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人をすくうかまことの声

#サムライエンパイア

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#サムライエンパイア


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 ごぅーーーーーぅぅんんん……。

 どこかで鐘が鳴った。ここではない。
 ここは廃寺。すでに住職もない荒れ果てた寺。
 木造は風雨にさらされ痛み、あちこちに雑草が生え、石段は苔むしている。
 月は雲にかげり、その明りを申し訳なさそうに照らしているだけだ。
 そんな廃寺につづく石段坂を、一人の男が昇っていく。
 見れば返り血か、着物はところどころ朱に染まり、眼はうつろ。
 ふらふらと足取りおぼつかなく、一歩、また一歩と登っていく。

 ごぅーーーーーぅぅんんん……。

 廃寺につくと、男を1人の女が待っていた。
 黒斑点の白装束、艶やかな長い髪。この廃寺に似つかしくない麗しき女。
 しかし着物から出ている手足は獣、牛の手足に牛の角。
 普通の人間ではなかった。
 だが男は気にもせず、女へと近づいていく。
 そして女は男をそっと抱きしめた。
 「よくやりましたね、勘蔵」
 勘蔵と呼ばれた男は一言も喋らない。ただその手の中で泣きじゃくるだけだ。
 「貴方はとても良いことをしたのです、そう、とても良いこと」
 にぃ、と女の口の端がつり上がる。
「これで江戸は大安。多くの人が平和に過ごすことでしょう。貴方は本当に良いことをしたのですよ」
 勘蔵は一言も喋らない。ただその手の中で泣きじゃくるだけだ。
 嗚咽しその場で崩れ落ちるように地面に伏し、泣きじゃくる。
 そんな勘蔵からしずしずと離れ、女は横目がちに声をかけた。
「では、また会いましょう勘蔵。困ったことがあればまた尋ねに来なさい」
 女はしずしずとその場を離れ、やがていずこへと消えていった。
 勘蔵もしばしうずくまっていたが、やがてふらりと立ってこの場を去っていった。

 ガラリと障子戸が開く。
 ここは長屋。勘蔵の住居。
 障子戸を閉めて中に入ると、勘蔵はさめざめと泣いた。
 部屋に死体がある。朱に染まった惨殺死体。
 それは自分の妻。愛を誓い合った妻、おみつだ。
 なぜこんな姿になったのか? 下手人はとうに割れている。
 勘蔵だ。勘蔵が殺したのだ。
 自分の手で。確かに。この手で妻を殺したのだ。
 幾夜も触れ合った身体はとうに冷たく微動だにしない。
 畳に染みこめず溜まった生乾いた血潮が、その時の情景を物語る。
 びたっ、びたっ、とその血糊の海を歩きながら、勘蔵は呟いた。
「すまねぇ……、すまねえ……」
 両目からとめどめなく溢れる涙も、畳の赤を洗い流すには至らない。
 足元を汚しながら、勘蔵は梁に着物の帯をかけた。
 そして輪を作り絞る。ちゃぶ台を脚立にして、調度いい塩梅の高さになるように輪の高さを調節する。
 ぐずぐずとえづくが涙はとうに枯れ果てている。
 勘蔵は最後の仕上げとばかりに輪に首をとおし、勢いよく飛んだ。

 ごぅーーーーーぅぅんんん……。

 どこかで鐘が鳴った。
 鐘の音の震えのせいかそれとも自らの重さのせいか。
 血臭ただよう畳部屋に、人の姿の釣鐘がぎしぎしと揺れていた。

「これが、私が見た予知でございます」
 ここはグリモアベース。
 ライラ・カフラマーンは居並ぶ猟兵たちに深々と頭を下げていた。
 その背後に生じている霧には、さきほどの凄惨な光景が幻となって現れている。
 頭を上げると、幻は雲散霧消していき、周りの霧と溶け込んでいく。
「今回、皆さまにお願いするのはヴィジョンに現れていた二人。サムライエンパイア世界にいる、かんざし職人勘蔵の保護と女……オブリビオン『くだん』の撃破です」
 オブリビオン『くだん』、ライラの説明によれば未来を予言する人面牛身のあやかしなのだという。
「くだんがいつ頃より邪悪になったのかはわかりません。ただ、災害を予知する能力は事実です。未来を見通すゆえの戯事か、はたまた人の破滅の未来をみたいのか、くだんは人に近づきまずは軽い事象を予言して信を得ます」
 ライラの口調は静かだ。だがその声にはたしかな怒りがこもっている。
「そして人がその言葉に依存するようになったとき、くだんは人を二律背反の路へとつかせるのです。勘蔵が囁かれた言葉は『妻を殺さなければ江戸に大災害が起こる』です」
 ライラの言葉に辺りからどよめきの声があがる。
 それを静かに待ち、どよめきがおさまると続けてライラは説明した。
「私が皆様に見せた予知では、勘蔵はそれを信じて妻を殺め、後悔して首をくくりました。くだんを放っておけばいずれまた、勘蔵のような者が出るでしょう」
 もちろんだ、とうなずく猟兵たち。それに対してですが、とライラは続ける。
「くだんの位置は予知にて判明しておりますが、放っておけば勘蔵もまた、予言に惑わされ妻を殺めてしまうでしょう。サムライエンパイアに向かう皆さまは、まず勘蔵の所在を探し、保護されるようお願いいたします」

 ライラが杖の先で地面を軽く叩くと、霧が変化し姿を形どる。
 それはサムライエンパイアの世界。
 日本晴れの江戸城下町に、町民たちが笑顔で行き交い歩いている。
「この世の事象を予言するくだんに対抗することが出来るのは、この世のみならず別の世へと移動できる、理を超えた猟兵の力が不可欠。どうか皆さま、勘蔵と妻の命を助け、くだんを撃破するようお願いします」
 そう言ってライラは、深々とまた頭を下げた。


妄想筆
 こんにちは、妄想筆です。
 猟兵の皆さんは、サムライエンパイアの世界で、人助けとオブリビオンの撃破をすることになります。
 一章はかんざし職人の勘蔵を探し出すフラグメントとなっています。
 今、勘蔵は愛妻を殺すことに悩み、江戸の町をさ迷っています。
 見つけ出すことが出来なければ、予知の通りとなってしまうでしょう。
 猟兵たちはグリモアベースなどで情報共有しており、サムライエンパイア出身でなくても地理はだいたい知っているという設定になっています。
 またサムライエンパイアでは猟兵同士で連絡できるという設定です。
 勘蔵を見つけくだんを倒せるのか。それともくだんだけを倒せるのか。
 皆さんのプレイングお待ちしております。
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第1章 冒険 『消えた飾り職人』

