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夢見のコフレ

#アリスラビリンス


●眠りの国
 淡い空色にふわふわと流れる雲は、不思議なことに空だけでなく泉近くも流れていく。
 ぷかぷか心地良さそうに、風に身を任せるように彼等――愉快な仲間達は、場所など関係無く宙を泳ぐ。
『そろそろねむたいよ』
『お星さまがキラキラだね』
 あくびをした彼等は、ぱちぱちと円らな瞳を瞬いて。眠いことをアピールするように呟いた。そんな彼等の言葉を聞いて、木々にぶら下がるランプがゆらりと揺れた。

 此処は眠りが大好きな者たちが集う不思議な国。
 心落ち着く花々の香りと、温かな風の中。
 微睡む彼等を深い深い眠りへと誘う者が現れることを、彼等はまだ知らない。

●夢の欠片は?
「皆さん、夢に興味はありますか?」
 ラナ・スピラエア(苺色の魔法・f06644)は猟兵に向け、そんな問い掛けを零した。
 彼女が今回話すのは、アリスラビリンスにあるひとつの国。――皆が眠ることが大好きなことに合わせるように、その国自体眠るのに適しているようだ。
 気温は心地良い程度。吹く風は穏やかで、心安らぐ花々の香りを運んでくれる。小川の流れる水音は心を落ち着かせ、空は常に星が瞬く、常夜の世界。
 ゆったりとした時間が流れているとても平和で、穏やかで、幸せな国。
 けれど――そんな国を脅かす、オウガが現れるのだとラナは紡いだ。

 現れるオウガは虹色の毛を持つ獏。彼等はただの虹色獏という訳では無く、不思議なことにお茶とお菓子で給仕をしてくれる。
 どうやらあまり直接的な攻撃は得意ではない様子。けれど――そのお茶とお菓子による給仕は人々をリラックスさせ、場合によっては眠りの迷宮へと誘ってしまう。
 そんな彼等の眠気を振り払い、倒した後に現れるのは魔女。
 絵本作家であった彼女は、手にした絵本を読み上げることでその場を描いた物語の舞台に造り変える能力を持つ。
「辺りには絵本や童話、難しそうな本など沢山の本もあります。彼女がその本を手に取れば、この国も様々な地に変化させられてしまうと思います」
 場合によっては、過ごしやすいこの国が――例えば極寒の地になってしまったりするかもしれない。そうなってはこの地に住む愉快な仲間たちは困ってしまうだろう。出来る限り被害を抑えて、敵を倒して欲しいとラナは語る。
 素早く倒したり。わざとこの場に相応しい本を差し出してみたり。その方法は何でもいい。最終的に敵を倒すことが最優先事項だ。
 この場に本があるのは、眠る前に本を読む人もいるからですかね? 不思議そうに小首を傾げながら、ラナはそんなことを呟いた。

 無事に終われば、この国は変わらず微睡みの国へと戻るだろう。穏やかで心地良い空間に、いつだって眠そうな愉快な仲間達。
「折角だから彼等と一緒に、お休みするのはどうでしょう?」
 ふわりと嬉しそうな笑みを浮かべて、ラナは猟兵へと問い掛ける。
 眠りの国である此処には、不思議な不思議な小箱があるという。
 ――夢見の宝石箱を枕元に飾って眠ると、その夜見た夢が結晶となり箱の中に現れる。
 そんな、煌めく物語を持つ不思議な宝石箱が。
「自分の夢が、綺麗な結晶になる……聞いただけでもワクワクしませんか?」
 キラキラと苺色の瞳を輝かせて、楽しそうにラナは語る。
 心地良いこの場には、眠る場所も色々あるだろう。ふかふかベッドのような雲の愉快な仲間に乗って空を泳いだり。不思議な柔らかさをした草の上で寝てみたり。心地良い香り満ちる花のベッドなんてものもあるかもしれない。――探せば他にも、素敵な場所が見つかるだろう。
 どこで、どんな夢を楽しみに眠り、その結果どのような結晶が現れるのか。
 そんなワクワクするようなひと時を過ごせるだろう。
「あ、透き通る身体のティーポットさんのお茶を飲むと、同じ夢を見れるらしいですよ」
 ティーポットは愉快な仲間の為、所々にいるだろう。彼等は皆月を浮かべた夜空色の紅茶を抱いていて、欲しいと言えば喜んで分けてくれるはず。心落ち着くハーブティーを同行者と共に楽しみ眠れば――夢の中でも、一緒に過ごせるという。
 眠ることも楽しみだが、目覚めた後の結晶の扱い方も大切だろう。
 この国にはとても手先の器用なヤマネが住んでいる。彼等の元へと行けば、自身の夢見の結晶を好きな加工品へと変えてくれるだろう。――装飾でも、武器でも。それは希望する猟兵の心次第でどんな物にも変化する不思議な魔法。
 常夜の国だが、月と星は巡っている。この日は月の無い新月で、美しい星の瞬きだけが見える神秘的な夜空が見られるだろう。
「たまには、のんびりするのも良いと思うんです!」
 どんな夢見結晶が見つかるでしょうか? 今からワクワクした様子を隠し切れずに、ラナは声を弾ませて微笑む。
 ――勿論、全てはこの国を守ってからのお話ではあるけれど。
 ――楽しみを胸に頑張ったほうが、この国を守る愉快な仲間達とも仲良くなれるから。

 揺蕩う夢の欠片は、一体どんなイロとカタチをしているのだろう?
 それはきっと、自分だけの特別な欠片。


公塚杏
 こんにちは、公塚杏(きみづか・あんず)です。
 『アリスラビリンス』でのお話をお届け致します。

●シナリオの流れ
 ・1章 集団戦(虹色雲の獏執事)
 ・2章 ボス戦(クチナシの魔女)
 ・3章 日常(夢結晶の煌き)

●不思議の国について
 眠りに適した穏やかな国。
 とても過ごしやすく、所々に眠れそうな場所があります。
 時間帯は常夜。そこかしこの木々に、愉快な仲間であるランプがぶら下がっているので、明るさには困りません。

●愉快な仲間について
 ふわふわ雲は空を飛ぶ大きなベッドのよう。
 ランプはお願いすれば光を消してくれるので、眠りの邪魔にはなりません。
 紅茶の入ったティーポットは猟兵へとお茶を提供してくれます。
 小さな小さなキノコの家に住んでるのはヤマネ。
 彼等はとても手先が器用で、どんな物でも作ってくれます。

●3章について
 枕元に『夢見の宝石箱』を飾って寝ると、その夜見た夢が結晶となって箱の中に現れます。
 夢結晶の色や形、大きさは様々。皆様のお好みのものを指定して頂ければ。
 主に以下のシーンのどちらかでの描写となります。
 こちらのみ、お誘いがあればラナがご一緒させて頂きます。

(1)夢見の宝石箱を飾って寝る。
 誰と、どうやって寝て、どんな夢を見たか。その結果どんな夢結晶が現れたか。
 以上をメインに描写させて頂きます。
 宝石箱は基本的には両手で持てるくらいのサイズ。色や形はこちらも様々です。

(2)夢結晶を楽しむ。
 1の後、目が覚めた後からの描写です。
 箱の中にはどんな結晶が入っていたかや、どんな加工をするかといった描写がメインになります。愉快な仲間であるヤマネにお願いすれば、大体の物は作ってくれます。

●その他
 ・同伴者がいる場合、プレイング内に【お相手の名前とID】を。グループの場合は【グループ名】をそれぞれお書きください。記載無い場合ご一緒出来ない可能性があります。
 ・途中からの参加も大丈夫です。
 ・1章と2章は4~10名様の少人数を想定しております。
 ・3章は多めに採用出来ると思いますので、3章だけのご参加はお気軽にどうぞ。
 ・受付や締め切り等の連絡は、マスターページにて随時行います。

 以上。
 皆様のご参加、心よりお待ちしております。
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第1章 集団戦 『虹色雲の獏執事』

POW   :    「邪魔が入るようですね。番兵さん、出番です」
自身が【自身や眠っているアリスに対する敵意や害意】を感じると、レベル×1体の【虹色雲の番兵羊】が召喚される。虹色雲の番兵羊は自身や眠っているアリスに対する敵意や害意を与えた対象を追跡し、攻撃する。
SPD   :    「お疲れでしょう。紅茶とお菓子はいかがですか?」
【リラックス効果と眠気を誘う紅茶やお菓子】を給仕している間、戦場にいるリラックス効果と眠気を誘う紅茶やお菓子を楽しんでいない対象全ての行動速度を5分の1にする。
WIZ   :    「外は危険です。こちらにお逃げください」
戦場全体に、【強い眠気と幻覚を引き起こす虹色雲の城】で出来た迷路を作り出す。迷路はかなりの硬度を持ち、出口はひとつしかない。
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●虹色の時間
 瞬く星々が美しい夜空。淡い空気の下で、甘やかな香りのする穏やかな世界。
 美しい花々咲く木々からぶら下がるランプが、ゆらゆらと揺れながら道を灯す。仄かに、けれど確かに足取りを確認出来るその道の先に――。

『やあやあ、旦那様に奥様、坊ちゃまお嬢様ご機嫌麗しゅう』
 どこか演技じみた物言いで。けれど優雅な所作で目の前の獏羊は美しいお辞儀をした。
 小さな腕はちょっと長さが足りないけれど、自身の胸へと当てて。ふかふかの虹色の身体を揺らしながらのお辞儀は、彼なりの精一杯の綺麗な角度なのだろう。絶妙に、頭に乗ったティースタンドを落とさないようにと注意をして。
『さてさて、皆様は何をお望みでしょう? ティータイムでしょうか? それともそろそろお休みのお時間でしょうか?』
 執事らしい丁寧な物言いで、彼は言葉を続ける。
 あちらこちらの虹色獏が見事な所作でカップへ紅茶を注げば、芳しい香りが湯気と共に立ち上がった。どこか煌めく紅茶の入ったカップを差し出しながら、彼等は。
『心ゆくまでごゆるりとお過ごしください』
 小さな耳をぴくぴくと動かしながら。どこまでも丁寧にそう紡いだ。
 彼等は穏やかで、とても敵対しているとは思えない。
 けれど侮るなかれ。彼等は確かにこの国を破壊するオウガ。その誘惑の先には、永遠の眠りが待っていることだろう。
葵・弥代
※アドリブ歓迎

