●きらきら光る星の様に、君を想った
ある街に一人の少年とカミサマがおりました。
少年は天涯孤独の身の上、終わりを探している最中でカミサマと出会い、むつみ合い、その伴侶と成りました。
眩しい日は共に海に潜り、雨降る日は肩を寄せて笑い合う…2人で生きる時間はとても幸福で穏やかなものでした。
けれどカミサマはある日気付いてしまいました。幸福に眩んだ眼を見開けば、自分は何一つ変わらない儘であるのに、少年が青年へと成長している事に。そう、異なる種族の2人は生と死の歩幅が違っていました。
その事に気付いたカミサマは悩んで、悩み抜いて……最後は青年をヒトの世に還す決意をしました。
青年は哭いて、縋りました。例え短い間でも寂しがり屋のカミサマの傍に居たいと。けれど、カミサマも同じ位泣きながらも決して首を縦には振りませんでした。
そうしてヒトの世に還された青年は、瞬く間に儚い生を終えました。近くにいなかったカミサマにはその理由すら分からない儘でした。
幸福を祈った番の死を知ったカミサマは三日三晩泣き狂いました。そうして明けた朝、村人がカミサマの浜辺をおそるおそる覗くと、ソコには星の様にきらきらと輝く無数の珠が散らばっていました。カミサマの姿は何処にも、何年経っても見つかる事はありませんでした。
……とある都市に伝わるお伽噺
●この胸に眠るは生か死か
「さて、皆にとって愛とは何であるかな?…等と言う無粋な事は言わないよ」
グリモア猟兵…ヴォルフガングはお伽噺を語り終えると、そう煙に巻く様な微笑みを浮かべる。翳した掌の上、渦巻く波濤を宙に放れば巻物が広がる様にその版図を広げていく。
水板に映し出されたのは珊瑚や貝で彩られた海中都市だ。今もヒトが住んでいる事を証明するかのように、不可思議な空気の泡が立ち昇っているの猟兵達に見て取れた。
「今度、皆に対処をお願いしたい世界はグリードオーシャンだ。先程のお伽噺が伝わる幻想都市…「ツァイガルニク」に迫るオブリビオン達を滅ぼして欲しい」
海底に「沈んで」幾星霜か。最早どの世界から来たのかすら定かではない程に独自の発展を遂げたツァイガルニクは、今は深海人の住居として機能しているのだと言う。
「無論、深海まで素潜りしろだなんて無茶はお願いしないさ。先程見えた泡を吸いながら潜れば水中呼吸が出来る寸法さ。…水圧は、うん、気合で耐えるしかないね」
流石に無責任な自覚はあるのか、最後は心持ち早口でグリモア猟兵は締めくくる。敵の情報も伝えておこう、と切り替えた画像に映るのは海中を悠然と泳ぐ巨躯の骸騎士達だ。
「識別名、神聖巨人騎士団『ホーリーハイランド』だ。その正体は不明だが…巨人の国の騎士といったところかな。巨体に似合わない水中での機敏な動きだけでなく、守護結界の類も使いこなす難敵だ。用心して対処してね」
彼等を撃破しても襲撃は終わらない。仔細は不明であるものの海底都市の中、憩いの浜辺に降り立つ第二陣の影が視えたとグリモア猟兵は続ける。
「とはいえ、第一陣を退ければ深海人達も猟兵の皆が味方だと分かってくれるだろう。都市の中に招き入れてもくれる筈、英気を養いつつ襲撃に備えてくれ」
襲撃の備えは色々あるだろうが、例えば件の浜辺に散らばっている魔法珠を投げつければ閃光を放つ為、目くらましにもなるだろう。無論、その他のトラップも有効だ。
「丁度君達が訪れた時には、その宝珠を用いた祭りも開かれている頃だ。ただ投げつける分には眩いだけの光だそうだが…今生きている人を想い空に放れば、その人を顕した様な光の華が咲くそうだ。ロマンチックだね。他にも魔力を宿した貝殻も拾えるそうだ、加工する時間はなさそうだがお土産になるかもね」
「…なら、亡くなった人を想って投げれば?」
「…光が消えるまでのほんの僅か、話す事は出来なくても、触れる事の叶う死者の幻がその人に寄り添うそうだ」
記憶の顔が、声が朧げでも――自分が思い描いた其の儘で、死者がその姿を顕すのだと言う。
「とても甘美で、とても恐ろしいとオレなんかは思ってしまうけれどね。選ぶのはキミ達だ。…頼んだよ」
そうぽつりと呟いたグリモア猟兵は、言葉の余韻が消える前に再度手を翳す。その手に浮かぶ虚像の花が舞い散り、象られた異界への門が開く。扉の先からは生者の発する陽気と、悲しみに沈む陰気のどちらもが存在している様に思えた。
冬伽くーた
初めまして、或いはお世話になっております。12度目ましてとなります冬伽くーたです。
今回は新たな展望を見せるグリードオーシャンよりお届け致します。幻想的な海底都市に迫るオブリビオン達の撃破をお願い致します。
【大変申し訳ありませんが、全章共に再送をお願いする可能性が御座います】。済みません。
●第一章
海底都市に迫るオブリビオン達の撃破をお願いします。OPにも記載させて頂きました通り、都市から立ち昇る空気の泡で水中呼吸には支障ありません。
●第二章
開始前に断章を投下致します。
ツァイガルニクに伝わる幻想的なお祭りに参加頂いたり、敵襲に備えた対策をして頂く事となります。どちらかだけでも構いません。
お祭り自体は夜の浜辺で繰り広げられる、冒頭に出てくるお伽噺のカミサマと青年を想ったものとなります。
恋人さんや仲良しの方とお互いの想い花火を見るも良し、ひっそりと死者を想い宝珠を放るも良し。
また、浜辺には綺麗な魔力を帯びた貝殻も散らばっている為、拾い集めて楽しむ事も出来ます(アイテム発行は出来ません)
●第三章
ボス戦となります。こちらも開始前に断章を投下させて頂きます。
以上となります、宜しくお願い致します。
第1章 集団戦
『神聖巨人騎士団『ホーリーハイランド』』
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POW : 誇りの一撃
単純で重い【巨大なクレイモア】の一撃を叩きつける。直撃地点の周辺地形は破壊される。
SPD : 戦神への信仰心
全身を【魔法に強力な耐性を持つオーラ】で覆い、共に戦う仲間全員が敵から受けた【負傷】の合計に比例し、自身の攻撃回数を増加する。
WIZ : 戦神の加護
【徐々に回復する体力の守護】【衝撃に強く仰け反り辛くなる体幹】【死ぬ程のダメージを受けても短時間動ける体】で自身を強化する。攻撃力、防御力、状態異常力のどれを重視するか選べる。
👑11
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●神聖にして邪悪なる者達
『オオオ…』
『カミ…ヨ…』
最早震わせる喉も無い筈だった、けれど屍の神聖騎士達の呻き声は深海の蒼に響き渡る。
巨体を捩じらせ目指すは幻想の都。何故目指すのかは彼等にも分からない様だった、がむしゃらに伸ばす手の必死は置いて行かれた幼子のそれにも似て、切迫を見る者に伝えるのだ。
されど、如何に同情心を誘う姿を晒そうと世界に牙剥く者は滅ぼされねばならない。無辜成る数多の命を守る為――海中で綻ぶ虚構花より猟兵達は飛び立つ。彼等の巨躯に対するに余りに儚い姿なれど、その瞳に譲れぬ信念を宿して。
***
【受付期間】断章投下後
【〆切り】 書き切れるまで(twitter/MSページで別途お知らせいたします)
※マスコメにも記載させて頂いた通り、再送をお願いさせて頂く可能性が御座います。また、今回より全体的に文字数縮小方向となる予定です。
木常野・都月
巨人の騎士……。
海で泳ぐ骨って、初めて見たかも。
陸上より重力が少ない分、早く動けるのも納得だ。
なら、こちらも相応に早く泳げるようしておこうかな。
水の精霊様にお願いして、水の抵抗を弱めて欲しい。
俺が素早く泳げるように、フォローをお願いしたい。
UC【精霊の矢】を水と氷の精霊様の助力で使用したい。
水の精霊様は、矢の抵抗を抑えて貰って、氷の精霊様には攻撃を担って貰いたい。
敵が強化してくるなら
[カウンター]で対処したい。
水の精霊様の水抵抗と、氷の精霊様の[属性攻撃、多重詠唱]で、敵の動きを鈍らせた上で、追撃を行いたい。
更に[範囲攻撃、属性攻撃(2回攻撃)]も追加したい。
敵の強化は攻撃回数でカバーしたい。
●
「巨人の騎士……海で泳ぐ骨って、初めて見たかも」
月見草の花より現れ出でた木常野・都月(妖狐の精霊術士・f21384)はぱちり、その柔らかな碧眼を瞬かせる。それ程に巨大なスケルトンが海中を泳ぐ光景は何処か非現実的だ。しかし、成程確かに重力の和らぐ海中であれば全身鎧に覆われた身も大きなハンデに成り得ないのだろう。
青年の推察を肯定するかの様にぐんぐんと巨影は迫り来る。眼下に揺らめく赤が一層瞬いたかと思えばその背に背負ったクレイモアを抜き放ち、垂直に振り下ろす!
「お願い、出来るかな」
なれど、青年の瞳は未だ凪を保つ。こぽり、口元より吐き出される水泡に海に溶け込む水霊は応えるのだ。柔らかに微笑んで愛し子の背後に寄り添い、そのクリアブルーのドレスを翻し、都月の周りの水の抵抗を抑え込む。
――ウウウウン!!
迫る大剣、伴い掻き分けられる水の苦鳴。その一撃から青年は水霊の助力の元、木の葉の様に身を捩る。骸騎士よりも尚高い機動性を得た青年は、まるで水の精霊そのものの様に海を自在に飛び回る――!
剣の横腹を蹴り付け、握り締めた杖を櫂の如く漕ぎ出し、付けた勢いの儘にぐんと水を掻き分け騎士の背面を取る。巨体故に骸騎士が青年を見失った間に、青年は慣れた言の葉を紡ぐ。
「精霊様、御助力下さい」
刹那、ふるりと精霊が揺れる。麗しき娘の姿を取った精霊の胎より抜け出る様に現れるは冴え冴えとした容貌の青年騎士――否、その姿を象った氷の精霊だ。
2体はまるでオンディーヌと魅入られた青年。名残惜し気に離れた氷霊の指が真横に薙がれるや、
――ギィィィィィン!!
海水は急速に冷やされ、猛き唸り声を上げる。生み出された氷剣は幾百にも及び、水霊の枷に囚われた騎士に突き立つ!
