帝竜戦役③〜黒白の戦場に、爪跡を刻んで
ああ、悔しくて仕方ないのだと。
その感情を伴う記憶を失っても、果たせなかった後悔は魂に刻まれている。
苦く、苦い。喉笛まで食らい付きながらも、そこから敗北してしまうという、紙一重で果たされなかった願望と勝利。
如何なる形だったのかは覚えていない。
どうしてこうも心が焼かれるのかも判らない。
黒と白に別けられた戦場の上で、帝竜カダスフィアは空を見上げ、あげられぬ咆吼を胸に秘めるだけだ。
無様に怒り、憎しみ、悲嘆して苦しむ様ならばどんな者でもできよう。
それらを受け止め、現実を見据えてこその帝竜。そこに矜持があるからこそ、誇り高き姿をみせるのだ。
「我が劣る訳ではない」
この度の戦況、自分達の動きが遅かった訳ではない。
ただ先手を打たれ、僅かの差で先を制されただけ。
「我らが弱い訳ではない」
けれど、打倒して進まれた道筋はまっすぐに。
このチェス盤のような戦場へと伸びている。
「それはつまり、今回の敵手も、やはり速く、優れているということ」
二度とあのような屈辱、敗北はいらぬ。
カダスフィアの瞳は静かに、けれど、戦意を込めて目の前を睨み付けている。
二度と、擦れ違うように勝利を逃し、敗北の屈辱に落ちぬ為に。
「奢らぬぞ。我らは一度、敗北し、その苦き味を飲み干し、臓腑を焼かれているが故に」
だが、戦場は黒と白。
どのような盤面からでも、勝利を迎える。敗北は訪れる。
僅か一瞬。ほんの一手。それだけで全ては変わるのだと、身を持って知るのがカダスフィアであるが為に。
慢心もなければ奢りもない。
ああ、此度の敵は速く、強く、脅威であると見做すからこそ――全身と全霊を持って迎え討とう。二度目などはありはしないのだと、牙と爪をもってい示してみせよう。
戦場は黒と白。
勝利を確実に得る為ならば、この身が果てたとしても悔いはない。
そう、今もなお、身と魂を焼く悔恨に比べたら……。
「ヴァルギリオス様の御元に勝利の光をもたらす為、この身、この力、全てを捧げて、迫る敵を討ち取らん!!」
その声は、切実なまでに勝利を求める。
敗北と勝利の光を知る、覇者の戦唄だった。
●
少し困りましたね。
それとも、これは朗報なのでしょうか。
と、秋穂・紗織(木花吐息・f18825)は微笑んだ。
事態の深刻さ。帝竜という脅威を理解してるいのか、理解していないのか。
それこそ、地図で示す黒と白ではわけられないような、軽やかさと柔らかさをもって。
「今回は私達か先手を打つことができ、皇竜カダスフィアが軍勢を整える前に決戦を仕掛けられることができます」
取り巻きに、従う兵士。それらがいないだけでかなり戦況は楽になるのは事実だ。少なくとも消耗なしに帝竜カダスフィアと戦えるのは大きい。
が、ただ率いるのではなく、各々が確かなる力を持つからこその帝竜なのだ。
如何なるユーベルコードを用いても、その能力で先制されるのは必須。それを受け止め、受け流し、捌いてどう反撃へと繋げるのか。
皇竜の全力の攻撃がまず最初の壁。それを突破しなければ勝機は薄い。
「特に帝竜カダスフィアが持つ力は、周囲にあるあらゆるものをチェス盤や、チェスの駒をモチーフにした眷属に変えて戦う力を持つもの。自身の戦闘力に加えて、指揮される眷属たちの力は軽んじることは出来ません」
加えていうならば、カダスフィアは皇竜の名に恥じぬ戦術眼を持っている。
「そう、だから少し困ったのです。先制により軍勢を整える前にというのはよくても、相手は確かな戦術眼と……『再孵化』する前の敗北の感情が焼き付いています」
ただ強いだけならいい。
その強さで押し通すのみならば、まだ幾らか勝機も隙もできるだろう。
「が、敗北の記憶はなくとも感情は覚えてしまった強者。それが戦術眼と共に、こちらを迎え撃つのであれば……」
単純な力押しだけではないだろう。
そして、それが相手もそうならば、こちらも力押しでのみで通じる訳がなく。
対処や対応が難しい、周囲地形や眷属の支配という能力に、どう対応していけばよいのだろうか。
「さて、勝利への明暗。白と黒。それを刻むのは、皆さんにお任せ致しますね。全力をもって、帝竜を屠る誉れをその身に」
それこそ、相手とて勝利の栄光を求めるからこそ。
黒と白。敗北と勝利。屈辱と栄光。
それらが、交差する戦場なのだ。
遙月
初めまして、或いは、またまたお世話になっております。
MSの遙月です。
今回は初のボスシナリオとなる帝竜『カダスフィア』のシナリオをお届け致します。
大分、速いペースで進めてきましたが、今回はある程度、プレイングが揃った時点から執筆を開始していくこととなります。
折角の帝竜というボスとの戦い。
ならばと、戦いたい人も多い筈と。
よほどのことがなければ、全員採用できるようにと頑張らせて頂こうと思っております。
プレイングの募集時間に関してはいっさい設けず、送れる時に送って頂ければそれで幸いです。
それでは、気合いをいれていきましょう。
まずは帝竜の首、ひとつめの為に。
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プレイングボーナス……『敵のユーベルコードへの対処法を編みだす』。
(敵は必ず先制攻撃してくるので、いかに防御して反撃するかの作戦が重要になります)
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第1章 ボス戦
『帝竜カダスフィア』
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POW : ビルド・カダスフィア
無機物と合体し、自身の身長の2倍のロボに変形する。特に【チェス盤化した、半径100m以上の大地】と合体した時に最大の効果を発揮する。
SPD : ミリティア・カダスフィア
【チェス型ゴーレムの大群】が現れ、協力してくれる。それは、自身からレベルの二乗m半径の範囲を移動できる。
WIZ : 形成するもの
自身からレベルm半径内の無機物を【チェス盤やチェスの駒を模した怪物】に変換し、操作する。解除すると無機物は元に戻る。
👑11
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アイン・セラフィナイト
勝利の光明か……帝竜カダスフィア。ボクたちに先手を取られた時点で、この戦いはチェックメイトだ。すでにキミ達の光明は潰えてる!
【対策】
『黒翼・神羅の鴉羽』で『空中戦』、遠距離攻撃も考えて『暁ノ鴉羽』で『オーラ防御』しておくよ!
【反撃】
UC発動、【暁ノ日輪】を視認した怪物たちは幻惑に呑まれる。カダスフィアを『ボク』と認知して襲いかかるようにするよ。
無数の眷属を生み出せば生み出すほど、キミの状況は悪化する。
UC発動を解く?それとも怪物を生み続ける?どちらにしろ……これで終わりだよ!
