その部屋には、ただ暗闇だけがあった。
僅かに光るものは、壁の『放送中』ランプと、机に置かれた非常に小さな蝋燭だけ。その机を挟んで、二人の男の顔が浮かんでいた。片方はマイクに向かってぼそぼそと話し続けており、もう片方は呼吸荒く脂汗をかいている。
「続きましては、ペンネエム『マサカサカサマ』氏から。太陽さん、近年話題になっている事件について……おっと」
「嗚呼、いけない……貴方、逃げ出そうとしましたね? この暗闇で、主たる私からは逃げられません。お席を立たれないよう……危険ですから。それに、放送中ですよ」
「……仕方がない。一瞬放送を止めましょう」
ランプが消える。それと同時に、防音室に一発の銃声。
散った火花が男の漆黒の瞳を一瞬だけ照らし出して、後には暗闇と静寂が残った。
「──さァ、次のお便りと参りましょうか」
☆☆☆
「サクラミラージュが誇る有名なラヂオ局、『モーント』の看板パアソナリティに、殺害予告状が届いたそうです」
招集を行ったグリモア猟兵、月見里見月(スウサヰドロマン・f27016)は、そう切り出した。
右手に殺害予告のコピーを持って、ひらひらさせながら猟兵たちに示している。曰く、半紙にワープロ打ちで『月詠調殺害指令』と。ラジオ宛の便箋に紛れていたそうだが、スタッフによる事前チェックには掛からなかったこの手紙が、放送中に突然現れたことで猟兵へと持ち込まれる運びになったという。
「予知によると、影朧が関わって来る可能性大、とのことで。最近怪しい軍隊の目撃情報も出ているそうなので、是非是非護衛をお願いしたいんです! が……」
サクラミラージュのオブリビオン──影朧には、性格の捻じれ方が奇妙なものが多い。連続殺人を再現したがったり、映画を撮っていたりなどだ。今回のように、怪盗の如く予告状を出してくるケースも何度かあった。それ自体はおかしなことではないのだ。
しかし、今回はまた違った事情があるらしく、少女は困ったように眉をひそめる。
「護衛対象が言うには、折角だから自分のラヂオ局で猟兵の皆さんに話して頂きたい、とのことらしいです。狙われているんだから、もっときちんとした場所で護衛したいんですが……そうじゃなきゃ護衛させないって脅されちゃいました。何だか変な話ですよね」
影朧に対応する設備が揃った特設の部屋でなく、ラジオ局。完全にメリットがないが、本人が強硬に主張している以上認めざるを得なかったという。
その上、指定されたラジオ局というのもまた問題だ、と月見里は続けた。
「曰く、放送中もいつも建物が真っ暗だとか。従業員が生気を無くした顔で、殆どラヂオ局から出てこないとか。月詠・調さん……あっ、パアソナリティの方ですね。その人もお伝えした通り、随分変わった方です。喋りは一流だそうですが……」
予知しようにも肝心なところで真っ暗になってしまって、ラジオ局に関することは結局闇に包まれているらしい。
総じて、色々と謎に包まれた場所だとしか分かっていません。そう少女は締めくくる。
「どうにもおかしな依頼です。もしかしたら、敵は影朧だけではないかもしれません……こんなことは言いたくないのですが。どうか厳重の警戒をお願いします」
万一の場合は自分の命が最優先……そう言うと、少女はグリモアに右手を翳した。辺りが眩い光に包まれる。
「私も、ラヂオ越しに応援しています。選択に幸運を!」
☆特筆情報☆
●『殺害予告状』
軍部から実働部隊へと送られた電報の形式をとっている、月詠調の殺害指令。月詠がスタッフから渡されたラジオのお便りを読んでいる最中、突然現れた。
日本語で書かれているが、詳細な分析の結果、節々の形式や指令者の固有名詞に、かつて帝都と争った『鉄十字の国』の名残が見られることが分かった。
●『月詠調』
モーントで一番の人気パーソナリティ。人間。話が上手いだけではなく、時にはやって来た相手の隠された罪を暴くことでも有名で、その衒学的な語りに魅せられた若年層が多くいるとか。
表舞台に現れたのは半年程前で、それ以前のラジオ局付近での目撃情報はない。帝都の出身ではないという噂もある。親兄弟の情報は不明。
●『モーント』
元々は弱小ラジオ局の一つだったが、月詠が来て以来急成長し、今や帝都でトップを争う程の大きさになった。本部とは別に、月詠が放送を行うための特設スタジオがある。
特設スタジオは月詠の趣味のため僅かな光しか用意されていない。そこで働くスタッフは生気を失ったようにただ黙々と働いているという。
眠る世界史教師
実態も一寸先も闇に包まれたラジオ局で、影朧を迎え撃っていただきます。
一章は、何故か灯りを消し切った放送室でのフリートークです。存分にリスナーを楽しませましょう。部屋の中の灯りは基本的に机の真ん中に置かれた小さな蝋燭一個だけですが、ご自身で何かを光らせても構いません。月詠は嫌がりますが、プロなので進行上大きな問題は起こさないでしょう。ご自身だけで話しても、月詠に任意のお便りを読ませてそれに答える形でもお応えします。この章のみ、連携に関しては同時に二人までとさせてください。
また、ラジオの進行に擬した上で、上記の情報をもとにモーントや月詠、殺害予告などの秘密を探ることに成功した場合、裏話が明かされるかもしれません。必須ではありませんが、情報と発言に矛盾している部分などがあったら遠慮なく突っ込みましょう。
二章は集団戦です。真っ暗なラヂオ局を舞台とした、特殊な環境での戦闘となります。
三章はボス戦です。敵は恐らく、きっと、多分、月詠に予告状を送った影朧。詳細は現時点では闇の中です。
第1章 日常
『ラヂオの時間』
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POW : 好きなものや今までの冒険をとにかく喋りまくって楽しませる
SPD : 歌を歌ったり楽器を演奏したり音楽で楽しませる
WIZ : 巧みな小噺や朗読で楽しませる
👑11
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転移が完了した猟兵たちを、背の高い男が出迎えた。
淀んだ沼のような黒い目、一つ結びにされた黒い髪、黒い服に黒い上着……彼こそ今回の護衛対象であるラジオパーソナリティ、月詠調である。
月詠は猟兵たちを認めると、小さく会釈をして建物の玄関を開く。中には漆黒の闇が広がっていた。自分以外に蝋燭を渡して彼は中に入る、その姿はすぐさま闇に溶けて見えなくなる。
「ここはラヂオ局ですからねェ、音以外は無駄だと思う訳ですよ。ですので真っ暗なんです。ここから階段、お気を付けを」
混凝土で出来た階段を昇って行く。建物中に、どこか酸味を感じさせるような不快な匂いが蔓延していた。
時たまスタッフらしき気配とすれ違うことがあるが、誰もが一定の歩速を保ち、浮かび上がる表情は幽鬼の如く白い。月詠は全く気にすることなく、ぼそぼそと喋っている。
「予告状を見た瞬間、肝が冷えましたよ。百年以上前に滅んだ『鉄十字の国』からの殺害指令なんて、ねェ。ぞっとしない話で」
本当に恐怖を感じているとは思えない声音だった。
それから彼の話題はラジオの内容に移った。曰く、猟兵には『フリィトォク』として、好きなことを喋ったり、或いはラジオで届けられる範囲なら芸を披露したりと、兎に角リスナーを楽しませてくれ、と言う。
「さァ、この部屋です。蝋燭はお預かりします。ここは建物の中でも一番暗い場所なんですよ」
影朧も現れやすいでしょうねェ……そんな呟きが静寂と暗闇の中に響く。
猟兵が席に着いたのを確認して、彼は部屋の外にいるスタッフに合図を出した。
「アイン、ツヴァイ、ドライ、ローズ!」
ブゥン、と音を立てて、『放送中』のランプが僅かばかりの光を発した。
「さァ今宵も始まりました、月詠調がお送りする『ミッドナイト・パレェド』──」
南青台・紙代
アドリブOK
【WIZ】
モーントのラヂオは我輩も時折聴いているのである。
あの名高き月詠氏に会えるとは実に光栄。
さて我輩は自作の気に入りの章を読み上げることを許してもらえるだろうか。
《……いつも通りのさざ波の音。なのにその世、女は何かに呼ばれるように……》(自作の怪忌憚)
うむ、自ずから読み上げるのは中々照れ臭い。
いやはやパアソナリティ業など我輩にはとても勤まりそうにないのである。
我輩は不良文豪故に筆も知識もまだまだ未熟であるしなあ。
……本当、目の前に現れた手紙から、〔一目で古き異国の言葉を読み取る〕など、とてもとても。
(『精神攻撃』により『情報収集』できないかと、
違和感がある部分を強調)
「いつも通りの細波の音。なのにその夜、女は何かに呼ばれるように——」
凛とした声が、怪異に絡め取られた人間の数奇と情緒を紡ぐ。
小さな蝋燭だけが照らす防音室に、その物語はあつらえたかの如く似合っている。それを見れないラジオの向こうの人間も、雰囲気に呑まれて誰もが手に汗を握っていた。
やがて五分弱の掌編が締められると、暗闇の向こうから拍手の音が響く、きっかり五秒続いた後、パーソナリティが口を開いた。
「言の葉綴りし青蛇女(f23355)こと、南青台紙代氏による自作の朗読。お楽しみ頂けたでしょうか」
「うむ、自ら読み上げるのは中々照れ臭いな」
「いえいえ、素晴らしい御話でした、実に」
月詠による賞賛が飛ぶ。その言葉にはある程度の誠意が受け取れた。そして彼はそのまま、先程の物語を軸にした対話に移る。
だが、彼女はただ全国に披露する為に物語を読み上げたのでは、当然無い。
「怪奇譚とはそれ自体全く不思議なものでな。全く関わりの無い異国に、同じ物語が生まれたりする」