「オオオ――!」
常人であれば耐え難い必殺の魔術、しかしその一撃は騎士が捧ぐ信仰の結界に阻まれる。見た目はまるで透き通る卵殻の様な結界は、その多くが氷剣に貫かれ今にも崩れ落ちそうであったが、最後の一押しに至らない。
だから、堰を壊しに行こう。振り返れば1対の頼もしき精霊達が頷く。彼等と自分だけの秘蜜の言葉をとろり、幾重にも流し込んで。
水は謡う、いとし子に身を捧ぐ殉愛唄を。
刃先から徐々にその威容を顕すのは先程の氷剣を幾重にも束ねた、巨大な氷のダガー。骸騎士は恐怖に死した眼を限界まで見開く。その刃身に刻まれた言葉は――
「――貴方に慈悲を」
最早戻れぬ騎士を楽土に送る手向け。言葉と共に水を掻き分けた刃は、過たず堕ちた騎士を貫いた。
大成功
🔵🔵🔵
葵・弥代
◎
泳ぎはしたことがないが、案外何とかなるもんだな。
水の中で呼吸できることに無表情故に変わらぬ顔だが面白いと感じる。
腰に差してある刀を抜けば相手を見据え構える。
――さて、お相手願おう。
耳に届く呻き声と縋るような手に目を細める。
例えこの身がヒトで無かろうと何も思わないわけではない、が…。
悪いな。それで心揺るがすほど俺も甘くはないんだ。
敵の攻撃は受けきれる自信があるときにだけ刀で受け止める。
あとはなるべく避けたいところ。
……足場が崩されていくと戦い辛いな。
まずは四肢のひとつ頂こうか。
刀を滑らせ狙うは鎧に包まれた腕か足の関節部位。
鎧があろうとUCを使い勢い殺さず斬り飛ばすように振るう。
●
(泳ぎはしたことがないが、案外何とかなるもんだな)
葵の花がはらりと散れば、同じ字を持つ葵・弥代(朧扇・f27704)が白群色の瞳をぐるりと巡らせる姿があった。
どこまでも透き通った綺麗な蒼の世界。人は容易に立ち入りざる領域を掻き分ける作業は弥代には初めてで。その表情は常の凪を纏うが、そわりと動かしてみる手が、都市より立ち昇る水泡を熱心に眺める様が内心を如実に伝えていた。
けれど、その何処か和やかな仕草も仇敵の姿を見れば自ずと切り替わる。自身の本体――器物と思われ易い刀に手を掛ける。
爛々と輝く緋の禍々しさを隠しもせず、狂信の徒は群れを成して青年へと迫っていた。その切迫さに思う所はある、しかし想いに耽る暇を与えないのもまた、骸と化した騎士達であるのだ。
抜き放つ刃にそれぞれの命運を賭して、ひたりと正眼に構える。
「――さて、お相手願おう」
此れより開幕、幕の終わりは命の終わりと歌い、青年は海を征く。
巨人の応えは重量級の刃だ。その背より勢い良く引き抜かれたクレイモアは、その勢いの儘に此方も正眼に振り下ろされる。
真っ向から受け止めるには、余りに体格差があり過ぎた。故にひらりと蒼を舞う。鮮やかに太刀筋を躱す様は青年の本体――嘗て佳人の手に馴染んだ舞扇子の本領発揮といったところだ。其の儘、都市の外殻たる珊瑚を、貝をとんとんと飛び回っていく。てんで出鱈目なクレイモアの軌跡では軽やかな青年を捕らえる事は叶わぬ。まるで演目の一つ、約束された未来の様ですらあった。
――されどその舞は夜を彩る蝶の羽ばたきに非ず。
「まずは四肢のひとつ頂こうか」
軽やかに貫く蜂の一差しである。
ざわり、囁きは武人の業を纏う。剣は走る、狙うは稼働し続けた事で穴開きとなった鎧の綻び目――即ち足の関節部。
鍔鳴りの音は鈍く、なれど剣閃は水の抵抗を物ともせず神速を誇った。ちん、と再び刃を鞘へと納めれば、鎧を形成していた鋼と断ち切られた骨の継ぎ目から零れた白磁が雪の如く、海中を漂う。
――最早、骸の騎士は体勢を立て直す事は出来ない。神の加護に縋る事すら忘れて、結末を齎した弥代にその上腕骨を伸ばした儘、深い、深い、水の底へと沈んでいく。
一瞥する眼差しは様々な色を湛え細まるが、答えは最初から変わりはしない。
「悪いな、兵」
――それで心揺るがすほど俺も甘くはないんだ
成功
🔵🔵🔴
黒鵺・瑞樹
アドリブ、連携OK
右手に胡、左手に黒鵺の二刀流
さて呼吸に支障がないって事だし頑張るか。水中の動きに関しては水中機動、水中戦、水泳。あと何より伽羅頼り。乗ってもつかまっても水中なら得意な子だし。…エンパイアウォーからアルダワまで大変世話になった(しみじみ)
水圧はまぁ気合で。
基本存在感を消し目立たない様に立ち回る。隙を見てマヒ攻撃を乗せた暗殺のUC剣刃一閃で攻撃。
相手の体躯がまずでかいからマヒは気休めだな。通れば上等ってとこだ。
敵の攻撃は第六感で感知し見切りで回避。
回避しきれないものは黒鵺で武器受けで受け流しカウンターを叩き込む。
それでも喰らってしまうものは激痛耐性、オーラ防御で耐える。
●
(さて呼吸に支障がないって事だし頑張るか)
綻ぶモントブレチアの花を揺らし、その手に自らの本体と奉納刀を掲げ黒鵺・瑞樹(境界渡・f17491)は世界の境界線を越える。見渡す限りの蒼は本来は人を拒む領域であるが、それは自らの水を征する技術の数々、そして何より――
(ありがとう、助かる)
冷静な雰囲気を纏い、けれど瑞樹をしっかとその背で支える竜のお陰で何の苦にもならない。…水圧ばかりは堪えるより他にないだろう。
身の丈は小柄な人間程か。額に海より尚鮮やかな青を掲げる水神の竜――伽羅の献身に、謙譲の美、花言葉を写し取ったかの様な年若く端正な容姿を綻ばせ、瑞樹はその背を優しく撫ぜる。此れからの戦に、彼(又は彼女)の助力は必要不可欠だ。
既に幾人かの猟兵達と交戦体勢にある神聖騎士団達の注意は逸れがちだ。故にこそ付け入る隙があり――時機を物にする力が青年にはあった。
伽羅の作り出す水流に乗り、密やかに瑞樹は戦場へと泳ぎ出す。巨人たちの足元を潜る様に、狙うは最も隙を晒す個体だ。
別の猟兵に狙いを定めたのだろう鈍重な仕草で大剣を引き抜かんとするその様――がら空きになった胴体に、ぐんと加速する!
「――!シンニュウシャ!!」
漸く瑞樹と伽羅の接近に気付いた巨人は剣の軌道を変えんと試みるが、余りに遅い。主を決して傷付けない伽羅から迸る紫電が巨体を捉えれば、びくんと瘧の様に身を震わせ一瞬身動きが止まる。
その一瞬は瑞樹には充分過ぎる隙だ。力が抜けた事で巨人の手よりすっぱ抜け、目前に迫り来る巨大な鋼を分身たる黒鵺で受け流す。余りの質量、その全てを受け止めるには人の器では難しい。故に鋼と十字を切る様に押し付け、剣身を横に薙ぐ。変わった重心と伽羅の水流で押し流され、その方向を変えたクレイモアを蹴り付け一息に巨人の懐に飛び込む。鍔鳴りの音までも密やかに、胡へと手を掛ける。
(悪いが、こんなところで堕ちるわけにはいかないんだ)
永遠を照らす星の先、其処にこそ辿り着くべき場所がある。
剣刃一閃――走る剣閃は偽りの神聖に守られた屍の躰を、鮮やかに斬り捨ててみせるのだ。
成功
🔵🔵🔴
灰神楽・綾
【不死蝶】◎
異種族恋愛かぁ、猟兵として過ごしてたら
あちこちで当たり前のように見かけるけどね
俺もダンピールだから両親もつまりそういう事なんだろうし
置いていかれるのが嫌だから置いていった…悲しいお話だね
…とまぁ御伽話について梓と雑談しつつ敵襲に備える
お言葉に甘えて梓のドラゴンに騎乗
自分で泳ぐより速くていいね
海中だと水の抵抗で思ったように
武器が振り回せないから…
UC発動し、ナイフに「水」を透過する性質を与える
こういう使い方初めてだけど、どうかな
投擲したナイフが空を切るように敵に向かっていくはず
敵の攻撃は重い分、予備動作も分かりやすい
敵が武器を振り上げた瞬間
命中率を高めたナイフを脳天にお見舞い
乱獅子・梓
【不死蝶】◎
そのカミサマは
好きな奴に表向きは残り短い生を人として
幸せに過ごしてと思ったんだろうが
実際は好きな奴の死に目に会うのが
耐えられなかったんだろうな
どうせ泣くなら最後まで一緒に
居てやった方が良かったのにと俺は思うが
水中戦と来ればこいつらだろう
UC発動し、シーサーペントのような
水属性のドラゴンを最大数召喚
足として使いな!と綾に一匹貸してやる
自身は成竜に変身した零に騎乗して移動
魔法に耐性があるのなら物理で行けばいい
水のドラゴン達の噛みつき・頭突き・締め上げ
といった方法で攻撃していく
半端にダメージを与えると強化されていくから
複数のドラゴンで一斉攻撃を仕掛け
一体ずつ確実に速攻でケリをつけていこう
●
「異種族恋愛かぁ、猟兵として過ごしてたらあちこちで当たり前のように見かけるけどね」
解けるミズメの木枝、虚構の樹が溶けて消える僅かの間、灰神楽・綾(廃戦場の揚羽・f02235)と乱獅子・梓(白き焔は誰が為に・f25851)が交わすのは幻想都市に息衝く伝承についてだ。
誰かを乞い願い――そして通じ合う軌跡。その形は多種多様な種族で構成された猟兵にあっては特段珍しい事ではない。俺もダンピールだから両親もつまりそういう事なんだろうしと綾自身も衒いなく肩を竦める。
「……そのカミサマは、好きな奴に表向きは残り短い生を人として幸せに過ごしてと思ったんだろうよ。実際は好きな奴の死に目に会うのが耐えられなかったんだろうな」
とくり、とくりと木々の隙間から注がれる海水に顔を顰める梓であったが、その感情の向い先はきっと水に注がれる感覚だけではないだろう。
嘆くのであれば、独り狂うのであれば。その結末が悲劇であっても最期まで共に在るべきであったのだ。――そうすれば、末期すら青年はカミサマのものであっただろうに。
「置いていかれるのが嫌だから置いていったか……哀しいお話だね。と、おしゃべりは此処までみたいだ」
――来たよ
小さく、けれどその言葉尻を戦の興奮に揺らす綾の示す先には、襲い来る2体の巨人。疾うに朽ちた身にはそれでも尚、戦神の加護を纏うのだ。
置いていってしまっても尚、その魂を捕え守る――果たして哀しいのは巨人達か、自分達には見えない戦神のどちらであろうか。
「そう思うなら俺を置いていくなよ」
今にも懐に飛び込まんと身を引くくした綾を慣れた様子で片手で押し止め、異界に住まう竜達と梓は交信を開始する――
「集え、そして思うが侭に舞え!…綾、足に使え!」
「竜飛鳳舞(レイジングドラゴニアン)」、異界の竜を呼び寄せる力はシーサーペンとの様な細長く優美な肢体の水竜達を呼び寄せるに至る。梓自身は成竜へと姿を変えた零がその背で支える。
水竜達の内最も大きな個体――恐らく群れを率いる頭領だろう、迫力が段違いであった――が器用に尾で綾を引き寄せれば、梓ににっこり微笑んで青年も逆らわず身を任せる。其の儘、器用に水竜の銀鱗に手を掛け姿勢を安定させた上で、己のナイフへと力を込めていく。
掛かる時間は僅か、周囲に満ちる水の抵抗は最早何の障害にならない。けれど骸の騎士達の守護を砕く時にその勢いは減じてしまうだろう――故に目配せ。
黒と薄緋のレンズ越し交わした約束は阿吽。彼の羽搏く蒼穹を置き去りにしない為に、梓は獰猛の笑みを佩く。騎士達の身が魔術に強いのならば――
「魔法に耐性があるのなら物理で行けばいい……蹂躙しろ!」
その身を力でねじ伏せる!
梓の鋭い号令に従い、水竜達は牙を剥く。斬り払わんと剣に手を伸ばせば、その手首を鎧ごと噛み砕かんとし、その身を護る結界を締め上げる。ぎりぎりと縄の引き絞られるような音が水中で尚響き渡り、
――ラァァァァン!!
陶器の砕ける様な澄んだ音と共に結界は砕け散る。それは屍達の怒りを煽った様だった、昏くぴっかりと空いた眼窩の奥、澱んだ灯の色を強めクレイモアを力強く引き抜く――それすら彼等の作戦の内だと知りもせず!
綾の脳内で興奮物質が染み渡る。時が緩やかになったかの様に、引き抜く動きは鈍いモノと感じられる――引き延ばされた数秒、骨の指に力が籠もる一瞬の隙にナイフを投擲する!
真っ直ぐに飛んだ血刃は過たず骸の騎士、その眉間を捉える。ぐらりとその頭蓋が仰け反った刹那、刃は解けて無数の紅蝶に姿を変える。水に囚われぬ羽搏きは刃となり、騎士の顔面を無数の塵へと変えていく。
「何処にいても、君を捕まえる」
――それが例え、神秘の御簾の向こう側であろうとも
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
アオイ・フジミヤ
深海人の居住、素敵ね
見てみたかった、海で生きる人たちを
海で生きるってどういうことかを
泡を捕えるのはなかなか至難の業かな
最初に泡の出る方角を確認して水泳で泡を捕えつつ
徐々に深度を下げて深海適性で身体を慣らす
巨人と同じ大きさの守護天使のシャチを呼ぶ
さあ、私と一緒に戦って?