『境界術式』展開、魔書から生み出される魔弾の雨で全てを『蹂躙』するよ!(属性攻撃・全力魔法・範囲攻撃・リミッター解除)
顕現せしは、魔力によって紡がれる黒鴉の翼。
その身に宿るは無尽蔵の魔力。一陣の烈風となって空を飛び、先陣を切るはアイン・セラフィナイト(精霊の愛し子・f15171)だ。
アインの戦いはそれこそ飛翔。触れて、見て、感じたあらゆるものを己の力へと昇華させていくのは、凄まじい才覚に支えられてのこと。
だからこそ、そのセンスがアインに警鐘を鳴らすのだ。
使い魔たる黒と白の鴉が悲鳴のような鳴き声を立て、戦陣へと踏み込んだことを知らせている。親しき筈の四大精励さえも、僅かな怯みのような気配を漂わせる。
それはその筈。
眼前で巨体を見せるは帝竜が一体、カダスフィア。
「来たか」
冷静に。けれど、毅然として。
戦を俯瞰するような瞳でアインを迎え入れるそれは、驚異的な力を秘めているのだろう。地を作り替え、無数の眷属を支配する覇竜の力は動かずとも感じ取れる。
わかっている。わかっているからこそ。
「大丈夫、いくよ。先手を制したのはボクたち」
口にするのは紛れもない事実。
敵を大きく恐れる必要はない。必要なのは見据えて、対策を打ち、そして確実に勝利すること。名と称号というモノに囚われる必要はないのだ。
「勝利の光明……ね。帝竜カダスフィア、クたちに先手を取られた時点で、この戦いはチェックメイトだ。すでに君達の光明は潰えてる!」
練り上げられた魔力と戦意に満ちるアインの金色の瞳に見つめられ、帝竜カダスフィアは静かに笑った。
アインの言葉を受け止め、ならばこそ敵として対するという帝竜の言葉。
「傲慢ながらその威勢と、我を前にして揺らがぬその信念はよし。が、勝利を分けるのは力だ」
そして、白と黒に分けられた戦場が一変する。
大地より湧き上がるのは無数の眷属。竜と人を混ぜたような半端な化け物だが、創造されていく速度と数がもはや驚異。
最初から飛行しているアインに剣や槍は届かない。が、銃や弓ならばともかく、バリスタや野戦砲といった攻城兵器が、対空砲火として用意されている。
「ルークとは城塞。ならば、攻城兵器を持つモノもあろう。翼があるなら、打ち落とすのみ……などと、加減はせぬ。その空ごと爆ぜて、砕けて、落ちよ」
容赦なく、油断なく、そして全力で。
カダスフィアの宣言と共に、対空砲火の群れがアインへと殺到する。
その様は百花繚乱。巨大な矢が、砲が、空を飛翔して炸裂し、アインに当たらずとも虚空で爆ぜて炎と鋼の欠片を当たりにまき散らす。
「遠距離とは思ったけれど
……!!」
オーラ防御で下からの射撃を防ぐアインだが、重なる衝撃で身が削がれ、衣服が血で染まる。
空に飛び、遠距離攻撃に限定して、更に防壁を重ねてこれだ。何もなければ瞬間でアインの身体は粉砕されて消し飛ばされていただろう。
「でも、それでこそだ」
全力で攻めてくれるからこそ、アインの魔術はその効果を増すのだと、『新月の指輪』が、彼へと迫る砲火の災厄を吸い上げる。
黒々と、影を吸い込むように。周囲に満ちる害悪を吸収してアインの力へと。
唇から紡がれるのは、彼の秘術。
これら全て、思い通りの流れだと、砲火に晒されてなお、うっすらと微笑むのだ。
逆転の手筋は、この一手で成るのだと。
『全てを惑わす薄明の大群、ボクに力を!』
召喚されるのは光り輝く鴉と、影で出来た蝶の群れ。
光と影。それはあたかも、白と黒のこの戦場の象徴のように。
勝利と敗北。その流転を司って。
如何なる劣勢をも一転させる、アインの薄明の秘術が此処に結ばれる。
「む?」
違和感を感じたカダスフィアだが、変化が起きたのは彼にではない。
支配する眷属たちの対空射撃が止まったのだ。のみならず、きりきりと、あるいは、ぐるりと、その鏃と砲火が旋回して、己が主であるカダスフィアを狙っている。
鴉の群れが飛翔し、蝶が舞う。
光と影はくるくると、ぐるぐると、交差して世界と色彩を変化させるのだ。
それが持つ効果は幻惑。
カダスフィアを、アインと認識させられた眷属たちが、一斉にその砲火を向ける。
轟音。そして激震。
膨大な数の矢と砲弾が弾け、帝竜が唸りをあげる。
如何なる頑強な鱗と体躯も、自らが作り出した眷属の攻撃の前では全てを弾けない。その力は、自らのもの。
「なるほど。自らの足りなければ、相手の力を利用すればよい。聡いものだ」
「ボクの力が足りないなんてこと、言っていないし、そうでないということを証明してあげるよ」
が、流石は帝竜。カダスフィアは迷うことなく眷属たちの動きを停止させ、自らが飛翔してアインを狙う。
術を解いても翼があり、爪があり、牙がある。
竜とは、暴威そのものであるのだと顎を開くカダスフィア。
「躊躇いがないのは流石だけれど……これで終わりだよ!!」
自らも負傷しているアイン。身から流れ落ちる鮮血は決して少なくはない。
だが、苦戦すれば苦戦するほど、そして、活躍すればするほど、より強力となるのがアインの秘術。先制からの苦戦、逆転の一手としてその効果は十分に高まり。
時空を超えてアインの背に顕れる千を超える魔術書、そのひとつ、ひとつに尋常ならざる魔力を宿している。
刻まれた魔術は如何なるモノにて描かれたのか。
数多の術は、叡智の元にてその力を振るわんと、翼の如く広がっていく。
これが回収し、収集し、そして自らのものとしたアインの翼(ちから)なのだから。
「面白い。最後は力での衝突か」
「そうならないように、全てを狙っているんだけれどね!」
ひとつの竜と、千を超える魔書が互いに、互いを蹂躙すべく、その力を交差させる。
瞬いて弾け、鬩ぎ合う力はまるで嵐。
白と黒に分けられた戦場で、竜が吼え、空が震え、翼がはためく。
大成功
🔵🔵🔵
檻神・百々女
うーん、ここはひとつ…助けてちょーだい、みんなっ!
>広範囲解呪術式で検索ぅ!
要は何らかの術があって動かしてるわけだから、そのラインを断ってしまえば少なくとも弱体化するはず、よね?結界とは世界をこちらとあちらに別けるもの!あなたと彼らは違うもの、だから干渉は出来ない!
これが伝統と最新の結界術!さっさとドラゴンもやっつけてみんなでBBQよーっ!
