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帝竜戦役㉗〜文明の行進

#アックス&ウィザーズ #戦争 #帝竜戦役 #帝竜 #ダイウルゴス #群竜大陸


●侵略の竜
 その文明は『侵略』をすることで己を構成していた。
 その文明は『征服』をすることで強靭な肉体を得た。
 その文明は『合議』をすることで無数の精神性をひとつに纏めあげ、巨大な一柱として生きてきた。

 その文明の名は、『ダイウルゴス』。
 絶対的強者の象徴である『竜』を宿して、全ての存在を悠然と見下ろしている。
「諸君、合議の結果、我等は侵略を開始する」
「賛成過多により、諸君らの異議は却下する。我等と交わり――ひとつとなるのだ」
 竜の声は、男でもあり女でもあり、子供でもあれば老人でもあった。
 これまで融かしてきた全ての文明が、老若男女の人生を象って言葉となったのだ。
 さあ、これからも、そして今まさに――再び文明を喰らう時がきた。
 永遠に満たされることのない『個』は、その空腹を満たすべく――重厚たる一歩を歩み出す。
 自らの文明を、栄華の果てへと導かんと――。


「帝竜ダイウルゴス――巨大な文明そのものが歩いているとかなんとか……」
 アタシにはスケールでかすぎてイメージが湧かないっすね――毒島・林檎(蠱毒の魔女・f22258)は首を傾げる。
 ひとつ咳払いをしてリモコンを手に取り、ボタンを押してモニターを起動。山と呼んでも遜色ないほどの巨竜が画面いっぱいに映し出された。
「統一された知性と姿をもつ無数のドラゴンが合体した存在、それが奴の正体ッスね」
 要はバカでけぇドラゴンってことッスよ――毒島は補足を口走りながら説明を続ける。
「周囲の文明を吸収して『ダイウルゴス文明』の一部にしちまうイカれた能力を持っているんスわ」
 あらゆる物質を取り込んで融合合体し、己がモノにしてしまうそうだ。
 戦闘時にも、これらを利用した巨大で強大な攻撃を仕掛けてくるだろう。毒島はそう言う。
「デカいけど馬鹿じゃねぇしノロマでもねぇ。やっぱ他の帝竜みたいに先制攻撃をしてくると思うッスよ!」
 例に漏れず、ユーベルコードによる先制攻撃を行ってくるので対策が必要だろう。逆に、対策をすれば戦況が有利になる可能性が高いとも言える。
「面倒くさそうな敵ッスけど、倒しておかねぇと尚のこと厄介なンで――皆さんの力で、ブッ飛ばして欲しいッス」
 毒島が猟兵たちを見渡せば、転送の準備を始める。蠱毒の魔女は祈るように、頭を下げたのであった。


こてぽん
 こてぽんです。帝竜ダイウルゴス戦となります。よろしくお願いします!
 巨大文明が歩いてくる――つまるところ、かの竜は相当に大きな身体を持つということです。
 その巨躯に相応しい、強烈なユーベルコードを使ってきますので対策が必要でしょう。

●特殊ルール
 プレイングボーナス……『敵のユーベルコードへの対処法を編みだす』。
(敵は必ず先制攻撃してくるので、いかに防御して反撃するかの作戦が重要になります)

●戦場につきまして
 ダイウルゴスが吸収した『文明の跡地』での戦いとなります。
 枯れた大木や岩石などが乱立してますが、ダイウルゴス自身も自由に動ける程度には広いです。

 それでは、皆様のご参加を心よりお待ちしております!
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第1章 ボス戦 『帝竜ダイウルゴス』

POW   :    ダイウルゴス会議
自身の【体内の無数のダイウルゴスによる合議制】の為に敢えて不利な行動をすると、身体能力が増大する。
SPD   :    ダイウルゴス文明軍
レベル×1体の、【眼球】に1と刻印された戦闘用【小型ダイウルゴス】を召喚する。合体させると数字が合計され強くなる。
WIZ   :    文明侵略衝撃波『フロンティア・ライン』
【四肢のどれか】から【見えざる文明侵略衝撃波】を放ち、【ダイウルゴスの一部になりたいと望ませる事】により対象の動きを一時的に封じる。
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ギージスレーヴ・メーベルナッハ
数多の意思を一つに束ね、以て一個の帝竜と成す、か。
統制された軍ほど厄介な敵はいない。だがそこにも弱点は存在する。

ヤークト・ドラッヘに【騎乗】し【空中戦】で飛行。
四肢のいずれかへと接近、黄昏大隊・反攻檄声を用いつつ当該部位を構成するダイウルゴスへ演説を打つ。
「貴様ら、己は今のままで良いと思うか?集団の歯車として、何よりドラゴンテイマーとやらの走狗と扱われる身で」
「最強存在たるドラゴンとしての矜持あらば、余と共に反攻し、真に一体の帝竜として独立を果たすがよい」
一部ダイウルゴスの反逆を誘い、以てダイウルゴス会議を機能不全とする。
余もヤークト・ドラッヘ搭載武装での【砲撃】【誘導弾】で彼らと共に戦おう。


祇条・結月
報われたいとか想わない
誰かの何かに、なれるなんて思ってない

それでも。せめて僕は、僕のままがいいな
お前なんかには、なってやらない

小型ダイウルゴスを見たら即座に動き出すよ
小型でも竜。あのサイズであの形なら、一度に襲ってこれる数には限度があるでしょ
【覚悟】を決めて、ギリギリまで惹きつけて最小限の動きで【見切り】躱しながら前へ
翼や尾を潜り抜ける要領で【敵を盾にする】
自分自身も、他の仲間も迂闊な動きはできない、だろ

多少の傷は気にしないで【激痛耐性】で堪えて前へ
本体を狙える距離まで来たらユーベルコード起動

阻止しに来たんだ? 合体は悪手じゃない
合体した竜も、本体も
【フェイント】で隙を作って銀の刃で削り取る



「数多の意思を一つに束ね、以て一個の帝竜と成す、か」
 『意思』というものは、その強度にもよるが――滅多なことでは壊れない。特に、一本筋に整ったものは鋼鉄が如き強靭さを秘めている。
 故に、それらを無数に束ねている『ダイウルゴス合議制』というものは竜を冠するに相応しいだろう。
(統制された軍ほど厄介な敵はいない。だがそこにも弱点は存在する)
 ギージスレーヴ・メーベルナッハ(AlleineBataillon・f21866)は傭兵組織『黄昏大隊』の首領を務めている。唯一の構成員であるため、その隊自体は彼女しか存在しないのだが――こと『軍略』に関しては相応以上の知識を持つ。
 当然といえば当然だろう。何故なら、彼女は組織の長なのだから。人を纏め上げる知略と才覚は、しっかりと併せ持っている。
 その銀瞳は揺らぐことなく、巨山が如き帝竜を見上げていた。見ようによっては無謀ともいえる体格差であるが、その表情に憂いはない。視界の先でダイウルゴスが動き出せば、傍に置いてあった二輪車輛に視線が映り――。
「さあ仕事の時間だ」
 重機甲戦闘車『ヤークト・ドラッヘ』に勢いよく跨ったギジィが、不敵な笑みを浮かべる。両手にしっかりと握りこまれたハンドルが捻られ、エンジンが起動。鈍色に轍をつけながら、質量を感じさせない加速が彼女を敵地へ誘う。
  銀の閃光が、岩陰から飛び出した。空中にその身を曝け出すは祇条・結月(キーメイカー・f02067)。ギジィが動き出したのと同時に彼もまた、臨戦態勢の其れへと移行。
 猟兵たちの動きを悟ってか、ダイウルゴスの身体から藍色の焔が炸裂。その火の粉が竜の形と成り、統率されたひとつの意思を満たさんと――各々の個体が咆哮をあげて雪崩れ込む。
「所謂、民意ってやつだな」
 熱量の塊がギジィを飲み込まんと、無数の口腔が花開いた。だが、その大型バイクは動きを止めるどころか、一息のうちに加速。排気口から爆音が聞こえたかと思えば、旋風を抱いたギジィが竜群の隙間を蛇行するようにすり抜けていく。
 懐から、自身をひた隠せそうなほどの戦旗――「アーベントロート・アウストロッテナー」が取り出された。それは自軍を象徴するものであり、自身の『意思』を象徴するものでもある。次々に飛来していくダイウルゴスの民たちを、その旗を槍代わりにして振り回すことで捌いていく。無論、ちいさな竜とて『竜種』のはしくれ。その大旗が鎌首に激突したとしても、一撃では倒れない。だがしかし、撃退するには十二分な効力だ。衝撃で地面に転がり落ちる竜になど目すらくれず、ギジィは前へと走行し続けていった。
「ふむ――」
 それにしても、『その数』の割に攻勢が浅い――ギジィは竜たちを凌ぎながら思惑に耽っていた。そもそも思考する時間があるほどに攻撃が緩いという事実はおかしな話だ。
 ならばなぜ、と、彼女は考える。そして考え込むことはなく――結論に至った。
「祇条、と謂ったか」
 あちらの戦況を一瞥することはない。だが恐らく、この群の大半を引き受けてくれているのは彼なのだろう。
 ならば、『己の役目』を果たそうではないか――ギジィはハンドルを一気に捻りこんで、一層の加速を見せつける。
 不意に、道が拓けた。
 まるで自分を導いているかのように――小竜たちが避けていく。
「合議制というやつか。よかろう」
 彼女は笑う。傲岸不遜に笑う。会議中に乗り込むというのも悪くはない――ギジィは、この後に待ち受けているであろう戦いに想いを馳せながら、ダイウルゴスの右足めがけて奔り続ける。