仮初の命の屍達より海中では私の天使にアドバンテージがある
あなたたちの神って誰かな
物理の力で目を覚まさせてあげよう
噛みつき、体当たりで攻撃指示、衝撃波で意識を逸らす
海は怖くはないの
慣れているし、海の恐ろしさもきちんと知っている
海流を見極めて逆らわずに敵に近づこう
悲しい御伽噺だとしても
出逢えたことは優しい”ほんとう”だと信じたいの
●
はらはら散る勿忘草、その柔らかな蒼から抜け出たアオイ・フジミヤ(青碧海の欠片・f04633)は瞳に焼き付ける様に、眼下の幻想都市を見つめる。
淡い光のドームに包まれた都市には幾つもの年月を越えて来たであろう、白味掛かった珊瑚や貝が散らばって。
都市の正面には深海人が出入りし易い様にだろう、様々な海洋生物が刻まれた重厚な白磁の門が佇む。よくよく眺めれば、門にはそこかしこに傷があるのが見える。まるで背の高い生物が自分の鱗や角で傷付けてしまった様な――嗚呼、そうか。
その理由に思い至った娘は可憐な唇を綻ばせる。戦いの最中でなければ、想いの丈を紡ぎ詩としたかも知れない。
門に描かれた彼等は深海人の祖なのではないだろうか。今はその子らが愛し、笑い、肩を寄せ合い――この地で生きているのだろう。
(見てみたかった、海で生きる人たちを。海で生きるってどういうことかを)
愛する海で、どう生きるのかを。
答えは満ちた。ならば余計に――巨人達に、争乱の神に委ねるわけにはいかないのだ。
アオイは深き青へと身を委ねていく。泡を捉え、華奢な身を押し潰さんとする重力の抱擁を柔く留めながら。
(なかなか至難の業かな)
きゅっと眉を寄せる。それもそうだろう、掌の砂の様に、泡はするりとすり抜けていくのだ。そうして何時しか――ぱちんと消える。まるで最初から存在しなかったかの様に。
それでも少しずつ、捉えて進めば出迎えるのは朽ちて久しき巨体。見据えたアオイは畏れではなく――祈りの為に暫し鮮やかな瞳を閉じる。
――カラァァァン
何処からともなく響く鐘の音は、海の中でも祝福の音色を濁らせない。集まった光は何時しか骸の騎士と同じ位大きな鯱の姿を取るのだ。
(あなたたちの神って誰かな)
彼等が身に纏う凝った神性に目を細める。物理の力で目を覚まさせてあげよう、そうと鯱の背を撫ぜる。
守護者の意を汲んだ守護天使は、ぐんと力強く泳ぎ加速。骸の騎士が纏う結界に体当たりを仕掛ける。海中でも尚、鈍く大きな音が響いた。衝撃に身を捩じりながらも、騎士は剣の間合いを取ろうとするが――
(仮初の命の屍達より海中では私の天使にアドバンテージがある)
――その動きは、余りに遅い。
鯱の牙は罅割れた結界ごと仮初の命を刈り取る。冥府の狩人、その儘の勇壮な姿だった。
さらさらと崩れ、海中に没する騎士の姿にお伽噺の情景が重なる。この光景を、カミサマは怖がったのだろうか。
独りならきっと、恐れることなどなかった。
愛しい者の死に、怯えることもなかった。
けれど、それでも。
(悲しい御伽噺だとしても――出逢えたことは優しい”ほんとう”だと信じたいの)
この心に、確かに刻まれるものがあるのだと、娘は信じたかった。
何時か差し出された、愛おしい華が幽かに揺れた様な気がした。
成功
🔵🔵🔴
アリエ・イヴ
【契】◎
愛はここに刻まれた本能で
存在の意味だ
胸を軽くノックして
煽る様な笑みをシェフィーへと
俺なら手にいれた宝を手放すなんざ考えられねえけどな
なぁシェフィー
冷たくされても気にせず肩組み
俺の勘も運も、よく知ってるだろう?
【君の僕】
語った愛を証明するように
海を受け入れ海へ成る
シェフィーは要らぬ云々言いやがるが
話を聞く気は更々ない
水の流れを手繰りシェフィーと己の後押しに
ついでに逃がさないように
シェフィーの射線以外を渦で囲んで閉じ込める
助けてくれる、そこに愛はないのかシェフィー?
これが飯事なら
随分大人の遊びだな
魔法に耐性があろうが
お前達を蹂躙するのは純粋な暴力だ
剣を構えて切り込んで
海に還れるんだ感謝しな
シェフィーネス・ダイアクロイト
【契】◎
愛など一時の情、飯事に過ぎぬ
(…とうに棄てた)
本当に宝は眠っているのか?アリエ・イヴ
己の天秤に掛け此処に来たが疑いの目
メガリスで全体見渡し
外套脱ぎ水中へ
読心術諸々で連携
気安く触るな
貴様に協力はせん
手助け不要
私の邪魔だけは御免被る
水中では敵が有利なので距離保つ
定期的に泡を食む
敵の攻撃回避
敵の大技使用後の一瞬の隙狙う
二丁拳銃で射線内全て制圧射撃・蹂躙
ついでにアリエ・イヴの死角潰す
【海賊王の怒り】で手番増やす
足止めし継続ダメージ
傷口抉り暴君の如き敵の命を略奪
私の前に立ちはだかる敵を排除した迄
(貴様を利用するのが一番効率が良いのは理解している
結果、手を組む事も)
…断じて在り得ない
The end
●
今は遠く、巨体の屍が揺らめいているのが見える。遠近感の狂いそうな大きさであるが故に分かり辛いが、間もなく交戦となるのだろう。
緊迫した空気の漂う中、紫万年青の花びらよりとんと飛び立った2人は一見は何処までも対照的であった。けれど、何処か似通った空気を纏う2人でもあった。
「本当に宝は眠っているのか?アリエ・イヴ」
「なんだ、疑ってんのかシェフィー?俺の勘も運も、よく知ってるだろう?」
疑惑の眼差しにするりと手を伸ばしてみせる赤銅色の髪の青年――アリエ・イヴ(Le miel est sucré・f26383)は、愛とは何ぞやと問われれば、とくり、いのちを刻む心臓に刻まれた本能であると胸と叩いてみせる。
意識して動かすモノではなく、この躰を突き動かすモノであるのだと。
答えに眉間に刻まれた皺を一層深め、シェフィーネス・ダイアクロイト(孤高のアイオライト・f26369)は嘆息する。
外套を脱ぎ落しつつ、気安く触るなと肩に掛かったアリエの腕を振り払おうとするが、外すのには一苦労だった――その力強さこそが、他者に頼る事を善しとしないシェフィーネスがアリエの同道を許した理由であったが、今は苦々しさを掻き立てる要素だ。
愛とは何ぞやとシェフィーネスが問われれば、飯事と答えるだろう。一時の情、そして――
(…とうに棄てた)
遠き過去でしかないのだから。
「貴様に協力はせん。手助けも不要、私の邪魔だけは御免被る」
「へぇへぇ、素直じゃねぇなあ。…大事な事はせめて名前を呼んで告げるもんだぜ、シェフィー?」
「…抜かせ」
冷たくメガリスのブリッジを押し上げて告げるシェフィーネスを笑みを深めていなし、アリエは己が語る愛を証明する。
大いなる海が求める形、肢体――傲然たる愛染を受け止め姿を変えていく。しなやかな足は珊瑚の色映したエメラルドグリーンの尾へと姿を変え、水の中の陽が如き艶やかな赤銅の髪は深い蒼穹へと染まっていくのだ。
そのまま指を指揮者の如く揺らせば、同化した海は意に従い逆巻く流れで骸の騎士達を留め、戒める。そうして自らと相棒には有利な海域を造り出し――優雅と言える動きに反する速さで敵へと突き進んでいく。
引き寄せられた泡を食みつつ、最早眉間に断裂を刻んだシェフィーネスも自由な青年の跡を追う。
連携を取る為、差し向けた読心術はアリエの意志を「何ら隠す事なく」存分に伝える――それがまた、菫青の青年には不可解であった。どうして他人である自分に、其処まで明け渡す事が出来るのだ。
何よりアリエは巨大としか表現の出来ない大海の意志すらも余すところなく受け入れている。けれど傀儡となる事もなく、その芯は確かに見知った男のモノであるのだ。アリエは知っているのだ、海が愛する自分を害する事はないと。
まるで子どもだ。慈しまれる事をこれっぽっちも疑う事のない――ちらと、頭を過ぎる過去の縋る手を振り解き、シェフィーネスは骸の騎士へと2丁拳銃を差し向ける。
卓越した射撃術は骸の騎士の全身、そして周囲を制圧せんばかりに降り注ぐが水中抵抗により威力が減じる事は避けられない。
オオオオオオン!!
それでも命を削ぎ落さんばかりの銃弾に怒る騎士は、自らの身に絡む海の戒めを強引に振り解き、クレイモアを振り下ろす!
突き進んでいたアリエはその一撃を難なく躱すが、騎士は自分の上腕骨が砕けるのも厭わぬ奇想で強引に太刀筋を変更、振り下ろしつつあった大剣をぐんと跳ね上げる!
形振り構わぬ攻撃をアリエを舌打ちしつつ、敢えて敵の懐に飛び込み回避するが、何時もの自分と異なる尾鰭が僅かに剣に捕らえられ、斬り飛ばされる。
じわりと滲む血は――それでも真紅の儘であった。
海に染まっても尚、ヒトのそれを保っていたのだ。
いのちの赤は、シェフィーネスにも良く見えた。その瞳の蒼を凍て付かんばかりに深めて闘気を己が身に纏う。
届かぬのなら手数を増やせばいい。再び差し向けた銃口より鉛菓子を無数にくれてやる。その銃撃は正に簒奪の嵐。自分が付けた傷口を抉り、その身を覆う鎧と骨を吹き飛ばしていく。騎士の口から恐慌に満ちた叫びが盛れた。
シェフィーネスは気付いただろうか。手助けはしないと拒絶する口振りとは裏腹にその行動、全てがアリエを助ける為のものである事に。
用いるユーベルコード――「海賊王の怒り」は仲間が負う痛みにこそ反応する力である事に。
その事を同じ海賊であるアリエが気付かぬ筈もない。故に赤銅色の青年はチェシャ猫の様に目を細め、肩を竦めてみせるのだ。愛される事を疑わない、まるで子供の様な無邪気さに傲慢とも取れる蠱惑を滲ませて。
「これが飯事なら随分大人の遊びだな――そこに愛はないのかシェフィー?」
「私の前に立ちはだかる敵を排除した迄…断じて在り得ない」
僅か、戸惑った言葉は逡巡か。
心を読む術を持たないアリエには真実分からない儘ではあったけれど――色を僅か変えた菫青の瞳を見る事が出来た、今はそれで充分だ。
剣を構えて切り込んで――
「海に還れるんだ感謝しな」
甘やかな弔詞と共に、巨人の胴を両断したのだった。
巨人の再度の死を以て、戦記に終止符が打たれる。
2人の間に在るモノは家族の情ではない、利益と不利益の掲げられた天秤の傾きに過ぎない。少なくとも今は。
けれど、その縁が何時しか凍る青年の心に罅打つ楔へと変わるか否かは――きっと、これから語られるべき物語なのだ。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
第2章 日常
『夜の浜辺で』
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POW : 足に波を感じながら散策
SPD : 貝殻等の漂流物を集める
WIZ : 波の音に耳を傾ける
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●幻想海底都市「ツァイガルニク」
歪なる信仰の騎士達を退けた猟兵達を出迎えたのは幾つもの拍手、歓声の嵐だ。気が付けば先程までは影一つ見当たらなかった海域に、無数の深海人達の姿があった。主には人魚――色とりどりの尾鰭を揺らす半魚の民が多い様であるが、中には海蛇、クラゲ、タコ、イカ…様々な魚類の特徴を持つ人々も少なくない様子であった。
何処から出て来たの?そう猟兵の1人が問えば、進み出た下半身がタコである深海人の青年が悪戯が成功した子供の顔で掌を開いてみせる。その手には虹色の光を放つ鱗が握られていた。
「あの門は鯨や鯱みたいなデカい深海人専用ゲートなんだ。ヒトサイズの連中はこの鱗の魔力で外と中を行き来しているよ。理屈はヒミツだが、丁度都市の中央の石像前に出る様になっていてな…っと、いきなり喋り出して悪い」
友好的な仕草で立て板に水の勢いで話し出した青年であったが、名乗りもしていなかったなと日に灼けた健康的な顔にくしゃりと笑みを浮かべる。
「俺はこの都市の一応代表、ドゥアーだ。宜しくな、客人殿。…正直あの巨人達には手を焼いていたんだ、助かったぜ。お礼になるかは分からんが、少し寛いでいってくれや」
――ようこそ、俺達の「ツァイガルニク」へ!
