕をつかみ、爪を食い込ませる。
「……っ!」
 そのまま陸はその爪を右手でつかみこんだ。鋭い爪は触れるだけで血が流れるが気にはしない。痛くもない。ぶん、と、しがみつく足を引きはがして、放り投げる。丘に落ちる敵を油断なく見ながら、
(……痛みがあるから間合いも読める。踏み込み過ぎるのはちと怖ぇ……。便利なだけじゃないんだな)
 普段なら、絶対にあんな、刃物を素手で握って投げるような真似はしなかったはずだ。でも、できてしまう。
「……ないよりマシだろ」
 呟いて、理玖は首から下げている指輪を、装甲の上から撫でた。それによってオーラの守りを付与する。……気休めだけれども、勿論、あるのとないのとでは肝心の時で違うだろうと理玖は思った。
 そうしている間にも、別の場所から鳥が理玖の腹に穴を穿とうかと爪を振る。理玖はそれを冷静に見つめる。そうしてそれを返すように、
「止めらんないんじゃ……、こっちの攻撃入れ放題だな」
 相手の舞の間を縫うように、好きを潰すように。拳を連打させ、そうして最後には吹き飛ばす。
「慣れてくりゃ動きも見える。……そしたらもう喰らいやしねぇ」
「ふふ」
「ふふふふふ」
 負けない。と。強い瞳で鳥をにらむ理玖。対する鳥もまた、楽し気に理玖を見ている。仲間が倒されても、自分が倒れても。まるで気にしないとでもいうように。
「ああ、やはりやはり、遊んでくれるの」
「遊ぼう、遊びましょう。楽しいでしょう?」
 どれだけ殴っても、痛くない。痛まない。心の赴くままに戦うのは、楽しいだろうと鳥たちは笑っていた。
「……その声は聴かない」
 鳥たちの言葉も、ものともせずに。
 理玖は声を上げて。そして走る。翼の資格に回り込み、距離を詰めてその翼を狙い蹴り伏せる。
「こんなとこで、負けらんねぇ」
 だって理玖にはまだ、することがあるのだから……。

大成功 🔵​🔵​🔵​

シャト・フランチェスカ
痛みは必要なもの
確かにそうだね
きみも
いや、「私」も、そう思うだろう?

暗示を緩めれば私が顔を出す
そうやって油断していると
そのうち私が乗っ取ってしまうんだから

傷を受け取るのは私!
さあ、こっちにいらして!

攻撃を心地よい雨のように身に受けて
「僕」の表情筋じゃ浮かべられないような
箍の外れた無垢な笑顔

あはは
もう少し、あと少し!
僕を壊してくれたら私が、

……

僕の意識を繋ぎとめる
痛みがないと難しいね

僕が成功させるのは
【敵の急所を素手で的確に穿つ】
という行動だ
引き抜いた手は
ただ温かい血に濡れただけ

きみも痛みを感じなかったのだろうから
優しい世界だったのかもしれないね
けれど、たぶん
生きてイタイ、とも思わないんだろうさ



 シャト・フランチェスカ(侘桜のハイパーグラフィア・f24181)はほんのり、視線を下げた。
「痛みは必要なもの。……確かに、そうだね」
 歌うような声は何処か冷静で、静かに、静かに。……しかし。
「きみも……、いや、「私」も、そう思うだろう?」
 シャトがそういった瞬間、
 ぱちりと切り替わるように、シャトの雰囲気が一変した。
「ふふふ。あはははは」
 暗示を緩め、顔を出したのは「私」。
「そう、そう、そう! そうやって油断していると、そのうち私が乗っ取ってしまうんだから!!」
 嬉しげな声をして、武器すらも持たずに。シャトは敵の群れの中に臆することなく飛び込んだ。
「傷を受け取るのは私! さあ、こっちにいらして!」
「遊ぶの?」
「遊んでくれるの?」
「ええ、遊びましょう!!」
 おもちゃのように、シャトは両手を広げてくるくると回る。
 切り裂き、叩き伏せ。同時に鳥たちも、きゃらきゃらと笑うように拳をシャトに浴びせかける。
「あはははは!」
 箍の外れた無垢な笑顔は、シャトのもの。そして同時に鳥のもの。
 鳥との踊りは途方もなく美しくて、そしてなんとも歩調の合う踊りで。
 腹の骨を砕かれ、内臓を傷つけられ。
 腕を引き裂かれ、骨まで除くようにその身をそがれ。
 それでも気にせず、踊るようにシャトは舞う。
「あはは!! もう少し、あと少し! 僕を壊してくれたら私が……!!」
 ねえ、もっともっとと強請るように。痛みのない傷をいとおしむように。
 シャトが声を上げた、その瞬間、
「……」
 ふ、と、シャトの身体から力が抜けた。
「……痛みがないと難しいね」
 急浮上した、「僕」の意識。
 そうしてその動きのままに、シャトはその素手で、的確に、鳥の心臓を撃ち抜いた。
「生憎だけど……まだ、いけないよ」
 引き抜いた手は、ただ温かい血に濡れただけ。
 それは鳥の血で、そして自分の血でもあった。
 崩れ落ちる鳥たちは悲鳴すら上げない。
 むしろ急に様相の変わったシャトを楽しそうに取り巻いて。変わらぬ踊りで襲い掛かる。
「きみも痛みを感じなかったのだろうから……、優しい世界だったのかもしれないね」
 それにも臆することなく、シャトは己の腕を旋回させる。まるで先ほどのダンスの続き。けれども表情は全く違っていて。
「けれど、たぶん、生きてイタイ、とも思わないんだろうさ……」
 今度は、生きるための死の踊りを、絶え間なく踊り続ける。
 シャトがシャトとして、生き残るまで、それは続いた……。

大成功 🔵​🔵​🔵​

草野・千秋
サイボーグとして機械部分は
両腕両脚と一部の内蔵、それ以外は生身
血は普通に赤いものが流れる

月も欠けるごとに痛みを感じているんでしょうか
痛みというものは『ヒト』が人間らしくあるために必要なものなんです
心の痛みも体の痛みも
痛みが心身の危険を知らせてくれるから僕たちは僕たちでいられる
それが機械の体ではない人の身にも起きるだなんて穏やかではないですね
痛みを感じないからといって人やものを傷つけていい理由にはなりませんよ!

敵攻撃は体で受け止めつつ
まずはUC、範囲攻撃、スナイパー、一斉発射で敵を蹴散らします
痛みを感じないとはいえ集団に独り身で突っ込むのは
味方の陣形も崩してしまうでしょうから



 草野・千秋(断罪戦士ダムナーティオー・f01504)は空を見上げた。
 美しい月が、天に輝いている。
「月も欠けるごとに痛みを感じているんでしょうか……」
 思わずつぶやくも、月は何も言葉を帰さない。それは千秋にもわかっていたことで、千秋は一つ、小さく頷いた。
「痛みというものは『ヒト』が人間らしくあるために必要なものなんです。心の痛みも体の痛みも、痛みが心身の危険を知らせてくれるから僕たちは僕たちでいられる……」
 そうしてその月を遮るように、舞い降りてくる影がある。千秋は「秩序の崩壊」の名を持つ銃火器を構えた。
「それが機械の体ではない人の身にも起きるだなんて穏やかではないですね……。痛みを感じないからといって人やものを傷つけていい理由にはなりませんよ!」
「遊びましょう」
「遊びましょう」
「踊りましょう……」
「さあ」
「申し訳ございませんが、お断りします……!」
 鳥たちの爪が舞う。足の鉤爪が千秋の腕につかみかかる。そこは機械部分だから血は流れないけれども、みしりと嫌な音を立てた。
「?」
「血が出ない」
「だったらこちらは……?」
 怪訝そうに集まってくる鳥たちが、千秋の腕に、腹に、その鋭い爪を走らせ、攻撃を与えていく。機会ではない場所からは血が流れる。それでも痛みがないのは、いっそ不思議であった。
「……畳み掛けます!」
 それを受け止めながらも、充分鳥たちが集まってきたところで千秋は全武装の一斉発射を放った。構えていた重火器から、ありあふれる銃弾が雨のように降り注いでいく。
「あら」
「おやおやおや」
 銃撃を受けながらも、鳥たちも負けてはいない。あとから、その更に後から。倒される向こう側から、新たな敵が現れる。
「まだまだ、負けませんよ!」
 そのたびに鳥たちは千秋に傷を与え、千秋もまた敵を屠っていく。尽きることのない攻防戦は、いましばらくは続くであろう。痛みがない、危険な現状ではあるが、千秋にとってはそれが最適な戦法だから……、
「痛みがないのって、便利なのか不便なのかわかりませんね」
 銃声は、彼の周囲から敵の姿がすべて消え去るまで……。今しばらく、続いていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

エンジ・カラカ
アァ……アイツもコイツもミンナミンナ怪我をしている…。
賢い君、賢い君、可笑しいなァ……。
ココはこんな世界だったカ?

まァ、いいや。
遊ぶ?遊ぶ?あーそーぼー。

薬指の傷を噛み切って君に食事を与えよう
賢い君のアカイイトを張り巡らせて一緒に遊ぶ遊ぶ
ドコがイイ?好きな場所でイイヨ
たーのしい方が良い

手?足?
アァ……首!首にするカ?
うんうん、そうしよう。
首にしよう。

一体ずつ確実に狙う。
最初は足、動けたら困るもンなァ……。
次は手。武器を振り回されたら困るもンなァ。
最後は首。

アカイイトを巻きつけて、君の毒を与えよう
苦しい?アァ、痛くないカラ苦しくない?

イイネイイネ
ならもーっと遊べるなァ……。

もっともっとあーそーぼ



 ひらりひらりと、極彩色の羽が舞う。
 美しい。何とも美しいその景色。鼻先に落ちてきた羽を、エンジ・カラカ(六月・f06959)はぱしりと手に取り軽く鼻を鳴らした。
「賢い君、見て見て羽ダ。綺麗だなァ」
 そこにあるだけでも美しい。そんな羽を見つめるエンジはしかし。つい、とわずかに目を眇める。
「そうそう、キレイキレイ。賢い君、賢い君、可笑しいなァ……。ココはこんな世界だったカ?」
 その羽をすかすように月にかざした。その翳した向こう側からは、
「アァ……アイツもコイツもミンナミンナ怪我をしている……」
 鮮やかな羽をもつ鳥が、タガが外れたように舞い踊っている姿が見えた。
「あなた。あなたも」
「さあ、あなたも」
「……まァ、いいや」
 エンジの姿を見て、表情を輝かせる迦陵頻伽。その次の言葉が飛び出る前に、エンジは口の端を上げて頷いた。
「遊ぶ? 遊ぶ? あーそーぼー」
 薬指の傷を噛み切って、エンジは君に食事を与える。
 いつもならある、わずかな痛みすら今日は感じなくて、
「味気ない? 賢い君もそう思う? そう」
 おいしくないねえ。なんて、冗談か本気か。のんびりのんびりエンジはそうつぶやいた。
 鳥が舞い降りる。刃のような爪が走る。それをエンジは紙一重でよける。掠めた切っ先、わずかに血が散るもそれに痛みを感じない。
「……お返しお返しドコがイイ? 好きな場所でイイヨ」
 即座にエンジも、賢い君のアカイイトを張り巡らせて。
「たーのしい方が良い」
 手? 足? そういいかけたところで、腹に僅かに衝撃が走った。
「……後後、そっちはアト」
 別の鳥の拳が、エンジの腹を背後から打ち据えていた。何かが砕けたような感触がするけれども……、
「アァ……首! 首にするカ? うんうん、そうしよう。首にしよう」
 悪魔でエンジは正面の鳥から視線を外さない。動かないように足を縛り、次は手を封じる。最後に首に賢い君を巻き付けて、
「足は動けたら困るもンなァ……。手も、武器を振り回されたら困るもンなァ。それから首。最後は首」
 なんて歌いながらも、君の毒を全力で正面の敵へと流し込んだ。
 その間にも、別方向からくる敵の猛攻はやまない。それをひらり、ひらりとかわし。そして時々足を打たれ、腕に傷を受けたとしても、エンジの態度は変わらなかった。痛みを感じないせいか、それに気付いているかどうかもはたから見れば怪しかった。
「苦しい? アァ、痛くないカラ苦しくない?」
 痛みを感じないからか、悲鳴が上がらない。突如力を失った鳥は、極彩色の羽を残して別の妖怪の姿へと変じていく。……どうやらこれが、取りつかれていた妖怪だろう。
 ペイ、とエンジは即座に拘束を解いて気絶していたそれを地面に放り投げる。そうしてようやく、たった今気づいたかのような顔で、
「イイネイイネならもーっと遊べるなァ……」
 自分を散々傷つけていた、鳥へと向かってにんまり、と笑った。
「もっともっとあーそーぼ」
 ねえ? と。
 笑う声とともに、糸が容赦なくその足へと走った。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ハイドラ・モリアーティ
【BAD】
痛み――まあ、ストレスだわな
知ってたか?エコー、生きてる限りストレスからは逃れられんらしいぜ
肉体にもそうだが、精神にもそうだ。痛みは必須なんだと
ちなみに虫とか魚に痛覚はないそうだ。脳の容量的にな

つうことで、俺たちはどうなってるかっていうと
虫とか魚と一緒さ。なーんも感じない
だが頭は使える――被害は最小限に動けよ

ぶっちゃけ、こいつは死体だからって無茶をしかねん
ただでさえ若いからな――ああほら、頭に血が上りすぎだぜ
【ADDICTION】。ヒュドラ、お前を貸せ
やりすぎねえうちに力ずくで止めるし、敵にゃアとっとと海に帰ってもらうぜ
おい、しっかりしろ。生き生きした死体になれって言ったんだ俺は


エコー・クラストフ
【BAD】
ふーん。生きてる限り……ね。
だとすると、もう死んでるボクはストレスから逃れられることになるのか? ……全然そんな感覚はないが。

しかし、たしかに厄介だ。
普段は死体でも痛みくらいはあるからな。痛みの度合いで負傷によって攻撃力がどれくらい上がってるか解るんだが……完全にそれがなくなると、攻撃のタイミングが掴めない。
だがメリットもある。ボクは死にはしないからな。痛みを気にせず戦えるなら、とても楽に殺せるわけだ。

集団に突撃して【罪人よ、血を流せ】で攻撃。
これはいいな。痛みがなければもっと殺せる。お前たちを根絶やしにできる!
なんだよハイドラ、止めるな……って、ああ……これボクの血か? 驚いたな。



「痛み――まあ、ストレスだわな」
 ハイドラ・モリアーティ(Hydra・f19307)がふん、と鼻を鳴らしながら言った。皮肉気に唇の端をゆがめて、肩越しに振り替える。
「知ってたか? エコー、生きてる限りストレスからは逃れられんらしいぜ。肉体にもそうだが、精神にもそうだ。痛みは必須なんだと」
「……ふーん?」
 言われて、エコー・クラストフ(死海より・f27542)は首をかしげる。
「生きてる限り……ね。だとすると、もう死んでるボクはストレスから逃れられることになるのか? ……全然そんな感覚はないが」
 ストレスを感じないのならば、もっと気楽に生きられるんじゃないかと、エコーは難しい顔で言うので、ハイドラはおかしげに笑った。
「ちなみに虫とか魚に痛覚はないそうだ。ストレスもないだろうな」
「……え、っと、そうか」
 思わず瞬きしながらも、ちょっとうなずくエコー。なるほど。なんて妙に感心したところで、ハイドラは冗談めかして己の頭を軽くたたいた。
「脳の容量的にって話さ。だから、痛みがなくなってもそれはそれ、これはこれの話なんだ。普段からエコーが何にも感じない……ってことは、ねえだろ?」
「それは……そうだろうけれども。普段は死体でも痛みくらいはあるからな」
「だろ? けれども今は、そうじゃない。……つうことで、俺たちはどうなってるかっていうと、虫とか魚と一緒さ。なーんも感じない。……だが頭は使える――被害は最小限に動けよ」
「なるほど」
 もう一度。エコーは感心して、
「……」
「……?」
「つまり……もしかして、今のは心配してくれたのか?」
「バカかよ。行くぞ」
 ついとハイドラは視線をそらした。さて、肯定も否定もせずにハイドラは走り出す。エコーも首を傾げながら、同じようにして血の宴へと突入した。
「おや、お客様」
「あなたたちも、遊びに来たの?」
 極彩色の羽が舞う。極彩色、というからには、エコーには縁がなかった極楽というものは、こんな色をしているのだろうか。
「……」
 一瞬、感じたそんな思いはすぐに押し流された。エコーは赤い雷を纏う黒い刀剣を翻す。
「報復を与えよう。……さあ、こい」
 いうと同時に、手近にいた鳥を一刀のもと切り伏せた。切り伏せると同時に、上方から現れた鳥が鋭い足を走らせる。
「すごいすごい!」
「だったら、こっちも……!」
「……っ」
 鋭い爪が腕に食い込む。若干鈍い音がして腕が引き裂かれるのに全く痛みを感じない。ハイドラは眉根を寄せて、ちぎられながらも刀を旋回させる。
「……しかし、たしかに厄介だ」
 引き裂かれた左腕から血が噴き出す。構わずエコーはトリノアシを切り落とした。ぐるりと、その体を切り裂いて足を踏み出せば、ついでの敵へと刃を向ける。
「痛みの度合いで負傷によって攻撃力がどれくらい上がってるか解るんだが……完全にそれがなくなると、攻撃のタイミングが掴めない」
「おい」
「だがメリットもある。ボクは死にはしないからな。痛みを気にせず戦えるなら、とても楽に殺せるわけだ」
「おい!」
 誰かが何か叫んでいる。けれどもエコーは気にしない。
「これはいいな。痛みがなければもっと殺せる。お前たちを根絶やしにできる!」
「おいこら聞けや!!」
 がっ!!
 ハイドらは思いっきりエコーをぶんなぐってみたが、聞いちゃいねえ。ハイドラはがりがりと頭をかく。
(……ぶっちゃけ、こいつは死体だからって無茶をしかねん。ただでさえ若いからな――っていうかああほら、頭に血が上りすぎだぜ)
 見てられない。難しい顔をして、ハイドラは片手を挙げた。
「ヒュドラ、お前を貸せ。殺すぞ」
 己の幸福な記憶を薪にくべながら、ハイドラはヒュドラの一部であるコンバットナイフを構える。オウガを憑依された身で、
「やりすぎねえうちに力ずくで止めるし……、敵にゃアとっとと海に帰ってもらうぜ」
 とん、と、軽々と宙をかけた。

 ナイフを振るう。目標はエコーの周囲にある敵たちだ。翼を毟るように。足を手羽先にするように。
「おい、しっかりしろ。生き生きした死体になれって言ったんだ俺は」
 切り落としていく。さすがに的がなくなればエコーも止まるだろうとの判断の元である。だというのにエコーはハイドラを一睨みして、
「なんだよハイドラ、止めるな……って、ああ……これボクの血か? 驚いたな」
 あれ? って顔をするので、ハイドラはひらひらと手を振った。
「なにが驚いたな、だ。ちょっとお前もう帰って寝てろ」
「なんで寝るんだよ。わかった、気を付ける。だから行こう」
「……しゃーねーな」
 果たして本当に理解しているのだろうか。胡散臭そうな顔をしながらも、ため息を一つ、ついて。走り出すエコーをハイドラは追いかけるのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

黒鵺・瑞樹
アドリブ連携OK
右手に胡、左手に黒鵺の二刀流

本体が壊れない限りって言われても俺には痛みは必要だ。
どんなに苦しくても痛くても、それは生きてる証だから。

相手の攻撃に集中し攻撃を全力で避ける。
回避できたらその隙にマヒと暗殺のUC菊花を叩き込み、可能な限り行動不能に追い込む。代償は寿命。
倒したら一時存在感を消し目立たないようにし、次の標的を見定め同様に繰り返し。
敵の攻撃は第六感で感知、見切りで回避。
回避しきれないものは本体で武器受けで受け流し、カウンターを叩き込む。
しかし本当に厄介だ。
痛みが感じられないって事は受け流しの加減もわからないって事か。
それでも喰らってしまうものはオーラ防御で軽減を狙う。


ベイメリア・ミハイロフ
痛みを伴わぬ、とは
それほど危ない事はございません…!
痛みとは自身の体の不調・危険を報せる手段
お互いに血を流してみて遊ぶなど…なんと恐ろしい
これは大変な世界になってしまっておりますね

まあ、これはまた、きれいなお相手ですこと
い、いけません
そのお姿に惑わされては

狂気耐性を用い、お相手の声や音波に耳を傾けぬよう注意
危うい場合はオーラ防御にて耳を覆ってしまいます
格闘攻撃は第六感・野生の勘にて見切り回避に努め
距離を取りながら全力魔法のRed typhoonを
なるべく多くの対象を巻き込むようにしつつ
可能であれば2回攻撃も仕掛けとうございます

どんなに負傷しても
痛くない、ということは
やはり怖いものでございますね



 黒鵺・瑞樹(界渡・f17491)は己の手を握りしめた。
 先ほど取りに傷つけられた場所であった。
 手のひらにざっくりと一文字、傷が走っている。
 どくどくと流れる血を見て、瑞樹はその手を握りしめた。
「……」
 痛みは全く、感じなかった。
「……本体が壊れない限りって言われても俺には痛みは必要だ。どんなに苦しくても痛くても、それは生きてる証だから……」
 きっと、この痛みがなければ存在すら希薄になってしまうだろう。
 そんなことを思っていた瑞樹であったが……、
「まあ……まあ! 大丈夫で、ございましょうか!」
 明るい声に、顔を上げる。ベイメリア・ミハイロフ(紅い羊・f01781)が、瑞樹のほうへと走ってきていた。
「ええと……そっちこそ?」
 心配そうな声に、瑞樹もベイメリアの足を指さす。どうやらひねられたようで、変な方向に曲がりながらもひょこひょこと走ってきているのだ。
「ああ。いえ。私はこれが、痛くはございませんので」
「なるほど。……俺も、一緒だ」
「まあ! 痛みを伴わぬ、とは、本当に、これほど危ない事はございませんね……!」
 自分のことを差し置いて、難しい顔をしてベイメリアは言う、うん、と瑞樹も小さく頷けば、
「痛みとは自身の体の不調・危険を報せる手段。お互いに血を流してみて遊ぶなど……なんと恐ろしい! これは大変な世界になってしまっておりますね」
「うん……。それはそれとして、そっちはなんだか、面白いな」
「まあ!」
 拳を天に掲げて、ゴゴゴゴゴ、とオーバーリアクションをとるベイメリアに、瑞樹は面白げに僅かに笑う。……笑った、時、
「あら楽しそう」
「本当だ楽しそう」
「私たちも仲間に」
「入れてくださるかしら?」
 極彩色の羽が舞い落ちる。はっと二人が顔を上げると、天を覆うかのように、鳥たちが二人の前へと飛んでくる。
「まあ、これはまた、きれいなお相手ですこと。……い、いけません。そのお姿に惑わされては」
「はいはい。しっかり前は見ていてくれないと困るんだ。……来るぞ」
 また顔を上げて頬を赤らめたりなんてするベイメリアとは裏腹に、あくまで瑞樹は冷静であった。
「遊びましょう!」
 素早く繰り出される攻撃を全力でよける。それと同時に刃が黒い大振りなナイフを繰り出した。本体であるそれを、素早く操り死角に入り込み、
「はっ!」
 瑞樹の瞳が輝く。素早く鳥の腹を刺し、胸を裂き、喉元を切り開いた。そのまま流れるように羽を切断したところで、次の相手に攻撃を移行させる。
「紅の聖花の洗礼を受けなさい……!」
 それと同時に、ベイメリアもまた動いていた。先ほどとは比べ物にならぬしっかりとした口調で、“慈悲の剣”という異名を持つ、切先のない剣を模したメイスを掲げる。それが一瞬にして、赤薔薇の花びらへと変化した。
「まだまだ未熟な身ですが、援護をさせていただきます……!」
 敵の拳が走る。それを紙一重でよけながら、ベイメリアは花吹雪を巻き起こす。その目にも鮮やかな景色を、瑞樹もまた利用した。目が奪われるばかりの赤に、目立たないように己の気配を消して次の標的に忍び寄る。
「そこ……!」
 次もまた、一瞬であった。かろうじて反応した拳が瑞樹の肩を掠る。掠っただけなのに骨の砕けるような音がして、やっぱり痛みを感じなくて瑞樹は眉根を寄せた。
「……しかし本当に厄介だ」
 しっかりと、その返す刃て敵ののど元を突き刺しとどめを指す瑞樹。鳥たちは倒れると、極彩色の羽ばかりを残して消滅する。……後には、骸魂にとらわれていた妖怪たちだけが、残った。
「痛みが感じられないって事は受け流しの加減もわからないって事か……」
 とっさにオーラ防御で防御したが、それでも砕けた気がする左肩に手をやって思わず瑞樹が呟くと、 
「うう、聞こえません。きーこーえーまーせーん!!」
 丁度ベイメリアが、相手の声や歌をふさぐように、耳にオーラの防御を施して防衛していたところであった。
「く……っ。わたくしは、このような声に負けはしませんわ……!」
 花びらが広範囲にまき散らされる。それが刃のように敵をも切り刻んでいく。もちろん、ベイメリアとて無傷ではない。よけきれなかった腹からは血が流れているし、そもそも片足がやられていて痛くなくとも歩きづらいことこの上ない。
「……大丈夫だよな? まだいけるか」
 それでもなお、瑞樹は問うた。大丈夫ならば、もう少しその場らの影に隠れさせてもらう。大丈夫でないならば、無理せず休んでもらう。それくらいの気持であったが、ベイメリアも小さく頷いた。
「……どんなに負傷しても、痛くない、ということは、やはり怖いものでございますね」
「……」
 同意するように、瑞樹は小さく頷いた。
 そうして、まだ壊れていないから戦えると、口の中で呟いて……。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

シキ・ジルモント
痛みを感じなくても傷は負うと理解はしている
接近される前に、視界に入るオブリビオンをユーベルコードで撃ち抜いていく
まぁ、多少接近されても焦る事はない、むしろ狙い易いくらいだ

命中率を確保する為にこちらから少し間合いを詰める
そのうち、つい踏み込みが深くなる
かすり傷が気にならなくなり、回避や防御の判断が甘くなり始める
回避や防御に注意を払うより攻勢を続ける方が、より多くオブリビオンを倒せる
…より早く、妖怪たちを元に戻してやれる

白兎と熊の二人連れに被害が及ぶなら最優先で守る
躊躇なくオブリビオンとの間に割り込んで庇う
負傷に無頓着になってきているのかもしれないと自覚しつつ、仕方がない状況だったと自分に言い訳を


冴木・蜜
彼らが件の薬師でしょうかね
あとでお話を伺いたい所ですが…まずは一仕事

身体を液状化
素早く地を這い
薬師を彼らの攻撃から庇いましょう

痛みが無いとはいえ
傷を負えば動けなくなるでしょう
私も後で治します
さぁ走って

この姿は擬態
私の皮膚の下は黒油の血
傷付けばただそれが噴き出すのみ

飛び散った己の毒血を利用して『微睡』
苦しみたくないというのなら
ほんの少し眠っていて
微睡みの間に終わらせて差し上げます

痛みは防御機構
危機を知れるだけでない
痛みを知らなければ
自分の身体を思いやることも
他人の傷を思いやることも出来ない

忌避する気持ちは理解できなくも無いですが
失われていいはずがない

我々には必要なもの
だから取り戻す



 極彩色の翼が舞う丘で、シキ・ジルモント(人狼のガンナー・f09107)は一瞬、呼吸を止める。
 敵をにらむように正面に。そのまま即座にハンドガンを撃ち抜くと、弾丸は見事にその敵の眉間を撃ち抜いた。
 けたたましい悲鳴が上がり鳥が地に落ちる。……落ちた瞬間、其の極彩色の羽の下から全く別の姿の妖怪が姿を現した。
「骸魂が抜けたか……」
 ちらりと視線をやる。これで妖怪たちは救出できるらしいから不思議なものだ。……と、視界の端に白い影が走った気がして、シキは即座に走り出した。
「うぅ、なんだか怖いですよ、先生」
「気にしてはいけないよ、シロウサギくん」
「気にするに決まってるじゃないですか~!!」
 何とも言えぬ呑気な声を出しながら、とたとたと走っていく二人組。その姿を確認した瞬間から、シキのすることは決まっていた。
「ああ……!」
 ある種異様ともいえぬ二人組に、殺到してくる鳥の化け物たち。シキが銃を構えた、その瞬間、
「彼らが件の薬師でしょうかね。あとでお話を伺いたい所ですが……まずは一仕事」
 シキのものでも、二人組のものでもない声がして、黒い液体のようなものが二人組の背後に割って入った。
「……!」
 冴木・蜜(天賦の薬・f15222)の、人の形のような腕が捻りあげられる。しかしそれはにゅる、と伸びて奇妙な形にねじ曲がっていった。
「わ、わ……!」
 シロウサギが驚いたような悲鳴のような声を上げる。しかしシキのすることは決まっていた。彼らの前方から襲い掛かる鳥たちを撃ち落としていく。蜜はちらりとシキのほうを向いて、
「ここは……私が引き受けます。ここから離れてください」
「しかし……」
 押し寄せるオブビリオンは数を増していく。安全に捌ききれる数ではないのは明らかであった。しかし蜜は首を横に振る。
「ここでは、巻き込んでしまうかもしれませんから」
「了解した」
 それで、何かがあるのだとシキは察した。であるならば、お互いやるべきことをやると二人組の前方へと向かい声を上げる。
「ここからは俺があんたたちをできる限り守る。急ごう」
「感謝します、どうかご無事で……」
「先生……」
 心配そうなシロウサギの視線に、蜜はタールを流しながら軽く手を振った。割とよくタールを吐くので、振り向いた顔は割と不健康で死にかけそのものそうな顔だったが、
「痛みが無いとはいえ、傷を負えば動けなくなるでしょう。私も後で治します。さぁ走って」
 はっきりと、大丈夫だというので、二人は頷いた。
 別れ際に蜜とシキはちらりと視線を交わす。会話することは少なかったが、お互いに言いたいことも、すべきことも分かっている顔であった。
「行かせない」
「行かせない」
「いいじゃないですか。先に私と遊んでくださいよ」
 彼らを背中に見ながら、蜜は正面に鳥を見据える。捻りあげた右腕が引きちぎられて、ぼたりと落ちるのは黒油の血だ。
 舞い散る血の飛沫が鳥に触れる。その瞬間、その血が触れた鳥たちの身体もまた、ぐらりと傾いた。
「……?」
「これは……?」
 怪訝そうな鳥の声。けれどもその動きは止まらない。怪訝そうに伸ばされた別の鳥が、蜜の方のあたりを足の爪でつかんだ。
「わからない」
「わからないけれども飛びましょう」
「そうよいっしょに」
「あの月へ」
 ふわりと蜜の体が宙を浮く。天へと舞いあげられても彼は悲鳴すらあげなかった。捕まれた肩口から爪が食い込み血が流れる。……血にしては、やけに黒く。そして、
「……おやすみなさい、さようなら。苦しみたくないというのなら、ほんの少し眠っていて。……微睡みの間に終わらせて差し上げます」
 一瞬で、その体を液状化させた。舞い散るその体液は毒、毒、毒。
 致死性の毒が一瞬で。鳥たちが舞う空中に散布されて行く。触れるだけでなく、吸い込むことすら致命的となるその毒で。
「ぐ……っ」
「え……!?」
 後は、瞬きもせぬまで落ちるだけ。墜落した鳥の下から、捉えられた妖怪が現れる。それを確認することもなく、蜜は毒をふるまい続ける。
「……痛みは防御機構。危機を知れるだけでない。痛みを知らなければ、……自分の身体を思いやることも。他人の傷を思いやることも出来ない」
 それを見下ろしながら、ブラックタールの彼は呟いた。ほぼ液体となっている彼には、先ほど引き裂かれた肩が。引きちぎられた腕が。どこにあった部位なのか、果たして覚えているだろうか?
「……忌避する気持ちは理解できなくも無いですが、失われていいはずがない。我々には必要なもの……」
 液体のまま、ポツリと彼は呟いた。もし彼が人の姿に戻ったら、その傷は消えるのだろうか、引き継ぐのだろうか。
「だから……取り戻す」
 こんな自分だから。傷も、痛みも、等しく大切なものと思う。毒しか持たない自分だから、助けたいと、思ったのだ。
 遠く駆けていく妖怪たちの背中をちらりと見つめて、蜜は次から次へと現れてくるオブビリオンたちに毒をふるまい続けるのであった。

 背中で鳥のけたたましい声を聴きながら、シキは駆ける。
「さあさ……」
「遊んで……」
 声をかける暇すらも与えない。一歩、踏み出すごとに一歩。敵を容赦なく撃ちぬいて。接近されても焦ることなく対処していく。
(左の敵は間に合わないな。ならば……!)
 肩のあたりで攻撃を受け、迷うことなく右側に迫ってきていた敵を撃ち落としてから己の肩に喰いつく敵にちらりと視線を向ける。
「むしろ狙い易いくらいだ」
 食いついたままの敵の頭を、やすやすと吹き飛ばした。
「ああ……。大丈夫ですか。大丈夫ですか……? 傷が……」
 シロウサギが何度目かわからない心配の声を上げている。それを聞いてああ、と、シキは頷く。
「大丈夫だ。これくらいはかすり傷。問題ない」
 言いながらも、つい傷を追いすぎたかと、シキは己で己を顧みた。撃破優先で、無理をしすぎているのだろう。
「だが……こちらの方がより多くオブリビオンを倒せる。……より早く、妖怪たちを元に戻してやれる」
 別のものになってしまって、こんなことをしでかしている。その姿を見るのがあまりに心苦しくて、そう、シキは言った。……言いながら思った。負傷に無頓着になってきているのかもしれないと。自覚はあるのだ。だが、同時に仕方がない状況だと言い訳をする自分がいる。
「これが……痛みをなくすということか」
 呟きが、思ったより苦く感じた。休むことなく銃弾を撃ち込んでいくその腕に、敵の爪が食い込まないように。……ただ、銃を撃つ腕だけが大丈夫ならそれでいいと思うなんて、どうかしている。こうして足を裂かれても、まだ戦えると何かが言っている。
「……ここから先は難しい」
「わかりました。どうかご無事で」
 シキの言葉に、熊は察して頭を下げる。立ち止まったシキに背を向けて走り出した。
「お二人とも、どうかご無事で……! 無理はなさらないでくださいね……!」
 心配そうに叫んだシロウサギの声が、いつまでもその耳に聞こえていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ネウ・カタラ
浮かぶ月に咲き乱れる花の丘
優雅に踊る鳥みたいなヒトたち
試しに頬をつねってみたけど、確かにいたくない
なんだかゆめみたいなところ

音の波に誘われる様に彩り豊かな翼を追い、
躊躇いなく大鎌振るって
鋭い爪の一撃は見切りで躱しながら
互いに血を流し流させては、笑う

流れるあかはこんなに沢山
だけどちっともいたくない
俺もきみも、みんなみんな
きらきらあざやかで綺麗だね

ああ、たのしい。たのしいけど
―そろそろおしまいに、しなきゃ
だっていのちはひとつだけ
それがなければ、あそぶこともできないもの

脈打つ己の心臓に手を当て、ふわりと笑んだなら
虚ろふ深紅を極彩色の翼へ

今はゆっくりやすんで
たのしい夢からさめた時に、また一緒にあそぼう



 ネウ・カタラ(うつろうもの・f18543)はふっと目を細めた。
 咲き乱れる竜胆に、優雅に踊る鳥みたいなヒトたち。
 浮かぶ月はただ静かに、供えられた赤い色を優しく照らし出している。
「……」
 頬を、試しにつねってみる。
 痛みを、全く感じやしなかった。
「……なんだかゆめみたいなところ」
 呟きは喧騒に吸い込まれる。あちこちで戦闘が起こっていて、
「……なんだか、霧の中のよう」
 きっと、目の前に穴があっても気づかない。落ちて初めて、そうと知れそうな。
 そんなことを、なんとなく。ネウは感じた。

 歌が聞こえる。
 美しい翼が広がり、鳥たちは極楽を謡う。
 その音の波に誘われる様に、ネウは彩り豊かな翼を追いかけて……、
「ああ……みつけた」
 歌い踊る鳥たちを、声をかけるでもなく、あいさつをするでもなく。
 背後から斬りかかったのは、隠れるためではなく。ただたまたま鳥たちが背中を向けていただけで、
「……こん、にち、は」
 そのままためらいなく、ネウは大鎌を振るった。
 昏き虚ろの刃が、美しい翼を切り落とした。
「!」
「お客さま?」
「お客様だ!」
 切り伏せられた鳥を見ようともせずに、けらけらと笑いながらほかの鳥たちが振り返る。振り返る間も、ネウは大鎌を振るい続ける。
「遊んでくれるの」
「遊んでくれるのね」
 倒されても、傷つけられても。楽し気に鳥はさえずり、そして歓迎するかのように拳を振るい、声を震わせる。
「踊りましょう」
「歌いましょう」
「いいよ。おどろう、うたおう」
 鋭い爪の一撃を見切って避け。そして代わりにネウの刃が鳥の身体へと沈みこむ。
 そう思ったら別の鳥がネウの腹をえぐる。構わずネウ袴を引いて、その首を跳ね飛ばした。
「……ふふ」
「ふふふふふ」
 いつの間にか、共に。笑って歌。血を流しながら。肉をまき散らしながら。
「流れるあかはこんなに沢山。だけどちっともいたくない」
 ステップを踏むようにネウは獲物を振るう。
「俺もきみも、みんなみんな……、きらきらあざやかで綺麗だね」
 気分がいい。気分がよくて、なんだか歌でも歌ってしまいそうで、
「あら、上手」
「今度は私と踊りましょう」
「ああ、たのしい。たのしいけど……」
 誘うような声に、ネウは微笑む。……そして、
「――そろそろおしまいに、しなきゃ。だっていのちはひとつだけ……、それがなければ、あそぶこともできないもの」
 差し出された手を取るようにした仕草とともに、
 ネウは残り少なくなった彼らに目を向けた。
 脈打つ己の心臓に手を当て、ふわりと笑んだなら、
「みせて。きみの中身を、ひとつずつ……」
 あたりに無数に飛び散る血液から、無数の刃を作り出した。
「今はゆっくりやすんで……、たのしい夢からさめた時に、また一緒にあそぼう」
 刃が鳥たちを切り刻む。骸魂が倒されれば、きっとすぐにでも妖怪たちは解放されるだろう。
「ああ……なんて、素敵な夜だろう」
 何に対してか、そういってネウは笑う。
 もはや答えるものも、笑うものもそこにはいなかった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

チェイザレッザ・ラローシャ
キリ(f03828)と
……痛みがないなんて、危なっかしいわね
ちゃんと状況把握しながら立ち回らないと後が怖いわ

気を付けてねキリ……キリ?
なんかいつもより元気と言うか……なんか変に吹っ切れてない?
あああ、もう!そんな無茶に突っ込んでかないでよ!
どっちかっていうとそういうのあたしの役目でしょ!
気分いいのは構わないけど、怪我増やすのは駄目よ、駄目!
ただでさえ厄介な状況なのに!もう!!

デスペラード!援護行って!!
キリの死角に入ったやつは飲み込んであたしの前に吐き出しなさい!
出てきたやつから影で作る両手で握り潰して
腹の足しにもならないけど一応生命力も吸収しておくわ
……ああ、変な感じ!早くどうにかしなきゃ!


キリ・ガルウィング
ラローシャ(f14029)と

こりゃあいい
久々に好い気分だ
痛みの無い時間など忘れていた
ひとをけものにする病など、その苦痛など
今は忘れてしまえる
ならば今日は、影の刃はこの手に取ろう

血の華の景色の何処が美しいものか
それは目が眩む衝動の成れ果て
終の光景

その頸を狩り、羽を裂いて
けものの声は聞きたくねェ、悪ィな
月に狂った己を見るようで
だけれどそれは確かに滾る行為そのもので
溺れる気持ちを知ってる
笑い声と歌と
少しばかり喧しい声が混ざる
何を慌てる事があるのか
頗る、調子が良い

死角を補うのは常から懐く海妖
あとで駄賃をやるかと、少し、日常が過ぎって
血腥さで掻き消えて
喧しい後ろの声に埋れて
口の中に隠した牙が微か疼いた



「こりゃあいい」
 キリ・ガルウィング(葬呑・f03828)はそういって、ふっ、と煙を吐き出した。
「ああ。本当にこりゃあいい。久々に好い気分だ」
「ちょっと……」
 まるで何かに酔ったかのようにご機嫌にそういうキリに、チェイザレッザ・ラローシャ(落霞紅・f14029)は難しい顔で眉根を寄せる。
「なんだ?」
 ちゃんと聞いてはいるようで、チェイザレッザの言葉にキリは肩越しに振り返る。その顔にチェイザレッザは小さくため息をついた。
「気を付けてねキリ……」
(……痛みがないなんて、危なっかしいわね。ちゃんと状況把握しながら立ち回らないと後が怖いわ……)
 口には出さない。口には出さないが心配で仕方がない。いつも口を噤みぶっきらぼうにしているキリが、今日はやたらとよくしゃべる。チェイザレッザにはそれが……怖い。
「……キリ?」
 何か言おうと、チェイザレッザが口を開きかけた。……その時、
 ばさり、ばさりと翼の音がして、二人は顔を上げるのであった。
「遊ぼう」
「遊ぼう」
「ああ。構わない。遊んでやろう」
「ちょ……!」
 明らかに普段のキリでは言わない言葉を言って。チェイザレッザの言葉も聞かずにキリは飛び出した。
「……そら」
 鳥が肉薄する。素早い拳が霧の身体を穿つ。肩に、腕に、腹に。鋭い殴打は骨をも砕くだろう。
 ……だが。
「ああ……痛くない。痛くないな」
 はっ、と霧は息をつく。いつも茫洋としたその眼が、今日はやけに輝いていた。
(痛みの無い時間など忘れていた。ひとをけものにする病など、その苦痛など……今は忘れてしまえる!)
「ならば今日は、影の刃はこの手に取ろう……!」
 黒剣を手に取る。そうしてそれを全力で振るうキリに、チェイザレッザは頭を抱えた。
「あああ、もう! そんな無茶に突っ込んでかないでよ! どっちかっていうとそういうのあたしの役目でしょ! ていうかなんかいつもより元気と言うか……なんか変に吹っ切れてない? キャラ違ってるわよ!」
 そりゃもうチェイザレッザがどうしていいかわからないくらいに。頭を抱えながらも、チェイザレッザもまた声を上げた。。
「デスペラード! 援護行って!! キリの死角に入ったやつは飲み込んであたしの前に吐き出しなさい!」
「はは……。けものの声は聞きたくねェ、悪ィな、逃げられると思うな」
 チェイザレッザの言葉など全く意に介さず、キリは黒剣を振るい続ける。
「血の華の景色の何処が美しいものか。それは目が眩む衝動の成れ果て。……終の光景。ああ。だからか。……だからか」
 血に狂う鳥たちは、月に狂った己を見るようで。
 黒剣を振るうたび、その腕を、腹を、足を、引き裂き食い込んだ肉の感触や匂いが、敵の終焉を真に迫らせる。
 まるで自分のようではないかとキリは笑う。
 その頸を狩り、羽を裂いて。まるで何か別のものの終焉を見ているようだとキリは声を上げる。
 だって知っている。溺れる気持ちも。確かにそれが、滾る行為そのものであることも。
「ああああああああああああんた、あとで殴らせなさい!!」
 遠く喧しい、チェイザレッザの悲鳴とともに、鳥の笑い声や歌が周囲に混ざりあう。
 ああ……ああ。
 何を慌てる事があるのか。
 頗る、調子が良い……。

「もう、ほんとに!!」
 キリの背中に襲い掛かろうとしている敵を、チェイザレッザは二体一対の小型鯨型UDC、デスペラードのうちの一体に飲み込ませる。
「そう、いい子ね。そのままあっちも。片っ端から食いつくしちゃって!」
 そのまま飲み込んだ敵はチェイザレッザの目の前にいる、もう一帯の鯨から吐き出される。吐き出されると同時に血の一滴を対価に顕現する、鋭い刺持つ影の両手でチェイザレッザはそれを握りつぶした。
 もちろん、鳥たちもそのままおとなしく握りつぶされはしない。その間にもがき、チェイザレッザの身体を切り裂く。腕を。そして喉元致命傷を紙一重避けて切り裂かれた時は、チェイザレッザは深い毛に眉を跳ね上げた。
「……腹の足しにもならないけど一応生命力も吸収しておくわ。……ああ、変な感じ! 早くどうにかしなきゃ!」
 だというのに、全く痛くない。部わっと地が散っても、欠片も脅威を感じない。……それが怖い。怖いというのに、
「……お前か。あとで駄賃をやるからな」
 鯨向かって、何やら呑気に声をかけているキリ。
「こんの……! 気分いいのは構わないけど、怪我増やすのは駄目よ、駄目! ただでさえ厄介な状況なのに! もう!!」
 思わずチェイザレッザは怒鳴るように声を上げるのであった。
 後ろから聞こえるその声に、キリは適当に軽く手を振ってこたえる。肯定も否定もしないそのさまに、また!! とチェイザレッザの怒る声が聞こえてくる。
 怒涛のようなチェイザレッザの言葉をキリは聞き流しながらも、
 ……口の中に隠した牙が、微かに疼いた気がした……。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

故無・屍
…痛みを感じなくなるってのは神経が死んだってことだ。
そこに恐怖も警戒もなくただ甘受する奴らなんざ何もしなくても長生きはしねェだろうが…、
助けろって依頼だ、見捨てないではおいてやる。

…おい、そこの熊とウサギ。お前らは正常らしいな。
鳥どもは引き付けてやるからとっとと下がれ、邪魔だ。
耳は塞いで奴らの声を聞くんじゃねェぞ。


UCを発動、おびき寄せ、時間稼ぎ、継戦能力にて
攻撃を引き付け、他の猟兵が纏めて殲滅できるよう自分の位置へ敵を集める
第六感、見切りにて自分へのダメージも極力軽減するように


集めてやるから一気に片付けろ。
…ッチ、傷を負った場所が分からねェってのは厄介だな。
これじゃ致命傷も気付けねェ。


西条・霧華
「『痛み』とは生きている証です。」

躰の痛みであれ、心の痛みであれ…
それを感じなくなった時、人は死んでいるのだと思います

なれば今、私は只の亡者となりて貴女を斬ります
それで護れるものがあるのなら、私は守護者の【覚悟】を以て、立つのみです

纏う【残像と【フェイント】で眩惑し、【破魔】と【鎧砕き】の力を籠めた[籠釣瓶妙法村正]にて『幻想華』
相手の攻撃は【視力】を以て【見切り】、【残像】と【フェイント】を交えた【ダッシュ】で回避
避け切れない分は【武器受け】しつつ【オーラ防御】と【覚悟】を以て受け止めます
何れの場合も返す刀での【カウンター】を狙います


深手を負った場合は、戦闘続行の為に蒼炎で傷口を焼いて止血



「……痛みを感じなくなるってのは神経が死んだってことだ。そこに恐怖も警戒もなくただ甘受する奴らなんざ何もしなくても長生きはしねェだろうが……」
 故無・屍(ロスト・エクウェス・f29031)は面白くなさそうに目を細めた。そのしぐさに西条・霧華(幻想のリナリア・f03198)はほんの少し難しい顔をする。
「『痛み』とは生きている証です。躰の痛みであれ、心の痛みであれ……、それを感じなくなった時、人は死んでいるのだと思います」
「はっ、つまりはこの痛みのない世界を受け入れてる時点で、あいつらは死にたがりってことになるな」
「そうかもしれません。あるいは、目的があったか……」
 それが何かは、もはや変質してしまったのかもしれないけれども。
 そういう霧華に、なるほど、と屍は口の中で呟いた。
「何かの命以上に大事なものなんて、碌なもんじゃないだろうが……」
 言いながらも、屍の足元にいた黒い影が蠢いた。
「……俺は俺の仕事をするだけだ。事情なんざ知らねェよ。助けろって依頼だ、見捨てないではおいてやる」
「はい……助けましょう」
 皮肉気にいう屍に、まじめな顔をして霧華は頷いて。
 そして天から舞い降りる鳥たちに、二人同時に目を向けた。

 けらけらと声だけは楽しそうだ。翼をはばたかせながら熊とシロウサギを追いかける鳥たちがいる。
「……お願いします」
「応」
 霧華が声を上げる。それだけで屍も察した。一歩、屍が先んじる。
「一緒になりましょう」
「一緒になりましょう!!」
「させねェ」
 鳥が兎の耳を捉える、その瞬間。
 黒い影から作り出した、巨大な盾が割り込んだ。
「痛みをなくすということは、命をなくすということ……。なれば今、私は只の亡者となりて貴女を斬ります」
 その盾を足場に、霧華は頭上へと飛びあがる。鳥の姿を認めて、
「それで護れるものがあるのなら、私は守護者のを以て、立つのみです」
 二種の倶利伽羅の彫刻が施された刀を、ためらうことなく鳥の首へと一閃した。
「!?」
「ひぇぇ!?」
 痛みがないからか、声もなく鳥は地に落ちる。落ちた鳥はばさりと極彩色の羽を散らして消え去っていく。あとにはただ、羽と取りつかれた妖怪だけが残っていた。シロウサギが素っ頓狂な声を上げるが、集まってきていた鳥はまた、別の表情をしていた。
「遊んでくれる?」
「遊んでくれますか?」
 どこか子供がおもちゃを見つけたときのような嬉しそうな口調。
「……おい、そこの熊とウサギ」
 鳥の言葉には一切応じず、屍が声をかける。その間にも霧華が刀を翻し、屍へと向かった鳥の翼を叩き落としていた。
「は、はい!?」
「お前らは正常らしいな。鳥どもは引き付けてやるからとっとと下がれ、邪魔だ。耳は塞いで奴らの声を聞くんじゃねェぞ」
「は、はいっ。僕たちはあの丘の向こう側を目指していて……」
「わかった。ある程度は引き受ける。数が減ったら走れ」
 屍は今一度霧華に視線を向ける。霧華も小さく頷いた。
「引き付けてやるから一気に片付けろ。……悪ィが、ちぃと付き合って貰うぞ」
 いうなり、屍は影の盾を大きく広げた。敵の全攻撃を自分一人に引き付ける防御状態は、あらゆる攻撃からこの身を護るがその分彼自身は動けない。
「あら……?」
「あれ……?」
 不思議そうに、ふらふらと鳥たちが屍へと吸い寄せられていく。その隙を霧華もまた、見逃さなかった。
「鬻ぐは不肖の殺人剣……。それでも、私は………」
 今一度、刀に手をかける。一瞬で距離を詰め、そして抜き放った刃が目の前の鳥の首を撥ねた。
「!」
 一閃と同時に納刀する。隙のない居合の動きにようやく気づいて、その隣にいた敵が霧華のほうを見る。そのころには再び抜き放たれた刃が、鳥の肩に食い込んでいた。
 着実に数を減らしていく霧華を横目で見ながら、屍は盾を展開し続ける。数多の鳥が彼の前へと降り立ち、その盾を叩き、その隙間を掻い潜るかのように屍を打つ。
 ぎりぎりのところでそれを体を揺らして回避して、屍は振り返る。頭上から迫った拳を紙一重でよければ、頬に傷が走った。
 それと同時に、正面から飛び込んでくる鳥の突撃を屍は見る。
 しかし屍は動けない。後ろには様子をうかがう熊とシロウサギがいる。ある程度の数が減るまではせめて、彼らを守り切らなければ……、
 よければ、当たるか。そう判断した瞬間、屍の腹には深々と鳥の爪が突き刺さっていた。
「……ッチ、傷を負った場所が分からねェってのは厄介だな。これじゃ致命傷も気付けねェ」
「済みません、遅れました」
「いや。充分数を……後ろだっ」
 次の瞬間には、襲い掛かっていた鳥を切り伏せて霧華は言う。その間にも霧華の背後にも敵の刃が迫っていた。
「……っ」
 背中への斬撃を、ぎりぎりのところで回避した。左腕がパッと咲かれて血が流れる。
「……まだまだ、この程度では倒れはしません」
 即座に蒼炎で傷口を焼いて止血に、屍も小さく頷く。
「頼もしいことだ。……まだまだこちらも持ちこたえられる」
「では……叶う限り切り伏せましょう」
 敵の数は尽きぬかのようで。二人顔を見合わせてしっかりと頷けば。
 二人はひるむことなく、また敵へと向き直るのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

草守・珂奈芽
【晴要】

脆い体には痛くないって魅力的なんだけど、やっぱダメ?

さーて相手を見つけて、って速い!?
避けれない、って目を瞑ったら晴汰くんが間に入ってくれてた…。
「晴汰くん、酷い傷…!」
その隙に手を引いてUCで瞬間移動したけど…治す暇もないしグッと堪える。
まだ、まだ大丈夫。
「痛くないからって、無理、しないでね?」
最初の考えは甘かったね…やっぱ痛みがないとダメなのさ。見てても辛いもん。
でもまず落ち着いて、深呼吸して、今度は攻撃してる背後に瞬間移動!
動きはもう見たから隙なんて分かってるし!
出現時の斥力で相手を崩した隙に、晴汰くんと手を離す!
「一撃、任せたのさ!」
さー、次こそケガさせないよう頑張らなきゃ…!


西塔・晴汰
【晴要】

体の頑丈さだけはちょいと自信ある方っすけど…痛みがないと加減難しそうっすね

相手は滅茶苦茶速いっすね。
珂奈芽は狙わせないっすよ、初手はガントレットでオレが受け止め…きれなくても珂奈芽のフォローがあるはずっす!

うわマジで痛くないっすねこれ…
どー見てもいつもなら痛い怪我で痛くないって、凄いけど見てると頭がごっちゃになりそうで気持ち悪いっすね!?
いや、無理するつもりはないっすけど…多少血まみれでも動けなくなるほどの負傷じゃなけりゃ今は問題なしっす!
遠慮なく行くっすよ!

後の事は……うん、分かってても怖いっすね覚悟はするっす。

折角できた隙は逃さないっすよ!
拳一発、受けてみろっす!