……あれが敵なのか?
やけに気が緩みそうになる見た目だな。
は?茶をくれるのか?
悪いがいま喉は渇いてない。いや、眠くもないから大丈夫だ。

断るが何だか申し訳ない気持ちでいっぱい(ちなみにずっと無表情
……それじゃあ、茶だけくれ。甘くないやつがいい。
意外と上手いな。この紅茶?は初めて飲むが香りが良い。
ありがとうな。美味いよ。

気付けばだいぶのんびりしている様な気が…。
そういえば俺は何しに此処へ――あ。
当初の目的を思い出せば相手と距離を取り刀に手をかける。

……本当にやり辛い敵だな。
仇で返すようだが。すまない、仕事だ。
せめて苦しまぬよう鋭く一閃を振るう。
――次があるなら楽しい茶会にしたいものだ。




 ふわふわ虹色の身体に、頭の上にはティースタンド。手にはティーセットの獏羊。
「……あれが敵なのか?」
 愛らしい敵の姿を見て、思わず葵・弥代(朧扇・f27704)はそう零していた。
 とぽとぽと心地良い水音を立てながら、芳しい紅茶がカップへと注がれていく。小さな身体で短い腕を使い、精一杯給仕をするその様も相まって、つい気が緩みそうになってしまう。弥代の口元はぴくりとも動かないけれど、白群色の瞳は僅かに細められている。
『さあさあ坊ちゃま、どうぞ』
「悪いがいま喉は渇いてない。いや、眠くもないから大丈夫だ」
 不思議そうにじっと見つめていたからだろうか? 獏羊はカップに注いだお茶を、弥代へと差し出した。ふわふわと湯気に乗り運ばれてくる香りは心地良いものだけれど、彼が丁重にお断りすれば次は眠いのかと尋ねる獏羊は、どうやら何か世話をしたい様子。
 そんな彼の姿に、弥代は申し訳ない気持ちでいっぱいになる。――彼の表情の変化に乏しい性質のせいで、表からは全く分からないけれど。
 断り続けたせいだろうか。少しだけ獏羊の小さな耳がへにょっと垂れた気がした。その姿が更に弥代の心を痛めるからつい。
「……それじゃあ、茶だけくれ。甘くないやつがいい」
 彼は、そう零していた。
 弥代のご所望に獏羊は顔を上げると、嬉しそうにポットを揺すり紅茶を注ぐ。
『さあさあどうぞ。香りは甘いですが味わいはすっきりとしております』
 白磁のカップを受け取り、そっと弥代は口にしてみる。口を近付ければ薫る紅茶の香は確かに甘い。そのまま含んでみれば、華やかさに似合わず柔らかく爽やかな味わいで。初めて飲む紅茶だけれど、その香りと味わいに弥代は驚いたように瞳を瞬いた。
「ありがとうな。美味いよ」
 だから弥代は、給仕をしてくれた獏羊に向け。変わらぬ表情のままだけれど感謝を述べる。彼は『勿体ないお言葉を』と謙虚に語るが、どこか嬉しそう。ポットを手にお代わりを注ぎたそうにしているその姿を見て、弥代は自分が何をしに此処へ来たのかと考える。
 瞬く星々。甘く薫る紅茶に愛らしい獏羊。
「――あ」
 ぐるりと世界を見渡して最後の紅茶を飲んだ時、彼は自分が何故此処にいるのかを思い出した。目の前の存在が、この地を脅かす敵であることも。
 だから彼は、腰に携えていた刀を手に取ると構えをとる。その動作に獏羊は驚いたように、けれどふわふわと地を軽やかに舞う。
 その姿は、とても敵意があるようには見えなくて。
「……本当にやり辛い敵だな」
 弥代は眉を寄せ、少し困ったように紡ぐけれど。――これが仕事だと、謝罪を添える。
 せめて苦しまないようにと、振るわれる斬撃は鋭いもので。一瞬で鮮やかな身体は甘い世界から消えていく。
 ――次があるなら楽しい茶会にしたいものだ。
 尚も変わらぬ表情のまま、紡がれる彼の言葉には優しさが滲んでいた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ベイメリア・ミハイロフ
まあ、虹色の獏さん、でございますか
世界観的には合っている気もいたしますけれど
こちらの獏さんに眠らされては
目覚める事ができなくなってしまうのでございますね
それでは、どのような夢を見たか
目覚めた後お話できなくなってしまいます
紅茶やお菓子も魅惑的ではございますが
心を鬼にして、お倒し申し上げたいと思います

先制攻撃にて
早業・高速詠唱からの2回攻撃を狙いつつ
Red typhoonにて攻撃を
雲は虹色のものではなくて
わたくし、ふわふわ雲を所望するのでございます…!

バディペットのフジモトは
すっかり眠気に囚われてしまった模様
その様子を見つつ、眠気と戦いながら
早く、早くこの世界の
本物の眠れる世界に参りたく存じます!




「まあ、虹色の獏さん、でございますか」
 目の前でキラキラ煌めく虹色の身体を持つ、獏羊を見てベイメリア・ミハイロフ(紅い羊・f01781)は鮮やかな青い瞳をひとつ瞬いた。
 穏やかな気候の、キラキラと瞬く星空の美しい童話の国。そんな甘い、けれどどこか不気味さを抱くアリスラビリンスの世界に、どこか愛らしく、けれど狂気を孕む敵は合っている気もするとベイメリアは想う。
 けれど、彼は確かにこの世界を、そして猟兵達を滅ぼそうとする敵である。とぽとぽと水音を立てながら、カップに紅茶を注ぐ様は見事な所作で。香り立つ紅茶の香も心地良く鼻をくすぐるけれど――彼に眠らされてしまえば、そのまま永遠の眠りへと囚われる。
 そんな未来を想像して、ベイメリアの身がふるりと震えた。
「それでは、どのような夢を見たか。目覚めた後お話できなくなってしまいます」
 1人夢に閉じこもり、永遠と思われる時間を過ごすことになる。――その時を想えば、魅惑的な紅茶やお菓子の香りにも、怯むことは無い。
「心を鬼にして、お倒し申し上げたいと思います」
 尚も紅茶を注ぎお菓子を差し出し、ベイメリアへの給仕をアピールする獏羊へと真剣な眼差しを向けると。彼女は強く強く、芯の通った言葉を紡ぐ。
 そのまま彼女は、十字架を宿したメイスを構えると。呪文と共にその武器を真紅の薔薇の花弁へと変化させる。ふわりと薔薇の心地良い香りが戦場に満ち、その花弁が虹色獏の身をくるくると包んでいく。
「わたくし、ふわふわ雲を所望するのでございます……!」
『雲をご所望ですか?』
 強く言い放ったベイメリアの言葉に、獏羊は反応する。
 ――すると夢の中に作り出される、虹色雲の城。
 突如現れたその城の迷路の中、ベイメリアは驚いたように辺りを見渡した。
「フジモト?」
 先程まで一緒に戦っていた柴犬に似た見た目の犬の名前を――かつて、彼の敵のように奉仕してくれた執事と同じ名を持つ彼を呼んでみるが、返事がない。
 きょろきょろと辺りを見渡せば、一際煌めく虹色雲の上で、すやすやと眠るフジモトを見つけて安堵の息を零す。
 彼を見ていると、自分もどんどん眠りの世界へと誘われていくよう。けれど――。
「早く、早くこの世界の。本物の眠れる世界に参りたく存じます!」
 抵抗しようと瞼をこすり、足を踏み出して。
 彼女は眠りの迷宮の中、どこか優雅に立つ獏羊に向け再び武器を構えた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ルクス・カンタレッラ
ま、私は真面目な猟兵さんだからな
仕事を放棄してお茶会なーんてとてもとても
ってな訳で、お呼びじゃねぇんだよ執事なんざ
そんなお上品なもんなんて、こちとら海賊……おっと、今は坊ちゃんの護衛だけどなー
どの道、今の私は仕える側さ
傅くことはあっても傅かれるなんざ御免被る

クヴェレの背に乗って、片手にはゼーヴィントが姿を変えた槍を持って一息に駆け抜けてやる

さぁさ、目覚まし代わりに景気良く行こうかクヴェレ!
高く遠く、海の果まで掻き鳴らせ!!
敵が群れをなすと言うのなら、その群れごと高波で攫っちまえ!
響かせろ、嵐を起こせ!