POW   :    町中を歩き回って痕跡を探す

SPD   :    聞き込みで情報収集

WIZ   :    怪しい人物を調査

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 白々と夜が明け、サムライエンパイアの朝が始まる。
 ここは江戸の城下町。瓶紡長屋にも朝日が差す。
 住人達も起き上がり、井戸の周りで顔を洗う者も出始める。
「おみっちゃん、勘蔵は寝坊かい?」
「それが寝坊じゃないのよ、またどこかほっつき歩いてるのかしら」
 おみっちゃん、と呼ばれた女性は振り返って挨拶する。
 おみつ、勘蔵の妻だ。
 水桶を地に置いて、困ったように腕組みをする。
「財布には手ぇつけてないから、飲みにはいってないと思うんだけど」
「誰か貸してやったらそうでもないぞ?」
「そんときゃ誰か、宿六に貸してますってくるかしらね」
 勘蔵がひょいといなくなるのはいつものことだ。
 しばらくしてからまたひょっこりと帰ってくる。
「女のところだと只じゃおかないから」
 口ではそういうが、おみつは勘蔵のために二人分の食事を用意するのだった。
ヘンペル・トリックボックス
簡単な手品で心の隙間に入り込み、まんまと信用を得て意のままに操る──典型的な詐欺師の手口です。···気にくわない。えぇ、実に気にくわないですねぇ、紳士的に。

シルエットに町内を捜索させつつ、私は勘蔵さんに近しい人から彼の行きそうな場所を洗い出します。奥様との思い出の場所等あれば聞いておきたいですね。
首尾よく発見できたなら、不信感を煽らないよう注意しつつ接触。奥様との思い出を引き出しながら、最後に私からも予言を一つ。

「──このままだと、貴方は後悔の果てに首を吊ることになるでしょう。この町と同じくらい、貴方は奥さまを愛しておられる。いえ、どちらかを選ぶ必要はないのです。この町は、我々が守りますから」



「いけません、いけません、実にいけません。信用を得て意のままに操る、典型的な詐欺師の手口です。気にくわない。えぇ、実に気にくわないですねぇ、紳士的に」
 シルクハットにタキシード姿の伊達男、ヘンペル・トリックボックスは江戸の町を闊歩していた。
 その口調は飄々としているが、今回の件に憤りを感じているのは事実だ。
「このままだと勘蔵さんは首をくくってテルテル坊主、今日もお江戸は日本晴れ。私の心は滝の様。いやいやさせませんよ、紳士的に」

 ヘンペルが奇抜なポーズをとると、だんだんその姿がブレていく。そのブレは大きくなり、やがて瓜二つの自分自身を生み出した。
「ようこそ、私。探し物は頼みましたよ」
「ようこそ、私。貴婦人の訪問は頼みましたよ」
 一方は江戸を探索するためにいずこへと去り、そして一方は瓶紡長屋へと足を運ぶ。そしておみつの姿をみつけると、勘蔵の行方の心当たりがないか聞きだそうとするのだった。

「こんにちは、奥さん。勘蔵さんはいらっしゃいますか?」
「あら、お客さん? 悪いわねぇ、今亭主いないのよ」
 見ず知らずであろうヘンペルに、気さくに答えるおみつ。
 おおげさな身振りでヘンペルはさらに尋ねるのであった。
「それは困った。なにか行きそうな場所は御存じですか?」
「そうねぇ……賭場や酒場とかほっつき歩いているのがいつものことだけど……」
「奥様との思い出の場所においでとかは?」
「あはははは! ないない! なに言ってんのもう!」
 さすがに初対面の人物にそういう話は憚れるのか、おみつはバシバシとヘンペルの肩を叩きながらはにかむ。
 どうもこれ以上は情報は集めれなさそうだ。
 ヘンペルは礼を言って長屋を後にする。

「賭場に酒場、打つに飲む。さすがに買うはないでしょうが……まだまだ情報が不正確ですね」
 勘蔵に会ったら言いたいことは山ほどある。
 ヘンペルは自らの分身と一人二役で、さらに江戸城下を歩き回るのであった。

成功 🔵​🔵​🔴​

眼健・一磨
【SPD】で行動。
俺が取れる手段は限られている。一刻も早く簪職人の「勘蔵」を探し出し説得する。
下手にJCを使うと時間を消費するだけだから、江戸城下町を歩き回って簪を挿してる女性に何処の商店で買ったか聞き、その商店には何処の卸問屋から仕入れたかを聞く。最終的に卸問屋に聞いて勘蔵の家を聞く。
一回で分からない場合は上記の方法を繰り返す。
卸問屋には他の問屋の場所も聞く。
それで勘蔵の説得に当たるが、問屋を介さずに売ってた場合は兎に角聞き込みを繰り返して勘蔵の家を見つけるしかない。
見つけたら「天下自在符」を見せつけ、魑魅魍魎の言うことを真に受けないように説得。
そして件が待つ廃寺の場所を聞ければ上出来だ。



 眼健・一磨は江戸中を駆け巡っていた。
 一刻も早く勘蔵を探し出す。
 ただそれだけを思って簪をつけた町娘に尋ねまくり、その簪を売った商店に尋ねまくり、そしてあげくの果てには問屋まで押し掛けて勘蔵の居場所を尋ねまくった。
 鬼気迫る何かにナンパや強盗と間違われそうになったが、収穫はあった。

「じゃあ、勘蔵の奴は最近来てないんだな?」
「ええ、来てませんよ旦那」
 ようやく見つけた、勘蔵の簪を取り扱っている商店。
 そこの店主がこれで何度目ですかいと言いたげに一磨を見ている。
「先日も直しを奴にお願いした処ですよ。それから新しい簪は仕入れてませんね」
「直し?」
「ええ、簪の細工が甘いんで直しをお願いしたんですよ」
 見ますかい、と店主は二つの簪を持ってきて一磨に見せる。
「これが良しでこれが駄目。駄目な方は細工が甘いでしょ?」
 甘い、と言われても細工師ではない眼健には違いがわからない。
 しかし店主がいうからには、見る者が見ればわかるのだろう。
「やっこさん、腕はいいから元に戻って欲しいんですがねぇ……」
 店主は愚痴愚痴と、語り始めた。