そうにんまり笑ってドゥアーは鱗に魔力を込める。鱗が一際強く輝けば、目の前は一面の蒼から都市の内部へと姿を変えていたのだった。
恐らく件の「カミサマ」と青年を象ったモノだろう、幸福そうに見つめ合う1対の像を中心として十字に道が延びているのが猟兵達には見て取れた。
「佳ければ後で俺の店にも顔を出してくれよ!」「ウチはとっておきの酒を用意して待ってるよ!」――一緒に転移してきた深海人達は、心の底から歓迎の意を示しながらそれぞれの日常へと戻っていく。
騒がしい連中で済まんな、と笑って。この場に残ったドゥアーは案内役を買って出た様であった、「ウチは色々観光名所があるんだが…」そう、多くの深海人が戻っていく一角を示す。
「アイツらが戻っていった辺りはバザール――市場だな。今は祭りの最中だから、普段以上に混沌としているが…それもご愛嬌って事で!深海で取れるちぃっと変わった海産物やらあんたらも良く喰ってるだろう魚介類まで取り揃えているし、それを調理して出す料理店も並んでるぜ。もしも腹が減ってんならオススメしておく。ああ、料金は気にしなさんな。恩人たちから巻き上げようとする程、俺達はがめつくはないからな」
貝や魚の焼ける香ばしい香りが猟兵達の鼻をくすぐる。手軽に食べるなら串焼き、しっかり食べるならパスタやパエリア、麺類もお勧めとは代表者談である。
都市自体が独自の発展を遂げている様に、料理もまたどの世界の影響が強いのか分からない程に様々だ。魚醤のコクのある匂いに醤油や味噌、バターの他、香辛料のスパイシーな香りも混ざって佇んでいた。
他には…と、タコ足が差し示した先はグリモア猟兵の予知にもあった件の浜辺だ。
「うん?何か知ってそうな顔だな?…ま、細かい事はいいわな!あそこはこの像の伝説にも出てくる追憶の浜辺だ。神聖な場所なんで屋台なんかも出ていないが、その分静かで良いとこだぜ。ここでは浜辺に散らばっている宝玉を使って想いあるを伝えたり、死者に会いに行ったり…後は魔力を含んだ貝殻も結構あるからな、そういったのを探すのも楽しいんじゃねぇかな。ああ、若しも海に出たいんなら、その辺に浮かんでる巨大クラゲに乗ってくれ。そいつらヒト大好きだから、喜んで乗せてくれるぜ」
そう海辺を指示されれば、波に揺られるようにぷかぷか大きなクラゲが浮いているのが目に入った。全体的に柔らかな桃色で何処か愛嬌がある風情だ。
場所柄聖地といった扱いではあるが、特に物の出しは禁じられていないらしい。その方がカミサマも寂しくないだろ、とドゥアーは微笑って片目を瞑る。
「あん?敵襲がまだあるかも知れないから罠を作るかも?…まじかよ、そりゃあ仕方ねぇな。終わった後俺達で戻しておくから遠慮なくやってくれ。なくなるよりはマシだ」
思い切りが良いのか、細かい事は気にしないだけか――恐らく両者だろう。予知の先を知らされたものの、青年はたいして気にした様子もなく請け負う。
かくて、道行きは示された。襲撃までの僅かな憩いの時間、猟兵達は思い思いに幻想都市で時を過ごす。
■□■
【受付期間】6/18(木) 8:31~
※なるべく出ない様にしますが、人数次第でプレイング再送をお願いさせて頂く可能性が御座います。
※本章のみの参加も大歓迎です
木常野・都月
◎☆
追憶の浜辺が気になって来てみた。
宝玉が気になる……。
じいさんに逢いたい、けど、逢いたくない。
今しかチャンスないのに……俺、何やってるんだろ。
でも、今じいさんに逢ってしまったら……情けない顔をしそうで。
自分が妖狐なのだと、自覚してから、いっぱい、悩みができた。
何で俺は、他の妖狐と違うのか。
何で俺は、他の猟兵みたいに頭良くないのか。
何で俺は、記憶がないのか。
人と自分を比べて見るようになったんだ。
そしたら、今の俺はあまりにも不出来で。
だから、凄く逢いたいけど、こんな顔見せられない。
ごめん、じいさん。
宝玉をそっと元に戻して、貝殻を拾いたい。
魔力が籠ってるなら、この後の戦闘で役に立つはず。
●
(追憶の浜辺、どんなどころなのだろうな…)
水の揺らめきが映し出される蒼穹の下、砂の感触を確かめる様にてくり、てくりと歩みを進める木常野・都月(妖狐の精霊術士・f21384)の表情は、迷い子の様な不安に揺れていた。
未知なるものへの好奇心は変わらずあれど、その心は千々に乱れて晴れやかとは言えないものだ――原因は分かっていた。
(じいさんに逢いたい、けど、逢いたくない)
優しい声を覚えている。
頭を撫でてくれた、骨ばった温かな手を覚えてる。
鬼籍に入って久しい家族の顔が見たくない筈がなかった。拾い上げた宝玉はまるで夜空の光を閉じ込めた様な光がぴかり、ぴかりと瞬いて。
(今しかチャンスないのに……俺、何やってるんだろ)
その光が優しい程に、情けない顔をしてしまいそうになるのだ。まるで拾われた時の様に縋ってしまいたいのだ。
(自分が妖狐なのだと、自覚してから、いっぱい、悩みができた)
何で俺は、他の妖狐と違うのか。
何で俺は、他の猟兵みたいに頭良くないのか。
何で俺は、記憶がないのか。
どうして、どうしてと頭の中で疑念と自責の面を被った自分が叫ぶ。
物心付いた時には親はなく、野狐として育った青年は教養を学ぶ機会が限られていた。今は自ら学び直す日々であるが、どうしたって生まれてしまう差に焦燥が時に胸を突く。
自分と関わる猟兵達の誰もが優しく、決して馬鹿にしないからこそ。心がぽかぽかする程に、隣に過不足なく並びたい気持ちも膨らんでいくのだ。
「人と自分を比べて見るようになったんだ。そしたら、今の俺はあまりにも不出来で」
――合わせる顔がなくなってしまったのだ。
まるで宇宙に独りきり放り出された様だ。浅く、早まる呼吸は何時か空気を吸う事すら忘れてしまいやしまいか。そんな空想めいた恐怖が胸を締め付ける。心臓の上から、ぎゅうと握った服がくしゃくしゃになっても、まだ手は離せないまま。
だから。だから。
「凄く逢いたいけど、こんな顔見せられない――ごめん、じいさん」
未練に悴む指を一つ、一つ離して。都月は宝玉を再び砂浜に埋める。丁寧に、丁寧に。せめて安らかであってと願いながら。
俯いた拍子に柔らかな髪が青年の瞳を覆ってしまうけれども、この都市の様に深く、沈んだ声がその気持ちを雄弁に伝える。
(俺に記憶があったのなら――)
自分を自分たらしめる基盤が築かれていたのなら。今頃、じいさんと笑い合えていただろうか。こつり、当たった感覚に拾い上げたソレは蛤の様な形の貝殻。
(――分からない、分からないんだ、じいさん)
縋る様に握り締めた貝は優しい幻にすら連れて行ってはくれないけれど。それでも慰める様に、幽かな温もりを青年に伝えるのだ。
大成功
🔵🔵🔵
テティス・カスタリア
探し物したいから浜辺に、…海底だから変な言葉だけど
でも此処は自分が生まれて暮らしてた場所にもかなり近い深さだと思う
ふよふよ移動して、波模様の石で出来たイタヤガイみたいな物や綺麗な鱗、巻き貝…色んな物を気になり次第拾ってUCで仕舞う
「…うん、懐かしい」
残留思念達の中で見た空ってものが知りたくて、風や星を知りたくて海の上に出たんだけど
でもやっぱり馴染みがあるのはこっち
「仕方ない」(薄っすら笑み)
体の作り方忘れたし、ただの水に戻らないようにだけ気を付ける
幾度となく宝珠は見た
このロケットペンダントの持ち主だった筈の女の人の姿、ちゃんと見れたらってずっと思ってるけど
でも生死も知らないから
そっと見ないふり
●
(探し物したいから浜辺に…海底だから変な言葉だけど)
天には見慣れた星はなく、されど代わりに懐かしき青があった。海流の描く流紋の光に目を細めながら、テティス・カスタリア(想いの受容体・f26417)は浜辺を見渡す。 深い水底は余人に禁足を敷くが、元より海底の住人であったテティスには何の障害にもならぬ。
むしろ此の場所はテティスの故郷に近しい深度で、少しばかり星詠みを郷愁へと誘うものだ。想いと遺品の流れ着く深海流、似通うこの地にもまた――心残りが散らばっているように思えた。
ふわり宙を漂い追憶の地を進めば、其処には仄かな燐光を散らす貝殻がそこかしこで存在を主張する。その内の一つ、波模様の石で出来たイタヤガイの様な物を手に取り美貌の星詠みは目を細める。
右太腿の銀冠に嵌められた青い宝石にそっと先程の蒐集物を押し当てれば、珊瑚で彩られた海の如き場所へと誘われていく。
星詠みの囁きに集められたもの達は、盲いた儘でいられる幸福に微睡むのだ。
揺り籠にも似た安穏の地は、こうしてまた一歩居心地の良い場所へと移ろっていくだろう。
「…うん、懐かしい」
綺麗な鱗、巻き貝……心惹かれる物を更に送りながら、そうと眼差しを緩める。
残留思念達の中で見た空の青さが、季節を告げる風が、空を編む星が知りたくて海の上に出たが、やはり馴染み深いのは海底で。
「仕方ない」
自分はどうしたって海に根差すものなのだから。
もうこの躰の「作り方」は忘れてしまった。7割、否、ひょっとしたらそれ以上を構成する命水をただの水へと戻してしまわない様に――注意しなくてはならないのだ。
自身を構築する「水」の扱いは支障はない。だが、この躰を波濤の如く波立てるものは――一つだけ、あった。
貝殻を掬い上げる過程の中で、何度も目にした宝珠。見えない星を閉じ込めた様にきらきら輝き、ゆらゆら揺れる光は美しいと言えるかも知れない。けれど、手を伸ばす気には終ぞならないまま。
星詠みの胸元に鎮座するロケットペンダント。軽くて――同じ位重い蓋を開ければ、其処には在りし日の女性…持ち主の肖像画が収まっている。
その姿をちゃんと見たいと思っているけれども……
(でも生死も知らないから)
今はまだ、そっと見ない振り。
知らなければ、観測しなければ可能性は残されているから――どこかでそっと、猫が鳴いた気がした。
大成功
🔵🔵🔵
葵・弥代
◎
へえ。不可思議なこともあるんだな。
……想いを込めれば死んだ相手でも、か。
手の中で宝珠を遊ばせて
俺が想うのは、会いたいのは――。
宝珠に想いを込めて
脳裏に描いたのは俺を作った男と、それを贈られた芸妓
互いに惹かれ想い合えど終ぞ結ばれることなかった二人の主
眼前いるのは俺とそっくりだが愛想のある男と芸妓姿ではなく町娘の格好をした女
ただの願望。あり得なかった未来
不器用乍ら薄く笑う
アンタらが寄り添って幸せを築いてくれる未来を、見てみたかったんだ。
…こうして人間のフリをしてみるのも存外悪くないな。
おかげで面白い体験ができたよ。
叶いもしなかった事を願うのは空しいだけだと思っていたが。
…少し満たされた気がする。
●
「へえ。不可思議なこともあるんだな……想いを込めれば死んだ相手でも、か」
ドゥアーの説明にも葵・弥代(朧扇・f27704)の表情はやはり大きく動く事はなかったけれど、その声音は心を映し出すかの様に上下に揺れる。
掌で遊ばせる宝玉は寄せては返す波の様にその明暗を刻一刻と変えていく。まるで生きて此処にあるように、仄かな温もりを指先に感じる。
不可思議な石に掛ける願いは、想うのは、会いたいのは――脳裏に想い描く泡沫よ、現世へと願い青年は空へと放る。
澄んだ砕ける音と共に、さらさらと空より光の粒が零れ落ちる。やがて弥代の目前に留まり、像を結ぶのは一組の男女――自身を作り出した職人の男と贈られた芸妓の娘。
互いに惹かれ想い合えど終ぞ結ばれることなかった二人の主――彼等はけれど、今結ばれた夢現では何の衒いもない笑顔で寄り添い合っていた。
決して暮らし向きは楽ではないのだろう。ことことと火に掛けられて煮える鍋には僅かな米と端切れの野菜が浮いていて。良く手入れされているけれど、ところどころが痛んだ木板はともすれば踏み抜いてしまいそうで。
けれど、たわんだ床に弥代と良く似た面差しの男が愛嬌のある仕草でたたら踏んで見せれば、娘が愛しさに頬を染め乍らころころと笑う。
其処には幸福があった。大切な者の温もりを感じながら笑い合える、何よりも確かな幸福が。
其の儘よろめいた振りで倒れ込む男を、娘は座った儘で受け入れる。娘の腹に男が耳寄せるのは愛しい女への甘えか、或いは――
虚像はそこで唐突に途切れた。夢幻を形作った光は再び海へと紛れて消えていく。
咄嗟に翳した手の掌からも零れ落ちる光に、弥代は不器用乍ら薄く笑う。
此れは単なる願望、あり得なかった未来の欠片――けれど、
「アンタらが寄り添って幸せを築いてくれる未来を、見てみたかったんだ」
確かに見たかった光景なのだ。…人間のフリをするのも存外悪くない、そう思える位には不可思議な体験だった。
「叶いもしなかった事を願うのは空しいだけだと思っていたが」
――少し満たされた気がする。
そう、青年は先程よりも少しだけ器用に微笑んでみせるのだ。
例えそれが一炊の夢に過ぎずとも、願った幸福は確かに存在したのだ。
大成功
🔵🔵🔵
黒鵺・瑞樹
アドリブ、連携OK
うわ…酒が飲みたくなるな、この匂い。……いやいやまだ仕事があるんだし今は我慢我慢。
伽羅を伴って海辺で散策がてら、お土産用の貝殻や、目くらましように宝珠をいくつか拾っとくか。
これって花火みたいなもんか?試しに一つ投げてみたいが、特に会いたい人はいないしなぁ。
棺の中で別れた主はもう別の件で会う事も話もできた。それどころか幻影とはいえ手合わせする事もできた。これ以上望んだら罰当たりだ。
そうだな、俺にとってステンドグラスのような万華鏡のような人を思い浮かべて投げてみる。
いろんな色をキラキラと映すような人だ。
…あんまり普通の花火と変わらないかもな。
●
「うわ…酒が飲みたくなるな、この匂い」
「あっはっは、真面目だねイケメンなお兄さん!じゃあ全てが終わったらまたおいでよ、自慢のケバブをご馳走するからね!」
けれど今は仕事中、我慢我慢……自分に言い聞かせる様に繰り返す黒鵺・瑞樹(境界渡・f17491)の様子が余程切羽詰って聞こえたのか、偶然耳にした恰幅の良い女店主は軽やかな笑い声を上げて、そう提案してみせる。
そちらの美しい竜の仔も一緒にね、そう掛けられた言葉に頷いて瑞樹は歩き出す。市場は喧騒に満ち、雑然としていたがその分命の輝きに満ちていた。
弾ける様な住人達の笑顔を眺めながら、隣を往く伽羅――水神の竜に「動き辛くはないか?」と尋ねる。返答だろうか、クールな表情で小さく首を左右に振る相棒に微笑みが零れる。
香ばしい香りを名残惜しくも振り払い、1人と1柱が向かう先は件の浜辺。
遥か頭上には都市を覆う球体の様なドームが浮かぶ。星灯りの代わりに水の揺らめきが彩る夜に徒然、散歩へと向かう。
都市の住人達が告げた様に、浜辺には多くの貝殻が散らばっていた。含まれた魔力の影響だろうか、夜に在っても仄かな光を放っており蒐集には事欠かない。
「ほら、伽羅に似ているよな、この貝の色
」「………」瑞樹が差し出した夜空色の貝殻と自分を見比べる水竜の表情は、訝し気で。それがまた青年の微笑みを誘う。
同じ位ありふれて、浜辺に転がる宝珠も来たる戦いに備えて拾い上げて。指で抓み、首を捻る。
「これって花火みたいなもんか?試しに一つ投げてみたいが、特に会いたい人はいないしなぁ」
棺の中で別れた主はもう別の件で会う事も話もできた。それどころか幻影とはいえ手合わせする事もできた――これ以上望む事は罰当たりだろう。
代わりに脳裏を過ぎるのは、自分にとってステンドグラスのような、万華鏡のような――多くの輝きを見せる人。
思い浮かぶ虹光の儘に、空へと放れば澄んだ音色を立てて罅割れた宝珠からは――天を埋め尽くさんばかりの光。光が、溢れた。
「あんまり普通の花火と変わらないかも、と思ったんだが…」
――どうやら、自分が想う彼の人はもっと鮮烈であったようだ。黄、橙、赤、青、緑……火花は刹那の命なれど、その色は千変――否、万変の灯。
瑞樹と伽羅は浜辺に並んで座り、その光が途切れるまでの長い、長い時間、ずっと光を見つめ続けたのだった。
大成功
🔵🔵🔵
灰神楽・綾
【不死蝶】◎
いやぁ市場の料理、どれも美味しかったね
お祭りを楽しんだあと浜辺へ
さっきの賑わいとは打って変わって
静かな空間に響く波の音と、夜風が気持ちいい
梓の打ち上げた花火を共に眺め
真っ暗な夜空に光る真っ赤な赤い花はとても俺好み
ねぇねぇ、誰のこと想いながら投げたの?