「言葉の魔力、という奴ですかねェ」
「或いはそうかも知れぬな。……貴殿も、異国の物語には詳しいのでは無いか?」
打てば響くように返されていた暗闇の向こう側の声が、一瞬止まった。二人の間で、蝋燭の炎が不気味に揺れる。
それでも彼は、やはり五秒以内に言葉を繋いだ。
「……はは、仰っておられる意味がよく」
「いや何、吾輩も貴殿の番組は良く聴いていたのだよ。貴殿ほど言葉に習熟していれば、異国の言葉も理解できるのでは、とね」
南青台は、月詠が放送開始前に零した言葉を耳にしていた。
『予告状を見た瞬間』、『鉄十字の国』の予告状だと知った……猟兵たちによる分析の結果判明した事実を、一瞬で悟ったという、致命的な矛盾を。
「それこそ、突然手紙を渡されても言葉を理解出来るくらいに……どうであろうか?」
彼女はここで踏み込んだ。
ラジオは恙無く進行している。リスナーの中に、二人の文学者が言葉を論じているこの会話に違和感を持つ者は居なかった。
五秒が立つ前に、どこか震えた声が聞こえる。
「……それは買いかぶりというものですよ、紙代氏」
「そうかね? 貴殿のようなパアソナリティ業など我輩にはとても勤まりそうにないのであるが」
「口頭で言葉を弄していると勘違いされることも多いのですよ。いやはや、こんな仕事をしていると話さなくても良い事まで話してしまうから困り物だ」
「何を仰る、無価値な言葉など無いであろうよ」
「それは褒め言葉と受け取らせて頂きましょう」
パーソナリティの顔は見えない。今度は詰まることなく、南青台との会話を続けていた。
彼女が次の一手を講ずる前に、先の言葉から二秒で声が繋がれる。
「まあ、そういった言葉なら私もそれなりに知ってはいますがねェ。一瞬と言われては流石に窮します」
事前に準備でもしていれば別ですがねェ——
その時、一人のスタッフが部屋に入り、月詠に紙束を受け渡す……音がした。
「それではこれからは、文豪かつ猟兵たる紙代氏への質問にお答えいただきましょう」
「おや、そんな量が? いやはや、筆も知識もまだまだ未熟な不良文豪の吾輩に、質問という好事家がこんなにも、か」
「勿論、全て誰かから送られたものですよ」
彼は明るくそう言った後、一言付け加えた。
「"これは"……ね」
大成功
🔵🔵🔵
リーオ・ヘクスマキナ
ずっと真っ暗、ねぇ……それホントにタダの趣味?
それを押し通せるだけの実力があったんだろうけどさ
話……んー
精々、この前の依頼で「『鉄十字の国』の兵士と思しき亡霊と戦った話」くらいしか出来ないよ?
……え、てっきり『鉄十字の国』好きだと思ったんだけど。ホラ、合図のカウントもあの国の言葉だったし?
ちなみに俺もあの国は好きだよ。アサルトライフルを実用・量産化した功績は大きいし、カリーブルストやシュニッツェルは美味しいから好きだし。
ってな具合に、『鉄十字の国』関連の話題からちょっと話をしてみようかな
この程度の事で何かボロを出すとは思えないけど、とりあえず話をしろってオーダーには答えられてるでしょ
「魅入られた約束履行者(f04190)こと、リーオ・ヘクスマキナ氏にお越し頂きました。今宵は宜しくお願いいたします」
「うん、ヨロシク。しかし、本当に真っ暗だね。ここ」
「ラヂオ局ですので。さて、猟兵として我々の暮らしを守ってくださるヘクスマキナ氏は、どのようなお話をして下さるのでしょうか?」
「話……うーん」
猟兵としての活躍についてなら、いくつか話の種になりそうな物はあった。戦国に蘇った魔王との戦い、宇宙を舞台にした冒険、コンビニクレーマーの対処……
しかし、リーオはあえてそのどれもを選ばなかった。
「そうだね、『鉄十字の国』の兵士の亡霊と戦った話なんてどうかな」
「……へェ、『鉄十字の国』ですか」
返事までに、僅かに隙間が開いた。
この護衛対象には裏があると、リーオは直感していた。殺害予告状の形式と彼の掛け声、その二つを結びつける『鉄十字の国』。その言葉を出して、相手の反応を伺う。
「月詠さんも知ってるよね? 合図のカウントにあの国の言葉、使ってたでしょ」
「えェ、存じておりますとも。まァ、基礎知識の表面だけですが」
「そっか。俺はあそこの文化好きだよ、シュニッツェルとか美味しいし、アサルトライフルにもお世話になってるし」
「成る程、確かにあの国は軍事力でも有名だった。そんな相手とどう戦われたのです?」
彼自身の話から、話題を逸らそうとしている気配は感じる。核心までは至らずとも、何らかの関わりがあるのは確かに思えた。
(ここから予告状の話題まで踏み込むのは、マズいよね……)
曲がりなりにも相手は護衛対象であり、今の任務はラジオ放送だ。
そう考えたリーオは蝋燭を挟んで、自分の戦いの記録を語り始める。
「——で、赤ずきんさんと一緒に敵陣に突っ込んだんだよ」
「勇猛果敢とは正にこの事ですねェ」
「大丈夫だって信じてたからね。で、相手の銃弾を吹き飛ばしたりなんかして」
「いや流石だ。貴方がいる限り、今この局は帝都一安全な場所ですよ」
他人が言えば歯の浮くようなお世辞に聞こえる言葉も、月詠のそれには真が篭っていた。語る言葉にも力が入る。
リーオの活躍に、リスナーたちは時に笑い、時に涙を零し、手に汗を握る。帝都中の多くの人々が、彼の物語に耳を傾けることになったのだった。
大成功
🔵🔵🔵
鈴木・志乃
……暗い所が苦手な訳では無いんだけど
どうにもここは空気が悪い
UC発動、いつでも演技出来るように準備だけはしておこう
おたよりね……商社の規律が乱れている?
なるほどこれは難しいですね
黙って言うことを聞けと言って、聞いてくれるなら
ここにおたよりを送ることも無い訳ですから
これは難題ですよ月詠さん
私は舞台に立つ人間ですから商社とは違いますが
毎日皆で同じ練習、作業をすることが多いのです
自然と一体感が生まれますよ
月詠さんはどうしてらっしゃいますか
皆様、意思疎通が行き届いているでしょう
まるで鉄十字の国の軍隊みたいに
ほら、アイン、ツヴァイ、ドライ、ローズって
あの国の番号でしたよね、確か……?
「代行者(f12101)こと、鈴木志乃氏にお越しいただきました。今宵は宜しくお願い致します」
「こちらこそ、宜しくお願いしますね」
志乃はそう言いながら、一つ礼をした。
誰も見る者のない放送室。対面のパーソナリティは目を細めながら、ラジオ放送においては意味のないその行為をどこか微笑ましそうな表情で見ていた。
しかしそれは、その瞬間から、否もっと前、この場所へとやって来た頃から彼女が続けていた演技なのだった。
「しかし、私は自分のことについて話すのには余り慣れていなくて……申し訳ありません」
「いえいえ、承知しておりますよ」
そう応えた月詠は、目の前のテーブルを爪で弾くように叩いた。二回、一拍おいて三回。不思議なリズムを奏でる。
すると間髪入れず、音もなく防音室の扉を開いたスタッフが彼に紙束を受け渡す。
「猟兵であり凄腕の役者でもある志乃氏に、沢山の御便りが御座いますので。そちらに答えていただきましょう」
「ええ、私に答えられることでしたら」
彼女は決して演技を崩さない。目の前の護衛対象への疑念を、おくびにも出さない。
先ほども見せた、月詠とスタッフとの異常なまでに完璧な連携。歩いていたスタッフたちも、まるで操り人形の如く。そこに生まれた疑念を確かめる為、志乃は笑顔で質問に答え続けた。虚実を織り交ぜ、時に理性的に時に感情的に振る舞い、猟兵の職務、役者の理念、個人的な話などを語り続ける。進行は恙無く進んだ。
「それでは続いてのご質問、ペンネエム『ねぼけなまこ』氏から。『私はとある商社の経営をしているのですが、最近社員の規律が乱れています。つい先日も、立ち入り禁止の倉庫で写真撮影していた社員を叱りました。もう少し節度を保ってもらうために、どうすれば良いのでしょうか——』
「成る程、これは難題ですね……黙って言うことを聞けと言って聞いてくれるなら、ここに御便りを送られることも無い訳ですから」
ここからなら、経営の話に繋げられる。彼女はラジオの体裁を崩さないようにしつつ、その話題を広げるよう努めた。
「私は舞台に立つ者で、商社とは違いますが、毎日皆で同じ練習、作業をすることが多いのです。自然と一体感が生まれますよ」
「成る程、体験を共有すると——」
「ええ。月詠さんとこの局の皆さんは、どうしていらっしゃいますか?」
普段は主に聞き手である月詠に話が振られたことで、少し慌てたように顔を上げるような気配がする。
彼女はその返答を待たずに、立て続けに言葉を重ねていった。
「局の皆様、意思疎通が行き届いているでしょう。まるで鉄十字の国の軍隊みたいに」
「おや……? 私、何かお伝えしましたか?」
「いえ、お好きなんだろうなと思ったんです。放送開始の合図があの国の言葉、でしたよね?」
「いや、流石に猟兵の方は鋭い。その通りなのですよ」
月詠は、予想以上に素直に喜びを声に出していた。ラジオ局を褒められたと思ったのかもしれない。
「お察しの通り、鉄十字の国の訓練システムを使っております。モーントを帝都一、いや世界一のラヂオ局にする為にですねェ」
「……軍の訓練システムを、ですか?」
「えェ。朝四時起床、出社の際の点呼、集団行動……今では全員寝る間も惜しんで働いてくれるようになりました」
どうも話がおかしいな、と思った。パーソナリティが鉄十字の国に造詣が深いことは明らかになったが、それよりもこの口ぶりは。彼女の脳裏に、スタッフたちの様子が思い浮かぶ。
やつれきった顔。仕事場から出てこないという噂。酸味のある匂いは、ひょっとして家に帰って風呂に入る時間すらないからでは?