白と黒、光と影、力と力。
弾けるそれらに彩られ、切り取られる戦場は開幕の瞬間より激戦を迎えていた。
勝利と敗北の秤皿がどちらに傾くかはまるでわからず、瞬間、瞬間に変わりゆく戦場。どちらが優勢、どちらが劣勢。そんなものは瞬きの間に変わっていくのだ。
「これは、ねぇ。技術とか研鑽とかよりも」
才能という鋭さと。
積み重ねた地力という泥臭さ。
それが咲き誇り、戦場で大輪の戦花を咲かせている。
「これに付き合うのは私の流儀じゃないね」
呟く檻神・百々女(最新の退魔少女・f26051)が求めるのは適解だ。誰でも使える。誰でも出来る。才能も努力もいらない、最先端の術式。
汎用ではない。適切で無駄がないからこそ、平等にその恩恵と強さを得られる。
共に平等ならばこそ見えてくる地平。全てのものが天才の業へと至る、新たなる地平。技術とはそれをもたらす普遍化なのだから。
少なくとも一個の強者が覇を唱え、帝とならんとするなどという竜の奢りは消しさせるだろう。
「とはいえ、目の前にいるのは、それな訳で」
半端に手を出せば身を砕かれる戦嵐そのもの。
ならばと檻神が行うのは、彼女なりの戦い方だ。
ヨリガミデバイスに触れて、発動させる同志への呼びかけ――そういう術式。
「うーん、ここはひとつ…助けてちょーだい、みんなっ!」
検索としてかけるのは広域解除術式。
その術。その方法。そもそもの広域術式とは何なのか。
最適をその場で行うためには、その状況への理解と対応が必要なのだからこそ。
「結界とは世界をこちらと、そちらでわけるもの」
あなたと私は違うのだ、という術式を拡大、拡張したもの。
法則、環境、ルール。そういったものを押しつけてしまうものにほかならず。
ならばこそ、こちらとそちらは違うのだという明確な線と要はあるのだ。術式を動かすラインに、その適用範囲を決めるライン。それらを確実なものにする要。
それらを見定め、壊すことが出来れば弱体は当然、崩壊さえするのが広範囲に渡る術式というものだ。
だが、それに触れるというのはカダスフィアという「あなた」に檻神という「私」が触れるということ。
「ほう、我の術、我そのものに触れるか」
瞬間、殺到するのは僧兵――ビショップというモチーフの放つ閃光。
先制するのがカダスフィアの性質であり特徴。何かしらの解術を使う前に、幾重もの光線が檻神を襲い、その身を貫く。
「……っ!?」
まともに対策など用意していないその身には強烈すぎるそれが、更に、二度、三度、四度と、絶え間なく襲いかかる中、だからこそと見つけるカダスフィアの術式の間隙。
帝竜という莫大な力をもって、まともな要もラインもなしに成立しているこの広域術式。脆い点や、崩すべき要などはないが、力で押し通している分、乱雑になっている力の流れはあるのだ。
見つけた。故に、逃さずに、断ち切る。
「……っ…そ、こ……っ!!」
檻神の繰り出すユーベルコードは、どんな荒唐無稽なことでも、賛同者の多さに比例してその効果を増す。
ならば、この帝竜を倒したいと思うもの。その術を無効化したいと思うものの多さは、言うまでもなく、彼女の強さだ。
ぱりぃっん、と何かの駒が砕ける音。同時に、しん、と静まりかえる駒をモチーフにした眷属たち。完全に停止して沈黙したわけではないが、動きが格段に鈍っている。
「ほう、ほう」
「は、ははは。天才というか、竜が相手では……か」
その場で吐血する檻神。幾ら賛同者の数による後押しがあったとしても、解術する相手である帝竜カダスフィアとの力量差がありすぎて、反動で目眩が止まらない。
「でも、一時的に動きは鈍らせた」
再度、術を展開して、新たな命令系統を作るまでは、この眷属たちは弱体化している。
少なくとも、厳粛にして緻密な命令系統が乱れ、止まったのは確かなのだから。
時間を作ったということに関しては、確実な成果をあげている。
皇竜という天才相手に、汎用という才によらぬ術で、その力を削いだ檻神。その成果が足りないと笑うものがいる筈もなく。
「……さて、傷を癒やす術でも用意して、次に備えないとね」
その戦果をもって、自分の求めるものに近づいたと実感して、奮い立つ。
竜さえも止める術がだれにでも使えるなら――それこそ、戦いによって奪われるものもいなくなるのではと。
笑えない。笑わない。
負傷して血で濡れ、それでも己を貫き通した彼女に、帝竜カドスフィアさえも警戒の意識を裂き続けるしかないのだから。
「トドメちゃんは大丈夫。流石はトドメちゃん。……そう、トドメちゃんは、こんなところで止まらないよ」
成功
🔵🔵🔴
ナターシャ・フォーサイス
WIZ
かつての感情、悔恨に焼かれ猛るのですね。
ですが…貴方もまた、過去から蘇りし哀れな魂。
ならば、我らが肉体と言う名の軛から解き放ち、楽園へと導いて差し上げねばなりません。
己が力で仲間を召喚する、と言うのは。
似たようなことは、私もできるのです。
そして、どう対処すべきかも同様に。
まずは結界を張り、彼の軍勢を防ぎます。
彼らもまた哀れな魂。なればこそ、救われねばなりません。
天使たちを召喚し、彼らの攻撃を跳ね返しましょう。
さらに呼ぶのなら、その力を封じましょう。
同時に放たれる聖なる光は、罪祓い闇祓うもの。
【高速詠唱】【全力魔法】【範囲攻撃】【焼却】の光をもって、手向けといたしましょう。
大地を震わせるは帝竜カドスフィア。
強大にして強烈。強靱にして苛烈。名は劣らず、その姿と有り様を示している。
その偉容は、傷をおってなお、衰えるこはない。
だからこそ、ナターシャ・フォーサイス(楽園への導き手・f03983)の言葉は、あまりにも異質だった。
「ああ、あなたもかつての感情、悔恨に焼かれて猛るのですね」
悲しい、悲しいと。
優しい口調で奏でるのは、何処か、狂って外れてしまった信仰の夢。
現実を捉えていないし、驚異や恐怖など感じることもできない。それがナターシャ。楽園に導くものと、自らを定義する機械じかけの使途。
「貴方もまた、過去から蘇りし憐れな魂。ならば、肉体という名の軛より解き放ち、楽園へと導いて差し上げねばなりません」
胸に手を、帝竜へと訴える姿は聖女のようでもあるのに。
恐怖も畏れもないというのに。
いいや、それらが胸の奥からなく、否定してねじ伏せて、勇気を振り絞ってたっていないが為に、どうしてもそうはならない。
あるのは信仰と啓示だけ。
全ては楽園に至る為に。
「――貴様が死のなんたるかを解るか」
だからこそ静かに、静かに、『再孵化』したカドスフィアは怒りを滲ませる。
「喉笛まで噛み付き、魂に牙を立て、念願の成就の寸前で全てをかき消えさせられた……その失意だけが残り、記憶もない我に、死を語るか」
あってはならぬ。
繰り返してはならぬ。
過去の残滓の身となりながら、決して、二度の敗北は許されぬのだと、帝竜カドスフィアはナターシャへと咆哮をあげる。
「戯れ言を。憐れなる魂というならば、貴様の血をもって、敗北で汚れしこの身を濯ごうぞ」
よって此処に形成されるはナイト――最速の騎士を模した眷属だ。
地竜に乗った姿はむしろ竜騎士。呼吸をする間もなくナターシャへと迫り、咄嗟に展開した結界による障壁ごとその身を穂先で貫く。
鋭く、速く。
防壁や敵を飛び越え、駆け抜け、討つことこそ騎兵の姿なのだと。皇竜の悔恨と怒りを乗せた槍は、ナターシャの胸を穿ち、更に、続く槍。
だというのに、ナターシャはゆっくりと言葉を紡ぐのだ。身を貫かれた現実、事実より、胸の中にある信仰だけを見つめて。
「ああ……この鋭さが悲しみの嘆き。この激しさが怒りなのですね。穂先に全てが乗っております、宿っています。……本当に、本当に」
赤い自らの血を、指先で絡め取って。
それこそ、なんと罪深い色なのかと目を細めて。
「受け止めました。あなたの、憐れなる罪を」
憐れなるもの、憐れなるもの。
このような在り方で、表し方でしか、怒りと悲しみをだせないなど、なんて、憐れで悲しい。
「故にこそ――救わねばならないと確信致しました。この身を貫く槍は、全て罪。あなたの作り出すものは、全て、咎」
眷属を召喚するという能力はひどく似ているけれど。
罪を重ねるのみのカドスフィアと、罪を清めるナターシャのそれは違うのだと、血塗れの指を鳴らす。
『まだ見ぬ楽園、その一端。我らが同胞を救い誘うため、光を以て導きましょう』
展開されるのは守護の結界。
これら全て、主たる帝竜カドスフィア含め、それが作り出す眷属もただ罪重ねる救済すべきものだと、そう定義したナターシャが重ねて呼び出すのは天使。
続いて殺到した騎兵の槍の攻撃。物理的なそれの負傷を反射させて自滅を呼び起こし、更に、闇を祓うべく白き光が周囲に放たれる。
逃れる術はない。何しろ、闇を宿さない存在はなく、救済すべきと定めたものに『施す』光なのだから。
眷属たちは自滅した?