「脆い体には魅力的なんだけどねー、痛くないって。やっぱダメ?」
 草守・珂奈芽(小さな要石・f24296)がうーん? と首を傾げれば、ダメっす。と西塔・晴汰(白銀の系譜・f18760)は真面目な顔をして首を横に振った。
「ていうかなんでいいっていうと思ったんっすか」
「えー」
 ぷう、と頬を膨らます珂奈芽であるが、そんな珂奈芽を春汰はかわいいとは思いながらもダメっす。ともう一回言っておく。そうしないと心配でならないようだ。……なぜなら、
「さーて相手を見つけて、って速い!?」
 さっさと行こうか。なんて歩き出そうとしていた珂奈芽が、さっさと敵の姿を見つけていた。そして同様に敵からも見つかっていた。早いといった瞬間に、鳥が二人へと飛んでくるのを確認し、晴汰は即座に珂奈芽をかばうように前に出る。
「ていうか……滅茶苦茶速いっすね!? 珂奈芽は狙わせないっすよ!!」
 補足された。と思ったら、もう目の前に来ていた。
「遊びましょ」
「遊びましょう」
 しかも一匹ではなかった。笑いながら放たれる拳を晴汰は銀製のガントレットで受け止める。
「珂奈芽!」
「う……う、うえ!?」
 大丈夫、と聞こうとした晴汰に、大丈夫、と答えようとした珂奈芽。けれどもどちらも会話にならなかった。なぜなら……
「晴汰くん、酷い傷…!」
 目を瞑って、開けたら、晴汰が血まみれであった。殺しきれなかった敵の爪を受けて、そのガントレットに覆われていない腕が、肩のあたりが、ずたずたに裂けている。
 珂奈芽を守らなければ、あるいは……? こみあげてきた思いを、珂奈芽はぐっと飲みこむ。……今は、そんなことを言っている場合じゃない。治療している暇もない。
「跳んで翔んでどこまでもっ!」
 判断は一瞬だった。晴汰の手を引いて珂奈芽は瞬間移動して離脱する。
「体の頑丈さだけはちょいと自信ある方っすけど……痛みがないと加減難しそうっすね」
 蒼白な珂奈芽とは裏腹に、晴汰は冷静に自分の状況を整理していた。
「い、痛くないの? ……まだ、まだ大丈夫?」
「痛い……」
 珂奈芽に言われて、むしろ今まさに、その痛いという存在に気が付いたようであった。思わず、といった風に晴汰が声を上げる。
「うわマジで痛くないっすねこれ……。どー見てもいつもなら痛い怪我で痛くないって、凄いけど見てると頭がごっちゃになりそうで気持ち悪いっすね!? これどういうことなんっすか。ほんとに!」
 何だか妙にテンションが上がる。よく見れば肩のあたりなんて、結構ざっくり避けているし、血がしっかり出ているし、あれであれである。ついでに殴られたのかお腹のあたりもちょっと違和感がある。もしかしたら右の脇腹が掠って骨でもひびが入ってるかもしれない。でも痛くない。不思議!
「……痛くないからって、無理、しないでね?」
 なんだか妙に感心している晴汰に、珂奈芽が思わず声をかける。珂奈芽を守ってできた傷だとわかっているから、胸が詰まる。
「珂奈芽……」
「最初の考えは甘かったね……やっぱり痛みがないとダメなのさ。見てても辛いもん……」
 珂奈芽の声が沈んでいた。それに気付いて、晴汰は顔を上げる。
「い、いや、無理するつもりはないっすけど……多少血まみれでも動けなくなるほどの負傷じゃなけりゃ今は問題なしっす! 戦いが終わったら、きちんと治してもらえるらしいっすから、遠慮なく行くっすよ!」
 大丈夫大丈夫、とこぶしを握り締める晴汰に、うん、と珂奈芽は小さく頷いた。
「うん、大丈夫、大丈夫……。まずは落ち着いて、深呼吸して……」
 すう、と、深呼吸。それから、
「やるよ! 今度はこっちが隙を突いて突撃! 攻撃してる背後に瞬間移動するのさ!」
「……はは、了解っすよ!」
 顔を上げたときには、もはや覚悟完了している顔であった。そんな珂奈芽に晴汰は笑う。
「動きはもう見たから分かってるし! 行こう!」
「了解っす!」
 なんとか元気になった珂奈芽が手を差し出すと、嬉しそうに晴汰はその手を握りしめる。 
(後の事は……うん、分かってても怖いっすね覚悟はするっす)
 先のことを思うと若干怖いことも、なくはないが……、けれども今、全力を尽くしたいと。握りしめる珂奈芽の手の温度を感じながら、晴汰が頷いた……その時、
「そりゃあ!!」
 珂奈芽の力で、二人は瞬間移動した。
「!?」
 出現時の斥力で敵の体勢を崩す。その瞬間、ぱっと珂奈芽は手を離した。
「一撃、任せたのさ!」
 ぐっ。と、拳を握りしめる珂奈芽に、晴汰もぐっ。と拳を握り締める。
「折角できた隙は逃さないっすよ! 拳一発、受けてみろっす!」
  珂奈芽が作ってくれた隙を、晴汰は見逃さなかった。
「オレが真正面から勝負したって押し負ける―――相手を見て、隙を突いて、仕掛けるっす!」
 言葉とともに放たれる拳撃は、的確に鳥を捉えた。完全に隙を突き、何度も何度も拳を仕掛ける晴汰の攻撃に、鳥が倒れ、捉えていた妖怪を吐き出すまでそう時間はかからなかった。
「さあ、次っす!」
「うん! がんがん頑張るのさー!」
 けれどもそれで終わることはない。二人は顔を見合わせて、次の敵へと走り出した……。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

オリオ・イェラキ
まぁ、美しい鳥ですのね
とても狩り甲斐がありそう

ごきげんよう、クマさまとシロウサギさま
少し此処は危ないので、隠れていらして
すぐすみますわ

傷つけ遊ぶ妖の詩に共感等できませんわ
わたくしも痛みは必要だと思いますから
その歌、お終いにしましょう
夜薔薇の花嵐で攻撃と同時に撹乱を
声出す暇無く切り刻んで差し上げますわ
空中に逃げてもわたくしとて翼在る者
速やかに飛翔し大剣にて剣戟を
わたくしの狩猟本能が勝つか、偽りの感情が勝つか
これも勝負ですわね

…確かに痛みませんのね
傷の怯み無く連撃を与えられるのは良いのですけれども
この体、心配して下さる方達がおりますの
攻撃は最大の防御と、一気に攻め込み討ち取りましょう
おやすみなさい


エドガー・ブライトマン
◆左腕のみ、負傷すると赤い花びら、どろりとした泥のような血が出る
◆左腕のみ、普段は痛覚がある


生まれつき痛みに鈍い体質みたいで
私には、かれらみたいな特別感はないんだよねえ
…左腕も痛みはないのかな

ねえ、キミたち。シロウサギ君よりも私と遊ぼうよ
かれらは忙しいんだ、邪魔しちゃいけないよ

格闘攻撃には剣で応えよう
早さなら、私だって負けやしないさ。“Jの勇躍”
《早業》でマントを脱ぎさって、かれらの速度に追いつこうと

鋭い爪で皮膚が削れたって気にはしない
そんなのはいつものコトだから
ねえ、痛みを感じないってそんなにうれしいコトかい?
案外不便だよ、たまにね

左腕は癖で庇いそうになるけれど
……へえ、本当に傷まないんだ



「まぁ、美しい鳥ですのね。とても狩り甲斐がありそう」
 オリオ・イェラキ(緋鷹の星夜・f00428)が優雅にそう言って、微笑むその隣で、
「……へえ、本当に傷まないんだ。なんだか手品でも見ているようだよ」
 エドガー・ブライトマン(“運命”・f21503)が怪訝そうに己の手を見つめていた。左腕から赤い花びらとどろりとした泥のような血が出ている。ああ。と、声を上げたのはシロウサギのほうであった。
「大丈夫でしょうか。大丈夫でしょうか。先生、先生」
「落ち着きなさいシロウサギくん。今私たちにできることは、一刻も早くあそこを目指すだけさ」
 淡淡と慌てたような声を上げるシロウサギに、熊が優しく声をかける。そんな二人に視線を向けて、オリオはふわりと、一礼した。
「ごきげんよう、クマさまとシロウサギさま」
「後、ごきげんよー……?」
「うん、ごきげんようだよ、お二方」
 オリオは淑女の礼を、エドガーは王子らしく礼をして、二人は丁寧に名乗り、挨拶をする。それで、二人もまた名を名乗ろうとした……その時、
 ばさりばさりと、翼の音がした。
「まあ。無粋なこと。少し此処は危ないので、隠れていらして。すぐすみますわ」
「うんうん。今回のはちょっと……数が多そうだからね。……数が減ったら、私たちは気にせず走るんだよ」
 二人の言葉にうなずいて、少し下がるシロウサギたちを微笑ましそうに見送って、エドガーは天を見上げた。
「ねえ、キミたち。シロウサギ君よりも私と遊ぼうよ。かれらは忙しいんだ、邪魔しちゃいけないよ」
「あら、勿論わたくしとも、遊んでくださいますわよね?」
「遊ぶ?」
「遊ぶ?」
「ああ、勿論だとも」
 両手を広げるエドガーに、嬉しそうに、けたたましい声を上げて。
 鳥たちは、彼らの元へと舞い降りた。

「さぁ……お往きなさい、わたくしの星達」
 ぶわりとオリオは体験を翻す。星空を切り取ったようなひと振りは、一瞬にして星の煌き纏う黒薔薇へと変化した。
「綺麗キレイ」
「遊ぼう、もっと遊ぼう」
「もっともっと、ひどいことしよう!」
「傷つけ遊ぶ妖の詩に共感等できませんわ」
 極彩色の翼が黒薔薇の花びらに刻まれ落ちる。剣を振るように旋回した花びらたちが次々にとりへと襲い掛かる。薔薇の囲いを抜けてきた鳥がオリオに迫る。鋭い足の爪を蹴りあげて、オリオはとっさにそれを空手の左手で受けた。爪は鋭く、受け止めた手から血が滴り落ちた。
「おっと、大丈夫かい、レディ!」
 声とともにエドガーがマントを脱ぎ捨てるとともにレイピアを翻す。
「さあ、ご照覧あれ!」
 隙を誘うような動きとともに、一瞬でオリオを掴む鳥の胸をレイピアが穿つ。それで鳥はばさりと倒れた。倒れた鳥たちは、骸魂が抜けて元の妖怪へと姿を戻していく……。
「ありがとうございます」
「いやいや、お互いさまってやつだよ」
 オリオが広く押し寄せる鳥たちを攻撃し、それを抜けてきた敵を的確にエドガーが対処する。そうやってまるで狂乱するように押し寄せる鳥の波を、二人は何とか処理していっていた。
「……確かに痛みませんのね」
 ちらりと、オリオは先ほど傷ついた己の左手を見いあった。傷は結構、深い。
「ああ。それはさっき敵と相対したときに私も思った。なんだか不思議な気がするよねえ」
 さっきというと、エドガーが間一髪のところでシロウサギたちを助けたときである。とっさに左腕をかばって、大けがを負った右手が痛くないのはいつものこと……普段からエドガーは左腕以外痛覚がない……だったのだが、二撃目で左腕を敵の爪が貫通したときも、全く痛くなかったのは驚く以外ほかなかった。
「生まれつき痛みに鈍い体質みたいで、私には、かれらみたいな特別感はないんだよねえ。そんな私でも、少しは驚いたから」
「なるほど……。この高揚、理由が理解できないわけではないのですが」
 歌う鳥たちを、オリオは静かに見つめる。
 もっと傷を……もっと傷を。歌う鳥たちに、わずかに眉根を寄せた。
「……傷の怯み無く連撃を与えられるのは良いのですけれども、この体、心配して下さる方達がおりますの。わたくしも痛みは必要だと思いますから……」
 その歌、お終いにしましょう。と。オリオは[T]のルーンを身に刻み、散光星雲の彩り描く燦たる剣を構えた。
「攻撃は最大の防御。このまま突入いたしますわ」
「了解。タイミングを合わせようか」
 オリオがそういって、夜薔薇を一輪鍔に咲かせた剣とともに走り出した。エドガーもそれに続く。
「ええ。……わたくしの狩猟本能が勝つか、偽りの感情が勝つか、これも勝負ですわね」
 好戦的な表情をわずかにその顔に滲ませて、翼を広げてオリオは空へと飛び上がる。
 黒薔薇の花びらで切り刻み、追いかけるように件で鳥の喉元を突き刺せば、その隙に別の鳥が彼女の生身の腹を裂き、翼をへし折るように拳を打ち付ける。
「……ふふ」
 楽し気に笑う彼女は、剣を引き抜き次の敵へと向き直った。
「……おやすみなさい」
 技量は圧倒的に上だが、物量で押し寄せる彼らに壮絶な戦いが空中で始まるのであった。

「……おやおや」
 そんな空中戦を仰ぎ見て、エドガーも運命の名のついたレイピアの切っ先をくるりと変える。
「生憎空は飛べないが……早さなら、私だって負けやしないさ」
 黒薔薇の援護を受けて、エドガーは地上に行く鳥たちに突入する。
 けたたましい笑い声をあげながら走る爪をレイピアでつき、軌道をそらして避けると同時に刃を叩きつける。
 一撃で絶命する敵はそのままに。押し寄せる次の敵へと対処する。
 一撃で倒しきれなかった時には、まるで何事もなかったかのように再び襲い掛かる彼らに、エドガーはわずかに首を傾げた。
「ねえ、痛みを感じないってそんなにうれしいコトかい?」
 敵の爪がエドガーの右の腕をそぎあげる。血は流れないが、くっきりとその腕には深い傷が走っている。
 ついでに痛みも感じない。何とも人間味のないことだと自分でも思ってしまうというのに。
「まあ……いつものコトだけれど、これも」
 だから、自分にはやっぱり理解できないのだと、エドガーは首を傾げるのであった。
「案外不便だよ、たまにね」
 もしかして、自分は痛まないから理解できないのか。逆に……なんて、冗談めかして言いながらも、
 二人は絶え間なく、剣を振るい続けるのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 ボス戦 『フェニックスドラゴン』

POW   :    不死鳥再臨
自身が戦闘で瀕死になると【羽が燃え上がり、炎の中から無傷の自分】が召喚される。それは高い戦闘力を持ち、自身と同じ攻撃手段で戦う。
SPD   :    フェニックス・レイ
レベル分の1秒で【灼熱の光線】を発射できる。
WIZ   :    不死鳥の尾
レベルm半径内の敵全てを、幾何学模様を描き複雑に飛翔する、レベル×10本の【炎の羽】で包囲攻撃する。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠山田・二十五郎です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 願ったものは、なんだったのだろう。
 きっときっと……、ささやかなものだったはずだ。
「月に行きたい」
 老婆がの妖怪が言った。死ぬまでに月に行きたいと。月に住んでいるという、あの子に会いたいといったのだ。
 行けたらいいね、と誰かが言った。実際に、何度も実験が行われた。
 翼をもつ鳥に。遥か彼方まで飛んでいける巨大な蛾に。ひととびで遠くまで飛べる巨大なバッタに。
 思いつく限りの方法を試した。
 けれども、たどり着けなかった。
 誰もが途中で力尽きた。飛び続けた翼は痛みを訴え、苦しみを訴えた。
 ……せめて、この痛みがなかったら。
 彼らの望みを聞くものは……いないはずだった。本当は、いないはずだったのだ……。

「きっと、この月が皆さんをおかしくしてしまったのですよ」
「そう、迂闊なことを言ってはいけないよ、シロウサギくん。月は何もしないものさ。よいことも、悪いこともね。あの……なんだったっけね。そう、骸魂。骸魂というものが、すべてを変質させてしまったのだ。だから、きっと、元通りに戻るさ。そのために、私たちは今、こうして走っているのだからね」
 それにしてもああ、運動不足には疲れるねえ。なんて熊たちは言って、血で染まる丘を越える。
「たくさんの方たちに助けていただきました。彼らは、大丈夫でしょうか」
「それは……信じるしかないね。さあ。あと少しだ」
 丘の向こう側には、湖があった。美しい月を写す湖は、ただ静かに、彼らが来るのを待っていたのだ。
「あの月に、竜胆を沈めよう。あの美しい羽根も役に立つだろう。切り傷と打撲。なに、生きているならきっと大丈夫さ。何せ私は妖怪の医者だからね」
「はいっ」
 多分ちちんぷいぷいですごい薬が作れる系統の妖怪だ。深く考えてはいけない。兎が嬉しそうに返事をした、ところで、
「……行かせない」
 声がした。
「行かせないわ。……だってまだ、滅んでないから」
「……!」
 兎がひげをそよがせて顔を上げる。
 天から舞い降りたのは、炎の翼をもつ少女であった。
「駄目よ。この世界はこのままで。ずうっとこの世界はこのままで。……そして壊れるの。壊してしまうの」
「そんな! だって、あなたは……」
 シロウサギは知っている。月に行った娘に会いたい。それだけの願いだったはずだ。未だ救出されていない、最後の妖怪のおばあさんは、ただそれだけを願っていたはずだ。
 そのささやかな願いを取り込んだ骸魂は……オブビリオンは、微笑んだ。
「そんなの、私の願いじゃないわ」
「……!」
 周囲に、炎が満ちる。竜胆が燃えていく。湖を囲むように。彼らを捉えるように。
「消えればいい。大丈夫、熱さは感じても痛くも苦しくもないわ。……優しいでしょう?」
 苦しまずに、この世界は滅んでいけるのだから。
 そういって、彼女は炎の翼を広げた。

 月はただ、ただただ冷たく、その世界を照らしていた、


●第二章について
炎の壁を突破して、敵を攻撃してください。突破したら炎は消えます。
大丈夫火傷で済みます(ぐっ
勿論、急がず慌てず火傷を軽減する工夫をしていれば軽減はできます。


第一章のリプレイでは、長い戦闘の一部を切り取って描写しています。
リプレイに無い新しい傷が増えたとか、お好きにどうぞ。
逆に、そこまで厳密に管理していないので、
プレイングに、「怪我した足を引きずって~」とか書いてくれれば、そういう描写が一章にあってもなくてもその通り描写します。
「左手が串刺しになった」とか書かれていた人も、「串刺しになった右手を~」とか書いてたらそれ以降傷は右手になります。
あんま細かいことわ言わずに、楽しく戦いましょう。

第一章で戦った敵は、すべて骸魂が抜けて妖怪として倒れています。
息はありますが、割と取り込まれる前に派手に喧嘩したようで、あちこち傷だらけです。意識はあまりありません。
……が、今のところは放っておいても大丈夫。戦場は離れておりますので巻き込まれはしません。
参照で無事に怪我が治るので、心配は無用です。
また、第二章の敵も、倒せば取りつかれていた妖怪は救出できます。

はっ。血が出ないとか火傷しないとかその辺のことは、一章のプレイングで書いてあったとしても、今回のプレイングでも間違いがないように記載をお願いします……!


**********
プレイング募集期間は、
9月20日(日)8:30~22日(火)22:00まで。
また、無理ない範囲で書かせていただきますので、高い確率で再送になります。ご了承ください。
その際は、プレイングが返ってきたその日の23時までにプレイングを再送いただければ幸いです。
(それ以降でも、あいていたら投げてくださってかまいませんが、すべてを書き終わっている場合は、その時間をめどに返却を始めますので間に合わない可能性があります。ご了承ください。大変ドキドキするので出来ればその日中に再提出していただけたら嬉しいです)
二回再送にはならないように頑張ります。
シキ・ジルモント
オブリビオン…それに白兎と熊も居るな
どちらも放置はできない、炎の壁の突破を急ぐ

出来る限りの速度で炎の壁に突っ込み走り抜ける
足の傷が悪化するだろうか…まぁ動くのだから問題は無い
…無理はするなと白兎に言われたが、そうも言ってはいられない
ユーベルコードを発動、行動速度を上げて炎にさらされる時間を減らし、火傷軽減と突破を図る

火傷を負っても動けるならいい
白兎と熊の目的達成に協力しつつ、敵へ攻撃する
敵の攻撃後の隙を狙って銃弾を撃ち込む

光線は増大した反応速度で回避を試みる
掠る程度なら攻撃優先
痛みが無い分無理が利く、利いてしまう
負傷で鈍る動きをユーベルコードで補って、無理を無理とも感じられないまま交戦を続ける


ベイメリア・ミハイロフ
医術にて自らの負傷を応急処置し
なんとかそれなりにうまく歩けるようにしつつ
火炎耐性も活用しながら、水をかぶってから参ります
骸魂からおばあさんを開放しなくては…
それに、うさぎさん達も無事にお逃がし申し上げなくては
もしその場に居合わせたなら、彼らをかばうようにしながら行動を

攻撃は、どこを負傷しても扱えるJudgment arrowを使用
特に属性攻撃に水を追加し、全力魔法にて放ちます
目が見えなくなった場合には第六感にてお相手の居場所を見切って

炎の羽に対してはオーラ防御と念動力による赤薔薇の花びらを纏い
ダメージ軽減を図ります
2回攻撃が可能であれば、範囲攻撃にて
炎の羽の炎を消すことができないか試してみます



 ベイメリアは足を包帯で固定する。ぐっと力を入れて応急処置を歩けば、トントン、と、つま先で軽く地面を蹴ってみた。
「何とかそれなりに……歩けるようでございますね」
 多分。と、心もとなく呟いたのは、痛みがないゆえに処置できなくても歩けてしまうからだ。それがよくないことだとはわかっているので、ベイメリアは難しい顔をして炎の壁を見つめる。
「オブリビオン…それに白兎と熊も居るな。どちらも放置はできない、炎の壁の突破を急ぐ」
 その様子を見て、ついてこられるか、と言いたげにシキがベイメリアを見ると、大丈夫です。と、ベイメリアも頷いた。
「骸魂からおばあさんを開放しなくては……。それに、うさぎさん達も無事にお逃がし申し上げなくては! 行きましょう。なんとかなりますし、何とか致します!」
「……頼もしいことだ」
 ふんす、と両手を握りしめて明るく言うベイメリアに、シキは淡々と頷く。
「シキさまも、どうぞ。どこまで効果があるかはわかりませんが」
「ああ。遠慮なくいただこう」
 水を被る。そうしてシキは瞳を光らせた。いつもは抑えていた人狼の獣性を解放することで、肉体のリミッターを外して高速戦闘モードを移行する。本来ならば獲物を探すための道筋を、捉えるための方法を求めるための力であるが、この移動力をもってして、炎を突破しようという算段であった。
「手を貸せ。水のお礼というわけでもないが……足を負傷しているだろう」
「あ、ありがとうございます……!」
 シキはベイメリアの手を取る。二人とも、炎の壁に一つ、頷いて、
「突入する!」
「はい!」
 炎の壁の中に、突っ込んだ。

 熱い……熱い。
 壁に突入した瞬間、高温が二人を包み込む。
(足の傷が悪化するだろうか……、まぁ動くのだから問題は無い)
 ベイメリアの手を引きながら、シキは駆けた。行動速度が上がっているから、それほどの時間は要しなかっただろう。
 熱さは、一瞬であった。ばっ、と数秒後には視界が晴れて、湖と焼け野原が目の前に飛び込んでいく。
「は……っ。ありがとうございます! お怪我はありませんか?」
「ああ。問題ない」
 足の違和感を確認していたシキは、ベイメリアにいわれて即座にそう答えた。それから肩をすくめて、
「……無理はするなと白兎に言われたが、そうも言ってはいられない」
「た、確かに……っ。でも、倒れそうになったら、教えてくださいまし。今度はわたくしが、シキさまをお支えいたしますから」
 シキの足に気付いたように、ベイメリアは微笑むので、その時は頼んだ、とシキも苦笑した。お互い、手は炎に炙られて軽く焼け焦げている。幸いに露出の服ない服装であったからか、衣装はすすけているがさほど大きな傷もないようだ……と、思っていたら、
「きゃ……!」
 ごう、と炎の風が吹いて、ベイメリアは顔を上げた。
 シキがとっさにベイメリアをかばうように前に出る。しかしそれをかわすかのように、空から散弾のような炎の雨が、二人に降り注いだ。それはまさに銃弾のように、燃え広がるように二人に炎の弾を穿つ。
「……っ」
 思わず天に掲げた腕が熱い。強いやけどを伴って腕を撃たれながら、即座にシキもハンドガンを構えて躊躇いなく引き金を引く。銃弾を炎の雨の出所に叩きつければ、ベイメリアも手を掲げた。
「裁きの光を受けなさい……!」
 シキが撃ち込むその場所に合わせるように、様々な属性を持った光の矢を浴びせかけた。
「あなたたちね……!」
 銃弾と矢に貫かれて、敵もまた二人の存在に気付いたのか顔を上げる。その瞬間に熱を持った光線が二人へと一瞬で伸びた。
「……っ!」
 シキとベイメリアが視線を交わしたのは、一瞬であった。同時に二人、足の傷などものともせずに左右に分かれて跳ぶ。足の底を焦がす熱戦に、は一瞬だ。その跳んだ先に回り込むかのように、
「邪魔は……させない!」
「……!」
 炎の羽が弾丸のように飛ぶ。即座にそれを赤薔薇の花びらを纏って相殺しようとするベイメリア。相殺しきれなかった弾丸が腕を、足を打つけれども気にしてはいられない。
「あぁっ。そちらに……!」
 ベイメリアが跳んだ先に、たまたま入り込んでいたシロウサギにベイメリアは声を上げる。己が被弾するのもいとわずに、矢で相殺しようとベイメリアが二回目の攻撃を向ける。いくつかを撃ち落とし……だが、撃ち落としきれずに声をかけたとき、
「任せろ」
 即座にシキの銃撃が跳んだ。銃弾で炎を撃ち落とす。増大した反応速度を利用して、全力で兎たちへの攻撃を叩き伏せた。
 その隙に、炎の雨が二人を撃つ。しかしどこを貫かれても、気には留めずに、
(痛みが無い分無理が利く、……。いや、利いてしまう、というべきか)
(うぅ……。危険なのはわかっております。わかっておりますが……!)
 わかっている。だが、その手を止めることはできない。体は危険を叫んでいるけれども、それ以上はどうにもならないというように、二人は炎が舞い散る中、戦いを続ける。無理はわかっていたが、きっと敵が倒れるまで、二人が止まることはないだろう。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

シャト・フランチェスカ
「私」、派手に暴れてくれたものだ
咳き込めば血の味
ひゅうひゅうと自分の呼吸がうるさい
左腕の肉が削げている
生きながら自分の骨を撫でることになろうとは

灰になってしまっては
薬師の治す範疇じゃない気がするよ
ひとのかたちを保ったままで
ここを切り抜けなければね

きれいな子
炎の翼に燃え盛る破壊衝動

僕の焔にも意志があるよ
きみの願いと似ているかもしれない

ばつん、ばつん
肉を断って掻き混ぜる
これ以上傷が増えても変わらないさ
皮膚が焦げるにおいと血が蒸発する音
これは小説のネタになるね
リアリティが違うもの

炎の隙間を縫って茨がきみに縋るだろう
桜が舞い落ちて
火葬/花葬の如く不死鳥を彩る

甦る、繰り返す
それも苦しいものでしょう



 呼吸をしようとしたらせき込んだ。
 血の味がする。全く痛みはないのだけれども、つっかえるようなその違和感がシャトの中には残っていた。
「……「私」、派手に暴れてくれたものだ」
 声を上げてみればそれはいつもの音とはまるで違っていて、
 合間にする呼吸音が、ひゅうひゅうとススキヶ原を駆ける風のようにうるさく響いていた。
「……」
 確認するように己の左腕に触れる。
 肉がこそげていて、その切り口を確かめる。
「……生きながら自分の骨を撫でることになろうとは」
 本来ならばできないこととなれば、ついしてしまうのも致し方ないというもの。
 その手触りを感じながら、シャトはゆっくり、ゆっくりと微笑んだ。
「……灰になってしまっては、薬師の治す範疇じゃない気がするよ。ひとのかたちを保ったままで、ここを切り抜けなければね」
 ふと、思案するようにシャトは微笑む。
 微笑みながらも、心はどこか別のことを考えているようで。
 なんとかしなきゃ、という割にはやけに楽しそうなのは、
「きれいな子。炎の翼に燃え盛る破壊衝動を感じるよ。なかなか……うん、なかなかこういう状況は、お目にかかれない」
 突入か。突入もいいかもしれないな。と、シャトはしばし考えこんで、
 ああ、それよりも……もっといいやり方があると一つ手を叩いた。
「僕の焔にも意志があるよ。きみの願いと似ているかもしれない。……見せてあげる。きっと二つの炎はきれいだよ」
 まざろう、なんて。
 冗談か本気か、わからぬ口調でシャトは言って己の左腕の傷口を更にえぐり、血を引き出していく。
「ほら、ばつん、ばつんって音がしてる。これを掻き混ぜると……ほら、ね?」
 傷口が跳ねて、血が舞い上がる。それは鮮血の荊に姿を変えた。いばらは走る。敵の作り出した炎の壁を掻い潜るように。その隙間を縫うようにして走る。
「さあ、安心していてはいけないよ。炎の隙間を縫って茨がきみに縋るだろう。ほら、ほら、ほら」
「……!」
 いばらが敵の少女に当たると同時に、弾けた。舞い落ちる寒緋桜のような炎が、敵の身体を包み込み、そして火の粉を振りまいた。
「私に……炎で戦いを挑むつもり……!?」
「戦いは挑まないよ。ほら、混ざり合ってきれいでしょう」
 炎の羽が、シャトのほうへも舞い降りる。しかし、炎の壁を挟んでいるからか命中が甘い。……そしてそれはお互いさまで、
「残さず巣食って、すべて救って」
 シャトはかまわずに、己の左腕の傷口を掻き混ぜ続ける。
「これ以上傷が増えても変わらないさ。ほら、聞こえる。皮膚が焦げるにおいと血が蒸発する音。……これは小説のネタになるね。リアリティが違うもの」
「こ……この……!」
 ためらうことなく、無常に舞い落ちる寒緋桜。火葬/花葬の如く不死鳥を彩るのだとシャトは微笑んだ。傷だらけの傷口を、いとおしむように見つめて目を細めて、
「甦る、繰り返す。……それも苦しいものでしょう」
 そっと、その傷口に、口づけを。
 倒れて、よみがえる。何度繰り返そうともかまわない。シャトもまた、その傷をえぐり続ける。相手の炎が消えるまで。自分の炎が焼き尽くすまで……。

大成功 🔵​🔵​🔵​

篝・倫太郎
案外と全体的にボロボロにされたなぁ……
でもまだ動ける、戦える

血がぬめる不快感以上の不快感ってヤツだな
さっきも血に濡れてたし、判っちゃ居たけどよ……
よりによって、竜胆を焼くのかよ

忌々しさに煮えそうなンですけど?
華焔刀に衝撃波を乗せて
焔が弱くなった箇所があるならそこをダッシュで一点突破
痛みは感じねぇけど、念の為に火炎耐性で凌いで抜ける

拘束術・真式使用
敵を視認と同時に鎖で攻撃
部位はどこだっていい、当たれば逃げようがないぜ?
追加を召喚なんぞさせるかよ
オーバーキル狙いで鎧無視攻撃を乗せた華焔刀でなぎ払い

月に行きたがってただけなんだろう?
こんな事は望んでねぇんだろう?

骸魂!てめぇの願いは聞いてねぇよ



 倫太郎は己の手をぎゅっと握りしめた。
「……案外と全体的にボロボロにされたなぁ……」
 でもまだ動ける、戦える。
 一つ、深呼吸して、倫太郎は自分の両手で両頬をたたいた。
「……あ」
 べっとりと血が付いてしまった。どうやら自分は思っていた以上に、冷静ではなかったらしい。
(血がぬめる不快感以上の不快感ってヤツだな。さっきも血に濡れてたし、判っちゃ居たけどよ……)
 ……それは、
(よりによって、竜胆を焼くのかよ……)
 敵にとっては、たまたま偶然のことであったとしても、
 倫太郎にとっては、それが何より許せないことだった。
「……忌々しさに煮えそうなンですけど?」
 思わずつぶやき、倫太郎は華焔刀を握りこむ。にらむように周囲を見回して、炎の壁をじっくりと観察する。
「……そこだ」
 誰かが、通った跡だろうか。
 一部焔が弱くなった箇所を見つけて、倫太郎は走り出した。
「……らっ!」
 薙刀を振るう。衝撃波で炎を揺るがせる。揺るがせながらも倫太郎はその中へと突入していく。
「痛みは感じねぇ、けど……っ」
 耐えるように姿勢を低くする。それでも薙刀を握るその手が、無防備にさらされた頬が炎に焼かれていく。ちりちりと前髪が焦げるのを感じながら、倫太郎は炎の壁を突破した。
「絶対に逃がすかよ……っ」
 視界が晴れた瞬間、倫太郎は周囲を見回して炎の鳥の姿をとらえる。
 そこだと、声を上げる暇すら惜しく。
 倫太郎が召還した不可視の鎖は、即座に炎の娘へと放たれる。
「……あら」
 当たると同時に、爆発が起きた。それは、一族に伝わる災禍狩りとしての基礎術式をユーベルコードに変換した物の最終形態であった。炎の中に投げ込まれた炎に、彼女は首をかしげて、
「当たれば……逃げようがないぜ!」
「あら。だったら燃やしてしまえばいいわ」
 ダメージは受けているのであろう。けれどもその姿は変わりがない。痛みもないのと相まって。実体のない炎のように、揺らぐ。
「はっ。そしたら何度だってつないでやるさ!」
 だが、確かに倫太郎は彼女と見えない鎖を繋いだ。追加を召喚なんぞさせるかよ、と、叫ぶように倫太郎は肉薄する。同時に華焔刀を全力でないだ。その胴を切り裂き、その体を薙ぎ払う。少女の炎が揺らいでいく。
「月に行きたがってただけなんだろう? こんな事は望んでねぇんだろう? だったら……」
「彼女はもう、聞こえないわ。……なにも。だから、私の……」
「骸魂! てめぇの願いは聞いてねぇよ!!」
 叫ぶ。声の限り倫太郎は叫んで薙刀を振り回す。
 ばかみたい、と、少女が笑う。笑いながら倫太郎に向けて炎の羽を放つ。それは弾丸のようになって倫太郎の腕を幾度も貫き、その耳を削った。
 けれども倫太郎は叫び続けた。きっと届くと信じて。彼女の中にいる妖怪に、声が届くと信じて……。
「負けんじゃねえ!!」
 そう、声を上げて。

大成功 🔵​🔵​🔵​

西条・霧華
「『痛い』…。」

痛みを感じなくなった時、既に死を迎えている…
貴女が炎を操らなければ、私の心は負けていたのかもしれません

ですが私は、右腕を焼いた炎の熱さを…
両親と友人が燃やされた『あの日』の絶望を憶えています
躰ではなく、心の痛みとして…
その痛みがあるからこそ、私は同じ悲劇を繰り返させない事を誓い、「生きて」います
それが私の【覚悟】、守護者の誓いです

纏う【残像と【フェイント】で眩惑し、【破魔】と【鎧砕き】の力を籠めた[籠釣瓶妙法村正]にて『君影之華』
相手の攻撃は【武器受け】しつつ【オーラ防御】と【覚悟】を以て受け止め【カウンター】

おばあさん自身とその願い、返して貰います


あらゆる負傷を厭わずに戦闘



「『痛い』……」
 霧華は思わず己の掌を見つめた。そしてそっと、己の胸に手を置く。
(痛みを感じなくなった時、既に死を迎えている……)
 それは、誰の言葉だっただろう。反芻するように、霧華は胸の中でもう一度、それを唱えて。……それから、小さく頷いた。
「……貴女が炎を操らなければ、私の心は負けていたのかもしれません……」
 きっと、何もかも感じないままで死を迎えて……。

 炎が全身を覆う。
 霧華は炎の中を静かに歩いた。
 全身を焦がす炎は、熱さを感じても痛みは感じない。皮膚がただれて溶けていく様をまじまじと見ることはできるぐらいである。ゆえに、無傷というわけではないのは、自分でもわかっているけれども、
 霧華はただ歩き続けた。歩いて歩いて、炎の壁を突破したときは、前身は炎に焼かれ服に覆われていない場所はあちこちに火傷が起こり、服の下は自分でもよくわからないというそんな状態で、
 ……だが……、
「この身が鬻ぐは所詮殺人剣……。ですが、『殺す』ものを選ぶ事はできます」
 参ります。と、炎の壁を抜け、視界が暗闇、夜の景色に戻った瞬間、霧華は駆けた。
 目の前に炎を纏う少女がいる。彼女は霧華に気付いたようにそちらを振り返り、そして翼を飛ばす。
 霧華も構わずそこへと突進した。変幻自在の疾走は残像を伴う。弾丸のように放たれた炎の羽を足さばきや体の動きを幻惑させてかわしていく。もはや全身が悲鳴を上げているような気がするが構わず霧華は走った。
「私は、右腕を焼いた炎の熱さを……。両親と友人が燃やされた『あの日』の絶望を憶えています。躰ではなく、心の痛みとして……」
 ぽつんと漏れた言葉は、苦しくはなかったが体は苦しみを訴えようとしていたのか、ひどくいつもと違う音がした。それでも、霧華は駆けこむ。それは……、世界に悲劇を齎す執、即ち害意や敵意へたいしての、強い思いであった。
「その痛みがあるからこそ、私は同じ悲劇を繰り返させない事を誓い、「生きて」います。それが私の覚悟……、守護者の誓いです!」
 熱戦が放たれる。それをオーラ出弾き飛ばして、霧華はまた一歩、踏み込んだ。返すように、二種の倶利伽羅の彫刻が施された刀を真っ直ぐに、その鳥の体に突き刺した。
「おばあさん自身とその願い、返して貰います」
 それは、傷を追わない。けれども、確かに手ごたえがあった。
 ごうごうと燃え盛る炎が、揺らめき、輝きが一段、暗くなった気がした。……ならば、
「……倒します」
 怨念を断ち斬り、想いを繋ぎたいと、霧華は何度でも、刀を翻した。

大成功 🔵​🔵​🔵​

陽向・理玖
変身状態維持

結構ぐさぐさなのに…
痛くねぇのはほんと妙だな
殴れれば困んねぇけど
手を握って開き
傷の状態と動き確認

痛くなくても引き攣れたり焦げたりしたら
動きに支障が出るだろうし
全身に薄くオーラ張り
大体熱ぃし
UC起動
重ねてダッシュ
残像纏い一気に突破
接敵してグラップル
拳で殴る
痛くねぇけど
力はあんま入ってねぇ…か?
ちっと舌打ち

暗殺用い戦闘知識も交え
急所狙い蹴り
てかこの火力…
オーラあっても熱いし炙られてね?
衝撃波で炎を払えっかな
炎払い空駆けヒット&アウェイ

あんたがもっかい立っても
俺が倒れない限り何回でもやってやる
幸い…痛くねぇしな!
攻撃最低限見切り急所は避け
深く抉るように蹴りの乱れ撃ち
今度は一気に倒してやる



 理玖は己の手を見つめた。
 変身状態は維持したままであったが、一度解除したほうがいいだろうかと、ほんの少しだけ考えた。
「結構ぐさぐさなのに……。痛くねぇのはほんと妙だな」
 殴れれば困んねぇけど。と言いながら理玖は手を握っては開き、握っては開きする。傷の状態と動きを確認したのだけれども、今ひとつよくわからない。
 ……変身を解除すれば、たぶんすっかり目視で確認できるようになるのだけれども……、
「まあ……大丈夫だよな」
 そうしたら何だか非常にひどい状態になるような気がして、理玖はひとつ、言い聞かせるようにして一つ頷き、手をぐっ。と力を入れて握りしめた。
「兎に角、動きに支障が出ないように……っと」
 痛くなくても引き攣れたり焦げたりしたら、動きに支障が出るだろう。たとえ痛みを感じないとしても、肝心かなめのところで役に立たなければ意味がない。大体熱ぃし。割とそれが本音だったりもする。
「フォームチェンジ! ライジングドラグーン!!」
 なので、理玖はそのまま、全身を薄くオーラで覆う。
 そのまましっかりと炎の壁を見つめて……、炎の壁の中へと突入した。

 中は真っ赤だった。うねるような熱さがあり、理玖はその中を駆けていく。
(てかこの火力……。オーラあっても熱いし炙られてね? どうしよう。俺丸焼きか蒸し焼きになったら)
 じりじりと熱が彼を押し包んでいく。幸い、その装甲で直接燃え上がるということはなさそうであったが、明らかにその装甲自体が過剰な熱を帯びているのを肌で感じ取っていた。
 衝撃波で炎を払えっかな。と。呟きながらも理玖は衝撃波を繰り出して、なぐように払ってみる。
 炎が揺らぐ。そのはらった一瞬だけ、火の勢いが弱まった気がした。
「……っ、このまま……!」
 全力で、走る。
 残像を纏って、理玖は駆けた。炎の中を、手を伸ばして払うようにして走る。唐突に視界が晴れる。壁を突破したのだ。理解するより先に、さらに理玖は走りこんだ。
「見つけた……!」
 焼け野原になった地面を走る。壁は突破しても周囲は異様な熱に包まれていた。湖のほとりで立つ少女が振り返る。その炎の翼が羽ばたくと同時に、
「……っ!」
 羽が弾丸のように放たれた。先ほどはかろうじて持っていた装甲が、オーラをぶち抜いて理玖の腕に、肩に、被弾する。弾丸は球は残らないがその炎で傷口をえぐるように更に焼き付けた。
「はぁぁぁぁぁぁ!」
 だが、理玖も負けてはいない。声を上げ、気合を入れると、七色に輝く眩い龍のオーラがまだ戦えるとでもいうように、さらに輝いた気がした。
 一発。理玖は素手で敵の腹を全力拳でぶん殴る。
 ちっと舌打ちをする。炎に直接触れているようなもので、装甲を通じてものともせずに理玖の腕を熱で溶かしていく。
「痛くねぇけど……、力はあんま入ってねぇ……か?」
 思わず苛立たし気に叫んでしまった。それと同時に、理玖はとっさに空へと飛翔した。
 ぶわっ。と、炎の熱線が、今理玖がいた場所を抉る。高熱が地面をも溶かしていくそのさまを一瞥して、しかし。理玖は空から急降下して、
「あんたがもっかい立っても……、俺が倒れない限り何回でもやってやる!」
 再びその拳を、その敵の身体へと叩きつけた。
 少女の姿が、揺らぐ。それは傷がつくわけではなく。蜃気楼が揺らぐように。幻がかすかに形を失うように、揺らぐ。
 しかし次の瞬間、少女の炎はまた元へと戻っている。……聞いているのだろうが、遠い。理玖はそう感じた。そう感じて……、
「幸い……痛くねぇしな!」
 炎の羽が吐き出される。それを急所だけはぎりぎりで避けながら、理玖は深く抉るように蹴りの乱れ撃ちを叩き込んだ。
「……今度は一気に倒してやる。そうだ、何回だって……。俺は、倒れない!」
 まだやれる。まだ……戦える!
 叫んで、理玖は攻撃を続けた。炎が揺らぎ、消えていく。その瞬間まで……。

大成功 🔵​🔵​🔵​

草野・千秋
機械部分は両腕両脚と一部の内蔵、それ以外は生身
赤い血を流しつつ引き続き負傷

月に行きたい、と
その妖怪のおばあさんが願ったことはささやかな
しかし切なる願いだったのかもしれません
なんにしてもこの世界は壊れはしない、壊してしまうわけにはいきませんよ
カタストロフだらけの世界にも生きるいのちはあるんです
僕はそのいのちを捨て置けない
勝負だ、フェニックスドラゴン!

血が流れる胴体部分の傷を抑えつつ
勇気で炎の壁を急ぎ潜り抜け突破する
火傷で済む、火傷しただけで済むのなら僕はこの壁に立ち向かう

流れる血を代償にUC【Parousia】を発動、ヒーローソードを強化
怪力、2回攻撃で攻撃
連携する味方がいればかばう



 千秋は、炎の中に飛び込んだ。
(火傷で済む、火傷しただけで済むのなら……)
 血が流れる胴体部分の傷を抑えつつ、千秋は己を奮い立たせて炎の中を走っていく。
 高温が彼を包む。
(月に行きたい、と……。その妖怪のおばあさんが願ったことはささやかな、しかし切なる願いだったのかもしれません……)
 じりじりとその身を包み込む炎は、徐々に千秋の装甲を焦がしその熱で内側から千秋の身体を焼いていく。傷口から炎が侵入し、その傷を焼いていく。
(なんにしてもこの世界は壊れはしない、壊してしまうわけにはいきませんよ……。カタストロフだらけの世界にも生きるいのちはあるんです)
 思いを抱きながら、急いで千秋は走った。

 そうして炎を突破したとき、視界が晴れて少女の姿が映りこむ。
 千秋は声を上げて、己の流れる血液を代償に蒼銀に光る、断罪の剣……。gladius damanatoriusを真・ダムナーティオーソードへと強化した。
「僕はそのいのちを捨て置けない! 勝負だ、フェニックスドラゴン!」
 声を上げて、突撃する。思い、巨大な剣が音を立てて降られる。それを炎の少女が迎え撃った。
 炎の羽が放たれる。無数にばらまかれるそれは弾丸のように、千秋にも飛んでくる。機械化された腕を、足を貫き、その機械を損傷させる。胴にぶち当たったそれは傷口を焼き尽くす。弾丸は千秋の装甲を貫通してその身を傷つけるが、千秋が止まることはない。
「この身が例え朽ちようとも、成し遂げてみせる!」
 いうなり、一閃、大きく千秋は剣を振った。
 ごう、と炎が揺らぐ。胴を裂くその一撃は、少女の身体を確かに切断したと思ったが……、それはまた、元の少女の姿に戻る。
「なるほど、炎の鳥ですか……!」
 その本性は、少女ではなく炎であるのだろう。彼女を取り巻く炎の熱量が、少し下がったところを見ると効いているのがわかる。
「効いているのならば何度でも……。戦うのみです!」
 やるべきことは一つと、千秋は断罪の剣を振るい続ける。敵の炎が消える時まで、何度でも、何度だって。休むことなく、戦い続けるのだ……。

大成功 🔵​🔵​🔵​

九十九・白斗
「炎の壁か、ちょうどいいや、消毒したかったところだ」

身体が濡れていた
生暖かくぬるぬるしている
腕や、背中、足、それはあとからあとからあふれ、白斗の軍用ブーツに流れていく
動けば、ぐちゃりと音がする
雨の日に濡れそぼった靴のようだ

血臭いもする
身体を見れば、あの鳥に引っ掻かれた痕があちこちにあり真っ赤だ
舐めれば血の味がする

五感のほぼすべてが自分の負傷を知らせているのに痛みがない

とにかく血を止めないといけないし、消毒も必要だ

炎に飛び込み消毒と血止めをする

これ以上戦うのは難しいだろうが痛みがないおかげで、遠くから銃を撃つぐらいはできそうだ

不死鳥をスコープでとらえると、白斗はゆっくり引き金をしぼった。



「炎の壁か……」
 白斗はそうつぶやいて壁を見上げた、燃え盛る炎は天高く伸びて、とても飛び越えられそうになかったが白斗はあまり気にはしなかった。
「ちょうどいいや、消毒したかったところだ」
 そうして己の姿を、白斗は返り見た。
 身体が濡れていた。
 生暖かくぬるぬるしている。
 腕や、背中、足、それはあとからあとからあふれ、白斗の軍用ブーツに流れていく。
 動けば、ぐちゃりと音がすして、雨の日に濡れそぼった靴のようであった。
 ふと思い立って息を吸い込んでみる。
 血臭いもする。
 身体を見れば、あの鳥に引っ掻かれた痕があちこちにあり真っ赤だ。
 唇を舐めれば血の味がする
 なるほど、と、白斗は頷いた。
 五感のほぼすべてが自分の負傷を知らせているのに痛みがない。それがどういう状態なのか、今白斗は確かに感じたのである。
「……とにかく血を止めないといけないし、消毒も必要だな」
 ならばちょうどいい、と白斗は静かにその壁を見上げ、
 ためらうことなく、炎の中へと飛び込んだ。

 視界は、真っ赤であった。
 高温の炎がとめどなくあふれて、白斗の体を包み込む。
「これで、ちょうど消毒と血止めになるだろう」
 そんなことを言いながらも白斗は歩いた。血止めどころか全身を炎が炙る。血を吸って服を着ているところならまだしも、露出している場所や傷口は更にえぐるように白斗の体を破壊していった。
 だが、かまわず白斗は進む。進みながら己の状態を確認する。皮膚がじわりじわりと焼け、ただれていく。このまま焼け焦げてしまうか……なんて、さすがに思いはしなかったけれども、その色が変色しだしたころ、
 視界が晴れた。
 炎が、突然途切れたのだ。
 炎の壁の中には湖と、焼けただれた地面。そして炎の鳥がいた。
「さて、これ以上戦うのは難しいだろうが……」
 呟きながらも、白斗はアンチマテリアルライフルを構える。ぎりぎり、炎の影から白斗はその姿をスコープでとらえた。
「痛みがないおかげで、遠くから銃を撃つぐらいはできそうだ」
 そのまま、白斗はゆっくり引き金をしぼった。
 銃声が響き渡る。……確かに、当たった。
「さすがに、一発じゃあ倒れないな」
 揺らぐ炎に、白ともまた目を眇める。そうしてそのまま口を閉ざし、
「……」
 銃を撃ち続けた。どれだけ強くとも敵だって生きてはいるものだ。ならば……殺しきれると。白斗は口の中で呟いて。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ジャスパー・ドゥルジー
ファルシェ(f21045)と!

俺に焔で勝負挑もうなんざ、イイ度胸じゃねえか
【ゲヘナの紅】の焔を全身に纏わせる
痛みのねェ傷と、それに対する怒り
地獄の焔を燃やす薪は揃ってるぜ

残念ながら掠り傷だよ
ファルシェに笑いかけ

焔の壁は俺自身の熱と焔で和らげつつ正面突破
勢いよく突っ込んで焔の壁を少しでも散らせば
後続のファルシェも突破しやすくなるだろ

しっかし随分と生温い焔じゃねえの
傷を受ける度、怒りを覚える度
俺の地獄は燃え滾るぜ
制御の難しい焔は俺自身をも焦がしていくが
―構うもんか

焔の羽の猛攻を掻い潜るように空を飛んで距離を詰め
地獄の焔を纏った拳をお見舞いしてやる
不死鳥だろうが何だろうが
二度と復活なんざさせねえぜ


ファルシェ・ユヴェール
ジャスパーさん(f20695)と

……欺瞞です
痛みを伴わぬ滅びを「優しい」などと
依代の小さな願いすら蔑ろにして

怒りに燃えるジャスパーさんに
足は大丈夫ですか、と問い
己はさりげなく、使い物にならぬ利き手を隠し杖を持ち替える

それにしても
倒れた妖怪さん達に、燃え広がる焔
まるで地獄の様相です
こうなってくると、相変わらずの彼の様子が割と頼もしい気が
ブレないなぁと思えばなんだか心和む気さえ……
いえ、その反応はジャスパーさんくらいかとは思いますが(2度目)

血統覚醒で身体能力を上げ
先行する彼が焔を散らしてくれたすぐ後に追従

不死鳥と言えば甦るものだそうですが
痛みを無くした世界で
果たして己の死に気付けるものでしょうか



「俺に焔で勝負挑もうなんざ、イイ度胸じゃねえか……」
 ジャスパーは、やる気であった。その言葉は怒りに震えていた。なので、ファルシェも小さく頷いた。
「……欺瞞です。痛みを伴わぬ滅びを「優しい」などと……。依代の小さな願いすら蔑ろにして」
 あってはならぬことだと、わずかに言葉に怒りをにじませるファルシェ。そして、
「そうだ。こんなことはあっちゃならねぇ!! 痛みのねェ傷と、それに対する怒り!! この理不尽! 地獄の焔を燃やす薪は揃ってるぜ!!」
 俺のテンションを下げた罪は重い! と、叫ぶジャスパーに、ファルシェは思わず瞬きをした。
「あ……そっち?」
「そっちもどっちも、これ以上の怒りがあるってのか!?」
「あ……。ああ。いえ、その反応はジャスパーさんくらいかとは思いますが」
 二度目である。二度目の台詞とともに、ファルシェは苦笑し……、
「けれどもこうなってくると、相変わらずの彼の様子が割と頼もしい気がしますね。ブレないなぁと思えばなんだか心和む気さえ……」
「やめろ、俺に和むんじゃねぇ。そんな生暖かい目で見るんじゃねぇ」
 思わず心の声が駄々洩れた。改めて言われるとジャスパーがたまらず悲鳴を上げるので。ファルシェは笑いながら、
「それで、足は大丈夫ですか、怒りに燃えるジャスパーさん」
「おう……。残念ながら掠り傷だよ」
 そっとファルシェが、利き手を隠すようにして杖を持ち替えたのに気づいたかいなかったか。ジャスパーは肩を竦めてファルシェに笑い掛けた。
「そうですか。では、参りましょう」
 その笑顔に、ファルシェも笑顔のままで炎の壁を見つめる。
「……倒れた妖怪さん達に、燃え広がる焔……。まるで地獄の様相ですね」
「はっ。地獄はこんなにあまかねぇよ。……全部燃やし尽くしてやる。動くんじゃねえ」
 ファルシェの軽口にジャスパーは焔を全身に纏わせる。それは傷や怒りの感情の強さによって自分の力を上昇させる熱であった。その超高熱の色を纏ったまま、
「行くぞ、はぐれんなよ!」
「はい。それでは……」
 ファルシェもまた、深紅の瞳のヴァンパイアに覚醒する。それを確認した後、ジャスパーは炎の中に足を踏み入れた。

 勢いよく突っ込んで、焔の壁をジャスパーは散らしていく。
「……しっかし、随分と生温い焔じゃねえの」
 腕を振り払い、先に進む。振り払う腕を焼く炎に。頬を焦がす熱に怒りを覚える。暑さはあるのに、全く痛みはない、その世界。
「まあ……、いい。代わりに俺の地獄は燃え滾るぜ」
 痛みのなさを確認するたびに怒りがこみあげてくる。それと同時に己の体を包む炎が、彼自身すらも焦がしていく。
(――構うもんか)
 内側から焦げるような痛みをものともせずに、ジャスパーは炎の中を走った。
 一方で、後続のファルシェはジャスパーの、炎を払う背中を追いかける。
 先を彼が行くからか、さほどその炎は息苦しくない。
 時折滲むようなその日が、彼の指先を焼くけれども、そんなことは些末なことだ。
「……抜けますよ!」
 だが、炎に包まれたジャスパーよりも早くに気付いて、ジャスパーはそう声を上げる。上げると同時に、二人は壁を突破した。

「……不死鳥と言えば甦るものだそうですが……、痛みを無くした世界で、果たして己の死に気付けるものでしょうか」
 目に飛び込んできたのは、夜のくろ。即座にファルシェは杖を構える。同時に炎の羽が、弾丸のように二人にも降り注いだ。
「不死鳥だろうが何だろうが……」
 ジャスパーがファルシェの声に合わせるように空を飛ぶ。空を飛ぶジャスパーにも無数の弾丸が放たれる。それをファルシェは杖を傾けて己が羽に撃たれるのもいとわずに、オーラの盾を飛ばした。
「っ!」
 一部貫通したその羽がジャスパーに伸びる。それをぎりぎりのところで回避して、
「二度と復活なんざさせねえぜ!」
 地獄の焔を纏った拳を、その怒りを叩きつけるかのように、ジャスパーは敵の身体に叩きつけた……。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

チェイザレッザ・ラローシャ
キリ(f03828)と
やっと辿り着けたわね
というかキリ!話聞いてる!?
無茶しすぎなのもうちょっと自覚しなさいよ!全くもう!

にしても炎か、相性悪すぎるわ
血で濡れた上着を被って最悪顔面の火傷は防ぐつもり
焼け爛れても文句言わないわ、労災出るし
ってキリ?……もう、話聞いてないし!置いてかないでよ!
おかげで通りやすいけれど!けどね!

突破できたら即刻眼鏡を外すわ
封印解除、魔眼全開で動きを止めるわよ
魅了できなくても隙さえ作れたらそれでいい
キリの刃が届くならそれでいいわ
やりたいようにやって来なさいよ!
怪我増やしすぎたらグーパンなんだからね!