つまり、このラジオ局は。この場所の労働環境は。
建物に満ち満ちた暗黒が象徴するかのように、文字通り"真っ黒"なのだ。
「ですので、私からは是非このシステムをお勧めしますのですが——」
「いえ、まあ、場合によりけり、ですよね」
慌てて、思わず演技の仮面が剥がれ落ちてしまった。
局の経営方針は、猟兵の預かり知る所ではない。が……羽を持つ少女は、心の中でスタッフたちの安寧を願うのであった。
成功
🔵🔵🔴
秋山・小夜
アドリブ歓迎
「こんな感じの暗さなら、しっとりとしたピアノ曲が合いそうですね。」
スペースがあるかわからないが、Greatest musiC Hammerklavier(ピアノ型音響兵器。ここでは兵器として使用しない)を展開させてもらって、いい雰囲気の曲を演奏する。
必要なら、リクエストにも応じる。また、可能なら話を聞きつつ、演奏していく。
「今回は、歩く武器庫(f15127)……? こと、秋山小夜氏にお越しいただきました。今宵は宜しくお願い致します」
「宜しくお願いします。早速ですが、わたしは口が下手で……ピアノを少し嗜んでおりますので、そちらを披露させていただきたいのです」
「えェ、了解しました」
月詠が合図の音を鳴らすと、入ってきたスタッフによって放送室の一面の壁が動かされる。その向こう側には、ピアノを演奏するに十分な空間がある……のだろう。
小夜は兵装からグランドピアノを展開した。Greatest musiC Hammerklavier……今まで数多の戦場を共にしてきた正真正銘の兵器だが、演奏器具としても使えるものだ。
「こんな感じの暗さなら、しっとりとしたピアノ曲が合いそうですね」
椅子に座って、軽くペダルを踏んで調子を確かめる。十全だった。
近づいてきたスタッフが、慣れた手つきでピアノにマイクを取り付け、小夜にオーケーのサインを出す、気配がした。
彼女は両手を鍵盤に置く。白と黒の鍵は、闇に紛れて非常に見えにくくなってしまっている……が、小夜にとっては大した問題ではなかった。暗闇の中でも銃を撃ち、剣を振るうことが出来る様に、ピアノの演奏もまた身体に染み付いた動きの一つなのだ。
暗闇の中を、ソの音が走る。
ラジオの向こう側では、多くの人間が演奏に耳を傾けていた。
マイクを通り、電波となり、その音は本来の姿から大きくかけ離れている。ノイズが走り、音は割れて、リズムは乱れ。しかしそれでも、リスナーの中にラジオを止めた者は居なかった。
「ありがとうございました」
「……いやァ、素晴らしい」
演奏が終わってからパーソナリティが言葉を発するまでに、五秒以上の間隔が空いた。
本来、ラジオにおいては許されない無音。しかし、それを咎める者はどこにも居ない。
「私はラヂオの素晴らしさを信じておりますが、これは……生でお届けできないのが、非常に残念でなりません」
「そう言って頂けると、恐縮です。もう一曲、時間は大丈夫ですか?」
「勿論です。永遠に聴いていたいくらいですからねェ」
「ありがとうございます。何かリクエストなどありましたら……」
そうして、再び演奏が始まる。
夜の帳が降りた帝都中に、ピアノの旋律が鳴り響いた。
成功
🔵🔵🔴
「桜の精のパーラーメイド(f23155)、御園桜花氏にお越しいただきました。今宵は宜しくお願い致します」
「こういった場所は初めてなのですが、頑張りますね」
普段通りのラジオが進行し始める。が、桜色の少女の胸中には様々な思考が渦巻いていた。
影朧と長年渡り合ってきた猟兵として、こういった状況でも警戒を絶やしてはならないと分かっていた。ましてこの状況は……今まででもトップレベルに、きな臭い。その為、ラジオ局やパーソナリティについて、事前に様々に調べておいたのだ。
「随分、年季の入った建物ですね。素敵です」
「えェ。歴史あるラヂオ局ですから」
そう言って部屋を品評するフリをしながら、暗視で過剰に暗い部屋を調べる。血痕の類は無かったが、天井に割と真新しい弾痕が一つ残っていた。彼女は思わず内心ため息を吐く。
このラジオ局にゲストとして入って、出てこなかった……そんな人物は、居なかった。ただ目立ったのは、不祥事を起こしたスタァの『日野元太陽』なる人物がここに呼ばれ、公開放送で散々絞られた挙句に真っ白な顔で出て来たという噂。
「逃げ出そうとしたら脅された」というが、まさか……とその時、調査に出していた精霊が戻って来る。
「そうですね、今の季節ならやっぱりアイスクリンがお勧めです。期間限定で桜味を用意していますよ」
「いやァ、それは美味しそうだ。まさにこの帝都にピッタリですねェ」
スタッフの休憩所に行ったノームが、机の下から自分の見てきたものを囁いて来る。
食べ物飲み物ゴミいっぱいだよ。変な匂いするよ。みんな寝てないよ。灯りついてないよ。——
また内心でため息を吐く。外面に感情を出さない技術は、客商売の賜物といったところか。
目の前で相槌を打っている月詠。正直この上なく怪しいし、色々とマズいこともやっているのだろうが、影朧と繋がるような情報は結局出てこなかった。
「皆さんが安心して来て頂けるように、メイドとしても猟兵としても頑張っていきたいと思っています」
「頼もしいお言葉ですねェ。皆さん知っての通り、本日は猟兵の皆様に影朧を退治していただく予定です。その瞬間まで周波数はそのまま——」
「そう、そのことなのですが……届いたという予告状、原本はお持ちでしょうか?」
ならば切り込むべきは、ここしかない。本来この世界には存在しない技術が使われた予告状だ。
この建物のように、闇に包まれた影朧の実態。それを少しでも、明らかにしなければならなかった。
「んん? あァ、あれなら猟兵の皆様にお渡ししましたよ。まァ、一応内容は覚えておりますが」
「内容……どのくらい把握していらっしゃいますか?」
「一字一句違わず覚えておりますよォ。何せ突然現れたとは言え、御便りですから。パァソナリティとして、内容は全国にお届けしました。良ォく覚えております」
「それでは……何か気がついた事はありますか? 例えばどうやって作ったと思います?」
「……私は影朧に関しては素人なのですがねェ」
御園は青色の瞳で、暗闇の先に座る男を見据える。向こうも確かに、こちらにしっかりと目を合わせていた。
五秒が経過する前に、再び月詠が口を開く。
「ま、そうですねェ……『鉄十字の国』の事でしたら、一つ知っている事が」
「『鉄十字の国』に関して、ですか」
「えェ。あの国、所謂……『オォバァテクノロジィ』を持っていたそうで。例えば人型の戦闘機械、とんでもない威力の砲……そして、訂正が出来るタイプライタァ」
訂正可能なタイプライター。UDCアースに存在する、所謂ワープロだ。
彼はどこか衒学的な口ぶりで語り続ける。ラジオは進行する。
「凄い物ですよねェ……何故知ってるかって、私がそれを見た事があるからなのですが」
「『鉄十字の国』の遺産を、ですか?」
「猟兵の皆様には縁遠い話かもしれませんが、闇市の骨董品屋に並んでいたのですよ。例のタイプライタァ……つい最近、誰かが買って行ったようですが」
「……それが予告状と関係している、と? 何故そう思われたのですか?」
「いえいえ、そうは言っておりませんよ。ただ少し、思い出したんです。私の給金半年分でやっと買えるくらいの代物でしたから、印象に残っていましてねェ」
月詠は、自分に何らかの疑いがかかっていることを察している筈だ。それでも尚、彼は話すのをやめない。それがプロなのか、はたまたこの状況を楽しんでいるのか……
三度目のため息。新しい情報は手に入ったが、嫌疑が深まるばかりで核心をつく情報が出て来ない。
「兎に角。御園氏の戦いぶり、期待しておりますよ。それでは、御便りと参りましょうか?」
「……ええ。宜しくお願いします」
今は機を待とう、と思った。
何れにせよ、いつか影朧は現れるだろうから。
御園・桜花
(半紙は紙の切り方だからあり得るけれど、私達の世界にはまだタイプライターしかないのに。これをワードプロセッサーと判断したのはグリモア猟兵?)