当たり前だ。だって、自ら、反射というものに飛び込み、騎兵は自らを傷つけたのだから。
ユーベルコードを封じる?
当然のこと。これ以上の罪と闇を重ねて身に宿す必要などないのだから。
全ては純白。
想うは信仰と楽園の夢。
導くことこそが使徒の勤めならば、己は届かずとも。ああ、それでもよい。
お願いだから、さあ、幸せになってと……塗りつぶす願いの光は、白。
が、現実は血で赤く染まる。
ナターシャは膝を付き、それ以上は動けないし、意識がかすむ。
自滅結構。結界は承知。
だが、それでもと殺到した騎兵の穂先を無数に突き立てられ、白と黒の戦場で赤く、赤く、跪く。
「どうやら、この魂の罪深さは途方もないようで」
「ああ、我の怒りと悔いは、途方もなく。血の底より深く、空の頂より高く。勝利の光でしか救われぬ」
帝竜という名の格上。故に、条件づけもなければ、むしろ複数の効果を持つが為に強制力が拡散して薄く、封じきれぬユーベルコード。
それでも無数の、騎士以外の眷属も反射で自滅に追いやっているナターシャ。帝竜カダスフィアの身体にも複数の刺突が跳ね返され、鱗が穿たれている。
「……故に、貴様で我は救えぬ。が、その身に触れることもかなわぬ」
自らの鮮血で染まった身。膝をつき、動けぬ身体。
それでも救済の念は途絶えず、帝竜の攻撃を途絶えさせる。本体であるカダスフィアの一撃でトドメをさそうとして、未だにその心が折れていないが為に、反射を警戒して実行できずにいるのだ。
「実に悔しきものだ。あと一撃、爪の一閃で終わるというのに」
「ええ、救わねばなりませんから」
「その夢も果てるまで見続けるがいい」
「あなたを、救わねば」
「救いなど、勝利の栄光を彼が元に届けねば、訪れぬのだ」
ああ、何処までも食い違う。
何処までもかみ合わない。
「いいえ、楽園は存在します。そこへ、あなたを――」
導けないことに、どうしても悔いが残るのだ。
あと少しでその魂を、後悔に焼かれるばかりの心を楽園へと至らせられるのに。
触れた。教えた。なのに、ナターシャにあと一押しできないのは。
喉笛へと噛みつき、なお、敗北したカドスフィアと同じようで。
後悔せぬ為に。
悔いて、悲しまぬ為に。
ナターシャは戦場で、救済を祈り続ける。
「あなたを導きたい。悔いも怒りも、悲しみも、全ては救われるのだと」
成功
🔵🔵🔴
ルード・シリウス
神喰と無愧を構え、残像を囮にしつつ二刀で防御しながら攻撃を凌ぐ。相手が常にこちらの動きを読んでくるのなら、いや寧ろ読んでいるのだという前提で踏まえて動く。相手にとっての最善手を逆に誘う形で動き凌ぎ、反撃の機を待つ
上手く凌ぎ切れたら、相手の攻撃を見切って残像を再び囮に。攻撃を凌ぐと同時に外套と靴の能力で気配と音を殺し、一気に接近。間合いに踏み込むと同時に【魂装】を発動。武装の真名及び自身の真の姿を開放。これまでに喰らった敵を憑依させて身体能力を強化し、怪力乗せた二刀による連撃を以て命を獲らんと斬り込み、捕食と生命力吸収を以て血肉を喰らう
先ずは一つ目だ
その血肉を命を寄越せ、それを糧に次の竜を喰らう
読んでいるだろう。読まれているだろう。
表裏を読んで、騙して、騙されて。武芸者の基本としての読み合いは、一種の相手への信頼だ。
お前ならこうするだろう。
そして、お前ならこの程度は越えてくるだろう。
何故なら、俺ならばその程度はやれるのだ。だったらと、自分の出す最適解を越えられて当然なのだと。
敵対手に対する信頼はいびつな程に純粋で、他の何かが入り込む余地はない。
いいや、裏切ってくれてもいい。その場合は、ただその刹那にその命、喰らわせて貰うのだから、と。
故にルード・シリウス(暴食せし黒の凶戦士・f12362)は帝竜カダスフィアの目の前に立つ。
「まずは一つ目だ。カダスフィア、お前のその血肉を、その命を寄越せ」
それぞれ片手に携えるは暴食剣「神喰」と、呪詛剣「無愧」。巨大な刀身を軽々て構えて見せて、カダスフィアを睨み付ける。
「それを糧に、俺は次の竜を喰らう」
小細工なし。遠距離手なし。
ゆらりと残像を産んで囮としながら、けれど、正面より迫るルードの姿。
カダスフィアとて油断している訳ではない。ないからこそ、その状態で真向から来るルードに視線を寄せる。
「ほう、我に正面から来るか」
「何やっても予測されるなら構いはしない。自分の得意手で押し通す方が、マシってもんだろう」
視線は絡みつくというより、互いに突き立てる牙として送られる。
問答は無用。正面よりの激突を選んだ以上、猶予も間隙もありはしない。ただの実力での勝負だ。
「面白い。竜の戦いとはかくあるべしだ」
鳴動する大地は、帝竜カダスフィアの身体を取り巻く。
元よりそれはカダスフィアの力でチェス盤と化していたものだ。身体に馴染むのは当たり前。
凝縮され、圧縮されるカダスフィアの力。二倍ほどの巨躯になりつつも、宿る力はそれ以上。
一瞬の静寂。
それを破るのはカダスフィアの爪撃だ。
風切る音は轟く嵐のよう。ただでさえ長重の質量が音速を超えて迫る。
その様はさながら刃伴う津波。視界さえ揺れる怒濤の攻勢に、けれど、ルードは笑う。
「そうだ。トカゲや化け物を喰うんじゃない。帝竜、お前を喰いに来たんだ」
緩急をつけた動きで黒い残像を産みながら凌ごうとしたルードだが、そもそもの巨大さと質量が違い過ぎる。
土砂崩れを真っ正面から受ければどのようなものでも埋もれて流されるように、衝突して血煙と共に弾き飛ばされるた。
最善手同士による、最適解。
カダスフィアが質量にものを言わせた一閃でルードを弾き飛ばし、そのまま押しつぶそうと更に迫ろうとするが、その動きが僅かに鈍る。
「少しでも残れば、それでいいのさ」
弾き飛ばされた筈のルードが鮮血を吹き上げながら着地と同時に飛び跳ね、そのままカダスフィアの懐へと疾走する。
巨大な二刀を盾代わりに重ねて受け、重傷と致命傷こそを防いだが、肩口と脇腹は深く引き裂かれている。止めどなく流れる血は、それが決して、浅い傷ではないことも物語っているが、こうしてルードは走ることができる。戦うことができる。
「一撃で殺せなかったことを悔いな」
最善手同士、最適解の結論。一撃必殺を狙い、それさえ防げばまだ繋がる。互いにとっての理想をつぶし合う、闘争の裡だ。
このぐらいは狙って、やってくるだろう。
そう信頼するほどに確信するからこそ、それに備えることができた。
「これだから戦士と相対するのは疲れる」
カダスフィアの吐息は、ルードへの賞賛まじり。
故にこそ未だ手を抜かぬと身を捩り、巨躯による迫撃を狙う帝竜の姿。読まれていたからといって、凌がれたからといって、それで諦めて止まるようなモノではないからこそ。
「――が、我とて楽しいと思うのだな」
竜の笑みは、ルードのそれと似て獰猛に。
懐に入る寸前、希薄となったルードの気配に対して正確な迎撃は不可能と巨体での体当たりにて迎撃する。何を砕いた感覚。が、それが何か、また、ルードを仕留めたかは解らずに。