 勘蔵は腕のいい職人だった。それも手先の器用な。
 祝言を挙げるときだって妻に精巧な簪を贈り、この腕で一生お前を養ってみせると誓ったほどだ。
 しかし、ある時から勘蔵は身を持ち崩しはじめる。
 なんというか運がいいのだ。
 財布を拾ったり、たまの博打で大勝ちしたり、災害にたまたま居合わせて金満御隠居と懇意になったり。
 勘蔵といると不思議と良くないことが避けていくことから、勘の良い勘蔵、「勘勘蔵」とあだ名で呼ぶ者もいるくらいだ。そんな勘蔵の勘を信じて集まる人もいる。
 そうやって周りの付き合いを深めるうちに、ついつい生業がおろそかになってしまうのだそうだ。

「ですから、うちらみたいな処に来ずに、賭場か酒場にいけば会えるかもしれませんぜ」
「わかった、ありがとよ」
 賭場か酒場か。
 眼健は足早にその場を去って、勘蔵の行方を追うのだった。

成功 🔵​🔵​🔴​

月隠・三日月
大切な一人か、それともその他大勢か。どちらかを選べだなんて、趣味の悪いことを言うオブリビオンもいるものだね。私なら前者を選ぶけれど……後者を選ぶ勘蔵さんは、きっと立派なお人なのだろう
早く勘蔵さんを見つけ出して「人一人の命で大災害が防げるなんておかしい。その予言は嘘偽りだ」と伝えなくてはならないね

私は酒場に赴いてみよう。勘蔵さんに会えればいいのだけれど、会えなくても情報収集はできるだろう
まずは、勘蔵さんがここに来ていないか酒場の人に訊いてみよう
来ていないのなら、行きそうな場所に心当たりは無いかも尋ねようか
勘蔵さんが昔から悩みがある時に行っている場所とか、あるいは近頃よく行っていた場所とかね


ミサヲ・カリナ
【WIZ】
お寺が怪しそうだけど…。現状じゃ情報が少ないから
先ずは通いの飲み屋に行って聞いてみようか。

勘蔵さんはフラフラ何処かへ行く癖もあるようだから
ここは急ぎの仕事をお願いしたい風を装って、
最近勘蔵さんが仕事関係以外で最近通ってる場所や人がいないか聞いてみよう。

必要なら特技【情報収集】も合わせて調査。



 月隠・三日月とミサヲ・カリナは、仲間の情報を元に酒場を当たることにした。
 「まあ情報収集は僕に任せて。もし相手が逃げたら三日月にお願いしていいかい?」
 「ええ、その時は任せてくださいよ」
 すでに二、三軒の酒場はからぶりに終わっている。
 ここが四軒目だ。なんとか足取りは掴みたいと、二人は暖簾をくぐった。

「いらっしゃいませ」
 看板娘の挨拶にうながされ、二人は席に座った。
 すぐに娘が注文をうかがってくる。
「ご注文はなんにしましょう?」
「ええと、そうだね。まだ酒はいいから適当につまみを。それと僕とこの子に水を貰えるかな」
「はい、お待ちください」
「チャッピー!」
「はい?」
「ああ、気にしないで。水は二つでいいよ」
 ミサヲは連れそいの三日月と自分の分を頼もうとしたのだが、相棒のドラゴンが自分の分もよこせと抗議の声をあげたのだ。
 酒場にドラゴンやフェアリーが居るのは異質な光景だが、猟兵の力により周りの人々は「そういうもの」と認識している。
 この力がなければ情報収集するまえにドラゴンに怯えて逃げてしまうだろう。
「おまたせしましたー」
注文の品を持ってきた娘に、ミサヲは話を聞きだすのだった。
「別嬪さん、その簪、綺麗だね」
「え、そうですかぁ?」
 たとえお世辞でも褒められて悪い気はしない。
 娘は看板娘にふさわしい笑顔で微笑んだ。
「実はね、僕も簪が入り用になってね。誰だっけ……そう、勘蔵。勘蔵って人が作った簪が欲しいんだ」
「勘蔵?」
 娘が首を傾げる。
「そう、勘蔵さん。直接会ってお願いしたいんだけど……居場所を知っていたら教えてくれないかな」
「どこって言われても……」
さらに首を傾げ、酒場の一角を指差す。
「あそこにいるのが勘蔵さんですよ? もう酔いつぶれてますけど」
 その言葉に二人は振り向いた、間違いない。
 グリモアベースで見たヴィジョンの姿と同じ、勘蔵に間違いない。
 二人は見つめ合って頷くと、勘蔵の向かいの席へと移動したのだった。

「勘蔵……さん、だよね?」
 三日月は酔いつぶれている勘蔵にそっと尋ねた。
 勘蔵はうっすらと目をあけるとぼそりと呟いた。
「……だれだい? あんた」
「私は月隠・三日月といいます。この方はミサヲ・カリナ。あなたに会いにきたんです」
「へえ、俺はお前らを知らねえな」
 勘蔵はよろりと身体を起こすと、そばにあった酒の残りをぐびりとやる。
 その目は、酒のせいではない疲れ切った目をしていた。
「あなたが知らなくても私たちはあなたを知っていますよ」
「へえ、それは光栄だね」
 とぼけた声。どこか、諦めのある声。
 その声のまどろみを突き破るように、三日月は単刀直入に切り出した。
「あなたは立派な人だと思います。でも、そんな人だから魔がつけこむんだと思いますよ。くだんの言葉に惑わされないでください」
 くだん、の名を聞いて勘蔵の目つきが変わった。
「知らねぇな……なんのことだい?」
「未来を予言するあやかし、あなたはそれと関係がありますね」
 勘蔵は黙ってじっと三日月を、そしてミサヲを値踏みするかのように見ている。
 たしかに勘蔵からすれば三日月たちも怪しい立場だ。
 だが惨劇を防ぐにはここで説得するしかない。
「大切な一人を選ぶか大勢を選ぶか、それは難しいことだと思います。僕にも妹がいます、おそらく苦渋の選択でしょう」
「あんた何者だい? 天狗か? お天道さまか?」
 そこまで知っているのかと勘蔵は自嘲する。
 だが、三日月の次の言葉に勘蔵は激昂した。
「人一人の命で大災害が防げるなんておかしい。その予言は嘘偽り……」
「おまえに何がわかる! アイツは……アイツの言葉は絶対なんだ!」

 荒げた勘蔵の言葉に、酒場の人間が三日月たちをいっせいにみる。
 勘蔵の心に喰いこんだくだんの言葉は容易に外せない。
 だが、あともうひと押しふた押しすれば勘蔵はひるがえすに違いない。
 殴ってわからせるか、それともあの手この手、はたまた情に訴えるか。
 幸い居場所はわかった。他の猟兵たちも来るだろう。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