暗視で部屋の中確認
月詠勤務後の番組表求め2回以上参加したゲストの有無確認
部屋の壁その他に血痕がないか臭気を感じた場所で然り気無く探す
UC「ノームの召喚」使用
建物内のゴミ箱探して中に飲食ゴミがある確認して貰う
猟兵が勤めるミルクホールの人気商品話後
「ところで脅迫状の原本は見せていただけます?」
「どうやって作ったと思います?」
「一般の脅迫状はまだ切り抜きでしか作れないし、異世界の機材は電圧の問題があります。影朧能力をそう判断できる方は…作成した影朧本人では?」
「桜の精のパーラーメイド(f23155)、御園桜花氏にお越しいただきました。今宵は宜しくお願い致します」
「こういった場所は初めてなのですが、頑張りますね」
普段通りのラジオが進行し始める。が、桜色の少女の胸中には様々な思考が渦巻いていた。
影朧と長年渡り合ってきた猟兵として、こういった状況でも警戒を絶やしてはならないと分かっていた。ましてこの状況は……今まででもトップレベルに、きな臭い。その為、ラジオ局やパーソナリティについて、事前に様々に調べておいたのだ。
「随分、年季の入った建物ですね。素敵です」
「えェ。歴史あるラヂオ局ですから」
そう言って部屋を品評するフリをしながら、暗視で過剰に暗い部屋を調べる。血痕の類は無かったが、天井に割と真新しい弾痕が一つ残っていた。彼女は思わず内心ため息を吐く。
このラジオ局にゲストとして入って、出てこなかった……そんな人物は、居なかった。ただ目立ったのは、不祥事を起こしたスタァの『日野元太陽』なる人物がここに呼ばれ、公開放送で散々絞られた挙句に真っ白な顔で出て来たという噂。
「逃げ出そうとしたら脅された」というが、まさか……とその時、調査に出していた精霊が戻って来る。
「そうですね、今の季節ならやっぱりアイスクリンがお勧めです。期間限定で桜味を用意していますよ」
「いやァ、それは美味しそうだ。まさにこの帝都にピッタリですねェ」
スタッフの休憩所に行ったノームが、机の下から自分の見てきたものを囁いて来る。
食べ物飲み物ゴミいっぱいだよ。変な匂いするよ。みんな寝てないよ。灯りついてないよ。——
また内心でため息を吐く。外面に感情を出さない技術は、客商売の賜物といったところか。
目の前で相槌を打っている月詠。正直この上なく怪しいし、色々とマズいこともやっているのだろうが、影朧と繋がるような情報は結局出てこなかった。
「皆さんが安心して来て頂けるように、メイドとしても猟兵としても頑張っていきたいと思っています」
「頼もしいお言葉ですねェ。皆さん知っての通り、本日は猟兵の皆様に影朧を退治していただく予定です。その瞬間まで周波数はそのまま——」
「そう、そのことなのですが……届いたという予告状、原本はお持ちでしょうか?」
ならば切り込むべきは、ここしかない。本来この世界には存在しない技術が使われた予告状だ。
この建物のように、闇に包まれた影朧の実態。それを少しでも、明らかにしなければならなかった。
「んん? あァ、あれなら猟兵の皆様にお渡ししましたよ。まァ、一応内容は覚えておりますが」
「内容……どのくらい把握していらっしゃいますか?」
「一字一句違わず覚えておりますよォ。何せ突然現れたとは言え、御便りですから。パァソナリティとして、内容は全国にお届けしました。良ォく覚えております」
「それでは……何か気がついた事はありますか? 例えばどうやって作ったと思います?」
「……私は影朧に関しては素人なのですがねェ」
御園は青色の瞳で、暗闇の先に座る男を見据える。向こうも確かに、こちらにしっかりと目を合わせていた。
五秒が経過する前に、再び月詠が口を開く。
「ま、そうですねェ……『鉄十字の国』の事でしたら、一つ知っている事が」
「『鉄十字の国』に関して、ですか」
「えェ。あの国、所謂……『オォバァテクノロジィ』を持っていたそうで。例えば人型の戦闘機械、とんでもない威力の砲……そして、訂正が出来るタイプライタァ」
訂正可能なタイプライター。UDCアースに存在する、所謂ワープロだ。
彼はどこか衒学的な口ぶりで語り続ける。ラジオは進行する。
「凄い物ですよねェ……何故知ってるかって、私がそれを見た事があるからなのですが」
「『鉄十字の国』の遺産を、ですか?」
「猟兵の皆様には縁遠い話かもしれませんが、闇市の骨董品屋に並んでいたんですよ。例のタイプライタァ……つい最近、誰かが買って行ったようですが」
「……それが予告状と関係している、と? 何故そう思われたのですか?」
「いえいえ、そうは言っておりませんよ。ただ少し、思い出したんです。私の給金半年分でやっと買えるくらいの代物でしたから、印象に残っていましてねェ」
月詠は、自分に何らかの疑いがかかっていることを察している筈だ。それでも尚、彼は話すのをやめない。それがプロなのか、はたまたこの状況を楽しんでいるのか……
三度目のため息。新しい情報は手に入ったが、嫌疑が深まるばかりで核心をつく情報が出て来ない。
「兎に角。御園氏の戦いぶり、期待しておりますよ。それでは、御便りと参りましょうか?」
「……ええ。宜しくお願いします」
今は機を待とう、と思った。
何れにせよ、いつか影朧は現れるだろうから。
※誤って採用前に提出してしまいました。誠に申し訳ございません。
成功
🔵🔵🔴
スリジエ・シエルリュンヌ
アドリブ歓迎。
私は、この世界出身の新米の猟兵ですから、そのように。
「わあ、暗いです」
新米ですから、戦いもまだまだで、緊張しています。でも、影朧とか放っておけませんし。
それにこのラジオ、私の故郷でも流れているので…話を聞いて、守らなきゃ、と。
あの、『鉄十字の国』、お好きなんですか?その、私の名前からもわかるように、私は隣接する『トリコロールの国』出身なので…。他意はありせん。個人的に好きな国なので、そうであったら嬉しいな、っていう感情です!