「強い奴と戦うのは楽しい、だろう」
全身を血で染め上げながらもカダスフィアの身を駆け上がるルード。
狙うは心の臓だ。命の他に狙うものはないと帝竜の胸部へと飛び上がりながら、自身の芯の姿を解放するルード。
それは暴食の化身への変貌。漆黒の闘気と狂気を纏い、戦鬼が手にした二振りを軋ませながら突き進む。
今まで戦い、殺し、喰らって来たものたちの憎悪、悲憤、そして決して満ちぬ飢餓をその身体と刀身へと宿し。
奔るは暴食の剣閃。
漆黒の如き闇が、帝竜の鱗を、そして、その下の肉を蹂躙する。
「テメェの魂は、然程に美味いんだろうな!! その命と力を寄越せ!!」
鱗と巨体の防御を無視する怪力と暴食。刃で刻んだというより、闇が吸い尽くしたかのような傷痕がひとつ。そして、十字を刻むように重ねて二つ。
斬撃というよりは貪る顎が駆け回った跡といったほうがいいだろう。暴食の化身へと変貌したルードの捕食と生命吸収は、斬撃という範疇から外れている。
後から血が噴き出すが、ルードの肌にあたる前に全てが吸い尽くされて、黒い気以外は何も残らない。
「が、これも我の予測通り。深手は負ったが、命には届かんな」
カダスフィアの胸部に走る深い裂傷。全く意に介さず、掲げた腕で空中にいるルードを叩き伏せ、今度こそ地に沈める。
ぐらりと、カダスフィアの身体が揺らぐ。確実なダメージを直接叩き込まれ、その巨躯が僅かに泳ぐが。
「足りん。足りんぞ。魂を喰らい、引き連れて来るというのなら、後、百は連れてこい。でなくば、帝竜の命と魂には届かんと知れ!」
気迫の咆哮と共に、追撃の尾が大地を砕く。
互いに読み通り。そして、だから予測して結果を外しあって、深手を与え合う。
血濡れの絆とでもいうべきものがここにある。
だからこそ。
ぼそっと。
闇の奥で囁かれたような声が、戦場に響き渡る。
「そうかい……あと百もあれば、あればテメェを斃せるのか。くく、楽しみだな……」
負け惜しみというにはあまりにも飢えて、乾いて、そして暗くて昏いそれは……。
大成功
🔵🔵🔵
セシリア・サヴェージ
カダスフィアの気迫は凄まじいですが負けられないのはこちらも同じこと。
この戦争に勝利するために彼の帝竜を討ち取ります!
カダスフィアの操作する怪物たちは【武器受け】で攻撃を防ぎつつ【重量攻撃】で撃破していきます。
が、全てを倒し切るのはほぼ不可能……戦いが長引けばこちらが消耗するばかりです。
なのでUC【漆黒の帳幕】で戦場を闇に閉ざし敵から視界を奪い、適応される前にカダスフィアの元まで【ダッシュ】で駆け抜けます。
【暗視】による視界の確保と【闇に紛れる】で気配を消すことで、私自身の暗闇への適応は完璧です。
あとはカダスフィアとの【決闘】を制するのみ。
チャンスは一度きり。【捨て身の一撃】に全てを賭けます!
幾つもの傷口から血を吹き出しながら、なおその勢いと威容を衰えさせないカダスフィア。
帝竜の名は流石であり、成程。
残るものも皆、同じくであれば、なんという驚異だろうか。
「が、臆す訳にはいきません」
全てはこの戦争に勝利する為に。
セシリア・サヴェージ(狂飆の暗黒騎士・f11836)は、銀の瞳をもって、荒れ果てた白と黒の戦場を見つめて告げる。
「カダスフィア、お前を必ずや、この剣と鎧にかけて討ち取ると誓いましょう」
群竜大陸に覇を唱える為に、彼の、そして、全ての帝竜を討ち取る必要があるのだから。
セシリアの掲げた暗黒剣は、その巨大な刀身と闇を屠る闇の気配を以て、主に応える。
是非もなし。
受け継がれてきた武威を見せてようと。
――あれは闇の眷属ではなくとも、人に災禍齎す存在そのものであるが故に。
「ならば」
答えるカダスフィアには、何処か懐かしげな感情が籠っていた。
こういう騎士を見ていたのかもしれない。
記憶にないだけで、セシリアのような高潔な騎士と、凶戦士と幾度となく交えていたのかもしれない。
もはや、それは過去。思い出せぬ過去の泡沫に過ぎずとも。
「踏破してみせよ。我の前に立ってみせよ」
「それが帝竜との決闘の条件ならば、是非もなし」
銀色の髪と共に身を翻して突き進むセシリアの眼前に迫るはチェス型のゴーレムの大群だ。数を数えるの馬鹿らしく、更に、全てを相手取るなど気が遠くなる。
数に任せて押しつぶす。それもまた、戦いの正道のひとつだからこそ、カダスフィアの手は的確ともいえる。
全てを相手にして倒していくのは不可能で、仮に可能だとしても、消耗甚大で帝竜の前へと出ることとなる。
「ならば」
元より無傷など考えていない。
疾走の速度を上げながら、発動させるのは漆黒の帳幕。ずるり、と空がズレ堕ちるように降ってくるのは闇そのものだ。
戦場自体を暗闇の裡へと閉ざす能力。環境の激変は、戦場と兵士の動きを崩させる。
「悪いが、そちらのゴーレム達は暗闇には慣れていないようですね」
暗視、そして闇に紛れる技能を持たないものにとっては混乱以外の何物でもないそのに場を、踊るように駆け抜けるセシリア。
まるで彼女の為の舞踏会。
ステップをまともに刻めず、旋律に乗れぬものは、そも、戦いという場にさえ立てはしないのだ。
それでもとゴーレムたちが武器を振り回し、同士討ちを繰り返す様をセシリアは銀の瞳でしっかりと映している。幾度か捕捉され、剣や槍、或いは戦斧を向けられるが、巨大な暗黒剣で受け止め、弾いては更に前へと。
前へと駆けるに邪魔な相手は、その重量を活かした斬撃で一閃し、突き崩して。
さらに前へ、前へ。
夜闇に溺れたゴーレムの戦陣を突破し、カダスフィアの前へと踊り立つ為に。
そしてついに、最後の一群れを飛び越え――。
「夜と共に来るか、騎士よ」
「司る、携え、振るうは暗黒の力なればこそ」
冷徹なカダスフィアの瞳が、セシリアの姿を捉える。
重なる負傷と、幾度とない猟兵との交戦。それでもなお、その瞳は戦意で燃え上りずても、失意や苦しみに濁ってもいない。
「光も闇もない。持つもの全てで、来い。でなくば、勝利の栄光と、彼が元に届けることはできないのだから」
「帝竜よ。お前こそ、騎士に産まれればよかっただろうに」
その戦術目。その冷徹さ。そして、命を以ても果たそうとする忠義に、武の気迫。
僅かに惜しいと思うものの、所詮は詮無きこと。
命を賭して守ろうとして、その人々に恐れられたことあるがセシリアのように。
何かの為にと成そうとしたものが、全く別のものになってしまう事なんて、よくあることなのだから。
「それでは、我は我になっていない。騎士よ、お前が、その剣と鎧なくば、今のお前にはなっていないように――言葉遊びは童のもの。いざ、誠の決闘といこうか!」
だから、今はただ決闘に全霊を。
戯れのような思想など投げ捨てて、光も闇も、正しいも間違いも、全て、全て、一撃に込めてしまおう。
夜闇の帳の裡ならば、互いにしか見えぬ、聞こえぬ、真実だからこそ。
刃に映る姿は、誠の想いしかない。
「その命、頂戴する……!」
ここにきて駆け引きなどない。
セシリアの手札など全て使い切っている。
