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慟哭スーサイド・サイド

#UDCアース

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#UDCアース


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「やめて、やめてやめてよぉ!」

 何度叫んだだろう。
 何度泣いただろう。
 何度助けを求めたろう。
 何度救いを求めたろう。

「あっはっは! ウケるんだけど!」
「ねぇねぇ動画撮ってみんなに回そうぜー!」
「いいねぇー!」

 誰もその訴えを聞いてはくれなかった。
 親も教師も世間も、全て。

『折角私立に入れてやったのに!』
『友達同士のちょっとしたじゃれ合いでしょう?』
『喧嘩両成敗だろう、謝ってるんだから許してやれ』

 私の悲鳴はなかったことにされた。
 私の慟哭はなかったことにされた。
 納得行かない。納得できない。
 私の傷の価値を、私以外の誰かが勝手に決めて。

 逃げるしかなかった。消えるしかなかった。
 止めるしかなかった。これ以上、生きているのを。

『あなたの慟哭、確かに聞き届けました』
 ―――その声は、少女の命が尽きる前に、不意に頭に響いた。

『神は、あなたを救うでしょう』


「いじめられた事ってある?」
 グリモア猟兵、煌希・舞楽は、自身が召喚した猟兵達にそう問いかけた。

「マイラはないわ。でもこの子はそうじゃなかったみたい」
 グリモアベースの空中に映し出されたのは、なんの変哲もない一人の少女だった。
 あえて特徴を上げるとすれば、長い髪の毛と赤いリボンくらいだろうか。

「名前は『多恵(タエ)』っていうの。ひどいいじめを受けて……誰に助けを求めても、真面目に取り合ってくれなくて、絶望してしまったの」
 わざわざ詳細を語りはしないが、それはとても凄惨なものだったという。
 自ら死を選んでしまうほどに。

「事件が起こるのは、UDCアースね。鎌倉にある『信星館学園(シンセイカンガクエン)』っていう所。小中高まで一貫性の、歴史あるマンモス私立? って奴らしいの。そこで多恵は自殺したの。屋上からの飛び降りだったみたい」
 グリモアベースに浮かぶ映像が切り替わる。鎌倉の山奥に聳える、巨大な校舎だ。

「けど、死ぬ直前に多恵は邪神に見初められたの。『復讐させてやる、代わりに生贄を捧げ、我を復活させよ』って。マイラが見たのは、その多恵が自分をいじめていたクラスメートを殺して、生贄にしようとする所。皆にはソレを食い止めてほしい、つまり……」
 邪神の眷属となった多恵は、自分をいじめていたクラスメートを殺し、邪神への贄にしようとしている。

 そうすれば、より大きな力を持った邪神が目覚め――被害は学園全体に及ぶだろう。
 在籍生徒数は下から上まで、おおよそ二千人、全寮制なので、どんな時間帯でも、ほぼ全員が学園の敷地内にいる。
 それを防ぐ為に……。

 ――多恵をいじめ殺した、加害者達を助け出し。
 ――被害者である多恵を、倒してほしい。

 そこで、舞楽は耳をぺたん、と落とした。

「あのね、具体的にいつ、どこで、どうやって殺すつもりなのかがわからないの。っていうのも、この学園、外に全然記録とか情報が出てこないの。内部に入って探ってみない事には、どうしようもなくて。だからまず、皆には学園に潜入して情報を調べてほしいの。邪神に生贄を捧げる『儀式』だから、決まった時間に決まった方法で殺す必要があるの、だからのんびりもしていられないけれど、時間の猶予が一切ない、っていうわけじゃないの」
 手段と方法は任せるの、皆なら上手くやれるでしょ? と舞楽は続けた。

「殺される……つまり、いじめてた生徒の名前ぐらいはわかるの。『愛美(アミ)』『歌詠(カヨ)』『紗夜(サヤ)』『七穂(ナホ)』の四人よ。全員高校一年生、クラスも一緒。他に質問はある?」
 他に質問はある? と首を傾げると、猟兵の一人が言った。

 ……本当に、殺すしか無いのか?
 と。

「……わからないわ。だって未来がどうなるかは、これから決まるんだもの。だけど、一つだけ間違いなく言えることは」
 黒い体毛に覆われ、爪だけが翠に輝く人差し指を立て、舞楽は告げた。

「一人でも。多恵が誰か一人でも手にかけたら、その時点で彼女が救われる余地はなくなると思うの」
 たとえどんな理由があろうとも。
 誰かを傷つけ、自死に追い込んだ果ての自業自得だとしても。
 それでも――その行為は、許されるものではないのだと。

「……それじゃあ、説明は以上。皆、頑張って欲しいの」
 ペコリと頭を下げて、舞楽は猟兵達を送り出した。


甘党
 甘党です。
 今回はちょっと変わった趣向のシナリオになります。
 具体的に言うと連続シナリオ予定の一作目であり、話は続く予定です。
 予定というのは猟兵の皆さんが何をやらかすかわからないので結果的に話が速攻で終わる可能性もあるからです。
 PBWの可能性はいつだって無限大だぜ。
 というわけで以下補足。

 ●人物・用語
 多恵(タエ) … た行のいじめられっ子。女生徒です。自殺を試み、死ぬ直前で邪神と契約しました。

 愛美(アミ) … あ行のいじめっ子。ショートカット。いじめの主犯格。
 歌詠(カヨ) … か行のいじめっ子。ツインテール。
 紗夜(サヤ) … さ行のいじめっ子。ボブカット。
 七穂(ナホ) … な行のいじめっ子。三つ編みメガネ。

 信星館学園(シンセイカンガクエン) … 鎌倉の山奥にある小中高一貫の全寮制私立校。表に一切情報が出てこないし、誰もそれを疑問に思わない不思議な学校。

 ●各章の判定に関して。
 一章で集まった情報を元に、二章での行動や、次以降のシナリオの内容が若干変化します(内容そのものはフラグメントに準じます)。
 一章では大まかに『学園に関して調べる』『いじめに関して調べる』等があると思いますが、基本的に何を探っても大丈夫です。

 二章においては赤丸の数が一定値を超えるごとに、一人ずつ犠牲者が出ます。
 誰か一人でも多恵の手にかかっていじめっ子が死亡した場合、多恵を殺害する以外の方法で事件を収束することはできなくなります。

 三章において、『二章で誰も死亡しなかった場合』は説得や懐柔といったプレイングを試みることができます。
 勿論、同情の余地はないとして倒してしまっても構いません、皆さんの判断におまかせします。

 ●プレイングの採用に関して
 いい感じに採用していくつもりですが、全採用はちょっと難しいかと思います。
 また、一度失効してしまっても投稿出来るようであれば再度頂いても問題ありません。
 返す時は早めに返すようにいたします。

 ●合わせプレイングなどについて
 冒頭に合わせる相手の『名前(f00000)』というカタチで明記してくれると助かりまくります。
 独自の呼び方があったらそれを教えてくれるともっと助かります。
 旅団単位での合わせの際は、わかりやすい名前で書いといてくれるともっと助かりファイヤーです。

 以上になります、どうか、よろしくおねがいします。
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第1章 冒険 『鎌倉にある学園を調査せよ』

POW   :    学園関係者に直接聞く

SPD   :    学園の周囲や内部から痕跡を見つける

WIZ   :    学園の書類やデータベースを当たってみる

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━
【0】

 信星館学園(シンセイカンガクエン)。
 鎌倉の山を切り開き作られた、四つの校舎と二つの寮からなる、全寮制の大型私立学園。
 生徒の総数はおおよそ二千人。
 設立は今から29年前となる1990年。以来、数多の生徒を排出してきた名門校である。

 ……と“されている”。

 この日、学園は複数名の転入生を受け入れた。
 受験シーズン真っ只中のこの時期に、だが、それ自体はさほど珍しいことでもなかった。
 なにせこの学園は……人の出入りが激しいのだ。
 ある日突然、人が転校したり、ある日突然、人が転入してきたりする。

 日常茶飯事だから、他の生徒達も対して気にしたりはしない。
 あるいは……気にすることを、忘れてしまっている。

…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━
狗衣宮・藍狐

正直欠片も可愛くないし綺麗でもない事件で気に食わないけど。化粧と同じ。見れたものじゃなくても、手を施せばまだ救いようってあるから。

なんてったって花の15歳。あたしは学校に潜入して生徒たちと仲良くなって聞き出してみるね。
誘惑で何人か女生徒に声かけてみて、グラフィティスプラッシュで早業アートのメイクをしてあげちゃう!そこからコミュ力で情報収集するわ。

聞き出すことはいじめに関して。特にどこでどんないじめをしていたのか。あとは――七穂って子、元は多恵ちゃんと仲、良かったりしなかった?
ちょーっと地味で、一緒にいじめの対象にされて自己保身で寝返ったとかありそうよね。もしそうだったら、一番最初の標的かも?


ジョン・ブラウン


スクールカーストってのは何処にでも有るんだね

じゃあ僕は、そのいじめっ子グループに直接絡んでみようか
パリピのノリは得意じゃないけど……ま、合わせるさ
年も近いし転校生ってことで……髪とか切ったほうがいいかなぁ?

さて、彼女たちは何でイジメなんかしてたんだろう
いじめっ子って感じじゃない見た目の子もいるけど……
故郷に居たハイスクールの女王様と取り巻きに似て、頭スッカスカな理由なら悲しいけど話は早いんだけどね

プロファイリング、なんて上等なもんじゃないが
コミュれば多少は彼女たち一人ひとりの事情や人となりは調べられそうかな

   Stand by Lady
さぁレディの心に寄り添う準備はいいかい、僕は出来てるよ


メア・ソゥムヌュクスス
長い髪を揺らしながら、うとうと歩く女の子。
いつも授業中に夢うつつ、ちゃんと授業聞いてるのかな?
今日ものんびりゆったり登校してる。

あれ、でも、あんな子だったっけ?

あ、目が合った__



はーい、こちら潜入中のメアだよー。合う人合う人催眠させるの結構大変だねー。
とりあえず、学生になりきって情報収集してみるよー。
いじめっ子達のクラスを探して、入り込んで一日一緒に授業受けてみるよー。
ちょっと我慢しなきゃだけどねー。

あははー、ほら丁度良く『開いてる席』があるんじゃないかなー?
【激痛耐性】【学習力】【コミュ力】
(周囲を催眠させ、多恵に成り変わって数限授業を過ごして、いじめっこ達の情報を収集します)



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【1】

「はふ……」

 朝から眠気が押し寄せる。授業はタイクツで、日常に刺激はない。
 けれど、下手にあくびなんてしたら、先生から厳しく叱られる、ここはそういう学校だ。
 黒板に目を向けるふりをして、話を聞いているふりをして、適当にやり過ごす。
 ノートは問題ない、どうせ隣の奴のをコピーすればいいのだ。
 彼女は私達に逆らえない、いや、私達というよりは、私達のリーダーに、だが。
 でも、彼女が悪いのだ。安定していたチームや集団の和を乱すやつこそが、最もいけないに決まっている。

「……ん?」

 あれ? と不意に頭にノイズが走った感覚。
 私は、隣の席に座っているはずの、そいつの顔を見た。

 ふわふわの 長い髪の毛。

  あれ? こんな顔だったっけ。

 ちがうって、ここの席に座ってたのは……。

  沈んでいく夕日みたいな瞳。

 きらきらしていて。

  トテモキレイ。

「誰――?」
「誰だと思う?」

 “そいつ”は、にこりと微笑んだ。
 その瞳を見てしまった。



「ここに座ってた人のこと、覚えてる?」
「……誰、だっけ……」
「多恵ちゃん。って言うはずだったんだけどなー?」
「多……恵……そう、だ、多恵……」

 授業中にもかかわらず、そう問いかける少女の様子を、誰も気にしない。
 周りの生徒も、教鞭をとる教師もだ。
 机二つ分の小さな空間だけが、切り取られてしまっているかのように。

「そう、多恵ちゃん。ねえー、なんで多恵ちゃんをいじめようなんて思ったのー?」

 虚ろな瞳の女生徒――は、視点をどこにも合わさないまま、ぽつりぽつりと言葉を紡ぐ。



「愛美、と多恵、が喧嘩に、なっ、て……」
「もう……多恵、は、私達の、グループじゃない、って、いうから……」
「そのとおりに……した、だけ……」
「だから…………だから…………だから…………だから、だからだからだからだからだから」



 それ以上の言葉が出てこない。
 けど、問いかける少女は、続きを知っていた。

「だから、自殺しちゃったのはあなたのせいじゃない? “歌詠ちゃん”」

 囁くように呟いた少女の言葉に対する反応は、劇的だった。

「…………っ! っ、っ! …………っ!」

 何かにつっかえたように呼吸が止まり、吐き出そうとしても吐き出せず、続きをどうしても言うことができない。

「ああー、もういいよ、ごめんねー。これは夢だから。起きたら、忘れちゃうよー」
「……っ、が、う……ぅ……」

 体の力が一瞬で抜けて、頭を机にぶつける前に、少女は片手でそれを受け止めて、大きく手を上げた。

「先生ー、歌詠ちゃんが体調悪そうだから、保健室に連れて行くねー」

 ギロリと教師がメアを睨む。だが、視線があった瞬間、一瞬で瞳から光が消え失せる。

「いいよねー? せんせー?」
「……ああ、いい、とも。勿論」

 深い眠りに落ちた歌詠と肩を組んで、半ば引きずるように歩き出す。
 廊下に出てから、はふ、と息を吐いて。
 夕焼けの瞳の少女――メア・ソゥムヌュクスス(夢見の羊・f00334)は意識を失った歌詠の横顔を見た。

「グィ、グィィ、グ、グィィゥ……グゥィ、グッ、ウィィ……」

 ぐるりと眼球が裏返り、何かの鳴き声のような声をあげ続けるばかり。

「“もう誰かに催眠をかけられてる”……かぁー、うーん、これは大変そうだねー」

…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━
【2】

「ねえ、ちょっといいかい? このショッケン、っていうの? どう使うかわかる?」

 背後から声をかけられて、思わず振り向いて、視界に入ったのは、背の高い男子生徒だった。
 癖の強い赤毛の、見覚えのない……そういえば、先日から“また”、そこそこの数の転入生が入ってきたんだった。
 見た感じ、日本人でもないようだし、きっと文化が違うんだろう。

「えっと、お金を入れて、食べたいものが書かれたボタンを押せばいいんだけど」
「へえ、いいね、合理的。僕の地元じゃさ、信じられる? メニューなんてないんだぜ、店に入ったら勝手にテーブルに料理が置かれるんだ。サンディーおばさんが気まぐれに作った家庭料理をさ。ま、値段も適当なんだけどね」

 軽口を叩きながら、男子生徒は一万円札を食券機に入れて……べー、と舌を出すように、戻ってきた。

「あれ?」
「そこ、千円までしか使えないんだよ。千円以下のメニューなんてないくせに」
「うわ、ダンおじさんよりも融通がきかないや。どうしよ、僕これしか持ってないんだけど」

 困ったように肩をすくめる男子生徒を見て、私は思わず笑ってしまった。

「崩してあげよっか?」
「いいの? これ、パンチパーマのおっさん十人分って聞いたけど」
「野口英世をそんなふうに言う人は初めて見たよ……」

 財布を取り出して、五千円札と千円札五枚、ちゃんと数えて、それを見せてから、一万円札と交換する。
 ヒュゥ、と軽く口笛を吹いてから、男子生徒は続けて、

「親切ついでに頼みがあるんだけど、僕、この国の文字読めないんだよね。外のサンプルに煮込みハンバーグのシチューがあったんだ。ロゼッタおばさんが作ったのを思い出すよ。味も似てるといいんだけど」
「あ、それ美味しいよ、私も好き……って、そんな日本語ペラペラなのに?」
「言うのと読むのじゃ勝手が違ってさ。よく転入できたもんだよ」

 自分で言うんだ……と少し呆れながら、私はボタンを押してあげた。
 食券がストンとでてくる。渡してあげようと屈んで取り出し口を覗き込むと、もう一枚落ちてきた。

「?」
「これは両替のお礼。好きなんだろ? 同じのでいいよね?」

 目を見開いた私から、長い手が伸びて、二枚の食券が持ち去られた。

「……ええっと、奢ってもらっちゃっていいのかな」
「もう買っちゃったから、返金不可でしょ、これ」
「その……ありがとう、えっと……」
「ジョン」

 にっと歯を見せた。不健康そうな目の隈なのに、中々愛嬌のある、不思議な笑顔だった。

「ジョン・ブラウン。君は?」

 男子生徒――ジョンに、私はつられて、小さく笑った。

「一年の、明野・紗夜、よろしくね、ジョン」

 ●

 金と時間をかければ食い物はうまくなる。つまりこの煮込みハンバーグはそれなりに金と時間がかかっている。
 資金に関してはUDCの経費だし、食事に関しては期待してなかっただけに、これはなかなか収穫だった。
 なによりターゲットと接触できたのがいい。狙っていなかったといえば嘘になるが――。

(さて、どうしたものかね)

 眼前の少女は、ジョンの目から見て――――。

「な、何、じっと見て」

 匙でハンバーグを崩していた紗夜が、怪訝そうな顔でこちらを見る。

「いや、食べ方がね。レーシャはそれぐらいのハンバーグ、二口で食べちゃうもんだから。日本人って口が小さいの?」
「ふ、普通だよ。誰、レーシャって」
「ガールフレンド、こっちに来る前の」
「……女の子を他の女の子と比べるのは辞めたほうがいいよ?」
「それ、前も言われた」
「懲りてないってことじゃない」

 ……年相応に顔を歪めさせる少女のそれは、“普通”だ。
 とても誰かをいじめた挙げ句、死なせたように見えない。
 あるいは……。

「いやあ、こんな性格なもんだからさ、結構目ぇつけられちゃって。あっちのハイスクールに通えなくなっちゃったんだよね」
「目、って?」
「いじめ」

 ビクッと。
 肩を震わせて反応した。恐ろしいほどにわかりやすい。どこまでも“普通”だ。

「そ、そう、なんだ……」
「ひどいもんさ、ロビンおじさんはハイスクールに殴り込みに行ってくれたけど、余計大事になっちゃってさ。遠い島国まで引っ越しってワケ」

 言葉は力なく、目を伏せる。食事の手は止まってしまった。

「人間の悪意って怖いよね。敵だと思ったら容赦ないんだから。きっかけなんてなんだっていいんだよね。……顔色悪いよ?」
「…………ねえ」

 次に紗夜が顔を上げた時、その目にあったのは、困惑と糾弾だった。

『お前は、何を知っているんだ』 そして 『お前は、何を言いたいんだ』

 対する返答は、一つに決まっている。

「君は、何をしたんだ?」

…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━
【3】

「すごーい! これ私!?」

 昼食を先に済ませる主義の生徒たちが食堂に向かった一方で、後回し派や、そもそもダイエットのために食べない、とか。
 そんな理由でクラスに残った女子達が、その机の前に集まっていた。
 手鏡を覗き込んでは、小さくなった(様に見える)自分の顔を何度も見返しては、驚嘆の吐息をこぼす。
 一人に施せば次は私も、となるのは自然な流れで。

「ほら、順番に並んで並んで」

 狗衣宮・藍狐(キューティースタイリスト・f00011)にとって、それは決してこなせない作業ではなかった。
 花街で、花魁達の複雑かつ精緻な化粧を担う藍狐にとって、UDCアースの女学生がスキマ時間に行う化粧のそれは、簡略化されていてもなお見事に栄える。

「藍狐ちゃん、本当にすごーい、これどうやってるの?」
「企業秘密。でも、参考になるでしょ?」

 そもそも、お肌の下地をちゃんと作ってないとか、日々のお手入れに熱心ではないとか、パフ一つにしたって粉のつけ過ぎは――とか。
 言いたいことはいろいろあるけど、全て飲みこんでの笑顔で、集まってくる女子達に簡単な化粧を施しては、一つ一つ手順を説明していく。
 普段使いの廓言葉も封印である。元より己が被る仮面の一つであるにせよ、流石にキャラが立ちすぎだ。調査どころではなくなってしまう。

「……あー、ねえ、七穂もやってもらったら?」

 化粧を終えた生徒の一人が、教室の隅で本を読んでいた生徒に声をかけた。
 黒髪の三つ編みを流し、眼鏡をかけた少女は、え、と顔を上げた。

(…………)

 一瞬藍狐があっけにとられたのは、それが死体に見えたからだ。
 血の気がない。生気がない。かろうじて人の形を保っているゾンビだと言われたら、信じてしまいそうになるぐらい、その少女から感じ取れるものがなかった。

「いや、私は、別に……」

 当の本人は、そう言って言葉を濁し、本を閉じた。
 居心地悪そうに教室を出ていこうとする少女を目で追いかける。

(……あの子が七穂ちゃん、か)

「ね、待って待って」

 ひょいと立ち上がって、その背を追う。ぎょっと目を開いて、七穂は歩く速度を上げた。

「……………………」
「そういえば、この学校って本当に広いのね。一人だと迷子になりそう」

 廊下を歩く。その後を追う。
 廊下を歩く。まだまだ追う。
 トイレに入った。その後を、

「いい加減にしてよ! どこまでついてくる気!?」

 ようやく浮かんだ意志、七穂の怒りの形相には、しっかりと見るまでもなく濃い隈が刻まれていた。
 藍狐は、しかしその感情に怯まず、じろじろと顔を無遠慮に眺め回す。

「な、何よ……」
「寝てないでしょ、それにあまり食べてもない。休みも食事も足りてないから、肌がボロボロ」
「んっ……」
「髪の毛もキシキシ。濯ぎが足りてない。自分に気を使えない人間って、余裕が無いって知ってた?」

 あまりにもデリカシーのない物言いに、七穂の顔が真っ赤に染まる。
 激怒が爆発するその寸前で、藍狐が更に言葉を重ねた。

「――――そんな不細工になるぐらい、罪悪感を感じるぐらいなら、なんでいじめなんてしたの?」

 ビクッ、と体を引きつらせ、七穂は一歩後ずさった。
 トイレには、誰も入ってこない。

「ち、ちが、私、私じゃな……」
「別に責めてるわけじゃ“ありんせん”、どの道、“わっち”は正しい正しくないに頓着はありんせんから」

 言葉と裏腹に、藍狐の瞳は冷えていた。
 そして、その視線を向けられたものが、責められると感じるのであれば、それは己の罪悪感に食われているだけだ。
 腹に何かを抱えている人間は、鏡写しの視線に耐えられないことを、藍狐はよく知っている。
 言葉の裏に刃を仕込ませる花街では、当たり前の処世術。

「けど、その様は化粧にしては不細工がすぎるでありんす。わっちが知りたいのは、なんで多恵という少女が虐げられたのか、それだけでありんす」
「あ、あなた、多恵のなんなの……!?」

 突如、言葉遣いと雰囲気までもを変化させた藍狐が口走った名前に、七穂がどんどん混乱していくのがわかる。
 感情が揺さぶられ、意識が動じて揺らげば、言葉を引きずり出すのは簡単だ。

「なんの関係もありんせん。でも、関係があるのに知らないふりをしているよりはいくらか上等でありんしょう?」

 人間が自らを縛る時、枷になるのはいつだって良心だ。
 それを揺さぶってやれば、ほらこの通り。


「……だ、だって仕方ないじゃない! 多恵と仲良くしてたら、私がいじめられるんだもの! けどっ、けどっ!
 飛び降りるなんて、死ぬなんて思ってなかったのっ! けど、どこにもいないの! 先生は何も心配するなっていうけど、ど、どこにも、居ないの……!
 わけわかんなくて、どうしたらいいか、わかんなくて……だ、だって……!」


 悲鳴のようなその叫びを、藍狐は聞き届け、そして――――。

「……いったでありんしょう。責める気はありんせん」

 七穂の頭に、そっと手をおいた。

「まだ手の施しようはありんす。帰ってくる場所が、きっと必要になりんしょう。ぬしさまはどうか、その為の場所になっておくんなんし」

 鞭の後に与えられるのは、飴であるべきだろう。
 実際に飴になるかどうかは、今後の展望次第ではあるのだが――。

(――――“多恵”は確かに飛び降りた。その景色を目撃している)
(けれど――“先生”ね、思ったよりきな臭いじゃないの)

 これから待ち受ける大きな闇の気配を感じ、藍狐は心の中で、静かに深い溜め息をついた。

…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

月輪・美月

……気分のいい話ではありませんが、これを放置すれば、それこそ何の救いもないまま終わってしまいます
いじめっ子達を助ける事が、多恵さんを助ける事に繋がると信じて、まずは情報収集です

僕は愛美さんを中心に探りを入れましょう……誰かが誰かを害する時、そこには些細なことかもしれませんが理由はあるはず。いじめの原因を特定し、次につなげて行きたい

後の事を考え、ボディーガードの意味も込めて近くにいられる状況を整えたいです
年齢も近いですし、生徒として潜入……猟兵の身ならば、そこまで違和感もないでしょう。僕はまあ、女の子と仲良くなるのは得意な方ですし
右も左も分からない転校生として、仲良くなる事から初めてみましょう


天命座・アリカ

罪には罰をと言いたいが!そいつはちょっとやりすぎさ!
彼女をただの罪人に貶めないように、一つ頑張るとしようかな!

というわけで潜入捜査!
学生服も準備した!ふっ、何故だかサイズがバッチリだね!【迷彩1】
後は自然に溶け込むだけさ!大丈夫!まだまだ私も若いからね!

学園調査は皆に任せて!私は話を聞こう!
正面突撃と行こうじゃないか!誰かがやらなきゃ始まらない!
愛美に話を聞こうかな!本丸をだね狙い撃ち!

何故いじめが始まったのか!どうして多恵だったのか!
彼女の事をどう思っているのか。
知らない振りして探りをいれる!今の私は、ゴシップ大好き女学生!
【コミュ力1】

願わくば、罪悪感なり人の情が残っていて欲しいものさ



…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━
【4】

『本日のお昼のテーマは、宗教から学ぶ歴史の変遷です。本日は信星館学園から――――』

 全寮制、という事もあって、学生の昼食は基本的に学食を利用することになる。
 校舎毎にワンフロアをまるまる学食用のスペースとして確保しているだけあって、賑わいの割には混雑している、という風でもなかった。
 そんな学食ではあるが、同じ生徒たちが毎日利用していると、どこに誰が座るのかは自然と固まっていくものだ。
 そして、受け取り口や返却口、給水口が近いとか、出口が近いとか、すぐにグラウンドに行けるとか、備え付けのテレビが見やすいとか。
 いわゆる“都合の良い場所”を占拠できるのは、スクールカースト上位の生徒に限られる。

 例えば、スポーツの特待生であるとか。
 例えば、学年主席の生徒であるとか。

「ほんっとかっこいいよね、美月クンってー」

 そして……例えば、女子グループの中で最も発言力が強い者であるとか。

「いえ、それほどでも。愛美さんもお綺麗ですよ」
「ほんとぉー? やだ、うれしー」

 しゃらりと流れる美しい銀髪をかき分けて、月輪・美月(月を覆う黒影・f01229)は笑顔を作った。
 転校生、という形で学園に侵入した彼に、真っ先に近寄ってきたのが、よりにもよってターゲットである愛美だったことは、非常に都合が良かった。
 学食の使い方を教えてあげる、という形で、自ら食事を囲むことを提案してくれたのもありがたい。
 厳密に言うならば――クラスの様子を眺める限り、容姿端麗な美月に粉をかける権利を、当然のように愛美が持っていったということなのだろう。
 他に余計な繋がりができないよう、取り巻きすらも遠ざけて。
 とはいえ。

「美月クンってさぁ、彼女いるの? この学園恋愛は禁止じゃないんだよねー、ねえってばぁ」

 しなをつくり、あざとく距離を詰めてくる愛美の姿に、美月の心は驚くほど落ち着いていた。

(……かわいいヒトだと、思うんですけどね)

 これが平常時であれば、きっと可愛い女の子と近づけたことを喜ぶだろう。
 軽い口説き文句の一つでも、並べてみたりしたかも知れない。
 だが。

「私さぁ、ひと目見た時からビビッときたんだよね、運命っていうの? 本物の王子様みたいなんだもーん」

 猟兵としての性質で、人狼である美月の存在は、学園の生徒達にも違和感を抱かせない。
 同時に、光を跳ね返す銀髪や金色の瞳は、異型ではなく美麗な長所として映るのだろう。

「ねえ、私と試しに――――」
「今日はお友達はご一緒じゃないんですか?」

 予知が確かならば……人を一人、死に追いやった後だというのに、ここまで無頓着に男に媚びを売れる人間性は、もはや薄ら寒くすらある。
 言葉を遮るように、美月が声を重ねた。む、と愛美は眉を僅かに歪ませたが、すぐに笑顔を作り直した。

「今日は美月クンと食べたかったの、ほら、皆で囲んでも居心地悪いでしょ? 転校生なんだし」
「……お気遣いありがとうございます」
「どういたしまして、それでさぁ……」

 改めて話を切り出そうとした愛美の対面に。

「やあやあやあ、相席いいかな? いいね! ありがとう嬉しいね!」

 サラサラと桃色の髪を揺らしながら、一人の女性が言葉を待たずに着席した。

「…………は? アンタ」

 誰、と続けようとした愛美より先に、美月が割り込んだ。

「アリカさん、こちらにいらしてたんですか」
「うん。いやぁすごいねぇ、見てよこのメニューの豊富さ、シチューにポトフにカレーにコロッケ、和食も中華もある! どれにするか、さすがの私も悩んでしまったね!」

 そう言い放った女性――天命座・アリカ(自己矛盾のパラドクス・f01794)のトレイの上には、分厚いサンドイッチが三つ乗っていた。

「……み、美月クン、この人、知り合い?」

 高いテンションに、並べ立てられる言葉の雨に、若干体を引いて、愛美は美月をちらりと見た。

「ええ、前の学校が同じで、ちょうど同じ時期に転校してきたんです」
「そんなことある!?」
「あるさあるさ、よくあることさ。クラスと学年は違うけどね、よろしくね?」

 堂々と居座られた上に、唾を付けようとしている相手の知り合いとくれば、退けとも消えろとも言いづらいのだろう。

「よ、よろしく」

 と、押し切られる形で、愛美は頷いた。最も、その顔には不快の色が隠しきれていない。

「あむっ、うん、これはいけるね! ここの学食、料理だけでもやっていけるんじゃないかな? どうなんだいミツキ」
「そうですね……丁寧に調理していると思いますよ、このハンバーグも合い挽きじゃないみたいですし……千二百円もしましたけど」
「うへ、そりゃあきついね。毎日はお財布にも大ダメージさ。まあ私はあまり関係ないけどね! しかしそうするとこの学園の生徒っていうのは皆お金持ちなのかな?」

 その言葉が、自分に投げかけられたと思っていなかったのだろう。愛美はえっ? と素っ頓狂な声を上げてから、慌てて取り繕うようにして手を振った。
 タイミングがあまりに不意打ちだったからか、割と無礼な質問であったにもかかわらず、反射的に答えてしまう。

「そ、そうね。結構多いわよ、私だってパパお金持ちだもん。聞いたことない? ××って」

 それは、この国で――UDCアース日本国に住んでいれば、誰もが一度は聞いたことのある、当たり前過ぎて逆に実感のわかないほど、大きな会社の名前だった。

「ははあん、なるほどなるほど。つまりキミは社長令嬢というわけだね! そりゃあ素敵な出会いをしたものさ! ミツキ、逆タマを狙えるね!」
「アリカさん……」
「そんなぺたんと耳を伏せることはないさ、冗談冗談、冗談だね。しかしあれだね、ということはキミのお友達もさぞ名門揃いなんだろうね。いつも――――」

 サンドイッチをかじりながら、アリカの声のトーンが僅かに下がった。
 親しみやすい空色の瞳は色を失わず、しかし確実に細められ……獲物を見た。

「――――キミを含めて、五人一緒にいると聞いているんだけどね?」

 ぴたりと愛美の動きが止まった。
 その視線は、よくわからない誰かを見るものから、“敵”を見るものへと変質していた。

「……アンタ、誰に口聞いてんの?」
「いやあ、私はただ転入生として友達の輪に入ろうと思っているだけなのだけどね! 怒らせてしまったら失礼! ささ、ミツキ、あとは任せたよ、彼女の機嫌をとってくれたまえ!」
「アリカさん!?」

 すでにサンドイッチはなくなっていた。ぱちんとウインクを一つ、美月に残して、アリカは立ち上がった。

「けど、ちょっと残念さ。ここで持ち出してくるのが、罪悪感じゃなくて敵意だなんてさ」
「……は?」
「それが確認できただけでも十分さ、だってつまりこういう事だからね」

 ピッ、と指を一本立てて、アリカは口の端を歪めて笑った。

「キミには“悪いことをした自覚”ぐらいは、あるんだね?」

 愛美が掴みかかろうとするのと、美月が体を抑えるのが、ほぼ同時だった。

 ●

「……ごめんなさい、その、自由な人なので」

 美月がそう言おうと、愛美の不機嫌は収まらないようだった。
 ……それが“痛いところを突かれた人間”の反応であることは疑いようがないのだが。

「ねえ、美月クンさあ、知ってるんじゃないの」
「…………? 何をですか」

 先程までの、友好的な……というより、女性として男性を見る目では、もうなかった。
 代わりにあるのは純然たる敵意であり、疑問であり、そして僅かな困惑。

「だから……あいつがどこにいるのかよ!」

 この場において指し示される“あいつ”は、一人しか居ないだろう。
 だがそれを肯定するのも憚られる。今の所、愛美は一度もその名前を出していないから。
 “探り”を入れていることがバレたら、何をするかわからない。
 ……しかし。

「……多恵さんは自殺した、と聞いてますが」

 ごまかし続けても埒が明かないのなら、踏み込んでみるしかない。
 事実、反応は劇的だった。周囲の視線が集まるのも気にせず、愛美は大声を張り上げる。

「ほら、やっぱり! 多恵の名前なんて私、一言も出してないのに!」
「落ち着いてください、愛美さん、僕は――――」
「ふざけんじゃないわよ! 勝手に飛び降りたのはあいつなんだから、私が知ったこっちゃないわよ!」

 勢い余って席を立ち、立ち去ろうとするその腕を、美月は掴んだ。

「本当に」

 その、にじむ金色の瞳を誰かが見ていたら、きっとこう声をかけたに違いない。
 『泣きそうな顔をしているけれど、大丈夫かい?』 と。

「本当に、そう思いますか? 知ったことじゃないと、私は関係ないと、そう思うんですか?」
「…………うるっさい!」

 強引に手を振りほどき走り出す。背中が見えなくなる。
 大声に興味を向けた生徒たちも、やがて自分たちの食事に戻っていく。

「……ああ、母さん、父さん」

 胸に手を当て、自らに問いかける。
 なぜ自分がここにいるのか、その理由を。

「それでも……女の子が泣くところは見たくないんだ、僕は」

 その為には、まだやるべきことがある。
 被害者候補を、一人で歩かせて置く訳にも行かないのだ。
 食べかけのトレイ二つを返却口まで持っていくと、係の女性がそれを引き上げた。

「すいません、残してしまって」
「いいんだよ、話は聞いてたから」

 割烹着とマスク越しの苦笑を浮かべ、女性は続けた。

「前まではあんなに仲が良かったのに……どうしちゃったんだろうねえ、愛美ちゃんと多恵ちゃんは」

 その一言に。
 美月は顔をあげた。

「仲が……よかったんですか?」
「ん? ああ、そうだよ、そこのテーブルの端っこが、あの子達五人の指定席だったから、楽しそうに話してたのをよく見てたもんだよ」
「……なら」

 “いつ、なぜ、どこでいじめが始まったのか?”

「すいません、もう少し詳しく、聞かせてもらってもいいですか?」

…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

六六六・たかし
ふん、イジメかくだらん…。だがそんなくだらんことで数千人の命が失われようとしている。ならば俺はその4人の命を救う。救う価値があるかどうかなど救ってから考えればいい。救う命の選別など俺には出来ん。なぜなら俺は神ではなくたかしだからな。

【POW】
その4人…いや、正確には5人か。
そいつらを救うにはまずは情報が必要だ。
ならば聞くべきは教師だな、少なからず5人の情報は持っているはずだ。
だから俺は職員室に直行する、モタついてる余裕はないからな。
教師が保身に走ろうが俺の「言いくるめ」で全て聞き出してやる。
さぁ、早く話せ。すべてをだ。



…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━
【5】

「ふん、いじめか。くだらん……」

 潜入調査だとか、ひっそりと情報収集だとか。
 六六六・たかし(悪魔の数字・f04492)は、そのような小細工は一切しなかった。
 なぜなら彼はたかしだからだ。

「担任教師はいるか」

 よって、昼休みに入ってそうそう、職員室に直行である。

「な、なんだね君は」

 壮年の男子教師が近づいてきた。たかしはふん、と鼻を鳴らし。

「一年一組の担任教師だ。名前は知らん。だがここにいるはずだ」
「い、いや、だから君……」

 ため息を付いて、たかしはその教師の手に触れた。

「………………!?」
「悪いが俺は急いでいる。モタついている余裕はないからな」

 何か言おうとする教師だが、口がパクパクと開閉するだけで、言葉にならない。
 棒立ちになって、それ以上足を踏み出すこともできず……まるで“かかし”にでもなってしまったかのように、動けない。

(あーあ、公衆の面前でそんな堂々と……カーチャンに怒られちゃうよ?)
「………………も、問題ない」
(あ、ビビった)
「ビビってない、なぜなら俺はたかしだからだ」

 何だなんだと、他の教師たちも集まってくる。
 一般人を力づくでなんとかするのは、あまり賢い選択肢でないことぐらいはわかっているが……。

「ええと、一年一組の担任は僕だけど」
「!」

 すっ、と。
 気配なく、いつの間にか。
 たかしの後ろに、若い男性教師が一人、立っていた。

「ああ、久辺先生、彼のことなら私が、どうぞ席へ」

 そして、たかしが触れた壮年教師の肩をぽん、と叩く。

「っ! え、えぇ、ああ……そ、そうですか、それじゃあ」

 その瞬間、体を縛る“なにか”から解き放たれたかのように動き出す。
 呆然とした表情のまま、席へと戻っていった。

(……たかし、この人)
(ああ。“かかし”の拘束を破った。こっちが本気じゃないとはいえ、な)

 教師は――そのまま笑顔で、たかしに語りかけてきた。

「やあ、君は……学園の生徒じゃあないね? 困ったな。僕は『梅有(バイア)』と言うんだが、君は?」
「たかしだ」
「そう、たかし君。申し訳ないんだけど、この学園は部外者立入禁止なんだ。外まで送るから、ついてきてくれないかな?」

 間違いなく、只者ではない。
 同時に、間違いなく何かを知っている。

「…………」

 服に隠れた“ざしきわらし”と“かかし”を動かすことは?
 可能だ。なぜなら俺はたかしだからだ。

 直接この場で勝負を仕掛けて勝つことは?
 出来るだろう。なぜなら俺はたかしだからだ。

 では――――この男がオブリビオンだとして。
 この場にいる一般人を誰も巻き込まず、かばいながら戦い、犠牲を出さずに勝てるか?