「新進気鋭の文豪探偵、スリジエ・シエルリュンヌ氏(桜の精の猟奇探偵・f27365)にお越し頂きました。今宵は宜しくお願い致します」
「はい! こちらこそ、宜しくお願いします!」
上ずった声で応答した。全国放送という初めての体験が、彼女を緊張させていたのだ。その上、この後には影朧との戦いも待っている。
会話している相手の顔がロクに見えないのが、不幸中の幸いと言ったところだろうか。
(ここ、本当に暗いですね……)
「探偵と文豪と猟兵、三足のわらじを履かれているということで。今回はお忙しいところを、ありがとうございます」
「いえ、大丈夫です! これも私の仕事ですから。影朧は放っておけませんし……それに、月詠さんの番組は私の故郷でも良く流れていましたから。守って見せます!」
「これは有難い。非常に頼もしいですねェ。ちなみに故郷というのは?」
「『トリコロールの国』の場所です」
帝都が世界を統一したサクラミラージュにあっても、かつてそこに存在した国の文化は未だ息づいている。芸術と料理を愛する人々を思い出して、彼女は少し郷愁に浸った。
とそこで、ふと気が付いたことを口に出す。
「そういえば、月詠さんもどこかの国の出身なんですか? 『鉄十字の国』とか」
「……いえ? 何故そう思われたのです?」
「お隣さんで個人的に好きな国なので、少し知っていて……あの国の言葉を使われていたなあ、って。お好きなんですか?」
「まァ、そうですね。好きですよ。私がこの仕事をするようになった切欠も……」
「え、そうなんですか?」
好奇心旺盛なシエルリュンヌに質問攻めにされて、普段は尋ねる側の月詠は少し気おくれしたようだった。
蝋燭の火が激しく揺れる向こう側で、必死に言葉を紡いでいる。
「……勘違いしている方も多いのですが、私の出自は何ら普通の帝都人なのですよ。この年になるまで碌に仕事もせずに生きてきましたが……」
『鉄十字の国』のことを知って、その人々の成し遂げた事に触れて、何もしていない自分に嫌気がさした、という。
もっと広い世界を観たくなった、とも続けた。憧れから隠れ里を飛び出して猟兵になった彼女にも、理解できる感情だった。
「そうなんですね……素敵だと思います!」
「そう言ってもらえると……って、私の方が話してしまいましたねェ。全く、人を乗せるのが上手いお方だ」
二人で笑い合いながら、ラジオは恙なく進行した。
しかし、彼女の胸中には一つ気になることが残ったままだった。『鉄十字の国』の人々について話した時の、パーソナリティのどこか苦々しい顔……蝋燭に僅かに照らされただけだったが、妙に印象に残っている。
(だけど、兎に角頑張らなければ。ですね)
来たるべき猟兵としての仕事を成し遂げるため。彼女は暗闇の中で、大きく深呼吸した。
大成功
🔵🔵🔵
第2章 集団戦
『名も忘却されし国防軍擲弾兵大隊』
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POW : 戦車殺しは我らが誉れ
【StG44による足止め牽制射撃】が命中した対象に対し、高威力高命中の【パンツァーファウスト】を放つ。初撃を外すと次も当たらない。
SPD : 弾はイワンの数だけ用意した
【MP40やMG42による掃討弾幕射撃】で対象を攻撃する。攻撃力、命中率、攻撃回数のどれを重視するか選べる。
WIZ : コチラ防衛戦線、異常ナシ
戦場全体に、【十分な縦深を備えた武装塹壕線】で出来た迷路を作り出す。迷路はかなりの硬度を持ち、出口はひとつしかない。
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暗黒ラヂオ局よりお届けします・第二章
「さァそれでは続いての御便り——」
月詠がラジオを進行させようとしたところで、暗闇の部屋に異常が発生した。『放送中』の赤いランプが、一定間隔で点滅し始めたのだ。
彼は話すのを止め、猟兵たちの向こう側……スタッフたちが機材を操作している部屋の方を見つめる。
「どうやら、ここからは私ではなく皆様のお仕事のようです。放送は再開するので、周波数はそのまま──」
猟兵たちが口をはさむ暇もなく、月詠は放送を中止する。そのままマイクに向かって、別なことを話し始めた。
「コードB発生。コードB発生。チームシュヴァルツを除くスタッフは即刻建物から退避せよ。これは演習ではない。繰り返す、これは演習ではない──」
彼の言葉は建物中に響き渡る。
それから猟兵の方に向き直ると、まるでラジオの放送の一貫かのように言葉を繋げた。
「建物の中に影朧が現れたようです。鉄十字の軍隊の……退治をお願いします。私達のことは気になさらず、ねェ」
全て順調に進んでいますから──その声は、相も変わらず暗い室内に溶けていった。
※集団戦です。色々と言いたい言葉はぐっと我慢して、影朧を全滅させましょう。相も変わらず局内は真っ暗で廊下にはろくに窓もついていませんが、前が見えないのは敵も同じのようです。連携が取れず、三人単位でばらばらに行動しています。
望む場合、月詠から『局内の見取り図』『カンテラ』『建物内全てに伝わる放送設備』を提供してもらえます。敵は理性が無くなっているとはいえ軍隊なので、形式に乗っ取った命令が届いたら多少は従うかもしれません。そんなことが出来るくらい『鉄十字の国』に精通した人物が、そう都合よく居るとも思えませんが……
南青台・紙代
アドリブ・連携歓迎
【POW】
ふむ、何かと怪しい所はあるが
ここは一旦棚に上げておくのである。
ユーベルコヲドを使い、毒蛇に化ける。
この姿ならば暗闇でも鼻が効くのでな。
外に出たら《闇に紛れる》ことで《目立たない》ようにし、
匂いを辿って影朧の《追跡》を試みるのである。
上手いこと奴らの背後に出られたら、《念動力》で
『多機能ナイフ』を動かして、こう、ざくーっと。
……この狭い所で対戦車投擲弾なんか撃たれたら
たまったもんじゃないのである。
万が一撃たれた時は《オーラ防御》でどうにか
できるといいのであるがなあ……
うむ、撃ってこないことを祈るのである!
闇の中を、三人の男が歩いていた。
無骨な武装にガスマスク。いかにも軍人然とした装いの、三人の男。油断なく銃を構えながら進軍する彼らは、しかしこの状況に対応できていなかった。複雑に入り組んでいる上に、手の届く範囲も見えないほどの暗闇。加えてそういった状況での連携の要となる通信兵が、何故かどこにも居なかったのだ。それでも彼らは影朧の本能に、本国の命令に従い、標的を殺害しようとしていた。
放送室に向かうために階段を上る彼らは気が付けない。誉れを捧げた鉄十字はもはや過去の遺産となっていることに。下された指令も、作られたものであることに。自分たちの真横を、建物の闇より濃い黒が一筋横切ったことに……三人のうち一人が、突然闇の中に姿を消したことに。
二人がそれに気が付いたのは、階段を上り切ってしまってからだった。仲間の一人が居なくなったことを認めて、慌てて周囲を見渡してから、来た道を引き返す。踊り場に、かつて仲間だった躯が倒れ伏していた。
それを見た影朧の片割れが、それに駆け寄る。抱き起すと、背中に小ぶりな刃物で刺されたと思しき跡があった。何かが、いる。片割れは銃を構えて周囲を見渡し……その足元に、何かが転がってきた。
それが何か、視界の利かない中でも彼は理解できた。そして、自分達はとっくに狩られる側であったことも。過去から蘇って蕩けた理性がようやくその答えに気が付く頃には、既に彼の背後で暗闇が蠢いた後で──
闇の中から和服の女性が一人、立ち上がった。
軍服の背からナイフを引き抜くと、その刀身を丁寧にふき取る。たった今三体の影朧を屠った刃は、深い闇の中にあってもなお不気味に輝いていた。その昏い光に照らされた白色の肌に浮かぶのは、どこか安堵したような表情。
それから、不定形の影に戻りつつある兵士たちを見下ろして……微笑んだ。それは慈しみのようでも、嗜虐のようでもあったが……軍服にナイフに和服、全ての要素が繋がりを失った不安定な光景の中で、その笑顔が全てを繋ぎ止め、歪だが完璧な美しさを体現していた。まさに、怪奇小説の一ページをそのまま抜き出したかのように。もしも今までの出来事が映画だったら、宣伝ポスターには確実に彼女の笑顔が載るのだろう……と思わされるほど。
影の末路を見届けてから、彼女は再び闇の中に歩き始めた。その四肢が、胴体が、深い闇に飲まれて、後には一匹の黒い蛇が残る。
彼女の狩りは、始まったばかりだ。
大成功
🔵🔵🔵
御園・桜花
小声で
「スパイ華やかなりし時、ですもの。ホーホー卿に憧れた方が居てもおかしくないでしょう…私達の世界では別の方になるのかもしれませんが」
普通の声で
「殺人予告は月詠さんに、ですもの。迷路を辿る間に行き違いになっては目も当てられません。彼等が外に出る分には桜學府が対応してくれましょう」
月詠の護衛継続
暗視と聞き耳(複数の足音や会話、呼吸音等)で直接見えなくても仲間と敵を判別
見えなくても術範囲内ならばUC「桜吹雪」
敵を一気に切り刻む
敵の攻撃は第六感や見切りで躱す
月詠への攻撃は盾受け
月詠がどちらに対するスパイか見極める迄目を離すつもりなし
「此処で消え行く方々に、可能ならば転生を」
破魔乗せ鎮魂歌で送る
「私は放送室に待機しておきますね。殺人予告は月詠さんに、ですもの。迷路を辿る間に行き違いになっては目も当てられません」
「私としては、彼らを全滅させて頂けるのなら何も申しませんよ」
「彼等が外に出る分には、桜學府が対応してくれましょう」
月詠の命を狙いに来ている筈の影朧たちを待ち構え、暗い部屋の中で装備の点検をしながら……御園は横目でちらりと、スタッフたちと何か話している様子のパーソナリティの方を見た。
「スパイ華やかなりし時、ですものね……」
小声でそう呟く。軍国主義と人種差別の末、故郷の敵国にてプロパガンダを担うようになったラジオパーソナリティのことを思い出しながら。
彼が何を考えているのかは、未だ不明瞭だ。
(しかし──)
暗闇の放送室に、轟音が鳴り響く。
機関銃を構えた軍服が三人、部屋になだれ込んで来た。その銃口が真っ直ぐ月詠に向けられ……瞬間、三人の体に過たず無数の花びらが突き刺さった。
振りかざした鉄扇を元に戻し。
(今は、するべきことをしなくては)
「此処で消え行く方々に、可能ならば転生を」
祈りを込めて、過去の亡霊を見送る。
自分の身に危機が迫っても、薄く笑っていたラジオ局の主の顔が、少しだけ切なげに歪むのが見えた。
大成功
🔵🔵🔵
鈴木・志乃
秋山小夜ちゃんと
アド連歓迎
んーちょっと待ってね小夜ちゃん
私鉄十字の国ぜんっッぜん詳しくないんだけど
やるだけやってみたいことあるから
あっ結果的に私達に不利になるかもしれないけどいい?