静かな眠りなんざ要らねぇよ、わたしの眠りは何時だって潮騒と海鳥の声の中だ




 ルクス・カンタレッラ(青の果て・f26220)は真面目な猟兵だ。
 いくら敵が戦う意志を宿さずに、穏やかな時間を過ごしても問題なくとも。此処が甘い誘惑に満ちた国だとしても。仕事を放棄してのお茶会を楽しむ余裕は無い。
「ってな訳で、お呼びじゃねぇんだよ執事なんざ」
 深いコーンフラワーブルーの瞳で力強く獏羊を見遣ると、彼女は強く強く言い放つ。
 その言葉に、目の前の獏羊は残念そうに小さな耳を垂らすけれど――尚も背筋を伸ばし、煌めく紅茶を手にしてルクスをじっと見る。
 執事を傍におき、紅茶とお菓子を楽しむ優雅で上品な時間。
 そんな時間は、自分には合わない。何せ彼女は、海賊だから。いつだって自由で、広い世界を旅するのが生き方だ。
「どの道、今の私は仕える側さ。傅くことはあっても傅かれるなんざ御免被る」
 尚も恭しく立つ獏羊に向け、ルクスはひとつ言葉を零すと――2つの名を呼ぶ。呼ばれれば源流の海竜は自身の背を差し出し、潮風の翼竜はその身を槍へと姿を変えた。
 クヴェレの背に乗り、ゼーヴィントを手に。
 迷うこと無く突き進み、獏羊との距離を詰めれば――。
「さぁさ、目覚まし代わりに景気良く行こうかクヴェレ!」
 高らかにルクスが語る言葉に合わせるように、クヴェレはひとつ声を上げると勢いよく水を放った。辺りに激しい水飛沫が散れば、獏羊は水流に押されていく。
 高く遠く、海の果まで掻き鳴らせ!!
 強い眼差しで、強い言葉を語るルクスに迷いは無い。
 甘い悪夢への誘惑など、彼女には効かない。そのような、まやかしに興味は無い。
 だって――。
「静かな眠りなんざ要らねぇよ、わたしの眠りは何時だって潮騒と海鳥の声の中だ」
 この穏やかな世界で、穏やかな夢への誘いなど。海を旅する彼女には似合わない。
 彼女の強い心を表すように、夢見る世界には嵐が吹き荒れた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

千波・せら
やあやあ、可愛い羊さん。
私はまだ眠りたくないのです。
お菓子とお茶で饗して下さいな。
紅茶は私みたいに輝かせて、お菓子は口の中でほろりと崩れる物を用意してちょうだいな。

お嬢様みたいなこと、ちょっとやってみたかったんだ。
この紅茶もお菓子もとっても美味しくて気持ちも落ち着くよ。
執事を困らせるのもお嬢様だもんね。
テーブルに細工?ティーポットに爆弾?
どうしようかな。

うん!ティーポットに花火!
執事を呼んで、お茶のおかわりをお願いした時に
線香花火みたいに小さな火が跳ねる細工。

これで吃驚させよう。
優雅なお茶会はお終いだよ。
弾けるティーポットが宣戦布告の合図だ!




 ぴょこりと跳ねる、小さな虹色の獏羊。
 見目と仕草が愛らしく、どこかキリリと紳士然とした彼へと挨拶をすると。
「私はまだ眠りたくないのです。お菓子とお茶で饗して下さいな」
 千波・せら(Clione・f20106)は笑みを浮かべながら、願いを口にしていた。
 ――お嬢様みたいなことを、ちょっとやってみたかった。
 そんなせらの心の内に輝く願いを感じ取ったのか。獏羊は揺れるポットを掲げて、カップへと湯気の立つお茶を注いでくれる。
 紅茶は私みたいに輝かせて、お菓子は口の中でほろりと崩れる物を用意してちょうだいな。そんな、ささやかなお嬢様のお願いを、聞き入れるのも執事の務めだから。
 執事の淹れてくれたお茶はキラキラと水面のように煌めく深い青色。香り立つのは華やかな花々。綺麗なお皿に盛られたお菓子は、せらの願う通り雪のようなスノーボール。
 カップへと口を付ければ、甘く華やかな味わいが口に広がる。ほう、と溜息を零した後。彼女は細い指先で雪を手にして口にする。
「この紅茶もお菓子もとっても美味しくて気持ちも落ち着くよ」
 さくりと音を響かせて。ほろほろ崩れる甘味に心を満たして、せらは執事に向けて心を述べた。嬉しそうに柔らかな笑みを浮かべる彼女に向け、執事は深々と礼をする。
 そんな、小さな小さな執事をせらは改めてじっと見つめた。
(「執事を困らせるのもお嬢様だもんね」)
 せらの心に湧き上がる好奇心。彼女の中のお嬢様像を満たす為には、どんなことがいいだろうか。テーブルに細工? ティーポットに爆弾?
 お茶とお菓子を味わいながら、ぐるぐると思考を巡らせれば――答えに辿り着き、キラキラと楽しげに瞳を輝かせ、彼女はカップを手にお茶のお代わりを所望する。勿論執事は、嬉しそうにポットを手にしお茶を注ごうとするのだが――。
 すうっとせらの瞳が細められたのは、誰も気づかないような一瞬だけ。しかし、その隙に仕掛けられた力は――カップへとお茶を注ぐ為に、ポットを傾けた時に現れた。
 パチリと小さな音が響く。
 お茶で満たされたポットの蓋が弾けるように飛び、まるで線香花火のような小さくて鮮やかな火がポットの中で煌めいた。
『おおっと!』
 驚き、獏羊は思わずポットを落としてしまう。――地面につく前になんとか受け止めた彼の様子を見て、せらは満足そうに笑むと立ち上がり。
「優雅なお茶会はお終いだよ。弾けるティーポットが宣戦布告の合図だ!」
 改めて、戦いの幕開けを告げた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

オズ・ケストナー
わあ、すごいっ
落ちないティースタンドを見て目を輝かせ
シュネーを頭にのせてまねっこ
ごきげんうるわしゅう、しつじさんっ

寝たらとってもきもちよさそうだけど
今はねむっちゃだめなんだ
だからねえ、ティータイムがいいかなっ

給仕の間、虹色の体に興味津々
きれいだね、ふかふかだね
わたあめみたいにふわふわかなあ
さわってもいい?

ありがとうっ
いいにおい
今までかいだどの紅茶のにおいともちがう気がして
でもお菓子もたべちゃう
おいしい
あれ、なんだかすごーくねむくなってきた
まだねちゃだめなんだよ……

うとうとまなこでガジェットショータイム
大きなティースプーン
しつじさんにぺしんと当てたら【生命力吸収】
しつじさん、ごちそうさま……すぅ




「わあ、すごいっ」
 目の前で、頭に鮮やかなお菓子のティースタンドを乗せた獏羊が、器用に礼をする様を見てオズ・ケストナー(Ein Kinderspiel・f01136)は思わず声を上げた。
 絶妙な角度での、丁寧なお辞儀。
 そんな彼に影響され、オズは帽子を少し寄せた後頭の上に雪のような人形を乗せる。
「ごきげんうるわしゅう、しつじさんっ」
 そのまま真似をしてお辞儀をすれば、獏羊もどこか嬉しそうに小さな耳を動かした。
『坊ちゃまは何をご所望でしょうか? ワタクシに出来る事でしたらなんなりと』
 坊ちゃま、と呼ばれたことに少しくすぐったそうに笑いつつ。オズは小首を傾げて考える。――勿論、頭に乗せたシュネーは落ちないようにと、支えながら。
 寝たらとっても気持ちよさそうだけれど、今は眠ってはいけない。
「だからねえ、ティータイムがいいかなっ」
 キラキラとキトンブルーの大きな瞳を輝かせて、期待を胸に声を零す。そんな彼の言葉に、かしこまりましたと紡ぐと同時に獏羊は高い位置からカップに紅茶を注いでいく。
 香り立つのは華やかな花紅茶の香。
 湯気が舞う中――揺れる虹色のふわふわした身体に、オズの眼差しは釘付けだった。
 キラキラと煌めきを帯びた虹色の身体はとても綺麗で、柔らかそうで。触れたらわたあめみたいにふかふかなのかと、かつて色とりどりの飴玉からわたあめを作った時のことを考えながら彼は思う。
 だから――そっと指を伸ばしながら、オズは問い掛けた。
「さわってもいい?」
 その言葉に、短い手でティーカップを差し出す獏羊は少し驚いたように瞳を瞬いて。けれど『坊ちゃまがお望みならば』と、丁寧に語りながら触りやすいように距離を詰めた。
 伸ばした指が虹色に触れれば。指は柔らかく沈み込んでいく。仄かに温かく、ふかふかとした触り心地はとろけるよう。
 少しだけ温もりを楽しんだ後、お礼を言いオズはカップを受け取る。口元に寄せれば、カップから立ち上がる香りはとても華やかで、花そのものが差し出されたよう。
「いいにおい」
 ふわりと眼差しと頬を緩め、オズは言葉を零した後紅茶を口にする。広がる香りも味わいも、今まで味わったどの紅茶とも違う気がする――そう、まるで薔薇と何か甘い香を詰め込んだような、芳しい香りと味わいで。
 差し出されるままに苺のケーキを口にしてみれば、身体が温まったからか瞼が重たくなってくる。自然と落ちる瞼。キラキラの瞳が世界を隠そうとするけれど――。
「まだねちゃだめなんだよ……」
 きゅっと瞳を閉じ、眠気を払うようにオズは首を振ると――そのまま彼は呪文を唱え、その手に大きなティースプーンを出現させた。
 金色に煌めく、薔薇飾りのついたティースプーンを構えると。そのまま彼は、給仕してくれた獏羊に向け、勢いよく振り下ろす。
 軽い衝撃でも彼には確かなダメージだったようで。ゆっくりと虹色が消えていく様に。
「しつじさん、ごちそうさま……」
 ――彼の心地を貰いながら。そのままオズは、心地良さそうに瞳を閉じた。
 大切そうに、雪のような人形を抱きしめて。

大成功 🔵​🔵​🔵​

花澤・まゆ
わあ、紅茶にお菓子なんて、なんてハイカラなの!
敵とは言え、獏の執事さんにうっとり
いただけるのなら、是非紅茶を
甘いお菓子も一つほしいな
うわあ、美味しいーっ 猟兵になってよかったー!

こんなハイカラなものを食べさせてもらえるなら
迷路の中に閉じ込められるのも悪くないな
ああ、なんだか虹色の雲の幻覚が見えるの
あんなところで眠れたら素敵だろうなあ

うつらうつらと紅茶のひととき
眠りかけてようやく思い出すお仕事
紅茶を飲みつつ、鈴蘭を振りまいて終わりにしなくちゃ(UC使用)
ありがとう、獏さん
ハイカラなひととき、楽しかった!