「……いいだろう。ついていこう」
「そうかい、ほっとしたよ。嫌だと言われたらどうしようかと思った」

 そう告げて、にこやかな笑顔を浮かべながら、梅有は歩き出した。

(いいの? たかし)
(構わない。犠牲を抑える為に来たのに犠牲を増やすのは馬鹿げている。それに、収穫はあった)

 それは極めて合理的な判断だ。
 猟兵達は今、学園中に散っている。
 言い換えるなら、まとまった戦力が集中していない、という事だ。
 戦闘の引き金を引くには、まだ早い。

「お前――何者だ?」

 校門まで辿り着いて、外へ出るよう促されたたかしは、梅有に視線を向けた。

「僕かい? 僕はただの教師だよ。それじゃあたかしくん」

 ガシャリと、門が閉じる。

「もう二度と、こんな真似はしないようにね」

 去ってゆく背中をにらみながら、たかしは携帯端末を取りだした。
 他の猟兵達への伝達だ。ここでたかしが一時的に追い出されようと、情報を共有できれば、このターンはたかしの勝利なのである。

『担任の教師、梅有が不審。こちらは別路線で探る。たかし』

 そう入力し、メッセージを送信。
 背を翻し、警戒されぬよう、学園から一時だけ離れる。

「――――だが、この程度で諦めるわけがない、なぜなら俺は、たかしだからな」

…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━

苦戦 🔵​🔴​🔴​

富波・壱子
一人でも犠牲が出たらアウトかぁ……なんとか助けてあげたいなぁ
助けられるなら助けたいって当たり前な理由だけじゃなくって、もし本当にその多恵ちゃんを殺すしかなくなっちゃった時、たぶん『私』は……ううん、きっと絶対に『わたし達』は、眉一つ動かさないで殺せちゃう。終わった次の日にはもう普通に過ごしちゃってると思う
辛いことが沢山あったはずのその子の最期までそんな風になっちゃうの、そういうのなんかヤだなって

さ、張り切って調査しよっと!
調べるならまずは現場だよね。現場百回って前観たTVでやってたし
屋上を中心に、手がかりが無いか【情報収集】していくね
周りに誰かいたら【コミュ力】も使って聞き込みもしてみようかな


リチャード・チェイス
見取り図&実地見聞にて校内施設を調査しようではないか。
儀式が行われるのであれば、その場所の特定は必定である。
主に屋上・地下室・隠し部屋が怪しいとみた。
何故なら、そこで儀式した方が何かそれっぽいからである。

生徒達よ、私は決して怪しい者ではない。だたの鹿である。
鹿なので鎌倉に存在する。故に学園にも存在する。自然。
なお、鹿煎餅は好物ではない。テストに出るのでメモしておくように。

古来より、神は人に救いを与える存在として語られてきた。
しかし、その救いとは死後にこそ差し伸べられる。
故に生ある時に救う者……それ即ち悪魔である。



…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━
【6】

「ん?」

 携帯端末に着信あり。
 差出人、不明、メッセージは……。

『ケァ■邵イ■邵コ■ォ邵コ闊鯉ス臥ケァ荵■邵イ』

「……?」

 富波・壱子(夢見る未如孵・f01342)は自身の端末に届いた内容を見て、首を傾げた。

「メチャクチャ文字化けしてるじゃん、どういう事これ」

 ポケットにしまって、改めて壱子は、自分が立つ場所を見回した。
 五階建て校舎の屋上は、山の上という立地もあって中々の景色だった。
 いや、KEEP OUTのテープに立ち入り禁止の看板もあったけど、全部無視した。

「この場所から飛び降りたんだよね、うーん……」

 屋上の広さ=校舎の大きさなので、どこから飛び降りたか、というのはわからないが、軽く下を見ただけで、まあ肝が冷える高さではあった。
 猟兵だって、ユーベルコードがなければ、身体能力的には常人と大差ない、無策で落下したら死ぬだろう。

「……どんな気持ちなのかなぁ、こんなとこから、死ぬために飛び降りるのって」

 想像してみたが、あまり具体的な形にはならなかった。

「…………?」

 カン、カン、カン、カン、と。
 屋上の出入り口から、誰かが階段を登ってくる音がした。
 一瞬、隠れたほうがいいか、と思ったが、すぐにその必要はなくなった。

「ふう」

 のそっと顔を表したのは、シャーマンズゴーストだったからである。
 ……このビジュアルで堂々と歩いてて疑問視されないんだから、猟兵ってすごい。
 壱子はそう思った。

「おや、先客かね? 私は何の変哲もない鹿であるゆえ、是非気にせずに、ささ」
「いや、ささ、じゃなくて……大丈夫、同業者だから」
「おお、それは失敬。では、私の正体が鹿であることを隠す必要もないということであるな」
「どっちにしても鹿なんかい」

 しまった、ツッコミに回らされた。
 と、思ってしまった時はすでに遅く、リチャード・チェイス(四月鹿・f03687)は仮面越しにふっ、とニヒルに笑った。

「まあそれはさておき。私はリチャード。チェイス。親しみを込めて、リチャード・チェイス君と呼んでくれたまえ。」
「……うん、わたしは富波・壱子。よろしく」
「そうか。では壱子よ。君もこの場所の調査に来たということかな?」

 いきなり呼び捨てかい。
 無論、口には出さなかったが。

「一応、事件現場だしね。見事になんの痕跡もないけど」
「この広さだ、個人で見て回るには限界があろう。ここは私に任せ給え」
「なにか手立てでもあるの?」
「うむ…………でてきてちょーーーーーーー!」

 リチャードが叫ぶと、どこからともなくのそのそと、新たに鹿が入ってきた。これは普通の鹿である。

「…………」
「では君、怪しいものがあったら教えてくれたまえ」
「メェェェェェェ……」
「今メェって鳴いたけど……」
「え、いや、鹿だよあれ、鹿でしょ?」
「鹿だけどさ……」

 フンフンと鼻を鳴らしながら、鹿は屋上をうろつき始めた。

「……何で鹿?」
「ここは鎌倉である、故に鹿が存在していてもなんらおかしくない」
「…………あ、そう」

 なんだかどうでも良くなってきて、再び柵の向こうの景色を見た。

「……流したね? 私がとても寂しくなってしまうけど良いのかな? ん?」
「妙な圧をかけてこないでよ……なんていうか、どんな気持ちなんだろうね」
「何がだね?」
「こんなところから、飛び降りなきゃいけない気持ちって」

 ふむ、とリチャードは少し考え込む仕草を見せてから……恐らく言葉を選んだのだろう。

「我々の任務は犠牲者を討つ事であるからな。あまり感情移入するのはよろしくない、ここは鹿を抱きしめてだね……」
「ああいや、そういうのじゃないのよ」

 壱子は小さく笑いながら、手を振ってそれを否定した。

「逆。別に、わたしは多恵ちゃんを殺さないといけなくなった時、全然躊躇わないと思うのよ。この手でとどめを刺しても、多分何も残んない。翌朝起きたら、きっと過去のどうでもいい思い出の一つになって、思い出さずに終わっちゃうんじゃないかしら」
「ふむ?」

 意外の答えだったのか、リチャードは目を丸く(仮面だが)し、首を傾げた。

「それって、すごくヤじゃない?」
「そんな自分がかね?」
「じゃなくて。自殺するぐらい追い詰められた女の子の最後が、そんな風になっちゃうなんてさ」

 大きくため息を吐いて、空を見上げる。
 まだ、日は高い。

「だから、助けられるなら助けてあげたい。変?」
「いや――何よりも立派な動機であるよ」

 何故、こんな風通しの良い屋上で、シャーマンズゴーストとなんか良い会話をしているのだろう。
 思ったけど口には出さなかった、うん、周りをウロウロしてる鹿がすっげぇ気になる。

「メェェェェェ」
「お、鹿ピーが何かを見つけたようであるな」
「鹿ピー」
「ははは、待てぇ鹿ピー」
「メェェェェェ」

 のそのそと動き始めた鹿は、鼻を床のタイルにこすりつけ、ガリガリと前足で削ろうとする。

「どうしたの?」
「んー、ここになにかあると訴えかけているが、特に何もなさそうであるな?」
「……いや、待って」

 目を細め、じっとタイルを見る。

「なにもないんじゃなくて、ここなにかあったんだ」
「どういうことかね? 鹿にもわかるように説明したまえ!」
「メェェェェェ」
「突如としてキレないでよ。そうじゃなくて……このタイル、“新しい”んだ。多分、張り替えてる。周りと少しだけ色が違うもの」

 違和感を持ってみてみれば、それは明白だった。半径一メートルほどのタイルが、まるっと真新しいものに張り替えられている。
 
「ほほう、ならば何のために?」
「変なものでも書いてあったとか」
「変なものか、例えばそうさな……」

 二人は顔を見合わせ、同時に、同じ言葉を紡いだ。

「「魔法陣とか」」

…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

天御鏡・百々
【WIZ:邪神の正体、そして儀式の詳細を調査】

復讐は何も生まぬ……
とはいえ、憎むべきは環境、そして弱みに付け込む悪しき神か

さて、暗躍するのは如何なる神かを調べてみるか
そこから儀式の詳細までたどり着ければ僥倖だな
儀式の時刻、場所、方法がわかれば
止めるための行動も容易になるというものだ

この学園にも縁がある邪神ならば
学園内の図書室などに何か文献があるやも知れぬ
あるいは言い伝えのように生徒に伝わっているとかか?
第六感、情報収集、失せ物探しの技能も利用し
探してみるとしようか

●神鏡のヤドリガミ
●アドリブ・絡み歓迎



…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━
【7】

 少し時間が遡る。
 この事件の根幹にあるのは、邪神とその信者による暗躍であることは疑いようはない。
 天御鏡・百々(その身に映すは真実と未来・f01640)はそう考え、図書室へと足を運んだ。
 授業中ならば誰も居ないだろう、という読みはそのとおりで、司書すら別室で書類業務に励んでいるのが、窓ガラス越しに見えた。

「ふむ……?」

 百々が違和感に気づいたのは、割とすぐのことだった。
 中々立派な図書室にもかかわらず……宗教関係の本が一切ない。
 聖書はもちろん、神話の類もだ。

「ん、ん……んーっ」

 高校生の仕様を前提としているだけあって、本棚が中々高い。
 百二十センチに満たない小さな体では、本一冊手にとるのも一苦労だ。

「っ、ふう……それで、代わりにあるのが、これか」

 やっとの思いで抜き出した本の表紙には、こう記されていた。

 『信星館学園の成り立ち -救いの神の導き-』

 あまりに胡散臭い。他の表紙もみてみれば、やたらと『救いの神』という文字が散見される。
 適当な椅子に腰掛けて、百々は表紙を開こうとした。

「…………っ」

 幼い外見は、ヤドリガミの行動用のボディであり、外見の幼さはイコール、百々の幼さではない。
 だが、それを踏まえても、驚きを隠せなかった。
 なにせ、本を開いた瞬間、にちゃりと音を立てて、赤黒い液体があふれるようにぼたぼたとこぼれ落ちたからだ。

「何――――」

 本からにじみできた液体は、うぞうぞうぞ、と蠢きながら、百々の体を這ってきた。
 あまりの悍ましさ。だが、それらは皮膚の表面でもぞもぞとうごめいたかと思うと、ぼたぼたと落下を始め、逃げるように本棚に向かい、別の本の中に潜り込んでいく。
 血液のようにも見えるが、何らかの群体らしい。逃げそこねた一塊を、百々は小さな足で踏みつけた。

「グィィ……ッ」

 小指ほどのサイズの割に、大きな断末魔が、かすかに室内に響いた。

「はぁっ、……何だこれは? 生き物か? いや……」

 どうやら空気に触れていると、形を保てないらしい。
 数秒で塵になって、原型を留めなくなった。

「――……」

 息を整えて、状況を整理する。
 何故、あの赤いモノは百々の体を這ってきたのか。
 何故、すぐに剥がれ落ちて、逃げ出したのか。

 ……百々が人間ではないから。
 ……この体は、ヤドリガミの本体ではないから。

 ……“体の中に入ろうとして、それができないと判断して、逃げ出した”。
 だとすれば、これに“入られた”人間はどうなるのだろう。
 そして、本のページの間に潜めるのだ。
 他のどこに居ても、不自然ではないだろう。

「……厄介事が増えたな、これは」

 改めて、ペラリと本を捲ってみる。
 パラパラと、流し読みでページを読み進める。

『仲の悪くなった友達と、もう一度仲良くなろう!』

「…………」

 ピタリと手を止める。

『空に一番近い場所に、友達と一緒にいこう! 神様の名前を唱えながら■■■■■』

「これは……」

 不自然に滲んだ赤い文字。
 手がかりになりうるか、と、百々は本を懐にしまいこんだ。
 キンコンカン、と昼休みの鐘がなる。
 程なく、人が集まってくるだろう。
 百々は一旦、その場を離れることにした。
 願わくば、あの辺りの本は、開いてくれるなと思いながら。

…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━

成功 🔵​🔵​🔴​

零井戸・寂
いじめられた事?あるよ。
それで死のうと思った事はないけれど。

――さぁ、気弱さを封じる【覚悟】は出来てる。
偶にはエージェントらしい仕事をしようか。

【WIZ】
学生服を着て潜入。
書類とデータを漁ってみよう。

UCで扉の隙間から入った【NAVI】に鍵を開けさせて施錠された部屋に侵入。

重要な情報が載った書類があれば証拠代わり、スマホで写真も撮っておこう。
PCがあるならNAVIに【ハッキング】させてデータを頂く。

見つかった時?
【GU-MP】の【催眠術】で記憶を書き換えるよ。
……ほら、この書類を届けに来ただけですよ、僕は。
それじゃ、失礼します。


……君が怪物になる必要性なんて、どこにもないのに。
……必ず助ける。


フィア・ルビィ
○WIZ

……同じ、人間同士なのに。お互いを傷つけあう、なんて。とても悲しいこと、です。……頑張って、調査します。

潜入が必要なのです、ね。信星館学園の制服、入手する必要がありそうです。事前に用意できていれば、それを。不可能なら、学園内で、少しだけお借りしましょう。

……私は、学園の中の書類を捜したい、です。きっと、似たようなケースのいじめ、他にもあるように思います。……例えば、生徒から教師への助けを
求める手紙、生徒の日記……そういうものが、見つからないでしょうか。もし、見つけることが出来れば、以前にも似たような儀式、あるいは復讐を図ろうとした痕跡、あるかもしれません、ね?



…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━
【8】

 ――システム介入。
 ――電子錠、解錠。
 ――バックログ削除。

「よし、入れるよ。ありがとうNAVI」

 零井戸・寂(アフレイド・f02382)は、カードリーダーの中からするりと出てきた黒猫型の電子精霊の名前を読んだ。
 ニィ、とノイズの混ざった鳴き声と共に、その姿をタッチペンへと変じさせる。

「すごいですねえ、はっきんぐ、っていうのですか?」

 鮮やかに鍵を開けた零井戸の手際を見て、フィア・ルビィ(永劫カンタータ・f01224)は両手を合わせて感嘆を表した。

「……まあね、それより、いこう。誰か来る前に」

 二人が忍び込んだのは、学園の資料室だ。
 各学年の生徒の名簿、成績などが、紙でも電子でも収められている。
 間違いなく立ち入り禁止区域であり――それ故に、調べる価値のある場所だ。

「零井戸さんは――何を探すおつもり、なんですか?」
「アテなんてないよ、片っ端さ。拾えるだけ拾う」

 早速、資料室にあるパソコンを立ち上げる。
 キーボードを叩きながら、情報をさらうのは【NAVI】任せだ、この電子精霊はいつだって零井戸の望むままに動いてくれる。

「……その」
「何」

 書類を漁るフィアは、画面から目を離さない零井戸に、おずおずと声をかけた。

「もしかして……怒って、ます?」

 カタ、とタイピングの手が止まる。

「……そりゃあ、ね。だってそうだろ。この子が怪物になる必要なんてどこにもない。悪いのは全部――――」
「いじめっ子の方たち、です?」
「そうだよ、それ以外何がある。元はといえば彼女たちの自業自得だろ? 僕が多恵さんを助けたいんだ、別に他の四人を助けたいわけじゃない」
「そう、ですか」

 それで、会話が止まってしまった。
 元より、零井戸はなんていうか、こうやって女の子と二人で会話するのに向いている性格ではないにせよ。
 感情を表に出してしまったことは、少し後悔しなくもない……空気が悪くなったことぐらいはわかる。

「…………君は何を探してるんだ?」

 資料室を当たろうとしていたから、一緒に行動していたものの、フィアの目的を聞いたわけじゃなかった。
 問われたフィアは、はい、と顔を上げ。

「似たようなケースのいじめ、他にもあるように思います」
「……どういう意味?」

 零井戸の問いかけに、フィアははい、と前置きし。

「もしかしたら、以前にも、同じようなことが、あったんじゃないかと、思いました。儀式が……今回が初めてだとは、私、思いません」
「……だったら、いじめは意図的に起こされたものだって?」
「それは、わかりません。わからないから、探したい、です。退学した、生徒の情報とかが、あれば……」
「……待ってて」

 それなら、書類を一枚一枚探すより、もっとずっと早い方法がある。

「NAVI、ここ十年で退学、あるいは除籍した生徒をリストアップして」
『ニィ』

 答えはすぐに出た。ぱっと画面に表示されたのは……三百名以上にもなる一覧表。

「……ちょっとまって、何だこの数」

 十年以内に三百人、年間三十人が退学している?
 いくら一貫性の私立高校だからって、こんな数字がでる訳がない。

「……あれ、なんでしょう、これ」
「ん?」

 いつの間にか、画面を覗き込んでいたフィアは、表示された一覧の右端を指さした。
 セルの見出しは『転入先』と記されている、ならば退学後の進路なのだろうが……。

『ナカオカ・リュウト タイガク S済』
『ムラタ・サオリ タイガク S済』
『バイア・クウヘイ タイガク 入団』
『ニシベ・ケンタ タイガク S済』
『アズマ・ケンタロウ タイガク 入団』

「S済……入団?」

 ○の中に『S済』と赤い文字で書かれたはんこの画像が添付されている。
 並んだ名前は順不同、「タイガク」はリストアップの条件だ。だが……。

「S、ってなんでしょう……?」
「さあ……入団ってのも気になるけど……」

 その時、キーボードに触れていないのに、画面に文字が入力された。
 NAVIによる予測だ。零井戸の疑問に、想定しうる可能性を自ら考え、提示してきた。

「……おいおい」

 記された文字は、『Sacrifice』。

「嘘だろ?」

 意味を理解したのか、フィアが一歩後ずさる。
 ゴソ、と何かにぶつかった音。

「だ、大丈夫?」
「は、はい、あれ、これ……」

 フィアの足がぶつかったのは、大きな段ボールだった。
 なんとなく、中を見てみる。入っていたのは、積み重なった、メーカーも年代も違う、無数のノートだった。

「これ……は……」

 何冊か手にとって、ペラリと捲る。

『助けてください先生、僕はもう限界です』
『お願いです、あの子達を止めて。殺されちゃうかも知れない』
『何とかしてくれるって言ったのに、どんどん過激になってくる。いつまで待てばいいんだ』

「…………っ」

 それは、刻まれた怨嗟。
 ここにあるのはすべて、かつて、誰かに虐げられてきた者たちの記録。

「なんで、こんなものが、こんなとこ……に……」

 一歩後ずさって、その文字が見えた。
 ノートの詰まったダンボールに、赤いマジックで記されている。

『検体 処分済み』

「――――ねえ、学校って卒業したら、どこにいくんだっけ」

 一方、新たにNAVIが提示した画面を見て、零井戸は、それを凝視したまま言った。

「え……大学、とか就職、です、よね……?」

 首を傾げ、フィアが応じる。

「うん、そうだよね、そうなんだ……やっぱりおかしいぞ、これ」

 表示されているのは、卒業生の一覧だ。
 羅列された名前。

 “その全てに、S済の記号がついていた”。

「…………今、NAVIにネット検索させてみたんだ、びっくりしたよ」

 冷や汗が、頬を伝う。

「“卒業生の名前、全部調べても、誰もひっかからない”んだ――――こんな事あると思う?」

 それが何を示すのか。
 フィアは、手に持ったノートを、ギュッと抱きしめた。
 背筋を流れた汗は、残念ながら、それで止まることはなかったが。

…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

霧生・真白
○🔎弟で助手の柊冬(f04111)と
WIZ

ほう、僕が出るに相応しい手応えがありそうな事件じゃないか
面白い

僕は外部から柊冬には内部から調査してもらう
逐一連絡を取り合い情報を照らし合わせ、より強固なものにしていこう
あとは外部と内部で情報の差異があれば注目しておこう
そこから綻びが出るかもしれないからな

僕は学園のデータベースを調べるとしよう
侵入出来そうならより深いところまで潜って調査しようか
それと、裏サイトも当たってみよう
案外こういうところに情報の原石が眠っている場合もあるのさ

――いじめ、ね
社会的にも根深い問題だ
僕も思うところがないわけではない…が…
まあ、僕が手がける事件だ
必ず解決してみせるさ


霧生・柊冬

姉である探偵の真白(f04119)と
SPD

女子生徒の自殺…ですか
なんとも辛い話だけど、このまま被害が大きくなる前になんとかしないと

僕は学園内から、姉さんは学園外から調査する方針です
お互いに得た情報はスマホで連絡を取って、情報の照らし合わせや差異をチェックします

学園には学校見学という名目で中に入ります。
学校内にいじめが行われた証拠があればくまなく探してみます。
あとは…一部の生徒に話を聞ける機会があれば、噂話ということで自殺事件の事を尋ねてみます
「噂で聞いた話なんですが…この辺りで生徒の自殺が起きたらしいですね?」

誰も助けてくれなかったなんて…どれだけ辛かっただろう。
どうにかして助けてあげたいな



…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━
【9】

 …………。
 ……………………。
 ………………………………。

 Hamish > 調査結果、送りました。他の猟兵達の情報も合わせて。
 Shellingford > ご苦労、確認する。学校内部を実際に歩き回った感想はどうだい?
 Hamish > 広くて綺麗で、良い所でしたよ。僕が見て回れたのは小等部と中等部の校舎だけでしたけど。
 Shellingford > 肝心の高等部はどうした。
 Hamish > 学年が違うっていうことで行かせてもらえませんでした。

 Shellingford > 何だい。現地に向かい損かい?
 Hamish > まさか。昼休みに高等部まで出向いて、話を聞いてきましたよ。
 Shellingford > 収穫はあったかい?
 Hamish > ええ、まぁ……結論から言うと、自殺の目撃者はいませんでした。
 Shellingford > ふむ?

 Hamish > 厳密に言うと、それを目撃した、といっている生徒は四人だけだそうです。
 Shellingford > 例の被害者候補かい?
 Hamish > はい。他の一般生徒は、そんな事件があったことも知らないみたいです。僕は直接彼女たちに接触したわけじゃないので……。
 Shellingford > その調査資料は、送ってきたこれか。

 Hamish > ……その、姉さん。一応確認したいんですけど、予知が外れている可能性はないんですか? 例えば、いじめの真犯人が別にいる、とか。主犯の四人こそが邪神の使徒で、多恵さんが生贄にされた、とか。
 Shellingford > 否だ。グリモア猟兵の予知は事件の大前提だ。その点に関してのミスリードは、考えるだけ無駄だよ。
 Hamish > けど、他の猟兵達の調査では、なんだか雲行きが怪しい感じがしていますよ。ただ虐めてた、ってわけでもなさそうですけど……。


 System > 一分間発言がありません。


 Shellingford > ただいじめた結果の自殺だったら、やりきれないと感じるかい?
 Hamish > ……お見通しですか。
 Shellingford > 当たり前だろう。僕と君の付き合いがどれ位になると思ってるんだい?
 Hamish > この前、十二年目に突入しました。
 Shellingford > 誕生日おめでとう。あのケーキは美味しかったね――それはさておき。

 Shellingford > 昔は仲が良かったから。本当はやりたくなかったから。それらは思考材料ではあるにせよ本質じゃあない。
 Shellingford > 多恵は“いじめを苦に自殺した”し、そのいじめを行ったのは“愛美ら四人”だ。それは前提条件として考えるべきだ。
 Shellingford > ただし……いじめそのものが何者かの意図によるものである、という可能性はあるがね。


 System > 一分間発言がありません。


 Hamish > ……つまり、誰かが“多恵さんが邪神の信者になるように仕向けた”……?
 Shellingford > 今の所、僕の推理ではね。では、こちらの調査報告といこう。
 Shellingford > 軽く試してみたが……学園のデータベースはセキュリティが強固だ。
 Shellingford > 外から割るよりも内部に侵入した専門家に任せた方が効率的として……裏サイトの方は、ひどいモノだね。

 System > .jpgを表示します。

 Hamish > ……なんですかこれ。
 Shellingford > 見ての通りだ。呆れたよ。

 『T3430M許せねぇ、ぶっ殺す』
 『K2640Y、K2602Aは罪を犯した』
 『S5518Hを生贄に捧げよ』
 『T2409Sは野球部のH相手に売春してる』
 『K1114T許せない』
 『K31TW死ね死ね死ね』

 Shellingford > 個人を対象とする罵倒を並べたスレッド郡だ。いくつか漁ってみたが、殆どはただの日常的な不満だ。
 Shellingford > あいつが気に食わない、こいつが許せない、いじめてやりたい、ぶっ殺す……なんてものさ。

 Hamish > スレッドの前の記号は……なんです?
 Shellingford > 個人を示している暗号だ。『S』『T』『K』はそれぞれ小中高のどこに属するか。次の四桁は上二桁が学年とクラス、下二桁が出席番号、最後が名前か名字を表すイニシャルだ。 
 Hamish > 相変わらず、よくひと目で分かりますね。
 Shellingford > 探偵がこの程度の暗号も解けないようでは話になるまいよ。
 Hamish > それはそうなんですが……わざわざ僕にこれを見せてくれたって言うことは、なにか見つかったんですね?
 Shellingford > ああ、下から二番目、K1114T……つまり高等部一年一組、出席番号十四番。今回のターゲットに関するスレッドだ。
 Hamish > わかりました、確認します。

--------

【K1114T許せない】

名前:[名無しの生徒さん] 投稿日:2018/xx/xx ID:8yT24Wgavt

 諶?閨九┳繖エ蜩」閹」諶?屮闔幟祉?」闔稲盟闖ァ隶ュ諶∬謄閧もォ」閧?諶??闃?氏齒
 」閹ィ諶∬ッ」闃介氏隸」閹」諶?ソ」閹?諶??閹ェ諶?サ」閹ォ諶?サ」闃ク諶れサ」闔ャ諶?閾、
 ?。諶?」」闃介獅雉」閹ェ諶∬謄閧もォ」閧?郞懋ウ・?軟氏?ィ阮ケ釚ォ隸」
 閹、諶?闍、?俸「ソ體」閹齢氏髻」閹ヲ諶り謄闃基氏鯀」閹?死

--------

 Hamish > あの。
 Hamish > すごく驚いたんですけど、その。
 Hamish > 文字化けしてるじゃないですか。

 Shellingford > ああ、具体的に何が書いてあるのかはわからない。
 Shellingford > ただ――――。
 Shellingford > “わかるようにできる者”なら……僕達の中にもいるはずだろう?

 System > 一分間発言がありません。
 System > 一分間発言がありません。
 System > 一分間発言がありません。

 System > 全発言を削除しました。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

寧宮・澪

……辛い、ですねー……。
哀しい、ですよー……。

いじめがあった、現場とか……多恵さんが、やられたこととかー……。

ハッキングツールと、電脳ゴーグル、で……【情報収集】、【ハッキング】。

電子書類やデータベース、防犯システムの監視カメラや、出入りの記録……
流れた動画や通信の記録、あるなら生徒教師のSNSや、大規模掲示板、学園の裏サイト、なんかもー……。
通信内容を偽装したり、ログ書き換え、【暗号作成】で、通信保護、などバレないように、しつつ。

誰が、どこで、何をしたか、学園の見取り図に纏めてみましょー……。
胸糞悪い、内容でも【鼓舞】して、がんばりますー。

良ければ、他の猟兵にも纏めた情報流し、ますー……。



…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━
【10】

 電子の海にたゆたうのは、どんな揺りかごよりも心地よい。
 けれど、その眠りを堪能できるのは、事件が解決してからになるだろう。

 寧宮・澪(澪標・f04690)の技術体系は、彼女しか使えない独自のモノだ。
 歌を通してネットワークに繋がり、呪文を通して情報を探る。

「んー、硬いー、ですねー……」

 そんな彼女であったが、信星館学園のネットワークに忍び込むには、若干難儀していた。
 彼女の腕前と能力を持ってして、この防壁を打ち崩すのは難しい。
 というよりも……明らかに、外部からの侵入を想定したファイヤーウォールを構築している。

「けどー……だからといって……」

 諦めるのも、手を休めるのも違う。
 知ってしまった以上、関わることを決めてしまった以上、途中放棄はできやしない。
 とあらば、方向性を変えるべきだろう。
 内部の情報が固くても、そこに属する学生たちが、個々に有する端末はまた話が別だ。

 歌をうたう。詩をうたう。
 詩篇を束ねて物語にするように。
 傍らに浮かぶ小さな箱が動き出す。内部に無数の“流れ”が生じる。
 “流れ”は新たな音を生む。電子の世界を自由に操るオルゴール。

「……見つけましたー」

 学園周辺に飛び交う電波から、よりわけこじあけ、
 詩で紡いだ仮想世界でもって、現実世界を上書きする。
 澪のハッキングは、そんなイメージで行われる。

 無数に表示される文字列から、必要なものを選別、抽出。
 たどり着いたのは一件のサイト、信星館学園の生徒たちが使う裏サイト。

「…………アドレス確認ー、これがー、愛美さんの書き込み、ですねー」

 推理とは違う形で辿り着いたその場所で。
 澪はその侵食を見た。


--------

【K1114T許せない】

名前:[名無しの生徒さん] 投稿日:2018/xx/xx ID:8yT24Wgavt

 諶?閨九┳繖エ蜩」閹」諶?屮闔幟祉?」闔稲盟闖ァ隶ュ諶∬謄閧もォ」閧?諶??闃?氏齒
 」閹ィ諶∬ッ」闃介氏隸」閹」諶?ソ」閹?諶??閹ェ諶?サ」閹ォ諶?サ」闃ク諶れサ」闔ャ諶?閾、
 ?。諶?」」闃介獅雉」閹ェ諶∬謄閧もォ」閧?郞懋ウ・?軟氏?ィ阮ケ釚ォ隸」
 閹、諶?闍、?俸「ソ體」閹齢氏髻」閹ヲ諶り謄闃基氏鯀」閹?死

--------


「……文字化け、ですかー?」

 単なるネットワーク上のトラブルなら、修正は容易だ。
 変換用のスクリプトを探す必要すらない。
 口ずさむような旋律を少し奏でるだけで――――。

「…………っ!」

 ギリギリギリギリギリギリギリギリギギギギギギ――――。

 澪の“謳匣”が、突如として不快な音を掻き鳴らした。
 明確に、何らかの干渉を受けている。恐らく、トリガーは……。

「この文章を、読もうとしたことーでしょうかー……? だったらー……」

 だったら。
 なんて都合がいい。
 隠そうとしているということは、なにかがそこにあるということだ。

 澪は歌う。
 彼女の中にある世界を、彼女にしかわからない理屈で創造する。
 仮想の世界で、彼女は自由だ。歌声に合わせて、空は色を変え、海は渦を巻く。
 やがて完成した一つの「箱庭」を、そっと歌と共に解き放つ。

 :connect return real_world -> cord_world

 非現実を現実へ。
 仮想を実在へ。
 想像を創造へ。
 彼女の歌は、世界を騙す。

「見せて、もらいますよー」

 何を隠しているのか。
 この中身はきっと、事件を解き明かす鍵となる。


…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━

成功 🔵​🔵​🔴​


…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━
【11】

スレッドタイトル:K1114T許せない

名前:[名無しの生徒さん] 投稿日:2018/xx/xx ID:8yT24Wgavt

 K1114Tってホント心狭い。
 ちょっとからかっただけなのにマジギレ、信じられない。
 本当に腹立つ。仕返ししてやりたい。


名前:[名無しの生徒さん] 投稿日:2018/xx/xx ID:NyArla10San

 縺■≠■√■■縺■≠■√■■縺ッ縺吶◆縺ゑシ√■■縺ッ縺吶◆縺ゅ■■縺上
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名前:[名無しの生徒さん] 投稿日:2018/xx/xx ID:8yT24Wgavt

 え、誰?
 何、いたずら?


名前:[名無しの生徒さん] 投稿日:2018/xx/xx ID:NyArla10San

 邵コ■オ郢ァ阮呻シ■ケァ荵晢シ樒クイ■郢ァ■邵コ闊鯉ス狗クコ■
 荳岩■邵コ■■狗クコ■オ邵イ■郢ァ荵晢コ■竊醍クコ■オ邵イ■
 ス狗クコ■竏エ邵イ■邵コ■窶イ■譏エ竊醍クコ闊鯉ス狗クイ■邵コ■


名前:[名無しの生徒さん] 投稿日:2018/xx/xx ID:8yT24Wgavt

 はい、わかりました。
 K1114Tは捧げられるべき存在です。


名前:[名無しの生徒さん] 投稿日:2018/xx/xx ID:NyArla10San

 郢ァ■■■邵コ■ェ邵イ■邵コ荵昴■堤クコ■■■郢ァ■竊堤クコ
 コ蜷カ窶サ郢ァ荵■邵コ蜷カ竊醍クイ■邵コ荳岩■邵コ竏■■邵コ■
 ■■邵コ■オ郢ァ蠕鯉ソ。邵コ■ィ郢ァ コ荳岩■邵コ竏■■邵コ

名前:[名無しの生徒さん] 投稿日:2018/xx/xx ID:8yT24Wgavt

 はい、わかりました。
 梅有先生の指示に従います。


名前:[名無しの生徒さん] 投稿日:2018/xx/xx ID:NyArla10San

 縲■縺■*繝サ縺■∴縺■シ√■■縺■*繝サ縺■∴縺■シ√■■縺■°縺ゅ■■
 縺ッ縺ゅ■■縺カ縺サ縺■シ阪>縺■■■繧峨≠繧難シ昴※縺斐☆縲■縺上→縺■k縺■■■縺オ縺溘$繧
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名前:[名無しの生徒さん] 投稿日:2018/xx/xx ID:8yT24Wgavt

 竊醍クイ■邵は縺ィ繧■縲■縺カです。
 私は☆縲■ェ邵イ■邵コすればよいでしょうか。


名前:[名無しの生徒さん] 投稿日:2018/xx/xx ID:NyArla10San

 邵コ■ヲ邵コ■■邵イ■邵コ■セ邵コ闊後■鍋ケァ■邵イ■邵コ■■邵コ■ソ邵コ■ェ郢ァ阮吮■邵コ■■邵イ■邵コ蜉ア■■クコ■
 ェ邵イ■邵コ蜷カ窶サ郢ァ蟲ィ■狗ケァ■邵イ■邵コ■ォ邵コ闊鯉ス臥ケァ荵■邵イ■邵コ蛹サ■■邵コ■カ邵コ■オ邵コ竏壺■邵コ■オ邵
 コ蟲ィ■狗クコ■ソ邵コ邵イ■邵コ霈披■邵コ荳岩斡邵イ■邵コ蜉アツァ郢ァ荵■


名前:[名無しの生徒さん] 投稿日:2018/xx/xx ID:8yT24Wgavt

 わかり邵イ■邵※縺斐☆縲イ■邵。


名前:[名無しの生徒さん] 投稿日:2018/xx/xx ID:8yT24Wgavt

 待ってヤダ。


名前:[名無しの生徒さん] 投稿日:2018/xx/xx ID:8yT24Wgavt

 なにこれ。違う。


名前:[名無しの生徒さん] 投稿日:2018/xx/xx ID:8yT24Wgavt

 私じゃな


…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━
ロク・ザイオン
●プレイング
……がっこう。
(友が。ロカロカがそういうものに行っていた、と。聞いた。)
(なんだか、檻のようだ)

【SPD】
(邪神の狩場となるのはこの学校の内側。獲物、こどもたちはここから全く外へ出ないのだ、と舞楽は言ったか。
ならば。自分もこの狩場について知らなければ。
こどもたちの行動範囲。痕跡を【追跡】する。
どう集まり。どこに隠れ。どこで、殺すか。【野生の勘】も役立つかも知れない。
建物の内側だけでなく、周りの山にも見落としがないように)

……殺すのは。
かんたんじゃないんだろう。
幼いキミたちには。

(自分は声がみにくいから。ひとと話すのは、得意な者に任せる。
他のことをしても。誰かを手伝うのも、構わない)



…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━
【12】

 建物は立派だ。
 木々の手入れも行き届き、花壇には花が咲いている。
 太陽の光がガラスに反射して、キラキラと眩しい。

 友は、そういう場所に通っていたという。
 トモダチが居て、ベンキョウをして、タノシイコトがあり、ツライコトもあるのだという。
 けれど、なんだか。

(檻のようだ)

 と、ロク・ザイオン(疾走する閃光・f01377)は思った。


 彼女が行っているのは、監視だ。
 特定の誰かを見張るのではなく、全体を注視する。

 檻(……ロクはそう認識している)から、彼らは外に出ないという。
 木の上から、あるいは物陰から。
 見つからないようにするのは簡単だった。
 学生たちは、日常の中に何かが潜んでいるなどと考えもしていないのだから、散漫な意識の隙間を縫うようにすればいい。
 ロクが真後ろにいても、大半の生徒は気づくことすらないだろう。
 視覚も嗅覚も聴覚も味覚も触覚も、全てに触れなければ感じられることすらないのだから。

「………………」

 そうやって、生徒たちの動きを見ていて、思う。
 彼らの動く範囲は、本当に狭い。
 この檻の中はそこそこに広いが、一人の生徒が動くのは、その檻の中の小さな箱を、同じルートをたどって行き来するだけだ。

 狭苦しくはないのだろうか。
 息が詰まりはしないのだろうか。
 その疑問は、きっと抱いても仕方ないのだろう。
 生まれ、育ってきた環境が、あまりにも違う。

 羨んでいるのだろうか。
 自分も触れてみたいと思っているのだろうか。
 自問自答してみても、何となくしっくりこない。

 彼らは楽しそうだ。基本的には、誰もが笑っている。
 けれど、その裏には、虐げられた誰かの死が、確実にある。
 それは、きっと『歪』と呼ぶに違いない。

 ヒュウオウ、と、強い風が山から降りてきた。
 檻を囲む木々がせわしなく揺れて音を奏で、三つ編みがはためいて、軽く頭を引っ張る。

「…………?」

 くん、と鼻を鳴らす。
 嗅ぎ慣れた匂い、そして。
 この場に似つかわしくない臭い。

「……血?」

 山をくぐり抜けてきた風から、何故?

 ●

「あー、面倒くせぇー、なんで山に穴掘んないと行けねえんだろうなー」

 いくつかの黒いゴミ袋を傍らに、二人の男子生徒はシャベルを土に突き刺し、エッサホイサと穴を掘る。

「だよな、燃やしてくれりゃいいのに」
「ゴミ当番ダルいんだよなー、誰か変わってくれーい」
「ここにいる時点で変われねーよ!」
「ぎゃはははは! そりゃそうだ!」

 軽口を叩き合いながら、ひたすら穴を掘る。掘る。掘る。掘る。
 二メートルほどは掘り進めただろうか。これ以上はもう中に入って広げるしかない、という所まで来て、彼らはゴミ袋に手をかけた。

「さっさと捨てて帰ろうぜー」

 逆さにして、中身を穴に放り込む。

 それは白かったり、ピンクだったり、茶色だったりしている。
 それは黒かったり、黄色かったり、紫だったりしている。
 それは硬かったり、柔らかかったり、乾いたり、腐ったりしている。

 ぼたぼたと、生き物の残骸が、穴の中に捨てられていく。

「あー、面倒くガッ」
「え? あ? グッ」

 認識が追いつく前に、彼らの意識は刈り取られた。
 背後から近づいて、首筋を一撃。
 的確なその手順によって、二人の男子生徒は意識を失い、その場に倒れ――。

「……これ、は」

 奇襲を仕掛けたロクは、ゴミ袋の中身をあらためた。

 骨だ。肉だ。内臓の一部だ。
 この感じは知っている。よく知っている。
 野生動物の食事の残骸は、だいたいこんなものだ。
 むしろ、綺麗に処理しているとすら言えるだろう、こびりついた肉は少しだけだ。

 けれど、これは“人の骨”だ。

「………………キミたち」

 意識を失った生徒達を、ロクは見下ろした。

「何を捨てていたか、自覚は、あるのか?」

 返答したのは、男子生徒ではなかった。

「グィ、グィィ……」

 ずるりと、気絶した彼らの耳から、赤黒い粘性の“何か”が這い出してきた。
 同時に、びくりびくりと数度大きな痙攣を起こし、すぐに収まった。

「グィィ……グィ、グィィ」
「グィィ……」

 大きな芋虫ぐらいのサイズのそいつは、嫌悪感を催す鳴き声をあげながら、ぐねぐねとロクに向かって近づいてくる。

「ヒトに」

 躊躇いはなかった。容赦も。
 振るわれた大刀が、その“何か”を真っ二つに切り裂いた。

「憑いているのか。どこまで?」

 塵になっていく“何か”を横目で見ながら、男子生徒たちの首に手を添える。

「……ぶじか、よかったな」

 少しだけ、安心したような声色で、そっと呟く。
 脈も呼吸も、正常だった。意識を取り戻してみなければ、後遺症のほどはわからないが……。

「キミたちまで、殺すのは……いやだ」

…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━

成功 🔵​🔵​🔴​

アイシス・リデル

人間も、きれいなばっかりじゃないんだね
ううん。けど、それでも……だめだよ

わたしは悪目立ちしちゃうから、どこかに隠れて
追跡体のわたしたちで、学園の中を探索する、ね

タエさんの味方になりたかった誰かが、いる筈だから
わたし、知ってるもん
誰もがわたしたち猟兵みたいに、戦えるわけじゃないって
タエさんを助けたくても、守りたくても
そのための力が足りなくて、こわくって
見殺しにしてしまって……ずっと後悔してる人が、きっと
タエさんにも、それを知ってほしいの
今さらそんなことを知らせるのは、残酷かも知れないけど……

それに次にいじめられるのは、その誰かかも知れないから
いじめっ子の人たちにも、もうそんなこと、させられない



…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━
【13】

 小さな“わたし”の報告は、アイシス・リデル(下水の国の・f00300)にとっては、不思議で、そしてなんだかとても、もやもやするものだった。
 学園に放った追跡体達が伝えてくるのは、和気あいあいとした、楽しさに満ちた景色だった。

 学生たちは友達と、楽しそうに笑いあい。
 その日の問題を話し合ったりして、お互いの見聞を深め。
 美味しそうな食事を食べて、スポーツに興じて。

 これ以上ないほど美しく、そしてきっと、この世界では当たり前の日常。

 ……どうしてこんなに綺麗な場所にいて。
 ……どうしてこんなに恵まれているのに。
 ……どうして誰かをいじめるんだろう?
 ……わたしみたいに、きたないわけじゃないのに。

「……いいなあ」

 例えば、この学校の制服を来て、クラスに自分が入っていって。
 綺麗な机に座って、授業を受けてみる。
 きっと難しくて理解できないだろうけど、でもそれは――きっと楽しいに違いない。

 ……想像の中で受ける授業の内容なんて、全く思いつかない。
 少女は、この世界を知らないのだから。
 けど、ちょっと思い浮かべてみたその理想の姿は、とても素敵なものに思えた。

「……いるはず、なんだよ」

 アイシスは願い、望む。
 だって、こんなにきれいな場所だから。
 救いはきっとあるはずなんだ。
 助けたいと思う誰かがいるはずなんだ。

 そうじゃなかったら、あんまりに悲しい。
 こんなに汚いわたしだって、そう思うんだから。
 だったら、あなたは、もっともっと、そう思っているはずなんだ。

 それは少女の小さな願望で。
 それは少女の小さな希望で。
 それは少女の小さな展望で。

(……ねえ、本当にいいのかな)

 だから――その声を見つけることができた。

 ●

「結局、多恵ちゃん戻ってこないじゃん……平気なのかな」
「わかんないよ、LINEもつながらないしさあ」
「けど、愛美達だって様子おかしいよ? あんなに多恵をいじめてたのに、急にしおらしくしちゃって」
「……やっぱりもう一度相談したほうがいいんじゃない?」
「けど、梅有先生アテになんないじゃん」
「一度、多恵ちゃんの部屋に行ってみる? 今なら愛美もいないだろうし」
「だよね、かっこいい転校生連れて学食行ってたもんね……うん、行ってみようか」

 それは、一年の、多恵達と同じクラスの女子だった。
 いじめの事を知っていて、けれど愛美に逆らえず、しかし気にかけていて、密かに担任に相談していて。
 けれど、何も救われることはなくて、どうしていいか、わからなくなっていた生徒だった。

(ああ)

 追跡体越しに、アイシスは見て、聞いた。
 良かった、ちゃんと居たんだ。
 だったら、大丈夫。
 タエちゃんが帰ってこれる場所がある。
 勇気を出して、見て見ぬふりを続けるんじゃなくて。
 戦おうとしている。

(――――っ!)

 その足元に。
 うぞうぞとうごめく、赤黒い粘液が、どこからかにじみ出て、忍び寄っていた。
 小さなアイシスの追跡体だから、かろうじて見えた。
 少女たちは、それに気づいていない。

「だめ」

 追跡体に戦う力はあまりない。けれど、黙って見過ごすわけには行かない。
 拳大のアイシスの追跡体よりも、赤黒い粘液はさらに小さい。五つ集まってようやく同サイズだろう。
 だから、アイシスは追跡体に粘液を押さえつけさせた。

(――――――!)

 その瞬間、粘液はズルリと、追跡体の中に入り込んできた。

(……っ、あ、何これ、う、わ、ぁ……)

 体の中をぐちゃぐちゃにかき混ぜられる不快感。
 怒りや悲しみ、苦痛の記憶、閉じ込めて見ないふりをしていた悪感情が一斉に全身を支配する。

(~~~~っ!)

 幸運だったのは、アイシスがブラックタールであったこと。
 粘体の体を持ち、脳を含む臓器といったものをもたない、根本的に人間と違う生物であったこと。
 そして何より、侵入されたのが切り離した体の一部であったことだ。

「グィッ」

 アイシスの追跡体は、体に入った“それ”を消化して、取り込まずに吐き出した。
 どぶさらいが仕事の彼女ですら、嫌悪感を催す気持ち悪さ。
 吐き出された粘液は、ビクビクと何度か震えると、そのまま力尽き、塵になっていった。

「うう……今のって……」

 なにをされたかはわからないが、何があったのかはわかる。
 “あれ”が体に入ってくると、なんというか、すごく嫌な気持ちになって、それがどんどんと膨れ上がっていくのだ。
 もし、ずぅっと“あれ”が頭の中にあったら(頭って言える場所がどこだか、自分でもわからないけれど)。
 いっぱいになった悪い気持ちに飲み込まれてしまうのではないだろうか。

「知らせなきゃ、ほかのみんなに……わたしたち……っ」

 学園中に放っていた追跡体たちを、他の猟兵達のもとへと走らせる。
 臭いと思われるかも知れないけど、汚いと思われるかも知れないけれど。
 それはとっても嫌なことだけれど、それでも、伝え無くてはならない。

「あの赤いのに……触ったら、だめ……っ!」

…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━

大成功 🔵​🔵​🔵​

シャイア・アルカミレーウス

誰も味方がいなかったんだね。でも、それをしちゃったら本当に世界中が敵になっちゃうよ。少なくとも、僕たちは多恵ちゃんの味方になりたいな。

(pow)
邪神が復活するための生贄が必要って話だけど、たった4人程度でそこまで大きな力が得られるものなのかな?
校外に情報が一切出回らないのも怪しいし、実は同じような自殺事件が過去に起こっていないかな。

僕は高校3年生の女子に、ユベコで召喚した「この学園にいて違和感のない姿の僕」で過去に自殺やいじめがなかったか聞き込みを行うよ。
寮生活で最上級生なら一番良く知ってるよね?
礼儀作法を守って上手く聞き出そう。
頼んだよ僕!


ティアー・ロード
乙女の涙を無駄に……実に嘆かわしい!
幼き心が招いた事ではある
であるならば!
大人たる教師は何をしている!



教師か……女教師、うん、いいよね
直接聞くとしよう!

【学園に関して調べる】

担任の教師(女性だと嬉しいなぁ)又は保険室の女先生でも探して情報収集といこう

「やぁ、私は先日転校してきたヒーローマスクのティアー・ロードだ。よろしくね」(浮かぶ仮面)
「ちょーっと気になる事があってねぇ、教えてくれるかい?」
「んー、ダメ?」
「なら仕方ないなぁ……ちょっと失礼」

拒否されたら気絶させ私を装着させるよ
当然完全に心を通わせるのは無理だろうけど
心の表層くらいを見せて貰おう
プライベートまで覗くのはヒーローらしくないしね!