だからこそ迷いや躊躇いなど欠片もなく、切っ先に全てを込めて踏込むセシリア。
頭上から振り落ちる爪の一撃まるで滝の如き瀑布の一撃。セシリアの一瞬前にいた所に突き刺さって、大地を砕き、揺らし、音を轟かせる。
だが――当てっていない。
肩口を掠めて、熱い何かが噴出したが、だから何だというのだ。
解き放つのは暴風の如き狂乱。漆黒の剣気に全てを委ねて。
ここは、夜闇の帳の裡ならば。
如何なる生命、精神の代償を捧げたとしても、誰にも見えはしない。
闇を蝕む、闇よりなお黒き剣閃が、竜の脚を断つ。
確かに、それは、セシリアの何かを道ずれにして。
さらさらと、ぼろぼろと。
崩れ落ちる漆黒の帳幕と共に。
一糸を引いて、崩れる織布のように。
それはたったひとでは、何かが変わる訳ではないけれど。
確かに、模様の元の形を喪った。
「――見事」
気づき、理解し、届いたのは、眼前の皇竜カダスフィアのみ。
だからこそ賞賛する。感嘆の吐息をついて、この騎士の路に光あれというのだ。血濡れた片足は半ば立たれ、膝つき、崩れ落ちるその最中でも。
覚悟にこそ、誉れあれ。でなければ、でなければ、自分の決意と悔いの意味はないのだと、カダスフィアは、その尾を持ち上げる。
闇に身を落とし。
後悔に心を焼いて。
その二つに、違いはあるだろうか?
判らないからこそ、カダスフィアはしっかりと、次げるのだ。
「決闘は騎士よ、お前の勝利だ。が、戦争の勝ちは譲らん」
まるで捨身のように巨大な尾がセシリアに向けて振るわれ、激震が轟く。
大成功
🔵🔵🔵
ベルンハルト・マッケンゼン
(威厳ある竜の姿を眺め)…さすが、帝竜の名を冠するだけある。だが、私にとって皇帝とは永遠に一人、グランダルメのコマンダンだけだ。さぁ、行くぞ……“ Vive L'Empereur!”
SPD
敵の先制攻撃は眷族召喚、対抗策は当然一点突破だ。他猟兵達が身を削り作ってくれた時間を活かし、「地形利用」で障害物と塹壕を布陣、モノトーンの「迷彩」で待ち構える。
軍勢が迫ればUC使用。セントリーガンによる砲火の嵐の中、バトルライフル等で「一斉発射」しつつ帝竜へ突撃。スタングレネードで「目潰し」した後にバヨネットを着剣、「ランスチャージ」を行う。
此処がアウステルリッツになるか、ワーテルローになるか。戦い続けよう!
片膝をつき、それでもなお、怯む様子もない帝竜カダスフィア。
帝竜の二つ名は伊達ではなく、その命燃え尽きるまで、威厳を放ち続けるのだろう。
それを見つめるベルンハルト・マッケンゼン(黄金炎の傭兵・f01418)は賞賛を惜しまない。
卑怯な敵ならば幾らでもいる。
強いだけの敵ならば、それこそ大勢いた。
深手を負ってもなお、両足で立てなくなってもその姿を誇るものは、どれだけいただろうか。
「だが、私にとって皇帝とは永遠に一人、グランダルメのコマンダンだけだ」
何もベルンハルトが今まで何もしなかったわけではない。
空から、術式の面から、真向より。或いは突撃にして。
そうやって戦場で稼がれた時間で構築したのは一種の野戦築城。障害物に塹壕、更にはモノトーンによる色彩での迷彩。
簡易に見破られるものではなく、突破できるものではない。カダスフィア自身ならばそれこそ踏み潰し、叩き壊し、蹂躙していくのだろうが。
そのカダスフィアも満足に歩行出来ない程に消耗しているのだ。
「だとしたら、これは好機というものだろう?」
生憎、ベルンハルトは軍人だ。正面から正々堂々という戦士や騎士の類ではない。弱っている相手ならば、弱っている箇所を徹底して狙いをつける。
神などいない。あるとすれば苦楽と自己の判断のみで、ようするに美観の問題だ。ベルンハルトが根拠なき楽観主義者だからこそ、こういう判断もできる。
「弱い処を、あえて攻められないというのも、屈辱だろう。さぁ、行くぞ……“ Vive L'Empereur!”」
だから徹底して手を抜かない。ここぞという処だからこそ、一気に攻める。
統率を取り戻したゴーレム群たちがついに、身を乗り出したベルンハルトに気づき、一気に突撃を仕掛けてくる。
接近されたくない。少なくとも今、カダスフィアの体勢が整うまでは。よって、眷属たちは攻撃へと討って出て、猟兵たちを前に出さないようにと狙っているのだ。
駆け抜ける騎兵による突撃と、僧兵の放つ熱を伴う光線。 奥からは城塞たるものが砲火を仕掛ける中、ベルンハルトが時間をかけて作った野戦地も時間をたたず壊れていく。
「ま、こんなものさ。皇竜に踏み壊されて一瞬で終わり、役目も果たせないとかでなければ、な」
シニカルな軽口を挟みつつ、ベルンハルトが狙うのは元から一点突破。あれだけの数を一々相手にしていれば、弾丸も足りなければ根気も尽きるというもの。
「愛しているぜーっ、ターレット!」
召喚するのは複合AI搭載の自立ターレットだ。電磁反重力投射によるガトリングは、弾幕をもって召喚された眷属を削っていく。
それも一点。僅か一か所。ひとつの道筋、ベルンハルトが駆け抜けるだけの隙間を作る為、断末魔のような射撃音を連続して奏でていく。
削れて、穿たれ、それだけで道が出来るような容易な相手ではない。遠距離攻撃で防壁として作られた障害物が壊され、迫る砲撃は塹壕にまで響き渡る。
だが、それでも、続ければ雫が岩を穿つのだ。
薄くなった陣列へとベルンハルト自身が突撃し、バヨネットライフルでの連続射撃を放つ。途中、幾度となく刀剣や斧などの攻撃を受けるが、立ち止まらない。
「ほらよ、手土産だ」
戦列を踏破して投げるのはスタングレネード。帝竜相手にそれがどの程度の効果を働くは判らない。
目潰しというには高すぎる位置。加えて、例え視界が潰れても、このカダスフィアは怯みも苦鳴もあげないだろう。
「だが、傷は傷ってな」
事実、此処まで容易にベルンハルトが接近出来たのは今までの積み重ねだ。疾走の速度を乗せてバヨネットを既にあった脚の傷口に刺し込み、抉り、引き抜きながらそのまま駆け抜ける。
「さて、終わったら酒でも頂こうかね」
それ以上は無理だとベルンハルトの本能が告げている。冷や汗。結果だけみれば戦果のみの負傷なしだが、塹壕は無惨に破壊され尽くし、後少しでも帝竜と対峙していれば、戻ってきたゴーレムたちに包囲されていただろう。
そうではなくとも――。
「…………」
冷静に、冷徹に、逆転を伺う竜の瞳がそこにはある。
白と黒の盤上。ならばこそ、どこからでも逆転できるのだと。
されたことのある身だからこそ、それを悔いるから――今は耐えるように、その身を震わせたのみ。
大成功
🔵🔵🔵
インディゴ・クロワッサン
ふーむ、対抗できるとしたらコレかなぁ…
【WIZ】
転送後即座に動ける様に【第六感/残像/空中戦/激痛含む各種耐性】は常時使用。
敵の攻撃は【武器受け/咄嗟の一撃/吹き飛ばし/敵を盾にする】等で凌ぎつつ、指定UCと【怪力/衝撃波/なぎ払い/鎧砕き/鎧無視攻撃/串刺し/踏みつけ/範囲攻撃】で各個撃破。
帝竜の何処か一ヶ所ぐらい【部位破壊】出来たら良いな!