御狐・稲見之守
凶事謀るは件と云ふ獣、また面倒なのが出てきたの。あさて。

[WIZ]天狗かお天道様かと問われれば、とんでもない。ワシはただの神様じゃよ……なんてな。ふふ、江戸幕府より天下自在符を賜りし先を知り悪を討つ猟兵とは我らのことよ。

勘のいい勘々蔵と呼ばれているそうであるが…なるほど、彼奴の言う通りにしてそれが大当たり、彼奴の言うことをすっかり信じてしもうた……といったところか。

勘蔵、博打を嗜むようじゃな、なれば彼奴の“絶対”が勝つか我ら猟兵がその“絶対”に勝つか、賭けてみよ。そんな女房を殺め首を括らにゃいかん“絶対”をひっくり返してみたくはないかの。ふふ、これは人生大一番の勝負ぞ。



「待たれい! 待たれい! あいや待たれい!」

 剣呑とした酒場に、また騒々しい声が鳴り響いた。
 見れば戸口に立つ者。猟兵の1人、御狐・稲見之守が立っていた。
「勘蔵、さきほど天狗かお天道様かと問うたな。とんでもない、ワシはただの神様じゃよ!」
「なんだぁ、テメエ……」
 真剣な場を茶化されたとみたのか、勘蔵の語気が荒くなる。
 しかし稲見之守は気にも止めずに口上を続ける。
「勘蔵、博打を嗜むようじゃな。なれば彼奴の『絶対』が勝つか、我ら猟兵がその『絶対』に勝つか、賭けてみよ! そんな女房を殺め首を括らにゃいかん『絶対』をひっくり返してみたくはないかの。ふふ、これは人生大一番の勝負ぞ」
「いきなり入ってきて、だからなんだテメェ。コイツラの仲間か?」
「ふむ、我らの正体を伏せてはおきたかったが、江戸町民の命をまもるためにしかたにないな」
 そういうと稲見之守は酒場の奥へとずかずかと入り込み、よいしょと長机に駆け上がり、周りをドヤ顔で見まわすと懐から何かを取り出した。
「この紋所が目に入らぬか!」
 稲見之守が取り出したのは天下自在符、その葵の紋所にその場にいた猟兵以外が平伏した。勘蔵も酔いが醒めたかのように、そこへ平伏する。
「江戸幕府より天下自在符を賜りし、先を知り悪を討つ猟兵とは我らのことよ。勘蔵、安心するがよい。幕府はお主を護る為に我らを遣わしたのじゃ。もちろんそれだけではない。お主の心意気に我らも感ずるものがあったからのう」
「……本当なのか?」
「葵の紋を騙る酔狂な奴なぞこの地におらぬ! それに三日月の説得を聞いたじゃろう? 我らはお主を思っての行動じゃよ。ま、天下自在符は最後の手段ではあったが、止む無しといったところじゃな」

 しばらくの沈黙。
 やがて勘蔵は、面をあげずにポツリと呟いた。
「わかった……。お前らを、徳川の殿様を信じてみるよ……」
 とりあえず、自暴自棄になるのは止められたようだ。
 あとはオブリビオン、くだんを倒して勘蔵の目を覚まさせるだけである。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第2章 冒険 『地域の復興』

POW   :    瓦礫をどかしたり、救援物資を運んだりする

SPD   :    建物や仕事道具の修繕などを行なったりする

WIZ   :    必要な物資の計算したり、意気消沈する民を励ましたり、怪我人の治療をしたりする

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種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 騒動が終わった後、酒場でポツリポツリと、勘蔵が話し出す。
「最初は、ちょっとした願掛けのつもりだったんだ……」

 おみつと一緒になってから、勘蔵は妻を幸せにしようと頑張っていた。
 そんな時、ある噂を耳にしたのである。
 とある寺で願掛けをすれば神通力を得ることができる。
 その時は信じてなかった。
 あの女、くだんに出会うまでは。

「あいつは俺に色々教えてくれたんだよ。落とし主の現れない財布とか。博打の当たり目とか」

 最初は半信半疑。だがぴたりと当たるその言に、やがて勘蔵は行動を起こす前に、くだんに伺いを立てるのが常になっていた。

「そのうち……あいつのいう事が変わってきたんだ。どこそこへ行ったら事故に遭うとか。その日は仕事を止めないと怪我をするとか」

 くだんのいう事は当たっていた。一度予言に反する行動をしてしまった時は大怪我をしてしまったのだ。勘蔵はくだんの予言に依存するようになっていった。

「あいつは……あいつは……おみつを殺さなければ江戸に災害が起こるって……みんな死ぬって、長屋のみんなも、祝言の時に式を挙げてくれたご隠居も、御贔屓先の店主も、みんなみんな、俺のせいで死ぬって……」

 泣きじゃくる勘蔵。
 酒場に居る者はそんな勘蔵の話を黙って聞いている。

「なあアンタら、助けてくれよ……。俺はおみつを手にかけたくはねぇ……でも、みんなが死ぬのも嫌だ……みんなが助かるなら助けてくれよ……」

 殺したくない。それが勘蔵の本心。
 まことの声が勘蔵から絞り出されるように懇願された。
 と、その時であった。

 酒場が揺れる。
 いや酒場が揺れているのではない。
 江戸全体が揺れているのだ。
 地震だ。慌てて避難する酒場の者たち。
 外に出てみるといくつかの家屋が倒れ、くすぶった煙も上がっている。
「……やっぱりだ、俺が! 俺がおみつを殺さなかったから!」
 狼狽する勘蔵。まさかこれはくだんの仕業なのだろうか。
 いや、考えている場合ではない。
 このままでは予言が成就してしまうことになる。
 災害の対処、救出復興。たとえこれが予言だとしても死者は出させない。
 くだんの災いは止めなければならない。
月隠・三日月
地震……!? うろたえている場合ではないね、早く町の人を助けに行かないと
「私たちが皆助けるから、何も心配することはないよ」と勘蔵さんに声をかけて、酒場の外に向かうよ

私は家屋の下敷きになった人が居ないか、声をかけて回るよ。返答を聞き逃さないように、よく耳を澄ませよう
下敷きになった人を見つけたら、瓦礫をどかして救出するよ。私は力には自信があるけれど、一人では瓦礫を動かせそうに無かったら周りに助けを求めよう

