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宵宮華籃(作者 黒塚婁
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●薔薇だけが知る
 ――美しい花だ。隅々までよく手が行き届いている。
 その人は、いつの間にか庭の中央に立ち、花々を褒めた。
 何者かと構えるまでもない。そのただならぬ存在感、畏怖を与える冷えた眼差し。
 棺桶を携えたその人が私を手招けば、抗いようもない。脚が自ずと一歩、二歩と動く。
「この花で作品を作る。作品のための素材が必要だ」
 気付けば、彼の周囲には数多の棺桶が並んでいた――どれも、これも材質もしつらえも異なる柩たち。その中はどれもからっぽだった。
「それは新しい作品の器。そして、これが私の作品群」
 指を鳴らせば、別の棺桶が忽然とあらわれた。黒漆の中に眠る、白い娘。真っ赤な花々が流れ出した血のように見え、鮮やかに神秘的に――美しい娘を浮かび上がらせている。
 また別の柩は鉄で出来た無骨なもの。中には屈強な男が眠っていた。葉を多く茂らせたように取り囲み、黄や紫が鮮やかな毒々しい花が咲いている。不思議と力強く、また美しさを感じる作品であった。
 他にも、柩、柩、柩――様々な作品の前に、私は一歩ずつ進む度に、顕わになるそれらに状況も忘れて嬉しくなる。
 何と美しいのだろう。何と素晴らしいのだろう。
 その人は私の表情を見つめて、ふと零した。
「おまえも面白い作品になりそうだ」
 ――私なぞも、この一群に加えていただけるのですか。
 そんな意を載せた瞬きを見られた。
 薄く笑った端麗な貌を前に、私は陶然とした儘、考える。ならば、このお方の役に立ちたい。そしてふと思い至る。
「――この近くに面白い伝統を持つ村がございます……」
 詳細をじっと聞き入ったその人は、深く頷き、同意をくれた。

「いいな、確かに――少し変わった作品が作れそうだ。燎のも驚くだろう」
 双眸を細めて、彼は何処にいるともわからぬものへと告げる。
 ――次こそは感嘆させてみせよう、と。

●星夜の生贄
 ある日、領主を名乗る使いがやってきて、村人達に告げた。
「次の星夜の日、幾人かの村人に花冠を送る。選ばれし者は、もっとも礼節なる衣を纏え。娘は婚礼衣裳を纏い――柩に入るがいい」
 其処には白い飾り気のない柩が並んでいた。
「選ばれたものは性別は問わぬ。年齢も問わぬ。若者が不憫ならば、老いぼれが収まるのも、主は許すだろう」
 ――ただし、柩は全て埋めて返送せねばならぬ。そして、何人たりとも追うことを許さぬ。
 黒尽くめの使いは酷く低い声音で言い含めた。追えば、それも返さぬ。命が惜しくば、余計な手間をとらせるな、と。

●夜を狩るもの
「仕置きの時間です」
 黒蛇・宵蔭(聖釘・f02394)は楽しそうに猟兵達を見つめて、かく告げた。
 ダークセイヴァーに潜伏するオブリビオンを討伐してもらいたい――。
「彼は、拠点を何処かに秘匿する吸血鬼なのですが――この度、追いかける糸口が手に入りました」
 吸血鬼の名は『葬華卿』――柩に籠めたる芸術を追究すると嘯くもの。花と作品だけを愛し、他を省みぬ。
 時に他の事は結局他の吸血鬼と変わらぬ。人の命を、己のためだけに浪費するものだ。
「その美学はよく解りませんが、目を付けた集落を渡り歩き、『素材』を集め、様々な作品を拵え続けているようです」
 そこまで語ると、宵蔭はひとたび言葉をきる。
 さて彼は先程、糸口、と告げた。つまり、吸血鬼に至るにはいくつか障害があるということだ。
「まずは目を付けられている村へ行き、生贄を運ぶものたちを尾行してください」
 或いは、自ら生贄に成り代わるのも良い――彼は事も無げに言う。
 年齢、性別、種族に問題は無い。着飾る必要はあるだろう。そして、村の者を装うならば、『婚礼衣装』を貸してくれるかもしれない。
 ただし、生贄は吸血鬼の用意した柩に収まることが条件だ。柩には眠りの術がかかっており、柩の中にある限りは眠り続けることになる。
「抵抗が出来ないこともないかもしれませんが……柩に入れば自ずと敵陣。敢えて逆らう必要もないでしょう。流石に、眠ったまま吸血鬼の元にお届け――とはならないと思いますから」
 何か準備をしておくならば、柩に入る前に。
 仲間と何か約束をするならば、それも柩に入る前に済ませておくといいだろう。
「情報収集は、どうでしょうね。彼らは何故自分達が狙われたのかも知らぬでしょう。ただ、彼らは『何故、婚礼衣装について知っているのか』を訝しんでいるようですけれど」
 かの村には『誰もが神様の伴侶になる』という伝承を受け継ぎ、自ら婚礼衣装を作る風習がある。それを身につけて、成人の儀とするのだ。
 けれど、縁もゆかりも無い吸血鬼が――ゆえに知っていてもおかしくはないが――知っているのは不思議だと思いつつ、突き止めたところで、どうすることもできない。
「生贄の柩が辿り着いた先の光景として、薔薇の庭園が見えました。恐らく未だ何かあるはずです。それが何かまでかは解りませんが、其処まで潜り込めたなら、追い詰めるだけです」
 微笑み、宵蔭は虚空を指さす。
「万事巧くいくと――私は皆さんの力を、信じておりますよ」