……痛みのない世界なんて、やっぱりだめよ
誰も大事にできなくなるじゃない


キリ・ガルウィング
ラローシャ(f14029)と
相変わらず後ろは喧しい

燃えてもどうせ痛みはない
自らの生むものと同じだ
己の影が揺れて、狼の尾に似た金色の焔を成す
邪魔な分だけ振り払って膚が焼けようが気にせず先へ
ラローシャが後ろに続くなら、勝手にすればいい

壁の奥
用があるのは、痛みを亡くした其奴だけ
…月は悪くない、か
魅せられて狂った奴が悪いのか
大層好い気分だったが、ああ、やはり
同類と言っていいだろう其奴を視界に入れれば顔が顰む
壊れるのはてめェだけだ
手の黒剣で突き刺し、引き裂いて、それから
後ろに聞かれない様潜めて

…てめェを喰えば、このまま
痛みを亡くしていられるか

莫迦莫迦しい。
耄碌した。
やはり跡形なく毀そう
それで終いだ



 
「やっと辿り着けたわね……。なんだか疲れたわほんっとうに疲れたわ」
 丘を越えて炎が上がる湖のほとりにたどり着いたとき、チェイザレッザはそう言って汗をぬぐった。微妙に手についた血が頭についた気もするけれども、そんなことは頓着していられない。頓着していられないというか……、
「というかキリ! 話聞いてる!?」
 びし!! とチェイザレッザ目の前を行くキリに人差し指を突きつける。突きつけられた方のキリといえば……、
「……」
 キリの影が揺れて狼の尾に似た金色の焔を作り出す。
 行けるか、と、確認するような声に、焔は応えないが、理解するかのように彼は一つ頷いた。
(燃えてもどうせ痛みはない。……自らの生むものと同じだ。ならば邪魔な分だけ振り払えれば、膚が焼けようがさほど気にする必要はないだろう)
「ちょっと聞いてる!? 無茶しすぎなのもうちょっと自覚しなさいよ! 全くもう!」
(相変わらず後ろは喧しいな……)
 聞いちゃいねえ。状態を確認し、そのままノータイムで炎の壁の中に突っ込むキリであったが、
「も~~~~~。にしても炎か、相性悪すぎるわ! 最悪顔面の火傷は……、やっぱりいくら捨てたとはいえ乙女としては……」
 うぅ、と、難しい顔をしてチェイザレッザが血でぬれた上着を上からかぶっているのを見ていたのか、いなかったのか。
「……ラローシャ、後ろに続くなら、勝手にすればいい」
「焼け爛れても文句言わないわ、労災出るし。うんとふんだくって……え!?」
 そういい捨てて、キリは炎の中に突入した。最低限焔が炎を払うだろうから、後に続くならば歩きやすくはなるだろう。
「あんた、聞こえてるんじゃないの!! 聞こえてるなら返事なさいよ!!」
 ええい何ということだ! あれだけいろいろ言ったのに聞こえない顔をしていたと思ったら、しっかり聞いていたとは! 思わず声を上げるチェイザレッザであったが、キリの反応はない。もうすっかり炎の中である。
「ってキリ? ……もう、話聞いてないの?! どっち!? とにかく、置いてかないでよ!」
 チェイザレッザもあわてて炎の中へと飛び込んだ。その気配を感じながら、キリは相変わらず騒がしいな、なんて思って。やっぱり返事はしないのであった。
「おかげで通りやすいけれど! けどね!」
 視界が一瞬、真っ赤に広がる。踏みしめる足は、本来ならば痛いのだろう。……けれども、恐怖心はない。うっかり出したチェイザレッザの指先が、炎に焼かれて皮膚がただれていくのをチェイザレッザは何とも不思議な様子で見守っていて、
「……キリ」
 一瞬、キリの姿を見失った。どっちに行けば、と思った瞬間、金色の焔がそれを払うように目の前の熱を焼きはらった。
「……っ、そっちね」
 チェイザレッザは走る。傷口からちりちりと炎が侵入して傷口を焼いていく。そして……、
「……って、もう始まってるー!?」
 チェイザレッザは声を上げて、慌てて眼鏡をはずすのであった。

 キリが炎の壁を突破した瞬間、其の姿が目に入ってきた。
 用があるのは、痛みを亡くした其奴だけ。だから熊やウサギ、湖畔には目もくれず、炎の鳥の姿を見つめる。
「……」
「……」
 少女は炎を纏い、猟兵の攻撃を受けて微笑んでいた。気付いたのか、キリのほうに視線を向ける。
「ああ、やはり……」
 思わず、キリは呟いた。大層好い気分だったのに、それがあっという間に吹き飛んだようなその感覚。
 ある意味同類ともいえる少女は、攻撃を受けても姿すら傷つかない。炎のように、その姿が揺らぐ。もちろん、痛みも感じていないのだろう。……ダメージを受けているのは確かなのに、まるでこの世にいないようなその、感覚。自然と顔をしかめて、
「壊れるのはてめェだけだ」
 キリは黒い剣を取り出した。そのまま、
「逃げられると思うな」
 少女の形をした、炎の腹に、まっすぐにその剣を突き立てた。
「……てめェを喰えば、このまま痛みを亡くしていられるか」
 低く、低く。小さな声で。問う。問いかけに、少女は微笑んだ。
「試してみる……? 私たちの」
 仲間になるかと。誘うように少女が声をあげようとした……瞬間、
「……って、もう始まってるー!? ええい、魔眼開放! 封印解除! 魔眼全開! もう少し、近くに来てくれる? っていうか、こっちこい!!」
 賑やかなチェイザレッザの声がした。彼女は速攻で眼鏡をはずす。騒がしい声に、少女の視線が一瞬、それる。チェイザレッザを見た瞬間、其の力がはつっどうする。それは魔力で強化させた、魅了の呪いであった。
(魅了できなくても隙さえ作れたらそれでいいわっ。ああもうあんな至近距離で……!)
 何を話していたのか、チェイザレッザは全くわからなかったけれども、彼が危険であることだけはわかっていたのだ。
 必死に何やら手をこまねいて、こっちこいポーズをとるチェイザレッザ。別に骨抜きにしなくてもいい。隙さえ作れればそれでいい。
「(キリの刃が届くならそれでいいわ……)ほら、動きは抑えるから、やりたいようにやって来なさいよ! でも、怪我増やしすぎたらグーパンなんだからね!」
 騒がしいチェイザレッザの声に、キリはわずかに息をのむ。先ほどの会話を、飲み込むように首を振り、
「……莫迦莫迦しい。耄碌した」
 言い捨てて、キリは黒剣を振るう。食い込んだ肉の感触はないが、剣を振るうたびに焼けただれた炎の匂いがする。それを追いかけるように、キリは少女を切り裂き続ける。
「やはり跡形なく毀そう。それで終いだ」
「あら……残念」
 仲間にならないのね、と、少女もそこまではいわずただ微笑んだ。
 炎の羽が二人へと降り注ぐ。それは弾丸となり二人に降り注いだ。
「……痛みのない世界なんて、やっぱりだめよ。誰も大事にできなくなるじゃない」
 それを、致命傷を避けるようにチェイザレッザは避ける。腕が撃たれようと、足が撃たれようと。やっぱり痛みはなくて、それが……なんだか悲しくなってきて。呟いた。そんな彼女の静かな声を、キリもまた静かに聞いていた。
「……月は悪くない、か。それは……魅せられて狂った奴が悪いのか」
 きっと、いつだってそういうこと。
 力を振るうのも、溺れるのも、自分自身なのかと。そんな思いが何となくキリの頭をかすめ……、
「……耄碌した」
 小さく、彼は呟いて。弾丸で撃ちぬかれた右手を握りこんで、剣を払った。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

冴木・蜜
ずるずると地を這う
腕も脚も形を成していなくて
黒油の身体が蠢くのみ
擬態もままならない

昔を思い出しますね
あの姿を借りる前の……、嗚呼

こうなってしまえば私はただの毒
命に触れる事すら叶わない
醜く忌避されるべき私

…あは、は
結局私はこの性質から逃れることは出来ない

人の形を見失うままに
己の理性を蕩かして『陶酔』
ただ炎の鳥に向かうだけの毒となる
炎が私を阻むのなら
その高熱をも融かしましょう
概念すらも何もかも

ただ、融かす
私はただそれだけの死毒

貴方の不死性も願いも
全て蕩かして差し上げましょう

痛みが無いのなら
私の毒で苦しむこともない
安心して身を委ねて
眠るように逝くといい

そして私たちに
痛みを 生命の証を返してください



 どろりと、蜜はその体を蠢かせた。
 人の形が、取れない。
 ずるずると地を這って行くのは、ただの黒油の塊だ。
 腕も足も形を成していないのならば、いっそ人の形でなくてもいいだろう。
 そう嘯いてみたとしても、結局のところ擬態もままならないという、ただそれだけのことなのだ。

 黒油は丘を越える。炎の壁が目の前に見える。
(……昔を思い出しますね。あの姿を借りる前の……、嗚呼)
 もはや言葉すらもままならない。思考はしているものの思考をしているがゆえにその異様さが際立っていく。
 ……こうなってしまえば己はただの毒。意思があるけれども人ではなく。……人などになれるはずもなく。
 命に触れる事すら叶わない。醜く忌避されるべきただのものである。
(……あは、は)
 嘆こうか、笑おうか。どうすればいいのか、そんなことももう蜜にはわからない。
 わからずに、ただ彼は流れ続ける。丘を越え、通った場所の花を、草を、殺し、枯らして、どこへ行こうというのか、だんだん自分にもわからなくなってくる。
 こんなことはしたくない。触れるだけで花を腐らせるなんてしたいわけがない。だというのに、それ以外のなにものにもなれない。
(結局私は……この性質から逃れることは出来ない)
 そうして思いのままに流れるたびは唐突に終わりを告げる。
 いつの間にか、目の前の炎の壁が出現していた。
 ……ああ。
 ため息のような心地が蜜から漏れた。それ以上進むことにも、もう躊躇いがなかった。
(毒でしか救えぬというのなら……私は今一度死毒となりましょう)
 たとえすべてを失ったとしても、人の形を見失ったとしても。
 私にはこの毒があるのだから。……この毒しか、ないのだから。
 そう、蜜が呟いた瞬間、
 その記憶が途切れた。
 蜜は完全に毒の塊になって壁の中を進んでいく。
 理性は完全に代償として消えた。
 蜜はただ、ただ、炎の鳥に向かうだけの毒となって進む。
 炎が私を阻むのなら、その高熱をも融かしましょう。……概念すらも何もかも。
 炎が蜜を包み込む。その炎を食らうようにして彼は進む。炎すら、触れた瞬間火勢を弱める。蜜が傷つかないわけもないだろうが、それをもう蜜自身も理解できない。
 そもそも蜜は、ただ、融かす。ただそれだけの死毒。ただそれだけの塊となったのだから、
 多少その容量が減ったとしても、それはどうでもいいことなのだ。

 そうして蜜は炎の壁を突破した。
 たとえ火の壁を抜けたとしても、そう快感があるわけではないし、抜けたことを気付いたかどうかが怪しい。
 足元よりあらゆるものを殺しながら、蜜はただ炎に向かって進んでいく。
 そうして、その壁の中央にいる、少女の形をした炎に触れた。
「!?」
 驚いたように炎が足元を見たときには……もう、遅い。
「貴方の不死性も、願いも、全て蕩かして差し上げましょう。……痛みが無いのなら、私の毒で苦しむこともない」
 ようやく、声が出た。多分、余分な機能を捨てたからだろう。……けれども蜜には、自分が何を言っているのかすら、もうわからない。
「安心して身を委ねて。眠るように逝くといい。そして……」
 じわじわと炎を蜜の毒がむしばみ、包み込み、そして消していく。
 そして私たちに、痛みを、生命の証を返してください。と。
 何のためにこれを口にするのかもわからないまま、蜜は口にして炎の鳥を包み込むのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

夏目・晴夜
さっきから妙に歩き辛いと思っていたら足が変な向きになってました!
そりゃ歩き辛いわって感じですよね!いやあ面白い、戻しときます
怪我自体は腹立たしいですが、痛くないので楽に戻せるのが笑えますねえ

しかし、人様の願いや世界を踏み躙るのは流石に笑えませんよ

炎の壁は『喰う幸福』の高速移動と、水の代わりに血が浸み込んだ外套を被って突破
こうなる事を見越して私は先の戦いで貴重な血を大量に流しておいた訳ですよ!

突破できたら目眩しに外套を敵へ投げつけ
その隙に斬撃から衝撃波を放って斬り裂き、呪詛で傷を重篤化させて差し上げます
敵の機動力を削ぐ為にも足は絶対に潰しておきたく
ハレルヤとお揃いになれましたね。優しいでしょう?



 晴夜は何やらふっと、何やらニヒルな笑みを浮かべた。
「さっきから妙に歩き辛いと思っていたら足が変な向きになってました! そりゃ歩き辛いわって感じですよね!」
 ふふん。大発見だ、とでも言いたげな口調であるが、何故むしろ今まで気が付かなかったのかと周りに誰かいたら突っ込んだかもしれない。幸か不幸か、今は突っ込む人間がいなかったので、
「いやあ面白い、戻しときます。怪我自体は腹立たしいですが、痛くないので楽に戻せるのが笑えますねえ」
 よいせ。っと、晴夜は変な方向に曲がった足に手をやる。よいしょっと。なんて掛け声をかけて足の形を戻す。もちろん形のみなのでなんだかものすごい音がした気がするのだが、晴夜はとんと頓着しない。
「敵は痛みをなくすことによって世界を滅ぼすつもりでしょうが、こんな有り難い状態でどうして世界が滅ぼせるのでしょうかね! ちょっとプランミスってませんか、って、敵さんに聞いてみたいものです! もっとも……」
 そこでふと、晴夜は視線を切って、目の前に繰り広げられる炎の壁を見つめるのであった。
「しかし、人様の願いや世界を踏み躙るのは流石に笑えませんよ」
 呟いたのは、まじめな言葉。しばし晴夜は目を眇めて、
 よいせ。っと。
 まるでフェンスを越えるように、晴夜は炎の中に突入した。

 壁の中に突入した瞬間、目の前が真っ赤に染まる。
「なるほどこの中ではハレルヤもこんがり美味しく焼かれてしまいますね! その前に、ハレルヤのほうが残さず食べて差し上げます」
 悪食の妖刀が喰らってきた暗色の怨念を身に纏い、晴夜は走り出す。右を見ても炎、左を見ても炎。水の代わりに血がしみ込んだ外套を頭からかぶる。
「こうなる事を見越して私は先の戦いで貴重な血を大量に流しておいた訳ですよ! さすがハレルヤ、先見の明がありますね!」
 とか何とか。尻尾を焦がしながらも晴夜は走る。傷口から炎がしみ込んで、その傷を焼くも晴夜は気にしない……というか、気づいていないようである。暑さは感じても、身が灼ける痛みや苦しみには気付かずに、晴夜は怨念を纏うことにより高速で駆けた。
 炎が晴夜の指先を徐々に徐々に焦がしていき、ついにはその指先がただれだした時、不意に視界が晴れて、真っ赤な世界から真っ暗な世界へと飛び込んだ。
「そこですね!」
 突破した瞬間、晴夜は手にしていた焼け焦げた外套を炎の少女向かって投げつける。
「!」
 少女が外套に目をやる。睨みつけるように熱線を発射する。……その、隙に、
「いやあ、我ながら完璧な作戦、ほれぼれします!」
 晴夜は少女の背後に回り込んでいた。手に馴染んだ一刀を、即座に晴夜は翻す。
「そもそもですねえ……このハレルヤよりもまばゆく輝こうなんて、頭が高いんですよ!」
 炎が明るいんです。なんて若干理不尽なことを言いながらも、晴夜は少女を切り伏せる。ついでその体に呪詛を流し込んで、炎の少女の体を削る。
「ついでにその足、削らせていただきますよ。ハレルヤとお揃いになれましたね。優しいでしょう?」
 痛くはないし軽い調子だが割と根に持っていたのだ。そのまま返す刃で晴夜は少女の足を悪食で突き刺す。そうして躊躇うことなく、横に凪いで、ついでに足首を真横一文字に切り裂いた。……そして、
「……ちょっと」
 一瞬、その足を切り取ったと思ったのに。
 即座に再生されたその足に、晴夜は思わず声を上げた。
「それはずるいってものでしょう!?」
「うるさい」
 一言。容赦なかった。炎の翼が広がる。その翼から羽が弾丸のように、晴夜へと降り注いだ。
 よくよく見ると、炎が揺らぎ、先ほどよりも小さくなっている気がする。……要するに少女は見た目だけで、中身は完全に炎なのだろう。
「いいでしょう……。ならば、このハレルヤのほうが輝かしい存在であるということがわかるまで、その炎、削って差し上げます」
 ならば。全身に炎の弾丸を撃ち込まれながらも、晴夜はめげずに呪詛を伴う衝撃波を放つ。
 宣言通りその輝きが消えるまで、何度も……。

大成功 🔵​🔵​🔵​

クロト・ラトキエ
身体…は、ほぼ露出無いので良しとして。
顔は布で覆い、
UC励起。水の魔力を防御力として纏い。
…まーざっざかやられた切り傷刺し傷は兎も角として、
火傷は厄介ですから。
あと美形の損失は世界の損失なので!

炎壁吶喊。突破後即、顔の覆いを外し視界確保。
過分な失血、神経断絶等、機動と攻撃手段に支障無いかは事前確認。
先と同じく視線や挙動、また炎の操作や飛行するなら前兆や軌道等、
手を見切り、躱し、損耗は可能な限り抑えつつ、
水纏う鋼糸で絡め斬り断ち2回攻撃も交え墜とさんと。
…召喚も計算の内。
攻撃手段が同じなら、やる事は同じ。

痛みが無かろうが、押し売りに優しいも何も無いってもんです。
…えぇ、全く。彼女の言った通りにね


ジャック・スペード
血は出ない
傷口からは導線が零れ、火花が散る

欠陥品なだけあって
矢張り此の躰は壊れ易い

激しい損傷による警告と
電池の消耗を知らせる通知が
視界に散らついて、ああ、鬱陶しい

遂に千切れた左腕部に
「Rosaspina」を嵌め込めば屑鉄の王と合体
モノアイの異形と化して火の中へ

義碗を振るい氷の衝撃波を放ち
敵の動きを鈍らせたい
隙を突いて肉薄すれば
怪力のままに鈎で敵を押さえつけ
リボルバーから氷の弾丸を零距離射撃

喩え痛みが無かったとしても
殴られたら、炎に巻かれたら
ヒトは矢張り傷付くものだ
体は勿論、こころもな
お前だって、ほら、――傷付いている

燃やし尽くすことで昇華できる想いが在るのなら
電池が切れる迄、付き合おう



 ジャックは己の左腕のあたりを見た。
 激しい損傷による警告と電池の消耗を知らせる通知が視界にちらついて、
「ああ……、鬱陶しい」
 と。思わずそんなことをぼやいた。見ればわかるし、わかっても仕方がない事態なので、いっそこの表示も消してしまいたかったがそうなると視界を交換するしかないのでそれもまた現実的ではない。不便である。
「欠陥品なだけあって、矢張り此の躰は壊れ易い……か。ならばいいだろう。其の威光、世界に̪聢と焼き付けよう」
 しょうがないので、千切れた左腕部をジャックは見やる。導線がこぼれて火花が飛び散るさまは何とも苦々しいが、言っていても仕方がないので……、
「うーん……。視界視界。視界の確保がねえ」
 蔦薔薇の意匠と剣の紋章に彩られた銀の鈎を、その切断部にはめ込んでいたところで、声が聞こえてジャックは顔を上げた。
「……如何した、御仁。大丈夫だろうか」
「あ、うん。大丈夫は大丈夫なんですけど……」
 言われて、クロトは顔を上げた。丁度顔を布で覆い、水の魔力を防御力として纏っていたところであった。
「……」
 大丈夫は大丈夫なんだろうか。ジャックは傷だらけの男を見る。しかし数秒後、自分も人のことを言えない状態だと気付く。その沈黙を察したのか、クロトも気楽な笑みを浮かべた。
「……まーざっざかやられた切り傷刺し傷は兎も角として。身体……は、ほぼ露出無いので良しとして、顔を覆ってみたのですが、どうにも視界がうまく働かないんですよね」
「なるほど。……切り傷はよくて、やけどは悪いのか?」
「ええ。火傷は厄介ですから。あと美形の損失は世界の損失なので!」
 ジャックとしては、何かその違いが致命的な問題を引き起こす種族であるのかどうかを確認したのだが、クロトはクロトでどや顔で、自信満々に言い切ったので、
「……そうか」
 そういうものなのだろうか。などと言いながらも、ジャックはそのまま切断された腕を通じて屑鉄の王と合体する。モノアイの異形と化して立ち上がった。
「では、ついてくるがいい。この黒い塊なら、炎の中でも見失うことはないだろう」
「あ、いいんですか? ありがとうございます。それでは、吶喊ですね」
 あっさりとジャックが言って、クロトも明るくそう言った。その返答を聞くや否や、ジャックは炎の中へと突入する。真っ赤に燃えるその壁は相応の熱を持っていたが、クロトもまた、ためらいなくその中に飛び込んだ。

 世界が赤い。全身を取り巻く熱を感じる。
 ジャックの装甲はその熱に悲鳴を上げるかのように蕩け始め、クロトは水の防御でかろうじて身を持たせて入るがちりりとその傷口から炎が侵入し、抉るように傷口を焼いていくのを感じていた。
「あっ」
「うん?」
「たぶん眼鏡の端がすごく熱いです」
「……」
 布で覆いきれなかった場所が若干危険な感じをしているけれども、些末なことだろう。なんて、これでもクロトは状況を確認しているのだ。それはジャックも分かっている。いつでも過分な失血、神経断絶等、機動と攻撃手段に支障無いかを確認しておけば即座に動くことができるからだ。……幸いにも、まだ彼は実戦に耐えられる。生還が可能な範囲内ではあると認識している。
 ジャックのほうはといえば、始終視界の端に己の状態を伝える継承が鳴り響くので、鬱陶しいことこの上ないのであるが……、それはまた、別の話。
 そんな会話を交わしながらも、二人がまっすぐ前へと進んだ……その、次の瞬間。
 ふっ、と、空気がぬるんだ気がした。
「そこですね」
「ああっ!」
 声と同時に、ジャックが義腕を振るう。流れるように走ったのは、氷の衝撃波であった。クロトも同時に地面をける。蹴ると同時に顔を覆っていた布を外した。……視界は良好だ。即座に戦闘態勢に移行できる。
 ジャックはといえば、すでにその熱源を感知していた。炎の壁を抜けた先、その火の影響で涼しいとは言い難いがあたりの温度は数段下がっていた。
 だが中央に、凄まじい高音を発するものがある。……炎を纏った敵だ。そこに向けて、ジャックは氷の衝撃波を払ったのだ。
「肉薄する!」
「了解しました」
 押し通る、とジャックが走り出す。クロトはそれを確認する。少女の翼が羽ばたいた。それと同時に、炎の羽が二人へと降り注ぐ。
「そ……れっ」
 クロトは少女から目を離さずに走る。かわしたと思った羽が曲がる。その際に翼が羽ばたくのを確認する。あそこで羽を操っているのだろうか。
「……っ、と」
 よけきれなかった炎が腕へと着弾した。それは弾丸のようにクロトの左の掌を貫通し、穴をあける。開けると同時に傷口を焼いていくので、血は殆ど流れない。
「これは……幸いというべきか、どちらなんでしょうね」
 思わずぼやきながら、クロトは水を纏う鋼糸を放つ。
 一方のジャックは、少女の攻撃を全身に受けながら、それでもかまわず前へ、ただ前へと進んでその敵へと肉薄していった。
「結局これが……一番早い!」
 鈎が閃く。押さえつけるようにジャックは敵へと肉薄し、そのままかろうじて残っていた右腕で氷の弾丸を至近距離から撃ちこんだ。噛み合う銀の歯車にて獲物へ終幕齎すリボルバーは、止まることなく幾度か、その弾丸を炎の中へと叩きこむ。
 翼が、羽ばたく。その翼を、クロトの鋼糸がからめとった。
「させませんよ……っと」
 じゅうじゅうと、水や氷に冷やされて白い煙を上げる炎の少女。その姿にクロトは怪訝そうに眉根を寄せる。
「……大変ですね、この方、実体がありません」
 まったく大変でもなさそうな口ぶりでクロトは言い、なるほど。とジャックは小さく頷いた。先ほどから押さえつけている感触が妙になく、攻撃を受けてもその姿はゆらゆら揺らいで傷を追わない。痛みがないのと関係しているのだろうと思っていたが……、
「この熱……、なるほど、炎が人の形をとるか……!」
「まあ、攻撃手段が同じなら、やる事は同じですけれどもね。なにより、効いていますし」
 広げた翼を、先回りしてクロトの鋼糸が縛りあげる。水の魔力でもって巻き上げる。凄まじい煙が上がると同時に、鳥が纏う炎が、徐々に勢いをなくしていく。それをクロトも感じ取っていた。
 しかしながら敵の表情も変わらない。やるべきことをやるとでも言いたげに、炎の弾丸が放たれる。
「喩え痛みが無かったとしても、殴られたら、炎に巻かれたら。ヒトは矢張り傷付くものだ。体は勿論、こころもな」
 至近距離にいる関係で、それをもろに受けながらも、ジャックは氷の弾丸を打ち込む。その手を止めない。
「お前だって、ほら、――傷付いている。人でなくとも傷はつくし、消耗するものなのだ」
 何も感じないのか、と、ジャックは語り掛ける。炎が白煙を上げてとぐろを巻いている。徐々に少女の輪郭が保てなくなって崩れていくが、それを嫌がるかのように明滅し、復活を繰り返す。
「……それも、予測済みですよ」
 復活と同時に炎の弾丸を飛ばす。その直前、クロトが鋼糸を巻き付けて羽を覆い、その起点を崩した。
「痛みが無かろうが、押し売りに優しいも何も無いってもんです。……えぇ、全く。彼女の言った通りにね」
 ぽつりとつぶやかれた言葉は、ほんの少し先ほどまでのクロトの声音とは違っていて。
「そうだな。だが……それでも燃やし尽くすことで昇華できる想いが在るのなら、電池が切れる迄、付き合おう」
 ジャックは小さく頷いた。炎の鳥はそれでも、最後まで。周囲に炎を放ち続け、彼らを焦がし続けた……。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

レザリア・アドニス
残念ですね、熱いのはいやです

髪の花が焦げないように、【全力魔法】で嵐を増幅させて、炎を吹き退けて、炎の壁に通路を作る
そしてゆっくりと炎の中に通過して、近づいていく
鈴蘭の嵐を吹かせて、風の刃と花びらで敵の生命力を削り取る
炎の羽が来たら嵐の防壁を作り、羽を纏めて吹き飛ばす

痛みがないので傷は全く気にしない
炎の中では血も蒸発されるし戦闘に全く支障がない

花を燃やすやつ、許さない
消えるのは、お前だからね
大丈夫、痛くも苦しくもなくて、……優しいでしょう?
と、狂気な微笑みを綻ばす



 レザリアは炎の壁を見上げた。
「……残念ですね、熱いのはいやです」
 痛いのも、苦しいのも、気にならなくない身だけれども、
 髪の花が焦げるのは、困るから。……ただ、それだけの心持で、レザリアは天に手を掲げた。
 全力の魔法で、嵐を増幅させ、それを炎の壁にぶつける。
「……ん」
 大丈夫。相殺されていた嵐にさらに力を加えて炎を押し広げ、その壁に通路を作り出した。
「それでは……ごめんくださいまし」
 ただ、静かにそう言って、レザリアは炎が押し上げられた通路の中を歩きだした。
 ゆっくり、ゆっくりと、彼女は歩いて、進んでいく。
 彼女にとって大切なのは、髪の花が焦げないことである。
 故に、足元に炎がちろりと伸びようと、気にすることは全くない。相殺しきれなかった炎が足を撫でて、靴と一緒にその足を溶かしたとしても気にも留めない。彼女が気にしているのは、頭の花だけ。そして……、

 炎の壁が抜けた瞬間、レザリアは己の手にしていた宝玉を鈴蘭の花びらへと、一瞬で変化させた。
「……」
「……」
 火花が舞い散る。火花と同時に炎の羽がその中では荒れ狂っていた。
 近くに湖がある。しかし周辺の草木は、花は、見るも無残に炎に焦がされ、燃やされていた。
「……花を燃やすやつ、許さない」
 ようやく、ぽつん、とレザリアは言って、鈴蘭の花びらと同時に風の魔法を使い刃を飛ばす。
 荒れ狂う炎の羽を撃ち落とすように、風の刃を叩きつけ、そして鈴蘭の花びらで、敵の少女の身体を切り裂いていった。
 少女の姿形は変わらない。ただ、その身に纏う炎が揺らぐ。……それで充分だと、レザリアは笑う。
「消えるのは、お前だからね」
 反撃のように、炎の羽が弾丸のように飛んでくる。それを風の嵐で、壁を突破したときと同じように障壁を作り出してレザリアは散らす。
 大切なのは、その髪の花で。それ以外の箇所を弾丸が叩いても、気にせずに彼女は微笑んだ。
 腕に、足に、穴が開いても、穴が開くと同時に炎がその傷口を焼いて塞いで血を止めて。
 炎の中では血も蒸発されるし戦闘に全く支障がない。
「大丈夫、痛くも苦しくもなくて、……優しいでしょう?」
 だから、何もなかったかのように。いっそ楽しそうにレザリアは微笑んで。
「あっという間に終わらせてあげる」
 魔法と花びらを、ためらうことなくその炎の塊に叩きつけた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

冴島・類
ディフさん(f05200)

願いを失う
彼女の其れは痛みから来ていたのかな
誰かの不在、後悔
それも痛みだろうさ

火の壁に刀差し入れ
腹の血を焼き止めて振り返り

ディフさん
火は産土みたいなものなんで
越えるまで盾やります
矛を任せても?

火の精に守りの強化を願い纏い
彼の前で壁を切り開きたい
目一杯破魔の力込め
薙ぎ払いの衝撃波で、数瞬でも火を断つ
全て払えるなどは、奢ってないが

貴方と雪の君に、焦げは似合わないよ
笑い、軽減させてみせると駆け

超えた先、攻撃時も防御と刀で援護を

忘却で楽になり
それで意味を失う者もいる
王の剣が向かう先へ
声を
痛みの底にあったものまで
失って良いのかい

※ 赤い血、痛覚も普通
焼かれ生まれたので火耐性は強


ディフ・クライン
類(f13398)と共に

たった一つの願いが
心も体も痛ませることもあるのだね
けれどその痛みは、なくなってもよかったのかい?

ひしゃげた左腕は動かぬまま
盾になるという類に確りと頷いて
判った、貴方に進む道を託すよ、類

淪落せし騎士王をこの身に降ろし
ちりりと揺らめく黒炎の鎧と
相棒たる極寒の雪精の加護を纏って
王の剣を手に

焔に立つ友の頼もしさと優しさに
柔く細めた瞳で笑み
行こう、類

代償として液体魔力を消費しながら駆ける
友が切り開く道を真っすぐに信じて
不死鳥が己を貫こうとも
王に導かれるまま剣を揮おう

彼女の願いを返しておくれ
その願いは唯一のものなのだから

※痛覚鈍め
血ではなく赤い液体魔力が流れている
身体内部は魔導機械



「願いを失う……。彼女の其れは痛みから来ていたのかな」
 ポツン、と、類は呟いた。
 誰かの不在、後悔。それも痛みだろうさ、と。呟く言葉はどこか遠くに向かっている気がして、ディフは小さく頷いた。
「たった一つの願いが、心も体も痛ませることもあるのだね。人の心は……とても強くて、強烈だ」
 強いね、と、ディフは呟くと、強いよね、なんて言って、類は笑った。
 世界すら変えたいと願う、心の強さには、ほんの少しの憧憬がある。お互いに顔を見合わせて。そうして、目の前にある炎の壁に二人、目を向けるのであった。
「けれどその痛みは……、なくなってもよかったのかい?」
「ないほうがいい痛みなんてないって、そう思うのは僕たちが恵まれているからなのかなあ」
 彼らは人ではないから。理解できない。だから羨ましいと思うけれども、本人にはつらいものかもしれないね。なんて、そう結論付ける。そうして類は炎の壁に己の刀を差しいれた。
「ディフさん」
「うん?」
 何をしているんだろう、と、ちょっと興味深く類を見るディフに、類はちょっと笑いながらもその刀で腹の傷口を焼いて血を止める。
「火は産土みたいなものなんで……、越えるまで盾やります。矛を任せても?」
「うん、判った、貴方に進む道を託すよ、類」
 その言葉に、ディフはしっかりと頷いた。それから自分のひしゃげた左腕に目をやる。自分も何か処置したほうがいいのだろうかと、一瞬は思ったけれども……、
「まあ、使わなければ、問題ないよね」
「うーん。問題……ないのかな?」
 どうかな、どうだろう。二人顔を見合わせて、一瞬。ほんの少し笑った。ディフの場合は血ではなく赤い液体魔力なので、人間とは少し、やり取りが違うのである。
「それ、出つくしたらどうなるのかな?」
「わからない。恐らくは動けなくなる……はず」
 試したことはないし、試すつもりはないのだけれども、そういわれればちょっと気になってしまうな。なんて言うディフに類も頷いて。……頷いてから。
「じゃあ。行こうか。……繋いで、良いかい?」
 最後の問いかけは、ディフではなく、火の精にであった。類はそうして、炎に籠を希う。その身が強化されたのを肌で感じ取り、手にしていた短刀をぎゅっと握りしめて、
「全て払えるなどは、奢ってないが……。けれどもせめて」
 目いっぱい、破魔の力を込めて、類は腕を薙いだ。
 ざん、と、衝撃波が壁の中へと走った。
「……開いた、急ごう」
 壁の向こう側の景色が見える。けれどもそれも数瞬であろう。
「……ああ。……王よ。オレの身体を貸そう。嘗ての蛮勇を、貴方の力の全てを今、此処に」
 即座にディフも黒焔の魔力を全身に通して、漆黒の騎士王の死霊を自らに降ろす。ちりりと揺らめく黒炎の鎧と、相棒たる極寒の雪精の加護。その身を纏い、王の剣を握りしめた。
「ふふ。貴方と雪の君に、焦げは似合わないよ。この炎、全力で軽減させてみせるね」
 その姿に、類は笑って。そうして走り出す。先ほど空いた穴から、まっすぐに炎の中へ。
 躊躇うことなく先陣を切る類。その頼もしさと優しさに、ディフは目を眇めて、
「ありがとう……。行こう、類」
 あとへと続いた。

 衝撃波があけた穴は、すぐさま炎に飲み込まれようとしている。
 それを何度も、何度も、衝撃波を叩きつけるようにして、類とディフは進んだ。
 先頭を行く類の腕に、肩に、炎が落ちてくる。落ちてくるたびに、衝撃波でそれを吹き飛ばす。焼かれて生まれてきた身ではあるから、炎の塊が当たってもさほど苦しくなんてない。それでも振るうのは、後ろを走る友を傷つけないためだ。
 ディフは類の後を走っている。その足取りに不安はない。類が間違いなく、ディフの盾になると宣言した、その言葉を信じているからだ。 一歩一歩、踏み出すたびにディフの液体魔力が消費されて行く。それが全部なくなったらどうなるのと、先ほどの会話を思い出して類はほんの少し怖くなった。そうして歩を速める。
 そうして進んでいると、急に視界が晴れた。炎の壁を突破した……と、そう思った瞬間、
「ディフさん、右に走って!」
「……!?」
 打ち寄せられた炎の弾丸に、類は思わず声を上げた。ディフもとっさに炎の壁を逃れて右へと飛ぶ。先ほどまで真っ赤だった視界が急に暗闇に戻り、戻ったと思えば火花がはじけた。
 出てくる瞬間を狙ったのであろう。炎の弾は類の体を穿った。炎は相性がいいが、それでも体中にそれが打ち込まれる感触がある。……何かと思えば、羽だった。羽を弾丸のように飛ばす。撃ち込みながら、内部の肉を焼いているので、弾は残らず、血は流れなかった。
「類!」
「大丈夫です。援護しますから、走ってください!」
「ああ!」
 視線が向けられる。それと同時に熱線が来る。それを交わしながらるいは走る。ディフもまたそれの後に続く。
 ディフの体が自然と動く。彼が降ろした王が、その戦い方を心得ている。弾丸が降り注ぐ。王はかまわぬとでも言いたげに押し通るから、類がその弾丸を可能な限り、刀を振るって炎の精霊の力で相殺していく。
「……」
 その敵の目の前に立った時、
 少女はただ、静かに二人を見ていた。
「彼女の願いを返しておくれ。その願いは唯一のものなのだから。……例え辛くとも、きっと忘れてはいけないものだから」
 剣を掲げて、ディフは言った。少女は首を横に振った。
「返さないわ。こんな世界は亡くなってしまったほうがいいの」
「それは違う……違うよ」
 淡々という、少女の姿に思わず類が声を上げた。
 ああ……この子は少女ではないのだと、その時、類は感じた。それは精霊だ。類が力を借りる、炎、其のもので……、
「忘却で楽になり、それで意味を失う者もいる。……それはいけないんだ。いけないことなんだよ。……ねえ、痛みの底にあったものまで……、失って良いのかい?」
 声を上げる。少女ではない。その奥にいる妖怪に向けて声を放つ。
「忘れてしまっていいのかい。大事な娘さんのことも……!」
 少女を取り巻く炎が、揺れた。……その瞬間、
 ディフは剣を振り下ろした。
 極寒の雪精の加護を纏ったその刃は、少女後と炎を一瞬で切り裂き、その体を冷やしていく。
 高温の炎が、悲鳴を上げるように大きく、大きく揺れた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ハイドラ・モリアーティ
【BAD】
随分利己的だ
――エコー、お前はちょっと見てろ。タイミング見て動け
いいから。死体パワーゴリ押しはやめろ、もっと頭使えって言ってんだ
わかるな? いい子だ

CRYONICS
悪いねえ、お嬢さん。俺は死ねないんだ
どれだけ焼いてくれてもいいぜ、焦げた端から俺は再生していく
オイオイこれが世界滅亡の火だって?冗談だろ
どんどん消し飛ばしてくれよ
どうした?腹にどでかい穴開けて満足か?ん?
残機無限の雑魚ってめんどくせえよなァ、わかるよ
心の隙間もできちまうよなあ、ええ?

――いくら「死ななくても」だ
目の前で知り合いが死んでいくのを見るのは辛いだろ、エコー
ちゃんと心で痛みは感じとけ
じゃないと、「マジで死ぬ」ぞ


エコー・クラストフ
【BAD】
え……見てろったって、二人でかかったほうが早いだろ? ボクのダメージなら大したことはない。もう治ったよ。
……何か考えがあるならいいけど。

……ハイドラ、もうやめろよ。痛々しい。ホントに死んだらどうするんだ……。
わかったよ。周りで見てる側のことも考えろってことだろ。もう無茶はしないって、できるだけ。
だからもういいだろ? 十分心が痛み……はしないけど、不快ではあったよ。そろそろ加勢させてもらう。

【一切の希望を捨てよ】。湖を入口に、地獄を顕現させよう。
杭で敵の身を貫き、穿った穴に有刺鉄線を張り巡らし拘束する。
反撃が来ようと知ったことじゃない。ボクもそこのハイドラと同じ、死ねない身なんでね。



 ……唐突に、
「随分利己的だ。――エコー、お前はちょっと見てろ。タイミング見て動け」
 ハイドラがそんなことを言うので、エコーは瞬きをした。
「え……見てろったって、二人でかかったほうが早いだろ? ボクのダメージなら大したことはない。もう治ったよ」
 何言ってるんだ、という顔をするエコーに、そっちこそ何言ってるんだ、みたいな顔でハイドラは腕を組む。
「いいから。死体パワーゴリ押しはやめろ、もっと頭使えって言ってんだ。わかるな?」
 ここだここ。と、言いたげに己の頭を指さすハイドラ。エコーはむぅ、と、ほんのちょっと頬を膨らませて、
「……何か考えがあるならいいけど」
「いい子だ」
 そんなことを言うので、ハイドラはにやりと、若干人の悪いような笑みを浮かべて、エコーの頭を撫でるように軽くたたくのであった。
 それからふんわりと足を踏み出す。まるで朝の散歩に行くような足取りで、ハイドラは炎の中へと突入した。
 ハイドラが通った場所に穴が開いている。この後に続けばハイドラに怒られることなく一緒に行くことができそうだ。そう感じて、エコーはハイドラの後へ続いた。
 それを確認しながら、ハイドラは歩く。……ただ、歩く。炎がハイドラに襲い掛かる。
 足が燃えて腐って崩れ落ちて。そしてまた再生される。
 腕が溶けて消え去っても、いつの間にか生えてきている。
 仕舞には頭部が焼け焦げて炭のようになったとしても、いつも通り、瞬きをすればハイドラの姿がそこにあった。
「……悪いねえ、お嬢さん。俺は死ねないんだ」
 そうして不意に、視界が開けた。
 いや、視界が開けた、と理解できたのは、熱を感じなくなって数秒後であった。
 眼球が落ち、焼失した視界が再び輝きを取り戻すと、
 そこには焼けただれた竜胆と湖。炎の少女と兎たちが目に入った。
「……あなた」
 ごう、と、少女の翼が揺れる。
 少女の翼は炎の弾丸になり、ハイドラへと降り注ぐ。
「どれだけ焼いてくれてもいいぜ、焦げた端から俺は再生していく。オイオイこれが世界滅亡の火だって? 冗談だろ」
 揶揄うように言うハイドラに、降り注がれる弾丸。構うことなくハイドラは前へと進んでいく。
「ほらほら、どんどん消し飛ばしてくれよ。……どうした? 腹にどでかい穴開けて満足か? ん?」
 ほれほれ、とでも言いたげに、両手を広げるハイドラ。
「残機無限の雑魚ってめんどくせえよなァ、わかるよ。心の隙間もできちまうよなあ、ええ?」
「……」
 少女が目を眇めて、睨むようにハイドラを見た。ハイドラもその眼を見返して、
「――怖いか? 俺もだよ」
 と、ぽつんとつぶやいた…………その時、
「……ハイドラ」
 ハイドラの後を追いかけてきたエコーが、その服の袖をそっと、引いた。
「もうやめろよ。痛々しい。ホントに死んだらどうするんだ……」
「だから、死なねぇ……」
「そんな話してるんじゃないよ」
 苛立たしげなエコーの声。なんだか泣きそうにも聞こえたのはハイドラのきき間違いだっただろうか。俯いて、服の袖を握りしめて、エコーは首を横に振る。
「わかったよ。周りで見てる側のことも考えろってことだろ。もう無茶はしないって、できるだけ。だからもういいだろ? 十分心が痛み……はしないけど、不快ではあったよ」
「いや、そこは、心が痛んで夜も眠れないとかいえよ」
「バカかよ」
 冗談めかした声に、即座に返答が返って、ハイドラは苦笑した。
「……そろそろ加勢させてもらう」
 服の袖で顔をぬぐって、エコーはそれで前を見た。視界にとらえたのは、湖だった。
「……地獄の扉が開かれる」
 唱える。それと同時に湖……水から錆びた有刺鉄線と焼けた鉄杭が出現した。それは勢いをつけて炎の少女へと叩きつけられる。
 一切の希望を捨てよと、そう叫ぶように、杭で敵の身を貫き、穿った穴に有刺鉄線を張り巡らし拘束する。
 炎の少女は揺るがない。杭に貫かれてもその姿が変わらないのだ。だが……手ごたえはある。拘束はできる。
 代わりに、炎が揺れる。
「ああ……お前、本体は炎なんだな。それじゃあ……何にもわからないな」
 ぽつん、と、
 その正体を見極めて、ハイドラは小さく呟いた。
 鳥は応えない。炎の翼を広げて、弾丸のような羽を飛ばす。
「――いくら「死ななくても」だ。目の前で知り合いが死んでいくのを見るのは辛いだろ、エコー」
 それはもはや感情のない現象のようで、
 それが何を考えているのか。どういう生き物だったのかも、もはやハイドラでも、暴きようがなかった。だから、と、ハイドラは言った。
「ちゃんと心で痛みは感じとけ。じゃないと、「マジで死ぬ」ぞ。あれみたいに……」
 ただの概念になるんだ。と、呆れたようにハイドラは炎の塊に指をさした。
 そんなハイドラに、ふん、と、エコーは頷いたのか、いなかったのか、よくわからない返答をして、
「あの鳥のことなんて……知ったことじゃない。ボクもそこのハイドラと同じ、死ねない身なんでね。傷つかなくても……消えるまで抉るだけだ」
 自分たちが生き残るために。そうするのだというエコーに、
「……いい子だ」
 ほんの少し、ハイドラも笑ったのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

都槻・綾
薬師さん達の守護を念頭第一に
オーラ防御

指先で空中に描くは五芒星
腕を伝って滴る紅が
地に落ちれども
瞬く間に炎熱で蒸発する様を
視界の端で捉えつつ

同時に
高速で詠い紡ぐは
数多の鳥を招く調べ

水纏う羽搏きが炎を鎮め
其のまま
不死鳥の娘をも喰らい付くように
詠唱を重ね二回攻撃

奔る鳥影を追い
開かれた炎の路を潜り抜け疾駆
身が焦げる感覚すら
傷を焼き塞ぐのに丁度良い

踏み込んで抜刀
朱赤の炎を映した刀身の閃きで
袈裟懸けに斬りあげる

火の粉が煌く一瞬の間
胸に去来する静寂

きっとずっと波立つこともないままの心に
ふと、浮かぶ

いつか香炉が砕ける時は
痛みを感じるのだろうか
片翼を失った時は痛みを覚えただろうか

――あぁ

もう、忘れてしまったな



 炎の壁の中を綾は躊躇いなく走った。
 操る水の羽搏きで通路を作り、その中を駆けていく。
 身が焦げる感覚すら、傷を焼き塞ぐのに丁度良いと。痛みがないが故かそんなことを考えて。
 故にか、ほころびから炎が彼へ降り注ぎ、その身を焦がすのも気にせぬままに綾は走った。
 綾は炎を抜けた瞬間、まずは声を上げた。
「二人とも、こちらへ」
 呆然と立ちすくんでいた熊とシロウサギに声をかける。このあたりなら隠れやすいだろう、と、湖のほとりに生えた木の影を示し、そのまま二人にオーラの守りを施した。
「できうる限り、守らせていただきますから。どうか、あなた方も気を付けてくださいね」
「あ……っ。ありがとうございます!」
 そんなお礼の言葉を聞く前に、すでに綾は走り出していた。人影を見つけて、炎の弾丸が綾にも降り注ぐ。
「……」
 ここまで来るまでに、ずいぶん消耗してしまったなあ。と。指先を空中に伸ばして、そんなことを考えた。炎の壁を突破するとき、瞬く間に炎熱で蒸発する様を視界の端で捉えていたからかもしれない。指先はすでに焼け皮が捲れそうになっていた。しかし綾はかまわずその指で空中に五芒星を描く。
 すでに壁を突破する際傷口から炎が侵入し、その傷を焼いていて。もはや血すら出なかった。それがなんだか奇妙におかしくて、綾はわずかに、口の端をゆがめた。
「時の歪みに彷徨いし御魂へ、航り逝く路を標さむ、」
 しかしそんな綾の状態とは裏腹に、綾はよどみのない動作で数多の鳥を招く調べを詠い紡ぐ。放たれる炎の矢を無粋だとでもいうように、水纏う羽搏きが炎に向かって立ち向かった。
 炎の羽はまるで弾丸のよう。凄まじい勢いで飛来するそれを、綾の水の羽搏きが迎え撃つ。
 炎が水に包まれて、盛大な白煙をあげた。貫通した攻撃を、回避すれば今しがた別れたばかりの二人組に届いてしまうから。綾は回避せずにそのまま詠唱を重ねる。
「……まだまだ」
 羽搏きをもう一度。炎の少女に水が当たれば、凄まじい勢いで水が蒸発し炎を弱める音がした。
 さあ、と綾は地を蹴る。先ほど炎の羽に貫かれた傷も、火の中を歩いてきた火傷もものともせずに、綾は鳥の影を追いかけるように疾駆する。
 さて、ここにきて綾に言葉はなかった。いつも一人の時はおしゃべり、というほどではないが、それでもここまで無言なのは自分でも珍しいかもしれない。なんて冷静に頭の端で妙なことを考える。
 そうしてそのまま、綾は炎の少女へと肉薄した。動きは一瞬であった。刀を翻し、そのまま抜刀する。螺鈿による花々が描かれた、漆黒の鞘が躍った。
「……ああ」
 冷謐に凍れる真冬の、黎明の如き清澄な刀身に炎が映りこんでいる。それが何とも鮮やかで、
 綾は躊躇いなく、その刀で袈裟懸けに、少女の体を切り上げた。
 手ごたえはあった。
 しかし、その姿が変わらなかった。
 霞を斬ったのだ、と、綾は瞬時に理解した。……実際には、斬ったのは炎だったけれども、そう違いはないだろう。……要は、人の形をとるだけの、人ではない化生である。
「……」
 ごう、と、切り裂かれた場所の炎が揺らぐ。その、火の粉が煌く一瞬の間。
 綾の周囲から、一切の音が消えた。
 静寂か。……これが静寂かと。そう感じる前に、否、と何かが答えた。
 きっとずっと波立つこともないままの心に……、ふと、浮かぶ、なにかがある。

 いつか香炉が砕ける時は、痛みを感じるのだろうか。
 片翼を失った時は痛みを覚えただろうか。

 ……なんという。
 なんという……、
「――あぁ」
 思わず、小さく綾は口をついて呟いて。
「もう、忘れてしまったな」
 そのまま。返すように刃を翻し、
 もう一度、その炎を切り伏せた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ユウイ・アイルヴェーム
※人形なので出血しません

お腹、腕、脚。疵のない所はないかもしれません、確認はしていませんが
どこか欠けていたとしても、お役に立てるなら問題はありませんから
焼かれても、表面のかたちが変わるだけ。ですから、大丈夫なのです
壊れてしまえば戻れないものでは、命ではないのですから

痛みのない、終わり。あなたはそれを優しさと呼ぶのですか
私はそれでも決めたのです。あなたを倒し、皆様を守ると
…きっと、痛みのある続きを見たい私は、優しくはないのでしょう

私のできること。少しでも、多くの方を守るために
UC発動、全ての羽を打ち消します
戦う力は、この手のなかにあるのですから
この刃を振るい近付くのです、他は見えないくらいに



 ユウイはそっと目を伏せて、己の腹のあたりに手をやった。
(お腹、腕、脚。疵のない所はないかもしれません、確認はしていませんが……)
 このあたりにも、確か傷があったはずだと。ユウイは小さく頷く。血が出ないうえに痛みもないとなれば、何とも把握が難しいのだと思ったのだ、けれど……、
「どこか欠けていたとしても、お役に立てるなら問題はありませんから」
 けれども、そんなことは問題ないと、言って、ユウイは顔を上げた。
 目の前に、燃え盛る炎の壁がある。きっと物凄く熱いだろうことは、近づいただけでもわかった。けれど、
「焼かれても、表面のかたちが変わるだけ。ですから、大丈夫なのです。……壊れてしまえば戻れないものでは、命ではないのですから」
 そういって、ユウイは炎の中へと突入した。
 壁の中は熱く、熱く。歩くだけで肌が灼けて、そして溶けだすようであった。
 痛みはないが、温度だけは感じる。それはそれで構わないのだが、これ以上続くようなら歩行が困難になりそうで困るな、とユウイは思う。
 髪の毛の先がちりちりと焦げる。どちらかというとこれは、燃やすというより溶かす温度だ。……なんて、ユウイが冷静に判断した。ところで、
 炎の壁は終わりを告げて、そして視界には夜空と湖が広がっていた。
「……痛みのない、終わり。あなたはそれを優しさと呼ぶのですか」
 そして、その中央には炎の翼をもつ少女がいた。少女を真っ直ぐに、ユウイは見据える。ぎゅっと手を握り締めると、少女もまた、ユウイを見た。
 翼が羽ばたく。それと同時に、少女の周りにくるくると炎の羽が舞った。それを視界に収めながら、
「私はそれでも決めたのです。あなたを倒し、皆様を守ると。……きっと、痛みのある続きを見たい私は、優しくはないのでしょう。でも……!」
 翼から羽が放たれる。それと同時にユウイもまたユーベルコードを封じる技を放った。
「私のできること……。少しでも、多くの方を守るために。私は戦います!」
 同じ様に炎の羽を飛ばして相殺して行く。しきれずに炎がユウイに突き刺さる。弾丸のように貫通しても、ユウイは気にせず一歩、また一歩と踏み出す。周囲のものは見えていないぐらいに真剣に。
「だって、戦う力は、この手のなかにあるのですから……!」
 徐々に徐々に、相殺の精度が上がっていく。そうして己の状態も構わずに。ユウイは全力で敵へと突進していくのであった。
 彼女もまた、敵と戦うために……。

大成功 🔵​🔵​🔵​

故無・屍
…ッチ、マジで面倒な世界だな。
確かに痛みはねェがその分不快感だけは際立ちやがる。

怪力にて地面ごと炎の壁の一部を抉り飛ばし、
出来た隙間から内側に侵入

…おい、兎と熊。分かっちゃいるだろうがそいつはさっきの鳥どもとは別格だ。
妙な刺激はするんじゃねェぞ、自分達の命の心配だけしてろ。


UCを発動、継戦能力、時間稼ぎ、限界突破の技能にて攻撃を引き付け、
他の猟兵が全力で攻撃し続けられる隙を作る
熊や兎、傷付いた味方が狙われるならかばう
第六感を用いて致命傷を避けつつダメージの軽減を


…痛みってのは生きてるってことの印だ。
それを消して何かを成し遂げられたとしても、
最後は足元の死体の山を見下ろすだけにしかならねェよ。



「……ッチ、マジで面倒な世界だな」
 屍は呟いて、顔に一日を乱暴にぬぐった。自分の血だったか、先ほど倒した敵の血であったか、もはやわからなくなっていた。
「確かに痛みはねェがその分不快感だけは際立ちやがる……」
 不快そうにそう言いながらも、屍は炎の壁を見上げる。さて、どうしたものか。なんて迷っている暇なんて、屍にはなかった。
「おら!!」
 壁を蹴り飛ばす。炎で出来た壁が揺らぐ。力任せに押し通れば、目の前は真っ赤な炎、炎、炎……。
 もう一度舌打ちをして、屍は駆ける。露出していた皮膚を炎は焼き、そして傷口を抉るように焼く。血が止まるだけ、まだましだな。なんて言いながらも屍は先へと進んだ。
 炎は、さほど長くは続かなかった。突破した瞬間、夜の闇が目に飛び込んでくる。けれどもそれには惑わされずに、屍は周囲を見回した。
「……!」
「おっと」
 湖のほとりに、焼け焦げた木があった。その場所にいる影を見つけて、屍は駆ける。そして、壁で囲われた、焼け焦げた花畑の上に立つ。その少女もまた、屍を見つけたようであった。
 ばさり、と翼が羽ばたく。羽ばたくと同時に、その翼から羽が飛び出した。炎を纏うそれは、見た目だけで怪しいものだということだけはわかった。屍は走る。丁度気を少女から庇うような位置へと飛び出した。
「……おい、兎と熊。分かっちゃいるだろうがそいつはさっきの鳥どもとは別格だ。妙な刺激はするんじゃねェぞ、自分達の命の心配だけしてろ」
 手早く、伝える。その間にも、炎の羽は屍へ向かって放たれた。同時に、背後にいる熊やシロウサギたちも狙っていることがわかる。
 それから庇うように、屍は手を広げる。その手にも炎が落ちる。それはまるで弾丸のように熱をもって屍の掌を貫いた。……炎で出来ているからか、傷つけると同時に傷口を焼いていくそのやり口に、屍は眉根を寄せた。
 まったく、痛くはない。痛くはないのに、傷だけ増えていく。そこに苛立ちを感じずにはいられない。
「あの二人組を傷つけるわけにはいかねぇんだ。悪ィが、ちぃと付き合って貰うぞ」
 言って、屍は己に攻撃を引き付けるように、
「……痛みってのは生きてるってことの印だ。それを消して何かを成し遂げられたとしても、最後は足元の死体の山を見下ろすだけにしかならねェよ。そんなことも、わからないわけじゃ無かったろうに」
 やりきれない、というのは少し違うかもしれない。
 ただ、放っておけないと。屍は穴の開いた己の手を握りこんだ。
 そのまま、防御モードを発動する。どこまで耐えられるかはわからないが、この間なら屍も、背後を守ることができるだろう。
 その間に、攻撃を頼むと、屍は口には出さないけれどもそういって炎の鳥を見やる。攻撃てもまた、炎を乗り越えて攻撃を始めている。
 きっとすぐに、制圧されるだろうと。屍が思った時、同時に炎の弾丸が屍へと襲い掛かった。
「……」
 慌てず、騒がず。屍はただ、守り続ける。……信じているのだ。必ず、それは斃されるのだ、と……。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ヴィクトル・サリヴァン
熱いの嫌いなんだけどなー。
野性ののシャチ肌に比べれば少しは強いけど直火は乾く…!
でも今は感じないのはいいよね。傷が浅い内に止めて助けないと。
…火傷とかの後の事はその時の俺頼んだの精神で。

基本は支援重視で行動。
高速詠唱で水の魔法を行使、湖の水を触媒にしてオーラ通した水の壁で炎の攻撃を防ぐ。
自在に躱してくるなら俺達に水かけつつ服のように纏ってダメージ軽減。
気休め程度だけどちょっとはマシだろう。
ダメージに対し復活してくるなら復活しようとしてる所に銛を投擲、UC発動。
飛び立つ前に水シャチに喰らいつかせて飛翔を妨害。
心折れるまで倒し続けるのも一つだよね。不死身。

※アドリブ絡み等お任せ。れりごーぶらっでぃ


ティオレンシア・シーディア
※アドリブ掛け合い絡み大歓迎

左足やられちゃったし、走って突っ切るのはちょぉっと厳しそうねぇ。ラグ(水)とエオロー(結界)で〇火炎耐性のオーラ防御を展開、ミッドナイトレースに○騎乗してテイクオフ。垓王牙とは比べ物になんないもの、速攻で突っ切ってやりましょ。

…さぁて、それじゃあ我慢比べといきましょうか。弾幕の軌道と規則を〇見切って回避しつつ●蕭殺で長期戦に持ち込むわぁ。
○マヒ攻撃の帝釈天印に○破魔・浄化の五大明王印、阻害のソーン・凍結のイサ・欠乏のニイド…言ったでしょ?足引きの手筋ならいくらでもある、って。

一気に仕留めることこそできないけれど。…あなたの相手してるのは、あたしだけじゃないのよぉ?