俺はね、母親と会ってみようかなって
どんな人だったのか覚えていないけど
それどころか生きてるのかすら分からないけど
でも何となく、もうこの世には居ない気がする
宝玉を投げたら、紅い瞳の若い女の人が現れて
記憶には無くても、ただそこに居るだけで
心が満たされるような安心感は
やっぱり母さんなんだろうなぁと
消えてしまうまで、その安心感にただ浸り続けた
乱獅子・梓
【不死蝶】◎
あ、ああ、そうだな…
意味が分からんくらい香辛料かけまくる綾や
掃除機のように端から端まで食い尽くす焔と零を
思い出して苦笑しつつ
宝玉をひとつ手に取り
今生きている人を想い空に放れば…だったか
思い切り空に投げてみれば、真紅の花火
花開いたあとは、蝶が舞うように火の粉が散っていき
嗚呼、本当にイメージ通りだなと笑み
隣のこの男は、本当に気付いていないのか
それとも本当は分かった上ですっとぼけているのか
答えははぐらかしてやった
母子の感動の再会とくれば
席を外して二人きりにしてやりたいところだが
何故か俺もその場を離れることが出来なくて
ふいにその女性―綾の母親と目が合い
俺にも微笑みかけられた、ような気がした
●
「いやぁ市場の料理、どれも美味しかったね」
「あ、ああ、そうだな…意味が分からんくらい香辛料かけまくる綾や…」
舌鼓を打った料理に想いを馳せ柔らかに微笑むとは対照的に、同じ様に思い返した乱獅子・梓(白き焔は誰が為に・f25851)は苦笑いを浮かべる。
その美貌から、恩人である事を差し引いても尚老若男女より熱い声を受けていた綾であったが、屋台の店主から差し出されたスパイシーな串焼きをこれでもかと香辛料をましましにした瞬間、その黄色い声はぴたりと止んでいた。
元より辛かった串焼きの更なる凶悪進化に市場が一瞬静まり返ったのは言うまでもない
その横でマイペースに掃除機のように端から端まで食い尽くす焔と零に、今度は種類の違った悲鳴が上がったのはご愛嬌だろう。
先程までの喧騒とは打って変わって、静寂が横たわる砂浜に夜風が心地良く、綾は目を細める。
毛並みの良い猫の様な彼の様子に微笑って、梓は彼の分まで宝玉を拾い上げる。
「今生きている人を想い空に放れば…だったか」
ちらりと自分の相棒に視線を遣り、決心一条。
咳払いでせり上がる緊張を誤魔化して。けれどぶれる事の無い想いを込めて宝珠を空へと放る。
――シャァァァン
変化は刹那。神楽鈴の様に清らかな音色が響けば、宝珠は空のまにまに解け、真紅の花火となって空を彩る。散りゆく火花は紅色蝶、空を彩り消えていく――と思えば、1対の蝶だけは溶けて消える事はない。
踊る様に、螺旋を描きながら綾と梓の元へと落ちていくのだ。
その蝶を笑って掌で受け止め、真紅の花は自分好みだと笑いながら綾はことり首を傾げて。
「ねぇねぇ、誰のこと想いながら投げたの?」
「――はぁ!?」
なんていけずな事を聞いてみせるのだ。これにはイメージ通りに仕上がったと笑みを浮かべていた梓も思わず目を剥く。
この男は――まさか、自分が蝶を象った異能を操る事を失念しているのか。
(本当に気付いていないのか、それとも本当は分かった上ですっとぼけているのか)
付き合いは長く、平素の呼吸は阿吽そのものであっても、時に心は深淵。推し量る事すら敵わぬ事もある――正に今がその時であった。
梓の沈黙をどう受け取ったのか、己の手の内にある宝珠を弄びながら綾は己の願いをぽつりと口にする。
「俺はね、母親と会ってみようかなって」
どんな人だったのか覚えていないけど、それどころか生きてるのかすら分からないけど――でも何となく、もうこの世には居ない気がする。
そう零す言葉は何処か儚げで、梓は開き掛けた口を閉じる。過去に囚われないと公言する綾が口にする事は珍しい事であった、そしてその願いもまた。
ならば2人きりにしてやった方が良いのでは――そう身動ぎした梓の元へ、先ほどから大人しく綾の掌に止まった儘であった蝶の一頭がひらりと梓の頭に止まる。まるでその選択肢を咎める様に。
暫し思い悩み――自身もまた杳として知れない離れ難さを感じた梓は、少しばかり強めに綾の背中をばしんと叩く。
痛いよ、と口を尖らせる綾にひたりと真剣な眼差しを向けて。
「――出てこないなら生きていて良かったって話だ。でも会えるなら――それは幸せな事だろう」
「……うん、そうだね」
その言葉に背中を押されたように、綾は空へと宝珠を放る。先程と同じ様に、澄んだ音色が響き渡るや否や――2人の目の前には紅い瞳の若い女性が佇んでいた。
「――母さん?」
記憶には無くても、ただそこに居るだけで心が満たされるような安心感。胸の裡より湧き上がる気持ちの儘に誰何を上げれば、女性は笑みを深めて柔らかに微笑んで見せる。
そのままふわりと浮かび上がり、自分を遥かに越える背丈に育った息子をやわりと抱き締めた。
驚きに目を瞠った綾はけれど、その柔らかな温もりに緊張を解いていく。この温もりは決して自分を傷つけない、その事は言葉にしなくても分かったのだ。
(…良かったな、綾)
相棒の様子に目元を綻ばせた梓は、2人の様子を目に焼き付けようと半歩下がろうとして――己にも向けられた慈愛の微笑みに気付く。
女性は自分の息子と梓に留まる蝶を見て、眩しいものを眺める様に目を細めて。声にならない声を愛し子の隣人へと紡いで――ゆっくりと、その姿を薄らげさせていく。
「……やっぱり母さんなんだろうなぁ」
「……ああ、お前そっくりだったな」
幸福の微睡みに揺蕩う様に、やわら言葉を紡ぐ綾の背を幼子を慰むるリズムで梓は労る。
「何だか母さん、梓の事見ていなかった?」「気のせいだろう」どちらからともなく歩き出せば、肩を並べ何時もと同じ呼吸で歩き出す。
(きっと、あの人は……)
――色んな事に気付いていたのだろう、恐らくは母親としての勘としか言えない第六感で。言葉にならなかった彼女の想いは……
「そういえば答えてもらってないんだけれど、梓は結局、誰を想って宝玉を投げたの?」
「――秘密だ」
今はまだ、自分だけの――2人だけの秘密として。大事に、大事に抱えていよう。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
アリエ・イヴ
【契】◎
屋台で甘いものを
賑やかな雰囲気が心地いい
どうせ逃げてもまた会うんだ
なら一緒にいた方が早いだろ
宝を探しにシェフィーと浜へ
貝も珠も手に取るのは海を思わせる色の物
どれもいいが…本物がそこにあるのにここにいる意味もわからねえな
制止は聞かず
強引に押しきり海へ
この海は…少しシェフィーに似てる気がする
聞かれた名前を反芻するが
知らねぇな
嘘偽りなく返せば
僅かに落ちたような声
普段のシェフィーのようで
違う気配は感じるが…
深くは尋ねない
それが俺の前から消えるようなものでないなら
俺の側は変わらない
せっかくだから花火もみようぜ
想うのは船の連中
それとシェフィー
複数いればどんな花が咲くのか
ひとりに絞られるのか
楽しみだ
シェフィーネス・ダイアクロイト
【契】◎
持ち歩き可な烏賊焼きや鮑などの魚介類に舌鼓
…騒々しさには目を瞑ろう
だが何故貴様もついてくるアリエ・イヴ
浜に散る宝珠や妖な魔力宿す貝殻もあればメガリスで捜索
一等綺麗な物を手に
海中には何も無いだろう
一人で行…おい、貴様
巨大海月に乗る羽目に
昏い海見て語る
貴様に訊きたい事がある
マクシリアンと云う名に聞き覚えは?
そうか
(アリエ・イヴの父親と私の父に深い親交があったのなら、
名ぐらい聞いた事がある筈だが
本当に、知らぬのか
無関係か
それとも…
顔も知らぬ父親の事など何を今更)
唇噛み締め僅か落胆の色
(だがもしも仇の息子だとしたら
今なら
この場で)
何故、
心がざわめき燻る
ナイフに触れ彼を刺そうとし制止
宝珠は投げず
●
賑やかさを好むアリエ・イヴ(Le miel est sucré・f26383)は優しいバニラの甘味が染み渡るドゥドゥルマを、静寂を好むシェフィーネス・ダイアクロイト(孤高のアイオライト・f26369)は食欲をそそる香りの烏賊焼きを手に人波を掻き分けていた。
まるで図った様に好むものも、選んだ食べ物も真反対の2人は肩を並べ市場の賑やかさに浸る。――最も、シェフィーネスには不服であった様で、ぎろりと隣に並ぶアリエを睨み付ける。
「…騒々しさには目を瞑ろう。だが何故貴様もついてくるアリエ・イヴ」
「どうせ逃げてもまた会うんだ、なら一緒にいた方が早いだろ」
逃げてなどいない――そう言い掛けたものの、どう足掻いても隣の赤銅色の青年が追い掛けてくる事は容易に想像が付いて。
シェフィーネスは言葉の代わりに烏賊焼きを力を込めて噛み千切る。口の中にじわりと広がる旨味は流石深海産、新鮮で苦々しい気持ちを押し流せそうな程であった。
常人であれば裸足で逃げ出しそうなシェフィーネスの圧力も、アリエにはどこ吹く風。零れる言葉、一つ一つが薫風である様にその端正な美貌を綻ばせ、宝探しへと誘うのだ。
連れ立つ追憶の浜辺はしんと静寂に満ちて。そこかしこで幽かに立ち昇る光は、シェフィーネスのメガリスを通せば、その輝きの強さも――色も本当はばらばらである事が手に取る様に分かった。
これはきっと貝殻の記憶。彼等が生きて、思って、そうして最期に抱えた――気持ちの残滓なのだ。
アリエは海の青を映した様な綺麗な貝を、シェフィーネスは哀しみの菫青に染まった一等綺麗な宝珠を手に取る。
アリエ自身は海賊稼業である事も手伝って、手にした物は状態の良い――とりもなおさず言えば、金銭的な価値が発生しそうな代物を見つけ出していたが、首を捻るばかり。
「どれもいいが…本物がそこにあるのにここにいる意味もわからねえな」
「海中には何も無いだろう、一人で行…おい」
この海は何処か、シェフィーネスに似ている気がして。だからだろうか、深い、深いところまで――垣間見たくなったのだ。
握った手は離さず浜辺を漂っていた大海月に飛び乗り、船の代わりとして2人は昏き海原へと漕ぎ出していく。
漂う事暫し、陸地は遠き彼方。さて、連れ出した菫青の青年はどんな顔をしているか――アリエが覗き込めば、其処には怜悧な美貌に、いつもと異なる拒絶以外の色を載せた顔があった。
何時ものシェフィーネスと何かが違う、問いかけようと開いた唇は――
「貴様に訊きたい事がある。マクシリアンと云う名に聞き覚えは?」
「……知らねぇな」
他でもない、彼の問い掛けに別の言葉へと変わる。
正真正銘、アリエには聞き覚えのない名前であった。その名を反芻してもみるが、やはり思い当たる顔はいなかった。
その答えにシェフィーネスは僅かな落胆を覚え、唇を噛み締める。
(アリエ・イヴの父親と私の父に深い親交があったのなら、名ぐらい聞いた事がある筈だが)
――本当に、知らぬのか
顔も知らぬ父であった。何を今更と思わないでもない、けれど若しもアリエの父が手に掛けた犯人であるのなら――それは即ち、仇敵の息子と肩を並べている事に他ならないのだ。
(―――!)