絡み、アドリブ歓迎です




「わあ、紅茶にお菓子なんて、なんてハイカラなの!」
 佇む虹色に負けぬ輝きを瞳に宿し、花澤・まゆ(千紫万紅・f27638)は弾む声を上げた。褒められれば敵とは言え勿論嬉しいようで、執事は深々と礼をする。
 そんな彼の所作に、またまゆは頬を仄かに染めて。うっとりと瞳を細めた。
 相手はすぐに攻撃を仕掛けてくる様子は無い。とぽとぽと水音を立てて、紅茶をカップに注ぐ様子を見てしまっては、まゆは我慢出来ずに紅茶を一杯望んでいた。
 煌めく紅茶は上品な花の香りとすっきりとした春摘みの味わい。スコーンを手に取ればキツネ色が香ばしく、不思議と焼く立ての温もりが手に伝わる。
『ジャムとクリームはいかがですか?』
 どこからか苺ジャムとクロテッドクリームの入った小さな器を取り出し、勧めてくれる獏羊。彼の誘いに導かれるように、スプーンでジャムとクリームをすくうと。
「うわあ、美味しいーっ。猟兵になってよかったー!」
 ぱくりと口に含んだ後、まゆの唇からは歓声が零れた。
 柔らかな頬を押さえ、幸せを表現するまゆ。そんな彼女の様子をどこか嬉しそうに獏羊は見つめているけれど――いつの間にやら、世界は虹色に包まれていた。
 目の前にそびえ立つキラキラ煌めく虹の城。
 虹色のふかふか雲に包まれたこの場は、人々を覚めない夢へと閉じ込める迷宮。
 けれど――こんなハイカラなものを食べさせて貰えるのなら、迷路の中に閉じ込められるのも悪くない、と。まゆはスコーンを口にしながらそう想ってしまう。
 ふわふわ雲が風に揺れる様もまるで眠りへと誘うよう。甘い香りが鼻をくすぐり、気付けばまゆの瞳には虹色の雲が流れてくるのが見えた。
「あんなところで眠れたら素敵だろうなあ」
 とろんと青い瞳を細め、零れる言葉はどこか柔らかくとろけるよう。そのまま重い瞼が落ちそうになった時――かくりと首が傾げ、手にしたカップの紅茶が零れそうになったことでまゆの意識は夢から覚める。
 いけない、と首を振りつつ彼女は猟兵としての仕事を思い出し。手にした刀を掲げると、刃の煌めきは一瞬で真白の鈴蘭の花弁へと変化する。
「ありがとう、獏さん。ハイカラなひととき、楽しかった!」
 甘やかな世界に、鈴蘭の可憐な香りが広がっていく。
 虹色の世界が白に埋め尽くされていけば――手にした白磁のカップは消えていく。
 空になった自身の手を見つめた時、零れた紅茶の雫が地面を濡らした。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第2章 ボス戦 『クチナシの魔女』

POW   :    「ものがたりのはじまりはじまり」
【絵本から飛び出す建物や木々】が命中した対象にダメージを与えるが、外れても地形【を描かれた物語に応じた形に変化させ】、その上に立つ自身の戦闘力を高める。
SPD   :    「すると、愉快な仲間達は言いました」
【愉快な仲間達が登場する物語】を披露した指定の全対象に【朗読された言葉通りに行動したいという】感情を与える。対象の心を強く震わせる程、効果時間は伸びる。
WIZ   :    「まあ、なんということでしょう!」
無敵の【愉快な仲間達が合体したりして巨大化した姿】を想像から創造し、戦闘に利用できる。強力だが、能力に疑念を感じると大幅に弱体化する。
👑11
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●本の世界
 甘い虹色の夢への導き手が消えゆけば――夜の世界に佇むのは、黒のドレスを身に纏う純白の魔女だった。
 口元を隠している為、表情はその鮮血のような瞳からしか読み取れない。しかしその瞳はあまり変化が無いようで。彼女は微かに瞳を細めると、手にした本をぱらりと捲った。――すると、その本からはどこか不気味な動物が浮かび上がる。
『――この絵本は、あまり好ましくありませんね』
 辺りを、常闇の世界を見渡せば。先程まで楽しげに揺れていた、愉快な仲間であるランプがその眼差しに恐怖を覚えたようで、身を強張らせるように動きを止める。
 穏やかに流れる雲も、魔女から離れるように高い高い空へと昇っていった。
『ああ、新たなお話を読まなくては』
 魔女は猟兵達には目もくれず、辺りに積まれた本へと視線を移すと。どれにしようかと考えた後、そっと手を伸ばし一冊の本を手に取った。
 ぱらりと頁がめくられれば、キラキラと本が煌めいた後――辺りは一瞬で透き通る甘いゼリーの世界へと変わっていく。
『これは、お菓子の本』
 ぽつり、魔女が零した言葉の通り。本にはお菓子の国が書かれていたのだろう。次なる世界を探すように、次の本へと視線を移す。

 彼女はいったい、どのような物語を求めているのだろうか?
 元絵本作家だったと云う彼女。
 今は絶望に囚われたオウガだけれど、ハッピーエンドは訪れるのだろうか?
 その結末は、まだ誰にも分からない。

 ――さあ、物語のはじまりはじまり。
オズ・ケストナー
絵本をさがしてるの?
最後にはみんながえがおになっちゃう話がいいな

なんだかいっしょうけんめいなんだもの
たおさなきゃいけない、いけないけれど

走ってくる空飛ぶ汽車に
わあっ

きみもいっしょにのらない?
そうやっていろんな世界を旅したら
すきなものにも、すきなひとにも会えるかも
なにがすきなのかな

UCで空に誘い出してみるけど
攻撃されたら回避

きみはどんなお話を書いてたんだろう
わたしね、本を読んだからしってるよ
くちなしは「喜びを運ぶ」って花言葉があるんだ
そんな絵本だったんじゃないのかなあ

わたし、絵本だいすきっ
たのしいきもちになれるもの

最後は魔鍵で生命力吸収
絵本を読んだあとみたいな、しあわせなきもちでねむれますように




 高く高く積まれた本の山。
 その本の山をじっと覗き込む魔女の姿を見て――。
「絵本をさがしてるの?」
 オズ・ケストナーはいつものように穏やかな笑顔を浮かべながら、そんな魔女へと近付きその顔を見た。魔女は声を掛けられたことで、オズへと視線を向けた後また本へと向き直る。その本をじっと見つめる横顔を見れば、オズは自身の心がきゅっと苦しくなった。
 本を見つめる魔女の姿が、一生懸命にオズには見えて。
(「たおさなきゃいけない、いけないけれど」)
 自身の心の葛藤を確かめるように、オズは胸の前で手を握る。その時――オズの頭上を、走ってくる影が見えた。
「わあっ」
 その影の大きさに、オズは大きな瞳を見開き驚きを露わにする。よく見るとその影は空飛ぶ汽車で、そのまま近くでぴたりと止まり扉が開く。
 それはまるで、乗客を待っているかのようで――オズは本を手にする魔女へと。
「きみもいっしょにのらない?」
 真っ直ぐに手を伸ばし、そう誘っていた。
 汽車に乗って、いろんな世界を旅したら。好きなものにも、好きな人にも会えるかもしれない。彼女が、何が好きなのかを知りたい。
 その真っ直ぐな眼差しと言葉に。魔女は不思議と導かれるように、自身の手を伸ばしていた。微かに伝わる指先の冷たさを確かめるように、指先だけ繋がるふたりを包み込むのは煌めくようなシャボン玉。ふわりと宙を浮かんだかと思うと、そのシャボン玉は空に止まる汽車の扉まで導いた。
 唯一露出した眼差しで、じっと外の風景を見る魔女。落ち着かなげに手元の本の頁に触れているのに気付き、オズは彼女がどんなお話を書いていたのかが気になった。
「わたしね、本を読んだからしってるよ。くちなしは『喜びを運ぶ』って花言葉があるんだ」
 美しき真白の花をその身に宿した、クチナシの魔女。
 その名となる花の意味を零せば――オズはふわりと幸せそうに微笑むと、そっと彼女の鋭い眼差しを見つめて言葉を続ける。
 きっと、彼女が描いていたのはそんな絵本だったのではないかと。絶望に囚われる前の、煌めくような日々のことを。
 彼女の過去は、分からない。
 けれど彼女の描いていた絵本は、幸せだったと思いたい。オズが、かつて読んだ本がオズに宿してくれた温かさと同じように。
「わたし、絵本だいすきっ。たのしいきもちになれるもの」
 だからオズは、キラキラと真っ直ぐに瞳を輝かせ魔女へと語るのだ。
『――めでたし、めでたし』
 一切言葉を零さなかった魔女から零れたのは、会話にならないそんな言葉だけ。けれど、オズの言葉を受けてのその言葉には――不思議と温かな意味が込められているようで。ついオズは嬉しそうに笑みを零してしまう。
 けれどオズは、そんな彼女をしっかりと送り出さなければならないのだ。
 手にするのは金色に輝く鍵。傷付けず生命力のみを奪う、心優しい一振りが魔女へと落とされる。
 ――絵本を読んだ後のように。幸せな気持ちで眠れることを、祈りながら。

大成功 🔵​🔵​🔵​

葵・弥代
※アドリブ歓迎

寝る前に書を読むのか?
そうか。ヒトはそうして眠るものなのか。
文字を読むことはできるが如何せん手にする機会は殆どなくてな。
……寝物語にはどういうものがいいのだろうか。
適当なものを手に魔女へ渡し、それはどういう内容なんだ?と問う

緑…、森か?自然豊かな世界だな。
木々の隙間から零れるように降り注ぐ陽光
透き通るような歌を奏でる鳥の囀りに双眸を緩やかに細め

こういう世界は好きだ。落ち着く。
アンタはお気に召したか?それとも争い事の方が好きか?