 ヴィクトルは思わず、という風に炎の壁を見上げた。
「熱いの嫌いなんだけどなー。野性ののシャチ肌に比べれば少しは強いけど直火は乾く……!」
 シャチなので。ちょっと炎は水気が足りなくなってしまうので。と、ヴィクトルはうーん、と首を傾げる。その隣で、
「う~~ん。左足やられちゃったし、走って突っ切るのはちょぉっと厳しそうねぇ」
 と、ティオレンシアが腕を組んで何やら唸っていた。
「おや」
「あら」
 思わず顔を見合わせる二人。瞬きを一つして、
「……まあ、でも今は感じないのはいいよね。傷が浅い内に止めて助けないと」
「そぉねえ。いつか行かなきゃいけないなら、速攻で突っ切ってさっさと終わらせちゃいましょうか」
「……火傷とかの後の事はその時の俺頼んだの精神で」
「あとのことを考えるのはやめましょう」
 言いながらも、まずはティオレンシアはバイク型UFOを呼び出す。そこに。ラグ(水)とエオロー(結界)のルーンを刻んで、火炎体制とオーラ防御を施した。そのまま騎乗すると、
「テイクオフ! 垓王牙とは比べ物になんないもの、やりましょ」
 ういぃぃぃぃぃぃん。と、動き出すUFOに、おお~。とヴィクトルは感心したように声を上げて、
「それじゃあ、こっちはこっちで……」
 言いながらも、ヴィクトルは水の魔法を行使する。確か炎の壁の向こう側に水があったはずだと思い、それを使って壁に穴をあけていく。
「それじゃ、行っちゃうわよ~」
「はーい、追いかけるよ」
 オーラを通した水の壁を作り出し、炎の壁に穴をあけてその中をヴィクトルは走り出す。同時にティオレンシアも、炎の中へと突入した。

 炎の壁は長いようで、一瞬のようにも感じられた。
 真っ赤な視界が続き、不意に暗くなる。瞬きをする間に世界が切り替わる。四方八方が炎に包まれた空間から、気が付けば焦げた花畑と湖のある、生暖かい風の吹く世界へと二人は突入していた。
「……さぁて、それじゃあ我慢比べといきましょうか」
 騎乗したまま、ティオレンシアは呟いた。UFOから弾幕が放たれる。それと同時に、目の前にいた炎の塊から羽が放たれた。
「ちっ。物量で押してくるか……!」
 弾幕を張りながら、ティオレンシアはその攻撃を回避する。回避すると同時にマヒ攻撃の帝釈天印に破魔・浄化の五大明王印、阻害のソーン・凍結のイサ・欠乏のニイド……などなどといった様々な攻撃を加えていく。
「言ったでしょ? 足引きの手筋ならいくらでもある、って。……これで時間はあたしの味方。ハメ殺すって、素敵よねぇ?」
「うーん。心折れるまで倒し続けるのも一つだよね。不死身」
 そうやって戦闘をティオレンシアが長引かせている間に、ヴィクトルもまた少女へと迫る。変わらず湖の水を触媒に、オーラを通した水の壁を作っていく。
 構わず羽が放たれる。羽は弾丸のようになってヴィクトルとティオレンシアのUFOに降り注いでいく。それは弾丸のように飛んで、
「気休め程度だけど、ちょっとはマシかなあ」
 ヴィクトルは即座に己に水をかけ、服のように纏ってダメージを軽減した。
 弾丸がヴィクトルの体を貫く。多少は軽減してくれてるかな? なんて呑気に言うヴィクトルであったが、
「そっちはどー?」
「こっち? ええと、何か削れて来てるわよぉ」
 UFOのことである。これでもかというぐらい強化して、敵に弱体化を打ち込んでいるので、そこまで致命的な傷はついていないようであった。
 ぐるりとティオレンシアはUFOを旋回させる。炎が大きく揺らめいて、敵が徐々に削れて言っているのが知れる。致命的な一撃はティオレンシアには出せないが、弱体化しているのははた目から見ても明らかであった。
「一気に仕留めることこそできないけれど。……あなたの相手してるのは、あたしだけじゃないのよぉ?」
 ティオレンシアが声を上げて、ヴィクトルのほうに視線をやる。ヴィクトルは心得た、とばかりに銛を構えて、
「さあ、追いかけて、齧り付いて――喰い千切れ」
 飛び立とうとしていた炎の鳥向かって、森を投げつけた。銛が炎に当たった瞬間、水で象った巨大なシャチがその体へと食らいつく。
 物凄い音を立てて、水蒸気が上がっていく。炎の勢いが弱まっていく。着実にその攻撃は、炎の姿を削り、弱めていくのであった……。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

黒鵺・瑞樹
アドリブ連携OK
右手に胡、左手に黒鵺の二刀流

戦いの中で折れる事はいつだって覚悟してた。今もいつ死んでも構わないと思ってる。
でも痛みを感じないのがこれほど怖い事だと思わなかった。逆に覚悟が薄れそうだ。

炎を軽減するなら水を操れる伽羅を連れてくるべきだったろうけど、でもあいつはきっとこの状態じゃ俺以上に難しいだろう。
UC月華で炎の軽減を。熱は感じるようだから熱気に合わせてオーラ防御と火炎耐性と。
基本相手の攻撃に集中し全力で避ける。隙を見て右手でマヒの暗殺攻撃を。
敵の攻撃は第六感で感知、見切りで回避。
左腕は使い物にならんし、炎相手なら受け流しは意味がないだろう。
喰らうものはオーラ防御で軽減を。


エドガー・ブライトマン
◆左腕のみ、負傷すると赤い花びら、どろりとした泥のような血が出る
◆左腕のみ、普段は痛覚がある

助けてやらなくちゃいけないね
妖怪君の純粋な願いも、一緒に救ってあげよう
多くのいのちと願いがこの世界にはあるんだろう
いたずらな炎に奪わせやしないさ

炎の壁に挑む前に
“Hの叡智” 状態異常力を重視するよ
これですこしは軽減できるハズさ

おまたせ、フェニックス君。キミに会いに来たんだよ
《早業》で彼女へ間合いを詰めて《捨て身の一撃》
キミが瀕死になって、また蘇ったとしても同じコトさ
何度だって一撃をあげるよ
今日はいつにも増して感覚が鈍いから
キミが蘇るのをやめるまで付き合ってあげられる気がする

あ~、血……後で止めなくっちゃ



「助けてやらなくちゃいけないね」
 エドガーが炎を見上げてそう言った。瑞樹はほんの少し、瞬きをして天を見上げる。
 どこまでもどこまでも続く炎は、立ち入ったものを溶かしてしまいそうで、瑞樹は一つ深呼吸をした。
「戦いの中で折れる事はいつだって覚悟してた。今もいつ死んでも構わないと思ってる」
 確認するように言う。右手に胡、左手に黒鵺を握りしめて、
「でも痛みを感じないのがこれほど怖い事だと思わなかった。逆に覚悟が薄れそうだ」
 きっとこの中では、自分が溶けることにすら気付かずに溶けてしまうだろう。それは恐ろしいことだ。戦の中で己を燃やし尽くすことも、死の間際に強く願うこともなく、消えていく。その言葉に、なるほど、とエドガーは感心したようにうなずく。
「そういう可能性も、あるんだねえ。怖いなあ」
 本気かどうか、判じかねる口調だったので、瑞樹は首を傾げる。
「……怖くないんだ?」
「というか、私はだいたいいつもそのようなものだから」
 割とまれによく記憶が抜け落ちていく身としては、気づけば怪我をしているのになぜ怪我をしているのか思い出せないことも多数あってそれを恐怖とはあまり感じなかったのだ。なるほど、と瑞樹は同じ様なことを言って頷いた。
「まあ、それはそれで私はかまわないさ。妖怪君の純粋な願いも、一緒に救ってあげよう。多くのいのちと願いがこの世界にはあるんだろうし……、いたずらな炎に奪わせやしないさ」
 それならば自分が忘れて溶けて消えても、きっと他人の心には残るものがあるだろう。と、気楽にいってエドガーは歩き出す。そのまま炎の壁の中に突入しようとして、
「待って待って」
 思わず放っておけずに瑞樹は声を上げる。
「炎を軽減するなら水を操れる伽羅を連れてくるべきだったろうけど……。この状態じゃなあ」
 水神の竜にこの熱気は厳しいだろう。あまり使いたくないんだがな、とつぶやいて、瑞樹は月読尊の分霊を降ろし、真の姿へとその姿を変える。胡と刀に形を変えた黒鵺の二刀を手に、オーラの防御を自分と、其のまま放っておけなかったので、エドガーにも施した。
「そこまで強くはないけれど、ないよりはましだろう」
「そういえばそうだったね、うん、ありがとう。あとは私も……」
 一つ礼をして、エドガーは深呼吸をひとつ。瞬きをふたつ。
「あとは、大切なことさ」
 みっつ、祖国の名を心の内で唱え。そうして己への火傷や状態異常への耐性を上昇させた。
「これですこしは軽減できるハズさ。さあ、行こう!」
 あくまで気負いなくそう言って走り出すエドガーに、瑞樹も頷いてその後を追う。炎の中はナイフのヤドリガミである彼には鬼門のようなものだったが、目の前の彼もどうにも気になって放っておけないという生来の気質によって瑞樹も躊躇いなく火の中へと飛び込んだ。
 熱くて、赤くて、赤くて。
 高温は容赦なく二人を焼いていく。
 傷口から炎が侵入し、露出した肌は焦げていく。服はそのまま溶けていくだろうか。じんわりと熱をもって張り付いていた。
 それでも痛みは感じなかった。それは不気味で仕方がなかった。真っ赤で、何も見えなくなりそうなところを、二人は精いっぱいの速度で駆けた。それは一瞬のようであったし、とても長かったようにも感じられた。そして……、
「あっ……。涼し……くないねえ!」
 唐突に視界が晴れた。炎の壁を突破したとき、目の前には夜の闇と焼きただれた花畑。そして炎の鳥が飛び込んできた。壁を抜ければ少しは暑さがやらわぐかと思ったが、周囲の熱でそんなわけはなくてエドガーが思わず呑気な声を上げた。
「……有り難いっ」
 このまま溶けるかと思ったと。言いながらもその時には瑞樹は動いていた。エドガーのほうへ一度視線をやると、エドガーは確かに、軽く頷いた。
「おまたせ、フェニックス君。キミに会いに来たんだよ」
 即座にエドガーは少女のほうに視線を戻す。両手を広げて、あくまで紳士的に少女のほうへと歩き出す。
「……」
 少女は応えず、エドガーをにらみつける。それと同時に熱線が走り、エドガーの足元を焦がした。
「おっと。この挨拶はお気に召さなかったかな。ごめんね、レディの扱いはほんの少し、私は得意ではないからねえ」
 それを紙一重でよけて、エドガーは微笑む。若干、足の先が焦げた気がするけれども気にしない。そのまま足早に、ためらわずに少女へと歩み寄る。そのまま緩やかな動作でレイピアを構えて、一息つく好きすらなく少女の体に刃を突き立てた。
「!」
 ゆら。と炎が揺らぐ。その瞬間、
「隙……あり!」
 エドガーの攻撃へ気を取られている瞬間に、瑞樹は少女の背後に回り込み、胡を一閃させた。麻痺の刃が少女の体に沈みこむ。
「……っ」
 手ごたえはあった。なのに奇妙な感覚があった。カンだ。それはあくまで勘であったが、何かが瑞樹にささやいた。
「危ない、後退だ!」
「了解!」
 具体的に何がとは言わなかった。だがエドガーは即座にそれに応じた。数歩後退すると同時に、少女の躰がはじける。
 無数の炎の羽が、二人に向かって降り注いだ。それは炎の弾丸と形を変じて、彼らの体を打ち付ける。
「こ……のっ!」
 既に左手は使い物にならないし、この雨のような炎を回避することも難しい。即座に瑞樹はオーラでの防御で軽減させようとする。それでも防ぎきれずにその体を炎が穿つ。
「そっち、大丈夫だよな!?」
「うん、大丈夫だよっ」
 そうしてその炎の中から、少女の体が再びよみがえっていくのを二人は見た。……否、
 少女が炎を従えているのではない。
 炎が、少女の形をとっているのだ。
 炎自身の質量は、変わっていない……むしろ二人の攻撃を受けて減っている。
 それが理解できただけでも、充分だ。と、エドガーは思った。
 躊躇わずにエドガーはレイピアをその体の中心に突きつける。瑞樹のオーラによって多少は攻撃を免れたが、エドガーの前身は炎の弾丸によって傷だらけになっていた。……おそらく、次はもう避けられない。でも、
「キミが瀕死になって、また蘇ったとしても同じコトさ。何度だって一撃をあげるよ。……今日はいつにも増して感覚が鈍いから、キミが蘇るのをやめるまで付き合ってあげられる気がする」
 運命の名のついたレイピアで敵を貫く。何度でも。……何度だって。
 敵の翼が揺らめく。炎が減ったとはいえ、戦う意思は衰えていないことをそれは示していて、瑞樹も即座に動き出した。
 守り切れなかった傷口を、抉るように再び羽が放たれる。
「あ~、血……後で止めなくっちゃ」
「まったく。俺はこんなところで……朽ちる気はないんだぜ!」
 さほど血が流れない身体であるくせに、エドガーの言葉に思わずぼやくように瑞樹は言って、胡を躊躇うことなく敵の躰へと叩きつけた。
 この身は刃であるのだから、人が戦っているのなら、自分が引くことなんて絶対にできるわけがないと、口に出さないけれども言い切るように。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

城島・冬青
【橙翠】

炎の壁を目の前にしても暑さを感じない
これは火炎耐性が発動しているから…と思いたいな
壁に向かって衝撃波を放ち消えた一瞬を狙ってアヤネさんを抱えてダッシュで突破!
強引ですみません
こういうのは勢いが大事ですから

炎はある程度耐えられるので大丈夫
ダッシュと残像で炎をまともに喰らわないよう避けつつ
死角から斬りつける
ボスの負傷箇所を部位破壊で集中的に狙います

不死鳥再臨は勝利を確信して油断した時にまともに喰らう
ちょ?!分裂とかずるい!
前の戦闘で負った傷が大きく開き血が滴る
痛みは相変わらずないけれど
見ただけでやばい傷なのはわかる

大丈夫…
目眩がするけどまだ倒れない
流れ落ちた血を代償にUC発動
倍返しです!


アヤネ・ラグランジェ
【橙翠】
やり方は思い出した
身体も心も痛みを感じなければ自分は強いと信じていた頃の
痛みを感じなくとも機能は落ちる
火傷を負えば動かなくなる

炎は注意深く回避しなくてはならない
そうソヨゴに伝えようとした時にはもう遅い
ちょ待ってソヨゴ!

強引に壁を突破
大丈夫じゃないでしょ
水筒の水をソヨゴにかける
少しはマシになると思うけど気をつけてネ

前に出てソヨゴを守りたい衝動を抑える
この状況で最適な僕の役割は後方支援
UC発動
400余体の戦闘機械をソヨゴの周囲に球状に展開
ソヨゴを守らせる
PhantomPainを電脳ゴーグルにリンク
敵の動きを阻害しつつ攻撃する

ソヨゴ!まだ敵は倒れていない!
慌てて駆け寄り
大鎌を抜いて彼女を守る



 冬青は炎をじ、と見つめた。
 アヤネも、炎をじ、と見つめた。
 いつもなら、こいつ何かしでかすんじゃないか、なんて。アヤネは冬青の雰囲気でわかっただろうが、
 今日は思いいたらなかった。なぜかというと……、
(やり方は思い出した。身体も心も痛みを感じなければ自分は強いと信じていた頃のやり方……)
 思いをはせる。あの時どういう風に動いていたのか。なにに気を付けてどうなったのか。さほど愉快な記憶ではなかったが、役に立つんだから不思議なものだ、なんてつらつらと思い出していて、
(痛みを感じなくとも機能は落ちる。火傷を負えば動かなくなる。だから……)
 炎は注意深く回避しなくてはならない。ならばとれる方法は……、
「あのね、ソヨゴ」
「アヤネさん」
 アヤネが何か言う前に、おもむろには冬青は口を開いた。
「それゴーゴー!!!」
 ぼふ!!!!!!!
「!?」
 何かと思ったら何か一瞬でものすごい勢いで冬青は衝撃波を炎の壁に叩きつけた!
「からのー!」
 ばっ。と冬青はアヤネを抱き上げる。そのまま、全力で炎の中へと突入した。衝撃波で一度吹き飛ばしたから、火の勢いは弱まっている……はずだ!
「!?!?!? ちょ待ってソヨゴ!」
「強引ですみません! こういうのは勢いが大事ですから!」
「え、ちょ、勢いでどうにかなる問題なのこれー!?」
「大丈夫です! 熱さは感じませんし! これはきっと、これは火炎耐性が発動しているから……と思いたいな!!」
「まさかの希望的観測!?」
 なんということでしょう!
 思わず声を上げたアヤネに、ふっ。と冬青は影のある笑みを浮かべる。
「大丈夫です。この炎よりも、私の気持ちは熱……」
「はいはいそういうのはいいから。大丈夫じゃないでしょ」
 何を似合わないことを、と言いたげにアヤネは冬青に水筒の水をかぶせかけた。とはいえ、やってしまったものは仕方がない。
「少しはマシになると思うけど気をつけてネ」
「はいっ」
 その言葉に、嬉しそうにアヤネを抱きしめて冬青は走った。
 炎が、二人を包み込む。揺れたと思ったけれども、やっぱり完ぺきではない。
 それでもある程度耐えられるから、大丈夫だと。冬青は一瞬、炎の中でちょっとだけ考えこんで……そして、回り込む。
「アヤネさん……行きますよ!」
「了解!」
 そうして、勢いをつけて、冬青は大地を蹴った。
 焼けただれた地面が、冬青の靴を溶かして足の裏を焦がす。それでも、
「う、りゃああああああああ!」
 跳んだ先で、炎が途切れる。壁を突破したのだ。
 周囲は暑く、空気もそう快感など微塵もないが、上手いこと敵の背後に回り込む形で壁を越えられた。冬青はアヤネを降ろして。即座に花髑髏を握りしめて敵のほうへと接近する。
「!?」
「どっせい!」
 完全に死角を取った。一刀のもと袈裟懸けに斬り伏せて、冬青は即座に返すように刃を握りこむ。
「集中攻撃、いっきまっすよー!」
 そのまま刃を翻し。傷をつけた場所を集中的に返すように突き刺す。
「邪魔を……しないで!!」
 炎がその羽から放たれる。弾丸のように変化して、冬青の体を貫いていく。なんとか残像を駆使して、胴体などの致命傷は避けるように立ち回るが、至近距離だ。どこがどうやられたのか、自分でももうわかっていないけれども、
「いやです! そっちが倒れるまで、戦うのをやめません!!」
 それでも、冬青はひるまなかった。
 もう一度、敵が炎の羽を繰り出そうとした……その瞬間。
「ソヨゴを守って!」
 アヤネが叫ぶ。戦闘機械が、行った一体、その無数の羽に向かって突撃し、激突した。派手に燃え上がる機会。残った機械も、冬青を守るように、球状に周囲に展開させる。
(今すぐかばいに行きたい! けれど……この状況で最適な僕の役割は後方支援……!)
 傷だらけの冬青に、アヤネは歯噛みする。同時に中距離制圧用アサルトライフルを電脳ゴーグルにリンクさせて、機械兵器を操りながら、同時に銃弾を炎の鳥の中へと叩きこんだ。
「これで……おしまいです! 早く終わらせて、膝枕をしてもらうんですから!」
 若干本音が駄々洩れながらも、冬青は花髑髏で敵の首を跳ね飛ばした。
「……よしっ」
「ソヨゴ! まだ敵は倒れていない!」
 冬青が大きくガッツポーズをしたとき、
 敵の姿が、崩れる。崩れると同時に、それは炎の塊となり……そして、再び炎は、少女の姿をとった。
「!?」
 傷ひとつない少女の姿に、冬青は思わず目を見開く。
「ちょ?! 分裂とかずるい!」
「ソヨゴ!!」
 少女の翼が、弾けた。炎が無数の羽となって、目の前の機械兵をなぎ倒し、そして冬青へも無数の弾丸を放つ。
 アヤネが駆ける。鎌を閃かせて、その弾丸を叩き伏せる。
「ぐ……っ」
「アヤネ、さ……!」
 飛び込んできたアヤネの全身に、弾丸が吸い込まれて行く。冬青は走り出そうとして、前の戦闘で負った傷が大きく開き血が滴る。
「大丈夫だヨ、致命傷は、避けた……」
「はい、でも……!」
 傷だらけのアヤネ。冬青も、痛みは相変わらずないけれど……、見ただけでやばい傷なのは、わかった。
「……これすごく痛いから、使いたくないんですよ。傷って今いたくなくてもあとからくるんでしょ!? とんでもないですよね! でも仕方ないですよね? 痛くしますね!」
 それでも……、冬青は立ち上がる。その血が。流れ落ちる血が。アヤネを守り切れない悔しさの涙が、真紅の翼持つ蝙蝠の大群を呼び寄せていく。
(大丈夫……。目眩はするけどまだ倒れない……。倒れてなんてやらない!)
「ソヨゴ……ほどほどに」
「ほどほどなんて知りません……倍返しです!!」
 血まみれになった冬青を気遣うようにアヤネは言う。構わず冬青は叫んだ。血を流しながら、天を仰いで手を掲げ、蝙蝠を呼び、
「絶対に……赦しません!!」
 その大量の蝙蝠を、敵へと向かってけしかけた。再生しても、しても、くらい尽くすまで、絶対にはなさない心持で。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

オズ・ケストナー
※血は出ません

シュネーはここにいてね
ブローチへと避難させオーラ防御を展開
炎に飛び込む

いたくないならそのままとびこんでも
あとでメンテすればきっとへいき
そんな風にかんがえてた
前のわたしなら

しんぱいかけないように、なるべくケガはしないよ
それでもしちゃう分はしかたないけど

すこし焦げた匂い
いつもどおりに振るえなくなってきた腕
回復しようとしているのか
さっきの音波がなくてもねむくなってきて

まだだめだよと自分の体に言い聞かせる

きみの願いはかなえてあげられない

願いがかなわなくても
みんなで話して
みんなでためして
そういう時間が、だいじな思い出になることだってきっとあるよ

こわしたらぜんぶなくなっちゃう
だから、守るんだ



「う~~~~~ん」
 オズは、思わず難しい顔をして、金の鍵のブローチを手に取った。
「シュネーはここにいてね。ここにいれば、だいじょうぶだよ」
 迷ったのは、一瞬であった。オズは大切な大切な相棒のシュネーを、ブローチの中へと避難させる。中はオズがすきなものをたくさん集めた美術館になっていて、時々シュネーもお留守番をしている場所だ。ここなら、大丈夫だろう。
「それじゃあ……」
 そうしてオズは己とブローチをオーラで防御し、ブローチを大切にしまい込むと、すう、と深呼吸をして、
「えいっ」
 炎の中へと飛び込んだ。

 炎の中は、熱かった。
 熱くて熱くて、溶けてしまいそうで。
 見渡す限り、赤色ばかりで、
「大変、早く抜けなきゃ……」
 多分、この先。ずっと、進んだ先のはずと、オズは慌てて足を前へ、前へと進める。
 徐々に体の表面が剥げてきて、きっと体は溶けてなくなってしまうだろう。
 液体になったら元に戻れるかなあ。
 そんな風に、考えて、ふと。オズは自分で、気が付いた。
(いたくないなら、そのままとびこんでも……あとでメンテすればきっとへいき。そんな風にかんがえてた。……前のわたしなら)
 最終的に、治ればいい。それぐらいの、軽い気持ちで考えていたし、それで何の問題もなかった。……ないはずだった。けれど、
(きっと、それじゃあだめなんだ……。いやなんだ。今の、わたしは)
 自分が、嫌だ。きっと心配をかける。それはオズだって本意じゃないのだ。そういうことに気が付いて、気づいている自分がなんだか嬉しくて、オズは必死に、足を前へと動かした。
 徐々に焦げたようなにおいがまとわりついてくるのを感じる。きっと自分の躰から発せられているのだ。
 足が重くて、腕がいつも通り振るえていない。愛用のガジェットを、重い、と感じる日が来るなんて初めてかもしれなかった。
 それでも……、
「……わ」
 それでも、進まなきゃと。オズが足を前に出した瞬間、視界が開けた。
 世界は暗かった。そういえば夜だったとオズは瞬きをする。冴え冴えとした月と、無残にも焼かれてしまった竜胆の花畑と湖。そしてその奥に、炎の鳥が立っていた。
「……っ」
 炎が、オズのほうを見る。見ると同時に、その羽がオズへと向かって放たれた、
「足、うごいて……!」
 自分に向けて、オズは叱咤する。己の体が、壊れた場所を回復しようとしているのか。無性に眠たくなってきていて、意識が途絶えてしまいそうで。
「まだ……だめだよ。だめだから。しんぱいかけないように。なるべくケガはしないように。それでもしちゃう分はしかたないけど……まだ、がんばるんだから……!」
 それでも、なんとかオズは走った。炎の羽がオズを穿つ。ぎりぎりのところで致命傷は避けるように回避する。それは弾丸のようにオズの足を、腕を、撃って。そして焼いていく。相変わらず痛みは感じないけれども、いつ、一瞬で視界が暗転して眠りに落ちてもおかしくはない。……でも、
「ごめんね、きみの願いはかなえてあげられない」
 傷だらけになりながら、オズは炎へと迫った。ぐるりとガジェットの斧を構える。
「願いがかなわなくても、みんなで話して、みんなでためして……。そういう時間が、だいじな思い出になることだってきっとあるよ」
「……」
「こわしたらぜんぶなくなっちゃう。だから、守るんだ」
「……しなければよかった努力も、必要なかった悲しみや痛みも、この世界にはたくさん、あるわ」
「ないよっ。きっと……なかった方がよかったことなんて、なにひとつないよっ」
 淡々と放たれた言葉に声を上げて。
 オズは、全力でその斧を振り下ろした。

大成功 🔵​🔵​🔵​

スキアファール・イリャルギ
(※怪奇の目口を潰しまくって全身血塗れ
あと雷の加減を忘れて己の躰も灼きまくった。躰が煙を吐いてる)

あぁ……
こんなになっても死なない、か

ぼんやりと月を見る
いつも満月の日は少し調子が良い
きっと月が静かに見守っているからだ
月が齎す狂気が心地良いからだ
私はもう狂人で
月が、狂気が無ければ、狂ってしまうのだから――

あなたはどうだろうか
ちょっとの間月を隠したらどうなるのだろう

UCで晦の夜を呼ぶ
己の怪奇が月を求めて蠢き出す

……あハ、
こんなにも素敵な夜だ
燃やし合おう
壊し合おう

炎は避けない
いや、もうズタボロすぎて避けれないのかな
炎を突っ切って、己の炎を相手にぶつける

嗚呼、熱い
でも苦しくない
もう、この儘――



 煙が吐き出されている。
 おそらくは、炎によるものではないだろう。
 ……なんて、
 スキアファールは考えて。考えたまま思わず笑ってしまった。
 だって、煙を吐いているのは己自身の躰であって。
 それというのもこれというのも。雷の加減を忘れて己の躰も一緒に灼きまくったせいであり。
 更には怪奇の目口を潰しまくった。この全身は血塗れで。
 まさに血まみれの化け物は、這う這うの体で山の奥にでも逃げ帰り、二度と出ては来ませんでした。とでもナレーションを突ければ完璧なような、そんな有様であったのだ。
「あぁ……。こんなになっても死なない、か」
 だから、そう……だから。
 血まみれで、煙すらはいて、それでも歩いていける己の姿に、スキアファールはもう、何といっていいのかわからない。
 絶望というには生易しすぎる。
 どうしようもない気持ちが今、そこにある。
 ぼんやりと月を見る。
 天には美しい月が輝いていた。
 ……いつも満月の日は少し調子が良い。それは、きっと……、
(月が静かに見守っているからだ……)
 そう、こころのなかで呟いて。
 スキアファールは天に、血まみれの手を翳した。
 心が安らぐのは月が齎す狂気が心地良いからだ。
 こんな有様になってでも、正常に思考ができること自体が、異常であることのあかしなのだ。
 私はもう狂人で、月が、狂気が無ければ、狂ってしまうのだから――。
 だから……。
 いつの間にか、スキアファールは炎の中を歩いていた。
 熱さが彼を包み込む。不思議なことに、痛みはなかった。
 苦しいとも、思わなかった。ただ……熱い。
 奇怪で、醜く。見苦しい。それが燃えている。傷口が焼かれている。煙を吐くその体すらも消し炭にしている。
「……あハ、」
 思わず、声が出たときに、視界が晴れた。……炎の壁はスキアファールの体を焼いて、焼いて、そして唐突に終わりを告げた。
 ああ、と、ため息のような声が漏れる。ほんの少し、残念だったから、かもしれない。
「……あなたはどうだろうか」
 不意に。
 スキアファールは前方へと目を向けた。
 炎を纏った少女が、その場所に佇んでいた。
 ちょっとの間月を隠したらどうなるのだろう……なんて。
 いいかけて、スキアファール早めた。その言葉はあまりに、理性的であったから……、
「こんなにも素敵な夜だ。……燃やし合おう。壊し合おう」
 代わりに、彼は笑って手を掲げた。
「夜迷えや世迷え」
 声を上げると同時に、自分の体が黒い霧へと変化する。それは瘴気を伴って、周囲に降り積もるように舞い降りていく。
 一瞬で、世界の空気が変わった。
 五感過剰活性し精神を蝕み狂気を生む晦の夜……。スキアファールがそう定義付ける世界で、己の怪奇が月を求めて蠢き出す。
「……」
 つい、と、少女がスキアファールを見つめた。……その輪郭が滲む。夜に対応しきれないように、チロチロとその体の裾がほつれるように、炎が少女の躰から除く。
「嗚呼……」
 本体は炎のほうか。と、スキアファールは一瞬だけ思ったけれども、
 そんなことはもう、どうでもよかった。
 少女が炎の羽を飛ばす。それは弾丸になってスキアファールを、スキアファールの怪奇の目口を蜂の巣にせんと撃ち込んでいく。
 スキアファールは避けなかった。……もう、避けることもできなかった。燃え上がりはしないが、弾丸は肉を抉り、そして同時にその炎で焼いていく。けれども、そのまま……、
(熱い。でも苦しくない。もう、この儘――)
 いっそ。
 いっそ……。
 目を閉じてしまいたい。その衝動にかられながらも、
(私も、炎になれたらよかったのに……)
 スキアファールは炎を受けながら、駆け。己の炎を、炎そのものの体に、叩きつけた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

五条・巴
左腕が少し動かしにくい
ああ、銃が持ちにくい
顔の傷は無いことを触って確認して

歩みは止めず、進む足は月に向かってひたすらに
月へ、月に

きっと、今の僕はいつも以上に気が大きくなっていて、目の前の、手の届かないところにあるアレ”月”しか見えてない

アレは、「死人の行く場所」じゃあない
僕が、たどり着く場所だ

突如現れた炎の壁には流石に立ち止まる

邪魔だな、自分の足で越えられるものでも無い
僕に飛ぶ術も無い
それじゃあ、手伝ってもらおう
春風、おいで
相棒であるライオンに飛び乗り助走を付けて炎を乗り越える

勢いのまま、少女へライオンごとのしかかる

両手で銃を構え、間近の君に照準を

僕が、月に行くための足がかりに
なっておくれ



 巴は月に向かって手を伸ばした。
 そうすると、なんだか違和感があって、巴は瞬きをした。左腕が少し動かしにくかった。
「……?」
 ああ、銃が持ちにくい、と。思った時にまず確認したのは顔であった。顔には傷がないことを、巴はあちこち触って確認した。若干血が付いたけれども、そこはかまわない。いつか洗えばいいのだから、頓着しなかった。
 幸いなことに顔には傷がなさそうだったので、それでいいと巴は結論付ける。ほかの傷など痛まないからどうでもいいのだ。巴は歩いていく。月が輝く方向へ、向かって。
 ただひたすらに、月へ、月に……。
 きっと、あの時の僕はいつも以上に気が大きくなっていたのだろう。と、後で巴は思い返してみて語ったかもしれなかった。
 今の巴は、目の前しか見えていなかった。……、目の前の、手の届かないところにあるアレ”月”しか見えてなかった。
 だから、月のある方向にひたすら歩く。
「アレは、「死人の行く場所」じゃあない。僕が……、たどり着く場所だ」
 多分、隣で誰かが聞いていても、その意味は全く分からなかったであろう。
 けれども、確かにそう巴は言った。ただ静かに、前へ前へと歩きながら、それが真実であると確信するような口ぶりで、巴はただ、月を目指して歩いた。
 ……不意に、
 目の前に炎の壁が立ちふさがった。
 月を覆うように燃え立つその炎の壁を、巴は見上げる。
 邪魔だな、とは思ったけれども、巴が自分の足で越えられる高さではなかった。ゆえに巴はしばしの思案ののち、
「春風、おいで。手伝ってもらおう」
 空を飛ぶ術があればよかったのだけれども……。巴は持っていなかったから、
 大きな、美しいたてがみを持つ黄金のライオンを召喚した。
「僕をあそこまで、連れて行って」
 相棒でもあるそのライオンに乗り込むと、ライオンは心得たとでもいうように空を飛んだ。炎の壁は高かったので、高い飛翔になった。越えきれずに炎が巴の、ライオンの足を炙るけれども、それは些末なことである。全身を焼かれるよりずっといいし、今更巴は両足のやけどなんて気にも留めなかったから。
「嗚呼、天翔る傲慢な王様。自由気ままな僕の相棒。僕をそちらへ連れて行って」
 まるで歌うように巴は言う。ライオンは跳躍後、ものすごい勢いで降下した。目指すは……そう、炎を纏う少女であった。
 エーデルワイスが彫られた繊細な銃を巴は構える。同時に、少女の翼からも羽が放たれた。それは炎の弾丸のように巴とライオンの四肢を穿つ。しかし構わず巴は突進し、ライオンごと少女にのしかかった。
「僕が、月に行くための足がかりに、なっておくれ」
 囁くように言って、撃った。弾丸は少女の眉間を貫いた。炎が揺らぐ。それはおそらくは、炎が見せる幻のようなものなのであろう。炎の勢いは、わずかに弱まったように見えた。
 しかし巴にとってはかまわなかった。何でも構わなかったのだ。ただ銃を撃ち続ける。……だって、
 きっと、この少女がいる限りそこへはいけない。と。
 きっとどこか本能のうちに、巴は知っていたのだから。

大成功 🔵​🔵​🔵​

宵雛花・十雉
【双月】

誰しもかは分かんねぇけど、浪漫はあるよな。
お月様にゃ兎が住んでるってのはホントなのかねェ。
…って、んな呑気なこと言ってっと、あっという間に丸焼きにされちまうぜ?

ん?ああ、平気だよ
聞いてた通り痛みも全くないしさ

炎の壁だぁ?
そのまま正面から突っ込むのは御免だぜ?
炎の精霊の加護に【結界術】を重ねて炎から身を守る
うおっ、痛…くないけどしっかり火傷はしてんだよなぁ

炎の壁を抜ければ敵さんとご対面
おう、アンタの願いは叶えさせる訳にゃいかねぇ
なんとなーく気に食わねぇんだよ、悪ぃな

肉を切らせて骨を断つ!
肉薄して霊縛符を貼って隙を作る
ほらユェー、アンタの出番だぜ
一思いにやっちまいな


朧・ユェー
【双月】

月に行きたい?それは誰しも願うものなのでしょうか。
今度の敵は不死鳥さん。炎がとても美しくて綺麗ですねぇ。

おや、十雉くん。前の怪我は大丈夫ですか?
えぇ、確かに痛くは無いですね

紅炎蒼氷演舞、炎の精霊の口づけを僕と十雉くんの頬にして炎の耐性をそして十雉くんの壁で護られる
そのすきに氷の精霊が敵を凍らしていく

おや、十雉くんの巫女の力は流石ぇカッコ良いですねぇ
えぇ、最後は僕が

あぁ、後で治療しますからね、十雉くん。ふふっ

君の願いを叶えてあげれないよ、ごめんねぇ
道化で死神の裁きを



「月に行きたい? それは誰しも願うものなのでしょうか」
 なんとなく、ユェーがそう言って首を傾げた。若干、理解できないとでも言いたげな口調に、
「まあ、誰しもかは分かんねぇけど、浪漫はあるよな。割と、いけるなら行ってみたい、みたいなのは多いんじゃねぇか」
 十雉は肩をすくめる。十雉だって、貯金に無理の範囲内で行けますよ、とか言われたら行きたいかもしれない。なんて、冗談めかしてそんなことを言って、
「お月様にゃ兎が住んでるってのはホントなのかねェ。それを確かめるのも悪くないだろ? ……って、んな呑気なこと言ってっと、あっという間に丸焼きにされちまうか」
 肩をすくめて、前を見る十雉。目の前には炎の壁があって、少しでも油断すれば、飲み込まれてしまいそうだと彼は思う。それでふと、ユェーは瞬きをした。
「おや、十雉くん。そういえば前の怪我は大丈夫ですか?」
 何事もなかったかのように炎を見上げる十雉に、ユェーは尋ねる。
「ん? ああ、平気だよ。聞いてた通り痛みも全くないしさ。そっちはどうだ?」
「えぇ、確かに痛くは無いですね」
「……」
「……」
 顔を見合わせること、数秒。
「……何せ、炎の壁だぁ? そのまま正面から突っ込むのは御免だぜ?」
 お互い深くは突っ込まないことにした。難しい顔で壁を見上げる十雉は、即座に結界術を施す。
「おまじないおまじないっと」
 そんな言葉に、ユェーもまた紅炎蒼氷演舞を利用した、炎の口づけを自分と十雉の頬に施した。
「さて、では行きましょうか」
 準備万端である。というまでもなく、ユェーは炎の中に飛び込んだ。躊躇いもあったものではない。おっと、と同じく十雉も軽い調子でその後を追う。
「うおっ、痛……くないけどしっかり火傷はしてんだよなぁ」
 じりじり、じりじり。
 滲むように炎が二人を包み込む。
 二人が対処しているのもあり、服を着ている個所は、じんわりと焦げ目がついていく程度だが、じかに炎に触れる場所は何となく熱いという感覚とともに、皮膚が燃え上がっていくのがわかる。
「このまま観察するのも、なんだか楽しそうですねぇ」
「待て待て、生きながら焼かれて行く自分を見る趣味はねぇぜ!」
 どうなっていくのだろう、と興味深そうに零すユェーに、思わず十雉は声を上げて足を速めた。
「ほら、何か手が色変わっていたじゃん。それで……」
 それで。十雉がユェーの手を引いて、さらに前へと進んだ時、
 視界が一気に赤から黒へと変わった。
 炎から、夜の世界へと引き戻されて、
「今度の敵は不死鳥さん。炎がとても美しくて綺麗ですねぇ」
 いうや否や、ユェーが氷の精霊を目の前の炎に向かって叩きつけた。
「……!」
 即座の攻撃に、炎は揺らぐ。ユェーの精霊は容赦なく、目の前の炎の少女を凍らせていった……。はずだ。
「こんばんは不死鳥さん。炎がとても美しくて綺麗ですねぇ」
 そうして、同時に挨拶を。不思議なことに少女の炎は消えなかったし、明らかにユェーの攻撃を受けてもその姿形を変えずに存在していた。
 ただ、周囲を取り巻く熱量が幾分か和らいだ気がする。……ならば本体は少女ではなく、炎が担っているのであろう。
 そこまで判断して、十雉は大地を蹴った。
「おう、アンタの願いは叶えさせる訳にゃいかねぇ。なんとなーく気に食わねぇんだよ、悪ぃな」
「……邪魔を……するな!」
 十雉は駆けこむ。それと同時に、叫ぶように敵から炎の羽が放たれた。それは弾丸のようになって、十雉を迎撃する。
 腕が、足が、腕が、炎に貫かれる。貫くと同時に弾丸は十雉の肉を焼き、今度は血が流れない。痛みがないのは、やっぱり不思議で、
「きかねェぜ! 大人しくしてな!!」
 そのまま、十雉は勢いをつけて相手の額に霊符を叩きつけるように張り付けた。
「これぞ……肉を切らせて骨を断つ! ほらユェー、アンタの出番だぜ! 一思いにやっちまいな」
「おや、十雉くんの巫女の力は流石ぇカッコ良いですねぇ」
 符から霊力を流し込み、十雉がその場に敵を釘付けにする。それだけで十分だ。引きはがそうと敵は十雉に弾丸を撃ち続けるが、十雉は決してその符をはがさない。
「あぁ、後で治療しますからね、十雉くん。ふふっ。だから……えぇ、最後は僕が」
 言って。ユェーは死神ジョーカーの大鎌を構える。
「さぁ、ショーの始まりですよ。彼の地獄への演武を御覧あれ。……」
 ふ、と、ユェーが鎌を振り下ろす。その瞬間、
「……君の願いを叶えてあげれないよ、ごめんねぇ」
 そっと、ささやくようにユェーは言って。
 裁きの鎌を、振り下ろした。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

呉羽・伊織
【花守】
さて、いつになく派手に血塗れになってきたが――その顔ならまだまだ平気って感じだな?
おう、そんじゃこの後の反省会まで――もとい仕事を成し遂げるまで、もう一頑張りと行くか

軽く笑い飛ばすと同時、早業で水属性に絞ったUCも飛ばし炎を鎮静
足りぬ数は、早業の2回攻撃で重ねてUC放ち補う
全ては無理でも、自分等は防ぎ切れずとも、せめてセンセ方の退路と安全確保を最優先に

後は気休めだが、UCに混ぜ檠燈も周囲へ散らし、火炎耐性の加護を皆へ

――壊しちゃ駄目だ
例え痛覚を失ってても、其はやっぱ、後で無性に心が痛んでならなくなるヤツだ
俺は、そういう風に痛むのだけは嫌だ

この世界に活路を
婆様や皆に、静かな月と癒しを


吉城・道明
【花守】
ああ、泣き言も無ければ二言も無い――お前もまさか、この程度でどうこうとなる男では無かろう
……反省会もまあ必要ではあるが、其も全てを果たした上でこそ、だな
崩壊を止め、医者達が進む道を、そして妖怪達が帰る道を、切り開くとしよう

UCで再度耐久を上げつつ、オーラは伊織や医者達にも広げ炎を多祥なり緩和するよう援護
伊織の水に合わせ太刀風で炎を切り払い、敵自身へ迫る隙を作り出しに
傷は最悪致命傷だけ防げれば良い

……その翼で此処に舞い戻り、再び会えたまでは良かったのだろうが――このままでは、ならぬ
ああ、心苦しい痛みだけは、止めてみせよう



「さて、いつになく派手に血塗れになってきたが――その顔ならまだまだ平気って感じだな?」
 伊織は何処か楽し気な口調であった。全身傷だらけであるというのに、言葉通りまだまだ平気と言いたげな顔で隣を見ると、
「ああ、泣き言も無ければ二言も無い――お前もまさか、この程度でどうこうとなる男では無かろう」
 道明のほうはちらりと伊織を見て。当然だとばかりにそんなことを言う。その表情に、伊織は楽しげに肩をすくめた。
「おう、そんじゃこの後の反省会まで――もとい仕事を成し遂げるまで、もう一頑張りと行くか」
「……反省会」
 飄々と言われた言葉に、一瞬、道明は黙り込む。が、しばしの思案ののちに、
「……反省会もまあ必要ではあるが、其も全てを果たした上でこそ、だな。今はまだその時ではない。崩壊を止め、医者達が進む道を、そして妖怪達が帰る道を、切り開くとしよう」
「確かにな。ま、しっかりきっちり、カタをつけようぜ」
 終わらせよう、というなり、伊織は手を掲げて、ふった。同時に現れたのは暗鬼だ。闇や毒にも変化できるそれは、今は水の力を灯して炎の壁の中に伊織はそれを投げ込む。
「……っし!」
 すべてとはいかないが、一時的に炎に穴を穿つことは可能であった。走りながら道を作れば、少なくともしばしの間ならば自分以外の人も通すことができるだろう。
「――堅忍不抜の志を」
 思わず嬉しそうな声を漏らす伊織と同時に、道明も同時に、オーラでの守りを伊織に施す。
「突入するぞ」
「ああ、行こうぜ」
 楽勝だな、なんて明るく言いながらも伊織は走り出す、そんな伊織を追いかけるように道明が後に続いた。

「センセ達、こっちだ!」
「!? 君たちは……!」
 炎の壁を越えた瞬間、伊織がそう言って手を振った。熊とシロウサギは湖のほとりに生えた木の影に隠れ、猟兵たちに守られていいて無事だった。手を振る伊織に、熊が声を上げる。
「その足は……」
「ああ。最初のほうちょっと足元お留守になって舐められたんだ。男前が上がっただろ?」
 ふ、と焼けた足を見ながらにやりと笑う伊織。しかしそのあとすぐに、
「けど、ちゃんと道は作り直したから、今は大丈夫だぜ。とにかく逃げるが一番、だよな? センセ」
「多祥なり緩和するよう援護は行おう。急いでいただきたい」
 即座に道明も二人にオーラの防御を施す。
「あとのことはしばし猶予を頂ければ、こちらにてすべて片が付くだろう」
「なんと……有り難いことです。ですが、どうかお気をつけください」
「あ、あの。火傷は後で、すっごく痛いですからね!」
 急いで、と促す伊織にお礼を言いながら、二人は伊織が作った道へと走り出す。走り出そうとした時、
 ごう、と炎か何かがなびくような音がした。
「おっと……!」
「む、来たのか」
 二人は炎の壁に背を向ける。目の前には炎の鳥がいた。翼から羽が射出される。それが弾丸のようになって、伊織たちの元へも飛んできたのだ。
「センセ達のところには、行かせないぜ!」
 いうなり、伊織はどこぞの狐直伝の、色々籠められた焔を放つ護身符を手にする。同時に再び出現させた水の暗器をその羽へと叩きつけた。
「道明!」
「ああ!」
 撃ち落としきれなかった羽が舞う。それと同時に道明もまた、妖刀を強く薙いだ。炎が切り払われる。そのまま、道明は走った。
「邪魔を……しないで!」
「駄目だ!」
 少女が声を上げる。すでに猟兵たちの攻撃を受けているのか、その体が揺らいでいた。それで、二人にはわかる。炎が……少女の姿をとっているのだ。少女はただの幻で、本体は炎でしかない。
「あいつらも……あいつらもまだ殺せてない」
「――壊しちゃ駄目だ。例え痛覚を失ってても、其はやっぱ、後で無性に心が痛んでならなくなるヤツだ」
 執拗に炎の弾丸が放たれる。背後を庇うように伊織は前に出る。変わらず水と炎を、敵の炎と相殺させて。しきれないものは自分の腕を盾のようにして受け止める。
「俺は、そういう風に痛むのだけは嫌だ。……この世界に活路を。婆様や皆に、静かな月と癒しを。それが与えられないほど、彼らが罪を犯したわけじゃないだろう」
 伊織の言葉に、少女が目を細める。睨むように伊織を見る……その瞬間、
「……その翼で此処に舞い戻り、再び会えたまでは良かったのだろうが――このままでは、ならぬ」
「……はっ」
 道明がその隙に、炎の懐に入り込んでいた。握りこんでいたたちが少女の形をとる、その腹あたりに食い込む。炎は笑う。笑ったようであった。
「舞い戻った娘だと……信じてくれればよかったのに。ずっとずっと、報われない努力を続けるなんて……」
 ぽつん、と。炎は呟いた。どうして騙されてくれなかったの、という言葉は彼らに対してではなかった。その言葉に、わずかに道明は瞠目して、
「……ああ、その心苦しい痛みだけは、止めてみせよう」
 深く、深く。
 道明は刃を切り上げて、少女の体を切り伏せるのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

叶・景雪
アドリブ歓迎
難しい漢字は平仮名使用
名前以外カタカナはNG

とりあえず、右うでだけ止血のために左手と口をつかってぬのをまいておくよ!利き手が血まみれだと刀がすべっちゃういそうだし。どれだけ血にまみれようと、刀もぼく自身、決して手放さないよ!(ふんす!)
それにしても、次は火かぁ。お水はさびちゃうから苦手だけど、火は焼け落ちそうで苦手……(しおしお)
でもでも、立ち止まってる時間はないよね!えいえいおー!
周りにみずうみとかあれば上着をぬらして炎のかべをとっぱするよ!なかったら上着を本体の刀にまいて駆け抜けるね。てきを見かけたら、剣刃一閃でしかけるよ
「いたみがあるからこそ、生きてるって実感できるんだよ?」


ティア・レインフィール
今度は炎、ですか
それならばと、持っていた聖水を頭から被り
神に祈りを捧げ、光のオーラを自身に付与し
一気に駆け抜けて突破します

――大切な人に、ただ会いたい
その想いは、理解出来ます
私にも、叶うのならば会いたい人が居ますから

首筋から流れる自分の血や、多くの人の血の匂い
先程の戦闘の時のように、衝動に負けないように自らを奮い立たせながら
まるで、お母様の為に人を殺し、血を啜るのを止めた
昔のお父様……いえ、あの人のようではないかと、自嘲して

捻じれ、歪んでしまった願いのなれの果て
あなたが世界を壊そうとするのならば、私は世界を守ります

葬送曲を、あなたの為に歌いましょう
月の光に誘われ、在るべき場所に還れるように



「えーっと、とりあえず右うでだけでも……」
 よいしょ、と、景雪は自分の衣服の裾を裂く。そうして左手と口を使って、器用に右腕に巻き付けて止血を行った。
「すごい。慣れているのですね」
「うんっ。利き手が血まみれだと刀がすべっちゃういそうだし、こういうのはたいせつなんだよ」
 あっという間に右腕を止血していく景雪に、感心したような声をティアは上げる。ふふ、と景雪は笑う。
「どれだけ血にまみれようと、刀もぼく自身、決して手放さないよ! 自分は大事にしなきゃいけないよね」
 得意げに胸を張る姿に、ティアは微笑んだ。
「そうですね……。このような世界、このような場所です。自分は、大切にしなければ」
 多分、生き残れない。小さく呟いて、ティアは炎の壁を見上げた。
「今度は炎、ですか……」
「う、うん……」
「得意ではありませんか?」
「お水はさびちゃうから苦手だけど、火は焼け落ちそうで苦手……」
 しゅん、とうつむく景雪だったが、それからぱっ、と顔を上げる。
「でもでも、立ち止まってる時間はないよね! えいえいおー!」
 何か水で上着を濡らして、とは思っていたが、湖は炎の壁の向こう側だから難しかった。しかし、景雪の上着は血でぬれていたので景雪はこれで大丈夫かな、と、それを頭からかぶる。
「こんなにけがをするなんて思わなかったよ!」
 わかってたけど、わかってなかった。なんて、まじめな顔をして言う景雪に、ティアは目元を和らげた。
「ああ……お待ちください。それならば」
 ティアは持っていた聖水を景雪にかけ、残った分を自分で頭からかぶる。
「いいの?」
「勿論。分け合えるものは、分け合うのがよろしいでしょう」
 そうして神に祈りをささげて、二人に光のオーラを付与する。
「おまじないのようなものでございます。……さあ、一気に駆け抜けて、突破しましょう」
「うんっ!」
 本体の刀はきっちり上着と自分の躰で守れるように抱き込んで、景雪は走り出す。ティアも即座にその後に続いた。

 世界は、赤かった。
 目の前に、走る景雪の背中が見える。ティアはそれを追いかける。
(大丈夫……そう長くはないはず)
 熱い。いくらオーラを付与しようが、濡れた上着を被ろうが、容赦なく炎は二人を包み込む。じりじりと皮膚を焦がしていく。
 けれどもティアは、外側からその壁を見たときさほど距離はないだろうと思っていた。
(――大切な人に、ただ会いたい……。その想いは、理解出来ます。私にも、叶うのならば会いたい人が居ますから……)
 真っ赤な視界の中で、ティアは思う。赤は血を連想させる。自分の血も、目の前を行く景雪の血も、皮肉なことにこの壁で焼き尽くされて、今は強く血の匂いを感じることができない。
 先ほどまで、むせ返るように感じていた多くの人の血の匂いが、今はなくて。
 それでも、先程の戦闘の時のように、傷口を見ていればこみあげて来るものもあって。
 血の匂いがしないなら、今、自分が誰かを傷つけて血を流させたいという思いが強くあって。
 衝動に負けないように自らを奮い立たせながらティアは走った。
「まるで、お母様の為に人を殺し、血を啜るのを止めた、昔のお父様……いえ、あの人のようではないですか」
 ぽつんとつぶやいた言葉は、自嘲に近かった。……ああ、
「おねえさん!」
 声が聞こえて、はっ、とティアは顔を上げた。景雪が肩越しに振り返っていた。
「もう少しだよ、がんばって!」
「……は、はい……!」
 なんと明るい声だろう。
 思わず、ティアは喉元に手をやって。そうして何か、こみ上げてくるものを飲み込んだ。それを何か別のようにとったのか、
「だいじょうぶ?」
「ええ……大丈夫です」
 心配そうに聞いてくる景雪に、ティアは微笑んだ。
(ここは捻じれ、歪んでしまった願いのなれの果て……。あなたが世界を壊そうとするのならば、私は世界を守ります)
 こんな世界でも、どんな場所にでも、こうしてただ、たまたますれ違っただけの場所でも、光があり、走っている人がいるから。
 ティアはそう、思いを心の中にしまい込んで顔を上げる。
(うぅ、手とか足とか、溶けてきてるよ……。体が溶けちゃいそうだよぉ……)
 とはいえ景雪のほうも、本当は無事ではないのだが。高温は苦手なのだ。……でも、
(でも、ぼくもがんばらなくちゃ……! ぼくもたたかうんだ……!)
 出来ることは少ないけれども、立ち止まらずに走ると、景雪が顔を上げた……その時、
 ふわ、と、生ぬるい風が頬を撫でた。
「……抜けた……!」
 視界が、真っ赤から一瞬でくろに戻る。そういえば世界は夜であったっけ、と、景雪は思いながら、
「……見つけた!」
 黒ずんだ竜胆の花畑。ほとりの湖。そして炎を抱いた少女。
 それを見た瞬間、景雪は己の本体、短刀を取り出し上着を捨てる。そうして一瞬でその炎へと肉薄した。
「葬送曲を、あなたの為に歌いましょう。月の光に誘われ、在るべき場所に還れるように……」
 同時に、ティアが悲愴な聖歌を歌い上げる。魂の浄化を行うその歌を歌いながら、
「主よ。願わくば、彼の者の魂に永遠なる安息を――」
 祈るように両手を組んだ。
 敵とて、見ているだけではない。翼が変形し、弾丸のように降り注ぐ。それが彼らの足を撃ち腹の肉を裂いても、景雪は気にせず踏み込んだ。
「いたみがあるからこそ、生きてるって実感できるんだよ?」
 刃が、閃く。
 景雪の本体が、その炎を叩き伏せるように切り裂いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

草守・珂奈芽
【晴要】
掠り傷とはいえ確かに痛くないのさ。
痛くないけど、これ以上の無茶には気を付けなきゃね?(じっと睨んで)

冷気を起こす?それなら前よりスゴいのができるのさ!
UCで氷と水の精霊さんを召喚!晴汰くんに迫る炎の羽を払ってもらうよ。
自分は氷の〈属性攻撃〉を纏わせた翠護鱗で〈盾受け〉っ。
でも防御の優先は晴汰くん!
「これ以上酷くなったら治すのにも困るんだからねっ!」

晴汰くんが一撃入れたらその隙に、草化媛から精霊さんたちに、水と氷を纏ったままの突撃指令っ!
「お任せあれ!――水氷穿ち、灼熱を静めて!」
全部無くなってしまえなんて想いも消火しちゃおう。
だって痛くても生きてたい気持ちを無視してほしくないから!