…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━
【14】

 シャイア・アルカミレーウス(501番目の勇者?・f00501)の疑問は、猟兵達の捜査によってほぼ確信へと変じていた。
 即ち、生贄として四人の少女を選ぶところまでが、邪神復活のための贄だとして。

 “四人程度で足りるのか?”……という事だ。

 少女一人を追い込んで自殺させ、その隙間に入り込んでいじめっ子を殺させる。
 なるほど確かに邪神のやりそうなことだが、少々迂遠じゃあないか。
 むしろ……この事件は特別ではなく、もっと以前からそんな出来事があったのではないか。

「失礼します、寮長」

 ならば、話を聞くべきは“こっち”だ。
 寮の扉を叩いて、答えも聞かずに開け放つ。

 あっけにとられた表情をしたのは、三年生の女子生徒、この女子寮の寮長だ。
 もう一月の末ということもあって、学校に登校しなくても良い立場らしく、一人、自分の部屋で予習に励んでいるところだったらしい。

「え? ええと、あなたは?」
「僕がここに居て、なにか不思議がありますか?」

 シャイアは堂々とそう言いきった、すると。

「――そ、そうね。不思議じゃあないわね」

 と、なぜか寮長は納得してしまった。

 ユーベルコード、《無色多職の夢幻未来(ナイトウィザード・アンリミテッド)》。
 シャルアが思い描いた【理想の姿】を具現化する能力によって、『この学園寮にいてもおかしくない自分』を作り出す。
 だから、寮長は違和感を感じつつも――たとえそれが見たことも聞いたことも、会ったこともない生徒相手だったとしても――会話を受け入れた。

「……それで、私になにか用事?」
「ええ、聞きたいことがあるんです」

 上級生相手に礼儀作法は忘れない。慣れない敬語は若干使い辛いが……。

「自殺した生徒について」
「え……その、どういう事?」
「昔、居たでしょう。この学園で自殺した生徒が、その事について、話を伺いたいんです」

 これはハッタリだった。
 記録上では、そんなものは残っていない。
 だから――“何か起こったことを覚えているかも知れない相手にふっかけて見るしかない”、のだ。

 果たして。

「……それを聞いて、どうするの?」

 反応は、上々だった。
 寮長の視線は、咎めるようなそれで、見るからにシャイアを警戒している。
 “警戒する”ということは、“過去にそれがあった”という事だ。

「僕の友達が、クラスメートからのいじめが原因で、自殺をしたんです」

 ハッタリに、嘘を重ねる。
 ただし、一部の真実をのせて。

「……え?」
「でも、学園じゃ、なかったことになってて……でも、その子、もうずっと学校に来てないんです、先生に聞いても、何も教えてくれなくて。なんでもいいから、手がかりが欲しくて」

 いいながら、シャルアは寮長の目をじっと伺う。

「それって――だって、あれはもう、三年前の話で……」
「三年前にも、同じことがあったんですか?」
「い、いや、違うわ、だって大丈夫だって言ってたもの。彼女は転校したから、もういじめられない、もう大丈夫だって……」
「誰が、そういったんですか?」

 同様は冷静さを奪う。
 冷静さを奪われた直後の質問に。

「ば、梅有先生が……」

 答えてしまうのは、無理ないことだろう。

…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━
【15】

「斉藤先生、少しよろしいでしょうか?」

 痩せぎすだが、しっかりとした印象を受ける若い男性教師が、そう声をかけたのは。

「おや、何かな?」

 白地に黒の文様……そして血の涙を流す仮面をつけた女教師だった。
 もちろん彼女は斉藤先生ではない。厳密に言うと体は斉藤先生だが今の意識はそうではない。
 ティアー・ロード(ヒーローマスクのグールドライバー・f00536)が取り憑いて……否、ちょっと協力を求めた結果、体を借り受けているのである。
 かなり問題のあるビジュアルに見えるが、誰も問題視しない。ティアー・ロードは猟兵だからだ。猟兵ってすごい。

「いえ、少々気になることが有りまして……ほら、先日、転校生を複数名迎え入れたでしょう」
「ええ、それがなにか?」

 椅子に座って、資料を漁るキーボードを叩く手を止めずに、ティアー・ロードは答えた。

「なんだか生徒たちの交友関係を探っているようで……少し困っているんですよ、是非、生活指導の先生から言っていただきたいと思って」

 成る程、この斉藤先生は生活指導担当なのか、若くて女性なのによくやるなあ。

 などと他人事のように思いつつ。

「そうですか、ですが、それなりに理由はあるんじゃないですか?」
「理由?」
「ええ、例えば、クラスでいじめがあったとか、なんとか聞いてますから」

 ――ジャミングが存在したのは間違いない。
 ――だが、文字化けは解析できる。
 ――とある電脳魔術師の詩は、すでにその闇を暴いている。

「気になっているんじゃないですか? やっぱり、これから自分が学ぶクラスのことですから。ねえ」


『担任の教師、梅有が不審。こちらは別路線で探る。たかし』


「何をなさったんですか? 梅有先生」

 “猟兵によって解析されたメールの文面”を思い出しながら、ティアー・ロードは仮面越しに……いや、仮面そのものが、眼前の男性教師を睨みつけた。
 愛美や多恵の――“一年一組の担任”である、梅有という男を。

「何をだなんて、人聞きが悪いですね」

 それでも、梅有はへらりと笑うだけだった。
 いじめがあったことは、もはや否定すらしなかった。

「彼女たちが自分の意志でやったんですよ、私はそれを後押ししたに過ぎない」

「我々は既にキミ達の喉元に喰らいついているぞ」
「それは怖い。けれどまさか? 善良な生徒たちを巻き込むつもりじゃあないですよね?」
「人質のつもりなら、取る手段を間違えていると思うがね」
「まさか。私だって生徒は大事だ。未来を担う大事な人材ですから。それに――言ったでしょう? 彼女たちは自分の意志で行っていると、何事も」

 にちゃりと。
 唾液が糸をひく音が聞こえるぐらい、口の端を釣り上げて、梅有は楽しそうに嘲笑った。

「あなた達が今探すべきは、多恵さんの居場所だと思いますけどね。まぁ、ご自由にどうぞ? ですが、予言しておきましょう」

 その会話は、職員室で堂々とかわされているのに。
 二人以外は、誰もそれを気にしない。
 まるで、最初からその場に二人しかいないかのように。

「彼女は必ずその手を汚す。あなた達に助けることはできませんよ」

 そう言って背を向けた梅有に――。

「勘違いしているのは、そちらの方だな」

 ティアー・ロードは言葉を投げかけた――いや、投げつけた。

「乙女の涙を食い物にしたのだ。――――死ぬ程度で済むと思わないことだね」

 ぐるりと振り向いた梅有の視線の先に、もう仮面はどこにもなかった。
 意識を失った斉藤が、机に突っ伏しているだけ。
 机の上のディスプレイで――黒猫のマスコットがニィ、と小さな鳴き声を上げて、口に手紙を加えて、電子の海へと消えていった。

…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 冒険 『行方不明少女の捜索』

POW   :    あらゆる人、動物、無機物に聞き込みを行う、羞恥心にさえ耐えれば効率は一番よいのかもしれない

SPD   :    彼女の残留魔力が部屋には残っている

WIZ   :    魔力の総量次第では「魔方陣」を再び作動させることが出来るかもしれない

👑11
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種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━
【1】

「絶対おかしいって! あいつら変! 私達のこと探ってる!」

 愛美の怒鳴り声が、普段から、彼女たちのたまり場となっていた、使われていない空き教室に響く。
 七穂は、ビクリと肩を震わせて、その怒りにさらされるがままだった。

「やっぱり、先生にもう一回……」
「あんなヤツ、アテになんないわよ! あぁもう! なんでこんな事に!」
「……あ、愛美が」

 手当たり次第、机に手を叩きつけ、怒りを示す愛美に。
 絞り出すように、七穂は言った。

「愛美が、多恵にあんなことしたから……」

 反応は、当然のように激怒だった。
 ガシャンと音がしたのは、蹴り飛ばされた机が

「私のせいだっていうの!? アンタたちだって笑いながらいじめてたじゃない!」
「っ! そ、そんなつもりなかった! 私やりたくなかった!」
「はぁ?! 全部私のせいにするつもり!?」
「そ…………そうじゃん! 愛美が多恵にあんなこと言わなかったら――――」
「っ!」

 か細い女子の力でも、全力で振るえば、人間一人を吹き飛ばせる。
 愛美の行動はそれを証明し、殴られた側は、打たれた頬と、倒れて打ち据えた体を抱きしめて、悲鳴をあげることしかできなかった。

「……ていうか、歌詠と紗夜はどこいったのよ。なんでこないの」

 感情を、どうあれ発散したからか……恐ろしいほど、目は据わっているモノの……落ち着きを取り戻したらしい。
 最も、それはイコール冷静であるというわけではないし、その言葉が、言外に、『この私が呼んでいるのに』といっているのは明らかだ。

「し、知らない……もう、もうやだ……私、もうやだ……」
「被害者面しないでよ、共犯でしょ。私も、あんたも!」
「だって――だって目の前で飛び降りるなんて――――」

 その時。
 がたん、と音を立てて、空き教室の扉が開いた。

「か、歌詠――紗夜」

 七穂の口から溢れたのは、二人の友達の名前だった。

「遅い! あんたら、何様のつもり――――」

 すぐに姿を表さなかった二人に怒りの矛先を向けて、愛美は、一歩前に出ていた歌詠の胸ぐらに掴みかかった。

「グィィ」

 その衝撃で、歌詠の喉から、何か絞り出すような音と――――赤黒い粘液が、溢れるようにしてこぼれ出た。

 ●

「グイィ……グイッ」
「グイィィ……グッ」
「グィッ、グイッ」
「グィィィ……」

 四人の少女は喉を引きつらせたようなうめき声をあげながら、ぞろぞろと教室を出ていった。
 その日の夜、寮の自室に四人が戻ることはなく。
 不思議なことに、本来問題であるはずのそれは、一切問題として取り上げられることはなかった。

 ●

 少女達を見失った。
 猟兵達が見張っていなかったわけでは、決して無いのに、いつの間にか姿を消していた。
 まるで――――神隠しのように。
 すでに日は落ち、生徒たちは寮へと戻っていった。
 夜の学園に残ったのは、沈黙と静寂……。

「グィィ」

 では、無い。
 うぞうぞとうごめく、赤黒い粘液が。
 学園中、いたるところを、這い回り始めた。

…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━
【補足事項】

 ・愛美、歌詠、紗夜、七穂の内、誰をどうやって探すか、をプレイングに明記してください。
 ・場所を指定するよりは、手段を考えたほうがいい感じになると思います。

 ・赤黒い粘液は学園内部を這い回っていますが、適当に攻撃すれば倒せます。特別ユーベルコードを使う必要はありません。
 ・ただし「人間の中に侵入した粘液」に対抗する場合は、何らかのユーベルコードやアイテムが必要でしょう。
  それをどう活かすかも含めて、プレイングに明記してください。
 ・脳を持つ生き物が寄生されると、自身の悪感情が増幅及び暴走するようです。
  なんか面白い描写とか演出が見たければ、あえて寄生されてみてもいいかも知れません。
  希望する際はプレイングに明記してください。ただし、女の子たちを探す余裕はなくなると思います。

 ・各少女達につき、一定の成功値が貯まると救出可能となります。逆に、失敗値が一定以上になると死亡します。
  これはシナリオの成否とは別にそれぞれ加算していきます。

 ・2章の判定は極めて厳密に行います。その分、プレイングボーナスの幅を大きくする予定です。

 ・旅団、知人友人同士で合わせプレイングを行う場合は、その旨を明記してください。

 ・リプレイ執筆は2/3(日)以降となります。なので、2/2の0時以降にプレイングを送るのが一番良いかと思います(失効日的に)
  それ以前に来たプレイングも全て目を通し、執筆の準備をしますので、
  【とりあえず事前にプレイングを送っておく】のは歓迎です(ただし、採用を保証するものではありません)。

 ・事前に送った内容と、後で送った内容が変わってもそれはそれで構いません。なんとかなるさ。

…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━
ロク・ザイオン
○MM歌詠捜索班
●POW
(索敵、通信する零井戸を守ることと。現場で更に【野生の勘】【暗視】【追跡】で獲物を追い込むのが自分の役目。
既に狩場は見回った。足には自信がある)
…遅い。
(細く軽い零井戸は担いで走る)

(荒事は自分が引き受ける。
粘液は【先制】【早業】【なぎ払い】で排除。
憑かれた人間や歌詠は、悪意に過敏なら【恐怖を与え】たり【殺気】で惹き付けたい。
捉えたら山でしたように頭に衝撃を加える。
だめなら自分の頭を「羨囮」で変えて噛む。傷付け過ぎずに吸う。気を失うまで弱らせれば、出るだろうか。
粘液はすぐに潰し、体は「生まれながらの光」で治す)

…キミがまだ治る病葉なら、焼かない。
殺すのは、嫌だから。


在連寺・十未

猟兵の目を掻い潜って、となるとかなり厄介だ。早いとこ見つけないとならない。

【SPD】
『情報収集』で学園内部の図面を入手して構造上おかしな部分が無いか等を調べ『地形の利用』僕のディフィニングコード……地縛鎖で残留している魔力は無いか、流れはあるかどうか、を探りつつ、歌詠さんを探そう。魔力の流れが分かれば流れていく方にこそ贄は居そうじゃないか?なんとなくの所感だけど。

彼女は他の猟兵の報告の時点で操られていたのが明白のようだから

で、あの赤黒い粘液だが……正直よく分からない。宿主の意識を奪えば表に出てくるようだから、このユーベルコードを上手く当てて、出てきたところを潰そうか。


アイシス・リデル

アミさんを探す……ううん
出てきてもらう、よ

学園中にわたしの臭いを振りまく、ね
いやな気持ちやわるい気持ちがおっきくなるなら、きっと、我慢できなくなる筈だから
他の猟兵の人たちにも、いやな思いをさせちゃうけど……
臭いを振りまいた後は、なるべく目立つところで待つ、よ

……あなたに見せられなくても、知ってるよ
わたしの中にも、あんな気持ちがあるってこと
それでも、ね
こんな目を向けられて、石を投げられたとしても
それが全部じゃないって事も、知ってるから

ごめんなさい、いやな思いをさせちゃって
どうすればいいかなんて、わたしには思い付かなかったから
攻撃には抵抗しないで、他の人が何かするまでの「時間稼ぎ」に徹する、ね


マグダレナ・ドゥリング


僕は七穂君を探そうかな。ラッキーセブンだからね
彼らの意思がどの程度残っているかはわからない
学園の方に対する推測で動いてみよう

彼らはオカルティズムに傾向しているが、それにありがちな現代科学の軽視をしていない
ハッキングへの警戒も強い、とすると監視カメラがあるとしても映る場所には置かないだろう
学園も場所を把握する必要はあるだろうが、それは粘液を使った魔術的な要素だと推測する

監視カメラの位置を【情報収集】するのに【ハッキング】は必要だけど、
【エレクトロレギオン】を護衛にして、自分の足で監視カメラの隙間を探してみようか
必要なら包囲するように展開して、周囲の粘液を潰せば追い立てることも出来るかもしれない


夷洞・みさき

歌詠捜索

ただの死人の呪いってわけでも無さそうだね。
それに、現世の咎は現世の人で禊ぐものだしね。

歌詠君自身ではなく、粘液の咎-気配を追いかけよう
人に隠れて虐めるのに都合良い場所を重点的に。
後悔が強かったみたいだしね。

他にも人海戦術の人もいる様だし、僕もその手伝いをしよう。

【UC六の同胞】による咎や死等不穏な気配が濃い所を優先で捜索する

対粘液:触れないように車輪で轢き潰す

対歌詠:【呪詛耐性】を込めた八寸釘を命に関わらない部分に刺し、寄生した粘液の排出を狙う
顔を狙うのは良くないからね。

救出後護衛
他の人達は何処にいたのかな。位置に意味があるなら、ここじゃ危なそうだね。

救出場所から離れた場所で護衛


月輪・美月
○【MM愛美捜索班】
自分の影と、やってしまった過去から逃げることは出来ませんよ、愛美さん。
――ですが、貴女もこの学園の悪意の犠牲者であるなら、貴女の心に友情の欠片が残っているのなら、貴女達の未来が少しでも良いものになる可能性があるなら……僕が全力で守ります

【影の狼の群れで愛美を捜索。一緒にいた時間が長いので匂いで追えると判断

狼と美月は影に潜って移動可能。4人の少女か多恵発見時は対象の影に狼を潜ませる事で見失わないように

操られている可能性を考慮し、対象の少女を保護出来た場合、拘束し他の猟兵のいる場所へと連れて行く。粘液には注意して行動

他の参加者、特に愛美捜索班とは協力、情報共有を心がける】


霧生・真白
○弟で助手の柊冬(f04111)と🔎

ほう、随分と事件の概要が見えてきたじゃないか
容疑者少女たちが消えたことで急展開ときたか
今回ばかりは安楽椅子探偵を気取るわけにもいかない、か
僕と柊冬は紗夜の捜索をしよう

暗いだろうが灯りを持てば自ら場所を知らせるようなものだな
【暗視】と【視力】を頼りに動こうか
【情報収集】しつつ【追跡】、【失せ物探し】、【第六感】を頼りに探そう
閉じている場所なら【鍵開け】
使えるものはフル活用でいこうか

赤黒い粘液に遭遇した場合は探偵の現場保存術で動きを封じ【時間稼ぎ】をしている間に【逃げ足】
万が一攻撃されたら【オーラ防御】
柊冬が乗っ取られたら殴って声掛けして追い出してやるさ


霧生・柊冬
○姉である探偵の真白(f04119)と

姉さんの推理で事件の内容が少しずつ見えてきた矢先、容疑者の生徒が消えてしまうなんて…。
思っていた以上に事態のペースは早くなってきてるのかも。
姉さんと一緒に協力して紗夜さんを探し出します。

夜の学園だけあって目視だけじゃどうにもならないけど、灯りを使うのも少し危険だし、進行は姉さんを頼りに動いていこう。
「影の追跡者の召喚」で追跡者は別ルートに動かして、なるべく広く探させよう
何かあれば【情報収集】も怠らずに

粘液に遭遇したらなるべく戦闘は避けて撤退を優先
追跡者側でも遭遇したら逃げるか場所を覚えてから発動を解除しよう
姉さんが乗っ取られたらこっちも殴って追い出させよう


夕凪・悠那

こんなに大きな学園ぐるみってバックは何さ
資金力と権力持ってそうな邪教徒に生贄養成校とか冗談じゃない

まぁ今はこっちだね
大きい学園、しかもロクでもないことしてるなら監視カメラぐらいあるはず
手近なカメラを起点にLaplaceとESで[ハッキング]して[情報収集]
学園中…だと多すぎるか
高等部校舎及び寮周辺、屋上に絞って捜索
――見つけた。確か紗夜さん、だっけ

対粘液
【バトルキャラクターズ】を全合体
[目立たない]で[見切り]と[カウンター]に優れ[衝撃波]叩き込める仮面兵を護衛に召喚
危険を知らせる[第六感]には逆らわず
人体に侵入した粘液への対策に見つけた粘液で【崩則感染】の実験と調整
うまくいったら対人使用


アレクシス・アルトマイア

少し出遅れてしまいましたが、人手は多いほうが良いでしょう。
行方不明の方四人と御一人の捜索のサポートをしに参りました。
チームを組んではいないので、身軽に単独行動をしてみようかと。

梅有教師の動向を確認いたしましょう。
さて、何をしていらっしゃるのでしょうね……?
銃弾やナイフでの説得が通じるようなら安心なのですが、
そう簡単に行きそうにありませんねぇ

学園内の粘液にも対処いたしましょう。
【従者の諫言】でそのちょっとホラーなとことか操られた方にもう少し語彙が欲しいこととかにダメ出しして無効化いたしましょう。
ジョンくんや誰かが案があるようでしたら、お手伝いしましょうか。


メア・ソゥムヌュクスス

うーん、出来ることは少ないかもだけど、やれる事をやって行こうー。

じゃあ、私は高い所から学園全体見渡して、なにか違和感や異変がないか調べて、仲間に伝えようかなー?
そう例えば、この学園で「空に一番近い場所」からー、とか。
そこで何か見つけたら放送室に居るジョン・ブラウン(f00430)くんに連絡して放送してもらうよー。

何もないようなら、赤黒粘体対策に安らぎ物質【ソゥムヌュクスス】(催眠属性)を【UC:終の空】で霧状にして広げ、学園全体に感染(パンデミック)させるよー。
効率良く全域にばら撒く為と、他の人の邪魔にならないようにー、重く沈むようにして上からもわもわ広げるよー。

自衛は【催眠術】で昏睡だー


フィア・ルビィ
〇SPD

【MM紗夜捜索班】
百々さん(f01640)、メアさん(f06095)と行動、します。

……魔力の痕跡、捜します。【暗視】で敵の位置と、残留魔力の痕跡。たどれるでしょう、か。……メアさんが掃討する以外にも、邪魔になる敵なら、【なぎ払い】、します。
私のユーベルコード、「盗賊ノ少女」なら、部屋に鍵がかかっていても、開けられる、かもしれません。

……紗夜さんを、見つけたら。私の役目は、紗夜さんの足を止めること、です。「盗賊ノ少女」なら、鉤付きロープは、持っていますから。ロープ、足に引っ掛けたり。二人で紗夜さんに巻き付けて行動を制限すれば、いいかもしれません。


シャイア・アルカミレーウス
【MM七穂捜索班】
このままだとあの四人が危ない!何とか見つけ出さないと!

(pow)
魔力的な探知とかは苦手だから、物理的に何とかしよう!
[ガチキマイラ]で頭をライオンに変化、嗅覚と聴覚でもって七穂ちゃんの痕跡を追跡するよ!
匂いが途切れたりして迷ったら「野生の勘」で進む方向を決めよう
同行する人はもちろん、他の班の邪魔もしないように常に連絡して連携を行おうね!

七穂ちゃんを見つけたら、「破魔」をのせて[召喚士の輝跡記録]を使うよ。冒険日誌から呼び出すのは「ややこ島の泥人のトモミちゃん」
精密に動かせる体組成で粘液を引きずり出してもらおう!

トモミちゃんやあの病院の子達みたいにはさせない!今度こそ助ける!


リゥ・ズゥ
◯【MM七穂捜索班】
リゥ・ズゥは、捜し物は、得意、だ。
学校、初めて、だ。仲間も、いる。問題、ない。
(「暗視」「視力」「野生の勘」「バウンドボディ」を併用しあちこちに視界を伸ばしながら駆け回って七穂を捜索。
謎の粘液が目的ある動きをしているようなら闇に紛れる黒い体と「忍び足」を活かし気付かれぬように追跡、
何か分かり次第仲間へ伝え、捜索の手掛かりとならないか相談します。
七穂を見つけたら身体をロープ化し「ロープワーク」で捕縛、傷付けない程度に振ったり揺らしたりして粘液を吐き出させないか試し、ダメなら逃さぬように注意し仲間に任せます。
粘液が侵入してきたら、呪詛耐性で抵抗し吐き出します。)


ジョン・ブラウン

ヴィム(ヴィクティム)と協力

「あ、あー、テステス、これもう聞こえてる?」

放送室に陣取り、ヴィムと協力して学園や寮、個人の携帯端末など
とにかく音声を流せる機械全てに片っ端からハッキング

「貴方のお耳の侵略者!DJジョンの真夜中ゲリラレィディオ!」

「まずはお便りコーナー!R.N美食家さんからの質問!
『赤黒粘液さん、人の体の中って居心地良いんですか?』
コイツは僕も気になるね!よっぽど気持ちいいのかな?外に出たら萎れちまうくらいに!」

「回答は耳元まで」
ウィスパーを起動し赤黒粘液の発する声を全て拾い上げる

放送が届いた赤黒粘液全てにユベコで攻撃
体内外問わずブッ飛ばす!

「さぁまだまだ続くよお便りコーナー!」


ネグル・ギュネス
◯愛美探索班
月輪殿、天命座殿と行動する

さて、貴殿のやったことは、とうてい許される事ではない。
されど過ちを償い、救いを求めるならば。

如何なる悪意からも、闇からも守ると約束しよう。

サイボーグは、義理堅いのさ。

斥候を担当する
【暗視】で周囲を警戒し、ユーベルコード【勝利導く黄金の眼】や装備で、熱源や生体の反応を探知し奇襲に警戒して動く

粘液を発見したら、刀で【衝撃波】を放って、壁に叩き付ける

また、寄生された人がいれば、峰打ちで意識を刈り取り、近くの教室にでも放り込んでおこう

4人の少女か多恵発見時、月輪殿に合図する
操られていた場合は、専守防衛に努め、拘束狙い

【他の捜索班や仲間と協力、情報共有を厳守する】


零井戸・寂
【MM歌詠捜索班】

【POW】
総浚いだ。頼むよ【NAVI】。
【バトルキャラクターズ】【NAVIgation Support】を組合わせる。

総勢16体のNAVIを召喚し学校内を隈なく【情報収集】しつつ痕跡を【追跡】。
【ハッキング】でシステム上の怪しい所も確認。……他のハッカー組とも連携して行きたい所だね。

NAVI達の【視界(視力)】はゲームデバイスの画面と同期させ逐次確認する。

ロクに運ばれつつ気になる所があればそこを集中して探s……いや待って揺れるこれ気持ちわる……う゛っ

ぼ、僕は戦えないから戦闘はロクメインで……
NAVI、【Cat Hand NAVIgation】で巨大化して支援してあげて。


ヴィクティム・ウィンターミュート
〇【MM歌詠捜索班】

歌詠の捜索をメインとする。【ダッシュ】で足を使って捜索しつつ、ユーベルコードで出した偵察ドローンで広域偵察し、【情報収集】だ。
痕跡を見つければ【追跡】し、鍵がかかった扉等があれば【鍵開け】。映像記録が見れる物には【ハッキング】で掌握して内部データを見る。
得られた情報は他の捜索担当にも共有する。

赤黒い粘液は見つけ次第ドローンの装備で撃破する。
また、ジョン・ブラウン(f00430)の支援の為、見つけた電子機器(特に音が出るもの)は片っ端から【ハッキング】して、ジョンがアクセスできるようにしておく。


やることが多いが、装備してるデバイスを全て同期して演算能力上げれば…いけるだろ。


六六六・たかし
○【MM七穂捜索班】【アドリブ歓迎】

「二度としないように」か
知ったことか、俺をこの程度の圧力で止められると思うなよ。
とりあえずは迷子探しだ、さっさと見つけ出して確保する。
探すのは…七穂ってやつにしておこう同じ眼鏡だからな。

シャイア(f00501)リゥ(f00303)と合流し捜索に当たる。
闇雲に一人で探しても埒が明かない。
『悪魔の分身(デビルアバター)』を使用して「ざしきわらし」と「かかし」を増やし
俺の「第六感」「視力」と合わせて探索していく。

粘液に関してはヤドリガミのボディを活かして無視するか、たかしブレードで切断する。
他の二人に向かっていきそうならば「かばう」で俺が粘液を引き受けよう。


富波・壱子
【MM歌詠捜索班】

使用技能、情報収集、追跡
ユベコで影の子供達を呼び出して人海戦術で探すよ

集合!緊急事態だから真面目にお願いね!
皆、いなくなった女の子達を手分けして探して!
ん?どうしたの挙手なんかして?
あぁ、そっか、念の為に試しておかなきゃダメだよね。……お願いできる?

影と頷き合って、挙手した一人に粘液を取り憑かせてみるよ
……あぁもう!やっぱり暴れだした!

仕方ないなぁ、三人組作って!二人はわたしと!粘液に直接触れないようお互いをフォロー!探すのは扉の閉まった場所やロッカーみたいにドローンが探れない場所を重点的に!何か見つけたらすぐ他の猟兵やドローンに目立つ身振りで報せること!
それじゃ……行って!


リチャード・チェイス
○【多恵を探す】

さて諸君。重力に引かれリンゴが地面に落ちるが如き自然の法則をご存じだろうか?
そう、その通り。それ即ち「犯人は現場に戻る」である。
事件は主に三丁目付近で起きるのであり、会議室では起きない。寝るが故にである。

渦中であり、怪しい物証があり、世界を一望できる屋上という立地を利用しない手はないのである。そうであろう、梅有君?
妨害が無ければ彼女が目的を達するのは必至である。故に学園内に現れるのも必然である。
事が始めるまで、こうして屋上から眺めるのである。
(魔法陣の書いてあったであろうタイルをステッキでコツコツして歩き回る。疲れたら真ん中にテーブルとイスを置いて優雅にティータイムもする)


ティアー・ロード
私が誰を探すだって?
決まってるだろう

【多恵を探す】

別にあの男に言われたから探すというわけじゃない
彼女を救いにいくんだ

「私は乙女の味方だからね、
救える乙女は誰だって救うのさ」

洗脳されてたら気絶狙いの体当たり
危機が迫っているなら我が身を盾にしよう


【探索方法】
夜の帳などで私の眼は誤魔化せない!

空高く浮遊して移動!
夜空からの探索を行うよ

私の右眼の暗視能力と
この抜群の視力で可憐な乙女達をサーチだ!


情報収集で自身の発見した乙女や他の猟兵が見つけた娘の情報を共有して役立てたいな
ちょっと他の乙女の位置が気になっててね

「妙だね、何故一箇所にいないのだろう?」
「撹乱狙いか……?
5人の生贄、魔法陣、梅有……まさか」


天命座・アリカ

【MM愛美捜索班】
ネグル君、美月君と協力

なるほど次は人探し!名探偵だよアリカちゃん!
彼女の行いは確かに悪だがね!救える生命は救うのさ!
笑える未来を目指そうか!

捜査の基本は現場百篇だよワトソン君!
私の能力で空き教室と続く廊下の記憶情報を読み取ろう!【情報収集】
隠し通路か転移能力かは知らないが!彼女達の足取りくらいは掴みたいものさ!

私は聴く事に集中するからさ!
前方後方上下に左右!守りと雑用はネグル君にお願いしよう!
なに、ナピくらいは任せ給え!

彼女達を救う方法だがね、
【世界知識】【医術】【ハッキング】で寄生位置を特定できないものか!
斜め45度でチョップを入れたら追い出せたりしないかな!

情報等は共有


アイリーン・イウビーレ

私は愛美ちゃんを探すね!だって、名前に愛が入っているんだよ!
愛が詰まった子に決まっているよ!愛美ちゃんも他の皆も愛を持っているんだ!だから、いじめも本心じゃないよ!
「愛ドール!」として私にはわかるよ!

「Summon:CupId」を使用して、愛美ちゃんの居場所を探すよ!
愛のキューピッドならきっと手掛かりを見つけてくれるはず!愛の詰まった愛美ちゃんなんだから!

探す方法はキューピッドと分担して色んな人に聞き込みをするね!
愛美ちゃんと近しい人はもちろん、手あたり次第たくさん!
教えてくれない人には怪力や催眠術を使っていくよ!申し訳ないけど、一刻を争うもんね

見つけたら説得だよ!愛を思い出してもらうんだ!


西園寺・メア
【MM紗夜捜索班】
百々さん(f01640)・フィアさん(f01224)と協力して捜索にあたりますわ(POW)

踏破せよ、果ての果てまで!武器を構えて振る時間さえ惜しいのでわたくしのユーベルコードで道を踏み慣らしていきましょう
先の調査で生徒が何故か寄り付かない区画や粘液が多い箇所へ進んでいく
情報収集で違和感を探し、追跡で追いかけ、時には第六感による直感で捜索

粘液は呪詛耐性で防御
踏み慣らしてるのは道だけなので、天井や物陰からの奇襲を警戒
紗夜をみつけれたら呪詛でを気絶させるか、百々さんやフィアさんの援護で対応
手を繋いで呪詛耐性を共有して再度寄生を防ぐ
周囲を警戒しながら無事に脱出するまでが救助よ


天御鏡・百々
【MM紗夜捜索班
フィア殿(f01224)メア殿(f06095)と一緒に行動

我は仲間と紗夜殿を捜索するぞ

この粘液は何処より出てきたのか
粘液が多い方へと向かえば何か掴めるか?
その先に紗夜殿がいれば良いのだが

「第六感」や「失せ物探し」で何かに気づければ
直感を信じてそちらへと向かおう

粘液は我の体に侵入してこぬとはいえ気持ちが悪いな
神通力による障壁(オーラ防御31)で近づかれぬようにし
真朱神楽によるなぎ払い12で討伐しつつ進もうぞ

紗夜殿を見つけることができたならば
破魔30を乗せた「生まれながらの光」で粘液の浄化を試みる
医術7や救助活動10も有効そうであれば使用しよう

●神鏡のヤドリガミ
●アドリブ、絡み歓迎


寧宮・澪

んん……歌詠さんを……探しに、行きましょー……。

学園のシステムに、内側から……学園内のネットワークに、学園の端末、踏み台にして……【ハッキング】。
監視システムと自分の仮想世界、繋いでー……学園のシステムを、一時的に、掌握、【情報収集】、できますかねー……。
うねうねの分布……【第六感】や、【呪詛耐性】が引っかかる場所……まとめて、猟兵で情報共有したいですー。
集まってたり、何か違和感あればそこに向かいますー……。

中に入ったうねうね、にはー……【破魔】、【祈り】、【呪詛耐性】、込めて、謳って、みましょー……。あと、その効果持つ、お守り当ててみたりー……。
嫌がって、出てきてくれないです、かねー……。



…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━
【2】
 ▼ 信星館学園 1F 高等部校舎 南エリア外 ▼

 日が落ちて、暗くなっただけ。
 たったその程度のことで、学園の姿は一変した。
 生者が居らず、汚物が這う。
 それだけで、こんなにも悍ましく、見苦しい。

「グィィ……」
 ネバネバした液体で出来た細長い芋虫、と形容するのが、最も適切だろう。
 それらは大小さまざまな形で、うぞうぞと学園内を這い回る。
 廊下も、教室も、机の中も、ロッカーも、まるで何かを探すように。

「……気持ち悪いな」
 窓の外から室内を覗き込む零井戸・零井戸(アフレイド・f02382)の口から溢れたのは、純粋な嫌悪感。
 傍らのロク・ザイオン(疾走する閃光・f01377)も同じく頷いて、切れ長の目を、さらに細くした。

「“アレ”は……嫌いだ」
「好きな人が居たら見てみたいけど……」
「違う。……“アレ”は、生きてない」
「……どういう意味?」
 ロクを見上げながら――なにせ、身長差があるもので――零井戸は訪ねた。
 返答は、砂を手の中で混ぜ合わせたような、ジャリジャリとした掠れが混ざる、彼女特有の声色だ。
 それを不快だと口に出すものは、この場には居ないが。

「“アレ”にはいのちの気配が、ない。何もない。だけど……いのちにとり憑いて、操る。生きる為でも、増える為でもないのに、だ」
 その面相に浮かぶ感情。
 怒っているのではなく。
 嫌っているのだろう。

「“アレ”は――いのちの、自然の営みの中に、いない。ここにも、あるべきじゃない」
「……それも含めて、同感。僕も嫌いだよ、あんなの」
「そうか」
 その掠れた声色が、ほんの少し嬉しそうに聞こえたのは、気のせいだろうか。

「ところで」
「ん?」
「それは、なにをしている?」
 先程から――それこそ、校舎を覗き込んだ時から。
 零井戸はずっと、携帯端末を操作していた。それそのものは、ユーベルコードを使ったハッキング作業なのだが。

「ええと、これのこと?」
「それのこと、だ」
 彼女が気になるのは、画面の中に映る黒猫だろう。
 細かいドット絵の猫が、ゴロゴロニャアニャア鳴きながら、カリカリとケーブルを噛んだり壁を引っ掻いたりしている。

「NAVI達のハッキング作業……要するに、今、この猫達に学園の中を調べてくれてるんだけど」
「ねこがか」
「……うん、まぁそう」
 NAVIは黒猫型の電子精霊であり、この行為一つ一つはプログラムの改ざんや構築を行っているのだと言うことは、多分説明しても面白くないだろうと思ったので、零井戸は話を進めることにした。

「他の猟兵達の報告じゃ、外部からのセキュリティが尋常じゃないほど強固なんだってさ。つまりこの学園にはネット関係に強い敵がいる、ってことだ。なら……」
 にぃ、と猫の鳴き声が上がった。

「…………よし、釣れた釣れた」
 手にしたデバイスの、画面内に。
 うぞうぞうぞうぞうぞうぞ、と蠢く赤黒い“何か”が大量に侵入してきた。

「これは、いいのか?」
「いいんだよ、わざと足跡を残したんだ、こいつらが来れるように」
 ポータルを開いて、NAVI学園内のネットワークを荒らし回ったことで、連中はこちらに気づいた。
 気づいて、対応の為に、手先を送り込んできた。
 “向こうから来れるということは、こちらから行けるという事”だ。

「――――――――!」
 何かの視線を感じて、ロクが窓を見た。
 赤黒い何かは、窓にべったり張り付いて、ぎゅるぎゅると蠢いて、こちらを“見て”いた。
 何故わかったか? そりゃあわかる。だって粘液で構成された巨大な目玉が、じぃっと二人を凝視しているのだから。

「きづかれた、どうする」
「どっちにしても逃げ隠れするつもりはないよ――ここが勝負時さ、他の皆も動くはず」
 ビシッと、窓ガラスに亀裂が走った。割れるより先に、生まれた隙間からズルズルと粘液が染み出して、迫ってくる。

「グィィ」
「グィ」
「グィィィ」
 零井戸は駆け出しながら、デバイスに触れた。命令完了。
 ……直後、総勢十六体の黒猫が、その足元に出現した。
 NAVIの支援をもってして、零井戸が今操れる限界の数。
 現実に出現した電子の精霊達は、実体を持つハッキング・ツールにしてデバイス。

「頼んだよ、皆!」
 命令を下しながら、走り出す。
 目下、最も重要なのは、“少女たちがどこに消えたのか”だ。
 闇雲に探しても駄目だ。何かしらの手がかりが、絶対に必要だ。

「お前達が“どこから来てるか”突き止めてやる……っ」
 その為の一手。
 この学園が生み出し続けてきた悲劇の、その内側に、黒猫の爪を届かせる。

「グィィ」
「あっ」
 赤黒の塊がにゅるりと触手を伸ばし、あっさりと零井戸の足に絡みついた。

「うわ思ったより速いこいつ! しかも力強い!」
「グィィ」
「っ! 痛っ!」
 グリグリと頭部(……だろう、多分)を皮膚に押し付けられ、そこから刺すような痛みが走る。
 “噛んで”いるのだろう。そして皮膚を破り、血管を通して、体の中に入るのだろう。
 そして…………。

(――――っ)
 背筋が底冷えする、思い出したくない記憶が、頭の中の封じたどこかから引きずり出されようとしている、明確な危機感。
 それが具体的な形を作る前に。

「ふっ」
 ロクの使い込まれた山刀が、その触手を、使い込まれた一太刀で切り離した。

「平気か」
「う、うん、ありが――うわ、また来た!」
「…………」
 走り出そうとする零井戸の背を見て、ロクは一瞬だけ思考し、すぐに結論を出した。

「…………」
「うわぁ!?」
 躊躇なく、零井戸の体を肩に担ぎ上げた。

「大丈夫だ、問題ない」
「僕的にはこっちのほうが問題ある気が……!」
 しかし実際の所。
 片腕に零井戸、反対の手で山刀を携えたロクの動きは、微塵も損なわれなかった。
 迫る粘液をザクザクと切り払い、現代っ子零井戸とは比較にならない速度で走り抜ける。

「キミは、キミにできることをしろ。おれは、おれにできることをする」
 ロクは、言った。

「おれが、キミを守る」

…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━
【3】
 ▼ 信星館学園 1F 高等部校舎 南エリア廊下 ▼

「にぃ」
 と、どこからともなく現れた黒猫が、鳴き声とともに己の肩に飛び乗って。

「来た来た」
 学園内を駆け回りながら、ヴィクティム・ウィンターミュート(ストリートランナー・f01172)はほくそ笑んだ。
 周囲に投影されるのは、無数の0と1の羅列で構成された、空間に投影されるディスプレイ。
 事象は全て電子的に変換され、彼にしか読み解けない最高効率を叩き出す、彼のみの世界が展開されていた。

「ずいぶんと可愛らしいガーゴイルだが……成果は上々か?」
「にゃぁ」
 ぺっ、と黒猫が吐き出したのは、物理的なモノではない。
 それは砂嵐のようなノイズであり、情報の塊だ。

「ウィズ! お前のご主人様は良い仕事するぜ、おかげでこっちも捗る」
「みゃぁー」
 猟兵の中でも、随一のハッキング能力を持つであろうヴィクティムの全身には、余す事なく電子戦装備が搭載されている。
 それは例えば大量のプログラムを何時でも使えるよう内蔵した両対のサイバーアームであったり、大脳に埋め込んだ高機能演算装置であったり、だ。
 だが、それを運用するのは、あくまでヴィクティム個人の思考であり、意志だ。
 己の意志で世界を書き換え、己の意志でプログラムを解き放つ。

「さあ、行けよアルゴス」
 かの巨人は百の目を持つとされるが、ヴィクティムの使役するドローンはその数を超える。
 ユーベルコード《Argos Eye》、即ち――――総勢百二十機の監視の目が、学園内に放たれた。
 ビデオカメラを搭載した無数の監視の目は、全てが視界と同期し、その全ての映像を、ヴィクティムは並列処理する。

「グィィ」
「は、廊下中粘液だらけと来た。よほど趣味が悪いらしい――っと」
 天井、床、壁、あるいはほんの小さな隙間まで。
 うぞうぞと細長い形を蠢かせる粘液の群れは、生理的な嫌悪感を呼び起こさせる。
 一体の粘液がドローンへ触手を伸ばした。電脳世界に入り込める、ということは即ち、粘液は電子機器にも影響を与えられる、という事だ。
 純粋な『物』であり、本体を別とするヤドリガミならまだしも、遠隔操作のドローンならば、その対象となる。

 だが。

「来ると思ったぜ、バズ・オフ(焼け焦げろ)」
 ドローンに触れた瞬間、火花を散らして焦げ付いたのは、粘液の方だった。

 NAVIがもたらしたデータは、赤黒い粘液達が零井戸の端末に侵入してきた際のログだ。
 即ち、“電脳世界に存在する粘液の情報”そのものである。
 それさえ手にしてしまえば、反撃のプログラムなどいくらでも作れるし、仕込める。

 現実のコイツらは、撃っても撃ってもキリがない。
 どれだけ“焼いて”も湧き出てくる、どういう構造体なのかもわからない。
 だが、データとして存在するならば。
 それはヴィクティムの領域だ。なぜ存在し、どう作られ、どんな理屈で動くのか。
 ――――どこから来たのか、全てを暴くことが出来る。

「“仕込み”は上々――頼むぜチューマ。最高のレディオを聞かせてくれ」
 ドローンに新たな指示を出しながら、ヴィクティムは口の端を釣り上げた。

…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━
【4】
 ▼ 電子の海 個人サイト【Cradle.ex_】 ▼

「にぁ」
 寧宮・澪(澪標・f04690)の元に、一匹の黒猫が手紙をくわえてやってきた。

「おやー……」
 現実の話ではない。インターネット上の、掲示板でのことだ。
 黒猫がぺっ、とメールを吐き出すと、途端、文字の羅列が吐き出された。

「…………ふふー、ありがたい、ですよー、これはー」
 外部からのセキュリティが強固であるならば、内側から干渉すれば良い。
 零井戸が実体化させたNAVIは、言わばそのポータルだ。
 学園の内側からネットワークに接続し、外部からのアクセスの中継点となる。

 更に言うなら、複数のNAVIがハッカー達の傍らにいることで、内外問わず、彼らは情報を一瞬で共有できる。
 故に続いてもたらされるのは、粘液の分布図と、発生源の位置。
 《Argos Eye》が収集した視覚情報に、ヴィクティムが分析したデータを簡潔にまとめたものだ。

 それは学園の座標より遙か下――――深い深い地下から、湧き水が滲み出るように這い出て来ている事を示していた。

「……ここが、根、ですかー。けど、今はー……」
 だが、少女たちは“下”には居ないだろう、と澪は当たりをつけた。
 というよりも、データがもたらす各数値は、その場所に生身の人間がいたら『生存できない』と示している。

「……こっち、ですよー」
 粘液達がこれだけ大量に出現した理由は明白だ。
 敵は猟兵達の存在を察知した、故に儀式の邪魔が入らぬよう、妨害の為に彼らを呼び出した。
 言い換えるなら、“粘液の妨害が激しい所”にこそ、少女たちは居る。

「…………見つけ、ましたー」
 校舎内で、濃密な“呪い”の気配を示す四箇所。
 即ち、ここが……。

「……んんー?」
 黒猫が、新しいメールを持ってきた。
 読まず食べた、なんてことはしない。
 ら、と軽く喉を鳴らすだけで、中身を開いて、目を通す。

「……なる、ほどー、んー……」
 その文面を見て、少し首をひねり、そして……ほんの僅かに頬を染め。

「……わかり、ましたー。やって、みましょうー」
 つぶやいて、“謳匣”を起動させた。

…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━
【5】
 ▼ 信星館学園 3F 高等部 特別教室棟 音楽室前 ▼

「ここで間違いないの?」
 『音楽室』とかかれた教室の前で、富波・壱子(夢見る未如孵・f01342)は傍らの猟兵に訪ねた。
 巨大な車輪を携えた有角の女性、夷洞・みさき(海に沈んだ六つと一人・f04147)は頷いて、

「この周辺で、彼女らにまつわる一番咎の匂いが濃いのがここだった、多分――」
 一度言葉を切ったのは、躊躇いではないだろう。

「ここで、凄惨にいじめられたんだろうね」
「……あー、そっか、いじめの復讐だもんね。おんなじことをやりかえして当然か。おーい、皆、戻っといでー」
 僅かな納得を得ながら、壱子は校舎の探索を任せていた影法師の子供達を呼び戻した。
 スリー・マン・セルで行動させていた彼らだが……。

『! !!! !!! ――!!!』
 戻ってきた内、一人の黒い少年の影法師が暴れだし、他の影法師達が慌てて押さえつける。
 それを見た壱子は、額に手を当て、あー、とうめいた。

「やっぱしのぎきるのは無理かぁ、いいよ、一旦戻って」
 壱子が呼び出し、指揮する十九人の子供――影法師達もまた、それぞれ独立した意志を持つ故か、粘液に侵入されると、悪感情が発露してしまうようだった。
 癇癪を起こす少年の影は、もはや普段の冷静さ(……いや、喋らないけども)など見る影もない、影法師なのに。
 他のチームも、ほとんどそんな有様だったので、影法師達は順次、壱子の影に溶けるように消えていった。

「………………」
 影法師の体内に侵入した赤黒い粘液が、ぺっとはじき出されて、ビチビチと跳ねる。
 ぐしゃ、とそれを踏み潰したところで、最後の一チームが戻ってきた。

「……ん? そっちは大丈夫だったの?」
 こくり、と、そのチームの代表なのか、少女の影法師が頷いた。
 その傍らには、何故か「にぁ」と鳴く黒猫をぶら下げたドローンが対空している。

「……なにそれ」
『……! !!』
「途中で合流したらしいね、他の猟兵が遠隔捜査しているのかな」
「わかったの!?」
 自分以外で、この影法師達とコミュニケーションが取れるものが居るとは! と驚いたものの、みさきはいや、と手を前に出した。