 ――報われたいとか想わない。
 それは、銀の遺志を引き継ぐ少年の願い。
 ――誰かの何かに、なれるなんて思ってない。
 それは、漠然とした夢を抱く少年の想い。
 満たされていない盃を捨てて、空になった其れに新たなものを注いでいく。その器に一切の不純物を含めず、唯一たる何かで満たしていくのは存外難しくない。混ざり合った意思を御するよりも、遥かに簡単だ。
 だからこそ、ダイウルゴス文明は『ひとつに束ね上げた』のだろう。そうしてしまえば悩む必要がないから。迷う必要がないから。ただひとつの解を目指して、突き進めばいいだけなのだから。
 だけれども。
「それでも。せめて僕は、僕のままがいいな」
 ちいさな竜が、自らの脇をすり抜けていく。身をよじるようにして突進を躱しながら、前へ前へと進んでいく。
 結月の心は、間違いなく『にんげん』であった。人であるからこそ、迷い、悩み、時には足を止めて考え込む。
 揺らぐこともあろう。間違えることもあろう。時には、道を踏み外してしまうことだってあるかもしれない。
 だけど、かの少年は逃げなかった。混ざり合った意思の奔流から、目を背けなかった。『人間らしい自分』を真っ直ぐに見つめ続けた。
「お前なんかには、なってやらない」
 その覚悟を燃料に、走る、奔る、ひたすらなまでに走り続ける。右腕に竜の翼が掠めても、止まらない。その腕に血が滲んでも、止まらない。
 ごう、と、小型竜の一体から炎が撒き散らされた。結月は身を屈めるも、その全身を包み込むようにして放たれた波状攻撃は避けきれない。
 ――それでも、止まるわけにはいかない。
 炎に包まれた一角から、結月が勢いよく飛び出す。その身の幾ばくかを焦がしながら、驚く小竜の背中を踏みつけて、そのまま足場とし――。
「一気に行かせてもらうよ」
 その身が一条の光となった。跳躍の其れとは思えぬほどの加速。銀と一体化した結月が、周囲の景色を波打たせながら――ダイウルゴス本体へ。


 時は満ちた。ギジィはダイウルゴスの足許にまで接近していた。既にその巨体の内部では会議が行われている。濁流のような声色が、彼女の脳裏に響き渡っていた。
 ギジィは大型バイクを横付けするように急停止すると、ひらりと着地。あえてその身を留めて、その大旗を大地に突き刺す。
「貴様ら、己は今のままで良いと思うか? 集団の歯車として、何よりドラゴンテイマーとやらの走狗と扱われる身で」
 背後から数多の小竜たちが追いすがらんとするも、その声が戦場を揺らせば――まるで時が止まったかのように戦場が静謐に満たされる。
 その言霊の名は、『黄昏大隊・反攻檄声』。只の演説とは訳が違う。
 一にして全たる『黄昏大隊』を率いるギジィの言葉は、時にユーベルコードにまで昇華する。
「最強存在たるドラゴンとしての矜持あらば、余と共に反攻し、真に一体の帝竜として独立を果たすがよい」
 腕を組みながら、黄昏の長はまっすぐに呼びかけ続ける。無謀にして無防備たる体勢である彼女を戦闘不能にするのは容易いだろう。取り囲むようにして見つめる小竜たちが雪崩れてしまえば一瞬でケリがつく。
 だが、彼らはそれをすることができない。やりたくても、できない。
 何故なら、彼らは迷っているから。揺らいでいるから。
 今まで経験したことのない――それで以て『懐かしい感覚』に冒されているのだから。
『過去を打ち破り未来を拓く! 其を為す力は貴殿らの内にこそ在り! 征くぞ、諸君!』
 ギジィは答えを待つことなく、はためく大旗を抜き取った。その穂先をダイウルゴスの右足に突きつければ――その部位が『歪み始めた』。
 小竜たちの動きにも変化が生じる。全員とはいかないものの、お互いがいがみ合いはじめ、同士討ち――統率された意思に、混ざり合った『個』が点在し始めた。
 恐らく、これは永遠には続かない。一時しのぎにしかならないのだろう。ギジィはこれらの叛逆のみでケリがつくとは思っていない。
 だが、この瞬間のみは――かの合議に榴弾をぶち込むことができる。
 警備のいない会議室にカチ込みをいれるなど――。
「赤子の手を捻るよりも容易いわッ!!」
 再度、大型バイクに飛び乗ったギジィが、エンジンに炎を滾らせていく。弾丸が如き速度で発進した二輪から、物々しい弾頭が鈍く煌いた。
「む――」
 だが帝竜も抵抗を止めない。合議こそ揺らげど、足許が僅かに崩れようと、ダイウルゴス本体は未だ強烈な意識を宿している。
 決議によって実行した、ちいさな竜の集合体――それがダイウルゴスを護らんとギジィの目の前に立ち塞がった。
「強行採決したか! それとも賛成票が尚も上回ったか?」
 巨大な竜がもう一体増えたとて、ギジィの笑みは崩れない。心底楽しそうな笑顔を浮かべながら、あらぬ方向へと目をやる。
「だが、少しばかり――遅かったようだな?」
 ギジィの視線の先には、銀の光芒。
 間違いない。あの光は――。
「阻止しに来たんだ?」
 光に包まれた結月が、宙を奔る。光速を宿したまま、巨大な竜の目元を通り過ぎていく。
「――!?」
 竜が驚いてか、一瞬だけ瞑目する。
 時空を引き裂く光は、当たってはいない。だが、その目を眩ませるには十分。
 刹那、重厚な発射音と共にミサイルが火を噴き、巨竜に激突。火達磨となった竜の胸元に、『一周して回り込んだ』銀光が突き抜けていった。
「お前に果たして視えるかな」
 炎塊となった自らの盾から光が飛び出してくる。ダイウルゴスはそれを見た瞬間に――『翼を前面に構えて』防御態勢をとった。
「やっぱり、純粋なんだね」
 構えた翼に、何かが触れた形跡はない。衝撃もない。損傷もない。
 訪れた静寂にダイウルゴスが不思議に思うのも束の間、その背後から声が届けられた。
 光の刃が、『天使の翼』が、ダイウルゴスを包み込まんと広げられている。その中心には、ダイウルゴスの背後に回り込んだ結月の姿が在って。

「混ざり合っていれば、こんなことにはならなかったのに」
 
 かの竜を留め続けることは不可能。
 それでも、少しだけでも――『削り取れれば』。
 銀光の抱擁が、竜を灼く。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

杜鬼・クロウ
【和室】アドリブ◎
※ベルセルクドラゴン戦で剣に少し罅が入る

(…竜の中に棲まう文明か
想像しただけで恐ろしいバケモノだわ)

ダイウルゴスの存在は複雑怪奇だが、
俺達がヤるコトは変わらねェ
知っての通り今の俺は…全力を出せねェが(剣を地に刺し
お前の力に頼らせてもらう
ヤツの一手二手は、守り切る
男に二言はねェよ!

糸受け取り【贋物の器】展開
75枚の黄金神鏡操作
俺達を取り囲み敵の初撃は防御一貫(武器受け・かばう
混ざる呪詛は跳ね返し

小型竜や本体の目や翼に鏡の破片の雨降らす
一瞬でも動き止める
フィッダの支援
極力剣に負担掛けず自分の身犠牲に
鏡使いフェイント
背後から炎の剣で一閃

活路は開いたぜ…ッ
存分に暴れて来いやフィッダ!


フィッダ・ヨクセム
【和室】

要するに出来る範囲潰せばいいんだろ?
単純だ
竜相手なら怪力の使い道もあるッてもんだ
少しだけ時間をくれ、クロウ

武器の不調は聞いてる
鈍器で悪いが…剣代わりに全力で咆えてやるよ

先制攻撃に対する事は今日の相棒に任せる
事前にクロウに俺様の激痛耐性分の加護を付与した
適当な糸でも渡しとく
何も対策しないは悪いからな

その間にUC発動
獣化は半獣程度で留める
激痛耐性と怪力で
歪んだバス停(本体)ブン回して蹴散らしていくぜ
本体は串刺し狙いで投擲したら無視して回収しない

何いッてんだ…獣の爪と牙がありャあイケるッ、ハハ!
俺様は、猟兵どころか血染めに嗤う猟犬だよ、バーカ!