自身の掌に刀を滑らせ血を流す
痛みはあるが眉1つ動かさず紅絲を魔女に向けて放つ
求めているものを探すことは結構。
しかしこの世界の安寧を蔑ろにしてはいけない。




 辺りに積まれた書物を見渡すように眺め、葵・弥代は意外そうに瞳を瞬く。
「寝る前に書を読むのか? そうか。ヒトはそうして眠るものなのか」
 ――彼自身はヒトでは無い。
 だからヒトの行いには、驚くこともあるのだろう。それは彼が、世間に対してあまり興味が無いのも要因ではあるのだが。
 その為、初めて触れる文化に少しの興味を抱く。文字を読むことは出来るけれど、手にする機会はほとんどない。だから、寝物語にはどういうものが良いかは想像も付かない。
 本の山をじっと見つめていた弥代だが――山の一番上の本を手に取ると、その本を魔女へと差し出した。魔女は戸惑うこと無く、本を受け取る。
「それはどういう内容なんだ?」
 魔女がぺらりと本を捲る様子を眺めながら、弥代は疑問を口にした。
 その問いに魔女は一瞬顔を上げ弥代を見ると――。
『――とある国の、とある森』
 本の物語を、言葉にしだした。
 それはとある自然豊かな美しい国の、動物たちの物語。語られる言葉が奏でられれば、辺りの不思議めいていた木々は、弥代のよく知る緑へと変化した。
 木々が生え、常夜だった空からは何故か降り注ぐ陽光。木漏れ日が降り注ぐ様を見上げ、眩しそうに弥代は鋭い白群色の瞳を細めると。
「緑……、森か?」
 不思議そうに、言葉を零した。
 耳を澄ませば小鳥の心地良いさえずりが。さわさわと風に揺れる葉の音に合わせて、温かさに満ちた空気が一気に広がった。
 元の不思議の国も、常夜の心落ち着く世界だったけれど。
 この世界には無かった温かな光もまた、心落ち着くもの。
 そっと双眸を閉じると――弥代は好みの世界に出逢えたことに、口元を動かさぬままほっと安堵のような息を零す。そのまま深く深く、その空気を吸った後。
「アンタはお気に召したか? それとも争い事の方が好きか?」
 瞳を開き、ひとつ彼は魔女へと問い掛ける。
 ――何かを求める元物書きの魔女。
 本に対して強い想いを抱いている彼女だが、彼の問いにはただ瞳を細めるだけだった。物語以外はあまり言葉にすることは無いのだろうか。ただ彼女は、淡々と頁を捲り小人達が登場する物語を紡いでいく。
 それは確かな、敵意の表れ。
 だから弥代はひとつ息を零すと、自身の掌に刀を滑らせた。一筋から零れる鮮血に、弥代は眉ひとつ動かさずそのまま鮮血の糸を魔女へと放つ。
「求めているものを探すことは結構。しかしこの世界の安寧を蔑ろにしてはいけない」
 ――それは、平和であったこの国を守る為の弥代なりの力だった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

花澤・まゆ
わあ、沢山の絵本があるのね
うーん、こんな絵本はどうかしら
草原で仲良しがお昼寝をするおはなしなの
雲の形に名をつけていると
最後は雲がお礼として雲の上に乗せてくれるの
仲良しは手を繋いで雲の上でお昼寝…いいなあ、そんな素敵なお昼寝!

…なんてお話を読んでもらったら
あたしもお昼寝したくなっちゃうのかな、ふわあ
貴女がどんな物語を求めているのか気になるのだけど
あたしはみんなを守ってあげなくちゃ、ごめんね

剣で一閃
この世界には似つかわしくない桜の花を散らして
いつか貴女の求めるお話が見つかりますように

アドリブ、絡みなど歓迎です




 辺りには、積まれるように並ぶ本の山が。
 大きさも厚さも装丁も様々なその本を見て、花澤・まゆは好奇心に瞳を輝かせる。
「わあ、沢山の絵本があるのね」
 幸せな結末、悲しい結末――様々な物語の中から、彼女が手を伸ばしたのは絵本の山。その中の一冊を手に取れば、その表紙には花咲く草原とふわふわな雲が描かれていた。
 ぱらりと細い指を添え頁を捲れば、そこには穏やかなお話が載っている。
 これは、草原で仲良しがお昼寝するおはなし。
 雲の形に名前をつけると、最後は雲がお礼として雲の上に乗せてくれる。
「仲良しは手を繋いで雲の上でお昼寝……いいなあ、そんな素敵なお昼寝!」
 思わず頬をふわりと和らげ、楽しげに頁をめくりまゆは声を上げる。
 ――そんなことを紡いでいれば。気付けば辺りの景色もすっかり変わり。ふわふわと柔らかな雲がまゆへと寄り添っていた。身に触れる雲の部分はふわふわと優しい柔らかさで、手を伸ばしてみればふかりと手が埋め込んでいく。
 その温もりに触れ、雲たちにキラキラと無邪気な瞳を向けられれば。不思議と、まゆも眠りの世界へと誘われるように、瞼が重くなりひとつ欠伸を零してしまった。
 戦闘など忘れてしまいそうな、穏やかなひと時。
 愉快な仲間達と共に、このままお昼寝が始まってしまいそうなのんびりとした空気。
 それは――絵本の魔女が、じっと静かにまゆのお話に耳を傾けていたからだろう。
 紅い瞳しか見えない為、その表情はなかなか読めない。けれど、まゆの話を聞いている間の魔女はどこか穏やかで、その鋭い眼差しも和らいだ気がした。
 彼女は、一体どんなお話を求め。まゆに倣い手にした絵本の頁を捲るのだろう。
「貴女がどんな物語を求めているのか気になるのだけど。あたしはみんなを守ってあげなくちゃ、ごめんね」
 ふるりと首を振り、まゆは眠気を払うように目をこすると。身を預けていた雲から背を離すと立ち上がる。
 そのまま刀を構え駆け出せば、彼女の歩んだ道に残るのは幻朧桜の香り。刃を煌めかせ一閃すれば、そこには甘いこの世界にはどこか似合わぬ桜の花が世界に散った。
「いつか貴女の求めるお話が見つかりますように」
 少しだけ悲しげに青い瞳を細め、彼女は刃を振り下ろす瞬間。魔女に向けて呟いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ベイメリア・ミハイロフ
作家の彼女が求めるラストは
一体どのようなものなのでございましょう
絵本ならば、わたくしは、ハッピーエンドが良うございます

お菓子の本の中にいる間は、ゼリーの岩に身を隠しつつ
お相手の行動を第六感にて見切り回避を
無敵のお相手からは身をかわし、彼女を狙って攻撃を打ち込みます
可能であれば口元を狙い、ご本を読み上げるのを阻止したく

どのような環境のご本に招かれても対応できるよう
火炎耐性・電撃耐性・氷結耐性・環境耐性・地形耐性
地形の利用を活性化
できる事なら彼女が次のご本を手に取る前に
UCでご本もしくはご本へと伸ばした手を弾き飛ばしたい所存

最終的には、元の世界に似たご本を
彼女の元へ飛ばして
読み上げさせたく存じます




 数多の本の頁を、ぱらぱらと捲る黒衣の魔女。
 作家であったという彼女が求めるラストは、一体どのようなものなのだろうか――。
「絵本ならば、わたくしは、ハッピーエンドが良うございます」
 岩に身を隠しつつ。目の前に積まれた絵本をじっと見つめながらベイメリア・ミハイロフは小さな声でそう呟いた。
 彼女がこうして身を隠し、様子をうかがっている間も不思議の世界は変わりゆく。
 嵐が吹き荒れ、美しい木々が生え、愉快な仲間達が楽しく歌い、小さなネズミが跳ねまわる。魔女が新たな本を手に取る度、世界は煌めき不思議な色を宿すのだ。
 どんな環境になっても対応出来るよう、覚悟したベイメリアには例え天候が吹き荒れようともある程度は耐えられる。けれど、この地は? 穏やかな地と、そんな地に住む愉快な仲間たちはどうだろう? このままでは絵本から飛び出した世界で、この国を別の物へと変えてしまうかもしれない。
 だから――ベイメリアは立ち上がると、輝く瞳に鋭さを宿して細い指を敵へと向ける。すると世界が煌めいたかと思うと、天から光が降り注いだ。
 常夜の世界に、強い光が生まれる。
 ランプが照らしてはくれているけれど、突然の光に目が眩むよう。覚悟をしていたベイメリアはそれでも敵を見据えられるけれど、受けた側である魔女はそうはいかない。目が眩み、立ちすくむ彼女を見て――ベイメリアは、彼女が手にしていた本を弾き飛ばし、一冊の本を彼女の元へと飛ばす。魔女は、目が眩みながらもその本を咄嗟に手に取った。
 薄れゆく光。段々と元の常夜の世界に慣れてきた時。魔女は手にしていた本を捲る。
 その絵本に描かれているのは、穏やかな夜の国。美しい花々に柔らかな雲。――そう、それはまるでこの国を描いているような絵本だった。
 無敵の愉快な仲間である雲が合体し、大きな身体を持ってベイメリアへと向かってくるのはひらりと優雅に回避し。ベイメリアは静かに待つ。魔女が、この世界を元の世界へと戻していくのを。
 魔女が力を放てば、ベイメリアの避けた所から世界が変わっていく。吹雪の跡も、雷により焼けた跡も、全てが消え去り元の様子へと。
 元に戻りゆく様子を見て、ベイメリアは安堵の笑みを浮かべると――再び、最期の一撃たる聖なる光を天から放つ。
 世界が光から常夜へと戻る時。
 残ったのは、はらりと落ちるクチナシの花だけだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第3章 日常 『夢結晶の煌き』