(すごくいいえがお)
局内の見取り図で敵UCが発動し辛そうな所を選び
そこに誘導……出来ればしてみる
放送設備貸して下さい【催眠術】音波流すから
「コードB発生。コードB発生。■■は■■にて『待機』。繰り返す――」
『待機』
つまり攻撃もダメってこと
高速詠唱で夜目強化か光源確保
早業高速詠唱で私達にオーラ防御展開
移動中も第六感と聞き耳で敵行動と居場所を見切りUCぶっぱ。
念動力で光の鎖を操作しそのまま捕縛
小夜ちゃんよろしく
秋山・小夜
鈴木志乃さんと
アドリブ歓迎
「ふぅ。さて、やりますか。」
右に二〇式戦斧 金剛を展開、左に九九式軽機関銃を展開し、志乃さんの援護の下各個撃破を狙う。ユーベルコードの発動タイミングはお任せします。
こんな暗い中で戦わないといけないとは、なかなかブラックな気がしますが。
せっかくですからね、何とか火力などで行けたらいいなとも思っていたり。
「……ふぅ。さて、やりますか」
ピアノの鍵盤から指を外し、暗闇の中で秋山小夜(お淑やかなのは見た目だけ。つまり歩く武器庫。・f15127)は呟いた。
先ほどまで楽器だったものから数々の物騒な重火器類を取り出し、素直に感動していた月詠を唖然とさせる。そのまま暗闇の中に進み出ようとする小夜を、黒い少女──鈴木志乃(ブラック・f12101)が押しとどめた。
「んー……ちょっと待ってね、小夜ちゃん」
そう言うと、機材の調整をしているらしい月詠の方を振り返り、にっこりと笑う。
「その放送設備、使わせてもらっても良いですか?」
「これをですか? 何をされるおつもりで?」
「オブリビオンに命令して、地下室に集められないかなと思いまして」
過去の姿が軍隊であった相手ならば、理性が無くなった今でも系統に乗っ取った“命令”には従うかもしれない、と考えてのことだった。
音を頼りに近づいてきた小夜はなるほど、と呟く。しかし、すぐに言った。
「だけど志乃さん、鉄十字の国の言葉なんて分かるんですか?」
「いいえ、全く。やるだけやってみようかと……『コードB』って言って」
「……それはうちのスタッフにしか通じませんよ」
少女二人の会話を途中で止めた月詠は、スタッフに何かを用意させていた。カンペ用の厚紙と筆記用具。手元が見えない中、さらさらと何かを書き込むと、ランタンと一緒にそれを二人に差し出してくる。そこには珍妙な平仮名が書き連ねられていた。
「ダス カニシェン……? 何です、これ?」
「彼らにはこう言ってやれば良いのです。それで全員が地階に向かう筈ですよォ」
影朧には詳しくないので、どれくらい効くかは分かりませんが……と付け加える。
紙を受け取った志乃は、書かれた文字列を見て暫く考え込んだ。
「……小夜ちゃん、結果的に私達に不利になるかもだけど、良い?」
「不利になったとしても、負けはしませんよ」
そう言って、二人で微笑み合った。
全てが罠である可能性も踏まえ、演者の少女が放送を始める──
果たして、統制の取れていなかった影朧たちはその多くが狭い地下室へと押し込まれていた。否、自らの意志で“命令”に従った結果だ。それが偽装されたものであることも、催眠術を応用したものであることも、彼らは理解することが出来ない。
地下室と扉一枚隔てた場所で、闇の中にあってなお目立つ白い少女が、己の身の丈ほどもある武器を両手に展開する。敵を密集させることに成功したが、それは今までは各個撃破できた兵士の群れを作ってしまうことと同義だった。向こうに待っているのは、間違いなく修羅場だ。
しかし──
「それじゃあ、踊って来ます」
「行ってらっしゃい」
タンタンと、そのつま先が床を二回軽く打ち鳴らす。
それから踊るように……扉を開いた。
まずは一回旋、半円状に機関銃による制圧射撃。無数の銃弾は、その全てが狭い部屋に密集した軍服に吸い込まれる。
それから相手が状況を理解する前に、右手を前に突き出しつつ一歩。彼女の腕と、握られた戦斧に抱きしめられた兵士が、一瞬にしてその身体を影に溶かす。
一瞬にして、戦場は恐慌状態に陥った。鉄十字の国の時代には最新鋭だった装備も、一寸先も見えない状況では悪戯に味方を傷つけるのみ。辛うじて銃口を合わせた兵士も、その全てが身体を光り輝く鎖に拘束され身動きを封じられる。
「大人しくした方が身のため、ですよ」
無数に鳴り響く軍靴の音は、まるで少女の舞踏に与えられる賛辞の如く。喧騒に満ちたパーティー会場が、静謐と暗闇が占拠する劇場に変わるまで、そう時間はかからなった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
スリジエ・シエルリュンヌ
アドリブ連携歓迎
「真っ暗…明かり…よし!」
『局内の見取り図』と『カンテラ』をお借りします。
【此の世に不可思議など有り得ない】んですから…(頭がりがり)はっ!!(思いついた)
構造を把握。
光源となるカンテラを持っている、すなわち相手に位置を悟られる…ですが。それでいいんです!
なるべく、すれ違えないほどの狭さがある廊下に布陣。カンテラで私を目立たせるようにします。
…狭いと、ただでさえ少人数なのに、さらに対する人が少なくなる。挟まれるとしても、一度に二人ずつになりますから。
…ええ。あの表情の意味を知るまで、私は死ねませんし殺させません!
攻撃はキセルで。未成年で吸えないので、ひたすら吹くんですけれど…。
「うーん……」
月詠から渡された局内の見取り図を見ながら、シエルリュンヌはうなり声をあげていた。
趣味なのか実益なのかは不明だが、やたらと曲がりくねった通路。無意味な階段。ただでさえ視界が不安なのに、これでは数に勝る敵から不意打ちを受けてしまう。どう攻めたものか考え付かず、桃色の髪を人差し指で撫でる。
「これじゃあ、まるで“迷宮”──」
そう、迷宮だ。このラジオ局も、戦況も。
だとするならば、出口が存在しない筈はないのだ。
角の向こうから、影朧たちのやって来る足音が聞こえた。少女は息を殺して、その時を待つ。
あと三秒、二秒、一秒……そして会敵の瞬間。統制の取れていた足音が一気に乱れた。
突然の敵の姿に動揺したから、だけではない。軍服を視界内に収めた瞬間、シエルリュンヌがカンテラの覆いを取ったからだ。今まで暗闇に慣れていた影朧の眼は、突如として現れた至近距離からの強烈な光に突き刺されてその機能を放棄する。
そして、彼女が布陣した場所は非常に細い通路であった。横隊を展開できず、後続の影朧は銃撃を行うことが出来ない。慌てふためく軍服に対して少女の方は、ただ一つ、息を吹いた。
全ては、それで終わってしまった。彼らの居た時代よりも百年ほど未来の技術で作られたパイプの毒は、その防毒マスクなど歯牙にもかけずに神経の機能を奪い去ったのだった。全てが終わったのを見届けて、少女は満足そうにカンテラの灯りを揺らした。
結局、此の世に不可思議など在り得ない。謎は解かれるために、暗闇は照らされるためにあるのだ。ラジオ局の暗闇も、過去の亡霊も、謎に満ちたパーソナリティの過去も、いずれ……
大成功
🔵🔵🔵
リーオ・ヘクスマキナ
……手際良すぎじゃない?