 ――竜の中に住まう文明か。
 杜鬼・クロウ(風雲児・f04599)は罅の入った漆黒を片手に、目の前にそびえたつ『ダイウルゴス』を見上げていた。
 そのスケール、その圧は噓八百の其れではない。その巨体の質量そのままに、下手したらそれ以上の膂力を内包しているだろう。クロウの双眸は、既に其れを見抜いているようで。
(想像しただけで恐ろしいバケモノだわ)
 その見た目通りの攻撃をしてくるとは到底思えない。言うなれば『底が見えない』。
 その事実に慄きはしないが、その肌が思わず粟立っていく。目つきも自然と鋭いものへと変わっていく。
 不意に、己が得物である『玄夜叉』を一瞥。自らの身の丈ほどもある巨大な黒剣に、一目みただけで分かる亀裂が刻まれていて。
 先のベルセルクドラゴン戦で何度も打ち合った影響だろう。竜種との戦い、ましては帝を冠する一角と戦ったのだから――百戦錬磨の業物とて、傷が付いてもおかしくない。
 ――不意に、クロウの真横に降り立つはフィッダ・ヨクセム(停ノ幼獣・f18408)。敵に対して警戒心を抱くクロウとは対照的に、犬歯を剥き出しにしながら笑みを浮かべていた。
「要するに出来る範囲潰せばいいんだろ? 単純だ」
 その言葉は自分に対する自信あってのことだろう。だが、それと同時に――クロウに発破をかけているようでもあり。
「竜相手なら怪力の使い道もあるッてもんだ」
 ぽつり、ぽつりと――ダイウルゴスが纏う焔から小竜が生み出されていく。戦いの時は近いのだと察したフィッダも、携えた『バス停の標識』を肩に担ぐように構える。鉄骨とコンクリートで構成された重量の塊も、フィッダからすれば『振り回すに容易い』立派な得物だ。
「そうだな――俺達がヤるコトは変わらねェ」
 フィッダの言葉、その裏に隠された意味を汲み取るように――クロウの口角が僅かに緩む。同時に湧き上がるは、黒の闘志。そのオーラのみで、周囲の砂埃が瞬く間に消し飛んだ。
「知っての通り今の俺は……全力を出せねェが」
 鋭い音と共に、『玄夜叉』が地面へと突き立てられた。
 ――お前に無茶はさせられねェ。
 長い時を共に歩んできた相棒だからこそ、万が一のことがあってはならない。そうなるくらいならば、自らの身を犠牲にしよう。
 その決意があってこその、『無手の鬼』。
「お前の力に頼らせてもらう」
 クロウの手元に、『揺らいだ何か』が手繰り寄せられた。それを掴み、引き寄せれば――幾重もの煌きが空間を彩っていく。
 それらはすなわち、糸だ。
 フィッダから借り受けた、希望の纏糸である。
「武器の不調は聞いてる」
 ちいさな竜たちが動き出した。それはクロウたちを取り囲むように、戦線を前へと押し上げてきている。その様子をみたフィッダが、肩に担いだ標識を見据えた。
「鈍器で悪いが……剣代わりに全力で咆えてやるよ」
 ごきり、首が鳴る。肩に乗せていた標識がゆっくりと降ろされる。それを片手に携えたフィッダの前に、クロウの前に、竜たちが雪崩れ込んできた――!
「少しだけ時間をくれ、クロウ」
 フィッダは獣性を宿すヤドリガミだが、無謀ではない。脳が焼けそうになるほどの殺意を一身に受けながら、湧き上がる反骨心を抑えるように――前へ飛び出そうとはしない。
「ヤツの一手二手は、守り切る」
 ――男に二言はねェよ!
 クロウは声を荒げて、その糸を強かに手繰っていく。
『発露せよ――曇る玻璃鏡の霧を含みて芙蓉に滴たる音訪を聴く刻』
 鬼と獣を取り囲むのは、なにも竜だけではない。
 黄金の煌きが、小竜の威嚇を掻き消すように過っていく。
 その光は、絢爛を極めた『神鏡』。
『歸り來る神が宿り對える者に危殆あり』
 山吹色はなにも一つだけではない。たった一枚のこがね色で、竜たちの波状攻撃が防げようものか。
 驕りはない。慢心もない。自らを護るため、相棒を護るため、世界を護るため――総てを以て応じよう。
 クロウの目に映るは、無数の火球。前方だけではない。左右から、背後から、全方位から――灼熱の大嵐が深紅を抱く。
 刹那、『贋物の器』、鮮黄の閃光が空を満たし――顕現。
 自身そのものである黄金鏡、その複製たちが出現。それらが盾のように展開され、炎熱に応じていく。
 『神器』は伊達ではない。その一枚のみで、竜の突撃すら相殺できるであろう。それがクロウたちを取り囲めるほどに出現したのだから、これほどまでに心強い防壁はなかなかない。
 灼熱地獄に耐えかねた鏡が、炎熱を無に帰すと同時に破損。散らばった破片が天に舞い上がり、竜たちの目を眩ませた――。
「――時間は稼いだぜ。フィッダ、準備はできたか」
 見れば、クロウの全身から煙が上がっている。かの熱波を完全に防ぎきれたわけではないのだろう。糸を操る両手が半ばまで焦げ落ち、震えている。
 だが、鬼は決して怯まない。爛れた両腕に構うことなく、勢いよく振るった。連動した糸が周囲の破片を絡めとり、落下軌道を操作。
 『光の雨』が、竜の一群に降り注いだ。
「ああ、最高の働きだ」
 きらきらと彩る景色に、一抹の暗影が過った。それが竜の一角を攫って行ったかと思えば――空へ身を曝け出したフィッダの姿が在って。
 その姿は『半獣』。二足の人型を保ちながらも、その全身が獣毛に包まれて――『鬣犬バス』に近しい姿へと昇華していた。
 赤の標識に滴るは鮮血。振り抜いた其れの先には、吹き飛んだ竜頭が宙を舞っていた。
 クロウが、自らが立つ傍を見やれば――地面を抉り取る足跡が在った。
 それは、フィッダが跳躍した形跡。半ばクレーターに近しい其れは、彼の膂力をよく表している。
「活路は開いたぜ……ッ。存分に暴れて来いやフィッダ!」
「ああ。野良犬根性って奴を――見せてやるよッ!」
 鬼が叫べば、獣が吠える。着地したフィッダに竜たちが殺到するも――。
 鎧袖一触。
 歪んだバス停、その標識が横に薙がれて――竜たちが纏めて払われていく。
 地面に転がり落ちる血肉など、一瞥すらくれない。身体の随所に小竜の歯型を残すフィッダだが、その足は止まらない。
 ひたすらなまでに走り、道を開けていく。振り回す標識に竜が取りつこうが、そのまま挽肉にする。得物を持つ腕に竜が噛みつこうが、もう一方の手が鎌首を握り、捻り千切っていく。遺された竜頭を強引に腕から引き剥がしながらも、噴き出る鮮血に身を染めながらも、只々前へ。
「獣ごときに、我が軍が屠られているだと?」
 ダイウルゴスは困惑していた。たった一匹の半獣に何を苦戦しているのか――自らの文明が、只の怪力に翻弄されている。その事実を認めたくないかのような言葉が、零れ落ちた。
「獣ごとき? 何いッてんだ……獣の爪と牙がありャあイケるッ、ハハ!」
 そう、何だって出来るんだ。竜が何だ。神が何だ。文明が何だというのだ。
 それが質量を持ち、張り倒せるのであれば――格式の違いなど、関係ない。
 
 そんなモン、クソくらえってんだ。

 振りかぶられたバス停、その穂先はダイウルゴスの首元へ。
 それを視止めたダイウルゴスが、己が口腔に光を溜めていく。
 だが、それも半ばといったところで――その背中に大きな衝撃が迸った。
「その目を眩ませちゃぁ、合議の意味がねェよな?」
 紅に赤熱した、一文字の軌跡。ダイウルゴスの背中に刻まれた剣閃こそ、たったいま、炎剣を振り下ろしたクロウの一撃。
 振り切った体勢のまま、地面に着地している。半ばまで焼け落ちた身体は、既に限界が近い。そのまま片膝をついて、見上げた。
「やっちまえ――フィッダァ、ッ!!!」
 鬼の喉が枯れれば、応えるかのように――轟音が鳴り響く。塵芥が余波でさざめき、周囲の岩々が砕けていく。その膂力の中心こそ、フィッダが投擲したバス停。
 そして、先の爆発音こそ――ダイウルゴスの首元に其れが突き刺さった証。
 半瞬遅れて、竜の巨体が傾く。その顔面にフィッダが飛び乗れば――嗤う。

「俺様は、猟兵どころか血染めに嗤う猟犬だよ、バーカ!」

 犬に見下ろされる気分はどうだ?
 全身全霊を込めた拳撃が、ダイウルゴスの脳天に激突。
 空間が歪曲し、波を打つ。半瞬遅れて、ダイウルゴスの身体が傾く。
 衝撃波が輪を描き、彼方まで広がり渡る――。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

五曜・うらら
【弾幕会議】
なるほど、合議ですか……
確かにその体内、無数の魂が蠢いているのを感じますっ!
一つの体を動かすには意思を統一しませんとね!

しかしそれはすなわち、反応の鈍さにつながりますっ!
ひらりさん、イサナさん!
合議の結論が出ぬうちに終わらせましょう!
私も刀を操り宙を舞わせ、帝竜の考えねばならぬ事を増やして見せますっ!
多方面から攻めるのです!

しかし帝竜の力は強大!
しかとその動きを見極め、掻い潜らねば!
ひらりさんの磁力と私の念動力を組み合わせ
私自身も刀も縦横無尽に動き回りましょうっ!

意思を一つに。
三人で力を合わせれば突破口は開けます!
相手が99人であろうとも、すべて斬り捨ててご覧に入れましょうっ!


黒鋼・ひらり
【弾幕会議】
会議制での行動決定…悠長な話ね
なら、精々会議を踊らせたげる
私達三人、連携した波状攻撃で意見なんて纏まんない位引掻き回してぶっ潰すわよ

二人と連携し其々のオールレンジ攻撃を一気呵成に
反撃を貰わない様ギミックシューズの磁力跳躍やダッシュ、壁走りを駆使し常に動き周り攪乱、『武器庫』から投剣、斧槍、鋼鉄板…武器をありったけ片端から転送、磁力で操り四方八方から射出…攻防一体、磁性体の弾幕よ
二人の刀や兵器も磁性体だし、時折磁力操作で干渉、不意に軌道を変える…対応する隙なんて与えたげない

最後は攻防で周囲に散らばった其々の武器を利用しUC発動
全方位から磁性体の一斉掃射…悪の秘密会議、これにて閉廷よ!


イサナ・ノーマンズランド
【弾幕会議】

考え事だなんて余裕だね。
あえて不利な行動を取るってことは脳内会議で対応がお粗末になるってこと!
でも、落ち着いて考え事なんてさせないよ。

「Full Metal Jacket」で用意した装甲服を改造(武器改造、メカニック、早業、破壊工作)、内部に爆薬をたっぷり詰めて、自動操縦モードの装甲服と共に周囲をぐるぐる回りながら銃火器類をそれぞれ【一斉発射】し脳内会議を妨害。ダメージは【ドーピング】で合法大麻をキメて【激痛耐性】で我慢。