POW   :    見たい夢を思い描いて眠る

SPD   :    リラックスする香を焚いて眠る

WIZ   :    想い出の品を傍に置いて眠る

👑5
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●夢見る小箱
 天を見上げれば、瞬く星々の美しさが目に入る。
 視界を邪魔しないランプがゆらゆらと揺れ、嬉しさを表すようにその身の光を強くする。脅威から逃れるように空高く浮かんでいた雲たちは、猟兵たちへと喜びを伝えるべく近くまで下りてくると――。
『ありがとう、ありがとう!』
『いっしょにねよう、あっちが気持ちいいよ』
 自分と一緒に寝ようと、今にも寝そうな欠伸を零しながら誘ってくる。
 彼等が誘うのは、勿論眠るのに心地が良い場所。花薫る花畑の中心だったり、水のせせらぎが心地良い葉の上だったり、空高く浮かぶ彼等に乗るのも良いかもしれない。
 他にも此処には、素晴らしい場所が沢山あるだろう。
 オウガの去った今、眠りを脅かす存在はいない。溢れる自然の中や、小屋の中といった好きな場所で一時の休息を楽しむのが良いだろう。

『おきゃくさまです?』
『りょうへいさんです?』
 ちょこちょこ、辺りに生えるキノコから姿を現したのは。小さな小さなヤマネたち。彼等は小首を傾げながら猟兵を見ると――どこからか小箱を運んできた。
『眠ります?』
『夢の結晶いりますか?』
 彼等が精一杯背伸びをして、腕を伸ばして猟兵へと差し出してくれたのは綺麗な宝石箱。細かな装飾されたものが多いようだが、それぞれ手にしている小箱はデザインも違う。これが、枕元に飾って寝ると夢結晶が生まれる『夢見の宝石箱』なのだろう。
『ちょびっとでもねると、結晶ができるのー』
『どんなキラキラか見せてくれたら、なんでも作ってあげますですよ』
 どんな結晶が生まれるのか。楽しみで仕方が無いと言わんばかりに、つぶらな瞳をキラキラと輝かせるヤマネたち。彼等はとてもとても小さいが、愉快な仲間としてこの国で暮らしているモノとして、特別な力を持っているのだろう。
 
 小さな小箱を片手に。
 さあ、夢の世界へと旅立とう。
 心地良い眠りから覚めた時には、アナタだけの欠片が手に出来ているはずだから。
 ほら、心地良い眠りへと誘う為に。
 夜空を抱くティーポットも踊っている。
ベイメリア・ミハイロフ
ふわふわの雲さんに乗せてもらって
バディペットのフジモトを伴って眠ります
一体どのような夢を見られるのでございましょう?
もし、フジモトが巨大化して、な夢でしたら…
ああっ、わたくし、もふもふする手が
止まらなくなってしまいます!

いざ眠りについてみますと
お茶の席に、昔家族と共になくした
老執事のフジモトが
ふわふわのお席に座るわたくしは
シスター服ではなく深紅のドレスを着て
彼の給仕を待っておりました
今日のお茶について、お菓子について等
他愛のないお話をしながら…

目覚めましたら
結晶を握りしめ
フジモト…見守ってくださっているのでございましょうか
切なくも、懐かしい気持ちになりながら
犬のフジモトをきゅっと抱きしめます




 ふわふわと、柔らかな雲に腰を落とせば。沈み込みそうな柔らかさと共に、包み込むような程よい温もりがベイメリア・ミハイロフの身に伝わる。
 彼女の傍らでは、フジモトが尻尾を振りながらご機嫌な様子でベイメリアを見る。彼の頭を撫でながら――彼女は、どんな夢を見れるのかと馳せながら雲の上に横になった。
 もしも、もしもフジモトが巨大化する夢だったなら。
(「ああっ、わたくし、もふもふする手が、止まらなくなってしまいます!」)
 そっと身を預けて、眠るフジモトの温かさを感じながら――期待に胸を膨らませながらうつらうつらと、ベイメリアは眠りの世界へと落ちていく。
『おやすみー』
 そんな彼女へと、愉快な仲間であるふわふわ雲は欠伸交じりにそう紡いだ。

 気付けばベイメリアは、雲の上では無く豪華なソファーに座っていた。
 ふわふわの座り心地は先程の雲とは違う感触。辺りを見渡せば記憶の底にある景色が。不思議そうに瞳を瞬いた彼女の前に、すっとティーカップを差し出す腕が見えて。
「フジモト……」
 そちらを見上げれば、よく知る老執事の姿が居た。
 フジモトと名は、今尚彼女の傍で共に行動するバディペットと同じ名だけれど。彼は、その相棒よりもずっと前に彼女に手を貸してくれた存在。昔々、家族と共に亡くした人。
 そんな彼の姿を捉えて、ベイメリアは懐かしそうに瞳を細める。そのまま視線を落とせば、自身がシスター服では無く、豪華なドレスを身に纏っていることに気付いた。深紅の色は同じだけれど、レースやフリルに花飾りと。その装いはかつての記憶の欠片。
 丁寧に結い上げられた髪に触れ、そっと微笑むと彼女はフジモトが給仕してくれたお茶とお菓子を口にする。
 ――彼の給仕を待っておりました。
 そっと口元に笑みを浮かべ、幸せそうに瞳を細め。ベイメリアはこの特別な瞬間を味わうかのように、再びカップへと口をつけ。そのまま、傍らのフジモトと共に語り合う。
 今日のお茶について、お菓子について――その内容は他愛のない話だけれど。その何でもない瞬間を、彼女は待っていたのだ。

 瞳を開ければ、目の前に広がるのは瞬くような美しい星々だった。
 目をこすり、背の温もりと腕に伝わる温もりに気付けば――自分が夢見の国に居ると云う現実を思い出す。腕に寄り添うように眠る犬のフジモトをそっと一撫でして、宝石箱の蓋を開ければ、そこには深紅色に煌めく結晶が。光に当ててみれば、キラキラと煌めくその奥には薔薇の花が眠っている。
 美しい薔薇抱く結晶をそっと握り締め、祈るようにベイメリアは瞳を閉じる。
「フジモト……見守ってくださっているのでございましょうか」
 口元には穏やかな笑みを浮かべながら。
 心に満ちる切なくも、懐かしい気持ちを確かに感じながら。ベイメリアは傍らでいつの間にか目を覚まし、じっと彼女を見る犬のフジモトを抱きしめた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

雛瑠璃・優歌
「…えへへ」
依頼にこんな格好で来る日なんて来ないと思ってた
自分へのご褒美にちょっと奮発して買った寝間着姿
うきうきと寝床を探してヤマネさんから宝石箱も貰う
「有難う、一眠りしてから行くね」

見たのは異母弟と向き合った幼き日の夢
『ひめはあたしが守るから!』
…今思えば馬鹿な話
実際のあたしは未熟で
普段だって弟の方がしっかりしてる
それでもあたしはあの頃から本当に弟が大好きだったから
母親を喪ってもいつでも手放しで愛してくれる姉が居る事を未来永劫疑ってほしくなくて
「…、言えないなぁ」
呆れ顔が目に浮かぶもん
「…あ」
宝石箱の中には弟の瞳と同じ色の石
「梅の花の形」
思わず微笑んだ
チャームにしてもらおう
何にでも使える様に




「……えへへ」
 嬉しそうにはにかんで、雛瑠璃・優歌(スタァの原石・f24149)は自身の纏う装いをじっと見る。それは自分へのご褒美に、ちょっと奮発して買った寝間着姿。
 依頼にこんな格好で来る日なんて来ないと思っていた。けれど、此処は甘い夢見の国だから。きっとこの装いが一番相応しいはず。
『宝石箱どうぞです』
『どんな結晶できるかなー』
 寝床を探すようにきょろきょろと優歌が辺りを見回しながら歩けば、彼女の足元へとちょこちょこついて来た小さなヤマネたちが小箱を差し出してくれた。
「有難う、一眠りしてから行くね」
 そっとその小箱を手に取って、また後でとヤマネに一時の別れを告げる。
 優歌は嬉しそうに小箱を抱きしめ。包み込む花の上へと腰を下ろし夢を見た。

 ――彼女が見た夢は、幼き日の記憶だった。
『ひめはあたしが守るから!』
 発せられた言葉は異母弟に向けて。夢の記憶を手繰り寄せて、先程その言葉を口にした『今』の彼女は冷静に想う。
 今思えば馬鹿な話である、と。
 実際の彼女はまだまだ未熟だった。まだ年若かったのだから、仕方が無いとしても。普段も弟のほうが、ずっとしっかりしていたのだ。
 それでも、あの頃から優歌は本当に弟のことが大好きだったのだ。母を喪っても、いつでも手放しで愛してくれる姉が居ることを。未来永劫疑って欲しくなかった。
「……、言えないなぁ」
 くしゃりと笑いながら、優歌は小さく零す。
 そんなことを言ったら、呆れる姿が目に浮かぶ。
 それでも、彼のことが大好きだったと。改めて彼女は想うのだ。
 かつての記憶を再び鮮明に思い出しながら、優歌はそっと指輪の煌めく手を伸ばし、傍らに置いた宝石箱を開けてみる。
「……あ」
 小箱を開けた中に煌めいた色を見て、優歌は眩しそうに瞳を細めた。
 その中に眠るように咲いたのは、大好きな弟の瞳と同じ色の石。
 壊さないよう細心の注意を払いながら。大切そうに持ち上げてみれば――。
「梅の花の形」
 光に当たり、煌めくその結晶は小さいけれど。加工せずとも美しく咲く、花だった。
 その煌めきと美しさに、優歌は思わず微笑むと。胸元に寄せ、そっと愛しむかのようにその結晶を抱きしめる。
(「チャームにしてもらおう」)
 何にでも、使えるように。
 先程挨拶を交わしたヤマネに、そう言って差し出せばきっと素敵な装飾を施してくれるだろう。元の色と、形を大切にした美しきものを。
 いつまでも煌めく、美しき結晶。
 この色が、傍にあることが優歌にとっての支えとなるだろう。