「いや、今のはただの推察だよ。それより、なにか言いたがってるようだけれど」
「んぇ?」
 『にぃ』、と猫が鳴いて、その意図を察した少女の影法師が、壱子の手を引っ張った。

「ん? 何? スマホ? これ?」
 スマホを取り出すように言われた壱子が、指示に従うと、ドローンが近寄ってきて、細いアームを取り出し、なにかをペタッと貼り付けた。

「わ、何々、壊さないでよね」
「にぁ」
「……ま、なんか意図があるんでしょ。……あるんだよね?」
「にゃあ」
 返事があったのでよしとする。

「しかしなんだ、僕達も大分、大人数だね」
 壱子、影法師の残り三人。
 戦力外だろうけれど、黒猫、ドローン。
 そして。

『………………』
 みさきと、その背後に寄り添う六人の、彼女の“同胞”達。
 総勢、十二人。

「安心じゃない、何があっても大丈夫って感じ」
「戦力の面では、心配はしていないさ。僕の不安は、少女がこの中に居た場合、襲ってきた場合」
 その声のトーンはあくまでも平坦で。
 その声の響きは、悪魔が水底から誘うかのように淀んでいた。

「殺さず対処できるかどうか、という事なのだけど」
「助ける対象だかんねー、でも、うーん」
 壱子は少し考えてから、音楽室の扉に手をかけた。

「けど、多恵ちゃんが殺しちゃうのが、現状何より最悪だし。あとはもう、行ってみるしか無いでしょ」
 鍵はかかっておらず、思ったよりあっさりと、横にスライドして開いた。
 薄暗い音楽室の内部は、鉄の腐った異臭が籠もり。

「カ、カヒュッ……」
 そして、広い室内の中央、円形に並べられた椅子の真ん中に、喉を押さえ、白目を向いて悶える歌詠と。

「…………」
 大鎌を携えた長髪の少女がいた。
 カーテンの隙間から溢れる月明かりを浴びながら、嬉しそうな笑みを浮かべ。
 悶える歌詠を見下していた。

「あら」
 訪れた来客に、少女……多恵は視線だけを向けて、小さく笑った。

「ごきげんよう」

 ●

「! 多恵ちゃん!」
 その名前を呼び、壱子が飛び出そうとするのを――みさきが片手で制した。行き場を失った壱子はたたらを踏んで、影法師の少女がそれを支えた。

「一つ、質問をするけれど」
 車輪が、ギュルギュルと回転し、音を立てる。

「彼女に、何をしているのかな」
 その問いに――――多恵は、ニコリと笑って答えた。

「歌わされたんです。童謡でした。授業でやった、教科書に載ってるやつです」
 多恵が指をふると、カヒュッ、カヒュッと歌詠の喉から、さらに空気がこぼれ出る。

「大声で、ずうっとずうっと何時間も。喉がかれても、声がかれても、もう何も出なくなっても。まだ歌え、歌え、歌え……喉が破けて血が出ても、舌が腫れ上がっても、歌えなかったら、お腹を力いっぱい殴られました。ねえ、歌詠ちゃん」
「カ、ヒュ――ヒュ――――――! ひゅっ」
「だから、同じことをしてるんです。ああ、でも、カミサマが手伝ってくれてるんですよ」
 多恵の指先に、うぞうぞと蠢く細長い、赤黒い粘液が絡みつく。

「歌えなくなる、とか、声が出せなくなる、なんて。そんなの、誠意が足りない証拠だよね? 観客を楽しませようっていう気持ちが、足りないからそうなるんだよね? 私にそういったもんね? でも、私は優しいから、そんな事にならないよう、カミサマにお願いしたんです。ああ、どうか歌詠ちゃんが、私のためにずっと歌ってくれますようにって。そうすれば、きっとまた友だちになれると思うんです、ね? 歌詠ちゃん」
「カ、ヒュ、ヒッ、グッ、グィ、グィィ……」
「うん、素敵な声。でも、もっともっと聴かせてよ。ねえ――――」
 それ以上の言葉を多恵が吐く前に。
 みさきが携える巨大な車輪が、多恵に向かって放たれた。

「!」
「ちょっと!」
 壱子には――――未だ、その人格は“殺すためのもの”になっていないが故に――――その初動を読めなかった。
 多恵が回避できたのは、攻撃が殺すためのものではなく、距離を開けさせるためのものだったからだろう。

「咎は、積み重ねればその匂いを増すものだけれど、キミ――――」
 六人の『同胞』達が一斉に動き、歌詠と多恵を隔てる“壁”となる。
 少女達を分かち、みさきは嘲笑った。

 へらり、と。
 それはまるで、見下すように。
 あるいは、同情をしているような、そんな笑顔だった。



「――――罪悪感を感じながら行う復讐は、楽しいかい?」



 ミシリ、と言う音が、少女の皮膚の上から見えるほど膨張した血管から発せられたとは、流石に誰も思わないだろう。

「……ウルサイ」
「キミは」
「ウルサイ! う、ぐぐぐぐ……あぁ、はぁ――――」
 ……まるで血液の中に、細長い虫が入って動いているかのように。
 収縮する血管を抑えながら、多恵は笑った。

「いいですよ、どうせ、歌詠ちゃんはもう死んでます。死んでるようなものです。他の娘たちもそうです。そして――――カミサマは私の願いを叶えてくれる」
 足元からずずず、と粘液が這い上がり、多恵の姿を覆ってゆく。
 べちゃり、と水音を立てて、その粘液が崩れると、もう少女の姿はなかった。

「かひゅっ、ふ、ひゅ、ぐぐぇ――」
 あとに残されたのは、ただただ出ない音を吐き出し続ける人形となった歌詠のみ。

 ●

「……逃してよかったの?」
 壱子の問に、みさきはへらりと笑ったまま答えた。

「ここで戦いになれば、この子を救えないよ、とはいえ」
 事前の調査から、体内にあの粘液が潜んでいるのは間違いない。多恵はあれを“カミサマ”と呼んだ。
 酸素を失い、それでも歌うことを強制され続ける肉体を制御しているのは、それだ。
 痙攣する歌詠の顔には、もう血の気がない。
 時間は――ほとんど残っていない。

「あれを体の外に出せなければ、このまま死ぬね」
「出すったって……外科手術でもする?」
「手はなくもないんだが」
 みさきが裾から取り出したのは、鈍色の、長い長い八寸釘。
 暗闇の中にあって、なお光沢を失わない、呪詛返し。

「恐らく、喉に潜んでるだろうね。刺せば抽出することはできると思うけど」
「喉に穴あけたら、そりゃ死ぬわよね……よかった」
「?」
「わたし達がいてよかったわ、ってこと。お願いね」
 その“お願い”に応じたのは、影法師の少女だった。
 悶える歌詠の喉にそっと、黒く平面的な手を、重ねてあてがう。

「影で血を塞いで、空気を外に漏らさないようにするわ。多分――行けるはず」
「大丈夫なのかい?」
「やらなきゃ死ぬんだから、やるしかないでしょ」
「なるほど、正論だ」
 この影の少女に痛覚はあるのだろうか。
 だとすれば、同時に刺し貫かれて、耐え難い痛苦を味わうだろう。
 けれどそれをわかっていて、言い出したのだろうから。
 尋ねるだけ、きっと無粋なのだろう。

「……キミの咎は、生きて償うべきものだ」
 鋭い八寸釘の先端を。
 無慈悲とも言える正確さで、影の手ごと、歌詠の喉へと突き刺した。

…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━
【6】
 ▼ 信星館学園 高等部校舎 2F ▼

「ほぼ推測どおり、だね」
 マグダレナ・ドゥリング(罪科の子・f00183)は、情報を持ってきた黒猫を撫でながら、その中身と自身が操作する端末と照らし合わせた。
 この学園は、外部からの接続に対する電脳セキュリティが極めて厳しい。
 言い換えるなら、それだけ胡散臭いものを隠している、ということであり――ハッキングに対する警戒を怠っていない、という事だ。
 監視カメラを仕掛けておいて、その映像を外から抜き出され、証拠画像として世に出回った日には、自爆自滅にも程がある。
 だから、何か事を起こす際は、むしろカメラに映らない場所を選ぶのではないか?

「ほら、あった」
 “監視カメラが仕掛けられていない場所”――――ダミーのカメラは設置されている。実際に稼働もしている。
 しかしその映像は、どこにも記録されていない……高等部の校舎だけで、そんな場所がいくつもある。
 そして、それは、澪が導き出した『呪いの集まる場所』とぴったり一致する。
 即ち。

「音楽室、室内プール、二階空き教室――――それに、学食」
 犠牲者は四人、該当エリアも四つ。さらにこの四つをそれぞれ線で結ぶと……。

「これって……何かのマーク?」
 端末の操作を覗き見ていたシャイア・アルカミレーウス(501番目の勇者?・f00501)が尋ねると、マグダレナはだろうな、と静かに頷いた。

「問題は、これが何を示しているか、だね。こちらに関してはまた調査が必要だが……とりあえず可及的速やかに」
「空き教室に行こう! ここから一番近いよ!」
「だね」
 歩き出す二人。道中現れる粘液は、マグダレナの呼び出した小型の機械が牽制する。

「僕、実はちょっとだけ安心してるんだ」
 歩きながら、シャイアはぽつりとそう言った。

「本当は、いじめなんてなかったんだって」
「……どういう意味だい?」
「この赤い奴が、全部悪いんだ。人の考えを無理やり変えて、仲の良かった友達同士を。こんな事にして……」
「……ふむ」
「だから、皆助けられれば、ハッピーエンドになるって思ったら、なんだか勇気が湧いてきて!」
 自然と拳を握って、シャイアの語尾は強くなっていた。
 例えば、兄を思いながら消えていった、妹ではない“誰か”。
 例えば、自分たちが人間であることを忘れるほど“加工”されてしまった少女たち。

 それらはもう、終わってしまった悲劇の後始末で、どれだけ頑張ってもシャイアの手の届かない所にあった。
 けれど、今回は。
 まだ間に合う。その為にここに来たのだ。

「そうなればいいけどね」
「……え?」
「別に人に説教できるほど人生経験を積んでいるわけじゃないけれど……たとえいじめの理由が他者にあって、この復讐劇すら誰かに仕込まれたとしても、だ」
 マグダレナは眼鏡の奥で、目を細めた――――どこかから、ズン、と大きな音がした。近い。

「それが行われたことに変わりはない。傷ついたことに変わりはない。起こった事は、なかったことにはできないよ。ハッピーエンドになるかどうかは、全てが終わったあと、彼女たちがどうするかにかかっている」
「……で、でも」
「そこまでは僕達の責任じゃあない。いや……そこまで責任を背負うべきじゃない。もちろん、上辺だけをなかったことにすることは出来るさ。僕達には記憶を消す術がある。けれどね」
 けれど、と言葉を続ける。目的の教室が見えた。
 扉が、ガタガタと揺れている。まるで内側からの圧に押されているかのように。

「――――まあ、どちらにしても、ここで彼女を救えなければ、何の意味もない仮定だ」
 ボゴッ、と何かが溢れる音がして、粘液の塊が溢れ出るようにして飛び出してきた。

…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━
【7】
 ▼ 信星館学園 3F 高等部校舎 3年生エリア ▼

『もう二度と、こんな真似はしないようにね』
 作り笑顔の男の笑みが、頭の中にリフレインする。
 だが、大した問題ではない。なぜなら彼はたかしだからだ。

「ふん」
 粘液の群れを、たかしは躊躇なく突き進む。
 足元から、壁から、粘液の触手が迫るが、その体の奥に入ることはできない。
 なぜなら彼はたかしだから――ではなく、『ヤドリガミには寄生できない』という、連中の生体が故だ。

「俺をあの程度で止められると思うなら、心外だな」
『そうだよね、たかしを止められるのはかーちゃんだけ……』
「余計なことはいうなざしきわらし、そして」
 パチンッ、と指を鳴らす。
 コートの裾から、和風の人形……“ざしきわらし”と、へのへのもへじの“かかし”の二体がこぼれ落ち……。

「手を貸せ。《悪魔の分身(デビルアバター)》」
 その宣言と同時、“ざしきわらし”と“かかし”が、それぞれ十体ずつに増殖した。
 デビルズナンバー。たかしが操る限り、その正体不明の殺人オブジェクトは、彼の手足にして目となる。

「探してこい、七穂を」
 増えた“ざしきわらし”と“かかし”に指示を出すと、それぞれわちゃわちゃと校内に散らばっていった。
 彼らもまた器物だ。粘液の影響を受けない事を考えれば、捜査にこれ以上適した役割もあるまい。

『なんでその娘なんだべか?』
 連絡要因として残った“かかし”の本体が、たかしに訪ねた。

「俺と同じ眼鏡キャラだからだ」
 たかしは表情を一切変えず、真面目に答えた。

『……あの、ざしきわらしさん』
 かかしは反射的にキャラ付けを忘れて敬語になった。

『いいの、たかしはこれで』
 ざしきわらしは、静かに首を振った。

『どうしたの? たかし』
 ……ふいに歩みを止めたたかしの視線を、ざしきわらしは追った。
 どこの学校にでもよくある、掲示板に貼り付けられたプリントだ。
 今月の行事や、連絡事項が書かれた、ごくごくありふれた、普通のそれ。

「昼間は対して気にかけなかったが。普通の人間と言う奴は、こういう所で勉強だのをするんだろうな」
『……うん、そうだね』
「……日常、か」
『たかしは』
 ざしきわらしは、どこか悲しむような声で、たかしに問いかけた。

『学校に……通いたい?』
「………………」
 その答えを返す前に。

『た、大変だべ!』
 “かかし”が声を張り上げた。
 すぐに、戦士としてのそれへと、たかしの表情が切り替わる。

「どうした?」
『ナ、ナホっちゅう娘っこを見つけたべ! けんど……』
「けんど?」
『なんか、やべぇ事になってるだべ!』

…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━
【8】
 ▼ 信星館学園 2F 高等部校舎 空き教室 ▼

 実際の所、真っ先に七穂を見つけたのは、このリゥ・ズゥ(カイブツ・f00303)だ。
 跳ね回り、飛び回り、這いずって、人の呼吸を聞きつけて、彼はこの場所にたどり着いていたのだった。

「……見つけ、た」
 体を伸縮自在に操れるリゥ・ズゥにとって、束縛は容易だった。
 全身をロープ化して痛まない程度に縛り上げ拘束、あとは仲間が来るのを待てばいい。

「……なさぃ」
「……?」
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい……」
「…………どうし、た?」
 怖がらせてしまっただろうか。
 猟兵は、その姿で違和感を覚えられることはない、にしても、やはりブラックタールのこの様相は、多感な少女にとって刺激的だっただろうか。
 リゥ・ズゥの思考はおおよそそんなものだったが、七穂はうわ言のように、その言葉を繰り返した。

「そんなつもりじゃ、なかったの、ごめんなさい、許して、多恵ちゃん、ごめん、ごめんなさい……」
「……ここに、多恵は、いな、い」
「ごめ、ごめんなさい……ごめんなさい……っ!」
 言葉が耳に届いていない、どころか、何も見えてはいないのかも知れない。
 その謝罪の声に呼応するように、ズルズルと周囲から、粘液の塊が這い寄って来る。

「………………」
 それが、従来どおりのモノであれば、戸惑うこともなかっただろう。
 リゥ・ズゥの肉体には呪詛に対する耐性がある。実際、捜索中にうっかり触れて、体に侵入したそれを、問題なく吐き出すこともできた。
 だが、“それ”には牙があった。形状を例えるなら、目も鼻もない、鋭い牙を揃えた口だけを持った、細長いウツボだろうか。
 ガチガチ、と牙を噛み鳴らしながら、じわじわと距離を詰め始める。

「……ごめんなさい! ごめんなさい! ごめんなさい! ごめんなさいぃっ!」
 泣き叫ぶ少女の声。
 そこで、リゥ・ズゥは気づいた。気づいてしまった。

「居ない、な」
 そう。七穂の体の中に、あの粘液がいない。
 ここまで連れてきて、体外に排出された……いや、自ら出ていったのだろう。
 何故か? 簡単だ。リゥ・ズゥにはわかる。

 “これが七穂に対する報復”なのだ。
 理性を取り戻し、罪悪感を思い出し、自らの行為に後悔する少女を、苦痛と暴力で蹂躙する為に、七穂を自由にしたのだ。
 だから、これは単なる恐慌状態だ。異常事態に震え怯える、ただの正常な反応。

「リゥ・ズゥ、は、聞きた、い」
 だから、リゥ・ズゥは耳元で、ささやくように告げた。

「生きて、帰りたい、か。ちゃんと、謝りたい、か。なら、リゥ・ズゥが、助ける」
「え……あ、あぁ……ぁぁぁぁぁ……!」
 甲高いと思えば、すぐに低くなる特徴的な声は、七穂の耳に滑り落ちるように入って、問いかける。

「だ、誰、何、私、何、どうなって……」
「……リゥ・ズゥは、知りたい」
「な、何を……っ」
「お前のこと、リゥ・ズゥは、守りに、来た。けど、お前のこと、知らない」
 リゥ・ズゥは、人を知りたがる。
 他人の意思を知りたがる。思いを知りたがる。

「お前は、なんで、謝った?」
「だ、だって……だって、あ、あんなこと、私、しちゃったから……」
「そのために、死んでも、いいの、か?」
「そ、それは……でも、た、多恵ちゃんは……多恵ちゃんは、死んじゃおうと、しちゃって……わ、私、どうしていいか、わ、わからない……」
「リゥ・ズゥも、わからない」
 そして恐らく。
 世界の誰も、きっと正解などわからないだろう。
 牙が迫る。ガチガチと音を立てて、肉を、命を喰らおうと。

「…………あ、謝らなきゃ」
「…………」
「ちゃんと、多恵ちゃんに会って、謝らなきゃ……」
「なら」
 ウツボ達が一斉に、リゥ・ズゥ達に飛びかかった。

「生きて、言うといい。それまでは、リゥ・ズゥが、守ろう」
 ゴクリ。
 まさにその体に牙が喰らいつく直前、七穂の姿が消失した。
 厳密に言えば――――リゥ・ズゥの肉体に飲み込まれ、その体内に収められてしまった。

「グィィッ!」
 代償として、その攻撃の矛先はリゥ・ズゥへと向かう。
 この個体を始末すれば、中身を引きずり出せるとウツボ達も理解しているのだろう。
 一斉に、無数の牙が食い込む。極限の伸縮性を持つリゥ・ズゥの体は、そう簡単に噛みちぎられはしない、だが。

「リゥ・ズゥは」
 何度も何度も繰り返し牙が突き立てられる。振り回され、引っ張られ、体の一部がブチリと引きちぎられる。
 その傷から体内に侵入しようとしてくる。身震いをして、吐き出す。傷と呪いが、徐々に体を侵食し始める。
 それでも、リゥ・ズゥは動かない。
 なぜなら。

「一人で、来たわけでは、ない」
 その言葉と同時。

「ああ、そうだお前は一人じゃない」
 まるで呼応するように、“そいつ”が現れた。

 ●

「なぜなら――――俺はたかしだからな」
 巨大な“かかし”をハンマー代わりにして、床――リゥ・ズゥからしてみれば天井を突き破って降ってきたたかしは、着地と同時にウツボを睨みつけた。

「止まれ。俺の前で動くことは許されない」
 眼鏡のレンズが鈍く輝く。それは自身の存在感を何倍にも増すファクター。
 これを経由した時、敵意の視線は現実に伴う威圧となる“まなざし”となって突き刺さる。
 その存在に“当てられた”ものは、誰であれ動きを止めてしまう。それが邪神の眷属たる粘液の塊であっても。

「遅れたが許せ。なぜなら俺は――――」
「たかし、来た、な」
「……そういうことだ。七穂は?」
「リゥ・ズゥの、中に、居る。傷、一つ、ない」
「そうか。とてもえらいぞ」
「とても、えらいか」
「ああ、とてもえらい」
「リゥ・ズゥ、えらい」
「えらい」
『ふたりともどんどん会話のIQ下がっていってるよぉー!?』
 思わずざしきわらしが叫んだ。二人して我に返る。

「……問題ない。さっさとこいつを片付けて、他の猟兵と合流――――」
 するぞ、と言おうとして、たかしは見た。
 己の存在によって枷を嵌めたはずのウツボが、お互いの体を混ぜあい、一つになってゆく様を。
 その体表がボコボコと泡立ち、質量を増してゆく様を。

「グィィィィィィィ」
 もはや部屋に収まりきらぬ、莫大なその体躯を、乱暴に動かして、叩きつける。
 
「――――」
 リゥ・ズゥの判断は早かった。体積の減った己の体を、再度変質させ、たかしの体に巻きついた。
 抵抗しない少年の体をそのまま丸呑みにして、跳ねるようにして飛び退き――――その軌道の後を追うように、大質量の一撃が、リゥ・ズゥ達に向かって放たれた。

…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━
【9】
 ▼ 信星館学園 2F 高等部校舎 空き教室前 ▼

 リゥ・ズゥと、牙を携えた赤黒い粘液の集合体が、扉を突き破って外に出てくるのを、マグダレナとシャイアは見た。

「離れろ!」
 マグダレナが己のエレクトロレギオンに命じる。即ち“敵を殲滅せよ”と。
 リゥ・ズゥはすばやく指示に従った。恐ろしいほどの速度で床を這うように動き、その場を離脱。直後、機動兵器から無数の弾丸が放たれた。
 粘液に突き刺さる弾の雨は、まるで石を泉に放り投げた時のように、ボチャボチャと波紋を体表に浮かべて、飲まれてゆくだけだ。
 小さい時はともかく、これだけ巨大化すると、生半可な攻撃では通じないらしい。

「無事か、リゥ・ズゥ」
「大丈夫、たかしも、大丈夫。七穂も、大丈夫」
「素晴らしい、後はこいつの始末だけという事だね。私達がやるよ、下がってて」
 だが、マグダレナは動揺を見せない。彼女の頭の中で、次はどうするかの道筋はできている。

「シャイア、一つ聞きたいんだけどね」
「っ、はい!」
「君に、アレをどうにかする手立てはあるかい? 無いのなら、僕がやる。もし、あるのであれば――――」
 反射的に応じたシャイアの、その横顔を見てマグダレナは、こんな状況だと言うのに――不意に笑みを浮かべてしまった。
 全くもって、快楽主義者の自分らしくないセリフを、これから言おうとしているからだ。

「――――ハッピーエンドへの道のりを、僕に見せてくれないか」
 興味がある。シャイアは、胸の中に確かな正義を持っている。
 己の目指す最良の結末があり、そこに至ろうとする指針がある。

 マグダレナと対して歳の差もない。けれど、種族も、経験も、持てる技術も違う小さな勇者。
 共通点が在るとすれば、彼女たちは、猟兵であるということだ。
 運命に導かれ、一つの悲劇を、一つの終わりを、変えるためにここに来た。

 だからこそ気になる。
 “現実”は“残酷”だ。
 この事件だって、大前提は「誰かが死ぬこと」であり、多恵は「殺して止める」のが予知の大前提。
 それを、彼女達は捻じ曲げようとしている。運命を変えようとしている。
 ある種、傲慢ですらある。けれど、シャイアはハッピーエンドを目指すことを――躊躇わない。

「……僕がやる」
 果たして、小さな勇者はその声に応じた。

 ●

 勇者の心得その50――冒険は最低でもハッピーエンドで。
 そう、勇者とは、最後に笑顔をもたらす者のことを言うのだ。
 運命の渦に抗えない誰かに手を差し伸べて、もう大丈夫だと言える者のことを指すのだ。
 だから――――。

「力を貸して――トモミちゃんっ!」
 シャイアが開いたのは一冊のノート、彼女が歩んできた冒険の道のりを記した軌跡。
 その歩みこそが、ユーベルコードを起動する。

『……うん、わかった』
 かつて【ややこ島】と呼ばれる離島で起きた事件の犠牲者……ではない。
 そこにかつて暮らしていた人間のカタチを模した、記憶を引き継いだだけの泥人形。
 その記録の一端だ――きっとこの場にいる彼女は、その人形ですら無いかも知れない。
 だけど、確かに「トモミ」と呼ばれた少女は、声に応じた。

『シャイアちゃん』
 巨大な粘液の塊に向かう少女の足元も、またドロリとした粘液に変じた。同じ粘性の体を持つ、同種同士の対峙。

『お兄ちゃんを、助けてくれて……ありがとう。そのお礼を……ここで、するから!』
 大ウツボはトモミの体を容赦なく喰らう。
 上半身があっさり食いちぎられ、瞬きの暇もなく飲み込まれた。
 下半身がびちゃりとこぼれ落ち、それすらも喰らおうとウツボは更に牙を立てようとして――――。
 びし、とその全身を硬直させた。肥大化した粘液の塊が、サラサラと塵になってゆく。

「グ、イィィイ――グ……ィ…………」
 ぐねぐねと体を捻る様は、良くない毒を体内に取り込んだようだった……いや、実際にそうなのだろう。
 数分かけて崩れ落ちたその体から出てきたのは、粘液の肉体が崩壊しかけたトモミの姿だった。
 取り込まれたのではなく、取り込ませ、内側からその組織を破壊する。
 粘液にとっては、予想だにしない事態だったろう。本来は己が寄生し意識を改ざんするはずの存在が、逆に侵食してくるなどと。

 発生した現象を一言で表すならば、“共食い”だ。
 粘液と粘液は、お互いを支配しようとして、そして両者が共に存在を保てなくなった。
 けれど。

『……また』
 トモミは体を崩壊させながら、それでも笑っていった。

『いつでも呼んでね、シャイアちゃん』
「うん」
 救えなかった相手だ。救う手段のなかった少女だ。
 それは、もしかしたら自分の願望なのかも知れないけれど。
 あの時の猟兵達の戦いと決断を、ありがとうと言ってくれた。

『この子達は、助けてあげてね』
「うん……絶対、約束する」
 その言葉に、トモミはまた、笑顔を浮かべ。
 溶けるように、姿を消した。

「……こちらマグダレナ。七穂の救出を完了した」
 マグダレナは、その結末を、ネットワークを介して他の猟兵たちに伝えた。
 学園の中の一つの戦いが、終わった。

 ●

「あ」
「……? どうした? リゥ・ズゥ」
「忘れ物、した」
「忘れ物?」
 不意に声を上げたリゥ・ズゥは、それ以上返答には応じず、ブルブルと体を震わせ始めた。

「…………んぺ」
 そして、数秒後、体内に収納したままだったたかしをぺっ、と吐き出した。
 何故かサムズアップをしながら出てきたたかしは、頭部から逆さまに落下し、リノリウムの床に激突した。
 しかし問題はない、なぜなら彼は――――。

「たかしだからな」
『たんこぶできてるよ』
「マジか」

…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━
【11】
 ▼ 信星館学園 3F 特別教室棟連絡通路 ▼

「どこに少女たちが居るか、おおよそ見当はついている」
 合流早々、姉である霧生・真白(fragile・f04119)がそういい切るものだから、霧生・柊冬(frail・f04111)は口をぽかんとあける以外になかった。

「え、と、どういうことですか、姉さん」
「言葉の通りさ。今回の事件は、背景にあるものを取り除いて単純化すれば、目的は“復讐”そして“報復”だ。だから彼女たちが死ぬとしたらそれは“やられたことをやり返される”というカタチになるだろう。
 ただ殺すだけなら、そもそも邪神の力を手にした時、その場で首を跳ねればいい。それをしなかったのは恐怖を与えるためだ。死んだはずの人間が消え失せ、どこに潜んでいるかわからない。
 自分たちの命を狙っている、という現実で日常を破壊してから殺す、というね」
 真白の歩みは止まらない。小さな歩幅でありながら、ずんずんと、ためらわず直進するので、柊冬は慌てて追いかけるしか無い――双子故に、そしてまだ幼い為に、身長は対して違わないのだが、とにかく迷いのない足取りを姉にされてしまうと、どうしても一手遅れてしまうのだ。

「いじめは、自殺を考え実際に実行するほど凄惨なものだった。そして彼女を助けるものは居なかった。つまり苛烈ないじめは“人に知られぬ所でひっそりと行われていた”可能性が高い。いくら愛美が学園内で高い地位にいようと、白昼堂々ことに及べば誰かが気づく。そうすれば教師は“知らないふり”をし続けることができなくなる」
「じゃあ、今向かってるのは……」
「誰も使ってない空白の時間がある特別教室。それが一棟丸々用意されて居るのはおあつらえ向きだ。尤も偶然ではないのだろうけどね」
 その時。
 ぶぶ、と柊冬のスマートフォンが震えた。インストールした覚えのない黒猫のキャラクターが画面に表示され、メッセージを残して、またどこかへと消えていった。

「姉さん、これ……」
「ふむ」
 にや、と笑むその表情は、自らの推理が正しかったことを確信するものだ。
 猟兵達の情報共有……様々な理由と共に、少女たちが居るであろう場所が四箇所、記されていた。

「どうだい、さすが僕だろう?」
 どことなく“どやぁ……”という効果音が聞こえなくもない。得意満面で胸を張る姉の姿を、柊冬はもうぱちぱちと拍手で褒め称える以外にない。

「……けど、姉さん」
「なんだい?」
「そこまでわかってるなら、わざわざ現場に足を運ばなくてもよかったんじゃないですか?」
 場所のあてがついているなら、指示をくれれば柊冬が向かうのに。
 それを言うと、途端、真白はむっと眉を吊り上げた。得意げな笑顔からこの表情への落差は結構怖い。

「なんで僕が現場に出向いたか、わからないかい?」
「え、ええと……気になることがあったから?」
「それもある。けど安楽椅子探偵を気取っている場合じゃない時もあるだろう」
「そ、そうですね、いきなり被害者予定の人達が消えちゃったわけですし……」
「……………………」
 脛を蹴った。

「痛っ! なんで蹴るんですか!」
「なんでもない」
「その、なんでもある時の顔なんですけど……」
「じゃあ、なんでもある」
「えええ……」
「推理したまえ、材料は揃っているよ。十全に。万全に」
「無茶いうなあ………………あ、わかりました」
「ほう、言ってみたまえ」
「やっぱり、なんだかんだ、姉さんは優しいですから……きっと心配になったんですよね。紗夜さん達の事が」
「………………………………」
 ほっぺをつねった。

「痛っ! なんでつねるんですか」
「なんでもある」
「あるんじゃないですか」
「知っているかい、朴念仁と鈍感は現代における七つの大罪に含まれているんだよ」
「聞いたことないですよ……って。姉さん」
 柊冬は、きょとんとして。
 『もしかしたら』なんて枕詞までつけて言った。

「僕を心配してくれた、とか……」
「……まったく。いいかい、僕は――――――」
 呆れたように。
 けれど、どこか嬉しそうに。
 指を立てて言葉を紡ごうとした真白の言葉は。

「君たち」
 その声に遮られた。
 真白が振り向くより先に、柊冬がその前に立って、守るように手を広げた。

「ここは小等部の校舎じゃないのだけどね――――こんな時間に一体、何をしているのかな?」
 スーツを着た、一人の男。
 少女たちのクラスの担任教師――――梅有が居た。
 アリを踏み潰すのが好きな子供が、新しい巣を見つけたときのような、笑顔だった。

…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━
【12】
 ▼ ??? ▼

「ごぼっ、がぼっ、ぐぶっ」
 その時の私達は、溺れるあの子を見てげらげらと笑っていた。
 浮かび上がろうと藻掻く手をひっぱたいて、やっとの思いでプールサイドを掴んだ手を踏みつけて、蹴り飛ばした。
 やっと助かったと思ったら、すぐにそれを奪われたときの表情があまりに――あまりに面白くて。
 もう一回、アレを見たいと思ったら、手を抜くだなんてありえなかった。

 これ以上は危ないんじゃないか、とか。
 もしかしたら死んじゃうかも知れない、とか。
 そんな気持ちは、全く、これっぽっちも湧いてこなかった事を、しっかりと覚えている。

 愛美が飽きて先に帰ってしまって、皆もそれに続いて私だけになって。
 まだばしゃばしゃやってるあの子に、なんだかイライラしてきて、ビート板を投げつけた。
 やっと這い上がって、げほげほ咳き込むあの子に近づいて、その顔を見た。

 色を失って、感情を失って、希望を失って。
 怯えを得て、恐れを得て、絶望を得て。
 私を見上げるその顔が、やっぱり面白くて。
 そこでようやく、私は満足したのだ。

 ●

「げぼっ、ぐぶっ、け、けはっ! た、たす――――ぐぶっ!」
 私は溺れていた。
 私は藻掻いていた。
 みっともなく手をバタバタさせて、体に這入ってくる“それ”から逃げようとした。
 やっとの思いで浮かび上がって、ほんの少しだけ呼吸ができたら、何かが足をぐっと掴んで、また引きずり込まれる。その繰り返し。

「ゆるじ、ゆるじでぐだざ、ゆるじで――――」
 実際に発せられたそれは、言葉にもなってなかったと思う。
 ごぽごぽごぱごぱ、空気が弾ける音がしただけだと思う。
 きっと何の意味もなかったと思う。

 あの子はきっとこんなに苦しかったのだろうな。
 安全なところにいる私達に、助けを求めていたのだろうな。
 それはどれぐらい、残酷なことだったのだろうな。
 許しも助けも求める権利がないのだろうな。

「うぶっ」
 どんどんどんどん這入ってくる。
 許して許してお願い許して。
 自分が自分じゃなくなっていく。
 何でもするからどんなことでもするから。
 でも仕方ないよね、それぐらいのことを私達はしたよね。
 助けて嫌だごめんなさい。
 ああ、今度こそ死ぬんだ。
 嫌だ嫌だ死にたくない。
 もうなにがなんだかわからない。

 最後に、私が聞いた、声は。

…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━
【13】
 ▼ 信星館学園 特別教室棟 地下1F 温水プール ▼

「ミモザ――――――ッ!」
 悲鳴のような叫びと共に、《盗賊の少女(ミモザ)》の幻影が走った。
 輪郭のあやふやなその“幻影(ミモザ)”は、しかしフィア・ルビィ(永劫カンタータ・f01224)が投げたロープ付きのアンカーの端を受け取ると、躊躇なく、少女――紗夜が溺れ沈む赤い血のプールに向かって走り込む。
 蠢く水面に沈まず、大地の様に駆け抜けて、藻掻くその腕に手早くロープを結びつけると、岸にいるフィアに向けて小さく頷いた。

「……っ!」
 力を込める。激しい抵抗の感覚、水そのものが紗夜に絡みついている。

「……ごめん、お願い、します、ミモザ! 助けてっ!」
 ミモザはその頼みに、声無く応じた。短刀を引き抜いて、そのまま赤い水中へと身を躍らせる。
 中の様子は見えない。感覚を共有しているわけでもない。けれどフィアの手を引く力は確かに弱まっていく。

「……ぐぶっ、えふっ」
 血溜まりの中で、幻影の少女が蹂躙された感覚。己のユーベルコードで一時呼び出した友達の、存在し得ない消滅と引き換えに。
 囚われの紗夜の身体を、プールから引きずり出した。

「グ、グィ、グィィィ――――ッ!」
 服や肌にまとわり付いた粘液が虫のように蠢く。
 口や鼻といった身体の“穴”からも赤の色がにじみ出て、紗夜の身体は唸りながら、激しく暴れた。

「っ……、落ち着い、うぁ……」
 ロープで縛って抑え込もうとすれば、粘液がフィアの肌にも触れる。
 身体に触れた瞬間、頭の中がバチリと弾ける。

 ――――軽やかに飛び回る、笑顔の快活だった少女。
 ――――寡黙で、けれど周囲に気配りを忘れなかった、精霊銃使いの男性。
 ――――他にも。何人も。
 ――――消えていく。
 ――――手からこぼれ落ちていくように。
 ――――キエテイク。
 ――――シ×××ノソバニイタカラ?

「…………あ」
 その一瞬、フィアの意識が逸れて、初動が遅れた刹那。
 八レーン存在する25mプール全てを埋め尽くす、六十万リットルに及ぶ膨大な質量が、ゆっくりと起き上がった。
 野太い触手がズルリと生えて、フィアを、紗夜ごと飲み込もうと伸びる。

「――――シリ、ウスッ!」
 大鎌“シリウス”を一度、二度振るう。斬り裂き、落とした粘液は、バラバラに砕けて解けて、細かい蟲の群れになる。
 アレに全身をたかられて、這入ってこられたら、どんな生き物でも無事では済まない――――。

 ●

「目を閉じよっ!」
 幼い声が響いた。同時に放たれた、室内を埋め尽くす眩い光。

「グィィィィィィィィイイイイアァァァァァッァルルルルルッルルルル!」
 悶える“巨粘液”とフィア達の間に、小さな影が立っていた。

「我の光は通じる様だな、やはり悪霊か邪霊の類か」
 天御鏡・百々(その身に映すは真実と未来・f01640)は、神鏡を構えながら、背にかばうフィアに視線を向け。

「すまない、合流が遅れた。紗夜殿は無事か?」
「いえ、ありがとう、ございます。百々さん……けど」
「グィ、グィィィ」
 光を浴びた紗夜も……体内の粘液たちも……また悶え苦しんでいる。

「ふむ……やはり侵されているか」
「なんとか、なるでしょうか……?」
「我の光がこれに通じるならば、浄化もできよう。だが……時間と場所がいる」
 そう言って、百々がちらりと視線を向けた先は、プールから、もう半分ほど這い上がろうとしている“巨粘液”だ。

「アレを相手にしながらこの場で、となると難しかろうな」
「じゃあ、やっぱり?」
「うむ――――退くぞ」
 紗夜を担いだフィアと、百々が駆け出すのとほぼ同時に、“巨粘液”の進行が始まった。

…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━
【14】
 ▼ 信星館学園 特別教室棟 1F 温水プール入り口 ▼

「あら、無事に救出できたのかしら?」
 地下への入り口の前で、後方から追いかけてくる粘液の相手をしていた西園寺・メア(ナイトメアメモリーズ・f06095)は、階段を駆け上がってくる、紗夜を担いだフィアと百々の姿を確認した。

「これじゃわたくしの仕事は、単なる後詰ね、退屈――――んん?」
 そう思ったのだが。
 様子がおかしい。
 どうにもおかしい。
 なんだか二人共、焦っているように見える。

「メア殿!」
「メアさん!」
「二人共お疲れ様、ねえどうした――――」
「早くそこから退くのだ!」
「逃げて、ください!」
「ふぇ?」
 勢いに押され飛び退いたメア、その後を追うように飛び出してきたフィアと百々。
 そして。

「グィ、グィ、グイイイイイイイイイイイイイイイイイイイ」
 大質量を狭い穴にねじ込んだ結果、階段を埋め尽くすように迫ってくる“巨粘液”の一部だった。

「ちょ、何あれっ!」
「あの粘液の親玉……であろうな」
「結構冷静じゃない! ……アレまずくない?」
「放っておくのは、まずいと、思います。手を、打たないと」
 フィアの意見は尤もだ。
 巨大すぎるが故に、どうあっても出口がボトルネックになっているが――――その質量は膨大だ。下手すれば、この場に集まった全ての猟兵達が総力をあげねば処理できないだろう。

「本っ当に笑えるわ――――ええ、本当にいっそ笑える!」
 だが。

「それってつまり挑戦ということよね? このわたくしに対して!」
 メアは、どこまでも不敵に微笑んだ。どこまでも無敵に微笑んだ。

「メア殿? どうするつもりだ?」
「初志貫徹しましょう、あなた達はそこの紗夜を治療して。わたくしは“あれ”を食い止めるわ」
 百々の問いかけに、ぱちんと指を鳴らす。開戦の合図は、案外小さいものだ。

「“物量戦でこのわたくしに挑もう”だなんていい度胸じゃない――――――――!」
 叫びと共に、カシャリと、乾いた物同士が擦れ合う音がする。
 カシャリ、カシャリ、カシャカシャリ。
 カシャカシャカシャカシャカカシャ――――――。
 それが人骨がぶつかり合う音であると、見たものはわかるだろう。
 各々武器を携えた骸骨騎士団、総勢百騎。
 指揮を執るのは幻夢騎士団長シェイプ。メアに仕えし、メアの下僕。

『ご命令を』
 己の手を煩わせるなどもってのほか。
 指を鳴らせば、些事は全て、死者の騎士団がねじ伏せる。

「制圧なさい。圧倒なさい。蹂躙なさい。殲滅なさい。壊滅なさい。一欠片でも残したら、わたくしの不快は消えなくてよ」
『委細承知致しました。――――幻夢騎士団! 突撃せよ!』
 カカカカカカカカカカ、と歯を打ち鳴らす音が重なり響き。
 地上に這い上がろうとする“巨粘液”を、表に出すまいとする死者の群れがぶつかりあった。

 ●

 床に寝かせた紗夜は、今もびくんびくんと痙攣を繰り返している、一刻の猶予もない。

「我はまだ、人の理に不慣れでな。言葉にできぬ想いや意思があるのだろう」
 百々の携えた神鏡から、浄化の光が溢れ出る。
 赤い粘液が溢れては焼かれ、消えていく。

「その精算は――生き延びてからせよ。このような場所で、無為に死んで終わるべきことではない」
 光が、より強く増す。
 だが。

「どう、ですか?」
 フィアの問いに、百々は眉をしかめながら答えた。

「難しいな、表に出てくる粘液は焼けるが、体内に潜んだモノには光が届かぬ」
「――――」
 痙攣は、まだ収まらない。
 グィィ、と喉の奥から、嘲笑うような音が響いた。

 ●

 骸骨兵が“巨粘液”に槍を突き立て抉る。飛び散った粘液はその内部に侵入しようとするが、そもそも自我のない死体の骨だ。意味がない。
 しかし、それは兵士たちが無敵であることを意味しなかった。“巨粘液”が作り出した触手が大きく叩きつければ、その質量でバラバラにされてしまうし、孤立した骸骨兵はそのまま粘液に包み込まれて内部に取り込まれていく。
 客観的に見て――――骸骨達のほうが明らかに不利だった。

「ちぃ――――もう一度召喚する!?」
『お嬢様、一度に運用できる兵には限度があります。これ以上は御身にご負担が』
 既に骸骨兵の数は半分を割っていた。足止めならばまだ可能だろうが、いずれ押し切られる。

『撤退を、進言します』
 メアに忠実な幻夢騎士団長シェイプがそう告げるからには、状況は切迫しているのだろう。

「嫌よ。ここは退けないわ」
『お嬢様』
「い・や・よ。最後の一騎まで退くことは許さないわ!」
 こうなったらメアはもう絶対に意見を覆さない。
 敗北に向かうまで、如何に戦闘を長引かせるか……シェイプがそう考えた時。


「口を開いて、耳を塞いで、目を閉じて」


 少女の声と同時、かつん、かつんと、小さな丸いものが廊下を転がってきた。
 背後で治療にあたっていた百々とフィアは反射的に言われた通りにしたが。

「え? なにこれ」
 メアは眼前に転がってきた――所謂“スタングレネード”の爆発の直撃を、もろに受けた。

 …━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━
【15】
 ▼ 信星館学園 特別教室棟 1F 温水プール入り口 ▼

 在連寺・十未(アパレシオン・f01512)がそこに辿り着いたのは必然であった。
 魔力を探知して生贄の少女たちを探そうとした猟兵達は多かったが、それを最もうまく利用したのが彼女だったと言える。
 大地の魔力と情報を吸い上げる地縛鎖を、現代技術で薄く引き伸ばしワイヤー状にした、試作型ディフィニングコードは、必然的に“地下に湧く、最も粘液の密度が濃い場所”を示した。
 即ち、“巨粘液”が溜まっていた地下の温水プールだ。

 その流れに従って辿り着いた場所で繰り広げられていたのは、壮絶な死闘だった。
 しかしどう見ても猟兵側が不利だったので、懐から取り出したスタングレネードをちょっと投げてみる。
 効果は折り紙付きだ。この粘液共は光と熱に弱い。実際ここに来るまで、何発かこれで始末できた事だし。

 結果として大爆音と大光量が狭い廊下を蹂躙し、どえらいことになった。

「なぁにするのよ!!」
 ……眼前で非殺傷兵器の直撃を受けたとは思えない元気でメアは立ち上がった。傍らで姿を消していく偉そうな人(幻影騎士団長シェイプ)を見る限り、彼がかばったのだろうか。

「あああシェイプ!? 勝手に死んでいいなんて言ってないんだけど!?」
「……ご、ごめん」
 なんとなく罪悪感を感じる……いや非殺傷兵器のはずなんだけど、ユーベルコードで生み出された彼には活動限界が合ったのだろう、多分。

「グィィィィ…………」
 ぐねぐねと、明らかに不快の意志を現しながらくねらせる“巨粘液”。
 見るからにダメージを受けている……よほど苦手だったのだろう、グイ、グイ、と鳴き声を上げながらも、様子を伺っているのだろう、動きが鈍い。
 その隙を逃さず、骸骨兵達が突貫してゆく。何匹か取り込まれながらも、質量を削っていく……焼け石に水では有るが。

「今の光は、何度も使えるのか?」
 治癒の光を放ち続けながら、百々が問いかける。

「後三つ。一度グリモアベースに戻れば補給できるけど、今の手持ちはそれだけ」
「そうか。ならば――――」
 幼い風貌の、百々の表情が。
 ギラリと、風格を感じさせる“猛者”のそれになる。