最後は装甲服を突進、組み付かせて自爆。体勢を崩し、ふたりの攻撃を叩き込む隙を作る。

船頭多くして船山に登る。かしこいやつを揃えたって、かえって邪魔になるもんだ。



 合議制に基づく行動をする。それすなわち、話し合いをして審議をし、決議に至るということだ。
「会議制での行動決定……悠長な話ね」
 黒鋼・ひらり(鐵の彗星・f18062)は、帝竜ダイウルゴスの弱点を見抜いていた。
 目の前の巨躯に騙されてはいけない。どれだけスケールの大きな相手とて、必ず付け入る隙があるのだ、と。彼女の戦略眼は、巨山が如き帝竜を相手にしても揺るがない。
「なら、精々会議を踊らせたげる」
 右腕の裾から鈍い煌めきが発せられた。
 黒々とした右手は生身のそれではない。其れの名は、機械義手【フレミング】。無機物で構成された鋼鉄の腕を露出させれば、物々しい駆動音が鳴り始め、電磁の稲妻が周囲に迸る。その磁力にあてられた小石が、光を帯びながら空中に浮き始めた。
「なるほど、合議ですか……」
 五曜・うらら(さいきっく十一刀流・f00650)は、蒼焔に包まれたダイウルゴスを見つめる。それは熱量を宿す炎のようで、そうではない。新たな生命が産まれ落ちる時に燃る、一抹の炎――。
(確かにその体内、無数の魂が蠢いているのを感じますっ!)
 その炎こそ、魂魄の輝き。それが尽きれば屍と化し、生命としての潤いを失う。
 たった一つの魂でも、その出力は測り知れない。生命体として活動するだけでも莫大なエネルギーを使うのだ。それが無数に、となると――ダイウルゴスがどれだけ凄まじい力を秘めているかが分かるだろう。
 だが。
「一つの体を動かすには意思を統一しませんとね!」
 五曜は怯まない。持ち前の快活さは微塵も揺るぎをみせていない。
 腰に携えた三刃のうちの一本を勢いよく引き抜いた。鯉口から光が迸り、火花が散った次の瞬間には――その右手に携えられている。
「考え事だなんて余裕だね」 
 イサナ・ノーマンズランド(ウェイストランド・ワンダラー・f01589)が、空から降り立つ。
 ずん、と、重たい音と共に――自身の身の丈ほどの処刑斧が地面に突き立った。乾いた大地ゆえ、地面は岩のように硬質だ。だというのに、その斧は容易く突き刺さる。刺さった中心から、地面に亀裂が迸った。
 ――あえて不利な行動を取るってことは脳内会議で対応がお粗末になるってこと!
 思考というものは、どれほど優秀な頭脳を持っていたとしても必ず隙が生まれる。時空を操作できるような存在であれば話は別だが、基本的に思慮思考思惑の法則から逃れることはできない。
 ましてや『脳内会議』ほどになると尚のことだ。イサナは作戦会議の段階でそれを見抜き、今回に至る。
 やるべきことは皆同じ。たった一つの作戦を実行し続ければ良い。
「落ち着いて考え事なんてさせないよ」
 考えて強くなるのならば、考えさせなければいい。片手に持っていた処刑斧を両手に握りしめ、勢いよく地面から引き抜く。鋼鉄の鈍い輝きが空を映し出し、その重みを知らしめる。
「ひらりさん、イサナさん! 合議の結論が出ぬうちに終わらせましょう!」
 ダイウルゴスの焔が一つに集まり出した。漠然とした蒼が、渦を巻き始める。それを臨界に至らせてはならない――五曜が勢いよく駆け出し、先陣を切る。
 海を断つ一刀、炎熱を宿す一刀、大地を宿す一刀、得物の長さや特徴に違いはあれど、彼女は無数の刃を己が身に宿している。それらを携えながら、彼女の身は非常に軽装であり、その動きも軽快そのものだ。
 電光石火が如き速度、それを以てダイウルゴスとの距離を瞬く間に詰めていく。そして、己が携えた刃たちも自らの意思を持つかのように、五曜の身から離れていく。
 五曜に合わせるように、残る二人も動き出した。
「反撃の隙を与えてはいけないわ。この気配……一撃でも貰えばまずいわよ」
 黒鋼が地面を蹴り出せば、そのシューズから雷が発せられる。迸る雷電と共に、彼女の身体が跳躍の勢いを残したまま宙に浮いた。
「全装備を転送させるわ。『ぜんぶ』よ」
 迷いはない。今出し渋っていつ出すのか。眼前の敵が『結論』に至ってしまえば、それは終わりの時なのだ。それまでに何としても止めなければならない。
 何もない空間から、数多の武器たちが顕現する。それらは五曜の得物たちと同じくして――重力に逆らうように宙に浮き、黒鋼に追随する。
 斧槍、投剣、鋼鉄版、物々しい輝きが自らの意思を以て、ダイウルゴスへと向けられた。
「セーフティは全部引き抜いた。フルオープンさ!」
 イサナも勢いよく空へ繰り出す。それは黒鋼とは反対方向――ダイウルゴスの側面をとるように、回り込んでいく。竜が宿す炎熱が既に相応以上のものへとなっている。だが、その熱に晒されながらもイサナは止まらない。
 『Full Metal Jacket』、起動。
 彼女に追随する影が、二人の猟兵以外にも『ひとつ』あった。それこそが、全身を合金と兵装で覆いつくした『機動歩兵装甲強化服』。イサナとは独立した意識を持つ其れは、自動操縦できるように彼女が改造したからだ。
 滞りなく起動した装甲服をイサナが一瞥すれば、片手に携えていた処刑斧を振りかぶって――。
「決議には至らせない。それを断じてみせよう!」
 超質量の大斧を、投げた。それこそが『弾幕会議』のはじまり。命中を確認することなく、もう一方の片手に携えていたレトロタイプライターを構えて引き金を引いた。
「神聖なる合議を邪魔するか、猟兵どもめ」
 ダイウルゴスが吠えれば、飛来する大斧が弾き飛ばされる。巨竜の咆哮は、只それのみで旋風の衝撃を巻き起こすのだ。余波のみで鎌鼬が発生し、猟兵たちの身を傷つける。
 だが、矢継ぎ早に放たれた弾丸の嵐は止めきれない。それを庇うようにして翼を翻すが――。
「懐がお留守ですよッ!」
 五曜が翼の隙間を掻い潜るように接近。一息のうちに身体を廻せば、幾重もの斬撃が鱗に刻まれた。自立した刃が、そして五曜自身が携えている刀が飛び交っていく。
 ダイウルゴスの竜鱗は鎧が如き硬質さを秘めている。故に斬撃の大半が深くまで潜らない。だが、五曜の目的は相手の集中を乱すということ故に――焦りの表情は微塵もない。
 眼や首筋、翼の付け根など、的確に繰り出される斬撃の数々がダイウルゴスの視線を右往左往させる。
 いくら帝竜とて、急所というものは必ずある。それを護るために行動せざるを得ず――議場が滞った。
 不意に、五曜が繰り出した一刀に稲妻が宿ったかと思えば、軌道を変える。それはあまりに唐突で、それで以て不規則的なもの。
 ダイウルゴスが構えた翼をすり抜けるようにして、側腹部に直撃。突き立った部分から鮮血が噴き出した。
「小癪な」
 竜種というものは生命力の塊だ。故にその傷を一瞥することすらせず――己が竜気を爆発させる。周囲を旋回していた猟兵たちが吹き飛ばされる。だが、自立した刃たちや装甲服の動きは止まらない。ダイウルゴスがあらぬ方向を見やれば、そこには黒鋼の姿が在って。
 ――二人の武器も、いうなれば磁性体だ。
 故に、二人が一時的に行動不能になったとしても弾幕は緩まない。各々の武器を自らの磁気で操ればいいのだから。先の一刀も、黒鋼が『補佐』した結果だ。
「対応する隙なんて与えてあげない」
 イサナが放つ弾丸、その隙間を埋めるかのように斧槍を投射。大質量の得物がダイウルゴスの翼に激突し、衝撃波が炸裂。巨体を揺るがすには至らないが、合議を乱すには十分なもの。
「おかわりはいくらでもあるわよ」
 たっぷり、じっくりとお食べなさいな――矢継ぎ早に『アステロイズ』を発射していく。それは剣の名を冠しながら『弾丸』としての役割が強い。圧倒的な数と発射間隔の短さが生み出す、刃の雨――其れが、ダイウルゴスの全身に火花を散らした。
(敵が釘付けになっている……今だ!)
 イサナが咄嗟に背後に回り込む。五曜の刃と黒鋼の弾幕により、正面と側面をカバーするようにダイウルゴスが翼や炎を振るっている。ならば後ろはどうだ――と、イサナがロケットランチャーを顕現させ、照準を合わせた。
「……ッ!」
 しかし、敵もイサナの動きをしっかりと捉えていたようで、炎熱による一撃がイサナの肩口を引き裂く。焼け焦げた肩を庇うように、だが片手に構えたロケットランチャーは離さないまま――。
「効かない、ね。その程度じゃ!」
 反動なんて知ったことか。片手に持ったまま、トリガーを思い切り引く。
 爆音と共に発射される歩兵携行用対戦車擲弾。熟れた果実が火を噴きながらダイウルゴスの背中に着弾し、炸裂。
 これには流石のダイウルゴスも耐えきれなかったようで、僅かに身体を傾けた。そして、その綻びこそが、唯一にして最大の隙。
「船頭多くして船山に登る」
 ダイウルゴスが呑気に合議などしていなければ、こうはなっていなかったかもしれない。
 考えるということは良いことだ。だが、考えすぎることはかえって悪い結果を招く。
 それを証明付けるは、展開していた翼が緩んだところに潜り込む、イサナの装甲服であった。組みついたまま、その全身が赤熱し――。
「かしこいやつを揃えたって、かえって邪魔になるもんだ」
 イサナは先の反動と火傷の衝撃も相重なって、力なく落ちていく。だが、彼女の視界には――盛大な爆炎が小山となってダイウルゴスを包み込んでいる光景――それが映し出されていた。
「イサナさん! あとはお任せください!」
 五曜の一声で、飛び交っていた刃が静止の後に方向転換。仰け反ったダイウルゴスの手足――その関節部に飛来。
 いくら竜種とて、一介の生物。関節をやられては動きも止まる。体勢を整えることもできないまま大きくたたらを踏んだダイウルゴスへ、黒鋼が飛翔する。
「諸共纏めて……ブッ飛ばしてやるわよ!!!」
 戦場を飛び回るあらゆる磁性体が、帝竜の全方位に展開。
 その弾丸が、刃が、鉄片が、そして石塊に至るまで――その総てが弾丸と化す。

 ――磁界流星群、それが、そのユーベルコードの名であった。
 その名前に違わず、ダイウルゴスの身体が弾幕で『隠れていく』。
「悪の秘密会議、これにて閉廷よ!」
 ぱちん、一条の閃光と共に――爆裂。
 宙を駆ける稲妻が、周囲一帯を焼き焦がし、破壊の限りを尽くす。
 磁性体同士が連鎖反応を起こしたことによる超高温のエネルギー爆発。
 その中心点にいたダイウルゴスが無傷でいられるはずもなく――炭化した竜鱗が辺り一面に散らばった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

イリーツァ・ウーツェ
【竜議】
数で決を採る等 馬鹿々々しい事だ
竜とは気高く、自身を翳す者
自身で総てを定め、責任の総てを背負う者
他者に自身の決を委ねる等、言語道断

貴様等総じて竜に非ず
竜を騙る者 竜を真似る者
等しく死して詫びとせよ

技の性質から見るに、
敢て先制を行わない可能性が高い
私が先駆け、【空亡】を発動

78kmの巨体を以て、奴を拘束する
前肢で踏み、腕で掴む
足りなければ、牙で首に咬付く
後方から行えば、御二方の攻撃も当て易かろう

殲滅だ
ニルズヘッグ殿が、大人しくさせる
領主が死ぬまで殴り続ける
貴様等総てが静かになるまで

苦痛に沈め
二度と竜を騙らぬと誓うまで


ニルズヘッグ・ニヴルヘイム
【竜議】
あー、よく分からんが 取り敢えず殺せばいいんだな
分かった。それなら得意だ
まずは合議とやらをするのだったな
不利になる行動――恐らく隙を晒すような真似であろう。戦場だしな
であらば話は早い
その隙を永遠にしてやろう

イリーツァが押さえている間にこちらの攻撃と行こうか
天罰招来、【氷獄】
呪詛と氷の属性攻撃を載せ、この爪を叩き付けてやる
凍らせるのは痛覚と意識以外の全て
九十九匹の脳で精々楽しむが良い
――私の妹の、怒りという奴を

さあ頼むぜハティ
お前の力ってのを見せてやれ
ご自慢の合議とやらで打開策が編み出されるのが先か、それともハティが鱗をぶち抜くのが先か
楽しいレースになりそうじゃないか――なあ?