『くだん』は本当に予言ができるのか……? だとしても、人一人殺したくらいで地が震えるのを抑えられるとは思えないね。博打の当たり目とはわけが違う。地震を利用して勘蔵さんを惑わせたと考えるのが自然かな


クック・ルウ
【POW】
この揺れもくだんの仕業か? 益体なことをする
人をまどわす邪術に苦しむ人がいるならば
ここは一つ、クックが魔法を見せてやろう
水の魔力よこの身を守れ。属性攻撃が活用できそうならば、ルーンソードで鎮火と瓦礫の切り崩しを行おう
火の手が上がるのを食い止め、危機迫る人あらば、身を挺してかばう

勘蔵殿、私からも一つ、予言だ
お前たち夫婦は、これから子に恵まれ、うんと長生きして、
大勢の孫に囲まれて幸せに暮らすだろう
だから、帰ったらおみつを抱きしめておやり


御狐・稲見之守
やれやれ、止さんか勘蔵よ。恐らくは彼奴が地揺れを予知していただけじゃろ、女房を殺そうと殺すまいと起きていたことよ。

[WIZ]などと言っている場合ではないな。倒壊している家屋の下敷きになっている者の救助に当たろうぞ。UC式神符、【全力魔法】で手持ちの式神符をありったけ使う下敷きになっている者の場所を探り当てよう。助けにあたる者は式神の指し示す場所をあたるがよい。

応急手当程度の【医術】の心得ならある。必要であれば手持ちの霊薬も使おうぞ。そら、勘蔵もぼさっとせんと働け。予言頼みで自分で考え動くことも忘れたか。


ヘンペル・トリックボックス
「予言が本当に成ったのか。それとも予言に沿って地が震えたのか──どちらにせよ、これは脅威です。急ぎ対処に回るとしましょう」

ここで人的被害を最小限に食い止めることが出来れば、予言は絶たれたも同じこと。怪我で苦しんでいる方の治療に回ります。他の猟兵方とも連携を取り、優先的に治療が必要な怪我人から火急速やかに対処する方向で動きます。
突然のことですから、思いがけず心に傷を負った人も少なくないはず。まずは気を確かにもって、力を合わせ一人でも多くの人を助けるよう言葉をかけるとしましょう。
片っ端から治療するので疲労も馬鹿にはならないでしょうが、顔色一つ変えずにやり遂げてみせますとも。えぇ、紳士ですので。



「よさんか、勘蔵。恐らくは彼奴が地揺れを予知していただけじゃろ、女房を殺そうと殺すまいと起きていたことよ」
「私たちが皆助けるから、何も心配することはないよ」
 稲見之守と三日月が勘蔵に優しく声をかけた。
 勘蔵は二人を見つめ、若干落ち着きを取り戻す。
「ともあれ、ぼうっとしている場合ではないのう」
 稲見之守は両手からありったけの式神符を取り出すと、それを空へと次々に投げつける。符は式神となって江戸中へと飛んで行った。
「いけい、皆の者! 式神の先に町民が困っておるはずじゃ。目印になるじゃろう」
 稲見之守の言葉を待つでもなく、猟兵たちは自分にできることをしようと、次々に散っていった。
 クック・ルウも足早にいこうとする。
 が、勘蔵の前に立ち止まるとしゃがみ、同じ目線にたって語りかけた。
「勘蔵殿、私からも一つ予言だ。お前たち夫婦はこれから子に恵まれ、うんと長生きして、大勢の孫に囲まれて幸せに暮らすだろう。だから……帰ったらおみつを抱きしめておやり」

 勘蔵は去っていった猟兵たちを拝む様に眺めていた。
 すると、その尻を稲見之守は思い切り蹴ったのだった。
「そら、勘蔵もぼさっとせんと働くのじゃ! 予言頼みで自分で考え動くことも忘れたか? その二つの腕はなんのためぞ、みんなを救うというのならわらわ達を手伝え、己の手で救ってみせい!」
「……あ、ああ。ああ!」
 勘蔵の目におぼろげながら生気が灯りつつあった。
「予言が本当に成ったのか。それとも予言に沿って地が震えたのか──どちらにせよ、これは脅威です。急ぎ対処に回るとしましょう」
 ヘンペルも己の技をみせようと、治療の準備をするのだった。
「誰かいない? 助けはいないかい?」
式神に注意しながら三日月は瓦礫が散乱する町内を走っていた。
 みると瓦礫の上に式神が浮いている。
 その下の埋もれた瓦礫から、人の手がでているのが見えた。
 三日月は駆け寄って声をかける。
「大丈夫ですか! 今助けるよ!」
「た……たすけ……」
 良かった、まだ意識がある。
 三日月は重しになっている瓦礫を取り除くと力を込めた。
 三日月は力に自信があると思っていた方だ。
 だが目の前の瓦礫は、そんな三日月を否定するかのように微動だにしない。
「む……ぐ……」
 それでも、と力を込める三日月。
 すると横で誰かが一緒に瓦礫を持ち上げようとしてくれていた。
「クックさん!」
「話はあとだ、月隠殿」
二人は協力して下敷きになった人を救いだすと、次の要救助者を探すべく駆けていく。

「くだんは本当に予言ができるのか……? これも奴の仕業なのかな?」
「だとすれば益体なことをする」
駆ける二人の先に火の手が上がっている家屋が見えた。
 その前で両手をふる町民が見える。
 どうやら中に逃げ遅れた人がいるらしい。
 その火勢に思わず三日月はたじろいだ。
「任せろ」
 クックが詠唱を始めると、その身体とルーンソードに水が纏わりついていく。
「助けてくる。月隠殿は延焼をくい止めてくれ」
 そういうと剣を三日月に預け、自分は火の中へと飛び込んだのだった。
 三日月は火のくすぶっている場所に剣を刺し、消火活動を手伝う。
 まだクックは中から出てこない。
 一抹の不安が肩まで上がってこようとしていた時、ようやくクックが中から飛び出してきた。
 両腕で抱きすくめていた子供を介抱する。どうやら命に別状はないようだ。
「クックさん、剣を返しますよ」
「しばらく持っておけ。水の魔法は使えんのだろう」
 取り急ぎあとの処置は現場の町民たちに任せ、二人は救助を続けるべく又駆けだした。