西塔・晴汰
【晴要】
傷、増えた気がするっすけど全然痛みは無いし平気…あ、うん
大丈夫、気をつけるっす

痛みも苦しみもない滅びの炎
ある意味優しいかも知れないっす
でもオレは…そんなモン認めない

痛みを与えないのは優しさとは違う
痛みを分かち合えるから優しくなれる
なら痛みを否定するお前は、誰よりも残酷なんだ

珂奈芽、前に見せてもらった空気を凍らせるやつ。行けるっすかね?
…うわお。すごいっすね、これなら炎の羽にだって負けなさそうっす
守りを貰ったところで躊躇なく突撃して
いくら焼かれても追いすがって
この拳で一瞬の隙を作ってみせる
とっておきの追撃を頼むっすよ!

翼を求めて、届かなくて、心も体も痛くて
でもその痛みはオレたちのものだ!



 晴汰はうーん? と軽くストレッチをするようにして己の状態を確認する。
「傷、増えた気がするっすけど、全然痛みは無いし平気……」
「晴汰くん」
「あう!?」
 大丈夫大丈夫。なんて言いかけたところで、珂奈芽の声が聞こえる。なんだか、何はとは言えなかったけれども、なんとなく怒っている気がして、晴汰は顔を上げる。
「掠り傷とはいえ確かに痛くないのさ。痛くないけど……、これ以上の無茶には気を付けなきゃね?」
 と、おもったら、珂奈芽はじーっと晴汰をにらんでいた。これは本当に怒っている! 晴汰は思わず居住まいを正す。
「あ、うん。大丈夫、気をつけるっす」
「それでいいのさ」
 はいっ。と元気良く返事をする晴汰に、珂奈芽もようやくそう言って微笑んだ。
「とはいえ……」
 これ、どうするっすかね。なんて。
 晴汰がすぐそばにある炎の壁を見上げる。
 ごうごうと燃え盛る炎は敵と彼らを防ぐ壁になっていて、まともに突入すれば無事では済まされないことが分かっている。
 ……自分が多少焦げることなんて、何ということもないけれども。珂奈芽が灼けるのは見たくない……なんて。
 口に出せば、きっと叱られてしまうだろうけれど……。
「珂奈芽、前に見せてもらった空気を凍らせるやつ。行けるっすかね?」
 そこまで考えて、ふっと晴汰は思いいたって声を上げる。珂奈芽は首を傾げた。
「冷気を起こす……?」
 ちょっと考えて、それから八と顔を上げると、両手を握りしめた。
「それなら前よりスゴいのができるのさ!」
 そう思ったら早かった。即座に珂奈芽は天に手を掲げる。
「草化媛、鎧装術式解除! 集いし群雄へ加護を与えん、其は輝ける天上の映し身!」
 呼び出したのは氷と水の召喚した。それは戦乙女を模した槍と盾で武装した人形大の霊体で、
「氷と水の精霊さん、晴汰君を守るのさ!」
 ビシッ。と精霊さんに指を突きつけると、己は魂晶石の飾りから溢れる無数の魔力結晶に、氷の属性を纏わせてそれを盾と為す。
「さあ、行くのさっ」
「珂奈芽、珂奈芽、それで大丈夫!?」
「大丈夫なのさ!」
 ふんす、と自信満々に言い切る珂奈芽。晴汰の大丈夫、は珂奈芽にかかっているのだが、珂奈芽の大丈夫、は晴汰にかかっていた。微妙にすれ違って入るのだが、珂奈芽はやる気で炎の壁の中に飛び込んだ。
「ほら、ちゃちゃっといってちゃちゃっと終わらせるのさ! これ以上酷くなったら治すのにも困るんだからねっ!」
「わ……。わかったっす!!」
 明るく言い放つ珂奈芽に、晴汰も小さく頷いて。それならばと、ためらうことなく炎の中に飛び込んだ。
 炎の壁は、一瞬であった。水と氷の精霊が、晴汰を包み込むようにして守ってくれているから、たぶん火傷もほとんどないだろう。
 たぶん……というのは、痛みがわからないからだ。熱いという感覚はわかるが、やけどをしているかどうかは理解できない。
(痛みも苦しみもない滅びの炎……。ある意味優しいかも知れないっす。でもオレは……そんなモン認めない)
 今だって、そうだ。痛くないだけで、傷はちゃんとある。苦しみは与える。それは……、優しいとは違う。そんな気がする。
 ばっ、と、炎が晴れる。
 きっと、その壁を抜けるのは一瞬のことであっただろう。
 壁を抜けた先には、焼けただれた大地と湖。そして炎の鳥のテリトリー。
 炎の鳥がこちらを向く。
「痛みを与えないのは優しさとは違う。痛みを分かち合えるから優しくなれる……っ。なら……痛みを否定するお前は、誰よりも残酷なんだ!」
 晴汰は視界にその鳥を収めると同時に、
 鳥へと向かって大地を蹴った。
 炎が振り返る。その翼が羽ばたく。一瞬にして羽は無数の炎の弾丸になり、晴汰へと降り注ぐ。
「……うわお。すごいっすね、これなら炎の羽にだって負けなさそうっす」
 しかしその弾丸は、水と氷の精霊によって守られる。盾が弾丸を受け止め、冷やして消し止める。
「っし、これならやれるっすよ……!」
 熱視線が向けられる。精霊が盾を翳すと同時に、晴汰もまた縦の中に入り込むように飛ぶ。踵が若干焦げるも、うまい具合にそれを防御した。
「……っ。は……!」
 その瞬間、背後から背中に炎の羽が突き刺さる。ぐるりと回っていたのに気づかなかった。即座に精霊が槍を振るい、次の一撃を叩きつぶす。
「まだまだ……。いくら焼かれても追いかけるっすよ。珂奈芽! この拳で一瞬の隙を作ってみせる! とっておきの追撃を頼むっすよ!」
 晴汰は声を上げると、全力で少女へ向かって突っ込んだ。

 炎の中を、珂奈芽は晴汰の背中を追いかけて走っていた。
(やっぱり……盾だけじゃ、足りないところもあったさ……!)
 口には出さない。口に出したらきっと晴汰が気にしてしまうから。けれども全方向から襲い掛かる炎と、その中で問題なく走るには、どうしても盾を翳すだけでは守り切れないところもある。具体的には足などが、じわりじわりと熱に炙られ、靴が溶け、中の足すらも傷つけて行っていた。
(でも……精霊さん。精霊さんは、晴汰くんを守るさ……!)
 今度は、珂奈芽が守る番だと。この背中に、守られるだけでなく、守るのだと。珂奈芽は力を込めて前を見る。
 ああ……世界は真っ赤だけれども、
 この背中を追いかけてさえいれば、きっとたどり着けるはずだ。
 そう思った時……、視界が開けた。
 月が輝いていた。草花は焼け焦げ、炎が舞い散り、月を写す湖は何処か色が沈んでいるように見える。
 珂奈芽は倒れそうになるのを何とかこらえながら、晴汰を見つめる。
 晴汰はすでに走り出していた。要が後からついてくるのを、疑ってもいないようであった。……それが、嬉しい。
 炎の羽が舞い散る。それが弾丸のようになって、晴汰に、珂奈芽に、襲い掛かる。羽の一部は弾丸にはありえない軌道を描いて、晴汰の背後に回り込んだ。
(防御の優先は晴汰くん……!)
 珂奈芽は即座に、手を掲げた。氷の魔法を弾丸にぶつける。
「!」
 殺しきれなかったそれが晴汰に当たり、晴汰は振り返る。精霊が即座に対処に当たるのを見て、珂奈芽は微笑んだ。
「あー……うん。痛くなくて、ちょっとよかったと思うさ……」
 その間に、珂奈芽の足に、肩に、腕に、いくつもの弾丸が放たれていた。貫通したそれは肉を焼きながら貫通したから、幸か不幸か値は流れていない。自分も一応盾を持っていたから、急所は何とか守りきれた。ならば、上等だろう。
「珂奈芽! この拳で一瞬の隙を作ってみせる! とっておきの追撃を頼むっすよ!」
 晴汰が声を上げる。その声が頼もしい。そして……頼られていることが嬉しい。
「お任せあれ! ――水氷穿ち、灼熱を静めて!」
 言って。晴汰が拳を全力で、敵の躰へと叩きこむ。それと同時に、草化媛から精霊さんたちに、水と氷を纏ったままの突撃指令っ! とばかりに珂奈芽は炎の中へと水と氷の精霊を突撃させた。
「全部無くなってしまえなんて想いも消火しちゃおう。……だって痛くても生きてたい気持ちを無視してほしくないから!」
 物凄い水蒸気が上がる。精霊が当たった瞬間、敵の少女の体が崩れる。……本性は炎。ドロドロに溶けて、形を保つことができずに一瞬、その姿を焼失させた。……しかし、さらに体が再生されて行く。けれども、炎の量が足りないからか、それは中途半端な人の形しか撮れなくて、
「翼を求めて、届かなくて、心も体も痛くて……。でもその痛みはオレたちのものだ!」
 晴汰が叫ぶとともに、その再生が完了する前に、全力で敵の体を殴りつけるのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

乱獅子・梓
【不死蝶】
痛みさえ無ければ本当に月に行けるんだろうか
答えは否、だろうな
そもそも、痛みが無くなるのも、月に行きたいのも
ただの手段や過程であってそれ自体が目的では無いだろうに

バカ言え!あとで大惨事になるだろうが!
火傷を甘く見るんじゃない、重度になると…(ガミガミ
成竜の焔に無理やり綾も一緒に乗せ
綾の蝶に守ってもらいながら炎の壁を超えていく
こいつも一緒に連れて行ってくれ、と
綾が飛び立つ前にこっそりと仔竜の零を託す

綾の懐から零が飛び出した瞬間UC発動
綾の攻撃動作に敵の意識が向いている隙を狙い
ブレス攻撃を浴びせ、動きも厄介なUCも封じ込める
さぁ綾、あとは遠慮なく斬り込め
骸魂、さっさとその身体から出ていきな


灰神楽・綾
【不死蝶】
ささやかな願いを歪に叶えてしまうのが
この世界のおっかないところだよねぇ…
アルダワの地下迷宮にもそんな妖精いなかったっけ

どうせ熱さもそんなに感じないんだし
強行突破しちゃおうか?…やっぱりダメかー
梓と一緒に焔に乗り込み
UC発動し、紅い蝶を周囲に飛ばす
全部は無理だろうけど、これである程度
炎のダメージから守ってくれるはず

炎の壁を突破したら飛翔能力で一気に敵に接近
Emperorを大きく振りかぶり攻撃…するフリをして
懐に隠しておいた仔竜の零を放つ

梓のUCで敵の動きを封じてもらったら
改めて力溜めた一撃を叩きつける
俺のこの技は傷を負えば負うほど威力が増す
だから今めっちゃくちゃ力が湧いてくるよ



「痛みさえ無ければ本当に月に行けるんだろうか……」
 炎を前に、梓はぼんやりと、呟いた。
「答えは否、だろうな……」
「なになに、梓が珍しくシリアスしてるねぇ」
「は!? 俺は最初からシリアスだ!」
 揶揄うような綾の言葉に、思わず梓は叫んだ。叫んでから、コホンと咳払い。
「……そもそも、痛みが無くなるのも、月に行きたいのも、ただの手段や過程であってそれ自体が目的では無いだろうに……。なんで、こんなことになっちまったんだろうな」
「……そうだねぇ」
 静かな梓の言葉に、綾はふ、と珍しくまじめな表情をする。
「……ささやかな願いを歪に叶えてしまうのが、この世界のおっかないところだよねぇ……。アルダワの地下迷宮にもそんな妖精居なかったっけ。あれも、誰一人として幸せになれないやつだった」
「結局、願いは自分でかなえろってことなんだろうな。それか、強い力には溺れるなって教訓か……」
 うんうん。と、腕を組んで真面目な顔をしていた梓に、に、と綾は笑みを浮かべた。
「はいはい。そういうことだと思うねぇ。……っと、いうことで、どうせ熱さもそんなに感じないんだし強行突破しちゃおうか?」
「バカ言え! 今の人の話を聞いてたか!? あとで大惨事になるだろうが!」
 言うた先からそんなことを言う。と、思わず声を上げる梓に、綾はわざとらしく、
「てへへぺろ」
「てへへぺろじゃない! 火傷を甘く見るんじゃない、重度になると……」
 がみがみとそのまま言葉をつづける梓。「……やっぱりダメかー」と、綾は呑気に笑っている。からかわれた気が、市内でもないが。ひとしきりあれこれ言いうと梓のほうが満足したのか、
「いいから行くぞ。ほら、これに乗って。速度出せば一瞬だろ」
「はーい」
 結局梓は、召喚していた成竜の焔に半ば無理やり綾も一緒に乗せる。
「しょうがないなあ……。じゃあ、おいで」
 それに、綾も攻撃を肩代わりする紅い蝶の群れを召喚し、二人を包み込むようにして覆った。負傷の大きさによって、強化もできる。
「全部は無理だろうけど、これである程度、炎のダメージから守ってくれるはず。真面目にしないと梓に叱られるからねぇ」
「できれば最初から真面目にしてほしいぜ……。とにかく、頼んだぜ。あと、こいつも一緒に連れて行ってくれ」
 どうせ潜り抜けたら先頭だろう、と、綾は飛び立つ前にこっそりと仔竜の零を託す。
「プレゼント? 嬉しいなあ」
 なんて冗談めかして言いながらも、綾はそれを懐に仕舞った。
 それを確認して、梓は成龍を飛び立たせる。
「……いくぞっ」
「はーい」
 そうして二人は、燃え盛る火の中に突入した。

 熱さはあるのに、痛みはない。
 それは奇妙な感覚であった。
 竜の皮膚が焼けただれていく。掃除に露出した二人の顔も……、
「……メガネの形に日焼けしたらどうしよう……」
「今言うことがそれなのかな?」
 とはいえその心配はなかった。二人を包む蝶が少しずつ、少しずつ減っていき、ついには数えるほどのになった時。二人の視界が、一瞬で開けた。
「……見えた!」
 声を上げると同時に、綾もまた即座に成竜から飛び立ち敵へと急速に接近する。愛用のハルバードを構えた。斧部の反対側はハンマーになっているそれは、振りかぶるだけでその重量と大きさに目が奪われ、
「!」
 炎の羽を弾丸のように飛ばす。まっすぐに自分向かって跳んでくるそれに、
「氷の鎖に囚われろ!」
 梓の言葉を合図に、綾の懐に入っていた仔竜が飛び出た。正面から炎の羽ごと、氷竜【零】がブレスを吐きつける。
 高温から、急に叩きつけられた冷気に、敵が驚いたようにひるんだ、その瞬間を、
「さぁ綾、あとは遠慮なく斬り込め。骸魂、さっさとその身体から出ていきな!!」
「うんうん。俺は今めっちゃくちゃ力が湧いてくるよ!!」
 梓の声に合わせるように、綾は全力で斧を振り下ろした。
 傷を負えば負うほど威力が増す技は、傷だらけの綾の全力でもってして、敵を袈裟懸けに切り裂くのであった……。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ネウ・カタラ
ぱちぱちめらめら
踊る火は確かに身を焦がしている筈なのに、
やっぱりどこもいたくない
こうやって知らない内に、壊れてきえていくんだね
…それってなんだか、さみしいことだ

燃ゆる炎の壁へ大鎌振るって
起こした衝撃波で熱を吹き飛ばしながら、彼女の元へ

ねぇ、きみは苦しくないの?
例えいたみはなくても
あつさは感じているんでしょう
そんなきれいな翼を背負っているのだから

―だからこれは俺のやさしさ
燃え盛る炎翼へと氷呪の槍を降らせる
降りかかる炎は躱したり、大鎌で払いのけて
身を焼かれても気にしない
だってきみに比べたら、痛くないもの

彼女を蝕む熱が和らげば、徐に
―ねぇ、きみの願いは、なに?

おしえて、いのちの灯火が消えてしまう前に



 ネウはゆっくり。炎の壁に触れてみた。
 じゅう、とその手が焦げる感触はしたけれど、
 やっぱりどこだって、痛くなんてなかったのだ。
「……」
 ぱちぱち、めらめら。
 踊る火は確かに身を焦がしている筈なのに……、
「やっぱりどこもいたくない……」
 徐々に皮膚が焦げて、チリチリと溶けていく。痛みは感じないけれども不思議なにおいがする。……もっと見つめていたいと思うくらい、それは不思議で、
「こうやって知らない内に、壊れてきえていくんだね。……それってなんだか、さみしいことだ」
 きっと、すべて見るころにはこの手はなくなっているんだろう、なんて。
 漠然とそんなことを思って、ネウはそっと手を離した。
「じゃあ……」
 そのままゆるりとネウは大鎌を握りしめる。ねぇほらきみも、こちらへおいで? と、昏き虚ろの刃がうたうように刃を揺らした。そして、
「行こうか。彼女のところへ」
 鎌が振り下ろされると同時に、炎の壁が避けた。ぱっくりと衝撃波が熱を吹き飛ばし、扉が開くように目の前が晴れる。
「すごいね、真っ赤だ」
 進みながら、ネウは刃を振り下ろし、炎を吹き土橋、そしてまた進むと繰り返す。わずかに服を焼く炎も、髪を撫でる暑さも、些末なことは気にせずに、ネウは走る。
 だって、聞いてみたいことがあったから。
 それを思うとほんの少し、足取りが軽くなった。

 炎の壁は突如、その役目を終える。
 ネウが何度目かわからない鎌を振り下ろした時に、視界が開けて向こう側がのぞいた。
 焼けただれた竜胆の花畑。月を映す湖。そして……、
「やあ。会えたね」
 と。言うなり、ネウは走った。
 大鎌が翻る。応じて少女は翼を広げる。
 炎の弾丸が少女から放たれて、ネウもまた、彼女の懐へ飛び込んだ。
「ねぇ、きみは苦しくないの? 例えいたみはなくても、あつさは感じているんでしょう」
 そんなきれいな翼を背負っているのだからと、ネウが声をかける。少女は表情がないままに応える。
「関係ないわ。私は炎。私が炎」
 ざん、と鎌が少女の体を薙ぐ。確かに切り裂いた、と思った次の瞬間、少女の体が揺らいで……何事もなかったかのように、元へと戻る。
「なるほど、炎」
「そう、私は炎」
 人の姿すら取らぬ炎だと、少女は歌う。歌うように言いながらも、弾丸を放つ。
 ネウは大鎌を振るってそれを払いのける。いくつかが交わしきれずに腕や足に着弾した。それはネウの体を貫通し、貫通しながらその傷口を焼き切っていく。
 痛くない。……気にもならない。
「だってきみに比べたら、痛くないもの」
「何を……」
「――だから、これは俺のやさしさ。きみの命で、みちて、満たして」
 氷の呪槍が、炎の翼へと飛翔する。
「……!!」
 氷が炎を穿つ。白い煙が上がり急速にその熱が収まっていく。
 痛みはないが、その現象を感じて、少女の体が揺らぐ。人の形が薄れていく。ただの炎のように形を持たず、広がり、縮み、徐々に小さくなっていく姿に、
「――ねぇ、きみの願いは、なに?」
 おしえて、いのちの灯火が消えてしまう前に。と、
 徐に、ささやくように、ネウは言った。
「ねえ、教えて。……いいでしょう?」
「……」
 なんとか人の形を取り戻そうとして明滅する炎が、ぽつんとつぶやいたような、気がした。
「叶わない願いなんて。到達しえない熱なんて……持たない方が身のためなのよ」
 きっとそんなの、
 傷つくだけなのだからと。炎は恨むように零す。
「……そう」
 と。ネウはその言葉に、小さく、頷いて。肯定したかったのか、否定したかったのか。明滅する炎を見つめるのであった……。

大成功 🔵​🔵​🔵​

オリオ・イェラキ
願いを喰らう炎より、月夜には安らぎの灯火が良いと思いますの
それに…滅ぼすには勿体無い世界ですわ

飛ぶ鳥は追い詰めて斬り落とすのがわたくしの流儀
傷を負う手でも剣が握れるなら、今は構わず征きましょう
翼を広げ今一度空へ
炎の壁へ、飛び込みますわ

あぁ。羽根が、服が焼けていく
さりとてこの身を焼失させるわけにはいきませんもの
さぁご覧になって
わたくしの彩りを、夜の不死鳥を
貴女の炎を撥ね退ける姿に生まれ変わるわたくしは、綺麗かしら?
真夜中色に染め直した翼で勢い殺さず相手へと
突っ切るとは思ってなかったでしょう?
捉えましたわ

未だ抵抗しますのね
これ以上わたくしに傷を付けないで下さる?
微笑む瞳は真剣に、一刀両断致しますわ


花剣・耀子
血はたくさん流れているし、腕も脚も傷だらけ。
……だけれども。
動けることも、剣を振れることも分かっているのよ。
それならどうってことないわ。
傷よりも優先するべき事がある。

傷で機動力が落ちるなら、宙を蹴って補いましょう。
炎の壁も飛び越えて、斬り祓って、真っ直ぐに。
剣の届くところまで。

おまえも痛みを持たないのかしら。
それなら我慢比べといきましょう。
あたしが焼き切れるよりも先に、おまえを斬り果たせば済む話だわ。

痛みがなければ。
傷まなければ。
それだけで叶えられる物事が多くなるということだって、知っているわ。
――それでも、望みを歪める輩は嫌いなの。

返して貰うわ。
……いたみをなくしては、いけないのよ。



「願いを喰らう炎より、月夜には安らぎの灯火が良いと思いますの」
 頬に手を当てて、オリオはほぅ、吐息をついた。憂いを含んだ淑女のように、彼女は目の前の炎に目を向ける。
「それに……滅ぼすには勿体無い世界ですわ」
「まあ、こんな暑苦しい炎よりは、断然そのほうがいいわよね」
 決して傷は軽くないはずなのに、平然とそんなことを言うオリオに耀子は肩をすくめる。肩をすくめてから、そういえば自分も同じようなものか、と思い至った。
 血はたくさん流れているし、腕も脚も傷だらけ。
 ……だけれども。
「……あたしはまだ動けるし、剣も振れる……」
 己の状態を確認して、耀子はどこか自分自身にあきれているかのように言う。そうして手を握りしめた。相変わらず痛みの感触はなく、血まみれの手はきっちりと己の愛用するチェーンソーを握りこんでくれた。
「それならどうってことないわ。傷よりも優先するべき事がある。まだ……戦える」
 行きましょう、と、耀子は言って、ええ、と、オリオもにっこりと微笑んだ。
「飛ぶ鳥は追い詰めて斬り落とすのがわたくしの流儀。傷を負う手でも剣が握れるなら、今は構わず征きましょう」
 彼女もまた、穏やかに言いながらも耀子と同じようなことを言って星屑纏った夜色に染まる翼を広げる。羽搏くと、炎の風にその風が当たって、わずかに火の粉が舞い上がった。星空のドレスが鎧となって、その炎からオリオの身を守っている。
「さあ……参りましょう、空へ。あなた様も、そのおつもりでしょう?」
「あたしは、そんなにきれいに飛べないけど……」
 耀子は翼とともに舞い上がるオリオを見つめる。見つめながらも、とん、と地面を蹴った。
「そうね。傷で機動力が落ちるなら、宙を蹴って補いましょう。……とばりをおろすわ」
 とん、とん、とん、と。
 跳んで、跳んで、さらに空中を跳んで。耀子も宙へと舞い上がる。それを確認して、オリオも小さく頷いて、その炎の壁の中に飛び込んだ。
「……っ」
 どれだけ高く、高く、跳んでも、炎が彼女たちを捉えようとする。
 だからそれよりも高く、高く飛んで。飛んで。そうして二人は前へと進む。
 上空からは敵の姿がよく見えて……敵もまた、彼女たちの姿を見ていた。
「……」
 上空から、下の景色が見える。真っ黒になった花畑に、月をうつす湖。それを取り囲むように円形に、炎の防壁が張られている。その真ん中にいる炎の鳥に、
「……ええ。飛び越えて、斬り祓って、真っ直ぐに。……剣の届くところまで」
 耀子は駆けた。同時にオリオも、翼をはばたかせて自身を急降下させていく。
 敵の翼が羽ばたいた。それと同時にその翼から、何本もの羽が二人に向かって降り注いだ。
「……ふふ」
 オリオの星空の鎧たるドレスに穴が穿たれる。美しい翼にもその羽は火をともしていく。それはまさに弾丸と呼ぶにふさわしいものであった。炎は彼女たちの体を貫き、そして同時に焼いていく。
「さぁご覧になって。わたくしの彩りを、夜の不死鳥を。……貴女の炎を撥ね退ける姿に生まれ変わるわたくしは、綺麗かしら?」
 ぐるん、と。オリオは星空を切り取ったかのような体験を空中で構えた。敵の攻撃をよける気は一切ない。夜色に染まる翼が、まばゆく赤い炎の中に飛び込んでいく。
「突っ切るとは思ってなかったでしょう? ……捉えましたわ」
 そのまま、相手が弾丸を飛ばすというのなら。
 己も、弾丸になってみせると。漆黒の箒星は炎の中に刃を構えたまま突っ込んだ。
 着弾と同時にオリオの剣が炎を貫く。
 それと同時に、耀子も空中から飛び降りて、愛用のチェーンソーで少女の首を撥ねた。
「……え」
 しかし。わずかに耀子は驚いたような声を漏らす。
 手ごたえはあった。……そう、まるで霞を斬っているかのような……、
「あら、未だ抵抗しますのね」
 オリオの言葉に、耀子は目を眇めて炎を見る。
 炎は飛び散り、その火勢を弱め。しかし再び、少女の姿を作り出した。
「そう……炎。あなたは火、そのもの」
 始めから、人ではなかったのかと。耀子は己の獲物を再度構える。跳ねたはずの首も、きちんと少女の上に乗っていたからだ。
「おまえも痛みを持たないのかしら。……それなら我慢比べといきましょう。あたしが焼き切れるよりも先に、おまえを斬り果たせば済む話だわ」
 構わず、敵の翼から弾丸が放たれる。最後の足掻きであるかのように、炎の翼は二人の体を貫いていく。
「……」
 相変わらず痛みはない。耀子はぐっと、腹に力を込める。なんだかんだ言って腕も足元止めのように撃ちまくられてボロボロだ。
「痛みがなければ。傷まなければ。それだけで叶えられる物事が多くなるということだって、知っているわ」
 つまり痛みがないから、今ここに立てているわけで。この敵を倒すことができるのも、痛みがないからだ、というところもあって。そんなことを耀子はわかっていたけれど。
「――それでも、望みを歪める輩は嫌いなの」
 終わらせましょう、と。耀子は言う。始終楽しそうに微笑みながら、オリオも小さく頷いた。
「あぁ、本当に。もうあちこち焼けていきますね。……さりとてこの身を焼失させるわけにはいきませんもの」
 けれどもその、微笑む目は驚くほど静かで、真剣な色がともっていた。
「これ以上わたくしに傷を付けないで下さる?」
「返して貰うわ。……いたみをなくしては、いけないのよ」
 大剣が、そしてチェーンソーが、同時に振り下ろされる。
 それは真っすぐに、眩しいばかりの熱を放つ鳥の体を。
 形のない幻想のような少女を、
 躊躇うことなく、切り裂いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 日常 『魔女の霊薬』

POW   :    沢山の素材を混ぜ合わせ、どんな霊薬ができるか試す

SPD   :    正確に素材を計量し、間違いなく霊薬を作る

WIZ   :    魔女のレシピを元に、新たな霊薬を考案する

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 月が、輝いている。
 語ることもなく、ただ、静かに。

「はい、これでおしまい」
 切り傷にぺたぺた、薬を塗って、布を巻いて。
 一つ頷く熊に、犬の顔をした妖怪が涙目で声を上げた。
「でも先生、痛いんだよぉ。あちこちあちこち」
「そりゃあまあ、そうだろうね。あとは月の光を浴びて、ゆっくり休みなさい」
「せんせえ。なんかこう、痛み止めとかー」
「それこそ君、痛みもいい薬というものだよ」
 情けない声を上げる妖怪と、熊の先生の間に割って入るように、シロウサギが声を上げた。
「あとがつかえてますから、どいてください。それと先生、薬が足りなくなりそうです」
「おや、それは困ったね。シロウサギくん、材料をとってきて、ひとつ作ってくれないか」
「はいっ」

 切り傷には、湖のほとりに生えてある大きな 泰山木の葉を。
 打ち身には極彩色の羽を細かく砕いたものを。
 そして火傷には、まだ熱の残る黒く焦げて熱を吸い込んだ竜胆を。
 月の光をたくさん吸い込んだ水を汲んできて、その中に材料を入れ、竜胆の花で掻き混ぜる。
 竜胆の花は筆のように使うので、なるべく長いのを選ぶ。そうやって掻き混ぜている間に、材料も竜胆の花も溶けてどういうわけかドロドロした軟膏のような薬が仕上がるのである。ちなみに色は月の光をやわらげたようなクリーム色だ。
 尚、飲み薬にもできる。軟膏状態になる前に手を止めればいい。ただ、不味い、えぐい、苦いの三拍子で匂いもきついのだと飲んだ人は言う。

「先生。この人たちの薬はどうすればいいですか?」
 シロウサギが、巨大な壁のような妖怪を見ながら声を上げる。よく見ればあちこちにひび割れが走っている。あとは日本人形や茶わんの妖怪もいる。
「そうだね。有機でない身体の人には、少し走った先に萩の丘があっただろう。ピンクと白があるから、白いほうをとってきて使いなさい」
「はいっ」
 元気よく答えて、シロウサギは背負った壺を嬉しそうに揺らす。壺の中の薬は増えては減り増えては減りしているが、傷を治すためと思えば、それも嬉しい。
「あっ、みなさん!」
 そんなシロウサギが、猟兵たちの姿に気付いて声を上げる。
「このたびは、ありがとうございました!!」
「おお。ありがとう。おかげで、この世界も、妖怪たちも、本当に救われたよ」
 シロウサギの言葉に、熊も声を上げて。そうすると周囲の妖怪たちからも、めいめいにありがとう、と、助かった、と、声がかかった。
「うん? 手伝い? 大丈夫だよ、命の恩人に、これ以上働かせるわけにはいかないからね」
 それに、急いで処置をする必要がなくなった分、待たせるのも彼らにはいい薬なのさ、と、猟兵の申し出に熊は笑った。
「薬はここにあるから、必要な分だけ持って行ってくれればいいよ」
 勿論数は少ないが、自分たちを救ってくれた猟兵たちを優先するのは当然のことだ、と、熊は言って。それに妖怪たちも異論がないようではあった。
「薬を作る……? ああ。それももちろん可能だ。シロウサギくん、材料のある場所と、つくり方を教えてあげておくれ」
「はいっ! 大丈夫です、ここでなら、やり方さえわかれば誰だって薬は作れます!!」
 治療に忙しい熊に代わって、シロウサギが後を引き継いだ。あれこれと材料や作り方を示す。それから、
「それにね、大事な人のことを思って作る薬は、普通よりも直りが早いらしいですよ!」
 なんて、耳をそよがせてふふ、と笑った。
「手当が終わったら、後は月の光によく当たるといいらしいです。先生がおっしゃるには、一晩もあれば傷も治ると」
 まあ、その間ずっと痛いんですが……。なんて、シロウサギはふと後ろを振り返っていった。あたりには治療を終えた妖怪たちがうんうん唸りながら転がっている。
「なので、ゆっくりしていってください。今日は、月がとっても綺麗ですからね」
 そうだ。今宵は奇しくも満月だから。手当てが終わったら、月見としゃれこむのもいいだろう。
「あ……、でもほんと、すっごい暇とかなら、手伝ってくれると嬉しいです」
 なんて、ちゃっかりシロウサギは言って。それを最後に跳ねて行った。

 ……さて。
 一晩。傷が癒えるまでまだ時間があるだろう。


※※※マスターより※※※
!ただ今皆さんすっごく痛いです!
消えていた痛みが押し寄せてきている状態です。同時進行です。とんでもないです。
めっちゃ痛いです。泣いてもいいのよ。
種族的に100%痛みがないとか言い出さない限り、みんな平等に痛いです。
妖怪たちもめっちゃ傷んでますが、世界の滅亡が回避されたので雰囲気は明るいです。
そして薬を塗って夜が明ければ元通り。そういう感じです。

後は各自、お好きにどうぞ。
フラグメントも気にしなくていいです。
一応看病RPがしたいので書きだした話ですが、それ以外にも何してくれても構いません。
妖怪の手当てや、先生の手伝いをしてくれたり、薬を作ったり、そういうのも歓迎しますし、
ただのお月見とかでも大丈夫だし、三章のみの参加も歓迎します。
ひたすら月見団子食べてもいいのよ。

また、薬は一応材料とか書きましたが、別に薬を作るプレイングをかける必要はありません。
貰ってきたとか、作ってきたを前提で、看病に重点を置くプレイングをかけるとか、その辺は何でもOKです。

また、描写した場所以外にも傷が増えたとか、ないとか、そういうのも大丈夫です。
多分一人参加の方は、だいたい一人描写になります。
ご了承ください。


プレイング募集期間は、
10月6日(火)8:30~9日(金)20:00まで。
また、無理ない範囲で書かせていただきますので、再送になる可能性があります。
というか再送になる確率がかなり高いです。
その際は、プレイングが返ってきたその日の23時までにプレイングを再送いただければ幸いです。
(それ以降でも、あいていたら投げてくださってかまいませんが、すべてを書き終わっている場合は、その時間をめどに返却を始めますので間に合わない可能性があります。ご了承ください)
2回の再送はせずに済むよう、頑張りたいと思いますので、よろしくお願いいたします。


あと思いついたら適当になんか増えるかもしれませんが、大体見なくてもいいことだと思います。
(忘れてた細かいことで追加があるかもしれません)(あったとしても5日以降はありません)

以上になります。
それでは、良い夜を。
冴島・類
ディフさん(f05200)と

一気に感覚が襲って来て
慣れた方でも思わず呻く
あいたた…
はは、戻りましたね

座り込んだディフさんの息の荒さと腕が気になる
萩を取り作り方聞いて薬を
さ!先ずはその腕からですよ(譲らぬ顔
動かせないと不便だろうし
魔力も貴方の一部でしょう
失われたら替えが効くものじゃない
止血?しないと
塗り、包帯巻き固定など処置が終われば

僕も素直に薬塗布を頼り
背面は届かないから助かる
気遣いが伝わって来て
ありがとう
包帯預けてる間
戦う度刻まれる感覚と記憶に、ふと
痛み…感じてどうでしたか?

聞き、頷く
好んで負いたい訳じゃないが
忘れたくないもの

互いに処置が終わったら
兎さん達に礼を言ってから
月見を共にできたなら


ディフ・クライン
類(f13398)と共に

一気に襲ってきた腕の痛みと魔力不足に思わず座り込んで
腕を抑えて呼気荒く
そう、だね
戻ったみたいだ

初めて感じる痛みと沢山のエラー
ああ、これが痛みか

じゃあ類の手当てを…
いや、類の方が重傷だと思うから先に…
譲らぬ顔の友に瞬いて
けれど人形の身を案じてくれるのが嬉しいような気もして
…わかった、じゃあお願い
素直にひしゃげた左腕を差し出して

さあ、類の番だよ
傷を見せて
類があまり痛まぬよう
そっとそっと薬を塗って
包帯を巻くのを手伝い

…思ったより苦しいものだね
でも、お陰でやっとわかったよ
痛みの辛さも、それでも笑った強さも

処置を終えて兎たちに礼を言い
綺麗な月を共に眺めよう

※血の代わりの液体魔力



 月から風が一つ、吹いて。
 そんな瞬きの間に、世界は元に戻っていった。
「……うわ」
 それと同時に、消えていた感覚が返ってくる。きっちりしっかり戻ってくる痛みに、類は思わずうめき声をあげた。
「あいたた……。はは、戻りましたね」
 はは。と、どこか苦笑い気味に類が腰を下ろすと、隣のディフももうその場に座り込んでいた。一気に来た腕の痛みと魔力不足に、
「そう、だね。戻ったみたいだ」
 腕を抑えて若干呼吸を乱しながらも声を絞り出すディフに、うんうん、と類も頷く。そこそこ、こういうのに離れている類でもしんどいのだから、ディフはもっとしんどいだろうと。
「エラーが」
「えらー?」
「ああ、……これが痛みか。はじめて、感じた」
「はは」
 ディフの言葉に、類は笑う。笑顔を浮かべるのは心配させないようにだ。
「じゃあ、ちょっと待っていてね」
 そういって、さっと呼吸を整えて類は立ち上がる。先ほど薬の話を聞いた。材料の萩を採取して、水をくんで、それを練り混ぜながら、いまだに動けないディフの元へと戻ると、
「さ! 先ずはその腕からですよ」
 と、腰を下ろして薬を示して見せた。
「いや、ごめん。人間用の薬は俺には……」
「大丈夫、ちゃんとディフさん用を貰ってきましたから」
 得意げな顔で、ほらほら、と類は薬を示す。さらにディフは瞬きをする。
「いや、類の方が重傷だと思うから先に……。というか類の手当ては。薬は……?」
「俺用の薬は、ディフさんの手当てが終わったら貰ってきます」
 多分類は人間用でいいはずだ。この体も機械の体ではないし……多分。まあ、こうでもいわないとディフのほうが諦めないだろうな、と思ったので。
 そんな、一歩も譲らぬ顔をしている類に、ディフは幾度か、瞬きをした。
「動かせないと不便だろうし、魔力も貴方の一部でしょう。失われたら替えが効くものじゃないから……」
 そんなディフに、類は言い募る。それから、
「止血? しないと」
 止血っていうの?なんて、最後にちょっとだけ首を傾げる類の言葉を静かに聞いて、
「……わかった、じゃあお願い」
 と、ひしゃげた左腕を差し出した。
「素直で宜しい」
「うん」
 ディフの言葉に、上機嫌で類は薬を掬って塗り始める。人形の身を案じてくれるのが嬉しいような気もして、ディフもほんの少しうれしそうにそれを受け入れた。
「ここは?」
「これは……塞がるのかな? あとで修理もできるけど」
「薬はあるから、塗ってしまおうか」
 なんて、ささやかな会話をしながら、包帯を巻いて。これ以上動かないように固定をすれば、
「さあ、類の番だよ。傷を見せて」
 手当が終わってから、実はこっちに人間用もある。なんて白状する類の言葉にディフは笑ってその薬を受け取った。
「この辺、すごいことになってるよ」
「本当?」
 今度はディフの言葉を素直に聞いて、自分の体に薬を塗っていく類。
「背面は届かないから助かる。全然、どうなってるのかもわからないし」
 どうやっても全身が痛いから、どうなってるのかもわからない。なんて苦笑する類に、ディフも真剣にうなずく。類があまり痛くないように、火傷の薬と、切り傷の薬を使い分けてそっと塗り込んでいく。
 その気遣いが、背中越しになんとなく伝わって来て、
「ありがとう」
「? お互いさま、だよ」
 口をついてそんな言葉が出てきた類に、ディフもそっと微笑んだ。
 ディフに手伝ってもらいながら包帯を巻く。
 ここまで来るとやっぱり痛みはするけれども、終わった、という感覚が近くなってくる。
 戦う度刻まれる感覚と記憶に、ふと類は、
「そういえば、痛み……感じてどうでしたか?」
 不意にそんなことを聞いたので。ディフは包帯を巻いていた手を止めた。
「……」
 しかしそれも一瞬で、即座に手の動きを再開させながら、
「……思ったより苦しいものだね」
 そう、ポツリと語った。どこか申し訳なさそうに。そして何処か、嬉しそうに。
「……でも、お陰でやっとわかったよ。痛みの辛さも、それでも笑った強さも」
「……」
 その言葉を聞いて、類も小さく頷いた。どこか肩の力を抜いたように、
「好んで負いたい訳じゃないが、忘れたくないもの……。みたいな、ものだね」
 息を吐くようにそう言った何となく、ディフの答えが嬉しかったから。
「うん」
 そんな類の言葉に、ディフも笑って。
 互いに思わず、顔を見合わせてなんだか笑ってしまうのであった。

 月から緩やかな風が吹く。
「おーい」
 と、類が手を挙げる。丘を行くシロウサギたちは相変わらず急いでいるが、今は敵に追われているわけではない。仕事には追われているのだが。
「あ!!」
 気付いて兎がそちらを見て耳を揺らす。手当てが終わってしばらくしたら痛みも落ち着いてきたので、ディフと類は穏やかに薬のお礼を言いながら、
「よければ、月見を共にできたなら」
 なんて、ディフが片手を挙げた。綺麗な月を共に眺めよう、と類が笑うと、
「嬉しいです。ありがとうございます!!」
「オレ達が誘っておいてなんだけど、仕事はいいのかい?」
「ちょっとくらい待たせておけばいいんです!!」
「これ、シロウサギくん」
 喜ぶウサギを引きずっていく熊に、類は思わず声を上げて笑った。
「また、後で。待ってるよ」
 また、後で。
 傷だらけでも、生き残った彼らには、
 その時間が、許されているのだから……。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

呉羽・伊織
【花守】
さて、と――ま、終わり良ければ全て良しとしとこーぜ!
(体は治っても心は癒えぬなんて事になりゃ笑えやしない――が、体は兎も角として心までは重く沈まず済んだなら――)

後はまぁ耐性も薬もあるし平気平気~ってコトで、さ、月見酒で乾杯と洒落込…げ
(ぎこちない愛想笑いで娘に振り返り)
良い夜だネ~、春チャン?
どう?一緒に浪漫ちっくな一時でも…あっ、何なら桜の癒し序でに膝枕とかしてくれたらもう即効でオレ元気になるヨ?

うわーん傷口に塩を塗り込まれるよりもツライ塩対応!
みっちーもそんな目で見ないで、何か違う意味で(心に)すごいダメージが入る!

嗚呼…もうどーにでもして…否、物理的にも精神的にも優しくして~!


吉城・道明
【花守】
世界も妖怪達も滅びを避けられたならば、心血を注いだ甲斐もある
ああ、悪くはなかろう
(一見こそ正反対乍らも気や息が合うのは、やはり根に通ずる所があるからか
“己の血より、誰かの命や涙が零れ落ちる方が苦しい”と、いつだったかこの男はそういっていた――恐らく今もまた、胸中は同じであるのだろう)

然しこの姿では単純に良かったとも言い切れぬな
では月見がてら反省会を――
(……此方は大人しく腹を括った顔で)
春和
面目無い――然しお前も武人たれば、色々と胸中は解ってくれるものと信じている

(墓穴を掘る伊織に白い目向け、それから手厳しい春和を見て)
良薬何とやらとは言うが――その軟派な言動への良い薬にはなりそうだな


永廻・春和
【花守】
(別件で立て込み、戦には間に合わなかったものの――皆一様に傷だらけではあるものの、最悪は避けられた様子に一息つき、すぐにまた表情を引き締め)
――快復を見届けるまで、安堵は出来ませんね
先生、少しお薬を頂いて参ります
(一礼して、見知った背の方へと急ぎ)

吉城様、呉羽様――姿が見えぬと思ったら、此方にいらしたのですね?

痛ましい滅亡を防いでくださった事には、感謝と敬意を
――ですが、黙って置いていった事、無茶が過ぎたご様子には、一言二言宜しいですか?

呉羽様、寝言は寝て仰ってください(斯様な事は致しませんがと素気無くばっさり)

…あまり心配させないでください(容赦なく薬を塗りながらも、ふとぽつり)



 永廻・春和(春和景明・f22608)は走って。……走って。
 途中すれ違う妖怪たちの傷を見ては胸が跳ねて。
 けれども、その妖怪たちが皆一様に傷だらけではあるものの、なんだか楽しそうに笑っていたり、騒いでいたりするのを見て。
 それで、最悪は避けられたことを知り。春和は思わず、一息ついた。
「……あ」
 知らず、緩んでいた表情を引き締める。別件が立て込み、戦には間に合わなかったけれども……。まだ、春和にはしなければいけないことがあったのだ。
「――快復を見届けるまで、安堵は出来ませんね」
 無事、戦いの決着がついたのであれば。あと気になるのは彼らのことだけだ。忙しそうにしている簡易診療所に春和は一度立ち寄って、
「先生、少しお薬を頂いて参ります」
 と。丁寧に一礼すると、どうぞどうぞ、と明るい返事が返ってくる。ありがとうございます、と言って春和は少し早歩きで丘を急ぎ、見知った背中を探す。
「……こんなに」
 傷だらけの妖怪たちを見るだけで胸が騒ぐ。駆けだしそうになるのを春和は何とかして堪える。どうか無事で。なんて、胸の奥で呟いた時……、
「さて、と――ま、終わり良ければ全て良しとしとこーぜ!」
 何とも言えぬ明るい、知った声が聞こえた気がして。春和は周囲を見回した。

「さて、と――ま、終わり良ければ全て良しとしとこーぜ!」
 いぇーい。と伊織は両手を上げた。両手を上げた途端にその腕が痛んだが、平気な振りをして笑顔を浮かべる。
「ああ。世界も妖怪達も滅びを避けられたならば、心血を注いだ甲斐もある。悪くはなかろう」
 うんうん、と道明も満更ではない顔をしていた。
 炎が消え、月から優しい風が吹いた時。
 彼らはなくしていた痛みを取り戻した。
 それはとんでもないことでもあったのだが……だが、同時に喜ばしいことでもあって。
(体は治っても心は癒えぬなんて事になりゃ笑えやしない――が、体は兎も角として心までは重く沈まず済んだなら――)
 ふう、と伊織は心の中で息をつく。にこやかに笑いながらも、どこか遠くを見る伊織に、道明も素知らぬ風で、
(“己の血より、誰かの命や涙が零れ落ちる方が苦しい”と、いつだったかこの男はそういっていた――恐らく今もまた、胸中は同じであるのだろう)
 一見こそ正反対乍らも気や息が合うのは、やはり根に通ずる所があるからか。と。その声にならないため息を聞き逃しなんてしなかった。
 とはいえ、それをわざわざ、口には出さない。思うところはあれども……、
「……」
「……」
「な、酒持ってねえよな?」
 いうことは、全く別のこと。傷だらけでも、全身が痛んでも。顔を見合せばなんだかもう笑っている。
「ふむ。妖怪たちに聞けば、とっておきを貰えるかもしれないぞ」
「おっ。いいな。まぁ怪我はさ、耐性も薬もあるし平気平気~ってコトで」
 な? と伊織がいたずらをするように笑えば、
「いいだろう。然しこの姿では単純に良かったとも言い切れぬな。月見がてら反省会を――」
「そうそう反省会。さ、月見酒で乾杯と洒落込……」
「吉城様、呉羽様――姿が見えぬと思ったら、此方にいらしたのですね?」
「げ」
 やったっ。とばかりに伊織が手を叩こうとした瞬間。
 すさまじく冷たい声が聞こえてきて、伊織は硬直した。
「……」
 一瞬で。道明は腹をくくった。もしくは切腹前のサムライみたいな顔になった。
「……良い夜だネ~、春チャン?」
 だが、伊織のほうは観念してなかった。硬直したのも一瞬、ぎこちない愛想笑いを張り付けて、振り返ると。案の定、二人の後ろに静かに。静かに立つ春和が目に入った。
「どう?一緒に浪漫ちっくな一時でも…あっ、何なら桜の癒し序でに膝枕とかしてくれたらもう即効でオレ元気になるヨ?」
「……はい?」
 にっこり。と、春和が微笑む。また伊織の表情が固まった。墓穴を掘ってどうする。と言いたいのをぐっとこらえて白い目で伊織を見ておいてから、静かに、道明は春和のほうに視線を向ける。。
「面目無い――然しお前も武人たれば、色々と胸中は解ってくれるものと信じている」
「痛ましい滅亡を防いでくださった事には、感謝と敬意を」
 静かな言い方に、静かに返答する春和。そして勿論、そのままで終わらせるつもりはなかった。
「――ですが、黙って置いていった事、無茶が過ぎたご様子には、一言二言宜しいですか?」
「ちょっとちょっと。オレのコト無視しないで~!!」
「呉羽様、寝言は寝て仰ってください」
 ごねた伊織に一瞬であった。斯様な事は致しませんがとさらに追撃をかけて春和は素気無くばっさり伊織の言葉を切り伏せる。
「うわーん傷口に塩を塗り込まれるよりもツライ塩対応! みっちーもそんな目で見ないで、何か違う意味で(心に)すごいダメージが入る!」
 しかし伊織はこりていない! しくしくと泣きまねをする伊織を、やっぱり冷たい目で見ている二人。しかし、伊織のほうもまたつわもので、気にせず泣きまねを続けているあたり、なんていうか、図太い。
「嗚呼……もうどーにでもして……」
「ほう」
「わかりました」
「まさかの即答!? 否、物理的にも精神的にも優しくして~!」
「伊織殿。いいから少し黙れ」
「みっちー!?」
 呆れたような道明の言葉に、伊織は目を丸くする。そんな伊織に春和もため息をついて、
「いいから手を出してください。行きますよ」
「!? ちょ、ま、引っ張ったら……いたたたたたたたた!!!!」
 今まで全然平気、というようんな顔をしていた伊織に、ためらいなく春和が薬を塗りつける。とたん、悲鳴を上げる伊織に春和は片方の眉を上げた。
「良薬何とやらとは言うが――その軟派な言動への良い薬にはなりそうだな」
 隣で平然と、道明も呟く。
「吉城様にも申したいことはございますよ」
「ああ。そ、そうか。すまない」
 呟きに即座に春和が返して、道明は小さく頷いた。……そんな、二人に。
「―――」
 言葉は、本当に小さくて。
 けれども、二人ともちゃんと聞こえていて。
 伊織と道明は顔を見合わせる。
 ……優しい風が、月から吹いて。
 「あまり心配させないでください」と。ささやかな願いが、風に乗ってとけていった……。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

オズ・ケストナー
いたい
いつもよりすごくいたい

リュカだ
遠目に見つけて
一瞬
手当してからのほうがいいかなって
しんぱいさせたくないから迷って
でも

たいへんなときにはよぶって、言った

リュカ~
左手を挙げて
シュネーもわたしの頭の上でぴょんぴょんさせる
右手も足も動かさないほうがいいってわかるから

おつかれさまっ
元気に答える

手当をしてもらえたら素直に言うね
いたい
いつもはね、ケガしてもそんなにいたくないんだよ

ありがとう
リュカ、すごいねえ
いたくなくなった気がするっ

わたしも動けるようになったらおてつだいしよ
リュカはまだまだいくところがあるでしょう?

いってらっしゃい
手を振った瞬間
なんだかさみしいようなきもち

あとで、おだんごいっしょに食べよ



 月から風が吹いている。優しい風だ。
 ……そう思った時、オズはぺたん、とその場に座り込んだ。
「……いたい」
 びっくりするくらい、体が、全身が痛くて。
 その場に座り込んだら、もうオズは動けなかった。
「……いつもよりすごくいたい」
 どうしよう。どこか壊れてしまったのだろうか、と思ったけれども。そういえばあちこち、壊れていたのだと思い出す。……今まで、わかっていなかっただけで。
 それは、世界が救われたからであって。それは喜ばしいことなのだろうけれども……、
「……あ」
 息をするのも、なんだか苦しくて。ぎゅうっと胸に手を当ててうずくまろうとした時、
 視界の端に、見知った姿が映りこんだ。
(リュカだ……)
 距離が遠い。名前を呼ぼうと口を開けて……そして一瞬、迷う。
 この、腕ひとつ自由に動かない身で、呼んでどうするのだろうかとほんの少し考えたからだ。
(……手当してからのほうがいいかな……)
 心配は、かけたくないから。だから、ほんの少し、オズは迷って。そして……、
「あっ」
 たいへんなときにはよぶって、言った。
 そうだ。約束……したはずだ。
「……、リュカ~」
 一呼吸おいて、オズは左手を上げる。同時にシュネーを頭の上でぴょんぴょんさせた。
 右手も足も動かさないほうがいいだろうという判断であるが、気づいてくれるだろうか。
 結構距離があるけれども……と、思っていたら、視線の先でリュカが振り返った。
「お兄さん」
「リュカ!」
 まっすぐにこちらに向かってくるリュカに、オズはシュネーと一緒に手を振る。
「おつかれさまっ」
「お疲れさま。お兄さんは……大丈夫じゃないね」
 すぐそばまで来て、オズを一瞥して、そういうリュカに、オズも素直にうなずいた。
「いたい」
「うん」
 オズの言葉にリュカも頷いて、薬を取り出す。
「大変だった?」
「うんっ。鳥さんがわーってしたり、すっごい炎が……」
 ええと、と。懸命に語るオズに、なるほど、とリュカは頷きながら薬を塗っていく。
「ここ、ほら焦げてる」
「ええっ。全然気づかなかったっ」
 焼け焦げた背中に笑ったり、
「そういえば、シュネーさんは焼けてないみたい」
「シュネーはね、お留守番してたからっ」
 そんなささやかな会話をしながら、傷口をふさぐように薬を塗って、包帯で固定する。包帯を巻きにくいところは湿布を貼って、
「いつもはね、ケガしてもそんなにいたくないんだよ。だからなんだか、不思議な気持ち」
「俺も。ちょっと不思議な気持ちがする」
「リュカも? どこか怪我したの?」
「怪我はしていないけれども、お兄さんが怪我してるのを見てたら、なんだか胃のあたりがもやもやするんだ。でも、お兄さんは仕事をしてただけだから、これで俺が何かを言うのは、筋違いな気がして……。あといつも一緒に行くときはむりさせてる俺が、あんまり無茶しないでっていうのもおかしな話だし」
 なんだか訥々と語るリュカに、オズは瞬きをする。怒りたくとも怒れない、という雰囲気が何だか前のめりに出ているリュカにちょっと笑った。
「ねっ。リュカ。てあて、ありがとう。リュカ、すごいねえ。いたくなくなった気がするっ」
「え、そう?」
「うん、リュカのおかげっ!」
 にこーっと笑うオズに、今度はリュカが瞬きをする番だ。不思議そうに、首を傾げてみたが、
「……そっか。お兄さんが、痛くなくなったのならよかった」
「うんっ」
 その笑顔に、だったら、いいか。なんて。思わずリュカも笑みをこぼす。ふふ、とオズは今度は両手を上げてみた。……よかった。ちゃんと、動く。
「……わたしも動けるようになったからおてつだいするよっ」
 よし。なおったなら、することなどいくらでもある。えいや、と立ち上がるオズに、おー。とリュカはその姿を感心したように見つめる。
「ほんとだ。……ほんとに痛くない?」
「うん、ほんとだよっ」
「よかった」
 ホッとしたようにリュカが言ってう。それであっ、とオズが思い出したように、
「リュカはまだまだいくところがあるでしょう? わたしもその間はお手伝いしてるから、あとで、おだんごいっしょに食べよっ」
「お団子? いいね。飛び切り美味しいのを、妖怪からもらってこなくちゃ」
 治療のお礼と思えばいい。と、リュカが笑うので、オズも想像してくすくすと笑う。こんなにたくさんの妖怪さんのお礼なら、きっとたくさんのお団子を貰えるだろう。
「それじゃあ、いってらっしゃい!」
 オズが手を振って、ん、とリュカが薬の入った鞄を抱えて歩き出す。その瞬間。
「……?」
 なんだかほんの少し、もう痛くないはずなのにオズの胸が痛んだ気がして。
 ああ。これが寂しい、ということだろうかと。そんなことを思う……その前に。
「また、後でね」
 一度、振り返ったリュカが手を振ったので。オズは笑って手を振り返した。
「うん、あとで!」
 きっと、月の光は彼らの用事が終わってもまだしばらくは、美しく輝いているだろう……。

大成功 🔵​🔵​🔵​

パラス・アテナ
白斗f02173と
横たわる姿に駆け寄って
各種生命反応を確認
生還を確認しようやく安堵

良かった
死神に連れて行かれていない
付き合い始めた矢先にこれだ
自分の業の深さに嫌気が差す

調剤兎に声を掛け
教わりながら薬を調合
少しでも早く治るよう
死神から遠くなるよう
想いながら調剤するよ

できた薬を手に白斗の許へ
おや起きたのかい
気分は?