ヘンリエッタ・モリアーティ
【竜議】
考え事してる場合?余裕な態度がムカつくな
ということでよろしくお願いしますよ、イリーツァさん。兄さん。
議会には踊ってもらわないと、狂ったようにね
さあ、竜もどき
――駆除の時間だ

私の出番は一番最後 【打ち砕く無限の扉】 丁寧に盛り付けられた竜のまず横っ面をめいいっぱい殴る
ハロー、議会を荒らすテロリストです
有意義な時間だったかしら?考えてるうちに死ぬわよ
くだらないおしゃべりはもうおしまい
打開策はできた?どうしてくれる?
考えられる頭もないかしら。まとめてくれる「トップ」から潰すからね

満場一致でお前の死刑に賛成なの 誰がって? 私たちがよ。

『生まれながらの王はきわめて稀な存在である。』ってね



 三頭の竜がいた。
 旧きを宿す竜。
 邪氷を宿す竜。
 帝王を宿す竜。
 同じ竜種でありながら、その姿と思想は全くの別。
 それは勿論ダイウルゴスにも言えることなのだが――かの帝竜とは絶対的に相容れないものがあった。
 その事実のみは、三竜の貴重な共通点でもあり――。
「数で決を採る等 馬鹿々々しい事だ」
 イリーツァ・ウーツェ(竜・f14324)は呆れていた。かの竜の有り様に。かの竜の生き様に。
「竜とは気高く、自身を翳す者」
 自身で総てを定め、責任の総てを背負う者こそが竜だと謂う。
 孤独であれ、というには語弊があるが――少なくとも、己は己のみが御せると彼は考えている。それが、イリーツァ・ウーツェという竜の生き様であり、絶対とする思想。
「他者に自身の決を委ねる等、言語道断」
 他と併合し、融合する必要が何処にある? 貴様は竜でありながら、赤子にも満たぬ存在よ――古き竜は言の葉と共に、内包していた竜気を爆発させる。
 その重みは、その圧は、何者にも混ざらない孤高さを宿していた。
「あー、よく分からんが 取り敢えず殺せばいいんだな」
 もしも、その声に温度があるのならば――この世界は零下の白銀に満ちていたことだろう。
 ニルズヘッグ・ニヴルヘイム(竜吼・f01811)の冷たき声が一帯に響き渡る。
 白き髪が、白き肌が、淡い冷気を帯びていく。氷柱の声色が、ダイウルゴスの聴覚をちくちくと突き刺した。
「分かった。それなら得意だ」
 天に手を翳し、その指を鳴らす。内包していた冷気が炸裂し――戦場に膜を張った。
 それこそが彼の竜気であり、宿す権能。
 ――合議をするのならば、隙が生まれる。
 故に。
「であらば話は早い」
 その隙を永遠にしてやろう――凍てつかせるのは、ここにいる誰よりも得意だ。
「考え事してる場合? 余裕な態度がムカつくな」
 かつ、かつ、と、凍りついた大地を歩む竜がいた。
 黒髪が冷気にあてられて、揺れる。
 その双眸が、議を執り行わわんとしている帝竜に向けられている。
 ――ヘンリエッタ・モリアーティ(円還竜・f07026)は、王の才覚を宿すものであり、『王そのもの』ですらあった。
 王の前で思慮に耽けるなど、誠に不敬。ヘンリエッタ――『ハティ』はその程度で心を乱されはしない。だが、その笑顔の内側に僅かな怒気が入り混じっていた。
「ということでよろしくお願いしますよ、イリーツァさん。兄さん」
 二人の間に立つように、ハティが並ぶ。極めて自然体のまま、その拳を握る。刹那――衝撃波が炸裂。それは竜気でありながら、彼女の膂力でもある。近場にあった岩石が、たったそれのみで爆散。だが、傍にいた二人は、各々の髪をたなびかせるのみで微動だにしない。
 混ざりあった三者の竜気は、各々の意志を持ちながら柱を天に伸ばしていく。
 決して溶け合うことはないが、反発もしない。それが彼らの『竜』としての誇りであり、ダイウルゴスと最も違う点でもあった。
「議会には踊ってもらわないと、狂ったようにね」
 圧倒的な体格差をものともせず、ハティはダイウルゴスに指を差す。傲岸不遜に、口角を吊り上げて、宣告。

 さあ、竜もどき

      ――駆除の時間だ。


「貴様等総じて竜に非ず」
 古竜イリーツァが轟けば、先駆ければ姿が消失。半瞬遅れて、蹴り出した大地が大きく陥没する。
「竜を騙る者、竜を真似る者。等しく死して詫びとせよ」
 ダイウルゴスは、自身の姿に影が落ちるのを視認した。不意に、その首を『持ち上げれば』――。
 巨竜が、有機と無機を織り交ぜたような瞳で、帝竜を『見下ろしていた』。
「烏合の竜よ。防いでみせよ」
 ダイウルゴスからしたら、まさに青天の霹靂だろう。自身を超越したスケールの竜が唐突に出現したのだから。
 だが、考える暇など与えられるはずもない。振るわれた竜腕により、議場は大地震を起こす。
 ダイウルゴスは、突き出された腕を押さえつけるように――翼と前足で防御する。目が眩むほどの衝撃が迸り、大地が液状と化した。帝竜の巨体が容易く押しのけられていく。
「ならば」
 旧き声と共に、巨竜の前肢が持ち上がる。首を持ち上げて見上げたダイウルゴスが、口腔から焔を放った。だが、その炎熱もろとも――踏みつけていく。
 地面が波打ち、亀裂と炸裂を生む。その中心点に、踏みつけれられたダイウルゴスの姿があった。
「裁きを待つが良い」
 踏み付けた前肢に抵抗感を覚えた。故に、巨竜はその口を開き、ダイウルゴスの首元にもたげて食らいついた。噛みついただけで衝撃が輪を描いて戦場に広がっていく。晴れた砂埃の先には、完全に拘束されたダイウルゴスの姿があった。
「殲滅だ」
 巨竜イリーツァが言霊を廻せば、ニルズヘッグが動き出す。
「天罰招来、【氷獄】」
 その腕をかざせば、凍てつく竜爪が生え伸びる。氷柱のようにも見える某の爪は、触れた者を零へ至らせる絶対零度の呪詛を編んでいた。それ故の美しさ。それ故の無色透明。その呪いはあまりに純粋すぎるが故に、不純物が存在しないのだ。
 それを自らの腕に携えて、駆けた。
 彼が通り過ぎた跡は、等しく裂氷に包まれている。二人の竜を除いて、あらゆる存在が静謐に満ちていく――。
 爪を繰り出す先は、双眸が見つめる先は、無防備となったダイウルゴスの背中。ニルズヘッグは瞬く間に接近し、爪撃をひとつ。
「九十九匹の脳で精々楽しむが良い」
 かちり、かちり、丁寧に、念入りに、施錠をしていく。味覚も、嗅覚も、視覚も、帝竜の身体そのものも。 
 嗚呼、でも私は優しいからな――。
 ――痛覚と意識は残しておいた。
 複雑怪奇なダイウルゴスの存在核を覗き、それを凍らせていくニルズヘッグの顔は、それはそれはもう――。

 心の底から、愉しそうで。

「――私の妹の、怒りという奴を」
 ニルズヘッグは腕を捻り、爪を引き抜いた。零下の感覚を楽しむように、白き息を吐く。そしてその身を翻せば、彼と入れ替わるように――王が降り立った。

 開幕一撃、振るわれたのは拳であった。
 ハティの身体を飲み込めるほどのスケールを持つダイウルゴスの頭蓋が、ぐらぐらと揺れる。弾き飛ばされるように、首を捻って巨大な竜頭が仰け反った。巨竜の突き刺す牙が一層深く食いこみ、鮮血が弾けていく。凍てついた全身が悲鳴をあげ、巨躯に亀裂を刻んでいく。
「ハロー、議会を荒らすテロリストです」
 打ち砕く無限の扉――円環のウロボロスは開かれた。
 瞬きすら許さず、熾烈たる殴打の嵐がダイウルゴスの全身を穿つ。
 はたと、振りかぶった拳を止めたハティが、口を開いた。
「有意義な時間だったかしら? 考えてるうちに死ぬわよ」
 返答は待たない。留まった連撃が再び火を噴く。彼女の姿はもはや残像となって見えない。だが、帝竜の全身から血肉が舞い散り、拳大の陥没痕が次々と生まれていっていることから――その暴力は止んでいない。
「くだらないおしゃべりはもうおしまい」
 紅血に濡れそぼったダイウルゴスの頭蓋の上に、ハティは座っていた。優雅に足を組みながら、座り心地を確かめてすらいるようで。そして、次の瞬間には、濡れた頭蓋すらひんやりと凍っていた。
 ハティの言葉に返答はない。その身は巨竜によって押さえつけられている上に、芯まで凍ってしまっているのだ。加えて、某の呪詛に冒されてしまっている以上、ダイウルゴスは言葉を発することすらできない。
「打開策はできた? どうしてくれる?」
 気まぐれに踵を振るえば、帝竜の顔面が陥没する。治ることはない。重ねてになるが――氷獄に囚われているが故に、だ。
「考えられる頭もないかしら。まとめてくれる「トップ」から潰すからね」
 もはや首すら上がらないダイウルゴスの上に立つハティは、鋼刃が如き視線で見下ろしている。
「満場一致でお前の死刑に賛成なの」
 ――誰がって?  