 酒場は治療所となっていた。
 稲見之守とヘンペルは、次々と運ばれてくる負傷者たちを治療していた。
「――彼身常不滅 誦此真文時 身心口業皆清浄!」
 呪符によって火傷を負った町民が治っていく。
 完全に治ったのを確認し、ヘンペルは大きく息をした。
「ヘンペル殿も符を使えるとはのう」
「紳士ですから」
 だがさすがの紳士もこんな大勢の人数すべてに治療を行う事は不可能だ。
 軽い傷や緊急でない者は稲見之守の医術と霊薬に任せ、自分は重傷の者に対して事にあたる。
 突然の災害に消沈する者たちをなだめ、落ち着かせ、治していく。
 疲労の色はだんだんと濃くなっていくが、紳士の自分が倒れる訳にはいかない。
「ほれ、疲労回復の霊薬じゃ」
「感謝します」
 口に含み、自らを奮い立たせて救助活動を続ける。

「な、なんじゃ? くねくねか? 新手のオブリビオンか!?」
 吃驚する稲見之守の声の方を向くと、そこには驚くべき姿があった。
 デッドスポット・シルエット。
 調査のために生み出した我が影が駆けつけてくれたのだ。
 あの災害の中を生き延び、こうやって戻ってきてくれたのだ。
 なんという感動。紳士の胸の中に熱き鼓動がこだまする。
 もう少しなら頑張れそうだ。
 そしてシルエットは見つけた見つけたと言わんばかりに、救助活動を手伝っていた勘蔵の周りを奇怪なポーズであとをつけ始めた。
 シルエットは何もしない。ただ勘蔵を追跡するだけである。
 ヘンペルはその光景をしばし見つめていた。
 なぜなら彼は紳士だからだ。
「……はっ! いかんいかん、ならばワシが頑張らねばのう!」
 普段はクッソふざけている稲見之守も、今だけは真面目だ。
 なぜなら彼女は稲荷様だからだ。

 日が暮れようとしていた。
 猟兵たちの活躍と、そして町民たちの手によって、さいわいにも怪我人はいたが死者は出なかった。
 救助活動を終えた者達は、それぞれで夕餉をとっている。
 そのなかに、勘蔵とおみつの姿もあった。
 長屋の住民たちも集まって一緒に食事をしている。
 勘蔵はその光景を感慨深げに見つめていた。

 災害は起こった。だがくだんの予言は外れた。
 人に巣食うくだんの言を、猟兵たちの誠実さ、まことの声が救ったのである。
 あとはくだんそのものを倒すだけだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『女流くだん』

POW   :    件の如く
自身の【告げた予言の実現】の為に敢えて不利な行動をすると、身体能力が増大する。
SPD   :    らぷらすの悪魔
【対象がこれからとる行動を予言することで】対象の攻撃を予想し、回避する。
WIZ   :    終末の大予言
【予言として告げた通りの災害や疫病など】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は世良柄野・奈琴です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 ごぅーーーーーぅぅんんん……。

 どこかで鐘が鳴った。ここではない。
 ここは廃寺につづく道。
 廃寺につづく石段坂を、猟兵たちがのぼっていく。
 月は煌々と輝き、足元がおぼつくことのないようにと照らしてくれている。
 一歩、また一歩と苔むした道をのぼっていく。

 くだん寺に願掛け参り、すうと頭がよく冴える。

 ただの町の噂話。
 勘蔵はそれを信じて魔と遭ってしまった。
 魔に魅入られた者は破滅を辿るだけ。
 それを防げるのは猟兵のみ。

 ごぅーーーーーぅぅんんん……。

 廃寺につくと、1人の女が佇んでいた。
 黒斑点の白装束、艶やかな長い髪。この廃寺に似つかしくない麗しき女。
 しかし着物から出ている手足は獣、牛の手足に牛の角。
 普通の人間ではなかった。こいつがくだん。
 くだんはこちらを見つめると、おやと首をかしげる。
「変ねぇ、血塗れの勘蔵が来るはずじゃ。あなた達、だぁれ?」
 しずしずと歩きながら、値踏みをするかのように猟兵たちを見つめる。
 にぃ、とくだんの口の端がつり上がった。
「悪いけど、名もわからない役者に興味はないの」

 ごぅーーーーーぅぅんんん……。

「あなたたち、芝居はお好きかしら。良い芝居ってなんど見ようとしても素敵だわ。例え結末が分かっていても」
 ほほ、と口元を押さえるくだん。
 おかしくてたまらないといった表情だ。
「人が堕ちていくさまを見るのはなんど見ても素敵。私、その結末が見たくて見たくて、頭の中で反芻して……
なぞるように滅んでいく人間たちってほんと、素敵。わたし、人間が大好きだわぁ……」
 でもね、とくだんは猟兵たちを見つめた。
「あなたたちは嫌い。だっておぼろげなんですもの。わかるはずなのにわからないって不快だわ」
 廃寺の木々で休んでいたカラスたちがぎゃあぎゃあとどこかへ去っていく。
 夜の空気の冷たさが幾分増した感じがする。

「わからないから消えて頂戴。予言するわ……あなたたち、ここで死ぬの!」

 オブリビオン『くだん』が猟兵たちを『敵』と認識して襲いかかってきた。
クック・ルウ
あはは。芝居か
なるほど、お前のような見方をする者もあるか
だがな、くだん
先読みの力を持つ者は、なにもお前だけとは限らん
なればこそ、お前の茶番劇もここまでという事よ

いざ、丁丁発止と参ろうか
夜風よ私にくだんを斬る力を与えてくれ
さあて、お前が最後に観るのは誰の結末かな

つくづく、お前のようにはなりたくないものだ



「なるほど、おまえのような見方をする者もあるか」
 先に動いたのはクックだった。
 己に魔法をかけようと走りながら詠唱に入る。
「夜風よ、私にくだんを斬る力を与えてくれ」
 一陣の風が廃寺の境内を走るクックを包んだ。
 すると剣が輝き轟々と音を立てはじめる。
 そのまま剣を横薙ぎに払った。だがくだんの姿は遠い。
 否。
 払った剣の衝撃がソニックブームとなってくだんにむかう。
 走りこんでの斬りつけではなく、クックはこれを狙っていたのだ。

 にぃ、とくだんの口の端がつり上がり、呟いた。
「恐ろしいカマイタチが私を襲い、私は傷つくでしょう」
 そして微動だにせず、その攻撃をまともに受ける。
「なに……?」
 クックは目をひらいた。当てるつもりではあったが、まさか避けないとは思わなかったからだ。
 そしてさらに驚く。くだんの体躯が増大している。
 か弱い乙女の身体は、まるで地獄の獄卒牛鬼のように変化を遂げていた。
 その貌も、今は髪をふり乱した悪鬼だ。
 身体についた刀傷から流れた血をぺろりと舐めると、くだんはクックへと突撃してくる。
 いかな妖術の類か、くだんは暴れ牛のように剛腕を振り回し襲ってくる。
 早い。
 クックはそれを寸前でかわし、身構え対峙する。