その調子だ
アタシが死ぬまで生きとくれ

言いながら膏薬になる前の薬を手渡す
よく効くがとんでもなく不味い飲み薬
旨い酒呑みたけりゃもっとましな戦い方をおし
白斗に軽口を返して月を見上げる

生きていればどうとでもなる
死んじまったら月も見れないからね

月が綺麗だと言う白斗に
笑みで目を細め
アタシもそう思うよ


九十九・白斗
パラス・f10709と

うぐっ
痛みが戻った瞬間、うめき声が漏れる
だが、そんな自分のうめきを聞く前に、強烈な痛みに意識は刈り取られた

次に気がついたときには病院で、彼女の顔がそこにあった

ようパラス、お前と付き合うと死神に連れていかれるって話だが、俺は生きてるぜ

全身痛むが、顔に出さずに軽口を叩いて見せる
自分が特別だと思った人間が死ぬと思ってる彼女の前だ
かっこつけて強がらなきゃ男が廃る

苦げえなくそ

しかし薬には顔をしかめて悪態をつく

月か

パラスに言われて空を見る
そしてふと思い

月がきれいだな

と、漱石の逸話を思い出し、愛情表現をしてみた

あいにく漱石は知らないようだが、彼女の笑みでしばらく痛みを忘れられそうだ



 パラス・アテナ(都市防衛の死神・f10709)がそこに駆け付けたとき、すでに白斗は丘に突っ伏して目を閉じていた。
「……!」
 普段のパラスからは考えられないくらい動揺して、自分は何一つ傷を追っていないのに息が止まるような心地さえして、慌てて、駆け寄ると生体反応を確認する。
 ……生きていた。…………生きている。
 おそらく、痛みが戻ったときにその衝撃で意識を失ったのであろう。
 それだけでもわかって、思わずパラスはその場にへたり込んで安堵した。
「……良かった」
 死神に連れて行かれていない。と。
 パラスは息をつく。付き合い始めた矢先にこれだ。自分の業の深さに嫌気が差す気がした。
 何度も親しい人と死に別れた彼女であるから。生きているとわかったときには心底ほっとしたのだ。
 ……そして、生きていると知ったからには彼女のすることは、決まっていた。

「……ん」
 白斗はぼんやりと顔を上げた。
 あちこちで賑やかな声が聞こえてきている。どうやら湖のほとりに作られた、簡易診療所に担ぎ込まれたらしい。
 では、誰に担ぎ込まれたのか。白斗の疑問は一瞬で氷解した。目の前にパラスの顔が、あったからだ。
「おや、起きたのかい」
 白斗の言葉に、パラスは顔を上げた。丁度今、シロウサギから薬の作り方を教わって、それを作っていたところだったのだ。
 少しでも早く治るよう。
 死神から遠くなるよう。
 そんな心を込めて調合していた。パラスのそんな気持ちを知ってか知らずか、
「ようパラス、お前と付き合うと死神に連れていかれるって話だが、俺は生きてるぜ」
 と。全身が痛むだろうに、何でもないことのように軽口をたたいて、白斗はにやりと笑った。
 自分が特別だと思った人間が死ぬと思ってる彼女の前だ。かっこつけて強がらなきゃ男が廃る、と。
 そこまでは口には出さないけれども。本当に何でもないことのように言い放つ白斗に、パラスもまた小さく頷く。
「気分は?」
「おう。あと100回は戦えるな」
「その調子だ。アタシが死ぬまで生きとくれ」
 軽く答えながら、パラスは作った薬を白斗に差し出す。軟膏になる前の薬で、
「ほら飲みな。よく効くらしいよ」
「おう。………………苦げえなくそ」
 鼻先に突き付けられた薬を白斗は飲み干して、飲み干したとたんに顔をしかめて悪態をついた。
「そりゃそうさ。よく効くがとんでもなく不味いって評判の飲み薬だ」
「おいおい。もうちっとばかり旨いものはなかったのか。酒とか」
「旨い酒呑みたけりゃもっとましな戦い方をおし」
 最後までちゃんと飲みな。なんて言って。はいはい、と白斗もゆっくりゆっくり、薬を飲み切る。
「それ飲んだら、もうちょっと休むんだよ。ここで見てるから」
「そうだな……」
 見ていてくれるのならば、悪くないかもしれない。小さく頷く白斗に、パラスもまじめな顔をして、
「生きていればどうとでもなる。死んじまったら月も見れないからね」
 ほら。と、空を見上げた。
 空には真ん丸の月が浮かんでいて、
「月か」
 白斗も空を見上げて。
「月がきれいだな」
 と、ぽつりとつぶやいた。
 ああ。と、返ってくるのは小さな肯定だ。白斗の言葉にパラスはほんの少し微笑んで目を細めて、
「……アタシもそう思うよ」
 と、静かにそう言って頷いた。
 通じたのか。通じなかったのか。それだけではよく、わからないけれども。
 白斗はその笑みに自分もまたほんの少し、表情を緩めた。
「……少し寝る」
「はいよ。起きるころには、痛みも治まってるだろうさ」
 何せよく効く薬らしいからね。と。込めた思いも可足らずにパラスが言うと、そうか。と白斗は小さく頷いて、
「……まあ」
 薬がなくとも、彼女の笑みでしばらく痛みを忘れられそうだ、なんて。
 さすがに口に出して言うことはできないけれど。
 代わりに白斗はすっと目を細めた。……眠りに、落ちるまでは、ずっとこの顔を見つめていよう。
 そうすればきっと……、傷の治りも早いに違いない。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ティア・レインフィール
ユーベルコードを使えば、すぐに治療は出来ますが……
痛みもいい薬という熊の先生の言葉を尊重して
今夜は出来るだけ使わないでおきましょう
勿論、薬作りのお手伝いはさせて頂きますよ

自分の治療はお手伝いするのに支障が無い程度に行ってから
普段通りの微笑を浮かべながらお手伝いをします
内心、痛みに苦しんでいますが……本心を表情に出さないのは得意なので

子供や老人で、あまりにも辛そうな場合は
こっそりと小声で歌ってシンフォニック・キュアで治療を
我慢出来そうなくらいで止めておけば、問題は無いでしょう
治療が済んだら、一緒に月の光を浴びに行きましょうね

ああ、本当に
どの世界の月の光も、綺麗ですね



「大丈夫ですか?」
「う……あぁ……」
 ティアの言葉に、妖怪がこたえる。年寄りの男性のような姿をしていたが、手がどこか河童のようになっていた。
 その手にも、全身にも、なます斬りのような跡がある。
「痛いよ、痛いよー」
 そして同時に隣で泣いている子供もいた。それはおかっぱ頭の着物を着た少女のようで、泣く声がティアの耳にも届いて胸が痛くなる。
「待っていてくださいね。今、薬を塗りますから」
 あっという間に尽きそうな、薬入れを覗き込みながらティアは声を上げた。
(ユーベルコードを使えば、すぐに治療は出来ますが……)
 きっと、それを使えば一瞬だ。この辺り一面のけが人たちを、ティアは癒すことができるだろう。
(でも、痛みもいい薬という熊の先生の言葉も尊重したい……です)
 そうだ。それはきっと、危険なことで。……こんな戦いがあった場だからこそ、しないほうがいいのだろう。と、ティアは思ったから。今、こうして駆けまわっている。もちろん、薬づくりのお手伝いはするつもりであるけれど……、
「……」
「お姉ちゃん?」
「いえ、何でもありません」
 ふと、動いた拍子に肺に刺さるような痛みを感じた。多分、呼吸によって喉や肺がやられているのだろう。それでも一つ咳払いをして、ティアは微笑む。最低限の治療はした。薬も飲んだから、お手伝いには支障がない。
 まだ、自分は、誰かのために動ける。
 内心の痛みに苦しみながらも、ティアは普段通りの笑顔で老人に薬を塗る。本心を表情に出さないのは、得意だから。元気になってほしくて治療をしているのに、その顔が少しでも曇ってほしくなくて。
「次は、あなた様ですよ。もう少し、待っていてくださいね。できますか?」
「……うん」
 にこやかに言うティアに、少女は小さく、頷いた。老人に薬を塗り終われば、待っていた子供に「よくできました」なんて声をかけて次の薬を塗っていく。
「ありがたい。ありがたい……」
「うぅ、痛いよー」
「もうちょっとだけ、我慢してくださいね」
 そんなやり取りも微笑ましくて。……けれども、その微笑ましさとは裏腹に、彼らの傷は深い。
(……本当は……でも……)
 少し悩んで、ティアはそっと、唇を開く。
「歌を」
「おうた?」
「ええ。歌いましょう。きっと、元気になりますように、と」
 そういって、ティアは小さな声で歌を歌い始めた。子守歌はこっそりと、あまり広がらないように。
 あくまで、痛みが我慢できる程度にとどめたい。完治はさせずに……少し、気分がよくなる、くらいの気持ちで。
 多分、聞いたほうは、ただの子守歌ととっただろう。そうなるように、配慮はした。
「何だか、痛くない……」
「そうですか。きっと、お月様の光が届いたのでしょうね」
 素知らぬ顔で、ティアはそんなことを言う。これくらいならば、問題はないだろう。
「立ち上がれますか? 一緒に丘の上へ。月の光を浴びに行きましょうね」
 おじいさまは私が手を貸します、と微笑むティアに、老人は礼を言って、子供が歓声を上げた。
 賑やかな声に、思わず表情がほころぶ。そうして空を見上げれば、
「ああ、本当に……。どの世界の月の光も、綺麗ですね」
 静かに、月がティアたちを見下ろしていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

西条・霧華
「…この痛みが、生きている証です。」

そして、皆を護れた事を嬉しく思います
でも、もう少しだけ頑張りましょう
守護者の【覚悟】を以て…

最低限の治療を終えたら薬作りや妖怪たちの治療を手伝います
お医者さんは多少の痛みも良い薬とは言いますけれど…
「良い薬」と言える様にする為にも、順番が来たら治して貰えると言う安心が必要です
その時に薬が足りず待たされると言う失意は必要ないと思います

治療をしながら、痛いと思える事は生きているからこそで…
生きている事は時に辛く苦しくても、得難い幸福だと言う事を伝えたいなって思います

※動くのに支障が無い程度治療したら、自身の痛みを守護者の【覚悟】で押し殺し、他者の治療を優先します



 霧華はゆっくりと、傷口に触れた。
 体に、激痛が走る。どこもかしこも苦しくて、
「……この痛みが、生きている証です」
 そう、小さく息をついた。
 ……今、彼女は確かに、生きていた。
(皆を護れた事を嬉しく思います。でも、もう少しだけ頑張りましょう。守護者の覚悟を以て……)
 生き残った。……ならば、やるべきことは一つだ。
 苦しんでいる人のために、手を差し伸べること。霧華はふらつく足で立ち上がる。
 まずは、自分のことを何とかしなければ治療もままならない。ひとまず簡単に処置をする。致命傷になりそうなところや危険な箇所に薬を塗ってから、歩き出した。

 薬の材料を集める。そして作る。そうして診療所の手伝いをする。薬が尽きればまた材料を探しに行く……。それを何度か繰り返した時、
「痛いよー。痛いよー」
「これこれ。もう少し静かにしていなさいよ」
 材料を取りに行った折、霧華は声を聞いた。狐の親子が泣いている。大きいきつねと小さいきつね。胸に何やらお揃いの前掛けをつけていて、まるで神社の使いのようだと霧華はま思う。簡易の診療所には長蛇の列が伸びていて、本当ならば並ばなければいけないのだけれども、彼らは足にけがをしていて並べないようであった。もちろん、診療所がひと段落すれば、そういった患者たちも治療が受けられるだろう。けれどもそれは、ずっと先になるに違いない。
「あの、薬を持ってきました……」
 泣く子供に、それを宥める親。多分母親だろう。二人とも、深い傷がついて綺麗な毛並みが血で染まっている。恐る恐る声をかけると、子供のほうが振り返り、
「やったー!」
「ああっ。済みません」
「いいのです。……塗らせていただいてもいいですか」
「うん!!」
「これ。……お嬢さん、いいの? それはあなたの薬じゃないの?」
「いえ……いいんです。私は」
(お医者さんは多少の痛みも良い薬とは言いますけれど……。「良い薬」と言える様にする為にも、順番が来たら治して貰えると言う安心が必要です)
 だから。と、霧華は躊躇いなく、自分の傷は気にせずに子供に薬を塗る。
(その時に薬が足りず待たされると言う失意は必要ないと思います)
 子供が終われば、次は親へと。
 惜しみなく手当てをすると、あっという間に薬はなくなっていた。……また、取りに行かないと。
「ありがとう。お姉ちゃん……!」
「本当に。ありがとうございます……!」
「いいえ……。皆さんが無事で、本当によかったです」
 何度もお礼を言う親子に、霧華もまた軽く一礼する。一礼と同時に、傷が痛む。……けれど、
(……痛いと思える事は生きているからこそで……)
 口に出して語るのは得意ではない。だから思いは胸の内に秘めながら、
(生きている事は時に辛く苦しくても、得難い幸福だと言う事を伝えたい……)
 そう、再び霧華は走り出した。
 後ろから何度も、ありがとうの声が聞こえて。その声が嬉しいという思いに満ちていて、
 ほんの少しでも、伝わっていてくれるなら、自分も嬉しいと。霧華は思った。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ヴィクトル・サリヴァン
いやー終わった終わった。これで平和gぐえー痛みが一気に来た!
特に火傷きっつい!

そんな風に内心思いつついつもの表情(ただし涙目)で湖の畔で海岸に打ちあげられたシャチの如くごろごろ月光浴。
ざっと湖の水で濯いで軟膏塗って(背中とかは熊の先生とか白兎さんにお願い)、心配かけぬよう皆からは少し離れとく。

リュカ君(f02586)通りかかったらご挨拶。
何してるのと聞かれたら陸のシャチはこうするものだし、とごーろごろ。
ちょっと反撃食らってねー、でも大丈夫いい薬もUCもあるしとかびりびり活力の雷使ったり。
…いい感じに痛みも引いてきたし俺も治療に回ろうかな。
無茶してないからあーんし…いたた!

※アドリブ絡み等お任せ



 月から、柔らかい風が吹く。
 それで、世界に痛みが戻ってきたようで。
 ヴィクトルは大きく両手を上げて……、
(いやー終わった終わった。これで平和gぐえー痛みが一気に来た!)
 そして固まった。痛みが戻ってきた、とは、そういうことである。
(特に火傷きっつい! あっつい! 何なの、あれ!? 水、水!)
  慌ててヴィクトルは湖の方向へと走った。内心はそんな感じで涙目であったが、なるべくいつもの表情を取り繕った。もしかしたら涙目であることがよく見たらわかってしまったかも、しれない。
「……!」
 だが、そんなことはかまっていられない。とにかくヴィクトルは湖の中へと飛び込む。水しぶきを浴びてひと泳ぎして、炎に包まれた肌を潤す。そのままざばん、と畔に浮かび上がれば海岸に打ちあげられたシャチの如くごろごろとその場に転がって月光浴を行うことに決めたのであった。
「う~~~~~~ん」
 そうして温度と湿度の管理が一通り終わった後で、全身に軟膏を塗る。届かないところは通りがかりの熊とシロウサギにお願いして、人気のないところでごろごろと転がっているヴィクトルであった。
「う~ん。め~が~ま~わ~る~」
「……」
 なんて。全身にまんべんなく月光が当たるようにごろごろしていたヴィクトルだったが、ちょうど薬の材料を取りに来ていたリュカがその怪しげな動きを見て足を止めた。
「……」
「何してるのって……そりゃ、陸のシャチはこうするものだし。それ、ごーろごろ」
 聞かれる前に言った。リュカは怪訝そうに、
「……そんなもの?」
 と尋ねる。シャチの生態にそこまで詳しいわけでもないので、わからない。
「そうそう、そんなもの。まあ、ちょっと反撃食らってねー」
 真面目なリュカに、ヴィクトルはそう答えて。ひらひらと手を振る。
「でも大丈夫いい薬もUCもあるしとかびりびり活力の雷使ったりして元気になってきたし。……いい感じに痛みも引いてきたし俺も治療に回ろうかな」
「ええと……まあ、本当に治ったなら、いいと思うけど」
 人も、足りてないみたいだし。と。言うリュカ。実際のところ忙しいのは事実だし、本当に治ったんならそれでいいだろう。と、素直にうなずくリュカにヴィクトルは身を起こしてウィンクして、
「無茶してないからあーんし……いたた!」
 ついでにその痛みで顔をしかめた。やっぱり痛かった。なんだ。直ってないじゃないか、と、リュカは飲み薬をつきつけた。
「はいはい、ちゃんと薬使ってるの? ほら」
 ぐいーっとリクエスト通りに口に流し込む。本人はいたって真面目であるが、
「え、ちょ、ま……」
 にがい。
 えぐい。
 まずい。
 痛みとはまた別の何かにヴィクトルが襲われるのは、その一瞬後のことである……。

大成功 🔵​🔵​🔵​

叶・景雪
アドリブ歓迎
難しい漢字は平仮名使用
名前以外カタカナはNG

あやかしさん達がぶじでよかったよ!いたいのは生きてるあかしだから、いたたなのは仕方ないけど……ぼくがお歌(シンフォニックキュア)うたったら、ちょっとだけ、いたいのいたいのとんでけーっ!て、ならないかなぁ?
気持ちだけでもゆっくりになったらいいなぁって気持ちで歌うね!ぼくのいたたは……がまんの子!ぼくは強いから、がまんがまん……うぅ、ふだんあんまりいたいの感じないからちょっぴりいたいのは、あやかしさんにはしぃ~の内緒だよ!
生きてるあかしとかいったぼくががまんできないと、あやかしさん達もがまんできないかもだから……がんばる!(ふんす!)(涙目)



 炎が消えて、熱が消える。
 敵が消えた瞬間、世界はまた暗闇に包まれた。
 そうして、月から優しい風が吹いてきて。
 妖怪たちが一様に、痛みを感じてバタバタと大地に倒れ伏した。
「うぅ……」
 景雪もまた、思わぬ痛みに膝をつく。
 くらくら眩暈がするのを堪えていると、大丈夫かい。と優しい声がかかった。
 熊とシロウサギが景雪を心配そうに見おろしていて。景雪はにっこりと笑った、
「うん、だいじょうぶ! それに、あやかしさん達がぶじでよかったよ!」
 嬉しそうに景雪は声を上げて。その拍子に体が痛んで、また照れたように笑う。それから、
「それよりも、ぼくも、おてつだいしようかな? うさぎさんも、くまさんも、いそがしそうだから!」
「うん、うん、いい子だねえ。それじゃあ、お願いしてもいいかな?」
 景雪が元気に片手を挙げると、なんだか孫を見るような眼になって熊が頷くので、シロウサギがおかしげに笑った。

 それから。景雪は薬を持って丘を駆けた。簡易診療所を開いている熊とシロウサギに代わって、動けない妖怪たちを助けに行くためだ。
「痛いよー」
「はーい。くすりを持ってきたから、もう、だいじょうぶだよっ」
 泣いている子供がいたら駆け付け、倒れている妖怪を見たら抱き起す。
 薬を塗って、布を巻いて、そして飲まして……。
 そうして、痛い、遺体とつぶやく彼らに、景雪は小さく頷く。
「いたいのは生きてるあかしだから、いたたなのは仕方ないけど……」
 熊先生には、甘やかしてはいけないよ、と言われていたけれど……。
 あんまりに痛そうな妖怪たちが何だか可哀想で。
「ぼくがお歌うたったら、ちょっとだけ、いたいのいたいのとんでけーっ! て、ならないかなぁ?」
 気持ちだけでもゆっくりになったらいいなぁって気持ちで、景雪は唇を開く。あんまりやりすぎないように。そっと、そっと、静かに。なんの歌を歌おうかと思ったけれども、昔、聞いた子守歌にすることにして。
「……おや」
「この歌……」
 倒れて臥せっていた妖怪が顔を上げる。
「何だか可愛いねえ。痛みが、引いていくようだわ……」
 うつぶせになって寝込んでいた妖怪の言葉に、そ、と景雪は微笑んだ。これは内緒。……内緒の歌。なんて。口ずさみながら、景雪は歩き回る。
「……っ」
 時々。
 痛みが体に回って、動きが止まる。
「?」
 丁度治療していた妖怪が、不思議そうに景雪を見るので、景雪は微笑んだ。
(ぼくのいたたは……がまんの子!)
 大丈夫だよ、と言いながら、薬を塗って布で巻いていく。短刀を持った子供の妖怪で、なんだか景雪は他人事でないような気がして。
(ぼくは強いから、がまんがまん……)
 だからこそ余計に我慢して、別れる時まで笑顔で手を振っていた。別れて、歩き出したとたんに、ふう、と息を吐く。
(うぅ、ふだんあんまりいたいの感じないからちょっぴりいたいのは、あやかしさんにはしぃ~の内緒だよ!)
 声に出したくなるのを、何とかこらえて、飲み込んで。そうして再び、景雪は歩き出した。
「生きてるあかしとかいったぼくががまんできないと、あやかしさん達もがまんできないかもだから……がんばる!」
 ほんの少し、目は涙目だったけど。
 ちゃんと立派に、やり遂げるのだと景雪は拳を固めて。
 薬を手に、速足で歩き出す。
「……がんばる」
 景雪を待っている人……いや、妖怪は、きっとまだ、沢山いるのだから……。

大成功 🔵​🔵​🔵​

チェイザレッザ・ラローシャ
キリ(f03828)と
キリ、とりあえず歯ぁ食い縛って
グーはやめといてあげる
全身全霊のパーで頬に真っ赤な紅葉をくれてやるわ

で、ひっぱたいたらその場に寝かして
痛みで動けないのをいいことに膝枕してやるわ
いつもは逃げたりアイアンクローしてくるけど今日はそんな気力ないでしょ
ふーんだ、精々嫌がってなさい

動くの辛いからデスペラードに頼んで薬をもらってきてもらう
姿勢を正してるのもダルいから前のめり
どんな顔してるかは見えない、見せない
……あたしは本気で心配してたのよ

え?もう元気なの!?あだだだだだだ凹む凹む!!
は?仔犬ってあたし!?なによー!デスペラードは懐まで許すくせにー!撫でるくせにー!
キリのいじわるー!!


キリ・ガルウィング
ラローシャ(f14029)と
痛みにはただ眉を顰めるだけ
いつも通りに戻るのなら、いつも通りに、やり過ごす

傷も火傷も自覚だけはあるが
薬だなんだと何もかもが面倒で口を噤んでいれば
頬に咲く紅葉ひとひら
…ああ、そんな季節だったな
痛みがひとつ増えたところでどうという事もない
引き倒されたのがこの女の膝上だというのを除けば

いつも通り、十秒待つ
顔面にほよんと柔いものが降ろうが、文句が降ろうが
そんなものは右から左
十秒経ったなら
…言いてェ事は言ったな?
卵みてェな丸い頭を鷲掴みながら起き上がる

…元気な訳があるか
何かと懐に入りたがる仔犬を避けるのに難儀しているだけだ
代わりに漂う海妖を少し撫ぜて
ああ本当に、喧しい



 そうして、すべてが元通りになって。消えたはずのものも戻ってきて。
「キリ、とりあえず歯ぁ食い縛って」
 チェイザレッザが徐にそう言った。丁度キリは、月から吹く柔らかな風に顔を上げていたところで、
「……?」
 唐突に言われた言葉に、何のことだとキリは振り返る。……その瞬間、
「グーはやめといてあげる!!」
 言葉と同時に、ぶんっ! と、何かが空気中を走る音がした。
 ばちん、と、小気味のいい音が響いた。どこからかというと、自分の頬からだ。ということを即座にキリは理解した。
 もともと最初から、痛みがなかったわけではない。だが、キリはただ眉をしかめて、それをやり過ごしていただけのこと。
 いつも通りのことだ。戻らぬ傷ではなく、そこに敵がいないのであれば、いつも通りに、やり過ごす。慌てても騒いでも意味はないし治りは遅くなるばかりなので、傷も火傷も自覚だけはあるが、薬だなんだと何もかもが面倒で口を噤んでいた……。ところでの、この一撃であった。
「全身全霊のパーで頬に真っ赤な紅葉をくれてやったわ!!!」
 対するチェイザレッザは、痛む掌に軽く息を吹きかけながら、なぜか物凄いやり切ったような顔で一息ついている。その勢いと、頬の痛む感触と熱で、紅葉がひとひら咲いただろうかとそんなことをキリは考えた。
「……ああ、そんな季節だったな」
「はあ!? 何言ってるの!」
 痛みがひとつ増えたところでどうという事もない。ましてやこの程度の痛み、怪我のうちにも入らないのにそんなしょうもないことをよくする、という。キリの声が聞こえていたのか……、
「ちょっと、まったく効いてないわね!? 何にも言わなくてもそれくらいわかるわよ! そんな奴は……、こうよ!」
 えいや! と、チェイザレッザはキリを引き倒した。
「ふふーん。痛みで動けないでしょう。それをいいことに、膝枕してやるわ」
 やっぱりなぜか得意げなチェイザレッザの声。別にこの程度のことはいつも通りだ。……いつも通りでないのは、自分の頭の位置だけか、と、キリは冷静に考える。
「いつもは逃げたりアイアンクローしてくるけど今日はそんな気力ないでしょ。……ふーんだ、精々嫌がってなさい」
 冷静に考えている間も、キリはやりたい放題である。
「デスペラード~。動くの辛いから、薬貰ってきて~」
 なんて呑気にお願いし、
 行儀悪く猫背のように背中を丸めて前のめりになり、
 顔も見せないチェイザレッザの、小さな声をキリは聞いただろうか。
「……あたしは本気で心配してたのよ」
 ……多分、聞いていてもなんのコメントもしないだろうから。聞こえたか聞こえたかどうかなんてわからない。だから、
「ばか。ばかばかばかばかばかばかばーか」
 言いたいことを言い続けるチェイザレッザ。
 キリは本当に、聞こえているのかいないのか。
 右から左へ受け流し。いつも通りの表情で……、
 心の中で、十秒、数えた。
「……言いてェ事は言ったな?」
 そして十秒後。これもまたいつも通り。徐に手を伸ばす。
「え!?」
 チェイザレッザの悲鳴のような声が聞こえるが構わない。その丸い頭をがし!! と鷲掴みにし、それを手掛かりにゆっくり、ゆっくり、体を起こしていく。
「もう元気なの!? あだだだだだだ凹む凹む!!」
 みしっ。と音がして、悲鳴を上げるチェイザレッザ。心配そうに、薬をもらってきたばかりのデスペラードがチェイザレッザを覗き込んできた。キリはそのデスペラードの頭を、労うように撫でる。
「……元気な訳があるか。何かと懐に入りたがる仔犬を避けるのに難儀しているだけだ」
 キリの遠回しな言葉に、チェイザレッザは、は!? と、やっぱり悲鳴めいた声を上げる。ぶんぶん頭を振って、何とかキリの締め上げから逃れようとして、
「仔犬ってあたし!? なによー! デスペラードは懐まで許すくせにー! 撫でるくせにー!」
 じたばたする。そのさまにキリはため息をついた。
「ああ本当に、喧しい」
 握る手に……、力を籠めると、
「ぎゃー!! キリのいじわるー!!」
 また賑やかな声が周囲に響き渡る。
 本当にそれが喧しくて。……喧しくて。
「ああ……」
 いつもの景色だ。と、キリは心の中で小さく呟くのであった。
 もちろん、口に出しては喧しくてかなわないから、ひみつのことだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

クロト・ラトキエ
あ、成る程。
これ、すごい痛いですねっ?

なんてケロっと言ってますけど。
本っ当痛いので、薬師殿に薬だけは頂いておきたく。
…明日まで待ってる時間が惜しいというか…早く帰りたいというか…。
あ、でも。頂きっ放しは性に合わぬので、薬の対価分はお手伝いさせて下さいね。
材料集めくらいしか出来ませんけど!

痕を見る。
お陰様で火傷は許容範囲内。
応急で血止めと、傷も塞ぎはした。
しかし、痛覚無しでの正確な把握はこうも困難、と。
今後の課題は、見通しをもう少し厳しめに…
って、こんな時までこの思考。
こればかりは死ななきゃ治らない!なぁんて。

この有り様、帰ったらドヤされるかな…
でも早く帰りたいなぁ。
あの場所が、一番の癒しだから



 何が変わったというわけではない。
 ただ、月から優しい風が吹いた時……、
「あ、成る程」
 クロトは思わず、声を上げた。
 炎が消えて、熱気が風にさらわれて行く。そして、
「これ……、すごい痛いですねっ?」
 帰ってきた痛みに、もだえ苦しむ羽目になるのだ。
「うーーん。う~~~~~~ん」
 ケロッとした口調で、クロトは額に手を当てる。なんか平気な顔をしているけれども、割ときっかりはっきりばっきり痛い。どこが負傷しているとか、考えるのも馬鹿らしすぎるぐらい痛い。というか考えたくない。考えたらいろいろ向き合わなければならないものが増えるので。
 ……まあ、そういうわけなので。
「薬師殿に薬だけは頂いておきたく」
「おや。手当てはいいのかい?」
「はい。それは恙なく」
 何となく、帰ったら待っている人に頼みたいかもしれない。それを熊の先生も何となく察したのだろう。
「この月がなければ、傷の治りは少し遅くなるよ」
「はい、それでも。……明日まで待ってる時間が惜しいというか……早く帰りたいというか……」
 最後に、本音をちょっと零したクロトに、熊の表情が緩む。わかった、わかった。と、小さく頷いて。
「では、これを持っていくようにね」
「あ、でも。頂きっ放しは性に合わぬので、薬の対価分はお手伝いさせて下さいね。材料集めくらいしか出来ませんけど!」
 はい、と、薬を手渡されて、慌てたようにクロトは言う。この世界を平和にしてくれたのだから、それだけでいいのに、という熊先生に、ぶんぶんと首を横に振った。
「これは、僕の性分の問題ですので」
「そうかい? じゃあ……」

 そういうわけで、クロトは走り出す。
 竜胆の花を摘んで、萩の花を摘んで。
 これが薬になるだなんて、何ともかわいらしい世界だと思う。……一歩間違えればあんな地獄になったのに、今は自分に似合わないくらい可愛い世界が広がっている。
 それがなんだかおかしくて。……少し不気味で。そんなことを考えながら萩の花を摘んだ時、ふとクロトは足を止めた。
 伸ばした腕が傷だらけで、その後に目線を向ける。
(……お陰様で火傷は許容範囲内。応急で血止めと、傷も塞ぎはした。しかし、痛覚無しでの正確な把握はこうも困難……、と)
 何か、レポートでも書くようにつらつらとクロトは考える。戦闘前の予想とは違うか所を洗い出して、
(今後の課題は、見通しをもう少し厳しめに……)
 何か、書くものでもないだろうかと。クロトが胸に手をやった瞬間、
 激痛が走って、我に返った。
(って、こんな時までこの思考……!)
 花を持ったまま、硬直するクロト。右を見て、左を見て、誰にも見られていないと知って、咳払い。
「こればかりは死ななきゃ治らない! なぁんて」
 行こう行こう、と、クロトは走り出した。とにかく、自分の気が済むところまで手伝いをして、早くあの場所に帰らなければ。
「この有り様、帰ったらドヤされるかな……」
 走りながら、自然と口からそんな言葉が漏れる。「でも早く帰りたいなぁ」という心からの。しみじみとした呟きを、月から吹く優しい風がさらっていく。
 あの場所が、一番の癒しだから。
 最後のつぶやきは声にもならず。ただ、自然と頬が緩むのを、クロトは感じていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ユウイ・アイルヴェーム
困りました、体が動きません
…正しく言えば、思ったように動かせなくて起き上がれないのです

本当はお薬を作るお手伝いをしなければいけないのです
でも、これではお役に立てません
仕方ありません、先にお薬を頂いてから働きましょう
立ち上がらなければ。なぜ、動かないのでしょう

「いたい」
口からぽろりと零れた言葉は、あってはいけないもので
「いいえ、痛くも怖くもないのです。私は人形ですから」
急いで否定しなければ、染み込んでしまうような気がして
痛みは、恐れは、命を守るもの
命をもたない私にあってはならないものなのです

命を守るための人形ですから、大事なものは皆様の命だけ
それだけでなければ、迷ってしまいそうで恐ろしいのです



 月から優しい風が吹いて、
 それで、ユウイは固まったように目を見開いた。
「あ……」
 とたんに、足から力が抜ける。
 そのまま、崩れるようにユウイは丘の上に転がった。
「……」
 地に落ちる。その時も痛みを感じる。
 ごろりと転がって、仰向けになる。
 月が、こちらを優しく見おろしていて、ユウイはすうと息を吸い込み……、そして、凍ったように動きを止めた。
 息が入ってくるたびに痛くて。……痛くて。
 けれども息をしないわけにもいかなくて。
 ピクリとも指先を震わせれば、その振動で全身が痛んで、
「……困りました、体が動きません」
 なんだか至極冷静な言葉が、ユウイの唇から漏れた。
 声を出すたびに体が震えて、痛みが全身にいきわたったので、自然とユウイは口を閉じる。
 ……正しく言えば、思ったように動かせなくて起き上がれないのです、と。
 言葉を発することもはばかられて。ただ、ユウイは空を眺めていた。
 月が。ユウイを見下ろしている。
 優しく、優しく。
 大の字になって寝転がって、ユウイはただ、それを見る。
(本当は、お薬を作るお手伝いをしなければいけないのです……)
 寝転びながら、ユウイはそんなことを思う。
 ユウイにとって、それは当たり前のことであった。自分のことを置いておいてでも、みんなを助けに行かなければいけなくて。
「……」
 月が。ユウイを見下ろしている。
「……これではお役に立てません」
 開いた唇から漏れた言葉は、なんだか力がないように感じられた。
 どうしてだろう、と、ユウイは思って。
(……仕方ありません、先にお薬を頂いてから働きましょう)
 薬を塗って、治療すればまた立ち上がれるはずだ。
 そうすればまた、誰かの役に。……誰かの役に。
 けれども。
 ユウイの手は、大地を捕まえたまま。
 少しも動くことは、なかった。
(……立ち上がらな、ければ)
 立たなくては。……動かなくては。意味がないのに。
(なぜ、動かないのでしょう……)
 呆然と、ユウイはただ。空を見つめ続けていた。
「……いたい」
 月から、優しい風が吹く。
 口からぽろりと零れた言葉は、あってはいけないもので。思ってはならないことで。
「いいえ、痛くも怖くもないのです。私は人形ですから」
 急いで口に出して否定して。急いで否定しなければ、染み込んでしまうような気がして。
 それによって、また全身が痛んで。
 それが……どこか別のところが、悲鳴を上げているような気がして。
(痛みは、恐れは、命を守るもの。……命をもたない私にあってはならないものなのです)
 ……どれだけ、言い聞かせても。
 どれだけ、心の内で叫んでも、
 その手はもう、動かなかった。
(命を守るための人形ですから、大事なものは皆様の命だけ……。それだけでなければ、迷ってしまいそうで恐ろしいのです)
 そんな、ユウイの迷いを肯定するかのように。
 優しい月の光がユウイに降り注ぎ、ただ静かに彼女を包むのであった。
 彼女が、治療に来た妖怪たちに助けられるまで、ずっと。
 彼女の手は、動かなかった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

スキアファール・イリャルギ
いつの間にか気を失って倒れ伏してた
躰中痛くて熱い
躰が少しも動かせない
息を吸うのも辛くて苦しい
……これ、大分外見が悲惨な状態になってるのでは
これでも生きてるのか……本当に奇怪な躰だ……

薄らと瞼を開けば温かなひかりを放つきみがいた
喉をなんとか動かしてきみの名を呼ぶ
だって、きみから雫のような光が零れてたから――

……ない、て、るの?

問いの返答は力無き突進
……そうか
闘いの後ずっと癒してくれてたんだ
そんなに心配して、怒って、泣いてくれるのか
いいんだよ、こんな私なんかの為に……
嗚呼、でも
嬉しいな

……この躰に痛覚が在ってよかったって、初めて思えた


……ありが、とう
むちゃ、して、ごめ、ん

……つきが、きれい、だね



 歌が、聞こえてきている。
 それは、治療に向かう猟兵たちが歌っている歌だったのかもしれない。
 それとも、泣いている子供をなだめるために親が歌っていた歌だったのかもしれない。
「……」
 ああ。それでも。いい声だと思った時に、優しい風がどこからともなく吹いてきていて。
 それで、スキアファールはゆっくりと目を開けた。
「……」
 草原、であった。目の前に竜胆の花が揺れている。暖かな光が見える。
 記憶をたどる。いつの間にか気を失って倒れ伏してたらしい。戦闘をしていたことは覚えているが、渦巻くような熱気は消え去って、目に痛い炎も消えているのでどうやら、無事に倒すことができたのだろう。
「……ああ」
 そうだ。と、口に出そうとして、喉が痛み、胸が痛み、全身が痛み、スキアファールは口を閉ざした。
 躰中痛くて熱い。躰が少しも動かせない。
 ……息を吸うのも辛くて苦しい。
 それでようやく、スキアファールは己のしたことを思い出した。
 これはは、大分外見が悲惨な状態になってるような気がする。
 とにかく、死なないのをいいことに好き勝手それを傷つけまくった記憶はある。相当無茶苦茶した記憶もある。……それでもこうして、痛いながらも生きている。なんて。
「ああ……。これでも生きてるのか……本当に奇怪な躰だ……」
 苦しげに、息をついた。言葉を発したはずなのに、それは全く言葉にならなかった。死にはしなかったことが、嬉しかったのか、悲しかったのか。今はよく、わからない。
 とにもかくにも、苦しい。この暖かな光の中で、ゆっくりと眠りに……、
「……」
 温かな……ひかり?
 月の光ではない光。なんだろうか。気になって、スキアファールはゆっくりと閉じかけていた瞼をもう一度、動かす。
 はっきりと目を開けると、目の前に温かなひかりを放つきみがいた。
 竜胆の花畑の中、スキアファールの傍らにいるきみはから、雫のような光がこぼれていて。
 それは。と。スキアファールは声を上げる。喉を何とか動かして、きみの名を呼ぶ。
「……ない、て、るの?」
 声に出す。それだけで痛くて苦しかった。けれどもなんとか、言葉を紡いだ。
 音が届く。きみがそれに気付いたのか、スキアファールに突進してきて。
「……そう、か」
 あたると、痛い。……痛いけれども、なんだか優しい。子供のように縋り付いてくるきみに、スキアファールは息を吐く。
(闘いの後ずっと癒してくれてたんだ。……そんなに心配して、怒って、泣いてくれるのか)
 そう思うと、胸が痛い。自分でしたことだから、余計に。避けられる傷を追ったのは、自分の意志だから。だから……、
「いいんだよ、こんな私なんかの為に……」
 力なく言うと、ぶんぶんと首を振るような仕草をするきみ。まるで駄々っ子のような仕草に、スキアファールは困ったように微笑んだ。
「嗚呼、でも…………。嬉しいな」
 ……この躰に痛覚が在ってよかったって、初めて思えた。と、ちいさく、スキアファールはささやくように、呟く。
 痛みが。……この苦しみが。なんだかあたたかい気がして。引っ付かれるその場所が、とても痛くて。
 煌々と差し込む眩い"ひかり"がスキアファールの傷を癒していく。それでも、完治までには相当かかるだろう。そして、相当痛むことだろう。
 だから……。その間は、ずっとここで、こうしているしかなくて。……その時間が、
「……ありが、とう。むちゃ、して、ごめ、ん」
 絞り出すように、スキアファールが言った。
 その時間が、こんなに穏やかで、優しい時間に感じるなんて、思わなかった。
「これからは……気を、つける……」
 気持ちだけでも。と。
 歌うような、その言葉。
 とおくで、誰かの歌声が聞こえている。
 ああ……きっとスキアファールは。
 こうして、生きていくしかないのだろうと。
 今はそれを、悲しみではなく優しい事実として、
 光を見つめながら、スキアファールはその思いを受け止めるのであった。
「……つきが、きれい、だね」
 そんな、言葉とともに……。

大成功 🔵​🔵​🔵​

黒鵺・瑞樹
アドリブOK
左肩負傷、他火傷多数
痛みは人並みに感じるが、耐性(我慢できるという意味)がかなりある

痛いを通り越してなんというか。
髪もズタボロだ。まぁこれは切ってしまった方が早いか。
どうせ真の姿とった時に伸びるし、元に戻っても髪だけ長いままだしな。
本体でざっくり髪を切り自分で傷の手当を。手伝いがあれば助かる。
治りかたは割と人並みだし、本体直せばいいってもんじゃないのが少し面倒かもしれん。
猟兵になるまでは人と同じなのが普通だとは思ってたが。

手当が終わったらゆっくり過ごす。
本当は作る方にも興味があるが、手当てが終わった後じゃ意味ないだろうなぁ。
でも一晩で治るっていうならちょっと持ち帰りたい感じはある。


ティオレンシア・シーディア
※アドリブ掛け合い絡み大歓迎

い゛、ったたたたた、ぁ…
あ゛ー…予想と覚悟はしてたけど、やぁっぱり全身あっちこっち痛いわねぇ…
擦り傷切り傷火傷に打ち身、も一つおまけに筋肉痛…気をつけてはいたけれど、痛み感じなかった分無意識にあっちこっち過負荷かけてたみたいねぇ。派手なケガこそしてないけれど…どれもこれも地味ぃな痛みな分鬱陶しいわねぇ…

ゆっくりしてていいって話だし、お団子とお酒でお月見してようかしらねぇ。
…そう言えば。表の世界から製法とか存在とかが「失われた」お酒も、この世界ならあるんじゃないかしらぁ?ちょっと探してみようかしらねぇ。

※めちゃくそ酒豪。鬼と飲み比べしてシラフで10タテとかするレベル。



「……うーん」
 瑞樹は小さくうなった。左肩負傷、他火傷多数。と、まるで食品の在庫でも読み上げるかのように淡々と、己の負傷場所を確認していく。
「……」
 痛みは人並みに感じるが、自分はかなり、耐えられる方である。
「……これは」
 だというのに、これである。傷口はもちろん息を吸うたびになんか全身が痛むし腕を上げるだけでなんだかいっそ腕を落としたい衝動に駆られるし段々そんなことを思っていたら目が乾き始めていた。痛いを通り越してなんというか。
 別に叫びだしたりはしない。痛いけれども耐えられはするはずだ。なんて瑞樹は冷静に考えながらも、
「……」
 湖の畔だった。ふと見ればボロボロになった自分が水面にうつった。髪もズタボロだ。……まぁこれは切ってしまった方が早いか。
 思い立ったら即行動である。躊躇いなく瑞樹が己の本体であるナイフに手をかけ髪を掴んだ、その時。
「あら、切っちゃうのぉ? もったいない」
 だるーっとした感じの声が届いて、瑞樹はそちらのほうを見た。ティオレンシアが、草原に寝転がりながらダラダラしていた。
「どうせ真の姿とった時に伸びるし、元に戻っても髪だけ長いままだしな」
 あんまり記憶ことなく、面倒がなくていいんだ、という風に語る瑞樹に、ティオレンシアは、
「なるほどぉ。それはそれで便利ねえ」
 なんて言いながら軽く寝返りを打とうと……して、
「い゛、ったたたたた、ぁ……。あ゛ー……予想と覚悟はしてたけど、やぁっぱり全身あっちこっち痛いわねぇ……」
「頭でわかっておくことと、実際は違うからな。……で」
 そのままざっくり、宣言通り瑞樹は髪を邪魔にならないように切り払う。特に感慨もない風で、
「手当をしたい。手伝いがあれば助かる」
「あんた、人使い荒いわねぇ」
 言い切った瑞樹に、ティオレンシアは呆れたように目を細めるのであった。とにかく傷だらけでぶらぶらその場に転がっているが、ティオレンシアとて、転がってばかりでいられないことはわかっている。……ので、
「もちろん俺も、手伝おう。先にそちらの治療をしたほうがいいかな?」
 なんて、瑞樹が申し出たので、少し考えてティオレンシアは甘えることにした。いいのだ。今は仕事ではないので、そう言ってくれるなら甘えさせてもらっても。
「あー。そうねえ。じゃあ、お願いするわぁ」
 擦り傷切り傷火傷に打ち身、も一つおまけに筋肉痛……気をつけてはいたけれど、痛み感じなかった分無意識にあっちこっち過負荷かけてたみたいねぇ。なんて自分の状況をこちらも述べてから、
「手が届かないところ、お願いしてもいいかしらぁ。派手なケガこそしてないけれど……どれもこれも地味ぃな痛みな分鬱陶しいわねぇ……」
「この傷を地味というのだから、なかなか普段から怪我をする機会が多いのか? ……ほら、じゃあこっちのほうの薬を塗ろう」
「はーい。ありがとぉ。終わったらそっちを手伝うわねぇ」
 そうして二人は手分けして治療を開始する。騒いでもどうしようもないことだから、二人とも割と淡々と作業をする。
「あー。こういうとき人間ってほんっと不便ねぇ」
「そうだな……。俺も、治りかたは割と人並みだし、本体直せばいいってもんじゃないのが少し面倒かもしれん。猟兵になるまでは人と同じなのが普通だとは思ってたが、言われてみると人とは不便だな」
「本当ねぇ。なにもこんなところまで、人間のまねをしなくてもいいのにね」
「そうだな。それは……」
 頷くべきか。いや、この痛みも人間の良さがあると主張するべきかは若干悩む。そんな瑞樹にティオレンシアはおかしそうに笑った。
「はい、おっしまーい。ゆっくりしてていいって話だし、お団子とお酒でお月見してようかしらねぇ」
「ありがとう。あとは確か、月の光を浴びていればいいんだな」
 薬を塗って、包帯を巻いて。そして月に当たるだけとは何ともお手軽だと、瑞樹は目を細める。寝ちゃいそう。なんてティオレンシアも頷いた。
「本当は作る方にも興味があるが、手当てが終わった後じゃ意味ないだろうなぁ」
 そんな時、ふと瑞樹がそんなことを口にした。
「作る方?」
「そう、薬の話。一晩で治るっていうならちょっと持ち帰りたい感じはある」
「ああ」
 なるほど? とティオレンシアが声を上げるので、瑞樹は薬に思いをはせる。薬を渡された時に、シロウサギに聞いた。この薬は、今のこの月の光でなければそこまで劇的な効果は得られないであろう。けれども、普通に傷薬として、優秀ですよ、と。
 要するに、はらわたが転び出るような傷も一晩で治る、というほどの効果はないが、普通に戦場に持っていく分には、有効に使えるかもしれない。……なんて。
 頭の中で瑞樹は考えながら、製法、探しに行こうかな。なんて声に出した。それを聞いてティオレンシアが、
「…そう言えば。表の世界から製法とか存在とかが「失われた」お酒も、この世界ならあるんじゃないかしらぁ? ちょっと探してみようかしらねぇ」
 ばっ。と顔を上げた。
「ないとは言い切れないわよ。一族のみに伝わる製法の酒とか、そういうの!」
「……なるほど」
 それは、同じことを薬にも言えるわけで。
「なるほど、それもいいな」
 もう一回、かみしめるように瑞樹がいった。
「でょう!?」
 と、ティオレンシアも言って、
「そうと決まれば……行くわよぉ」
 たと上がる。いざ征かん、酒探しの旅へ。その様子に、瑞樹も笑って腰を上げた。
 これだけ妖怪がいるのだから。きっと二人の探しているものもどこかに、あるだろう。
 傷のことなど置いてけぼりで、歩き出す二人。
 どうやら、傷みは好奇心には勝てないらしい。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ベイメリア・ミハイロフ
※リュカさまとお会いできたら嬉しゅうございます
…わたくし、お叱りを受けてしまいますでしょうか?

ううっ…体中が痛うございます…
しかしながら、他の皆さまも
やはり痛みに悶えていらっしゃる事でございましょう
自身が疲弊している今こそ
一度に多くの方をお癒し申し上げる事が可能かと
【生まれながらの光】を使用し
早く、早く皆さまを…!

気を失ったとしたならば、不覚をとった事を恥じ
再度、皆さまをお癒しに回りとうございます
痛くない、という事が
これほど恐ろしい事とは…
想像しておりました以上でございました

妖怪の皆さまや熊の先生、シロウサギさまがご無事で良うございました
ご入用であればお薬の調達・お作りをお手伝い申し上げます



「そうですね。大変なことでございます。今治しますから、お待ちくださいね……!」
 痛いよう。と子供のように鳴く小さな狸の妖怪も傷だらけであった。重そうな症状の人間には聖なる光を当ててベイメリアはその傷を癒し、軽傷ならば薬を塗りながら、ベイメリアは丘を駆け巡っていた。
「お姉ちゃん、こっちもー!」
「はい、ただいま向かわせていただきます!」
 遠くから呼ぶ声が聞こえて、ベイメリアは声を上げる。聖なる光は治りが早いから、ベイメリアもたいそう忙しかった。
「君、あまり甘やかしてはいけないよ」
「うぅ、すみません。しかしながら、皆さまもやはり痛みに悶えていらっしゃる事でございましょう。と思うと……!」
 診療を行っている熊の先生が声をかける。すぐに直さないのも薬のひとつだから、という言葉は理解できるのだが、自分が直す力を持っているのに治さないわけにはいかなくて。
「ですが、妖怪の皆さまや熊の先生、シロウサギさまがご無事で良うございました」
「はいっ、皆さんのおかげです!」
 こんな風にシロウサギにも言われれば、なんだか嬉しくなってしまう。
「……あら、シロウサギさま。背中の壺が」
「ええ? あ、ほんとだ。薬が減ってしまっているね」
「ご入用であればお薬の調達・お作りをお手伝を……」
「本当? それじゃあ手分けして……」
 ベイメリアの申し出にシロウサギが嬉しそうに笑うので、ベイメリアも嬉しくなって立ち上がる。……その時、
 ぐらりと、彼女の視界が揺れた。

 ……。
 …………。
「……はっ」
 目を開けると、美しい月がベイメリアを見下ろしていた。
「目が覚めた?」
 同時に静かな声がする。なんだろう、この感じ……、
「動かないで、いま」
「は……っ。うぅぅ!?」
 身じろぎした瞬間に激痛が走って、ベイメリアは声にならない悲鳴を上げた。
「ううっ……体中が痛うございます……」
「まあ、そうなると思うよ」
「おまけに、疲労が蓄積して不覚を取ってしまうなど……!」
「まあ、あの光は疲れるらしいからね」
「うぅ……」
 淡々とした物言いに、ベイメリアは一つ、瞬きをする。……それでようやく、理解した。
 リュカがいる。あと、膝枕だった。
「!? つぅぅ!」
「ほら、また動くから」
 もうちょっと大人しくしてなさい、とリュカは言う。見ればあちこちベイメリアの身体には手当のあとがあって、
「……わたくし、お叱りを受けてしまいますでしょうか?」
 思わずそう尋ねた。それに、「大人しくしてたらそんなに怒らないよ」という返事。割と返事がそっけないときは、機嫌が悪いときだということをベイメリアも知っている。これはずいぶん心配をかけたらしい。
「あ、でも、皆さまをお癒しに回りとうございます」
「寝てなさい」
 怒られた。即答だった。なんとっ。と起き上がろうとすると、全身に激痛が走ってベイメリアはうめく。
「痛くない、という事が、これほど恐ろしい事とは……。想像しておりました以上でございました」
「じゃあ、今度からは気を付けて」
「申し訳ございませんが、全く自信がありません……!」
 ベイメリアの正直な言葉に、呆れたようにリュカは首を傾げる。そのままぺちんと額を軽くたたいた、
「……うぅ」
 痛かった。
「いうと思ったけど。今だけは反省して」
「……はい。ご心配をおかけしてしまったようで……」
 しゅんとするベイメリアに、リュカはほんの少し笑う。もうしばらくの間、痛みが引くくらいまでは……。この問答も、続きそうだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

草野・千秋
月の光は綺麗ですが、でも光を見ていても心が癒えるだけです
おとぎ話の国みたいですね、カクリヨ……うっ
(痛みに顔を顰め)
大丈夫ですよ、僕は
それより皆さんの傷を癒やしませんと
(最後まで見届けてこそ真の「命の恩人」ですからね)
霊薬をもらってきました、これを皆さんの傷に塗り込んだら
UCで傷を癒やします
UCの疲労はなんとか激痛耐性で耐えようと

(胴体の傷がじくじく痛む)
僕は大丈夫なんですよ、特に腕と脚、これは鋼鉄のものですから
ここに住むみなさんには明日があります
傷が癒えて夜が明けたら元通りになって平和な日々が過ごせるのです
この世界もいつかは戦乱が訪れるでしょう
どうかお元気で



 千秋は顔を上げる。月が瞬いているのを見て、一つ息をついた。
「月の光は綺麗ですが、でも光を見ていても心が癒えるだけです。おとぎ話の国みたいですね、カクリヨ……うっ」
 とにかく起き上がろうと、実を起こしたところで痛みが走った。息を吸い込むと同時に刺すような痛みが巡り、思わず顔をしかめる。
「大丈夫?」
 すぐ近くにいた妖怪が声をかける。その心配そうな声音に千秋は微笑んだ、
「大丈夫ですよ、僕は。それより皆さんの傷を癒やしませんと」
 そういいながらも、千秋は立ち上がった。幸いなことに、生身ではない箇所は多少壊れていても痛みがないので無茶が効く。
(最後まで見届けてこそ真の「命の恩人」ですからね)
 そう心の中で思いながらも、千秋は簡易診療所に急いだ。
 診療所ではクマとシロウサギがせわしなく働いている。あたりにはまだけが人があふれていて、落ち着くまで時間がかかりそうだった。
 千秋はひとまず、薬をもらう。診療所から離れた場所に向かえば、自分で歩けない妖怪たちが転がっていた。彼らが治療を受けられるには、まだもう少し時間がかかるだろう。
 そう判断して、千秋はそちらに足を向ける。草原に転がる彼らに、薬を塗りこんでいった。
「この痛みを取り除けるなら、僕は……」
 同時にオーラがその妖怪たちを包み込む。少女のような猫のような姿をした妖怪の傷がふさがっていく。これだときっと、薬だけの治療と比べて傷だけでなく傷みも取れていくはずだ。
「あ……。ありがとう」
「いえいえ」
 疲労をこらえながらも、千秋は微笑んだ。
「お兄ちゃんは、大丈夫……?」
「僕は大丈夫なんですよ、特に腕と脚、これは鋼鉄のものですから」
 少女の言葉に千秋は答える。そうして次へ、次へと。力を使って癒して歩いた。
 言葉通り、手足は鋼鉄だ。……けれども生身のところもあるから。
「……」
 胴体の傷が、じくじくと痛むけれども。
(……ここに住むみなさんには明日があります)
「痛くない……!ありがとう。助かったー」
 そんな声を聴くと、自分の痛みなんか気にならないくらい、千秋はうれしかった。
(傷が癒えて夜が明けたら元通りになって平和な日々が過ごせるのです……)
 だから千秋は、出来るだけその丘を歩いた。苦しむ人を、助けるために。
(この世界もいつかは戦乱が訪れるでしょう……)
「どうかお元気で」
 ぽつりと。そのにぎやかな光景を。千秋は小さくつぶやいて、いつまでも見つめていた……。

大成功 🔵​🔵​🔵​

五条・巴
眼前の敵の消滅を確認して、また月に進もうと
一歩
進むより先に崩れ落ちた

痛い
いたい、あつい

腕が、脚が燃えるように、じくじくと
嫌な汗がにじむ
声にならない、うめき声が僕の口から洩れる

倒れこんだまま、それでも月を見上げて

痛い
届かない

視界が滲む
月の光は変わらず僕らを照らす

月は
月は痛い

だれか、だれか。
たすけてほしい。
でもこの姿、見せられない
見せたくない。

受け取った薬を使って、
もう少し、体調を整えたら帰ろう。
腕で顔を覆い月から隠れる

いまは、いまだけは――

ああ、もう、だから痛いのは嫌なんだ



 目の前から、敵の姿が消滅して。
 そうして、先ほどまでの熱気が嘘のように消え去っていって。
 月から吹く優しい風が、丘の何もかもを拭い去るように駆け抜けて行って。
 そうして、巴の周囲はまた、静かになった。
「……」
 だったら。……ああ、だったら。
 一歩、巴は踏み出そうとする。
 だったら、まだ、進まないと。
 そう、言葉に出しかけて……そして言葉にならずに崩れ落ちた。
「……」
 痛い。
 いたい、あつい。
 口を開こうとして肺が痛んだ。言葉など出るはずがなかった。
 何がどうなっているのかと、首を巡らせようとしただけで目の前が真っ白になった。
 腕が、脚が燃えるように、じくじくと熱を持ち。うんで腐っていくかのような痛みが叩きつけられる。
 全身に嫌な汗がにじんで、思わずうめき声のようなものを漏らした。まったく、声にすらなっていなかったけれど。
「あ……」
 辛うじて、顔だけを上げる。
「ああ……」
 月が見おろしている。ただ、静かに。
 手を差し伸べるでもなく、拒絶するでもなく。ただ、何事もなかったかのように微笑む月を。巴は見上げることしかできなくて。
「痛……、い…………」
 体の痛みなんかじゃない。
 届かない。
 ただ、届かない。
 その思い。その苦しみ。
 痛みで視界が滲む。叫び出しそうになるのを堪える。どれだけ願っても、声を上げても。月は何にも。……そう、何も。
(月は……。月は痛い…………)
 くるしい。かなしい。そして、
(だれか、だれか。誰か、どうか……。たすけてほしい。だれか、たすけ……)
 でもこの姿、見せられない。見せたくない。
 知っている人なんて、猟兵なんてもってのほかだ。
 だから……、
「あの、大丈夫ですか?」
 白い兎がほたほたと歩いてきて、巴の目の前で、止まった。
 月が遮られる。兎が巴を覗き込んでいた。
「手当、いりますか?」
「い……ら、ない……」
 言葉を振り絞って、ようやく巴は答えた。
「でも……」
「薬、くれたら。自分で……」
 なんとかするよ。と。最後までうまく言えなかった。その声に兎はひげをそよがせて、わかりました。と、薬を置いて去っていく。お気を付けて、という言葉に、残った演技力を振り絞って、何でもないことのようにひらひら手を振り返した。
「……」
 そうしてまた、視界に月が戻った。……けど。
(……もう少し、体調を整えたら帰ろう)
 腕で顔を覆う。それだけで滲むような痛みに息をつきながらも、顔を月から隠す。
(いまは、いまだけは――)
 あれだけ焦がれた月なのに、見つめるのが、辛い。
「ああ、もう、だから痛いのは嫌なんだ」
 呟きは丘の中。月から吹いた風に溶けて行って。
 月は変わらず優しく、巴の身を包み続けた……。

大成功 🔵​🔵​🔵​

城島・冬青
【橙翠】

い゛た゛い゛い゛い゛
やばい
もうまぢむり
アヤネさん介錯ぷりーず
うそですごめんなさい
あれ?なんかガチなの出てきた…
その注射器なんですか?
うわ本当にガチだ!
手慣れてますけど医学の心得でもあるんですか?