大成功 🔵​🔵​🔵​

葵・弥代
誘われ向かった先は陽光降り注ぐ花畑
木に背を預け目を瞑れば微睡んでいく

ふたりの主。職人の男と芸妓の女
ああ、これは決して戻ることない遠望だ。
笑いあうふたりをいつまでも見守りたかった。
出来れば結ばれてほしいと器物でありながら願ったものだ。
……叶うことはなかったが。

それでも幸せそうに俺を使い舞う女と、暖かな眼差しで見つめる男
敢えて結ばれることを選ばなかったふたり
俺には理解できないが、あれもひとつの形なのだろう。
夢だと解ってしまったからこそ。せめてこの一時だけでも
楽し気な主たちを眺めながら、もう少し続けばいいのにと願う

小箱の中で青く澄んだ光を放つ結晶に口許を緩め
…やさしい色だ。ヤマネたちに何を頼もうか。




 どこもかしこも眠りに適した不思議な国。
 その中でも特にお勧めの場所を求めて。柔らかな雲に導かれた葵・弥代が辿り着いたのは、そこだけ陽光の降り注ぐ花畑だった。
 弥代の瞳のような鮮やかな青が一面に咲く花畑。彼は樹に背を預けそっと瞳を閉じれば、甘い花の香りが心地良く一瞬で眠りへと誘われていった。

 気付けばそこには、男と女の姿が。
 それは見たことのある人物。よく知る人物。
 職人の男と、芸妓の女――そう、弥代の主だ。
 笑い合うふたりの姿を見て、弥代は「ああ、」と息を零す。これは、決して戻ることの無い遠望。このように、笑い合うふたりをいつまでも見守りたかったと強く思う。
 出来れば、結ばれて欲しいと。器物でありながら弥代は強く願ったあの日々。
 そして、叶うことの無かったこの願い。
 女が手にする舞扇子が、ひらりと優雅にはためいた。
 幸せそうに笑い、舞い踊る芸妓を暖かな眼差しで見つめる男の姿。
 あの日々を思い出す、この光景。ふたりは、敢えて結ばれることを選ばれなかったのだ。弥代が強く強く願っても、その結末は変わらなかった。
 弥代にはそれは理解出来ないと今でも想う。けれど、あれもひとつの形なのだろうとは、ぼんやりと解ったのだ。
 これは、夢。
 心地良い世界が見せる、弥代にとって最も心地良く温かな夢の一幕。
 そう解ってしまったからこそ、弥代は再び強く強く想うのだ。
(「せめてこの一時だけでも」)
 尚も優雅に舞う美しき芸妓と、その姿を見つめる男の姿は暖かい。その眼差しも、口元の笑みも、纏う空気も――全てが暖かく、柔らかい。
 この時間が、もう少し続けば良いのにと。弥代は変わらぬ表情の奥に、暖かな心を宿しながらそっと願った。

 ゆるりと弥代が目を開ければ、甘い香りと瞬く星々が迎えてくれた。
 今の光景が夢だったと、改めて実感して彼は一度瞳を伏せて――再び開けると、そっと傍らに置いた宝石箱を開けてみる。
 空っぽだった小さな箱の中に、生まれたのは青く澄んだ光を放つ結晶。その煌めきを瞳に映すと、弥代は珍しくもそっと自身の口許を緩めていた。
「……やさしい色だ。ヤマネたちに何を頼もうか」
 手に取りその煌めきを見つめながら、馳せるように彼は紡ぐ。
 キラキラと星を受けて輝くその姿は。きっと弥代の今後を支えてくれることだろう。

大成功 🔵​🔵​🔵​

花澤・まゆ
えへへ、あたしこそありがとう!
みんなと一緒に眠れるなら嬉しいな
ヤマネさん、あたしにも『夢見の宝石箱』をくださいな
いただいたら雲さんたちと花畑の中心でおやすみなさい!

見た夢ははっきりと覚えてないけど
とても優しい綺麗な人が微笑んでいたことは覚えているの
さっき倒した魔女さんかしら?
よい絵本が見つかっているといいな

宝石箱を覗くと淡く白い真珠のような結晶が
あのね、この結晶で刀につける飾りを作りたいの
小さめな武器飾りを作ってもらえますか?
ヤマネさんにお願いして

この世界を守れた記念に
いつでも胸を張れるように
どうかこの世界がいつまでも優しい世界でありますように!

アドリブ歓迎です




 ありがとう――愉快な仲間たちから紡がれるその言葉に、くすぐったそうに笑うと花澤・まゆは自身もお礼を述べた。
 沢山の宝石箱を差し出すヤマネから、ひとつ受け取るとまゆは欠伸を零しながら宙を舞う雲と共に綺麗な花畑へと。淡い水色の花弁が一面に広がるその場は、まるで空を映したかのように美しい。
 穏やかな香りが鼻をくすぐるその中心で、ふわふわと身を包む柔らかな雲の上で横になると――そのまままゆは、眠りの世界へと落ちていた。

 ふわりと目が覚めた時、まゆの心にはどこか温かな気持ちが宿っている。
 見た夢は、はっきりとは覚えていない。
 けれどとても優しい、綺麗な人が微笑んでいたことは覚えている。
「さっき倒した魔女さんかしら?」
 真白の身体をした、血のように赤い瞳を持つ魔女。彼女はいったい、どのような物語を紡ぐ者で。どのような物語を探していたのだろう。それはもう、分からないけれど。
 ――よい絵本が見つかっているといいな。
 そっと祈るように青い瞳を瞼で隠して、胸元に手を当て微笑むまゆ。
「あ」
 思い出したようにぱちりと瞳を開くと、そのまままゆは傍らに飾っていた宝石箱を手に取る。ドキドキしながら蓋を開くと――そこには、淡く白い真珠のような結晶が。
 木々に揺れるランプの灯りに照らしてみれば、白い表面にまゆの顔が映り込む。指先で摘まみ、その輝きを見惚れるように見つめた後。彼女は雲のベッドから降りると、ヤマネの元へと駆けて行った。
『まっしろねー』
『なににしましょう?』
 まゆの掌で煌めくその結晶を見て、ぱちぱちと円らな瞳を瞬くヤマネたち。そのまま視線をまゆへと上げ、こてりと首を傾げながら問い掛けられれば。
「あのね、この結晶で刀につける飾りを作りたいの。小さめな武器飾りを作ってもらえますか?」
 ヤマネへ自身の希望を言葉にして伝えれば、彼等ははしゃいだように頷くと夢結晶を手に駆けて行く。何にしよう、こうしよう。相談する声が聞こえたかと思えば、すぐにとんてん、と何かを作る音が耳に届く。
 どのような物が出来上がるのか――その心地良い音色を耳にしながら、まゆは微笑みそっと胸に手を当ててこの夢見の世界を見渡す。
 煌めく結晶は、武器に添えたい。
 それはこの世界を守れた記念に、いつでも胸が張れるように。
「どうかこの世界がいつまでも優しい世界でありますように!」
 そっと常夜の空へと手を伸ばして。願うように言葉を紡いだその時。
『できたー』
『じしんさくですよ!』
 ちょこちょことヤマネが、出来上がった装飾を持ち上げ駆けてくる。
 それは羽に抱かれるような真珠と、桜のチャームが揺れる小さな武器飾りだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

雅楽代・真珠
オズ(f01136)と
お茶を飲んで眠りにつくよ
ふかふかな柔らかさは優しい眠気を誘う
おやすみ、オズ

大きなけぇきにぱてぃしえな僕ら
オズもだよ
けぇきを完成させたら食べても良いのかな
僕、けぇきを作るのは初めてだよ

大きな絵筆を引きずって縁を泳げば
もこもこくりぃむが飾っていく
小さな絵筆で描くのは貯古齢糖のれぇす
オズ、れぇすにアラザンを飾って
きらきら可愛くするんだ

オズを見れば面白そうな事をしていた
僕も小さな絵筆をくるくる
青い砂糖の薔薇が咲いたよ
蜜柑の蒲公英も咲かせよう
果物の花を増やせば花畑になる

完成が近付いたら味見をしてもいいよね
生くりぃむを指ですくってぱく
うん、おいしい
オズ、生くりぃむが顔についているよ


オズ・ケストナー
真珠(f12752)と

お茶を飲んで
ふかふかな雲を撫でて小箱を置く
おやすみシンジュ、また夢の中でね

目の前に大きなスポンジケーキ
シンジュ、パティシエさんだ
わあ、わたしも?
このケーキをかんせいさせるんだね

まずはクリーム
指揮棒を振れば五線譜のような筋模様
すごいっ
声が弾めば音符のクッキーが

まかせてっ
わたあめの雲を飛ばしたら
アラザンの雨がぽろぽろ

シンジュが描いたクリームの前で指をくるくる
目を回すみたいに淡く色づく
シンジュの色だ
もうひとがんばりっ
くるくるくる、咲いたバタークリームの芍薬は
シンジュのすきな花

みてみてっ
わ、バラにたんぽぽっ
好きな花だからうれしくて

あ、あじみしてる
ふふ
わたしもっ

ついてる?どこどこ?