「私たちがよ」

 極刑、執行。三竜の裁定が下される。
 古き竜は、おもむろに雄大な巨腕を振り上げた。握りこまれた拳は、もはや隕石の其れといっても過言ではない。
「苦痛に沈め」
 ――二度と竜を騙らぬと誓うまで。
  
 振り降ろされた鉄槌が、ダイウルゴスを大地に沈め、岩盤を裁断する。
 悠久の時を刻んだ古竜にとって、二撃目という概念は存在しない。
 何故ならば、その一撃で総てが終わるのだから。
 伝承、伝説、災厄、災禍――。
 その現象こそイリーツァをはじめとした彼らの振るう拳であり、脚であり、牙であり、焔なのだ。
 
「ご自慢の合議とやらで打開策が編み出されるのが先か、それともハティが鱗をぶち抜くのが先か」
 邪氷の竜が、嗤う。
「楽しいレースになりそうじゃないか――なあ?」
 くつくつと零れた笑い声が、氷雪の呪詛に乗せられて――沈み込むダイウルゴスの身が『硬直』。
 ダイウルゴスは衝撃すら逃がすことができず、一層の強度となった氷獄の中で――輪廻し続ける竜撃を一身に受け続ける。
「さあ頼むぜハティ。お前の力ってのを見せてやれ」

 ――そして、竜王が、氷獄の上に降り立つ。
「それでは、最後の執行といきましょうか」
 判を押さねば、刑は執行とならない。故に、木槌の代わりとなる『踵』を思い切り振り上げた。ただそれのみの動きで、周囲の瓦礫が塵芥と化す。
 散らばった岩片は地面に落ちることはない。埒外の膂力に巻き込まれたことで真空の世界と化しているが故に、音すら失って空へ消えていく。
 だが、そんな領域の中でも――『犯罪王』の言葉は、しじまを揺らすかのように――美しく響き渡った。

 ――生まれながらの王はきわめて稀な存在である――。

「――ってね」
 その足を振り下ろし、判決を下す。
 天を貫く雷が、溶岩を巻き込んで拡散。
 その一撃の前には、帝竜の鱗など紙片も同然。
 紅黒の柱が、空を引き裂いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

アルトリウス・セレスタイト
勝手に取り込んでおいて合議制と宣うか
めでたい頭だ

先制含む攻撃へは『天冥』『刻真』で
纏うオーラを無数の薄膜状に調整
その全てに時と因果の原理を作用させ、オブリビオンに由来する攻撃を、触れた瞬間に始まる前へ飛ばし影響を回避
手近に苦戦する猟兵があればオーラ圏内に引き込み保護
『励起』で出力上昇し、全行程必要魔力は『超克』で世界の“外”から供給

見た目はただ其処にいるだけの相手に自分の攻撃が効果を発揮せねば、何も感じないことはあるまい
本体も、内なる無数の「ダイウルゴス」も疑問なり抱くだろう
少なくとも猟兵であるだけで敵愾心は抱く筈
故に条件は満たされる

内の無数のダイウルゴスも含め、空理で消去

※アドリブ歓迎



 アルトリウス・セレスタイト(忘却者・f01410)は、世界を視てきた超越者だ。
 既存の時間軸に囚われない『外』の理を操る存在。故に、己が身も世界の定理に縛られていない。
 永劫ともいえる時の中で、あらゆる歴史、世界、文明を観測してきた。当然、為政者の類も数えきれないほど見てきたし、彼らの行いも善悪も顛末も知っている。
 それ故に――彼はダイウルゴス文明を目の当たりにして、その目を怪訝そうに細める。
「勝手に取り込んでおいて合議制と宣うか」
 その声色は酷く冷えていた。普段は感情を表に出してはいない彼がここまで感情を発露させたのは非常に珍しい。
「めでたい頭だ」
 首を横に振る。眼前のダイウルゴスは、既に数多の戦いを経て傷だらけとなっている。だというのに、その願いを放棄することなく、目の前のアルトリウスを取り込まんと行進し出す。
 ここまで愚かな存在は覚えがないな――異能者は無限の記憶を辿っても、ダイウルゴスの執念に勝る存在が見当たらないと実感した。
 アルトリウスは諦念するかのように瞑目する。そして再度、その蒼き双眸を開き、文明開拓の一撃を放たんと光を溜めていくダイウルゴスを見上げれば――。
「良いだろう。そこまで望むのならば――」
 ダイウルゴスの左前脚に、文明の光が満ちていく。
「やってみせろ」
 突き出された竜腕から、溢れんばかりの閃光が解き放たれた。空気を爆散しながら駆け巡る光束は、アルトリウスを真っ直ぐに捉えて――飲み込んだ。
 光に触れた地面が、岩石が、倒木が、あらゆるものが、消え果てる。はじめからそこに無かったかのように、ぽっかりと抉れた空間を作り出した。それは破壊のそれではなく、『文明の一部になることを望んだ』末路だ。そこに有機物も無機物も意思もあったものではない。触れれば、有象無象の総てはダイウルゴスと化してしまうだろう。

 だが、唯一、融け合わない存在がいた。

 それこそが、異能を操るものであり、淡青を宿す者。
「微風にも満たん」
 アルトリウス・セレスタイトだ。
 円柱状に開けられたクレーターの中心点に、彼は悠然と立っていた。回避する素振りすら見せていない。
「どういうことだ」
 ダイウルゴスが、その内部の議場が、ざわつく。確かな手応えは錯覚か――それとも、幻覚の類か――アルトリウスという議題を解決すべく、議論が回り出した。
「那由多の世界線の中の、ひと握りの何かが――もしかしたら消えたかもしれんな」
 議論を重ねることは許さんと言わんばかりに、アルトリウスが歩き出す。
 ひどく悠長な動きに見えるが、そこにいてそこにいないような――僅かな違和感。底知れぬ何かが、ダイウルゴスにたたらを踏ませる。
「お前には分かるまい」
 見える、視える――その疑問が見える。
 一色に染め上げられたはずの思想に、違う色が織り交ざっていく。そしてその変化をアルトリウスは見逃さない。
『凪げ』
 異能を操る彼にとって、速度の緩急は存在しない。望めば存在するし、そうでなければ『そのようになる』。
 青を宿す右手が、異を唱えたダイウルゴスの一部に添えられる。静止した時間軸の中では、全ての抵抗が無意味。
 モノクロの世界に蠢く異色に、青き光が触れれば――。

 果ての色彩が、ダイウルゴスの身体に染み渡る。
 それは黒霧のようでもあり、無色透明の水のようでもあり、猛る炎のようでもある。
 それは世界の外から連れてきた、『空理』の権能。
 天の亀裂から、手が伸ばされる。それはダイウルゴスを優しく包み込み、それで以て強かに――『色』を奪い去る。
 その『色』こそ、帝竜が積み上げてきた文明の概念そのものであり――次の瞬間には、幾許か『削ぎ落とされた』ダイウルゴスが呆然と佇んでいた。断面から血を垂れ流し、地面を汚す。帝竜は自らの身体を見渡して、遅れて実感してか――ゆっくりと傾いていった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ヴィクティム・ウィンターミュート
オイオイ、出来レースみてえな会議で勝手に決めてんじゃねえぞ
ちゃんと人類の票入ってんのか?あぁ?
再審を要求するぜ、クソウィズワーム

ダイウルゴスの群れが来るか
大木や岩石に向かって仕込みワイヤーアンカーを射出し、立体高速起動で逃げ回りながらクロスボウで迎撃する
近づいてきたらナイフで仕留めて、再度ワイヤーで後退する
一匹一匹の強さは対処不能じゃあない、適切に各個撃破すりゃいい
だが問題は、合体だ

止めるとしたら、その一点
予知は役に立たねえから、どさくさに紛れて本体にウィルスを撃ち込む
『Reverse』──すべてはひっくり返った
合体する程に、その駒は弱体化する
一瞬で殺し、守る者が居ない本体に【零距離射撃】だ



「何故だ、何故奴らは融け合わぬ、何故拒絶する――!」
 口から血煙をあげながら、ダイウルゴスは剥き出しの感情を発露させる。その怒りを表すかのように炎が炸裂し、辺り一面を焦土に変えていく。
「オイオイ、そもそも出来レースみてえな会議で勝手に決めてんじゃねえぞ」
 赤黒く変色しつつある大地をものともせずに、ヴィクティム・ウィンターミュート(End of Winter・f01172)が歩む。呆れたように溜息をつき、首を横に振った。
「ちゃんと人類の票入ってんのか? あぁ?」
 まさか人類が百すら満たない少数派だとは思うまい。実際そんなわけもない。手前らの内輪だけで勝手に決めつけてくれるなよ――ヴィクティムはドスの効いた声色と共に、眉をしかめた。
「再審を要求するぜ、クソウィズワーム」
 突きつけるのは中指ではなく、ボルトだ。そして、彼の問いに対する返答は――竜の大群であった。
 ヴィクティムは雪崩に飲み込まれる前に、腕に装着された仕込みワイヤーアンカーを起動。石化した大木に引っ掛ければ、そのまま自身を其方へ引っ張っていく。
 半瞬遅れて自らの真下が小竜に満たされた。一瞬でも躊躇えば挽肉になっていたことだろう。
 ――こういう手合いは、立体軌道による攪乱だ。
 無数の戦場を駆け巡ったヴィクティムの戦略眼は、晴天の彼方よりも澄み渡っている。その判断がブレることも、間違えることも殆どない。
 飛来してきた竜をナイフで受け流しながら、返す刀で刃を突き立てて反撃する。翼膜を的確に引き裂かれた竜が、力なく落下して大群に飲み込まれていく。
 次々に飛翔する竜たちを後目に、ヴィクティムはワイヤーアンカーを次々に撃ち込んで空中を巡り続けた。稼働限界すれすれだ。アンカーの駆動部から火花が散り始める。
 ――適切に各個撃破すりゃいい。
 後退、防御、そして反撃。一定のルーティンでありながら、予測を外れた動きをする竜相手には相応の対応を行う。
 『マルチタスク』、まさに彼を表す言葉のひとつだろう。圧倒的な膂力や派手な能力ではなく、ただひたすらに適切な解を選択し続ける埒外の判断力――その頭脳が、ヴィクティムの強さを支えている。そして、それを実現するためのツールもまた、彼の力となっている。 
「きたか」
 止めるとしたら、その一点――『合体』。
 僅かに竜たちの動きが変わったことを視認した瞬間に、ヴィクティムは落とした竜に身を潜り込ませて、『照準』を合わせる。
 ――発射。すとん、と、一本のボルトがダイウルゴスの足元に突き刺さった。
 巨体の帝竜からしたら、意に介さないほどの一撃だろう。事実として、ダイウルゴスは気づいてすらいない。
 だが、それこそが致命の一手。盤面の反転――その布石。
 さて、竜たちは一息のうちに集まり出し、融合していく。
 溶け合う肉体は巨竜のそれを形取り、ヴィクティムをひき潰さんと吠えた。
 両翼が大きく広がる。そのまま羽ばたいて自らの巨躯を飛翔させ、空に身を晒しているヴィクティムへと突進した。