大丈夫です
アヤネさんは自分に使って下さい
結構怪我してたじゃないですか
無理しないで下さい
本当に大丈夫ですってば
別に注射が怖いわけではありませんって
誤解しないでくd、いったーい!
動いてたら痛みががが…
はぁもう大人しくします
今の私はまな板の上の鯉と同じ…
煮るなり焼くなり好きにしてください!(大の字)

あの…好きにしろって
言いましたけど
ずるいです(真っ赤)
あ、注射はもういいです
アヤネさんも安静にして下さい


アヤネ・ラグランジェ
【橙翠】
めちゃくちゃ痛いけど動けるうちに処置しないと
荷物から救急キットを取り出す
よかったソヨゴは冗談を言うくらいの余裕はあるのネ
はいはい飲み薬は後で
アンプルから薬を注射器に注入
これ?モルヒネだよ
ソヨゴ腕出して
心得?ないよ
マニュアルを読んで覚えたから大丈夫
はいはいソヨゴに注射したら自分にもするから
安心して
逃げないで!
アルコール消毒してぶすっと注射
痛がらない
すぐ良くなるから

痛みを堪えながら自分にも注射
ソヨゴはまだ寝てて
傷口消毒して化膿しないように包帯巻くから
まったくもう
僕が説明する前に突っ込むから
ん?もう一本注射しようか?
ふふ冗談だよ
じゃあ痛み止めの代わりに
頬にキス
無理はしないで
君が痛いと僕も痛い



 月から風が吹いた、その瞬間。
 ぐぬぬ、とアヤネは手を伸ばした。草原に座り込んで最小限の動作で荷物から救急キットを取り出す。
 痛みが戻ってきた。ならば、やることは一つだ。
 めちゃくちゃ痛いけど動けるうちに処置しないと……、
 地の底から呻くような声が聞こえて、アヤネは何とか、体を起こした。
 草原の上に転がり、うずくまっている冬青のほうに目をやる。
「い゛た゛い゛い゛い゛。やばいもうまぢむり。ほんとむり。アヤネさん介錯ぷりーず」
 ごろごろごろごろごろごろごろ。
 やたら元気に転がりまくる冬青を、アヤネはにっこり笑って見下ろす。……とてもにっこりである。その眼が、怖い。
「……」
「うそですごめんなさい」
 ぴた、と、転がるのをやめてうぅ、と冬青は小さく呻く。こんなに元気だが、元気と、痛くない、は別である。もう涙目になっている冬青に、アヤネは苦笑した。
「よかったソヨゴは冗談を言うくらいの余裕はあるのネ」
 まあ、元気なのは何よりです。と、言わんばかりにアヤネは痛む身体を引きずって身を起こす。それからカバンから取り出したるは注射器である。アンプルから薬を注射器に注入していると、
「あれ? なんかガチなの出てきた……。その注射器なんですか?」
 冬青がごろごろしながら省エネモードで声を上げる。うん、と、アヤネは頷いて、
「これ? モルヒネだよ。ソヨゴ腕出して」
「!?」
 まったくこともなげに言ったので、冬青は目を丸くした。
「うわ本当にガチだ! 手慣れてますけど医学の心得でもあるんですか?」
 外国帰りのアヤネさんだから、何かしらあるのかもしれない。なんて、何気なく聞いてしまったが運の尽き。
「心得? ないよ」
「!?」
 当たり前のことのように言いきったアヤネに、冬青は目を見開いた。
「あ……え? 心得なしで注射!? え!?」
「マニュアルを読んで覚えたから大丈夫大丈夫」
「……!」
 さあ、と、冬青の顔から血の気が引いた。
「大丈夫です。私は飲み薬で!! ですのでどうぞお気になさらずアヤネさんからうっひゃああああああ!!」
 逃げようと転がろうとして、全身に痛みが走る。思わず硬直してうずくまる冬青の手を、ふふ、と笑いながらアヤネは取った。
「はいはい飲み薬は後で。ね?」
「う、うう……。アヤネさんは自分に使って下さい。結構怪我してたじゃないですか。無理しないで下さい」
 手を取られてまな板の上の鯉みたいな状態になったが、なおもぽつりぽつりと言う冬青に、
「はいはいソヨゴに注射したら自分にもするから、安心して」
 ダメだった。にべもなかった。容赦なかった。
「本当に大丈夫ですってば。別に注射が怖いわけではありませんって誤解しないでくだ……、いったーい!」
「もうっ。逃げないで!」
 手を掴まれたままずざざざざ、と後ずさろうとする冬青。その瞬間にまた全身に痛みが走る冬青。そしてそのまま芋虫がごとくうずくまる冬青。
「動いてたら痛みががが……」
 もう泣きたい。否、涙目である。
「はぁ……。もう大人しくします。今の私はまな板の上の鯉と同じ……。煮るなり焼くなり好きにしてください!」
 そしてついに大の字になってその場に寝転がる冬青。
 なんだか一人で、たいそう賑やかである。
「うん、わかった」
 そしてアヤネも慣れたもので、あっさりそう言ってアルコール消毒してぶすっと注射する。
「うぇぇぇぇぇぇ」
「痛がらない。すぐ良くなるから」
 若干子供に語り掛けるような口調になってしまった。そのまま流れるように、痛みを堪えながらもアヤネは自分に注射を打つ。
「ソヨゴはまだ寝てて。傷口消毒して化膿しないように包帯巻くから……って」
「うぅ……。もうダメ……。おうちに帰りたい……」
「まったくもう。僕が説明する前に突っ込むから」
「だってー」
 もにょもにょ。口の中で何か言う冬青に、アヤネは笑顔を向けた。
「ん? もう一本注射しようか?」
「ひえ!?」
 亀のように頭を抱える冬青に、アヤネは笑う。
「ふふ冗談だよ。……じゃあ痛み止めの代わりに。ほら、顔を出してソヨゴ」
 大丈夫だから。って、笑いながら言うアヤネに、冬青が恐る恐る顔を出した……。ところで、
「無理はしないで。君が痛いと僕も痛い」
 ちゅ、と、アヤネは冬青の頬にキスをして。
「……」
 真っ赤になって、冬青は睨むようにアヤネを見つめた。
「あの……。好きにしろって言いましたけど……ずるいです」
「そう?」
 素知らぬ顔をして笑うアヤネ。それで冬青ははっ、と、
「あ、注射はもういいです」
 しっかりとお断りしてから、「アヤネさんも安静にして下さい」と。赤い顔のまま、消えそうな声で言うので。
 アヤネもまた、嬉しそうに笑って冬青の頬を撫でた……。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

オリオ・イェラキ
ああ、痛みますわ。それに熱くて焦げてそう
でも元々黒いから、あまり目立たないかしら
なんて、ふふ。…リュカさま
手当、お手伝いして欲しいの
良いかしら?

あら、わたくし無茶はしておりませんわ
狩れると思ったから斬ったのみ
でも確かに痛覚が無いのは普段と勝手が違いましたわ
今日の傷はその反省点ですわね
楽しそうに届く所の傷は塗る
リュカさま、よろしければ
わたくしの翼を診て頂けないかしら
火傷や傷を治さなくては、飛べなくなってしまいますから

勿論この手も。…剣が握れなくなるのは困りますから
ちゃんと、大事にしますわ
きっちり治してまた冒険に征きましょうね
次はリュカさまも共に

痛みが引けばクマさまの手伝いを
月見団子も楽しみですわ



「ああ、痛みますわ。それに熱くて焦げてそう」
 オリオはほう、と、息をついて、
「でも元々黒いから、あまり目立たないかしら」
 なんて言いながらちらりと振り返った。
「……」
「なんて、ふふ。……リュカさま」
「待って、今どう怒ろうか考えてたとこ」
「まあ」
 オリオが何か重ねて言う前にそれを制して、リュカは頭を抱える。困りましたね、とでもいう風に、オリオは血に染まった手を己の頬に当てた。
「では、わたくしからさきに。手当、お手伝いして欲しいの。良いかしら?」
 何が、では、なんだろう。何が。若干悩みながらも、わかった。とリュカはうなずいた。鞄からもらったばかりの薬と包帯を取り出していく。
「どうやったらこんなことになるの。ちょっと張り切りすぎじゃない?」
「あら、わたくし無茶はしておりませんわ。狩れると思ったから斬ったのみ」
 心外な、とばかりに若干頬を膨らませてみせるオリオ。
「狩っても食えないものをそんなに熱心に狩る必要もないでしょう」
「そんなことはありませんわ。食える食えないだけがすべてではありませんもの。例えば……」
「楽しいか、楽しくないか?」
「そう、それでございます」
 大事です。なんて、からかうように笑うオリオに、リュカはため息をついた。
「お姉さんは、しょうがないな……」
 止められる気がしない、というリュカに、オリオはくすくすと笑う。
「でも確かに痛覚が無いのは普段と勝手が違いましたわ。今日の傷はその反省点ですわね。そういうわけで、手早く済ませてしまいましょう」
 何なら鼻歌でも歌いそうな口調で、オリオは手の届く範囲に薬を塗っていく。腕に、足に、ずいぶんと暴れましたわね。なんて何処か他人事みたいに言って。
「リュカさま、よろしければ、わたくしの翼を診て頂けないかしら」
「了解。翼を見るのは、そういえば初めてだな。人間の体のほうは、殺すためにも、生きるためにも、いろいろ勉強したけれど」
 付け根焼けてるよ。なんて言われれば、まあ。と目を丸くする。
「大変。飛べなくなってしまいますわ。治してくださいまし」
「はいはい。……お姉さんは、痛くないの」
 ぐりぐりぐり、と若干乱暴気味に薬を塗ったくられるのは若干やっぱりお怒りなのかしら。なんてオリオは内心で微笑みながらも、
「痛いのは……痛いと思いますわ。でも、満足いく狩りができたので、私は満足です」
「あ……うん」
 自分で聞いておいて、お姉さんはそういうひとだよねって顔を、リュカはしていた。
「もちろん、怪我を歓迎しているわけではありませんのよ。勿論この手も。……剣が握れなくなるのは困りますから、ちゃんと、大事にしますわ。ただ、満足いく戦いをするためには、手を抜けませんもの」
 全力で戦って、そして勝つ。それが楽しいのだとオリオは笑う。
「……何気に、本当に戦闘民族だよね、お姉さんは」
「ふふ、……きっちり治してまた冒険に征きましょうね。……次はリュカさまも共に」
「……お手柔らかに、お願いします。俺は、安全第一なんで」
「あら? でもお好きでしょう? 狩り」
「お姉さんと一緒だと、なんだか引っ張られるだけです」
 お姉さんが楽しそうだから、ついついテンションが上がってしまうの。なんて、翼の骨に沿うように、丁寧に薬を塗りながら言う。まあ。なんて言いながらも、オリオはそのまま肩の傷の処置もして、
「はい、これでおしまいかしら」
「ちょっと待って。背中に……はい、終わったよ」
 おしまい。と、丁寧にガーゼを当てれば、ふう、とオリオは一息ついた。
「ありがとうございます。わたくしも、痛みが引けばクマさまの手伝いをさせていただきますね」
「いっぱい戦ったんだから、ゆっくりしてるだけでいいのに」
 鞄に道具を片付けながら、リュカは言う。ふふ、とオリオは楽しげに笑った。
「だって、お月見はみんな終わってからでないと落ち着きませんでしょう? 月見団子も楽しみですわ」
「なるほど」
 それはそうかもしれない、なんてリュカも笑って。
「まあ、お姉さんが生きててよかったよ。万が一死なれでもしたら、つまらないもの」
「あら、それは……ご丁寧にありがとうございますわ」
 リュカの可愛げのない言い方に、オリオは微笑んで。
 それから顔を見合わせて、またほんの少し、笑った。 

大成功 🔵​🔵​🔵​

エドガー・ブライトマン
ヨーコ君/f12822

ああ~、すっごく痛い
左腕以外は耐えられるけど、左腕が最悪だ
泥みたいな変な血も出てる

痛がってる姿は人に見せたくないから
薬を持って、月が見える物陰へ向かったところで
あっ、ヨーコ君…いたんだ(作り笑い)

ひどい怪我してる。ちゃんと薬はある?
キミってば新しい傷ばかり作っているんだから…
躊躇っていられない瞬間があるのは、解るけど

女性なんだから体は大事にした方がいいよ
私はホラ、王子だし強く出来てるから痛たた

一瞬躊躇って、手袋のない左手を差し出す
茨の痣と傷は元からあるもの
…この左手は私の秘密なんだ。キミも内緒だよ

ヨーコ君もホラ、じっとしてて
頬にかわいい絆創膏を貼ってあげよう
ウサギ付きだよ


花剣・耀子
エドガーくん/f21503

打ち身に切り傷に火傷に疲労。
表情にも声にも然程出ないけれど、痛いものはめっちゃめちゃに痛いのよ。痛い。

あら、エドガーくん。奇遇ね。
……珍しい顔をしているわ。

大丈夫よ、貰ったわ。
……、いのちを落とすよりは安いもの。
やるべきことを躊躇って溢してしまうよりは、上等よ。

そうは言いつつ、すこしばつの悪い気持ち。

きみだって、そうなのではないの。
王子様も体はひとつしかないのだから、大事にできるときはしないとだめよ。
ほら、手を出して。包帯を巻いてあげましょう。

エドガーくんも、案外秘密が多いのね。
内緒事は包んで隠してしまいましょう。
痛いの痛いのとんでゆけ、なんて。

む。
……ありがとう。



「……」
 耀子は無表情で、一度、己の姿を顧みた。
 ……打ち身に切り傷に火傷に疲労。
 深呼吸する。深呼吸して己の様子を整える。ここで叫んだりしたらダメだ。きっと衝撃で痛みが増す。ついでに動いてもだめだ。きっと動くたびに痛みは増す。
 表情にも声にも出してはいけない。もとより顔には出ないたちだけれども、割と切実にそうしたら痛いに決まってる。……が、
(それでも痛いものはめっちゃめちゃに痛いのよ。痛い。冗談じゃないわ。……冗談じゃないのよね。とにかく痛いのよ。この)
 ええい、とばかりに無表情で己に気合を入れるようこ。とにかくもう一歩も歩きたくない……と、思っていたのに。
 妖怪たちの間を縫うようにして、ふらふらと遠ざかっていく背中を見つけて。
「……」
 思わず、耀子はその姿を追いかけた。

 エドガーは一人、歩いていた。
(ああ~、すっごく痛い。なんだろう、もうこれ)
 左腕以外は耐えられるけど、左腕が最悪だ。ここまで左腕をひどくしたことがあっただろうか。泥みたいな変な血が出ていて、どうにもそれを見ているだけでくらくらする。
 とはいえ痛がってる姿は人に見せたくなかった。いつでも王子さまは涼しげに笑っているものだ。無理しているわけではなく、それが当たり前だと思っているので、エドガーは自然と人のいない方、いない方へと向かっていった。
 かろうじて取り繕った笑顔で、薬を貰えてきただけでも良好だろう。さて、エドガーは人が来なさそうな月の見えるもの影へと向かって、
「あら、エドガーくん。奇遇ね」
 その言葉に、吐き出しかけていた息をつめた。そうして肩越しに振り返った。
「あっ、ヨーコ君……いたんだ」
 まったく気づかなかったよ、と、作り笑いを浮かべるエドガーに、耀子は何とも言えない顔をした。思っていることを口に出すべきか、出さないべきか。そんなことを迷っているような間の後で、
「……珍しい顔をしているわ」
 と、それだけ言った。エドガーは肩をすくめる。
「そうかな。結構激しい戦いだったからね」
 と、次には先ほどよりはもうちょっとましな笑みを浮かべる。それから耀子が何か言う前に、
「ひどい怪我してる。ちゃんと薬はある?」
 そういって、さりげなく……本当は堪えきれなかったのだが……草原の上に座り込んだ。耀子が同じように、その隣に腰を下ろす。
「大丈夫よ、貰ったわ。……ほら」
 エドガーの言葉に、心外そうに耀子が薬を示す。何処か得意げな耀子にエドガーは思わず笑う。
「少し余分に貰っておいたらどうだい。キミってば新しい傷ばかり作っているんだから……」
 躊躇っていられない瞬間があるのは、解るけど。と、面白げに尋ねるエドガーに、つん、と耀子は横を向く。
「……、いのちを落とすよりは安いもの。やるべきことを躊躇って溢してしまうよりは、上等よ」
 言ってみたけれども、そうは言いつつも、すこしばつの悪い気持ちがある。今回ばかりは、やりすぎたというのは言われるまでもなく自覚しているのだ。エドガーも、耀子の気持ちがわかっているからあえて強くは言わない。
「女性なんだから体は大事にした方がいいよ」
 なんて、優しく言う。そして問うように耀子がエドガーを見る。
「……きみだって、そうなのではないの」
 至極当然な主張に、そうだね、とエドガーは片手を挙げた。
「私はホラ、王子だし強く出来てるから痛たた」
 大丈夫、て言おうとしたら、手をあげたら痛かった。いつもならここはカッコよく決めるところなのになあ。と笑うエドガーに耀子はため息をつく。
「……王子様も体はひとつしかないのだから、大事にできるときはしないとだめよ」
 ありきたりなお説教だ、と、耀子も思う。思ったから、
「ほら、手を出して。包帯を巻いてあげましょう」
 痛みを堪えて、耀子ははい、と手を差し出した。
「……」
「……」
「…………」
 じ、と耀子がエドガーを見ている。
 それで。しばしの沈黙ののち。エドガーは躊躇いながらも、手袋のない左手を差し出した。
「……この左手は私の秘密なんだ。キミも内緒だよ」
 その口調はいつものように冗談めかして。
 けれどもどこか真剣に。
 茨の痣と傷は元からあるものということを示す。その言葉に、耀子も無表情ながら一呼吸、置いて、
「……エドガーくんも、案外秘密が多いのね」
 それだけ、いうにとどめた。あえてそれ以上は、何も言わなかった。
 薬を塗って、包帯を巻く。
「なら、内緒事は包んで隠してしまいましょう」
 包帯の必要のないところまで、しっかりと念入りに。最後に、
「痛いの痛いのとんでゆけ」
 色のない口調のままでそういえば、エドガーは瞬きをする。その瞬きに、耀子はそっとそらして、「……なんて」と、小さく呟いた。その様子に、エドガーは思わず笑った。
「じゃあ、次はヨーコ君の番だね」
「え」
「ヨーコ君もホラ、じっとしてて。頬にかわいい絆創膏を貼ってあげよう」
「む」
 ぺたん。と。貼られた絆創膏に、「ウサギ付きだよ」、と、エドガーは笑った。それから、ほかのところも手当しなきゃ。なんて言うので、それで、
「……」
 そういえばなんだかいつの間にか、痛みが和らいでいたことを知った。
「……」
 どうしてだろう。エドガーの手当てに専念していたからだろうか。……それとも、
「……」
 頬に触れる。……その頬の絆創膏が痛みを吸い取ったなんて。
 そんな、ありえもしない考えが一瞬だけ頭を過ぎ去って。 
「……ありがとう」
 笑顔のエドガーに、ぽそりと耀子は言った。その言葉に、エドガーは笑ったまま頷く。……それは、先ほどとは違う。いつもの彼の笑顔であった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

乱獅子・梓
【不死蝶】
あーーークソいてぇ!!
こうなることが分かっていたから
気を付けていたつもりなのに
いつの間にこんなに怪我してたんだ俺は…!

俺より明らかに綾の方が傷が多いはずなのに
何でそんなにケロッとしているんだお前は…
こんな痛みが普通と思えるような
戦い方をしてきただなんて
呆れて溜め息をついてしまうと同時に
いつも一緒にいる身として何だか申し訳なくも思う

ああ、宜しく頼……いだだだだ!!?
傷口に塩を塗られたらこんな感じだろうかいう激痛
おまっ、もう少し優しく塗れ!
何だか楽しんでないか!?
痛いの大好きなドMということは知っていたが
Sっ気まであったのかこいつ??

ついでに焔にもそれ塗ってやってくれ
こら!逃げるな焔!


灰神楽・綾
【不死蝶】
梓ー、薬貰ってきたよー
わぁ悶えてる悶えてる
なかなかお目にかかれない梓の様子に
けらけらと笑いつつ

いやぁもちろん痛いよ?
でも戦っていればこれくらいの怪我は日常茶飯事だしねぇ
流石に時間差で一気に痛みが
押し寄せてきた時はビックリしたけどね

はーい、それじゃあ薬塗るから患部見せて
えいっ
手にたっぷり付けた薬を
容赦なく梓の傷口にぐりぐりぐり
ダメだよ梓、そんなに叫んで暴れたら
余計に傷口が開いちゃうよ?
良薬口に苦しって言うし
痛い薬もよく効くってことだよ、知らないけど
ほら男の子でしょー我慢我慢
終始イイ笑顔で

あはは、さっきの梓の悲鳴を聞いて
怖気づいちゃったのかもね、焔
大丈夫だよー?こわくないよー?



「あーーークソいてぇ!!」
 ごろごろごろごろごろごろごろごろごろ!!
「こうなることが分かっていたから、気を付けていたつもりなのに、いつの間にこんなに怪我してたんだ俺は……!」
 がつんっ!
 丘に横になり転がっていた梓は、岩にぶち当たって声にならない悲鳴を上げてうずくまった。
「梓ー、薬貰ってきたよー」
 そこにちょうど、薬をもらってきていた綾が返ってくる。間の悪いことに丸まって涙目になっている梓に、綾は瞬きをした。
「わぁ悶えてる悶えてる」
 まるで珍獣でも見るような扱いである。けらけら笑っている綾を、梓は涙目でにらみつける。因みに傷があるというのにごろごろして岩にぶち当たってさらに痛い目に遭ったのを、梓は見ていたが見なかった振りをした。
「くっそ~~~~~。俺より明らかに綾の方が傷が多いはずなのに、何でそんなにケロッとしているんだお前は……」
 だがそんな綾の生暖かい目には気付かずに、梓は苦しげな声を上げている。その言葉に、うーん。と、綾のほうも少し考えこんで、
「いやぁもちろん痛いよ? でも戦っていればこれくらいの怪我は日常茶飯事だしねぇ。流石に時間差で一気に痛みが押し寄せてきた時はビックリしたけど、それで動けないってなったら、死ぬのは自分だからね」
 痛いは、大事だ。だが、痛みで動けなくなれば撤退もままならない。
 そんなことを平然と言う綾に、う~~~。と、梓はうめくように言って、
(こんな痛みが普通と思えるような戦い方をしてきただなんて……)
 内心、ため息をついた。ため息をつくと同時になんか全肺が痛んだような気になる。なにこれ。息をしても死ぬ。息をしなくても死ぬ。呆れると同時にいつも一緒にいる身として何だか申し訳なくも思う。そういう戦い方をさせていることに。
「はーい、それじゃあ薬塗るから患部見せて」
「ああ、宜しく頼……」
 そしてそんな梓の葛藤を全く気が付いているのかいないのか。綾はさっさとうずくまる梓をぺいっ。と仰向けにさせる。表紙に梓の体に激痛が走るが、綾は全く意に介さずに、
「ほらほらえいっ」
 手にたっぷり付けた薬を容赦なく梓の傷口にぐりぐりぐりと練りこんでいった。
「いだだだだ!!?」
 一呼吸、置いて。梓から絶叫が発せられた。
「!? いだ! ちょ! おま! なんで! だだだだだだだだだ!!」
「ダメだよ梓、そんなに叫んで暴れたら。余計に傷口が開いちゃうよ? ほら、こことか、こことか」
「いぐ!? 触るな、触るな……っ!!」
「やだなあ。触らないと濡れないでしょー? 良薬口に苦しって言うし痛い薬もよく効くってことだよ、知らないけど」
「知らないけどぉ!?」
 最後にいわれた言葉に、梓は愕然とした表情を浮かべる。
「ちょ、ほんと、それ薬なんだろうな。塩とかじゃないだろうな!」
「失礼な」
「ぎゃー!! おまっ、もう少し優しく塗れ!」
「ほら男の子でしょー我慢我慢」
 終始イイ笑顔で傷口に塩……もとい。薬を念入りに塗りこんでいく綾。そんなことを言いながらも割と的確にその後ガーゼを当てて止めたり、包帯を巻いたりと手際がいい。
「何だか楽しんでないか!?」
「えー。どうかなあ」
「!!(痛いの大好きなドMということは知っていたが……Sっ気まであったのかこいつ??)」
 出そうになった言葉を、かろうじて綾は飲みこむ。これは、口に出してはいけない……! 口に出した瞬間、どう転んでも自分にとって良くない未来しか見えてこないからである。聞きたい。だが、これは聞いて引けない。なんて、梓が痛みで顔を青くしたり紅くしたりしている間に、処置は完了する。
「ほら、おしまい。お疲れ様」
「……そっちも、手当」
「俺? 俺は飲み薬にしたから、大丈夫だよ」
 そのうち治るって、と、始終いい笑顔を崩さぬまま言い切った綾。あのくそまずそうなの飲んだのか……と、ここに来る途中に見かけた、その抉るような臭さを醸し出していた飲み薬を思い出して梓の顔はさらに引き攣るのであった。
「そ、そうか。飲んだならいいんだ。……後、ついでに焔にもそれ塗ってやってくれ」
 それから。はっと思い出したように言う梓。その声を聞いた瞬間……、
「こら! 逃げるな焔!」
 ばさばさばさ!! と逃げ出そうとする焔に、梓が慌てて声を上げる。
「あはは、さっきの梓の悲鳴を聞いて、怖気づいちゃったのかもね、焔」
 そして徐に立ち上がる綾。
「大丈夫だよー? こわくないよー? それとも……俺と追いかけっこ、しちゃう?」
 とっても楽しいことになるだろうね、なんて。
 にこやかに笑う綾に、やはり梓の表情は引き攣るしかないのである。
 さて、焔が無駄な抵抗はやめて大人しくお縄についたか、それとも愉快な追いかけっこを演じたかは、ともかくとして。
 焔もまた、きっちり綾の「治療」は受ける羽目になったに違いない……。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ジュジュ・ブランロジエ
【紫翠】
アドリブ歓迎
『』は腹話術でメボンゴの台詞

看病のお手伝いをしようと思って来たらコノさんを見つけてびっくり
うわっ、いつにも増して怪我が酷い!
一緒に戦う機会が多いから怪我は見慣れてるつもりだったけど少し動揺
自分の頬を叩き気合を入れる
今治療するからね!
薬を塗って布でぐるぐる巻いて
痛いの痛いのとんでいけー!
月の光が早く癒やしてくれますように

じゃあ、お腹いっぱい食べて!
いつも持ち歩いているお菓子を次々に取り出す
チョコ、クッキー、キャンディ、色々あるよ
お月見団子?
じゃじゃーん!それもありまーす!
やっぱり月夜にはお団子だよね
口元に持っていく
はい、あーん
『メボンゴもあーんする〜』
『コノちゃ、美味しい?』


コノハ・ライゼ
【紫翠】

激痛耐性フル発動でだらだら寝転がり月見上げてたら、馴染みの声
あらぁイイトコに、と手を振ろうにも
左腕は体についてるのが不思議な位の有り様だから
大人しくぐるぐる巻きにされるしかないわ
誰かに看病してもらうナンてそうそう無いから、ちょっと新鮮かも

お腹一杯喰らえたらすぐ治るンだけどねぇ、と零せば
どっさりお菓子差し出され思わず目をぱちくり
や、そうじゃなくてネ?と言いかけるも得意げな顔に笑ってしまって
じゃあ折角だからお月見団子がイイわ、とわがままを

淑女二人からのあーんに最高に美味しいわと返しながら
ホント、贅沢なお月見ねぇと満更でも無く
看病されるのも悪くないかも、ナンて言ったら怒られるかしら



 コノハは月を見上げて、ふう。とため息をついた。
 傷みにはいくらか耐性があるが、これはいただけない……なんて理由をつけて、だらだらと草原に寝そべって月を眺めていたコノハ。だって治療のために立ち上がるのもしんどいから。どうしようかなぁ。なんて思っていた……ところに、
「こ、コノさん!?」
 驚愕したようなジュジュ・ブランロジエ(白薔薇の人形遣い・f01079)の声がした。子供妖怪にばかうけだったメボンゴが固まっている。いつもは副音声で発せられるメボンゴの言葉もなく、動きもしないメボンゴとは対照的にジュジュの表情はものすごく大きく固まっていた。コノハの顔を見て、傷の確認をする。
「うわっ、いつにも増して怪我が酷い!」
「うわっていわないでよ、うわって」
 どうやら、ものすごく驚いているようであった。冗談めかしたコノハの言葉にジュジュは何度も瞬きをした。ジュジュは今日はたまたま別行動で、治療のお手伝いに来ていたのだ。だから、ここでどういう戦いがあったのかは知っている。そしてけが人が多いことも。……だが、
「まって、今治療するからね!
 一瞬、呆けた自分を励ますようにジュジュは己の頬をたたき気合を入れる。一緒に戦う機会が多いから怪我は見慣れてるつもりだったけど。その傷があんまりに痛ましすぎて、動揺してしまったのだ。
「うん……。よろしくネ」
 その様子に、悪いことしちゃったかなあ。とコノハは思うが、口には出さない。口に出せば、余計に恐縮してしまうこともわかっているからだ。
「ジュジュちゃんがいれば、もう大丈夫」
「うんっ。私がいれば百人力です!」
 そうこうしている間にちゃっちゃとジュジュはコノハの傷口にぐりぐりぐり、と遠慮なく薬を塗っていく。いつもならそこで、『メボンゴもいるよー!』なんて副音声が付いてきそうだったけれども、今日はない。仕方はないだろうと、コノハも思う。コノハの左腕は体についてるのが不思議な位の有り様だから、薬を塗って引っ付けられてぐるぐる巻きにされてしまえば、
「誰かに看病してもらうナンてそうそう無いから、ちょっと新鮮かも」
 そんな呑気な感想が漏れ出たりするコノハであった。
「もー。こんな傷、新鮮じゃなくなってなれたりなんかしたらとっても困るんだよ!!」
 ぐるぐる。ぐるぐる。
 コノハの軽口にも、ジュジュは真面目に返答して。それから、
「痛いの痛いのとんでいけー!」
『えいやー!!』
 終わった!! 時には、 そこでようやく、メボンゴの声を出す余裕が出てきたらしい。メボンゴと一緒に両手で万歳をした。終わったことを喜んでいるのかと思ったら、
「月の光が早く癒やしてくれますように!!」
『来い!! 月のパワァァァァァ!』
 やたらとやる気に満ちた声で月パワーを拾い集めているようである。その様子にコノハは苦笑した。
「月の光ねぇ……」
 月はお腹いっぱいにならないわ。なんて。思わず口に出してコノハが行ってしまうと、ジュジュは瞬きをした。不思議そうな顔をするジュジュに、ふふ、とコノハはぐるぐる巻きにされて丘に転がったまま笑う。
「お腹一杯喰らえたらすぐ治るンだけどねぇ、って、コト」
「お腹!?」
 コノハの言葉に、ジュジュは一度聞き返す。そして、
「じゃあ、お腹いっぱい食べて!」
「え」
『ポケットの中には夢とお菓子がいっぱい!』
「ええ!?」
 ざばあ、と。ジュジュはいつも持ち歩いているお菓子を次々に取り出した。
「チョコ、クッキー、キャンディ、色々あるよ!!」
『元気になるなる?』
 目の前にどんどん積まれて行くお菓子に、コノハは何度もお菓子とジュジュとメボンゴを見比べる。や、そうじゃなくてネ? と、いおうとしたのをぎりぎりのところで飲みこむ。……コノハには、こんな。得意げなジュジュたちの顔を見れば、そんなことは言えなくなって、仕舞って。
「……じゃあ折角だからお月見団子がイイわ」
 なんて、ほんのちょっぴり意地悪なわがままを言ってみた。ちょっぴり意地悪な我儘のはずだったが……、
「お月見団子? じゃじゃーん! それもありまーす!」
 まさかの出てきた。
 やっぱり月夜にはお団子だよ!! と言いながらもばばーん、と取り出されるそれに、コノハは一瞬、呆然とする。……その隙に、
「さささ、どうぞ一口一口。はい、あーん」
『メボンゴもあーんする〜』
 あーん、とされて、一呼吸おいてのち。
「……ふ」
 なんかもう、おっかしい。笑いながらコノハはぱくり、とそれを口に入れた。
『コノちゃ、美味しい?』
「美味しい??」
「最っ高に美味しいわ」
 覗き込むジュジュとメボンゴに、コノハは嬉しそうに笑った。やったー。とハイタッチする二人を見守りながら、
「ホント、贅沢なお月見ねぇ」
 なんて、まんざらでもなく呟く。それから、
(看病されるのも悪くないかも、ナンて言ったら怒られるかしら……)
 怒られるだろう。多分、きっと。恐らくは、割と高確率で。……なので、
「? コノさんどうしたの?」
「なんでもないワ。アタシとお月様だけの秘密ヨ」
 なんてそう言って、コノハはそっと笑うのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

シキ・ジルモント
なるほど…痛覚が戻ると言うことは、当然こうなるか
急に湧き出した激痛に耐え切れず膝をついて
だが、気力を振り絞って立ち上がる
痛む体を引きずって月明かりの当たらない場所へと移動
…もし“万が一“があっても今はろくに動けないだろうが、念の為だ

しかし手当てをしようにも、あまりにあちこち痛むからどこから手を付けたものか
打撲と切り傷、火傷もあるな
まず目立つ足の傷を止血して…腕の方もなかなか酷い、力が入るだろうか

やはり無理をしすぎたようだと反省
皆に薬が行き渡ったら分けてもらいに行くか
それまで少し休む…痛みが酷すぎて、頭が働かない

…俺は月見を楽しむことはできないが
それを楽しむ賑やかな声を聞いているのは、悪くないな



 シキは静かに丘を歩いていた。
 成るべく静かな方向へ、静かな方向へと進んでいく自分に、なんだか死にかけた猫のようだと、思わず己のことをそう評して苦笑いをした。
(なるほど……痛覚が戻ると言うことは、当然こうなるか)
 すべてが自分がなした結果であることは理解できている。だから、急に湧き出した激痛に耐え切れず膝をついたとき、それでも最後の気力を振り絞ってシキは立ち上がったのだ。
「大丈夫ですか?」
「お兄ちゃん、お薬いる?」
 心配した妖怪たちにまで声をかけられる。シキは片手を挙げてそれを制して首を横に振る。
「大丈夫だ。それはお前たちで使うんだな」
 言葉は、端的だった。そうして人目を避けるように、月明かりのない場所を探した。……もし“万が一“があっても今はろくに動けないだろうが、念の為だ。
 なるべく人のこない場所がいい。月が当たらない場所がいい。
 探して探した、木の影にシキはしゃがみ込む。痛みで滲みそうになる思考の端で、何ともいい香りがした。
「……」
 どう、と木の根元に寝転ぶ。
(しかし手当てをしようにも、あまりにあちこち痛むからどこから手を付けたものか……)
 寝転びながら考える。打撲と切り傷、火傷もある。緊急性があるのはどれだ。などと頭の中で考える。
(まず目立つ足の傷を止血して……腕の方もなかなか酷い)
 力が入るだろうか。と、そこまで計算して、シキはため息をついた。ため息をつくだけで全身が痛んだ。
「やはり無理をしすぎたようだな……」
 反省する。誰かに手当てしてもらえばよかっただろうかと、そこまで考えて。果たして自分が手当てを受けている姿が想像できない。自分でやるぐらいがいいだろうな、なんて。そんなことを考えて、
「……皆に薬が行き渡ったら分けてもらいに行くか」
 ただ、それくらいは甘えてもいいだろうと。そんな思いとともにシキはゆっくりと目を閉じた。
 痛みが酷すぎて、頭が働かない。
 とにかく今はただ、ゆっくりと休みたかった。
 目を閉じれば、多少痛みが和らいだような気がして。
 まるで本当に、死にに行く猫みたいだと心の中で苦笑しながらも、
(……俺は月見を楽しむことはできないが、それを楽しむ賑やかな声を聞いているのは、悪くないな……)
 遠くに聞こえる声はどれも明るい。痛いだの苦しいだの、台詞はそんななのになぜか楽しそうな人たちの声を聴く。
 ああ、これが自分の守ったものなのだと。
 このために戦ったのだろうと。
 シキは思いながら、ほんの少しの間だけ、ゆっくりと意識を手放した……。

大成功 🔵​🔵​🔵​

月舘・夜彦
【華禱】
迎え花にて彼を迎えに行きます

……倫太郎

彼の言葉に何か返すより
言いたい事は沢山あるけれど、先に治療をしなくては
シロウサギが名乗り出たので薬の作り方を教えて貰います

完成すれば先ずは目に留まった耳へと付ける
……大人しくしてください、動いたら濡れませんので
あとは見えるように左手、腕も、他の傷も

痛そうに顰める彼も、薬の材料に使った竜胆
そしてウサギの話から沢山の竜胆が咲いていた事
それを知ったら、怒れませんよ

痛みは生きている証であっても
私を護る時のように体を張っても
愛しい人が傷付くのは、苦しいです
それだけはどうか分かってください

お説教は終わりです
……膝枕でもしましょうか?

いえ、容易いものです


篝・倫太郎
【華禱】
無傷とは言い難いけど、四肢はちゃんとついてるし
生きてるんだからいいじゃん
とはちょっと言い切り難い夜彦の顔

伝授して貰った方法で薬を作る夜彦の隣
静かに黙って待ってるのもなんか居心地悪いや……
なぁんて思いながら待てば出来た薬を問答無用で塗られる

ひゃあ?!
ちょ、ちょっと夜彦サン?

ア、ハイ……スミマセン

引き続き大人しくしつつ夜彦の言葉を静かに聞いて

ん。ありがとな?
んでもって、ごめん……

んー……膝枕はなくていいけどさ
こうしてて

そんな風にねだってから
手を繋いで身体を預ける

真の姿の夜彦にはいつも迎えに来て貰ってばっかだし
心配かけてばっかだなぁ……

で、いつも夜だわ……
月を見上げてそう笑って
静かに過ごそう



 月舘・夜彦(宵待ノ簪・f01521)が竜胆の花びらとともに倫太郎の前に現れた時。
 倫太郎は珍しく夜彦から視線をそらせて、何やら気まずげに口の中でもごもご言っているのであった。
「無傷とは言い難いけど、四肢はちゃんとついてるし、生きてるんだからいいじゃん。……って」
 ちょっと言い切り難いよなあ。と。倫太郎は苦笑する。
 何せ途方もなく満身創痍だ。頑張りすぎてしまったのだ。なので、夜彦が言いそうなことも、言いたいであろうことも予想がつく。だが、
「……倫太郎」
 一言。夜彦がそういうので、はい、と、倫太郎は頷いた。思わずその場に正座した。割と全身に激痛が走ったのだけれども、思わず正座してしまったのだ。正座してから足も割とやられていることに気付いて、慌てて座りなおす。
「兎に角、薬の作り方を教わってきます」
 さて、何かあるかと思ったら、夜彦はさっとそう言って歩き出した。
「あ、俺も一緒に……」
「そこにいてください」
 申し出た倫太郎に、にべもなくそう言って。夜彦は丘を急ぐ。言いたい事は沢山あるけれど、先に治療をしなくては。
 薬が足りていないらしいので、薬の作り方を教えて貰う。シロウサギは気安くその作り方を教えてくれた。竜胆を使い、湖の水を使い。その合間に、夜彦は今回の戦いのことを聞く。シロウサギは明るく今回の戦いで以下に猟兵たちが頼りになったかを語った。
「……なるほど」
 材料を集めれば、なんだかじっとしていられなくてそわそわしている倫太郎の元に戻った。放っておけばまた歩き出しかねないので、隣で薬を作っていく。
 倫太郎もまた、その隣で三角座りをして、夜彦のことを待った。
「……」
「……」
「…………」
 互いに、無言。
 いや、倫太郎のほうは何か言いたげであったのだが、何も言えない。なんだか居心地が悪くてもぞもぞしてくる。手伝おうか、といったほうがいい気もするが、この傷でそんなことを言うと更に怒らせるかもしれな……
「ひゃあ?!」
 不意に、耳に触れられて倫太郎は声を上げた。
「ちょ、ちょっと夜彦サン?」
「……大人しくしてください、動いたら塗れませんので」
 思わず声を上げた倫太郎に、平然と夜彦は返す。どうやら倫太郎がもやもやしている間に、薬は完成していたらしい。
「ア、ハイ……スミマセン」
 申し訳ない。と、居住まいを正してまたかしこまる倫太郎。それを見て、夜彦も今度は左手に、腕にと、倫太郎にも見えるように出来上がった薬を塗っていった。
「……」
 さすがに触れれば痛いだろう。薬を塗るたびに痛そうに顔をしかめる倫太郎を、夜彦はちらりちらりと目で追いかける。その姿と、薬の材料に使った竜胆。そしてウサギの話から沢山の竜胆が咲いていた事を知れば……夜彦が倫太郎を怒れるわけないのに。それでもかしこまっている倫太郎に夜彦も言葉を考えて、沈黙の末に、ようやく口を開いた。
「……痛みは生きている証であっても、私を護る時のように体を張っても……、愛しい人が傷付くのは、苦しいです」
 淡々と、薬を塗りながら夜彦は言う。
「それだけはどうか分かってください」
 それだけでいいので。と、どこか念を押すように。その言葉に、倫太郎も少し、うなだれた。
「ん。ありがとな? んでもって、ごめん……」
「……はい。では、お説教はこれで終わりです。……膝枕でもしましょうか?」
 倫太郎がそういえば、夜彦もそれ以上言うことはない。微笑みを浮かべると、ようやく倫太郎も嬉しそうに笑った。
「んー……。膝枕はなくていいけどさ。こうしてて」
 ぐい、と。それで倫太郎は夜彦の手を繋ぐ。そのまま体を預けて、ふーっと息を吐いた。
「真の姿の夜彦にはいつも迎えに来て貰ってばっかだし、心配かけてばっかだなぁ……」
 なんだかしみじみ、といった風の倫太郎の声に、夜彦は思わず笑った。
「いえ、容易いものです」
「そーぉ?」
「ええ。倫太郎殿のところへなら、どこだって迎えに行きますよ」
「……ふ」
 思わず、また笑いが漏れて倫太郎は顔を上げる。
「で、いつも夜だわ……」
「おや、そういえば……」
 面白がるような倫太郎の言葉に、夜彦も一緒に月を見上げる。
「……きょうの月は、なんだか格段と綺麗ですね」
「……ああ」
 ぽつりぽつりと会話をしながら、二人静かに月を見上げる。
 あんな戦いがあったことも、苦しみがあったことも。わかっているのか、いないのか。
 静かな二人に添うように、月も二人を、静かに照らし出していた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ハイドラ・モリアーティ
【BAD】
すんげえ鼻血出てきた
つか全身めちゃくちゃ痛ッッてえ……!!
さすがのヒュドラもこれは無理。だってラグだろ?反則だぜ、こんなの
エコー、なあ。ハンカチとか持ってない?
後で弁償すっから、ちょっと貸して。うわ、やばい

まあ、簡単に言ったら「のぼせた」ってことだよ
俺の額触ってみ?な、高熱だろ
歩けねえもん。座って鼻血は出し切っちまう
飲み込むほうが気持ち悪いし――うええっ、ぐらぐらする
どうやったら治るって?時間が薬じゃねーの
おとぎ話じゃないんだから魔法で一発なんて無理
王子様のキスでならわかんないけど
軽口言える余裕はあるってことだよ
お前はあんまり気にすんな――俺なんかにさ
悪い大人の見本だ。真似すんなよ


エコー・クラストフ
【BAD】
まぁ、そうだね。結構痛いな。まさかこれまでの痛みが凝縮されるとは思わなかったよ
ボク? ボクはそんなに大したことはない。普段からやってることだし、もう大体慣れたよ
うわ、鼻血出てるぞハイドラ。ハンカチなら使っていいよ……でも洗っといてくれ

しかし、額は熱いしひどい状態だな……どうすれば治るんだ? 待ってる間ボクに何かできることとかない?
……ハイハイ、キスはしないよ。心配して損した気分だ。要は気分が紛れればいいんだろ? なら、月見でもしようか
そんな気分じゃない? じゃあそんな気分になれ

……治るとはいえ、無茶するなよな。ボクが言うことじゃないかもしれないけどさ
ハイドラはまだ、生きてるんだから



「すんげえ鼻血出てきた……!!」
「なんでそこで鼻血なんだよ……!」
 戦いが終わった後に、思わず叫んだハイドラに、エコーもまた思わずそんな声を上げた。
「つか全身めちゃくちゃ痛ッッてえ……!!さすがのヒュドラもこれは無理。だってラグだろ? 反則だぜ、こんなの。世界の法則馬鹿にしてない? どうなの? なんなの? やるきなの?」
「まぁ、そうだね。結構痛いな。まさかこれまでの痛みが凝縮されるとは思わなかったよ。ていうかうわ、鼻血出てるぞハイドラ。なんだそれ」
「ていうかなんでエコーはそんなに平気そうな顔してんの!」
 思わず座り込んで駄々っ子のように両足をじたばたさせるハイドラを、エコーは呆れたように見おろしている。叫ぶと同時に激痛と、ついでに鼻血がぼたぼた落ちるのでハイドラは慌てて顔を抑えた。
「エコー、なあ。ハンカチとか持ってない? 後で弁償すっから、ちょっと貸して。うわ、やばい」
「ハンカチなら使っていいよ……でも洗っといてくれ」
 喧しい。と言わんばかりにハンカチを差し出すエコー。睨むようなハイドラの目に、エコーは肩をすくめて、
「ボク? ボクはそんなに大したことはない。普段からやってることだし、もう大体慣れたよ」
 先ほどの回答を示した。別にとても痛いし苦しいが、暴れたら痛くなるのは簡単にわかる。だから大人しくしているのが当然のことなのだ。エコーにしてみれば、何故ハイドラがあんなにガサガサするのかよくわからない。多分性格なんだろうけれども。
 まあ、立ったままはさすがに疲れたけど、と言って、隣に腰を降ろせば、後は安静にしてるつもりだ。
「えーえーえー。なーんで。なんかずりーよずりー。……あ」
「そういうところが、痛むんだぞ」
 体を揺らしてはな地がさらに出るハイドラを、エコーは横目で見やる。しばらく見つめていると、
「……まあ、簡単に言ったら「のぼせた」ってことだよ。俺の額触ってみ?」
 言わずに言いたいことを察してくれたらしい。エコーはハイドラの額に手をやる。
「な、高熱だろ。歩けねえもん。座って鼻血は出し切っちまう。そうすればちっとは楽になるだろ。飲み込むほうが気持ち悪いし――うええっ、ぐらぐらする」
 言いながらも自分に体を揺らせるハイドラに、エコーはしばし考えこむ。
「額は熱いしひどい状態だな……どうすれば治るんだ? 待ってる間ボクに何かできることとかない?」
 何か、気のきいたセリフとか、気のきいたこととかを自主的にできればよかったのだけれども。生憎自分は気が利いていないので聞くしかない……なんて、まじめな顔で言うエコーに、ハイドラは鼻血を出しながらも一つ、瞬きをする。
「時間が薬じゃねーの。おとぎ話じゃないんだから魔法で一発なんて無理無理。……あ」
「あ?」
 魔法といえば。と、はたと手を止めるハイドラの顔を、エコーがのぞき込む。
「……王子様のキスでならわかんないけど」
「……」
 エコーはものすごく呆れた顔を、していた。
「……ハイハイ、キスはしないよ。心配して損した気分だ」
「軽口言える余裕はあるってことだよ」
 ぷい、と横を向くエコーを、けらけら笑いながらハイドラは目だけで追いかける。
「お前はあんまり気にすんな――俺なんかにさ。悪い大人の見本だ。真似すんなよ」
「……」
「でっ」
 べちんっ。
 額を叩かれて、ハイドラは鼻血を服に零した。
「要は気分が紛れればいいんだろ? なら、月見でもしようか」
「は……」
「そんな気分じゃない? じゃあそんな気分になれ」
 ぺちんぺちんと三度ほどはたかれる。別に痛くはない。いや、全身痛いので頭を揺らされるだけでも痛いのだが痛くはない、というか。はたかれるというより撫でるような感触のエコーの手に、ハイドラがもの言いたげに視線をやると、
「……治るとはいえ、無茶するなよな。ボクが言うことじゃないかもしれないけどさ。……ハイドラはまだ、生きてるんだから」
 ぷい、と。エコーは視線をそらして不満そうな顔でそう言った。
「……」
 その横顔を、静かにハイドラは見ていた。
「……あああ。月見っていうなら月見団子喰いてえなあだんごー」
「そういえば、さっき兎からもらったすごい色した団子があったぞ」
「え。あの薬練ったやつ? あれすげえ匂いしてたじゃん。やだ。早く治るとか言われても絶対やだー」
「ほんとになあ……」
 駄々っ子の仕草をしながら、ハイドラがにやりと笑うので、エコーもほんの少し微笑む。
 あとはただ、月の見える丘で。
 いつも通り、賑やかに時を過ごすだけでいいのだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

西塔・晴汰
【晴要】
痛みが戻ってきた瞬間
仰向けに倒れ

いっったい
やっっばい
薬作り向かおうにも今指一本でも動かしたら悶絶する自信あるっす
全身ズダズダだし
所々深くばっさりいってるし
更に傷を焼いてるし
動かなくてもヤバい程痛いのに起き上がるの無理っすね?

心配されてるのは聞こえてるけど正直答えるのもきっつ…
って燃えてる!追加焼き!?
…あ、だいぶ楽に
肩を治癒されたら声も出るように
…珂奈芽だって怪我してんじゃないっすか
自分より先にこっちに気ィかけさせちまって申し訳ないっす
オレはもう大丈夫だから珂奈芽も自分の怪我の方治療して

いやまだいっったいダメだこれ
でも我慢だ、珂奈芽だって痛いんだし

痛み感じない事の危険性…身に沁みたっす


草守・珂奈芽
【晴要】

いったーい!生きてて一番の痛みだー!?
だって猟兵なる前は一般人、こんなん知らないのさ!
「う、うぐぅ……せ、晴汰くんは、無事――じゃない!?」
倒れてたからし、心臓が止まるかと…さ、先に助けなきゃ!
さっきの今で傷を燃やす見た目はアレだけど…力が通るよう一番酷い肩に手を寄せて、UCさ使うのさ。
「ごめんね、ごめんね、庇ってくれたせいで」
自分は痛いし見てて痛ましいしで泣きそう。

なのに晴汰くんはあたしを心配してる。…ずるい。
「あたしは平気。痛そうなの見てるのが、もっと辛いもん」
ちょっとは自分も治すけど、それよりその優しい気持ちに応えたい。

…生きるため、強くなるため、今日の痛みは覚えとかなきゃ。



「いったーい! 生きてて一番の痛みだー!?」
 珂奈芽が言った瞬間、晴汰がどうと倒れた。
 竜胆の丘の上でのことであった。地上では優しく月が二人を見守っている。
「う、うぐぅ……せ、晴汰くんは、無事――じゃない!?」
「うう……」
 己も思わずその場に膝をついて、珂奈芽が思わず声を上げる。上げた瞬間に全身が痛んでうっひゃあ! と声を上げる。上げられるが晴汰は反応ができない。
「(……指一本でも動かしたら悶絶する自信あるっす……)」
 いっったい。やっっばい。とは心の絶叫である。正直喋るのもきついのだ。多分口を出した瞬間に死にそうになる予感は、している。
 苦し気に声を吐く晴汰に、珂奈芽はうう、と涙目で晴汰を見た。倒れている晴汰の顔を見るのが辛くて。……けれども、晴汰が何のためにずっと頑張っているのか、知っていたから。
「だって猟兵なる前は一般人、こんなん知らないのさ! で、でも……」
(薬作り向かおうにも今、全身ズダズダだし、所々深くばっさりいってるし、更に傷を焼いてるし……。あれ)
 なにやら身を起こす珂奈芽の隣で、晴汰は真剣に考えている。頭だけは痛みで正常に働いていて、
(動かなくてもヤバい程痛いのに起き上がるの……無理っすね?)
 つまり、詰んだのではないか。死ぬのではないか。と、晴汰が思った次の瞬間、
「倒れてたからし、心臓が止まるかと……さ、先に助けなきゃ!」
 がばちょ!! と、珂奈芽が勢いをつけて起き上がった。
「!?」
 やばい傷口が開いた。全身を物凄い痛みが襲い、珂奈芽は声にならない悲鳴を上げる。
 だが、何とか珂奈芽は手を伸ばしていく。だって……、
「ごめんね、ごめんね、庇ってくれたせいで。……ありがとう」
 さっきの今で傷を燃やす見た目はアレだけど……と。珂奈芽は何とか晴汰の隣まで行き、力が通るよう一番酷い肩に手を寄せて、
「お願い草化媛、傷病祓式を此処に。灯れ閃耀、始原のまたたき。淡く満ちるは希望の曙光……!」
 ぼわっ、と、炎が巻き上がり、晴汰に吸い込まれて行く。
「って燃えてる! 追加焼き!?」
 その瞬間、晴汰は盛大に声を上げた。声を上げて……気付いた。
「……あ、だいぶ楽に」
「そりゃ、そうさ。見た目はあれだけど、治したのさ」
 傷だけをも安いように癒す力である。珂奈芽は得意げに言いたかったが、若干息も絶え絶えな様子になっていた。対する晴汰のほうは一番思い方の傷を癒されたおかげで、何とか声が出て、
「ありがとうっす。すっごい楽に……」
 起き上がることもできる。ふらふらだけれども身を起して、晴汰は改めて珂奈芽の顔を見て、思わず目を見開いた。
「って、……珂奈芽だって怪我してんじゃないっすか」
 珂奈芽も随分な様子であって、晴汰は焦る。自分より先にこっちに気ィかけさせちまって申し訳ないっす。と。思わず声を上げる様子に、ぶんぶんと珂奈芽は首を横に振った。それでも、
「オレはもう大丈夫だから珂奈芽も自分の怪我の方治療してほしいっす」
「……」
 尚も重ねて言う晴汰。その言葉に、珂奈芽は晴汰をじっと見る。見つめられていると……、
(いやまだいっったいダメだこれ。でも我慢だ、珂奈芽だって痛いんだし。我慢だ晴れた。今は我慢だ……!)
 治りきっていない痛みがぶり返してくる気がする。晴汰もまた泣きそうな顔をしながらも、それを何とかこらえてきりりとした表情を作っていて。
「……ずるい」
「へ?」
 ぽつ、と言われた言葉に晴汰は目を丸くした。
「晴汰くんはあたしを心配してる。……ずるい」
「ええ!?」
 なぜ。と、思わず声を上げる晴汰。その顔があんまりにもいつも通りで、ほんの少し、珂奈芽は笑った。
「……あたしは平気。痛そうなの見てるのが、もっと辛いもん。だから」
 つづけるよ、と珂奈芽は声を上げて。晴汰に癒しの炎を流し込む。最低限、自分も治しはするけれども……、
(私より……、それよりその優しい気持ちに応えたい。晴汰くんは私を……ずっと守ってくれたから)
 ありがとう、と心を込めて。
 珂奈芽は傷を、癒し続けた。
「……痛み感じない事の危険性……身に沁みたっす」
 そんな珂奈芽を見つめて。晴汰はぽつんとつぶやく。彼女の痛々しい姿も、思いも、忘れないようにと、小さく息をついた。
「うん。……生きるため、強くなるため、今日の痛みは覚えとかなきゃ」
 それに、珂奈芽も小さく頷いた。
 傷を癒す炎は、夜の中で美しく輝いていった……。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

夏目・晴夜
見つけましたよ、リュカさん
月見痛い痛い痛たたた!!
うわ、いってー…よし。月見団子、食べません?(震え声)

はー、今もの凄く痛くて死ぬかと思いました
流石のハレルヤも涙目です
でも案外平気です。震えが止まらなくなるけど痛みを感じなくなる時もありますしね
団子を食うのに支障はないですよ!