「“アレ”を片せるかも知れんな」

 ●

 百々の手にした神鏡が、二十枚以上に分裂する。ヤドリガミに備わる、本体を複製し、操る力だ。

「なるほど、君は鏡のヤドリガミなんだね」
 増えた鏡は高さと角度を調整しながら十枚ずつ、お互いを映す様に並び、即席の合せ鏡を作り上げた。

「うむ。故に――――鏡の世界の住人よ」
 ユーベルコード、《鏡の中より出づる者》。
 鏡に映したモノの鏡像を召喚する百々の能力。

「この現世へと来たりて――――我が力となるのだ」
 その能力は十全に発揮され、複製は完了した。
 無限に続く合わせ鏡の向こうから、ぞろぞろと、わらわらと。

 カカカカカカカカカカカカカカ。
 カカカカカカカカカカカカカカ。
 カカカカカカカカカカカカカカ。
 カカカカカカカカカカカカカカ。
 カカカカカカカカカカカカカカ。

 ――――“増産されたメアの骸骨兵達”が歯を打ち鳴らした。
 全員が武器の代わりに、小さな丸い“何か”を握りしめている。

「……うん、実証済みだよ。君たちは」
 その名前を、“スタングレネード”という。

「光と熱に、弱い」
 死者の群れが、音と光の爆弾を抱えて。

「全軍、突撃なさい!」
 “巨粘液”の触手に、我先へと飛び込んで、飲み込まれていく。
 骸骨兵、全ての特攻が終わった瞬間。

「――――お願い」
 フィアは、その名前を呼んだ。

「ミモザ」

 ●

 粘液の中で、その幻影は目を覚ました。
 何をすべきかはわかっている。
 手に残ったワイヤーを引っ張る。
 音は全く聞こえなかったが、何か、硬いものを何本もひっこぬく感触があった。
 これで今回の任務は完了だ。
 今度こそ、《盗賊ノ少女(ロスト・ミモザ)》は役割を終えて、その姿を消した。

 ●

 メアが呼び出した骸骨兵に、十未のスタングレネードを渡し。
 それを百々が複製すること百体。
 全てを貪欲に食らい付くした“巨粘液”の内部から、幻影(ミモザ)がそのピンを一斉に引き抜いた。
 実体のない彼女に、音も、光も、粘液も、関係ない。

「グ」
 粘液は、光と熱に弱い。
 では、それが内側からなら。

「グィ」
 耐えきれずに膨れ上がる。
 超質量に対する回答は。
 超物量で吹き飛ばす以外に、ない。

「グィイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイ」
 校舎そのものを揺らす振動と光線が周囲を真っ白に染め上げ、“巨粘液”は内部から焼かれ、消滅した。

…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━
【16】
 ▼ 信星館学園 高等部 職員室 ▼

「キューピッドさん、本当に、ここに手がかりがあるのね?」
 アイリーン・イウビーレ(愛ドール!・f12509)が呼び出した、翼を持つ愛のキューピッドは、アイリーンの根源にして行動原理である“愛”を感知してくれる。
 キューピッドのサムズアップは間違いなく肯定の証なのだが……。

「だってここ職員室じゃない……そりゃあ誰かいそうって感じはするけど、スカだし!」
 教師はもちろん、生徒も粘液もいやしない。

「うー、愛が足りない。愛が足りないわ。ドライアイになっちゃう……?」
 室内をふわふわ飛び回っていたキューピッドが、やがてとある机の前で停まり、ガチャガチャと引き出しを開けようとしていた。
 鍵がかかっているようで、ガッタンガッタンと机ごと揺れる始末だ。もちろん開かない。

「ここに……なにかあるの?」
 キューピッドはものすごい勢いで頷いた。とあらば。

「任せて、愛は絶対負けないんだから…………えーい!」
 机に対して、ミレナリィドール……人外のモノによる腕力によって放たれた愛アンクローもといアイアンクロー。
 ぐしゃっと机を破壊して、引き出し云々じゃない状態になってしまった。
 アイドルとはなんなのか。

「これも愛の解決のため……ごめんなさい。…………これ、日記?」
 それは、職員室にあるには似つかわしくない、表紙に花柄の刺繍が施された日記帳だった。この手のアイテムにしたら、かなり値が張るものだろう。

「……なんでこんなものが職員室にあるの? えーっと…………」
 アイリーンは躊躇なく、その日記のページを開いた。
 適当にパラパラ捲って、書いてある文字にざっと目を通す。

「…………“多恵”?」
 ページをめくる途中で、ぴたっと手が止まった。
 書いてある内容を、じぃっと凝視し。

「……これは……!」
 アイリーンは、目を見開いた。

…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━
【17】
 ▼ 信星館学園 1F 高等部校舎 学食入り口 ▼

 ――――最初にそこに辿り着いたのは、人間ではなかった。

 ●

「…………」
 黒い、少女の姿をした粘液。
 アイシス・リデル(下水の国の・f00300)が居るのは、高等部校舎の学食だった。

「ありがと、教えてくれて」
「ううん、いいよ、わたし」
 戻ってきた小さな追跡体の一つが、その体に吸収されていく。
 密かに学園に残しておいた個体だ――たまたま忍ばせておいた子が、探し人の姿を見つけてくれた。
 学食の入り口は鍵のかかっていたが、粘体の少女にそれは障害とならなかった。
 身体が一瞬で崩れ、無数のアイシスとなる。小さな隙間をくぐり抜けたら、集合して元の形に戻っていく。

 そうして辿り着いた、学食のテーブルの上には、無数の料理が並んでいた。

 湯気のたったビーフハンバーグシチュー、具沢山のサンドイッチ、ミートソースのスパゲッティ、あたたかそうなラーメン。
 柔らかなパンにバターとジャム、チャーハン、パエリア、肉じゃが、コロッケ、メンチカツ……。
 主菜も副菜も、学食に有るもの全部、といった有様。
 それらの料理は全て、たった一人のために用意されたものだった。

「グ、ィィ、ゲ、ゥ、ぅ、ぐぇ……うぐ、う」
 ……愛美は、入り口そばの“指定席”で、遅い夜食を貪っていた。
 やけどすることも厭わず、汚れることも構わず、手づかみで、ひたすら皿にのったものを詰め込んでは、うめいている。
 それが――それが自分の意志で行われていることでないぐらいは、アイシスにだってわかる。

「なに、してるの……っ!」
 アイシスは即座に、自らの“臭気”を解き放った。
 汚れた液体で構成されたブラックタールの悪臭は、よほど不快だったのだろう。

「グィィィ――――!」
 その瞬間、愛美の口や鼻から、赤黒い粘液がズルリと零れ出て、襲いかかってきた。

 ●

「っ」
 アイシスが飛び退くより早く、粘液は黒い体に飛び込んだ。
 粘液と粘液同士だ、結びつくのも、混ざるのも速い。

 ――――妬ましい。綺麗なものが羨ましい。
 ――――恨めしい。暖かな温もりが羨ましい。
 ――――どうして、どうしてどうしてどうして。

 思考をかき乱す、悪感情のノイズ。
 欲望のままに暴れろと。
 怒りのままに狂えと。
 化物は化物らしく。
 汚物は汚物らしく。
 醜い感情をさらけ出せと、そいつは言う。

 ●

「…………ひっ!」
 粘液が身体の外に飛び出したせいか。
 意識を取り戻した愛美を襲ったのは、内側から膨れ上がる腹の圧迫感と、それすら忘れさせるほどの、狂いそうなほどの悪臭だった。
 中身を吐き戻しても、無理はないだろう。未消化のそれを全部ぶちまけて、まともに身動きできない身体で、少女は見た。
 少女のような形をした、黒い粘液が、赤黒い何かを受け止めて、悶ている。

「何、あれ、臭い、汚い……ぎ、気持ち、悪い…………うぇ」
 明確な拒絶と、嫌悪。
 その視線と感情が、突き刺さる。

 ●

 ――――ほら。
 ――――助けに来てあげたのに。
 ――――こんな目にあってるのは誰のせい?
 ――――いっそ殺しちゃおうよ。
 ――――そうだそれがいいよ。
 ――――アミちゃんはもう死んだことにして。
 ――――汚いって言った報いを受けさせてやろうよ。

 自分のものじゃない自分の声が、頭の中に響く。

「…………ちがう、よ」
 それでもアイシスは、意識を飲まれはしなかった。
 身体に混ざり、自身を侵食していくそれを、逃さないように、閉じ込める。
 愛美の身体に戻らないように。
 これ以上何もさせないために。

「グィィ……」
「知ってるよ、わたしは、きれいじゃないもの」
 自分が汚れていることを知っている。
 嫌われることも知っているし、望まれないことを知っている。
 憎むことも恨むことも羨ましいと思うこともある。
 そんな事、言われるまでもなく、知っている。

「でも、きれいなものを守れたらね、うれしくなるの」
 たとえ汚いと罵られても。
 たとえ嫌悪感にまみれた目を向けられても。

「笑顔とか、しあわせとか、そういうのが、好きなの」
 もしも、この手でそれを守れたら。
 もしも、この体でそれを掬えたら、救えたら。
 ほんのちょっとでも、きれいになれる気がして。

「だから……わたしが、守らなきゃ」
 自分が“そう”なれるわけないとわかっていても。
 アイシス・リデルは、きれいなものを守るのだ。

「グィィィィィ――――――!」
 部屋中に潜んでいた粘液が、一斉に姿を表した。
 その総量は、アイシスの質量を上回る。
 全部飛び込んでこられたら……体を支配されるどころではない。
 ばらばらにされて取り込まれて、アイシスが、あの粘液の一部に成り果ててしまう。

「…………っ」
 それでも、ほんの僅かでも。
 時間を稼ごうと、アイシスは逃げ出すことはしなかった。
 一拍の間を置いて、黒い少女の身体に、粘液の群れが殺到した。

…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━
【18】
 ▼ 信星館学園 1F 高等部校舎 学食 ▼

 気分が悪い。気持ちが悪い。
 愛美の眼前にあるのは、自意識がないまま詰め込み続けていた料理の数々と、悍ましい悪臭を放つ黒い塊に、大量の赤黒い粘液が襲いかかる様だった。
 なにがなんだかわからないが、逃げ出さなくては、と思う。
 けれど体が動かない、自分のものではないみたいだ。
 いや、実際に、もう自分のものじゃないのだろう。
 うぇ、と喉に詰まったものを吐き出す。赤黒い粘液がべチャリとこぼれ落ちて、うねうねうぞうぞと蠢いた。

「ひっ…………」
 体中に、まだコレが居る。

「……何、コレ」
 自分の意志と関係なく、体が動く。
 再び料理を手づかみにして、口に運ぼうとする。
 室内に漂う酷い悪臭が、とめどない吐き気をもたらす。
 飲み込むなと頭がどれだけ叫んでも、体は言うことを聞いてくれない。

「や、やだ、いや、いやいやいやいやいやいや――――! だ、誰か――――」



「ええ、助けに来ましたよ」



 影が、膨れ上がった。
 白い髪の少年が突如として現れ、その腕を掴んだ。

「―――貴女を死なせるわけには、行きませんから」

 ●

「やあやあやあ、大丈夫かい無事かい平気かい? よく頑張ったねもう大丈夫さ! 何せキミは一人じゃないからね!」
 快活に笑う天命座・アリカ(自己矛盾のパラドクス・f01794)と――――。

「全く、無茶をする。身体にこいつを入れて良いことはないと、我々に教えてくれたのは君だろう」
 アイシスを抱きかかえながら、刀で粘液を切離したネグル・ギュネス(ロスト・オブ・パストデイズ・f00099)も、同じく影から現れた。

「あ、だ、だめ、触ると……きたないよ」
 ぐったりと力が抜けながらも、手が触れないようにと身体を離そうとするアイシスを、ネグルは困ったように見た。
 それは少女の姿形に対して、ではなく。

「おやおや、少女の扱いに手慣れてないかい? 大丈夫かな手伝うべきかな? 紳士だねネグル殿! 大丈夫さ腫れ物を扱うようにそっと横たえてあげたまえ! お姫様にこれ以上無茶をさせるわけには行かないさ!」
「そ、そういうわけではない」
 そういうわけではないらしい。
 尤も、アイシスがブラックタールであり、余計、どう扱って良いのかわからない、というのもあるのだろうけれど。

「お、おひめさま? わたし? ……こんなに、くさいのに?」
「うんうん、少女は誰しもお姫様さプリンセス! 知っているかいどんな素敵な香水だって原液はひどい悪臭がするものさ! 磨いて絞って素敵な香りになってくれたまえ!」
「……いや、私は嗅覚を遮断できるからな。君が気にすることはない。そして――後は我々の仕事だ」
 漂う悪臭を、二人はさして気にしていないようだった――――ネグルはサイボーグであり、アリカはバーチャルキャラクターである。
 五感のコントロールができるネグルと、そもそも実体が電脳生命体であるアリカにとって、そこまで大きな障害というわけではないのだろう。
 もっとも、仮に鼻が利いた所で、彼らが少女を助けない理由などないのだが。

「では、天命座殿は月輪殿を手伝ってくれ。ここは私が受け持とう。元より、戦うことのほうが得意なものでな」
 ネグルが刀を構え直す。
 切離した粘液たちは、未だ蠢いたままだ。
 いや、それだけじゃない、どんどんと数が増えている――――他のエリアからも、集まってきているのだろう。
 愛美の体から、粘液を切り離すまで。
 この場を死守せねばならない。彼らに向かわせる訳にはいかない。

「いやはやなんとも格好いい! 本音さ素直さ正直な気持ちさ! そういうのであれば信じて任せてしまうね役割分担実によし! では――頼んだよ!」
「頼まれた。……一匹たりとも通さん、安心してくれ」
 美月の元に駆けてアリカを、気配だけで見送って、ネグルは刀を構え直した。

「……それに、さわると、ほんとうに……頭の中、ぐらぐらしちゃう、よ」
 ぐったりとしたアイシスの、心配そうな声に。

「ならば余計に、だな」
 刀を振るう。その衝撃で、粘液の群れが容赦なく飛び散る。

「これ以上君に、触れさせるわけにはいくまいよ」

 ●

『あぁ、一年生の頃は、そりゃ仲が良かったよ。毎日五人でご飯を食べてたからねえ』
『やっぱり、愛美ちゃんが一番目立ってたねえ。それをいつもたしなめるのは多恵ちゃんって感じでさあ』
『でも、何ヶ月前だったかねえ、いきなり、二人が喧嘩を始めたのさ。先に怒鳴ったのは――多恵ちゃんのほうだったね』
『それからだよ、多恵ちゃんとそれ以外の四人――って感じで、わかれるようになっちゃって』
『一度は仲直りしたんだと思ったんだけどねえ』
『……え、なんでそう思ったかって?』
『愛美ちゃん達が、食券を二枚だしてきたのさ。持ち帰り用のお弁当なんて普段買わないから、どうしたんだい? って聞いたら』
『多恵にあげるんだ』
『……なんていうもんだから、ああ、コレは仲直りの手土産なのかなって思ってさ』
『……んん? そうだよ、四人共』
『え? 四人が四人ともお弁当をかっていったら食べきれるわけ無いだろうって?』
『あはは、そりゃそうだねえ、おばちゃん、考えても見なかったよ』

 ……つまり、これが愛美が行った“いじめ”の一つなのだろうと、月輪・美月(月を覆う黒影・f01229)はあたりをつけた。
 “無理やり食べさせ続ける”――――それがどんな結果になるのか、どんな惨めな姿になるのかは、今の愛美を見ればわかる。
 自分が吐き出した汚物にまみれて、それでも無理やり詰め込まされる。想像するだけでもわかる。地獄のように、辛かったことだろう。

「み、美月君、たす、たすけて! 身体が、勝手に動くの! やだ、こんなの……っ」
「………………」
「みつきく――――」
「――――大丈夫です、僕達は貴女達を助けるために来ました」
「……達?」
「貴女も、多恵さんも、です」
 影がゾワリと浮き上がる。音もなく、手のひら大の、立体感のない影の狼が生まれた。

「中にいるんだから、こっちも中から取り除くしかない――ですよね」
「おやおや、ミツキ……あ、もうミツキ君のほうがいいかな? いやあ学生の演技は大変だね大変だ! 今なら超絶美人天才先輩ポジションでも良かったなーと思ってるのだけどもどうかな?」
「どうかな、じゃなくてですねアリカさん! ……粘液を、影狼に喰わせます、けど、場所がわからなくて」
「ふーむ、医療の知識はそれなりにあるけどね、なにせ既存の寄生虫とは違うものだからねどうだろうね。でもやってみるしかないね大丈夫! なんとかするさ!」
「急に雑になりましたね……」
「何、こっちには奥の手があるからねそうだろう猫ちゃん!」
「猫ちゃん?」
「にぃ」
 アリカがちょいちょいと足元を示すと、いつの間にか一匹の黒猫が、その足元にすり寄っていた。
「……どうしたんです? その猫」
「見つけたのさ拾ったのさついてきたのさ懐いてしまったのさ、さすが私動物にも愛されやすい!」
「拾った時点で猫の自意識は無視してる気がしますけど……」
「ま、それはともかく。この料理はなんだろうね、誰が作ったんだろうね?」
「……これ、料理じゃないですよ」
「うん?」
「なーお」
 黒猫がべしっと皿をひっくり返した。テーブルから落ちてぶちまけられた中身は、そのまま赤黒く変色し、蠢きながらどこかへ行ってしまった。
「………………危うくつまみ食いするところだったよ危なかったねこれは」
 冷や汗を拭うアリカ。
 一方、愛美の混乱は頂点に達していた。何故美月とアリカがここに居て、自分がこんなことになっていて、こんな目にあっているのか。

「…………もう、わかんない、何よ、何が起こってるのよ……何それ、何するの、ねえ……」
「……愛美さん」
「ねえってば! 勝手に話を進めないでよ! 私これからどうなるの! 何これ、どうなってるのよ! わかんない! 何もわかんない!」
「…………本当にそうか?」
 叫ぶ愛美に声をかけたのは、刀を鞘に収めながら近寄ってきたネグルだった。

「ネグルさん、粘液は……」
「蹴散らした。あの程度の量なら話にならんな――――それで、愛美殿」
「な、何……」
 年上の、武器を構えた成人男性を前にして。
 流石に冷静になった……というよりも、冷静にさせられた、と言ったほうが適切か。

「何故、を貴殿が問うならば、我々もこう問わねばならない。何故、多恵殿へのいじめは始まった?」
「そ、れは……」
「確かにこの粘液は、貴殿らの心の闇を膨れ上がらせ、意識を操っていたかも知れない。だが、きっかけがあったはずだ」
「ふむん。しかしねしかしだよネグル殿。その話はそんなに重要かい? この粘液共の悪逆のせいであるならばわざわざ引っ掻き回す必要も無いような気はするんだけどね?」
「重要だ。この後我々は多恵殿を正気に戻す必要がある。なら仲違いの原因を知らずして、どう手を引かせるというのだ」
 そう言われれば、アリカは納得したのか、ほーうと頷いた。
「正気に……、戻す?」
「……僕達はそのために来ました」
 美月は、その言葉を肯定した。
 肯定して、否定した。

「“多恵さんを助けるためには、貴女が死んじゃいけない”んです。愛美さん」
 それは意図的な言い回しだ。
 愛美は、被害者にして加害者だから。
 助ける理由はあるけれど、その理由は知らなければならない。
 それが本意でなかったとしても、行動も言動も、なかったことにはならないのだから。

「わ、私、私は…………」
 言い淀む。押さえつけられた腕が痛む。愛美の体はまだ、なんでもいいから口に入れようとしている。

「愛美さん……過去からは、逃げれられないんです」
 満月のような金色の瞳が、愛美をじっと見据えた。

「それと、自分の罪悪感からも。誤魔化すのは簡単です。背を向ければいいだけですから。けど、その影はずっとついてくる。そして、一生消えてくれない」
「……う、ううう……」
「けど、一人で立ち向かえとは言いません。怖いなら、恐ろしいなら、頼ってくれていいんです。今日出会ったばかりの貴女の為に、僕は戦います」
 なぜなら。

「女の子には、笑顔でいて欲しい。そのほうが、可愛いですから」

 ●

「…………名前を、馬鹿にしたの」
 音を零すように、愛美は言った。

「名前を?」
「……タエって名前、おばあちゃんみたいで古臭いねって」
 それは、ささいなからかいだったのかも知れない。
 けど、多恵は、今までにないほど怒った。
 そして、愛美は謝らなかった。その程度のことで、なんて言って。

「それがきっかけで喧嘩になって、という訳だねふむふむ。まぁ確かに人の名前をばかにするのは良くないね!」
「違うの、ちがうの、私」
 愛美の声は震えていた。
 それは、今しがた体験した、身近な「死」への恐怖であり。
 自分が行ってきた行為への恐怖であり。

「……“楽しかった”の」
「――――どういう意味ですか?」
「私がグループの中心だったけど、多恵は……なんていうか、“強い”奴で……他の皆は私の言うこと聞くけど、多恵は、結構、私に意見してくるの。だから時々、生意気だって、思ってた」
 苛烈ないじめを行っている時、愛美は確かに“洗脳”されていた。
 今だって、身体の中で粘液が蠢いて止まらない。
 けれど、彼らはきっかけを与えただけだった。

「だから喧嘩した後も、不安で……他の子が、多恵の味方するんじゃないかって……最初は、謝らせてやるって思っただけなの!」
 それは無視から始まった。
 少し経って、嫌がらせになった。
 だんだん、暴力に転じていった。

「けど、だって、逆らわないし……やりすぎたと思っても、周りだって『それが普通』って顔してるから、だから……」
 やめられなくなった。
 だってこんなにも楽しい。
 心の何処かで畏怖していた相手を、逆らえないように叩きのめすのは。

「何やってもいいんだって……そしたら、とまんなくなっちゃって!」
 途中で気づいてしまったのだ。
 暴力で、言葉で、多人数で。
 踏みにじって、なじって、囲んで。
 痛めつけて、罵って、弄んで。
 逆らえず何もできない相手を蹂躙して。
 悪いとわかっていても、ひどいと思っていても。
 誰もそれを止めることができない、圧倒的優越感は――――とても、気持ちが良かった。

「謝られてももう遅いって思ったの! だって元の関係になんて戻れないじゃない!」
 助けて、やめてと何度言われても。
 その悲鳴すら、気持ちよかった。
 だから愛美は、いじめることに没頭したのだ。
 歌詠、紗夜、七穂の三人に与えられた命令は、『愛美に賛同し、行為を止めない』こと。
 対して、愛美に与えられた命令は『いじめを始める』ことだった。

 続けて、どんどん過激になっていって――――悪化させたのは……愛美本人の意志だった。
 それに、気づいてしまった。どうしようもなく。
 生意気な、自分に逆らうやつを、叩き潰す快感を、何度でも何度でも味わいたくて。

「多恵が、多恵が屋上から飛び降りた時、初めてわかったの! 私とんでもないことしたんだって! でも、多恵は生きてて、私を、殺そうとしてるって、言われて……」
 それが身勝手な願いだとわかっているのだろう。

「ど、どうしたらいいの、私、し、死にたくない、私、死にたくない、死にたくないよ…………っ!」
 怯えに、助けるということは簡単だ。
 けど。
 くしくも美月が言ったとおり。
 罪悪感に向き合うのは、こんなにも難しい。
 どう声をかけるべきか、迷い、躊躇い、そして。









「なら――――――愛が必要ね!」

 どんがらがっしゃーん、と音を立てて、扉をぶち破り、新たな少女が乱入してきた。

 ●

「天使に素敵に“愛ドール!”、アイリーン・イウビーレ、参上よ! 愛を届けにやってきたわ!」
 背後でキューピッドがパパラパ、とラッパを鳴らした。

「…………って、臭っ! 何この臭い!」
「………………………………」
 しょんぼりとして隅に移動し、小さくなるアイシスを、黒猫が小さく肩(らしき部位)を叩いて慰めた。
 どうやら、この猫も臭いを感じないか、気にしないらしい。

「あ、あの……」
「みなまで言わなくていいよ! あなたが愛美ちゃんねっ!」
 未だ、美月に手を抑え込まれている愛美は、目を白黒させながらも、頷いてしまった。

「私にはわかってる、愛美ちゃん、あなたは…………愛が詰まってる!」
「…………え、ええ……?」
「だって名前に愛って入ってるもん! 私にはわかるの! あなたがいじめなんてするわけない。本心なんかじゃなかったって――――そうでしょ?」
「…………」
 すげぇやつが来たな、と猟兵達は同時に顔を見合わせた。

「わ、私、ちが、違う……、私、私自分で…………」
「いいえ、違わないわ、だって――――――」
 アイリーンは、一冊の日記帳を取り出した。
 ノートサイズの、可愛い刺繍の、少女のものと思わしきそれは。

「…………書いてあるもの。ここに全部!」
 【阿見元愛美】と名前が記されていた。

「……それ、何? 私、知らない……」
「そんな事ないわ。ううん、間違いない、これは愛美ちゃんのだよ。だってキューピッドもそう言ってるもん」
 天使の羽根を生やした、まさしく誰もが「キューピッド」と言うであろうそいつは、うんうんと頷くだけだが――。

「この子は、物や文字から感情を読み取ってくれるの。ここに書かれた文字は全部、確かに愛が詰まってた。私が保証する。あなたと多恵ちゃんは――とっても仲良しで、大好きだった」
「……嘘、なんで、そんなの、どこに……」
「職員室! 先生の机の中にあったのを見つけてきたの」
 堂々と言い切るアイリーン。

「ていうか、日記の中身を見たんですか……」
「愛の気配がしたから!」
 思わずつぶやいた美月にも、アイリーンはふふんと得意げに胸を張る。

「これは、愛美ちゃん。あなたの。ちゃんと読んで、思い出して。そうすれば、きっとわかるから」
「…………よ、読めない、読めないよ、だって私、身体、動かない……」
「……すぐに動けるようにします、愛美さん。……アリカさん、お願いします」
「はいはい、任せて任せよ任せなさい三段活用! ここまで来たんだやったんだ、ハッピーエンドじゃなきゃ割に合わないってものさ!」
 美月が作り出した影の狼が、少女の口の中に入ろうとした。
 その時。

「グィィィィ……」
「グィィ」
「グィィィィ」
 ……並んだ料理が。愛美の吐瀉物が。
 ぐねぐねと蠢いて、赤黒い色を取り戻し、一つにまとまり、新たな様相を形成し始めた。

「……そうだな、多恵殿が最も恨んでいるとすれば、それは愛美殿以外にありえないか。一定時間食われることがなければ、強引に襲う仕組みなのかもしれんな」
 粘液の集合体が、ボコボコと無数の触手を生やして、蠢く。

「……だが、君の本心は確かに聞いた。ならば私は――――如何なる悪意からも、闇からも守ると約束しよう」
「ネグルさん!」
 振り返る美月に、ネグルは手をのばすだけで制した。

「少し足止めをするだけだ。策があるんだろう? 天命座殿」
「うんうん、とびっきりのがあるのだね特別なやつがあるのだね!! もうすぐ歌姫のオンステージが始まるさ! それまで待てるかいネグル殿!」
「――――ああ」
 ネグルの、金の瞳孔が、強く明滅した。

「待つのには――……慣れているからな」

…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━
【19】
 ▼ 信星館学園 3F 特別教室棟連絡通路 ▼

「こう見えても」
 最初に言葉を切り返したのは、真白だった。

「来年度には中学にあがるのだけどね」
 ちゃんと通学していれば、などとわざわざ付け足しはしないが。
 対して、梅有はくっくっ、と面白そうに笑うだけだった。
 侮り、嘲っている様が、よく分かる。

「それは失礼、だが、どちらにしてもいけない子だな。夜の学校に入ってはいけないよ、危険が――いっぱいだからね」
「君のような悪い大人が居るからだろう」
「これは一本取られたな、はは……まぁ、その通りだが」
 うぞうぞと。
 いつの間にか、赤黒い粘液がその足元に集っていた。

「姉さんに近づくな」
 青い瞳をすっと細めて、柊冬が鋭い声を発する。
 それすらも楽しいと言わんばかりに、梅有は手を広げた。

「んん、君は男子か。まぁいい、どちらでもいいさ。君たちのような子供が私は大好きでね」
 その理由が、残酷な意味合いを含んでいる事は明らかだ。
 例え、二人が猟兵であろうと。
 梅有にとっては大した意味を持たない。
 問題なく蹂躙出来ると、そう思っている声だった。

「姉を大事にする弟と、弟を大事にする姉、実に良い。私好みだ……あぁ、足元から刻んでいって、先に相手を差し出したほうを助ける、という遊戯はどうだ?」
 想像だけで楽しいのだろう。顔は下劣に歪んで、醜い笑みが浮かび上がる。

「愛らしい顔だ、美しい瞳だ。涙で濡れればもっと美しい。えぐり出して飾っておくのも良さそうだ。なぁ君達、世の中には触れてはならないものがあり、知ってはならぬことがあるんだよ。踏み入りすぎた罰を受けねばならないんだ」
「では教師梅有。僕からも一つ教えてあげよう」
 対して。
 真白はどこまでも、余裕と冷静を崩さなかった。

「踏み入ってはならぬ場所に踏み入って、触れてはならぬものを暴き、知ってはならぬものを解き明かすのが探偵の仕事さ。故に」
 は、と鼻で笑い飛ばし。
 弟の手を掴んで、あろうことか……梅有に対して背を向けた。

「“君のような下っ端”如きにあまりかまっている暇はないんだ。邪魔をしないでくれるかい」
「――――――ガキィッ!」
 その言葉は、一瞬で梅有を激高させるのに十分だった。
 足元に集った粘液が、槍のように細く纏まると、天使たちの背に狙いをつける。

「ああ、そうだ。先程の問いに答えておこう」
 真白が言葉を向けた先は、もはや梅有ではなかった。弟に対してだ。

「何故僕がわざわざここに足を運んだのか。危険なのに。簡単な話さ」
 トスッ、と。
 何かが刺さる、軽い音がした。

「“僕と君の身の安全は、最初から確保してから来た”……それだけのことだよ」
 槍は放たれる事はなく。
 ドロリとその場に溶けて、崩れ落ちた。

 ●

「ガ、ハ、ぐ、う……?」
 梅有は理解できていなかった。
 何故自分の心臓から刃が生えているのか、理解できていなかった。

「――――これは、個人的な意見ですが」
 背後に誰かいる。
 いつの間に。

「異常者を気取るにしては、あまりにセリフが陳腐でしょう。自分を猟奇的だと思いこんでいる中学生が書き殴ったはじめての小説の様なフレーズでしたし」
「わざわざ子供相手に強く出る、というのも、些か情けないかと。学園に侵入した猟兵は沢山おりますのに、わざわざ見た目小さく愛らしいお二方を選ぶとは。よほど自信がなかったのですか?」
「ええと、結論から申し上げますと。多恵さんに関しても、そうですね。弱い者いじめ以外できないのに、出しゃばらなければよかったのではないかと」
 つらつらと、辛辣なダメ出しを並べ立てながら。
 暗殺者は、背後から突き立てた、漆黒の刀身を音もなく引き抜いた。

「だ、誰だ、貴様――」
「驚くほど三流の台詞、ありがとうございます」
 優雅にスカートをつまみ上げ、カーテシーの仕草を取る、目隠しをした従者。

「アレクシス・アルトマイアと申します。以後お見知りおきを」

 ●

 梅有が後方に向けて、何とか腕を振った時には、もうアレクシス・アルトマイア(夜天煌路・f02039)は姉弟の傍らに立っていた。

「ぐ、ゥ…………がっ」
「あら、まだお元気ですか。これは失礼致しました」
 言葉が終わる頃には、更に数本のナイフが肩、腹、腕へと突き刺さる。
 風を切る音もなければ、空を移動した感覚すら掴めない、早業だった。

「姉さん、この人……」
「今回限りの契約で、護衛を頼んだ助っ人さ」
 しれっと言い放つその横顔は、どこか得意げな風ではあるが。

「言ったろう? 僕と君の身の安全は、最初から確保したと」
 要するに、“護衛がいるから強気に出ていた”ということらしい。
 アレクシス、と名乗った女性は――視界が塞がれていても周囲の様子がわかるのだろう。
 柊冬に向かって微笑みかけ、改めて一礼した。

「お気軽に、アレクとお呼び下さいね。お見知りおきを」
「いえ、こちらこそ……ありがとうございます、姉さんの無茶に付き合って頂いて」
「こら、どういう意味だい、君」
「ご心配には及びません。お金で雇われているわけではないですから。利害の一致もありますし」
「……そうなんですか?」
「そうなのです。ふふふ。期間限定、パートタイムではありますが、しっかりと護衛を務めさせていただきますので」
 やいのやいのとやり合う三人に。

「き、さまら……」
 体中に刺さったナイフを引き抜き、胸元を押さえながら、梅有が立ち上がった。
 やはりと言うか、なんというか。
 心臓一つでは、もはや致命傷にならない程度には、人間ではないらしい。

「このまま、帰れると思っているのか……!」
 粘液が、傷口を覆うように梅有の身体にまとわりつく。
 失った肉や血の代わりになるのだろうか。あの粘液が無尽蔵に供給されるのだとすれば、耐久力は中々のものと言うことになる。

「勿論、このまま帰るつもりはありません」
 反論したのは柊冬だ。青い瞳は、力強い意思で、梅有を射抜いた。

「多恵さんを助けます。他の四人も。僕達が必ず」
「……クク、ははははは!」
「何がおかしいんですか?」
 疑問に、梅有は嘲笑で答えた。

「助ける? お前達は勘違いをしている」
 傷が徐々に塞がっていく。
 男の瞳に、力が戻っていく。

「“あれ”はもう死体も同然だ。私が生かしてやってるんだ――復讐という名の正当な暴力を振りかざす、敬虔な信徒に私が育て上げた!」
 ゆっくりと立ち上がる。
 それを、誰も止めようとはしなかった。アレクシスは真白の隣で直立しているだけだ。
 敵意と殺意の矢面に経って、柊冬は怖じける事なく、睨み返す。

「仮に君達が多恵の殺戮を止めたとして、あの娘の心に残るのは“いじめられた記憶”と“他人を殺そうとした感情”だけが残る。その悪感情を飲み込んで生きていけるほど、多恵は強くない」
 にたりと歪んだ笑みは。

「また自ら死を選ぶ。あれはそういう弱い人間だ――だから選んだんだよ、どう転んでも“贄”になるように!」
 醜悪な人間性を、余すことなく現していた。

「そういう、弱いと言われた人に」
 けれど。

「あなたは一人じゃないと、手を差し伸べるために、僕達はここに来たんです」
 底の浅い、醜い悪意に、柊冬は揺るがない。

 ●

「……今のはちょっと格好良かったんじゃないか? 君」
「ちゃ、茶化さないでくださいよ、姉さん」
「褒めたのさ。大丈夫、どちらにしても、そこの下っ端如きにかまっている暇はないんだ。僕が興味があるのは、君より“上”の連中だよ」
「どういう事ですか? 姉さん」
「フィア氏と零井戸氏が発見した資料に彼の名前があったよ。この学園の卒業生。【バイア・クウヘイ 入団】だそうだ。つまり『生贄にならず、生贄を捧げる側に回った』わけだね」
 それが意味することは。

「ならば必然的に“彼の入団を見つめた上位の存在”が居ることにな「る。彼はこの学園の【裏】を知っているが、【本質】じゃあない。とっかかりではあるけどね」
「貴様……、貴様っ! このガキッ、私に向かって!」
「だから興味が沸くじゃないか。果たして彼に入団を“許した”存在が、彼のピンチに助けに来るだろうか」
 真白の、ルビーより深い赤の瞳が、細くなった。
 犯人を、犯罪者を追い詰め、問い詰める、謎を暴き立てた者だけが出来る、探偵の瞳。

「少女たちを犠牲に行われるこの儀式は」
「果たして“絶対に必要だから行われる”のだろうか」
「それとも“彼女たちじゃなくても良かった”のだろうか」
「何故彼女たちだったのだろうか」
「誰が、選んだのだろうか」
 立て続けに並べられる言葉。
 重ねられる問いかけ。

「これは僕の推測だけどね」
「黙れ」
「君の最大の失敗は、多恵にその手を汚させようとした事なのさ。その悪趣味が“猟兵(ぼく)”達を招いた」
「黙れ」
「もう僕達は君達の“組織”を逃さない。知らなければ関わりようはないけれど、知った以上は絶対に壊す」
「黙れ……!」
「ねえ、そんな最大の敵を呼び込んでしまった君を、だれか助けてくれるのかい?」
「黙れェ――――がっ」
 ピッ、と何かが切れる音。正体はすぐにわかった。
 ゴロン、とあまりに抵抗なく、梅有の首が落ちた。
 細い、細いワイヤーが、従者の手に握られていた。

「それ以上近寄られると」
 ぴん、と軽く糸を弾く仕草が、なんとも似合っている。

「困ります。ですので、ご退場を」
「ガッ、クソ、グゾォ――――ッ!」
 最初の攻撃の時点で、既に仕掛けられていたロスト・クレイドル。
 手元で少し手繰るだけで、何時でも首を落とせた――実際に落としてみせた。
 もう、アレクシスに近寄られた時点で、とっくに梅有は死んだも同然だった。
 だからこそ、探偵は泰然自若に構えていたわけだが。

「……この状態でも喋ることのできる、人間の形状をしたもの、というのは中々悪趣味ですが」
 それでも生物反応のある梅有の頭部に、アレクシスは無骨な銃を躊躇なく向けた。

「いや、弾がもったいない、撃たなくてもいいさ」
「ですが、放っておけば再生しそうですけれど」
 切断した首から、血が出ない。代わりに、赤黒い粘液がうごめいて、分かたれたパーツをつなごうと、ゆっくり身体を伸ばしている。
 これが――――粘液に身体を取って代わられたものの、末路なのだろうか。

「――――何、抵抗する気もいずれなくなるさ。もうすぐエンディングの時間だからね」
「?」
「?」
 柊冬とアレクシスは、同時に顔を見合わせて、それから真白を見た。
 探偵は、小さく指を立てて。

「耳を澄ませてごらん、じきに…………歌が聞こえてくるはずさ」

…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━
【20】
 ▼ 信星館学園 高等部 校舎 屋上 ▼

 星が綺麗だった。
 月が綺麗だった。
 闇が綺麗だった。
 夜が綺麗だった。
 この空の下で復讐劇を終わらせられたら、どれだけ幸せだっただろう。
 けれど、邪魔というのは入るものだ。先生の言う通り。
 しっかりしなくては、ちゃんとしなくては。
 殺しきれなければ――生き残った意味などない。

「あなたが……多恵さん?」
 背後から声が聞こえた。
 多恵は、ゆっくりと振り向いた。

 ●

 夕凪・悠那(電脳魔・f08384)がその姿を見つけたのは、ある種の幸運だった。
 監視カメラの映像を探って、たまたま屋上に狙いを定めて、その姿を見つけたのだ。

 長い髪、リボンの少女。
 紛れもなく、今回の事件のターゲットであり、“保護対象”だ。
 柵に腰掛け、空を見上げ、思いに耽っているように見えた。

「その――なんて言ったら良いかわかんないんだけどさ」
 悠那は気分屋だ。
 猫のように気まぐれで、気が向くかどうかが大事なことだ。
 その基準でいうと、なんというか。
 “説得”などという行為は、らしくないな、と他人事の様に思いながら、言った。

「復讐とか、やめた方がいいんじゃない」
 なんて心無い一言だろう。
 けれど、それぐらいしか言うことがない。
 だって、多恵が全部やめてくれたら、全て丸く収まるのだ。
 全ての原因は、この学園そのもの――ひいては母体となる邪悪な教団なのだから。
 少しの沈黙の後、多恵は口を開いた。

「――――あなたは、いじめられたこと、あります?」
「どうだろ、どうでもいいことって覚えてないから」
 同調もしない。同意もしない。
 それは挑発的にも聞こえただろう――けれど、思っていたより、多恵の反応は冷ややかだった。

「私はあります。私は許せません。私はあの娘達を殺さないと気が済みません」
 月明かりが一瞬だけ、強くなったように感じた。
 その刹那で、身長を超えるほどの大鎌を、傍らに携えていた。

「私のしていることは、いけないことですか? やられたらやりかえして、なにがいけないんですか?」
「……んー、いや、正直なとこね」
 武器を向けられて、ともすれば、すぐさま殺し合いになる状況下で。
 悠那は頬を掻きながら、困った顔をした。

「それこそどうでもいい。ボクにとって愛美さんも歌詠さんも紗夜さんも七穂さんも、別に助けなきゃいけない相手ってわけじゃないし」
「…………じゃあ、なんで私の邪魔をしようとするんですか」
「君を助けるためだよ」
「…………は?」
「それが結果的に“敵”の思惑を阻止する事につながるし……うん、だからさ、君を人殺しにするわけにはいかないんだって、多恵さん」
 悠那の背後に、0と1のノイズが生じ、即座に一体のバトルキャラクターが生み出された。

「一人でも殺したら、戻ってこれないでしょ? だから止めるんだって。悪いけど」
「――――何それ。関係ないくせに」
「うん。だから関係ある当事者同士で話し合いなよ。席は用意してあげるからさ」
 一触即発。
 多恵の表情が怒りに歪み、いつ鎌が振るわれてもおかしくない――その瞬間。

「まあ待ち給え、そう焦るものではない」
 優雅な声が、戦いの合図を遮った。

 ●

「こんな言葉を知っているかね? 鹿も歩けば鹿に当たる。つまり鹿はどこにでも居るという事だ」
 リチャード・チェイス(四月鹿・f03687)はティーカップを片手に優雅に歩みを進める。

「――――鹿?」
「鹿だとも」
 鹿を主張するシャーマンズゴーストは、そのまま両者の間に割り込み……飲みかけのカップを多恵に差し出した。

「どうだろう、駆けつけ一杯」
 首を切られた。
 転がった首が鹿に変形し、柵を飛び越えて夜闇の中に消え、起き上がった胴体から新しい首がひょこっと生えてきた。

「危ないではないか」
「どういう存在なんだよ!」
「いやまあ、犯人は現場に戻ると思って優雅にティータイムをしながら待っていたら思い切り反対側に居て今気づいて出てきたわけなのだが」
 ツッコミに回らされてしまった悠那が若干の屈辱を覚えつつ、多分相手にしない方が良いんだろうなと薄々勘付き始めた所で。

「馬鹿にしてるんですか?」
 多恵も全く同じ意見らしい。なまじ強行にあっさり及んだ分、キレ具合が増している。

「ふむ、いやね、別に私個人としては君の怒りや行動に対して言葉を持っているわけじゃないのだよ。ぶっちゃけ心理的にはいじめた女子側のほうが許せないとも思うしね」
「だったら、邪魔をしないで下さい」
「それも無理だ。何せ、乙女の味方がそれを許さないのでね」
 その時。
 屋上に影が射した――否。
 月光を背に、ひらりひらりと何かが舞って、その場に現れた。

「はじめまして、多恵」
 その布は。いや――――マスクは。

「キミを救いに来た」
 ティアー・ロード(ヒーローマスクのグールドライバー・f00536)は、そう告げた。

 ●

「――――なんですか、あなた」
「私の名前はティアー・ロードという。乙女の味方だよ」
 当然のようにリチャードの上に着地したティアーは、多恵を正面から見据えて言った。

「……猟兵ってよくわからないモノなんですね。知りませんでした、それで、なんですって? 私を救う?」
 それは、つまらない冗談を聞かされて、愛想笑をするしかない人間の表情だった。

「面白い事をいうんですね。私のことは誰も救ってくれませんでしたよ。だから飛び降りたんです。そこから」
 顎で示すのは、先程据わっていた、柵の上。
 彼女は一人、誰も助けてくれなかった絶望で。そこから飛び降りた。

「今なら間に合う。誰も殺めていない今なら。私達が救う。君は戻ってこれる」
「は――――あははは、戻ってこれる? 馬鹿言わないで下さい」
 口元に手を当てているのは、きっと笑いをこらえるためではないだろう。
 怒りが吹き出さないために、抑え込んでいるだけなのだ。

「戻りたくないんですよ。そんなのまっぴらです。あの子達が皆消えたら、私は次の世界に行くんです。カミサマが連れて行ってくれるんです」
「――――狂信か。それは本心かい?」
「当たり前でしょう」
 うぞ、と。
 瞳の、瞳孔の奥で、何かが蠢いた。

「あー、それは無理だね。女の子たち、皆救助完了してるから」
 口を挟んだのは、悠那だ。
 どうにも調子を崩されたようで、半ば面倒そうにしながら。

「全員、ボク達猟兵の保護下だよ。それとも、直接殺しにいくの?」
「……その場をしのいでも意味なんてありません。身体の中にいるカミサマは、時間が来たら心臓をぐちゃってしてくれますから」
「それも無理、“実験”は終わってるんだ。――――もしもし?」
 不意に、悠那は虚空に向けて口を開いた。
 スマートフォンを手にするまでもない、なにか操作した風でもなく、誰かと通話しているようだった――それは、この世界の常識では計り知れない技術による、デバイスの恩恵。

「そっちの流儀に合わせようか、チューマ。結論から言うとね、ボクのウィルスは通じる。製法もほぼ君と一緒でしょ――――“作戦”は有効だよ」
「…………何を、言ってるんですか?」
 問いかけに、ぱっと手を払って、通話を打ち切って。
 悠那は人差し指を立てた。チチ、と僅かなノイズと共に、空中に小さな光る文字が示される。