『Reverse』

 ぶちゅり。
 果実が潰れたかのような生音が響き渡る。
 次の瞬間には、首を失った巨竜の肉塊が大地へ落ちていく。
 ヴィクティムは、そのナイフを振るったのみ。ただの一撃で、ひどく柔らかい鱗を引き裂いて喉を断ったのだ。

『Check』

 状況を理解出来ず、議論するダイウルゴス本体に対して――ヴィクティムは飛び乗った。
 帝竜の額に押し付けられるは、クロスボウの先端。装填するは、炸薬を仕込んだ対物ボルト。
「悪ぃな。お前の敗北だけは覆らねぇよ」 その言葉を最後に、爆音が炸裂。硝煙の爆風が竜顎を焼き焦がし、鱗を削ぎ、肉を穿つ。
 冬寂の戦場が、ゆっくりと春の兆しを見せ始めた――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ケルスティン・フレデリクション
あたまのなかで、いろいろかんがえてたら、ぐるぐるしないかな、竜さん…。
そんな些細な疑問が浮かんだ
きいてみる…?

…ぐるぐるしてても、しなくても、わたしたちのてきだから…たおさなきゃ、ね

先制攻撃には【ひかりのまもり】皆を守るための無敵のひかりのたて。
私の気力が続く限り、皆を傷つけさせないよ
…がんばらなきゃ!

普通の攻撃は【範囲攻撃】【全力魔法】【属性攻撃】
相棒の氷の鳥型精霊ルルにお手伝いしてもらうね
ルル、あの竜さんをめがけて、いくよ…!
氷の雨を降らせるね。たくさん、たくさん。

自分の痛みには【激痛耐性】でがまん。


夕凪・悠那
娯楽のない文明と一体化するなんて冗談じゃない
いいや、それ以前に、意思決定を他の誰かに委ねるなんて嫌だね
滅べよ、ダイウルゴス文明

『仮想具現化』で翼竜を召喚
『瞳』で[情報を収集]・分析して戦闘行動予測
挙動を[見切り]、更に司令塔への[ハッキング]で統率を乱して[空中戦]で潜り抜ける

【英雄転身】
その役は竜殺しの英雄
携えるは屠竜の大剣

電子精霊にハッキングを代替させ、動きの鈍った小ウルゴスを切り墜とす
包囲を抜け、ダイウルゴスに接近してからが本番
本命に[力を溜め]た、対竜[属性攻撃]を叩き込むまで止まる気はない

アドリブ歓迎



 幾千幾万の心と命を吸い上げ、自らの文明と同化させる――聞けば聞くほど『おかしな』話だろう。御伽噺に出てくる怪物だって、そんな存在は滅多に現れなかった。
 それだけの意思を吸い取ればとうなるのか、いくら同一化させるとはいえ、飲み込んだ瞬間は多少なりとも混濁するはずだ。浄化作用のあるろ過装置とて、どんな不純物もこしとれる訳ではない。いつかは限界が訪れ、破綻するはずなのだ。
 ケルスティン・フレデリクション(始まりノオト・f23272)は、ふわふわのんびりと――その疑問を頭に浮かべて、小首を傾げていた。
「……あたまのなか、ぐるぐるしない?」
 ケルスティンの声は華奢な身体に相応しい、ちいさなものであった。だというのに、その言葉はやけに響く。硝煙揺蕩う戦場のはずなのに、その声色は澄み渡る透明さを以てダイウルゴスへ届けられた。
 わずかに、静寂。一陣の風が、ケルスティンの紫髪を揺らす。
「――するはずもなかろう。そのために議場を用意しているのだから」
 その返答が遅れたのは、聞かれたこともない質問だったからだろう。人と同じかそれ以上に明晰な頭脳を持つ竜とて、呆気にとられることもある。
「何故そんなことを聞く。わざわざ喰われにでもきたか」
 竜のエネルギー――その焔が、傷だらけの身体に集まっていく。それが完全なる熱量を宿したときは『終わりの時』である。ケルスティンもそれを理解しているようで――。
「いいえ、あなたは、わたしたちのてきだから……」
 彼女の小躰がふわりと浮く。ひんやりとした魔力が全身を包み込み、その身を空中に固定。
 ケルスティンの動きはゆっくりだが、決して悠長ではない。纏う魔力が、淡い光を帯び始めた――。
 ダイウルゴスも『気配』を悟ってか、空気を吸い込んだ後に咆哮。纏っていた焔が轟々と舞い散り、火の粉が空中に飛び出す。それはちいさき竜を形どりながら空間を飛翔し、それぞれが顎を開いて飛来していった。
 両者との距離が大きく縮まりかけた――その時である。
「娯楽のない文明と一体化するなんて冗談じゃない」
 それはケルスティンの声ではない。凛とした言葉が響いた瞬間には、過った影が竜たちを薙ぎ払っていく。
 大きな影がケルスティンの前に降り立った。それは大きな翼竜。ダイウルゴスにはスケールで劣るが、現在進行形で大量召喚されている文明軍の小竜よりは遥かに巨大。体躯の違いを証明付けるかのように、突進によるひと薙ぎのみで数体の竜が大地のシミと化して沈んでいた。
「いいや、それ以前に、意思決定を他の誰かに委ねるなんて嫌だね」
 夕凪・悠那(電脳魔・f08384)、そのひとである。翼竜の背中に乗っている騎手であり、彼を仮想空間から召喚した主だ。
 第二波を待つことなく、翼竜が大きく飛翔。そして、上空から戦場を見下ろしながら――夕凪は言葉を続ける。
「滅べよ、ダイウルゴス文明」
 彼女の心は冷え切っていた。かの文明は何一つとして相容れない。
 夕凪にとって、電子電脳の仮想世界は絶対に切り離せない。電脳遊戯での経験もそうだが、なにより彼女の強さを支えているのは『電脳を操る術式』。ダイウルゴス文明はそれを根底から否定するものであり、夕凪自身の否定でもある。
 もはや両者の思想は水と油だろう。夕凪にとって、真っ先に滅ぼすべき文明なのは確かだ。
「さあ、トカゲたち。ボクが相手となろう」
 夕凪が翼竜に体重を預けると、それに応えるように大きく加速。その巨躯からは考えられないほどの速度で飛翔した。
 行先がダイウルゴス本体であると認識した小竜たちが、一斉に翼竜へ殺到。けたたましい声をあげながら、夕凪たちを包み込んでいく。
「キミたちの文明とやらはそんなものなのか?」
 包囲の繭が、一条の光線によって瓦解する。風穴から飛び出すは夕凪と翼竜。間髪入れずに追いかけてくる小竜たちを一身に引き付けながら飛び回り始めた。
(動きを止めてはいけない。『視る』ことを止めてはいけない)
 一瞬でも集中が切れれば、ずたずたに引き裂かれる――。夕凪は黄金の瞳をせわしなく動かしながら、戦況を片時も見逃さない。
 ちり、と、火炎の残滓が夕凪の頬を掠める。
(致命傷でなければ、無視するべきだな)
幾ばくか焼けた皮膚など気にすらせず、僅かに開いた隙間からダイウルゴス本体を一瞥。
「少しばかり邪魔させてもらうよ」
 金色の双眸がダイウルゴスを捉えれば、山のような巨体が僅かに揺れる。ノイズがかったオーラが帝竜を包み込み、溜められていく焔が僅かに霧散。
「……そういうこと、なのね」
 一方――ケルスティンは夕凪を追いかけんと動きかけるも、その考えを一瞬で改めて留まった。
 一見無謀とも思えるような行動だが、彼女がそういうことをする人には見えなかった。ならば、其れには含まれた意味があるのではないか、と――。
 不意に、ケルスティンは見た。自分とダイウルゴス本体の間に開かれた道を。
 夕凪に意識が向いている今こそ、行くべきなのだ。彼女はそれを『理解』する。
「なんとしてでも、あれをふせがなくっちゃ」
 恐らく、ダイウルゴスの合議は完了してしまうだろう。時間的にも、こちらの火力的な意味でも間に合わない。
 ならば、その後に放たれるであろう初撃を防ぐ役割は自分なのだと『理解』する。
 ケルスティンは、先程までの緩やかな動きを一変。すみれ色の軌跡はそのままに、極めて鋭い飛翔を繰り出して――瞬く間にダイウルゴスの足許へと辿り着いた。
 刹那、ダイウルゴスが纏っていた焔が大きな火柱となる。纏う気配が一変し、押し潰されかねない重圧が周囲一帯を覆いつくす。帝竜が首を引き絞れば、半開きとなった口腔から光が溢れていく――!
『きらめき、まもって!』
 自らの背後では、未だ夕凪たちが戦っている。ダイウルゴスが放つであろう『口腔内のエネルギー』が直撃すれば、どうなってしまうか想像もつかない。
 故に、ケルスティンは自らが宿す『ひかり』を余すところなく展開し――『ひかりのまもり』を眼前に展開した。
 彼女の全力を以て作り出された光の障壁は、ダイウルゴスの身長と大差ないほどに巨大なものであった。そして、それが展開された瞬間に――ダイウルゴスの首が大きく前へ繰り出され、その大顎が開かれる。
 放たれるは爆炎、そして光の束。両者が織り交ざった光線が、『ひかりのまもり』と激突する。
 鼓膜が爆ぜんとするほどの轟音が響き渡った。びりびりと空間が痺れ、揺らぎだす。周囲の大地から亀裂が迸り、粉砕され、赤く熱されて溶けていく。
 色彩を視認することすら出来ないほどの爆光の瀑布を一身に受けた障壁が僅かにたわんだ。だが、その壁に亀裂が迸ることはなく、眼前の光線を浴び続けていく。
「う、う……」
 ケルスティンは両手を前に突き出して、自らの持ちうる総てを『ひかり』に注ぎ込む。埒外の破壊力を前に思わず呻くも――怯むことなく見上げ続けていた。
「――理解ができぬ」
 ダイウルゴスは、合議によって満たされた現在の状態に絶対の自信があった。
 いま放っている光線も、文明を焼却するほどの威力を秘めているはずなのだ。
 一介の存在に防がれるわけがない――だというのに。
「その一身のみで、我が文明を否定するか」
 溜まったエネルギーが底を尽きようとしている。一度『息継ぎ』をしなければならない。ダイウルゴスは細くなっていく光線の先を見つめれば、『ひかり』が未だに此方を照らし続けていた。
「ルル……おねがい……!」
 ケルスティンは、よろよろと地面に降り立ち、座り込む。纏った光の殆どを注ぎ込んでしまった。次撃がやってくれば間違いなく防ぎきれないだろう。
 だが、その視線はダイウルゴスよりも遥か上――竜の上をとる小鳥に向けられていて。
 その瞬間、降りそそぐは氷の雨。ざあざあと降りそそぐ氷柱が冷気を纏い、ダイウルゴスの身体に打ち付けられた。
「馬鹿な、この冷気は何だ。一介の精霊が行使できるものではない――!」
 その巨躯に霜が降り、凍り付いていく。纏っていた焔も少しずつ小さくなっていき、動きも緩慢なものへ。
 ――ありがとう。後は任せてくれ。
 そして、ケルスティンの上空を飛び立っていくは夕凪の乗る翼竜であった。
 礼の言葉を風に乗せながら、電脳少女は紡ぐ。
『電脳接続、記録参照、対象選択、――転身開始!』