 ふわりと湯気立つ、夜空の紅茶。
 大きく柔らかな雲の上に横たわるふたつの人影は、その温もりを口にしてそっと笑む。
「おやすみ、オズ」
「おやすみシンジュ、また夢の中でね」
 口元に笑みを浮かべ、雅楽代・真珠(水中花・f12752)が長い睫毛でその瞳を隠せば。雲を撫でていたオズ・ケストナーもゆるりと瞳を閉じる。
『おやすみー』
 オズに撫でられた雲は、そう紡ぎながら自身も欠伸を零していた。

 気付けばふたりの目の前には、大きな大きな――家程もある大きさのスポンジケーキが見えた。甘い匂いに辺りを見渡せば、様々なフルーツやクリームも置いてある。
 ぱちりとキトンブルーの瞳を瞬いた後。そっと傍らの彼をオズが見遣れば。
「シンジュ、パティシエさんだ」
 零れる声に、真珠は自身の装いを見下ろす。
 ひらりと揺れる真白の尾びれはいつも通りの煌めきを抱いているけれど、彼の身に纏う衣装は愛らしくも甘いパティシエの服へと変化していた。淡いピンク掛かったその装いが、なんとも愛らしく真珠はひとつ瞳を瞬いた後。
「オズもだよ」
「わあ、わたしも?」
 彼もまたオズを見て微笑めば、彼はやっと自分の装いに気付いたようで驚いたように声を上げた後。楽しそうにその場でくるりと回ってみる。――彼の抱く、真白の人形シュネーもお揃いの青いパティシエの装いをしている。
 パティシエ衣装に、お菓子の材料に大きなケーキ。
 この光景から想像出来ることは――目の前のケーキを完成させること。
「けぇきを完成させたら食べても良いのかな」
 蕾のような唇から零れるその言葉。きっとそうだとオズは大きく頷きながら、けぇきを作るのは初めてだと紡ぐ真珠の手を引く。
 まずは何をすれば?
 真珠が問い掛ければ、オズはクリームだと笑顔で答える。手にした指揮棒を一振りすれば、スポンジ生地に一瞬で五線譜のような筋模様が描かれる。
「すごいっ」
 キラキラと瞳を輝かせながら、弾む声。その音に合わせるように、降り注がれる音符のクッキー。チョコとバニラの色が違うクッキーが飾られていく様を見て、真珠も大きな絵筆をクリームに浸けると、その絵筆を手に泳ぎだす。
 真珠がケーキの縁に添うように泳げば、もこもこと柔らかなクリームが飾られていく。小さな絵筆に変えて再び泳げば、次はチョコレートのレースが飾られた。
 夢の中ゆえ、一瞬で華やかに染まっていくケーキを見て。
「オズ、れぇすにアラザンを飾って」
 真珠がそう声を掛ければ、オズは大きく頷いて――かざした手から、虹色のわたあめの雲を飛ばした。ふわふわと雲が舞い上がれば、不思議なことにぽろぽろと雨のように零れ落ちるアラザン。煌めく銀色がレースに飾られれば、キラキラと愛らしく輝いている。
 美しく飾られた生クリーム。
 星のように煌めくアラザン。
 どちらも十分美しいが、これだけだと上品ではあるがどこか物足りない。
 だからオズはケーキへと近付くと。先程真珠が描いたクリームの前で、関節の目立つその指先をくるくると回してみる。何をしているのだろうと、真珠が不思議そうに見つめる中――オズが指先を回したところから、目を回すように不思議と淡く色付いていく。
「シンジュの色だ」
 淡い淡いピンク色は、まるで真珠の流れる髪のよう。
 もう少しだとオズが再び指を回せば、くるりくるりとバタークリームが花咲くように咲き誇り、芍薬の花となりケーキを彩る。
 それは、真珠の好きな花。
「みてみてっ」
 嬉しそうに声を弾ませ、キラキラと瞳を輝かせ楽しそうに語るオズ。そんな彼の様子と咲かせた花を見て、真珠は瞳を細め口元に笑みを咲かせると――自身も手にした、小さな絵筆をくるくると回してみる。
 その絵筆はまるで魔法の杖のように。回せば咲き誇る青い砂糖の薔薇。ケーキへと芍薬と薔薇が咲き誇れば、その後咲くのはみかんのたんぽぽ。
「わ、バラにたんぽぽっ」
 花畑のように咲き誇っていくその色に、オズは嬉しそうに声を上げた。――薔薇もたんぽぽも、オズの大好きな花だから。その花が真珠の手により咲き誇る様子を見て、つい嬉しくなったのだ。
 クリームを淡い色へと色付かせ。花畑のように彩溢れたケーキは、先程までとは全く違う姿をしていて。甘い香りと共に果物の甘酸っぱい香りがふたりの鼻をくすぐる。
 ふいっと尾を揺らし、真珠はケーキへと近付くと――その細い指先を伸ばし、生クリームをすくうとぱくりと一口。
「うん、おいしい」
 大きな瞳を細め、柔い笑みと共にそう紡ぐ真珠。真似るようにオズも指を伸ばし生クリームを口にすれば――とろけるような柔らかさと甘さが舌に伝わる。
「オズ、生くりぃむが顔についているよ」
「ついてる? どこどこ?」
 くすりと笑みを零し真珠に指摘され、オズは瞳を瞬いた後自身の頬を触れる。逆だよ、と真珠に導かれるまま、自身の頬のクリームを拭った後。少し照れくさそうに、けれど嬉しそうにオズは笑顔を花開かせた。

 甘く大きな、大好きを詰め込んだケーキの花を咲かせたのは。
 不思議な国での幸せな思い出。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ホーラ・フギト
(2)
夢、興味あるの
ちゃんと見たこと無いから
期待して雲さんに乗せて頂き、空の上で一眠り

おはよう雲さん。素敵な夢、見れた?
私? 私は……
(夢寐にも忘れ難かったのは、生まれ育った研究所の昔日)
いっぱいヒトが居た頃の夢、見てたわ
今は誰もいないの。とっても静かよ
(けろりとして笑う)

(夢結晶を星空に透かすと、赤が揺らめく)
火。私の好きな色だわ

(結晶をぼんやり眺めて、いつか誰かから聞いた光景を想像する)
火といえば──歯の根も合わない寒い日
外で語らう星をよそに、暖炉前で薪を焼べて
膝かけの上で編み物するの
時々、居眠りもしちゃったりして
家で誰かの帰りを待つ長い夜は、そういうものなんですって
ふふ、素敵な時間よね!




 ふわふわと温かな雲に腰を下ろせば、心地良さがホーラ・フギト(ミレナリィドールの精霊術士・f02096)の細い身体を包み込む。
「夢、興味あるの」
 唇からぽつりと零れた言葉。
 それは瞬く夜空に消えてしまいそうなほどだけれど――彼女を背に乗せた愉快な仲間であるふわふわ雲は、不思議そうにぱちぱちと瞳を瞬くと。
『夢はねー、しあわせだよ』
 どこかふわりと、夢心地のゆるりとした口調でそう紡ぐ。
 彼の言葉に、ホーラの期待が一層高まる。煌めく胸元に手を当てて深く息を吸い込めば、甘く落ち着く香がホーラの胸を満たし――そのまま横になり、そっと瞼を隠す。
 ちゃんと見たことの無い、夢の姿を探すように。

 途切れた意識が戻った時、ホーラの視界に映るのは変わらぬ満点の星空だった。
 月の無い夜空は光が少ないけれど。だからこそ小さな星々が美しい。ふうっとひとつ息を吐き、背に伝わる温もりを感じながら一撫ですると。
「おはよう雲さん。素敵な夢、見れた?」
 そっと彼女は、問い掛ける。
『おはよう、ホーラ。ぼくはどこまでもながれる夢を見たよ』
 ホーラは?
 無邪気に問い掛ける彼の言葉に、ホーラは大きな瞳を瞬くと自身の見た世界を思い出す。彼女が見たのは、生まれ育った研究所での昔日。眠る間も忘れ難い、唯一の世界。
「いっぱいヒトが居た頃の夢、見てたわ」
 思い出すように瞳を瞼で隠して、横になったままホーラは零す。人間との共生用に造られた彼女を、沢山の人が囲んだあの時のことを思い出して。
「今は誰もいないの。とっても静かよ」
 悲しみを滲ませない、けろりとした晴れやかな笑顔と声でホーラは続ける。悲しみや怒りを知っているのに、どこかへ置き忘れてしまった彼女は笑うだけだ。
 そんなホーラに、ふわふわ雲は悲しげに『そう……』と紡いだけれど。彼女は身を起こすと、傍らに置いた宝石箱の蓋を開けてみる。空っぽだった箱の中の生まれた、小さな欠片を手に取り星空に透かせば――揺らめく赤が見えた。
「火。私の好きな色だわ」
 炎のように揺らめき、赤色が移り変わる夢見の結晶を見て。ホーラは瞳を細めながら、吐息と共に言葉を零す。
 ゆらり、ゆらり。
 揺らめき続けるその結晶を見遣れば、いつか誰かから聞いたことを思い出し。その光景へとホーラは想いを馳せる。火、から連想する寒い日のことを。
 外で語らう星をよそに、暖炉前で薪をくべて。
 揺らめき燃ゆる炎の温もりと、パチパチと響く音を傍に。膝掛けの上で編み物をする。時々居眠りもしてしまったり、そんな寒い寒い冬の日のこと。
「家で誰かの帰りを待つ長い夜は、そういうものなんですって」
 素敵な時間よね、と零すホーラの言葉はどこまでも楽しそうで。
 けれど、それはただただ夢見る人形の言葉。そんな『人間』らしい行動は、今の彼女は学習中の身だ。
『ぼくはホーラのこと待ってたいよ?』
 ホーラの言葉を理解しているのか、いないのか。幼さ残る言動の為、分からないけれど。どこまでも無邪気な声色で、ふわふわ雲がそう述べれば。ホーラはひとつ微笑みを浮かべて、そっとその背を撫でた。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2020年06月23日


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#アリスラビリンス


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種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠八津崎・くくりです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

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挿絵イラスト