ハレルヤ的にも早く薬が欲しいのですがね
団子が美味そうなので先に食べようと思い立ち
そこでリュカさんを見つけて今に至る訳です
ともかく一緒に食べましょう
一人よりもリュカさんと一緒のほうが圧倒的に楽しいので

それと
後で薬を塗るのを手伝って下さい
足が変な方を向いてるので歩くのも億劫で
あと手もなんか爛れてて怖くて
団子の後で構いませんから



 その世界から炎が消えて、月から優しい風が吹いたとき。
 その世界は、元通りになって……、
 ……まあ、つまり。
「見つけましたよ、リュカさん!!」
 晴れる夜がそう言って、ぶん、と大きく手をあげた。……その瞬間、
「月見痛い痛い痛たたた!!」
 と、思わずしゃがみ込む羽目になるのであった。
「……」
 それだけ騒げば、まあ、わかる。リュカは荷物をまとめてさっさと晴夜のほうへと急ぐ。
「お兄さん。大丈夫。手当てし……」
「うわ、いってー……よし。月見団子、食べません?」
「は?」
 晴夜が立ち上がり精いっぱいかっこいいポーズを決めて涙目になる隣で、
 リュカはいまだかつてないほど静かな声で、もう一度言って。と、繰り返した。
「ですから、月見団子食べません?」
 躊躇いなく晴夜は二回言った。全く何にも考えてない顔で二回言った。
「…………」
 たっぷり10秒ほどリュカは思案したのち、
「……なんで?」
 と。静かに尋ねる。よくぞ聞いてくれました、と、晴夜は頷いて、
「秋だからです。あと美味しいお団子を貰ってきたからです。はー、それにしても今もの凄く痛くて死ぬかと思いました。流石のハレルヤも涙目ですよね、この、ハレルヤですらも!! さあさあ、とりあえずリュカさん、座ってください」
 そして、一気にしゃべりだす。草原の上、勧められるとリュカは思わず隣に腰を下ろす。そして晴夜はその隣に座る。その間も晴夜のおしゃべりは全く、止まらない!
「でも案外平気です。震えが止まらなくなるけど痛みを感じなくなる時もありますしね。団子を食うのに支障はないですよ! いや、ハレルヤ的にも早く薬が欲しいのですがね。団子が美味そうなので先に食べようと思い立ち、そこでリュカさんを見つけて今に至る訳です」
 喋る喋る。喋りまくる晴夜を、そう、そう、と、リュカは静かにうなずいて聞いている。いつもよりもリュカの言葉の温度が低いことに、晴夜が気付いていないのか、もしくは気づかずにあえて聞こえないふりをしているのかは、わからない。
「ともかく一緒に食べましょう! 一人よりもリュカさんと一緒のほうが圧倒的に楽しいので!」
 はい!! と、いつもはリュカが言うようなことを言って、晴夜はもらった月見団子を半分、リュカに押し付けた。
「……わかった」
 はい。と、代わりにリュカが水筒からお茶を入れて差し出す。ありがとうございます、と晴夜も受け取って、
「それと、後で薬を塗るのを手伝って下さ……ぶっ、!?!?!?!?!?」
 お茶を一口。啜った瞬間、盛大に咽た。
 まずい。
 にがい。
 えぐい。
「……っ!」
 これは、まさか……、
 ……いや、違う!
「リュカさん、これ、お茶じゃなくてあの薬ですね!?」
「……そう」
 一瞬、「リュカさんの手作りスープですか!?」と言ってしまいそうになったが、どうやら正解を引けたようだ。
 そういえば薬は、飲み薬にもなるが不味いという言葉をぎりぎりのところで思い出せてよかった。晴夜は呼吸を整える。それから口直しに団子を一口、齧った。
「……お茶がえぐすぎて、何にも味がしません……」
 泣きたい。頑張ったのにこの仕打ち。しくしくと泣き真似をする晴夜に、リュカは容赦なく、
「あと二種類あるから」
 火傷用と打ち身用ね。と、静かにとどめを刺していくのであった。
「ええ。塗り薬にしましょうよ。リュカさん塗るの手伝ってくださいよ! 団子の後で構いませんから! 寧ろなんで団子の後まで待てなかったんですか!」
「……」
「足が変な方を向いてるので歩くのも億劫で、あと手もなんか爛れてて怖くて、こんなに頑張ったハレルヤを……あた、あたたたたたたっ」
 ていていていていてい。
 ビシバシ額を人差し指でつつかれて、晴夜は悲鳴を上げる。痛い。もうめっちゃ痛い。つつかれても痛いがついでにそれによる振動で全身が痛い。なにこれ飲み薬が全然効いていない!
「そういうこと、するから。気を付けてって、俺言ったよね。ちゃんと言ったよね。気を付けたの。ちゃんと一瞬でも気を付けたの? それとも何か緊急の案件でもあったの? その耳は飾りなの。飾りならいらないんじゃないの?」
「ぎゃー!! 痛い痛い痛い痛い痛い!」
 のちにリュカは、「あんなに声に出して怒ったのは初めてだ」と語ったが、晴夜にとってはそんなん知ったもんやない。
「うぅ、お月見団子……」
「これ、飲んでからね」
 手当ももちろんするからね。という言葉に晴夜はうなだれる。
 まあでも、きっと、それが終われば美味しい団子にありつけることだろう。……多分。きっと。恐らくは。

大成功 🔵​🔵​🔵​

陽向・理玖
【月風】

痛って
結構やばい事になってる?
大体手に力入んねぇから蹴りと思ったら
コレ足も火傷してねぇ?
転がり

瑠碧姉さんこっちこっち
転がったまま手上げ

振るの辞め

来て貰っちまって悪ぃ
歩けなくなる程とは思ってなく…て…

えと…
腱は大丈夫じゃねぇかな
ほら動くし
手ぐーぱーし起き上がろうとして
痛って!
※両手斬られぐさぐさ+火傷肩口まで

いやその
前に痛みの意味話してくれたじゃん
俺わりと痛みには強い方だから
結構鈍くて
ないとどうか
…知ろうと思って

いやでも分かったから!
さすがにないのはまずいって
痛いから…ちゃんと生きてるって分かるし

えぇとだからその…ごめん

息を飲み
…ほんとに…悪かった
泣かないでくれ
傷よりそっちの方が…痛ぇ


泉宮・瑠碧
【月風】

薬は…
ご厚意でも、数は少ないですし
自前で治しに行きます

理玖は…
声と上がった手に、駆け寄り
着けば、目視で怪我の確認を

…ふむ
手足が使用不能…
力が入らない…健や筋が切れてますか
あと、この火傷…
…成程?
ふつふつと悲しみと悔しさが湧きますが
まず、治しましょうか

歌でも治せますが、他の方々の横槍になりそうなので
優緑治癒を理玖へ
少し疲弊はしますが、それより…
ひんやりした空気を纏い、苦言

…別に、良いんですよ
怪我には気を付けてと、何度言っても
理玖に全っ然、届いて無いと

言い分を聞いても渋い顔
謝られて、ぼろっと涙は落ちます
…治すし治せます、けれど…
人が傷付く事、どれだけ、怖くて辛いか…
少しは思い出してください



 泉宮・瑠碧(月白・f04280)がその丘を訪れたとき、思わず息が止まった。
「……」
 傷だらけの妖怪たち、傷だらけの猟兵たち。空気はどこか明るかったが、無事な人なんて白い兎と熊くらいで、
「……」
 周囲を、見まわす。その瞳が揺れている。
「薬は……」
 薬を配っている診療所を見つける。けれどもそこにはたくさんの妖怪が押し押せていて、
(ご厚意でも、数は少ないですし、自前で治しに行きましょう……)
 それを待っている時間も惜しくて、瑠碧は足早に、その姿を探した。
「……」
 どこにいるのか。
「…、理玖は……」
 どうしているのか。
 思わず、大きな声をあげそうになった時。
「瑠碧姉さんこっちこっち」
 はっ、と、聞きたかった声が聞こえて、瑠碧は顔を上げた。
「痛」
 丘のほうで手が上がっている。そんな一言とともにすぐに降ろされたが、瑠碧は理玖のその声を聞き逃さず、走った。
「理玖」
 そうして瑠碧は丘に寝転がる理玖の傍らに来ると、転がったまま理玖は笑った。……その笑顔にも、力がなくて。
「来て貰っちまって悪ぃ。歩けなくなる程とは思ってなく……て……痛って」
 喋るたびに激痛が走る。思わず黙ったままの瑠碧を見上げて、
「結構やばい事になってる……? 大体手に力入んねぇから蹴りと思ったら……、コレ足も火傷してねぇ?」
 そう尋ねる理玖に、瑠碧ははっ、と我に返ったように小さく頷いた。
「……ふむ。手足が使用不能……」
 冷静に、瑠碧は確認していく。
「力が入らない……。なら、健や筋が切れてますか」
「えと……。腱は大丈夫じゃねぇかな。ほら動くし……痛って!」
 ほらほら、と手を開いたり閉じたりして、慌てて立ち上がろうとした理玖に瑠碧は一瞬、冷たい視線を向ける。
「大人しくしていましょう」
「は、はい……」
 呻く理玖に瑠碧の冷静なツッコミが入れば、刻々と
「あと、この火傷……。どうやればこんなことに……」
「ああ、それは……」
 戦闘の様子を報告する理玖。その言葉に瑠碧は瞬きをした。
「……成程?」
 ツッコミどころ満載である。突っ込みたくなるのを瑠碧は何とか抑えて、
(ふつふつと悲しみと悔しさが湧きますが、まず、治しましょうか……)
「我が愛する森よ、木々よ、我が存在を依り代に、その恵みをこの場へ……」
 瑠碧は願う。森の恵みを願い理玖の体を治療していく。くらりとした疲労感が瑠碧を襲うが、瑠碧は気にしてはいない。
(少し疲弊はしますが、それより……)
 そう、それよりも今は大事なことがあるのだ。豊かな恵みあふれる治療を使いながらも、瑠碧の纏う空気はひんやりと冷たい。理玖もそのことにはもちろん気付いている。気付いているので視線をさまよわせて、
「いやその……。前に痛みの意味話してくれたじゃん。俺わりと痛みには強い方だから、結構鈍くて。ないとどうか……知ろうと思って」
 あわあわと。瑠碧の空気に耐え切れずに慌てて声を上げていく理玖。理玖の言葉に瑠碧の空気はさらに冷たくなっていく。自分が墓穴を掘っていることに、どうやら気付いていないようで。
「……別に、良いんですよ。怪我には気を付けてと、何度言っても、理玖に全っ然、届いて無いと、今、今日という日に、知ることができたので。それは収穫ではありますと」
「いやでも分かったから!!」
 冷たく言い放たれた言葉に、慌てて理玖は両手を上げる。瑠碧のおかげで動くようになった腕を、感謝したいのだが今はそういう空気ではなくて、
「さすがにないのはまずいって!! 痛いから……ちゃんと生きてるって分かるし。大事なことなんだなあって。だからえぇとだからその………………ごめん」
 わたわたという言い訳をつづけながら、理玖は最後にはしぼんでいくように、そう言って頭を下げた。瑠碧はそれをじっと見つめる。相変わらずの、渋い顔のままで。
「……」
 ほろりと、その眼から涙が落ちた。
「……!」
 思わず、理玖は息をのんだ。
「……治すし治せます、けれど……。人が傷付く事、どれだけ、怖くて辛いか……、少しは思い出してください」
 はらはらと涙を落とす瑠碧に、理玖は視線をさまよわせる。どうすればいいのか。なんといえばいいのか。手を伸ばして、
「……ほんとに……悪かった」
 そっとその肩を抱いた。
「泣かないでくれ。傷よりそっちの方が……痛ぇ」
「少しは、痛い思いをすればいいと思います」
「はは……」
 容赦ない瑠碧の言葉に、思わず理玖は苦笑いをする。
 見上げると見守るように月が輝いていて、理玖はもう一度、気を付けるから。と、小さく声をかけるのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ジャスパー・ドゥルジー
ファルシェ(f21045)と!
三度の飯と同じくらい痛いの大好きな俺はそりゃもうテンションMAXよ
うわはははは超痛ェ!
やっぱ世界はこうじゃねえとな、なあそうだろ!?
ところでファルシェは大丈夫か?そーかそーか

俺のはほっといても大丈夫だけどまあ、薬くらいなら作っててもいいか
―おっとファルシェ、腕見せてみろ
ちいさな呻きを聞き漏らさず
ああ、あの時か
杖を持ち替えていたのを思い出す

これじゃ作業にならねえもんな、と
手の傷痕から癒しの力を放つ
全身綺麗さっぱり癒す事も本当は出来るけど
こうして二人で薬作りってのもなかなか無い機会だしなァ、と
火傷の方は敢えてノータッチよ
俺の方が疲れてバテちまうしな


ファルシェ・ユヴェール
ジャスパーさん(f20695)と

痛みがある方が正常だという点は同意しますが……
いえ、私はお陰様でかすり傷です

外套はあちこち焼けてしまっていますし
火傷は隠し切れませんが
利き手はさりげなく袖に隠したまま
痛みなど無いかのように笑みを繕って

シロウサギさん、お気遣いなく
私達の分の薬は自分で作ります
本人がほら……あの調子ですので

彼を伴い薬を作りに
一緒に材料を揃え
作業中にうっかり右手を使ってしまい
……痛、っ
側に友だけの状況でつい気を抜いていたのか
取り繕う笑みが崩れて苦痛に呻く

治療してくれるジャスパーさんの手元を眺め
……痩せ我慢ではありません処世術です、等と
言い訳がましく呟いてみるものの
結局、そっと礼を述べて



「うわはははは超痛ェ! やっぱ世界はこうじゃねえとな、なあそうだろ!?」
 月夜にジャスパーの笑い声がこだました。
「シロウサギさん、お気遣いなく。私達の分の薬は自分で作ります。本人がほら……あの調子ですので。あと、声が大きくて済みません」
 ファルシェはといえば、ちょうどシロウサギから薬の作り方を聞いているところであった。話がどこか、ご近所に子供の声が大きいのを誤る人みたいな感じになってしまったが、シロウサギたちは気にしないでください、と笑っていた。
「皆も、似たようなものですから」
 まあ、言葉通り随分あちこち賑やかなので、そこまで気にしなくていいのかもしれない。……なんて、ファルシェが思ったところで、
「おいおいファルシェ、楽しんでるか!? この、痛みをさァ!!」
「……お元気そうで、何よりです」
「おう! 三度の飯と同じくらい痛いの大好きな俺はそりゃもうテンションMAXよ!!」
 めっちゃやる気のジャスパーに、ファルシェは肩をすくめる。ジャスパーのテンションだだ下がり具合を先ほどまで目の当たりにしていたファルシェにとっては、まあ、ジャスパーが元気そうにしているので、何よりだと思えなくもなかった。
「痛みがある方が正常だという点は同意しますが……」
「だろぉ!? ところでファルシェは大丈夫か?」
 どこか怪我してねぇか? なんて尋ねるジャスパーに、ファルシェは小さく頷く。
「いえ、私はお陰様でかすり傷です」
「そーかそーか。そりゃめでたいなァ」
 そっと、聞き手を袖の中に隠してファルシェは言う。なるほどなるほど、とジャスパーも頷いた。
「まあ、外套はあちこち焼けてしまいましたけれどもね」
 なので、簡単な火傷はしました。と。
 隠しきれない火傷はそう申告して。それで何でもないように微笑むファルシェ。まあ、なんだかテンションが高そうなジャスパーを、見ているだけでちょっと和むと……いえなくもなかったのだけど。
「ほーん。俺のはほっといても大丈夫だけどまあ、薬くらいなら作っててもいいか」
 そんなことを言いだし始めたので、見ていないようで見てますね。なんてファルシェも言って、頷いた。
「じゃあ、材料から集めに行きましょうか」
「おうっ」
 竜胆の花、月の雫。極彩色の羽。
 順番に、そっと花を手折って、材料を集める。一緒に集めて、花の咲いてない丘の上に腰を下ろす。つくり方を説明すると。ふんふんとジャスパーはご機嫌で腕を動かし始める。
「何だよそれ、おとぎ話かよ。こんなので薬出来たら世の中楽勝……出来ちまったなァ」
 そっちはどーだ。なんて、切り傷の薬を作り終えたジャスパーが、ふちファルシェのほうを顧みる。ファルシェは火傷の薬を丁度使っていたところで、
「……痛、っ」
 うっかり右腕を使ってしまって、ファルシェは思わず手を引っ込めた。練っていた薬が落ちる。幸いなことに器からはこぼれなかったのだけれども、さらにそうして動かしたことで、傷口に強い痛みが残った。
「……」
 気を付けていたのに。側に友だけの状況でつい気を抜いていたのか
 笑みが崩れて、痛みを堪えるファルシェに、ジャスパーはあっさり、
「――おっとファルシェ、腕見せてみろ」
 気づいて、手を差し出した。そうするとファルシェもそれを払うわけにもいかずに、手を差し出す。
「ああ、あの時か。杖、持ち替えてたもんなァ」
「……見てましたか」
「見てないようで見てる男だからなァ。俺は」
 なんて、冗談めかしてジャスパーが笑う。揶揄うようなその言葉に、ぎこちなくそうですか、と、ファルシェは頷いた。その表情を見て、
「にしたって、やせ我慢は良くないぜェ。……悪魔は決してあんたを見放さない」
 十字傷から放たれるあたたかい光で、傷口を包み込む。そうしてジャスパーはファルシェの腕を治していく。同時にジャスパーの体を疲労感が襲うが、兎に角この傷だけでもと、ジャスパーは光を放ち続けた。
「これじゃ作業にならねえもんな」
「……痩せ我慢ではありません処世術です」
 我慢しすぎ、なんて笑うジャスパーに、ようやく絞り出すようにファルシェが言う。その言葉に、ジャスパーは瞬きをして、声を上げて笑った。
「まー、全身綺麗さっぱり癒す事も本当は出来るけど、こうして二人で薬作りってのもなかなか無い機会だしなァ。これくらいにしとこうぜェ」
 火傷の方は敢えてノータッチで。なんて、面白がるようにジャスパーは言って、光を収めた。全身を癒したら、きっとジャスパーが疲れてばててしまう、ということまでは口にしなかった。
 ファルシェはきれいになった傷口を静かに見やる。試しに腕を動かしてみる。……もう、痛くはなかった。
「……ありがとう、ございます」
 その手を見つめて、そっとファルシェは礼を述べる。そのささやかで小さな言葉に、ジャスパーは瞬きをして、
「……おう」
 結局、いつものように揶揄うような言葉を発するのはやめて。
 ジャスパーはほんの少し。でも心から。嬉しそうに微笑むのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

エンジ・カラカ
ハロゥ、ハロゥ
リュカ、リュカ。元気ー?
コレは痛い。

コレコレ、貰ったケド使い方が分からない。
賢い君は知っているケド、賢い君も疲れてる。
うんうん。
アァ……リュカ、リュカ、薬の使い方知ってる知ってる?

ハイ、って手渡してリュカに任せる。
オオカミは手当をしない。
そのまま治るまで置いておく。
そしたら勝手に治っているンだ。

薬草に詳しいヤツはたまに薬草をくれたケド
コレは使い方を知らない。
アァ……ナルホドー…。凄いなァ。
かなり痛い。

痛いケド、もーっと痛いのを知っているカラ痛くないなァ。
賢い君の手当も出来る?
千切れた、痛んだ。
コレよりも大変ダー。

終わったらコレも妖怪の様子を見に行こう
賢い君が気になっているンだ。



 風が吹いてもしみる気がする。……ので、
「ハロゥ、ハロゥ。リュカ、リュカ。元気ー?」
 エンジはひらひら、丘を探して手を振った。うん? と、声を聴いてエンジのほうを見たリュカに、
「コレは痛い」
 ほらほら。となぜか自慢するように己を指さすエンジである。
「う、うん……」
「コレコレ、貰ったケド使い方が分からない。賢い君は知っているケド、賢い君も疲れてる」
 そうしてうんうん、と頷いて。己を指さして、
「アァ……リュカ、リュカ、薬の使い方知ってる知ってる?」
 どや顔でハイ、ってもらってきた薬をリュカへと手渡すのであった。
「えーっと……」
「コレ? オオカミは手当をしない」
「なるほど、わかった。そこ座って」
 そういうものか。と納得したようなしないような声に、そういうものなんだ、とエンジは言って言われるままに草原に腰を下ろす。
「お兄さんって、何でも自分で出来そうなのにね」
「いつもは、そのまま治るまで置いておく。そしたら勝手に治っているンだ」
 薬草に詳しいヤツはたまに薬草をくれたケド、コレは使い方を知らない。と主張するエンジ。なるほど? と言いながらも、リュカは切り傷というには痛々しすぎる切り傷に薬を塗り、持参していた包帯を巻いていく。さらには打ち身で変色している個所にも別の薬を塗り、
「打撃痕は目に見えるところだけは対処するけど、服の下とかでわからないところだったら言ってね。それとも手っ取り早く飲む方にしようか」
 飲む? と差し出された飲み薬を、一口舐めていらない、とエンジは押しやった。
「そう? じゃあ、ここで安静にしてたら治りが早いって言ってるから……」
 手早い。気にせず治療を続けていくリュカに、
「アァ……ナルホドー…。凄いなァ」
 感心することしきりのエンジ。
「普通は、ここまでの傷一晩で治ったりはしないよ。場所と薬の両方がいいんだろうけれども……痛くないの?」
「かなり痛い」
 呆れたように言われた言葉に、即座にエンジは返した。割とまじめな顔になってしまった。ここまでの傷、痛くないわけがない。
「痛いケド、もーっと痛いのを知っているカラ痛くないなァ」
「……そう、なんだ」
「リュカはない?」
「俺は安全第一、無理しないだから。たまにへまをするときはあるけど、ここまでは」
 ナルホド。とエンジは小さく頷く。
「へまって?」
「銃が詰まったり?」
「アァ……。あ」
 銃、との言葉に旗とエンジが言葉を止める。何? と怪訝そうに尋ねるリュカに、
「ソウダソウダ。リュカリュカ、賢い君の手当も出来る?」
「ええ!?」
 ほらほら、といそいそと賢い君を取り出し、広げるエンジ。リュカも手当の手を止めて覗き込む。
「千切れた、痛んだ。コレよりも大変ダー」
「……」
 どうしよう、全くわからない。という顔をリュカはしていた。
「薬……塗ってみる? 一応物の妖怪用の薬があったけど」
 正直効く気がしない。とリュカの顔には書いてある。言おうか言うまいか。彼は少し悩んで、
「……多分」
「?」
「……いや」
 「命があるなら、治ると思う」。という言葉をリュカは寸前で飲みこんだ。リュカはエンジがこの賢い君をどう思っているのかは本当のところ知らないけれども、大切だということはわかる。だから、迂闊なことは言いたくなかったのだ。
「とりあえず、塗ってみようか」
「アァ、ソウしようソウしよう」
 代わりの言葉に、エンジも満足そうにうなずく。

 それが、上手くいったかどうかはともかくとして。
 数分後には、ふらりと丘をうろつくエンジの姿があった。
 本当は安静にしてなきゃいけないんだけど、と苦笑するリュカの言葉なんて聞いてない。
 終わったら、妖怪の様子を見に行こうと決めていたからだ。
「賢い君が気になっているンだ」
 とは、彼の弁である。彼の賢い君が薬で治ったかどうかは、二人しか知らないことである。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ネウ・カタラ
ジャン(f20599)と

クマさん達から薬をわけて貰って、のそのそ湖の畔へ
まん丸お月様を眺めながらぼんやり思う
やさしい炎のきみのこと

―願いって
叶うとか叶わないとか
そういうの実はあんまり関係なくて
そのおもいを抱くことが大切なんじゃないかなぁ
きみは笑うかもしれないけれど
なんとなく、俺はそう思うよ

夜風に響く己の名
俺の名を呼んでくれる、特別な声

―きてくれたらいいなって思ってた
ジャン。俺の大切なとなりびと

うん。あちこち穴と火傷だらけ
だから、なおして?いつもみたいに
伸ばした手はあしらわれて、頬の痛みも確かにある
けれど、こころも顔もふわりとろけてゆくのはどうしてだろう
ふしぎだね。ふしぎだけど
あぁとても良い気分


ジャン・セシュレ
ネウ(f18543)と

アリスラビリンスともまた違う奇妙さを感じる世界
数刻前まで「痛み」がなくなっていたなんて
きっと彼は無茶をしただろう
いつだって首輪の外れたいきものなのに
痛みの枷すら無くなったら…想像しただけで笑えるよ

―ああ、いた。

ネウ、と小さく囁く
あとはきっと夜風が運んでくれるから
思った通りに振り返る君に

Bonjour.いい夜だね、子犬くん
おやおや酷い火傷だ
炎のレディと随分懇意にしたんだね
ここなんかチーズみたいに穴が空いてるよ
伸ばされた手は軽くあしらい
完治するまで大人しくしたまえ
ドールたちも喚んで手当てくらいはしてあげようか

不意に
無防備な頬を抓り
月光がその間抜けな顔も治してくれたらいいのにね



 ジャン・セシュレ(リ・ドゥ・f20599)がその丘に降り立つと、月から吹く風がジャンの頬を撫でた。
 延々と続く竜胆の丘。人とも動物ともとれぬ住人達。薬と呼ぶにはあまりに怪しい製法の薬。……アリスラビリンスともまた違う奇妙さを感じる世界。
 数刻前まで「痛み」がなくなっていたなんて。きっととんでもないことだったのだろうと、ジャンは思う。あちこちで転がる猟兵たちの傷を見れば、どのように厳しい戦いであったのかを、すぐに察することができた。
 ……きっと彼は無茶をしただろう。と。
 思うだけで、口元がわずかに歪む。
(いつだって首輪の外れたいきものなのに。……痛みの枷すら無くなったら……想像しただけで笑えるよ)
 そんなことを考えながらも、ジャンは周囲を見回す。それはきっと……たやすいことで。
「――ああ、いた。」
 やっぱり。すぐに見つけた。
 ネウ、と小さく囁くと、風が優しく吹いて。夜風の運ばれるまま、ジャンは足を向けた。

 お大事に、とネウは薬を分けて貰って。
 のそのそと歩いていた。
 どこに行こうか、ほんの少し迷って。
 きっと、どこに行っても見つけてくれるだろう、と思いながら湖の畔に向かった。
 腰を下ろすと、全身が悲鳴を上げるけれども。
 構わずネウは、お月様をぼんやりと見つめる。
 今は嘘みたいに涼しくなって。目を覆うばかりだった炎は消えて。真っ赤な世界は真っ黒に戻っていて。
 やさしい炎のきみなんて、最初っからいなかったみたいに……。
「――願いって」
 ぽつり、と風に向かって声を上げる。
 風はちょうど月から吹いていて。どこかにさらわれて消えていくようで。
「叶うとか叶わないとか、そういうの実はあんまり関係なくて。……そのおもいを抱くことが大切なんじゃないかなぁ」
 きみは笑うかもしれないけれど。
 そんなの、何の意味もないというかもしれないけれど。
「でも……なんとなく、俺はそう思うよ」
 ……きっと。と。
 もう届かないのが、ほんの少し寂しくて。
 月を見上げたまま、ふう、と、ため息をつきそうになった。……その時、
「ネウ」
 声が聞こえた。夜風に乗って、彼の名を呼んでくれる、特別な声がネウの耳に届く。
「あ……」
 月から視線を外して振り返る。……
 ――きてくれたらいいなって思ってた。
 思っていたと同時に、きっと来てくれると信じていた。
(ジャン。俺の大切なとなりびと……)
「Bonjour.いい夜だね、子犬くん」
 嬉しそうにネウが唇を開く。その前に。どこか楽しげなジャンの言葉がネウの耳に届く。
「おやおや酷い火傷だ。炎のレディと随分懇意にしたんだね」
 ネウはジャンの姿を見て、ひどく楽し気に「ここなんかチーズみたいに穴が空いてるよ」なんて指をさすので、そう? とネウもどこか楽し気な顔で首を傾げた。まるで、いたずらをほめられたわんこのようだった。
「うん。あちこち穴と火傷だらけ。だから、なおして? いつもみたいに」
 ほらほら、お願い。なんて。
 ネウがジャンへと手を差し出す。見て。この傷。なんて、どこか示すようなそのしぐさに、
「だめ」
 あしらうように、ジャンは首を横に振った。
「完治するまで大人しくしたまえ。ほら、暫くそこに転がっているんだよ」
 ドールたちも喚んで手当てくらいはしてあげようか。と、手当の準備を始めるジャン。
「はあい」
 ネウはその様子に、おとなしくジャンを待つようにする。あしらわれるとちょっと寂しかったが、構って貰えているので、まあ、良しにしよう……なんて。何とも緩く、嬉しそうな顔をしているので。
「……」
 にょい。と。思わずジャンはネウの頬をつねった。
「……ん?」
 あれ、なんで? みたいな顔をネウはしていた。頬の痛みは確かにあって、
「……」
 でも、まあいいか。と、すぐにネウの表情は緩むのであった。
 痛いは痛い。
 けれど、こころも顔もふわりとろけてゆくのはどうしてだろう
「ふしぎだね」
「まったく。なにが不思議なのかい?」
 ふわ~っと声を上げるネウに、呆れたようなジャンの声。それがまたネウには嬉しくて、
「ふしぎだけど、あぁとても良い気分」
 何とも幸せそうに言うネウに、ジャンは一瞬。押し黙る。……押し黙った後で、
「月光がその間抜けな顔も治してくれたらいいのにね」
 呆れたように、呟いた。
 呆れたようだけれども、やっぱりその表情は笑っていて。
 月のもとで、ふわふわと。
 何とも楽しそうに視線を交わすのであった……。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

宵雛花・十雉
【双月】

火傷に裂傷、擦過傷エトセトラ
ともかくめちゃくちゃ痛え!
嘘みたいに痛ぇ…
思わず泣きそうになるけど我慢する

って、アンタが作った薬だって?
そんなの塗っても平気かよ
変なもん入れてないだろうな…
疑いの眼差しを向けながらも、痛いのよりマシかと傷口を差し出す
ぐ、やっぱ痛ぇ…
頼むから早く治ってくれ

…アンタも怪我してんじゃん
もっと自分の身体大事にしろよ、馬鹿
お返しに、傷口に染みるくらい薬塗りこんでやる
やっぱ自分で作った薬は自分でも試してみねぇとな

あと薬塗った傷口をガーゼで保護して
骨折れてたら添木と布で固定しといてやろ

ん、どうかしたか?
まぁいいや、手当てが終わりゃあ月でも眺めてよ


朧・ユェー
【双月】

全身の傷と火傷
普通なら痛みに耐えられないのだろう
しかし僕は苦痛が人より鈍感
まるで何も無かった様に振る舞う

それより心配なのは
十雉くん大丈夫ですか?
きっと彼はかなり辛いはず

僕が薬作ったので塗りますね
不安げな顔で痛みに耐える彼ににこにこと塗ります

元々ある薬…これでもきっと治るのでしょう
でもこれだけでは今の痛みは和らげない
彼の痛みを少しでも和らげるように
でもそれは彼には内緒

おや?僕もですか?
彼は怒りながら薬を塗る
怒られる事など無い僕は少しびっくりするも
彼なりに心配してくれているのが良くわかる
塗った所から熱さと痛みが伝わる
嗚呼、これが痛みか
十雉くんありがとうねぇ

綺麗な月
君と一緒に観る月も悪くない



 火傷に裂傷、擦過傷エトセトラ……、
「ともかく、めちゃくちゃ、痛え!!!」
 十雉は叫んだ。それはもう思いっきり叫んだ。叫んだと同時に空気を吸い込んだついでに吐き出した振動で全身が痛んだ。思わず泣きそうになったけれどもなんとか我慢した。
「嘘みたいに痛ぇ……」
 男の子だもの、泣かない。とまで思ったかどうかはともかくとして。
 丘に転がりむしろもっとゴロゴロしたいのに痛すぎてできなくてうずくまっている十雉を見かねて、ユェーが声をかけた。彼は隣でのんびりと座っている。
「十雉くん大丈夫ですか?」
「大丈夫じゃねぇぇぇ」
 ていうかそっちは。と、聞きかけて、言葉にならなかった。呻くような十雉の言葉を察してか、ユェーは僕は大丈夫ですよ、なんて。平然と返答をする。うずくまっている十雉からは、ユェーの状態はちゃんとは見えない。
 ユェーも、無傷というわけではない。全身の傷と火傷は軽いものではなく、普通なら痛みに耐えられないのだろう。しかしながら、ユェーはこの世界から痛みが消える前より、苦痛が人より鈍感であったのだ。だから、何事もなかったかのようにふるまえるし、それを苦とも思わなかった。
 だからこそ……苦しそうな十雉が心配でならなかった。きっと彼は、かなり辛いに違いない。だが、表面上はあくまで静かに、にこにことした笑顔を浮かべて、ユェーは十雉の傷の状態を確認する。
「ああ、これは酷いですね。僕が薬作ったので塗りますね」
「って、アンタが作った薬だって? そんなの塗っても平気かよ……」
 そういった瞬間に不安そうになる十雉に、ユェーの笑みが思わず深まる。それに気付いているのかいないのか、
「変なもん入れてないだろうな……」
「十雉くんは、僕のことを何だと思っているのかい?」
「そりゃあ………………」
 言いかけて、十雉は口を噤む。やっぱり胡乱気な顔をユェーに向けながらも、それでも傷口を差し出したのは本当に本当に痛かったからだ。痛いよりかはましだと思ったのだ。
「素直で宜しい。これはシロウサギさんたちが作った、この世界に元々ある薬……。これでもきっと治るのでしょう」
「そうか。だったら……ぐ、やっぱ痛ぇ……」
 はいはい。と、いろいろ言う十雉にユェーはその薬を塗っていく。
 実のところこの薬は、シロウサギにもらったものではない。彼らの薬は、痛みを和らげる成分が入っていないのをユェーはしっていたのだ。
 だから、十雉の痛みを少しでも和らげるように。ユェーが用意したものなのである。
 ……でもそれは、十雉には内緒の話だ。「頼むから早く治ってくれ」と、うずくまって痛みを堪えている十雉に、いらぬ心配をかけたくなかったのだ。……本当に。人のことを何だと思っているのだろうと思われるが、日ごろの行いである。
 まあ、そういうわけで。しばらくしたら薬も効いてきて、痛みも少しは引いてくるだろう。
 それまではのんびり待てば……なんて、ユェーが思っていたら、
「……アンタも怪我してんじゃん」
 不意に聞こえてきた言葉に、ユェーは十雉のほうを見た。周囲を見る余裕が出てきたのか。ユェーのほうを見て字鳥、と視線を送っている。
「もっと自分の身体大事にしろよ、馬鹿」
「おや。僕もですか?」
 ずりずりずり、と十雉は体を起こし、薬の入れ物をユェーからひょいと取り上げた。
「お返しに、傷口に染みるくらい薬塗りこんでやる。ほら、手ェ出せ」
 怒ったまま、十雉はユェーの傷口に薬を塗りこんでいった。されるがままになっていたユェーは、驚いたように瞬きを繰り返す。怒られたことなどそうはないユェーにとって、十雉の怒りは、どう反応していいのかわからなかったのだ。
「……」
 ただ、その怒りは、彼なりに心配してくれているからだということは、ユェーにもよくわかっていた。
「……」
「んだよ」
 思わず言葉を失ったユェーの顔を十雉が見た。
 塗った所から熱さと痛みが伝わる。
 嗚呼、これが痛みか、と。ユェーは思った。
「……十雉くんありがとうねぇ」
 思わずつぶやいた言葉に、十雉は瞬きをする。それから、
「やっぱ自分で作った薬は自分でも試してみねぇとな」
 なんて十雉はにやりと笑った。……ばれている。
 薬を塗れば傷口を保護して。俺ている場所は固定して。かいがいしく世話を約十雉を、ユェーは静かに見つめていた。
「ん、どうかしたか?」
「いえ、なにも」
 なんだか今日はかなう気がしないなあ。という言葉を飲み込んで、言ったユェーに十雉は首を傾げる。
「……まぁいいや。手当てが終わりゃあ月でも眺めてるか」
 まあ、こういう時は聞いても言わないだろうと、十雉も判断して言えば、ユェーもそっと空を見上げた。
「そうですね……」
 綺麗な月。
 ……君と一緒に観る月も悪くない。……なんて。
 口に出していったりなんかは、しないけれど……。

 今夜の月は、静かで、静かで。そして綺麗だった……。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

都槻・綾
切創は火傷に塞がれて
あれほど滴っていた朱もまた
衣服と皮膚に黒くこびり付くのみだったから

私も参ります、と
薬作りの手伝いに立ち上がりかけたけれど

――おや、

どうにも
地に着いた片膝が意に従わない

意識した途端
押し寄せる激痛に
体を動かすことさえ酷く億劫に感じたことへ
微かな苦笑

月影さす木の幹へ寄り掛かり
ちいさく吐息

仮初の魂でありながら
何処まで「ひと」を模したのだろう
浅ましいと嗤うのは
他ならぬ私自身か

…ただ、知りたかったのですよねぇ、

淡い笑みを湛えて
誰にともなく零す呟き

ひととは何か
いのちとは何か
知ったところで己は物でしかないというのに

それでも
此れだけ「ひと」めいて毀れていたなら
リュカさんは叱ってくださるかしら



 月から優しい風が吹いた。
 それで……、どこからともなく終わりを感じて、思わず座り込んでいた綾は顔を上げる。
 馬鹿みたいにあちこちにあった切り傷も火傷で塞がれて。
 止まることなどなさそうだった血もまた、衣服と皮膚に黒くこびり付くのみだったから。
 だから、ほんの少し、綾は勘違いした。
 ……ああ。壊れてなどいなかったと。
 私も参ります、と。地面に手をついて。そして力を入れて立ち上がり……かけて。
「――おや、」
 何か、言おうとした瞬間。ひどく胸が痛んで。
 地に着いた手が力を入れるとなんだかどうしようもないぐらい骨がきしんで。
 地に着いた片膝が意に従わずに、力を籠めることができずにもう一度草原に綾は転がる。
「……ああ」
 それでまた、激痛が押し寄せる。
 転がることによって痛む全身。
 声を上げただけで肺が悲鳴を上げている。
 何、死んではいないのだから。とか。ならば余計に手当てをしなければ、とか。
 普通は思うところだけれども、なんだかそれすらも億劫で。
「……」
 辛うじて。不器用に体を動かして。綾は月影の指す木の実機へと、体を預けるように寄り掛かった。
 それだけで……なんだか、もう。
 すべてがどうでもよくなるくらいに、遠く感じて。綾は微かな苦笑を漏らした。
「……」
 遠くは、賑やかだ。戦いが終わったから。痛い、苦しい、の声もどこか明るくて。
 けれども綾は、そういう気にもなれなくて。小さく吐息を漏らす。
「……別に」
 こんな風に、する必要はなかったのに。
 仮初の魂でありながら……、何処まで「ひと」を模したのだろう、と。
 浅ましい、と。嗤う。なんだかもう……何もかもが……、
 そこまで考えたとき、草を踏む音がして。ちらりと、綾はそちらに顔を上げる。
「……ただ、知りたかったのですよねぇ、」
 ぽつん、と、その姿を認めて、綾は呟いた。
 何のことを言っているのか、きっとリュカはわからなかっただろう。けれども、リュカは綾の隣に座る。
 綾とて、別にそれはリュカに言ったものではなく。淡い笑みを湛えて、誰にともなく零す呟きであった。
「……」
「……」
 静かに、リュカは綾の隣に座っているので。
「……叱って、くれないのですか」
 此れだけ「ひと」めいて毀れていたなら、叱ってくださるかしら。なんて。
 なんて、綾はそんなことを尋ねた。
「……怒っては、いるんだけど」
 その言葉に、少し考えて。リュカは声を出す。綾の隣に行儀良く座る。傍らには薬を詰めた鞄があるが、広げる気配もない。
「うまく、言葉にならなくて」
「おや。なぜ?」
「だって、理由がありそうだから」
 お兄さんのことだもの。と、リュカは言うので、綾は笑った。
「そんな、高尚な理由なんて、ありませんよ」
「それでも。……それが必要だったなら、大切にしたいと思ったんだ。たとえ俺には、よくわからない理由だとしても」
 それとも、話してくれる? なんて尋ねるリュカに、そうですね、と綾も思案する。
 ひととは何か。
 いのちとは何か。
 知ったところで己は物でしかないというのに……。
「そうですね、それは、別の機会にしましょう」
「はーい」
 素直にうなずくリュカに、綾は思わず笑った。
「じゃあ、そろそろ手当てしてもいい?」
「ありがとうございます。実はもう、体が動かなくて」
「そうだと思った」
 おかしそうなリュカの声。それからしみじみと、「でも、お兄さんが無事でよかった」というので。
「こんな私でも?」
「こんなお兄さんが、俺は好きだから。いなくなると寂しいよ」
 次からはもっと、上手くやって。なんて言うリュカに、綾は笑って頷いた。……まあ、実際にうまくできるかどうかはまた、別の話だけれども。その言葉に、よろしい。とリュカも満足げに頷くのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

冴木・蜜
……、ぐ
少しやり過ぎましたかね

久方振りに液体の身体が痛むし
頭はぐらぐらするし
これが満身創痍という奴か

…本当は
安静にしているべきなんでしょうけど
上半身だけとはいえ
姿かたちも最低限取り戻しましたし
私は先生方のお手伝いでもしましょう

滲む己の毒液が触れぬように
しっかりと手袋を着用の上
医学知識も活用して
先生方のお手伝いしますね

何か必要なものがあれば取ってきます
遠慮なく仰ってください
私の知らない薬ばかりなので
色々教わりたいなと思っていたんですよ

薬の作り方を教わりつつ
傷付いた妖怪の皆さんを手当てしましょう

これできっと大丈夫
お大事になさってください

……なんて
傷だらけの私が言うのも
何だか格好がつきませんけど



 蜜はとろんと姿をとろうとする。
 うまくできずに、パシャ、と、その姿がはじけた。
「……、ぐ」
 思わずうめくような声が漏れる。何度かやり直しを繰り返して、最低限の形を維持しようとする。
「少しやり過ぎましたかね」
 悩んだ末に、上半身だけは形を作った。多分手が動けば問題ないだろう、という判断で、
(久方振りに液体の身体が痛むし、頭はぐらぐらするし……。これが満身創痍という奴か)
 なんて、妙に冷静に自分の体を分析して、蜜は一つため息をついてみるのであった。
「……本当は、安静にしているべきなんでしょうけど……」
 息を吐いて、言葉を紡ぐ。それだけなのにそれだけすらも蜜はやたらと億劫で、その体が揺れる。これは疲労感だろうか、と思いながらも、蜜はさっさと手袋を着用することにした。己の毒の手で誰かに触れるのを避けるためだ。わざわざそうしてでも、蜜は……、
「さて、先生方のお手伝いでもしましょう」
 と、診療スペースに向かうのであった。
 動くたびに痛みが走る。もちろん蜜の傷だってなかったことにはなってないからだ。……けれど、
「お手伝いができれば、私はそれで」
 苦しんでいる人がいるのならば、助けたかったのだ。

 簡易の診療スペースはごった返していた。敵の数だけとらわれていた妖怪がいたのであるならば、数もすごいことになっているだろうという蜜の予想はまあ、当たっていた。
「先生方、私もお手伝いしますね」
「ああっ。ありがとうございます!」
 医学知識のある蜜の参戦は、非常に喜ばれた。
「何か必要なものがあれば取ってきます。遠慮なく仰ってください」
 手当自体は簡単なものだ。薬を塗って包帯を巻くか、そして飲ませるかだが、兎に角数が多いのであっという間に薬も減ってくる。「私の知らない薬ばかりなので、色々教わりたいなと思っていたんですよ」なんて少し興味深そうに、シロウサギの手元を覗き込む密に、じゃあ、とシロウサギも遠慮なく材料を指し示した。

「おーい。そこの兄ちゃんー」
 道中、しきりに妖怪に声をかけられるので、蜜は持っていた薬を使用する。
 上半身しかない姿でも、妖怪たちはまったく気にしないようで、
「これできっと大丈夫。お大事になさってください」
「おー。ありがとよ。兄ちゃんも大丈夫かい?」
 いたたたた。なんて、矢鱈大きな狐が、蜜が包帯を巻いたばかりの傷口を鼻でつつきながら言うので、
「触ってはいけませんよ。……私は大丈夫です。動いているほうが、落ち着きますから」
 誰かが苦しんでいるなんて放っておけないのだ。と。そこまではいわないけれども、やんわりと微笑む密に、なるほどなるほど、と狐も頷く。
「おかげさまで助かってるよ。あんたうちの娘の婿に来ないかい」
 なんて笑って言うので、思わず蜜は笑ってしまった。
「大切な家族がいらっしゃるなら、お身体大事にしてくださいね。……なんて、傷だらけの私が言うのも、何だか格好がつきませんけど」
 今度こそ、お大事に。と言いながら手を振って蜜は流れて行く。狐のほうもその姿が見えなくなるまで手を振っていた。
 あちこちから声が聞こえる。痛い、治った。悲痛なものはないけれども、やっぱり蜜は放っておけなくて。
(この身はあらゆる生命を融かす致死の蜜毒。それでも私は――ただ、救いたい)
 助けた人たちの笑顔を思い出しながら、蜜は月が落ちる丘を急いだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

シャト・フランチェスカ
相棒の猫たちが
熊の先生の背後から伺うように顔を出している
痛みが戻ってきたとき
瞬時に痛覚の閾値をぶち抜いて
多分失神したんだと思う

やけくそでUCを乱発した気もする
「あらゆる行動に成功する」──
痛覚の遮断を試してみたり
細胞の再生を早めてみたり
何がどうなったのか知らないが
辛うじて喋れるくらいには回復したようだ

潰れかけた、か細い声

ねえ先生
少しだけ治さないでおいてもらえるかな
腕の傷
それは痛いほうが正しいものなんだ

え?
うん、まあ、そうだね
変なスイッチは入っていたかも
どうせ治るんだからいいかな……みたいな
腕の中をめちゃくちゃにできる機会なんてもうないと思って
……反省します

いつもより痛々しい小説が書けそうだよ



 はっ。と、
 シャトは目を開いた。
 何か。……そう、何か。夢の、ようなものを……、
「……っ!?」
 何が起こって。と、身を起こそうとした瞬間、全身に痛みが走った。
「~~~~」
 呻くように思わず転がりまわる。どうなって。どうなって……と、手を伸ばしかけたところで、
「動いてはいけないよ。もう少し、静かにしていないと」
 声が聞こえて、ぱちりと、瞬きをしてシャトは動きを止めた。
「ほら、力を抜いて顔だけこちらを向けられるかな」
 言われるままに視線を向けると、大きな熊の体がある。何度かこの丘で見かけた熊の先生だ。そして……、
「あ……」
「この子たちがね、とても心配していたのだよ。君」
 ひょっこりと、巨大な熊の後ろから顔を出すにゃんこたちは、シャトの相棒だった。炎を纏う猫、氷を纏う猫、とても大きなもちもち猫……。それで、思い出した。
 痛みが戻ってきた瞬間、シャトは失神したのだろう。多分。
 戦闘でやりすぎて、瞬時に痛覚の閾値をぶち抜いて、やけくそでUCを乱発して……。
 あらゆる行動に成功する己の力を使って痛覚の遮断を試してみたり、細胞の再生を早めてみたり、何がどうなったのか知らないが、兎に角な俺とばかりに無茶苦茶なことをした気がする。はたから見たら確かにその勢いは恐ろしいものであったかもしれない。そのままぷっつんして気を失ったのだから、にゃんこたちが血相を変えて先生を呼びに行ったのも理解できた。
「……そう、か……」
 潰れかけたような声は、か細く。そ手も聞いちゃいられないようなものであったが、
 おかげで、辛うじて喋れるくらいには回復したようだ。
「その様子なら、大変は大変でも、深刻ではなさそうだね。どれ、少し腕をあげられるかい? 辛いだろうけれども、薬を塗らなくてはいけないよ」
 静かに呼吸を繰り返すシャトに、先生は微笑む。その様子に、シャト少しの間、考えて。
「……ねえ先生。少しだけ治さないでおいてもらえるかな、腕の傷。そういうの、できるかな」
「……おや。けれども」
 痛いだろうに。と、無茶苦茶になった手を見ながら、先生は声を上げる。痛ましそうに、彼女を見つめる先生に、シャトのほうが思わず笑ってしまう。……実際には、笑う途中で痛みが走って、なんだか変な顔になってしまったけれども、
「それは痛いほうが正しいものなんだ、だから」
「おや、そうなのかい? ……でも、それにしてはちょっと傷が深すぎるんじゃないかな?」
 どちらかというと先生は、「本当にいいの?」と聞いているような気がしたけれども、
 あはは、とシャトは半笑いをする。多分言外に、「こんなに怪我して」と、ちょっとだけ叱られた匂いを感じ取ったのだろう。
「え? うん、まあ、そうだね。変なスイッチは入っていたかも。どうせ治るんだからいいかな……みたいな。腕の中をめちゃくちゃにできる機会なんてもうないと思って」
「もう、そういうのはよしておくのだよ。君には、心配している人たちがいるのだから」
 いわずものがな、にゃんこさんたちのことである。そうだそうだ、とばかりににゃんこたちが主張しているので、
「……反省します」
 しゅん、と、シャトはうなだれた。先生は苦笑して、
「皆には、ひみつだよ。辛いようだったら飲みなさい」
 そっと、痛み止めを渡してくれた。……と、いうのに、
「はーい。……いつもより痛々しい小説が書けそうだよ」
 こりているような、いないような。そんなことを呟くのも、きっと文豪の、性なのだろう。

大成功 🔵​🔵​🔵​

レザリア・アドニス
痛みは、なくなったのではなくて、ただ忘れられただけ
よろめいて、どこか平らな所にそのまま倒れ込む
体内の死霊ちゃんがひょっこりと出てきて、焦ってうろうろしたり、ほっぺたに体当たりしたり、団子を咥えてきてぐいぐいしてくるかもしれない
死霊ちゃんをなでて落ち着かせることぐらいはできるけど、さすがに手当りする余力がない
そのまま微睡に、痛みに沈んでいく
妖怪に看病してもらったら、意識が僅かに浮上し、掠れた声で「……ありがとう」と
あなたたちはもう大丈夫ですか
なんならご自分のほうを優先してください
お礼に死霊ちゃんが持ってきた団子をあげる

月光を浴びて、もうこのままずっと眠りたい



 レザリアはゴロン、と、その場所に寝転がった。
 寝転がるというよりは、もはや倒れるようであった。
 草の感覚が心地いい。空には美しい月が輝いている。……と、
 普段なら思ったであろう。だが、今はもうそれどころではなかった。
(痛みは、なくなったのではなくて、ただ忘れられただけ……ですか)
 最初からそんな話だったはずだ。わかっていた。わかっていたけれども……。
 息を吐くたびに激痛に襲われて泣きたくなる。周囲は同じ様な妖怪や猟兵たちで賑やかだ。痛いとか、悔いるしいとか言う声はどこか明るくて、その隙間に沈みこむようにしてレザリアはひとり………………、
「……ああ」
 ひょこ、と、自分の体内から現れたのは、自分が死霊ちゃんと呼ぶものであった。
(私にはもう、死霊(こいつら)しかないの……)
 符と思い浮かんだ言葉を飲み込む。死霊はひょっこりと彼女の前に現れた後、レザリアの様子を見て何処か慌てたように彼女の周りをまわる。頬に体当たりをしたり、髪を引っ張ったりとうるさい。この傷が見えていないのであろうか。触らないでほしいしほっといてほしい。
「……」
 と思ったら、何かが顔に当たった。何だろうと思ったら団子であった。団子をぐいぐいレザリアの顔に押し付けている。というかそれ、どこから持ってきた。
 まさか勝手に強奪はしてなかろうかと、視線をうろうろとさまよわせるがあいにくそれくらいしかできない。顔をあげたら息が止まりそうなくらい痛いので、身を起こして周囲を見回すこともできなかった。どうやら、誰かに分けて貰ったようだと知るとホッとする。
「……」
 勿論、手当の体力なんて残ってはいない。しょうがないので僅かに手を伸ばすと、察したように死霊ちゃんがレザリアの手元に飛び込んできた。
 レザリアがその体を撫でて落ち着かせる。そうするとゆっくり、ゆっくり、死霊ちゃんも大人しく落ち着いてきて、
「……ああ……」
 こいつらしかいないの。
 でも、こいつらがいたな……。
 そんなことを思いながら、ゆっくりと、ゆっくりとレザリアは目を閉じた。
 なんだかひどく、気持ちが穏やかになった気がした。

 遠くで賑やかな声が聞こえている。
 時間もたてば傷も治った妖怪が増えてきて、そして誰かが酒でも持ち込んだのか。宴会の如きうるささに、レザリアの瞼が揺れた。
『おや、目を覚ますよ』
『ああ。大丈夫ですか?』
 うっすらと目を開ける。飛び込んできたのは包帯を巻かれた自分の腕と、その手に懐くようにしている死霊ちゃんであった。
 手当……。誰かが、手当をしてくれた。
「……ありがとう……」
 掠れた声で、レザリアが声を上げると、彼女を覗き込んでいた妖怪たちが、嬉しそうにわらった。
「先生! 目が覚めたみたいです!」
「うんうん、もう少しゆっくりさせてあげようね」
 嬉しそうな声に、レザリアは顔を挙げようとする……と、やっぱり痛みが走った。治療は受けても完治はしていないらしい。そのままレザリアは言葉を絞り出す。
「あなたたちはもう大丈夫ですか。なんならご自分のほうを優先してください」
 ようやく、それだけ言って。レザリアはごろり、と寝返りを打った。これ以上は、時間がたつのを待つしかないのであれば……。彼らには、もっといろんな人を治療してほしいと、思ったからだ。
「はいっ。おかげさまで大丈夫です」
「それはよかった。……本当によかった。私も大丈夫です」
 お礼にお団子を挙げます、と、死霊ちゃんが持ってきた団子を翳すと、兎が嬉しそうに受け取る。
「わあ、ありがとうございます! あなたもこのままもうしばらくゆっくりしていてくださいね!」
 ぴょんぴょん跳ねてく団子を持った兎を、目だけで追いかける。なんだか妙にメルヘンで、す、とレザリアは目を細めた。
(もうこのままずっと眠りたい……)
 こんな風に、穏やかな場所で。柔らかな光を浴びながら、ずっと……。
 ゆっくりと意識が月に混ざりあうようにして解けていく。
 死霊ちゃんがレザリアに懐く気配がして、指先でレザリアはそれを撫でる。
 それは本当にほんとうに、静かで穏やかな時間であった……。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2020年10月13日


挿絵イラスト