 インストール完了。
 竜殺しの英雄、及び屠竜の大剣の行使を許可。
 
 少女の両手には、身の丈を超える大剣。そして、その全身は嘗ての英雄を象る。
 小竜たちが彼女を止めんと迫りくるも、一息のうちに斬り捨てられ、地面に落ちていく。平時の彼女でさえも止めきれなかったのだ。『英雄』となった彼女を止めることなど、水に火を点けるよりも難しい。
「竜断ちの一撃を、その身に受けるがいい」
 電子の精霊たちが、纏わりつく小竜たちを『フリーズ』させる。のろまとなった軍勢を一気に突き抜けた夕凪が、翼竜を足場にして大きく跳躍。ダイウルゴスの『上』をとった。
“Siegfried”
 記憶されたコードを実行する。それは、かつて『そう呼ばれていた』英雄の名。
 振り上げられた大剣から、電磁の爆炎が纏わりつく。重力に身を任せて落下していく夕凪が、一気に加速していき――。
 
 振り下ろされた剣閃が、螺旋を描く炎柱となりて天を貫く。
 那由多の熱量の中心で、帝竜の爛れた悲鳴が響き渡った。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

鳴宮・匡
他の猟兵たちとの戦いを観察しながら動く
合議の結果が相手にとって最も合理的な行動に繋がるのならば
これまでの戦いと比較して、相手の動きを割り出すことはできるだろう
後はそれを見切れるかの勝負だ

ぎりぎりまで引き付け、最小限の動きで躱す
回避の瞬間即座に反撃を行うよ
たった今攻撃に使ったその部位へ目掛けて【虚の黒星】を撃ち込む
こればかりは確実に当たる距離じゃなきゃならない

増大した身体能力を無効化させた後は根比べだ
致命傷を狙える部位を中心に狙い、ダメージを重ねていくよ

自分のありかたを、他人に委ねる気はないんだ
この世界も、俺自身も、くれてやるわけにはいかないんでね
お前の歩みはここで止めさせてもらうよ



 鳴宮・匡(凪の海・f01612)は、その戦場を視ていた。猟兵という『人々』が、文明に牙を剥く姿を、ひたすらに観察し続けていた。勿論、それは傍観でも怠惰の其れではない。
 漆黒を纏い続ける傭兵は、ダイウルゴスの所作、癖、戦い方――その一つ一つを見続けていたのだ。
 それは確実な勝利のため、イレギュラーを極限まで排除するため、そして、世界の滅亡を防ぐため。
 もう十分に情報は得たか――岩陰に姿を潜めていた鳴宮が、伏せていた身を起こさんとする。だが、僅かに動いたのみで――帝竜の鎌首がゆっくりと向けられる。
「……竜の目を逃れ続けるとは」
 ダイウルゴスは悔しがる様子も激昂する様子もなく、感嘆の言葉を零すのみであった。鋭い双眸に完全に捉えられた鳴宮は、観念したかのように起き上がる。
「これでも隠れんぼとやらには自信があるんだ」
 竜種という生命体は、五感の全てが他種よりも優れている場合が殆ど。ましてや帝竜の眼となれば、下手なセンサーよりも遥かに優秀であろう。
 だが、かの傭兵は今の今まで、その探知能力から逃れてみせた。ダイウルゴスが驚くのも無理はない。
「そうか、ならば――」  
 竜の巨躯が、青き焔を纏い始める。
 ごうごうと燃え盛る身体に竜の気が混ざり合い、目も眩むほどの炎熱に満たされていく。
「尚のこと、その身を捧げ、我が文明に加わるが良い」
 ダイウルゴスは理解していた。『この戦いに負ければ、己が死ぬ』ということを。
 見れば、巨大な体は既に満身創痍。負傷していない箇所を探す方が難しい。
「自分のありかたを、他人に委ねる気はないんだ」
 いつだって、傭兵は己が力で戦い続けてきた。いくつもの死線を潜り、数多の戦いを潜り抜け、無数の凶弾と向き合ってきた。
 戦略的撤退は兎も角として、しっぽを巻いて逃げた事など一度もない。少なくとも、己の生き方から背を向けたことは只の一度もない。
 故に、触れただけで消し飛びかねない竜気にあてられても、鳴宮の身体は微動だにしない。周囲の岩石が砕けようが、瓦礫が吹き飛びようが、地面が捲れあがっても――彼はそこにいた。
「――!!」
 帝竜は吠えた。全力で、全霊で、その一撃に全てを賭けんと――前へと踏み出す。 山のような巨体が消失。次の瞬間には地面が抉れ飛び、鳴宮の目の前へ。
「……ッ!」
 その早さも、傭兵にとっては『予測済み』。極限の集中力を見せたアスリートや、危機的状況に陥った生物が行使できるとされる――『遅延する領域』が展開。鳴宮の目が瞬きを止め、大きく見開かれた。
 火達磨となった帝竜が実行するは、前脚を使った踏みつけ。振りかぶったのも束の間、音を容易く置き去りにした一撃が鳴宮の脳天に迫る。それは引き伸ばされた時の中でも、辛うじて視認できるか否か。
 そして、次の瞬間には――大地が真っ二つに断ち割れていた。
 巨岩が空中に舞い上がる。岩盤がへし折れ、溶岩すら噴出。あかあかとした世界が、熱波の瀑布を乗せて。
 だが、一撃必殺のようにも思えた攻撃に、手応えはない。
「馬鹿な――」
 その文明が動揺に揺れる。神すら穿たんとするほどの一撃を避けられたとでもいうのか――。その疑惑が現実となるのは、あまりにも早かった。
「この世界も、俺自身も、くれてやるわけにはいかないんでね」
 鳴宮は、繰り出した前脚の『上』に立っていた。幾許か焼けてしまった衣服と、火傷の数々が見受けられる。少なくない負傷ではあるが、彼はまだ『そこに立っている』。
 間髪入れずに放たれるは、突きつけた銃口から放たれる『虚の黒星』。あらゆる光を奪い去る虚無の色彩が、ダイウルゴスの前脚の付け根――裂傷が迸っているその箇所へと吸い込まれていく。抵抗なく突き刺さった黒光が、ダイウルゴスの全身に伝播。纏っていた焔をあっけなく消し飛ばした。
「お前の歩みはここで止めさせてもらうよ」
 死を運ぶ黒銃が、ダイウルゴスへ向けられる。
 待ってはやらない。返答も聞く気はない。あとは、一撃でも多く叩き込むのみ。
「オ、オオオ――!」
 ダイウルゴスが狼狽えるように、前脚から鳴宮を振り払わんとする。だが、彼は既にそこにはいない。代わりに届けられるは無数の弾道。
 傭兵は照準を合わせて、引き金を引く。
 撃つ。撃つ。避ける。撃つ。躱す。撃つ。駆ける。撃つ。撃つ。撃つ――。
 何百回、何千回、何万回と実行し続けてきた――『命を奪う行程』。
 それが脚を穿ち、翼を穿ち、無防備となった胴体を穿ち、傷を重ね続け、心の臓まで至らせる。
 瞬く光と、乾いた銃声。それは竜が動かなくなるまで、止むことはなかった。

 ――冷たくなっていく帝竜。倒れ伏した巨体へ、足音が近づく。
「敵性体の死亡を確認。これより帰投する」
 倒れた竜を見つめる鳴宮は、鮮血に濡れそぼった額を拭い、背を向ける。塵となって消えていく死体を一瞥することなく、空薬莢を踏みしめながら、淡々と歩み去っていった。

成功 🔵​🔵​🔴​



最終結果:成功

完成日:2020年05月25日


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30




種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠山田・二十五郎です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


挿絵イラスト