「化け物め……お前のようにはなりたくないものだ。いざ、丁丁発止と参ろうか」
くだんに傷は負わせた。だがいまだ油断は出来ない。
戦いはまだ始まったばかりだった。

成功 🔵​🔵​🔴​

御狐・稲見之守
――そうじゃの。やり直しなし待ったなしの、一回こっきりの人生という名の芝居を見るのはワシも好きじゃナ。

先の見えない命運の賽に己を賭し、転ぼうと堕ちようとそこから立ち上がり這い上がり、天を向き歩みを進める人間のなんと愛しきことよ。…じゃがそこにサマを仕掛けるお前のような輩は好かんの。どれ、勝負を張ってみるか牛女、己の賽を投じてみるが良い。

【WIZ】予言した通りの災厄を起こすとはまさしくサマじゃな。じゃがそんな予言ならばワシも得意であるぞ。荒魂顕現、来たれ風雲、轟け神鳴りの嵐よ。我が言いは神の言い――白をも黒にして見せようぞ!

さあ予言とやらでお前の道理をこじ開けてみるがいい。



「今のは騙しうち……サマとは言わんか?」

 見かけに騙されていてはこちらがやられる。
 数の優位はあれどオブリビオンだ。心してかからねばなるまい。
「どれ、勝負を張ってみるか牛女、己の賽を投じてみるが良い」
 稲見之守は両手で印を結ぶと、祝詞を唱え始める。
「我成す一切神事也、天裂き地割る神業畏み畏み奉願祈るべし――」
 くだんはクックへの攻撃に集中して、稲見之守の祝詞に気づいていない。
 彼奴の予言はどうも全てを見通せるわけではないようだ。
 だとすれば勝機はある。
「荒魂顕現、来たれ風雲、轟け神鳴りの嵐よ。我が言いは神の言い――白をも黒にして見せようぞ!」

 稲見之守は両手をあげて叫んだ。
「荒魂顕現!」
 すると天はにわかに掻き曇り、ごうごうと強風がおこる。
 雲が渦をまくように空を覆った。
 ざあざあと雨が降り、月はこれからの事を畏れて雲の中に隠れ、辺りは暗夜の帳につつまれた。
 その夜の帳を光が切り裂く。雷だ。
 この廃寺の周りにも次々と落ちてくる。
 稲見之守は天候を操作し、嵐を呼んだのである。
「予言した通りの災厄を起こすとはまさしくサマじゃな。じゃがそんな予言ならばワシも得意であるぞ」
 大役を成し遂げて、稲見之守は満足げな笑みを浮かべる。
 はっきり言ってこの技は制御が難しい。
 だが自分でも操れぬ先の読めなさは、相手にとっても脅威となるだろう。
「さあさあ、皆の衆、やり直しなし待ったなしの、一回こっきりの人生という名の芝居。我らの大芝居を彼奴に見せてやろうぞ!」
舞台は整った。さあ反撃といこう。

大成功 🔵​🔵​🔵​

月隠・三日月
私には未来は見えないけれど、望ましい結果のために行動することはできる
私たちはここで死にはしないし、くだんにはここで死んでもらうよ。必ずね

くだんは見たところ人型に近いようだし、機動力を削ぐために足払いをかけよう
【妖刀解放・大太刀】で《妖刀》を大太刀に変化させて、低い軌道でくだんの脚を薙ぎ払うよ
あいにくと繊細な戦い方はできないけれど、大振りの得物でズドンとやれば、それなりに威力は出るだろう。この際、防御は考えずに<捨て身の一撃>を喰らわせる心積もりで望むよ

その予知能力、上手く使えば人を救うこともできるだろうに……まあ、オブリビオンが人助けなんてするはずもないから、考えても詮無いことだけれどね



 くだんの身体に雷が落ちた。
 そこでようやく、くだんは天候が変化していることに気づいた。
 苦痛にくだんの顔が歪む。
 そして、この事がわからなかったことに歯ぎしりする。
「アア……イライラスル……。アナタタチッテ、ホントウニ……キライヨ……」
 目の前の敵達にむかってくだんは突進しようとする。
 だが、頭中を駆け巡った『勘』によって振り向きざまに飛び退く。
 そこには雷雨に紛れて奇襲をかけようと、大太刀を地上すれすれに薙ぎ、足払いをかけようとしていた三日月の姿があったのだ。
 くだんに攻撃をかわされた三日月に焦りの顔が浮かんだ。
 そしてくだんの脳内に、三日月が剛腕によって叩きつけられる映像が浮かぶ。
 あとは相手にそれをなぞらせるだけだ。
「アナタ……、ココデシヌワ!」
 くだんはその腕を三日月に振り下ろした。

「がはっ!」
 三日月が吹っ飛ばされた。
 だが、くだんの口端に嘲笑は無い。苦痛に歪んでいる。
 三日月は己の身体を捨て石に、攻撃があたる直前に大太刀をつきたてたのだ。
 吹っ飛ばされた三日月をまもろうと仲間がかけよる。
 三日月はまだ大丈夫と、片手をあげて仲間にしめした。
「はぁ…はぁ…あいにくと繊細な戦い方はできないけれど……大振りの得物でズドンとやってやったよ」

 そしてなんという幸運か。僥倖か。
 始まってから肥大した巨躯、そしてそれにつきたてた大太刀。
 それが避雷針となって、稲見之守が招いた嵐のなかからカミナリが次々と、くだんに突き刺さっていく。
「グギャアアアアーーーーーーーーッッ!」
 誰がみても大傷をあたえたとわかる、芝居ではない叫び。
「私には未来は見えないけれど、望ましい結果のために行動することはできる」
 三日月は、次の攻撃に転じようと、構えた。
「私たちはここで死にはしないし、くだんにはここで死んでもらうよ……必ずね」

成功 🔵​🔵​🔴​

ヘンペル・トリックボックス
さてはて、あと一押し…いえ、二押し程度ですかね。手負いの獣ほど侮りがたい相手もいません、一押しのための、最後の布石を打ちにいくとしましょう。
件の視界の隅っこで、シルエットを延々躍らせて気を引きつつ、私は摩利支天隠形符と【忍び足】を併用した上で、姿を消して接近します。
仕込み杖による【暗殺】の有効射程距離まで接敵したら、件に気取られる前に素早く影縫いによる居合を放つとしましょう。狙う部位は下顎──の中に仕舞われている『舌』。
「…貴女の能力は、その全てが『予言を言の葉に乗せて現す』ことを前提にしている。で、あれば──その舌、ここで潰させてもらいますよ、えぇ。生憎と私、閻魔ではなく紳士ですが。」