「ま、それも想定内だけどね」
移動は基本的に【ジャンプ/ロープワーク/見切り】で高速機動重視。
「攻城兵器こっわーい」
余裕が出来たら【精神攻撃/傷口をえぐる】で煽るのも忘れずに☆
「ま、流石に軽口叩いてるヒマはないかもね」
窮鼠、猫を噛むという。
が、今、劣勢で窮しているのは竜だ。噛むという次元では終わらないだろう。
カダスフィアの確かな戦術眼は思考を伴い、高速で回転して逆転の一手を探している。例えなくとも編み出そうと、爪がぎちぎちと大地をひっかいていく。
「こっわーい。でも、流石にそろそろ、逆転の目がないって、諦めて、認めなよ」
インディゴ・クロワッサン(藍染め三日月・f07157)が飄々と、けれど、明らかに精神を抉るように言葉を発していく。
「チェスでもそういうのが紳士でルールなんでしょう。逆転の目がなくなれば、そこで投了。潔さがひとつのマナーだって」
「が、これは遊戯ではない」
二倍以上の身体となった巨躯を用いて、翼をはためかせ烈風を巻き起こすカダスフィア。
それは第六感を主軸に残像を残しながら空中戦を繰り広げるインディゴへの牽制でもある。
武器であるVergessen――罪を示す黒い直剣を掲げてそれを凌ぎながら、インディゴは金の瞳でカダスフィアを見つめる。
もう余力はない。
だが、だからこそ、後々の余裕を考えない全力を出そうとしている。
一手、僅か一手で覆す瞬間と好機。それを待つ帝竜の姿は、凍えるように鋭く、そして、何処か恐ろしいのに。
いいや、確かに恐ろしいからこそ、決して動きを緩める訳にはいかないのだ。
「ま、流石に軽口叩いてるヒマはないかもね」
砲火を放つルーク、光線を放つビシッョプ。空に飛ぼうとも遠距離攻撃持ちの眷属は多く、更には少しでもインディゴの動きが緩めば腕での薙ぎ払いが向かってくる。
だがインディゴはカダスフィアの身体に付き纏い、巨大化したその身体をジャンブで飛び跳ね、隙を見ればその黒い直剣を突き刺す。
爆ぜて飛び散る鮮血の赤さは、確実に命中した箇所を破壊しているからこそ。
規模は小さくとも構わない。幾度となく、幾度となく、踏みつけ、串刺し、鎧である鱗を砕いていく。
「ましてや、ね」
姿勢を崩したというのなら今の状況はまさにそれだ。
脚への追撃が入ったことでよろめき、片腕でも地面を支えている今など、インディゴのユーベルコードの餌食だとしか言いようがない。
「――この状態、何時まで持つのかな」
ふわりと、直剣の鍔の中止に施された藍色の薔薇の紋章に光が灯る。
それは罪に濡れた色彩。
決して拭われることも、贖われることもない、咎の花。
だからこそ、それを重ねるように――振るわれる刃は、虚空と帝竜を裂く旋律を生み出すのだ。
直剣から放たれた衝撃波。それは刀身の数倍の大きさとなって広がる斬撃の波。
「……ぐぅっ!」
ついに零れる苦鳴は、翼の付け根が破壊されたせいだ。
チェス盤の大地と合体し、カダスフィアは巨大となり、より強くなっている。だが、それと同時に巨体となったことで、範囲攻撃で受ける面積とダメージも増大している。
当たれば壊れる。ただそれだけ。
血を吸う鬼の衝動のように。或いは、花咲くことのように当然として。
奔る剣閃の軌跡は、まるで野薔薇が咲いたかのよう。
斬り裂かれた血肉で真っ赤な薔薇が一列に咲き誇り、その翼が、まるで花びらが首を落すようにぽとりと、零れ落ちる。
これが罪の軌跡だと、直剣の刻み付けた跡。
翼を壊して落とす、刃の花。
「何処か部位破壊できればいいと思ったけれど」
しゅん、と振るわれるインディゴの剣。吹き抜ける風が、藍色の髪の毛がさらりと流れる。
「翼を失った竜に、もう勝ち目はあるのかな? それこそ、もう何処にもいけず、動けない――詰みだよね」
そして、精神を抉る為の言葉も忘れずに。
告げるのは何も切っ先だけではないのだから。
此処までくれば。
白黒、明暗、はっきりと。
勝敗など決してしまう。
「ああ」
何を感じ取ったのか。
何を想ったのか。
片翼を破壊されて失い、空を見上げるカダスフィア。
「そうか」
何かが判ったように、それこそ、最後の羽ばたきのように、身体を旋回させ、周囲一体を薙ぎ払う。
それこそ波濤の如き威力。武器で受けようと、術式で受けようと、質量と巨大さ、そして勢いに巻き込まれてはどうしようもない。
「どうしようもないのならさ」
だから、インディゴは続けるのだ。
「まだ足掻く理由は、なんなのかな。無理に無駄に、無様に足掻いて、余計に後悔を深くするのかな」
風は静かに。
戦場の終わりを予感させて、するりと流れゆく。
白と黒に別けられた場で、ゆっくりと、ゆっくりと。
けれど、傷口から流れる血のように、決して止まることなく。
大成功
🔵🔵🔵
ナイ・デス
詰み(チェックメイト)は、一人では……ですよね
でも……一人では、ないですから
王手(チェック)かけましょう
誰かによる、詰み(チェックメイト)に、繋がるような、一手を
【怪力ダッシュ】で盤面を突き進む
迫る敵を【見切り、念動力】で自身【吹き飛ばし】急加速回避や
すれ違い【カウンター】鎧からの刃で斬って進み
【覚悟、激痛耐性、継戦能力】とったと思わせても、止まらない
そう【存在感】発し、注目させて
倒される。終わったと思わせて、その瞬間
王手(チェック)、です
『フェイタルムーブ』
死角からの【鎧無視攻撃】で刃刺して【生命力吸収】
不意打ちと虚脱感で、仲間が詰める、チャンスをつくります
激痛耐性継戦能力
簡単には、離れない
あと寸前だったのだ。
それが叶うのが何だったのか、願いさえ忘れてしまったけれども。
ただ、もしかすると。
もしかすれば――喉笛に噛みついたとしても、それは今のように。
「チェックメイト、ですよ」
本来ならば、誰かの詰みに繋がるように。
そう思っていたナイ・デス(本体不明のヤドリガミ・f05727)が、緩やかな風に白い髪を靡かせ、カダスフィアの前に立つ。