咄嗟に引き抜いた冴え冴えとした刃は飾り物などでは決してない。シェフィーネスの手に良く馴染み、何人もの敵を屠って来た業物で。――なのに、まるで蝋で固められたかのように動かないではないか。
(何故)
今が好機ではないか。疑わしきは罰せよ――そうしなければ生きて来れなかった過去を否定するつもりはない。否、自分だけは否定してはならないのだ!
移り変わる彼の激情、血が滲まんばかりに噛み締められた唇の紅潮、その全てを刃を突き付けられながらも全て観察していたアリエには彼の葛藤の理由は分からない。
けれど――シェフィーネスが消えていなくならなければ、全ては些事であるのだ。
故に、今にも崩れてしまいそうな彼に、非道と謗られようとこの手札を切る事に躊躇いはない。
躊躇に揺れるシェフィーネスの刃を握る手を包み――そして躊躇する事なく己の心臓、その真上へと差し向ける。
「な――!」
突然のアリエの暴挙に目を瞠りながらも、咄嗟に引こうとしたシェフィーネスの腕は他ならぬ赤銅の青年に阻まれる。
足元を支える大海月が慌てているかの様に、ちかり、ちかり、目まぐるしく赤と青で点滅する。
「アリエ・イブ!貴様は一体何を――!」
「なあシェフィー。さっきの復習だ。愛とは何だ?」
その光すら煩わしいとばかりに菫青の青年は怒号を発する。
「くどい!飯事以外の何であるのだ!」
「いいや、存在の意味だ」
冷えた頭で考えるものではなく、熱い胸で行う衝動なのだ。
折角だから花火を見ようぜ。そう朗らかに告げてアリエは空へと宝珠を投げ放つ。
その音は獰猛な程に、強く。
正に花火の如く重厚な破裂音と共に空に咲くのは、黒、銀、灰、藍、翠――自分の大切な家族達。
そしてその光が薄らぐ過程で――最後は菫青へと姿を変えるのだ。
シェフィーネスに――同じ瞳の色持つ青年にその意味が分からぬ筈がなかった。
アリエは証明して見せた。自身が口にする想いが真摯であり、苦楽を共にした家族と並び立つ程に大きなものである事を。
菫青を忙しなく瞬かせる青年に、先程までとは異なり蠱惑の一片も混ぜ込まぬ、獰猛な笑みを浮かべてアリエは囁く。
「そして、本能だ」
全てを喰らい尽くしたいと願う、食欲にも似た。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
シン・バントライン
◎
アオイ(f04633)と
「ホンマやな。魚ってこんなに綺麗やったっけ?」
彼女とは一緒に随分色んな場所に出掛けた様に思う。祭りや雨の街、砂漠に魔法都市、そして海底都市。
これからも同じ時間を共有して楽しい時間を共に過ごしたい。
神様と少年の話を思い出す。
人はひとりで生まれてひとりで死ぬ。それは誰でも変わらない。
でも流れる時がもし違うのなら、あと何回彼女に会えるのだろう。
彼女が投げ変化した花をぼんやりと眺める。
弾けた宝珠は空に浮かぶ月の様に美しかった。
もし自分が投げたら水飛沫になり散るだろう。
せめて一緒に居る時間は楽しく居たい。同じ場所に居て同じ舟に乗りたい。
とりあえず、
「なぁ、クラゲ乗りに行かん?」
アオイ・フジミヤ
◎
シン(f04752)と
シン、一緒に来れて嬉しい!
見て、色とりどりの尾鰭が綺麗
隣を歩く彼をそっと見つめる
美しい横顔、空の色の瞳
綺麗なこのひとはダンピール、私はオラトリオ
異種間恋愛は珍しくない、けれど
彼と私の間に流れる時は同じなのかな
御伽噺の結末
愛しい人を置いていく青年も
置いて行かれる神様も
ただお互いの幸せを求めていたんだろう
でも我儘になってふたりでいることも幸せだと
あっけらかんと思うのだ
宝珠を手に取ってシンに笑う
いつだって私の心は彼でいっぱいだ
海に散る金色の月を模した華
私の月
あなたがいない夜はもう歩けないから
喩え流れる時が違ったとしても傍に居たい
海月?いく!
手を伸ばす
あなたと一緒ならどこへでも
●
「見て、色とりどりの尾鰭が綺麗」
「ホンマやな。魚ってこんなに綺麗やったっけ?」
覗き込んだ海は存外賑やかで、色とりどりの鮮やかな尾鰭を翻す魚達の様子が良く見て取れた。
恋人の瞳に良く似た、美しい青の尾鰭に一等惹かれながら一緒に来れて嬉しい!そう弾けんばかりの笑顔を浮かべるアオイ・フジミヤ(青碧海の欠片・f04633)に、シン・バントライン(逆光の愛・f04752)も柔らかに微笑む。
追憶の浜辺、硝子の様な球体で覆われた都市に落ちる水紋の影を2人で追い掛けて。そうして辿り着いた砂浜は鮮やかな色彩で溢れていた――また、2人の思い出の
コルクボードに一つ、思い出の写真が留め置かれる。
何時しかこうして肩を寄せ合う事は日常の一部となった。それだけの思い出と時間を大事に、大事に積み重ねてきたのだ。
祭りや雨の街、砂漠に魔法都市、そして海底都市――思い出を愛しく、噛み締める様にゆっくりと指折り数えるシンの横顔は、宝物の記憶にも負けないくらいに美しくて。
普段は厳かな黒布に隠された空の色の瞳が、自分を見つけた瞬間、甘くやわく蕩ける。きっと自分の瞳も同じ様になっている事だろう。
想い、想われ同じ時間を共有していく。その事が泣きたくなる位に幸福なのだ。
(けれど……彼と私の間に流れる時は同じなのかな)
だからこそ、この心臓が脈打つ速さも気になってしまう。
多種多様な種族で構成される猟兵達には異種間恋愛は珍しくない。かく言うアオイとシンも違う種族――オラトリオとダンピールだ。同じ様に老いて、朽ちていけるかは遠き御簾の向こう側。
僅かに視線を落としたアオイの脳裏を過ぎったのはこの都市に伝わるお伽噺、カミサマと青年の哀しきその末路。
(愛しい人を置いていく青年も、置いて行かれる神様も、ただお互いの幸せを求めていたんだろう)
遺される者も、残していく者も願ったのはきっと相思う者のとこしえの安寧だったのだろう。
埋め難いものを埋めるかの様に自分より大きな、綺麗に整った指先に一回り小さな手を重ねて、温もりに浸った。
自分の大好きなアオイの青い瞳が翳っていくのを、並び立ったシンもまた余さず感じ取っていた。それだけの時間を共に過ごしたし――何より青年は、それだけ一心に恋人を見つめ続けたのだ。
(人はひとりで生まれてひとりで死ぬ。それは誰でも変わらない)
シンもまたお伽噺の2人を思い出していた。
誰しも個体であるという決して埋められない寂しさを抱えて生まれ、やがては天へと還る。
限られた刻であるからこそ懸命に生き、パズルのピースの様に形合う誰かを求める。そうして出会えた彼女と――後何回、一緒にいられるだろうか。
(せめて一緒に居る時間は楽しく居たい。同じ場所に居て同じ舟に乗りたい)
時に互いの荷を引き受け、碧落の果てまで漕ぎ出せるような船に。
勇気づける様にアオイの手をぎゅうと握り返せば、徐々に、それでも確かに。彼女の瞳は再びその色を取り戻す。
(でも我儘になってふたりでいることも幸せ)
だってもう、自分の心はシンで一杯なのだから。
どうしたってこの手しか選びたくないのだから、必要なものは覚悟だけなのだ。
絡めた指を名残惜しくも外して、秘め事告げる様な笑顔の儘空へと放る。
――刹那、天に咲き誇るのは海に散る金色の月を模した華。
弾けた宝珠は空に浮かぶ月の様に美しくて、シンの心を捉えて離さない。
敵わないなと思う。何時だって幸せでいて欲しいけれど――彼女はそれ以上の幸せを、こうして差し出してくれるのだ。今確かに、自分達は同じ船にいるのだと分かった。
ならば自分も。アオイを想い描き、空に放れば水飛沫がぱあと散る。夜にあって尚、金月華に照らされきらきら輝いている。自分にとっての彼女の形、生きる為になくてはならないもの。
同じだね。同じやなあ。
どちらからともなくそう微笑んだ。
形は違えど、月と水――どちらもがヒトが生きる為に必要なものであり、互いに影響し合うものなのだ。
「なぁ、クラゲ乗りに行かん?」
「海月?いく!」
一度離れた手を、今度はシンから握って。
あなたと一緒ならどこへでも、とアオイも手を伸ばす。
例えカミサマと青年と同じように、時間は平等でなかったとしても――未来を恐れるよりも、幸せな今を一つ一つ積み重ねていけば良い。何度だって手を取れば良い。その先にこそ、望む先がある筈なのだから。
空を彩る想い花火に照らされ歩き出す2人の横顔に――もう怖れはなかった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
第3章 ボス戦
『海賊に復讐する『結束されし』3匹の兄弟』
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POW : 『勇猛な次兄』ホグ
【恵まれた体格と鋭利な爪、頑丈な牙 】【敵の攻撃を捌き、確実に倒す為に磨いた武術】【恐怖を忘れ、痛みを感じなくなる強烈な意思】で自身を強化する。攻撃力、防御力、状態異常力のどれを重視するか選べる。
SPD : 『俊敏たる長兄』ボア
自身に【風の魔力と兄弟で共有した怒りのオーラ 】をまとい、高速移動と【瞬間的に距離を詰める魔術、鋭利な風の刃】の放射を可能とする。ただし、戦闘終了まで毎秒寿命を削る。
WIZ : 『反撃する末弟』ウリ
敵を【どんな攻撃からも護る盾で防御、燃える武器】で攻撃する。その強さは、自分や仲間が取得した🔴の総数に比例する。
👑11
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●苛烈なる三志
猟兵達の打ち上げる死者を想う追想灯が、愛想う華火が沈黙に包まれた世界を優しく照らしていく。
愛は幸福の証左であっただろうか。追慕は幸福の夢を見られただろうか――答えは猟兵それぞれの胸の中にだけ息衝いている。
其の儘で終われば優しい物語の体裁を整えられただろう、されど、砂浜の静寂を踏み潰すけたたましさは直ぐそこにまで忍び寄ってきていたのだ――!
――バァァァン!!
硝子を蹴破る様な破砕音と共に猟兵達にとっての天井――即ち深海からの侵略者は一見は武装した獣人といった風情であった。UDCアースに所縁ある者であればこう表現したかも知れない……即ち、狼を己が手で血祭りに上げた三匹の豚、と。
「よう兄弟、調子はどうだい!」
逆巻く風と共に不敵に長兄――ボアは嘲笑う。
「サイッコーにイイ気分だぜ、今なら貝殻に籠った臆病者共をバラバラに出来そうだ!」
禍々しい爪を重ね磨ぎながら最も体格の良い次兄――ホグは喉を鳴らす。
「そうしてこの都市は私達は略奪する、海賊らしくな」
吹き荒れる風を赤熱の斧で引き裂きながら、堅牢なる盾を構えた末弟――ウリは首肯する。
恐らく彼等がグリモア猟兵の告げた再襲撃者か。言葉は正に野卑なる簒奪者の風情であったが、浜辺に散らばる宝珠を忌々し気に睥睨する姿はそれ以外の理由が隠されている様にも思えた。
そう、まるで懐古を憎むような――けれど答えは刃でしか返ってこないだろう。苛烈なる3つ顔に乗るのは純然たる殺意、猟兵達を油断ならぬ敵と見なした眼差し。
雄叫びと共に獣人達は猟兵達へと殺到する――!