そりゃ一般人を護りながら戦うよりは楽だけどさァ
見せて貰った局内図を即座に記憶
こっちは暗闇の中でもそれなりに視界は通るし、消音器付き拳銃とナイフの方が良いか(●暗視・武器改造
相手が3人1組なら、ナイフでまず1。赤頭巾さんの鉈の片方で更に1。最後の1人を俺の拳銃か、赤頭巾さんのもう片方の鉈でトドメ、が基本戦術かな
この暗闇とあのガスマスク。敵の視界は劣悪だろうしね……キッチリ利用させてもらう
奴らの命令とか分かればそっちも利用出来たんだろうけどねぇ
どうも昔の俺はUDCアースでのあの国出身だったのか、言葉は分かるけど……当時の形式での命令とかは分からないし。うーん、勿体ない
「……本当に誰もいなくなってる。手際、良すぎじゃないかなあ……」
そっちのが楽だけどさあ、などとぼやきながら、リーオ・ヘクスマキナ(魅入られた約束履行者・f04190)は、一人暗い局内を歩いていた。
月詠の放送によって、建物からは殆どのスタッフが退避してしまっている。事前に相当訓練したのだろう、軍隊もかくやという規律だ。
「軍隊と言えば……今回のオブリビオンに命令する方法とかが分かれば、楽になったのかな」
記憶を無くしてしまっている彼だが、時折記憶のようなものが蘇る瞬間がある。月詠の言葉を聞いた時がそれで、どうやらあの国の言葉を少しは理解できるらしい。
とはいえ、当然軍隊における指揮形式なんかは分からないのだ。勿体ない気もするけれど、まあ良いかな……と考えながら、右手に構えていた大ぶりのナイフを目の前の軍服に背後から深々と突き立てた。まるで、すれ違った人間に会釈するかのような自然な所作で。
残りの二体が事態を把握するより早く、今度はその目の前に巨大な炎が灯る。否、それは血のように赤い外套に身を包んだ人型。その片腕が無造作に鉈を振るい、悲鳴すら上げさせずに一人の首を刎ねた。同時に、ヘクスマキナの放った銃弾が暗闇の中で正確に敵の頭蓋を捉える。
暗闇と静寂の中で、一瞬のうちに全ては終わっていた。
一つ息を吐くと、『赤ずきんさん』の方を見上げ、少し笑う。轟轟と燃え盛る焔のような姿が闇に溶け、少年はまた歩き始めた。生死を賭けた戦場を、まるで通学路か何かのように。その姿に気負いは一切無い。
彼にとって、暗闇は敵ではなく、道に等しいのだから。
大成功
🔵🔵🔵
第3章 ボス戦
『藍の影法師』
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POW : 不屈の影業
【自身の影に近づく者を襲う影の刃と】【離れた者を追い貫く影の触手を宿し、】【自身に死に瀕する程に戦闘力が増強する呪い】を宿し超強化する。強力だが、自身は呪縛、流血、毒のいずれかの代償を受ける。
SPD : 毘藍風
【自身の戦闘力を増強し、敵を切り刻む暴風】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
WIZ : 暗中鬼影
全身を【見た者が心中で恐れる何かを見出す影】で覆い、自身が敵から受けた【殺意、敵意、恐怖等の負の感情】に比例した戦闘力増強と、生命力吸収能力を得る。
👑11
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全てを終わらせた猟兵が放送室に戻ると、机には月詠が座っていた。
蝋燭に照らされた彼は暫く顔を伏せていたが、やおら猟兵の方を見上げ……笑った。
「本当にありがとうございました、猟兵の皆様……お陰で、私の目的はようやく果たされます」
歓喜を滲ませながら。そのまま、マイクに顔を近づける。放送室の『放送中』ランプが、怪しく灯った。
一つ息を吸って──
「Der Krieg ist vorbei……」
四単語からなるフレーズを、繰り返し始めた。緊張からか、どこか震えた声が建物中に響き渡った。何度も何度も、言葉を響かせ続ける。祈るように……或いは、親しい友に呼びかけるように。
十数回それを繰り返した後、彼は息を大きく吐き、五秒以上の休息を挟んだ。荒い息が、切り忘れたマイクを通して伝わって来る。それから、呟いた。
「これで……彼らの魂も、救われたでしょうか……」
「あの予告状を書いたのは、私です」
月詠は、猟兵たちに全てを打ち明け始めた。
事の始まりは半年前、人生を自堕落に過ごしていた頃に闇市で出会った通信機との出会いだと言う。
「アレを見た瞬間……記憶の奥底が弾けた様になって。『鉄十字の国』なんて知らなかったのですが、その言葉を聞くと、郷愁のような……胸を埋め尽くしたんです」
まるで、前世の記憶みたいに。その言葉に、猟兵たちなら聞き覚えがあった。影朧と呼ばれるオブリビオンは、倒された際に転生することがあるのだ。
記憶を引き継ぐ例は報告されていなかったが、無意識の内に前世の影響は本人の人格に影響を及ぼしもする。彼の場合、通信機という品があったからこその記憶の発露だったのかもしれない。
それと同時に、あの国の軍隊らしき影朧が帝都を脅かしている、という噂も立ち始めたという。それで居ても立ってもいられなくなった彼は、自らの手で彼らを浄化しようと考えたのだった。
鉄十字の国の軍隊について死ぬ気で学び、ラジオパーソナリティとして金を稼ぎ、ついに通信機を手に入れ……偽装した命令文をラジオを通して全国に流すことで、彼らをおびき出したのだという。
「こんなことをしたって、転生できる可能性は低いのは分かっていました。皆様に任せた方が早く済むのも……」
だけど、どうしても……! 最後の声は、殆ど声になっていなかった。感情は音の代わりに涙となって、混凝土の地面に滴り落ちた。
全てを告白した月詠は首を垂れ、猟兵たちに言う。
「私が影朧を呼んだのは事実です。……好きなように、裁いてください」
果たしてどうしたものか……猟兵たちが困っていると、突然机に置かれていた蝋燭が消えた。
見ると、突然のことに戸惑う男の首筋に、歪んだ輝きが振り下ろされようとしている!
「……えェ?」
その刃をすんでのところで止めると、月詠は訳も分からずに上を見上げた。
「絶景哉……」
人の感情の弦を直接爪弾くような、不気味な声が響く。
「逸楽に興じに来たが、まさか猟兵まで居るとは。僥倖、僥倖──」
「お、お前は……!」
まるで影から生成されるように、闇の中から一人の男が現れる。
その姿を見て、月詠は驚きの声を上げた。
「……誰だ!?」
「私は唯の影法師、闇より出で、全てを闇に帰すもの……さあ死合おう、血の宴の為に!」
偶発的に訪れた、最後の戦いの幕が切って落とされた。
※最終戦です。見ての通り、月詠とは何の関係もない方にお越しいただきました。言動が怪しいのは、そういう人だからです。暗闇は趣味。
その趣味のせいで、部屋は完全に真っ暗です。この状態では相手の影を用いた攻撃は周囲と同化し、視認することが非常に困難となります。何らかの方法で灯りを付けることに成功した場合、それ以降のプレイングではそちらの状況を採用していただいても構いません。影朧を挟んで部屋の向かい側に機材室があり、そこから部屋に蛍光灯程度の灯りを付けることが可能です。向かう場合は、影朧の横を通り抜ける方法を明記してください。
また、月詠はこの状況でも完全に目が見えています。一般人なりに協力してくれるでしょう。とはいえ、攻撃を見切ったりだとかは無理です。
それでは最終章、よろしくお願いいたします。
※まだリプライは上がっていませんが、部屋に明かりがつきました
勿論、この先も部屋に灯りをつけるプレイングを送っていただいて構いません。
南青台・紙代
成程、元影朧であったか。
うむそういう心の機微を
察せないとは、やはり我輩はまだまだ
文豪として未熟であるなあ……
さて、罪の裁きに関してはここを切り抜けてから考えるとしよう。
『電脳ゴーグル』を着け影朧を直視しないようにしつつ、UCで小型兵器達を呼び出し攻撃。
兵器達からでは生命力は吸収できまい?
誰かが灯りを点けようとするならそのための《時間稼ぎ》を行おう。
心中で恐れる何かの影か。さて、見えるとするならば
厳しい出版社の人間であろうか……ナメクジではないといいが。
後その、事件が落着したらラジオ局員の皆様は、
ちゃんと家に帰って休まれた方がよいのである。
温かい風呂に浸かりふかふかの布団でしっかり眠られよ。な?
「ふむ、今回の事件はそういう絡繰であったか……吾輩もまだまだ、文豪として未熟であるなあ」
前世の宿縁が引き起こしたラジオ局の物語は、終わりを告げた。南青台・紙代(言の葉綴りし青蛇女・f23355)は腰を抜かしている“黒幕”を見やって、愚痴るように呟く。
作家として、彼の心中に切り込んでいきたいところだが……その前に、片付けなければならない問題がある。彼女は暗闇の中、前を見据えた。情緒も伏線も何も無く、ただ目の前の命を奪い尽くさんと刃を振るう影朧がいる。
「最後がこれでは、後書きにもならんな」
そう言って、ゴーグルを身に着けた。その視界は暗闇を無効化し、データ化された空間で敵や味方の位置を完全に把握する。
向こうから飛んでくる流れ弾は軽くいなしながら、南青台は空間に数多の小さな人型を創り出した。相手に恐怖を与える歪んだ影を自分は視界に収めないように努めつつ、機械仕掛けの兵器を嗾ける。彼らにとって暗闇は意味をなさず、恐怖にも無縁だ。まともに戦える戦力ではなかったが、それで十分だった。目的はあくまで舞台を整えるための時間稼ぎだ。
「便利な物よなあ……」
そう呟いて、もしも自分が敵を見てしまったら何が写るのか、などと考えてしまう。締め切りの呪詛を操る邪悪な魔法使い、或いは“アレ”……
「げーっ」
よせばいいのに、想像しただけで気分を悪くしてしまうのだった。
大成功
🔵🔵🔵
リーオ・ヘクスマキナ
暗闇で視認し辛い攻撃……黒塗りの何かと仮定。暗室は不利
けれど機材室はヤツの向こうで、照明弾は約1分が限度
しかも咄嗟に照明を操作できるほどこの施設に詳しくはない
……ならっ!
ザ・デスペラードに照明弾を装填
他の猟兵や月詠に警告してから背後に射出し閃光弾代わりに
敵の視界を数瞬光で灼き、こちらは逆光による一時的な地の利と光源を確保
(武器改造、戦闘知識
この間に赤頭巾さんに月詠を護送して貰いつつ、UCの異能封じの茨、赤頭巾さん経由の障壁魔術でや携行火器の射撃で足止めに専念
(オーラ防御、援護射撃
影は直視を避け、視界に入れるのみで"見ない"
月詠さんの処遇は後、というか他の人に任す! 先ずは驚異の排除!