「ここに来るまでボク、一人で来たんだ。途中気持ち悪いやつが……ああ、君のいうカミサマ? アレに対してはウィルスを使わせてもらったんだけど」
 ぱ、と両手を開いて示すのは、消滅を意味するジェスチャー。

「キレーにデリートできたよ。つまり君のカミサマは――君の願いを叶えてくれない」
「……いい加減にして下さい」
 多恵は、手に持った大鎌の石突でタイルを軽く小突いた。
 すると、その体を中心に、赤い魔法陣が広がっていく。
 うぞうぞと蠢く粘液が、足元からにじみ湧いて来る。

「あぁ、アレを呼び出すための魔法陣だったのだなぁ」
「関心している場合か! ――多恵、君にはそれがカミサマに見えるのか?」
「ええ、だって私の願いを叶えてくれますから。……もういいです、あなた達――――」
 死んで下さい。といい切る前に。

 ――――――キィィィィィィィン。

 ノイズが、空間を斬り裂いた。

「な、何――――」
『あ、あー、テステス、これもう聞こえてる?』
 続いて聞こえてきたのは、若い男の声。
 スピーカーが、突如音を発したのだと、それで気づく。

「な、何事だ何事だ何事だ!? テロか!? テロなのか!? うおおお鹿が暴れ狂う!」
「落ち着け」
 ティアーがリチャードを殴り(?)飛ばした。静かになった。

「ようやく始まったーっと。まぁまぁ、聞いててよ多恵さん。何でも話によるとさ――」

『さあ、貴方のお耳の侵略者! DJジョンの真夜中ゲリラレィディオ!』

「この人、ラジオ配信、初挑戦らしいよ?」

…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━
【21】
 ▼ 信星館学園 高等部棟 2F 放送室 ▼

「あ、あー、テステス、これもう聞こえてる?」
 マイクに向かって声を掛けると、機材が反応しメーターが上下する。ちゃんと音を拾って、出力している証だ。

「オーケーオーケー。良好良好」
 一旦音声を切って、ジョン・ブラウン(ワンダーギーク・f00430)は、その様子を満足げに確認して、にやりと笑った。

「さーて、ここからが腕の見せ所だぜジョン・ブラウン。きっちりやれよ?」
 再び、スイッチオン。
 これで全部を、終わらせる。

「さあ、貴方のお耳の侵略者! DJジョンの真夜中ゲリラレィディオ! ゲストの紹介は後ほど! それじゃあ早速お便りのコーナー!」

…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━
【22】
 ▼ 信星館学園 1F 高等部校舎 南エリア外 ▼

 零井戸を背負ったまま移動するロクは、校舎の到るところに設置されたスピーカーから、その声を聞いていた。

『ラジオネーム“泥沼”さんからの質問だ。「こんばんわ。いつもラジオを楽しく聞いてません!」
 ハッハーそりゃそうだ、初放送だからね! おっと失礼、それじゃ続きを』

 【所で先日、僕はとある女の子と知り合いました。
  顔色が悪いので話を聞いてみると、なんと、彼女は酷いいじめをしていたんだそうです!
  でも今じゃそれをとても後悔していて、なんて酷い事をしたんだって反省してると言うんです。
  けど、それって虫のいい話だと思いませんか?」

 ぎり、と背中に伝わる感触が、少しだけ強くなった。

「どうした?」
「……なんでもない」

『確かにそりゃあ酷い話だ。ドギーおばさんに聞かれたらげんこつじゃあ済まないね。いじめる側の都合でいじめて、いじめる側の都合で反省するなんて。
 そりゃいじめられた側はどうしたらいいんだって話さ』

「零井戸」
「……なんでもないって、大丈夫なんだ、本当に」
 背負った者の声は、力強く、そして。

「少なくとも、今はやるべき事がある。だから、大丈夫」
 そう言った。

…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━
【23】
 ▼ 信星館学園 3F 高等部 特別教室棟 音楽室前 ▼

『僕だったらこう言っちゃうね。“おいおい、まさか謝って許されたいなんて思ってるんじゃないだろうな?”ってね』

「何このラジオ! あーもう!」
 顔を青白くしながらも、歌詠の喉から“摘出”を終えた壱子とみさきは、しかし新たな試練に襲われていた。
 即ち。

「グィィィィ」
 新たな粘液たちに、囲まれていた。
 多恵は壱子達の存在を認識しているのだから、そりゃあけしかけもするだろう。
 ただ、歌詠の治療と守護を続けながらそれらをいなすのは、かなり辛い。
 影法師達は体を乗っ取られてしまうし、みさきが呼び出した六人の“同胞”と、車輪の攻撃にも限度がある。
 有り体に言って――――。

「んなことしてる暇があったら、助けに来てよー!」
 ……ということである。

「……君はどう思う?」
「はいぃ!? 何いきなり!」
 粘液を車輪で轢き潰しながら、みさきはふと、そう訪ねた。

「“謝って許される”ことが許されないなら、彼女たちはどうすれば良いと思う?」
 問いかけに、壱子は少しだけ考え、それからすぐに。

「……許されない事を受け入れるしか無いんじゃない? 普通にさ」

…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━
【24】
 ▼ 信星館学園 2F 高等部校舎 空き教室前 ▼

『反省してるとか謝ってるとか、要するにそりゃ君の自己満足だ。だから大事なのはそんなどうでもいいことじゃない』

「……そうなの、か?」
 リゥ・ズゥが首をかしげると、マグダレナは「どうだろうね」と応じた。

「そもそも当事者同士の問題だよ、外野が何が正しい、これが間違ってると首を突っ込むことじゃない」
「そうなの、か……」
「で、でも、仲直りするためには、謝るところから始めないと……駄目じゃないですか?」
 シャイアのこぼした言葉に……偶然だろうが……答えるように、スピーカーから声が流れる。

『許してもらおうだなんて思うなよ。自分から許されに行くなんて甘えるなよ。君に出来るのは自分の行為と感情を、背負って生きることだけだ――ってね』

「ふん。俺にはよくわからんな。いじめをするような弱いやつの事も。いじめられるような弱いやつの事もだ」
「でも、助けに、来た。たかしは」
「その程度の事で“死人が出る事のほうがくだらない”だろう。救う価値があるかどうかなんぞ知らん」

 …━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━
【25】
 ▼ 信星館学園 特別教室棟 1F 温水プール入り口 ▼

『――――まあその子は泣きながらどっかいっちゃったわけなんだけど。ヘイ、歌詠ちゃん聞いてるー?』

「……護衛対象に何をしておるのだ」
 百々が呆れたようにため息をついて、フィアが苦笑する。

「けど、私は、謝りたい気持ちは、少し、わかります」
「あら、経験者なの?」
 メアの軽い問いかけに、首を横に振り。

「いえ、そういうわけじゃ。けど……いいたい言葉が、できた時には」
「もう遅い――かな?」
 言葉を引き継いだ十未に、フィアは静かに頷いた。

「だから、生きていれば、良いと、思います。時間さえ、あれば」

…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━
【26】
 ▼ 信星館学園 1F 高等部校舎 南エリア廊下 ▼

『――――アレも一種のいじめかな? DJジョンへの苦情は職員室までお願いしますっと。さて、そんじゃ次のコーナーだ。よろしく頼むぜチューマ!』

「了解」
 “仕込み”は全て終わった。
 “向こう”の用意もできた。
 ビチビチとうごめく粘液の塊を踏みつけながら、ヴィクティムは“それ”を起動した。

「お前らは“実体を持つ魔術とプログラムの融合体”だ――面白い構造だな? コントロールしやすいように、指示系統は全部ネットワークで繋がってる。
 この世界に適応した結果の、電脳接続能力ってワケだ。ネット回線を通して移動や情報改ざん、催眠洗脳まで出来ると来てる。よく考えられてるよ。
 にもかかわらず、根幹技術がこの世界における魔術ってのがキモだ。流石に技術理論がわからんものを完全掌握はできないからな」
 生きているように見えて生きていない。プログラムに応じて行動し、意識を奪い、人を操り、敵を排除する一つのシステム。

「が――――俺に分かる範囲の仕組みで言うと、お前らは単純すぎる」
 どうやって人を洗脳し。
 どうやってトラウマを引きずり出し。
 どうやって記憶を改竄するのか――その仕組みは、ヴィクティムの専門の外の領域の話だ。

 だが。
 どうやって動いて、どうやって繋がっているのか――――その仕組と構造は完全に理解した。
 宇宙戦艦の基幹システムを陵辱できるハッカーにとって。
 UDCアースの基準で構築されたネットワーク如きが障害になるわけがない。

『製法もほぼ君と一緒でしょ――――“作戦”は有効だよ』
 とある事件を通じて知り合った同業者のお墨付き。
 彼女の《崩則感染(コードブレイカー)》が通じるのであれば。

「俺のも効くさ――――そりゃあな?」
 できたてのアンチプログラムを直接打ち込まれた粘液は、少し暴れた後、融解して、溶けて消えた。
 その出来栄えに満足しながら、右手を振るう。
 空間に浮かぶディスプレイの中には、一匹の黒猫が居る。

「さあ、歌姫のところに持っていってくれガーゴイル。そろそろ終わりにしよう」
 にぃ、と鳴いたそれは、電子の海へと消えていった。

…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━
【27】
 ▼ 信星館学園 3F 特別教室棟連絡通路 ▼

『ハンドルネーム美食家さんからの質問! 赤黒粘液さんこんにちは! 一つ聞きたいんですけど、そんなに人の体の中って気持ちいいんですか?』
 スピーカーから流れる音を、探偵姉弟と、一時の従者は聞いていた。

「ようやく始まったか、予定より少し遅かったね」
「あら、ジョン君の声……知っていらっしゃったので?」
 アレクシスが小さく首を傾げると、ああ、と真白は頷いた。

「この放送が流れるまで、少女たちを確保できればよかったんだ。どうやら、他の猟兵達はうまくやってくれたらしい」
「何を……言っている……」
 未だ首が千切れたままの梅有が、呻きながら、幼い天使をにらみつける。

「これで勝ったと思うなよ……“こいつら”は、無限に湧いてくる……我らの神の、加護がある限り……生きて学園の外に出られると、思うなよ……」
「その程度が君の“猟兵(ぼくら)”にたいする知識だとしたら、もうやめておきたまえ。負け犬の遠吠えにしては些か惨めすぎる」
 仮に学園全域をあの粘液が埋め尽くそうと、猟兵達はグリモアベースに転移させてもらえばよいだけの話だ。
 勿論、生徒たちは無事では済むまいし、そうさせない為に、彼女たちはここに居るわけだが。

『コイツは僕も気になるね! 何せ学園の生徒一人残らず詰まってるぐらい気持ちいいんだろうからさぁ。外に出たら萎れちまうぐらいに!
 どうだい? リスナーがいたらコメントを頼むぜ。回答は耳元まで!』

「……姉さん、ちょっと耳を塞いで」
「なんでだい!」
「少しスラングが下品ですね、ジョン君」

『…………おやおや、質問が聞こえなかったらしい。こりゃ仕方ない。仕方ないから――“キミたちに届く形”で届けよう。
 ここで一曲! 今この瞬間、ここだけでしか聴けない特別ゲスト! 歌ってくれるのは――【@Myao_cradle】!』

…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━
【28】
 ▼ 電子の海 個人サイト【Cradle.ex_】 ▼

 正直に言えば。
 若干恥ずかしい。
 澪の歌で紡がれる呪文は、電子の海に飛び込む為の合鍵であって、積極的に人に聞かせるためのものではないからだ。
 いや……仲間を鼓舞するための歌はそれはそれとしてあるけれど、事これに関しては、少し勝手が違う。

 何せ文字通り。
 電脳の領域に干渉するための歌だから。
 ……ついでに、何百人、何千人相手に向けることも、あまり想定しない。

 けれど――この状況でそれが必要なら。

「――――歌い、ましょー」
 にぃ、と画面の中の黒猫が、新たなデータを持ってきた。
 とあるハッカーが作り上げた、対粘液用プログラム。
 彼らは“実体を持つプログラム”だ。
 プラグもコネクタもない。直接データを打ち込むのには、ヴィクティムの様に特殊な装備が居る。

 けれど。
 歌ならば。
 音の振動ならば。
 生きていようがいまいが、その場にいる限り、強制的にその干渉を受ける。
 そして澪の歌は。
 そう――“電子の海に飛び込む為の合鍵”だ。

 データを歌に。歌をデータに。
 変換できる――同一にできる、独自の技術体系を持つ、シンフォニア・ウィザード。

「―――――ラ」
 その歌声を。
 黒猫が運ぶ。
 ハッカーの手に落ちた、あらゆる音声媒体を通じて、学園全域に響き渡る。

…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━
【29】
 ▼ 信星館学園 高等部 学生寮 屋上 ▼

「むー、ちょっぴり、そんな役回りー?」
 メア・ソゥムヌュクスス(夢見の羊・f00334)は、若干不満げに、その場所に立っていた。
 学生寮の屋上だ。
 そよぐ風を右手に受けて、ふぅと、吐息を注ぎ、かき混ぜ、階下の室内に落としてゆく。

 ……その体は。皮膚は、体液は、吐息は。
 全て、濃密な催眠物質だ。
 メア本人には何ら害を及ぼさないが、常人が身体に少しでも取り込めば、即座にまどろみ夢に落ちる。
 目を覚ましていたものは、速やかに。
 眠っているものは、より深い眠りへ。

 何百名という人間が暮らす領域に訪れる、未曾有のパンデミック。

「にぃ」
「あ、猫さん」
 そのメアの足元に、ドローンを伴った黒猫が、ひょいと出入り口にある窓を開いて現れた。

「お仕事、終わったのー?」
「なぁぉ」
 こくりと頷くと、黒猫はメアに近づき、その手をちろりとなめた。

「あ」
「にゃあ……」
 寝た。

「むー、残念ー、あー、でも今なら撫で放題ではー?」
 わしわしと、その腹を撫でながら。
 耳を澄ます。

 ―ィィ。
 ―グィ。グィィ。
 ――――グィィ。グィィ。グィィ。

「グィィィ」「グィィィ」「グィィィ」「グィィィ」「グィィィ」「グィィィ」
「グィィィ」「グィィィ」「グィィィ」「グィィィ」「グィィィ」「グィィィ」
「グィィィ」「グィィィ」「グィィィ」「グィィィ」「グィィィ」「グィィィ」
「グィィィ」「グィィィ」「グィィィ」「グィィィ」「グィィィ」「グィィィ」
「グィィィ」「グィィィ」「グィィィ」「グィィィ」「グィィィ」「グィィィ」

 今、学生寮の中は、ソゥムヌュクススで満ちている。
 誰もが甘く、安らかな眠りを強制されている。
 内部に存在する、あらゆる人間が、その活動を停止してしまう異常事態。
 そして――――異物を感じ取り、“寮に住まう全生徒の体内に潜んでいた”粘液達が、一斉に蠢いて、その体外へと出てきた。

「ああ、出てきた出てきた、それじゃあ」
 恐らく、すぐにでも、異常の原因を察知し、始末しようとすることだろう。
 間に合えばよいね、と他人事みたいにつぶやいて、メアはニコリと微笑んだ。

「さようなら」

『――――――――――』
 歌が、鳴り響く。

…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━
【30】
 ▼ 信星館学園 1F 高等部校舎 学食 ▼

『―――ラ ラ  ラ ララ ラ』
 スピーカー、テレビ、スマホ。
 “音”を流せるありとあらゆる媒体から、その歌は流れ続けた。

「グィィィィィィィィィ――――――!」
 比例するように、粘液の塊が、絶叫を上げながら融けてゆく。

「――……ふむ、そちらはどうだ?」
 グズグズになってゆく粘液を横目に、ネグルは、己が守っていた仲間たちを見た。
 横になった愛美の身体から、影の狼が飛び出してきた。口に咥えた粘液は、間もなく、同じようにどろりと融けて消えた。

「いやったー! 愛の勝利ね!」
「……そうなの?」
「そうよ! 大勝利よ!」
 喜び、くるくる回るアイリーンに、目を白黒させるアイシス。

「…………では、僕は愛美さんを、一旦安全なところへ。皆さん、また後ほど」
 ショックで意識を失った愛美を抱きかかえ、美月は一人、先に学食を出た。
 後をてくてくついてきたアリカは、にやりと笑って、その顔を覗き込み。

「いやあ、紳士だね美月クン! お疲れ様だねご苦労さまだ!」
「……………………~~~~~~~~っ!」
 ……人狼である美月の鼻は、人のそれより遙かに効く。
 けれど、彼は紳士であるからして。
 女性に臭いとか、匂いがきついとか言う訳には行かないのだ。

…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━
【31】
 ▼ 信星館学園 高等部 校舎 屋上 ▼

 意思は無いが命令は聞く。
 自我は無いが行動はする。
 理由は無いが目的がある。
 それがプログラムというものだ。

 ただし、それらは実体を持つ。
 外部からの入力を受け付けるための媒体を持っている。

「グィィィイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイ!」
 全身を通じて伝わる歌は、彼らを殺し尽くすウィルスそのものだ。
 物理的な干渉が電脳的な性質へ移り変わり、音が響き伝わる限り、逃げる術はない。
 体の奥に潜んでいても。
 その音は、どこまでも届く。

「あ、ああああああああああああああああああああああああああ!?」
 だから、多恵が呼び出した“カミサマ”達も。
 等しく、融けて、潰えて、消えてゆく。

『――――ラ ラ ララ ラ』
 学園中に蔓延っていたモノも。
 人の体内に潜んでいたモノも。
 逃れることはできない。

 ●

「……勝負はついた。多恵。もうやめたまえ」
 歌が鳴り止んだ時。
 多恵が呼び出した“カミサマ”は死に絶え。
 後に残るのは、力を失った少女だけだった。

 ティアーが静かに近寄り、マスクの紐を多恵に向けた。
 掴め、と。
 そうすれば、引き上げてやると。

 だが。

「――――どうして」
 まだ。

「――――どうして邪魔をするの」
 終わらない。

…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━
【32】
 ▼ 信星館学園 高等部 校舎 屋上 ▼

「助けるとか! 笑わせないでくださいって言ってるでしょう!? もう終わってるんです! 私は!」
「だって私、もう死んでるんですよ! 頭がグチャって潰れちゃったんです!」
「カミサマが私を生かしてくれてるんです! だから、ダガラ"…………!」
 少女の全身の血管が、ボコボコと膨れ上がる……その中に、“何か”が通っているかのように。

「あナた達の言ってル事は……全部、全部、遅いんでスよぉおおおオオオオおおオおおオおっ!」
 嘆きながら。
 叫びながら。
 咆えながら。
 狂信者になるしかなかった少女は、今一度、大鎌を振りかぶった。

…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『敬虔なる邪神官』

POW   :    不信神者に救いの一撃を
【手に持つ大鎌の一撃】が命中した対象を切断する。
SPD   :    出でよ私の信じる愛しき神よ
いま戦っている対象に有効な【信奉する邪神の肉片】(形状は毎回変わる)が召喚される。使い方を理解できれば強い。
WIZ   :    神よ彼方の信徒に微笑みを
戦闘力のない【邪神の儀式像】を召喚する。自身が活躍や苦戦をする度、【邪神の加護】によって武器や防具がパワーアップする。
👑11
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種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠天通・ジンです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


【現在の状況】
●戦闘開始時の状態。
 開始地点は高等部校舎の屋上ですが、
 高速で移動しながら、場所をコロコロ変えて戦うことになると思うので、
 あまり戦場に頓着しなくても大丈夫です。
 「ここで戦う」と指定しても構いません。
 敵は多恵が一人。邪神の力で強化されています。

●学園に蔓延る粘液について。
 【駆除完了】です。
 また学生寮などにいる生徒たちの体に居る粘液も、殲滅を完了しています。

●愛美、歌詠、紗夜、七穂について。
 【全員生存】です。
 体内の粘液は除去され、安全なところにいるものと考えて下さい。
 ボス戦中に、攻撃の対象にされることはありません。

●梅有について。
 【戦闘不能】です。
 このシナリオ中、干渉してくることはありません。

●多恵について。
 邪神の影響下にあるのでユーベルコードで攻撃しても
 プレイングで「殺傷する」と明記しない限り突然死はしません。
 リプレイの進行過程で負傷が重なり、これ以上の攻撃が致命傷になる場合は、
 事前に警告いたします。その際、送っていたプレイングを変更しても構いません。

【3章の進行について】
●2章の参加者を優先採用します。
 ご了承下さい。

●形式について。
 リプレイ投下の際、必要があれば状況の変化を描写します。
 それ以前に送ったプレイングと以降に送ったプレイングで内容を変化させても構いません。
 また、リプレイに採用された後も言いたいことやしたいことがあれば
 (採用率は高くはありませんが)再度プレイング投稿は歓迎致します。

●多恵の説得について。
 思い思いの方法でどうぞ。
 1~2章の内容を踏まえてなにかしてもよいかと思います。
 ただし「普通になにか語りかける」だけでは、多分耳を傾けないと思います。

●投下期間について。
 上記の都合もあり、若干長い目で見てくれると嬉しいです。
 腰を据えて取り掛かりたいと思いますので、
 2章ほど時間はかからない予定です。

●プレイング投稿時
 3/9(土)以降でお願いします。
 以降、かける時に書いていくスタイルです。
リチャード・チェイス


振りかぶった大鎌の一撃を真っ先に受けるリチャード・チェイス@気絶中。
首を斬られても復活したので、今度は縦に真っ二つにされる。
真っ二つになりながらも、いい感じなモノローグで多恵の背中を見送る。

「馬鹿にはしていない。私は鹿である。
さて……先程も言ったが、私は君への言葉を持っていない。
何故ならば怒りも、嘆きも、後悔も、全ては君のものだからである。
故に、蜘蛛の糸を掴むのか、終わった事だと諦めるのか……
それも全ては君の、君達次第になるということである。
行きたまえ。神はダイスを振らない。結末は君の思うままであろう」

半身が鹿に変形し、もう半身を探し回る。
「マルセル・プショー君、もうちょっとこっちである」



…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━
【01】
 ▼ xxxxxxx xxxx xxxxx xxxxx xxx xxxx ▼

 振るわれた大鎌の一刀は。
 あっさりとリチャード・チェイス(四月鹿・f03687)を両断した。
 縦一閃、それでおしまい。
 シャーマンズゴーストの肉体は、左右に分かたれて、薄黒い断面を晒しながら倒れた。

「ハァ、ハァ――――ァハ」
 殺した。
 今度こそ殺した。
 同時にそれは、もう少女が、引き返せなくなったことを、戻れなくなったことを意味した。

「…………アハハ」
 一線を、何度も越えようとした。
 そのたびに阻止されて、封じられて。
 でもこれで終わりだ。
 もう、多恵の手は血に汚れた。
 これで誰の手も取れなくなった。
 けれどそれで良いのだ。

 そのための殺戮で。
 そのための命なのだから。

「…………と思っているのなら、甘いのであるな」
「!?」
 生きていた。
 喋った。
 半分なのに。

「君を馬鹿になどしていない。私は鹿である」
「何、なんで、喋って……まだ……」
「君の知らないことはこの世に溢れている。それこそ無数に」
「だが私は君への言葉を持っていない。やめろとも続けろとも言うまい」
「何故ならば怒りも、嘆きも、後悔も、全て君のものだからである」
 それは有る種、何より残酷な言葉だ。
 この化物(!)はこう言っている。

『お前が決めろ』と。

「……わかってる、わかッてるかラ! やろうとしタんじゃない!」
「だがそれは阻止した。言わば考える時間が与えられたわけだ。故に」
 リチャードの半身が鹿になる。その異形の変化に、多恵は今度こそ言葉を失った。

「故に、蜘蛛の糸を掴むのか、終わった事だと諦めるのか。
「それも全ては君の、君達次第になるということである」
「行きたまえ。神はダイスを振らない。結末は君の思うままであろう」
 そして、半身の鹿が残りの半身をくわえ、背に乗せた。
 そのまま、リチャードは夜の闇に消えていく。

「…………なにそれ。何、それ。何それ何ソレ何ソレッ!」
 多恵は屋上から身を躍らせた。
 死ぬためではない。殺すために。
 改めて四人のに息の根を止める。
 邪魔をするなら誰でも殺す。

「あ、あああああああああああああああああ!」

 そうじゃなかったら、私はもう。

 ●

「――――多感な少女の気持ちなど、本当に知ったことではないからなぁ」
 その背中を見送りながら、リチャードは嘆息する。

 ……命を奪う恐怖を体験させた。
 ソレを上回る恐怖も植え付けた。
 彼女はこれから、嫌でも考える。
 刃を振るうことの意味を。
 誰かを殺そうとする行為の結末を。

「では――――良い週末を」

大成功 🔵​🔵​🔵​

零井戸・寂


【SPD】
後に繋ぐ。
どうせ『僕』には戦闘力はない。だからせめて後続に向け情報を獲る。
邪神がプログラムなら、僕にも調べられる事がある筈だ。【ハッキング+情報収集】

……面倒かけるねロク、ありがとう。


終わってる?違う。
何一つ終わってやしない。

君はまだそうして言葉を紡げる。
まだ人一人とて殺してもいない。
君はまだ戻ってこれる。
(――僕と違って。)

それに、その体で生きてどうするんだ。
神の僕として生きるのか?

そうして……君がされた様な事を誰かにさせるのか?
本当にそれが君の望みか?
そうじゃないだろ!?

(一度死したらしき彼女を蘇生する為の情報を探す。僕に出来ずとも、他の誰かにそれを伝えられれば。)


ロク・ザイオン

零井戸と
(これはまだ治る病葉か。ずっと考えていた)

……そうか。
零井戸がそうするなら。
おれが、キミを守る。
(自分はひとを守る)
……キミもだ。多恵。

(長い鬣と尾の、猫に似た真の姿を得る。
零井戸を【かばう】のを最優先。
邪神像、肉片が現れたら先に対処する。
零井戸の邪魔はさせない)

(膨張した血管。中があの、粘液の病か。
即死に繋がらない箇所を狙って【傷口を抉】り、病を吐き出させ
「生まれながらの光」を放ち体を治す。
かみさま、がキミを動かしているというなら
それがキミを縛るなら、)
今度は。
おれたちに。生かされろ。
おれたちは、キミに、こんなことをさせないから。

たすけてと、言え。



…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━
【02】
 ▼ 誰xxxxxx xxxx xxxxx xxxxx xxx xxxx ▼

「おれには、わからない」
 月明かりの下。
 ロク・ザイオン(疾走する閃光・f01377)がぽつりと呟いたのを聞いて。
 端末を操作していた手を止めて、零井戸・寂(アフレイド・f02382)は問い返した。

「……何が?」
「多恵は、元に戻れるのか?」
 抜き身の山刀をぶら下げて、空を見ながら。
 その掠れた声と、色のない表情を彼女を知らない者が見たら、きっと冷徹な判断を下すつもりなのだと思うだろう。

「あれは治る病葉なのか、ずっと考えていた」
 もし手遅れなら。
 もし無理ならば。
 首を断って。
 命を絶って。
 終わらせてやるのが慈悲で。
 それは“おれ”の役目なのではないかと。

 ただ。

「まだ終わってない」
 この場にいるのは、ロク・ザイオンをよく知っている少年だった。

「あの邪神がプログラムだっていうなら、僕に出来ることは絶対ある……いや、やって見せる」
 止めた手を動かす。
 集めた断片、拾った欠片、解析した情報、手元にある全て。

「……知ってるんだ」
 何を、と、ロクは尋ねなかった。
 代わりに、目を細めて、月光を遮る影を見た。

「なんでこんな事出来るんだ。なんで僕なんだって。誰にも頼れなくて、けど立ち向かう勇気だって無くて。誰でもいいから助けてくれ、なんでもいいから救ってくれって思うんだ」
 ああそうだ。
 知っている。
 彼女がどんな傷を負ったのか。
 零井戸・寂は知っている。
 “いじめられる”という事の、残酷さを。

 自分がそこにいることが、惨めで情けなくて、消えたくなる。
 誰かのせいにしたいのに、自分のせいだと言い聞かせる。
 逆らうのが怖いから。
 傷つくのが怖いから。
 最悪の今を現状維持して。
 もう壊れている心の器を、それ以上汚れないように。

 ああ。

「だから僕は“助けに来た”んだよ。何一つ終わってやしない。終わってないんだ……多恵」
 二人の視線の先に、少女はいた。
 大鎌を携えたその姿。

「……勝手なことヲ」
 少女の……多恵の顔には。
 表情がなかった。
 感情がなかった。
 強引に封じ込めたかのように、何もなかった。
 そうしていれば、考えなくていいと思っているかのように。

「勝手だよ、そうだ、勝手に助ける。だからロク」
 続きはいらなかった。

「零井戸がそうするなら」
 異端を断ち切り、捨ててきた山刀を手放し。

「おれが、キミを守る」
 そして。

「キミ達を、守る」
 “ひと”を守る。

「――――――何で」
 その言葉の、何が気に食わなかったのか。

「ナンデエエエエエエエエエエエエエエエエエエッ!」
 獣と、人の戦いが始まった。

 ●

 傍から見れば、それは異形と人の戦いだった。
 ただ、オブリビオンに属するのは人の形をしている方で。
 猟兵に属するのは、異形の方だった。

 ――――猫だ。
 手足はスラリと長く。
 鬣が逆立ち、胴体と同じ長さの尾がゆらりと揺れる。
 
「ぁあああああアあアアアアアああああああああ!」
 力任せに、技術なく、しかし凄まじい速度で振るわれる大鎌を。

『――――――』
 飛び退く。靭やかな筋肉の動きは、予備動作無しで距離を開けて、また詰める。

(粘液の病は――――)
 夜の学園に、瞳が残光の尾を引く。
 疾く。より疾く。

(隆起した血管――――あの中に)
 粘液がいる。
 首は駄目だ。血管が太い。

『グ   ッル』
 ロクの――――獣の喉が唸る。
 影に混ざり、姿が失せ。
 次に現れたのは、多恵の眼前。

「な――――」
 視認したと同時に、腕に牙を突き立てる。
 鋭く食い込んで、傷口をえぐり、同時に。

『かみさまが、キミを動かしているのなら』
 光を放つ。聖者が持つ、生まれながらの光。
 傷を癒やす光。あるべきものを、あるべき形に戻す光。

『それがキミを縛っているというのなら』
 牙を引き抜き、距離を取る。
 もう傷はなかった。代わりに、その足元で粘液の塊がのたうち回っていた。

『今度は、おれ達に生かされろ』
 獣は、まだ少女を見据えている。

『たすけてと、言え』

 ●

「今の内だ――――!」
 ロクが多恵をひきつけている間に、情報を組み立てる。
 多恵は飛び降り自殺をした。
 頭が砕けた自覚もあるらしい。
 今はあの粘液が体を生かしている。
 だから――粘液を身体から取り除く事は、彼女を解放すると同時に、“死”に近づける。

「何か、ないか! なんだっていい、ご都合主義だって奇跡だっていいんだ……!」
 勿論、無い。
 ご都合主義も奇跡も無い。
 手繰り寄せねばならない。
 糸を。自分の手で。

 戦闘は続いている。
 ロクは殺さないように努め。
 多恵は殺すつもりで攻める。
 だからどうしたって、じわじわと押され始めてしまう。

「……待てよ」
 ――確定情報。
 人間の意識や認識を改ざん出来し、操ることが出来る。
 大量に集まれば、別途様々な働きをする。
 あの粘液は生きている。
 粘液はプログラムで干渉することが出来る。

 干渉、出来る。

「――――NAVI!」
「にぁ」
「プログラムを作るんだ、あの粘液に新しい命令を与えるプログラムを!」
「にぃ?」
 わかってる。そこまでは無理だ。
 そんなもの、この場で零から作り出せるなら、もっとうまいやり方がいくらだってある。
 けれど――発想を現実に変えられる者達が、この場には居る。

「ロク!」
 走り出す。必要なものがある。
 プログラムを組み立てるために必要な情報が。

 、、、 、、
「僕を守って!」
 その言葉に、ああ、友は。
 応じてくれた。
 戦場に割り込んだ零井戸に迫る大鎌を、爪で止める。

「こいつだ……NAVIッ!」
 そうして拾い上げたのは、多恵の体からロクが引きずり出した粘液だ。
 多恵の中で、多恵を生かしていた粘液だ。
 多恵の情報を――――最も内部に取り込んだ、粘液だ。

「届けてくれ! 皆に! 全員の力があれば、この時間で!」
「――――にやあ」
 黒猫……NAVIの行動は速かった。即座にその体を闇に溶けさせて。

「何をスる、つもリなの」
「言ったろ、君を、助けるつもりなのさ」
 その行動が不可解だったからだろう。
 多恵は一度動きを止めて、怪訝そうな顔で零井戸を見た。

「ナンで、どうシて」
「見てられないからさ」
 だってそれはまるで。
 自分の。

「まだ君は誰も殺してない。僕達が誰も殺させない。君の望みは――」
「ううううる、さぁああああああああああああああああァァアアアい!」
 怒りに任せたその一撃は。

「助けてなんて! “何回も言った”! 誰も助けてくれなかったじゃナい! 何で今更なのよ! 何で今なのよ! どうして!」
 零井戸では視認出来ないほど速かった。

「ぐっ!」
 ――――ロクが居なければ、死んでいただろう。
 零井戸の首元に噛み付いて――服だ。皮膚じゃない――飛び上がる。

「ロク!」
『これ以上は、だめだ』
「っ」
『おれは殺さない、多恵も殺させない。一度、退く』
 なまじ力に飲まれているだけに。
 お互いの消耗が激しい。
 殺す訳にはいかないし。
 殺される訳にも行かないから。
 体中に赤い傷跡を刻んだ猫の身体を見れば、これ以上を求めることなど出来ようもない。

「……わかった、けど」
『大丈夫だ』
 高く高く跳躍しながら。
 獣は、静かに告げる。

『たすかりたいと、確かに言った』
 言っていた。
 かつて嘆いたその声は。
 やっと今届いたのだから。
 ならば後は、その手段を組み立てるだけだ。

「……ああ、絶対に」
 道標は出来た。
 そして――――誰も、一人ではないから。

「助けよう」

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ネグル・ギュネス
そうだな、俺達の手は遅かった。
否定はすまいよ。
だが、まだ届かぬわけでは、無い。

その為には、まずあの邪神、そしてこの地に巣食う闇を祓う!

【戦場】は広い場所が良い
運動場に引き寄せた後、コール・ファントム!バイクを呼び寄せ、【騎乗】し、高速移動しながら、【残像】を生み出しつつ撹乱

肉片や儀式像が現れたら、ユーベルコード【天から来る一撃】で、纏めてぶっ飛ばす!

成る程、君は過去救われなかった
幾ら学園のクソッタレ共の策略とは言え、今更と思うだろう

だがこのまま君を贄にしては、心から謝りたいと願う子にも申し訳が立たぬのでな
何よりそのカミサマってやつこそ、君を死に追いやった元凶である!

証拠は、…ある!
なあ、皆!!


寧宮・澪


……うん、歌いましたー……。
面映ゆい、ですが……これは、これでー。
(満足げ)

機器ジャック、続いてるなら……各種媒体からの支援、続行でー……使えないなら、現場にいきましょー。

【謳函】、使用。
対粘液用ウィルス、組み込んでー……。
邪神は殲滅。
生きて帰りましょー。
救えるなら救いたい。
そんな【覚悟】、【祈り】めいた気持ちに、【破魔】を重ねて【歌唱】、しましょー……。

謳う限り、振動は中に入り込みます、ねー……。
多恵さんいいお名前ですねー……すてき、ですよー……。
貴方が恵みを与えられる、与えるにしろー……ここに猟兵が、来たなら。
間に合う可能性が生まれるん、ですよー……それをつかむかは、貴方次第、ですが。


富波・壱子

まず戦闘人格で相対
相手が疲れ果てこちらの言葉が届くようになるまで時間を稼ぐように戦います
儀式像や肉片は予知を用いて現れた瞬間に撃破
今、皆が彼女を救おうとしています。あなたには邪魔させません

言葉が届きそうになれば後衛まで下がり日常人格と交代して呼びかけるよ

何も頼れるものがなくなって、最後に残った復讐も取り上げられて、もう自分でもどうしたらいいか分かんないよね
大丈夫だよ。終わってなんかない、まだ間に合う。全てまたここから始めようよ
なりたい自分やしたいこと、こんなことになっちゃう前にはあなたにだってあったはずだよ!
泣いて叫んで気の済むまで暴れたなら、思い出しなよ!あなたの本当にやりたかったことを!


六六六・たかし


一つ聞こう。「お前は誰だ?」

俺はたかしだ!
名字はなく俺には名前しか無い。
「たかし」というこの名前だけが俺を俺として知らしめる唯一の物だ。
この事件はお前の名前から始まった。
己の名前から始まったことは自分自身で解決するべきなんだ。
決してお前の言う「かみさま」とやらに縋り付いて終わらせていいものじゃない!

もう一度聞こう。「お前は誰だ?」


【SPD】

今日の俺は「デビルズナンバーたかし」ではない「たかし」だ。
俺の力のみで戦う。これが俺の「覚悟」だ。
遠距離から「たかしブレード:ガンモード」で射撃しながら近付き
相手からの攻撃をUC『悪魔の舞踏』で回避しつつ、「たかしブレード」で攻撃する。


夕凪・悠那

この戦力なら最後の手段で解決するのは難しくない
可能性を模索する余裕も多少はあるはず

それに、ここで見捨てたら寝覚めが悪いんだよ
思惑はどうあれキミには死んでほしくないんだ
勝手だろうね
でもバッドエンドとか嫌でしょ

出しっぱの拳士で[見切って]捌きながら隙を伺い[目立たない]様に隠蔽処理した【精神回線】を[早業]で繋ぐ
昂った精神に干渉して少しでも落着ける
意思を捻じ曲げる程じゃない、いいから話を聞けってやつ
席は用意するって言ったよね

同時に思考/体内のカミサマについて[ハッキング+情報収集]
得た情報を全送信
いるなら黒猫に手伝って貰って確実に
後は任せるよ
いや、神様が粘液と同質ならボクができることもあるかな?


マグダレナ・ドゥリング


さて、いつもなら小細工を弄して揶揄うところだけど……
今日はらしく無く行く、と決めたからね。正面から遊ぼうか。

【我が剣は影】を使って周囲の闇を固め、大鎌を実体化させて使おう。
しかし、こんな使いにくい武器を選んだのもカミサマかな、優しくないことだね。
夜、光源のない環境でもダンピールとしての性質とセンサー類があれば【暗視】ができる。
たぶん大鎌なんて扱う武術に関しては素人だろう、【見切り】は難しくないはずだ。

カミサマはもう居ない、だから君が選べ。
生きたいか。それとももう一度死にたいか。

生きることを望むなら僕は【時間稼ぎ】に徹すればいい。
死を望むなら……それを叶えるのも慈悲だろう。その時は、殺傷する。


西園寺・メア

オブビリオンになった人を元に戻す手段がないのがもどかしいわね……

さて、このままだと学園の生徒はみんな邪神の胃袋行き
多恵さんはその給仕係りね
あなたをこんな風にした邪神のために働くだなんて、そんな未来はお断りでしょう?

もしかしたら学園そのものが憎くて仕方ないかもしれないけど。ま、そのときはそのときね
淀んだ気持ちを発散させるためにも、疲れて動けなくなるまで力の限り暴れて、叫んで、泣けばよろしいと思うわ
そんな多恵さんに付き合ってあげましょう。
さぁ、最果てまで追い立てるわよ!踏破せよ、果ての果てまで!