■□■
【受け付け期間】6/27(土) 8:31~
【プレイングボーナス】罠の活用
※事前にお伝えさせて頂いた通り、本章は再送をお願いする可能性が高いと思われます。再送の際はリプレイ完成後、弊猟兵より再送頂きたい旨をお手紙でお伝えいたします。宜しくお願い致します。
葵・弥代
◎
来たか。
轟音の先を見遣り先ほどまでの追慕は胸の裡に刀を構え見据える先へ
悪いが此処より先へ行かせる訳にいかない。
――纏え、轟雷。
刀に霊力を宿し雷電を纏わせる
理由があろうと簒奪を行う非道な海賊の末路は幸せになれないらしいぞ。
兄弟助け合い、全うに生きれば良いものを。
俺は使えるものは何でも使う主義でな。
……ほら、そこの足元危ないぞ。
砂で見え辛くしていた爆竹に刀の切先から弱い電撃を放ち気を逸らさせる
その隙を易々と見逃すわけにはいかない
一気に踏み込み刀を滑らせ鋭く一閃を振るう
どんな強靭な体格であろうと『鎧無視攻撃』で狙った箇所を『串刺し』にし同じ場所へ『二回攻撃』。容赦なく叩き斬る
●
(来たか)
舞い上がる砂に、静寂の息の根を止める下卑た笑い声。
獣達の出現で塗り替えられた世界に追憶の緩り火は瞬く間に遠くなってしまったけれども……紫雲をひたりと構える葵・弥代(朧扇・f27704)の横顔は凪いだ儘だ。
幸福に満ち足りた2人の顔はこの胸の裡で今も灯となって揺らめき続ける、それだけの価値があったのだから。
「悪いが此処より先へ行かせる訳にいかない」
――纏え、轟雷。
囁く声に応え、刃は紫電を纏う。ばじり!空気を灼く音に獣人の長兄――ボアは獰猛に牙を剥く。
「しゃらくせぇ、なら俺の風でぶった斬ってやるよぉ!」
唸り声と共に風がボアの身に絡む。獣人はそのまま跳躍、身を低くして韋駄天の如き速さで突っ込んでくる。
「兄弟助け合い、全うに生きれば良いものを……理由があろうと簒奪を行う非道な海賊の末路は幸せになれないらしいぞ」
「は!なら幸福すら奪い尽くしてやる!もう何も奪わせねぇんだよ!」
弥代の嗜みへの応えは下方からの掬い上げる様な蹴撃。風の魔力を纏う一撃は鋭く、まともに受ければ青年の身を易々と斬り裂いただろう…ならば、受け止めなければ良い。
過ぎる面影は本来の主、彼の娘の優美なる舞い。泥濘に咲いた華は美しく儚い佇まいであれども、か弱いだけではそもそも舞う事は叶わぬ。
主が血の滲むような努力で身に着けた舞、その一差し一差しを思い浮かべて。青年の身で模倣すればその動きはたちまちに凛々しき戦舞の様相を呈する。一連の追憶は弥代に確かに根付いているのだ。
「俺は使えるものは何でも使う主義でな。……ほら、そこの足元危ないぞ」
「な…!?」
蝶の如く身を躍らせながらも、弥代が構えた刃より放つ雷撃は過たずボアの足元を穿ち――刹那、耳を覆うような爆音と煙が辺りに立ち込める。
原因は予め弥代が仕込んだ爆竹だ。一見、そうとは知れない様に注意深く地中に埋められていたが、異能の雷は正確に捉え弾けさせたのだ。衝撃にたたら踏む長兄は隙だらけだ。
見逃さず、舞い上がる砂の中を一気呵成に踏み込む。天雷一閃――雷刃は神速に走り、ボアの身を断ち、そしてその熱量で灼き尽くす。絶叫が辺りに響き渡った。
「――兄者!」
尋常ならざる兄弟の様子に、漸く追い付いた末弟――ウリが盾を構え、弥代と長兄の間に割り込むが無意味だ。
振り抜いた刃は唯鞘に戻すに非ず。堅牢な盾を躱し、強靭な鎧と筋肉に包まれた肉の綻びにぞぶりと潜り込む。此度は末弟の絶叫が迸る。
肉と鋼の焦げる異臭に眉一つ潜める事なく、弥代は獣人達を容赦なく叩き斬った。
大成功
🔵🔵🔵
黒鵺・瑞樹
アドリブ、連携OK
右手に胡、左手に黒鵺の二刀流
真の姿になり、あらかじめ拾っておいた閃光珠をいつでも使えるように懐に。
まずはUCの炎と伽羅の雷撃を、敵を取り囲むように包囲からの攻撃を仕掛ける。
盾て防御っていうなら包囲からの一斉攻撃にはどうするのか確かめがてらだな。
通じても防がれても一気に距離を詰め直接攻撃を仕掛ける、と見せかけて直前で閃光を放つ。
その瞬間に存在感を消し目立たないようにし、死角に回り込んで暗殺攻撃を行う。
もしも。敵の攻撃は第六感で感知、見切りで回避。
回避しきれないものは黒鵺で武器受けで受け流し、カウンターを叩き込む。
それでも喰らってしまうものはオーラ防御、火炎・激痛耐性で耐える。
●
変化は密やかに、けれど決して無視出来ない引力を以て為されていた。
砂浜であっても尚、まるで舗装された道を歩むかの如き気負いのなさで黒鵺・瑞樹(境界渡・f17491)は馬乗り袴を捌いて進む。
足場の悪さを物ともせず、足元に視線を落とす事すらない瞳は常とは異なる鮮やかな緋色に染まるのだ。
「っ、次から次へと…!一体何なんだ、お前らは!」
「答える義理はないが…悪事は栄えないという事じゃないか?」
飄然とした空気を纏いつつも、真の姿を解放した瑞樹の覇気は常よりも更に強く、ともすれば呼吸すら圧迫し兼ねないものだ。
悪罵を吐くウリもまたそうした空気を感じ取ったのだろう、威勢の良い言葉とは裏腹に度重なる攻撃を受けた足運びは輪を掛けて鈍い。瑞樹の隙を伺う為にか、じりじりと盾を構える。
それは単なる力の応酬であれば悪手ではあるまい、されど青年が刀術のみで戦う存在ではない事を獣は失念していたのだ。
「頼んだ、伽羅」
するりと伸ばされた主の手に任せよとばかりに頭を擦り付け、神なる龍はばじり、空気を灼く雷撃を解き放つ。
たたら踏むウリの足元を更に瑞樹の呼び起こした炎が重なり、雷焔の檻にその身を捉える。獣人の苛立ちは舌打ちとなって零れた。足にぐっと力を籠める様子が見て取れる。
略奪の中で相応に戦闘経験はあるのだろう、決して軽くはない傷と引き換えにしてでも強者の前で棒立ちになりたくはない。そう表情が物語っていた。
けれど、瑞樹の罠は一重では済まない。
胡と黒鵺を構え一太刀を浴びせんと砂地を蹴る。ウリが迎撃を優先しようと盾を構えるが——その動作こそが二重の罠。最小限の動きで投げ放たれた宝球は過たず獣の目前で弾け、苦悶の声が上がった。
刹那、青年の気配は闇へと溶け込む。静かに寄せては返すさざ波、その音程にも存在を知らせぬ隠蔽の技を以て瑞樹はウリの懐へと飛び込む。
未だ咲き誇る光の華に照らされる青年の横顔は端正な物で。主の面影を宿し——けれど、瑞樹が歩んだ道行きが、その手に掴んだ答えが青年を青年たらしめる。
弛まぬ鍛錬の賜物、宙を薙ぐ双刃が鎧の間隙を縫い、その内臓を致命的なまでに切り刻んだ。
末期に獣人が見た光景は、己の穢れ血と青年の鮮やかな曼珠沙華に彩られていたのだった。
大成功
🔵🔵🔵
木常野・都月
◎
お前達が予知にあった襲撃者達か。
「ここは、大切な人を想いやったり、求愛ダンス……じゃなかった、愛の心を伝え合う場所だ。
お前達や俺が荒らしていい場所じゃない。
宝珠に何があるか知らないが、ここから出ていけ。」
と、言ってみたものの、宝珠に何かあるなら、試してみたいのが狐心というものだ。
[範囲攻撃]で牽制しながら少しいたずらを。
さっき拾った貝殻の魔力を使って、風の精霊様に、宝珠いくつかを、敵に投げて貰いたい。
何も無いかもしれないけど、最低でも気が引ければしめたものだ。
隙をついてUC【黒の狐火】で強襲したい。
精気は8割乗せで。
敵の攻撃は、氷の[属性攻撃、高速詠唱、カウンター]で対処したい
●
風が吹いていた、戦の気配を孕む俱風が。
促されるように立ち上がった木常野・都月(妖狐の精霊術士・f21384)の両の手から砂が零れ落ち、再び砂浜と溶け合っていく。
今は拾い上げる事すら叶わぬを惜しむ気持ちもあったけれど、同じ位ほっとした事もまた青年にとっては事実であった。
未練は、決して容易いものではなかったから。
(お前達が予知にあった襲撃者達か)
青年の眼前で流れる血潮を乱雑な仕草で拭う獣人達もまた、同じ未練を持っているのかも知れなかった。…それを確かめる術はないのだろうけれども。
感傷は横顔にも残らず、世界に牙剥く者と世界の柱たる者――相容れぬ二者は火花散らす様に視線を交わす。
「ここは、大切な人を想いやったり、求愛ダンス……じゃなかった、愛の心を伝え合う場所だ。お前達や俺が荒らしていい場所じゃない。宝珠に何があるか知らないが、ここから出ていけ」
「うるせえ!ここまで虚仮にされて引き下がれるか!」
口火を切る都月に応うのは最も傷の浅い次兄――ヨグだ。怒りの儘に己の牙を、爪を剥き出しに青年へ突っ込んでいく。瞳に過ぎる劫火の如き怒りの儘、繰り出される一撃は鋭く早い。
迎え撃つ都月の瞳には確かな決意と悪戯な光が同居する。にんまりと弧を描いた唇は、精霊への囁きを紡ぐ。
「精霊様、精霊様――」
懐より取り出した貝殻を手に希う都月の言霊に新たな風が巻き起こる。旋風は貝殻の魔力を吸い上げながら更なる高まりを見せる。
「は、そんなそよ風で俺が止まるか!」
織り成す風を己の突進を塞き止める壁とすると踏んだ獣人は鼻を鳴らし、更に加速する——都月の真の狙いにも気づかずに。
「せーの!」
何処か和やかに聞こえる掛け声と共に青年が振り被った宝玉は風の精霊達の後押しを受けて加速。狙いに気づいた獣人は慌てて身を翻そうとするが、魔力の籠った風の前では思う様に動けず、宝玉から咲く光華を顔面で受け止める事となった。絶叫が遮るもののない浜辺に響き渡る。
咲き誇る光はかつて誰かが願った思いの残滓。
それを、塗り潰す。
悪戯めいた笑みは、その輝きを増す黒曜の瞳の力強さに塗り替わる。
指先より零れる黒炎は燃え盛る、妖狐の生命、その輝きを吸って。狂乱に満ちた絶叫が再度響き渡った。
大成功
🔵🔵🔵
シェフィーネス・ダイアクロイト
【契】◎
(殺せなかった?私が?
断ち切る機会を自ら手放す所か逆に…
忌々しい
アリエ・イヴ、やはり貴様は僕の障害でしかない危険因子)
…解せぬ(己の首筋掻いて唇噛み
僕は今、頗る機嫌が悪い
早々に去ね
花火の色は記憶から消す
敵の乱入に内心安堵
ナイフと宝珠仕舞い二丁拳銃構え
アリエ・イヴを囮に敵の背後から制圧射撃
近づかれたら片方の銃手放し、妖刀揮い風の刃ごと敵を叩き斬る
銃拾い離れて傷口抉る
略奪は貴様らの専売特許と思うてか
視線合う
外套揺れ
(私込みで練り上げた勝ち筋
無条件の信頼
幾度も)
銃口はブレず冷静
正確無比
私が貴様を使うなら未だしも
Kiss my ass(敵の懐古ごと貫通攻撃
…薄ら寒い事を惜しげも無く吐けるものだ
アリエ・イヴ
【契】◎
…せっかく喰うか喰われるかみたいな楽しい時に偉い無粋なヤツらだ
俺は狼だと言うには海に馴染みすぎてはいるが
そんなに遊んで欲しけりゃ遊んでやるよ、なぁハニー?
防御も回復も備えているところに突っ込んでいくほどバカじゃねぇ
それよりはむしろ迎え撃つ
ああ、けど―ここは海だぜ
【海の愛し子】には“当たらない”
敵の攻撃を最小限で見切り避けたら
碇で捕縛を試みる
海賊が狙った獲物を簡単に諦めるわけねぇだろ
鎖に覇気を纏わせ逃がさないように
両手で抑えてりゃ攻撃もできないって?
それは独りだったらの話だろ
深く笑み刻みシェフィーを見る
ナイフは俺に届かなかった
ならその弾丸は?