(暗闇で視認し辛い攻撃……この状況は不利か)
極めて突然の状況に対しても、リーオ・ヘクスマキナ(魅入られた約束履行者・f04190)は瞬時に戦局判断を完了していた。
灯りが必要だ。向こう側から自分や月詠の方に飛んでくる攻撃を『赤ずきんさん』に対処させながら、考えを巡らせる。この状況で影朧の横を通り抜けて機材室まで行くのは現実的ではない、ならば……
「月詠さん、避難を! あと目ぇつぶって!」
返事を待っている暇などない。携帯していた榴弾発射装置を後方に構え、放った。飛び出した照明弾が破裂し、どんな人工灯よりも強い光を生み出した。突然に目を灼かれた敵の攻撃が、明後日の方向に飛び去り、或いは障壁に相殺される。
露わになった敵の姿を、リーオは見ないように努めた。だが──
「分かっているのだろう? 何が見えるのか」
悪意に満ちた声が投げられる。彼に向けられた物であることは明確だった。
「どれだけ目を背けた所で、影は貴様の傍にある。光の元に住まおうとする限り、罪は黒く輝き続けるのだ」
動きを止めた少年の首に、一筋の黒い糸が迫る。
この世の全てを等しく影に染め上げようとする歪んだ意志が、彼の命を奪う……寸前、その先端が切り払われた。それと同時に、影朧の周囲から現れ出た茨がその身体を捉え、少女の形に歪んでいた姿を元に戻して行く。
「……知ってるさ。目を背けようって訳じゃないけど……お前には関係ないだろ」
巨斧を構えた赤色の巨人は、悠然と少年の傍につき従っていた。さながら、影のように。
「影だってんならそれでも良いよ。隣に居てくれるなら、今はそれで」
眩いばかりの光を背に、少年は不敵に笑った。
大成功
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御園・桜花
「影朧を呼ぶだけで罪になるなら、幻朧桜を全て伐採しなければならなくなります。私達猟兵には問題ありません」
「…こんな時に、間の悪い方」
暗視あり
UC「桜吹雪」使用
敵のみ斬り刻む
敵の攻撃は第六感や見切りで躱す
月詠に当たりそうな攻撃のみ盾受け
敵が消滅する際は破魔と慰め乗せた鎮魂歌で送る
「闘争に未だ満足されぬなら。どうぞ転生を望んで下さい。私はまた逢える日をお待ちしております」
「影朧に転生を促せないこと、未練多くなくなる方が影朧になること。どちらも私には恐ろしい。月詠さんの願いも理解出来ます。特に仲間と感じた方々にならば。ただ、桜學府には業務妨害に当たるかもしれません。それは桜學府と話し合って下さいね」
「現れた影朧を退治し、転生への導きを行うのが私達猟兵の役目……影朧を呼ぶだけで罪に問われることはありません」
影朧の奇襲という非常事態にあって、御園・桜花(桜の精のパーラーメイド・f23155)はあくまで冷静さを崩さずに依頼主に語り掛ける。影朧と関わる上で明らかに悪意を持っている人物ですら、猟兵が直接処罰することは稀なのだ。
彼を落ち着かせるため、その旨を伝えようと試みたが──
「……こんな時に、間の悪い方」
翡翠色の瞳が、闇に身を包んだ闖入者に向けられる。
ただ闘争を求めた末に堕ちた亡霊……そう、相手が何であっても浄化するのが彼女の役目なのだ。息を大きく吸って霊力を集め、闇を見通す。影法師は歪んだ笑みを大きくして、その姿を変え始めた。今まで彼女が退治したオブリビオン、浄化しきれなかった影朧……そして、彼女の記憶も残らぬ遠い過去に、とある家で虐殺を行った存在。相手に効率的に恐怖を与える為に選ばれたその姿を、彼女は直視した。
「……確かに、影朧に転生を促せないこと、未練多くなくなる方が影朧になること。どちらも私には恐ろしい。月詠さんの気持ちも分かります──」
述懐のように呟いた言葉に向かって、或いは恐怖に震える有志の一般人に向かって、触手が伸ばされる。致命的な闇色の輝きが、その命を容易く奪う……
「ですが、恐れて立ち止まっている暇はありません」
……ことは無かった。彼女は恐怖を正面から直視した儘、卓越した霊感でその全てを最小限の動きで回避、かつ依頼主に対する被害の全てを盾で受け止めきって見せたのだ。
影の顔が、今度は驚愕で歪む。少女は息を大きく吸い、祈りを込めた鎮魂歌を奏で始める。
「闘争に未だ満足されぬなら。どうぞ転生を望んで下さい。私はまた逢える日をお待ちしております」
それは、敵に向けられた純粋な願いだった。
大成功
🔵🔵🔵
スリジエ・シエルリュンヌ
明かりがついたのなら…前衛型の私でも動けます!
パイプの煙を吹き掛けますね!私のユーベルコード、こういう時には不向きなんです…!
でも、絶対に月詠さんには、怪我をさせません!!絶対に守ってみせます!
あ、ええと。帝都にこんな言葉がありますよね。
『終わりよければすべてよし』
…いいのではないですか、月詠さん。
私がただの人間であって、月詠さんの立場なら、同じこと、したと思います。
それに…ラジオの再開を待ってる人たちもいますから。周波数はそのままで…でしょ?
「! 灯りが……!」
猟兵としての経験は浅いスリジエ・シエルリュンヌ(桜の精の猟奇探偵・f27365)だが、照明弾によって視界が確保された瞬間の判断は早かった。
即座に一歩足を踏み出し影朧に肉薄すると、振り払われた刃を紙一重で回避。その反動を利用して勢いを付け、パイプに仕込まれた麻痺毒を吹き掛ける。
更に振り返る動きで桜色の袖を翻す。巻き起こった風が桜の花弁に転化し、男に襲い掛かった。
「光……遠く……闘争は、何処ぞ……」
灯りに照らされた上、麻痺毒に眠りを齎す桜をまともに食らってしまい、影朧の動きが露骨に鈍り始めた。見る者に恐怖を与える邪術も維持できず、その姿をどろどろと崩れさせ始める。
「よしっ、撤退!」
本来彼女の異能は、こういった直接戦闘には不向きだ。為すべきことを終えたシエルリュンヌは、他の猟兵の邪魔にならない位置へと引き退る。
それから、目の前で繰り広げられる異能の応酬を茫然自失としながら見つめるラジオパーソナリティに笑いかける。
「月詠さん……帝都には、『終わり良ければ全てよし』という言葉もあります。結果として軍隊が誰かを傷つけることはなく、こうして大団円で終わろうとしているのですから……また、お話を聞かせてくださいね?」
周波数はそのまま、でしょう? そう悪戯っぽく言うのだった。
大成功
🔵🔵🔵
秋山・小夜
鈴木志乃さんと
アドリブ歓迎 ユーベルコードの発動タイミングはお任せします。
「……また変なのが来ましたね。」
室内での戦闘であることを考えて、妖刀夜桜一本で対応。ほぼほぼ直感での回避になったりすると思うが、嗅覚が頼りになるなら嗅覚を頼りに接近、戦闘を試みる。ややきつそうなら、九九式軽機関銃も展開して、戦闘を続行する。
鈴木・志乃
秋山小夜ちゃんと
アド連歓迎
UCで真の姿である光球に変化
ぴっかぴか光って影の刃も触手も届かせない
第六感で行動を見切り光の鎖で早業武器受け
念動力で鎖を操作しカウンター捕縛
当然だけど武器にも高速詠唱で破魔の祈りを籠めとくよ!
あほか、何が裁けだ
あんたは何一つ悪い事なんてしてないじゃないか
疑って悪かった、影朧を集めて……
弔いをしてくれてありがとう
影の中には行くなよ! アイツの間合いだ!
貴方は私が護るから、離れないで
死者の弔いには無粋なリスナーだ
さっさと退場してもらうに限るね
小夜ちゃん、頼んだよ超火力武器庫!
月詠さんお部屋ぶっ壊れますごめんなさい!
隙が出来たら破魔の全力魔法でなぎ払い攻撃
「……話は、分かりました。月詠さん。貴方は何一つ、裁かれるようなことをしていない」
祓われつつある暗闇の部屋で、鈴木・志乃(ブラック・f12101)は静かに、しかし決意を込めた声で言う。
「疑って悪かった。あんたのしようとしたことは、間違いなく弔いだ……小夜ちゃん!」
「了解」
阿吽の呼吸で返答した秋山・小夜(お淑やかなのは見た目だけ。つまり歩く武器庫。・f15127)は、素早く武装を展開する。狭い放送室内で日本刀一本だけを構え、瞬歩で敵との距離を詰めた。黒い刀身が、闇の中で鈍く光る。
同時に、志乃は自らの真の姿を解き放った。自ら輝きを放つ光球と化した彼女から飛び出した鎖が、愚かしいまでに突出した少女に振るわれた刃を受け止める。
武器を奪われた影朧は、今度は光に目を眩ませながら四方八方に影を伸ばす。それらは尽くかき消され、防がれ、或いは光も闇も"見ていない"少女によって回避される。その胸元を、ついに妖刀が捉えた。
「ガッ……や、みは……不滅……影、ある、かぎり……!」
男は血のように黒い闇を吹き出す。小夜は第六感でそれを躱しきり、志乃の隣へと舞い戻った。
「今だよ小夜ちゃん、超火力!」
「分かったぜ……部屋壊れるけど、良いよな!」
「「無粋なリスナーは退場だ!」」
その日——
程度の一角に聳えるラジオ局の建物から、巨大な轟音と煙が上がった。
重火器による一斉攻撃と、最大出力の破魔魔法。二人の全力攻撃により、放送室の建物に大穴が開いた。その前に佇む黒い男は、その姿を塵へと変えて行く。
影が壁の穴に吸い込まれ、消えてしまってから……
「……あァ」
部屋の主人は、一つ声を漏らした。
「朝日だ」
半年間、一人の男の過去と宿縁を隠し通し続けた、闇に満ちた建物。
そこに、初めて光が差し込んだ瞬間であった。
暫くして……
真夜中の帝都で、眠れぬ市民が今日もラジオの周波数を合わせる。
電波の発信源では、以前より少し風通しの良くなった部屋で一人の男が今日も語っている。
「さァ今宵も始まりました、月詠調がお送りする『ミッドナイト・パレェド』——」
大成功
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