「……ひとりで、チェックメイトはできませんよね。でも、私達は……ひとりでは、ないですから」
赤い瞳が見つめる先では、最後まで帝竜であろうとするカダスフィアの巨体がある。
そして、群れる眷属であるゴーレムたちの姿も。けれど。
「……あなたは、結局、ひとりきりでしたけれど」
「然り。だろう、な。ひとりでは幾らチェックをかけても、勝利の一歩手前まで、爪と牙を迫らせても。喉笛に噛みついても、勝利を得ることはできないのかもしれん」
ひとりと一体の声は緩やかに。
戦いの中とは思えない、薙いだ空間を作っている。
けれど、まだまだ敗北を認めたような潔さはない。
その帝竜の瞳は諦めきれない勝利への渇望で満たされている。白と黒。はっきりと分かれてしまう場だからこそ。
あるか、ないか。
得るか、失うか。
ふたつにひとつしかないのだ。
「お前たちが白なのか。我らが黒なのか。それは判らない」
それでも絶望しきれない、いいや、絶望できない意志ゆえに、カダスフィアは、瀕死の身体を動かしていく。
「が、判らない。もう嫌だ。あきらめたい。……と、身を横たえるには、頂いた名が過ぎるのでな。帝竜の一体として、最後まで。そして、ひとりでも多くの敵を、この牙にかけようぞ」
「そう……ですか」
先駆けとならず、同胞である帝竜たちと共にくれば違ったのでは。
などという問いは無粋なのだろうとナイは胸の奥に秘める。
変わりに身構え、刃を向ける。
「何度死んでも、諦めきれない思いは……判りますが……」
踏破すべきカダスフィアの眷属たちも数は減り、残った個体もぼろぼろだ。
まるでチェスの終盤。盤上に残った駒も少なければ、動ける駒も殆どない。
だからこそ、駒ではないナイは――足音響かせ、戦場を翔る。
決められた動き。決められた流れ。そういったものを無視するように。
これは運命などではなく、自分達でつかみ取った結果と誇る為に。
「止まれないのなら、自らの脚で、駆けるしか……ない」
そしてぶつかるしかないのだと、チェス盤のような大地を砕いて、ひた走るナイ。
赤い瞳が映す敵は密集しての迎撃。もう余裕がないが為に、確実で堅実な手段にしか出る手はないのだ。
だが少年の小柄な身体とは思えない怪力、脚力から繰り出される速度を止める手はない。迫る敵を見切りながら、避けられない敵は念動力と刃で弾き飛ばし、槍衾さえ強引な跳躍で踏破していく。
流れる鮮血。削れる肉体。それらを強引に無視して。
壊れたとしても、それは、これから皇竜の一体を壊すのだから、お互い様だと。
ゴーレム達の猛烈な反撃に耐えながら駆け抜けることで存在を確たると示し、帝竜カダスフィアの視線を引き付ける。引き寄せる。
「せめて」
ならばとカダスフィアの声が震えたのは、抑え続けていた戦意だからか。
昂り、掠れそれは、懇願に近い。
「せめて、ならば、白きモノよ。お前を屠り、せめての処理の光のひとつとしようぞ!!」
空を裂くような帝竜の咆哮は、眷属たちを自壊する程の勢いで突き動かす。
せめてひとつ。せめてひとつの光と勝利(しろ)が欲しい。
悔しき敗北(くろ)はもういらぬと、ナイに殺到するゴーレムの群れは、余力や残ったあとの陣形など考えていない。
せめてのひとつ。ナイを討ち果たすことだけに専念し、命を燃やさせるそれは、例えナイが倒れとしても、カダスフィアもまた残る誰かに討ち果たされることになるだろう。
それでもと、帝竜は誇りと意地をもって攻める。
プライドの乗った刃。忠義の籠った穂先。悉くがナイの存在自体を削り、全力で走るのを止めないからこそ、負傷は加速度的に増して。
――ことん、と白い駒が倒れるように、ついにナイが倒れ伏す。
それはほんの僅か。あと少しでカダスフィアに迫り、刃を届けられる距離。
倒された。斃した。終わったのだと。
瞬間、刹那、帝竜カダスフィアは光を感じて……けれど、それが救いとなることはなかった。
『私はここにいて、ここにはいない』
その囁きは、ルールや道理を無視したキャリングにして、正真正銘のチェックメイト。
瀕死になった仮初の身体を放棄したヤドリガミであるナイ。それが、放棄した身体の変りにカダスフィアの死角、首の付け根へと現れたのだ。
勝利を確信した瞬間。意識と戦意の死角。終わりと救いを見出した刹那に、盤面ごと覆されるのだ。
ひっそりと、けれど、確実に刃を握りしめたナイ。
それは、死神が耳元で囁くように。
寿命と終わりを、告げるように。
「王手――ひとりではならかった、チェックメイトです」
壊された鱗と肉体を、更に貫いて命へと至る刃。
心臓にまで届けと差し込まれ、それでも届かないからこそ、その生命を吸収し、抗う力を奪って更に奥へ。魂まで蝕み、斬り裂けと。
ダメージは深刻。仮初の身体を入れ替えても精神へのそれは変わらない。それでも、ここでトドメだとナイは刃を突き刺し、離れない。
「もしも、我が、同胞といたとしても」
抗う意味はないと知る帝竜カダスフィアは、静かに、遺言のように言葉を残す。
いいや、それがこの帝竜の在り方なのだ。
「何度でも何度でも、独りでお前達に挑むだろう。世界に挑むだろう」
それは覇者たるものの、禍歌にして、戦の詔。
「何度でも、何度でも。独りで勝てぬことに、世界と天の道理が間違っているのだと、吠え続けよう。幾らでも挑み続けて、紙一重の敗北を味わい続けても……世界さえ壊して、変えられるのなら」
この黒と白の戦場のルールさえ。
覆すことができたのなら。
「それが、我の勝利だ」
「……きっと、相容れないのですね。変わらぬ過去の残滓、帝竜カダスフィア」
ついに、ナイの切っ先がその心臓を貫く。溢れる鮮血は、命と魂ごと、カダスフィアの身体から流し出し。
「そういう……あなたは、まるで……捨て駒ではないですか。負けると判って……進むものを、それ以外の何と……呼べば」
その身体を崩れさせる。
如何なる盤面からでも勝利は得られる。
そんな理想と夢を抱いた竜の過去が、とけていった。
大成功
🔵🔵🔵