…そこで正確に撃ち抜ける
ああ、だから愛してるぜ
●
牙の応酬にも似た2人の獰猛なやり取りは、獣人の断末魔によって中断を余儀なくされる。どうやら仲間の猟兵によって、風流を解さぬ略奪者の1人はこの地を彩る伽話の一つとなった様であった。
「…せっかく喰うか喰われるかみたいな楽しい時に偉い無粋なヤツらだ」
狼だと言うには自分は海に馴染みすぎてはいるが――そう付け加えるアリエ・イヴ(Le miel est sucré・f26383)の表情は、けれど言葉とは裏腹に肉食獣を思わせる獰猛さを宿す。
赤銅色の青年は自身に向けられた刃に触れる事無く、その柄を握るシェフィーネス・ダイアクロイト(孤高のアイオライト・f26369)の整った指に自身の手を絡め、切っ先を返しながら囁く。敵に向ける甘い毒よ、どうか彼の人も蝕めというかの様に。
「そんなに遊んで欲しけりゃ遊んでやるよ、なぁハニー?」
「…無駄口を叩いている暇があるなら、あの野卑な連中の口を縫い付けろ。アリエ・イヴ」
北風の様に凍て付いた菫青の青年の応えに、肩を竦め残った獣人達へと駆け出していくアリエ。迷いの無い相棒とは裏腹に、シェフィーネスの心は千々に乱れていた。その瞳は常に横たわる冷徹に混迷が混じり、常冬の色を薄める。
(殺せなかった?私が?断ち切る機会を自ら手放す所か逆に…)
確証はない、けれど罰するには十分な理由であった。なのに手が動く事はなかった――理屈を超えた情動がシェフィーネスの心を戒めたのだ。
頭を振った拍子にずれたメガリスのブリッジを押し上げる。叡智の結晶の下で揺らめく菫青は苛立ちに塗れても尚、宝石よりも強く冴え冴えと輝いていた。
先駆けるアリエはシェフィーネスの葛藤には気付かず、黄金の瞳に獲物を捕え自然と舌なめずりをする。
自身が狙う極上の獲物とは比べるべくもないが、それでも多少なりとも楽しませてくれそうな相手ではあった。虫の羽を捥ぐ子どもの様な残酷な純粋さを湛え、青年は地を蹴る。
その身を愛で染め抜く為に。
「風向き良好、負ける気がしねぇなぁ!」
囁く言葉は先程の甘やかさは微塵もなく、強い覇気を映す。応えた波濤が齎すは『海の愛し子(ラ・メール・エデン)』――即ち、アリエへの慈愛の祝福。
「ふざけるなよ、優男!」
大いなる力が蠢く感覚に、引き起こされる恐怖と怒り…本能に飲み込まれたホグは真っ直ぐに駆ける端正な青年へと爪を振い、ポアは逆巻く風刃を撃ち放つ。
共に育ったが故に可能となる、絶妙に間をずらした連携は、なれど突如として崩れる砂浜に遮られる。
「な――!?」
「逃げろ、ホグ!!!」
砂が舞い、兄弟の姿を覆い隠す。風を纏う長兄は辛うじて後退する事が出来たが、アリエへと近接戦を仕掛けようとしていた次兄はまともに足を捕らえ、たまらず砂浜へと膝を突く。
「―ここは海だぜ」
海のいとし子には――神懸った強運の持ち主には“当たらない”。
まるで亡霊の如き嘶きと共に飛来した縛鎖の碇はホグをきつく締め上げる。鎖より発せられる覇気は獣の心すら戒め、四肢から力を奪うのだ。
「…は!けどよ、てめえの獲物が使えなきゃ意味がねえだろ!」
なれど、生き残る為には足掻かぬわけにはいかぬ。少なくとも目前の猟兵を道連れに――そう頭を上げたホグの目は驚愕に見開かれる。
「それは独りだったらの話だろ」
砂煙の収まった視界には、鎖を断ち切らんと風刃の魔術を練り上げる長兄とーーその後方、二丁拳銃を構えるシェフィーネスの姿を捉えたからだ。即ち、アリエは陽動。菫青の青年こそが狩人。
「略奪は貴様らの専売特許と思うてか」
冷えた声は、けれど銃弾の嵐に掻き消されて兄弟達には届かぬ。まるで嵐、重い音を立てて降り注ぐ銃弾は隙を見せた長兄を幾重にも抉り、血風が砂浜を赤黒く染めていく。そのままシェフィーネスは片手の銃を宙へと放り、前進。腰へと手を伸ばしながら長兄へと肉薄、抜刀。
「が、ぎ…!?」
「奪う者は力及ばねば、瞬く間に奪われる側に転じるーーそれすら考えもしなかったのか」
間近の囁きと共に獣に突き立てられたのは赤錆の刃持つ妖刀、かち割った腹をかき混ぜる様に捩じれば、たまらず長兄は雷に打たれたかの様に身を震わせ、ずうんと音を立てて倒れ伏す。
空から降る目前の海賊銃を手に収め、残る次兄へと銃口を向ければアリエと視線が合う。
(私込みで練り上げた勝ち筋)
流れは完全に此方の物、後はこの引き金を引けば終幕。兄の末路を前にアリエの覇気を跳ね返した次兄は殺意も露わにアリエと組み合う。
翻る爪を鎖の余剰部で弾く赤銅の青年は己の力と業運で危なげなく渡り合うが、流石に離れるまではいかない。シェフィーネスの目前で踊る様に位置を目まぐるしく組み替えていく――誤射もやむなしの状況だ。
2度目の、好機が訪れたのだ。
それをアリエ本人も分かっているのだろう、しかしその顔には微塵の動揺も伺えない。それどころか、シェフィーネスに向けられる眼差しは深く笑みを刻む。幾度も、
幾度も投げ渡された無条件の信頼は此度もまたぶれる事はない。
だからこそ、銃口もまた揺らぐ事はないのだ。
どぅん。今度は大きな銃声一つ、シェフィーネスの無慈悲なる弾丸は次兄の中核を貫き「芽吹く」。獣の身を針鼠に変えた金の葩は、血の赤を纏って夜光に映える。禍々しくも美しい光を放ち佇む姿は、さながら彼の者の身に立つ墓標。
「…そこで正確に撃ち抜けるか。ああ、だから愛してるぜ」
「…薄ら寒い事を惜しげも無く吐けるものだ」
感嘆の言葉と共に死した獣の向かいから「予想通りに」無傷で顔を出したアリエに、シェフィーネスの嘆息が重なった。
鎖で絡め取った銃弾を菫青の青年に投げ渡し――間一髪、弾丸の軌道を予測し鎖を盾にしたのだ――アリエはその隣を歩く。瞳に稚気を宿し、それにしてもよ、と水を向ける。
「俺の胸にお前の愛が咲いたらどうしてた?」
「寝言は寝台の上だけでしか通用しないと知らぬのか、アリエ・イブ?…安心しろ、その時は秒で貴様の存在を記憶から抹消してやる」
「なら、ちゃーんと俺の愛を刻んでおかないとな」
「Kiss my ass」
「ひっでぇな」
じゃれつく影を、もう片方は鬱陶し気に突き放しながらも――それでも月明りに伸びる影は離れる事なく、何処までも伸びていくのだ。
大成功
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灰神楽・綾
【不死蝶】◎
あはは、美味しいご飯も食べたし
準備運動はバッチリだよ
それにしても、この豚達は本当にただの海賊なのかな…?
宝珠に対する反応を見るに
この場所に縁がある者だったのかな
…ま、真相は深い闇の中だね、深海だけに
戦場が暗闇と成った瞬間こちらもUC発動
目立たないよう闇に紛れながら飛翔能力で接近
どんな攻撃からも護る盾、だなんて魔法みたいだけど
所詮はその盾が受け止められる範囲のこと
例えばこういう場所からの奇襲や
二方面からの攻撃には対応出来ないでしょ?
焔のブレスを敵が防御している瞬間を狙って
上空から叩きつけるようにEmperorを振り下ろす
俺の攻撃をガードしようとすれば
焔の攻撃で焼き豚にされることになる
乱獅子・梓
【不死蝶】◎
ったく、このままイイ気分で帰れれば良かったのに
空気の読めない奴らだな
…その手のギャグ、以前ダークセイヴァーでも聞いたぞ
3匹も居ると纏めて相手するのは面倒だな
他にも猟兵が居ることだし、1匹を確実に潰すぞ、綾
UC発動し、辺り一帯を深海よりも更に深い暗闇に変化
これだけで敵の動きは鈍るだろうが
ここで例の宝珠を投げつける
周りが暗いほど強い閃光は威力を増す
暗闇に目を慣れさせる余裕を与えない
さぁ焔!そいつらを焼き豚にしてやれ!
焔のブレスを敵の真正面からお見舞い
それだけではやたら頑丈な盾で防がれるだろう
が、それも想定内
敵を意識を焔の攻撃&宝珠の光へ向かせて
綾の別方向からの奇襲を成功させることが狙い
●
「ったく、このままイイ気分で帰れれば良かったのに…空気の読めない奴らだな」
「あはは、美味しいご飯も食べたし準備運動はバッチリじゃない」
うんざりとした表情を隠さない乱獅子・梓(白き焔は誰が為に・f25851)に対し、その肩を長年の付き合いの気安さを持って叩く灰神楽・綾(廃戦場の揚羽・f02235)の顔は変わらず微笑を刻む。血腥さの濃くなった戦場においてもいつも通りな二人に対し、獣は余りに喪ったものが多かった様だ。
腹から流れる血に構いもせず、変わり果てた弟達を思って泣き啜るボアにしかし、と綾は思いを馳せる。
「宝珠に対する反応を見るにこの場所に縁がある者だったのかな…ま、真相は深い闇の中だね、深海だけに」
「…その手のギャグ、以前ダークセイヴァーでも聞いたぞ」
「あはは、そうだっけ。いずれにしても…」
「悪い豚は丸焼きにしてやらないとな。…確実に潰すぞ、綾」
二人の前でゆらりと立ち上がる獣の目には、最早理性の色は薄い。正気の此岸から狂気の彼岸へと踏み出した獣には、正しき葬送が必要であろう。
魂導く蝶が如く、音もなく、何処か優美な足取りで綾は駆ける。そのままの姿を晒すのであれば、如何に綾が身を隠す術に長けていても獣の目を避けるのは容易ではなかろう。血走った眼はしかと綾の姿を捉えるが――しかし、彼は一人ではない。
「美しいだろう?闇に輝くこの紅は」
獣から綾をその背で庇う様に梓が獣の前に立ち塞がる。
ひらり、はらり。言葉と共に開かれた梓の掌の上、花弁が舞い咲く。……否、その血の様に紅い華はその色を翅に持つ蝶だ。
それは綾が異能として行使する蝶に何処か似て見えた。空へと放る様に解き放てば、そのまま月を目指し――『溶ける』
「!?」
目前の光景が単なる幻想的な光景でなかったと長兄が気付いた時には、既に梓の手中。月が蝶に食まれたかの様に徐々に欠けていく、それに伴い辺りを支配するのはぬばたまの闇。光の差さぬ深海、その暗がりを越える純然たる黒が世界を覆っていく。
闇に物慣れぬ目を持て余す獣は、それでも術者へ風の刃を放とうとするが、反撃は間髪入れずに放られた梓の宝珠によって水泡に帰す。地上の星が如く眩い光が獣の目を強かに灼き、苦悶の声が上がった。
変わりゆく空に梓の援護を具に見て取った綾は逸れ、ひらりひらりと引き寄せられる梓の蝶に口付け…己もまた蝶を従える。その肩甲骨には、蝶の翅とは異なる黒の皮膜が現れる。
(あんまり好きじゃないけどね、この姿)
羽に問題はないか、指先でなぞりながら苦く微笑う。歩くだけで回りが頭を垂れる様な覇気を放つ姿は、綾の真なる形。血を同じくしながらも始祖を狩る、混血の狩人だ。
力を増しただけではない、その出自から闇は良く身に馴染んだ。密やかに、確実に距離を詰める此度の隠形は獣の優れた五感を以ても捉える事は叶わない。
光華が咲き、大きく獣に隙が出来たタイミングを見逃さずに一気に懐に飛び込む!同じ様に駆け出した梓と視線を交わす――阿吽の呼吸だ。
「二方面からの攻撃には対応出来ないでしょ?」
「焔!そいつらを焼き豚にしてやれ!」
梓の肩に留まっていた焔が任せろ!と言わんばかりに炎のブレスを正面より見舞う。目を灼かれた獣は為す術もなく身を焼かれ、苦悶の声を上げた刹那、
「楽しい時間はおしまいだよ、お休み」
綾の振り下ろしたEmperorに頭蓋を砕かれ、その生を終えたのだった。
「終わったな、綾…」
さらさらと粉になって消えていくオブリビオンから目を離した梓の言葉は、不自然に途絶える。
青年の目の前で指先に蝶灯す相棒が欠けゆく闇をぼんやりと見上げていた。高貴なる真紅の血を引くに相応しい真の姿を取る綾は、犯し難い静謐な雰囲気すら纏う。孤高、そう例えるに相応しく在った。
けれど、まるで宝物であるかの様に自分の蝶を愛でるから。無事だったと安心した様に肩の力を抜くから。
だから、何でもないような顔で横に並ぶのだ。
その肩をばしんと叩けば、痛いよと口を尖らせる綾から人を寄せ付けない空気が霧散していく。その姿はいつもの相棒そのもの。
「折角だ、観光の続きとでも洒落込むか?」
「賛成、運動したからかお腹も空いちゃってさー」
「…今度は香辛料、少しは控えろよ」
「梓も一口食べてみたらあの味の虜になるのに。ね、騙されてた思って齧って…」
「いーらーん」
いつもの姿を取り戻した掴んだ腕が、少しでも自分の温もりを感じられるように。優しく――けれど強く梓は綾の腕を取り、幼馴染達は白む空へ霞む月の呼ぶ方へと歩き出す。2人の顔には柔らかな笑みが浮かぶのだ。
砂浜に眠る宝珠達が猟兵達を見送る様に淡い光を放つ。ありがとうと、どうか幸せにと願う様に。
争乱の夜はそうして――想い、想われる者達の手で終わりを告げたのだった。
大成功
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