第3章 ボス戦 『葬華卿』

POW ●剪定は丁寧に
【美しく相手を仕留める情念】を籠めた【巨大化させた鋏】による一撃で、肉体を傷つけずに対象の【生命の根源】のみを攻撃する。
SPD ●君よ永遠に
【柩から放たれる無数の蒼き花弁】が命中した対象にダメージを与えるが、外れても地形【を麻痺毒の芳香で埋め尽くし】、その上に立つ自身の戦闘力を高める。
WIZ ●蒐集の心得
自身が【好奇心】を感じると、レベル×1体の【生命力のみを啜る蒼き花々】が召喚される。生命力のみを啜る蒼き花々は好奇心を与えた対象を追跡し、攻撃する。
👑11

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠黒蛇・宵蔭です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●矜持
 不作法を働く手脚などいらぬ。
 喧しく囀る声などいらぬ。
 不快な感情を灯す瞳も、表情も、全てが無為だ。
 腐敗を呼ぶ熱も、無粋に色を作る血も、只ひたすらおぞましい。
 永遠なる静寂を得たその姿こそ――最も美しい。

 硝子、鉄、白木――様々な柩を誂えて、その中心に眠りを迎えたものを添える。
 似合うように花をおく。色を統一することもあれば、折々混ぜ込むこともある。花の種類も数多用意し、構想に時間をおく。
 膚がもつ本来の色や、髪の色つや。纏う衣装に、こちらが付け加える装飾と。
 私自ら手塩に掛けた花々が、生きるように。
 その裡に彩られたおまえ達は、それでようやく完璧である――そうあるべきと、生まれたのだから。
 案ずるな、私が綺麗に再構成してやろう。

●忘れられた庭にて
 薔薇園を抜けると、またしても薔薇の庭園。荊が巻き付けるように囲う、粗末な小屋だ。
 黒い羽をもち、黒い薔薇を白い髪に咲かせた若い女が、猟兵達を胡乱そうに見つめた。気配からして、彼女が使い役だったのだろう。外套を捨て去れば、村で借りた衣裳によく似たものを身につけている。
「この辺りでは、この薔薇しか咲かぬそうだ」
 青髪の吸血鬼は、しゃきんと何かを断ちながら、誰にでも無く話しかけた。
「そして、この薔薇は何を栄養にして咲いていると思う?」
 しゃきん、またひとつを落とす。
 彼の近くにはひとつの柩。その中に、吟味して摘み取った薔薇を敷き詰めているようだ。
 猟兵たちのいらえを吸血鬼は待たなかった。
「人の死体だよ。この娘、迷い込んだ人間を薔薇の栄養にするらしい。だが、最初に彼女を栄養にと棄てたのは、件の村の人々らしい――私にはどうでもいいことだが」
 しゃきん。
 ――ほら、肉の色に似ている。
 切り落とした薔薇を手に、ゆっくりと、彼は振り返る。
「ふむ、なかなか色とりどりで結構。おまえ達の性根など作品の色に関わるものではない――最高の素材を集めて最高の作品を作るなど凡庸。どんな素材であれ、美しくするのが芸術家というもの」
 あの柩は、つまりは生け替えのようなもの。色々と宛がい試して、大体構想は出来たと葬華卿はひとり語りを続けて、不意に女を見た。
「おまえの柩も用意できている。ご苦労だったな。さて、どちらが先がいいだろう」
「光栄です」
 恭しく女は頭を下げた。彼女は多くを語らぬが、いつでもこの頸を、そんな様子だ。
「次の邂逅にこそ、我が作品で燎のを感嘆させねばならない。できれば無駄な抵抗はせず、柩に収まって貰いたいものだ」
 微笑を向けて、勝手な事を言う。然れど、彼もまた猟兵たちのいらえなど、解っているというように、殺気を隠さなかった。
「構わない。反骨も、殺意も、我が作品を彩る花なのだから」

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プレイング受付
 7月3日(金)8:31~6日(月)中
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