…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━
【03】

 機器のジャックは正常に続いている。
 即ち、それは寧宮・澪(澪標・f04690)の歌が、まだ学園全域に広がるということを指す。

「ラ――――――♪」
 ハッカー達が組み上げた対粘液用ウィルスを乗せた“謳”が鳴り響く。
 歌は音だ。音は振動だ。だから空気が存在する限り、どこへでも多恵が何処に居ても聞こえ続ける。

「ぅ、ううううううう――っ!」
 多恵の中の粘液も、その影響を強く受けていた。
 ただし、他の生徒達に寄生していた物とは違い――彼女の中にあるそれは、彼女の肉体・精神と強く結びついている。
 失った血肉を、内蔵機能を補間し、強靭な身体を与えている。
 言い換えるのなら、邪神の眷属としての『加工』は既に終わっている。

 だから、多恵の体内の粘液が死滅する時は、多恵が死滅する時だ。

「あぁああああああああああ!」
 だから当然、多恵は抵抗した。謳で乱れ、暴れる体内のそれらを押さえ込み、八つ当たりのように大鎌を奮って、スピーカーを壊す。
 けれど、たった一つ壊してもどうしようもない。歌姫のステージは学園全土であり。
 函庭なのだ。

「やめテ――――やメて、歌を、やめテええええええええ!」
「……苦しそうだね」
 悲鳴を聞きつけたのか。あるいはその場所を突き止めたのか。
 マグダレナ・ドゥリング(罪科の子・f00183)は、頭を抱えて叫ぶ少女を前にして、ぽつりと呟いた。

「…………っ! また……っ!」
「君からすれば、僕達は敵か。まぁ確かに、そうだろうね」
 蹌踉めきながら、大鎌を構える多恵を前に、マグダレナは静かにため息を吐いて、手を夜の闇にかざした。

 ――影が集う。
 ――インクが滲み出るように、平面の闇が現実の世界へと浮き上がる。
 ――その黒が形作るのは、多恵がもつ物と全く同じ、大鎌だった。

「!」
「そんなに驚いた顔をしなくても。君の専売特許じゃあないのさ、これぐらいは」
 君のカミサマが与えた力は、唯一無二ではない。
 眼の前に存在する“物体”という、わかりやすい形で見せられた少女は。

「邪魔……するナあああああああああああああ!」
 鎌を振り上げ、斬りかかってきた。
 傍から見てもはっきりわかる、ただの逆上。

「――――」
 横に振り抜かれる大鎌の柄を、少し前に出て、軌道に置く。
 それだけで金属同士がかち合う音が――その影は材質すらも模倣している――響いて、止まった。

「使いづらい武器だね、それを選んだのもカミサマかな。優しくないことだね」
「う、うううう……!」
 あっさりと受け止めた、その感触を持ってマグダレナは確信する。
         、 、
 多恵は……弱い。
 オブリビオンとしては最弱の部類に入るはずだ、ともすれば、あの粘液のほうがまだ手ごわかった。
 ただ少女が、少し異形の力を与えられただけで――猟兵に叶うわけがない。
 首を刎ねようと思えば、いつでも刎ねられる事を、理解した。
 理解できてしまった。

「……一つ、君に確認したい」
 切り結んだまま静止し、歯を食いしばる多恵を見つめながら、マグダレナは問うた。

「カミサマはもう居ない、だから君が選べ」
「な、何を……!」
 選択肢を。

「生きたいか。それとももう一度死にたいか」
 生殺与奪を、突きつける。
 強者に許された権利を、行使する。

「――何であなたにそんナ事、言われなくちゃアならないの!」
 それは少女の偽らざる本音であり。

「君を助けたいと思った者が、なぜだか沢山いるからさ」
 それは猟兵達の、紛れもない真実。

「じゃあ――――もっと速ク助けテよ! もう遅イじゃない! 私こンなになっちゃったのニ!」
「ああ、そうだね」
 人間として死んで。
 カミサマ
 化 物として蘇った少女は、叫んだ。

「けど、死んで蘇った程度だろう? 騒ぐほど事じゃあない」
「――――――は?」
「その程度のことで君を救うことを諦める連中なら、最初から助けようとはしていないという事さ」
 さて。と言葉を切った。
 後はもう、語るべきことはないというように。

「遅ればせながら、助けよう。ああ、意思の確認ができてよかった」
 死にたいのなら、慈悲を与えることも考えていたから。

「皆の準備ができるまで、時間稼ぎに徹しよう。安心してくれていいよ、多恵君」
 正面からぶつかって受け止めると決めたから。
 らしくないことをしてしまった。
 らしくないことを言ってしまった。

「君の刃は、僕には全く届かない」

 ◆

 頭が痛い。
 大鎌を振るう。殺すつもりで、首を今度こそ飛ばしてやると。
 何様のつもりだ。誰様のつもりだ。何を知っているんだ、何でそんな事を。
 恨みも憎しみも全部込めて、けれど、かわされ、避けられ、受け止められ。

 攻撃しているのは多恵なのに。
 一切反撃されないのに。
 有効打が何一つ決まらない。

「ああああああああああああああああああっ!」
 歌だ。謳だ。この謳が悪い。
 頭が痛い。冷静になれない。考えがまとまらない。
 ずっとずっと鳴り響き続ける、この謳が――――――。

(いい、お名前ですねー……)
「っ!」
 謳に意識を向けたのが、まずかった。
 響いてくる。響いてくる。頭の中に響いてくる。
 歌っている人間の意思が。
 謳っている人間の思考が。
 ただうるさいだけだと思っていたそれに、明確な意志と自我を感じる。

 一つの謳を奏で続ける少女の、感情。

(多くの、恵みー……ええー……私は、好きですよー……)
 それは、多恵が××××××につけてもらった名前。
 それは、彼女に祝福がありますように、という意味。


(……大丈夫ですよー……私達が、来たからー……)
(もう遅い、なんてことー……ありませんー……)
(貴女がー……手を掴んでくれるのならー……)
(引き上げて見せますからー……)

 ◆

「っ!」
 これ以上。
 この謳を聞くのはまずい。
 そう判断したのは、多恵であって多恵ではなかった。
 体の中の粘液が起こす、強烈な拒絶反応。

「いやああああああああああああああああああああああああっ!」
 指を立てて、思い切り耳の中に突っ込んで。
 鼓膜を破ろうとした――――その動きは、流石にマグダレナにも予測できなかった。

「何をしている!」
 大鎌の石突で腕を打ち払おうとする。
 一秒だけ遅い。

「がっ! う、うううううう……」
 だからその動きが止まったのは、自らの。
 多恵自身の意思によるものだった……勝手に動いた手を、鎌を放り投げて、右手で止めた。

「多恵君」
「ぁ、ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……!」
 変化は、すぐに起きた。
 少女の瞳の中が、真っ赤に染まる。
 ごぽりと溢れ出たその涙もまた、粘性のある赤い色をしていた。

「嫌だ…………嫌だよォおおおおおおお!」
 返事にならない悲鳴が上がると同時。
 空間が歪み、衝撃が走った。

「くっ――――」
 身を庇い、一歩飛び退いて、改めて相対し直した時。
 多恵の背後に、禍々しき邪神像が顕現していた。

「成程、これは――――」
 長い“時間稼ぎ”に、なりそうだ。

 ◆

「――――――――」
 謳が意識に触れた感覚があった。
 感情を、意思を、直接伝えられた手応えを感じた。
 けれどそれらは――なにかが強引に連れ去っていった。

 澪の感覚でいうと、そういうことになる。

「――――でもー…………」

 “助けて”を。
 確かに感じた。
 だから。

「……諦めませんよー……だってー……」
 謳はまだ止まらない。

「手を伸ばそうとー……してくれましたからー……」

…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━
【04】

 像、と呼ぶにはどうにも醜悪だ。
 手足の生えている古びた石の塊から、赤黒い粘液がぼたぼたとこぼれ落ちている、といえばよいか。
 どちらにしても趣味が悪い――夕凪・悠那(電脳魔・f08384)は舌打ちした。
 アレに近づくのか、と思うと若干気が重い。
 けれど。

「ああ――席は用意するって言ったもんね」
 本当にらしくない。次があったらもっとこう、飄々と余裕綽々で居られたらいいのだけど。
 なまじ度胸があるものだから――度胸を得たものだから。
 決断は速く、行動も速い。

「ァAaaaaaAaaaaあaaあaあAAあaAAaaあaあaaaAaあああaあaaあaAA!!!!」
 何らかのノイズが混ざり始めた声、音、悲鳴。
 同時に、多恵が振るう大鎌は――――速度も威力も、今までのそれの比ではなかった。

「拳士!」
 合体させたバトルキャラクター【拳士】が受け止めようとして、右腕を獲られた。

「暴れないでよ――話し合いにもなりゃしない」
 その一瞬で十分。指先から放たれた魔力で編まれた細い糸が放たれ、多恵の体に触れた。
 干渉に必要なのはそれだけだ。夕凪の《精神回線》は思考と意識を接続し、読み取れるユーベルコード。
 このまま沈静化させよう――とした所で、それが失敗であると気づいた。

【蟷イ貂峨r遖∵ュ「縺吶k縺薙l縺ッ謌代′萓帷黄縺ァ縺ゅk蟷イ貂峨r遖∵ュ「縺吶k縺薙l縺ッ謌代′
 雍?〒縺ゅk謌代↓隗ヲ繧悟セ励k閠??隱ー縺区ア昴↓鄂ー繧剃ク弱∴繧玖エ?h闍ヲ縺励∩繧ゅ
 縺崎カウ謗サ縺咲オカ譛帙@謌ク諠代>蝌?″迢ゅ>迥ッ縺玲ココ繧梧ヱ縺?ュサ縺ォ閾ウ繧九′
 繧医>繧ス繝ャ縺薙◎縺梧?縺瑚コォ菴薙r逋偵d縺吝髪荳?辟。莠後?逾晉ヲ上〒縺ゅk】】

「っっっ! うっるさ……っ!」
 声とも呼べない声が、大音量で頭に響いた。
 多恵のものではない、多恵が今、自身で感じている音だ。
 彼女の思考をかき乱し、彼女の思考を飲み込んで、身体も、心も塗りつぶしている……声。
 糸を繋いでいる限り、自分にも流れ込んでくる。介入して止めてやろうにも、こちらのアクセスを受け付けない。

「あれか……!」
 最も、音の出処はすぐに割れた、というより、一つしか無い。
 邪神像は、その首(であろう場所)を夕凪に向けると。
 がば、と顔の中央に、大きな穴を――――それは恐らく笑みなのだろう――――開けた。

「蜉ゥ縺代※蜉ゥ縺代※縺?k縺輔>隱ー縺句勧縺代――――――!」
 多恵の口からも、また声にならない音が絞り出され、その勢いのまま大鎌が振るわれる。
 拳士の体が刻まれていく。もうすぐ形を保てなくなる。《精神回線》を多恵と繋いでいる限り、こっちの頭も割れそうなほど痛い。

 接続を切離して、今すぐ撤退すべきだと、割れそうな轟音の中で冷静な頭が告げる。

(うん、全くその通り。ここで無茶する必要はない。こっちの戦力は多いんだし、一人失敗したぐらいどってことない)
(拳士がやられたらいよいよまずい。身を守るためにはどっちにしろ接続を外さないといけないわけだし)
(だったらここで退くのが妥当な判断でしょ、どっちにしたってらしくない真似なんだし)

「――――あぁ、でもさ」
 引き上げて、逃げて。
 結末がどうなるせよ。多恵が死のうと、救われようと。
 そこに投げ出した自分がいたら――――きっと明日の寝覚めは、良くないだろう。

「バッドエンドとか、嫌でしょ――――」
 拳士が、両断された。
 ノイズはまだ止まない。
 回線を切るわけには行かない。
 大鎌が迫る。

「――――済まない、遅れた」
 首に刃が迫っても、夕凪は目を閉じなかった。
 だから、間に割り込んできた『誰か』が自分の体を抱きかかえ、間一髪、その場から離脱する所を、しっかりと認識できた。


…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━
【05】

「――目標発見、標的の動きを封じます」
 発砲音が二回、流れる“謳”を引き裂いて、夜の校舎に響いた。

 ビーチェとブレッサー、富波・壱子(夢見る未如孵・f01342)の二丁拳銃から放たれた大口径の弾丸は、何処が何の部位だか想像もつかない、異形の邪神像を深く抉る。
 石と粘液が同時に飛び散ってぶちまけられ――――。

【遘√?螢ー縺ッ逾槭?螢ー縺ァ縺ゅk騾?i縺?♀蜑阪?逾槭∈縺ョ隰?蜿阪r諛舌″縺苓??〒縺ゅj豁サ繧剃ク弱∴繧】
 ……急速に再生していく。
 傷跡から、赤黒い粘液がこぼれ落ちる。それらはドロドロ蠢いて、巣に飛び込むように、多恵の体に入っていく。
 同時に邪神像は、ぎょろりとその目であろう部分を壱子に向け。

「ぁあああああああああああああああああああああっ!」
 多恵の絶叫と同時に、さらに粘液が溢れ、集まり、混ざって形を得ていく。
 人の形を模そうとして、失敗した何かがそこにはあった。
 もはや液体ではない、高密度に圧縮された、“邪神の肉片”と呼ぶべきか。
 腕を鋭い触手を伸ばして、壱子めがけて突きこんだ。

「――――――」
 引き金を引く。薬莢が舞う。大穴をぶち開けられても、肉片はすぐに収束する。

  リロード
「再装填」
 マガジンを捨てるのは一瞬、込め直すのも一瞬。
 連射で、原型を留めなくなるまでぶち抜く。
 が。

(状況を変える一手が必要――――)
 その間に、新たな肉片が生まれる。まるでゾンビだ。
 単体はそれほど驚異ではないが、再生能力が高い。これにかまっている間、多恵は自由に動いてしまう。
 そも、あの像がある限り、多恵への『説得』が通じるかわからない。

 ならば被害が広がる前に、いっそ殺めてしまうのは?
 多恵そのものは隙だらけだ。
 狙おうとすれば狙える。
 躊躇や情けといった思考は、“戦闘人格”には存在しない。

 恐らく“日常人格”に切り替えた時。
 後悔するだろうという予測が立つだけだ。
 けれど、邪神像の破壊に執着して、こちらがやられては本末転倒だ。
 判断から行動に移すまで、僅か二秒。
 0.2秒で判断を下し、一秒が経過する前に狙いを定め、二秒に差し掛かる頃には、もう弾は放たれている。
 だから。

「そこまでだ」

 その声が、発砲前に割り込んできたのは、幸運という他にない。

 ◆

「一つ聞こう」
 六六六・たかし(悪魔の数字・f04492)は、その身一つで現れた。
 ざしきわらしも、かかしも居ない。
 眼鏡である“まなざし”すら、沈黙している。

「ぅぅぅぅ……」
 多恵の赤い瞳が、ぎろりとたかしを睨む。
 返答はうめき声だ。関係ない。
 何故なら、彼はたかしだからだ。
 すべきことを決めた男は、躊躇わない。

「俺はたかしだ。この名前だけだ。この名前が俺だ。俺を俺として知らしめる唯一の物だ。」
「ぅぅぅぁぁぁぁ……」
「この事件はお前の名前から始まった。お前が名前を虚仮にされたことが、そのきっかけになった」
 たかしには名字がない。
 六六六はナンバリング。ただの記号に過ぎず。
 デビルズナンバーは殺人オブジェクト郡の総称であり、個人を示すものではない。
 だから、“たかし”には“たかし”しかない。
 だが、たかしはそれを恥じたことはない。悔いたこともない。

 何故なら、彼は“たかし”だからだ。
 ここに確かに存在し。
 確固とした己を信じ。
 自分自身を定義している、彼だからだ。

「許せなかったんだろう。見過ごせなかったんだろう。なら――――」
 その手にあるのは、彼の名を関した一振りの武器。

「お前が怒れ。お前が叫べ。“カミサマ”に縋り付いて終わらせていいものじゃない」
「ぅうううううううううううううううううう!」
 痛いのだろう。
 苦しいのだろう。
 けど、言葉は届いている。
 届いているのだ。

 剣が銃へと変じる。たかしブレード:ガンモード。
 牽制の弾丸を超えて、銃は再度、剣に至る。

 ◆

 オブリビオンになってしまったら、元に戻す手段はない。
 何故ならオブリビオンは「過去」に属するモノだから。
 過去から生まれいでて、未来を喰らい、存在するモノだから。
 多恵もまた、“死んで”現在から消えて、“過去”から這い上がってきた存在だ。
 だから彼女をオブリビオンの定義するならば。

「……どうすればいいのかしら?」
 西園寺・メア(ナイトメアメモリーズ・f06095)が抱いた疑問はもっともで、誰かもが考えていることだ。
 “多恵を救うには、どうすればよいか”

「くっ……」
 ずざざざ、と土埃を上げて、悩むメアの元にたかしが現れた。多恵と力比べをして、押し返されたらしい。

「あら、大変そう」
「そう思うなら手伝え」
「あなた、ええと、あれはどうしたの? 可愛い人形とか、カカシのあれとか」
 何処で見ていたのか、何処で知ったのかは定かではないが、たかしがどうやって戦うかは知っているらしい。
 首をかしげるメアを一瞥もせずに、たかしは答えた。

「あいつらは置いてきた」
 何故なら。

      オ レ
「これは“たかし”の戦いだ」
「その心は?」
「他人に縋るなという声で」
 たかしブレードを構え直す。その所作に、躊躇いはなかった。

「俺があいつらに頼るわけには行かないだろう」
「……ふぅん、まぁ私は頼るけどね、頼りますけどね。だってお嬢様なのだし」
「…………?」
「シェイプ」
 メアが指を鳴らす。傍らに控えるは幽霊騎士団長シェイプ。

「まさかもう無理などと言わないでしょうね」
『正直な所、ボロボロでございます。継戦は厳しいかと』
 粘液との戦いを経て。
 百騎のスケルトン軍団も、かなりの消耗を受けている。
 連戦を万全の状態で行うのは、厳しいと、シェイプは告げた。

「それが退く理由になって?」
『いいえ、それをお命じになるのであれば』
「命じます。――――勝たなくていいわ」
『……なんと?』
「多恵さんに付き合ってあげるだけでいいわ。力の限り暴れて、泣いて、喚いて、叫んで、消耗すればいい。ストレス発散に必要なのはそういう事でしょう」
『成程、つまり我々は――――』
 にたり、と。
 高慢で、高貴で、支配者階級特有の笑みを、メアは浮かべた。

  、、、、、、、、、、、、
「物量戦と消耗戦は大の得意でしょう?」
 ばっと腕を広げて、高らかに宣言する。

「武の誉れ高き騎士団長シェイプに命じるわ。我が望みは救済、我が望みは祝福。ええ、別段平和主義者というわけではないけれど、あんな醜い者共の思い通りにさせるほうが癪だわ。そもそもせっかく助けた四人の生還が無駄になる。だから助けるわ。そのために尽力なさい我が下僕。骨は拾ってあげる――まぁもう貴方達死んでるけどね」
 それは、決定事項なれば。

「さぁ、最果てまで追い立てるわよ! 踏破せよ、果ての果てまで!」
『委細承知、致しました』
 もはやシェイプは躊躇わなかった。

『お力添えを。ご意思に反するかも知れませんが、こちらもお嬢様には逆らえません故』
「構わん、なぜなら俺はたかしだからだ」



「では、あの肉片と多恵さんの動きを止めてもらえますか」
 会話に混ざる声は、銃を構えた猟兵の――壱子の物だった。
 状況確認も説明もない、合理的に、要求と結論だけを述べる。

「私は邪神像を。恐らく、あれが邪魔です」
 そして、猟兵にとって、そんな連携は日常茶飯事だ。
 役割はすぐさま決まり、行動は即座に行われる。

『承知。ご武運を』
 半壊した骸骨騎兵団は、蠢く肉片の群れに、突撃を開始した。

「問題ない、最初からそのつもりだからな」
「助かります、では」
 それだけ言い残して、壱子もまた駆け出した。

「…………ふん」
 結局、隣の誰かを頼ってしまった。
 しかし……それでもいい。
 たかしが一人で戦うというのは、理屈ではなく、ただの決意表明なのだから。

「ぁぁああああああああああああ!」
 叫びながら、多恵が迫る。

「お前の戦いの意味を――――」
 対するたかしは、真っ向から――受け止める!

「――――その“ごまかし”を、俺が断つ!」
 たかしブレードと、大鎌が斬り結んだ。

 ◆

 転機が来た。
 肉片と多恵を、他の猟兵が抑えてくれるなら。

「これを」
 二丁拳銃をしまい、新たな武器を取り出した。
 長い銃身、ビーチェとブレッサーを大きく上回る口径、それを支える巨大な三脚、反動を抑えるための機構はない。猟兵が使う前提のカスタムだ、腕力で止める。
 名前をフィリーという。
 人間相手に使うものでは当然ない――銃器としての分類は、こうなる。

 ア ン チ マ テ リ ア ル ライ フ ル
 大 型 対 物 狙 撃 銃 。

「今、皆が彼女を救おうとしています」
 一度だけ、引き金の感覚を確かめる。

「あなたには邪魔させません」
 二度目は、もう無い。
 隠すつもりもない轟音。
 邪神像の前に、粘液の壁が立ちふさがった。
 一切の容赦なくぶち破って、五十口径の弾丸が邪神像を貫いた。

…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━
【06】

「無事か?」
 間一髪救出して、己の愛車の後部座席に乗せた少女――夕凪に、ネグル・ギュネス(ロスト・オブ・パストデイズ・f00099)が問いかけると、うん、と少女は頷いて。

「まだ切れてない、繋がってる」
 細い魔力の糸は、多恵に向かって伸びていた。小さく頭を抱えて、顔をしかめているところを見ると、それが負担である事が伺える。

「いや、君の事を聞いているのだが……」
「無事じゃないよ。頭痛いし五月蝿いし、おまけに拳士はやられちゃったし」
「このまま一旦退くか?」
 たかし、壱子、メアの三人が、多恵を食い止めている。
 特に邪神像は、弾丸に貫かれた衝撃で、ごぼごぼと粘液を大量にこぼし続ける代わりに、動きを止めた。
 退くなら、今だ。

「冗談やめてよ。それより、あまり離れないで。接続が切れる」
 だが、夕凪は首を振ってそれを否定した。

「……君は何かをしているのだな?」
「したいんだけど出来ない、アレが邪魔」
 指差す先にある邪神像は、やがてぎりぎりと動き出した。怒りを示すように。
 ぼたぼたと、だらだらと。粘液を巻き散らかしながら。
 溢れる粘液は、真下の多恵の中に、どんどんと侵入して。

「縺斐a繧薙↑縺輔>縲∬ィア縺励※縲∫李縺??縲ょ勧縺代※縲よョコ縺励※縲ゅ#
 繧√s縺ェ縺輔>縲√#繧√s縺ェ縺輔>縲√#繧√s縺ェ縺輔>ーーーーー!!!!!」

 その度に、絶叫が大きくなる。
        、、、、、
「――――なら、壊せばいいんだな?」
 当然のように言い切るネグルに、少女は――夕凪は目を細めた。

「簡単にいうね、出来るの?」
「出来るかどうかの話ではない、やるかやらないかだろう。そして――――」
 ブレーキ、ターン。
 遠ざかる意味が消えた。多恵に、邪神に向き直る。

「もう決めたのさ。“助ける”と」
 全速力を命じるアクセル操作に、愛車S R・ファントムは簡潔に答えた。

『――Are You Ready?』
「出来ているよ」
 甘い、ささやくような女性の声。
 初速から最高速まで、瞬き一つ。
 大鎌を構える少女に向かって、夜闇を、より濃密な黒が引き裂き、駆け抜けた。

 ◆

「遘√↑繧薙※豁サ縺ュ縺ー繧医°縺」縺――――!!」
 向かってくるバイクごと両断すべく構えられた鎌は、しかし早々に行き先を失った。
 直線で向かってきたはずのそれは、横方向に五つ、縦方向に五つ、合計十個の残像を生み出す。

「いいマシンだね、気が利いてる」
「古臭いと小馬鹿にされることもあるのだがな」
「年季が入ってなきゃ、大事にされてるかどうかわからないじゃない」
「確かにそれは――――」
 振り抜かれた大鎌。
 斬ったのは、当然のように。

 十一あった全てが、残像だ。

「――――その通りだ」

 S R・ファントムは上へ跳んだ。
 何せ邪神像は多恵の背後に浮いているのだ。
 そうせざるをえないから――――そうしただけのこと。

「多恵君」
 激情家ではないし。
 感情を表に出す方でもないけれど。

 熱を抱かないわけでも。
 怒りを放たないわけでもない。

 ネグル・ギュネスは機械だけれど。
 それでも、譲れぬものを持っている。

「確かに俺達は遅かったかもしれない 君が誰かの助けを最も必要としている時に、間に合わなかった」
 前輪が激しく駆動する。自身の体ごと接続して、全出力を込める。

「だが、今更と――――今更などと言わないでくれ “今”なんだ」
 邪神像は今、どんな顔をしているだろうか。

「今だからこそ――君に心から謝りたいと願う子がいる。私達は――――その声を届けに来た!」
 知るか。
 見たくもない。

「なあ――――皆!」
 それはこの場に集い、そして今向かっている、全ての猟兵に……そして。
 カミサマなどというクソッタレに運命を狂わされた、五人の少女たちに向けた言葉。

 ホイールの直撃は、弾丸に貫かれた邪神像の穴に、正確に精密にぶち込まれた。
 ギィ、と悲鳴のような音が一瞬だけ聞こえて。

「だから貴様は――……消え失せろ!」
 ダメ押しで、後輪を叩き込む。
 亀裂は、さらに大きく広がって――――邪神像が砕け散った。

…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━
【07】

『Good Luck』
「Thank you」
 突撃と同時、宙に投げ出された夕凪は、宙に身を踊らせながら、選別の言葉を放った“彼女”に礼を告げた。
 今回の事件では、何かと相手の流儀に合わせている気がする。
 全く、本当に“らしくない”。

 けれど。

 邪魔は消えた。
 音とノイズの壁はもうない。
 代わりに。

「――検索開始」
 多恵の思考を、読み解いていく。

 ◆

 助けて。
 ごめんなさい。
 私なんて死ねばよかった。
 今更遅いじゃない。
 遅いじゃないですか。
 助けに来てくれたって。
 私を助けに来てくれたって。

(本当に?)

 だって私。
 、、、、、、
 殺そうとしたんですよ。
 死ねばいいって思ったんですよ。
 友達だったのに。
 友達だったからこそ憎くて。

(ひどい話だね)

 皆が私にしたことを、謝ってもらっても許せないように。
 私が皆にしたことだって、謝って許してもらえることじゃない。

 ああ。
 痛い。
 ごめんなさい。
 もう。

(でもそれが)

 許して欲しいなんて言わないから。
 許せるなんて言えないから。

 誰か。
 、、、、、
 私を殺して。

(君の本音?)

 ……。
 …………。
 …………。
 ……けて。

(あのさあ)

 ――――――――助けて。

(最初からそう言ってよ)

 ◆

「…………確かに聞いたよ」
 情報を即座に共有する。
 電脳世界なら、それらは一瞬だ。
 けれど、あえて口にしよう。
 いいたくない言葉を暴いたのだから。
 それぐらいは、やらなくちゃ。

「助けて――――ほしいってさ!」

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

メア・ソゥムヌュクスス

私は、主にー、他の人のサポートに回るよー。

【生まれながらの光】で味方の負傷を回復させたり、【ヒュプノスノヒトミ】で相手に眠気を与え、行動を鈍らせていくよー。

「辛かったんだね、頑張ったね、後は私達がなんとかして見せるから」
私の優しさだけの言葉は通じないのだろうけども、私は言葉は安らぎを誘い、相手を絆す甘い蜜。
固く閉ざした心に、どうか隙間を。【催眠術・優しさ】


戦闘終了後、多恵の説得に成功していた場合、UCで傷を治して、4人の元に連れ行ってあげたいな。
例え、もう手遅れで、元には戻らないとしても、仲の良かった友達とすれ違ったままは嫌だもん。
少しでも、ちゃんとお話する時間を作ってあげたら、いいな。


フィア・ルビィ
〇WIZ

ユーベルコード「魔術師ノ鎖」……これをつかって、多恵さんの動きを阻害、します。触れた部位の動きを止めて、あるいは。進行方向を鎖で、封鎖。なんでも、できます。

……私は、紗夜さんを助けました。……なので、彼女が謝りながら、もがきながら。助けを求めている姿を、見ました。

……貴方は、まだ。友達の声を聴くことが、できます。……本当に、全て遅いと思い、ますか。……まだ、間に合うことがあると。私は、思います。聴きたい事、言いたい事は。本当にありません、か?

……貴方を先には、往かせません。貴方を、「死」には向かわせません。……言いたいことが見つかるまで。その勇気を、宿すまで。

まだ、終わらせません。


ティアー・ロード
少女の嘆きだ
初手の大鎌はこの身で受け止める
例え真っ二つに切断されてもマスクの紐を伸ばし説得を続けるよ

「……キミの言う通りだ。私達はいつだって遅い」
「そう、ヒーローは遅れて来る、だが、だからこそ言わせて貰おう」
「キミを助けに着た!」

「助からない
……それが乙女を助けようとしない理由になるとでも?」

使用UCは【刻印「半死半生」】
サイキックエナジーで真の姿の時に使用する人間態を形成し
戦わせ
大鎌や肉片等の邪神に関連する物の破壊を狙う

人間態の人格もまた私自身
多恵くんの体を傷つけない様に戦うです

「「私は涙の支配者、ロード・ティアー!
キミの、否……君達の涙を頂きにきた(です)!」」

帰る前に梅有をバニーにします


アレクシス・アルトマイア

◆方針
従者の独立幇助で
多恵を呪縛する邪神の影響…鎌や儀式像、そして多恵の中の邪神の肉片の破壊を行いましょう
一見容赦なく傷を負わせつつもその身を癒していくことができれば…

多恵自身に邪神なんかクソ食らえだと
生きたいと思わせましょう

◆説得
いいえ、いいえ
これから、ですよ
貴方の声は、私達に届いた
諦めるのはまだ早いです
だって誰もまだ、死んでなんていないんですから
多恵、貴女だって生きている

褒めて差し上げます
生きているから、貴女を救えるのですから
邪神の力を借りたって死んでしまうよりずっと良い


だって、貴女は本当は
悪いことなんかしたくないでしょう

貴女のことを知ったから
だから何度払われても
懲りずに手を差し伸べます


霧生・柊冬
○姉である探偵の真白(f04119)と

いよいよ多恵さんと接触の時、でも僕は多恵さんを倒すつもりはない…それはきっと他の方も同じなはず。
攻撃を掻い潜りながら、なんとかして多恵さんを説得させなきゃ…!

まずは戦闘前に生存した4人から多恵さんに向けて言いたい言葉を聞いておきます
戦闘に入ったらとにかく攻撃を避け4人の生徒の言葉を代弁しつつ多恵さんの説得に動きます
【夢進月兎】で兎を召喚したら姉さんも一緒に乗せて、【追跡】を活かしながら動きましょう

「愛美さん達が行ってきた事は確かに許されない事です。でもあの4人を殺したとして…本当に満足なんですか?」
多恵さんの心が揺れ動くまで説得は諦めるつもりはありません。


霧生・真白
○柊冬(f04111)と

エンディングならば多恵を救ってこその大団円だろう
そのほうが視聴者の受けがいい――というのは冗談として

柊冬のうさぎに乗って声掛け
僕は戦闘は不得意だが…UCで魔弾をスナイプして時間稼ぎを

正直説得も苦手だ
他人の気持ちを慮るなんて推理よりも難しいことを…

反省しているから許してあげなきゃいけないという風潮が嫌いだ
加害者は謝ればすっきりするかもしれないが、被害者の心の傷は一生物だからね
――嫌な記憶というのはとかく頭に残りやすい
だから思い出してごらん
楽しかった日々を今一度
その日々に戻りたいとは思わないかい?
許す必要はない
けれど
生きていれば話し合うことは出来るだろう?
まだ遅くはないさ



…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━
【08】

「うううううううううう!」
 邪神像が砕かれた事は、多恵に新たな変化を引き起こした。

「ぁぁぁぁぁぁああああああ!」
 邪神像から注がれた粘液が、血管の中を暴れまわる。痛みで狂ってしまいそう――いや、もう狂っているのかも知れない。
 頭の片隅で理解できるのは、血を啜らねばならないということだけだ。
 あの四人の血さえ啜れば。
 括ってちぎって殺して喰らってしまえば、この痛みから逃れられる。

       カミサマ
 身体に巣食う粘液がくれた最後のチャンス。
 僅かに残った理性と自我を、塗りつぶす強制的な苦痛。

「何でよ、何で何で何でなんで――――――――!」
 瞳は完全なる赤に染まり。
 涙の代わりにうごめく粘液を流し。
 足元に溜まったそれは、別の生き物のように触手を伸ばし。
 よたよたと、まるで屍人の様に歩く。

「ぅぐぅぃりぃあっぁぁぁぁぁぁあああああああ!!! どうしてヨぉオオオおおおおおおお!」
 ともすればそれは。
 殺さないほうが残酷なのではないかと思うほどの有様だ。
 だが。

…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━
【09】

「キミの嘆きを、聞き入れた」
 だから、私が来た。
 ティアー・ロード(ヒーローマスクのグールドライバー・f00536)がひらりと、もがく多恵の前に舞い降りた。

「ぁああああああああああああああああああああああ!」
 両断。
 真っ二つに裂かれたマスクは、しかしそのまま散ることはない。何故なら。

「…………増え…………!?」
「これが私の覚悟、私の姿です。ロード・ティアー」

 ロ ー ド・テ ィ アー
 涙の支配者 はそこにいた。
 サイキックエナジーによって形成された人間態。
 そして本体たるヒーロー・マスク。
 二人のティアー・ロードが、少女に対峙した。

「……キミの言う通りだ。私達はいつだって遅い。けれど!」
 もし何かの歯車が狂っていれば。
 この依頼はこういう形だったはずだ。
 『邪神の眷属となって、友達四人を殺した少女を倒してくれ』と。
 だけど、そうはならなかった。

 『助けられるかも知れない』と。
 そんな希望が、あったのだ。

「だからこそ言わせて貰おう! キミを助けに来た!」
「うる…………さぁああああああああァァァアアあい!」
 肉片が蠢き、ティアー・ロードに襲いかかる。

 ◆

「アルクトゥルス――――お借りします」
 声と同時に、じゃらりと金属同士がこすれる音がした。
 それは鎖だ。獣を繋ぎ止める束縛の象徴。
 虚空より現れ出でたそれらは、多恵の体に巻き付いて、その四肢を拘束した。

「なぁ――――ぁ………………ぅ…………」
 体感時間を停止させる、かつてとある魔術師が愛用した鎖。
 今は、フィア・ルビィ(永劫カンタータ・f01224)の力として、ここにある。

「お待たせしました、多恵さんは、私が」
「助かる! キミは――――」
 ギリギリと、鎖がきしむ。動きは拘束出来ているが――。
 指示を出す多恵の主観的な時間が止まったことで、肉片もまた動きを止めるかといえば、否だ。

「同じ、です。きっと」
 駆け出すティアー・ロードの背を見ながら、鎖の維持に全力を費やす。
 借り物の力だ。受け売りの力だ。
 けれど、その力が、今は何より必要だ。

「多恵さんを……“死”には、向かわせません……!」
『謗帝勁縺吶k雹りコ吶☆繧区ョコ謌ョ縺吶k』
 何かの声なのだろう音を響かせながら、形を変え、大きさを変え。
 砕け散った邪神像が遺した肉の塊が、二人に迫り来る。
 ティアーの人間態が食い止めるが、全てを防ぎきれない。
 フィアに向かって、触手が放たれる――――。

「では、こちらは私が」
 ひうんひうんと、音を立てて、触手がぴたりと、その動きを止めた。
 一秒後、バラバラになって、崩れ落ちていく。

「おまたせ致しました。お怪我はありませんか?」
 特徴的な目隠しと、場に不釣合いなメイド服。
 不意に現れた女性の手の動きは、全く誰にも感知できなかった。
 斬られた肉片ですらそうなのだから、見ている方は余計に、だ。
 薄い、黒い手袋の先端から放たれた、細い細い糸を巻き上げながら。

「……アレクさん」
 フィアがその名を呼ぶと、アレクシス・アルトマイア(夜天煌路・f02039)は静かに笑った。

「待ってなかったと言われたら、泣いてしまうところでしたが」
「待って、ました。待ってましたよ?」
「フフ、嬉しいです」
 そんな戯れをしながら…………一閃。
 三mを超える肉片を細切れに、しかし返り血一つ浴びず、刃を振るう。

「さてさて、なんとも難しい状況ではありますが……私達の声はどうすれば届くと思いますか?」

「粘液だ!」
 アレクの問いに、ティアーが吼えた。

「思考も、行動も、全部アレが制御している……取り除かねば!」
「だけど、多恵さんの生命を、維持しているのも……あれ、なんです、よね?」
 排除しなければならないが。
 排除しすぎても問題だ。

「その解決策は、何やら考えている方々がいるようです」
 ね? とアレクが、足元を見た。
 にぃ、と黒猫が鳴いて、何処かへ消えていく。

「ですので――――私達がすべきことは」
 邪魔をする全てを、排除すること。

「準備は――よろしいですか?」
 涙の支配者と。
 死の神は。
 従者のそんな掛け声に、静かに頷いた。

…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━
【10】

 何でこの人達は。
 こんなに。
 私を放っておいてくれないんだろう。
 痛みの中で、どこか放り投げられた思考が。
 グルグル回る。
 止まらない。

「……私は、紗夜さんを助けました」
 紗夜ちゃん。友だちの名前。いじめられた。殺そうとした。

「……彼女が謝りながら、もがきながら。助けを求めている姿を、見ました」
 そうだ。溺れさせて。沈めて。やりかえした。

「……本当に、全て遅いと思い、ますか」
 遅いに決まってる。当たり前だ。
  、、、、、、、、、、
 そうじゃないと駄目だ。

「……まだ、間に合うことがあると。私は、思います。だって」
 だって?

「あなたはまだ――誰とも言葉を、交わしてない……!」
 この子は、何を言っているんだろう。

(ぁぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああ)
 言葉なんて。
 今更。
 今更……!

 ◆

「いいえ、いいえ。これから、ですよ」
 今更という言葉を、否定する。

「貴女の声は、私達に届いた」
 殺してほしいという上辺の望みを、否定する。

「諦めるのはまだ早いです」
 助けてという、深奥の本音を、掬われる。

「だって誰もまだ、死んでなんていないんですから」
 けれどそれは結果論だ。

「多恵、貴女だって生きている」
 死んだほうがいいに決まってる。

「いいえ、いいえ」
 再度、否定された。

「生きているから、貴女を救えるんです」
 嫌だ、それ以上言われたくない。

「だって貴女は、本当は」
 嫌だ、それ以上聞きたくない。

「本当は、悪いことなんてしたくないんでしょう?」
 熱が身体を貫いた。
 白銀の刺突が身体を抉る。
 体から熱が逃げていく。
 なのになぜだか。
 痛みが引いていく。
 どうして。

…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━
【10】

 アレクシスの刃が多恵の身体をえぐりとった。
 首筋から血液が吹き出る。止まらない、それらはぼたぼたと落ちて、ぐねぐねと動いて。
 一つになる。

「――――これ以上は」
 命に関わる。
 出血量にもかかわらず、傷は既にふさがっていた。
 多恵ががくっと膝をついて…………しかし、大鎌を持つ手に、力を込めた。

 ◆

「わかり、ますよ」
 形はどうあれ。
 フィアはその痛みを知っている。
 手遅れだから。
 もう間に合わないから。
 残るのは後悔だけだ。
 あの時ああしていればよかった、を積み重ねて。
 フィア・ルビィはここにいる。

「だから……今更なんて、言わせません。言わせない……!」
 もう一度。
 今度は間違えないために。

  ア ル ク ト ゥ ル ス
「魔術師ノ鎖!」
 鎖が再度、多恵の体を縛り上げた。
 時間が止まる。
 主観が鈍る。

「ティアー・ロード!」
「任せ給え!」
 駆け抜ける。
 駆けつける。
 手が届く。
 離さない。

「「私は涙の支配者、ロード・ティアー!
 キミの、否……君達の涙を頂きにきた(です)!」」
 放たれた一撃は、多恵の体から生まれた肉片の塊を。
 粉々に打ち砕いて、塵に変えた。

…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━
【11】

 戦う力を、ほとんど奪われたことを感じる。
 根源である邪神像は破壊され、肉片もほぼ朽ち果てた。
 残っているのは、この大鎌と、身体の中に残るほんの少しの粘液だけだ。

「う、ううううう」
 多恵は気づかない。
 救いの手に、自分の手を伸ばしたい、その気持ちに気づかない。

《グィィィィィ》
 未だ、身体の中にある“モノ”に支配されていることに、気づかない。
 カミサマは、とっくに自分を助けてくれないことに、気づかない。
 鎖を振りほどいて、必死に走って逃げた。
 何処に行けばいいのだろう。
 何処で逝けばいいのだろう。

…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━
【12】

 冷静に、厳密な自己分析を踏まえてみれば――――霧生・真白(fragile・f04119)は説得と言う奴が苦手だ。
 他人の気持ちを慮る。理屈より感情で語りかける。それはもとより探偵向きの仕事じゃあないのだ。

 考えてみればいい。ぽっと現れた見知らぬ他人に、“君の気持ちはわかるよ”だなんて言われて見た日には。
 『そうか私が間違ってたんだ』とはならないだろう、『何も知らないくせに』と余計怒りを募らせるのが普通じゃあないか。
 解決パートなんて、結論があればいいのだ。

 『これこれこういう理屈とロジックで、つまり犯人は君なのだが、なにか反論はあるかい?』

 推理はエンターテイメントであるべきで、視聴者だってそれを求めている。
 であるならば、この局面において、探偵は何をすべきだろうか。

 ◆

 弟である霧生・柊冬(frail・f04111)が呼び出した、真っ黒なウサギ……《夢進月兎(ドリーム・ドロップ・ラビット)》の背の上に、姉弟は居た。
 戦闘の経過を見守りながら――戦いは不得手だ、必要とあれば行うけれども――戦況がまた変わったことを、実感していた。

「姉さん、どうしましょう……?」
「どうするもこうするも」
 ため息を吐く。赤みがかった銀髪が、小さく揺れた。

「結局、多恵の問題なんだ。彼女が生きようとしなければ始まらない。だけどあの粘液が体にある限りそれは許されない」
 粘液は、他人の行動と思考を操る。それに生かされている多恵なら、なおさら強く影響を受ける。

「言葉は届いてる。感情も伝わっている。だけど多恵自身がそれを受け入れられない。今までしてきた自分の行動の全否定だからだ」
 人間は、自分の行動を振り返ることを嫌う。
 後悔に直面することを嫌う。
 ともすれば、死んだほうがマシだとすらのたまうものまでいる。

 論理的にそこまではわかる。理屈の上でそうなることを推測できる。
 じゃあ、そこからどうすればいいか。
 ここから先は、答えがない。

「……姉さんなら、どうしますか」
「それがわかるなら、もう解決パートに入っているよ。……一応、言葉ぐらいはあるけどね、届くとは思えない。逆に――キミならどうする」
 問われた柊冬は、少し考える仕草をして――けれど答えは決まっていたのだろう。

「四人から言葉を預かってきました、多恵さんに伝えたい気持ちを」
「……ほう?」
「姉さんの言う通りです。僕たちの言葉は……簡単には届かないと思います」
 ならば、ちゃんと届く者の言葉を、伝えればいい。
 尋ねておいてなんだが。
 いや、決して弟を信用していなかったり、能力を疑っているわけでもないのだが。
 そんなにさっくりと正解が出てくるとも、思ってなかった。

「……合理的だね」
「姉さんがそう感じるなら、きっと正解ですよ」
「なら、あとはどう伝えるか、だ。結局、キミの口を経由する以上、どうしたって言葉は軽くなる」
「あれ、姉さんは?」
「僕が人の気持を感情込めて代弁できると思うのかい」
「姉さんは、優しいのに」
「勘弁してくれ、大体僕は、多恵が彼女たちを許せばいいだなんて思ってない」
「……そうなんですか?」
「反省してるから許してあげなきゃという風潮が嫌いなんだよ。被害者の心の傷は一生物だからね」
「じゃあ、なんて説得するつもりだったんですか?」
「許さなきゃ会話ができないわけじゃあ無いだろう。そもそも、彼女たちはまだ多恵の怒りを直接聞いては居ないんだ」
 まずは被害者が、加害者に叫ぶ権利がある。

「……勿論、無事に済めばいいとは思っているけどね」
「ふふ」
「……なんで今笑ったんだい」
「いえ、やっぱり姉さんは優しいなって……あいた」
 ぴんとデコピンをお見舞いした。軽い肉体言語だ。

「さて……話を元に戻そう。言葉はある。戦力も削いだ。けれどそこからどう組み立てるか、だ。その鍵さえつかめれば――――」
 その答えは。

「それに関してはー」
 一人の人工聖者が、もってきた。

「私にー、任せてくれないかなー?」

…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━
【13】

 学食で、バカ話をしながらご飯を食べて。
 音楽で、ずれた合唱に大笑いして。
 水泳で、泳げない紗夜に付き合って皆で練習して。

 いつからそうじゃなくなったのか。
 いつから変わってしまったのか。
 時期が、もう思い出せない。
 本当に楽しかったのかも、思い出せない。

「…………どうして」
 こんな事になったのか、思い出せない。
 校舎裏で、壁に体を預けて。
 大鎌を抱きながら、痛む頭で考える。

「教えてください、カミサマ、先生、私はこれでよかったんじゃないんですか」
 飛び降りた時点で終わった命を。
 助けてくれたから、信じた。

《グィィィィィィ……》
「あ、っぐ」
 頭の中で、蠢く、痛い。

「うう、うううううう……」
 もう、これ以外ないように思えて。
 それ以外の選択肢が見当たらなくて。
 多恵は。
 大鎌の刃を、自らの首に、あてがった。
 一度死のうとしたんだから。
 一度死んだんだから。
 もう一度だって死ねるはず。
 それで、楽になってしまえばいい。
 それで、終わりにしてしまえばいい――――。

「って、思っちゃ、駄目だよー?」
 間延びする声は、闇の向こうから聞こえた。

「……! 誰……また、猟兵……!」
「そうだよー、猟兵ー、でも、大丈夫ー、多恵ちゃんの、味方だからー」
 メア・ソゥムヌュクスス(夢見の羊・f00334)は、袴の裾を揺らしながら、ゆっくりと歩いてきた。

「なん、で、あなた達は……!」
 グィィ、グィィ、音が聞こえる。
 殺せと。潰せと。声が響く。

「あ、あぁぁぁぁああああああああ!」
「何で、って聞かれたらー」
 メアは、その様子を見ながら。
 優しく微笑んで、告げた。

「それはねー、きっと、多恵ちゃんが良い子だからだよー」
「…………何、言ってるの、グ、グィィ……!」
「だって多恵ちゃんはー……自分が死ぬことで、いじめを終わらせようとしたんだからー」
 最初から、彼女たちの関係が悪かったわけじゃない。
 愛美の一言から喧嘩になって、それを“敵”につけこまれた。
 いじめが始まって……けれど多恵は。
  、、、、、、、
 反撃しなかった。

 名前をからかわれたら、ちゃんと怒れる娘なのに。
 自分が死ぬより先に、殺そうと考えなかった。
 それを弱さというならば、そうかもしれない。
 けれど、メアは優しさだと断じた。

「……っ」
「憎い気持ちも、嘘じゃないよねー? 殺意も、きっとあったよねー? だけど、多恵ちゃんは、それを飲み込めたんだよー、優しい娘、だからー」
 助けてあげる。
 メアの金眼が、鈍く光った。

「あ……な……!?」
「歌詠ちゃんは催眠にかかってたー……記憶も、行動も操られてたー……多恵ちゃんも、そうだよねー」
 だけど、致命的に違うのは、多恵はその粘液そのもので命を補っている、という点だ。

「操られ、私が? そんな訳ない、そんな訳――――」
 狼狽する多恵に、メアは止まらない。
 、、、、、、
「一度見たから」
 瞳の色が、更に濃く、深くなっていく。
 視界がぐるりと、回転していく。
 ヒュプノスノヒトミが、怪しく、怪しく――――。

「何、してるの、何、やってるの……!?」
「…………素直になれるようにー、多恵ちゃんの、本当の言葉が聞こえるようにー」
  、、、、、、、、
 催眠を上書きしてあげる。

 がくんっ、と、多恵の意識の糸が切れた。
 瞳から色が消え失せて、ぼうっと虚空を見上げている。

「……さぁー、皆ー、言葉を届けようー。今なら、多恵ちゃんに、きっと伝わるよー」
 むき出しのココロに。
 良くも悪くも、言葉の刃は突き刺さる。

…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━
【14】

 ◆

「とはいえね、何度もいうが、僕は説得というのが苦手なんだ。だから、簡潔に言おう。……キミが彼女たちを許す必要はこれっぽっちもない」
 そうなの? 許さなくても、いいの?

「けれど、思い出してごらん、楽しかった日々を、もう一度」
 うん。
 楽しいこと。
 沢山、あったよ。

「――キミが死んだら、それすらできなくなる。生きていれば、また話し合うことはできる」
 もし、許せなかったら。
 どうすればいいの。

「その時は……はっきり言ってやればいい。絶対に許さない、絶交を突きつけたっていい」
 ……私は。

「まだ遅くはない。キミが戻ってくるのなら」
 我慢しなくて、良かったの?