「グガァァァァァァッッッ!」
 怒りの方向をあげるくだん。
 その憤怒に曇った眼の端に、何かが横切った。
「!?」
 そちらの方をむく。しかし誰もいない。
 今度は逆の方を横切った。
 そちらもむいた。しかし誰もいない。
 三日月のようにまた奇襲を試みようとしているのか。
 くだんも手負いだ。さらに攻撃を受けるのはまずい。
 そう考えたくだんは、曲者を逃すまいとちらつく何かを見逃すまいと、首と身体をあちこちに振って昂ぶる。
 それはまるで、闘牛士の旗を追いかける猛牛のようだ。
 それこそが紳士の策だとも知らずに。
 
 ……ふぁっ。
 眼前に、黒い何かが横切った。
 くだんは思わずそれに向かって手を出す。
 手ごたえあり。
 くだんはそれを何か確かめようとした。
「ガァ……?」
 くだんはそれがなにかわからなかった。
 黒い桶のような物。それはシルクハット。
 無粋な生き物は紳士の道具など知る由もない。
 あんぐりと口を開け、訝しがる。

「……奥の手です、どうぞ」

 その口腔に目がけて、ヘンペルが仕込杖による一閃を放った。
 完全なる奇襲。
 この雷雨と豪雨、そしてヘンペルの体術なら容易いことであった。
 さらに用心してシルエットを用意し、意識を逸らさせたのは、紳士ならではの冴えか。
 地に落ちたシルクハットを、陽動役のシルエットがヘンペルの方へと持ってくる。
 両手で口を押さえのたうつくだんを尻目に、ヘンペルはシルクハットを頭にかぶり直した。
「……貴女の能力は、その全てが『予言を言の葉に乗せて現す』ことを前提にしている。で、あればその舌、潰させて貰いました。えぇ。生憎と私、閻魔ではなく紳士ですが。」

 ヘンペルの目論見は当たっていた。
 敵は災害を予言する。逆に言えば口に出さなければ災害は起こらないのだ。
 舌を潰され喋れなくなったくだんなど、オブリビオン達を相手取ってきた猟兵たちの物の数に入らない。
 致命傷を負い、のたうちまわるくだん。
 勝利は、もうすぐそこまできていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

御狐・稲見之守
七星七縛符、のたうち回る“くだん”を縛した後、その首を誰かに刎ねてもらおうかの。獄門台にそっ首を晒せんのは残念であるが。

これでは予言も、芝居の台詞も、今際の言葉すらも言えまい。さあ、舞台を降りる時じゃの。三文役者よ、さらば。



 機を逃さずに稲見之守が動いた。
 すかさず霊符を放ち印を結ぶ。
 それは傷をおったくだんへとむけられ、光輪がその身を包む。
 くだんは動こうとするが、石になったかのように動けない。
 七星七縛符。
 この技は稲見之守自身にも負担を強いるとっておきの技だ。
 そうやすやすと解けてもらっては困る。
 自らも苦悶の表情を浮かべながら、稲見之守は仲間にうながす。
「わらわが獄門送りに処したいところじゃが、仕方なし。皆様方、介錯を頼み申す」
 その眼は、くだんの方へとむけられていた。

 くだんはもがいていた。
 この状況から。結末から。
 多くの人を絶望に落としてきた。
 何度も。何人も。幾度となく。
 それがどうだ? いまは自らが絶望へ落ちようとしている。
 なぜ!? どうして!?
 犠牲となった人々が思っていたであろう、その気持ちをくだんは今抱いていた。
 なぜ視えなかったのか。なぜわからなかったのか。
 思えば猟兵と対峙した時に気づくべきだったのだ。
 未知の恐怖という存在に。
 千切れた舌から血泡をまき散らしながら、何かを喋る。
 首を刎ねられたくだんが、その直前に断末魔の叫びをあげたが、理解できる者は誰もいなかった。
 
 嵐はとうにやみ、雨も止んでいた。
 くだんの屍も動く様子もない。
 猟兵たちが警戒する中、くだんの身体はボロボロと崩れ去り消えていく。
 オブリビオンの最後だ。猟兵たちは勝ったのである。
「これでは予言も、芝居の台詞も、今際の言葉すらも言えまい」
 見届け、安堵の息をつく稲見之守。周りには湧きかえる猟兵たち。
「さあ、舞台を降りる時じゃの、皆の衆」
 踵を返し、境内から石段を下りはじめる。

 ごぅーーーーーぅぅんんん……。

 どこかで鐘が鳴った。ふと上を見上げれば空は白み始めている。
 うんと伸びをしつつ、稲見之守は呟いた。
 「幕引きの鐘、か。三文役者よ、さらばじゃな」
 鐘の音が苔むした景観に沈みこんでいく。
 境内は先ほどまでの戦いが嘘のように、静けさを取り戻していた。

●それから
 地震ののち、暫く。
 江戸は落ち着きを取り戻し、町民たちはそれぞれの生活を取り戻していた。
 勘蔵もおみつとの暮らしを、取り戻していた。
 今日も得意先への御用聞きだ。
 あれから酒も博打も止めた。
 仕事に打ち込み得意先への伺いも増えた。
 そのおかげで注文も増えた。
 横にうつつをぬかす暇などないのである。
「あ、おまいさん」
 おみつに呼び止められ、勘蔵は振り向いた。
「いつもの、忘れてるよ」
「おうそうだった。すまねえな」
 おみつに礼を言い、勘蔵は神棚へとむかう。
 手を合わせ、仏様、ご先祖様、そして猟兵様に感謝する。
(あの時……あんたたちは助けてくださった……おみつとこうやって暮らせるのもあんたたちのおかげです……ありがとうございます)
 名前をうかがっておけば良かったと後悔しているが、あの方たちは名前をうかがう前にいずこへと去ってしまわれた。
 せめてもの感謝と、簪の細工に趣を凝らし、念よ届けと意気込むばかりである。
「おう、それじゃあ行ってくらあ」
「あいよ、いってらっしゃい」
 勘蔵が障子戸を開けて空を仰ぐと、さんさんとした日差しが降り注ぐ。
 今日もお江戸は、日本晴れであった。

成功 🔵​🔵​🔴​



最終結果:成功

完成日:2019年01月30日


挿絵イラスト