 ◆

「愛美さんも、歌詠さんも、紗夜さんも、七穂さんも……皆言ってます、謝りたいって」
 謝られたって。今更。

「そうかも知れません、四人がやったことは……どんな理由があっても、許されない事です、でも」
 私は、悲しかった。

「でも……四人を殺したとして、本当に満足なんですか? 多恵さんは救われるんですか?」
 そう思ったから。
 そうしないといけないと思ったから。
 だから。

「自分で考えて出した答えじゃないなら、そんなの、何の意味もないんです! 多恵さんが出した答えじゃないと!」
 私は。
 私は――――。

 ◆

「私は…………本当は、本当は…………あぁ――――」
「……多恵さん?」
 声をかけ続けていた柊冬が、まっさきにその変化に気づいた。

「本当は……私、ぁぁぁぁあ……――……あ――――繧医¥繧」
「下がれ柊冬!」
 真白がその腕を引っ張ると同時。
 柊冬が一瞬前まで居た場所を、大鎌が通過した。

『―――繧?▲縺ヲ縺上l縺溘↑縲∫検蜈オ蜈ア』
 、、
「誰だ」
 少女探偵の眼が細まる。
 人間を見るのは得意だ……すぐにわかった。
 多恵ではない。
 操られているのではなく。
 正気を失ったのではなく。

 “中にいるのが、多恵ではない”。

「梅有じゃあ……無いな。もっと“上”にいる誰か、あるいは、邪神そのものか」
『縺昴%縺セ縺ァ逅?ァ」縺励※繧九?縺ェ繧峨?∬ゥア縺ッ騾溘>』
 にちゃりと。
 少女が浮かべようはずもない、醜い笑みを浮かべて。

『謌代i縺ョ鬢悟?エ繧定穀繧峨@縺滉ク榊ア翫″閠?′』
「…………くるよー!」
 多恵の中にいる“誰か”が、大鎌を構えた。

「姉さん! メアさん!」
 巨大な黒兎に三人で乗り込む。いささか定員オーバーだが、贅沢は言っていられない。

「どうしようー? あれって……」
「粘液を経由した、遠隔操作だろう、今までが自動操縦なら、これは手動だ。誰かが多恵の中に“入った”」
 その推測はおおよそ当たっていて。

「どう対処すれば、良いと思いますか?」
「……多恵の自我を引きずり出すしか無い。出来るかどうかはわからないが……いや」
 結論は、もうとっくに出ているのだ。

「やるしか……ないよねー」
 猟兵達はまだ“居る”。
 もがく誰かを救おうとする、手を持つものが。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

リゥ・ズゥ

リゥ・ズゥは、学校、イジメ、わからない。
だが、傷付けられた、痛みは、わかる。侮辱された、怒りは、わかる。
だが、だからこそ、リゥ・ズゥには、わからない。
何故、痛みから逃げずに、自ら死んだ?
何故、自ら死ぬまで、怒りのままに、戦わなかった?

七穂は、言わなかった。
死を間近にした中で、死にたくない、とも、助けて、とも。
七穂は、言っていた。
多恵に会って、謝らなきゃ、と。

リゥ・ズゥは、知りたい。多恵には、あの四人は、「何」だ?

(衝撃波、ダッシュ、ジャンプを駆使し何処までも多恵に追い縋り、
逃げられても暗視、視力、野生の勘等で見つけ出しUC範囲内に捉えたら即座に接近、無力化の為攻撃しつつ問い続けます。)


アイシス・リデル
確かに遅くなっちゃった、けど
あなたを助けたくて戦ってるのは、今ここにいる人たちだけじゃ、ないから
だから、あきらめちゃだめ、だよね

あなたはどうしてあの時、怒ったの?
いや、だったんだよね? 馬鹿にされて
好き、だったんだよね? あなたの名前
あなたにとってのきれいなもの、だったから、それを守りたかったんだよ、ね
けどこのままじゃ、そんな気持ちまでなくしちゃう

儀式像を回収して、わたしの中に棄てちゃうね
数が多かったら、収集体のわたしたちにも手伝って貰う、よ
他の人たちへ向かう肉片も、できるだけかばってわたしの中に取り込むね
この肉片があの粘液と同じものなら、もう何度も見たし、見せられたもん
だからもう、大丈夫だよ



…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━
【15】

 リゥ・ズゥ(惣昏色・f00303)にはわからない。
 学校のことを知らない。通ったことがないから。
 いじめの事を知らない。されたことがないから。
 けれど。

 傷つけられる痛みはわかる。傷ついたことがあるから。
 侮辱される怒りはわかる。侮辱されたことがあるから。

 だからこそ、わからない。

 ◆
 
「何故、自ら死んだ?」
『縺薙?菴薙r菴ソ縺?昏縺ヲ繧九∪縺ァ雋エ讒倥i繧呈ョコ縺!』
 大鎌の一閃を、リゥ・ズゥは避けて、しかし、距離を詰め続ける。

「何故、戦わなかった?」
 問い続ける。

「自ら死ぬ事を、選ぶぐらいなら、何故、怒りのままに、戦わなかった?」
『菴輔r險?縺」縺ヲ縺?k?ー!』
 どれだけ攻撃しても、リゥ・ズゥは怯まず、追いすがり続ける。引き剥がせない。
 不定形であるその体に、物理的な攻撃はどうにも相性が悪いらしい……わかっていても、相手は粘液を、もう使うことができない。
 だから、リゥ・ズゥの問いは止められない。

「七穂は、言わなかった」
『莠疲怦陜ソ七縺??√ざ繝穂溘a』

「七穂は、死を間近にした中で、死にたくない、とも、助けて、とも、言わなかった」
『菴輔〒遘√↓縺昴s縺ェ莠玖ィ?縺??』
「謝らきゃと、言っていた」
 多恵の中に居る“何か”は、宿主の身体が壊れることを、考慮していない。
 筋繊維を酷使し、血管を酷使し、反動で骨が折れても構わないのがわかる。
 だから、受け止める。

「リゥ・ズゥは、知りたい。多恵には、あの四人は」
 “何”だ?

『蜿矩#縺?縺九i縲∵ュサ縺ャ縺励°縺ェ縺九▲縺溘s縺倥c縺ェ縺?シーーーーーッ!!!』
 ブラックタールの身体に、刃がずぶりとめり込む。
 まだ、死なない。リゥ・ズゥはその程度では。
 瞳に属する器官が赤く光る。
 双眸が見据える先は、多恵の濁った血の色をした瞳の、その向こう側。

「教えてくれ、多恵。お前の言葉で」
『縺?縺」縺ヲ縺?縺」縺ヲ縺?縺」縺ヲ縺?縺」縺ヲ?!!!』
 引き抜かれた刃が、もう一度振り上げられる。
 今度こそ、真っ二つにすべく。

『螟ァ莠九□縺」縺溘°繧峨?∝す縺、縺代◆縺上↑縺九▲縺溘!!!』
 大鎌は、ブラックタールの身体を斬り裂き、断った。

「うぅ――――!」
 ……壁になるように立ちはだかった、一体の少女のブラックタールの体を。

 ◆

 べちゃりと音を立てて、アイシス・リデル(下水の国の・f00300)の身体が両断された。
 二つに分かたれた肉体は、それぞれが別個に体を再形成し、それぞれが新たなアイシスとなる。
 つまりは、無事だ。

「だ、大丈夫? いたく、ない?」
 斬られたのは自分だというのに、リゥ・ズゥにそう問いかけるアイシスを見て。

「リゥ・ズゥは、死なない」
 腕に当たるであろう位置を、そっとアイシスの頭に乗せた。

「オマエも、無事か」
「う、うん、私は、分裂するだけだから……でも、あの子は」
 視線の先、多恵の形相は更に悪化していた。
 骨がきしむ音をたてるほど、大鎌を強く握って。
 再び、構えた。

「……多恵の、言葉が、聞こえない。リゥ・ズゥは、知りたい」
「何、を……?」
「何故、多恵は、戦わなかった。何故、死んだ。リゥ・ズゥは、わからない。多恵の言葉で、聞かなければ」
 それを聞いたアイシスは。
 キョトンとして、それから、何故か嬉しそうに、少しだけ微笑んで。

「わたし、わかるよ」
「…………?」
 臭くて、汚くて、嫌われ者で。
 そんなアイシスだけれど、不思議とその感覚を知っている。
 誰かがアイシスを愛することはなくても。
 アイシスは、誰かを好きになれるからだ。
 愛おしいと思えるからだ。

「多恵さんは、やさしいの」
「……優しい?」
「うん、怒ったのは、名前を馬鹿にされて、いやだったから。きれいな、だいじなものを傷つけられたから。だけど――――」
 アイシスは、多恵をじっと見つめて、言った。

「自分で死んじゃおうとおもったのは――ともだちを、傷つけたくなかったから、だよね?」
 どれだけいじめられても。
 大事だから。
 大切だから。
 思い出があるから。
 怒りに身を委ねて傷つけるより。
 悲しみに暮れて死ぬことを選んだ。
 それを弱さということも出来る。
 逃げたということも出来る。

 だけど。
 優しいと呼んだって、良いと思う。

「同じぐらい、だいじだったんだよね? だから…………」
『菴輔〒縺ゅ↑縺溘↓縺昴s縺ェ縺薙→!!!』
 今度の横薙ぎは、アイシスも、リゥ・ズゥも、両断しようとする一撃だった。
 振り抜いた音は、しかしとても鈍く。
 誰も、断つことはなかった。

「そうか」
 リゥ・ズゥの身体に触れて、刃はそこで止まっていた。
 どれだけ力を込めても、それ以上先に進めない。

「ともだちを、守ったのか」
 多恵本人の言葉ではない。けれど。
 理屈が通る。理由がつながる。何故なら。

 七穂もきっと、同じ理由で、謝らなきゃといったのだろうから。
 ならば。

「リゥ・ズゥは、戦おう」
 本音を言い合えるように。
 余計なものを全て剥ぎ取って。

「オマエは」
 それは多恵にではなく。

「邪魔だ」
 その中にいるモノへと向けて。
 赤い双眸が再び光った。
 形のないカイブツが、その体を強く押さえつけた。

…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━
【16】

 さて。
 分かれたアイシスの、もう片方は、その体を揺らしながら、一人遠くへ離れていた。
 逃げているわけではない。
 ただ、直感だった。

 多恵は最初から最後まで、ずっとずっと、操られ続けていた。
 最後に自分の意思で行動したのは、自殺を決心して、実行した、その時が最後だ。
 、、
 誰が操っていたのか。

「――――あなた、じゃないの?」
 粉々に砕け散った邪神像。
 粘液を吐き出し続けていた異形の、その真中に。
 ぎょろりと、眼球をむき出しにした、触手の塊があった。

《グィ、グィィィィ! グィッ!》
「ずっと、そばにいたんだもんね、多恵さんの側に」
 逃げようとしたそれを、アイシスは優しく掴んだ。
 触手を振り回して暴れるが、その粘性の体に、少しずつ少しずつ、取り込んでいく。

《グィッ!?》
「一人じゃ動けないから。だれかの体にはいってたんだよね」
 アイシスは汚物の塊だ。
 それは、汚れを溜め込み続けている、ということでもある。
 言い換えるならば。
  、、、、、、、、、
 世界を浄化した代償に、彼女は汚染されていく。

「ずるいね」
 アイシスの本質は、汚染ではない。

「だから、わたしのなかで、おやすみ」
 ピュ リ フ ァ イ ア ー
  浄 化 者 だ。
 ブラックタールの身体に取り込まれたそれは、しばらくゴボゴボともがいていたが。
 体内を隅々まで照らすアイシスの光に照らされて。

《グィイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイ!?》
 塵になって、消滅していった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

アイリーン・イウビーレ

愛!愛なんだよ!
この世で一番大事なのは愛!愛ゆえに争いは起こって、愛ゆえに解決する!
だから、この事件も愛によって落着だーっ!

多恵ちゃんを説得しちゃうよー!最後は皆で笑ってハッピーエンドで愛を感じてもらうんだから!
見て!読んで!感じて!この日記を!これはね、愛美ちゃんの日記なの!
愛美ちゃんの、多恵ちゃんへの愛が詰まった日記!
愛があるから多恵ちゃんの行いが許されるわけじゃない。
それはわかっているよ!でも、愛美ちゃんが戦いを辞める理由にはなるんじゃないかな。

あとは私のハートスナイプで愛を注入だよっ!
愛を思い出してっ!


月輪・美月

【戦闘】
影から巨大な黒狼を作り出して攻撃します
可能な範囲で多恵さんが誰かを傷付ける事がないように、味方への攻撃を狼で庇う事を優先しつつ

僕自身は多恵さんを説得しつつ、影を纏った拳で召喚された邪神の肉片を破壊していきましょう。

【説得】
アイリーンさんの見つけてきた愛美さんの日記を使って説得します
愛が詰まってる……らしいですよ、多恵さん

もちろん、愛美さんがどう思っていようとも、貴女がされたことはなくなりません。許される事でもないでしょう……でも、気持ちは知っていて欲しいと思います。

貴女に一人だって殺させはしませんよ……いじめた子達全員にはちゃんと謝って貰います。


夷洞・みさき

君もまだ誰も殺していない。
その咎も君の物だけじゃないかもしれない。
そして、まだ海に至っていないなら、
現世の人という見方もできるのかな。

オブリビオンを用いての蘇生ね。
僕には止める資格は無いし、間に合うなら助かった方が良いのは道理だね。

まだ作り立てだけど、一助になるなら使おうか。
【医療】+輸液用骸海性剤(注射型)

例え、現世に残れなくても君は復讐する資格を得てしまった。
彼女達が君を忘れたなら、海から来るといい。
そのカミサマとやらに頼らずに、ね。
多恵に憑く咎を削ぎ落す

【WIZ】
釘を主とする。
【UC六の同胞】と車輪は儀式像を砕くことに用いる

歌詠の呪詛を解くのに使った物を使用
想いが彼女に伝わる事を願って



…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━
【16】

 『ソレ』は新しく生まれるはずの邪神だった。
 『ソレ』は新たな母体に宿るはずだった。
 『ソレ』は新鮮な贄を喰らいつくし力を得るはずだった。

『鬥ャ鮖ソ縺ェ菴墓腐縺?遘√?逕溘∪繧後※縺上k縺ッ縺壹〒縺ッ』

 何故自分が消えていくのかわからない。理解できない。
 異形は浄化の光に飲まれ、塵に還っていく。
 だったらせめて。

『縺雁燕繧よュサ繧薙〒縺励∪縺』
 その異次元の生物が放つ言葉を、人間種族にわかるように翻訳するなら、こうなる。

『お前も道連れだ、一緒に死ね』

…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━
【17】

『ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!』
 意味をなさない絶叫は、どんな言語であっても共通らしい。
 多恵の口から突如飛び出た悲鳴は、いかなる理由のものか。

「ぐっ、うううう、ひぐっ、ううう!」
『豸医∴繧阪?∵ュサ縺ュ縲∵』
 多恵の絶叫と、異物の咆哮。
 同じ口から、同時に重なって響く言葉を聞いて。

「駄目ーーーーーーーーーっ!」
 アイリーン・イウビーレ(愛ドール!・f12509)は、叫びながら飛び込んだ。

「駄目だよ、多恵ちゃん! 愛を思い出して!」
 アイリーンの、ありとあらゆる判断基準は“愛”の一文字に集約される。
 誰かを傷つけるのも、守るのも、愛ゆえに生まれ、愛ゆえに起こりうるモノだと。

「アイリーンさん! 危ないですよ!」
 一歩おくれて……何せ全速力で飛び出していったものだから……月輪・美月(月を覆う黒影・f01229)が、その背に追いついた。

「どうなってるんですか、多恵さんは一体」
「わからないけど叫びだして! ピンチじゃない!? どうすればいいの!?」
「落ち着いてください……っ!」
 とはいえ、美月だって、ただ落ち着いてはいられない。
 探偵が導き出した解は、『多恵の意識を取り戻さねばならない』というものだった。
 ならばこの状況は、今まさに、その多恵の意識を、自我を……喰らい尽くそうとしているのだろう。
 消し去って、なかったコトにして、殺してしまうつもりなのだ。
 絶叫から読み取れる殺意の気配と匂いを、人狼の耳と鼻は鋭敏に感じ取った。

「ううううー! やっと愛を伝える手段があるのに! ちゃんと証拠があるのに!」
 アイリーンが抱きしめているのは、愛美が綴った日記だ。
 口で言えないことを、心で思ったことを記してある、唯一無二の――多恵と愛美が、友情で繋がれていた証。
 だけど、そもそも読むことが出来なければ。
 伝えることだって、出来やしない。

(どうすればいい、どうすれば……こんな時――――)
 いいや。
 もしあの人なら、と考えても意味はない。
 ここに居るのは美月なのだから。

(――――何だってするしかない、ここまで来て)
「救えないなんて、絶対に嫌ですよ!」
 咆哮と共に生まれた影の狼が、多恵の体にとりついて、拘束する。
 かは、と口を開いて、目を見開いて、血管という血管がボコボコと盛り上がる少女を前に。

「ど、どうするの?」
 不安げに問いかけるアイリーンに、美月は首を振った。

「一か八か、粘液を全部取り除きます。……それ以外にない」
「け、けど、体の中の粘液がなくなっちゃったら、多恵ちゃんは――――」
 死ぬ。自殺した瞬間、その時まで。頭が砕けた、死体になる。
 他の猟兵達が取り組んでいるという“対策”は、未だ完成していない。間に合わなかった。

「―――なら」
 ギギギギギ、と。
 何かが回転する音ともに。

「少し、僕に見せてもらってもいいかな?」

…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━
【18】

 夷洞・みさき(海に沈んだ六つと一人・f04147)が取り出したのは、青黒い色をした液体の詰まった、シリンジだった。

「え、な、なんですかそれ」
 思わず聞いてしまった美月に、みさきは表情を変えず答える。

「骸の海」
「……え?」
 それは、この世界の外側にある混沌。
 消費された時間の成れの果て。そして、オブリビオンが生まれる所。

「……その性質を含む、薬だよ。効くかどうかは、賭けだけどね」
 そう言って、構えたのは二つ。
 片手に注射器、片手に釘。
 多恵の右腕に、そっと八寸釘を添えた。

「な、何をするつもりなんです!?」
「穴を開ける。ここから薬を流し込む」
 躊躇なき判断力で、みさきは血管の位置を探り当てた。

「粘液の出てくる、穴も必要だからね」
「う、上手くいくの――?」
 もはや、医者にすべてを委ねた家族の様に、美月とアイリーンは祈ってみているしか無い。
 みさきは、そのプレッシャーの中で。

「別に僕は医者というわけではないが――絶対を保証する医者を、見たことはないね」
 しかしね、と言葉をつなぐ。

「僕は咎を削ぎ落としに来た」
「咎?」
「彼女が犯した、過ち、罪、業――だけどね」
 釘の先端が、精密な動きで、皮膚に小さな穴を穿った。

「彼女の咎は、着せられたものだ。濡れ衣だ――そこに意思はなかった。そして誰も殺めなかった」
 ぷつりと音がして、じわりと滲んだ血が、蠢き始める。

「だから、もし復讐したいのなら、今度こそ、骸の海から来ると良い。その時は、僕が送ってあげよう」
 釘を引き抜いて、入れ替わるように注射器を差し込む。
 中身がじわじわと、体内に入り込んでいく。

「――あの、釘で穴あける意味あったの?」
 恐る恐るアイリーンが尋ねると、みさきは、ああ、と顔を上げて。

「この釘は、歌詠を一度、刺した釘だ」
「!」
「その感情がこびり付いている。骸の海の触媒としては」
 びくんっ、と、影に縛られた多恵の体が跳ねた。

「何よりも、上等だと思うよ」

…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━
【19】

 変化は劇的だった。ぼたぼたと瞳からこぼれ落ちる粘液の量が増えて。
 どれぐらい流しただろう、やがて、瞳の色が、白目まで染まっていた赤から、人のそれへと戻った。
 代わりに――もう動く気配がない。
 顔は白く、体温は低く。
 きっと、誰が見ても、それを死体だと判じただろう。

「まだよね……っ!」
 たった一人を除いて。

 ◆

「アイリーンさん?」
 美月の視線を受けて、アイリーンは頷いた。よくわかんなかったけど。
 もう駄目だった、気持ちが抑えられなかった。

「読んで! 日記! ――――ううん、私が読んであげる!」
 プライバシーの保護だとか、そんなのもうどうでも良くて。
 愛を伝えるために。愛を形にするために。
 アイリーンは、読み上げた。

「『ここしばらく素っ気なくしてたら、多恵がみるみる不機嫌になってった。歌詠にフォロー頼んだけど、しょうがないじゃん。誕生日プレゼント隠してるの見つかったら、こっちが笑っちゃうんだから。私顔にでるんだってば』」
「『何に悩んでるのかと思ったら、足のサイズが一つ上がったって。流石に笑ったら、めっちゃ怒られたけど! それで落ち込まれてちゃこっちの調子も狂うじゃん、今日は外に連れ出して、クレープでも食べに行こう』
「『学食のおばちゃんにこっそり誕生日ケーキを出してもらうようにお願いしたら、もうすっごいデコられててびっくり! でも、流石にあいつも喜ぶでしょ。……だから顔に出るんだって。明日はお昼まで見ないようにしとこ』」

 思い出だ。記憶だ。少なくとも、愛美が多恵に向けていたのは。
 友達同士の愛だ。
 他者を思いやる愛だ。
 大事にしている愛だ。
 込められた、気持ちそのものだ。

「『名前を』」
 だから読み上げる。
 どんな事になったって。

「『ちょっとからかっただけなのに、多恵は怒った。何それ、その程度のことで!』」
 本物の愛なら。

「『……わたしにとってはその程度だったけど、もしかしたら多恵にとってはすごく大事だったのかも知れないな』」
 壊れないはずだから。

「『――今度、ちゃんと謝ろう』」
 そう信じているから。

「――……ねえ、本当は謝りたかったんだよ! 愛美ちゃんも! ちゃんと愛があったんだよ!」
 だから。

「戻ってきてよ!」

…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━
【20】

「君」
 キューピッドの悲鳴のような声の合間を縫って。
 みさきは尋ねた。

「心臓マッサージはできるかい?」
「……え?」
 無力に打ちひしがれていた美月に。

「体内を、直接だ。あの影は、そこまで器用ではない?」
 なら僕がやるだけだが、と、言ったが。
 あえて美月に言うということは。

「……意味はあるんですか?」
「あるよ。何のための治療薬だと思ったのかな」
 あれはね、とみさきは言う。

「骸の海の性質……つまり、過去だ。一時的に身体を、過去の状態に復元しているんだよ」
「…………過去の」
「死ぬ前の」
「…………!?」
「けど、試薬だからね。過去は前に進む。一度生き返っても、緩やかに未来に向かって、“死”の時間にたどり着いた時、同じ結末を迎えるだろうね」
 なら。
 その行為になんの意味があるのか。

「僕に出来るのはここまでだ。後は他の誰かが、奇跡を祈るしか無い」
「……奇跡」
「起こると思うかい」
「起きなきゃ、彼女を救えないなら」
 美月の金の双眸が、光った。

「起こすしか、ないでしょう!」
 影狼は、実態を持たない。
 体の内部にも、場合によっては入り込める。愛美にやったのと、同じことだ。
 口から体内に入った影は、すぐに心臓に絡みつく。

 心臓を抱きしめて、解き放つ。繰り返す。
 破らないよう。傷つけないよう。けれど命が戻るよう。

「貴女に誰一人だって殺させない……貴女自身だって!」
 そして、多恵は。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ヴィクティム・ウィンターミュート

UCで味方を回復して戦線を保つ。多恵の生命維持が必要なら、それもだ。疲労なんか、度外視だよ。

あぁ、復讐。いいじゃねえか。上等な行為だ。俺はさ、正義の味方じゃない。悪党だ。だから、復讐だの報復だのは、全然アリだって思う。
…だけど、お前のそれは復讐じゃねえよ。

復讐ってのはな、その先にある、「己の人生の幸福」の為に行うべきなんだ。なぁ多恵。薄々分かってんじゃねえのか?この復讐の先には、幸福なんて無いことに。

俺が、俺たちが、お前の命を繋ぎ止めてやる。罪悪感があるなら、いっぺん皆で謝りあいっこでもしろ。
まだエンドロールにも、エピローグにも速い
戻って来い
幸せになれ
日常を取り戻せるのは
──今しか、無いんだ


ジョン・ブラウン

「やぁ、ラジオ聞いてくれた?」

「……わぁ、僕と同じくらい悪趣味だ」
泥のヒトガタのようになった肉片を見て

「全部遅い、もう遅い。耳が痛いね」

「目には目を歯には歯を、あれ理不尽だよね。」
「殴られたから殴り返していいって言われても、別にこっちは殴るの好きでもないのにさ」
「だからさぁ、本当にして欲しい事言ってみたら?」
「こうなったら良いなって”希望”有るんだろう?」

ユーベルコード:イリーガル・アクセス
眼の前の彼女たちが胸に秘めた思いに耳を傾向ける
助けてほしかったと言う過去の思いも含めて

「……っ!……ああ、耳が痛いね」

「彼女は弱いから耐えきれない……だっけ?」
「あんな奴の言葉より彼女たちを僕は信じるよ」



…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━
【19】

「…………あーあ、どうしたら良いと思う? これ」
 ジョン・ブラウン(ワンダーギーク・f00430)の呟きは、その場の誰もが思ったことの代弁だっただろう。
 倒れ、もう動かない少女を前にして。
 何が出来るというのだろう。
 何をすればよいのだろう。

 多恵は言った。『全部遅い』と。
 その通りだった。
 少なくとも、今この時。
 ジョン・ブラウンの手は届かなかった。

「耳が痛いね、本当に」
 無力感というのは、いつだってにじみ出る様にやってくる。
 それは、すぐには心に居座らない。
 もっと他に、なにかできたんじゃないかとか。
 そんな後悔と、意味のない検討を重ねた果てに、自覚するものなのだ。
 “ああ、間に合わなかった”と。

 だから多分、本人は認めないだろうけれど。
 きっととても、ひどい顔をしていたに違いない。

「ひっでぇ顔だな、チューマ」
 だって実際、そう言われたのだから。
 言い放った男――ヴィクティム・ウィンターミュート(impulse of Arsene・f01172)は――流石に、情報の処理を繰り返していたからか。
 わずかに疲れた様子で……軽くこめかみなんぞを叩いていた。

「そう見える? 割と動揺とか、してないつもりなんだけどな」
「それで顔に出してないつもりなら、役者は向いてないのは確かだな」
 そもそも軽口が出てこない時点で、お察しだよ、と。
 肩をすくめる態度で伝えられて、ジョンはため息を吐いた。

「結局僕らがしたのは、この子を追い詰めただけだったのかな?」
「さぁな。それこそ本人に聞かなきゃわからねえ――あぁ」
 ヴィクティムという男は。
 己を“脇役”と定義している。
 主役は誰かがやればいい。
 その為の道なら、いくらでも作ってやるが。
 主役がいなければ、そもそも始まらない。
 故に。
 、、、、、、、、、  、、、、
「これで納得してるか? チューマ」
 、、、 、、、、
「いいや、まったく」
 そう。
 顔を上げてもらわなくては困る。
 挑んでもらわなくては困る。
 けれど、余計な心配だったらしい――何せ、口の端は恐ろしいまでに、釣り上がっている。

「わざわざ顔を見せたんだ、手立ての一つ位あるんだろ?」
「そこまでわかっててあんな腑抜けた顔してんなら、前言撤回だ、いい役者になれるよお前は」
「順序が逆だって。そういや便利な奴がなんかこそこそやってたのを思い出すまでは、まじで諦めてたからね」
 チ ル
「いいね、それでこそだぜジョン・ブラウン」
 両手を広げる。空中に表示されるディスプレイには、もう完成したプログラムが詰まっている。

「そこまで言われちゃ――――応えるしかないだろ」
 現実をデータに。データを現実に。
 ウィザード
 魔術師の戦いは、とっくに始まっていて、もう終わっているのだ。

「こいつは体内に潜む粘液の行動ロジックとパターンを、多恵の脳波による命令で動くよう書き換える。ガーゴイルがヒントをくれた。作るのは簡単だったよ、サンプルは山程あったからな」
 けれどすぐに使うわけには行かなかった。
 何故なら。

「多恵が正気を失ってたから、だろ?」
 暴走している多恵の脳波の従ってしまえば、どんな変化を及ぼすかわからない。
 だから今なら使える――多恵からすべての毒が失せて。
 助けて、という気持ちを吐露して。
 人間として死のうとしている、今ならば。

「身体が死んでても、粘液はそれを補って多恵を蘇生させた――なら逆だって出来るだろ」
 多恵が生きたいと思えば。
 粘液がそれを叶える。命を補う。

「けど……そのためには」
 声が必要だ。
 多恵の意識を、今一度現実に引きずり戻す声。
 生きたいと。
 この世界に居たいと。そう思ってもらうこと。

「はっ、おいおい、忘れるなよ」
      モ ノ
 こんな『プログラム』は前座に過ぎない。
 重要なのはここから先だ。
 、、、、、
「声なき声を届けるのはお前の役目だろ?」
「…………ああ、そうだった」
 ジョンが、右手を上げる。デバイスが立ち上がり、声が鳴る。

「ウィスパー」
《イエス”囁きを聞く物”起動》

 続くヴィクティムもまた、僅かに指を動かした。プログラム起動。
「――あぁ、復讐。いいじゃねえか。上等な行為だ。俺はさ、正義の味方じゃない。悪党だ」
 だから復讐も報復も、好きにしたらいい。
 否定する理由も、拒絶する理由もない。

「だけど、お前のそれは復讐じゃない」
 復讐とは――――“生きる”為に行うものだ。
 失うためにするものではなく。
 納得して、満足して、前に進むためにするものだから。

「だから――――言ってやるぜ。戻ってこい」

   N o t R e a d y to D i e
 《俺たちは未だ死ぬ時ではない》
 それは――――祈りの言葉であり、希望の言葉だ。

「日常を取り戻せるのは――――――」
 その喪失を。
 二度と誰かに与えないための、決意表明だ。

「――――今しかないんだ」

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

天命座・アリカ

クライマックス終幕だ!
明けない夜はないからね!ハッピーエンドへ急ぐのさ!
全てを救おう強欲に!

と、いうわけでだ多恵嬢や!一つ話をしようじゃないか!
聞いてなくても勝手に喋る!天命座はね止められない!
終わってないし遅くない!何故にそうと決めつける!
君がどうしたいかの問題だ!君の人生だ!最後まで君が決めたまえ!

そしてね一つ演出を!
終幕への道筋は無駄でなく!情報はだね記録済み!【解析読取情報術『対話』】
過去の光景を!忘れえぬ思い出を!少しばかり再現しよう!

それでも諦めるというのなら……嗚呼、それはしょうがないことだ。
後、リソースは再現に回してるから!攻撃は頑張って避けるよ!
飛んで跳ねてさ回って踊る!



…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━
【20】

 ◆

「…………あれ?」
 ふと気がつくと、私は“そこ”にいた。
 誰も居ない学園、誰も居ない校舎。
 外は暗くて、本来は居ちゃいけない時間なのに。

「……どうして」
 なんだか、すごく頭が痛い。
 さっきまで、なにをしていたのかも、思い出せない。

「なんだろう、なんだか、とっても……」
 大事なことを忘れている――気がする。

「それじゃあ思い出してみよう考えてみようやってみよう!」
「わっ」
 ふいに響いた声に、私は後ろを振り向いた。
 綺麗な、女の子だった。
 長くてふわふわしたまつげ、さらさらで、透き通るような桃色の髪の毛、雲ひとつ無い空を丸く切り取ったような青い瞳。
 人間離れしている容姿なのに、不思議と違和感は感じなかった。

「だ、誰?」
「私かい? 必要とあれば名乗ろう天命座! 聞かれなくても名乗るけどねアリカちゃん! どうぞよろしく多恵嬢!」
「て、てんめいざありかちゃん」
 名前も不思議だった、聞いたことのない響きだ。
 けど、それ以上に。

「……何で、私の名前を知ってるんですか?」
「それはね多恵嬢」
 小さくウインクして、人差し指を立てて。
 愛らしい仕草と共に、アリカちゃんは言った。

「助けに来たからさ君を! 全部を皆で!」
 ぱりん、と音がして。
 私を囲む世界が、変わろうとしている。

「助けに?」
「そうさそうともその通り。今宵今晩この瞬間、連れ出しにきたのさ君をこの手で!」
 ばぁ、っと風が吹いた。
 桃色の髪を巻き上げて、笑った。

「そしてね一つ演出を! 終幕への道筋は無駄でなく! 情報はだね記録済み!」
 いつのまにか、五人の人影がそこにあった。
 私は、彼女たちを知っている。
 だって、友達だったから。

「――――過去の光景を! 忘れえぬ思い出を! 少しばかり再現しよう!」

 ◆

 いつかの日の、下校の時だった。
 それだって、校舎から寮まで、ほとんど時間なんてかからない。
 部活だってバラバラで、放課後、時間が噛み合う事はあまりない。
 だから……五人で一緒に寮まで行くのは、本当に珍しいことだったから。
 覚えている。

「あかさたな同盟ってのはどうよ」
「何それ」
「私が愛美でしょ? 歌詠、紗夜、多恵、で七穂。頭文字を取ると?」
「あかさたな」
「どうしたの愛美……頭が馬鹿になっちゃったの?」
「ていうか、ダサい」
「人前で名乗るの絶対にないわ」
「しっつれいな事言わないでよ。ほら、こんな偶然、運命だと思わない?」
「安っぽい運命だなぁ」
「ついでに私が先頭だし」
「そこかい」
「ひ、否定意見しか出てこない……ちょ、ちょっとちょっと多恵はどう思う?」
 愛美が私を見た。助けを求める様な顔で
 歌詠が私を見た。災難だね、とその瞳が言っていた。
 紗夜が私を見た。一言言ってやれ、と手振りで伝えてきた。
 七穂が私を見た。実は、ちょっと気に入っているんだなと、困ったような顔でわかった。

「私は――――――いいと思いますよ」
 えぇ、と二人の声が上がって。
 ほら! と一人が喜んで。
 実は私も、と一人が手を上げて。

「だって――――」
 大事な名前だから。
 その名前で、皆と繋がれたのが嬉しかった。

 思いの在り処は、ここにある。
 思いの在り処は、心にある。

 そうだ、最初からわかってたのに。
 汚れてしまったと思った瞬間、見ないふりをした。
 私自身も、皆のことも。

「…………ねえ、アリカちゃん」
「何かな?」
「私は……許してもらえるでしょうか」
「それはね多恵嬢、この天才美少女アリカちゃんをもってしても、わからないのが人の気持ちさ。だから――――」
 彼女が手をかざした時。
 もう、皆の姿はなかった。
 私の姿も。
 代わりに、空中に文字が浮かんでいた。

  I l l e g a l  A c c e s s
《声なき声に、耳を傾けますか?》

 選択肢。
 Y/N。

「あ」
 とてもいけないことをしているような気がして。
 とても許されないことをしているような気がして。
 手を引きかけた。
 触っちゃいけないと思った。

「思うに頑固なところが悪い癖だね君の! 硬いね頭が考えが! だからしなきゃいけなくなってしまったのさ遠回り!」
 青い瞳の彼女は、まるで舞台の役者の様に。
 スポットライトの真ん中で、彼女は私に問いかける。

 『貴女も舞台にあがるか? それとも――』

「君がどうしたいかの問題だ! 君の人生だ! 最後まで君が決めたまえ!」
 選択をしないことは、許してもらえないらしかった。
 なら、私は。
 私は――――。

 ◆

「行っておいで向こう側へ! そしてまた会おう多恵嬢! 何故なら君は強い子だ! 保証しようこのアリカちゃんが!」
 何故なら。

「選べたね! ちゃんと自分で! 善き哉それでこそ少女というものさ!」

大成功 🔵​🔵​🔵​

天御鏡・百々
4人の救出は成った
なれば、あとは多恵殿を如何に救うかということだけだな
既に死した過去の存在であるオブリビオンなれど
その魂に救いがあってよいだろう

とはいえ我ができるのはその手助け程度か
他の猟兵の言葉に多恵殿が心を揺さぶられたところで
「真実を映す神鏡」を使用する

我が本体は真実を映す神鏡なり
そこには邪神の影響を受ける前の、生前の多恵殿の姿を映し出すことはできぬであろうか?
さすれば我がユーベルコードの力にて
邪神の影響を一時的にでも排し
真実の多恵殿と語りたいものだな

●神鏡のヤドリガミ
●アドリブ、連携歓迎



…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━
【21】

 光の中を、私は歩いていた。
 この先は、何処に続いているのだろう。
 疑問には思ったけど、不思議と不安にはならなかった。
 多分、たどり着いた先に答えがあるんだろうと、予感がしたから。

 ◆

 どれぐらい時間がたっただろう。
 少しだった気もするし、長かった気もする。

「あれ?」
 光の果てには、小さな女の子が居た。多分、十歳にもなってないぐらいの。
 鮮烈な赤い瞳の中に、くゆる光が見えた。
 けれど、何でだろう。“子供”だと思えないのは。
 対面しただけで、ゾクリと背筋が震えるのに、どこか、見ているだけで安心する。
 とても大きくて、優しいものだと思える。
 まるで――――。

「やっと会えたな。多恵殿」
 そう告げた女の子のことを、変化も知れないけれど。
 カミサマみたいだな、と、私は思った。

「……あなたは、カミサマ?」
 だから、思わず口に出してしまった。
 すると、女の子は、一瞬きょとんとしてから、小さく笑って。
 その仕草だけは年相応に見えたけれど、それから紡ぐ言葉は、やっぱり、小さな子供のそれではなかった。

「少なくとも、多恵殿の言うような“カミサマ”ではないな。当たらずとも遠からずといえば、そうかも知れぬが」
「そうなんですか? ……そ、そうなの?」
「うむ。しかし、畏まらなくても良い。我は迎えに来ただけだからな」
 ……私は、普段敬語の人で、友達相手とか年下の子には、普通に喋る。
 けどなんだか、この女の子に対しては、なんだろう、先生を相手にしてるような気持ちになる。
 かしこまるなって言われたから、かしこまらないけども。

「……迎えに? 誰を?」
「無論、多恵殿を」
 そう言って、女の子が手をかざすと。
 その背後、光しかなかったはずの空間が、小さく、丸くかたどられていくのがわかった。

「ここから先は、我が橋渡しにならねばな」
 丸い光は、キラキラと輝き出した。
 違う、輝いてるんじゃなくて、光を跳ね返している。
 光が鏡だと気づくのに、十秒ぐらいかかった。

「あ――――」
 鏡の向こうには。
 “私”がいた。

 ◆

 顔は真っ白で。
 目から血を流していて。
 全身、ボロボロで。
 その姿を見た瞬間、私はああ、と納得した。
 全部、理解した。
 そうだ。

「……私、大変なこと、しちゃったんだ」
「ああ」
「けど、皆が……あなたたちが、助けてくれた」
「ああ」
「……どうして、って聞いたら、教えてくれる?」
「……それなんだがな」
 女の子は、頬を小さく掻いて。
           モ ノ
「我はそういう“存在”故、そう問われれば悪しき神を討ち取るため、その犠牲者を救うため、であるが……」
 それから、笑った。

「きっと大概の連中は、途方もないお人好しなのだ。見も知らぬ誰かの危機に、悩み、戸惑い、躊躇い、しかし、持てる力を費やして、本気で立ち向かうような――そんな者達だ」
「…………」
         イェーガー
「彼らのことを、“猟 兵”と呼ぶ。そう、我らは多恵殿……汝の為にここまで来た」
 ふいに。
 胸から何かがこみ上げてきた。
 吐き出さないと、どうにかなってしまいそうな感情は、目から、雫の形になって溢れ出た。
 けれど、声を上げることも出来なかった。
 叫ぶよりも、ただ、この想いの全部を、抱きしめてしまいたかった。

 思いの在り処は、心にあった。
 教えてもらったとおりに。

「……我が今の多恵殿に問うのは一つだけだ。この“向こう側”に行くのであれば」
 その先にあるのは、とても残酷な現実だ。
 いっそこのまま消えてしまったほうが、楽になれるだろう。
 ごめんなさいを、言わなくていいし。
 ごめんなさいを、言われなくてもいい。

「さあ――――どうする?」
 女の子は、鏡を背に、手を伸ばした。

「……あの、一つだけ聞いてもいいかな」
「?」
 喋っている時は、威厳たっぷりなのに。
 何かを聞かれたり、疑問に思ったりすると、この女の子は、とたんに見た目相応の仕草をする。

「名前を、教えて欲しいんだ」
 名前。
 私の名前から、全部始まった。
 それを言及してくれた、男の子の顔を思い出す。
 今度会う機会があったら、ちゃんとお礼を言わないと。
 なんて言ったっけ、確か……たしか?
 ……そうじゃなくて。こほん。

「私は多恵、沢山の恵みがありますように、って、おばあちゃんがつけてくれた、大好きな名前なの」
 今更の、自己紹介をすると。
 女の子は、今度は……なんていうんだろう。
 小さな、くすっと言う微笑みは、きっと言葉にすればこういうことだ。

『よくできました』、と。

「我は天御鏡・百々。神鏡の化身。いずれまた逢う日があれば、いつでも手を貸そう」
 言葉と同時に、鏡が大きくなっていく。
 その鏡は、もしかしたら、百々ちゃんそのものなのかも知れない。

「…………ありがとう」
 お礼の言葉は、きっと届いたと思う。

大成功 🔵​🔵​🔵​

在連寺・十未

彼女に干渉を続ける邪神の破片に対してのみユーベルコードを振るい続ける

遅くなんか無い。

……良かった。懸念しているところはそこなのだね。

遅くないとも。今からだってまだ間に合う。そのために僕たちが此処に居るんだ。

……思うに、本当に君は落ちたのかな。飛び降りたまでは本当だろう。目撃者も居るからね。だが、君は死んでは居ない筈だ。頭が潰れたとかそういうのは幻覚か何かだろう。……バイア某による、ね。

だから君の身体自身は問題は無い。然るべき処置をすればあとは真人間に戻れる筈だ――

あと、――君は別に彼女たちを赦す必要は無いし、彼女達に赦される必要も無い。……と思うよ、罪悪感とは向き合って行かねばならないがね



…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━…━
【22】

 某月某日 鎌倉市 某カフェにて。

「本当に君は落ちたのかな。飛び降りたまでは本当だろう。だが、君は死んでは居ない筈だ。頭が潰れたとかそういうのは、幻覚か何かだろう」

 在連寺・十未(アパレシオン・f01512)が淡々と告げた言葉に、少女はこくこくと頷いた。
 そういう事になったし、そういう事だったのだ。

「残念だったのは――真人間に戻れなかった所だね」
「ま、真人間って……」
 確かに。
 確かに――――身体の中に邪神の肉片を飼いならしていて。
 あまつさえ、それがないと生きていけないこの体は、真人間とはいい難いかも知れないけれど。
 それを自殺を試みて、多くの人間に迷惑をかけた罰なのだといえば、そうかも知れないけれど!

 と――――少女は言いたかったが、黙っていた。
 何せ目の前の十未は、命の恩人だ。
 少女の……そして、大事な、かけがえの無い友だちの。

「……それで、少し話を戻すけれど」
 十未はストローで、期間限定のイチゴフレーバーを小さくすすってから、少女に尋ねた。
           、、、、、、、、、、、、、、、
「君が通っていた学園は信星館学園なんて名前じゃあないんだね?」
「えっと……はい、そんな名前、聞いたこともなかったです、その……今だって、そうですよね?」
 少女の疑問に。
 十未は、口元に手を当てて、考える。
     、、、、、、、、、、、、、
「それに、信星館って北海道の学校じゃありませんでしたっけ」
 その言葉もまた、その通り。
 現在……信星館学園という名前の場所は、北海道に存在する。

「……これは独り言なんだけどね」
「はい?」
「信星館学園というのは、場所や集団を指すんじゃない」
 べこ、と音がした。
 もう、飲み物が残っていないようだった。
 、、、、、
「邪神の餌場として確立された養殖場の名前なんじゃないか……まだ、調査の必要があるね」
「え、餌場?」
 十未は、その疑問に答えなかった。
 トレイをもって立ち上がる。

「……じゃあ、僕はそろそろいくよ」
「え、あ、はい、ありがとうございました」
「礼はいらない、僕は何もしてないからね」
「そんな事は…………」
「それよりも。新しい生活に馴染む努力をしたほうがいいよ。まあ――困ったら、また誰かが助けにくるさ。僕ではない、お人好しの誰かがね」
「え、ええと――――あっ」
 気づいた時には、十未はもうどこにもいなかった。
 まるで最初からいなかったかのように。
 存在していなかったかのように。
 存在感が、失せたかのように。

「……あれが……猟兵…………って、わぁ」
 ぴろん、と少女の持つ端末が鳴った。メッセージアプリからの通知だ。

「あ、愛美からだ……え、嘘、もうこんな時間? って……あ、こっちは――え、嘘、UDC案件? どうしよ……今から行けないって言ったら、怒るよね皆……」
 大きなため息一つついて。
 けれど、次なる犠牲を出さないために。
 救われた少女は、また誰かを救おうとしている。
 それが、この戦いで、少女に手を差し伸べた彼らが残した、優しい、未来に繋がる結末だった。

 ◆

 UDCという組織に対して、思う所は多分にある。
 積極的に関わりたくも、関わってほしくもない。
 けれど、人でありながら人ならざる身に落ちた者が、たった一人この世界で生きていくのは不可能だ。
 拠り所は合ったほうがいい――歓迎も、歓待もできないけれど。

「……それよりも」
 一つの事件は解決した。
 けれど、まだ。
 邪神の根は残っている。
 いつ、その芽が出るかわからない――向こうも猟兵に気づいた。
 きっと対処を始めるだろう。事件が起こるだろう。
 先手を打てれば、それに越したことはないが。

「……はぁ」
 考えることも、やるべきことも多い。
 大体、この事件一つにかかりきりになるほど、猟兵というのは暇ではないのだ。
 だから、ひとまずここで、終わりにしよう。

 慟哭は、誰かが聞き届けた。
 もう、叫ばなくてよいのだから。

 ◆

 そして。
 物語は、慟哭から残酷へと続く。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年04月17日


挿絵イラスト